大学生千歌「ちかっちのてつがく!」善子「て、適当過ぎる…」

1: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:53:51.90 ID:2dk+FGCo

~善子、高校三年の夏~


善子(18)「受験勉強が嫌すぎる」

善子「なんでこんなことしなきゃならないのよ…世界一つまらないわ」

善子「大体、今すぐに成果が出るものならともかく、勉強の成果なんてずっと先にならないとわからないじゃない」

善子「手応えがない、成果が出てるのかもわからない、そんなこと繰り返してたら人間頭おかしくなるものよ」

善子「あー口にしたらイライラしてきた」

善子「なーにが大学よ!いい大学に入ったら幸せになれるよ!思考停止も甚だしいわ!!」

善子「……そもそもねぇ、受験勉強なんていわば奴隷労働みたいなものなのよ」


2: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:54:38.07 ID:2dk+FGCo

善子「なんでそれをしなくてはならないか疑問にも思わずにただ常識だからという理由だけでそれを行う。そしてそれを遂行できさえすればよいと思っている。こんな人達に人間性を認められると思う?否、断じて認められないわぁ!」

善子「魂を奪われたアンドロイド達に成り下がるだけの行為、それが受験勉強!特に考えもせず勉強してる人たちは皆奴隷!それを生み出す「勉強しなきゃいけない」なんて何の根拠もない社会通念は奴隷制度そのものよ!」

善子「……何一人でわけわかんないこと言ってるんだろう。虚しくなってきた…」

善子「本当のところ、別に勉強自体は苦じゃないんだけど…理解できないものがあるってのがイヤで勉強自体を否定してるだけなのよね……」

善子「うう…それもこれも全部こいつのせいよね……」

善子「この「倫理」とかいう科目のせいで…」


3: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:55:28.85 ID:2dk+FGCo

善子「何なのよこの科目!?教科書と参考書で言ってることがバラバラなところすらあるじゃない!!」

善子「楽って聞いたから選択したけど、本当に理解するとなると全然意味わからないわよ!!」

善子「逆に皆はなんで楽と言えるの!?ただ暗記すれば何とかなるっていうのは楽とは違うってわからないの!?」

善子「丸暗記なんてつまらない作業が出来ること自体が一種の才能だってこともわからないの!?」

善子「なんで漫画の参考書が売れてるか考えればわかるでしょ!?本当は丸暗記は楽じゃなくて、すこしでも覚えやすくするために漫画で覚えようって考えがわからないの!?」

善子「ふーっ、ふーっ…」

善子「…なんでこんな叫んでるんだろう」

善子「こんなことしてても何にもならないのにね」


4: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:56:17.70 ID:2dk+FGCo

善子「……こういう時、なぜかついAqoursのことを思い出しちゃうわね」

善子「それも、底抜けに明るかった人のことを……」

善子(……千歌ちゃん…)

善子(思い返せば、そもそも倫理なんて科目を選択したのもあの人の影響だったな)


~回想~


千歌『う~!志満姉ぇが大学は行ってほしいっていうから進学先を考えてるけど、どこに行けばいいかわからないよぉ~!』

梨子『千歌ちゃん、最初から進学なんて考えてなかったもんね…』

ルビィ『千歌ちゃんには何かやりたいこととかないの?』

千歌『う~ん、思いつかないんだよね、正直』

曜『ウムム…困ったね』


5: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:57:20.99 ID:2dk+FGCo

善子『……ねぇ、もし少しでも興味があればなんだけど、千歌さんにマッチしてるところがあると思うんだけど』

花丸『善子ちゃん!?どういうことずら!?』

梨子『あのよっちゃんが千歌ちゃんにアドバイスしようとするなんて…』

善子『どういう意味よそれ!』

曜『いや……全く想像できないことを言われたら誰でもこんな反応になるよ』

善子『ちょっと酷くない!?』

千歌『そうだよ!善子ちゃんは私のことを考えて言ってくれたのに、その対応はあんまりだと思うよ!』

善子『ち、千歌さん…』

千歌『私は藁にも縋る思いなんだからね!たとえ訳が分からない理屈を言われても、言ってくれるだけで心が軽くなるような精神状況なんだからね!』

善子『……千歌さん…』

花丸『…いくらなんでもそんな言い方はないずら』

ルビィ『純粋に千歌ちゃんのことを心配した善子ちゃんがかわいそう…』


6: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:58:34.27 ID:2dk+FGCo

千歌『え、あ!?ごめんごめん!そういう意図はなくて、何というか、その~』

善子『いいって…そんな必死に取り繕わなくても……』

千歌『うわ~ん!そんなつもりじゃなかったのに!善子ちゃんごめんねー!!』

曜『あっはは……。で、善子ちゃんは何を言おうとしてたの?』

梨子『確かに。気になるわね』

善子『……哲学』

花丸『は?』

ルビィ『ほぇ?』

曜『んんっ?』

梨子『…よっちゃん、もう一回言ってくれる?』

善子『だから!哲学よ!!』

メンバー『えぇ~!!?』


7: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 16:59:08.02 ID:2dk+FGCo

ルビィ『善子ちゃん…』ウルウル

善子『何こっちを可哀そうな人を見る目で見てるのよ!ルビィはともかく、皆同じような感じでこっちを見ないでよ!!』

梨子『なんでルビィちゃんはともかくなの…』

花丸『そもそも哲学だなんて言葉が善子ちゃんから出るだなんて想像もしてなか…』

千歌『みんな!ちょっと静かにしてもらえるかな!?』

メンバー『!!?』

千歌『……ねぇ、善子ちゃん』

善子『は、はい…』

千歌『どうして私が哲学に向いてるだなんて思ったの?』

善子『……それは…』


あなたの姿を見て、それこそが相応しいと思ったから。


善子『一見急いで結論を出さなきゃいけないようなときに出くわしても、立ち止まって考えて、本当に大事なことは何なのか考え抜くことが哲学っていう学問の本質だって聞いたことがあるから。それで、私は千歌さんこそそういう人だなって思って……』


9: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:00:02.98 ID:2dk+FGCo

曜『な、なるほど……』

梨子『確かに、千歌ちゃんはそういう人だし、何度もその力に助けられてきたもんね』

花丸『そう考えると確かに結構向いてる気がしてきた』

ルビィ『で、でも、てつがくってすごく難しそう…』

善子『……正直、普通に考えたら旅館を継ぐし、経営学とかを学べるところに行った方がいいと思うんだけど…』

千歌『…それでも、善子ちゃんは私に可能性を感じたってこと?』

善子『うん…』

千歌『そっか。…うん、そう言われてなんだか私も可能性感じてきた!』

千歌『私、高海千歌は哲学者ちかっちとなるのだー!』

善子『提案しといてなんだけど、そんな簡単に決めていいものなの?』

千歌『何言ってるの善子ちゃん!だって可能性感じたんだったらあとはススメ→トゥモロウだよ!』


10: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:00:41.51 ID:2dk+FGCo

ルビィ『μ’sのススメ→トゥモロウだね!』

曜『うん、それでこそ千歌ちゃんだね!』

梨子『そうね。千歌ちゃんのこういうところに私達は惹かれたんだもの』

花丸『千歌さん、お勧めの本とか見つけたら教えてほしいずら』

千歌『そういうことだから善子ちゃん!』

善子『は、はいぃ?』

千歌『てつがくのことで困ったらこのちかっちに任せてね!』

善子『あ、うん…』

善子⦅哲学のことで困るなんてことないと思うけど…⦆

善子⦅まあ、楽な教科って聞いてるし千歌ちゃんと話しできるように倫理でも勉強しておこうかな……⦆

善子⦅そしてもっと仲良くなった暁には…ちゃんと千歌「ちゃん」って呼べるようになりたいな⦆


12: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:01:47.27 ID:2dk+FGCo

~回想終了~

善子「……今思い返してみると全部自業自得だったな」

善子「はぁ、今はこっちが藁にも縋りたい気分よ」

善子(……そういえば、千歌ちゃんがてつがくで困ったら任せてって言ってたっけ)

善子(今丁度夏休みで帰省してるらしいし…頼ってみても…)ピンポーン

善子(いやでもあの千歌ちゃんがたった数か月で人に教えられるぐらいになってるとは思えないんだけど)ピンポンピンポーン

善子「んー、どうしよっかなー」ガチャッハイッチャウヨー

善子「な~んでこんなに行き詰ってるのかな~」

千歌「何がそんなに行き詰ってるの?」

善子「ウッヒャアァーー!!」


13: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:02:29.85 ID:2dk+FGCo

千歌「うわ、ビックリしたぁ!」

善子「ビックリしたはこっちのセリフよ!いつの間に部屋に入ってきてたの!?」

千歌「えーちゃんとピンポンは鳴らしたよ?返事がないし鍵が開いてたから勝手に入らせてもらったけど」

善子「返事しなかったのは悪かったけど勝手に入っちゃダメでしょ!」

千歌「まあまあ、私と善子ちゃんの仲なんだしいいじゃん」

善子「親しき中にも礼儀!」

千歌「ごめんてば~。…あ、これ東京からのお土産ね」

善子「…ありがと。もらっとく」

千歌「で、何が行き詰ってるの?」

善子「いや、それは…」

千歌「当ててみよっか?倫理でわからないところがあったんでしょ」

善子「な、なぜそれを!?……はっ、まさか、ついにチカも魔眼の担い手に…」

千歌「いやだって机見ればわかるもん。倫理の教科書とか参考書とか散らばってるし」

善子「……」


14: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:03:05.86 ID:2dk+FGCo

千歌「でもちょうどよかった!東京で習得したちかっちのてつがく的知識を使えば倫理なんてちょちょいのちょいだよ!」

善子「ええ…そんな上手くいくの…?」

千歌「あー!千歌のこと侮ってますな!こう見えて結構教授からも褒められるんだよ!筋がいいって!」

善子「…にわかには信じがたいわね…」

千歌「酷いなーもう!とにかく、分からないところを教えてみてよ。何かのヒントぐらいは手に入れられるかもしれないでしょ?」

善子「むうぅ~…ちょっと、というか大分不安だけど…。じゃあ、コレ教えて」

千歌「うん、どれどれ?……ああ、ハイデガーさんか!これは簡単だよ!」

善子「はぁあ!?ハイデガーが簡単!?こんなよくわからないこと言ってる人が!?」

千歌「まあ、私なりの理解では簡単だってだけなんだけどね」

善子「ええ!?それじゃあ本当に簡単かはわからないじゃない!」


15: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:03:50.15 ID:2dk+FGCo

千歌「うん。まあ善子ちゃんの言う通り、ハイデガー哲学には独自の用語がたくさん出てくるし、ドイツの哲学者ってすごく体系的に哲学を構築するからすぐに理解するっていうのが難しいのは確かなんだけど、逆に言えば構造さえある程度理解すれば何とかなるんだよ」

善子「こ、構築…なんだか少しだけ千歌さんが頼もしく見えてきたわ」

千歌「えへへ、意外と私もやるでしょ~。…でも、どうして善子ちゃんはそんなに理解に拘るの?」

善子「へ?どういう意味?」

千歌「ハイデガーさんは難しい!って思ったらとりあえず暗記しとけばいっか~ってやればいいと思うんだけど…」

善子「そりゃあ、理解しなきゃ気が済まないというか、つまんないし…」

千歌「そっか。じゃあ質問を変えるね。どうしてハイデガーさんだけそこまでして理解しようと思うの?」

善子「いや、別にハイデガーだけじゃないんだけど…」

千歌「でも、今までだって完全に理解しきれないところもあったはずでしょ?そういう時善子ちゃんは、ある程度理解できたと思ったら飛ばしてたと思うんだよね」


16: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:04:30.10 ID:2dk+FGCo

善子「まぁそうなんだけど…どうしてそう言い切るのよ」

千歌「だって私も勉強するときそうやってたから!」

善子「・・・・・・」

千歌「とにかく、善子ちゃんがハイデガーさんに執着しているのは何か別の理由があるんじゃないかな?」

善子「…わかったわよ、白状する。千歌ちゃんはシュタゲって知ってる?」

千歌「うん、知ってるよ。アニメも観たし。……あ、なるほど」

善子「察したみたいね…そう、あの作品の中に出てくるハイデガーの言葉、「人間は根源的に時間的存在である」ってフレーズがかっこいいって思ったから理解したいと思ったのよ」

千歌「なるほどね~」

善子「と、とにかく!簡単だっていうならちゃんと説明してよ!」

千歌「わかったわかった。とりあえず、どこが解らないか教えてくれるかな?」

善子「どこって言われても…全体的に解らないというか…そもそも現存在とか世界―内-存在とかって何なのって感じなんだけど」


17: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:05:03.64 ID:2dk+FGCo

千歌「あ~そのあたりを説明するにはまず哲学の歴史的背景を知っておく必要があるね」

善子「歴史的背景?どういうこと?」

千歌「私も研究者じゃないから、私なりの理解を大雑把に話すことになるけど、いいかな?」

善子「大丈夫。流石にそこまでは必要ないから」

千歌「それもそっか。じゃあ説明していくね」

千歌「ハイデガーさんの時代、哲学は認識論っていう、物事を完璧に認識するにはどうすればいいのかって話題がブームだったんだ」

善子「認識論がブーム…よく解らないわね」

千歌「そうだねぇ…私達って、人によって物の見え方が違うでしょ?」

善子「それはそうね」

千歌「でもそうなると、物事の本当の姿ってものはどこにも見つけられないことになるよね」

善子「うん、まあそうなるのかな」

千歌「けど、そうなると色々な問題が出てくるんだ。例えば、完璧な三角形を私達は知覚することもイメージすることもできないのに、その概念は理解できるよね?」

善子「……なるほど。だとすると、その概念はどこから来てるのかが問題となるわけね」


18: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:05:57.44 ID:2dk+FGCo

千歌「そういうこと!それで、物事の本当の姿っていうのがあるんじゃないかな?って考えて、当時の人達は認識っていう方向にいったんだよ」

善子「ちょっとわかってきたわ。すこし違うかもしれないけど、何だかイデアみたいな発想ね」

千歌「お、鋭いね善子ちゃん。話は逸れるけど、善子ちゃんはノエインってアニメは知ってる?」

善子「知ってる!正直イデアっていうのも、そのアニメの主題歌から知ったのよね」

千歌「あれ面白いよね!私アトリさんが好きだったな~」

善子「ああ、アトリはカッコよかったね。私はカラスが一番だったけど」

千歌「うんうん、カッコいいもんね」

善子「…で、そのノエインがどうしたのよ?」

千歌「あ、そうだったね。…イデアの語源って、実は「見る」っていうところからきてるんだよ」

善子「見る…つまり、認識…」


21: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:15:28.98 ID:2dk+FGCo

千歌「そうだね。そして、ノエインという語はギリシア語nousつまり心や知性という語から出てきた言葉で、直接に見ること、つまり純粋な「知覚」って意味があるんだ」

善子「…!そういえばノエインのアニメの中では「観測」がキーワードになってたわね」

千歌「そうだね。だから、イデアと認識って結構関連がある語だと考えられてきたみたいなんだ。ちなみに、ノエインと関連する、ノエシスとかノエマって言葉があるんだけど、それはハイデガーさんの先生のフッサールさんがよく使ってたんだよ」

善子「合点がいったわ……それで、認識論っていうのがハイデガーの時代には流行してたとして、そこからどうハイデガーに繋がるの?」

千歌「簡単に言うと、ハイデガーは認識論を批判しようとしたんだよ。それは人の根本的な構造じゃないってね」

善子「そうなの?認識が、根本じゃないっていうのは何となく解る気もするけど…」

千歌「うん、じゃあ次はそこから説明していこっか。善子ちゃんは、今私を見てるよね」

善子「?…まあ、そりゃそうだけど」


22: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:16:32.30 ID:2dk+FGCo

千歌「さて、ではここに成立している関係はなんでしょうか?」

善子「は?質問の意図がわかんないんだけど」

千歌「善子ちゃんが見ている私、じゃあ私はどういう状態にあるかな?」

善子「…私に見られているってこと?でもそれを言ったら千歌さんだって私を見てると思うんだけど…」

千歌「それはいい着眼点なんだけど、また後で話すね。とにかく、ここには見るー見られるっていう関係が成立してるって言えるよね!」

善子「そうだけど…」

千歌「これをもっと抽象的というか、普遍的な関係にしてみたらある構図が浮かび上がるんだよ」

善子「見るー見られるの普遍的な構図?……あ、観測者とその対象という構図ってこと?」

千歌「そう!やっぱりノエインを観てただけあって察しがいいね」

善子「あ、ありがと……それで、この構図の何が問題なの?」


23: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:17:49.63 ID:2dk+FGCo

千歌「この構図、要するに観測者の側…主観っていうんだけど、それと対象が切り離されて、全くの別物として捉えられているってことになるよね」

善子「まあそうね」

千歌「でも考えてみて。さっき善子ちゃんが言ったように、私たちは主観と対象を切り離してのみ物事を捉えるわけじゃないでしょ?」

善子「なるほど。でも、認識論の立場ではそういう捉え方が当たり前になっている…」

千歌「うん。だから、ハイデガーさんはそれは違うんじゃないかって考えたと思うんだ。もちろん、主観と対象を分ける認識の仕方もあるけど、それは捉え方の一部に過ぎないってハイデガーさんは考えたわけだね」

善子「主観と対象の切り離しか。ノエインでもあったけど、それって科学の方法よね?」

千歌「そうだね!当時、やっぱり科学技術が進んでいたこともあって、哲学が生き残るにはどうすればいいかって問題意識があったみたい。それで、科学の助けとして哲学を行う道、つまり認識論が流行ったってわけなんだね」


24: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:18:42.19 ID:2dk+FGCo

善子「そっか。…そうなると、ハイデガーは主観と対象を切り離さない在り方が人間の根本構造だっていう主張をすることになるわね」

千歌「そ。現存在や世界―内―存在っていう言葉は、その主張を表した言葉なんだよ」

善子「何となく方向性は掴めてきたわ。それで、具体的にはどういうことを言ったの?」

千歌「そうだね……存在は全て、ネットワークで繋がっているっていうのがハイデガーさんの核なんだけど、そこでハイデガーさんはそのネットワークの例として道具、配慮、そして顧慮というものを考えたんだ」

善子「道具、配慮はともかく…こりょ?どういう意味なんだろう」

千歌「一つずつ説明していくね。とはいっても、構造はほとんど同じだから一回理解しちゃえば後はカンタンだよ。…私の主観では、なんだけどね」

善子「最後の言葉が不安なんだけど……とりあえず、道具から説明してくれる?」

千歌「オッケーなのだ!じゃあ順を追って話していくね」


25: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:19:35.42 ID:2dk+FGCo

千歌「『存在と時間』っていう本の中で、有名な例えがあってね。ハイデガーさんはハンマーの話をしはじめるんだ」

善子「ハンマー…なんか私もそれは聞いたことがあるわね」

千歌「うん、実際よく引用されるからね。…で、ハイデガーさんはハンマーを例に、道具には全て目的のネットワークがあるっていうんだ」

善子「目的のネットワーク?」

千歌「道具って、全て「~のために」使われるっていう構造というか機能があるよね?そこで、ハンマーを例にとってみると、ハンマーは釘を打つためのものだよね?」

善子「まあ、それに限定されないとは思うけど、一応そういう用途で使うね」

千歌「……う~ん、善子ちゃんは話の先取りが上手いね…その話もあとからするつもりだったんだけど…」

善子「ええっ!?そうなの?ごめん」

千歌「いえいえ。とりあえず話を続けるね」

善子「私も話が終わるまで聞きに徹するわ…」


27: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:20:32.73 ID:2dk+FGCo

千歌「ありがとっ。で、釘は何のためにあるかというと、木材を繋ぎ合わすためだよね」

善子「うん」

千歌「じゃあ木材を繋ぎ合わすのは何のためか?それは家を建てるためだってハイデガーさんは言ったんだよ」

善子「あ、わかった。つまり、ハンマーも釘も木も、家を建てるという目的のために使われている、言い換えれば目的によって繋がっているわけね」

千歌「そういうことだね。ここでは、家が目的の全体のネットワークの比喩に当たるね。さっき善子ちゃんが、用途が限定されないって話をしてたけど、目的のネットワークからすれば、用途はちゃんと決まるってことなんだね」

善子「家という全体の目的があるから、道具のネットワークが出来るってことね。確かにハンマーだけあっても何に使うかわからないしね」

千歌「そうだね。そして、この構造って道具なら全部当てはまるよね?」

善子「そう考えられるわね」

千歌「この構造をハイデガーさんは道具的連関って呼んだんだ」


28: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:21:53.07 ID:2dk+FGCo

善子「なるほどね。道具についてはわかったわ。それで、配慮と顧慮っていうのは?」

千歌「道具的連関で問題になっていたのは、道具と道具の間のネットワークだったんだ。物と物、対象と対象のネットワークと言ってもいいかもしれないね。それに対して、配慮っていうのは人と物のネットワークを指すんだよ」

善子「ああそういうことか。ってことは顧慮っていうのは人と人とのネットワークのことね」

千歌「そうだね。とりあえず配慮について説明していくね」

善子「よろしく」

千歌「私達は今の自分の気持ちによって、物との関わりを変えるよね。たとえば、疲れてるときみかんが目の前にあったら当分補給として、おなかが好いてればおやつとして食べると思うんだ。反対に善子ちゃんなら、お腹が好いててもみかんは食べないよね?」

善子「う…まあ、そうね。アレはアクマには効くから」

千歌「おいしいのになぁ。でも、そうやって人は自分の経験のネットワーク、今の状態を生み出したネットワークによって、物に対する態度も変えるよね?」


29: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:24:42.68 ID:2dk+FGCo

善子「そうね」

千歌「それってどんな時もそうでしょ?それに、人から物への態度を変えるのと同じように、物から人へも態度や気分を変えさせることもあるよね」

善子「確かに、欲しいものをたまたま見つけたら感情が高ぶるとか、電車が遅れてることにイライラしたりすることもあるわね」

千歌「そう!そういう連関を、ハイデガーさんは配慮って呼んだんだ」

善子「常に私達は物への関心によって動いているということ、それを物への配慮っていう言葉で表したわけか」

千歌「うんっ。この流れでいけば、顧慮っていうのも理解できるんじゃないかな?」

善子「人によって、関わり方が変わるって事態を指してるわけね?」

千歌「そういうこと!ただ、配慮と違う点は、道具的にみないってところだね」

善子「そっか。私達はやっぱり何かしらの目的意識があって物と関わるわけだけど、目的のネットワークっていうのは道具的連関の構造だから、人に当てはめるわけにはいかないってことね」

千歌「流石善子ちゃん!すごい理解力だね!ハイデガーさんは他人のことを「共存在」と呼んだんだけど、共存在の在り方として、道具的な理解は相応しくないと考えたんだ」

善子「あ、ありがとう…でもなんで自分で言っててなんだけど相応しくないんだろ?」


30: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:25:37.21 ID:2dk+FGCo

千歌「他人っていうのは共に世界に存在してしまっている存在で、皆が皆、お互いに利用しあうっていう関わり方をするわけじゃないからね」

善子「なるほどね…ネットワークの話はわかったわ。じゃあそれが現存在とか、って呼ばれる理由は?」

千歌「現存在の前に、世界-内-存在の説明を先にしちゃうね。今までの説明で、実は私たちはネットワークに取り込まれちゃってることは理解できたよね?」

善子「そうね。そうなるかな」

千歌「この取り込まれちゃってる、ちゃってるのことをハイデガーさんは「常に既に」という言葉で表したんだ。そして、取り込んでいるネットワーク全体を「世界」という言葉で表したんだよね」

善子「なるほど。だから世界の内の存在だということね」

千歌「で、取り込まれちゃってる中に、つまり常に既にそこに在る、そういう構造を私達は持っているということを「現存在」という言葉で表したんだよ」


31: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:26:25.25 ID:2dk+FGCo

善子「……ちょっとよく解らないわね」

千歌「私達って、自分で意識したり、選んでこの世界に存在してるわけじゃないでしょ?気付いたらいつのまにかそこに放り出されていて、世界の中に存在してるし、それこそ常に既にネットワークに取り巻かれて、そのネットワークの中で存在しているよね」

善子「ん……まぁ、言わんとすることは何となく解るかな」

千歌「その、「そこ」、つまり世界に、気付いたら現にいるような存在…それを指してハイデガーさんは現存在って言ったんだ」

善子「世界に現にいて、ネットワークに繋がってる存在?ってこと?」

千歌「そういうことだね。元々、現存在はDaseinっていうドイツ語なんだけど、daってもともと「そこ」って意味の言葉だったんだ」

善子「そうか、「そこ」つまり世界に放り出された存在って意味で現存在って呼んだわけね」

千歌「うん。……現存在についてはこんなところだけど、他に解らないところはある?」


32: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:28:36.22 ID:2dk+FGCo

善子「じゃあ、非本来的存在っていうのはどういう意味なの?」

千歌「ああ、それはね、今まで話してきたネットワークに囚われていることを自覚しない在り方のことだよ」

善子「…つまり、どういうこと?」

千歌「ネットワークに囚われていることは、極言すると他人に埋もれている事態でもあるわけだよね?日常的には、自分は自分固有の在り方をしてないとも言えるんだよ」

善子「他者を配慮・顧慮するということは、他者によって自分の行動が決定しちゃうとも考えられるわけね」

千歌「そういうことかな。要するに、不特定多数の、誰でもない「みんな」に自分を重ねてしまっていることを指してるんだと思うんだよね」

善子「う~ん、大衆って感じね」

千歌「日本だと世間って言葉が一番しっくりくるのかな。ここは私も、というかハイデガーさん自身も上手く整理できてない感じがするんだけどね」


34: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:30:54.66 ID:2dk+FGCo

善子「なるほど……でも大体の感じは掴めたわ」

千歌「それならよかったっ。もう少し補足をしておくと、もし皆がそんな在り方をしたら、責任という考えも難しくなるっていうことをハイデガーさんは言ってたんだよ」

善子「そっか。世間一般の一部に過ぎなかったら、責任をとる必要がなくなるってわけか」

千歌「そうだね。誰かの責任だった、といいつつそれは誰のせいでもなかった、って言えるようになるからね」

善子「なるほど……ようやくハイデガーが倫理で取り上げられた訳が解ってきたわ」

千歌「倫理だったら、あとは死の不安とか良心の呼び声って言葉が出てくると思うけど、ここは本当に理解しようとなるとすごく難しいから感覚で理解しておけばいいと思うよ」

善子「?そんな難しくは思えないけど…今までの説明も私にはわかりやすかったし」

千歌「それがね、その二つの言葉は「可能性」っていう概念を使って説明されてて、この「可能性」って言葉の扱いが凄く難しいんだよ。形而上学的な概念って言われ方もするんだけど、とにかくすごい抽象的な議論をするから具体例を使っても解りづらいところなんだよね」

善子「なるほどね……流石に大学受験レベルでそんな知識もいらないし、それに関しては私が大学生になった後にでも聞かせてもらおっかな」


36: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:31:59.46 ID:2dk+FGCo

千歌「うんっ私もその時までにはもっと勉強しておくね」

善子「ありがとう、千歌さん。本当に助かったよ」

千歌「いえいえ~どういたしましてー。…でも、ハイデガーの議論の核である時間の話は出来なくてごめんね」

善子「いや、それは何となく今までの話で糸口が見えた気がするから、大丈夫よ」

千歌「ホントー!?やっぱり善子ちゃんはすごいねぇ~。一緒に哲学の勉強したいぐらいだよっ!むしろ私に教えてほしいかも」

善子「え、ええ!?そんな、私が千歌さんとだなんて…」

千歌「……むぅ~」

善子「な、なに?」

千歌「前から思ってたけど、そのさん付け、やめない?Aqoursで一緒に頑張った仲なんだし、流石にいい加減変えてほしいんだけど」

善子「え、いや、そうかもだけど…」

千歌「今日だってこんなにいっぱい話したんだよ!そろそろ私のことを「顧慮」してほしいんだけど~」

善子「顧慮って……」


37: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:34:11.00 ID:2dk+FGCo

千歌「……あ、そういえば言い忘れてたんだけど、顧慮っていうのにはまだ意味があってね、二つの特別な顧慮の形があるってハイデガーさんは言ってたんだよ」

善子「特別な顧慮の形…?」

千歌「それは「他者の可能性を肩代わりする」と「他者の可能性を他者自身へと送り返す」ことだよ」

善子「可能性…?」

千歌「最初のは例えば、子供の夏休みの宿題を親が代わりにやることだよ。送り返す方は逆に、親が子供に発破をかけ子供自身にやらせること」

善子「はぁ、解りやすいけど…」

千歌「要するに自身の可能性とは、自身がやれること・出来ることであり、これに関わることこそが他者との関わりで一番大切だってことなんだよ」

善子「そ、そう……。で、それがどうかしたの…?」

千歌「…つまり、善子ちゃんが勇気を出せないんだったら、私が勇気を出させてあげるってことだよ」

善子「え…?」


38: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:35:09.33 ID:2dk+FGCo

千歌「えいっ」ギュッ

善子「ちょ、千歌さん!?なんで急に抱き着いて…」


千歌「善子ちゃん。善子ちゃんがあの時、哲学っていう可能性を私にくれて、私とっても感謝してるんだよ…」


善子「……」


千歌「善子ちゃんにああいう風に言われて、すごく嬉しかった」


善子「ぁ…」


千歌「私は善子ちゃんともっと仲良くなりたい。そのために、善子ちゃんにはちょっとだけ勇気を出してほしい。ダメかな…?」


39: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:35:55.70 ID:2dk+FGCo

善子「・・・・ダメじゃない。私も、あなたともっと仲良くなりたい」


千歌「…じゃあ、呼んで?善子ちゃんの言いたい呼び方で…」


善子「ち、ちか、ちゃん…」


千歌「……うんっ」


善子「その、これからも、仲良くしてね、千歌ちゃん」


千歌「・・・私の方こそよろしね、善子ちゃんっ」





40: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:42:16.85 ID:2dk+FGCo

こんな頓珍漢な文章を読んでくれた方にお礼申し上げます。

前作に、

善子(20)「今日も眠れない」
ようよしまる「世界一どうでもいい会話」

があるので、もしよかったらそちらもどうぞ。
ようよしまるの方は規制の関係でscの方で書いたし内容も最低ですが。


最後に……
ちかよしもっと流行ってくれよ頼むよ


41: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:48:34.43 ID:1JmJGn2X

乙!


42: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 17:55:04.00 ID:g4DkxWk4

乙!
ちんぷんかんぷんだったからちょっとハイデガー調べてみるわw


45: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 18:29:56.83 ID:epQ2Ykkn

なるほどまったく分からんチカ


46: 名無しで叶える物語 2017/04/23(日) 18:38:51.35 ID:jK8pts6E





掲載元:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1492934031/
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