赤松「ミスし過ぎちゃった…」【ニューダンガンロンパV3】
1: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 20:56:15.73 ID:rsCzEA/wO
ネタバレあり
短い
適当だから深く考えないでください
短い
適当だから深く考えないでください
2: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 20:57:09.40 ID:rsCzEA/wO
赤松(私は天海くんを殺してしまった)
赤松(初回特典があれば、外に出れた。だけどみんなを置いて私だけが外に出るなんて絶対にだめ)
赤松(そう思って、学級裁判で首謀者を突き止めようと思ったんだけど…)
赤松「それは違うよ!」
百田「それじゃ証拠になんねーじゃねーのか?」
百田「やっぱり天海が首謀者だったんだ!」
赤松「やっぱり?」
最原「いやちょっと待ってよ」
赤松(初回特典があれば、外に出れた。だけどみんなを置いて私だけが外に出るなんて絶対にだめ)
赤松(そう思って、学級裁判で首謀者を突き止めようと思ったんだけど…)
赤松「それは違うよ!」
百田「それじゃ証拠になんねーじゃねーのか?」
百田「やっぱり天海が首謀者だったんだ!」
赤松「やっぱり?」
最原「いやちょっと待ってよ」
3: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 20:58:14.70 ID:rsCzEA/wO
入間「オレ様はカメラをつくってねーよ!」
赤松「それに賛成だよ!」
最原「いや、確かにつくってもらったけど…?」
赤松「え、そうだっけ?」
最原「赤松さん…今はもう少し真面目に話そうよ」
赤松「それに賛成だよ!」
最原「いや、確かにつくってもらったけど…?」
赤松「え、そうだっけ?」
最原「赤松さん…今はもう少し真面目に話そうよ」
4: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 20:59:23.75 ID:rsCzEA/wO
白銀「変装は無理だって!」
赤松「うん…それは間違いないと思うよ」
赤松「だって白銀さんは変装するとお腹がいたくなっちゃうもんね…」
白銀「ならないよ!そのネタ引きずらないでよ!」
赤松「え?でもトイレにかけこんだよね?」
白銀「どんな記憶力なの!?」
赤松「うん…それは間違いないと思うよ」
赤松「だって白銀さんは変装するとお腹がいたくなっちゃうもんね…」
白銀「ならないよ!そのネタ引きずらないでよ!」
赤松「え?でもトイレにかけこんだよね?」
白銀「どんな記憶力なの!?」
5: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:00:53.87 ID:rsCzEA/wO
東条「障害物はどこにも…」
赤松「それは違うよ!」
東条「赤松さん、もっと論理的な根拠を示して。残念ながらその証拠では獄原君は犯行を行っていないという証拠にはならないわよ?」
赤松「だって、なんていうか、その…無理だもん!」
東条「…話にならないわね」
最原「待って。そのときの状況を思い出してみてよ」
赤松「それは違うよ!」
東条「赤松さん、もっと論理的な根拠を示して。残念ながらその証拠では獄原君は犯行を行っていないという証拠にはならないわよ?」
赤松「だって、なんていうか、その…無理だもん!」
東条「…話にならないわね」
最原「待って。そのときの状況を思い出してみてよ」
6: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:04:29.98 ID:rsCzEA/wO
アンジー「隠し扉の中に隠れてたんだよー」
アンジー「神様の言うことは正しいのだー!」
赤松「私もそう思う!きっと何らかの方法で…」
最原「いやいや、カードリーダーに埃あったよね?」
赤松「何らかの方法があったんだよ!」
最原「そんな無茶な」
アンジー「神様の言うことは正しいのだー!」
赤松「私もそう思う!きっと何らかの方法で…」
最原「いやいや、カードリーダーに埃あったよね?」
赤松「何らかの方法があったんだよ!」
最原「そんな無茶な」
7: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:06:29.63 ID:rsCzEA/wO
赤松「そうだ、アンジーさん!神様の言う通りで首謀者を見つけようよ!」
アンジー「もっちもちー楓は神っちゃってるねー。んーと…首謀者は…」
アンジー「…」
アンジー「つむぎ!」
白銀「ち…違うよ!わたしにはアリバイがあるじゃん!」
赤松「壁抜けしたんだ!きっとそうだよ!」
白銀「そんなの無理だって!」
赤松「えーほんとに?」
白銀(地味に合ってるよ…)
アンジー「もっちもちー楓は神っちゃってるねー。んーと…首謀者は…」
アンジー「…」
アンジー「つむぎ!」
白銀「ち…違うよ!わたしにはアリバイがあるじゃん!」
赤松「壁抜けしたんだ!きっとそうだよ!」
白銀「そんなの無理だって!」
赤松「えーほんとに?」
白銀(地味に合ってるよ…)
8: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:07:50.13 ID:rsCzEA/wO
星「図書室のどこかに隠れてたんじゃねーのか?」
赤松「あー…確かにそうかもしれないね!」
赤松「本の山の中に隠れてたんだ!」
赤松「さっすが星くん!クールに事件解決だね!」
最原「……」胃が痛むポーズ
王馬「ちょっと、赤松ちゃんキャラおかしいよ」
真宮寺「ククク…赤松さんがここまで頭が悪いとはネ…」
赤松「あー…確かにそうかもしれないね!」
赤松「本の山の中に隠れてたんだ!」
赤松「さっすが星くん!クールに事件解決だね!」
最原「……」胃が痛むポーズ
王馬「ちょっと、赤松ちゃんキャラおかしいよ」
真宮寺「ククク…赤松さんがここまで頭が悪いとはネ…」
9: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:09:09.82 ID:rsCzEA/wO
王馬「じゃあ最後にもう一度事件をふりかえるよ」
王馬「あーだこーだ」ペラペラ
赤松「最原くんが受信機を持ってたんだよ!」
最原「…!?」
王馬「いやだからそれは分かってるよ」
赤松(ああ、ミスった!)
赤松(ウソダマにしてなかった」
王馬「赤松ちゃん声に出してるよ」
王馬「あーだこーだ」ペラペラ
赤松「最原くんが受信機を持ってたんだよ!」
最原「…!?」
王馬「いやだからそれは分かってるよ」
赤松(ああ、ミスった!)
赤松(ウソダマにしてなかった」
王馬「赤松ちゃん声に出してるよ」
10: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:11:14.14 ID:rsCzEA/wO
最原「…」
赤松「フラッシュは目眩ましするためだね!」
白銀「目がぁーっ!目がぁーってやつかな?」
白銀「でもそれは違うと思うよ?」
最原「…………」
百田「なぁ…赤松おまえ…」
赤松「へ?」
春川「あんたさっきから怪しすぎるよ」
赤松「んえ!?」
夢野「意味不明なことばかり言いおって…。ウチらを惑わすつもりか?」
茶柱「転子も赤松さんの様子は少しおかしいと思います。赤松さんを疑うのは申し訳ないのですが…」
赤松「フラッシュは目眩ましするためだね!」
白銀「目がぁーっ!目がぁーってやつかな?」
白銀「でもそれは違うと思うよ?」
最原「…………」
百田「なぁ…赤松おまえ…」
赤松「へ?」
春川「あんたさっきから怪しすぎるよ」
赤松「んえ!?」
夢野「意味不明なことばかり言いおって…。ウチらを惑わすつもりか?」
茶柱「転子も赤松さんの様子は少しおかしいと思います。赤松さんを疑うのは申し訳ないのですが…」
12: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:14:14.12 ID:rsCzEA/wO
>>11
どこかと間違えてるんじゃないんですか
出口はあっちですよ。お帰りください。
どこかと間違えてるんじゃないんですか
出口はあっちですよ。お帰りください。
13: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:15:05.33 ID:rsCzEA/wO
赤松「そ…そんな…」
赤松「ここまでなの?」
赤松「首謀者を暴けないの…?」
最原「あ、赤松さん…」
モノクマ「それでは投票タイムにいきましょうか!」
ポチっブイーン
モノクマ「それでは投票結果はどーなったのでしょーか!?」
ピロリロピロリロ
モノクマ「だーいせーいかーい!最初から調子いいねー…じゃねーよ!なにこれ!?」
百田「やっぱり赤松が犯人なのかよ…」
キーボ「そんな…」
最原(僕が犯人って流れだったのによくもまぁみんな赤松さんに投票したよな)
赤松「ここまでなの?」
赤松「首謀者を暴けないの…?」
最原「あ、赤松さん…」
モノクマ「それでは投票タイムにいきましょうか!」
ポチっブイーン
モノクマ「それでは投票結果はどーなったのでしょーか!?」
ピロリロピロリロ
モノクマ「だーいせーいかーい!最初から調子いいねー…じゃねーよ!なにこれ!?」
百田「やっぱり赤松が犯人なのかよ…」
キーボ「そんな…」
最原(僕が犯人って流れだったのによくもまぁみんな赤松さんに投票したよな)
14: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:16:27.98 ID:rsCzEA/wO
モノクマ「っていうか、なにこれ!?謎解き全然してないじゃん!」
モノクマ「苦情だらけだよ!一章からぐだぐだ進行すぎるって!」
白銀(ヤバいヤバいヤバい)汗だく
王馬「…?」
モノクマ「まったくどっかのバカのせいでさ…どうしてくれるの!?ねえ!?」
モノファニー「お…落ち着いてお父ちゃん!」
モノタロウ「お願いだから!」
モノクマ「うるさいぞ!」ポチっポチっポチっポチっポチっ
ドッカーン
キーボ「ええ!自分の子供じゃないんですか!?」
春川「そんなことどうでもいいよ」
赤松「…」
モノクマ「苦情だらけだよ!一章からぐだぐだ進行すぎるって!」
白銀(ヤバいヤバいヤバい)汗だく
王馬「…?」
モノクマ「まったくどっかのバカのせいでさ…どうしてくれるの!?ねえ!?」
モノファニー「お…落ち着いてお父ちゃん!」
モノタロウ「お願いだから!」
モノクマ「うるさいぞ!」ポチっポチっポチっポチっポチっ
ドッカーン
キーボ「ええ!自分の子供じゃないんですか!?」
春川「そんなことどうでもいいよ」
赤松「…」
15: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:17:24.70 ID:rsCzEA/wO
茶柱「ど…どうやって赤松さんが天海さんを殺したのですか?」
夢野「そうじゃ!魔法で瞬間移動でもしたのか?」
王馬「トリックでも使ったんでしょ。でも犯人もわかったしもう話し合う必要はないよね?」
赤松「…うぅ」
最原「赤松さん…キミはどうして…」
王馬「そうだよ!あんなに優しかった赤松ちゃんが人殺しなんて!!」
白銀「そうだよ!納得できないよ!」
白銀(ここは乗っからなきゃ…)汗だく
夢野「そうじゃ!魔法で瞬間移動でもしたのか?」
王馬「トリックでも使ったんでしょ。でも犯人もわかったしもう話し合う必要はないよね?」
赤松「…うぅ」
最原「赤松さん…キミはどうして…」
王馬「そうだよ!あんなに優しかった赤松ちゃんが人殺しなんて!!」
白銀「そうだよ!納得できないよ!」
白銀(ここは乗っからなきゃ…)汗だく
16: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:18:35.63 ID:rsCzEA/wO
白銀「どうしてあんなトリック使ってまで天海くんを殺したの!?」
最原「あんなトリックって…白銀さんは分かったの?」
白銀「え…いやさっき王馬くんがトリック使ったんでしょって言ってたから…」
王馬「…でもどんなトリックかは分かっていないはずだよね?それなににどうして《あんな》なんて言えるの?」
王馬「ねぇねぇ、どうしてどうしてどうしてー?」
白銀「…っ!」滝汗
赤松「え…どういうこと?犯人は私…だよね?」
赤松「投票結果もでたし…そうなんだよね?」
モノクマ「ったく役に立たないやつだな」ボソ
白銀「……!!」滝汗
モノクマ「ああゴメンゴメン。もう一度投票し直してもいいよ」
最原「どういうことだよ?」
最原「あんなトリックって…白銀さんは分かったの?」
白銀「え…いやさっき王馬くんがトリック使ったんでしょって言ってたから…」
王馬「…でもどんなトリックかは分かっていないはずだよね?それなににどうして《あんな》なんて言えるの?」
王馬「ねぇねぇ、どうしてどうしてどうしてー?」
白銀「…っ!」滝汗
赤松「え…どういうこと?犯人は私…だよね?」
赤松「投票結果もでたし…そうなんだよね?」
モノクマ「ったく役に立たないやつだな」ボソ
白銀「……!!」滝汗
モノクマ「ああゴメンゴメン。もう一度投票し直してもいいよ」
最原「どういうことだよ?」
17: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:19:54.41 ID:rsCzEA/wO
ゴン太「やっぱり赤松さんは犯人なんかじゃないんだね!」
モノクマ「さぁね?でも犯人は初回特典を使わなかったし…全然盛り上がらないし…」
モノクマ「特別にもう一回だけチャンスをあげるよ。もうボクってばやっさしー」
モノクマ「だから犯人は盛り下げちゃった責任とってねー」
白銀「…ぁ」滝汗
春川「なにそれ意味が分からないんだけど」
東条「そんなに曖昧なルールでは困るわね」
星「結局赤松は天海を殺したのか?」
星「これまでの議論を踏まえると赤松は何らかの仕掛けをつくったらしいが…」
赤松「みんなダメだよ!私が犯人なんだって!」
茶柱「し…しかし…先程から白銀さんの汗が尋常じゃないのが気になります」
入間「そこのメガネブスが犯人なんじゃねーのか?」
入間「いかにも地味そうなやつだしよ!逆に怪しいぜ!」
白銀「…ち…違う…わたしにはアリバイがあるじゃん…」汗
モノクマ「さぁね?でも犯人は初回特典を使わなかったし…全然盛り上がらないし…」
モノクマ「特別にもう一回だけチャンスをあげるよ。もうボクってばやっさしー」
モノクマ「だから犯人は盛り下げちゃった責任とってねー」
白銀「…ぁ」滝汗
春川「なにそれ意味が分からないんだけど」
東条「そんなに曖昧なルールでは困るわね」
星「結局赤松は天海を殺したのか?」
星「これまでの議論を踏まえると赤松は何らかの仕掛けをつくったらしいが…」
赤松「みんなダメだよ!私が犯人なんだって!」
茶柱「し…しかし…先程から白銀さんの汗が尋常じゃないのが気になります」
入間「そこのメガネブスが犯人なんじゃねーのか?」
入間「いかにも地味そうなやつだしよ!逆に怪しいぜ!」
白銀「…ち…違う…わたしにはアリバイがあるじゃん…」汗
18: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:22:13.66 ID:rsCzEA/wO
真宮寺「でも途中でトイレに行ったのは事実…完璧なアリバイではないネ」
白銀「それでも違う…違うんだよ…」
赤松「そうだよ!私が犯人なの!」
王馬「赤松ちゃんは自分の手で天海ちゃんを殺したところを見たの?」
赤松「いや…見てない…けど」
最原「さっき白銀さんはあんなトリックでっていったよね?」
白銀「言ってない…」
キーボ「言いました!何なら僕の録音機能で確認しましょうか?」
白銀「っく……」
最原「なんで…あんなトリックって分かったの?」
最原「今度はちゃんと質問に答えてよ」
白銀「んぐぅ…」
白銀「それでも違う…違うんだよ…」
赤松「そうだよ!私が犯人なの!」
王馬「赤松ちゃんは自分の手で天海ちゃんを殺したところを見たの?」
赤松「いや…見てない…けど」
最原「さっき白銀さんはあんなトリックでっていったよね?」
白銀「言ってない…」
キーボ「言いました!何なら僕の録音機能で確認しましょうか?」
白銀「っく……」
最原「なんで…あんなトリックって分かったの?」
最原「今度はちゃんと質問に答えてよ」
白銀「んぐぅ…」
19: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:24:32.18 ID:rsCzEA/wO
王馬「キミの推理が合ってるなんて普通分からないよ…頭が悪いなぁ白銀ちゃんは」
王馬「地味な上に頭が悪いなんて救いようがないよ」
真宮寺「キミなら姉さんの友達にふさわしいと思ってたんだけどネ…」
白銀「なっ…!だったらトリックを教えてあげるよ!」
白銀「こうしてこうしてあーしたんだよ!ずっと分かってたんだから!」
しーん
赤松「え…なんで白銀さんが知ってるの?」
王馬「確かなの?赤松ちゃん」
赤松「う…うん」
最原「それはおかしいよ…」
白銀「…どうして?」
最原「もっと早く言えよ」
「「「…確かに」」」
白銀「……あああああ!」
赤松「嘘でしょ…?」
真宮寺「あの反応からからみて…間違いないだろうネ」
ゴン太「そ…そんな」
白銀「ううううう……」
モノクマ「もうあきたから投票タイムいこーよ」
ポチっブイーン
ピロリロピロリロ
王馬「地味な上に頭が悪いなんて救いようがないよ」
真宮寺「キミなら姉さんの友達にふさわしいと思ってたんだけどネ…」
白銀「なっ…!だったらトリックを教えてあげるよ!」
白銀「こうしてこうしてあーしたんだよ!ずっと分かってたんだから!」
しーん
赤松「え…なんで白銀さんが知ってるの?」
王馬「確かなの?赤松ちゃん」
赤松「う…うん」
最原「それはおかしいよ…」
白銀「…どうして?」
最原「もっと早く言えよ」
「「「…確かに」」」
白銀「……あああああ!」
赤松「嘘でしょ…?」
真宮寺「あの反応からからみて…間違いないだろうネ」
ゴン太「そ…そんな」
白銀「ううううう……」
モノクマ「もうあきたから投票タイムいこーよ」
ポチっブイーン
ピロリロピロリロ
20: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:26:49.18 ID:rsCzEA/wO
白銀「」
モノクマ「はい、白銀さんが犯人だよー」
白銀「やだ…!」
モノクマ「白銀さんにふさわしいおしおきを用意したよ」
白銀「やめて…」
モノクマ「それではいきましょう!おしおきターイム!」
白銀「うがああああああ!!」
白銀さんがクロに決まりました
オシオキを開始します
白銀「はぁっはぁっ」
白銀「うっぐっ…やだ…まだ死にたく…な…ぁ」
白銀「…」
白銀「」
モノクマ「はい、白銀さんが犯人だよー」
白銀「やだ…!」
モノクマ「白銀さんにふさわしいおしおきを用意したよ」
白銀「やめて…」
モノクマ「それではいきましょう!おしおきターイム!」
白銀「うがああああああ!!」
白銀さんがクロに決まりました
オシオキを開始します
白銀「はぁっはぁっ」
白銀「うっぐっ…やだ…まだ死にたく…な…ぁ」
白銀「…」
白銀「」
21: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:32:04.13 ID:rsCzEA/wO
赤松「え?ええ?」
茶柱「結局犯人は白銀さんだったのですか?」
最原「赤松さんの砲丸はあたってなかったんだね」
百田「もう少しでオレたちは赤松を犯人にしちまうところだったのか…すまねぇ赤松…」
赤松「い…いいんだよ」
赤松「それに白銀さんが首謀者だったってことだよね?」
赤松「もうこんなこと終わるんだよね?」
最原「うん、そうなるのかな」
赤松「よかった…」
王馬「赤松ちゃんがバカでよかったね!」
赤松「う…」
最原「さすがに擁護できないミスっぷりだったよ…」
赤松「すいません…」
茶柱「結局犯人は白銀さんだったのですか?」
最原「赤松さんの砲丸はあたってなかったんだね」
百田「もう少しでオレたちは赤松を犯人にしちまうところだったのか…すまねぇ赤松…」
赤松「い…いいんだよ」
赤松「それに白銀さんが首謀者だったってことだよね?」
赤松「もうこんなこと終わるんだよね?」
最原「うん、そうなるのかな」
赤松「よかった…」
王馬「赤松ちゃんがバカでよかったね!」
赤松「う…」
最原「さすがに擁護できないミスっぷりだったよ…」
赤松「すいません…」
22: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:36:30.66 ID:rsCzEA/wO
赤松「結局これで終わりか…」IN個室
モノクマ「ほんとやってくれたよ、あんなにミスしてさ。どうしてくれんの?苦情の電話が鳴り響いてるんだけど」
赤松「きゃあああ!?」
モノクマ「キミのせいだよ。序盤から首謀者死んじゃってさ。意味分かんないよ」
赤松「やっぱりそうだったんだ」
モノクマ「キミがつまんなくしたんだよ。だから責任とって挽回してね」
赤松「えっ?」
モノクマ「はい!思い出しライトー!」ピカー
赤松「きゃっ!」
赤松「…」
赤松「…思い…出した…私が真の首謀者…」
モノクマ「キミが首謀者だったら六章はさぞ盛り上がるだろうね。そんじゃよろしくー」
赤松「ふ…ふふ…みんなと仲良くして…友達になって……」
赤松「みんなを絶望させなきゃね」ニヤリ
終一
モノクマ「ほんとやってくれたよ、あんなにミスしてさ。どうしてくれんの?苦情の電話が鳴り響いてるんだけど」
赤松「きゃあああ!?」
モノクマ「キミのせいだよ。序盤から首謀者死んじゃってさ。意味分かんないよ」
赤松「やっぱりそうだったんだ」
モノクマ「キミがつまんなくしたんだよ。だから責任とって挽回してね」
赤松「えっ?」
モノクマ「はい!思い出しライトー!」ピカー
赤松「きゃっ!」
赤松「…」
赤松「…思い…出した…私が真の首謀者…」
モノクマ「キミが首謀者だったら六章はさぞ盛り上がるだろうね。そんじゃよろしくー」
赤松「ふ…ふふ…みんなと仲良くして…友達になって……」
赤松「みんなを絶望させなきゃね」ニヤリ
終一
23: ◆rE0Yfbs/qoGu 2017/03/23(木) 21:39:05.86 ID:rsCzEA/wO
これでおしまいです。
ちなみに私はバッドエンドが好きなので赤松ちゃんには首謀者になってもらいました。ごめん?
ほんとはもっと話広げたかったけどむりだった
つむぎはあんな扱いだけど嫌いじゃないよ。みんなのなかでは16番目に好きだよ。ほんとだよ。
それでは読んだ人なんかいないと思うけど読んでくれてありがとうございました。
ぐっばいならー
ちなみに私はバッドエンドが好きなので赤松ちゃんには首謀者になってもらいました。ごめん?
ほんとはもっと話広げたかったけどむりだった
つむぎはあんな扱いだけど嫌いじゃないよ。みんなのなかでは16番目に好きだよ。ほんとだよ。
それでは読んだ人なんかいないと思うけど読んでくれてありがとうございました。
ぐっばいならー
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/23(木) 21:41:31.48 ID:Peq1dGpDO
俺もぽんこつな白銀ちゃんは好きだよ
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/23(木) 21:48:02.99 ID:kOKLLpmMo
乙
たまにはbadエンドもいいかもね
たまにはbadエンドもいいかもね
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/23(木) 22:08:40.98 ID:+3lkI5hvo
チーム・ダンガンロンパ悪辣だなぁ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490270175/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ ダンガンロンパ | Comments (0)
朝潮の身長が伸びる話
1: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:37:50.85 ID:kYvrtNl10
自己満足のための投稿です.
試験的な作品です.
試験的な作品です.
2: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:38:59.60 ID:kYvrtNl10
大潮「朝潮姉さん、身長、伸びた?」
朝潮「えっ?」
大潮は朝潮と背中を並べる。二人共改二になっており、練度の差はそれほど大きくはない。
大潮「満潮、どっちが大きい?」
満潮「朝潮姉さんのほうが、5センチくらい」
大潮「ほらっ! 朝潮姉さん、背、伸びたんだよ!」
朝潮「そ、そう・・・」
荒潮「あらあらお姉さん、私の知らない間に、成長しちゃって」
朝潮「ちょ、ちょっと・・・」
荒潮は朝潮と腕を組む。この行為自体はよくあることだが、身長差を意識すれば、朝潮にとって、また妹達にとって少し照れくさいものに感じられた。
朝潮「えっ?」
大潮は朝潮と背中を並べる。二人共改二になっており、練度の差はそれほど大きくはない。
大潮「満潮、どっちが大きい?」
満潮「朝潮姉さんのほうが、5センチくらい」
大潮「ほらっ! 朝潮姉さん、背、伸びたんだよ!」
朝潮「そ、そう・・・」
荒潮「あらあらお姉さん、私の知らない間に、成長しちゃって」
朝潮「ちょ、ちょっと・・・」
荒潮は朝潮と腕を組む。この行為自体はよくあることだが、身長差を意識すれば、朝潮にとって、また妹達にとって少し照れくさいものに感じられた。
3: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:40:01.60 ID:kYvrtNl10
朝潮「――以上が報告です」
提督「うむ、ご苦労・・・ところで朝潮、ちょっと聞いていいか?」
朝潮「はい」
提督「・・・朝潮、身長伸びたよな」
漣「やっぱりそうですよね! 漣、最初びっくりしましたもん! 改二になって大人びたと思ったら、今度は身長も伸びてきて!」
提督「だよな! 漣と肩を並べていてびっくりしたよ!」
朝潮「は、はぁ・・・」
提督「ああ、悪い悪い。ゆっくり休んで、明日に備えてくれ」
朝潮「・・・・・・」
提督「うむ、ご苦労・・・ところで朝潮、ちょっと聞いていいか?」
朝潮「はい」
提督「・・・朝潮、身長伸びたよな」
漣「やっぱりそうですよね! 漣、最初びっくりしましたもん! 改二になって大人びたと思ったら、今度は身長も伸びてきて!」
提督「だよな! 漣と肩を並べていてびっくりしたよ!」
朝潮「は、はぁ・・・」
提督「ああ、悪い悪い。ゆっくり休んで、明日に備えてくれ」
朝潮「・・・・・・」
4: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:41:41.66 ID:kYvrtNl10
夜戦を終えた朝潮が部屋に入る。いつもどおりの、暗い、電気の消えた部屋
大潮「朝潮姉さん!」
朝潮「うわっ、大潮。起きてたの?」
大潮「うん。それより朝潮姉さん・・・身長・・・」
朝潮「えっ?」
咄嗟のことで気が付かなかったが、朝潮には今、大潮のつむじが見える。おおよそ、10センチ程度の身長差である。
大潮「朝潮姉さん・・・どうしたの? 何か変なものでも飲んだの?」
朝潮「そんなこと、全然・・・」
大潮「本当に? 何もしていないのに、こんなふうになるの?」
朝潮「え、えっと・・・最近は何も、うん、近代化改修とか、それくらい。でも近代化改修なんて、よくあることでしょう」
大潮「・・・そう」
大潮は悲しそうな顔で布団に入る。大潮以外の他の妹は皆寝ていた。
5: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:42:11.20 ID:kYvrtNl10
翌朝、いつも通りの時間に目を覚ます。
大潮「朝潮姉さん!」
朝潮「きゃっ! どうしたの、大潮」
大潮「朝潮姉さん・・・立ってみて」
朝潮「え?」
朝潮は嫌な予感を抱きながら、その場でゆっくり立ち上がる。大潮の頭は、昨日の夜よりも低い。
大潮「朝潮姉さん・・・」
荒潮「あらあら・・・もう、からかえないわね」
霰「・・・制服は、きつくないの?」
朝潮「・・・うん。そういえば、大丈夫みたい」
霞「・・・提督に、相談してみれば」
朝潮「・・・そうね」
大潮「朝潮姉さん!」
朝潮「きゃっ! どうしたの、大潮」
大潮「朝潮姉さん・・・立ってみて」
朝潮「え?」
朝潮は嫌な予感を抱きながら、その場でゆっくり立ち上がる。大潮の頭は、昨日の夜よりも低い。
大潮「朝潮姉さん・・・」
荒潮「あらあら・・・もう、からかえないわね」
霰「・・・制服は、きつくないの?」
朝潮「・・・うん。そういえば、大丈夫みたい」
霞「・・・提督に、相談してみれば」
朝潮「・・・そうね」
6: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:42:47.99 ID:kYvrtNl10
>>5
霞のセリフにて
提督→司令官
霞のセリフにて
提督→司令官
7: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:43:18.27 ID:kYvrtNl10
朝潮「失礼します」
提督「おお朝潮って・・・なんかでかいな」
朝潮「はい・・・昨日くらいから、背が伸びるようになって・・・」
提督「うーん、何か心当たりは?」
朝潮「いえ、全く・・・」
提督「そうか・・・服とかは、どうしている?」
朝潮「どうしてか、服はいっしょに大きくなるようで」
提督「・・・そうか。もう少し様子を見よう」
朝潮「・・・わかりました」
提督「おお朝潮って・・・なんかでかいな」
朝潮「はい・・・昨日くらいから、背が伸びるようになって・・・」
提督「うーん、何か心当たりは?」
朝潮「いえ、全く・・・」
提督「そうか・・・服とかは、どうしている?」
朝潮「どうしてか、服はいっしょに大きくなるようで」
提督「・・・そうか。もう少し様子を見よう」
朝潮「・・・わかりました」
8: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:43:59.12 ID:kYvrtNl10
神通「朝潮ちゃん! 動き悪いわよ!」
朝潮「は、はい!」
神通「ほらそこ!」
ドン!
朝潮「ああ、負けちゃった」
神通「しっかりしなさい! ・・・まあ、事情は知っていますが」
朝潮「・・・」
神通「でも、うまく活かせば最高の武器ですよ。身長なんて、自分の力ではどうもできないものですから!」
朝潮「はい、ありがとうございます!」
朝潮は先輩の前で無理やり笑顔を作るが、このことを、どうも楽観的に受け入れることができなかった。
朝潮「は、はい!」
神通「ほらそこ!」
ドン!
朝潮「ああ、負けちゃった」
神通「しっかりしなさい! ・・・まあ、事情は知っていますが」
朝潮「・・・」
神通「でも、うまく活かせば最高の武器ですよ。身長なんて、自分の力ではどうもできないものですから!」
朝潮「はい、ありがとうございます!」
朝潮は先輩の前で無理やり笑顔を作るが、このことを、どうも楽観的に受け入れることができなかった。
9: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:44:45.86 ID:kYvrtNl10
出撃。作戦自体は成功したものの、朝潮は大破をして帰ってきた。
朝潮「ごめんなさい」
提督「・・・回避能力が下がったようだな」
朝潮「・・・ごめんなさい」
漣「でも、作戦は成功したんだし、いいじゃないですか!」
吹雪「そうですよ! 結果オーライです!」
漣「にしても朝潮ちゃん、大きくなったよねぇ。漣よりも大きい」
吹雪「・・・さ、漣ちゃん」
漣「あっ、そっか・・・ごめん」
朝潮「いえ・・・」
提督「・・・朝潮、今更ではあるが」
朝潮「ごめんなさい」
提督「・・・回避能力が下がったようだな」
朝潮「・・・ごめんなさい」
漣「でも、作戦は成功したんだし、いいじゃないですか!」
吹雪「そうですよ! 結果オーライです!」
漣「にしても朝潮ちゃん、大きくなったよねぇ。漣よりも大きい」
吹雪「・・・さ、漣ちゃん」
漣「あっ、そっか・・・ごめん」
朝潮「いえ・・・」
提督「・・・朝潮、今更ではあるが」
10: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:45:36.85 ID:kYvrtNl10
提督はその場で土下座をする。
提督「すまん、朝潮。俺の責任だ」
朝潮「え、えーと、どうしたのですか?」
提督「お前の近代化改修の時、駆逐イ級の瀕死死体を入れてみた」
朝潮「え・・・」
漣「何やってんですか! 本当にクソなんですね!」
吹雪「司令官、何がしたかったんですか!」
提督「すまん、出来心だ。うまく行けば資材の節約になると思って。本当にすまない」
朝潮「あ、そ、それで、どうすれば、元に・・・」
提督「全くわからん!」
漣「このクズ!」
提督「蹴らないで!」
朝潮「・・・・・・」
提督「すまん、朝潮。俺の責任だ」
朝潮「え、えーと、どうしたのですか?」
提督「お前の近代化改修の時、駆逐イ級の瀕死死体を入れてみた」
朝潮「え・・・」
漣「何やってんですか! 本当にクソなんですね!」
吹雪「司令官、何がしたかったんですか!」
提督「すまん、出来心だ。うまく行けば資材の節約になると思って。本当にすまない」
朝潮「あ、そ、それで、どうすれば、元に・・・」
提督「全くわからん!」
漣「このクズ!」
提督「蹴らないで!」
朝潮「・・・・・・」
11: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:46:38.85 ID:kYvrtNl10
漣に蹴られ、足跡のついた制服で提督は起き上がる。
提督「本当にすまない」
朝潮「・・・・・・」
吹雪「本当に、どうするんですか! この調子じゃ、もっと大きくなりますよ」
提督「すまない。ただ、今日はもう遅いから、明日話しあおう。皆、もう戻ってくれ」
漣「じゃあご主人様は、明日までに何か案を考えてくださいね!」
提督「ああ、考えるよ」
朝潮「・・・・・・」
提督「本当にすまない」
朝潮「・・・・・・」
吹雪「本当に、どうするんですか! この調子じゃ、もっと大きくなりますよ」
提督「すまない。ただ、今日はもう遅いから、明日話しあおう。皆、もう戻ってくれ」
漣「じゃあご主人様は、明日までに何か案を考えてくださいね!」
提督「ああ、考えるよ」
朝潮「・・・・・・」
12: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:47:38.92 ID:kYvrtNl10
朝潮は部屋に戻る。すると、部屋の前に大潮が立っている。
朝潮「大潮・・・どうしたの」
大潮「朝潮姉さん・・・」
大潮は朝潮の胸に抱きつく。
大潮「朝潮姉さん、また身長伸びたね」
朝潮「・・・うん」
大潮「私が140くらいだから、お姉さんは160とか?」
朝潮「・・・大潮、もう寝ましょう」
大潮「お姉さん・・・」
朝潮「大潮・・・どうしたの」
大潮「朝潮姉さん・・・」
大潮は朝潮の胸に抱きつく。
大潮「朝潮姉さん、また身長伸びたね」
朝潮「・・・うん」
大潮「私が140くらいだから、お姉さんは160とか?」
朝潮「・・・大潮、もう寝ましょう」
大潮「お姉さん・・・」
16: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:54:42.96 ID:kYvrtNl10
大潮は朝潮に抱きつく。
大潮「お姉さん・・・どこかに行かないで」
朝潮「えっ?」
大潮「私達の元を、離れないでね」
朝潮「・・・何を言っているの?」
大潮「不安なの。朝潮姉さんが、このまま大きくなって、戦艦の人とかと一緒になっちゃわないかって・・・私達と、離れ離れになって、そしてそのまま死んじゃうんじゃって・・・」
朝潮「・・・・・・」
朝潮は静かに、大潮を抱きしめる。
朝潮「大丈夫よ、大潮。私はずっと、皆のそばにいるから」
大潮「・・・本当に?」
朝潮「うん、本当よ」
17: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 21:58:59.80 ID:kYvrtNl10
訓練。キレのある動きで、的に弾を当てる。
神通「調子を取り戻したようね、朝潮ちゃん!」
朝潮「はい。ありがとうございます」
神通「それにしても、大きくなったわね」
朝潮「・・・はい」
神通「その身長を活かして、これまで以上に活躍してください」
朝潮「はい!」
神通「調子を取り戻したようね、朝潮ちゃん!」
朝潮「はい。ありがとうございます」
神通「それにしても、大きくなったわね」
朝潮「・・・はい」
神通「その身長を活かして、これまで以上に活躍してください」
朝潮「はい!」
18: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:00:25.17 ID:kYvrtNl10
訓練の直後、朝潮は提督に呼ばれる。どこか不穏な空気を感じながら、執務室へと向かう。
提督「朝潮に、重巡や戦艦並の装備を与えようと思う」
朝潮「・・・はい?」
提督「お前は駆逐艦としてはもったいないほど大きい。故に、お前の艤装をより巨大なものにして、重巡や戦艦並の働きをしてもらおうというわけだ」
朝潮「・・・・・・」
提督「すでに、明石が装備を開発している。朝潮には今日から、駆逐艦のためではない、より高度な訓練を受けてもらいたい」
朝潮「・・・・・・」
提督「以上だ。何か質問はあるか?」
朝潮「・・・いえ。これからも、鎮守府のお役に立てるよう励みます」
提督「素晴らしい戦果を上げることを、期待している」
朝潮「・・・ありがとうございます」
提督「朝潮に、重巡や戦艦並の装備を与えようと思う」
朝潮「・・・はい?」
提督「お前は駆逐艦としてはもったいないほど大きい。故に、お前の艤装をより巨大なものにして、重巡や戦艦並の働きをしてもらおうというわけだ」
朝潮「・・・・・・」
提督「すでに、明石が装備を開発している。朝潮には今日から、駆逐艦のためではない、より高度な訓練を受けてもらいたい」
朝潮「・・・・・・」
提督「以上だ。何か質問はあるか?」
朝潮「・・・いえ。これからも、鎮守府のお役に立てるよう励みます」
提督「素晴らしい戦果を上げることを、期待している」
朝潮「・・・ありがとうございます」
22: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:12:24.19 ID:kYvrtNl10
朝潮はその後朝潮型の部屋に戻り、私物を新しい部屋に移動する。
この時間に、部屋には誰もいない。皆、訓練などで忙しいのだから。
最後の私物を運ぶとき、朝潮はもう一度、部屋を見渡す。もう、戻ることはないであろう、この部屋。
満潮「・・・朝潮姉さん」
朝潮「うわっ、満潮・・・どうしてここに」
満潮「ここ、私達の部屋じゃない・・・それより、それ・・・」
朝潮「・・・うん、私、部屋を移ることになったの・・・。そう! 今度は戦艦として戦えるかもしれないのよ! すごいでしょう!」
朝潮は無理に明るく繕うが、空回りしているのは、満潮の目には明らかだった。
そして、満潮は朝潮に抱きつく。
朝潮の顎の下に、満潮の頭がすっぽり入る。
この時間に、部屋には誰もいない。皆、訓練などで忙しいのだから。
最後の私物を運ぶとき、朝潮はもう一度、部屋を見渡す。もう、戻ることはないであろう、この部屋。
満潮「・・・朝潮姉さん」
朝潮「うわっ、満潮・・・どうしてここに」
満潮「ここ、私達の部屋じゃない・・・それより、それ・・・」
朝潮「・・・うん、私、部屋を移ることになったの・・・。そう! 今度は戦艦として戦えるかもしれないのよ! すごいでしょう!」
朝潮は無理に明るく繕うが、空回りしているのは、満潮の目には明らかだった。
そして、満潮は朝潮に抱きつく。
朝潮の顎の下に、満潮の頭がすっぽり入る。
23: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:13:19.74 ID:kYvrtNl10
満潮「本当に、大きくなったわね」
朝潮「満潮・・・」
満潮「・・・お姉さんの嘘つき。昨日、大潮には、ずっと一緒だって言っていたのに」
朝潮「満潮・・・聞いてたの?」
満潮「当たり前じゃない・・・朝潮姉さんが急にこうなって・・・心配するに、決まってるじゃない」
朝潮「・・・ありがとう、満潮」
部屋の前で、二人は静かに抱き合う。しかし、ゆっくりできるわけではない。
朝潮「・・・ごめんなさい、満潮。私、もう行かなきゃ。大潮には、ごめんなさいって、伝えて。」
朝潮は後ろを振り返らずに、小走りで新しい部屋へと向かう。
その背中を、満潮にはただ見つめることしかできない。
朝潮「満潮・・・」
満潮「・・・お姉さんの嘘つき。昨日、大潮には、ずっと一緒だって言っていたのに」
朝潮「満潮・・・聞いてたの?」
満潮「当たり前じゃない・・・朝潮姉さんが急にこうなって・・・心配するに、決まってるじゃない」
朝潮「・・・ありがとう、満潮」
部屋の前で、二人は静かに抱き合う。しかし、ゆっくりできるわけではない。
朝潮「・・・ごめんなさい、満潮。私、もう行かなきゃ。大潮には、ごめんなさいって、伝えて。」
朝潮は後ろを振り返らずに、小走りで新しい部屋へと向かう。
その背中を、満潮にはただ見つめることしかできない。
25: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:14:08.91 ID:kYvrtNl10
大潮「嘘つき! お姉さんの嘘つき!」
満潮「しょうがないでしょ! もう・・・しょうがないじゃない」
荒潮「朝潮姉さん・・・」
山雲「本当なら喜ぶところなのにー・・・なんか寂しい」
朝雲「私も・・・」
霰「・・・・・・」
霞「もう! 決まったことはしょうがないじゃない! 心機一転、私達は駆逐艦として、任務をこなすのみ!」
明るく振る舞う霞。
彼女の明るさは不自然であり、顔には悲しみの色が見て取れた。
満潮「しょうがないでしょ! もう・・・しょうがないじゃない」
荒潮「朝潮姉さん・・・」
山雲「本当なら喜ぶところなのにー・・・なんか寂しい」
朝雲「私も・・・」
霰「・・・・・・」
霞「もう! 決まったことはしょうがないじゃない! 心機一転、私達は駆逐艦として、任務をこなすのみ!」
明るく振る舞う霞。
彼女の明るさは不自然であり、顔には悲しみの色が見て取れた。
26: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:15:11.08 ID:kYvrtNl10
清霜「霞ちゃん!」
霞「あら清霜。どうしたの?」
清霜「えへへ、あのね、ちょっと耳に挟んだんだけどね」
霞は、清霜の言おうとしていることが、大体分かった。
清霜「朝潮さん、戦艦になったんでしょ?」
霞「・・・うん、まあ、そうね」
清霜「いいなあ、朝潮さん。背もすごい大きくなってたし」
霞「・・・・・・」
清霜「私もいつか、あんなふうに戦艦になれるのかなあ?」
霞「・・・清霜」
清霜「ん?」
霞は、清霜の手を、両手で優しく握る。
霞「・・・あなたは、あなたらしくしていれば、いいのよ」
清霜「ん?」
そのまま霞は、清霜を優しく抱く。清霜はわけもわからずに、それを受け入れる。
霞「あら清霜。どうしたの?」
清霜「えへへ、あのね、ちょっと耳に挟んだんだけどね」
霞は、清霜の言おうとしていることが、大体分かった。
清霜「朝潮さん、戦艦になったんでしょ?」
霞「・・・うん、まあ、そうね」
清霜「いいなあ、朝潮さん。背もすごい大きくなってたし」
霞「・・・・・・」
清霜「私もいつか、あんなふうに戦艦になれるのかなあ?」
霞「・・・清霜」
清霜「ん?」
霞は、清霜の手を、両手で優しく握る。
霞「・・・あなたは、あなたらしくしていれば、いいのよ」
清霜「ん?」
そのまま霞は、清霜を優しく抱く。清霜はわけもわからずに、それを受け入れる。
27: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:16:48.74 ID:kYvrtNl10
朝潮「敵艦発見!」
朝潮の弾が、敵の旗艦に命中。その一発で敵は沈んだ。
長門「朝潮、よくやった! もう、こっちには慣れたか?」
朝潮「はい! おかげさまで」
勝利した艦隊は、鎮守府へと帰投する。
駆逐艦として優秀だった朝潮は、戦艦としても、相変わらず優秀だった。
身長も伸びて、今や最高身長だった大和をも、抜かそうとしている。
背は伸びたものの、容姿としては、駆逐艦の頃から変わっていない、未発達な状態であった。
しかしそれがかえって、高火力ながらも身軽な動きを実現していた。
朝潮の弾が、敵の旗艦に命中。その一発で敵は沈んだ。
長門「朝潮、よくやった! もう、こっちには慣れたか?」
朝潮「はい! おかげさまで」
勝利した艦隊は、鎮守府へと帰投する。
駆逐艦として優秀だった朝潮は、戦艦としても、相変わらず優秀だった。
身長も伸びて、今や最高身長だった大和をも、抜かそうとしている。
背は伸びたものの、容姿としては、駆逐艦の頃から変わっていない、未発達な状態であった。
しかしそれがかえって、高火力ながらも身軽な動きを実現していた。
28: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:17:26.45 ID:kYvrtNl10
提督「朝潮、絶好調だな!」
朝潮「ありがとうございます!」
提督「当時はどうなるかと心配だったが、俺には先見の明があったようだな! ハッハッハ」
朝潮「はい!」
長門「朝潮、今後も期待しているぞ!」
朝潮「ありがとうございます!」
長門よりも頭ひとつ大きい体で、朝潮は微笑む。
しかしその微笑みの奥には、暗い影がかかっていた。
鎮守府の役に立つのは、純粋に嬉しい。
しかし、それとは引き換えに失ったものも、大きい。
朝潮「ありがとうございます!」
提督「当時はどうなるかと心配だったが、俺には先見の明があったようだな! ハッハッハ」
朝潮「はい!」
長門「朝潮、今後も期待しているぞ!」
朝潮「ありがとうございます!」
長門よりも頭ひとつ大きい体で、朝潮は微笑む。
しかしその微笑みの奥には、暗い影がかかっていた。
鎮守府の役に立つのは、純粋に嬉しい。
しかし、それとは引き換えに失ったものも、大きい。
29: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:18:48.56 ID:kYvrtNl10
霞「朝潮姉さん! 猫背よ!」
朝潮「えっ?」
すれ違いざまに、霞が指摘する。朝潮はゆっくりと、直す。
朝潮「・・・ありがとう、霞」
霞「お姉さん・・・」
今や、霞の頭は朝潮の胸よりも下にあった。
しかし朝潮は、かつてと同じように、霞に接する。
朝潮「えっ?」
すれ違いざまに、霞が指摘する。朝潮はゆっくりと、直す。
朝潮「・・・ありがとう、霞」
霞「お姉さん・・・」
今や、霞の頭は朝潮の胸よりも下にあった。
しかし朝潮は、かつてと同じように、霞に接する。
30: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:19:18.14 ID:kYvrtNl10
朝潮「どうしたの、霞」
霞「・・・・・・」
朝潮「・・・ごめん、もう行くわ」
霞「待って!」
朝潮「霞・・・」
霞はただ、朝潮と一緒にいたいと思っただけである。
いきなり、もう手の届かない場所へと行ってしまったお姉さん。
一緒にいたい、以前のように。
しかし、それももう叶わない。
霞「・・・・・・」
朝潮「・・・ごめん、もう行くわ」
霞「待って!」
朝潮「霞・・・」
霞はただ、朝潮と一緒にいたいと思っただけである。
いきなり、もう手の届かない場所へと行ってしまったお姉さん。
一緒にいたい、以前のように。
しかし、それももう叶わない。
31: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:22:48.10 ID:kYvrtNl10
提督「意を決して、取り組むように!」
「ハイ!」
艦隊全員の声が、響き渡る。作戦決行。
朝潮「作戦を共にするのは、私が移ってから、初めてよね」
霞「どんな時であれ、役目を果たすだけよ」
朝潮「うん、私も一緒・・・そうだ、ちょっと縁起悪いけど」
朝潮はしゃがみ込み、霞に耳打ちする。
朝潮「私を雷撃処分するときは、しっかりとね」
霞「お姉さん!」
朝潮は微笑みながら、出撃した。
作戦を言い渡された時から、不穏に感じていたこと。
そして霞は胸に誓う。
この戦い、負けるわけにはいかない。
「ハイ!」
艦隊全員の声が、響き渡る。作戦決行。
朝潮「作戦を共にするのは、私が移ってから、初めてよね」
霞「どんな時であれ、役目を果たすだけよ」
朝潮「うん、私も一緒・・・そうだ、ちょっと縁起悪いけど」
朝潮はしゃがみ込み、霞に耳打ちする。
朝潮「私を雷撃処分するときは、しっかりとね」
霞「お姉さん!」
朝潮は微笑みながら、出撃した。
作戦を言い渡された時から、不穏に感じていたこと。
そして霞は胸に誓う。
この戦い、負けるわけにはいかない。
32: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:24:01.46 ID:kYvrtNl10
初めて目の当たりにする、朝潮の高火力、高練度。
そして、朝潮自身から放たれる、黒い殺気。
主力として使われている理由を、霞は一目で感じ取った。
鎮守府で、猫背で歩いている朝潮とは、何かが違う。
そして、出撃前の不安は杞憂に終わった。
艦隊は無事に、鎮守府へと帰投する。
霞「・・・朝潮姉さん」
朝潮「はい?」
霞「その・・・強く・・・なりましたね」
朝潮「ありがとう・・・どうしたの? 急に、他人行儀になって・・・」
霞「いや・・・」
すでに手の届かないところにいる朝潮に対して、かつてのように接することが霞にはできなくなっていた。
そして、朝潮自身から放たれる、黒い殺気。
主力として使われている理由を、霞は一目で感じ取った。
鎮守府で、猫背で歩いている朝潮とは、何かが違う。
そして、出撃前の不安は杞憂に終わった。
艦隊は無事に、鎮守府へと帰投する。
霞「・・・朝潮姉さん」
朝潮「はい?」
霞「その・・・強く・・・なりましたね」
朝潮「ありがとう・・・どうしたの? 急に、他人行儀になって・・・」
霞「いや・・・」
すでに手の届かないところにいる朝潮に対して、かつてのように接することが霞にはできなくなっていた。
34: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:38:52.18 ID:kYvrtNl10
朝潮「大潮、今までありがとう! これからは、この1番艦朝潮に任せて!」
大潮「・・・うん、お姉さん、ありがとう」
新しい、駆逐艦朝潮がやってきた。
空いた穴は埋める。当たり前のことだ。
朝潮はもう、ここにはいないのだから。
朝潮「大潮。私の布団て、このあたりで大丈夫?」
大潮「うん、大丈夫だよ」
かつて朝潮が使っていた押し入れのスペースを、また、朝潮が使う。
大潮「・・・うん、お姉さん、ありがとう」
新しい、駆逐艦朝潮がやってきた。
空いた穴は埋める。当たり前のことだ。
朝潮はもう、ここにはいないのだから。
朝潮「大潮。私の布団て、このあたりで大丈夫?」
大潮「うん、大丈夫だよ」
かつて朝潮が使っていた押し入れのスペースを、また、朝潮が使う。
35: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:39:31.40 ID:kYvrtNl10
自室にて、床に座ってぼうっとしている朝潮。
そこに、同室の大和が話しかける。
大和「朝潮さん」
朝潮「はい?」
大和「なんだか、ぼうっとしているようですが」
朝潮「・・・はい」
大和「戦っている時の、あの殺気漂う朝潮とは、まるで別人のよう」
朝潮「・・・大和さん」
朝潮は、大和に対して、涙を流した。
大和の頭は、朝潮の顎の下にある。まるで姉妹のような身長差。
大和「あら・・・どうしました?」
朝潮「私は、もうダメだと思うんです・・・」
大和「・・・急に、どうしたの?」
そこに、同室の大和が話しかける。
大和「朝潮さん」
朝潮「はい?」
大和「なんだか、ぼうっとしているようですが」
朝潮「・・・はい」
大和「戦っている時の、あの殺気漂う朝潮とは、まるで別人のよう」
朝潮「・・・大和さん」
朝潮は、大和に対して、涙を流した。
大和の頭は、朝潮の顎の下にある。まるで姉妹のような身長差。
大和「あら・・・どうしました?」
朝潮「私は、もうダメだと思うんです・・・」
大和「・・・急に、どうしたの?」
36: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:40:14.18 ID:kYvrtNl10
提督の思いつきで、深海棲艦を素材にして近代化改修をした。
それから、朝潮はドンドン背が伸びていった。
結果、今では戦艦として活躍している。
実際に、朝潮は変わってしまった。
戦闘以外の時は、以前の朝潮と何も変わらない。
しかし戦闘となれば、体全体が、敵を殺そうと動き出す。
その動きを、朝潮は制御できなかった。
朝潮「私は・・・怖いんです。いつか、自分が深海棲艦になってしまうようで」
大和「・・・・・・」
朝潮「出撃して、会敵までは意識があります。しかし、それ以降は、全く・・・」
大和「・・・そう」
大和は、朝潮の震える背中をさする。
もう、どうにもならないことである。
それから、朝潮はドンドン背が伸びていった。
結果、今では戦艦として活躍している。
実際に、朝潮は変わってしまった。
戦闘以外の時は、以前の朝潮と何も変わらない。
しかし戦闘となれば、体全体が、敵を殺そうと動き出す。
その動きを、朝潮は制御できなかった。
朝潮「私は・・・怖いんです。いつか、自分が深海棲艦になってしまうようで」
大和「・・・・・・」
朝潮「出撃して、会敵までは意識があります。しかし、それ以降は、全く・・・」
大和「・・・そう」
大和は、朝潮の震える背中をさする。
もう、どうにもならないことである。
37: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:41:12.96 ID:kYvrtNl10
朝潮の意識が飛ぶ回数が、日に日に増えていく。
ある日、朝潮は近づいてきた清霜の胸ぐらをつかみ、そのまま吊るしあげた。
清霜「ひっ! あ、朝潮さん!」
朝潮「・・・・・・」
朝潮は無表情で、清霜を見つめる。
そして、ふっと我に返る。
朝潮「・・・あれ?」
清霜「ご・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」
朝潮「き、清霜さん?」
朝潮は、今、自分のしていることを知り、清霜を床に下ろした。
朝潮「ごめんなさい、ごめんなさい、清霜さん。私、ぼうっとしていて」
朝潮は清霜に、何度も何度も謝る。そして、自分の危険性を、再確認した。
ある日、朝潮は近づいてきた清霜の胸ぐらをつかみ、そのまま吊るしあげた。
清霜「ひっ! あ、朝潮さん!」
朝潮「・・・・・・」
朝潮は無表情で、清霜を見つめる。
そして、ふっと我に返る。
朝潮「・・・あれ?」
清霜「ご・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」
朝潮「き、清霜さん?」
朝潮は、今、自分のしていることを知り、清霜を床に下ろした。
朝潮「ごめんなさい、ごめんなさい、清霜さん。私、ぼうっとしていて」
朝潮は清霜に、何度も何度も謝る。そして、自分の危険性を、再確認した。
38: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:41:39.13 ID:kYvrtNl10
朝潮は提督に、このことを相談する。
提督「・・・そうか」
朝潮「はい・・・このままでは、いつか、仲間を傷つけると思います」
提督「・・・お前は主力艦だ」
朝潮「承知しています。しかし、味方にこんな危険因子がいるというのは」
提督「・・・・・・」
提督はしばらく考えて、結論を言い渡す。
提督「お前の好きに、してほしい。きっとそれが、最良の選択だろう」
朝潮「司令官・・・ありがとうございます。今までお世話になりました」
朝潮は執務室のドアをくぐって出て行く。
提督「・・・そうか」
朝潮「はい・・・このままでは、いつか、仲間を傷つけると思います」
提督「・・・お前は主力艦だ」
朝潮「承知しています。しかし、味方にこんな危険因子がいるというのは」
提督「・・・・・・」
提督はしばらく考えて、結論を言い渡す。
提督「お前の好きに、してほしい。きっとそれが、最良の選択だろう」
朝潮「司令官・・・ありがとうございます。今までお世話になりました」
朝潮は執務室のドアをくぐって出て行く。
39: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:42:05.39 ID:kYvrtNl10
大和「・・・本当に、それでよいのですか?」
朝潮「はい。これが、私の最後の望みです」
大和「・・・そう。朝潮さん、立ってみて」
部屋で二人は立つ。大和よりも頭ひとつ以上大きい朝潮。
鎮守府のドアはどこも、朝潮にとっては低いものになっていた。
大和「本当に、大きくなりましたね」
朝潮「・・・はい」
大和「前は、こんなに小さかったのに」
朝潮「・・・はい」
大和「・・・本当に、良いのですね」
朝潮「・・・はい。これが私の、最後のわがままです」
朝潮「はい。これが、私の最後の望みです」
大和「・・・そう。朝潮さん、立ってみて」
部屋で二人は立つ。大和よりも頭ひとつ以上大きい朝潮。
鎮守府のドアはどこも、朝潮にとっては低いものになっていた。
大和「本当に、大きくなりましたね」
朝潮「・・・はい」
大和「前は、こんなに小さかったのに」
朝潮「・・・はい」
大和「・・・本当に、良いのですね」
朝潮「・・・はい。これが私の、最後のわがままです」
40: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:44:11.38 ID:kYvrtNl10
朝潮「いっけぇー!」
爆発音と共に、的が破壊される。
駆逐艦の訓練。最近着任したばかりの朝潮は、日に日に練度を上げていく。
神通「朝潮ちゃん。素晴らしいわ!」
朝潮「ありがとうございます!」
神通は朝潮の頭を撫でる。
朝潮は照れて顔を赤くする。
これは、神通にとっても初めてのことである。
神通も照れて、顔を赤らめた
大潮「お姉さん、先行くよ!」
神通「あら、ごめんなさい」
朝潮「いえ、ありがとうございます! 大潮! 今行くわ!」
爆発音と共に、的が破壊される。
駆逐艦の訓練。最近着任したばかりの朝潮は、日に日に練度を上げていく。
神通「朝潮ちゃん。素晴らしいわ!」
朝潮「ありがとうございます!」
神通は朝潮の頭を撫でる。
朝潮は照れて顔を赤くする。
これは、神通にとっても初めてのことである。
神通も照れて、顔を赤らめた
大潮「お姉さん、先行くよ!」
神通「あら、ごめんなさい」
朝潮「いえ、ありがとうございます! 大潮! 今行くわ!」
41: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:44:37.34 ID:kYvrtNl10
執務室にいる提督の耳に、外からの朝潮の声が聞こえる。
提督「・・・平和だな」
大和「・・・平和ですね」
提督「・・・本当に、やったのか?」
大和「はい・・・彼女の、最後の願いですから」
提督「そうか・・・」
大和「ちなみに、資材は結構入りましたよ」
提督「今はやめてくれ、その話は」
大和「はい、提督」
鎮守府には、いつもと同じ、平和な風が吹いている。
-FIN
提督「・・・平和だな」
大和「・・・平和ですね」
提督「・・・本当に、やったのか?」
大和「はい・・・彼女の、最後の願いですから」
提督「そうか・・・」
大和「ちなみに、資材は結構入りましたよ」
提督「今はやめてくれ、その話は」
大和「はい、提督」
鎮守府には、いつもと同じ、平和な風が吹いている。
-FIN
43: ◆zPnN5fOydI 2017/01/06(金) 22:47:26.70 ID:kYvrtNl10
閲覧ありがとうございます.
完全に,その場の勢いで書いたものですが,お楽しみいただけたのであれば,幸いです.
以前,「シン・キヨシモ」という題名で,こんな感じの夢オチssを書きました.ボツにしました.それの二番煎じのようなものです.
途中にコメントをくださった方,ありがとうございます
過去作
電「二重人格……」
提督「艦むすの感情」
艦娘という存在
朝潮は『不安症候群』
朝潮はずっと秘書艦
映画『艦これ』 -平和を守るために
深海の提督さん
お酒の席~恋をする頃
忠犬あさしお
影の薄い思いやり
欠けた歯車、良質な物【艦これ】
【艦これ】お役に立てるのなら
お役に立てたのなら【艦これ】
【艦これ】<霧の中で>他短編
朝潮の身長が伸びる話
完全に,その場の勢いで書いたものですが,お楽しみいただけたのであれば,幸いです.
以前,「シン・キヨシモ」という題名で,こんな感じの夢オチssを書きました.ボツにしました.それの二番煎じのようなものです.
途中にコメントをくださった方,ありがとうございます
過去作
電「二重人格……」
提督「艦むすの感情」
艦娘という存在
朝潮は『不安症候群』
朝潮はずっと秘書艦
映画『艦これ』 -平和を守るために
深海の提督さん
お酒の席~恋をする頃
忠犬あさしお
影の薄い思いやり
欠けた歯車、良質な物【艦これ】
【艦これ】お役に立てるのなら
お役に立てたのなら【艦これ】
【艦これ】<霧の中で>他短編
朝潮の身長が伸びる話
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 22:56:15.24 ID:DVLFrFxr0
乙!
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 22:56:43.40 ID:fEU0FCDeO
乙
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:05:14.63 ID:LY8AOPtnO
やっぱりあんたか
乙乙
乙乙
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 08:08:18.71 ID:E/P1yeplo
乙やで。
もっと救いのない末期戦みたいなの書いてもいいのよ。
もっと救いのない末期戦みたいなの書いてもいいのよ。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483706270/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ 艦隊これくしょん | Comments (0)
みく「正体バレバレなヒーローの休日」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 09:58:01.23 ID:1m8imUWE0
凛「正体バレバレなヒーロー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470158894/
凛「帰ってきた正体バレバレなヒーロー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473092372/
凛「正体バレバレなヒーローリターンズ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473635600/
のスピンオフ的な続編です。
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:00:50.33 ID:1m8imUWE0
アイドル戦隊レインボー
~女子寮・みくの部屋~
みく「・・・という事でミーティングを始めるにゃ!」
李衣菜「イェーイ!」
菜々「は~い、お茶が入りましたよ~」コトッ
みく「あ、ありがとう菜々チャン・・・」ズズッ
みく「うん、おいしい・・・じゃあ近況報告からにゃ!最初は夏樹チャン!」
夏樹「えっ、近況って・・・そうだなぁ・・・」
みく「最近どこかに行った話とかでいいにゃ」
夏樹「あ!そういえば先週、みくに教えてもらった猫カフェ行ったんだよ!」
みく「うんうん!それでそれで?」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:02:06.66 ID:1m8imUWE0
夏樹「みくの言ってた通りでメチャクチャ人懐っこいヤツばっかでさ」
みく「でしょ!?あそこの猫チャンたちはみーんな接待上手なのにゃ!」
夏樹「昼頃に行ったんだけど、ついつい時間を忘れて閉店ギリギリまで戯れちまったぜ」
菜々「ふふっ、随分と可愛らしいエピソードですね!」
李衣菜「ほんとみくちゃんはいろんなお店知ってるよね~!」
みく「ふっふっふっ、みくに知らない猫カフェはないのにゃ!」
夏樹「ありがとな、みく」
みく「えへへへへ・・・ってちがーう!!」ガラガラガッシャーン!!
李衣菜「うわっ!?」
菜々「ちょ熱ッ!!お茶ッ!!」
夏樹「いきなりテーブルひっくり返してどうしたんだよみく!?」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:03:17.52 ID:1m8imUWE0
みく「どうもこうも無いにゃ!!おかげで部屋中ビチャビチャにゃ!!」
李衣菜「みくが自分でブチ撒けたからでしょ!?」
菜々「自分で放火して自分の家が燃えてる状態ですよ・・・」
みく「そんな夏樹チャンのほのぼのエピソード聞くために集まったわけじゃないにゃ!!」
夏樹「ええ・・・」
菜々「本当どうしちゃったんですかみくちゃん・・・」
みく「みくたちの戦隊にライバル出現!その話し合いに決まってるでしょ!?」
李衣菜「あぁ~そういえば・・・」
夏樹「そんなのあったらしいな・・・」
菜々「のあさんクビにしちゃうから・・・」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:04:16.40 ID:1m8imUWE0
みく「のあにゃんがあーにゃんを引き抜いたせいでみくたち4人になっちゃったのにゃ」
みく「そ こ で ! ! !」
李衣菜「みくちゃんちょっと声大きい」
みく「シンメンバーオーディションヲオコナウノニャ・・・」
夏樹「極端」
李衣菜「何?シン・ゴジラ?観にいくの?」
菜々(ナナは昭和ゴジラしか認めませんよ・・・)
みく「新メンバーオーディションを行うのにゃ」
李衣菜「新メンバーってロックだよね!なつきち!」
夏樹「あぁそうだな、だりー」
菜々(なつきちさんは李衣菜ちゃんにほんと甘いですね・・・)
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:05:19.97 ID:1m8imUWE0
菜々「それでみくちゃん、オーディションって一体何をするんですか?」
みく「はい、それについては司会・進行を務めてもらう凛チャンに引き継いで説明してもらうのにゃ」
凛「はい、前川さんありがとうございます」
凛「ただ今紹介に与りました本日、司会・進行を務めさせていただきます渋谷凛です」
李衣菜「うわぁ凛ちゃん!?いつからいたの!?」
凛「菜々さんが昭和ゴジラしか認めないってとこからだけど」
菜々「言ってないですよ!!思っただけです!!」
夏樹「思ってたのかよ」
凛「続けても?」
夏樹「あぁ、悪いななんか・・・」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:06:20.75 ID:1m8imUWE0
凛「それでは・・・早速説明の方に入りたいと思います」
凛「最初に、前川さんがお配りしている資料をご覧ください」
みく「はい、どうぞ」ピラ
菜々「あ、どうも・・・」
夏樹「サンキューな・・・」
李衣菜「あ、ありがと・・・」
凛「・・・全員行き渡りましたね」
3人(急に会議っぽくなったな・・・)
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:07:29.37 ID:1m8imUWE0
凛「はい、まずは1ページ目・・・は飛ばして」ペラ
一同「・・・」ペラ
凛「2ページ・・・も飛ばして」ペラ
一同「・・・」ペラ
凛「さん・・・よん・・・」ペラペラ
一同「・・・」ペラペラ
凛「・・・」スッ
凛「・・・じゃあ今から部屋に入ってくる人の中から新メンバーを選ぶってことなので」
一同「・・・」
凛「・・・何か質問などあれば」
夏樹・菜々(えぇ~っ・・・)
李衣菜「ハイ!」
凛「はい、多田さん」
李衣菜「資料ってハナコちゃんの写真しかのってなかったんだけど!」
凛「ロックだから大丈夫ですよ」ニコッ
李衣菜「!!」
李衣菜「そっか!ロックなら大丈夫だよね!!」
夏樹(相変わらずだりーは可愛いな・・・)
菜々(ハナコちゃんの写真見てもらいたかったんですね・・・)
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:08:36.14 ID:1m8imUWE0
みく「ということなので続けて凛チャン呼び込みお願いするにゃ」
凛「はい、それでは1番から3番の方お入りください」
?「し、失礼します・・・」
?「失礼するぽよ~☆」
凛「それでは自己紹介をお願いします。まずは1番の方から」
奈緒「・・・」
里奈「・・・」
凛「1番の方!!奈緒!!」
奈緒「えっ、1番ってあたしかよ!?」
里奈「てゆーかアタシら番号とか聞いてないし~」
凛「奈緒は1番、里奈は2番!今日2人だけなんだから察して!」
夏樹「なんでキレてんだよ」
李衣菜「なんか凛ちゃんヘンじゃない・・・?」
菜々「3番がいないのはもうスルーなんですね」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:09:34.06 ID:1m8imUWE0
みく「ゴホン!じゃあ1番の方、自己紹介お願いするにゃ」
奈緒「えぇ~何なんだよもう・・・」
凛「ん!ん!」クイクイッ
奈緒「わかったよ!わかったから顎で促すなよ!」
奈緒「えーっと、1番・神谷奈緒です・・・」
みく「なぜこのオーディションを受けようと思ったのか教えてほしいにゃ」
奈緒「なぜって・・・加蓮が勝手に応募したんだよ!」
李衣菜「友達が勝手にって、ずいぶんベタな理由だね奈緒ちゃん!」
菜々「自分で応募したのが恥ずかしいって人の常套句ですね」
奈緒「ホントなんだってば!!第一これが何のオーディションかも知らされてないし!!」
夏樹「アイドル戦隊の新メンバーオーディションだよ」
奈緒「アイドル戦隊!?あたしにはムリだって!そういうのは見る専門だし!」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:10:35.67 ID:1m8imUWE0
みく「やる前から諦めるのは良くないと思うにゃ」
菜々「みくちゃん・・・」
みく「自分では出来ないと思うことも、やってみたら案外得意になったりするにゃ」
李衣菜「そうそう、私だって今は上手にギター弾けないけどさ、いつかは・・・」
みく「やっぱり出来ることと出来ないことがあるかもしれないにゃ」
李衣菜「ちょっと!せっかく良いこと言ったと思ったのに!!」
みく「人には向き不向きがあるのにゃ!!」
ギャーギャー!!
夏樹「フフッ、結局いつも通りだな」
菜々「ですね、ふふふっ」
凛「それでどうするの、奈緒?」
奈緒「う~ん・・・」
夏樹「ま、こういうのはすぐに決められるようなもんじゃないだろうしな」
菜々「どちらかといえば奈緒ちゃん、魔法少女って感じですしね」
奈緒「魔法少女・・・それはちょっといいかも・・・」
凛「!!」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:11:34.80 ID:1m8imUWE0
凛「それならいい所があるよ!今すぐ連れてってあげる!」グイ
奈緒「いや行きたいなんて言ってな・・・って力強いなおい!」グイグイ
<オイ、リン!オロセーッ!!
菜々「行っちゃいましたね司会進行」
夏樹「女子高生が女子高生を小脇に抱えて走るのなんて初めて見たよ」
菜々「なんか全体的に今日の凛ちゃんヘンでしたね」
菜々「・・・とりあえず続けましょうか」
夏樹「もう里奈しか残ってないけどな」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:12:34.78 ID:1m8imUWE0
里奈「はいは~い!2番、藤本里奈で~す♪」
里奈「てゆ~かもうアタシしかいないみたいだしコレ合格決定的な感じ~?」
夏樹「里奈がやりたいなら別に良いけど・・・なんでそんなに乗り気なんだ?」
里奈「だってだって~☆この前たくみんのカッコチョ~ウケたし~♪」
里奈「アイドル戦隊ってなんかイケてる~って思ったぽよ~☆」
菜々「じゃあ新メンバーは里奈さんってことで!早速名前決めないといけないですね!」
菜々「ちなみになつきちさんはロックイエローで李衣菜ちゃんはロックブルー」
菜々「みくちゃんはレッドキャットでナナはピンクウサミンです!」
夏樹「まあ、あって無い様なコードネームみたいなもんさ」
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:13:40.80 ID:1m8imUWE0
夏樹「里奈の好きな色とかものとかで・・・」
里奈「チャオクマ!じゃアタシ、チャオクマにする!」
菜々「ちゃおくま?」
菜々(茶置く間?茶奥抹?なんなんでしょう抹茶のお菓子的な何かですか・・・?)
菜々「あぁ~おいしいですよね、ちゃおく・・・」
夏樹「いや、いくら好きでもブランド名はまずいだろ」
菜々(危なかったッ!!これは迂闊に喋るとダメなやつでした!!)
菜々(この話題にはナナ、お口チャックです・・・)
??(お口チャック・ウィルソンですね・・・ふふっ・・・)
菜々(直接脳内に!?)
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:14:50.29 ID:1m8imUWE0
里奈「えぇ~でもでも、チャオクマ可愛いぽよ~!」
夏樹「いや、可愛いとかそういう問題じゃなくてさ・・・」
ガチャ
のあ「・・・プロデューサーに聞いてみるといいわ」
夏樹「うわっびっくりした!!なんでバスルームから出てくるんすか!?」
のあ「お風呂を先にいただいていたからよ」
夏樹「そういうことじゃないんだけど」
里奈「もしもしプロデューサー?おっつにゃーん☆」
夏樹「いやプロデューサーさんに聞いてもさ・・・ってのあさんもういないし」
里奈「うん・・・うん・・・ホント!?さっすが~♪ありがとぽよ~☆」ピッ
里奈「いいって!」
夏樹「すげぇなあの人」
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:15:47.13 ID:1m8imUWE0
みく「それじゃあ名前も決まったみたいだし、これから里奈チャンの歓迎会するにゃ」
夏樹「お、ちょうど解散芸も終わったみたいだな」
里奈「すっかりお家芸的な~♪」
李衣菜「そんなに何回もやってないってば!」
ヒョコッ
友紀「2年ぶり33回目?」
夏樹「うわっまたかよ!!」
みく「みくたちは龍谷大平安じゃないのにゃ!」
夏樹「つっこむのはそこじゃないだろ・・・」
李衣菜「友紀さんこんにちは!」
友紀「はい、こんにちはーっ!今日もいい天気だね!」
夏樹「のん気か」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:17:10.57 ID:1m8imUWE0
友紀「歓迎会するならいいお店知ってるよ~!お姉さんたちがご馳走してあげよう!」
夏樹「えっ、たちって」
楓「お口チャック・ウィルソン」
菜々「第一声がそれでいいんですか」
みく「楓さん、お疲れ様なのにゃ!」
楓「は~い、お疲れ様で~す♪」
夏樹「なんで誰も大人が3人も風呂場から出てきたことに疑問を持たないんだよ!」
里奈「部屋のカギかかってなかった系~?」
李衣菜「カギ・・・?つまりロック!だめだよみくちゃん、ちゃんとロックしなきゃ!」
夏樹「もはや何のキャラだよ!」
みく「どうせのあにゃんがピッキングして開けてくるから意味ないのにゃ・・・」
夏樹「本当何なんだあの人」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:18:13.45 ID:1m8imUWE0
友紀「よし!それじゃあそろそろお昼だし、お店に行こうか!」
楓「お酒もあるお店なのだけれど、菜々ちゃん以外は飲んじゃダメですよ♪」
菜々「ナッ、ナナも飲みませんよ!!ていうか17歳だから飲めませんしっ!!」
夏樹(大人2人は昼から飲むつもりだな・・・)
夏樹「まったく騒がしい休日になっちまったな・・・」
夏樹「まぁ・・・」
みく「ハンバーグ食べたいにゃ~!」
李衣菜「魚も食べなきゃだめだよ!バランスを考えなきゃ!」
里奈「夏樹っち~どしたん~?ホラホラ早く行こ~♪」
夏樹「賑やかなのは嫌いじゃないけどさ・・・!」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:19:18.40 ID:1m8imUWE0
アイドルプリキュア
~女子寮・美穂の部屋~
茜「んん~困りましたね!!」
美穂「どうしよう・・・」
キュアアロマ「・・・///」ピッチピチ
茜「何回変身してもサイズが小さいですね!!えっちいです!!」
美穂「茜ちゃん!」
アロマ「どうして私だけ・・・///」
美穂「とっ、とりあえず元に戻ってもらっていいですか!?」
茜「えっちいままじゃ話も出来ませんからね!!」
美穂「茜ちゃん!!」
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:20:34.38 ID:1m8imUWE0
シュウウウ
美優「やっぱり私にプリキュアなんてできない・・・」
茜「そんなこと無いです!!美優さんも大切な仲間なんですから!」
美優「茜ちゃん・・・」
美穂「そうですよ!きっとなんとかなるはずです!」
美優「美穂ちゃん・・・!2人ともありが」
茜「それにしてもなんで美優さんだけえっちくなってしまうのでしょうね!」
茜「はっ!ひょっとして美優さんがえっちいことばかり考えたりしてるからでしょうか・・・?」
美優「」
美穂「ちょっと茜ちゃん!」
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:21:48.54 ID:1m8imUWE0
美優「」ズーン
美穂(どうしよう、この状況・・・)
美穂(楓さんも来る気配しないし本当にどうすればいいの・・・)
コンコン
??「美穂?いる?」
ガチャ
茜「おや?凛ちゃんに奈緒ちゃんじゃないですか!どうしました?」
凛「奈緒がプリキュアやりたいみたいなんだけど新メンバーにどうかな?」
奈緒「べっ、別にあたしがやりたいって言ったわけじゃないぞっ!」
美穂(新メンバー・・・!)
美穂(そうだ、常識人の奈緒ちゃんならこの状況なんとかしてくれるかも!)
美穂「いいですねっ!奈緒ちゃん、新メンバーお願いできますか?」
茜「私も大歓迎です!!仲間が増えるのは良い事です!!」
奈緒「おっ、おう・・・それじゃあこちらこそよろしく・・・」
美優「奈緒ちゃん、よろしくね・・・」
奈緒「よろしく・・・ってなんか美優さん元気ないな?」
美穂「そのことで奈緒ちゃんに相談があるんだけど・・・」
奈緒「相談?」
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:22:44.39 ID:1m8imUWE0
奈緒「な、なるほど・・・そんなことになってるのか・・・///」
美穂「奈緒ちゃん、確か魔法少女のアニメに詳しかったよね!何か解決策とか無いかな?」
奈緒「い、いやぁ別に詳しいってわけじゃ・・・」
奈緒「でも美優さんみたいになっちゃうって話は見たことないな」
美穂「そっか・・・」
茜「謎は深まるばかりですね!!」
美優「やっぱり私みたいなおばさんがプリキュアだなんて・・・」
美穂「そんな!美優さんは全然おばさんなんかじゃないですよ!」
茜「そうですよ!美優さんはまだ大丈夫ですよ!」
奈緒「それ微妙にフォローできてないからな!?」
茜「第一そんなこと言ったら美優さんより年上の人はみんなおばさんって事になるじゃないですか!」
奈緒「おいもうやめろぉ!ストップ!」
茜「川島さんとか!早苗さんとかもです!」
奈緒「やめやめっ!この話もう終わりっ!!」
美穂(さすが奈緒ちゃんです・・・)ニコニコ
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:24:02.69 ID:1m8imUWE0
――――――
奈緒「そういえばさ、そもそもみんなはどうやって変身してるんだ?」
美穂「えっと、コレを使うんですけど」パカッ
奈緒「わぁ~可愛い携帯型のやつなのか!いいなぁ~!ちょっと変身してみせてよ!」
美穂「はい!ちょっと待ってくださいね・・・よいしょっと」ガシャ
奈緒(えっ、何このいかついベルト)
美穂「行きますよ~!」ピッピッピッ スタンディンバーイ・・・
奈緒(あれ?これってもしかしなくても・・・)
美穂「へんっしん!」コンプリート
奈緒「ファイズだこれ!!」
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:25:24.03 ID:1m8imUWE0
ペカーッ
キュアベアー「みんなに届け!みほたんハートっ♪キュアベアー!」
奈緒「あれ!?可愛い衣装になってる!ベルトは!?」
ベアー「変身したらなくなっちゃって」
奈緒「技術が凄いな!」
ベアー「奈緒ちゃんにも作ってもらわないとだね!」
茜「ちなみに私はこのラグビーボールで変身します!!」
奈緒「普通のボールみたいだけどどうやるんだ・・・?」
茜「こうです!!」バン! モクモクモク・・・
奈緒「うわっボールから煙が!!」
モクモクモク
キュアボンバー「ボンバー!!全力トラーーイ!キュアボンバー!!」
奈緒「手品かよ!!」
ボンバー「手品じゃないですよ!!」
奈緒「わかってるよ!!」
ボンバー「奈緒ちゃん元気ですね!!」
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:26:09.51 ID:1m8imUWE0
奈緒「はぁ・・・それで美優さんはどうやって?」
美優「私は、このアロマディフューザーで・・・」
奈緒(一番プリキュアっぽいのになんで美優さんはまともに変身できないんだろう・・・)
シュウウウ
茜「そうです!これから博士のところに行きましょう!」
奈緒「博士?」
美穂「わたしたちに変身するためのアイテムを作ってくれた人だよ!」
奈緒(なんだ・・・妖精がくれるとかじゃないのか・・・)シュン
美優「一緒に私のディフューザーも見てもらおうかしら・・・」
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:27:08.89 ID:1m8imUWE0
晶葉「やぁやぁ諸君!待っていたぞ!」
奈緒「やっぱり晶葉だったか」
茜「博士!!奈緒ちゃんに変身用の道具を作ってください!!」
晶葉「ふふふ・・・実はもう完成しているのだ!!」
奈緒「えっ、どういうこと?」
晶葉「先ほど凛がやってきて奈緒の道具を作るよう依頼されたんだ」
奈緒「凛が・・・?何か心配になってきた・・・」
晶葉「見よ!神谷奈緒専用アイテム!DXレインボーアンブレラだ!」
奈緒「へっ、へぇ~結構良いんじゃないか?」
美穂「奈緒ちゃん、良かったね!」
晶葉「傘をクルクルと回す事でキュアツンデレに変身できるぞ!」
奈緒「おいなんだそのふざけた名前は~!」
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:27:58.88 ID:1m8imUWE0
美優「あの晶葉ちゃん。私のディフューザー、ちょっと見てもらえるかしら?」
晶葉「ん?何か不具合でもあったのか?」
美優「そっ、それは・・・」
晶葉「どれどれ・・・あぁ!ドスケベモードになってるじゃないか!」
美優「ど、どすけべもーど・・・?」///
晶葉「美優の色気を最大限引き出す強化フォームみたいなものだ!」
晶葉「いつか来るピンチの為に隠して搭載いたのだが、ネタバレになってしまったな!はっはっは!」
美優「そんなフォームいりません!」
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:28:37.32 ID:1m8imUWE0
茜「解決して良かったですね!美優さん!」
美優「ええ、これで何とか・・・」
奈緒「へへっ、これで私もプリキュアになれるのか~!」
奈緒「これからよろしくなっ!私の可愛い虹色の傘さん!」
美穂「あれ?奈緒ちゃん、傘の柄のところから何か見えてるけど?」
晶葉「あぁ忘れていた!仕込み刀がついているから扱いには気をつけるのだぞ!」
奈緒「柄だけ可愛くない!!」
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:29:43.36 ID:1m8imUWE0
仮面ライダー×仮面ライダー ユッコ&シマムー feat.響子
~女子寮・響子の部屋~
裕子「今週は・・・何かありましたか?」
卯月「そうですね・・・」
卯月「・・・特には何もなかったですね」
裕子「響子ちゃんは何かありましたか?」
響子「私も・・・変わった事はなかったですね」
響子「ユッコちゃんは何かありましたか?」
裕子「私もなかったです・・・」
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:30:41.45 ID:1m8imUWE0
卯月「平和すぎて何もすることがなかったですね」
ベルトさん「なぁに、平和に越したことはないさ諸君」
響子「まぁ、そうなんですけどね」
裕子「最後に怪人が出たのいつでしたっけ?」
響子「えっと・・・」
卯月「結構前でしたね!」
響子「確か2週間くらい前だったかな?」
ベルトさん「しかし敵はいつ攻めてくるか分からない、油断は禁物だ」
卯月「そうですよね!島村卯月、いつ敵が来てもいいように頑張ります!」
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:32:05.48 ID:1m8imUWE0
響子「あははは・・・あっ、そろそろお昼ですね」
裕子「私のサイキックパワーによると卯月ちゃんはお腹が空いているようです~」ムムーン
卯月「さいきっくぺこぺこ~!な~んて!えへへ♪」
響子「ふふっ、じゃあ私、何か作りますね!」
―――――――
裕子「そうだ、前に夕美さんが怪人になっちゃった件はどうなったんですか?」
ベルトさん「あぁ、そういえばそんなことがあったな」
卯月「美穂ちゃんと茜ちゃんが治してくれたんですよね」
裕子「なんと!美穂ちゃんに茜ちゃんも仮面ライダーだったんですか!?」
ベルトさん「いや、彼女たちは仮面ライダーではないようだ」
ベルトさん「何か別のエネルギーを素に変身し戦っているようだったな」
卯月「プリキュアっていうみたいです!」
裕子「プリキュア・・・いつか戦うことになるかもしれませんね・・・!」
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:33:07.35 ID:1m8imUWE0
卯月「えぇ~!?ダメですよ~!!」
響子「は~い、できましたよ~!特製ハンバーグです!」
裕子「おぉ~!これは実に美味しそうなハンバーグ!」
卯月「響子ちゃん、本当に料理上手だよね!」
響子「ふふふっ、ありがとうございます♪」
裕子「ハンバーグの匂いをみくちゃんに嗅ぎつけられる前に食べなくては!いただきます!」
卯月「えへへっ、いただきます!」
響子「どうぞ、召し上がれ♪」
ベルトさん(プリキュア以外にもアイドル戦隊という者も存在しているようだ・・・)
ベルトさん(一体この事務所に何が起きているのだろうか・・・)
ベルトさん「・・・って私にはハンバーグないのかね!?ちょっと!?」
終わり
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:34:21.85 ID:1m8imUWE0
エピローグ
晶葉「・・・むぅ、いくら本人に似せようとやはり所詮はアンドロイドということか」
凛?「・・・・・」プシュー
晶葉「私にかかってでも中身までは再現できないようだしな」
??「・・・私には十分な出来に見えるが」
晶葉「プログラムにも限界がある、まがい物にしかならないな」
晶葉「これでは実戦に出すことは出来ない」
??「やはり本物の渋谷凛が必要、ということか」
晶葉「多少の危険を伴うのは致し方の無いことだろう」
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:35:31.87 ID:1m8imUWE0
晶葉「それよりも他のメンバーは?」
??「輿水幸子・姫川友紀の2人には了承を得ている」
??「高垣楓・宮本フレデリカについても交渉を進めている最中だ」
晶葉「そうか・・・ということはやはり・・・」
??「・・・残すは彼女1人」
専務「渋谷凛、彼女だけだ」
To be continued…?
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 10:38:36.87 ID:1m8imUWE0
依頼出してきます
キュウレンジャー面白いですよね。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490317080/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
律子「愛ある昼食」
1: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:35:32.85 ID:Wgsx1f4m0
アイマスSSです。続き物です。
律子「引っ越したらお隣さんがプロデューサーだった」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1388924146/
P「起きたら律子が膝の上で寝ていた」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391866781/
春香「プロデューサーさん・律子さん対策会議を始めます!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395820498/
律子「Oh, Darling!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420005243/
過去作読んでいただいた方がいいかもしれませんが、りっちゃんとPがくっついたということだけ分かっていたら、読めると思います。
ちっちゃなお話がいくつか続きます。特にヤマもオチも何にもありません。
後日談の一つということで。
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/24(金) 21:37:38.13 ID:Wgsx1f4m0
お昼時 765プロ事務所
P「さーて昼飯昼飯、っと…」パカッ
ガチャ
春香「ただいま戻りましたー!」
P「おっ、春香お帰りー」
春香「お昼御飯ですか?」
P「そうそう」
春香「今日はどっちが作りました?」
P「今日は律子だな」
春香(プロデューサーさんと律子さんが結婚してから半年、二人は今もプロデュース業をしています)
春香(どちらかが家事を専念するのは難しい…)
春香(そんなことから始まったのが、交代に弁当を作るというものです)
春香(外食で済ませたらいいのに、それは嫌だとのこと。とんだバカップルです)
3: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:39:40.75 ID:Wgsx1f4m0
春香「相変わらず美味しそうなお弁当ですね?」
P「そうだな。相変わらず栄養バランス考えて作ってくれてるし…」
P「そうそう、この里芋の煮っ転がしは昨日の残りなんだけど、本当に美味くてさあ」
春香「…」ニヨニヨ
P「…春香、その顔はなんだ?」
春香「いや、プロデューサーさんもよくノロケるようになったなあ、と思って」
P「」
4: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:41:24.52 ID:Wgsx1f4m0
P「え、何、俺そんなに喋ってる…?」
春香「それはそれは。だって、前までは私たちがしつこく尋ねないと言ってくれなかったじゃないですか?」
春香「それが、最近は自分から言うようになってますよ」
P「しつこく聞いてきてたっていうのは、自覚があったんだな」
春香「のヮの」
P「おい」
春香「それはともかく、おかげ様で皆とのお話も尽きませんよ!」
P「まだ『対策会議』してるのか?」
春香「いえ、今は定期会合です」
P「定期会合?」
春香「『二人を(生)温かい目で見守る会』です」
P「お前たちは一体何を目指そうとしてるんだ…応援してくれるのは確かに嬉しいけどさ」
・・・・・・・・・・
5: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:42:41.93 ID:Wgsx1f4m0
数日後 事務所
律子「それじゃあ…いただきます、と」
千早「あら律子、今からお昼?」
律子「ええ、昼過ぎまでに出さないといけない書類があったからね。一段落ついたし、遅めのお昼になっちゃったわ」
千早「今日の弁当は、どっちが作ったの?」
律子「ち、千早、あなたも聞いてくるのね…」
あずさ「それはもちろん、みんなが気になってることですから~」ヒョコッ
律子「うわあ!び、びっくりしたぁ…。あずささんもいたんですか…」
6: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:44:08.53 ID:Wgsx1f4m0
あずさ「うふふ、律子さんお疲れ様です♪そ、れ、で♪今日はどうなんですか?」
律子「えっと、今日はプロデューサーです」
千早「見るたびに思うけど、プロデューサーの作る弁当って、男の人が作る割には彩り豊かね?」
律子「そうかしら?」
千早「揚げ物ばかりとか、そういうのをついイメージしてしまうものだけど…」
律子「『見て美味しい、食べて美味しい』があの人のポリシーらしいからね」
律子「んっ、このほうれん草の和え物おいしいっ」アムアム
律子「~♪」モグモグ
7: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:45:23.13 ID:Wgsx1f4m0
律子「…ふう、ご馳走様でした」パタン
千早あずさ「…」ニヨニヨ
律子「ど、どうして2人ともそんな変な顔して…」
千早「だって一度弁当を食べ始めたら、私とあずささんに脇目も振らないで夢中で食べ続けてたでしょう?」
あずさ「律子さんの食べてる顔、すごく幸せそうでした~♪」
律子「」
あずさ「律子さん、今日のプロデューサーさんのお弁当も美味しかったですか?」
律子「え、えっと、その…」
律子「お、美味しかった、です…」カアァ
千早「だそうですよ、あずささん」
あずさ「ですって、千早ちゃん」
千早あずさ「「うふふふふ♪」」
律子「もーっ!二人とも何なのよー!!」///
・・・・・・・・・・
8: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:48:59.69 ID:Wgsx1f4m0
またある日 某ロケ地
「それでは、お昼の休憩に入りまーす!」
伊織「ふう…少し撮影が押したからお腹が空いたわね?」
あずさ「うふふ、そうねぇ」
亜美「ねえ、りっちゃ~ん、お腹空いたよ~」
律子「はいはい。ひとまず3人ともお疲れ様、お待ちかねの弁当よ」ゴトッ
亜美「わーい!」
あずさ「ここのお仕事で配られる仕出しのお弁当、美味しいですよね♪」
伊織「そうね、他と比べるとここはかなりマシな方ね」
律子「早く食べないと、すぐに撮影再開するわよ?」
「「「はーい」」」
9: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:52:24.64 ID:Wgsx1f4m0
律子「それじゃあ、私も…」
亜美「おっ!恒例の自前のお弁当!ねえねえ、今日はどっちが作ったの?」
律子「今日はあの人よ。…よっと」パカッ
律子「!?」ブフッ!
あずさ「律子さん!?」
伊織「ちょっと、どうしたの?」
律子「…」プルプル
伊織「一体何が…ん?」
あずさ「あ、あらあら~」
亜美「ラブラブ、ですなあ~」ニヤニヤ
伊織「…」カシャッ
律子「こ、こら、伊織!なに写真撮ってるのよ!やめなさい!!」
「あら、律子さんの弁当…」
「確か旦那さんも時々作ってるって….」
「ふふっ、ラブラブなんですねー」
「旦那の作ったお弁当の味はどうだんな?って...ふふっ」
律子「わわっ!す、スタッフさんも見ないでくださいー!!」///
・・・
10: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:53:41.72 ID:Wgsx1f4m0
・・・
数時間後 765プロ事務所
律子「プロデューサー!何なんですかあれは一体!!」
P「いやあ、たまにはありかなーって思ってさ」アハハ
律子「だからって、どうしてよりによって外での仕事がある日にしたんですか!」
ギャーギャー
春香「律子さん、どうしたんですか?」
伊織「プロデューサーが愛にあふれた弁当を作ってきたから、嬉し恥かしってやつよ。ほら」つスマホ
春香「ングッ…さ、さくらでんぶで、ハートマーク…」プルプル
伊織「今時、そんなことするカップルなんて天然記念物モノよね」
美希「ハニーからのハートマークとか、すっごく羨ましいの…」グヌヌ
伊織「アンタはホント変わらないわね」
11: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 21:58:23.27 ID:Wgsx1f4m0
P「喜んでくれるかなと思ったんだけどなあ…」
律子「べ、別に恥ずかしかっただけで、嫌じゃなかったですし…むしろ嬉しかったけど…」アセアセ
P「…」ニヤニヤ
律子「あーもう、やっぱり分かってやってたじゃないのよ!このバカぁ!」バシーン
P「いってぇ!背中!!」
…
雪歩「春香ちゃん、伊織ちゃん、お茶持って来たよ」コトッ
春香「雪歩、そのお茶もっと濃い目にしてくれる?」
雪歩「そう言うと思って、いつもより熱めのお湯でいつもより長い時間かけて淹れたから、かなり苦くて渋いのが入ってるよ」コトッ
伊織「相変わらず気が利くわね…うん、これくらいで丁度いいわ」ズズッ
雪歩「美希ちゃんもいる?」
美希「いただくの」ズズッ
・・・・・・・・・・
12: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:01:16.48 ID:Wgsx1f4m0
そのまたある日 事務所
P「それじゃあ、いただきますっと」
やよい「あっ、プロデューサー!今からお昼ご飯ですか?」ヒョコッ
P「うん」
やよい「私もお弁当持って来てるので、一緒に食べませんか?」
P「もちろん大歓迎だぞ」
やよい「うっうー!すぐに準備しますー!」タタタ
P「そんなにあわてなくてもお弁当は逃げないからなー」
13: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:04:05.94 ID:Wgsx1f4m0
P「改めて…」
やよい「いただきますー!」
P「アムッ…うん、美味しい」
やよい「今日のお弁当は律子さんが作ったんですか?」
P「そうそう。やよいの方はやよいが作ったの?」
やよい「はい。昨日はお母さんの帰りが遅かったので、私がお弁当を…」
P「やよいはえらいなあ」ナデナデ
やよい「えへへ…」テレテレ
14: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:04:47.39 ID:Wgsx1f4m0
やよい「でも、このもやしと卵の炒め物はかすみが手伝ってくれたんです!プロデューサー、いかがですか?」
P「おっ、いいのかな?じゃあ一口…」パクッ
P「うん、美味しい!塩加減も丁度良く仕上がってるな」
やよい「えへへ、そう言ってもらえると、かすみも喜びます!」
P「お返しに、このお煮しめでもどうだ?」
やよい「ありがとうございます!このレンコンを…」
やよい「アムッ…わあ、これすっごく美味しいですー!」ウッウー!
P「なんだ、天使か(だろ?律子が作る煮物、本当に美味いんだよ)」
15: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:08:42.59 ID:Wgsx1f4m0
P「んっ?ご飯の間におかか挟んでる。相変わらずニクいことするな」
やよい「あっ、それ私がこの前律子さんに教えたやつです!」
P「やよいが?」
やよい「はいっ。こうすることで、食べてる人を途中で驚かせることができますから!」
やよい「それに、ご飯とご飯の間におかかを入れることで、お弁当の蓋の方におかかが付かなくなるから洗うときも便利になるんです!」
P「ふむふむ、なるほど…こんな裏ワザ考え付くなんて、やよいはやっぱり賢いなあ!」ワシャワシャ
やよい「えっへへー♪」テレテレ
16: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:12:04.55 ID:Wgsx1f4m0
P「なあやよい、他に何か裏ワザみたいなのってある?」
やよい「そうですね…。そうだっ、もしお弁当に…」
P「ふむふむ」
…
真「やよいの家事スキルって本当にすごいよね」
響「十分スキルあるプロデューサーが教えを乞うくらいだし、とんでもない母親力だぞ」
真「千早に伊織も…って、どうしたの?」
千早「私たち、気付いてしまったわ。…ねえ、水瀬さん」
伊織「そうね、千早」
真「へっ?な、何を?」
千早伊織「「お弁当を作れば、やよい(高槻さん)と一緒にお弁当が食べられる!!」」ドンッ!
真「いや、その理屈はおかしい」
響「!!」ハッ!
真「響も『それだっ!』って顔をしない!」
真「で、でも、自分が作った弁当をみんなで食べるって、なんだか女の子っぽいかも…」
・・・・・・・・・・
17: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:13:42.33 ID:Wgsx1f4m0
またまた事務所
律子「…」カタカタ タンッ
律子「ふぅーっ…ここまで進めておいたらいいかしらね」
真美「ねえねえ、りっちゃん」
律子「んー?真美、どうしたの?」
亜美「兄ちゃんと、何かあったの?」
律子「…べ、別に何にもないわよ。どうして?」
真美「今日の兄ちゃんの弁当、ブロッコリーまみれだったからさ」
亜美「ほら、これ写真」スッ
貴音「なんと面妖な…」
やよい「わ、わあ…全部ブロッコリー…」
18: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:15:01.18 ID:Wgsx1f4m0
亜美「兄ちゃん、弁当箱開けて『あんにゃろ…』って言ってたから、りっちゃんが作ったんでしょ?」
貴音「律子、何故このようなことを?」
やよい「…もしかして、ケンカしたんですか?」
律子「…ノーコメントよ」
真美「おおっ?りっちゃん、沈黙はソーテイとみなすって言いますぞ~?」
亜美「そうそう!何が原因で兄ちゃんとケンカしたの?」
律子「い、嫌よ!バカバカしい理由なんだし、言いたくないわ」
亜美「いいじゃん、りっちゃん~」
真美「早くペロッちゃった方が、楽になるよ~?」
19: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:18:14.55 ID:Wgsx1f4m0
律子「…玉子焼き」
やよい「へっ?」
律子「昨日の夜、玉子焼きの話になったのよ。私は甘い味付けの玉子焼きが好きだって言ったら、彼は少し塩気の利いた方が好きだって。それで、どっちの方が美味しいかって話になって、いつの間にかケンカに…」
亜美真美「「…」」
律子「な、何よその生暖かい目は…」
真美「いや、ミッチーとよしりんみたいだなーって」
亜美「クレヨンしんちゃんのね」
律子「うう、そんなバカップルみたいな…だから言いたくなかったのに…」
貴音「時に律子、互いに趣味嗜好を尊重することも重要なことだと思いますよ」
やよい「そうですよ!二人とも、ちゃんと謝るべきです!」
律子「…はい」
やよい(あ…でも貴音さん、ブロッコリーってもやしよりもずーっと栄養が沢山あるって聞いたことあります)ボソボソ
貴音(…ふふっ、それが心根で律子が持っている愛情というものですよ)ボソボソ
・・・・・・・・・・
20: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:20:31.64 ID:Wgsx1f4m0
翌日 765プロ事務所
P「さーて、お昼お昼っと…」パカッ
雪歩「プロデューサー、良かったらお茶を…ふぇっ!?」ビクッ
真「ん?雪歩どうしたの?…って、これ…」
P「ん?これ?」
真「弁当箱の中が真っ黄色だ…」
雪歩「玉子焼きがギッシリ…」
21: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:21:10.54 ID:Wgsx1f4m0
雪歩「り、律子さんとケンカしたって話を聞きましたけど…」
P「相変わらず情報回るのが早い…って、もうケンカして2日経ったから当然か」
真「まだ律子とケンカしてるんですか?」
P「いや、昨日お互い謝ったぞ?」
雪歩「そ、それならどうして、お弁当箱がこんなことに…?」
P「昨日謝ってから、二人でお互いに玉子焼き作ったんだよ。いやあ、甘いのも意外といけるもんだな!」
P「律子も、俺が好きな味付けの方も美味しいって言ってくれたし」
真「え、えっと…ってことは、仲直りした後に二人で玉子焼き作ったら、ついつい食べられないほど作ってしまったってことですか?」
P「そうそう」
雪歩真「…」
P「二人も一つどうだ?この律子の玉子焼き、美味いぞ?」
真「い、いえ…」
雪歩「もう十分お腹いっぱいなので、大丈夫です…」
・・・・・・・・・・
22: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:23:03.32 ID:Wgsx1f4m0
小鳥「こんにちは、音無小鳥です」
小鳥「私、実はずっと事務所にいました。ずっとこれまでの事の成り行きを見ております」
小鳥「私からは閑話としまして、事務所に律子さんとプロデューサーさんのみがいる時の模様をお送りします」
小鳥「律子さん、アイドルたちがいるときはプロデューサーさんのことを『プロデューサー』って呼ぶのですけど、私たちだけになると時々『あなた』呼びになっちゃってます」
小鳥「みんながいない時には少し緊張が緩んじゃうんでしょうね。とてもかわいいです」
小鳥「プロデューサーさんはプロデューサーさんで、外回りから事務所に戻ってきたときに律子さんが事務所にいたら、声のトーンが少しばかり上がります」
小鳥「表情が若干緩むのも分かります。いじらしい人です」
小鳥「あと、こんなこととかあんなこととか…!」キャーッ!
小鳥「…おっと、取り乱してしまいました。すみません」
小鳥「そんな二人の光景を見ていて羨ましく思う私がいて、つい鼻息を荒くしてしまう私もいて、はたまた虚しくも思う私もいて…」
小鳥「私は私で今の状況を楽しんでいるので、十分幸せなのですが…」
小鳥「でも…はぁ、あたしも結婚したい…」ピヨヨ
・・・・・・・・・・
23: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:24:31.39 ID:Wgsx1f4m0
またまたある日のお昼頃
P「よし、これで先方への連絡はOKと」タンッ
P「…んっ、もうこんな時間だったか」
美希「ハニー、お仕事一段落?」ヒョコッ
P「ああ。だから、たるき亭にでも昼ごはん食べに行こうかなって思って」
美希「あれ?ハニー、今日はお弁当ないの?」
P「ん?…あ、ああ、ちょっと今日はないんだよ」
美希「ふーん、そうなんだ」
美希(ハニーと律子…さん、またケンカしちゃったのかな?)
24: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:26:26.57 ID:Wgsx1f4m0
美希「…!」ティン
美希(これはもしかして!)ポワポワ
______
___
P『美希、実は律子とケンカしてしばらく弁当抜きにされそうなんだ…』
美希『それじゃあ、ミキが明日おにぎりを作ってきてあげる!』
P『おお、本当か!それはとってもありがたい!』
次の日
美希『ハニー!このおにぎりを食べるの!ミキの手作りだよ!』
P『いいのか?美希、ありがとう!』アムッ
P『んっ!美味い!美味すぎる!こんなおにぎりを食べたのは初めてだ…!』
25: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:27:19.83 ID:Wgsx1f4m0
美希『良かったら、明日も美希がハニーのためにおにぎり弁当作ってきてあげるよ?』
P『本当か!』
美希『うんっ!明日もあさっても、しあさっても、ずーっとハニーのお弁当を作るの!』
P『…よし、決めた!俺は今日から美希のお嫁さんになるぞ!』
美希『ホントっ!?』
P『ああ、本当さ。とうとう気が付いたのさ、俺が一番必要としている人を…』スッ
美希『ハニー…』
・・・(草葉の陰から)・・・
律子『ああ、私は何て事を…』
律子『でも仕方ない、恋路の敗者はただ消え去るのみ…ガクッ』
___
______
美希「きっとこういうことなの!そして、きっとこうなるの!!」ナノ!
美希(でも、折角結ばれたハニーと律子…さんの中を引き裂いてもいいのかな?)
美希(ううん、このチャンスを逃すべきじゃないと思うの!ハニーとミキが一緒になる、せんざいいちぐーのチャンスなの!)
26: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:29:21.76 ID:Wgsx1f4m0
P「おーい、美希ー?」
美希「ハッ!...ねえ、ハニー!」ズイッ
P「うおっ!?ど、どうした?」
美希「今日お弁当ないのって、律子とケンカしたから?」
P「いや、違うぞ?」
美希「それじゃあ、ミキが…!…って違うの?」
P「うん」
美希「じゃあ、どうして?」
P「朝、起きられなくてさ。それで弁当作る暇もなかったんだよ」
美希「寝坊?律子も一緒に?」
P「ああ」
27: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:30:05.80 ID:Wgsx1f4m0
美希「2人ともって珍しいね。…何かあったの?」
P「それは……ダメ、教えない」
美希「そんなっ!ひ、ひどいの!」ガーン!
P「人には言えない秘密が一つや二つくらいあるの!」
美希「むーっ、ハニーのケチ!」
P「…」
P(流石に言えない…昨日の夜遅くまで盛り上がってたなんて…)
P(それこそ、言ったのバレたら律子に殺される…いや、そもそも言ったらセクハラでアウトだし…)
P(でも…昨日の夜は燃えたなあ…)
・・・・・・・・・・
28: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:31:03.34 ID:Wgsx1f4m0
またまたあくる日 765プロ事務所
ガチャ
律子「ただいま戻りましたー」
P「おっ、律子お帰り」
律子「はぁ、朝から色んなところ回ったからお腹ペコペコ…」
P「もうそんな時間?…って本当だ、もう1時前か」
P「俺もそろそろ昼にしようかな、丁度仕事もキリもいいところだし」
律子「お茶要ります?」
P「うん、ありがとう」
29: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:32:33.12 ID:Wgsx1f4m0
ガチャ
響「ただいまー!」
P「お疲れ様。レッスンはどうだった?」
響「カンペキだったぞ!『これなら次のライブも問題なし』って、トレーナーさんにほめられたさー!」
P「そうか。よしよし、さすが響だ」
貴音「ただ今戻りました」
律子「あら、貴音も一緒だったのね」
貴音「ええ。二人は今からお昼ですか?」
響「二人で一緒に食べてるのってあんまり見ないよね?」
律子「そう?でも確かに時間が合わないことも多いし、一緒に食べるっていうのはあまりないかもね」
30: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:35:51.87 ID:Wgsx1f4m0
響「でもさ、2人ともほぼ毎日お弁当作ってて大変じゃないの?」
律子「そうでもないわよ?一日交代で作ってるわけだし」
P「そうそう。それに時々は外に食べ行ってるぞ?」
貴音「それでも継続するというのは大変ではないですか?仕事も兼ねていながら、というのは大変なように思えますが…」
P「働きながら家事もするお母さんもいるわけだし、そんな人たちと比べると俺達なんてまだまだだよ」
P「それに弁当箱開けるとさ、全部食べてると『あー、よかった』ってなるんだよ。逆に、少し残ってたら『何かあったのかも』ってなって」
律子「昼が忙しい分、そうした些細なところからコミュニケーション取れるから、やめようにもやめられなくて」
P「今日弁当に入ってたあのおかず美味しかったなー、みたいなところから会話弾むしさ」
響「ふ、ふ~ん…そういうのって、ちょっといいかも」
貴音「真、羨ましいものですね」
31: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:39:06.62 ID:Wgsx1f4m0
響「そうだ、今日はどっちがお弁当を作ったの?」
P「今日は俺だな」
律子「あれっ?プロデューサーの方だけ唐揚げ2つ入ってませんか?」
P「やべっ、バレた」
律子「ずるいです!私の方が朝から動き回っておなかペコペコなんですから、あなたのその唐揚げ私に譲ってくださいよ!」
P「なにそれ!めっちゃ横暴!」
ギャーギャー
響「結局、また痴話ゲンカが始まったぞ…」ハァ
響「でも、ケンカするほど仲が良いって言うくらいだから、いいのかな?ねえ、貴音?」
貴音「…」
響「貴音?どうしたの?」
貴音「お腹が空いてしまいました…」グウゥゥゥ
響「ええっ!?さっきお昼一緒に食べたばっかでしょ!?」
貴音「も、申し訳ございません。ですが、あの方が作ったお弁当を見たら、つい…」
響「ええ…」
おわり
32: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:43:06.02 ID:Wgsx1f4m0
おまけ
765プロ事務所
やよい「プロデューサー、律子さん、最近ずっと気になってることがあるんですけど…」
律子「え?どうしたの?」
P「いいよ、何でも言ってみて」
やよい「えっと…二人の赤ちゃんって、まだですか?」
春香「」ブフォ
真「ち、ちち、ちょっと、やよい!?」
響「な、何言ってるんだ!?」
やよい「え?私変なこと言いました?早く赤ちゃんと遊んでみたいなーって思ったから、聞いてみただけですよ?」キョトン
千早(高槻さんカワイイ)
P律子「「……」」
伊織「ね、ねえ、アンタ達何黙ってんのよ!もしかして本当に…なんてことじゃあ、ないわよね?」
P律子「「……」」
P律子「「実は……」」
一同「「「……えっ?」」」
おわり
33: ◆kBqQfBrAQE 2017/03/24(金) 22:46:17.45 ID:Wgsx1f4m0
タイトルは、某料理マンガ42巻の副題から。
また何か思いついたら書くかもしれないです。どうぞよしなに。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 00:20:31.50 ID:iybz23lno
乙
過去作もよかった。
過去作もよかった。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 01:52:56.31 ID:PZk+2KgPo
懐かしいなあ。続きが読めるとは思ってなかったから、すごく嬉しいよ
また気が向いたら書いてな、待ってる
また気が向いたら書いてな、待ってる
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 02:33:41.44 ID:yBydAuo4o
懐かしいやつの続きが読めるとは…
たまにでいいから、また続きをお願いします
たまにでいいから、また続きをお願いします
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490358932/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ アイドルマスター | Comments (0)
凛「プロデューサーへの、ご褒美」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:37:52.44 ID:EFrvAWTyo
P「……そろそろかな」
凛「お待たせ、プロデューサー」
P「おう、着替え終わったか。お疲れ、凛。お腹空いただろ? ご飯食べに行くか」
凛「うん。ありがと」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:39:13.92 ID:EFrvAWTyo
――――
凛「ごめんね、毎回奢ってもらっちゃって」
P「何言ってんだ。これもプロデューサーの仕事だし、経費で…」
凛「落ちないでしょ。この前ちひろさんに怒られてたの、聞いてたからね」
P「うぐ…、まあ、仕事の関係とはいえ、大の大人が年下の女の子に出させるのはみっともないし」
凛「そんなの気にしなくていいのに。大体、私の方が稼いでるでしょ?」
P「そういう現実を突きつけられると心が痛いが…、とにかく、凛が負い目を感じる必要はないから」
凛「…わかった、そういうことにしとくね」
P「じゃ、そろそろ帰るか」
凛「そうだね」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:40:02.27 ID:EFrvAWTyo
次の日――
凛「おはよ、プロデューサー」
P「おう、おはよう」
凛「あの、さ」
P「んー? どうした?」
凛「昨日のことなんだけど」
P「昨日? あぁ、奢ったことか。だから気にしなくていいって」
凛「うん、そのことはもう気にしないことにしたよ」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:40:35.70 ID:EFrvAWTyo
凛「その代わり」
P「ん?」
凛「私からも、プロデューサーが仕事頑張ったご褒美をあげることにしたよ」
P「えっ?」
凛「そういうことだから。今日もお互い、頑張ろうね」
P「そういうことだから。って…、急に言われてもな…」
凛「ほら、撮影行くよ」
P「それ俺のセリフなんだけど…、まあいいや。行くか」
P「ん?」
凛「私からも、プロデューサーが仕事頑張ったご褒美をあげることにしたよ」
P「えっ?」
凛「そういうことだから。今日もお互い、頑張ろうね」
P「そういうことだから。って…、急に言われてもな…」
凛「ほら、撮影行くよ」
P「それ俺のセリフなんだけど…、まあいいや。行くか」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:41:14.92 ID:EFrvAWTyo
――――
カメラマン「目線こっちにお願いしますー」
凛「はい」
凛「…」チラッ
P「ここはこういう感じの構図のほうが、渋谷の魅力が…」
スタッフ「あー、なるほど! ありがとうございます」
凛(…ふふっ)
カメラマン「お! いいねその表情!」パシャパシャ
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:41:58.27 ID:EFrvAWTyo
スタッフ「渋谷さんオッケーでーす! お疲れ様でした!」
凛「お疲れ様でした」
P「お疲れ、凛。ほら、飲み物」
凛「ありがと。プロデューサー」
P「今日はいつもより良かった気がするぞ。表情が柔らかかったし、カメラマンさんの意図が汲めてた」
凛「そうかも。よく見てるね」
P「お前の担当プロデューサーだしな」
凛「…プロデューサーも、さ」
P「ん?」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:42:42.17 ID:EFrvAWTyo
凛「私の魅力が最大限出せるような提案、してくれてたでしょ。構図だったり、ポーズだったり」
P「まあな。凛の魅力を一番知ってるのは俺だって自負してるし」
凛「ふふ、なにそれ。よくそんな恥ずかしいセリフ言えるね」
P「恥ずかしいとか言うな」
凛「でも、ありがと。そんなプロデューサーには、ご褒美あげないとね」
P「朝言ってたけど、そのご褒美って何くれるんだ?」
凛「…控室なら誰も来ないし、いいかな」
P「ちょ、ちょっと待って! 誰か来たらまずいような事なのか!?」
P「まあな。凛の魅力を一番知ってるのは俺だって自負してるし」
凛「ふふ、なにそれ。よくそんな恥ずかしいセリフ言えるね」
P「恥ずかしいとか言うな」
凛「でも、ありがと。そんなプロデューサーには、ご褒美あげないとね」
P「朝言ってたけど、そのご褒美って何くれるんだ?」
凛「…控室なら誰も来ないし、いいかな」
P「ちょ、ちょっと待って! 誰か来たらまずいような事なのか!?」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:43:54.09 ID:EFrvAWTyo
凛「いいからしゃがんで」
P「お、おう…」
凛「……」ナデ
P「えっ」
P(凛が俺の頭を撫でてきた…)
凛「男の人も、こうやって頭撫でられるの、好きなんだよね?」ナデナデ
P「え? いや、どうなんだろ」
凛「プロデューサー、今日もありがと。プロデューサーが一緒だったから、こうやって仕事できてるんだよ」ナデナデ
P(あ…、これ、ヤバイかも)
P(承認欲求が満たされてる上に安心感がすごい)
P「お、おう…」
凛「……」ナデ
P「えっ」
P(凛が俺の頭を撫でてきた…)
凛「男の人も、こうやって頭撫でられるの、好きなんだよね?」ナデナデ
P「え? いや、どうなんだろ」
凛「プロデューサー、今日もありがと。プロデューサーが一緒だったから、こうやって仕事できてるんだよ」ナデナデ
P(あ…、これ、ヤバイかも)
P(承認欲求が満たされてる上に安心感がすごい)
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:44:52.76 ID:EFrvAWTyo
凛「私が今日調子良かったのも、プロデューサーが私のプロデュースを頑張ってくれてるのが見えたから」ナデナデ
凛「プロデューサーが頑張ってるんだから、私も頑張らないと、って思えるんだよ」ナデナデ
P「凛…」
凛「はい、今日はこれでおしまい。また明日、頑張ったらご褒美ね」
P「あ、ああ…」
P(少し名残惜しいと思ってしまう自分が情けない)
P(というか、やっぱり明日以降もあるんだな)
P(……これ続いたら、ダメになるなあ)
凛「じゃ、帰ろっか」
P「…そうだな」
凛「プロデューサーが頑張ってるんだから、私も頑張らないと、って思えるんだよ」ナデナデ
P「凛…」
凛「はい、今日はこれでおしまい。また明日、頑張ったらご褒美ね」
P「あ、ああ…」
P(少し名残惜しいと思ってしまう自分が情けない)
P(というか、やっぱり明日以降もあるんだな)
P(……これ続いたら、ダメになるなあ)
凛「じゃ、帰ろっか」
P「…そうだな」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:45:43.11 ID:EFrvAWTyo
――――
P(それ以来、凛の仕事に付き添ったり、凛が事務所にいるときは、仕事が終わるたびに撫でられている)
凛「今日もお疲れ様。今日はスケジュール調整だっけ? 仕事増えてきて、大変だと思うけど、頑張ったね」ナデナデ
P「それはお互い様だろ。実際に仕事をしてるのは凛なんだから」
凛「それはそうだけど。プロデューサーがいなかったら、私の仕事だって無いんだよ?」ナデナデ
P「むぅ、確かに…」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:47:55.19 ID:EFrvAWTyo
P(撫でられること自体には慣れてきたし、こうやって仕事をした見返りがあるのは満足感がある)
P(これが当たり前になってきたせいで、凛のご褒美が無い日はちょっと物足りない)
P(って、これってまずいんじゃ…)
凛「? どうしたの、プロデューサー」ナデナデ
P「あ、いや、なんでもない」
P(こんな優しい顔してる凛に『やめて欲しい』なんて言えないよなあ…)
P(これが当たり前になってきたせいで、凛のご褒美が無い日はちょっと物足りない)
P(って、これってまずいんじゃ…)
凛「? どうしたの、プロデューサー」ナデナデ
P「あ、いや、なんでもない」
P(こんな優しい顔してる凛に『やめて欲しい』なんて言えないよなあ…)
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:48:25.12 ID:EFrvAWTyo
別の日――
P「凛、お疲れ様」
凛「お疲れ様」
P「……なあ」
凛「わかってるよ。今日も頑張ったね、プロデューサー」ナデナデ
凛「プロデューサーが自分からご褒美欲しがるようになるなんてね。私に撫でられるの、好き?」ナデナデ
P「……」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:48:59.48 ID:EFrvAWTyo
凛「答えてくれないんだ。好きじゃないなら、やめるね」
P「う…、凛に撫でられるの、好きだ」
凛「ふふっ、私の前でくらい、素直になってね。プロデューサー」ナデナデ
P(凛に完全に手綱を握られている…)
P(プロデューサーとしてまずいと思っていても、凛のご褒美が、麻薬みたいに、身体に刻み込まれてて…)
P(担当アイドルにこんなことされるなんて思ってもみなかったな…)
P「う…、凛に撫でられるの、好きだ」
凛「ふふっ、私の前でくらい、素直になってね。プロデューサー」ナデナデ
P(凛に完全に手綱を握られている…)
P(プロデューサーとしてまずいと思っていても、凛のご褒美が、麻薬みたいに、身体に刻み込まれてて…)
P(担当アイドルにこんなことされるなんて思ってもみなかったな…)
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:50:10.61 ID:EFrvAWTyo
また別の日――
P「申し訳ございません…、こちらの不手際です。…はい、はい。申し訳ございませんでした。失礼致します」
P「……はぁぁ…」
凛「どうしたの? プロデューサー」
P「先方とこっちのスケジュールが確認不足で1日ズレててな…。確認したつもりだったんだけど、抜けてたみたいだ」
凛「それって大丈夫なの?」
P「ああ、早めに気づいたからまだ調整できる範囲だった。不幸中の幸いだな…」
凛「そっか。大変だったね。お疲れ様」
P「ああ、心配かけてごめんな」
凛「……ねえ、ちょっとこっち来て」
P「ん?」
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:50:44.92 ID:EFrvAWTyo
P「応接室? なんか話したいことでもあるのか?」
凛「いいから、そこの椅子に座って」
P「? これでいいか…!?」ギュ
凛「……」ギュ
P(え? 何が起こってんの? 凛が俺に抱きついてる? なんで??)
凛「そういうこともあるよ。あんまり引きずらないで、切り替えていこ?」ナデナデ
P「あ、ああ…」
P(そういうことか…)
P(あったかい…。嫌なことがあった後にこういうことされたら、完全に堕ちるな…)
P(いや、もう堕ちてるか…)
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:51:25.55 ID:EFrvAWTyo
凛「……」ギュ
P「……」ギュ
P(しばらく、無言でハグをしていた…)
P「…凛、ありがとう。もう大丈夫だ」
P(というか、これ以上はやばい)
凛「そう? つらかったらいつでも言ってね」
P「ああ…」
凛「さ、まだ仕事残ってるでしょ」
凛「終わったら、また、ご褒美あげるから。ふふ、頑張ってね」
ガチャ バタン
P「……」
P「仕事するか…」
P「……」ギュ
P(しばらく、無言でハグをしていた…)
P「…凛、ありがとう。もう大丈夫だ」
P(というか、これ以上はやばい)
凛「そう? つらかったらいつでも言ってね」
P「ああ…」
凛「さ、まだ仕事残ってるでしょ」
凛「終わったら、また、ご褒美あげるから。ふふ、頑張ってね」
ガチャ バタン
P「……」
P「仕事するか…」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:52:01.14 ID:EFrvAWTyo
――
P「よし、スケジュール調整もなんとかなったし、一段落だな…」
P「もう20時過ぎてるし、流石に凛は帰ったよな…」
凛「呼んだ? プロデューサー」ヒョコッ
P「うわっ! びっくりした…。まだ帰ってなかったのか?」
凛「まあね。だって、さっき約束したでしょ。『終わったら、またご褒美あげるからね』って」ニコ
P「……」
P(そう言いながら、凛が両手を広げている。まるで、その腕の中に、俺を誘うように…)
凛「ちひろさんももう帰ったし、プロデューサーの気が済むまで、ご褒美あげるよ」
P「ああ…」ギュ
P(今の俺には、抗う術なんてなくって、ただ、凛の思うままに、凛に身体を預けるしかなかった…)
凛「ふふっ、明日も頑張ろうね、プロデューサー」
おわり
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 23:53:02.02 ID:EFrvAWTyo
ありがとうございました
りんのの書いてたのにいつの間にか乃々がPに入れ替わってた
凛にダメにされたい…
りんのの書いてたのにいつの間にか乃々がPに入れ替わってた
凛にダメにされたい…
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 00:06:28.19 ID:I7QvfYz6o
さぁ、りんののでも書こうか
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 02:55:54.71 ID:I5QwLHPuo
かわわわわわ
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 10:40:47.40 ID:wIrRtnmc0
乙
桃華や安部さんに母性感じるPもいるが、凛ママか…
桃華や安部さんに母性感じるPもいるが、凛ママか…
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483713472/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
武内P「女性は誰もがこわ……強いですから」
1: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:48:40.05 ID:u9Op5e3S0
・アニメ基準
・武内Pもの
・長い
・マジで長い
①私たちが知らない女性と、抱き合ったりしたことあるんでしょうか
「プロデューサー……付き合ってた人っている?」
それは脈絡の無い問いでした。
冬の夜は暮れるのが早い。
冷たい雨が降り注ぐ音と道路の喧騒が外で鳴り響く一方で、車内は長いこと静かでした。
そんな信号待ちの最中に、不意に静けさを破って助手席から今の質問が発せられたのです。
ひょっとすると彼女が今の今までずっと黙っていたのは、質問する機をうかがっていたからなのか。
驚きのあまり、ついまじまじと彼女――渋谷さんを見つめてしまう。
渋谷さんはシートに身を預け、私から顔をそむけるようにして頬杖をつき、窓の景色を眺めている。
質問する機をうかがっていたのではないかという推測が的外れに思えるほど、その姿は平静でした。
――ふと、一年前のことを思い出してしまう。
あの時も車内で二人きりでした。
ただし彼女は渋谷さんとは違い、いつも以上によく話したかと思いきや突然黙り込み、それから突然同じ質問をしました。
私から顔をそむけ、しかし顔が真っ赤であることが耳まで染まっていたことからわかり――
「プロデューサー」
「は、はい」
「信号、青だよ」
後ろからクラクションが鳴る。
どうやら思索にふけりすぎたようです。
慌てて足をブレーキからアクセルへと踏みかえます。
「その……私に付き合っていた人がいたかどうかですが」
「うん」
「大学生の頃に一度だけあります」
「……………………ふーん、そっか」
その声は異様なまでに平坦でした。
理由はわかりませんが、胃の辺りが締めつけられたような錯覚すら起きます。
チラリと助手席の様子を見るも、先ほどと何の変化も見受けられません。
……サイドミラーからでも彼女の顔が見えないのは幸か不幸か。
渋谷凛
http://imcgdb.info/card-img/2432001.jpg
・武内Pもの
・長い
・マジで長い
①私たちが知らない女性と、抱き合ったりしたことあるんでしょうか
「プロデューサー……付き合ってた人っている?」
それは脈絡の無い問いでした。
冬の夜は暮れるのが早い。
冷たい雨が降り注ぐ音と道路の喧騒が外で鳴り響く一方で、車内は長いこと静かでした。
そんな信号待ちの最中に、不意に静けさを破って助手席から今の質問が発せられたのです。
ひょっとすると彼女が今の今までずっと黙っていたのは、質問する機をうかがっていたからなのか。
驚きのあまり、ついまじまじと彼女――渋谷さんを見つめてしまう。
渋谷さんはシートに身を預け、私から顔をそむけるようにして頬杖をつき、窓の景色を眺めている。
質問する機をうかがっていたのではないかという推測が的外れに思えるほど、その姿は平静でした。
――ふと、一年前のことを思い出してしまう。
あの時も車内で二人きりでした。
ただし彼女は渋谷さんとは違い、いつも以上によく話したかと思いきや突然黙り込み、それから突然同じ質問をしました。
私から顔をそむけ、しかし顔が真っ赤であることが耳まで染まっていたことからわかり――
「プロデューサー」
「は、はい」
「信号、青だよ」
後ろからクラクションが鳴る。
どうやら思索にふけりすぎたようです。
慌てて足をブレーキからアクセルへと踏みかえます。
「その……私に付き合っていた人がいたかどうかですが」
「うん」
「大学生の頃に一度だけあります」
「……………………ふーん、そっか」
その声は異様なまでに平坦でした。
理由はわかりませんが、胃の辺りが締めつけられたような錯覚すら起きます。
チラリと助手席の様子を見るも、先ほどと何の変化も見受けられません。
……サイドミラーからでも彼女の顔が見えないのは幸か不幸か。
渋谷凛
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2: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:49:39.48 ID:u9Op5e3S0
「どれぐらいの期間付き合ってたの?」
「一年と……半年ぐらいです」
「けっこう、長いね」
「え、ええ」
「それで、どちらから告白したの? 相手の人のどんなところが好きだったの? 今でも連絡取ってるの? なんで長続きしたの?」
平坦であった声が乱れ始め、熱がこもる。
年頃の少女だ。身近な異性のそういった話に興味を持つのは別に不自然な事じゃないのでしょう。
もっとも、渋谷さんの興味を持つ姿勢はやや不自然に思えますが……
「相手の方から……になりますか」
「なんだか歯切れが悪いね」
歯切れが悪くならざるを得ない内容ですから。
酔って同僚に話すならともかく、女子高生に聞かせる話では――
「妙に周りの人にお酒を勧められて潰れてしまって、目が覚めたら女性の部屋だったとか?」
「……ッ!?」
「なんとなくそんな光景が思い浮かんだんだけど……当たりみたいだね」
真相をあっさりと言い当てられ思わず息をのむ。
女の勘という言葉がありますが、それを目の当たりにする度に背筋が凍る思いをします。
まして、それがまだ十五歳の少女となれば言わずもがな。
「で、付き合わざるを得ない状況だったから付き合った。別に相手のことが好きだったわけじゃないってことだよね?」
「……いえ。好きか嫌いかで言えば好きだと断言できる程度には、好意を持っていました」
「……………………ふーん」
渋谷さんの声が跳ね上がったかと思うと、一瞬にしてまた平坦な声に戻ってしまいました。
好意を持つ者同士が結ばれる話は年頃の少女が好む類いだと思うのですが……わからないものです。
「ただ、彼女と付き合うことを願っていたわけではありません。私とはまるで違う視野を持っていることを尊敬していて、面白みの無い私に何かと話しかけてくれたことに感謝はしてい
まして……良き友人を持てたと思っていました」
「プロデューサー……多分その人、色んな方法でプロデューサーにアプローチしたけどまるで気づいてもらえなかったら、周りの人に協力してもらって強引な手に出たんじゃないの?」
「はい。付き合い始めてから教えてもらいましたが……なぜ渋谷さんがそれを?」
「別に。プロデューサーは昔からプロデューサーなんだなって」
「は、はあ」
当然ですが大学生であった私はプロデューサーではありません。
346に入社して数年経ってからなのですが。
「一年と……半年ぐらいです」
「けっこう、長いね」
「え、ええ」
「それで、どちらから告白したの? 相手の人のどんなところが好きだったの? 今でも連絡取ってるの? なんで長続きしたの?」
平坦であった声が乱れ始め、熱がこもる。
年頃の少女だ。身近な異性のそういった話に興味を持つのは別に不自然な事じゃないのでしょう。
もっとも、渋谷さんの興味を持つ姿勢はやや不自然に思えますが……
「相手の方から……になりますか」
「なんだか歯切れが悪いね」
歯切れが悪くならざるを得ない内容ですから。
酔って同僚に話すならともかく、女子高生に聞かせる話では――
「妙に周りの人にお酒を勧められて潰れてしまって、目が覚めたら女性の部屋だったとか?」
「……ッ!?」
「なんとなくそんな光景が思い浮かんだんだけど……当たりみたいだね」
真相をあっさりと言い当てられ思わず息をのむ。
女の勘という言葉がありますが、それを目の当たりにする度に背筋が凍る思いをします。
まして、それがまだ十五歳の少女となれば言わずもがな。
「で、付き合わざるを得ない状況だったから付き合った。別に相手のことが好きだったわけじゃないってことだよね?」
「……いえ。好きか嫌いかで言えば好きだと断言できる程度には、好意を持っていました」
「……………………ふーん」
渋谷さんの声が跳ね上がったかと思うと、一瞬にしてまた平坦な声に戻ってしまいました。
好意を持つ者同士が結ばれる話は年頃の少女が好む類いだと思うのですが……わからないものです。
「ただ、彼女と付き合うことを願っていたわけではありません。私とはまるで違う視野を持っていることを尊敬していて、面白みの無い私に何かと話しかけてくれたことに感謝はしてい
まして……良き友人を持てたと思っていました」
「プロデューサー……多分その人、色んな方法でプロデューサーにアプローチしたけどまるで気づいてもらえなかったら、周りの人に協力してもらって強引な手に出たんじゃないの?」
「はい。付き合い始めてから教えてもらいましたが……なぜ渋谷さんがそれを?」
「別に。プロデューサーは昔からプロデューサーなんだなって」
「は、はあ」
当然ですが大学生であった私はプロデューサーではありません。
346に入社して数年経ってからなのですが。
3: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:50:28.43 ID:u9Op5e3S0
「それで? 今でも連絡取ってるの? 大学の同窓会で顔を合わせたりしてないよね?」
私が彼女と会うことに何ら問題は無いはずですが……渋谷さんと話しているとなぜか悪いことのように思えてきました。
「最後に会ったのは一昨年のことで、旦那さんと幸せそうにしておられました」
「……そっか。幸せそうでで何よりだね」
「ええ」
「じゃあプロデューサーはその人と別れてから誰とも付き合ってないんだよね?」
「まあ……そうなってしまいますね」
「別にいいと思うよ。次々と女の子をとっかえひっかえするよりずっと」
ようやく渋谷さんの調子がいつもに、いえどちらかというといつも以上に良くなってくれました。
しかし機嫌の良い渋谷さんを見ていると、どうしてもまた一年前のことを思い出してしまいます。
そうでした。
彼女は最初、私に交際経験があると知った時はなぜか硬直し顔が青ざめ、しかし別れてからはずっとフリーということがわかると今の渋谷さんのように上機嫌に――
「ねえ」
その言の葉はまるで氷の刃のように私の背筋を貫き――
「今、誰のこと考えてたの?」
――寒さに怯えた心臓が熱を送ろうとがむしゃらに走る。
……胸に手を当てずとも自分の心拍数が上がったことがわかってしまいます。
年頃の少女というのは本当に難しい。
逆鱗に触れた後でも、何が逆鱗であったのかわからないのですから。
「実は……前にも今のように車で二人の時に、同じ質問をされたことがあります。そして彼女の反応が渋谷さんに似ていたもので、つい」
「ふーん」
別に思い出しただけですが、快不快は人それぞれ。
話してまずい内容でも無かったので正直に伝えてみると。
「楓さん……ううん、美嘉か」
あっさりと言い当てられハンドルを握る手が強張り、車体がぶれてしまう。
みっともなく動揺する自分の心が現れたようでますます恥ずかしくなる。
私が彼女と会うことに何ら問題は無いはずですが……渋谷さんと話しているとなぜか悪いことのように思えてきました。
「最後に会ったのは一昨年のことで、旦那さんと幸せそうにしておられました」
「……そっか。幸せそうでで何よりだね」
「ええ」
「じゃあプロデューサーはその人と別れてから誰とも付き合ってないんだよね?」
「まあ……そうなってしまいますね」
「別にいいと思うよ。次々と女の子をとっかえひっかえするよりずっと」
ようやく渋谷さんの調子がいつもに、いえどちらかというといつも以上に良くなってくれました。
しかし機嫌の良い渋谷さんを見ていると、どうしてもまた一年前のことを思い出してしまいます。
そうでした。
彼女は最初、私に交際経験があると知った時はなぜか硬直し顔が青ざめ、しかし別れてからはずっとフリーということがわかると今の渋谷さんのように上機嫌に――
「ねえ」
その言の葉はまるで氷の刃のように私の背筋を貫き――
「今、誰のこと考えてたの?」
――寒さに怯えた心臓が熱を送ろうとがむしゃらに走る。
……胸に手を当てずとも自分の心拍数が上がったことがわかってしまいます。
年頃の少女というのは本当に難しい。
逆鱗に触れた後でも、何が逆鱗であったのかわからないのですから。
「実は……前にも今のように車で二人の時に、同じ質問をされたことがあります。そして彼女の反応が渋谷さんに似ていたもので、つい」
「ふーん」
別に思い出しただけですが、快不快は人それぞれ。
話してまずい内容でも無かったので正直に伝えてみると。
「楓さん……ううん、美嘉か」
あっさりと言い当てられハンドルを握る手が強張り、車体がぶれてしまう。
みっともなく動揺する自分の心が現れたようでますます恥ずかしくなる。
4: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:52:43.36 ID:u9Op5e3S0
「ねえプロデューサー?」
「……な、なんでしょうか」
答える声が上ずっているのが自分でもわかります。
「美嘉と付き合ったりしてないよね?」
「…………はい?」
それはあまりにも想定外の質問でした。
呆気にとられたまま渋谷さんの意図を探ろうと見つめてしまい、視界の端でいつの間にか前の車が停まったことに気がつき慌ててブレーキを踏む。
「……うん。どうやら違うみたいだね」
「その……なぜそのような有り得ないことを?」
「有り得ないかな? だってプロデューサーと美嘉って、妙に距離が近いんだもん」
多分、私以外にもそう考えている人は何人かいるよと渋谷さんが続けるのを、頭を振って否定する。
「確かに……彼女は担当だった頃から不甲斐ない私を叱咤してくれました。担当ではなくなった後も、妹さんや後輩たちを心配してのことでしょうがよく顔を出しては助言をくれました。しかし城ヶ崎さんが私などにそのような感情を持つことはあり得ません」
そもそもプロデューサーである私が、彼女たちをそのような目で見るわけにはいきません。
「それにしても……渋谷さんにしても城ヶ崎さんにしても、なぜ私の交際関係をそこまで気になさるのでしょうか?」
この話題を続けるのはよくないと、ずっと気になってきたことを尋ねる。
プロデューサーって彼女いたことあるの? という具合に普段の会話の流れで聞かれるのならば気になりませんが、二人とも他の人がいない状態で真剣な様子で聞いてきたのです。
どうしても気になります。
「だって……プロデューサーってば優しいうえに押しに弱そうだから、変な女に引っかからないか心配だもん。お世話になった人がそんな目に遭うなんて嫌だし、美嘉もそうだったんじゃないかな」
「……そのように、思われていたのですか?」
「げんに大学生の頃はそうだったじゃない」
ぐうの音も出ない、とはこのことでしょう。
それにしても自分の年齢の半分ほどの子たちにこのような心配を持たせてしまうとは……情けなさに思わず肩が落ちてしまいます。
「ああっ、そんなに落ち込まないで。私たちが勝手に心配したことなんだから。ほら、そろそろ信号変わるよ」
渋谷さんはそう言って励ますように肩を撫でてくれました。
想えばこのように励ましてくれたり、プライベートのことを心配してもらえるのは、良き信頼関係を築けているからかもしれません。
落ち込むことばかりではないのでしょう。
「……まあそんなわけで、私たちはプロデューサーが変な女に引っかからないか心配なの。プロデューサーって大手346の出世コースで収入も良く出費もあまりしない三十歳前後の高身長イケメン、ていう悪い女がこれでもかってぐらい寄ってくる要素の塊なんだから」
「イケメンではなく強面、警察のお世話によくなる、身長は高すぎて幅もある……ではないでしょうか」
「何もしてないプロデューサーを疑う警察が悪いし、女より痩せてそうな男なんてタイプじゃないし……あと私、プロデューサーの顔は良いと思う」
お世辞だと分かっていても、人気アイドルにここまで褒められて悪い気はしない。
頬が赤くなっていないかと心配に思いながら、右折のタイミングを見計らう。
「……だからプロデューサー。もし誰かと付き合いそうになったら、一言私に言ってくれない? 同性だからわかることってあると思うから」
右折の最中であったため渋谷さんの表情をうかがうことはできませんでした。
しかしその言葉が私の身を案じてのことなのはわかります。
そうすることで渋谷さんが安心してくれるのならと思い、私はその提案を了承しました。
――三日後に、彼女の前で身をすくませながら一言どころか延々と説明する羽目になるとは夢にも思わず。
「……な、なんでしょうか」
答える声が上ずっているのが自分でもわかります。
「美嘉と付き合ったりしてないよね?」
「…………はい?」
それはあまりにも想定外の質問でした。
呆気にとられたまま渋谷さんの意図を探ろうと見つめてしまい、視界の端でいつの間にか前の車が停まったことに気がつき慌ててブレーキを踏む。
「……うん。どうやら違うみたいだね」
「その……なぜそのような有り得ないことを?」
「有り得ないかな? だってプロデューサーと美嘉って、妙に距離が近いんだもん」
多分、私以外にもそう考えている人は何人かいるよと渋谷さんが続けるのを、頭を振って否定する。
「確かに……彼女は担当だった頃から不甲斐ない私を叱咤してくれました。担当ではなくなった後も、妹さんや後輩たちを心配してのことでしょうがよく顔を出しては助言をくれました。しかし城ヶ崎さんが私などにそのような感情を持つことはあり得ません」
そもそもプロデューサーである私が、彼女たちをそのような目で見るわけにはいきません。
「それにしても……渋谷さんにしても城ヶ崎さんにしても、なぜ私の交際関係をそこまで気になさるのでしょうか?」
この話題を続けるのはよくないと、ずっと気になってきたことを尋ねる。
プロデューサーって彼女いたことあるの? という具合に普段の会話の流れで聞かれるのならば気になりませんが、二人とも他の人がいない状態で真剣な様子で聞いてきたのです。
どうしても気になります。
「だって……プロデューサーってば優しいうえに押しに弱そうだから、変な女に引っかからないか心配だもん。お世話になった人がそんな目に遭うなんて嫌だし、美嘉もそうだったんじゃないかな」
「……そのように、思われていたのですか?」
「げんに大学生の頃はそうだったじゃない」
ぐうの音も出ない、とはこのことでしょう。
それにしても自分の年齢の半分ほどの子たちにこのような心配を持たせてしまうとは……情けなさに思わず肩が落ちてしまいます。
「ああっ、そんなに落ち込まないで。私たちが勝手に心配したことなんだから。ほら、そろそろ信号変わるよ」
渋谷さんはそう言って励ますように肩を撫でてくれました。
想えばこのように励ましてくれたり、プライベートのことを心配してもらえるのは、良き信頼関係を築けているからかもしれません。
落ち込むことばかりではないのでしょう。
「……まあそんなわけで、私たちはプロデューサーが変な女に引っかからないか心配なの。プロデューサーって大手346の出世コースで収入も良く出費もあまりしない三十歳前後の高身長イケメン、ていう悪い女がこれでもかってぐらい寄ってくる要素の塊なんだから」
「イケメンではなく強面、警察のお世話によくなる、身長は高すぎて幅もある……ではないでしょうか」
「何もしてないプロデューサーを疑う警察が悪いし、女より痩せてそうな男なんてタイプじゃないし……あと私、プロデューサーの顔は良いと思う」
お世辞だと分かっていても、人気アイドルにここまで褒められて悪い気はしない。
頬が赤くなっていないかと心配に思いながら、右折のタイミングを見計らう。
「……だからプロデューサー。もし誰かと付き合いそうになったら、一言私に言ってくれない? 同性だからわかることってあると思うから」
右折の最中であったため渋谷さんの表情をうかがうことはできませんでした。
しかしその言葉が私の身を案じてのことなのはわかります。
そうすることで渋谷さんが安心してくれるのならと思い、私はその提案を了承しました。
――三日後に、彼女の前で身をすくませながら一言どころか延々と説明する羽目になるとは夢にも思わず。
5: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:53:37.54 ID:u9Op5e3S0
②中庭でプロデューサーさんが思いつめた顔をしていて……
缶コーヒーが手のひらを暖める感触が心地いい。
缶コーヒーから少しずつ熱が奪われていくのが名残惜しい。
中庭のベンチに腰掛け、落ち葉が木枯らしに翻弄される姿をぼんやりと眺める。
多少余裕はあるものの、今日中に終えなければいけない仕事はまだまだあります。
ですがどうしても昨日の渋谷さんとの会話が脳裏をよぎり、それを整理しようと空調の効いた部屋を抜け出してきたものの考えがなかなかまとまりません。
「ちょっと。ボーッとしちゃってどうしたの?」
後ろから声と共に両肩に手が置かれます。
振り返り見上げると、そこには勝ち気な笑みをした城ヶ崎さんの姿がありました。
彼女にはこの笑みが似合う。
自分に絶対的な自信があり、しかし慢心せず。日々精進するだけでは飽き足らず周りにも目を配り、仲間と共に駆け上がる。
集団の中心であることを天から約束されたかのような笑み。
たとえ挫折してもそれすらも糧にして立ち上がり、最後には必ず勝利が約束されている。
「だーかーら、どうしたって訊いてるでしょコラ★」
見惚れていると体を前後にゆさぶられてしまい、半分ほどになっていた缶コーヒーを念のため横に置きます。
ふと、昨日の渋谷さんの言葉を思い出します。
私などと城ヶ崎さんが付き合っているのではないかと勘繰っている人が、何人かいると。
思えば城ヶ崎さんが異性と気軽にお話する姿はよく見受けられますが、今のように体に触れてじゃれ合う姿を見たことは一度もありません。
私、以外には――
「で、何をまた一人で思い悩んでいたの? アタシが見たところCPの娘たちは皆元気そうだけど」
隣に腰掛け、顔を間近にもってこられて年甲斐もなく焦ってしまいます。
目線をそらしつつ、まさか今考えていたことを言うわけにもいかず、咄嗟に別の――しかし考え事の一つであったことを述べることとしました。
「実は、城ヶ崎さんの担当をしていた頃のことを思い返していました」
「ふぇっ!? アタシの!?」
「はい……車の中での貴女の問いかけについてです」
「車の中って……あっ。そ、そんなことしみじみと思い返してんじゃないわよっ」
城ヶ崎美嘉
http://imcgdb.info/card-img/3412801.jpg
缶コーヒーが手のひらを暖める感触が心地いい。
缶コーヒーから少しずつ熱が奪われていくのが名残惜しい。
中庭のベンチに腰掛け、落ち葉が木枯らしに翻弄される姿をぼんやりと眺める。
多少余裕はあるものの、今日中に終えなければいけない仕事はまだまだあります。
ですがどうしても昨日の渋谷さんとの会話が脳裏をよぎり、それを整理しようと空調の効いた部屋を抜け出してきたものの考えがなかなかまとまりません。
「ちょっと。ボーッとしちゃってどうしたの?」
後ろから声と共に両肩に手が置かれます。
振り返り見上げると、そこには勝ち気な笑みをした城ヶ崎さんの姿がありました。
彼女にはこの笑みが似合う。
自分に絶対的な自信があり、しかし慢心せず。日々精進するだけでは飽き足らず周りにも目を配り、仲間と共に駆け上がる。
集団の中心であることを天から約束されたかのような笑み。
たとえ挫折してもそれすらも糧にして立ち上がり、最後には必ず勝利が約束されている。
「だーかーら、どうしたって訊いてるでしょコラ★」
見惚れていると体を前後にゆさぶられてしまい、半分ほどになっていた缶コーヒーを念のため横に置きます。
ふと、昨日の渋谷さんの言葉を思い出します。
私などと城ヶ崎さんが付き合っているのではないかと勘繰っている人が、何人かいると。
思えば城ヶ崎さんが異性と気軽にお話する姿はよく見受けられますが、今のように体に触れてじゃれ合う姿を見たことは一度もありません。
私、以外には――
「で、何をまた一人で思い悩んでいたの? アタシが見たところCPの娘たちは皆元気そうだけど」
隣に腰掛け、顔を間近にもってこられて年甲斐もなく焦ってしまいます。
目線をそらしつつ、まさか今考えていたことを言うわけにもいかず、咄嗟に別の――しかし考え事の一つであったことを述べることとしました。
「実は、城ヶ崎さんの担当をしていた頃のことを思い返していました」
「ふぇっ!? アタシの!?」
「はい……車の中での貴女の問いかけについてです」
「車の中って……あっ。そ、そんなことしみじみと思い返してんじゃないわよっ」
城ヶ崎美嘉
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6: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:54:24.04 ID:u9Op5e3S0
顔を赤くした城ヶ崎さんに、今度は肩を叩かれてしまいます。
あの時の城ヶ崎さんは顔が青くなったかと思えば次は赤くなるなどして、思い出されて愉快なことではないと今さらながら気づきます。
ですが、これで話が逸れ――
「でも別に今思い悩むことじゃないし……けどアンタ嘘をついている様子じゃない……微妙に内容をずらしてる」
ホッとしたのもつかの間。
顎に手を当て、私の目を見つめながら城ヶ崎さんが考察を進めていく。
「莉嘉……だったらアンタこんなに深刻な顔しないよね。重く受け止めざるをえない高校生以上……凛に似たようなこと訊かれた?」
「……はい」
これも女の勘と呼んでいいものか。
違ったところで私という人間をここまで見抜いているのです。
畏怖の念を覚えて素直に降伏することとしました。
「私が不甲斐ないせいで、問題のある女性となし崩しで交際するのではと貴女や渋谷さんに心配をかけてしまっています」
「そういった理由もあるけど、本当の理由は別にあるんだけどなー」
別の理由とは何か。
気にはなりましたが答えるつもりはないのでしょう。
城ヶ崎さんは顔を横にそらしてしまいました。
「ですが安心してください。もし私が誰かと付き合おうとする前には渋谷さんに一言報告するように約束したので、問題のある女性と交際することはありません」
それは担当ではなくなった後でも、何かと気をかけてくださる城ヶ崎さんに安心してもらおうとした言葉でした。
それなのに、なぜか城ヶ崎さんは魔法で石にでもなったかのように急に動きを止めてしまいます。
「城ヶ崎さん?」
「……ふーん、そうなんだ。そんな大切なプライベートな件を、担当しているアイドルに任せてるんだ。アタシの頃もそれぐらい頼ってくれてよかったんだけどね」
ようやく振り返ってくれたその顔は、心なしか頬が引きつっているように見られます。
「ただ、凛だけに任せるのはちょっと心配かな」
「と、言いますと」
「凛ってさ、口にはしないだろうけどかなりアンタを信頼して慕ってるんだよ。アンタが変な女に騙されないか心配するぐらいにはね」
アタシも、凛ほどじゃないけどねと膝に置いていた手の甲を軽くつねられました。
痛みはまるでなく、控えめに服の裾を指でつままれたかのような感慨が催す。
あの時の城ヶ崎さんは顔が青くなったかと思えば次は赤くなるなどして、思い出されて愉快なことではないと今さらながら気づきます。
ですが、これで話が逸れ――
「でも別に今思い悩むことじゃないし……けどアンタ嘘をついている様子じゃない……微妙に内容をずらしてる」
ホッとしたのもつかの間。
顎に手を当て、私の目を見つめながら城ヶ崎さんが考察を進めていく。
「莉嘉……だったらアンタこんなに深刻な顔しないよね。重く受け止めざるをえない高校生以上……凛に似たようなこと訊かれた?」
「……はい」
これも女の勘と呼んでいいものか。
違ったところで私という人間をここまで見抜いているのです。
畏怖の念を覚えて素直に降伏することとしました。
「私が不甲斐ないせいで、問題のある女性となし崩しで交際するのではと貴女や渋谷さんに心配をかけてしまっています」
「そういった理由もあるけど、本当の理由は別にあるんだけどなー」
別の理由とは何か。
気にはなりましたが答えるつもりはないのでしょう。
城ヶ崎さんは顔を横にそらしてしまいました。
「ですが安心してください。もし私が誰かと付き合おうとする前には渋谷さんに一言報告するように約束したので、問題のある女性と交際することはありません」
それは担当ではなくなった後でも、何かと気をかけてくださる城ヶ崎さんに安心してもらおうとした言葉でした。
それなのに、なぜか城ヶ崎さんは魔法で石にでもなったかのように急に動きを止めてしまいます。
「城ヶ崎さん?」
「……ふーん、そうなんだ。そんな大切なプライベートな件を、担当しているアイドルに任せてるんだ。アタシの頃もそれぐらい頼ってくれてよかったんだけどね」
ようやく振り返ってくれたその顔は、心なしか頬が引きつっているように見られます。
「ただ、凛だけに任せるのはちょっと心配かな」
「と、言いますと」
「凛ってさ、口にはしないだろうけどかなりアンタを信頼して慕ってるんだよ。アンタが変な女に騙されないか心配するぐらいにはね」
アタシも、凛ほどじゃないけどねと膝に置いていた手の甲を軽くつねられました。
痛みはまるでなく、控えめに服の裾を指でつままれたかのような感慨が催す。
7: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:55:45.39 ID:u9Op5e3S0
「だから他の女にアンタを取られそうになったら内心面白くないだろうし、悪気無しに採点が厳しくなってほとんどの相手は却下されるんじゃないかな」
「そのようなことが……」
「よく遊んでくれた近所のお兄さんに彼女ができて面白くない……って感じかな?」
渋谷さんがそこまで慕ってくれているという実感は正直ありません。
しかし私の交際相手に問題が無いか気にされていたことを考えると、有り得ない話ではないのでしょう。
「ま、まあそんなわけだからさ!」
城ヶ崎さんの指が私の手をつねるのを止め、空中でピアノを叩くように踊ったかと思うと、ぎこちなく私の手に重ねました。
「あまり凛一人の判断に委ねるのは危ういと思うから、念のため私にも一言あると嬉しいな★」
「……わかりました。その時には城ヶ崎さんにも相談させていただきます」
それで城ヶ崎さんが安心してくださるのなら。
重ねられた手が強張るのが伝わってくる。
重要な話は終わったはずなのに何があったのか。
よく見ると彼女の視線は泳ぎ、外気にさらされ乾いてしまった唇を潤している。
「ああ、あとさ! 私たちが心配している理由はアンタが押しに弱いから……自分からグイグイ行く肉食系だったらこういった心配しないんだよ。前に聞いた大学の話でも相手にいいようにされたみたいだし」
「申し訳ありません……」
「というわけで、アンタは自分から女の子にアプローチすることに慣れる必要あり★」
片手は私の手と重ねたままで、身を乗り出してもう片方の手を私につきつける。
その顔は笑ってはいましたが、初ライブ直前の時のように緊張であがっているように見えます。
「確かに……前々からそういった経験が必要ではないかとは思っていましたが」
「ま、まあアンタこういうのに慣れてないからね。そんなに親しくない人や、通りがかりの人にナンパするっていうのはハードルが高すぎるよね!?」
「は、はい」
「だからえっと……こ、これから三日以内にアタシをデートに誘うこと!」
「城ヶ崎さんを……デートに、ですか?」
考えもしなかった提案に思わず目を見開く。
言いたかったことを言い終えたからでしょう。
城ヶ崎さんかの表情に余裕がいくぶんか戻り、しかしやや早めの口調で説明してくれます。
「ほら、私とアンタの仲じゃない。他の娘たちと比べてグンと誘いやすくて練習にいいでしょ? それに私もアイドルになってから一度もデートしてなくて、たまにはしたいなって思っててさ。Win-Winの関係ってやつ★」
「それは、そうなのかもしれませんが……」
プロデューサーである私がアイドルをデートに誘うという最大のハードルが無視されています。
しかしそれを告げようとすると何故か、重ねられ、そしていつの間にか絡められていた彼女の手が押しとどめるような錯覚に襲われるのです。
「もちろん練習だからデートの内容が不合格だった場合は再試験ってことで、気合い入れるように!」
「じょ、城ヶ崎さん!?」
城ヶ崎さんはそう言うと勢いよくベンチから立ち上が――――ろうとして、私と指が絡まったままなので後ろに引っ張られ、ベンチに戻ってしまいました。
「そのようなことが……」
「よく遊んでくれた近所のお兄さんに彼女ができて面白くない……って感じかな?」
渋谷さんがそこまで慕ってくれているという実感は正直ありません。
しかし私の交際相手に問題が無いか気にされていたことを考えると、有り得ない話ではないのでしょう。
「ま、まあそんなわけだからさ!」
城ヶ崎さんの指が私の手をつねるのを止め、空中でピアノを叩くように踊ったかと思うと、ぎこちなく私の手に重ねました。
「あまり凛一人の判断に委ねるのは危ういと思うから、念のため私にも一言あると嬉しいな★」
「……わかりました。その時には城ヶ崎さんにも相談させていただきます」
それで城ヶ崎さんが安心してくださるのなら。
重ねられた手が強張るのが伝わってくる。
重要な話は終わったはずなのに何があったのか。
よく見ると彼女の視線は泳ぎ、外気にさらされ乾いてしまった唇を潤している。
「ああ、あとさ! 私たちが心配している理由はアンタが押しに弱いから……自分からグイグイ行く肉食系だったらこういった心配しないんだよ。前に聞いた大学の話でも相手にいいようにされたみたいだし」
「申し訳ありません……」
「というわけで、アンタは自分から女の子にアプローチすることに慣れる必要あり★」
片手は私の手と重ねたままで、身を乗り出してもう片方の手を私につきつける。
その顔は笑ってはいましたが、初ライブ直前の時のように緊張であがっているように見えます。
「確かに……前々からそういった経験が必要ではないかとは思っていましたが」
「ま、まあアンタこういうのに慣れてないからね。そんなに親しくない人や、通りがかりの人にナンパするっていうのはハードルが高すぎるよね!?」
「は、はい」
「だからえっと……こ、これから三日以内にアタシをデートに誘うこと!」
「城ヶ崎さんを……デートに、ですか?」
考えもしなかった提案に思わず目を見開く。
言いたかったことを言い終えたからでしょう。
城ヶ崎さんかの表情に余裕がいくぶんか戻り、しかしやや早めの口調で説明してくれます。
「ほら、私とアンタの仲じゃない。他の娘たちと比べてグンと誘いやすくて練習にいいでしょ? それに私もアイドルになってから一度もデートしてなくて、たまにはしたいなって思っててさ。Win-Winの関係ってやつ★」
「それは、そうなのかもしれませんが……」
プロデューサーである私がアイドルをデートに誘うという最大のハードルが無視されています。
しかしそれを告げようとすると何故か、重ねられ、そしていつの間にか絡められていた彼女の手が押しとどめるような錯覚に襲われるのです。
「もちろん練習だからデートの内容が不合格だった場合は再試験ってことで、気合い入れるように!」
「じょ、城ヶ崎さん!?」
城ヶ崎さんはそう言うと勢いよくベンチから立ち上が――――ろうとして、私と指が絡まったままなので後ろに引っ張られ、ベンチに戻ってしまいました。
8: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:56:56.06 ID:u9Op5e3S0
「え? ええ~?」
「城ヶ崎さん、お怪我は?」
「いや、別に痛くないんだけど……え、なんで!? なんで指がとれないの!?」
どうやら緊張がほぐれていたのは表情だけだったようで、指は私の手に絡められた状態で固まっていたのです。
「うっそ……恥ずぃ」
「……レッスンの疲れでしょうか。指先がキレイに伸びきった姿は魅力的ですからね」
「……ッ!? そ、そうだったそうだった! トレーナーさんによくほぐすように言われてちゃんとしていたつもりだったんだけど、足りなかったみたい★」
恋愛経験が豊富であるように見せている彼女の面子を守ろうと、とっさに思いついた言葉でしたが受け入れてくれたようです。
城ヶ崎さんだけではなく私も安心しつつ、小指から順に、間違っても傷つけないようにそっとほどいていき――
「ちょ、ちょっと待った!」
「はい?」
薬指にさしかかった時でした。
平静を取り戻したと思っていた城ヶ崎さんが、今日――いえ、今まで見た中で一番顔を赤くして硬直しています。
その瞳は潤み、夢うつつの中にあるかのようでした。
「それ……左手……」
「え、ええ。左手ですね」
「ゆっくり……優しくしてね」
今にも消え入りそうな儚げで城ヶ崎さんらしからぬ声が気にはなりましたが、このままというわけにもいきません。
許可も下りたので、小指の時よりもさらに慎重にとりかかります。
細長く形を整えられた水色の爪をまかり間違っても傷つかないようによけつつ、節くれだった無骨な私の手が触れていいものかとためらってしまうガラス細工のような指をそっとつまみます。
柔らかな指はしっとりと、そして外気のせいでヒンヤリとしていて、暖めてあげなければという思いからつい握り締めたくなります。
薬指をほどき、そして最後の親指が終わるまで、城ヶ崎さんは一言も発しませんでした。
私も指をほどくのに集中していて、城ヶ崎さんの様子はうかがえません。
ただ、絡まった指を覗き込むために前かがみになった私の首筋に当たる吐息から、城ヶ崎さんの呼吸がどういうわけか不規則なように思えました。
「これで終わりです。痛くなかったでしょうか?」
「……大丈夫。優しくしてくれたから」
城ヶ崎さんはまだ夢うつつの中にあるのか。
私から目をそらしながら今にもよろけそうな具合で立ち上がる。
様子のおかしさから送って行かなければと私も立ち上がりかけた矢先のこと。
それを制止するかのようなタイミングで彼女は数歩先で立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「デートのお誘い……楽しみにしてるから」
「……ッ!?」
それは、初めて聞く声音でした。
細められた流し目、内に込められた想いが漏れ出ているかのような白い吐息、紅潮した頬。
それらと相まって、抑揚をおさえようとして、しかしわずかに抑えきれていない音色は、まるで女の情念が込められているかのような錯覚を起こします。
私が返事をすることができないまま硬直し、落ち葉を踏みしめて去っていくその姿をただただ見送ることしかできませんでした――
「城ヶ崎さん、お怪我は?」
「いや、別に痛くないんだけど……え、なんで!? なんで指がとれないの!?」
どうやら緊張がほぐれていたのは表情だけだったようで、指は私の手に絡められた状態で固まっていたのです。
「うっそ……恥ずぃ」
「……レッスンの疲れでしょうか。指先がキレイに伸びきった姿は魅力的ですからね」
「……ッ!? そ、そうだったそうだった! トレーナーさんによくほぐすように言われてちゃんとしていたつもりだったんだけど、足りなかったみたい★」
恋愛経験が豊富であるように見せている彼女の面子を守ろうと、とっさに思いついた言葉でしたが受け入れてくれたようです。
城ヶ崎さんだけではなく私も安心しつつ、小指から順に、間違っても傷つけないようにそっとほどいていき――
「ちょ、ちょっと待った!」
「はい?」
薬指にさしかかった時でした。
平静を取り戻したと思っていた城ヶ崎さんが、今日――いえ、今まで見た中で一番顔を赤くして硬直しています。
その瞳は潤み、夢うつつの中にあるかのようでした。
「それ……左手……」
「え、ええ。左手ですね」
「ゆっくり……優しくしてね」
今にも消え入りそうな儚げで城ヶ崎さんらしからぬ声が気にはなりましたが、このままというわけにもいきません。
許可も下りたので、小指の時よりもさらに慎重にとりかかります。
細長く形を整えられた水色の爪をまかり間違っても傷つかないようによけつつ、節くれだった無骨な私の手が触れていいものかとためらってしまうガラス細工のような指をそっとつまみます。
柔らかな指はしっとりと、そして外気のせいでヒンヤリとしていて、暖めてあげなければという思いからつい握り締めたくなります。
薬指をほどき、そして最後の親指が終わるまで、城ヶ崎さんは一言も発しませんでした。
私も指をほどくのに集中していて、城ヶ崎さんの様子はうかがえません。
ただ、絡まった指を覗き込むために前かがみになった私の首筋に当たる吐息から、城ヶ崎さんの呼吸がどういうわけか不規則なように思えました。
「これで終わりです。痛くなかったでしょうか?」
「……大丈夫。優しくしてくれたから」
城ヶ崎さんはまだ夢うつつの中にあるのか。
私から目をそらしながら今にもよろけそうな具合で立ち上がる。
様子のおかしさから送って行かなければと私も立ち上がりかけた矢先のこと。
それを制止するかのようなタイミングで彼女は数歩先で立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「デートのお誘い……楽しみにしてるから」
「……ッ!?」
それは、初めて聞く声音でした。
細められた流し目、内に込められた想いが漏れ出ているかのような白い吐息、紅潮した頬。
それらと相まって、抑揚をおさえようとして、しかしわずかに抑えきれていない音色は、まるで女の情念が込められているかのような錯覚を起こします。
私が返事をすることができないまま硬直し、落ち葉を踏みしめて去っていくその姿をただただ見送ることしかできませんでした――
9: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:58:26.84 ID:u9Op5e3S0
③楓さんに気づかれました。楓さんはごまかせません
どれだけ考えごとが多く頭を悩ませていても、もはや日常と化している事務処理は滞りなく進めることができました。
閃きが必要となる案件が無かったことに一安心しつつ、明日も今日のようにうまくいくかわからないことに目まいを覚えます。
帰宅の手続きを終え、今の時間ならスーパーの惣菜が売り切れず、なおかつ値引きもされているだろうと廊下を歩いていますと――
「はあ……」
物憂げな表情で高垣さんがため息をついていました。
「高垣さん、どうされましたか?」
「あ……プロデューサーさん。実は悩みがありまして」
「悩み、ですか。私でよければお聞きしますが」
幸い今日は早く仕事が終わりました。
高垣さんの悩むを聞く時間は十分にあります。
「……いいのですか?」
「当然です。私に話すことで悩みが解決されるとまではいかずとも、その糸口となれれば幸いです」
「実は――」
よほど抱えている悩みが重いのか、あるいは人には話しづらいのか。
高垣さんは迷いはしたものの決心されたようで、その桜色の唇をそっと開きました。
「私が以前お世話になった人が悩みを抱えているようなんですけど、私を頼ってくれないんです」
……ポップだけではなく演歌も歌えるその舌は、驚くほど鋭く私の痛い所を貫きました。
「その人が私の悩みを解決できたら幸せなように、私もその人の悩みを解決をできたら幸せなのに……水臭いと思いませんか?」
「そ、そうかもしれませんね……」
自分でも不自然だとわかるほどに勝手に目が泳いでしまいます。
これまでの経験上、この人が本気で怒ってしまったら誰も勝てません。
いえ、勝てないという表現は正しくないのかもしれません。
穏やかな彼女を怒らせてしまったことによる自責の念で、争おうという気概を根こそぎもっていかれるのです。
本気の彼女に立ち向かうには、それこそ人生を賭けるほどの決意が不可欠であり、痛い所を突かれた私にそんなものがあるわけがありません。
とはいえ、高垣さんがどこまで知っているのかわかりませんが、昨日今日のことをそう簡単に話すわけにもいかないのですが……
「むー。プロデューサーさんのお口は、いつも以上に固いみたいですね」
子どものように頬を膨らませるその姿は、彼女の怒りがまだ深刻ではない証左のようであり、かすかな希望を見いだせました。
次の瞬間、両側から希望をもぎ取られましたが。
「それじゃあビールかけしよう! ビールを飲めば悩みなんか半分吹き飛ぶ! キャッツが勝てばもう半分も吹き飛ぶから!」
「居酒屋に連行ね。貴方には黙秘権も弁護士も呼ぶ権利はありません、なんちゃって♪」
「姫川さん!? それに片桐さんまで……」
いつの間に近づいていたのか、二人に両腕を拘束されてしまいます。
あらかじめ申し合わせていたのでしょう。
「申し合わせて、もう幸せ♪ さあプロデューサーさん、貴方のお口が緩くなるまでとことんお酒に付き合ってもらいますからね」
高垣楓
http://imcgdb.info/card-img/2525302.jpg
どれだけ考えごとが多く頭を悩ませていても、もはや日常と化している事務処理は滞りなく進めることができました。
閃きが必要となる案件が無かったことに一安心しつつ、明日も今日のようにうまくいくかわからないことに目まいを覚えます。
帰宅の手続きを終え、今の時間ならスーパーの惣菜が売り切れず、なおかつ値引きもされているだろうと廊下を歩いていますと――
「はあ……」
物憂げな表情で高垣さんがため息をついていました。
「高垣さん、どうされましたか?」
「あ……プロデューサーさん。実は悩みがありまして」
「悩み、ですか。私でよければお聞きしますが」
幸い今日は早く仕事が終わりました。
高垣さんの悩むを聞く時間は十分にあります。
「……いいのですか?」
「当然です。私に話すことで悩みが解決されるとまではいかずとも、その糸口となれれば幸いです」
「実は――」
よほど抱えている悩みが重いのか、あるいは人には話しづらいのか。
高垣さんは迷いはしたものの決心されたようで、その桜色の唇をそっと開きました。
「私が以前お世話になった人が悩みを抱えているようなんですけど、私を頼ってくれないんです」
……ポップだけではなく演歌も歌えるその舌は、驚くほど鋭く私の痛い所を貫きました。
「その人が私の悩みを解決できたら幸せなように、私もその人の悩みを解決をできたら幸せなのに……水臭いと思いませんか?」
「そ、そうかもしれませんね……」
自分でも不自然だとわかるほどに勝手に目が泳いでしまいます。
これまでの経験上、この人が本気で怒ってしまったら誰も勝てません。
いえ、勝てないという表現は正しくないのかもしれません。
穏やかな彼女を怒らせてしまったことによる自責の念で、争おうという気概を根こそぎもっていかれるのです。
本気の彼女に立ち向かうには、それこそ人生を賭けるほどの決意が不可欠であり、痛い所を突かれた私にそんなものがあるわけがありません。
とはいえ、高垣さんがどこまで知っているのかわかりませんが、昨日今日のことをそう簡単に話すわけにもいかないのですが……
「むー。プロデューサーさんのお口は、いつも以上に固いみたいですね」
子どものように頬を膨らませるその姿は、彼女の怒りがまだ深刻ではない証左のようであり、かすかな希望を見いだせました。
次の瞬間、両側から希望をもぎ取られましたが。
「それじゃあビールかけしよう! ビールを飲めば悩みなんか半分吹き飛ぶ! キャッツが勝てばもう半分も吹き飛ぶから!」
「居酒屋に連行ね。貴方には黙秘権も弁護士も呼ぶ権利はありません、なんちゃって♪」
「姫川さん!? それに片桐さんまで……」
いつの間に近づいていたのか、二人に両腕を拘束されてしまいます。
あらかじめ申し合わせていたのでしょう。
「申し合わせて、もう幸せ♪ さあプロデューサーさん、貴方のお口が緩くなるまでとことんお酒に付き合ってもらいますからね」
高垣楓
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10: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 16:59:30.85 ID:u9Op5e3S0
※ ※ ※
プロデューサーがアイドルとお酒を飲むことは、あまり褒められたことではありません。
今回は二人っきりというわけではないので高垣さんも考えられての事なのでしょうが、よりによって呼ばれたのがこの二人では……その、なんと言いますか。
「吐けー、吐けー! 田舎のおっかさんがカツ丼をおまえに食べさせたがって泣いてるんだぞー!」
「あんまり強情だと他所から選手とってきた時、プロテクトかけてやんないぞー!」
「ウフフ」
六人用の掘りごたつの個室で、左右に姫川さんと片桐さん、そして正面に高垣さんというまさかの布陣を敷かれることから宴は始まりました。
奥と手前に二人ずつが普通ではないですかと抵抗しましたが、酔っぱらうから大丈夫だよというまだ一滴も飲んでいないのに酔っぱらった回答で封殺されたのです。
グラスが半分を切ると左右正面から次々と注がれ、もはや自分がどれだけ飲んだのかわからない状態となりました。
いっそのこともう白状してしまうかという考えが何度も浮かびました。
しかし情けない話をして私が恥をかくのはいいのですが、問題は渋谷さんと城ヶ崎さんのプライベートにも関わることです。
昨日の話を聞いた城ヶ崎さんは、渋谷さんは私が他の女性にかかりつけになることを嫌っていると推測しました。
それが本当かどうかは別として、昨日の話を三人にもすれば似たような結論を出すかもしれません。
それは渋谷さんにとってあまり愉快な話ではないでしょう。
今日城ヶ崎さんとの間であった話はなおさらです。
プロデューサーである私がアイドル、それも女子高生をデートに誘うことになったなど、口が裂けても言えません。
その部分をぼかして伝える手もありますが、昨日今日と女性の勘の怖さをまざまざと見せられた私にとってその選択肢は、全て打ち明けるのと同義です。
何としてもここは持ちこたえなければ。
「プロデューサーさん……」
「な、なんでしょうか」
「お?」
「楓ちゃん?」
ニコニコと、これまでの経緯さえ無視すれば見るだけで癒される笑顔でお酒を飲み進めていた楓さんが、神妙な顔つきで私を見つめます。
場の空気が途端に変わり、隣の部屋の喧騒でさえもどこか遠くの世界のようでした。
「話してはくれないんですか?」
「は、はい」
「でも悩んでいますよね」
「そ、それはそうですが……ッ!?」
「悩んでいるのに……私に、相談してくれないんですね」
夜露に濡れた朝顔の雫のように、彼女の頬を涙がつたった。
「た、高垣さん……?」
「ごめんなさい……迷惑だったですね。私、まだ人付き合いが苦手なままで、どうすればプロデューサーの力になれるかわからなくて。お酒の力を頼ってみたんですけど……どうしたところで、私なんかじゃ」
泣き崩れるでも、泣きじゃくるでもなく。
ただ淡々と、静かに自分の力の無さを受け入れて己のみを責める涙を見せられて、もはや私に選択肢などありません。
「そんなことはありません! おこがましいとは思いますが、貴女のような光り輝く逸材を担当できたことは私にとって誇りであり、人柄も能力も信頼しています。貴女にこうやって気にかけてもらえるのは何よりの幸せです。今抱えている問題は私自身整理しきれていないものだったのでためらいましたが、今決心がつきました。話させていただきます」
「……本当に?」
「ええ!」
「じゃあすみからすみまでぜ~んぶ話してくださいね♪」
「はい! ……はい?」
プロデューサーがアイドルとお酒を飲むことは、あまり褒められたことではありません。
今回は二人っきりというわけではないので高垣さんも考えられての事なのでしょうが、よりによって呼ばれたのがこの二人では……その、なんと言いますか。
「吐けー、吐けー! 田舎のおっかさんがカツ丼をおまえに食べさせたがって泣いてるんだぞー!」
「あんまり強情だと他所から選手とってきた時、プロテクトかけてやんないぞー!」
「ウフフ」
六人用の掘りごたつの個室で、左右に姫川さんと片桐さん、そして正面に高垣さんというまさかの布陣を敷かれることから宴は始まりました。
奥と手前に二人ずつが普通ではないですかと抵抗しましたが、酔っぱらうから大丈夫だよというまだ一滴も飲んでいないのに酔っぱらった回答で封殺されたのです。
グラスが半分を切ると左右正面から次々と注がれ、もはや自分がどれだけ飲んだのかわからない状態となりました。
いっそのこともう白状してしまうかという考えが何度も浮かびました。
しかし情けない話をして私が恥をかくのはいいのですが、問題は渋谷さんと城ヶ崎さんのプライベートにも関わることです。
昨日の話を聞いた城ヶ崎さんは、渋谷さんは私が他の女性にかかりつけになることを嫌っていると推測しました。
それが本当かどうかは別として、昨日の話を三人にもすれば似たような結論を出すかもしれません。
それは渋谷さんにとってあまり愉快な話ではないでしょう。
今日城ヶ崎さんとの間であった話はなおさらです。
プロデューサーである私がアイドル、それも女子高生をデートに誘うことになったなど、口が裂けても言えません。
その部分をぼかして伝える手もありますが、昨日今日と女性の勘の怖さをまざまざと見せられた私にとってその選択肢は、全て打ち明けるのと同義です。
何としてもここは持ちこたえなければ。
「プロデューサーさん……」
「な、なんでしょうか」
「お?」
「楓ちゃん?」
ニコニコと、これまでの経緯さえ無視すれば見るだけで癒される笑顔でお酒を飲み進めていた楓さんが、神妙な顔つきで私を見つめます。
場の空気が途端に変わり、隣の部屋の喧騒でさえもどこか遠くの世界のようでした。
「話してはくれないんですか?」
「は、はい」
「でも悩んでいますよね」
「そ、それはそうですが……ッ!?」
「悩んでいるのに……私に、相談してくれないんですね」
夜露に濡れた朝顔の雫のように、彼女の頬を涙がつたった。
「た、高垣さん……?」
「ごめんなさい……迷惑だったですね。私、まだ人付き合いが苦手なままで、どうすればプロデューサーの力になれるかわからなくて。お酒の力を頼ってみたんですけど……どうしたところで、私なんかじゃ」
泣き崩れるでも、泣きじゃくるでもなく。
ただ淡々と、静かに自分の力の無さを受け入れて己のみを責める涙を見せられて、もはや私に選択肢などありません。
「そんなことはありません! おこがましいとは思いますが、貴女のような光り輝く逸材を担当できたことは私にとって誇りであり、人柄も能力も信頼しています。貴女にこうやって気にかけてもらえるのは何よりの幸せです。今抱えている問題は私自身整理しきれていないものだったのでためらいましたが、今決心がつきました。話させていただきます」
「……本当に?」
「ええ!」
「じゃあすみからすみまでぜ~んぶ話してくださいね♪」
「はい! ……はい?」
11: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 17:00:56.73 ID:u9Op5e3S0
罪悪感と決心がどこかに立ち消える。
目の前に先ほどまでいたのは嘆き悲しむローレライであったはずなのに、今は陽気に笑う酒の使徒だ。
「いやー、今のは会心の涙だったね。よっ! 月9の女王!」
「もう女優だけでも食っていけるんじゃないの。アイドルのままじゃ結婚できないし、転向本気で考えといたら?」
「そうですねー。良い人がいればそれもいいですね。チラ、チラ」
天を仰ぐ。
天井が近くなったり遠くなったりして見える。
女の勘は怖い。
女の涙だって、同じぐらい怖い。
「なるほど……なんとなく事情は察していましたが、ここまでのことになっていたんですね」
酒で肉体をやられ、精神は高垣さんの涙で根こそぎもっていかれ。
気がつけばどうやら昨日今日のことを洗いざらい打ち明けていたようです。
「プロデューサー君。分かってはいると思うけど、二人とも十八歳未満よ。そりゃあ美嘉ちゃんはギリ結婚できる年齢だし、凛ちゃんだって結婚を前提にしてご両親に挨拶すればギリ大丈夫だけど、それは法律や条例での話であって、社会常識と照らし合わせればアウトなのよ」
私はいったいどんな打ち明け方をしたのでしょうか。
片桐さんは怒っているというより、本気で私の身を心配して語りかけてくれている。
と、そこで。
「まあーまあー、いいじゃない早苗さん。今は清い関係みたいなんだから」
姫川さんがまだまだ続きそうな片桐さんの言葉を遮ったかと思うと、両肩を意外なほど強く握ってきて真正面から向かい合う形に私を変えた。
「いいプロデューサー? ギリギリストライク、ギリギリボールって球じゃ見逃しは狙えても空振りは狙えないよ」
「つ、つまりなんでしょうか?」
私の頭が酔いで理解できないのか、それとも姫川さんも酔ってまともに説明できていないのか、その両方なのか。
話の流れがまるで読めません。
「だーかーら! 女子高生なんてギリギリ許されるかもしれないコーナーのすみを突くんじゃなくて、キャッチャーの手前でバウンドするフォークで空振り三振狙おうよ! 女子中学生いこう女子中学生!」
……どうやら、今日の姫川さんはもうダメなようです。
三人でそっと目を見合わせます。
「一人オススメな娘がいてね。14歳で142センチで世界で一番カワイイタタタタタタッ」
「青少年保護育成条例違反教唆の疑いで現行犯逮捕します」
「何かおかしい! 教唆された側が犯行に及んでいないのに教唆で逮捕されるなんてよくわかんないけどおかしい!」
「だまらっしゃい! こういったバカ真面目な好青年は一歩踏み外せばすごい勢いで落ちていくもんなんだからね!」
「純愛だから! 初恋を叶えであげだいだけだから!」
目の前に先ほどまでいたのは嘆き悲しむローレライであったはずなのに、今は陽気に笑う酒の使徒だ。
「いやー、今のは会心の涙だったね。よっ! 月9の女王!」
「もう女優だけでも食っていけるんじゃないの。アイドルのままじゃ結婚できないし、転向本気で考えといたら?」
「そうですねー。良い人がいればそれもいいですね。チラ、チラ」
天を仰ぐ。
天井が近くなったり遠くなったりして見える。
女の勘は怖い。
女の涙だって、同じぐらい怖い。
「なるほど……なんとなく事情は察していましたが、ここまでのことになっていたんですね」
酒で肉体をやられ、精神は高垣さんの涙で根こそぎもっていかれ。
気がつけばどうやら昨日今日のことを洗いざらい打ち明けていたようです。
「プロデューサー君。分かってはいると思うけど、二人とも十八歳未満よ。そりゃあ美嘉ちゃんはギリ結婚できる年齢だし、凛ちゃんだって結婚を前提にしてご両親に挨拶すればギリ大丈夫だけど、それは法律や条例での話であって、社会常識と照らし合わせればアウトなのよ」
私はいったいどんな打ち明け方をしたのでしょうか。
片桐さんは怒っているというより、本気で私の身を心配して語りかけてくれている。
と、そこで。
「まあーまあー、いいじゃない早苗さん。今は清い関係みたいなんだから」
姫川さんがまだまだ続きそうな片桐さんの言葉を遮ったかと思うと、両肩を意外なほど強く握ってきて真正面から向かい合う形に私を変えた。
「いいプロデューサー? ギリギリストライク、ギリギリボールって球じゃ見逃しは狙えても空振りは狙えないよ」
「つ、つまりなんでしょうか?」
私の頭が酔いで理解できないのか、それとも姫川さんも酔ってまともに説明できていないのか、その両方なのか。
話の流れがまるで読めません。
「だーかーら! 女子高生なんてギリギリ許されるかもしれないコーナーのすみを突くんじゃなくて、キャッチャーの手前でバウンドするフォークで空振り三振狙おうよ! 女子中学生いこう女子中学生!」
……どうやら、今日の姫川さんはもうダメなようです。
三人でそっと目を見合わせます。
「一人オススメな娘がいてね。14歳で142センチで世界で一番カワイイタタタタタタッ」
「青少年保護育成条例違反教唆の疑いで現行犯逮捕します」
「何かおかしい! 教唆された側が犯行に及んでいないのに教唆で逮捕されるなんてよくわかんないけどおかしい!」
「だまらっしゃい! こういったバカ真面目な好青年は一歩踏み外せばすごい勢いで落ちていくもんなんだからね!」
「純愛だから! 初恋を叶えであげだいだけだから!」
12: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 17:01:51.82 ID:u9Op5e3S0
お二人が一緒に来てくれたおかげで重い話にならずに済んだと考えるべきか、それともまともに相談できないと嘆くべきか。
「しかしプロデューサー。私は凛ちゃんと美嘉ちゃんの懸念は一理あると思います」
「高垣さんもそう思われるのですか……っと、すみません」
向けられた徳利にお猪口を差し出す。
「はい。だから付き合う前に信頼できる周りの人に相談するのも、女性へのアプローチに慣れるためにデートに誘う練習をするのもいいことだと思います」
ずっとこれでいいものかと悩んでいたのが、高垣さんに肯定されるや否やかき消えてしまいました。
自然とお猪口を口に運び、熱い液体が喉を通って体を芯から暖める。
今日一番酒が美味いと思える瞬間でした。
「ですが……ちょっと心配なことが」
「何でしょうか?」
「美嘉ちゃんは凛ちゃんのことを、プロデューサーのことを慕うあまり付き合う相手への採点が厳しくなりかねないと言ったそうですね。けど美嘉ちゃんだって凛ちゃんに負けていませんよ」
「城ヶ崎さんが?」
「あら、そんなに意外な顔しちゃかわいそうですよ」
そう言われても、そもそも渋谷さんがそこまで私を慕ってくれているということ自体納得しきれていないのです。
それなのに城ヶ崎さんまで同じぐらい私を慕っていると聞かされても、狐につままれたかのような気分でした。
「だからデートの内容の採点だってわざと厳しくして、合格点が出るまでと言ってずっとプロデューサーとのデートを楽しもうと考えているかもしれません」
「……私とのデートなど退屈だと思うのですが」
「むう。私の言うことを信じてくれないんですね」
お酒がまわり始め赤く染まった頬を愛らしく膨らませる姿に、思わず笑いがこぼれてしまう。
私が笑うのを見てますます高垣さんの頬が膨らみ続け、やがて限界が来て「ぷふー」と割れてしまった。
お互いクスクスと笑ってしまいます。
「しかしプロデューサー。私は凛ちゃんと美嘉ちゃんの懸念は一理あると思います」
「高垣さんもそう思われるのですか……っと、すみません」
向けられた徳利にお猪口を差し出す。
「はい。だから付き合う前に信頼できる周りの人に相談するのも、女性へのアプローチに慣れるためにデートに誘う練習をするのもいいことだと思います」
ずっとこれでいいものかと悩んでいたのが、高垣さんに肯定されるや否やかき消えてしまいました。
自然とお猪口を口に運び、熱い液体が喉を通って体を芯から暖める。
今日一番酒が美味いと思える瞬間でした。
「ですが……ちょっと心配なことが」
「何でしょうか?」
「美嘉ちゃんは凛ちゃんのことを、プロデューサーのことを慕うあまり付き合う相手への採点が厳しくなりかねないと言ったそうですね。けど美嘉ちゃんだって凛ちゃんに負けていませんよ」
「城ヶ崎さんが?」
「あら、そんなに意外な顔しちゃかわいそうですよ」
そう言われても、そもそも渋谷さんがそこまで私を慕ってくれているということ自体納得しきれていないのです。
それなのに城ヶ崎さんまで同じぐらい私を慕っていると聞かされても、狐につままれたかのような気分でした。
「だからデートの内容の採点だってわざと厳しくして、合格点が出るまでと言ってずっとプロデューサーとのデートを楽しもうと考えているかもしれません」
「……私とのデートなど退屈だと思うのですが」
「むう。私の言うことを信じてくれないんですね」
お酒がまわり始め赤く染まった頬を愛らしく膨らませる姿に、思わず笑いがこぼれてしまう。
私が笑うのを見てますます高垣さんの頬が膨らみ続け、やがて限界が来て「ぷふー」と割れてしまった。
お互いクスクスと笑ってしまいます。
13: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 17:02:40.65 ID:u9Op5e3S0
――
――――
――――――――
「じゃあこうしましょう。美嘉ちゃんとのデートが不合格になるたびに、私と反省会をするんです」
そろそろお開きとなり、もみ合った体制のまま寝息を立てる姫川さんと片桐さん(叫び足りないから酒浸りなんだ……フフ)のためにタクシーを頼んで戻ると、高垣さんが唐突にそう述べました。
「反省会……ですか?」
「はい。今日のように集まって、プロデューサーが合格点をもらえるように皆でアドバイスするんです。それにデートの後のたびにお話を聞くことができれば、美嘉ちゃんがわざと不合格にしているかどうか判断しやすいですし、それに――」
最後の一献を飲み終え、にっこりと、しかし有無を言わさぬ力が言の葉に込められていました。
「――これも女性へのアプローチに慣れる練習です。私を恋人のように想いながらお酒に誘ってください」
――――
――――――――
「じゃあこうしましょう。美嘉ちゃんとのデートが不合格になるたびに、私と反省会をするんです」
そろそろお開きとなり、もみ合った体制のまま寝息を立てる姫川さんと片桐さん(叫び足りないから酒浸りなんだ……フフ)のためにタクシーを頼んで戻ると、高垣さんが唐突にそう述べました。
「反省会……ですか?」
「はい。今日のように集まって、プロデューサーが合格点をもらえるように皆でアドバイスするんです。それにデートの後のたびにお話を聞くことができれば、美嘉ちゃんがわざと不合格にしているかどうか判断しやすいですし、それに――」
最後の一献を飲み終え、にっこりと、しかし有無を言わさぬ力が言の葉に込められていました。
「――これも女性へのアプローチに慣れる練習です。私を恋人のように想いながらお酒に誘ってください」
14: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/11(土) 17:05:30.60 ID:u9Op5e3S0
今回は本当に話が長いうえに完結まで時間もかかるので、話がどこまで進んだのかわかるように一段落つくごとに目次を挟みます
読むのを再開する時などに利用してください
プロローグ 凛
一日目 美嘉 楓
二日目 ??? ??? ??? ???
三日目 ??? ??? ??? ???
エピローグ 凛
キュート ??? ??? ??? ???
クール 凛 楓 ??? ???
パッション 美嘉 ??? ???
読むのを再開する時などに利用してください
プロローグ 凛
一日目 美嘉 楓
二日目 ??? ??? ??? ???
三日目 ??? ??? ??? ???
エピローグ 凛
キュート ??? ??? ??? ???
クール 凛 楓 ??? ???
パッション 美嘉 ??? ???
43: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:43:44.16 ID:NfQFDkL+0
④あの子ちゃん、ちょっと耳寄りな情報があるんです
昨夜はあれから姫川さんと片桐さんを家に送るのを高垣さんに任せ、タクシーに三人が乗るのを見送った後に終電少し前の電車で帰宅しました。
今朝は少しばかり頭痛を覚えますが、出勤する足どりに問題はありません。
むしろ人に悩みを話す事で気が幾分か軽くなり、昨日より調子がいいぐらいです。
……城ヶ崎さんとデートの練習をするたびに高垣さんとお酒を飲むことになりましたが、悩みを溜めやすい私にはいいことかもしれません。
問題はスキャンダルだと勘繰られることなので、他にお酒が飲める人も誘うとしても、あまり回数が増えると疑われかねないことですか。
そういった意味では悩みの種は増えたともいえます。
ですが高垣さんが懸念したような、城ヶ崎さんが私と何度もデートしたいがあまりわざと不合格にするというのは正直考えにくいので、デートに誘うのも飲みに誘うのも多くて三回ほどで終わるでしょう。
などと大股で歩きつつ考えていると、よく見慣れた少女に追いついていました。
「おはようございます、白坂さん」
「あ、プロデューサーさん……おは――」
白坂さんは挨拶の途中で言葉を切ると、私を見るために上げていた顔をさらに上げ、指先をだらんと力を抜いた姿勢で天を仰ぎました。
これは……もしかすると、アレでしょうか。
「あ…………アァ」
震えながら喉をかきむしるように両手をあて、ゆっくりと廊下に膝を着く。
やはりアレでした。
わずかばかり感じる羞恥心を咳払いをして追い払い、私もまた膝を着き、前のめりに倒れようとする白坂さんの肩を支えます。
「し、白坂さん!? 白坂さんしっかりしてください!」
「だ、ダメ……逃げて、プロデューサーさん」
「何を言うんですか!? 今すぐ、医務室にお連れします!」
「このままじゃ……プロデューサーさんも……わ、私が……ッ」
震わせていた体をひときわ強く痙攣させ目を見開いたかと思うと、ゆったりと私の首に両手を伸ばします。
「アー……アア」
はい、ゾンビごっこです。
彼女の担当であった頃、時々こういったホラー映画のワンシーンを再現していました。
誕生日のお願いでホッケーマスクとチェーンソーを身に着けたところに輿水さんがやってきて、日野さんに負けず劣らぬ声量を発揮して卒倒したという事件もあったものです。
「おいし……そう」
そう呟くいて、白坂さんの口が私の首元に近づきます。
今回のパターンだと、白坂さんが噛みついたフリをして私が驚き、そして苦しみながら私も感染してゾンビになる展開でしょう。
――チュ、チュウウウ、チュパッ――
「……ッ!!?」
白坂小梅
http://imcgdb.info/card-img/2528902.jpg
昨夜はあれから姫川さんと片桐さんを家に送るのを高垣さんに任せ、タクシーに三人が乗るのを見送った後に終電少し前の電車で帰宅しました。
今朝は少しばかり頭痛を覚えますが、出勤する足どりに問題はありません。
むしろ人に悩みを話す事で気が幾分か軽くなり、昨日より調子がいいぐらいです。
……城ヶ崎さんとデートの練習をするたびに高垣さんとお酒を飲むことになりましたが、悩みを溜めやすい私にはいいことかもしれません。
問題はスキャンダルだと勘繰られることなので、他にお酒が飲める人も誘うとしても、あまり回数が増えると疑われかねないことですか。
そういった意味では悩みの種は増えたともいえます。
ですが高垣さんが懸念したような、城ヶ崎さんが私と何度もデートしたいがあまりわざと不合格にするというのは正直考えにくいので、デートに誘うのも飲みに誘うのも多くて三回ほどで終わるでしょう。
などと大股で歩きつつ考えていると、よく見慣れた少女に追いついていました。
「おはようございます、白坂さん」
「あ、プロデューサーさん……おは――」
白坂さんは挨拶の途中で言葉を切ると、私を見るために上げていた顔をさらに上げ、指先をだらんと力を抜いた姿勢で天を仰ぎました。
これは……もしかすると、アレでしょうか。
「あ…………アァ」
震えながら喉をかきむしるように両手をあて、ゆっくりと廊下に膝を着く。
やはりアレでした。
わずかばかり感じる羞恥心を咳払いをして追い払い、私もまた膝を着き、前のめりに倒れようとする白坂さんの肩を支えます。
「し、白坂さん!? 白坂さんしっかりしてください!」
「だ、ダメ……逃げて、プロデューサーさん」
「何を言うんですか!? 今すぐ、医務室にお連れします!」
「このままじゃ……プロデューサーさんも……わ、私が……ッ」
震わせていた体をひときわ強く痙攣させ目を見開いたかと思うと、ゆったりと私の首に両手を伸ばします。
「アー……アア」
はい、ゾンビごっこです。
彼女の担当であった頃、時々こういったホラー映画のワンシーンを再現していました。
誕生日のお願いでホッケーマスクとチェーンソーを身に着けたところに輿水さんがやってきて、日野さんに負けず劣らぬ声量を発揮して卒倒したという事件もあったものです。
「おいし……そう」
そう呟くいて、白坂さんの口が私の首元に近づきます。
今回のパターンだと、白坂さんが噛みついたフリをして私が驚き、そして苦しみながら私も感染してゾンビになる展開でしょう。
――チュ、チュウウウ、チュパッ――
「……ッ!!?」
白坂小梅
http://imcgdb.info/card-img/2528902.jpg
44: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:44:51.57 ID:NfQFDkL+0
何が起きているのかわかりません。
白坂さんが私の首に顔を近づけるところまでは予定通りでした。
しかし噛んだフリをするはずなのに、なんでしょうこの鼓膜に響いて身を震わせてしまう蠱惑的な音色と、頸動脈付近からかけめぐるひんやりとした熱という矛盾した存在は。
いえ、似たものに覚えはあります。
もう何年も前――大学生であった頃に。
しかしそれは今ここで、白坂さん相手に起きるはずがありません。
それなのに、私がこうして理解できず受け入れられないままなのを他所に、事態は進行し続けます。
「ちゅ……チュウウウッ……ハァ……ハァ……プロデューサーさんの汗の味、おいしいんだね」
「し、白坂さん……いったい、何を?」
ようやく私は情けないかすれ声で尋ねることができました。
首に手を当てると、湿った感触があります。
白坂さんはクスクスと笑うと、私の首に両手を回したまま鼻と鼻がくっつきそうになるほど顔を近づけ、無垢な瞳で私を見つめる。
「エヘヘ……プロデューサーさん、私に感染しちゃったね」
そう言うと今度は鼻先に唇を近づけようとするのを、慌てて制止します。
白坂さんは少し気を損ねた顔をしましたが、すぐに笑顔に戻ります。
――その笑顔は、幼いが故に禁忌を知らず、ためらわずに踏み込む危うい魅力が含まれていました。
「あの子から……話は聞いたよ。皆、考えすぎ」
話というのはやはり、私が問題のある女性に押し切られて交際するのではと心配されていることと、女性へのアプローチに慣れる必要があるということについてでしょう。
「プロデューサーさんは今の調子で、一生懸命仕事に打ち込んでいれば…大丈夫。プロデューサーさんの…そんな姿に惹かれた女性と、三年後に結ばれて……幸せになれるから、ね」
「そう思っていただけますか。しかし……」
初めて周りの懸念について考えすぎと言われ少し安心できましたが、三年という具体的な数字は何でしょうか?
尋ねてみると白坂さんは心底不思議そうに、そして愛らしく首をかしげて見せます。
「だって……私、まだ十三歳だから……プロデューサーさんと結婚するには、どうしてもあと三年は待たないと……」
「し、白坂さん……?」
気負いもなく、てらいもなく。
当り前のように約束された未来を語る白坂さんに気圧され後ずさろうとするものの、未だに首はつかまれたままで、何より先ほどから両肩が“なぜか”ヒンヤリとして重い。
「私に感染した証……消えそうになったらまたつけるから……他の人に言い寄られたら、それを見せてね」
これで変な女なんか私のプロデューサーさんに近寄れないからと囁かれ、窓ガラスを見れば首に痕が見えました。
キスマーク、でしょう。
まだ十三歳……そう思っていた少女の行動に愕然とします。
白坂さんが私の首に顔を近づけるところまでは予定通りでした。
しかし噛んだフリをするはずなのに、なんでしょうこの鼓膜に響いて身を震わせてしまう蠱惑的な音色と、頸動脈付近からかけめぐるひんやりとした熱という矛盾した存在は。
いえ、似たものに覚えはあります。
もう何年も前――大学生であった頃に。
しかしそれは今ここで、白坂さん相手に起きるはずがありません。
それなのに、私がこうして理解できず受け入れられないままなのを他所に、事態は進行し続けます。
「ちゅ……チュウウウッ……ハァ……ハァ……プロデューサーさんの汗の味、おいしいんだね」
「し、白坂さん……いったい、何を?」
ようやく私は情けないかすれ声で尋ねることができました。
首に手を当てると、湿った感触があります。
白坂さんはクスクスと笑うと、私の首に両手を回したまま鼻と鼻がくっつきそうになるほど顔を近づけ、無垢な瞳で私を見つめる。
「エヘヘ……プロデューサーさん、私に感染しちゃったね」
そう言うと今度は鼻先に唇を近づけようとするのを、慌てて制止します。
白坂さんは少し気を損ねた顔をしましたが、すぐに笑顔に戻ります。
――その笑顔は、幼いが故に禁忌を知らず、ためらわずに踏み込む危うい魅力が含まれていました。
「あの子から……話は聞いたよ。皆、考えすぎ」
話というのはやはり、私が問題のある女性に押し切られて交際するのではと心配されていることと、女性へのアプローチに慣れる必要があるということについてでしょう。
「プロデューサーさんは今の調子で、一生懸命仕事に打ち込んでいれば…大丈夫。プロデューサーさんの…そんな姿に惹かれた女性と、三年後に結ばれて……幸せになれるから、ね」
「そう思っていただけますか。しかし……」
初めて周りの懸念について考えすぎと言われ少し安心できましたが、三年という具体的な数字は何でしょうか?
尋ねてみると白坂さんは心底不思議そうに、そして愛らしく首をかしげて見せます。
「だって……私、まだ十三歳だから……プロデューサーさんと結婚するには、どうしてもあと三年は待たないと……」
「し、白坂さん……?」
気負いもなく、てらいもなく。
当り前のように約束された未来を語る白坂さんに気圧され後ずさろうとするものの、未だに首はつかまれたままで、何より先ほどから両肩が“なぜか”ヒンヤリとして重い。
「私に感染した証……消えそうになったらまたつけるから……他の人に言い寄られたら、それを見せてね」
これで変な女なんか私のプロデューサーさんに近寄れないからと囁かれ、窓ガラスを見れば首に痕が見えました。
キスマーク、でしょう。
まだ十三歳……そう思っていた少女の行動に愕然とします。
45: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:45:40.23 ID:NfQFDkL+0
「……白坂さん」
「なあに?」
情けないことに、私はどう対応すればいいのかまるで見当がついていません。
私に親愛と信頼のみを、多大に向けてくる少女をどのように諭せばいいのでしょうか。
考えがまとまらないまま、今私が思っていることを傷つけないように気をつけながら話し始めます。
「白坂さんが私を慕っていただけることは、たいへん嬉しく思っています」
「相思相愛……だね」
「……確かに私たちの間に信頼関係はあると思います。ですが、それに男女の恋愛感情が含まれているかといえば、違うのでしょう」
「……ふーん」
白坂さんから笑みが消え、目が細まります。
それは少女ではなく、女の顔ではないかと錯覚しそうになるものでした。
「プロデューサーさんは……こう言いたいんだね。私がまだ子どもで、親愛と愛情を取り違えている。成長して視野が広がれば自然とそれがわかって……私の初恋は、思い出に変わるんだって」
「……はい」
私自身まとまっていない考えを、白坂さんがうまく言語化してくれました。
……もしかすると、彼女もまた自分の感情を整理する機会があって、今のように疑ったことがあるのかもしれません。
そこまで考えが及ぶ白坂さんを完全に子ども扱いしていいものかという考えが浮かんだものの、それは今は置いておかなければ。
「ですから私は、貴女とそのような約束は――」
「プロデューサーさんは……私と結婚するのが嫌なの?」
私の言葉を白坂さんの言葉が遮りました。
決して大きくはない声を、一度うつむきかけて――すぐに私に視線を戻しながら。
それは、本気の声でした。
子どもであっても本気であることには変わりません。
アイドルとプロデューサーですから、という立場で納得させるのではなく、必要なのは私の本音でしょう。
「……嫌なわけがありません。ですが白坂さん。結婚できる年齢に制限があるのは、正常な判断を……後悔しない決断をできるようになってから、大切なことができるようにするためでもあるんです」
「じゃあ三年後……私の気持ちが変わってなかったら結婚してくれる?」
安請け合いをするには、白坂さんの眼はあまりに幼さがありませんでした。
三年後もまだこのままではないか、という懸念がよぎります。
「五年後……白坂さんがもし高校を卒業しても気持ちが変わらないのでしたら」
どのみち私に好きな相手はいない。
見つかるあてもない。
埋まる予定の無い欄に、確実にキャンセルされるものを入れていても差し支えはありません。
それで白坂さんが喜んでくれるのならばなおのこと。
「なあに?」
情けないことに、私はどう対応すればいいのかまるで見当がついていません。
私に親愛と信頼のみを、多大に向けてくる少女をどのように諭せばいいのでしょうか。
考えがまとまらないまま、今私が思っていることを傷つけないように気をつけながら話し始めます。
「白坂さんが私を慕っていただけることは、たいへん嬉しく思っています」
「相思相愛……だね」
「……確かに私たちの間に信頼関係はあると思います。ですが、それに男女の恋愛感情が含まれているかといえば、違うのでしょう」
「……ふーん」
白坂さんから笑みが消え、目が細まります。
それは少女ではなく、女の顔ではないかと錯覚しそうになるものでした。
「プロデューサーさんは……こう言いたいんだね。私がまだ子どもで、親愛と愛情を取り違えている。成長して視野が広がれば自然とそれがわかって……私の初恋は、思い出に変わるんだって」
「……はい」
私自身まとまっていない考えを、白坂さんがうまく言語化してくれました。
……もしかすると、彼女もまた自分の感情を整理する機会があって、今のように疑ったことがあるのかもしれません。
そこまで考えが及ぶ白坂さんを完全に子ども扱いしていいものかという考えが浮かんだものの、それは今は置いておかなければ。
「ですから私は、貴女とそのような約束は――」
「プロデューサーさんは……私と結婚するのが嫌なの?」
私の言葉を白坂さんの言葉が遮りました。
決して大きくはない声を、一度うつむきかけて――すぐに私に視線を戻しながら。
それは、本気の声でした。
子どもであっても本気であることには変わりません。
アイドルとプロデューサーですから、という立場で納得させるのではなく、必要なのは私の本音でしょう。
「……嫌なわけがありません。ですが白坂さん。結婚できる年齢に制限があるのは、正常な判断を……後悔しない決断をできるようになってから、大切なことができるようにするためでもあるんです」
「じゃあ三年後……私の気持ちが変わってなかったら結婚してくれる?」
安請け合いをするには、白坂さんの眼はあまりに幼さがありませんでした。
三年後もまだこのままではないか、という懸念がよぎります。
「五年後……白坂さんがもし高校を卒業しても気持ちが変わらないのでしたら」
どのみち私に好きな相手はいない。
見つかるあてもない。
埋まる予定の無い欄に、確実にキャンセルされるものを入れていても差し支えはありません。
それで白坂さんが喜んでくれるのならばなおのこと。
46: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:46:28.79 ID:NfQFDkL+0
「……本当に?」
「ええ、本当です」
「え、えへへ」
穏やかに笑うその姿を見て、これでよかったという思いと同じぐらい早まったのではないかという気持ちも芽生えましたが……いくらなんでも五年も私を想い続けることは有り得ないので、これは杞憂に過ぎないでしょう。
「あ……でも」
「どうかしましたか?」
「我慢できなくなったら……五年経ってなくても、いつでも私を呼んでいいから」
少しでも早く結婚したいという考えなので――
「未成熟な私も……成長した私も……全部全部、味わってほしいから」
――――――――――はい?
「し、白坂さん?」
一瞬、世界が真っ白に染まりました。
真っ白となった世界に絵の具が少しずつこぼれ、真っ先に描かれたのは心配そうに私を見つめる小柄な少女――いい子なんです。誰が相手であってもこの子はいい子なんですと胸を張って言える子なんです。
多少エキセントリックなところはありますが、周りの人を心配ができる優しさがあり、控えめではありますが自分の意志だってちゃんと伝えられるそんないい子なんです。
だからこんなこと言うはずが――
「プロデューサーさん……彼女がいなくて、たまってるでしょ? 私が発散してあげる、から」
……いつまでも子どもじゃないんですね。
別に悪いことではありません。
彼女の優しさや、控えめでありながら確固とした意志が損なわれたわけではないのですから。
「プロデューサーさん? プロデューサーさん?」
大人になって急に性の知識をつけるわけじゃないことぐらい、自分にあてはめればわかることでした。
成長するに従って少しずつ身につけるのです。
白坂さんは今、大人と子どもの中間にいるということでしょう。
そしてその時分は、性の知識が偏りがちなものです。
「あ……もう行かないと。じゃあね、プロデューサーさん」
頬に柔らかな感触がします。
サラサラとした髪も同時に触れて気持ちがいいです。
きっと、海外のドラマのワンシーンを見て真似たのでしょう。
真似から始めて、その後に本当の意味を知る。
いいことではないですかははははははははははははは―――――――――はぁ。
「ええ、本当です」
「え、えへへ」
穏やかに笑うその姿を見て、これでよかったという思いと同じぐらい早まったのではないかという気持ちも芽生えましたが……いくらなんでも五年も私を想い続けることは有り得ないので、これは杞憂に過ぎないでしょう。
「あ……でも」
「どうかしましたか?」
「我慢できなくなったら……五年経ってなくても、いつでも私を呼んでいいから」
少しでも早く結婚したいという考えなので――
「未成熟な私も……成長した私も……全部全部、味わってほしいから」
――――――――――はい?
「し、白坂さん?」
一瞬、世界が真っ白に染まりました。
真っ白となった世界に絵の具が少しずつこぼれ、真っ先に描かれたのは心配そうに私を見つめる小柄な少女――いい子なんです。誰が相手であってもこの子はいい子なんですと胸を張って言える子なんです。
多少エキセントリックなところはありますが、周りの人を心配ができる優しさがあり、控えめではありますが自分の意志だってちゃんと伝えられるそんないい子なんです。
だからこんなこと言うはずが――
「プロデューサーさん……彼女がいなくて、たまってるでしょ? 私が発散してあげる、から」
……いつまでも子どもじゃないんですね。
別に悪いことではありません。
彼女の優しさや、控えめでありながら確固とした意志が損なわれたわけではないのですから。
「プロデューサーさん? プロデューサーさん?」
大人になって急に性の知識をつけるわけじゃないことぐらい、自分にあてはめればわかることでした。
成長するに従って少しずつ身につけるのです。
白坂さんは今、大人と子どもの中間にいるということでしょう。
そしてその時分は、性の知識が偏りがちなものです。
「あ……もう行かないと。じゃあね、プロデューサーさん」
頬に柔らかな感触がします。
サラサラとした髪も同時に触れて気持ちがいいです。
きっと、海外のドラマのワンシーンを見て真似たのでしょう。
真似から始めて、その後に本当の意味を知る。
いいことではないですかははははははははははははは―――――――――はぁ。
47: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:47:36.70 ID:NfQFDkL+0
Ⅴ:そこの酔っ払い。昨夜のことは貴女のところの小さいのに話したの?
白坂さんとの衝撃の会話を終えて、どれほど呆然としたまま膝を着いていたのかわかりません。
同期に肩を叩かれ気がつけば始業時間がもうすぐそこでした。
同期は私の呆然とした姿とキスマークから何かを察したようで、痛ましい表情をしたものです。
「すまん。助けてやりたいのはやまやまなんだが、俺も差し迫っててな。まゆがいつの間にか俺の両親と挨拶を済ませて――いや、聞かなかったことにしてくれ」
お互いプロデューサーとして恥じない行動をとろうと言い残し立ち去る彼の背中は、戦いに勝てるから挑むのではなく、敗北必至であっても戦う理由があるから挑む手負いの戦士のそれでした。
その姿を自分に重ねてしまうのはなぜでしょう。
不吉な予感を振り払うように早足で職場に向かいます。
しかしCPルームに入る直前になって、キスマークの存在を思い出しました。
もう始業まで時間はありません。
やむなく私は首に片手をあてたまま入室し、アイドルの皆さんと顔を合わせたのでした。
私はクセでよく首に手を当てていますが、その場所は首の後ろであって首の横ではなく、常にその体勢なわけでもありません。
最初の方こそアイドルの皆さんは少し不思議そうな顔をされるぐらいであったのが、私が終始手を当てたままなことに違和感を強めていきます。
――それとこれはきっと気のせいなのでしょうが、渋谷さんの視線が冷たいというか、重いような気もしました。
いつ誰が私の首について言及してもおかしくない雰囲気となった頃に、皆さん移動の時間となり助かりましたがこのままではいけません。
医務室で絆創膏かシップをもらって隠すことにしましょう。
キスマークを手で覆ったまま医務室に向かっていますと、十字路から紺色のスカートがわずかにのぞいて見えました。
「……これは?」
見覚えのある色と布地に立ち止まりよくよく観察すると、影が中央に浮かび上がっていることに気がつけました。
太陽の角度から推測するにその人物は小柄で、髪の一部が外にハネています。
何となくではありますがこのまま進めむと起きることが予想できました。
私は歩みを再開して十字路に近づきます。
そしていざ十字路にさしかかる手前で足踏みをすると――
「とおおおーっっってアレレ!!?」
私の一歩先の空間めがけて輿水さんが飛び込みました。
何かするつもりだろうとは思っていましたが、これは予想外です。
このままでは輿水さんが顔ないしは胸から落ちると慌てて支えました。
「ハァ……ハァ……こ、怖くなんかなかったですからね? なんせボクはカワイイうえにコワイイんですから!」
「は、はい」
「あ、ところでプロデューサーさん! なぜ途中で立ち止まったんですか!? ボクが隠れているって気づいたんですか?」
「ええ。スカートの裾が見てまして」
「はあ。まったく、本当にプロデューサーさんはボクがいないとダメなんですねえ」
いったいどのような理由でダメだしをされるのか。
輿水さんの輿水さんによる輿水さんのための理論は聞いていて微笑ましいものばかりで、担当であった頃は業務の忙しい日などに癒しとして重宝させてもらいました。
傾聴するために父親が子どもにする飛行機ごっこのような体勢で支えていた輿水さんを、ゆっくりと廊下に降ろします。
輿水幸子
http://blog-imgs-50.fc2.com/k/a/k/kakurewota710/597799307.jpg
白坂さんとの衝撃の会話を終えて、どれほど呆然としたまま膝を着いていたのかわかりません。
同期に肩を叩かれ気がつけば始業時間がもうすぐそこでした。
同期は私の呆然とした姿とキスマークから何かを察したようで、痛ましい表情をしたものです。
「すまん。助けてやりたいのはやまやまなんだが、俺も差し迫っててな。まゆがいつの間にか俺の両親と挨拶を済ませて――いや、聞かなかったことにしてくれ」
お互いプロデューサーとして恥じない行動をとろうと言い残し立ち去る彼の背中は、戦いに勝てるから挑むのではなく、敗北必至であっても戦う理由があるから挑む手負いの戦士のそれでした。
その姿を自分に重ねてしまうのはなぜでしょう。
不吉な予感を振り払うように早足で職場に向かいます。
しかしCPルームに入る直前になって、キスマークの存在を思い出しました。
もう始業まで時間はありません。
やむなく私は首に片手をあてたまま入室し、アイドルの皆さんと顔を合わせたのでした。
私はクセでよく首に手を当てていますが、その場所は首の後ろであって首の横ではなく、常にその体勢なわけでもありません。
最初の方こそアイドルの皆さんは少し不思議そうな顔をされるぐらいであったのが、私が終始手を当てたままなことに違和感を強めていきます。
――それとこれはきっと気のせいなのでしょうが、渋谷さんの視線が冷たいというか、重いような気もしました。
いつ誰が私の首について言及してもおかしくない雰囲気となった頃に、皆さん移動の時間となり助かりましたがこのままではいけません。
医務室で絆創膏かシップをもらって隠すことにしましょう。
キスマークを手で覆ったまま医務室に向かっていますと、十字路から紺色のスカートがわずかにのぞいて見えました。
「……これは?」
見覚えのある色と布地に立ち止まりよくよく観察すると、影が中央に浮かび上がっていることに気がつけました。
太陽の角度から推測するにその人物は小柄で、髪の一部が外にハネています。
何となくではありますがこのまま進めむと起きることが予想できました。
私は歩みを再開して十字路に近づきます。
そしていざ十字路にさしかかる手前で足踏みをすると――
「とおおおーっっってアレレ!!?」
私の一歩先の空間めがけて輿水さんが飛び込みました。
何かするつもりだろうとは思っていましたが、これは予想外です。
このままでは輿水さんが顔ないしは胸から落ちると慌てて支えました。
「ハァ……ハァ……こ、怖くなんかなかったですからね? なんせボクはカワイイうえにコワイイんですから!」
「は、はい」
「あ、ところでプロデューサーさん! なぜ途中で立ち止まったんですか!? ボクが隠れているって気づいたんですか?」
「ええ。スカートの裾が見てまして」
「はあ。まったく、本当にプロデューサーさんはボクがいないとダメなんですねえ」
いったいどのような理由でダメだしをされるのか。
輿水さんの輿水さんによる輿水さんのための理論は聞いていて微笑ましいものばかりで、担当であった頃は業務の忙しい日などに癒しとして重宝させてもらいました。
傾聴するために父親が子どもにする飛行機ごっこのような体勢で支えていた輿水さんを、ゆっくりと廊下に降ろします。
輿水幸子
http://blog-imgs-50.fc2.com/k/a/k/kakurewota710/597799307.jpg
48: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:48:38.31 ID:NfQFDkL+0
「あ、どうも。いいですか? このカワイイボクにいたずらされるというのは、とても幸せなことなんですよ。途中で気づいたのなら、むしろ喜んで受け止めるべきでしょう」
その場合、私が輿水さんに抱きつかれることになったのですが。
「輿水さん。貴女はアイドル、いえそれ以前に年頃の女の子なんです。みだりに男の人に抱きついたりなどしてはいけません」
「フフーン。これはプロデューサーさんのためにしたことなんです」
「私の?」
これはまたどんな理論なのかと、腰をかがめて聞くこととしました。
「プロデューサーさんが近頃、考えなくていいことを考えていると友紀さんからうかがいました。なんでも女性にアプローチすることに慣れようとしているとか」
……どうやら、姫川さん経由で私の事情を把握されているようです。
ただ姫川さんはだいぶ酔っておられたので、どのような伝わり方をしているのか少しばかり不安を覚えます。
「プロデューサーさんは仕事が第一だと考えているふしがあったので、結婚願望があると判明したのはいいことです。でも女性へのアプローチを学んだり、他の女性と親しくなろうとするのは努力の方向を間違っています」
「正攻法だと思いますが……」
「でもプロデューサーさんには当てはまりません。な・ぜ・な・ら!」
胸に手を当て上体をそらし、誇らしげで、それでいて愛らしさも持つ“カワイイ”笑顔を咲かせた。
「プロデューサーさんは元とはいえボクのプロデューサーさんなんですよ? 他の人たちと違って、世界一カワイイボクと毎日触れ合えるんです。世界一カワイイボクを見つめ、応援し、カワイがる。それ以上に女性に慣れることなんかこの世に存在しません」
「なるほど……これは盲点でした」
彼女の自信は希少だ。
本当は決して気が強いほうではありませんが、それでも自分が“カワイイ”から決してくじけない。
ともすれば傲慢へとつながり道を誤りかねませんが、本当は気が弱い彼女は悩みを抱える仲間に敏感で、これまた“カワイイ”から支えようとする。
仲間を助け、その仲間から愛され支えられている以上、彼女が道を誤ることは決してありません。
「ボクの担当を離れて一年経つとはいえ、こんな単純で明快なことを忘れるなんて本当にダメダメなんですから。それを体で思い出させようと考えて、不意を衝いて抱きついてあげようと――――なんですか、それ?」
あの輿水さんの笑顔が凍りつきました。
何事かと思えば、その視線は私の首――キスマークにあてられています。
そうでした。
輿水さんが怪我をしてはいけないと慌てて以降、キスマークを隠すことをすっかり忘れていました。
「……違い、ますよね? それって、話に聞くキスマークというものなんかじゃ……ないですよね? ボクのプロデューサーさんに、ボクのものじゃない証があるなんて……何かの間違いですよね?」
「こ、輿水さん?」
その顔は驚きによるものか強張り、かろうじて笑顔の名残りがある。それなのに蒼ざめ、唇はわなわなと震え、キスマークに向けられた指は狙いが定まり切れていない。
何より見ていて辛いのはその眼だ。
あれほど自信に満ち溢れていたのに、今は世界中から見捨てられたように弱々しい光と化している。
何が彼女をここまで動揺させているのか。
彼女は私のことを呼ぶときはよく頭に「ボクの」とつけていました。
こんな私を頼りにしてくれているとは思っていましたが、これはいくらなんでも予想外です。
その場合、私が輿水さんに抱きつかれることになったのですが。
「輿水さん。貴女はアイドル、いえそれ以前に年頃の女の子なんです。みだりに男の人に抱きついたりなどしてはいけません」
「フフーン。これはプロデューサーさんのためにしたことなんです」
「私の?」
これはまたどんな理論なのかと、腰をかがめて聞くこととしました。
「プロデューサーさんが近頃、考えなくていいことを考えていると友紀さんからうかがいました。なんでも女性にアプローチすることに慣れようとしているとか」
……どうやら、姫川さん経由で私の事情を把握されているようです。
ただ姫川さんはだいぶ酔っておられたので、どのような伝わり方をしているのか少しばかり不安を覚えます。
「プロデューサーさんは仕事が第一だと考えているふしがあったので、結婚願望があると判明したのはいいことです。でも女性へのアプローチを学んだり、他の女性と親しくなろうとするのは努力の方向を間違っています」
「正攻法だと思いますが……」
「でもプロデューサーさんには当てはまりません。な・ぜ・な・ら!」
胸に手を当て上体をそらし、誇らしげで、それでいて愛らしさも持つ“カワイイ”笑顔を咲かせた。
「プロデューサーさんは元とはいえボクのプロデューサーさんなんですよ? 他の人たちと違って、世界一カワイイボクと毎日触れ合えるんです。世界一カワイイボクを見つめ、応援し、カワイがる。それ以上に女性に慣れることなんかこの世に存在しません」
「なるほど……これは盲点でした」
彼女の自信は希少だ。
本当は決して気が強いほうではありませんが、それでも自分が“カワイイ”から決してくじけない。
ともすれば傲慢へとつながり道を誤りかねませんが、本当は気が弱い彼女は悩みを抱える仲間に敏感で、これまた“カワイイ”から支えようとする。
仲間を助け、その仲間から愛され支えられている以上、彼女が道を誤ることは決してありません。
「ボクの担当を離れて一年経つとはいえ、こんな単純で明快なことを忘れるなんて本当にダメダメなんですから。それを体で思い出させようと考えて、不意を衝いて抱きついてあげようと――――なんですか、それ?」
あの輿水さんの笑顔が凍りつきました。
何事かと思えば、その視線は私の首――キスマークにあてられています。
そうでした。
輿水さんが怪我をしてはいけないと慌てて以降、キスマークを隠すことをすっかり忘れていました。
「……違い、ますよね? それって、話に聞くキスマークというものなんかじゃ……ないですよね? ボクのプロデューサーさんに、ボクのものじゃない証があるなんて……何かの間違いですよね?」
「こ、輿水さん?」
その顔は驚きによるものか強張り、かろうじて笑顔の名残りがある。それなのに蒼ざめ、唇はわなわなと震え、キスマークに向けられた指は狙いが定まり切れていない。
何より見ていて辛いのはその眼だ。
あれほど自信に満ち溢れていたのに、今は世界中から見捨てられたように弱々しい光と化している。
何が彼女をここまで動揺させているのか。
彼女は私のことを呼ぶときはよく頭に「ボクの」とつけていました。
こんな私を頼りにしてくれているとは思っていましたが、これはいくらなんでも予想外です。
49: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/18(土) 10:49:15.94 ID:NfQFDkL+0
「プロデューサーさん……」
「……なんで、しょうか」
「それ……よく見たいんです。すみませんが膝を着いてもらえますか」
「はっ、はい」
14歳とは思えぬ感情の起伏が無い平坦な声に空恐ろしさを覚え、言われるがままに膝を着きます。
彼女は私の肩と首をつかみ、ゆっくりとキスマークを観察しようとのぞきこみ――
「んちゅ…………んんっ」
「!?」
首に走るなめらかで暖かな感触。
それが何であるのか、前の経験から間をおいてないため今度はすぐにわかりました。
今朝の二の舞になってはならないと慌てて立ち上がります。
しかし輿水さんはその細い腕で精いっぱい私をつかんでいたため、輿水さんの軽い体も浮き上がって着いてきてしまいました。
それなのに輿水さんは、自分の体が浮き上がったことなどまったく気にすることなく、一心不乱に私に吸い付き続けるのです。
絶えず奔るくすぐったさと否定しえない快楽。
その二つを、自分にあそこまで自信を持つアイドルが、プロデューサーである私にここまで夢中になっているという背徳感が増幅させる。
耐え切れず膝を着いたところで、ようやく輿水さんは私を解放してくれました。
「ちゅっ……ちゅぱ……ふぅ。キスマークは……半分しか上塗りできていませんね。もう一度――」
「ここ、輿水さん。落ち着かれてください」
手を伸ばしてきた輿水さんから、膝を着いたままなのに転びそうになりながら距離を取ります。
「……フフーン。まあこのボクにここまでしてもらうなんて、プロデューサーさんには少し刺激が強すぎたようですね」
そんな私の姿が面白かったからか、あるいは彼女が気に入らなかったキスマークを半分でも消すことができたからか、いくぶんか機嫌を直されたようです。
「現場に向かう時間ですし、今日はこのぐらいにしておいてあげます。鏡を見るたび、手で押さえるたびに、カワイイカワイイボクのことを思い出してください。そうすれば他の女性にアプローチしようだなんていう無駄な考えをしないですみますから」
クルリと背を向けそう告げる彼女の横顔は、頬は淡く紅に染まり、唇に添えられた人差し指は綿密な計算結果で弾き出されたかのように魅せる最適な位置にあり、細められた濡れた瞳は長いまつ毛で飾られている。
――立ち去るその姿は、カワイイと表現するにはあまりにも妖艶でした。
「……なんで、しょうか」
「それ……よく見たいんです。すみませんが膝を着いてもらえますか」
「はっ、はい」
14歳とは思えぬ感情の起伏が無い平坦な声に空恐ろしさを覚え、言われるがままに膝を着きます。
彼女は私の肩と首をつかみ、ゆっくりとキスマークを観察しようとのぞきこみ――
「んちゅ…………んんっ」
「!?」
首に走るなめらかで暖かな感触。
それが何であるのか、前の経験から間をおいてないため今度はすぐにわかりました。
今朝の二の舞になってはならないと慌てて立ち上がります。
しかし輿水さんはその細い腕で精いっぱい私をつかんでいたため、輿水さんの軽い体も浮き上がって着いてきてしまいました。
それなのに輿水さんは、自分の体が浮き上がったことなどまったく気にすることなく、一心不乱に私に吸い付き続けるのです。
絶えず奔るくすぐったさと否定しえない快楽。
その二つを、自分にあそこまで自信を持つアイドルが、プロデューサーである私にここまで夢中になっているという背徳感が増幅させる。
耐え切れず膝を着いたところで、ようやく輿水さんは私を解放してくれました。
「ちゅっ……ちゅぱ……ふぅ。キスマークは……半分しか上塗りできていませんね。もう一度――」
「ここ、輿水さん。落ち着かれてください」
手を伸ばしてきた輿水さんから、膝を着いたままなのに転びそうになりながら距離を取ります。
「……フフーン。まあこのボクにここまでしてもらうなんて、プロデューサーさんには少し刺激が強すぎたようですね」
そんな私の姿が面白かったからか、あるいは彼女が気に入らなかったキスマークを半分でも消すことができたからか、いくぶんか機嫌を直されたようです。
「現場に向かう時間ですし、今日はこのぐらいにしておいてあげます。鏡を見るたび、手で押さえるたびに、カワイイカワイイボクのことを思い出してください。そうすれば他の女性にアプローチしようだなんていう無駄な考えをしないですみますから」
クルリと背を向けそう告げる彼女の横顔は、頬は淡く紅に染まり、唇に添えられた人差し指は綿密な計算結果で弾き出されたかのように魅せる最適な位置にあり、細められた濡れた瞳は長いまつ毛で飾られている。
――立ち去るその姿は、カワイイと表現するにはあまりにも妖艶でした。
93: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:06:14.34 ID:WJENpIb/0
⑥むう、やりますね。楓さんの次に高得点です
「どうしたのものでしょうか……」
デスクに両肘を乗せ、頭を抱え込みます。
高垣さんたちに相談に乗ってもらい軽減した悩みは、元の倍以上に膨れ上がりました。
「お二人とも……本気なのでしょうか?」
キスマークを隠すために貼ったシップをなでながら考える。
二人ともまだ子どもで親愛と愛情を取り違えており、成長すれば自然と本当に好きな人ができると思っていますが……それは楽観的なのかもしれません。
白坂さんは三年どころか五年後でも今のままかもしれず、輿水さんの独占欲は子どもではなく女性のものだったのではないでしょうか。
「……っと。今は勤務中でしたね」
今日中に上に回さなければならない書類が目にとまり、いったん考えるのをやめます。
ついに仕事にまで影響が出始めるとは。
気持ちを入れ替えるためにコーヒーでも飲もうかと席を立ちあがりかけた時、ドアがノックされました。
「Pチャン、いるかにゃ?」
「前川さん? ダンスレッスンの後に、衣装合わせの予定だったはずですが」
「衣装合わせが少しずれるって」
「そうでしたか」
私に連絡が来ていませんが、前川さんは衣装合わせで今日は終わりなので、少し遅れても連絡はいらないと判断してのことでしょう。
「それでちょっと時間ができちゃったから、Pチャンの様子を見にきたんだけど……首を押さえてたのは寝違えたからかにゃ?」
「え、ええ! そうなんです。心配をおかけしていまい申し訳ありません」
やはりキスマークを隠し続けていたのは変に思われていたようです。
しかしわずかに空いた時間で様子を見にきてくれるとは……ありがたいと同時に、理由が理由なだけに申し訳ありません。
そんな風に恥じ入っていますと、前川さんが無言で――
「じー」
――無言ではなく、口にしながら私を見つめています。
「前川さん?」
「……Pチャン、顔色が悪いにゃ。寝不足というより、なんだか悩み事を抱えているみたいだにゃ」
「……っ」
「やっぱり。カマかけだったけど、本当に悩んでいたんだにゃ」
動揺した私の様子から、あっさりと確信がとれたようです。
見抜かれた恥ずかしさから首筋に手をやると、前川さんが困ったように笑いました。
「みくに話して……って言ったら、もっとPチャンを困らせそうだから言わないにゃ」
前川みく
http://s.eximg.jp/exnews/feed/Appget/Appget_News_154064_10.png
「どうしたのものでしょうか……」
デスクに両肘を乗せ、頭を抱え込みます。
高垣さんたちに相談に乗ってもらい軽減した悩みは、元の倍以上に膨れ上がりました。
「お二人とも……本気なのでしょうか?」
キスマークを隠すために貼ったシップをなでながら考える。
二人ともまだ子どもで親愛と愛情を取り違えており、成長すれば自然と本当に好きな人ができると思っていますが……それは楽観的なのかもしれません。
白坂さんは三年どころか五年後でも今のままかもしれず、輿水さんの独占欲は子どもではなく女性のものだったのではないでしょうか。
「……っと。今は勤務中でしたね」
今日中に上に回さなければならない書類が目にとまり、いったん考えるのをやめます。
ついに仕事にまで影響が出始めるとは。
気持ちを入れ替えるためにコーヒーでも飲もうかと席を立ちあがりかけた時、ドアがノックされました。
「Pチャン、いるかにゃ?」
「前川さん? ダンスレッスンの後に、衣装合わせの予定だったはずですが」
「衣装合わせが少しずれるって」
「そうでしたか」
私に連絡が来ていませんが、前川さんは衣装合わせで今日は終わりなので、少し遅れても連絡はいらないと判断してのことでしょう。
「それでちょっと時間ができちゃったから、Pチャンの様子を見にきたんだけど……首を押さえてたのは寝違えたからかにゃ?」
「え、ええ! そうなんです。心配をおかけしていまい申し訳ありません」
やはりキスマークを隠し続けていたのは変に思われていたようです。
しかしわずかに空いた時間で様子を見にきてくれるとは……ありがたいと同時に、理由が理由なだけに申し訳ありません。
そんな風に恥じ入っていますと、前川さんが無言で――
「じー」
――無言ではなく、口にしながら私を見つめています。
「前川さん?」
「……Pチャン、顔色が悪いにゃ。寝不足というより、なんだか悩み事を抱えているみたいだにゃ」
「……っ」
「やっぱり。カマかけだったけど、本当に悩んでいたんだにゃ」
動揺した私の様子から、あっさりと確信がとれたようです。
見抜かれた恥ずかしさから首筋に手をやると、前川さんが困ったように笑いました。
「みくに話して……って言ったら、もっとPチャンを困らせそうだから言わないにゃ」
前川みく
http://s.eximg.jp/exnews/feed/Appget/Appget_News_154064_10.png
94: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:07:38.66 ID:WJENpIb/0
確かに人に話せる悩みではありません。
まして、相手が同じ未成年のアイドルとなればなおのこと。
「けど覚えていて欲しいのは、みくたちのためにPチャンが一生懸命なように、みくたちだってPチャンのためになりたいんだよ。Pチャンが言ってくれれば……ううん、言わなくたっ
て力になるつもりなんだから」
「前川さん……」
悩みを話したわけではない。
解決策が見つかったわけでもない。
それでも自分を味方してくれるというてらいの無い真っ直ぐな宣言は、落ち込んでいた私の心に活力を与える息吹きでした。
「まあそれは別としてにゃ」
「ええと……どうされましたか」
つい先ほどの雰囲気とは打って変わって、半眼でこちらを見つめる前川さんは尻尾をパタンパタンと振る不機嫌な猫のようです。
「Pチャンは周りの人ばかり心配して、自分のことをおろそかにしがちだにゃ。それに押しに弱いところもあるし、相手のことばかり考えていつの間にかとんでもない目にあいそうで不安だにゃ」
「は、はあ……」
「みくがしっかりしていないと、女の娘たちから次々とセクハラされたり、徹夜明けで熟睡している寝込みを襲われそうな気がするにゃ」
そのようなことありえませんと否定したいものの、なぜでしょうか。
一瞬リーディングシュタイナーが発動しかけたような気が。
「そんなPチャンにはPチャンのことを第一にする人……面倒見がいい女の娘を見つけるべきだにゃ!」
「は、はあ」
「あれ? なんだか乗り気じゃないにゃ。Pチャンは結婚するつもりはないのかにゃ?」
「い、いえ。そういうわけでは。ただどうすれば私などがそのような女性と巡り合えるだろうかと」
結婚という言葉は今悩まされている一つだと明かすわけにもいかず、慌てて――しかし以前から思っていた不安を口にしました。
「うーん。Pチャンは優しいし顔は怖いけどカッコイイし、背も高いから出会いの場に行けばいくらでも相手の方からやってくるとみくは思うにゃ。だから問題なのは、より取り見取りな中で、Pチャンが自分に合う女性を選べるかだにゃ」
婚活パーティに参加したことはないのですが、耳にする噂は参加することをためらわせるものです。
噂はしょせん噂だと置くとしても、短時間の出会いで相手を見抜ける自信はありません。
アイドルとしての可能性についてなら多少あるのですが。
「ここはみくがPチャンの結婚相手に相応しい条件を挙げていくにゃ!」
まして、相手が同じ未成年のアイドルとなればなおのこと。
「けど覚えていて欲しいのは、みくたちのためにPチャンが一生懸命なように、みくたちだってPチャンのためになりたいんだよ。Pチャンが言ってくれれば……ううん、言わなくたっ
て力になるつもりなんだから」
「前川さん……」
悩みを話したわけではない。
解決策が見つかったわけでもない。
それでも自分を味方してくれるというてらいの無い真っ直ぐな宣言は、落ち込んでいた私の心に活力を与える息吹きでした。
「まあそれは別としてにゃ」
「ええと……どうされましたか」
つい先ほどの雰囲気とは打って変わって、半眼でこちらを見つめる前川さんは尻尾をパタンパタンと振る不機嫌な猫のようです。
「Pチャンは周りの人ばかり心配して、自分のことをおろそかにしがちだにゃ。それに押しに弱いところもあるし、相手のことばかり考えていつの間にかとんでもない目にあいそうで不安だにゃ」
「は、はあ……」
「みくがしっかりしていないと、女の娘たちから次々とセクハラされたり、徹夜明けで熟睡している寝込みを襲われそうな気がするにゃ」
そのようなことありえませんと否定したいものの、なぜでしょうか。
一瞬リーディングシュタイナーが発動しかけたような気が。
「そんなPチャンにはPチャンのことを第一にする人……面倒見がいい女の娘を見つけるべきだにゃ!」
「は、はあ」
「あれ? なんだか乗り気じゃないにゃ。Pチャンは結婚するつもりはないのかにゃ?」
「い、いえ。そういうわけでは。ただどうすれば私などがそのような女性と巡り合えるだろうかと」
結婚という言葉は今悩まされている一つだと明かすわけにもいかず、慌てて――しかし以前から思っていた不安を口にしました。
「うーん。Pチャンは優しいし顔は怖いけどカッコイイし、背も高いから出会いの場に行けばいくらでも相手の方からやってくるとみくは思うにゃ。だから問題なのは、より取り見取りな中で、Pチャンが自分に合う女性を選べるかだにゃ」
婚活パーティに参加したことはないのですが、耳にする噂は参加することをためらわせるものです。
噂はしょせん噂だと置くとしても、短時間の出会いで相手を見抜ける自信はありません。
アイドルとしての可能性についてなら多少あるのですが。
「ここはみくがPチャンの結婚相手に相応しい条件を挙げていくにゃ!」
95: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:08:13.11 ID:WJENpIb/0
前川さんは胸を張りながら人差し指を元気よく天に向けました。
その動きで揺れてしまった膨らみから慌てて目をそらします。
「私に相応しい条件……ですか。聞かせてもらえますか」
「まず第一に、さっきも言ったけど面倒見がいいこと! そして第二は当然、猫好きなこと! 猫好きに悪い人はいないから」
「なるほど」
前川さんらしい意見に思わず笑ってしまいます。
猫に限定しなくても動物好きな女性には好感が抱けるので、なかなかいい着眼なのかもしれません。
「そして! Pチャンの結婚相手に相応しい条件があと一つあるんだにゃ!」
「それはなんでしょうか?」
最後の一つはよほど重要な事なのか、それとも自信があるからなのか。
ためをつくってもったいつけます。
世話焼き、猫好きときましたが、いったい何が取りを務めるのでしょうか。
「最後は!」
「最後は?」
「おっぱいが大きいこと!」
「…………は、はい?」
耳を疑い首をかしげますが、前川さんは気にせず続けます。
「中身が一番重要だけど、性癖に素直なことにこしたことはないにゃ。外も中も好みなら、夫婦円満長続き間違いなし!」
「あの……前川さん?」
「ん? どうしたのPチャン?」
「その……性癖に素直であることが重要であるかは置いておきまして。なぜ、胸が大きい女性を押すのですか?」
下手に扱えば潰れてしまう繊細な紙細工のような質問を、喉の渇きを覚えながらかろうじて紡ぎ出し――
「え? だってPチャン巨乳好きでしょ」
――それを猫は障子を破って遊ぶのは自分の特権といわんばかりの無遠慮さで、一撃で一切合財を終わらせた。
その動きで揺れてしまった膨らみから慌てて目をそらします。
「私に相応しい条件……ですか。聞かせてもらえますか」
「まず第一に、さっきも言ったけど面倒見がいいこと! そして第二は当然、猫好きなこと! 猫好きに悪い人はいないから」
「なるほど」
前川さんらしい意見に思わず笑ってしまいます。
猫に限定しなくても動物好きな女性には好感が抱けるので、なかなかいい着眼なのかもしれません。
「そして! Pチャンの結婚相手に相応しい条件があと一つあるんだにゃ!」
「それはなんでしょうか?」
最後の一つはよほど重要な事なのか、それとも自信があるからなのか。
ためをつくってもったいつけます。
世話焼き、猫好きときましたが、いったい何が取りを務めるのでしょうか。
「最後は!」
「最後は?」
「おっぱいが大きいこと!」
「…………は、はい?」
耳を疑い首をかしげますが、前川さんは気にせず続けます。
「中身が一番重要だけど、性癖に素直なことにこしたことはないにゃ。外も中も好みなら、夫婦円満長続き間違いなし!」
「あの……前川さん?」
「ん? どうしたのPチャン?」
「その……性癖に素直であることが重要であるかは置いておきまして。なぜ、胸が大きい女性を押すのですか?」
下手に扱えば潰れてしまう繊細な紙細工のような質問を、喉の渇きを覚えながらかろうじて紡ぎ出し――
「え? だってPチャン巨乳好きでしょ」
――それを猫は障子を破って遊ぶのは自分の特権といわんばかりの無遠慮さで、一撃で一切合財を終わらせた。
96: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:09:18.31 ID:WJENpIb/0
「みくや未央チャンの谷間が見える時、一瞬食い入るように見てから慌てて目をそらして、罰が悪そうにしながら目線を首から上以上に必死に固定してるにゃ」
さっきだってみくの胸から慌てて目をそらしてたにゃと、あっさりと気づいていたことをばらされ、血の気が凍り、生汗が噴き出る。
アイドルをそのような目で見てはならないと常日頃から自戒していました。
まして私が預かっているアイドル達は皆未成年なので特に気をつけていましたが……頻度を減らすことはできても、ゼロにすることだけはどうしてもできません。
せめてアイドルの皆さんが不快感を覚えないようにと努力し続けましたが……私がイヤらしい目で見ていることは、とうに見抜かれていたとは。
「まことに……申し訳ありませんでした」
「にゃにゃ!? どうしたんだにゃPチャン!」
机に頭がぶつかるまで頭を下げ、ただ許しを請うしかできません。
「その……ちなみに、前川さん以外に気づいておられる方は?」
「えっ。きらりチャンとかな子チャンはどうかなー。蘭子チャンはまったく気づいてないけど、未央チャンは気づいていてわざとPチャンに……ってPチャン? 言っておくけどみくたち、別に不快だなんてそんなことちっとも思ってないから」
「お気遣いいただき……ありがとう、ございます」
「だーかーらー、そういう意味じゃなくって」
両頬をパチンと手で軽く叩かれ、そのまま下がっていた頭を持ち上げられます。
机の向かい側から前のめりの姿勢で私をつかむ前川さんと、目と鼻と距離で見つめ合うことになりました。
「みくたちはオシャレのために胸元が開いた服とか着ているけど、見られるのがそんなに嫌ならオシャレしないにゃ。というかPチャンがみくたちを見る視線なんて、学校のエロ男子や電車のスケベ親父に比べれば見ているうちに入らないにゃ。そ・れ・に♪」
前川さんは楽しそうに笑うと前のめりの姿勢のまま、洋服の胸元を引っ張ってみせます。
見てはならないと顔を横にそむける一瞬、今にもあふれそうな柔らかな膨らみが脳裏に刻まれてしまいました。
「ふふーん、やっぱりPチャンは巨乳好きだにゃ。カワイイ子猫ちゃんを食べたいって我慢する野獣の目だったにゃ」
煮るなり焼くなり好きにしてくださいと、白旗を挙げ全面降伏したい気持ちです。
自暴自棄のあまり、子猫と表現できるようなサイズではなかったとうっかり漏らしそうになるほどに。
「Pチャンはみくたちに悪いことしたって思っているかもしれないけど、みくたちはアイドルだし、そうでなくっても男がそういった生き物でそんな目をするのは仕方ないってのはこれまでの人生でとっくにわりきっているにゃ。まあ……見る相手と見方ってものもあるけど」
視線をそらしているのでわかりませんが、そのうんざりとした口調からよほど変な目に遭われたこともあるのでしょう。
しかしすぐに気を取り直し、他所を向く私の頬を指先でつつきます。
「Pチャンが相手なら、今みたいに近くで見られても気持ち悪くもなんともないにゃ。むしろPチャンがうろたえる姿が見れて楽しいぐらいだから、すぐに目をそらさないでもっと見てもいいんだよ?」
「前川さん……励ましていただけるのは嬉しいのですが、男をあまり勘違いさせる発言をすると危険な目に遭いかねないので気をつけてください」
もし前川さんが他の男性にも似たようなことをして、その男性が理性の効かないタイプだとすれば……想像するだけで恐ろしい。
「相手は当然選ぶよ。Pチャンとか、PチャンとかPチャンとか」
「信頼していただけるのは嬉しいのですが……」
「確かに信頼しているけど、Pチャンが考えている信頼とは違うんだけどにゃあ」
「……それは?」
「まあとにかく! Pチャンの結婚相手に相応しい条件をまとめるにゃ」
さっきだってみくの胸から慌てて目をそらしてたにゃと、あっさりと気づいていたことをばらされ、血の気が凍り、生汗が噴き出る。
アイドルをそのような目で見てはならないと常日頃から自戒していました。
まして私が預かっているアイドル達は皆未成年なので特に気をつけていましたが……頻度を減らすことはできても、ゼロにすることだけはどうしてもできません。
せめてアイドルの皆さんが不快感を覚えないようにと努力し続けましたが……私がイヤらしい目で見ていることは、とうに見抜かれていたとは。
「まことに……申し訳ありませんでした」
「にゃにゃ!? どうしたんだにゃPチャン!」
机に頭がぶつかるまで頭を下げ、ただ許しを請うしかできません。
「その……ちなみに、前川さん以外に気づいておられる方は?」
「えっ。きらりチャンとかな子チャンはどうかなー。蘭子チャンはまったく気づいてないけど、未央チャンは気づいていてわざとPチャンに……ってPチャン? 言っておくけどみくたち、別に不快だなんてそんなことちっとも思ってないから」
「お気遣いいただき……ありがとう、ございます」
「だーかーらー、そういう意味じゃなくって」
両頬をパチンと手で軽く叩かれ、そのまま下がっていた頭を持ち上げられます。
机の向かい側から前のめりの姿勢で私をつかむ前川さんと、目と鼻と距離で見つめ合うことになりました。
「みくたちはオシャレのために胸元が開いた服とか着ているけど、見られるのがそんなに嫌ならオシャレしないにゃ。というかPチャンがみくたちを見る視線なんて、学校のエロ男子や電車のスケベ親父に比べれば見ているうちに入らないにゃ。そ・れ・に♪」
前川さんは楽しそうに笑うと前のめりの姿勢のまま、洋服の胸元を引っ張ってみせます。
見てはならないと顔を横にそむける一瞬、今にもあふれそうな柔らかな膨らみが脳裏に刻まれてしまいました。
「ふふーん、やっぱりPチャンは巨乳好きだにゃ。カワイイ子猫ちゃんを食べたいって我慢する野獣の目だったにゃ」
煮るなり焼くなり好きにしてくださいと、白旗を挙げ全面降伏したい気持ちです。
自暴自棄のあまり、子猫と表現できるようなサイズではなかったとうっかり漏らしそうになるほどに。
「Pチャンはみくたちに悪いことしたって思っているかもしれないけど、みくたちはアイドルだし、そうでなくっても男がそういった生き物でそんな目をするのは仕方ないってのはこれまでの人生でとっくにわりきっているにゃ。まあ……見る相手と見方ってものもあるけど」
視線をそらしているのでわかりませんが、そのうんざりとした口調からよほど変な目に遭われたこともあるのでしょう。
しかしすぐに気を取り直し、他所を向く私の頬を指先でつつきます。
「Pチャンが相手なら、今みたいに近くで見られても気持ち悪くもなんともないにゃ。むしろPチャンがうろたえる姿が見れて楽しいぐらいだから、すぐに目をそらさないでもっと見てもいいんだよ?」
「前川さん……励ましていただけるのは嬉しいのですが、男をあまり勘違いさせる発言をすると危険な目に遭いかねないので気をつけてください」
もし前川さんが他の男性にも似たようなことをして、その男性が理性の効かないタイプだとすれば……想像するだけで恐ろしい。
「相手は当然選ぶよ。Pチャンとか、PチャンとかPチャンとか」
「信頼していただけるのは嬉しいのですが……」
「確かに信頼しているけど、Pチャンが考えている信頼とは違うんだけどにゃあ」
「……それは?」
「まあとにかく! Pチャンの結婚相手に相応しい条件をまとめるにゃ」
97: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:10:09.44 ID:WJENpIb/0
何が違うのかと訊きたいところですが、あまり話したくないことなのか強引に話を戻されました。
まあ信頼はしてくれているとのことなので、いいことなのでしょう。
「えっと、面倒見がいいこと、猫好きであること、そしておっぱいが大きなこと!」
「……三つ目も加えるのですか」
「当然にゃ! あ……でもこれって」
もはやどこか遠くの世界のように感じながら、かろうじて抗議の意思を示すもののあっさりと流され悲しみを噛みしめていると、前川さんが顔をうつむかせながら体をくねらせ始めました。
「Pチャンの理想の結婚相手って……みくになるんだね」
「いえ、その……」
雲行きが怪しくなってきた、まさか前川さんまでと一瞬思ったものの、どうやらそれはうぬぼれが過ぎたようです。
「ごめんねPチャン。みくはトップアイドルになる夢があるから、Pチャンと結婚するわけにはいかにゃいの。みくのおっぱいを見るだけで我慢してほしいにゃ」
告白したわけでもないのに振られはしたものの、ここ最近の妙に緊迫した流れとは違い正直安心できました。
「それは残念です。前川さんと結婚できれば幸せな毎日だったでしょうに」
「あ、でもみくがトップアイドルになった後なら話は別にゃ! Pチャン自身のためにもみくを一日も早くトップアイドルにするんだにゃ」
「ええ、今まで以上に頑張らせてもらいます」
「そ、それはダメにゃー。Pチャンが無理して体壊したらトップアイドルになっても結婚してあげないから!」
自然と頬がほころび、ついには肩が震え始めてしまいました。
私の結婚について、ここまで愉快でリラックスしながら話せたのは初めてかもしれません。
「はい。ではほどほどに頑張らせていただきます」
「よし! じゃあみくはそろそろ衣装合わせに行ってくるから」
そう言うと前川さんは軽快で、かつ機嫌の良い足どりで去って行きました。
今朝様子がおかしかった私の確認ができて、心配の種が無くなかったからでしょう。
私の方は以前として重大な悩みを抱えたままですが、前川さんとの会話で幾分か気がまぎれました。
仕事に集中することにしましょう。
「フフ……フフフフフフフ」
「トップアイドルになったら……約束したにゃ♪」
まあ信頼はしてくれているとのことなので、いいことなのでしょう。
「えっと、面倒見がいいこと、猫好きであること、そしておっぱいが大きなこと!」
「……三つ目も加えるのですか」
「当然にゃ! あ……でもこれって」
もはやどこか遠くの世界のように感じながら、かろうじて抗議の意思を示すもののあっさりと流され悲しみを噛みしめていると、前川さんが顔をうつむかせながら体をくねらせ始めました。
「Pチャンの理想の結婚相手って……みくになるんだね」
「いえ、その……」
雲行きが怪しくなってきた、まさか前川さんまでと一瞬思ったものの、どうやらそれはうぬぼれが過ぎたようです。
「ごめんねPチャン。みくはトップアイドルになる夢があるから、Pチャンと結婚するわけにはいかにゃいの。みくのおっぱいを見るだけで我慢してほしいにゃ」
告白したわけでもないのに振られはしたものの、ここ最近の妙に緊迫した流れとは違い正直安心できました。
「それは残念です。前川さんと結婚できれば幸せな毎日だったでしょうに」
「あ、でもみくがトップアイドルになった後なら話は別にゃ! Pチャン自身のためにもみくを一日も早くトップアイドルにするんだにゃ」
「ええ、今まで以上に頑張らせてもらいます」
「そ、それはダメにゃー。Pチャンが無理して体壊したらトップアイドルになっても結婚してあげないから!」
自然と頬がほころび、ついには肩が震え始めてしまいました。
私の結婚について、ここまで愉快でリラックスしながら話せたのは初めてかもしれません。
「はい。ではほどほどに頑張らせていただきます」
「よし! じゃあみくはそろそろ衣装合わせに行ってくるから」
そう言うと前川さんは軽快で、かつ機嫌の良い足どりで去って行きました。
今朝様子がおかしかった私の確認ができて、心配の種が無くなかったからでしょう。
私の方は以前として重大な悩みを抱えたままですが、前川さんとの会話で幾分か気がまぎれました。
仕事に集中することにしましょう。
「フフ……フフフフフフフ」
「トップアイドルになったら……約束したにゃ♪」
98: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:11:04.48 ID:WJENpIb/0
⑦友達として応援するために、これは預からせてもらいます♪
前川さんが出られてから約一時間後。
私も書類の決裁をもらうために部屋を出て、戻ってきてみると部屋の中に先ほどまでなかった匂いがすることに気がつきました。
それはシャンプーや香水など、男が身にまとうのものとは違った甘い香り。
残り香にしては匂いがはっきりとしていますが、部屋に私以外は――
「ドーン! プロデューサー元気ィ!?」
「ほ、本田さん!?」
開けたドアの後ろに隠れていたのでしょうか。
死角から急に本田さんが抱きついてきました。
「はーい、未央ちゃんでーす! 今朝プロデューサー元気が無かったから……ん、今はちょっとマシかな? けどまだまだ足りないし、未央ちゃんが元気のおすそわけにきました!」
斜め後ろから抱きつかれたのでなんとか首をひねって本田さんの顔を見るのですが、いたずらが成功した喜びの中に私への気遣いもあって、怒るに怒れません。
とはいえ、若い女性が無暗に男に抱きつくのは止めなければ。
「本田さん……お気持ちは嬉しいですが、いったん離れてもらえませんか?」
「まあまあそう言わずに。元気が無い時はある人からもらうのが一番だよ。こんな風にね♪」
「……ッ!?」
ぐりぐりと頭をこすりつけてくるだけならいいのですが、問題はその柔らかで女性的な体を形が変わるのではと思うほど強く寄せてきていることです。
引き離そうにも後ろからなので、説得するか乱暴に振り払うかしかできません。
どうしたものかと悩んでいる時、違和感を覚えました。
その違和感は私の全身を硬直させるにあまりあり、後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃で視界がグニャリと歪みます。
「プロデューサー?」
私の様子がおかしいことに気がついた本田さんが心配げな声をあげます。
しかし私が気づいたことが杞憂でないのならば、心配されるのは私ではなく本田さんです。
私は固まってしまった喉をなんとか震わせ、確認しました。
「本田さん。その……たいへん失礼とは思いますが――」
背中に感じる柔らかな感触。
その中でも特に柔らかな双丘。
これが、少しばかり柔らかすぎた。
「――ブラジャーを、つけておられますか?」
望んだのは否定の言葉。
否定だけで終わらず、馬鹿にされて蔑まれ、変態扱いされても構わない。
それだけの覚悟を以って挑んだ問いの答えは。
「あ……アハハ~。気づかれちゃったか」
恥ずかしさを誤魔化す笑い声でした。
腕で前を覆い隠しながら、ようやく本田さんが私から離れます。
本田未央
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/w/watari800/20130814/20130814222411.jpg
前川さんが出られてから約一時間後。
私も書類の決裁をもらうために部屋を出て、戻ってきてみると部屋の中に先ほどまでなかった匂いがすることに気がつきました。
それはシャンプーや香水など、男が身にまとうのものとは違った甘い香り。
残り香にしては匂いがはっきりとしていますが、部屋に私以外は――
「ドーン! プロデューサー元気ィ!?」
「ほ、本田さん!?」
開けたドアの後ろに隠れていたのでしょうか。
死角から急に本田さんが抱きついてきました。
「はーい、未央ちゃんでーす! 今朝プロデューサー元気が無かったから……ん、今はちょっとマシかな? けどまだまだ足りないし、未央ちゃんが元気のおすそわけにきました!」
斜め後ろから抱きつかれたのでなんとか首をひねって本田さんの顔を見るのですが、いたずらが成功した喜びの中に私への気遣いもあって、怒るに怒れません。
とはいえ、若い女性が無暗に男に抱きつくのは止めなければ。
「本田さん……お気持ちは嬉しいですが、いったん離れてもらえませんか?」
「まあまあそう言わずに。元気が無い時はある人からもらうのが一番だよ。こんな風にね♪」
「……ッ!?」
ぐりぐりと頭をこすりつけてくるだけならいいのですが、問題はその柔らかで女性的な体を形が変わるのではと思うほど強く寄せてきていることです。
引き離そうにも後ろからなので、説得するか乱暴に振り払うかしかできません。
どうしたものかと悩んでいる時、違和感を覚えました。
その違和感は私の全身を硬直させるにあまりあり、後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃で視界がグニャリと歪みます。
「プロデューサー?」
私の様子がおかしいことに気がついた本田さんが心配げな声をあげます。
しかし私が気づいたことが杞憂でないのならば、心配されるのは私ではなく本田さんです。
私は固まってしまった喉をなんとか震わせ、確認しました。
「本田さん。その……たいへん失礼とは思いますが――」
背中に感じる柔らかな感触。
その中でも特に柔らかな双丘。
これが、少しばかり柔らかすぎた。
「――ブラジャーを、つけておられますか?」
望んだのは否定の言葉。
否定だけで終わらず、馬鹿にされて蔑まれ、変態扱いされても構わない。
それだけの覚悟を以って挑んだ問いの答えは。
「あ……アハハ~。気づかれちゃったか」
恥ずかしさを誤魔化す笑い声でした。
腕で前を覆い隠しながら、ようやく本田さんが私から離れます。
本田未央
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/w/watari800/20130814/20130814222411.jpg
99: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:13:17.92 ID:WJENpIb/0
「いやー、それがね? レッスンが終わった後になって、替えのブラ忘れてきたことに気づいちゃって。今洗濯して乾燥待ちなとろこなんだアハハハハ……ハハ。プ、プロデューサー?」
「なんでしょうか?」
「もしかして……怒ってる?」
「はい」
「ふぇぇ……即答だよぉ」
怒るにきまっています。
私だったからよかったものの、二人きりの状態でこのようなことをすれば襲われても文句が言えないではありませんか。
「本田さん、あちらに」
「は、はい……」
本田さんをうながし、パーテーションで部屋から区切られているソファに向かい合う形で座ります。
「いいですか本田さん。貴女はアイドル、いえアイドルであることを抜きにしても、魅力的な女性なのです」
例えば緒方さんなどはあれほど可愛らしいのに自覚や自信がなかったりしますが、本田さんは別の意味で自覚といいますか、危機感が足りないように思えます。
自分に魅力があることはわかっているのに、その魅力が何を引き起こすのかをわかっていないのではないでしょうか。
「若い貴女には時代錯誤に思えるかもしれませんが、女性に慎ましさが求められていたのは男尊女卑という一面以外にも、女性の身を守る意味合いもあったと私は考えます」
「身を守る……?」
「男という生き物は残念ながら、女性の美しい姿を見たり触れたりすると、途端にまともな判断ができなくなるのです。自制心が弱い者になると、そのまま犯罪に手を染めることもありえます」
そして若い時分は自制心が弱く、それに反比例するように衝動が強い。
会ったことの無い本田さんのクラスメイトを想像する。
彼らは普段どれだけの苦悩を抱えているのでしょうか。
クラスの密かなアイドルである彼女は毎日笑顔であいさつをしてくれるだけでなく、気軽に話しかけ、肩を叩くなど軽くではありますがボディタッチまでしてくれます。
ただそれだけでその日一日は幸せな気持ちになれていたのに、彼女は芸能界という遠い世界へと飛び去ってしまいました。
普段会える機会が減る代わりに、テレビや雑誌などプロの手によって普段とは違った彼女の魅力が演出されています。
間近で会える機会が減った胸の寂しさは、気がつくと勝手に手が自らのものを慰め、申し訳ないと思うものの手は止まらずかえって勢いが増し、画面で彼女の笑顔が映し出された瞬間に果ててしまう。
快楽の波が引くとあんなにも綺麗な彼女を想像で汚してしまった罪悪感で、知らずと涙が落ちる。
そして翌朝。
気持ちの整理がつかぬまま登校すると、笑顔で挨拶をしてくれる彼女の姿が。
その笑顔を見ながら果てたことを否応なく思い出し、その日以後彼女と目を合わせて話す事ができなくなり、ますます彼女が遠ざかる。
その隙間を埋めるように彼女を録画したメモリは増え、雑誌を買いそろえることに熱をあげる。
そんな堕ちていく日々の中、偶然校庭のすみで彼女と出くわす。
彼女はここ最近様子がおかしい彼のことが気になっていたようで、いい機会だとそのことについて尋ねる。
彼女は自分のことを気にかけてくれていた。
まともに話す機会が減ったというのに。
きっと彼女も俺のことを――
この場には自分たち以外に誰もいない。
近くには用具室があり、南京錠は昼間は開けっ放しだ。
快楽と罪悪感まみれの妄想を実現しようと、彼女の腕をつかみ取り――
「プロデューサー……深刻な顔しながら、私をネタにエッチなこと考えてない?」
「んんっ」
少し想像がいきすぎたようです。
本田さんの半眼に思わず目をそらし、自分でもわざとらしいとわかる咳が出てしまいました。
「なんでしょうか?」
「もしかして……怒ってる?」
「はい」
「ふぇぇ……即答だよぉ」
怒るにきまっています。
私だったからよかったものの、二人きりの状態でこのようなことをすれば襲われても文句が言えないではありませんか。
「本田さん、あちらに」
「は、はい……」
本田さんをうながし、パーテーションで部屋から区切られているソファに向かい合う形で座ります。
「いいですか本田さん。貴女はアイドル、いえアイドルであることを抜きにしても、魅力的な女性なのです」
例えば緒方さんなどはあれほど可愛らしいのに自覚や自信がなかったりしますが、本田さんは別の意味で自覚といいますか、危機感が足りないように思えます。
自分に魅力があることはわかっているのに、その魅力が何を引き起こすのかをわかっていないのではないでしょうか。
「若い貴女には時代錯誤に思えるかもしれませんが、女性に慎ましさが求められていたのは男尊女卑という一面以外にも、女性の身を守る意味合いもあったと私は考えます」
「身を守る……?」
「男という生き物は残念ながら、女性の美しい姿を見たり触れたりすると、途端にまともな判断ができなくなるのです。自制心が弱い者になると、そのまま犯罪に手を染めることもありえます」
そして若い時分は自制心が弱く、それに反比例するように衝動が強い。
会ったことの無い本田さんのクラスメイトを想像する。
彼らは普段どれだけの苦悩を抱えているのでしょうか。
クラスの密かなアイドルである彼女は毎日笑顔であいさつをしてくれるだけでなく、気軽に話しかけ、肩を叩くなど軽くではありますがボディタッチまでしてくれます。
ただそれだけでその日一日は幸せな気持ちになれていたのに、彼女は芸能界という遠い世界へと飛び去ってしまいました。
普段会える機会が減る代わりに、テレビや雑誌などプロの手によって普段とは違った彼女の魅力が演出されています。
間近で会える機会が減った胸の寂しさは、気がつくと勝手に手が自らのものを慰め、申し訳ないと思うものの手は止まらずかえって勢いが増し、画面で彼女の笑顔が映し出された瞬間に果ててしまう。
快楽の波が引くとあんなにも綺麗な彼女を想像で汚してしまった罪悪感で、知らずと涙が落ちる。
そして翌朝。
気持ちの整理がつかぬまま登校すると、笑顔で挨拶をしてくれる彼女の姿が。
その笑顔を見ながら果てたことを否応なく思い出し、その日以後彼女と目を合わせて話す事ができなくなり、ますます彼女が遠ざかる。
その隙間を埋めるように彼女を録画したメモリは増え、雑誌を買いそろえることに熱をあげる。
そんな堕ちていく日々の中、偶然校庭のすみで彼女と出くわす。
彼女はここ最近様子がおかしい彼のことが気になっていたようで、いい機会だとそのことについて尋ねる。
彼女は自分のことを気にかけてくれていた。
まともに話す機会が減ったというのに。
きっと彼女も俺のことを――
この場には自分たち以外に誰もいない。
近くには用具室があり、南京錠は昼間は開けっ放しだ。
快楽と罪悪感まみれの妄想を実現しようと、彼女の腕をつかみ取り――
「プロデューサー……深刻な顔しながら、私をネタにエッチなこと考えてない?」
「んんっ」
少し想像がいきすぎたようです。
本田さんの半眼に思わず目をそらし、自分でもわざとらしいとわかる咳が出てしまいました。
100: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:14:22.49 ID:WJENpIb/0
「と、ともかく。今のように付き合ってもいない男に、それもブラジャーもせずに抱きつくなど、もし私が我慢できずに手を出そうと考えたなら――」
「プロデューサー……手を出すの?」
うつむきながら本田さんがか細い声で尋ねます。
どう答えたものかしばし迷いました。
私はプロデューサーですから、アイドルに決して手など出しませんと答えたいのが本心です。
しかし本田さんに男性への正しい警戒心をもっていただくには、手を出しかねないと答えるべきでしょう。
たとえその結果私への信頼が損なわれるとしても……本田さんの身を案じるのでしたら、辛くともそうしなければ。
「……今回は我慢できましたが、今後もこのようなことが続くようであればそういったことも起きえ――」
「ヤッター♪」
「ほ、本田さん!?」
それは予想外の行動でした。
てっきり私の答えに失望するかと思っていたのに、うつむいていた状態から上げられた顔はなぜか喜色に染められていました。
予想外の事態に呆気にとられる間もなく、本田さんは歓声をあげながら机を飛び越えて私に飛びついてきたのです。
「そっかー、プロデューサーは未央ちゃんのことをそんなエッチな目で見てたんだー。そうだよねー、プロデューサー巨乳好きだもんねー♪」
なぜ、こんなことに。
私はただ本田さんに、男性への警戒心をもっと持ってもらいたかったのです。
それなのになぜ私に勢いよく抱きついてきているのでしょうか。
あと前川さんと同じで、私を巨乳好きだと当然のように認識されていたのですね……。
私はソファに浅く腰掛けていたことと突然の事態に呆然としたこともあって、今は本田さんに押し倒されかかっている状態です。
「いやー、未央ちゃん心配してたんだよ。ひょっとしてプロデューサーはゲイなんじゃないかって。巨乳好きだとは思っていたけど、女の人に興味があるってこれではっきりして安心したよ」
「~~~~~っっっ」
本田さんは私のお腹辺りに顔を埋めるように押しつけてきているため、顔色はうかがえません。
ただし耳が赤く染まっていることはわかります。
いえ、それよりも問題なのは。
本田さんのブラジャーで固定されていない胸が、頭をこすりつける反動で私の股に触れては離れ、触れては離れを繰り返していることです。
何としても本田さんを引き離さなければなりませんが、今私の両腕は崩れそうな上体を支えていて、腕を動かせば完全に押し倒されます。
それはそれで非常に問題です。
「ゲイじゃないんだったら、プロデューサーが結婚とか女性のことで悩んでいるって噂も本当なんだよね?」
「……本田さん?」
「プロデューサー……手を出すの?」
うつむきながら本田さんがか細い声で尋ねます。
どう答えたものかしばし迷いました。
私はプロデューサーですから、アイドルに決して手など出しませんと答えたいのが本心です。
しかし本田さんに男性への正しい警戒心をもっていただくには、手を出しかねないと答えるべきでしょう。
たとえその結果私への信頼が損なわれるとしても……本田さんの身を案じるのでしたら、辛くともそうしなければ。
「……今回は我慢できましたが、今後もこのようなことが続くようであればそういったことも起きえ――」
「ヤッター♪」
「ほ、本田さん!?」
それは予想外の行動でした。
てっきり私の答えに失望するかと思っていたのに、うつむいていた状態から上げられた顔はなぜか喜色に染められていました。
予想外の事態に呆気にとられる間もなく、本田さんは歓声をあげながら机を飛び越えて私に飛びついてきたのです。
「そっかー、プロデューサーは未央ちゃんのことをそんなエッチな目で見てたんだー。そうだよねー、プロデューサー巨乳好きだもんねー♪」
なぜ、こんなことに。
私はただ本田さんに、男性への警戒心をもっと持ってもらいたかったのです。
それなのになぜ私に勢いよく抱きついてきているのでしょうか。
あと前川さんと同じで、私を巨乳好きだと当然のように認識されていたのですね……。
私はソファに浅く腰掛けていたことと突然の事態に呆然としたこともあって、今は本田さんに押し倒されかかっている状態です。
「いやー、未央ちゃん心配してたんだよ。ひょっとしてプロデューサーはゲイなんじゃないかって。巨乳好きだとは思っていたけど、女の人に興味があるってこれではっきりして安心したよ」
「~~~~~っっっ」
本田さんは私のお腹辺りに顔を埋めるように押しつけてきているため、顔色はうかがえません。
ただし耳が赤く染まっていることはわかります。
いえ、それよりも問題なのは。
本田さんのブラジャーで固定されていない胸が、頭をこすりつける反動で私の股に触れては離れ、触れては離れを繰り返していることです。
何としても本田さんを引き離さなければなりませんが、今私の両腕は崩れそうな上体を支えていて、腕を動かせば完全に押し倒されます。
それはそれで非常に問題です。
「ゲイじゃないんだったら、プロデューサーが結婚とか女性のことで悩んでいるって噂も本当なんだよね?」
「……本田さん?」
101: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:15:23.07 ID:WJENpIb/0
いったい噂は人から人へと伝わる中でどのように変化したのか。
相変わらず本田さんの顔は見えません。
いえ、見せたくないのでしょう。
私のお腹に顔をうずめたまま、ぽつりぽつりと、自身の考えをまとめながら想いを紡いでいきます。
「もしプロデューサーに恋人ができたり結婚したら、私がこんなふうに甘えるのはダメになっちゃうよね。……仕方のないことだってわかるけど、考えただけで寂しく感じちゃうんだ」
それは普段の明るい声とは裏腹の切ない声。
しかしこれもまぎれもなく彼女の一面。
太陽のような明るさと元気ばかりに目が行きがちですが、年相応の弱さもある。
健やかな弱さだと、私は感じています。
弱くて未熟だからこそ挫折して、立ち上がる過程で成長できる。
大人である私がすべきことは立ち上がらせることではなく、ほんの少しだけ手助けすること。
そうやって成長した彼女はやがて私に並び、追い抜き、置いていくのです。
彼女にとって私は、弱い部分を知られそれを支えてくれた、不器用で心配なところもあるけど信頼できる大人という立ち位置でしょう。
今は彼女にとって重要です。
でも将来は違います。
昔お世話になった人で、時々思い出して感謝する程度になるでしょう。
そしてそれは決して責められることでも悪いことでもないのです。
時の流れとは、そういったものなのだから。
聡明な彼女なら今はわからなくても、自然とそのことがわかる時がきます。
だから今私がすべきことは、そんなに深く受け止めなくていいと伝えることです。
「大丈夫ですよ本田さん。確かに私は年齢的に恋人……それも結婚を前提とした人を探さなければと考えてはいますが、まだ特にこれといった行動はとっていませんし、仮に動き始めてもそう簡単に相手が見つかるとは思えません」
「……はあ」
「本田さん?」
「別に。ただサバンナで無警戒な草食動物を見かけた気分になっただけ」
私の言葉のどこにそんな効果があったのか。
本田さんの斜め上な言葉に疑問を抱きつつも、今はそれどころではないので話を戻します。
「とにかく。私の相手はそうそう見つかりませんし、見つかったとしてもそれを理由に貴女たちをないがしろになど決してしないことを約束します」
「私……“たち”か」
何か足りないものがあったのか。
本田さんが少し寂しげに笑ったのも束の間のこと、一転して明るい笑顔に戻りました。
「まあということは! しばらくの間はこうやってプロデューサーに甘えていいわけだよね?」
「いえ……私を頼りにされるのはたいへん嬉しいのですが、先ほども言いましたが男性にこのようなことをするのは……」
「プロデューサーにだけだから、ね?」
おかしい。
確かに私は「私も我慢できずに手を出す可能性がある」と伝えたはずなのに……どうやら、本田さんの私への信頼は思いのほか厚いようです。
相変わらず本田さんの顔は見えません。
いえ、見せたくないのでしょう。
私のお腹に顔をうずめたまま、ぽつりぽつりと、自身の考えをまとめながら想いを紡いでいきます。
「もしプロデューサーに恋人ができたり結婚したら、私がこんなふうに甘えるのはダメになっちゃうよね。……仕方のないことだってわかるけど、考えただけで寂しく感じちゃうんだ」
それは普段の明るい声とは裏腹の切ない声。
しかしこれもまぎれもなく彼女の一面。
太陽のような明るさと元気ばかりに目が行きがちですが、年相応の弱さもある。
健やかな弱さだと、私は感じています。
弱くて未熟だからこそ挫折して、立ち上がる過程で成長できる。
大人である私がすべきことは立ち上がらせることではなく、ほんの少しだけ手助けすること。
そうやって成長した彼女はやがて私に並び、追い抜き、置いていくのです。
彼女にとって私は、弱い部分を知られそれを支えてくれた、不器用で心配なところもあるけど信頼できる大人という立ち位置でしょう。
今は彼女にとって重要です。
でも将来は違います。
昔お世話になった人で、時々思い出して感謝する程度になるでしょう。
そしてそれは決して責められることでも悪いことでもないのです。
時の流れとは、そういったものなのだから。
聡明な彼女なら今はわからなくても、自然とそのことがわかる時がきます。
だから今私がすべきことは、そんなに深く受け止めなくていいと伝えることです。
「大丈夫ですよ本田さん。確かに私は年齢的に恋人……それも結婚を前提とした人を探さなければと考えてはいますが、まだ特にこれといった行動はとっていませんし、仮に動き始めてもそう簡単に相手が見つかるとは思えません」
「……はあ」
「本田さん?」
「別に。ただサバンナで無警戒な草食動物を見かけた気分になっただけ」
私の言葉のどこにそんな効果があったのか。
本田さんの斜め上な言葉に疑問を抱きつつも、今はそれどころではないので話を戻します。
「とにかく。私の相手はそうそう見つかりませんし、見つかったとしてもそれを理由に貴女たちをないがしろになど決してしないことを約束します」
「私……“たち”か」
何か足りないものがあったのか。
本田さんが少し寂しげに笑ったのも束の間のこと、一転して明るい笑顔に戻りました。
「まあということは! しばらくの間はこうやってプロデューサーに甘えていいわけだよね?」
「いえ……私を頼りにされるのはたいへん嬉しいのですが、先ほども言いましたが男性にこのようなことをするのは……」
「プロデューサーにだけだから、ね?」
おかしい。
確かに私は「私も我慢できずに手を出す可能性がある」と伝えたはずなのに……どうやら、本田さんの私への信頼は思いのほか厚いようです。
102: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:16:07.65 ID:WJENpIb/0
ショートパンツからスラリと伸びた瑞々しい足をパタパタと機嫌良く上下させている姿を見ると、改めて注意しようという気がそがれてしまいます。
……まあ、その反動で本田さんの豊かな胸が、私の股の上で形を次々と変えているのでいい加減なんとかしなければ。
「……けど男の人って、女の人とエッチなことをしたいがあまり、そんなに好きじゃない人と付き合ったりすることもあるって聞いたことあるよ」
本田さんを傷つけずにどうやれば引き離せるかと考えていると、眉根を寄せてそんなことを口にしました。
確かにそういう男はいますが、その多くは性欲旺盛な高校生や大学生です。
とはいえ私の年代でもいるにはいるので否定しづらい話ですが。
などと下手に考えていたせいで、話が突然妙な方に飛びました。
「だ、だからさ! 押しに弱いプロデューサーが焦って変な人と付き合ったりしたら悲しいから、プロデューサーの欲求を私が解消してあげなくちゃね!」
……………………はい?
「ほほ……本田さん?」
私に飛び込みながら上目づかいで、顔を真っ赤にしながら彼女はとんでもない宣言をしました。
その顔は羞恥でいっぱいですが私を茶化している様子は見当たらず、彼女の真剣さが伝わってきます。
私は彼女がアイドルなのに、そしてまだ十五歳の子どもなのに魅入られて体が動かず、ただただ心臓だけが高鳴ってしまいます。
「い、今はこれぐらいでもういっぱいいっぱいだけど、私がんばるから!」
彼女は力いっぱい私に抱きつきました。
それは男女の恋愛に慣れた者の愛情表現とはほど遠く、愛情表現といえばこのぐらいしか思いつかない者が、精いっぱいそれにすがりついたような抱擁。
つたなく、だからこそ胸が締め付けられるほど愛しく思えるその行為に。
そして情けないことに、今までで一番の締め付けで本田さんの胸がいよいよ私の股に押しつけられ――――我慢の限界が、来てしまいました。
「――――――――――嗚呼」
「プロデューサー? どうしたのって…………え、ここ、これって!?」
終わりです。
この世の終わりです。
辞表を、書かなければ。
興奮した血の巡りは私の下腹部に集中して膨張させました。
隆起したソレは、よりによって本田さんのブラジャーに覆われていない膨らみの間を突き進んでしまったのです。
最低だ、俺って。
「そそ……そうだよね。プロデューサーって巨乳好きだもんネ。それなのに私こんな形で抱きついちゃってたんだよネ」
ああ、本田さんが動転しています。
意識を遠い世界にやっている場合ではありません。
少しでも彼女のトラウマにならないように、せめて誠心誠意お詫びしなければ……
「ほ、本田さん。申し訳ありませんが、いったん離れ――」
「そっか……巨乳好きってことは、こういうプレイが好きなのか。え? でも雑誌だと、ローションが必要って……どうだったっけ?」
「本田さん?」
……まあ、その反動で本田さんの豊かな胸が、私の股の上で形を次々と変えているのでいい加減なんとかしなければ。
「……けど男の人って、女の人とエッチなことをしたいがあまり、そんなに好きじゃない人と付き合ったりすることもあるって聞いたことあるよ」
本田さんを傷つけずにどうやれば引き離せるかと考えていると、眉根を寄せてそんなことを口にしました。
確かにそういう男はいますが、その多くは性欲旺盛な高校生や大学生です。
とはいえ私の年代でもいるにはいるので否定しづらい話ですが。
などと下手に考えていたせいで、話が突然妙な方に飛びました。
「だ、だからさ! 押しに弱いプロデューサーが焦って変な人と付き合ったりしたら悲しいから、プロデューサーの欲求を私が解消してあげなくちゃね!」
……………………はい?
「ほほ……本田さん?」
私に飛び込みながら上目づかいで、顔を真っ赤にしながら彼女はとんでもない宣言をしました。
その顔は羞恥でいっぱいですが私を茶化している様子は見当たらず、彼女の真剣さが伝わってきます。
私は彼女がアイドルなのに、そしてまだ十五歳の子どもなのに魅入られて体が動かず、ただただ心臓だけが高鳴ってしまいます。
「い、今はこれぐらいでもういっぱいいっぱいだけど、私がんばるから!」
彼女は力いっぱい私に抱きつきました。
それは男女の恋愛に慣れた者の愛情表現とはほど遠く、愛情表現といえばこのぐらいしか思いつかない者が、精いっぱいそれにすがりついたような抱擁。
つたなく、だからこそ胸が締め付けられるほど愛しく思えるその行為に。
そして情けないことに、今までで一番の締め付けで本田さんの胸がいよいよ私の股に押しつけられ――――我慢の限界が、来てしまいました。
「――――――――――嗚呼」
「プロデューサー? どうしたのって…………え、ここ、これって!?」
終わりです。
この世の終わりです。
辞表を、書かなければ。
興奮した血の巡りは私の下腹部に集中して膨張させました。
隆起したソレは、よりによって本田さんのブラジャーに覆われていない膨らみの間を突き進んでしまったのです。
最低だ、俺って。
「そそ……そうだよね。プロデューサーって巨乳好きだもんネ。それなのに私こんな形で抱きついちゃってたんだよネ」
ああ、本田さんが動転しています。
意識を遠い世界にやっている場合ではありません。
少しでも彼女のトラウマにならないように、せめて誠心誠意お詫びしなければ……
「ほ、本田さん。申し訳ありませんが、いったん離れ――」
「そっか……巨乳好きってことは、こういうプレイが好きなのか。え? でも雑誌だと、ローションが必要って……どうだったっけ?」
「本田さん?」
103: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:16:48.45 ID:WJENpIb/0
嫌悪で飛び跳ねるように距離を取るでもなく、恐怖で硬直するわけでもなく。
本田さんは自分の谷間に挟まるズボン越しの見苦しいものを見ながら、こんな事態なのに考え事をされています。
「や、やっぱり。うろ覚えの知識じゃできないし、道具だって必要かもしれないし……」
「本田さん? ショックなのはわかりますが、いったん私から離れませんか?」
声をかけるものの、私の声は聞こえていないようです。
肩を押して離れるべきかとも考えましたが、私が触れることは悪影響の可能性もあってできません。
為す術も無く固まっていると、突然本田さんが顔を上げて私と目を合わせます。
その顔からは一目で強い決意が感じられました。
彼女がどんな言葉を発しても私は受け入れ、謝罪しようと覚悟を決めていると――
「さ、さっきプロデューサーの欲求は私が解消してあげるって言ったよね!?」
「は、はいっ?」
非難の言葉を予想していたため、思わず素っ頓狂な声をあげてしまいました。
「けどこんな形は予想してなくって……だ、大丈夫! 説明があった雑誌が家にあるから!」
「本田さん!?」
何が起きているかまるでわかりません。
しかしとてつもない事態へと話が転がっていることだけはわかります。
「準備とか、練習とか、あとやっぱり心の準備とかあるから! いい、今はまだできないんだゴメンね!」
そう言うと彼女は驚くほど俊敏な動作で私から離れ入口へと駆け、ドアノブに手をかけたところでピタリと動きを止めました。
古びた機械が動くようにぎこちなく振り返った彼女の顔は、排熱がうまくされず耳の先から首筋にいたるまで真っ赤でした。
「ちゃ、ちゃんと今度してあげるから……」
かろうじてこちらまで聞こえる小さな声音のあと、
「パイズリ!!!」
耳を疑う単語を大声であげ、ドアを勢いよく開閉させて走り去っていきました。
本田さんは自分の谷間に挟まるズボン越しの見苦しいものを見ながら、こんな事態なのに考え事をされています。
「や、やっぱり。うろ覚えの知識じゃできないし、道具だって必要かもしれないし……」
「本田さん? ショックなのはわかりますが、いったん私から離れませんか?」
声をかけるものの、私の声は聞こえていないようです。
肩を押して離れるべきかとも考えましたが、私が触れることは悪影響の可能性もあってできません。
為す術も無く固まっていると、突然本田さんが顔を上げて私と目を合わせます。
その顔からは一目で強い決意が感じられました。
彼女がどんな言葉を発しても私は受け入れ、謝罪しようと覚悟を決めていると――
「さ、さっきプロデューサーの欲求は私が解消してあげるって言ったよね!?」
「は、はいっ?」
非難の言葉を予想していたため、思わず素っ頓狂な声をあげてしまいました。
「けどこんな形は予想してなくって……だ、大丈夫! 説明があった雑誌が家にあるから!」
「本田さん!?」
何が起きているかまるでわかりません。
しかしとてつもない事態へと話が転がっていることだけはわかります。
「準備とか、練習とか、あとやっぱり心の準備とかあるから! いい、今はまだできないんだゴメンね!」
そう言うと彼女は驚くほど俊敏な動作で私から離れ入口へと駆け、ドアノブに手をかけたところでピタリと動きを止めました。
古びた機械が動くようにぎこちなく振り返った彼女の顔は、排熱がうまくされず耳の先から首筋にいたるまで真っ赤でした。
「ちゃ、ちゃんと今度してあげるから……」
かろうじてこちらまで聞こえる小さな声音のあと、
「パイズリ!!!」
耳を疑う単語を大声であげ、ドアを勢いよく開閉させて走り去っていきました。
104: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:18:00.57 ID:WJENpIb/0
「……」
私はただ、阿呆のように呆然と入口に片手を伸ばしたまま硬直するだけです。
何が、いけなかったのでしょうか。
何が原因で、こんな最悪な事態へと話が転がって行ったのでしょうか。
あまりにも様々なことが起こり過ぎて、一周回って空しさすら覚える心境に合わせたかのように物悲しいメロディが社内に響きます。
窓を見れば薄暗く、終業時間だとわかりました。
デスクの上に置いていた携帯が鳴り響きます。
動くことに億劫さを覚えながらなんとか手に取ると、着信は親しい同期からでした。
「……もしもし」
『武内。今日はもう上がれるか』
着信に出た自分の言葉は、我がことながら驚くほど生気が無く――同期の声もまた、同じぐらい覇気が欠けていました。
「ええ、今日はもう上がれます」
やるべき仕事は残っています。
しかし仕事をする気力は根こそぎもっていかれました。
明日死にもの狂いで取り組めばなんとでもなるので今日はもういいです。
『そうか。じゃあ駅前で飲まないか? 色々と、お前に愚痴りたいことがあってさ』
「望むところです」
『……お前も、色々あったんだな。俺もさ、まゆは婆ちゃんとまで会ってたらしくって、また婆ちゃんがまゆのことえらく気に入ってんの。死ぬ前にお前がこんなにいい子と結婚するのを見れるなんてとか言いだして……ああ、すまん。ここから先は向こうでしよう』
会話を終えると、少しだけ活力が戻っていることに気づきました。
自分よりボロボロなのに立ち続けている者を見れば、この程度で諦めるなんて恥ずかしいと気合いが入るものです。
――彼と私、果たしてどちらの方がボロボロなのかはわかりませんが。
帰宅の手続きをしながら、そんな益体も無いことを考えてしまいました。
私はただ、阿呆のように呆然と入口に片手を伸ばしたまま硬直するだけです。
何が、いけなかったのでしょうか。
何が原因で、こんな最悪な事態へと話が転がって行ったのでしょうか。
あまりにも様々なことが起こり過ぎて、一周回って空しさすら覚える心境に合わせたかのように物悲しいメロディが社内に響きます。
窓を見れば薄暗く、終業時間だとわかりました。
デスクの上に置いていた携帯が鳴り響きます。
動くことに億劫さを覚えながらなんとか手に取ると、着信は親しい同期からでした。
「……もしもし」
『武内。今日はもう上がれるか』
着信に出た自分の言葉は、我がことながら驚くほど生気が無く――同期の声もまた、同じぐらい覇気が欠けていました。
「ええ、今日はもう上がれます」
やるべき仕事は残っています。
しかし仕事をする気力は根こそぎもっていかれました。
明日死にもの狂いで取り組めばなんとでもなるので今日はもういいです。
『そうか。じゃあ駅前で飲まないか? 色々と、お前に愚痴りたいことがあってさ』
「望むところです」
『……お前も、色々あったんだな。俺もさ、まゆは婆ちゃんとまで会ってたらしくって、また婆ちゃんがまゆのことえらく気に入ってんの。死ぬ前にお前がこんなにいい子と結婚するのを見れるなんてとか言いだして……ああ、すまん。ここから先は向こうでしよう』
会話を終えると、少しだけ活力が戻っていることに気づきました。
自分よりボロボロなのに立ち続けている者を見れば、この程度で諦めるなんて恥ずかしいと気合いが入るものです。
――彼と私、果たしてどちらの方がボロボロなのかはわかりませんが。
帰宅の手続きをしながら、そんな益体も無いことを考えてしまいました。
105: ◆SbXzuGhlwpak 2017/02/25(土) 08:19:16.82 ID:WJENpIb/0
プロローグ 凛
一日目 美嘉 楓
二日目 小梅 幸子 みく 未央
三日目 ??? ??? ??? ???
エピローグ 凛
キュート 幸子 みく ??? ???
クール 凛 楓 小梅 ???
パッション 美嘉 未央 ???
アイドルたちによる武内P包囲殲滅陣の内容
(彼我の戦力差、出ました! 武内P、およそ300。アイドルたち、およそ5000!)
凛:誰かと付き合う前に一言相談してね(許可を出すとは言っていない)
美嘉:合格点が出るまでデートに誘い続けてね(合格点を出すとは言っていない)
楓:美嘉ちゃんに不合格を出されるたびに飲みに誘ってください
小梅:18歳になったら……結婚しようね。我慢できなかったら、今手を出してもいいから
幸子:月を見るたび思い出せ!
みく:トップアイドルになったら結婚にゃ!
未央:パイズリ!
キュート③:もう……エッチなんですね
パッション③:私にいい考えがあります!!!
クール④:ふ、不束者ですが……よろしくお願いします
キュート④:譁・ュ怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ
一日目 美嘉 楓
二日目 小梅 幸子 みく 未央
三日目 ??? ??? ??? ???
エピローグ 凛
キュート 幸子 みく ??? ???
クール 凛 楓 小梅 ???
パッション 美嘉 未央 ???
アイドルたちによる武内P包囲殲滅陣の内容
(彼我の戦力差、出ました! 武内P、およそ300。アイドルたち、およそ5000!)
凛:誰かと付き合う前に一言相談してね(許可を出すとは言っていない)
美嘉:合格点が出るまでデートに誘い続けてね(合格点を出すとは言っていない)
楓:美嘉ちゃんに不合格を出されるたびに飲みに誘ってください
小梅:18歳になったら……結婚しようね。我慢できなかったら、今手を出してもいいから
幸子:月を見るたび思い出せ!
みく:トップアイドルになったら結婚にゃ!
未央:パイズリ!
キュート③:もう……エッチなんですね
パッション③:私にいい考えがあります!!!
クール④:ふ、不束者ですが……よろしくお願いします
キュート④:譁・ュ怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ
161: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:35:18.73 ID:cn/ymcwe0
⑧どうしましたかな子ちゃん? ああ、智絵里ちゃんでしたら――
今日は驚くほど仕事に集中できています。
途中電話が鳴り仕事が追加されたり、現場でアクシデントが起き顔を出す事態もありましたが、どちらもすぐに解決策が閃き片付きました。
終電までに帰られるか怪しいと思っていましたが、このペースならそう遅くなることはないでしょう。
集中できている原因は……現実逃避です。
私は明日までに城ヶ崎さんをデートに誘わなければいけないのです。
またなるべく急いで輿水さんの行き過ぎた独占欲を和らげる方法を模索することと、本田さんにあのようなことをしなくても私は傍にいて見守ると説得しなければなりません。
やらなければならないことだらけですが、未成年のアイドルをデートに誘うことは高垣さんたちに相談にのってもらった後でも気が進みませんし、輿水さんの独占欲についてはどうすればいいのかまるで見当がつかず、本田さんにいたっては合わせる顔がありません。
その結果仕事に逃げてしまっているのですが……仕事が思ったより早く終わるようなので、考える時間ができます。
かえって良かったのかもしれません。
ふと、お腹が空いたことに気がつきました。
時計を見ればいつの間にかもう11:00を過ぎています。
少し速いですが仕事も一段落しましたし、今の機会を逃せば次は夕方近くということもありえます。
今の時間ならばカフェも空いているだろうと考えていると、控えめなノックの音がしました。
「どうぞ」
「し、失礼します」
おどおどとした様子でドアから顔を覗き込ませたのは、緒方さんでした。
「緒方さん、どうかされましたか?」
「は、はい……えっと」
ドアから顔だけを覗き込ませたまま、彼女は恥ずかしいのか言い淀みます。
顔だけしか見せない彼女の様子を不思議に思いましたが、焦らせてはならないと黙って待ちました。
「……プロデューサーさんは、今日のお昼はどうされますか?」
「お昼ですか。ちょうど今からカフェに向かおうかと」
「そそ、それでしたら!」
意を決すると彼女は部屋の中へと入り、手提げ袋を胸の前に掲げます。
「お、お弁当……作ってみたんです」
「もしかして……私に、ですか?」
緒方智絵里
http://s.eximg.jp/exnews/feed/Appget/Appget_News_170667_14.png
今日は驚くほど仕事に集中できています。
途中電話が鳴り仕事が追加されたり、現場でアクシデントが起き顔を出す事態もありましたが、どちらもすぐに解決策が閃き片付きました。
終電までに帰られるか怪しいと思っていましたが、このペースならそう遅くなることはないでしょう。
集中できている原因は……現実逃避です。
私は明日までに城ヶ崎さんをデートに誘わなければいけないのです。
またなるべく急いで輿水さんの行き過ぎた独占欲を和らげる方法を模索することと、本田さんにあのようなことをしなくても私は傍にいて見守ると説得しなければなりません。
やらなければならないことだらけですが、未成年のアイドルをデートに誘うことは高垣さんたちに相談にのってもらった後でも気が進みませんし、輿水さんの独占欲についてはどうすればいいのかまるで見当がつかず、本田さんにいたっては合わせる顔がありません。
その結果仕事に逃げてしまっているのですが……仕事が思ったより早く終わるようなので、考える時間ができます。
かえって良かったのかもしれません。
ふと、お腹が空いたことに気がつきました。
時計を見ればいつの間にかもう11:00を過ぎています。
少し速いですが仕事も一段落しましたし、今の機会を逃せば次は夕方近くということもありえます。
今の時間ならばカフェも空いているだろうと考えていると、控えめなノックの音がしました。
「どうぞ」
「し、失礼します」
おどおどとした様子でドアから顔を覗き込ませたのは、緒方さんでした。
「緒方さん、どうかされましたか?」
「は、はい……えっと」
ドアから顔だけを覗き込ませたまま、彼女は恥ずかしいのか言い淀みます。
顔だけしか見せない彼女の様子を不思議に思いましたが、焦らせてはならないと黙って待ちました。
「……プロデューサーさんは、今日のお昼はどうされますか?」
「お昼ですか。ちょうど今からカフェに向かおうかと」
「そそ、それでしたら!」
意を決すると彼女は部屋の中へと入り、手提げ袋を胸の前に掲げます。
「お、お弁当……作ってみたんです」
「もしかして……私に、ですか?」
緒方智絵里
http://s.eximg.jp/exnews/feed/Appget/Appget_News_170667_14.png
162: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:36:20.54 ID:cn/ymcwe0
緒方さんはただ小さくうなずいて見せました。
いえ、よく見ればその華奢な肩は震え、視線もあちこちを行き来して定まっていません。
相当な勇気が必要だったのでしょう。
「いつもお世話になっているプロデューサーさんにお礼をしたいなって思って……それで、プロデューサーさんの体が心配だったから。ご、ごめんなさい。勝手に心配なんかしてしまいまして」
「い、いえ……」
私はというと、喜びと戸惑いを覚えていました。
担当しているアイドルの中で、心配になることが多い一人が緒方さんです。
人一倍優しい努力家ではありますが、自分に自信がもてない怖がりな一面もあります。
そんな何かにつけて心配していた彼女が、お礼にと手作りのお弁当を持ってきてくれました。
正直涙腺が緩みかけて、今にも涙がこぼれそうです。
その一方でアイドルの手料理を私が食べていいものかという疑問もありました。
あるのですが――
「その……食べてもらえますか?」
「――はい、よろこんで」
触れれば折れるような儚げな勇気を無下にするすることはできません。
まずはおいしくいただいた後に、やんわりと注意すればいいのではないでしょうか。
「あ、ありがとうございますっ」
これが正しいのか思わないでもなかったですが、そんな疑問は緒方さんの胸が締め付けられると同時に温かくもなる笑顔に消え去ります。
緒方さんに渡された弁当箱を開いてみると、思わず感嘆の声が出てしまいました。
「これは……っ」
「その……誰かにお弁当を作ることは初めてで、うまくできたかわからないんですけど」
「いえ……非常によくできています」
きんぴらごぼうに大根のおひたし、ミニトマト、卵焼き、そして――肉じゃが。
「いただいてもよろしいでしょうか?」
「はい!」
箸を持つ手が震えそうになるのを感じながら、緒方さんの明るい声に押されて恐る恐る箸を伸ばす。
目標は肉じゃが。
箸を通すとじゃがいもがそっと簡単に割れた。
実によく味が染み込んでいそうです。
じゃがいもを糸こんにゃくと一緒に口に運ぶと、期待していた通りの味わいが口内に満ち、忘れていた感慨が思い起こされます。
ああ、お店以外で肉じゃがを食べるなんていつ以来でしょうか。
緒方さんは私の様子からお弁当の出来について聞かなくともわかったのでしょう。
控えめな、それでいてはっきりと喜んでいるとわかる笑みを浮かべています。
「とても、おいしいです」
いえ、よく見ればその華奢な肩は震え、視線もあちこちを行き来して定まっていません。
相当な勇気が必要だったのでしょう。
「いつもお世話になっているプロデューサーさんにお礼をしたいなって思って……それで、プロデューサーさんの体が心配だったから。ご、ごめんなさい。勝手に心配なんかしてしまいまして」
「い、いえ……」
私はというと、喜びと戸惑いを覚えていました。
担当しているアイドルの中で、心配になることが多い一人が緒方さんです。
人一倍優しい努力家ではありますが、自分に自信がもてない怖がりな一面もあります。
そんな何かにつけて心配していた彼女が、お礼にと手作りのお弁当を持ってきてくれました。
正直涙腺が緩みかけて、今にも涙がこぼれそうです。
その一方でアイドルの手料理を私が食べていいものかという疑問もありました。
あるのですが――
「その……食べてもらえますか?」
「――はい、よろこんで」
触れれば折れるような儚げな勇気を無下にするすることはできません。
まずはおいしくいただいた後に、やんわりと注意すればいいのではないでしょうか。
「あ、ありがとうございますっ」
これが正しいのか思わないでもなかったですが、そんな疑問は緒方さんの胸が締め付けられると同時に温かくもなる笑顔に消え去ります。
緒方さんに渡された弁当箱を開いてみると、思わず感嘆の声が出てしまいました。
「これは……っ」
「その……誰かにお弁当を作ることは初めてで、うまくできたかわからないんですけど」
「いえ……非常によくできています」
きんぴらごぼうに大根のおひたし、ミニトマト、卵焼き、そして――肉じゃが。
「いただいてもよろしいでしょうか?」
「はい!」
箸を持つ手が震えそうになるのを感じながら、緒方さんの明るい声に押されて恐る恐る箸を伸ばす。
目標は肉じゃが。
箸を通すとじゃがいもがそっと簡単に割れた。
実によく味が染み込んでいそうです。
じゃがいもを糸こんにゃくと一緒に口に運ぶと、期待していた通りの味わいが口内に満ち、忘れていた感慨が思い起こされます。
ああ、お店以外で肉じゃがを食べるなんていつ以来でしょうか。
緒方さんは私の様子からお弁当の出来について聞かなくともわかったのでしょう。
控えめな、それでいてはっきりと喜んでいるとわかる笑みを浮かべています。
「とても、おいしいです」
163: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:37:31.83 ID:cn/ymcwe0
そこからは自分でも驚くほど箸が進みました。
きんぴらごぼうはコリコリとした食感とほどよい味の濃さで、大根のおひたしは柔らかさのなかにシャキシャキとした感触が残り、卵焼きは甘さとニラの苦みが絶妙のバランスをつくっていました。
ただ少しばかし勢いよく食べすぎたようです。
喉がつまってしまって、慌てて横に置いていたペットボトルに手を伸ばそうとしたところ、湯気が上がるコップが差し出されました。
「お茶です。苦いけれど、体にとってもいいそうなんです」
どうやら手提げ袋の中に魔法瓶も入れてあったようです。
喉が詰まっているため目で彼女に礼を伝え、お茶を口にしました。
なるほど確かに苦いですが、仕事をしながらちびちびと口にしたくなるような味です。
熱さも冷ますことなく飲めて、それでいてぬるくないちょうどいい塩梅です。
「ふう……ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
弁当は大人の男性である私が十分に満足できる量でしたが、あまりの美味しさと手料理の嬉しさに十分足らずで食べ終わりました。
「プロデューサーさんに美味しそうに食べてもらえて、とても嬉しいです」
「いえ、嬉しいのは私の方です」
ただ問題は、これからはこういったことは控えるように言わなければならないことです。
緒方さんの純真な善意を注意するのは、正直気が重い……重いのですが……
「お、おや?」
「プ、プロデューサーさん?」
手が重く、そして感覚が鈍くなり、ほんのりと熱を持ち始めました。
突然の事態に驚いているはずなのに、目は見開くどころかまぶたが下がり始めます。
まるで、冬の朝に布団から出ようともがいているかのような。
「プロデューサーさん」
そっと手をさしのばされます。
霞がかった頭は促されるままに、そのほっそりとした美しい手をつかんでしまいました。
「どうぞこちらに」
ゆっくりと手を引っ張られる。
導かれるがままに重い足を引きずりながら、閉じかかった目の代わりに天使のささやき声と御手を頼りに前へと進む。
「はい、ここに座ってください」
座っていいとわかった途端、何とか力を振り絞っていた両足が糸が切れたように崩れ、感触からソファとわかる場所に音を立てて沈みこんでしまいます。
「それじゃあ……あ、頭を、こっちに」
きんぴらごぼうはコリコリとした食感とほどよい味の濃さで、大根のおひたしは柔らかさのなかにシャキシャキとした感触が残り、卵焼きは甘さとニラの苦みが絶妙のバランスをつくっていました。
ただ少しばかし勢いよく食べすぎたようです。
喉がつまってしまって、慌てて横に置いていたペットボトルに手を伸ばそうとしたところ、湯気が上がるコップが差し出されました。
「お茶です。苦いけれど、体にとってもいいそうなんです」
どうやら手提げ袋の中に魔法瓶も入れてあったようです。
喉が詰まっているため目で彼女に礼を伝え、お茶を口にしました。
なるほど確かに苦いですが、仕事をしながらちびちびと口にしたくなるような味です。
熱さも冷ますことなく飲めて、それでいてぬるくないちょうどいい塩梅です。
「ふう……ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
弁当は大人の男性である私が十分に満足できる量でしたが、あまりの美味しさと手料理の嬉しさに十分足らずで食べ終わりました。
「プロデューサーさんに美味しそうに食べてもらえて、とても嬉しいです」
「いえ、嬉しいのは私の方です」
ただ問題は、これからはこういったことは控えるように言わなければならないことです。
緒方さんの純真な善意を注意するのは、正直気が重い……重いのですが……
「お、おや?」
「プ、プロデューサーさん?」
手が重く、そして感覚が鈍くなり、ほんのりと熱を持ち始めました。
突然の事態に驚いているはずなのに、目は見開くどころかまぶたが下がり始めます。
まるで、冬の朝に布団から出ようともがいているかのような。
「プロデューサーさん」
そっと手をさしのばされます。
霞がかった頭は促されるままに、そのほっそりとした美しい手をつかんでしまいました。
「どうぞこちらに」
ゆっくりと手を引っ張られる。
導かれるがままに重い足を引きずりながら、閉じかかった目の代わりに天使のささやき声と御手を頼りに前へと進む。
「はい、ここに座ってください」
座っていいとわかった途端、何とか力を振り絞っていた両足が糸が切れたように崩れ、感触からソファとわかる場所に音を立てて沈みこんでしまいます。
「それじゃあ……あ、頭を、こっちに」
164: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:38:08.85 ID:cn/ymcwe0
熱をもった頬に優しく手が添えられる。
ソファに体を預けながら、ゆっくりと上体を倒していく。
頬と肩にかけられた手は力強さという点では頼りありませんが、触れた箇所から慈しみが全身を覆い安心させてくれます。
そうして、私の上体は倒れ終わりました。
後頭部が柔らかくていい匂いのするものに包まれています。
思わず首を動かして、頬に触れさせてみました。
すべすべとした気持ち良さに、今度はうつ伏せになって鼻をこすりつけます。
なんといい枕なのでしょう。
「ひゃんっ」
小動物のような、抱きしめて包み込みたくなるような可愛らしい鳴き声がしました。
その声がおかしくて、愛しくて、鼻をこすりつければまた耳にできるかと試してみます。
「あっ……あ、んっ」
先ほどとは違った、けど同じぐらい心地のいい音色。
甘い匂いが鼻孔を満たす。
お菓子とも香水とも違った、比較するのも愚かしい豊潤な香り。
この枕だけがもつ特別なものなのか。
「もう……エッチなんですね」
エッチ?
私は今、こんなにすばらしいものにイヤらしいことをしていたのですか。
霞がかった頭でも恐れ多いことをしていたことを認識でき、鼻をこすりつけることを止め、仰向けに戻ります。
「あ……」
心なしか残念そうな声が漏れました。
ひょっとしてうつ伏せのまま絹のような感触を味わい、とろける様な匂いを堪能し、可愛らしい声に包まれ続けてもよかったのでは。
そんな無念が起きましたが、心の奥底からそれは決して許されないことだと警告が送られます。
しかしなぜ許されないのでしょう。
私は誰で、私の傍にいる方は誰なのでしょうか。
「疲れてるんですね……このまま眠ってください」
このままではいけないという焦燥感は、額を優しくなでられたことで霧散した。
意識が深い泉に沈み込んでいく。
確かに、私はここ数日とてもとても疲れたような気がする。
そして今日は、その疲れた原因から目をそらそうとガムシャラに働いたはず。
言われてみれば相当疲れている。
お言葉に甘えて……後頭部を温かく包まれながら、額を慈しまれながら、天国のような環境で眠らせて……いただきます――
ソファに体を預けながら、ゆっくりと上体を倒していく。
頬と肩にかけられた手は力強さという点では頼りありませんが、触れた箇所から慈しみが全身を覆い安心させてくれます。
そうして、私の上体は倒れ終わりました。
後頭部が柔らかくていい匂いのするものに包まれています。
思わず首を動かして、頬に触れさせてみました。
すべすべとした気持ち良さに、今度はうつ伏せになって鼻をこすりつけます。
なんといい枕なのでしょう。
「ひゃんっ」
小動物のような、抱きしめて包み込みたくなるような可愛らしい鳴き声がしました。
その声がおかしくて、愛しくて、鼻をこすりつければまた耳にできるかと試してみます。
「あっ……あ、んっ」
先ほどとは違った、けど同じぐらい心地のいい音色。
甘い匂いが鼻孔を満たす。
お菓子とも香水とも違った、比較するのも愚かしい豊潤な香り。
この枕だけがもつ特別なものなのか。
「もう……エッチなんですね」
エッチ?
私は今、こんなにすばらしいものにイヤらしいことをしていたのですか。
霞がかった頭でも恐れ多いことをしていたことを認識でき、鼻をこすりつけることを止め、仰向けに戻ります。
「あ……」
心なしか残念そうな声が漏れました。
ひょっとしてうつ伏せのまま絹のような感触を味わい、とろける様な匂いを堪能し、可愛らしい声に包まれ続けてもよかったのでは。
そんな無念が起きましたが、心の奥底からそれは決して許されないことだと警告が送られます。
しかしなぜ許されないのでしょう。
私は誰で、私の傍にいる方は誰なのでしょうか。
「疲れてるんですね……このまま眠ってください」
このままではいけないという焦燥感は、額を優しくなでられたことで霧散した。
意識が深い泉に沈み込んでいく。
確かに、私はここ数日とてもとても疲れたような気がする。
そして今日は、その疲れた原因から目をそらそうとガムシャラに働いたはず。
言われてみれば相当疲れている。
お言葉に甘えて……後頭部を温かく包まれながら、額を慈しまれながら、天国のような環境で眠らせて……いただきます――
165: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:38:52.88 ID:cn/ymcwe0
――
――――
――――――――
夢を見ている。
夢の中で私は天子様に糾弾されていました。
いえ、糾弾という表現は正しくないかもしれません。
それは糾弾というにはあまりに優しく、恐怖ではなく申し訳なさでいっぱいになるものだったのですから。
――プロデューサーさんが、いけないんです。
私はしてはならないことをしたらしい。
心当たりは考えても見当たらないのですが、天子様にこんなにも切なげで悲しい声を出させているのです。
きっととてもいけないことなのでしょう。
――誰のものでもないから我慢できたのに、誰かのものになろうなんてするからいけないんです。
それが私の罪のようです。
天子様が見つめていたのに、天子様に駆け寄るどころか離れて行こうとするとは、確かに許されない行為です。
熱が近づくのがわかります。
そして額に、暖かくしっとりとした気持ちの良い感触が奔りました。
今までよりも間近で、囁き声がします。
――プロデューサーさん。今は私だけの、プロデューサーさん。お願いだから、私を見捨てないで。
見捨てるわけがありません。
声を大にして宣言したいのですが、夢に縛られた私は指先一つすら動かすことができませんでした。
この想いを伝えられないのがもどかしく、夢の中でなければ口の中を噛み切っていたことでしょう。
額から熱が離れようとします。
しかしどうしたことか、離れかけたところで動きが止まりました。
――だ、ダメ。
いえ、止まったのではなく、少しずつ下の方へと動いていました。
動きは私の唇の上辺りで止まり、そこで葛藤でもするように震えていることが天使様の声から察せられます。
――ここからは……ここから先は、プロデューサーさんからしてもらわないと。でも、でも……
葛藤はそのままに。
しかし距離は少しずつ埋められ。
やがて私の唇と、天子様の熱が触れあ――
「智絵里ちゃんっ!?」
――――
――――――――
夢を見ている。
夢の中で私は天子様に糾弾されていました。
いえ、糾弾という表現は正しくないかもしれません。
それは糾弾というにはあまりに優しく、恐怖ではなく申し訳なさでいっぱいになるものだったのですから。
――プロデューサーさんが、いけないんです。
私はしてはならないことをしたらしい。
心当たりは考えても見当たらないのですが、天子様にこんなにも切なげで悲しい声を出させているのです。
きっととてもいけないことなのでしょう。
――誰のものでもないから我慢できたのに、誰かのものになろうなんてするからいけないんです。
それが私の罪のようです。
天子様が見つめていたのに、天子様に駆け寄るどころか離れて行こうとするとは、確かに許されない行為です。
熱が近づくのがわかります。
そして額に、暖かくしっとりとした気持ちの良い感触が奔りました。
今までよりも間近で、囁き声がします。
――プロデューサーさん。今は私だけの、プロデューサーさん。お願いだから、私を見捨てないで。
見捨てるわけがありません。
声を大にして宣言したいのですが、夢に縛られた私は指先一つすら動かすことができませんでした。
この想いを伝えられないのがもどかしく、夢の中でなければ口の中を噛み切っていたことでしょう。
額から熱が離れようとします。
しかしどうしたことか、離れかけたところで動きが止まりました。
――だ、ダメ。
いえ、止まったのではなく、少しずつ下の方へと動いていました。
動きは私の唇の上辺りで止まり、そこで葛藤でもするように震えていることが天使様の声から察せられます。
――ここからは……ここから先は、プロデューサーさんからしてもらわないと。でも、でも……
葛藤はそのままに。
しかし距離は少しずつ埋められ。
やがて私の唇と、天子様の熱が触れあ――
「智絵里ちゃんっ!?」
166: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:39:41.36 ID:cn/ymcwe0
天井が見えました。
なぜ天井が見えるのか。
そして後頭部に感じる柔らかい感触と温かな熱。
どうやらいつの間にか横になっていたようです。
状況がわからず慌てて起き上がろうとしましたが、額に手があてられていることに気がつき思いとどまりました。
「緒方さん……私は、いったい?」
「気がつかれましたか?」
いったいどのような経緯でこんなことになったのか。
なぜ私は緒方さんに膝枕をされているのでしょう。
緒方さんはというと、心なしか残念そうです。
「あの……プロデューサーさん」
「三村さん? その、これはですね」
声がする方に振り向けば、入口に三村さんが混乱したような、申し訳なさそうな顔をして立っています。
どう説明すればいいものか、私自身も状況がわからず言葉に詰まると、そっと緒方さんが助け舟を出してくれました。
「プロデューサーさん、大丈夫ですか? お昼を食べた後、急に睡魔に襲われたようだったので、ソファに横になってもらったんです」
「そんなことが……?」
言われてみて、ようやく断片的に記憶が戻りました。
急に襲ってきた眠気。
重い足を引きずった感触。
そして、そして――どこか、天国にいたような。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。緒方さん、起き上がりますので手をどけてもらえますか」
「ダメです」
それは、意外な言葉でした。
否定されたことも驚きですが、何より驚いたのは否定の仕方です。
あの緒方さんが笑顔を浮かべながら、短くはっきりと他人の提案を却下するとは。
「プロデューサーさんは疲れているんです。目が覚めたからって急に動いたら、せっかく落ち着いた体調が悪くなるかもしれません。……だからもう少しだけ、このままで。かな子ちゃんも、そうした方がいいと思うよね」
「え、ええっ!?」
話を振られるとは思っていなかったのでしょう。
三村さんは手をわたわたさせ、どう答えたらいいものか迷っていると――
「……プロデューサーさん、本当に疲れているみたいなんだよ。だからかな子ちゃん、今度は一緒にプロデューサーさんのためにお弁当作らない? 今度は一緒に“同じこと”しよう……ね?」
――緒方さんの言葉は劇的な効果を産みました。
三村さんは鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとしたかと思うと次は顔が真っ赤に染まり、落ち着かないのか視線は次々と移り行き、最後に私と合ったところで止まりました。
「あ……あぅ」
「み、三村さん? どうされましたか?」
なぜ天井が見えるのか。
そして後頭部に感じる柔らかい感触と温かな熱。
どうやらいつの間にか横になっていたようです。
状況がわからず慌てて起き上がろうとしましたが、額に手があてられていることに気がつき思いとどまりました。
「緒方さん……私は、いったい?」
「気がつかれましたか?」
いったいどのような経緯でこんなことになったのか。
なぜ私は緒方さんに膝枕をされているのでしょう。
緒方さんはというと、心なしか残念そうです。
「あの……プロデューサーさん」
「三村さん? その、これはですね」
声がする方に振り向けば、入口に三村さんが混乱したような、申し訳なさそうな顔をして立っています。
どう説明すればいいものか、私自身も状況がわからず言葉に詰まると、そっと緒方さんが助け舟を出してくれました。
「プロデューサーさん、大丈夫ですか? お昼を食べた後、急に睡魔に襲われたようだったので、ソファに横になってもらったんです」
「そんなことが……?」
言われてみて、ようやく断片的に記憶が戻りました。
急に襲ってきた眠気。
重い足を引きずった感触。
そして、そして――どこか、天国にいたような。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。緒方さん、起き上がりますので手をどけてもらえますか」
「ダメです」
それは、意外な言葉でした。
否定されたことも驚きですが、何より驚いたのは否定の仕方です。
あの緒方さんが笑顔を浮かべながら、短くはっきりと他人の提案を却下するとは。
「プロデューサーさんは疲れているんです。目が覚めたからって急に動いたら、せっかく落ち着いた体調が悪くなるかもしれません。……だからもう少しだけ、このままで。かな子ちゃんも、そうした方がいいと思うよね」
「え、ええっ!?」
話を振られるとは思っていなかったのでしょう。
三村さんは手をわたわたさせ、どう答えたらいいものか迷っていると――
「……プロデューサーさん、本当に疲れているみたいなんだよ。だからかな子ちゃん、今度は一緒にプロデューサーさんのためにお弁当作らない? 今度は一緒に“同じこと”しよう……ね?」
――緒方さんの言葉は劇的な効果を産みました。
三村さんは鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとしたかと思うと次は顔が真っ赤に染まり、落ち着かないのか視線は次々と移り行き、最後に私と合ったところで止まりました。
「あ……あぅ」
「み、三村さん? どうされましたか?」
167: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:40:18.74 ID:cn/ymcwe0
緒方さんの提案を嫌がっているというわけではないようです。
嫌ではないが、恥ずかしい。
しかしそこまで恥ずかしがることなのでしょうか。
お弁当とお菓子という違いこそあれど、普段から三村さんは周りの人に手料理を振る舞うことに慣れているはず。
「ぷ、プロデューサーさん! わ、私も今度は智絵里ちゃんと一緒に、その……料理! 料理をしますから!」
「は、はい」
無理に恥ずかしいことをさせるわけにはいかないと、助け舟を出そうと思ったのですが、その前に三村さんが決心されてしまいました。
緒方さんだけではなく三村さんにまで御馳走になれるのはたいへん嬉しいのですが……何か忘れているような。
私は緒方さんにそのことで、何か注意しなければならないことがあったような気がするのです。
記憶が混濁するほどの眠気に襲われた影響がまだ残っているのか。
緒方さんの言うとおり、もう少し横になっていた方がいいのかもしれません。
ただ、膝枕はどうかと思うのですが……
「いーま振り向かせてあげーる♪ パステルピンクな罠で♪」
上機嫌な緒方さんに水をさすのもどうかと思い言い出せません。
しかし膝枕をするというのはそれほど楽しいことなのでしょうか。
私には理解できません。
ああ、理解できないといえばもう一つありました。
あんなに苦みのあるお茶を飲んだのに、なぜここまで強烈な眠気に襲われたのでしょうか。
カフェインが無いタイプだとしても、あの苦みは眠気を跳ね飛ばす効果がありそうなのですが――
嫌ではないが、恥ずかしい。
しかしそこまで恥ずかしがることなのでしょうか。
お弁当とお菓子という違いこそあれど、普段から三村さんは周りの人に手料理を振る舞うことに慣れているはず。
「ぷ、プロデューサーさん! わ、私も今度は智絵里ちゃんと一緒に、その……料理! 料理をしますから!」
「は、はい」
無理に恥ずかしいことをさせるわけにはいかないと、助け舟を出そうと思ったのですが、その前に三村さんが決心されてしまいました。
緒方さんだけではなく三村さんにまで御馳走になれるのはたいへん嬉しいのですが……何か忘れているような。
私は緒方さんにそのことで、何か注意しなければならないことがあったような気がするのです。
記憶が混濁するほどの眠気に襲われた影響がまだ残っているのか。
緒方さんの言うとおり、もう少し横になっていた方がいいのかもしれません。
ただ、膝枕はどうかと思うのですが……
「いーま振り向かせてあげーる♪ パステルピンクな罠で♪」
上機嫌な緒方さんに水をさすのもどうかと思い言い出せません。
しかし膝枕をするというのはそれほど楽しいことなのでしょうか。
私には理解できません。
ああ、理解できないといえばもう一つありました。
あんなに苦みのあるお茶を飲んだのに、なぜここまで強烈な眠気に襲われたのでしょうか。
カフェインが無いタイプだとしても、あの苦みは眠気を跳ね飛ばす効果がありそうなのですが――
168: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:40:54.75 ID:cn/ymcwe0
Ⅸ:貴女が昔懐いていた木偶の坊だけど、お別れを言った方がいいわよ
結局私はどのぐらいの時間眠っていたのでしょうか。
逆算すると意識が無かった時間がニ十分ほど、そして意識があるまま横になっていた時間もニ十分ほどのようです。
昼食も合わせて一時間近く休んでしまいました。
実は意識が戻って五分ほどで緒方さんの足が心配になり起き上がろうとしたのですが……
「じゃあ……続きはかな子ちゃんですね」
「ええっ!?」
私も三村さんも慌てに慌てたのですが、緒方さんの静かなのに有無を言わさない雰囲気に気圧され、今度は三村さんに膝枕をしてもらうこととなったのです。
「しかしそれにしても……」
なんとすばらしい感触だったのだろうと、思わず続けそうになった言葉を頭を振ってかろうじて遮ります。
例えるならばマシュマロ。
白くもちもちとした弾力は私の重い頭を優しく受け止め、危うくもう一度眠りに落ちそうになりました。
さらに三村さんの顔を見ようとすれば、顔が見えないほど豊満な……いえ、女性の胸について考えるのは止めましょう。
自業自得とはいえ、昨日さんざんな目にあいました。
三村さん自身は自分の体形を気にされているようですが、ファンの皆さんと私にしてみればたいへん魅力的です。
あまりに華奢すぎる女性は見ていて不安になることがあります。
さらに三村さんの場合はあの優しいおっとりとした性格も合わさって、安心して身を委ねて包まれたいという欲求が芽生え――
「……さっきから私は何を考えているのですか」
今私はというと、まだ少し残っている眠気を振り払うために散歩がてらレッスンの様子を見に行く最中です。
歩きながら考えを整理しようと思ったのですが、なぜか思考がふしだらな方に進みます。
これではいけないと、気合いを入れるために頬を叩くと熱を感じました。
熱を感じた場所は頬だけではありません。
背後から振動と共に熱気が近づいてきているのがわかります。
それも、凄まじい勢いで。
「ボンバーッ!!!」
気合いを入れる所作が彼女を招きよせたのか。
いずれにしてもこの勢いはまずい。
私を通り過ぎて駆け抜けるのなら問題は――廊下を走ってはいけませんが――ありません。
しかしこのまま背中に渾身のタックルを受ける可能性も十あります。
慌てて振り向くと私の真正面に彼女、日野さんが爆走する姿がありました。
日野茜
http://imcgdb.info/card-img/3507102.jpg
結局私はどのぐらいの時間眠っていたのでしょうか。
逆算すると意識が無かった時間がニ十分ほど、そして意識があるまま横になっていた時間もニ十分ほどのようです。
昼食も合わせて一時間近く休んでしまいました。
実は意識が戻って五分ほどで緒方さんの足が心配になり起き上がろうとしたのですが……
「じゃあ……続きはかな子ちゃんですね」
「ええっ!?」
私も三村さんも慌てに慌てたのですが、緒方さんの静かなのに有無を言わさない雰囲気に気圧され、今度は三村さんに膝枕をしてもらうこととなったのです。
「しかしそれにしても……」
なんとすばらしい感触だったのだろうと、思わず続けそうになった言葉を頭を振ってかろうじて遮ります。
例えるならばマシュマロ。
白くもちもちとした弾力は私の重い頭を優しく受け止め、危うくもう一度眠りに落ちそうになりました。
さらに三村さんの顔を見ようとすれば、顔が見えないほど豊満な……いえ、女性の胸について考えるのは止めましょう。
自業自得とはいえ、昨日さんざんな目にあいました。
三村さん自身は自分の体形を気にされているようですが、ファンの皆さんと私にしてみればたいへん魅力的です。
あまりに華奢すぎる女性は見ていて不安になることがあります。
さらに三村さんの場合はあの優しいおっとりとした性格も合わさって、安心して身を委ねて包まれたいという欲求が芽生え――
「……さっきから私は何を考えているのですか」
今私はというと、まだ少し残っている眠気を振り払うために散歩がてらレッスンの様子を見に行く最中です。
歩きながら考えを整理しようと思ったのですが、なぜか思考がふしだらな方に進みます。
これではいけないと、気合いを入れるために頬を叩くと熱を感じました。
熱を感じた場所は頬だけではありません。
背後から振動と共に熱気が近づいてきているのがわかります。
それも、凄まじい勢いで。
「ボンバーッ!!!」
気合いを入れる所作が彼女を招きよせたのか。
いずれにしてもこの勢いはまずい。
私を通り過ぎて駆け抜けるのなら問題は――廊下を走ってはいけませんが――ありません。
しかしこのまま背中に渾身のタックルを受ける可能性も十あります。
慌てて振り向くと私の真正面に彼女、日野さんが爆走する姿がありました。
日野茜
http://imcgdb.info/card-img/3507102.jpg
169: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:41:53.47 ID:cn/ymcwe0
日野さんと目が合います。
彼女は最初から私を見ていました。
以前として減速する気配がまるでありません。
むしろ目が合ったことで加速したようにすら思えます。
避けるという選択肢が一瞬頭をよぎりましたが、それで日野さんが転んで怪我でもしたらと考えると死んでも死にきれない。
あの小さな太陽のような突進を、受け止めるしかないのです。
彼我の体重差は倍以上。
しかしあの突進の勢いはそんな数字を吹き飛ばすに余りある。
足を肩幅に開きつつ、右足を後ろにずらして腰を落として前傾姿勢をとる。
肩の力を抜き、深く息を吐く。
私の構えを見て、受け止めてもらえるとわかったからなのか。
日野さんの燃える瞳がいっそう輝きを帯び――
「プ、ロ、デュ、ウ、サアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
まだ距離は3メートルほどありました。
それなのに日野さんの両足が地から離れます。
放たれた矢のように、私のずっと下からタックルが迫りくる!
そのままぶつかられると思っていたので、この角度は予想外でした。
下手に踏ん張って受け止めれば腰かアキレスを痛めかねません。
日野さんの小さくて熱い体が触れると同時に、彼女を両腕で抱きとめながら足から力を抜き、勢いに逆らわず倒れます。
腰から倒れ背中がついても勢いはまだまだあり、廊下を滑ることとなりました。
背中に摩擦熱が起きますが、こんな熱を彼女の素肌に味あわせるわけにはいかないと必死に抱き留めます。
数メートルほど滑ったところで勢いが収まり、安堵の息が漏れました。
「日野さん。このようなことは危険なので二度と――」
「プロデューサー! 大丈夫でしたかプロデューサー!?」
注意しようとした矢先、日野さんは私に抱え込まれた体勢のまま心臓の音を確かめるように胸に顔を押し当てながら大声で、それも震えた声で問いかけます。
よく見れば目じりに涙のようなものが見えました。
今ので私にケガをさせたのではないかと心配している……にしては大げさです。
考えてみると最初からおかしい点はありました。
日野さんはテンションがあがると私の注意を忘れて、抱きついたりタックルをすることは度々ありました。
しかし今のように、事故になりかねない勢いでタックルをすることなどありえません。
よほどのことがあって混乱しているように考えられます。
「良かった……ッ! 動いています、ちゃんとプロデューサーの心臓がバクンバクンと動いています!!! ウオオオオォ、良かったああああああ!!!」
「あの……日野さん?」
私の胸から顔を離したのはいいのですが、今度は馬乗りになったまま両の手を天に突き上げ漢泣きを始めてしまいました。
まるで私が死ぬかそれに近い状態だったと思い込んで――
「本当に、本当に良かったです! 結婚詐欺にあってお尻の毛までむしり取られて、内臓という内臓が売られて蟹漁船に行く手続きが済んだと聞いた時は生きた心地がしませんでした!!!」
――話に尾ひれがいくらなんでも付きすぎではないでしょうか?
彼女は最初から私を見ていました。
以前として減速する気配がまるでありません。
むしろ目が合ったことで加速したようにすら思えます。
避けるという選択肢が一瞬頭をよぎりましたが、それで日野さんが転んで怪我でもしたらと考えると死んでも死にきれない。
あの小さな太陽のような突進を、受け止めるしかないのです。
彼我の体重差は倍以上。
しかしあの突進の勢いはそんな数字を吹き飛ばすに余りある。
足を肩幅に開きつつ、右足を後ろにずらして腰を落として前傾姿勢をとる。
肩の力を抜き、深く息を吐く。
私の構えを見て、受け止めてもらえるとわかったからなのか。
日野さんの燃える瞳がいっそう輝きを帯び――
「プ、ロ、デュ、ウ、サアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
まだ距離は3メートルほどありました。
それなのに日野さんの両足が地から離れます。
放たれた矢のように、私のずっと下からタックルが迫りくる!
そのままぶつかられると思っていたので、この角度は予想外でした。
下手に踏ん張って受け止めれば腰かアキレスを痛めかねません。
日野さんの小さくて熱い体が触れると同時に、彼女を両腕で抱きとめながら足から力を抜き、勢いに逆らわず倒れます。
腰から倒れ背中がついても勢いはまだまだあり、廊下を滑ることとなりました。
背中に摩擦熱が起きますが、こんな熱を彼女の素肌に味あわせるわけにはいかないと必死に抱き留めます。
数メートルほど滑ったところで勢いが収まり、安堵の息が漏れました。
「日野さん。このようなことは危険なので二度と――」
「プロデューサー! 大丈夫でしたかプロデューサー!?」
注意しようとした矢先、日野さんは私に抱え込まれた体勢のまま心臓の音を確かめるように胸に顔を押し当てながら大声で、それも震えた声で問いかけます。
よく見れば目じりに涙のようなものが見えました。
今ので私にケガをさせたのではないかと心配している……にしては大げさです。
考えてみると最初からおかしい点はありました。
日野さんはテンションがあがると私の注意を忘れて、抱きついたりタックルをすることは度々ありました。
しかし今のように、事故になりかねない勢いでタックルをすることなどありえません。
よほどのことがあって混乱しているように考えられます。
「良かった……ッ! 動いています、ちゃんとプロデューサーの心臓がバクンバクンと動いています!!! ウオオオオォ、良かったああああああ!!!」
「あの……日野さん?」
私の胸から顔を離したのはいいのですが、今度は馬乗りになったまま両の手を天に突き上げ漢泣きを始めてしまいました。
まるで私が死ぬかそれに近い状態だったと思い込んで――
「本当に、本当に良かったです! 結婚詐欺にあってお尻の毛までむしり取られて、内臓という内臓が売られて蟹漁船に行く手続きが済んだと聞いた時は生きた心地がしませんでした!!!」
――話に尾ひれがいくらなんでも付きすぎではないでしょうか?
170: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:42:43.51 ID:cn/ymcwe0
「生きていますよね!?」
「……はい、見ての通り」
「内臓はいくつ取られてしまったんですか!?」
「まだ、一つも」
「蟹漁船とかいう地獄への片道切符へのサインは!?」
「行くつもりはないので、ご安心を」
「よ、良かった~~~~~」
安心して力が抜けたのか、日野さんが倒れこみます。
私に、馬乗りになった状態からです。
「ひ、日野さん。その、いいでしょうか?」
「あ~、プロデューサーの体温を感じます。ちゃんと血が通っていて、バクバクいって暖かくてポカポカした気持ちになれます……」
なんとか日野さんを離さないと。
そのために声をかけたものの聞こえないようで、あろうことか再び私の胸に顔を押し当てながら、生きていることを確かめるように体のあちらこちらをさすり始めました。
「~~~~~っっっ」
ワイシャツ越しに日野さんの意外と小さな手に、普段の元気あふれる行為とは裏腹に私が壊れないようにそっと優しく撫でられ、襲いくる快感に悶えそうになる体を必死になって抑えます。
これは、非常にまずい。
「日野さんっ。この体勢はいけません、離れましょう」
「はあ~、プロデューサーの胸っていいですね。広くって暖かくて、たくましい弾力もあって……なんだか安心しちゃったから、このままここで眠りたい……気分、です」
「日野さん? 日野さん!?」
「すやぁ……」
あっという間の出来事です。
日野さんの声から力が抜けてきたかと思うと、一瞬にしてとろけたような顔をして寝息をたて始めました。
よく食べてよく動き、そしてよく寝る。
実に日野さんらしいですが、これはいくらなんでもあんまりです。
もしかしかすると私が酷い目にあっているとの心配から駆け回り、心身ともに消耗していたのでしょうか。
突然の事態に困り果てていると、畳みかけるように廊下に足音が響きます。
今の状態を見られでもしたらことです。
この状況を打開するにはいったん日野さんを横におろし、私が起き上がって彼女を抱きかかえてここを去ることですが……日野さんを横におろして立ち上がろうとした瞬間を目撃されれば、私が日野さんに不埒な行為をしていると勘違いされかねません。
どうしたのもかと考えあぐねているうちに、ついに足音の主が姿を現してしまいました。
「あら、CPのプロデューサーさん。こんにちは」
「……ああ、武内か。元気そうだな、俺は元気です」
「……はい、見ての通り」
「内臓はいくつ取られてしまったんですか!?」
「まだ、一つも」
「蟹漁船とかいう地獄への片道切符へのサインは!?」
「行くつもりはないので、ご安心を」
「よ、良かった~~~~~」
安心して力が抜けたのか、日野さんが倒れこみます。
私に、馬乗りになった状態からです。
「ひ、日野さん。その、いいでしょうか?」
「あ~、プロデューサーの体温を感じます。ちゃんと血が通っていて、バクバクいって暖かくてポカポカした気持ちになれます……」
なんとか日野さんを離さないと。
そのために声をかけたものの聞こえないようで、あろうことか再び私の胸に顔を押し当てながら、生きていることを確かめるように体のあちらこちらをさすり始めました。
「~~~~~っっっ」
ワイシャツ越しに日野さんの意外と小さな手に、普段の元気あふれる行為とは裏腹に私が壊れないようにそっと優しく撫でられ、襲いくる快感に悶えそうになる体を必死になって抑えます。
これは、非常にまずい。
「日野さんっ。この体勢はいけません、離れましょう」
「はあ~、プロデューサーの胸っていいですね。広くって暖かくて、たくましい弾力もあって……なんだか安心しちゃったから、このままここで眠りたい……気分、です」
「日野さん? 日野さん!?」
「すやぁ……」
あっという間の出来事です。
日野さんの声から力が抜けてきたかと思うと、一瞬にしてとろけたような顔をして寝息をたて始めました。
よく食べてよく動き、そしてよく寝る。
実に日野さんらしいですが、これはいくらなんでもあんまりです。
もしかしかすると私が酷い目にあっているとの心配から駆け回り、心身ともに消耗していたのでしょうか。
突然の事態に困り果てていると、畳みかけるように廊下に足音が響きます。
今の状態を見られでもしたらことです。
この状況を打開するにはいったん日野さんを横におろし、私が起き上がって彼女を抱きかかえてここを去ることですが……日野さんを横におろして立ち上がろうとした瞬間を目撃されれば、私が日野さんに不埒な行為をしていると勘違いされかねません。
どうしたのもかと考えあぐねているうちに、ついに足音の主が姿を現してしまいました。
「あら、CPのプロデューサーさん。こんにちは」
「……ああ、武内か。元気そうだな、俺は元気です」
171: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:43:18.92 ID:cn/ymcwe0
満面の笑みで幸せの絶頂にあるといわんばかりの佐久間さんと、死んだ魚のような目をした同期のお二人でした。
同期は佐久間さんに腕を組まれているのに無抵抗で、彼女に引っ張られるがまま進んでいます。
その手に大量のハガキを持っていることも気になりましたが、そんな疑問は吹き飛ぶほど異様な寒気を覚えました。
「フフ、茜ちゃんと仲が良いんですね。とてもいいことだとまゆは思いますよぉ。ああ、それと。六月の○日の予定を空けておいてくださいね。お願いします」
「武内……おまえだけは、おまえだけでも」
正と負の組み合わせ、とは一概に言い切れないものを感じ背筋が凍ります。
佐久間さんは一点の曇りもないほどの幸せを堪能し、同期は負のオーラこそ漂わせていますが、それ以上に幸せから逃げることを諦めた絶望と安堵がにじみ出ています。
下手に意地など張らなければ良かった。
この道を選べば幸せな毎日が来ることは薄々わかっていたのに。
けどこれは、プロデューサーとして許されないことなのだ――
去り行く背中がそんなことを語りかけた気がして、さらに自分の未来を暗示しているような気がして寒気を覚え、体が震えます。
体の震えが収まり、日野さんを起こして近くのベンチに移動するのは十分後のこととなりました――
同期は佐久間さんに腕を組まれているのに無抵抗で、彼女に引っ張られるがまま進んでいます。
その手に大量のハガキを持っていることも気になりましたが、そんな疑問は吹き飛ぶほど異様な寒気を覚えました。
「フフ、茜ちゃんと仲が良いんですね。とてもいいことだとまゆは思いますよぉ。ああ、それと。六月の○日の予定を空けておいてくださいね。お願いします」
「武内……おまえだけは、おまえだけでも」
正と負の組み合わせ、とは一概に言い切れないものを感じ背筋が凍ります。
佐久間さんは一点の曇りもないほどの幸せを堪能し、同期は負のオーラこそ漂わせていますが、それ以上に幸せから逃げることを諦めた絶望と安堵がにじみ出ています。
下手に意地など張らなければ良かった。
この道を選べば幸せな毎日が来ることは薄々わかっていたのに。
けどこれは、プロデューサーとして許されないことなのだ――
去り行く背中がそんなことを語りかけた気がして、さらに自分の未来を暗示しているような気がして寒気を覚え、体が震えます。
体の震えが収まり、日野さんを起こして近くのベンチに移動するのは十分後のこととなりました――
172: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:44:09.94 ID:cn/ymcwe0
――
――――
――――――――
「そういう事情があったんですね、本当に良かったです! プロデューサーが女の人に騙されていなくて安心しました!!!」
「私が不甲斐ないせいで、問題のある女性となし崩しで付き合うのではないかと心配され……それが元に妙な噂が流れ、日野さんにご迷惑をかけてしまい申し訳ありません」
「いえいえ! 私が勝手に心配しただけですから、こちらの方こそ!」
日野さんはあれだけ疲れていたのに、ほんの数分仮眠をとっただけで回復されたようです。
若いとは羨ましい……日野さんは規格外ではありますが。
ともあれ、今起きていることを私が知っていることと、それに推測を加えながら説明することができました。
その結果お互い頭を下げ合うのですから実に日野さんと私らしいと、先ほど感じた寒気を和らげる温かい気持ちになります。
「しかしプロデューサーをそんな風に心配している人たちがいるんですね……わかります!!!」
「わ、わかるのですか」
日野さんにまで、それも気持ちいいぐらい断言されて思わず失笑していまいました。
「プロデューサーはお仕事についてはそうそう騙されないと思います。けど……こう、ウッフン、アッハンな女性にすごく近づかれて困って断っているのに、されるがままになりそうなイメージとか、困っている女性の悩みを聞いているうちに逃げられない状態になってそうなイメージがあるんです!!」
確かにそういう場面にあうと、私は戸惑ったり相手の女性にズブズブとはまって逃げられないかもしれません。
しかしそういう女性は私などではなくもっとカッコイイ男性や、頼りがいのある人を狙うものでしょう。
「ハッ、そうでした! 私知っています! さっき聞きました! 問題のある女性と結婚しないですむ方法を!!!」
「それは、なんでしょうか?」
もしかすると、私を心配してくださっている方たちに安心してもらえるかもしれません。
それに私も男ですから、純粋に気にもなります。
よほど会心の案なのでしょう。
日野さんは笑顔のまま大きく息を吸い――
「私と結婚することです!!!」
――太陽のフレアを放射しました。
「日野……さん?」
予想外の人物の予想外の答えに、燃え尽きて真っ白になりそうです。
しかし私の気力を薪としてくべたのか、日野さんの熱は増すばかり。
「日本は重婚というものが禁止されているとかなんとか! だから私がプロデューサーと結婚していれば安全です! 17歳です!」
結婚は目的ではなくて手段なのですか。
少し安心しましたが、年頃の乙女が結婚を手段とするのも大問題です。
「私の年齢だとお父さんお母さんの許可が必要だけど、それも大丈夫です! 二人とも、プロデューサーのこと誠実で体もしっかりしていると褒めていました! プロデューサーにタックルすることは禁止されていましたが、結婚した後ならいいですよね!? 大好きなプロデューサーと結婚すると良いことずくめです!」
「……ところで結婚ってどうやったらできるんですか?」
――――
――――――――
「そういう事情があったんですね、本当に良かったです! プロデューサーが女の人に騙されていなくて安心しました!!!」
「私が不甲斐ないせいで、問題のある女性となし崩しで付き合うのではないかと心配され……それが元に妙な噂が流れ、日野さんにご迷惑をかけてしまい申し訳ありません」
「いえいえ! 私が勝手に心配しただけですから、こちらの方こそ!」
日野さんはあれだけ疲れていたのに、ほんの数分仮眠をとっただけで回復されたようです。
若いとは羨ましい……日野さんは規格外ではありますが。
ともあれ、今起きていることを私が知っていることと、それに推測を加えながら説明することができました。
その結果お互い頭を下げ合うのですから実に日野さんと私らしいと、先ほど感じた寒気を和らげる温かい気持ちになります。
「しかしプロデューサーをそんな風に心配している人たちがいるんですね……わかります!!!」
「わ、わかるのですか」
日野さんにまで、それも気持ちいいぐらい断言されて思わず失笑していまいました。
「プロデューサーはお仕事についてはそうそう騙されないと思います。けど……こう、ウッフン、アッハンな女性にすごく近づかれて困って断っているのに、されるがままになりそうなイメージとか、困っている女性の悩みを聞いているうちに逃げられない状態になってそうなイメージがあるんです!!」
確かにそういう場面にあうと、私は戸惑ったり相手の女性にズブズブとはまって逃げられないかもしれません。
しかしそういう女性は私などではなくもっとカッコイイ男性や、頼りがいのある人を狙うものでしょう。
「ハッ、そうでした! 私知っています! さっき聞きました! 問題のある女性と結婚しないですむ方法を!!!」
「それは、なんでしょうか?」
もしかすると、私を心配してくださっている方たちに安心してもらえるかもしれません。
それに私も男ですから、純粋に気にもなります。
よほど会心の案なのでしょう。
日野さんは笑顔のまま大きく息を吸い――
「私と結婚することです!!!」
――太陽のフレアを放射しました。
「日野……さん?」
予想外の人物の予想外の答えに、燃え尽きて真っ白になりそうです。
しかし私の気力を薪としてくべたのか、日野さんの熱は増すばかり。
「日本は重婚というものが禁止されているとかなんとか! だから私がプロデューサーと結婚していれば安全です! 17歳です!」
結婚は目的ではなくて手段なのですか。
少し安心しましたが、年頃の乙女が結婚を手段とするのも大問題です。
「私の年齢だとお父さんお母さんの許可が必要だけど、それも大丈夫です! 二人とも、プロデューサーのこと誠実で体もしっかりしていると褒めていました! プロデューサーにタックルすることは禁止されていましたが、結婚した後ならいいですよね!? 大好きなプロデューサーと結婚すると良いことずくめです!」
「……ところで結婚ってどうやったらできるんですか?」
173: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:44:47.02 ID:cn/ymcwe0
拳を握りながらとんでもないことを、とんでもないという自覚が無いまま力説し終えたと思うと、今度はキョトンとした顔を私に向けます。
私はというと、頭を抱え込みたい衝動をこらえながら何とか考えます。
先ほどの日野さんの発言は、分類すれば一応プロポーズに当たります。
しかし日野さんからは決意こそ感じられど、恥ずかしさや恐怖、そしてそれらを克服した勇気が見当たりませんでした。
結婚というものへの考えが浅いと言わざるを得ません。
「日野さん、少し落ち着かれてください」
「一休憩終えたばかりですが?」
「日野さんはその……結婚というものを軽く見ているように思えます。一度目を閉じながら深呼吸して、私と結婚するとどうなるか想像してみてください」
「むむっ?」
日野さんは素直に目を閉じながら大きく深呼吸をします。
考え込んだのは十秒ほどでしょうか。
かっと目を開き、しかし深呼吸の影響から落ち着いた声音で答えます。
「……男の子二人、女の子一人に白くて大きい犬はどうでしょうか?」
……冷静に考えられたようですが、どうやら根本的なところが依然として抜けたままのようです。
「日野さん……失礼とは思いますが、子どものつくりかたはご存じでしょうか?」
「学校で習いました!」
「習っているのですか!?」
「けど気がつけば寝ていました!」
「よりによって!?」
天の采配か、はたまた悪魔のいたずらか。
日野さんの性教育の現状を嘆いていると、私の嘆きを吹き飛ばさんと元気のいい声がします。
「でも大丈夫です! 友達にどんな内容だったか訊いたら『茜ちゃんが信頼した男の人なら全部任せて大丈夫だよ』って言ってくれました! プロデューサーは私がこの世で一番信頼している人なので大丈夫というわけです!!!」
「は、はい……」
北風と太陽という童話があります。
あの話は太陽の温かい日差しで旅人が服を脱ぐのですが、日野さんという太陽が輝くにつれ私の心は冷え込んでいきます。
「あの……ひょっとしてプロデューサーは私と結婚するのが嫌なんですか?」
そんな私の冷え込んだ心が態度に出ていたのか。
日野さんは心配そうに目じりに涙をためて、おそるおそる尋ねます。
急に太陽が沈んでしまったかのように辺りが寂しくなり、何よりあの明るい少女にこんな表情をさせてしまったのだと胸が締めつけられました。
「そのようなことは、断じてありません。日野さんと結婚することが嫌などということは」
「よかった! じゃあ早速結婚しましょう!」
コロコロと変わる表情は見ていて楽しいものです。
許されるのならばずっと見ていたいものですが……状況がそれを許しません。
私はというと、頭を抱え込みたい衝動をこらえながら何とか考えます。
先ほどの日野さんの発言は、分類すれば一応プロポーズに当たります。
しかし日野さんからは決意こそ感じられど、恥ずかしさや恐怖、そしてそれらを克服した勇気が見当たりませんでした。
結婚というものへの考えが浅いと言わざるを得ません。
「日野さん、少し落ち着かれてください」
「一休憩終えたばかりですが?」
「日野さんはその……結婚というものを軽く見ているように思えます。一度目を閉じながら深呼吸して、私と結婚するとどうなるか想像してみてください」
「むむっ?」
日野さんは素直に目を閉じながら大きく深呼吸をします。
考え込んだのは十秒ほどでしょうか。
かっと目を開き、しかし深呼吸の影響から落ち着いた声音で答えます。
「……男の子二人、女の子一人に白くて大きい犬はどうでしょうか?」
……冷静に考えられたようですが、どうやら根本的なところが依然として抜けたままのようです。
「日野さん……失礼とは思いますが、子どものつくりかたはご存じでしょうか?」
「学校で習いました!」
「習っているのですか!?」
「けど気がつけば寝ていました!」
「よりによって!?」
天の采配か、はたまた悪魔のいたずらか。
日野さんの性教育の現状を嘆いていると、私の嘆きを吹き飛ばさんと元気のいい声がします。
「でも大丈夫です! 友達にどんな内容だったか訊いたら『茜ちゃんが信頼した男の人なら全部任せて大丈夫だよ』って言ってくれました! プロデューサーは私がこの世で一番信頼している人なので大丈夫というわけです!!!」
「は、はい……」
北風と太陽という童話があります。
あの話は太陽の温かい日差しで旅人が服を脱ぐのですが、日野さんという太陽が輝くにつれ私の心は冷え込んでいきます。
「あの……ひょっとしてプロデューサーは私と結婚するのが嫌なんですか?」
そんな私の冷え込んだ心が態度に出ていたのか。
日野さんは心配そうに目じりに涙をためて、おそるおそる尋ねます。
急に太陽が沈んでしまったかのように辺りが寂しくなり、何よりあの明るい少女にこんな表情をさせてしまったのだと胸が締めつけられました。
「そのようなことは、断じてありません。日野さんと結婚することが嫌などということは」
「よかった! じゃあ早速結婚しましょう!」
コロコロと変わる表情は見ていて楽しいものです。
許されるのならばずっと見ていたいものですが……状況がそれを許しません。
174: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:45:28.13 ID:cn/ymcwe0
彼女は正しい知識を持たないといけない。
止めるにはその方法しかありませんし、もしこのままうっかりメディアで「今度結婚するんです!!!」などという発言をされたら大問題です。
そうでなくとも十七歳ということを考えれば知らなければなりません。
本当なら女性が教えるべきなのでしょうが、事は急を要します。
周りに人もいないので、要点だけを押さえて私が説明するとしましょう。
「いいですか日野さん。子どものつくりかたですが――」
(*゚▽゚)ノ
「――して、ということが起こります」
(゚ペ)?
「そしてそれに刺激を与えると――これが■■です」
Σ(っ゚Д゚;)っ
「これを女性の体内――つまり、その……●●から」
(///∇//)
「体内で■■することで――」
(//∇//(//∇//(//∇//)
止めるにはその方法しかありませんし、もしこのままうっかりメディアで「今度結婚するんです!!!」などという発言をされたら大問題です。
そうでなくとも十七歳ということを考えれば知らなければなりません。
本当なら女性が教えるべきなのでしょうが、事は急を要します。
周りに人もいないので、要点だけを押さえて私が説明するとしましょう。
「いいですか日野さん。子どものつくりかたですが――」
(*゚▽゚)ノ
「――して、ということが起こります」
(゚ペ)?
「そしてそれに刺激を与えると――これが■■です」
Σ(っ゚Д゚;)っ
「これを女性の体内――つまり、その……●●から」
(///∇//)
「体内で■■することで――」
(//∇//(//∇//(//∇//)
175: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:46:58.55 ID:cn/ymcwe0
――
――――
――――――――
「……ざっくりと説明しましたが、わかりましたか」
「あ……あうあう」
茹でたタコのように顔は真っ赤に染まり、全身が羞恥から小刻みに震えています。
日野さんの性知識で今の話を聞いたことも大きいでしょうが、何より知らなかったとはいえ私に言ってしまったことが頭の中で何度もリフレインしているのかもしれません。
それにしても羞恥に染まる日野さんの姿はたいへん珍しく、そして愛らしい。
普段が元気があふれ出んばかりなので、こういう姿をファンの皆さんが見る機会をつくれたら今以上に人気が出るのでしょうが――多分本人は嫌がるので、ここから先を考えるのは止めましょう。
「先ほどの日野さんの提案ですが、ご存じなかったので仕方ありません。なのでこれからは、結婚しようとか子どもを産むなどという言葉は控えましょう」
慰めようにも下手にこの話題を続けた方が辛いだろうと考え、話を打ち切ろうとしました。
結果だけ見れば、日野さんが正しい知識を得るきっきけができて良かったとも思えます。
もしこれが多くの人の前やテレビの収録中だと考えると――
「う……みます」
「日野さん?」
デリケートな説明を終え、事態も解決できたと安心した矢先でした。
日野さんはやはり顔を真っ赤にしながら――いえ、先ほどよりさらに真っ赤に染め上げ、力を込めようと拳を握っています。
しかしよく見ると拳は形をつくっているだけで握りきれておらず、声も日野さんらしからず弱々しい。
普段とはありとあらゆるものが違うなか、それでも瞳だけはいつものように私を真っ直ぐに見つめて、彼女は決意と、そして先ほどは無かった勇気を振り絞りながら震える唇に少しずつ言の葉を乗せていきます。
「プ……プロデューサーが相手なら、赤ちゃん……う、産みます!」
…………………………説明が、足りなかったようです。
「い、今なら友達が言っていたことがわかります。私が信頼した人に全部任せていいと。ああ、あんなこと……ち、ちなみにプロデューサーのはどのぐらいの大きさなんですか?」
「そ、それは……女性にスリーサイズを尋ねるのと同じぐらいデリケートな問いです」
女子高生に自分のモノが隆起したサイズを教えるなど全力で回避したいです。
しかし日野さんは不思議そうな顔をして、あっさりと逃げ道を塞ぎました。
「でもプロデューサーは私のスリーサイズを知っていますよね?」
「そ、それは……」
プロフィールの作成や衣装合わせに必要だからなのですが、知っていることには変わらないので日野さんは納得されないでしょう。
それにひょっとすると、私の大きさを知れば考え直してくれるかもしれません。
「……誰にも言わないでもらえますか?」
「は、はいっ!!!」
人として、許されざる道を歩んでいることが否応なしにわかります。
ああ、なんとプロデューサー業とは修羅の道なのか。
一度深呼吸して意を決します。
――――
――――――――
「……ざっくりと説明しましたが、わかりましたか」
「あ……あうあう」
茹でたタコのように顔は真っ赤に染まり、全身が羞恥から小刻みに震えています。
日野さんの性知識で今の話を聞いたことも大きいでしょうが、何より知らなかったとはいえ私に言ってしまったことが頭の中で何度もリフレインしているのかもしれません。
それにしても羞恥に染まる日野さんの姿はたいへん珍しく、そして愛らしい。
普段が元気があふれ出んばかりなので、こういう姿をファンの皆さんが見る機会をつくれたら今以上に人気が出るのでしょうが――多分本人は嫌がるので、ここから先を考えるのは止めましょう。
「先ほどの日野さんの提案ですが、ご存じなかったので仕方ありません。なのでこれからは、結婚しようとか子どもを産むなどという言葉は控えましょう」
慰めようにも下手にこの話題を続けた方が辛いだろうと考え、話を打ち切ろうとしました。
結果だけ見れば、日野さんが正しい知識を得るきっきけができて良かったとも思えます。
もしこれが多くの人の前やテレビの収録中だと考えると――
「う……みます」
「日野さん?」
デリケートな説明を終え、事態も解決できたと安心した矢先でした。
日野さんはやはり顔を真っ赤にしながら――いえ、先ほどよりさらに真っ赤に染め上げ、力を込めようと拳を握っています。
しかしよく見ると拳は形をつくっているだけで握りきれておらず、声も日野さんらしからず弱々しい。
普段とはありとあらゆるものが違うなか、それでも瞳だけはいつものように私を真っ直ぐに見つめて、彼女は決意と、そして先ほどは無かった勇気を振り絞りながら震える唇に少しずつ言の葉を乗せていきます。
「プ……プロデューサーが相手なら、赤ちゃん……う、産みます!」
…………………………説明が、足りなかったようです。
「い、今なら友達が言っていたことがわかります。私が信頼した人に全部任せていいと。ああ、あんなこと……ち、ちなみにプロデューサーのはどのぐらいの大きさなんですか?」
「そ、それは……女性にスリーサイズを尋ねるのと同じぐらいデリケートな問いです」
女子高生に自分のモノが隆起したサイズを教えるなど全力で回避したいです。
しかし日野さんは不思議そうな顔をして、あっさりと逃げ道を塞ぎました。
「でもプロデューサーは私のスリーサイズを知っていますよね?」
「そ、それは……」
プロフィールの作成や衣装合わせに必要だからなのですが、知っていることには変わらないので日野さんは納得されないでしょう。
それにひょっとすると、私の大きさを知れば考え直してくれるかもしれません。
「……誰にも言わないでもらえますか?」
「は、はいっ!!!」
人として、許されざる道を歩んでいることが否応なしにわかります。
ああ、なんとプロデューサー業とは修羅の道なのか。
一度深呼吸して意を決します。
176: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/03(金) 20:47:45.76 ID:cn/ymcwe0
「私の大きさは……【武内君の実年齢の数字】センチです」
「なっ……【武内君の実年齢の数字】センチ!!!」
「ひ、日野さんっ。声が大きいです」
「すみません! しかし……ええぇ!? つまり……これぐらいですか?」
「……ッ!」
日野さんが手で私のモノをかたどる仕草をするのを見て、つい卑猥な妄想をしてしまいました。
これは注意すべきなのか。
しかし注意した内容を理解してもらうためにはさらに詳しい性への説明が必要で、正直もう無理です。
「これが……これが私に」
「……わかっていただけたでしょうか。子どもをつくるという意味を」
これでもう大丈夫だろうと言う見込みと、どうかこれで終わってくださいという願望を込めた確認でした。
日野さんの顔はさらに真っ赤に染まり、今にも湯気があがりそうです。
「た、確かにこんなに大きなモノ……私には無理です」
その言葉に天を拳に突き上げてガッツポーズを突き上げたい衝動に駆られ、
「だから……やっぱりプロデューサーにお任せします!!!」
続く言葉に膝と両手を地面につき倒れこみたい失意に襲われました。
「でで、ですからプロデューサー……その、私とけけけ結婚して赤ちゃんを……赤ちゃんを――」
「日野さん? 日野さんっ!?」
限界なのは私だけではなかったようです。
オーバーヒートした日野さんは湯あたりを起こしたようにフラフラと頭をさまよわせ、そのまま倒れこもうとするのを慌てて支えました。
触れた肩が驚くほど熱い。
こんなに熱があっては正常な判断はできない状態だったでしょう。
熱が冷め、意識が戻った頃には自分はなんて軽率な告白をしてしまったのだろう、無かったことにしたいと思われるはず。
願望混じりだと自分でもわかる予測をしながら、彼女の小さな体を抱え医務室に向かいました。
「なっ……【武内君の実年齢の数字】センチ!!!」
「ひ、日野さんっ。声が大きいです」
「すみません! しかし……ええぇ!? つまり……これぐらいですか?」
「……ッ!」
日野さんが手で私のモノをかたどる仕草をするのを見て、つい卑猥な妄想をしてしまいました。
これは注意すべきなのか。
しかし注意した内容を理解してもらうためにはさらに詳しい性への説明が必要で、正直もう無理です。
「これが……これが私に」
「……わかっていただけたでしょうか。子どもをつくるという意味を」
これでもう大丈夫だろうと言う見込みと、どうかこれで終わってくださいという願望を込めた確認でした。
日野さんの顔はさらに真っ赤に染まり、今にも湯気があがりそうです。
「た、確かにこんなに大きなモノ……私には無理です」
その言葉に天を拳に突き上げてガッツポーズを突き上げたい衝動に駆られ、
「だから……やっぱりプロデューサーにお任せします!!!」
続く言葉に膝と両手を地面につき倒れこみたい失意に襲われました。
「でで、ですからプロデューサー……その、私とけけけ結婚して赤ちゃんを……赤ちゃんを――」
「日野さん? 日野さんっ!?」
限界なのは私だけではなかったようです。
オーバーヒートした日野さんは湯あたりを起こしたようにフラフラと頭をさまよわせ、そのまま倒れこもうとするのを慌てて支えました。
触れた肩が驚くほど熱い。
こんなに熱があっては正常な判断はできない状態だったでしょう。
熱が冷め、意識が戻った頃には自分はなんて軽率な告白をしてしまったのだろう、無かったことにしたいと思われるはず。
願望混じりだと自分でもわかる予測をしながら、彼女の小さな体を抱え医務室に向かいました。
260: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:30:51.99 ID:23pDOjCz0
⑩ありすちゃん、待ち合わせ場所は●●に変更するのがオススメですよ
日野さんを医務室に預けた帰り道のことでした。
自販機前のロビーチェアで、一人の女性が腰を落ち着け本をめくっています。
深い知性を感じられる蒼い瞳の輝き、絹のような長い黒髪、ページを一つ一つ確かめながら優しくめくる細い指先。
何をせずともただ彼女が落ち着いて物事に集中しているだけで、この場いったいが清浄な空気に包まれたように思えます。
そんなことを彼女――鷺沢さんを見て思っていると、急に彼女の様子が一片しました。
形のいい眉を寄せ、さらに持っていた本を間近に近づけます。
よく見ると彼女が手に持つ本は、文庫本でも文芸誌でもなく、華やかな表紙の女性ファッション雑誌だ。
意外だと思うのは年頃の女性に対して失礼なのでしょうが、彼女が読むタイプの雑誌ではないので軽く驚きます。
アイドルとして勉強しているのか、純粋に興味があるのか、あるいは時間つぶしに横にあるマガジンラックから適当に抜き取ったのか。
いずれにせよ彼女がその雑誌に集中していることに変わりありません。
彼女は信じられないというように小声で何かを呟き、顔も赤くなっています。
読書の邪魔をしてはならないと、足早に過ぎ去ろうと目の前を横切った時のことでした。
「誘惑……男性は、女性に誘惑してほしいものなのでしょうか?」
「……そういった男性は少なからずいると思います」
鷺沢さんは恥ずかしいのか本に目を向けたままの問いに、とっさに当たり障りのない答えを出します。
すると彼女はさらに難しい問いかけへと移しました。
「では……CPのプロデューサーさんも誘惑されたいのですか? そのような趣味が?」
「いえ、その……」
予想外の問いかけに言葉が詰まると、彼女は肩を落としてため息をついてしまいました。
「仮にそのような趣味があったとしても……私のような地味で暗い女に誘惑をされても困惑なされるか、あるいは誘惑されているということにすら気づいてもらえないでしょう」
「……それだけは決してありません。貴女に誘惑されて、平静でいられる男などいません」
これは迷いなく答えられる問いだったので、静かに断言しました。
深窓の令嬢のように一つ一つの所作が美しく気品があり、それでいて嫌味さを一切感じられない控えめで貞淑な装い。
長い黒髪のストレートはシンプルであるが故に他の追随を許さず、彼女の肩を境に前後に流れる姿は、川の中央で直立する岩を境に流れを変える水のような美しさを持つ。
優しく響く澄んだ声音は言葉を一つ一つ選ぶようにゆっくりと、そして深い教養を裏付けに物事を多角的に美しく表現される。
そのうえ内気な性格であるにも関わらず、アイドルとして不慣れであったことにも取り組もうとする健気で前向きな姿。
アイドルは皆、男の理想を少なからず体現しています。
そして鷺沢さんはそんな男たちの理想への一つの答えとすらいえるでしょう。
鷺沢文香
http://blog-imgs-90.fc2.com/7/t/o/7toriaezu/f9bd60aeeb955a43395e2383c6cde17f.jpg
日野さんを医務室に預けた帰り道のことでした。
自販機前のロビーチェアで、一人の女性が腰を落ち着け本をめくっています。
深い知性を感じられる蒼い瞳の輝き、絹のような長い黒髪、ページを一つ一つ確かめながら優しくめくる細い指先。
何をせずともただ彼女が落ち着いて物事に集中しているだけで、この場いったいが清浄な空気に包まれたように思えます。
そんなことを彼女――鷺沢さんを見て思っていると、急に彼女の様子が一片しました。
形のいい眉を寄せ、さらに持っていた本を間近に近づけます。
よく見ると彼女が手に持つ本は、文庫本でも文芸誌でもなく、華やかな表紙の女性ファッション雑誌だ。
意外だと思うのは年頃の女性に対して失礼なのでしょうが、彼女が読むタイプの雑誌ではないので軽く驚きます。
アイドルとして勉強しているのか、純粋に興味があるのか、あるいは時間つぶしに横にあるマガジンラックから適当に抜き取ったのか。
いずれにせよ彼女がその雑誌に集中していることに変わりありません。
彼女は信じられないというように小声で何かを呟き、顔も赤くなっています。
読書の邪魔をしてはならないと、足早に過ぎ去ろうと目の前を横切った時のことでした。
「誘惑……男性は、女性に誘惑してほしいものなのでしょうか?」
「……そういった男性は少なからずいると思います」
鷺沢さんは恥ずかしいのか本に目を向けたままの問いに、とっさに当たり障りのない答えを出します。
すると彼女はさらに難しい問いかけへと移しました。
「では……CPのプロデューサーさんも誘惑されたいのですか? そのような趣味が?」
「いえ、その……」
予想外の問いかけに言葉が詰まると、彼女は肩を落としてため息をついてしまいました。
「仮にそのような趣味があったとしても……私のような地味で暗い女に誘惑をされても困惑なされるか、あるいは誘惑されているということにすら気づいてもらえないでしょう」
「……それだけは決してありません。貴女に誘惑されて、平静でいられる男などいません」
これは迷いなく答えられる問いだったので、静かに断言しました。
深窓の令嬢のように一つ一つの所作が美しく気品があり、それでいて嫌味さを一切感じられない控えめで貞淑な装い。
長い黒髪のストレートはシンプルであるが故に他の追随を許さず、彼女の肩を境に前後に流れる姿は、川の中央で直立する岩を境に流れを変える水のような美しさを持つ。
優しく響く澄んだ声音は言葉を一つ一つ選ぶようにゆっくりと、そして深い教養を裏付けに物事を多角的に美しく表現される。
そのうえ内気な性格であるにも関わらず、アイドルとして不慣れであったことにも取り組もうとする健気で前向きな姿。
アイドルは皆、男の理想を少なからず体現しています。
そして鷺沢さんはそんな男たちの理想への一つの答えとすらいえるでしょう。
鷺沢文香
http://blog-imgs-90.fc2.com/7/t/o/7toriaezu/f9bd60aeeb955a43395e2383c6cde17f.jpg
261: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:31:43.52 ID:23pDOjCz0
「そうですね……あの方は優しい人だから、きっとそう言ってくださるでしょう」
「……鷺沢さん?」
「え……?」
会話がどうにもかみ合っていないことに気がつき、まさかという思いから声のトーンがあがってしまいました。
声の調子が変わったからか、鷺沢さんは初めて本から顔を上げます。
「プロデューサーさん……え、もしかして私……そ、そんなっ」
どうやら本に夢中なあまり、目の前に私がいたことに気づいていなかったようです。
私への最初の問いはあくまで独り言で、その後の会話のようなものは夢うつつのまま行われたのでしょう。
鷺沢さんは顔を赤くして混乱されていますが、私の方も女性の独り言に相槌をうっていたわけでして、彼女に負けず劣らず混乱しています。
どうしたものかと思っていると、鷺沢さんがピタリと動きを止めました。
何事かと注視していると、そっと胸の前で猫のように両手を構え、
「が、がおー」
恥ずかしそうで今にも消え入りそうな、しかし耳からこぼすにはあまりにもったいない可愛らしい鳴き声をあげました。
「が……がおー」
どうしていいのか、どう反応すればいいのかわからず。
気づけば私も同じ言葉を口にしていました。
「……」
「……」
静寂が場を支配しました。
鷺沢さんは両手を構えたまま耳まで真っ赤に染め、私を上目遣いで見たまま硬直しています。
私はというとやや腰が引けた体勢で、やはり硬直しています。
何なのでしょうか、これはいったい。
傍から見れば美女と野獣が互いに面食らっている状態です。
「ち、違うんです」
ここで鷺沢さんが動かれました。
慌てて横に置いていた雑誌を手に取り、ページを探すのに手間取りはしましたが目的のものを見つけ、それを私に掲げます。
「今年の流行は小悪魔ファッション……小生意気に男を誘惑しちゃえ?」
「…あ……あの、あまり『ぐわっ』という感じだと大悪魔的かと思ったので……小悪魔的に小さくまとめてみたのですが……」
「ああ……なるほど」
てっきりライオンの物まねなのかと。
「その……恥ずかしい話なのですが、私はこれまで男の人に甘えたり、まして誘惑したことなど一度もありません。男の人を騙すという意味ではなくて、ここ、これからはそういったことも必要なのではと」
別に恥ずかしがることではないと思うのですが、鷺沢さんは何度も目をそらしては、その度に懸命に私に視線を戻します。
「……鷺沢さん?」
「え……?」
会話がどうにもかみ合っていないことに気がつき、まさかという思いから声のトーンがあがってしまいました。
声の調子が変わったからか、鷺沢さんは初めて本から顔を上げます。
「プロデューサーさん……え、もしかして私……そ、そんなっ」
どうやら本に夢中なあまり、目の前に私がいたことに気づいていなかったようです。
私への最初の問いはあくまで独り言で、その後の会話のようなものは夢うつつのまま行われたのでしょう。
鷺沢さんは顔を赤くして混乱されていますが、私の方も女性の独り言に相槌をうっていたわけでして、彼女に負けず劣らず混乱しています。
どうしたものかと思っていると、鷺沢さんがピタリと動きを止めました。
何事かと注視していると、そっと胸の前で猫のように両手を構え、
「が、がおー」
恥ずかしそうで今にも消え入りそうな、しかし耳からこぼすにはあまりにもったいない可愛らしい鳴き声をあげました。
「が……がおー」
どうしていいのか、どう反応すればいいのかわからず。
気づけば私も同じ言葉を口にしていました。
「……」
「……」
静寂が場を支配しました。
鷺沢さんは両手を構えたまま耳まで真っ赤に染め、私を上目遣いで見たまま硬直しています。
私はというとやや腰が引けた体勢で、やはり硬直しています。
何なのでしょうか、これはいったい。
傍から見れば美女と野獣が互いに面食らっている状態です。
「ち、違うんです」
ここで鷺沢さんが動かれました。
慌てて横に置いていた雑誌を手に取り、ページを探すのに手間取りはしましたが目的のものを見つけ、それを私に掲げます。
「今年の流行は小悪魔ファッション……小生意気に男を誘惑しちゃえ?」
「…あ……あの、あまり『ぐわっ』という感じだと大悪魔的かと思ったので……小悪魔的に小さくまとめてみたのですが……」
「ああ……なるほど」
てっきりライオンの物まねなのかと。
「その……恥ずかしい話なのですが、私はこれまで男の人に甘えたり、まして誘惑したことなど一度もありません。男の人を騙すという意味ではなくて、ここ、これからはそういったことも必要なのではと」
別に恥ずかしがることではないと思うのですが、鷺沢さんは何度も目をそらしては、その度に懸命に私に視線を戻します。
262: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:32:25.78 ID:23pDOjCz0
「奏さんのようにチャーミングに誘惑できればと……これまで何度も夢想しました」
「鷺沢さんは速水さんと仲が良かったですね。教えていただいては?」
「き、キスをおねだりする方法から始まってしまいまして……」
「速水さん……」
彼女らしいといえば彼女らしいのですが、鷺沢さんにそこから始めるのはハードルが高すぎます。
「何も慌てずに今のように本で知識を得たり、速水さんなど周りのアイドルを観察して少しずつ勉強するだけでも大丈夫だと思います。鷺沢さん、既に貴女はその佇まいだけで男が放っておけなくさせる魅力の持ち主なのですから」
「……放って、おかれているんですが」
鷺沢さんを励まそうとした言葉だったのですが、どういうわけかさらに落ち込ませてしまいました。
もしかすると鷺沢さんには気になる男性がいてその人に振り向いてほしい、ないしは構ってほしいと思われて勉強されているのでしょうか。
アイドルは恋愛禁止なので、せめて構ってほしいと願う程度であってほしいと思いつつ、慌てて別の方向から慰めます。
「な、何より鷺沢さんはまだお若いですから、自然と、そして急速に身につけることができます。私なんてもういい歳になるにも関わらず、ろくに女性の口説き方も知らないことと比べれば何の問題もありません」
「……では、プロデューサーさんが女性へのアプローチに慣れる練習を始めたという噂は本当なのですね」
噂話に耳を立てるイメージがあまりない鷺沢さんにまで伝わっているとは、いったいどんな伝わり方をしているのでしょうか。
私が女性に慣れようとすることに、そこまで話題性があるとは思えないのですが。
「あの……実は最近、大学で困ったことがありまして。聞いてもらってもいいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
相談事のようなので、鷺沢さんの隣に腰掛けます。
「構内を一人で歩いている時に、顔は知っていますが名前までは知らない男性に呼び止められたのです。中庭の方に誘われたのですが、講堂への移動中でしたし、何よりあまり親しくない男性と二人になるのが怖かったので……断ろうとしたのですが、うまく声が出なくて、首を横に振るぐらいしかできなかったんです」
「それで……その男性は諦めましたか」
嫌な予感がして先を促します。
その時のことを思い出したのか、鷺沢さんは顔を暗くしてうつむきます。
「その人は私から離れようとせず……身勝手な事を言い始め、ついには私の手首を握って……驚いたのに、それ以上に恐ろしくて、小さな悲鳴しかあげられなくて……運よく友人が気づいてくれたので助かったのですが、今考えただけでも身の毛がよだつ出来事でした」
私も大学に通っていたからわかりますが、学びの場であるにも関わらず己の欲望を満たすことしか考えない者が少数ですがいます。
そういう輩にとって鷺沢さんのように美しく、そして大人しい女性は格好の獲物なのでしょう。
爪が食い込む痛みに、知らぬ間に拳を握っていたことに気づきます。
「……鷺沢さんは●×大学に通っておられましたね?」
「は、はい」
「ご安心ください。346側から正式に抗議を行い、その男性に相応な処分が下されるよう圧力をかけます」
そんな男は大学のためにも退学が相応しいと思いますが、よくて停学、普通に考えれば呼び出して口頭注意で終わってしまうでしょう。
しかし何もせずに野放しにすれば次は何をしでかすかわかりません。
怒りを抱いていることを自覚しつつ、なんとか落ち着こうとそんなことを考えていると、鷺沢さんが慌てて止めました。
「鷺沢さんは速水さんと仲が良かったですね。教えていただいては?」
「き、キスをおねだりする方法から始まってしまいまして……」
「速水さん……」
彼女らしいといえば彼女らしいのですが、鷺沢さんにそこから始めるのはハードルが高すぎます。
「何も慌てずに今のように本で知識を得たり、速水さんなど周りのアイドルを観察して少しずつ勉強するだけでも大丈夫だと思います。鷺沢さん、既に貴女はその佇まいだけで男が放っておけなくさせる魅力の持ち主なのですから」
「……放って、おかれているんですが」
鷺沢さんを励まそうとした言葉だったのですが、どういうわけかさらに落ち込ませてしまいました。
もしかすると鷺沢さんには気になる男性がいてその人に振り向いてほしい、ないしは構ってほしいと思われて勉強されているのでしょうか。
アイドルは恋愛禁止なので、せめて構ってほしいと願う程度であってほしいと思いつつ、慌てて別の方向から慰めます。
「な、何より鷺沢さんはまだお若いですから、自然と、そして急速に身につけることができます。私なんてもういい歳になるにも関わらず、ろくに女性の口説き方も知らないことと比べれば何の問題もありません」
「……では、プロデューサーさんが女性へのアプローチに慣れる練習を始めたという噂は本当なのですね」
噂話に耳を立てるイメージがあまりない鷺沢さんにまで伝わっているとは、いったいどんな伝わり方をしているのでしょうか。
私が女性に慣れようとすることに、そこまで話題性があるとは思えないのですが。
「あの……実は最近、大学で困ったことがありまして。聞いてもらってもいいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
相談事のようなので、鷺沢さんの隣に腰掛けます。
「構内を一人で歩いている時に、顔は知っていますが名前までは知らない男性に呼び止められたのです。中庭の方に誘われたのですが、講堂への移動中でしたし、何よりあまり親しくない男性と二人になるのが怖かったので……断ろうとしたのですが、うまく声が出なくて、首を横に振るぐらいしかできなかったんです」
「それで……その男性は諦めましたか」
嫌な予感がして先を促します。
その時のことを思い出したのか、鷺沢さんは顔を暗くしてうつむきます。
「その人は私から離れようとせず……身勝手な事を言い始め、ついには私の手首を握って……驚いたのに、それ以上に恐ろしくて、小さな悲鳴しかあげられなくて……運よく友人が気づいてくれたので助かったのですが、今考えただけでも身の毛がよだつ出来事でした」
私も大学に通っていたからわかりますが、学びの場であるにも関わらず己の欲望を満たすことしか考えない者が少数ですがいます。
そういう輩にとって鷺沢さんのように美しく、そして大人しい女性は格好の獲物なのでしょう。
爪が食い込む痛みに、知らぬ間に拳を握っていたことに気づきます。
「……鷺沢さんは●×大学に通っておられましたね?」
「は、はい」
「ご安心ください。346側から正式に抗議を行い、その男性に相応な処分が下されるよう圧力をかけます」
そんな男は大学のためにも退学が相応しいと思いますが、よくて停学、普通に考えれば呼び出して口頭注意で終わってしまうでしょう。
しかし何もせずに野放しにすれば次は何をしでかすかわかりません。
怒りを抱いていることを自覚しつつ、なんとか落ち着こうとそんなことを考えていると、鷺沢さんが慌てて止めました。
263: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:33:13.35 ID:23pDOjCz0
「い、いえ。友人に連れられてお世話になっている教授の方に相談して、教授がその方に注意してくださいました。それにそれからは大学内で一人にならないようにと、友人たちが一緒になってくれていますから」
「そうでしたか……話を大きくしようとしてしまい、申し訳ありません」
「いえ……親身になっていただき、ありがとうございます」
話を大きくすればかえって鷺沢さんが大学内で居づらくなる可能性もあるのに……考えが足りませんでした。
しかしいざという時は346が全力で味方をするという意思が伝わったからか、鷺沢さんの表情がだいぶ和らいだように思えます。
「ですが……ああいった男性をゼロにすることはできませんし、友人たちに頼ってばかりでは私は弱いままです。ですから、プロデューサーさんが女性へのアプローチに慣れるように、私も……男性からのアプローチを断ることに慣れる必要があるのではと」
「なるほど……ではお互いの練習として、ここで鷺沢さんを誘ってみてもいいでしょうか」
「は、はい! ぜひっ!」
鷺沢さんの言いたいことがわかりこちらから提案すると、鷺沢さんらしからぬ勢いでお願いされました。
練習で知っている男が相手とはいえ、異性としてアプローチを受けるのです。
鷺沢さんにとって勇気が必要なことなのでしょう。
「それでは……始めます、鷺沢さん」
「はい! ……あっ」
そっと彼女の手を握り締めます。
その手は細やかでしっとりとしており、無骨な自分な手が触れるのに恐れ多いという気持ちすら芽生えました。
手を握ったことへの反応を待つのですが……手を握るところから始めるのは急だったでしょうか。
鷺沢さんは握られた手を、夢の中にいるような目で見つめるだけです。
やはり突然のことで事態を理解していないのか。
あまつさえ優しく、ですが確かに握り返してくるのです。
「……鷺沢さん。手を振り払うか、あるいは止めるように言わなければ」
「え……? プロデューサーさんの手を、ですか?」
突然男に手を握られたというのに、心底不思議そうに小首を傾げられます。
考えてみると大学での一件は、顔しか知らない男に拒否したにも関わらず手首を握って連れていかれようとしたのでした。
これまで何度か仕事で関わり、そして練習という前提がある私に手を握られた程度では、危機感を抱けていないのかもしれません。
ならばもっと直接的に――肩を抱くなどの肉体的なことは無理なので、言葉を用いていきましょう。
とはいえこれは私自身もかなり恥ずかしいので、演劇だと思い込むことにします。
咳払いを一つつき、握り合った手をお互いの胸の前にもっていきました。
「そうでしたか……話を大きくしようとしてしまい、申し訳ありません」
「いえ……親身になっていただき、ありがとうございます」
話を大きくすればかえって鷺沢さんが大学内で居づらくなる可能性もあるのに……考えが足りませんでした。
しかしいざという時は346が全力で味方をするという意思が伝わったからか、鷺沢さんの表情がだいぶ和らいだように思えます。
「ですが……ああいった男性をゼロにすることはできませんし、友人たちに頼ってばかりでは私は弱いままです。ですから、プロデューサーさんが女性へのアプローチに慣れるように、私も……男性からのアプローチを断ることに慣れる必要があるのではと」
「なるほど……ではお互いの練習として、ここで鷺沢さんを誘ってみてもいいでしょうか」
「は、はい! ぜひっ!」
鷺沢さんの言いたいことがわかりこちらから提案すると、鷺沢さんらしからぬ勢いでお願いされました。
練習で知っている男が相手とはいえ、異性としてアプローチを受けるのです。
鷺沢さんにとって勇気が必要なことなのでしょう。
「それでは……始めます、鷺沢さん」
「はい! ……あっ」
そっと彼女の手を握り締めます。
その手は細やかでしっとりとしており、無骨な自分な手が触れるのに恐れ多いという気持ちすら芽生えました。
手を握ったことへの反応を待つのですが……手を握るところから始めるのは急だったでしょうか。
鷺沢さんは握られた手を、夢の中にいるような目で見つめるだけです。
やはり突然のことで事態を理解していないのか。
あまつさえ優しく、ですが確かに握り返してくるのです。
「……鷺沢さん。手を振り払うか、あるいは止めるように言わなければ」
「え……? プロデューサーさんの手を、ですか?」
突然男に手を握られたというのに、心底不思議そうに小首を傾げられます。
考えてみると大学での一件は、顔しか知らない男に拒否したにも関わらず手首を握って連れていかれようとしたのでした。
これまで何度か仕事で関わり、そして練習という前提がある私に手を握られた程度では、危機感を抱けていないのかもしれません。
ならばもっと直接的に――肩を抱くなどの肉体的なことは無理なので、言葉を用いていきましょう。
とはいえこれは私自身もかなり恥ずかしいので、演劇だと思い込むことにします。
咳払いを一つつき、握り合った手をお互いの胸の前にもっていきました。
264: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:33:49.01 ID:23pDOjCz0
「鷺沢さ……文香さん。テレビで貴女の姿を一目見た時から心奪われました。スポットライトの下で躍動する長く美しい黒髪、汗を流しながらも観客に向ける向日葵のような笑顔、吸い込められずにはいられない宝石のような瞳の輝き」
「……ッ!!?」
夢の中にいたようであった鷺沢さんがついに目覚め、その両目が驚きから大きく見開きます。
頬は羞恥で染まり、恐怖からかその身を硬直させ、ただじっと私の言葉を聞き入ります。
「私は貴女を最初、女神だと思いました。そして木陰で涼みながら、一つ一つのページを噛みしめるように穏やかに、そして慈しむように読み進める貴女を見て、今度は森の妖精だと見紛いました」
「あ……ァ」
消え入りそうな儚げな音色。
ですがこの程度では悪漢は物怖じしませんし、周りの人も危機に気づいてくれません。
練習でできないことは本番でもできません。
怯えきった彼女に申し訳ないと思うものの、心を鬼にして最後の言葉を告げます。
「神秘的な美しさを持つ貴女にたいして恐れ多く、身の程知らずとはわかります。ですがこの想いを秘めたままでは、いつ胸が張り裂けるのだろうと気が気でなく、迷惑であるとは思いましたが想いを告げさせてください」
「――愛しています」
思えば女性に告白するのは、練習だとしても初めてです。
演劇だと思わないとやれなかったとはいえ、こんな告白を現実にする男が日本にいるのでしょうか。
ともあれ、全力を出し切りました。
鑑定は如何に?
「ふ……」
鷺沢さんはよほど恐ろしかったのか、今にも涙がこぼれそうなほど瞳を潤ませ、恐怖にわななく唇をかすかに動かします。
その頬が赤く染まるのは羞恥と怒り、そして決意からなのか。
あと少しで言える、頑張ってくださいと胸の中で応援していると。
「不束者ですが……よろしくお願いします」
まったく予想外な返答がこぼれ落ちました。
「あっ……」
「鷺沢さん? 鷺沢さんしっかり!?」
極度の緊張で限界に達したのでしょう。
意識を失って私の胸に倒れこんできたのを、慌てて支えます。
どうやら告白までするのはやりすぎだったようです。
気を失うほど緊張して、あまつさえ告白を承諾までしてしまうのですから。
ともあれ鷺沢さんを医務室に連れて行かなければなりません。
彼女の華奢なのに柔らかな感触のする体を、意識せまいと努力しつつ持ち上げ廊下へと進むと――
「あ――」
「橘さん?」
タブレットをこちらに向けていた橘さんと出くわしました。
「……ッ!!?」
夢の中にいたようであった鷺沢さんがついに目覚め、その両目が驚きから大きく見開きます。
頬は羞恥で染まり、恐怖からかその身を硬直させ、ただじっと私の言葉を聞き入ります。
「私は貴女を最初、女神だと思いました。そして木陰で涼みながら、一つ一つのページを噛みしめるように穏やかに、そして慈しむように読み進める貴女を見て、今度は森の妖精だと見紛いました」
「あ……ァ」
消え入りそうな儚げな音色。
ですがこの程度では悪漢は物怖じしませんし、周りの人も危機に気づいてくれません。
練習でできないことは本番でもできません。
怯えきった彼女に申し訳ないと思うものの、心を鬼にして最後の言葉を告げます。
「神秘的な美しさを持つ貴女にたいして恐れ多く、身の程知らずとはわかります。ですがこの想いを秘めたままでは、いつ胸が張り裂けるのだろうと気が気でなく、迷惑であるとは思いましたが想いを告げさせてください」
「――愛しています」
思えば女性に告白するのは、練習だとしても初めてです。
演劇だと思わないとやれなかったとはいえ、こんな告白を現実にする男が日本にいるのでしょうか。
ともあれ、全力を出し切りました。
鑑定は如何に?
「ふ……」
鷺沢さんはよほど恐ろしかったのか、今にも涙がこぼれそうなほど瞳を潤ませ、恐怖にわななく唇をかすかに動かします。
その頬が赤く染まるのは羞恥と怒り、そして決意からなのか。
あと少しで言える、頑張ってくださいと胸の中で応援していると。
「不束者ですが……よろしくお願いします」
まったく予想外な返答がこぼれ落ちました。
「あっ……」
「鷺沢さん? 鷺沢さんしっかり!?」
極度の緊張で限界に達したのでしょう。
意識を失って私の胸に倒れこんできたのを、慌てて支えます。
どうやら告白までするのはやりすぎだったようです。
気を失うほど緊張して、あまつさえ告白を承諾までしてしまうのですから。
ともあれ鷺沢さんを医務室に連れて行かなければなりません。
彼女の華奢なのに柔らかな感触のする体を、意識せまいと努力しつつ持ち上げ廊下へと進むと――
「あ――」
「橘さん?」
タブレットをこちらに向けていた橘さんと出くわしました。
265: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:34:30.07 ID:23pDOjCz0
「こんにちはCPのプロデューサーさん。文香さんが気を失われているようですが、どうかしましたか?」
彼女はそう言いながら、何気なくタブレットを背後に回しました。
嫌な予感がします。
よくよく考えてみると、気を失った鷺沢さんを私が抱きかかえているのを見たにしては、橘さんの態度は平静すぎます。
慌てて駆け寄ってきたり、文香さんに何をしたんですかと私を詰め寄るのが橘さんらしい。
そして私たちに向けられていて、何気なく隠されたタブレット。
「橘さん……いつからおられましたか?」
「……………………プロデューサーさんが文香さんの手を握りしめ、愛の告白を始めたところからです」
「なぜ目をそらすのですか? 最初から見ていたのではないですか?」
「いいえ。少なくともこの待ち合わせ場所に来て――」
よそを向いたまま、吹けるのならば口笛でも始めそうな様子から一変。
彼女は背後に『ロンパァ』という擬音表現が出てきそうな会心の笑顔と共に、後ろ手に持っていたタブレットをかざし、小気味よく人差し指で叩いて見せました。
『鷺沢さ……文香さん。テレビで貴女の姿を一目見た時から心奪われました』
「撮影を始めたのは告白辺りからです」
「……ッ!!?」
橘さんに目撃されたこともさることながら、録画までされていた事実に思わず鷺沢さんを支える力が抜け、ずり落ちそうになって慌てて支えなおします。
「ん……」
「さ、鷺沢さん……気がつかれましたか?」
録画の件は大問題ですが、鷺沢さんの体調の方が大事です。
鷺沢さんは私の声かけにうっすらと目を開き、目の焦点が徐々に合い始めました。
「プロ、デューサーさん?」
「はい。今貴女を医務室に連れて行く最中でした」
目が覚めて突然男に抱きかかえられている状態です。
誤解と混乱を産まないようにまずそのことを伝えたのですが、まだ意識がはっきりとしていないのか彼女には聞こえていない様子でした。
「プロデューサーさん……夢じゃ、なかったんですね」
「夢……ですか?」
視界の端で、鼻息を荒くしながらタブレットを操作している少女が気になりますが、今はこちらです。
彼女はそう言いながら、何気なくタブレットを背後に回しました。
嫌な予感がします。
よくよく考えてみると、気を失った鷺沢さんを私が抱きかかえているのを見たにしては、橘さんの態度は平静すぎます。
慌てて駆け寄ってきたり、文香さんに何をしたんですかと私を詰め寄るのが橘さんらしい。
そして私たちに向けられていて、何気なく隠されたタブレット。
「橘さん……いつからおられましたか?」
「……………………プロデューサーさんが文香さんの手を握りしめ、愛の告白を始めたところからです」
「なぜ目をそらすのですか? 最初から見ていたのではないですか?」
「いいえ。少なくともこの待ち合わせ場所に来て――」
よそを向いたまま、吹けるのならば口笛でも始めそうな様子から一変。
彼女は背後に『ロンパァ』という擬音表現が出てきそうな会心の笑顔と共に、後ろ手に持っていたタブレットをかざし、小気味よく人差し指で叩いて見せました。
『鷺沢さ……文香さん。テレビで貴女の姿を一目見た時から心奪われました』
「撮影を始めたのは告白辺りからです」
「……ッ!!?」
橘さんに目撃されたこともさることながら、録画までされていた事実に思わず鷺沢さんを支える力が抜け、ずり落ちそうになって慌てて支えなおします。
「ん……」
「さ、鷺沢さん……気がつかれましたか?」
録画の件は大問題ですが、鷺沢さんの体調の方が大事です。
鷺沢さんは私の声かけにうっすらと目を開き、目の焦点が徐々に合い始めました。
「プロ、デューサーさん?」
「はい。今貴女を医務室に連れて行く最中でした」
目が覚めて突然男に抱きかかえられている状態です。
誤解と混乱を産まないようにまずそのことを伝えたのですが、まだ意識がはっきりとしていないのか彼女には聞こえていない様子でした。
「プロデューサーさん……夢じゃ、なかったんですね」
「夢……ですか?」
視界の端で、鼻息を荒くしながらタブレットを操作している少女が気になりますが、今はこちらです。
266: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:35:07.90 ID:23pDOjCz0
「こんな風にプロデューサーさんに抱きかかえられるだなんて……まるで、物語のお姫様になったかのよう」
「さ、鷺沢さん!?」
首の後ろに両手を回されました。
もはや言い訳などできない完全なお姫様抱っこの体勢です。
「プロデューサーさん……プロデューサーさん♪」
「~~~~~っっっ」
あまつさえ彼女は私の肩に頬を寄せ、陶酔しきった甘い声で囁くのです。
骨抜きにされるという言葉の意味が、ようやくわかりました。
私はプロデューサーだから、彼女は今正常な判断ができていない夢うつつの状態だから……そんなお堅い理性が次々と溶け、このまま二人だけでどこかに行きたいという願望がふつふつとわいてくるのです。
舌を噛み、かろうじて持ちこたえます。
正気に戻ると次の問題があることに気がつき、そちらに視線を向けます。
実に満足げな表情をした少女がいました。
「さて、と。用事があるので失礼させてもらいます」
「用事とは……何でしょうか」
ジリジリと後退する彼女を追いかけたいものの、鷺沢さんは未だ夢うつつの状態で手を離すわけにはいきません。
「いえ、たいしたことではありません。ただ人の彼氏に手を出さないように、貴方と仲が良い人たちにこの証拠映像を見て頂こうかと」
「まっ……」
待ってくださいと言う間もなく。
彼女は猫を思わせる俊敏さで飛び出し、曲がり角へと姿を消してしまいました。
いつの間にか幸せそうに、穏やかに寝息を立てる鷺沢さんを抱きかかえたまま、ただ見送る以外に私にできることはありませんでした――
「さ、鷺沢さん!?」
首の後ろに両手を回されました。
もはや言い訳などできない完全なお姫様抱っこの体勢です。
「プロデューサーさん……プロデューサーさん♪」
「~~~~~っっっ」
あまつさえ彼女は私の肩に頬を寄せ、陶酔しきった甘い声で囁くのです。
骨抜きにされるという言葉の意味が、ようやくわかりました。
私はプロデューサーだから、彼女は今正常な判断ができていない夢うつつの状態だから……そんなお堅い理性が次々と溶け、このまま二人だけでどこかに行きたいという願望がふつふつとわいてくるのです。
舌を噛み、かろうじて持ちこたえます。
正気に戻ると次の問題があることに気がつき、そちらに視線を向けます。
実に満足げな表情をした少女がいました。
「さて、と。用事があるので失礼させてもらいます」
「用事とは……何でしょうか」
ジリジリと後退する彼女を追いかけたいものの、鷺沢さんは未だ夢うつつの状態で手を離すわけにはいきません。
「いえ、たいしたことではありません。ただ人の彼氏に手を出さないように、貴方と仲が良い人たちにこの証拠映像を見て頂こうかと」
「まっ……」
待ってくださいと言う間もなく。
彼女は猫を思わせる俊敏さで飛び出し、曲がり角へと姿を消してしまいました。
いつの間にか幸せそうに、穏やかに寝息を立てる鷺沢さんを抱きかかえたまま、ただ見送る以外に私にできることはありませんでした――
267: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:35:41.56 ID:23pDOjCz0
⑪状況は整いました。行ってきます、時子様!
念のため鷺沢さんを医務室に預けた後(日野さんは気持ちよさそうに寝ていました)、橘さんを探してクローネの部屋に向かったのですが、待っていたのは例の映像を視聴済みの速見さんたちでした。
慌てて部屋を出ようとしたものの時すでに遅し。
速見さんと北条さんに「貴方ってロマンチックなだけじゃなくて、情熱的なところもあるのね」「いいなー。私も不器用だけど優しい誰かさんみたいな人に、あんな風に求めてほしいなあー。ああ、一度でいいからしてくれないかなー」とさんざんからかわれました。
それにしても……神谷さんが部屋の端から非難がましい目で見ていたのは何だったのでしょうか。
話しかけようにも目が合うと慌てて目をそらし、顔を赤くして頬を膨らませるだけでした。
ですが部屋にいた皆さんに事情を説明すると、速水さんと北条さんは「まあそういうことにしておいてあげるわ」「じゃあそういう体で今度は私に♪」などからかうのは止まりませんでしたが、神谷さんはホッと胸をなでおろしていました。
もしかするとユニットメンバーが恋愛禁止という暗黙の了解を破ったと思い、その原因となった私に怒っていたのかもしれません。
何はともあれ、疲れました。
部屋に戻り椅子に腰かけ、天を仰ぎます。
例の映像の誤解はどう解けばいいものか。
アイドルの皆さんにメールを一斉送信しようかと考えていると、ドアがノックされました。
「失礼しま――プ、プロデューサーさん!?」
部屋に入るや否や、島村さんが慌てて駆け寄ります。
いったい何事でしょうか。
「大丈夫……ですか? 顔にその……言いにくいんですけど、元気が無かったですよ」
どうやら一目で心配になるほど顔に出ていたようです。
アイドルに心配をかけるわけにはいかないと一呼吸して、気持ちを改めます。
「失礼しました。少し考えすぎて煮詰まっていただけなので、お気になさらず。ところで何か用件がおありだったのでは」
「んー」
「島村さん?」
「用件の前に失礼しますね」
島村さんは椅子に座った私の後ろに回り込むと、肩に手をかけました。
「プロデューサーさんはお疲れみたいですから、肩を揉みながら話させてもらいます」
「あ、いえ。そんなことをさせるわけには――」
「まあまあ! パパが卯月の肩もみは世界で一番って言ってくれてるんですから、任せてくれて大丈夫です」
プロデューサーがアイドルに肩を揉ませるなど、セクハラやパワハラに当たりかねないと止めようとしたのですが遠慮だと受け止められ、島村さんは自信たっぷりなにこやかな笑顔で手に力を入れ始めました。
島村卯月
http://deresute-japan.com/wp-content/uploads/2016/07/cg-uzuki2.jpg
念のため鷺沢さんを医務室に預けた後(日野さんは気持ちよさそうに寝ていました)、橘さんを探してクローネの部屋に向かったのですが、待っていたのは例の映像を視聴済みの速見さんたちでした。
慌てて部屋を出ようとしたものの時すでに遅し。
速見さんと北条さんに「貴方ってロマンチックなだけじゃなくて、情熱的なところもあるのね」「いいなー。私も不器用だけど優しい誰かさんみたいな人に、あんな風に求めてほしいなあー。ああ、一度でいいからしてくれないかなー」とさんざんからかわれました。
それにしても……神谷さんが部屋の端から非難がましい目で見ていたのは何だったのでしょうか。
話しかけようにも目が合うと慌てて目をそらし、顔を赤くして頬を膨らませるだけでした。
ですが部屋にいた皆さんに事情を説明すると、速水さんと北条さんは「まあそういうことにしておいてあげるわ」「じゃあそういう体で今度は私に♪」などからかうのは止まりませんでしたが、神谷さんはホッと胸をなでおろしていました。
もしかするとユニットメンバーが恋愛禁止という暗黙の了解を破ったと思い、その原因となった私に怒っていたのかもしれません。
何はともあれ、疲れました。
部屋に戻り椅子に腰かけ、天を仰ぎます。
例の映像の誤解はどう解けばいいものか。
アイドルの皆さんにメールを一斉送信しようかと考えていると、ドアがノックされました。
「失礼しま――プ、プロデューサーさん!?」
部屋に入るや否や、島村さんが慌てて駆け寄ります。
いったい何事でしょうか。
「大丈夫……ですか? 顔にその……言いにくいんですけど、元気が無かったですよ」
どうやら一目で心配になるほど顔に出ていたようです。
アイドルに心配をかけるわけにはいかないと一呼吸して、気持ちを改めます。
「失礼しました。少し考えすぎて煮詰まっていただけなので、お気になさらず。ところで何か用件がおありだったのでは」
「んー」
「島村さん?」
「用件の前に失礼しますね」
島村さんは椅子に座った私の後ろに回り込むと、肩に手をかけました。
「プロデューサーさんはお疲れみたいですから、肩を揉みながら話させてもらいます」
「あ、いえ。そんなことをさせるわけには――」
「まあまあ! パパが卯月の肩もみは世界で一番って言ってくれてるんですから、任せてくれて大丈夫です」
プロデューサーがアイドルに肩を揉ませるなど、セクハラやパワハラに当たりかねないと止めようとしたのですが遠慮だと受け止められ、島村さんは自信たっぷりなにこやかな笑顔で手に力を入れ始めました。
島村卯月
http://deresute-japan.com/wp-content/uploads/2016/07/cg-uzuki2.jpg
268: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:36:41.06 ID:23pDOjCz0
「んっ……しょっと」
「くっ……」
「あ、やっぱりこんなに硬いじゃないですか。私がほぐしてあげますからね」
島村さんのお父さんが世界一だと褒めたのは当然身内の贔屓もあるのでしょうが、確かにたいしたもので、アイドルに肩もみをさせることへの気まずさと共にほぐれました。
首筋、首の付け根、肩、それに肩甲骨付近を優しく、そして意外な力強さで押されます。
島村さんの相手への気遣いと、頑張って成長してきた逞しさを感じられ目頭が熱くなる。
きっと、島村さんのお父さんも同じ気持ちだったのでしょう。
やがてここ数日の心労もあって眠気がわいてきて、ぼんやりとしていると。
「前も失礼しますね」
とんでもない言葉が聞こえて目が覚めかけます。
しかし目覚ましが聞こえるのに体が動かない、体がまだ半分眠っているような状態にいつの間にかなっていました。
そして止めようにも島村さんは確認をとりながら手を前へと進め、既に鎖骨辺りに触れる寸前です。
島村さんの白い指が、私の胸の上で踊り始めました。
感触を確かめるように最初は少し指を食い込ませるとすぐに上に弾ませ、また少し食い込ませる。
「痛くないですか?」
痛くはありません。
しかし耳元で優しく甘い、いたわる音色をあげないでください。
貴女の美しくウェーブのかかった柔らかな髪を、私の頬や首などの素肌にあてないでください。
「ふっ……んっ……」
一生懸命相手を考えていることが、わずかに見える横顔から見てとれます。
その健気さで、そんな吐息をつかないでください。
「プロデューサーさん、気持ちいいですか?」
もう指先は鎖骨のだいぶ下にまできてしまいました。
身も心もとろけている内にここまできてしまったのです。
もう十分だと止めなければ。
けど私の体は私の体ではないように動いてくれません。
首を柔らかで暖かなものに包まれます。
肌触りのいい布地の少し向こうに何があるのか。
考えてはなりませんが、考えなくてもわかるのです。
島村さんが手を伸ばすために前のめりになりすぎて、女性の象徴ともいえる柔らかな膨らみが椅子の背もたれに乗り、私を包む。
意識は茫洋としているくせに、股ぐらはいつの間にか机の下でいきり立っている。
そのことに気づいた時さまよっていた理性がかすかに戻り、罪悪感と羞恥で深い海の中に沈んでいた意識を必死になって引き上げます。
途方もない快楽の中から身を離そうとする行為に言い様のない苦痛を覚えますが、心が折れそうになるたびに島村さんの決して穢すことの許されない輝く笑顔を思い出し、こらえ、ついに水面へと顔を出し、意識を覚醒させた瞬間と同時でした。
「プロデューサーさん……結婚を前提に彼女を探されていると聞いたんですが……本当、ですか」
寂しそうに。
切なそうに。
苦しげに。
かろうじて絞り出した震える問いが出迎えました。
「くっ……」
「あ、やっぱりこんなに硬いじゃないですか。私がほぐしてあげますからね」
島村さんのお父さんが世界一だと褒めたのは当然身内の贔屓もあるのでしょうが、確かにたいしたもので、アイドルに肩もみをさせることへの気まずさと共にほぐれました。
首筋、首の付け根、肩、それに肩甲骨付近を優しく、そして意外な力強さで押されます。
島村さんの相手への気遣いと、頑張って成長してきた逞しさを感じられ目頭が熱くなる。
きっと、島村さんのお父さんも同じ気持ちだったのでしょう。
やがてここ数日の心労もあって眠気がわいてきて、ぼんやりとしていると。
「前も失礼しますね」
とんでもない言葉が聞こえて目が覚めかけます。
しかし目覚ましが聞こえるのに体が動かない、体がまだ半分眠っているような状態にいつの間にかなっていました。
そして止めようにも島村さんは確認をとりながら手を前へと進め、既に鎖骨辺りに触れる寸前です。
島村さんの白い指が、私の胸の上で踊り始めました。
感触を確かめるように最初は少し指を食い込ませるとすぐに上に弾ませ、また少し食い込ませる。
「痛くないですか?」
痛くはありません。
しかし耳元で優しく甘い、いたわる音色をあげないでください。
貴女の美しくウェーブのかかった柔らかな髪を、私の頬や首などの素肌にあてないでください。
「ふっ……んっ……」
一生懸命相手を考えていることが、わずかに見える横顔から見てとれます。
その健気さで、そんな吐息をつかないでください。
「プロデューサーさん、気持ちいいですか?」
もう指先は鎖骨のだいぶ下にまできてしまいました。
身も心もとろけている内にここまできてしまったのです。
もう十分だと止めなければ。
けど私の体は私の体ではないように動いてくれません。
首を柔らかで暖かなものに包まれます。
肌触りのいい布地の少し向こうに何があるのか。
考えてはなりませんが、考えなくてもわかるのです。
島村さんが手を伸ばすために前のめりになりすぎて、女性の象徴ともいえる柔らかな膨らみが椅子の背もたれに乗り、私を包む。
意識は茫洋としているくせに、股ぐらはいつの間にか机の下でいきり立っている。
そのことに気づいた時さまよっていた理性がかすかに戻り、罪悪感と羞恥で深い海の中に沈んでいた意識を必死になって引き上げます。
途方もない快楽の中から身を離そうとする行為に言い様のない苦痛を覚えますが、心が折れそうになるたびに島村さんの決して穢すことの許されない輝く笑顔を思い出し、こらえ、ついに水面へと顔を出し、意識を覚醒させた瞬間と同時でした。
「プロデューサーさん……結婚を前提に彼女を探されていると聞いたんですが……本当、ですか」
寂しそうに。
切なそうに。
苦しげに。
かろうじて絞り出した震える問いが出迎えました。
269: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:37:13.00 ID:23pDOjCz0
彼女の顔を見たくて振り返ろうにも、先ほどまで胸にあてられていた手が両方とも首に添えられて振り返れません。
何を想って彼女は今の問いをしたのか。
内容と声音、そしてこれまで彼女と歩んできた道のりから判断しなければなりません。
思い浮かんだのは本田さん。
彼女と同じで、自分を支え信頼を寄せていた男性が、見知らぬ女性とどこか遠くへ行くことへの不安と恐怖。
本田さんの時は安心させようとして妙な誤解を生んでしまいました。
今度こそはそのような事態にならないよう、細心の注意を払わなければ。
「……確かに、私は年齢的に結婚を前提とした彼女を見つけなければと思ってもいます。ですが――」
「じゃ、じゃあ今はいないんですね!」
「は、はい」
決して貴女たちを蔑ろになどせず、これまで通り見守っていくことに変わりありませんと続けようとした言葉は、島村さんの歓声に遮られました。
私に今彼女がいなければ大丈夫なようで……どうも、本田さんとは様子が違うようです。
「実はその……とても恥ずかしいお願いがあるんですが」
「お願い、ですか。なんでしょう」
「パパとママが、えっと……プロデューサーさんを家に招いて食事をしたいと言っているんです」
それは島村さんがそこまでかしこまることのないお願いでした。
アイドルの親御さんたちは、往々にして子どもたちの活動内容に心配や不満を抱くものです。
それを取り除くのもプロデューサーの仕事の内で、定期的に社内の見学会や説明会を開くのとは別に、個別に家庭訪問を行うことも時にはあります。
ですが、それとは事情が違いました。
「そ、そのですね! パパとママったらどうしてなのかわからないんですけど、プロデューサーさんがその……」
首に添えられていた両手が離れたので振り向くと、島村さんは胸の前で両手をもじもじと合わせ、顔を真っ赤にしながらうつむいていました。
彼女は潤んだ瞳を私に合わせては逸らしていましたが、やがて意を決して恥ずかしそうに、ですがはっきりと告げます。
「わ、私とお付き合いしていると勘違いしているんです」
「…………はい?」
当然ですが私と島村さんは交際などしていません。
そもそも十年近く恋人がいません。
まして、担当しているアイドルに手を出すなど。
「島村さん。事情を聞かせていただけますか?」
「は、はい!」
何を想って彼女は今の問いをしたのか。
内容と声音、そしてこれまで彼女と歩んできた道のりから判断しなければなりません。
思い浮かんだのは本田さん。
彼女と同じで、自分を支え信頼を寄せていた男性が、見知らぬ女性とどこか遠くへ行くことへの不安と恐怖。
本田さんの時は安心させようとして妙な誤解を生んでしまいました。
今度こそはそのような事態にならないよう、細心の注意を払わなければ。
「……確かに、私は年齢的に結婚を前提とした彼女を見つけなければと思ってもいます。ですが――」
「じゃ、じゃあ今はいないんですね!」
「は、はい」
決して貴女たちを蔑ろになどせず、これまで通り見守っていくことに変わりありませんと続けようとした言葉は、島村さんの歓声に遮られました。
私に今彼女がいなければ大丈夫なようで……どうも、本田さんとは様子が違うようです。
「実はその……とても恥ずかしいお願いがあるんですが」
「お願い、ですか。なんでしょう」
「パパとママが、えっと……プロデューサーさんを家に招いて食事をしたいと言っているんです」
それは島村さんがそこまでかしこまることのないお願いでした。
アイドルの親御さんたちは、往々にして子どもたちの活動内容に心配や不満を抱くものです。
それを取り除くのもプロデューサーの仕事の内で、定期的に社内の見学会や説明会を開くのとは別に、個別に家庭訪問を行うことも時にはあります。
ですが、それとは事情が違いました。
「そ、そのですね! パパとママったらどうしてなのかわからないんですけど、プロデューサーさんがその……」
首に添えられていた両手が離れたので振り向くと、島村さんは胸の前で両手をもじもじと合わせ、顔を真っ赤にしながらうつむいていました。
彼女は潤んだ瞳を私に合わせては逸らしていましたが、やがて意を決して恥ずかしそうに、ですがはっきりと告げます。
「わ、私とお付き合いしていると勘違いしているんです」
「…………はい?」
当然ですが私と島村さんは交際などしていません。
そもそも十年近く恋人がいません。
まして、担当しているアイドルに手を出すなど。
「島村さん。事情を聞かせていただけますか?」
「は、はい!」
270: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:37:53.80 ID:23pDOjCz0
島村さんは身振り手振りで、歩いてもいないのに転ぶのではないかと不安になる様子で慌てながら説明してくださりました。
彼女が言うには、アイドルとしての毎日が楽しくて、食卓で親御さんたちにその日起きたことを話すのが習慣になっていたそうです。
しかしいつの頃からか、私の名前を出すとお父様から落ち着きが無くなり、それを見てお母様がおかしそうに笑うようになっていったと。
「それで昨日突然パパに、卯月の彼氏を今度家に連れてきなさいって言われて……彼氏なんかいないよって言ったら隣からママが、プロデューサーさんのことよって教えてくれたんです」
「なるほど……」
未だに困惑を覚えますが、島村さんのお父様の気持ちもよくわかります。
多感な年ごろになっても男親である自分に冷たくせず、笑顔で肩もみまでしてくれる自慢の愛娘。
きっと目に入れても痛くないほど可愛いでしょう。
そんな娘が頻繁に男の名前を出すようになってしまったのです。
最初のうちこそ仕事上の関わりにすぎないと思っていたでしょうが、島村さんは心底アイドル活動を楽しまれています。
その中で私について語られる時も、きっと輝かんばかりの笑顔で、男親が不安を抱いても仕方ありません。
「わかりました。では島村さんのアイドル活動について報告しつつ、やんわりと誤解も解いておきましょう」
「あ、その……」
申し訳なさと恥ずかしさがいっぱいな様子で、島村さんが身を縮こませます。
「恥ずかしいお願いというのはここからでして……ママは事情を察してくれているんで、パパの前では恋人のフリをしてもらえないでしょうか」
「……理由を聞かせてもらえますか?」
「パパったら本当に興奮していて、そんな関係じゃないって言っても俺は騙されんぞ、卯月と付き合うのなら俺の許可を得てからにしろってむしろヒートアップしちゃうんです……」
「なるほど……」
下手な弁明は火に油を注ぐ事態になりかねないと。
しかし付き合っていると認めた場合でも、まだ学生であるうちの娘に手を出すとは社会人失格だと逆鱗に触れるのでは?
「大丈夫です! 最初のうちはパパは不機嫌でつっけんどんかもしれないけど、プロデューサーさんでしたらきっと納得してくれます! だって――」
身を折り曲げ恐縮していた島村さんが体を起き上がらせ、胸の前で握り締めた手を掲げて、見た者が惹き付けられずにはいられない満開の花のような笑みを浮かべました。
「――プロデューサーさんは、頼もしくて世界で一番私に優しい人なんですから!」
その無条件な信頼に。
澄みきった空のような親愛に。
何よりその笑顔を見て。
「はい、わかりました」
気づけば私は承諾していたのでした――
彼女が言うには、アイドルとしての毎日が楽しくて、食卓で親御さんたちにその日起きたことを話すのが習慣になっていたそうです。
しかしいつの頃からか、私の名前を出すとお父様から落ち着きが無くなり、それを見てお母様がおかしそうに笑うようになっていったと。
「それで昨日突然パパに、卯月の彼氏を今度家に連れてきなさいって言われて……彼氏なんかいないよって言ったら隣からママが、プロデューサーさんのことよって教えてくれたんです」
「なるほど……」
未だに困惑を覚えますが、島村さんのお父様の気持ちもよくわかります。
多感な年ごろになっても男親である自分に冷たくせず、笑顔で肩もみまでしてくれる自慢の愛娘。
きっと目に入れても痛くないほど可愛いでしょう。
そんな娘が頻繁に男の名前を出すようになってしまったのです。
最初のうちこそ仕事上の関わりにすぎないと思っていたでしょうが、島村さんは心底アイドル活動を楽しまれています。
その中で私について語られる時も、きっと輝かんばかりの笑顔で、男親が不安を抱いても仕方ありません。
「わかりました。では島村さんのアイドル活動について報告しつつ、やんわりと誤解も解いておきましょう」
「あ、その……」
申し訳なさと恥ずかしさがいっぱいな様子で、島村さんが身を縮こませます。
「恥ずかしいお願いというのはここからでして……ママは事情を察してくれているんで、パパの前では恋人のフリをしてもらえないでしょうか」
「……理由を聞かせてもらえますか?」
「パパったら本当に興奮していて、そんな関係じゃないって言っても俺は騙されんぞ、卯月と付き合うのなら俺の許可を得てからにしろってむしろヒートアップしちゃうんです……」
「なるほど……」
下手な弁明は火に油を注ぐ事態になりかねないと。
しかし付き合っていると認めた場合でも、まだ学生であるうちの娘に手を出すとは社会人失格だと逆鱗に触れるのでは?
「大丈夫です! 最初のうちはパパは不機嫌でつっけんどんかもしれないけど、プロデューサーさんでしたらきっと納得してくれます! だって――」
身を折り曲げ恐縮していた島村さんが体を起き上がらせ、胸の前で握り締めた手を掲げて、見た者が惹き付けられずにはいられない満開の花のような笑みを浮かべました。
「――プロデューサーさんは、頼もしくて世界で一番私に優しい人なんですから!」
その無条件な信頼に。
澄みきった空のような親愛に。
何よりその笑顔を見て。
「はい、わかりました」
気づけば私は承諾していたのでした――
271: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:38:34.09 ID:23pDOjCz0
⑫年貢の納め時……ですか
「プロデューサーって、押しに弱いだけじゃなくて浮気性もあるみたいだね」
部屋で結婚式の招待状に、参加の欄へ丸をつけていた時のことです。
入室するや否や、渋谷さんから手痛い一言をいただきました。
鏡を見ずとも渋面になっているとわかりつつ、招待状を脇に置きます。
それにしてもこの招待状――同期と佐久間さんの結婚式のものですが、この結婚式にはいくつか疑問点があります。
なんでも今日付けで佐久間さんはアイドルを引退して、女優とモデルに専念することが決まっていたとのこと。
今は記者会見中のはずです。
なぜかこのことを、同期も知りませんでした。
同期を経由せずに一ヶ月前に決まっていたのです。
また結婚式場はこういったことに疎い私でも聞いた覚えがある有名なところで、気になって調べてみると最低でも半年、場合によっては一年前に予約する必要がありました。
結婚式は今から三ヶ月後のジューンブライドです。
佐久間さんはいつ予約していたのでしょうか。
同期の親戚への根回しといい、水面下で気づかれないように少しずつ、そして確実に計画を進めていたのでは?
私がこのような状況でなければもっと親身になって相談に乗れて、このような事態にならなくてすんだのでは?
疑問はやがて自問自答へと変わっていくのです。
せめてもの救いは担当アイドルに手を出したことに、他の同僚たちが意外なことに優しい反応を示したことでした。
あんないい娘にあれだけアタックされればな、むしろアイツはよくもった方だ、など。
女性陣にいたっては、ようやく覚悟を決めたかと佐久間さんの肩まで持っていました。
……しかしなぜでしょう。
同期と佐久間さんの結婚式について雑談をしている方たちは、なぜか私を哀れんだ目で見ながら「次は……」「いや、大丈夫……だろ?」などと言い出すのです。
ともあれ。
今は何とか平静であろうとしていますが、その目から明らかに不満と怒りが感じられる渋谷さんの誤解を解かなければなりません。
「付き合う前に私に言ってくれる……そう約束したよね。私、一言も聞いてないよ」
「渋谷さん、私は誰とも付き合っていません。ですが……どうやら、私についての噂に尾ひれがついて流れているようなのです」
「ふーん。じゃあ全部私の早とちりなんだ」
渋谷さんのボルテージが高まっているのが伝わります。
それなのにその目は冷めたまま。
「いえ、全部が全部とはいえ――」
「プロデューサーがこれから定期的に美嘉とデートするのも、楓さんとこれまた定期的に、しかも夜にデートするのも」
「小梅が高校卒業したら結婚する約束をしたのに、みくとも結婚の約束をして、さらに茜とは男の子二人と女の子一人に白い大きな犬を飼う幸せな家庭を築く約束をしたのも」
「幸子にキスマークをつけられて、智絵里の手料理をいただいて次も作ってもらう約束をしたのも、未央とやらしいことをする約束をしたのに、文香に愛の告白をしたのも――全部私の勘違いだったんだ。ごめんね早とちりして」
「――ま、せん」
「プロデューサーって、押しに弱いだけじゃなくて浮気性もあるみたいだね」
部屋で結婚式の招待状に、参加の欄へ丸をつけていた時のことです。
入室するや否や、渋谷さんから手痛い一言をいただきました。
鏡を見ずとも渋面になっているとわかりつつ、招待状を脇に置きます。
それにしてもこの招待状――同期と佐久間さんの結婚式のものですが、この結婚式にはいくつか疑問点があります。
なんでも今日付けで佐久間さんはアイドルを引退して、女優とモデルに専念することが決まっていたとのこと。
今は記者会見中のはずです。
なぜかこのことを、同期も知りませんでした。
同期を経由せずに一ヶ月前に決まっていたのです。
また結婚式場はこういったことに疎い私でも聞いた覚えがある有名なところで、気になって調べてみると最低でも半年、場合によっては一年前に予約する必要がありました。
結婚式は今から三ヶ月後のジューンブライドです。
佐久間さんはいつ予約していたのでしょうか。
同期の親戚への根回しといい、水面下で気づかれないように少しずつ、そして確実に計画を進めていたのでは?
私がこのような状況でなければもっと親身になって相談に乗れて、このような事態にならなくてすんだのでは?
疑問はやがて自問自答へと変わっていくのです。
せめてもの救いは担当アイドルに手を出したことに、他の同僚たちが意外なことに優しい反応を示したことでした。
あんないい娘にあれだけアタックされればな、むしろアイツはよくもった方だ、など。
女性陣にいたっては、ようやく覚悟を決めたかと佐久間さんの肩まで持っていました。
……しかしなぜでしょう。
同期と佐久間さんの結婚式について雑談をしている方たちは、なぜか私を哀れんだ目で見ながら「次は……」「いや、大丈夫……だろ?」などと言い出すのです。
ともあれ。
今は何とか平静であろうとしていますが、その目から明らかに不満と怒りが感じられる渋谷さんの誤解を解かなければなりません。
「付き合う前に私に言ってくれる……そう約束したよね。私、一言も聞いてないよ」
「渋谷さん、私は誰とも付き合っていません。ですが……どうやら、私についての噂に尾ひれがついて流れているようなのです」
「ふーん。じゃあ全部私の早とちりなんだ」
渋谷さんのボルテージが高まっているのが伝わります。
それなのにその目は冷めたまま。
「いえ、全部が全部とはいえ――」
「プロデューサーがこれから定期的に美嘉とデートするのも、楓さんとこれまた定期的に、しかも夜にデートするのも」
「小梅が高校卒業したら結婚する約束をしたのに、みくとも結婚の約束をして、さらに茜とは男の子二人と女の子一人に白い大きな犬を飼う幸せな家庭を築く約束をしたのも」
「幸子にキスマークをつけられて、智絵里の手料理をいただいて次も作ってもらう約束をしたのも、未央とやらしいことをする約束をしたのに、文香に愛の告白をしたのも――全部私の勘違いだったんだ。ごめんね早とちりして」
「――ま、せん」
272: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:39:43.50 ID:23pDOjCz0
多少話が膨らんでいたり、弁解したいこともありましたが、嘘はほとんどありませんでした。
どう誤解を解けばいいのか。
あまりの難題に硬直していると、クスクスとこらえきれない笑い声が聞こえました。
「……渋谷さん?」
「フフッ……ンンッ。ごめん。あんまりにも真剣にプロデューサーが困っちゃったから、つい。なんとなく事情は察しているから大丈夫」
先ほどまでの様子は演技……だったようです。
とてもそうは見えなかったので、胸をなでおろします。
特に私がここ数日皆さんとの間で起きた事を並べ立てている時など、渋谷さんの瞳は絶対零度もかくやという寒気を覚えるほどのものでした。
「でも念のため確認しておきたいんだけど……文香に告白したのはアレでしょ? 練習か何かでしょ?」
「は、はい。私は女性へのアプローチに慣れるため、そして鷺沢さんはそれを拒否する練習でした」
「だよね! ありすってば勝ち誇った顔しながらタブレットを見せて『この通りプロデューサーさんは文香さんの彼氏となりました。個人的感情で近づくの禁じます』なんて言ったんだよ。まったく、まだ幼いのにこういうことに口出そうとするなんておませさんなんだから」
「は、はい」
滅多に見られないほど上機嫌でにこやかな渋谷さんに困惑します。
いったい渋谷さんと橘さんとの間で何が起きたのでしょうか。
「あ、そうだった。未央の事ならもう大丈夫だよ。ちゃんと私が言って聞かせたから」
「ほ、本当ですか!?」
しかしその困惑も、ここ数日で一番差し迫った問題が無くなったと聞き霧散します。
正直いつ顔を真っ赤にした本田さんがドアを開け、片手にローションを持って現れるのではないかと気が気でありませんでした。
そのような事態になる前になんとか誤解を解かなければと思っていたのですが、合わせる顔が無いため二の足を踏んでいたところです。
同性、それも親友からの説得ならスムーズに事は進んだでしょう。
「他の皆にもこれから言って回るから、プロデューサーは安心していいよ」
「本当に……本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけしまして」
「もう。そんなに頭下げないでよ」
渋谷さんが困ったように笑いますが、感謝の念から勝手に頭が下がってしまうのです。
「問題は楓さんと美嘉か……相談に乗る体だったから責めづらいし、みくも冗談半分だからいくらでも言い逃れできるし……」
「渋谷さん?」
「え、何?」
下げた頭の上を、よく聞き取れませんでしたが不穏な言葉が過ぎたような気がして確かめたのですが、渋谷さんは不思議そうな顔をしただけです。
やはり気のせいでした。
どう誤解を解けばいいのか。
あまりの難題に硬直していると、クスクスとこらえきれない笑い声が聞こえました。
「……渋谷さん?」
「フフッ……ンンッ。ごめん。あんまりにも真剣にプロデューサーが困っちゃったから、つい。なんとなく事情は察しているから大丈夫」
先ほどまでの様子は演技……だったようです。
とてもそうは見えなかったので、胸をなでおろします。
特に私がここ数日皆さんとの間で起きた事を並べ立てている時など、渋谷さんの瞳は絶対零度もかくやという寒気を覚えるほどのものでした。
「でも念のため確認しておきたいんだけど……文香に告白したのはアレでしょ? 練習か何かでしょ?」
「は、はい。私は女性へのアプローチに慣れるため、そして鷺沢さんはそれを拒否する練習でした」
「だよね! ありすってば勝ち誇った顔しながらタブレットを見せて『この通りプロデューサーさんは文香さんの彼氏となりました。個人的感情で近づくの禁じます』なんて言ったんだよ。まったく、まだ幼いのにこういうことに口出そうとするなんておませさんなんだから」
「は、はい」
滅多に見られないほど上機嫌でにこやかな渋谷さんに困惑します。
いったい渋谷さんと橘さんとの間で何が起きたのでしょうか。
「あ、そうだった。未央の事ならもう大丈夫だよ。ちゃんと私が言って聞かせたから」
「ほ、本当ですか!?」
しかしその困惑も、ここ数日で一番差し迫った問題が無くなったと聞き霧散します。
正直いつ顔を真っ赤にした本田さんがドアを開け、片手にローションを持って現れるのではないかと気が気でありませんでした。
そのような事態になる前になんとか誤解を解かなければと思っていたのですが、合わせる顔が無いため二の足を踏んでいたところです。
同性、それも親友からの説得ならスムーズに事は進んだでしょう。
「他の皆にもこれから言って回るから、プロデューサーは安心していいよ」
「本当に……本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけしまして」
「もう。そんなに頭下げないでよ」
渋谷さんが困ったように笑いますが、感謝の念から勝手に頭が下がってしまうのです。
「問題は楓さんと美嘉か……相談に乗る体だったから責めづらいし、みくも冗談半分だからいくらでも言い逃れできるし……」
「渋谷さん?」
「え、何?」
下げた頭の上を、よく聞き取れませんでしたが不穏な言葉が過ぎたような気がして確かめたのですが、渋谷さんは不思議そうな顔をしただけです。
やはり気のせいでした。
273: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:40:39.31 ID:23pDOjCz0
「でも、今回のことでハッキリしたね」
「何がですか?」
渋谷さんは手を後ろに組みながら背筋を伸ばし、正面から向き合っていた状態からやや斜めに体勢を変えられました。
「プロデューサーの彼女や奥さんになる人は、普段からプロデューサーが他の女に強引に言い寄られて浮気するんじゃないかって気が気でないよ」
それは考えもしなかったことでした。
浮気という愛する女性を傷つける行為などするつもりは毛頭ありませんし、できるほどモテませんし器用でもありません。
しかしここ数日のことを鑑みると、もし私に彼女や妻がいたならば浮気を疑ったかもしれませんし、そこまではいかなくとも気が気でなかったでしょう。
「だからプロデューサーの相手は、プロデューサーとこれまで苦楽を共にして深い信頼関係があって些細な事じゃ疑ったりしない人。それに普段からそばに居て周りの女にけん制できる、そんな強い人じゃないと」
渋谷さんが長い黒髪をかき上げます。
サラサラという音が聞こえそうな流麗な流れは、一つ一つが黒い輝きの軌跡を生み出しました。
その光景に見惚れながら、自分は将来のパートナーにそんな負担をかけることになるのかと思いつつ、ここ数日のことを振り返りました。
「大丈夫ではないでしょうか?」
それは自分のモノとは思えないほど、他人事のように気負いのない声音でした。
「大丈夫って?」
言いすぎたと心配してかチラチラと私を見ていた渋谷さんが、驚いたのかマジマジと私を見ます。
ここ数日、私の言い方が悪かったのもありました。
推測が間違っていたのもあるのでしょう。
しかし私が抵抗しようとしたのに、あっさり押し切られたのも事実。
渋谷さんが言うとおり、私の将来のパートナーに逞しさが求められるとしても――
「女性は誰もがこわ……強いですから」
「何がですか?」
渋谷さんは手を後ろに組みながら背筋を伸ばし、正面から向き合っていた状態からやや斜めに体勢を変えられました。
「プロデューサーの彼女や奥さんになる人は、普段からプロデューサーが他の女に強引に言い寄られて浮気するんじゃないかって気が気でないよ」
それは考えもしなかったことでした。
浮気という愛する女性を傷つける行為などするつもりは毛頭ありませんし、できるほどモテませんし器用でもありません。
しかしここ数日のことを鑑みると、もし私に彼女や妻がいたならば浮気を疑ったかもしれませんし、そこまではいかなくとも気が気でなかったでしょう。
「だからプロデューサーの相手は、プロデューサーとこれまで苦楽を共にして深い信頼関係があって些細な事じゃ疑ったりしない人。それに普段からそばに居て周りの女にけん制できる、そんな強い人じゃないと」
渋谷さんが長い黒髪をかき上げます。
サラサラという音が聞こえそうな流麗な流れは、一つ一つが黒い輝きの軌跡を生み出しました。
その光景に見惚れながら、自分は将来のパートナーにそんな負担をかけることになるのかと思いつつ、ここ数日のことを振り返りました。
「大丈夫ではないでしょうか?」
それは自分のモノとは思えないほど、他人事のように気負いのない声音でした。
「大丈夫って?」
言いすぎたと心配してかチラチラと私を見ていた渋谷さんが、驚いたのかマジマジと私を見ます。
ここ数日、私の言い方が悪かったのもありました。
推測が間違っていたのもあるのでしょう。
しかし私が抵抗しようとしたのに、あっさり押し切られたのも事実。
渋谷さんが言うとおり、私の将来のパートナーに逞しさが求められるとしても――
「女性は誰もがこわ……強いですから」
274: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:41:12.90 ID:23pDOjCz0
プロローグ 凛
一日目 美嘉 楓
二日目 小梅 幸子 みく 未央
三日目 智絵里 茜 文香 卯月
エピローグ 凛
一日目 美嘉 楓
二日目 小梅 幸子 みく 未央
三日目 智絵里 茜 文香 卯月
エピローグ 凛
275: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/11(土) 11:42:07.82 ID:23pDOjCz0
EX 【島村卯月】
300: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:03:04.96 ID:QrWP3u9i0
この想いを、いったい何と表現すればいいんでしょうか。
プロデューサーさんに付き合っていた人がいた。
その情報を聞かされた時、視界がぐにゃりと歪み手すりに倒れこみかけます。
首根っこを誰かに暴力的に掴まれたかのような錯覚。
ほんのわずかな間に高熱にかかったみたいに体が火照る。
手すりを支えに体を起こし、考えを整理するために大きく息を吸います。
今、私の中で渦巻く感情は何でしょう?
プロデューサーさんに彼女がいた。
昔のこと。
私たちと出会うずっと前のこと。
渋みや包容力が足りない代わりに、今よりもきっとさらに純粋で無垢だったプロデューサーさんを、私以外の女に私の知らないところで穢された。
その事実をゆっくりと噛みしめ――憎悪と感謝が喉をするりと落ちていくのがわかりました。
よくも、よくも何も知らないプロデューサーさんを。
よくぞ、よくぞ何も知らないプロデューサーさんに。
喉を通る相反する感情は、胸辺りに来たときは絶対値の差をそのままに一つの大きなうねりとなり、お腹の下まで来てしまいます。
ああ、やっぱり。
「へそ下辺りが、むずがゆい……っ」
答えは得ました。大丈夫です時子様。島村卯月、これからもがんばります!
「あ、そう」
一部始終を冷めた目、というよりも引いた目で見ていた時子様はなぜか素っ気ない態度です。
もう。答えを得た錬鉄の英霊を見送る赤い悪魔のように、最高の泣き笑いを見せてくれても良かったのに。
時子様のデレ期はまだ先のようです。
「そんなありもしないモノ探してないでさっさと行きなさい。仮にあったとしても遠ざかってるから」
「ちぇ、時子様のいけず。では行ってきます」
急いて早足になろうとする気持ちをかろうじて抑え、遅い曲調の歌を口ずさみながら考えをまとめます。
プロデューサーさんに昔付き合っていた人がいた。
この情報をシンプルに活用するか、大勢の人を巻き込む策謀へと発展させるか。
せっかく時子様が【時子様の豚ネットワーク】で拾った情報を与えてくれたんです。
十分に考えてから実行に移さないと。
何だか最近時子様が前よりも冷たいですけど、何だかんだでこういう情報を与えてくれたりして可愛がってもらっています。
SF映画で自分の生み出した生物兵器が世界を滅ぼしかねないと知った科学者のような目で私を見たりするのが不思議ですが、なんででしょうね?
プロデューサーさんに付き合っていた人がいた。
その情報を聞かされた時、視界がぐにゃりと歪み手すりに倒れこみかけます。
首根っこを誰かに暴力的に掴まれたかのような錯覚。
ほんのわずかな間に高熱にかかったみたいに体が火照る。
手すりを支えに体を起こし、考えを整理するために大きく息を吸います。
今、私の中で渦巻く感情は何でしょう?
プロデューサーさんに彼女がいた。
昔のこと。
私たちと出会うずっと前のこと。
渋みや包容力が足りない代わりに、今よりもきっとさらに純粋で無垢だったプロデューサーさんを、私以外の女に私の知らないところで穢された。
その事実をゆっくりと噛みしめ――憎悪と感謝が喉をするりと落ちていくのがわかりました。
よくも、よくも何も知らないプロデューサーさんを。
よくぞ、よくぞ何も知らないプロデューサーさんに。
喉を通る相反する感情は、胸辺りに来たときは絶対値の差をそのままに一つの大きなうねりとなり、お腹の下まで来てしまいます。
ああ、やっぱり。
「へそ下辺りが、むずがゆい……っ」
答えは得ました。大丈夫です時子様。島村卯月、これからもがんばります!
「あ、そう」
一部始終を冷めた目、というよりも引いた目で見ていた時子様はなぜか素っ気ない態度です。
もう。答えを得た錬鉄の英霊を見送る赤い悪魔のように、最高の泣き笑いを見せてくれても良かったのに。
時子様のデレ期はまだ先のようです。
「そんなありもしないモノ探してないでさっさと行きなさい。仮にあったとしても遠ざかってるから」
「ちぇ、時子様のいけず。では行ってきます」
急いて早足になろうとする気持ちをかろうじて抑え、遅い曲調の歌を口ずさみながら考えをまとめます。
プロデューサーさんに昔付き合っていた人がいた。
この情報をシンプルに活用するか、大勢の人を巻き込む策謀へと発展させるか。
せっかく時子様が【時子様の豚ネットワーク】で拾った情報を与えてくれたんです。
十分に考えてから実行に移さないと。
何だか最近時子様が前よりも冷たいですけど、何だかんだでこういう情報を与えてくれたりして可愛がってもらっています。
SF映画で自分の生み出した生物兵器が世界を滅ぼしかねないと知った科学者のような目で私を見たりするのが不思議ですが、なんででしょうね?
301: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:03:53.79 ID:QrWP3u9i0
さて、簡単なのはプロデューサーさんと二人っきりの時に、寂しそうに「昔、付き合っていた人がいるって聞いて……本当、なんですか?」という具合に聞くことです。
私と出会う前でもう終わった事だってわかっています。そもそも私にプロデューサーさんのプライベートに口を出す権利なんてないですし……出しちゃいけないってわかっているんです。けど……けど、なぜかわからないんです。そのことを知ってから、ずっと胸が痛くて……苦しいんです――という表情をするのがポイント。
プロデューサーさんはどんな反応をするでしょうか。
自分の過去のこと……それも学生時代の交際経験という、アイドルをプロデュースするうえでまったく関係の無い出来事が原因な事にひどく驚くでしょう。
そして、なぜそのことで私が傷ついているのが考え始めて、一瞬とはいえよぎるはずです。
もしかして私が、プロデューサーさんに恋心を抱いているのではと。
プロデューサーさんのことです。
すぐに理屈としては間違っていないけど、女心を少しも考慮していない方向で結論付けるでしょう。
それを、何度も揺さぶる。
私に愛されていると確信できない絶妙な力加減で、悲しそうな顔をして、私自信も困惑している態度をよそおい、そして今はその女性と会っていないことに心底安心してみせる。
どんな形であれ結論が出ればある程度落ち着き、腰を据えてその解決に乗り出そうとするはず。
だから結論なんか出させないで、寝ても覚めても何日も何週間も私のことを考えさせ続ける。
うん、シンプルだけど効果は抜群。
でもちょっと面白みがありません。
やはりここは――
「こんにちは、まゆちゃん」
「あら、卯月ちゃん。こんにちは」
皆一緒に楽しんで、プロデューサーさんが煩悶する色んな姿を思う存分楽しみましょう♪
「どうしたんですか? 何だかとってもご機嫌に見えますけど」
「はい。実は例の話を進めたいなと思って」
「まあ♪」
まゆちゃんが手のひらを合わせて、嬉しそうに顔をほころばせます。
うーん、これで目にハイライトがありさえすれば文句なしの美少女なんですけどねえ。
けどまゆちゃんのファンにしてみればそこがいいそうなので、いいとしましょう。
まゆPさんの胃はボロボロですけどね!
「それでは早速――」
「ああ、ちょっと待ってください。進めるのは一週間ほど先で、詳しくはもっと計画を煮詰めてから連絡しますから」
「そうなんですかぁ。ということは、やっぱり卯月ちゃんが何かするのでそのタイミングに合わせて……ということですか?」
「はい、そうです!」
私と出会う前でもう終わった事だってわかっています。そもそも私にプロデューサーさんのプライベートに口を出す権利なんてないですし……出しちゃいけないってわかっているんです。けど……けど、なぜかわからないんです。そのことを知ってから、ずっと胸が痛くて……苦しいんです――という表情をするのがポイント。
プロデューサーさんはどんな反応をするでしょうか。
自分の過去のこと……それも学生時代の交際経験という、アイドルをプロデュースするうえでまったく関係の無い出来事が原因な事にひどく驚くでしょう。
そして、なぜそのことで私が傷ついているのが考え始めて、一瞬とはいえよぎるはずです。
もしかして私が、プロデューサーさんに恋心を抱いているのではと。
プロデューサーさんのことです。
すぐに理屈としては間違っていないけど、女心を少しも考慮していない方向で結論付けるでしょう。
それを、何度も揺さぶる。
私に愛されていると確信できない絶妙な力加減で、悲しそうな顔をして、私自信も困惑している態度をよそおい、そして今はその女性と会っていないことに心底安心してみせる。
どんな形であれ結論が出ればある程度落ち着き、腰を据えてその解決に乗り出そうとするはず。
だから結論なんか出させないで、寝ても覚めても何日も何週間も私のことを考えさせ続ける。
うん、シンプルだけど効果は抜群。
でもちょっと面白みがありません。
やはりここは――
「こんにちは、まゆちゃん」
「あら、卯月ちゃん。こんにちは」
皆一緒に楽しんで、プロデューサーさんが煩悶する色んな姿を思う存分楽しみましょう♪
「どうしたんですか? 何だかとってもご機嫌に見えますけど」
「はい。実は例の話を進めたいなと思って」
「まあ♪」
まゆちゃんが手のひらを合わせて、嬉しそうに顔をほころばせます。
うーん、これで目にハイライトがありさえすれば文句なしの美少女なんですけどねえ。
けどまゆちゃんのファンにしてみればそこがいいそうなので、いいとしましょう。
まゆPさんの胃はボロボロですけどね!
「それでは早速――」
「ああ、ちょっと待ってください。進めるのは一週間ほど先で、詳しくはもっと計画を煮詰めてから連絡しますから」
「そうなんですかぁ。ということは、やっぱり卯月ちゃんが何かするのでそのタイミングに合わせて……ということですか?」
「はい、そうです!」
302: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:04:31.73 ID:QrWP3u9i0
例の話、というのは水面下で進めている【まゆちゃん結婚大作戦】のことです。
まゆPさんに気づかれないように私も協力しながら、まゆちゃんをアイドルから女優・モデルへと転属させるよう関係者に働きかけました。
当然、担当はまゆPさんのままです。
私たち二人で笑顔でお願いしたらなぜか命の危険を覚えたような顔をして了承してくれたり、中には時子様の豚もいたので心よく応じてくれたりもしました。
まゆちゃんがまゆPさんの家族や親戚と、何気なく知り合うセッティングにも協力しました。
場所さえ整えればあとはまゆちゃんの独壇場です。
最初のうちこそ歳の差を気にされていましたがすぐに打ち解けて、この子を逃したらもうダメだと思わせるほど。
まあそんな感じで私も協力したわけですが、その見返りがまゆPさんを落とすタイミングを私に決めさせてほしいというものでした。
まゆちゃんの転属はもう三週間前に決まっています。
親戚の方々への根回しも先週終わりました。
まゆちゃんとしては、いつまゆPさんに気づかれてしまうのか気が気でなかったでしょう。
まあ転属を決めた関係者には口止めがばれないための工作をお願いしましたし、そして親戚の方々には――
『プロデューサーさん……私のことを愛してくださっているんですけど、やはり歳の差を気にされているようで家族に言いづらいと……でもあと少しで決心される様子なので、見守っていただきたいんです』
――と、名演技を見せているのでそう簡単にはばれないんですけどね。
「いいですよぉ。まゆがプロデューサーさんを落とせそうな時に、卯月ちゃんのプロデューサーさんに邪魔されたら困りますし――」
「私の方もプロデューサーさんが苦悶で喘いでいるところを、まゆPさんが助けに来られたら困っちゃいますからね」
「うふふ」
「あはは」
快諾を得て、笑顔でまゆちゃんと別れます。
さて、次の問題はいつ実行に移すかです。
他の皆を後押ししてプロデューサーさんを悶々とさせるのに障害となり得るのは、厄介な人から順に挙げればちひろさん・楓さん、美波ちゃん、杏ちゃん、そして小梅ちゃんといったところでしょうか。
……うん、やっぱり一週間後がベストです。
その日から数日間は、楓さんと小梅ちゃん以外はプロデューサーさんと接触しません。
後は楓さんに気づかれないように細心の注意を払えばよし。
小梅ちゃんも侮りがたい相手ですが、多少の困難はいいスパイスになります。
一週間後を決行日として、計画を頑張って練り上げます!
まゆPさんに気づかれないように私も協力しながら、まゆちゃんをアイドルから女優・モデルへと転属させるよう関係者に働きかけました。
当然、担当はまゆPさんのままです。
私たち二人で笑顔でお願いしたらなぜか命の危険を覚えたような顔をして了承してくれたり、中には時子様の豚もいたので心よく応じてくれたりもしました。
まゆちゃんがまゆPさんの家族や親戚と、何気なく知り合うセッティングにも協力しました。
場所さえ整えればあとはまゆちゃんの独壇場です。
最初のうちこそ歳の差を気にされていましたがすぐに打ち解けて、この子を逃したらもうダメだと思わせるほど。
まあそんな感じで私も協力したわけですが、その見返りがまゆPさんを落とすタイミングを私に決めさせてほしいというものでした。
まゆちゃんの転属はもう三週間前に決まっています。
親戚の方々への根回しも先週終わりました。
まゆちゃんとしては、いつまゆPさんに気づかれてしまうのか気が気でなかったでしょう。
まあ転属を決めた関係者には口止めがばれないための工作をお願いしましたし、そして親戚の方々には――
『プロデューサーさん……私のことを愛してくださっているんですけど、やはり歳の差を気にされているようで家族に言いづらいと……でもあと少しで決心される様子なので、見守っていただきたいんです』
――と、名演技を見せているのでそう簡単にはばれないんですけどね。
「いいですよぉ。まゆがプロデューサーさんを落とせそうな時に、卯月ちゃんのプロデューサーさんに邪魔されたら困りますし――」
「私の方もプロデューサーさんが苦悶で喘いでいるところを、まゆPさんが助けに来られたら困っちゃいますからね」
「うふふ」
「あはは」
快諾を得て、笑顔でまゆちゃんと別れます。
さて、次の問題はいつ実行に移すかです。
他の皆を後押ししてプロデューサーさんを悶々とさせるのに障害となり得るのは、厄介な人から順に挙げればちひろさん・楓さん、美波ちゃん、杏ちゃん、そして小梅ちゃんといったところでしょうか。
……うん、やっぱり一週間後がベストです。
その日から数日間は、楓さんと小梅ちゃん以外はプロデューサーさんと接触しません。
後は楓さんに気づかれないように細心の注意を払えばよし。
小梅ちゃんも侮りがたい相手ですが、多少の困難はいいスパイスになります。
一週間後を決行日として、計画を頑張って練り上げます!
303: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:05:08.76 ID:QrWP3u9i0
※ ※ ※
「卯月ちゃん。最近困ったことしてない?」
十分注意して、計画を練ったはずなんですけどねえ。
中庭でたそがれているプロデューサーさんのことを、美嘉ちゃんに伝えたあとのことです。
つまり計画を動かし始めた翌日。
島村卯月、さっそく笑顔の楓さんに捕まっちゃいました。
「困った事だなんて……心当たりが多すぎてどれのことか」
「まあ、困った子」
嘘を言えばあっさりバレそうなので、嘘でも本当でもないことを口にします。
まあ普段からタイミングさえ合えば実行に移せる策は複数ストックしているので、本当にどれがバレたのかはわからないんですけど。
策士策に溺れるって言葉がありますけど、それは一つの策に拘泥するからです。
常に複数の策を進めて、状況に合わなくなった策は切り捨てればいい。
たしかナルサルかスイフリーのどちらかがそんなこと言っていました。
「それじゃあ何が原因かまったくわからないけど、プロデューサーが悩んでいるようだから今夜飲みに誘っていいかしら?」
「はい! ぜひお願いします!」
楓さんに気づかれました。楓さんはごまかせません。
下手な抵抗をするより舞台に上がってもらって、私以上の手腕でプロデューサーさんを翻弄する姿を存分に楽しませてもらいます。
とはいえ、楽しんでばかりじゃいられません。
立ち去る楓さんの後ろ姿を見送りながら、今後の対応策を考えます。
楓さんは今夜プロデューサーさんとお酒を飲むことで、私が関与していることへの確信を強めるでしょう。
横やりを防ぐためにも計画の前倒しと情報の錯綜、そしていざという時に楓さんと対峙する人物が必要です。
なので――
「え~~~ん、時子様えもーん! 手伝ってくださーい!」
「三枚おろしにされたいの?」
腰にしがみつきながら泣きつくと、時子様はすごくゾクゾクする目で見下ろしながら吐き捨てました。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ手伝ってほしいんです! 時子様のプロデューサーさんの巨乳好きを矯正するの手伝いますから! 時子様の手の平にちょっと余るぐらいが至高だって植え付けますから!」
「物わかりの悪い子ね。既に矯正済みよ」
「え、でもこの間くるみちゃんにデレデレしていましたよ?」
「あの、豚……っ」
超然として全てを見下す態度であったのが、一瞬だけど嫉妬で怒り狂う女の顔になりました。
これは今夜は燃え上がりそうだなあ。
「卯月ちゃん。最近困ったことしてない?」
十分注意して、計画を練ったはずなんですけどねえ。
中庭でたそがれているプロデューサーさんのことを、美嘉ちゃんに伝えたあとのことです。
つまり計画を動かし始めた翌日。
島村卯月、さっそく笑顔の楓さんに捕まっちゃいました。
「困った事だなんて……心当たりが多すぎてどれのことか」
「まあ、困った子」
嘘を言えばあっさりバレそうなので、嘘でも本当でもないことを口にします。
まあ普段からタイミングさえ合えば実行に移せる策は複数ストックしているので、本当にどれがバレたのかはわからないんですけど。
策士策に溺れるって言葉がありますけど、それは一つの策に拘泥するからです。
常に複数の策を進めて、状況に合わなくなった策は切り捨てればいい。
たしかナルサルかスイフリーのどちらかがそんなこと言っていました。
「それじゃあ何が原因かまったくわからないけど、プロデューサーが悩んでいるようだから今夜飲みに誘っていいかしら?」
「はい! ぜひお願いします!」
楓さんに気づかれました。楓さんはごまかせません。
下手な抵抗をするより舞台に上がってもらって、私以上の手腕でプロデューサーさんを翻弄する姿を存分に楽しませてもらいます。
とはいえ、楽しんでばかりじゃいられません。
立ち去る楓さんの後ろ姿を見送りながら、今後の対応策を考えます。
楓さんは今夜プロデューサーさんとお酒を飲むことで、私が関与していることへの確信を強めるでしょう。
横やりを防ぐためにも計画の前倒しと情報の錯綜、そしていざという時に楓さんと対峙する人物が必要です。
なので――
「え~~~ん、時子様えもーん! 手伝ってくださーい!」
「三枚おろしにされたいの?」
腰にしがみつきながら泣きつくと、時子様はすごくゾクゾクする目で見下ろしながら吐き捨てました。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ手伝ってほしいんです! 時子様のプロデューサーさんの巨乳好きを矯正するの手伝いますから! 時子様の手の平にちょっと余るぐらいが至高だって植え付けますから!」
「物わかりの悪い子ね。既に矯正済みよ」
「え、でもこの間くるみちゃんにデレデレしていましたよ?」
「あの、豚……っ」
超然として全てを見下す態度であったのが、一瞬だけど嫉妬で怒り狂う女の顔になりました。
これは今夜は燃え上がりそうだなあ。
304: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:05:44.96 ID:QrWP3u9i0
「はい、これがその時の映像です」
「……でかしたわよ、卯月。ちょっとだけ協力してあげようじゃない」
協力していただけるのならもう少し怒りを抑えてもらえませんか。
普通に怖いんですけど。
何はともあれ協力を得ることができました。
時子様は同じパッション組の友紀さんと茜ちゃんに働きかけてくれるとのこと。
あ、メタ発言ですけど丸数字は私、ローマ数字は時子様です。
楓さんは私と時子様のつながりを知らないはずなので、時子様の介入を不審に思いしばらくは様子見になるでしょう。
そしていざ止めに入った時は、お手数をおかけしますが時子様に相手をしてもらいます。
楓さんの相手ができる人なんて、ちひろさんを除けば時子様しかいませんから。
かくして計画は修正したおかげか順調に進み、最終日となりました。
本当はあと一日ほど時間をかける予定だったのを前倒しすることに成功したのです。
おかげで密度が濃くなってプロデューサーさんは心身ともにズタボロで……たまりません!
前倒しにした思わぬ副産物です。
「状況は整いました。行ってきます、時子様!」
「はいはい。勝ちを確信した時こそ危ういから気をつけなさい」
少し疲れた様子の時子様が気だるげに、けど優しく、ここ数日でさらに前髪が後退した時子様のプロデューサーさんを椅子にしながら見送ってくれました。
高鳴る鼓動に胸を躍らせ、へそ下辺りのむずがゆさでおかしな歩き方にならないよう細心の注意を払い、ついにプロデューサーさんの部屋にたどり着きます。
深呼吸を一つして、ノックの後に部屋に入ると――
「失礼しま――プ、プロデューサーさん!?」
一瞬、意識が飛びかけます。
物憂げな吐息、ストレスと過労からくる汗。
部屋に充満したそれらを一息吸うだけで視界が真っ白な輝きに包まれ、危うく膝から崩れ落ちてへそ下辺りに手をやりそうになりました。
ああ――やっぱり、やっぱりプロデューサーさんは最高です!!!
崩れ落ちそうな体を前へ走り出すことでごまかし、至近距離からプロデューサーさんの顔を観察します。
顔色は青く、目の下には大きなクマ。
気丈に耐えようとしていますが、まるで隠せていません。
この数日、どれだけ思い悩んだでしょう。
どれだけの誘惑に耐えたのでしょう。
普通の人なら我慢できずに思い出しながら手淫をしたでしょうが、プロデューサーさんはそんなに器用な性格じゃありません。
ごめんなさい、ごめんなさいプロデューサーさん。
普通の人なら天国でも、貴方からしてみれば地獄以外の何物でもない目に遭わせてしまって。
でも――今のプロデューサーさんは、世界で一番魅力的です。
そんな貴方も悪いんですよ?
熟れに熟れて、最高の食べ時じゃないですか♪
本題に入る前に少し味見させてもらわなきゃ、お腹が減り過ぎてこのまま押し倒しそうです。
「……でかしたわよ、卯月。ちょっとだけ協力してあげようじゃない」
協力していただけるのならもう少し怒りを抑えてもらえませんか。
普通に怖いんですけど。
何はともあれ協力を得ることができました。
時子様は同じパッション組の友紀さんと茜ちゃんに働きかけてくれるとのこと。
あ、メタ発言ですけど丸数字は私、ローマ数字は時子様です。
楓さんは私と時子様のつながりを知らないはずなので、時子様の介入を不審に思いしばらくは様子見になるでしょう。
そしていざ止めに入った時は、お手数をおかけしますが時子様に相手をしてもらいます。
楓さんの相手ができる人なんて、ちひろさんを除けば時子様しかいませんから。
かくして計画は修正したおかげか順調に進み、最終日となりました。
本当はあと一日ほど時間をかける予定だったのを前倒しすることに成功したのです。
おかげで密度が濃くなってプロデューサーさんは心身ともにズタボロで……たまりません!
前倒しにした思わぬ副産物です。
「状況は整いました。行ってきます、時子様!」
「はいはい。勝ちを確信した時こそ危ういから気をつけなさい」
少し疲れた様子の時子様が気だるげに、けど優しく、ここ数日でさらに前髪が後退した時子様のプロデューサーさんを椅子にしながら見送ってくれました。
高鳴る鼓動に胸を躍らせ、へそ下辺りのむずがゆさでおかしな歩き方にならないよう細心の注意を払い、ついにプロデューサーさんの部屋にたどり着きます。
深呼吸を一つして、ノックの後に部屋に入ると――
「失礼しま――プ、プロデューサーさん!?」
一瞬、意識が飛びかけます。
物憂げな吐息、ストレスと過労からくる汗。
部屋に充満したそれらを一息吸うだけで視界が真っ白な輝きに包まれ、危うく膝から崩れ落ちてへそ下辺りに手をやりそうになりました。
ああ――やっぱり、やっぱりプロデューサーさんは最高です!!!
崩れ落ちそうな体を前へ走り出すことでごまかし、至近距離からプロデューサーさんの顔を観察します。
顔色は青く、目の下には大きなクマ。
気丈に耐えようとしていますが、まるで隠せていません。
この数日、どれだけ思い悩んだでしょう。
どれだけの誘惑に耐えたのでしょう。
普通の人なら我慢できずに思い出しながら手淫をしたでしょうが、プロデューサーさんはそんなに器用な性格じゃありません。
ごめんなさい、ごめんなさいプロデューサーさん。
普通の人なら天国でも、貴方からしてみれば地獄以外の何物でもない目に遭わせてしまって。
でも――今のプロデューサーさんは、世界で一番魅力的です。
そんな貴方も悪いんですよ?
熟れに熟れて、最高の食べ時じゃないですか♪
本題に入る前に少し味見させてもらわなきゃ、お腹が減り過ぎてこのまま押し倒しそうです。
305: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:06:43.00 ID:QrWP3u9i0
「プロデューサーさんはお疲れみたいですから、肩を揉みながら話させてもらいます」
「あ、いえ。そんなことをさせるわけには――」
断ろうとしますが、いつもと比べて呂律が回っていません。
これならちょっと押せばいけます。
「まあまあ! パパが卯月の肩もみは世界で一番って言ってくれてるんですから、任せてくれて大丈夫です」
プロデューサーさんが遠慮しているのだと勘違いしたフリをして、そのまま手に力を入れる。
肩は予想していた以上に固く、申し訳ない気持ちになりました。
ごめんなさい、プロデューサーさん。
貴方にとってお詫びにならないとわかっていますけど、他の人から見たら幸せな結末を用意しますから。
最初のうちこそアイドルに肩をもまれることに居心地が悪そうにしていましたが、私の肩もみ技術とここ数日の疲れが相まってすぐに力が抜けました。
プロデューサーさんの無防備な表情――いいですね!
普通に肩をもむのも、首筋やうなじなど普段なかなか見えない場所を眺められて、さらに肩の盛り上がりや広背筋などを指先で堪能できて楽しいです。
でもプロデューサーさんも眠そうになってきたので、次の段階に行っちゃいましょう。
「前も失礼しますね」
断らせるつもりなんかない、形式だけの確認。
言いながら私はプロデューサーさんの胸に手を伸ばす。
手を届かせるために前のめりになって、斜め上からプロデューサーさんの分厚い胸板を見下ろしました。
シャツの上から私の指を躍らせる。
痛すぎないように、こそばゆくないように。
今すぐシャツを引きちぎって直接撫でまわしたい欲求を膨らませながら、指先で弾力と形を確認する。
広くて弾力のある胸。
この胸に飛び込めたらどれだけの幸せだろう。
この胸に飛び込んだらどれだけ困惑するだろう。
胸を押しつけて、精いっぱい抱きつくふりをしながらお尻を撫でまわしたい。乳首をつまみたい。
困惑に興奮を混ぜ合わせたい。
担当アイドルに欲情したことを恥じる貴方の顔が見たい。
欲情して当然なのに、それでもまずは自分を恥じる貴方を誇りに思う。
その誇りを穢したい。
私の手で。
「ふっ……んっ……」
いよいよ興奮を隠すのが難しくなってきました。
吐息が荒くなってきています。
でもこれは力仕事をしているので仕方ないことなんです。
そう、わざとプロデューサーさんの耳元で息を吐くのも仕方ないですよね?
「あ、いえ。そんなことをさせるわけには――」
断ろうとしますが、いつもと比べて呂律が回っていません。
これならちょっと押せばいけます。
「まあまあ! パパが卯月の肩もみは世界で一番って言ってくれてるんですから、任せてくれて大丈夫です」
プロデューサーさんが遠慮しているのだと勘違いしたフリをして、そのまま手に力を入れる。
肩は予想していた以上に固く、申し訳ない気持ちになりました。
ごめんなさい、プロデューサーさん。
貴方にとってお詫びにならないとわかっていますけど、他の人から見たら幸せな結末を用意しますから。
最初のうちこそアイドルに肩をもまれることに居心地が悪そうにしていましたが、私の肩もみ技術とここ数日の疲れが相まってすぐに力が抜けました。
プロデューサーさんの無防備な表情――いいですね!
普通に肩をもむのも、首筋やうなじなど普段なかなか見えない場所を眺められて、さらに肩の盛り上がりや広背筋などを指先で堪能できて楽しいです。
でもプロデューサーさんも眠そうになってきたので、次の段階に行っちゃいましょう。
「前も失礼しますね」
断らせるつもりなんかない、形式だけの確認。
言いながら私はプロデューサーさんの胸に手を伸ばす。
手を届かせるために前のめりになって、斜め上からプロデューサーさんの分厚い胸板を見下ろしました。
シャツの上から私の指を躍らせる。
痛すぎないように、こそばゆくないように。
今すぐシャツを引きちぎって直接撫でまわしたい欲求を膨らませながら、指先で弾力と形を確認する。
広くて弾力のある胸。
この胸に飛び込めたらどれだけの幸せだろう。
この胸に飛び込んだらどれだけ困惑するだろう。
胸を押しつけて、精いっぱい抱きつくふりをしながらお尻を撫でまわしたい。乳首をつまみたい。
困惑に興奮を混ぜ合わせたい。
担当アイドルに欲情したことを恥じる貴方の顔が見たい。
欲情して当然なのに、それでもまずは自分を恥じる貴方を誇りに思う。
その誇りを穢したい。
私の手で。
「ふっ……んっ……」
いよいよ興奮を隠すのが難しくなってきました。
吐息が荒くなってきています。
でもこれは力仕事をしているので仕方ないことなんです。
そう、わざとプロデューサーさんの耳元で息を吐くのも仕方ないですよね?
306: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:07:24.18 ID:QrWP3u9i0
「プロデューサーさん、気持ちいいですか?」
私も気持ちいいです。
さっきから内股です。
前後不覚となった貴方に、その太くて固いモノで私の初めてを強引に貫いてほしくてたまりません。
味見のつもりだったのに、空腹だったお腹は食べれば食べるほどお腹が減ります。
プロデューサーさんの胸の上辺りだった指先を、少しずつ下にずらします。
あと少しずらせば乳首に届く。
プロデューサーさんの乳首は、元カノに開発済みでしょうか?
試してみないと。
さっきより前のめりになって、未央ちゃんやみくちゃんには負けますけど、それでも十分に大きい私のおっぱいがプロデューサーさんの首にあたります。
あっ。
大きくなってる。
机が邪魔で直接は見えません。
けどさっきとは違うスーツのシワの形が教えてくれました。
プロデューサーさんはうつろになりながらも、私を欲しているんだと。
捧げたい。
プロデューサーさんに私の全てを捧げたい。
その代わりに、プロデューサーさんをありとあらゆる方法で味わいたい。
プロデューサーさんの顔を横に逸らして後ろからキスしたいという衝動に耐えていた時。
プロデューサーさんの意識の変化に気づきます。
ここ数日のアイドルたちの猛攻で欲求不満となり。
疲労困憊で気力が尽きかけているのに。
快楽の流れに乗るまいと、歯を食いしばって意識を覚醒させようとしているのです。
嗚呼――――貴方と出会えて、本当に良かった。
体は奪われても心は奪われず、でも快感にはもだえてくれる。
そんな貴方がそばに居てくれれば、私はいつだって最高の笑顔を貴方に向けてあげられます。
味見はここまでとしましょう。
ここからは予定通り、プロデューサーさんを私の家に招く約束をして終わりとします――
私も気持ちいいです。
さっきから内股です。
前後不覚となった貴方に、その太くて固いモノで私の初めてを強引に貫いてほしくてたまりません。
味見のつもりだったのに、空腹だったお腹は食べれば食べるほどお腹が減ります。
プロデューサーさんの胸の上辺りだった指先を、少しずつ下にずらします。
あと少しずらせば乳首に届く。
プロデューサーさんの乳首は、元カノに開発済みでしょうか?
試してみないと。
さっきより前のめりになって、未央ちゃんやみくちゃんには負けますけど、それでも十分に大きい私のおっぱいがプロデューサーさんの首にあたります。
あっ。
大きくなってる。
机が邪魔で直接は見えません。
けどさっきとは違うスーツのシワの形が教えてくれました。
プロデューサーさんはうつろになりながらも、私を欲しているんだと。
捧げたい。
プロデューサーさんに私の全てを捧げたい。
その代わりに、プロデューサーさんをありとあらゆる方法で味わいたい。
プロデューサーさんの顔を横に逸らして後ろからキスしたいという衝動に耐えていた時。
プロデューサーさんの意識の変化に気づきます。
ここ数日のアイドルたちの猛攻で欲求不満となり。
疲労困憊で気力が尽きかけているのに。
快楽の流れに乗るまいと、歯を食いしばって意識を覚醒させようとしているのです。
嗚呼――――貴方と出会えて、本当に良かった。
体は奪われても心は奪われず、でも快感にはもだえてくれる。
そんな貴方がそばに居てくれれば、私はいつだって最高の笑顔を貴方に向けてあげられます。
味見はここまでとしましょう。
ここからは予定通り、プロデューサーさんを私の家に招く約束をして終わりとします――
307: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:08:31.56 ID:QrWP3u9i0
※ ※ ※
「……うん、やっぱりそうだったんだ。教えてくれてありがとう卯月。あとは私が片づけるから」
プロデューサーさんと約束を交わしてから少しあと。
凛ちゃんにプロデューサーさんがここ数日誰に何をされたのか、ざっくりと説明しました。
あ、もちろん私のことは除いています。
プロデューサーさんのキスマークに気づいていたりして、薄々何か起きていることを察していたんでしょう。
すんなりと私の話を受け入れてくれました。
「片づけるって……何をするんですか?」
「ううん、卯月は気にしなくていいから」
凛ちゃんはもう少し気にした方がいいですよ。
例えばなぜ私がこんなにプロデューサーさんの情報を持っているのかとか。
そこを突っ込まれたら誤魔化す準備をしていたのに何だか拍子抜けです。
凛ちゃんはプロデューサーさんのことになると視野が狭くなってしまうので、そこは私がフォローしないと。
私の幸せと凛ちゃんの幸せが、ちゃんと両立できるようにですね。
「じゃあ行ってくるから。急がなきゃいけないのは未央かな。まったく、パ……パイズリだなんて。プロデューサーは脚が好きなんだから」
「い、行ってらっしゃい?」
別に急ぐ必要は無いのに、足早に去る凛ちゃんを見送ります。
あの未央ちゃんがプロデューサーさんにエッチなことをする覚悟は、どう少なく見ても一週間は必要なのに。
それに凛ちゃん……脚に自信があるからって、勝手にプロデューサーさんを脚フェチにしちゃ駄目ですよ。
プロデューサーさんは人並みにおっぱいが好きで、人並みに脚が好きで、そしてお尻が大大大好きなんですから。
まあともあれ、今回の騒動でプロデューサーさんと取り付けた約束と得られた好感度を合わせると、トップは私と楓さん。
美嘉ちゃんとみくちゃんもかなり高いです。
けど私以外の約束はこれから凛ちゃんが破らせようとします。
全部が全部とまではいきませんが、効果は大きいでしょう。
このままいけば私の一人勝ちです。
凛ちゃんにはお礼をちゃんとしないといけませんね。
私とプロデューサーさんが結婚した後、わざと隙をつくって襲うチャンスを用意してあげます。
強引に迫る凛ちゃんを拒み切れず関係を持ち、罪悪感で押しつぶされそうなプロデューサーさんが帰宅すると、そんなことがあったなんてつゆほどにも思わない信頼しきった様子の私が笑顔で出迎えるんです。
その時、プロデューサーさんがどんな顔をするのか……あ、ああっ。
「お、落ち着かないと。勝ちを確信した時こそ危ういって、言われたばかりです」
そう、このままいけば私の勝ちは確定です。
前々からプロデューサーさんを家に招いてパパとママと合わせる計画は練っていました。
そしてそれがうまくいけば、雪だるま式に次から次へと計画が連鎖して、もう誰にも私とプロデューサーさんの邪魔はできなくなる。
そう、今邪魔さえされなければ全てがうまくいく段取りに――
「……やっぱり、そううまくはいきませんか」
「……うん、やっぱりそうだったんだ。教えてくれてありがとう卯月。あとは私が片づけるから」
プロデューサーさんと約束を交わしてから少しあと。
凛ちゃんにプロデューサーさんがここ数日誰に何をされたのか、ざっくりと説明しました。
あ、もちろん私のことは除いています。
プロデューサーさんのキスマークに気づいていたりして、薄々何か起きていることを察していたんでしょう。
すんなりと私の話を受け入れてくれました。
「片づけるって……何をするんですか?」
「ううん、卯月は気にしなくていいから」
凛ちゃんはもう少し気にした方がいいですよ。
例えばなぜ私がこんなにプロデューサーさんの情報を持っているのかとか。
そこを突っ込まれたら誤魔化す準備をしていたのに何だか拍子抜けです。
凛ちゃんはプロデューサーさんのことになると視野が狭くなってしまうので、そこは私がフォローしないと。
私の幸せと凛ちゃんの幸せが、ちゃんと両立できるようにですね。
「じゃあ行ってくるから。急がなきゃいけないのは未央かな。まったく、パ……パイズリだなんて。プロデューサーは脚が好きなんだから」
「い、行ってらっしゃい?」
別に急ぐ必要は無いのに、足早に去る凛ちゃんを見送ります。
あの未央ちゃんがプロデューサーさんにエッチなことをする覚悟は、どう少なく見ても一週間は必要なのに。
それに凛ちゃん……脚に自信があるからって、勝手にプロデューサーさんを脚フェチにしちゃ駄目ですよ。
プロデューサーさんは人並みにおっぱいが好きで、人並みに脚が好きで、そしてお尻が大大大好きなんですから。
まあともあれ、今回の騒動でプロデューサーさんと取り付けた約束と得られた好感度を合わせると、トップは私と楓さん。
美嘉ちゃんとみくちゃんもかなり高いです。
けど私以外の約束はこれから凛ちゃんが破らせようとします。
全部が全部とまではいきませんが、効果は大きいでしょう。
このままいけば私の一人勝ちです。
凛ちゃんにはお礼をちゃんとしないといけませんね。
私とプロデューサーさんが結婚した後、わざと隙をつくって襲うチャンスを用意してあげます。
強引に迫る凛ちゃんを拒み切れず関係を持ち、罪悪感で押しつぶされそうなプロデューサーさんが帰宅すると、そんなことがあったなんてつゆほどにも思わない信頼しきった様子の私が笑顔で出迎えるんです。
その時、プロデューサーさんがどんな顔をするのか……あ、ああっ。
「お、落ち着かないと。勝ちを確信した時こそ危ういって、言われたばかりです」
そう、このままいけば私の勝ちは確定です。
前々からプロデューサーさんを家に招いてパパとママと合わせる計画は練っていました。
そしてそれがうまくいけば、雪だるま式に次から次へと計画が連鎖して、もう誰にも私とプロデューサーさんの邪魔はできなくなる。
そう、今邪魔さえされなければ全てがうまくいく段取りに――
「……やっぱり、そううまくはいきませんか」
308: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:09:50.26 ID:QrWP3u9i0
楓さんは今、時子様と対峙しているはず。
それなのに背後から明確な敵意と嫉妬が近づいてきています。
私の計画に最低でも楓さんは気づく。
そして、小梅ちゃんも気づきかねないと見ていました。
侮りがたい相手ですけど、小梅ちゃんの友達は何故か私に怯えていますし、それ以外もまだまだ未熟。
「このまま一気に決めさせて……あれ?」
あれあれ?
あれれ?
「ヤッホー……卯月ちゃん」
「見捨てない…見捨てない……あの人は私を見捨てたりなんかしない。見捨てさせたりなんか……させないよね、卯月ちゃん?」
「橘です」
何だか、多いです。
小梅ちゃんだけがそこにいるはずなのに、ハイライトオフ智絵里ちゃんとドヤ顔ありすちゃんまでいます。
「あ、あーーー。そういうわけですか」
合点がいくと同時、自然と額に手を当てて嘆いていました。
結局、私は策にこだわり過ぎたようです。
楓さんに気づかれた時点で、今回は楽しむだけに止めておくべきでした。
それなのに強引に修正して、しかも修正するにあたっての焦点は楓さんにあててばかり。
それだけ楓さんの脅威が大きかったわけですが、そのせいで普段なら気づけるようなこと――小梅ちゃん以外にも勘付いている予兆があったはずなのに、完全に見逃していました。
「年貢の納め時だよ……」
年貢の納め時……ですか。
このまま事が進むとどうなるでしょうか。
凛ちゃんが次々と皆が立てたフラグを全壊とはいかなくとも半壊にして、無事に残すつもりだった私のフラグはここで叩き壊されます。
そして近い内に戻る予定の杏ちゃんが、凛ちゃんが壊し損ねたフラグを丁寧に片づけつつ、他の皆から反感を得ない程度にプロデューサーさんの好感度を得ることでしょう。
そして、また平和な日常が訪れます。
私がここでやられさえすれば予定調和。
勧善懲悪の時代劇で悪役が言われるセリフを持ってくるとは、中々的を得ています。
しかし――
それなのに背後から明確な敵意と嫉妬が近づいてきています。
私の計画に最低でも楓さんは気づく。
そして、小梅ちゃんも気づきかねないと見ていました。
侮りがたい相手ですけど、小梅ちゃんの友達は何故か私に怯えていますし、それ以外もまだまだ未熟。
「このまま一気に決めさせて……あれ?」
あれあれ?
あれれ?
「ヤッホー……卯月ちゃん」
「見捨てない…見捨てない……あの人は私を見捨てたりなんかしない。見捨てさせたりなんか……させないよね、卯月ちゃん?」
「橘です」
何だか、多いです。
小梅ちゃんだけがそこにいるはずなのに、ハイライトオフ智絵里ちゃんとドヤ顔ありすちゃんまでいます。
「あ、あーーー。そういうわけですか」
合点がいくと同時、自然と額に手を当てて嘆いていました。
結局、私は策にこだわり過ぎたようです。
楓さんに気づかれた時点で、今回は楽しむだけに止めておくべきでした。
それなのに強引に修正して、しかも修正するにあたっての焦点は楓さんにあててばかり。
それだけ楓さんの脅威が大きかったわけですが、そのせいで普段なら気づけるようなこと――小梅ちゃん以外にも勘付いている予兆があったはずなのに、完全に見逃していました。
「年貢の納め時だよ……」
年貢の納め時……ですか。
このまま事が進むとどうなるでしょうか。
凛ちゃんが次々と皆が立てたフラグを全壊とはいかなくとも半壊にして、無事に残すつもりだった私のフラグはここで叩き壊されます。
そして近い内に戻る予定の杏ちゃんが、凛ちゃんが壊し損ねたフラグを丁寧に片づけつつ、他の皆から反感を得ない程度にプロデューサーさんの好感度を得ることでしょう。
そして、また平和な日常が訪れます。
私がここでやられさえすれば予定調和。
勧善懲悪の時代劇で悪役が言われるセリフを持ってくるとは、中々的を得ています。
しかし――
309: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:10:33.35 ID:QrWP3u9i0
「卯月ちゃん……?」
「見捨て……させようとするんですね? 許さない許さない許さない許さない――」
「何を?」
三人で囲みながら徐々に距離を詰める三人に、会心の笑顔を見せます。
「年貢の納め時を踏み倒してこそ真のへそ下者!!!」
欲一念を貫いてこそ真のへそ下者!
そのような生き様が人に許されるのか!?
否……許されてはなりません。
許されては面白くも何ともないです!
私はようやくのぼりはじめたばかりですから
このはてしなく遠い殲琴・ダウルダブラをね……
――
――――
――――――――
このあと滅茶苦茶普通に数の暴力で負けました。
島村先生の次のへそ下に期待しないでください。
~おしまい~
「見捨て……させようとするんですね? 許さない許さない許さない許さない――」
「何を?」
三人で囲みながら徐々に距離を詰める三人に、会心の笑顔を見せます。
「年貢の納め時を踏み倒してこそ真のへそ下者!!!」
欲一念を貫いてこそ真のへそ下者!
そのような生き様が人に許されるのか!?
否……許されてはなりません。
許されては面白くも何ともないです!
私はようやくのぼりはじめたばかりですから
このはてしなく遠い殲琴・ダウルダブラをね……
――
――――
――――――――
このあと滅茶苦茶普通に数の暴力で負けました。
島村先生の次のへそ下に期待しないでください。
~おしまい~
310: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 09:11:47.33 ID:QrWP3u9i0
最後まで読んでいただきありがとうございました
どの話が面白かったですか?
読み返してPa3人の出来に満足、楓さんと幸子はもうちょっとうまくやれたなと反省しています
今回はいつもと作風が違う理由ですが
①たまにはシリアスな恋愛物が書きたいな。武内P、凛、美嘉の三角関係でいこう!
②シリアスな恋愛物だから、地の文の一人称でやろう。よしプロットを練るか
③へそ下辺りがむずがゆくなる
④ご ら ん の あ り さ ま だ よ
次回は係の変更やら研修やらで忙しくなるので、夏ぐらいになると思います
ちなみに私のSSは過去作品と都合よくつながってたりつながってなかったりします
しまむーと時子様の関係について質問があったので、過去作品の一部を置いておきます
【モバマスSS】凛「プロデューサーにセクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446375146/
楓「私たちも」美嘉「プロデューサーに」小梅「…セクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449474797/
島村卯月の性教育【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471173660/
どの話が面白かったですか?
読み返してPa3人の出来に満足、楓さんと幸子はもうちょっとうまくやれたなと反省しています
今回はいつもと作風が違う理由ですが
①たまにはシリアスな恋愛物が書きたいな。武内P、凛、美嘉の三角関係でいこう!
②シリアスな恋愛物だから、地の文の一人称でやろう。よしプロットを練るか
③へそ下辺りがむずがゆくなる
④ご ら ん の あ り さ ま だ よ
次回は係の変更やら研修やらで忙しくなるので、夏ぐらいになると思います
ちなみに私のSSは過去作品と都合よくつながってたりつながってなかったりします
しまむーと時子様の関係について質問があったので、過去作品の一部を置いておきます
【モバマスSS】凛「プロデューサーにセクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446375146/
楓「私たちも」美嘉「プロデューサーに」小梅「…セクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449474797/
島村卯月の性教育【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471173660/
311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 09:30:30.93 ID:YD/pzb9y0
文香の話が一番好きかな
後、幸子が攻勢に出れたようで何よりです
後、幸子が攻勢に出れたようで何よりです
313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 10:25:22.12 ID:pLHF/x1S0
ふみふみと小梅が良かった
314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 12:48:56.23 ID:PZk+2KgPo
未央と小梅がツボだった、あと楓さんの演技も。
一部と言わず、過去作全部載っけてくれ。もっかい読み返したいからな
一部と言わず、過去作全部載っけてくれ。もっかい読み返したいからな
315: ◆SbXzuGhlwpak 2017/03/25(土) 13:05:52.81 ID:QrWP3u9i0
こうやって振り返るとそこそこ書いたなあ
【モバマスSS】凛「プロデューサーにセクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446375146/
加蓮「CPのプロデューサーってかっこいいよね」凛「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447574640/
未央「貴方の視線」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448895601/
楓「私たちも」美嘉「プロデューサーに」小梅「…セクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449474797/
莉嘉「Pくんってかっこいいよね!」美嘉「」【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454068376/
武内P「襲われました…」卯月「へそ下辺りが満たされました♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455880196/
早苗「CPのプロデューサー君(武内P)ってかっこいいじゃない」楓「どやぁ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458041208/
凛(五体投地)「お願いだからやらせてください」武内P「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461585627
島村卯月の性教育【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471173660/
武内P「これは……私の抱き枕?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474714761/
藍子「CPのプロデューサーさん(武内P)ってかっこいいですね」未央「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479472847/
武内P「渋谷さんがお神酒を飲んだら……」凛「プロデューシャー♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483266061/
【モバマスSS】凛「プロデューサーにセクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446375146/
加蓮「CPのプロデューサーってかっこいいよね」凛「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447574640/
未央「貴方の視線」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448895601/
楓「私たちも」美嘉「プロデューサーに」小梅「…セクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449474797/
莉嘉「Pくんってかっこいいよね!」美嘉「」【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454068376/
武内P「襲われました…」卯月「へそ下辺りが満たされました♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455880196/
早苗「CPのプロデューサー君(武内P)ってかっこいいじゃない」楓「どやぁ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458041208/
凛(五体投地)「お願いだからやらせてください」武内P「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461585627
島村卯月の性教育【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471173660/
武内P「これは……私の抱き枕?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474714761/
藍子「CPのプロデューサーさん(武内P)ってかっこいいですね」未央「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479472847/
武内P「渋谷さんがお神酒を飲んだら……」凛「プロデューシャー♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483266061/
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486799319/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
ツバサ「ん~」グリグリ 穂乃果「ツバサさんが頭をグリグリ押し当ててくる」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:04:37.09 ID:GdQGsup8O
短めに。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:09:18.03 ID:GdQGsup8O
穂乃果「……………………」ペラッ
ツバサ「……………………」グリグリ
穂乃果「ツバサさん、くすぐったいです」
ツバサ「ひーまー」
穂乃果「ですね~」ペラッ
ツバサ「二人でいるのになんでマンガ読むの~?」
穂乃果「おもしろいからです」
ツバサ「……………………」グリグリ
穂乃果「くすぐったいです」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:12:47.77 ID:GdQGsup8O
ツバサ「せっかく練習が休みなんだから遊びましょうよ」
穂乃果「って、勝手に家に来たのツバサさんじゃないですか」
ツバサ「ダメだった?」
穂乃果「ダメじゃないですけど……」
ツバサ「穂乃果さんに会いたかったんだもん。仕方ないでしょ~」ゴロゴロ
穂乃果「……ネコみたい」
ツバサ「可愛い?」
穂乃果「んー……」
ツバサ「かーわーいーいー?」ゴロゴロ
穂乃果「……はい」
ツバサ「フフ……///」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:17:04.19 ID:GdQGsup8O
ツバサ「穂乃果さん穂乃果さん」
穂乃果「はい?」
ツバサ「膝枕して~」
穂乃果「クッションじゃダメですか?」
ツバサ「穂乃果さんの柔らかい太ももでないとダメ~」
穂乃果「そんなにお肉ついてるかな……」プニッ
ツバサ「程よい肉付きよ」
穂乃果「複雑な気持ちです」
ツバサ「A-5ランク」
穂乃果「和牛じゃないんですから」
ツバサ「A-RISE、5つ星ってことよ」
穂乃果「いや意味わからないです」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:19:39.92 ID:GdQGsup8O
ツバサ「いいから、膝、はやく」ポスポス
穂乃果「はいはい……」
ツバサ「んっ♪」ゴロン
穂乃果「どうですか~?」
ツバサ「永眠出来る」
穂乃果「したら赦しませんよ」
ツバサ「頭撫でて~」
穂乃果「ツバサさん子どもみたい」
ツバサ「ダメ……?」
穂乃果「……じゃないです」ナデナデ
ツバサ「ん~極楽///」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:22:02.65 ID:GdQGsup8O
穂乃果「もう……」ヒョイッ パクッ
ツバサ「なに食べたの?」
穂乃果「チョコレートです」
ツバサ「私も~。あーん」
穂乃果「自分で取ってください」
ツバサ「んぁ~♪」
穂乃果「……~///はい、あーん」
ツバサ「♪」パクッ
ツバサ「ん、甘い♪」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:33:06.23 ID:GdQGsup8O
穂乃果「……………………」ペラッ
ツバサ「むー、まだマンガ読むの?」
穂乃果「今いいところなんです」
ツバサ「む~……」プクー
ツバサ「かまって~」グリグリ
穂乃果「ひゃうっ!///つ、ツバサさんっ///太ももグリグリしないでくださいよっ!!///」
ツバサ「かまってくれなきゃヤ~ダ~」グリグリ
穂乃果「わかっ、わかりましたからぁ!///」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:37:19.45 ID:GdQGsup8O
穂乃果「もう……///」
ツバサ「~♪」
穂乃果「いつまでこうしてるんですか?」
ツバサ「そうね……地球が滅びるまでとか?」
穂乃果「お腹がすくまでとかにしませんか?」
ツバサ「それだけ一緒にいたいってことよ」
穂乃果「どういう意味で言ってます?」
ツバサ「どういう意味で言ってると思う?」
穂乃果「……わかんないです」
ツバサ「じゃあ、教えない♪」
穂乃果「え~……?」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:42:28.23 ID:GdQGsup8O
ツバサ「……………………」ウトウト
穂乃果「ツバサさん、眠たいですか?」
ツバサ「ここのところ練習漬けだったからかしら……」
穂乃果「寝ていいですよ」
ツバサ「せっかく穂乃果さんに会いに来たのに?」
穂乃果「起きるまで膝枕しててあげますから」
ツバサ「頭も撫でて」
穂乃果「はいはい」ナデナデ
ツバサ「気持ちいい……///」
穂乃果「寝れそうですか?」
ツバサ「ん……///」
ツバサ「……ねえ、穂乃果さん」
穂乃果「なんですか?」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:52:58.09 ID:GdQGsup8O
ツバサ「12.15.22.5……この数字が表す言葉は?」
穂乃果「……?なんですか?12……?」
ツバサ「起きるまでの簡単な宿題よ。解けたら答えて♪」
穂乃果「あっ……」
ツバサ「おやすみなさい♪」ニコッ
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:58:55.91 ID:GdQGsup8O
ツバサ「クークー……」
穂乃果「……?12……15……22……5?」
穂乃果「……?……?」
穂乃果「……………………スマホ使っちゃダメって言われてないよね」ポチポチ
穂乃果「12……15……22……5……」ポチポチ
穂乃果「ん……?……………………あ」
穂乃果「えっ……と……///」チラッ
ツバサ「クークー……」
穂乃果「うぅ~……///ああもう……回りくどいよ///」
穂乃果「普通に伝えてくださいよ……」ポチポチ
穂乃果「どうせ……答えは決まってるんですから……///」ピッ
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:01:53.36 ID:IjsrSPPkO
穂乃果『12.15.22.5……13.5.20.15.15』
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:03:59.79 ID:IjsrSPPkO
おわり。
ちょっとおかしいところはご愛嬌。
∩oh 3^07 1
みたいなのが好き。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:12:37.60 ID:d8PPheOq0
乙
ほのツバは正義
ほのツバは正義
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 02:32:42.79 ID:DVKZ5aAh0
最高すぎる
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488722677/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ ラブライブ | Comments (0)
フェネック「アライさん。ちゅーしようかー」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:12:47.40 ID:IWD+13wu0
……
-ビーバーとプレーリーの家
コンコン
アライグマ「こんにちはなのだ!」
フェネック「こんにちはだよー」
ガチャッ
プレーリー「やや、お客さんでありますか!」
アライグマ「そうなのだ! アライさんなのだ! 実は聞きたいことがあっ」
プレーリー「では早速ごあいさつを!」ガシッ
アライグマ「へっ?」
チューーーーーーッ
アライグマ「!!?!?!?!?!?」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:13:48.60 ID:IWD+13wu0
プレーリー「んー」チュッチュパッヌプッ
アライグマ「んっ!? んんぅう!?! んんーーーーっ!!!?」
プレーリー「ぷはぁ」
フェネック「……おぉー」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:14:47.30 ID:IWD+13wu0
アライグマ「な、な、……なにをするのだぁあーーっ!」
プレーリー「これがプレーリー式のごあいさつなのであります!」
フェネック「なるほどねぇー」
アライグマ「い、いきなり、びっくりしたのだ……」
フェネック「おやおやアライさん。顔が赤くなってないかい?」
アライグマ「な、なってないにょだ!」
フェネック「かみかみだねーアライさん」
プレーリー「そちらの方もごあいさつを!」ガシッ
フェネック「フェネックだよー、よろし」
チューーーーーッ
プレーリー「んー」チュッチュパ
フェネック「……」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:15:27.80 ID:IWD+13wu0
フェネック「ん」チュルチュパヌッヌポッ
プレーリー「んんんっ!?!?」
アライグマ「!?!!」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:16:10.90 ID:IWD+13wu0
プレーリー「ぁへっ……」フラッ
フェネック「ふぅー」
アライグマ「ふぇ、フェネック……?」
フェネック「んー? どうしたんだい? アライさーん」
アライグマ「な……なにをしてるのだ……」
フェネック「あいさつを返しただけじゃないかー。ひかないでおくれよー」
アライグマ「……いや、どん引きなのだ……」
フェネック「ひどいなー」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:16:41.04 ID:IWD+13wu0
フェネック「じゃあ」
フェネック「アライさんも、ちゅーしようかー。私と」
アライグマ「!!!?!??!?!?!」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:17:22.21 ID:IWD+13wu0
アライグマ「ななんあなにぇを言っへるのだぁ!!?」
フェネック「ただのあいさつだよー」
アライグマ「ひっ!? や、やめ、やめるのだ! やめっ」
ガシッ
チュチュチュゥーーーーーーーーーーッ
……
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:19:12.32 ID:IWD+13wu0
……
ふぇねっくやく もとみやおねえさん
アライグマ役のチャンサキに「ちゅーする!? わたしと!」って言ったらですね
「は!?」って本気でどん引きされちゃいまして…
でもその後すぐ「いいけど!?」って言ってくれて
このニコ生の放送が終わったあとでね、って返したら
それでチャンサキ顔真っ赤になって、そのあとも「ねぇうそでしょ? ほんとじゃないよね?」って気にしてて
かわいかったのでだんだんこっちもその気になって来ちゃうんですね
だから、もう、ね
ね! あはは!
……
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:20:03.56 ID:IWD+13wu0
アライグマ「ぁひ…………ぁ……」ポー……
フェネック「アラーイさーん。大丈夫~?」
アライグマ「」ビクッ
フェネック「アライさーん?」
アライグマ「…………ひ、ひどい……ひどいのだ……。なんでこんな、ぅ、ぐすっ、こんなことを……」
フェネック「…………」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:21:04.65 ID:IWD+13wu0
フェネック「だってアライさん。プレーリードッグとちゅーしちゃったじゃないかー」
アライグマ「それはっ、アライさんのいしじゃないのだ!! 無理矢理に……だいたい、そんなことなんの関係がっ」
フェネック「私はずーーっと、我慢してたのにさー」
アライグマ「へ…………?」
フェネック「ずるいよねー。いきなり、あいさつだーなんて言って……さぁ」
アライグマ「ふぇ……フェネック……? なんか、目がこわいのだ……」
フェネック「ねぇ、……アライさーん」
アライグマ「ひ、ひぃい! ご、ごめん! ごめんなさいなのだぁ!! なにがわるいのか分からないけどフェネックをおこらせたなら謝るのだぁー!! ゆるしてほしいのだぁ!!」
フェネック「………………」
アライグマ「……ぅ、……フェネック……?」
ナデリ
フェネック「よし、よし」ナデナデ
アライグマ「ぁ、あの」
フェネック「だーいじょうぶだよー。おこってなんかないからねー」ナデナデ
アライグマ「ほんとに……?」
フェネック「ほんとだよー」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:24:03.82 ID:IWD+13wu0
アライグマ「よかったのだ……」
フェネック「こっちこそわるかったよ。こわがらせてごめーんねー」
アライグマ「べ、べつにこわがってなんて」
フェネック「仲直りに、お互い洗いっこしようかー」
アライグマ「洗いっこ!? アライさん、洗うの大好きなのだ!! フェネックのこといっぱいきれいにしてやるのだ!」
フェネック「ふふー、よろしくたのむよ~」
ビーバー「大丈夫ッスか!? しっかりするッスよ!!」
プレーリー「うぅ……やばいやつに手を出してしまったであります……」
ビーバー「もう、だれかれ構わずちゅーするの、やめたほうがいいッスよ?」
プレーリー「しかし、これが習性なので……」
ビーバー「……いつでも」
ビーバー「いつでもオレっちが、ちゅーさせてあげるッスから……」
プレーリー「ほ、ほんとうでありますか!?」
ビーバー「っていうか今でもおはようとおやすみのたびにちゅーされ」
プレーリー「んーっ」チューーッ
ビーバー「んんぅっ!?」
プレーリー「それだけじゃ足りないであります! もっともっと、顔を見合わすたびにしましょう!」
ビーバー「うー……もう、しょーがないッスねぇ……」
プレーリー「えへへへ……」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:25:20.51 ID:IWD+13wu0
……
-温泉
アライグマ「やめっひぁあ!? そこはっだぇっだめなのだぁ!!」
フェネック「ほーらアライさん、こっちもきれいにするよー?」ワシャワシャワシャ
アライグマ「ひぐぅうっ!!? しょこもらめなのだぁあっあっあっ!!」
ギンギツネ「あの……ここ、そーいう場所じゃないんですけど」
キタキツネ「ギンギツネ……あれ、なにやってるか分かるの……?」
ギンギツネ「えっ!? そ、そっれは……」
キタキツネ「…………ギンギツネ、えっちだ」
ギンギツネ「なっ……!? はぁ!?」
キタキツネ「ボクらも洗いっこ、する?」
ギンギツネ「し な い!!」
キタキツネ「ちぇっ」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:26:09.47 ID:IWD+13wu0
アライグマ「はぁっ、ひぃっ……たすけてぇ、かばんさーん!」
フェネック「おやぁ……アライさん。私と洗いっこしてるときに、他の子の名前を出すなんて……」
アライグマ「へっ……? あれ? フェネック……? なんかまた目がこわ」
アッーーーーーーーーーーーッ!!!!!
おわりだよ!
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:27:09.08 ID:IWD+13wu0
PPP「「ぺぱぷ予告!!」」
プリンセス「今週は、クレイジーサイコレズについて予習するわよ」
コウテイ「なんなんだそれは……」
イワビー「レズはともかくクレイジーサイコってなんだよ」
ジェーン「レズは分かるんですか?」
イワビー「え゛っ」
プリンセス「はいじゃあ解説よろしく」
コウテイ「私も知りたいな」
フルル「? イワビー、レズなの?」
ジェーン「よろしくお願いしますね♪」
イワビー「わー!! やめろやめろー!!」
次回、ゆりらんぼう
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:27:33.25 ID:4htRA9ono
乙乙
自制の効かないクソレズフェネックコワスギィ!
自制の効かないクソレズフェネックコワスギィ!
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 14:38:19.32 ID:XTR7y58ho
おつおつ
Rで続きはよ
Rで続きはよ
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 15:01:44.80 ID:1SlRgeTy0
ああ。レズだ
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 15:27:53.63 ID:RAK9Rdw2o
若干ャ草
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:34:21.53 ID:tUpPhX4Po
アライさんかばんさんに全幅の信頼を置いてますな
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490418767/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ けものフレンズ | Comments (0)
【FGO】マシュ「黒髭project…ですか?」
1: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:13:58.39 ID:mx/mW8730
キャラ崩壊注意
一部設定無視注意
一部設定無視注意
2: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:16:02.33 ID:mx/mW8730
ぐだお「あー…暇だなー、黒髭」
黒髭「…」ペラ
ぐだお「最近のイベントなんて復刻~とかばっかだしさあ」
黒髭「…」ペラペラ
ぐだお「なんか面白いことねーかなー…」
黒髭「…」ペラ
ぐだお「さっきからペラペラペラペラ…ナニしてんだよ変態野郎」
黒髭「読書に決まってるでござる」
ぐたお「どーせR-18指定の…って、少年誌かよ」
黒髭「拙者も少年の熱い心を忘れてはござらん!」
ぐたお「で、本音は?」
黒髭「少年誌のエ◯シーンは格別」
ぐたお「やっぱ変態じゃねえか」
黒髭「ぐたお殿には叶いませんなww」
3: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:17:40.68 ID:mx/mW8730
マーリン「あ、いたいた。ぐたおー」
ぐたお「お、どうしたマーリン」
マーリン「周回の時間らしいから呼びに来たよ」
ぐたお「またか…マーリンも大変だなあ…孔明なんて一時期頭おかしくなってたしなあ」
くだお「『ふむ、ではこうしよう』と『くだらん』しか発声出来なかった時期あったし」
マーリン「いやその…あんまりメタな内容はやめようか」
黒髭「マーリン殿もわかってくれるでござるよな?この感覚」
マーリン「?」
ぐたお「ほら、少年誌のお色気シーンは青年誌のそれを凌駕するって話だよ」
マーリン「ほほう。興味深いね」
ぐたお「まあ取り敢えず読んでみろって」ペラ
マーリン「チラリズムっていうのかい?こういうの。いいねえ」ペラ
黒髭「流石マーリン殿!わかってるでござるなあ」ペラ
ぐだお「最近じゃ、少年漫画でも色々見えてるもんだぞ?」ペラ
マーリン「女の子は大好きだからね。物語の登場人物でも、可愛い女の子なら大好きさ」ペラ
三人「むふふうひひぐへへ」
4: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:18:43.28 ID:mx/mW8730
ぐたお「他にわかってくれそうなのはっと…」
マシュ「せーんぱい?」ニコニコ
ぐたお「あの、はい。ごめんなさい。周回のお時間ですね」アセアセ
アリトリア「マーリン。何か言うことは?」
マーリン「いやその、違うんだよこれは」
アリトリア「…」スチャッ
マーリン「あああ!わかったわかった…今すぐ行くからその剣をしまってくれ」
黒髭「大変でござるなあ…ふたりとも」
アルトリア「貴様も粛正対象だ」
黒髭「あひぃぃぃぃん」
5: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:22:40.11 ID:mx/mW8730
マシュ「先輩、おはようございます」
ぐたお「おー。おはよー」カチャカチャ
マシュ「あの、それは何を…?」
ぐたお「ああこれか?黒髭projectの一環だ」
マシュ「黒髭project…?ですか」
ぐたお「フフフ…気になるかい?キリエライト君」
マシュ「あの、先輩?あんまり悪戯してはいけませんよ?」
ぐたお「うぐっ……まあまあ。こういう遊び心を持て余すのは男の性分なんだよ」
マシュ「なんかそれっぽいこと言ってもダメです」
ぐたお「厳しいなあオイ」
マシュ「でも、私もお手伝いしますよ」
ぐたお「ホントか!?助かるよ~人手が足りてなくてさあ…やっぱりマシュは頼りになる」
マシュ「い、いえ…///その…一応先輩の支えになるのが私の仕事でもありますから」
7: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:26:31.15 ID:mx/mW8730
ぐたお「よーしじゃあまずはこれをだな…」
邪ンヌ「ちょっと、そこの」
ぐたお「そのコード引っ張ってくれ」
マシュ「はい。これで良いですか?」
邪ンヌ「…ねえ、ちょっと」
マシュ「あ、どうも…」ペコ
ぐたお「それからそこを接続して…」
邪ンヌ「ちょっとお!無視!?」
ぐたお「うるせえええ!今取り込んでるんだよ!黒髭project遂行中なんだよお!!」ウガー
邪ンヌ「」ビクッ
マシュ「せ、先輩」
邪ンヌ「な、なによ…フン!そんなに大きな声出してびっくりするとでも思ったの?」グスッ
マシュ「ちょっと先輩!半泣きになってるじゃないですか!」
8: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:28:49.26 ID:mx/mW8730
ぐたお「何の用だ」
邪ンヌ「暇だからからかいに来たのよ。悪い?」
ぐたお「そんなことして楽しいか?ジャンヌやマリーみたいに友達とお茶してろよ。楽しいぞ?」
邪ンヌ「あれの何が楽しいのですか」フンッ
ぐたお「じゃマシュ。これからここでお茶しようぜ。二人で」
マシュ「休憩ですか?良いですけど…」チラッ
邪ンヌ「な、なによ…」ワナワナ
マシュ(もう泣きそうなんですけど…やっぱりお茶を嗜んだりしたいんでしようか…)
邪ンヌ「な、ならその休憩をぶち壊してあげましょう」
ぐだお「ほー。具体的には?」
邪ンヌ「え、えっと…お菓子!お茶に出されるお菓子を全て食べてしまいましょう」フフフフ
マシュ(可愛い…)
ぐたお「テメーはピンクの悪魔か。働かざる者食うべからず」
邪ンヌ「うっ…」
ぐたお「これ手伝ってくれるんなら考えてやるよ」
邪ンヌ「手伝う…?何を言うかと思えば」
ぐたお「手伝うの?手伝わないの?」
邪ンヌ「て、手伝う……」
ぐたお「よーしよしよし」
マシュ(か、飼い慣らされてるー!?)ガビーン
10: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:32:10.07 ID:mx/mW8730
ぐだお「じゃあ肩車してやるからこれ、取り付けてくれ」
邪ンヌ「はい?」
ぐだお「あの高いとこにこれ取り付けるから」
マシュ「先輩、脚立持ってきますよ?」
ぐだお「いやいや、肩車で良いよ。微調整出来るし」
マシュ「せんぱい。」
ぐだお「いやいやいや、変な意味とかなーんにもないから」
マシュ「で、本音は?」
ぐだお「正直、太ももたまりまs」ガスッ
マシュ「先輩の変態!馬鹿!」
ぐだお「ぐおお…痛えぇ…」
マシュ「ジャンヌオルタさん!私と二人でお茶しましょう!あっちで!!」プンスカ
邪ンヌ「え?えっ!?ちょっと、あれ大丈夫なの?」
マシュ「大丈夫です!」
11: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:35:25.05 ID:mx/mW8730
ぐだお「いてて、よりにもよって脛を狙うとか…恐ろしい後輩やでえ…」
ジャンヌ「こんな所でどうしたんですか?ぐたお」
ぐだお「…おおおぉ!我が聖女よ!」
ジャンヌ「目が飛び出てますよ」グイグイ
ぐだお「おっとと…」
ジャンヌ「倒れていたから心配しましたよ。お怪我は?治療室までお供しますよ」
ぐだお「聖女パワーでぜーんぶ治ったから治療室は勘弁してお願いぃ!」
ナイチンゲール「ぶえぇっくし!」
ジャンヌ「ここで何を…?何やら機材が沢山ありますが」
ぐだお「ジャンヌに手伝って欲しいんだよ。肩車するからこれを天井に取り付けて欲しい」
ジャンヌ「力になれるかわかりませんが、やってみます」
ぐだお(聖女だああ…ジル、今度飲みながら語り合おうぜ)
ジル「アァーーーーっくし!!」
12: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:40:35.53 ID:mx/mW8730
ぐだお「よいしょ」
ジャンヌ「お、重くないですか?///」
ぐだお「いや、軽いぞ」
ジャンヌ「そ、そうですか//」
ぐだお(た、たまらんっ…!最高だ…!!)タラー
ジャンヌ「ぐだお?鼻血が出てませんか?」
ぐだお「ああ、バデンタインでヂョコいっばいだべたがらね…」
ジャンヌ「こ、これを取り付けるのですか?」
ぐだお「やべえ、血ぃ出過ぎた…倒れそう」フラフラ
ジャンヌ「え!?ぐだお!?」グラグラ
「ま」
「す」
「た」
清姫「あ?」ニコニコ
ぐだお「あれ~?春なのに何か寒気がするぞ。悪寒がするぞおお??」
ジャンヌ「こ、こんにちは」
清姫「うふふふふふ。ますたあ??」
ぐだお「なーんでしょうか清姫殿??」
清姫「何をしているですか?部屋に忍び……行ってもいないので心配しましたよ?」
ぐだお「オイ!今忍び込んだって言おうとしただろ!」
清姫「何をしているですか?」
ぐだお「うっ…」
ぐだお(清姫に嘘ついたら面倒臭えことになるしな…)
ジャンヌ「ぐだおは任務中で、これを取り付けていたのですよ」
ぐだお(ナーイスジャンヌゥゥゥゥ!流石我が聖女ぉ!!)
清姫「肩車…」
ぐだお「そ、そういうことだ清姫。また後で相手してやるから」
清姫「じゃあ…」
13: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:45:05.01 ID:mx/mW8730
ぐだお「いや、あの…おかしくないですかコレ。なにコレ」
清姫「おんぶ…」ウットリ
ジャンヌ「やっぱり私は降りましょうか?」
ぐだお「いや、任務を続けてくれ」キリッ
ぐだお(くっ…これも太もものためだ…)
ナーサリー「マスター、何してるの?」
ジャック「おかあさん、だっこー」
ぐだお「」
14: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 20:52:30.39 ID:mx/mW8730
エミヤ「はあ…毎日毎日何人分の料理を作れば気が済むんだ」
エミヤ「…って、何だあれは!?」
ぐだお「ぐぎぎ…」プルプル
ジャンヌ「あの…ぐだお、やっぱり…」
清姫「はあ…ますたあの背中…大きい///」
ナーサリー「なんだかおサルさんになった気分ね」
ジャック「おサルさん!わーい!」
エミヤ「フッ…奴も苦労人というわけか」
ぐだお「おいテメェ、助けろ!主を助けろおおお!」
エミヤ「自業自得だ。…まあいい、すぐに…」
イシュタル「あ、アーチャー。丁度良かったわ、喉乾いたから紅茶お願いしてもいいかしら?」
エミヤ「まったく…君もアーチャーだろう」
イシュタル「じゃあなんて呼べば良いのかしら?エミヤくん?」
エミヤ「やめんか!ああもう仕方がないなあ」
ぐだお「ちょ、行かないでお願いぃ!」
ジャンヌ「本当に大丈夫ですか?ぐだお」
ぐだお「てか何のために出て来たんだよ!まったく意味の無い登場じゃねーか!リア充◯ね!」
「フハハハハハハ!無様だな雑種」
15: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:00:46.91 ID:mx/mW8730
ジャンヌ「っ…あなたは」
ギルガメッシュ「まるで猿に群がられた枯れ木ではないか」
ナーサリー「やっぱりおサルさんに見えるのかしら」
ジャック「おサルさん!」
ギルガメッシュ「まあ良い。今日は気分が優れるのでなあ、助けてやらんこともないぞ?」ズイッ
ぐだお「はあーあ、はやくマシュ帰ってこねえかなー」
ギルガメッシュ「おいおい、この我が手ずから救ってやるというのに、何故他のサーヴァントに助けを求める?」ズイズイ
ぐだお「令呪使うのもったいねーしなあ…携帯もケツのポケットだしなあ」
ギルガメッシュ「おい道化、今は英雄王サービス期間だぞ?その汚い頭を1回下げるだけで助けてやろう」ズイズイズイズイ
ジャンヌ「あ、あの…ぐだお?無視しないであげて下さい。なんだか可哀想です」
ぐだお「ああいうのは適度に無視してあげないと図にのってすぐ孤立しちゃうから」
ギルガメッシュ「…」
ジャンヌ「今後の任務に影響出そうです…」
ぐだお「ったくめんどくせーなー。じゃあ後ろのコイツ剥がしてくれ」
ギルガメッシュ「よかろう!串刺しにしてくれるわあああ!」
ぐだお「待てやああ!俺も死ぬだろおがあああ!」
ギルガメッシュ「フハハハハ!問答無用!」
「エクスキャリバー」
16: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:06:43.11 ID:mx/mW8730
ギルガメッシュ「なに?!」
ジャンヌ「向こうから何か来ますね」
ギルガメッシュ「エクスカリバーといえばセイバー!フハハハ今行くぞお!」ダッ
ぐだお「助かったよセイバ…」
オジマンディアス「エークスキャーリバー♪」
ぐだお「」
ギルガメッシュ「」
ジャンヌ「」
17: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:18:01.29 ID:mx/mW8730
オジマンディアス「エークスキャーリバー♪……エークスキャーリバー♪」
オジマンディアス「エークスキャーリバァ~♪」
ギルガメッシュ「おい太陽の!貴様何のマネだあ!!」
オジマンディアス「喧しいぞ金ピカの。エクスカリバーに決まっておろう」
ギルガメッシュ「そういう問題では無いわ!」
ぐだお「この声とアルトリアの声間違えるとかもう耳鼻科行けよ英雄王」
オジマンディアス「ほう。てっきりあの騎士王とやらが出てくるとでも?」
オジマンディアス「フハハハハハ!ヴァカめ!!」
ギルガメッシュ「この我を侮辱するか!不敬な!」
ぐだお「おいその辺にしとけ~。お前の伝説は紀元前14世紀から始まるし、出身はエジプトだし、カリフォルニアに行く予定無いからな」
オジマンディアス「ヴァカめ!」
ジャンヌ「この二人を前にしても全く動じないとは…流石ですねぐだお」
ぐだお「ああ、酒飲み対決に勝ったからな。ちなみに騎士王にも征服王にも勝ったがドレイクには負けた」
オジマンディアス「負けたのは事実だ。多少の無礼は許そう」ブンブン
ぐだお「杖振り回すなよ危ねえな」
ギルガメッシュ「あんな安酒で雌雄を決するなど我は認めておらんぞ?」
ぐだお「これだから金ピカは…器ちっさ」ヤレヤレ
ギルガメッシュ「なにぃ!」
ジャンヌ「てか、あなた未成年の設定ですよ!?」
ぐだお「こまけーこたぁ良いんだよ。成人して酒を嗜むマスターもいるんだよおお!」ウガアア
オジマンディアス「ヴァカめ!」
18: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:24:11.76 ID:hsNGnlYT0
ジャンヌ「そ、そうですか…あ、付け終わりましたよ」
ぐだお「はい解散。ジャンヌ以外散れー。ジャンヌはこのまま一緒に自室まで来るようn」ガスッ
マシュ「さあ、帰りますよ先輩。皆さんお騒がせしました」ズルズル
ぐだお「」ブクブクブク
ジャンヌ「だ、大丈夫でしょうか、ぐだお…」
清姫「ああ…//ますたあ…そんな…///」
ナーサリー「終始空気だったわね」
ジャック「うん」
オジマンディアス「ヴァカめ!」
ギルガメッシュ「もうよいわ!」
20: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:30:56.47 ID:hsNGnlYT0
後日
ぐだお「準備は整ったぞ」
黒髭「流石に仕事が早いでござるなあ」
マーリン「これからどーするんだい?」
ぐだお「うーん…作戦を練る必要があるだろーな」
マーリン「まあ結局はこの通路を通ってもらうことを前提に考えよう」
黒髭「何か事件をでっち上げてこの通路を通らせるというのはどうでござるか?」
ぐだお「それも考えたが、有事の際に信頼度が低いと困るからダメだ」
マーリン「まさに狼少年だね」
ぐだお「…何かで釣るとか?」
マーリン「!」
黒髭「何か思いついたでござるか?」
マーリン「まあボクに任せてくれ」
ぐだお「対象はどうする?」
黒髭「ぬかりないでござる。大きさや質感をあらかじめリサーチし、表に纏めてあるでござるよ」
マーリン「流石、カルデア最高峰の変態だ」
ぐだお「むっつりスケベのお前よりマシだ」
黒髭「ついにこの時が来たでござるなあ…」
ぐだお「編集作業はダヴィンチちゃんに押し付けよう」
三人「ふひひでゅふふげへへ」
ぐだお「準備は整ったぞ」
黒髭「流石に仕事が早いでござるなあ」
マーリン「これからどーするんだい?」
ぐだお「うーん…作戦を練る必要があるだろーな」
マーリン「まあ結局はこの通路を通ってもらうことを前提に考えよう」
黒髭「何か事件をでっち上げてこの通路を通らせるというのはどうでござるか?」
ぐだお「それも考えたが、有事の際に信頼度が低いと困るからダメだ」
マーリン「まさに狼少年だね」
ぐだお「…何かで釣るとか?」
マーリン「!」
黒髭「何か思いついたでござるか?」
マーリン「まあボクに任せてくれ」
ぐだお「対象はどうする?」
黒髭「ぬかりないでござる。大きさや質感をあらかじめリサーチし、表に纏めてあるでござるよ」
マーリン「流石、カルデア最高峰の変態だ」
ぐだお「むっつりスケベのお前よりマシだ」
黒髭「ついにこの時が来たでござるなあ…」
ぐだお「編集作業はダヴィンチちゃんに押し付けよう」
三人「ふひひでゅふふげへへ」
21: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:38:42.40 ID:hsNGnlYT0
ガコン
マシュ「?なんでしょうかコレ…手紙?」
ぐだおと二人っきり!
1日フリークエスト回り放題キャンペーン!
先着1名様!!ぐだおの部屋まで急げ!!
条件:私服で来て下さい
マシュ「」ガタッ
22: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:42:56.62 ID:hsNGnlYT0
マシュ「」ダダダダダダダダダ
黒髭「あ、対象が来たでござる」
マーリン「いやあ、上手くいったねえ」フフフ
黒髭「ぐだお殿ー。確認出来たでござるかー?」
ぐだお『視認した。素晴らしい』
マーリン「誰かわかるかい?」
ぐだお『この健康的なおっ◯いとお◯りはマシュだねえ、わかるとも!』
マーリン「凄いけど若干引くね」
黒髭「流石でござるな。拙者も早く回答者になりたいでござる」
マーリン「説明しよう!黒髭projectとは、廊下に仕掛けてあるカメラで走る女の子のおっ◯いとお◯りのみを撮影し、モニターごしの回答者が女の子の真名を当てるゲームさ。どうだい、実に紳士的な遊びだろう?」
黒髭「発案者である拙者の名前を取ったでござる」デュフフ
マーリン「この方法だと女の子に嘘はついてないし、服で特定できないし、見てる側も後で映像を嗜める」
ぐだお『天才だマーリン。ダヴィンチちゃんも霞む』
マーリン「よおし、じゃあ次に行こう」
23: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 21:52:01.34 ID:hsNGnlYT0
邪ンヌ「はあ…退屈ですね…」
手紙「」ガコン
邪ンヌ「なんですかコレは?」
邪ンヌ「……」
邪ンヌ「はあ…馬鹿馬鹿しい。こんなキャンペーンに何の意味があるのですか…」
邪ンヌ「……」
邪ンヌ「少し暑いですね着替えましょう。他意などありません。暑いから着替えるのよ」
邪ンヌ「冷たい飲み物も欲しいわね。ぐだおの部屋でビールでも飲みますか…」スクッ
邪ンヌ「いえ違いますよ?あんなキャンペーン興味無いですとも。私はビールのためにぐだおの部屋に行くのです」スタスタスタスタ
キャンペーン?ナンダッテー⁉
ハヤクシナイトダレカニトラレルデゴザルー
邪ンヌ「ああ!早く飲みたくなりました!急ぎましょう!!」ダダダダダダ
マーリン「走ってる走ってる」ブフッ
黒髭「ブツブツ言いながらも全力ダッシュでござる」デュフフフフ
ぐだお『あ、これ難しいな。誰だ?』
黒髭「ほら早く回答するでござる」
ぐだお『ちょいまち、右手が忙しい』
マーリン「オイ!それは後にしてくれ!!」
ぐだお『だーいぶ揺れてるし…ナイチンゲールか?』
黒髭「ざーんねんでござるーww」
ぐだお『わーうっぜぇー』
マーリン「ジャンヌオルタが正解」
ぐだお『あー。確かにそう言われればそうか…』
ぐだお『なあ、太ももにしねえ?それなら百発百中だ』
黒髭「拙者達が楽しめんでござる」
マーリン「お◯りのカメラを引けば太ももと一緒に写せるかも」
ぐだお『頼んだ』
24: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 22:01:18.06 ID:hsNGnlYT0
沖田「…」
武蔵「…」
嫁王「…」
ダッ
武蔵(負けるわけにはっ…!)
嫁王(余に歯向かうとは…小癪な)
沖田「…」ダッ
武蔵(は、速い…!)
嫁王「んむぅ」
沖田(沖田さん大勝利~!敏捷A+を舐めてもらっちゃ困ります!)
黒髭「三人も同時に…」
マーリン「なかなか良い人選だと思うんだけど、どうだい?ぐだお」
ぐだお『天才だマーリン。後ろは右がネロで左が武蔵だ』
マーリン「おお、凄いな」
黒髭「強すぎィ!太もも撮影禁止令を施行するでござる!!」
ぐだお『んで、前にいるのが…』
25: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 22:10:12.19 ID:hsNGnlYT0
沖田「こふッ…」ベチャッ
ぐだお『お、沖田だ』
武蔵「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
嫁王「治療室に運ぶぞ!余が案内する!」
マーリン「いやあ、乙女の絆も美しいねえ。助け合いの精神だねえ」ウンウン
ぐだお『罪悪感しかないんだが』
黒髭「そろそろちっ◯い勢も出して欲しいでござる!!」
ぐだお『あー、じゃあ代われ。お前が回答しろ』
黒髭「やったでござるー!!」
26: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 22:17:51.66 ID:hsNGnlYT0
ぐだお「黒髭の意見は無視だ。ジャンヌ行こうぜジャンヌ」
マーリン「了解。ボクもちっ◯い派じゃないしねえ」
パサッ
ジャンヌ「?」
ジャンヌ「先着1名ですか…魅力的ですが、諦めましょう…」
マーリン「!?」
ジャンヌ「私がいても足手まといになってしまいます…」
ぐだお(おぃぃ!どーすんだよ!!)
マーリン(いやあの、ボクも予想外なんだけど…)
ぐだお(仕方ねえ、行くしかないか)スクッ
ぐだお「よお、ジャンヌ」
ジャンヌ「ぐ、ぐだお…!」
ぐだお「なあジャンヌ。俺が言うのもなんだが…それ」
ジャンヌ「ぐだおには私よりも力強いサーヴァントが沢山います」
ぐだお「…」
ジャンヌ「私は…正直力不足です。ですからぐだおは…」
ぐだお「お、俺は!ジャンヌとフリークエストに行きてえ!!」
ジャンヌ「!」
ぐだお「サーヴァントなんて皆大英雄さ。そんな奴等が力不足になる訳ねーだろ」ギュッ
ジャンヌ「ぐだお…」
ぐだお「だからさ、走ろう…俺の部屋まで!」ダッ
ジャンヌ「はい!ありがとう、ぐだお」ダッ
27: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 22:26:36.34 ID:hsNGnlYT0
マシュ「せんぱい。」ハザッ
ぐだお「なっ…なななーんだ、マシュか」
マシュ「黒髭project、調子はどうですか。」ニコニコ
ぐだお「え?え、えーっと順調だぞ順調」
ジャンヌ「?」
マシュ「楽しそうですね。私も混ぜて下さい。」ニコニコ
ぐだお「いやーその…マシュにはなかなか難しい…よな?マーリン」
マーリン「」シュープスプス
ぐだお(ま、ままマーリンんんん!!!)
マシュ「黒髭さんがとても親切に内容を教えて下さいましたので、準備バッチリです。」ニコニコ
ぐだお(絶対拷問したよこの娘!!目が死んでるゥゥゥ!!)
ジャンヌ「ぐ、ぐだお?」
ぐだお「に、逃げるぞ」
邪ンヌ「逃がさないわよ」ザッ
ぐだお「」
28: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 22:32:01.34 ID:hsNGnlYT0
こうして、カルデアに平和が戻った
黒髭リストには20人以上が選ばれていたが、被害者が6人で済んだことは不幸中の幸いであるだろう
選ばれてなかった頭バーサーカー3人が抗議したとかなんとか…
映像は処分され、被害者6人にはきちんとぐだおと1日フリークエスト回り放題の権利が与えられた
ともかく一件落着
孔明「くだらん…」
29: ◆2ZIKB8.iCI 2017/03/20(月) 22:32:47.74 ID:hsNGnlYT0
終わりです
最低なssでごめん
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/20(月) 23:18:23.08 ID:UOkZntdHO
ジャンヌ可愛いよ
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/20(月) 23:30:28.34 ID:BveS+RgS0
地味にオチを作ってて有能
でもまぁ内容は最低だわ(褒め言葉
でもまぁ内容は最低だわ(褒め言葉
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/21(火) 04:36:33.68 ID:DnrW4VbIO
ナイチンゲールはもっと意外と可愛らしくしゃみをすると拙者は思うでござる
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/22(水) 07:17:38.52 ID:mV7IXBj20
ナイチンゲールはくしゃみなんてしない(アイドル並感)
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/22(水) 19:07:07.45 ID:EXtvk7Wno
へっくしょんランプの貴婦人
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490008437/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ Fate/GrandOrder | Comments (0)
鞠莉「果南が…」千歌「戻ってこない…?」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:16:39.33 ID:oUECwn7k0
サンシャインSS
したらば投稿済
微ホラー
したらば投稿済
微ホラー
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:17:56.67 ID:oUECwn7k0
鞠莉「かなーん! 電車出ちゃうよー!」
曜「果南ちゃん! 駆け足ヨーソロー!」
果南「あ、うん、今行くよ!」
ぶんぶんと腕を振る鞠莉と曜に、果南が微笑んだ。
ざわざわとした雑踏の中を、数多くのスーツケースの間を縫うようにして歩いてくる。
今日は東京でスクールアイドルのイベントがあった。
地方の学校が集まって、曲を出し合い勝ち負けを競うのだ。
スクールアイドルがすっかり世間に定着した今となっては、ラブライブ以外にも小さな大会はいくつもあった。
梨子「はあ……疲れたなあ……」
善子「リリーが疲れたのは大会のせいじゃないでしょ。終わった後どこ行ってたのよ」
梨子「え!? えっと、それは……」
花丸「あ、マルお土産少し足りないかも! ちょっと降りて……」
ルビィ「ええ!? 今からは間に合わないよぉ、花丸ちゃん!」
向かい合わせでわいわいと騒ぐメンバーを横目に見て、ふふっと笑みがこぼれる。
少し気だるい身体を引きずりながら、また来たいねなんて言い合う今が、何だかかけがえのない時間のように感じた。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:18:54.71 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「どうしたんですの、千歌さん?」
自分の笑い声を聞いたダイヤが尋ねてくる。
千歌「え、ううん、何だか和やかだなって思ったんだ。そりゃ、まだまだ考えなきゃいけないことは多いけどさ」
ダイヤ「ええ、そうですわね……。でも、確かに進歩が見られたことを素直に喜ぶべきだと思いますわ」
そうなのだ。今回の大会は――優勝とまではいかなかったが――そこそこに好成績だった。
目指す場所には程遠い。しかし着実に前に進めている、そんな実感があった。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:19:50.73 ID:oUECwn7k0
千歌「そうだよね、浦の星に帰るまでくらいは騒いでてもいいよね!」
ダイヤ「ええ、となればこの東京限定エリーチカグッズを――…果南さん?」
千歌「え?」
ダイヤが急に言葉を切る。
遅れて電車に乗り込んで来た果南は、少し顔色が悪いようだった。
鞠莉「どうしたの果南? 体調悪い?」
果南「あ、ううん、何でもないよ、何でも……」
ダイヤ「気分が優れないようでしたら、窓際に座ってくださいな。ほら、場所を空けますから」
果南「ありがとダイヤ。実はちょっと、風が気持ち悪くて」
果南がぴしゃりと窓を閉め、ひさしを下ろす。
勢いよく下ろしすぎたのか、カンッという大きな硬い音が響いた。
話していたメンバーが一斉に振り向き、一瞬静寂が訪れる。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:20:54.84 ID:oUECwn7k0
鞠莉「……か、果南?」
果南「……」
果南「あ、ご、ごめん…」
千歌「果南ちゃん、大丈夫?」
果南「うん、ごめんね。しばらく窓閉めてたら大丈夫だと思うから」
千歌「……そっか! 何かあったらちゃんと言ってね?」
目を離すとすぐに無理をする果南には、強めに釘を刺しておく。
それを皮切りに、席に声が戻る。
列車は東京を出て、静岡へ向かってゆっくり進む。
東京を出たときには既に薄暗かった空は、最近めっきり早くなった日の入りを迎え、静かな夜がやって来る。
だんだんと人も降りていき、近くには自分たちだけ。
囁きよりも少し大きいくらいの話し声に囲まれて、果南はいつの間にか眠っていたようだった。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:21:39.71 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「きっと疲れていたのでしょう」
鞠莉「ふふっ、果南のcuteな寝顔、撮っちゃおーっと」
千歌「果南ちゃんに怒られちゃうよー」
鞠莉「いいのよ怒らせとけば」
曜「でも、疲れて寝ちゃう果南ちゃんなんて初めて見たなー……」
千歌「確かに! 私も見たことないかも」
Aqoursで一番の体力自慢である果南。
そんな彼女が無防備に寝ている姿が珍しいのか、通路を挟んだ席からもカシャカシャとカメラの音が聞こえてくる。
しかしそうして小声で騒いだ後は、全員がぐっすりと眠りに落ちてしまうのであった。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:22:43.66 ID:oUECwn7k0
―――
「……歌! 千歌!」
千歌「んぅ……?」
誰かに肩を優しく揺すられて、ぼんやりと目を覚ます。
首を曲げて寝ていたからか、動かすと軽い痛みが走った。
果南「千歌、そろそろ降りるよ。」
千歌「あ、うん……。」
見回すと、ごそごそと皆が下車の支度を始めているところだった。
千歌「もう体調は大丈夫なの?」
果南「体調……うん、大丈夫。だいぶ寝ちゃったからね」
千歌「そっか、よかった!」
曜「夜もしっかり寝なきゃダメだからね、果南ちゃん!」
果南「はいはい、わかってますよーだ」
果南は口を尖らせると、数秒後にぷっと吹き出した。
よかった。体調には問題なさそうだ。
電車が駅に着き、ぞろぞろと荷物をもって降りる。
皆欠伸を噛み殺しながら、小さく肩や腰を動かしている。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:24:25.54 ID:oUECwn7k0
花丸「もうすっかり夜ずら……」
善子「夜! ということは堕天使の時間ね! ふふふ……ここは堕天使ヨハネが支配した――」
梨子「ええ、まだそんな元気あるの……?」
ダイヤ「皆降りられたでしょうか。」
鞠莉「OK! 全員降りたみたいよ!」
確認を終えた鞠莉がにこにこと合図をする。
改札に向かう途中、ふと果南が立ち止まった。
果南「あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね。先帰ってていいから」
千歌「え……?」
突然の果南の言葉に、少し引っ掛かりを覚える。
鞠莉「もう、それくらいで置いてくわけないでしょ!それとも付いていこうか?なーんt…」
果南「ダメっ!」
しんと、その場が静まり返る。
月明かりに照らされた果南の横顔は、また血の気を失っているように見えた。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:26:40.00 ID:oUECwn7k0
鞠莉「も、もう、そんなに怒らなくたっていいのに! ほら、荷物と一緒に待っててあげるから、Hurry Hurry !」
果南「……うん、ごめんね鞠莉」
果南は鞠莉に謝ると、たたっと走って姿を消した。
ルビィ「果南さん、どうしたんだろう……」
曜「電車に乗る前から、少し様子が変だよね」
梨子「体調が悪いだけ、なのかな……」
メンバーが口々に果南を心配する。
ダイヤ「鞠莉さん、果南さんも悪気があったわけでは……」
鞠莉「もう、そんなに心配しなくてもわかってるわよ」
千歌「帰ったら、また聞いてみようよ。今日は疲れてるかもしれないし」
ダイヤ「それしかありませんわね……」
自分の提案に、ダイヤが賛成する。
自分としても果南が心配だった。
思わぬことが負担になっているのではないだろうか。
だからこそ、帰って来たらまた話を聞こう、そう思った。
自分は、Aqoursのリーダーなのだから。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:27:10.07 ID:oUECwn7k0
果南は、それきり戻ってこなかった。
――――――
―――
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:29:08.36 ID:oUECwn7k0
――――
それから、数時間。
最初に『果南』を見つけたのは鞠莉だった。
乗り換えの最終時刻はとっくに過ぎていた。
鞠莉は普段の明るさからは考えられない、震えた声で、電話を掛けてきた。
辛うじて、駅からかなり離れた路上に倒れていたと、聞き取った。
慌てて鞠莉の告げた場所に駆け付けると、鞠莉は静かに涙をこぼし、膝に果南の頭をのせていた。
自分の上着をしっかりと着せ、手をぎゅっと握りしめている。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:30:05.08 ID:oUECwn7k0
曜「っ……! 果南ちゃんっ!」
たまらず駆け寄った曜に続いて、後を追う。
千歌「果南ちゃん、どうしたの!? 果南ちゃ――」
目を覚まそうと顔を触り、びくっと手を引っ込める。
……果南の顔はぞっとするほど、冷たかった。
千歌「え……あれ……なんで、なんでこんなに……」
なんでこんなに冷たいのだろう。
急にまとまらなくなった頭で必死に考える。
人はどんな時に冷たくなるんだったか。
ああ、今日は寒いから。夜だし、身体も冷えるから。
――違う。ただ冷えたとか、そんなレベルの冷たさじゃないことは心の奥で分かっていた。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:31:16.65 ID:oUECwn7k0
千歌「な、んで……、果南ちゃん! なんでっ!」
梨子「千歌ちゃんっ!」
果南の頬を叩こうとして、追い付いてきた梨子に止められる。
ダイヤ「ま、鞠莉さん、果南、さんは……?」
ダイヤの問いかけに、誰もが息を止める。
気になるような、でも聞きたくないような。
花丸「っ!」
そろりと近づいた花丸が果南の口元にティッシュをあてがう。
微かに、本当に微かにではあるが、規則的に風を受けて動くのが見えた。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:32:39.96 ID:oUECwn7k0
善子「あ、い、生きて……っ! じゃ、じゃあ救急車を!」
鞠莉「……呼んだわ」
善子「あ、そう、そう、よね……」
ルビィ「あ、あの、ううん、やっぱり何でも……」
ルビィが何かを言いかけてやめる。
何を言いたいかは皆が分かっていた。
――警察を呼ぶべきだ。
さっきまで一緒にいた人が、こんなに駅から離れたところで倒れている。
普通じゃないという思いが、ぞわぞわと意識に広がってくる。
鞠莉「……っ」
曜「鞠莉さん、震えてる……」
ダイヤ「鞠莉さん、この上着を。……警察へは、わたくしが」
自分の巻いていたマフラーと上着を鞠莉に着せ、ダイヤがふらふらと少し離れた。
ダイヤが電話口で何か話しているが、内容は入ってこなかった。
自分たちは、ただただ誰からともなく手や肩を寄せ合い、土気色の顔で横たわる果南を見つめているしかなかった。
―――――
―――
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:33:29.13 ID:oUECwn7k0
―――
遠くの方からサイレンの音が聞こえてきたのは、それからどれくらい後だっただろうか。
自分の膝の上の『果南】は、相変わらず色を失った顔で、浅い呼吸を繰り返している。
鞠莉「果南、どうしちゃったのよ……」
髪を撫で呟く。
無理していたのだろうか。最近疲れがたまっていたのだろうか。
だとすれば、方々に連れまわした自分の責任でもあるのだろうか。
鞠莉「ごめんね果南。気づいてあげられなくて。もうすぐ救急車、来るからね。」
ぴくりとも反応しない果南に、また気落ちする。
果南は目を覚ますのだろうか。
どこにも目立った外傷はない。
何が原因で倒れたのか、皆目見当もつかなかった。
もし、何か重い病気だったら――。
嫌な想像が頭を巡り、鼻の奥がツンと熱を持つ。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:36:10.44 ID:oUECwn7k0
そうしている間にも聞こえてくるサイレンの音はだんだんと大きくなり、ついに目の前で白い車両が止まった。
ビニル製のジャンパーを着た隊員が降りてくる。
彼は少し辺りを見渡し、へたり込む自分の方を見ると、まっすぐこちらに向かってきた。
鞠莉「ほら果南、来たよ。もう大丈夫、Don't worry だからね……」
大柄の隊員はとても頼もしく見えた。
きっとこの人たちなら、果南を救ってくれる。
そして助かったら、謝ろう。無理をさせてごめん、つらい時は言ってほしいと。
先ほどとは別の涙を流しながら、果南の身を起こそうと、身体を動かした――。
隊員「ああ、君だね。よかった、"目を覚ました"んだね……」
鞠莉「え……?」
意味が、わからなかった。
慌てて果南の様子を確認するも、目を覚ましている気配はない。
隊員「すっかり体が冷えてしまっているよ。もっと上着を……」
ぐいと自分のわきの下に隊員の肩が入る。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:37:02.14 ID:oUECwn7k0
隊員「大丈夫かい、歩けるかい?」
鞠莉「え、あの……」
ここに至ってもなお、状況をつかめずにいた。
なぜ自分が支えられ、立たされているのか。
鞠莉「あの、か、果南を……、果南をっ!」
隊員に立たされた自分の膝からは、果南の頭はずり落ちてしまっていた。
硬い地面にゴツンという音が響き、胸がきゅっと縮んだ。
梨子「か、果南さん!」
数拍、全員が呆然と立ち尽くした後、梨子が慌てて果南の頭にタオルを敷く。
隊員「かなん……? 具合が悪いのは君じゃないのかい?」
鞠莉「は……?」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:38:02.44 ID:oUECwn7k0
どこをどう見たらそんな結論に至るのか。
鞠莉「ち、違うわ! 私じゃない! ほら、ここに……!」
ほとんど身体を振り回す勢いで、果南を指し示す。
隊員「……赤い髪の彼女かい? 元気そうだが。」
梨子「えっ……」
違う、違う、そんなはずない。
わからないはず、ない。
早くしないと、果南の状態が一刻を争うものだったら――
焦りが募り、語気が荒くなる。
鞠莉「違うわ! 果南よ! ここに倒れてる、青い髪の――!」
隊員「ここ? どこだい……?」
鞠莉「――…」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:39:12.54 ID:oUECwn7k0
呆気にとられて、言葉が出なくなる。
何だろう、この状況は。
からかっている? 救急隊員が?
そんなはずはない。
そうでなければ、そうでなければ、そんな非現実的な。
隊員「あー、誰も具合は悪くない、そういうことかな?」
隊員は鞠莉を解放し、眉間に手を当てている。
なんで。
隊員「見たところ、全員問題なく動けているし……」
やめて。
隊員「あのね、おじさんたちも遊びじゃないんだ」
隊員「あまりこういうのは――」
やめてよ。
隊員「それに君たち、未成年だろう? こんな時間に出歩いちゃいかんよ。条例を知らないのかい?」
聞きたくない。
隊員「とりあえず、異常はないね?君たち"8人"とも。」
鞠莉「ぇ……」
衝撃に、絶望に、視界が黒く染まった。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:40:02.58 ID:oUECwn7k0
―――――
―――
コンコンと病室をノックすると、はい、と小さな返事があった。
ダイヤ「鞠莉さん、入りますわよ」
金属製の取っ手を動かし、引き戸を開ける。
鞠莉は、相も変わらず窓の外をぼうっと眺めていた。
ダイヤ「鞠莉さん、今日が最終日ですわ。それが終わったら……」
鞠莉「退院、ね」
いつの間にか向き直っていた鞠莉が言葉を継ぐ。
鞠莉「果南は?」
ダイヤ「変わりありませんわ。目を覚まさず、しかし呼吸が乱れることもなく……」
鞠莉「そう……」
鞠莉は悲しいような、安心したような、複雑な表情を見せた。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:41:10.19 ID:oUECwn7k0
あの日、果南が倒れた日。
鞠莉は救急隊員と話している途中に意識を失ってしまった。
慌てて救急車で病院に搬送されることとなり、結局数日の検査入院を強いられている。
"8人"だと、そう言った救急隊員は、鞠莉を救急車に乗せると謝ってきた。
刺激するようなことを言って済まない、彼女はこちらで預かるから、できれば明日お見舞いに来てあげてほしい。
君たち"7人"には、彼女がどの病院に搬送されたか、きちんと連絡をするからと。
訂正してほしいのはそこじゃないと、声を張り上げたかったが、あまりに異常な状況に、全員が頷くしかなかった。
遅れて来てくれた警察も、似たような反応を示した。
車を降りてきた刑事らしき人は、煮え切らないこちらの態度にいたずらかと気色ばんだ。
1人意識を失って搬送されたと言うと調べておくと言って引き返していった。
補導されなかったのは幸運だったと言ってもいい。
しかしやはり、果南のことは"見えていない"ようだった。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:42:28.26 ID:oUECwn7k0
鞠莉「ダイヤのご家族も、果南のことは?」
ダイヤ「見えていないどころか、『今は留学中だ』と……」
鞠莉「果南のご家族も?」
ダイヤ「……ええ」
鞠莉「どうして……」
果南が留学する理由などない。そんなこと、家族が一番わかっているはずなのに。
どこにと聞いても、分からないと返ってくるのがさらに不自然だった。
意識を失った『果南』を目の前に横たわらせても、見えていないかのような態度を取った。
曜と善子が『果南』を担いで病院に行ったが、受付も、医者も看護師も、誰もが2人のことしか見えていなかった。
クラスの友人も、口をそろえて留学中、だ。
いよいよ、異常な事態に巻き込まれていると認めなければならなくなってきた。
つまり、「非現実的としか思えない何か」が起こっているのではないか……。
大真面目にこんな話をする自分たちのことを考えると、気がどうにかなりそうだった。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:43:46.36 ID:oUECwn7k0
鞠莉「とにかく、退院したら私もダイヤの家に泊まる」
ダイヤ「……そうですわね。人手は多いに越したことはありませんわ。ですが、皆が出入りするとなると……」
鞠莉「そうね……じゃあこうしましょう。うちのホテルの部屋を1室貸切るわ。鍵はこっそりAqoursの分をつくっておくから」
ダイヤ「無茶では……ありませんのね?」
鞠莉「そんなことないわよ。それより、今は果南のお世話はどうしてるの? 必要なものは揃えておくわ」
ダイヤ「今は、水と栄養剤を、少しずつ口に含ませて……。千歌さんたちが、よく手伝ってくれていますわ」
鞠莉「そう……。汚れは?」
ダイヤ「それは毎日、わたくしとルビィで拭いて……」
鞠莉「……ありがとう」
ダイヤ「いえ、当然のことですわ」
ダイヤ「……」
鞠莉「ダイヤ?」
黙り込んだ自分の顔を、鞠莉がさらに覗き込んでくる。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:44:52.07 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「……足りている、でしょうか。」
鞠莉「え……?」
ダイヤ「今していることに、いったいどれほどの効果があるのでしょうか……」
ダイヤ「水、もっ、栄養剤も…っ、これだけしか、たったのこれだけしかっ、摂れてっ、いなくてっ……」
ダイヤ「どうしたら、どうしたらっ、いいの…っ、でしょうか…っ、か、かな、果南さんがっ、果南さんがっ!」
ルビィの前では決して見せない弱音が漏れてしまう。
果南の様子は、微塵も変わっていない。
自分たちが必死になってやっていることに、終わりは見えなかった。
あの日からルビィは笑わなくなった。
たった数日のうちに、少しずつ皆の精神が蝕まれている、そんな感覚があった。
鞠莉「……ごめん、ごめんねダイヤ。たくさんのこと、押し付けて……」
鞠莉がそっと手を握ってくれる。
鞠莉「退院したら、場所を移そう? ダイヤもちゃんと寝ないと。……すごい隈」
ダイヤ「え、ええ…っ、すみませっ、鞠莉さん……」
強張ってしまった身体から力を抜き、鞠莉の身体にもたれかかる。
その日は、そのまま鞠莉に背中を撫でられながら、少し眠ってしまっていた。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:46:10.29 ID:oUECwn7k0
―――――
―――
果南が倒れてから1週間と少し。
自分たちAqoursは、鞠莉が貸し切ったホテルの一室にいた。
善子「じゃあ、これからはこの部屋に交代で泊まるのね」
これまでの話し合いの結果を要約してみる。
鞠莉「Yes。鍵はここにあるから、皆なくさないようにね」
鞠莉が自分を除いた7人分の鍵を配った。
曜「ありがとう鞠莉さん。できるだけたくさん来るからね」
鞠莉「……助かるわ」
梨子「ルビィちゃんとダイヤさんも、今まで本当にありがとう……」
ちらりと目をやると、ダイヤは明らかにやつれてしまっていた。
当然だ。親友がこんなことになって、先週までは鞠莉も入院していて。
1人で多くを抱えすぎていた。ルビィが心配するのもよくわかる。
鞠莉も心配だった。
退院してから一週間、ずっと『果南』と同じ部屋に泊まって、部屋の設備の準備と、『果南』の世話とを行っていた。
倒れたことを理由に理事長の仕事はしばらく父親に預けたのだ、そう言っていたが、代わりにもっと多くの事を背負い込んでいた。
今日だって皆で説得して、やっと協力しようという話になったのだ。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:47:08.52 ID:oUECwn7k0
善子「……?」
左腕が引っ張られたような気がして、首だけで振り向いた。
善子「ずら丸、どうしたの?」
見ると、自分の袖をくいくいと、花丸が掴んでいた。
青い顔で目を伏せ、ふるふると小刻みに震えている。
善子「ずらま……花丸? どうしたの、何かあったの?」
次第に声が大きくなっていくのを自覚する。
花丸の青い顔が、嫌でもあの日の果南の様子と重なって見えた。
花丸「ょしこちゃん……」
花丸「マル、怖い…怖いよ……」
善子「………花丸…」
花丸の短い、ほんの3文字の言葉は、ここにいる全員の心を代弁していた。
怖い。
理屈が分からないことが怖い。
なぜ果南は意識を失ったのか。
なぜ『果南』は自分たち以外の誰にも見えないのか。
警察に、病院に、学校に――誰かが仕組んだにしては規模が大きすぎる。
数秒間、重苦しい空気がホテルの一室を満たす。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:48:34.83 ID:oUECwn7k0
千歌「花丸ちゃん」
いつの間にか寄ってきていた千歌が、花丸を優しく抱きしめた。
千歌「私も、怖いよ。何が起きているか、おバカな私じゃ何もわからないし……。すっごく怖い」
千歌「でもね、だからこそ、私たちは一緒にいるんだと思う。一緒にいれば大丈夫。だってAqoursだもん」
千歌「私も、怖い。皆も怖い。皆でいたって絶対怖い。でも……でも、一緒にいなきゃ」
千歌「一緒にいれば、きっとまた笑いあえる。もちろん、果南ちゃんもだよ」
花丸「……千歌さん」
普段と比べれば陰ってしまっているけれど、やはりぽかぽかしたお日様みたいな笑顔が、そこにあった。
千歌の言葉はストンと心に落ちるようで、ああ、私たちは彼女に惹かれてここにいるのだと、そう改めて感じた。
きっと、皆もそう感じたのだろう。
誰もが身を寄せて、ほぅっと、長く長く震える息を吐いた。
千歌「だからさ! 皆、これからも――」
べきりと、嫌な音が響いた。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:49:35.20 ID:oUECwn7k0
鞠莉「えっ……?」
皆が一斉に音のした方を振り返る。
ダイヤ「果南…さん……?」
ルビィ「い、今の音……何かが、折れた、ような……」
曜「か、果南ちゃんの様子は!?」
慌てて駆け寄った曜と鞠莉が果南の様子を確かめる。
鞠莉「ひっ……!」
善子「ま、マリー……?」
曜「ぁ…しが……」
曜も目を見開いて固まっている。
曜「果南ちゃんの、足が……」
嫌な音を立てたのは、『果南』の足だった。
『果南』の足は――素人でもわかるくらいに――折れていた。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:50:37.09 ID:oUECwn7k0
鞠莉「な、なんで!? 私、触ってない! 果南には誰も触ってない!」
半狂乱で鞠莉が泣き叫ぶ。
ダイヤ「と、とにかく早く手当てをしませんと……!」
梨子「包帯…鞠莉さん、包帯は……!?」
花丸「あ、こ、ここに! ここにあるずら!」
善子「私は、保冷剤を……っ!」
花丸と2人で『果南』の腫れあがった足の手当てをする。
ダイヤ「え…っと…、『骨折 手当 やり方』……」
ダイヤと千歌は他に必要なものがないか急いで調べている。
千歌の言葉に少し緩みかけていた空気が、再びピンと張り詰めていく。
皆が、目を潤ませ走り回っていた。
鞠莉「もう、嫌…、嫌よ、果南、かなんっ! 早く起きてよぉ……っ!」
なけなしの手当てを終えた後、祈るように、縋るように叫んだ鞠莉の声が、いつまでも頭から離れなかった。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:51:51.35 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
花丸「『大正6年、お社改修。木材は職人がつくった――』…違う、『明治23年、新年の神事。楽師と装束を揃え儀を執り行い――』これも違うずら。」
黄ばんだ紙に書かれた黒い続け字を追う。1文字1文字、何の文字か確認しながら読む作業には、思った以上の時間を要した。
花丸「こっちはないみたいずら……儀式の記録ばっかり」
声を掛けると、すぐ近くで梨子と千歌も顔を上げた。
梨子「私の方には、少しだけ病の記録が……」
千歌「こっちも1つだけ記録があったよ。でも、果南ちゃんの症状とは……」
うーんと3人で首をひねる。
果南が倒れた。
『果南』のことを誰も認識してくれない。
何もしていないのに『果南』の足が折れた。
こんなの、普通の事態じゃない。改めて結論付けた自分たちは、過去に「霊的な」事件の記録がないか調べていた。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:53:23.35 ID:oUECwn7k0
提案したのは、自分だった。
祖父に聞けば資料のありかがわかったので、千歌と梨子に手伝ってもらいながら記録を漁る。
曜と善子は公営の図書館の方をあたってくれている。
まともに資料を読めない自分たちは、「病」だとか「祟り」だとかの言葉を追って資料を探していた。
しかし、思った以上に昔の人たちは迷信深くはなかったらしい。
祟りについて書かれた記録はほとんどないばかりか、あっても原因が解明されているものばかりだった。
病の記録はいくつか見つかるも、どれも身体に斑点が出るとか、痕が残るものばかり。
意識がないことを除けば何一つ異常がみつからない『果南』とは別の症例であることは明らかだった。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:54:08.70 ID:oUECwn7k0
花丸「今日も、収穫なしずらね……」
誰ともなくため息をついてしまう。
先の見えない状況に参ってしまっているのは、自分だけではない。
ふと外を見ると、もうすっかり日も沈んでしまっていた。
ひゅうと吹いてきた隙間風に、3人で身を震わせる。
果南が倒れたのもこんな寒い夜だったと思い、鳥肌が立った。
千歌「花丸ちゃん、大丈夫?」
梨子「ちょっと疲れちゃった?」
花丸「あ、ううん、大丈夫。ちょっと怖くなっちゃっただけ」
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:55:13.42 ID:oUECwn7k0
何か「霊的な」ものの仕業ではないか。
こんな話が出て以来、自分はすっかり怖がりになってしまっていた。
夜の家はやたらと暗い。寺ということもあってか、それこそ「何か」が蠢いているのではないか――そう思えた。
幼いころから慣れ親しんだ家ではあったが、少しでも可能性を考えてしまうと体が固まってしまう。
おかげであまり眠れず、メンバーに心配をかけてしまっている。
千歌「花丸ちゃん、やっぱりしばらく一緒に……。今日家族の人いないんでしょ?」
花丸「ううん、悪いよ。2人はもう暗いし、帰らないと。今日は善子ちゃんが迎えに来るから大丈夫ずら」
図書館を出た後、曜はそのまま『果南』がいるホテルへ行って鞠莉と合流。善子はいったん自分を迎えに来て、その後一緒にホテルへ向かう予定だった。
梨子「それならいいけど……。無理はしないでね、花丸ちゃん」
花丸「うん」
頷いて、ちらちら後ろを振り返りながら帰る2人を見送った。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:56:11.73 ID:oUECwn7k0
―――
果南に、自分の周りにいったい何が起きているのだろうか。
『果南』は確かに自分たちに見えている。
触ることも、動かすことも、重さを感じることもできる。
呼吸を確かめることも、服を脱がせることも、水を飲ませることもできる。
身体の機能は何も失われていない。
しかし、他の人には見えない。
いや、見えないどころか、まるで果南の「存在そのもの」が消えてしまったかのように、いないことを不自然に思わなくなっている。
果南を思って怖くなると同時に、自分も誰かのことを忘れてしまっているのではないかと、恐ろしい気持ちになった。
花丸「そろそろ、善子ちゃんが来るころかな……」
携帯の画面を確認すると、家に向かうと連絡があったところだった。
善子は自分のことを心配してくれている。
怖いと口にする自分を励まし、できるだけ一緒にいようとしてくれる。
今日も迎えに行くと言いだしたのは善子だった。
いいと言ったのに、家に忘れ物をしたなんて、下手な嘘をついて。
ルビィが無理をしがちな姉の傍らを離れられない今、善子の存在は自分の心の支えだった。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:57:16.73 ID:oUECwn7k0
ちらりともう一度携帯の画面を確認する。
今は歩いているころだろうか。
電話を掛けても大丈夫だろうか。
静寂をも怖がる自分に嫌気を覚えながら、善子に電話を掛ける。
善子は2回目のコールで電話に出た。
善子「ずら丸! ずら丸!? 何かあったの!?」
花丸「え、え……?」
善子「返事しなさいずら丸!」
花丸「よ、善子ちゃん……?」
善子「あ、ずら丸……。どうしたの、何かあったんじゃないの」
花丸「え、っと、ううん、何も……。今どのへんかなって……」
予想外の反応に驚いて、途切れ途切れに説明する。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:58:44.69 ID:oUECwn7k0
善子「はぁー……。びっくりさせるんじゃないわよこの食べ過ぎお寺っ子」
善子は大きくため息をついた。
心配させただろうか。
申し訳ない気持ちもあったが、それ以上に心配してくれていることに嬉しくなった。
花丸「って、食べ過ぎお寺っ子って何ずらか」
善子「ちょっと言ってみただけよ、もう。あ、そうそう後どれくらいかって話だけどね――」
急にザザ…ッとノイズのようなものが入り込んだ。
花丸「善子ちゃん? 善子ちゃーん……?」
電波が悪くなってしまったのだろうか。
寺に来るためには木々が高くそびえる道を通ってこなければならない。通信環境がいいとは言えないだろう。
最近善子に聞いた話を思い返す。
仕方なく携帯をしまう。
――コンコン
突然、玄関のドアがノックされた。
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 21:59:29.66 ID:oUECwn7k0
いやに早い。善子がもう着いたのだろうか。
花丸「善子ちゃん……?」
何となく嫌な予感を抱きながら、そろそろと玄関に近づく。
『花丸、花丸!私よ、善子よ。開けて!』
玄関の外から善子の声がする。
なんだ。善子がもう着いたのか。
知った声を聞いて気を緩める。
最近はどうも神経が昂ってしまっている。
落ち着いて、落ち着いて。
先ほどの電話も、家に近づいたから善子が切ったのかもしれない。
花丸「はーい、今開けるよ。でも善子ちゃん、インターホン使ってくれてもよかったのに――」
ちょっとだけ浮いた気持ちで、ドアを開ける。
『――――アケタ』
花丸「――ぇ。」
そして、『ソレ』を視た。
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:00:28.57 ID:oUECwn7k0
花丸「ぁ……な、な、に……?」
玄関を開けた先に立っていたのは、黒い塊だった。
ぼんやりとヒト型に形を作っているが、輪郭ははっきりせず、煙のようなものが全身から上がっている。
顔らしき部位は斜めに真っ二つに裂け、その奥には深い深い闇が続いていた。
角度も大きさもバラバラな真っ赤な目がこちらをじぃっと見つめている。
『ソレ』が一歩、玄関を跨いでくる。
ぐにゃりと不自然な角度に身体を折り、戸をくぐる。
ずりずりと、『ソレ』が足を動くたびに黒い靄が舞い、息苦しさが増していく。
花丸「ひ……っ…ぁ…っ…」
怖い。
怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわい――。
あまりの恐怖に声が出ない。身体が動かない。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:01:57.09 ID:oUECwn7k0
『ソレ』がこちらに手を伸ばす。
靄を纏った細長い腕のようなものが、『ソレ』の全身から無数にこちらへゆっくりと伸びてくる。
『ケタ……ケタケ…タケタケタケタ…ハナマ…ルアケタアケタアケタ……』
何重にも声をガンガンと響かせながら、塊ごとこちらの身体に覆いかぶさってくる。
「腕」が身体に触れる。
突如として、10対はあろうかという数の「目」が現れた。
まつ毛も瞼もない、白目と黒目だけの血走った目が、すぅっと細くこちらを見据えている。
『アアアアアァアアウゥゥゥウウウクヤイイイイイシイイイイイアアアアッッッッッ!!!』
花丸「…ぁ…ぁぁぁ……っ」
ガチガチと歯の根の合わない口で、今度こそ、叫び声をあげた。そう思った。
しかし自分の喉は締め付けられたかのように声が出ず、知らぬ間に靄に全身を絡み取られていた。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:02:29.61 ID:oUECwn7k0
花丸「…ぁあ……かな……ん……さ……」
自分は果南のところに行くのだと、なぜか理解できた。
果南はこうやって苦しんだのだ。全身を絞められ、焼け付きそうな痛みと共に、1人で、孤独に意識を失ったのだと、そう理解できた。
ふと視界の端に、動くものを捉えた。
その正体に気付いた瞬間、さっと血の気が引いた。
ダメ、来ないで、巻き込まれちゃう。
花丸「ょ…しこ…ち…ゃ……きち…ゃ……メ……」
黒い服を着た善子が涙を流して手を伸ばす、その光景を最後に意識を手放した。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:03:25.69 ID:oUECwn7k0
―――――
―――
善子「ずら丸……聞こえてるの、ずら丸!?」
不自然なノイズの後、花丸との通話が途切れた。
電波障害?
少し考えて、首を振って否定する。
花丸は家の中だろうし、自分も通信が途切れそうな場所にいるわけではない。
善子「ずら丸…何かに巻き込まれてないでしょうね……」
堕天使の衣装のスカートをぎゅっと握りしめる。
こんなことなら、家に戻らずにすぐに向かえばよかった。
最近元気のない花丸を励まそうと衣装を探していたのが裏目に出ている。
善子「待ってなさいよ、花丸……!」
嫌な予感を必死で振り払いながら、駆けだした。
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:04:50.92 ID:oUECwn7k0
敷地内に入った瞬間、何か「よくない」ものがいるのだと、直感した。
夜だというだけでは説明がつかない、寒い、凍えるような、それでいて重苦しい空気がずんとのしかかってきた。
善子「な、にこれっ…はあっ…はあっ……っ!」
ドクンドクンと大きく跳ねる心臓と、荒くなった息を気にしながら走る。
善子「ずら丸! ずら丸っ!」
どこかに、倒れていないだろうか。
『果南』のように、冷たく、無反応に――。
ぶるると身が震えた。
善子「大丈夫、大丈夫、ずら丸は、大丈夫だから……っ!」
もうすぐ、玄関だ。
きっと、間違えて電話切っちゃったずら、なんて笑いながら、迎えてくれるんだ。
そう言い聞かせて、足を動かした。
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:05:56.73 ID:oUECwn7k0
善子「…ぇ…?」
最初に見えたのは、真っ黒い煙に包まれた花丸の家だった。
玄関を中心に煙は上へと横へと広がり、家の大半を覆い隠すように漂っていた。
一歩近づくたびに呼吸は浅くなり、心は重く沈んでいく。
善子「ずら…丸……?」
見えた。
もやの中、力なく天に伸びる手。
花丸は、『アレ』の中に…。
善子「ずら丸っ!!」
お守り代わりのロザリオを握りしめ、『ソレ』につっこむ。
善子「ずら丸、花丸ぅぅぅっ!」
苦しい、怖い。
涙が止まらない。
止まってしまいそうな足を必死に前に出して、花丸を目指す。
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:07:06.88 ID:oUECwn7k0
触れないくせに重たい靄を掻き分けながら、必死に前へ。
善子「あと、ちょっと…、あと……っ!」
数歩。
手を伸ばす。
花丸「―――――ちゃ―――メ…」
目の前で花丸がつぅっと涙を流して、ガクリと力を失った。
善子「…ぁ…は、な、まる……花丸ぅっ!!」
違う。
まだ終わってない。
そんな顔を見に、ここまで走ってきたんじゃない。
善子「起きなさい! 私が来たわよ! 堕天使!! ヨハネがっ!!」
善子「待たせるなんて、許さない、許さないんだから!」
善子「何、泣いてんのよっ! わたっ…私はぁっ! あんたの笑顔を見たくて――……っ!」
ズズズ…と、自分の頭上で「何か」が蠢く。
無数の腕が、花丸を絡めて放さない。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:08:19.67 ID:oUECwn7k0
善子「は、はな、離れなさい! 花丸から…離れなさいっ! わた…っ私は……堕天使ヨハネよっ!」
ロザリオを握った拳を強く前に出す。
善子「花丸は…こいつは…っ! 私が地獄に堕とすんだからぁ…、だから、だから……っ」
善子『どきなさいっ!!』
――きぃん…
『アアアアアッァァァァァアアマアブウウウウシイイイイッッッ!!!』
善子「え……」
靄が、よろめいたように見えた。
花丸に絡ませていた腕を引っ込め、扉の外に数歩下がる。
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:09:18.75 ID:oUECwn7k0
善子「効いて、る……?」
自分の右手に握ったロザリオを見下ろす。
『ア……イイイィィッィイアアアア…ッッ』
靄はすぐにまた敷居を跨ごうと足を伸ばす。
善子「さ、させないわっ!」
ぴしゃりと玄関扉を閉める。
視界から、花丸の姿が消える。
これで、花丸は守られる。
くるりと振り返り、靄と対峙する。
ロザリオをもう一度、前に……。
後ろの花丸を、守るんだ――。
善子「…ぁ……」
ニイッっと、大きな、大きな口が裂けるのを、見た。
がくがくと足から力が抜け、胸が恐怖に圧し潰される。
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:10:16.63 ID:oUECwn7k0
善子「ゃ…ゃだ……やめ、て……」
花丸を守る。死なせない。死にたくない。守らなきゃ。死にたくない。死なせない。死にたくない、死にたくない死にたくない。
善子「ゃめ…はなれっ……!」
力なく振り回した右手に靄が絡みつく。
善子「そんなっ…、だ、誰か、誰かっ! 助け――」
叫ぼうとした喉が締められる。
声が出ない。
死にたくない。
とめどなく涙が溢れてくる。
ドン、と玄関扉に身体が押し付けられる。
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:10:56.66 ID:oUECwn7k0
薄くなる意識で扉が開いてしまわないように押さえながら、ロザリオを握る手を動かそうとする。
動かない。
音もなく、無数の腕が身体を貫く。
善子「ぃ…たぃ…いたぁ……っ…」
激痛に叫びたくなる。
息ができない。
全身から何かが引きはがされるような、耐えがたい痛みにさらに意識が遠ざかる。
善子「ぁ…はな……ま…る…ご、めん……ごめん、ね――。」
最後に見たのは、嬉しそうに大きく裂けた口の奥の、深い深い闇だった。
――――
――
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:13:33.58 ID:oUECwn7k0
―――――
―――
花丸「ん…く……」
起き上がろうとして、痛みに呻く。
手を通して硬い感触が伝わってくる。
寒い夜に、小さな灯りだけ付けた玄関に1人。
自分は、どうしてこんなところで倒れていたのだろうか…。
花丸「っ、ひっ……!」
痛みをもつ自分の腕を見て、小さく悲鳴を上げる。
うっすらと、浅黒く何かが絡みついたかのような痕が残っていた。
その瞬間、思い出した。
花丸「ぁ…そうだ、マル、マル……っ!『アレ』に…っ」
思い出して、再び恐怖で身が竦んだ。
ガタガタと震える身体を掻き抱く。
急にゴトンという音がして、びくりと震える。
どうやら携帯を落としたみたいだ。
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:14:14.15 ID:oUECwn7k0
花丸「通知…70件……」
鞠莉と曜から数十件ずつ、他のメンバーからも……。
一瞬驚いた後、ぼんやりと今日は『果南』のいるホテルに向かうはずだったことを思い出す。
徐々に思考が鮮明になっていく。
花丸「あ…そう、だ、善子ちゃん、善子ちゃんっ!!」
意識を失う直前に見た光景。
こちらに必死で手を伸ばしていたのは、善子ではなかったか。
それなら、近くに…。
きょろきょろと家の中を見回してみても、善子の姿は見当たらない。
同時に、自分が助かっていることの不自然さに気付き、ぞっとした。
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:15:12.47 ID:oUECwn7k0
花丸「善子ちゃん、善子ちゃんっ!! どこ、どこにいるのっ!?」
トイレや、自室や、居間を覗いてみる。
家のどこにも、善子はいない。
残るは。
花丸「外……?」
玄関の扉に手を掛ける。
開けた先に『アレ』が立っている姿を想像し、手を引っ込めた。
花丸「っ…はあっ、はあっ…! うぷっ……」
吐き気を何とか呑み込んで、再び取っ手に手をやる。
花丸「あ、開かない……」
扉が重い。
震える手には力が入らなかった。
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:16:14.83 ID:oUECwn7k0
もう一度開けようと試みる。
花丸「…っ……」
やはり重い。
まるで――
まるで"誰かがもたれているかのように"……。
花丸「ぃ…ゃ…だよ、善子ちゃん……」
開けてはいけない。
開けたくない。
頭の中で警報が鳴る。
それでも。
ゆっくりと扉を開ける。
まず目に入ったのは、いつもより低い位置にある、見慣れた黒髪だった。
そして。
花丸「ぃゃ…や…いやああああああああああっ!!」
開いた扉に押されて、ぐらりと善子の身体が傾いて、倒れた。
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:17:11.04 ID:oUECwn7k0
―――――
―――
曜「花丸ちゃん…スープ、できたよ……」
花丸「……」
鞠莉「……」
曜「置いて、おくからね……」
連絡が取れないことを心配して鞠莉と一緒に駆け付けたとき、花丸は善子の身体に縋ってただ泣き叫んでいた。
嫌がる花丸と『善子』を無理やり小原家の車に乗せて、ホテルまで戻って来たのはつい1時間前のことだ。
メンバーには既に連絡してある。
そろそろ皆も到着するだろう。
花丸「マルの、マルのせいずら……。マルが、怖いなんて言わなければっ! マルがっ!」
鞠莉「マルっ!」
ぎゅっと、鞠莉が花丸の身体を抱く。
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:18:22.24 ID:oUECwn7k0
曜「……そんなことない。花丸ちゃんのせいじゃ、ない」
涙の跡以外に何の異常もない『善子』に目をやるのはつらくて、花丸の手を握る。
こんな時気の利いた台詞でも言えればいいのだろうが、何も思いつかなかった。
鞠莉「ね、マル……。何があったの? 少しずつでいい、少しずつでいいから……」
花丸「ひっ…ぁ…っ!」
何があったか聞かれると花丸は目を見開いて身体を震わせた。
鞠莉「ごめん……」
こちらを見て鞠莉が小さく首を振ってくる。
事情を聴くには、もう少し時間がかかるかもしれない。
果南に続いて、善子まで。
大切な仲間が倒れていくつらさに、ふとした瞬間に泣きそうになる。
考えなければならないことも多い。
『善子』もまた、他の人には見えていなかった。
『果南』と同じだ。
それに花丸についた「何か」の痕……。
これも、他の人には見えていないようだった。
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:19:30.13 ID:oUECwn7k0
梨子「よっちゃん……っ! よっちゃん!!」
ガチャガチャと鍵を開けた後、梨子が勢いよく部屋に駆け込んで来た。
ベッドに横たわる『善子』を見た瞬間、膝から崩れ落ちる。
ルビィ「そんな……っ、よ、善子ちゃんっ!」
千歌「善子ちゃん……」
花丸「ぁ…み、みんな……」
ルビィ「花丸ちゃんっ!」
ルビィが花丸に駆け寄っていく。
ルビィ「花丸ちゃんっ、け、怪我は…その腕っ……!」
花丸「ルビィちゃん…マル…マルのせいで……っ!」
ダイヤ「いったい、何があったんですの?」
後ろ手に鍵を閉めたダイヤがこっそり尋ねてくる。
自分は力なく首を振って返すしかなかった。
とにもかくにも花丸から話を聞かなければわからない。
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:21:44.53 ID:oUECwn7k0
曜「花丸ちゃん」
意を決して花丸の手を握り直す。
びくっと花丸の身体が反応した。
曜「少しでいい、少しでいいんだ。何があっても、私たちは花丸ちゃんに怒ったりしない」
曜「知りたいんだ。花丸ちゃんと、善子ちゃんに……何があったのか。助けたいんだ」
花丸の目を見て、ゆっくりと。
花丸「曜、さん……」
曜「ね、花丸ちゃんも、一緒にもう少しだけ、頑張ってみよ? 善子ちゃんを、助けるために」
花丸「助け…る……? 善子ちゃん、助かるのかな……」
花丸は虚ろな目でこちらを見つめ返してくる。
曜「……っ!」
曜「助かるよ! 絶対に助かる! だって、だって息もあるし、怪我はしてないしっ! おかしいもん、助からなきゃ、おかしいもんっ!」
叫んでいて、目頭が熱くなる。
自分に言い聞かせているだけだということは、わかっていた。
花丸「マルっ、マルっ……! あの時、マルは……っ!」
曜「うん、うん……っ」
花丸「あの時、善子ちゃんにっ…電話、したんだ――」
花丸が、ゆっくりと語りだした。
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:23:03.18 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
善子「ぅ…ん……?」
目が覚めた。
自分は花丸の家の前で1人、地面に倒れていた。
善子「あれ、私……」
確か、花丸を迎えに行って、ホテルに行こうとして、それで――。
善子「ぁ……花丸、花丸はっ!?」
玄関の扉を開けようと手を伸ばす。
善子「あ、あれ…何で、何で……!」
扉に"触れない"。
空をつかむような感覚で、指が扉をすりぬけてしまう。
自分の手が扉に埋まっているのを、信じられない気持ちでぼうっと眺めた。
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:24:25.64 ID:oUECwn7k0
善子「『アレ』もいないし……」
自分は、助かったのだろうか。
覚えている最後の光景が頭をよぎり、寒気がした。
そんなはずはない。
自分は助からなかった。
あのタイミングで誰かが来るなんてこと、ありえない。
善子「だったら、何で私は……」
「それはね」
突然聞こえた声に、びくりとする。
果南「それはね、私が説明するよ」
善子「果南…さん……!?」
果南「やっほ、善子。来ちゃったんだね。」
振り返った自分の前には、果南が立っていた。
59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:25:51.23 ID:oUECwn7k0
善子「か、かなっ、果南さんっ!」
たまらず、果南に駆け寄って抱き着く。
善子「生きてたのね! 私、私信じてたわ…っ、きっと、きっと――」
果南「「生きて」はいないかもしれないよ」
自分を抱き留めながら、事も無げに言い放った果南の言葉が理解できない。
善子「生きていない…って……でも! こうして話して、触れて……!」
果南「でも、扉には触れなかった。そうでしょ?」
善子「っ!」
先ほどの、自分の手が扉に埋まった様子を思い出す。
果南「安心して。花丸は無事だよ。身体に痕が残ってたみたいだけど、鞠莉たちがちゃんとホテルに送り届けてる。」
善子「そ、そうなの……。よか、よかったぁ……。」
花丸"は"無事。だったら、それなら、自分は――。
善子「私は、私はどうなったの? 『アレ』にやられて……」
60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:26:50.27 ID:oUECwn7k0
果南「善子は……たぶん、喰われた」
善子「喰われた……?」
不気味な大きな口を思い出して、また身震いする。
果南が優しく抱きしめてくれる。
果南「ごめんね、怖かったよね。痛かったよね……。思い出させてごめん。でもね、大事なことだから」
果南「とにかく、今はホテルに向かおう。そこに『私』と『善子』がいるから。詳しいことは、道中で話すよ」
善子「『私』たちがいる…? でも、私は今ここに……」
果南「それも、ちゃんと話すよ」
どこか悲しそうな顔で、果南は呟いた。
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:28:03.08 ID:oUECwn7k0
―――
どこから話そうかな。
ああ、あの日から話した方がいいかな。
バスが来るまで結構時間があるからね。
明るい声を心掛けながら、善子に語り掛ける。
聞きたいことがたくさんあるだろうに、善子は黙って聞いてくれていた。
果南「あの日、私は東京で――『アレ』を視たんだ」
―――――
――
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:29:53.90 ID:oUECwn7k0
―――
あの日、大会が終わった後、私たちは気持ちのいい疲労感を抱えて、沼津に帰るところだったよね。
鞠莉「かなーん、電車でちゃうよー!」
曜「果南ちゃん、駆け足ヨーソロー!」
果南「あ、うん、今行くよ!」
駆け足ヨーソローってなんだ、船じゃないのか、なんて思いながら返事して、私も電車に乗ろうとしたんだ。
そうしたら……。
果南「なに、あれ……」
そこに『ソレ』がいた。
駅のホームに停まる電車の、窓の向こう側に。
『ソレ』はなんだか霧みたいな、靄みたいな、黒い塊でね。
何もないはずの空中から、血走った目でこっちをじいっと見つめていた。
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:30:33.82 ID:oUECwn7k0
そして『ソレ』は、私と目が合うと、ニイィっと笑って――。
果南「っ……」
怖かったよ。
『アレ』に関わってはいけない。
目を合わせてはいけなかった。
後悔したけど、私はもう電車に乗り込んでしまっていて。
だから、せめて皆が気づかないように、窓を閉めて、ひさしで覆ったんだ。
果南「実はちょっと、風が気持ち悪くて」
そう嘘をついて。
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:31:40.17 ID:oUECwn7k0
電車が出発しても、身体は小さく震えたままだった。
果南「大丈夫、大丈夫……電車には、ついてこられないから……」
そう、自分に言い聞かせて、ずっと目をつぶって過ごしていた。
目をつぶっていたからか、疲れていたからか、少し眠ってしまって。
浅い眠りから目が覚めると、不思議なことに、全部夢だったんじゃないかって思ったんだ。
だって、ありえないよ。
空中に何かが浮かんで、こっちをじっと見てるなんて。
怖い夢を見ただけだ。そう思った。
千歌「もう体調は大丈夫なの?」
果南「体調……うん、大丈夫。だいぶ寝ちゃったからね。」
千歌「そっか、よかった!」
曜「夜もしっかり寝なきゃダメだからね、果南ちゃん!」
果南「はいはい、わかってますよーだ」
こんなやり取りができるくらいには、気分もよくなってたんだ。
でもね。
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:33:06.55 ID:oUECwn7k0
電車を降りたら、『ソレ』がいた。
果南「ぁ…ぇ……な、なん、で……」
鞠莉「果南? ほらほら! 早く降りないと」
果南「あ、ま、鞠莉……」
鞠莉はにこにこして、私の背中を叩いてきたんだ。
その時の鞠莉ったら、ほんとに楽しそうでさ。
私、思ったんだ。
私はここにいちゃいけない。
鞠莉に、Aqoursの皆に、大事な仲間に『アレ』を近づけちゃいけない。
だから、
果南「あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね。先帰ってていいから」
とにかく、その場を離れようとした。
ついて来ようとする鞠莉を怒鳴りつけても、ね。
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:34:08.26 ID:oUECwn7k0
『ソレ』は私についてきた。
駅を出ても、どこか知らない方向に走り出しても。
明るい繁華街を通っても、暗い道に入っても。
私が走っても、だんだん追いついてきて。
黒い、霧みたいな腕が絡みついてきて……。
痛くて……寒くて……寂しくて……。
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:35:43.79 ID:oUECwn7k0
―――――
――
果南「それで、喰われたってわけ」
善子「……」
一息にそう言うと、果南はしばらく口をつぐんだ。
小さく、本当に小さく果南の手が震えているのを見た。
ぎゅっと握ると、果南は少し驚いた顔をして、握り返してくれた。
果南「ありがとう、善子」
善子「ううん、『アレ』は……本当に、怖いもの」
果南「ふふっ、さすがの堕天使もびびっちゃった?」
善子「なあっ! 今そういうこと言う空気じゃないでしょ!」
いたずらっぽく笑う果南の顔にまた泣きたくなった。
ここ数日、動かない『果南』を見ているのはとてもつらくて。
冷たい頬に触れるたび、からかわれた記憶や、一緒に笑った記憶が甦ってきて。
そして今、ずっと見たかった笑顔を見ることができた。
それでも、きっと自分たちは、もう……。
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:37:35.39 ID:oUECwn7k0
善子「ねえ、教えて。私たちはいったい……」
問いかけると、果南は真剣な顔になってまた話し始めた。
果南「私も、自分で考えただけだから、合ってるかはわからないけど……」
果南「私たちは、たぶん生きても、死んでもいないんだと思う」
善子「死んでない……?」
果南「そう。魂だけ、そんな感じかな。私たちの身体は生きているけれど、私たちの魂はこうして外に出てしまっている。魂は、他の人には見えない」
善子「魂、だけ……」
果南「うん。だから、今からホテルに行ったら、倒れている『私』と『善子』を自分で見ることになる」
善子「うぇ…、なんだか嫌な気分ね」
果南「たしかにね。私も慣れないなあ」
果南「それに……」
到着したバスに乗り込みながら、果南は言葉を続ける。
果南「私たちは魂だけど、空を飛んだり、早く移動したり、そういうことはできないみたい」
果南「物にも触れるし動かせる。でも、扉にだけは触れない」
善子「そっか、だからあの時……」
果南「そう。善子は花丸の家の扉には触れなかった」
69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:39:35.79 ID:oUECwn7k0
バスの隅に2人で立つ。
人が近くに来たにしては不自然に、周りの乗客は視線を動かさなかった。
一瞬顔をしかめ、果南が続ける。
果南「私たちが触れたものは、一時的に「存在しなく」なる。まるで、最初からそこになかったかのように」
果南は他の乗客の鞄を持ち上げる。
乗客はまるで反応しない。
大事なものがたくさん入っているだろう鞄を取られたのに、視線一つ鞄の方に動かさなかった。
果南「そして私たちが手を放すと、それはまた「現れる」。それでも、周りの人はそれを不審には思わない」
果南が少し離れた場所に鞄を置く。
乗客は何気ない動作で鞄を拾うと、また席に戻った。
少し恥ずかしそうにしている。
まるで"今落としてしまった"かのように。
70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:40:58.85 ID:oUECwn7k0
善子「なんだか、変な感じね。私たちは別の世界にいるってこと?」
果南「どうだろう……。私も、いろいろ試してみただけだから。誰かに教えてもらったわけでもないし」
果南「五感もあるし、痛みも感じる。完全に幽霊ってわけでもないのかな……。でもね、」
果南「魂はね、夜眠れないんだ」
果南はさらっと付け加えた。
善子「それじゃあ、果南さんはずっと、1人で…? 毎晩、毎晩……。そんなの……っ!」
果南「……善子は優しいね」
ぽんぽんと、頭を叩かれ、また泣きそうになる。
魂になると、涙腺まで緩むのだろうか。
善子「じゃ、じゃあ……。果南さんの、足が、その……」
果南「……」
口ごもった自分を果南は何とも言えない表情で見つめていた。
71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:42:12.65 ID:oUECwn7k0
しばらく静寂が続いた後、果南は口を開いた。
果南「そう、だね。それも言わないと。大事なことだから」
果南「私たちが……魂が負った傷は、『私』たちに……つまり身体に、跳ね返る」
善子「っ!」
だったら、果南はどこかで、足が折れるほどの大怪我を……。
善子「な、何があったの……?」
果南「……自分で、やったんだ」
善子「え……?」
果南「怪我したら、どうなるか、確かめようと思って」
果南「自分で、自転車の前に飛び出してみたんだ」
今までと違い、果南は目を合わせようとしない。
自分で怪我をした?
いや、実験の一つだと考えればわからなくはない。
それでも、いきなり大怪我をするというのは……。
72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:43:05.22 ID:oUECwn7k0
善子「な、んで……何でそんなことしたのよ! 他にもっと、やり方が……!」
果南「……」
善子「果南さ――っ」
肩をつかみ顔を覗き込んで、息をのんだ。
普段の果南からは考えられないような、昏い、昏い目。
そうか、果南は、本当に――。
善子「……ばか」
果南「……うん、本当にそうだね」
果南「でもね、毎晩、鞠莉が泣くんだ。『私』の横で、鞠莉が泣くんだよ」
善子「……」
どれだけの、苦しみだったのだろうか。
何もできずに。ただ皆が泣くのを眺めて。
夜も眠れずに、冴えた頭でいろいろ考えて、それでも何もできずに。
きっと果南は、自転車の前に飛び出して、あわよくば――。
73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:43:54.06 ID:oUECwn7k0
それからホテルに着くまで、自分たちはどちらも、一言も発しなかった。
ホテルの前につき、誰かが自動ドアを通るのを待ちながら、果南は小さく呟いた。
果南「ねえ善子。私、最低なんだ」
果南「こんなに、つらいのに。苦しいのに。痛かったのに、またつらい思いをするのに」
果南「善子が喰われて―――話せてよかったって、そう、思ってる」
消え入りそうなその声に、何も言えなかった。
――――
――
74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:44:50.69 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
千歌「……」
ダイヤ「……」
鞠莉「……」
曜「……」
梨子「……」
ルビィ「……」
花丸の話が終わると、たっぷり数分、誰も何も言わなかった。
自分たちの最悪の予想が当たってしまったかのような、そんな気分だった。
千歌「ほんとうに」
千歌が呟く。
千歌「ほんとうに、そんなことが……」
花丸「…っ……」
誰もが、思っていることだった。
花丸が怖い夢を見ただけではないか。
「霊的な」ものの仕業かもしれないと話しておきながら、いざ実際に証拠が出てくると、全員がそれを認めたくなかった。
もし、花丸の言うような化け物が、自分たちの前に現れたら。
妹に――ルビィに牙をむいたら。
想像して、ぞくりとした。
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:45:40.99 ID:oUECwn7k0
梨子「花丸ちゃん……ありがとう、話してくれて、ありがとう……」
梨子を皮切りに、皆が順番に花丸を抱きしめる。
すっかり怯えて、震えてしまっている花丸は、申し訳なさそうに首を振った。
花丸「ごめんなさい、マルのせいで、善子ちゃんが……」
ダイヤ「いいえ、花丸さんのせいではありません」
ルビィ「うん、それに……花丸ちゃんが無事で、ほんとに、よかった」
そう言ったルビィの言葉に、花丸はまた涙を流した。
76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:46:47.71 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「しかし…花丸さんの話を聞くに、無事だったことは奇跡的なことのように思えますわ」
曜「ちょっとダイヤさん!」
花丸「ううん、マルも、そう思ってたから……」
花丸「もしかしたら、善子ちゃんが守ってくれたんじゃないかって」
花丸が神妙な顔で善子を見つめている。
今聞いた話は少し不自然だった。
花丸が絶体絶命のピンチに陥った。
善子が現れた。
その時点では、玄関の扉は開き、化け物は中にいたはずだった。
しかし花丸が目を覚ました時、扉は閉まり、『善子』が外に倒れていた。
それも、扉を押さえつけるようにもたれかかって。
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:47:44.24 ID:oUECwn7k0
梨子「よっちゃんが、その…『ソレ』に対抗した……?」
梨子が信じられないとばかりに目を丸くする。
千歌「どうやって……、もしかして、堕天使の力……とか」
千歌の言葉に全員が考え込む。
常日頃から善子が口にしていた堕天使という言葉。
非現実的だと切って捨てるには、非現実的なことが起こりすぎていた。
曜「ねえ、善子ちゃんの持ってるこれ、何、かな……」
曜が『善子』の手を指さして、不意に口を開いた。
見れば、何やら銀色の鎖のようなものが、『善子』の指の間からこぼれている。
ダイヤ「これは……ロザリオ、ですわね」
先に十字架が付けられている。
善子はこれを随分きつく握っていたのだろう。
手の平に赤い痕が残ってしまっている。
ひょっとしたら…。
78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:48:47.41 ID:oUECwn7k0
同じことを思ったのか、花丸がふらふらと善子の身体に近づく。
花丸「善子ちゃんは、大馬鹿ずら……。こんな格好で、十字架なんてジャラジャラつけてきて、マルが元気出すとでも思ったずらか?」
花丸はそっと善子の手の甲を撫で、ロザリオを見た。
花丸「善子ちゃん、よしこちゃん、これでっ、守って…っ、くれたの……?」
花丸「よしこちゃん、会いたい、会いたいよ……っ! 会って、お礼をっ…! マル、マル……っ…!」
ルビィ「花丸ちゃん……」
ダイヤ「……ひとまず、全員がこれを身に着けること。もちろん、果南さんの分も、買いましょう」
少しでも、少しでも手がかりがあるなら、何でもする。
そっと、花丸の手を握った。
79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:49:39.91 ID:oUECwn7k0
――――
善子「花丸が、泣いてるわ。私のために、ずぅっと……」
果南「……うん」
果南が手を握ってくれる。
なんとか千歌たちに合わせて部屋に入り込めた自分たちは、沈痛な面持ちで話し合う皆をぼうっと見下ろしていた。
果南「善子は、マルを守ったんだね」
善子「私にも、わからないの。ただ夢中で、ロザリオを突き出して……」
果南「……」
80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:50:43.00 ID:oUECwn7k0
どうしてロザリオが、効いたのだろうか。
2人で考え込んでも答えは出そうにない。
果南「とりあえず、明日ダイヤたちについて買い物に行こう。私たちも一応ロザリオを持っておかなきゃ」
善子「窃盗の間違いでしょ?」
果南「うるさいなぁ、もう」
少しずつ、進んでいかなければ。
花丸の家や図書館にも行って、資料を読むのを手伝って。
夜を明かして、そしてまた……。
善子「ね、果南さん」
果南「……ん?」
善子「夜を恐れる必要なんてないわ。だってこの堕天使ヨハネがついてるんだもの! 漆黒の闇は私の一部なの!」
果南「……ふふっ、そうなの? じゃあ、大丈夫かな。一緒にいれば、大丈夫」
柔らかい見慣れた目で、果南が笑った。
――――
――
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:51:47.70 ID:oUECwn7k0
――――――
―――
それから数日、目立った事件は起こらなかった。
自分は姉と一緒に怪異や物の怪の本を読み漁っていたが、情報が少なすぎてどれを参考にしたらいいかわからなかった。
今のところ共通点は夜に襲われたということのみ。
果南は夜中に、善子は7時ごろに襲われたことを考えると、時間にもばらつきがあると考えてもいいかもしれない。
善子が持っていたものと似たようなロザリオを手に巻き付け、効果があるかもしれないと花丸が持ってきたお札をポケットに忍ばせる。
自分が何だか別世界の住人になってしまったようだった。
ダイヤ「ふぅ、ルビィ。今日はこのくらいにしましょうか」
ルビィ「うん、お姉ちゃん」
ダイヤ「そろそろ日が落ちますわ。早く帰らねば」
ルビィ「……うん」
横目で姉の顔を盗み見る。
82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:52:49.63 ID:oUECwn7k0
最近姉は笑わなくなった。いつも焦っているような、つらそうな顔をしている。
果南という親友が襲われたのだから、無理もない。
自分も善子のことを考えると胸がきゅっと縮むような、つらい気持ちになった。
果南だって姉の友達として小さいころから交流があった。
そして何よりもAqoursのメンバーとして、友達として大切だった。
2人は、いったいどれほどの恐怖を味わったのだろうか。
花丸の話を聞いて、一層怖ろしくなった。
ダイヤ「ルビィ、いいですか。絶対に不用意に扉を開けてはいけません」
ルビィ「うん、わかってる」
時々、姉はこうしてルビィに言い聞かせる。
知り合いの声を真似されるかもしれない。
その事実は自分たちに重くのしかかっていた。
ホテルでも、人が訪れるたびに丁寧に本人確認作業を行うようになった。
自分たちの間にはいつも張り詰めた空気が漂っていて、皆の神経を尖らせている。
83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:53:39.93 ID:oUECwn7k0
――――
家に着いて、夕飯を食べる。
最近すっかり元気をなくしてしまった自分たちに、両親は心配顔だ。
美味しいはずなのに味のあまりしない料理を口にし、少し残す。
食べ終わった後は、姉と交代で湯に入り、その後は自室で過ごす。
何気ない一日の合間合間に、どうしても暗い気持ちにならずにはいられなかった。
ダイヤ「ルビィ、少しいい?」
コンコンというノックに本人確認をし戸を開けると、姉が何かを持って立っていた。
ルビィ「あ、それ……!」
ダイヤ「ええ、μ'sのDVDですわ……」
姉は少しバツが悪そうにもじもじしている。
ダイヤ「その…もちろん、こんなものを見ている場合ではないことはわかっています。でも、何か元気が出ればと思って……」
ルビィ「うん……!見よう、見ようよお姉ちゃん。少しでも、元気を分けてもらおうよ。」
いつものようには、楽しめないかもしれない。
それでも、擦り切れた心に、何かが必要なのだと、姉もそう思っているのだと感じた。
84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:54:31.45 ID:oUECwn7k0
ノートパソコンを付け、再生ボタンを押す。
軽快なイントロとともに、2人の好きな曲が。
ダイヤ「……」
ルビィ「……」
いつもははしゃぎながら見ているDVDを、神妙な顔をして2人で見ていることがおかしかった。
それでも、明るい声を出す気分にはなれなかった。
画面の中で、9人が踊っている。
きらきらと、楽しそうに。幸せそうに。
果南と善子は、目を覚ますのだろうか。
自分たちも、もう一度9人で踊れる日が来るのだろうか。
口に出すわけにはいかない不安を、姉の手を握ることで紛らわした。
ここ数日、数週間の激しい記憶が、流れてくるメロディに乗って染み出していくようだった。
悲しみ、悔しさ、怒り。そういった感情が、少しずつ棘を丸めていった。
85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:55:32.02 ID:oUECwn7k0
1曲目が終わる。
短い静寂が部屋に訪れる。
ダイヤ「やはり、素晴らしいパフォーマンスでしたわね」
ルビィ「うん……」
ダイヤ「わたくしたちも、励まねば、なりませんわね」
ルビィ「そう、だね」
口に出しつつ、お互いに心では別のことを考えていた。
DVDを見て元気が出ているのかと言われれば、よくわからなかった。
ただ、2人を助けたい、もう誰もあんな目に遭ってほしくない。そんな想いだけは、強くなった。
86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:57:07.05 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「わたくしは、エリーチカが好きですわ」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「それでも、わたくしが、ともに舞台に立ちたい、そんな相手は……」
ルビィ「…お姉ちゃん」
姉は必死にもがいている。
諦めかけそうになる気持ちに何度も活を入れながら。
もしかしたら自分も、どこかで諦めているところがあるのかもしれない。
言い聞かせるように、言葉を継ぐ。
ルビィ「私も……。私も、小泉花陽ちゃんが好き」
ルビィ「でもね、私が、小さい時から一緒に踊って、一緒に歌ってきたのは……」
ダイヤ「ルビィ……」
きっと、果南と善子と一緒に踊りたいと言うべきだったのだろう。
その気持ちも、嘘じゃない。
それでも、今は姉の傷つく姿を見たくなかった。
何より、姉に笑っていてほしかった。
今も部屋に飾ってある、段ボール製のはりぼての衣装でもいいから、姉と踊っていたかった。
ダイヤ「…ルビィ……」
一度、ぎゅっと抱きしめられて。
ダイヤ「ルビィ……。わたくしの、ルビィ……。どうか、どうか無事で……」
ルビィ「お姉ちゃん……」
87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:58:05.42 ID:oUECwn7k0
しばらくそうしていた後、姉は顔を洗いにと場を離れた。
姉が幾分かすっきりした顔で戻ってきた後は、2人とも一言も言葉を交わさず、ただただDVDをぼんやり眺めていた。
――コンコンと、ノックの音がしたのはそれから30分後くらいのことだった。
自分たちの様子を心配していた母が来たのだろうと思い、返事をする。
『ルビィ、開けて』
『――ダイヤですわ』
扉の向こうからは、姉の声がした。
ルビィ「ぇ……?」
一瞬、意味が分からなかった。ダイヤは中だ。
一緒にDVDを見ているではないか。
声質が似ている母が悪ふざけでもしているのかと取っ手に手を伸ばし……
寸前で引っ込める。
嫌というほど聞いた話。
――『アレ』は他人の声を真似できる。
88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:59:13.84 ID:oUECwn7k0
思い出し、ぞくりとする。
今、取っ手を捻っていたら……。
ルビィ「はっ…はっ…はっ……!」
呼吸が無意識のうちに浅くなる。
"いる"。この扉の向こう側に、果南と花丸を襲った「何か」が。
『開けなさい、ルビィ! そこにいるのは偽物ですわ!』
突然ノックの音が激しくなる。
動機が激しくなる。
何か行動を起こさないといけない気分に苛まれる。
「偽物」…? 誰が…?
中にいる姉が?
そんなはずはない。ずっと一緒に――
ずっと?
顔を洗いに行った時も?
戻ってきた後様子は変ではなかったか?
少しでも言葉を交わしたか?
本人確認は――……していない。
89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:00:17.98 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「耳を貸してはダメ! ルビィ! 扉から離れなさいっ!」
がんがんと耳鳴りがする背後で、誰かの声がする。
偽物……どっちが…?
後ろに立っているのは、『誰』…?
『ルビィ! 逃げなさい! 開けなさい! ルビィっ!』
ルビィ「ぇ…あ…うぅ……」
ぐちゃぐちゃになった頭でそろそろと手を伸ばしかける。
ダイヤ「ルビィィっ!!」
悲痛な叫び声と共に、後ろから羽交い絞めにされた。
ルビィ「嫌あああああっ!」
背後からの突然の衝撃にパニックになる。
ルビィ「放して! 助けてっ! お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!」
ダイヤ「ルビィ、姉はここです、中です! ダイヤは中にいますわっ!」
勢いあまって床に倒れる。
壁に強くぶつかり、姉を押し倒すような体勢になる。
90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:02:13.76 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「くっ…! ルビィ、落ち着きなさい! ルビィっ!」
ダイヤ「『アレ』は…姿まで化けられるかはわかっていません! わたくしを見なさい! ルビィっ!」
ルビィ「お、おねえちゃん、おねえちゃんっ!」
ダイヤ「あ、姉は私ですわっ! 大丈夫、大丈夫だから…っ!」
ルビィ「ぁ…っ、はっ、…お、お姉、ちゃん……」
ダイヤ「そうです、姉のダイヤです。わたくしの顔をしっかりご覧なさい」
ルビィ「ごめっ、ごめんなさいっ! ル…っ、ルビィ…っ!」
ダイヤ「大丈夫。大丈夫ですわ。あんなの誰だって、パニックになってしまいます。ルビィは悪く――」
突然、姉が言葉を切る。
目をいっぱいに見開いて、倒れたままルビィの肩越しに「何か」を見上げている。
ダイヤ「ルビィっ!」
ドン、という衝撃とともに、部屋の奥に突き飛ばされた。
91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:03:04.15 ID:oUECwn7k0
ルビィ「…っ…! い、ったぁ…っ」
収納棚にぶつかり、痛みにあえぐ。
ルビィ「お姉ちゃ…な、なにを……っ、ひっ…あ……っ」
『――――アイタ』
扉が、開いていた。
もみ合った時にぶつかってしまったのだろうか。
うっすらと開いた隙間から黒い、黒い闇が入り込んでいた。
ルビィ「お姉ちゃんっ!!」
ダイヤ「来てはいけませんっ!!」
震える声で、姉が制する。
細く入り込んだ闇は瞬く間に部屋の入口の戸を覆い、肺にまで入り込んでしまったように息苦しくなる。
ルビィ「ぁ…ぉ、ぉね…お姉、ちゃん……っ!」
92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:04:21.52 ID:oUECwn7k0
『アハハハハハハハアケタアイタイアタアケタケタケタケタケタッッッ!!』
身体の芯を凍らせるような声とともに、『ソレ』が形を取り始める。
全身から夥しい数の目がこちらを見据えている。
身体の上部、斜めに大きく裂けた亀裂からは歯も何も見えず、ただただ、がらんどうの闇が続いているだけだった。
ダイヤ「ぁ…る、ルビィ……にげ、なさい、逃げ…っ……」
姉は床に倒れた姿勢のまま、うまく起き上がれないでいる。
ルビィ「ぃや…やだ……っ、お姉ちゃんっ! 嫌だよぉ……っ!」
ダイヤ「いいからっ! 逃げなさいっ! 逃げ――っ、か、はっ……!」
ルビィ「ひっ、い、嫌…っ……お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
『ソレ』が腕を伸ばし、姉を締め上げる。
姉は口をぱくぱくさせ、苦し気な空気を漏らしている。
自分のせいだ。
自分が、惑わされたから。
ちょっと考えたらわかったのに。
ルビィ「は…っ、放してっ! お姉ちゃんを、放してぇ!」
姉に近づこうとするが、数十もの視線に射られて足が止まる。
93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:05:46.30 ID:oUECwn7k0
ルビィ「ゃ…ゃめて……やめ……っ!」
ダイヤ「あ…ぅ……る…び……ぃ…っ」
ルビィ「そ、そうだ、ロザリオ! これ、握れば……!」
ずっと手に持っていたロザリオとお札を構えて、再び接近を試みる。
しかし、突き出した右手をすぐに靄が取り囲み、簡単に押し返されてしまう。
ルビィ「な、んで…っ、なんで……っ!?」
まるで効いていない。
ルビィ「効かない! 効かないよぉっ!」
半ば狂ったように叫びながら、辺りのものを手当たり次第に投げつける。
どれも黒い靄を何の抵抗もなく通り抜け、虚しく地面に落ちるだけだった。
何か、何かないか。
姉を助ける、何かが。
一心不乱にあたりをひっくり返す。
そうしている間にも、姉の目からは涙がこぼれ、息遣いはどんどんと浅く。
さっきまで抵抗を続けていた腕はもう力なく垂れさがっている。
94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:06:49.47 ID:oUECwn7k0
ルビィ「やだ……やだやだやだっ! 誰か、助けて! お姉ちゃんと、まだ一緒にっ! 誰か……っ!」
ガツンと音を立てて、まだ再生を続けていたノートパソコンに躓く。
倒れた先には、以前姉と身に着けて踊っていた、段ボール製の羽があった。
ルビィ「うぅ…助け…助けてよぉ……。」
羽に手を伸ばし、抱え込む。
ルビィ「花陽ちゃん……力を、力を貸して――っ」
トクンと、何かが高鳴った気がした。
ルビィ「お、お姉ちゃんを、放して…っ、もう、やめて……っ」
もう一度、ふらふらと姉のいる方へ。
ダイヤ「……る……ぃ………げ……」
嫌だ。嫌だ嫌だ。
さっき、姉の笑顔を願ったばかりなのに。
さっき、一緒に踊る未来を望んだばかりなのに。
95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:07:31.66 ID:oUECwn7k0
ルビィ「また…っ、一緒に踊るんだもんっ! お姉ちゃんと一緒に! Aqoursの皆と一緒にぃっ!」
一歩一歩、姉に近づいていく。
ルビィ「だから…やめてっ……」
靄に圧し潰されながら、それでも這いずりながら。
ルビィ「やめて…、放して…っ……」
精一杯、声を張り上げて。
『やめてええええええええええ!!!』
―――きいいいいぃぃぃぃぃぃぃん――……
高い、高い金属が割れるような、澄んだ音がした。
96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:08:11.72 ID:oUECwn7k0
『アアアアアアイアアタタアアアアアヤアアアアクルウウクヤアアシイイイイイイ!!!』
『ソレ』は絶叫すると、ガタガタと暴れまわった。
一斉に輪郭がぼやけた腕が引っ込み、姉がくたりと地面に身体を投げ出す。
ルビィ「あ……、は、放した…お姉ちゃんをっ…放したぁ……!」
『ソレ』は依然として部屋の中をぐるぐると激しく揺らしている。
グラグラと棚が揺れ、這いつくばる自分の頭に物が飛んでくる。
ルビィ「こ、こっちに! 出てってっ!!」
必死で駆け寄り、窓を開ける。
『ソレ』は窓枠が外れそうなほどの衝撃と共に、夜の闇に飛び出していった。
部屋には、崩れた棚と、身体を丸めて倒れる姉と、段ボール製の羽をもってへたり込む自分だけが残されていた。
97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:09:28.23 ID:oUECwn7k0
ルビィ「はあっ、はあっ、はあっ……っ!」
震える手で窓を閉め、扉も閉め。
ルビィ「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!」
倒れている姉に駆け寄った。
息は――ある。
首や腕に色濃く痕が残ってしまっているが、どうやら息はあるようだった。
ルビィ「お姉ちゃん! 目を覚ましてっ! お姉ちゃんっ!」
一瞬、果南と善子の顔がちらついた。
首を振って、大丈夫だと言い聞かせる。
ダイヤ「……ぅ……」
微かに、姉が呻いた。
ルビィ「頑張ってっ! お姉ちゃん!」
ダイヤ「ぅ…、けほ、こほっ…!」
咳き込んだ姉が目をうっすら開ける。
ルビィ「お姉ちゃん、お姉ちゃん…っ! よかった、よかったよぉ…っ」
ダイヤ「る、ルビィ…、あなた……っ」
ルビィ「お姉ちゃん……μ'sがね、μ'sが、力を貸してくれたんだよ」
ダイヤ「ああ、ルビィ……。無事で、無事で、本当に……」
ルビィ「お姉ちゃんも、ほんとに、よかった……。ごめん、ごめんね……」
静かな部屋で、パソコンから鳴る電子音だけが響いていた。
98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:10:21.64 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
ダイヤとルビィが襲われた。
そう聞いたときは肝をつぶした。
思わず、どっちが、と聞き返してしまい、そしてどっちも助かったという報せに倒れこみそうなほど安心した。
鞠莉「ね、果南、2人とも助かったって。また何か、わかるかもしれない。そうしたら、果南も――」
果南「……」
意識のない果南に話しかける。
最近はすっかり癖になってしまっていた。
いつか果南が返事をくれるのではないかと、心のどこかで期待してしまっている。
鞠莉「ダメね、私……。皆が来るまでに、しっかりしないと」
こちらも癖になってしまっている独り言をこぼし、身だしなみを整える。
度重なるストレスで髪が荒れている。
鞠莉「ちゃんとしないと……。2人を助けて、また9人でAqours、するんだから」
99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:11:37.03 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「そうですわ。鞠莉さんがそんなでは、いけませんわよ?」
鞠莉「……!」
鍵がガチャリと開いて、ダイヤとルビィが入ってきた。
鞠莉「ダイヤ! それにルビィも! ああ、よかったわ! ほんとに!」
ルビィ「ま、鞠莉さん…苦しい……」
鞠莉「Oh,sorry ! そうね。2人ともゆっくり休んでちょうだい」
ダイヤ「ええ……さすがに、心労が大きいですわね」
鞠莉「大丈夫? 話せそう?」
ダイヤ「もちろんですわ。しっかりお話します」
ルビィ「ルビィも……大丈夫」
力強い言葉が返ってくる。
鞠莉「あら、ルビィもすっかり頼もしくなったわね」
ルビィ「うん、μ'sが助けてくれるんだ」
鞠莉「μ'sが……?」
ダイヤ「ええ、そのことも後でお話ししますわ」
真剣な顔のダイヤに、頷いた。
100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:12:45.34 ID:oUECwn7k0
――――
千歌「み、μ'sが……?」
姉妹の話を聞いて、千歌が期待のこもった目で繰り返した。
ルビィ「う、うん……この羽に、お願いしたんだ」
曜「えっと、その段ボールの羽が、μ's……?」
ルビィ「うん! 昔お姉ちゃんと一緒に作って踊ったことがあって……」
梨子「そんなことしてたんだね、ダイヤさん……」
ダイヤ「い、今はその話は関係ありませんわ! とにかく、『アレ』を撃退できた要因をもう一度考えるべきです!」
恥ずかしそうにダイヤがそっぽを向く。
首の痛々しい痕が露になり、胸が痛む。
かなり強く絞められたのか、花丸の痣よりもくっきりと色濃くついてしまっている。
鞠莉「ダイヤ、痛くないの……?」
ダイヤ「ええ、ほとんど痛みはありませんわ」
鞠莉「そう……」
ダイヤ「とにかく、話を戻しますわよ」
ダイヤがそう言って皆に向き直る。
101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:13:52.20 ID:oUECwn7k0
――撃退した。
この事実は思った以上に自分たちに勇気をもたらしてくれていた。
皆の口数も少し増えている。
花丸「で、でも、おかしいずら。もしμ'sが力をくれたなら、善子ちゃんはマルのこと、助けられなかったはずで……」
花丸がルビィを後ろから抱きしめながら異論を口にする。
報せに肝をつぶしたのは自分だけはなかった。
千歌「あ、たしかに……」
梨子「それに……。『ソレ』が来たとき、まだμ'sのDVDがついてたんだよね……。もしμ'sが苦手なら入ってこられないんじゃないかなあ」
ルビィ「うん、たしかに、まだついてた……」
ダイヤ「やはりその点が不可解ですわね。これは、一つの可能性ですが……」
皆がダイヤに注目する。
102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:15:21.53 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「『何を持っているかは関係ない。強い想いが闇を退ける』……というのは、どうでしょうか」
ルビィ「強い、想い……?」
ダイヤ「ええ、善子さんは、花丸さんを助けたいという強い想いを、ルビィは、その、わたくしを……」
鞠莉「ちょっと、言ってて恥ずかしがらないでよ」
ダイヤ「う、うるさいですわね!」
ダイヤ「とにかく、μ'sの存在は、おそらくルビィに勇気のようなものを与えた……。その意味では、μ'sが力を貸してくれたというのもあながち間違いではないかもしれませんが」
花丸「そっか……、精神力とか、そういうのってことだよね……」
花丸「たまにお寺に来る祈祷師の人も、やっぱり精神力とか、向き不向きがものを言うんだってよく言ってたずら……」
曜「精神力、かあ……」
鞠莉「とにかく、夜はあまり1人で行動しない方がいいみたいね」
ダイヤ「ええ……。扉は必要ない時は開けない、というのも、もう一度徹底する必要があります」
ルビィ「うゅ……」
バツが悪そうに俯いたルビィの頭をダイヤが撫でる。
皆、幾分か明るい顔で、その日は解散になった。
103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:17:09.29 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
ダイヤ「不満そうですわね」
皆が帰った後、残った自分は、鞠莉と一緒に『2人』の身体を拭いていた。
ルビィは花丸に付き添われて帰っていった。
鞠莉「そりゃあね」
鞠莉が疲れた目で肩をすくめる。
鞠莉「想いが闇を退ける……、もちろん、信じたい、信じたいけれど……」
ダイヤ「…そう、ですわよね……」
実質、「何もわからない」と言ったも同じだった。
「気を強く持て」とも。
ダイヤ「それに、この2人については、やはり何も……」
鞠莉「……ボウセンイッポウってやつ?」
ダイヤ「そう、認めざるを得ませんわね」
せめて、2人を助ける目途さえつけば。
何度も何度も、そう思う。
104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:18:04.00 ID:oUECwn7k0
鞠莉「……ダイヤ」
ダイヤ「何ですの?」
鞠莉「ダイヤは、いなくなっちゃわないでよね」
ダイヤ「……鞠莉、さん」
ハッとして振り返ってみれば、消えてしまいそうな顔をした鞠莉がいて。
この寂しがりな友人を、とても怖がらせてしまったのだと気が付いた。
ダイヤ「まだまだ、為すべきことを為せていませんわ。消えたりなど」
鞠莉「うん……。約束よ。絶対」
弱々しく、鞠莉が微笑んだ。
――――
――
105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:18:57.49 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
集団行動を心掛けるようになって、数日が経過した。
日中は皆で一緒に学校に行き、放課後は部活動と称して『果南』と『善子』の待つホテルへ。
なけなしの栄養剤と水を飲ませて、皆で特に話すこともなく、ただ一室で過ごして。
本を読んだり調べ物をしたり、やることはあるけれど、だんだんと気が滅入っていくのは止められなかった。
自分とルビィが助かったという事実も、時間が経てば経つほど皆を鼓舞する材料としての効力を失ってきている。
自分たちがそんなに核心に近づいたわけではないことが露呈してきていた。
ダイヤ「はぁ……」
鞠莉「Oh…、ため息はよくないよ、ダイヤ?」
隣で買い物袋を提げる鞠莉が窘めてくる。
自分たち姉妹が襲われて以来、鞠莉は何かと自分の傍にいたがった。
日中の買い物も、一緒に行こうと誘われてもう3日目だ。
普段は小原家の車で来ているけれど、今日は少し遠目で降りて散歩気分。
前と比べて顔が青ざめてしまった鞠莉と、やはり体調がよくない自分の身体を気遣ってのことだった。
106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:20:02.19 ID:oUECwn7k0
しかし買い物を終えたあたりから、腕や首に鋭い痛みが走っていた。
過度な緊張状態に身体が強張ってしまっているのだろうか。
それに先日、ルビィが熱を出した。
花丸がつきっきりで看病をしてくれているが、彼女の体力も底を尽きかけている。
千歌たちは相変わらず調べ物を続けてくれているが、こちらも根を詰めすぎている。
誰もが心身ともに限界なのは明らかだった。
鞠莉「最近、思うの」
唐突に、鞠莉が呟いた。
鞠莉「何で果南だったのかなって……」
ダイヤ「え……?」
鞠莉「あの日…果南、電車に乗る前から様子が変だった。覚えてる……?」
ダイヤ「え、ええ。そうでした」
顔が青くて、何を言っても上の空で……。
そして、電車に乗った後、"窓を閉めてひさしを下ろした"。
まるで、何かを隠してしまうように――。
107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:21:27.49 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「ま、鞠莉さん、ひょっとして……!」
鞠莉「やっぱり、そう思う? ……果南、東京で、視ちゃったんじゃないかって」
鞠莉「そこから、ついてきちゃったんじゃないかって、そう思うの」
ダイヤ「だとしても……」
鞠莉「うん、わかってる。果南のせいじゃない」
鞠莉「でもね、相手を知ることって、大事だと思わない?私は、私は果南にそれを……」
ダイヤ「鞠莉さん……」
似つかわしくない小さな声に、胸が締め付けられる。
ダイヤ「諦めては……いけませんわ。相手を知り、対策を立てれば……」
鞠莉「うん、そう、そうね……」
力なくそう言って、鞠莉が考え込む。
自分も、改めて起こっていることについて考え直してみる。
イベントからの帰り道、まず果南が襲われた。
次に花丸と善子、ルビィと自分。
そして、襲われたときに聞いた声。
108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:22:34.27 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「『悔しい』……」
鞠莉「え……?」
ダイヤ「悔しいと、言っていたように感じましたの」
鞠莉「それは……『アレ』が?」
ダイヤ「ええ」
ずっと、その理由を考えていた。
何重にも響く声でちゃんとは聞き取れなかったけれど。
それに、善子と、ルビィの力。
何が、『アレ』を退けたのだろう。
ダイヤ「いったい、何が……?」
分からない。
109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:23:33.25 ID:oUECwn7k0
鞠莉「とにかく、材料が少なすぎるわ。だって、私たちの共通点って、Aqoursってことしか……」
ダイヤ「ええ……。スクールアイドルに、何か関係でも――」
言いかけて、言葉を止める。
その瞬間、頭の中で何かが繋がった気がした。
何か簡単なことを、見落としていた……?
大会。果南。善子。Aqours。μ's。そして――
ダイヤ「スクールアイドル…っ! スクールアイドルですわ、鞠莉さんっ!」
鞠莉「え、ちょっ、ダイヤ!? どこ行くの!?」
ダイヤ「本屋ですわ! 確かめたいことがありますの!」
鞠莉「単独行動はダメよ! 私も行く! それに、もうあんまり時間が……っ!」
ダイヤ「すぐ終わりますわ! だから!」
鞠莉の手を引いて、駆けだした。
自分の予想が、正しければ。
きっとヒントは、あの本に……。
110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:24:34.33 ID:oUECwn7k0
―――――
―――
手を引かれて本屋まで来たが、自分には何が何だかわかっていなかった。
ダイヤはきょろきょろと辺りを見回して、さらに奥まで入り込んでいく。
ダイヤ「たしか…たしか、この辺に……!」
雑誌コーナーにたどり着き、はあはあと肩で息をしながら必死で棚に目を走らせる。
鞠莉「ねえダイヤ、そろそろ帰ろう? また時間ある時でいいから、ね?」
時間が微塵もないわけではなかったが、必死な顔のダイヤを見ると、何だか彼女が遠くへ行ってしまうような、そんな気がした。
ダイヤ「もう少し、もう少しだけ……!」
鞠莉「ねえ、何を探してるの? 私にも手伝えることがあれば……」
ダイヤ「え、ええ…、雑誌を…。スクールアイドルの……」
鞠莉「バックナンバーを探せればいいのね? わかった、店員さんに――、ってダイヤ、すごい汗……」
ふとよく見れば、ダイヤはこの気温にもかかわらず滝のような汗をかいていた。
本屋まで走ったとはいえ不自然な量だ。
111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:25:31.48 ID:oUECwn7k0
鞠莉「ね、ねえ、ちょっと暑いならマフラー取って……」
ダイヤ「……大丈夫ですわ。早く聞いてきてくださいな」
鞠莉「いいから!」
渋るダイヤからマフラーを剥ぎ取る。
鞠莉「…っ! そ、それ……!」
ダイヤの首にできていた黒い痣が、脈打っていた。
黒い、禍々しい光をぼんやりと放ちながら、まるで何か別の生き物のように、ドクドクと伸縮を繰り返している。
鞠莉「だ、ダイヤ……っ!」
ダイヤ「……」
鞠莉「いつからなの!? いつから、そんな……っ!」
ダイヤ「…今日、買い物を終えたときから、ですわ。」
まだそんなに時間は経っていない。
112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:26:54.42 ID:oUECwn7k0
鞠莉「だったらこんなことしてる場合じゃないじゃない! 早くホテルに戻って、それで……っ!」
ダイヤ「それで、どうするんですの?」
鞠莉「それは…っ、それで……っ!」
ダイヤ「わたくし、思いますの……。これは、『アレ』が近づいている、そんな予兆ではないのかと」
ダイヤ「現に、花丸さんはわたくしよりもずっと前に痣を付けられていたのに、一回もこのようなことには……」
鞠莉「近づいて、って……、だったらっ!」
ダイヤ「だったら、わたくしは、できることを最期までやりますわ。…鞠莉さんを、巻き込んでしまうことになって申し訳ありませんが……」
ダイヤ「それに……、それに鞠莉さん、あなたはわたくしのことを想ってくれる……。そうでしょう?」
だから大丈夫。
そう言って微笑むダイヤに、投げかけた台詞をぐっと呑み込む。
鞠莉「…っ……! 店員さんっ、呼んでくるっ!」
くるりと踵を返して、店内を駆ける。
ずるい、ダイヤは本当にずるい。
あんなことを言われて、自分が何も言い返せないのもわかっていて。
それでもきっとAqoursのために、何か大事なことをするんだろう。
鞠莉「ちゃんと後で話、聞くんだから!」
113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:27:49.51 ID:oUECwn7k0
――――
親切にも箱で出してもらったバックナンバーを抱えて、ダイヤのところまで戻る。
そう、この角を曲がったら……
鞠莉「ダイヤ?」
すぐには、姿が見えなかった。
見下ろすと、かたかた震えながら蹲るダイヤの姿があった。
ちらちらと心配そうに他の客が見下ろしている。
鞠莉「ダイヤっ!」
大慌てでタオルを取り出し、ダイヤの冷たい汗を拭く。
ダイヤ「ま、鞠莉さん……。雑誌、を……」
鞠莉「ほら、ここに箱があるから、この中に……」
ダイヤは首や太ももを押さえながら、青い顔で箱を漁る。
ひとまず連れが現れたことに安心したのか、他の客は去っていった。
114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:28:18.22 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「あの月の…この号の……」
鞠莉「ダイヤ、早く早く!」
もうすぐ日が暮れてしまう。
日が暮れたら、夜が来る。
夜が来たら――
ダイヤ「あ、ありましたわっ!」
苦しそうな、しかし安心したようなダイヤの声がした。
115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:29:11.00 ID:oUECwn7k0
早く、早く早く。
レジに並びながら、トントンとつま先を床に打つ。
幸い見つかるのが早かった。
何のトラブルもなければ日没までには車に戻れそうだ。
念のため、少し近いところまで来てもらおう。
運転手に連絡しながら、必死に自分を落ち着かせる。
鞠莉「大丈夫。私はダイヤのこと、想ってる。守れる、守ってみせる」
言い聞かせるように呟きながら、お金を払う。
ひっつかむようにお釣りを受け取ると、ダイヤの手を取って走り出した。
ダイヤ「はあっ…、はあっ……!」
鞠莉「頑張って、頑張ってダイヤ、大丈夫。もう間に合うから……」
ダイヤ「え、ええ。まだ、日没には、時間があるはずですわ……。車まで行ければ……」
鞠莉「そうよ、その車にも近いところに来てもらっているから、だから――」
鞠莉「…なん、で…っ」
自動ドアの向こう側に、『ソレ』がいた。
116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:30:02.53 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
ダイヤ『スクールアイドル…っ! スクールアイドルですわ、鞠莉さんっ!』
ダイヤが突然鞠莉の手を取って走り出した。
善子「ちょっと、ダイヤさん、変なところに行っちゃうわよ」
果南「どこ行くんだろうダイヤ。もう買い物は終わったのに……」
今日は食材を買い込んだら終わりのはずだ。
それなのに、ダイヤはどんどんと車から離れた方向に走って行ってしまう。
鞠莉も状況が呑み込めていなさそうだ。
果南「とにかく、後を追おう、襲われたりしたら……」
善子「…っ……え、ええ」
善子と一緒に後を追う。
117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:31:50.75 ID:oUECwn7k0
最近はずっと2人で調べ物をしていた。
千歌たちについて図書館に行き、勝手に本を漁ったり。
花丸について国木田家に侵入して、資料を読ませてもらったり。
最初は抵抗を感じていたらしい善子も、今では我が物顔で国木田家を闊歩していた。
他にも、ひたすらメンバーに話しかけたり、メッセージを残そうとしてみたり。
できることは何でも試していた。
今日は、気晴らしにでもと、買い物組についていったのだ。
善子「本屋……?」
ダイヤは本屋に入っていった。
果南「何か、気づいたみたいだったけど……それに、ダイヤの首とか腕から……」
善子「私も……見えたわ」
黒い、うっすらとした煙のようなものが漂っていた。
ダイヤのマフラーの隙間から、袖の間から、コートの裾から。
果南「嫌な予感がする……」
ダイヤに続いて、店に入る。
118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:32:52.02 ID:oUECwn7k0
――――
鞠莉が会計を終えて走り出すころには、辺りは少し薄暗くなりはじめていた。
まだ日没までには時間がある。
…なのに。
善子「寒い……。とっても、寒いわ」
果南「……おかしいな、さっきまでそんなことなかったのに急に……」
嫌に、寒気がする。
心の芯から冷えるような震えが襲ってくる。
果南「善子……ひょっとしたら……」
善子「あ、『アレ』が来るって…、そういうこと…っ!? で、でも、今はまだ日は暮れてなくて……!」
落ち着かなくあたりを見回した善子の目が驚愕に見開かれる。
視線を辿って、ぞくりとした。
果南「あ、あれは…っ、あの、黒い靄は……っ」
片時も、忘れたことはなかった。
自分が感じた痛み、恐怖、見知らぬ土地で死ぬかもしれないことへの悲しみ――。
そして、喰われる瞬間の、あの絶望。
119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:33:54.52 ID:oUECwn7k0
善子「ま、マリーがっ! ダイヤさんがっ!」
靄は本屋の入口を覆うように迫ってきている。
じきに入口を覆ってしまうだろう。
始末の悪いことにここは営業中の店。しかも入口は自動ドアだ。
客が来ればドアは開いてしまう。
靄が全貌を表す。
無数の腕に、赤い血走った目。大きく裂けた昏い口。
果南「…あ、れ……?」
善子「なんだか……、なんか、輪郭がはっきりしてない……?」
自分の記憶では、『アレ』は全身が靄に包まれ、浮いているか、それともそこにもともと「ない」かのような……。
しかし今目の前にいる『ソレ』からは、幾分かはっきりした輪郭で、固体として「そこにある」かのような印象を受けた。
果南「ひょっとして……。」
―――善子『なんだか、変な感じね。私たちは別の世界にいるってこと?』
いつの日か、善子とバスの中で交わした会話を思い出す。
別の世界……自分たちのいる「こちら側」の世界。
120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:34:57.91 ID:oUECwn7k0
果南「『アレ』は、「こちら側」の存在だった……?」
考えてみれば当然だった。
自分たちの過ごしていた世界に、あんな非現実的なモノは蔓延っていない。
善子「それって、今、私たちと『アレ』は同じ世界にいるってこと?」
善子「だったら……、私たちでも、気をそらせるかもしれない……?」
仮説を聞いた善子が訝しむ。
善子「理解が追い付かないし、それにっ! この状態で、また喰われたら……、どうなるの、かしら」
果南「……」
善子「……ごめん」
今の状態で、もう一度、喰われたら。
どうなるのだろう。
もう二度と、目覚めないのではないか。
そんな予感に、また寒気が増した。
121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:37:41.65 ID:oUECwn7k0
果南「今は…、今はダイヤと鞠莉を逃がすことに集中しないと……」
この場に居合わせたのは、奇跡としか言いようがなかった。
何としても守らなければならない。
きっと、何か手がかりをつかんだであろう2人は。何があっても。
果南「とにかく、自動ドアが開いたときが勝負だよ」
果南「私たちのこと、見えているかはわからないけど、開いた瞬間に外に出て、それで『アレ』の気を引いて……」
善子「そ、その後は?」
果南「……私がつっこむから、善子は離れたところに」
善子に危ない真似はさせられない。
善子「でも、果南さんが……っ」
果南「大丈夫だよ。これでも鍛えてるからね。善子は……遠くから石でも投げてくれれば」
善子「石って……。効くのかしら? 私たち、何の痕跡も残せないんじゃ……」
バスで乗客の鞄を持った時のことを思い出す。
今の状態の自分たちが何かを持つ、それはつまり――
果南「私たちが持った時点で、たぶんそれは「こちら側」のものになる。他の物に当たる前にそれで攻撃すれば、きっと……」
ぱっと浮かんだ考えをそのまま話す。
検証している余裕はない。
善子「……わかったわ。でも、無理はダメよ。それに私だって、ちゃんと……」
果南「……うん、頼りにしてる」
ずっと、ずっと自分を支えてくれた善子に、改めて感謝する。
善子がいなければ、きっと自分は――
122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:38:08.62 ID:oUECwn7k0
善子「お客さんが出るわよっ!」
善子の鋭い声で現実に引き戻される。
会計を終えた1人の客が、立ち竦む鞠莉とダイヤを追い越して店を出て行く。
入口の『ソレ』にはまるで気づく様子もなく、のんびり歩いていく。
入口まで、あと10歩…
7歩…
4歩…
1歩…
自動ドアが、開いた。
『―――アイタ』
123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:39:18.64 ID:oUECwn7k0
果南「こっちぃっ!! こっちだよっ!!」
がむしゃらに『ソレ』に突っ込む。
はっきり見えるようになった『ソレ』を躱し、ドアの向こう側へ。
果南「こっちだ! 入口から離れてっ!!」
精一杯、声を張り上げる。
『ソレ』の全身の目が、じぃっとこちらを"見た"。
果南「…っ…ぅ……」
一瞬、恐怖に身動きが取れなくなる。
でも。
果南「見えてる……っ! 私たちのこと、見えてるっ!」
善子「果南さんっ! もっとひきつけないと!」
果南「わかってるっ!」
あらかじめ持っていた本で、殴りかかる。
ブニッとした気持ちの悪い感触とともに、確かな抵抗が手に返ってくる。
124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:40:03.30 ID:oUECwn7k0
果南「あ、当たったっ! 善子、石っ!」
善子「え、ええ……っ!」
善子が小さな石を投擲し始める。
石は『ソレ』の身体に弾かれ、また地面に落ちる。
『ソレ』は苛立たしげに少し身体を動かした。
果南「う、動いたっ! こっち、こっちにっ!」
何とか入口から放そうと、少しずつ距離を取る。
善子「そ、そんなに石はたくさん落ちてないわ! すぐ弾切れに……っ」
善子の声が聞こえてくる。
田舎とは言え舗装された道。
ゴロゴロ落ちているというわけにはいかないか。
ならば仕方ないと、もう一度本を構えた時だった。
ヒュッと、こともなげに、まるで虫を払うかのように、『ソレ』が腕を振った。
125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:40:59.74 ID:oUECwn7k0
果南「…っ…か、ふっ……!」
横腹に感じた強い衝撃とともに、身体が投げ出される。
地面に2度、3度ぶつかり、天と地もわからないほど視界が揺れた。
果南「ぁ……ぐ…っ…」
善子「果南さあああんっ!!」
果南「ょ…しこ…石、を……」
善子「喋っちゃダメっ! あ、ああ、どうしたら…『果南さん』にどれだけダメージがいったか……」
善子はおろおろと、横たわる自分の状態を気にしている。
果南「だい、大丈夫、だから……っ、善子、石を、あとちょっとだからっ!」
善子「わ、わか、わかったっ、あと、ちょっと!」
震える足で、善子が立ち上がる。
自分も這いながら本屋から離れる。
ズズ…と、少しずつ『ソレ』は近づいてきてくれていた。
126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:41:35.87 ID:oUECwn7k0
善子「こ、こっちに来なさいっ! ほら、こっちに!」
残り少ない石を、善子が投げている。
いくつかは外れ、いくつかは『ソレ』に当たり、跳ね返る。
『ソレ』が距離を詰めてくる。
果南に腕を振った以外に、やり返してこないのが不気味だった。
善子「そう、こっち、こっちよ! あとちょっと、あとちょっと!」
半泣きになりながら善子が石を投げ続ける。
善子「あ、も、もう石が……っ!」
辺りを見回して、善子が石を探す。
果南「ぁ………っ…善子…っ! 逃げて、逃げっ…!」
緩慢な動作で振り上げられた『ソレ』の腕が、目にもとまらぬ速さで、伸ばした善子の腕を打った。
127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:42:27.56 ID:oUECwn7k0
善子「ああああああああぁぁぁぁっ!!!」
善子が悲鳴を上げて地面を転がる。
果南「善子っ! 善子ぉっ!」
痛みをこらえて、なんとか善子まで近づく。
善子「あっ…かな、果南さんっ…腕が…腕があ……っ!」
果南「大丈夫っ! 大丈夫だからっ……!」
善子「ひっ…あ…っ…痛い、痛いよぉ…っ!」
呻く善子を引きずって、逃げようとする。
『アレ』はいまどこに…。
振り返って確認すると、『ソレ』はゆっくりと、ゆっくりと後ろを向き始めていた。
果南「ダメっ!」
そっちには、ダイヤと鞠莉が…。
善子「お、おわ、なきゃ! 追わなきゃ…!」
果南「善子……っ!」
幸か不幸か、魂が負うのは痛みだけだ。それさえこらえてしまえば、走ることもできた。
128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:43:32.66 ID:oUECwn7k0
お互い支え合いながら、『ソレ』を追う。
と同時に、本屋の入口から『ソレ』の脇をすり抜けるように飛び出した影が見えた。
よたよたとよろめくダイヤを、鞠莉が必死に引っ張っている。
果南「走ってっ……! 鞠莉…ダイヤ…! 逃げてっ……!」
がむしゃらに本を投げつける。
しかし『ソレ』は意に介す様子もなく、ただ漫然と2人を追った。
さっき自分を打ち付けた腕が、前を走る2人に伸ばされる。
果南「耐えて…お願い、耐えて……っ」
ダイヤは走りにくそうに見えた。
痣が痛むのかもしれない。
鞠莉が必死に腕を引くも、どんどんとスピードが落ちていく。
善子「車が見えたわ! あと少しよ!」
果南「頑張れダイヤ……っ!」
鞠莉が小原家の車に大きく手を振って走っていく。
ダイヤもふらつきながらも手を引かれ、ずるずると前に進む。
しかし――
果南「だ、ダイヤっ!!」
ふらついたダイヤの足が、黒い腕に絡み取られた。
129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:44:21.07 ID:oUECwn7k0
善子「果南さんっ! 行って! もう大丈夫だから、走って!」
善子に背中を押され、『ソレ』の横を追い抜く。
果南「ダイヤっ! ダイヤぁぁっ!」
ダイヤをつかむ腕に、思い切り蹴りを入れる。
足への鈍い衝撃に蹲りそうになった。
果南「っ……!」
再び、軽く腕に振り払われた。
ザザッと地面を転がされ、また立ち上がる。
腕は既に、ダイヤの膝辺りまで伸びてきている。
しかし、2人が車の目前にいることも事実だった。
あと少し。あと数十センチだけ。
果南「く…っ! こいつ…っ!」
どんどんとダイヤの姿が呑み込まれていく。
130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:45:14.91 ID:oUECwn7k0
助けようとする鞠莉に対して、ダイヤは鞠莉を車に押し込めようとしている。
違う、2人とも、2人とも助けるんだ。
だから、もう一度。
そう思って、また向き直り、
――ダイヤと"目が合った"。
果南「え……?」
時が止まった気がした。
ずっと横から見ていた緑色の目を、久しぶりに正面から見据える。
ダイヤは驚いたように目を見開き、それから――
131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:46:01.81 ID:oUECwn7k0
果南「わ、…かった、いく、行くよ……」
何も言わなくても。目が合っただけで。
ダイヤが何を考えているか、何を自分に望むのか、わかってしまった。
わかっていた。ダイヤがそういう人だって。
こんな場面で、迷わず選べる人だって。
果南「ダイヤ、ごめんね。……また、後で」
そう呟いて、一歩踏み出した。
ダイヤを追い越し、もがく鞠莉の横を抜け。
扉の開いた車の中に、さっと身を滑り込ませた。
――――
――
132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:47:10.16 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
本屋の入口を塞いでいた『ソレ』は、どういうわけか別の方向に少しずつ動き始めた。
話には聞いていたが、初めて見るその異様な姿に、足が竦んでしまう。
ダイヤ「ま、鞠莉さん…っ! 今の、うちに……っ」
ダイヤが荒い息で背中をつついてくる。
鞠莉「…っ、そ、そう、そうね。ここを曲がれば、車があるわ。扉があれば、『アレ』は入ってこない……」
ダイヤ「まり、さんだけ…先に…走ってください……っ! わたくしは、後で……」
鞠莉「馬鹿ダイヤ! そんなのお断りよ!」
寝ぼけたことをいうダイヤの言葉に、身体がカッと熱くなった。
この身勝手な親友を、守らなきゃ。
鞠莉「走るよダイヤっ!」
ダイヤ「ま、鞠莉さん……?」
戸惑うダイヤの目をまっすぐ見据える。
鞠莉「私は、諦めない! ダイヤのことも、果南のことも善子のことも、Aqoursのことも!」
ダイヤ「……鞠莉さん」
ダイヤ「わかりました。……では、一緒に」
133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:47:57.81 ID:oUECwn7k0
ダイヤの手を引いて走る。
自動ドアの向こうに微かに漂う靄を手で払う。
手は何の抵抗もなくすり抜けるのに、ねっとりとした嫌な感触が残った。
ダイヤ「…はあっ…はあっ……!」
ダイヤの足取りが覚束ない。
鞠莉「ダイヤ、あと少し、頑張ってっ!」
ダイヤ「はあ…っ、すみま、せ……っ」
鞠莉「いいからっ! そんなのいいからっ!」
全身の痣が痛むのだろう。
たった数メートルしか走っていないのに、ダイヤの顔が苦痛に歪む。
何とか『アレ』の横は通り抜けたが、『アレ』は徐々にこちらを向き始めている。
ほとんどダイヤを抱えるようにして、先を目指す。
車が見えてきた。
134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:48:33.26 ID:oUECwn7k0
鞠莉「車よっ! ダイヤ、車!」
腕を限界まで伸ばしてドアに手をかける。
鞠莉「っ、着いた…っ! 早く、中に……っ!」
先にダイヤを乗せようと、腕に力を込めた。
鞠莉「…ダイヤ……?」
びくともしない。
ダイヤ「…っ! 鞠莉さん……っ!」
一瞬、ダイヤが怯えた顔を見せた。
鞠莉「っ…足が……!」
ダイヤの足に、黒い霧が絡みついていた。
135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:49:49.77 ID:oUECwn7k0
鞠莉「放して、放しなさいっ!」
ダイヤ「鞠莉さん、車に……!」
鞠莉「諦めないって言ったでしょ!」
もう一度手にぐっと力を込める。
鞠莉「私が、ダイヤを、助けるの……っ!」
鞠莉「だって、だって……っ!」
だって、ダイヤが言ったのだ。
「想う」気持ちが大事なんだと。
それなら、目の前のダイヤを助けるためなら、自分だって。
鞠莉「っ……!」
ダイヤがどんどんと引っ張られていく。
苦しそうな顔で、下半身を靄に包まれて。
136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:51:23.06 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「鞠莉、さん…っ、ま、り、さん……、手を、放してください。わたくしからの、お願いですわ……」
鞠莉「嫌って言ってるでしょ!」
ダイヤ「この、ままでは…っ……2人ともっ!」
鞠莉「助かるの! 2人とも!」
鞠莉「あとっ! 乗り込むだけなんだからっ!」
あと、少し。
自分がこの手を離さなければ。少し後ろに引っ張ることができれば。
ダイヤ「鞠莉さ…っ……!」
何か言いかけたダイヤが、息を呑んだ。
どこか別の方向をじっと見つめている。
鞠莉「何してるのっ! 早く!」
ダイヤ「……」
ダイヤ「でし、ったら……! 鞠莉、さん……。わたくしが、合図を出したら、一気に引っ張ってくださいませんか……?」
鞠莉「合図? 合図があったら引っ張ったらいいのね!? 任せて!」
ダイヤ「ええ、身体ごと、思い切りお願いします」
ダイヤがにこりと微笑んだ。
137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:52:18.49 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「それでは…、1、2の……」
合図を待つ。
ダイヤはまっすぐ、少し泣きそうな顔でこちらを見ていた。
鞠莉「……ダイヤ?」
嫌な予感がした。
もう一度手を握り直そうと、ダイヤの手首をしっかりつかむ。
ダイヤ「3ッ!」
思い切り手を引こうとする。
くるりと。
手首を捻り返される。
鞠莉「ダイ……っ!」
トン、と。
軽く肩を押されて。
思いきりダイヤを引っ張ろうとした自分は、身体ごと車の中に倒れこんだ。
138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:53:20.13 ID:oUECwn7k0
鞠莉「ちょっ、何して……っ!」
慌てて外に出ようとした自分の目の前で、バタンと扉が閉められた。
鞠莉「……っ、ダイヤぁっ!」
ガラス越しに、ダイヤがぐんと闇に引き込まれていくのが見えた。
鞠莉「ダメっ! ダイヤ! ……ダイヤっ!」
ダイヤの身体は黒い腕と靄に覆われてもうほとんど見えていない。
今から、外に出ても、助かるかどうかわからない。
でも。
鞠莉「いなくならないって言ったじゃない! 絶対、約束だって……っ!」
鞠莉「私が、助ける。『アレ』も追っ払って、絶対、絶対っ!」
ぐっと足に力を込めて、身を起こす。
ドアの取っ手に手を伸ばして、外に――
『ダメだよ、鞠莉。開けちゃダメ』
懐かしい、声を聞いた。
139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:54:32.81 ID:oUECwn7k0
鞠莉「ぇ……」
思わず、手を止めた。
鞠莉「か…なん…? 果南!?」
返事はない。
姿も見えない。
感触もない。
それでも、そこに「いる」のだと、確かにそう思った。
鞠莉「だって、ダイヤがっ! ダメだって、そんなのっ!」
『開けちゃ、ダメだよ』
また、声がした。
ぐるぐると感情が混ざっていく。
鞠莉「どうしてっ! どうして……っ!」
聞きたかった。
聞きたくなかった。
ずっと、ずっと聞きたかったはずの声なのに。
鞠莉「どうして、今なのよ…っ…! どうして、そんなこと言うのよ…っ……!」
どうしたらいいかわからなくて、窓ガラスに手をついてへたり込んだ。
鞠莉「ダイヤぁ…っ、果南…っ…!」
140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:55:39.85 ID:oUECwn7k0
運転手「……お嬢様」
鞠莉「……っ!」
小原家の運転手が、静かに次の命令を聞いてくる。
事情があるからと、何も尋ねないよう言い含めてあった。
頼めば、開けてくれる。
開けて、ダイヤを引っ張り込んで、発車して…。
鞠莉「……」
鞠莉「このまま、何も。私がいいって言うまで――」
鞠莉「窓も扉も、…っ…開けないで」
絞り出すように、そう言った。
ぎゅっと目を瞑り、膝を抱え込む。
鞠莉「ごめん…ごめんなさい……っ」
拳を握りしめて、ただただ涙を零していた。
141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:56:46.61 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
果南「…鞠莉……。ごめんね……」
鞠莉は、しばらくずっとすすり泣いていた。
もう自分の声は聞こえていないようだった。
窓ガラスの外を見ると、しばらく前に『アレ』は姿を消していた。
ぐったりと横たわるダイヤの姿が見える。
不思議なことに、黒い痣はすっかり消えていた。
鞠莉「ダイヤ……」
ぼうっと顔を上げた鞠莉が、外を確認する。
ガチャリと車の戸を開け、外に出る。
鞠莉「……冷たい」
鞠莉はそっと『ダイヤ』の頬に手を当てて、一言だけぽそりと呟いた。
周囲にはダイヤのペンやら財布やらが散乱している。
抵抗したときに飛び出たのだろう。
購入した雑誌も道の端の方でパタパタとページを揺らしていた。
鞠莉はその後もくもくと、丁寧にダイヤの荷物を回収した。
鞠莉「ダイヤ…。これに、ヒントがあるのよね。何かに、気づいたのよね……っ」
硬い地面に膝をつき、ぎゅっと、雑誌を抱きしめる。
そして『ダイヤ』を背負い、そっと車に乗せて、去っていった。
142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:57:50.93 ID:oUECwn7k0
果南「善子……いる?」
鞠莉と一緒に車を降りた自分は、辺りを見回していた。
善子「……こっちよ」
善子は道の隅に座っていた。
脇にはダイヤが横たわっている。
善子「なんだか変な気分ね。さっき『ダイヤさん』が運ばれていったのに……」
果南「…そうだね」
善子「……」
果南「……」
穏やかな顔で目を閉じているダイヤを見る。
2回も『アレ』に襲われて、それでも誰かのために動いていた。
果南「ダイヤは、すごいね……」
善子「……うん」
果南「ホテルに戻ろう。鞠莉が心配だよ」
善子「ええ。ルビィも、きっと……」
果南「よ、っと……」
ダイヤを背負い、善子と2人で歩きだす。
143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:58:35.42 ID:oUECwn7k0
――――――
――――
ダイヤ「ん……」
規則的な揺れに、目が覚めた。
ダイヤ「…わたくし、は……?」
ぼんやりとした頭で、辺りを見回す。
まず見えたのは青い髪。
ダイヤ「か、なんさん……?」
そして隣を歩く黒いお団子頭。
ダイヤ「善子さん……?」
果南「あ、起きたんだね……」
やけに近いところで声がして、自分が背負われていることに気が付いた。
144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 23:59:24.17 ID:oUECwn7k0
ダイヤ「お、下ろしてください! こんなことされなくても歩けますわっ! ほら、果南さ――」
恥ずかしさから声を上げて、気が付いた。
果南と、善子。
善子「もう、ダイヤさんってば……」
果南「ふふっ、随分久しぶりなのに、第一声がそれかぁ……。ちょっと傷つくな、なんて」
ダイヤ「あ…、ぁ……」
ダイヤ「わた、くし…、わたくしっ! ずっと、ずっとっ!」
胸を満たした、暖かくて切ない気持ちが流れ出す。
――見間違いじゃなかった。
2人は少し困ったように、それでもふわりと微笑んで。
果南「うん」
善子「ずっと見てたわ」
「「…お疲れさま」」
145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:00:22.07 ID:BG0OHyQa0
――――
ダイヤ「魂だけ?」
果南「うん、たぶんね」
善子「「こちら側」の世界に来ちゃった……そういうことよ」
2人から大まかな説明を受ける。
信じられないことばかりだが、2人が目の前にいることが何よりの証拠だった。
ダイヤ「鞠莉さんは……」
果南「助かったよ。今、『ダイヤ』を連れてホテルに向かってる」
ダイヤ「そうですか…、よかった……」
善子「よくないわよ、まったく。勝手なんだから」
果南「マルを守って喰われた善子は人のこと言えないよ」
善子「それを言うなら果南さんもでしょ! ほんとに怖かったんだから!」
なんだか緊張感があるようなないような。
ダイヤ「……ふふっ、変わりませんわね」
久しぶりに笑った気がした。
146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:01:09.63 ID:BG0OHyQa0
ホテルの前につく。
車で向かった鞠莉は、バスで追った自分たちより早くついているはずだ。
ダイヤ「しかし不便ですのね、この状態は」
扉を触ることができないことが、こんなにも面倒だとは思わなかった。
ダイヤ「興味深くもありますわね。こんな…、幽霊? どう言ったらいいのでしょうか……」
ダイヤ「あ、人が来ましたわよ」
後方から人がやってくる。
運のいいことに、曜とルビィだった。
2人とも暗い顔で、涙を浮かべて小走りで入口を通る。
ダイヤ「ぁ……」
2人の顔を見て、一気に気持ちが沈んでいく。
「運がいい」?
果南と善子と再会して少し浮ついていた自分が恥ずかしかった。
残してきてしまったのだった。
彼女たち仲間を、鞠莉を、妹を。
その怖さを、つらさを、自分はよくわかっていたはずだった。
147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:01:53.35 ID:BG0OHyQa0
果南「ダイヤ、ここからは、少しきついかもよ」
善子「私たちも、ね」
2人が暗い顔を見合わせている。
身体へのダメージのことはすでに説明を受けていた。
ダイヤ「もし…もし、『お二人』が重傷なようでしたら……」
2人の顔を見る。
ダイヤ「魂のあなたがたも、ここで安静にしていただきますわ」
9人で向かう未来のために。
1人の犠牲も、考えたくなかった。
その直後、部屋に入り、今日の事件で何一つ無事では済まなかったのだと、痛感した。
――――
――
148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:03:12.75 ID:BG0OHyQa0
――――――
――――
曜「ダイヤさんっ!」
ルビィと2人で部屋に飛び入る。
まず目に入ったのは、ベッドに横たわる『ダイヤ』だった。
ルビィ「……嘘。…嘘っ、嘘っ! お姉ちゃんっ、お姉ちゃんっ!!」
ルビィがどさりと荷物を落とし、『ダイヤ』に駆け寄った。
部屋の状況は悲惨だった。
ぼろぼろの服を着てあちこち擦りむいた鞠莉は、俯いて一言も発さずに『ダイヤ』に寄り添っていた。
千歌「よ、曜ちゃん……! 果南ちゃんがっ、どうしよう、どうしよう……っ!」
千歌は荒い息で救急セットから包帯を出して、必死に『果南』の手当てをしていた。
『果南』の口の端には血の跡があり、脱がせた横腹には目をそむけたくなるような打撲の痕があった。
花丸と梨子も瞼を震わせながら、『善子』の、遠目で見てもわかるくらいにはっきりと折れてしまった腕に、添え木をあてている。
149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:04:10.43 ID:BG0OHyQa0
最初、自分とルビィは『果南』と『善子』の容体が急変したとの報せを受けた。
動揺して泣いていた千歌は、何とか『果南』が急に血を吹いたこと、『善子』の腕が突然折れたことを伝えてきた。
慌ててルビィとホテルに向かう途中に、ダイヤが倒れたと、梨子から電話がかかってきた。
ふらりと倒れそうになるルビィを支えながら、なんとかホテルにたどり着いたのだった。
曜「ダイヤ、さん……」
ずっと自分たちを支えてくれた、2人の3年生。
その1人が倒れたという事実に、どうしようもない絶望が襲ってくる。
曜「た、たしか、今日は鞠莉さんと……っ!」
2人で買い物の予定だったはずだ。
曜「ま、鞠莉さん…っ、何が……っ!」
鞠莉は真っ白な顔をさらに青ざめさせて、震えていた。
曜「ご、ごめん、私、また……」
150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:05:13.19 ID:BG0OHyQa0
鞠莉「いいの、曜。私が、最後の3年生なの。しっかりしなくちゃ……」
鞠莉「関係、なかったの。襲われるのに、時間は関係ない。日没前でも、襲われる」
曜「……っ!」
目の前が、また一段、暗くなった。
日没前でも襲われる?
今の自分たちが、「日中は襲われない」という前提の中、何とか精神を保てていることはわかっていた。
それが、四六時中警戒しなければならないとなると。
曜「そんなっ……!」
鞠莉「ダイヤが、何かに気付いたみたいで……。本屋に行って……。そしたら、ダイヤの痣が痛んで……」
ぽつりぽつりと鞠莉が説明を始める。
花丸がバッと、自分の痣を押さえた。
151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:06:16.07 ID:BG0OHyQa0
鞠莉「ダイヤは、『アレ』が近づいている証拠だって……」
花丸「マル、全然知らなかった……」
鞠莉「…それで、襲われて……。ダイヤが私に逃げろって言って……」
鞠莉「それで…っ」
ルビィ「…っ……!」
ルビィ「それで…っ、どうしたんですか……っ!」
ルビィ「どうして…っ! お姉ちゃんを放って――っ」
花丸「ダメっ!」
曜「ルビィちゃんっ!」
鞠莉に詰め寄ろうとしたルビィを、2人がかりで止める。
鞠莉が、そんなことをしたはずがないのだ。
そんな簡単に諦めたはず、ない。
何か、事情が……。
鞠莉「果南の声を、聞いたわ」
千歌「え……?」
152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:07:50.76 ID:BG0OHyQa0
誰もが手を止めていた。
痛いほどの静寂が耳を打つ。
曜「果南ちゃんの声って……! そんなはず……」
ないと、本当に言い切れるだろうか。
鞠莉が適当なことを言うはずがない。ましてや、果南のことで。
鞠莉「嘘じゃない。私だって、どうしてかわからない。でも…果南が、あの時果南が車の中に……「いた」の」
梨子「で、でも……果南さんは私たちがずっと見てました。千歌ちゃんも、花丸ちゃんも一緒に……」
鞠莉「身体を見たわけじゃないの。あくまで声を聞いた、それだけ」
鞠莉「それに…っ、考えてみれば、『アレ』は不自然に、私たちから離れたわっ! 絶対間に合わなかったのに、本屋の入口で私たちを追い詰めたのに……」
曜「それは……、鞠莉さんが、追い払ったんじゃ……。その、「想い」で……」
ダイヤの言っていた仮説を思い起こしながら鞠莉に問いかける。
153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:09:20.19 ID:BG0OHyQa0
鞠莉は悲しそうに首を振った。
鞠莉「私は、何もできなかった。ダイヤの手を引くこと以外、何も。嘘じゃないっ……ほんとに…っ、ダイヤのこと、想ってた……っ!」
ルビィ「ごめんなさい……、鞠莉さん、ほんとは、分かってる…っ、ごめんなさい……」
ルビィが鞠莉の腰にしがみつく。
ふと、千歌が何かに気付いたように口を開いた。
千歌「そ、そういえば、果南ちゃんと善子ちゃんが、その、「怪我」したの……ちょうどそのころだったような……」
花丸「たぶんそうずら! 日が落ちる直前だったから……」
曜「それって……」
全員が顔を見合わせる。
鞠莉「あの場に、果南がいた。果南だけじゃない。たぶん善子も」
梨子「2人が、鞠莉さんとダイヤさんから『ソレ』を遠ざけた……?」
花丸「きっと、その途中で怪我を……」
鞠莉「…私たちを、助けるために……っ」
鞠莉が果南の身体から目を逸らす。
154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:10:37.96 ID:BG0OHyQa0
千歌「じゃ、じゃあ、果南ちゃんたちは、幽霊みたいにずっと私たちの傍にいる……?」
曜「だから、私たちには見えない……?」
梨子「でもおかしいよ。果南さんたちの声が聞こえるなら、きっともう話しかけてくれてるはず。でも……」
誰もそんな声は聞いていない。
鞠莉以外は。
ルビィ「『アレ』が近くにいる時だけ、聞こえるとか……」
鞠莉「……」
曜「ど、どうしてそう思うの?」
ルビィ「『アレ』に襲われたとき…ルビィ、思ったんだ。ああ、この先は別世界なんだって。きっと『アレ』は普段は「向こう」にいて……」
ルビィ「あの口の奥には……冷たい「向こう」が待ってるんだって」
花丸「なんとなく、わかるずら……。マルも、きっと、「向こう」に果南さんがいるんだ、って……」
曜「『ソレ』を通して、声が聞こえた……?」
『ソレ』がいるときだけ、その「別世界」とやらと繋がると言いたいのだろうか。
だから、「別世界」にいる果南が「こちら」に声を残せると。痕跡を残せると。
きっとそれは、『ソレ』と関わった人にしかわからない感覚なのだろう。
鞠莉も異論を唱えない。
155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:11:52.68 ID:BG0OHyQa0
千歌「じゃあ、じゃあさ、その、「別世界」に2人――ううん、3人がいるとして、どうしたら……っ」
連れ戻せるか。
「「「……」」」
千歌の言葉で、部屋に沈黙が落ちる。
誰もが、必死で考えていた。
それは、自分たちがはじめて前向きに行動することを考えた瞬間だった。
連れ戻す。
ただ守るんじゃなくて、連れ戻す。
カチコチと時計の音だけが部屋に響く。
花丸「痣……」
唐突に花丸が口を開いた。
ルビィ「え?」
花丸「痣は、『アレ』が来る予兆だって、ダイヤさん……」
鞠莉「え、ええ。そう言ってたわ」
花丸「じゃあ、今マルは、『アレ』と繋がってる……」
鞠莉「あ、s、sorry……。怖がらせようとしたわけじゃあ……」
しまったという顔で鞠莉が手を振る。
156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:13:35.06 ID:BG0OHyQa0
花丸「ううん、大丈夫ずら。そうじゃなくて、『アレ』と繋がってるってことは、その向こうの……」
ルビィ「お姉ちゃんたちとも!?」
ハッと息を呑んだ。
曜「そういえば、痣について考えたこと、なかったかも……」
千歌「う、うん。てっきり、絞められてできた痕かなって思ってた」
花丸「マルもそう思ってたずら。でも鞠莉さんの話を聞いて……」
鞠莉「本屋でダイヤの痣がドクドクしていたって話ね」
花丸「うん。それで、むしろこの痣は……、『アレ』の一部なんじゃないかなって」
ルビィ「『アレ』の一部?」
不穏な言葉に、皆がぎょっとしている。
花丸「だって、善子ちゃんたちにはついてないし、ダイヤさんの痣も消えちゃったし……。ただ絞められた痕なら全員についていてもおかしくないずら」
鞠莉「確かにそうね……。なら、マルとダイヤで共通点は……」
それには、全員がすぐに思い当たった。
157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:14:48.14 ID:BG0OHyQa0
曜「2人とも、襲われた途中で助けられた……?」
花丸「『アレ』は、ほんとはマルに痣なんか、残すつもりじゃなかったんじゃ、ないかな……」
梨子「じゃあダイヤさんの痣が消えたのは……」
鞠莉「今度は、誰にも邪魔されなかった……」
ルビィ「お姉ちゃんの、その、魂――でいいのかな。魂ごと、「向こう」に行っちゃった……?」
『ソレ』からしてみれば、自分の一部も一緒に回収した。
千歌「う、うー…っ、わかんなくなってきた……。『ソレ』は私たちを「別世界」に引っ張っていっちゃうんだよね?」
曜「そう。……でも、私たちが『ソレ』に対抗すると、『ソレ』の一部がこっちに残る……」
綱引きのようなものだろうか。
『ソレ』は自分たちを「向こう」に引きずり込む。
自分たちはそれに抵抗して、上手く弱点を突けると『ソレ』を逆に「こちら」へ引っ張ってこられる。
158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:15:55.11 ID:BG0OHyQa0
千歌「じゃあ、じゃあ、もっと対抗できたら……、もっと奥まで、引っ張ってこれたら!」
梨子「ひょっとしたら、その向こうから、あの3人も……」
「「「連れ戻せるかも、しれない…」」」
無茶苦茶だった。
論理も何もあったものじゃない。
ダイヤが起きていたら、きっと鼻で笑うのだろう。
それでも、その馬鹿みたいな妄想を、涙を流して語り合った。
もう後がなかった。
誰が襲われても、倒れても。
自分たちの中の何かが切れてしまうような気がしていた。
159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:16:51.75 ID:BG0OHyQa0
ルビィ「でも、結局どうやって……」
ルビィの言葉にまた皆が黙り込む。
「相手を想う気持ち」では撃退もできないことが、鞠莉の話から判明したばかりだった。
千歌「そういえば鞠莉さん、ダイヤさんが何かに気付いたみたいだって」
鞠莉「詳しくは、聞いてないの」
鞠莉「ただ、スクールアイドル、とだけ……。そして昔の雑誌を探していたわ」
梨子「昔の雑誌……?」
鞠莉「ええ…ちょっと待って、これよ。この、雑誌」
ルビィ「あ、それ……。お姉ちゃんとよく読んだやつだ……」
ルビィが小さな声を上げた。
鞠莉が取り出した雑誌は、買ったばかりにしては表紙もくしゃくしゃで、ぱらぱらめくっただけで破れているところが見つかった。
曜「走ってた途中で破れたのかな……」
鞠莉「鞄からも飛び出していたし、そうかもしれな――…っ!」
同意しかけた鞠莉が目を見開く。
唐突にガサゴソとダイヤの服のポケットに手を突っ込んだ。
160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:17:46.03 ID:BG0OHyQa0
ルビィ「ま、鞠莉さん……?」
鞠莉「これ……」
鞠莉が広げて見せたのは、雑誌の切れ端だった。
それも記事を破ったものではなく、ただページ数の部分だけをちぎり取ったものだった。
ルビィ「25ページ……?」
梨子「裏にも何か書いてあるよ」
鞠莉「「衣装」……?」
鞠莉「これ、ダイヤの字よ…。ダイヤ、いつの間に……」
呆気にとられた顔で、鞠莉が紙片を見つめている。
千歌「それ、ダイヤさんからのメッセージなんじゃ……っ!」
千歌の言葉に皆で慌てて小さく跡が付いた25ページを開く。
曜「え、っと…前のページの、化粧品の宣伝の続き、みたいだね」
なんてことはない。
人気のスクールアイドルが使っている化粧水を紹介する、という至ってありふれた記事だった。
何か意味があるのだろうか。
161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:18:48.13 ID:BG0OHyQa0
ルビィ「……」
花丸「ルビィちゃん……?」
ルビィ「25…25……にこ……矢澤、にこさん!」
突然ルビィが叫ぶ。
千歌「μ'sの……!」
ルビィ「鞠莉さん、その雑誌っ! その号、確か……っ!」
さっと目次に目を走らせたルビィは、あるところでハッと息をのんだ。
梨子「『音の木坂学院アイドル研究部部長、独占インタビュー』……?」
ルビィ「きっと、こっちに何か……!」
ルビィの白い指が、ページを開いた。
『μ'sの影のリーダー?アイドル研究部部長、矢澤にこのアイドル美学』
そんな、少し仰々しいタイトルで始まった記事は、シンプルなものだった。
記者の質問に対して矢澤にこが答えていくスタイルで、
内容もアイドルになった理由から、普段のメンバーの素顔、一日のタイムスケジュールなど、変わったものはない。
その意識の高さ、意志の強さに感心しながら読んでいた。
ただ…
『矢澤 ――アイドルは、皆を笑顔にするものだと思っています。そのために、私はここでこの衣装を着ているんです』
終わりの一文が妙に印象的で、心に響いた。
162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:20:18.63 ID:BG0OHyQa0
「「「……」」」
何度目かという静寂が訪れる。
ダイヤがこの記事に込めたメッセージは何なのか。
口を開いたのは千歌だった。
千歌「これだよ……。これだよっ! ダイヤさんは間違ってなかった! 「想う力」だった! 誰かの笑顔を願う気持ちが、『アレ』を……っ!」
鞠莉「ま、待って! でも、それなら私だって…っ!」
助けられたはず。鞠莉がそう叫んだ。でも。
曜「ううん! 効いてた! 鞠莉さんの想いは、効いてたんだよ……!」
曜「だから、果南ちゃんの声が聞こえた! 「向こう」側から引っ張ってこれた!」
鞠莉の手を握って叫ぶ。
『ソレ』がいたからだけじゃない。
きっと鞠莉の力があったからこそ、『ソレ』との綱引きで、少しだけ引っ張ってこれた。
「向こう側」から少しだけ。
鞠莉「そう、なのかしら…っ……。私、ちゃんと、できてたのかな…っ……!」
千歌「1つじゃ、ないんだよ。必要な物って、きっと1つじゃないんだよ」
花丸「1つじゃない……?」
『ソレ』に対抗するために必要な、もう1つのもの。それは――
鞠莉「「衣装」…っ。そう、そうなのね、ダイヤ……」
紙片に書かれた「衣装」の文字。
163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:22:06.05 ID:BG0OHyQa0
梨子「そうだ、そうだよ! 花丸ちゃんを守ったのは、堕天使の衣装を着たよっちゃんだった! ロザリオじゃなかった、衣装が……!」
ルビィ「ルビィの時は、ひょっとして、あの段ボールで作った羽が……?」
曜「うん、きっとそうだよ。何で作ったかは大事じゃないんだ。どんな気持ちでそれを持つのか……。それが重要なんだ」
鞠莉「衣装さえ、衣装さえあれば……」
曜「勝てる……! きっと勝てる!」
千歌「で、でも! 善子ちゃんは最後……!」
花丸「……」
善子は、衣装があって、花丸を助けようとした。
それでも、最後には倒れてしまった。
花丸「たぶん……善子ちゃんは最後は1人で立ち向かった…んじゃないかな。マルが起きたとき、扉は閉まってた。きっと、善子ちゃんは扉を閉めて、その後1人で……」
花丸が悲しそうに目を伏せる。
千歌「笑顔を願う気持ちが弱くなっちゃったってこと、かな……」
曜「じゃあ、必要なことは、笑顔を願う相手と一緒にいること、そして……」
梨子「……衣装!」
ルビィ「――それじゃあ、ルビィたちの衣装は、今どこに……?」
千歌「……私の家。曜ちゃんと、梨子ちゃんと、ずっと前に新曲の打ち合わせをして、そのままなんだ」
164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:23:37.81 ID:BG0OHyQa0
ずっとずっと前の話。まだ、東京に行く前の話。
それでも。
鞠莉「新、曲……。ふ、ふふっ、それは、何としてでもやらなきゃ、ね?」
ルビィ「うんっ…! その衣装を着て、9人で踊って……」
花丸「うん、絶対、絶対したい、ずら……っ!」
9人で走り出す確かな未来を想像する。
自分たちが、これから何をして、何をしたくて。
ずっと考えもできなかったことを、考える。
全員の声に力が込もっていくのを確かに感じた。
鞠莉の情報と、ダイヤのメッセージ。
掴んでくれた。伝えてくれた。
千歌「ありがとう……っ、帰ってきてくれて、ありがとう鞠莉さん……っ!」
千歌が、鞠莉の胸に顔をうずめた。
鞠莉「千歌っち…、皆……」
鞠莉「ダイヤ、果南……、ありがとう。私――私、伝えたよ。ちゃんと、伝えたから……っ」
鞠莉「だから私……、私ね…っ……、帰ってこれて、よかったよ……」
口をぎゅっと結んだまま、目から大粒の涙を流しながら、ふるふると声を震わせて、鞠莉は久しぶりの笑顔を見せた。
165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:24:56.57 ID:BG0OHyQa0
――――
千歌「……全員は、ここを離れられないよ。だから、私が行くね」
鞠莉「……いいの千歌っち? いつでも襲われる可能性があるってわかった以上……」
千歌「えへへ、私の家だもん。私が行くよ」
困ったように千歌がはにかむ。
千歌「鞠莉さんも、ルビィちゃんと花丸ちゃんも、すり傷だらけだし……。それに、皆にばっかり、つらいこと……」
鞠莉「……そんなことない。3人がいなくちゃ、耐えられなかったわ」
千歌につられて、自分も目を伏せる。
自分たち2年生は誰も襲われていない。
その事実に、安堵と、ほんの少しの"申し訳なさ"を感じてしまっていた。
それを異常だと判断できる余裕は、もうなかった。
曜「私も行く」
千歌に続いて、名乗りを上げる。
曜「私が、千歌ちゃんの笑顔を想い続ける。私が千歌ちゃんを……守るよ」
千歌「曜ちゃん……うん、ありがとう」
166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:25:48.96 ID:BG0OHyQa0
梨子「私も」
梨子「私も行くよ。千歌ちゃんが心配だし、曜ちゃんは無茶しかねないし。私が、2人のこと、想ってる」
優しく梨子が笑う。
千歌「梨子ちゃん……」
曜「うん、……梨子ちゃん、ありがとう」
千歌「3人で、行こう。それで、3人で、帰って来よう」
千歌の瞳が力強い輝きを放つ。
それだけで、何でもできる。そんな勇気が湧いてきた。
曜「うん。3人で」
梨子「3人で」
千歌「それで、また9人で歌を歌おう。衣装を着て、踊ろう。スクールアイドルを、やろう」
6人が、目を合わせて頷いた。
167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:27:04.82 ID:BG0OHyQa0
―――――
―――
千歌「はあっ…はあ……、もう少し!」
千歌の家が見えてくる。
いつ襲われるかわからないという緊張が、自分たちを小走りにさせていた。
浦の星に転校してきてからすっかり通り慣れたこの道も、なんだか不気味に思えてくる。
何故だか――今日、襲われる。そんな確信があった。
梨子「いい……? もう一回確認。千歌ちゃんの部屋に着くまでは私と曜ちゃんで千歌ちゃんを守って、衣装を手に入れたら千歌ちゃんが自分で着る」
曜「了解であります!」
簡単な作戦を確認した自分に、曜が敬礼を返してくる。
自分は善子の堕天使の衣装を着て、曜はルビィの羽を持ってきていた。
千歌の衣装だけ用意できていない。
反対する自分たちを押し切って、この布陣で行こうと言い張ったのは千歌だった。
梨子「千歌ちゃんの部屋は……」
ベランダ越しに会話していたころを思い出す。
大丈夫。まず階段を上って……。
ぐるぐると頭の中でシミュレートする。
168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:28:18.82 ID:BG0OHyQa0
まだ見たことのない『アレ』。
皆が一様に怯える『アレ』。
目の当たりにしたとき、自分がどうなるのか想像もつかなかった。
梨子「守る…、千歌ちゃんと、曜ちゃんを……」
前を走る2人をじっと見据える。
帰るんだ。3人で。
キッと見据えた高見家の前に、『ソレ』はいた。
曜「千歌ちゃん……っ、なんか、門に黒いのが!」
千歌「あ、あれが……」
梨子「…っ……」
周りに溶け込んでしまいそうな、それでいて重苦しい、黒い靄。
ぎらぎらとした不揃いな目と、不気味に裂けた口――その奥の闇を覗いて、ルビィの言っていた意味が分かった気がした。
冷たい、闇の底。
その向こうには、「別の世界」が……。
梨子「今なら、わかるよ。あの中に――」
千歌「3人がいるっ!」
169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:29:20.69 ID:BG0OHyQa0
曜「千歌ちゃん、梨子ちゃん、つっこめる!?」
梨子「…っ、だい、じょうぶ……っ!」
恐怖に負けそうな足をぱしっと叩き、走り続ける。
まず曜が戸を開ける。
『アアアアアァァァアアアアアアッッッ!!』
梨子「っ!」
耳の奥から凍り付きそうな声を発し、『ソレ』が曜に襲い掛かった。
千歌「曜ちゃんっ!!」
梨子「千歌ちゃんっ! 今のうちに、中に……!」
千歌「……っ、うんっ!」
曜の横を通り抜け、千歌が中に。
梨子「よっちゃん…、力を貸して……っ!」
ぎゅっと善子の衣装の裾を握りしめ、『ソレ』の中へ。
『曜ちゃんから離れてっ!!』
―――きぃん
硬い音がした。
170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:30:12.83 ID:BG0OHyQa0
再び恐ろしい叫び声をあげて、『ソレ』が曜から一歩離れる。
梨子「き、効いた……っ! 効いてるっ!」
曜「よ、よしっ、千歌ちゃんを追わなきゃ!」
『アアアアアアイイイイタアイイイイイクヤシイイイッッッ!!』
『ソレ』はすぐに体勢を立て直し、今度はこっちに無数の腕を伸ばしてくる。
『梨子ちゃんに触らないでっ!!』
―――きぃん
曜の強い声とともに、また硬い音が。
一歩、『ソレ』が後ずさる。
曜「梨子ちゃん、早く中に!」
梨子「曜ちゃんもっ!」
―――きぃん
―――きぃん
お互いがお互いを守りながら、少しずつ家へ入る。
171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:31:25.06 ID:BG0OHyQa0
梨子「おかしい…おかしい…っ、ルビィちゃんの話と違う……」
『ソレ』を退けつつ、少しずつ焦る気持ちが生まれてきた。
ルビィの話では、一度高い澄んだ音が鳴り、『ソレ』は致命傷を負ったかの如く暴れまわったという。
しかし、目の前の『ソレ』は何度退けても、不気味にニイッと裂け目を歪ませながら迫って来ていた。
梨子「曜ちゃんっ! 何かがおかしいっ!」
曜「えっ!? どういうこと!?」
梨子「少ししか、効いてない!」
曜「……」
一瞬考えた後、曜は後退のスピードを上げた。
曜「早めに千歌ちゃんと合流しよう! 少し時間が稼げればいいから!3人で力を合わせて、それで……!」
梨子「う、うん、わかった!」
現状曜以上の案がないのは確かだった。
―――きぃん
―――きぃん
その間にも『ソレ』の腕はのびてきていて、そのたびに何とか押し返す。
172: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:32:01.54 ID:BG0OHyQa0
―――きぃん
曜「階段だよ! 足元気を付けて!」
―――きぃん
梨子「左に曲がるよ!」
―――きぃん
曜「この隣が千歌ちゃんの部屋だ……!」
―――ぴしり
梨子「え……?」
これまでと違う音に、一瞬呆然とする。
何かに、亀裂が入ったような。
『―――アアァァアアア』
にわかに『ソレ』の笑みが深くなり、腕が何回も振り下ろされた。
173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:32:51.44 ID:BG0OHyQa0
―――ぴしり
曜「な、なにこの音……っ!」
―――ぴしり
梨子「もしかして、もう、限界なのかも……っ!」
どんどんと、不快な音は大きくなっていって。
梨子「早くっ、中に入らないと――っ」
―――パリィンッ……
梨子「っ…ぁ……」
小さな余韻を残して、何かが砕ける音がした。
曜「梨子ちゃんっ……!」
ぐいっと曜に部屋に押し込められる。
174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:33:42.38 ID:BG0OHyQa0
千歌「梨子ちゃんっ!」
無事に衣装を着た千歌と場所を入れ替わる。
千歌「曜ちゃん!」
曜の方へ駆け出しながら、千歌が叫ぶ。
『来ないでっ!』
―――きぃん
千歌の周囲で、また硬い音がした。
曜「千歌ちゃんっ! 助かったよ!」
2人並んで、『ソレ』と向かい合う。
―――きぃん
―――ぴしり
―――きぃん
―――ぴしり
梨子「こ、このままじゃ……っ!」
やはり、上手く押し返せていない。
このままでは、いずれ千歌も……。
175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:34:30.92 ID:BG0OHyQa0
曜「梨子ちゃんっ! やっぱりだめだ! 足りないんだ!」
梨子「足りない!?」
曜「痣だよ! 花丸ちゃんと、ダイヤさんの痣! ――濃さが違った!」
曜の言葉に一瞬黙り込む。
確かに、花丸に比べてダイヤにはくっきりと痕が残っていた気がする。
曜「ダイヤさんの方に、『アレ』の一部はたくさん残った! ってことは、きっとその時の『アレ』へのダメージも……っ!」
梨子「最初から、ルビィちゃんの方が高かった?」
例えるなら、善子は軽傷、ルビィは重傷を負わせた。
つまり――つまり、ルビィは、善子がつけなかった弱点をついた…。
―――きぃん
―――ぴしり
じりじりと2人が後退してくる。
176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:35:13.67 ID:BG0OHyQa0
千歌「だんだん、押されて……っ!」
千歌「梨子ちゃんっ! なんとか、私と曜ちゃんが部屋から押し出すから、その後は…っ!」
梨子「ダメっ! 3人で帰るのっ!」
考えろ、考えろ。
何が足りないのか。
善子の時と、ルビィの時。
何が違ったのか。
ルビィは姉と一緒にいた。善子は途中から1人だった。
本当にそれだけ?
もっと、もっと根本的な違いがあるのではないか。
『アレ』を退けて、世界を繋げるなんて儀式じみたことを可能にする、根本的な何かが――
177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:36:19.93 ID:BG0OHyQa0
梨子「儀、式……?」
―――花丸『明治23年、新年の神事。楽師と装束を揃え儀を執り行い――』
不意に、本に埋もれて寺の資料を読み上げる花丸の声が頭に響いた。
梨子「楽師と、装束……。装束は、ある。楽師――楽師っ! 音楽っ!」
―――梨子『μ'sのDVDはまだついてたんだよね……』
―――ルビィ『うん、たしかに、まだついてた……』
ルビィと交わした会話を思い出す。
梨子「ルビィちゃんの時は音楽がついてた! 衣装と、笑顔と、最後は音楽っ!」
スクールアイドルの力を伝える、もう1つのもの。
―――千歌『それで、また9人で歌を歌おう。衣装を着て、踊ろう。スクールアイドルを、やろう』
178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:37:01.11 ID:BG0OHyQa0
あるはずだ。この部屋に、千歌のいつも使っているプレーヤーがあるはず…。
ぐるりと辺りを見回すも、すぐには見つけられない。
梨子「千歌ちゃんっ! 音楽プレイヤーは!?」
―――きぃん
千歌「え、な、なんで急にそんなこと……っ!」
―――ぴしり
梨子「いいからっ!」
千歌「携帯プレーヤーなら! 机の上にっ!」
梨子「そ、それじゃあ……っ!」
部屋いっぱいに流せなければ意味がない。
179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:37:40.49 ID:BG0OHyQa0
―――ぴしり
―――ぴしり
曜「梨子ちゃんっ! そろそろ本当に…っ!」
音楽、音楽、とにかく、音が出るものなら何でも…。
梨子「そ、そうだっ!」
あった。音が出るもの。すぐ近くに。
梨子「曜ちゃんっ! 千歌ちゃんっ! あと少しだけっ! 少しだけ耐えて! できれば、窓の近くに!」
千歌「えっ、梨子ちゃん、何を――っ」
戸惑う千歌の声を背に、窓を開け放つ。
梨子「大丈夫……大丈夫っ!」
すぅと大きく息を吸って――
窓から、飛び降りた。
180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:38:32.80 ID:BG0OHyQa0
――――
千歌「曜ちゃんっ! 梨子ちゃんがっ! 窓から!」
曜「え、な、なんでっ!?」
千歌の言葉に本気で頭が混乱した。
―――ぴしり
目の前の音に意識を無理やり引き戻す。
不穏な音は、どんどんと大きくなっていた。
隣で『アレ』の腕を防いでいる千歌からも、ついに壊れた音が聞こえ始めていた。
―――ぴしり
千歌「曜ちゃんっ! 変な音がするよぉっ!」
曜「大丈夫、大丈夫っ!」
曜「千歌ちゃん! 衣装貸して!」
千歌が抱える衣装の山を受け取る。
メンバー全員分ともなると、さすがに重かった。
181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:39:18.20 ID:BG0OHyQa0
曜「千歌ちゃんっ、先に奥に!」
千歌「う、うん……っ!」
2人で部屋の奥に行って窓を背にする。
もう逃げ場はない。
それこそ、梨子のように飛び降りなければ。
梨子は、いったい何をしに飛び降りたのだろう。
一抹の不安を首を振って紛らわす。
大丈夫。梨子は助けに来てくれる。
『アアアアァァァアアッッッ!!』
―――ぴしり
曜「梨子ちゃん、早く早く……っ!」
―――ぴしり
千歌「梨子ちゃん……っ!」
―――ぱりぃぃん……
自分の胸元から、力ない音が聞こえてきた。
182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:40:14.78 ID:BG0OHyQa0
千歌「よ、曜ちゃんっ!」
曜「千歌ちゃん、ダメっ! 後ろに――」
梨子「跳んでええええええええっ!!」
後ろで、梨子が絶叫した。
いつの間にか隣の家の自分の部屋の窓を全開にし、ベランダから身を乗り出している。
183: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:41:14.69 ID:BG0OHyQa0
千歌「曜ちゃんっ! 梨子ちゃんがっ!」
曜「うんっ、で、でも、跳ぶ隙が……」
追い詰めたと思ったのだろうか、『ソレ』の腕を振る感覚はどんどん短く、後ずさる距離もどんどん短くなっていた。
曜「最後だから……っ、これで、最後だから!」
隣にいる千歌の手を握る。
曜「誰よりも、願ってる! 千歌ちゃんの笑顔を、誰よりもっ!」
曜「だから、だから千歌ちゃん、一緒に……っ!」
千歌「うん、曜ちゃん、一緒に……!」
手を握り返してくれる。
2人ですぅっと息を吸い込んで。
『『どいてっ!!!』』
―――きぃぃぃん
硬い、大きな音が鳴った。
1歩、2歩、『ソレ』が後ずさる。
梨子「い、今のうちっ!」
梨子「こっちにっ!」
梨子の声のする方に、がむしゃらに。
「「うわああああああっ!!」」
窓枠に足を掛け、跳んだ。
184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:42:13.10 ID:BG0OHyQa0
――――
曜と一緒にごろごろと床を転がる。
あちこちに膝やら肘やらを打ち付けて、しばらく立ち上がれなかった。
千歌「ぅ……!」
梨子「千歌ちゃんっ! 大丈夫!?」
顔を上げると、梨子が緊迫した表情でこちらを見ていた。
千歌「だ、大丈夫…、『アレ』は……」
曜「は、入ってくる!」
梨子「大丈夫。ここで、もう一度っ!」
曜「でも、足りないものって……!」
梨子「音楽だったの! 足りないもの! 音楽だったの!」
千歌「お、音楽……っ!」
梨子は足を怪我したのか、かばいながらピアノの椅子に腰かけた。
窓からは『アレ』がすでに部屋に侵入し、腕を伸ばしてきている。
一刻の猶予もない。
185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:43:06.83 ID:BG0OHyQa0
千歌「何の曲!?」
梨子「…はじまりの曲を! 私たちの! この3人の! はじまりの曲っ! 思い描いた、夢――スクールアイドルの世界のトビラっ!」
曜「千歌ちゃん!」
千歌「曜ちゃん!」
「「梨子ちゃん!」」
しっかりと、曜と手を握り合って、梨子の動作に心を傾けて。
梨子が、ポンと鍵盤を叩いた。
―――きいいいぃぃぃぃぃいいんんん…
高い、澄んだ音が部屋中に響く。
その音は、梨子の旋律に合わせて、さらに高く、さらに澄んで。
自分と曜は、声を合わせて歌っていた。
3人の笑顔を想って。
9人で進む未来を願って。
186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:44:03.53 ID:BG0OHyQa0
『アアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!』
苦し気に、『ソレ』は叫び声をあげる。
ぐるぐると行き場がないように部屋中を黒い靄が荒れ狂い――
突如、一気に自分の方に押し寄せてきた。
曜「千歌ちゃああんっ!!」
真横で、目を見開いた曜が悲痛な叫び声をあげる。
――視界が、黒く染まる。
ぐるぐると、黒い靄の奔流が自分の周りで渦巻いている。
曜の叫び声も、梨子のピアノも、周りの音は何も聞こえない。
187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:45:09.71 ID:BG0OHyQa0
不思議と痛みはなかった。
頭にがんがんと『ソレ』の声が響いていた。
『クヤシイ…クヤシイヨ……ツライ…ネタマシイ……』
それは、今までの荒々しい声とは対照的な、染み出るような薄い声で。
千歌「ねえ…、何が、悔しいの…? 何が、妬ましいの…?」
『クヤシイ…ニクイ……ヤメタイ……カチタイ……』
自分たちと変わらないような、苦悩の声で。
千歌「ねえ…、何が、つらかったの……?」
『………』
『……―――助けて』
呟くような、つい、ため息と一緒に出てしまったような。そんな声だった。
千歌「―――……」
千歌「そっか、そうだったんだ。あなたたちは、きっと――」
――――
――
188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:45:59.59 ID:BG0OHyQa0
曜「――歌ちゃんっ! 千歌ちゃんっ!」
曜の叫び声で、我に返った。
千歌「曜、ちゃん」
曜「千歌ちゃん! よ、よかった!」
千歌「『アレ』は……?」
見ると、黒い霧が梨子の部屋の窓からベランダの向こうへと飛び去るところだった。
身体を起こし、たたっと走って窓を超える。
梨子「千歌ちゃん!?」
189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:46:39.93 ID:BG0OHyQa0
千歌「明日――っ! 浦の星のっ! 屋上で! …待ってる、待ってるから――っ!!」
後ろから、思い切り叫ぶ。
そこで全部、終わりにしよう。
『ソレ』は――聞こえているのかいないのか――くるりと空中で1回転したのち、姿を消した。
曜「千歌ちゃん、いったい……」
梨子「どういう……?」
ぽかんとする2人に、笑いかける。
『アレ』は、倒すものじゃなかったんだ。消さなきゃいけないものじゃ、なかったんだ。
『アレ』は、きっと――。
千歌「帰ろう。衣装を持って。皆のもとに。そして、浦の星に」
190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:47:49.74 ID:BG0OHyQa0
――――――
――――
――
翌日。
一晩中かかった話し合いを終えて。
自分たちAqoursは6人で、浦の星の屋上にいた。
花丸「マルは、いまだに信じられないずら。『アレ』の前でライブをするなんて……」
鞠莉「全くよ。昨日から千歌っちたちには驚かされっぱなしね」
全員が衣装を着て、準備体操をする。
梨子「本当に上手く行くのかな……」
千歌「大丈夫だよ。きっと、上手くいく」
ルビィ「お姉ちゃんたち、来れるかな……」
曜「あの3人だもん。ちゃんと来るよ」
きっと、あれは自分だけが聞いた声。
『アレ』の、奥の奥、底の方に眠る、本心が漏れた声。
191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:49:12.16 ID:BG0OHyQa0
ルビィ「…き、来たよ……!」
梨子「ほ、ほんとに来た……!」
夕方。
茜色に染まる空に、黒い靄が浮かんでいた。
千歌「来て、くれたんだね」
笑いかけると、『ソレ』は戸惑ったようにぐるぐると周りを回る。
千歌「みんな」
自分の呼びかけに、全員の視線が向く。
千歌「私たちは、まだ、はじまったばかりかもしれない」
千歌「スクールアイドルとしては、見習いなのかもしれない」
千歌「でも、みんなで、笑っていたいって……、笑顔を大事にしたいって。そこだけは、忘れないようにしたい」
千歌「だからね」
千歌「皆の、浦の星の、世界中の人の笑顔を願って、歌おう」
千歌「怪我人ばかりだけど。満足には、踊れないかもしれないけど。精一杯、輝こう!」
見つめ返してくれる6人に向かって。
来ているはずの3人に向かって。
192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:49:50.04 ID:BG0OHyQa0
千歌「だからいくよ――っ!」
「「「「Aqours!!」」」」
9人分、声が聞こえた。
9人分の、指が見えた。
「「「っ…!」」」
誰もが、目を見開いて、潤ませて、心の限り。
「「「「サーンシャイーーンっ!!」」」」
193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:50:48.98 ID:BG0OHyQa0
曲が始まる。
9人の、声が重なる。
「いる」。果南も、善子も、ダイヤも。
いつもの場所で、いつもの振り付けを踊っている。
声を弾ませ、汗を流して。
一緒に歌っている。踊っている。
きらきらと橙色の光が反射するとともに、ひらりと揺れる袖が、風になびく髪が、弾ける笑顔が、蜃気楼みたいにゆらゆらと現れては消えた。
千歌「―――ずっと、不思議だったんだ」
どうして、自分たち――スクールアイドルばかり襲うのか。
どうして、東京で大会のあったあの日に現れたのか。
それなのにどうして、スクールアイドルが弱点なのか。
194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:52:05.24 ID:BG0OHyQa0
千歌「簡単な、ことだったんだよね」
千歌「あなたたちは、私たちなんだ」
千歌「必死に、上を見てもがいて、他のグループを羨ましいって妬んで、憎んで……」
千歌「勝たなきゃって思って、笑顔を忘れて……」
――助けて、助けて……って、必死にもがいて。
千歌「ほんとは、戻ってきたいんだよね」
千歌「「こっちの世界」に。明るい、あったかい世界に」
私たちは、まだまだ未熟だけど。
千歌「一緒に踊ることくらいは、できるよ」
今、私たちは9人で踊っている。
「向こう」にいるはずの3人も、こっちで一緒に輝いている。
あなたたちも、戻ってこれる。
千歌「一緒に、笑いあえる。一緒に、輝ける」
千歌「何もかも忘れて、一緒に歌って踊ったら、きっと、世界が変わるよ」
195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:53:01.90 ID:BG0OHyQa0
曜「黒い、霧が……」
梨子「1粒1粒、ばらけていく……」
花丸「あ、マルの痣も……」
鞠莉「いろんな色に、きらきら光って……」
ルビィ「すっごく、綺麗――……」
しゃらりしゃらりと、黒い粒がばらばらな色に煌めいて、夕日に溶けていく。
怖ろしいと思っていた声は、どんどんと明るく、楽し気な笑い声に。
怖ろしいと思っていた目と口は、どんどんと細く、優しい笑顔に。
そうだよ。一緒に笑おうよ。
一緒に歌おうよ。
196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:54:15.57 ID:BG0OHyQa0
千歌「ねえ! 今楽しい? 私はね、すっごく楽しいっ!」
梨子は足を引きずっている。
曜は腕を振りにくそうにしている。
他の皆も、打ち身や擦り傷だらけでぎこちない。
まったく、見せられたものじゃない。
だけど。
千歌「でも、笑顔は輝いてる! 心は輝いてる! ねえ、あなたはどう…?」
千歌「あなたのこころは、輝いていますか?」
一瞬。
ほんの一瞬、七色の霧は動きを止めて。
目を覆わんばかりの光を放った。
197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:55:06.53 ID:BG0OHyQa0
「「「わぁ…っ!」」」
皆が口々に感嘆の声を上げる。
きらきらと、雪のように降り注ぐそれは、数秒後には、すぅっと消えた。
―――――――
―――――
―――
198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:55:55.91 ID:BG0OHyQa0
―――――――
―――――
―――
Aqoursが小さな町医者の入院患者用ベッドを埋めてしまったという話は、瞬く間に広がった。
世間的にはどうやら「事故」だと認識されているらしく、ファンからの手紙や家族、友人の見舞いが絶えない。
方々で暴れたり叫んだりしたことを覚えている人がいないというのは、ありがたい話だった。
千歌「でもよかったよぉー……。果南ちゃんとか、一時期ほんとどうなるかと……」
果南「ま、今はこの通りピンピンしてるからね!」
梨子「むぅ…、なんか納得いかない……」
曜「まあまあ、梨子ちゃんもねんざですんでよかったよ……」
果南と善子が「あちら側」にいたときに負った傷は、起きたときには大部分が消えていた。
むしろ実際に2階から飛び降りた梨子の方が重傷である。
199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:57:04.58 ID:BG0OHyQa0
ルビィ「ルビィも、ようやく擦り傷とか治ってきて……」
花丸「痕も残らなくてよかったずらー……」
心底安心したように、花丸がりんごを頬張っている。
って。
千歌「ちょ、ちょっと花丸ちゃん! それルビィちゃんにあげたやつ!」
善子「ほーら、だから食べ過ぎお寺っ子なのよ!」
花丸「勝手にいなくなっちゃう善子ちゃんには関係ないずら」
善子「ちょ、あ、アンタねえ……っ! ルビィもにこにこしてないで何か言ってやりなさいよ!」
ダイヤ「まったく、一段落ついたと思ったらすぐに騒がしくなりますのね、あなたたちって」
果南「あれー? 鞠莉と抱き合ってわんわん泣いてたのは誰だっけな?」
ダイヤ「ふんっ!」
果南「むぐっ!」
鞠莉「果南はほーんと、お仕置きが必要よね。ね、ダイヤ」
ダイヤ「まったくですわ。何の相談もなしに、お手洗いに行くから先に帰れなどと」
曜「それで誰が帰るかって話だよね、うんうん」
果南「総攻撃!?」
皆が笑っている。
力を抜いて。
緊張し通しだったこの数週間を取り返すように。
200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:57:54.68 ID:BG0OHyQa0
ダイヤ「……それで、退院した後、どうするんですの?」
ダイヤ「以前エントリーした大会が、またありますが……」
大会。
自分たちの目標でありながら、今はその言葉に苦いものを感じてしまう。
千歌「もちろん、出るよ。せっかくだもんね」
千歌「でも、やることは変わらない。あの日の屋上と、何も変わらない」
ふふっと、8人が笑顔を見せてくれる。
千歌「笑顔で、踊ろう。楽しいを皆に。笑顔を皆に。そして皆で、輝こう!」
まだまだ、道のりは長いけれど。どこに続く道かも、わからないけれど。
目を細めて、キラキラ輝く太陽に、手を伸ばした――。
.
201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 00:58:31.86 ID:BG0OHyQa0
終わりです。お目汚し失礼しました。
202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 01:01:59.88 ID:BG0OHyQa0
投稿場所を一本化したくてこちらにも書きました。
以下過去作です。
ダイヤ「あ、この写真…。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472722396/
曜「見て!イルカの真似ー!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473853551/
花丸「今日も練習疲れたなあ…。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474390134/
梨子「ほ、本当にこのメンバーなの…?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1481357131/
果南「これだから金持ちは……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486674888/
以下過去作です。
ダイヤ「あ、この写真…。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472722396/
曜「見て!イルカの真似ー!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473853551/
花丸「今日も練習疲れたなあ…。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474390134/
梨子「ほ、本当にこのメンバーなの…?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1481357131/
果南「これだから金持ちは……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486674888/
203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 01:04:02.51 ID:w+2cxXzuo
おつ
程よくゾクゾクできた
程よくゾクゾクできた
205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 01:30:35.54 ID:HFO0Qg+MO
乙良かったよ
ダイヤさんの写真のやつ好きだったわ
ダイヤさんの写真のやつ好きだったわ
206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/06(月) 02:17:45.12 ID:SB+s6PHJo
乙乙
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488716199/
Entry ⇒ 2017.03.31 | Category ⇒ ラブライブ | Comments (0)
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