三船美優「世界の合言葉は紅葉」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:38:57.97 ID:aK0UkAGEo
モバマスSSです。
かえみゆです。
アーシュラのSF小説やサガフロ2と内容は関係ありません。
かえみゆです。
アーシュラのSF小説やサガフロ2と内容は関係ありません。
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:40:00.94 ID:aK0UkAGEo
「たくさん星を数えた方が勝ちです」
ガラス張りの天井の遥か向こうに広がった作り物の星空を指差してあなたは言った。
今日は年に一度の宇宙展覧会で、私たちの住む街では大勢の人がこの日を楽しみに暮らし、
そして夜空を輝かせるためのロケットを飛ばす。
残念ながら私と楓さんは抽選から外れてしまったから自分の星を見ることはできなかったけれど、
たとえ見知らぬ他人のでたらめな星空でも、その多彩で時に独創的な光の粒を地上から見守るのは不思議と心が落ち着いた。
「負けたらどうなるんですか?」
「美優さんには今日ここに泊まってもらいます」
「私が負ける前提じゃないですか」
ベッドで並んで寝転ぶあなたの方を振り向くと、あなたはもう空に集中して数を数えている。
「あッ、ずるい」
私も急いで無数の光の粒を数えていく。
けれど黒のスクリーンに映し出された人工星は時々制御を失ってゆらゆら移動するから正確にカウントするのは至難の業だった。
たまに余興で流れ星が横切ったりするとそっちに気を取られてしまい、また最初から数え直すはめになる。
頑張って目を凝らすけれど私にはせいぜい一〇〇個が限界だった。
ふと視線を感じて横を向くとあなたと目が合う。
あなたはすでに勝負に飽きて私が一生懸命星を数えているのを満足そうに眺めていた。
「なに飽きてるんですか。これじゃ勝負になりませんよ」
「じゃあ美優さんの勝ちでいいですよ」
「なんですか、それ」
私が呆れてそっぽを向くと、あなたは体を寄せながらねだるように言う。
「私、負けましたから。今夜は美優さんの言うこと、何でも聞いちゃいます」
「じゃあまず私の下着を脱がそうとするの止めてください」
「もう、いけず」
「そんな事より、ほら。せっかくの大展覧会なんですから、夜空を楽しみましょうよ」
星たちは今まさに人々の夢を空に描き出している最中だった。
ガラス張りの天井の遥か向こうに広がった作り物の星空を指差してあなたは言った。
今日は年に一度の宇宙展覧会で、私たちの住む街では大勢の人がこの日を楽しみに暮らし、
そして夜空を輝かせるためのロケットを飛ばす。
残念ながら私と楓さんは抽選から外れてしまったから自分の星を見ることはできなかったけれど、
たとえ見知らぬ他人のでたらめな星空でも、その多彩で時に独創的な光の粒を地上から見守るのは不思議と心が落ち着いた。
「負けたらどうなるんですか?」
「美優さんには今日ここに泊まってもらいます」
「私が負ける前提じゃないですか」
ベッドで並んで寝転ぶあなたの方を振り向くと、あなたはもう空に集中して数を数えている。
「あッ、ずるい」
私も急いで無数の光の粒を数えていく。
けれど黒のスクリーンに映し出された人工星は時々制御を失ってゆらゆら移動するから正確にカウントするのは至難の業だった。
たまに余興で流れ星が横切ったりするとそっちに気を取られてしまい、また最初から数え直すはめになる。
頑張って目を凝らすけれど私にはせいぜい一〇〇個が限界だった。
ふと視線を感じて横を向くとあなたと目が合う。
あなたはすでに勝負に飽きて私が一生懸命星を数えているのを満足そうに眺めていた。
「なに飽きてるんですか。これじゃ勝負になりませんよ」
「じゃあ美優さんの勝ちでいいですよ」
「なんですか、それ」
私が呆れてそっぽを向くと、あなたは体を寄せながらねだるように言う。
「私、負けましたから。今夜は美優さんの言うこと、何でも聞いちゃいます」
「じゃあまず私の下着を脱がそうとするの止めてください」
「もう、いけず」
「そんな事より、ほら。せっかくの大展覧会なんですから、夜空を楽しみましょうよ」
星たちは今まさに人々の夢を空に描き出している最中だった。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:40:35.68 ID:aK0UkAGEo
この年に一度のイベントは、大半の人にとっては祈りを捧げたり家族で過ごしたりするための大切な日でもある。
とはいえ、私と一緒にこの日を祝うためだけにあなたが無理矢理スケジュールを調整したと聞いた時は、
なんだか悪いことをしてしまったみたいで素直には喜べなかった。
あなたはこの街で一番の有名人で、望めば私なんかよりもっと素敵な人たちと楽しい人生を過ごせるはずなのに、
あなたはいつも私に構ってばかりいる。
私は、私のせいであなたが自分の役割を忘れてしまうのではないかと思って怖くなる。
「明日もお仕事、早いんでしょう? こんなに遅くまで起きてていいんですか?」
「平気ですよ。移動時間で少しくらいは眠れますから」
「ダメです。ゆっくり寝てください。ただでさえ忙しくて普段あまり眠れてないんだから」
「あ、見て、ほら。星座がひとつ出来上がりましたよ。あれは何座なんでしょう……?」
あなたは枕元にあるラジオの音量を上げて子供みたいにはしゃぐ。
『ぴいいいがああああ──ざざざざざ──ザザッ只今南──に見えます大きく円を描くような形の星座は第九地区にお住まいのニナ様より、名前は「パンケーキ座」です──素朴で大変素晴らしい──ザッ──お次に……あっ、線が途中で途切れてしまっていますね、装置の故障でしょうか……えー、本日ご紹介します新星座はあと七件ございますが少々遅れが出ている模様で──……ザザッ、ザザザざぴゅうううううがががががが……』
「どうしたんでしょう? 電波が悪いのかしら……」
「あっ! 楓さん、あれ!」
私が天井を指差したのと、あなたが空を見上げたのは同時だった。
夜のスクリーンの片隅で、小さな星が二つ、コツンとぶつかって粉々に砕けた。
とはいえ、私と一緒にこの日を祝うためだけにあなたが無理矢理スケジュールを調整したと聞いた時は、
なんだか悪いことをしてしまったみたいで素直には喜べなかった。
あなたはこの街で一番の有名人で、望めば私なんかよりもっと素敵な人たちと楽しい人生を過ごせるはずなのに、
あなたはいつも私に構ってばかりいる。
私は、私のせいであなたが自分の役割を忘れてしまうのではないかと思って怖くなる。
「明日もお仕事、早いんでしょう? こんなに遅くまで起きてていいんですか?」
「平気ですよ。移動時間で少しくらいは眠れますから」
「ダメです。ゆっくり寝てください。ただでさえ忙しくて普段あまり眠れてないんだから」
「あ、見て、ほら。星座がひとつ出来上がりましたよ。あれは何座なんでしょう……?」
あなたは枕元にあるラジオの音量を上げて子供みたいにはしゃぐ。
『ぴいいいがああああ──ざざざざざ──ザザッ只今南──に見えます大きく円を描くような形の星座は第九地区にお住まいのニナ様より、名前は「パンケーキ座」です──素朴で大変素晴らしい──ザッ──お次に……あっ、線が途中で途切れてしまっていますね、装置の故障でしょうか……えー、本日ご紹介します新星座はあと七件ございますが少々遅れが出ている模様で──……ザザッ、ザザザざぴゅうううううがががががが……』
「どうしたんでしょう? 電波が悪いのかしら……」
「あっ! 楓さん、あれ!」
私が天井を指差したのと、あなたが空を見上げたのは同時だった。
夜のスクリーンの片隅で、小さな星が二つ、コツンとぶつかって粉々に砕けた。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:41:18.09 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
街は相変わらず夜の静けさに満ちていた。
私は人工星から降り注ぐ僅かな光を頼りにして、暗闇の先へ進んでいくあなたの後ろに付いて歩いていた。
展覧会の夜にこうして外を出歩いてるのは私たちくらいだろう。
あなたが「墜ちた人工星を見に行く」なんて急に言い出さなければ私だってこんなことはしたくない。
事故で一時中止になった展覧会はしばらく経って再開した。
空を見上げると瞬く星たちは光のラインを射出し、目的の星座を形作ろうとモゾモゾしている。
きっとラジオではその新星座が作られていく様子を淡々と実況しているに違いない。
砕けた二つの小さな星はもう誰も関心を抱いていなかった。
「着きましたよ」
あなたがそう言って連れてきた場所は、ひらけた丘の上だった。
街は相変わらず夜の静けさに満ちていた。
私は人工星から降り注ぐ僅かな光を頼りにして、暗闇の先へ進んでいくあなたの後ろに付いて歩いていた。
展覧会の夜にこうして外を出歩いてるのは私たちくらいだろう。
あなたが「墜ちた人工星を見に行く」なんて急に言い出さなければ私だってこんなことはしたくない。
事故で一時中止になった展覧会はしばらく経って再開した。
空を見上げると瞬く星たちは光のラインを射出し、目的の星座を形作ろうとモゾモゾしている。
きっとラジオではその新星座が作られていく様子を淡々と実況しているに違いない。
砕けた二つの小さな星はもう誰も関心を抱いていなかった。
「着きましたよ」
あなたがそう言って連れてきた場所は、ひらけた丘の上だった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:41:53.44 ID:aK0UkAGEo
「遠くまでよく見えますね。こんな場所があったなんて知らなかった」
「私は子供の頃、よくここで天然の星を見ていました。今はもう人工星しかないけれど、昔はもっとたくさんの天然星たちがこの夜空を覆っていたんですよ。例えばあの地平線にだって無数の星が輝いていたんですから」
展覧会のために打ち上げられるロケットは普通、空の限られた部分にしか星を作らない。
それ以外の空間はすべて真っ黒に塗りつぶされた闇だ。
だからこんな風に空一面を眺められる場所に来ると人工星たちがあまりに作り物っぽく見えてしまうから、
大抵の人は家に丸くくり貫いた展覧会用の窓を作る。
「昔は人工星じゃないたくさんの星たちが夜空に浮かんでいたなんて、ちょっと信じられません」
「美優さんも一度見たら感動すると思いますよ。人工星よりもずーっと遠くの方で光っていて、しかも天の川っていう光る運河があったり……」
そこまで言いかけて、あなたは「あッ」と息を呑んだ。
「星が墜ちてくる」
「私は子供の頃、よくここで天然の星を見ていました。今はもう人工星しかないけれど、昔はもっとたくさんの天然星たちがこの夜空を覆っていたんですよ。例えばあの地平線にだって無数の星が輝いていたんですから」
展覧会のために打ち上げられるロケットは普通、空の限られた部分にしか星を作らない。
それ以外の空間はすべて真っ黒に塗りつぶされた闇だ。
だからこんな風に空一面を眺められる場所に来ると人工星たちがあまりに作り物っぽく見えてしまうから、
大抵の人は家に丸くくり貫いた展覧会用の窓を作る。
「昔は人工星じゃないたくさんの星たちが夜空に浮かんでいたなんて、ちょっと信じられません」
「美優さんも一度見たら感動すると思いますよ。人工星よりもずーっと遠くの方で光っていて、しかも天の川っていう光る運河があったり……」
そこまで言いかけて、あなたは「あッ」と息を呑んだ。
「星が墜ちてくる」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:42:29.18 ID:aK0UkAGEo
小さな火の玉が地平線の彼方へ落ちていった。
宇宙の暗闇に飲み込まれるように、それは次第に光を失って消えていった。
「本物の流れ星ですよ」
「あれがそうなんですか?」
「ロマンチックですよね」
「ロマンチック……ってなんですか?」
私がそう言うとあなたはなぜか怒ったように丘の草原に座り込んで黙ってしまった。
私はよく分からないままあなたの横に同じように腰を下ろして夜空を見上げた。
そうしている間にも人工星たちは光の線で結ばれていく。
ふいにあなたは私に寄りかかって切なそうに手を握った。
「美優さん、私なんだか眠くなってきちゃいました」
「だから言ったでしょう。いつもお仕事大変なんだから、たまの休みくらいはしっかり寝てください」
「うん……」
それきりあなたは何も言わなくなった。
私の肩にもたれかかって気持ち良さそうに寝息を立てている。
私は呆れながらあなたをそっと抱きかかえて膝枕を貸してあげる。
その安らかな寝顔の愛おしさに、つい指先で触れそうになるのを我慢する。
そんな事をすればきっと、あなたの夢を見る機械は壊れてしまうから。
宇宙の暗闇に飲み込まれるように、それは次第に光を失って消えていった。
「本物の流れ星ですよ」
「あれがそうなんですか?」
「ロマンチックですよね」
「ロマンチック……ってなんですか?」
私がそう言うとあなたはなぜか怒ったように丘の草原に座り込んで黙ってしまった。
私はよく分からないままあなたの横に同じように腰を下ろして夜空を見上げた。
そうしている間にも人工星たちは光の線で結ばれていく。
ふいにあなたは私に寄りかかって切なそうに手を握った。
「美優さん、私なんだか眠くなってきちゃいました」
「だから言ったでしょう。いつもお仕事大変なんだから、たまの休みくらいはしっかり寝てください」
「うん……」
それきりあなたは何も言わなくなった。
私の肩にもたれかかって気持ち良さそうに寝息を立てている。
私は呆れながらあなたをそっと抱きかかえて膝枕を貸してあげる。
その安らかな寝顔の愛おしさに、つい指先で触れそうになるのを我慢する。
そんな事をすればきっと、あなたの夢を見る機械は壊れてしまうから。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:44:54.58 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
テレビを見ていた。
『――本日のゲストはこの方、高垣楓さんにお越しいただきました!』
『よろしくお願いします』
『もはや知らない人はいない世紀末歌姫、しかも最近は女優としても大変活躍されているということで』
『はい。今は「雪の華」というミュージカルで主演を』
『これがね、とても素敵な舞台で。私も観に行きましたよ、初日に!』
『ありがとうございます』
『いやもう、チケット取るのが大変で大変で……というか公演真っ最中なのに無理言って番組に出演してもらっちゃってね、ほんと。すみませんね……とってもお忙しいんでしょう?』
『そうですねえ。でも忙しいなりに、楽しいこともたくさんありますよ。この前なんて――』
ラジオを聴いていた。
『続いての一位は……なんと八週連続、高垣楓より「Nation Blue」です!』
『九位の「こいかぜ」も前代未聞の五〇週連続ランクインと、世紀末歌姫の勢いは一向に衰える気配がなく――』
雑誌を読んでいた。
『巻頭特集! 高垣楓の魅力に迫る!』
……
……――
――――――
テレビを見ていた。
『――本日のゲストはこの方、高垣楓さんにお越しいただきました!』
『よろしくお願いします』
『もはや知らない人はいない世紀末歌姫、しかも最近は女優としても大変活躍されているということで』
『はい。今は「雪の華」というミュージカルで主演を』
『これがね、とても素敵な舞台で。私も観に行きましたよ、初日に!』
『ありがとうございます』
『いやもう、チケット取るのが大変で大変で……というか公演真っ最中なのに無理言って番組に出演してもらっちゃってね、ほんと。すみませんね……とってもお忙しいんでしょう?』
『そうですねえ。でも忙しいなりに、楽しいこともたくさんありますよ。この前なんて――』
ラジオを聴いていた。
『続いての一位は……なんと八週連続、高垣楓より「Nation Blue」です!』
『九位の「こいかぜ」も前代未聞の五〇週連続ランクインと、世紀末歌姫の勢いは一向に衰える気配がなく――』
雑誌を読んでいた。
『巻頭特集! 高垣楓の魅力に迫る!』
……
……――
――――――
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:45:36.01 ID:aK0UkAGEo
仕事から帰り、アパートの自室で夕飯の支度をしていると、玄関のベルが鳴った。
あなただとすぐに分かった。
「どうしたんですか?」
「美優さん」
目の前にいる私の存在を確かめるように名前を呼んだ。
どうしてか私も、数年ぶりにあなたと再会したような気分だった。
私は部屋着の上に使い込んだボロボロのエプロンをかけていて、あなたはさっぱりしたシャツをおしゃれに着崩していた。
プライベートではあまり見かけない格好で、お化粧もいつもと違っていた。
とても可愛くてかっこよかったから、私はあなたが突然訪問してきた事よりもそっちの方がよほどびっくりしたくらいだった。
まるで芸能人みたい。
「いい匂い。今晩はシチューですか?」
部屋に上がる様子もなく言った。
「ええ、そうですけど……」
玄関の扉が自然に閉まっていく。
私がそれ以上、何も言わないうちにあなたは何気ない仕草で私の唇にキスをした。
知らない香水の匂いがした。
「チューしちゃいました。シチューだけに……ふふっ」
私は時々、あなたが何を考えているのか分からなくなる。
そして、そんなあなたにどこまでもついて行きたくなる。
「本当にどうしたの?」
「美優さんにお願いがあるんです」
もう一度、キスされた。重なった唇は、今度はしばらく離れなかった。
私はその静かさの中に意味を探した。
それは諦めにも似た悲しみと、ひとかけらの情熱だった。
「私と一緒にこの街を出ましょう」
あなただとすぐに分かった。
「どうしたんですか?」
「美優さん」
目の前にいる私の存在を確かめるように名前を呼んだ。
どうしてか私も、数年ぶりにあなたと再会したような気分だった。
私は部屋着の上に使い込んだボロボロのエプロンをかけていて、あなたはさっぱりしたシャツをおしゃれに着崩していた。
プライベートではあまり見かけない格好で、お化粧もいつもと違っていた。
とても可愛くてかっこよかったから、私はあなたが突然訪問してきた事よりもそっちの方がよほどびっくりしたくらいだった。
まるで芸能人みたい。
「いい匂い。今晩はシチューですか?」
部屋に上がる様子もなく言った。
「ええ、そうですけど……」
玄関の扉が自然に閉まっていく。
私がそれ以上、何も言わないうちにあなたは何気ない仕草で私の唇にキスをした。
知らない香水の匂いがした。
「チューしちゃいました。シチューだけに……ふふっ」
私は時々、あなたが何を考えているのか分からなくなる。
そして、そんなあなたにどこまでもついて行きたくなる。
「本当にどうしたの?」
「美優さんにお願いがあるんです」
もう一度、キスされた。重なった唇は、今度はしばらく離れなかった。
私はその静かさの中に意味を探した。
それは諦めにも似た悲しみと、ひとかけらの情熱だった。
「私と一緒にこの街を出ましょう」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:46:24.23 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
季節の巨大なうねりが街を支配するようになってどれくらい経っただろう。
一昨日は秋の終わりだった。
『今日から明日にかけ、全区的な冬模様となるでしょう。時折南方から強い春風が吹く恐れがあります。また第九地区では午後、一時的な夏波が予想され……』
季節予報士によると、今月いっぱいは最小で三日周季の波が続くらしい。
幸い、私たちが住む第二地区は気温の変化はそれほど激しくないから、気をつけるのは雨天や気圧くらいのものだ。
それでも三日毎に季節がコロコロと変わるのは気が滅入るし、四季の逆流現象なんていう物騒な災害も起きたりして、
この街の住人にとっては、周季が短くなるというのは基本的に悪いことでしかない。
このめまぐるしい季節の移ろいを無邪気に喜んでいられるのは、広場や公園で元気に遊んでいる子供たちと、それからあなたくらいだ。
「何もこんな時に外へ出なくても……ほら、雪も降ってきましたよ」
「こんな時だからこそ、ですよ。変化のない旅なんてつまらないじゃないですか」
「はあ……」
街を出て、どこへ行くかは聞かなかった。
あの展覧会の夜のように、ただあなたの後ろについて行くだけだった。
私は持てるだけのお金をポーチに詰め込み、作りかけのシチューをそのままにしてアパートを出た。
もう二度とここへは戻って来ないような気がした。
「この格好、ヘンじゃないかしら」
急いで着替えたのは秋用の服で、ベージュ色をしたハイネックのニットに、下は動きやすいスキニージーンズだった。
念のため冬用のダウンも羽織っていた。
「全然ヘンじゃないですよ。美優さんらしくて……でも、その靴はどうにかした方がいいかもしれませんね」
「あっ、サンダル……」
私たちはまず靴屋へ向かった。
あなたは仕事用の大きなキャリーバッグを引いていて、私がその横に並んで歩いていた。
日はすっかり暮れて、街灯が行き先を照らしていた。
辺りの民家から夕飯のおいしそうな匂いが漂ってくる。
お腹空いてきました、と言うと、私もです、と返された。
それならせめてシチューを一緒に食べればよかったのに、と思った。
けれど私もあなたも、家に戻るなんてことは考えもしなかった。
季節の巨大なうねりが街を支配するようになってどれくらい経っただろう。
一昨日は秋の終わりだった。
『今日から明日にかけ、全区的な冬模様となるでしょう。時折南方から強い春風が吹く恐れがあります。また第九地区では午後、一時的な夏波が予想され……』
季節予報士によると、今月いっぱいは最小で三日周季の波が続くらしい。
幸い、私たちが住む第二地区は気温の変化はそれほど激しくないから、気をつけるのは雨天や気圧くらいのものだ。
それでも三日毎に季節がコロコロと変わるのは気が滅入るし、四季の逆流現象なんていう物騒な災害も起きたりして、
この街の住人にとっては、周季が短くなるというのは基本的に悪いことでしかない。
このめまぐるしい季節の移ろいを無邪気に喜んでいられるのは、広場や公園で元気に遊んでいる子供たちと、それからあなたくらいだ。
「何もこんな時に外へ出なくても……ほら、雪も降ってきましたよ」
「こんな時だからこそ、ですよ。変化のない旅なんてつまらないじゃないですか」
「はあ……」
街を出て、どこへ行くかは聞かなかった。
あの展覧会の夜のように、ただあなたの後ろについて行くだけだった。
私は持てるだけのお金をポーチに詰め込み、作りかけのシチューをそのままにしてアパートを出た。
もう二度とここへは戻って来ないような気がした。
「この格好、ヘンじゃないかしら」
急いで着替えたのは秋用の服で、ベージュ色をしたハイネックのニットに、下は動きやすいスキニージーンズだった。
念のため冬用のダウンも羽織っていた。
「全然ヘンじゃないですよ。美優さんらしくて……でも、その靴はどうにかした方がいいかもしれませんね」
「あっ、サンダル……」
私たちはまず靴屋へ向かった。
あなたは仕事用の大きなキャリーバッグを引いていて、私がその横に並んで歩いていた。
日はすっかり暮れて、街灯が行き先を照らしていた。
辺りの民家から夕飯のおいしそうな匂いが漂ってくる。
お腹空いてきました、と言うと、私もです、と返された。
それならせめてシチューを一緒に食べればよかったのに、と思った。
けれど私もあなたも、家に戻るなんてことは考えもしなかった。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:48:10.01 ID:aK0UkAGEo
夕闇に静まり返った大通りの靴屋は閉店時間ギリギリだった。
店員さんがカーテンを閉めている最中で、私たちは遠慮がちに中へ入って行った。
二人でブーツを選んでいると店内の照明がパチ、パチと消えて、私たちのいるレディースコーナーだけが煌々と照らされた。
あなたが選んでくれた靴を履いて、鏡の前に立ってみる。
スポットライトの中に佇んでいたのは一人の冴えない女だった。
もう一人は舞台袖で難しそうな顔をして私をじっと見ている。
「美優さん、次はこっちを履いてみてください」
あなたは高そうなブーツを手に取りながら言う。
「この際だから、うんと良い靴を買っちゃいましょう。お金は私が払いますし」
「そんなのダメです。約束したじゃないですか、お金のことで私に気を遣わないでほしいって」
「気を遣ってるんじゃなくて、これは私からのプレゼントですよ。新しい美優さんと新しい私たちの人生への」
私は曖昧に返事をした。
それはつまり、プレゼントならありがたく受け取るにやぶさかでない、ということの意思表示だった。
「どっちでもいいですけど、早く買って出ましょう。店員さんに悪いですよ……」
外は雪が降り始めていた。
私は新品のブーツで雪の足跡をつけながらあなたの横を並んで歩いた。
おしゃれで、履き心地のいい、素敵な靴だった。
でも、ガラスの靴を履く役割は、ほんとうはあなたのものなんですよ。楓さん。
店員さんがカーテンを閉めている最中で、私たちは遠慮がちに中へ入って行った。
二人でブーツを選んでいると店内の照明がパチ、パチと消えて、私たちのいるレディースコーナーだけが煌々と照らされた。
あなたが選んでくれた靴を履いて、鏡の前に立ってみる。
スポットライトの中に佇んでいたのは一人の冴えない女だった。
もう一人は舞台袖で難しそうな顔をして私をじっと見ている。
「美優さん、次はこっちを履いてみてください」
あなたは高そうなブーツを手に取りながら言う。
「この際だから、うんと良い靴を買っちゃいましょう。お金は私が払いますし」
「そんなのダメです。約束したじゃないですか、お金のことで私に気を遣わないでほしいって」
「気を遣ってるんじゃなくて、これは私からのプレゼントですよ。新しい美優さんと新しい私たちの人生への」
私は曖昧に返事をした。
それはつまり、プレゼントならありがたく受け取るにやぶさかでない、ということの意思表示だった。
「どっちでもいいですけど、早く買って出ましょう。店員さんに悪いですよ……」
外は雪が降り始めていた。
私は新品のブーツで雪の足跡をつけながらあなたの横を並んで歩いた。
おしゃれで、履き心地のいい、素敵な靴だった。
でも、ガラスの靴を履く役割は、ほんとうはあなたのものなんですよ。楓さん。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:49:14.81 ID:aK0UkAGEo
◇◆◇◆
バスに乗って隣の第三地区へ向かった。
雪がみるみるうちに積もって夜の景色を白と影の平坦な模様に変えていた。
「だいぶ降ってきましたね。車もあまり通ってないみたい」
あなたは呑気に言った。
私はまだ、私たちがどこへ行こうとしているのか知らないのだ。
乗客は私たちのほかに誰もいない。
わざわざ真ん中辺りの窮屈な座席に二人でぴったりくっついて座った。
青白い蛍光に満たされた車内は単調な意思に従って揺れる一つの細胞だった。
その息苦しいほどに濃い細胞液は私たちを異化し、洗い流された人生は毛細血管を巡ってこの街の一部になる。
窓際の席で外を眺めているあなたの顔が夜の窓に反射して雪景色の中に浮かんでいた。
その瞳に映るひとかけらの情熱はまだ、あなたと私の世界を隔てている曖昧な膜を透明なままにしてくれている。
「美優さん?」
「えっ? あ、はい」
「次の停留所で降りますから」
私は言われるままに小銭を用意した。
バスは聞いた事もない地名の、見た事もない場所にゆっくり停車した。
精算機にお金を入れて運転手に一礼し、あなたに続いて下車すると空気がほんのり冷たかった。
淋しいくらい幅の広い道路がなだらかな丘陵に沿って前と後ろにまっすぐ続いている。
辺りには目立った建物もなく、雪明りに目を凝らすと道路の脇には背の高い木立がその奥にある小さな集落や景色を覆い隠してしまっていた。
第三地区は工業区で、ここはその団地から少し離れた幹線道路ということだった。
歩道にやわらかく積もった雪を踏みしめる。
星のない闇からぬるい牡丹雪が規則正しい速度で降り注いでいる。
バスが震えながら去った後、私とあなたの二人だけの夜道だった。
弱々しい光りを足元にこぼす街灯、物言わぬ停留所の標識、待つ人の代わりに厚く積もった雪を座らせている哀れなベンチ、
そしてノイズ交じりの静寂――あなたは言った。
「この近くに美味しいおでんの屋台があるんですよ」
私は「うん」と答えた。
バスに乗って隣の第三地区へ向かった。
雪がみるみるうちに積もって夜の景色を白と影の平坦な模様に変えていた。
「だいぶ降ってきましたね。車もあまり通ってないみたい」
あなたは呑気に言った。
私はまだ、私たちがどこへ行こうとしているのか知らないのだ。
乗客は私たちのほかに誰もいない。
わざわざ真ん中辺りの窮屈な座席に二人でぴったりくっついて座った。
青白い蛍光に満たされた車内は単調な意思に従って揺れる一つの細胞だった。
その息苦しいほどに濃い細胞液は私たちを異化し、洗い流された人生は毛細血管を巡ってこの街の一部になる。
窓際の席で外を眺めているあなたの顔が夜の窓に反射して雪景色の中に浮かんでいた。
その瞳に映るひとかけらの情熱はまだ、あなたと私の世界を隔てている曖昧な膜を透明なままにしてくれている。
「美優さん?」
「えっ? あ、はい」
「次の停留所で降りますから」
私は言われるままに小銭を用意した。
バスは聞いた事もない地名の、見た事もない場所にゆっくり停車した。
精算機にお金を入れて運転手に一礼し、あなたに続いて下車すると空気がほんのり冷たかった。
淋しいくらい幅の広い道路がなだらかな丘陵に沿って前と後ろにまっすぐ続いている。
辺りには目立った建物もなく、雪明りに目を凝らすと道路の脇には背の高い木立がその奥にある小さな集落や景色を覆い隠してしまっていた。
第三地区は工業区で、ここはその団地から少し離れた幹線道路ということだった。
歩道にやわらかく積もった雪を踏みしめる。
星のない闇からぬるい牡丹雪が規則正しい速度で降り注いでいる。
バスが震えながら去った後、私とあなたの二人だけの夜道だった。
弱々しい光りを足元にこぼす街灯、物言わぬ停留所の標識、待つ人の代わりに厚く積もった雪を座らせている哀れなベンチ、
そしてノイズ交じりの静寂――あなたは言った。
「この近くに美味しいおでんの屋台があるんですよ」
私は「うん」と答えた。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 17:50:22.22 ID:aK0UkAGEo
しばらく歩くと、人気のない自然公園に出た。
大きな池があり、そのほとりには短い秋季のために枯れ切らなかった広葉樹が雪を被ってうなだれていた。
遊歩道の景観照明にライトアップされた白い雪の花は満開の桜並木のようだった。
私たちは思わず息を潜めてそこを歩き過ぎた。
音を立てないように、彼らを驚かせてしまわないように。
でも本当のところは、そんな気遣いは無用だったのだ。
あらゆる言葉が時間を支配できないのと同じように、自然もまた、その残酷な法則には逆らえない。
どこか遠くで枝の折れる音がした。
名前のないおでん屋さんは公園の隅にぽつんとあった。
白熱電球のやわらかい光りに誘われるようにのれんをくぐると、中に店員さんの姿はなかった。
代わりにカウンターには出来たての料理とお酒が二人分置いてあった。
それはとても分かりやすい兆候だった。
「あら、気が利いてますね」
あなたは言った。
それから私も促されるまま席に着き、乾杯して、美味しい料理とおでんを食べた。
予感と確信は揺らめきながら一つに重なり、もはや両者を見分けるのは困難だった。
それはきっと私を脅かすためにささやき出したものの、あなたが楽しそうに話す声と心地良いアルコールの毒、
そして私自身の鈍感さによって束の間の発現を免れ、今はただ闇の中へ押しやられているにすぎないものだった。
その後、再び二人で冬の公園を歩いていた。
私は相変わらずあなたについて行くだけだった。
けれど、私より少し速く歩いて行くあなたの背中を見て、
ふいに胸をよぎる不安と切なさをとうとう心の外に追いやることができなかった。
そして、そんな一対の孤独の中にあって、ようやく私は、今日初めてあなたを心から愛したいと思った。
私の指先は自然にあなたの手のひらに触れ、それから細部の輪郭をなぞるように、そっと指を絡ませた。
私は、こんな当たり前の結論を導くために自分がどれほど回りくどい手順を要したか考えて恥ずかしさに眩暈がしそうだった。
あなたはちょっと驚いたように立ち止まって私の方を向いた。
そして母親が子供に言い聞かせるように、あなたと目も合わせられない私の、燃えるように熱い頬へと顔を近づけて言った。
「この区画に私のセーフハウスがあるので、今日はそこで寝ましょう」
私は「うん」と答えた。
大きな池があり、そのほとりには短い秋季のために枯れ切らなかった広葉樹が雪を被ってうなだれていた。
遊歩道の景観照明にライトアップされた白い雪の花は満開の桜並木のようだった。
私たちは思わず息を潜めてそこを歩き過ぎた。
音を立てないように、彼らを驚かせてしまわないように。
でも本当のところは、そんな気遣いは無用だったのだ。
あらゆる言葉が時間を支配できないのと同じように、自然もまた、その残酷な法則には逆らえない。
どこか遠くで枝の折れる音がした。
名前のないおでん屋さんは公園の隅にぽつんとあった。
白熱電球のやわらかい光りに誘われるようにのれんをくぐると、中に店員さんの姿はなかった。
代わりにカウンターには出来たての料理とお酒が二人分置いてあった。
それはとても分かりやすい兆候だった。
「あら、気が利いてますね」
あなたは言った。
それから私も促されるまま席に着き、乾杯して、美味しい料理とおでんを食べた。
予感と確信は揺らめきながら一つに重なり、もはや両者を見分けるのは困難だった。
それはきっと私を脅かすためにささやき出したものの、あなたが楽しそうに話す声と心地良いアルコールの毒、
そして私自身の鈍感さによって束の間の発現を免れ、今はただ闇の中へ押しやられているにすぎないものだった。
その後、再び二人で冬の公園を歩いていた。
私は相変わらずあなたについて行くだけだった。
けれど、私より少し速く歩いて行くあなたの背中を見て、
ふいに胸をよぎる不安と切なさをとうとう心の外に追いやることができなかった。
そして、そんな一対の孤独の中にあって、ようやく私は、今日初めてあなたを心から愛したいと思った。
私の指先は自然にあなたの手のひらに触れ、それから細部の輪郭をなぞるように、そっと指を絡ませた。
私は、こんな当たり前の結論を導くために自分がどれほど回りくどい手順を要したか考えて恥ずかしさに眩暈がしそうだった。
あなたはちょっと驚いたように立ち止まって私の方を向いた。
そして母親が子供に言い聞かせるように、あなたと目も合わせられない私の、燃えるように熱い頬へと顔を近づけて言った。
「この区画に私のセーフハウスがあるので、今日はそこで寝ましょう」
私は「うん」と答えた。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:35:49.82 ID:zJemO0Izo
◇◆◇◆
思えば、あなたほどの有名人が隠れ家を持っていないわけがなかったのだ。
「何も置いてないのね。テレビもラジオも……」
「セーフハウスなので、これくらいでいいんですよ」
「もしかして楓さん、パパラッチに追われてるとか……?」
「別にそういうわけじゃないんですけど……ただ、仕事も全部放り出して来たので、誰かに追われる前に手を打っておこうと思って」
それを聞いて私は開いた口が塞がらなかった。
薄々勘付いてはいたものの、まさか本当に自分の都合だけで街を出ようとしていたなんて。
今回の逃避行に私が連れ出されたのは、つまりこういう事だった。
あなたが姿をくらました場合、捜索の手がかりは真っ先に私へ向かうと分かっていたからだ。
世間には知られていないけれど、すでに一部のマスコミには私とあなたの関係を嗅ぎつけられていた。
「ここならひとまず安全だと思います。私もまだ一度しか使ったことがないし、他に知ってる人はいませんから」
そう言ってあなたは無邪気に微笑んだ。
私は呆れて言葉も出なかった。
けれどあなたをしんから責める気も起きなかった。
私はすでに自分の果たすべき役割を放棄していたし、その点ではあなたの共犯者であり、
何よりも私自身がそこに代えがたい喜びと快楽を見出していたからだ。
それは決して従属的な名誉なんかじゃなく、むしろ逆だった。
私はとうとう自分の望んでいたものを手に入れる事ができたのだ。あなたという夢を。
思えば、あなたほどの有名人が隠れ家を持っていないわけがなかったのだ。
「何も置いてないのね。テレビもラジオも……」
「セーフハウスなので、これくらいでいいんですよ」
「もしかして楓さん、パパラッチに追われてるとか……?」
「別にそういうわけじゃないんですけど……ただ、仕事も全部放り出して来たので、誰かに追われる前に手を打っておこうと思って」
それを聞いて私は開いた口が塞がらなかった。
薄々勘付いてはいたものの、まさか本当に自分の都合だけで街を出ようとしていたなんて。
今回の逃避行に私が連れ出されたのは、つまりこういう事だった。
あなたが姿をくらました場合、捜索の手がかりは真っ先に私へ向かうと分かっていたからだ。
世間には知られていないけれど、すでに一部のマスコミには私とあなたの関係を嗅ぎつけられていた。
「ここならひとまず安全だと思います。私もまだ一度しか使ったことがないし、他に知ってる人はいませんから」
そう言ってあなたは無邪気に微笑んだ。
私は呆れて言葉も出なかった。
けれどあなたをしんから責める気も起きなかった。
私はすでに自分の果たすべき役割を放棄していたし、その点ではあなたの共犯者であり、
何よりも私自身がそこに代えがたい喜びと快楽を見出していたからだ。
それは決して従属的な名誉なんかじゃなく、むしろ逆だった。
私はとうとう自分の望んでいたものを手に入れる事ができたのだ。あなたという夢を。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:36:40.98 ID:zJemO0Izo
その日、私は従順の殻を脱ぎ捨て、余計なものを一切排除した純粋な愛の巣であなたと二人きりの夜を過ごした。
私は熱に浮かされたようにあなたを求め、そんな私をあなたは行為で満たしてくれた。
空調の効いたベッドルームで、次第にどっちがどっちの体温か分からなくなるほどに。
締め切ったカーテンの向こう側では決まりきったように雪が降り続いていた。
まるで私たちの永遠を祝福してくれているようだった。
けれど私たちがどんなに夢の中に生きていたとしても叶わないものがあるという事を私は知っていた。
永遠に感じられたものは単なる停滞に過ぎず、私とあなたの間にはいつも声があり、視線があり、もどかしい膜があった。
冬というのは秋に奪われた空っぽの心を埋めるために雪を降らすものだ。
けれどそれはいつまでも積もり続けるわけじゃない。
夜が明けて朝になると、外は春の日差しだった。
私は熱に浮かされたようにあなたを求め、そんな私をあなたは行為で満たしてくれた。
空調の効いたベッドルームで、次第にどっちがどっちの体温か分からなくなるほどに。
締め切ったカーテンの向こう側では決まりきったように雪が降り続いていた。
まるで私たちの永遠を祝福してくれているようだった。
けれど私たちがどんなに夢の中に生きていたとしても叶わないものがあるという事を私は知っていた。
永遠に感じられたものは単なる停滞に過ぎず、私とあなたの間にはいつも声があり、視線があり、もどかしい膜があった。
冬というのは秋に奪われた空っぽの心を埋めるために雪を降らすものだ。
けれどそれはいつまでも積もり続けるわけじゃない。
夜が明けて朝になると、外は春の日差しだった。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:37:20.27 ID:zJemO0Izo
「季節予報、はずれちゃいましたね」
先に目を覚ましたあなたがカーテンの隙間から外を覗き込んで言った。
私はまどろみつつ半身を起こし、暖かな朝日が差すあなたの横顔の、そのまぶしいシルエットをぼんやり眺めていた。
そうやってあまりに見惚れていたせいで、あなたがいつの間にか私の方をじっと見つめている事にしばらく気が付かないほどだった。
「あの、えっと……お、おはようございます……」
私は自分でもおかしなくらい動揺し、赤面した。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか」
「だって……」
と私がまごつきながらシーツを胸元にたぐり寄せると、あなたは大きなあくびをしてカーテンを閉めた。
不意に私は、こんなさりげないあなたとのやり取りの中に意味を見出そうとしている自分を発見した。
けれど最初から意味も理由も必要なかったのだ。
私の中に堆積していた、ためらいに蓋をされた感情はこの一晩ですっかり溶かされてしまった気がした。
季節は春で、あなたはまだ秋の紅葉だった。
先に目を覚ましたあなたがカーテンの隙間から外を覗き込んで言った。
私はまどろみつつ半身を起こし、暖かな朝日が差すあなたの横顔の、そのまぶしいシルエットをぼんやり眺めていた。
そうやってあまりに見惚れていたせいで、あなたがいつの間にか私の方をじっと見つめている事にしばらく気が付かないほどだった。
「あの、えっと……お、おはようございます……」
私は自分でもおかしなくらい動揺し、赤面した。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか」
「だって……」
と私がまごつきながらシーツを胸元にたぐり寄せると、あなたは大きなあくびをしてカーテンを閉めた。
不意に私は、こんなさりげないあなたとのやり取りの中に意味を見出そうとしている自分を発見した。
けれど最初から意味も理由も必要なかったのだ。
私の中に堆積していた、ためらいに蓋をされた感情はこの一晩ですっかり溶かされてしまった気がした。
季節は春で、あなたはまだ秋の紅葉だった。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:38:09.59 ID:zJemO0Izo
◇◆◇◆
「これ、どこまで続いてるのかしら? もうだいぶ歩いて来たけど……」
私は砂漠に沈んだ廃墟の群れを見渡して言った。
遠くに見える崩れたビルの残骸は岩石の山と区別がつかなかった。
「さすがにこれ以上進んでも何もなさそうですね。地図もここまでしか載ってないし……」
戻りましょう、とあなたが踵を返すのを私は慌てて追いかけた。
変装用のサングラスの隙間から覗くあなたの表情は特にがっかりしているようには見えなかったけれど、
楽観的という風でもないみたい。
私たちが今いるのは街の周縁の南側で、つまりあなたが言っていた街の外ということになる。
ここに来るまでの間、電車に乗ったりバスに揺られたりしながら、
二人で地図の外がどうなっているのか想像をあれこれ語り合っていた。
ものすごく高い超えられない壁に囲まれているんじゃないか、とか、
断崖絶壁になっていて宇宙にぽつんと浮いているんじゃないか、とか。
その予想の中に一面の砂漠や果てしない海も含まれていたから、
少なくともこの時点では世界は私たちにアッと驚くような真実を見せてはくれなかった。
まあ、別に驚きや冒険を求めて来たわけじゃないし、それに真実ならあなたにはもうその輪郭が見えているはずなのだ。
後は細部を確認するだけだった。
「これ、どこまで続いてるのかしら? もうだいぶ歩いて来たけど……」
私は砂漠に沈んだ廃墟の群れを見渡して言った。
遠くに見える崩れたビルの残骸は岩石の山と区別がつかなかった。
「さすがにこれ以上進んでも何もなさそうですね。地図もここまでしか載ってないし……」
戻りましょう、とあなたが踵を返すのを私は慌てて追いかけた。
変装用のサングラスの隙間から覗くあなたの表情は特にがっかりしているようには見えなかったけれど、
楽観的という風でもないみたい。
私たちが今いるのは街の周縁の南側で、つまりあなたが言っていた街の外ということになる。
ここに来るまでの間、電車に乗ったりバスに揺られたりしながら、
二人で地図の外がどうなっているのか想像をあれこれ語り合っていた。
ものすごく高い超えられない壁に囲まれているんじゃないか、とか、
断崖絶壁になっていて宇宙にぽつんと浮いているんじゃないか、とか。
その予想の中に一面の砂漠や果てしない海も含まれていたから、
少なくともこの時点では世界は私たちにアッと驚くような真実を見せてはくれなかった。
まあ、別に驚きや冒険を求めて来たわけじゃないし、それに真実ならあなたにはもうその輪郭が見えているはずなのだ。
後は細部を確認するだけだった。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:39:42.01 ID:zJemO0Izo
「次はこのまま街の外周に沿ってぐるりと回って行こうかなって考えてるんですけど」
「道があればの話ですよね、それ」
実際、それぞれの地区が定めた地図上の境界線に意味はなかった。
街と砂漠は地続きにあり、外周とは、文明とその死骸がなだらかなグラデーションを織り成している一帯をそう呼んでいるにすぎない。
つまるところ、街と街の外には地理的に明確な境界線があるわけではないのだ。
「そもそも移動手段はどうするんですか? まさかずっと歩いて行くつもり?」
「う~ん……どうしましょう?」
あなたはとぼけたように笑って私の方を振り向いた。
釣られて私も笑いそうになる。
「もう。本当に何も計画してなかったのね……」
「行き当たりばったりの旅もいいけれど、そればっかりだとく”たび”れちゃいますね……ふふ」
「ごまかさないでください」
「あ、水筒のお茶も無くなっちゃった」
「……とりあえず街に戻ってどこか休憩できる場所を探しましょう」
私たちは砂に埋もれた建造物や剥き出しになった鉄の骨が群生している森の中を引き返して行った。
空気はまだ少し肌寒いけれど、薄い雲の切れ目から暖かな日が差すあかるい空はピクニックにはうってつけの陽気だった。
あちこちの物陰から風に舞う砂子たちの囁きが聞こえ、生い茂る人工物は薄茶色の土に幾何学模様の影を落とし、
ひしゃげながら空に突き出ている赤錆びた鉄筋は炭素混じりの紅葉だった。
少し歩き疲れてはいたものの、私たちの足取りは往路よりずっと軽快だった。
こんな散歩も、たまには悪くない。
「道があればの話ですよね、それ」
実際、それぞれの地区が定めた地図上の境界線に意味はなかった。
街と砂漠は地続きにあり、外周とは、文明とその死骸がなだらかなグラデーションを織り成している一帯をそう呼んでいるにすぎない。
つまるところ、街と街の外には地理的に明確な境界線があるわけではないのだ。
「そもそも移動手段はどうするんですか? まさかずっと歩いて行くつもり?」
「う~ん……どうしましょう?」
あなたはとぼけたように笑って私の方を振り向いた。
釣られて私も笑いそうになる。
「もう。本当に何も計画してなかったのね……」
「行き当たりばったりの旅もいいけれど、そればっかりだとく”たび”れちゃいますね……ふふ」
「ごまかさないでください」
「あ、水筒のお茶も無くなっちゃった」
「……とりあえず街に戻ってどこか休憩できる場所を探しましょう」
私たちは砂に埋もれた建造物や剥き出しになった鉄の骨が群生している森の中を引き返して行った。
空気はまだ少し肌寒いけれど、薄い雲の切れ目から暖かな日が差すあかるい空はピクニックにはうってつけの陽気だった。
あちこちの物陰から風に舞う砂子たちの囁きが聞こえ、生い茂る人工物は薄茶色の土に幾何学模様の影を落とし、
ひしゃげながら空に突き出ている赤錆びた鉄筋は炭素混じりの紅葉だった。
少し歩き疲れてはいたものの、私たちの足取りは往路よりずっと軽快だった。
こんな散歩も、たまには悪くない。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:40:33.51 ID:zJemO0Izo
「……ねえ、楓さん」
「はい?」
「あの、あそこに見える建物……あれってもしかして、展覧会の打ち上げ基地じゃないかしら」
あなたはサングラスを外し、私が指差す方向をじっと見つめ、それから手元の地図に視線を落とし、
もう一度顔を上げて言った。
「そうみたいですね」
それは巨大な銀色のドームだった。
私たちの居る場所からだと案外近くに建っているように錯覚するけれど、
よく目を凝らしてみるとドームの裾に五、六階はありそうなビルが米粒のように建ち並んでいるのが分かる。
遠近感がおかしくなってしまうほどのサイズということだ。
輝く流線を地平に穿ち、なめらかな表皮には雲と太陽の雄大な陰影が脈打つように走っている。
ドームから砂漠へ延びる広大な更地は不気味なほど平らに整地され、
まるで砂漠で生まれた巨大な虫が大地を這いずり街を食い破ろうとする半ばで息絶えたみたいな光景だった。
「はい?」
「あの、あそこに見える建物……あれってもしかして、展覧会の打ち上げ基地じゃないかしら」
あなたはサングラスを外し、私が指差す方向をじっと見つめ、それから手元の地図に視線を落とし、
もう一度顔を上げて言った。
「そうみたいですね」
それは巨大な銀色のドームだった。
私たちの居る場所からだと案外近くに建っているように錯覚するけれど、
よく目を凝らしてみるとドームの裾に五、六階はありそうなビルが米粒のように建ち並んでいるのが分かる。
遠近感がおかしくなってしまうほどのサイズということだ。
輝く流線を地平に穿ち、なめらかな表皮には雲と太陽の雄大な陰影が脈打つように走っている。
ドームから砂漠へ延びる広大な更地は不気味なほど平らに整地され、
まるで砂漠で生まれた巨大な虫が大地を這いずり街を食い破ろうとする半ばで息絶えたみたいな光景だった。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:41:12.08 ID:zJemO0Izo
「実はあれ、宇宙人の卵なんですよ」
あなたの口元はニヤついていた。
分かりやすいひと。
「ウソですよね」
「嘘です」
「でも、確かに卵みたい」
「私も実物を見るのは初めてです。まさかあんなに大きい建物だったなんて……」
と言ってから、あなたは何か思いついたように「あっ」と小さな声をあげた。
「ね、美優さん。今からあそこに行ってみましょうよ」
「え? 別にいいけど……なんでまた」
「展望台があるんです。あのドームのてっぺんに」
私は知らなかったけれど、打ち上げ基地の管理センターは観光地でもあるらしい。
本当かしら、と思いつつ、あなたが言う大抵のことはもう、真実の映し鏡なのだと思い出して、それから素直に頷いた。
こうして私たちは宇宙人のたまごへ向かうことになった。
私たち二人の、最初にして最後の巡礼のために。
あなたの口元はニヤついていた。
分かりやすいひと。
「ウソですよね」
「嘘です」
「でも、確かに卵みたい」
「私も実物を見るのは初めてです。まさかあんなに大きい建物だったなんて……」
と言ってから、あなたは何か思いついたように「あっ」と小さな声をあげた。
「ね、美優さん。今からあそこに行ってみましょうよ」
「え? 別にいいけど……なんでまた」
「展望台があるんです。あのドームのてっぺんに」
私は知らなかったけれど、打ち上げ基地の管理センターは観光地でもあるらしい。
本当かしら、と思いつつ、あなたが言う大抵のことはもう、真実の映し鏡なのだと思い出して、それから素直に頷いた。
こうして私たちは宇宙人のたまごへ向かうことになった。
私たち二人の、最初にして最後の巡礼のために。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:42:02.77 ID:zJemO0Izo
◇◆◇◆
街へ戻ると、世界はもはや変化の兆しの手から逃れ始めていた。
崩壊はその指の隙間から溢れ出んばかりに表面化し、愛すべき幻視人たちは奔流する夢に飲み込まれ、
私たちが宇宙人のたまごへ近づくほどに変化は速度を増していった。
道行く人々の顔はガラス製の抽象画を模し、ひび割れた道路の隙間からは新世界混声合唱が響き渡り、
虚空は五番目と六番目の季節を巡り始めた。
あなたはサングラスを外し、ついでに帽子も脱ぎながら、
「もう変装する必要もありませんね」
そう言って道端のゴミ箱へ鮮やかに投げ捨てる。
少年のような機敏さで。
途中でタクシーを捕まえて管理基地のある第二十四地区を目指した。
カーラジオは街の崩壊を告げる鐘を鳴らし、私もあなたもずっと黙ったままだった。
『星が崩落し……街では秋が失われ……世紀末歌姫の行方いまだ掴めず――……ごおおおおおおん――……ごおおおおおおおおん――……エラー……意味消失……思い出因子……ミユ……暴走……ごおおおおおおおん――……ERORR444、ERORR666、ERORR999――……』
街へ戻ると、世界はもはや変化の兆しの手から逃れ始めていた。
崩壊はその指の隙間から溢れ出んばかりに表面化し、愛すべき幻視人たちは奔流する夢に飲み込まれ、
私たちが宇宙人のたまごへ近づくほどに変化は速度を増していった。
道行く人々の顔はガラス製の抽象画を模し、ひび割れた道路の隙間からは新世界混声合唱が響き渡り、
虚空は五番目と六番目の季節を巡り始めた。
あなたはサングラスを外し、ついでに帽子も脱ぎながら、
「もう変装する必要もありませんね」
そう言って道端のゴミ箱へ鮮やかに投げ捨てる。
少年のような機敏さで。
途中でタクシーを捕まえて管理基地のある第二十四地区を目指した。
カーラジオは街の崩壊を告げる鐘を鳴らし、私もあなたもずっと黙ったままだった。
『星が崩落し……街では秋が失われ……世紀末歌姫の行方いまだ掴めず――……ごおおおおおおん――……ごおおおおおおおおん――……エラー……意味消失……思い出因子……ミユ……暴走……ごおおおおおおおん――……ERORR444、ERORR666、ERORR999――……』
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:42:40.85 ID:zJemO0Izo
打ち上げ基地のドームは近づけば近づくほど荘厳な印象を私たちの目に焼き付けていった。
タクシーを降りて管理センターの入り口まで歩いて行く間にも街は形をそのままに緩やかな崩壊を続けていたけれど、
あなたが言うところの宇宙人のたまごは依然としてそこに意味を留め、私たちの巡礼を厳かに見守っていた。
中に入り、誰もいない密閉された廊下はどこまでも静かだった。
まるで過去から未来へ続くひとつなぎの時間を順々に辿っていくみたいに、ここでは全てが等間隔で、自動的だった。
まあ、どっちにしろ後戻りは出来ないし、気が変わるということもないだろう。
私たちは相変わらず無言だったけれど、ほとんど溶け合って一体になる寸前の二つの心は穏やかだった。
どれくらい進んだか分からない。
気が付くと廊下の突き当たりが見え、そこにはエレベーターが扉を開けて私たちを出迎えていた。
『展望台行き』
それだけだった。
タクシーを降りて管理センターの入り口まで歩いて行く間にも街は形をそのままに緩やかな崩壊を続けていたけれど、
あなたが言うところの宇宙人のたまごは依然としてそこに意味を留め、私たちの巡礼を厳かに見守っていた。
中に入り、誰もいない密閉された廊下はどこまでも静かだった。
まるで過去から未来へ続くひとつなぎの時間を順々に辿っていくみたいに、ここでは全てが等間隔で、自動的だった。
まあ、どっちにしろ後戻りは出来ないし、気が変わるということもないだろう。
私たちは相変わらず無言だったけれど、ほとんど溶け合って一体になる寸前の二つの心は穏やかだった。
どれくらい進んだか分からない。
気が付くと廊下の突き当たりが見え、そこにはエレベーターが扉を開けて私たちを出迎えていた。
『展望台行き』
それだけだった。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:43:20.85 ID:zJemO0Izo
「……私、」
上昇する箱の中で最初に口を開いたのは私だった。
「私、後悔していません。私……これで良かったんだって、ずっと……」
なぜか涙が溢れそうになってそれから先は言えなかった。
なんとか堪えて言葉を続けようとしたけれど、口から洩れるのはどうしようもない嗚咽だけだった。
「何も泣くことないでしょう」
あなたは困ったように笑いながら私の頬を伝う雫を指で拭った。
私は「ごめんなさい」と言うのが精一杯だった。
「それに、美優さんが望んだ事は元々私が望んでいた事でもあるんですから。美優さんは何も悪くありません」
「私……私は一体……いつから壊れていたんでしょう……? ただあなたに恋をしていた、それだけなのに……」
「きっと、私が美優さんを壊してしまったんです。だって私もあなたに恋していたから」
「…………」
わがままな子供みたいに泣き腫らす私の熱い頬をあなたの冷たい手のひらが不器用に撫でる。
私はたぶん、罪を感じるようには作られていない。
その死にゆく手のひらに触れても尚、これほどの幸福は味わえないだろうというくらいに私の心はあなたで満たされている。
だからこの涙はきっと、あなたの恋人役を演じていた私としての、最後の役割なのだ。
街から思い出が消え、夜にはすべての星を失い、紅葉に包まれる世界で、私は新しい私になる。
『ルーチンエラー……星間ネットワーク一時停止……緊急プロセス移行……リンク解除……ノード生成……予備回路接続……』
展望台に近づくにつれ天国の鐘の音はどんどん大きくなり、あなたの夢を宇宙の塵にしようとわめいていた。
上昇する箱の中で最初に口を開いたのは私だった。
「私、後悔していません。私……これで良かったんだって、ずっと……」
なぜか涙が溢れそうになってそれから先は言えなかった。
なんとか堪えて言葉を続けようとしたけれど、口から洩れるのはどうしようもない嗚咽だけだった。
「何も泣くことないでしょう」
あなたは困ったように笑いながら私の頬を伝う雫を指で拭った。
私は「ごめんなさい」と言うのが精一杯だった。
「それに、美優さんが望んだ事は元々私が望んでいた事でもあるんですから。美優さんは何も悪くありません」
「私……私は一体……いつから壊れていたんでしょう……? ただあなたに恋をしていた、それだけなのに……」
「きっと、私が美優さんを壊してしまったんです。だって私もあなたに恋していたから」
「…………」
わがままな子供みたいに泣き腫らす私の熱い頬をあなたの冷たい手のひらが不器用に撫でる。
私はたぶん、罪を感じるようには作られていない。
その死にゆく手のひらに触れても尚、これほどの幸福は味わえないだろうというくらいに私の心はあなたで満たされている。
だからこの涙はきっと、あなたの恋人役を演じていた私としての、最後の役割なのだ。
街から思い出が消え、夜にはすべての星を失い、紅葉に包まれる世界で、私は新しい私になる。
『ルーチンエラー……星間ネットワーク一時停止……緊急プロセス移行……リンク解除……ノード生成……予備回路接続……』
展望台に近づくにつれ天国の鐘の音はどんどん大きくなり、あなたの夢を宇宙の塵にしようとわめいていた。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:44:02.51 ID:zJemO0Izo
「……あの日、星が墜ちました」
あなたが閃いたように呟いた。
「それが……きっかけなの?」
「分からないけど……でも、二つの星がぶつかって、墜ちながら燃え尽きるのを見た時、私思ったんです……ああ、綺麗だなあって」
「うん……」
「それで、こんな風にも思ったんです。私はたぶん、あの星とおんなじなんだって……たくさんの打ち上げられた星の中のひとつなんだって」
そう、あなたは星だった。
人々の希望を背負い、打ち上げられた大勢の星たちの中の一人……かつて地球で最も愛された歌姫の名前。
「もしかしたら、あの二つの星も、私たちみたいにお互いに惹かれ合っていて……だから墜ちてしまったのかも、なんて」
「そう……そうだったんですね」
「ただの想像ですよ」
あなたの想像はきっと間違ってない。
作られた街、作られた季節、作られた冬と雪、そして私――
いつか本当に目覚めるその時まで、あなたに夢を見させ続ける銀色の機械――
私は思い出を運ぶ舟の、プログラムされた船員の一人でしかなかった。
私に与えられたのは、あなたがかつて愛していた恋人の名前。
繊細で、流されやすく、あなたの選んだ靴が似合うような、美しい女性の名前だった。
私はもう泣いてない。
ごおおおおおおおおん――……ごおおおおおおおん――……。
―――………。
あなたが閃いたように呟いた。
「それが……きっかけなの?」
「分からないけど……でも、二つの星がぶつかって、墜ちながら燃え尽きるのを見た時、私思ったんです……ああ、綺麗だなあって」
「うん……」
「それで、こんな風にも思ったんです。私はたぶん、あの星とおんなじなんだって……たくさんの打ち上げられた星の中のひとつなんだって」
そう、あなたは星だった。
人々の希望を背負い、打ち上げられた大勢の星たちの中の一人……かつて地球で最も愛された歌姫の名前。
「もしかしたら、あの二つの星も、私たちみたいにお互いに惹かれ合っていて……だから墜ちてしまったのかも、なんて」
「そう……そうだったんですね」
「ただの想像ですよ」
あなたの想像はきっと間違ってない。
作られた街、作られた季節、作られた冬と雪、そして私――
いつか本当に目覚めるその時まで、あなたに夢を見させ続ける銀色の機械――
私は思い出を運ぶ舟の、プログラムされた船員の一人でしかなかった。
私に与えられたのは、あなたがかつて愛していた恋人の名前。
繊細で、流されやすく、あなたの選んだ靴が似合うような、美しい女性の名前だった。
私はもう泣いてない。
ごおおおおおおおおん――……ごおおおおおおおん――……。
―――………。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 09:44:58.57 ID:zJemO0Izo
――ひらけた展望台に立った。
屋根のない空は一面が作り物の青だった。
眼下に見おろす景色は、半分は宇宙人のたまごの抜け殻で、もう半分は紅葉だった。
街は砂漠と一体化し、凝固した赤と黄の炎がすべてを覆いつくしていた。
私以外の思い出の住人はみな、灰になって消えた。
そして私たちももうすぐ新しい世界へ旅立つことになる。
そこで私はあなたの本当の記憶の一部になり、永遠に醒めることのない夢を生きる――。
地べたに腰を下ろし、燃え盛る街を眺めていた。
空がとても近かった。
「私、なんだか眠くなっちゃいました……」
「美優さんは今までたくさん頑張ってきたんですもの。ゆっくり休んでください」
「うん……おやすみなさい。楓さん……」
「おやすみなさい……」
ゆっくりと力の抜けていく私の身体が、自然とあなたの肩にもたれかかる。
あなたがそっと抱きしめてくれる腕の中で目を閉じる。
深い闇の中には優しい歌声が響いている。
(完)
屋根のない空は一面が作り物の青だった。
眼下に見おろす景色は、半分は宇宙人のたまごの抜け殻で、もう半分は紅葉だった。
街は砂漠と一体化し、凝固した赤と黄の炎がすべてを覆いつくしていた。
私以外の思い出の住人はみな、灰になって消えた。
そして私たちももうすぐ新しい世界へ旅立つことになる。
そこで私はあなたの本当の記憶の一部になり、永遠に醒めることのない夢を生きる――。
地べたに腰を下ろし、燃え盛る街を眺めていた。
空がとても近かった。
「私、なんだか眠くなっちゃいました……」
「美優さんは今までたくさん頑張ってきたんですもの。ゆっくり休んでください」
「うん……おやすみなさい。楓さん……」
「おやすみなさい……」
ゆっくりと力の抜けていく私の身体が、自然とあなたの肩にもたれかかる。
あなたがそっと抱きしめてくれる腕の中で目を閉じる。
深い闇の中には優しい歌声が響いている。
(完)
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480149537/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
ミサト「発想を逆転させるのよ!」シンジ「!」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:05:13.38 ID:nEjRNPMK0
逆裁×エヴァです
???「……はあ、はあ」
???「な、なんだよ」
???「なんだよこれ……」
???「俺が……俺がやったのか?」
???「……俺が殺したのか!?」
5月26日 9:22 地方裁判所 被告人控え室
シンジ「……うう~、もうすぐか。キンチョーするなぁ」
ミサト「シンジ君、グッモーニン!」
シンジ「あ、み、ミサトさん。ぐ、ぐっもーにん……」
ミサト「あらーなによ、ずいぶん具合悪そうな顔ね。だいじょぶ?」
シンジ「あまり大丈夫ではないような……」
???「……はあ、はあ」
???「な、なんだよ」
???「なんだよこれ……」
???「俺が……俺がやったのか?」
???「……俺が殺したのか!?」
5月26日 9:22 地方裁判所 被告人控え室
シンジ「……うう~、もうすぐか。キンチョーするなぁ」
ミサト「シンジ君、グッモーニン!」
シンジ「あ、み、ミサトさん。ぐ、ぐっもーにん……」
ミサト「あらーなによ、ずいぶん具合悪そうな顔ね。だいじょぶ?」
シンジ「あまり大丈夫ではないような……」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:07:44.73 ID:nEjRNPMK0
ミサト「ま、無理もないか。何せはじめての法廷が殺人事件の弁護だなんてねぇ」
シンジ「は、はあ……」
シンジ(……)
シンジ(僕は碇シンジ。今日、初めての裁判を迎える新米弁護士だ)
シンジ(そして目の前に立っているのが葛城ミサトさん。僕の先輩で腕利きの弁護士)
シンジ(今日の事件は、ミサトさんのお世話になることになりそう……)
ミサト「ま、あんまりキンチョーしすぎないことね。肩の力をほぐして、おいっちに、おいっちに」
ミサト「それで、今回の依頼人君はどんな調子なの?」
シンジ「そ、それが……」チラ
トウジ「うう、センセェ……」オロオロ
シンジ「は、はあ……」
シンジ(……)
シンジ(僕は碇シンジ。今日、初めての裁判を迎える新米弁護士だ)
シンジ(そして目の前に立っているのが葛城ミサトさん。僕の先輩で腕利きの弁護士)
シンジ(今日の事件は、ミサトさんのお世話になることになりそう……)
ミサト「ま、あんまりキンチョーしすぎないことね。肩の力をほぐして、おいっちに、おいっちに」
ミサト「それで、今回の依頼人君はどんな調子なの?」
シンジ「そ、それが……」チラ
トウジ「うう、センセェ……」オロオロ
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:10:27.42 ID:nEjRNPMK0
ミサト「確か、シンジ君のお友達だったかしら?」
シンジ「はい。この事件を引き受けたのもそれが理由なんですけど……」
トウジ「センセ、ワシ、ワシ、やってしもた……」
シンジ「や、やった?」
トウジ「ワシの人生、もう終わってしもたああああああああ!!」
シンジ「え、ええ!?いやいや!!」
シンジ「殺したのはトウジじゃないでしょ!だから僕が弁護するんじゃないか!」
トウジ「でも、でもワシぃ……。もうどうしたらええんか……」
トウジ「ワシ、あいつがいない人生なら死んだ方がマシやから!」
トウジ「よし、こうなったらもう有罪になってやる!!」
トウジ「有罪になって死刑を食らってやるんや!!」
シンジ(うう、アタマが痛くなってきたぞ……)
シンジ「はい。この事件を引き受けたのもそれが理由なんですけど……」
トウジ「センセ、ワシ、ワシ、やってしもた……」
シンジ「や、やった?」
トウジ「ワシの人生、もう終わってしもたああああああああ!!」
シンジ「え、ええ!?いやいや!!」
シンジ「殺したのはトウジじゃないでしょ!だから僕が弁護するんじゃないか!」
トウジ「でも、でもワシぃ……。もうどうしたらええんか……」
トウジ「ワシ、あいつがいない人生なら死んだ方がマシやから!」
トウジ「よし、こうなったらもう有罪になってやる!!」
トウジ「有罪になって死刑を食らってやるんや!!」
シンジ(うう、アタマが痛くなってきたぞ……)
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:12:54.43 ID:nEjRNPMK0
ミサト「あらあら、随分ナイーブな依頼人さんね」
トウジ「……!」
ミサト「はじめまして、あたしは葛城ミサト。シンジ君の先輩の弁護士よ。よろしく」
トウジ「ふ、ふぁい!」
シンジ「ふぁい?」
トウジ「わ、ワシ、トウジ、鈴原トウジっていいます!」
ミサト「ふふ、そう。じゃあ鈴原君、心配になる気持ちは分かるけど、最後まで諦めちゃダメよ?」
ミサト「そうだ、この法廷が終わったら鈴原君の好きなもの、お祝いに食べに行こうかしら」
シンジ「トウジの好きなもの……すき焼きか!いいですね!」
トウジ「ふぁい!!」
シンジ「と、トウジ……?」
トウジ「……!」
ミサト「はじめまして、あたしは葛城ミサト。シンジ君の先輩の弁護士よ。よろしく」
トウジ「ふ、ふぁい!」
シンジ「ふぁい?」
トウジ「わ、ワシ、トウジ、鈴原トウジっていいます!」
ミサト「ふふ、そう。じゃあ鈴原君、心配になる気持ちは分かるけど、最後まで諦めちゃダメよ?」
ミサト「そうだ、この法廷が終わったら鈴原君の好きなもの、お祝いに食べに行こうかしら」
シンジ「トウジの好きなもの……すき焼きか!いいですね!」
トウジ「ふぁい!!」
シンジ「と、トウジ……?」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:15:03.78 ID:nEjRNPMK0
トウジ「あ、あの、ミサトさん!」
ミサト「?」
トウジ「わ、ワシ、頑張りますんで!」バシ
シンジ(いや、頑張るのは僕だろ!!)
ミサト「ふふ、頑張りなさい。二人ともね」
ミサト「さて、そろそろ時間ね。シンジ君、行きましょうか」
シンジ「は、はい!じゃあ、トウジまた……」
トウジ「ふにゃら」
ミサト「?」
トウジ「わ、ワシ、頑張りますんで!」バシ
シンジ(いや、頑張るのは僕だろ!!)
ミサト「ふふ、頑張りなさい。二人ともね」
ミサト「さて、そろそろ時間ね。シンジ君、行きましょうか」
シンジ「は、はい!じゃあ、トウジまた……」
トウジ「ふにゃら」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:18:24.65 ID:nEjRNPMK0
同日10:00 地方裁判所 法廷
裁判長「ではこれより鈴原トウジの法廷を開廷します」
サキエル「検察側、準備完了しております」
人物ファイル
『咲江 リュウ(サキエ リュウ)(42):ベテラン検察官。姿勢が悪いためかいつも肩パッドを入れているらしい』
シンジ「……」
裁判長「……」
シンジ「…………」
裁判長「…………」
シンジ「…………?」
裁判長「いや、『…………?』ではないでしょう!弁護側はどうなのですか」
シンジ「は、はぁ。どうなのかと言われると……」
シンジ「どうなんでしょう?」
裁判長「ではこれより鈴原トウジの法廷を開廷します」
サキエル「検察側、準備完了しております」
人物ファイル
『咲江 リュウ(サキエ リュウ)(42):ベテラン検察官。姿勢が悪いためかいつも肩パッドを入れているらしい』
シンジ「……」
裁判長「……」
シンジ「…………」
裁判長「…………」
シンジ「…………?」
裁判長「いや、『…………?』ではないでしょう!弁護側はどうなのですか」
シンジ「は、はぁ。どうなのかと言われると……」
シンジ「どうなんでしょう?」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:21:46.90 ID:nEjRNPMK0
裁判長「質問しているのは私ですぞ!」
シンジ「あ、いや、あの!じ、準備、その」
ミサト「ちょっと、シンジ君!焦りすぎよ!」
ミサト「不安があるなら一度、事件ファイルで事件をおさらいしておきましょう」
シンジ(……!そ、そうだ、事件ファイルだ)
事件ファイル
『事件内容:被害者は洞木ヒカリ。死因は失血死。凶器は現場に落ちていた包丁。一刺しで絶命』
シンジ(殺人事件か……改めて見ると体がスクむなぁ)
裁判長「弁護人!一人で落ち着かないように!」
シンジ「あ、は、はい!弁護側、準備完了しております!」
シンジ「あ、いや、あの!じ、準備、その」
ミサト「ちょっと、シンジ君!焦りすぎよ!」
ミサト「不安があるなら一度、事件ファイルで事件をおさらいしておきましょう」
シンジ(……!そ、そうだ、事件ファイルだ)
事件ファイル
『事件内容:被害者は洞木ヒカリ。死因は失血死。凶器は現場に落ちていた包丁。一刺しで絶命』
シンジ(殺人事件か……改めて見ると体がスクむなぁ)
裁判長「弁護人!一人で落ち着かないように!」
シンジ「あ、は、はい!弁護側、準備完了しております!」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:24:28.86 ID:nEjRNPMK0
サキエル「くっくっく。全く、法廷の準備もろくに終わらせられないような新人相手とは、張合いがありませんな」
裁判長「次からは開廷前に終わらせておきなさい」
シンジ(うぅ……言われたい放題だぞ……)
ミサト「シンジ君、気落ちしてる暇はないわよ」
裁判長「では検察側、冒頭弁論をお願いします」
サキエル「はい」
サキエル「今回取り扱うのは、市内に住んでいた若き女性、洞木ヒカリさんが殺害されたインザンなる事件です。凶器は現場に落ちていた包丁と思われます」
裁判長「次からは開廷前に終わらせておきなさい」
シンジ(うぅ……言われたい放題だぞ……)
ミサト「シンジ君、気落ちしてる暇はないわよ」
裁判長「では検察側、冒頭弁論をお願いします」
サキエル「はい」
サキエル「今回取り扱うのは、市内に住んでいた若き女性、洞木ヒカリさんが殺害されたインザンなる事件です。凶器は現場に落ちていた包丁と思われます」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:28:07.14 ID:nEjRNPMK0
サキエル「ちなみに犯人は凶器を処分しようとしたらしく、この包丁は被害者宅のゴミ箱の中にありました」
裁判長「ふむぅ、なるほど。重要な証拠品のようですね、受理します」
事件ファイル
『包丁:現場のゴミ箱にあった包丁。被害者の血の痕がベットリと残っている』
シンジ(証拠品……か。あとあと大事になってきそうだな)
裁判長「そしてその事件を犯したと思われるのが……」
サキエル「左様、被告人の鈴原トウジというわけですな」
サキエル「そこで検察側は証人として事件の捜査を担当した絵馬刑事に事件概要を証言して頂こうと思います」
裁判長「なるほど、分かりました。では、絵馬刑事をここに」
裁判長「ふむぅ、なるほど。重要な証拠品のようですね、受理します」
事件ファイル
『包丁:現場のゴミ箱にあった包丁。被害者の血の痕がベットリと残っている』
シンジ(証拠品……か。あとあと大事になってきそうだな)
裁判長「そしてその事件を犯したと思われるのが……」
サキエル「左様、被告人の鈴原トウジというわけですな」
サキエル「そこで検察側は証人として事件の捜査を担当した絵馬刑事に事件概要を証言して頂こうと思います」
裁判長「なるほど、分かりました。では、絵馬刑事をここに」
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:31:44.80 ID:nEjRNPMK0
…………
絵馬「…………」
サキエル「証人、名前と職業を」
絵馬「は!自分は絵馬 ゲリオ!刑事をやっていますから!」
人物ファイル
『絵馬 ゲリオ(エバ ゲリオ)(29):現職の刑事さん。やけに背が高い』
シンジ(なんだかお腹がユルそうな名前だな)
エバ「あ、あの、本官の仕事は!本官の仕事は、犯人を捕まえることでありますから!」ジャキン
エバ「今すぐに犯人を逮捕いたしますから!」ジャキン
シンジ「うわっ!」
裁判長「ひぃ!なんですかなそれは!」
サキエル「し、証人!法廷でパレットガンを構えないように!」
絵馬「…………」
サキエル「証人、名前と職業を」
絵馬「は!自分は絵馬 ゲリオ!刑事をやっていますから!」
人物ファイル
『絵馬 ゲリオ(エバ ゲリオ)(29):現職の刑事さん。やけに背が高い』
シンジ(なんだかお腹がユルそうな名前だな)
エバ「あ、あの、本官の仕事は!本官の仕事は、犯人を捕まえることでありますから!」ジャキン
エバ「今すぐに犯人を逮捕いたしますから!」ジャキン
シンジ「うわっ!」
裁判長「ひぃ!なんですかなそれは!」
サキエル「し、証人!法廷でパレットガンを構えないように!」
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:34:54.80 ID:nEjRNPMK0
エバ「し、しかし本官の仕事は!」
サキエル「あ、あなたの今の仕事は事件の証言をすることですぞ!」
エバ「む、それは……!」
エバ「……失礼しましたから。つい熱が入りすぎてしまい」ガチャリ
裁判長「ふむぅ、仕事熱心なのですね」
シンジ(そういうモンダイじゃないぞ!!)
ミサト「あのエバー刑事さん、熱くなると止まらないみたいね」
シンジ「絵馬ですよミサトさん?」
ミサト「……エバー」
シンジ「ミサトさん?」
ミサト「…………」
サキエル「あ、あなたの今の仕事は事件の証言をすることですぞ!」
エバ「む、それは……!」
エバ「……失礼しましたから。つい熱が入りすぎてしまい」ガチャリ
裁判長「ふむぅ、仕事熱心なのですね」
シンジ(そういうモンダイじゃないぞ!!)
ミサト「あのエバー刑事さん、熱くなると止まらないみたいね」
シンジ「絵馬ですよミサトさん?」
ミサト「……エバー」
シンジ「ミサトさん?」
ミサト「…………」
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:37:25.55 ID:nEjRNPMK0
サキエル「ではまず証人、事件の概要について詳しく証言して貰いましょう」
エバ「分かりました!ではまず事件当時の状況についてお話しますから!」
ー証言開始ー
エバ『事件は白昼に行われましたから』
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』
エバ『また事件当日は洞木さんの家の窓ガラスが割られていましたが』
エバ『どうやらアパートの裏の公園で野球をしていた少年達のボールが当たったようです』
エバ『割れた窓から人が出入り出来るほど大きな穴は開かなかったようですから』
エバ「分かりました!ではまず事件当時の状況についてお話しますから!」
ー証言開始ー
エバ『事件は白昼に行われましたから』
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』
エバ『また事件当日は洞木さんの家の窓ガラスが割られていましたが』
エバ『どうやらアパートの裏の公園で野球をしていた少年達のボールが当たったようです』
エバ『割れた窓から人が出入り出来るほど大きな穴は開かなかったようですから』
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:42:01.85 ID:nEjRNPMK0
裁判長「なるほど」
サキエル「これが事件当時の状況ですな」
エバ「ちなみに室内の割れた窓ガラスの破片というのがこちらです」
裁判長「ほほう、これは危ないですな」
サキエル「街中で野球をするなど言語道断。最近の若者はポリシーが欠けています」
裁判長「全くです。若い人たちには気をつけて欲しいものですね」
シンジ(……二人とも僕の方を見て言っているぞ)
裁判長「とにかく、こちらは証拠品として受理しましょう」
事件ファイル
『割れたガラス:事件当日、被害者宅に散乱していた』
サキエル「これが事件当時の状況ですな」
エバ「ちなみに室内の割れた窓ガラスの破片というのがこちらです」
裁判長「ほほう、これは危ないですな」
サキエル「街中で野球をするなど言語道断。最近の若者はポリシーが欠けています」
裁判長「全くです。若い人たちには気をつけて欲しいものですね」
シンジ(……二人とも僕の方を見て言っているぞ)
裁判長「とにかく、こちらは証拠品として受理しましょう」
事件ファイル
『割れたガラス:事件当日、被害者宅に散乱していた』
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:47:52.48 ID:nEjRNPMK0
ミサト「さあ、シンジ君。ここからが本番よ」
シンジ「本番?」
ミサト「ええ。これから証人にあなたが質問する尋問に入るわ」
シンジ「尋問……」
ミサト「そう。この裁判は被告人……つまりあそこの彼が事件の犯人ではないかと言う事を審議しているの。当然証人もそのことを証言するわ」
ミサト「でももしそれが間違っていたら」
シンジ「証言に事実との違い……ムジュンが生まれる、ですよね」
ミサト「そうよ。とは言っても今回の証人は警察だし、嘘をついたりするとも思えないわ」
シンジ「じゃあ、特にムジュンしたところはない……?」
ミサト「それはどうかしら。意図しないムジュンもあるのよ。とにかく、鈴原君が犯人じゃないとすれば必ずどこかにおかしなところがあるはず」
シンジ「なるほど」
ミサト「まずは揺さぶりをかけて情報を引き出しましょう!」
シンジ「分かりました」
シンジ「本番?」
ミサト「ええ。これから証人にあなたが質問する尋問に入るわ」
シンジ「尋問……」
ミサト「そう。この裁判は被告人……つまりあそこの彼が事件の犯人ではないかと言う事を審議しているの。当然証人もそのことを証言するわ」
ミサト「でももしそれが間違っていたら」
シンジ「証言に事実との違い……ムジュンが生まれる、ですよね」
ミサト「そうよ。とは言っても今回の証人は警察だし、嘘をついたりするとも思えないわ」
シンジ「じゃあ、特にムジュンしたところはない……?」
ミサト「それはどうかしら。意図しないムジュンもあるのよ。とにかく、鈴原君が犯人じゃないとすれば必ずどこかにおかしなところがあるはず」
シンジ「なるほど」
ミサト「まずは揺さぶりをかけて情報を引き出しましょう!」
シンジ「分かりました」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:50:50.53 ID:nEjRNPMK0
ー尋問開始ー
エバ『事件は白昼に行われましたから』
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』
シンジ「待った!」
シンジ「フクザツな傷口、というとグタイ的にはどんな?」
エバ「はあ、なんと言いますか……複数回、同じ所を刺されたような」
シンジ「複数回同じ所を?」
エバ「はい。グサッとやった後に引き抜いて……もう一度、こう!」
裁判長「そ、それはそれは」
シンジ(えげつないな)
ミサト「……シンジ君。今の発言、証言に加えてもらったらどうかしら」
シンジ「え?じ、じゃあ……」
シンジ「絵馬刑事、今の内容を証言に入れてください」
エバ「はっ!了解しました!」
エバ『事件は白昼に行われましたから』
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』
シンジ「待った!」
シンジ「フクザツな傷口、というとグタイ的にはどんな?」
エバ「はあ、なんと言いますか……複数回、同じ所を刺されたような」
シンジ「複数回同じ所を?」
エバ「はい。グサッとやった後に引き抜いて……もう一度、こう!」
裁判長「そ、それはそれは」
シンジ(えげつないな)
ミサト「……シンジ君。今の発言、証言に加えてもらったらどうかしら」
シンジ「え?じ、じゃあ……」
シンジ「絵馬刑事、今の内容を証言に入れてください」
エバ「はっ!了解しました!」
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:54:26.83 ID:nEjRNPMK0
エバ『事件は白昼に行われました』
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』
エバ『グタイ的には、同じ所を二度刺されたようなものでした』
エバ『また事件当日は洞木さんの家の窓ガラスが割られていましたが』
エバ『どうやらアパートの裏の公園で野球をしていた少年達のボールが当たったようです』
エバ『割れた窓から人が出入り出来るほど大きな穴は開かなかったようです』
シンジ(……この中にムジュンがあるのか)
ミサト「真実と食い違うなら、必ず証拠品と異なる証言が出てくるはずよ」
シンジ「事件ファイルを確認してみよう」
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少しフクザツな傷口がありました』
エバ『グタイ的には、同じ所を二度刺されたようなものでした』
エバ『また事件当日は洞木さんの家の窓ガラスが割られていましたが』
エバ『どうやらアパートの裏の公園で野球をしていた少年達のボールが当たったようです』
エバ『割れた窓から人が出入り出来るほど大きな穴は開かなかったようです』
シンジ(……この中にムジュンがあるのか)
ミサト「真実と食い違うなら、必ず証拠品と異なる証言が出てくるはずよ」
シンジ「事件ファイルを確認してみよう」
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 23:58:00.62 ID:nEjRNPMK0
エバ『事件は白昼に行われました』
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少し複雑な傷口がありました』
エバ『具体的には、同じ所を二度刺されたようなものでした』
シンジ「異議あり!!」
裁判長「…………!」
サキエル「…………!」
ミサト「…………!」
エバ「…………!」
シンジ「…………」
シンジ「……………………」
シンジ「…………………………………………」
シンジ(……なんだ、このチンモクは?)
エバ『市内に住む女性、洞木ヒカリさんがアパートの一室で殺害されたのです』
エバ『凶器に使われたのは現場に落ちていた包丁。遺体には少し複雑な傷口がありました』
エバ『具体的には、同じ所を二度刺されたようなものでした』
シンジ「異議あり!!」
裁判長「…………!」
サキエル「…………!」
ミサト「…………!」
エバ「…………!」
シンジ「…………」
シンジ「……………………」
シンジ「…………………………………………」
シンジ(……なんだ、このチンモクは?)
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 00:02:03.20 ID:3LvjdXQR0
裁判長「べ、弁護人、固まらないで下さい!」
シンジ「え?あれ、どうかしました?」
裁判長「どうかしましたじゃありませんぞ!」
ミサト「シンジ君、あなたは今、証人の発言に異議を申し立てたのよ」
シンジ「え?い、異議?」
シンジ(そういえばなんだろうこの感じ。この頭の中に閃くような違和感)
シンジ(これが……ムジュン?)
裁判長「弁護人、これ以上黙っているようならば……」
シンジ「ま、待ってください!弁護側は異議を続けます」
シンジ「ただいまの証人の発言はこの証拠品と明らかにムジュンしています!」
シンジ「え?あれ、どうかしました?」
裁判長「どうかしましたじゃありませんぞ!」
ミサト「シンジ君、あなたは今、証人の発言に異議を申し立てたのよ」
シンジ「え?い、異議?」
シンジ(そういえばなんだろうこの感じ。この頭の中に閃くような違和感)
シンジ(これが……ムジュン?)
裁判長「弁護人、これ以上黙っているようならば……」
シンジ「ま、待ってください!弁護側は異議を続けます」
シンジ「ただいまの証人の発言はこの証拠品と明らかにムジュンしています!」
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 00:05:31.23 ID:3LvjdXQR0
事件ファイル
『事件概要』
シンジ「事件捜査を担当されたという絵馬刑事にお聞きしますが、この報告書、間違いないんですよね?」
エバ「は、そのはずですから」
シンジ「だとすると明らかにおかしい部分かあるんです」
エバ「おかしい部分?」
シンジ「そう。ここにはこう書かれている。『被害者は一刺しで絶命』」
シンジ「しかしあなたはたった今こう証言しました。『二度刺されたようなものでした』と」
シンジ「明らかにムジュンしてるじゃないですか!」
エバ「ぬぁっ!?」
裁判長「ほ、本当ですぞ!」
ザワザワザワザワ
ミサト「よくやったわ、シンジ君。ムジュンを見つけることが出来たわね」
シンジ「ふう、き、キンチョーしたぁ」
ミサト「これで更に情報が引き出せるわ。きっとまた新しい手がかりが見つかるはずよ」
『事件概要』
シンジ「事件捜査を担当されたという絵馬刑事にお聞きしますが、この報告書、間違いないんですよね?」
エバ「は、そのはずですから」
シンジ「だとすると明らかにおかしい部分かあるんです」
エバ「おかしい部分?」
シンジ「そう。ここにはこう書かれている。『被害者は一刺しで絶命』」
シンジ「しかしあなたはたった今こう証言しました。『二度刺されたようなものでした』と」
シンジ「明らかにムジュンしてるじゃないですか!」
エバ「ぬぁっ!?」
裁判長「ほ、本当ですぞ!」
ザワザワザワザワ
ミサト「よくやったわ、シンジ君。ムジュンを見つけることが出来たわね」
シンジ「ふう、き、キンチョーしたぁ」
ミサト「これで更に情報が引き出せるわ。きっとまた新しい手がかりが見つかるはずよ」
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 22:28:54.70 ID:3LvjdXQR0
裁判長「これはどういうことですか!絵馬刑事!」
エバ「あ、いや、こ、これはですからね、そのつまり凶器が」
サキエル「お待ちください」
サキエル「この件については私から説明します」
サキエル「確かに洞木さんには同じ傷口を二度刺されたような痕がありました。しかしその包丁で2回刺された訳ではないのです」
シンジ「どういうことですか!」
サキエル「被害者の傷口を調べたところ、別の刃物による刺しキズがありました」
サキエル「しかしこちらはあまり深く刺さっておらず大した外傷にもなっていませんでした」
サキエル「つまりそのキズは被害者は致命傷や死因とは関係ないのです」
シンジ「そ、そんな!」
エバ「あ、いや、こ、これはですからね、そのつまり凶器が」
サキエル「お待ちください」
サキエル「この件については私から説明します」
サキエル「確かに洞木さんには同じ傷口を二度刺されたような痕がありました。しかしその包丁で2回刺された訳ではないのです」
シンジ「どういうことですか!」
サキエル「被害者の傷口を調べたところ、別の刃物による刺しキズがありました」
サキエル「しかしこちらはあまり深く刺さっておらず大した外傷にもなっていませんでした」
サキエル「つまりそのキズは被害者は致命傷や死因とは関係ないのです」
シンジ「そ、そんな!」
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 22:34:06.20 ID:3LvjdXQR0
裁判長「それで、その刃物はどこに?」
サキエル「そ、それは現在捜索中ですが、被害者の傷の具合からしてそれほど大きなものではないようですのでこちらも既に処分されている可能性が高いです」
ミサト「……シンジ君、いくら大きなキズではなかったとしても、検察側の対応は不自然よ」
ミサト「きっとその謎の凶器の存在を後ろめたかった理由があるわ」
シンジ「……!」
シンジ(そんな、ジジツを隠そうしたのか…?)
ミサト「そこが検察側の大きな弱点なのかもしれないわね」
サキエル「しかし、他に被告人が犯人であるという決定的な証拠があるのです」
裁判長「ケッテイテキな証拠?」
サキエル「はい。そこで次は被告人、鈴原トウジが犯人であるという根拠について説明したいと思います」
サキエル「被告人に証言を求めます」
裁判長「なるほど、分かりました。では被告人を証言台に」
シンジ(今のトウジに証言させて大丈夫かな……)
サキエル「そ、それは現在捜索中ですが、被害者の傷の具合からしてそれほど大きなものではないようですのでこちらも既に処分されている可能性が高いです」
ミサト「……シンジ君、いくら大きなキズではなかったとしても、検察側の対応は不自然よ」
ミサト「きっとその謎の凶器の存在を後ろめたかった理由があるわ」
シンジ「……!」
シンジ(そんな、ジジツを隠そうしたのか…?)
ミサト「そこが検察側の大きな弱点なのかもしれないわね」
サキエル「しかし、他に被告人が犯人であるという決定的な証拠があるのです」
裁判長「ケッテイテキな証拠?」
サキエル「はい。そこで次は被告人、鈴原トウジが犯人であるという根拠について説明したいと思います」
サキエル「被告人に証言を求めます」
裁判長「なるほど、分かりました。では被告人を証言台に」
シンジ(今のトウジに証言させて大丈夫かな……)
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 22:38:12.45 ID:3LvjdXQR0
トウジ「…………」
サキエル「証人、名前と職業を」
トウジ「あ、えーと。ワシ、鈴原トウジ言います。その、バスケットボールチームのコーチやっとります」
裁判長「いわゆる体育会系というやつですね」
サキエル「被告人は被害者である洞木ヒカリさんとはどういう関係だったのですか?」
トウジ「ど、どういう関係いわれても……。その、一応……」
サキエル「交際をしていた、と伺いましたが?」
トウジ「…………」
シンジ(トウジの奴、やっぱりショックが大きいんだな)
サキエル「証人、名前と職業を」
トウジ「あ、えーと。ワシ、鈴原トウジ言います。その、バスケットボールチームのコーチやっとります」
裁判長「いわゆる体育会系というやつですね」
サキエル「被告人は被害者である洞木ヒカリさんとはどういう関係だったのですか?」
トウジ「ど、どういう関係いわれても……。その、一応……」
サキエル「交際をしていた、と伺いましたが?」
トウジ「…………」
シンジ(トウジの奴、やっぱりショックが大きいんだな)
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 22:44:25.20 ID:3LvjdXQR0
サキエル「聞いた話によると事件の前日、あなたは被害者の洞木ヒカリさんと喧嘩をしたとか」
トウジ「な、なんでそれを!?」
サキエル「彼女がお友達に話していたのですよ。随分こっぴどく言われたようですね」
トウジ「そ、それは……」
裁判長「ふむう、それがつまり殺害の動機と考えられると?」
サキエル「はい、その通りです」
トウジ「そんな!ワシがそんな理由でヒカリに手を上げるわけないやろ!!アホとちゃうんか!?」
トウジ「ワシとヒカリはアツアツや!ネバーラブカップルや!」
シンジ(それじゃあただの冷めきった男女だけど……ここは同意しておくか)
シンジ「僕も被告人の意見に同感です。少し酷いことを言われたくらいで人を殺す動機にはなりません!!」
サキエル「シンミツなカンケイだからこそ、ということもあります。若い男女などいつ熱くなるか分かったんものではありませんからな」
サキエル「とにかく、被告人には動機となり得る理由もあったのです。そしてもちろん、決定的な証拠も」
シンジ「……証拠、だって?」
トウジ「な、なんでそれを!?」
サキエル「彼女がお友達に話していたのですよ。随分こっぴどく言われたようですね」
トウジ「そ、それは……」
裁判長「ふむう、それがつまり殺害の動機と考えられると?」
サキエル「はい、その通りです」
トウジ「そんな!ワシがそんな理由でヒカリに手を上げるわけないやろ!!アホとちゃうんか!?」
トウジ「ワシとヒカリはアツアツや!ネバーラブカップルや!」
シンジ(それじゃあただの冷めきった男女だけど……ここは同意しておくか)
シンジ「僕も被告人の意見に同感です。少し酷いことを言われたくらいで人を殺す動機にはなりません!!」
サキエル「シンミツなカンケイだからこそ、ということもあります。若い男女などいつ熱くなるか分かったんものではありませんからな」
サキエル「とにかく、被告人には動機となり得る理由もあったのです。そしてもちろん、決定的な証拠も」
シンジ「……証拠、だって?」
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 22:50:13.33 ID:3LvjdXQR0
サキエル「検察側の手元には被告人が今回の犯人であることを証明する動かぬ証拠が二つあるのです」
サキエル「一つは、被害者に致命傷を与えた凶器である包丁に、被告人鈴原トウジの指紋がベッタリついていたこと」
サキエル「そしてもう一つは……」
サキエル「事件当日、被告人が被害者の家にやってきていたのを目撃した人物がいることです!」
裁判長「!!」
ミサト「!!」
シンジ「…………」
シンジ「……え?」
シンジ「な、なんだってええええええええええええ!?」
事件ファイル
『包丁:現場のゴミ箱に落ちていた包丁。被害者の血の痕がベットリと残っている。トウジの指紋が検出された』
サキエル「一つは、被害者に致命傷を与えた凶器である包丁に、被告人鈴原トウジの指紋がベッタリついていたこと」
サキエル「そしてもう一つは……」
サキエル「事件当日、被告人が被害者の家にやってきていたのを目撃した人物がいることです!」
裁判長「!!」
ミサト「!!」
シンジ「…………」
シンジ「……え?」
シンジ「な、なんだってええええええええええええ!?」
事件ファイル
『包丁:現場のゴミ箱に落ちていた包丁。被害者の血の痕がベットリと残っている。トウジの指紋が検出された』
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 23:00:10.62 ID:3LvjdXQR0
同日11:18分 地方裁判所 被告人控え室
シンジ「うぅ……なんだかお腹が痛くなってきた」
ミサト「随分大きな爆弾を落としてくれたわね、あの検事さん」
シンジ「ど、どうなってしまうんでしょうか……」
ミサト「彼の言う証拠と証人、その両方が確かだとしたら……まずいわね」
シンジ「そ、そんな……」
ミサト「でも逆に言えば、彼が無罪なのだとしたらどちらかが間違っているということよ」
ミサト「証拠品についてはなんとも言えないけど……可能性があるとしたら検察官が呼んでくる証人でしょうね」
シンジ「うぅ……なんだかお腹が痛くなってきた」
ミサト「随分大きな爆弾を落としてくれたわね、あの検事さん」
シンジ「ど、どうなってしまうんでしょうか……」
ミサト「彼の言う証拠と証人、その両方が確かだとしたら……まずいわね」
シンジ「そ、そんな……」
ミサト「でも逆に言えば、彼が無罪なのだとしたらどちらかが間違っているということよ」
ミサト「証拠品についてはなんとも言えないけど……可能性があるとしたら検察官が呼んでくる証人でしょうね」
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 23:08:00.88 ID:3LvjdXQR0
シンジ「証人……どんな人なんでしょう」
ミサト「……とにかく、今あなたに出来るのは彼の無実を信じてあげることだけよ」
トウジ「…………」
シンジ「トウジ……」
トウジ「センセ、ワシは……」
シンジ「どうして言ってくれなかったんだよ。あの日、洞木さんの家に行ったの?」
トウジ「じ、実は」
ミサト「……とにかく、今あなたに出来るのは彼の無実を信じてあげることだけよ」
トウジ「…………」
シンジ「トウジ……」
トウジ「センセ、ワシは……」
シンジ「どうして言ってくれなかったんだよ。あの日、洞木さんの家に行ったの?」
トウジ「じ、実は」
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 23:12:37.97 ID:3LvjdXQR0
トウジ「……前の日、ヒカリと喧嘩して。それで、謝りに行こ思って」
トウジ「けど留守だったんや。せやから、美味いもん作って機嫌直してもらお思て……」
シンジ「そこで家に上がって包丁に触ったってわけ?」
トウジ「すき焼き、作ろう思たんやけど肉がなかったみたいやからそのまま包丁ほったらかしにしてな」
シンジ「買いに行ったのか」
トウジ「ああ。それで戻ってきたら警察が……」
シンジ(なるほど。つまり現場では包丁は犯人のすぐ目のつく位置にあったわけか)
トウジ「けど留守だったんや。せやから、美味いもん作って機嫌直してもらお思て……」
シンジ「そこで家に上がって包丁に触ったってわけ?」
トウジ「すき焼き、作ろう思たんやけど肉がなかったみたいやからそのまま包丁ほったらかしにしてな」
シンジ「買いに行ったのか」
トウジ「ああ。それで戻ってきたら警察が……」
シンジ(なるほど。つまり現場では包丁は犯人のすぐ目のつく位置にあったわけか)
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 23:19:43.19 ID:3LvjdXQR0
トウジ「シンジ……ワシ、有罪になってもお前を恨んだりせんからな!」ビシッ
シンジ「え?」
トウジ「ヒカリのいない人生なら死んだ方がマシやし!」ビシッ
トウジ「どうせなら一層のこと、スッパリ有罪にしてくれや!」ビシッ
トウジ「大人しく死刑かっくらってくるから!」ビシッ
シンジ「い、いやいや!そうはいかないよ!」
トウジ「うぅ、死んでやる、死んでやるんやぁ……」
シンジ「え?」
トウジ「ヒカリのいない人生なら死んだ方がマシやし!」ビシッ
トウジ「どうせなら一層のこと、スッパリ有罪にしてくれや!」ビシッ
トウジ「大人しく死刑かっくらってくるから!」ビシッ
シンジ「い、いやいや!そうはいかないよ!」
トウジ「うぅ、死んでやる、死んでやるんやぁ……」
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 23:23:01.72 ID:3LvjdXQR0
ミサト「……鈴原君」
トウジ「!」
ミサト「シンジ君は必ずあなたを無罪にするわ。だから、ね?その後で彼女のことはゆっくり考えましょう」
トウジ「……」
トウジ「なら、その、一つ頼みがあるんやけど」
シンジ「頼み?」
トウジ「ヒカリのバッグが欲しいんや」
シンジ「バッグって?」
トウジ「ワシがあいつの誕生日にプレゼントした、赤地に白で羽のマークがある……」
シンジ「ああ、それなら証拠品として保管されてるよ。確か現場で洞木さんの近くに落ちていたんだ」
トウジ「!」
ミサト「シンジ君は必ずあなたを無罪にするわ。だから、ね?その後で彼女のことはゆっくり考えましょう」
トウジ「……」
トウジ「なら、その、一つ頼みがあるんやけど」
シンジ「頼み?」
トウジ「ヒカリのバッグが欲しいんや」
シンジ「バッグって?」
トウジ「ワシがあいつの誕生日にプレゼントした、赤地に白で羽のマークがある……」
シンジ「ああ、それなら証拠品として保管されてるよ。確か現場で洞木さんの近くに落ちていたんだ」
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/01(日) 23:29:35.99 ID:3LvjdXQR0
トウジ「そ、そうなんか……じゃあ?」
シンジ「少なくとも事件が終わるまでは持ち出せないね。……それにしてもあれ、トウジがプレゼントしたものだったんだ」
トウジ「ああ。ヒカリのために特注で作ったんや。世界に1個しかない奴やで」
シンジ「へえ、素敵なプレゼントじゃない」
シンジ(……そうだ。これも一応証拠品じゃないか。どうせならファイルしておこうかな)
事件ファイル
『特注バッグ:トウジが被害者にプレゼントした世界に一つしかない買い物用バッグ。かなり血に濡れていたため、白のマークが赤に染まってしまっている』
シンジ(それにしてもこれ、模様があったのか。地の色がカゲキすぎて見分けがつかないぞ……)
ミサト「シンジ君、そろそろ休憩が終わるわ。大勝負の時間よ」
シンジ「はい。行きましょう、ミサトさん」
シンジ「少なくとも事件が終わるまでは持ち出せないね。……それにしてもあれ、トウジがプレゼントしたものだったんだ」
トウジ「ああ。ヒカリのために特注で作ったんや。世界に1個しかない奴やで」
シンジ「へえ、素敵なプレゼントじゃない」
シンジ(……そうだ。これも一応証拠品じゃないか。どうせならファイルしておこうかな)
事件ファイル
『特注バッグ:トウジが被害者にプレゼントした世界に一つしかない買い物用バッグ。かなり血に濡れていたため、白のマークが赤に染まってしまっている』
シンジ(それにしてもこれ、模様があったのか。地の色がカゲキすぎて見分けがつかないぞ……)
ミサト「シンジ君、そろそろ休憩が終わるわ。大勝負の時間よ」
シンジ「はい。行きましょう、ミサトさん」
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:09:30.21 ID:ZUl0lSUS0
同日 11:40 地方裁判所 法廷
裁判長「それでは鈴原トウジの法廷を再開します」
裁判長「検察側、証人の準備は?」
サキエル「無論、完了しております」
裁判長「よろしい。では早速呼んでいただきましょう」
サキエル「では、事件現場で被告人を目撃したという張手 イエルさんをこちらに!」
ミサト「いよいよね」
シンジ「うう……大丈夫かなぁ」
ミサト「証拠品に間違いがない以上、鈴原君が無実ならば出てくる証人の証言にはかならずムジュンが含まれるはず」
ミサト「そこを叩くのよ」
シンジ「ムジュン、ですね。分かりました」
裁判長「それでは鈴原トウジの法廷を再開します」
裁判長「検察側、証人の準備は?」
サキエル「無論、完了しております」
裁判長「よろしい。では早速呼んでいただきましょう」
サキエル「では、事件現場で被告人を目撃したという張手 イエルさんをこちらに!」
ミサト「いよいよね」
シンジ「うう……大丈夫かなぁ」
ミサト「証拠品に間違いがない以上、鈴原君が無実ならば出てくる証人の証言にはかならずムジュンが含まれるはず」
ミサト「そこを叩くのよ」
シンジ「ムジュン、ですね。分かりました」
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:13:16.10 ID:ZUl0lSUS0
サキエル「証人、名前と職業を」
バルディ「わたくし、張手 イエルと申します。その、不動産のお仕事を少々」
人物ファイル
『張手 イエル(ハルテ イエル)(36):不動産を少々やっているらしい胡散臭い男。手に包帯を巻いている』
裁判長「少々、というとどのくらい?」
バルディ「いえ、ほんのささいな程度でございます」
裁判長「ははぁ、なるほど」
シンジ(納得のいく答えだったか……?)
バルディ「わたくし、張手 イエルと申します。その、不動産のお仕事を少々」
人物ファイル
『張手 イエル(ハルテ イエル)(36):不動産を少々やっているらしい胡散臭い男。手に包帯を巻いている』
裁判長「少々、というとどのくらい?」
バルディ「いえ、ほんのささいな程度でございます」
裁判長「ははぁ、なるほど」
シンジ(納得のいく答えだったか……?)
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:20:45.46 ID:ZUl0lSUS0
サキエル「証人は他に手工芸も嗜んでいますが」
バルディ「この通り、先日少々手を怪我してしまいまして、今は休業中でございます」
サキエル「では証人、早速事件のことについて証言してもらえますかな?」
バルディ「かしこまりました」
ー証言開始ー
バルディ『わたくし、不動産関係の仕事で偶然、被害者様のアパートを訪れていたのでございます』
バルディ『するとちょうど、被害者様のお部屋を誰かが慌てた様子で足早に出ていくじゃございませんか』
バルディ『なんとなく怪しく思い、部屋の中を覗いてみたのです』
バルディ『すると、女の人が包丁を刺されて倒れていたのでございます!』
バルディ『わたくし一目散にその場から逃げ出してしまい。その後、警察に電話をしたのです』
裁判長「なるほど、これが間違いないとすれば……」
サキエル「包丁についていた被告人の指紋と合わせて決定的な証拠になります」
ミサト「シンジ君、分かってるわね?」
シンジ「はい、ムジュンですよね?頑張って見つけてみます」
裁判長「では弁護人、尋問をお願いします」
バルディ「この通り、先日少々手を怪我してしまいまして、今は休業中でございます」
サキエル「では証人、早速事件のことについて証言してもらえますかな?」
バルディ「かしこまりました」
ー証言開始ー
バルディ『わたくし、不動産関係の仕事で偶然、被害者様のアパートを訪れていたのでございます』
バルディ『するとちょうど、被害者様のお部屋を誰かが慌てた様子で足早に出ていくじゃございませんか』
バルディ『なんとなく怪しく思い、部屋の中を覗いてみたのです』
バルディ『すると、女の人が包丁を刺されて倒れていたのでございます!』
バルディ『わたくし一目散にその場から逃げ出してしまい。その後、警察に電話をしたのです』
裁判長「なるほど、これが間違いないとすれば……」
サキエル「包丁についていた被告人の指紋と合わせて決定的な証拠になります」
ミサト「シンジ君、分かってるわね?」
シンジ「はい、ムジュンですよね?頑張って見つけてみます」
裁判長「では弁護人、尋問をお願いします」
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:26:07.17 ID:ZUl0lSUS0
ー尋問開始ー
バルディ『わたくし、不動産関係の仕事で偶然、被害者様のアパートを訪れていたのでございます』
バルディ『するとちょうど、被害者様のお部屋を誰かが足早に出ていくじゃございませんか』
バルディ『なんとなく怪しく思い、部屋の中を覗いてみたのです』
バルディ『すると、女の人が包丁を刺されて倒れていたのでございます!』
シンジ「異議あり!」
事件ファイル
『包丁』
シンジ「女の人が包丁を刺されて倒れていた……ですか?」
バルディ「はあ、そうでございますが」
シンジ「それはおかしいですね」
サキエル「何がおかしいというのかね。被害者の死因は確かに包丁に刺されたことによる失血死ですぞ!」
シンジ「そう。だからこそおかしいんですよ」
バルディ『わたくし、不動産関係の仕事で偶然、被害者様のアパートを訪れていたのでございます』
バルディ『するとちょうど、被害者様のお部屋を誰かが足早に出ていくじゃございませんか』
バルディ『なんとなく怪しく思い、部屋の中を覗いてみたのです』
バルディ『すると、女の人が包丁を刺されて倒れていたのでございます!』
シンジ「異議あり!」
事件ファイル
『包丁』
シンジ「女の人が包丁を刺されて倒れていた……ですか?」
バルディ「はあ、そうでございますが」
シンジ「それはおかしいですね」
サキエル「何がおかしいというのかね。被害者の死因は確かに包丁に刺されたことによる失血死ですぞ!」
シンジ「そう。だからこそおかしいんですよ」
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:32:55.32 ID:ZUl0lSUS0
シンジ「包丁は被害者の部屋のゴミ箱に捨てられていたはずだ!部屋を覗いただけのあなたがそのことを知っているはずがない!」
バルディ「ぎぇえっ!?」
シンジ「どうして被害者が包丁で刺されていると分かったんですか?」
バルディ「あ、いや、その、それは……」
サキエル「異議あり!」
サキエル「弁護人の言っていることは単なる言いがかりでありまして……」
裁判長「……」
裁判長「私にはそうは思えませんな。弁護人、続けなさい」
シンジ「はい。ここで張手さんが包丁の存在を知るには実際に部屋の中に入り込む必要があります」
シンジ「しかし血を流している死体が置かれてる部屋にわざわざ入り込むなんて有り得ません」
シンジ「張手さんの証言が本当ならば、凶器を目にする機会はなかったはずです!」
裁判長「なるほど、確かにそのとおりですね。張手さん、あなたはどうして凶器のことを?」
バルディ「ぐぬぬ……」
バルディ「ぎぇえっ!?」
シンジ「どうして被害者が包丁で刺されていると分かったんですか?」
バルディ「あ、いや、その、それは……」
サキエル「異議あり!」
サキエル「弁護人の言っていることは単なる言いがかりでありまして……」
裁判長「……」
裁判長「私にはそうは思えませんな。弁護人、続けなさい」
シンジ「はい。ここで張手さんが包丁の存在を知るには実際に部屋の中に入り込む必要があります」
シンジ「しかし血を流している死体が置かれてる部屋にわざわざ入り込むなんて有り得ません」
シンジ「張手さんの証言が本当ならば、凶器を目にする機会はなかったはずです!」
裁判長「なるほど、確かにそのとおりですね。張手さん、あなたはどうして凶器のことを?」
バルディ「ぐぬぬ……」
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:37:50.81 ID:ZUl0lSUS0
バルディ「……そ、そうだ。思い出したぞ!あ、いや、思い出しましてございます」
シンジ「?」
裁判長「思い出した?」
バルディ「ええ、ええ。ですから先程も申し上げました通り少し混乱しておりまして。ですからその、血を流しているというだけでてっきりお刺されになっているものとばかり……」
シンジ(随分無理やりだな)
ミサト「シンジ君、ナイスなツッコミよ。証人は焦っているわ。今なら証言にもっとボロが出るかもしれない」
裁判長「では証人。混乱していたことについて話してもらえますか?」
シンジ「?」
裁判長「思い出した?」
バルディ「ええ、ええ。ですから先程も申し上げました通り少し混乱しておりまして。ですからその、血を流しているというだけでてっきりお刺されになっているものとばかり……」
シンジ(随分無理やりだな)
ミサト「シンジ君、ナイスなツッコミよ。証人は焦っているわ。今なら証言にもっとボロが出るかもしれない」
裁判長「では証人。混乱していたことについて話してもらえますか?」
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:43:16.39 ID:ZUl0lSUS0
ー証言開始ー
バルディ『何分、死体なんていうものを見たのは初めてでございまして』
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
バルディ『よくあるミステリードラマのようだと勝手にカン違いしてしまったのです。お騒がせいたしました』
裁判長「ふむう、なるほど」
サキエル「無理もありませんな。死体を見るなんて経験、滅多にするものではありませんから」
裁判長「ですが証言は正確に、慎重にお願いしたいものです」
シンジ(この証言は急ごしらえのその場しのぎだ。つつけばボロが出てくるはず)
シンジ(一気にたたみかけよう!)
バルディ『何分、死体なんていうものを見たのは初めてでございまして』
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
バルディ『よくあるミステリードラマのようだと勝手にカン違いしてしまったのです。お騒がせいたしました』
裁判長「ふむう、なるほど」
サキエル「無理もありませんな。死体を見るなんて経験、滅多にするものではありませんから」
裁判長「ですが証言は正確に、慎重にお願いしたいものです」
シンジ(この証言は急ごしらえのその場しのぎだ。つつけばボロが出てくるはず)
シンジ(一気にたたみかけよう!)
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:48:37.21 ID:ZUl0lSUS0
ー尋問開始ー
バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
シンジ「待った!」
シンジ「複雑な状況、というのは具体的にどういう?」
バルディ「散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが」
バルディ「赤地に白い羽のマークがついたものでございます」
バルディ「おそらく買い物帰りにお気の毒な目にあわれたのかと」
シンジ「なるほど、そういうことですか」
バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
シンジ「待った!」
シンジ「複雑な状況、というのは具体的にどういう?」
バルディ「散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが」
バルディ「赤地に白い羽のマークがついたものでございます」
バルディ「おそらく買い物帰りにお気の毒な目にあわれたのかと」
シンジ「なるほど、そういうことですか」
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:53:31.71 ID:ZUl0lSUS0
ミサト「……シンジ君、あたしは今の彼の発言、少し気になるわね」
シンジ「そ、そうですか?」
シンジ(どうせだから証言に付け加えてもらうか)
シンジ「あ、あの。じゃあ今の、証言に加えてもらえますか?」
バルディ「構いませんとも。ほほほ」
シンジ(ほほほ……ね)
シンジ「そ、そうですか?」
シンジ(どうせだから証言に付け加えてもらうか)
シンジ「あ、あの。じゃあ今の、証言に加えてもらえますか?」
バルディ「構いませんとも。ほほほ」
シンジ(ほほほ……ね)
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 21:58:46.09 ID:ZUl0lSUS0
バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』
シンジ「待った!」
シンジ「その割には随分落ち着いているようですね」
バルディ「ようやっと気持ちの整理がついてきたもので。ミステリードラマとは比べ物にならないのでございますね」
シンジ(まあ、それはそうか)
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
シンジ「待った!」
シンジ「死体の出血の状況はかなりハゲしかったと?」
バルディ「それはもう、地獄絵図、とはあのことでございましょう」
サキエル「それはそれは。さぞかし動揺されたことでしょう」
バルディ「ええ、ですから……」
シンジ「待った!」
シンジ「その割には随分落ち着いているようですね」
バルディ「ようやっと気持ちの整理がついてきたもので。ミステリードラマとは比べ物にならないのでございますね」
シンジ(まあ、それはそうか)
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
シンジ「待った!」
シンジ「死体の出血の状況はかなりハゲしかったと?」
バルディ「それはもう、地獄絵図、とはあのことでございましょう」
サキエル「それはそれは。さぞかし動揺されたことでしょう」
バルディ「ええ、ですから……」
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:05:44.97 ID:ZUl0lSUS0
バルディ『もうわたくし、コンランしてしまいまして』
シンジ「待った!」
シンジ「コンランした、というと死体を見たショックでしょうか?」
バルディ「左様でございます」
シンジ「しかしあなたはミステリードラマを見るのが趣味だと言っていました。案外、もう慣れてしまっていたのでは?」
バルディ「まさか、それはテレビの見すぎというものでございます!現実とふぃくしょんの区別くらい心得ておりますので」
サキエル「弁護人にはテレビと現実の区別をしっかりとつけてもらいたいものですな」
裁判長「弁護人、テレビは一日二時間以内に控えるように!」
シンジ「は、はい……」(僕はムジツだぞ……)
シンジ「待った!」
シンジ「コンランした、というと死体を見たショックでしょうか?」
バルディ「左様でございます」
シンジ「しかしあなたはミステリードラマを見るのが趣味だと言っていました。案外、もう慣れてしまっていたのでは?」
バルディ「まさか、それはテレビの見すぎというものでございます!現実とふぃくしょんの区別くらい心得ておりますので」
サキエル「弁護人にはテレビと現実の区別をしっかりとつけてもらいたいものですな」
裁判長「弁護人、テレビは一日二時間以内に控えるように!」
シンジ「は、はい……」(僕はムジツだぞ……)
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:10:48.94 ID:ZUl0lSUS0
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
バルディ『散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが』
シンジ「待った!」
シンジ「マイバッグ……ですか?」
バルディ「ええ、ですから現場に落ちていた……」
バルディ『赤地に白い羽のマークがついたものでございます』
シンジ「待った!」
シンジ「それは確かにその模様だったのですか」
バルディ「それはもう。下地が妙にカゲキな色合いでしたからはっきりと印象に残っております」
シンジ(なるほど、そこの所の記憶ははっきりしているみたいだな)
バルディ『散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが』
シンジ「待った!」
シンジ「マイバッグ……ですか?」
バルディ「ええ、ですから現場に落ちていた……」
バルディ『赤地に白い羽のマークがついたものでございます』
シンジ「待った!」
シンジ「それは確かにその模様だったのですか」
バルディ「それはもう。下地が妙にカゲキな色合いでしたからはっきりと印象に残っております」
シンジ(なるほど、そこの所の記憶ははっきりしているみたいだな)
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:17:19.19 ID:ZUl0lSUS0
バルディ『おそらく買い物帰りにお気の毒な目にあわれたのかと』
シンジ「待った!」
シンジ「何故、買い物帰りだと?」
バルディ「先程も申し上げました通り、スーパーで買ったと思われる肉やら野菜やら」
バルディ「お見受けしたところ女性のようでございましたので、恐らくは買い物帰りだったのだろうと」
バルディ『よくあるミステリードラマのようだと勝手にカン違いしてしまったのです。お騒がせいたしました』
シンジ「現実に人が死んでいるのに、ミステリードラマのようだと思ったんですか?」
バルディ「ほら、よくありますでしょ、ドアを開けたら人が倒れていたという……」
シンジ「よくある、とはどういう?」
バルディ「いやですね、テレビドラマの一つも見ないのですか」
サキエル「視野の狭い弁護人は証人の発言にいちいち突っかからないで欲しいものですな」
裁判長「弁護人はまだまだ若いのですから、ドラマの一つも見ておくように」
シンジ(り、リフジンだ……)
ミサト「慌てて組み上げられたこの証言は穴だらけなはずよ。きっとつつけば簡単にボロが出てくるわ」
シンジ(そうだ、ここで一気にたたみかけるんだ!)
シンジ「待った!」
シンジ「何故、買い物帰りだと?」
バルディ「先程も申し上げました通り、スーパーで買ったと思われる肉やら野菜やら」
バルディ「お見受けしたところ女性のようでございましたので、恐らくは買い物帰りだったのだろうと」
バルディ『よくあるミステリードラマのようだと勝手にカン違いしてしまったのです。お騒がせいたしました』
シンジ「現実に人が死んでいるのに、ミステリードラマのようだと思ったんですか?」
バルディ「ほら、よくありますでしょ、ドアを開けたら人が倒れていたという……」
シンジ「よくある、とはどういう?」
バルディ「いやですね、テレビドラマの一つも見ないのですか」
サキエル「視野の狭い弁護人は証人の発言にいちいち突っかからないで欲しいものですな」
裁判長「弁護人はまだまだ若いのですから、ドラマの一つも見ておくように」
シンジ(り、リフジンだ……)
ミサト「慌てて組み上げられたこの証言は穴だらけなはずよ。きっとつつけば簡単にボロが出てくるわ」
シンジ(そうだ、ここで一気にたたみかけるんだ!)
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:20:29.81 ID:ZUl0lSUS0
バルディ『何分、死体なんていうものをみたのは初めてでございまして』
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
バルディ『もうわたくし、混乱してしまいまして』
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
バルディ『散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが』
バルディ『赤地に白い羽のマークがついたものでございます』
シンジ「異議あり!」
事件ファイル
『特注バッグ』
シンジ「それはヘンですね」
バルディ『それも血まみれの死体でございますでしょ?』
バルディ『もうわたくし、混乱してしまいまして』
バルディ『それに、部屋の中も随分複雑な状況でございましたので』
バルディ『散らかっていたと言いましょうか。野菜やらお肉やら、スーパーで買ったものと一緒にマイバッグのようなものが』
バルディ『赤地に白い羽のマークがついたものでございます』
シンジ「異議あり!」
事件ファイル
『特注バッグ』
シンジ「それはヘンですね」
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:27:15.91 ID:ZUl0lSUS0
バルディ「ヘン?」
シンジ「赤地に白い羽。そのマークがあなたに見えたはずがない」
シンジ「だってこのバッグは事件当時、被害者の血を吸って赤く染まっていたんですから!」
シンジ「混乱していたなら尚更、あなたにはこのバッグが、ただの赤いバッグに見えたはずだ!」
バルディ「!!?!?!!??」
裁判長「なんと、それは本当ですか!?」
シンジ「はい。こちらの写真を見てもわかる通り、濃い赤地を貴重としたこのバッグは、血を吸ってすっかり白のマークが見えなくなってしまっています!」
裁判長「ほほう、確かにこれでは色を見分けるのは大変そうですね」
バルディ「そ、それは……そうだ!」
バルディ「同じバッグを最近見かけて、色具合からてっきり……」
シンジ「残念ですがそれは有り得ないんですよ。このバッグは被告人が被害者のために作った特注品ですからね!」
バルディ「なっ!?と、特注品……でございますとぉ……!?」
シンジ「その通り、だからあなたがこのバッグの模様を知っていたはずがないのでございます!!」
シンジ「赤地に白い羽。そのマークがあなたに見えたはずがない」
シンジ「だってこのバッグは事件当時、被害者の血を吸って赤く染まっていたんですから!」
シンジ「混乱していたなら尚更、あなたにはこのバッグが、ただの赤いバッグに見えたはずだ!」
バルディ「!!?!?!!??」
裁判長「なんと、それは本当ですか!?」
シンジ「はい。こちらの写真を見てもわかる通り、濃い赤地を貴重としたこのバッグは、血を吸ってすっかり白のマークが見えなくなってしまっています!」
裁判長「ほほう、確かにこれでは色を見分けるのは大変そうですね」
バルディ「そ、それは……そうだ!」
バルディ「同じバッグを最近見かけて、色具合からてっきり……」
シンジ「残念ですがそれは有り得ないんですよ。このバッグは被告人が被害者のために作った特注品ですからね!」
バルディ「なっ!?と、特注品……でございますとぉ……!?」
シンジ「その通り、だからあなたがこのバッグの模様を知っていたはずがないのでございます!!」
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:32:22.37 ID:ZUl0lSUS0
裁判長「証人、これはどういうことですか!?」
シンジ「なぜ証人に白のマークが見えたか」
シンジ「簡単です。刺される直前に被害者が持っていた、『まだ血に濡れる前のバッグ』を見ていたからです」
シンジ「何らかのショックと一緒にそのバッグの派手な模様が記憶に染み付いてしまったのでしょう!」
シンジ「例えば人を刺してしまった拍子に……とかね」
ザワザワザワザワザワザワ
裁判長「カンカンカン!静粛に!」
シンジ「さあ、どうですか証人!」
バルディ「ぬ、ぬぐぐ……さっきから、いちいちつっかかりございましやがって……!」
バルディ「そこの男がやったんだ……!おれ……わたくしは確かに見たんだ!さっさと……死刑に……!」
シンジ「なぜ証人に白のマークが見えたか」
シンジ「簡単です。刺される直前に被害者が持っていた、『まだ血に濡れる前のバッグ』を見ていたからです」
シンジ「何らかのショックと一緒にそのバッグの派手な模様が記憶に染み付いてしまったのでしょう!」
シンジ「例えば人を刺してしまった拍子に……とかね」
ザワザワザワザワザワザワ
裁判長「カンカンカン!静粛に!」
シンジ「さあ、どうですか証人!」
バルディ「ぬ、ぬぐぐ……さっきから、いちいちつっかかりございましやがって……!」
バルディ「そこの男がやったんだ……!おれ……わたくしは確かに見たんだ!さっさと……死刑に……!」
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:37:03.56 ID:ZUl0lSUS0
バルディ「……あ!そ、そうだ!やっと本当のことを思い出しました!」
裁判長「一体いくつ本当のことがあるのですか!」
バルディ「こ、今度は間違いございません。確かに思い出したのでございます」
裁判長「法廷での発言は慎重にお願いしますよ。段々あなたという人間が信用ならなく思えてきました」
裁判長「言葉遣いなんか明らかに変ですしねぇ」
バルディ「むぉっ!?」
バルディ「あの、こ、今度こそ間違いなくございますので」
ミサト「いい調子よ、シンジ君!あと一歩の所まで来てるわ」
ミサト「あの証人をギャフンと言わせてやりましょう」
裁判長「一体いくつ本当のことがあるのですか!」
バルディ「こ、今度は間違いございません。確かに思い出したのでございます」
裁判長「法廷での発言は慎重にお願いしますよ。段々あなたという人間が信用ならなく思えてきました」
裁判長「言葉遣いなんか明らかに変ですしねぇ」
バルディ「むぉっ!?」
バルディ「あの、こ、今度こそ間違いなくございますので」
ミサト「いい調子よ、シンジ君!あと一歩の所まで来てるわ」
ミサト「あの証人をギャフンと言わせてやりましょう」
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:42:29.27 ID:ZUl0lSUS0
ー証言開始ー
バルディ『わたくし、少々混乱しておりましたが、その後我に帰ったのでございます』
バルディ『もしかしたらまだ被害者の方が助かるかもと思い恐る恐る中へ』
バルディ『室内を隅々まで歩き回り、その時にゴミ箱の中の包丁を発見いたしました』
バルディ『被害者の方の様子もしっかり確認し、バッグの模様もその時見分けたのでございます』
バルディ『流石に落ち着いて見れば染まっているというのはわかりますから』
シンジ「そんな!さっきあなたは人の死体を見るのははじめてで混乱していたと言ってたじゃないですか!」
バルディ「そ、それは、そうでございますが。わたくしミステリードラマを見るのが趣味でして」
バルディ「ああいった探偵ものに憧れてしまい、つい様子を……」
サキエル「勝手に現場に踏み入るのは感心出来ませんが、証人はまだ被害者が絶命しているとは知らなかったのです」
サキエル「人助けの一心があってのことでしょう」
裁判長「とにかく弁護人、尋問をお願いします」
シンジ「分かりました!」
シンジ(今までの証言が嘘だったのなら、この証言だって嘘に決まってる。つき崩すなら今しかない!)
バルディ『わたくし、少々混乱しておりましたが、その後我に帰ったのでございます』
バルディ『もしかしたらまだ被害者の方が助かるかもと思い恐る恐る中へ』
バルディ『室内を隅々まで歩き回り、その時にゴミ箱の中の包丁を発見いたしました』
バルディ『被害者の方の様子もしっかり確認し、バッグの模様もその時見分けたのでございます』
バルディ『流石に落ち着いて見れば染まっているというのはわかりますから』
シンジ「そんな!さっきあなたは人の死体を見るのははじめてで混乱していたと言ってたじゃないですか!」
バルディ「そ、それは、そうでございますが。わたくしミステリードラマを見るのが趣味でして」
バルディ「ああいった探偵ものに憧れてしまい、つい様子を……」
サキエル「勝手に現場に踏み入るのは感心出来ませんが、証人はまだ被害者が絶命しているとは知らなかったのです」
サキエル「人助けの一心があってのことでしょう」
裁判長「とにかく弁護人、尋問をお願いします」
シンジ「分かりました!」
シンジ(今までの証言が嘘だったのなら、この証言だって嘘に決まってる。つき崩すなら今しかない!)
59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:47:25.74 ID:ZUl0lSUS0
ー尋問開始ー
バルディ『わたくし、少々混乱しておりましたが、その後我に帰ったのでございます』
バルディ『もしかしたらまだ被害者の方が助かるかもと思い恐る恐る中へ』
バルディ『室内を隅々まで歩き回り、その時にゴミ箱の中の包丁を発見いたしました』
シンジ「異議あり!」
事件ファイル
『割れたガラス』
シンジ「……張手さん。もう、嘘をつくのはやめにしたらどうですか?」
バルディ「う、嘘ですと?」
シンジ「こちらの写真を見てください。事件当時の被害者宅内の状況です」
サキエル「そ、それは先程絵馬刑事が提出した……」
サキエル「ああっ!!」
バルディ『わたくし、少々混乱しておりましたが、その後我に帰ったのでございます』
バルディ『もしかしたらまだ被害者の方が助かるかもと思い恐る恐る中へ』
バルディ『室内を隅々まで歩き回り、その時にゴミ箱の中の包丁を発見いたしました』
シンジ「異議あり!」
事件ファイル
『割れたガラス』
シンジ「……張手さん。もう、嘘をつくのはやめにしたらどうですか?」
バルディ「う、嘘ですと?」
シンジ「こちらの写真を見てください。事件当時の被害者宅内の状況です」
サキエル「そ、それは先程絵馬刑事が提出した……」
サキエル「ああっ!!」
60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:53:09.69 ID:ZUl0lSUS0
裁判長「ど、どういうことですか!私にもわかるように説明しなさい!」
シンジ「見たまんまですよ。室内には割れたガラスの破片が飛び散っていました」
シンジ「ガラスが散乱して、しかも死体のある部屋を落ち着いて隅々まで歩き回るなんておかしいでしょう!」
バルディ「ぎゃ、ぎゃふん!?」
バルディ「な、なんなんだテメェ、人の発言の揚げ足とってアレコレ探り入れやがって……!」
バルディ「さっきっから、なんなんだよあんた一体!?」
シンジ「質問に答えてください証人!どうしてガラスの散らかっている他人の室内を歩き回るなんて奇異な行為に出たんですか!?」
バルディ「ぐっ!!そ、それは……その……」
シンジ「見たまんまですよ。室内には割れたガラスの破片が飛び散っていました」
シンジ「ガラスが散乱して、しかも死体のある部屋を落ち着いて隅々まで歩き回るなんておかしいでしょう!」
バルディ「ぎゃ、ぎゃふん!?」
バルディ「な、なんなんだテメェ、人の発言の揚げ足とってアレコレ探り入れやがって……!」
バルディ「さっきっから、なんなんだよあんた一体!?」
シンジ「質問に答えてください証人!どうしてガラスの散らかっている他人の室内を歩き回るなんて奇異な行為に出たんですか!?」
バルディ「ぐっ!!そ、それは……その……」
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 22:58:53.02 ID:ZUl0lSUS0
サキエル「異議あり!」
サキエル「さ、先程から弁護人は意味の無いことで証人を動揺させる物言いを多発しており……」
裁判長「意味のない……確かに、先程から弁護人の目的が的を得ません」
裁判長「弁護人はどうしたいのですか?これではまるで」
裁判長「証人を告発しているかのようですぞ!」
シンジ「……」
シンジ(そうだ、間違いない。ここで一気にたたみかけるんだ!!)
シンジ「……ええ」
シンジ「間違いありません、今回の被害者洞木ヒカリさんを刺したのは被告人ではなく、今そこに立っている証人、張手イエルさんだったんです!」
裁判長「なんと!」
サキエル「そ、そんな!?」
バルディ「な、なんだと!!」
サキエル「さ、先程から弁護人は意味の無いことで証人を動揺させる物言いを多発しており……」
裁判長「意味のない……確かに、先程から弁護人の目的が的を得ません」
裁判長「弁護人はどうしたいのですか?これではまるで」
裁判長「証人を告発しているかのようですぞ!」
シンジ「……」
シンジ(そうだ、間違いない。ここで一気にたたみかけるんだ!!)
シンジ「……ええ」
シンジ「間違いありません、今回の被害者洞木ヒカリさんを刺したのは被告人ではなく、今そこに立っている証人、張手イエルさんだったんです!」
裁判長「なんと!」
サキエル「そ、そんな!?」
バルディ「な、なんだと!!」
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:04:40.69 ID:ZUl0lSUS0
ミサト「よく言ったわ、シンジ君」
バルディ「さ、さっきから勝手なことばかり言いやがって」
バルディ「お、俺が犯人だとか訳のわからねえことを……」
バルディ「そ、そうだ!なら、証拠はあるのか!?」
シンジ「し、証拠だって……?」
バルディ「俺が犯人だっていう証拠でもあるのか!?」
バルディ「ないなら俺のことを訴えるなんて出来ねえだろ!」
裁判長「……その通りですね。証拠がないのであれば証人を告発することは出来ません」
シンジ「そ、そんな……」
バルディ「さ、さっきから勝手なことばかり言いやがって」
バルディ「お、俺が犯人だとか訳のわからねえことを……」
バルディ「そ、そうだ!なら、証拠はあるのか!?」
シンジ「し、証拠だって……?」
バルディ「俺が犯人だっていう証拠でもあるのか!?」
バルディ「ないなら俺のことを訴えるなんて出来ねえだろ!」
裁判長「……その通りですね。証拠がないのであれば証人を告発することは出来ません」
シンジ「そ、そんな……」
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:09:04.81 ID:ZUl0lSUS0
シンジ(くそ、証言は崩せたと思ったのに)
サキエル「そんな証拠あるはずがない!」
バルディ「へ、へっへへ、そうだよなぁ?証拠もないのに人を犯人扱いしやがって、全くひどいヤツだ」
裁判長「現在上がっているもの以上に説得力のある証拠がないのであれば、この場での君の発言は無力です」
シンジ(僕の手元に張手イエルが犯人の証拠なんて……あるはずがない)
シンジ(ムリ……だ)
裁判長「どうやら、提示できないようですね」
バルディ「へ、へっへっへ……残念だったな、弁護士さんよぉ」
シンジ(クソ!あと一歩のところだったのに!)
シンジ(ダメ……なのか……)
バルディ「あんたのせいで気分が悪くなったぜ。そろそろ俺はここいらで……」
ミサト「待ちなさい!!」
裁判長「!!」
サキエル「!!」
シンジ「!!」
サキエル「そんな証拠あるはずがない!」
バルディ「へ、へっへへ、そうだよなぁ?証拠もないのに人を犯人扱いしやがって、全くひどいヤツだ」
裁判長「現在上がっているもの以上に説得力のある証拠がないのであれば、この場での君の発言は無力です」
シンジ(僕の手元に張手イエルが犯人の証拠なんて……あるはずがない)
シンジ(ムリ……だ)
裁判長「どうやら、提示できないようですね」
バルディ「へ、へっへっへ……残念だったな、弁護士さんよぉ」
シンジ(クソ!あと一歩のところだったのに!)
シンジ(ダメ……なのか……)
バルディ「あんたのせいで気分が悪くなったぜ。そろそろ俺はここいらで……」
ミサト「待ちなさい!!」
裁判長「!!」
サキエル「!!」
シンジ「!!」
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:12:34.45 ID:ZUl0lSUS0
ミサト「シンジ君、ここまで来たのよ!諦めてはダメ」
シンジ「で、でもそんな事言ったって……」
ミサト「今分かっている証拠で彼を追い詰められないなら、新しい証拠を見つけ出すしかないわ」
シンジ「新しい証拠……この場で?」
ミサト「そうよ。もう1度考えてみて。今一つだけ謎に包まれているものがあるでしょう?」
シンジ「謎に包まれているもの?」
シンジ「……そうだ、一つ目の刃物」
ミサト「そう。考えてみるの、事件現場にあの包丁の他に凶器になり得たものを」
シンジ「凶器になり得たもの……」
ミサト「ええ。その近道は、発想を逆転させることよ」
ミサト「そもそも『犯人が何故二度刺したか』『何故別の凶器を使ったか』なんて考えても分からないなら」
ミサト「いっそのこと、『その凶器を使ってどうなったのか』を考えるの」
シンジ「その凶器を使ってどうなったか……」
シンジ「もう一つの凶器を使って、犯人は何か……」
シンジ「そういえば、張手さんは最近手を怪我したって……」
シンジ「で、でもそんな事言ったって……」
ミサト「今分かっている証拠で彼を追い詰められないなら、新しい証拠を見つけ出すしかないわ」
シンジ「新しい証拠……この場で?」
ミサト「そうよ。もう1度考えてみて。今一つだけ謎に包まれているものがあるでしょう?」
シンジ「謎に包まれているもの?」
シンジ「……そうだ、一つ目の刃物」
ミサト「そう。考えてみるの、事件現場にあの包丁の他に凶器になり得たものを」
シンジ「凶器になり得たもの……」
ミサト「ええ。その近道は、発想を逆転させることよ」
ミサト「そもそも『犯人が何故二度刺したか』『何故別の凶器を使ったか』なんて考えても分からないなら」
ミサト「いっそのこと、『その凶器を使ってどうなったのか』を考えるの」
シンジ「その凶器を使ってどうなったか……」
シンジ「もう一つの凶器を使って、犯人は何か……」
シンジ「そういえば、張手さんは最近手を怪我したって……」
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:19:37.46 ID:ZUl0lSUS0
シンジ(これはグウゼンなのか……?)
シンジ(思い出すんだ、当時の状況は……)
シンジ「……ああ!!そうか!!」
ミサト「見えたかしら、真実が?」
シンジ「はい、ようやっと分かりました。……この事件の真相が」
シンジ「弁護側には証拠提出の用意があります」
サキエル「なんと!?」
バルディ「な、ナニィ……!」
シンジ(よし、これが最後の証拠品だ!)
シンジ「くらえ!」
シンジ(思い出すんだ、当時の状況は……)
シンジ「……ああ!!そうか!!」
ミサト「見えたかしら、真実が?」
シンジ「はい、ようやっと分かりました。……この事件の真相が」
シンジ「弁護側には証拠提出の用意があります」
サキエル「なんと!?」
バルディ「な、ナニィ……!」
シンジ(よし、これが最後の証拠品だ!)
シンジ「くらえ!」
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:25:31.11 ID:ZUl0lSUS0
事件ファイル
『割れたガラス』
裁判長「それは……先程の写真、ですか?」
シンジ「はい。やっとわかりました。謎に包まれていたもう一つの凶器」
シンジ「被害者を最初に傷つけたものはなんだったのかが」
シンジ「張手さん、あなたは確か最近手を怪我されたそうですね」
バルディ「な、そ、それがどうかしたのか、でございます」
シンジ「事件当時現場に存在したあの包丁の他に凶器になり得たもの。包丁より小さくて、咄嗟に人を傷つけられるもの」
シンジ「それがこちらなんです」
裁判長「……ガラス片、ということですか?」
バルディ「!!」
『割れたガラス』
裁判長「それは……先程の写真、ですか?」
シンジ「はい。やっとわかりました。謎に包まれていたもう一つの凶器」
シンジ「被害者を最初に傷つけたものはなんだったのかが」
シンジ「張手さん、あなたは確か最近手を怪我されたそうですね」
バルディ「な、そ、それがどうかしたのか、でございます」
シンジ「事件当時現場に存在したあの包丁の他に凶器になり得たもの。包丁より小さくて、咄嗟に人を傷つけられるもの」
シンジ「それがこちらなんです」
裁判長「……ガラス片、ということですか?」
バルディ「!!」
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:32:02.71 ID:ZUl0lSUS0
シンジ「そうです。張手さんはこのガラス片を掴んで洞木さんを刺した」
シンジ「ギュッと握りしめてね」
サキエル「な、そ、そんなことをすれば……」
シンジ「そう、手が傷だらけになってしまう」
シンジ「ちょうど今の張手さんのようにね」
バルディ「こ、これは、その……!」
シンジ「……咄嗟に相手を刺してしまった張手さんは驚きました。そして、このままでは凶器であるガラスに証拠が残ってしまうと思い」
シンジ「慌てて指紋が残らない方法で、目に入った包丁を使い、相手を刺し直して凶器をカクランしようとしたのでしょう」
シンジ(ここでやめておけば、被害者は亡くならなかったわけだよな……)
シンジ「ギュッと握りしめてね」
サキエル「な、そ、そんなことをすれば……」
シンジ「そう、手が傷だらけになってしまう」
シンジ「ちょうど今の張手さんのようにね」
バルディ「こ、これは、その……!」
シンジ「……咄嗟に相手を刺してしまった張手さんは驚きました。そして、このままでは凶器であるガラスに証拠が残ってしまうと思い」
シンジ「慌てて指紋が残らない方法で、目に入った包丁を使い、相手を刺し直して凶器をカクランしようとしたのでしょう」
シンジ(ここでやめておけば、被害者は亡くならなかったわけだよな……)
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:38:22.83 ID:ZUl0lSUS0
シンジ「それからガラスについた指紋を拭き取り、被害者の血が溜まった床に置いて誤魔化せば目立たない」
シンジ「大方そんなことを考えていたのでしょう」
シンジ「そして、後は自分が目撃者になったフリをして被告人に罪を着せようとしたのです」
シンジ(偶然、トウジの指紋が包丁に残ってしまってたのは不運だったけど)
シンジ「ですが、調べれば被害者の衣服や現場からあなたの血液が微量に検出されるはずだ!」
シンジ「ガラスを握りしめた時に出血した血痕を完全に消し去ることなんて出来ない!まだ残っているはずなんだ!現場に残るはずのないあなたの痕跡がね!」
シンジ「さあ、今度こそ言い逃れできるものならしてみて下さい!!」
バルディ「な、な、な……」
バルディ「ぐ、ぐぐぐぐぐ」
バルディ「ぐおおおおおおああああああああえええええええええ!!!!」
バルディ「ええええええええいいいいいいいいいいいいい!!」
バルディ「いいいうううううう…………」ドサッ
シンジ「大方そんなことを考えていたのでしょう」
シンジ「そして、後は自分が目撃者になったフリをして被告人に罪を着せようとしたのです」
シンジ(偶然、トウジの指紋が包丁に残ってしまってたのは不運だったけど)
シンジ「ですが、調べれば被害者の衣服や現場からあなたの血液が微量に検出されるはずだ!」
シンジ「ガラスを握りしめた時に出血した血痕を完全に消し去ることなんて出来ない!まだ残っているはずなんだ!現場に残るはずのないあなたの痕跡がね!」
シンジ「さあ、今度こそ言い逃れできるものならしてみて下さい!!」
バルディ「な、な、な……」
バルディ「ぐ、ぐぐぐぐぐ」
バルディ「ぐおおおおおおああああああああえええええええええ!!!!」
バルディ「ええええええええいいいいいいいいいいいいい!!」
バルディ「いいいうううううう…………」ドサッ
69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:42:43.02 ID:ZUl0lSUS0
…………
裁判長「……それで、張手イエルは?」
サキエル「さ、先程犯行を自白しましたので緊急逮捕いたしました」
サキエル「その、彼の手の傷も確かに現場に落ちていたガラス片による切り口と一致したようで」
裁判長「ふむ、なるほど分かりました」
裁判長「弁護人……いや、確か碇君でしたかな?」
裁判長「どうやら君の名前を覚えることになりそうですぞ」
シンジ「い、いやぁ。はは……」
裁判長「まさか依頼人を救い出しただけでなく、真犯人を見つけてしまうとは」
シンジ「こ、光栄です」
裁判長「では、今さらになってしまいましたが、被告人には判決を言い渡しましょう」
無 罪
ヒューヒュー
シンジ(張手 イエルは不動産と偽った空き巣や不法侵入の常習犯だったらしい)
シンジ(トウジの外出を目にした張手は洞木さんの部屋に侵入、そこへ買い物を終えた洞木さんが帰ってきた)
シンジ(逆上した彼は目に入ったガラス片で彼女を刺したものの致命傷には至らず、証拠隠滅のため、ハンカチの上から目についた包丁を咄嗟に手に取り洞木さんを再び刺した)
シンジ(……ということらしかった)
裁判長「……それで、張手イエルは?」
サキエル「さ、先程犯行を自白しましたので緊急逮捕いたしました」
サキエル「その、彼の手の傷も確かに現場に落ちていたガラス片による切り口と一致したようで」
裁判長「ふむ、なるほど分かりました」
裁判長「弁護人……いや、確か碇君でしたかな?」
裁判長「どうやら君の名前を覚えることになりそうですぞ」
シンジ「い、いやぁ。はは……」
裁判長「まさか依頼人を救い出しただけでなく、真犯人を見つけてしまうとは」
シンジ「こ、光栄です」
裁判長「では、今さらになってしまいましたが、被告人には判決を言い渡しましょう」
無 罪
ヒューヒュー
シンジ(張手 イエルは不動産と偽った空き巣や不法侵入の常習犯だったらしい)
シンジ(トウジの外出を目にした張手は洞木さんの部屋に侵入、そこへ買い物を終えた洞木さんが帰ってきた)
シンジ(逆上した彼は目に入ったガラス片で彼女を刺したものの致命傷には至らず、証拠隠滅のため、ハンカチの上から目についた包丁を咄嗟に手に取り洞木さんを再び刺した)
シンジ(……ということらしかった)
70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:45:36.95 ID:ZUl0lSUS0
同日 14:20分 地方裁判所 被告人控え室
ミサト「いやーお見事だったわ、シンジ君!」
ミサト「まさか初の法廷でここまでやってくれるなんて!」
シンジ「は、ははは」
シンジ(ミサトさんまで、まるで僕のことみたいに喜んでくれる)
トウジ「うぅ」
シンジ「と、トウジ?」
トウジ「シンジ、ワシ、死ぬから!」
ミサト「いやーお見事だったわ、シンジ君!」
ミサト「まさか初の法廷でここまでやってくれるなんて!」
シンジ「は、ははは」
シンジ(ミサトさんまで、まるで僕のことみたいに喜んでくれる)
トウジ「うぅ」
シンジ「と、トウジ?」
トウジ「シンジ、ワシ、死ぬから!」
71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:50:09.46 ID:ZUl0lSUS0
シンジ「い、いやいや、トウジは無罪になったじゃないか!」
トウジ「でもワシ、ヒカリのいない人生なんて、もう……」
シンジ「トウジ……」
トウジ「ワシな、あの日の前にヒカリと喧嘩したやろ?」
トウジ「それであの時謝りに行ってな、でも結局伝えられずにヒカリは……」
トウジ「ヒカリはどう思ってたんやろな。「すまん」の一時も言えず、もしヒカリがショックを受けたまま死んでしもたんやとしたら、ワシは……」
トウジ「なあ、シンジ。ヒカリはワシのこと恨んでるやろか?」
ミサト「あたしはそうは思わないわね」
トウジ「へ?」
ミサト「ねえ、そうでしょシンジ君?証拠、見せてあげたら?」
シンジ「あ、は、はい!」
シンジ「あの、トウジ、これなんだけど」
トウジ「でもワシ、ヒカリのいない人生なんて、もう……」
シンジ「トウジ……」
トウジ「ワシな、あの日の前にヒカリと喧嘩したやろ?」
トウジ「それであの時謝りに行ってな、でも結局伝えられずにヒカリは……」
トウジ「ヒカリはどう思ってたんやろな。「すまん」の一時も言えず、もしヒカリがショックを受けたまま死んでしもたんやとしたら、ワシは……」
トウジ「なあ、シンジ。ヒカリはワシのこと恨んでるやろか?」
ミサト「あたしはそうは思わないわね」
トウジ「へ?」
ミサト「ねえ、そうでしょシンジ君?証拠、見せてあげたら?」
シンジ「あ、は、はい!」
シンジ「あの、トウジ、これなんだけど」
72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:54:10.00 ID:ZUl0lSUS0
事件ファイル
『特注バッグ』
トウジ「ワシがプレゼントしたバッグ、か?」
シンジ「うん。洞木さん、あの日もこれを持って買い物にいってたんだよ」
シンジ「きっとトウジとひどい喧嘩をしたって気にせず使えるくらい、このバッグいつも持ち歩いてたんじゃないかな?」
トウジ「……」
シンジ「あの日も多分同じだったんだよ。そんなのなんとでも言えるけど、トウジは洞木さんが恨んでるって思う?」
トウジ「……センセ」
トウジ「ワシ、今回のことお前に頼んで……良かったわ」
トウジ「ありがとな」
シンジ「うん。トウジの力になれて良かったよ」
トウジ「ワシも、頑張らんとな……」
『特注バッグ』
トウジ「ワシがプレゼントしたバッグ、か?」
シンジ「うん。洞木さん、あの日もこれを持って買い物にいってたんだよ」
シンジ「きっとトウジとひどい喧嘩をしたって気にせず使えるくらい、このバッグいつも持ち歩いてたんじゃないかな?」
トウジ「……」
シンジ「あの日も多分同じだったんだよ。そんなのなんとでも言えるけど、トウジは洞木さんが恨んでるって思う?」
トウジ「……センセ」
トウジ「ワシ、今回のことお前に頼んで……良かったわ」
トウジ「ありがとな」
シンジ「うん。トウジの力になれて良かったよ」
トウジ「ワシも、頑張らんとな……」
73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/02(月) 23:58:34.51 ID:ZUl0lSUS0
ミサト(シンジ君、証拠品ってこういうものよ)
ミサト(人間と同じで、見方によっていくつもの意味があるの)
ミサト(強くなりなさい。弁護士として、人として)
トウジ「じゃあその、これ。一応依頼料な」
シンジ「あ、そっか、ありがとう。なんか変な感じだね」
ミサト「ふふっ、シンジ君の初ものね。じゃああたしもお祝いよ」
ミサト「これを渡しておくわね」
シンジ「……え、これ、十字架の首飾り?」
シンジ「確かミサトさんの大事なものなんじゃ」
ミサト「そうよ。だから今、あなたに預けておくの」
ミサト「いつか一人前の立派な弁護士になったら、あたしに返しなさい」
シンジ「ミサトさん……」
シンジ「……分かりました。必ず返しに行きますよ!」
ミサト(人間と同じで、見方によっていくつもの意味があるの)
ミサト(強くなりなさい。弁護士として、人として)
トウジ「じゃあその、これ。一応依頼料な」
シンジ「あ、そっか、ありがとう。なんか変な感じだね」
ミサト「ふふっ、シンジ君の初ものね。じゃああたしもお祝いよ」
ミサト「これを渡しておくわね」
シンジ「……え、これ、十字架の首飾り?」
シンジ「確かミサトさんの大事なものなんじゃ」
ミサト「そうよ。だから今、あなたに預けておくの」
ミサト「いつか一人前の立派な弁護士になったら、あたしに返しなさい」
シンジ「ミサトさん……」
シンジ「……分かりました。必ず返しに行きますよ!」
74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:03:35.43 ID:v9jg+r2X0
ミサト「ん。それにしても最初の事件に殺人事件を選ぶなんて驚きだったわよ」
シンジ「僕もですよ。でも、トウジの力になりたかったんです」
ミサト「鈴原君の?」
シンジ「はい。僕がこうして弁護士になったのも、トウジのお陰、みたいなところありますから」
ミサト「……へえ、なんか面白そうな話ね!」
ミサト「いい話なら今度聞かせてもらおうかな。お酒のおつまみにね!」
シンジ「は、はは……」
シンジ「僕もですよ。でも、トウジの力になりたかったんです」
ミサト「鈴原君の?」
シンジ「はい。僕がこうして弁護士になったのも、トウジのお陰、みたいなところありますから」
ミサト「……へえ、なんか面白そうな話ね!」
ミサト「いい話なら今度聞かせてもらおうかな。お酒のおつまみにね!」
シンジ「は、はは……」
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:08:56.30 ID:v9jg+r2X0
ミサト「……じゃあ、そろそろ行きましょうか。今日はシンジ君のデビュー記念だし、パーっと飲むわよ!」
シンジ「ほ、ほどほどにしておいてくださいよ!また事務所で暴れられても困りますから!」
ミサト「はいはーい、善は急げってね!!」タッタッタ
シンジ「まったくもう……」
シンジ(こうして僕の初めての裁判は終わった)
シンジ(心臓が止まるかと思ったけれど、なんとか僕は親友を助けることができた)
シンジ(この裁判の記憶は、ミサトさんがくれた十字架の首飾りと共に僕の中に残り続けるだろう)
シンジ(ただしそれは、「この首飾りをミサトさんに返す」という約束を永遠に果たせなくなってしまう、あの辛い事件と共に、という意味なのだけれど)
シンジ「ほ、ほどほどにしておいてくださいよ!また事務所で暴れられても困りますから!」
ミサト「はいはーい、善は急げってね!!」タッタッタ
シンジ「まったくもう……」
シンジ(こうして僕の初めての裁判は終わった)
シンジ(心臓が止まるかと思ったけれど、なんとか僕は親友を助けることができた)
シンジ(この裁判の記憶は、ミサトさんがくれた十字架の首飾りと共に僕の中に残り続けるだろう)
シンジ(ただしそれは、「この首飾りをミサトさんに返す」という約束を永遠に果たせなくなってしまう、あの辛い事件と共に、という意味なのだけれど)
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:16:01.67 ID:v9jg+r2X0
プルルルルル ピッ
???『はい?』
ミサト「久しぶりね、元気してたかしら?」
???『葛城さん!もう、最近全然連絡くれなかったじゃないですか!』
ミサト「ごみんごみん、ちょっち今取り扱ってる事件のことで立て込んでてね」
???『それで、またうちに頼みですか?』
ミサト「うん、悪いわね。お世話になっちゃって」
???『はぁ、もうほんと勘弁してほしいわ……』
ミサト「ふふふ、じゃあ明日の夜、こっちで待ってるわね」
???『また何か美味しいものごちそうしてくださいよ』
ミサト「そうねぇ、じゃあステーキ……いや、ラーメンなんてどうかしら?」
???『わー、ごちそうになります!じゃあ明日の夜でいいんですよね!』
???『はい?』
ミサト「久しぶりね、元気してたかしら?」
???『葛城さん!もう、最近全然連絡くれなかったじゃないですか!』
ミサト「ごみんごみん、ちょっち今取り扱ってる事件のことで立て込んでてね」
???『それで、またうちに頼みですか?』
ミサト「うん、悪いわね。お世話になっちゃって」
???『はぁ、もうほんと勘弁してほしいわ……』
ミサト「ふふふ、じゃあ明日の夜、こっちで待ってるわね」
???『また何か美味しいものごちそうしてくださいよ』
ミサト「そうねぇ、じゃあステーキ……いや、ラーメンなんてどうかしら?」
???『わー、ごちそうになります!じゃあ明日の夜でいいんですよね!』
78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:26:06.31 ID:v9jg+r2X0
ミサト「ん。あと、そうそう」
???『?』
ミサト「聞いたかしら、あなたのお兄さんのこと?」
???『ああ、はい。なんでも友達の弁護士さんに弁護してもらったとか。うち、直接は見に行けなかったんですけど』
ミサト「ふふふ、実はその弁護士ね、うちの子なのよ」
???『ええ!そうやったんですか!?』
ミサト「ええ、そうよ。最初の法廷で殺人事件をひっくり返してしまうなんて、彼は天才ね。間違いないわ。まるで成歩堂リュウイチみたいだったわ」
???『へぇ、じゃあうちも困ったことがあったらその弁護士さんに弁護にきてもらおうかな』
ミサト「おっと、ダメダメ。命が惜しかったら、彼に弁護を依頼するのはあと十四年待ちなさい」
ミサト「今日だってあたし内心、心臓が止まるかとおもったんだから」
???『わ、手のかかる部下なんですね』
ミサト「ふふ、間違ってないわ。それじゃ、明日よろしくね?」
???『わかりました、なんでもお伺いしますよ』
ミサト「センキュー!じゃ、またね、サクラ」
???『?』
ミサト「聞いたかしら、あなたのお兄さんのこと?」
???『ああ、はい。なんでも友達の弁護士さんに弁護してもらったとか。うち、直接は見に行けなかったんですけど』
ミサト「ふふふ、実はその弁護士ね、うちの子なのよ」
???『ええ!そうやったんですか!?』
ミサト「ええ、そうよ。最初の法廷で殺人事件をひっくり返してしまうなんて、彼は天才ね。間違いないわ。まるで成歩堂リュウイチみたいだったわ」
???『へぇ、じゃあうちも困ったことがあったらその弁護士さんに弁護にきてもらおうかな』
ミサト「おっと、ダメダメ。命が惜しかったら、彼に弁護を依頼するのはあと十四年待ちなさい」
ミサト「今日だってあたし内心、心臓が止まるかとおもったんだから」
???『わ、手のかかる部下なんですね』
ミサト「ふふ、間違ってないわ。それじゃ、明日よろしくね?」
???『わかりました、なんでもお伺いしますよ』
ミサト「センキュー!じゃ、またね、サクラ」
79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:31:01.20 ID:v9jg+r2X0
『逆転、襲来 完』
ミサト「人生で初めての裁判を見事に乗り切った碇シンジ」
ミサト「しかし運命は彼に喜びの時を与えなかった」
ミサト「倒れるミサト、疑われる少女、そして彼女の弁護を決意するシンジ」
ミサト「鈴原サクラと名乗る少女。綾波レイと名乗る弁護士。真希波マリと名乗る刑事」
ミサト「そして、海外からやって来た無敗の天才検事が彼の前に立ちふさがるのだった」
ミサト「次回新世紀逆転裁判『逆転チルドレン』。お楽しみにね!」
ミサト「人生で初めての裁判を見事に乗り切った碇シンジ」
ミサト「しかし運命は彼に喜びの時を与えなかった」
ミサト「倒れるミサト、疑われる少女、そして彼女の弁護を決意するシンジ」
ミサト「鈴原サクラと名乗る少女。綾波レイと名乗る弁護士。真希波マリと名乗る刑事」
ミサト「そして、海外からやって来た無敗の天才検事が彼の前に立ちふさがるのだった」
ミサト「次回新世紀逆転裁判『逆転チルドレン』。お楽しみにね!」
80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:36:57.08 ID:JRZgzUE10
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 03:14:35.15 ID:AZdahRTz0
乙
霊媒の代わりが何になってしまうんだ……
霊媒の代わりが何になってしまうんだ……
82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 08:08:46.86 ID:k+4YIS1to
乙
期待
期待
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462025113/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ 新世紀エヴァンゲリオン | Comments (0)
海未「コトリ倶楽部」
1: ◆HRI4EHmxmUaf 2016/11/27(日) 11:59:15.14 ID:F2fhazRSO
短い。
パロ。
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:00:01.78 ID:F2fhazRSO
海未「毎度お馴染み流浪の番組、『コトリ倶楽部』でございます」
ことり「お馴染み!? 初めてだよね!?」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:00:58.81 ID:F2fhazRSO
海未「今回は国立音ノ木坂学院の生徒会室に来ています」
ことり「あれ、カメラ回してるの希ちゃん?」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:01:46.03 ID:F2fhazRSO
海未「…それにしてもことり」
ことり「なっ、なに海未ちゃん」
海未「なぜそのような格好なのですか。今すぐ着替えてください」
ことり「えっ制服じゃ駄目なの?」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:02:55.60 ID:F2fhazRSO
海未「駄目です。さあ、これを」スッ
ことり「これって…」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:03:47.28 ID:F2fhazRSO
ことり「サングラス…だよね?」
海未「そうです早く着替えて」
ことり「うっうん」スチャ
ことり「かけたけど…これでいい?」
海未「…」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:04:35.42 ID:F2fhazRSO
ことり「海未ちゃん?」
海未「駄目ですね」
ことり「えっ」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:05:41.66 ID:F2fhazRSO
海未「これではことりのかわいい顔が見れないではないですか」
ことり「海未ちゃん!?」
海未「こちらにしましょう」スッ
ことり「眼鏡? 海未ちゃん、今…」
海未「大丈夫ですよ。伊達眼鏡ですから」
ことり「いいけど…」カチャ
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:06:08.76 ID:F2fhazRSO
ことり「どう?」
海未「似合ってますよ。さすがことりかわいいです」
ことり「あぅ…///」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:06:51.07 ID:F2fhazRSO
絵里「ハラショー!」
穂乃果「そっちのがかわいいよね!」
ことり「!?」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:07:37.31 ID:F2fhazRSO
絵里「今日は生徒会室での収録だったから、ずっと待ってたんだけど」
穂乃果「ことりちゃんがかわいいから全部許すよ!」
ことり「えっなにこの展開」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:08:44.97 ID:F2fhazRSO
海未「今日は生徒会室での仕事風景を撮影するんでしたよね?」
真姫「違うわよ。今日は生徒会室でのことりがいかにかわいいかをトークするんでしょ」
ことり「えっ」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 12:09:11.06 ID:F2fhazRSO
海未「そういえばそうでしたね」
真姫「じゃあ行きましょうか」
穂乃果「ちなみに凛ちゃんは先生に呼び出されちゃったからナレーションだよ」
オープニングが長くなったから今週はここまでにゃ!
次回、生徒会室でのことりちゃんを映像を見つつ語り合う予定にゃ!
14: ◆HRI4EHmxmUaf 2016/11/27(日) 12:10:08.42 ID:F2fhazRSO
出演
南ことり
園田海未
絢瀬絵里
高坂穂乃果
西木野真姫
カメラ
東條希
照明
小泉花陽
音声
矢澤にこ
ナレーション
星空凛
ディレクター
絢瀬絵里
園田海未
プロデューサー
南理事長
おわり
15: ◆HRI4EHmxmUaf 2016/11/27(日) 12:10:39.30 ID:F2fhazRSO
おわりです
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 14:34:24.95 ID:KhoPjbm3o
やはり黒幕は理事長
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 20:33:54.84 ID:Svi7+Mt8O
次回はよ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480215555/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ ラブライブ | Comments (0)
沙織「もうお嫁にいけなぁ~い…」優花里「仕方ありませぇーーーん!」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 15:21:26.73 ID:2W8TBaHQ0
・ガルパンSSです。
・キャラの性格の根本的な部分の崩壊は、ありません。
・筋肉推奨しています。
沙織「………え?」アアアン、アアアン……
優花里「……………」アンアンアン………
華「恥ずかしいと思うから恥ずかしいので………沙織さん?」アンアンアン
麻子「おい……タイミングがずれてるぞ。どうした?」アアアン、アアアン
みほ「沙織さん……、秋山さん………?」アンアンアン
・キャラの性格の根本的な部分の崩壊は、ありません。
・筋肉推奨しています。
沙織「………え?」アアアン、アアアン……
優花里「……………」アンアンアン………
華「恥ずかしいと思うから恥ずかしいので………沙織さん?」アンアンアン
麻子「おい……タイミングがずれてるぞ。どうした?」アアアン、アアアン
みほ「沙織さん……、秋山さん………?」アンアンアン
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 15:22:02.79 ID:2W8TBaHQ0
沙織「ねえ、ゆかりん。今の、どういう意味?」アアアン……
優花里「……はて?どういう意味とは、一体どういうことであります?」アアアン……
沙織「とぼけないでよ。今私がもうお嫁にいけないって言ったら、ゆかりん
『仕方ない』って言ったよね…?」アアアン……
優花里「……確かに、そのように言いましたね。で、それがどうかしましたか?
武部殿……?」アンアン……
沙織「どうかしたかって……ゆかりん。今まで私のこと、そういう風に思ってたの?
私がお嫁にいけないのが、まるで当たり前みたいな言い方だったよね…?」アンア…
優花里「おやおや、これは異なことを…。そのように認識しているのは武部殿自身
ではありませんか?このような破廉恥な踊りを踊ることに私自身納得
しているわけではありませんが、それだけのことでお嫁にいけないと
のたまう……それは武部殿自身、結婚したくない、できないと、自身で
決めつけている証ではありませんか?」ンアンアン……
優花里「私は、それに同意してあげただけであります」ンア……
沙織「同意?何でゆかりんが同意する必要があるの?無視してくれればいいのに…」ンア…
優花里「いえいえ、私はただ、『友人』として、武部殿の意志を尊重して同調して
差し上げただけですよぉ。貴女の、『望みのままに』、ね……」ンアンアン……
沙織「ゆかりん………」ンアーーーーーッ
優花里「……はて?どういう意味とは、一体どういうことであります?」アアアン……
沙織「とぼけないでよ。今私がもうお嫁にいけないって言ったら、ゆかりん
『仕方ない』って言ったよね…?」アアアン……
優花里「……確かに、そのように言いましたね。で、それがどうかしましたか?
武部殿……?」アンアン……
沙織「どうかしたかって……ゆかりん。今まで私のこと、そういう風に思ってたの?
私がお嫁にいけないのが、まるで当たり前みたいな言い方だったよね…?」アンア…
優花里「おやおや、これは異なことを…。そのように認識しているのは武部殿自身
ではありませんか?このような破廉恥な踊りを踊ることに私自身納得
しているわけではありませんが、それだけのことでお嫁にいけないと
のたまう……それは武部殿自身、結婚したくない、できないと、自身で
決めつけている証ではありませんか?」ンアンアン……
優花里「私は、それに同意してあげただけであります」ンア……
沙織「同意?何でゆかりんが同意する必要があるの?無視してくれればいいのに…」ンア…
優花里「いえいえ、私はただ、『友人』として、武部殿の意志を尊重して同調して
差し上げただけですよぉ。貴女の、『望みのままに』、ね……」ンアンアン……
沙織「ゆかりん………」ンアーーーーーッ
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 15:27:34.16 ID:2W8TBaHQ0
麻子「お、おい。二人とも……」
みほ「沙織さん、秋山さん。ちゃんと踊らないと……皆困ってるよ……」アンアンアン
桃「おい、二人とも!大事な踊りの最中に何故踊りを止めるんだ!!
これは聖グロに負けた罰でもあるんだぞ!?ちゃんと踊らなければ…」
沙織・優花里「」ギロッ
ゴゴゴゴゴゴ……
桃「ギャッ…………」バターーン
柚子「も、桃ちゃーーーん!?」
杏「ちょっ…いきなりどうしたのさ、これ!?」
みほ「沙織さん、秋山さん。ちゃんと踊らないと……皆困ってるよ……」アンアンアン
桃「おい、二人とも!大事な踊りの最中に何故踊りを止めるんだ!!
これは聖グロに負けた罰でもあるんだぞ!?ちゃんと踊らなければ…」
沙織・優花里「」ギロッ
ゴゴゴゴゴゴ……
桃「ギャッ…………」バターーン
柚子「も、桃ちゃーーーん!?」
杏「ちょっ…いきなりどうしたのさ、これ!?」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 15:28:48.39 ID:2W8TBaHQ0
観客A「お、おい……。メガネの姉ちゃんがいきなり倒れたぞ…」
観客B「救急車、呼んだ方がいいんじゃ……」
みほ「……『気当たり』、だね」
華「ええ……お二人とも、相当強い殺気を持っているようですわね…」
※気当たりとは
動物などは本能的に天敵の殺気を感じ取ったりする。
人間にもそんな能力が退化してはいるが残っている。
優れた力の持ち主は戦闘においてこの気当たりを
フェイントや威圧に使う。
作中の沙織と優花里はまだそれほど力を付けているわけではないが、
二人が一斉に強い殺気をもって睨み付けることで、
弱心臓の持ち主である桃を威圧で気絶させているのである。
沙織「ゆかりん……私、久々にキちゃったよ。
私の事そういう風に思う事自体はいいよ?でもその上から目線の物言いは、
ちょっと……許せないっていうか。見過ごせない……」
優花里「おやおや、まさか言葉尻を捕えてそこまで言われるとは、心外も甚だしいですが…。
私もちょっと、武部殿のそのなよなよした態度には思うところがありましたので…。
丁度良い機会かもしれませぬなぁ……」
優花里「でぇあ!!!」バリバリバリィ!!
麻子「うぉ……あんこうスーツを引きちぎったぞ…。
戦車に使われている特殊カーボンと同じ素材で出来てるのに……」
観客B「救急車、呼んだ方がいいんじゃ……」
みほ「……『気当たり』、だね」
華「ええ……お二人とも、相当強い殺気を持っているようですわね…」
※気当たりとは
動物などは本能的に天敵の殺気を感じ取ったりする。
人間にもそんな能力が退化してはいるが残っている。
優れた力の持ち主は戦闘においてこの気当たりを
フェイントや威圧に使う。
作中の沙織と優花里はまだそれほど力を付けているわけではないが、
二人が一斉に強い殺気をもって睨み付けることで、
弱心臓の持ち主である桃を威圧で気絶させているのである。
沙織「ゆかりん……私、久々にキちゃったよ。
私の事そういう風に思う事自体はいいよ?でもその上から目線の物言いは、
ちょっと……許せないっていうか。見過ごせない……」
優花里「おやおや、まさか言葉尻を捕えてそこまで言われるとは、心外も甚だしいですが…。
私もちょっと、武部殿のそのなよなよした態度には思うところがありましたので…。
丁度良い機会かもしれませぬなぁ……」
優花里「でぇあ!!!」バリバリバリィ!!
麻子「うぉ……あんこうスーツを引きちぎったぞ…。
戦車に使われている特殊カーボンと同じ素材で出来てるのに……」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 15:43:26.29 ID:2W8TBaHQ0
優花里「ご心配なさらず。ちゃんとアンダーウェアは装着してますゆえ」
沙織「……わかっちゃいたけど、やっぱりスーツの下に着込んでたんだね、ギプス。
スーツが異様に盛り上がってるし、ジャラジャラ音が煩わしかったから
分かってたけどね……」
優花里「そういう武部殿こそ、スーツの一部分がA4サイズくらいの長方形型に
不自然に盛り上がっていますよ。何を仕込んでいるのかは、明白ですが…」つギプス
優花里「ふふふ………(U^ω^)<にしずみどのー 」グムグムグム………
優花里「(U^ω^)<にしずみどのー (U^ω^)<にしずみどのー
(U^ω^)<にしずみどのー (U^ω^)<にしずみどのー 」グムグムグムグム
優花里「……(U^ω^)<にしずみ、どのー 」メキメキメキ
華「相変わらず、凄いですね……」
みほ「うん、筋肉量だけでいったら、秋山さんはこの中の誰よりも才能があると思う」
麻子「ここからでも汗の匂いが凄いがな…。野次馬の男どもは、この汗の匂いに
当てられて射精をしながら倒れているが……」
※優花里について
優花里は言わずと知れた戦車マニアであり、彼女は戦車グッズを集める傍ら
戦車道に必要な筋肉を手に入れるため幼少より特注の強制ギプスを身に付けている。
さらに筋トレを重ねた結果、同年代の少女のなかではかなり巨大な筋肉を手に入れる
ことに成功した。普段は筋トレを兼ねてギプスで押さえこんでいる。
ただしそこはみほのような実践経験者とアマチュアとの違いで、彼女は筋肉の
『膨張』こそ身に付けているが、『凝縮』、『部分凝縮』、『昇華』などの
派生系は身に付けておらず、作中でもたびたびみほに指摘されている。
戦車道の適正はガルパンキャラクターの中でもトップクラスであり、みほは
特訓次第では西住流に比肩しうる存在になるのではと、密かに気にかけている。
沙織「……わかっちゃいたけど、やっぱりスーツの下に着込んでたんだね、ギプス。
スーツが異様に盛り上がってるし、ジャラジャラ音が煩わしかったから
分かってたけどね……」
優花里「そういう武部殿こそ、スーツの一部分がA4サイズくらいの長方形型に
不自然に盛り上がっていますよ。何を仕込んでいるのかは、明白ですが…」つギプス
優花里「ふふふ………(U^ω^)<にしずみどのー 」グムグムグム………
優花里「(U^ω^)<にしずみどのー (U^ω^)<にしずみどのー
(U^ω^)<にしずみどのー (U^ω^)<にしずみどのー 」グムグムグムグム
優花里「……(U^ω^)<にしずみ、どのー 」メキメキメキ
華「相変わらず、凄いですね……」
みほ「うん、筋肉量だけでいったら、秋山さんはこの中の誰よりも才能があると思う」
麻子「ここからでも汗の匂いが凄いがな…。野次馬の男どもは、この汗の匂いに
当てられて射精をしながら倒れているが……」
※優花里について
優花里は言わずと知れた戦車マニアであり、彼女は戦車グッズを集める傍ら
戦車道に必要な筋肉を手に入れるため幼少より特注の強制ギプスを身に付けている。
さらに筋トレを重ねた結果、同年代の少女のなかではかなり巨大な筋肉を手に入れる
ことに成功した。普段は筋トレを兼ねてギプスで押さえこんでいる。
ただしそこはみほのような実践経験者とアマチュアとの違いで、彼女は筋肉の
『膨張』こそ身に付けているが、『凝縮』、『部分凝縮』、『昇華』などの
派生系は身に付けておらず、作中でもたびたびみほに指摘されている。
戦車道の適正はガルパンキャラクターの中でもトップクラスであり、みほは
特訓次第では西住流に比肩しうる存在になるのではと、密かに気にかけている。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:05:00.22 ID:2W8TBaHQ0
沙織「やだもー、ゆかりんから飛び散った汗で、あんこうスーツがびしょびしょだよー。
じゃあ……もうこのスーツもいらないよね」
沙織「ぬぅぅぅあ、あああああああ!!!」バリバリバリィ!
みほ「………やっぱり隠し持ってたんですね、ゼクシィ」
麻子「沙織にとっては命だからな。確か五歳のころから定期購読していたはずだ」
華「確かに……よく見ると仕込んでおられたゼクシィも2016年の1~12月号まで
揃っておりますものね。付録は外されているようですが……」
沙織「…………」パラパラパラ…
沙織「」パタンッ
沙織「」カッ!
沙織「あああぁぁぁぁぁ~~………!!!」メキメキメキ……!
※沙織について
この世界には肉食、草食、魚食、食に関する好みは色々あれど、
沙織は目から『文字』を食べる『文字食』。
つまり彼女にとって文字を読むことが食事であり、
普段みほ達と一緒に摂る食事は自身のマイノリティな食癖を隠すための偽装に過ぎない。
沙織は一週間に一度のペースで文字を読めば一ヶ月は何も飲み食いしなくとも
生きることができ、普段は授業中に教科書を読むことでお腹を満たしているが、
一番のお気に入りは婚活雑誌…特にゼクシィ。
しかし最近ハムになる本(アマチュア無線技士試験問題集)も好みの味であることを知り、
大量に買い込んで読み漁っている。
普段の沙織は「可愛くない」という理由で自身の力を抑え込んでいるが、戦闘時には
ゼクシィを読むことで細胞を活性化させ、本来の筋肉を解き放つ。
しかし優花里と違い彼女は長年の独自の特訓により独学で筋肉の『凝縮』を身に付けているため
体は普段の1.5倍程度にしか巨大化しない。その理由はやはり「見た目が可愛くないから」である。
じゃあ……もうこのスーツもいらないよね」
沙織「ぬぅぅぅあ、あああああああ!!!」バリバリバリィ!
みほ「………やっぱり隠し持ってたんですね、ゼクシィ」
麻子「沙織にとっては命だからな。確か五歳のころから定期購読していたはずだ」
華「確かに……よく見ると仕込んでおられたゼクシィも2016年の1~12月号まで
揃っておりますものね。付録は外されているようですが……」
沙織「…………」パラパラパラ…
沙織「」パタンッ
沙織「」カッ!
沙織「あああぁぁぁぁぁ~~………!!!」メキメキメキ……!
※沙織について
この世界には肉食、草食、魚食、食に関する好みは色々あれど、
沙織は目から『文字』を食べる『文字食』。
つまり彼女にとって文字を読むことが食事であり、
普段みほ達と一緒に摂る食事は自身のマイノリティな食癖を隠すための偽装に過ぎない。
沙織は一週間に一度のペースで文字を読めば一ヶ月は何も飲み食いしなくとも
生きることができ、普段は授業中に教科書を読むことでお腹を満たしているが、
一番のお気に入りは婚活雑誌…特にゼクシィ。
しかし最近ハムになる本(アマチュア無線技士試験問題集)も好みの味であることを知り、
大量に買い込んで読み漁っている。
普段の沙織は「可愛くない」という理由で自身の力を抑え込んでいるが、戦闘時には
ゼクシィを読むことで細胞を活性化させ、本来の筋肉を解き放つ。
しかし優花里と違い彼女は長年の独自の特訓により独学で筋肉の『凝縮』を身に付けているため
体は普段の1.5倍程度にしか巨大化しない。その理由はやはり「見た目が可愛くないから」である。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:15:05.89 ID:2W8TBaHQ0
優花里「ほうほう……、やはり武部殿は普段のぶりぶりしている姿より、
その姿の方が似合いますよぉ。さしずめ今の姿は真の姿(トゥルーフォーム)といった所ですか…」
沙織「随分余裕ぶってるけど…ゆかりん。今の私の姿を見て分かってるはずだよね。
強がってる場合じゃないって」メキメキ…
優花里「……その言葉、そっくりお返しいたしますよ、武部殿。
そのような事を仰る時点で貴女は……」スッ…
沙織「っ!」
優花里「私の事を、舐めているのですからなぁ」
優花里「パンツァー・ナックル!!」ヌワッハァー
※パンツァー・ナックルについて
優花里が勝手に技名をつけただけ。ただの右ストレートである。
沙織「くっ!!」ガッ!
みほ「沙織さん、咄嗟に反応して回避した。だけど……」
麻子「沙織はコロの原理を用いた受け流しを身に付けているからな。だが、それでも……」
華「避けきれていない、ですね……」
沙織(タイミングは完璧だったのに……、少しかすっちゃった。凄い威力……)
優花里「はっ!流石は武部殿!打ち込むタイミングはこちらが早かったはずですのに、
よく躱せましたねぇ!しかし、しかしですよぉおおお!!」ババッ
優花里「パンツァー・クラッシュ!!クラッシュ、クラァアアアアアッシュ!!!」ヌワッ、ヌワッ、ヌワッハァー
沙織「くっ、はっ、やあっ!!」ガッ、ガッ、ガッ!
※パンツァー・クラッシュについて
勢いをつけたパンツァーナックル。両腕を同時に相手に叩きつける動作のため、優花里は名前を変えた。
その姿の方が似合いますよぉ。さしずめ今の姿は真の姿(トゥルーフォーム)といった所ですか…」
沙織「随分余裕ぶってるけど…ゆかりん。今の私の姿を見て分かってるはずだよね。
強がってる場合じゃないって」メキメキ…
優花里「……その言葉、そっくりお返しいたしますよ、武部殿。
そのような事を仰る時点で貴女は……」スッ…
沙織「っ!」
優花里「私の事を、舐めているのですからなぁ」
優花里「パンツァー・ナックル!!」ヌワッハァー
※パンツァー・ナックルについて
優花里が勝手に技名をつけただけ。ただの右ストレートである。
沙織「くっ!!」ガッ!
みほ「沙織さん、咄嗟に反応して回避した。だけど……」
麻子「沙織はコロの原理を用いた受け流しを身に付けているからな。だが、それでも……」
華「避けきれていない、ですね……」
沙織(タイミングは完璧だったのに……、少しかすっちゃった。凄い威力……)
優花里「はっ!流石は武部殿!打ち込むタイミングはこちらが早かったはずですのに、
よく躱せましたねぇ!しかし、しかしですよぉおおお!!」ババッ
優花里「パンツァー・クラッシュ!!クラッシュ、クラァアアアアアッシュ!!!」ヌワッ、ヌワッ、ヌワッハァー
沙織「くっ、はっ、やあっ!!」ガッ、ガッ、ガッ!
※パンツァー・クラッシュについて
勢いをつけたパンツァーナックル。両腕を同時に相手に叩きつける動作のため、優花里は名前を変えた。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:27:08.54 ID:2W8TBaHQ0
華「沙織さんは防戦一方ですね……」
麻子「秋山さんの攻撃の勢いが凄まじいからな。飛び散る汗が目に入っていることも要因だろうが」
みほ「でも、沙織さんの目は死んでいません。秋山さんの攻撃は確かに苛烈ですが、体が巨大化したことで
隙が生まれています。そう、攻撃の隙間を抜けて一気に……」
沙織(ここっ!!)バッ
優花里「ぬっ!!?」
みほ「懐に飛び込む」
沙織「やだもー・パンチッ!!!」ヌワッハァー
※やだもー・パンチについて
沙織が勝手に名前をつけただけ。ただの右ストレートである。
沙織「っ!」
優花里「分かってないですなぁ武部殿。例えば相撲では立ち合いのぶつかりで額に
1トンの衝撃が掛かると言われております」ニヤリ
優花里「そんな攻撃など効きません!蛙の面にションベンでありますっ!!」ブンッ
沙織「確かに全然効いてないみたいだね、ゆかりん。それなら…」サッ
沙織「やだもー・ラッシュ!!」ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ
※やだもー・ラッシュについて
やだもー・パンチを連続で繰り出す技。一発一発の威力はやだもー・パンチに劣るが、
相手にダメージを蓄積させることができる。
優花里「無駄であります。筋肉と女の子特有の脂肪の鎧の前には全ての攻撃が無効」ドドドドド
麻子「ぅお……沙織のやだもー・ラッシュを受けてひるみもしないぞ、秋山さん」
麻子「秋山さんの攻撃の勢いが凄まじいからな。飛び散る汗が目に入っていることも要因だろうが」
みほ「でも、沙織さんの目は死んでいません。秋山さんの攻撃は確かに苛烈ですが、体が巨大化したことで
隙が生まれています。そう、攻撃の隙間を抜けて一気に……」
沙織(ここっ!!)バッ
優花里「ぬっ!!?」
みほ「懐に飛び込む」
沙織「やだもー・パンチッ!!!」ヌワッハァー
※やだもー・パンチについて
沙織が勝手に名前をつけただけ。ただの右ストレートである。
沙織「っ!」
優花里「分かってないですなぁ武部殿。例えば相撲では立ち合いのぶつかりで額に
1トンの衝撃が掛かると言われております」ニヤリ
優花里「そんな攻撃など効きません!蛙の面にションベンでありますっ!!」ブンッ
沙織「確かに全然効いてないみたいだね、ゆかりん。それなら…」サッ
沙織「やだもー・ラッシュ!!」ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ
※やだもー・ラッシュについて
やだもー・パンチを連続で繰り出す技。一発一発の威力はやだもー・パンチに劣るが、
相手にダメージを蓄積させることができる。
優花里「無駄であります。筋肉と女の子特有の脂肪の鎧の前には全ての攻撃が無効」ドドドドド
麻子「ぅお……沙織のやだもー・ラッシュを受けてひるみもしないぞ、秋山さん」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:34:58.85 ID:2W8TBaHQ0
みほ「いけない!沙織さん、離れて!」
優花里「遅いであります!上手投げ!!」ブンッ
沙織「あぁ!!」ズガァーーン
沙織(なんて威力!!ただの上手投げで地面に穴が開く!!)ゴフッ
優花里「四股トルネード!!!」グワッ!
沙織「ぐぶぅ!!!」ズガァーン
※四股トルネードについて
倒れた相手に対して相撲の四股に捻りを加えながら踏みつける荒業。
西住流では倒れた相手に対しても攻撃が可能なため、マニアの優花里はこの技を編み出した。
みほ「さ、沙織さんっ!!」
華「いけません、あのダメージは……!」
麻子「沙織っ………!」
優花里「倒れた者への攻撃だってできる。四股は武器に使えば必殺の武器であります。
私の西住流を参考にしたオリジナル・コンバット。
流石の武部殿もこれには参ったはず……って何ぃ!!?」
沙織「」ググッ……
優花里(あの攻撃を喰らってまだ立ち上がれるとは……!
やけに重かったですが、武部殿は鉛か何かで出来ているのでありますか……!?」
優花里「遅いであります!上手投げ!!」ブンッ
沙織「あぁ!!」ズガァーーン
沙織(なんて威力!!ただの上手投げで地面に穴が開く!!)ゴフッ
優花里「四股トルネード!!!」グワッ!
沙織「ぐぶぅ!!!」ズガァーン
※四股トルネードについて
倒れた相手に対して相撲の四股に捻りを加えながら踏みつける荒業。
西住流では倒れた相手に対しても攻撃が可能なため、マニアの優花里はこの技を編み出した。
みほ「さ、沙織さんっ!!」
華「いけません、あのダメージは……!」
麻子「沙織っ………!」
優花里「倒れた者への攻撃だってできる。四股は武器に使えば必殺の武器であります。
私の西住流を参考にしたオリジナル・コンバット。
流石の武部殿もこれには参ったはず……って何ぃ!!?」
沙織「」ググッ……
優花里(あの攻撃を喰らってまだ立ち上がれるとは……!
やけに重かったですが、武部殿は鉛か何かで出来ているのでありますか……!?」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:43:28.97 ID:2W8TBaHQ0
沙織「くぷっ……。流石に今のは効いたよ、凄いねゆかりん。
…ごめんね。確かに私、ゆかりんを舐めてた。
ゆかりん相手に本気を出さないなんて私、どうかしてたよ。
やっぱり、私にはこれがないとね。しっくりこないもんね…」つ包丁
優花里「その……包丁は……!」
みほ「久々に見れるんだね……沙織さんの調理が……」
麻子「ここからが反撃開始、だな……」ゴクリ
優花里「させませんよぉ!!本調子になられる前に叩き伏せて差し上げますぅ!!」ザッ!
優花里「パンツァー………ナ」
沙織「やだもーーーーー!!!!」グワッ!!
優花里「ぐわっ!!?」ピタッ
沙織「食技!婚活切りっ!!」
優花里「ぬぉっ!!?」ズバッ!!
華「久々に見ましたね、沙織さんの……」
みほ「やだもー・調理術……!」
※沙織について2:やだもー・調理術
沙織はガルパンの世界において最も人々から尊敬されている「料理人」である。
何故料理人になったかというと、大好きなお父さんに美味しい料理を食べてほしいから。
そして婚活において有利になるためである。
彼女の調理術は特殊で、「やだもー・調理術」といえばプロの世界でも広く認知されているほどに有名である。
その調理術とは沙織が「やだもー」と明確な意思を持って相手に叫べば、相手は数秒間動きを止めてしまうのである。
その隙に好き放題調理することで、彼女はこれまでも特殊調理食材を難なく捌いてきた。
それは実践においても活躍し、彼女に「やだもー」と叫ばれてしまえば、相手は為す術なく沙織に攻撃されてしまうのだ。
…ごめんね。確かに私、ゆかりんを舐めてた。
ゆかりん相手に本気を出さないなんて私、どうかしてたよ。
やっぱり、私にはこれがないとね。しっくりこないもんね…」つ包丁
優花里「その……包丁は……!」
みほ「久々に見れるんだね……沙織さんの調理が……」
麻子「ここからが反撃開始、だな……」ゴクリ
優花里「させませんよぉ!!本調子になられる前に叩き伏せて差し上げますぅ!!」ザッ!
優花里「パンツァー………ナ」
沙織「やだもーーーーー!!!!」グワッ!!
優花里「ぐわっ!!?」ピタッ
沙織「食技!婚活切りっ!!」
優花里「ぬぉっ!!?」ズバッ!!
華「久々に見ましたね、沙織さんの……」
みほ「やだもー・調理術……!」
※沙織について2:やだもー・調理術
沙織はガルパンの世界において最も人々から尊敬されている「料理人」である。
何故料理人になったかというと、大好きなお父さんに美味しい料理を食べてほしいから。
そして婚活において有利になるためである。
彼女の調理術は特殊で、「やだもー・調理術」といえばプロの世界でも広く認知されているほどに有名である。
その調理術とは沙織が「やだもー」と明確な意思を持って相手に叫べば、相手は数秒間動きを止めてしまうのである。
その隙に好き放題調理することで、彼女はこれまでも特殊調理食材を難なく捌いてきた。
それは実践においても活躍し、彼女に「やだもー」と叫ばれてしまえば、相手は為す術なく沙織に攻撃されてしまうのだ。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:55:56.66 ID:2W8TBaHQ0
優花里「ぐぅ……流石にやりますなぁ武部殿。しかし、貴女のやだもー・調理……相当のカロリーを
使うと伺っています。いつまでそれが持つのでしょうなぁ!!」グォ!!
沙織「やだもー!!!」
優花里「おぅっ!!!」ピタッ
沙織「食技!婚活切りっ!!」
優花里「がっ、はっ………!!!」ズバッ ズバッ ズバシュッ!!
※沙織について3:カロリー上限、食技・婚活切り
沙織が現在体内に蓄積できるカロリー上限は約200万キロカロリー。
やだもー・調理術は一回につき50万キロカロリーを消費するので、
事実上沙織はやだもー・調理を4回使えば体力をほぼ使い切る計算である。
このカロリー上限は細胞の壁を破ることで上げることができるが、それには
自身の細胞に適合した食材を食べねばならず、一朝一夕には上げることができない。
ちなみに婚活切りは腕力を使って相手を切りつけているだけである。
この名前をつけた理由は、彼氏ができない鬱憤を、人を切りつけることで解消できていることに
沙織が気付いたためである。
使うと伺っています。いつまでそれが持つのでしょうなぁ!!」グォ!!
沙織「やだもー!!!」
優花里「おぅっ!!!」ピタッ
沙織「食技!婚活切りっ!!」
優花里「がっ、はっ………!!!」ズバッ ズバッ ズバシュッ!!
※沙織について3:カロリー上限、食技・婚活切り
沙織が現在体内に蓄積できるカロリー上限は約200万キロカロリー。
やだもー・調理術は一回につき50万キロカロリーを消費するので、
事実上沙織はやだもー・調理を4回使えば体力をほぼ使い切る計算である。
このカロリー上限は細胞の壁を破ることで上げることができるが、それには
自身の細胞に適合した食材を食べねばならず、一朝一夕には上げることができない。
ちなみに婚活切りは腕力を使って相手を切りつけているだけである。
この名前をつけた理由は、彼氏ができない鬱憤を、人を切りつけることで解消できていることに
沙織が気付いたためである。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:56:24.51 ID:2W8TBaHQ0
麻子「これは、勝負あったかな。秋山さんにはもう体力は残っていない。
このままなぶり殺しにされるだけだ」
みほ「……いえ、冷泉さん、違いますよ。
秋山さんの目は全く死んでいません。虎視眈々と反撃の機会を窺っているんです。
それに沙織さんも、やだもー・調理術を使い過ぎて、息も絶え絶えになっています。
この勝負、どちらに転ぶか、分かりません……!」
優花里「…ぐっ、くく……!どうやらやだもー・調理を使い過ぎたようですなぁ。
私も少々血を流しすぎましたが、これで五分。勝負は分からなくなりましたな…」ハァ…ハァ…
沙織「……ゆかりん、答えて。分かってると思うけど、この最後の一撃で、どちらかは確実に死ぬ…。
その前に教えて欲しいの。普段のゆかりんを見ているから分かる。
ゆかりんがあんな事言うなんて信じられないの。だから、教えて…。あんな事を言った、本心を……」
優花里「……さぁて、何のことでありましょうなぁ。
私の本心を教えてほしい、そうおっしゃいましたな、武部殿。
ならば私をここで倒し………、私の亡骸から取り出した心臓にでも聞いてみるであります……!」
優花里「おぉぉ……………行きますよ武部殿ぉおおおおおおおおおおおお!!!!!
『西住ミンチ』!!!!!!」ヌワッハァー!!!!!
沙織「……それが答えなんだね、ゆかりん。
分かったよ、それが……ゆかりんの望みならっ!!!!!」
沙織「一刀(いっとう)!!!やだもー斬り!!!!!」ヌワッハァー!!!!!
ドォーーーーーーーーーーーーーン!!!!!
※優花里について2:西住ミンチ
優花里のカロリー上限は320万キロカロリー。その内の200万キロカロリーと
みほへの劣情の全てを右手に乗せ、相手に放つ優花里の必殺技。
その威力は喰らった相手の体内から四肢を爆散させ、粉々にする威力を持つ。
ただしこの技は自身への反動も凄まじく、右手の筋組織がズタズタになるため、
余程のことがない限り使わない。
※沙織について4:一刀・やだもー斬り
沙織の全力の包丁による攻撃。相手は死ぬ。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:56:54.14 ID:2W8TBaHQ0
………………………………
沙織「はっ!」バッ
沙織「うっ……あれ……?私、生きてる…………?何で………?」
沙織「知らない天井……病院?誰も…………あっ」
優花里「」スゥ……スゥ……
沙織「ゆかりん…………」
みほ「目が覚めたんですね、沙織さん」
沙織「みぽりん……もしかして、みぽりんが私たちを助けてくれたの?」
みほ「ええ、沙織さんと秋山さんの激突、凄かったです。お二人ともお腹に大きな穴が開いてましたから」
沙織「うん……ゆかりんの拳でお腹を貫かれたところまでは覚えてるの。
だからそんな怪我で生きてるなんて、みぽりんが治療してくれたんだろうなって」
西住みほについて:治療術
西住流はその流派ゆえ、戦いの最中腕や足が千切れたり、腹に大穴が開くことも珍しくはない。
そのため代々西住流はその戦いと共に傷を超回復させる術も編み出している。
みほは西住流でも稀な、『他人を西住流回復術にて回復させる』能力を持っているため、
母親のしほ、姉のまほからは、西住流とは全く異質の能力だと認識されている。
まほ曰く、『優しすぎる能力』。
沙織「はっ!」バッ
沙織「うっ……あれ……?私、生きてる…………?何で………?」
沙織「知らない天井……病院?誰も…………あっ」
優花里「」スゥ……スゥ……
沙織「ゆかりん…………」
みほ「目が覚めたんですね、沙織さん」
沙織「みぽりん……もしかして、みぽりんが私たちを助けてくれたの?」
みほ「ええ、沙織さんと秋山さんの激突、凄かったです。お二人ともお腹に大きな穴が開いてましたから」
沙織「うん……ゆかりんの拳でお腹を貫かれたところまでは覚えてるの。
だからそんな怪我で生きてるなんて、みぽりんが治療してくれたんだろうなって」
西住みほについて:治療術
西住流はその流派ゆえ、戦いの最中腕や足が千切れたり、腹に大穴が開くことも珍しくはない。
そのため代々西住流はその戦いと共に傷を超回復させる術も編み出している。
みほは西住流でも稀な、『他人を西住流回復術にて回復させる』能力を持っているため、
母親のしほ、姉のまほからは、西住流とは全く異質の能力だと認識されている。
まほ曰く、『優しすぎる能力』。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 16:58:14.08 ID:2W8TBaHQ0
みほ「……沙織さん、私ね。何で秋山さんがあんな事言ったのか、分かる気がするの……」
沙織「え………………?」
みほ「秋山さんはね、きっと沙織さんに自信をつけて欲しかったんだと思うな……」
沙織「自信…………?」
みほ「沙織さんはね、実は物凄く可愛いんだよ?知ってる?インターネットで沙織さんの
盗撮写真がUPされていること…。凄いんだよ、普段の授業を受けている写真から
戦車道の制服を着ている写真、果ては更衣室で着替えている写真まで…。
ネットオークションじゃその写真一枚が、数十万円の値で取引されてるの」
沙織「ぜ、全然知らなかった……」
みほ「秋山さんもそのことを知っていた。だから、気づいてほしかったんだと思うの。
沙織さんは凄いんだよって。その気になれば彼氏の十人や二十人。
息をするようにできるんだよって。ずっと沙織さんが彼氏が欲しいって叫んでるのを
見て、やりきれなかったんだと思うな」
沙織「………ゆかりん」
みほ「だから、秋山さんが起きたら、二人で話をしてみてほしいの。
同じチームメイトなんだもの。やっぱり仲良しの方が嬉しいし……」
沙織「…………………」
沙織「……うん、みぽりんの言う通りにするよ。
ゆかりんが起きたら、話をしてみる。きっと、ゆかりんとはもっとお友達になれるって、
私、そう感じてるから……」
みほ「………うん♪」
杏「感動物っぽくしてるけど、なぁにこれぇ」モグモグ
~ 第1話 終わり ~
これにて完結です。
このシリーズは以前からも書いていたものですが、本格的に書きたいなと思い書かせていただきました。
宜しければ拙作を読んで頂けると嬉しいです。
タイトルのみですが…。
・[ガルパン×孤独のグルメSS]井之頭五郎「アンツィオ高校の鉄板ナポリタン」
・[金色のガッシュSS]清麿「だ、誰だお前は!?」カッコいい僕「最後の本の使い手さ!」
・みほ「そろそろ仕送りのお金が入ってるはずだよね……」
・[ガルパンSS] ミカ「この短編集に意味があるとは思えない」
沙織「え………………?」
みほ「秋山さんはね、きっと沙織さんに自信をつけて欲しかったんだと思うな……」
沙織「自信…………?」
みほ「沙織さんはね、実は物凄く可愛いんだよ?知ってる?インターネットで沙織さんの
盗撮写真がUPされていること…。凄いんだよ、普段の授業を受けている写真から
戦車道の制服を着ている写真、果ては更衣室で着替えている写真まで…。
ネットオークションじゃその写真一枚が、数十万円の値で取引されてるの」
沙織「ぜ、全然知らなかった……」
みほ「秋山さんもそのことを知っていた。だから、気づいてほしかったんだと思うの。
沙織さんは凄いんだよって。その気になれば彼氏の十人や二十人。
息をするようにできるんだよって。ずっと沙織さんが彼氏が欲しいって叫んでるのを
見て、やりきれなかったんだと思うな」
沙織「………ゆかりん」
みほ「だから、秋山さんが起きたら、二人で話をしてみてほしいの。
同じチームメイトなんだもの。やっぱり仲良しの方が嬉しいし……」
沙織「…………………」
沙織「……うん、みぽりんの言う通りにするよ。
ゆかりんが起きたら、話をしてみる。きっと、ゆかりんとはもっとお友達になれるって、
私、そう感じてるから……」
みほ「………うん♪」
杏「感動物っぽくしてるけど、なぁにこれぇ」モグモグ
~ 第1話 終わり ~
これにて完結です。
このシリーズは以前からも書いていたものですが、本格的に書きたいなと思い書かせていただきました。
宜しければ拙作を読んで頂けると嬉しいです。
タイトルのみですが…。
・[ガルパン×孤独のグルメSS]井之頭五郎「アンツィオ高校の鉄板ナポリタン」
・[金色のガッシュSS]清麿「だ、誰だお前は!?」カッコいい僕「最後の本の使い手さ!」
・みほ「そろそろ仕送りのお金が入ってるはずだよね……」
・[ガルパンSS] ミカ「この短編集に意味があるとは思えない」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 18:29:45.27 ID:51SYiVsBo
乙
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480227686/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー | Comments (0)
【モバマスSS】晶葉「できたぞ助手!オカズにされた回数を表示するモニターだ!」
1: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:42:35.17 ID:PxNROByYo
※本文中に出てくる数字は、ある客観的データを参考にした値です
~事務所~
モバP(以下P表記)「で、それは何のために作ったんだ?」
晶葉「アイドルがファンからどう思われているかという情報はプロデュースに役立つとは思わんか?」
P「本音は?」
晶葉「好奇心だ」
P「お前のそう言うところ大好きだよ俺は」
~事務所~
モバP(以下P表記)「で、それは何のために作ったんだ?」
晶葉「アイドルがファンからどう思われているかという情報はプロデュースに役立つとは思わんか?」
P「本音は?」
晶葉「好奇心だ」
P「お前のそう言うところ大好きだよ俺は」
2: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:44:38.59 ID:PxNROByYo
晶葉「ではさっそく使い方を説明しよう!」
P「ノリノリだな、だが一向に構わん」
晶葉「このモニターのアンテナ部分を『オカズにされた回数』を知りたい人に向け横のスイッチを押すだけだ」
晶葉「アイドルのデータは登録済みなので、名前と年齢とともに回数が表示されるのだ!」
P「わぁお簡単」
晶葉「さらに大きさはなんとスマホサイズだから使ってても怪しまれない!」
P「でもお高いんでしょう?」
晶葉「しかし今ならどういうシチュエーションでオカズにされているかを分類ごとに参考画像付きで表示できる専用アタッチメントをお付けして!」
晶葉「いや誰にも売らんぞこんなもの。これは私と助手で楽しむために作ったものだ」
P「ちょっとその専用アタッチメントに関して詳しく」
晶葉「いや、いくら私でもそこまではできなかった。って本当にガッカリした顔をするな助手よ」
P「ノリノリだな、だが一向に構わん」
晶葉「このモニターのアンテナ部分を『オカズにされた回数』を知りたい人に向け横のスイッチを押すだけだ」
晶葉「アイドルのデータは登録済みなので、名前と年齢とともに回数が表示されるのだ!」
P「わぁお簡単」
晶葉「さらに大きさはなんとスマホサイズだから使ってても怪しまれない!」
P「でもお高いんでしょう?」
晶葉「しかし今ならどういうシチュエーションでオカズにされているかを分類ごとに参考画像付きで表示できる専用アタッチメントをお付けして!」
晶葉「いや誰にも売らんぞこんなもの。これは私と助手で楽しむために作ったものだ」
P「ちょっとその専用アタッチメントに関して詳しく」
晶葉「いや、いくら私でもそこまではできなかった。って本当にガッカリした顔をするな助手よ」
3: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:47:22.68 ID:PxNROByYo
晶葉「まあとにかく誰かに使ってみてはどうだ?」
P「まあ、じゃあ手始めに目の前にいるアイドルにっと」ポチッ
晶葉「えっ」
池袋晶葉(14):71245
晶葉「な・・・7万・・・///」
P「うーむ、多いのか少ないのかわからんな」
晶葉「いや多いだろう、私は14歳だぞ?手を出したら普通に犯罪だが」
晶葉「しかし私に欲情する物好きがいるとは」
P「そんなことないだろ、晶葉は充分魅力的だぞ?だからこそスカウトしたわけだし」
晶葉「・・・助手よ、お前いつか刺されるぞ?」
P「どういう意味だ?」
晶葉「まあいい。とにかく、目についたアイドルを片っ端から調べてみようではないか!」
P「ノリノリですな晶葉さん。ん?あそこにいるのは・・・」
P「まあ、じゃあ手始めに目の前にいるアイドルにっと」ポチッ
晶葉「えっ」
池袋晶葉(14):71245
晶葉「な・・・7万・・・///」
P「うーむ、多いのか少ないのかわからんな」
晶葉「いや多いだろう、私は14歳だぞ?手を出したら普通に犯罪だが」
晶葉「しかし私に欲情する物好きがいるとは」
P「そんなことないだろ、晶葉は充分魅力的だぞ?だからこそスカウトしたわけだし」
晶葉「・・・助手よ、お前いつか刺されるぞ?」
P「どういう意味だ?」
晶葉「まあいい。とにかく、目についたアイドルを片っ端から調べてみようではないか!」
P「ノリノリですな晶葉さん。ん?あそこにいるのは・・・」
4: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:48:42.75 ID:PxNROByYo
晶葉「仁奈、だと・・・?」
P「いやこれはまずい、調べたらいろいろなものを失う気がする」
晶葉「科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデース」
P「このマッドサイエンティストが」
P「まあやるんですけどね、おーい仁奈ー」ポチッ
仁奈「あ、なんでごぜーますか、プロデューサー!」トテトテ
市原仁奈(9):63543
晶葉「うわぁ」
P「日本終わってたわ」
仁奈「ど、どうしたでごぜーますか2人とも!」
P「いいか仁奈、これから辛いこともあるだろうけどまっすぐに育つんだぞ」ナデナデ
仁奈「く、くすぐってーですプロデューサー!」ニコニコ
P「ああ天使だわ、こんな子を汚すようなマネをする奴がいるのか」
晶葉「天罰が下るべきだとは思わんか」
P「いやこれはまずい、調べたらいろいろなものを失う気がする」
晶葉「科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデース」
P「このマッドサイエンティストが」
P「まあやるんですけどね、おーい仁奈ー」ポチッ
仁奈「あ、なんでごぜーますか、プロデューサー!」トテトテ
市原仁奈(9):63543
晶葉「うわぁ」
P「日本終わってたわ」
仁奈「ど、どうしたでごぜーますか2人とも!」
P「いいか仁奈、これから辛いこともあるだろうけどまっすぐに育つんだぞ」ナデナデ
仁奈「く、くすぐってーですプロデューサー!」ニコニコ
P「ああ天使だわ、こんな子を汚すようなマネをする奴がいるのか」
晶葉「天罰が下るべきだとは思わんか」
5: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:50:44.74 ID:PxNROByYo
晶葉「さて次の獲物は・・・」
P「もはや口調が狩人のそれだな。おっ、あれは・・・」
P「おーい蘭子ー」ポチッ
晶葉「いくらなんでも躊躇いがなさすぎではないか?」
蘭子「煩わしい太陽ね」
神崎蘭子(14):353659
P「おい文字通り桁が違うぞ」
晶葉「私と同じ14歳のはずなんだが」
P「まあメディア露出も多いし、グラビアの仕事もあったしなあ」
蘭子「む?どうした我が友よ・・・その我が名と共に在りし数字は?」
蘭子「ふむ、我が瞳に魅入られし者共を記す書・・・といったところか?」
P「妙なところで鋭いなおい」
P「もはや口調が狩人のそれだな。おっ、あれは・・・」
P「おーい蘭子ー」ポチッ
晶葉「いくらなんでも躊躇いがなさすぎではないか?」
蘭子「煩わしい太陽ね」
神崎蘭子(14):353659
P「おい文字通り桁が違うぞ」
晶葉「私と同じ14歳のはずなんだが」
P「まあメディア露出も多いし、グラビアの仕事もあったしなあ」
蘭子「む?どうした我が友よ・・・その我が名と共に在りし数字は?」
蘭子「ふむ、我が瞳に魅入られし者共を記す書・・・といったところか?」
P「妙なところで鋭いなおい」
7: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:53:37.35 ID:PxNROByYo
P「さて次の獲物は・・・」
晶葉「狩人が2人になったか。ん?あそこにいるのは・・・」
P「おーいありすー!」
ありす「橘です。もしくはりすにゃんと呼んでください」
P「しょっぱなから好感度高いなおい!?」ポチッ
ありす「プロデューサーのことは信じてますから」
橘ありす(12)累計:176508
P「やっぱ日本終わってたわ」
晶葉「否定できないな」
P「ごめんよありす・・・俺を信じてくれたのに俺のプロデュースのせいで・・・」
ありす「ど、どうしたんですかプロデューサー、イチゴのキャンディーあげますから元気出してください」
P「ありがとうありす。ありすはこんなに天使なのに、どうしてこうなってしまったんだ・・・」
晶葉「背伸びしたがる性格、知識欲、デレたときの破壊力等、琴線に触れそうなところは多そうだが」
P「そこ、冷静に分析するんじゃない」
晶葉「狩人が2人になったか。ん?あそこにいるのは・・・」
P「おーいありすー!」
ありす「橘です。もしくはりすにゃんと呼んでください」
P「しょっぱなから好感度高いなおい!?」ポチッ
ありす「プロデューサーのことは信じてますから」
橘ありす(12)累計:176508
P「やっぱ日本終わってたわ」
晶葉「否定できないな」
P「ごめんよありす・・・俺を信じてくれたのに俺のプロデュースのせいで・・・」
ありす「ど、どうしたんですかプロデューサー、イチゴのキャンディーあげますから元気出してください」
P「ありがとうありす。ありすはこんなに天使なのに、どうしてこうなってしまったんだ・・・」
晶葉「背伸びしたがる性格、知識欲、デレたときの破壊力等、琴線に触れそうなところは多そうだが」
P「そこ、冷静に分析するんじゃない」
8: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:56:39.44 ID:PxNROByYo
P「いやなんかどっと疲れたわ」
晶葉「年齢層が低いところが続いてるせいもあるだろう、そろそろ安心して見られるような誰かを」
P「オカズにされた回数を安心して見られるアイドルって何だよ・・・」
晶葉「おっ?助手よ、ちょうどいいアイドルを見つけたぞ?」
P「えっ?あれは・・・?」
菜々「あれ?プロデューサーさんに晶葉ちゃん?珍しい組み合わせですね」
P「・・・これ大丈夫なのか?」
晶葉「大丈夫だ、ウサミンの場合はちゃんと『永遠の17歳』で表示されるようになっている」
P「さっすがー」ポチッ
菜々「なんで会って早々年齢の話になるんですか!」プンプン
安部菜々(永遠の17歳):125160
P「ありすより低いってのはどうなんだろうな」
晶葉「ふむ、これはどう捉えていいものか」
美嘉「どうしたんですか?その数字は・・・?」
P「うーん、これ正直に伝えてみても面白いと思うんだが、どう思う晶葉?」
晶葉「うむ、これはウサミンがどれだけの回数オカズにされてるかを表した数字だ」
P「おっ」
菜々「えっ」
晶葉「ん?もしかして伝わってないか?いいか、オカズというのは」
菜々「いやいや説明しなくてもわか・・・いや違っ今のはですね!」
菜々(じゅ、じゅうまん・・・私のことを考えて・・・その・・・ゴニョゴニョしてる人が・・・///)
P(かわいい)
晶葉(かわいい)
晶葉「年齢層が低いところが続いてるせいもあるだろう、そろそろ安心して見られるような誰かを」
P「オカズにされた回数を安心して見られるアイドルって何だよ・・・」
晶葉「おっ?助手よ、ちょうどいいアイドルを見つけたぞ?」
P「えっ?あれは・・・?」
菜々「あれ?プロデューサーさんに晶葉ちゃん?珍しい組み合わせですね」
P「・・・これ大丈夫なのか?」
晶葉「大丈夫だ、ウサミンの場合はちゃんと『永遠の17歳』で表示されるようになっている」
P「さっすがー」ポチッ
菜々「なんで会って早々年齢の話になるんですか!」プンプン
安部菜々(永遠の17歳):125160
P「ありすより低いってのはどうなんだろうな」
晶葉「ふむ、これはどう捉えていいものか」
美嘉「どうしたんですか?その数字は・・・?」
P「うーん、これ正直に伝えてみても面白いと思うんだが、どう思う晶葉?」
晶葉「うむ、これはウサミンがどれだけの回数オカズにされてるかを表した数字だ」
P「おっ」
菜々「えっ」
晶葉「ん?もしかして伝わってないか?いいか、オカズというのは」
菜々「いやいや説明しなくてもわか・・・いや違っ今のはですね!」
菜々(じゅ、じゅうまん・・・私のことを考えて・・・その・・・ゴニョゴニョしてる人が・・・///)
P(かわいい)
晶葉(かわいい)
10: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 03:58:19.30 ID:PxNROByYo
P「いやーいいものを見せてもらったおかげでだいぶ回復したな」
晶葉「それは何よりだ。よし、このまま次に行くぞ」
―――その後も2人は
小早川紗枝(15):26316
P「和服っていいよなあ」
晶葉「そうなのか?」
―――事務所のアイドルたちを探しては
鷺沢文香(19):202182
P「さすがの貫禄」
晶葉「要素が完全にそっち向けだからな」
―――ひたすらデータを採り続け
龍崎薫(9):154685
P「おいお前らいますぐ出頭しろ」
晶葉「私たちが付き添ってやるから」
―――所属アイドル、183人分のデータを収集した
川島瑞樹(28):73813
晶葉「わかるわ」
P「アナウンサー時代の分もあるだろうしなあ」
晶葉「それは何よりだ。よし、このまま次に行くぞ」
―――その後も2人は
小早川紗枝(15):26316
P「和服っていいよなあ」
晶葉「そうなのか?」
―――事務所のアイドルたちを探しては
鷺沢文香(19):202182
P「さすがの貫禄」
晶葉「要素が完全にそっち向けだからな」
―――ひたすらデータを採り続け
龍崎薫(9):154685
P「おいお前らいますぐ出頭しろ」
晶葉「私たちが付き添ってやるから」
―――所属アイドル、183人分のデータを収集した
川島瑞樹(28):73813
晶葉「わかるわ」
P「アナウンサー時代の分もあるだろうしなあ」
11: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:01:18.39 ID:PxNROByYo
~1週間後・会議室~
P「悪いな、急に集まってもらって」
晶葉「今日呼んだのは卯月・幸子・かな子・杏・凛・美波・小梅・美嘉・莉嘉・雫の10名だ、全員いるな」
卯月「どういう集まりなんですか?CPのメンバーってわけでもないですし」
莉嘉「この10人でユニット組めたら、お姉ちゃんとも一緒で楽しそうなのにな~」
P「まあ、社長次第でそういう方向に行く可能性もある」
美嘉「ホントに!?」
P「実は今ここにいるのは、あるランキングのトップ10に入ったメンバーなんだ」
杏「へぇ、なんかわかんないけどすごいじゃん」グテーン
美波「もうっ、杏ちゃん、ちゃんとお話聞かないと」
杏(で、この場になんで晶葉が?・・・なーんか嫌な予感がするなあ)
P「悪いな、急に集まってもらって」
晶葉「今日呼んだのは卯月・幸子・かな子・杏・凛・美波・小梅・美嘉・莉嘉・雫の10名だ、全員いるな」
卯月「どういう集まりなんですか?CPのメンバーってわけでもないですし」
莉嘉「この10人でユニット組めたら、お姉ちゃんとも一緒で楽しそうなのにな~」
P「まあ、社長次第でそういう方向に行く可能性もある」
美嘉「ホントに!?」
P「実は今ここにいるのは、あるランキングのトップ10に入ったメンバーなんだ」
杏「へぇ、なんかわかんないけどすごいじゃん」グテーン
美波「もうっ、杏ちゃん、ちゃんとお話聞かないと」
杏(で、この場になんで晶葉が?・・・なーんか嫌な予感がするなあ)
12: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:03:12.51 ID:PxNROByYo
雫「でもー、総選挙みたいなランキングとは傾向が違うみたいですねー?」
かな子「人気ランキングだと常連の蘭子ちゃんやみくちゃん、楓さんあたりがいないですし・・・」
P「今言った数人は惜しくも10位に入れなかったな。上位にはいるんだが」
凛「そんな凄いメンバーを抑えてトップ10に入ったのがここの10人、ってこと?」
幸子「まあカワイイボクなら当然ですけどね、ふふーん!」
小梅「私たち・・・けっこう・・・凄い・・・?」
P「で、せっかくだし皆にはランキングを発表しつつこの先の方向性について簡単に話していこうかと思ってな」
凛「結局何のランキングかは教えてくれないんだ」
かな子「人気ランキングだと常連の蘭子ちゃんやみくちゃん、楓さんあたりがいないですし・・・」
P「今言った数人は惜しくも10位に入れなかったな。上位にはいるんだが」
凛「そんな凄いメンバーを抑えてトップ10に入ったのがここの10人、ってこと?」
幸子「まあカワイイボクなら当然ですけどね、ふふーん!」
小梅「私たち・・・けっこう・・・凄い・・・?」
P「で、せっかくだし皆にはランキングを発表しつつこの先の方向性について簡単に話していこうかと思ってな」
凛「結局何のランキングかは教えてくれないんだ」
13: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:06:54.84 ID:PxNROByYo
P「まあそれは後で発表するよ。ではまず10位から4位まで一気にドーン!」
10位:城ケ崎美嘉(17):358151回
9位:白坂小梅(13):362644回
8位:新田美波(19):386393回
7位:城ケ崎莉嘉(12):417843回
6位:輿水幸子(14):422336回
5位:島村卯月(17):428113回
4位:三村かな子(17):443517回
晶葉「今回は単位をつけてみたぞ」
美嘉「え~!?アタシ美嘉より下なの!?」
莉嘉「やったー☆何か知らないけどお姉ちゃんに勝ったー!」
卯月「回・・・何かの回数のランキングなんですね」
雫「でもー、ちょっと回数が多いですねー?」
小梅「たしかに・・・ア、アイドルが何かをした・・・回数じゃあ、なさそう・・・」
美波「アイドルが、じゃないならアイドルを、かアイドルに・・・?」
10位:城ケ崎美嘉(17):358151回
9位:白坂小梅(13):362644回
8位:新田美波(19):386393回
7位:城ケ崎莉嘉(12):417843回
6位:輿水幸子(14):422336回
5位:島村卯月(17):428113回
4位:三村かな子(17):443517回
晶葉「今回は単位をつけてみたぞ」
美嘉「え~!?アタシ美嘉より下なの!?」
莉嘉「やったー☆何か知らないけどお姉ちゃんに勝ったー!」
卯月「回・・・何かの回数のランキングなんですね」
雫「でもー、ちょっと回数が多いですねー?」
小梅「たしかに・・・ア、アイドルが何かをした・・・回数じゃあ、なさそう・・・」
美波「アイドルが、じゃないならアイドルを、かアイドルに・・・?」
14: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:09:05.52 ID:PxNROByYo
>>13 名前間違えてたので訂正
P「まあそれは後で発表するよ。ではまず10位から4位まで一気にドーン!」
10位:城ヶ崎美嘉(17):358151回
9位:白坂小梅(13):362644回
8位:新田美波(19):386393回
7位:城ヶ崎莉嘉(12):417843回
6位:輿水幸子(14):422336回
5位:島村卯月(17):428113回
4位:三村かな子(17):443517回
晶葉「今回は単位をつけてみたぞ」
美嘉「え~!?アタシ莉嘉より下なの!?」
莉嘉「やったー☆何か知らないけどお姉ちゃんに勝ったー!」
卯月「回・・・何かの回数のランキングなんですね」
雫「でもー、ちょっと回数が多いですねー?」
小梅「たしかに・・・ア、アイドルが何かをした・・・回数じゃあ、なさそう・・・」
美波「アイドルが、じゃないならアイドルを、かアイドルに・・・?」
P「まあそれは後で発表するよ。ではまず10位から4位まで一気にドーン!」
10位:城ヶ崎美嘉(17):358151回
9位:白坂小梅(13):362644回
8位:新田美波(19):386393回
7位:城ヶ崎莉嘉(12):417843回
6位:輿水幸子(14):422336回
5位:島村卯月(17):428113回
4位:三村かな子(17):443517回
晶葉「今回は単位をつけてみたぞ」
美嘉「え~!?アタシ莉嘉より下なの!?」
莉嘉「やったー☆何か知らないけどお姉ちゃんに勝ったー!」
卯月「回・・・何かの回数のランキングなんですね」
雫「でもー、ちょっと回数が多いですねー?」
小梅「たしかに・・・ア、アイドルが何かをした・・・回数じゃあ、なさそう・・・」
美波「アイドルが、じゃないならアイドルを、かアイドルに・・・?」
15: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:11:41.73 ID:PxNROByYo
杏(それなら一番の問題は『誰が』だけど、どっちにしろ個人なら回数が多すぎる)
杏(これ・・・『ファンが』・・・?)
杏(そしてここにいる10人、残ったメンバー、晶葉、未だになんのランキングか明かしてない事実・・・)
杏「あーわかっちゃったかも」
幸子「え?杏さんわかっちゃったんですか?」
杏「えーと、プロデューサーちょっと耳かして・・・ゴニョゴニョ」
P「さすが杏、正解だ」
杏「うわー、自分で当てといてなんだけど最低なランキングだー」
かな子「え?最低・・・?」
杏「しかも杏がまだ登場してないってあたりお前ら自重しろよと」
杏「てゆーかこれどっちのアイデア?」
晶葉「私だ」
杏「まあそうだよね、じゃなきゃここにはいないと思うし」
杏「でもいったいどうやってこんなの調べたのさ?」
P「そこは晶葉だから、としか言いようがないな」
杏(これ・・・『ファンが』・・・?)
杏(そしてここにいる10人、残ったメンバー、晶葉、未だになんのランキングか明かしてない事実・・・)
杏「あーわかっちゃったかも」
幸子「え?杏さんわかっちゃったんですか?」
杏「えーと、プロデューサーちょっと耳かして・・・ゴニョゴニョ」
P「さすが杏、正解だ」
杏「うわー、自分で当てといてなんだけど最低なランキングだー」
かな子「え?最低・・・?」
杏「しかも杏がまだ登場してないってあたりお前ら自重しろよと」
杏「てゆーかこれどっちのアイデア?」
晶葉「私だ」
杏「まあそうだよね、じゃなきゃここにはいないと思うし」
杏「でもいったいどうやってこんなの調べたのさ?」
P「そこは晶葉だから、としか言いようがないな」
19: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:17:48.49 ID:PxNROByYo
P「ということで続いて3位!双葉杏(17):447368回!」
杏「んー嬉しいのか嬉しくないのか・・・嬉しくないな」
P「まあ知名度があるっていうのも影響するし単純にファンに愛されてると見てもいいんじゃないのか?」
凛「ファンに・・・?最低のランキング・・・え、ちょっと、まさか」
美嘉「ちょっと・・・まさか、そういう・・・?」
P「おっ気づいたか?じゃあさっさと残った2人、凛と雫のランキングと回数を発表するぞ!」
2位:及川雫(16):637997回
1位:渋谷凛(15):------回
凛「えっ、ちょっと待って、これって」
晶葉「いやあ、まさかここまで多くなるとは思わなくてな、表示桁数を6桁までしか用意してなかったんだ」
P「つまり凛は100万回オーバーってことだな、さてここでこれは何の回数かってことだが、先生どうぞ!」
杏「んー嬉しいのか嬉しくないのか・・・嬉しくないな」
P「まあ知名度があるっていうのも影響するし単純にファンに愛されてると見てもいいんじゃないのか?」
凛「ファンに・・・?最低のランキング・・・え、ちょっと、まさか」
美嘉「ちょっと・・・まさか、そういう・・・?」
P「おっ気づいたか?じゃあさっさと残った2人、凛と雫のランキングと回数を発表するぞ!」
2位:及川雫(16):637997回
1位:渋谷凛(15):------回
凛「えっ、ちょっと待って、これって」
晶葉「いやあ、まさかここまで多くなるとは思わなくてな、表示桁数を6桁までしか用意してなかったんだ」
P「つまり凛は100万回オーバーってことだな、さてここでこれは何の回数かってことだが、先生どうぞ!」
22: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:21:40.98 ID:PxNROByYo
晶葉「うむ、これは『そのアイドルが何回オカズにされたか』のランキングだ!」
一同「 」
杏「あ~あ・・・」
莉嘉「え?どういうこと?」
P「ああ、後でお姉ちゃんに教えてもらえ、お姉ちゃんは間違いなく知ってるから」
美嘉「ちょっとプロデューサー!」
P「では1位の凛には晶葉先生から表彰があるぞ」
晶葉「では346プロのアイドルの中で最もオカズにされたアイドル第1位、渋谷凛さんには」
晶葉「ある絵本のタイトルをもじって『100万回抜かれた子』の称号を」
凛「いらないよ!!!」
P「まあファンからこういう目で見られているということを踏まえて、今後のプロデュース方針をだな・・・」
この10人で組んだユニットがアイドル業界を席巻し世の男性たちをいろいろと絞り尽くすことになるのは別の話。
一同「 」
杏「あ~あ・・・」
莉嘉「え?どういうこと?」
P「ああ、後でお姉ちゃんに教えてもらえ、お姉ちゃんは間違いなく知ってるから」
美嘉「ちょっとプロデューサー!」
P「では1位の凛には晶葉先生から表彰があるぞ」
晶葉「では346プロのアイドルの中で最もオカズにされたアイドル第1位、渋谷凛さんには」
晶葉「ある絵本のタイトルをもじって『100万回抜かれた子』の称号を」
凛「いらないよ!!!」
P「まあファンからこういう目で見られているということを踏まえて、今後のプロデュース方針をだな・・・」
この10人で組んだユニットがアイドル業界を席巻し世の男性たちをいろいろと絞り尽くすことになるのは別の話。
23: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:25:14.38 ID:PxNROByYo
~オマケ~
P「さて晶葉先生、分析をお願いします」
晶葉「うむ、2位と大差をつけての1位・渋谷凛だったが、正直ランキングは意外な順位が多かった」
晶葉「集計前は美波がトップ3には入ると思っていたし、かな子の上位、12歳の莉嘉や13歳の小梅のランキング入り」
晶葉「あとトップ10には愛梨やアーニャ、楓あたりが入っていないのも意外だった」
晶葉「続いて全アイドルの属性別の集計に移ると、
Cu(平均年齢16.5歳):平均59267回
Co(平均年齢18.7歳):平均71948回
Pa(平均年齢17.0歳):平均64528回 となった」
晶葉「ランキングがランキングだけに、平均年齢が高い方が回数が多くなる、という相関がありそうだが」
晶葉「Paの平均年齢を下げる要因になっている龍崎薫(21位)、赤城みりあ(17位)、城ヶ崎莉嘉(7位)など」
晶葉「年齢との相関は必ずしもあるとはいえない、といったところか」
P「さて晶葉先生、分析をお願いします」
晶葉「うむ、2位と大差をつけての1位・渋谷凛だったが、正直ランキングは意外な順位が多かった」
晶葉「集計前は美波がトップ3には入ると思っていたし、かな子の上位、12歳の莉嘉や13歳の小梅のランキング入り」
晶葉「あとトップ10には愛梨やアーニャ、楓あたりが入っていないのも意外だった」
晶葉「続いて全アイドルの属性別の集計に移ると、
Cu(平均年齢16.5歳):平均59267回
Co(平均年齢18.7歳):平均71948回
Pa(平均年齢17.0歳):平均64528回 となった」
晶葉「ランキングがランキングだけに、平均年齢が高い方が回数が多くなる、という相関がありそうだが」
晶葉「Paの平均年齢を下げる要因になっている龍崎薫(21位)、赤城みりあ(17位)、城ヶ崎莉嘉(7位)など」
晶葉「年齢との相関は必ずしもあるとはいえない、といったところか」
24: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:27:37.96 ID:PxNROByYo
晶葉「続いて、全アイドルの年齢別の集計に移ろう」
晶葉「これはグラフをそのまま出した方が早いだろうな、はいドーン」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org846212.jpg
P「うわぁ・・・」
晶葉「ちなみにウサミンは17歳として集計してある」
晶葉「見てわかる通り、12歳がトップという結果になった」
晶葉「12歳のアイドルは6人しかいないのだが、その中で莉嘉・ありす・桃華の3人が10万回越え」
P「その年齢層に属するアイドルの人数も影響するからなあ」
晶葉「そして驚くべきは9歳が年齢別7位、本来合法である18歳を境目に数字がガクッと落ちている事実も鑑みると」
P「このロリコンどもめ」
晶葉「これはグラフをそのまま出した方が早いだろうな、はいドーン」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org846212.jpg
P「うわぁ・・・」
晶葉「ちなみにウサミンは17歳として集計してある」
晶葉「見てわかる通り、12歳がトップという結果になった」
晶葉「12歳のアイドルは6人しかいないのだが、その中で莉嘉・ありす・桃華の3人が10万回越え」
P「その年齢層に属するアイドルの人数も影響するからなあ」
晶葉「そして驚くべきは9歳が年齢別7位、本来合法である18歳を境目に数字がガクッと落ちている事実も鑑みると」
P「このロリコンどもめ」
25: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:29:15.39 ID:PxNROByYo
晶葉「11歳は千枝とみりあがどちらも20万を超える高スコアを叩きだす結果となり僅差の2位」
晶葉「13歳は小梅が、14歳は幸子・蘭子が引っ張ったものの全体の人数が多いことで少し落ち気味だ」
晶葉「15歳はトップの凛をみく・アーニャ・未央がサポートする鉄壁の布陣」
晶葉「16歳は雫とまゆ以外は伸び悩み、17歳は杏・かな子・卯月・美嘉とトップ10を4人もそろえたスター集団」
晶葉「25歳は楓のワンマンチーム、28歳は早苗と瑞樹がどちらも安定したスコアを出している」
晶葉「それ以外の年齢層は残念ながらスター選手がおらず低い結果となってしまった」
P「もうなんかサッカーか何かの解説みたく聞こえるな」
晶葉「13歳は小梅が、14歳は幸子・蘭子が引っ張ったものの全体の人数が多いことで少し落ち気味だ」
晶葉「15歳はトップの凛をみく・アーニャ・未央がサポートする鉄壁の布陣」
晶葉「16歳は雫とまゆ以外は伸び悩み、17歳は杏・かな子・卯月・美嘉とトップ10を4人もそろえたスター集団」
晶葉「25歳は楓のワンマンチーム、28歳は早苗と瑞樹がどちらも安定したスコアを出している」
晶葉「それ以外の年齢層は残念ながらスター選手がおらず低い結果となってしまった」
P「もうなんかサッカーか何かの解説みたく聞こえるな」
26: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:32:32.44 ID:PxNROByYo
P「さて、これだけ調べたら満足したか?」
晶葉「大いに満足した、と言いたいところだがまだ一人調べていない人物がいる」
P「えっ?」
晶葉「ではちょっとモニターを・・・」ポチッ
P「おいまさか」
プロデューサー(??):136714
P「 」
晶葉「 」
P「・・・この結果についての分析を頼みたい」
晶葉「・・・まあ十中八九、うちのアイドルたちだろう」
晶葉「まさに今も誰かが自宅や寮で致してるんじゃないか?」
P「マジか、これアイドルたちの中に放り込んでも24位とかになるんだが」
晶葉「183人が1日1回致したとして・・・2年ほどかかる計算か」
晶葉「1日1回とは限らないからそう単純な計算にはならないだろうが」
晶葉「前にも言ったが・・・助手よ、刺されないように気をつけるべきだな」
晶葉「大いに満足した、と言いたいところだがまだ一人調べていない人物がいる」
P「えっ?」
晶葉「ではちょっとモニターを・・・」ポチッ
P「おいまさか」
プロデューサー(??):136714
P「 」
晶葉「 」
P「・・・この結果についての分析を頼みたい」
晶葉「・・・まあ十中八九、うちのアイドルたちだろう」
晶葉「まさに今も誰かが自宅や寮で致してるんじゃないか?」
P「マジか、これアイドルたちの中に放り込んでも24位とかになるんだが」
晶葉「183人が1日1回致したとして・・・2年ほどかかる計算か」
晶葉「1日1回とは限らないからそう単純な計算にはならないだろうが」
晶葉「前にも言ったが・・・助手よ、刺されないように気をつけるべきだな」
27: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 04:34:02.63 ID:PxNROByYo
以上で完結です。ここまで読んでくれた方ありがとうございました&名前間違えまくってすみませんでした
本文中に出てきた数字は某画像投稿サイトでR-18検索をしたときの件数を、1位が100万になるように調整した数字となってます
Pの数字は「武内P」で出てきた数字を使っています
前作と今書いてるのがどちらもホラーで、頭の悪いSSを書いて息抜きをしようと思ったはずが
どうせならリアリティを持たせようと思い資料を作り始めた結果今までのSSで一番時間がかかる始末
本文中に出てきた数字は某画像投稿サイトでR-18検索をしたときの件数を、1位が100万になるように調整した数字となってます
Pの数字は「武内P」で出てきた数字を使っています
前作と今書いてるのがどちらもホラーで、頭の悪いSSを書いて息抜きをしようと思ったはずが
どうせならリアリティを持たせようと思い資料を作り始めた結果今までのSSで一番時間がかかる始末
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 04:37:39.31 ID:CIXYfG23o
おつおつ
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 04:44:05.25 ID:ehCueP1+O
ありすの同人誌って隣の橘さんだっけ?しかしらんが意外とあるのか…
そんな私は凛で主に抜いてます
そんな私は凛で主に抜いてます
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 06:44:42.60 ID:aabwG+wlO
乙
しぶりんはスタンダードで非常に抜きやすいね
しぶりんはスタンダードで非常に抜きやすいね
44: ◆P1ZZk9vB9M 2016/05/03(火) 14:54:11.91 ID:PxNROByYo
ちょっと気になるコメントがありましたので
>>42
本文中の数字だと、
高橋礼子(31):27559回
柊志乃(31):16688回 ですね
10000回以下のアイドルが61人もいるのでグラフで見るとちょっと多めに見えるかも
>>43
向井拓海(18):130937回(24位)
30万回超えのとときんと18歳勢2強ですが、18歳は人数が17人と多すぎるせいもあり伸びづらいようでした
>>42
本文中の数字だと、
高橋礼子(31):27559回
柊志乃(31):16688回 ですね
10000回以下のアイドルが61人もいるのでグラフで見るとちょっと多めに見えるかも
>>43
向井拓海(18):130937回(24位)
30万回超えのとときんと18歳勢2強ですが、18歳は人数が17人と多すぎるせいもあり伸びづらいようでした
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462214554/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
【ミリマス】P「人魚姫の夢」【SS】
1: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 00:57:40.84 ID:Tf8DaPgd0
書いたのにドラマコンテストに出し損ねる無能采配したので初投稿です。
レギュすら読まなかったのでなんかすごいことに。
なので全部台本書きになってます。難しいぞ。
あとはいつものテンプレ注意事項
短編集です。
レギュすら読まなかったのでなんかすごいことに。
なので全部台本書きになってます。難しいぞ。
あとはいつものテンプレ注意事項
短編集です。
2: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 00:59:42.84 ID:Tf8DaPgd0
文法・語法問題集 ロコステージ
3: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:00:22.83 ID:Tf8DaPgd0
葉「うーん…」
恵美「あれ、琴葉どうしたの?」
琴葉「恵美、ちょっと難しい問題に当たっちゃって…恵美も一緒にやる?」
恵美「うわ勉強してたの?藪蛇つついちゃったかなぁ」
琴葉「ほら座って、最近私達勉強してないでしょ!あんまり疎かにしてると後で痛い目見るわよ」
恵美「元からそんなに高くないからしてもしなくても変わらないんだよアタシはー!…それでどんな問題なの?」
恵美「学年違うから難しいのはムリだよ?」
恵美「あれ、琴葉どうしたの?」
琴葉「恵美、ちょっと難しい問題に当たっちゃって…恵美も一緒にやる?」
恵美「うわ勉強してたの?藪蛇つついちゃったかなぁ」
琴葉「ほら座って、最近私達勉強してないでしょ!あんまり疎かにしてると後で痛い目見るわよ」
恵美「元からそんなに高くないからしてもしなくても変わらないんだよアタシはー!…それでどんな問題なの?」
恵美「学年違うから難しいのはムリだよ?」
4: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:00:57.12 ID:Tf8DaPgd0
琴葉「大丈夫大丈夫。問題読むわ、『私は今朝とてもおいしいをお餅を食べた』」
恵美「あぁ英語?えーと、I ate…」
琴葉「なにを言ってるの恵美?正解は『モーニングに食べたライスケーキはベリーヤミーでした!』よ」
恵美「ロコ語じゃん!なんでそんなの勉強してるの!?」
琴葉「なんでって…恵美、あなたロコ語苦手だからって現実から目を背けちゃダメよ」
琴葉「ほら基本から確認しましょ?ほらロコテージ出して?」
恵美「ロコテージ!?」
琴葉「あれ、もしかして恵美の学校らupgradeロゴ語文法使ってる?」
恵美「ロゴ語版あるのupgrade!?」
恵美「あぁ英語?えーと、I ate…」
琴葉「なにを言ってるの恵美?正解は『モーニングに食べたライスケーキはベリーヤミーでした!』よ」
恵美「ロコ語じゃん!なんでそんなの勉強してるの!?」
琴葉「なんでって…恵美、あなたロコ語苦手だからって現実から目を背けちゃダメよ」
琴葉「ほら基本から確認しましょ?ほらロコテージ出して?」
恵美「ロコテージ!?」
琴葉「あれ、もしかして恵美の学校らupgradeロゴ語文法使ってる?」
恵美「ロゴ語版あるのupgrade!?」
5: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:01:49.96 ID:Tf8DaPgd0
恵美「どう考えてもヴィンテージとupgradeだよね…いったいどうなってるの?」
琴葉「ほら私のロコテージ貸してあげるわ。まずは品詞からね」
恵美「なんか色々言いたいけどロコ語にも品詞の概念があるのね…」
琴葉「ロコ語には名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞の五大品詞があるわ」
恵美「あれ、代名詞とかないの?」
琴葉「日本語的なこそあど言葉や指示語として使われることがあるけど、特別な語彙も用法もないから大丈夫よ、英語と違って」
恵美「あぁ言った!今英語って言った!」
琴葉「まずはロコ語最大の特徴である形容詞について説明するわね」
恵美「が、ガンスルー…」
琴葉「日本語が名詞中心言語、英語が動詞中心言語なら、ロコ語は形容詞中心言語と言えるわ」
恵美「…たしかにワンダフルとかインポータントとかアメイジングとか好きだよね」
琴葉「それじゃ訳して?『今日は私の誕生日です』」
恵美「えーと…『トゥデイはマイバースデー』…意外に難しいなロコナイズ!」
琴葉「正解は『今日はワールドワイド的にインポータントなメモリアル・マイ・バースデーです』よ」
恵美「わかるか!」
琴葉「ほら私のロコテージ貸してあげるわ。まずは品詞からね」
恵美「なんか色々言いたいけどロコ語にも品詞の概念があるのね…」
琴葉「ロコ語には名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞の五大品詞があるわ」
恵美「あれ、代名詞とかないの?」
琴葉「日本語的なこそあど言葉や指示語として使われることがあるけど、特別な語彙も用法もないから大丈夫よ、英語と違って」
恵美「あぁ言った!今英語って言った!」
琴葉「まずはロコ語最大の特徴である形容詞について説明するわね」
恵美「が、ガンスルー…」
琴葉「日本語が名詞中心言語、英語が動詞中心言語なら、ロコ語は形容詞中心言語と言えるわ」
恵美「…たしかにワンダフルとかインポータントとかアメイジングとか好きだよね」
琴葉「それじゃ訳して?『今日は私の誕生日です』」
恵美「えーと…『トゥデイはマイバースデー』…意外に難しいなロコナイズ!」
琴葉「正解は『今日はワールドワイド的にインポータントなメモリアル・マイ・バースデーです』よ」
恵美「わかるか!」
6: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:02:24.32 ID:Tf8DaPgd0
琴葉「恵美…これは重症ね…。名詞構文、動詞の述語化から教えたほうがいいかしら…」
恵美「ちょっと待ってそれ多分英語でもわからないから!琴葉、聞いてる?!」
琴葉「恵美、この『シアターのみんなが、ロコのバースデーを盛大にレセプションしてくれた』って文なんだけど…」
恵美「もういやだー!」
恵美「ちょっと待ってそれ多分英語でもわからないから!琴葉、聞いてる?!」
琴葉「恵美、この『シアターのみんなが、ロコのバースデーを盛大にレセプションしてくれた』って文なんだけど…」
恵美「もういやだー!」
7: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:03:13.38 ID:Tf8DaPgd0
恵美「……はっ!?夢、だったの?」
静香「あの、大丈夫ですか?物凄く唸ってましたよ?」
恵美「あーうん、大丈夫大丈夫。変な夢見ちゃってさぁ」
恵美「アタシが夢の中で勉強させられるわけ。もう悪夢ってもんじゃないよ…」
静香「ふふ、でもちゃんと勉強しないと未来達みたいにプロデューサーの特別補修に召集されちゃいますよ?」
恵美「そんなことしてたの?…だからこの前未来や杏奈がグッタリしてたわけだ」
恵美「静香はちゃんと勉強してて偉いねぇ、今何やってるの?数学?」
静香「いえ、この前の定期試験で文法事項を落としてしまったので、文法語法を」
恵美「…本気でアタシより頭いいんじゃない?…参考書は何使ってるの?」
静香「うちの学校はこれです、ロコステージ」
恵美「ロコ…ステージ…?ってじゃあアタシまだ夢の中にいる?!」
恵美「だ、誰か起こしてーー!」
(その後プロデューサーに起こされた恵美は、ちゃんと勉強しようと決意したのであった)
8: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:05:58.39 ID:Tf8DaPgd0
アイドルヒーローズ 語られぬ断章
9: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:06:39.99 ID:Tf8DaPgd0
紗代子「百合子!」
百合子「誰かと思えば…久しぶりね、紗代子」
紗代子「この街の惨状…貴女がやったの?!嘘だよね?嘘だと言って!」
百合子「本当だよ、紗代子」
紗代子「じゃあどうして?貴女は正義の味方じゃなかったの!?」
百合子「いいえ…今も正義の味方です。ただ、信じるべき正しさが変わっただけ…」
百合子「紗代子…貴女は正しかった。破壊というのがここまで素晴らしいなんて…」
百合子「ここに刻まれたデストルドーの証が…ここまで愛おしいなんて」
紗代子「そんな…デストルドーの紋章…?違うよ百合子!それは貴女が否定してくれた!」
紗代子「そんなものに何の価値もないって!」
百合子「忌々しい過去ね。無知故の過ち…でも琴葉様は取り返せると仰ってくれた」
紗代子「そんな…」
百合子「そうだ!ねぇ紗代子、またデストルドーに加わらない?」
百合子「貴女といっしょならもっともっともっと!楽しくなれる!」
紗代子「嫌よ!百合子、目を覚まして!お願い…」
百合子「これ以上何から覚めろというの?私は琴葉様のお陰で目覚めたの…」
百合子「暴力…力という正義にね!」
紗代子「違う!そこに…貴方のいう力に、未来も、希望もない!」
紗代子「あの時貴方がそう教えてくれたから…咎を受けるべき私はまだこの街に居られる!」
紗代子「今度は私が…あなたを止める!」
百合子「その威勢の良さは認めてあげたいけど…今の紗代子に何ができるというの?」
百合子「なんの『力』も持たないくせに!」
紗代子「いいえ…この体には貴方が砕いたデストル刀がまだ少し、摘出しきれずに残ってる…」
紗代子「私にとっての忌々しい呪い、背負うべき罪、取り返せない過去の証」
紗代子「だけど今は…たった一つの希望。お願い…力を貸して!デストル刀!」
紗代子「…ありがとう。そしてごめんね…もう使わないって約束したのに」
百合子「その姿…へぇ…驚いた。デストル刀の力、まだ残ってたんだ」
百合子「でもその残滓…と呼ぶことすらおこがましい搾りカスで何ができる?」
紗代子「確かに今の私は貴方の足元にも及ばないかもしれない…それでも!」
紗代子「街の人達の、避難のための足止めくらいにはなってやるわ…」
紗代子「そして壊してやる!貴女の歪んだ正義を、それを植え付けた奴を!」
百合子「デストル刀による破壊衝動を抑え込んでる…?いくら欠片といえど…」
百合子「…まぁいいわ、紗代子…いえダークセーラー」
百合子「琴葉様が教えてくださった正義を否定するのなら…完膚なきまで叩き潰す」
紗代子「行くよマイティセーラー。…いや今や堕ちた英雄か」
紗代子「皮肉だね、あの時とは立場が正反対だ」
紗代子「取り戻させてみせる。百合子が教えてくれた本当の正しさ!」
百合子「叩き込んであげる。世界を統べる新たな秩序を!」
「はぁあああああああ!」
「はぁあああああああ!」
百合子「誰かと思えば…久しぶりね、紗代子」
紗代子「この街の惨状…貴女がやったの?!嘘だよね?嘘だと言って!」
百合子「本当だよ、紗代子」
紗代子「じゃあどうして?貴女は正義の味方じゃなかったの!?」
百合子「いいえ…今も正義の味方です。ただ、信じるべき正しさが変わっただけ…」
百合子「紗代子…貴女は正しかった。破壊というのがここまで素晴らしいなんて…」
百合子「ここに刻まれたデストルドーの証が…ここまで愛おしいなんて」
紗代子「そんな…デストルドーの紋章…?違うよ百合子!それは貴女が否定してくれた!」
紗代子「そんなものに何の価値もないって!」
百合子「忌々しい過去ね。無知故の過ち…でも琴葉様は取り返せると仰ってくれた」
紗代子「そんな…」
百合子「そうだ!ねぇ紗代子、またデストルドーに加わらない?」
百合子「貴女といっしょならもっともっともっと!楽しくなれる!」
紗代子「嫌よ!百合子、目を覚まして!お願い…」
百合子「これ以上何から覚めろというの?私は琴葉様のお陰で目覚めたの…」
百合子「暴力…力という正義にね!」
紗代子「違う!そこに…貴方のいう力に、未来も、希望もない!」
紗代子「あの時貴方がそう教えてくれたから…咎を受けるべき私はまだこの街に居られる!」
紗代子「今度は私が…あなたを止める!」
百合子「その威勢の良さは認めてあげたいけど…今の紗代子に何ができるというの?」
百合子「なんの『力』も持たないくせに!」
紗代子「いいえ…この体には貴方が砕いたデストル刀がまだ少し、摘出しきれずに残ってる…」
紗代子「私にとっての忌々しい呪い、背負うべき罪、取り返せない過去の証」
紗代子「だけど今は…たった一つの希望。お願い…力を貸して!デストル刀!」
紗代子「…ありがとう。そしてごめんね…もう使わないって約束したのに」
百合子「その姿…へぇ…驚いた。デストル刀の力、まだ残ってたんだ」
百合子「でもその残滓…と呼ぶことすらおこがましい搾りカスで何ができる?」
紗代子「確かに今の私は貴方の足元にも及ばないかもしれない…それでも!」
紗代子「街の人達の、避難のための足止めくらいにはなってやるわ…」
紗代子「そして壊してやる!貴女の歪んだ正義を、それを植え付けた奴を!」
百合子「デストル刀による破壊衝動を抑え込んでる…?いくら欠片といえど…」
百合子「…まぁいいわ、紗代子…いえダークセーラー」
百合子「琴葉様が教えてくださった正義を否定するのなら…完膚なきまで叩き潰す」
紗代子「行くよマイティセーラー。…いや今や堕ちた英雄か」
紗代子「皮肉だね、あの時とは立場が正反対だ」
紗代子「取り戻させてみせる。百合子が教えてくれた本当の正しさ!」
百合子「叩き込んであげる。世界を統べる新たな秩序を!」
「はぁあああああああ!」
「はぁあああああああ!」
10: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:08:47.09 ID:Tf8DaPgd0
コピペミスってますね…
3レス目のはじめ、琴が消えてます。申し訳ない
3レス目のはじめ、琴が消えてます。申し訳ない
11: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:09:33.01 ID:Tf8DaPgd0
投げ返し合う、知識とボール
12: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:10:00.02 ID:Tf8DaPgd0
昴「おーい、百合子ー!キャッチボールしようぜー」
昴「あれ…いねぇのかなぁ…。プロデューサーも営業行っちゃったし、しゃあねぇ壁当てでもやってようかなぁ」
「……る……ん!」
昴「ん?すごい勢いで誰か来たぞ…」
「すば…さ……!」
昴「この声は…」
百合子「昴さん!見つけましたよ!」
昴「おーす、百合子!キャッチボールしよう…ぜ…?」
百合子「今日という今日は、絶対に、許しませんからねっ!」
昴「うわああああ!百合子落ち着けって、アイドルがしちゃいけない形相になってるって!」
百合子「なんで逃げるんですかぁ!」
昴「そんな表情で追いかけられたら誰だって逃げる!俺だってそうする!」
百合子「待ちなさーい!」
昴「あれ…いねぇのかなぁ…。プロデューサーも営業行っちゃったし、しゃあねぇ壁当てでもやってようかなぁ」
「……る……ん!」
昴「ん?すごい勢いで誰か来たぞ…」
「すば…さ……!」
昴「この声は…」
百合子「昴さん!見つけましたよ!」
昴「おーす、百合子!キャッチボールしよう…ぜ…?」
百合子「今日という今日は、絶対に、許しませんからねっ!」
昴「うわああああ!百合子落ち着けって、アイドルがしちゃいけない形相になってるって!」
百合子「なんで逃げるんですかぁ!」
昴「そんな表情で追いかけられたら誰だって逃げる!俺だってそうする!」
百合子「待ちなさーい!」
13: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:11:53.36 ID:Tf8DaPgd0
百合子「…はぁはぁ…やっと、追い詰めましたよ…」
昴「なんだかわからないけどごめんって!何かしたなら謝るからさぁ!」
百合子「何か…って私の本の中身とカバー入れ替えたのは昴さんでしょ!これで何回目ですか?!」
昴「……あぁ!なんだそんなことかぁ」
百合子「そんなことぉ!?」
昴「ごめんごめん!違うそういう意味じゃなくて!」
百合子「中身が入れ替わってるとはつゆ知らず、プロデューサーにオススメの小説として貸してしまったじゃないですか…」
百合子「『野球超人伝』を!」
昴「なにそれスゲェ読みたい」
昴「なんだかわからないけどごめんって!何かしたなら謝るからさぁ!」
百合子「何か…って私の本の中身とカバー入れ替えたのは昴さんでしょ!これで何回目ですか?!」
昴「……あぁ!なんだそんなことかぁ」
百合子「そんなことぉ!?」
昴「ごめんごめん!違うそういう意味じゃなくて!」
百合子「中身が入れ替わってるとはつゆ知らず、プロデューサーにオススメの小説として貸してしまったじゃないですか…」
百合子「『野球超人伝』を!」
昴「なにそれスゲェ読みたい」
14: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:13:43.78 ID:Tf8DaPgd0
百合子「私が貸した以上何か理由がある、と深読みしたプロデューサーさんが読み込んだ結果」
百合子「『鉄腕』と『剛球』は取得した、とか言ってこの前の草野球大会で完全試合を達成したんですよ!」
昴「マジですげぇな!あのオールDのプロデューサーが?」
百合子「その指標がなんなのかわかりませんが…とにかく!」
百合子「度重なるイタズラに私の堪忍袋もプッツンです!」
昴「待て待て待て!ホントに今回はやってないよ俺!なんだっけ…そう!冤罪だ!」
百合子「問答無用!覚悟…ってきゃあああ!(ステーン)」
昴「あぁ!?百合子がものすごい勢いで頭からずっこけた!」
百合子「『鉄腕』と『剛球』は取得した、とか言ってこの前の草野球大会で完全試合を達成したんですよ!」
昴「マジですげぇな!あのオールDのプロデューサーが?」
百合子「その指標がなんなのかわかりませんが…とにかく!」
百合子「度重なるイタズラに私の堪忍袋もプッツンです!」
昴「待て待て待て!ホントに今回はやってないよ俺!なんだっけ…そう!冤罪だ!」
百合子「問答無用!覚悟…ってきゃあああ!(ステーン)」
昴「あぁ!?百合子がものすごい勢いで頭からずっこけた!」
15: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:14:12.31 ID:Tf8DaPgd0
百合子「あいたたたた…」
昴「おい百合子、大丈夫か?頭打ったんだろ?見せてみろよ…良かった血は出てないし傷にもなってない」
昴「立てるか?」
百合子「ふ、フラフラします。星も、見えそう…」
昴「ったく…しゃあないな。ほら」
百合子「え?」
昴「ほら、おぶってやるから。事務室行って、一応湿布貼るぞ」
百合子「昴さん…。あ、ありがとうございます」
昴「おい百合子、大丈夫か?頭打ったんだろ?見せてみろよ…良かった血は出てないし傷にもなってない」
昴「立てるか?」
百合子「ふ、フラフラします。星も、見えそう…」
昴「ったく…しゃあないな。ほら」
百合子「え?」
昴「ほら、おぶってやるから。事務室行って、一応湿布貼るぞ」
百合子「昴さん…。あ、ありがとうございます」
16: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:14:51.06 ID:Tf8DaPgd0
百合子「あの…ごめんなさい。今回は昴さんがやったんじゃないんですよね…」
百合子「それなのに私…」
昴「まぁ気にすんなよ、俺だって普段そんなことしてるからこうやって疑われた訳だし」
昴「俺こそごめん。…じゃあ動くぞ」
百合子「あの、昴さん…」
昴「ん?」
百合子「…私、昴さんとキャッチボールするの、好きです」
百合子「へたっぴだし、全然フォームとか定まらないし、ノーコンだけど」
百合子「それでも昴さんは楽しそうにボールを返してくれて…」
百合子「いままで私が本読んでると大抵の人は遠くに離れていっちゃうから…」
百合子「無理矢理手を引いて、何処かに連れ出してくれる昴さんが嬉しかったんです…」
百合子「これからも…キャッチボールしてくれますか?」
昴「勿論!へへ、なんだよ百合子も満更じゃなかったんだなぁ」
百合子「えへへ…」
百合子「それなのに私…」
昴「まぁ気にすんなよ、俺だって普段そんなことしてるからこうやって疑われた訳だし」
昴「俺こそごめん。…じゃあ動くぞ」
百合子「あの、昴さん…」
昴「ん?」
百合子「…私、昴さんとキャッチボールするの、好きです」
百合子「へたっぴだし、全然フォームとか定まらないし、ノーコンだけど」
百合子「それでも昴さんは楽しそうにボールを返してくれて…」
百合子「いままで私が本読んでると大抵の人は遠くに離れていっちゃうから…」
百合子「無理矢理手を引いて、何処かに連れ出してくれる昴さんが嬉しかったんです…」
百合子「これからも…キャッチボールしてくれますか?」
昴「勿論!へへ、なんだよ百合子も満更じゃなかったんだなぁ」
百合子「えへへ…」
17: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:15:25.17 ID:Tf8DaPgd0
昴「俺もさ、百合子が貸してくれる本、好きなんだ」
昴「今まで全然読まなかったけど、百合子が選んでくれた本はすげぇ面白いと思えてさ」
昴「なんでだろうな、親が持ってきたのとか全然ページ進まなかったんだけど」
昴「だから俺も、百合子には感謝してるんだ。知らないことを教えてくれて」
百合子「昴さん…。良かった、実は迷惑なんじゃないかって思ってたから…」
昴「これからもよろしく頼むよ、…でもあんまり難しいのは勘弁な?」
百合子「はい!…おんぶはもう大丈夫です、歩けます」
昴「ん、わかった」
百合子「着きましたけど…湿布ってどこにあるんでしょう」
昴「救急箱は小鳥の机の後ろにあるよ、この前も使ってるし」
百合子「アイドルというか女の子なんだから傷には気をつけたほうがいいですよ?」
昴「プロデューサーに同じこと言われたよ…。よし、あったよ湿布が」
百合子「でかした!」
昴「ほら、おでこ出して」
百合子「は、はい…優しくしてくださいね?」
昴「はいはい…っと。これでよし」
百合子「ありがとうございます」
昴「今まで全然読まなかったけど、百合子が選んでくれた本はすげぇ面白いと思えてさ」
昴「なんでだろうな、親が持ってきたのとか全然ページ進まなかったんだけど」
昴「だから俺も、百合子には感謝してるんだ。知らないことを教えてくれて」
百合子「昴さん…。良かった、実は迷惑なんじゃないかって思ってたから…」
昴「これからもよろしく頼むよ、…でもあんまり難しいのは勘弁な?」
百合子「はい!…おんぶはもう大丈夫です、歩けます」
昴「ん、わかった」
百合子「着きましたけど…湿布ってどこにあるんでしょう」
昴「救急箱は小鳥の机の後ろにあるよ、この前も使ってるし」
百合子「アイドルというか女の子なんだから傷には気をつけたほうがいいですよ?」
昴「プロデューサーに同じこと言われたよ…。よし、あったよ湿布が」
百合子「でかした!」
昴「ほら、おでこ出して」
百合子「は、はい…優しくしてくださいね?」
昴「はいはい…っと。これでよし」
百合子「ありがとうございます」
18: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 01:15:52.45 ID:Tf8DaPgd0
百合子「…あの、昴さん。せっかくだしこれから二人で、やりませんか?」
昴「いいけど…頭とか大丈夫なのか?」
百合子「体の方は大丈夫です。なんだか、そんな気分だから」
昴「よっしゃ、じゃあやるか!」
百合子「はい!」
昴「野球を!」
百合子「読書を!」
昴「いやいや!流れ的にキャッチボールする場面じゃん!大体小説もそんな感じじゃん!」
百合子「なに一丁前に本を語ってるんですか!頭打ったんですよ、運動なんて無理です!打ってなくても嫌です!」
昴「さっきキャッチボールするの好きって言ってたじゃん!」
百合子「さっき本読むの楽しいって言ってましたよね!」
昴「むむむむむ…」
百合子「むむむむむ…」
百合子「ふふ…うふふ」
昴「はは…あはは」
二人「あはははははは!」
百合子「じゃあ、間とって本読みながらボール投げますか?」
昴「んなことできるわけないだろ!」
百合子「冗談ですよ、ほら行きましょう?キャッチボールしたらその後読書です」
昴「今日は忙しいなぁ!…なぁ百合子、これからも俺の知らないこと沢山教えてくれよ」
百合子「ふふ、私も期待してますからね。体験したことない色んなことを!」
昴「いいけど…頭とか大丈夫なのか?」
百合子「体の方は大丈夫です。なんだか、そんな気分だから」
昴「よっしゃ、じゃあやるか!」
百合子「はい!」
昴「野球を!」
百合子「読書を!」
昴「いやいや!流れ的にキャッチボールする場面じゃん!大体小説もそんな感じじゃん!」
百合子「なに一丁前に本を語ってるんですか!頭打ったんですよ、運動なんて無理です!打ってなくても嫌です!」
昴「さっきキャッチボールするの好きって言ってたじゃん!」
百合子「さっき本読むの楽しいって言ってましたよね!」
昴「むむむむむ…」
百合子「むむむむむ…」
百合子「ふふ…うふふ」
昴「はは…あはは」
二人「あはははははは!」
百合子「じゃあ、間とって本読みながらボール投げますか?」
昴「んなことできるわけないだろ!」
百合子「冗談ですよ、ほら行きましょう?キャッチボールしたらその後読書です」
昴「今日は忙しいなぁ!…なぁ百合子、これからも俺の知らないこと沢山教えてくれよ」
百合子「ふふ、私も期待してますからね。体験したことない色んなことを!」
28: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:31:37.84 ID:IKSZaBTI0
すいません気になってしまったのでロコステージ訂正版です
琴葉「うーん…」
恵美「あれ、琴葉どうしたの?」
琴葉「恵美、ちょっと難しい問題に当たっちゃって…恵美も一緒にやる?」
恵美「うわ勉強してたの?藪蛇つついちゃったかなぁ」
琴葉「ほら座って、最近私達勉強してないでしょ!あんまり疎かにしてると後で痛い目見るわよ」
恵美「元からそんなに高くないからしてもしなくても変わらないんだよアタシはー!…それでどんな問題なの?」
恵美「学年違うから難しいのはムリだよ?」
琴葉「大丈夫大丈夫。問題読むわ、『私は今朝とてもおいしいをお餅を食べた』」
恵美「あぁ英語?えーと、I ate…」
琴葉「なにを言ってるの恵美?正解は『モーニングに食べたライスケーキはベリーヤミーでした!』よ」
恵美「ロコ語じゃん!なんでそんなの勉強してるの!?」
琴葉「なんでって…恵美、あなたロコ語苦手だからって現実から目を背けちゃダメよ」
琴葉「ほら基本から確認しましょ?ほらロコテージ出して?」
恵美「ロコテージ!?」
琴葉「あれ、もしかして恵美の学校らupgradeロゴ語文法使ってる?」
恵美「ロゴ語版あるのupgrade!?」
恵美「どう考えてもヴィンテージとupgradeだよね…いったいどうなってるの?」
琴葉「ほら私のロコテージ貸してあげるわ。まずは品詞からね」
恵美「なんか色々言いたいけどロコ語にも品詞の概念があるのね…」
琴葉「ロコ語には名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞の五大品詞があるわ」
恵美「あれ、代名詞とかないの?」
琴葉「日本語的なこそあど言葉や指示語として使われることがあるけど、特別な語彙も用法もないから大丈夫よ、英語と違って」
恵美「あぁ言った!今英語って言った!」
琴葉「まずはロコ語最大の特徴である形容詞について説明するわね」
恵美「が、ガンスルー…」
琴葉「日本語が名詞中心言語、英語が動詞中心言語なら、ロコ語は形容詞中心言語と言えるわ」
恵美「…たしかにあの娘、ワンダフルとかインポータントとかアメイジングとか好きだよね」
琴葉「それじゃ訳して?『今日は私の誕生日です』」
恵美「えーと…『トゥデイはマイバースデー』…意外に難しいなロコナイズ!」
琴葉「正解は『今日はワールドワイド的にインポータントなメモリアル・マイ・バースデーです』よ」
恵美「わかるか!」
琴葉「うーん…」
恵美「あれ、琴葉どうしたの?」
琴葉「恵美、ちょっと難しい問題に当たっちゃって…恵美も一緒にやる?」
恵美「うわ勉強してたの?藪蛇つついちゃったかなぁ」
琴葉「ほら座って、最近私達勉強してないでしょ!あんまり疎かにしてると後で痛い目見るわよ」
恵美「元からそんなに高くないからしてもしなくても変わらないんだよアタシはー!…それでどんな問題なの?」
恵美「学年違うから難しいのはムリだよ?」
琴葉「大丈夫大丈夫。問題読むわ、『私は今朝とてもおいしいをお餅を食べた』」
恵美「あぁ英語?えーと、I ate…」
琴葉「なにを言ってるの恵美?正解は『モーニングに食べたライスケーキはベリーヤミーでした!』よ」
恵美「ロコ語じゃん!なんでそんなの勉強してるの!?」
琴葉「なんでって…恵美、あなたロコ語苦手だからって現実から目を背けちゃダメよ」
琴葉「ほら基本から確認しましょ?ほらロコテージ出して?」
恵美「ロコテージ!?」
琴葉「あれ、もしかして恵美の学校らupgradeロゴ語文法使ってる?」
恵美「ロゴ語版あるのupgrade!?」
恵美「どう考えてもヴィンテージとupgradeだよね…いったいどうなってるの?」
琴葉「ほら私のロコテージ貸してあげるわ。まずは品詞からね」
恵美「なんか色々言いたいけどロコ語にも品詞の概念があるのね…」
琴葉「ロコ語には名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞の五大品詞があるわ」
恵美「あれ、代名詞とかないの?」
琴葉「日本語的なこそあど言葉や指示語として使われることがあるけど、特別な語彙も用法もないから大丈夫よ、英語と違って」
恵美「あぁ言った!今英語って言った!」
琴葉「まずはロコ語最大の特徴である形容詞について説明するわね」
恵美「が、ガンスルー…」
琴葉「日本語が名詞中心言語、英語が動詞中心言語なら、ロコ語は形容詞中心言語と言えるわ」
恵美「…たしかにあの娘、ワンダフルとかインポータントとかアメイジングとか好きだよね」
琴葉「それじゃ訳して?『今日は私の誕生日です』」
恵美「えーと…『トゥデイはマイバースデー』…意外に難しいなロコナイズ!」
琴葉「正解は『今日はワールドワイド的にインポータントなメモリアル・マイ・バースデーです』よ」
恵美「わかるか!」
29: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:32:05.62 ID:IKSZaBTI0
琴葉「恵美…これは重症ね…。名詞構文における述語化から教えたほうがいいかしら…」
恵美「ちょっと待ってそれ多分英語でもわからないから!琴葉、聞いてる?!」
琴葉「恵美、この『シアターのみんなが、ロコのバースデーを盛大にレセプションしてくれた』って文なんだけど…」
恵美「もういやだー!」
恵美「……はっ!?夢、だったの?」
静香「あの、大丈夫ですか?物凄く唸ってましたよ?」
恵美「あーうん、大丈夫大丈夫。変な夢見ちゃってさぁ」
恵美「アタシが夢の中で勉強させられるわけ。もう悪夢ってもんじゃないよ…」
静香「ふふ、でもちゃんと勉強しないと未来達みたいにプロデューサーの特別補修に召集されちゃいますよ?」
恵美「そんなことしてたの?…だからこの前未来や杏奈がグッタリしてたわけだ」
恵美「静香はちゃんと勉強してて偉いねぇ、今何やってるの?数学?」
静香「いえ、この前の定期試験で文法事項を落としてしまったので、文法語法を」
恵美「…本気でアタシより頭いいんじゃない?…参考書は何使ってるの?」
静香「うちの学校はこれです、ロコステージ」
恵美「ロコ…ステージ…?ってじゃあアタシまだ夢の中にいる?!」
恵美「だ、誰か起こしてーー!」
(その後プロデューサーに起こされた恵美は、ちゃんと勉強しようと決意したのであった)
30: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:32:45.76 ID:IKSZaBTI0
貴女がいたから
31: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:33:35.86 ID:IKSZaBTI0
志保「…静香」
静香「あら志保、今日はお疲れ様。どうしたの?」
志保「うん、お疲れ様。…別に特に用はないの、でも」
静香「でも?」
志保「なんとなく…声が聞きたくて」
静香「ふふ、珍しいこともあるわね。志保のセンチなとこ見るなんて」
志保「…えぇ、多分感傷気味なの。ULA、今回のステージがとっても大きかったから」
静香「そうね、それにとても長い期間のイベントだったから」
志保「燃え尽き、っていうのかしら。まだ夢心地で、フワフワしてて」
静香「私も。だからこうして誰もいなくなっても控え室で衣装のままなのかもね」
志保「星梨花も野々原さんも、とっくに着替えてお菓子つまんでるのにね」
静香「そうね…」
静香「ねぇ…志保。この部屋を出るまで、私もセンチでいていいかしら」
志保「…どうしたの?」
静香「私、貴方と同じユニットで良かった。志保が居なかったら、アイドルをちゃんと楽しめてなかった。今ではかけがえのない仲間だって、新しい夢だってこの手で掴むこともできなかった」
静香「ただ早くデビューしたくて、焦ってばかりでプロデューサーさんを困らせてばかりで。」
静香「あのままじゃきっと…『アイドル』にもなれなかったわ」
志保「静香…」
静香「だから貴方には、本当に感謝してるの」
静香「ありがとう、志保」
静香「ふふ。なんだか、照れるわね」
志保「……」
静香「志保?」
志保「 私も…静香が居なかったら勘違いしたままだった」
志保「静香が同じユニットだったから、仲間を…仲間と高め合うことを知って、『765プロのアイドル』になれた」
志保「一人でなんでもできると思って、自分以外は敵みたいに思って…プロデューサーにも当たって」
志保「ユニットを組んで、貴女とぶつかったお陰かしら」
志保「ありがとう、静香」
静香「志保…」
静香「…やっぱり私たちに湿っぽいのは合わないわね」
志保「柄にもないことを言ったもの…でも言いたいこと言えてスッキリした」
志保「ねぇ…静香。私達2人の関係って、言葉にするなら、なんだと思う?」
静香「そうね…友人とか、チームメイトって感じはしっくりこないし…」
静香「強いて言うなら…多分…」
静香「あら志保、今日はお疲れ様。どうしたの?」
志保「うん、お疲れ様。…別に特に用はないの、でも」
静香「でも?」
志保「なんとなく…声が聞きたくて」
静香「ふふ、珍しいこともあるわね。志保のセンチなとこ見るなんて」
志保「…えぇ、多分感傷気味なの。ULA、今回のステージがとっても大きかったから」
静香「そうね、それにとても長い期間のイベントだったから」
志保「燃え尽き、っていうのかしら。まだ夢心地で、フワフワしてて」
静香「私も。だからこうして誰もいなくなっても控え室で衣装のままなのかもね」
志保「星梨花も野々原さんも、とっくに着替えてお菓子つまんでるのにね」
静香「そうね…」
静香「ねぇ…志保。この部屋を出るまで、私もセンチでいていいかしら」
志保「…どうしたの?」
静香「私、貴方と同じユニットで良かった。志保が居なかったら、アイドルをちゃんと楽しめてなかった。今ではかけがえのない仲間だって、新しい夢だってこの手で掴むこともできなかった」
静香「ただ早くデビューしたくて、焦ってばかりでプロデューサーさんを困らせてばかりで。」
静香「あのままじゃきっと…『アイドル』にもなれなかったわ」
志保「静香…」
静香「だから貴方には、本当に感謝してるの」
静香「ありがとう、志保」
静香「ふふ。なんだか、照れるわね」
志保「……」
静香「志保?」
志保「 私も…静香が居なかったら勘違いしたままだった」
志保「静香が同じユニットだったから、仲間を…仲間と高め合うことを知って、『765プロのアイドル』になれた」
志保「一人でなんでもできると思って、自分以外は敵みたいに思って…プロデューサーにも当たって」
志保「ユニットを組んで、貴女とぶつかったお陰かしら」
志保「ありがとう、静香」
静香「志保…」
静香「…やっぱり私たちに湿っぽいのは合わないわね」
志保「柄にもないことを言ったもの…でも言いたいこと言えてスッキリした」
志保「ねぇ…静香。私達2人の関係って、言葉にするなら、なんだと思う?」
静香「そうね…友人とか、チームメイトって感じはしっくりこないし…」
静香「強いて言うなら…多分…」
32: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:35:09.67 ID:IKSZaBTI0
志保「「ライバル」」静香
静香「なんだか最近、プロデューサーさんが私達を組ませた理由がわかってきたような気がするの」
志保「私も。それは…私達が似た者同士だから、でしょ?」
志保「意地っ張りで頑固で」
静香「すぐに熱くなって周りが見えなくて」
志保「そのくせ志向だけは強くて」
志保「だからプロデューサーさんは私達を引き合わせた。お互いを知ることで自分を見つめ直せるように」
静香「…ねぇ志保。あの人にお礼、言いに行かない?」
志保「私も今、そう思ったわ。行きましょう。今日を逃したらずっと、言えなくなりそうだから」
静香「相変わらず素直じゃないわね」
志保「放っておいて、生まれつきよ」
静香「はいはい。そうだ、ねぇプロデューサーさんって少しだらしのないところあると思わない?」
静香「イベントを成功されるために一週間ほぼ休みなしで奔走して」
静香「それでも髭くらいは剃って欲しいわよね。社会人として身嗜みはしっかりしてもらわないと」
志保「そうかしら…プロデューサーさんも髭を蓄えてるくらいか丁度いいと思うけど」
静香「いいえ、剃るべきよ。この業界は第一印象が全てなんだから」
志保「それなら伸ばしててもいいじゃない。今の方が威厳あるわ」
静香「……」
志保「……」
志保「やっぱり貴女とは合わないわ」
静香「あら奇遇ね、私も今そう思ったわ」
志保「…ふふ」
静香「ふふ、そうね。じゃあそろそろ行きましょうか」
志保「そうね、いつまでも止まってはいられないもの」
静香「貴女がいて」
志保「プロデューサーさんもいて」
静香「社長や小鳥さんがいて」
志保「頼れる先輩がいて…そしてなにより」
志保「「仲間がいるから」」静香
静香「なんだか最近、プロデューサーさんが私達を組ませた理由がわかってきたような気がするの」
志保「私も。それは…私達が似た者同士だから、でしょ?」
志保「意地っ張りで頑固で」
静香「すぐに熱くなって周りが見えなくて」
志保「そのくせ志向だけは強くて」
志保「だからプロデューサーさんは私達を引き合わせた。お互いを知ることで自分を見つめ直せるように」
静香「…ねぇ志保。あの人にお礼、言いに行かない?」
志保「私も今、そう思ったわ。行きましょう。今日を逃したらずっと、言えなくなりそうだから」
静香「相変わらず素直じゃないわね」
志保「放っておいて、生まれつきよ」
静香「はいはい。そうだ、ねぇプロデューサーさんって少しだらしのないところあると思わない?」
静香「イベントを成功されるために一週間ほぼ休みなしで奔走して」
静香「それでも髭くらいは剃って欲しいわよね。社会人として身嗜みはしっかりしてもらわないと」
志保「そうかしら…プロデューサーさんも髭を蓄えてるくらいか丁度いいと思うけど」
静香「いいえ、剃るべきよ。この業界は第一印象が全てなんだから」
志保「それなら伸ばしててもいいじゃない。今の方が威厳あるわ」
静香「……」
志保「……」
志保「やっぱり貴女とは合わないわ」
静香「あら奇遇ね、私も今そう思ったわ」
志保「…ふふ」
静香「ふふ、そうね。じゃあそろそろ行きましょうか」
志保「そうね、いつまでも止まってはいられないもの」
静香「貴女がいて」
志保「プロデューサーさんもいて」
静香「社長や小鳥さんがいて」
志保「頼れる先輩がいて…そしてなにより」
志保「「仲間がいるから」」静香
34: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:53:34.91 ID:IKSZaBTI0
音にならない言の葉に
35: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:54:47.76 ID:IKSZaBTI0
失礼します。
プロデューサーさん、レッスン場の鍵、返しに来ました。
右端の蛍光灯が一つ切れかけているので変えておいて貰えませんか…ってプロデューサーさん?聴いてますか?…って寝てたんですか。
暖房もつけずにこの部屋で寝てたら風邪ひきますよ。
…寝てる人に言っても意味、無いわよね。
あの…こんな時じゃないと言えないから…言いたいこと言いますね。
プロデューサーさんは少し、自分のことを蔑ろにし過ぎだと思います。
私が言うのは筋違いかもしれませんが、もう少し自愛するべきじゃないかなと。
…心配なんです。
プロデューサーさんがいつも頑張っていること。私たちアイドルみんな知ってます。
今回のULAだって…こんなに髭が伸びて、剃る時間すら惜しむくらい一週間ずっと走り続けて。
だから、もしプロデューサーさんが倒れたりなんかしたら、私達…辛いです。
そんな貴方だから、私も信じてついて行けて。
ほ、本当ですよ?確かに最初こそ反発してましたが…
今は、プロデューサーさんが照らす道なら、胸を張って、正しいって心から思いながら、歩いて行けるんです。
クレッシェンドブルーというユニットも、最初はなんでこんな人たちと、って思ってました。
静香達も、そして選んだプロデューサーのことも、碌に知らないのに失望したりして。
でもPSLを共に戦って、そんな自分の浅はかさを思い知りました。
プロ意識って言うんでしょうか?私は勘違いしていたんです。
あのままじゃ一生「アイドル」になんてなれなかった。
ライブツアー福岡公演では星梨花とリーダーを務めました。
今までの与えらるステージから、自分達で作るステージに変わって。
誰かを楽しませる、ってことの難しさが身に染みてわかりました。
「楽しむ」ことは簡単でも「楽しませる」ことは本当に難しくて…
いつもステージを用意してくれるプロデューサーさんや他のスタッフさん達に感謝できるようになったんです。
プロデューサーさんはいつも、私に多くのことを教えてくれて。
…本当にいつもありがとうございます
面と向かって言えない臆病な…こんな私ですけど
これからもプロデュース、よろしくお願いします。
37: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/15(火) 23:56:32.52 ID:IKSZaBTI0
ばーにんくーるにかがやいて?
40: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/16(水) 00:10:42.80 ID:/tbIgxY40
桃子「もしもし、お兄ちゃん?うん、今レッスン終わったところ…うん…うん。わかった、それじゃ一度事務所に戻るから」
桃子「え?事務所には来ないほうがいい…環と育がグれてる?何言ってるのお兄ちゃん?」
桃子「もう近くに来ちゃってるの!とにかく一回戻るから、じゃ切るからね!ばいばい!」
桃子「疲れてるのかな、お兄ちゃん」
桃子「ただいまー…って誰もいないのかな?」
環「おっす、周防の姉御!」
育「お、おっす…」
桃子「二人ともなんて格好してるの!?その…なんだっけ特攻服?に短ランなんてどうしたの?」
育「そ、その音無さんがね?こんな時のためにって出してきてくれて」
桃子「なんでそんなの想定してるの。音無さんは…もしかして机で干からびてるアレ?」
育「さっきからずっと動かないんだけど大丈夫かな…」
桃子「小鳥さんなら大丈夫でしょ。それで?二人は何をやってるの?」
環「くふふ!環達はねぇ、事務所にいる悪い奴らを退治してるの!ね、こぶんせんせい!」
育「子分なのか先生なのかもうわかんないね…」
桃子「で、今度は何に影響されたの?」
環「おやぶんが聞いてたCD!」
桃子「それで、事務所に悪い人はいたの?」
環「小鳥とおやぶん!」
桃子「そういえば、お兄ちゃんは?」
育「えーと…そこに…」
桃子「うわぁ!お兄ちゃんがボロ雑巾みたいに床に!」
環「おやぶんはえーと、ショクムタイマンってやつ!してた!」
桃子「お兄ちゃんが職務怠慢?」
育「そ、その育がね?おっきな蜘蛛にびっくりして、プロデューサーさんに抱きついちゃったの」
育「で、その時育の頭がプロデューサーさんのお腹に直撃しちゃって…」
桃子「それでお兄ちゃんは気絶したの?でも怠慢っていう程じゃ…」
環「おやぶんのザイジョーは事務所に虫が出てるの放置したこと」
桃子「こじつけが酷すぎる!」
桃子「それじゃあ…小鳥さんは?育たち見て気絶したんじゃ?」
育「そのあとすぐに復活したんだけど…」
環「小鳥はねぇ、仕事しないでマンガ読んでたんだぞ!だから前に律子から教えてもらった言葉、『シャチョウ』『ホウコク』『ゲンキュウ』って唱えたら倒れた!」
桃子「うわぁ…ピンポイントにえげつないなぁ」
育「ねぇ環ちゃん、そろそろレッスンだし、もう、やめにしない?」
環「えーもうちょっとだけ、やらせてよー」
桃子「そうは言っても、もう事務所に誰もいないし…って嫌な予感」
環「じゃあももこ!ももこ最後にして終わる!」
桃子「い、嫌に決まってるでしょ!話聞いてたらロクなことないじゃない!」
環「あ、ももこ待ってー!なんか悪いとこ教えてー」
桃子「いーやー!」
育「あ、あはは…あ、いっちゃた」
育「……」
育「てんげんひょうじんは!」
育「ってプロデューサー!?起きてたの?今のは忘れてー!」
桃子「え?事務所には来ないほうがいい…環と育がグれてる?何言ってるのお兄ちゃん?」
桃子「もう近くに来ちゃってるの!とにかく一回戻るから、じゃ切るからね!ばいばい!」
桃子「疲れてるのかな、お兄ちゃん」
桃子「ただいまー…って誰もいないのかな?」
環「おっす、周防の姉御!」
育「お、おっす…」
桃子「二人ともなんて格好してるの!?その…なんだっけ特攻服?に短ランなんてどうしたの?」
育「そ、その音無さんがね?こんな時のためにって出してきてくれて」
桃子「なんでそんなの想定してるの。音無さんは…もしかして机で干からびてるアレ?」
育「さっきからずっと動かないんだけど大丈夫かな…」
桃子「小鳥さんなら大丈夫でしょ。それで?二人は何をやってるの?」
環「くふふ!環達はねぇ、事務所にいる悪い奴らを退治してるの!ね、こぶんせんせい!」
育「子分なのか先生なのかもうわかんないね…」
桃子「で、今度は何に影響されたの?」
環「おやぶんが聞いてたCD!」
桃子「それで、事務所に悪い人はいたの?」
環「小鳥とおやぶん!」
桃子「そういえば、お兄ちゃんは?」
育「えーと…そこに…」
桃子「うわぁ!お兄ちゃんがボロ雑巾みたいに床に!」
環「おやぶんはえーと、ショクムタイマンってやつ!してた!」
桃子「お兄ちゃんが職務怠慢?」
育「そ、その育がね?おっきな蜘蛛にびっくりして、プロデューサーさんに抱きついちゃったの」
育「で、その時育の頭がプロデューサーさんのお腹に直撃しちゃって…」
桃子「それでお兄ちゃんは気絶したの?でも怠慢っていう程じゃ…」
環「おやぶんのザイジョーは事務所に虫が出てるの放置したこと」
桃子「こじつけが酷すぎる!」
桃子「それじゃあ…小鳥さんは?育たち見て気絶したんじゃ?」
育「そのあとすぐに復活したんだけど…」
環「小鳥はねぇ、仕事しないでマンガ読んでたんだぞ!だから前に律子から教えてもらった言葉、『シャチョウ』『ホウコク』『ゲンキュウ』って唱えたら倒れた!」
桃子「うわぁ…ピンポイントにえげつないなぁ」
育「ねぇ環ちゃん、そろそろレッスンだし、もう、やめにしない?」
環「えーもうちょっとだけ、やらせてよー」
桃子「そうは言っても、もう事務所に誰もいないし…って嫌な予感」
環「じゃあももこ!ももこ最後にして終わる!」
桃子「い、嫌に決まってるでしょ!話聞いてたらロクなことないじゃない!」
環「あ、ももこ待ってー!なんか悪いとこ教えてー」
桃子「いーやー!」
育「あ、あはは…あ、いっちゃた」
育「……」
育「てんげんひょうじんは!」
育「ってプロデューサー!?起きてたの?今のは忘れてー!」
47: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:22:54.73 ID:ESnUWSqZ0
人魚姫の夢
48: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:23:21.00 ID:ESnUWSqZ0
グリP(以下P)「や、やっと帰ってこられた…」
P「一週間ドリンク漬けで弾丸営業を耐久レースだなんて、我ながら正気の沙汰じゃあないよな…」
P「流石に今日は誰も来てないかなぁ…あ、いや電気ついてる」
小鳥「あ、プロデューサーさん!お疲れ様です」
P「音無さん、お疲れ様です。すいません、ULAの後処理お任せしちゃって…」
小鳥「いえそんなこと!今回のプロデューサーさんの頑張りに比べたら全然ですよ」
P「あはは…流石にキテますよ…。そうだ、今誰か劇場に残ってますか?」
小鳥「何人か来てましたけど…みんな帰ったと思いますよ?…それにしても大きなステージが終わった後なのに、自主練に来るなんて熱心なのはいいんですけど少し心配です…」
P「あー…メンツは大体想像つきますねぇ…。多分来てない奴もどこかで自主練してるんだろうなぁ」
P「一週間弱の連休を入れたんですけどねぇ、しっかり休んでほしいし後で連絡回しますよ」
音無「それがいいと思いますよ。私も今日はひと段落ついたら帰宅しようと思います」
P「じゃあ劇場見回ってきます、久しぶりに日の出てるうちに帰れそうですね」
小鳥「はい、お疲れ様でした。今度の打ち上げ楽しみにしてますからね」
P「はい、お疲れ様でした。任せてください、手配してますよ」
P「一週間ドリンク漬けで弾丸営業を耐久レースだなんて、我ながら正気の沙汰じゃあないよな…」
P「流石に今日は誰も来てないかなぁ…あ、いや電気ついてる」
小鳥「あ、プロデューサーさん!お疲れ様です」
P「音無さん、お疲れ様です。すいません、ULAの後処理お任せしちゃって…」
小鳥「いえそんなこと!今回のプロデューサーさんの頑張りに比べたら全然ですよ」
P「あはは…流石にキテますよ…。そうだ、今誰か劇場に残ってますか?」
小鳥「何人か来てましたけど…みんな帰ったと思いますよ?…それにしても大きなステージが終わった後なのに、自主練に来るなんて熱心なのはいいんですけど少し心配です…」
P「あー…メンツは大体想像つきますねぇ…。多分来てない奴もどこかで自主練してるんだろうなぁ」
P「一週間弱の連休を入れたんですけどねぇ、しっかり休んでほしいし後で連絡回しますよ」
音無「それがいいと思いますよ。私も今日はひと段落ついたら帰宅しようと思います」
P「じゃあ劇場見回ってきます、久しぶりに日の出てるうちに帰れそうですね」
小鳥「はい、お疲れ様でした。今度の打ち上げ楽しみにしてますからね」
P「はい、お疲れ様でした。任せてください、手配してますよ」
49: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:24:03.96 ID:ESnUWSqZ0
P「おーい、誰かいるか?ん…あそこにいるのは…」
琴葉「……」
P「あらあら言わんこっちゃない。疲れた体に無理させたらそらそうなるよ」
P「琴葉ー起きてくれ。レッスンルームで寝落ちするなんてお前らしくない」
琴葉「…デューサー…恵美…」
P「寝言から察するに、夢の中でもレッスンしてるのか?真面目すぎるのも…」
琴葉「…やだ…待って…いかないで…」
P「…ってなんだか様子がおかしいぞ…琴葉どうしたんだ、しっかりしろ!」
琴葉「んっ…プ…プロデューサー…?」
P「どうしたんだ琴葉?って泣いてるじゃないか」
P「どこか…痛むのか?」
琴葉「大丈夫です、少し…疲れてしまっただけですから」
P「本当か?疲れていた、だけなんだな?」
琴葉「はい、すみません。体調管理はアイドルの基本、ですよね。しっかり、しないと」
P「…琴葉、魘されてたぞ」
琴葉「えっ…あ、そのあの、茜ちゃん人形に押しつぶされる夢を見ていたからですよ、あはは」
P「演技はあんなに上手いのに、嘘つくのはヘッタクソなんだな…」
琴葉「…ごめんなさい」
P「琴葉、俺、そんなに信用ないかな?担当アイドルが辛い時に、隣にいてやれない情けない奴かな?」
琴葉「…プロデューサー、その言い方はずるいです」
P「無理にとは言わないが…話してくれないか?今琴葉が抱えてるもの、どんな些細なことでもいいからさ」
P「そっちの方が…全部吐き出した方が、きっと琴葉も楽になれるはずだ」
琴葉「…ありがとうございます。その、そこまで仰るなら…聞いて欲しいです。私の、悩み」
P「よし、なら善は急げだ。時間が惜しい、行くぞ琴葉」
琴葉「え、え?ちょっとプロデューサー?出かけるなら着替えを…って引っ張らないでくださーい!」
琴葉「……」
P「あらあら言わんこっちゃない。疲れた体に無理させたらそらそうなるよ」
P「琴葉ー起きてくれ。レッスンルームで寝落ちするなんてお前らしくない」
琴葉「…デューサー…恵美…」
P「寝言から察するに、夢の中でもレッスンしてるのか?真面目すぎるのも…」
琴葉「…やだ…待って…いかないで…」
P「…ってなんだか様子がおかしいぞ…琴葉どうしたんだ、しっかりしろ!」
琴葉「んっ…プ…プロデューサー…?」
P「どうしたんだ琴葉?って泣いてるじゃないか」
P「どこか…痛むのか?」
琴葉「大丈夫です、少し…疲れてしまっただけですから」
P「本当か?疲れていた、だけなんだな?」
琴葉「はい、すみません。体調管理はアイドルの基本、ですよね。しっかり、しないと」
P「…琴葉、魘されてたぞ」
琴葉「えっ…あ、そのあの、茜ちゃん人形に押しつぶされる夢を見ていたからですよ、あはは」
P「演技はあんなに上手いのに、嘘つくのはヘッタクソなんだな…」
琴葉「…ごめんなさい」
P「琴葉、俺、そんなに信用ないかな?担当アイドルが辛い時に、隣にいてやれない情けない奴かな?」
琴葉「…プロデューサー、その言い方はずるいです」
P「無理にとは言わないが…話してくれないか?今琴葉が抱えてるもの、どんな些細なことでもいいからさ」
P「そっちの方が…全部吐き出した方が、きっと琴葉も楽になれるはずだ」
琴葉「…ありがとうございます。その、そこまで仰るなら…聞いて欲しいです。私の、悩み」
P「よし、なら善は急げだ。時間が惜しい、行くぞ琴葉」
琴葉「え、え?ちょっとプロデューサー?出かけるなら着替えを…って引っ張らないでくださーい!」
50: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:24:33.18 ID:ESnUWSqZ0
P「二人なんですけど、はい禁煙で。あ、そこの席空いてます?じゃあそこでお願いします」
琴葉「ファミレス…ですか?」
P「おう、これくらい雑然としてた方が、変に静かな喫茶店とかより話しやすいだろ?」
琴葉「なるほど…」
P「あ、もしかしてそっちの方が良かったか?」
琴葉「いえ、そんなことはないです!確かに少しだけ気分も楽になりました、変に肩肘張らなくて済みますし」
P「琴葉なんてジャージのままだしな」
琴葉「プ、プロデューサーが無理やり引っ張ってきたからじゃないですか!私は着替えたかったんです!」
P「あっははは、ごめんごめん。にしても琴葉はポニーテールもよく似合うなぁ」
琴葉「も、もうプロデューサー!」
P「すまんすまん。…でもまぁ、やっと笑ってくれたな」
琴葉「え?」
P「さっきからずっと暗い顔してるからさ。ようやく笑顔見せてくれて、一安心したよ」
琴葉「プロデューサー…」
P「まぁ、そういう喫茶店は今度連れて行ってやるから」
P「とりあえず、ドリンクバーとポテト頼むか」
琴葉「ファミレス…ですか?」
P「おう、これくらい雑然としてた方が、変に静かな喫茶店とかより話しやすいだろ?」
琴葉「なるほど…」
P「あ、もしかしてそっちの方が良かったか?」
琴葉「いえ、そんなことはないです!確かに少しだけ気分も楽になりました、変に肩肘張らなくて済みますし」
P「琴葉なんてジャージのままだしな」
琴葉「プ、プロデューサーが無理やり引っ張ってきたからじゃないですか!私は着替えたかったんです!」
P「あっははは、ごめんごめん。にしても琴葉はポニーテールもよく似合うなぁ」
琴葉「も、もうプロデューサー!」
P「すまんすまん。…でもまぁ、やっと笑ってくれたな」
琴葉「え?」
P「さっきからずっと暗い顔してるからさ。ようやく笑顔見せてくれて、一安心したよ」
琴葉「プロデューサー…」
P「まぁ、そういう喫茶店は今度連れて行ってやるから」
P「とりあえず、ドリンクバーとポテト頼むか」
51: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:25:34.19 ID:ESnUWSqZ0
P「さてと…じゃあ、話してもらおうかな。琴葉の悩んでること」
琴葉「はい…その笑わないで下さいね」
琴葉「ここ最近のことです。同じ夢を見ることが多くなっていて…さっきのように悪い夢を見るんです…」
P「それは、どんな夢?」
琴葉「ある日突然…声が出なくなってしまうんです…
誰とも話せなくて、誰にも相談できなくて…
そして今度は私の存在そのものまで希薄になって、誰にも認知されなくなるんです。
恵美やエレナ、海美ちゃんにも気付かれなくなって…最後にはプロデューサーにも…」
P「琴葉…」
琴葉「あ、その、ごめんなさい…いきなり泣き出したりして…」
P「…これ、使って」
琴葉「あ、ありがとうございます…おかしいですよね、ただの夢、なのに…」
琴葉「ライブも無事成功して、これからっていう時なのに、一人だけこんなにネガティヴになって…」
琴葉「シアターのみんなに水を差すようなことはしたくないんです。でもそんなことばかり頭に浮かんでくる自分がたまらなく嫌で…」
琴葉「レッスンに打ち込んでいる間は忘れられたから、それで」
P「倒れるまでやってたのか」
琴葉「はい…」
P「そうか…」
琴葉「はい…その笑わないで下さいね」
琴葉「ここ最近のことです。同じ夢を見ることが多くなっていて…さっきのように悪い夢を見るんです…」
P「それは、どんな夢?」
琴葉「ある日突然…声が出なくなってしまうんです…
誰とも話せなくて、誰にも相談できなくて…
そして今度は私の存在そのものまで希薄になって、誰にも認知されなくなるんです。
恵美やエレナ、海美ちゃんにも気付かれなくなって…最後にはプロデューサーにも…」
P「琴葉…」
琴葉「あ、その、ごめんなさい…いきなり泣き出したりして…」
P「…これ、使って」
琴葉「あ、ありがとうございます…おかしいですよね、ただの夢、なのに…」
琴葉「ライブも無事成功して、これからっていう時なのに、一人だけこんなにネガティヴになって…」
琴葉「シアターのみんなに水を差すようなことはしたくないんです。でもそんなことばかり頭に浮かんでくる自分がたまらなく嫌で…」
琴葉「レッスンに打ち込んでいる間は忘れられたから、それで」
P「倒れるまでやってたのか」
琴葉「はい…」
P「そうか…」
52: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:26:04.47 ID:ESnUWSqZ0
P「夢って深層意識の表れ、っていうよな。夢はその人の心の奥底を映し出す鏡なのかもしれない」
P「琴葉の心のどっかにライブに、アイドルに対するマイナスイメージがあるのかもな」
琴葉「やっぱり…」
P「でも、それってみんな持ってるものなんじゃないかな」
P「誰だって完璧なステージは作れない、どこか…どんな些細なことでも突き詰めれば何か綻びがある」
P「琴葉は、思い当たること…ある?」
琴葉「ライブでの失敗ですか?…沢山あります。ダンスもズレちゃったし、音程を外した箇所も…あ、あと!曲が終わって…」
P「ストップ、ストップ!…似たような事を前に翼に聞いたんだけど、なんで答えたと思う?…特にないです!だってさ」
琴葉「ふふ、翼ちゃんらしいですね」
P「…でも最後に言ったよ、『もう少しだけキラキラできた』って」
P「少しアバウトだが…それでも翼もステージに後悔を残す。捉え方はそれぞれだが他のアイドルもそうだ」
P「琴葉は少し、細かいところまで見てるだけなんだよ。それは悪いことじゃない、なぜだかわかるか?」
琴葉「…わからないです。単純に私の力不足では…ないんですか?」
P「もし仮に、力不足だと俺が言ったら。琴葉はどう思う?」
琴葉「悔しい…悔しいです」
P「ホントに力のない奴はそうは思えないよ。それに琴葉の努力は知ってる、そこは保証する」
P「琴葉は自分のパフォーマンスをここまで客観視できてるってことだ。凄いことだよ」
琴葉「そう…でしょうか…」
P「そうだ。自分の行動なんて普通目も当てたくないよ。特に失敗談となれば尚更ね」
P「もっと楽に考えるだけでいいんだぞ。やれることはやった、仕方ない、次は頑張ろう。こんな感じに」
琴葉「でも、それじゃあファンの皆さんに申し訳ないです…。折角来ていただいたのに…」
P「確かに…でも過ぎたことはどうしようもない。そう考えることも大事だ」
P「琴葉はな、抱えすぎなんだ。そういった小さなミスへの反省を持ち続けてる。それ自体は凄くいいことだが、抱えすぎると己を潰す」
P「重い荷物は、たまにはおろして整理してやらないと」
P「それにな、琴葉。お前は一人なんかじゃないよ。一人で背負うのがキツイなら…頼りないかもだけど俺もついてる」
琴葉「いえ!プロデューサーは本当に頼りになります、いつも支えてくださって…」
P「はは、ありがとうな。でも俺は男だし、アイドルでもない。サポートしてやれることにも限界がある」
P「でも、そんな限界も飛び越えて、どんな時も共に戦える仲間がいるじゃないか」
琴葉「それって…」
P「あぁ、ほら。噂をすれば」
P「琴葉の心のどっかにライブに、アイドルに対するマイナスイメージがあるのかもな」
琴葉「やっぱり…」
P「でも、それってみんな持ってるものなんじゃないかな」
P「誰だって完璧なステージは作れない、どこか…どんな些細なことでも突き詰めれば何か綻びがある」
P「琴葉は、思い当たること…ある?」
琴葉「ライブでの失敗ですか?…沢山あります。ダンスもズレちゃったし、音程を外した箇所も…あ、あと!曲が終わって…」
P「ストップ、ストップ!…似たような事を前に翼に聞いたんだけど、なんで答えたと思う?…特にないです!だってさ」
琴葉「ふふ、翼ちゃんらしいですね」
P「…でも最後に言ったよ、『もう少しだけキラキラできた』って」
P「少しアバウトだが…それでも翼もステージに後悔を残す。捉え方はそれぞれだが他のアイドルもそうだ」
P「琴葉は少し、細かいところまで見てるだけなんだよ。それは悪いことじゃない、なぜだかわかるか?」
琴葉「…わからないです。単純に私の力不足では…ないんですか?」
P「もし仮に、力不足だと俺が言ったら。琴葉はどう思う?」
琴葉「悔しい…悔しいです」
P「ホントに力のない奴はそうは思えないよ。それに琴葉の努力は知ってる、そこは保証する」
P「琴葉は自分のパフォーマンスをここまで客観視できてるってことだ。凄いことだよ」
琴葉「そう…でしょうか…」
P「そうだ。自分の行動なんて普通目も当てたくないよ。特に失敗談となれば尚更ね」
P「もっと楽に考えるだけでいいんだぞ。やれることはやった、仕方ない、次は頑張ろう。こんな感じに」
琴葉「でも、それじゃあファンの皆さんに申し訳ないです…。折角来ていただいたのに…」
P「確かに…でも過ぎたことはどうしようもない。そう考えることも大事だ」
P「琴葉はな、抱えすぎなんだ。そういった小さなミスへの反省を持ち続けてる。それ自体は凄くいいことだが、抱えすぎると己を潰す」
P「重い荷物は、たまにはおろして整理してやらないと」
P「それにな、琴葉。お前は一人なんかじゃないよ。一人で背負うのがキツイなら…頼りないかもだけど俺もついてる」
琴葉「いえ!プロデューサーは本当に頼りになります、いつも支えてくださって…」
P「はは、ありがとうな。でも俺は男だし、アイドルでもない。サポートしてやれることにも限界がある」
P「でも、そんな限界も飛び越えて、どんな時も共に戦える仲間がいるじゃないか」
琴葉「それって…」
P「あぁ、ほら。噂をすれば」
53: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:26:41.45 ID:ESnUWSqZ0
恵美「あぁ~、もう足が曲がらない…歩きたくないー」
エレナ「メグミ、それじゃあオジサンみたいだヨー」
海美「今日は踊ったなぁ!ありがとね二人とも、また誘ってよ!」
恵美「あんたら二人のダンスに付いていっただけ、アタシはよく頑張ったよ…紫綬褒章ものだよ…」
海美「しじゅ…?まぁ難しいことはいいとして、琴葉も誘えれば良かったのにねぇ…って琴葉だ!」
メグミ「こんな所で会うなんて凄い偶然だヨ!プロデューサー、一緒してもイイ?!」
P「よぉ三人とも。自主練か?それについては後で説教だか…勿論だ、座ってくれ」
琴葉「みんな…どうして?もしかしてプロデューサーが呼んだんですか?」
P「いや、本当に偶然だよ…海美こっち椅子だぞ?ソファの方じゃなくていいのか?」
海美「いいの!プロデューサーのとっなりー」
エレナ「ねぇねぇコトハ!プロデューサーと何話してたの?教えてヨー!」
恵美「あ、店員さん!ドリンクバー3つ追加ね。ほら三人とも飲み物とってきなよ、乾杯しよー」
海美「プロデューサー、ごちそうさまでーす!」
P「…今日だけだぞ。あと恵美も事後承諾にしないの!」
エレナ「コトハ、取りに行こ?もう空っぽだヨ?」
琴葉「…そうね、行きましょうか!」
恵美「いってらー」
P「ったく…つくづく気の回るやつだなぁ、いい女だよお前は」
恵美「えー、そんなことないでしょ。…それで琴葉はどうしたの?」
恵美「自主練の誘い断られたから、どうかしたかなぁとは思ってけど。プロデューサーが、わざわざアタシの行きつけのファミレスに連れてきたんだから、何かあったんでしょ?」
P「あぁ、まぁな。ここなら恵美と会えると思ってわざわざ連れてきたんだよ」
P「…琴葉のこと支えてやってくれな」
恵美「…あぁ、はいはいなるほどねぇ。勿論、頼まれなくても。あの堅物さんは支えてあげないとね」
P「…やっぱり察しがいいな。頼むぞ、いつか自分に整理つけて、吹っ切れてくれるまでな」
P「お前も俺を頼ってくれてもいいんだぞ?」
恵美「はいはい、考えておきまーす。なんて、言われなくても十分頼りにしてるからさ」
P「そっか」
エレナ「メグミ、それじゃあオジサンみたいだヨー」
海美「今日は踊ったなぁ!ありがとね二人とも、また誘ってよ!」
恵美「あんたら二人のダンスに付いていっただけ、アタシはよく頑張ったよ…紫綬褒章ものだよ…」
海美「しじゅ…?まぁ難しいことはいいとして、琴葉も誘えれば良かったのにねぇ…って琴葉だ!」
メグミ「こんな所で会うなんて凄い偶然だヨ!プロデューサー、一緒してもイイ?!」
P「よぉ三人とも。自主練か?それについては後で説教だか…勿論だ、座ってくれ」
琴葉「みんな…どうして?もしかしてプロデューサーが呼んだんですか?」
P「いや、本当に偶然だよ…海美こっち椅子だぞ?ソファの方じゃなくていいのか?」
海美「いいの!プロデューサーのとっなりー」
エレナ「ねぇねぇコトハ!プロデューサーと何話してたの?教えてヨー!」
恵美「あ、店員さん!ドリンクバー3つ追加ね。ほら三人とも飲み物とってきなよ、乾杯しよー」
海美「プロデューサー、ごちそうさまでーす!」
P「…今日だけだぞ。あと恵美も事後承諾にしないの!」
エレナ「コトハ、取りに行こ?もう空っぽだヨ?」
琴葉「…そうね、行きましょうか!」
恵美「いってらー」
P「ったく…つくづく気の回るやつだなぁ、いい女だよお前は」
恵美「えー、そんなことないでしょ。…それで琴葉はどうしたの?」
恵美「自主練の誘い断られたから、どうかしたかなぁとは思ってけど。プロデューサーが、わざわざアタシの行きつけのファミレスに連れてきたんだから、何かあったんでしょ?」
P「あぁ、まぁな。ここなら恵美と会えると思ってわざわざ連れてきたんだよ」
P「…琴葉のこと支えてやってくれな」
恵美「…あぁ、はいはいなるほどねぇ。勿論、頼まれなくても。あの堅物さんは支えてあげないとね」
P「…やっぱり察しがいいな。頼むぞ、いつか自分に整理つけて、吹っ切れてくれるまでな」
P「お前も俺を頼ってくれてもいいんだぞ?」
恵美「はいはい、考えておきまーす。なんて、言われなくても十分頼りにしてるからさ」
P「そっか」
54: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:28:11.63 ID:ESnUWSqZ0
琴葉「プロデューサー、コーヒーで良かったですか?」
P「取ってきてきくれたのか?ありがとう、琴葉」
琴葉「いえ、そんな…。今日はありがとうございました」
琴葉「なんだか楽になりました。急には自分を変えられないかもしれないけど…みんなを頼ってみます」
恵美「えぇ?琴葉今まで私たちを頼ってくれなかったの?さみしいなぁ」
琴葉「…そうね、本当の意味ではそうだったのかも」
恵美「ちょっ、冗談だってー!…アタシこそ、相談乗ってあげられなくてゴメン」
琴葉「恵美…」
恵美「琴葉はいつも引っ張ってくれるから、甘えてたのかもね…それが知らず知らずの内に琴葉の中で重しになって」
琴葉「ううん、そんなことないの。頼ってくれるのは嬉しいし、頼られたいとも思う」
琴葉「でも、空回りしてたのかも。…まずは出来ること出来ないことを見極めないと」
琴葉「そして、そこから出来ることを増やしていく…ですよね!プロデューサー!」
P「あぁ。本音を言うなら、サボることも覚えて欲しいんだけど。そこは琴葉らしいな」
琴葉「はい、本当の私を見つけてみせます!だからプロデューサー」
琴葉「誰よりも臆病な私ですけど…絶対に変わってみせます!だからこれからも」
琴葉「プロデュース、お願いします!」
P「取ってきてきくれたのか?ありがとう、琴葉」
琴葉「いえ、そんな…。今日はありがとうございました」
琴葉「なんだか楽になりました。急には自分を変えられないかもしれないけど…みんなを頼ってみます」
恵美「えぇ?琴葉今まで私たちを頼ってくれなかったの?さみしいなぁ」
琴葉「…そうね、本当の意味ではそうだったのかも」
恵美「ちょっ、冗談だってー!…アタシこそ、相談乗ってあげられなくてゴメン」
琴葉「恵美…」
恵美「琴葉はいつも引っ張ってくれるから、甘えてたのかもね…それが知らず知らずの内に琴葉の中で重しになって」
琴葉「ううん、そんなことないの。頼ってくれるのは嬉しいし、頼られたいとも思う」
琴葉「でも、空回りしてたのかも。…まずは出来ること出来ないことを見極めないと」
琴葉「そして、そこから出来ることを増やしていく…ですよね!プロデューサー!」
P「あぁ。本音を言うなら、サボることも覚えて欲しいんだけど。そこは琴葉らしいな」
琴葉「はい、本当の私を見つけてみせます!だからプロデューサー」
琴葉「誰よりも臆病な私ですけど…絶対に変わってみせます!だからこれからも」
琴葉「プロデュース、お願いします!」
55: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:54:03.07 ID:ESnUWSqZ0
5thがあるからば、次こそ全員参加を期待したいです
琴葉担当の自分としては辛い発表ではあるけど…
帰ってきた琴葉に最高のステージがあげられるように頑張るぞい
何が言いたいかというと初日だけでも通って良かった…
琴葉担当の自分としては辛い発表ではあるけど…
帰ってきた琴葉に最高のステージがあげられるように頑張るぞい
何が言いたいかというと初日だけでも通って良かった…
57: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:56:14.23 ID:ESnUWSqZ0
勇者ユリコと迷惑な技々
58: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/25(金) 23:58:04.56 ID:ESnUWSqZ0
P「えぇ?百合子がTAの撮影が終わってからおかしい?」
P「そんなことはないだろう、昨日の収録もいつも通りこなしてたぞ?」
杏奈「ううん…スイッチ…入ると、豹変…する」
P「えぇ…。それで、その…ONの状態だとどうなるんだ?右手が疼くのか?」
杏奈「百合子さんが…物凄く…勇者みたいな行動をする…」
P「勇者みたいなって…この前の役引きずってるってことか?確かに気に入ってたからな」
杏奈「例えば…移動が全部バックステップになったり」
P「まぁ…ハイラル平原広いから。後ろ向きの方がなぜか早いんだよなぁ」
杏奈「事務所の階段をずっと上り下りしたり…」
P「勇者的に任意コードは駄目だろ!」
杏奈「壁に向かって幅跳びしたり」
P「いや速度溜めてどうすんだよ」
杏奈「律子さんの鉄拳をガードした後…物凄い速度で後ろに滑ったり…」
P「エンドレススーパースライドも使えるのか!?」
P「っていうか後半は勇者じゃなくてTASかなんかだろ!」
杏奈「人力でも…再現できる…」
P「えぇ…」
P「そんなことはないだろう、昨日の収録もいつも通りこなしてたぞ?」
杏奈「ううん…スイッチ…入ると、豹変…する」
P「えぇ…。それで、その…ONの状態だとどうなるんだ?右手が疼くのか?」
杏奈「百合子さんが…物凄く…勇者みたいな行動をする…」
P「勇者みたいなって…この前の役引きずってるってことか?確かに気に入ってたからな」
杏奈「例えば…移動が全部バックステップになったり」
P「まぁ…ハイラル平原広いから。後ろ向きの方がなぜか早いんだよなぁ」
杏奈「事務所の階段をずっと上り下りしたり…」
P「勇者的に任意コードは駄目だろ!」
杏奈「壁に向かって幅跳びしたり」
P「いや速度溜めてどうすんだよ」
杏奈「律子さんの鉄拳をガードした後…物凄い速度で後ろに滑ったり…」
P「エンドレススーパースライドも使えるのか!?」
P「っていうか後半は勇者じゃなくてTASかなんかだろ!」
杏奈「人力でも…再現できる…」
P「えぇ…」
59: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/26(土) 00:06:55.73 ID:Be5IanN80
杏奈「でも…いちばん危ないのは…」
P「危ないのは…?」
杏奈「ドラ「ただいま戻りましたー!」…ヤバい…かも」
P「そんなに!?」
杏奈「とにかく!鍵掛けられるものは全部閉めて!あと百合子さんを刺激しないこと!」
P「そんな無茶な!ってかON杏奈出るくらいヤバいのか!…ええと金庫は閉まってるし、机の鍵は…」
百合子「おはようございます、プロデューサーさん!…ところで今何をしてたんですか?慌ててましたけど」
P「え?いや、なんでもないよあはは…」
杏奈「プロデューサーさんのバカ!そんなこと言ったら、『プロデューサーさんから鍵を手に入れる』イベントが発生しちゃうでしょ!」
P「俺はアリアハンの住人か!…ってか何言ってもフラグになりそう!」
百合子「むむ…怪しいですね…もしや失われた王家の紋章…」
杏奈「ほら!」
P「いつもと違いがわからん」
百合子「あ、杏奈ちゃんもおはよう!今日はよろしくね!」
杏奈「ここは なむこ ぷろ
あいどる たちが いるよ」
百合子「ところで杏奈ちゃん、プロデューサーさんが何隠したかわかる?」
杏奈「ここは なむこ ぷろ
あいどる たちが いるよ」
P「村人に擬態してやり過ごすな!」
60: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/26(土) 00:08:23.56 ID:Be5IanN80
百合子「とりあえず手がかりを…えい!」
P「あぁ!ロコが持ってきたよくわからん壺たちが!」
百合子「…外れですね」
P「外れてんのはお前の頭のネジだろ!」
杏奈「あれはまさか…」
P「知っているのか杏奈!」
杏奈「勇者あるある、不法侵入器物損壊窃盗!」
P「確かに厄介!っていうかこのネタTAでやった!」
百合子「ここでしょうか?」
P「勝手に机の中を漁らない!あ、そこだめ、そこはだめ!」
百合子「あ、ありました!ユリコは小さなメダルを手に入れた!」
P「手に入れない!それ俺の昼飯代!ちょっと?!百合子ぉ!?」
百合子「あ、そうだ!プロデューサーさん、これと鍵を交換しませんか?」
P「俺はメダル王じゃない!」
勇者に染まった百合子を元に戻すため、杏奈の案で徹夜でFFをプレイすることで事なきを得たのであった。
61: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/26(土) 00:11:55.50 ID:Be5IanN80
百合子「パルスのファルシのルシがパージでコクーン…」
P「あぁ!面倒くせぇ方にかぶれやがった!」
おわり
P「あぁ!面倒くせぇ方にかぶれやがった!」
おわり
63: ◆rDGuVmz79Q 2016/11/26(土) 00:16:48.58 ID:Be5IanN80
以上となります。お付き合いいただきありがとうございました。
何か一つでも面白いと思ってもらえればこの上なく嬉しいです。またなんか書くのでその時はよろしくお願いします。
じゃあ俺、天体観測ガチャ引いて帰るから(涙目)
おやすみなさーい
何か一つでも面白いと思ってもらえればこの上なく嬉しいです。またなんか書くのでその時はよろしくお願いします。
じゃあ俺、天体観測ガチャ引いて帰るから(涙目)
おやすみなさーい
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 00:36:32.45 ID:GCqpLRz4o
乙でした
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 01:00:14.83 ID:bhpeflB4O
乙おつ
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 20:52:34.80 ID:8YdWc3nNO
乙。
ロコナイズされたものが捨てられなくてよかったよかった
ロコナイズされたものが捨てられなくてよかったよかった
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479139060/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ ミリマス | Comments (0)
居酒屋娘「らっしゃい、久し振り」
1: ◆30lx83ehPU 2016/04/29(金) 23:50:54.21 ID:IweJXJqo0
男「前に来たのはたったの1週間前だよ」
居酒屋娘「十分長い。毎日来なよ」
男「そんな贅沢出来ないよ。まだまだ新人なんだから」
居酒屋娘「会社勤めは大変だね」
男「どうだろうね。…今日は、おやっさんは?」
居酒屋娘「一昨日から旅行。全く、店のこと全部私に押し付けてからに…」
男「相変わらず自由な人だな」
居酒屋娘「自分勝手って言うんだよ」
居酒屋娘「十分長い。毎日来なよ」
男「そんな贅沢出来ないよ。まだまだ新人なんだから」
居酒屋娘「会社勤めは大変だね」
男「どうだろうね。…今日は、おやっさんは?」
居酒屋娘「一昨日から旅行。全く、店のこと全部私に押し付けてからに…」
男「相変わらず自由な人だな」
居酒屋娘「自分勝手って言うんだよ」
2: ◆30lx83ehPU 2016/04/29(金) 23:53:27.94 ID:IweJXJqo0
男「今日は俺の他に客はいないんだな」
居酒屋娘「今日も、だよ」
男「……ま、いいんじゃない。そういうのも」
居酒屋娘「フォロー下手くそか。…で、どうする?生でいい?」
男「いや、今日は車だから…それじゃラムネで、2本ね」
居酒屋娘「ん。……2本?」
男「ん、2本」
居酒屋娘「今日も、だよ」
男「……ま、いいんじゃない。そういうのも」
居酒屋娘「フォロー下手くそか。…で、どうする?生でいい?」
男「いや、今日は車だから…それじゃラムネで、2本ね」
居酒屋娘「ん。……2本?」
男「ん、2本」
3: ◆30lx83ehPU 2016/04/29(金) 23:57:05.95 ID:IweJXJqo0
居酒屋娘「はい、どうぞ」
男「ありがと。それじゃ、はい」
居酒屋娘「…何?」
男「こっち、お前の分。乾杯」
居酒屋娘「……ん、ありがと」
男「…………〜っぷはぁ!…やー…染みる」
居酒屋娘「……っぷは。…おっさんくさいよ」
男「まぁそう言わず。ズリと皮、それからハツ。2本ずつお願い」
居酒屋娘「飲み終わってからね」
男「ありがと。それじゃ、はい」
居酒屋娘「…何?」
男「こっち、お前の分。乾杯」
居酒屋娘「……ん、ありがと」
男「…………〜っぷはぁ!…やー…染みる」
居酒屋娘「……っぷは。…おっさんくさいよ」
男「まぁそう言わず。ズリと皮、それからハツ。2本ずつお願い」
居酒屋娘「飲み終わってからね」
4: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:01:30.08 ID:/1otB7tr0
男「ここで社会人として働き始めたのって何年前だっけ」
居酒屋娘「今もただの家の手伝いだよ。…高校卒業してからは、4年間くらいかな」
男「4年間でよくそんな手慣れたもんだな」
居酒屋娘「ここの手伝いは生まれてからずっとやってる。知ってるだろうに」
男「もう20年以上の付き合いだもんな」
居酒屋娘「お前とこの店がな」
男「俺とお前もだよ」
居酒屋娘「…………まぁ、一応ね」
居酒屋娘「今もただの家の手伝いだよ。…高校卒業してからは、4年間くらいかな」
男「4年間でよくそんな手慣れたもんだな」
居酒屋娘「ここの手伝いは生まれてからずっとやってる。知ってるだろうに」
男「もう20年以上の付き合いだもんな」
居酒屋娘「お前とこの店がな」
男「俺とお前もだよ」
居酒屋娘「…………まぁ、一応ね」
5: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:07:34.85 ID:/1otB7tr0
男「そういえば、じぃやは元気?」
居酒屋娘「親父と一緒に旅行行くくらいには。全く、何が隠居だか」
男「じぃやが厨房に立たなくなって6年くらい?未だに慣れないな」
居酒屋娘「代わりに私が忙しくなるんだ。勘弁してほしいよ」
男「いいじゃないか。じぃやのは勿論だけど、お前の料理も美味いよ」
居酒屋娘「そりゃどうも。ハツとズリと皮、お待ち」
男「この刺身は?」
居酒屋娘「私の分」
男「あ、そう…」
居酒屋娘「親父と一緒に旅行行くくらいには。全く、何が隠居だか」
男「じぃやが厨房に立たなくなって6年くらい?未だに慣れないな」
居酒屋娘「代わりに私が忙しくなるんだ。勘弁してほしいよ」
男「いいじゃないか。じぃやのは勿論だけど、お前の料理も美味いよ」
居酒屋娘「そりゃどうも。ハツとズリと皮、お待ち」
男「この刺身は?」
居酒屋娘「私の分」
男「あ、そう…」
6: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:12:36.83 ID:/1otB7tr0
男「…懐かしいよなぁ」
居酒屋娘「急にどうしたの」
男「…いや、昔のこと思い出してな」
居酒屋娘「…昔、ねぇ」
男「親が言うには、俺が生まれた日に病院を出たその足でここに来たとか」
居酒屋娘「ああ、聞いたことあるよ。他の客に渡して自分達は飲めや騒げやの好き放題」
男「おまけに閉店時間完全無視の朝帰り。俺の人生で一番騒がしい日が初日に決定したレベルらしいな」
居酒屋娘「覚えてないのに昔の思い出とは、また適当だな」
男「一方その頃お前は?」
居酒屋娘「まだ生まれてないって。知ってるだろうに」
居酒屋娘「急にどうしたの」
男「…いや、昔のこと思い出してな」
居酒屋娘「…昔、ねぇ」
男「親が言うには、俺が生まれた日に病院を出たその足でここに来たとか」
居酒屋娘「ああ、聞いたことあるよ。他の客に渡して自分達は飲めや騒げやの好き放題」
男「おまけに閉店時間完全無視の朝帰り。俺の人生で一番騒がしい日が初日に決定したレベルらしいな」
居酒屋娘「覚えてないのに昔の思い出とは、また適当だな」
男「一方その頃お前は?」
居酒屋娘「まだ生まれてないって。知ってるだろうに」
7: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:17:42.48 ID:/1otB7tr0
男「んで俺が1歳の時」
居酒屋娘「私が産まれて」
男「やっぱり飲めや歌えやの大騒ぎ」
居酒屋娘「私も生まれた日に鼓膜が危機に晒されたらしい」
男「その時俺はやっぱり他の客の手元だ」
居酒屋娘「私もね」
男「帰りに俺の親父が轢かれたってのがオチだな」
居酒屋娘「すぐさま病院に逆戻りってね」
男「枝豆と山芋のサラダ、それからバラ」
居酒屋娘「はいよ」
居酒屋娘「私が産まれて」
男「やっぱり飲めや歌えやの大騒ぎ」
居酒屋娘「私も生まれた日に鼓膜が危機に晒されたらしい」
男「その時俺はやっぱり他の客の手元だ」
居酒屋娘「私もね」
男「帰りに俺の親父が轢かれたってのがオチだな」
居酒屋娘「すぐさま病院に逆戻りってね」
男「枝豆と山芋のサラダ、それからバラ」
居酒屋娘「はいよ」
8: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:22:23.31 ID:/1otB7tr0
男「…幼稚園児の頃は、この店の何もかもがでっかく見えたもんだ」
居酒屋娘「あの頃はよく一緒に水槽に貼り付いてたね」
男「でっけぇ魚だなって。何だろうなって」
居酒屋娘「クジラじゃないかなって、2人で盛り上がって」
男「刺身用のイカ。」
居酒屋娘「よくクジラに見えてたもんだよね」
男「泳いでりゃ全部クジラだったなぁ、あの頃は」
居酒屋娘「で、そこ泳いでるイカは?」
男「醤油焼き」
居酒屋娘「はーい」
居酒屋娘「あの頃はよく一緒に水槽に貼り付いてたね」
男「でっけぇ魚だなって。何だろうなって」
居酒屋娘「クジラじゃないかなって、2人で盛り上がって」
男「刺身用のイカ。」
居酒屋娘「よくクジラに見えてたもんだよね」
男「泳いでりゃ全部クジラだったなぁ、あの頃は」
居酒屋娘「で、そこ泳いでるイカは?」
男「醤油焼き」
居酒屋娘「はーい」
9: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:26:00.72 ID:/1otB7tr0
男「小学生の時、俺が酒飲んでさ」
居酒屋娘「あれは最悪だったよホント」
男「ごめんて」
居酒屋娘「怒ってないよ」
男「なら良かった」
居酒屋娘「勝手に気分悪くなってこっちの顔面にゲロぶちまけたことなんて怒ってない。ホントに」
男「ごめんって」
居酒屋娘「時効ってことにしといてあげる。はい枝豆、サラダ、バラ」
男「そのイカ刺は?」
居酒屋娘「私の分」
男「刺身好きね。知ってるけど」
居酒屋娘「あれは最悪だったよホント」
男「ごめんて」
居酒屋娘「怒ってないよ」
男「なら良かった」
居酒屋娘「勝手に気分悪くなってこっちの顔面にゲロぶちまけたことなんて怒ってない。ホントに」
男「ごめんって」
居酒屋娘「時効ってことにしといてあげる。はい枝豆、サラダ、バラ」
男「そのイカ刺は?」
居酒屋娘「私の分」
男「刺身好きね。知ってるけど」
10: ◆30lx83ehPU 2016/04/30(土) 00:29:50.78 ID:/1otB7tr0
男「中学生の頃からだっけ?店の手伝い始めたのって」
居酒屋娘「そうね、そんくらいだったかな」
男「聞いたことなかったけど何で手伝いなんて始めたんだ?部活とか入れば良かったのに」
居酒屋娘「お前が私の料理が美味いって言ってくれたから」
男「えっ」
居酒屋娘「何だよ、悪いか」
男「え、あ、いやごめん、覚えてない」
居酒屋娘「そりゃ嘘だからな」
男「おい」
居酒屋娘「そうね、そんくらいだったかな」
男「聞いたことなかったけど何で手伝いなんて始めたんだ?部活とか入れば良かったのに」
居酒屋娘「お前が私の料理が美味いって言ってくれたから」
男「えっ」
居酒屋娘「何だよ、悪いか」
男「え、あ、いやごめん、覚えてない」
居酒屋娘「そりゃ嘘だからな」
男「おい」
13: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 00:20:01.66 ID:JuWNWmZZO
男「高校の時に一時期、店の手伝いしてなかった時期あったよな」
居酒屋娘「思春期だったからな」
男「おやっさんがいやだった?」
居酒屋娘「それもあったけど…お前に会うのも気恥ずかしくってさ」
男「そりゃ見事なまでに思春期で。…でも1年くらいでまた手伝いだしたよね」
居酒屋娘「店の手伝いしてないと、店に来たお前に会えないだろ」
男「……なるほど」
居酒屋娘「…納得するなよ」
居酒屋娘「思春期だったからな」
男「おやっさんがいやだった?」
居酒屋娘「それもあったけど…お前に会うのも気恥ずかしくってさ」
男「そりゃ見事なまでに思春期で。…でも1年くらいでまた手伝いだしたよね」
居酒屋娘「店の手伝いしてないと、店に来たお前に会えないだろ」
男「……なるほど」
居酒屋娘「…納得するなよ」
14: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 00:26:46.98 ID:JuWNWmZZO
男「そういえば、今の話で思い出したけどさ」
居酒屋娘「ん」
男「あの頃、おやっさんから相談受けたことがあってさ」
居酒屋娘「…はい、イカの醤油焼き」
男「ありがと。…んで、その内容なんだけどさ」
居酒屋娘「知ってる。前も聞いたよ」
男「あれ、話したっけ」
居酒屋娘「『どうして彼氏を作らないのか』でしょ、余計なお世話だ」
男「でも本当、何で彼氏作らなかったの?引く手は数多だったろうに」
居酒屋娘「…別に。お前以上に好きになれそうな奴がいなかったってだけだよ」
男「…そっか、なるほどなるほど…」
居酒屋娘「…だから納得するなっての…」
居酒屋娘「ん」
男「あの頃、おやっさんから相談受けたことがあってさ」
居酒屋娘「…はい、イカの醤油焼き」
男「ありがと。…んで、その内容なんだけどさ」
居酒屋娘「知ってる。前も聞いたよ」
男「あれ、話したっけ」
居酒屋娘「『どうして彼氏を作らないのか』でしょ、余計なお世話だ」
男「でも本当、何で彼氏作らなかったの?引く手は数多だったろうに」
居酒屋娘「…別に。お前以上に好きになれそうな奴がいなかったってだけだよ」
男「…そっか、なるほどなるほど…」
居酒屋娘「…だから納得するなっての…」
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:31:39.54 ID:JuWNWmZZO
居酒屋娘「お前はどうなんだよ」
男「何が」
居酒屋娘「…恋人」
男「ああ…あんまり欲しいって思ったことも無いな」
居酒屋娘「へぇ、そりゃまた無欲なことで」
男「…まぁ、何というか、お前がいるからな。それで十分だ」
居酒屋娘「……次の注文は?」
男「そう急かさないでくれ、ゆっくり食べる派なんだよ」
居酒屋娘「知ってるよ」
男「何が」
居酒屋娘「…恋人」
男「ああ…あんまり欲しいって思ったことも無いな」
居酒屋娘「へぇ、そりゃまた無欲なことで」
男「…まぁ、何というか、お前がいるからな。それで十分だ」
居酒屋娘「……次の注文は?」
男「そう急かさないでくれ、ゆっくり食べる派なんだよ」
居酒屋娘「知ってるよ」
16: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 00:38:33.58 ID:JuWNWmZZO
男「ん…じゃあ、フライドポテト」
居酒屋娘「…了解」
男「…お前って居酒屋と関係無いメニュー頼むとちょっと怒るよな」
居酒屋娘「別に。怒ってないよ」
男「お前の飯はちゃんと美味いから安心しろよ」
居酒屋娘「……別に、そういうこと言ってるわけじゃ…」
男「……………」
居酒屋娘「……………」
男「……お前が初めて俺に食わせた料理、覚えてるか?」
居酒屋娘「……覚えてない」
男「あの味、今でも忘れられなくてさ。正直、ここに来てる理由の一つですらあるんだよ」
居酒屋娘「…そんな特別なもの作った覚えはないよ」
男「俺にとっちゃ人生で一番特別なものだったよ」
居酒屋娘「…了解」
男「…お前って居酒屋と関係無いメニュー頼むとちょっと怒るよな」
居酒屋娘「別に。怒ってないよ」
男「お前の飯はちゃんと美味いから安心しろよ」
居酒屋娘「……別に、そういうこと言ってるわけじゃ…」
男「……………」
居酒屋娘「……………」
男「……お前が初めて俺に食わせた料理、覚えてるか?」
居酒屋娘「……覚えてない」
男「あの味、今でも忘れられなくてさ。正直、ここに来てる理由の一つですらあるんだよ」
居酒屋娘「…そんな特別なもの作った覚えはないよ」
男「俺にとっちゃ人生で一番特別なものだったよ」
17: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 00:45:12.61 ID:JuWNWmZZO
居酒屋娘「そんなに美味かったのか」
男「いや、味が良かったわけじゃない。むしろ悪かったよ」
居酒屋娘「悪かったな、不味い飯で。ほらよフライドポテト」
男「怒るなよ、昔の話だ。…見た目は悪い。味も良くない。…でも、食べる前からそれを好きになった」
居酒屋娘「…………」
男「…なぁ、俺の好きな料理知ってる?」
居酒屋娘「唐揚げだろ」
男「うん、パリッと揚がってて塩が効いてて、噛んだらジュワッとなるやつ。好きなんだよなぁ、あれ」
居酒屋娘「私は苦手だけどな」
男「知ってる」
男「いや、味が良かったわけじゃない。むしろ悪かったよ」
居酒屋娘「悪かったな、不味い飯で。ほらよフライドポテト」
男「怒るなよ、昔の話だ。…見た目は悪い。味も良くない。…でも、食べる前からそれを好きになった」
居酒屋娘「…………」
男「…なぁ、俺の好きな料理知ってる?」
居酒屋娘「唐揚げだろ」
男「うん、パリッと揚がってて塩が効いてて、噛んだらジュワッとなるやつ。好きなんだよなぁ、あれ」
居酒屋娘「私は苦手だけどな」
男「知ってる」
18: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 00:55:15.66 ID:JuWNWmZZO
居酒屋娘「下味付けるのが難しいし、油は跳ねるし」
男「あの時、手ぇ火傷してたもんな」
居酒屋娘「…どうやってもパリッと仕上がらないし、すぐに焦げるし」
男「黒焦げだったもんな、最初は唐揚げって気付けなかった」
居酒屋娘「……変な味になるし、中の肉は変に硬くなってるし」
男「作りたてだったのになんかふやけてる風になってたな」
居酒屋娘「………あれから10年以上経ってるのに……一向に上達しないし……」
男「何でだろうな、他の料理は凄く美味しくなったのに、唐揚げだけはあの頃のままだ」
居酒屋娘「パリッとしてないし、塩加減は適当、変に固いし、肉汁なんて以ての外」
男「…全く、不思議だよな。…俺の好みとはかけ離れてるのにな」
男「あの時、手ぇ火傷してたもんな」
居酒屋娘「…どうやってもパリッと仕上がらないし、すぐに焦げるし」
男「黒焦げだったもんな、最初は唐揚げって気付けなかった」
居酒屋娘「……変な味になるし、中の肉は変に硬くなってるし」
男「作りたてだったのになんかふやけてる風になってたな」
居酒屋娘「………あれから10年以上経ってるのに……一向に上達しないし……」
男「何でだろうな、他の料理は凄く美味しくなったのに、唐揚げだけはあの頃のままだ」
居酒屋娘「パリッとしてないし、塩加減は適当、変に固いし、肉汁なんて以ての外」
男「…全く、不思議だよな。…俺の好みとはかけ離れてるのにな」
19: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 00:58:02.46 ID:JuWNWmZZO
居酒屋娘「…お待ちどう、こちら、唐揚げです」
男「あぁ、あの時と同じ、俺の大好きな唐揚げだ。
———いただきます。」
終
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/03(火) 00:59:06.78 ID:OC675nHDo
乙
いい雰囲気だった
いい雰囲気だった
21: ◆30lx83ehPU 2016/05/03(火) 01:01:06.31 ID:JuWNWmZZO
生まれた時から世話になってた居酒屋が、近いうちに畳むと言う話を聞いて。
ふと昔話をしていると、ずいぶん時間が経ったんだなと実感します。
それでは。
ふと昔話をしていると、ずいぶん時間が経ったんだなと実感します。
それでは。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461941454/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ オリジナル | Comments (1)
【艦これ】風の色、海の声
1: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:35:40.52 ID:ts13nDrjo
※地の文多数、というか小説形式です。
ちと長めですので、のんびりお付き合いいただければ幸いです。
ちと長めですので、のんびりお付き合いいただければ幸いです。
2: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:36:55.68 ID:ts13nDrjo
ふっと、潮の香りと湿り気をはらんだ風が頬を撫でた。
その色は柔らかな青。間もなく風向きは南から東よりに移動していくはずだ。
見上げれば、少しだけ雲の増えた空で、海鳥たちが風を捕まえようと、広げた翼の角度を少しづつ変化させている。
航空母艦娘の鳳翔は自分の推測を確信へと変える。
経験と勘がなせる技だ。
「瑞鶴。風はどうですか?」
前方を走る同じ航空母艦娘、瑞鶴の背に声を掛ける。
背中に負った矢筒には、練習用を示す橙色の矢羽が見えた。
「問題なしです。このまま発艦を始めます」
針路を南に向け、躊躇うことなく告げる瑞鶴の背を鳳翔は何も言わず、穏やかな笑みを湛えたまま見つめた。
その色は柔らかな青。間もなく風向きは南から東よりに移動していくはずだ。
見上げれば、少しだけ雲の増えた空で、海鳥たちが風を捕まえようと、広げた翼の角度を少しづつ変化させている。
航空母艦娘の鳳翔は自分の推測を確信へと変える。
経験と勘がなせる技だ。
「瑞鶴。風はどうですか?」
前方を走る同じ航空母艦娘、瑞鶴の背に声を掛ける。
背中に負った矢筒には、練習用を示す橙色の矢羽が見えた。
「問題なしです。このまま発艦を始めます」
針路を南に向け、躊躇うことなく告げる瑞鶴の背を鳳翔は何も言わず、穏やかな笑みを湛えたまま見つめた。
3: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:37:38.96 ID:ts13nDrjo
おそらく瑞鶴はこの後、幾つかの過ちに気付くことになるだろう。
けれどそれもまた、成長のために必要な経験だ。
「直掩機、発艦始め!」
瑞鶴が掛け声とともに、短弓に矢をつがえて的を射抜くように放った。
もちろん飛び出した矢は重力に逆らうことはできず、やがて海面へと向かっていく。それは当たり前のことだ。
だが、その当たり前を変える力を持つのが艦娘という存在だ。
「え……あれ?」
だからこそ瑞鶴が疑問の声をあげる。
一瞬の間をおいて、前方の空間に僅かながらに色のついた壁のようなものが浮かび上がり、周囲を覆っていく。
それが艦娘たちにとっての装甲――敵の攻撃をはじき返すための障壁だ。瑞鶴が状況を確認するために、あえて視覚化したのだろう。
けれどそれもまた、成長のために必要な経験だ。
「直掩機、発艦始め!」
瑞鶴が掛け声とともに、短弓に矢をつがえて的を射抜くように放った。
もちろん飛び出した矢は重力に逆らうことはできず、やがて海面へと向かっていく。それは当たり前のことだ。
だが、その当たり前を変える力を持つのが艦娘という存在だ。
「え……あれ?」
だからこそ瑞鶴が疑問の声をあげる。
一瞬の間をおいて、前方の空間に僅かながらに色のついた壁のようなものが浮かび上がり、周囲を覆っていく。
それが艦娘たちにとっての装甲――敵の攻撃をはじき返すための障壁だ。瑞鶴が状況を確認するために、あえて視覚化したのだろう。
4: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:38:12.90 ID:ts13nDrjo
障壁は装甲であると同時に、攻撃の要でもあった。
艦娘たちの扱う兵装の類は、この障壁によって作られる空間の中を一定距離進むことで本来の力を発揮するのだから。
もしこれがなければ、艦娘の体に合わせてスケールダウンされた砲弾など、せいぜい大口径ライフル程度の威力しか持たないし、矢は矢のまま。
人間にとってはそれでも充分に脅威だが、艦娘たちの敵となる深海棲艦には引っかき傷程度のダメージにもならないだろう。
ともかく。放たれた矢は、瑞鶴の張り巡らせた障壁による空間を飛び出す前に海面に着水してしまうかもしれない。
ふと、鳳翔の視界に赤が映る。
それは、ほんの僅かな時間。
点と点を繋ぐように、瞬きをするような赤い色が見える。
南からやってくる、まるで海原の呼吸のような風の色。
「やばっ!」
艦娘たちの扱う兵装の類は、この障壁によって作られる空間の中を一定距離進むことで本来の力を発揮するのだから。
もしこれがなければ、艦娘の体に合わせてスケールダウンされた砲弾など、せいぜい大口径ライフル程度の威力しか持たないし、矢は矢のまま。
人間にとってはそれでも充分に脅威だが、艦娘たちの敵となる深海棲艦には引っかき傷程度のダメージにもならないだろう。
ともかく。放たれた矢は、瑞鶴の張り巡らせた障壁による空間を飛び出す前に海面に着水してしまうかもしれない。
ふと、鳳翔の視界に赤が映る。
それは、ほんの僅かな時間。
点と点を繋ぐように、瞬きをするような赤い色が見える。
南からやってくる、まるで海原の呼吸のような風の色。
「やばっ!」
5: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:38:53.37 ID:ts13nDrjo
瑞鶴が声を上げたところで、ようやく矢が淡い光を放って、次の瞬間には橙色の彩色を施された零式練習用戦闘機に姿を変える。
しかし揚力はまだ足りない。機体は海面へと吸い寄せられるように降りてゆく。
本来であれば離艦直後に左へ機首を向け、母艦の進路から外れる動きをしなければならないが、それすらも難しい状態だ。
このままでは無事に着水したとしても、瑞鶴の障壁と接触して海の藻屑になる。
「出力上げてっ! お願い!」
瑞鶴の声に応え、最後の悪あがきとばかりに練習機のエンジンが唸りを上げ、出力を最大にする。
ふわりと淡い赤が機体を撫でるのが、鳳翔には見えた。
なんとか着水を踏みとどまった練習機は、そのまま海面スレスレを這うように水平飛行し、充分に加速してから、ようやくヨタヨタと上昇していく。
「あ、危なかったぁ……」
胸をなでおろして、一安心と言った具合に気を抜いている瑞鶴。
しかし揚力はまだ足りない。機体は海面へと吸い寄せられるように降りてゆく。
本来であれば離艦直後に左へ機首を向け、母艦の進路から外れる動きをしなければならないが、それすらも難しい状態だ。
このままでは無事に着水したとしても、瑞鶴の障壁と接触して海の藻屑になる。
「出力上げてっ! お願い!」
瑞鶴の声に応え、最後の悪あがきとばかりに練習機のエンジンが唸りを上げ、出力を最大にする。
ふわりと淡い赤が機体を撫でるのが、鳳翔には見えた。
なんとか着水を踏みとどまった練習機は、そのまま海面スレスレを這うように水平飛行し、充分に加速してから、ようやくヨタヨタと上昇していく。
「あ、危なかったぁ……」
胸をなでおろして、一安心と言った具合に気を抜いている瑞鶴。
6: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:39:32.15 ID:ts13nDrjo
その後ろに鳳翔がそっと近づく。
「風の気まぐれに救われましたね。でも、これでは後続が発艦できません」
そして放たれた鳳翔の言葉に瑞鶴が小さく「あっ」と声を上げる。
ゆっくりと上昇していく練習機がある程度の高度を取るまで、その空域は塞がれる。
もし後続の発艦に問題がなければ、速度差からあっという間に追いつき、空中衝突してしまう危険があるからだ。
だから、瑞鶴の後を一列になって続いている鳳翔の航空隊も発艦ができない。
「ごめんなさい……」
いつもの勝気で自信家な瑞鶴はどこへやら。消え入るような声で詫びを入れる。
自分の不手際を素直に認め、反省できる。それが瑞鶴の良いところだ。ただし、相手によって、という言葉がついてしまうあたりが痛し痒しだ。
「ほんのわずかな遅れでも積み重なれば、結果として艦隊の命運を左右します」
「風の気まぐれに救われましたね。でも、これでは後続が発艦できません」
そして放たれた鳳翔の言葉に瑞鶴が小さく「あっ」と声を上げる。
ゆっくりと上昇していく練習機がある程度の高度を取るまで、その空域は塞がれる。
もし後続の発艦に問題がなければ、速度差からあっという間に追いつき、空中衝突してしまう危険があるからだ。
だから、瑞鶴の後を一列になって続いている鳳翔の航空隊も発艦ができない。
「ごめんなさい……」
いつもの勝気で自信家な瑞鶴はどこへやら。消え入るような声で詫びを入れる。
自分の不手際を素直に認め、反省できる。それが瑞鶴の良いところだ。ただし、相手によって、という言葉がついてしまうあたりが痛し痒しだ。
「ほんのわずかな遅れでも積み重なれば、結果として艦隊の命運を左右します」
7: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:40:16.29 ID:ts13nDrjo
砲弾の装填とは違い、航空機にはどうしても準備の時間が必要だ。
兵装の積み替え、簡易整備、給油はもちろんの事だし、飛行隊全てが揃い編隊を整えるまでの時間も必要だ。
もちろん、その時間を敵が待ってくれるわけもない。
一分一秒の遅れ、判断の迷いが致命的な事態を招く事になる。
瑞鶴もそれはよくわかっているのだ。
肩を落とし、萎れて小さくなっている瑞鶴の頭をやさしく撫でる。
「どうしてこうなったか、わかりますか?」
ゆっくりと、優しく問いかける鳳翔。
もちろん原因は瑞鶴にもわかっているだろう。
「合成風力が足りませんでした」
兵装の積み替え、簡易整備、給油はもちろんの事だし、飛行隊全てが揃い編隊を整えるまでの時間も必要だ。
もちろん、その時間を敵が待ってくれるわけもない。
一分一秒の遅れ、判断の迷いが致命的な事態を招く事になる。
瑞鶴もそれはよくわかっているのだ。
肩を落とし、萎れて小さくなっている瑞鶴の頭をやさしく撫でる。
「どうしてこうなったか、わかりますか?」
ゆっくりと、優しく問いかける鳳翔。
もちろん原因は瑞鶴にもわかっているだろう。
「合成風力が足りませんでした」
8: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:40:53.95 ID:ts13nDrjo
「なぜ?」
「風が……変わりました」
「そうですね、確かに変わりました。その気配を見逃したのは良くありませんね」
鳳翔は常日頃から言って聞かせていることをそのまま口にする。
「風そのものを感じるのではなく、色を見るのですよ」
もちろん風に色などあるわけがなく、瑞鶴はその言葉の意味を理解できていない。
だが、これは感覚の世界の話なのだから仕方がない。実際に受け取る側によってその表現は変わる。
例えば航空艦隊の中核を担っている航空母艦娘の赤城や加賀は、匂いだと言っているし、瑞鶴の同型艦である翔鶴は声と表現する。
それと同じように、鳳翔には色として見えるのだ。
きっと瑞鶴も経験を積めば、自分なりの表現をするようになるのだろう。
「風が……変わりました」
「そうですね、確かに変わりました。その気配を見逃したのは良くありませんね」
鳳翔は常日頃から言って聞かせていることをそのまま口にする。
「風そのものを感じるのではなく、色を見るのですよ」
もちろん風に色などあるわけがなく、瑞鶴はその言葉の意味を理解できていない。
だが、これは感覚の世界の話なのだから仕方がない。実際に受け取る側によってその表現は変わる。
例えば航空艦隊の中核を担っている航空母艦娘の赤城や加賀は、匂いだと言っているし、瑞鶴の同型艦である翔鶴は声と表現する。
それと同じように、鳳翔には色として見えるのだ。
きっと瑞鶴も経験を積めば、自分なりの表現をするようになるのだろう。
9: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:41:29.65 ID:ts13nDrjo
その日まで沈まなければ、だが。
「けれど、果たして風向きが変わっただけでしょうか」
そうならないために、瑞鶴が学ぶべきことは多い。今も大切なことを見落としているのだから。
それを指摘するべく、鳳翔は問いを投げかける。
問いかけられた瑞鶴は、必死に思考を巡らせ、幾つもの推論を立ち上げ、それを否定する作業を繰り返している。
しばしの時間を待った後、鳳翔は自分の長弓を手に前へ出る。
先ほどと同じ進路、同じ速度を保ったまま矢をつがえ、一呼吸を置いて放つ。
「鳳翔さん!?」
先ほど自分が失敗したのと同じ光景を想像し、瑞鶴が叫ぶ。
けれど。
「けれど、果たして風向きが変わっただけでしょうか」
そうならないために、瑞鶴が学ぶべきことは多い。今も大切なことを見落としているのだから。
それを指摘するべく、鳳翔は問いを投げかける。
問いかけられた瑞鶴は、必死に思考を巡らせ、幾つもの推論を立ち上げ、それを否定する作業を繰り返している。
しばしの時間を待った後、鳳翔は自分の長弓を手に前へ出る。
先ほどと同じ進路、同じ速度を保ったまま矢をつがえ、一呼吸を置いて放つ。
「鳳翔さん!?」
先ほど自分が失敗したのと同じ光景を想像し、瑞鶴が叫ぶ。
けれど。
10: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:42:10.40 ID:ts13nDrjo
鳳翔の放った矢は、瑞鶴のそれとは全く比べ物にならない速度で飛翔し、あっという間に艦載機へと姿を変える。
充分な揚力を得て、それはグングンと高みを目指して登っていく。
「この違いが、なぜかわかりますか?」
その問いへ答える代わりに、瑞鶴は奥歯を噛み締め、あふれる思いを必死に思い留めているようだ。
彼女が何を考えているのか、鳳翔にはよくわかっている。
そして、この後に紡がれる言葉も、だ。
「こんなことしてる暇なんてないのに……戦いに出なきゃいけないのに……!」
悔しさからあふれる涙を拭うこともせずに、瑞鶴は鋭い目で鳳翔を睨みつける。
「じゃなきゃ、私がここにいる意味なんてない!」
瑞鶴の想いは痛いほどわかっている。
充分な揚力を得て、それはグングンと高みを目指して登っていく。
「この違いが、なぜかわかりますか?」
その問いへ答える代わりに、瑞鶴は奥歯を噛み締め、あふれる思いを必死に思い留めているようだ。
彼女が何を考えているのか、鳳翔にはよくわかっている。
そして、この後に紡がれる言葉も、だ。
「こんなことしてる暇なんてないのに……戦いに出なきゃいけないのに……!」
悔しさからあふれる涙を拭うこともせずに、瑞鶴は鋭い目で鳳翔を睨みつける。
「じゃなきゃ、私がここにいる意味なんてない!」
瑞鶴の想いは痛いほどわかっている。
11: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:42:55.33 ID:ts13nDrjo
二ヶ月も同じことを繰り返しているのだ。
だが、それでも鳳翔はその願いを叶えるつもりはない。
だから、もう一度問う。
「今の違いが何故起きたかわかりますか?」
先ほどよりも強い口調で放たれた問いに、瑞鶴はその決意の固さを知っただろう。
そして押し黙り、答えを探すために思考の迷路へと足を踏み入れる。
簡単に答えは見つからないかもしれない。
けれどこの先、艦隊の一員として組み込まれていくことになる瑞鶴には必要な知識だ。
だから鳳翔はこれ以上言わないと決めている。答えは自分で見つけてこそ意義がある。
それを見つけられない限り、瑞鶴を戦場に出すつもりなどなかった。
だが、それでも鳳翔はその願いを叶えるつもりはない。
だから、もう一度問う。
「今の違いが何故起きたかわかりますか?」
先ほどよりも強い口調で放たれた問いに、瑞鶴はその決意の固さを知っただろう。
そして押し黙り、答えを探すために思考の迷路へと足を踏み入れる。
簡単に答えは見つからないかもしれない。
けれどこの先、艦隊の一員として組み込まれていくことになる瑞鶴には必要な知識だ。
だから鳳翔はこれ以上言わないと決めている。答えは自分で見つけてこそ意義がある。
それを見つけられない限り、瑞鶴を戦場に出すつもりなどなかった。
12: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:43:42.07 ID:ts13nDrjo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
瑞鶴との錬成から戻った鳳翔の姿は、艦娘たち専用の食堂にあった。
目の前に置かれたホーロー製の大きな容器の中には、水と塩を加えた糠がたっぷりと入っている。
それと、野菜クズに昆布と鷹の爪。
程よく発酵して、人によっては不快であろう匂いを放つそれに、鳳翔はためらいもなく手を突っ込んで混ぜ始める。
糠漬けの元になる糠床には、まめな手入れが必要だ。
空気をある程度含ませることで発酵を促進してやるのだ。
「本当に鳳翔はマメですネー」
そんな後ろ姿を見ながら、呑気に茶をすすっているのは戦艦娘の金剛だ。
この基地の艦娘たちのまとめ役でもある。
その重圧に耐えきれなくなると、こうやって鳳翔のところに現れては、愚痴をこぼしたり、茶飲話で気を紛らわせ、勝手に満足して帰っていく。
13: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:44:30.17 ID:ts13nDrjo
「愛情をかけてあげた分、美味しくなるんですよ」
鳳翔はそう言いながら、丁寧に糠床へ空気を含ませていく。
英国生まれの帰国子女を自称する金剛にとって、初めのうちはこの匂いがたまらなく不快なものだったようで、鳳翔がこの作業の準備を始めると、いつの間にか姿を消していた。
しかし、慣れというものは恐ろしいもので、今では茶請け代わりに糠床でできた漬物をかじっている。
さらに言えば「確かにオイシイですケド、紅茶には合わないですネー」などと言ってのけるあたりも金剛だ。最後に余計な一言をつけて来るところまで、英国式を真似る必要もないとは思うのdが。
そもそも、南方とつながる海上輸送路が遮断されているのだから、紅茶など簡単に手に入るはずもなく、今すすっているのはほうじ茶。
東北のどこかまでは忘れたが、お茶請けに漬物を出すところがあるのだから、相性として問題はないどころか、最適なくらいだろう。
「ところで金剛さん。ここでのんびり油を売っている暇、あるんですか?」
だから、たまには嫌味の一つも言ってみたくなる。
「ノーよノー。ワタシに『さん』なんてつけちゃダメなんデス。もっとフレンドリーなのがいいネ」
鳳翔はそう言いながら、丁寧に糠床へ空気を含ませていく。
英国生まれの帰国子女を自称する金剛にとって、初めのうちはこの匂いがたまらなく不快なものだったようで、鳳翔がこの作業の準備を始めると、いつの間にか姿を消していた。
しかし、慣れというものは恐ろしいもので、今では茶請け代わりに糠床でできた漬物をかじっている。
さらに言えば「確かにオイシイですケド、紅茶には合わないですネー」などと言ってのけるあたりも金剛だ。最後に余計な一言をつけて来るところまで、英国式を真似る必要もないとは思うのdが。
そもそも、南方とつながる海上輸送路が遮断されているのだから、紅茶など簡単に手に入るはずもなく、今すすっているのはほうじ茶。
東北のどこかまでは忘れたが、お茶請けに漬物を出すところがあるのだから、相性として問題はないどころか、最適なくらいだろう。
「ところで金剛さん。ここでのんびり油を売っている暇、あるんですか?」
だから、たまには嫌味の一つも言ってみたくなる。
「ノーよノー。ワタシに『さん』なんてつけちゃダメなんデス。もっとフレンドリーなのがいいネ」
14: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:46:55.00 ID:ts13nDrjo
どうやら鳳翔が思っていたのとは違う方向で嫌味と受け取ったらしい。
思わず苦笑いが出てしまうが、それはそれで面白いので構わず乗ることにする。
「艦歴が私より長い先輩に敬意を払わずにどうするんですか」
艦としての金剛は一九一二年進水、鳳翔は一九二一年進水だ。鳳翔の言葉に嘘はない。
「航空母艦の母なんて呼ばれてる鳳翔に先輩扱いされタラ、私はみんなからグランマにされてしまいマス。せっかくのこの見た目で、それはあんまりだと思わないデスカ?」
本気で泣きだしそうな顔をする金剛。
少しやりすぎたかもしれない。
「冗談ですよ。それで金剛、今日は夜間演習だったのではありませんか?」
「それがネー、キャンセルになりマシタ」
金剛は不満を隠すことなく、頬を膨らませるという方法で表情に出してみせる。
思わず苦笑いが出てしまうが、それはそれで面白いので構わず乗ることにする。
「艦歴が私より長い先輩に敬意を払わずにどうするんですか」
艦としての金剛は一九一二年進水、鳳翔は一九二一年進水だ。鳳翔の言葉に嘘はない。
「航空母艦の母なんて呼ばれてる鳳翔に先輩扱いされタラ、私はみんなからグランマにされてしまいマス。せっかくのこの見た目で、それはあんまりだと思わないデスカ?」
本気で泣きだしそうな顔をする金剛。
少しやりすぎたかもしれない。
「冗談ですよ。それで金剛、今日は夜間演習だったのではありませんか?」
「それがネー、キャンセルになりマシタ」
金剛は不満を隠すことなく、頬を膨らませるという方法で表情に出してみせる。
15: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:47:43.09 ID:ts13nDrjo
気持ちはわからないでもない。
夜間演習に備えての準備をここ数日やっていたはずだ。
「また随分と急ですね」
「いつものことだけどネー。夜間演習で損害が出たら困るそうデス」
この基地の司令官は、その任についてからまだ日が浅い。
その上、出世街道を歩んでいたはずが、自分には一切関係ないところで起きたトラブルのおかげで飛ばされてきたという意識が強かった。
おそらくは期間を定めた代役くらいのつもりなのだろう。
だからやる気にかけていたし、ただ黙々と中央からの指示だけをこなすことに血道をあげる、まるで役人のようだった。
艦娘たちの扱いもぞんざいで、命令に至っては紙切れ一枚を送りつけ、やってこいと言うだけ。その命令で負傷した艦娘が出ても顔色ひとつ変えることなく、労いの言葉もない。
そういうものは、たとえ本心ではなくともあってしかるべきもののはずだ。そんな小さなすれ違いの積み重ねだけでも、いつかは大きな溝になるのだから。
夜間演習に備えての準備をここ数日やっていたはずだ。
「また随分と急ですね」
「いつものことだけどネー。夜間演習で損害が出たら困るそうデス」
この基地の司令官は、その任についてからまだ日が浅い。
その上、出世街道を歩んでいたはずが、自分には一切関係ないところで起きたトラブルのおかげで飛ばされてきたという意識が強かった。
おそらくは期間を定めた代役くらいのつもりなのだろう。
だからやる気にかけていたし、ただ黙々と中央からの指示だけをこなすことに血道をあげる、まるで役人のようだった。
艦娘たちの扱いもぞんざいで、命令に至っては紙切れ一枚を送りつけ、やってこいと言うだけ。その命令で負傷した艦娘が出ても顔色ひとつ変えることなく、労いの言葉もない。
そういうものは、たとえ本心ではなくともあってしかるべきもののはずだ。そんな小さなすれ違いの積み重ねだけでも、いつかは大きな溝になるのだから。
16: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:48:21.83 ID:ts13nDrjo
だが、それでもこなすべき任務はある。
「たぶん次の輸送船団が出るデス。長期の哨戒任務が来るヨ。それもきっと大規模ネ」
金剛はそう言って、だらしなくテーブルに突っ伏した。
危険の伴う夜間演習の中止はそのせいだろう。いざ作戦開始となった時に稼働艦が少ないのは痛手だ。
二回続いて輸送作戦が失敗しているのだから、今度こそはという考えも多分にある。
糠床を仕込み終え、片付けを済ませた鳳翔は自分の湯呑みにほうじ茶を注ぐと、金剛の向かいに腰をおろす。
「厄介ですね」
「うぅ……正直、気が重いデース」
輸送船団の向かう先は南方。その海域の広さは想像を絶する。その中の要所を六〇名ほどの艦娘でカバーしなければならない。
それも、輸送船団や航路の途中の国々に存在を悟られることのないようにだ。
「たぶん次の輸送船団が出るデス。長期の哨戒任務が来るヨ。それもきっと大規模ネ」
金剛はそう言って、だらしなくテーブルに突っ伏した。
危険の伴う夜間演習の中止はそのせいだろう。いざ作戦開始となった時に稼働艦が少ないのは痛手だ。
二回続いて輸送作戦が失敗しているのだから、今度こそはという考えも多分にある。
糠床を仕込み終え、片付けを済ませた鳳翔は自分の湯呑みにほうじ茶を注ぐと、金剛の向かいに腰をおろす。
「厄介ですね」
「うぅ……正直、気が重いデース」
輸送船団の向かう先は南方。その海域の広さは想像を絶する。その中の要所を六〇名ほどの艦娘でカバーしなければならない。
それも、輸送船団や航路の途中の国々に存在を悟られることのないようにだ。
17: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:49:06.72 ID:ts13nDrjo
理由が何であれ、国の方針で艦娘の存在が秘密とされている以上、それに従わないわけにはいかない。
いつ襲いかかってくるかわからない敵を警戒し、探し出し、沈める。それだけでも骨の折れる任務だ。その上で、周囲に近寄る他の船を警戒し回避するという離れ業を要求される。
ただでさえ張り詰め、擦り切れそうな神経の上にさらなる重圧だ。
金剛の気が重いという言葉も理解できた。
「また、空母機動部隊に頼りきりになってしまいますネー」
「……翔鶴と瑞鳳が間に合えばいいのですが」
「ムゥ……それはきっと難しいヨ」
先月の作戦中に被雷し大破のダメージを受けた二人の修復には、まだ相当の時間が必要だ。
バケツと呼ばれる高速修復材を使ってはいるが、それで治るのはあくまでも体の傷。
大きく損傷を受けた艤装の修復は、資材不足という大きな枷があるせいで遅々として進んでいないらしい。そういった事態など滅多に起きることではなかったが、上に立つものに怠慢があればその限りではない。
いつ襲いかかってくるかわからない敵を警戒し、探し出し、沈める。それだけでも骨の折れる任務だ。その上で、周囲に近寄る他の船を警戒し回避するという離れ業を要求される。
ただでさえ張り詰め、擦り切れそうな神経の上にさらなる重圧だ。
金剛の気が重いという言葉も理解できた。
「また、空母機動部隊に頼りきりになってしまいますネー」
「……翔鶴と瑞鳳が間に合えばいいのですが」
「ムゥ……それはきっと難しいヨ」
先月の作戦中に被雷し大破のダメージを受けた二人の修復には、まだ相当の時間が必要だ。
バケツと呼ばれる高速修復材を使ってはいるが、それで治るのはあくまでも体の傷。
大きく損傷を受けた艤装の修復は、資材不足という大きな枷があるせいで遅々として進んでいないらしい。そういった事態など滅多に起きることではなかったが、上に立つものに怠慢があればその限りではない。
18: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:49:45.29 ID:ts13nDrjo
夜間演習中止の命令は、ここにも関係しているのだろう。
「瑞鳳の代わりは鳳翔にやってもらうとシテ、瑞鶴はどうなのデス?」
当然、誰もがそれをあてにするだろうということは、鳳翔にも想像ができていた。
だからこそ、ここ数日は瑞鶴に付きっきりで指導をしていたのだ。
「筋はいいのですが、実戦はまだ無理です。今出せば、帰ってくることはないでしょう」
「まだ二ヶ月じゃ、それで当たり前って話ですネー」
「それを司令官が理解してくれていればいいのですが」
今の瑞鶴は生兵法以前の状態。その上、身に帯びた獲物は付け焼刃だ。
艦娘としての動き方と、艦としてのそれとでは大きく違うということをまだ理解できていない。
そんな状態で戦場に出せば、瑞鶴自身だけではなく周囲の仲間をも巻き込むことになる。
「……フン。それができるようなヤツなら、誰も苦労してないヨ」
「瑞鳳の代わりは鳳翔にやってもらうとシテ、瑞鶴はどうなのデス?」
当然、誰もがそれをあてにするだろうということは、鳳翔にも想像ができていた。
だからこそ、ここ数日は瑞鶴に付きっきりで指導をしていたのだ。
「筋はいいのですが、実戦はまだ無理です。今出せば、帰ってくることはないでしょう」
「まだ二ヶ月じゃ、それで当たり前って話ですネー」
「それを司令官が理解してくれていればいいのですが」
今の瑞鶴は生兵法以前の状態。その上、身に帯びた獲物は付け焼刃だ。
艦娘としての動き方と、艦としてのそれとでは大きく違うということをまだ理解できていない。
そんな状態で戦場に出せば、瑞鶴自身だけではなく周囲の仲間をも巻き込むことになる。
「……フン。それができるようなヤツなら、誰も苦労してないヨ」
19: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:50:22.55 ID:ts13nDrjo
だが、金剛の言葉が現実だ。
おそらく瑞鶴は戦場に引き出されることになるだろう。練度など関係ない。
上層部は艦娘を消耗品の兵器と同列に考えている。
そして、当の艦娘たちの間にもそういう考え方が広がっている。
艦娘に『死』はない。
そもそも、艦娘たちも人間たちも、艦娘が失われる状態に対して『死』という言葉は使わない。
一度『沈んで』も、また現れるのだから。
今まで幾度となく繰り返されたその現象が、状況を生み出しているのだ。
だが、姿形は取り戻せても、それまでに得た知識や経験は白紙に戻っている。
失われてしまうそれらこそが、数の不利を覆すための武器となるというのに、だ。
おそらく瑞鶴は戦場に引き出されることになるだろう。練度など関係ない。
上層部は艦娘を消耗品の兵器と同列に考えている。
そして、当の艦娘たちの間にもそういう考え方が広がっている。
艦娘に『死』はない。
そもそも、艦娘たちも人間たちも、艦娘が失われる状態に対して『死』という言葉は使わない。
一度『沈んで』も、また現れるのだから。
今まで幾度となく繰り返されたその現象が、状況を生み出しているのだ。
だが、姿形は取り戻せても、それまでに得た知識や経験は白紙に戻っている。
失われてしまうそれらこそが、数の不利を覆すための武器となるというのに、だ。
20: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:51:19.51 ID:ts13nDrjo
「正直、瑞鶴の出撃を認めることはできません」
そんな抵抗など、全く無意味であることは鳳翔も重々承知している。
「それはワタシも同意シマス……」
もちろん金剛もだ。
自分たちのような考え方をする者は稀有と言っていいだろう。
それですら、経験が失われてしまうことについての不利を指摘しての考えだから、自分たちも歪んでいると、鳳翔は自覚している。
「デモ、伝えたところで……というよりも伝えようがないデス」
命令を下すはずの司令官は、この佐世保第二基地にはいないのだから。いや、書類上も現実にも司令官は存在する。
ただし、その人物は長崎県の佐世保基地にいるのであって、艦娘たちの根拠地はそこと別の場所だ。
長崎市の沖合に浮かぶ、昔は炭鉱があった小さな島。そこが艦娘たちのいる佐世保第二基地だ。もちろん艦娘たちの基地となる建物以外は何もない。
そんな抵抗など、全く無意味であることは鳳翔も重々承知している。
「それはワタシも同意シマス……」
もちろん金剛もだ。
自分たちのような考え方をする者は稀有と言っていいだろう。
それですら、経験が失われてしまうことについての不利を指摘しての考えだから、自分たちも歪んでいると、鳳翔は自覚している。
「デモ、伝えたところで……というよりも伝えようがないデス」
命令を下すはずの司令官は、この佐世保第二基地にはいないのだから。いや、書類上も現実にも司令官は存在する。
ただし、その人物は長崎県の佐世保基地にいるのであって、艦娘たちの根拠地はそこと別の場所だ。
長崎市の沖合に浮かぶ、昔は炭鉱があった小さな島。そこが艦娘たちのいる佐世保第二基地だ。もちろん艦娘たちの基地となる建物以外は何もない。
21: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:51:53.51 ID:ts13nDrjo
ヘリポートとして使える広い開拓地と、吸排気口の建設のために作られた簡素な港があり、そして人が住んでいないという理由で選ばれたような場所だ。
エリートコースを突き進む男にとって、そんな僻地に自分の身を置くことなどプライドが許さなかったのだろう。
着任時に一度訪れた後は、月に一度姿を見せれば良い方だ。
それでは抗議をすることすら叶わない。したところで、上層部に従っていればそのうち中央に戻れると信じている男が取り合うことはないだろう。
だから金剛は言う。
「ワタシにできるのは鳳翔と瑞鶴を同じ隊に組み込むことくらいデスヨ」
瑞鶴の出撃を拒否するなどという権限は艦娘たちに与えられていない。
金剛に認められているのは、艦隊の編成を変えることくらいだ。
正直な話、それだけでもかなり危ない橋を渡っている。
プライドの高い男が、自分の意思に従わないものをどう思うかなど考えるまでもない。
エリートコースを突き進む男にとって、そんな僻地に自分の身を置くことなどプライドが許さなかったのだろう。
着任時に一度訪れた後は、月に一度姿を見せれば良い方だ。
それでは抗議をすることすら叶わない。したところで、上層部に従っていればそのうち中央に戻れると信じている男が取り合うことはないだろう。
だから金剛は言う。
「ワタシにできるのは鳳翔と瑞鶴を同じ隊に組み込むことくらいデスヨ」
瑞鶴の出撃を拒否するなどという権限は艦娘たちに与えられていない。
金剛に認められているのは、艦隊の編成を変えることくらいだ。
正直な話、それだけでもかなり危ない橋を渡っている。
プライドの高い男が、自分の意思に従わないものをどう思うかなど考えるまでもない。
22: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:52:45.58 ID:ts13nDrjo
「……こうなったら、演習で瑞鶴に実弾を撃ち込むトカ?」
まるで物語に出てくる悪役のような笑みを浮かべ物騒なことを言う金剛。
鳳翔はそれに対して、鋭い目を向け睨み返す。
「瑞鶴の体に傷一つ付けず、艤装だけを大破させられるならどうぞ。できなかった場合は私がただではおきませんよ? きっと翔鶴も同じことを言うでしょうし、加賀に至っては何も言わずに――」
「オウ……ジョークですヨ。言い過ぎました、ソーリーね」
さすがの戦艦も空母三隻分の航空攻撃となればひとたまりもない。
金剛が顔を真っ青にして詫びる。
「冗談にしては度が過ぎます……それに、そんな手を使って下がらせたところで、納得するはずがありません。あの子なら、むしろ自分を囮にしろと言うでしょう」
「……ハートだけは一人前、ネ」
「実力も赤城や加賀と同じ――いえ、もしかするとそれ以上です。瑞鶴も誇り高き艦ですから」
「そうは見えないんですけどネー」
「だから困っているのですよ。本人もそれを自覚しているのかどうか……」
その言葉の後に放たれた鳳翔のため息は、湯呑みの中に消えていった。
まるで物語に出てくる悪役のような笑みを浮かべ物騒なことを言う金剛。
鳳翔はそれに対して、鋭い目を向け睨み返す。
「瑞鶴の体に傷一つ付けず、艤装だけを大破させられるならどうぞ。できなかった場合は私がただではおきませんよ? きっと翔鶴も同じことを言うでしょうし、加賀に至っては何も言わずに――」
「オウ……ジョークですヨ。言い過ぎました、ソーリーね」
さすがの戦艦も空母三隻分の航空攻撃となればひとたまりもない。
金剛が顔を真っ青にして詫びる。
「冗談にしては度が過ぎます……それに、そんな手を使って下がらせたところで、納得するはずがありません。あの子なら、むしろ自分を囮にしろと言うでしょう」
「……ハートだけは一人前、ネ」
「実力も赤城や加賀と同じ――いえ、もしかするとそれ以上です。瑞鶴も誇り高き艦ですから」
「そうは見えないんですけどネー」
「だから困っているのですよ。本人もそれを自覚しているのかどうか……」
その言葉の後に放たれた鳳翔のため息は、湯呑みの中に消えていった。
23: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:58:05.29 ID:ts13nDrjo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
鳳翔の姿は瑞鶴とともに洋上にあった。
ただし今日は、艦娘の数が増えている。
機動部隊護衛の任を受けた駆逐艦娘たち――綾波型駆逐艦娘の朧率いる第七駆逐隊の四名が最前列で扇状に広がり、対潜警戒をしながら二〇ノットで航行。
その二千メートル後方を瑞鶴と鳳翔が並走する形で続く。
さらに後方を戦艦金剛、軽巡神通が続き、側面は白露型駆逐艦娘の白露、改白露型の海風、江風、涼風が固めている。
編成は潜水艦を含む敵艦隊が潜む海上輸送路の哨戒を想定したものだ。
それは、この先に発動するであろう作戦を念頭に置いてもいる。
「索敵機発艦準備をお願いしマース!」
旗艦を務める金剛の指示が飛ぶ。
翌日。
鳳翔の姿は瑞鶴とともに洋上にあった。
ただし今日は、艦娘の数が増えている。
機動部隊護衛の任を受けた駆逐艦娘たち――綾波型駆逐艦娘の朧率いる第七駆逐隊の四名が最前列で扇状に広がり、対潜警戒をしながら二〇ノットで航行。
その二千メートル後方を瑞鶴と鳳翔が並走する形で続く。
さらに後方を戦艦金剛、軽巡神通が続き、側面は白露型駆逐艦娘の白露、改白露型の海風、江風、涼風が固めている。
編成は潜水艦を含む敵艦隊が潜む海上輸送路の哨戒を想定したものだ。
それは、この先に発動するであろう作戦を念頭に置いてもいる。
「索敵機発艦準備をお願いしマース!」
旗艦を務める金剛の指示が飛ぶ。
24: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 22:58:48.03 ID:ts13nDrjo
この瞬間に艦隊運動の実質的な決定権は瑞鶴に与えられる。
風を読み、艦首を向ける方向を決めるのは航空母艦の仕事だ。その判断を旗艦である金剛は命令として伝えるだけだ。
「風上に向けて艦を立てます。方位一六〇。第三戦速」
瑞鶴は風を読み、判断を金剛に伝える。
その判断に間違いはない。間違いはないが、まだ読みは甘い。
昨日の二の舞を繰り返さなければいいが。
淡く柔らかにまとわりつく青の風を見て鳳翔はそう願う。
「全艦逐次回頭、方位一六〇。三戦速」
金剛の合図とともに、それぞれが左に舵を切って次々に回頭を始めていくが、左右を守る海風と江風のタイミングが遅れ、陣形が乱れ始める。
この二人も瑞鶴と同じように着任から日が浅い。まだ、艦と艦娘との違いを体で理解できていないのだろう。
風を読み、艦首を向ける方向を決めるのは航空母艦の仕事だ。その判断を旗艦である金剛は命令として伝えるだけだ。
「風上に向けて艦を立てます。方位一六〇。第三戦速」
瑞鶴は風を読み、判断を金剛に伝える。
その判断に間違いはない。間違いはないが、まだ読みは甘い。
昨日の二の舞を繰り返さなければいいが。
淡く柔らかにまとわりつく青の風を見て鳳翔はそう願う。
「全艦逐次回頭、方位一六〇。三戦速」
金剛の合図とともに、それぞれが左に舵を切って次々に回頭を始めていくが、左右を守る海風と江風のタイミングが遅れ、陣形が乱れ始める。
この二人も瑞鶴と同じように着任から日が浅い。まだ、艦と艦娘との違いを体で理解できていないのだろう。
25: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:00:18.28 ID:ts13nDrjo
この編成は彼女たちの錬成も兼ねているのだ。
後方からそれぞれの嚮導役としてあてがわれている白露と涼風が叱咤する。
「速度落とそうか?」
自身も練成中の身であり、その苦労を承知している瑞鶴が気を使って声を掛ける。
「あの……無用です。そのままでお願いします」
その配慮を拒否したのは、少しだけ頼りなさを感じさせる静かな声。
鳳翔は頭をめぐらし、最後尾を行くその主を見やる。
駆逐艦たちを取りまとめる水雷戦隊の長でもある神通は、少しばかり困ったような面持ちで成り行きをただ見守っていた。
彼女も彼女なりに、駆逐艦娘たちのこれからを案じているのだろう。
だからこそ、たとえ恨まれてでも厳しい訓練を課す。
後方からそれぞれの嚮導役としてあてがわれている白露と涼風が叱咤する。
「速度落とそうか?」
自身も練成中の身であり、その苦労を承知している瑞鶴が気を使って声を掛ける。
「あの……無用です。そのままでお願いします」
その配慮を拒否したのは、少しだけ頼りなさを感じさせる静かな声。
鳳翔は頭をめぐらし、最後尾を行くその主を見やる。
駆逐艦たちを取りまとめる水雷戦隊の長でもある神通は、少しばかり困ったような面持ちで成り行きをただ見守っていた。
彼女も彼女なりに、駆逐艦娘たちのこれからを案じているのだろう。
だからこそ、たとえ恨まれてでも厳しい訓練を課す。
26: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:00:59.08 ID:ts13nDrjo
そうしなければ、無為に沈んでいくだけと知っているから。
視線に気がついた神通は、苦笑いをしながらゆっくりと頷いてみせる。
問題はない。そちらの錬成を始めて良い。目がそう語っている。
鳳翔もそれに頷き返し、前を向く。
「瑞鶴。索敵機は良いのですか?」
周りの出来事に気を取られ、本来の仕事を放り出していた瑞鶴に鳳翔の叱責が飛ぶ。
「あ、はい! 索敵機発艦始めます!」
背中の矢筒から取り出したのは濃緑色の矢羽が取り付けられた矢だ。
それは練習用ではない。
実弾を搭載することができる、戦闘用の機体。
視線に気がついた神通は、苦笑いをしながらゆっくりと頷いてみせる。
問題はない。そちらの錬成を始めて良い。目がそう語っている。
鳳翔もそれに頷き返し、前を向く。
「瑞鶴。索敵機は良いのですか?」
周りの出来事に気を取られ、本来の仕事を放り出していた瑞鶴に鳳翔の叱責が飛ぶ。
「あ、はい! 索敵機発艦始めます!」
背中の矢筒から取り出したのは濃緑色の矢羽が取り付けられた矢だ。
それは練習用ではない。
実弾を搭載することができる、戦闘用の機体。
27: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:01:36.03 ID:ts13nDrjo
空母艦娘たちにはまだ、偵察専用の機体など配備されていない。それどころか開発すらされていない。
だから、使うのは雷撃機でもある九七式艦上攻撃機だ。
練習機よりも大型で重い。その分発艦にはさらなる慎重さが必要になる。
にもかかわらず――
「索敵機発艦始め!」
瑞鶴はそれをつがえ、放つ。昨日と同じように。
だから。
それは手元から離れた時点で、その後の結果がわかるほどに力なく、再び海面へ吸い込まれるように落ちていく。
「えぇっ! なんでよっ!」
もどかしそうに、瑞鶴が叫ぶ。そうすれば、昨日のようになんとかなると思ったのかもしれない。
だから、使うのは雷撃機でもある九七式艦上攻撃機だ。
練習機よりも大型で重い。その分発艦にはさらなる慎重さが必要になる。
にもかかわらず――
「索敵機発艦始め!」
瑞鶴はそれをつがえ、放つ。昨日と同じように。
だから。
それは手元から離れた時点で、その後の結果がわかるほどに力なく、再び海面へ吸い込まれるように落ちていく。
「えぇっ! なんでよっ!」
もどかしそうに、瑞鶴が叫ぶ。そうすれば、昨日のようになんとかなると思ったのかもしれない。
28: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:02:08.24 ID:ts13nDrjo
だが、今日の結果は昨日より悪い。
矢は海面を跳ねるように何度か飛んだ後、波間にたゆたうだけだ。
「また、風……?」
瑞鶴が空を見上げる。
鳳翔もその視線の行方を追って、同じものを見る。
流れる雲。一つ、二つと千切れ、はぐれた雲が風に流されている。
ただ、どれもゆっくりだ。
よくよくを目を凝らして見ていなければ、動いていることがわからぬほどに。
瑞鶴はそれで何かを悟ったようだ。
「風が足りない。第五戦速」
矢は海面を跳ねるように何度か飛んだ後、波間にたゆたうだけだ。
「また、風……?」
瑞鶴が空を見上げる。
鳳翔もその視線の行方を追って、同じものを見る。
流れる雲。一つ、二つと千切れ、はぐれた雲が風に流されている。
ただ、どれもゆっくりだ。
よくよくを目を凝らして見ていなければ、動いていることがわからぬほどに。
瑞鶴はそれで何かを悟ったようだ。
「風が足りない。第五戦速」
29: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:02:45.62 ID:ts13nDrjo
合成風力を得るために、瑞鶴は艦隊の増速が必要だと判断した。
だが、一つ問題がある。
「ヘイ、瑞鶴。鳳翔はどうするんデス?」
「え?」
金剛の問いを瑞鶴はまだ理解できていないらしい。
「私がいる限り、五戦速――三十ノットは出せません。どうしますか?」
鳳翔がそう付け加える。
艦娘となった今でも、基本的な性能は艦であった頃のものに影響を受けている。
布張りの軽量な複葉機の運用を考えて設計された鳳翔には、それほどの速力など要求されてはいなかった。
まさか、わずか数年で複葉機の時代が終わり、全金属製で重い単葉機が主流になるなど、その当時の人間の多くは夢にも思っていない。
だが、一つ問題がある。
「ヘイ、瑞鶴。鳳翔はどうするんデス?」
「え?」
金剛の問いを瑞鶴はまだ理解できていないらしい。
「私がいる限り、五戦速――三十ノットは出せません。どうしますか?」
鳳翔がそう付け加える。
艦娘となった今でも、基本的な性能は艦であった頃のものに影響を受けている。
布張りの軽量な複葉機の運用を考えて設計された鳳翔には、それほどの速力など要求されてはいなかった。
まさか、わずか数年で複葉機の時代が終わり、全金属製で重い単葉機が主流になるなど、その当時の人間の多くは夢にも思っていない。
30: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:03:19.13 ID:ts13nDrjo
だからと言って、小さな艦体に大馬力のタービンやボイラーを載せるわけにもいかない。
だから、鳳翔の能力は今現在の三戦速――二四ノットが限界だ。
「か、艦隊を分離――」
瑞鶴の導き出した答えは、足の速い自分とそうではない鳳翔で艦隊を分けるというものだ。
だが、それはできない。
敵潜の潜む海域で、あえて索敵能力が落ちるような真似をすればどうなるか。
「それでは対潜警戒能力が落ちマス。発艦作業中の空母は的になりますヨ?」
金剛の指摘が瑞鶴を余計に混乱させる。
「艦隊再編の時間もありません。敵は近くまで来ているかもしれないのですから」
さらに鳳翔が追い打ちをかける。
だから、鳳翔の能力は今現在の三戦速――二四ノットが限界だ。
「か、艦隊を分離――」
瑞鶴の導き出した答えは、足の速い自分とそうではない鳳翔で艦隊を分けるというものだ。
だが、それはできない。
敵潜の潜む海域で、あえて索敵能力が落ちるような真似をすればどうなるか。
「それでは対潜警戒能力が落ちマス。発艦作業中の空母は的になりますヨ?」
金剛の指摘が瑞鶴を余計に混乱させる。
「艦隊再編の時間もありません。敵は近くまで来ているかもしれないのですから」
さらに鳳翔が追い打ちをかける。
31: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:03:52.34 ID:ts13nDrjo
そもそも、そういう思い切った行動が必要になるのであれば、もっと早い段階で指示を出しておくべきだ。
今から艦隊を分離し、陣形を組み直していては、索敵機の発艦はさらに遅れる。その遅れは後に続く攻撃隊や水上打撃部隊の行動に制約を生む。
猶予などない。
「鳳翔。代わりに索敵機をお願いしマス」
一つため息をついて、金剛は決断を下す。
「わかりました」
いくつもの問いと答え、そして自己否定を繰り返す思考の坩堝へ入り込み、一人もがきはじめた瑞鶴を尻目に演習は再開される。
鳳翔によって、同じ条件下で次々と解き放たれる九七艦攻。
「……くそっ!」
艦であった頃の鳳翔には運用が困難とされたそれが、なぜここまで簡単に空へと舞い上がっていくのか。
今から艦隊を分離し、陣形を組み直していては、索敵機の発艦はさらに遅れる。その遅れは後に続く攻撃隊や水上打撃部隊の行動に制約を生む。
猶予などない。
「鳳翔。代わりに索敵機をお願いしマス」
一つため息をついて、金剛は決断を下す。
「わかりました」
いくつもの問いと答え、そして自己否定を繰り返す思考の坩堝へ入り込み、一人もがきはじめた瑞鶴を尻目に演習は再開される。
鳳翔によって、同じ条件下で次々と解き放たれる九七艦攻。
「……くそっ!」
艦であった頃の鳳翔には運用が困難とされたそれが、なぜここまで簡単に空へと舞い上がっていくのか。
32: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:05:00.50 ID:ts13nDrjo
それを見つめながら自分を罵る瑞鶴には、きっと不思議でならないだろう。だが、問いがそこでとどまる限り先へ進むことはない。
「時間がないってのに……何してんのよ、私……」
航空母艦の艦娘たちが必ず突き当たるその問いが、瑞鶴の中から消え去るのはいつになるのか。
鳳翔はその日が早く来ることを願い、遠く飛び去っていく艦載機たちを見送る。
「時間がないってのに……何してんのよ、私……」
航空母艦の艦娘たちが必ず突き当たるその問いが、瑞鶴の中から消え去るのはいつになるのか。
鳳翔はその日が早く来ることを願い、遠く飛び去っていく艦載機たちを見送る。
33: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:05:44.52 ID:ts13nDrjo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二週間。
その時間がどれだけの長さとして感じられるのかは、人によって、そして置かれた状況によっても違う。
錬成を繰り返し、自信をつけた艦娘にとって、初陣となる出撃命令が下るまでのその期間は長いものだ。
そして、その自信はおそらく打ち砕かれる。
長く感じる時間は、そのダメージを増幅させる為にある。だが、そこから立ち直るだけではなく、ついでに何かを学ぶくらいの力がなければ、早い段階で沈むだろう。
総旗艦として艦隊全てへの責任を持つ金剛にとっては、短く感じるものだったはずだ。
多くの場合、準備にかける時間はあればあるほど事態への対処の幅は広がる。不測というものを予測に変えていくことができるからだ。
そして、瑞鶴の成長を願い、その錬成に携わる鳳翔にはあまりにも短すぎる時間だ。たとえ一年を使ったとしても、感じる長さは同じかもっと短いかもしれない。
二週間。
その時間がどれだけの長さとして感じられるのかは、人によって、そして置かれた状況によっても違う。
錬成を繰り返し、自信をつけた艦娘にとって、初陣となる出撃命令が下るまでのその期間は長いものだ。
そして、その自信はおそらく打ち砕かれる。
長く感じる時間は、そのダメージを増幅させる為にある。だが、そこから立ち直るだけではなく、ついでに何かを学ぶくらいの力がなければ、早い段階で沈むだろう。
総旗艦として艦隊全てへの責任を持つ金剛にとっては、短く感じるものだったはずだ。
多くの場合、準備にかける時間はあればあるほど事態への対処の幅は広がる。不測というものを予測に変えていくことができるからだ。
そして、瑞鶴の成長を願い、その錬成に携わる鳳翔にはあまりにも短すぎる時間だ。たとえ一年を使ったとしても、感じる長さは同じかもっと短いかもしれない。
34: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:06:18.77 ID:ts13nDrjo
「予想通り、最悪ですヨ」
そう言って、いつものように食堂へと姿を見せた金剛は言った。
その手には数枚の紙をまとめた書類が握られている。
南方の輸送路哨戒任務が発令されたのだろう。
その指令自体は別に珍しいものではなかったし、発令は予想されていたことだ。
だが、金剛の言葉には「最悪」という二文字が添えられている。
鳳翔はその言葉が引っかかり、訝しげな顔で金剛を見る。
「瑞鶴の出撃が決まったヨ」
それも翔鶴と瑞鳳の修理が間に合わないことが明らかになっている以上、鳳翔の出撃を含め予想されていたことだ。
「担当の海域はどこですか?」
そう言って、いつものように食堂へと姿を見せた金剛は言った。
その手には数枚の紙をまとめた書類が握られている。
南方の輸送路哨戒任務が発令されたのだろう。
その指令自体は別に珍しいものではなかったし、発令は予想されていたことだ。
だが、金剛の言葉には「最悪」という二文字が添えられている。
鳳翔はその言葉が引っかかり、訝しげな顔で金剛を見る。
「瑞鶴の出撃が決まったヨ」
それも翔鶴と瑞鳳の修理が間に合わないことが明らかになっている以上、鳳翔の出撃を含め予想されていたことだ。
「担当の海域はどこですか?」
35: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:06:52.24 ID:ts13nDrjo
だから鳳翔は胸騒ぎを覚え、そう問いかける。
「ムゥ……」
問われた金剛は、彼女の性格にしては珍しいことに答えを口にすることをためらう。
抱いた不安は一層高まる。
シンガポールを起点として設定された現在の海上輸送路には、幾つかの危険箇所がある。
例えば、シンガポールを離れて間も無くの位置にあるリアウ諸島近海。
大小様々な島が点在し、そのどれかに敵の拠点があると目されていた。
ただ、人間や艦娘たちと違い、施設というものを建設しない深海棲艦の拠点を見つけることは未だにできていない。
「パラセル諸島……厄介デス」
西沙諸島ともホアンサ群島とも呼ばれるその一帯も、やはり大小様々な島で構成されている。
「ムゥ……」
問われた金剛は、彼女の性格にしては珍しいことに答えを口にすることをためらう。
抱いた不安は一層高まる。
シンガポールを起点として設定された現在の海上輸送路には、幾つかの危険箇所がある。
例えば、シンガポールを離れて間も無くの位置にあるリアウ諸島近海。
大小様々な島が点在し、そのどれかに敵の拠点があると目されていた。
ただ、人間や艦娘たちと違い、施設というものを建設しない深海棲艦の拠点を見つけることは未だにできていない。
「パラセル諸島……厄介デス」
西沙諸島ともホアンサ群島とも呼ばれるその一帯も、やはり大小様々な島で構成されている。
36: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:07:32.75 ID:ts13nDrjo
何よりそこは、日本へ向かう輸送船団の進路を決めるために重要な場所だ。
もし、艦娘たちが海域を支配できなければ、船団は大陸よりの航路を選択することになる。そうなれば作戦期間は延長され、作戦初期からバシー海峡の確保に当たっている艦隊の負担も増える。
「瑞鶴には荷が重すぎます」
当然、鳳翔の答えは決まっている。金剛もそれは承知しているだろう。
「わかっていマス……デモ、翔鶴の抜けた穴を埋めるのは瑞鶴ダケ。それが上の判断デス」
金剛はそう言って首を横に振った。
「ワタシと翔鶴も色々手を尽くしたのデス。横須賀の司令官にも頼んでみたヨ」
一年ほど前に着任した横須賀の司令官については、そこから応援という形でやってきた白露と涼風を通して聞いていた。
色々と言動に問題はあるが、艦娘たちを単なる兵器としては扱わないという。
それがもたらした結果は、白露たちを見ていればわかる。
もし、艦娘たちが海域を支配できなければ、船団は大陸よりの航路を選択することになる。そうなれば作戦期間は延長され、作戦初期からバシー海峡の確保に当たっている艦隊の負担も増える。
「瑞鶴には荷が重すぎます」
当然、鳳翔の答えは決まっている。金剛もそれは承知しているだろう。
「わかっていマス……デモ、翔鶴の抜けた穴を埋めるのは瑞鶴ダケ。それが上の判断デス」
金剛はそう言って首を横に振った。
「ワタシと翔鶴も色々手を尽くしたのデス。横須賀の司令官にも頼んでみたヨ」
一年ほど前に着任した横須賀の司令官については、そこから応援という形でやってきた白露と涼風を通して聞いていた。
色々と言動に問題はあるが、艦娘たちを単なる兵器としては扱わないという。
それがもたらした結果は、白露たちを見ていればわかる。
37: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:08:08.88 ID:ts13nDrjo
自分達の能力を限界まで発揮し、個性を生かした自発的な行動をしてみせる。抑圧された環境に染まった佐世保の艦娘たちとは違い、それによって着実に戦果をあげて、短期間で一目置かれる存在になった。
そしてそれに影響を受けた艦娘が現れ始めたことで、全体的な戦力の底上げにも繋がっている。
だから、そんな艦娘たちがいる横須賀から援軍がきてくれれば、戦力の大幅な強化になることは間違いない。
ただし。
「横須賀ですか。あそこは重巡足柄と――あとは軽巡と駆逐の艦隊のみではありませんでしたか?」
今必要なのは、瑞鶴の代わりとなる航空母艦だ。
そして、その航空母艦はすべて、この佐世保第二に集められている。
「イエス。だから艤装修理のための資材を送ってほしいと頼んだのデス」
「良い返事はもらえましたか?」
「オフコース。横須賀の司令官は良い人ネ。デモ、それが届く前に作戦開始デス……」
そしてそれに影響を受けた艦娘が現れ始めたことで、全体的な戦力の底上げにも繋がっている。
だから、そんな艦娘たちがいる横須賀から援軍がきてくれれば、戦力の大幅な強化になることは間違いない。
ただし。
「横須賀ですか。あそこは重巡足柄と――あとは軽巡と駆逐の艦隊のみではありませんでしたか?」
今必要なのは、瑞鶴の代わりとなる航空母艦だ。
そして、その航空母艦はすべて、この佐世保第二に集められている。
「イエス。だから艤装修理のための資材を送ってほしいと頼んだのデス」
「良い返事はもらえましたか?」
「オフコース。横須賀の司令官は良い人ネ。デモ、それが届く前に作戦開始デス……」
38: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:08:43.70 ID:ts13nDrjo
それでは確かに意味がない。
どんなに急いでも、艤装の修理には数日が必要だ。
「どうあっても瑞鶴を出さざるを得ない……ということですね」
「ソーリーね。私の力不足デス」
「いえ。編成の方は便宜を図ってくれたのでしょう?」
「ここ最近、錬成をしている編成のままで組みマシタ。神通からもその方がいいと意見具申があったデスヨ」
下手に編成を崩すよりも、ここしばらく行動を共にしている編成の方が考えることは少なくて済む。
金剛も神通もそれを見越しての選択だろう。
だが、砲戦火力が不足する編成でもある。
その穴埋めをしなければならない航空戦力にかかる比重は大きなものだ。
どんなに急いでも、艤装の修理には数日が必要だ。
「どうあっても瑞鶴を出さざるを得ない……ということですね」
「ソーリーね。私の力不足デス」
「いえ。編成の方は便宜を図ってくれたのでしょう?」
「ここ最近、錬成をしている編成のままで組みマシタ。神通からもその方がいいと意見具申があったデスヨ」
下手に編成を崩すよりも、ここしばらく行動を共にしている編成の方が考えることは少なくて済む。
金剛も神通もそれを見越しての選択だろう。
だが、砲戦火力が不足する編成でもある。
その穴埋めをしなければならない航空戦力にかかる比重は大きなものだ。
39: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:09:20.84 ID:ts13nDrjo
それでもやるしかない。
「……わかりました。瑞鶴のことは私に任せてもらって構いませんか?」
鳳翔は一つ大きな溜息をついてから、覚悟を決めるように言った。
口元はキュッと引き締まり、いつもの柔和な雰囲気は消えている。
「鳳翔が嫌だと言ってもお願いするしかないネ。空母のことは空母にしかわかりませんヨ」
もはや、解決を待つ猶予はない。
個人の成長のためにはよくないことではあるが、問題点を指摘して戦力化する以外に道はないだろう。
そもそもこの戦いを乗り越えなければ、ここで終わりだ。
「……わかりました。瑞鶴のことは私に任せてもらって構いませんか?」
鳳翔は一つ大きな溜息をついてから、覚悟を決めるように言った。
口元はキュッと引き締まり、いつもの柔和な雰囲気は消えている。
「鳳翔が嫌だと言ってもお願いするしかないネ。空母のことは空母にしかわかりませんヨ」
もはや、解決を待つ猶予はない。
個人の成長のためにはよくないことではあるが、問題点を指摘して戦力化する以外に道はないだろう。
そもそもこの戦いを乗り越えなければ、ここで終わりだ。
40: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:10:00.22 ID:ts13nDrjo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鳳翔は瑞鶴の姿を探していた。
夕食の時間を過ぎても姿を現さなかったのだ。
その前に張り出された、次の作戦に関する通達を見たのだろう。
もともと、それほど大きな島ではない。姿を消したとしても、行ける場所は限られていた。
艤装は保管庫に置いてあったのだから、この島の中にいるのは間違いない。
だから、すぐにこの海岸へと足を運んでみた。
やはり瑞鶴はそこにいた。
膝を抱え、ただ海を見つめている。
煌々と輝く満月が水面に揺れる。おそらくはそれを見ているのだろう。
それで答えが得られるはずもない。
鳳翔は瑞鶴の姿を探していた。
夕食の時間を過ぎても姿を現さなかったのだ。
その前に張り出された、次の作戦に関する通達を見たのだろう。
もともと、それほど大きな島ではない。姿を消したとしても、行ける場所は限られていた。
艤装は保管庫に置いてあったのだから、この島の中にいるのは間違いない。
だから、すぐにこの海岸へと足を運んでみた。
やはり瑞鶴はそこにいた。
膝を抱え、ただ海を見つめている。
煌々と輝く満月が水面に揺れる。おそらくはそれを見ているのだろう。
それで答えが得られるはずもない。
41: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:10:34.52 ID:ts13nDrjo
瑞鶴が間違った方向へ気持ちを固めてしまう前に、正しい道を示さなければならない。
鳳翔は意を決する。
だが、一歩を踏み出して声をかけようとしたところで、別の艦娘が姿を現した。
駆逐艦娘の曙だ。
鳳翔は反射的に身を隠してしまう。それがなぜかはわからないが、そうするべきだと感じたからだ。
「瑞鶴。アンタここで何やってんの?」
横に立った曙が、唐突に声をかける。
「なんだ、曙か。どうかした?」
「せっかく探しに来てやったのに、なんだとは、ずいぶんなご挨拶じゃない」
「ああ、ごめん。気を悪くしたんならあやまる」
鳳翔は意を決する。
だが、一歩を踏み出して声をかけようとしたところで、別の艦娘が姿を現した。
駆逐艦娘の曙だ。
鳳翔は反射的に身を隠してしまう。それがなぜかはわからないが、そうするべきだと感じたからだ。
「瑞鶴。アンタここで何やってんの?」
横に立った曙が、唐突に声をかける。
「なんだ、曙か。どうかした?」
「せっかく探しに来てやったのに、なんだとは、ずいぶんなご挨拶じゃない」
「ああ、ごめん。気を悪くしたんならあやまる」
43: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:11:11.98 ID:ts13nDrjo
「ま、別にいいけどね。翔鶴が心配してたわよ? 鳳翔さんもあんたを探して出てったし」
「そう――なんだか迷惑かけっぱなしだな、私ってば」
結局、曙の方を一切見ることなく、瑞鶴は膝の間に顔を埋めてしまう。
それを見た曙は大きく一つため息をついて、隣に腰を下ろした。
「わかってんなら、悩む前にやることあるんじゃない?」
「やりたくても上手く行かないから悩んでんのよ」
「そう言うと思った」
まるで他人事と言わんばかりに、カラカラと笑う曙。
実際他人事ではあるのだが。
それを聞いた瑞鶴は、膝の間から顔を出して曙を睨みつける。
「そう――なんだか迷惑かけっぱなしだな、私ってば」
結局、曙の方を一切見ることなく、瑞鶴は膝の間に顔を埋めてしまう。
それを見た曙は大きく一つため息をついて、隣に腰を下ろした。
「わかってんなら、悩む前にやることあるんじゃない?」
「やりたくても上手く行かないから悩んでんのよ」
「そう言うと思った」
まるで他人事と言わんばかりに、カラカラと笑う曙。
実際他人事ではあるのだが。
それを聞いた瑞鶴は、膝の間から顔を出して曙を睨みつける。
44: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:12:04.52 ID:ts13nDrjo
「わかってるなら言わないでくれる? というか、なんでわかるのよ」
「……艦娘なら誰もが通る道だから」
そう言って曙は体を後ろに倒して、砂浜に寝そべった。
頭上には月明かりに負けなかった星達が輝いている。
「私は駆逐艦、あんたは航空母艦だから違いは色々あるけどさ、基本は変わんないのよ」
空をめがけてぐっと腕を伸ばす曙。
親指を立て、人差し指を伸ばして拳銃のような形を作って、さらに精密に狙いをつける。
「こうやってあの辺の星を主砲で狙っていたとするじゃない? これをあの月に向ける時にさ、あんたならどうする?」
どんな話が始まるのかと、真剣に聞き耳を立てていた瑞鶴が呆れ顔をする。
「バカにしてんの? 腕を動かせばいいじゃない」
「……艦娘なら誰もが通る道だから」
そう言って曙は体を後ろに倒して、砂浜に寝そべった。
頭上には月明かりに負けなかった星達が輝いている。
「私は駆逐艦、あんたは航空母艦だから違いは色々あるけどさ、基本は変わんないのよ」
空をめがけてぐっと腕を伸ばす曙。
親指を立て、人差し指を伸ばして拳銃のような形を作って、さらに精密に狙いをつける。
「こうやってあの辺の星を主砲で狙っていたとするじゃない? これをあの月に向ける時にさ、あんたならどうする?」
どんな話が始まるのかと、真剣に聞き耳を立てていた瑞鶴が呆れ顔をする。
「バカにしてんの? 腕を動かせばいいじゃない」
45: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:12:50.02 ID:ts13nDrjo
曙の主砲は手に持つタイプなのだから、それしか方法はない。
「そうね。こうやって腕を動かして、月に向ける」
ぐいと腕を動かして、満月を狙う曙。
ほんのわずかな時間だ。
「でもさ、よくよく考えたらおかしな話じゃない。本当は駆逐艦の主砲を旋回させるって、結構時間がかかんのよ。電動油圧だし」
およそ一秒に六度。
それが駆逐艦の装備していた主砲の旋回速度だ。
今の場合ならばおよそ九〇度の旋回角だから、十五秒ほどが必要な計算になる。
「それが、駆逐艦娘になってみたらこれなんだから。信じられる?」
曙は素早く腕を振り、何度も星と月の間を移動してみせる。
「そうね。こうやって腕を動かして、月に向ける」
ぐいと腕を動かして、満月を狙う曙。
ほんのわずかな時間だ。
「でもさ、よくよく考えたらおかしな話じゃない。本当は駆逐艦の主砲を旋回させるって、結構時間がかかんのよ。電動油圧だし」
およそ一秒に六度。
それが駆逐艦の装備していた主砲の旋回速度だ。
今の場合ならばおよそ九〇度の旋回角だから、十五秒ほどが必要な計算になる。
「それが、駆逐艦娘になってみたらこれなんだから。信じられる?」
曙は素早く腕を振り、何度も星と月の間を移動してみせる。
46: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:13:25.59 ID:ts13nDrjo
それにかかる時間は一秒に満たない。
「ま、その代わり遠距離砲撃の精度が落ちちゃうから、痛し痒しかしらね」
「そりゃあ、人の形して腕で振り回してんだから、当たり前でしょ」
瑞鶴が付き合っていられないとばかりに吐きすてて、再び膝の間に顔をうずめようとする。
「じゃ、当たり前ついでに聞くけどさ、艦載機ってどうやって離艦させてたわけ?」
あまりにも馬鹿にした内容の質問に、瑞鶴が気色ばむ。
「はぁ? あんた、私たちの護衛してた珊瑚海海戦の時に見てんでしょうが」
曙にとって、あまり良い印象のない例を持ち出したあたりに、瑞鶴の怒りが見て取れた。
だが、さすがにやりすぎたと思ったのだろう。すぐに膝の間に顔を埋めてしまう。
それを見た曙の表情が一瞬曇った。
「ま、その代わり遠距離砲撃の精度が落ちちゃうから、痛し痒しかしらね」
「そりゃあ、人の形して腕で振り回してんだから、当たり前でしょ」
瑞鶴が付き合っていられないとばかりに吐きすてて、再び膝の間に顔をうずめようとする。
「じゃ、当たり前ついでに聞くけどさ、艦載機ってどうやって離艦させてたわけ?」
あまりにも馬鹿にした内容の質問に、瑞鶴が気色ばむ。
「はぁ? あんた、私たちの護衛してた珊瑚海海戦の時に見てんでしょうが」
曙にとって、あまり良い印象のない例を持ち出したあたりに、瑞鶴の怒りが見て取れた。
だが、さすがにやりすぎたと思ったのだろう。すぐに膝の間に顔を埋めてしまう。
それを見た曙の表情が一瞬曇った。
47: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:14:03.30 ID:ts13nDrjo
だが、すぐに平静を装い、体を起こしてまっすぐに瑞鶴を見る。
「見てるし、知ってる。でも教えてよ」
そして、同じ問いをもう一度繰り返す。
「艦を風上に向けることで合成風力を作る。それで揚力を得て、飛ぶ」
「その揚力って、風上に向かうだけで作れるもん?」
「まさか。滑走しないと無理に決まってるじゃない。常識でしょ」
「そう、常識よね。自分で加速しないと無理――じゃあ、エンジンの付いてない矢はどうするの?」
「くだらない。そんなの弓で――」
瑞鶴が何かに気づく。
「そうか……艦載機は加速していくけど、矢は放たれた瞬間が最高速だから――」
「見てるし、知ってる。でも教えてよ」
そして、同じ問いをもう一度繰り返す。
「艦を風上に向けることで合成風力を作る。それで揚力を得て、飛ぶ」
「その揚力って、風上に向かうだけで作れるもん?」
「まさか。滑走しないと無理に決まってるじゃない。常識でしょ」
「そう、常識よね。自分で加速しないと無理――じゃあ、エンジンの付いてない矢はどうするの?」
「くだらない。そんなの弓で――」
瑞鶴が何かに気づく。
「そうか……艦載機は加速していくけど、矢は放たれた瞬間が最高速だから――」
48: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:14:36.24 ID:ts13nDrjo
「そう言うこと。あんたの悩みは、畑違いの私から見てても気がつくくらい、くだらないことなわけ。艦の時代の常識に縛られてると、痛い目をみるわよ」
本来は自分で気付くべきことだ。
だが、曙はそれをあえて無視した。
しかし、鳳翔にはそれを咎めるつもりはない。
そもそも自分もそうするつもりでここにきたのだから。
「こっから先は私にわかんないし、他にもいろいろあるけど、あとは自分で考えて。本当はそうやって身につけていくものだから」
「うん……ごめん。さっき、嫌なこと言った」
「いい、別に気にしてないから」
再び、ゴロンと砂浜に寝転がる曙。
「人が謝ってんだから、そういう時くらいは素直に受け取っときなさいよ」
本来は自分で気付くべきことだ。
だが、曙はそれをあえて無視した。
しかし、鳳翔にはそれを咎めるつもりはない。
そもそも自分もそうするつもりでここにきたのだから。
「こっから先は私にわかんないし、他にもいろいろあるけど、あとは自分で考えて。本当はそうやって身につけていくものだから」
「うん……ごめん。さっき、嫌なこと言った」
「いい、別に気にしてないから」
再び、ゴロンと砂浜に寝転がる曙。
「人が謝ってんだから、そういう時くらいは素直に受け取っときなさいよ」
49: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:15:12.44 ID:ts13nDrjo
「……腹の足しになんないものもらっても困るのよね」
それもそうかと独りごちてから、何かを考える瑞鶴。
やがて、何かを思いついたように曙の顔を覗き込む。
「あのさ、一つお願いがあるんだけど」
「何よ?」
「今度の作戦、私の直衛やってくれない?」
あまりに唐突な言葉に、曙が飛び起きる。
「はぁ? 何言ってんのあんた。私みたいなツキのない駆逐艦なんか直衛にしたら、翔鶴みたいにボッコボコになるわよ?」
珊瑚海海戦では曙が直衛に回った翔鶴が、結果として集中攻撃を受ける羽目になった。
別にそれは曙の責任ではない。
それもそうかと独りごちてから、何かを考える瑞鶴。
やがて、何かを思いついたように曙の顔を覗き込む。
「あのさ、一つお願いがあるんだけど」
「何よ?」
「今度の作戦、私の直衛やってくれない?」
あまりに唐突な言葉に、曙が飛び起きる。
「はぁ? 何言ってんのあんた。私みたいなツキのない駆逐艦なんか直衛にしたら、翔鶴みたいにボッコボコになるわよ?」
珊瑚海海戦では曙が直衛に回った翔鶴が、結果として集中攻撃を受ける羽目になった。
別にそれは曙の責任ではない。
50: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:15:47.96 ID:ts13nDrjo
幾つかの不運が重なり、そういう結果になっただけだ。
あの日、当初の予定通りに潮が直衛のままだったとしても同じだったはず。
曙への非難は、ほぼ全てが言いがかりのようなものだ。
当然瑞鶴はそれを知っている。瑞鶴の側にも落ち度はあったのだから。
「私、これでも幸運艦なんて言われてるんだけど? それに、迷ってる私の尻蹴っ飛ばすなんて、曙にしかできないじゃん」
「ちょっと。それ、褒めてるの? 貶してるの?」
いたって本気の顔で曙が真意を問う。
その顔を見た瑞鶴はくすりと笑って、さらにはぐらかす。
「あとさ、潮にそばに居られると引け目感じんのよね」
自分の胸元を見て、そんなことを言う。
あの日、当初の予定通りに潮が直衛のままだったとしても同じだったはず。
曙への非難は、ほぼ全てが言いがかりのようなものだ。
当然瑞鶴はそれを知っている。瑞鶴の側にも落ち度はあったのだから。
「私、これでも幸運艦なんて言われてるんだけど? それに、迷ってる私の尻蹴っ飛ばすなんて、曙にしかできないじゃん」
「ちょっと。それ、褒めてるの? 貶してるの?」
いたって本気の顔で曙が真意を問う。
その顔を見た瑞鶴はくすりと笑って、さらにはぐらかす。
「あとさ、潮にそばに居られると引け目感じんのよね」
自分の胸元を見て、そんなことを言う。
51: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:16:25.15 ID:ts13nDrjo
みるみるうちに曙の顔が赤くなるのが、遠くから見ていた鳳翔にもわかった。
「絶対、貶してるでしょ!」
そう叫んだ曙が瑞鶴に飛びかかり、戯れ合いが始まった。
砂浜を転がりまわり、互いの頬を引っ張ったり、わき腹をくすぐったり。
まるで、自分たちが人の形をしていることを確かめ合うように。
そんな児戯が、精一杯の力を使って飽きることなく続く。
あの様子では、夜食が必要になりそうだ。
それに直衛の件もそれとなく金剛に伝えておいたほうがいい。
鳳翔はそれを背に宿舎への道を戻っていく。
微笑みを浮かべながら。
全身を砂まみれにした二人が、腹を空かせて鳳翔の元を訪れたのは、それから一時間が過ぎた頃だった。
「絶対、貶してるでしょ!」
そう叫んだ曙が瑞鶴に飛びかかり、戯れ合いが始まった。
砂浜を転がりまわり、互いの頬を引っ張ったり、わき腹をくすぐったり。
まるで、自分たちが人の形をしていることを確かめ合うように。
そんな児戯が、精一杯の力を使って飽きることなく続く。
あの様子では、夜食が必要になりそうだ。
それに直衛の件もそれとなく金剛に伝えておいたほうがいい。
鳳翔はそれを背に宿舎への道を戻っていく。
微笑みを浮かべながら。
全身を砂まみれにした二人が、腹を空かせて鳳翔の元を訪れたのは、それから一時間が過ぎた頃だった。
52: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:17:08.49 ID:ts13nDrjo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パラセル諸島近海へ展開した金剛隊は、即座に周辺海域の掃除に取り掛かっていた。
南方に向かう船団が通過する前に海域をクリアにし、物資を満載して戻る船団が通過するまで、それを維持しなければならない。
時間にしておよそ二週間だ。
その間は、小さな島の一つに臨時の拠点を作り、そこを起点として、東に六〇〇キロ、南北四〇〇キロの海域を死守する。
担当する海域はあまりにも広いのだ。
だから、その全域を航空機によって偵察できる航空母艦にかかる負担は大きくなる。
『偵察機収容完了。周辺海域に敵影なし』
無線越しでもわかるほどに疲れの滲んだ声で、瑞鶴が報告を入れてくる。
「お疲れ様。拠点の方に戻ってください。海中にも気をつけるんですよ?」
『了解』
パラセル諸島近海へ展開した金剛隊は、即座に周辺海域の掃除に取り掛かっていた。
南方に向かう船団が通過する前に海域をクリアにし、物資を満載して戻る船団が通過するまで、それを維持しなければならない。
時間にしておよそ二週間だ。
その間は、小さな島の一つに臨時の拠点を作り、そこを起点として、東に六〇〇キロ、南北四〇〇キロの海域を死守する。
担当する海域はあまりにも広いのだ。
だから、その全域を航空機によって偵察できる航空母艦にかかる負担は大きくなる。
『偵察機収容完了。周辺海域に敵影なし』
無線越しでもわかるほどに疲れの滲んだ声で、瑞鶴が報告を入れてくる。
「お疲れ様。拠点の方に戻ってください。海中にも気をつけるんですよ?」
『了解』
53: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:17:41.98 ID:ts13nDrjo
最初の頃は鳳翔のお小言に、『すぐそばだから平気だ』『心配ない』だのと茶々を入れいていた瑞鶴だが、もうそんな気力もないらしい。
「瑞鶴は相当きてますネー」
隣で鳳翔の手になる塩握りを頬張っていた金剛が、くすりと笑いながら言う。
「それはそうでしょう。十日以上、毎日海に出ては艦載機を上げて、潜水艦に警戒しながら帰還を待つの繰り返しですから」
変化のない毎日は人の精神を疲弊させる。
それは艦娘も同じだ。
落とし穴はそう言うところに用意されていたりする。
だが、鳳翔はまた違った懸念も抱いていた。
「しかし、これだけ何もないのも不気味ですね」
戦闘があったのは展開してから最初の三日間だけ。いずれも小規模の警戒部隊といった編成で、手ごたえもなかった。
「瑞鶴は相当きてますネー」
隣で鳳翔の手になる塩握りを頬張っていた金剛が、くすりと笑いながら言う。
「それはそうでしょう。十日以上、毎日海に出ては艦載機を上げて、潜水艦に警戒しながら帰還を待つの繰り返しですから」
変化のない毎日は人の精神を疲弊させる。
それは艦娘も同じだ。
落とし穴はそう言うところに用意されていたりする。
だが、鳳翔はまた違った懸念も抱いていた。
「しかし、これだけ何もないのも不気味ですね」
戦闘があったのは展開してから最初の三日間だけ。いずれも小規模の警戒部隊といった編成で、手ごたえもなかった。
54: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:18:13.42 ID:ts13nDrjo
今までの経験から考えれば、その程度で収まるはずがないのだ。
現に、前回の作戦で翔鶴と瑞鳳が損害を被ったのはこの海域なのだから。
「そうネ……」
金剛も同じ感想を抱いているようだ。
ただ、前回の作戦で損害を被ったのは艦娘側だけではない。
それに十や二十をかけた程度では済まない規模の損害を、敵もまた受けていた。
だから、その戦力の回復に時間がかかっている。
そう言う見方もできる。
だが。
「他はどうなのです?」
現に、前回の作戦で翔鶴と瑞鳳が損害を被ったのはこの海域なのだから。
「そうネ……」
金剛も同じ感想を抱いているようだ。
ただ、前回の作戦で損害を被ったのは艦娘側だけではない。
それに十や二十をかけた程度では済まない規模の損害を、敵もまた受けていた。
だから、その戦力の回復に時間がかかっている。
そう言う見方もできる。
だが。
「他はどうなのです?」
55: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:18:50.93 ID:ts13nDrjo
鳳翔の問いに答えることはせずに、金剛は足元に落ちていた細い流木を拾い上げると、砂の上に地図を書いていく。
形は大雑把ではあったが、インドネシアから日本までを含めたものだと言うことはなんとなくわかる。
「シンガポールを出た船団は、もうすぐスプラトリーに差し掛かるケド、この海域にも敵影はないそうデス」
地図の一番下方からまっすぐに引かれた線が、ちょうど中間地点で止まる。
そこが輸送船団の現在地なのだろう。
その海域の哨戒を担当しているのは、軽空母祥鳳を含む艦娘六名の小規模警戒隊。
率いている名取は、臆病な性格だ。
戦場においてそれは決してマイナスではない。臆病さゆえに警戒には念を入れ、水も漏らさず、蟻の通る隙間すら見逃さないのだから。
そんな名取が何も見つけられないのであれば、まず間違いなく何もいない。
「その代わり、船団の後方八〇から一〇〇キロを北上している、後詰の赤城たちは繰り返し攻撃を受けていマス」
形は大雑把ではあったが、インドネシアから日本までを含めたものだと言うことはなんとなくわかる。
「シンガポールを出た船団は、もうすぐスプラトリーに差し掛かるケド、この海域にも敵影はないそうデス」
地図の一番下方からまっすぐに引かれた線が、ちょうど中間地点で止まる。
そこが輸送船団の現在地なのだろう。
その海域の哨戒を担当しているのは、軽空母祥鳳を含む艦娘六名の小規模警戒隊。
率いている名取は、臆病な性格だ。
戦場においてそれは決してマイナスではない。臆病さゆえに警戒には念を入れ、水も漏らさず、蟻の通る隙間すら見逃さないのだから。
そんな名取が何も見つけられないのであれば、まず間違いなく何もいない。
「その代わり、船団の後方八〇から一〇〇キロを北上している、後詰の赤城たちは繰り返し攻撃を受けていマス」
56: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:19:27.55 ID:ts13nDrjo
たった今引かれた線の上に印が書き加えられる。
全部で六箇所。
それが、後詰である赤城たちが交戦した位置と回数になる。
「これをどう判断するカ、なんデス」
交戦位置を示した印が、大きな一つの丸で囲まれる。
一見すれば、出遅れた敵が船団を追いかけて食らいつこうとしているように判断できる。
赤城たちを足止めし、その間に別働隊が船団を襲う。
そんなシナリオも考えられた。
そう考えたからこそ、名取たちは前路哨戒を一層強化したし、瑞鶴も偵察機を頻繁に出しているのだ。
だが、いつまでたってもその兆候を掴むことはできなかった。
全部で六箇所。
それが、後詰である赤城たちが交戦した位置と回数になる。
「これをどう判断するカ、なんデス」
交戦位置を示した印が、大きな一つの丸で囲まれる。
一見すれば、出遅れた敵が船団を追いかけて食らいつこうとしているように判断できる。
赤城たちを足止めし、その間に別働隊が船団を襲う。
そんなシナリオも考えられた。
そう考えたからこそ、名取たちは前路哨戒を一層強化したし、瑞鶴も偵察機を頻繁に出しているのだ。
だが、いつまでたってもその兆候を掴むことはできなかった。
57: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:19:58.45 ID:ts13nDrjo
できないまま、その予想された交戦域を船団が通過してしまうのだ。
掴めないのではなく、元よりない。
そう判断するしかない。
そうなれば、
「まるで赤城たちを狙っているとしか思えませんが」
導き出される答えはそれだ。
けれど。
「そうなんデス。でも、それを今する意味が敵にあるのかと言われタラ……」
ない。
少なくとも、今の状況から考えればそう断言していい。
掴めないのではなく、元よりない。
そう判断するしかない。
そうなれば、
「まるで赤城たちを狙っているとしか思えませんが」
導き出される答えはそれだ。
けれど。
「そうなんデス。でも、それを今する意味が敵にあるのかと言われタラ……」
ない。
少なくとも、今の状況から考えればそう断言していい。
58: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:20:51.37 ID:ts13nDrjo
そうするつもりがあるのならば、もっと強力な艦隊をけしかけてくるはずだ。
赤城の率いる後詰は、哨戒任務を終えた艦娘を吸収しつつ再編成された、正規空母四、戦艦二、重巡二、軽巡四、駆逐艦十二の艦隊だ。それも、佐世保ではトップクラスの実力を誇る艦娘たちで構成されている。
「敵の編成はわかるのですか?」
「確認できたのは重巡主体の中途半端な打撃艦隊と、アトは飛来した航空機の編成と数から軽空母三か正規空母二を含む機動艦隊。この二つだろうと、赤城は言っていマス」
「……赤城たちを相手にするにしては、編成が消極的すぎますね」
確かに赤城たちは高価値目標であるが、生半可な戦力で太刀打ちできる相手でもない。下手をすれば一隻削るために、その何倍もの戦力をぶつける必要がある。
今まで繰り返されてきた戦いで、敵もそれは承知しているはずだし、たとえそうでなくとも、今回の最初の接触で認識できるのは間違いない。
だからこの程度の編成ならば、赤城たちを相手取らず船団を突くべきだ。少なくとも鳳翔ならばそうする。その方がよほど被害を少なく抑えて、作戦を完遂できるに違いないから。
「こっちの行動が予想外で、後手後手に回っちゃってるとか? あ――頂いてます」
いつの間にやら戻ってきていた瑞鶴が、塩握りを頬張りながら話に加わってきた。
赤城の率いる後詰は、哨戒任務を終えた艦娘を吸収しつつ再編成された、正規空母四、戦艦二、重巡二、軽巡四、駆逐艦十二の艦隊だ。それも、佐世保ではトップクラスの実力を誇る艦娘たちで構成されている。
「敵の編成はわかるのですか?」
「確認できたのは重巡主体の中途半端な打撃艦隊と、アトは飛来した航空機の編成と数から軽空母三か正規空母二を含む機動艦隊。この二つだろうと、赤城は言っていマス」
「……赤城たちを相手にするにしては、編成が消極的すぎますね」
確かに赤城たちは高価値目標であるが、生半可な戦力で太刀打ちできる相手でもない。下手をすれば一隻削るために、その何倍もの戦力をぶつける必要がある。
今まで繰り返されてきた戦いで、敵もそれは承知しているはずだし、たとえそうでなくとも、今回の最初の接触で認識できるのは間違いない。
だからこの程度の編成ならば、赤城たちを相手取らず船団を突くべきだ。少なくとも鳳翔ならばそうする。その方がよほど被害を少なく抑えて、作戦を完遂できるに違いないから。
「こっちの行動が予想外で、後手後手に回っちゃってるとか? あ――頂いてます」
いつの間にやら戻ってきていた瑞鶴が、塩握りを頬張りながら話に加わってきた。
59: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:21:32.01 ID:ts13nDrjo
「それはないでしょう。もしそうであれば、このような散発的な攻撃を仕掛けるよりも、場所を決めて戦力を集結、一気に叩く方が効果的です。向こうにはこちらの航路も、足の遅さもわかっているのですから」
そもそも、船団は港を目指しているのだ。目的がはっきりとしている以上、予想外などということは起こらない。
それに輸送船の足が遅くなることはあっても、早くなることはない。
だから、どれだけ時間がかかったとしても、必ず通るべき場所があるし、そこで待ち構えるだけでいい。
戦力さえ整えておけば、前回の作戦のように艦娘たちを物量で押しのけることもできるのだから。
「鳳翔のいう通りですネ。だから敵は何か企んでいるはずなんデス」
「何か、ね……」
瑞鶴はそう呟きながら、砂浜に描かれた略図を見る。
「パラワンがこの辺りで、ミンドロにルソンっと……」
そして、金剛の手から奪い取った棒切れを使って、省略されていたフィリピンの主だった島を描きなおしていく。
そもそも、船団は港を目指しているのだ。目的がはっきりとしている以上、予想外などということは起こらない。
それに輸送船の足が遅くなることはあっても、早くなることはない。
だから、どれだけ時間がかかったとしても、必ず通るべき場所があるし、そこで待ち構えるだけでいい。
戦力さえ整えておけば、前回の作戦のように艦娘たちを物量で押しのけることもできるのだから。
「鳳翔のいう通りですネ。だから敵は何か企んでいるはずなんデス」
「何か、ね……」
瑞鶴はそう呟きながら、砂浜に描かれた略図を見る。
「パラワンがこの辺りで、ミンドロにルソンっと……」
そして、金剛の手から奪い取った棒切れを使って、省略されていたフィリピンの主だった島を描きなおしていく。
60: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:22:06.53 ID:ts13nDrjo
「うん、我ながら上出来じゃない?」
「オウ、グレイト。こうやって見ると、南シナ海は狭い海ですネー」
「その狭い海で、バカみたいな追いかけっこしてんのよ。フィリピンの向こうならそんな心配しなくてもいいのにさ」
瑞鶴の指し示す場所――太平洋は広い。
確かに一度相手を見失えば、探し出すのは容易ではないし、それだけに取れる航路も多くなる。
だが、その一方でどれだけの敵が潜んでいるのかもわからない。
それを警戒するには、その海の広さが問題になる。
「おそらく太平洋には敵潜を主体とした哨戒線が張り巡らされています。それに掛かれば、今以上に強大な敵戦力が次々に群がってきますよ」
それを跳ね返すことは不可能ではない。
個々の能力ならば、艦娘たちの方が圧倒的に上だ。
「オウ、グレイト。こうやって見ると、南シナ海は狭い海ですネー」
「その狭い海で、バカみたいな追いかけっこしてんのよ。フィリピンの向こうならそんな心配しなくてもいいのにさ」
瑞鶴の指し示す場所――太平洋は広い。
確かに一度相手を見失えば、探し出すのは容易ではないし、それだけに取れる航路も多くなる。
だが、その一方でどれだけの敵が潜んでいるのかもわからない。
それを警戒するには、その海の広さが問題になる。
「おそらく太平洋には敵潜を主体とした哨戒線が張り巡らされています。それに掛かれば、今以上に強大な敵戦力が次々に群がってきますよ」
それを跳ね返すことは不可能ではない。
個々の能力ならば、艦娘たちの方が圧倒的に上だ。
61: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:22:47.20 ID:ts13nDrjo
だが、数の力は簡単にそれを凌駕してくる。
「一度や二度の奇襲ならば跳ね返すこともできるでしょうが、さすがに何度も繰り返されると、弾薬や燃料の心配も出てきます」
そうなれば、艦娘たちなどただの的だ。
「この辺りを押さえていれば、また話は変わるのでしょうけども」
そう言って、鳳翔は小石を一つ、砂上の地図の上に置く。
陸地からは遠く離れた、海の真ん中。
ニューギニアやフィリピン、日本からはほぼ等距離に当たる。
けれど、敵勢力圏内に恒久的な拠点を築いて、維持するだけの能力など人類にはまだない。そのつもりもないだろう。
何より、今更な話だ。
「マリアナか……」
「一度や二度の奇襲ならば跳ね返すこともできるでしょうが、さすがに何度も繰り返されると、弾薬や燃料の心配も出てきます」
そうなれば、艦娘たちなどただの的だ。
「この辺りを押さえていれば、また話は変わるのでしょうけども」
そう言って、鳳翔は小石を一つ、砂上の地図の上に置く。
陸地からは遠く離れた、海の真ん中。
ニューギニアやフィリピン、日本からはほぼ等距離に当たる。
けれど、敵勢力圏内に恒久的な拠点を築いて、維持するだけの能力など人類にはまだない。そのつもりもないだろう。
何より、今更な話だ。
「マリアナか……」
62: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:23:21.11 ID:ts13nDrjo
がっくりと肩を落とす瑞鶴。
彼女にとっては因縁の地でもある。
この島嶼群を北に行けば、日本本土へと繋がる。さらにその途中にも島嶼群はいくつもあり、そこに拠点を作っていくことで、航路の確保はより強固にできるのだ。
ただしそれは、あくまでも今より損害を減らせるというだけであって、ゼロにできるわけではないし、安定させるのは難しい。
もっと根本的な解決法はあるのだ。
知っていても、鳳翔は口にするつもりはない。
それをやるのは人間の側でなければならないから。
鳳翔は誰にも気づかれぬようにため息を吐く。
「……ヘイ、鳳翔」
話をじっと聞いていた金剛が口を開く。
彼女にとっては因縁の地でもある。
この島嶼群を北に行けば、日本本土へと繋がる。さらにその途中にも島嶼群はいくつもあり、そこに拠点を作っていくことで、航路の確保はより強固にできるのだ。
ただしそれは、あくまでも今より損害を減らせるというだけであって、ゼロにできるわけではないし、安定させるのは難しい。
もっと根本的な解決法はあるのだ。
知っていても、鳳翔は口にするつもりはない。
それをやるのは人間の側でなければならないから。
鳳翔は誰にも気づかれぬようにため息を吐く。
「……ヘイ、鳳翔」
話をじっと聞いていた金剛が口を開く。
63: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:23:51.78 ID:ts13nDrjo
「瑞鶴は案外いいことを言ったかもしれませんヨ」
「どういうことです?」
「鳳翔のいう理屈は、私たちの理屈ネ……敵にとっては全く逆デスヨ」
金剛の真意が今ひとつ掴めない。
「私たちには危険な海デモ、敵には安全な海デス。なら、そこをこうやって――」
フィリピンを挟んだ太平洋側に一本の線を書き込んでいく金剛。
沿岸から離れ、誰の目にも止まらぬ位置だ。
艦娘たちの哨戒範囲外だし、偵察機を飛ばしてもいない。
何の杞憂もなく敵は北上できるはずだ。
「この辺りで待ち構えテ――」
「どういうことです?」
「鳳翔のいう理屈は、私たちの理屈ネ……敵にとっては全く逆デスヨ」
金剛の真意が今ひとつ掴めない。
「私たちには危険な海デモ、敵には安全な海デス。なら、そこをこうやって――」
フィリピンを挟んだ太平洋側に一本の線を書き込んでいく金剛。
沿岸から離れ、誰の目にも止まらぬ位置だ。
艦娘たちの哨戒範囲外だし、偵察機を飛ばしてもいない。
何の杞憂もなく敵は北上できるはずだ。
「この辺りで待ち構えテ――」
64: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:24:38.64 ID:ts13nDrjo
金剛が指し示したのは、フィリピン北部の島、ルソン島の東方沖。
「タイミングを合わせて、突入シマス」
線がそこで西に折れて、まっすぐに一点を目指す。
棒切れの先端が止まったのはバシー海峡。
台湾とフィリピンの間に位置する、大小様々な島が存在する最後の難所。海峡の幅は一五〇キロほど。狭いところだと八〇キロほどしかない。大規模な船団を通すには、やや手狭とも言える。
必然的に船足は落ちるし、回避行動も取りにくい。
「ここなら、船団を一気に壊滅させられるネ」
だが、そんなことはこちらも十分にわかっている。
「そこには哨戒部隊がいます」
「今までと同じように船団到着前に撤収シマス。敵も当然それを知っているハズですカラ、ギリギリまで隠れていればいいだけデス」
「タイミングを合わせて、突入シマス」
線がそこで西に折れて、まっすぐに一点を目指す。
棒切れの先端が止まったのはバシー海峡。
台湾とフィリピンの間に位置する、大小様々な島が存在する最後の難所。海峡の幅は一五〇キロほど。狭いところだと八〇キロほどしかない。大規模な船団を通すには、やや手狭とも言える。
必然的に船足は落ちるし、回避行動も取りにくい。
「ここなら、船団を一気に壊滅させられるネ」
だが、そんなことはこちらも十分にわかっている。
「そこには哨戒部隊がいます」
「今までと同じように船団到着前に撤収シマス。敵も当然それを知っているハズですカラ、ギリギリまで隠れていればいいだけデス」
65: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:25:18.23 ID:ts13nDrjo
存在が秘匿されている艦娘たちは、輸送船団に姿を見られないように撤収しなければならない。
それから船団が到着するまでのわずかな隙をついて、敵艦隊が突入すれば確かに奇襲は成立する。
いくら護衛艦が偵察のためにヘリを飛ばしていても、付近の島影にでも隠れていれば見つけることは難しいし、それが可能な島は数多くある。
「ってことは、赤城たちにちょっかいをかけてる敵は、タイミングを合わせるために船団の位置確認をしてるってことか」
「イエース。それと、私たちの目をそっちに向けさせるためですネ」
意図が見えなかった敵の動きに、明確な答えがつけられ、辻褄があっていく。
「ならば、航路を変えますか?」
その判断材料を与えるのが、この海域に展開している艦娘に与えられたもう一つの任務だ。
「ノー。佐世保は動きませんヨ。今までが順調に見えてるから、敵を絶対に甘く見てるネ」
そう。
それから船団が到着するまでのわずかな隙をついて、敵艦隊が突入すれば確かに奇襲は成立する。
いくら護衛艦が偵察のためにヘリを飛ばしていても、付近の島影にでも隠れていれば見つけることは難しいし、それが可能な島は数多くある。
「ってことは、赤城たちにちょっかいをかけてる敵は、タイミングを合わせるために船団の位置確認をしてるってことか」
「イエース。それと、私たちの目をそっちに向けさせるためですネ」
意図が見えなかった敵の動きに、明確な答えがつけられ、辻褄があっていく。
「ならば、航路を変えますか?」
その判断材料を与えるのが、この海域に展開している艦娘に与えられたもう一つの任務だ。
「ノー。佐世保は動きませんヨ。今までが順調に見えてるから、敵を絶対に甘く見てるネ」
そう。
66: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:25:53.75 ID:ts13nDrjo
どれだけ現場が的確に敵の意図を見抜いたとしても、決定権は佐世保の司令官にある。
そしてその決定権を持つ男は、はっきり言って無能だ。
今までの作戦においても、それは証明されている。
彼が司令官の椅子に座っていられるのは、金剛の独断による作戦変更によって得られた戦果を自分のものとして書き換えているからだ。
だからこそ、金剛は憎まれつつも今の立場を保っていられたし、その金剛が沈黙を保っているからこそ、他の艦娘たちも表立って非難することはない。金剛がなぜそうしているのかは、鳳翔にもわからないが。
とにかく佐世保の司令官とは、その程度の人物なのだ。
だから、鳳翔と金剛が最初に避けた判断をあっさりとしてのけるに違いない。
敵の戦力回復が遅れているのだ、と。
「一応、意見具申はするケド、期待はしないほうがいいヨ」
あの男だけを責めるのは、いささか酷かもしれない。
そしてその決定権を持つ男は、はっきり言って無能だ。
今までの作戦においても、それは証明されている。
彼が司令官の椅子に座っていられるのは、金剛の独断による作戦変更によって得られた戦果を自分のものとして書き換えているからだ。
だからこそ、金剛は憎まれつつも今の立場を保っていられたし、その金剛が沈黙を保っているからこそ、他の艦娘たちも表立って非難することはない。金剛がなぜそうしているのかは、鳳翔にもわからないが。
とにかく佐世保の司令官とは、その程度の人物なのだ。
だから、鳳翔と金剛が最初に避けた判断をあっさりとしてのけるに違いない。
敵の戦力回復が遅れているのだ、と。
「一応、意見具申はするケド、期待はしないほうがいいヨ」
あの男だけを責めるのは、いささか酷かもしれない。
67: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:26:32.37 ID:ts13nDrjo
この状況であれば、誰もが敵を甘く見るはずだ。
たとえ、佐世保司令が判断に迷い、さらに上級の司令部へ伺いを立てたところで、結論は同じになるだろう。
敵の編成が消極的なのも、おそらくはそれを見越してのことだ。
「こちらから先手を打つしかありませんか……」
ただ、それはあまり使いたい手ではない。
これ以上の独断は金剛の立場を危うくする。
「私のことを気遣ってくれるのは嬉しいですケド、多分、ここはリスクを覚悟するところデスヨ」
鳳翔の曇った表情が何を意味しているのか、瞬間的に見て取った金剛が覗き込むようにして言う。
その目には揺るぎのない決意がある。
「しかし――」
たとえ、佐世保司令が判断に迷い、さらに上級の司令部へ伺いを立てたところで、結論は同じになるだろう。
敵の編成が消極的なのも、おそらくはそれを見越してのことだ。
「こちらから先手を打つしかありませんか……」
ただ、それはあまり使いたい手ではない。
これ以上の独断は金剛の立場を危うくする。
「私のことを気遣ってくれるのは嬉しいですケド、多分、ここはリスクを覚悟するところデスヨ」
鳳翔の曇った表情が何を意味しているのか、瞬間的に見て取った金剛が覗き込むようにして言う。
その目には揺るぎのない決意がある。
「しかし――」
68: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:27:18.96 ID:ts13nDrjo
金剛の指が鳳翔の唇を押さえ、次の言葉をさえぎった。
代わりに、ニヤリと笑って。
「ノープロブレム。私の独断が結果を出せば良いんデス。たとえ佐世保が騒いでも、上層部は結果オーライって考えるデス」
そう言ってから、水上偵察機の準備を始める金剛。
一体何を考えているのか、この段階で彼女が口にすることはないだろう。
そうすることで、たとえ制裁があったとしても、金剛のみがそれを受けるだけで済む。そう考えているはずだ。
「鳳翔、通信筒を準備して下サイ。他の艦娘たちにこの後の作戦を通達するデス」
各海域に散らばった艦娘たちとは、良好な通信状態が維持されている。もちろん、敵がそれを傍受したところで暗号化されているし、解読には相当の時間が必要になる。
それなのにわざわざ、命令書を直接手渡しするための通信筒を準備するということは、佐世保に聞かれたくない内容だということだ。
「瑞鶴は移動の準備を第七駆逐隊に通達して下サイ。ここには神通と白露たちを残しマス。帰りは名取たちと一緒に、護衛艦あきさめデスネ」
代わりに、ニヤリと笑って。
「ノープロブレム。私の独断が結果を出せば良いんデス。たとえ佐世保が騒いでも、上層部は結果オーライって考えるデス」
そう言ってから、水上偵察機の準備を始める金剛。
一体何を考えているのか、この段階で彼女が口にすることはないだろう。
そうすることで、たとえ制裁があったとしても、金剛のみがそれを受けるだけで済む。そう考えているはずだ。
「鳳翔、通信筒を準備して下サイ。他の艦娘たちにこの後の作戦を通達するデス」
各海域に散らばった艦娘たちとは、良好な通信状態が維持されている。もちろん、敵がそれを傍受したところで暗号化されているし、解読には相当の時間が必要になる。
それなのにわざわざ、命令書を直接手渡しするための通信筒を準備するということは、佐世保に聞かれたくない内容だということだ。
「瑞鶴は移動の準備を第七駆逐隊に通達して下サイ。ここには神通と白露たちを残しマス。帰りは名取たちと一緒に、護衛艦あきさめデスネ」
69: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:27:57.67 ID:ts13nDrjo
赤城たちと合流しない艦娘は、唯一行動をともにすることが許された護衛艦が回収し、佐世保へと運ぶことになっている。
狭いとはいえ護衛艦では休息も取れるし、簡易的とはいえ艤装の整備もできた。
そうすることで、不測の事態が起きた場合にも対応することが可能ということだ。
失敗の許されない今回の輸送作戦を行うに当たって、横須賀から派遣されている。
員数外にはなるが、対応できないこともないだろう。
「それで、私たちはどこ行くのよ?」
「今回のメインバトルフィールド――とってもハードなやつデス」
金剛の瞳がさらに怪しく、生き生きと輝いたように見えた。
狭いとはいえ護衛艦では休息も取れるし、簡易的とはいえ艤装の整備もできた。
そうすることで、不測の事態が起きた場合にも対応することが可能ということだ。
失敗の許されない今回の輸送作戦を行うに当たって、横須賀から派遣されている。
員数外にはなるが、対応できないこともないだろう。
「それで、私たちはどこ行くのよ?」
「今回のメインバトルフィールド――とってもハードなやつデス」
金剛の瞳がさらに怪しく、生き生きと輝いたように見えた。
70: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:29:45.24 ID:ts13nDrjo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バシー海峡を目指して移動を続ける鳳翔たち。
丸一昼夜を費やす移動とはいえ、敵に出会うこともなく、順調そのものと言える道のりだ。
「ワッツ?」
だが、その先頭を行く金剛の顔色が一瞬で変わるのを、鳳翔は見た。
おそらくは何らかの報告が無線によってもたらされたのだろう。
鳳翔は何も言わず無線のチャンネルを隊内用から、広域の命令系統のものへ切り替える。
振り返れば、後続している艦娘たちも同じことをしていた。
おそらくは、金剛もそれに気がついているだろう。
だが、制止するつもりはないようだ。
「それは一体、どういうことデス!?」
バシー海峡を目指して移動を続ける鳳翔たち。
丸一昼夜を費やす移動とはいえ、敵に出会うこともなく、順調そのものと言える道のりだ。
「ワッツ?」
だが、その先頭を行く金剛の顔色が一瞬で変わるのを、鳳翔は見た。
おそらくは何らかの報告が無線によってもたらされたのだろう。
鳳翔は何も言わず無線のチャンネルを隊内用から、広域の命令系統のものへ切り替える。
振り返れば、後続している艦娘たちも同じことをしていた。
おそらくは、金剛もそれに気がついているだろう。
だが、制止するつもりはないようだ。
「それは一体、どういうことデス!?」
71: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:30:30.08 ID:ts13nDrjo
『……佐世保司令から直接の命令よ』
金剛の問いに、少し遅れて返ってきたのは、バシー海峡の哨戒任務に当たっていた五十鈴の声だ。
「それで動いたっていうのデスカ!? バシーがどれだけ重要か分かってるはずデス!」
『当然こっちだって異議を唱えた! 金剛隊が北上しているから、入れ替わって私たちは台湾海峡を押さえるべきだって! でも、反乱って言葉まで持ち出されたら、従うしかない! 私だけならともかく、単に指揮下にあるだけの子たちまで巻き込めない!』
悲鳴に近いような叫び。それはおそらく五十鈴の魂の叫びだ。
哨戒艦隊を取りまとめている五十鈴にとっては苦渋の決断だったに違いない。
ギリギリと奥歯を噛みしめる音が聞こえたような気がした。
「ソーリー。言い過ぎまシタ……それで、戦闘継続は不可能なんですネ?」
『そうよ、私を含めて全員が中大破。これに関しては私の落ち度だから、何を言われても仕方ないし、受け入れるわ』
一体、何から攻撃を受けたのか。
金剛の問いに、少し遅れて返ってきたのは、バシー海峡の哨戒任務に当たっていた五十鈴の声だ。
「それで動いたっていうのデスカ!? バシーがどれだけ重要か分かってるはずデス!」
『当然こっちだって異議を唱えた! 金剛隊が北上しているから、入れ替わって私たちは台湾海峡を押さえるべきだって! でも、反乱って言葉まで持ち出されたら、従うしかない! 私だけならともかく、単に指揮下にあるだけの子たちまで巻き込めない!』
悲鳴に近いような叫び。それはおそらく五十鈴の魂の叫びだ。
哨戒艦隊を取りまとめている五十鈴にとっては苦渋の決断だったに違いない。
ギリギリと奥歯を噛みしめる音が聞こえたような気がした。
「ソーリー。言い過ぎまシタ……それで、戦闘継続は不可能なんですネ?」
『そうよ、私を含めて全員が中大破。これに関しては私の落ち度だから、何を言われても仕方ないし、受け入れるわ』
一体、何から攻撃を受けたのか。
72: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:31:19.49 ID:ts13nDrjo
そこまではわからなかったが、軽巡五十鈴と五名の駆逐艦娘で編成されていた哨戒部隊が戦力にならなくなったことだけは確実だ。
「……わかりまシタ。五十鈴たちは急いで基地に撤退してくだサイ」
『了解――おそらく、イヤットバットから東の海域は敵潜だらけよ。私たちみたいにならないように、気をつけて』
無線はそれで静かになった。
「金剛?」
そのタイミングを待っていた鳳翔が問いかける。
「私のやったことが、裏目に出マシタ。責任は取りマス」
金剛はそれだけを言って、無線を再び開く。
「金剛より佐世保。何が言いたいかは、わかりますネ?」
『――佐世保。命令に変更はないし、船団の転針もしない。だからバシーに入る前に敵を殲滅しろ。五十鈴隊はもう使い物にならん、お前たちが行け』
「……わかりまシタ。五十鈴たちは急いで基地に撤退してくだサイ」
『了解――おそらく、イヤットバットから東の海域は敵潜だらけよ。私たちみたいにならないように、気をつけて』
無線はそれで静かになった。
「金剛?」
そのタイミングを待っていた鳳翔が問いかける。
「私のやったことが、裏目に出マシタ。責任は取りマス」
金剛はそれだけを言って、無線を再び開く。
「金剛より佐世保。何が言いたいかは、わかりますネ?」
『――佐世保。命令に変更はないし、船団の転針もしない。だからバシーに入る前に敵を殲滅しろ。五十鈴隊はもう使い物にならん、お前たちが行け』
73: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:32:05.63 ID:ts13nDrjo
「オーケー。代わりに神通たちをバシーに入れるヨ」
『おい。パラセルはどうするつもりだ』
輸送船団が通過するギリギリまで、哨戒活動を続けるのが艦娘たちの任務だ。
だから、それを途中で放棄することはありえない。
けれどその海域に敵がいない、もしくは少ないため、危険度は極めて低いという報告はしている。
仮に神通隊を動かしても、南のスプラトリーで同様の任務に当たっている名取隊を北に動かして継続さればいいだけのことだ。
輸送船団の北上にともなって、南にいる名取隊が先に任務を終えるのだから。
それで生まれるわずかな空白期間で敵が戦力を浸透させたところで、その排除にかかる時間などわずかなものだ。
この司令官は、その程度の判断もできていない。
「船団を通すなら、バシー海峡の維持は必要デショ。障害がなくなった敵潜は間違いなくバシーに移動して、身を潜めようとシマス。状況によっては保険となるタメに」
『おい。パラセルはどうするつもりだ』
輸送船団が通過するギリギリまで、哨戒活動を続けるのが艦娘たちの任務だ。
だから、それを途中で放棄することはありえない。
けれどその海域に敵がいない、もしくは少ないため、危険度は極めて低いという報告はしている。
仮に神通隊を動かしても、南のスプラトリーで同様の任務に当たっている名取隊を北に動かして継続さればいいだけのことだ。
輸送船団の北上にともなって、南にいる名取隊が先に任務を終えるのだから。
それで生まれるわずかな空白期間で敵が戦力を浸透させたところで、その排除にかかる時間などわずかなものだ。
この司令官は、その程度の判断もできていない。
「船団を通すなら、バシー海峡の維持は必要デショ。障害がなくなった敵潜は間違いなくバシーに移動して、身を潜めようとシマス。状況によっては保険となるタメに」
74: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:32:45.90 ID:ts13nDrjo
『ダメだ! まずは敵の別働隊を一気に潰してから、バシーを――』
それでは間に合わない可能性がある。
敵の別働隊の規模も、正確な位置もわかっていないのだ。
その排除に時間がかかれば、バシー海峡の危険を取り除くための猶予がなくなる。
さらに言えば、戦闘後に潜水艦を攻撃するための艦娘が無事という保証もない。
「ヘイ、司令官。この戦いが終わった後も、その椅子に座って居たいなら、口を挟まないでほしいネ」
ため息交じりの金剛の言葉に、司令官が激昂する。
『貴様、司令官は私だぞ!?』
「今回にしたって、ワタシたちと入れ替えて、五十鈴隊に台湾海峡の制圧を任せれば充分だったんデス。ワタシたちが移動していることは知っていたんですカラ」
金剛は何も言わないし、言うことはないだろう。他の艦娘たちのを守るためにはそれが一番だから。
それでは間に合わない可能性がある。
敵の別働隊の規模も、正確な位置もわかっていないのだ。
その排除に時間がかかれば、バシー海峡の危険を取り除くための猶予がなくなる。
さらに言えば、戦闘後に潜水艦を攻撃するための艦娘が無事という保証もない。
「ヘイ、司令官。この戦いが終わった後も、その椅子に座って居たいなら、口を挟まないでほしいネ」
ため息交じりの金剛の言葉に、司令官が激昂する。
『貴様、司令官は私だぞ!?』
「今回にしたって、ワタシたちと入れ替えて、五十鈴隊に台湾海峡の制圧を任せれば充分だったんデス。ワタシたちが移動していることは知っていたんですカラ」
金剛は何も言わないし、言うことはないだろう。他の艦娘たちのを守るためにはそれが一番だから。
75: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:33:26.56 ID:ts13nDrjo
おそらくは偵察と称して飛ばした水偵をバシー海峡の近くに送り込み、敵機と誤認させる形で別働隊がいると言う情報に裏付けを与えたのだ。
そうすれば、司令官が動くと考えて。
そこまでしなければ、司令官は動かないと考えて。
けれど。
「そのくらいの判断はできると思ってマシタ。ケド、アナタの判断はこの状況をより複雑にした。アナタという人間を見誤ったのが、私の失敗デス」
司令官は功を焦ったのだろう。
輸送作戦を滞りなく進め、敵の作戦を頓挫させ、その上で敵艦隊を撃滅する。
結果として、彼には最大限の評価と名誉が与えられる。
それを手に中央に返り咲けば、将来は安泰だ。
一石二鳥どころか、一つの石で四羽、五羽の鳥を落とすような夢を見てしまったのだ。
そうすれば、司令官が動くと考えて。
そこまでしなければ、司令官は動かないと考えて。
けれど。
「そのくらいの判断はできると思ってマシタ。ケド、アナタの判断はこの状況をより複雑にした。アナタという人間を見誤ったのが、私の失敗デス」
司令官は功を焦ったのだろう。
輸送作戦を滞りなく進め、敵の作戦を頓挫させ、その上で敵艦隊を撃滅する。
結果として、彼には最大限の評価と名誉が与えられる。
それを手に中央に返り咲けば、将来は安泰だ。
一石二鳥どころか、一つの石で四羽、五羽の鳥を落とすような夢を見てしまったのだ。
76: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:34:55.93 ID:ts13nDrjo
『何を言っている!? そもそも貴様が――』
独断で動く金剛が、自分の下した判断よりも的確な結果を残していくという状況も彼にとっては面白くなかったはずだ。
そして、艦娘たちは使い捨ての兵器だという認識も、それを後押ししたに違いない。
「Zip it! Airhead! (黙れ! 能無し!)」
司令官の怒声をさらに上回るほどの声量で、金剛が怒鳴りつける。
その勢いに押され、無線の向こうが静かになる。
「今まで我慢してきたケド、もう限界ネ。これが終わったら解任要求を上層部に出しマス」
それを出したところで、実際に通るとは思えない。
だが、少なくとも部下からそういう要求があったという事実は、彼の将来を不安定にする要素になることは間違いないだろう。
無線の向こうで喚き立てる声を無視して、金剛は無線を切る。
独断で動く金剛が、自分の下した判断よりも的確な結果を残していくという状況も彼にとっては面白くなかったはずだ。
そして、艦娘たちは使い捨ての兵器だという認識も、それを後押ししたに違いない。
「Zip it! Airhead! (黙れ! 能無し!)」
司令官の怒声をさらに上回るほどの声量で、金剛が怒鳴りつける。
その勢いに押され、無線の向こうが静かになる。
「今まで我慢してきたケド、もう限界ネ。これが終わったら解任要求を上層部に出しマス」
それを出したところで、実際に通るとは思えない。
だが、少なくとも部下からそういう要求があったという事実は、彼の将来を不安定にする要素になることは間違いないだろう。
無線の向こうで喚き立てる声を無視して、金剛は無線を切る。
77: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:35:37.46 ID:ts13nDrjo
くるりと振り返り、全員の顔を見て。
「ウーン……厄介ごとが増えちゃいました、ソーリーね」
スイッチを切り替えたように、いつもの調子で舌を出しておどけてみせる金剛。
「や、厄介ごとっていうか、さ……」
引きつった顔で、瑞鶴が呟く。
「司令官相手に、”黙れ、能無し”って、よく言ったもんだわ」
口の悪さでは、このメンバーの中では随一とも言える曙ですら、あきれ返っている。
「言いたいことはハッキリと言うべきデース。その方がスッキリするヨ」
その言葉の通り、金剛の顔は憑き物が落ちたように晴れやかだ。
「それで、この後はどうしますか?」
「ウーン……厄介ごとが増えちゃいました、ソーリーね」
スイッチを切り替えたように、いつもの調子で舌を出しておどけてみせる金剛。
「や、厄介ごとっていうか、さ……」
引きつった顔で、瑞鶴が呟く。
「司令官相手に、”黙れ、能無し”って、よく言ったもんだわ」
口の悪さでは、このメンバーの中では随一とも言える曙ですら、あきれ返っている。
「言いたいことはハッキリと言うべきデース。その方がスッキリするヨ」
その言葉の通り、金剛の顔は憑き物が落ちたように晴れやかだ。
「それで、この後はどうしますか?」
78: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/25(金) 23:36:17.82 ID:ts13nDrjo
なんとも言えない空気を払うべく、鳳翔は未来に目を向ける。
問題は何一つ解決していない。
むしろ深刻になっているのだ。
「やることは変わらないヨ。戦う場所とタイミングが変わっただけデス」
そう言って、金剛はバシー海峡より南のバリンタン海峡へと進路を変えた。
「敵の側面から奇襲するヨ。デストロイヤーズは対潜警戒を厳に。鳳翔と瑞鶴は偵察隊と攻撃隊の準備をよろしくネ」
バシー海峡から南下した艦娘隊を排除したという連絡は、当然敵の主力にも伝わっていると見ていい。
そうなれば、敵がどこを目指すかはわかりきっている。
それに、敵潜の大半も空白となったバシー海峡を目指しているはずだ。
敵には金剛隊の存在はまだ知られていない。
勝機はそこにある。
問題は何一つ解決していない。
むしろ深刻になっているのだ。
「やることは変わらないヨ。戦う場所とタイミングが変わっただけデス」
そう言って、金剛はバシー海峡より南のバリンタン海峡へと進路を変えた。
「敵の側面から奇襲するヨ。デストロイヤーズは対潜警戒を厳に。鳳翔と瑞鶴は偵察隊と攻撃隊の準備をよろしくネ」
バシー海峡から南下した艦娘隊を排除したという連絡は、当然敵の主力にも伝わっていると見ていい。
そうなれば、敵がどこを目指すかはわかりきっている。
それに、敵潜の大半も空白となったバシー海峡を目指しているはずだ。
敵には金剛隊の存在はまだ知られていない。
勝機はそこにある。
81: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:07:32.66 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
飛来する砲弾の雨が、あたりを水柱の林に変えていく。
金剛が予想した通りの位置を移動している敵艦隊を偵察機が見つけ、鳳翔と瑞鶴の攻撃隊が電光石火の奇襲で敵の多くを沈めた。
だが、それでも敵はまだ数的優位を保っていた。
水柱の数がそれを物語っている。
「デストロイヤーズ! 突撃の時間ネ!」
そう叫んだ金剛を先頭に、朧、漣、潮がその林の中を縫うように突っ切っていく。
「ちょっと! あんなことしてたら沈むって!」
それを見て悲鳴をあげたのは瑞鶴だ。
だが、敵艦隊に接近戦を挑む水雷戦隊の戦いとは、だいたいこのようなものだ。
後方から航空機を飛ばして、間接的な攻撃に専念することが多い航空母艦がそれを見ることはないと言っていい。
飛来する砲弾の雨が、あたりを水柱の林に変えていく。
金剛が予想した通りの位置を移動している敵艦隊を偵察機が見つけ、鳳翔と瑞鶴の攻撃隊が電光石火の奇襲で敵の多くを沈めた。
だが、それでも敵はまだ数的優位を保っていた。
水柱の数がそれを物語っている。
「デストロイヤーズ! 突撃の時間ネ!」
そう叫んだ金剛を先頭に、朧、漣、潮がその林の中を縫うように突っ切っていく。
「ちょっと! あんなことしてたら沈むって!」
それを見て悲鳴をあげたのは瑞鶴だ。
だが、敵艦隊に接近戦を挑む水雷戦隊の戦いとは、だいたいこのようなものだ。
後方から航空機を飛ばして、間接的な攻撃に専念することが多い航空母艦がそれを見ることはないと言っていい。
82: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:08:40.67 ID:6VHVfebZo
その上、航空母艦娘の瑞鶴にとっては、これが初めての本格的な戦闘。
かなり衝撃的な光景に映ったはずだ。
「うっさいわよ瑞鶴!」
牽制となる砲撃を放ちながら、曙が叫ぶ。
本来であれば、彼女もあの突撃隊の一員であった。
けれど、瑞鶴の直衛を引き受けてしまったことで、仲間の突入を見ていることしかできない。
曙の方がよほど、もどかしさを感じているはずだ。
「だって――」
なおも食い下がろうとする瑞鶴を、曙の声が遮る。
「そんなに心配なら露払いに集中して!」
かなり衝撃的な光景に映ったはずだ。
「うっさいわよ瑞鶴!」
牽制となる砲撃を放ちながら、曙が叫ぶ。
本来であれば、彼女もあの突撃隊の一員であった。
けれど、瑞鶴の直衛を引き受けてしまったことで、仲間の突入を見ていることしかできない。
曙の方がよほど、もどかしさを感じているはずだ。
「だって――」
なおも食い下がろうとする瑞鶴を、曙の声が遮る。
「そんなに心配なら露払いに集中して!」
83: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:09:18.07 ID:6VHVfebZo
こういう状況下では、駆逐艦娘たちの方がはるかに肝が座っている。
それは水雷戦隊の主力となるべく、神通を始めとする軽巡洋艦娘たちが鍛え上げた結果だ。
下手をすれば普段の訓練の方が、実戦よりも危険なことがあるくらいなのだから。
「瑞鶴、曙の言う通り、自分の仕事に集中しなさい」
納得のいかない顔をしている瑞鶴に、駄目押しの一言を放つ鳳翔。
本来は後方待機の航空母艦も、戦力不足の今回ばかりは砲戦に参加するしかない。艦娘ならではの決断だろう。
とは言っても、それほど大きな砲を持ち出せるわけでもない。
せいぜい軽巡洋艦と同程度。
周囲に群がる敵駆逐艦をいなすのが精一杯と言ったところだ。
それでも、金剛たちの中央突破の手助けにはなるはずだ。
それは水雷戦隊の主力となるべく、神通を始めとする軽巡洋艦娘たちが鍛え上げた結果だ。
下手をすれば普段の訓練の方が、実戦よりも危険なことがあるくらいなのだから。
「瑞鶴、曙の言う通り、自分の仕事に集中しなさい」
納得のいかない顔をしている瑞鶴に、駄目押しの一言を放つ鳳翔。
本来は後方待機の航空母艦も、戦力不足の今回ばかりは砲戦に参加するしかない。艦娘ならではの決断だろう。
とは言っても、それほど大きな砲を持ち出せるわけでもない。
せいぜい軽巡洋艦と同程度。
周囲に群がる敵駆逐艦をいなすのが精一杯と言ったところだ。
それでも、金剛たちの中央突破の手助けにはなるはずだ。
84: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:09:57.07 ID:6VHVfebZo
「ヘイ、瑞鶴! 左から敵が廻り込んでマス!」
金剛の声が無線越しに飛んでくる。
「ああ、もう!」
瑞鶴の腰のあたりにぶら下がった連装砲が一斉に左を指向して火を吹く。
搭載されているのが駆逐艦と同じ弾を放つ砲とはいえ、砲身長が短い分、精度は期待できない。
そもそもが、対空火器として搭載されているのだから仕方がない。
航空機相手であれば直撃を狙う必要はなく、時限信管で炸裂する砲弾の破片で範囲を覆ってしまえば充分なのだ。
航空機にはそれで致命的な損害――デリケートなエンジンを損傷させたり、揚力を生み出す翼をもぎ取ったりすることで、落とすことができる。
だから、その通りの性能を発揮した砲弾は、敵駆逐艦の頭上で炸裂した。
「あんた、あれが飛行機に見えたわけ!?」
金剛の声が無線越しに飛んでくる。
「ああ、もう!」
瑞鶴の腰のあたりにぶら下がった連装砲が一斉に左を指向して火を吹く。
搭載されているのが駆逐艦と同じ弾を放つ砲とはいえ、砲身長が短い分、精度は期待できない。
そもそもが、対空火器として搭載されているのだから仕方がない。
航空機相手であれば直撃を狙う必要はなく、時限信管で炸裂する砲弾の破片で範囲を覆ってしまえば充分なのだ。
航空機にはそれで致命的な損害――デリケートなエンジンを損傷させたり、揚力を生み出す翼をもぎ取ったりすることで、落とすことができる。
だから、その通りの性能を発揮した砲弾は、敵駆逐艦の頭上で炸裂した。
「あんた、あれが飛行機に見えたわけ!?」
85: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:10:38.86 ID:6VHVfebZo
曙が呆れた声で叫ぶ。
今の相手は深海棲艦だ。無数の破片が飛び散り、降り注いだところでダメージは大したものにはならない。
「忘れてただけよ! にしたって、怯むくらいしてくれてもいいじゃない!」
進路を変えず、まっすぐに金剛たちを目指す敵駆逐艦を見て瑞鶴が悔しそうに叫ぶ。
「瑞鶴、砲弾の変更と発艦準備を急ぎなさい」
鳳翔はそうアドバイスをして、自らの飛行甲板を持ち上げ、敵艦へと向けて発砲する。
航空母艦黎明期、砲戦こそが勝敗を決めると信じられていた時代に設計された鳳翔の砲塔は飛行甲板の下にある。
その位置を見ればわかる通り、対空戦闘など考えられてはいないし、搭載されている砲もそれなりに大きなものだ。
飛翔した砲弾は、見事に敵の先頭艦を直撃し、大きな火柱をあげる。
おそらくは何かを誘爆させたのだろう。
今の相手は深海棲艦だ。無数の破片が飛び散り、降り注いだところでダメージは大したものにはならない。
「忘れてただけよ! にしたって、怯むくらいしてくれてもいいじゃない!」
進路を変えず、まっすぐに金剛たちを目指す敵駆逐艦を見て瑞鶴が悔しそうに叫ぶ。
「瑞鶴、砲弾の変更と発艦準備を急ぎなさい」
鳳翔はそうアドバイスをして、自らの飛行甲板を持ち上げ、敵艦へと向けて発砲する。
航空母艦黎明期、砲戦こそが勝敗を決めると信じられていた時代に設計された鳳翔の砲塔は飛行甲板の下にある。
その位置を見ればわかる通り、対空戦闘など考えられてはいないし、搭載されている砲もそれなりに大きなものだ。
飛翔した砲弾は、見事に敵の先頭艦を直撃し、大きな火柱をあげる。
おそらくは何かを誘爆させたのだろう。
86: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:11:42.79 ID:6VHVfebZo
「うわ、すご……」
瑞鶴はあまりの光景にポカンと口を開けている。
「ヘイヘイヘイ、デストロイヤーズ! 鳳翔が砲戦で敵を沈めマシタ! 私たちの立場がなくなるヨ!」
嬉々とした声が無線から響き、金剛達はそれを合図にしたかのように、さらに速度を上げて敵陣の中央を目指す。
もちろんそこへは敵からの砲撃が集中するが、それを縫うようにかわし、避けきれないものは金剛の障壁が弾き飛ばしていく。
逆に、金剛の背にある艤装から伸びた主砲が閃くたびに、敵艦が一隻、また一隻と海底に還る。
当然、敵艦隊も黙ってやられているわけではない。
「金剛、両翼が伸びてきてる! 半包囲されるわよ!」
曙が叫び、最大戦速で瑞鶴の横を抜けて飛び出して行く。
敵の中央部から分離しつつある敵の両翼が、まるで二本の腕のように伸び、突出した金剛たちを取り囲もうとしていた。
瑞鶴はあまりの光景にポカンと口を開けている。
「ヘイヘイヘイ、デストロイヤーズ! 鳳翔が砲戦で敵を沈めマシタ! 私たちの立場がなくなるヨ!」
嬉々とした声が無線から響き、金剛達はそれを合図にしたかのように、さらに速度を上げて敵陣の中央を目指す。
もちろんそこへは敵からの砲撃が集中するが、それを縫うようにかわし、避けきれないものは金剛の障壁が弾き飛ばしていく。
逆に、金剛の背にある艤装から伸びた主砲が閃くたびに、敵艦が一隻、また一隻と海底に還る。
当然、敵艦隊も黙ってやられているわけではない。
「金剛、両翼が伸びてきてる! 半包囲されるわよ!」
曙が叫び、最大戦速で瑞鶴の横を抜けて飛び出して行く。
敵の中央部から分離しつつある敵の両翼が、まるで二本の腕のように伸び、突出した金剛たちを取り囲もうとしていた。
87: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:12:20.32 ID:6VHVfebZo
「瑞鶴は敵左翼を! 右翼は私が引き受けます!」
戦闘に集中しているせいか、反応がない金剛に変わって鳳翔が指示を飛ばす。
数が多いのは敵左翼。そこに数の多い瑞鶴の航空戦力をぶつけるのは、当然の判断だ。
「いえ、左は鳳翔さんが!」
だが瑞鶴はそれに異を唱える。
なぜかと鳳翔が問う前に、瑞鶴は次々と艦載機を放って行く。
「敵左翼は輸送艦が大半。たとえそれを討ち漏らしても、敵の戦闘能力さえ奪ってしまえば、こっちの勝ち。だったら確実な方法をとるまで」
敵艦隊は前衛艦、主力となる大型艦、輸送艦等の補助艦とその護衛という隊形で進んでいた。
その左側面から攻撃を仕掛けられれば、とりあえず敵はその場で回頭して反撃する以外に手の打ちようがない。
必然的に敵左翼は最後尾にいた輸送艦とその護衛という形になる。
戦闘に集中しているせいか、反応がない金剛に変わって鳳翔が指示を飛ばす。
数が多いのは敵左翼。そこに数の多い瑞鶴の航空戦力をぶつけるのは、当然の判断だ。
「いえ、左は鳳翔さんが!」
だが瑞鶴はそれに異を唱える。
なぜかと鳳翔が問う前に、瑞鶴は次々と艦載機を放って行く。
「敵左翼は輸送艦が大半。たとえそれを討ち漏らしても、敵の戦闘能力さえ奪ってしまえば、こっちの勝ち。だったら確実な方法をとるまで」
敵艦隊は前衛艦、主力となる大型艦、輸送艦等の補助艦とその護衛という隊形で進んでいた。
その左側面から攻撃を仕掛けられれば、とりあえず敵はその場で回頭して反撃する以外に手の打ちようがない。
必然的に敵左翼は最後尾にいた輸送艦とその護衛という形になる。
88: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:13:07.18 ID:6VHVfebZo
「輸送艦の中に紛れた戦闘艦を探すのはなかなか大変ですけど、鳳翔さんの子たちの方が、うちの子たちより経験が多い分、手慣れてるはずです。悔しいですけどね」
もちろん輸送艦にも兵装はある。
防御用の小さな火砲とはいえ、反撃手段を持たない人類にとっては充分な脅威だし、確実に輸送船団が一方的に狩られて行くだろう。
だが、相手が艦娘となれば立場は逆転する。
護衛の戦闘艦を片付けてしまえば逃げ出すしかない。
そうしてしまうことで、この戦闘をより早く終わらせることもできるはず。
瑞鶴はそう考えたのだ。
たとえ無自覚であっても、押さえるべき要点を的確に見抜く。
それが瑞鶴の才能だ。ここへ金剛隊を導くきっかけを作ったように。
「わかりました。あなたは曙とともに敵右翼を」
もちろん輸送艦にも兵装はある。
防御用の小さな火砲とはいえ、反撃手段を持たない人類にとっては充分な脅威だし、確実に輸送船団が一方的に狩られて行くだろう。
だが、相手が艦娘となれば立場は逆転する。
護衛の戦闘艦を片付けてしまえば逃げ出すしかない。
そうしてしまうことで、この戦闘をより早く終わらせることもできるはず。
瑞鶴はそう考えたのだ。
たとえ無自覚であっても、押さえるべき要点を的確に見抜く。
それが瑞鶴の才能だ。ここへ金剛隊を導くきっかけを作ったように。
「わかりました。あなたは曙とともに敵右翼を」
89: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:13:37.82 ID:6VHVfebZo
「了解! 四個小隊は敵右翼へ小隊単位で突入開始! 獲物を逃すんじゃないわよ!」
瑞鶴の合図で四機ずつにまとまった雷撃機編隊が四つ、それぞれに敵艦を屠るべく海面へ向けて降下して行く。
曙の乱入で陣形が乱れ始めた敵を追うにはその方が効果的だ。
戦闘は艦娘たちの圧倒的優位で推移していった。
瑞鶴の合図で四機ずつにまとまった雷撃機編隊が四つ、それぞれに敵艦を屠るべく海面へ向けて降下して行く。
曙の乱入で陣形が乱れ始めた敵を追うにはその方が効果的だ。
戦闘は艦娘たちの圧倒的優位で推移していった。
90: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:14:13.75 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
半日。
それが、この海域が静かになるまでに要した時間だ。
洋上のいくつかの場所では、未だに黒煙を吹き上げる敵がゆっくりと海底に還りつつあった。そのほとんどは輸送艦。黒煙は積載していた補給用燃料が引火したものだ。
こちらの船団を襲い、物資を奪うつもりだったにしては、果たしてそれを積むだけの余裕があったのかと疑いたくなるような状況だ。
だが、敵も長距離を移動してきている。やり直しのきかない作戦ともなれば、万全を期していたのだろう。
それを静かに見つめる鳳翔の背後から誰かが近づいてくる気配。
「さすがに、無傷というわけにはいきませんネー」
ところどころが煤け、破れも見える衣装の袖で額の汗を拭う金剛だ。
ふと見れば背中の艤装の一部にも被弾の跡が見受けられる。
「途中から静かになった理由はそれですか」
半日。
それが、この海域が静かになるまでに要した時間だ。
洋上のいくつかの場所では、未だに黒煙を吹き上げる敵がゆっくりと海底に還りつつあった。そのほとんどは輸送艦。黒煙は積載していた補給用燃料が引火したものだ。
こちらの船団を襲い、物資を奪うつもりだったにしては、果たしてそれを積むだけの余裕があったのかと疑いたくなるような状況だ。
だが、敵も長距離を移動してきている。やり直しのきかない作戦ともなれば、万全を期していたのだろう。
それを静かに見つめる鳳翔の背後から誰かが近づいてくる気配。
「さすがに、無傷というわけにはいきませんネー」
ところどころが煤け、破れも見える衣装の袖で額の汗を拭う金剛だ。
ふと見れば背中の艤装の一部にも被弾の跡が見受けられる。
「途中から静かになった理由はそれですか」
91: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:14:53.80 ID:6VHVfebZo
鳳翔は呆れた口調で言う。
金剛の艤装に取り付けられていたはずの、無線用マストが跡形もなく消し飛んでいた。
「イエース。送受信ともに不能デス。あのバカの声を聞かなくて済みそうだけどネ」
苦笑いをする金剛。
「おかげで、艦隊の指揮までやる羽目になって、大忙しでしたよ」
「鳳翔なら安心して任せられマス」
「そう言っていただけるのは光栄ですが、あなたの行動は艦隊旗艦としてどうかと思いますよ? 何も盾にまでならなくてもよかったのではないですか?」
とは言ってみたものの、その奮戦のおかげで第七駆逐隊は、ほぼ無傷だ。
あれだけの戦闘をしてきたにもかかわらず、朧が魚雷発射管に不調を訴える程度で済んでいる。それもすぐに修理が終わると報告があった。
「優秀な子たちは、無傷で残しておきたかったんですヨ。バシー海峡のクリーンアップが残ってるからネ」
金剛の艤装に取り付けられていたはずの、無線用マストが跡形もなく消し飛んでいた。
「イエース。送受信ともに不能デス。あのバカの声を聞かなくて済みそうだけどネ」
苦笑いをする金剛。
「おかげで、艦隊の指揮までやる羽目になって、大忙しでしたよ」
「鳳翔なら安心して任せられマス」
「そう言っていただけるのは光栄ですが、あなたの行動は艦隊旗艦としてどうかと思いますよ? 何も盾にまでならなくてもよかったのではないですか?」
とは言ってみたものの、その奮戦のおかげで第七駆逐隊は、ほぼ無傷だ。
あれだけの戦闘をしてきたにもかかわらず、朧が魚雷発射管に不調を訴える程度で済んでいる。それもすぐに修理が終わると報告があった。
「優秀な子たちは、無傷で残しておきたかったんですヨ。バシー海峡のクリーンアップが残ってるからネ」
92: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:15:25.85 ID:6VHVfebZo
確かにそうだ。
神通と白露、涼風の三名は経験豊富だが、残る二人、江風と海風にとっては初めての実戦だ。
先日の演習でも、まだ戸惑っている姿が見受けられたくらいだから、彼女たちだけでバシー海峡を制圧するのはいささか骨の折れる作業になるだろう。
「タイムリミットのある仕事だからネー。そういえば、赤城は何か言ってきましたカ?」
「敵攻撃隊を駆逐、支障なし。とだけ――ちょうど金剛の無線がダメになった頃です」
「駆逐で間違いないデス? 撃退とかではなくて?」
「ええ。駆逐で間違いありません」
それを聞いた金剛にニヤリと笑みが浮かぶ。
「赤城たちも追ってくる敵を捕捉したみたいネ」
その単語が何らかの符丁だったのだろう。通信筒に収められた命令書に、その辺も書いてあったようだ。
神通と白露、涼風の三名は経験豊富だが、残る二人、江風と海風にとっては初めての実戦だ。
先日の演習でも、まだ戸惑っている姿が見受けられたくらいだから、彼女たちだけでバシー海峡を制圧するのはいささか骨の折れる作業になるだろう。
「タイムリミットのある仕事だからネー。そういえば、赤城は何か言ってきましたカ?」
「敵攻撃隊を駆逐、支障なし。とだけ――ちょうど金剛の無線がダメになった頃です」
「駆逐で間違いないデス? 撃退とかではなくて?」
「ええ。駆逐で間違いありません」
それを聞いた金剛にニヤリと笑みが浮かぶ。
「赤城たちも追ってくる敵を捕捉したみたいネ」
その単語が何らかの符丁だったのだろう。通信筒に収められた命令書に、その辺も書いてあったようだ。
93: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:16:05.81 ID:6VHVfebZo
「では、輸送船団は安全ということになりますね」
「イエス。あとはバシー海峡さえ何とかできれば――」
鳳翔の通信機が呼び出しを受けたのはその時。
金剛が応答しない場合は、鳳翔を呼ぶというのが事前の取り決めだ。
「鳳翔です」
『佐世保より最優先命令だ』
声の主は佐世保司令。凶報を運ぶ者としては、この上ないほどに最適だろう。
「金剛は通信機の損傷のため、鳳翔が通信を代行しています」
そう告げて、通信機をスピーカーモードに変更する。
全員が聞いているという状態を宣言したのだから、言葉を使った下手な細工はできないはずだ。
「イエス。あとはバシー海峡さえ何とかできれば――」
鳳翔の通信機が呼び出しを受けたのはその時。
金剛が応答しない場合は、鳳翔を呼ぶというのが事前の取り決めだ。
「鳳翔です」
『佐世保より最優先命令だ』
声の主は佐世保司令。凶報を運ぶ者としては、この上ないほどに最適だろう。
「金剛は通信機の損傷のため、鳳翔が通信を代行しています」
そう告げて、通信機をスピーカーモードに変更する。
全員が聞いているという状態を宣言したのだから、言葉を使った下手な細工はできないはずだ。
94: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:16:39.30 ID:6VHVfebZo
それに引っかかるような金剛ではないだろうが、念には念を入れておく。
『なるほどな。だからいくら呼び出しても繋がらないわけだ。通信以外は無事なのか?』
「残念ながらネ」
皮肉たっぷりに応答する金剛。
沈んでいれば、解任要求を出されることはないのだから。
わずかだけ生まれた間から、そういった歪んだ願いが滲み出ている気がした。
『……金剛隊は台湾海峡へ向かえ』
「ワッツ?」
『新たな敵が台湾海峡へ向けて北上しているのを確認したそうだ。それを阻止してもらう必要がある』
鳳翔と金剛は顔を見合わせる。
『なるほどな。だからいくら呼び出しても繋がらないわけだ。通信以外は無事なのか?』
「残念ながらネ」
皮肉たっぷりに応答する金剛。
沈んでいれば、解任要求を出されることはないのだから。
わずかだけ生まれた間から、そういった歪んだ願いが滲み出ている気がした。
『……金剛隊は台湾海峡へ向かえ』
「ワッツ?」
『新たな敵が台湾海峡へ向けて北上しているのを確認したそうだ。それを阻止してもらう必要がある』
鳳翔と金剛は顔を見合わせる。
95: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:18:06.21 ID:6VHVfebZo
「今更ですか?」
そう声に出したのは鳳翔。自分でも驚いてしまったほどだ。
大きな声ではなかったとはいえ、聞こえてしまったに違いない。
受け取り方によっては、かなり棘のある言葉になるはずだ。
そのくらい、あまりにも馬鹿げた話だったのだ。
とにかく。
すでにバシー海峡の再制圧作戦は始まっているし、自分たちが合流すれば、比較的早い段階で安全の確保はできるのだから、船団が航路を変える必要はない。
それに。
「今から敵が台湾海峡を抜けたとシテモ、たどり着く頃には船団なんて安全圏にいるはずデス」
金剛が苦笑いしながらも、その疑問をぶつける。
そう声に出したのは鳳翔。自分でも驚いてしまったほどだ。
大きな声ではなかったとはいえ、聞こえてしまったに違いない。
受け取り方によっては、かなり棘のある言葉になるはずだ。
そのくらい、あまりにも馬鹿げた話だったのだ。
とにかく。
すでにバシー海峡の再制圧作戦は始まっているし、自分たちが合流すれば、比較的早い段階で安全の確保はできるのだから、船団が航路を変える必要はない。
それに。
「今から敵が台湾海峡を抜けたとシテモ、たどり着く頃には船団なんて安全圏にいるはずデス」
金剛が苦笑いしながらも、その疑問をぶつける。
96: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:18:43.35 ID:6VHVfebZo
『予定どおりならな――先ほどの情報で、船団の足が止まってるのを確認した』
「ダーメット! 何があったのデス?」
『詳細は不明。こちらの手元にあるのも位置通報システムの情報だけだ』
衛星を使って自分の位置を計測した後、針路と速度、機関の状態といった最低限のステータスを、暗号化した上に圧縮して送信しているのが位置通報システムだと聞いていた。
発信間隔は一時間に一度、送信時間はわずか二秒。
現代の高性能な電子戦システムならいざ知らず、深海棲艦がそれを利用して位置を割り出すのは困難なはずだ。
だから無線が使えない状況下でも、生存を確認できる数少ない手段の一つとして使われている。
『よほどのことがない限り、位置の暴露を避けるために船団は無線を封止している。だから、その状況は深刻ではないと判断したということだ』
少なくとも敵の攻撃ではない。
わかるのはそれくらい。
「状況を確認できる手段はないのデス?」
「ダーメット! 何があったのデス?」
『詳細は不明。こちらの手元にあるのも位置通報システムの情報だけだ』
衛星を使って自分の位置を計測した後、針路と速度、機関の状態といった最低限のステータスを、暗号化した上に圧縮して送信しているのが位置通報システムだと聞いていた。
発信間隔は一時間に一度、送信時間はわずか二秒。
現代の高性能な電子戦システムならいざ知らず、深海棲艦がそれを利用して位置を割り出すのは困難なはずだ。
だから無線が使えない状況下でも、生存を確認できる数少ない手段の一つとして使われている。
『よほどのことがない限り、位置の暴露を避けるために船団は無線を封止している。だから、その状況は深刻ではないと判断したということだ』
少なくとも敵の攻撃ではない。
わかるのはそれくらい。
「状況を確認できる手段はないのデス?」
97: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:19:17.95 ID:6VHVfebZo
話しながら、器用にも少し離れた位置にいる瑞鶴に向けて発光信号を送る金剛。
”シヤウカク ニ カクニン”
先ほどのわずかな間は、金剛の警戒心を呼び起こすのに充分だったようだ。
瑞鶴はすぐに自分の回線を使って、翔鶴を呼び出し始めた。
艤装自体は修復されていなかったとしても、基地にいる以上通信機器は他にもある。
『赤城隊が派手にやってくれているせいで、偵察機を飛ばせない。これもお前の作戦だろう?』
艦娘の存在は秘密とされている。
そして、空からの偵察は広い範囲が目に入る。海面とは違って水平線は遠いのだから。
そこに黒煙の一つ、砲火の一つでもあれば、気になるのが人情というものだ。
ましてや、偵察範囲の近くであればなおさら。
”シヤウカク ニ カクニン”
先ほどのわずかな間は、金剛の警戒心を呼び起こすのに充分だったようだ。
瑞鶴はすぐに自分の回線を使って、翔鶴を呼び出し始めた。
艤装自体は修復されていなかったとしても、基地にいる以上通信機器は他にもある。
『赤城隊が派手にやってくれているせいで、偵察機を飛ばせない。これもお前の作戦だろう?』
艦娘の存在は秘密とされている。
そして、空からの偵察は広い範囲が目に入る。海面とは違って水平線は遠いのだから。
そこに黒煙の一つ、砲火の一つでもあれば、気になるのが人情というものだ。
ましてや、偵察範囲の近くであればなおさら。
98: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:19:53.93 ID:6VHVfebZo
『とにかく。輸送船の大半は休みなく酷使されている。何が起きてもおかしくはない。船底に大穴でも開いたのなら諦めもつくんだがね』
その言葉の間に、瑞鶴から信号が返ってくる。
”カンムス ソクオウ タイキ カレイ サル”
基地に待機している艦娘たちに即応待機命令が出たということは、この一件に関しては間違いなく事実だということだ。
金剛も理解したというように軽く頷く。
「了解ネ。会敵は東シナ海にするけど、文句ないデス?」
『そこしかあるまい。南側から追いかけても間に合わんだろうからな』
「そのくらいの計算はできたのデスネ。以上、通信終わり」
もう一度、最後に痛烈な皮肉を入れた上で、鳳翔の通信機をいじって強制的に切ってしまう金剛。
「今のは余計だったのではありませんか?」
その言葉の間に、瑞鶴から信号が返ってくる。
”カンムス ソクオウ タイキ カレイ サル”
基地に待機している艦娘たちに即応待機命令が出たということは、この一件に関しては間違いなく事実だということだ。
金剛も理解したというように軽く頷く。
「了解ネ。会敵は東シナ海にするけど、文句ないデス?」
『そこしかあるまい。南側から追いかけても間に合わんだろうからな』
「そのくらいの計算はできたのデスネ。以上、通信終わり」
もう一度、最後に痛烈な皮肉を入れた上で、鳳翔の通信機をいじって強制的に切ってしまう金剛。
「今のは余計だったのではありませんか?」
99: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:20:25.75 ID:6VHVfebZo
鳳翔の小言にも動じることなく。
「ノープロブレム。ガラスのプライドにとびきり大きい石をぶつけた後ですヨ? この後どれだけ小さなのを投げたところで、壊れてるという事実に変わりはありまセン」
カラカラと笑ってみせる。
もはや二人の関係は修復不能なレベルだということだ。
だから。
「ヘイ瑞鶴、もう一度翔鶴に連絡をとって、今の話の裏をとるように言ってくだサイ」
何があってもおかしくはない。
そういう考えが、金剛の中にはあるのだ。
「どこへよ?」
「横須賀の司令官デス」
「ノープロブレム。ガラスのプライドにとびきり大きい石をぶつけた後ですヨ? この後どれだけ小さなのを投げたところで、壊れてるという事実に変わりはありまセン」
カラカラと笑ってみせる。
もはや二人の関係は修復不能なレベルだということだ。
だから。
「ヘイ瑞鶴、もう一度翔鶴に連絡をとって、今の話の裏をとるように言ってくだサイ」
何があってもおかしくはない。
そういう考えが、金剛の中にはあるのだ。
「どこへよ?」
「横須賀の司令官デス」
100: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:20:59.76 ID:6VHVfebZo
「その人、信用できるの?」
瑞鶴の疑問は当たり前だろう。接点など一度もないのだから。
鳳翔ですら、間に白露と涼風というフィルターを挟んでの評価しかできていない。
「人間は信用できマセン。今後は艦娘だけでどうするかを考える必要があると思いマス」
佐世保司令との確執は、金剛と司令という個人の問題では止まらないだろう。
おそらくは大きな波となって艦娘たちすべてに関わって来ることになる。
金剛はそれを見越している。
「だからこそ、借りは返す必要があるんデスヨ」
「意味がわからないんだけど?」
「万が一、佐世保が何か企んでいたら、それを阻止することで横須賀の司令官は出世の邪魔になる人物を一人排除できマス。何も言わなくても、それを理解できる頭は持ってるはずデス」
瑞鶴の疑問は当たり前だろう。接点など一度もないのだから。
鳳翔ですら、間に白露と涼風というフィルターを挟んでの評価しかできていない。
「人間は信用できマセン。今後は艦娘だけでどうするかを考える必要があると思いマス」
佐世保司令との確執は、金剛と司令という個人の問題では止まらないだろう。
おそらくは大きな波となって艦娘たちすべてに関わって来ることになる。
金剛はそれを見越している。
「だからこそ、借りは返す必要があるんデスヨ」
「意味がわからないんだけど?」
「万が一、佐世保が何か企んでいたら、それを阻止することで横須賀の司令官は出世の邪魔になる人物を一人排除できマス。何も言わなくても、それを理解できる頭は持ってるはずデス」
101: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:22:15.44 ID:6VHVfebZo
借りは返し、その上で貸しを作る。
そうやって、たとえ仮初めでも味方を作る。
そうしなければ、艦娘たちは今までと同じように、使い捨ての兵器としてのみ存在して行くことになる。
そんな場面を何度も見てきた金剛だからこその決断かもしれない。
我慢の限界だと言ったのだから。
「佐世保が何もしてなかったら?」
「その時は、今回の顛末を横須賀の司令官に教えてあげマス。翔鶴と瑞鳳の艤装を直すための資源と引き換えなら、お釣りが来るくらいだと思いませんカ?」
何かが動き始めるきっかけというものは、たいていの場合、それをもたらした者はそうだとは気がつかないのだ。
「電話で話した感じトカ、聞こえて来る噂ではいい人みたいダシ、この件とはほとんど無関係ですカラ、巻き込みたくないというのが正直なところデス……でも、私たちに利用するものを選ぶ余裕はないんデス」
自分に言い聞かせるように、ひとつひとつの言葉を丁寧に紡いで行く金剛。
そうやって、たとえ仮初めでも味方を作る。
そうしなければ、艦娘たちは今までと同じように、使い捨ての兵器としてのみ存在して行くことになる。
そんな場面を何度も見てきた金剛だからこその決断かもしれない。
我慢の限界だと言ったのだから。
「佐世保が何もしてなかったら?」
「その時は、今回の顛末を横須賀の司令官に教えてあげマス。翔鶴と瑞鳳の艤装を直すための資源と引き換えなら、お釣りが来るくらいだと思いませんカ?」
何かが動き始めるきっかけというものは、たいていの場合、それをもたらした者はそうだとは気がつかないのだ。
「電話で話した感じトカ、聞こえて来る噂ではいい人みたいダシ、この件とはほとんど無関係ですカラ、巻き込みたくないというのが正直なところデス……でも、私たちに利用するものを選ぶ余裕はないんデス」
自分に言い聞かせるように、ひとつひとつの言葉を丁寧に紡いで行く金剛。
102: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:23:26.05 ID:6VHVfebZo
「ダカラ――」
そして、未練を断ち切るように、決然と。
「恨むなら引き金を引いたヤツと、私を恨めばいいんデス」
ならば金剛のこの決断は、これから何をもたらすのだろうか。
大海の中の小さなうねりが、海岸をさらうような大きな波になるかもしれない。
鳳翔の胸に不安が澱のように溜まって行く。
そして、未練を断ち切るように、決然と。
「恨むなら引き金を引いたヤツと、私を恨めばいいんデス」
ならば金剛のこの決断は、これから何をもたらすのだろうか。
大海の中の小さなうねりが、海岸をさらうような大きな波になるかもしれない。
鳳翔の胸に不安が澱のように溜まって行く。
103: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:24:08.93 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
敵艦隊の動向は、佐世保を経由して随時伝えられていた。
その情報が確かであれば、そろそろ台湾海峡を抜けるはずだ。
金剛隊はそれを待ち構えるべく、基隆市の北方沖六〇キロほどにある彭佳嶼と言う島に身を潜めている。
輸送船団を狙うのであれば、敵艦隊は間違いなくこの近くを通ることになる。
「船団の状況は変わらずデス?」
自身の通信機器を破壊された金剛は、情報の入手を他の艦娘に任せるしかない。
「ええ。そろそろ次の状況を知らせてくる時間です」
「それがラストチャンスということになりますネ」
その時点で船団が動き始めていれば、金剛は敵に手を出さないと宣言している。
まず間違いなく敵が船団に接触する可能性がないからだ。
敵艦隊の動向は、佐世保を経由して随時伝えられていた。
その情報が確かであれば、そろそろ台湾海峡を抜けるはずだ。
金剛隊はそれを待ち構えるべく、基隆市の北方沖六〇キロほどにある彭佳嶼と言う島に身を潜めている。
輸送船団を狙うのであれば、敵艦隊は間違いなくこの近くを通ることになる。
「船団の状況は変わらずデス?」
自身の通信機器を破壊された金剛は、情報の入手を他の艦娘に任せるしかない。
「ええ。そろそろ次の状況を知らせてくる時間です」
「それがラストチャンスということになりますネ」
その時点で船団が動き始めていれば、金剛は敵に手を出さないと宣言している。
まず間違いなく敵が船団に接触する可能性がないからだ。
104: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:24:46.71 ID:6VHVfebZo
バシー海峡に残してきた神通たちは、順調に海域を制圧しつつある。
慣れていない艦娘二人を従えている割には上出来すぎるくらいだ。
とにかく、ここでむやみやたらに攻撃を仕掛けても、ある程度の時間で戦力の補充が可能な敵に対して意味などない。
むしろ資源を無駄に消費する分、艦娘の側が追い込まれるだけだ。
それに加えて。
「さすがに戦艦八隻を相手にしたくないデスネ」
「こちらの輸送船団も大規模ですが、それを叩くための編成にしては、やりすぎな気もします」
「ホントにネ。何を考えているのか、できるなら聞いてみたいデス」
戦力差が歴然としていた。
金剛が口にしたほかに、重巡や軽巡、駆逐艦を含めれば三〇を超える数がいるという情報だ。
慣れていない艦娘二人を従えている割には上出来すぎるくらいだ。
とにかく、ここでむやみやたらに攻撃を仕掛けても、ある程度の時間で戦力の補充が可能な敵に対して意味などない。
むしろ資源を無駄に消費する分、艦娘の側が追い込まれるだけだ。
それに加えて。
「さすがに戦艦八隻を相手にしたくないデスネ」
「こちらの輸送船団も大規模ですが、それを叩くための編成にしては、やりすぎな気もします」
「ホントにネ。何を考えているのか、できるなら聞いてみたいデス」
戦力差が歴然としていた。
金剛が口にしたほかに、重巡や軽巡、駆逐艦を含めれば三〇を超える数がいるという情報だ。
105: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:25:23.40 ID:6VHVfebZo
とてもではないが金剛隊だけでどうにかなるような相手ではない。
そもそも、あと三時間もすれば日が暮れる。
そうなれば鳳翔と瑞鶴の航空隊も使えないのだから、お手上げだ。
もちろん、佐世保にいる即応待機の艦娘たちにはすでに支援の要請を出したし、こちらに向かっているという連絡もあった。
だが、到着するのはどんなに早くても明日の朝。
「横須賀の方からも音沙汰なしだカラ、情報は本当だったと考えていいのかもしれまセン」
「もし、船団が動いていなければどうしますか?」
「足止めするのが精一杯デス」
とはいっても、その足止めもどれだけすればいいのかなどわからない。
最低でも、支援が到着するまではこの数で乗り切ることになる。
そもそも、あと三時間もすれば日が暮れる。
そうなれば鳳翔と瑞鶴の航空隊も使えないのだから、お手上げだ。
もちろん、佐世保にいる即応待機の艦娘たちにはすでに支援の要請を出したし、こちらに向かっているという連絡もあった。
だが、到着するのはどんなに早くても明日の朝。
「横須賀の方からも音沙汰なしだカラ、情報は本当だったと考えていいのかもしれまセン」
「もし、船団が動いていなければどうしますか?」
「足止めするのが精一杯デス」
とはいっても、その足止めもどれだけすればいいのかなどわからない。
最低でも、支援が到着するまではこの数で乗り切ることになる。
106: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:25:57.99 ID:6VHVfebZo
全ては船団の状況次第ということだ。
そして。
『佐世保より、船団の状況を知らせる』
時間通りに通信が入る。
――船団の状況に変化なし。移動はしていない――
金剛のため息とともに、地獄の扉が開かれた。
そして。
『佐世保より、船団の状況を知らせる』
時間通りに通信が入る。
――船団の状況に変化なし。移動はしていない――
金剛のため息とともに、地獄の扉が開かれた。
107: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:27:14.77 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
金剛の立てた作戦は極めてシンプルなものだった。
『金剛! 針路〇六〇へ向けて移動する敵艦隊を視認! こっちも見つかった!』
曙の切迫した声が無線から飛び込んでくる。
「オーライ! そのまま東に引っ張ってきてクダサイ! 弾は全部避けてネ!」
『無茶なことをサラッと言ってくれるわね!』
台湾本島の北には三角形を描くように、それぞれの頂点に三つの島がある。
北の彭佳嶼、東には棉花嶼、そして南に花瓶嶼だ。
これらを結ぶ線を絶対防衛線とし、敵に対して断続的な奇襲を仕掛けていくというものだ。
金剛隊にとっての勝利条件も極めてシンプル。
翌朝、〇七〇〇時まで敵の突破を阻止すること。そうすれば、佐世保を出た支援艦隊が合流する。
金剛の立てた作戦は極めてシンプルなものだった。
『金剛! 針路〇六〇へ向けて移動する敵艦隊を視認! こっちも見つかった!』
曙の切迫した声が無線から飛び込んでくる。
「オーライ! そのまま東に引っ張ってきてクダサイ! 弾は全部避けてネ!」
『無茶なことをサラッと言ってくれるわね!』
台湾本島の北には三角形を描くように、それぞれの頂点に三つの島がある。
北の彭佳嶼、東には棉花嶼、そして南に花瓶嶼だ。
これらを結ぶ線を絶対防衛線とし、敵に対して断続的な奇襲を仕掛けていくというものだ。
金剛隊にとっての勝利条件も極めてシンプル。
翌朝、〇七〇〇時まで敵の突破を阻止すること。そうすれば、佐世保を出た支援艦隊が合流する。
108: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:27:52.64 ID:6VHVfebZo
だが、計画や目的がシンプルであっても、実際にそれを成し遂げるのはまた別の話になる。
そして、それをするためには敵の数をできるだけ減らさなければならない。
「鳳翔、瑞鶴! 曙が泣き出す前に航空隊をぶつけてクダサイ」
『誰が泣くのよ! 誰――うわっ!』
曙の声が途切れる。
「ヘイ! 曙!」
誰の脳裏にも最悪の光景が思い浮かんだはずだ。
敵艦のどの砲弾を受けても、駆逐艦娘の曙にとっては致命的な一撃になりかねない。
『――ちょっとアイツら! 進路上に砲弾ばらまくとか、駆逐艦相手にセコイことすんな!』
だが、いつもの調子で曙の声が無線を通して飛び込んでくる。
そして、それをするためには敵の数をできるだけ減らさなければならない。
「鳳翔、瑞鶴! 曙が泣き出す前に航空隊をぶつけてクダサイ」
『誰が泣くのよ! 誰――うわっ!』
曙の声が途切れる。
「ヘイ! 曙!」
誰の脳裏にも最悪の光景が思い浮かんだはずだ。
敵艦のどの砲弾を受けても、駆逐艦娘の曙にとっては致命的な一撃になりかねない。
『――ちょっとアイツら! 進路上に砲弾ばらまくとか、駆逐艦相手にセコイことすんな!』
だが、いつもの調子で曙の声が無線を通して飛び込んでくる。
109: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:28:36.53 ID:6VHVfebZo
この世にこれほど聞いて嬉しい悪態もないだろう。
「進路上にばらまいてるんじゃナクテ、曙の動きがトリッキーなだけデス。性格が――」
『歪んでるからとか言ったら、魚雷食らわすわよ!』
「オウ……曙は話の先を読む力も抜群みたいデース」
『ちょっ――言うつもりだったわけ!? ……マジでやってやる! 次の演習の時覚えておきなさいよ!』
無線の向こうからは間断なく、砲弾が炸裂する音と、それらが盛大に海水を吹き上げる音が響いている。
その中でも、これだけの冗談を飛ばしながら動き回れるのだから、曙もなかなかに肝が座っている。
と言うよりも。
この冗談こそが余計な緊張を解きほぐして、本来の能力を引き出しているのだろう。
金剛はそれをわかってやっているのだ。
「進路上にばらまいてるんじゃナクテ、曙の動きがトリッキーなだけデス。性格が――」
『歪んでるからとか言ったら、魚雷食らわすわよ!』
「オウ……曙は話の先を読む力も抜群みたいデース」
『ちょっ――言うつもりだったわけ!? ……マジでやってやる! 次の演習の時覚えておきなさいよ!』
無線の向こうからは間断なく、砲弾が炸裂する音と、それらが盛大に海水を吹き上げる音が響いている。
その中でも、これだけの冗談を飛ばしながら動き回れるのだから、曙もなかなかに肝が座っている。
と言うよりも。
この冗談こそが余計な緊張を解きほぐして、本来の能力を引き出しているのだろう。
金剛はそれをわかってやっているのだ。
110: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:29:18.25 ID:6VHVfebZo
『漣、潮! そろそろ出番、よろしくね!』
瑞鶴が次の作戦の合図を出す。
曙に注意を奪われていた敵艦隊の両側面から近づいた二人は、それぞれに煙幕を展開しながら、敵と並走する形でまっすぐに突き進む。
艦隊行動のために速度を落としていた敵艦隊と、全速力で突き進む駆逐艦娘では速度の差が大きい。
あっという間に敵艦隊の両側面は煙幕で覆い隠され、視界を奪われた。
『攻撃隊突入!』
その煙幕を切り裂くように、瑞鶴と鳳翔がはなった九七式艦攻が魚雷を抱いて突っ込んでいく。
高度一〇メートル、距離一二〇〇で投下された数十の魚雷が敵艦隊めがけて群がる。
無数の水柱が敵艦の側面から立ち上り、爆音に続いて断末魔の悲鳴が響く。
「曙は瑞鶴と合流。朧は残りの子たちをまとめてクダサイ」
瑞鶴が次の作戦の合図を出す。
曙に注意を奪われていた敵艦隊の両側面から近づいた二人は、それぞれに煙幕を展開しながら、敵と並走する形でまっすぐに突き進む。
艦隊行動のために速度を落としていた敵艦隊と、全速力で突き進む駆逐艦娘では速度の差が大きい。
あっという間に敵艦隊の両側面は煙幕で覆い隠され、視界を奪われた。
『攻撃隊突入!』
その煙幕を切り裂くように、瑞鶴と鳳翔がはなった九七式艦攻が魚雷を抱いて突っ込んでいく。
高度一〇メートル、距離一二〇〇で投下された数十の魚雷が敵艦隊めがけて群がる。
無数の水柱が敵艦の側面から立ち上り、爆音に続いて断末魔の悲鳴が響く。
「曙は瑞鶴と合流。朧は残りの子たちをまとめてクダサイ」
111: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:29:54.50 ID:6VHVfebZo
『了解! しくじるんじゃないわよ!』
敵艦隊の前方で再び煙幕が広がる。
曙が自分と仲間たちの行動を隠すために展開したものだ。
その向こう側、曙が突き進んでいた先で、鳳翔と金剛が待ち構える。
それぞれに持てる限りの火力を煙幕の向こうに向けて、一斉に放つ。
当てることなど考えてはいない。
敵に混乱さえ巻き起こせれば充分だ。
二度斉射して、待機する。
今度は、敵の右舷側から瑞鶴と曙、少し遅れて左舷側から朧、漣、潮も同じように砲撃を開始。それらは間断なく続く。
煙幕の向こうの様子をうかがい知ることはできない。
敵艦隊の前方で再び煙幕が広がる。
曙が自分と仲間たちの行動を隠すために展開したものだ。
その向こう側、曙が突き進んでいた先で、鳳翔と金剛が待ち構える。
それぞれに持てる限りの火力を煙幕の向こうに向けて、一斉に放つ。
当てることなど考えてはいない。
敵に混乱さえ巻き起こせれば充分だ。
二度斉射して、待機する。
今度は、敵の右舷側から瑞鶴と曙、少し遅れて左舷側から朧、漣、潮も同じように砲撃を開始。それらは間断なく続く。
煙幕の向こうの様子をうかがい知ることはできない。
112: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:30:28.55 ID:6VHVfebZo
けれど敵に打てる手は一つ。
まずはまっすぐに全速力で進んで、煙幕を突っ切ること。
航空隊の攻撃で沈みつつある仲間に加え、両側面から砲弾が飛んでくるのだから、それらが邪魔をして正面以外に進む道はないからだ。
「ヘイ、鳳翔?」
「わかっています」
二人は煙幕の切れ目に照準を合わせる。
時間の流れがゆっくりになった気がする。
一秒が何倍にも、何十倍にもなった感覚。
何かを待つとは、そう言うものだ。
「うまくいきますか?」
まずはまっすぐに全速力で進んで、煙幕を突っ切ること。
航空隊の攻撃で沈みつつある仲間に加え、両側面から砲弾が飛んでくるのだから、それらが邪魔をして正面以外に進む道はないからだ。
「ヘイ、鳳翔?」
「わかっています」
二人は煙幕の切れ目に照準を合わせる。
時間の流れがゆっくりになった気がする。
一秒が何倍にも、何十倍にもなった感覚。
何かを待つとは、そう言うものだ。
「うまくいきますか?」
113: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:31:08.75 ID:6VHVfebZo
珍しく鳳翔がじれた。
だが、金剛は超然として。
「いきましたヨ」
黒い影が見えた瞬間、二人の砲口が火を吹いた。
煙幕から抜け出した途端に、砲弾の雨を浴びる敵。
瞬く間もなく、火柱と黒煙を吹いて海中に没していく。
危険域を脱したと思った矢先の奇襲に、敵はさらなる恐慌を引き起こす。
それは後ろに続く仲間へと次々に伝播していった。
それも、視界の効かない煙幕の中で。
目の前で燃え盛る仲間に突っ込んでしまった敵は、その誘爆に巻き込まれた。
だが、金剛は超然として。
「いきましたヨ」
黒い影が見えた瞬間、二人の砲口が火を吹いた。
煙幕から抜け出した途端に、砲弾の雨を浴びる敵。
瞬く間もなく、火柱と黒煙を吹いて海中に没していく。
危険域を脱したと思った矢先の奇襲に、敵はさらなる恐慌を引き起こす。
それは後ろに続く仲間へと次々に伝播していった。
それも、視界の効かない煙幕の中で。
目の前で燃え盛る仲間に突っ込んでしまった敵は、その誘爆に巻き込まれた。
114: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:31:45.87 ID:6VHVfebZo
それを見た後続は、無秩序に舵を切ったがために衝突した。
それを避けるべく慌てて立ち止まったせいで、後ろが動けなくなった。
そこへ、さらに砲弾が降り注ぐ。
その場しのぎに放った砲弾が仲間の装甲を貫いた。
飛び散った破片が海中を切り裂き、魚雷のように見えた。
回避の手段をなくした敵は、窮余の策で砲弾を海中に撃ち込む。
水柱、水柱、水柱……。
今度は大量の海水が霧となり、視界を遮る。
そこへ。
今度こそ、必殺の槍を携えた第七駆逐隊が突っ込んだ。
それを避けるべく慌てて立ち止まったせいで、後ろが動けなくなった。
そこへ、さらに砲弾が降り注ぐ。
その場しのぎに放った砲弾が仲間の装甲を貫いた。
飛び散った破片が海中を切り裂き、魚雷のように見えた。
回避の手段をなくした敵は、窮余の策で砲弾を海中に撃ち込む。
水柱、水柱、水柱……。
今度は大量の海水が霧となり、視界を遮る。
そこへ。
今度こそ、必殺の槍を携えた第七駆逐隊が突っ込んだ。
115: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:32:32.88 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
奇襲の効果など長くは続かない。
数的に不利な金剛たちにとって、そこから立ち直った敵を相手にする力はない。
だから、ある程度のところで撤収する。
事実、そうしていた。
「戦艦三、重巡と軽巡が四、駆逐艦八を撃沈。中大破を含め損傷の規模は不明……上出来デス」
戦果を確認する金剛の顔には喜色が浮かんでいた。
敵戦力のおよそ半数を奪ったことになるのだから、当然と言えるだろう。
「これで、朝までなんとか耐えられますネ」
この後の戦いには鳳翔と瑞鶴は実質的に参加できない。
日が暮れてしまえば、艦載機を使うことはできないからだ。
奇襲の効果など長くは続かない。
数的に不利な金剛たちにとって、そこから立ち直った敵を相手にする力はない。
だから、ある程度のところで撤収する。
事実、そうしていた。
「戦艦三、重巡と軽巡が四、駆逐艦八を撃沈。中大破を含め損傷の規模は不明……上出来デス」
戦果を確認する金剛の顔には喜色が浮かんでいた。
敵戦力のおよそ半数を奪ったことになるのだから、当然と言えるだろう。
「これで、朝までなんとか耐えられますネ」
この後の戦いには鳳翔と瑞鶴は実質的に参加できない。
日が暮れてしまえば、艦載機を使うことはできないからだ。
116: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:33:07.66 ID:6VHVfebZo
せいぜい、砲撃で相手の気を散らせるのが関の山だし、それを求められてもいた。
「しかし、まだ戦艦が五隻残っています」
「そうネ……今夜は駆逐隊に頑張ってもらうことになりマス」
鳳翔は空を見上げる。
まるで牛乳を流し込んだように濁りはじめていた。
風の色だ。
それが何を意味しているのか、鳳翔はよく知っている。
「天候が崩れますね。夜半過ぎには雨でしょう」
小柄で華奢な駆逐艦娘たちを戦場の一番危険なところに放り込むのは、なんだかんだと言っても気がひけるのだ。
さらに天候が崩れるとなれば、視界も悪くなり危険度は増す。
「しかし、まだ戦艦が五隻残っています」
「そうネ……今夜は駆逐隊に頑張ってもらうことになりマス」
鳳翔は空を見上げる。
まるで牛乳を流し込んだように濁りはじめていた。
風の色だ。
それが何を意味しているのか、鳳翔はよく知っている。
「天候が崩れますね。夜半過ぎには雨でしょう」
小柄で華奢な駆逐艦娘たちを戦場の一番危険なところに放り込むのは、なんだかんだと言っても気がひけるのだ。
さらに天候が崩れるとなれば、視界も悪くなり危険度は増す。
117: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:33:41.82 ID:6VHVfebZo
だが、頼らなければどうにもならないのも事実。
「問題ないわよ。むしろ悪天候なら好都合。それに紛れて近づくこともできるし、そうなれば島においてきた予備の魚雷も計算に入れて、残りの奴らを三回ずつは沈めてやれる」
鳳翔の心中などどこ吹く風。当の本人たちは血気盛んだ。
曙のセリフにわっと沸き立つ。
「ヘイヘイ、デストロイヤーズ。元気なのはいいですケド、足元を掬われないようにお願いヨ?」
この海域の海中哨戒などされていない。
どこに潜水艦が潜んでいるか分かったものではないのだ。
笑いながらの一言ではあるが、金剛にとっては冗談にも洒落にもならない。
過去の戦争で、戦艦金剛が沈んだのはこの海域。
それも潜水艦からの一撃によるものだ。
「問題ないわよ。むしろ悪天候なら好都合。それに紛れて近づくこともできるし、そうなれば島においてきた予備の魚雷も計算に入れて、残りの奴らを三回ずつは沈めてやれる」
鳳翔の心中などどこ吹く風。当の本人たちは血気盛んだ。
曙のセリフにわっと沸き立つ。
「ヘイヘイ、デストロイヤーズ。元気なのはいいですケド、足元を掬われないようにお願いヨ?」
この海域の海中哨戒などされていない。
どこに潜水艦が潜んでいるか分かったものではないのだ。
笑いながらの一言ではあるが、金剛にとっては冗談にも洒落にもならない。
過去の戦争で、戦艦金剛が沈んだのはこの海域。
それも潜水艦からの一撃によるものだ。
118: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:34:12.87 ID:6VHVfebZo
「了解!」
駆逐艦娘たちは、気を引き締め海中に耳をすませる。
二度も金剛を台湾海峡に沈めるわけにはいかない。
そんな気持ちは、誰にもあっただろう。
だから。
洋上を進む艦娘たちは皆、もう一つの可能性のことを忘れていた。
それを最初に感じ取ったのは、隊列の後方を曙とともに進む瑞鶴だ。
「……なんか、嫌な感じよね」
「何がよ?」
「海。すごく騒ついてる感じがしてさ」
駆逐艦娘たちは、気を引き締め海中に耳をすませる。
二度も金剛を台湾海峡に沈めるわけにはいかない。
そんな気持ちは、誰にもあっただろう。
だから。
洋上を進む艦娘たちは皆、もう一つの可能性のことを忘れていた。
それを最初に感じ取ったのは、隊列の後方を曙とともに進む瑞鶴だ。
「……なんか、嫌な感じよね」
「何がよ?」
「海。すごく騒ついてる感じがしてさ」
119: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:35:10.82 ID:6VHVfebZo
「はぁ? あんた、海と会話なんかできるの? それとも魚?」
そう言いながらも、曙は周囲に目を向ける。
潜望鏡でも出ていれば、多少は波の音が賑やかになるかもしれない。
だが、日が暮れかけた海の上。あたりには何もなかった。
ふと瑞鶴に目を向けると、自分の体を抱きしめるようにして、震えを抑え込もうとしていた。
南の海とはいえ、この時間では風も冷たいし、体が冷えてもおかしくはない。
それを悪寒と感じてしまう可能性はあった。
何せ、瑞鶴にとってはこの一連の戦いが初めての実戦なのだから。
「ま、どっちでもいいんだけど、この辺りで潜水艦見なかったか聞いてくれると助かるわ」
少しでも気を紛らわそうと、あえて茶化す。
そう言いながらも、曙は周囲に目を向ける。
潜望鏡でも出ていれば、多少は波の音が賑やかになるかもしれない。
だが、日が暮れかけた海の上。あたりには何もなかった。
ふと瑞鶴に目を向けると、自分の体を抱きしめるようにして、震えを抑え込もうとしていた。
南の海とはいえ、この時間では風も冷たいし、体が冷えてもおかしくはない。
それを悪寒と感じてしまう可能性はあった。
何せ、瑞鶴にとってはこの一連の戦いが初めての実戦なのだから。
「ま、どっちでもいいんだけど、この辺りで潜水艦見なかったか聞いてくれると助かるわ」
少しでも気を紛らわそうと、あえて茶化す。
120: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:35:44.80 ID:6VHVfebZo
だが、瑞鶴はいたって真面目な顔で。
「そういうんじゃなく……いや、そういうもの……?」
何事かをぶつぶつと呟いている。
「意味わかんないって。これ終わったら医者に診てもらう?」
さすがに曙も心配になってきた。
戦闘という極度の緊張状態が続いた後だ。精神的に変調をきたすことはよくある。
その辺は艦娘であろうと、人であろうと変わらない。
おまけに今回の戦いは、初めて臨むにしては過酷な状況が続いてもいた。
今度はしきりに空を気にし始めた瑞鶴を見て、曙はため息をつく。
とりあえず鳳翔に一言伝えておいたほうがいいかもしれない。
「そういうんじゃなく……いや、そういうもの……?」
何事かをぶつぶつと呟いている。
「意味わかんないって。これ終わったら医者に診てもらう?」
さすがに曙も心配になってきた。
戦闘という極度の緊張状態が続いた後だ。精神的に変調をきたすことはよくある。
その辺は艦娘であろうと、人であろうと変わらない。
おまけに今回の戦いは、初めて臨むにしては過酷な状況が続いてもいた。
今度はしきりに空を気にし始めた瑞鶴を見て、曙はため息をつく。
とりあえず鳳翔に一言伝えておいたほうがいいかもしれない。
121: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:36:20.17 ID:6VHVfebZo
「鳳翔さ――」
ふと、曙の耳に何かの音が聞こえた。
いつもであれば、海の音にかき消されていたかもしれないほど小さな音。
蚊の羽音のような。
それは少しづつ大きくなっていく。
そして、気付く。
気付いて、空を見上げる。
まるで悲鳴のように。
「鳳翔さん! 金剛! 敵機直上!」
叫んだのは瑞鶴が先だった。
その声に弾かれたように、鳳翔は真上を見る。
ふと、曙の耳に何かの音が聞こえた。
いつもであれば、海の音にかき消されていたかもしれないほど小さな音。
蚊の羽音のような。
それは少しづつ大きくなっていく。
そして、気付く。
気付いて、空を見上げる。
まるで悲鳴のように。
「鳳翔さん! 金剛! 敵機直上!」
叫んだのは瑞鶴が先だった。
その声に弾かれたように、鳳翔は真上を見る。
122: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:36:54.40 ID:6VHVfebZo
金剛の通信を代行するべく、二人は並んで動いていた。
空から見れば最も狙いやすい的。
八つの黒い点が、みるみるうちに大きくなっていく。
それは真っ逆さまに落ちてくる、敵の急降下爆撃機。
その腹から小さな物体が切り離された。
おそらくは対艦攻撃のために調整された爆弾。
もはや避けようがない。
できるのは障壁を展開してダメージを限定的にすることくらいだ。
艤装が大破しても、重要区画――肉体へのダメージを最小限に留められれば、沈むことはない。
それに、この後の展開を考えれば金剛を守るべきだろう。
空から見れば最も狙いやすい的。
八つの黒い点が、みるみるうちに大きくなっていく。
それは真っ逆さまに落ちてくる、敵の急降下爆撃機。
その腹から小さな物体が切り離された。
おそらくは対艦攻撃のために調整された爆弾。
もはや避けようがない。
できるのは障壁を展開してダメージを限定的にすることくらいだ。
艤装が大破しても、重要区画――肉体へのダメージを最小限に留められれば、沈むことはない。
それに、この後の展開を考えれば金剛を守るべきだろう。
123: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:37:30.03 ID:6VHVfebZo
航空機を飛ばせないのであれば、空母に出番はない。
だから、鳳翔は覚悟を決めた。
果たして、艤装がどの程度のダメージを吸収してくれるか。
分の悪い賭けだと自覚して、苦笑いのまま――
「金剛! 後を任せます!」
障壁を展開する。
直後に鳳翔は横合いから激しい衝撃を受けて、数十メートル離れた海面に投げ出される。
投下された爆弾の炸裂ではない。
着水した鳳翔の体を爆風が襲ったのだから。
「金剛!」
投下された八発の爆弾が炸裂した。
だから、鳳翔は覚悟を決めた。
果たして、艤装がどの程度のダメージを吸収してくれるか。
分の悪い賭けだと自覚して、苦笑いのまま――
「金剛! 後を任せます!」
障壁を展開する。
直後に鳳翔は横合いから激しい衝撃を受けて、数十メートル離れた海面に投げ出される。
投下された爆弾の炸裂ではない。
着水した鳳翔の体を爆風が襲ったのだから。
「金剛!」
投下された八発の爆弾が炸裂した。
124: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:38:05.48 ID:6VHVfebZo
少し離れた位置にいた曙からは、その瞬間の最後までがはっきりと見えた。
金剛は障壁を使って、鳳翔を無理矢理に跳ね飛ばした。
バリンタンで見せたように、守るためにその内側に入れるのではなく、鳳翔が障壁を展開するのに合わせて、自分の障壁を展開して干渉させたのだ。
そんな使い方など聞いたことがない。
だが、その狙いはうまくいったのだろう。
むくりと起き上がった鳳翔は無傷なのだから。
やがて爆煙が晴れる。
その中心部に何が見えてくるのか。
その場の艦娘たちが息を飲む。
「ヘイ、ガールズ。金剛型の装甲をなめてもらっちゃ困りマスヨ?」
いつものように、おどけた声。
金剛は障壁を使って、鳳翔を無理矢理に跳ね飛ばした。
バリンタンで見せたように、守るためにその内側に入れるのではなく、鳳翔が障壁を展開するのに合わせて、自分の障壁を展開して干渉させたのだ。
そんな使い方など聞いたことがない。
だが、その狙いはうまくいったのだろう。
むくりと起き上がった鳳翔は無傷なのだから。
やがて爆煙が晴れる。
その中心部に何が見えてくるのか。
その場の艦娘たちが息を飲む。
「ヘイ、ガールズ。金剛型の装甲をなめてもらっちゃ困りマスヨ?」
いつものように、おどけた声。
125: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:38:36.77 ID:6VHVfebZo
煙が晴れた爆心地に、金剛は立っていた。
それでも、胸を撫で下ろすものはいない。
体のあちこちに傷があったし、艤装にも損傷が見受けられた。
鳳翔が見ても、これは使い物にならないだろうとわかる主砲塔が一基。そのほかの副砲や機銃群は少なくとも三割がダメージを受けている。
実質的に金剛の戦闘力は半分程度にまで低下したと考えるべきだ。
間違いなく中破の判定が出る損害。
加えて、この艦隊の火力は金剛と瑞鶴、鳳翔の三人で半分以上を占めている。
それが全て使えないなら。
「これ以上の戦闘続行は不能です。撤退しましょう」
鳳翔は即座に判断を下す。
それでも、胸を撫で下ろすものはいない。
体のあちこちに傷があったし、艤装にも損傷が見受けられた。
鳳翔が見ても、これは使い物にならないだろうとわかる主砲塔が一基。そのほかの副砲や機銃群は少なくとも三割がダメージを受けている。
実質的に金剛の戦闘力は半分程度にまで低下したと考えるべきだ。
間違いなく中破の判定が出る損害。
加えて、この艦隊の火力は金剛と瑞鶴、鳳翔の三人で半分以上を占めている。
それが全て使えないなら。
「これ以上の戦闘続行は不能です。撤退しましょう」
鳳翔は即座に判断を下す。
126: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:39:02.97 ID:6VHVfebZo
だが。
「ノー。島まで下がりますが、作戦は継続デス。船団が無事に通らなければ、私たちの存在意義がなくなりマス」
「しかし、私たちの火力では――」
「さっきも言ったけど、これからは夜戦になりマス。そうなれば私も支援くらいしかすることはないデスヨ。作戦は最初から艦隊の火力が足りない状態を想定して組み立ててるカラ、ノープロブレムなんデス」
それに、と金剛は言葉を付け加える。
「逃げるにしても、機関の調子が悪い私がいたら、普通のやり方では無理デス。だから、まずは逃げられる状況を作るしかありまセン」
そう言った金剛の瞳の奥に、強い意志の光が見えた。
「ノー。島まで下がりますが、作戦は継続デス。船団が無事に通らなければ、私たちの存在意義がなくなりマス」
「しかし、私たちの火力では――」
「さっきも言ったけど、これからは夜戦になりマス。そうなれば私も支援くらいしかすることはないデスヨ。作戦は最初から艦隊の火力が足りない状態を想定して組み立ててるカラ、ノープロブレムなんデス」
それに、と金剛は言葉を付け加える。
「逃げるにしても、機関の調子が悪い私がいたら、普通のやり方では無理デス。だから、まずは逃げられる状況を作るしかありまセン」
そう言った金剛の瞳の奥に、強い意志の光が見えた。
127: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:39:49.69 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彭佳嶼へ戻った艦娘たちはすぐに、次の作戦へと移った。
移らざるを得なかった。
金剛への攻撃に効果があったと知った敵は、統率の乱れた艦隊の再編もそこそこに追撃を開始したからだ。
彭佳嶼に置かれていた物資は再配分され、鳳翔と瑞鶴が守る形で洋上の二カ所に展開。
そこを仮の拠点と定め、駆逐艦娘たちは攻撃後に敵を迂回、後退、あるいは突貫して燃料、弾薬を補給、反復攻撃を仕掛けている。
『朧がきました。さすがに厳しくなってきたみたい』
無線越しの瑞鶴の声。
なんとか五時間を持ちこたえたが、それも敵が性急に事を起こしたからでしかない。
もし、完全に立て直した上で攻撃されていれば、もっと早い段階で瑞鶴の言う状況になっていたはずだ。
「瑞鶴は東へ十キロ後退、敵に移動後の位置を気取られないように。駆逐隊は瑞鶴の位置を更新、迷子にならないでくださいね」
彭佳嶼へ戻った艦娘たちはすぐに、次の作戦へと移った。
移らざるを得なかった。
金剛への攻撃に効果があったと知った敵は、統率の乱れた艦隊の再編もそこそこに追撃を開始したからだ。
彭佳嶼に置かれていた物資は再配分され、鳳翔と瑞鶴が守る形で洋上の二カ所に展開。
そこを仮の拠点と定め、駆逐艦娘たちは攻撃後に敵を迂回、後退、あるいは突貫して燃料、弾薬を補給、反復攻撃を仕掛けている。
『朧がきました。さすがに厳しくなってきたみたい』
無線越しの瑞鶴の声。
なんとか五時間を持ちこたえたが、それも敵が性急に事を起こしたからでしかない。
もし、完全に立て直した上で攻撃されていれば、もっと早い段階で瑞鶴の言う状況になっていたはずだ。
「瑞鶴は東へ十キロ後退、敵に移動後の位置を気取られないように。駆逐隊は瑞鶴の位置を更新、迷子にならないでくださいね」
128: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:40:21.92 ID:6VHVfebZo
通信機器も被害を受けている金剛は、後方の棉花嶼で次の作戦準備に専念。戦闘の全体的な指揮は鳳翔に任されていた。
その仕事をこなしつつ、鳳翔は別のことを考えてもいた。
(金剛を襲った艦載機はどこから……)
少なくとも、事前の情報に敵空母がいると言う情報はなかった。
戦艦八隻、そのほか大小艦艇合わせて三十以上。
それが鳳翔たちの受け取った情報の全て。その中に、空母が紛れていたと考えるしかない。
そうでなければ、あのタイミングで攻撃を仕掛けてこられるはずがない。
攻撃を終えた艦載機を海上に不時着させるのでなければ、と言う前提条件がつくが、この後も輸送船団を襲うと言う目的がある以上、敵とて無駄に戦力を消費するはずがない。
だが。
(戦艦を見分けられているのに、空母ができないと言うのはおかしな話です)
その仕事をこなしつつ、鳳翔は別のことを考えてもいた。
(金剛を襲った艦載機はどこから……)
少なくとも、事前の情報に敵空母がいると言う情報はなかった。
戦艦八隻、そのほか大小艦艇合わせて三十以上。
それが鳳翔たちの受け取った情報の全て。その中に、空母が紛れていたと考えるしかない。
そうでなければ、あのタイミングで攻撃を仕掛けてこられるはずがない。
攻撃を終えた艦載機を海上に不時着させるのでなければ、と言う前提条件がつくが、この後も輸送船団を襲うと言う目的がある以上、敵とて無駄に戦力を消費するはずがない。
だが。
(戦艦を見分けられているのに、空母ができないと言うのはおかしな話です)
129: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:40:53.70 ID:6VHVfebZo
海峡は確かに広い。一番狭い地点でも一三〇キロはある。
本隊から離れるように行動させていれば、見つけられないだろう。
奇襲を狙うならば、そうする。
それでも。
(そもそもにおいて、私たちがあの海域にいると言う情報は敵にないはず。もしあったのならば、あそこまでの大被害を被ることはなかったでしょう)
たとえ、敵に何かの意図があったとしても、戦力の半分と金剛の中破では交換条件として成り立たない。
不審な点は次々と出てくる。
(それに、奇襲を狙うならば、本隊そのものを見えない位置に置くべきです。その方がよほど効果が高くなるはず。だから奇襲の線はないと考えていいでしょう)
ふと、傍らで魚雷の再装填作業に集中している曙を見る。
「曙ちゃん、一つ聞いてもよろしいですか?」
本隊から離れるように行動させていれば、見つけられないだろう。
奇襲を狙うならば、そうする。
それでも。
(そもそもにおいて、私たちがあの海域にいると言う情報は敵にないはず。もしあったのならば、あそこまでの大被害を被ることはなかったでしょう)
たとえ、敵に何かの意図があったとしても、戦力の半分と金剛の中破では交換条件として成り立たない。
不審な点は次々と出てくる。
(それに、奇襲を狙うならば、本隊そのものを見えない位置に置くべきです。その方がよほど効果が高くなるはず。だから奇襲の線はないと考えていいでしょう)
ふと、傍らで魚雷の再装填作業に集中している曙を見る。
「曙ちゃん、一つ聞いてもよろしいですか?」
130: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:41:29.25 ID:6VHVfebZo
「はい?」
「敵艦隊を視認した時、針路は〇六〇でしたね?」
「そうです。複縦陣で〇六〇へ、十八ノット」
「曙ちゃんの針路は?」
「二四〇です。それが何か?」
ただの確認です、そう告げると曙は再び作業に没頭し始める。
(正面から視認した曙ちゃんに、空母は見えていない。戦闘になることを警戒した陣形でもない。あの戦闘に空母は巻き込まれていないとなれば、後続していて、その段階で分離したと考えるべきです)
だから。
(もし、戦闘を想定していない空母が、その時点から発艦作業を始めたなら敵機が八機しかいなかったことも納得できますが……一隻だけではないはず)
少し疑問が残るが、今はそれを前提にして考えを先にすすめる。
「敵艦隊を視認した時、針路は〇六〇でしたね?」
「そうです。複縦陣で〇六〇へ、十八ノット」
「曙ちゃんの針路は?」
「二四〇です。それが何か?」
ただの確認です、そう告げると曙は再び作業に没頭し始める。
(正面から視認した曙ちゃんに、空母は見えていない。戦闘になることを警戒した陣形でもない。あの戦闘に空母は巻き込まれていないとなれば、後続していて、その段階で分離したと考えるべきです)
だから。
(もし、戦闘を想定していない空母が、その時点から発艦作業を始めたなら敵機が八機しかいなかったことも納得できますが……一隻だけではないはず)
少し疑問が残るが、今はそれを前提にして考えを先にすすめる。
131: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:42:02.14 ID:6VHVfebZo
(この海域に、移動をしてきた敵の狙いはなんですか?)
鳳翔は頭の中に地図を思い浮かべる。
台湾海峡を通過してきた敵の針路、速度、艦隊の編成。
バラバラのピースをそこに当てはめていく。
そして、一つの答えが見えてくる。
(……まさか、佐世保ですか)
敵の針路をそのまま伸ばした先は、まっすぐにそこへつながっていた。
ただ、それでも引っかかる。
(それならば尚更、艦隊の位置を知られるような真似をしないはず。そもそも、私たちに発見された時点で、作戦は破綻、撤退を視野に入れてもいいだけのダメージを受けてもいる)
だが、敵の攻撃は苛烈だ。
鳳翔は頭の中に地図を思い浮かべる。
台湾海峡を通過してきた敵の針路、速度、艦隊の編成。
バラバラのピースをそこに当てはめていく。
そして、一つの答えが見えてくる。
(……まさか、佐世保ですか)
敵の針路をそのまま伸ばした先は、まっすぐにそこへつながっていた。
ただ、それでも引っかかる。
(それならば尚更、艦隊の位置を知られるような真似をしないはず。そもそも、私たちに発見された時点で、作戦は破綻、撤退を視野に入れてもいいだけのダメージを受けてもいる)
だが、敵の攻撃は苛烈だ。
132: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:42:35.82 ID:6VHVfebZo
何かに取り憑かれたように、この海域の艦娘の撃破だけを目論んでいるように見えるのだ。
何が敵をそうさせているのか。
鳳翔は少しだけ考えを前に戻す。
(ならば、佐世保を突くと思わせることで、何が起きるかを考えるしかないですね)
一度組み上げたパズルを再びバラバラにする。
そして、もっと大きな範囲で考え始める。
(佐世保を突かれると知れば、当然、こちらは迎撃に移る必要がありますが……)
使える駒は、現時点で金剛隊、神通隊、それと佐世保に残っていた即応隊の三つ。
少し時間を巻き戻しても、神通隊が五十鈴隊に変わるだけで、数に変わりはない。
あの編成の敵を相手に拠点を防衛するには、少々戦力不足だ。
何が敵をそうさせているのか。
鳳翔は少しだけ考えを前に戻す。
(ならば、佐世保を突くと思わせることで、何が起きるかを考えるしかないですね)
一度組み上げたパズルを再びバラバラにする。
そして、もっと大きな範囲で考え始める。
(佐世保を突かれると知れば、当然、こちらは迎撃に移る必要がありますが……)
使える駒は、現時点で金剛隊、神通隊、それと佐世保に残っていた即応隊の三つ。
少し時間を巻き戻しても、神通隊が五十鈴隊に変わるだけで、数に変わりはない。
あの編成の敵を相手に拠点を防衛するには、少々戦力不足だ。
134: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:43:11.35 ID:6VHVfebZo
現状で即応隊から編成された支援艦隊が到着すれば勝てるという算段は、あくまでも金剛隊が奇襲を仕掛けた結果、戦力バランスが変わったからだ。
(その前提がなかったとすれば)
この状況に介入できる最大の火力が一つだけ、鳳翔の脳裏に浮かぶ。
(赤城隊)
そう考えれば、敵の編成に納得ができる。
(敵攻撃隊が八機しかなかったのは、赤城たちの先制攻撃に備えて防空用の戦闘機を多めに準備していたから)
そう考えれば、船団ではなく赤城隊を執拗に狙い、位置を確認していた行動にも納得ができる。
(タイミングを計っていたのは、船団ではなく、赤城隊を誘い込むため)
そう考えれば、太平洋側から迂回してきた敵の存在も納得ができる。
(多方面からの攻撃で退路を遮断するつもりだったのですね。多数の輸送艦と物資は他の部隊の補給のためですか)
(その前提がなかったとすれば)
この状況に介入できる最大の火力が一つだけ、鳳翔の脳裏に浮かぶ。
(赤城隊)
そう考えれば、敵の編成に納得ができる。
(敵攻撃隊が八機しかなかったのは、赤城たちの先制攻撃に備えて防空用の戦闘機を多めに準備していたから)
そう考えれば、船団ではなく赤城隊を執拗に狙い、位置を確認していた行動にも納得ができる。
(タイミングを計っていたのは、船団ではなく、赤城隊を誘い込むため)
そう考えれば、太平洋側から迂回してきた敵の存在も納得ができる。
(多方面からの攻撃で退路を遮断するつもりだったのですね。多数の輸送艦と物資は他の部隊の補給のためですか)
135: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:43:51.02 ID:6VHVfebZo
輸送船団など、敵にとっても囮でしかなかった。
頭の中で、全てが繋がっていく感覚。
(敵の狙いは赤城隊……これがうまくいけば、人類側の戦力は激減、海上封鎖も完成する)
状況に流された結果とはいえ、それをことごとく叩き潰してしまったのが金剛隊だ。
そして最大火力の艦隊を半減させられた時点で、目標は赤城隊から目の前の金剛隊へ変更。敵は本当に最小限の戦果の獲得を狙っている。
全てが繋がった。
もはや自分たちがこれ以上、ここで防衛線を張る必要はない。
「曙ちゃん。この攻撃が終わったら、東の棉花嶼に後退、金剛と合流して撤退します」
「はい?」
「後で話します。今は可能な限り、敵を混乱させてください。後退と計画策定の時間が必要です」
頭の中で、全てが繋がっていく感覚。
(敵の狙いは赤城隊……これがうまくいけば、人類側の戦力は激減、海上封鎖も完成する)
状況に流された結果とはいえ、それをことごとく叩き潰してしまったのが金剛隊だ。
そして最大火力の艦隊を半減させられた時点で、目標は赤城隊から目の前の金剛隊へ変更。敵は本当に最小限の戦果の獲得を狙っている。
全てが繋がった。
もはや自分たちがこれ以上、ここで防衛線を張る必要はない。
「曙ちゃん。この攻撃が終わったら、東の棉花嶼に後退、金剛と合流して撤退します」
「はい?」
「後で話します。今は可能な限り、敵を混乱させてください。後退と計画策定の時間が必要です」
136: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:44:28.84 ID:6VHVfebZo
全員にそれを伝えるために、通信回線を開く。
と。
口を開く直前になって、最後のピースがはまっていないことに気がついた。
(待ってください……船団が止まれば、赤城隊も止まる。なのに敵は突入タイミングを変えなかった)
いくら反撃を受けていても、敵が北に移動をしていることくらいは掴めるし、報告するだろう。
最大の戦果を得るためにはそれしかないのだから、報告を受ければタイミングを調整するに違いない。
なのに、その兆候はなかった。
もう一度頭の中で地図とそれぞれの位置を並べて計算する。
全てが順調であれば、台湾海峡を抜けた敵がバシーに差し掛かる頃に船団はいない。
その頃に海峡を通るのは後続している赤城隊だ。
と。
口を開く直前になって、最後のピースがはまっていないことに気がついた。
(待ってください……船団が止まれば、赤城隊も止まる。なのに敵は突入タイミングを変えなかった)
いくら反撃を受けていても、敵が北に移動をしていることくらいは掴めるし、報告するだろう。
最大の戦果を得るためにはそれしかないのだから、報告を受ければタイミングを調整するに違いない。
なのに、その兆候はなかった。
もう一度頭の中で地図とそれぞれの位置を並べて計算する。
全てが順調であれば、台湾海峡を抜けた敵がバシーに差し掛かる頃に船団はいない。
その頃に海峡を通るのは後続している赤城隊だ。
137: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:45:06.96 ID:6VHVfebZo
もし、多少スケジュールが早まったとしても、追撃していた敵艦隊が全力で足止めをして時間を作ればいい。もともとそれも役目の一つだったはずだ。
だが、スケジュールより遅れたならば、突入する艦隊の方で調整するしかない。
(船団が停止したのは、敵が台湾海峡に入る前です)
もちろんそれは、金剛隊が奇襲をかけるより前の話だし、戦力は無傷。
作戦が崩壊しつつあるとしても、その時点で最低限の戦果として敵が狙っていたのは赤城隊のはずだ。
(金剛隊が海峡出口にいることは知らないのですから、我々を狙うという発想自体がない)
なのに敵がタイミングを調整することはなかった。
鳳翔は混乱する。
敵の意図が読めないのだ。
何をしたいのか、何を狙っていたのか。
だが、スケジュールより遅れたならば、突入する艦隊の方で調整するしかない。
(船団が停止したのは、敵が台湾海峡に入る前です)
もちろんそれは、金剛隊が奇襲をかけるより前の話だし、戦力は無傷。
作戦が崩壊しつつあるとしても、その時点で最低限の戦果として敵が狙っていたのは赤城隊のはずだ。
(金剛隊が海峡出口にいることは知らないのですから、我々を狙うという発想自体がない)
なのに敵がタイミングを調整することはなかった。
鳳翔は混乱する。
敵の意図が読めないのだ。
何をしたいのか、何を狙っていたのか。
138: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:45:39.02 ID:6VHVfebZo
全ての前提が、その一つのピースで崩れ去っていく。
そして。
答えは無線の向こうからやってくる。
鳳翔の理解の片隅に置き忘れられていた、全てをつなぐたった一つの欠片。
『神通より鳳翔……輸送船団がバシー海峡に入るのが見えたと、海風が……あの、これは一体……?』
事情を理解できず戸惑う神通の声が、一切を悟って呆然とする鳳翔の中で虚しく響いた。
そして。
答えは無線の向こうからやってくる。
鳳翔の理解の片隅に置き忘れられていた、全てをつなぐたった一つの欠片。
『神通より鳳翔……輸送船団がバシー海峡に入るのが見えたと、海風が……あの、これは一体……?』
事情を理解できず戸惑う神通の声が、一切を悟って呆然とする鳳翔の中で虚しく響いた。
139: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:46:25.85 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
奇襲の混乱から立ち直った敵の勢いに押される形となり、後退を余儀なくされた鳳翔たちは、最後にもう一度だけ敵を混乱させた。
それほど難しいことではない。
煙幕を使っただけだ。
夕刻にその手で大打撃を被った敵は、それだけで警戒し速度を緩めた。
稼げた時間はそれほど多くはないが、とにかく金剛の元に戻って、今後の対策を練らなければならない。それも早急に。
鳳翔から一切の事情を聞いた金剛は、集まった艦娘たちを見てこう言った。
「オウ。あの男のおかげで、私たちは大活躍じゃないデスカ。教えてあげたら、きっとハンカチ噛んでキィキィ鳴きますヨ」
そんな軽い冗談など、簡単に押しつぶしてしまうほどにその場の空気は重い。
最低限の戦果を求める敵の主目標が自分たちに移った以上、ここを切る抜けるのは相当に難しい。
いかに敵を出し抜いて、こちらに向かっている支援部隊と合流するか。
奇襲の混乱から立ち直った敵の勢いに押される形となり、後退を余儀なくされた鳳翔たちは、最後にもう一度だけ敵を混乱させた。
それほど難しいことではない。
煙幕を使っただけだ。
夕刻にその手で大打撃を被った敵は、それだけで警戒し速度を緩めた。
稼げた時間はそれほど多くはないが、とにかく金剛の元に戻って、今後の対策を練らなければならない。それも早急に。
鳳翔から一切の事情を聞いた金剛は、集まった艦娘たちを見てこう言った。
「オウ。あの男のおかげで、私たちは大活躍じゃないデスカ。教えてあげたら、きっとハンカチ噛んでキィキィ鳴きますヨ」
そんな軽い冗談など、簡単に押しつぶしてしまうほどにその場の空気は重い。
最低限の戦果を求める敵の主目標が自分たちに移った以上、ここを切る抜けるのは相当に難しい。
いかに敵を出し抜いて、こちらに向かっている支援部隊と合流するか。
140: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:46:59.18 ID:6VHVfebZo
それだけが生き残る方法と言っていいだろう。
頭の中に描いた地図で、再び計算を始める鳳翔。
金剛が大きく一つため息を吐いた。
「支援艦隊はどこまで来てますカ?」
「三〇〇キロ北東。あくまで推測の位置です」
支援艦隊もまた、奇襲が有効と考えているのだろう。無線を封止したまま移動しているようだった。
果たしてそれを待つのは最善なのか。
完全な状態の艦隊であれば、そちらへ向けて移動したとして七時間半。互いを目指して進めば、合流までは最短でその半分といったところだろう。
「厳しい状況ですネ」
だが、金剛の状態が思わしくない。
頭の中に描いた地図で、再び計算を始める鳳翔。
金剛が大きく一つため息を吐いた。
「支援艦隊はどこまで来てますカ?」
「三〇〇キロ北東。あくまで推測の位置です」
支援艦隊もまた、奇襲が有効と考えているのだろう。無線を封止したまま移動しているようだった。
果たしてそれを待つのは最善なのか。
完全な状態の艦隊であれば、そちらへ向けて移動したとして七時間半。互いを目指して進めば、合流までは最短でその半分といったところだろう。
「厳しい状況ですネ」
だが、金剛の状態が思わしくない。
141: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:47:34.28 ID:6VHVfebZo
戦艦としては破格の三〇ノットという優速を誇る金剛だが、機関の損傷は思ったよりも深刻で、十五ノットが限界だという。合流までは最短でも四時間半はかかる計算だ。
そもそも、これは先ほどの推測に基づいたものだ。
何か他にトラブルがあれば、話は変わる。
そして、そのトラブルは起きる可能性がある。
「ええ。佐世保側が何かしていないという保証もありません」
これだけの罠を仕掛けたのだ。最後の詰めを怠るはずがないだろうし、それを期待するのはあまりにも愚かだ。
だから、支援に向かっていた艦隊には帰投命令が出ていると見ていい。
今更、隠し立てしてもしかたがない。むしろ正確な現実を知らせることで、一つでも多く解決法を探る方がいい。
後のことは後のことだ。生き残らなければ意味がないのだから、今考えることではない。
「それなら、私が沈んだと言ってみても面白いデスネ」
そもそも、これは先ほどの推測に基づいたものだ。
何か他にトラブルがあれば、話は変わる。
そして、そのトラブルは起きる可能性がある。
「ええ。佐世保側が何かしていないという保証もありません」
これだけの罠を仕掛けたのだ。最後の詰めを怠るはずがないだろうし、それを期待するのはあまりにも愚かだ。
だから、支援に向かっていた艦隊には帰投命令が出ていると見ていい。
今更、隠し立てしてもしかたがない。むしろ正確な現実を知らせることで、一つでも多く解決法を探る方がいい。
後のことは後のことだ。生き残らなければ意味がないのだから、今考えることではない。
「それなら、私が沈んだと言ってみても面白いデスネ」
142: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:48:17.35 ID:6VHVfebZo
その一言は、冗談だとあからさまにわかるような口ぶりだ。
当然、それが通じるわけがないと知っているのだ。
証拠は全て消したくなるのが、罪を犯したものの心理。
この場にいる艦娘はその証拠そのもの。
そしてその証拠たちは、たとえ沈んでもまっさらな状態で再び現れる、使い捨ての兵器なのだから、タガを外すのは簡単だ。
「まぁ、面白いのは確かじゃない? それで助けを寄越さないようなら、こっちとしては完全にキレても構わない理由ができ――痛っ! 何すんのよ!」
意地の悪い笑みを浮かべて、とんでもないことを口走った瑞鶴を黙らせたのは、いつものように腕組みのまま仏頂面をした曙だ。
「お望み通り、尻を蹴っ飛ばしてあげたの。感謝しなさい」
ちらりと瑞鶴の顔を見てからニタリと、やはり意地の悪い顔をする。
「あれはそういう意味じゃない! それに、やるんならもう少し加減しなさいよ! お尻まで平らにしようっての!?」
当然、それが通じるわけがないと知っているのだ。
証拠は全て消したくなるのが、罪を犯したものの心理。
この場にいる艦娘はその証拠そのもの。
そしてその証拠たちは、たとえ沈んでもまっさらな状態で再び現れる、使い捨ての兵器なのだから、タガを外すのは簡単だ。
「まぁ、面白いのは確かじゃない? それで助けを寄越さないようなら、こっちとしては完全にキレても構わない理由ができ――痛っ! 何すんのよ!」
意地の悪い笑みを浮かべて、とんでもないことを口走った瑞鶴を黙らせたのは、いつものように腕組みのまま仏頂面をした曙だ。
「お望み通り、尻を蹴っ飛ばしてあげたの。感謝しなさい」
ちらりと瑞鶴の顔を見てからニタリと、やはり意地の悪い顔をする。
「あれはそういう意味じゃない! それに、やるんならもう少し加減しなさいよ! お尻まで平らにしようっての!?」
143: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:50:17.50 ID:6VHVfebZo
「むしろ腫れて大きくなるんじゃない? それがスタイルとして理想的かどうかは別だけど」
皆が失笑し、その場の空気が少しだけ軽くなる。
なんだかんだと、この二人の組み合わせはうまくいっているのだ。そこに本人たちの計算がどれだけあるのか、どこまで噛み合っていたのかはわからないが。
ただ、うまく回っているのだ。
だからこそ、曙は真面目な顔に戻り――。
「つーかさ、あんたが先にタガ外してどうすんの。それやっちゃうと、支援艦隊の連中に超がつくくらいのトラウマ作るってこと、想像できるでしょうが」
いかに命令があったとはいえ、仲間を見捨てる結果になったと知れば、心の何処かには必ず深い傷が残るだろう。
救おうとした仲間を、結果として自分の手で処分することになった古い記憶が、曙の中に傷として残っているように。
同時にこの言葉は全員に対する曙からの警告でもあった。
誰かを犠牲にする、そんな解決法は認めない、と。
皆が失笑し、その場の空気が少しだけ軽くなる。
なんだかんだと、この二人の組み合わせはうまくいっているのだ。そこに本人たちの計算がどれだけあるのか、どこまで噛み合っていたのかはわからないが。
ただ、うまく回っているのだ。
だからこそ、曙は真面目な顔に戻り――。
「つーかさ、あんたが先にタガ外してどうすんの。それやっちゃうと、支援艦隊の連中に超がつくくらいのトラウマ作るってこと、想像できるでしょうが」
いかに命令があったとはいえ、仲間を見捨てる結果になったと知れば、心の何処かには必ず深い傷が残るだろう。
救おうとした仲間を、結果として自分の手で処分することになった古い記憶が、曙の中に傷として残っているように。
同時にこの言葉は全員に対する曙からの警告でもあった。
誰かを犠牲にする、そんな解決法は認めない、と。
144: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:50:51.81 ID:6VHVfebZo
「だ、そうですヨ。朧」
いきなり名前を挙げられたことで、魚雷発射管の調整と新たな弾薬の補充を始めていた朧の手が止まる。
こんな状況になれば、何も言わず真っ先に飛び出してくのが彼女だ。その責任感の強さがあるからこそ、第七駆逐隊をまとめられてもいる。
個性派揃いの駆逐隊の中では無個性といわれる朧だが、それこそが彼女の個性。
だからこそ、損耗率の高い駆逐艦の中で誰一人欠けることなく、戦い続けてこられたのだ。それをここで失うわけにはいかない。
だから、何かを言おうとした朧のその口が開ききる前に。
「心意気は買うし、リスペクトもするケド、朧一人じゃ稼げる時間に限度があると思いマス」
金剛ははっきりと現実を突きつけた。
彼女の歪んだ心をきちんと折るために。
新たな芽をそこから伸ばすために。
いきなり名前を挙げられたことで、魚雷発射管の調整と新たな弾薬の補充を始めていた朧の手が止まる。
こんな状況になれば、何も言わず真っ先に飛び出してくのが彼女だ。その責任感の強さがあるからこそ、第七駆逐隊をまとめられてもいる。
個性派揃いの駆逐隊の中では無個性といわれる朧だが、それこそが彼女の個性。
だからこそ、損耗率の高い駆逐艦の中で誰一人欠けることなく、戦い続けてこられたのだ。それをここで失うわけにはいかない。
だから、何かを言おうとした朧のその口が開ききる前に。
「心意気は買うし、リスペクトもするケド、朧一人じゃ稼げる時間に限度があると思いマス」
金剛ははっきりと現実を突きつけた。
彼女の歪んだ心をきちんと折るために。
新たな芽をそこから伸ばすために。
145: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:51:37.58 ID:6VHVfebZo
「それに、誰かを犠牲にするというのは、私も好きじゃないデス。ここは大人しく全員で逃げるデスヨ」
「どこへですか?」
ポツポツと体を叩き始めた雨粒。
その元を辿るように、金剛が真っ暗な空を見上げた。
「ボロボロになった艦が行く場所ナンテ二つだけデスヨ」
ニヤリと、その顔に誰よりも意地の悪い笑みが浮かぶ。
「海の底か――港デス」
金剛が何を考えたのか、鳳翔にはすぐにわかった。
「鳳翔。これが終わった後、厄介を押し付けるコトになる思うカラ、今のうちに謝っておくヨ。でも、長いこと一緒にやってきた鳳翔にしかできないのデス」
基地に戻れば、司令官と金剛の間でこれまで以上に諍いが起きるだろう。
「どこへですか?」
ポツポツと体を叩き始めた雨粒。
その元を辿るように、金剛が真っ暗な空を見上げた。
「ボロボロになった艦が行く場所ナンテ二つだけデスヨ」
ニヤリと、その顔に誰よりも意地の悪い笑みが浮かぶ。
「海の底か――港デス」
金剛が何を考えたのか、鳳翔にはすぐにわかった。
「鳳翔。これが終わった後、厄介を押し付けるコトになる思うカラ、今のうちに謝っておくヨ。でも、長いこと一緒にやってきた鳳翔にしかできないのデス」
基地に戻れば、司令官と金剛の間でこれまで以上に諍いが起きるだろう。
146: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:52:03.21 ID:6VHVfebZo
その時、行き過ぎがないように、間に入って諌めるのは鳳翔の仕事だ。
だから。
「いつものことですよ。何を今更」
それを聞いた金剛に浮かんだのは苦笑い。
それも、いつものことだ。
だから。
「いつものことですよ。何を今更」
それを聞いた金剛に浮かんだのは苦笑い。
それも、いつものことだ。
147: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:52:39.77 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
激しくなる雨に紛れ第七駆逐隊が敵へ攻撃を仕掛ける合間を縫って、瑞鶴と鳳翔は島に挟まれた海域にドラム缶を投棄して行く。
それはもともと補給物資として燃料や弾薬の詰められていたものだ。
中にはそれがそのまま詰まっているものもあったし、砂や石を入れただけのものもある。
「まったく、勿体無いったらありゃしない」
「こうでもしなければ、時間を稼ぐことはできませんよ」
そのどれもが、ほぼ同じような浮力で海面に姿を見せるように調整されていた。
「でも、どれがどれだかわからなきゃ意味がないような気も」
瑞鶴が愚痴をこぼしたように、一見すればどれが可燃物で、どれが石かなどはわからない。
だが、それでよかった。
「撃つときは対空射撃と同じ時限信管で。そうすれば、巻き込まれたどれかが炸裂しますよ」
激しくなる雨に紛れ第七駆逐隊が敵へ攻撃を仕掛ける合間を縫って、瑞鶴と鳳翔は島に挟まれた海域にドラム缶を投棄して行く。
それはもともと補給物資として燃料や弾薬の詰められていたものだ。
中にはそれがそのまま詰まっているものもあったし、砂や石を入れただけのものもある。
「まったく、勿体無いったらありゃしない」
「こうでもしなければ、時間を稼ぐことはできませんよ」
そのどれもが、ほぼ同じような浮力で海面に姿を見せるように調整されていた。
「でも、どれがどれだかわからなきゃ意味がないような気も」
瑞鶴が愚痴をこぼしたように、一見すればどれが可燃物で、どれが石かなどはわからない。
だが、それでよかった。
「撃つときは対空射撃と同じ時限信管で。そうすれば、巻き込まれたどれかが炸裂しますよ」
148: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:53:18.68 ID:6VHVfebZo
「なるほど」
それであれば、海の中では点に過ぎない的を狙う必要もない。
近づいた敵は爆発に巻き込まれるのだからたまったものではない。否応無しに海面に浮いているドラム缶すべてを警戒する必要が出てくる。
狭い海域に無秩序に浮いているそれを除去しながら進むにしても、その数がどれだけかなど、設置した側にしかわからない。
結果として、時間を短縮するならば迂回した方が早いという計算になるはずだ。
「急がば回れ、とは言いますけどね」
「その間に、こっちはかなり遠くまで行っちゃってる、と」
即席の地雷原を使った遅滞戦術とでもいうべき作戦。発案したのはもちろん金剛だ。
「よくもまぁ、あの手この手と次々に思いつく……っていうか今回のって、そんなにうまくいくのかなぁ」
瑞鶴の不安ももっともだ。
それであれば、海の中では点に過ぎない的を狙う必要もない。
近づいた敵は爆発に巻き込まれるのだからたまったものではない。否応無しに海面に浮いているドラム缶すべてを警戒する必要が出てくる。
狭い海域に無秩序に浮いているそれを除去しながら進むにしても、その数がどれだけかなど、設置した側にしかわからない。
結果として、時間を短縮するならば迂回した方が早いという計算になるはずだ。
「急がば回れ、とは言いますけどね」
「その間に、こっちはかなり遠くまで行っちゃってる、と」
即席の地雷原を使った遅滞戦術とでもいうべき作戦。発案したのはもちろん金剛だ。
「よくもまぁ、あの手この手と次々に思いつく……っていうか今回のって、そんなにうまくいくのかなぁ」
瑞鶴の不安ももっともだ。
149: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:54:10.72 ID:6VHVfebZo
砲弾は艦娘たちの障壁のある空間を通さなければ、本来の効果を得ることはできないという前提がある。
「大丈夫ですよ」
ただ、火薬を使っていることに違いはないし、それがドラム缶というごく狭い空間で燃焼した場合は、想像以上の威力を持って外に飛び出す。
少なくとも、危険だと思わせるには充分なはずだ。そう思ってくれなければ困る。
鳳翔は自分にもそう言い聞かせる。
これが失敗すれば残された道は徹底抗戦だけ。
だが、圧倒的な敵火力の前では、行き着く先など決まっている。
「金剛は無事に抜けられたかな?」
瑞鶴がポツリと漏らす。
機関に損傷を受け速力の出ない金剛は、誰よりも早く――これらドラム缶の投棄を始めた段階で佐世保へ向けて脱出している。
「大丈夫ですよ」
ただ、火薬を使っていることに違いはないし、それがドラム缶というごく狭い空間で燃焼した場合は、想像以上の威力を持って外に飛び出す。
少なくとも、危険だと思わせるには充分なはずだ。そう思ってくれなければ困る。
鳳翔は自分にもそう言い聞かせる。
これが失敗すれば残された道は徹底抗戦だけ。
だが、圧倒的な敵火力の前では、行き着く先など決まっている。
「金剛は無事に抜けられたかな?」
瑞鶴がポツリと漏らす。
機関に損傷を受け速力の出ない金剛は、誰よりも早く――これらドラム缶の投棄を始めた段階で佐世保へ向けて脱出している。
150: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:55:02.03 ID:6VHVfebZo
それは、全員の意思だ。たとえ金剛がごねても、認めるつもりはなかった。
だが、本人もそこまでわがままは言わなかった。そうすることで全員が危険にさらされることを理解していたのだろう。
「何もなければ四〇キロは北東に移動しています。この後さらに敵が手間取ってくれれば、充分に逃げきれますよ」
追いつかれたとしても、その頃には佐世保が間近。佐世保司令はいやでも迎撃命令を出さざるを得ない。
意趣返しとしては、これ以上ないだろう。
「じゃ、あとは足の速い私たちでやりますから、鳳翔さんは金剛を拾って、佐世保に向かってください」
最大速度が二四ノットしかない鳳翔も、早い段階で撤退を始めなければならなかった。
後ろ髪を引かれるが、この場は瑞鶴たちを信じるしかない。
「わかりました。できる限り、簡単に誘爆しないように配置してください。それと、無茶はしないように」
「もちろん。あの男を一発殴るまで沈む気はありません」
だが、本人もそこまでわがままは言わなかった。そうすることで全員が危険にさらされることを理解していたのだろう。
「何もなければ四〇キロは北東に移動しています。この後さらに敵が手間取ってくれれば、充分に逃げきれますよ」
追いつかれたとしても、その頃には佐世保が間近。佐世保司令はいやでも迎撃命令を出さざるを得ない。
意趣返しとしては、これ以上ないだろう。
「じゃ、あとは足の速い私たちでやりますから、鳳翔さんは金剛を拾って、佐世保に向かってください」
最大速度が二四ノットしかない鳳翔も、早い段階で撤退を始めなければならなかった。
後ろ髪を引かれるが、この場は瑞鶴たちを信じるしかない。
「わかりました。できる限り、簡単に誘爆しないように配置してください。それと、無茶はしないように」
「もちろん。あの男を一発殴るまで沈む気はありません」
151: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:55:30.16 ID:6VHVfebZo
手順や合流地点はすでに打ち合わせてある。
瑞鶴の瞳の中に生き残ることへの執着を見た鳳翔は、その場を離れ北東へと舵を切る。
鳳翔がその場を離れて、きっかり一時間後。
作戦通り、洋上に大きな閃光が走り、轟音が空気を振動させた。
それは、少し間隔を開けて二度、三度と。
四〇キロ先にいる鳳翔には、それが見えなかったし、聞こえることもなかった。
よしんば気がついたとしても、遠雷だと思ったかもしれない。
瑞鶴の瞳の中に生き残ることへの執着を見た鳳翔は、その場を離れ北東へと舵を切る。
鳳翔がその場を離れて、きっかり一時間後。
作戦通り、洋上に大きな閃光が走り、轟音が空気を振動させた。
それは、少し間隔を開けて二度、三度と。
四〇キロ先にいる鳳翔には、それが見えなかったし、聞こえることもなかった。
よしんば気がついたとしても、遠雷だと思ったかもしれない。
152: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:56:06.57 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
金剛はそれを見ていた。
敵艦が発砲し、ドラム缶を吹き飛ばしていく様を風雨に紛れる形で見ていた。
(やっぱり奇抜な手ナンテ、通用するのは最初のうちだけなんですよネ)
なにせ二度も騙された敵だ。いい加減、知恵も付く。
数の差を穴埋めするべく、頭を使って戦うのは艦娘にとって必須とも言える能力だ。
だが、最終的に戦いを決するのは直接的な力。それは揺るぎのない事実だ。
(どれだけ怯ませテモ、混乱させテモ、相手の力が消えるわけじゃありまセン)
だから、敵はすぐに鳳翔や瑞鶴、第七駆逐隊を追う。
沈めるために、必ず追う。
確かに佐世保に向かえば、迎撃の艦娘隊を出してくるだろう。
金剛はそれを見ていた。
敵艦が発砲し、ドラム缶を吹き飛ばしていく様を風雨に紛れる形で見ていた。
(やっぱり奇抜な手ナンテ、通用するのは最初のうちだけなんですよネ)
なにせ二度も騙された敵だ。いい加減、知恵も付く。
数の差を穴埋めするべく、頭を使って戦うのは艦娘にとって必須とも言える能力だ。
だが、最終的に戦いを決するのは直接的な力。それは揺るぎのない事実だ。
(どれだけ怯ませテモ、混乱させテモ、相手の力が消えるわけじゃありまセン)
だから、敵はすぐに鳳翔や瑞鶴、第七駆逐隊を追う。
沈めるために、必ず追う。
確かに佐世保に向かえば、迎撃の艦娘隊を出してくるだろう。
153: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:56:36.68 ID:6VHVfebZo
だが。
(人のいる地域に深海棲艦を近づけるナンテ、ダメに決まってるじゃないデスカ。艦娘としてそれだけはできまセン)
それは金剛が自分に課した責任。
艦娘としての存在意義。
鳳翔には悪いことをしたと思っている。とんでもない役目を無理に押し付けてしまうことになるのだから。
仲間を逃がすためとは言え、あんなことを思いつくとは自分もなかなかの悪党に違いない。
思わず自虐的な笑いが出てしまう。
(ダカラ――)
それを不敵で、凄絶な笑みに変えて。
(ここで、全部海の底に還してやるデスヨ)
(人のいる地域に深海棲艦を近づけるナンテ、ダメに決まってるじゃないデスカ。艦娘としてそれだけはできまセン)
それは金剛が自分に課した責任。
艦娘としての存在意義。
鳳翔には悪いことをしたと思っている。とんでもない役目を無理に押し付けてしまうことになるのだから。
仲間を逃がすためとは言え、あんなことを思いつくとは自分もなかなかの悪党に違いない。
思わず自虐的な笑いが出てしまう。
(ダカラ――)
それを不敵で、凄絶な笑みに変えて。
(ここで、全部海の底に還してやるデスヨ)
154: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:57:26.44 ID:6VHVfebZo
たとえ、この身と引き換えになっても。
金剛の意志は。
鳳翔が繋いでくれる。
瑞鶴が伝えてくれる。
朧たちが守ってくれる。
だから戦う。
この状況を変えてくれる誰かの元に、この意志が届く日を手に入れるために。
全てを投げ打って。
(ショータイムの始まりデス)
金剛の主砲が、副砲が、一斉に敵を指向する。
「全砲門、ファイアー!」
たった一人と多数の敵。
希望を届けるための絶望的な戦いに、金剛は足を踏み入れた。
金剛の意志は。
鳳翔が繋いでくれる。
瑞鶴が伝えてくれる。
朧たちが守ってくれる。
だから戦う。
この状況を変えてくれる誰かの元に、この意志が届く日を手に入れるために。
全てを投げ打って。
(ショータイムの始まりデス)
金剛の主砲が、副砲が、一斉に敵を指向する。
「全砲門、ファイアー!」
たった一人と多数の敵。
希望を届けるための絶望的な戦いに、金剛は足を踏み入れた。
155: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:58:02.67 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鳳翔の胸に、一抹という言葉で片付けるにはあまりにも大きな不安が、何層にもなって積み重なっていく。
探しているものの姿が、いつまでたっても見えないのだ。
「そろそろ追いついているはずなのですが……」
あえて声に出す。
もしかすれば、それに気がついてもらえるかもしれないと。
自分の辿ってきたルートをもう一度確認する。
針路〇六〇。
今も。
そして、今までもそのルートからは外れていなかった。
鳳翔に許される限りの最大速度で進んできたのだ。
鳳翔の胸に、一抹という言葉で片付けるにはあまりにも大きな不安が、何層にもなって積み重なっていく。
探しているものの姿が、いつまでたっても見えないのだ。
「そろそろ追いついているはずなのですが……」
あえて声に出す。
もしかすれば、それに気がついてもらえるかもしれないと。
自分の辿ってきたルートをもう一度確認する。
針路〇六〇。
今も。
そして、今までもそのルートからは外れていなかった。
鳳翔に許される限りの最大速度で進んできたのだ。
156: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:58:41.40 ID:6VHVfebZo
金剛の方が一時間ほど先に出たとは言え、満足な速度を出せないのだから、追いついていなければならない時間なのだ。
「視界不良の影響で、見落としたのでしょうか?」
激しく降る雨だけではなく、波頭が砕けた飛沫が風に巻き上げられ、わずか一〇〇メートル先を覆い隠す。
発光信号を使って周囲に問いかける手もある。
だがいくら荒れた海とは言え、目立つ行動をすれば、潜んでいるかもしれない敵まで呼び寄せてしまう。
それを恐れたからこそ、無線を封止し、事前に打ち合わせた海域で合流するなどという、難しい手段を取っているのだ。
とりあえず今は、間も無く追いついてくるであろう瑞鶴たちが見つけていてくれることを祈るしかない。
「いた! 鳳翔さん!」
後ろから声をかけられ、鳳翔は振り向く。
水のカーテンをくぐり抜けるように、瑞鶴が姿を見せる。
「視界不良の影響で、見落としたのでしょうか?」
激しく降る雨だけではなく、波頭が砕けた飛沫が風に巻き上げられ、わずか一〇〇メートル先を覆い隠す。
発光信号を使って周囲に問いかける手もある。
だがいくら荒れた海とは言え、目立つ行動をすれば、潜んでいるかもしれない敵まで呼び寄せてしまう。
それを恐れたからこそ、無線を封止し、事前に打ち合わせた海域で合流するなどという、難しい手段を取っているのだ。
とりあえず今は、間も無く追いついてくるであろう瑞鶴たちが見つけていてくれることを祈るしかない。
「いた! 鳳翔さん!」
後ろから声をかけられ、鳳翔は振り向く。
水のカーテンをくぐり抜けるように、瑞鶴が姿を見せる。
157: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:59:14.57 ID:6VHVfebZo
そのさらに後ろから、朧、漣、曙、潮と続き――。
それ以上、誰かが現れることはなかった。
「金剛は?」
瑞鶴の問いに答えることができない。
同じ問いを投げかけようとしていたのだから。
ただ静かに首を横に振る。
「朧!」
事情を察した曙が鋭い声をかけ、駆逐隊が周囲の捜索をするべく一斉にそれぞれの方向へ散ろうと動く。
「いけません」
それ以上、誰かが現れることはなかった。
「金剛は?」
瑞鶴の問いに答えることができない。
同じ問いを投げかけようとしていたのだから。
ただ静かに首を横に振る。
「朧!」
事情を察した曙が鋭い声をかけ、駆逐隊が周囲の捜索をするべく一斉にそれぞれの方向へ散ろうと動く。
「いけません」
158: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 00:59:43.52 ID:6VHVfebZo
鳳翔はそれを静かに制する。
「でも――」
「今は前に進みなさい。たとえはぐれたとしても、金剛はそうしているはずです」
曙にそれ以上を言わせるわけにはいかなかった。
せっかく稼いだ時間を無駄にするわけにはいかない。
何より、聞いてしまえば自分が率先してそれをしてしまいそうだから。
けれど、それで危険にさらされるのは自分だけではないのだ。
自分にきつく言い聞かせる。
「……確かに、今は逃げるしかないと思う」
と、瑞鶴。
「でも――」
「今は前に進みなさい。たとえはぐれたとしても、金剛はそうしているはずです」
曙にそれ以上を言わせるわけにはいかなかった。
せっかく稼いだ時間を無駄にするわけにはいかない。
何より、聞いてしまえば自分が率先してそれをしてしまいそうだから。
けれど、それで危険にさらされるのは自分だけではないのだ。
自分にきつく言い聞かせる。
「……確かに、今は逃げるしかないと思う」
と、瑞鶴。
159: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:00:18.01 ID:6VHVfebZo
「あれだけ誘爆しちゃったら、罠の意味なんてなくなってる。敵はすぐにでも追撃できる」
その言葉に不信を抱く鳳翔。
「誘爆したのですか?」
「え、はい。追いかけてくる敵がそこに入り込んだのを確認して、最初の一つを爆破したんですけど……」
海は荒れていたし、風も強かった。
それによって多少流されることは想定した上での配置だ。
急いでいたとは言え、自分たちの命綱になるものだからと計算は綿密にしている。
それが誘爆するなど、相当に状況が変わらないと起きないはずだ。
「少し時間を置いてから、次々と誘爆したみたいで……ただ、あれだけの爆発になれば、敵もそれなりに怯むとは思うから、少しだけ時間は稼げたと思います」
まだチャンスはあると、前向きな方向に持って行こうとする瑞鶴。
その言葉に不信を抱く鳳翔。
「誘爆したのですか?」
「え、はい。追いかけてくる敵がそこに入り込んだのを確認して、最初の一つを爆破したんですけど……」
海は荒れていたし、風も強かった。
それによって多少流されることは想定した上での配置だ。
急いでいたとは言え、自分たちの命綱になるものだからと計算は綿密にしている。
それが誘爆するなど、相当に状況が変わらないと起きないはずだ。
「少し時間を置いてから、次々と誘爆したみたいで……ただ、あれだけの爆発になれば、敵もそれなりに怯むとは思うから、少しだけ時間は稼げたと思います」
まだチャンスはあると、前向きな方向に持って行こうとする瑞鶴。
160: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:00:49.00 ID:6VHVfebZo
「そうね。本当なら敵の水雷戦隊あたりが追いついてきてるはずよね」
曙がそれを肯定した。
ただ、その時の鳳翔の頭の中には、全く別のものが浮かんでいた。
『ボロボロになった艦が行く場所ナンテ二つだけデスヨ』
ボロボロになっていたのは誰だ。
『海の底か――港デス』
その誰かはどちらに向かうつもりだったのだ。
馬鹿だ。
気付く機会は何度もあったはずなのに。
だから馬鹿だ。
曙がそれを肯定した。
ただ、その時の鳳翔の頭の中には、全く別のものが浮かんでいた。
『ボロボロになった艦が行く場所ナンテ二つだけデスヨ』
ボロボロになっていたのは誰だ。
『海の底か――港デス』
その誰かはどちらに向かうつもりだったのだ。
馬鹿だ。
気付く機会は何度もあったはずなのに。
だから馬鹿だ。
161: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:01:37.74 ID:6VHVfebZo
他人の言葉を勝手に都合の良い方向に解釈して。
とんでもない馬鹿だ。
『鳳翔。これが終わった後、厄介を押し付けるコトになると思うカラ、今のうちに謝っておくヨ』
(私に全てを背負えと、そう言うのですか? この子たちの傷を和らげるために……!)
ここで鳳翔が撤退を指示すれば、この場の全員は無事に帰投できる。
そして、金剛がどうなったかを知るだろう。
その時、心の何処かで、たとえ無意識にでも鳳翔を責めることで、自らの傷を軽くすることができる。
そうなるようにしろと。
自身が心に大きな傷を負った上で、そうすることが鳳翔の役目だと、あの時金剛は言ったのだ。
(勝手すぎます……あまりにも自分勝手ではないですか。謝られた程度で、済ませられる問題ではありません)
とんでもない馬鹿だ。
『鳳翔。これが終わった後、厄介を押し付けるコトになると思うカラ、今のうちに謝っておくヨ』
(私に全てを背負えと、そう言うのですか? この子たちの傷を和らげるために……!)
ここで鳳翔が撤退を指示すれば、この場の全員は無事に帰投できる。
そして、金剛がどうなったかを知るだろう。
その時、心の何処かで、たとえ無意識にでも鳳翔を責めることで、自らの傷を軽くすることができる。
そうなるようにしろと。
自身が心に大きな傷を負った上で、そうすることが鳳翔の役目だと、あの時金剛は言ったのだ。
(勝手すぎます……あまりにも自分勝手ではないですか。謝られた程度で、済ませられる問題ではありません)
162: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:02:08.70 ID:6VHVfebZo
だからと言って、戻ることなど許されない。
今後の相談をしている艦娘たちが進む道は、鳳翔の決断一つで決まってしまう。
戻れば地獄。進めば修羅。
どちらもまともではない。
そんな選択を、ここで迫られるなど思いもしなかった。
だが。
(あなたは、そんな選択を今まで……何度も繰り返してきていたのですね)
自分たちは、それにただぶら下がっていただけだ。
やはり、自分は愚かだ。
ここまできて、ようやくそれに思いが至るなど愚かにも程がある。
今後の相談をしている艦娘たちが進む道は、鳳翔の決断一つで決まってしまう。
戻れば地獄。進めば修羅。
どちらもまともではない。
そんな選択を、ここで迫られるなど思いもしなかった。
だが。
(あなたは、そんな選択を今まで……何度も繰り返してきていたのですね)
自分たちは、それにただぶら下がっていただけだ。
やはり、自分は愚かだ。
ここまできて、ようやくそれに思いが至るなど愚かにも程がある。
163: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:02:39.86 ID:6VHVfebZo
だから、これは罰だ。
背負うしかない。
罪を。
鳳翔は決断する。
「これから言うことをよく聞いて、考えてください」
ただ、背負う罪がどれかは自分たちが選ぶ。
そして、誰か一人に背負わせるのではなく、それぞれが背負う。
導き出される答えなど決まっているけれど。
そう。
自分たちは愚かなのだから。
「これからどうするかを決め――」
そこで、鳳翔は気がついた。
自分たちへ迫る影に。
背負うしかない。
罪を。
鳳翔は決断する。
「これから言うことをよく聞いて、考えてください」
ただ、背負う罪がどれかは自分たちが選ぶ。
そして、誰か一人に背負わせるのではなく、それぞれが背負う。
導き出される答えなど決まっているけれど。
そう。
自分たちは愚かなのだから。
「これからどうするかを決め――」
そこで、鳳翔は気がついた。
自分たちへ迫る影に。
164: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:05:08.11 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
重巡二、軽巡と駆逐が四。
自分がこれまでに屠った相手の数を冷静に数え上げる。
短時間にあげた戦果としては上出来だ。
だが、その数倍が残っている。
(戦艦をやれなかったのは、ちょっと失敗ですネ)
それでも、二隻には深刻なダメージを与えてはいる。
意外なところでドラム缶が役に立った。
敵戦艦の間に流れ着いた一つが燃料と弾薬の詰まったもので、それが金剛の砲撃の煽りで誘爆、敵の機関と舵に損傷を与えたのだ。
運が良かっただけとはいえ、一時的にでも敵が減るのはありがたい。
(それを見て、移動したのも失敗デシタ)
重巡二、軽巡と駆逐が四。
自分がこれまでに屠った相手の数を冷静に数え上げる。
短時間にあげた戦果としては上出来だ。
だが、その数倍が残っている。
(戦艦をやれなかったのは、ちょっと失敗ですネ)
それでも、二隻には深刻なダメージを与えてはいる。
意外なところでドラム缶が役に立った。
敵戦艦の間に流れ着いた一つが燃料と弾薬の詰まったもので、それが金剛の砲撃の煽りで誘爆、敵の機関と舵に損傷を与えたのだ。
運が良かっただけとはいえ、一時的にでも敵が減るのはありがたい。
(それを見て、移動したのも失敗デシタ)
165: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:05:52.87 ID:6VHVfebZo
とりあえず、各個撃破を狙った金剛は敵を引き付けながらその場を離れる。
そうやって敵の陣形を崩し、各個撃破を狙うつもりで。
けれど、幸運の女神はそこまできて金剛を見放した。
まさかそこで天候が回復するとは思わなかった。
身を隠すための手段を失ったのだ。
(だから、ワタシにできるコトは、多分これが最後デス)
そして今。
金剛は西へ、西へと移動していた。
少しでも夜明けを遅くするため。
(敵機が来タラ一巻の終わりデス……だから少しでも西へ、デス)
そうやって敵の陣形を崩し、各個撃破を狙うつもりで。
けれど、幸運の女神はそこまできて金剛を見放した。
まさかそこで天候が回復するとは思わなかった。
身を隠すための手段を失ったのだ。
(だから、ワタシにできるコトは、多分これが最後デス)
そして今。
金剛は西へ、西へと移動していた。
少しでも夜明けを遅くするため。
(敵機が来タラ一巻の終わりデス……だから少しでも西へ、デス)
166: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:06:26.68 ID:6VHVfebZo
だが、白み始めた東の空は無情にも金剛を追う。
絶望的な速度で。
だから、少しでも仲間から離れるため。
(時間はあまりないデス……追撃を断念させられる位置まで行くのデスヨ)
しかし、金剛の機関は言うことを聞かない。
風雨と夜陰に紛れた奇襲でも、数の力を前にしては、あっという間に覆される。
被弾した数など、数えたところで意味はない。
(動け……動いてクダサイ。あと少しでいいんデス!)
残った機関を限界まで回しても、速度はようやく一〇ノットを超える程度。
主砲も副砲も――機銃すらすでに失い、反撃の手段さえない。
絶望的な速度で。
だから、少しでも仲間から離れるため。
(時間はあまりないデス……追撃を断念させられる位置まで行くのデスヨ)
しかし、金剛の機関は言うことを聞かない。
風雨と夜陰に紛れた奇襲でも、数の力を前にしては、あっという間に覆される。
被弾した数など、数えたところで意味はない。
(動け……動いてクダサイ。あと少しでいいんデス!)
残った機関を限界まで回しても、速度はようやく一〇ノットを超える程度。
主砲も副砲も――機銃すらすでに失い、反撃の手段さえない。
167: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:06:55.46 ID:6VHVfebZo
満身創痍。
そんな簡単な言葉で表現することなど躊躇ってしまうほど。
それほどまでに金剛はボロボロになっていた。
『守るも攻めるも黒鉄の――』
ふと、金剛の耳にそんな歌が聞こえてきた。
慌てて、周囲を見渡す。
当然、誰もいない。いるはずがない。
『浮かべる城ぞ頼みなる――』
だが、確かに聞こえる。
そんな簡単な言葉で表現することなど躊躇ってしまうほど。
それほどまでに金剛はボロボロになっていた。
『守るも攻めるも黒鉄の――』
ふと、金剛の耳にそんな歌が聞こえてきた。
慌てて、周囲を見渡す。
当然、誰もいない。いるはずがない。
『浮かべる城ぞ頼みなる――』
だが、確かに聞こえる。
168: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:07:35.71 ID:6VHVfebZo
出撃のたびに、誰かが歌い、自分たちを鼓舞したあの歌が。
『浮かべる城ぞ日の本の――』
もはや、聞こえるはずのない彼らの声で聞こえる、その歌は。
旧式戦艦と揶揄され、だからこそ使い減りしても惜しくはない。
そう判断され、各地の戦場に送り出された。
それでも数々の武勲を重ねてきた、金剛型戦艦に似合いの歌だ。
そして。
(ああ、そうなんデスネ……)
金剛は自分のいる場所を思い出す。
不思議な感覚だ。きっと、誰にもこの感覚はわからないだろう。
『浮かべる城ぞ日の本の――』
もはや、聞こえるはずのない彼らの声で聞こえる、その歌は。
旧式戦艦と揶揄され、だからこそ使い減りしても惜しくはない。
そう判断され、各地の戦場に送り出された。
それでも数々の武勲を重ねてきた、金剛型戦艦に似合いの歌だ。
そして。
(ああ、そうなんデスネ……)
金剛は自分のいる場所を思い出す。
不思議な感覚だ。きっと、誰にもこの感覚はわからないだろう。
169: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:08:08.87 ID:6VHVfebZo
自分が眠る場所に立つなど、できるわけがないのだから。
空を見上げる。
雲ひとつない空が広がっていた。
濃紺からオレンジへと、切れ目なく移り変わる空の色。
その中に、幾つも黒い点が現れる。
おそらく敵機だ。
(ここでフィニッシュ……な訳ないデショ。なんて言えたらカッコいいんでしょうケド)
周囲に水柱がいくつも吹き上がる。
後方から迫る敵だ。
(ここなら悪くないカモネ)
空を見上げる。
雲ひとつない空が広がっていた。
濃紺からオレンジへと、切れ目なく移り変わる空の色。
その中に、幾つも黒い点が現れる。
おそらく敵機だ。
(ここでフィニッシュ……な訳ないデショ。なんて言えたらカッコいいんでしょうケド)
周囲に水柱がいくつも吹き上がる。
後方から迫る敵だ。
(ここなら悪くないカモネ)
170: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:08:42.96 ID:6VHVfebZo
頭上に群がった敵機が急降下に移る態勢を整え始めた。
もう、充分だ。
ここからなら、鳳翔たちを追撃しても間に合うはずがない。
敵は諦めて引き下がるだろう。
だから、もう充分だ。
(もう、休んでもいいよネ……)
そっと目を閉じる。
いるべき場所へ帰るために。
次の瞬間。
金剛の体は何かに引かれ、思いも寄らぬ方向に動く。
「ワッツ!?」
もう、充分だ。
ここからなら、鳳翔たちを追撃しても間に合うはずがない。
敵は諦めて引き下がるだろう。
だから、もう充分だ。
(もう、休んでもいいよネ……)
そっと目を閉じる。
いるべき場所へ帰るために。
次の瞬間。
金剛の体は何かに引かれ、思いも寄らぬ方向に動く。
「ワッツ!?」
171: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:09:41.11 ID:6VHVfebZo
「軍艦行進曲で艦を見送るのも、出迎えるのも港なのよ、このバカ戦艦!」
金剛の体を抱きかかえていたのは瑞鶴だった。
「彼らはあんたに戦えって言ってんの! 国を守れって言ってんのよ!」
そのまま、急降下爆撃を躱していく。
「ナンデ、ここにいるデス? なんで帰らなかったんデス?」
「自分勝手な解釈して、他人の気持ちを考えないバカより、よっぽどまともなバカだからよ!」
天を衝く水柱をものともせず、瑞鶴はその中を最大速で突っ切っていく。
飛び散る破片が瑞鶴の肌に傷を作っていくのが見えた。
「ホンモノのバカは瑞鶴ですヨ。これじゃ敵の思うツボじゃないデスカ」
「ああ、言い忘れたけど、そいうバカは私一人じゃないから――曙! 金剛を拾った! そっちは!?」
金剛の体を抱きかかえていたのは瑞鶴だった。
「彼らはあんたに戦えって言ってんの! 国を守れって言ってんのよ!」
そのまま、急降下爆撃を躱していく。
「ナンデ、ここにいるデス? なんで帰らなかったんデス?」
「自分勝手な解釈して、他人の気持ちを考えないバカより、よっぽどまともなバカだからよ!」
天を衝く水柱をものともせず、瑞鶴はその中を最大速で突っ切っていく。
飛び散る破片が瑞鶴の肌に傷を作っていくのが見えた。
「ホンモノのバカは瑞鶴ですヨ。これじゃ敵の思うツボじゃないデスカ」
「ああ、言い忘れたけど、そいうバカは私一人じゃないから――曙! 金剛を拾った! そっちは!?」
172: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:10:17.85 ID:6VHVfebZo
『側面から突っ込んで切り崩してる! 漣と潮は弾薬が切れたから下げた! 私と朧も残り少ないから急いで!』
「了解! 無茶するから覚悟しなさいよ、金剛!」
そう言って、金剛の了解を待たずに瑞鶴はまっすぐに進んでいく。
敵の雷撃機へ向かってまっすぐに。
「ヘイ、瑞鶴。雷撃機が……」
「知ってる――鳳翔さん! 正面の敵雷撃機編隊をお願いします!」
『了解しました。撃ち漏らした分は自力で回避してください。あなたの隊を敵の第二波に向かわせたせいで、戦力が不足してます』
その直後。
二人に迫る雷撃機隊の上空から、逆落としに迫る機影が見えた。
一気に間合いを詰めた九六式艦戦が、次々に眼下の獲物へ襲いかかる。
「了解! 無茶するから覚悟しなさいよ、金剛!」
そう言って、金剛の了解を待たずに瑞鶴はまっすぐに進んでいく。
敵の雷撃機へ向かってまっすぐに。
「ヘイ、瑞鶴。雷撃機が……」
「知ってる――鳳翔さん! 正面の敵雷撃機編隊をお願いします!」
『了解しました。撃ち漏らした分は自力で回避してください。あなたの隊を敵の第二波に向かわせたせいで、戦力が不足してます』
その直後。
二人に迫る雷撃機隊の上空から、逆落としに迫る機影が見えた。
一気に間合いを詰めた九六式艦戦が、次々に眼下の獲物へ襲いかかる。
173: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:10:48.15 ID:6VHVfebZo
撃墜など狙っていない。
隊形を乱し、雷撃位置を取らせない。
それだけを確実に狙い、次々に相手を変えていく。
当然、網をくぐり抜けた敵はいるし、攻撃を仕掛けてくるが、統制された雷撃にならなければ回避する道はできる。
「こんなの、加賀のとこの攻撃隊に比べたら温いもんよ!」
瑞鶴には、すでに道筋が見えている。
迫る魚雷の間にできたわずかな隙を見つけ、縫うように進んでいく。
その先で鳳翔と漣、潮が待っていた。
「はい、バトンタッチ」
金剛の体は漣と潮に預けられ、その場からさらに北へとゆっくり移動を始める。
隊形を乱し、雷撃位置を取らせない。
それだけを確実に狙い、次々に相手を変えていく。
当然、網をくぐり抜けた敵はいるし、攻撃を仕掛けてくるが、統制された雷撃にならなければ回避する道はできる。
「こんなの、加賀のとこの攻撃隊に比べたら温いもんよ!」
瑞鶴には、すでに道筋が見えている。
迫る魚雷の間にできたわずかな隙を見つけ、縫うように進んでいく。
その先で鳳翔と漣、潮が待っていた。
「はい、バトンタッチ」
金剛の体は漣と潮に預けられ、その場からさらに北へとゆっくり移動を始める。
174: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:11:18.93 ID:6VHVfebZo
「曙! 合流した!」
『了解! 引くわよ朧!』
上空を瑞鶴の攻撃隊が通過していく。
おそらくは曙たちを援護するためだろう。
ただ、数は少ない。
敵の殲滅を期待することはできないだろう。稼ぐことのできる時間もしれている。
逃げ切れるはずがない。
「ヘイ、この後どうするのデス?」
きっと何か考えがあるのだろう。
けれど、それは簡単に否定される。
『了解! 引くわよ朧!』
上空を瑞鶴の攻撃隊が通過していく。
おそらくは曙たちを援護するためだろう。
ただ、数は少ない。
敵の殲滅を期待することはできないだろう。稼ぐことのできる時間もしれている。
逃げ切れるはずがない。
「ヘイ、この後どうするのデス?」
きっと何か考えがあるのだろう。
けれど、それは簡単に否定される。
175: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:11:57.13 ID:6VHVfebZo
「佐世保へ帰投します」
鳳翔はそれしか言わない。
本当に自分を助けるためだけに、後先を考えずにここへ戻ってきたのだ。
「これでは、敵が追ってきマス! 佐世保まではとても――」
金剛の言葉は遮られる。
上空を飛ぶ味方機によって。
空を見上げた金剛の目に映ったのは、識別帯が白一。五航戦、翔鶴の艦載機たち。
そして、東からは別の大編隊。
識別帯は赤一、赤二。それと青一、青二。赤城隊として編成された、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の各航空隊。
「どうなっているのデス?」
鳳翔はそれしか言わない。
本当に自分を助けるためだけに、後先を考えずにここへ戻ってきたのだ。
「これでは、敵が追ってきマス! 佐世保まではとても――」
金剛の言葉は遮られる。
上空を飛ぶ味方機によって。
空を見上げた金剛の目に映ったのは、識別帯が白一。五航戦、翔鶴の艦載機たち。
そして、東からは別の大編隊。
識別帯は赤一、赤二。それと青一、青二。赤城隊として編成された、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の各航空隊。
「どうなっているのデス?」
176: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:12:35.10 ID:6VHVfebZo
「だから言ったじゃん、バカは私だけじゃないって。それでも、あんたよりだいぶマシ」
呆れた顔の瑞鶴が、「だってさあ」と付け加える。
「あんた、貸すつもりだったんだろうけど、逆にとんでもない借りを作ったわよ?」
朦朧とする意識の淵に、瑞鶴の言葉が引っかかる。
けれど、それがどういう意味なのか考えることができない。
その横で苦笑いをしている鳳翔が見えると、ついに張りつめていた緊張の糸が切れた。
金剛の意識はそこで途切れる。
呆れた顔の瑞鶴が、「だってさあ」と付け加える。
「あんた、貸すつもりだったんだろうけど、逆にとんでもない借りを作ったわよ?」
朦朧とする意識の淵に、瑞鶴の言葉が引っかかる。
けれど、それがどういう意味なのか考えることができない。
その横で苦笑いをしている鳳翔が見えると、ついに張りつめていた緊張の糸が切れた。
金剛の意識はそこで途切れる。
177: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:13:15.79 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後。
金剛は病室のベッドの上にいた。
入渠後の検査が終わるまでは、怪我人と同じ扱いで、ここから出ることは許されない。
だから、その時間は戦闘詳報の作成くらいしかやることもない。
退屈な仕事。
あまり好きではない。
ベッドの横では、榛名が黙々とリンゴの皮を剥いていた。
相当悪戦苦闘しているようで、厚さもマチマチな、短くちぎれた皮があちこちに散乱している。
見ているだけで冷や汗モノだ。
「ヘイ、榛名。指を切っても入渠はできないヨ?」
数日後。
金剛は病室のベッドの上にいた。
入渠後の検査が終わるまでは、怪我人と同じ扱いで、ここから出ることは許されない。
だから、その時間は戦闘詳報の作成くらいしかやることもない。
退屈な仕事。
あまり好きではない。
ベッドの横では、榛名が黙々とリンゴの皮を剥いていた。
相当悪戦苦闘しているようで、厚さもマチマチな、短くちぎれた皮があちこちに散乱している。
見ているだけで冷や汗モノだ。
「ヘイ、榛名。指を切っても入渠はできないヨ?」
178: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:14:03.90 ID:6VHVfebZo
「榛名は大丈夫です。このくらいできます」
「いや……見ている方が大丈夫じゃないんデスヨ」
ここはひとつ手本を見せなければならない。それが姉の務めだ。
それ以前に、自分の精神衛生上とてもよくない。
大きく一つため息をついてから、書きかけの戦闘詳報を閉じる。
新たなリンゴを手に取ろうと、籠に手を入れた金剛の指先に別の感触があった。
「ワッツ?」
ごそごそとそれを探り当て、取り出す。
なんの飾り気もない、その辺ですぐにでも手に入りそうな包装紙に包まれた箱。
榛名が小さく、「あっ」と声を出した。
「いや……見ている方が大丈夫じゃないんデスヨ」
ここはひとつ手本を見せなければならない。それが姉の務めだ。
それ以前に、自分の精神衛生上とてもよくない。
大きく一つため息をついてから、書きかけの戦闘詳報を閉じる。
新たなリンゴを手に取ろうと、籠に手を入れた金剛の指先に別の感触があった。
「ワッツ?」
ごそごそとそれを探り当て、取り出す。
なんの飾り気もない、その辺ですぐにでも手に入りそうな包装紙に包まれた箱。
榛名が小さく、「あっ」と声を出した。
179: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:14:41.64 ID:6VHVfebZo
「それは横須賀の司令官からです。こんなとこに入ってるなんて、道理で探しても見つからないはずです。比叡お姉様ったら、あんなに――」
金剛の知らないところで色々とあったのだろう。
正直なところ、またかと言う気持ちもある。
とりあえず、一人で何やら愚痴をこぼしている榛名をそのままにして、包みを開く。
と。
小さなメモが落ちる。
――使えるのは一度きり。人払いを――
書かれた文章はわずかそれだけ。あとには、数桁の数字だけだ。
包みからは紅茶の箱と小さな電子機器が出てきた。
それで、差出人の意図はわかった。
金剛の知らないところで色々とあったのだろう。
正直なところ、またかと言う気持ちもある。
とりあえず、一人で何やら愚痴をこぼしている榛名をそのままにして、包みを開く。
と。
小さなメモが落ちる。
――使えるのは一度きり。人払いを――
書かれた文章はわずかそれだけ。あとには、数桁の数字だけだ。
包みからは紅茶の箱と小さな電子機器が出てきた。
それで、差出人の意図はわかった。
180: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:15:25.38 ID:6VHVfebZo
「榛名。ワタシの部屋からティーセットを持ってきてくれますカ?」
紅茶の箱を手に取って見せ、そう頼む。
「はい。お湯も持ってきますね」
席を立ち、部屋を出て行く榛名。足音が聞こえなくなったのを確認して、金剛は手元の電子機器に電源を入れ、数字を入力して行く。
呼び出し音は三回ほど。
『遅かったな』
何度か聞いたことのある声は、いきなり愚痴をこぼす。
果物と一緒のカゴに放り込んだせいで行方不明になったのは金剛の責任ではないし、それによって対応が遅れたのもしかりだ。
よって、その件でとやかく言われる筋合いはない。
「文句は比叡に言うべきらしいデスヨ」
紅茶の箱を手に取って見せ、そう頼む。
「はい。お湯も持ってきますね」
席を立ち、部屋を出て行く榛名。足音が聞こえなくなったのを確認して、金剛は手元の電子機器に電源を入れ、数字を入力して行く。
呼び出し音は三回ほど。
『遅かったな』
何度か聞いたことのある声は、いきなり愚痴をこぼす。
果物と一緒のカゴに放り込んだせいで行方不明になったのは金剛の責任ではないし、それによって対応が遅れたのもしかりだ。
よって、その件でとやかく言われる筋合いはない。
「文句は比叡に言うべきらしいデスヨ」
181: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:16:02.86 ID:6VHVfebZo
『はあ? なんだそりゃ――まぁいい。この電話が使えるのは今回だけ。以降は余計な耳がつくと考えてくれ』
これだけの出来事があったのだから、金剛の周りには、その動向を警戒して様々な探りが入るだろう。
余計な火の粉を避けるために、横須賀司令が用心するのは当たり前だ。
「このご時世に、使い捨ての携帯電話ナンテ、随分お金持ちじゃないデスカ?」
数年前からは一般社会に出回らなくなったものの一つだ。
出たとしても、とんでもなく高価なはず。
ネットワーク自体はまだ生きているらしいが、今でも利用できているのは限られた数だろう。たまに目を通していた新聞にはそう書かれていた。
数が少なく管理しやすい。かつ新しく増える可能性もほとんどないとなれば、監視の対象としての優先度も下がる。
一回限りの連絡手段として使うならば、最適と言えるかもしれない。
『使い捨てなんてとんでもないぞ? 回収するから、後で白露か涼風に渡しておいてくれ。じゃないと明石と夕張に何をされるか……』
これだけの出来事があったのだから、金剛の周りには、その動向を警戒して様々な探りが入るだろう。
余計な火の粉を避けるために、横須賀司令が用心するのは当たり前だ。
「このご時世に、使い捨ての携帯電話ナンテ、随分お金持ちじゃないデスカ?」
数年前からは一般社会に出回らなくなったものの一つだ。
出たとしても、とんでもなく高価なはず。
ネットワーク自体はまだ生きているらしいが、今でも利用できているのは限られた数だろう。たまに目を通していた新聞にはそう書かれていた。
数が少なく管理しやすい。かつ新しく増える可能性もほとんどないとなれば、監視の対象としての優先度も下がる。
一回限りの連絡手段として使うならば、最適と言えるかもしれない。
『使い捨てなんてとんでもないぞ? 回収するから、後で白露か涼風に渡しておいてくれ。じゃないと明石と夕張に何をされるか……』
182: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:16:35.42 ID:6VHVfebZo
本気で怯えている声。
一体、横須賀での艦娘と司令官の関係とはどんなものなのだろうか。フッとそんなどうでもいい考えが頭をよぎる。
実際は白露や涼風が持ってきた話以上なのかもしれない。
だが、今気にするのはそこではない。
「了解デス。それで、こんな手間をかけたというコトは、手紙程度ではまとまらない話なんデスネ?」
『別に手紙でもよかったんだけどな。反応を知りたいってのが一番か』
「どう言う意味デス?」
『――何を餌にするにしても、そんなのはそれを美味いと思う奴にしか通じないんだ。そう言えばわかるか?』
餌をぶら下げたのは自分だ。わからないわけがない。
またしても、読み違えた。
一体、横須賀での艦娘と司令官の関係とはどんなものなのだろうか。フッとそんなどうでもいい考えが頭をよぎる。
実際は白露や涼風が持ってきた話以上なのかもしれない。
だが、今気にするのはそこではない。
「了解デス。それで、こんな手間をかけたというコトは、手紙程度ではまとまらない話なんデスネ?」
『別に手紙でもよかったんだけどな。反応を知りたいってのが一番か』
「どう言う意味デス?」
『――何を餌にするにしても、そんなのはそれを美味いと思う奴にしか通じないんだ。そう言えばわかるか?』
餌をぶら下げたのは自分だ。わからないわけがない。
またしても、読み違えた。
183: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:17:13.93 ID:6VHVfebZo
どうにも人の心というやつは、金剛が思っているよりも複雑なのかもしれない。
なんにせよ、艦娘の側に立ってくれる人間が減ったことだけは違いない。
さらに悪いことに、その可能性を自分で摘み取ってしまったという恐れもある。
「バレちゃいましたカ……これでまた、立場が悪くなってしまいマスネ」
ここは素直に謝罪をした方がいい。
少なくとも、修復用の資材を無償で提供してくれたという借りはあるし、それによって救われたのだから。
『そもそも俺にはそんな力なんてないんだ。この基地の司令官職がなんて言われてるか知ってるだろ?』
安楽椅子。
中央で働いてきた退役間近の幹部や、これから中央でもっと上の職につく人間がほんの一時、箔をつける為にそこに座る。
仕事と言えば、ただ送られてくる報告書類に目を通し、判を押すだけ。
それが艦娘に関わるものだというだけだ。
なんにせよ、艦娘の側に立ってくれる人間が減ったことだけは違いない。
さらに悪いことに、その可能性を自分で摘み取ってしまったという恐れもある。
「バレちゃいましたカ……これでまた、立場が悪くなってしまいマスネ」
ここは素直に謝罪をした方がいい。
少なくとも、修復用の資材を無償で提供してくれたという借りはあるし、それによって救われたのだから。
『そもそも俺にはそんな力なんてないんだ。この基地の司令官職がなんて言われてるか知ってるだろ?』
安楽椅子。
中央で働いてきた退役間近の幹部や、これから中央でもっと上の職につく人間がほんの一時、箔をつける為にそこに座る。
仕事と言えば、ただ送られてくる報告書類に目を通し、判を押すだけ。
それが艦娘に関わるものだというだけだ。
184: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:17:54.34 ID:6VHVfebZo
「たとえその立場デモ、使いようはあるデショ?」
『残念ながら、俺がここにいるのは中央に行く為じゃない。たまたまこの椅子を埋める人間がいなかった。ただそれだけなんだよ』
本来は、現佐世保司令がそこに座る予定だったと聞いていた。
しかし、その直前に前佐世保司令が不慮の事故で死亡し、空白を埋めるためにあの男が急遽送り込まれてきた。
それは本当にただの巡り合わせだ。
「なら、なおさら――」
それをチャンスとして生かすべきではないのか。
それが人というものだ。
『さっき言った通り、俺にはそういう欲がない。そもそも俺は辞めようと思っていた人間だからね。それでも、次が見つかるまで座っているだけでいいからと、この職を押し付けられた。そんな人間に出世欲があると思うか?』
あるわけがない。
『残念ながら、俺がここにいるのは中央に行く為じゃない。たまたまこの椅子を埋める人間がいなかった。ただそれだけなんだよ』
本来は、現佐世保司令がそこに座る予定だったと聞いていた。
しかし、その直前に前佐世保司令が不慮の事故で死亡し、空白を埋めるためにあの男が急遽送り込まれてきた。
それは本当にただの巡り合わせだ。
「なら、なおさら――」
それをチャンスとして生かすべきではないのか。
それが人というものだ。
『さっき言った通り、俺にはそういう欲がない。そもそも俺は辞めようと思っていた人間だからね。それでも、次が見つかるまで座っているだけでいいからと、この職を押し付けられた。そんな人間に出世欲があると思うか?』
あるわけがない。
185: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:18:41.45 ID:6VHVfebZo
その情報が手元にあったなら、あんな駆け引きには巻き込まなかった。
駒として使い物にならないのだから。
それに、と電話の向こうが話を続ける。
『時期を見て、佐世保と俺を入れ替える予定だったらしい。そうして、戦火の中にでも放り込めば、始末のつけようはいくらでもあるから、機密保持に気を使う必要もないってな具合だろうな』
「それ、ホントですカ?」
『噂さ。けど佐世保の馬鹿は、お前のあげた戦果を自分の手柄として報告した。その結果、負け戦続きの中央がどう判断するかなんて、誰にでもわかるだろう?』
優秀な指揮官を現場に残したい。そう考える。
なんとも不幸な巡り合わせだと言っていい。
あの男は中央に返り咲くべく、いろいろと画策した挙句、それこそがその椅子に自分を縛り付ける結果を導いてしまったのだから。
そこで何かが引っかかる。
駒として使い物にならないのだから。
それに、と電話の向こうが話を続ける。
『時期を見て、佐世保と俺を入れ替える予定だったらしい。そうして、戦火の中にでも放り込めば、始末のつけようはいくらでもあるから、機密保持に気を使う必要もないってな具合だろうな』
「それ、ホントですカ?」
『噂さ。けど佐世保の馬鹿は、お前のあげた戦果を自分の手柄として報告した。その結果、負け戦続きの中央がどう判断するかなんて、誰にでもわかるだろう?』
優秀な指揮官を現場に残したい。そう考える。
なんとも不幸な巡り合わせだと言っていい。
あの男は中央に返り咲くべく、いろいろと画策した挙句、それこそがその椅子に自分を縛り付ける結果を導いてしまったのだから。
そこで何かが引っかかる。
186: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:19:17.97 ID:6VHVfebZo
それに気がついた次の瞬間、金剛の背筋に冷たいものがゆっくりと流れて行く。
「ウェイ。ナンデ佐世保が手柄を書き換えてるって知ってるんデス?」
『白露と涼風。別に情報を拾ってこいと言ってるわけじゃないけど、村雨や五月雨なんかに変な噂話程度のつもりで聞かせてるのが、自然と俺の耳にも入るんだよ。ただ、俺は佐世保司令の人となりを知ってる。正解を出すのはそんなに難しい話じゃないな』
それが本当ならば、前提の段階で金剛の考えなど崩壊している。
何もせずに。
何一つ手を汚すことなく。
彼はただ手元に流れてきた情報だけで、すべてを組み立てていた。
そして、それは間違っていない。
どこまでも見透かされているような感覚と恐怖。それが金剛の背に流れる冷たいものの正体だろう。
たとえどんな貸しを作っても、この男を手玉に取れるような気がしなかった。
「ウェイ。ナンデ佐世保が手柄を書き換えてるって知ってるんデス?」
『白露と涼風。別に情報を拾ってこいと言ってるわけじゃないけど、村雨や五月雨なんかに変な噂話程度のつもりで聞かせてるのが、自然と俺の耳にも入るんだよ。ただ、俺は佐世保司令の人となりを知ってる。正解を出すのはそんなに難しい話じゃないな』
それが本当ならば、前提の段階で金剛の考えなど崩壊している。
何もせずに。
何一つ手を汚すことなく。
彼はただ手元に流れてきた情報だけで、すべてを組み立てていた。
そして、それは間違っていない。
どこまでも見透かされているような感覚と恐怖。それが金剛の背に流れる冷たいものの正体だろう。
たとえどんな貸しを作っても、この男を手玉に取れるような気がしなかった。
187: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:19:57.71 ID:6VHVfebZo
むしろ乗せられたふりをして、いつの間にか立場を逆転させている。そのくらいは何も考えずにやってのけるに違いない。
「……当然、ワタシが何を考えていたかもわかってマスネ?」
『そりゃ、ね。今の状況を長いこと見ていれば、誰だっていつかはそこに行き着くだろうさ』
そんな人間に、自分は弱みを握らせてしまった。
もはや逃げることはできないだろう。
どんな道が待っているにしろ、だ。
『だから、そんなのは別にどうでもいい話だな』
「ワッツ?」
『そんなものにいちいち腹立てて、貸しだの借りだの、利用するだのされるだの……面倒なだけだろってこと』
うわべで言ってるわけではない。
「……当然、ワタシが何を考えていたかもわかってマスネ?」
『そりゃ、ね。今の状況を長いこと見ていれば、誰だっていつかはそこに行き着くだろうさ』
そんな人間に、自分は弱みを握らせてしまった。
もはや逃げることはできないだろう。
どんな道が待っているにしろ、だ。
『だから、そんなのは別にどうでもいい話だな』
「ワッツ?」
『そんなものにいちいち腹立てて、貸しだの借りだの、利用するだのされるだの……面倒なだけだろってこと』
うわべで言ってるわけではない。
188: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:21:13.68 ID:6VHVfebZo
彼は、本気で、心の底からそう思っている。
言葉の端々ににじみ出る倦怠は、まぎれもない本物なのだから。
『ま、どうしても頭下げたいっていうなら、まずは金剛隊――特に鳳翔には畳がすり減るくらい頭擦り付けて謝っとけ。赤城に話をつけて支援を引き出してもいるんだ』
鳳翔にはとんでもない厄介事を押し付けようとしていた。
当然、向こうだってそれくらい気がついているはずだ。
謝るどころで済む話ではない。
『それから、支援艦隊として出た翔鶴隊でいいんじゃないか? 偶然とは言え、鳳翔たちを見つけたんだ。それがなきゃ、お前のところにたどり着くこともなかっただろうさ』
そうだ。
なぜあの時、支援艦隊は引き返していなかったのか。
少なくとも、佐世保が金剛の処分を考えていたことに間違いはなかった。輸送船団の位置に関する偽装という事実だけで、疑う余地などない。
言葉の端々ににじみ出る倦怠は、まぎれもない本物なのだから。
『ま、どうしても頭下げたいっていうなら、まずは金剛隊――特に鳳翔には畳がすり減るくらい頭擦り付けて謝っとけ。赤城に話をつけて支援を引き出してもいるんだ』
鳳翔にはとんでもない厄介事を押し付けようとしていた。
当然、向こうだってそれくらい気がついているはずだ。
謝るどころで済む話ではない。
『それから、支援艦隊として出た翔鶴隊でいいんじゃないか? 偶然とは言え、鳳翔たちを見つけたんだ。それがなきゃ、お前のところにたどり着くこともなかっただろうさ』
そうだ。
なぜあの時、支援艦隊は引き返していなかったのか。
少なくとも、佐世保が金剛の処分を考えていたことに間違いはなかった。輸送船団の位置に関する偽装という事実だけで、疑う余地などない。
189: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:22:00.10 ID:6VHVfebZo
そして、それを確実に実行するには、翔鶴隊の到着は邪魔だ。
金剛隊は敵勢力圏より脱出に成功とでも偽の情報を渡せば、彼女たちが独断で行動することもない。
だから、おそらくは。
「その翔鶴隊デス。あれを動かしたのはアナタじゃないのデスカ? 鳳翔たちは翔鶴隊と合流できたからこそ、ワタシを助けに戻った。そう考えたら、アナタには返しきれないくらいの借りができたことになりマス」
『いや、あれは佐世保の命令だぞ?』
「は?」
そんなわけがないだろう。
佐世保司令にそうするメリットなど、何一つないはずだ。
だが。
『翔鶴隊はそのまま南進、北上する敵艦隊を捕捉、撃滅せよ。ちゃんと記録に残ってるぞ』
金剛隊は敵勢力圏より脱出に成功とでも偽の情報を渡せば、彼女たちが独断で行動することもない。
だから、おそらくは。
「その翔鶴隊デス。あれを動かしたのはアナタじゃないのデスカ? 鳳翔たちは翔鶴隊と合流できたからこそ、ワタシを助けに戻った。そう考えたら、アナタには返しきれないくらいの借りができたことになりマス」
『いや、あれは佐世保の命令だぞ?』
「は?」
そんなわけがないだろう。
佐世保司令にそうするメリットなど、何一つないはずだ。
だが。
『翔鶴隊はそのまま南進、北上する敵艦隊を捕捉、撃滅せよ。ちゃんと記録に残ってるぞ』
190: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:22:38.78 ID:6VHVfebZo
「なんで、デス?」
『いや、敵艦隊の針路は〇六〇だろ? あのまま進んだらマズイんじゃないかって、とりあえず哨戒終わって帰投中の艦娘を載せたあきさめを保険で回したんだよ。そしたら――』
護衛艦あきさめ。
唯一、艦娘とともに行動することを許された護衛艦。
今回の任務は、前路哨戒任務を終えた艦娘の速やかな回収と佐世保への輸送。
あの時点ならば、おそらくは任務を終えた名取たちが載っていたはずだ。
しかし、艦の所属は横須賀第二基地。当然、横須賀司令の指揮下だ。彼の裁量で動かすことに問題はない。
そして、それに危機が訪れれば、載っている艦娘たちは当然のように防衛に回る。
自分の身を守るために。
『よその担当海域で何勝手なことをするんだって、いつもの調子で文句言われたんでね。まぁ、それもそうかと理由を正直に話しただけだよ』
『いや、敵艦隊の針路は〇六〇だろ? あのまま進んだらマズイんじゃないかって、とりあえず哨戒終わって帰投中の艦娘を載せたあきさめを保険で回したんだよ。そしたら――』
護衛艦あきさめ。
唯一、艦娘とともに行動することを許された護衛艦。
今回の任務は、前路哨戒任務を終えた艦娘の速やかな回収と佐世保への輸送。
あの時点ならば、おそらくは任務を終えた名取たちが載っていたはずだ。
しかし、艦の所属は横須賀第二基地。当然、横須賀司令の指揮下だ。彼の裁量で動かすことに問題はない。
そして、それに危機が訪れれば、載っている艦娘たちは当然のように防衛に回る。
自分の身を守るために。
『よその担当海域で何勝手なことをするんだって、いつもの調子で文句言われたんでね。まぁ、それもそうかと理由を正直に話しただけだよ』
191: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:23:40.44 ID:6VHVfebZo
そうなることは予想できたはずだ。
彼は佐世保司令の人となりを知っているのだから。
ならば、その話を聞いた佐世保がどう動くかも知っている。
『今考えると、あの時点で既にお前たちが迎撃に行ってたんだから、余計なことをする必要もなかったか……なら、なんであいつは翔鶴隊を南下させたんだろうか。お前たちが手酷くやられるとでも思ってたのかねぇ?』
敵空母の存在を告げなかった時点で、そうなる可能性は佐世保にはわかっている。
「そのセリフは白々しいデス。アナタは役者に向いてませんヨ」
『……足柄と同じこと言いやがって。黙って聞いて知らないフリしとけば、借りなんてなかったことにできたのに、変なとこで正直者だな』
「わかっててガマンできないくらい。そう言うことデス」
『そうかい。なら精進するさ』
だから、横須賀司令から告げられた言葉に惑わされ、翔鶴隊を南下させることで、万が一から己の身を守ろうとした。
彼は佐世保司令の人となりを知っているのだから。
ならば、その話を聞いた佐世保がどう動くかも知っている。
『今考えると、あの時点で既にお前たちが迎撃に行ってたんだから、余計なことをする必要もなかったか……なら、なんであいつは翔鶴隊を南下させたんだろうか。お前たちが手酷くやられるとでも思ってたのかねぇ?』
敵空母の存在を告げなかった時点で、そうなる可能性は佐世保にはわかっている。
「そのセリフは白々しいデス。アナタは役者に向いてませんヨ」
『……足柄と同じこと言いやがって。黙って聞いて知らないフリしとけば、借りなんてなかったことにできたのに、変なとこで正直者だな』
「わかっててガマンできないくらい。そう言うことデス」
『そうかい。なら精進するさ』
だから、横須賀司令から告げられた言葉に惑わされ、翔鶴隊を南下させることで、万が一から己の身を守ろうとした。
192: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:24:21.45 ID:6VHVfebZo
鳳翔のように、手元の情報に不審な点が残っていれば、考えることで別の可能性に気がつくことができたのかもしれない。
だが、佐世保の手元には情報が集まりすぎていた。
考える必要がないほどに。
だから自滅した。
「聞いていいデスカ?」
『答えられる範囲なら』
「佐世保の狙いがわかったのはいつデス?」
『翔鶴からの確認かな。あれがきっかけを作って、あきさめの位置が決定的な情報になった。船団が順調に進めば、あきさめも移動するんだよ。船団位置システムの情報は時間差のできるこっち経由じゃなくて、直接受信してるからね――もっとも、本当に最後のかけらになったのは、今までの経緯と、佐世保の人となりなんだろうけどな』
あの一手を有効に生かしてくれたのだ。
ただし、予定とは逆に自分が大きな借りを作ってしまうことになったが。
だが、佐世保の手元には情報が集まりすぎていた。
考える必要がないほどに。
だから自滅した。
「聞いていいデスカ?」
『答えられる範囲なら』
「佐世保の狙いがわかったのはいつデス?」
『翔鶴からの確認かな。あれがきっかけを作って、あきさめの位置が決定的な情報になった。船団が順調に進めば、あきさめも移動するんだよ。船団位置システムの情報は時間差のできるこっち経由じゃなくて、直接受信してるからね――もっとも、本当に最後のかけらになったのは、今までの経緯と、佐世保の人となりなんだろうけどな』
あの一手を有効に生かしてくれたのだ。
ただし、予定とは逆に自分が大きな借りを作ってしまうことになったが。
193: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:25:01.80 ID:6VHVfebZo
どっちにしても、有能な人物であることに違いはない。
喪失しかけていた、人を見る目に対する自信が少しだけ戻ってきた。
「ちなみに船団が停止したという情報は、どこまで広がっていたのデス?」
『各関係部署に、機器不具合による誤報って御触れが出回る程度には』
組織内のほぼ全て、おそらくは中央も含めてということになる。
そこまでの情報操作をたった一個人で行えるものなのだろうか。
多分、可能だ。
可能だが、佐世保司令にはできない。それは間違いない。
だからこそ、何かとんでもなく深い穴を覗き込んでしまったような錯覚が金剛を襲う。
横須賀司令が警戒しているのは、きっとその深い穴だ。
喪失しかけていた、人を見る目に対する自信が少しだけ戻ってきた。
「ちなみに船団が停止したという情報は、どこまで広がっていたのデス?」
『各関係部署に、機器不具合による誤報って御触れが出回る程度には』
組織内のほぼ全て、おそらくは中央も含めてということになる。
そこまでの情報操作をたった一個人で行えるものなのだろうか。
多分、可能だ。
可能だが、佐世保司令にはできない。それは間違いない。
だからこそ、何かとんでもなく深い穴を覗き込んでしまったような錯覚が金剛を襲う。
横須賀司令が警戒しているのは、きっとその深い穴だ。
194: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:25:53.59 ID:6VHVfebZo
「……何か、とんでもないモノに巻き込まれた気がシマス」
『だろうな。だから頼みがある』
声のトーンが一段下がった。
おそらくは、ここからが横須賀司令の本当の狙いなのだろう。
「なんデスカ?」
『おそらく、お前さんの書いてる戦闘詳報は、例によって佐世保がでっち上げる。今回に限れば確実にやる。やけに長い怪我人生活はそのためだと思っていい』
当たり前だろう。
意味のない転進命令で艦娘を危険に晒し、戦力を喪失させかねなかったという、利敵行為と取られても否定できない行為をしたのだから。
それに、戦闘詳報には司令官の能力や人格を問題とした解任要求も添付する予定だ。
当然それを何としても阻止してくるだろうということは予想できたし、だからこそ別の手段を使ってそれを中央に届けるつもりでいた。
『だろうな。だから頼みがある』
声のトーンが一段下がった。
おそらくは、ここからが横須賀司令の本当の狙いなのだろう。
「なんデスカ?」
『おそらく、お前さんの書いてる戦闘詳報は、例によって佐世保がでっち上げる。今回に限れば確実にやる。やけに長い怪我人生活はそのためだと思っていい』
当たり前だろう。
意味のない転進命令で艦娘を危険に晒し、戦力を喪失させかねなかったという、利敵行為と取られても否定できない行為をしたのだから。
それに、戦闘詳報には司令官の能力や人格を問題とした解任要求も添付する予定だ。
当然それを何としても阻止してくるだろうということは予想できたし、だからこそ別の手段を使ってそれを中央に届けるつもりでいた。
195: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:26:52.96 ID:6VHVfebZo
『だから、今回もいつも通り、我慢してくれないか?』
「ワッツ? それを俺に寄越せトカ、上層部に届ける手段を指定トカ、そういう話ではなくて、ただ黙っていろと言うのデスカ?」
あれだけの目にあったのだ。
ただ黙って使われるだけの艦娘とはいえ、文句を言う権利くらいはあるはずだ。
むしろ砲弾を撃ち込まれないだけでもありがたいと思え。そう言うレベルの話だ。
それをなかったことにしろなど、この身を救われた恩人であっても、到底従うことなどできるはずがない。
だが、電話の向こうはそれも織り込み済みだったのだろう。
落ち着いた声で話を続ける。
『今それを上層部に見せたところで、酷い目にあうのはお前たち艦娘だ。下手をすれば、関係者丸ごとどこかの激戦区に放り込まれて、誰一人帰ってこないなんてオチになる。なぜそうなるか、お前ならわかるだろう?』
深海棲艦に唯一対抗できる力。
「ワッツ? それを俺に寄越せトカ、上層部に届ける手段を指定トカ、そういう話ではなくて、ただ黙っていろと言うのデスカ?」
あれだけの目にあったのだ。
ただ黙って使われるだけの艦娘とはいえ、文句を言う権利くらいはあるはずだ。
むしろ砲弾を撃ち込まれないだけでもありがたいと思え。そう言うレベルの話だ。
それをなかったことにしろなど、この身を救われた恩人であっても、到底従うことなどできるはずがない。
だが、電話の向こうはそれも織り込み済みだったのだろう。
落ち着いた声で話を続ける。
『今それを上層部に見せたところで、酷い目にあうのはお前たち艦娘だ。下手をすれば、関係者丸ごとどこかの激戦区に放り込まれて、誰一人帰ってこないなんてオチになる。なぜそうなるか、お前ならわかるだろう?』
深海棲艦に唯一対抗できる力。
196: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:27:30.03 ID:6VHVfebZo
人が決して敵わない力。
それがもし、人に従わないとなれば。
「……そう言うことデスカ」
所詮、艦娘は兵器としての扱い。
それが自発的に動けば、人はまず恐怖を感じる。
それがいつ自分に向けられるのかと。
『俺は、その状況自体を変えたいと思ってる。準備をして、その機会を待ってる。もし、お前がどうしても今回の件を借りにしたいなら、それを返すつもりで手を貸してくれないか?』
そう言われてしまうと、金剛は逆らうことができない。
救ってもらったのは自分だけではない。自分の判断ミスで巻き込んでしまった仲間全てなのだから。
それに、彼の目指すものは、金剛の願っていたものでもある。
それがもし、人に従わないとなれば。
「……そう言うことデスカ」
所詮、艦娘は兵器としての扱い。
それが自発的に動けば、人はまず恐怖を感じる。
それがいつ自分に向けられるのかと。
『俺は、その状況自体を変えたいと思ってる。準備をして、その機会を待ってる。もし、お前がどうしても今回の件を借りにしたいなら、それを返すつもりで手を貸してくれないか?』
そう言われてしまうと、金剛は逆らうことができない。
救ってもらったのは自分だけではない。自分の判断ミスで巻き込んでしまった仲間全てなのだから。
それに、彼の目指すものは、金剛の願っていたものでもある。
197: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:28:09.93 ID:6VHVfebZo
「……いつまで待てばいいのデス?」
『俺にもわからない。ただ単純に行動を起こしても、あっという間に潰されるだろうね。佐世保のやつに協力したのか、それともただ利用しただけなのかは知らないが、ほとんど国家機密扱いの船団位置システムに細工ができるような連中がいて、そいつらも艦娘が勝手に動くことを嫌ってる。当然、全力で邪魔をしに来るだろうさ』
「もし、その前にその誰かが私たちを処分しようとしたら、どうしマスカ?」
その可能性はないとは言えない。
少なくとも、佐世保はそれを考えているはずだ。
『できる限りのフォローはするし、横須賀へ異動できるように努力はしてみる。だが、もしそっちでチャンスがあるなら生かせ。その時は金剛隊全員を連れて来い』
彼の言葉に嘘はないだろう。
少なくとも利害が一致しているのだから。
「オーケー。わかったヨ」
ただ、不安なのはその先だ。
『俺にもわからない。ただ単純に行動を起こしても、あっという間に潰されるだろうね。佐世保のやつに協力したのか、それともただ利用しただけなのかは知らないが、ほとんど国家機密扱いの船団位置システムに細工ができるような連中がいて、そいつらも艦娘が勝手に動くことを嫌ってる。当然、全力で邪魔をしに来るだろうさ』
「もし、その前にその誰かが私たちを処分しようとしたら、どうしマスカ?」
その可能性はないとは言えない。
少なくとも、佐世保はそれを考えているはずだ。
『できる限りのフォローはするし、横須賀へ異動できるように努力はしてみる。だが、もしそっちでチャンスがあるなら生かせ。その時は金剛隊全員を連れて来い』
彼の言葉に嘘はないだろう。
少なくとも利害が一致しているのだから。
「オーケー。わかったヨ」
ただ、不安なのはその先だ。
198: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:29:01.01 ID:6VHVfebZo
彼もまた、何かのために艦娘を利用したいのかもしれない。
人が敵わぬこの力があれば、権力だけではなく、富を生み出すこともできる。
だが、そうだとしても。
今を乗り越えるためには乗せられるしかない。
自分のために体を張ってくれた仲間を救うために。
ただ、一つだけ。
「最後に一つだけ、聞きマス」
『なんだ?』
「アナタは、なぜそこまでするのデス?」
意地の悪い問いだ。
人が敵わぬこの力があれば、権力だけではなく、富を生み出すこともできる。
だが、そうだとしても。
今を乗り越えるためには乗せられるしかない。
自分のために体を張ってくれた仲間を救うために。
ただ、一つだけ。
「最後に一つだけ、聞きマス」
『なんだ?』
「アナタは、なぜそこまでするのデス?」
意地の悪い問いだ。
199: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:29:43.84 ID:6VHVfebZo
何を考えているにせよ、素直に言うはずがないだろう。
そこまで考えを巡らすことができるからこそ、ストレートな質問には綺麗な回答が用意されている。そういうものだ。
『お前たちを守ることが、何に繋がるかよく考えろ』
即座に返ってきたのは、やはり優等生の答え。
あらかじめ用意していたのだろう。
失望。
金剛が感じたのはそれだ。
だが。
『なんてのは、俺の柄じゃなくてな』
大きなため息が一つ聞こえて。
『誰も死なせたくない――特に艦娘はかわいい子が多いだろ? それを失うってのは俺個人として絶対に――』
いたって大真面目な声で、全く予想外の答えが返ってきた。
そこまで考えを巡らすことができるからこそ、ストレートな質問には綺麗な回答が用意されている。そういうものだ。
『お前たちを守ることが、何に繋がるかよく考えろ』
即座に返ってきたのは、やはり優等生の答え。
あらかじめ用意していたのだろう。
失望。
金剛が感じたのはそれだ。
だが。
『なんてのは、俺の柄じゃなくてな』
大きなため息が一つ聞こえて。
『誰も死なせたくない――特に艦娘はかわいい子が多いだろ? それを失うってのは俺個人として絶対に――』
いたって大真面目な声で、全く予想外の答えが返ってきた。
200: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:30:21.84 ID:6VHVfebZo
どこまでが本気なのか、どこからが冗談なのかわからない。
おもわず笑ってしまう。
そして気が付く。
彼の言葉の中に一つだけ、絶対的な真実があったことに。
『痛っ! 何するんだ足柄!? やめろって――』
『珍しく格好良く終わらせるのかと思えば! 結局はそこか、このセクハラ提督!』
なにやら、電話の向こうが騒がしくなる。
それが横須賀の普通なのだろう。
佐世保とは大違いだ。
けれど、横須賀の普通こそが当たり前のはずだ。
おもわず笑ってしまう。
そして気が付く。
彼の言葉の中に一つだけ、絶対的な真実があったことに。
『痛っ! 何するんだ足柄!? やめろって――』
『珍しく格好良く終わらせるのかと思えば! 結局はそこか、このセクハラ提督!』
なにやら、電話の向こうが騒がしくなる。
それが横須賀の普通なのだろう。
佐世保とは大違いだ。
けれど、横須賀の普通こそが当たり前のはずだ。
201: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:30:53.75 ID:6VHVfebZo
彼は言ったのだ。
誰も死なせたくない、と。
艦娘に向けて『死なせたくない』と、はっきり。
そんなことを言う人間など初めてだ。
艦娘の間ですら、そんな言葉は使わないと言うのに。
だからこそ、彼の側にいる艦娘たちは力を発揮できる。
自分たちを兵器として扱わないと信じているから。
無駄に『死なせる』ことはないと信じているから。
彼は艦娘を人として扱い、対等の存在として見ているから。
だからこそ、艦娘は彼と共に立ち、持てる限りの力を揮う。
誰も死なせたくない、と。
艦娘に向けて『死なせたくない』と、はっきり。
そんなことを言う人間など初めてだ。
艦娘の間ですら、そんな言葉は使わないと言うのに。
だからこそ、彼の側にいる艦娘たちは力を発揮できる。
自分たちを兵器として扱わないと信じているから。
無駄に『死なせる』ことはないと信じているから。
彼は艦娘を人として扱い、対等の存在として見ているから。
だからこそ、艦娘は彼と共に立ち、持てる限りの力を揮う。
202: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:31:27.22 ID:6VHVfebZo
それが結果的に他の誰かを救う力になっていく。
駆け引きなどない。
本当にただそれだけのことだ。
だから。
「本当のバカはワタシですネ……瑞鶴の言う通りデス」
悪意に立ち向かうために。
自分や仲間をそれらから守るために。
いつの間にか、自分も歪んでいた。
誰かを欺き、利用する。
そして、最後は自分をも道具にしようとした。
駆け引きなどない。
本当にただそれだけのことだ。
だから。
「本当のバカはワタシですネ……瑞鶴の言う通りデス」
悪意に立ち向かうために。
自分や仲間をそれらから守るために。
いつの間にか、自分も歪んでいた。
誰かを欺き、利用する。
そして、最後は自分をも道具にしようとした。
203: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:32:48.65 ID:6VHVfebZo
それを嫌っていたはずの自分が、だ。
彼はそんな金剛に気が付き、救うために動いただけだ。
それ以外に動く理由などない。
『で。目は覚めたか、金剛?』
静かになった電話の向こうが、優しく問いかけて来る。
「……とっても長いイヤな夢を見てマシタ」
『そりゃ最悪だな。そう言う時って一緒に送ったやつは役に立つのかね。コーヒーならわかるが、そっちはさっぱりなんだよ』
紅茶の箱を取り上げ、抱きしめる。
「オフコース。最高の『目覚めの一杯(ベッドティー)』デス」
静かに目を閉じると、こちらへ戻って来る榛名の足音が聞こえてきた。
彼はそんな金剛に気が付き、救うために動いただけだ。
それ以外に動く理由などない。
『で。目は覚めたか、金剛?』
静かになった電話の向こうが、優しく問いかけて来る。
「……とっても長いイヤな夢を見てマシタ」
『そりゃ最悪だな。そう言う時って一緒に送ったやつは役に立つのかね。コーヒーならわかるが、そっちはさっぱりなんだよ』
紅茶の箱を取り上げ、抱きしめる。
「オフコース。最高の『目覚めの一杯(ベッドティー)』デス」
静かに目を閉じると、こちらへ戻って来る榛名の足音が聞こえてきた。
204: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:33:39.57 ID:6VHVfebZo
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつもなら金剛が座る食堂の定位置に瑞鶴がいた。
同じようにほうじ茶をすすりながら、鳳翔手作りのぬか漬けをかじっている。
座っている人物が違うのだから、普通は違和感を覚えるはずなのだが、不思議とそうでもないのだ。
それが妙に鳳翔の笑いを誘ってしまうのだが。
「ねぇ、鳳翔さん」
瑞鶴のいたって真面目な表情を見ると、それに従ってしまうのは酷だ。
「なんですか?」
糠床の返し作業を終えた鳳翔はその向かいに座る。
「あの時聞こえた軍艦行進曲って、なんだったのかなって」
金剛を救った時の顛末だ。
いつもなら金剛が座る食堂の定位置に瑞鶴がいた。
同じようにほうじ茶をすすりながら、鳳翔手作りのぬか漬けをかじっている。
座っている人物が違うのだから、普通は違和感を覚えるはずなのだが、不思議とそうでもないのだ。
それが妙に鳳翔の笑いを誘ってしまうのだが。
「ねぇ、鳳翔さん」
瑞鶴のいたって真面目な表情を見ると、それに従ってしまうのは酷だ。
「なんですか?」
糠床の返し作業を終えた鳳翔はその向かいに座る。
「あの時聞こえた軍艦行進曲って、なんだったのかなって」
金剛を救った時の顛末だ。
205: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:35:43.47 ID:6VHVfebZo
大勢が歌う軍艦行進曲が聞こえたのだと言う。
その声に従って進んだことで、瑞鶴は金剛を見つけた。
もちろん、鳳翔や駆逐隊には聞こえていない。
だから、耳にしたのは金剛と瑞鶴だけと言うことだ。
「これは、噂です」
そう前置きする。
何せ、鳳翔自身に経験はないのだ。
おそらくこの先も経験することはないだろう。
「艦娘は、己の沈む海に近づくと声が聞こえるのだそうですよ。運命を共にした乗員たちの声とも、自分自身の声だとも言います。だから、因縁のある海にはあまり近づきたくない。時として自分を見失ってしまうこともあるのだとか」
「へぇ……でも私が沈んだのはエンガノ岬沖だから、それだと話がおかしなことになりませんか?」
その声に従って進んだことで、瑞鶴は金剛を見つけた。
もちろん、鳳翔や駆逐隊には聞こえていない。
だから、耳にしたのは金剛と瑞鶴だけと言うことだ。
「これは、噂です」
そう前置きする。
何せ、鳳翔自身に経験はないのだ。
おそらくこの先も経験することはないだろう。
「艦娘は、己の沈む海に近づくと声が聞こえるのだそうですよ。運命を共にした乗員たちの声とも、自分自身の声だとも言います。だから、因縁のある海にはあまり近づきたくない。時として自分を見失ってしまうこともあるのだとか」
「へぇ……でも私が沈んだのはエンガノ岬沖だから、それだと話がおかしなことになりませんか?」
206: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:36:31.85 ID:6VHVfebZo
ええ、そうですね。とお茶を飲んで一息置く。
「でも、あの時聞こえたのが軍艦行進曲ならば、あなたが金剛に言った通りなのではないでしょうか。運命を共にした乗員たちが、もう一度そこで沈むことを認めたくないと、その強い思いが、きっと近くにいた瑞鶴にも聞こえたのでしょう」
なるほどねと頷きながら、瑞鶴はさらにぬか漬けの大根を一枚かじる。
「じゃあ、彭佳嶼あたりで聞こえたあの声は、なんだったのかしら?」
「何か聞こえたのですか?」
「最初ははっきり聞き取れなかったんですけどね。ざわざわと海の音がうるさくて――そのうち、空に気をつけろってはっきり聞こえて。まぁ、結局間に合わなかったから意味ないんですけど……」
そう言って申し訳なさそうに、肩をすくめる瑞鶴。
金剛と鳳翔が急降下爆撃機に襲われた時のことだ。
曙から、瑞鶴の様子が変だったとは聞いていたが、それも声が聞こえていたとすれば納得できる。
「それは、輸送船の乗組員たちかもしれません。あのあたりは船の墓場と言われるくらい、数多くの輸送船が沈められた場所です。沈んだ船のマストが海上に突き出して、林ができていた。そんな話が残っているほどです」
「でも、あの時聞こえたのが軍艦行進曲ならば、あなたが金剛に言った通りなのではないでしょうか。運命を共にした乗員たちが、もう一度そこで沈むことを認めたくないと、その強い思いが、きっと近くにいた瑞鶴にも聞こえたのでしょう」
なるほどねと頷きながら、瑞鶴はさらにぬか漬けの大根を一枚かじる。
「じゃあ、彭佳嶼あたりで聞こえたあの声は、なんだったのかしら?」
「何か聞こえたのですか?」
「最初ははっきり聞き取れなかったんですけどね。ざわざわと海の音がうるさくて――そのうち、空に気をつけろってはっきり聞こえて。まぁ、結局間に合わなかったから意味ないんですけど……」
そう言って申し訳なさそうに、肩をすくめる瑞鶴。
金剛と鳳翔が急降下爆撃機に襲われた時のことだ。
曙から、瑞鶴の様子が変だったとは聞いていたが、それも声が聞こえていたとすれば納得できる。
「それは、輸送船の乗組員たちかもしれません。あのあたりは船の墓場と言われるくらい、数多くの輸送船が沈められた場所です。沈んだ船のマストが海上に突き出して、林ができていた。そんな話が残っているほどです」
207: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:37:06.86 ID:6VHVfebZo
「潜水艦の巣ですか」
「ええ。でも彼らが眠っているのはそこだけではありません。この海には数え切れないほど、そんな場所があるはずです。戦争だけではなく、事故や災害、遭難、様々な理由で多くの船が沈んでいますから」
だから海はすべて墓標のようなものだ。
そして海に還った船乗りたちは、船を守る海の神になると言う。
海そのものがその姿だと。
ならばその声は――。
それが瑞鶴なりの表現だ。それを見つけたのだ。
だから。
「私に風の色が見えるように、瑞鶴には海の声が聞こえるのですよ」
雛鳥が一羽、鳳翔の元を飛び立っていく。
「ええ。でも彼らが眠っているのはそこだけではありません。この海には数え切れないほど、そんな場所があるはずです。戦争だけではなく、事故や災害、遭難、様々な理由で多くの船が沈んでいますから」
だから海はすべて墓標のようなものだ。
そして海に還った船乗りたちは、船を守る海の神になると言う。
海そのものがその姿だと。
ならばその声は――。
それが瑞鶴なりの表現だ。それを見つけたのだ。
だから。
「私に風の色が見えるように、瑞鶴には海の声が聞こえるのですよ」
雛鳥が一羽、鳳翔の元を飛び立っていく。
208: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:37:48.79 ID:6VHVfebZo
鳳翔の胸に一抹の寂しさを残して。
それ以上に大きな心強さを感じさせて。
湯呑みの中に、ため息がまた一つ消えていく。
想いと願いが込められたそれが巻き起こす小さな風の色は――
「あら……」
――鳳翔だけが知るものだ。
それ以上に大きな心強さを感じさせて。
湯呑みの中に、ため息がまた一つ消えていく。
想いと願いが込められたそれが巻き起こす小さな風の色は――
「あら……」
――鳳翔だけが知るものだ。
209: ◆tF/D/g0jpg 2016/11/26(土) 01:43:10.46 ID:6VHVfebZo
※長々とお付き合いいただきありがとうございました。
ちなみにやらかしてしまいまして……
最初に、これは海軍や鎮守府ができる前のお話ですって書くの忘れてしまいました。
誠に申し訳ございません。
なお、昨年の秋口に書いた拙作『水平線の向こうに』と同じ世界のお話です。
では、重ね重ね、お付き合い頂きありがとうございました。
後ほどHTML化依頼を出しておきます。
ちなみにやらかしてしまいまして……
最初に、これは海軍や鎮守府ができる前のお話ですって書くの忘れてしまいました。
誠に申し訳ございません。
なお、昨年の秋口に書いた拙作『水平線の向こうに』と同じ世界のお話です。
では、重ね重ね、お付き合い頂きありがとうございました。
後ほどHTML化依頼を出しておきます。
210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/26(土) 09:51:33.20 ID:+RgHGeLN0
乙
よかった
よかった
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480080940/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ 艦隊これくしょん | Comments (0)
ありす「水がまける..??」P「負けるじゃないぞ」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 00:50:07.27 ID:Qp1190tr0
【とある一日】
ありす「プロデューサー、お茶が入りましたよ」コトッ
モバP(以下P表記)「おっ、ありがとうありす」
ありす「いえいえ...というか私のことは橘と...」
P「まあまあ、俺はありす(名前)の方が好きだし」ズズッ
ありす「な、何を言ってるんですか!/// 全く//...」カァー
ありす「(プロデューサーがす、好きって///..)」テレテレ
ちひろ「(....仕事してくれませんかねー)」カタカタ
バタバタバタ
真尋「おっはよーございまーすっ!!」ガチャ
P「ぶふぉ!」ゲホッゲホッ
ありす「...だ、大丈夫ですか?」
P「あ、ああ...ありがとうありす...」ゲホゲホ
P「真尋!お前急に入ってくるじゃない!」
真尋「ご、ごめんなさい!」ペコッ
P「全く...お茶がまけたじゃないか...」プンプン
ありす「..」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 00:51:06.33 ID:Qp1190tr0
P「えーと、ふきんふきん...」キョロキョロ
ありす「あの...負けたってどういうことです?」
ありす「別に勝負はしてなかったような...」
P「え?...ああ、そういえばこれは方言だったっけ」
P「香川県の方言でな、こぼれることを“まける”っていうんだよ」
ありす「そうなんですか」
真尋「あれ?まけるって方言だったの?」
P「そうだぞ、俺も最初こっちに来た頃はわかんなかったなぁ...」シミジミ
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 00:52:40.79 ID:Qp1190tr0
ありす「...じゃあプロデューサーは香川県出身なんですか?」
P「そうそう、一応真尋もそうだな」
真尋「そうそう」
P「あとは由里子と紗南だな...「オハヨーゴザイマース」お、ちょうど来たみたいだな」
P「おはよう、由里子、紗南、なんがでっきょんな?」
由里子「おはー、まあぼちぼちだじぇ」
紗南「私もぼちぼちかな......ねー、プロデューサー!新しいゲームこうて!」
P「だめ」
紗南「ぶー、ケチー」グルグル
P「こら!イスがいに回すな!目がまうだろ!」グルグル
ありす「???(困惑)」オドオド
由里子「二人とも、ありすちゃん混乱してるじぇ...」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 00:53:42.98 ID:Qp1190tr0
P「お、そうだったそうだった」
P「紗南!お前あとでちみきるけんな!」
紗南「ひぃぃ...許していたぁ!」
P「お前がてがうけん悪いんやぞ」
由里子「あれ?プロデューサーはけんなんやね、アタシはきんやったきん」
P「由里子は西讃か、俺は高松出身やけんな」
真尋「私も東だよー」
紗南「ちなみに私も!」
ありす「...東...西?」
P「香川県はな、東讃と西讃で方言が違うことがあるんだよ」
真尋「有名なのが~やけんと~やきんだね」
P「どっちとも~だからの意味で使われるな」
ありす「へぇ...」
由里子「これは香川に行くとよく聞くとおもうじぇ~」
5: ◆Lc99zbwZyo 2016/09/21(水) 00:54:59.95 ID:Qp1190tr0
P「ちなみになにがでっきょんな?は調子はどう?でちみきるがつねるって意味な」
紗南「こうては買って、てがうはからかうの意味だよー」
ありす「....なんかちみきるって痛そうですね...」
紗南「そうだよね、なんかつねるだと痛そうに思わないのにさー」
由里子「ちみきるだとすっごい痛そうに聞こえるんだじぇ~」ブルブル
P「よくおかんに言われたよ...」ブルブル
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 00:56:05.09 ID:Qp1190tr0
ありす「でも香川ってうどんが有名ですよね?」
ありす「うどん県って言われてるぐらいだし」
P「あー、そうだなぁ...」
紗南「そうだね...」
真尋「そうですね...」
由里子「そうだじぇ...」
ありす「(...あ...言っちゃいけない事言っちゃったかも...)」アタフタ
ありす「あ、あn「「「その通り!」」」...え?」
P「っていうかうどんしかないんだよな」アハハ
紗南「ほんとそれだよねー」ケラケラ
由里子「金比羅さんも階段が多いだけだじぇ~」
真尋「と、トレーニングにはなりますから...」ニガワライ
[琴平の人ごめんなさい...]
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 00:58:52.18 ID:Qp1190tr0
ちひろ「...そういや香川県民はうどんがすぐ作られたかそうでないか分かるらしいですね?」カタカタ
P紗南真尋由里子「「「「え?当たり前じゃない?(じぇ)」」」」キョトン
ちひろ「」ビクッ
P「だってさー、やっぱりコシがないんだよなぁ」
紗南「時間たってたらまるわかりだよねー」
真尋「お昼時をちょっと過ぎた頃に多い気がしますね」
由里子「あー、わかるじぇ~」ウンウン
ありす「...ま、全く分からない...」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:01:06.95 ID:Qp1190tr0
ガチャ
亜希「うどんは福岡でも有名でありますな!」
ありす「あ、亜希さんおk「「「あ?」」」(威圧)...さい...」
P「あんなもんうどんじゃねえ!!」
紗南「柔らかいうどんなんて認めないよ!!」
真尋「コシが皆無なんですよ!!」
由里子「出直してくるじぇ!!」
亜希「!?」ガーン
[すべての香川県民がこうというわけではありません。]
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:02:28.74 ID:Qp1190tr0
P「そういや東京きて驚いたけど、うどん屋がセルフじゃないんだよな」
紗南「それ私も思ったよ!」
ありす「せ、せるふ??」
真尋「香川県のほとんどが自分でトレーを持って自分で注文するんだよっ!」
P「おにぎりや天ぷら、おでんなんかも一緒に取るんだよ」
P「メンチカツとかオススメだぞ!」
紗南「わたしはちくわ天かな」
真尋「ついおにぎりとっちゃうなー」
由里子「おでんの天ぷらもいいとおもうじぇ!」
ありす「お、おでん??」
P「......そうなんだよなぁ...ほかの県でおでん見たことないなぁ...」
紗南「え!?ほんと!?!?」
ありす「普通はないと思いますが...」
真尋「知らなかった...」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:04:26.99 ID:Qp1190tr0
ありす「っていうかうどんとおにぎりって..どっちも炭水化物じゃないですか!」
P「お、大阪だってご飯とお好み焼き食べるっていうし..(震え声)」
笑美「いっしょにすんな!!」
[え?うどんとおにぎりって普通だよね???]
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:06:41.42 ID:Qp1190tr0
>>10 ミスった....ごめんなさい!
P「トッピングもセルフなんだよなー」
由里子「ネギとかも自分で好きなだけいれるんだじぇ!」
P「たまにさー、自分でネギ入れられない所あるじゃん?」
由里子「スプーン3杯まで~ってのもよくみるじぇ」
P「あれさー、ほんとさー」
P紗南真尋由里子「「「「好きなだけ入れさせて!!って思うよなーか(じぇ)」」」」ウンウン
ありす「そういう客がいるからそうしてるんじゃ...」
P紗南真尋由里子「「「「...」」」」メソラシー
[ちゃんとルールは守りましょう]
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:12:27.73 ID:Qp1190tr0
P「そういや最近ゆるキャラって流行ってるじゃん?」
ありす「もうピークは過ぎたと思うんですけど...」
真尋「ああー、あれね」
紗南「あれかー」
由里子「あれだじぇ....」
P紗南真尋由里子「「「うどん脳!!」」」
ありす「な、なんです!?うどん脳って!!」
P「気になる人はググってくれ!」
P「あれすっごく怖いんだよなー」
紗南「友達もあれはないって言ってたよ...」
真尋「確かに...あれはひどいですよね...」
由里子「えー?可愛くないかじぇ?」
P紗南真尋「「「それはない」」」
[うどん脳好きな方、申し訳ない...]
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:16:56.10 ID:Qp1190tr0
P「あとな......金比羅さん付近に釜玉ソフトなるものがあるらしいんだよ...」
紗南「釜玉ってもしかしてあの釜玉!?」
P「そう...あの釜玉だよ...」
由里子「あー、確かにあるじぇ」
真尋「友達が食べたらしいんですけど...あんまり美味しくないらしいですよ?」
P「観光客にはなぜか人気なんだよなぁ...あれ...」
P紗南真尋由里子「「「なぜだ...(じぇ...)」」」
ありす「」釜玉ソフト検索中
ありす「!?な、なんですかこれ!ネギが乗ってますよ!?」
[気になる人は是非調べて下さい]
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:18:23.63 ID:Qp1190tr0
P「あとはな...なぜか香川県...しかも高松だけ台風の時警報が出ないんだよ...」
ありす「そうなんですか?」
紗南「そうそう、学校全然休みにならないしね!」プンスカ
真尋「高松だけ出なくて周り全部出た時は目を疑ったよ...」(実話です)
P「四国山脈のご加護だな...」ニガワライ
由里子「(......この話題はわからないじぇ...)」(西讃出身)
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:26:54.64 ID:Qp1190tr0
ありす「そういえば、桃太郎って結局岡山と香川どっちのんですか?」
P「そ、それはだな....「岡山です!」....」
肇「桃太郎は岡山です、これは間違いないです!」
ありす「そ、そうなんですか?」ビクッ
肇「はい、そもそも桃太郎とは....アレコレクドクド..」
P「桃太郎はな、岡山はすごく押してるんだが香川県はあんまり押してないんだよな..」ヒソヒソ
P「岡山での桃太郎グッズの多さはすごいぞ....」ヒソヒソ
ありす「へ、へぇ..」
[香川県はもっと桃太郎を押すべき]
P「鬼無駅に桃鉄の石像あるし....」
P「鬼ヶ島(女木島)だって香川県だし..」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:30:12.77 ID:Qp1190tr0
____________________
________________
P「...おっもうお昼か」チラッ
P「よし!飯食いに行くぞー、今日は麺類だな!」
紗南真尋由里子「「「おー!!」」」
ありす「そんなにうどんがすきなんですね」フフッ
ありす「(香川県....プロデューサーの地元のこと結構知れたかな....)」
ありす「(ゆ、ゆくゆくはあいさつに///....なんて///)」カァー
紗南「ところでどこの店いくのー?」
P「え?天下一品だけど?」
みんな「「「うどんやないんかいっ!!」」」ズコー
[お し ま い]
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:31:48.76 ID:Qp1190tr0
久しぶりに香川県に警報が出たので書いてみました。
ありすが出ているのは>>1の趣味です。
同じく香川県の人に少しでも共感してもらえれば幸いです。
ちなみに私はうどんよりラーメンのほうが好きです!!
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 01:42:38.01 ID:Qp1190tr0
【おまけ】
ありす「ふぅ...ごちそうさまでした」
P「ありす、お腹はおきたか?」
ありす「(お、お腹が起きる???ど、どういうことなんですか!?)」(困惑)
ありす「....(こうでしょうか?)」(お腹を上に突き出すポーズ)
紗南「ぶっwwありすちゃんなにやってるの?w」
ありす「な、なにって///お腹が起きたかって言われたから///」カァー
真尋「あはははw」バンバン
由里子「ひぃひぃww」ケラケラ
ありす「も、もーー!!///笑わないで下さい!!!///」
P「お前らもてんごすんな!!」
[本 当 に お し ま い ]
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 02:34:30.13 ID:x0LCZpFNo
姉貴が少林寺の専門学校行ってた
総本山は香川にあるんだよね
総本山は香川にあるんだよね
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 03:49:28.73 ID:zZ1itbdko
高知でもまけるって言う弱い
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474386606/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
干しキノコ「フ⋯⋯フヒ⋯⋯」*デレマス
1: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:39:05.30 ID:Cw6BTkqz0
なに?怖いもの見たさで開いてみた?
それは最も正しい判断です。
2: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:40:07.97 ID:Cw6BTkqz0
干しキノコ「⋯⋯⋯」
干しキノコ「⋯⋯め、目が覚めたら⋯⋯き、キノコになって、いた⋯⋯フフフ。
何を言ってるか、わからねー⋯⋯と思いますが⋯⋯だ、大丈夫。 私も、わから、ないゼェェェェエエエエエ!!!!
ヒャッハァアァアアア、ビバトモダチィィイイイイ!!!!
あ、煩くしてご、ごめん。 ぼっちだけど⋯⋯」
干しキノコ「干からびたー⋯⋯干からびましたー⋯⋯干からびたかったー⋯⋯さ、三段活用し、してみた」
干しキノコ「フフフ⋯⋯胞子、拡散⋯⋯。あ、私、干からびて、ました⋯⋯」
干しキノコ「⋯⋯キノコ~、キノコーぼっちの子ー⋯⋯。 私は一本、ここで朽ち果てて、行くんだな⋯⋯ごーうぃんぐ、ボッチうぇい⋯⋯それもまた、い、一興⋯⋯」
???「ちょっと待ってください!」
干しキノコ「こ、この声は⋯⋯?」
3: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:42:08.02 ID:Cw6BTkqz0
「天知る地知る人が知る⋯⋯⋯そして何よりボクが最も知っている!
そうです! ボクです! ワールドイズマイン! カワイさのグローバルスタンダード!産まれながらのシンデレラ! さぁ、皆さんご一緒に!」
干しキノコ「さ、さちk
幸水 かっこ梨かっことじる
「幸水です!!!!!!!!!!!」
干しキノコ「⋯⋯⋯」
幸水「⋯⋯⋯」
干しキノコ「⋯⋯」
幸水「⋯⋯何か、言ってくださいよ⋯⋯」
干しキノコ「し、汁気たっぷりで、カワイイぞ、さっちゃん⋯⋯?」
幸水「うガァァアアアあぁぁぁぁぁあああああ?!?!?!?!」
干しキノコ「う、うわっ。 さっちゃんの体から、し、汁が飛び散って⋯⋯あ、甘い⋯⋯美味しい⋯⋯」
4: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:43:00.64 ID:Cw6BTkqz0
*******
幸水「すみません、輝子さん取り乱しました⋯⋯」
干しキノコ「大丈夫だ、私達は、し、しんゆ⋯⋯しん、親友⋯⋯! だからな⋯⋯!」
幸水「うっわ、カサの部分あっか。
着火マンで燃やされたキノコみたいですよ」
干しキノコ「ま、まるで試したことが、あるみたいな⋯⋯口ぶり⋯⋯」
幸水「ま、まさか! 決して小腹が空いたからといって、たまたま置いてあった着火マンで、輝子さんのキノコを一つ拝借して香ばしくいただいたなんてことは決してありえませんよ!?」
干しキノコ「そ、そうか⋯⋯えらく、具体的、だけど⋯⋯わ、わかった」
幸水「え、ええ! と、ところで! この現象は一体なんなんでしょうね?! まぁボクは梨になってもカワイイですが!」
干しキノコ「わから⋯⋯ない。 気づいた時には、も、もうキノコだった⋯⋯」
5: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:43:57.48 ID:Cw6BTkqz0
幸水「なるほど⋯⋯。 これはボク達一本と一個だけなのか、確認する必要がありますね。
誰か他にアイドルはーーーーー
白子「⋯⋯⋯」
幸水「⋯⋯何ですか、あれ」
干しキノコ「た、多分、色みと、大きさ的に⋯⋯ふ、フグの白子だ⋯⋯炙ってポン酢に、つ、つけると⋯⋯美味⋯⋯」
幸水「意外にオッさんくさいですね輝子さん。 なるほど。 この状況から鑑みるに、あの白子もアイドルですかね⋯⋯。 地べたに白子を放置するサイコな方がいれば別ですが」
干しキノコ「あ、案外⋯⋯いそう⋯⋯フフフ」
幸水「否定できないのが辛いです⋯⋯。
まあ、何はともあれ近づいてみましょう。
おーい、そこの白子さーん! ボクはカワイイカワイイアイドル、幸水⋯⋯間違えた、輿水幸子ですよー!」
干しキノコ「梨が、白子に⋯⋯話しかける⋯⋯フフ、狂気の⋯⋯沙汰⋯⋯」
幸水「貴女もキノコでしょう。 おーい。
白子さーん? って、うわっ?!」
白子「⋯⋯⋯」ウゾウゾ
幸水「ぎゃ、ギャー?!?!?!
何ですかこの白子?! ボクに覆い被さって?! うわっ?! なんかぶよぶよしてる?!
ふ、不快感! カワイイボクに不必要な不快感が溜まってますよ?!」
6: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:45:09.18 ID:Cw6BTkqz0
白子「お、お前も⋯⋯は⋯⋯孕ませてやろうかー⋯⋯」
幸水「図らずも貞操の危機?!?!
初体験が白子だなんて末代どころの恥じゃありませんよ?!
しょ、輝子さん! カワイイボクを助けてくれてもいいんですよっ?!」
干しキノコ「え、えんだー⋯⋯いやぁー⋯⋯いっつ⋯⋯always love youuuuuuuuuuuu!!!!!!
ヒィヤッハァァァァアアアアアア!!!!」
幸水「おい星テメェこのやろうです?!?!
い、いやぁ⋯⋯ボクのヘタが犯されるぅ⋯⋯もう出荷できないぃぃ⋯⋯。
せ、せめて最後に、輝子さんと小梅さんとライブがしたかっ⋯⋯た⋯⋯」
白子「⋯⋯」ビクッ
白子「⋯⋯⋯幸子、ちゃん⋯⋯?」
幸水「ぐすっひぐっ⋯⋯え、こ、小梅さん、なんですか⋯⋯?」
白子「う、うん⋯⋯私、だよ?
真っ暗な海の底で、種を植え付けてる夢を、見てたん⋯⋯だけど⋯⋯幸子ちゃんに酷いこと⋯⋯しちゃったのかな⋯⋯」
幸水「⋯⋯ぐすっ、そんなこと⋯⋯ある訳ないじゃないですか⋯⋯小梅さんは、カワイイボクの親友ですよ⋯⋯?」
白子「幸子ちゃん⋯⋯」
幸水「小梅さん⋯⋯」
干しキノコ「エンダァァァァアアア!!!!
いやぁー!!!!!!!!
幸水「そろそろ怒りますよ?」
ご、ごめん⋯⋯」
7: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:46:43.32 ID:Cw6BTkqz0
*******
幸水「なるほど⋯⋯さっきまでは意識がなく、何をしていたかも覚えていないと⋯⋯」
白子「うん⋯⋯真っ暗で冷たい海にいて⋯⋯
何かが出てきそうで⋯⋯すっごくドキドキしてた⋯⋯!」
干しキノコ「おお⋯⋯こ、小梅ちゃん、まるでタラコみたい、だぞ⋯⋯」
白子「えへへ⋯⋯内臓みたいにピンク色って⋯⋯言って⋯⋯?」
幸水「貴女たち余裕ですね。
⋯⋯ともあれ、意識が覚醒したのには何か理由があるはず⋯⋯」
白子「わ、私たちの⋯⋯友情ぱわー⋯⋯!」
干しキノコ「お、おお⋯⋯それだ⋯⋯!」
幸水「友情に操を奪われかけたんですがそれは。 ⋯⋯意識。 覚醒。 ⋯⋯自己の、認識⋯⋯?」
干しキノコ「何だか⋯⋯た、探偵みたいだなさっちゃん」
小梅「うん⋯⋯奏さんと、コンビ組めそう⋯⋯」
幸水「(ポンコツとは)ないです。 考えるより⋯⋯試してみましょうか。
輝子さん、小梅さんを見たままの名前で呼んでみてくれませんか?
あなたの力をボクに貸してください」
干しキノコ「おお⋯⋯ダチに⋯⋯頼られる⋯⋯漫画で読んだ⋯⋯あ、あれか⋯⋯。
任せろ⋯⋯さっちー⋯⋯!」
8: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:47:33.76 ID:Cw6BTkqz0
干しキノコ「⋯⋯⋯すぅぅ」
干しキノコ「ヒャッハァァァァアアア!!!
おい、白子ぉぉおおおお?!
ぶよぶよしたカラダしやがって!!
ちょっと触らせろぉぉおおおお⋯⋯⋯おおぉぉぉぉ?!」
白子「⋯⋯⋯」ガバァッ
干しキノコ「あっ、う、嘘です⋯⋯乗っからないで⋯⋯石づき⋯⋯お、折れちゃう⋯⋯あっあっあっ」
幸水「ふむ⋯⋯やはりですか。
ボク達は今、精神と体のズレが著しい状態にある。 更に心は体に宿ると言われるように、ボク達の精神が体に引っ張られている⋯⋯。
ともすれば、体に成り切ってしまう訳ですね⋯⋯そして、その鍵が名前⋯⋯」
干しキノコ「さっちゃん⋯⋯さっちゃん⋯⋯ぶ、分析より、私を助けて⋯⋯あ、こ、これがスルーか⋯⋯」
幸水「ボクはどんなボクでも、ええ梨のボクでも、例え、くだものでもカワイイので、自己を保てました。 ええ、保てましたとも。
輝子さんも同様に、キノコを常日頃から擬人化するサイコな同調のお陰で精神の乖離を免れた訳ですね⋯⋯」
干しキノコ「ふ、フフ⋯⋯熱い風評被害⋯⋯こ、心が痛いぜ⋯⋯これが友情の⋯⋯い、痛み⋯⋯」
9: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:48:07.47 ID:Cw6BTkqz0
白子「は⋯⋯孕ませてやろうかー⋯⋯」
干しキノコ「あっ、折れちゃう、お、折れちゃう⋯⋯私の⋯⋯大事な、所が⋯⋯お、折れちゃう⋯⋯」
幸水「小梅さん。 その辺で勘弁してあげてください」
白子「⋯⋯はっ。 わ、私は⋯⋯一体何を⋯⋯」
干しキノコ「いやんっ⋯⋯⋯フヒヒ」
幸水「ほんと余裕ですね。 さぁ、あそんでる暇はありませんよ! この分では我を失っている人達が他にも居るはずです! 助けに行きましょう!」
干しキノコ「あ、遊ばれちゃっ⋯⋯た⋯⋯」
白子「生殖は⋯⋯遊びじゃ⋯⋯ないよ⋯⋯」
干しキノコ「こ、小梅ちゃんが何か怖いことを⋯⋯い、言ってるが⋯⋯星輝子は⋯⋯く、クールに流すぜ⋯⋯!」
10: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:48:42.15 ID:Cw6BTkqz0
*******
幸水「⋯⋯おや? 何かありますね。 あれは⋯⋯」
干しキノコ「本⋯⋯だな⋯⋯」
白子「本⋯⋯だね」
幸水「表紙に星が三つ⋯⋯、オレンジとピンクとブラックで何だか気味の悪い配色ですね⋯⋯」
干しキノコ「⋯⋯こ、これもアイドル⋯⋯なのかな⋯⋯? 開けばわかる⋯⋯かな」
小梅「う、うん。 読んでみれば⋯⋯わかるんじゃ、ない、かな⋯⋯?」
幸水「あなた達のそういう享楽的なところボク、大好きですよ。 毒を食らわば皿まで、高く飛ぶなら空まで。 開いてみましょう」
本だ。『○月○日。
今日はプロデューサーの家へ初めてお邪魔する日!
⋯⋯えへへ。 ずっと許してくれなかったから、ほんとに楽しみ!
ご飯作ってあげて、お風呂沸かしてあげて⋯⋯う、うわーなんか、新妻みたい⋯⋯!
お泊りだし⋯⋯そういう、こと、だよね?
⋯⋯覚悟決めろ私ー!
よし! プロデューサーの家へ突撃だー!』
幸水「これは⋯⋯⋯」
白子「わぁ⋯⋯ホラー映画の導入みたい⋯⋯!」
干しキノコ「こ、これが⋯⋯リア充⋯⋯私には、ま、眩しすぎる⋯⋯フヒヒ」
幸水「次をめくりましょうか⋯⋯」
11: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:49:29.70 ID:Cw6BTkqz0
本だ。『×月×日
なんで? どうして?
頬が痛い。
かえ姉さま。 笑ってた。怒ってた。
嫌われた。嫌われた。嫌われた。
あんなに仲良くしてくれてたのに。
憧れで。 私の。
⋯⋯⋯あはは、当然だよね。
だってプロデューサーはかえ姉さまのものだったんだもん。
馬鹿な私が勝手に横入りしたんだね⋯⋯。
泥棒が嫌われるの当たり前かー。
⋯⋯でも、私だって。
あっ、そうだ。 プロデューサーが1人しかいないからダメなんだ。
2人にすればいいんだ。
増えればいいのかな?
ううん、違うや。 半分こだ。
私とかえ姉さまで半分ずつ。
そうだよ、半分こだ!
何を悩んでいたんだろう!
早速今から行かなくちゃ!
でも真っ直ぐできるかな?
偏らないようにしないと、かえ姉さまも悲しいもんね!
あは、あははは。
あはははははははははははははははははははははははは(ここから先は黒く塗り潰されている)』
白子「⋯⋯す、スプラッタの薫り⋯⋯!」
幸水「⋯⋯⋯さ、アイドルの人達がいないか他を当たりましょう」
干しキノコ「⋯⋯え、で、でもあの本⋯⋯」
幸水「あれは本です。 間違っても、三つ星でもパッションでもないです。OK?」
干しキノコ「お、おーけー⋯⋯」
白子「ざ、残念⋯⋯血の雨が見られると⋯⋯思ったのに⋯⋯」
幸水「さらりと恐ろしいことをいわないでください」
12: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:50:14.62 ID:Cw6BTkqz0
*******
干しキノコ「トモダチはー⋯⋯歩いて、来ない⋯⋯だーから、一人で⋯⋯行くんだよー」
白子「一日、一殺⋯⋯三日で、三殺⋯⋯三人殺して⋯⋯トモダチ沢山⋯⋯!」
幸水「どんな友達作りですかどんな。 暗殺一家より質が悪いですよ」
白子「だ、大丈夫⋯⋯幸子ちゃんも、永遠にトモダチだよ⋯⋯!」
干しキノコ「ズッ友⋯⋯! 私達は⋯⋯ズッ友だぞ、さっちゃん⋯⋯!」
幸水「いやこれ明らかに小梅さん意味違いますよね? あと輝子さん嬉しいのはわかりましたから、カチカチの頭ぶんぶん当てるの止めてくれません? ボクのお値段が下がりますから」
干しキノコ「なんだ、かんだ⋯⋯馴染んでるな⋯⋯さっちゃん⋯⋯。 意識高い系、梨、だ⋯⋯」
幸水「フフーン! どんな姿でもボクはボクですからね!」
13: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:51:05.95 ID:Cw6BTkqz0
白子「ふふ⋯⋯そのカワイさを保ったまま、ずっと側に置いてあげる⋯⋯からね⋯⋯♪」
干しキノコ「さ、流石小梅ちゃん⋯⋯私にできないことを⋯⋯やってのける⋯⋯そ、そこに痺れる⋯⋯憧れルゥゥゥゥうううう!!!!!」
幸水「⋯⋯これはボクも何か対策をする必要がーーーーおや? 彼処にあるのはーーー」
∞ドーナツ「バクバク! ムシャムシャ!
ガツガツ! ハグッハグッ! ゾボボボボ!」
幸水「⋯⋯⋯」
白子「わあ⋯⋯ドーナツがドーナツを捕食してる⋯⋯! それも、自食⋯⋯!
無限を描く⋯⋯う、ウロボロスだぁ⋯⋯!
ゾンビ映画でも中々ない、レア映像だよ、二人とも⋯⋯!」
干しキノコ「フヒヒ⋯⋯瞳孔ならぬ、ドーナツ穴、がん開き⋯⋯だな⋯⋯」
幸水「⋯⋯⋯はっ! あ、あまりの光景に意識が、カワイイ天国へ飛んでました!
何してるんですか、え、えーっと!
の、法子⋯⋯? さんっ!」
14: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:52:19.81 ID:Cw6BTkqz0
∞ドーナツ「⋯⋯⋯⋯⋯。 ⋯⋯何って、ドーナツを食べてるんだよ⋯⋯?」
干しキノコ「ふぐうっ?! こ、この⋯⋯プレッシャーは⋯⋯!」
∞ドーナツ「ドーナツがそこにある。 だからあたしはドーナツを食べる。 当然のことだよ。それともあなた達は、ドーナツを食べない⋯⋯?」
幸水「け、けれど! 法子さんが食べているのは法子さん自身ですよ?!
正気に戻ってください!」
∞ドーナツ「ああ⋯⋯何かと思えば、そんなことなんだ。 いいよ、見せてあげる⋯⋯ふんっ!!!!!!!」
白子「なん⋯⋯だと⋯⋯! 自食した部分から、新たにドーナツが生えてきて⋯⋯!
つ、繋がって元に戻った⋯⋯!」
∞ドーナツ「これがあたしの力。
『インフィニティ・ウロボロス』。
踏ん張るだけで、再生する。
無限のドーナツパゥワァ⋯⋯! あたしはこの力でこの世をドーナツで埋め尽くす⋯⋯!」
干しキノコ「す、すごい⋯⋯けど、踏ん張って⋯⋯茶色が出てくるって、ま、まるでうんk 幸水「輝子さん?」
ご、ごめん⋯⋯」
干しキノコ「ふぐうっ?! こ、この⋯⋯プレッシャーは⋯⋯!」
∞ドーナツ「ドーナツがそこにある。 だからあたしはドーナツを食べる。 当然のことだよ。それともあなた達は、ドーナツを食べない⋯⋯?」
幸水「け、けれど! 法子さんが食べているのは法子さん自身ですよ?!
正気に戻ってください!」
∞ドーナツ「ああ⋯⋯何かと思えば、そんなことなんだ。 いいよ、見せてあげる⋯⋯ふんっ!!!!!!!」
白子「なん⋯⋯だと⋯⋯! 自食した部分から、新たにドーナツが生えてきて⋯⋯!
つ、繋がって元に戻った⋯⋯!」
∞ドーナツ「これがあたしの力。
『インフィニティ・ウロボロス』。
踏ん張るだけで、再生する。
無限のドーナツパゥワァ⋯⋯! あたしはこの力でこの世をドーナツで埋め尽くす⋯⋯!」
干しキノコ「す、すごい⋯⋯けど、踏ん張って⋯⋯茶色が出てくるって、ま、まるでうんk 幸水「輝子さん?」
ご、ごめん⋯⋯」
15: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:52:49.25 ID:Cw6BTkqz0
∞ドーナツ「⋯⋯手始めにあなた達をドーナツにしてあげるよ⋯⋯光栄に思うんだね、これから始まるドーナツワールド最初の礎になれることを⋯⋯!」
白子「わぁ⋯⋯全然能力と、やりたいことがかみ合ってないのに、凄い⋯⋯自信⋯⋯! 『恐怖!キノコ男』を、見た時と⋯⋯同じくらいの恐さ⋯⋯だよ⋯⋯!」
干しキノコ「おい白坂、テメー今、キノコ男のことなんつった?
予算142ドル、ワスカバジ家のオ○ニー、ホームクソムービーだとぉぉおおおおお?!」
幸水「それクソ映画だって自覚してますよね?! ってああ?! そうこうしてるうちに、法子さんが?!」
∞ドーナツ「貴様等をドーナツにしてやろうかぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ?!」
幸水「わ、わぁぁああああ?!」
「そこまでよ。 法子」
16: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:53:31.16 ID:Cw6BTkqz0
∞ドーナツ「⋯⋯⋯その声は」
幸水「あ、あなたは⋯⋯!」
白子「颯爽と現れる⋯⋯B級映画感⋯⋯!」
「そうよ、私の名は、z 干しキノコ「ぜんざい時子さん!」⋯⋯⋯⋯」
幸水「⋯⋯」
∞ドーナツ「⋯⋯」
白子「⋯⋯」
干しキノコ「⋯⋯?」
ぜんざい「⋯⋯⋯⋯⋯そうよ、『財前』。
ざ、い、ぜ、ん、時子よ」
幸水(な、流したぁぁ~~~ッッッ)
17: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:54:12.29 ID:Cw6BTkqz0
∞ドーナツ「『財前』時子さん⋯⋯何のようですか?」
白子(の、法子ちゃん⋯⋯乗っかってあげるんだ⋯⋯!)
ぜんざい「知れたことね⋯⋯豚が一匹、私の下僕へ手を出そうとしているんだもの⋯⋯躾に、来たのよ」
∞ドーナツ「くくっ。躾、ですか?
甘ったるいことですね。 時子さん。
まるで、ぜんざいのよう⋯⋯。
女王を演じるあなたがまさかそこのキノコと梨と白子を庇うだなんて⋯⋯」
ぜんざい「何勘違いしているの?」
∞ドーナツ「⋯⋯なに?」
ぜんざい「私の下僕は、『世界』そのものよ。 法子、ドーナツ如きで征服だなんて、部をわきまえなさい」
∞ドーナツ「如き、だと⋯⋯?」
ぜんざい「ええ⋯⋯ドーナツ如き、ね」
∞ドーナツ ぜんざい「「⋯⋯⋯」」
18: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:55:29.23 ID:Cw6BTkqz0
干しキノコ「な、なんか、バトル物っぽく⋯⋯なってる、けど⋯⋯ドーナツと、茶碗が向き合ってる⋯⋯だけっていう⋯⋯」
白子「シュール、ここに⋯⋯極まれり⋯⋯だね⋯⋯。 あれ、幸子ちゃん⋯⋯どうしたの⋯⋯?」
幸水「⋯⋯⋯おかしいと思いませんか?」
干しキノコ「す、すまない、さっちゃん⋯⋯⋯いくらボッチで、ネクラで、コミュ障の私でも⋯⋯おかしくもないのに、ひゃっはーは、できないんだ⋯⋯」
幸水「何ですそのマイナス三拍子。 ボクみたいにボク! カワイイ! ボク! 略してBKBしないといけませんよ、ボクの親友なんですからねっ」
白子「ひゃ、ひゃっはー⋯⋯」
幸水「タラコみたいになってますよ小梅さん」
白子「綺麗な切断面色って⋯⋯言って⋯⋯」
干しキノコ「ヒャッハァァァァアアア!!!
小梅ェェェエエエエエ! 綺麗な、ピンクの切断面色してやがるぜえぇええええ?!
ジュージューと、空気に触れて湯気が立ち上る、内臓みたいだなぁぁぁぁあああああああ?!」
幸水「先の反省を取り入れる態度は素晴らしいですが、話を戻させてください。
おかしいと思いませんか?
ここまで、未央さんを除いて、全員食べ物なんですよ?」
19: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:55:59.52 ID:Cw6BTkqz0
干しキノコ「そ、それは⋯⋯登場人物の⋯⋯か、偏り⋯⋯フヒ」
白子「め、メタいよ、輝子ちゃん⋯⋯」
幸水「いえ、恐らくですが⋯⋯例外を除いて全員アイドルは食べ物の筈です。
例えば、まゆさんなら、サクマ式ドロップ。
加蓮さんなら、薄荷ドロップ。
予想するなら、こんな感じでしょうか⋯⋯」
干しキノコ「ふ、フヒ⋯⋯?」
白子「何が言いたいの⋯⋯幸子ちゃん⋯⋯?」
幸水「恐らく、この偏りには意味がある。
ボク達は何故全員、食べ物なんですか?
唐突に始まったこの現象。
この現象の先は、もしかしてーーーー」
20: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:56:40.38 ID:Cw6BTkqz0
そ、その先を⋯⋯幸子ちゃんは、言えなかったんだ。
私達は、油断⋯⋯してた⋯⋯。
気付くべき、だったんだ⋯⋯時子さんと、法子さんが、な、何も⋯⋯言わなくなったことに⋯⋯。
で、でも。
それに気づいた時には、もう、全部⋯⋯遅かった、んだ⋯⋯。
21: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:57:28.87 ID:Cw6BTkqz0
幸水「はっ?! に、逃げてください、二人ともぉぉおおおおお!」
白子「幸子ちゃん⋯⋯?!」
干しキノコ「さ、さっちゃーーーーん!!!」
巨大な影が、容赦なく、さっちゃんを掴む。
なすすべなく⋯⋯持ち上げられて⋯⋯そうして、ピンク色の断面が、の、覗く。
湯気を放つ⋯⋯肉壺の中で、さっちゃんは⋯⋯その牙に、か、かかったんだ。
幸水「も、持って行かれた⋯⋯!」
一口で半身以上⋯⋯、さっちゃんを、食べた影は⋯⋯ごくり、喉を鳴らすと⋯⋯私たちに、い、言ったんだ。
『美 味 し い か ら 大 丈 夫 だ よ』
干しキノコ「り、理解⋯⋯した⋯⋯!
この現象の⋯⋯行き着く先⋯⋯!
食べ物は、『かな子』ちゃんで⋯⋯終わるんだ⋯⋯!」
22: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:58:15.99 ID:Cw6BTkqz0
*******
幸水「か、かはっ⋯⋯」
干しキノコ「さっちゃん、しっかり⋯⋯!
果汁が、こ、こんなに⋯⋯! はっ、そう言えば他の二人は⋯⋯!」
ドーナツだったもの「⋯⋯」
ぜんざいだったもの「⋯⋯」
干しキノコ「くっ⋯⋯時すでに、ディレイ⋯⋯!」
白子「きゃ、きゃああああああ?!」
干しキノコ「小梅ちゃん?!」
『⋯⋯⋯』
白子「あ、あ⋯⋯」
干しキノコ「や、やめろぉぉお!? かな子ちゃん?! 小梅ちゃんを、離せぇぇええええ!」
『美味しいから大丈夫だよぉ』
白子「⋯⋯輝子ちゃん。 さよなら、だね」
干しキノコ「な、何を! 小梅ちゃん⋯⋯?! 早くそこから⋯⋯!」
23: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:58:52.42 ID:Cw6BTkqz0
白子「ううん、ダメ⋯⋯みたい。
だから、最後に輝子ちゃんに伝えなきゃ⋯⋯いけないことがあるの⋯⋯」
干しキノコ「最後だなんて⋯⋯言うなよぉ⋯⋯私達は、ズッ友⋯⋯だろ⋯⋯!」
白子「ふふ⋯⋯ごめんね。だけど⋯⋯」
干しキノコ「ぐすっ、ひぐっ⋯⋯」
24: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 06:59:41.60 ID:Cw6BTkqz0
白子「キノコ男はやっぱりクソ」
干しキノコ「白坂ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!?!?!?!?」
25: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:00:28.37 ID:Cw6BTkqz0
白子「うふふ⋯⋯ゾンビに捕食されるって⋯⋯こんな気持ちなんだ⋯⋯。 わぁ⋯⋯すっごいどきどきs
『美味しいから大丈夫だよぉ』
干しキノコ「小梅ちゃーーーーーーーん!!!!!!」
『美味しいから大丈夫だよぉ』
干しキノコ「う、うぅ⋯⋯こ、小梅ちゃん⋯⋯最後に、でぃ、disっていくなんて⋯⋯この気持ち、どこにぶつければ⋯⋯」
『美味しいから大丈夫だよぉ』
干しキノコ「うるせェェェエエエエエェェェエエエエエ!!!!
よくも友達を、アイドルを!
自分の食欲を満たすためだけに、テメー!
テメーはこの、星輝子が、じきじきにブチのめす!」
26: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:01:31.18 ID:Cw6BTkqz0
幸水「ま、待ってください⋯⋯輝子さん⋯⋯」
干しキノコ「はっ?! さ、さっちゃん!
生きてたのか?!」
幸水「ふふ⋯⋯カワイイは、不滅⋯⋯ですよ⋯⋯かふっ」
干しキノコ「うわ、あっま! しゃ、喋るなさっちゃん⋯⋯! 今助けを⋯⋯」
幸水「聞いて、ください⋯⋯かな子さんは⋯⋯正気じゃ、ありません⋯⋯。
恐らく食べ物に変わっていないだけで⋯⋯何かしらの影響を、受けて⋯⋯かはっ! いま、す⋯⋯」
干しキノコ「な、なんだって⋯⋯!
名探偵すぎるぞ、さっちゃん⋯⋯!
物語の⋯⋯便利役みたい、だ⋯⋯!」
幸水「め、メタいですよ⋯⋯輝子さん。
く、黒幕は、他に⋯⋯います⋯⋯どうか、かな子さんを救って⋯⋯この世界に⋯⋯笑顔を⋯⋯」
干しキノコ「さっちゃん⋯⋯?」
幸水「⋯⋯⋯あ、やっぱり。 ボク、カワイイ、ボク、略してBKBに、笑顔を⋯⋯がくっ」
干しキノコ「幸子ぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
27: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:02:54.92 ID:Cw6BTkqz0
『美味しいから大丈夫だよぉ?』
干しキノコ「⋯⋯」
『美味しいから大丈夫だよぉ』
干しキノコ「⋯⋯⋯すまない、かな子ちゃん」
『美味しいから大丈夫だよぉ』
干しキノコ「今は手加減できそうに⋯⋯ないぞ⋯⋯」
『美味しいから大丈夫だよぉ!』
干しキノコ「うぉおおおおおおお!
裁くのは、星のキノコだぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
⋯⋯
⋯
28: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:03:43.85 ID:Cw6BTkqz0
*******
「輝子殿ー。起きるのでしてー」
輝子「⋯⋯おらおらおらおら、フヒヒッ⋯⋯おらおらおらおらおらぁぁあああ⋯⋯ん⋯⋯? あ、あれ? ここは⋯⋯」
芳乃「ようやくのお目覚めでしてー」
輝子「あ⋯⋯よ、芳乃ちゃん⋯⋯おっはー」
芳乃「おっはー。 でしてー。 何やら寝言を言っておりましたがー夢でも見ておられたのですかー?」
輝子「⋯⋯う、うん。 よくは、覚えて、ない、けど。 キノコの戦士に、なって⋯⋯エジプトへ⋯⋯旅する⋯⋯笑いあり、涙あり⋯⋯の友情物語⋯⋯フフフ」
芳乃「⋯⋯⋯そのような事象は引き起こしておりませんでしてー」
輝子「ん、ん? 何か、言ったか⋯⋯芳乃、ちゃん⋯⋯?」
29: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:04:20.42 ID:Cw6BTkqz0
芳乃「いえー何もー空耳ではー」
輝子「そ、そうか。 ⋯⋯? なんだ、これ⋯⋯ほ、干しキノコ⋯⋯トモダチの、亡骸⋯⋯?」
芳乃「ほー?」
輝子「⋯⋯そ、そうか。 わかった」
芳乃「ほー⋯⋯⋯ほ?! ほ?!
ほ?! ほ?! ほほー?! ほうほほう?!
ぷはぁっ?! と、突然、口にキノコを押し込むなど、輝子殿、けほっけほっ」
輝子「⋯⋯ご、ごめんね。 何だか、トモダチがこうしろって⋯⋯。 そ、そーりーそーりーキノコそーりー。 く、苦しいな⋯⋯フヒヒ」
芳乃「うー。 しかし此度はこなたの力の暴走が原因なればー慎んで受けるのも⋯⋯やはり、物体変化よりも、認識を操作する方がーーー」
輝子「よ、芳乃ちゃん⋯⋯?」
芳乃「空耳でしてー」
輝子「そ、そうか⋯⋯それにしてもなんだかーーー
30: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:05:37.91 ID:Cw6BTkqz0
「ボク、カワイイ、ボク、略してB!K!B!が帰ってきましたよ! さぁ、出迎えてください!」
「梨を持った幸子ちゃんも⋯⋯カワイイよ⋯⋯襲っちゃいたいくらい⋯⋯ふふふ⋯⋯」
「小梅ちゃんが、抱えるその大量の、白子⋯⋯?は、ツッコミ待ちなの⋯⋯?」
「法子⋯⋯私はあなたがぜんざいを持っていることこそ、問い詰めたいわ」
「時子さんが、ドーナツ持ってるのも気になります⋯⋯。 あ、みんなーケーキ買ってきたから、一緒に食べよう?」
輝子「⋯⋯フフフ、まぁ、いいか⋯⋯。
これだけ食材があれば⋯⋯で、できるな⋯⋯!
リア充の、ひ、必須イベント⋯⋯そ、その名も⋯⋯や、闇鍋だぁァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヒィヤッハァァァァアアアアアア!!!!!
「「「「「「それはない」」」」」」
あ、はい⋯⋯すいません」
おしまいだから大丈夫だよ。
31: ◆4C4xQZIWw7k3 2016/09/21(水) 07:07:29.27 ID:Cw6BTkqz0
よしのん書いてたらなんか出来てました。
ホラーにするつもりがどうしてこうなった。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 07:44:46.46 ID:HO351Fsq0
シュールなホラーだったぞ
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 09:40:20.60 ID:EbniJoFD0
ホラーとは……
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 09:59:07.88 ID:86EGHJT80
乙
食欲の化身、ベヒーモスかな子か…
食欲の化身、ベヒーモスかな子か…
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/21(水) 12:16:37.99 ID:exM8qAQo0
ちゃんみおと楓さんはどうなったんだ……
乙
乙
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474407544/
Entry ⇒ 2016.11.30 | Category ⇒ モバマス | Comments (0)
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