紬「ケンカのあとは」澪
1: けいおんSS 2016/07/01(金) 20:03:08.31 ID:jyPtHX+80
律「そうあせんなくてもいいと思うけど」
紬「でも…でも…」
律「…えーっと、付き合い始めてどれくらいになるんだっけ?」
紬「6ヶ月と12日」
律(即答かよ…)
紬「こんなにたってるのに…それなのにわたしたちまだ…」
律「半年かあ…」
紬「半年と12日!」
律「わかってるわかってる」
紬「わかってない! りっちゃんはわたしと澪ちゃんの12日間の重みをわかってないわ!」
律「ごめんごめん…わるかったわるかった」
紬「でも…でも…」
律「…えーっと、付き合い始めてどれくらいになるんだっけ?」
紬「6ヶ月と12日」
律(即答かよ…)
紬「こんなにたってるのに…それなのにわたしたちまだ…」
律「半年かあ…」
紬「半年と12日!」
律「わかってるわかってる」
紬「わかってない! りっちゃんはわたしと澪ちゃんの12日間の重みをわかってないわ!」
律「ごめんごめん…わるかったわるかった」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:03:59.61 ID:jyPtHX+80
紬「普通、半年と12日も付き合ってたらチューくらいしててもいいと思わない?」
律「さぁ……まぁ……人によるんじゃね」
紬「でも…それくらい普通じゃない? お互い好きなんだし、付き合ってるんだし」
律「うーん、どうだろうなぁ……人によるからなぁ…」
紬「フフ…でもね。わたし、そろそろだと思ってるの」
律「あっ、そう。ふーん、よかったじゃん。じゃ、そゆことで」
紬「なんでだと思う?? ねぇなんでだと思う??」
律(帰りたい……)
律「さぁ……まぁ……人によるんじゃね」
紬「でも…それくらい普通じゃない? お互い好きなんだし、付き合ってるんだし」
律「うーん、どうだろうなぁ……人によるからなぁ…」
紬「フフ…でもね。わたし、そろそろだと思ってるの」
律「あっ、そう。ふーん、よかったじゃん。じゃ、そゆことで」
紬「なんでだと思う?? ねぇなんでだと思う??」
律(帰りたい……)
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:05:01.26 ID:jyPtHX+80
紬「ほら~もうすぐわたし、誕生日でしょ? だから…その…きっと澪ちゃん、誕生日プレゼントくれると思うのね? ね? なにもらえるとおもう?? なにもらえると思う?? ねぇねぇ??」
律「さぁーなー、んーっと、なんだろーなーわっかんねーなー」
紬「わたしね…アレじゃないかと思うの。わたしがいちばんほしいもの! ね? アレ! わかるでしょ? ねぇねぇ!」
律「あぁーうん。そだな。わたしもそう思うぞ。うんうん」
紬「聞きたい? ねぇ聞きたい?? ねぇねぇ!?」
律(…どうしても聞かなきゃダメか)ハァ~ア
律「…ヘイヘイ、じゃあなにもらえるんですかー?…っと」
紬「ダァ~メッ! おしえてあーげないっ♪ だって澪ちゃんとわたしの秘密だもん♪♪」ムフ
律「わたしかえる」
紬「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!」
律「さぁーなー、んーっと、なんだろーなーわっかんねーなー」
紬「わたしね…アレじゃないかと思うの。わたしがいちばんほしいもの! ね? アレ! わかるでしょ? ねぇねぇ!」
律「あぁーうん。そだな。わたしもそう思うぞ。うんうん」
紬「聞きたい? ねぇ聞きたい?? ねぇねぇ!?」
律(…どうしても聞かなきゃダメか)ハァ~ア
律「…ヘイヘイ、じゃあなにもらえるんですかー?…っと」
紬「ダァ~メッ! おしえてあーげないっ♪ だって澪ちゃんとわたしの秘密だもん♪♪」ムフ
律「わたしかえる」
紬「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:05:33.97 ID:jyPtHX+80
律「…で、結局なにがほしいんだよ?」
紬「“ナニ”って…りっちゃんたら………」
律「かえるぞ」
紬「言うわ! ちゃんと言うから聞いて!」
紬「“ナニ”って…りっちゃんたら………」
律「かえるぞ」
紬「言うわ! ちゃんと言うから聞いて!」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:06:17.19 ID:jyPtHX+80
紬「あのね…その…あの…えっと…わたし…澪ちゃんと…したいことがあって……」モジモジ
律「言いたくないなら言わなくていいんだぞ?」
紬「言います! 言いたいです!!」
律(言わなくていいのに)
紬「エッチしたいの!!!」
律「お願いだから大声で言わないで」
律「言いたくないなら言わなくていいんだぞ?」
紬「言います! 言いたいです!!」
律(言わなくていいのに)
紬「エッチしたいの!!!」
律「お願いだから大声で言わないで」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:07:09.39 ID:jyPtHX+80
紬「ウフフ~誕生日たのしみだわぁ~~~~~♪♪♪」
紬「わたしの計画ではね…誕生日に初体験を済ませて、夏休みを迎えるの」
紬「学校がお休みの間、覚えたばっかりの行為に夢中になった二人は夏休み中ずっと………」
律(……なにか始まった)
~~~~~~~~
紬「でね! でね! 夏が終わってもわたし達は終わらないの! それからそれから…!!」
律(この話はいつ終わるんだろう)
紬「わたしの計画ではね…誕生日に初体験を済ませて、夏休みを迎えるの」
紬「学校がお休みの間、覚えたばっかりの行為に夢中になった二人は夏休み中ずっと………」
律(……なにか始まった)
~~~~~~~~
紬「でね! でね! 夏が終わってもわたし達は終わらないの! それからそれから…!!」
律(この話はいつ終わるんだろう)
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:08:00.15 ID:jyPtHX+80
紬「夏……わたしと澪ちゃんの夏………ふたりきりの…………ああ………夏休みはやくこないかしら~~~♪♪」ポー
律「ちょいちょい。ちょっと落ち着け。そんなに先走ってどーする」
紬「だって………好きなんだもん」
律「そりゃあ…まぁ…わからんでもないけどさ。でもな。わたし達まだ高校生なんだぞ」
紬「澪ちゃんの身体は超高校級よ!」
律「そういう表現やめてくれる?」
律「ちょいちょい。ちょっと落ち着け。そんなに先走ってどーする」
紬「だって………好きなんだもん」
律「そりゃあ…まぁ…わからんでもないけどさ。でもな。わたし達まだ高校生なんだぞ」
紬「澪ちゃんの身体は超高校級よ!」
律「そういう表現やめてくれる?」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:08:55.84 ID:jyPtHX+80
紬「だって…………」
律「まぁ待て…澪の発育がいいのはたしかだ。だけど澪はそういうのすっごく嫌がるぞ」
紬「わかってるわ。だからわたし、必死で自分の劣情を抑えてるの!」
律「“劣情”とかいうのやめような?」
紬「ハイ!」
律「わかればよろしい。ほら、澪はウブだし、そゆことすんのに抵抗あると思うんだよ」
律「だから強引なのは逆効果だ。それにあせる必要ないと思うぞ? ほら、人は人だしさ。自分たちのペースで進んでいければいいだろ?」
紬「わかったわ……じゃあしばらくは妄想だけでガマンするね。ちなみに最近お気に入りの妄想は………」
律(聞いてもないのに語りはじめたよ……)
~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~
律「………」
紬「…そこで澪ちゃんがわたしの◯▽□×を……」
律(いったいいつまでつづくんだ………)ゲッソリ
律「あのさぁムギ…」ボソ
紬「えっ?? もっと露出の高い格好で迫った方がいいかしら?!」
律「言ってないし」
律「まぁ待て…澪の発育がいいのはたしかだ。だけど澪はそういうのすっごく嫌がるぞ」
紬「わかってるわ。だからわたし、必死で自分の劣情を抑えてるの!」
律「“劣情”とかいうのやめような?」
紬「ハイ!」
律「わかればよろしい。ほら、澪はウブだし、そゆことすんのに抵抗あると思うんだよ」
律「だから強引なのは逆効果だ。それにあせる必要ないと思うぞ? ほら、人は人だしさ。自分たちのペースで進んでいければいいだろ?」
紬「わかったわ……じゃあしばらくは妄想だけでガマンするね。ちなみに最近お気に入りの妄想は………」
律(聞いてもないのに語りはじめたよ……)
~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~
律「………」
紬「…そこで澪ちゃんがわたしの◯▽□×を……」
律(いったいいつまでつづくんだ………)ゲッソリ
律「あのさぁムギ…」ボソ
紬「えっ?? もっと露出の高い格好で迫った方がいいかしら?!」
律「言ってないし」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:09:41.36 ID:jyPtHX+80
律「…コホン。妄想はさておきだな」
律「もっと高校生らしい付き合い方でいーんじゃねーの。
ほら、休みの日にふたりで遊びに行ったり、帰ってから毎日電話したり…」
律「好きな人のさ。声を聞けたり、一緒にいられたりするだけで楽しいじゃんか」
紬「りっちゃんってば乙女~~~」
律「はい、相談タイムしゅ~りょ~」
紬「ごめんなさいごめんなさい! おねがい! もうちょっとだけ話を聞いて!」
律「もっと高校生らしい付き合い方でいーんじゃねーの。
ほら、休みの日にふたりで遊びに行ったり、帰ってから毎日電話したり…」
律「好きな人のさ。声を聞けたり、一緒にいられたりするだけで楽しいじゃんか」
紬「りっちゃんってば乙女~~~」
律「はい、相談タイムしゅ~りょ~」
紬「ごめんなさいごめんなさい! おねがい! もうちょっとだけ話を聞いて!」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:10:24.77 ID:jyPtHX+80
律「もう十分聞いたよ。……とにかくあせらないように、じっくり付き合うこと。先は長いんだから」
紬「…………」
律「………?」
紬「…………わかってるの」
紬「…………」
律「………?」
紬「…………わかってるの」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:11:53.04 ID:jyPtHX+80
紬「あせっちゃダメだってことはわかってるの。だけど…」
紬「遊びに誘うのもわたしからばっかりだし、」
紬「電話もメールもほとんどわたしからだし、」
紬「手をつなぐのだって、恥ずかしい……って。あんまりしてくれないの」
紬「こんなかんじでほんとうに付き合ってるって言えるのかな、って……」
紬「澪ちゃん、ほんとうにわたしのこと好きなのかな、って……」
律「うーん………」
紬「遊びに誘うのもわたしからばっかりだし、」
紬「電話もメールもほとんどわたしからだし、」
紬「手をつなぐのだって、恥ずかしい……って。あんまりしてくれないの」
紬「こんなかんじでほんとうに付き合ってるって言えるのかな、って……」
紬「澪ちゃん、ほんとうにわたしのこと好きなのかな、って……」
律「うーん………」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:12:31.58 ID:jyPtHX+80
紬「澪ちゃんがわたしのこと、ほんとうに好きかどうか、」
紬「りっちゃんからさりげな~く訊いてもらうことできない?」
律「えぇ~…」
紬「おねがい! おねがいだから!」
紬「りっちゃんからさりげな~く訊いてもらうことできない?」
律「えぇ~…」
紬「おねがい! おねがいだから!」
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:13:50.30 ID:jyPtHX+80
律「でもさー、ムギと澪が付き合ってるのって一応みんなにはナイショってことになってるだろ?」
紬「うん。澪ちゃん、恥ずかしいから誰にも言わないでくれって」
律「いかにも澪が言いそうだよな。約束破ったらアイツ、めちゃくちゃ怒るぞ」
律「第一、わたしにバラしてる時点でそーとーヤバいんだからな」
紬「だって…付き合い始める前からりっちゃんには相談してたじゃない。それなのに黙ってたら悪いもの」
律「うん……まぁ…」
紬「それにバレなきゃ大丈夫だから!」
紬「だからお願い! こんなことりっちゃんにしか頼めないの! お願いします!!」
律「う~ん………」
紬「うん。澪ちゃん、恥ずかしいから誰にも言わないでくれって」
律「いかにも澪が言いそうだよな。約束破ったらアイツ、めちゃくちゃ怒るぞ」
律「第一、わたしにバラしてる時点でそーとーヤバいんだからな」
紬「だって…付き合い始める前からりっちゃんには相談してたじゃない。それなのに黙ってたら悪いもの」
律「うん……まぁ…」
紬「それにバレなきゃ大丈夫だから!」
紬「だからお願い! こんなことりっちゃんにしか頼めないの! お願いします!!」
律「う~ん………」
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:14:26.43 ID:jyPtHX+80
*
梓「それで引き受けちゃった、ってわけですか」
律「だってあんまり一生懸命に頼んでくるからさ」
梓「そうですねぇ。たしかに付き合って半年ですか」
律「半年と12日な」
梓「珍しく細かいですね」
律「ムギにしつこく刷り込まれちゃって」
梓「はぁ。ま、ムギ先輩が不安になるのもわからないでもないですけど。それだけたってるのに、キスはおろか手をつなぐのもたまにってのは…」
律「わたしたちなんか付き合う前にしちゃったからな」
梓「勢いだったとはいえそれはそれでどうかと思いますけどね…」
梓「それで引き受けちゃった、ってわけですか」
律「だってあんまり一生懸命に頼んでくるからさ」
梓「そうですねぇ。たしかに付き合って半年ですか」
律「半年と12日な」
梓「珍しく細かいですね」
律「ムギにしつこく刷り込まれちゃって」
梓「はぁ。ま、ムギ先輩が不安になるのもわからないでもないですけど。それだけたってるのに、キスはおろか手をつなぐのもたまにってのは…」
律「わたしたちなんか付き合う前にしちゃったからな」
梓「勢いだったとはいえそれはそれでどうかと思いますけどね…」
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:15:00.52 ID:jyPtHX+80
梓「で……澪先輩の反応はどうだったんですか」
律「え? 澪の反応?」
梓「だから訊いたんでしょ。ムギ先輩のことどう思ってるのか」
律「いや? 訊いてないけど?」
梓「訊けよ」
律「え? 澪の反応?」
梓「だから訊いたんでしょ。ムギ先輩のことどう思ってるのか」
律「いや? 訊いてないけど?」
梓「訊けよ」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:16:02.03 ID:jyPtHX+80
律「だってさぁ~、ムギに頼まれて訊いたってことがバレないように訊かないといけないんだぜ?」
律「…ってことは、ムギと澪が付き合ってること知らないフリしつつ、澪がムギのことどう思ってるか訊かなきゃなんない、ってわけじゃん」
律「無理っしょ~。そんな高度なことわたしにできるわけないっしょ~」
梓「じゃあ引き受けないでください」
律「…ってことは、ムギと澪が付き合ってること知らないフリしつつ、澪がムギのことどう思ってるか訊かなきゃなんない、ってわけじゃん」
律「無理っしょ~。そんな高度なことわたしにできるわけないっしょ~」
梓「じゃあ引き受けないでください」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:17:13.57 ID:jyPtHX+80
律「それはそうなんだけどさ。なんとかしてあげたいわけじゃん?」
梓「“わけじゃん?”じゃねーです。安請け合いしないでください、どーするつもりですか」
律「そこで梓ちゅわんにお願いがありまして」
梓「キモい声出すのやめてくれますか?」
律「まぁまぁそ~言わないでさっ。梓のほうからこそ~っと澪に訊いてみてくんない?」
梓「えー…ヤですよ。なんでわたしが代わりに探り入れなきゃいけないんですか」
梓「そもそも澪先輩とムギ先輩が付き合ってるってナイショなんでしょう? わたしにバラしていいんですか?」
律「それは…わたしと梓の仲じゃん? 梓が黙っててくれればバレないわけだし」
律「なぁ~、た~の~む~よぉ~~あ~ずさぁ~~」
梓「澪先輩に頼むのときと同じトーンで喋るのやめてくれます? 虫酸が走るんで」
梓「“わけじゃん?”じゃねーです。安請け合いしないでください、どーするつもりですか」
律「そこで梓ちゅわんにお願いがありまして」
梓「キモい声出すのやめてくれますか?」
律「まぁまぁそ~言わないでさっ。梓のほうからこそ~っと澪に訊いてみてくんない?」
梓「えー…ヤですよ。なんでわたしが代わりに探り入れなきゃいけないんですか」
梓「そもそも澪先輩とムギ先輩が付き合ってるってナイショなんでしょう? わたしにバラしていいんですか?」
律「それは…わたしと梓の仲じゃん? 梓が黙っててくれればバレないわけだし」
律「なぁ~、た~の~む~よぉ~~あ~ずさぁ~~」
梓「澪先輩に頼むのときと同じトーンで喋るのやめてくれます? 虫酸が走るんで」
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:17:59.41 ID:jyPtHX+80
律「ごめんごめん。でもほんっと、梓にしか頼めないんだよ」
律「だってさー、澪って梓には優しいじゃん? 同じこと訊いたとしてもさ、わたしならゲンコツ喰らうかもしんないけど、梓に対してそんなヒドいことしないだろ?」
梓「それはそうですけど…いきなりわたしがそんなこと訊いたらゼッタイ不自然でしょう」
律「そこはさ! うま~いことやってくれればいいからっ」
梓「押し付けないでください。…ご自分でうま~いことされたらいいじゃないですか?」プイ
律「そんなこと言わないでっ。な? あ~ずさっ」ギュ
梓「……ちょ、どこさわってるんですかっ」ビクン
律「だってさー、澪って梓には優しいじゃん? 同じこと訊いたとしてもさ、わたしならゲンコツ喰らうかもしんないけど、梓に対してそんなヒドいことしないだろ?」
梓「それはそうですけど…いきなりわたしがそんなこと訊いたらゼッタイ不自然でしょう」
律「そこはさ! うま~いことやってくれればいいからっ」
梓「押し付けないでください。…ご自分でうま~いことされたらいいじゃないですか?」プイ
律「そんなこと言わないでっ。な? あ~ずさっ」ギュ
梓「……ちょ、どこさわってるんですかっ」ビクン
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:18:46.56 ID:jyPtHX+80
律「きょうはりっちゃん、がんばっちゃうからさっ。だから頼むよ、なっ?」
梓「あした学校ですよ…こーゆーの、“高校生らしいらしい付き合い方”じゃないと思うんですけど」
律「わかってて日曜の夜に誘ったのは梓じゃん」
梓「だって……せっかく親いないし」
律「だろ~、てなわけで3回戦に行きますかっ。ついでにムギの件もよろしくな」チュ
梓「あっ ちょ くびんとこダメですって…」
律「バレないバレない」チュッチュッ
梓「みんな案外目ざといんですから……え、ちょっ………あっ、もうっ…あっあっ……ん…」
梓「あした学校ですよ…こーゆーの、“高校生らしいらしい付き合い方”じゃないと思うんですけど」
律「わかってて日曜の夜に誘ったのは梓じゃん」
梓「だって……せっかく親いないし」
律「だろ~、てなわけで3回戦に行きますかっ。ついでにムギの件もよろしくな」チュ
梓「あっ ちょ くびんとこダメですって…」
律「バレないバレない」チュッチュッ
梓「みんな案外目ざといんですから……え、ちょっ………あっ、もうっ…あっあっ……ん…」
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:19:25.96 ID:jyPtHX+80
*
梓「…というわけでして」
唯「え~っとつまり…」
唯「あずにゃんの代わりにわたしが澪ちゃんに訊いてこい、ってこと?」
梓「はい。お願いできませんか?」
唯「確認だけどさ。澪ちゃんとムギちゃんが付き合ってることはナイショなんだよね?」
梓「そうですね」
唯「ナイショになってるからもちろん、わたしもあずにゃんも知らないってことになってるわけだよね?」
梓「そうですね」
唯「付き合ってることも、イマイチうまくいってないことも知らないフリしつつそこんとこどうなの?…って訊かなきゃいけない、ってことだよね?」
梓「そうですね」
唯「わたしがそんな器用なこと、できると思う? 思わないでしょ?」
梓「そうですね」
唯「はい。じゃあこの話はおしまいね」
梓「そうですね……じゃなくて!」
梓「…というわけでして」
唯「え~っとつまり…」
唯「あずにゃんの代わりにわたしが澪ちゃんに訊いてこい、ってこと?」
梓「はい。お願いできませんか?」
唯「確認だけどさ。澪ちゃんとムギちゃんが付き合ってることはナイショなんだよね?」
梓「そうですね」
唯「ナイショになってるからもちろん、わたしもあずにゃんも知らないってことになってるわけだよね?」
梓「そうですね」
唯「付き合ってることも、イマイチうまくいってないことも知らないフリしつつそこんとこどうなの?…って訊かなきゃいけない、ってことだよね?」
梓「そうですね」
唯「わたしがそんな器用なこと、できると思う? 思わないでしょ?」
梓「そうですね」
唯「はい。じゃあこの話はおしまいね」
梓「そうですね……じゃなくて!」
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:20:02.06 ID:jyPtHX+80
梓「ほら。澪先輩って和先輩と仲いいじゃないですか。あのひとなら頭よさそうだし、澪先輩の信用も勝ち得てそうだから、うまく訊いてくれるかな、って」
唯「その言い方だとまるでわたしが頭悪くて澪ちゃんの信用もないっていう風に聞こえるけど?」
梓「そうですね」
唯「はい。じゃあこの話はおしまいね」
梓「そうですね……じゃなくて!」
唯「その言い方だとまるでわたしが頭悪くて澪ちゃんの信用もないっていう風に聞こえるけど?」
梓「そうですね」
唯「はい。じゃあこの話はおしまいね」
梓「そうですね……じゃなくて!」
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:20:41.98 ID:jyPtHX+80
梓「いや…唯先輩には唯先輩にしかないすごいところがたくさんあるんですから」
唯「ちなみにどこ?」
梓「え……………っとぉ…」
唯「気分が悪いなぁ…」
唯「ちなみにどこ?」
梓「え……………っとぉ…」
唯「気分が悪いなぁ…」
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:21:38.23 ID:jyPtHX+80
梓「言い方が気に障ったのなら謝ります。でもこんなこと唯先輩にしか頼めなくて…」
唯「和ちゃんに直接お願いしたらいーじゃん」
梓「だってわたし、和先輩とそんなに親しいわけじゃないですし」
唯「まぁそれもそうか」
梓「そこで唯先輩に頼んでなんとかしてもらえないかと」
唯「う~ん…」
唯「和ちゃんに直接お願いしたらいーじゃん」
梓「だってわたし、和先輩とそんなに親しいわけじゃないですし」
唯「まぁそれもそうか」
梓「そこで唯先輩に頼んでなんとかしてもらえないかと」
唯「う~ん…」
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:22:44.35 ID:jyPtHX+80
梓「なにが気に入らないんですか」
唯「いやさーこの話、わたしにメリットなくない?」
梓「唯先輩って損得勘定でしか動けないひとだったんですね。失望しました…」
唯「なんでそうなるのかなぁ…それにさぁ、和ちゃんへのお願いならわたしじゃなくて憂に頼めばよかったんじゃないの」
梓「そう言われるとそうですね。じゃあそうします」
唯「いやさーこの話、わたしにメリットなくない?」
梓「唯先輩って損得勘定でしか動けないひとだったんですね。失望しました…」
唯「なんでそうなるのかなぁ…それにさぁ、和ちゃんへのお願いならわたしじゃなくて憂に頼めばよかったんじゃないの」
梓「そう言われるとそうですね。じゃあそうします」
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:23:27.04 ID:jyPtHX+80
唯「んん? ちょっと待って」
梓「なんですか。もういいです。薄情な唯先輩には用はないです」
唯「いやいや…憂の名前が出た途端引き下がるとかおかしくない?」
梓「なにもおかしくないです」
唯「これじゃまるでわたしより憂の方が頼りになるみたいじゃん?」
梓「知らなかったんですか?」
唯「んんん?」
梓「なんですか。もういいです。薄情な唯先輩には用はないです」
唯「いやいや…憂の名前が出た途端引き下がるとかおかしくない?」
梓「なにもおかしくないです」
唯「これじゃまるでわたしより憂の方が頼りになるみたいじゃん?」
梓「知らなかったんですか?」
唯「んんん?」
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:24:11.01 ID:jyPtHX+80
梓「唯先輩は憂のこと、頼りにならない子だと思ってるんですか?」
唯「そんなわけないよ! 自慢の妹だよ!」
梓「ほら」
唯「いやだからそうじゃなくて…あのさ、わたし、憂のお姉ちゃんなんだけど…」
梓「知ってます」
唯「妹より頼りにならないお姉ちゃんなんている?」
梓「はい。ここに」
唯「……」
唯「そんなわけないよ! 自慢の妹だよ!」
梓「ほら」
唯「いやだからそうじゃなくて…あのさ、わたし、憂のお姉ちゃんなんだけど…」
梓「知ってます」
唯「妹より頼りにならないお姉ちゃんなんている?」
梓「はい。ここに」
唯「……」
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:25:23.63 ID:jyPtHX+80
梓「事実そうじゃないですか。唯先輩はわたしのお願いを聞いてくれない薄情者なわけですし」
唯「言い方にトゲがあるなぁ…」
唯「でもそれを言うなら憂だってお願いを聞いてくれるどうかわかんないでしょ」
梓「憂は聞いてくれますよ」
唯「なんで断言できるのさ」
梓「憂が損得勘定で動く人間に見えますか? 友人が困ってるのに見捨てるような薄情者に見えますか?」
唯「そんなわけないよ! 憂は自慢の妹だよ!」
梓「じゃ、そういうことで」
唯「あーもう! わかった! わかったよ! 訊くよ! 訊けばいいんでしょ!」
梓「さすが唯先輩です。それでこそ唯先輩です。尊敬してます」
唯「ちっともうれしくない……」
唯「言い方にトゲがあるなぁ…」
唯「でもそれを言うなら憂だってお願いを聞いてくれるどうかわかんないでしょ」
梓「憂は聞いてくれますよ」
唯「なんで断言できるのさ」
梓「憂が損得勘定で動く人間に見えますか? 友人が困ってるのに見捨てるような薄情者に見えますか?」
唯「そんなわけないよ! 憂は自慢の妹だよ!」
梓「じゃ、そういうことで」
唯「あーもう! わかった! わかったよ! 訊くよ! 訊けばいいんでしょ!」
梓「さすが唯先輩です。それでこそ唯先輩です。尊敬してます」
唯「ちっともうれしくない……」
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:26:14.09 ID:jyPtHX+80
梓「お礼と言ってはなんですが、今日一日は練習サボっててても抱きついてこられても文句言わずガマンします」
唯「いいよ……そう言われるとかえって抱きつく気がなくなるし、練習も頑張りたくなるよ…」
梓「それはなによりですね」
唯「それに最近のあずにゃん、抱きつくとメスっぽい匂いするし」
梓「◯$×?▽!□@&◆#?」
唯「べつにぃ、わたし達も高校生だしぃ。そーゆーことするのが悪いって思わないけどさ~あ。ほどほどにしときなよぉ?」
梓「な な な な な 何を根拠に???」
唯「いいよ……そう言われるとかえって抱きつく気がなくなるし、練習も頑張りたくなるよ…」
梓「それはなによりですね」
唯「それに最近のあずにゃん、抱きつくとメスっぽい匂いするし」
梓「◯$×?▽!□@&◆#?」
唯「べつにぃ、わたし達も高校生だしぃ。そーゆーことするのが悪いって思わないけどさ~あ。ほどほどにしときなよぉ?」
梓「な な な な な 何を根拠に???」
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:27:07.65 ID:jyPtHX+80
唯「ん……ナマナマしいからあんま具体的に言いたくないんだけど………くび」チョイチョイ
梓(……だから言ったのに!!)
唯「りっちゃんにも言っといてあげなよー」
梓「」
唯「あれ? バレてないと思ってたの? 視線でわかるよーアイコンタクト多すぎ。バレたくないならもっと要領よくしなきゃねー」
梓(……だから言ったのに!!)
唯「りっちゃんにも言っといてあげなよー」
梓「」
唯「あれ? バレてないと思ってたの? 視線でわかるよーアイコンタクト多すぎ。バレたくないならもっと要領よくしなきゃねー」
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:27:51.51 ID:jyPtHX+80
*
唯「かくかくしかじか………ってわけで頼むね和ちゃん」
和「へぇ」
唯「ちょっとちょっとぉ、気の無い返事しないでよぉ」
和「よく考えてみなさいよ」
唯「?」
和「わたしがコイバナなんてするタイプに見える?」
唯「みえない」
和「というわけで無理ね。あきらめなさい」
唯「待って! ちょっと待って!」
和「 はい、ちょっと待ったわ」
唯「さぶいよ…ぜんぜんわらえないよ…そういうのやめたほうがいいよ……」
和「……………」
唯「かくかくしかじか………ってわけで頼むね和ちゃん」
和「へぇ」
唯「ちょっとちょっとぉ、気の無い返事しないでよぉ」
和「よく考えてみなさいよ」
唯「?」
和「わたしがコイバナなんてするタイプに見える?」
唯「みえない」
和「というわけで無理ね。あきらめなさい」
唯「待って! ちょっと待って!」
和「 はい、ちょっと待ったわ」
唯「さぶいよ…ぜんぜんわらえないよ…そういうのやめたほうがいいよ……」
和「……………」
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:28:37.51 ID:jyPtHX+80
和「唯はわたしにお願いがあるのよね? 自分の立場わかってる?」
唯「いや……わかってるけどさ。こういうことはちゃんと言わないと、和ちゃんが恥かくでしょ。親切心だよ」
和「…はっきり言ってくれるわね」
唯「わたしだって和ちゃんが公衆の面前でスベるところ見たくないよ…それにこんなことはっきり言えるなんてわたしか憂くらいじゃん」
和「そうね。ありがとう。恥をかくところだったわ」
唯「わかってくれたならいいよ」
和「もっとウケる回答を磨かないとダメね」
唯「和ちゃんは一体なにを目指してるの?」
唯「いや……わかってるけどさ。こういうことはちゃんと言わないと、和ちゃんが恥かくでしょ。親切心だよ」
和「…はっきり言ってくれるわね」
唯「わたしだって和ちゃんが公衆の面前でスベるところ見たくないよ…それにこんなことはっきり言えるなんてわたしか憂くらいじゃん」
和「そうね。ありがとう。恥をかくところだったわ」
唯「わかってくれたならいいよ」
和「もっとウケる回答を磨かないとダメね」
唯「和ちゃんは一体なにを目指してるの?」
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:29:37.84 ID:jyPtHX+80
和「だいたいアンタ達けいおん部の中でそうゆう話しないの? コイバナとか」
唯「いやー…かえって部内でアレコレあると話しにくいんじゃないかな」
唯「だから部外にいる和ちゃんに対しての方が話しやすい、っていうか」
唯「和ちゃんは、澪ちゃんに信用されてそうだし。わたし達には話しにくいことでも和ちゃんには言えるじゃないかなーって」
和「わたし、言うほど澪の信用を勝ち取ってるのかしら」
唯「和ちゃんを信用してない人なんていないよ! いたとしても人を見る目が腐ってる人だよ!」
和「そうかしら……///」
唯「コイバナはガラじゃないけどね」
和「そうなんだ。じゃあわたし、生徒会行くね」スタスタ
唯「いやー…かえって部内でアレコレあると話しにくいんじゃないかな」
唯「だから部外にいる和ちゃんに対しての方が話しやすい、っていうか」
唯「和ちゃんは、澪ちゃんに信用されてそうだし。わたし達には話しにくいことでも和ちゃんには言えるじゃないかなーって」
和「わたし、言うほど澪の信用を勝ち取ってるのかしら」
唯「和ちゃんを信用してない人なんていないよ! いたとしても人を見る目が腐ってる人だよ!」
和「そうかしら……///」
唯「コイバナはガラじゃないけどね」
和「そうなんだ。じゃあわたし、生徒会行くね」スタスタ
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:30:33.99 ID:jyPtHX+80
唯「まってよぉ~おねがいたすけて! わたしの人間性と姉としての立場がかかってるの!」
和「やれやれ…わかったわ。でもあんまり期待しないでね」
唯「やったぁ! 和ちゃんだいすき!」ギュ
和「もう…調子がいいんだから。ところで一つ確認しと起きたいんだけど」
和「澪とムギが付き合ってるのは一応ナイショってことになってるのよね」
唯「そうだよー」
和「でも、もうけいおん部の全員にバレちゃってるんじゃないの」
和「澪、それに気づいたらすごく怒るんじゃないかしら」
唯「……」
和「……」
唯「……」
和「やれやれ…わかったわ。でもあんまり期待しないでね」
唯「やったぁ! 和ちゃんだいすき!」ギュ
和「もう…調子がいいんだから。ところで一つ確認しと起きたいんだけど」
和「澪とムギが付き合ってるのは一応ナイショってことになってるのよね」
唯「そうだよー」
和「でも、もうけいおん部の全員にバレちゃってるんじゃないの」
和「澪、それに気づいたらすごく怒るんじゃないかしら」
唯「……」
和「……」
唯「……」
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:31:15.80 ID:jyPtHX+80
和「そのあたりはバレないように探りを入れてみるわ」
唯「よろしく……」
和「人に隠すようなことでもないと思うけど」
唯「だよね~。バレてもいいよね、別に。わたし達なんか隠す気ゼロなのにみんなぜ~んぜん気づかないし」
和「唯はもともとスキンシップ多いからじゃない?」
唯「そうかな~? この際だしわたし達のこともみんなに言っちゃう?」
和「そうね。でもいざお披露目するとなると照れくさいわね」
唯「むずかしいねえ~」
唯「よろしく……」
和「人に隠すようなことでもないと思うけど」
唯「だよね~。バレてもいいよね、別に。わたし達なんか隠す気ゼロなのにみんなぜ~んぜん気づかないし」
和「唯はもともとスキンシップ多いからじゃない?」
唯「そうかな~? この際だしわたし達のこともみんなに言っちゃう?」
和「そうね。でもいざお披露目するとなると照れくさいわね」
唯「むずかしいねえ~」
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:32:04.62 ID:jyPtHX+80
*
放課後、喫茶店。
澪「めずらしいな、和から誘ってくれるなんて。生徒会よかったの?」
和「ええ。最近はそれほど忙しくないから。こっちこそいきなり誘っちゃって大丈夫だった?」
澪「けいおん部のこと? 気にしないでいいよ。どうせ練習しないでお茶飲んでるだけだから」アハハ
和「そっか。じゃ、わたしと二人でお茶してても大丈夫?」
澪「? だって和が“二人で”って言ったんだろ? それとも他に誰か誘ったほうがよかった? 唯とか」
和「ううん、そうじゃなくて…(難しいわ…)」
放課後、喫茶店。
澪「めずらしいな、和から誘ってくれるなんて。生徒会よかったの?」
和「ええ。最近はそれほど忙しくないから。こっちこそいきなり誘っちゃって大丈夫だった?」
澪「けいおん部のこと? 気にしないでいいよ。どうせ練習しないでお茶飲んでるだけだから」アハハ
和「そっか。じゃ、わたしと二人でお茶してても大丈夫?」
澪「? だって和が“二人で”って言ったんだろ? それとも他に誰か誘ったほうがよかった? 唯とか」
和「ううん、そうじゃなくて…(難しいわ…)」
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:32:39.94 ID:jyPtHX+80
和「澪って休みの日はなにしてるの?」
澪「どうしたんだ急に?」
和「えっと……同じクラスメイトとしてちょっと気になるっていうか…」
和「こうやって誰かとふたりで出かけたりすることもあるのかしら?」
澪「あー、律とは出かけたりするよ。でもアイツ最近付き合いわるいけど」
和「ふぅん…唯やムギとは?」
澪「うーん。そんなに」
和(なかなか核心に迫れないわね)
澪「どうしたんだ急に?」
和「えっと……同じクラスメイトとしてちょっと気になるっていうか…」
和「こうやって誰かとふたりで出かけたりすることもあるのかしら?」
澪「あー、律とは出かけたりするよ。でもアイツ最近付き合いわるいけど」
和「ふぅん…唯やムギとは?」
澪「うーん。そんなに」
和(なかなか核心に迫れないわね)
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:33:15.19 ID:jyPtHX+80
澪「今日は何かあったのか?」
和「えっ、どうして?」
澪「だって…急だったし。それに“二人で”って何度も言うから…何か相談したいことでもあるのかな、って」
和「………」
澪「……のどか?」
和「わたしね、実は唯とつきあってるの。中学のときから」
和「えっ、どうして?」
澪「だって…急だったし。それに“二人で”って何度も言うから…何か相談したいことでもあるのかな、って」
和「………」
澪「……のどか?」
和「わたしね、実は唯とつきあってるの。中学のときから」
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:33:46.57 ID:jyPtHX+80
澪「…え」
和「ひいた?」
澪「ううん! そんなことない! いきなりだったからびっくりしちゃって…」
和「隠すつもりはないんだけど、みんな気がつかないし。なかなか言う機会もなくて」
和「澪は……誰かそういう人っている?」
澪「えっと…わたしは…」
和「ひいた?」
澪「ううん! そんなことない! いきなりだったからびっくりしちゃって…」
和「隠すつもりはないんだけど、みんな気がつかないし。なかなか言う機会もなくて」
和「澪は……誰かそういう人っている?」
澪「えっと…わたしは…」
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:34:31.73 ID:jyPtHX+80
和「………」
澪「………」
和「…ごめん。言いたくなかったらいいの。ちょっと気になっただけだから」
澪「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど。なんていうか、うまく言えなくて」
和「?」
澪「つきあってる、って言えるのかどうかよくわかんなくて」
和「……ん?」
澪「………」
和「…ごめん。言いたくなかったらいいの。ちょっと気になっただけだから」
澪「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど。なんていうか、うまく言えなくて」
和「?」
澪「つきあってる、って言えるのかどうかよくわかんなくて」
和「……ん?」
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:35:10.65 ID:jyPtHX+80
澪「じ、じつは…」
澪「あっ、これゼッタイナイショだぞ!」
和「ええ。澪が言うなって言うなら言わないわ(もうみんな知ってるし)」
澪「半年くらい…前なんだけど。ある人に告白されたんだ」
澪「それ以来その人と…、夜に電話したりメールしたり、休みの日にふたりでときどき出かけたり…」
澪「でもその…特にそれらしいことをしてるってわけでもなくて…」
和「“それらしいこと”って??」
澪「え……えーっとその…その…」
和「セックスでしょ」
澪「はっきり言うなよ!」
澪「あっ、これゼッタイナイショだぞ!」
和「ええ。澪が言うなって言うなら言わないわ(もうみんな知ってるし)」
澪「半年くらい…前なんだけど。ある人に告白されたんだ」
澪「それ以来その人と…、夜に電話したりメールしたり、休みの日にふたりでときどき出かけたり…」
澪「でもその…特にそれらしいことをしてるってわけでもなくて…」
和「“それらしいこと”って??」
澪「え……えーっとその…その…」
和「セックスでしょ」
澪「はっきり言うなよ!」
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:35:51.65 ID:jyPtHX+80
和「したらいいじゃない。つきあってるんでしょ」
澪「なななななにを…」
和「なにを照れてるの? 悪いことでもないと思うけど?」
澪「ダメだろ! 成人するまではダメだって中学のとき保健の授業で……」
和「そんなの誰も守っちゃいないわよ」
澪(わたしの知ってる和じゃない……!)
澪「なななななにを…」
和「なにを照れてるの? 悪いことでもないと思うけど?」
澪「ダメだろ! 成人するまではダメだって中学のとき保健の授業で……」
和「そんなの誰も守っちゃいないわよ」
澪(わたしの知ってる和じゃない……!)
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:36:28.05 ID:jyPtHX+80
澪「じゃ、じゃあその……和も……唯と…その…し、してる……のか?」
和「セックス? そりゃあしてるわよ、セックス」
澪「二回も言わなくていいから!」
和「澪もさっさとしなさいよ。好きなんでしょ?」
澪「………」
和「………澪?」
澪「…正直よくわかんないんだ」
和「セックス? そりゃあしてるわよ、セックス」
澪「二回も言わなくていいから!」
和「澪もさっさとしなさいよ。好きなんでしょ?」
澪「………」
和「………澪?」
澪「…正直よくわかんないんだ」
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:37:07.32 ID:jyPtHX+80
和「好きじゃない、ってこと?」
澪「わかんない…でも、は、はだかをみたいとか…からだにさわりたいとかさわってほしいとか…よくわかんないしこわいし……とにかくそういう気になれなくて…」
澪「キ、キ、キ、……キスもまだだし///」
和(顔から湯気が出てるわ…)
澪「わたし、おかしいのかな…」
和「そんなことないわよ。人それぞれだもの。自分の気持ちに従って、自然に任せたらいいと思うわ」
澪「わかんない…でも、は、はだかをみたいとか…からだにさわりたいとかさわってほしいとか…よくわかんないしこわいし……とにかくそういう気になれなくて…」
澪「キ、キ、キ、……キスもまだだし///」
和(顔から湯気が出てるわ…)
澪「わたし、おかしいのかな…」
和「そんなことないわよ。人それぞれだもの。自分の気持ちに従って、自然に任せたらいいと思うわ」
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:38:04.63 ID:jyPtHX+80
澪「……視線がさ。ときどきこわいんだ」
和「視線?」
澪「道ですれ違う男の人とか…じろって見てくるのがきもち悪くて。中学の頃の男子も嫌だった」
澪「わたしのこと、“そういう風にしか見てない”っていう視線。ベタってして、ギトギトして、すっごくきもち悪い」
和「……それと一緒にかんじる、ってこと?」
澪「ううん……ちがうよ。ちがうってわかってる。でも……ときどきおんなじに感じるんだよ。わたしのこと、そういう風にしか思ってないのかな、って気がしてすごく嫌なんだ」
和「視線?」
澪「道ですれ違う男の人とか…じろって見てくるのがきもち悪くて。中学の頃の男子も嫌だった」
澪「わたしのこと、“そういう風にしか見てない”っていう視線。ベタってして、ギトギトして、すっごくきもち悪い」
和「……それと一緒にかんじる、ってこと?」
澪「ううん……ちがうよ。ちがうってわかってる。でも……ときどきおんなじに感じるんだよ。わたしのこと、そういう風にしか思ってないのかな、って気がしてすごく嫌なんだ」
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:38:38.72 ID:jyPtHX+80
和「気持ちはわかるわ。でもね、相手の子が、澪のこと好きだからそういうことしたい、って思うのも自然なことなのよ。わかってあげて」
澪「………わかってる、わかってるけど…」
和(……どうしたものかしらね)
澪「………わかってる、わかってるけど…」
和(……どうしたものかしらね)
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:39:17.12 ID:jyPtHX+80
*
和「…というかんじだったわ」
唯「さっすが和ちゃん!」
律「てゆーか完全にみんなにバレてるけどこれマズくないか」
梓「それは今更でしょう」
和「その件もマズいけどあのふたり、ちゃんとフォローしてあげないとけっこうヤバイわよ」
律「ムギは先に進む気満々だからなぁ…」
梓「ムギ先輩にはブレーキをかけるとして、」
唯「澪ちゃんがその気になるにはどうしたらいいのかなぁ…」
和「それ以前に本当にムギのこと好きかどうかもあやしいわよ…」
梓「じゃあどうしてつきあうことにしたんでしょう?」
律「それは…好きだったからだろ」
唯「でもチューしたりエッチしたりはしたくない、と」
梓「うーむ」
和「…というかんじだったわ」
唯「さっすが和ちゃん!」
律「てゆーか完全にみんなにバレてるけどこれマズくないか」
梓「それは今更でしょう」
和「その件もマズいけどあのふたり、ちゃんとフォローしてあげないとけっこうヤバイわよ」
律「ムギは先に進む気満々だからなぁ…」
梓「ムギ先輩にはブレーキをかけるとして、」
唯「澪ちゃんがその気になるにはどうしたらいいのかなぁ…」
和「それ以前に本当にムギのこと好きかどうかもあやしいわよ…」
梓「じゃあどうしてつきあうことにしたんでしょう?」
律「それは…好きだったからだろ」
唯「でもチューしたりエッチしたりはしたくない、と」
梓「うーむ」
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:39:54.83 ID:jyPtHX+80
和「ペースなんて人それぞれだからいいじゃない」
唯「あれ? でもわたし達の初エッチってつきあった次の日だったじゃん」
和「それは…ほら、わたし達はつきあい始めるまでが長かったから。ていうか唯、あれは当日よ」
唯「あれ? そだっけ?? そもそもつきあいはじめたきっかけってなんだったっけ???」
和「まぁ……いつの間にかそうなってた感はあるわね」
律「わたし達もつきあう前にしちゃってたしなー」
梓「ちょっ、なにどさくさに紛れて暴露してるんですか!」
唯「あれ? でもわたし達の初エッチってつきあった次の日だったじゃん」
和「それは…ほら、わたし達はつきあい始めるまでが長かったから。ていうか唯、あれは当日よ」
唯「あれ? そだっけ?? そもそもつきあいはじめたきっかけってなんだったっけ???」
和「まぁ……いつの間にかそうなってた感はあるわね」
律「わたし達もつきあう前にしちゃってたしなー」
梓「ちょっ、なにどさくさに紛れて暴露してるんですか!」
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:40:39.21 ID:jyPtHX+80
梓「わたし達が早すぎるのか、澪先輩たちが遅すぎるのか、それはさておき…」
和「ゆっくりふたりを見守るしかない、ってことね」
律「ムギにはあせらないように伝えておくよ」
梓「あとはしらんぷりですね」
唯「あー、わたしそれ自信ないー」
梓「勘弁してください。失言で部内カップルが破綻したら、けいおん部が存続危機に陥りかねません」
和「そういえば、昔生徒会でもそんなことがあったらしくて、まだ任期中なのに当時の会長が辞任しちゃって…」
和「ゆっくりふたりを見守るしかない、ってことね」
律「ムギにはあせらないように伝えておくよ」
梓「あとはしらんぷりですね」
唯「あー、わたしそれ自信ないー」
梓「勘弁してください。失言で部内カップルが破綻したら、けいおん部が存続危機に陥りかねません」
和「そういえば、昔生徒会でもそんなことがあったらしくて、まだ任期中なのに当時の会長が辞任しちゃって…」
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:41:36.32 ID:jyPtHX+80
律「ぐはー、そんなことになったら目も当てられねー! 唯! ゼッタイ口を滑らすなよ!」
唯「えー、りっちゃんには言われたくないよー。わたしりっちゃんほどバカじゃないし」
律「なにぃー! わたしこそ唯ほどマヌケじゃねーよ!」
唯「うっそだー、そもそもりっちゃんがあずにゃんにバラしたからこうなったんじゃん」
律「う…それは…そうだけど…でもこないだの小テストでは唯より点高かったしー!」
唯「バッカじゃないの。話すり替わってるし」
律「すり替わってねーよ。澪とムギがつきあってる、って話だろ!」
唯「そうそう澪ちゃんとムギちゃんがつきあってる、って話。ちゃんとわかってたんだ、へー意外」
梓「まあまあ落ち着いてください。澪先輩とムギ先輩がつきあってる、ってことはみんな知らないフリをしておく、ということで」
和「大丈夫かしら…こんなんで澪とムギがつきあってること、ナイショにしておけるのかしら…」
唯「大丈夫だよ和ちゃん! わたしこう見えて口がカタイから! 澪ちゃんとムギちゃんがつきあってるってこと誰にも言わない!」
律「さっきと言ってること逆じゃねーか…まあとにかくだ。澪とムギがつきあってることは気づかないフリをしてあったかく見守ろうぜ」
梓「はいです。澪先輩とムギ先輩がつきあってるなんて、わたし知りません」
澪「へー。わたしとムギってつきあってたんだ」
唯「えー、りっちゃんには言われたくないよー。わたしりっちゃんほどバカじゃないし」
律「なにぃー! わたしこそ唯ほどマヌケじゃねーよ!」
唯「うっそだー、そもそもりっちゃんがあずにゃんにバラしたからこうなったんじゃん」
律「う…それは…そうだけど…でもこないだの小テストでは唯より点高かったしー!」
唯「バッカじゃないの。話すり替わってるし」
律「すり替わってねーよ。澪とムギがつきあってる、って話だろ!」
唯「そうそう澪ちゃんとムギちゃんがつきあってる、って話。ちゃんとわかってたんだ、へー意外」
梓「まあまあ落ち着いてください。澪先輩とムギ先輩がつきあってる、ってことはみんな知らないフリをしておく、ということで」
和「大丈夫かしら…こんなんで澪とムギがつきあってること、ナイショにしておけるのかしら…」
唯「大丈夫だよ和ちゃん! わたしこう見えて口がカタイから! 澪ちゃんとムギちゃんがつきあってるってこと誰にも言わない!」
律「さっきと言ってること逆じゃねーか…まあとにかくだ。澪とムギがつきあってることは気づかないフリをしてあったかく見守ろうぜ」
梓「はいです。澪先輩とムギ先輩がつきあってるなんて、わたし知りません」
澪「へー。わたしとムギってつきあってたんだ」
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:42:19.07 ID:jyPtHX+80
律「は? いまさらなに言ってたんだよ、そんなこともうみんな知ってるよ」
律「でもちゃんと黙っておけよ? 澪とムギがつきあってるのはナイショなんだから」
澪「ふぅん。なんで?」
律「バッカ、澪が怒るから決まってんだろ。ホントは誰にも言わないってことになってるんだからな!」
澪「じゃあなんで律が知ってるんだ?」
律「それはムギが直接教えてくれたから………アレ?」
梓「律先輩って本物のバカだったんですね」
唯「知ってたけどね」
和「………ハァ」
律「でもちゃんと黙っておけよ? 澪とムギがつきあってるのはナイショなんだから」
澪「ふぅん。なんで?」
律「バッカ、澪が怒るから決まってんだろ。ホントは誰にも言わないってことになってるんだからな!」
澪「じゃあなんで律が知ってるんだ?」
律「それはムギが直接教えてくれたから………アレ?」
梓「律先輩って本物のバカだったんですね」
唯「知ってたけどね」
和「………ハァ」
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:42:58.24 ID:jyPtHX+80
律「………いつからいたの?」
澪「すり替わってるうんぬんぐらいから」
律「ずっと聞いてた?」
澪「うん」
和「ごめん、澪。これには訳があって」
澪「いいよ。なんとなくわかるから。頼まれただけなんだろ? 和は」
和「そうなんだけど…話が込み入ってて」
澪「うん。わかってる。一番悪いのはここにいる誰でもない、ってこと」
律「いや……ちょっと待て澪」
澪「でもとりあえず律は殴っとく」
ガツン!
律「うう…なんでこんな目に…」
澪「すり替わってるうんぬんぐらいから」
律「ずっと聞いてた?」
澪「うん」
和「ごめん、澪。これには訳があって」
澪「いいよ。なんとなくわかるから。頼まれただけなんだろ? 和は」
和「そうなんだけど…話が込み入ってて」
澪「うん。わかってる。一番悪いのはここにいる誰でもない、ってこと」
律「いや……ちょっと待て澪」
澪「でもとりあえず律は殴っとく」
ガツン!
律「うう…なんでこんな目に…」
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:43:34.71 ID:jyPtHX+80
澪「………………」
唯「澪ちゃん! ムギちゃんは悪くないよ! ムギちゃんは…」
梓「そうですよ! ムギ先輩はちょっと不安だっただけです!」
澪「それと約束を破ったことは別だろ?」
ガチャ
紬「みんな遅れてごめんね~、今日はチーズタルトを……あれ?(変な空気)」
律「ムギ……あの…ごめん」
澪「…」ツカツカツカ
ガチャ バタン!
紬「澪ちゃん…?」
唯「澪ちゃん! ムギちゃんは悪くないよ! ムギちゃんは…」
梓「そうですよ! ムギ先輩はちょっと不安だっただけです!」
澪「それと約束を破ったことは別だろ?」
ガチャ
紬「みんな遅れてごめんね~、今日はチーズタルトを……あれ?(変な空気)」
律「ムギ……あの…ごめん」
澪「…」ツカツカツカ
ガチャ バタン!
紬「澪ちゃん…?」
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:44:13.79 ID:jyPtHX+80
*
澪(………)スタスタ
澪(………)スタスタ
澪(……ムギのバカ)
澪(恥ずかしいから誰にも言わないで、って約束したのに)
澪(嘘ついてみんなにバラしてたんだ)
澪(遊びにいったときどうだったとか、電話でなに話したとか、)
澪(全部みんなにバラしてたのかな)
澪(別にバラされて困ることなんてないけど)
澪(ドヤ顔でひけらかしたりしてたのかな、って思うと…)
澪(わたしはやめて、って言ったのに…約束…したのに…)
澪(…………)ジワ
紬「澪ちゃん!」ハァハァ
澪「…………!」
澪(………)スタスタ
澪(………)スタスタ
澪(……ムギのバカ)
澪(恥ずかしいから誰にも言わないで、って約束したのに)
澪(嘘ついてみんなにバラしてたんだ)
澪(遊びにいったときどうだったとか、電話でなに話したとか、)
澪(全部みんなにバラしてたのかな)
澪(別にバラされて困ることなんてないけど)
澪(ドヤ顔でひけらかしたりしてたのかな、って思うと…)
澪(わたしはやめて、って言ったのに…約束…したのに…)
澪(…………)ジワ
紬「澪ちゃん!」ハァハァ
澪「…………!」
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:44:49.83 ID:jyPtHX+80
澪「…………」ゴシゴシ
紬「……澪ちゃん?」
紬「いきなり出て行っちゃうから……これ、澪ちゃんの分のチーズタルト」ハイ
澪「……いらない」プイ
紬「おいしい、って評判のお店なの。普段は並ばないと買えないんだけど、昨日知り合いの人がお土産にくれて…」
澪「いいよ。いらない」
紬「チーズの風味がしっかりしててね…でもあんまりしつこくなくて…」
澪「いらない、って言ってるだろ!」パシ
紬「……澪ちゃん?」
紬「いきなり出て行っちゃうから……これ、澪ちゃんの分のチーズタルト」ハイ
澪「……いらない」プイ
紬「おいしい、って評判のお店なの。普段は並ばないと買えないんだけど、昨日知り合いの人がお土産にくれて…」
澪「いいよ。いらない」
紬「チーズの風味がしっかりしててね…でもあんまりしつこくなくて…」
澪「いらない、って言ってるだろ!」パシ
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:45:21.77 ID:jyPtHX+80
紬「あっ」ツルッ ポテ
澪「あ」
澪「………」
紬「エヘヘ…ごめんね、落としちゃった」
紬「ぐちゃぐちゃになっちゃったからもう食べられないね」
紬「でもね、このチーズタルト本当においしいの。また持ってくるから今度は食べてね」
澪「…いらない」
澪「あ」
澪「………」
紬「エヘヘ…ごめんね、落としちゃった」
紬「ぐちゃぐちゃになっちゃったからもう食べられないね」
紬「でもね、このチーズタルト本当においしいの。また持ってくるから今度は食べてね」
澪「…いらない」
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:46:20.71 ID:jyPtHX+80
紬「あっ…チーズ、苦手だったっけ?? ごめんね気づかなくて…、じゃあ明日はガトーショコラ持ってくるね。好きだったよね? ガトーショコラ」
澪「いらない」
紬「わ、和菓子の方がよかった?? 暑くなってきたし水ようかんなんていいかしら?? わたしね、すっごくおいしい水ようかん知ってるの!!」アセアセ
澪「いらない」
紬「そっか…」
澪「いらない」
紬「わ、和菓子の方がよかった?? 暑くなってきたし水ようかんなんていいかしら?? わたしね、すっごくおいしい水ようかん知ってるの!!」アセアセ
澪「いらない」
紬「そっか…」
59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:46:57.68 ID:jyPtHX+80
澪「………」
紬「………」
澪「………」
紬「………」
澪「………」
紬「澪ちゃん……あの…あのね……」
澪「わたし、帰る」
紬「待って!」
紬「………」
澪「………」
紬「………」
澪「………」
紬「澪ちゃん……あの…あのね……」
澪「わたし、帰る」
紬「待って!」
60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:47:49.80 ID:jyPtHX+80
澪「…………」
紬「待って……あのね…あの……えっと…わたし…その…わたし…わたし…」
澪「…いいよ、もう」
紬「……わたしのこと、嫌いになった?」
澪「………べつに」
紬「……じゃあ、好き?」
澪「…………」
紬「わたし、澪ちゃんのことが好きよ?」
紬「待って……あのね…あの……えっと…わたし…その…わたし…わたし…」
澪「…いいよ、もう」
紬「……わたしのこと、嫌いになった?」
澪「………べつに」
紬「……じゃあ、好き?」
澪「…………」
紬「わたし、澪ちゃんのことが好きよ?」
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:48:24.22 ID:jyPtHX+80
紬「だからね…その…わたし、澪ちゃんと……キス……したいな、とか、そういうこと思っちゃうの」
紬「それなのに、全然そういう雰囲気にならないから…付き合って半年と19日もたつのに…」
紬「だからその…わたし不安で…考えすぎかもしれないんだけどそれで…」
紬「りっちゃんに相談にのってもらってたの。約束を破ったのは悪かったかもしれないけど…でも…でもね…」
澪「」カチン
澪「……“かも”ってなんだよ」
紬「………え?」
紬「それなのに、全然そういう雰囲気にならないから…付き合って半年と19日もたつのに…」
紬「だからその…わたし不安で…考えすぎかもしれないんだけどそれで…」
紬「りっちゃんに相談にのってもらってたの。約束を破ったのは悪かったかもしれないけど…でも…でもね…」
澪「」カチン
澪「……“かも”ってなんだよ」
紬「………え?」
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:48:56.87 ID:jyPtHX+80
澪「悪かった“かも”ってなんだよ」
澪「悪いに決まってるだろ! 約束破ったんだから!」
紬「だからそれには理由があって…」
澪「なんだよ…わたしが悪い、っていうのか」
紬「ちがうわ! そうじゃない…そうじゃなくて…」
澪「悪いに決まってるだろ! 約束破ったんだから!」
紬「だからそれには理由があって…」
澪「なんだよ…わたしが悪い、っていうのか」
紬「ちがうわ! そうじゃない…そうじゃなくて…」
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:49:34.23 ID:jyPtHX+80
澪「もういいよ」
紬「よくない!」
澪「もういい!!」
紬「……っ」ビクッ!!
澪「………もうこれ以上話しても仕方ないよ。ムギが約束を破ったのは事実だろ。それにわたし、」
澪「ムギとそういうことしたい、って思えないから」
紬「…え」
澪「じゃあな」
紬「よくない!」
澪「もういい!!」
紬「……っ」ビクッ!!
澪「………もうこれ以上話しても仕方ないよ。ムギが約束を破ったのは事実だろ。それにわたし、」
澪「ムギとそういうことしたい、って思えないから」
紬「…え」
澪「じゃあな」
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 20:50:16.69 ID:jyPtHX+80
背を向けたわたしに、ムギはもう声をかけてこなかった。
わたしは一度も振り向かずそのまま前を向いて歩き続けた。
しばらくして曲がり角を折れるところで振り返ると、大きな夕焼けの中に黒い影がぽつんと見えた。
それがムギだったのかどうか、わたしにはわからなかった。
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:08:30.72 ID:jyPtHX+80
*
二学期!
律「おいーっす」
澪「…おはよ」
律「ん? どした、元気なくない?」
澪「そんなことないよ」
律「ひっさしぶりだなぁ学校。起きれてよかったよ」
澪「わたしがモーニングコールしたおかげだろ」ポカ
律「いて。わかってますアリガトウゴザイマス」
澪「わかってるならよろしい」
二学期!
律「おいーっす」
澪「…おはよ」
律「ん? どした、元気なくない?」
澪「そんなことないよ」
律「ひっさしぶりだなぁ学校。起きれてよかったよ」
澪「わたしがモーニングコールしたおかげだろ」ポカ
律「いて。わかってますアリガトウゴザイマス」
澪「わかってるならよろしい」
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:10:07.26 ID:jyPtHX+80
律「そーいやさ。どうだった? 夏休み」
澪「どうだった、って…まぁボチボチ」
律「ボチボチ、ってなんなんだよー。ほら、なにかあるだろ? あったんだろぉ~?」
澪「夏期講習行ってた」
律「それは知ってる。それ以外にもあるだろ、ほらぁ~」
澪「んー、本読んだり、ベース弾いたり、詩を書いたり…」
律「またまた~、も~言っちゃえってば!」
澪「しつこいな…ムギのこと聞きたいならはっきりそう言えよ」
律「だって…怒るじゃん」
澪「今更怒んないよ」
律「……そか。で。どうだったんだ? どっか行ったりしたか?」
澪「どうだった、って…まぁボチボチ」
律「ボチボチ、ってなんなんだよー。ほら、なにかあるだろ? あったんだろぉ~?」
澪「夏期講習行ってた」
律「それは知ってる。それ以外にもあるだろ、ほらぁ~」
澪「んー、本読んだり、ベース弾いたり、詩を書いたり…」
律「またまた~、も~言っちゃえってば!」
澪「しつこいな…ムギのこと聞きたいならはっきりそう言えよ」
律「だって…怒るじゃん」
澪「今更怒んないよ」
律「……そか。で。どうだったんだ? どっか行ったりしたか?」
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:10:38.22 ID:jyPtHX+80
澪「どうもこうもないよ。会ってないし、連絡もとってない」
律「………は? なーに隠してんだよ? 照れてんのか?」
澪「隠してないってば」
澪「あの日からずっと、ふたりきりで会ってないし、メールも電話も一切してない」
律「………は? なーに隠してんだよ? 照れてんのか?」
澪「隠してないってば」
澪「あの日からずっと、ふたりきりで会ってないし、メールも電話も一切してない」
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:11:56.44 ID:jyPtHX+80
律「はぁ~~~~!???!!!?」
律「マジか…マジなのか……」
澪「嘘なんかつかないよ」
澪「あっ、思い出した。そういえばお盆に中古レコード屋巡りしたよ」
律「なんだよ…デートしてるじゃんかよ…」ホッ
澪「ひとりで」
律「ダメじゃねーか!」
律「マジか…マジなのか……」
澪「嘘なんかつかないよ」
澪「あっ、思い出した。そういえばお盆に中古レコード屋巡りしたよ」
律「なんだよ…デートしてるじゃんかよ…」ホッ
澪「ひとりで」
律「ダメじゃねーか!」
69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:12:31.06 ID:jyPtHX+80
律「なんだよそれ…部室でみんな一緒にいるときは全然普通だったじゃん! 普通にお茶してたし、練習もしてたじゃん!」
澪「そうだよ」
律「合宿だって行ったじゃん! 盛り上がったじゃん!」
澪「そりゃ…まぁ…」
律「あのさ…もしかして“別れた”んじゃないよな……?」
澪「さぁ……」
律「さぁ……ってなんだよ!」
澪「そうだよ」
律「合宿だって行ったじゃん! 盛り上がったじゃん!」
澪「そりゃ…まぁ…」
律「あのさ…もしかして“別れた”んじゃないよな……?」
澪「さぁ……」
律「さぁ……ってなんだよ!」
70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:13:17.82 ID:jyPtHX+80
律「わたし達ちょ~責任感じてめちゃくちゃ心配してたんだぞ!」
律「でも次の日、二人とも全然普通だったし、あーよかった仲直りしたんだーって安心してたのに…」
律「なにしてんだよ!」
澪「なにしてんだ、って言われても……」
澪「なにもしてないし」
律「それがダメだって言ってんの!!」
律「でも次の日、二人とも全然普通だったし、あーよかった仲直りしたんだーって安心してたのに…」
律「なにしてんだよ!」
澪「なにしてんだ、って言われても……」
澪「なにもしてないし」
律「それがダメだって言ってんの!!」
71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:14:10.85 ID:jyPtHX+80
律「あっそうだ! 誕生日どうしたんだよ、ムギの誕生日!」
澪「えっ、みんなでお祝いしただろ」
律「そんなん知ってるわ! ふたりでお祝いしなかったのか、ってことだよ!」
澪「いや…とくに…なにも……」
律「………おい」
澪「だってムギからは特に連絡もなかったし」
律「そりゃ自分で自分の誕生日祝ってほしい、なんて澪に直接言えるわけないだろ」
澪「…もうわたしのこと好きじゃないんだろ。祝ってほしいなんて思ってなかったんじゃないか」
律「……みお」
澪「えっ、みんなでお祝いしただろ」
律「そんなん知ってるわ! ふたりでお祝いしなかったのか、ってことだよ!」
澪「いや…とくに…なにも……」
律「………おい」
澪「だってムギからは特に連絡もなかったし」
律「そりゃ自分で自分の誕生日祝ってほしい、なんて澪に直接言えるわけないだろ」
澪「…もうわたしのこと好きじゃないんだろ。祝ってほしいなんて思ってなかったんじゃないか」
律「……みお」
72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:14:55.39 ID:jyPtHX+80
澪「な、なんだよ…」
律「ほんっとうにそう思ってるのか?」
澪「………」
律「……ムギな。めっっっっっっちゃくちゃたのしみにしてたんだぞ、誕生日」
律「夏休みもな。澪とアレしたいコレしたい、どこに行きたい、ってそんな話ばっかしててさ」
律「…………ムギの気持ち、考えたことあるか?」
澪「………」
律「ほんっとうにそう思ってるのか?」
澪「………」
律「……ムギな。めっっっっっっちゃくちゃたのしみにしてたんだぞ、誕生日」
律「夏休みもな。澪とアレしたいコレしたい、どこに行きたい、ってそんな話ばっかしててさ」
律「…………ムギの気持ち、考えたことあるか?」
澪「………」
73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:15:36.65 ID:jyPtHX+80
律「今日、ムギとちゃんとふたりで話しろよ」
澪「話すってなにを……」
律「澪。お前はムギのことどう思ってるんだ? 好きなのか? 好きじゃないのか?」
澪「わたし………」
律「どうするかはふたりのことだけどさ。ちゃんと決着、つけてやれよ」
澪「りつ…」
律「なんだ?」
澪「ムギ……わたしのことなにか言ってたのか?」
澪「話すってなにを……」
律「澪。お前はムギのことどう思ってるんだ? 好きなのか? 好きじゃないのか?」
澪「わたし………」
律「どうするかはふたりのことだけどさ。ちゃんと決着、つけてやれよ」
澪「りつ…」
律「なんだ?」
澪「ムギ……わたしのことなにか言ってたのか?」
74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:16:35.01 ID:jyPtHX+80
律「なにも言ってないよ。あの日以来ムギはなにも言ってこない。ムギはムギなりに約束を破ったことを悪いと思ってるよ、きっと」
律「確かにムギも悪いとこあったと思うよ。でもさ、もうちょっと寄り添ってやれよ」
律「それがつきあう、ってことなんじゃねーの」
澪「…」
律「かっこつけねーで思ってることをそのまま言えばいいんだよ。それしかできないだろ」
澪「……」コクン
律「確かにムギも悪いとこあったと思うよ。でもさ、もうちょっと寄り添ってやれよ」
律「それがつきあう、ってことなんじゃねーの」
澪「…」
律「かっこつけねーで思ってることをそのまま言えばいいんだよ。それしかできないだろ」
澪「……」コクン
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:17:26.72 ID:jyPtHX+80
*
昇降口!
ザーザー
澪(…………)
澪(……夕立かぁ)
唯「あれ? 澪ちゃん今帰り?」
和「もしかして傘、持ってないの?」
澪「唯、和………うん。まさかこんなに降ると思わなくって」
和「澪にしては珍しいわね。わたしの傘貸そうか?」
唯「わたし達は相合傘で帰るから♪」ムフフ
澪「ううん。大丈夫。きっともうすぐやむから」
唯「そーかなー? 降り出したとこだよ?」
澪「うん。大丈夫」
和「……」ピーン
昇降口!
ザーザー
澪(…………)
澪(……夕立かぁ)
唯「あれ? 澪ちゃん今帰り?」
和「もしかして傘、持ってないの?」
澪「唯、和………うん。まさかこんなに降ると思わなくって」
和「澪にしては珍しいわね。わたしの傘貸そうか?」
唯「わたし達は相合傘で帰るから♪」ムフフ
澪「ううん。大丈夫。きっともうすぐやむから」
唯「そーかなー? 降り出したとこだよ?」
澪「うん。大丈夫」
和「……」ピーン
76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:18:11.01 ID:jyPtHX+80
和「ほら、唯帰りましょ」
唯「えー澪ちゃんホントに大丈夫なの?」
和「大丈夫でしょ。本人がそう言ってるんだから」
唯「えぇぇー…澪ちゃんに傘貸してかえろーよーそしたら相合傘できるしぃ」
和「はいはい。じゃあわたしは自分の傘使わないから。これでいいでしょ」
唯「あ、そっか。さっすが和ちゃん」エヘヘ
和「じゃあね、澪(がんばって!)」グッ
澪(……和!)
唯「じゃーねーみおちゃーん」ブンブン
澪「ああ、気をつけて」
唯「えー澪ちゃんホントに大丈夫なの?」
和「大丈夫でしょ。本人がそう言ってるんだから」
唯「えぇぇー…澪ちゃんに傘貸してかえろーよーそしたら相合傘できるしぃ」
和「はいはい。じゃあわたしは自分の傘使わないから。これでいいでしょ」
唯「あ、そっか。さっすが和ちゃん」エヘヘ
和「じゃあね、澪(がんばって!)」グッ
澪(……和!)
唯「じゃーねーみおちゃーん」ブンブン
澪「ああ、気をつけて」
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:18:53.26 ID:jyPtHX+80
ザーザー
澪(全然降り止まない)
澪(その方が都合いいけど)
紬「……澪ちゃん?」
澪「……ムギ」
78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:19:35.90 ID:jyPtHX+80
紬「どうしたの? もしかして傘、持ってないの?」
澪「う、うん……うっかり忘れちゃって。ム、ムギは…?」
紬「わたしも」
澪「…そっか」
澪「う、うん……うっかり忘れちゃって。ム、ムギは…?」
紬「わたしも」
澪「…そっか」
79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:45:15.39 ID:jyPtHX+80
ザーザー
澪(作戦失敗したなぁ)
紬「やまないね」
澪「そうだな」
紬「先生にお願いして学校の傘借りよっか?」
澪「あ、いやその…ちょっと待って!」
紬「??」
澪「ああー! こんなところにかさがー かばんにいれてたのわすれてたー(棒)」
80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:45:44.73 ID:jyPtHX+80
紬「……」
澪「……」
紬「……」
澪「………」
澪「はは……ごめん。持ってきてたことわすれてた」
澪「………よかったら、一緒に帰らないか?」
紬「………」コクン
澪「……」
紬「……」
澪「………」
澪「はは……ごめん。持ってきてたことわすれてた」
澪「………よかったら、一緒に帰らないか?」
紬「………」コクン
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:46:32.08 ID:jyPtHX+80
シトシト
澪「……」
紬「……」
澪「……」
紬「……」
澪(か、かいわかいわ~…)
澪「あ、あのさっ」
紬「……?」
澪「日本の気候は楽器にやさしくないよなっ」
紬「梓ちゃんも同じこと言ってたね」
澪「へ? そうだっけ?」
紬「うん」
澪「そ、そっかぁ~…」
澪「……」
紬「……」
82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:47:26.30 ID:jyPtHX+80
パラパラ
澪(ダメだ…気の利いた話題を思いつかない…)
澪(バカッ! わたしの大バカッ!!)
澪(うう…わたし、なにがしたいんだ…)
澪(あぁ…結局交差点まで来てしまった)
紬「じゃあ澪ちゃん、ここまでで大丈夫だから」
澪「いやっ、でもっ…そうだ雨! 傘! 傘がないと濡れちゃうから駅まで送るよ!」
紬「ありがと。でももう小ぶりだし」
澪「ダメだっ! 小ぶりでも濡れちゃうからダメだ! 風邪引いたら大変だから!」
紬「そ、そう…? じゃあ甘えちゃおう…かな」
83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:49:03.92 ID:jyPtHX+80
駅!
紬「あー…電車遅れてるみたい」
澪(やったぁ! 夕立ありがとう!)ウルウル
紬「じゃあ駅まで来たからもう大丈夫。わざわざありがとう」
澪「う、うん……」
澪「せ、せっかくだから……電車が来るまで……」
紬「でも……悪いわ。けっこう遅れてるみたいだし」
澪「わ、わたし…最近電車にハマってて! だから走ってるとこ見たくて!」
紬「……そう?」
澪(よし………よし………自然だった…今のは自然だった…)
紬「あー…電車遅れてるみたい」
澪(やったぁ! 夕立ありがとう!)ウルウル
紬「じゃあ駅まで来たからもう大丈夫。わざわざありがとう」
澪「う、うん……」
澪「せ、せっかくだから……電車が来るまで……」
紬「でも……悪いわ。けっこう遅れてるみたいだし」
澪「わ、わたし…最近電車にハマってて! だから走ってるとこ見たくて!」
紬「……そう?」
澪(よし………よし………自然だった…今のは自然だった…)
84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:49:31.84 ID:jyPtHX+80
紬「……」
澪「……」
紬「……」
澪(なにをやってるんだ……今こそ…今こそ…)
紬「こうしてふたりきりになるの、久しぶりだね」
澪「…ふぇっ?! あ、そ、そうだなっ」
紬「なぁに、澪ちゃん、変な声だして」クス
澪「ハハ…なんか鼻がつまっちゃって」
澪「……」
紬「……」
澪(なにをやってるんだ……今こそ…今こそ…)
紬「こうしてふたりきりになるの、久しぶりだね」
澪「…ふぇっ?! あ、そ、そうだなっ」
紬「なぁに、澪ちゃん、変な声だして」クス
澪「ハハ…なんか鼻がつまっちゃって」
85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:50:15.73 ID:jyPtHX+80
澪「……ほんと。久しぶりだな」
紬「……そうだね」
紬「澪ちゃん、夏休み中なにしてた?」
澪「うーん、夏期講習とか。あとはベース弾いたり、本読んだり、詩を書いたり。ムギは?」
紬「家のことがアレコレあって…ちょっとの間だけフィンランド行ってたよ」
澪「へー、いいなぁ海外かあ」
紬「そうだ、これお土産」ハイ
澪「………飴?」
紬「うん。有名なお土産。澪ちゃんにどうしても食べてほしくって」
澪「…そっか。ありがと」
紬「……そうだね」
紬「澪ちゃん、夏休み中なにしてた?」
澪「うーん、夏期講習とか。あとはベース弾いたり、本読んだり、詩を書いたり。ムギは?」
紬「家のことがアレコレあって…ちょっとの間だけフィンランド行ってたよ」
澪「へー、いいなぁ海外かあ」
紬「そうだ、これお土産」ハイ
澪「………飴?」
紬「うん。有名なお土産。澪ちゃんにどうしても食べてほしくって」
澪「…そっか。ありがと」
86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:51:27.44 ID:jyPtHX+80
澪「ごめん。わたしもどっか旅行にでも行ってたらお土産渡すんだけど」
紬「ううん。気にしないで」
澪(夏休み、ふたりでどこか遊びに行きたかったな…)
澪(わたしが変な意地張ったりしなければ楽しい夏の思い出作れたのかな)
澪(…………でも元はと言えばムギが悪いんだし)
澪(…………なんでわたしが謝らないといけないんだ)
澪(そうだよ! わたしは悪くない!)
紬「……どうしたの? 怖い顔して」
澪「なんでもない!」ブンブン
紬「ううん。気にしないで」
澪(夏休み、ふたりでどこか遊びに行きたかったな…)
澪(わたしが変な意地張ったりしなければ楽しい夏の思い出作れたのかな)
澪(…………でも元はと言えばムギが悪いんだし)
澪(…………なんでわたしが謝らないといけないんだ)
澪(そうだよ! わたしは悪くない!)
紬「……どうしたの? 怖い顔して」
澪「なんでもない!」ブンブン
87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:52:26.19 ID:jyPtHX+80
澪(ダメだ。意地を張るのはやめようって決めたんだ!)
澪「な、なぁ…ムギ」
紬「なぁに?」
澪「こ、今度の日曜、ふたりでどっか出かけないかっ?」
澪(やった! 言えた!)
紬「……いいの?」
澪「へ? いいの?って……そりゃあ…」
澪(え? え?? いまの反応なに?? どゆこと??)
澪「な、なぁ…ムギ」
紬「なぁに?」
澪「こ、今度の日曜、ふたりでどっか出かけないかっ?」
澪(やった! 言えた!)
紬「……いいの?」
澪「へ? いいの?って……そりゃあ…」
澪(え? え?? いまの反応なに?? どゆこと??)
88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:52:54.11 ID:jyPtHX+80
澪(ムギ……わたしと遊びにいきたくない?)
澪(わたしたち…つきあってるんじゃなかった?)
澪(ひょっとしてもう終わってた??)
澪(わたしがひどいこと言ったから…夏休みの間ぜんぜん連絡取らなかったから…)
澪(おわり?? ほんとうにおわりなのか??)
澪「…………」
紬「…………?」
澪「…………ヤダ」
紬「…みおちゃん?」
澪(わたしたち…つきあってるんじゃなかった?)
澪(ひょっとしてもう終わってた??)
澪(わたしがひどいこと言ったから…夏休みの間ぜんぜん連絡取らなかったから…)
澪(おわり?? ほんとうにおわりなのか??)
澪「…………」
紬「…………?」
澪「…………ヤダ」
紬「…みおちゃん?」
89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:53:38.20 ID:jyPtHX+80
澪「うぇぇぇ………」ポロポロ
紬「ど、どうしたの急に泣き出したりして…」
澪「だって……だって……ムギぃ…」
紬「もぅ…泣いてちゃなに言ってるかわかんないよ?」
紬「ど、どうしたの急に泣き出したりして…」
澪「だって……だって……ムギぃ…」
紬「もぅ…泣いてちゃなに言ってるかわかんないよ?」
90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:54:04.76 ID:jyPtHX+80
澪「ムギ……わ、わたしの…こと………キライ? キライになった??」
紬「……澪ちゃん」
澪「キライ……なんだろ? わたしのこと…」
澪「わ゙たしが……ヒック……ヒドイこと…した…から…」
澪「ムギに……ヒック…つめたく………したから」
澪「ごめん…………ごめん…………」
澪「あやまるから…………だからおねがい…」
澪「キライに………ヒック…ならないで……ヒック」
紬「澪ちゃん………」
澪「ムギ……ムギ……」
紬「……澪ちゃん」
澪「キライ……なんだろ? わたしのこと…」
澪「わ゙たしが……ヒック……ヒドイこと…した…から…」
澪「ムギに……ヒック…つめたく………したから」
澪「ごめん…………ごめん…………」
澪「あやまるから…………だからおねがい…」
澪「キライに………ヒック…ならないで……ヒック」
紬「澪ちゃん………」
澪「ムギ……ムギ……」
91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:54:40.57 ID:jyPtHX+80
紬「澪ちゃん」
澪「…………」
紬「わたしが澪ちゃんのこと、キライになるわけないわ」
澪「…………」
紬「…そんなこと、ゼッタイにないから」
澪「…………ホント?」
紬「本当よ。むしろわたしの方が澪ちゃんに嫌われちゃったと思ってた」
澪「………」
紬「ごめんね。約束破って」
澪「………グズ」
澪「…………」
紬「わたしが澪ちゃんのこと、キライになるわけないわ」
澪「…………」
紬「…そんなこと、ゼッタイにないから」
澪「…………ホント?」
紬「本当よ。むしろわたしの方が澪ちゃんに嫌われちゃったと思ってた」
澪「………」
紬「ごめんね。約束破って」
澪「………グズ」
92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:57:31.70 ID:jyPtHX+80
紬「わたし、自分のことばっかり考えてて、澪ちゃんのこと傷つけちゃって…ごめんなさい」
紬「澪ちゃんと一緒にいるとね、もっと一緒にいたくなっちゃうの。いっぱいさわりたくなっちゃうし、さわってほしくなっちゃうの」
紬「でもそうしたらきっと澪ちゃんのこと傷つけちゃう。だからね、距離を置こうと思ったの」
紬「落ち着いて澪ちゃんと向き合えるようになるまでガマンしよう、って」
紬「それができるようになったらもう一度澪ちゃんとおつきあいしたいな、って思ってたの」
澪「………」
紬「澪ちゃんと一緒にいるとね、もっと一緒にいたくなっちゃうの。いっぱいさわりたくなっちゃうし、さわってほしくなっちゃうの」
紬「でもそうしたらきっと澪ちゃんのこと傷つけちゃう。だからね、距離を置こうと思ったの」
紬「落ち着いて澪ちゃんと向き合えるようになるまでガマンしよう、って」
紬「それができるようになったらもう一度澪ちゃんとおつきあいしたいな、って思ってたの」
澪「………」
93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:58:52.95 ID:jyPtHX+80
澪「わたしの方こそごめん。ごめん……」
紬「澪ちゃんはなんにも悪くないよ」
澪「だって…誕生日プレゼントも…なにもあげてない」
紬「いいよ。澪ちゃんが隣にいてくれたらなんにもいらない」
澪「わたし……キスとか…その先のこととか…こわくて…でも」
澪「ムギが遠くに行っちゃう、って考えたら…たまらなくさみしくて…」
澪「…だからそばにいてほしい」
紬「………澪ちゃん」
紬「澪ちゃんはなんにも悪くないよ」
澪「だって…誕生日プレゼントも…なにもあげてない」
紬「いいよ。澪ちゃんが隣にいてくれたらなんにもいらない」
澪「わたし……キスとか…その先のこととか…こわくて…でも」
澪「ムギが遠くに行っちゃう、って考えたら…たまらなくさみしくて…」
澪「…だからそばにいてほしい」
紬「………澪ちゃん」
94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 21:59:28.32 ID:jyPtHX+80
紬「わたし、離れてる間もずっと澪ちゃんのことばっかり考えてたの。ずっとよ。もうずーーーーっと!」
紬「いっつも澪ちゃんのこと考えてるの! もう自分でもどうかと思うくらい!」
紬「…こんなわたしだからきっとまた先走って澪ちゃんのこと傷つけちゃうかもしれないけど」
紬「好きなの。澪ちゃんのこと、大好きなの。だからね、改めてお願い」
紬「また、わたしとおつきあいしてください」
紬「いっつも澪ちゃんのこと考えてるの! もう自分でもどうかと思うくらい!」
紬「…こんなわたしだからきっとまた先走って澪ちゃんのこと傷つけちゃうかもしれないけど」
紬「好きなの。澪ちゃんのこと、大好きなの。だからね、改めてお願い」
紬「また、わたしとおつきあいしてください」
95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 22:01:35.79 ID:jyPtHX+80
澪「……うん」
紬「…………」ヘナヘナヘナ
澪「ムギ!? ど、どうしたんだ?!」
紬「だって…だって…仲直りできなかったらどうしようって…このまま別れちゃったらどうしようって…そればっかり考えて……」
澪「ムギ…………」
紬「みおちゃん……みおちゃん………みおちゃぁぁぁん……うぇぇぇぇぇん!!!」
澪「……ごめん」
紬「みおちゃん……みおちゃん……」
96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 22:03:21.54 ID:jyPtHX+80
紬「……ヒック」
澪「落ち着いた?」
紬「……うん。ごめんね」
澪「いいよ。お互いさまだろ」
紬「エヘヘ…そだね」
澪「アハハ」
澪「落ち着いた?」
紬「……うん。ごめんね」
澪「いいよ。お互いさまだろ」
紬「エヘヘ…そだね」
澪「アハハ」
97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 22:04:26.72 ID:jyPtHX+80
紬「ねぇ澪ちゃん…手、握ってもいい?」
澪「……うん」
ギュ
紬「………あったかいね」
澪「………ムギの手だって」
澪「……うん」
ギュ
紬「………あったかいね」
澪「………ムギの手だって」
98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 22:05:13.96 ID:jyPtHX+80
澪「電車、まだ来ないな」
紬「うん……でもそのほうが一緒にいられるからうれしい」
澪「…そうだな」
紬「ごめんね、帰るの遅くなっちゃう」
澪「平気。まだ日も長いし」
紬「雨、すっかりあがったね」
澪「うん…アレみて。夕日」
紬「わぁ……」
チュ
紬「うん……でもそのほうが一緒にいられるからうれしい」
澪「…そうだな」
紬「ごめんね、帰るの遅くなっちゃう」
澪「平気。まだ日も長いし」
紬「雨、すっかりあがったね」
澪「うん…アレみて。夕日」
紬「わぁ……」
チュ
99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 22:05:53.65 ID:jyPtHX+80
紬「……えっ」
澪「………」
紬「澪ちゃん、アレ!」
澪「え?」
チュ
100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/01(金) 22:06:30.33 ID:jyPtHX+80
紬「……しかえし」
おしまい!
101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 02:56:51.04 ID:8k5CfQ44O
乙
最後の流れはすごい好きだった
最後の流れはすごい好きだった
103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 09:48:23.29 ID:AKWddwUt0
乙
104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/03(日) 00:39:29.37 ID:fFSdzsf9o
おつ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467370988/
Entry ⇒ 2016.07.05 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
紬「海の見える町」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 01:51:28.51 ID:ttMVa8Eao
琴吹紬誕生日SS(のつもり)
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 01:55:28.46 ID:ttMVa8Eao
~~~
そのお店は『さいはてのカフェ』といいました。
雨上がりの雫にしっとりとうなだれていた紫陽花たちが、潮風に吹かれてきらきらと光りを反射させています。
そんな清清しいようなにおいを胸いっぱいに吸い込みながら、私は、この名前も聞いたことがないような町の隅っこをのんびり歩くのにもくたびれてしまって、この紫陽花たちが悪いのだ、私はちっとも歩き疲れてなんかいやしないのに、あなたたちが構って欲しそうに道端に咲いているから立ち止まってやるのだと、自分の奇妙な不機嫌をぜんぶ花のせいにして、それから大きな溜息をついて休憩するのでした。
実際、私はもうくたくたでした。
キャリーバッグにもたれかかって足を休めます。
少しだけ、ほんの少しだけ、あのとき意地を張っていなければと後悔しましたが、そもそも後悔するくらいだったら喧嘩なんてしません。
まあ、私もわがままだったかなあと思わなくもないけれど、あっちだって融通が利かないのはお互いさまです。
夕暮れが近づいていました。
菫色の空の彼方が、徐々に夕日の燃える赤に変わってゆきます。
……ふと、菫のことを思い出してしまいました。
「やっぱり私が悪かったかなあ」
同じ菫色をした紫陽花に、さっき八つ当たりしたことを心の中で謝ったりして、すると今度はなんだか寂しいような悲しいような気持ちが胸のうちに沸いてきました。
私は、たまにこうやって怒ったり不機嫌になることはあっても、それが長続きした試しがないのです。
ぷんぷん怒るのは結構疲れます。
それよりも悲しいとか切ないとか、虚しいとかいった感情の方が、よっぽど私の心を癒してくれるような気がして、私のまんまるな心は怒りの頂からすぐにコロコロと転がり落ちてしまうのです。
それに、今の私はもう感情を奮い起こすほどの体力が残っていませんでした。
最初は知らない町を探検するのにワクワクしていた私の好奇心も、空腹や喉の渇きを覚えるにつれ、次第にどこか休憩できる場所はないかしらとオアシスを求める遭難者のような不安と焦りを抱き始め、そして改めて周囲の様子を振り返ってみるとこの町は喫茶店はおろかコンビニすら無いような辺境の地だったので、仕方なしに引き返そうと思った矢先、帰り道が分からなくなってしまうほど遠くへ来てしまった事にようやく気付き、まさしく途方に暮れている最中だったのです。
携帯電話のバッテリーも切れてしまいました。
通りかかる人もいないような場所だったので道を尋ねることもできません。
どうにかなるだろうと当てもなく彷徨っていたのがあだになって、海岸沿いの道には民家すらも見当たりませんでした。
日が暮れてしまう前にせめてどこか休憩できる場所を、と思いながら、私は重たい腰をようやく上げてこの紫陽花通りを再びとぼとぼと歩きはじめました。
そして赤からやがて藍色になりつつある空、その端々にまだ薄く赤を残した雲たち、烏たちの憂鬱な鳴き声、ざわめく木々や草花、生ぬるい潮風の匂い……
そんな懐かしいような風景に癒されてぼうっと心を奪われながら歩いていると、不意に曲がりくねった道の先に建物があるのを見とめました。
遠くからだと民家なのかもよく分かりませんでしたが、私はやっと安心して溜息を漏らしました。
あそこで道を聞いてみよう。
あわよくば休憩させてもらえないかしら。
疲労した体ににわかに活力が湧き出てきた私はそんなことを考えながら先へ先へと歩みを早めます。
そしてその建物の全貌が西日の影の中にとうとう明らかになってくると私の安心しきった心にいやな予感が走りました。
それは古寂びたダイニングカフェのようでした。
といっても、看板に掠れた文字で「カフェ」という言葉が見えなければ何かの店かも分からないくらいな建物でした。
外装のペンキは剥がれ、窓にはヒビが走り、周辺は手入れされていない雑草が伸び放題です。
もう日が落ちて外は真っ暗になりかけているのに、店内は明かりもなくひっそりとしていました。
私は最初、廃屋かと思い、がっくりと肩を落としました。
しかし次の瞬間、まるで私の来訪を待ち構えていたように店内にパチパチと明かりが点き始めたのには驚いてしまいました。
なんだか来てはいけない所へ来てしまったような、不思議の国に迷い込んでしまったような気分です。
怪しい。
怪しいけれど、どうやら人は居るみたいです。
私は勇気を出してえいやと入口の扉を開けました。
それが、この奇妙な出会いの物語の始まりでした。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 01:57:58.45 ID:ttMVa8Eao
「けほっ、けほっ……」
まず私を出迎えてくれたのは降りかかる埃の匂いでした。
思わず目をしばたたかせて咳き込みながら、店の奥に向かって
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいますかー?」
と声をかけてみましたが、反応がありません。
誰もいないカウンターの傍まで寄ってもう一度声をかけてみると、ようやく奥から店員さんらしき人が現れました。
小さな女の子でした。
「…………いらっしゃいませ」
「あの、すみません。道をお聞きしたいんですけど……」
「ウチは交番じゃありませんよ。注文しないならよそへ行ってください」
ぴしゃりとはねつけられてしまいました。
その拒否反応の強固なことといったら、有無を言わせずという言葉そのものといった風でした。
私は口もきけずにしょんぼりと俯いてしまいました。
なんだか自分がすごく情けないような、悔しいような気持ちがしました。
一人ぼっちで道に迷い、やっと家屋を見つけたと思ったらそこは汚くてみすぼらしい飲食店。
そして不機嫌な店員さんに冷たくあしらわれて為すすべもなく立ち尽くす私。
あ、泣いちゃいそう。
すると店員さんは何を思ったのか、そうやって泣き出しそうな私の目の前におもむろにメニュー表を差し出したので、私は一瞬それを使って一発芸でもやらされるのかな、なんて馬鹿なことを考えてしまうくらいにぽかんと口を開けたままそれを眺めていました。
「食べないなら帰る、食べるなら注文、です」
ぐうぅぅ。
タイミングを計ったように私のお腹が思いっきり鳴き出すと、私は恥ずかしくなって顔を赤らめながら、
「じゃ、じゃあ……このカルボナーラください」
とだけ言って、店員さんに無言で促されるままに近くのテーブル席に座りました。
ほとんど倒れこむように腰を落ち着けると、私は盛大に溜息をついてひとまずは休憩できたことに安心しました。
飲食店なのに薄汚れて埃まみれなのには閉口しましたが、カウンターの中で料理を作る美味しそうな音が聞こえると途端に空腹が刺激されてしまい、今はもう一刻も早くお腹を満たしたい思いで頭の中はいっぱいになりました。
そうして私がぼーっとソファに座って店内を眺めていると何やら店の奥から人の声が聞こえました。
他の店員さんかしらと思っていると、ドタバタとやって来たのは私と同い年くらいの女の子でした。
「あれーっ!? もしかしてお客さん?」
そう言って遠慮する様子もなくずかずかと私の方へ歩いてくるのです。
えっ、なになに?
私なにか変なことしちゃった?
なんて考えている暇もないうちにその子は席の向かいに座りニコニコしながら私に話しかけてくるのでした。
「この店に私たち以外のお客さん来るなんて何日ぶりだろー、あっ、私は唯って言います。よろしくね!」
「は、はい」
私は気圧されてそれしか言えませんでした。
「あなたのお名前はなんていうの?」
「え? ああ、えっと、琴吹紬といいます」
「へーっ、面白い名前だね!」
私はよく分からないままに曖昧な笑みを浮かべて返事をしました。
「あの子はね、あずにゃんっていうんだよ。ここの店主で、本名は中野梓っていうんだけど、猫みたいに気分屋だからあずにゃん」
「唯先輩! 余計なこと言わないの」
「うへぇ、怒られちゃった」
そういって悪戯っぽく舌を出す唯ちゃんに、私はちょっとだけ親近感を覚えました。
悪い人ではなさそうです。
まず私を出迎えてくれたのは降りかかる埃の匂いでした。
思わず目をしばたたかせて咳き込みながら、店の奥に向かって
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいますかー?」
と声をかけてみましたが、反応がありません。
誰もいないカウンターの傍まで寄ってもう一度声をかけてみると、ようやく奥から店員さんらしき人が現れました。
小さな女の子でした。
「…………いらっしゃいませ」
「あの、すみません。道をお聞きしたいんですけど……」
「ウチは交番じゃありませんよ。注文しないならよそへ行ってください」
ぴしゃりとはねつけられてしまいました。
その拒否反応の強固なことといったら、有無を言わせずという言葉そのものといった風でした。
私は口もきけずにしょんぼりと俯いてしまいました。
なんだか自分がすごく情けないような、悔しいような気持ちがしました。
一人ぼっちで道に迷い、やっと家屋を見つけたと思ったらそこは汚くてみすぼらしい飲食店。
そして不機嫌な店員さんに冷たくあしらわれて為すすべもなく立ち尽くす私。
あ、泣いちゃいそう。
すると店員さんは何を思ったのか、そうやって泣き出しそうな私の目の前におもむろにメニュー表を差し出したので、私は一瞬それを使って一発芸でもやらされるのかな、なんて馬鹿なことを考えてしまうくらいにぽかんと口を開けたままそれを眺めていました。
「食べないなら帰る、食べるなら注文、です」
ぐうぅぅ。
タイミングを計ったように私のお腹が思いっきり鳴き出すと、私は恥ずかしくなって顔を赤らめながら、
「じゃ、じゃあ……このカルボナーラください」
とだけ言って、店員さんに無言で促されるままに近くのテーブル席に座りました。
ほとんど倒れこむように腰を落ち着けると、私は盛大に溜息をついてひとまずは休憩できたことに安心しました。
飲食店なのに薄汚れて埃まみれなのには閉口しましたが、カウンターの中で料理を作る美味しそうな音が聞こえると途端に空腹が刺激されてしまい、今はもう一刻も早くお腹を満たしたい思いで頭の中はいっぱいになりました。
そうして私がぼーっとソファに座って店内を眺めていると何やら店の奥から人の声が聞こえました。
他の店員さんかしらと思っていると、ドタバタとやって来たのは私と同い年くらいの女の子でした。
「あれーっ!? もしかしてお客さん?」
そう言って遠慮する様子もなくずかずかと私の方へ歩いてくるのです。
えっ、なになに?
私なにか変なことしちゃった?
なんて考えている暇もないうちにその子は席の向かいに座りニコニコしながら私に話しかけてくるのでした。
「この店に私たち以外のお客さん来るなんて何日ぶりだろー、あっ、私は唯って言います。よろしくね!」
「は、はい」
私は気圧されてそれしか言えませんでした。
「あなたのお名前はなんていうの?」
「え? ああ、えっと、琴吹紬といいます」
「へーっ、面白い名前だね!」
私はよく分からないままに曖昧な笑みを浮かべて返事をしました。
「あの子はね、あずにゃんっていうんだよ。ここの店主で、本名は中野梓っていうんだけど、猫みたいに気分屋だからあずにゃん」
「唯先輩! 余計なこと言わないの」
「うへぇ、怒られちゃった」
そういって悪戯っぽく舌を出す唯ちゃんに、私はちょっとだけ親近感を覚えました。
悪い人ではなさそうです。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 02:00:32.24 ID:ttMVa8Eao
「それにしても紬ちゃん、せっかく来てもらってなんだけど、今日はちょっとタイミングが悪かったみたいだねー」
「どういうことですか?」
「あずにゃんがご機嫌ナナメなんだよ」
私にひそひそと耳打ちしてカウンターの方にちらりと視線をやります。
機嫌が悪そうだというのは私にも分かりましたが、この唯ちゃんという人はそれすらもなんだか楽しそうに話すのでした。
「お互いにさー、あんまり意地張らないで仲良くやればいいのにね」
唯ちゃんが何を言ってるのかちんぷんかんぷんでしたが、なんとなく自分の事を言われているような気がしてドキッとしました。
私が難しい顔をして首をかしげていると唯ちゃんは席を立って梓ちゃんの元へひょこひょこ歩いて行きました。
「何か手伝おっか?」
「珍しいですね。じゃあお皿を用意してくれますか?」
「りょーかい」
そんな会話を遠くに聞いていると、間を置かずに雷の落ちたような激しい音が店内に響き渡りました。
私はびっくりして音のする方を振り向きました。
「ありゃー……やっちゃった」
唯ちゃんと梓ちゃんがカウンターの中で突っ立ったまま同じ床を見つめていました。
音から察するに、きっと二人の足元には粉々になったお皿が5、6枚分は散らかっているに違いありません。
唯ちゃんは口元をヘンな形に曲げて苦笑いしているし、梓ちゃんはもはや無表情の極みといった感じです。
そうやって二人がしばらく茫然と固まっているものだから私はなんだか可笑しくなってしまって、笑っていいような状況ではないはずなのに思わず笑いそうになるのを頑張って堪えていました。
……そんなアクシデントもありましたが、私が注文したカルボナーラは無事に私のテーブルに運ばれてきました。
カウンターの中では唯ちゃんが割れたお皿を箒で集めている最中でした。
正直なことを言うとあまり味には期待していなかったのですが、梓ちゃんが無愛想にテーブルに置いた料理は思いのほか美味しそうに見えました。
そしてそれは実際に食べてみると、空腹を満たすという喜び以上の、感動してしまうほどの美味しさが体に染み渡っていくのでした。
これがもしや「空腹は最高の調味料」というものなのでしょうか。
私はあまりお腹を空かせるという経験がなかったので、これがこの料理の本当の味なのかどうかもよく分かりませんでしたが、とにかく私は目の前のカルボナーラを夢中で食べ続けました。
そしてあっというまに平らげて、えもいわれぬ幸福感に満たされたような気分でぼうっと天井を仰ぐのでした。
「お皿割った分のお給料減らされちゃった。あはは……って、おーい、紬ちゃーん?」
まどろみかけていた私はハッと気づいて慌てて体勢を正します。
唯ちゃんが食器を片付けてテーブルを拭いているところでした。
「大丈夫? 眠いの?」
「ええ……少し疲れちゃって」
忘れかけていた疲労と共に、空腹に押さえつけられていた睡魔がにわかに重みを増して体の隅々に広がっていくのが分かりました。
本当にこのまま眠ってしまいそう。
お店の中で居眠りするなんて非常識だと思いつつ、それでも私は自然とまぶたが閉じられるのに抵抗できませんでした。
そんなふわふわと飛んでいきそうな意識を寸での所で繋ぎとめている間、遠くで唯ちゃんと梓ちゃんが話している声がぼんやりと聞こえていましたが、それが何の話をしているかを考える余裕もなく次第にその繋ぎとめていた最後の糸もぷつりと切れて、いつの間にか私は静かな眠りの中に沈んでいくのでした。
「どういうことですか?」
「あずにゃんがご機嫌ナナメなんだよ」
私にひそひそと耳打ちしてカウンターの方にちらりと視線をやります。
機嫌が悪そうだというのは私にも分かりましたが、この唯ちゃんという人はそれすらもなんだか楽しそうに話すのでした。
「お互いにさー、あんまり意地張らないで仲良くやればいいのにね」
唯ちゃんが何を言ってるのかちんぷんかんぷんでしたが、なんとなく自分の事を言われているような気がしてドキッとしました。
私が難しい顔をして首をかしげていると唯ちゃんは席を立って梓ちゃんの元へひょこひょこ歩いて行きました。
「何か手伝おっか?」
「珍しいですね。じゃあお皿を用意してくれますか?」
「りょーかい」
そんな会話を遠くに聞いていると、間を置かずに雷の落ちたような激しい音が店内に響き渡りました。
私はびっくりして音のする方を振り向きました。
「ありゃー……やっちゃった」
唯ちゃんと梓ちゃんがカウンターの中で突っ立ったまま同じ床を見つめていました。
音から察するに、きっと二人の足元には粉々になったお皿が5、6枚分は散らかっているに違いありません。
唯ちゃんは口元をヘンな形に曲げて苦笑いしているし、梓ちゃんはもはや無表情の極みといった感じです。
そうやって二人がしばらく茫然と固まっているものだから私はなんだか可笑しくなってしまって、笑っていいような状況ではないはずなのに思わず笑いそうになるのを頑張って堪えていました。
……そんなアクシデントもありましたが、私が注文したカルボナーラは無事に私のテーブルに運ばれてきました。
カウンターの中では唯ちゃんが割れたお皿を箒で集めている最中でした。
正直なことを言うとあまり味には期待していなかったのですが、梓ちゃんが無愛想にテーブルに置いた料理は思いのほか美味しそうに見えました。
そしてそれは実際に食べてみると、空腹を満たすという喜び以上の、感動してしまうほどの美味しさが体に染み渡っていくのでした。
これがもしや「空腹は最高の調味料」というものなのでしょうか。
私はあまりお腹を空かせるという経験がなかったので、これがこの料理の本当の味なのかどうかもよく分かりませんでしたが、とにかく私は目の前のカルボナーラを夢中で食べ続けました。
そしてあっというまに平らげて、えもいわれぬ幸福感に満たされたような気分でぼうっと天井を仰ぐのでした。
「お皿割った分のお給料減らされちゃった。あはは……って、おーい、紬ちゃーん?」
まどろみかけていた私はハッと気づいて慌てて体勢を正します。
唯ちゃんが食器を片付けてテーブルを拭いているところでした。
「大丈夫? 眠いの?」
「ええ……少し疲れちゃって」
忘れかけていた疲労と共に、空腹に押さえつけられていた睡魔がにわかに重みを増して体の隅々に広がっていくのが分かりました。
本当にこのまま眠ってしまいそう。
お店の中で居眠りするなんて非常識だと思いつつ、それでも私は自然とまぶたが閉じられるのに抵抗できませんでした。
そんなふわふわと飛んでいきそうな意識を寸での所で繋ぎとめている間、遠くで唯ちゃんと梓ちゃんが話している声がぼんやりと聞こえていましたが、それが何の話をしているかを考える余裕もなく次第にその繋ぎとめていた最後の糸もぷつりと切れて、いつの間にか私は静かな眠りの中に沈んでいくのでした。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 02:02:17.32 ID:ttMVa8Eao
「――……おーい……紬ちゃんやーい……」
肩を優しく揺さぶられて夢の続きを引きずるように私は目を覚ましました。
そしてやっと自分が眠りこけていたことに気づくと、
「ご、ごめんなさい! ……ああそっか、お金払わなくちゃいけませんよね。すみません、代金はいくらで……」
そんなことをブツブツと呟きながら財布を取り出そうとすると、目の前の唯ちゃんはそれを遮って、
「ここ、カフェと一緒にホテルもやってるんだけど、良かったら泊まっていかない?」
ニッコリと笑ってそう言うのでした。
「ホ、ホテル? でも私……」
「もしかしてお金が無いとか?」
「お金はありますけど……」
いきなりの提案ですっかり面食らってしまった私はもごもごと口ごもって遠慮するような素振りをしてしまいましたが、実際お金はたっぷりあるし、宿泊用の荷物は手元にあるし、ホテルに泊まるという事だけ考えれば断る理由もないような気がしてきました。
最初こそ不審に思い嫌々入ったようなこのお店も、あの美味しいカルボナーラのおかげで怪しいという印象は少しずつ和らいでいたので(見かけという点ではまだ不安は拭えませんでしたが)もはや過剰に警戒する必要はないように思えます。
不安があるとすれば、お父様やお母様、家の者たちに多大な心配をかけてしまう事くらいでした。
すでに私がいなくなった事に気づいて大騒ぎになってるかも。
菫が上手く誤魔化せていればいいけど……なんて、そうやって一瞬でも菫に頼るような事を考えて、ちょっとした自己嫌悪に陥ったり。
今はもう菫と喧嘩した事について反省もしているし、これ以上意地を張って菫を責めるような考えはこれっぽっちもありませんでした。
本当ならすぐにでも家の者に連絡を取って帰るべきなのです。菫にも謝らなくちゃ。
けれど、そんな果すべき責任とは別に、知らない町を一人彷徨い冒険した末のこうしたささやかな出会いが何か私にとって簡単に捨て置けない数奇なめぐり合わせのようにも思われてくるのです。
あるいは世間知らずで夢みがちな私の愚かな錯覚かもしれません。
しかしやはり私は、(少なくとも私にとっては)非日常的なこの状況を楽しむような、ワクワクするような気持ちが心のうちにもたげてくるのを認めないわけにはいきませんでした。
……それにしても、ここに来るまであれだけ寂しく辛い思いをしていたというのに、それらをすっかり忘れてしまっている自分の都合の良さには我ながら呆れるほどです。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこの事でしょうか。
そんなわけで、私はほんの気まぐれのような好奇心からしばらくこの町に留まってみようと思いついたのでした。
もちろん家に連絡はしますが、元々旅行のつもりでここまで来たわけですし、その辺はうまく誤魔化して何とでも説明がつきます。
「……それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「決まりだね! あ、受付はここで済ませられるけど、私も一緒に戻るからちょっと待ってて」
「唯さんもそのホテルに泊まっているんですか?」
「うん。ここで働きつつ泊めさせてもらってるみたいな……あと私のことは唯でいいよー」
唯ちゃんはそう言って危なげに食器を片付けていきました。
その後姿を目で追っていくと、ふいに梓ちゃんと目が合ってしまいました。
彼女はどこか不満そうな、苦々しげな様子で私をにらんでいます。
最初に冷たく当たられた時こそ怖気づいてしまいましたが、今度は私も負けじと睨み返してやります。
すると梓ちゃんは急に私から顔をそむけて肩を震わせるのでした。
やった。私の勝ちです。
「どしたの。かわいい顔して」
「えっ?」
戻ってきた唯ちゃんに笑われてしまいました。
私、そんなに変な顔してたのかしら。
肩を優しく揺さぶられて夢の続きを引きずるように私は目を覚ましました。
そしてやっと自分が眠りこけていたことに気づくと、
「ご、ごめんなさい! ……ああそっか、お金払わなくちゃいけませんよね。すみません、代金はいくらで……」
そんなことをブツブツと呟きながら財布を取り出そうとすると、目の前の唯ちゃんはそれを遮って、
「ここ、カフェと一緒にホテルもやってるんだけど、良かったら泊まっていかない?」
ニッコリと笑ってそう言うのでした。
「ホ、ホテル? でも私……」
「もしかしてお金が無いとか?」
「お金はありますけど……」
いきなりの提案ですっかり面食らってしまった私はもごもごと口ごもって遠慮するような素振りをしてしまいましたが、実際お金はたっぷりあるし、宿泊用の荷物は手元にあるし、ホテルに泊まるという事だけ考えれば断る理由もないような気がしてきました。
最初こそ不審に思い嫌々入ったようなこのお店も、あの美味しいカルボナーラのおかげで怪しいという印象は少しずつ和らいでいたので(見かけという点ではまだ不安は拭えませんでしたが)もはや過剰に警戒する必要はないように思えます。
不安があるとすれば、お父様やお母様、家の者たちに多大な心配をかけてしまう事くらいでした。
すでに私がいなくなった事に気づいて大騒ぎになってるかも。
菫が上手く誤魔化せていればいいけど……なんて、そうやって一瞬でも菫に頼るような事を考えて、ちょっとした自己嫌悪に陥ったり。
今はもう菫と喧嘩した事について反省もしているし、これ以上意地を張って菫を責めるような考えはこれっぽっちもありませんでした。
本当ならすぐにでも家の者に連絡を取って帰るべきなのです。菫にも謝らなくちゃ。
けれど、そんな果すべき責任とは別に、知らない町を一人彷徨い冒険した末のこうしたささやかな出会いが何か私にとって簡単に捨て置けない数奇なめぐり合わせのようにも思われてくるのです。
あるいは世間知らずで夢みがちな私の愚かな錯覚かもしれません。
しかしやはり私は、(少なくとも私にとっては)非日常的なこの状況を楽しむような、ワクワクするような気持ちが心のうちにもたげてくるのを認めないわけにはいきませんでした。
……それにしても、ここに来るまであれだけ寂しく辛い思いをしていたというのに、それらをすっかり忘れてしまっている自分の都合の良さには我ながら呆れるほどです。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこの事でしょうか。
そんなわけで、私はほんの気まぐれのような好奇心からしばらくこの町に留まってみようと思いついたのでした。
もちろん家に連絡はしますが、元々旅行のつもりでここまで来たわけですし、その辺はうまく誤魔化して何とでも説明がつきます。
「……それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「決まりだね! あ、受付はここで済ませられるけど、私も一緒に戻るからちょっと待ってて」
「唯さんもそのホテルに泊まっているんですか?」
「うん。ここで働きつつ泊めさせてもらってるみたいな……あと私のことは唯でいいよー」
唯ちゃんはそう言って危なげに食器を片付けていきました。
その後姿を目で追っていくと、ふいに梓ちゃんと目が合ってしまいました。
彼女はどこか不満そうな、苦々しげな様子で私をにらんでいます。
最初に冷たく当たられた時こそ怖気づいてしまいましたが、今度は私も負けじと睨み返してやります。
すると梓ちゃんは急に私から顔をそむけて肩を震わせるのでした。
やった。私の勝ちです。
「どしたの。かわいい顔して」
「えっ?」
戻ってきた唯ちゃんに笑われてしまいました。
私、そんなに変な顔してたのかしら。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 02:04:09.56 ID:ttMVa8Eao
カフェのカウンターで受付を済ませ、鍵をもらってから私は唯ちゃんと一緒にホテルを目指しました。
外はもう夜で、お店の裏手は街灯もなく真っ暗です。
そんな足元も見えないような暗がりの中、鬱蒼とした木々を抜けてしばらく歩くとそのホテルが影からぬっと姿を現しました。
それはもはやホテルというよりも屋根と窓のついた倉庫でした。
隅っこの1室だけ明かりが灯っていたので、それでようやく人の気配が感じられるといった風です。
数えていませんが2階建ての建物には全部で10部屋もないように見えます。
「きゃっ!?」
「あ~、そこ足元危ないんだ。気をつけてね」
もう少しで荷物ごと放り投げるところでした。
唯ちゃんは慣れたように玄関の明かりをつけて先に入っていきました。
私も続いて中に入ると、ここもやはり埃っぽくて軽く咳き込んでしまいました。
でも、思ったよりも雰囲気は悪くありませんでした。
白熱電球の温かい照明がそうした印象を演出しているのかもしれませんが、内装もシンプルながら整然としていてきちんと掃除をすればとても落ち着ける場所のような気がします。
唯ちゃんに案内されて部屋に到着しました。
どんな部屋なんだろうと覚悟していましたが、中は驚くほどすっきりしていて、ベッドのシーツもぴっちりとアイロンがかかっているし、まるで本当のホテルのようでした。
私は思わず、
「意外とまともですね……」
なんて呟いてから失礼な事を言ってしまったと口をつぐんだのですが、唯ちゃんは一切気にするような素振りを見せず、
「たぶんこの建物で一番綺麗な部屋だからね」
「そうなんですか」
「うん。あずにゃんもああ見えて気を使うところがあるっていうか、不器用なりに誠意を尽くそうとしてるんだと思うよ」
「誠意、ですか……」
そう言われても中々ピンときません。
でも、良い部屋をあてがわれたというのは悪い気がしませんでした。
「ま、別の言い方をするとお客さんの人となりを見て選んでるって事」
「え?」
「なんでもない、なんでもない」
唯ちゃんは「えへへ」と笑って、その後、家具の使い方やらお風呂、トイレの注意点などを親切に教えてくれました。
見た目は綺麗な部屋でしたが、やはり色々な所にガタが来ているらしく、例えばクローゼットのハンガー掛けは3着以上掛けると折れるとか、水圧が弱いからトイレはマメに水を流すとか、ドライヤーとテレビは同時に使うとブレーカーが落ちるから気をつけて……等々、言われなければまず引っかかってしまうような罠の数々を丁寧に説明してくれるのでした。
私がそんな親切に感動して深々を礼を述べると、唯ちゃんは照れくさそうに「何かあったら呼んでね」と自分の部屋番号を告げて去っていきました。
ドアを閉めると、急に辺りが静かになりました。
そして徐々に窓の外から鳥の鳴き声や風の吹く音が不気味に響いてきます。
外はもう夜で、お店の裏手は街灯もなく真っ暗です。
そんな足元も見えないような暗がりの中、鬱蒼とした木々を抜けてしばらく歩くとそのホテルが影からぬっと姿を現しました。
それはもはやホテルというよりも屋根と窓のついた倉庫でした。
隅っこの1室だけ明かりが灯っていたので、それでようやく人の気配が感じられるといった風です。
数えていませんが2階建ての建物には全部で10部屋もないように見えます。
「きゃっ!?」
「あ~、そこ足元危ないんだ。気をつけてね」
もう少しで荷物ごと放り投げるところでした。
唯ちゃんは慣れたように玄関の明かりをつけて先に入っていきました。
私も続いて中に入ると、ここもやはり埃っぽくて軽く咳き込んでしまいました。
でも、思ったよりも雰囲気は悪くありませんでした。
白熱電球の温かい照明がそうした印象を演出しているのかもしれませんが、内装もシンプルながら整然としていてきちんと掃除をすればとても落ち着ける場所のような気がします。
唯ちゃんに案内されて部屋に到着しました。
どんな部屋なんだろうと覚悟していましたが、中は驚くほどすっきりしていて、ベッドのシーツもぴっちりとアイロンがかかっているし、まるで本当のホテルのようでした。
私は思わず、
「意外とまともですね……」
なんて呟いてから失礼な事を言ってしまったと口をつぐんだのですが、唯ちゃんは一切気にするような素振りを見せず、
「たぶんこの建物で一番綺麗な部屋だからね」
「そうなんですか」
「うん。あずにゃんもああ見えて気を使うところがあるっていうか、不器用なりに誠意を尽くそうとしてるんだと思うよ」
「誠意、ですか……」
そう言われても中々ピンときません。
でも、良い部屋をあてがわれたというのは悪い気がしませんでした。
「ま、別の言い方をするとお客さんの人となりを見て選んでるって事」
「え?」
「なんでもない、なんでもない」
唯ちゃんは「えへへ」と笑って、その後、家具の使い方やらお風呂、トイレの注意点などを親切に教えてくれました。
見た目は綺麗な部屋でしたが、やはり色々な所にガタが来ているらしく、例えばクローゼットのハンガー掛けは3着以上掛けると折れるとか、水圧が弱いからトイレはマメに水を流すとか、ドライヤーとテレビは同時に使うとブレーカーが落ちるから気をつけて……等々、言われなければまず引っかかってしまうような罠の数々を丁寧に説明してくれるのでした。
私がそんな親切に感動して深々を礼を述べると、唯ちゃんは照れくさそうに「何かあったら呼んでね」と自分の部屋番号を告げて去っていきました。
ドアを閉めると、急に辺りが静かになりました。
そして徐々に窓の外から鳥の鳴き声や風の吹く音が不気味に響いてきます。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 02:06:45.63 ID:ttMVa8Eao
とうとう一人になってしまいました。
まさか自分がこんな状況に置かれる事になるなんて数時間前まで夢にも思っていませんでした。
見知らぬ土地の思いがけない場所で、誰の力も借りずにたった独り、夜を過ごそうとしているのです。
むくむくと湧き出てきたのは不安と隣り合わせの奇妙な解放感でした。
私は生まれて初めて本当の自由を手にしたような気持ちがしました。
変に興奮してしまったせいで先まであんなに眠たかった頭が今はもうはっきりと冴えてしまいました。
ひとまず家に連絡しなければと思い携帯電話を充電して電源をつけてみると、そこには何十件もの菫からの着信がメッセージに残っていました。
私は慌てて菫に電話をかけました。
「もしもし、菫? ……私なら大丈夫……充電が切れちゃって……ううん、そんなことないよ……私の方こそごめんなさい……うん……」
そんな風にお互いにいつまでも謝ってばかりいるのでした。
菫の声がちょっと泣いているような気がしたので、きっとお父様や執事長にこっぴどく叱られたのだろうと思ったのですが、話を聞いてみるとどうやらそうではないらしいと分かりました。
予想通り、菫は私が途中の駅で一人降りてしまった事を秘密にして上手くごまかしたのだそうです。
古い学友とたまたま乗り合わせて、手土産を用意するついでに途中の一旦別れたとかなんとか。
そんな嘘が通るのか甚だ疑問でしたが、いま菫がいる所……つまり私の叔父の家は繊細な私の父と違って豪胆というか細かい事を気にしない性格の方々だったので、私が遅れて到着するという事を少し残念がっただけで済んだのでした。
「……分かったわ。それは私の方からちゃんと説明するから……ううん、気にしないで……私が全部一人で決めた事だし……え? どんな場所かって? う~ん、なんか変なところ……ああ、別に危険な場所じゃないんだけど……でも少し楽しそうなところ」
不機嫌な店主がいるカフェとか、お化け屋敷みたいなホテルだとか、そんな話をすると菫はますます心配そうにするのでした。
しかし、私はけっしてこれを災難とは思っていない、むしろ前向きな気持ちでここに残ることを決めたのだと話すと、菫はどうにか分かってくれました。
予定は未定だけれど、帰る目処がついたらまた連絡すると言って、それからお互いに電話を切りました。
その後、叔父のところへ電話をかけて、菫のついた嘘をなんとか引き継ぎつつ、しばらくこの町に滞在する旨を説明しました。
せっかく姪が遊びに来るといって楽しみにしていらっしゃったのに、私のわがままでそれを無碍にしてしまったという事への罪悪感がありましたが、休暇のうちに必ずお伺いしますと言うと先方はあっけないほど簡単に納得してくれました。
もしかしたら私や菫の嘘などはとっくに見破られているのかもしれません。
まあ、それでも好きにさせてくれるのなら都合がいいというものです。
……なんだか私もすっかり悪い子になってしまったみたい。
私は一息つくとベッドに腰かけて、疲れた体をほぐすように伸びをしました。
それから荷物を整理し、シャワーを浴びて(温度を調節するのが大変でした)寝巻きに着替えると、私は再び穏やかな眠気に襲われるのでした。
まだ時間は早いけれど、もう寝てしまおうと部屋の電気を消したその時、暗闇に中に不自然なほど明るい光りが洩れているのが目に留まりました。
それは窓から差し込む月の青白い光りでした。
私はふと感傷的な気分に浸りたくなって明かりの零れ落ちる窓辺へ近づいてみました。
満月がとても高い所にありました。
そうやって何気なく窓の外を眺めていると、背の低い木々のすぐ向こうに海があるのが分かりました。
耳を澄ませると漣の音がかすかに聞こえます。
「海の見える町……」
思うに任せて口を衝いて出たそんな言葉が何か暗示めいた詩の題名のように私の思考をひとつに包み込み、そこでようやく、私はこの町をすっかり好きになっている事に気が付いたのでした。……
まさか自分がこんな状況に置かれる事になるなんて数時間前まで夢にも思っていませんでした。
見知らぬ土地の思いがけない場所で、誰の力も借りずにたった独り、夜を過ごそうとしているのです。
むくむくと湧き出てきたのは不安と隣り合わせの奇妙な解放感でした。
私は生まれて初めて本当の自由を手にしたような気持ちがしました。
変に興奮してしまったせいで先まであんなに眠たかった頭が今はもうはっきりと冴えてしまいました。
ひとまず家に連絡しなければと思い携帯電話を充電して電源をつけてみると、そこには何十件もの菫からの着信がメッセージに残っていました。
私は慌てて菫に電話をかけました。
「もしもし、菫? ……私なら大丈夫……充電が切れちゃって……ううん、そんなことないよ……私の方こそごめんなさい……うん……」
そんな風にお互いにいつまでも謝ってばかりいるのでした。
菫の声がちょっと泣いているような気がしたので、きっとお父様や執事長にこっぴどく叱られたのだろうと思ったのですが、話を聞いてみるとどうやらそうではないらしいと分かりました。
予想通り、菫は私が途中の駅で一人降りてしまった事を秘密にして上手くごまかしたのだそうです。
古い学友とたまたま乗り合わせて、手土産を用意するついでに途中の一旦別れたとかなんとか。
そんな嘘が通るのか甚だ疑問でしたが、いま菫がいる所……つまり私の叔父の家は繊細な私の父と違って豪胆というか細かい事を気にしない性格の方々だったので、私が遅れて到着するという事を少し残念がっただけで済んだのでした。
「……分かったわ。それは私の方からちゃんと説明するから……ううん、気にしないで……私が全部一人で決めた事だし……え? どんな場所かって? う~ん、なんか変なところ……ああ、別に危険な場所じゃないんだけど……でも少し楽しそうなところ」
不機嫌な店主がいるカフェとか、お化け屋敷みたいなホテルだとか、そんな話をすると菫はますます心配そうにするのでした。
しかし、私はけっしてこれを災難とは思っていない、むしろ前向きな気持ちでここに残ることを決めたのだと話すと、菫はどうにか分かってくれました。
予定は未定だけれど、帰る目処がついたらまた連絡すると言って、それからお互いに電話を切りました。
その後、叔父のところへ電話をかけて、菫のついた嘘をなんとか引き継ぎつつ、しばらくこの町に滞在する旨を説明しました。
せっかく姪が遊びに来るといって楽しみにしていらっしゃったのに、私のわがままでそれを無碍にしてしまったという事への罪悪感がありましたが、休暇のうちに必ずお伺いしますと言うと先方はあっけないほど簡単に納得してくれました。
もしかしたら私や菫の嘘などはとっくに見破られているのかもしれません。
まあ、それでも好きにさせてくれるのなら都合がいいというものです。
……なんだか私もすっかり悪い子になってしまったみたい。
私は一息つくとベッドに腰かけて、疲れた体をほぐすように伸びをしました。
それから荷物を整理し、シャワーを浴びて(温度を調節するのが大変でした)寝巻きに着替えると、私は再び穏やかな眠気に襲われるのでした。
まだ時間は早いけれど、もう寝てしまおうと部屋の電気を消したその時、暗闇に中に不自然なほど明るい光りが洩れているのが目に留まりました。
それは窓から差し込む月の青白い光りでした。
私はふと感傷的な気分に浸りたくなって明かりの零れ落ちる窓辺へ近づいてみました。
満月がとても高い所にありました。
そうやって何気なく窓の外を眺めていると、背の低い木々のすぐ向こうに海があるのが分かりました。
耳を澄ませると漣の音がかすかに聞こえます。
「海の見える町……」
思うに任せて口を衝いて出たそんな言葉が何か暗示めいた詩の題名のように私の思考をひとつに包み込み、そこでようやく、私はこの町をすっかり好きになっている事に気が付いたのでした。……
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 02:07:28.66 ID:ttMVa8Eao
一旦ここまで
寝て起きたら再開します
寝て起きたら再開します
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:20:48.78 ID:ttMVa8Eao
>>9
分かりました
工夫してみます
分かりました
工夫してみます
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:33:31.44 ID:ttMVa8Eao
◇ ◇ ◇
翌朝、朝食を摂りにカフェへ行くと、先客がいました。
黒髪の、美人な女の子でした。
その子は私の方をちらりと一瞥しただけで後はまったく関心を示さず、思いつめたように窓の外を眺めながらトーストをかじっていました。
私は少し離れたテーブルに座って朝食が運ばれてくるのを待ちました。
しかし梓ちゃんは一向に姿を現しません。
7時から10時のあいだに朝食が用意されると聞いていたのですが……
そんな風にそわそわして首を伸ばしながら奥の様子を覗き込んだりしていると、背後でいきなり叩きつけるような大きな音がして思わずびくりと肩をすくめてしまいました。
「うおっと……ったく、またかよ! おい、建て付け悪いから直すって言ってなかったか?」
「知らない。だいたいお前がいつも乱暴に開け閉めするからそうなるんだろ」
「私のせいかぁ?」
「他に誰がいるんだよ」
カチューシャを付けた子が(この子も私と同い年くらいに見えました)入り口の外れかかったドアをがちゃがちゃと動かしながら大声で黒髪の子と会話しています。
「よっ、と。こんなもんでいいだろ。……ん?」
わ、気づかれた。
私は思わず目を逸らしてしまいます。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:34:31.83 ID:ttMVa8Eao
「……あの人、誰?」
「私に聞いてどうする」
「いや、澪の知り合いかと思って」
「私の知り合いがお前の知り合いじゃなかった事があるか?」
二人はひそひそと話しているようでしたが、全部丸聞こえです。
なんとなく居心地が悪くなってもぞもぞしているとカチューシャの子がつかつかとこちらへ歩いてきたので私はますます体が強張ってしまいました。
「えーっと……もしかしてお客さん?」
「ひゃいっ」
声が裏返ってしまいました。
「あ~、そっか。そういう事なら、ちょっと待ってて」
彼女は一人で納得したように厨房の奥へ行ってしまいました。
私は何がなにやら、彼女がいったい何をしようとしているのか、そもそも朝ごはんはどうなっているのか、困惑に身動きがとれず呆然としているとなにやら遠くで言い争うような声が聞こえてきました。
それから待たずにやってきたのは梓ちゃんでした。
私の姿を見とめると昨日と同じようにキッとにらみつけて言いました。
「朝食はセルフサービスです。厨房に料理があるので、レンジで暖めるなりして勝手に食べていただいて結構です」
「そうだったんですか。すみません……」
「おいおい梓、この人だって知らなかったんだから仕方ないだろ」
梓ちゃんは「フン」と鼻を鳴らしてスタスタと去って行ってしまいました。
彼女のああいう辛辣な態度にはまだ慣れません。
「私に聞いてどうする」
「いや、澪の知り合いかと思って」
「私の知り合いがお前の知り合いじゃなかった事があるか?」
二人はひそひそと話しているようでしたが、全部丸聞こえです。
なんとなく居心地が悪くなってもぞもぞしているとカチューシャの子がつかつかとこちらへ歩いてきたので私はますます体が強張ってしまいました。
「えーっと……もしかしてお客さん?」
「ひゃいっ」
声が裏返ってしまいました。
「あ~、そっか。そういう事なら、ちょっと待ってて」
彼女は一人で納得したように厨房の奥へ行ってしまいました。
私は何がなにやら、彼女がいったい何をしようとしているのか、そもそも朝ごはんはどうなっているのか、困惑に身動きがとれず呆然としているとなにやら遠くで言い争うような声が聞こえてきました。
それから待たずにやってきたのは梓ちゃんでした。
私の姿を見とめると昨日と同じようにキッとにらみつけて言いました。
「朝食はセルフサービスです。厨房に料理があるので、レンジで暖めるなりして勝手に食べていただいて結構です」
「そうだったんですか。すみません……」
「おいおい梓、この人だって知らなかったんだから仕方ないだろ」
梓ちゃんは「フン」と鼻を鳴らしてスタスタと去って行ってしまいました。
彼女のああいう辛辣な態度にはまだ慣れません。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:35:55.24 ID:ttMVa8Eao
「ごめんな。てっきり普通にメシを食べにきたお客さんだと思って……宿泊客なら早く言ってくれればよかったのに」
「はい……お手を煩わせてしまったみたいで、ご迷惑をおかけしました。それと、ありがとうございます」
「お、おう」
少し早とちりする気の人のようですが、親切にしてくれた事はとても助かりました。
礼をしつつ料理を取りに立ち上がると彼女は「私も私も」と言って一緒についてきました。
「レンジ先に使っていいぜ。コーヒーいる? あ、マヨネーズはあっちの机にあるから」
彼女は何かと私に世話を焼いてくれました。
トレーに乗ったサンドイッチとベーコンエッグ、具のないコンソメスープを暖めてテーブルに戻ると彼女も後から来て私の向かいに座りました。
「ほいコーヒー」
「あ、ありがとうございます……」
昨日の唯ちゃんのようにどこか人懐っこい振る舞いをする人でした。
しかし私は、実を言うとこういう遠慮のない距離感というのが少し苦手でした。
現に彼女は朝食を食べようとする私を興味深そうにジロジロと見るので妙に気恥ずかしくなって何気なく窓の外を眺めていると、
「旅行?」
「えっ、なんですか?」
考えに耽って聞き返してしまいました。
「はい……お手を煩わせてしまったみたいで、ご迷惑をおかけしました。それと、ありがとうございます」
「お、おう」
少し早とちりする気の人のようですが、親切にしてくれた事はとても助かりました。
礼をしつつ料理を取りに立ち上がると彼女は「私も私も」と言って一緒についてきました。
「レンジ先に使っていいぜ。コーヒーいる? あ、マヨネーズはあっちの机にあるから」
彼女は何かと私に世話を焼いてくれました。
トレーに乗ったサンドイッチとベーコンエッグ、具のないコンソメスープを暖めてテーブルに戻ると彼女も後から来て私の向かいに座りました。
「ほいコーヒー」
「あ、ありがとうございます……」
昨日の唯ちゃんのようにどこか人懐っこい振る舞いをする人でした。
しかし私は、実を言うとこういう遠慮のない距離感というのが少し苦手でした。
現に彼女は朝食を食べようとする私を興味深そうにジロジロと見るので妙に気恥ずかしくなって何気なく窓の外を眺めていると、
「旅行?」
「えっ、なんですか?」
考えに耽って聞き返してしまいました。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:36:30.30 ID:ttMVa8Eao
「んー、いや。一人で来てるの?」
「はい」
「仕事とか用事で?」
「いえ、そういうわけでは」
「じゃあアレだ。一人ぶらり旅ってやつ?」
私はなんと答えたらいいか迷いましたが、まあそういう事になるだろうと思ってうなずきました。
「へ~……あんたも変わった人だね」
物珍しそうに言うので、私はただ「はあ……」としか返事ができませんでした。
「私が言うことじゃないけどさ。この町ってほんと何もないんだぜ。しかもよりにもよってこの店の宿に泊まるなんて、よっぽど差し迫った理由でもなければ変人としか考えられないじゃん」
事実、差し迫った理由でここに漂着したのですが、その事はとりあえず黙っておきました。
「それにあんた、来るタイミングも悪かったな」
唯ちゃんと同じことを言われたので気になって尋ねてみると、
「大したことじゃないんだけどな。ついこの前、梓が相方と揉めてさ。その相方を店から追い出しちゃったんだよ。まあ二人共いつも喧嘩してるし、またかーなんて思いながら私たちも一部始終見てたら結構シャレになんなくて、これが」
「喧嘩、ですか……」
私は菫のことを思い出してしまいました。
「はい」
「仕事とか用事で?」
「いえ、そういうわけでは」
「じゃあアレだ。一人ぶらり旅ってやつ?」
私はなんと答えたらいいか迷いましたが、まあそういう事になるだろうと思ってうなずきました。
「へ~……あんたも変わった人だね」
物珍しそうに言うので、私はただ「はあ……」としか返事ができませんでした。
「私が言うことじゃないけどさ。この町ってほんと何もないんだぜ。しかもよりにもよってこの店の宿に泊まるなんて、よっぽど差し迫った理由でもなければ変人としか考えられないじゃん」
事実、差し迫った理由でここに漂着したのですが、その事はとりあえず黙っておきました。
「それにあんた、来るタイミングも悪かったな」
唯ちゃんと同じことを言われたので気になって尋ねてみると、
「大したことじゃないんだけどな。ついこの前、梓が相方と揉めてさ。その相方を店から追い出しちゃったんだよ。まあ二人共いつも喧嘩してるし、またかーなんて思いながら私たちも一部始終見てたら結構シャレになんなくて、これが」
「喧嘩、ですか……」
私は菫のことを思い出してしまいました。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:37:15.50 ID:ttMVa8Eao
「ところで……あの、お名前を伺っても……?」
「私? 田井中だよ。田井中律」
「律さんはこのお店をよく利用されるんですか?」
「まあな。暇な時バイトがてら遊びに来てるっていうか」
「梓さんのご友人なんですか?」
「う~ん、友達っていうか……まあ昔なじみの仲かな。あそこにいる奴……澪っていうんだけど、あいつも似たようなもんだよ」
黒髪の子は相変わらず物憂げに窓の外を眺めていました。
この気さくで明るい律さんと、いつも何か不満そうにしている梓ちゃん、そしてどこか影のありそうな黒髪の子……澪さん。
それぞれまったく違った性格に見えるのに、この寂れたカフェを舞台にすると、不思議と3人がかつて紡いできた物語が浮かび上がってくるような気がしました。
「……おっと、こんなことしてる場合じゃなかった。みおー! そろそろ行くぞ」
律さんはコーヒーをぐいっと飲み干して「じゃあな」とだけ言い残し、颯爽と席を立って行きました。
どこからかヘルメットを取り出して(そういえば律さんは店に入ってきた時にヘルメットを抱えていました)それを澪さんにぽんっと手渡し、せかすように店の外へ出るのでした。
澪さんは上の空といった感じでのろのろと食器を片付けると律さんの後に続いて店を出て行きました。
エンジンをふかす音が聞こえて、それから砂利を転がっていくような音と一緒にどこかへ行ってしまいました。
なんというか、いまいち関係性の分からない二人です。
「私? 田井中だよ。田井中律」
「律さんはこのお店をよく利用されるんですか?」
「まあな。暇な時バイトがてら遊びに来てるっていうか」
「梓さんのご友人なんですか?」
「う~ん、友達っていうか……まあ昔なじみの仲かな。あそこにいる奴……澪っていうんだけど、あいつも似たようなもんだよ」
黒髪の子は相変わらず物憂げに窓の外を眺めていました。
この気さくで明るい律さんと、いつも何か不満そうにしている梓ちゃん、そしてどこか影のありそうな黒髪の子……澪さん。
それぞれまったく違った性格に見えるのに、この寂れたカフェを舞台にすると、不思議と3人がかつて紡いできた物語が浮かび上がってくるような気がしました。
「……おっと、こんなことしてる場合じゃなかった。みおー! そろそろ行くぞ」
律さんはコーヒーをぐいっと飲み干して「じゃあな」とだけ言い残し、颯爽と席を立って行きました。
どこからかヘルメットを取り出して(そういえば律さんは店に入ってきた時にヘルメットを抱えていました)それを澪さんにぽんっと手渡し、せかすように店の外へ出るのでした。
澪さんは上の空といった感じでのろのろと食器を片付けると律さんの後に続いて店を出て行きました。
エンジンをふかす音が聞こえて、それから砂利を転がっていくような音と一緒にどこかへ行ってしまいました。
なんというか、いまいち関係性の分からない二人です。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:38:19.14 ID:ttMVa8Eao
私は残ったスープを飲み終えてからのんびりコーヒーを啜って、改めて店内を見渡してみました。
今は少し慣れましたが、ただでさえ古そうな建物が、全体に漂う粗雑さや埃っぽさのせいで一層薄汚れて見えます。
ただ、椅子や机のやわらかいデザインや木目調に統一された色合いなど、内装そのものは落ち着いた雰囲気がありました。
今日は外も大変気持ちのいい陽気で、窓からほんのり差し込んだ朝日が暖かく、気を抜いたら眠りこけてしまいそうです。
私は食器を厨房へ片付けた後、ふと思い立って窓を開け放してみました。
すると僅かな潮の匂いを含んだそよ風が心地良く店内に吹いてくるのでした。
そしてそのまま店の反対側の窓と玄関のドアを開けると、どんよりと店の中に留まっていた重たい空気がぐるぐると風に押し流されて瞬く間に爽やかな空気が循環し始めたのには驚きました。
こんなに簡単な事をするだけであれほど暗鬱としていた店が途端に生き生きとして見えるようになったのです。
それから私はカウンター席の近くに重なって置いてあった布巾を手にとってすべてのテーブルを丹念に拭きました。
床に散らかったゴミを拾い、ぐらぐらして安定しない椅子の取れかかったネジを手で軽く絞めて、雑誌や小物を外に持ち出して埃を払い、玄関マットを日の当たる場所で叩き干してみました。
しかしこれでもまだ足りません。
私はひとまず窓と玄関の扉を閉めてから、ホテルへ戻って唯ちゃんの部屋を訪ねてみました。
確かこの部屋だったと思い何度かノックすると、寝癖たっぷりの髪をした唯ちゃんがドアを開けてくれました。
「ふわあぁ……おはよ~ムギちゃん」
「む、ムギちゃん!?」
「あ……この呼び方ダメだった?」
「いえ、そんな事はないです。ただちょっとびっくりして……あの、それで朝早く起こしてしまって申し訳ないのですが、掃除道具ってどこにあるか分かりますか?」
今は少し慣れましたが、ただでさえ古そうな建物が、全体に漂う粗雑さや埃っぽさのせいで一層薄汚れて見えます。
ただ、椅子や机のやわらかいデザインや木目調に統一された色合いなど、内装そのものは落ち着いた雰囲気がありました。
今日は外も大変気持ちのいい陽気で、窓からほんのり差し込んだ朝日が暖かく、気を抜いたら眠りこけてしまいそうです。
私は食器を厨房へ片付けた後、ふと思い立って窓を開け放してみました。
すると僅かな潮の匂いを含んだそよ風が心地良く店内に吹いてくるのでした。
そしてそのまま店の反対側の窓と玄関のドアを開けると、どんよりと店の中に留まっていた重たい空気がぐるぐると風に押し流されて瞬く間に爽やかな空気が循環し始めたのには驚きました。
こんなに簡単な事をするだけであれほど暗鬱としていた店が途端に生き生きとして見えるようになったのです。
それから私はカウンター席の近くに重なって置いてあった布巾を手にとってすべてのテーブルを丹念に拭きました。
床に散らかったゴミを拾い、ぐらぐらして安定しない椅子の取れかかったネジを手で軽く絞めて、雑誌や小物を外に持ち出して埃を払い、玄関マットを日の当たる場所で叩き干してみました。
しかしこれでもまだ足りません。
私はひとまず窓と玄関の扉を閉めてから、ホテルへ戻って唯ちゃんの部屋を訪ねてみました。
確かこの部屋だったと思い何度かノックすると、寝癖たっぷりの髪をした唯ちゃんがドアを開けてくれました。
「ふわあぁ……おはよ~ムギちゃん」
「む、ムギちゃん!?」
「あ……この呼び方ダメだった?」
「いえ、そんな事はないです。ただちょっとびっくりして……あの、それで朝早く起こしてしまって申し訳ないのですが、掃除道具ってどこにあるか分かりますか?」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:38:59.21 ID:ttMVa8Eao
「掃除道具……? 箒とかちりとりでいいなら、廊下の突き当たりにあるロッカーに入ってるよ……ふぁ~」
「ロッカーですね、分かりました。あと、カフェの横にある水道栓は使ってもいいのでしょうか?」
「ん~……よく分かんないけど別に問題ないと思う……」
「ありがとうございます」
それだけ聞いてぺこりと一礼すると、唯ちゃんは髪をぽりぽり掻きながら眠そうに部屋に戻りました。
私はさっそく準備に取り掛かりました。
髪の毛を結わえ袖をまくり、汚れてもいい格好に着替えると、ロッカーから箒、ちりとり、埃はたき、雑巾、バケツを運び出しました。
マスクの代わりに荷物で持ってきたフェイスタオルを口元に巻きます。
完全装備の出で立ちで『さいはてのカフェ』の看板を仰ぎ見る私。
「よしっ」
まずは天井の埃を払わなくちゃ。
蜘蛛の巣もどうにかしないと。
……そんなわけで、突発的な一人大掃除が始まりました。
パタパタとはたきを振ると物凄い量の塵が巻き上がります。
床の汚れがひどいところは厨房にあった重曹を使って雑巾をかけ、モップも取り出してゴシゴシと拭いたりしました。
普段はあまり掃除なんてやらないけれど、召使たちがいつも近くでやっているのを見ているのでやり方はなんとなく覚えています。
ここでは汚れたカーテンや布地を洗濯することもできないし、ボロボロになったソファを直したりすることもできませんが、
それでも私は自分にできることをやろうと思い、汗をぬぐいながら作業に没頭するのでした。
正直、私がこんな事をする義理はないのですが、お世話になった以上、こうした形で恩返しをするのも特に間違っていないように思えます。
何より私自身がこうした労働を楽しんでいるのでした。
もしかしたら、唯ちゃんや律さんのおせっかいが移ってしまったのかも、なんて。……
「ロッカーですね、分かりました。あと、カフェの横にある水道栓は使ってもいいのでしょうか?」
「ん~……よく分かんないけど別に問題ないと思う……」
「ありがとうございます」
それだけ聞いてぺこりと一礼すると、唯ちゃんは髪をぽりぽり掻きながら眠そうに部屋に戻りました。
私はさっそく準備に取り掛かりました。
髪の毛を結わえ袖をまくり、汚れてもいい格好に着替えると、ロッカーから箒、ちりとり、埃はたき、雑巾、バケツを運び出しました。
マスクの代わりに荷物で持ってきたフェイスタオルを口元に巻きます。
完全装備の出で立ちで『さいはてのカフェ』の看板を仰ぎ見る私。
「よしっ」
まずは天井の埃を払わなくちゃ。
蜘蛛の巣もどうにかしないと。
……そんなわけで、突発的な一人大掃除が始まりました。
パタパタとはたきを振ると物凄い量の塵が巻き上がります。
床の汚れがひどいところは厨房にあった重曹を使って雑巾をかけ、モップも取り出してゴシゴシと拭いたりしました。
普段はあまり掃除なんてやらないけれど、召使たちがいつも近くでやっているのを見ているのでやり方はなんとなく覚えています。
ここでは汚れたカーテンや布地を洗濯することもできないし、ボロボロになったソファを直したりすることもできませんが、
それでも私は自分にできることをやろうと思い、汗をぬぐいながら作業に没頭するのでした。
正直、私がこんな事をする義理はないのですが、お世話になった以上、こうした形で恩返しをするのも特に間違っていないように思えます。
何より私自身がこうした労働を楽しんでいるのでした。
もしかしたら、唯ちゃんや律さんのおせっかいが移ってしまったのかも、なんて。……
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:39:27.99 ID:ttMVa8Eao
◇ ◇ ◇
お昼前、梓ちゃんが店に戻ってきた頃には、私は一通りの掃除を終えてゆっくり休憩している所でした。
「あっ、梓さん! おはようございます……って、もうお昼になっちゃいましたね」
「なに……これ……」
私は清々しいような誇らしい気持ちで挨拶しましたが、梓ちゃんは驚きに固まったような表情で立ち尽くしたままです。
私は彼女が唖然として眺めている景色を再び見渡してみました。
我ながらよく頑張ったと思います。
店内は、それはもう見違えるほど綺麗になっていました。
油でギトギトしていたテーブルは今や自然な光沢を放ち、棚や窓際には埃ひとつありません。
床は照明が反射するくらいピカピカで、飾ってあるたくさんの置物や装飾は汚れもなくそれぞれキチンと綺麗に並べなおしてあります。
清潔感を取り戻した店内には深呼吸したくなるくらい爽やかで良い匂いのする空気が満ちていました。
「あずにゃ~ん、お腹すいた~……うわっ?!」
後からやってきた唯ちゃんも同じようにびっくりして店内を見渡しました。
「どーしちゃったのこれ。ムギちゃんがやったの?」
「はい。すみません、勝手なことしちゃって」
「いやいやそんな謝らなくても。すごいよこれ、こんな綺麗なさいはてのカフェ、私はじめて見……」
「なに勝手なことやってるんですかっ!!」
突然大声を出されて私と唯ちゃんはビクリとしてしまいました。
梓ちゃんが怒りの形相で私に詰め寄ります。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:40:12.09 ID:ttMVa8Eao
「今すぐ元に戻してください!」
「へっ?」
「元に戻すって、そりゃ無理だよあずにゃん」
「……わ、私は前の方がやりやすかったのっ! だから元に戻して!」
「いいじゃん、綺麗になったんだし」
「この人は客のくせに私の店に勝手な真似したんですよ!? こんなの横暴ですーっ!」
まさかこんなに反感を買われるとは思ってもみなかった私は、何も反論できずにただ梓ちゃんが怒り狂うままにしていました。
そんな梓ちゃんを唯ちゃんがなだめている時、入り口からバァン!と大きな音が聞こえて、振り向くとそれは律さんと澪さんでした。
「おーっす!」
「だから扉は静かに開けろって何度も言って……」
澪さんの台詞はそこで一瞬止まりました。
目をぱちくりさせて、まるで知らない所へ来てしまったようにキョロキョロと周囲を見渡しています。
そして怒りに興奮している梓ちゃんとそれを抑えようとしている唯ちゃんのじゃれあってるような姿を見て、次に私とふと目が合ってお互いに固まってしまうのでした。
「……二人共なにしてんの? っていうか朝の人、まだいたんだ」
「そこのお客さんが掃除してくれたんだけどさ……ちょっ、あずにゃん落ち着いて……なんかあずにゃんはそれが気に食わないみたいで」
「ん? ……ほんとだ、綺麗になってる! すげーっ」
隣で澪ちゃんが「気づくの遅すぎだろ……」と呆れながら視線を逸らします。
「へっ?」
「元に戻すって、そりゃ無理だよあずにゃん」
「……わ、私は前の方がやりやすかったのっ! だから元に戻して!」
「いいじゃん、綺麗になったんだし」
「この人は客のくせに私の店に勝手な真似したんですよ!? こんなの横暴ですーっ!」
まさかこんなに反感を買われるとは思ってもみなかった私は、何も反論できずにただ梓ちゃんが怒り狂うままにしていました。
そんな梓ちゃんを唯ちゃんがなだめている時、入り口からバァン!と大きな音が聞こえて、振り向くとそれは律さんと澪さんでした。
「おーっす!」
「だから扉は静かに開けろって何度も言って……」
澪さんの台詞はそこで一瞬止まりました。
目をぱちくりさせて、まるで知らない所へ来てしまったようにキョロキョロと周囲を見渡しています。
そして怒りに興奮している梓ちゃんとそれを抑えようとしている唯ちゃんのじゃれあってるような姿を見て、次に私とふと目が合ってお互いに固まってしまうのでした。
「……二人共なにしてんの? っていうか朝の人、まだいたんだ」
「そこのお客さんが掃除してくれたんだけどさ……ちょっ、あずにゃん落ち着いて……なんかあずにゃんはそれが気に食わないみたいで」
「ん? ……ほんとだ、綺麗になってる! すげーっ」
隣で澪ちゃんが「気づくの遅すぎだろ……」と呆れながら視線を逸らします。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:40:46.72 ID:ttMVa8Eao
「まあまあ、落ち着けよ梓」
律さんにも諭されて、梓ちゃんはとうとうそっぽを向いて拗ねてしまいました。
そして不愉快極まりないといった足取りで厨房へ向かい、ガチャガチャと乱暴な音を立てて昼食の準備を始めるのでした。
「ったく、こーんな綺麗にしてくれたのに何が不満なんだか」
「あずにゃんも頑固だからねえ」
二人はやれやれといった様子で近くの椅子にぺたんと座り込みました。
澪さんはいつの間にか私たちから離れた所に座って、ぼんやりと肘をついて部屋の隅を眺めていました。
まさに我関せずといった感じです。
「こーやって見ると案外この店もちゃんとしてるよな」
「うん。なんか私、感動しちゃった」
「ほんとほんと。なんつーか、ありがとな……えーっと、名前なんだっけ?」
「琴吹です。琴吹紬」
私は慌てて自己紹介しました。
そういえば律さんにはまだ名乗ってなかったっけ。
「今までのも別に嫌だったわけじゃないけど、やっぱり清潔な方が気持ちいいね。ありがとうムギちゃん」
二人に感謝されて私はようやくホッとしました。
梓ちゃんにいきなり怒鳴られた時は余計なお節介を焼いてしまったと後悔したのですが、こんな風にありがたく思ってくれるのなら掃除した甲斐があったというものです。
まあ、ちょっと本格的にやりすぎちゃったかなあと反省もしていますが、何はともあれひと安心です。
律さんにも諭されて、梓ちゃんはとうとうそっぽを向いて拗ねてしまいました。
そして不愉快極まりないといった足取りで厨房へ向かい、ガチャガチャと乱暴な音を立てて昼食の準備を始めるのでした。
「ったく、こーんな綺麗にしてくれたのに何が不満なんだか」
「あずにゃんも頑固だからねえ」
二人はやれやれといった様子で近くの椅子にぺたんと座り込みました。
澪さんはいつの間にか私たちから離れた所に座って、ぼんやりと肘をついて部屋の隅を眺めていました。
まさに我関せずといった感じです。
「こーやって見ると案外この店もちゃんとしてるよな」
「うん。なんか私、感動しちゃった」
「ほんとほんと。なんつーか、ありがとな……えーっと、名前なんだっけ?」
「琴吹です。琴吹紬」
私は慌てて自己紹介しました。
そういえば律さんにはまだ名乗ってなかったっけ。
「今までのも別に嫌だったわけじゃないけど、やっぱり清潔な方が気持ちいいね。ありがとうムギちゃん」
二人に感謝されて私はようやくホッとしました。
梓ちゃんにいきなり怒鳴られた時は余計なお節介を焼いてしまったと後悔したのですが、こんな風にありがたく思ってくれるのなら掃除した甲斐があったというものです。
まあ、ちょっと本格的にやりすぎちゃったかなあと反省もしていますが、何はともあれひと安心です。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:42:50.47 ID:ttMVa8Eao
「でもさあ、店内がこうまともだと外観のみすぼらしさが余計に際立つよな……」
「窓もひび割れっぱなしだしね」
「庭は雑草が伸び放題」
「看板は字が掠れて読めないし」
二人がそんな会話をしていると、梓ちゃんがやってきて、
「みすぼらしい店で悪かったですね。それはともかく、材料切らしてるのでお昼はペペロンチーノでいいですか?」
唯ちゃんや律さんはそれぞれ「なんでもいいよ」と答え、澪さんも無言で肯きます。
それから梓ちゃんは私の方をじろりと見やって、
「お客さんは?」
「あ、私もそれで……」
それだけ聞くとサッと厨房へ戻っていくのでした。
「窓もひび割れっぱなしだしね」
「庭は雑草が伸び放題」
「看板は字が掠れて読めないし」
二人がそんな会話をしていると、梓ちゃんがやってきて、
「みすぼらしい店で悪かったですね。それはともかく、材料切らしてるのでお昼はペペロンチーノでいいですか?」
唯ちゃんや律さんはそれぞれ「なんでもいいよ」と答え、澪さんも無言で肯きます。
それから梓ちゃんは私の方をじろりと見やって、
「お客さんは?」
「あ、私もそれで……」
それだけ聞くとサッと厨房へ戻っていくのでした。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:43:23.09 ID:ttMVa8Eao
律さんと唯ちゃんは親切心か好奇心からか私にしきりに話しかけてくれました。
「どこから来たの?」とは聞かれましたが、何をしに来たかという点についてはあまり深く突っ込まれませんでした。
きっと彼女らなりに気を使っているのだと思いました。
他にも「お掃除好きなの?」「使用人がいるって、それマジ?」「メイドさんもいるの?」などなど。
「なんでまたそんなお嬢様が……」
「やっぱりムギちゃんって面白い人だよね」
「お、面白い?」
「いや面白いというか普通じゃないというか……」
しばらくして料理が運ばれてきました。
私は唯ちゃん律さんと同じテーブルに座り、会話の続きをしながらペペロンチーノをいただきました。
驚いたことに(こんな風に言うと失礼ですが)これもまた昨日のカルボナーラに負けず劣らず美味しいのでした。
昨日はお腹が空いていたから美味しいと錯覚したと思っていたのが、今やそんな考えは完全に払拭され、私はもうすっかりここの料理の味を気に入ってしまいました。
そして、そんな素朴な感動を味わいつつも、さきほどから少し気になっていた事がありました。
澪さんがちっともこちらの輪に入ろうとしないのです。
彼女は相変わらず遠くの席で一人寂しそうにパスタを食べていました。
私はなんだか彼女を仲間はずれにしているようで気が気でなく、唯ちゃんと律さんが会話している最中もチラチラと澪さんの方を見てしまうのでした。
「澪がどうかした?」
「えっ」
律さんには見透かされていたようです。
「どこから来たの?」とは聞かれましたが、何をしに来たかという点についてはあまり深く突っ込まれませんでした。
きっと彼女らなりに気を使っているのだと思いました。
他にも「お掃除好きなの?」「使用人がいるって、それマジ?」「メイドさんもいるの?」などなど。
「なんでまたそんなお嬢様が……」
「やっぱりムギちゃんって面白い人だよね」
「お、面白い?」
「いや面白いというか普通じゃないというか……」
しばらくして料理が運ばれてきました。
私は唯ちゃん律さんと同じテーブルに座り、会話の続きをしながらペペロンチーノをいただきました。
驚いたことに(こんな風に言うと失礼ですが)これもまた昨日のカルボナーラに負けず劣らず美味しいのでした。
昨日はお腹が空いていたから美味しいと錯覚したと思っていたのが、今やそんな考えは完全に払拭され、私はもうすっかりここの料理の味を気に入ってしまいました。
そして、そんな素朴な感動を味わいつつも、さきほどから少し気になっていた事がありました。
澪さんがちっともこちらの輪に入ろうとしないのです。
彼女は相変わらず遠くの席で一人寂しそうにパスタを食べていました。
私はなんだか彼女を仲間はずれにしているようで気が気でなく、唯ちゃんと律さんが会話している最中もチラチラと澪さんの方を見てしまうのでした。
「澪がどうかした?」
「えっ」
律さんには見透かされていたようです。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:44:34.58 ID:ttMVa8Eao
「いえ、その……ずっと一人でいるから、何かあったのかな、と思って……」
「あ~、あいつは一人が好きなんだよ。それに人見知りだからさ」
「そうなんですか……」
そして急に、
「みお~! 琴吹さんが澪と話したいってさ!」
大声でそんな事を言うので、私は恥ずかしくなってつい律さんの口を塞いでしまうところでした。
「え、私? 私は……その、また今度……」
澪さんもまた恥ずかしそうに顔を赤らめ小声で何やら呟くと、ごまかすようにペペロンチーノを黙々と食べるのでした。
「あ~、あいつは一人が好きなんだよ。それに人見知りだからさ」
「そうなんですか……」
そして急に、
「みお~! 琴吹さんが澪と話したいってさ!」
大声でそんな事を言うので、私は恥ずかしくなってつい律さんの口を塞いでしまうところでした。
「え、私? 私は……その、また今度……」
澪さんもまた恥ずかしそうに顔を赤らめ小声で何やら呟くと、ごまかすようにペペロンチーノを黙々と食べるのでした。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:45:03.22 ID:ttMVa8Eao
「恥ずかしがりなんだよ、あいつは」
「ほとんどりっちゃんのせいだと思うけどね」
「……ああ、別に琴吹さんのこと嫌ってるわけじゃないと思うから、それは心配しなくていいと思うぜ」
律さんは言いながらいつの間にかペペロンチーノを完食していました。
こう、何かにつけて勢いのある人です。
そして彼女は勢いのまま、こんな事まで言い出しました。
「よーし、飯も食ったし、午後はみんなで大掃除の続きでもするか!」
「ええーっ!?」
唯ちゃんが素っ頓狂な声を上げ、呆気に取られたように律さんを見上げました。
「りっちゃんが……掃除ぃ!?」心底信じられないといった表情です。
「ほとんどりっちゃんのせいだと思うけどね」
「……ああ、別に琴吹さんのこと嫌ってるわけじゃないと思うから、それは心配しなくていいと思うぜ」
律さんは言いながらいつの間にかペペロンチーノを完食していました。
こう、何かにつけて勢いのある人です。
そして彼女は勢いのまま、こんな事まで言い出しました。
「よーし、飯も食ったし、午後はみんなで大掃除の続きでもするか!」
「ええーっ!?」
唯ちゃんが素っ頓狂な声を上げ、呆気に取られたように律さんを見上げました。
「りっちゃんが……掃除ぃ!?」心底信じられないといった表情です。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:45:32.99 ID:ttMVa8Eao
……そんなわけで、午後はみんなでホテルの掃除をすることになりました。
梓ちゃんにその事を報告すると、「ふん。勝手にしてください」と言って店の奥に引っ込んでしまいました。
「ホテルもやるの? 部屋ぜんぶ?」
「とりあえず使われてない部屋と、あとは廊下とか玄関だな。外も雑草が伸びっぱなしだし、壁の落書きも消したいから……ちょっと買出しが必要かもな」
唯ちゃんと律さんが相談している横で澪さんが面倒くさそうに「なんで私まで……」と呟いていました。
「すみません、なんだか巻き込んじゃったみたいで……」
「へっ?! あ、いや、別に私はそういうつもりじゃなくて……あぅ」
なんとなく澪さんに話しかけたのですが、彼女はわたわたと慌てるばかりで全く会話になりませんでした。
そしてなぜか顔を真っ赤にして俯いてしまうのでした。
極度のあがり症なのでしょうか。
梓ちゃんにその事を報告すると、「ふん。勝手にしてください」と言って店の奥に引っ込んでしまいました。
「ホテルもやるの? 部屋ぜんぶ?」
「とりあえず使われてない部屋と、あとは廊下とか玄関だな。外も雑草が伸びっぱなしだし、壁の落書きも消したいから……ちょっと買出しが必要かもな」
唯ちゃんと律さんが相談している横で澪さんが面倒くさそうに「なんで私まで……」と呟いていました。
「すみません、なんだか巻き込んじゃったみたいで……」
「へっ?! あ、いや、別に私はそういうつもりじゃなくて……あぅ」
なんとなく澪さんに話しかけたのですが、彼女はわたわたと慌てるばかりで全く会話になりませんでした。
そしてなぜか顔を真っ赤にして俯いてしまうのでした。
極度のあがり症なのでしょうか。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:45:58.63 ID:ttMVa8Eao
「買い出しはりっちゃんやってよね~、言いだしっぺなんだから」
「トラックで行くんだし、唯も一緒に来ればいいだろ」
「あ、バイクじゃないの? なら私も行く行く~」
「梓ー! 軽トラ借りて行くけどいいかー!?」
すると梓ちゃんが現れて、
「出かけるならついでに材料も買ってきてください」
「はいよー」
そうして彼女らが色々と話している間、私は他にすることもなくぼうっと立って眺めているばかりでした。
隣では澪さんがモジモジして私の方を見たり見なかったりしていて、そんな視線が気になり始めた頃、
「じゃー行ってくるわ! すぐ戻ると思うから待っててな」
「行ってきま~す」
と言って唯ちゃんと律さんが店を出て行ってしまいました。
あれ? これってもしかして……。
私はやっと状況を理解して、不意に緊張が走りました。
つまり、澪さんと二人きりという事に。
「トラックで行くんだし、唯も一緒に来ればいいだろ」
「あ、バイクじゃないの? なら私も行く行く~」
「梓ー! 軽トラ借りて行くけどいいかー!?」
すると梓ちゃんが現れて、
「出かけるならついでに材料も買ってきてください」
「はいよー」
そうして彼女らが色々と話している間、私は他にすることもなくぼうっと立って眺めているばかりでした。
隣では澪さんがモジモジして私の方を見たり見なかったりしていて、そんな視線が気になり始めた頃、
「じゃー行ってくるわ! すぐ戻ると思うから待っててな」
「行ってきま~す」
と言って唯ちゃんと律さんが店を出て行ってしまいました。
あれ? これってもしかして……。
私はやっと状況を理解して、不意に緊張が走りました。
つまり、澪さんと二人きりという事に。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:47:02.34 ID:ttMVa8Eao
私はけして人見知りではありませんが、この状況は少々過酷といわざるをえません。
最初、澪さんを見たときは物静かで落ち着いた人だなあ、なんて思っていました。
しかしこうやって微妙な距離に近づいてみると、颯爽と孤独に浸るようなクールさは失われていて、私に何か必死に話しかけようとする気配だけを見せながら何をしゃべればいいか分からないような表情でモジモジするばかりでした。
「……澪さん、コーヒー飲みますか?」
気まずい空気を払拭しようとして私が口を開くと、澪さんは食い気味に頷きました。
朝もコーヒーを飲んだのにまたコーヒーかあ、なんて思いながらマグカップと豆を用意していると、ふいに澪さんが話しかけてきました。
「私のコップこれだから……」
「あ、ごめんなさい」
そんな会話をしたっきり、澪さんは私が準備しているのを隣でじっと眺めているのでした。
き、きまずい。
「……あの、ここって紅茶は置いてないんでしょうか」
ふと思いついて尋ねてみました。
それに対し澪さんが一瞬怪訝な顔色を浮かべたので、「いえ、なんでもないです。ちょっと気になっただけで……」と言いかけた時、唐突に
「紅茶好きなの?」
と聞かれ、
「まあ、はい」
と歯切れ悪く答えると、
「実を言うと私もコーヒーより紅茶の方が好きなんだよな。この店のコーヒーってあんまり美味しくないし」
「そうなんですか」
「梓は料理は美味いけどこういう細かい所にこだわりがなくて……」
意外や意外、先ほどの気まずい沈黙が嘘のように普通に会話できてしまいました。
なるほど、きっかけがあると違うものです。
最初、澪さんを見たときは物静かで落ち着いた人だなあ、なんて思っていました。
しかしこうやって微妙な距離に近づいてみると、颯爽と孤独に浸るようなクールさは失われていて、私に何か必死に話しかけようとする気配だけを見せながら何をしゃべればいいか分からないような表情でモジモジするばかりでした。
「……澪さん、コーヒー飲みますか?」
気まずい空気を払拭しようとして私が口を開くと、澪さんは食い気味に頷きました。
朝もコーヒーを飲んだのにまたコーヒーかあ、なんて思いながらマグカップと豆を用意していると、ふいに澪さんが話しかけてきました。
「私のコップこれだから……」
「あ、ごめんなさい」
そんな会話をしたっきり、澪さんは私が準備しているのを隣でじっと眺めているのでした。
き、きまずい。
「……あの、ここって紅茶は置いてないんでしょうか」
ふと思いついて尋ねてみました。
それに対し澪さんが一瞬怪訝な顔色を浮かべたので、「いえ、なんでもないです。ちょっと気になっただけで……」と言いかけた時、唐突に
「紅茶好きなの?」
と聞かれ、
「まあ、はい」
と歯切れ悪く答えると、
「実を言うと私もコーヒーより紅茶の方が好きなんだよな。この店のコーヒーってあんまり美味しくないし」
「そうなんですか」
「梓は料理は美味いけどこういう細かい所にこだわりがなくて……」
意外や意外、先ほどの気まずい沈黙が嘘のように普通に会話できてしまいました。
なるほど、きっかけがあると違うものです。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:47:38.12 ID:ttMVa8Eao
「……言いそびれてたけど、掃除してくれたんだな。ちょっと綺麗すぎて落ち着かないけど……」
「すみません……」
私ったら謝ってばかり。
でも実を言うと内心ではそこまで反省していないのです。
「いや、別に悪く言うつもりじゃなくて……その、感謝してるっていうか」
私はそれを聞くと嬉しくなって思わず笑顔になってしまうのでした。
そしてなぜか澪さんは私のそんな顔を見て恥ずかしそうにふいと目を逸らすのです。
「コーヒーできたみたい。唯ちゃんや律さんが来るまであそこでゆっくりしてましょう」
私はすっかり機嫌を良くして、まるで澪さんよりもこの店を知っている人のように大胆になってしまうのでした。
それからまた私たちは向かい合って座って色々なことを話しました。
澪さんは想像通り繊細な人だったので質問は少し気を使いましたが(いつも一人で何をしているのかとか、立ち入った話題は避けて)基本的に律さんや唯ちゃん、それからこの一風変わったお店について彼女が愚痴まじりに楽しそうに話すのを聞いているだけで十分でした。
ただ、澪さんは自分の事については全く話そうとしませんでした。
「すみません……」
私ったら謝ってばかり。
でも実を言うと内心ではそこまで反省していないのです。
「いや、別に悪く言うつもりじゃなくて……その、感謝してるっていうか」
私はそれを聞くと嬉しくなって思わず笑顔になってしまうのでした。
そしてなぜか澪さんは私のそんな顔を見て恥ずかしそうにふいと目を逸らすのです。
「コーヒーできたみたい。唯ちゃんや律さんが来るまであそこでゆっくりしてましょう」
私はすっかり機嫌を良くして、まるで澪さんよりもこの店を知っている人のように大胆になってしまうのでした。
それからまた私たちは向かい合って座って色々なことを話しました。
澪さんは想像通り繊細な人だったので質問は少し気を使いましたが(いつも一人で何をしているのかとか、立ち入った話題は避けて)基本的に律さんや唯ちゃん、それからこの一風変わったお店について彼女が愚痴まじりに楽しそうに話すのを聞いているだけで十分でした。
ただ、澪さんは自分の事については全く話そうとしませんでした。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:48:11.79 ID:ttMVa8Eao
1時間ほど経って、律さんたちが帰ってきました。
私は残ったコーヒーを慌てて飲んで彼女たちを迎えました。
荷台にはたくさんの買物品が積んでありました。
中にはお菓子とかおもちゃみたいな物も……
「余計なものまで買うんじゃない!」
「てへっ」
澪さんが叱っても律さんはあまり真に受けていないようでした。
それに澪さんも別に本気で怒ってるわけじゃないみたいですし、やっぱりこの二人は特に仲が良いように思えます。
さて、そんなわけで大掃除(というには少し大掛かりですが)が始まりました。
ホテルの方へ向かう前にまずカフェの周りを片付けようという事で、私は唯ちゃんと一緒に外壁のペンキを塗りなおしを、澪さんと律さんは草刈りをすることになりました。
「律って案外こういう作業は好きだよな」
「新品の軍手! 新品の鎌! 照りつける太陽と爽やかな風、そして滴る乙女の汗! 肉体労働なら任せとけって」
「ふふっ、なんだかとても似合いますね」
「ねぇねぇりっちゃーん、臨時休業の張り紙とか出しておいた方がいいんじゃない?」
「どーせ誰も来ないからいいだろ……あと唯、塗りムラがあるぞ。ムギのやり方をちゃんと見とけよ」
そんな会話を聞いて私は妙にこそばゆいような楽しい気持ちになるのでした。
ムギだなんて、私のことをそんな風に呼ぶ人、今まで一人もいなかったから。
……なんだか私だけ変にかしこまって遠慮してるのがバカみたい。
「ほんとだ、ムギちゃんキレーに塗るねえ」
「あのね、コツがあるの。ローラーをかける前に壁の汚れを落としてから……――」
私は残ったコーヒーを慌てて飲んで彼女たちを迎えました。
荷台にはたくさんの買物品が積んでありました。
中にはお菓子とかおもちゃみたいな物も……
「余計なものまで買うんじゃない!」
「てへっ」
澪さんが叱っても律さんはあまり真に受けていないようでした。
それに澪さんも別に本気で怒ってるわけじゃないみたいですし、やっぱりこの二人は特に仲が良いように思えます。
さて、そんなわけで大掃除(というには少し大掛かりですが)が始まりました。
ホテルの方へ向かう前にまずカフェの周りを片付けようという事で、私は唯ちゃんと一緒に外壁のペンキを塗りなおしを、澪さんと律さんは草刈りをすることになりました。
「律って案外こういう作業は好きだよな」
「新品の軍手! 新品の鎌! 照りつける太陽と爽やかな風、そして滴る乙女の汗! 肉体労働なら任せとけって」
「ふふっ、なんだかとても似合いますね」
「ねぇねぇりっちゃーん、臨時休業の張り紙とか出しておいた方がいいんじゃない?」
「どーせ誰も来ないからいいだろ……あと唯、塗りムラがあるぞ。ムギのやり方をちゃんと見とけよ」
そんな会話を聞いて私は妙にこそばゆいような楽しい気持ちになるのでした。
ムギだなんて、私のことをそんな風に呼ぶ人、今まで一人もいなかったから。
……なんだか私だけ変にかしこまって遠慮してるのがバカみたい。
「ほんとだ、ムギちゃんキレーに塗るねえ」
「あのね、コツがあるの。ローラーをかける前に壁の汚れを落としてから……――」
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:49:57.90 ID:ttMVa8Eao
――庭の雑草を刈り、くすんだ色の壁を綺麗に塗り替えただけで『さいはてのカフェ』は驚くほどすっきりして見えました。
窓のひび割れなど細かい所はまだ手をつけていませんが、少なくとも昨日のような廃墟めいた印象はありません。
その後、私たちは同じようにホテルの掃除に取り掛かりました。
律さんが少し飽き始めているのを澪さんがたしなめて、一方の唯ちゃんは楽しそうに作業に没頭しています。
埃を払い、廊下を水拭きし、それぞれの部屋の家具や照明を磨き、取り付けが悪いのを注意しながら窓ガラスの汚れを落としました。
壁に穴が開いていたりシミが残っている場所は唯ちゃんの提案で可愛らしいシールやポスターを貼ってごまかすことにしました。
外壁の誰が書いたか分からない落書きや黒ずんだ部分を消すためにペンキで上塗りしました。
そして夕方が近づき涼しい風が吹いてきた頃、私たちはようやく大方の掃除を終わらせました。
「おお……」
律さんが感動したような声を上げました。
こちらも細かい部分まで手が回らなかったので残った汚れはまだ目立ちますが、それでも昨日よりずっとホテルらしい建物になりました。
「ふぅ~……疲れちゃった~」
「私も~」
「なんだお前ら、体力ないなあ。まだまだ元気な私を見習いたまえ!」
「律が元気なのは後半ずっとサボってたからだろ!」
とうとう澪さんのゲンコツが炸裂。
そんな夫婦漫才をやっているのを横から眺めていると、ふいに視界にぴょこぴょこ動くものを見とめました。
窓のひび割れなど細かい所はまだ手をつけていませんが、少なくとも昨日のような廃墟めいた印象はありません。
その後、私たちは同じようにホテルの掃除に取り掛かりました。
律さんが少し飽き始めているのを澪さんがたしなめて、一方の唯ちゃんは楽しそうに作業に没頭しています。
埃を払い、廊下を水拭きし、それぞれの部屋の家具や照明を磨き、取り付けが悪いのを注意しながら窓ガラスの汚れを落としました。
壁に穴が開いていたりシミが残っている場所は唯ちゃんの提案で可愛らしいシールやポスターを貼ってごまかすことにしました。
外壁の誰が書いたか分からない落書きや黒ずんだ部分を消すためにペンキで上塗りしました。
そして夕方が近づき涼しい風が吹いてきた頃、私たちはようやく大方の掃除を終わらせました。
「おお……」
律さんが感動したような声を上げました。
こちらも細かい部分まで手が回らなかったので残った汚れはまだ目立ちますが、それでも昨日よりずっとホテルらしい建物になりました。
「ふぅ~……疲れちゃった~」
「私も~」
「なんだお前ら、体力ないなあ。まだまだ元気な私を見習いたまえ!」
「律が元気なのは後半ずっとサボってたからだろ!」
とうとう澪さんのゲンコツが炸裂。
そんな夫婦漫才をやっているのを横から眺めていると、ふいに視界にぴょこぴょこ動くものを見とめました。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:50:33.38 ID:ttMVa8Eao
「あっ、あずにゃーん! 何してんの、そんなとこで」
声をかけられてびっくりした梓ちゃんは逃げるようにカフェの方へ戻って行きました。
きっと様子を見にきたのでしょう。
なんだかんだ言って彼女も気になっているに違いありません。
いくら強情な梓ちゃんとはいえ、この見事なまでに立派になったホテルやカフェを見れば悪い気分はしないはずです。
私は唯ちゃんや律さんが協力してくれた事でそんな自信がむくむくと湧いてくるのでした。
「あとは看板だね」
唯ちゃんが思い出したように言うと、
「それは言わないでおこうと思ってたのに~」
「面倒くさいだけなんだろ」
「うん」
律さんはどうやら熱っぽく冷めやすい人のようです。
澪さんは責任感があって真面目。
「琴吹さん?」
「はい?」
「ほら、行こうよ」
ぼうっと考え事をしていると澪さんに声をかけられました。
唯ちゃんと律さんはもうカフェの方へ戻って行ってしまいました。
「ああ、今行きます。……それと、ムギでいいですよ」
「えっ?」
「私も澪ちゃんって呼んでいいかしら」
澪さん……いえ、澪ちゃんは豆鉄砲をくった鳩のように固まって、それからみるみる顔を赤くすると早足に向こうへ行ってしまいました。
恥ずかしがっているのか怒っているのかよく分かりません。
いきなり距離を詰めすぎちゃったかしら。
でも、なんだか人をからかってるみたいで楽しいかも……なんて思ったりして。
声をかけられてびっくりした梓ちゃんは逃げるようにカフェの方へ戻って行きました。
きっと様子を見にきたのでしょう。
なんだかんだ言って彼女も気になっているに違いありません。
いくら強情な梓ちゃんとはいえ、この見事なまでに立派になったホテルやカフェを見れば悪い気分はしないはずです。
私は唯ちゃんや律さんが協力してくれた事でそんな自信がむくむくと湧いてくるのでした。
「あとは看板だね」
唯ちゃんが思い出したように言うと、
「それは言わないでおこうと思ってたのに~」
「面倒くさいだけなんだろ」
「うん」
律さんはどうやら熱っぽく冷めやすい人のようです。
澪さんは責任感があって真面目。
「琴吹さん?」
「はい?」
「ほら、行こうよ」
ぼうっと考え事をしていると澪さんに声をかけられました。
唯ちゃんと律さんはもうカフェの方へ戻って行ってしまいました。
「ああ、今行きます。……それと、ムギでいいですよ」
「えっ?」
「私も澪ちゃんって呼んでいいかしら」
澪さん……いえ、澪ちゃんは豆鉄砲をくった鳩のように固まって、それからみるみる顔を赤くすると早足に向こうへ行ってしまいました。
恥ずかしがっているのか怒っているのかよく分かりません。
いきなり距離を詰めすぎちゃったかしら。
でも、なんだか人をからかってるみたいで楽しいかも……なんて思ったりして。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:51:07.37 ID:ttMVa8Eao
『さいはてのカフェ』と書かれた看板の掠れた文字を修復し、玄関扉の上に戻すとようやく今日一日の作業がすべて終わりました。
外観を整えるだけでも十分立派に見えましたが、この新しくなった看板を掲げることでお店もぐっと生き生きとして見えるような気がしました。
「なんてゆーか、達成感あるね」
「……ああ。ぶっちゃけさ、最初は本当に気まぐれだったんだよ。帰ってきたらいきなり店ん中が綺麗になってて、しかも客人が勝手にやったって言うからさ。なんかおもしれーって、暇つぶしのつもりで始めただけだったんだけど……」
「私らもあの環境に慣れちゃってたからな。これも紬さ……む、ムギが来てくれたおかげだよ」
そんな事を言いながら澪ちゃんは私から必死に目を逸らすので、私は笑いを堪えながら、
「お役に立てたようで何よりです」
「うん。疲れたけど、やって良かったねっ」
彼女たちがそれぞれどんな思いを抱いているのか私には量りかねますが、なんとなく、とても良いことをしたのではないかという嬉しさがこみ上げてくるのでした。
そうやって私たちが奇妙な感動に浸っていると、店から梓ちゃんが出てきて、
「ちょっと律先輩、頼んでおいた材料が違――」
「おーっ、ちょうど良い所に! ほら梓、こっち来て見てみろよ」
梓ちゃんは何か言いかけていたのを飲み込んで律さんに促されるまま店の正面を振り返りました。
外観を整えるだけでも十分立派に見えましたが、この新しくなった看板を掲げることでお店もぐっと生き生きとして見えるような気がしました。
「なんてゆーか、達成感あるね」
「……ああ。ぶっちゃけさ、最初は本当に気まぐれだったんだよ。帰ってきたらいきなり店ん中が綺麗になってて、しかも客人が勝手にやったって言うからさ。なんかおもしれーって、暇つぶしのつもりで始めただけだったんだけど……」
「私らもあの環境に慣れちゃってたからな。これも紬さ……む、ムギが来てくれたおかげだよ」
そんな事を言いながら澪ちゃんは私から必死に目を逸らすので、私は笑いを堪えながら、
「お役に立てたようで何よりです」
「うん。疲れたけど、やって良かったねっ」
彼女たちがそれぞれどんな思いを抱いているのか私には量りかねますが、なんとなく、とても良いことをしたのではないかという嬉しさがこみ上げてくるのでした。
そうやって私たちが奇妙な感動に浸っていると、店から梓ちゃんが出てきて、
「ちょっと律先輩、頼んでおいた材料が違――」
「おーっ、ちょうど良い所に! ほら梓、こっち来て見てみろよ」
梓ちゃんは何か言いかけていたのを飲み込んで律さんに促されるまま店の正面を振り返りました。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:51:54.34 ID:ttMVa8Eao
「…………」
じっと見上げたまま黙ってしまいました。
そして私たちは梓ちゃんが何か言い出すのを待って静かに見守っていました。
太陽が沈み始めて辺りがどんどん暗くなり、店の明かりが『さいはてのカフェ』の文字を照らした時、私は梓ちゃんの目が微妙に潤んでいるのを見逃しませんでした。
「どうだ梓? これでも私たち結構頑張ったんだぜ」
「……まあ……悪くは……ないです」
「だろ? これならきっと憂ちゃんだって戻ってきて――」
律さんが言い終わる前に、
「ふんっ。知りませんよ、あんな人」
急に嫌なことを思い出したように顔をしかめて店に戻って行ってしまいました。
横で唯ちゃんが「あちゃー」と言い、続いて澪ちゃんが「このバカ……」とぼやき、そして律さんは「いつまで意地張ってんだか」と微妙に困ったように肩をすくめるのでした。
「あ、良い匂い~。今日の夕飯は何かな~」
唯ちゃんがお腹の虫を鳴らしながら店へ入って行きます。
それにしても梓ちゃん、名前を出しただけであそこまで拒絶するとは相当です。
その憂ちゃんというのが梓ちゃんと喧嘩別れした人なのでしょうか?
私はそんな憶測を働かせながら、あんまりこの話題は出さない方がいいのかもしれないと判断し、何も言わずにみんなの後についていくのでした。……
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 10:53:46.74 ID:ttMVa8Eao
少し休憩
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:12:26.93 ID:ttMVa8Eao
◇ ◇ ◇
翌日、私は朝ごはんを食べ終わると町の散歩へ出かけました。
天気も良かったし、何より他にすることがなかったので面白いお店があればいいなと思いながら30分ほど散策してみたのですが、人もまばらな海水浴場と何の変哲もない民家がぽつぽつとあるだけで、どこを見渡しても面白そうなものが見当たらないのには少しがっかりしてしまいました。
とは言うものの、辺りは緑豊かな自然と深い青の海に囲まれていますから、そういう風景を楽しもうと思えばこれほどのんびりできる町もないような気がしました。
道の途中に売店があったので興味本位でひょっこりと覗いてみるとお菓子やおもちゃが雑然と並べられているのが目に入りました。
これが噂に聞く駄菓子屋という店なのでしょうか。
けれどよく見てみると文房具、雑誌、電気小物、衣料品なども陳列してあって、その統一感のない品揃えからするとこれは雑貨屋と呼ぶべきかもしれません。
奇妙ですが面白そうなお店です。
「いらっしゃい」
店員さんが(この場合は店番というのでしょうか)けだるそうに挨拶するのを簡単に会釈して返し、薄暗い中に敷き詰められた見たこともないお菓子をわくわくしながら物色していると、ふと私の興味をひきつけるものが目に留まりました。
ガラス製のティーポットです。
「あの、これください」
ティーポットと一緒に紅茶の茶葉とその他いろいろな駄菓子をカゴに詰めて店員さんに声をかけました。
「はいはい……全部で400円ね」
私は聞き間違いかと思ってもう一度金額を尋ねたのですが、店員さんは面倒くさそうに「400円」と言って代金を催促するばかりです。
半信半疑で1000円札を出し、そしてきちんと600円お釣りが返ってきたのにはびっくりしました。
驚くべき安さです。消費税とかはないのでしょうか。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:13:55.02 ID:ttMVa8Eao
さて、思いがけず面白いお店を発見して満足した私はこのまま『さいはてのカフェ』に戻ることにしました。
たくさん買ったお菓子をひとつずつ味わいながら一人食べ歩く帰り道は妙に心が浮き立って、お行儀が悪いと分かっていてもこの幸福感には代えられないとさえ思うほどでした。
買い食いなんて生まれて初めてです。
戻ったら紅茶を淹れてお昼までゆっくり読書でもしようかしら。
そうしたら午後はもう一度散歩に出かけて……ああ、なんというめくるめく自由への招待、その胸の高鳴りと言ったら!
そんな調子で来た道を戻りホテルに到着したのですが、ふとカフェのお店の方が奇妙に騒がしいことに気が付いて足を止めました。
大勢の人の声が聞こえます。
りっちゃんや澪ちゃんたちが話しているのかと思いましたが、確か二人は今日夕方まで出かけに行っているはず。
(ちなみに私がりっちゃんと呼ぶようになったのは今朝の話です)
他に声の主に心当たりがありません……もしや暴漢や強盗が押し入っているのでは、なんて考えながら恐る恐るカフェへ近づいてみると、なんと知らないお客さんが数人、楽しそうに談笑しているではありませんか!
梓ちゃんの知り合いかしら?
しかしよく観察してみると一方は畑仕事の帰りのような中年男性が三人、一方は若い男女のカップルがそれぞれテーブル席に座っています。
どう考えても普通のお客さんでした。
しばらく窓からこっそり盗み見ていると、厨房では梓ちゃんが忙しそうに料理を作っていて、唯ちゃんはヨレヨレになったウェイトレスの制服を着て慣れない接客を頑張っていました。
しかもそうしている内にまたお客さんが来たのにはびっくりしました。
私が知らなかっただけで『さいはてのカフェ』はこの辺りでは人気店だったのでしょうか。
そんな事を考えていると、
「ムギちゃん! 良いところに!」
窓から覗いているのを唯ちゃんに見つかってしまい、
「ちょっと来て、こっちこっち……裏口から入れるから」
言われた通りに裏手のドアから入ると唯ちゃんがエプロンをおもむろに手渡して
「ごめんムギちゃん、しばらく変わって! すぐ戻ってくるから」
「え? え?」
「今から買い足しに行かなくちゃいけなくなったからその間だけ、ね? もぉ~っ、昨日りっちゃんが買うの間違えなければこんな事には……」
唯ちゃんは「お砂糖、ソース……あとなんだっけ……」とブツブツ呟きながら私が何か言う前に外へ飛び出して行ってしまいました。
事態が上手く飲み込めないまま突っ立っていると厨房から梓ちゃんがひょっこり顔を出して
「何ぼさっとしてるんですか、お客さん呼んでますよ!」
「は、はい!」
……結局その後、唯ちゃんが帰ってきてからもお客の足は途絶えず、私たちがお昼を食べられたのは午後も2時を過ぎてからでした。
たくさん買ったお菓子をひとつずつ味わいながら一人食べ歩く帰り道は妙に心が浮き立って、お行儀が悪いと分かっていてもこの幸福感には代えられないとさえ思うほどでした。
買い食いなんて生まれて初めてです。
戻ったら紅茶を淹れてお昼までゆっくり読書でもしようかしら。
そうしたら午後はもう一度散歩に出かけて……ああ、なんというめくるめく自由への招待、その胸の高鳴りと言ったら!
そんな調子で来た道を戻りホテルに到着したのですが、ふとカフェのお店の方が奇妙に騒がしいことに気が付いて足を止めました。
大勢の人の声が聞こえます。
りっちゃんや澪ちゃんたちが話しているのかと思いましたが、確か二人は今日夕方まで出かけに行っているはず。
(ちなみに私がりっちゃんと呼ぶようになったのは今朝の話です)
他に声の主に心当たりがありません……もしや暴漢や強盗が押し入っているのでは、なんて考えながら恐る恐るカフェへ近づいてみると、なんと知らないお客さんが数人、楽しそうに談笑しているではありませんか!
梓ちゃんの知り合いかしら?
しかしよく観察してみると一方は畑仕事の帰りのような中年男性が三人、一方は若い男女のカップルがそれぞれテーブル席に座っています。
どう考えても普通のお客さんでした。
しばらく窓からこっそり盗み見ていると、厨房では梓ちゃんが忙しそうに料理を作っていて、唯ちゃんはヨレヨレになったウェイトレスの制服を着て慣れない接客を頑張っていました。
しかもそうしている内にまたお客さんが来たのにはびっくりしました。
私が知らなかっただけで『さいはてのカフェ』はこの辺りでは人気店だったのでしょうか。
そんな事を考えていると、
「ムギちゃん! 良いところに!」
窓から覗いているのを唯ちゃんに見つかってしまい、
「ちょっと来て、こっちこっち……裏口から入れるから」
言われた通りに裏手のドアから入ると唯ちゃんがエプロンをおもむろに手渡して
「ごめんムギちゃん、しばらく変わって! すぐ戻ってくるから」
「え? え?」
「今から買い足しに行かなくちゃいけなくなったからその間だけ、ね? もぉ~っ、昨日りっちゃんが買うの間違えなければこんな事には……」
唯ちゃんは「お砂糖、ソース……あとなんだっけ……」とブツブツ呟きながら私が何か言う前に外へ飛び出して行ってしまいました。
事態が上手く飲み込めないまま突っ立っていると厨房から梓ちゃんがひょっこり顔を出して
「何ぼさっとしてるんですか、お客さん呼んでますよ!」
「は、はい!」
……結局その後、唯ちゃんが帰ってきてからもお客の足は途絶えず、私たちがお昼を食べられたのは午後も2時を過ぎてからでした。
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:14:39.26 ID:ttMVa8Eao
「あ~お腹すいた……あずにゃんもこっち来て一緒に食べようよ」
「また誰か来たらどうするんですか」
「来たときにどうにかすればいいんだよ」
「……ちょっとだけですよ」
ひとまず客の居なくなった店内で唯ちゃんと一緒にテーブルにつきました。
梓ちゃんが三人分のパスタを運んで私の正面に座ります。
「いつもこんなにたくさんお客さんが来るんですか?」
「そんなわけないです。どうして急に……」
「やっぱり掃除して綺麗になったからじゃない?」と唯ちゃんがパスタをもぐもぐと口に入れながらしゃべります。
「それだけでこんなに繁盛したら世話ないですよ」
やはり梓ちゃんたちにとっても不測の事態だったようです。
「お客さん、美味しいって言ってましたよ。常連になるかもしれませんね」
「常連なんて唯先輩たちで十分ですから……」
言いながら少し嬉しそうに口元がゆるんでいるのでした。
そうやって彼女がちらりと覗かせた優しそうな表情は、私が彼女に対して抱いていた意地悪な印象をひっくり返して、元はきっと笑顔が素敵な可愛らしい少女だったろう事を予感させます。
「また誰か来たらどうするんですか」
「来たときにどうにかすればいいんだよ」
「……ちょっとだけですよ」
ひとまず客の居なくなった店内で唯ちゃんと一緒にテーブルにつきました。
梓ちゃんが三人分のパスタを運んで私の正面に座ります。
「いつもこんなにたくさんお客さんが来るんですか?」
「そんなわけないです。どうして急に……」
「やっぱり掃除して綺麗になったからじゃない?」と唯ちゃんがパスタをもぐもぐと口に入れながらしゃべります。
「それだけでこんなに繁盛したら世話ないですよ」
やはり梓ちゃんたちにとっても不測の事態だったようです。
「お客さん、美味しいって言ってましたよ。常連になるかもしれませんね」
「常連なんて唯先輩たちで十分ですから……」
言いながら少し嬉しそうに口元がゆるんでいるのでした。
そうやって彼女がちらりと覗かせた優しそうな表情は、私が彼女に対して抱いていた意地悪な印象をひっくり返して、元はきっと笑顔が素敵な可愛らしい少女だったろう事を予感させます。
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:16:46.56 ID:ttMVa8Eao
それからしばらく三人で他愛の無いおしゃべりに興じました。
そして気づいたのは、梓ちゃんはもう私に対して警戒心や敵意などは抱いていないという事でした。
実際、食べ終わった後に「手伝ってもらったのでお代は結構です」とお皿を引き下げられ、それが彼女なりの義理なのか、あるいは感謝の気持ちなのか判断できませんでしたが、いずれにせよお店を手伝った事で以前ほど邪険にされずに済むようになりました。
三人ともお昼を食べ終わりおしゃべりしている間、私はふと午前中に買ったティーポットの事を思い出しました。
「紅茶、淹れましょうか?」
と言っておもむろに席を立つと、唯ちゃんが「ウチに紅茶なんてあったっけ?」と首をかしげます。
「さっきティーポットと茶葉を買ってきたんです。梓さん、ヤカンと火をお借りしてもいいですか?」
梓ちゃんは「別にいいですけど」とにべもない返事。
私はさっそくお湯を沸かしてガラス製のティーポットに茶葉を三人分用意しました。
特に強いこだわりがあるわけではないのですが、家ではよく自分で紅茶を淹れていたのです。
目分量でもある程度は美味しくできる自信がありました。
カップを温め、沸騰したお湯をポットに注いで3分ほど蒸らして出来上がりです。
本当なら私はここで茶葉を抜いてカップに注ぐのですが、今回はストレーナーが無いので仕方ありません。
とりあえず砂糖とミルクも用意して二人の待つテーブルに持って行きました。
唯ちゃんと梓ちゃんは最初こそなんでもないようにカップに口をつけたのですが、
一口目を飲んだ瞬間ぴくりと表情が変わり「美味しい……」と呟いたのには嬉しさで顔がニヤケてしまいそうになるほどでした。
まあ、私のちょっとした自慢といいますか、数少ない自尊心を満たすのに十分な言葉だったのです。
そして気づいたのは、梓ちゃんはもう私に対して警戒心や敵意などは抱いていないという事でした。
実際、食べ終わった後に「手伝ってもらったのでお代は結構です」とお皿を引き下げられ、それが彼女なりの義理なのか、あるいは感謝の気持ちなのか判断できませんでしたが、いずれにせよお店を手伝った事で以前ほど邪険にされずに済むようになりました。
三人ともお昼を食べ終わりおしゃべりしている間、私はふと午前中に買ったティーポットの事を思い出しました。
「紅茶、淹れましょうか?」
と言っておもむろに席を立つと、唯ちゃんが「ウチに紅茶なんてあったっけ?」と首をかしげます。
「さっきティーポットと茶葉を買ってきたんです。梓さん、ヤカンと火をお借りしてもいいですか?」
梓ちゃんは「別にいいですけど」とにべもない返事。
私はさっそくお湯を沸かしてガラス製のティーポットに茶葉を三人分用意しました。
特に強いこだわりがあるわけではないのですが、家ではよく自分で紅茶を淹れていたのです。
目分量でもある程度は美味しくできる自信がありました。
カップを温め、沸騰したお湯をポットに注いで3分ほど蒸らして出来上がりです。
本当なら私はここで茶葉を抜いてカップに注ぐのですが、今回はストレーナーが無いので仕方ありません。
とりあえず砂糖とミルクも用意して二人の待つテーブルに持って行きました。
唯ちゃんと梓ちゃんは最初こそなんでもないようにカップに口をつけたのですが、
一口目を飲んだ瞬間ぴくりと表情が変わり「美味しい……」と呟いたのには嬉しさで顔がニヤケてしまいそうになるほどでした。
まあ、私のちょっとした自慢といいますか、数少ない自尊心を満たすのに十分な言葉だったのです。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:17:54.60 ID:ttMVa8Eao
「こんな美味しいの初めて飲むかも。これ、なんていう紅茶なの?」
「ダージリンっていうの」
一方梓ちゃんは黙ったまま深く息を吐いて、それから味わうようにゆっくりと飲むのでした。
何も言わないけれど、気に入ってくれたのかな?
「ねえねえあずにゃん、これお店に出そうよ」
「…………」
唯ちゃんの唐突な提案を梓ちゃんは黙って聞いています。
私としてもそれは全く予期せぬ話だったのですが、自分の淹れた紅茶がきっかけでメニューが増えるという想像はとてもわくわくするものでした。
梓ちゃんは何か考え事をするようにじっとしています。
私はなんだか試されているような気分でした。
「ダージリンっていうの」
一方梓ちゃんは黙ったまま深く息を吐いて、それから味わうようにゆっくりと飲むのでした。
何も言わないけれど、気に入ってくれたのかな?
「ねえねえあずにゃん、これお店に出そうよ」
「…………」
唯ちゃんの唐突な提案を梓ちゃんは黙って聞いています。
私としてもそれは全く予期せぬ話だったのですが、自分の淹れた紅茶がきっかけでメニューが増えるという想像はとてもわくわくするものでした。
梓ちゃんは何か考え事をするようにじっとしています。
私はなんだか試されているような気分でした。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:18:26.55 ID:ttMVa8Eao
「……コーヒーと違って作るのに手間がかかるのがネックです」
「私がやりますから大丈夫ですよ」
即答してから、これじゃまるで私が働きに来たみたいだと一人複雑な心境になるのでした。
「それだと歩合給になりますけど、いいんですか?」
まさかお給料まで貰えるとは思っていなかったので、一瞬梓ちゃんが何のことを言っているか理解するのに時間がかかりました。
私は呆けたように「はい」とだけ返事して、
「ならメニュー表に加えておくです。えっと……こ、琴吹さんが居るとき限定の裏メニューとして」
後になって考えてみると、たかだか紅茶を一、二杯作る程度の手間を惜しむのも少し変な話でした。
このときの私は梓ちゃんに認めてもらった気で舞い上がっていたのですが、実はただ単に上手く乗せられただけだったのではないでしょうか。
とは言っても私は働くことについて抵抗はありませんでしたし、むしろ一任してくれるのならやりがいがあるというものです。
私はさっそくメニュー表の隅っこに「期間限定:紅茶(ダージリン)」と書き添えて(なぜか唯ちゃんもハートや花模様を書き足しました)
お客さんが来るまでの間、昨日やらずじまいだった厨房の掃除をして時間をつぶしていました。
そうやって子供のようにはしゃぐ私と唯ちゃんでしたが、それを見ても梓ちゃんは何も言わないのでした。
「私がやりますから大丈夫ですよ」
即答してから、これじゃまるで私が働きに来たみたいだと一人複雑な心境になるのでした。
「それだと歩合給になりますけど、いいんですか?」
まさかお給料まで貰えるとは思っていなかったので、一瞬梓ちゃんが何のことを言っているか理解するのに時間がかかりました。
私は呆けたように「はい」とだけ返事して、
「ならメニュー表に加えておくです。えっと……こ、琴吹さんが居るとき限定の裏メニューとして」
後になって考えてみると、たかだか紅茶を一、二杯作る程度の手間を惜しむのも少し変な話でした。
このときの私は梓ちゃんに認めてもらった気で舞い上がっていたのですが、実はただ単に上手く乗せられただけだったのではないでしょうか。
とは言っても私は働くことについて抵抗はありませんでしたし、むしろ一任してくれるのならやりがいがあるというものです。
私はさっそくメニュー表の隅っこに「期間限定:紅茶(ダージリン)」と書き添えて(なぜか唯ちゃんもハートや花模様を書き足しました)
お客さんが来るまでの間、昨日やらずじまいだった厨房の掃除をして時間をつぶしていました。
そうやって子供のようにはしゃぐ私と唯ちゃんでしたが、それを見ても梓ちゃんは何も言わないのでした。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:21:18.19 ID:ttMVa8Eao
夕方、りっちゃんたちが帰ってくる頃になると再びちらほらとお客が来るようになりました。
見慣れない光景にりっちゃんも驚いた様子で「何があったんだ?」と私に耳打ちしましたが、私は肩をすくめて返事をする他ありませんでした。
お昼の時はなんの準備もしていなかったのでてんやわんやでしたが、夕飯時は梓ちゃんも唯ちゃんも余裕をもって動けるようになっていました。
私はカウンター席の隅に座って、誰か裏メニューに気づいてくれないかしらとそわそわしながらお客さんの方を見ていました。
結局、私の紅茶を初めて注文してくれたのはりっちゃんと澪ちゃんでした。
「なんだ? この期間限定って」
「それムギちゃんの特製紅茶なんだよ」
「へ~、じゃあ私はボンゴレロッソと、その紅茶ね」
「あ、私もそれで」
唯ちゃんが伝票を持って私に伝えてきてくれた所で、
「唯ちゃん、食前か食後か聞かなきゃ」
「ああ、そっか」
そんなわけで食後に私特製の(と言うのはやや大げさですが)紅茶を持っていくと二人とも美味しいと言ってくれて私はホッとした気持ちでした。
今日はそれ以外にもとある老夫婦のお客さんが注文してくれて、こちらは直接感想など聞けませんでしたが遠巻きに様子を伺った限りでは好評のようでした。
家では私が何をしても大抵の事は褒められましたし、私自身も褒められる事に慣れていた節がありました。
しかし今、周りに身内のいない見ず知らずの環境でこうして実力が認められるというのは何にも代えがたい新鮮な感動がありました。
私はにわかに楽しくなって、その日の夜、梓ちゃんにブランドものの茶葉を取り寄せられないか相談してみることにしました。
その話をもちかけた時、梓ちゃんはかなり渋い顔をして「むむむ……」と唸ってから考えるように腕を組むのでした。
深夜、ひっそりと静まり返った店内の隅っこのテーブルで向かい合って座りながら。
見慣れない光景にりっちゃんも驚いた様子で「何があったんだ?」と私に耳打ちしましたが、私は肩をすくめて返事をする他ありませんでした。
お昼の時はなんの準備もしていなかったのでてんやわんやでしたが、夕飯時は梓ちゃんも唯ちゃんも余裕をもって動けるようになっていました。
私はカウンター席の隅に座って、誰か裏メニューに気づいてくれないかしらとそわそわしながらお客さんの方を見ていました。
結局、私の紅茶を初めて注文してくれたのはりっちゃんと澪ちゃんでした。
「なんだ? この期間限定って」
「それムギちゃんの特製紅茶なんだよ」
「へ~、じゃあ私はボンゴレロッソと、その紅茶ね」
「あ、私もそれで」
唯ちゃんが伝票を持って私に伝えてきてくれた所で、
「唯ちゃん、食前か食後か聞かなきゃ」
「ああ、そっか」
そんなわけで食後に私特製の(と言うのはやや大げさですが)紅茶を持っていくと二人とも美味しいと言ってくれて私はホッとした気持ちでした。
今日はそれ以外にもとある老夫婦のお客さんが注文してくれて、こちらは直接感想など聞けませんでしたが遠巻きに様子を伺った限りでは好評のようでした。
家では私が何をしても大抵の事は褒められましたし、私自身も褒められる事に慣れていた節がありました。
しかし今、周りに身内のいない見ず知らずの環境でこうして実力が認められるというのは何にも代えがたい新鮮な感動がありました。
私はにわかに楽しくなって、その日の夜、梓ちゃんにブランドものの茶葉を取り寄せられないか相談してみることにしました。
その話をもちかけた時、梓ちゃんはかなり渋い顔をして「むむむ……」と唸ってから考えるように腕を組むのでした。
深夜、ひっそりと静まり返った店内の隅っこのテーブルで向かい合って座りながら。
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:21:47.50 ID:ttMVa8Eao
「……簡単に言いますけどね。ウチだって予算とか都合が色々あるんですよ」
「それは分かりますけど……」
「聞いてみたらずいぶん高級なブランド品じゃないですか。赤字になったらどうするんですか?」
ぐうの音も出ません。
梓ちゃんは続けて言います。
「別にブランドじゃなくったっていいじゃないですか……今のままでも十分おいしいですよ」
あれ? これってもしかして褒められてる?
「梓ちゃん、今なんて……」
すると自分の言った事に気づいたのか急に慌て始めて、
「べ、別にそういう意味で言ったわけじゃなくて……ていうか梓"ちゃん"って何ですか馴れ馴れしい!」
私はつい口を抑えましたが時すでに遅く、梓ちゃんは今ので怒ってしまったみたいです。
「それは分かりますけど……」
「聞いてみたらずいぶん高級なブランド品じゃないですか。赤字になったらどうするんですか?」
ぐうの音も出ません。
梓ちゃんは続けて言います。
「別にブランドじゃなくったっていいじゃないですか……今のままでも十分おいしいですよ」
あれ? これってもしかして褒められてる?
「梓ちゃん、今なんて……」
すると自分の言った事に気づいたのか急に慌て始めて、
「べ、別にそういう意味で言ったわけじゃなくて……ていうか梓"ちゃん"って何ですか馴れ馴れしい!」
私はつい口を抑えましたが時すでに遅く、梓ちゃんは今ので怒ってしまったみたいです。
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:23:09.80 ID:ttMVa8Eao
「いいですか! 私より年上だからと好い気になってるみたいですが、ここでは私の方が立場は上なんですからね! それと今日はあなたの善意を汲んで許可してあげたって事を忘れないでください!」
私はしゅんとなって「はい……でしゃばってすみませんでした」と素直に謝りました。
梓ちゃんはそれから何かぐっと言いたい事を堪えるようなしぐさをして、
「……っ、ただ、まあ……その……ほどほどに安い銘柄なら、仕入れても……い、良いけど……」
ぼそぼそと小さくなっていく声を私は聞き逃しませんでした。
「本当?」
「……ふ、ふんっ。勝手にしやがれです」
はき捨てるように言って席を立ってしまいました。
お店を閉める後片付けをするみたいです。
私はすごすごと引き下がり、ホテルの部屋へ戻りました。
半日働いて疲れた体をどさりとベッドに放り投げてから、枕に顔を埋めて
(また梓ちゃんに嫌われちゃったかなあ)
なんて考えて憂鬱な気分になったり、一方では
(みんな美味しいって言ってくれた、あの梓ちゃんも)
と嬉しくなったりして、面白いんだか面白くないんだか分からないような気持ちを上手く心に留めておけずに足をパタパタと動かして悶々とするのでした。
私はしゅんとなって「はい……でしゃばってすみませんでした」と素直に謝りました。
梓ちゃんはそれから何かぐっと言いたい事を堪えるようなしぐさをして、
「……っ、ただ、まあ……その……ほどほどに安い銘柄なら、仕入れても……い、良いけど……」
ぼそぼそと小さくなっていく声を私は聞き逃しませんでした。
「本当?」
「……ふ、ふんっ。勝手にしやがれです」
はき捨てるように言って席を立ってしまいました。
お店を閉める後片付けをするみたいです。
私はすごすごと引き下がり、ホテルの部屋へ戻りました。
半日働いて疲れた体をどさりとベッドに放り投げてから、枕に顔を埋めて
(また梓ちゃんに嫌われちゃったかなあ)
なんて考えて憂鬱な気分になったり、一方では
(みんな美味しいって言ってくれた、あの梓ちゃんも)
と嬉しくなったりして、面白いんだか面白くないんだか分からないような気持ちを上手く心に留めておけずに足をパタパタと動かして悶々とするのでした。
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:24:21.00 ID:ttMVa8Eao
◇ ◇ ◇
『さいはてのカフェ』は日増しに客足が伸びて行きました。
時間帯によってはテーブル席が全部埋まってしまうほどで、そんな時はりっちゃんや澪ちゃんもアルバイトに駆り出されたりして私が初めてこのカフェに来た頃とは比べ物にならないくらい活気に満ち溢れたお店になりました。
なぜ急にこんなにお客さんが来るようになったのか、その理由ははっきりとは分かりませんでしたが、少なくともカフェそのものが綺麗になった事が大きく関係しているのは間違いないと思われました。
また町を少しずつ探索していくうちに知ったのですが、この辺りには飲食店がほとんど無いのです。
『さいはてのカフェ』は立地こそあまり良くありませんでしたが、遠くからでも比較的目立つ建物だったので、以前の廃屋のような風貌ならともかく今のようにきちんとお店として営業していると分かれば寄ってみようと考える人がいても不自然ではありません。
そして、そういった最初のお客さんたちから口コミで評判が広がり、こうして人が集まるに至った……そう考えるのが妥当でしょう。
またそれに伴って私の期間限定の裏メニューも注文する人が増え、今では紅茶だけを飲みに来る人もいるほどでした。
唯ちゃんには「全部ムギちゃんのおかげだね」なんて言われたりもするのですが、私もさすがにそこまで自惚れていません。
実際には梓ちゃんの作る料理が美味しいおかげなんだと思います。
まあそうは言っても、私も漫然と働いているだけではありませんでした。
できる範囲で茶葉の種類や道具をそろえ、お客さんと簡単にお話して好みの味を把握したり、カフェの一員としてきちんと役割を果たしているつもりです。
ある時などは淹れ方を教えてほしいと頼まれ、梓ちゃんの許可もありお客さん数人を相手に給茶を実践してみせたりしました。
それがまた好評だったようで、それ以来要望があると即席の紅茶教室が開かれたりするのでした。
こういう事が続くようだと私もあまり無責任ではいられないと思い、仕事以外の時間にも一人でお茶の勉強をするようになりました。
一応唯ちゃんや澪ちゃんにもレクチャーしたので、私が居ない時でもちゃんとしたお茶が出せるようにはなっていたのですが、ここに来る人はだいたい(唯ちゃんたちも含めて)私の紅茶を飲みたがるので結局仕事量は変わりませんでした。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:25:21.90 ID:ttMVa8Eao
ある日、休憩していた時のことでした。
りっちゃんが梓ちゃんと唯ちゃんに何やら相談していたのでなんとなく近くで聞き耳を立てていると、どうやら明日重要な用事があるから店を手伝えないという話のようでした。
「りっちゃん、明日どこか行くの?」
「ん? ああ、ちょっとな」
照れくさそうに頭を掻いています。
唯ちゃんが代わりに答えました。
「りっちゃんは明日面接があるんだよ」
「面接?」
聞くと、りっちゃんはここ最近はずっと就職活動をしていたそうなのです。
確かに普段日中は姿を見せない事が多かったので、何か別のお仕事をしてるのかなあ、とぼんやり勘繰っていたのですが、就職活動だったとは知りませんでした。
「ま、言ってなかったからな」
「一世一代の大勝負だね!」
「んな大げさな……」
「私も応援する! がんばって、りっちゃん!」
りっちゃんは珍しく気弱そうに「あんまり期待しないでくれよな」なんて半笑いしてましたが、あの梓ちゃんにまで「頑張ってください」と応援されたので覚悟を決めたように「おう!」と言い切りました。
「協力してくれた澪先輩のためにも受からなきゃだめですよ」
「そうなんだよなあ。まあアイツもアイツで頑張ってるみたいだし、私も負けてらんねーな」
彼女たちにも色々と事情があるみたいです。
気にならないといえば嘘になりますが、これまで彼女たちが私に対して余計な詮索をしなかったように、私もまた彼女たちの過去や経歴を探るような真似はなるべく止しておこうと考えていたので、この時も聞き流すだけにしておいたのです。
しかしどの道、こうした配慮には意味がありませんでした。
なぜなら私が聞きだすまでもなく彼女たちの方から自然と打ち明けてくれたのですから。
りっちゃんが梓ちゃんと唯ちゃんに何やら相談していたのでなんとなく近くで聞き耳を立てていると、どうやら明日重要な用事があるから店を手伝えないという話のようでした。
「りっちゃん、明日どこか行くの?」
「ん? ああ、ちょっとな」
照れくさそうに頭を掻いています。
唯ちゃんが代わりに答えました。
「りっちゃんは明日面接があるんだよ」
「面接?」
聞くと、りっちゃんはここ最近はずっと就職活動をしていたそうなのです。
確かに普段日中は姿を見せない事が多かったので、何か別のお仕事をしてるのかなあ、とぼんやり勘繰っていたのですが、就職活動だったとは知りませんでした。
「ま、言ってなかったからな」
「一世一代の大勝負だね!」
「んな大げさな……」
「私も応援する! がんばって、りっちゃん!」
りっちゃんは珍しく気弱そうに「あんまり期待しないでくれよな」なんて半笑いしてましたが、あの梓ちゃんにまで「頑張ってください」と応援されたので覚悟を決めたように「おう!」と言い切りました。
「協力してくれた澪先輩のためにも受からなきゃだめですよ」
「そうなんだよなあ。まあアイツもアイツで頑張ってるみたいだし、私も負けてらんねーな」
彼女たちにも色々と事情があるみたいです。
気にならないといえば嘘になりますが、これまで彼女たちが私に対して余計な詮索をしなかったように、私もまた彼女たちの過去や経歴を探るような真似はなるべく止しておこうと考えていたので、この時も聞き流すだけにしておいたのです。
しかしどの道、こうした配慮には意味がありませんでした。
なぜなら私が聞きだすまでもなく彼女たちの方から自然と打ち明けてくれたのですから。
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:26:02.32 ID:ttMVa8Eao
その日の夜、私はりっちゃんの部屋で彼女と二人きりになっていました。
たまたま廊下で通りすがったところを呼び止められて、
「あのさムギ、ちょっと時間いいか?」と改まったように部屋に誘われたのです。
彼女の部屋は物が少なくてさっぱりしていました。
元々彼女はあまりホテルを利用しておらず普通の宿泊客としてたまに部屋を借りるくらいだったので(むしろ唯ちゃんや澪ちゃんのように住み込んでいるのが変なのですが)こうして整然としているのは不思議ではありません。
そしてりっちゃんはベランダの籐椅子に私を座らせると、しばらくしてティーカップを二つ、紅茶を注いで持ってくるのでした。
「私も紅茶淹れてみたんだ。一緒に飲もうぜ」
「いいけど……明日早いんじゃない? 大丈夫?」
私の言葉を無視して自分の紅茶を啜り始めました。
それに促されて私も一口飲みます。少し酸味の強いアールグレイでした。
「味、どうだ?」
私はどういう感想を求められているのか分からず、ただ「おいしいよ」とだけ答えました。
「そうか……でもやっぱりムギの淹れてくれるお茶の方がおいしいな」
ベランダから見える夜の海をぼんやり眺めながらそう言うのでした。
「紅茶なんて上品なもん、ガラじゃねーなって思ってたけどさ。でもムギが作ってくれたのを飲むようになって、こういうのも悪くないよなって思い始めたんだ。それに最近自分で淹れるようになって分かったんだよ。私たちに必要だったのは、こういう時間だったんだなって」
私は紅茶を飲みながら黙ってそれを聞いていました。
たまたま廊下で通りすがったところを呼び止められて、
「あのさムギ、ちょっと時間いいか?」と改まったように部屋に誘われたのです。
彼女の部屋は物が少なくてさっぱりしていました。
元々彼女はあまりホテルを利用しておらず普通の宿泊客としてたまに部屋を借りるくらいだったので(むしろ唯ちゃんや澪ちゃんのように住み込んでいるのが変なのですが)こうして整然としているのは不思議ではありません。
そしてりっちゃんはベランダの籐椅子に私を座らせると、しばらくしてティーカップを二つ、紅茶を注いで持ってくるのでした。
「私も紅茶淹れてみたんだ。一緒に飲もうぜ」
「いいけど……明日早いんじゃない? 大丈夫?」
私の言葉を無視して自分の紅茶を啜り始めました。
それに促されて私も一口飲みます。少し酸味の強いアールグレイでした。
「味、どうだ?」
私はどういう感想を求められているのか分からず、ただ「おいしいよ」とだけ答えました。
「そうか……でもやっぱりムギの淹れてくれるお茶の方がおいしいな」
ベランダから見える夜の海をぼんやり眺めながらそう言うのでした。
「紅茶なんて上品なもん、ガラじゃねーなって思ってたけどさ。でもムギが作ってくれたのを飲むようになって、こういうのも悪くないよなって思い始めたんだ。それに最近自分で淹れるようになって分かったんだよ。私たちに必要だったのは、こういう時間だったんだなって」
私は紅茶を飲みながら黙ってそれを聞いていました。
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:27:09.48 ID:ttMVa8Eao
「色々行き詰まってたんだよ。私なんかはずっと前から家族とか澪に甘えっぱなしでさ。適当にバイトして楽しく暮らしてればいいじゃんって思ってて、でも実際、そういう生活はあんまり楽しくなかったんだよな。張り合いがなくってなあ。刺激がないっていうか……ムギはそういう経験したことないか?」
「う~ん……」
私にはいまいち分かりませんでした。
ただ、この町での生活は私にとっては刺激的なものに違いありませんでした。
そう考えると、これまで深く省みる事がなかった私の人生は大半が味気ないものだったように思われてきました。
「なんか焦ってたんだろうな。何かしないとヤバイ! みたいなのがずーっと頭ん中にあって、そういうのをごまかしながら暮らしてたから、のんびり人生を楽しんでるつもりが全然そうじゃなかったっていうか……だから一回ゆっくり自分を見つめなおす時間が必要だったんだと思う。梓が音楽やめて、それに引きずられるみたいに私も澪も腐っちまって……唯と憂ちゃんだけは梓のことをずっと待ってあげてたんだけどなあ」
「音楽?」
「言ってなかったっけ? 私たちバンド組んでたんだよ。まあ案の定全然売れなくて解散してさ。それから私とか澪はバイトして日銭稼いで、梓はこの店を立ち上げたってわけ」
「そうだったの……」
「まあ正確に言うと、梓じゃなくて唯の妹の憂ちゃんが立ち上げたようなもんなんだけどな。それからまた色々あってさ……」
「う~ん……」
私にはいまいち分かりませんでした。
ただ、この町での生活は私にとっては刺激的なものに違いありませんでした。
そう考えると、これまで深く省みる事がなかった私の人生は大半が味気ないものだったように思われてきました。
「なんか焦ってたんだろうな。何かしないとヤバイ! みたいなのがずーっと頭ん中にあって、そういうのをごまかしながら暮らしてたから、のんびり人生を楽しんでるつもりが全然そうじゃなかったっていうか……だから一回ゆっくり自分を見つめなおす時間が必要だったんだと思う。梓が音楽やめて、それに引きずられるみたいに私も澪も腐っちまって……唯と憂ちゃんだけは梓のことをずっと待ってあげてたんだけどなあ」
「音楽?」
「言ってなかったっけ? 私たちバンド組んでたんだよ。まあ案の定全然売れなくて解散してさ。それから私とか澪はバイトして日銭稼いで、梓はこの店を立ち上げたってわけ」
「そうだったの……」
「まあ正確に言うと、梓じゃなくて唯の妹の憂ちゃんが立ち上げたようなもんなんだけどな。それからまた色々あってさ……」
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:27:39.63 ID:ttMVa8Eao
……りっちゃんの話を要約すると、つまりこういう事でした。
梓ちゃんも最初は音楽の道を諦めきれずにカフェで演奏したりしていたのですが次第にそれも止めてしまい、いつしかそんな失意が重なってやさぐれるようになってしまったのです。
まじめな憂ちゃんは梓ちゃんを放っておけず色々と世話を焼いたそうなのですが、それがかえって梓ちゃんとの間に摩擦を生んで行きました。
一方は自堕落な生活を望み、一方はその折れた心を矯正しようとしたので、すれ違いから喧嘩になることもしばしばでした。
そして唯ちゃんが梓ちゃんの肩を持った事が決定打になり憂ちゃんが店を出て行くことになってしまったのです。
元々唯ちゃんは二人の間をずっと取り持っていたのですが、一緒にバンドを組んでいた関係もあって梓ちゃんに対する同情は大きかったのでしょう。
「まあ誰が悪いかっつったら梓なんだろうけど、私たちもあんまりアイツのことを悪く言えなくてな……こんな風になっちまったのは私たちにも責任があるっていうか……」
りっちゃんはそれ以上は言いませんでした。
きっと彼女たちの心には言葉では表せないような想いが積み重なっているのだと思いました。
部外者である私が踏み込めるのはここまでです。
でも、
「変われると思うわ。梓ちゃんも、それからりっちゃんたちも」
「そうかな……」
「きっとそうよ」
梓ちゃんも最初は音楽の道を諦めきれずにカフェで演奏したりしていたのですが次第にそれも止めてしまい、いつしかそんな失意が重なってやさぐれるようになってしまったのです。
まじめな憂ちゃんは梓ちゃんを放っておけず色々と世話を焼いたそうなのですが、それがかえって梓ちゃんとの間に摩擦を生んで行きました。
一方は自堕落な生活を望み、一方はその折れた心を矯正しようとしたので、すれ違いから喧嘩になることもしばしばでした。
そして唯ちゃんが梓ちゃんの肩を持った事が決定打になり憂ちゃんが店を出て行くことになってしまったのです。
元々唯ちゃんは二人の間をずっと取り持っていたのですが、一緒にバンドを組んでいた関係もあって梓ちゃんに対する同情は大きかったのでしょう。
「まあ誰が悪いかっつったら梓なんだろうけど、私たちもあんまりアイツのことを悪く言えなくてな……こんな風になっちまったのは私たちにも責任があるっていうか……」
りっちゃんはそれ以上は言いませんでした。
きっと彼女たちの心には言葉では表せないような想いが積み重なっているのだと思いました。
部外者である私が踏み込めるのはここまでです。
でも、
「変われると思うわ。梓ちゃんも、それからりっちゃんたちも」
「そうかな……」
「きっとそうよ」
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:28:11.37 ID:ttMVa8Eao
私がそう断言すると、りっちゃんは元気を取り戻したようにニカッと笑うのでした。
「ムギの言う通りだな。澪のヤツも最近ちょっと明るくなったし」
確かに、この数日で澪ちゃんは表情が明るくなったような気がします。
相変わらず窓際でぼうっとしていたりする事があるのですが、それ以外はよくしゃべるようになりました。
「澪が普段なにやってるか知りたいか? あいつ小説家を目指してるんだよ」
私は思わず「えっ」と言ってしまいました。
別に変な意味ではありません。ただちょっと驚いただけです。
「バンドやってた頃は澪が作詩してたんだけど、続けてたらなんか物書きにハマっちゃったみたいでさ。四六時中ボーッとしてるように見えるのは、妄想力を高めるためなんだと」
「小説家だなんて、すごい」
「少し前はここで働きつつちらほら賞なんかにも応募してたんだけど、まあ梓とおんなじだよ。夢を追うのに疲れて筆を折ったって言ってたのに、最近になってまた書き始めてさ。元々夢を捨て切れてなかったんだな」
言われてみれば、澪ちゃんの物静かな佇まいや思慮深げな眼差しはいかにもな小説家らしさがある気がします。
「ちなみに今書いてる小説のモデルはムギだって」
「ええっ!?」
それはさすがに予想外でした。
「あ、これ秘密にしとけって言われたんだっけ。まあいっか」
りっちゃんは豪快に笑い飛ばしていましたが私はどういう顔をすればいいか分からず曖昧な笑みを浮かべるのでした。
「ムギの言う通りだな。澪のヤツも最近ちょっと明るくなったし」
確かに、この数日で澪ちゃんは表情が明るくなったような気がします。
相変わらず窓際でぼうっとしていたりする事があるのですが、それ以外はよくしゃべるようになりました。
「澪が普段なにやってるか知りたいか? あいつ小説家を目指してるんだよ」
私は思わず「えっ」と言ってしまいました。
別に変な意味ではありません。ただちょっと驚いただけです。
「バンドやってた頃は澪が作詩してたんだけど、続けてたらなんか物書きにハマっちゃったみたいでさ。四六時中ボーッとしてるように見えるのは、妄想力を高めるためなんだと」
「小説家だなんて、すごい」
「少し前はここで働きつつちらほら賞なんかにも応募してたんだけど、まあ梓とおんなじだよ。夢を追うのに疲れて筆を折ったって言ってたのに、最近になってまた書き始めてさ。元々夢を捨て切れてなかったんだな」
言われてみれば、澪ちゃんの物静かな佇まいや思慮深げな眼差しはいかにもな小説家らしさがある気がします。
「ちなみに今書いてる小説のモデルはムギだって」
「ええっ!?」
それはさすがに予想外でした。
「あ、これ秘密にしとけって言われたんだっけ。まあいっか」
りっちゃんは豪快に笑い飛ばしていましたが私はどういう顔をすればいいか分からず曖昧な笑みを浮かべるのでした。
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:29:04.53 ID:ttMVa8Eao
しばらく私たちは他愛も無い会話を楽しみました。
私も昔ピアノをやっていて……と言うと音楽の話題で盛り上がり、それから好きな映画や小説の話になり、かと思うとまた唯ちゃんたちの話に戻ったり……
そして気づくと夜もすっかり更けてしまっているのでした。
「ごめんなさい、明日は大事な日なのに……」
「気にすんなって」
私は焦れったいように「頑張ってね」と「おやすみ」を交互に繰り返して部屋を後にすると、なんとなく自室に戻る気がおきずホテルの小さなロビーへ足を運びました。
古びたカーペットに染み付いた匂いが今はなんだか心地よく感じられました。
ここに泊まってまだ日は浅いのに、まるで昔から住んでいる我が家のように思われてくるから不思議です。
そうして妙に冴えてしまった頭を休めようと椅子に座って自販機のジュースを飲んでいた時でした。
海風のうねりにまぎれて遠くからかすかに物音が聞こえるのです。
なんだろうと思って耳を澄ませてみると、それはアコースティックギターの音色でした。
優しいメロディが生ぬるい空気に溶け込むように響いています。
私はしばらくそのギターの奏でる音に聞き入っていました。
……たとえ彼女が自分の思い描いていた夢を諦めて道を見失ったとしても、その演奏をよろこんで聴いてくれる人はきっと居るはずなのです。
静かだけれど情熱的で、そしてどこか懐かしい感じのする旋律は、不器用な性格の内側に隠された気持ちを何よりも素直に語っているように思われました。……
私も昔ピアノをやっていて……と言うと音楽の話題で盛り上がり、それから好きな映画や小説の話になり、かと思うとまた唯ちゃんたちの話に戻ったり……
そして気づくと夜もすっかり更けてしまっているのでした。
「ごめんなさい、明日は大事な日なのに……」
「気にすんなって」
私は焦れったいように「頑張ってね」と「おやすみ」を交互に繰り返して部屋を後にすると、なんとなく自室に戻る気がおきずホテルの小さなロビーへ足を運びました。
古びたカーペットに染み付いた匂いが今はなんだか心地よく感じられました。
ここに泊まってまだ日は浅いのに、まるで昔から住んでいる我が家のように思われてくるから不思議です。
そうして妙に冴えてしまった頭を休めようと椅子に座って自販機のジュースを飲んでいた時でした。
海風のうねりにまぎれて遠くからかすかに物音が聞こえるのです。
なんだろうと思って耳を澄ませてみると、それはアコースティックギターの音色でした。
優しいメロディが生ぬるい空気に溶け込むように響いています。
私はしばらくそのギターの奏でる音に聞き入っていました。
……たとえ彼女が自分の思い描いていた夢を諦めて道を見失ったとしても、その演奏をよろこんで聴いてくれる人はきっと居るはずなのです。
静かだけれど情熱的で、そしてどこか懐かしい感じのする旋律は、不器用な性格の内側に隠された気持ちを何よりも素直に語っているように思われました。……
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:30:08.19 ID:ttMVa8Eao
次の日の夜も私はもしかしたらと期待してロビーへ行くと、やはり昨日と同じようにギターの音色が聞こえてくるのでした。
改めて耳を澄ましてみるとお店の方から鳴っているのが分かりました。
このホテルは『さいはてのカフェ』と繋がっており、ロビーにはその通路へと続く扉があるのですが、ギターの音はその扉から洩れているようでした。
私は特に深い考えもなしにその扉を開け、通路の奥、ほんのり照明が灯っている部屋へそろそろと歩いて行きました。
しかし途中、暗がりの中を手探りで進んでいたものですから足元の荷物に躓いて予期せず大きな音を出してしまい、あっと思うが早いかギターの音がぴたりと止んでしまいました。
「だれっ!?」
「ご、ごめんなさい……音が聞こえたから、つい……」
梓ちゃんは私の姿を認めるとホッとしたように息をつき、それから慌てて手に持っていたギターを隠しました。
彼女はいつもそうやって一方的に気まずい空気を作り出そうとする。私にはそれが悲しかった。
でも今なら分かります。
梓ちゃんは寂しがっているだけなのです。
彼女の心を覆っている頑なな皮膜はもう溶けかかっている。
その決壊を唯一食い止めているのは彼女の心に住まう後悔と罪悪感なのです。
私は憂ちゃんの代わりにはなれません。
けれど、梓ちゃんの助けを求めるような悲痛な表情を無視することはできませんでした。
改めて耳を澄ましてみるとお店の方から鳴っているのが分かりました。
このホテルは『さいはてのカフェ』と繋がっており、ロビーにはその通路へと続く扉があるのですが、ギターの音はその扉から洩れているようでした。
私は特に深い考えもなしにその扉を開け、通路の奥、ほんのり照明が灯っている部屋へそろそろと歩いて行きました。
しかし途中、暗がりの中を手探りで進んでいたものですから足元の荷物に躓いて予期せず大きな音を出してしまい、あっと思うが早いかギターの音がぴたりと止んでしまいました。
「だれっ!?」
「ご、ごめんなさい……音が聞こえたから、つい……」
梓ちゃんは私の姿を認めるとホッとしたように息をつき、それから慌てて手に持っていたギターを隠しました。
彼女はいつもそうやって一方的に気まずい空気を作り出そうとする。私にはそれが悲しかった。
でも今なら分かります。
梓ちゃんは寂しがっているだけなのです。
彼女の心を覆っている頑なな皮膜はもう溶けかかっている。
その決壊を唯一食い止めているのは彼女の心に住まう後悔と罪悪感なのです。
私は憂ちゃんの代わりにはなれません。
けれど、梓ちゃんの助けを求めるような悲痛な表情を無視することはできませんでした。
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:30:45.19 ID:ttMVa8Eao
「ギター、お上手なんですね」
「…………」
「……なんていう曲ですか?」
彼女はバツが悪そうに俯いたまま、
「曲名は……まだ、ないです」
「もう一度、聞かせてくれませんか?」
「…………」
彼女はしばらく何かを考えるように遠くを見つめて逡巡している様子でした。
それから決意したようにぐっとギターを寄せて弾き始めました。
弦を爪弾く彼女の指は可愛らしく、それでいて力強く。
思わず口ずさみたくなる素敵なメロディ、楽しげに弾むようなリズム……優しさと郷愁が詰まったような曲でした。
演奏が終わると彼女はどこか吹っ切れたような爽やかな表情を見せて、こう言いました。
「……琴吹さんならこの曲になんて名前をつけますか?」
「え? う~ん、そうですね……」
難しい質問です。
けれど私はすぐにぴったりな名前を思いつきました。
それはもしかすると私がこの町に、この店に来た時から決まっていた曲名なのかもしれません。
そう、私たちの奇妙で素敵な出会いに名前を付けるとしたら……
「……『海の見える町』」
私がそう答えると、梓ちゃんは想いを馳せるようにぼうっと天井を仰いで、それから私ににっこりと笑いかけました。
初めて見る彼女の心からの笑顔でした。
私も思わず嬉しくなって、
「アンコール。私、もっと梓ちゃんの演奏が聞きたいな」
梓ちゃんは少し恥ずかしそうにはにかんで、それ以外の色々な持ち曲を聞かせてくれました。
夜は二人きりの部屋、私と梓ちゃんだけの小さなライブハウス。
彼女は思い出を紡いでいくように、そしてこれからの彼女を祝福するように演奏を続けました。
やっと、彼女の心に触れることができたような気がしました。
「…………」
「……なんていう曲ですか?」
彼女はバツが悪そうに俯いたまま、
「曲名は……まだ、ないです」
「もう一度、聞かせてくれませんか?」
「…………」
彼女はしばらく何かを考えるように遠くを見つめて逡巡している様子でした。
それから決意したようにぐっとギターを寄せて弾き始めました。
弦を爪弾く彼女の指は可愛らしく、それでいて力強く。
思わず口ずさみたくなる素敵なメロディ、楽しげに弾むようなリズム……優しさと郷愁が詰まったような曲でした。
演奏が終わると彼女はどこか吹っ切れたような爽やかな表情を見せて、こう言いました。
「……琴吹さんならこの曲になんて名前をつけますか?」
「え? う~ん、そうですね……」
難しい質問です。
けれど私はすぐにぴったりな名前を思いつきました。
それはもしかすると私がこの町に、この店に来た時から決まっていた曲名なのかもしれません。
そう、私たちの奇妙で素敵な出会いに名前を付けるとしたら……
「……『海の見える町』」
私がそう答えると、梓ちゃんは想いを馳せるようにぼうっと天井を仰いで、それから私ににっこりと笑いかけました。
初めて見る彼女の心からの笑顔でした。
私も思わず嬉しくなって、
「アンコール。私、もっと梓ちゃんの演奏が聞きたいな」
梓ちゃんは少し恥ずかしそうにはにかんで、それ以外の色々な持ち曲を聞かせてくれました。
夜は二人きりの部屋、私と梓ちゃんだけの小さなライブハウス。
彼女は思い出を紡いでいくように、そしてこれからの彼女を祝福するように演奏を続けました。
やっと、彼女の心に触れることができたような気がしました。
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:31:28.82 ID:ttMVa8Eao
◇ ◇ ◇
私の『さいはてのカフェ』での生活は唐突に終わりを告げました。
あの子が迎えに来たのです。
「お姉ちゃん!!」
お昼前、いつものようにお店に出て給仕していた時に突然菫が訪問してきたのでした。
他にもお客さんがいる前で菫が目にたっぷりの涙を浮かべながら私に抱きついてきたので、私は慌てて彼女を連れて店の外に出ました。
「もう、驚いたじゃない」
「お姉ちゃんのばかあ……」
よっぽど心配だったのでしょう。
と言っても、私はべつに菫と連絡を絶っていたわけではないのです。
基本的に毎日「今日はこんなことがありました」という日記のようなメールを送っていて、そんなやり取りをしている間は特に不安がるような気配なんて感じられなかったのに、どうやら私は自分で思っていた以上に菫の気遣いを無碍にしていたようなのでした。
そうして私が一向に帰ろうとしないのをとうとう我慢しきれなくなり、こうやって迎えに来たという事でした。
確かに私は少し長居しすぎたのかもしれません。
「叔父さんも会いたがってるよ。帰ろう、お姉ちゃん」
「うん……」
私はそんな曖昧な返事をしながらちらりとカフェの方を見やりました。
すると私と菫の一部始終を覗こうとして窓辺にたくさんのお客さんが押し合いへしあいしているのが見えて、その可笑しさと言ったらありませんでした。
菫もそれに気づくと恥ずかしそうに私の袖をぎゅっと握って背後に隠れてしまいました。
裏口から唯ちゃんが出てきて言いました。
「ムギちゃん、その子は……?」
私は私と菫の関係を簡単に説明しました。
この町に来ることになったきっかけも何もかも。
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:32:46.02 ID:ttMVa8Eao
「つまり帰っちゃうってこと?」
私が返事をするよりも先に、窓から身を乗り出していた馴染みのお客さんたちが落胆のような悲鳴を上げました。
私は、私にすがりつくようにしている菫をそっと抱き寄せてこの心の痛みを堪えていました。
いつか帰らなければならないという事は分かりきっていたのです。
それに、この子も待っている。
喧嘩してしまったり心配をかけさせたりもしたけれど、こうして長い間離れ、そして再会した今、私の気持ちははっきりしていました。
私にはやっぱりこの子が必要なのです。
ふと唯ちゃんの背後、裏口からこっそりと私を見ている梓ちゃんの姿が映りました。
……何か胸を締め付けるような苦しさがありました。
「はいはい、見世物じゃないぞ~、戻った戻った」
りっちゃんが現れて野次馬を散らし、それから
「ま、今すぐって事もないだろ。菫ちゃんだっけ? ゆっくりしていきな」
そう言って私と菫を半ば強引にお店に引き連れていくのでした。
私が返事をするよりも先に、窓から身を乗り出していた馴染みのお客さんたちが落胆のような悲鳴を上げました。
私は、私にすがりつくようにしている菫をそっと抱き寄せてこの心の痛みを堪えていました。
いつか帰らなければならないという事は分かりきっていたのです。
それに、この子も待っている。
喧嘩してしまったり心配をかけさせたりもしたけれど、こうして長い間離れ、そして再会した今、私の気持ちははっきりしていました。
私にはやっぱりこの子が必要なのです。
ふと唯ちゃんの背後、裏口からこっそりと私を見ている梓ちゃんの姿が映りました。
……何か胸を締め付けるような苦しさがありました。
「はいはい、見世物じゃないぞ~、戻った戻った」
りっちゃんが現れて野次馬を散らし、それから
「ま、今すぐって事もないだろ。菫ちゃんだっけ? ゆっくりしていきな」
そう言って私と菫を半ば強引にお店に引き連れていくのでした。
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:33:26.33 ID:ttMVa8Eao
「まさか本当にメイドさんがいるなんてね~」
「金髪で目も蒼いし、外国の人?」
「あっ、何か食べたいものある? ほらメニュー表」
「こうやって見ると二人とも似てるよな……ほんとに姉妹みたい」
矢継ぎ早に質問されて菫も最初は困惑していましたが、歓迎されていると分かるとすぐにみんなと仲良くなりました。
「それにしても菫、どうやってこのお店が分かったの?」
「調べたらこの町のイタリアンカフェはここしか無かったから……」
推理するまでもない事でした。
菫とのメールで私は何度も「美味しいイタリアンのカフェ」と言っていたのですから。
唯ちゃんたちは菫のことを気に入ってしまったらしく仕事を忘れて可愛がる一方でした。
そして誰も運ぼうとしない料理をカウンターに乗せたまま梓ちゃんが私たちをじっとにらみつけているのが見えたので、私はこの場を唯ちゃんたちに任せて厨房へ料理を取りに行きました。
「金髪で目も蒼いし、外国の人?」
「あっ、何か食べたいものある? ほらメニュー表」
「こうやって見ると二人とも似てるよな……ほんとに姉妹みたい」
矢継ぎ早に質問されて菫も最初は困惑していましたが、歓迎されていると分かるとすぐにみんなと仲良くなりました。
「それにしても菫、どうやってこのお店が分かったの?」
「調べたらこの町のイタリアンカフェはここしか無かったから……」
推理するまでもない事でした。
菫とのメールで私は何度も「美味しいイタリアンのカフェ」と言っていたのですから。
唯ちゃんたちは菫のことを気に入ってしまったらしく仕事を忘れて可愛がる一方でした。
そして誰も運ぼうとしない料理をカウンターに乗せたまま梓ちゃんが私たちをじっとにらみつけているのが見えたので、私はこの場を唯ちゃんたちに任せて厨房へ料理を取りに行きました。
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:34:12.81 ID:ttMVa8Eao
「…………」
梓ちゃんは不機嫌そうに、そして何かを言いたそうに私をちらちらと見やりながら顔はそっぽを向いているのでした。
私は何も言えませんでした。
常連のお客さんにも「居なくなっちゃうのかい」「さみしくなるねえ」なんて言われて、こんなにも私を好いてくれる人がいるのだと思うと余計に寂しさが募ります。
実際、今すぐに帰らなくてはならない理屈はないのです。
あともう少しだけここに残るという選択肢もありました。
しかし今までずっと待ってくれていた菫の事を思うと、やはり一刻も早く帰らなければならないと思うのでした。
決意が揺らがないうちに決めてしまおう。
お昼が過ぎてお客さんが少なくなり、店内も落ち着いてきた頃、私はみんなにお別れを言いました。
「今日!? それはちょっと急なんじゃ……」と唯ちゃん。
「このまま菫を一人で帰らせるわけにはいかないわ」
「明日じゃダメなのか? 菫ちゃんも一緒に泊まってさ……」
「私はともかく、菫まで一日帰ってこないとなると叔父さまが心配するから……」
澪ちゃんは何も言いませんでしたが、その眼差しには明らかに私を引きとめようという意志がありました。
「ごめんね、みんな……私、少し長く居すぎたみたい」
その言葉でりっちゃんも唯ちゃんも「そっか……」と諦めたように肩を落とすのでした。
そんなわけで私は今、ホテルの部屋を片付けている最中でした。
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:34:44.15 ID:ttMVa8Eao
「素敵なところだね。お姉ちゃんが言ってた通り」
菫は壁に寄りかかりながら私が荷物をまとめているのを眺めていました。
と言っても大した量ではありません。
荷造りはすぐに終わりました。
「……もういいの?」
「ええ……行きましょう」
私は荷物を持ってホテルから出ました。
ふと振り返って見上げてみると、最初にここへ来た時の景観のひどさを思い出して一人で笑ってしまいました。
みんなで掃除をして綺麗にはしたけれど、建物全体のどうしようもない古さは何も変わっていません。
しかし今はこのかび臭いホテルをどこか愛おしく感じるのでした。
「きゃっ!?」
「そこ足元危ないから気をつけて……って言おうとしたのに」
転びそうになる菫の手を取り、なめらかな下りの道を二人で歩いて行きます。
向こうに鮮やかな青の海が見えました。
菫は壁に寄りかかりながら私が荷物をまとめているのを眺めていました。
と言っても大した量ではありません。
荷造りはすぐに終わりました。
「……もういいの?」
「ええ……行きましょう」
私は荷物を持ってホテルから出ました。
ふと振り返って見上げてみると、最初にここへ来た時の景観のひどさを思い出して一人で笑ってしまいました。
みんなで掃除をして綺麗にはしたけれど、建物全体のどうしようもない古さは何も変わっていません。
しかし今はこのかび臭いホテルをどこか愛おしく感じるのでした。
「きゃっ!?」
「そこ足元危ないから気をつけて……って言おうとしたのに」
転びそうになる菫の手を取り、なめらかな下りの道を二人で歩いて行きます。
向こうに鮮やかな青の海が見えました。
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:35:16.57 ID:ttMVa8Eao
……ここで暮らし、ここで働いてきた日々は私にとってかけがえの無い経験になりました。
友達と呼べるような人も出来ました。
けれど、私には帰る場所がある。
お互いに手を取り、支え合って生きていきたいと思える大切な人がいる。
だから私はこの『さいはてのカフェ』をひとかけらの思い出にして胸の奥に仕舞っておくことにしたのです。
これは決して悲しい別れではありません。
むしろ素敵な事なのだと私は気付かされました。
しかしその事に気が付かず、傷ついたままの人がここにはまだ居る。
私はどうしてもその人に自分の思いを伝えなくてはいけないと思いました。
「菫、先に行っててくれる?」
「どうかしたの? 忘れもの?」
「まあ、そんなところ」
カフェの前にはきっと唯ちゃんたちが待っていて、私たちを見送ろうとしているに違いありません。
けれど、おそらくそこに梓ちゃんは居ないでしょう。
不思議とそんな確信がありました。
友達と呼べるような人も出来ました。
けれど、私には帰る場所がある。
お互いに手を取り、支え合って生きていきたいと思える大切な人がいる。
だから私はこの『さいはてのカフェ』をひとかけらの思い出にして胸の奥に仕舞っておくことにしたのです。
これは決して悲しい別れではありません。
むしろ素敵な事なのだと私は気付かされました。
しかしその事に気が付かず、傷ついたままの人がここにはまだ居る。
私はどうしてもその人に自分の思いを伝えなくてはいけないと思いました。
「菫、先に行っててくれる?」
「どうかしたの? 忘れもの?」
「まあ、そんなところ」
カフェの前にはきっと唯ちゃんたちが待っていて、私たちを見送ろうとしているに違いありません。
けれど、おそらくそこに梓ちゃんは居ないでしょう。
不思議とそんな確信がありました。
59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:35:51.19 ID:ttMVa8Eao
……梓ちゃんは厨房にいました。
なにやら忙しそうにシンクを洗ったりレジの帳簿を確認したりしています。
私が裏口から入って来たのも気が付いていないようでした。
「梓ちゃん」
声をかけるとびっくりしたように振り返って、それからまたいつものように顔をしかめてふいと視線を逸らすのでした。
「まだ帰ってなかったんですか」
「うん……梓ちゃんにきちんとお別れ言ってなかったから」
「そんなのいらないです。客が帰るのをいちいち気にしてたら仕事になりませんから」
「じゃあどうしてそんなに寂しい顔をしているの?」
梓ちゃんはふと作業していた手を止めて私の方を振り向きました。
「……あなたがこの店に来たせいで」
苦々しく、それでいて切ないような瞳をまっすぐに私に向けて、小さく呟きました。
なにやら忙しそうにシンクを洗ったりレジの帳簿を確認したりしています。
私が裏口から入って来たのも気が付いていないようでした。
「梓ちゃん」
声をかけるとびっくりしたように振り返って、それからまたいつものように顔をしかめてふいと視線を逸らすのでした。
「まだ帰ってなかったんですか」
「うん……梓ちゃんにきちんとお別れ言ってなかったから」
「そんなのいらないです。客が帰るのをいちいち気にしてたら仕事になりませんから」
「じゃあどうしてそんなに寂しい顔をしているの?」
梓ちゃんはふと作業していた手を止めて私の方を振り向きました。
「……あなたがこの店に来たせいで」
苦々しく、それでいて切ないような瞳をまっすぐに私に向けて、小さく呟きました。
60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:36:33.48 ID:ttMVa8Eao
「あなたが来て店を掃除したせいで、汚しちゃいけないって余計な気を使う羽目になりました。おかげで居心地が悪いったらないです」
「……うん」
「ホテルまで綺麗にして、誰がそれを維持しなくちゃいけないと思ってるんですか」
「…………」
「こんなしょぼい店で紅茶なんて、身の丈に合わない事をしたせいで大勢お客が来て迷惑なんですよ。無駄に忙しくなっただけじゃないですか」
「…………」
「そのくせ律先輩も澪先輩も自分のやりたい事を見つけたとか言って全然手伝わなくなったし」
「…………」
「挙句の果てにはあなたまで居なくなって、そしたら誰が紅茶を店に出すんですか? お客さんが減ったらどう責任取るんですか?」
「…………」
「みんなそうやって私の元から離れていく……あなたも、憂も、みんな」
「それは違うわ」
「何も違くないです」
「梓ちゃんは気づいてないだけなの。自分のせいだって思いつめて、後悔して、殻に閉じこもってる」
「…………」
「梓ちゃんは変われるのよ。前に進もうと思えば出来るはずなの。りっちゃんや澪ちゃんが変わる事ができたように。そして、唯ちゃんも憂ちゃんもずっとそれを待ってる」
「…………」
「私にとっての菫が帰るべき場所であるように、憂ちゃんもきっと梓ちゃんの元に戻ってくるわ」
「……でも」
梓ちゃんが反論しようとするのを遮って、私は言いました。
「約束しましょう。私はいつか必ずここに戻ってきます」
「……うん」
「ホテルまで綺麗にして、誰がそれを維持しなくちゃいけないと思ってるんですか」
「…………」
「こんなしょぼい店で紅茶なんて、身の丈に合わない事をしたせいで大勢お客が来て迷惑なんですよ。無駄に忙しくなっただけじゃないですか」
「…………」
「そのくせ律先輩も澪先輩も自分のやりたい事を見つけたとか言って全然手伝わなくなったし」
「…………」
「挙句の果てにはあなたまで居なくなって、そしたら誰が紅茶を店に出すんですか? お客さんが減ったらどう責任取るんですか?」
「…………」
「みんなそうやって私の元から離れていく……あなたも、憂も、みんな」
「それは違うわ」
「何も違くないです」
「梓ちゃんは気づいてないだけなの。自分のせいだって思いつめて、後悔して、殻に閉じこもってる」
「…………」
「梓ちゃんは変われるのよ。前に進もうと思えば出来るはずなの。りっちゃんや澪ちゃんが変わる事ができたように。そして、唯ちゃんも憂ちゃんもずっとそれを待ってる」
「…………」
「私にとっての菫が帰るべき場所であるように、憂ちゃんもきっと梓ちゃんの元に戻ってくるわ」
「……でも」
梓ちゃんが反論しようとするのを遮って、私は言いました。
「約束しましょう。私はいつか必ずここに戻ってきます」
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:37:09.32 ID:ttMVa8Eao
「その代わり梓ちゃんも音楽を続けて欲しいの。きっとみんな喜んでくれるわ」
「……そんなの……誰も私の音楽なんて……」
梓ちゃんは急に弱弱しくなり今にも泣き出しそうな声で呟きました。
「私は梓ちゃんの音楽をもっと聴きたい。誰のためでなくてもいい、ただ私のために続けて欲しいの……だって私は梓ちゃんのファンだから」
「………」
それだけ言い終わると、私はじっと彼女の返事を待ちました。
そして不意に梓ちゃんが呆れたような笑みを口元に浮かべて、
「どこまでお人好しでお節介焼きなんですか、あなたは」
「…………」
「一方的に約束を突きつけられて、ハイそうですかと納得できるわけないじゃないですか」
「…………」
「……条件があります」
「条件?」
彼女の表情は吹っ切れたように晴れやかでした。
「約束は守ります。だから、あなたが戻ってきたら私に紅茶の淹れ方を教えてください」
私は満面の笑みで「うんっ!」と頷きました。
それから私と梓ちゃんはお互いに別れを告げ、唯ちゃんたちに見送られながら『さいはてのカフェ』をあとにするのでした。……
「……そんなの……誰も私の音楽なんて……」
梓ちゃんは急に弱弱しくなり今にも泣き出しそうな声で呟きました。
「私は梓ちゃんの音楽をもっと聴きたい。誰のためでなくてもいい、ただ私のために続けて欲しいの……だって私は梓ちゃんのファンだから」
「………」
それだけ言い終わると、私はじっと彼女の返事を待ちました。
そして不意に梓ちゃんが呆れたような笑みを口元に浮かべて、
「どこまでお人好しでお節介焼きなんですか、あなたは」
「…………」
「一方的に約束を突きつけられて、ハイそうですかと納得できるわけないじゃないですか」
「…………」
「……条件があります」
「条件?」
彼女の表情は吹っ切れたように晴れやかでした。
「約束は守ります。だから、あなたが戻ってきたら私に紅茶の淹れ方を教えてください」
私は満面の笑みで「うんっ!」と頷きました。
それから私と梓ちゃんはお互いに別れを告げ、唯ちゃんたちに見送られながら『さいはてのカフェ』をあとにするのでした。……
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:37:46.91 ID:ttMVa8Eao
…………。
……――潮風が心地良い沿岸を駅に向かって歩いていました。
まるで夢の世界の出口のように、行く手に紫陽花たちが群がっています。
ふと、もしかしたら本当に夢だったのかも、なんて考えて来た道を振り返ってみると『さいはてのカフェ』はもうすっかり遠くになって見えなくなっているのでした。
「どうしたの?」
突然立ち止まった私を見て菫が尋ねました。
「……ううん、なんでもない」
菫の手を握って、私は歩き出す。
あの日ひとりぼっちで歩いた道を、今は二人で歩いている。
それなのにこの泣きたくなるような胸のざわめきは何故でしょう。
思い返せば、あっという間の日々でした。
長いようで短かった旅。
しかし私の出会いの物語はまだ終わりではありません。
今は別れの時かもしれないけれど、いつかきっと私はここへ戻ってくる。
この海の見える町で、もう一度あの演奏を聴くために。
私の、もうひとつの帰る場所のために。
だから私は、この切ない気持ちだけは思い出にしないでおこうと心に決めて、歩き続けるのでした。
~ Fin.
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:38:56.83 ID:ttMVa8Eao
――――――
――――
――
私は読み終えた本をパタンと閉じて、窓の外の夜をぼうっと見上げました。
……澪ちゃんったら、まるで梓ちゃんがその曲を作ったみたいじゃない。
確かに梓ちゃんは私に曲を弾いてくれはしたけれど、それは元々ある映画の劇伴で……なんて、どうして私が言い訳みたいな事を考えているのかしら。
私は懐かしさと一緒に思わず「ふふふ」と笑いを洩らすのでした。
小説と一緒に送られてきた手紙によると、売れ行きはまあまあのようです。
私としてはちょっと恥ずかしい気持ちもあるけれど、これで澪ちゃんも一端の小説家として活躍できるなら気分も良いというものです。
それから、りっちゃんも無事就職できたとの事でした。
就職祝いに騒ぎすぎて梓ちゃんに怒られた、なんてエピソードも手紙に書いてありました。
澪ちゃんの呆れて突き放したような文章が妙に面白くて、そこだけ何度も読み返したりしました。
そして、手紙の最後のこんな一言が、私の心をざわざわと駆り立てるのでした。
『追伸:憂ちゃんが戻ってきました』
澪ちゃんも意地悪です。
こんな風に書かれたら、否が応でもその顛末を知りたくなってしまうではありませんか。
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:39:42.25 ID:ttMVa8Eao
私はカレンダーを見て、次の休暇があと何日後になるか数えました。
しかしどう見積もっても数週間は先になりそうです。
それだけ私のこちらでの生活は多忙でした。
せわしない社交界の暮らしも嫌いではないけれど、この本と手紙を読んでしまうと、あの奇妙に楽しい日々のことが思い出されて居ても立ってもいられなくなります。
そうして何度も手紙を読み返しているうちに私はとうとう我慢できなくなり、
「菫! 菫はどこ?」
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「あっ、居た居た。あのね、明日なんだけど……」
私はこそこそと辺りを憚るように相談します。
菫は私の無茶な要求を黙って聞いてくれました。
「……分かりました。なんとかしてみます」
「本当? 大丈夫?」
提案した私が言うのもなんですが、丸二日スケジュールを空けられるほどの余裕なんて無いはずなのです。
しかし菫はやけに自信満々といった様子でした。
「もしダメだったら、その時は二人でこっそり抜け出せばいいんです。……もちろん怒られる時はお姉ちゃんも一緒だからね」
そう言っていたずらに舌をペロっと出すのでした。
なんて大胆な計画。
でも、なんだか楽しそう。
私はそれから菫と一緒に明日の計画を練りました。
唯ちゃんは元気にしてるかな。
憂ちゃんってどんな子なんだろう。
りっちゃんはお仕事で忙しかったりするのかな。
澪ちゃんの書斎に遊びに行くのもいいかも。
梓ちゃん、音楽をちゃんと続けてくれてるよね。
それから、カフェへ行ったらあの美味しいカルボナーラを菫にも食べさせてあげなきゃ。
そしてみんなで期間限定メニューを注文しよう。
梓ちゃんと一緒に淹れた紅茶を、みんなで。
しかしどう見積もっても数週間は先になりそうです。
それだけ私のこちらでの生活は多忙でした。
せわしない社交界の暮らしも嫌いではないけれど、この本と手紙を読んでしまうと、あの奇妙に楽しい日々のことが思い出されて居ても立ってもいられなくなります。
そうして何度も手紙を読み返しているうちに私はとうとう我慢できなくなり、
「菫! 菫はどこ?」
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「あっ、居た居た。あのね、明日なんだけど……」
私はこそこそと辺りを憚るように相談します。
菫は私の無茶な要求を黙って聞いてくれました。
「……分かりました。なんとかしてみます」
「本当? 大丈夫?」
提案した私が言うのもなんですが、丸二日スケジュールを空けられるほどの余裕なんて無いはずなのです。
しかし菫はやけに自信満々といった様子でした。
「もしダメだったら、その時は二人でこっそり抜け出せばいいんです。……もちろん怒られる時はお姉ちゃんも一緒だからね」
そう言っていたずらに舌をペロっと出すのでした。
なんて大胆な計画。
でも、なんだか楽しそう。
私はそれから菫と一緒に明日の計画を練りました。
唯ちゃんは元気にしてるかな。
憂ちゃんってどんな子なんだろう。
りっちゃんはお仕事で忙しかったりするのかな。
澪ちゃんの書斎に遊びに行くのもいいかも。
梓ちゃん、音楽をちゃんと続けてくれてるよね。
それから、カフェへ行ったらあの美味しいカルボナーラを菫にも食べさせてあげなきゃ。
そしてみんなで期間限定メニューを注文しよう。
梓ちゃんと一緒に淹れた紅茶を、みんなで。
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 12:42:41.38 ID:ttMVa8Eao
おわり
ムギちゃん誕生日おめでとおおおおお
ムギちゃん誕生日おめでとおおおおお
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 13:02:28.81 ID:ttMVa8Eao
一応、元ネタを紹介しておきます
といっても分かる人なら紹介するまでもなくピンとくると思いますが…
次レス反転↓
といっても分かる人なら紹介するまでもなくピンとくると思いますが…
次レス反転↓
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 13:03:08.84 ID:ttMVa8Eao
元ネタはミニシアター系映画の傑作「バグダッドカフェ」です
もっと言うと、バグダッドカフェを元ネタにしたアニメ戦国コレクション第7話の方が内容的には近いです
タイトルはジブリの「魔女の宅急便」から(あんまり内容と関係ないですが)
もっと言うと、バグダッドカフェを元ネタにしたアニメ戦国コレクション第7話の方が内容的には近いです
タイトルはジブリの「魔女の宅急便」から(あんまり内容と関係ないですが)
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/02(土) 13:56:15.28 ID:45Yg7lHSO
けいおんSSとは珍しい
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467391888/
Entry ⇒ 2016.07.04 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
俺「あずにゃん焼きそばパン買ってこいよ^^」あずにゃん「はいです!」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 14:54:10.91 ID:eKqRdRa1O
俺「オラッ」ドゴォ
あずにゃん「ぐはっ...う...」
俺「はいですって何^^;敬語も使えないの^^?」
あずにゃん「ご...ごめんな」
俺「オ~ラッ!!!」ドッゴォ
あずにゃん「うぐっ!」
俺「すみませんでしょ^^;」
あずにゃん「す、すみません...」
俺「2秒以内に焼きそばパン買ってきてよ^^」
あずにゃん「2秒...?」
俺「い~ち、に~、はい終了~^^」
あずにゃん「そ、そんな...」
俺「お仕置きだよ~^^」ガッ ググググ
あずにゃん「あ...かっ...かはっ...」
あずにゃん「ぐはっ...う...」
俺「はいですって何^^;敬語も使えないの^^?」
あずにゃん「ご...ごめんな」
俺「オ~ラッ!!!」ドッゴォ
あずにゃん「うぐっ!」
俺「すみませんでしょ^^;」
あずにゃん「す、すみません...」
俺「2秒以内に焼きそばパン買ってきてよ^^」
あずにゃん「2秒...?」
俺「い~ち、に~、はい終了~^^」
あずにゃん「そ、そんな...」
俺「お仕置きだよ~^^」ガッ ググググ
あずにゃん「あ...かっ...かはっ...」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 14:55:05.24 ID:eKqRdRa1O
トテテテテテ
俺「やべっ^^;」ポイッ
あずにゃん「ぐはっ!」ドンガラガッシャ-ン
唯「ギー太ギー太~♪」ガチャ
俺「梓ちゃん!大丈夫!?!?」
唯「あずにゃん!どうしたの!?」
俺「足を滑らせて転んじゃったみたいです」
唯「あずにゃん大丈夫??」
あずにゃん「ゆ...ゆいせんぱ...たすけ「唯先輩!!!」
唯「ほぇ?」
俺「今からあずにゃんに大切な話があるので少し席を外してもらえませんか?」
唯「ありゃ?それじゃお邪魔虫は退散するねぇ~♪んふふ♪」トテテテテ
俺「やべっ^^;」ポイッ
あずにゃん「ぐはっ!」ドンガラガッシャ-ン
唯「ギー太ギー太~♪」ガチャ
俺「梓ちゃん!大丈夫!?!?」
唯「あずにゃん!どうしたの!?」
俺「足を滑らせて転んじゃったみたいです」
唯「あずにゃん大丈夫??」
あずにゃん「ゆ...ゆいせんぱ...たすけ「唯先輩!!!」
唯「ほぇ?」
俺「今からあずにゃんに大切な話があるので少し席を外してもらえませんか?」
唯「ありゃ?それじゃお邪魔虫は退散するねぇ~♪んふふ♪」トテテテテ
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 14:55:48.85 ID:eKqRdRa1O
ガチャ
俺「...」
あずにゃん「...」
俺「^^」
あずにゃん「ヒッ...」
俺「今日さぁ、あずにゃんにお弁当作ってきたんだ^^」
あずにゃん「えっ...?」
俺「食べてくれるよね^^?」
あずにゃん「えっいやっ...」
俺「食べてくれるよね^^?」
あずにゃん「食べます...」
俺「じゃあ、どうぞ」スッ
俺「...」
あずにゃん「...」
俺「^^」
あずにゃん「ヒッ...」
俺「今日さぁ、あずにゃんにお弁当作ってきたんだ^^」
あずにゃん「えっ...?」
俺「食べてくれるよね^^?」
あずにゃん「えっいやっ...」
俺「食べてくれるよね^^?」
あずにゃん「食べます...」
俺「じゃあ、どうぞ」スッ
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 14:56:40.54 ID:eKqRdRa1O
あずにゃん「(見た目は普通だ...)」
俺「召し上がれ^^」
あずにゃん「頂きます...」パクッ モグモグ
あずにゃん「(あれ?美味しい...)」モグモグ
俺「美味しい^^?」
あずにゃん「美味しいです...」モグモグ
俺「そっか^^」
あずにゃん「ごちそうさまでした...」
俺「お腹いっぱい?」
あずにゃん「はい...」
俺「よし来たァ!!」ドッゴォ
あずにゃん「うっぐ...」
俺「出せ出せ出せェ!!」ドゴゴゴゴッ
あずにゃん「う...げえええええぇぇ」ビチャビチャ
俺「あらら...もどしちゃったね...^^;」
あずにゃん「わ、私になんの恨みが...」
俺「恨み?そんなもの無いよ^^?」
あずにゃん「じゃあ...どうして......」
俺「自分のゲロをよく見てごらん^^」
俺「召し上がれ^^」
あずにゃん「頂きます...」パクッ モグモグ
あずにゃん「(あれ?美味しい...)」モグモグ
俺「美味しい^^?」
あずにゃん「美味しいです...」モグモグ
俺「そっか^^」
あずにゃん「ごちそうさまでした...」
俺「お腹いっぱい?」
あずにゃん「はい...」
俺「よし来たァ!!」ドッゴォ
あずにゃん「うっぐ...」
俺「出せ出せ出せェ!!」ドゴゴゴゴッ
あずにゃん「う...げえええええぇぇ」ビチャビチャ
俺「あらら...もどしちゃったね...^^;」
あずにゃん「わ、私になんの恨みが...」
俺「恨み?そんなもの無いよ^^?」
あずにゃん「じゃあ...どうして......」
俺「自分のゲロをよく見てごらん^^」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 14:57:19.37 ID:eKqRdRa1O
あずにゃん「...?これは...指輪......?」
俺「中野梓さん、ずっと好きでした。俺と結婚してください。」
あずにゃん「え...え...あれ......」ポロポロ
俺「俺、医学部の推薦貰えたんだ。梓を幸せにするために必死に頑張った。絶対幸せにしてみせる。」
あずにゃん「......」ポロポロ
俺「俺不器用だからこんなやり方でしかプロポーズできなかったけど、本気で梓のことを愛してる。」
俺「梓が高校卒業するまで待ってる。結婚しよう。」
あずにゃん「はい...はい...」ポロポロ
こうして二人はあずにゃんの卒業を機に結婚し、末長く幸せに暮らしました
HAPPY END
俺「中野梓さん、ずっと好きでした。俺と結婚してください。」
あずにゃん「え...え...あれ......」ポロポロ
俺「俺、医学部の推薦貰えたんだ。梓を幸せにするために必死に頑張った。絶対幸せにしてみせる。」
あずにゃん「......」ポロポロ
俺「俺不器用だからこんなやり方でしかプロポーズできなかったけど、本気で梓のことを愛してる。」
俺「梓が高校卒業するまで待ってる。結婚しよう。」
あずにゃん「はい...はい...」ポロポロ
こうして二人はあずにゃんの卒業を機に結婚し、末長く幸せに暮らしました
HAPPY END
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 14:57:23.76 ID:m05tx6ISO
やめてくださいしんでしまいます
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/25(土) 15:45:10.28 ID:/dHNiq0t0
どういうことなのww
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466834050/
Entry ⇒ 2016.06.28 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
唯「天使再来襲」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:43:03.19 ID:skFt6CMPo
けいおんのSSです
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:44:18.60 ID:skFt6CMPo
1
バリケードに最後の思い出をむりやり押し込むと、やるべきことはなにもなくなってしまった。
通学カバン、机が4つに椅子が6つ、オルガン、ソファー、譜面台、動物の着ぐるみ、さわちゃんが集めてきた服たち、ホワイトボード、食器棚、ティーカップ。
引っ越しの時みたいに部屋は空っぽで、ほこりやちりが舞っていた。夕暮れできらめく。
残ってるのは、ドラムス、ベース、ギターがふたつに、キーボード。
でも今はちょっと演奏するような気分じゃない。
りっちゃんが、部屋の真ん中にぺたりと座り込んで言った。
「だけどなんで気づけなかったんだ?」
誰もなにも答えなかった。
みんなが疲れていた。
ムギちゃんは落ち着かなそうにあたりを歩き回り、わたしはバリケードの横に立って、てっぺんから何かがすべり落ちるたびそれを拾ってまた一番上にのせていた。澪ちゃんは西側の窓の下に座り込み目をつぶっていた。
プールの底に背中をくっつけてゆがんだ空を眺めているときみたいに、時間の流れが遅く感じられた。
鳥の声やサイレンの響きやソフトボール部のかけ声が遠く聞こえる。
塩素まみれの生ぬるい水がオレンジ色に揺れている。
やがて天使がやってきて、扉をノックした。
こん。こん。こぉぉん。
みんな動かなかった。
音が鳴るたびにちょっと震えて、緊張。
だるまさんがころんだで鬼がふりむく瞬間の感じ。そうじゃなかったら、ノックの音が金槌でくぎを打つ音でそれが少しずつわたしたちの身体に刺さって動けなくなるみたいな。
こん。こん。こぉぉん。
こん。こん。こぉぉん……。
しばらくすると音がやんだ。
ばさばさばさっ、って鳥が羽ばたき立つみたいな音。
扉が揺れた。
その隙間から一枚の天使の羽が落ちてきた。
箒の柄みたいに長い軸に、白くてふわふわした綿うさぎの毛が生えている。
大きな羽だった。
いつのまにか音は聞こえなくなっていた。
天使はどこかへ行ってしまったようだった。
バリケードに最後の思い出をむりやり押し込むと、やるべきことはなにもなくなってしまった。
通学カバン、机が4つに椅子が6つ、オルガン、ソファー、譜面台、動物の着ぐるみ、さわちゃんが集めてきた服たち、ホワイトボード、食器棚、ティーカップ。
引っ越しの時みたいに部屋は空っぽで、ほこりやちりが舞っていた。夕暮れできらめく。
残ってるのは、ドラムス、ベース、ギターがふたつに、キーボード。
でも今はちょっと演奏するような気分じゃない。
りっちゃんが、部屋の真ん中にぺたりと座り込んで言った。
「だけどなんで気づけなかったんだ?」
誰もなにも答えなかった。
みんなが疲れていた。
ムギちゃんは落ち着かなそうにあたりを歩き回り、わたしはバリケードの横に立って、てっぺんから何かがすべり落ちるたびそれを拾ってまた一番上にのせていた。澪ちゃんは西側の窓の下に座り込み目をつぶっていた。
プールの底に背中をくっつけてゆがんだ空を眺めているときみたいに、時間の流れが遅く感じられた。
鳥の声やサイレンの響きやソフトボール部のかけ声が遠く聞こえる。
塩素まみれの生ぬるい水がオレンジ色に揺れている。
やがて天使がやってきて、扉をノックした。
こん。こん。こぉぉん。
みんな動かなかった。
音が鳴るたびにちょっと震えて、緊張。
だるまさんがころんだで鬼がふりむく瞬間の感じ。そうじゃなかったら、ノックの音が金槌でくぎを打つ音でそれが少しずつわたしたちの身体に刺さって動けなくなるみたいな。
こん。こん。こぉぉん。
こん。こん。こぉぉん……。
しばらくすると音がやんだ。
ばさばさばさっ、って鳥が羽ばたき立つみたいな音。
扉が揺れた。
その隙間から一枚の天使の羽が落ちてきた。
箒の柄みたいに長い軸に、白くてふわふわした綿うさぎの毛が生えている。
大きな羽だった。
いつのまにか音は聞こえなくなっていた。
天使はどこかへ行ってしまったようだった。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:44:58.48 ID:skFt6CMPo
「わたし様子を見てこようかしら」
しばらくあとでムギちゃんが言った。
もちろん残りの3人の頭の中には、ホラー映画なんかだとそうやってひとりで動く子はたいてい殺されちゃうんだよねっていう冗談の結句は浮かんでいたけど、やっぱりみんな黙っていた。
ムギちゃんは、はあ、とため息をついた。
ちょっとかわいそうだった。
「ねえ、そろそろわたし帰らないと。お母様に怒られちゃうわ」
ムギちゃんの家は大金持ちだった。大金持ちの子供はほかの子供たちよりもその分多くの愛情を注がれている。過保護なくらいに。
ムギちゃんは申し訳なさそうな顔してた。
「帰るか」
澪ちゃんが言った。
窓から外をのぞくと、すでに天使たちが降りはじめているようだった。
グラウンドには、下校する生徒の姿に混じって、地面に落ちた天使たちの白い粒が見える。
サッカー部とソフトボール部はまだミニゲームを続けていた。
多少天使が降ったくらいじゃ休みになんないとこがソフトボールのやなとこだよね。いつか隣の席の姫ちゃんがそう言ってた。
日は沈み、闇がゆっくり落ちてきた。
夜は天使たちの時間だった。
しばらくあとでムギちゃんが言った。
もちろん残りの3人の頭の中には、ホラー映画なんかだとそうやってひとりで動く子はたいてい殺されちゃうんだよねっていう冗談の結句は浮かんでいたけど、やっぱりみんな黙っていた。
ムギちゃんは、はあ、とため息をついた。
ちょっとかわいそうだった。
「ねえ、そろそろわたし帰らないと。お母様に怒られちゃうわ」
ムギちゃんの家は大金持ちだった。大金持ちの子供はほかの子供たちよりもその分多くの愛情を注がれている。過保護なくらいに。
ムギちゃんは申し訳なさそうな顔してた。
「帰るか」
澪ちゃんが言った。
窓から外をのぞくと、すでに天使たちが降りはじめているようだった。
グラウンドには、下校する生徒の姿に混じって、地面に落ちた天使たちの白い粒が見える。
サッカー部とソフトボール部はまだミニゲームを続けていた。
多少天使が降ったくらいじゃ休みになんないとこがソフトボールのやなとこだよね。いつか隣の席の姫ちゃんがそう言ってた。
日は沈み、闇がゆっくり落ちてきた。
夜は天使たちの時間だった。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:45:46.59 ID:skFt6CMPo
2
わたしたちはあずにゃんだけを残して卒業しようとしたので、悲しんだあずにゃんは時間を凍結してしまった。
あずにゃんはわたしたちにとって天使だった。
それはたったひとりの後輩だったってことで、わたしたちはあずにゃんにやさしくして、いろんなことを教えて、特別な名前を付けて、とっても大事に扱った。まるで天使みたいだって感じに。
そして卒業した。
両腕で抱えきれないほどたくさんの贈り物を、わたしたちはあずにゃんに与えて、その贈り物からなる山岳のてっぺんに卒業を載せた。わたしたちのあずにゃんへの特別な愛は、最後にあずにゃんをひとり部室に取り残すという形で完成した。結局のところ先輩であるわたしが与えられる贈り物というのは、空っぽの部屋できれいに包装された箱の紐をほどいてはじめて贈り物たりうる、そういう類の贈り物でしかない。
生きるってことは時間を押し流すってことで、もちろんわたしたちは生きていて、だから卒業式もやってきて、けれど時間を凍結するというのは死によく似ていた。あずにゃんは死んだわけじゃないけどやっぱり死んだみたいな感じだった。
天使とは死者である。
というふうによく言われるのはちょっと間違っている。
天使とは永遠の時間に過ごすものであり、死とは時間の停止だった。その意味では死者も天使だったし、時間を凍結したあずにゃんもやっぱり同じ天使だった。
あずにゃんは、いまもよく降ってくることがあって、町中を、うろうろうろうろあてもなく歩き回り、それからふと思い立って羽を広げ、また空へと消えてしまう。
なんだかそういうのってゾンビみたいだとわたしは思う。
ゾンビは死んだ人だけど、映画とかでは蘇ったって言い方をときどきしてるから、はたしてゾンビは生きてるのか死んでるのかわたしにはよくわかんない。
運動するだけっていうだけで生きているって言えるなら、宇宙のなにもかもが生きている。
まあでも、とにかくそういうわけで、あずにゃん=ゾンビは永遠の17歳となり、そして再び天使になった。
わたしたちはあずにゃんだけを残して卒業しようとしたので、悲しんだあずにゃんは時間を凍結してしまった。
あずにゃんはわたしたちにとって天使だった。
それはたったひとりの後輩だったってことで、わたしたちはあずにゃんにやさしくして、いろんなことを教えて、特別な名前を付けて、とっても大事に扱った。まるで天使みたいだって感じに。
そして卒業した。
両腕で抱えきれないほどたくさんの贈り物を、わたしたちはあずにゃんに与えて、その贈り物からなる山岳のてっぺんに卒業を載せた。わたしたちのあずにゃんへの特別な愛は、最後にあずにゃんをひとり部室に取り残すという形で完成した。結局のところ先輩であるわたしが与えられる贈り物というのは、空っぽの部屋できれいに包装された箱の紐をほどいてはじめて贈り物たりうる、そういう類の贈り物でしかない。
生きるってことは時間を押し流すってことで、もちろんわたしたちは生きていて、だから卒業式もやってきて、けれど時間を凍結するというのは死によく似ていた。あずにゃんは死んだわけじゃないけどやっぱり死んだみたいな感じだった。
天使とは死者である。
というふうによく言われるのはちょっと間違っている。
天使とは永遠の時間に過ごすものであり、死とは時間の停止だった。その意味では死者も天使だったし、時間を凍結したあずにゃんもやっぱり同じ天使だった。
あずにゃんは、いまもよく降ってくることがあって、町中を、うろうろうろうろあてもなく歩き回り、それからふと思い立って羽を広げ、また空へと消えてしまう。
なんだかそういうのってゾンビみたいだとわたしは思う。
ゾンビは死んだ人だけど、映画とかでは蘇ったって言い方をときどきしてるから、はたしてゾンビは生きてるのか死んでるのかわたしにはよくわかんない。
運動するだけっていうだけで生きているって言えるなら、宇宙のなにもかもが生きている。
まあでも、とにかくそういうわけで、あずにゃん=ゾンビは永遠の17歳となり、そして再び天使になった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:46:17.07 ID:skFt6CMPo
「だけどなんで気がつけなかったんだ?」
天使たちがはじめてこの町に降りはじめたとき、りっちゃんが部室で言ったのとまったく同じことを、人々は口にした。
屋根の先がとがった協会に通う人たちは、終末の予言は聖書にちゃんと書いてあるのになぜ気がつかなかったのかと言い、作家たちは、地が死者であふれかえりその結果死者たちが蘇る話は無数にあるのにどうしてそれがわからなかったのかと頭を抱え、環境主義者たちは、空気がそのうち死んだ人でいっぱいになってしまうのはわかっていたはずのことなのになぜなにもできなかったのかと嘆き、わたしたちは、いつか卒業したらあずにゃんはひとりになっちゃうって知ってたのにどうして知らないふりをしてたんだろうって考えた。
それはまとめていえば、こういうことだ。
あらゆる物事は必ず終わるのに、そしてそのことをいつでもわたしたちはよく知っているのに、それに気づかないふりをしていることを、なんで気がつかなかったんだろうってこと。
天使たちがはじめてこの町に降りはじめたとき、りっちゃんが部室で言ったのとまったく同じことを、人々は口にした。
屋根の先がとがった協会に通う人たちは、終末の予言は聖書にちゃんと書いてあるのになぜ気がつかなかったのかと言い、作家たちは、地が死者であふれかえりその結果死者たちが蘇る話は無数にあるのにどうしてそれがわからなかったのかと頭を抱え、環境主義者たちは、空気がそのうち死んだ人でいっぱいになってしまうのはわかっていたはずのことなのになぜなにもできなかったのかと嘆き、わたしたちは、いつか卒業したらあずにゃんはひとりになっちゃうって知ってたのにどうして知らないふりをしてたんだろうって考えた。
それはまとめていえば、こういうことだ。
あらゆる物事は必ず終わるのに、そしてそのことをいつでもわたしたちはよく知っているのに、それに気づかないふりをしていることを、なんで気がつかなかったんだろうってこと。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:46:45.63 ID:skFt6CMPo
3
部室から出て学校をあとにすると、天使たちが降っていた。
天使たちは天国からそれぞれちがった格好で落ちてくる。
気を付けの姿勢で落ちてくるものいれば、体育座りしているものもいて、天使のくせに涅槃の格好もするし座禅だって組む、セクシーなポーズをとってることとか、羽があるのに手をぱたぱた振っていることもあって、なかには頭から落ちてくるのもいる。
その多様さはまるで、天上でなにか別のことをしているときに急に誰かに突き落とされちゃいましたって感じだけど、ちゃんと途中で羽をパラシュートらしく開いて降ってくる天使もいるのだから、やっぱり自分で選んでそうしているんだろうなと思う。
そのあと天使たちは地面に激突し、潰れる。
どさりって音がする。
ワンピースをびしょびしょに濡らして、高くつりあげて、落とすみたいな。
でも潰れた天使についてはもっとずっといい比喩がある。
強化傘なんてものがなく、天啓を授けられたなんていう言い回しがまだ使われていて、天使に頭をぶつけて死んじゃったりする人がまだいた頃、わたしたちはいつもの4人で帰っていて、澪ちゃんの目の前にちょうど天使が落ちてきたことがあった。
それはひゅっと降ってきて、空と水平の姿勢をとってたから、地面に大の字にぺちゃんこになった。
天使の白い血があふれ出した。それはまるでサスペンス映画で死体から血液がじわじわと広がっていくあのシーンみたいだった。まだ乾ききっていない血はぬらぬらと新しい街灯の青い光を反射した。
なんだかちょっと甘そうだった。
澪ちゃんは気絶した。
澪ちゃんはオバケとかゆーれーとかゾンビとかそういうのがだめなのだ。
そのとき天使はどちらかっていえばそっち側だった。
わたしだって、目の前に来たらけっこうびびっちゃうかも。
ちょうど後ろにムギちゃんが立ってたから事なきを得たけど、すぐに意識を取り戻した澪ちゃんにりっちゃんが大丈夫かと聞くと、
「……ひきがえるの死体みたい」
って澪ちゃんが冗談みたいなことを言ったので、わたしたちはとっても笑ってしまった。
澪ちゃんほどじゃなくてもわたしたちにみんな天使にちょっと緊張してて、そんなときに澪ちゃんが変なこと言うもんだから、お腹を抱えてもう一生笑いが止まらないんじゃないってくらい笑ったのだ。
わたしは笑いすぎて道に座り込み、りっちゃんは隣にいたムギちゃんの背中をばんばん叩き、ムギちゃんもーー普段はそんなことしないのにーーりっちゃんの肩とか背中とか頭とかをかなり強く叩いてた。澪ちゃんは最初自分が馬鹿にされたのかと思ってちょっとむすっとしてたけどすぐに笑いに加わった。
わたしたちはそのまま、天使が歩き出しはじめるまで、ずっと笑い続けていた。
部室から出て学校をあとにすると、天使たちが降っていた。
天使たちは天国からそれぞれちがった格好で落ちてくる。
気を付けの姿勢で落ちてくるものいれば、体育座りしているものもいて、天使のくせに涅槃の格好もするし座禅だって組む、セクシーなポーズをとってることとか、羽があるのに手をぱたぱた振っていることもあって、なかには頭から落ちてくるのもいる。
その多様さはまるで、天上でなにか別のことをしているときに急に誰かに突き落とされちゃいましたって感じだけど、ちゃんと途中で羽をパラシュートらしく開いて降ってくる天使もいるのだから、やっぱり自分で選んでそうしているんだろうなと思う。
そのあと天使たちは地面に激突し、潰れる。
どさりって音がする。
ワンピースをびしょびしょに濡らして、高くつりあげて、落とすみたいな。
でも潰れた天使についてはもっとずっといい比喩がある。
強化傘なんてものがなく、天啓を授けられたなんていう言い回しがまだ使われていて、天使に頭をぶつけて死んじゃったりする人がまだいた頃、わたしたちはいつもの4人で帰っていて、澪ちゃんの目の前にちょうど天使が落ちてきたことがあった。
それはひゅっと降ってきて、空と水平の姿勢をとってたから、地面に大の字にぺちゃんこになった。
天使の白い血があふれ出した。それはまるでサスペンス映画で死体から血液がじわじわと広がっていくあのシーンみたいだった。まだ乾ききっていない血はぬらぬらと新しい街灯の青い光を反射した。
なんだかちょっと甘そうだった。
澪ちゃんは気絶した。
澪ちゃんはオバケとかゆーれーとかゾンビとかそういうのがだめなのだ。
そのとき天使はどちらかっていえばそっち側だった。
わたしだって、目の前に来たらけっこうびびっちゃうかも。
ちょうど後ろにムギちゃんが立ってたから事なきを得たけど、すぐに意識を取り戻した澪ちゃんにりっちゃんが大丈夫かと聞くと、
「……ひきがえるの死体みたい」
って澪ちゃんが冗談みたいなことを言ったので、わたしたちはとっても笑ってしまった。
澪ちゃんほどじゃなくてもわたしたちにみんな天使にちょっと緊張してて、そんなときに澪ちゃんが変なこと言うもんだから、お腹を抱えてもう一生笑いが止まらないんじゃないってくらい笑ったのだ。
わたしは笑いすぎて道に座り込み、りっちゃんは隣にいたムギちゃんの背中をばんばん叩き、ムギちゃんもーー普段はそんなことしないのにーーりっちゃんの肩とか背中とか頭とかをかなり強く叩いてた。澪ちゃんは最初自分が馬鹿にされたのかと思ってちょっとむすっとしてたけどすぐに笑いに加わった。
わたしたちはそのまま、天使が歩き出しはじめるまで、ずっと笑い続けていた。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:47:25.72 ID:skFt6CMPo
降ってきた天使たちは、しばらくそのまま地面に張りついているけど、やがて立ち上がり、歩き出す。
首はぐらぐら、手はぶらぶら、膝からは下はあらぬ方向に曲がってて、つま先は背中をむき、びっこを引いている。外から見ても骨がぐちゃぐちゃになってしまっているというのがよくわかる。
死人が痛みを感じないように、天使たちにも痛覚がないのだ。
わたしたちは強化傘を開いた。
それが蛍光灯よりもずっと白い色をしているのは、万が一天使がそこにぶつかってもその跡が目立たないようにするためだ。実際、町中の道路や屋根の上には、たくさんの天使の白い染みがこびりついていて、羽が秋の落ち葉のように舞っている。
天使の染みは鳥の糞によく似てた。
首はぐらぐら、手はぶらぶら、膝からは下はあらぬ方向に曲がってて、つま先は背中をむき、びっこを引いている。外から見ても骨がぐちゃぐちゃになってしまっているというのがよくわかる。
死人が痛みを感じないように、天使たちにも痛覚がないのだ。
わたしたちは強化傘を開いた。
それが蛍光灯よりもずっと白い色をしているのは、万が一天使がそこにぶつかってもその跡が目立たないようにするためだ。実際、町中の道路や屋根の上には、たくさんの天使の白い染みがこびりついていて、羽が秋の落ち葉のように舞っている。
天使の染みは鳥の糞によく似てた。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:47:57.90 ID:skFt6CMPo
「わたしアメリカに行くと思うのね」
帰り道、別れ際にムギちゃんが言った。
「アメリカ?」
「うん、そこに住むって決まったわけじゃないんだけど、海外の大学にね、進学するの」
「でも今すぐってわけじゃないんだろ?」
りっちゃんがあんまり気にしてない感じを出して言う。
「わかんない、でもならべくはやいうちにそうするって……」
「そう……」
沈黙。
天使の落ちてくる音がときどき、ぼとり……ぼとり。
こんなときになんて言ったらいいかわたしは知らなかった。
いつも気の利いたことを思いつくりっちゃんも、ときどきみんなをはっとさせる澪ちゃんもこんなときに使う言葉までは持ってない。
スカートのポケットに手を突っ込むと、そこにはきれいな石とかビー玉とか貝殻とかパチンコ玉とか、とにかくそういうがらくたがいっぱい入っていて、それをわたしはぎゅっと握りしめる。
どすん。
ちょうどりっちゃんの傘の上に天使が落ちた。
特殊フィラメント素材が衝撃を吸収し、そのエネルギーが変換されて、傘は光る。
みんな目をつぶった。
天使の光。
人工の。
だれかがつぶやく。
天啓。
天使は天使だけあって普通の人よりはずっと軽い。でもあんな高くから落ちてきたものに直撃するのはちょっと遠慮したい。
たまたま姿勢の問題で天使は傘からうまく滑り落ちず、りっちゃんはちょっといらついたみたいに傘を振った。
40代くらいの背の高い男の天使が道路にたたきつけられて、30メートルくらい向こうに跳ねた。
白がとんだ。
りっちゃんの顔にぶつかった。舌打ちした。
「どうせそれもこいつらのせいなんだ……」
帰り道、別れ際にムギちゃんが言った。
「アメリカ?」
「うん、そこに住むって決まったわけじゃないんだけど、海外の大学にね、進学するの」
「でも今すぐってわけじゃないんだろ?」
りっちゃんがあんまり気にしてない感じを出して言う。
「わかんない、でもならべくはやいうちにそうするって……」
「そう……」
沈黙。
天使の落ちてくる音がときどき、ぼとり……ぼとり。
こんなときになんて言ったらいいかわたしは知らなかった。
いつも気の利いたことを思いつくりっちゃんも、ときどきみんなをはっとさせる澪ちゃんもこんなときに使う言葉までは持ってない。
スカートのポケットに手を突っ込むと、そこにはきれいな石とかビー玉とか貝殻とかパチンコ玉とか、とにかくそういうがらくたがいっぱい入っていて、それをわたしはぎゅっと握りしめる。
どすん。
ちょうどりっちゃんの傘の上に天使が落ちた。
特殊フィラメント素材が衝撃を吸収し、そのエネルギーが変換されて、傘は光る。
みんな目をつぶった。
天使の光。
人工の。
だれかがつぶやく。
天啓。
天使は天使だけあって普通の人よりはずっと軽い。でもあんな高くから落ちてきたものに直撃するのはちょっと遠慮したい。
たまたま姿勢の問題で天使は傘からうまく滑り落ちず、りっちゃんはちょっといらついたみたいに傘を振った。
40代くらいの背の高い男の天使が道路にたたきつけられて、30メートルくらい向こうに跳ねた。
白がとんだ。
りっちゃんの顔にぶつかった。舌打ちした。
「どうせそれもこいつらのせいなんだ……」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:48:38.06 ID:skFt6CMPo
りっちゃんは天使が大嫌いだったのだ。
それはお父さんが、天使に頭をぶつけて死んだからなんだろうな。たぶん。
りっちゃんのお父さんは、天使が降りはじめた最初の日、駅で傘を広げた瞬間(雨が降ってたのだ)傘ごと押しつぶされて死んだ。傘の鉄骨は、りっちゃんのお父さんの骨とおんなじくらいぐにゃぐにゃに曲がっていた。
その日から、りっちゃんのお母さんはちょっと頭が変になって(天使が頭にかすったんだとりっちゃんは言う)それ以来《聖・天使教会》に通ってお祈りを続けている。《聖・天使教会》は天使が降りはじめてから現れた新興宗教団体で、天使を神様が人々を救うために地上に使わしたものだと解釈する。解釈の内容は(りっちゃんに聞いた話では)わりとこまごましているらしいけど、すべきことは単純明快で流れ星するみたいに天使にお願いごとをするのだ。どうして、りっちゃんのお母さんが天使を憎むんじゃなくて、代わりに崇めて大切にしてお祈りまでするようになったのか、わたしにはよくわからない。
そういうわけでりっちゃんの家にはいつも弟とりっちゃんのふたりしかいない。
そのおかげで、りっちゃんの家にみんなが夜遅く集合することなんかもよくあって、案外りっちゃんは平然としてるんだけど、でもなにからなにまで平気ではないんだろうなと思うし、実際りっちゃんは天使が嫌いで、あずにゃんのことも怒っていた。
天使になるなんてばかだし、あいつは、ばかだから天使になったんだ、とりっちゃんはよく言う。
でもそれは本心じゃなくて、むりやりお母さんに協会のお祈りに連れていかれるときなんかは、りっちゃんはあずにゃんが戻ってきてくれるようこっそりお願いしてるってこともみんなは知っている。
それはお父さんが、天使に頭をぶつけて死んだからなんだろうな。たぶん。
りっちゃんのお父さんは、天使が降りはじめた最初の日、駅で傘を広げた瞬間(雨が降ってたのだ)傘ごと押しつぶされて死んだ。傘の鉄骨は、りっちゃんのお父さんの骨とおんなじくらいぐにゃぐにゃに曲がっていた。
その日から、りっちゃんのお母さんはちょっと頭が変になって(天使が頭にかすったんだとりっちゃんは言う)それ以来《聖・天使教会》に通ってお祈りを続けている。《聖・天使教会》は天使が降りはじめてから現れた新興宗教団体で、天使を神様が人々を救うために地上に使わしたものだと解釈する。解釈の内容は(りっちゃんに聞いた話では)わりとこまごましているらしいけど、すべきことは単純明快で流れ星するみたいに天使にお願いごとをするのだ。どうして、りっちゃんのお母さんが天使を憎むんじゃなくて、代わりに崇めて大切にしてお祈りまでするようになったのか、わたしにはよくわからない。
そういうわけでりっちゃんの家にはいつも弟とりっちゃんのふたりしかいない。
そのおかげで、りっちゃんの家にみんなが夜遅く集合することなんかもよくあって、案外りっちゃんは平然としてるんだけど、でもなにからなにまで平気ではないんだろうなと思うし、実際りっちゃんは天使が嫌いで、あずにゃんのことも怒っていた。
天使になるなんてばかだし、あいつは、ばかだから天使になったんだ、とりっちゃんはよく言う。
でもそれは本心じゃなくて、むりやりお母さんに協会のお祈りに連れていかれるときなんかは、りっちゃんはあずにゃんが戻ってきてくれるようこっそりお願いしてるってこともみんなは知っている。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:49:24.48 ID:skFt6CMPo
「でもなんで急に?」
わたしは聞いてみた。
ムギちゃんが言った。
「お父様がね、この町は、きょー、いく、じょー、に悪いんだって」
ムギちゃんは冗談を言ったあと、いつでもちょっと申し訳なさそうな顔をする。だからムギちゃんのジョークでは誰も笑えたためしがないのだった。
「何でアメリカなんだ? 別荘があるの?」
「ううん、むこうに叔父さんがいるから、その家に居候させてもらうの」
homestay。
それっぽいけどほんとはぜんぜんそうじゃない発音でりっちゃんがつぶやいた。
「なにで行くの、アメリカ?」
「飛行機に決まってるだろー、ばか」
「うん、ひこーき」
「アメリカにも天使っているのか?」
「いないよ、日本だけだもん。りっちゃんニュース見てないの?」
「天使のことなんてどーでもいいしさあ、いいよなー天使のいない国って。天使がゾンビみたいにうろうろしてるのって最低」
また沈黙。
ちょっとあとで澪ちゃんが言った。
「空港には気をつけるんだぞ」
「空港に?」
「そうだ、あと一歩で逃げられるっていうところが一番危ないんだ。映画ではいつもそこで油断してやられちゃうんだよ」
澪ちゃんはとっても怖がりだけど、それゆえにホラー映画的窮地への対策をいつでも怠ってはいない。実は、ゾンビ映画や幽霊のでる映画、サスペンス映画とかをよく見ていて、研究してるのだ。
男の子がエッチなDVDにするみたいに、ベッドの下の衣装ケースにはたくさんの怖い映画が隠してあるのをわたしは知ってる。
「用心するにこしたことはないんだ。ゾンビが出たら、生きのびることができるのは必ずひとりだけなんだからな……」
澪ちゃんがそう言うと、急にまたみんな黙ってしまう。
それはまるで今なにかすっごく大事なこと言ったから、それをちゃんと頭の中にメモしておかなきゃ!っていう感じの沈黙だった。
わたしは聞いてみた。
ムギちゃんが言った。
「お父様がね、この町は、きょー、いく、じょー、に悪いんだって」
ムギちゃんは冗談を言ったあと、いつでもちょっと申し訳なさそうな顔をする。だからムギちゃんのジョークでは誰も笑えたためしがないのだった。
「何でアメリカなんだ? 別荘があるの?」
「ううん、むこうに叔父さんがいるから、その家に居候させてもらうの」
homestay。
それっぽいけどほんとはぜんぜんそうじゃない発音でりっちゃんがつぶやいた。
「なにで行くの、アメリカ?」
「飛行機に決まってるだろー、ばか」
「うん、ひこーき」
「アメリカにも天使っているのか?」
「いないよ、日本だけだもん。りっちゃんニュース見てないの?」
「天使のことなんてどーでもいいしさあ、いいよなー天使のいない国って。天使がゾンビみたいにうろうろしてるのって最低」
また沈黙。
ちょっとあとで澪ちゃんが言った。
「空港には気をつけるんだぞ」
「空港に?」
「そうだ、あと一歩で逃げられるっていうところが一番危ないんだ。映画ではいつもそこで油断してやられちゃうんだよ」
澪ちゃんはとっても怖がりだけど、それゆえにホラー映画的窮地への対策をいつでも怠ってはいない。実は、ゾンビ映画や幽霊のでる映画、サスペンス映画とかをよく見ていて、研究してるのだ。
男の子がエッチなDVDにするみたいに、ベッドの下の衣装ケースにはたくさんの怖い映画が隠してあるのをわたしは知ってる。
「用心するにこしたことはないんだ。ゾンビが出たら、生きのびることができるのは必ずひとりだけなんだからな……」
澪ちゃんがそう言うと、急にまたみんな黙ってしまう。
それはまるで今なにかすっごく大事なこと言ったから、それをちゃんと頭の中にメモしておかなきゃ!っていう感じの沈黙だった。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:50:08.47 ID:skFt6CMPo
「向こういったら、手紙、書くね」
ムギちゃんが言った。
「毎週書くよ、絶対」
それから、じゃあねって笑って、駅の方へ歩いていった。
背中がちょっと小さく見えた。
わたしはさよならを言いそびれてしまった。
帰り道、りっちゃんと澪ちゃんはさっそく、ムギちゃんのお別れパーティを盛大にやろうなという話をしていた。
ポケットの中のがらくたをわたしは未だに握りしめたままだった。何かとがった物が、指の間に刺さって痛い。
なんだか泣きそうだった。
みんながいつかはなればなれになってしまうという単純明快な事実は、天使の襲来という災難によって、より悲劇的になってるのかそれとも少しは気が紛れてるのか、わたしにはよくわからない。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:50:49.05 ID:skFt6CMPo
4
ひとりの天使が誰かの家をノックしていた。
りっちゃんたちと別れて、家までの最後の直線を早歩きであるいてたとき。
空には天国が浮かんでいる。
天国は幾何学的な途方もなく大きいひとつなぎの雲だった。でっかいはんぺんを浮かべたようなものって言う人もいるし、アルビノの女の子のお腹みたいだって言う人もいる。
こん。こん。こぉぉん。
静かな早夜の町に、天使の来襲音は遠くまで響く。
人々が玄関の戸締まりを確認しているようすがここまで伝わってくるような気がした。
鍵を開けておくと天使たちは家に入ってきてしまう。
ノックして誰も出てこないと。
誰も出てこないのに部屋の明かりがついていると。
別に天使たちの肩を持つわけじゃないんだけど、天使にだって悪気とかそんなにあるわけじゃないんだと思う。
ただ天使たちは人間に祝福を与えたいだけなのだ。
だけど問題は、それが人間にとってはもう必要ないものだってこと。
ずっと昔の、天使たちが再び現れるまで、図書館の端っこでほこりをかぶっていたこんなお話がある。
まだ天使と人間が共存していた時代、天使は人間にいくつものすばらしい知恵とものを授けた。
貝殻はお金で、鳥の羽は美しい装飾品で、知恵は財宝だった。
天使は人間に持てるものすべてを与え、人間たちもやがてほんのちょっとだけ進化した。その結果いつの間にか人間は天使より偉大になってしまった。100足す1は101であり、100より101のほうが少し大きい。なぜなら天使とは永遠であり、永遠に生きるの者の時はとどまり続ける。新しかったはずの知恵はやがてより複雑な叡智へと変化し、銀は安価で鋳造されお金は紙切れに取って代わり、人類は神様のおわします雲を突き破って月に立った。天使は永遠だったけど、完全じゃなかった。永遠に不完全だった。
そういうわけで、いまでは、天使の授けるものをありがたがるものは誰もいない。それはもうずっと昔に受け取られたものであり、過去の遺失物、がらくただったのだ。
再び地上に現れた天使は、ずっと昔人間が喜んで受け取ってくれた物を、いまでもおなじように与え続けようとしているのだ。
こう考えるとなんていうか天使たちもけっこうかわいそうっていうか、ちょっと悲劇的だな。
わたしはこういう話にかなり弱い。捨てられた子犬の話とか、「トイ・ストーリー」とか。
ひとりの天使が誰かの家をノックしていた。
りっちゃんたちと別れて、家までの最後の直線を早歩きであるいてたとき。
空には天国が浮かんでいる。
天国は幾何学的な途方もなく大きいひとつなぎの雲だった。でっかいはんぺんを浮かべたようなものって言う人もいるし、アルビノの女の子のお腹みたいだって言う人もいる。
こん。こん。こぉぉん。
静かな早夜の町に、天使の来襲音は遠くまで響く。
人々が玄関の戸締まりを確認しているようすがここまで伝わってくるような気がした。
鍵を開けておくと天使たちは家に入ってきてしまう。
ノックして誰も出てこないと。
誰も出てこないのに部屋の明かりがついていると。
別に天使たちの肩を持つわけじゃないんだけど、天使にだって悪気とかそんなにあるわけじゃないんだと思う。
ただ天使たちは人間に祝福を与えたいだけなのだ。
だけど問題は、それが人間にとってはもう必要ないものだってこと。
ずっと昔の、天使たちが再び現れるまで、図書館の端っこでほこりをかぶっていたこんなお話がある。
まだ天使と人間が共存していた時代、天使は人間にいくつものすばらしい知恵とものを授けた。
貝殻はお金で、鳥の羽は美しい装飾品で、知恵は財宝だった。
天使は人間に持てるものすべてを与え、人間たちもやがてほんのちょっとだけ進化した。その結果いつの間にか人間は天使より偉大になってしまった。100足す1は101であり、100より101のほうが少し大きい。なぜなら天使とは永遠であり、永遠に生きるの者の時はとどまり続ける。新しかったはずの知恵はやがてより複雑な叡智へと変化し、銀は安価で鋳造されお金は紙切れに取って代わり、人類は神様のおわします雲を突き破って月に立った。天使は永遠だったけど、完全じゃなかった。永遠に不完全だった。
そういうわけで、いまでは、天使の授けるものをありがたがるものは誰もいない。それはもうずっと昔に受け取られたものであり、過去の遺失物、がらくただったのだ。
再び地上に現れた天使は、ずっと昔人間が喜んで受け取ってくれた物を、いまでもおなじように与え続けようとしているのだ。
こう考えるとなんていうか天使たちもけっこうかわいそうっていうか、ちょっと悲劇的だな。
わたしはこういう話にかなり弱い。捨てられた子犬の話とか、「トイ・ストーリー」とか。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:51:37.96 ID:skFt6CMPo
さっきの天使が結局あの家を開けてもらえなかったんだろうか、わたしの方向に歩いてきた。
顔は右に75度曲がってて、腕はだらんと下に垂れ、背骨が折れてるんだろうかひどく猫背になっている。両足を背中側に投げ出して膝で進んでいるせいで、天使の衣装である長くて白い半透明のローブがずっと後ろから地面をひきずってついてくる。
新婦入場。じゃなきゃ、なめくじ。
珍しい光景じゃないけど実際ちょっとびびる。
天使がわたしの前でとまった。声には出さないけど、ひっ、って感じ。
食べないでくださいわたしはおいしくないですお腹が減ってるならおいしいともだち紹介します。
そして、天使は右手を差し出した。
そこには、ガラスのおはじきがふたつ赤と青、ピンクのプラ櫛、鳥の羽。
天啓。
顔あげて(ぎゅんって動く、わぁ)、わたしを見た。
言う。
「#▽∝♪※」
天使の言葉は人間にはわからないのだ。
もしも、りっちゃんだったらいますぐ傘を畳んてバットみたいにして天使をフルスイングしただろう。ほんとのとこそこまで暴力的じゃないとしても、つばくらいは吐きかけたかも。澪ちゃんなら悲鳴を上げて逃げだしただろうし、ムギちゃんは申し訳なさそうにごめんなさいって言ってそこをあとにしたと思う。あずにゃんは……まあ、あたえるほうだよね。
だけど、わたしはそれを受け取った。
ありがとうって言って笑う。天使がなにか天使の言葉で言って、それからくるりと背中を向けて、5ブロックくらい先に歩いていったあとに、突然羽を開いて宙に浮かんだ。
彼らは役目を終えると天に帰って行ってしまうのだ。
後に残されてしまったわたしは、手のひらのがらくたをじっと見つめたあと、制服のポケットにしまった。膨らんだポケットがさらに大きくなった。こんなことを続けているといつかその重さで破れちゃうだろうな。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:52:15.38 ID:skFt6CMPo
ふぅ、と息をついた。
わたしは天使からの贈り物を断れない。
優しいのだ。
猫が庭を荒らすから餌をやるなと言われてもお菓子をあげたり、鯉に餌をあげないでくださいと書いてあってもパンを投げる。
わたしは優しい性格なのだ。古典的な天使のように慈悲に満ち、友愛をまとっている。
澪ちゃんはよく言う。
「それはただ勇気がないっていうだけの話だぞ。いらないものをもらったり先のことも考えずに動物に優しくしすぎたり、そのとき自分がいいやつでいて、傷つかないでいればいいって思ってるだけなんだ」
ああ、澪ちゃんは心がすさんでいたのです。ありもしないものにおびえるあまり、猜疑にとらわれ信仰を失い無知と迷妄の中に居を構え、愛されることを知らぬが故に愛すことができない、なんてあわれな女の子なんでしょう!神さま、彼女に、手のひらいっぱいのビー玉貝殻パチンコ玉の祝福を!
「唯は自分が悪者になるのをおそれてるんだ。そんなのは臆病者のすることだぞ。天使に出会ったら、悲鳴を上げながら、背を向け目をつぶり耳をふさいで一目散に走って逃げる、それが本物の勇敢さってことなんだよ」
たしかに。
「まあ、だけど、唯みたいなやつはホラー映画では」
映画では?
「けっこう生き残ったりするんだ」
うれしい知らせ。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:52:45.46 ID:skFt6CMPo
5
夕ご飯のあとお父さんとお母さんは喧嘩をはじめた。
雨が降る前に黒雲が集まるように、天使が降る前に天国が現れるように、前々から兆候はあったのだ。
前は家族4人で夕ご飯を食べたりなんかはしなかった。
お父さんはフリーのスポーツライターだったので世界中に取材に出かけていて、お母さんもいつでもそれについて行き、だからそれはちょっとした旅行(ふたりの言うところの毎日が記念日だよねハネムーン)でもあったけど、この町に天使が降るようになってから少ししてふたりは「愛する子のために」という理由で家に帰ってきた。
帰ってきてからのふたりはなんだかよそよそしい感じで、明らかに口数は減っているようだったし、お父さんが取材でどこへ出かけようともお母さんはもうついては行かなかった。
もちろんふたりともわたしと憂の前では、天使たちさえいなければもう問題はなにもないよねオールオッケーってふうに相変わらず仲がよすぎる夫婦でいたけど、それがポーズにすぎないってことはわたしも憂も簡単に見抜いてた。なのにお父さんもお母さんもずっと家を開けていたせいで、わたしたち姉妹がそんなことでひっかかるほどもう子供じゃないってことが実感できてないのだ。
夕ご飯のあとお父さんとお母さんは喧嘩をはじめた。
雨が降る前に黒雲が集まるように、天使が降る前に天国が現れるように、前々から兆候はあったのだ。
前は家族4人で夕ご飯を食べたりなんかはしなかった。
お父さんはフリーのスポーツライターだったので世界中に取材に出かけていて、お母さんもいつでもそれについて行き、だからそれはちょっとした旅行(ふたりの言うところの毎日が記念日だよねハネムーン)でもあったけど、この町に天使が降るようになってから少ししてふたりは「愛する子のために」という理由で家に帰ってきた。
帰ってきてからのふたりはなんだかよそよそしい感じで、明らかに口数は減っているようだったし、お父さんが取材でどこへ出かけようともお母さんはもうついては行かなかった。
もちろんふたりともわたしと憂の前では、天使たちさえいなければもう問題はなにもないよねオールオッケーってふうに相変わらず仲がよすぎる夫婦でいたけど、それがポーズにすぎないってことはわたしも憂も簡単に見抜いてた。なのにお父さんもお母さんもずっと家を開けていたせいで、わたしたち姉妹がそんなことでひっかかるほどもう子供じゃないってことが実感できてないのだ。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:53:25.79 ID:skFt6CMPo
そして、今日、たまたま庭に降ってきたおばあちゃん、つまりお母さんのお母さんを、お父さんが箒ではいて道に捨ててしまったことをきっかけに、こどもユニセフ的停戦状態も終わりを告げたようだった。
「なんであんなことをしたの?」
「あれは天使だったんだ。そして天使はうちには絶対に入れたりしない。そうやって決めておいたじゃないか」
「でも、あれはわたしの”お母さん”だったのよ!」
「だけど死んでたんだよ」
「死んでる! じゃあなに、あなたはわたしが死んだら箒で道路に捨てるわけ?」
「それとこれとは全く話がちがう」
「同じよ! なに? それともゴミ収集車にもっていかせる? 生ゴミやプラスチックや紙屑と一緒に燃やすつもり? 死ぬのが楽しみになるわね、大きな煙突のお墓にダイオキシンの線香なんて!」
「落ち着けよ。じゃあどうすればよかったんだ? 家に上げてお茶でも出せばよかったのか」
「そうよ」
「出せるわけがないだろ。それにあの姿を見ろ、気味の悪い」
「気味が悪いですって? 人の親を! だいたいあなたはもともとうちの母が嫌いだったのよ」
「そんなことはない!」
「あるわ、お母さんが病気で倒れたときだってそうじゃない。わたしは実家まで毎日往復して大変だったのに、あなたはフランスで遊んでたじゃない」
「仕事だったんだ!」
云々。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:53:55.31 ID:skFt6CMPo
TVはニュースを喋っている。
天気予報のコーナーになった。
『……天国はいまも近畿地方を中心に拡大を続けながら少しずつ北上中です。気象庁は、拡大の速度は緩やかな減衰傾向にあるため今後は収縮に向かうだろうという予測を示した上で、実際に今後どういった動きを見せるのかは調査中だと発表しました。また、フィリピン、韓国、中国の一部では、天使の目撃情報が現れていますが、十分な証拠が発見されないため、各国政府はいまのところこれらは宗教的な……』
わたしはとろろ醤油を白米にかけているところだった。
別に食べるのは遅いってわけじゃないけど、急いで食べようとするとすぐのどにひっかけてしまうのだ。ごはんおかわりしなきゃよかったんだ。
それらをむりやり胃の中に押し込んでしまったあとも、口論はまだ続いていて、空になった食器を抱えて逃げるように台所に向かう。
憂がお皿洗いをしていた。
「嵐がきたよ」
と、わたしは憂に言った。
とうぶん止みそうにはないねって手を止めて憂が笑う。飛んだ泡が額のところについていた。わたしは食器をシンクの中に押し込んで、指で泡を拭った。
子供のためだ!とお父さんが叫ぶのが聞こえた。
「子供のためならお風呂でも洗ってくれればいいのにね」
「あ、わたし洗って、こよっ、かなあー」
わたしがあわてて言うと、憂は
「おねーちゃんはいいんだよ。こうやっていてくれることが仕事なんだもん」
って楽しそうに言った。
「なんだか憂がお母さんみたいだ」
あははって憂は笑った。
蛇口をひねった。すぐに水の音。
なにか憂が言ったのが聞こえなかった。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:54:58.38 ID:skFt6CMPo
「ざあざあざあね」
「え?」
「おねーちゃんはいいよね」
「そうかなあ?」
「大学生になったらこの町から出ていくんでしょ?」
「うん、まあね」
「いいなあ。きっと都会には天使もいないよね」
「でももっと危険なものがいっぱいあるって言うよ」
「それにさ、お母さんとお父さんがあんな調子じゃわたし参っちゃうな。おねーちゃんもなしでさ」
「嵐も止むよ」
「そのときまで家が無事に残ってればいいんだけど」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:55:46.18 ID:skFt6CMPo
ざあざあざあ。
憂は洗い終わったお皿を水切りに並べていった。小さな水切りにはすでに乾いた食器が並んでいて、そこに今洗ったばかりの食器たちがうまい具合にあいだあいだに入ってきれいに積まれいていくのは、なんだか憂にしかわからない迷路をたどっているって感じだった。白い憂の秘密のお城みたいな。
きゅっ。
蛇口を閉じて、黄色いリラックマのタオルで水滴を拭ってから憂は言った。
「わたしね、ときどき、おねーちゃんが羨ましいって思うんだ、変なふうに思わないでね、おねーちゃんが新しいことを先にやるたび、わたしもね、あと一年早く生まれてればなあって」
「わたしも一年遅く生まれてれば憂みたいに優秀になれたかもって思うときある」
「あはは。たしかにね。あとに生まれてだめだめじゃないだけよかったかも」
「あーそれってさあー……」
「あ、ちが、ちがうの。おねーちゃんがだめってことじゃなくて!」
憂はあわてて首を振って、あんまり否定するもんだからまるで本当はそう思ってるみたいに見えるということに自分で気がついて、えへへと下を向いて笑った。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:56:22.57 ID:skFt6CMPo
扉越しに金切り声が聞こえてきた。
天使たちの襲撃音がつつましやかに聞こえるくらい大きな騒音。
リビング・ワーはまだ続いている。
ヒステリーは幾何級数的に増大している。
やがて雨が降りはじめるんだろう。
そしてしばしの間、ふたりの兵士は剣を鞘に収めるのだ。
「……ねえ、おねーちゃん、今日も梓ちゃんに会いに行くの?」
さりげない感じを装いながら憂は続ける。
「梓ちゃんがさ、天使になっちゃったのはおねーちゃんのせいじゃない……とわたしは思うよ」
そのことはちゃんとわかってる。
だって天使は誰かを裁いたりはしない。
なぜなら天使はずっと過去にとどまり続けていて、わたしたちは新しくなっている。聖書の解釈は日々更新され、新しい罪は毎日発明される。
今、この瞬間にも重要判例は増え続けている。誰かを裁くには天使はちょっと古すぎる。
だから天使は誰も裁かない。あずにゃんはわたしたちのことを非難したりはしない。
天使たちは雨と同じで、ただ降ってくるだけなのだ。
わたしがあずにゃんに会いに行くのは、あずにゃんがまだわたしの友だちで、あずにゃんといると楽しいからってだけ。
わたしはギターケースを背負って家を出た。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:57:12.01 ID:skFt6CMPo
6
市民公園にはすでに天使が何人かいるようだった。
わたしはベンチに座ってて、その真向かいにある噴水のところにひとり。自販機の後ろの木立がときどき揺れるからたぶんそこにもいるだろう。
あとはさっき右手に見えるコンビニの前で店員に野良猫するみたいにしっしっと手を振られ追っ払われた天使を見た。その後どこに行ったのかまではわからない。
背中側にある旧テニスコートに天使が落ちてきて、がしゃんと金網の鳴る音がした。
時刻は11時を回ったところだった。
まんまるい月が低い位置で浮かぶ明るい夜。
野球場から野太い歓声が聞こえてきた。
噴水のところにいた天使が振り向いて、のろのろとその方向に歩き出す。
野球場のフェンスはきっちりと鍵がかけられて、昔から小学生の通り道になっていた抜け穴にはトタン板が打ち付けられていた。それでもフェンスをのぼって侵入してこようとする天使はいて、それをユニフォーム姿の男の人が”打つ”ところをわたしは見たことがある。
どうやら天使たちは音に反応することになっているらしい。彼らは目が見えないわけじゃないと思う。実際声を出さずとも人間のとこによってくることもある。たぶん音が好きなんだろう。音楽が。虫が光に集まるみたいに、それが彼らの本能なのだ。走音性。まあたしかにそれは天使っぽいかもね。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:57:44.18 ID:skFt6CMPo
わたしはケースからギターを取り出して鳴らす。
じゃらん。
アンプをつないでないから音がか細い。
天使たちにはまだ聞こえない。
木々の天蓋ごしに街灯の灯りが、スポットライトみたいに手元を照らしてた。
それからまた腕を振った。
今度はもっと大きな音がする。
弦が振動してる。
天使たちがこっちを見た気がした。ライブのとき、幕が上がって、観客みんながわたしになにかを期待してるんだって思うときみたいな感じ。
いまや音楽は鳴りはじめていた。
徐々に天使が集まってくる。
折れた足。曲がった背中。傾いた顔。垂れ下がった腕。折り畳まれた大きな羽。白い布切れ。蛍光の体液。光った。天使。天使の言葉。天使たち。
走性。
息を深く吸ってから、声を吐いた。
声は、はじめて触れた空気の冷たさにちょっと戸惑ったのち嬉しそうににふるると身体を震わせて、すぐに歌になった。
わたしは椅子の上に立ち上がっている。
ベンチを囲むように、天使たちが4人。
遠くから歩いてくるのが見えた。
みんな手のひらをさしだして、反射。きらきらしたがらくた。
あらゆる過ぎ去ったもの。
「#▽∝♪>>0�」
噴水の向こうに新しい天使が落ちてきた。
わたしの声は天国まで聞こえるんだってこと信じてしまいそうになる。
あずにゃんのことを考えていた。
一年生、ほとんどだまされるみたいにして部活に入ったあずにゃん。練習もまともにしないわたしたちに怒ってばかりだったあずにゃん。幸せそうに小さい口でケーキを食べてるあずにゃん。わたしにギターの上手なテクニックとため息のつきかたを教えてくれたあずにゃん。卒業式をむかえるとひとり取り残されてしまうあずにゃん。時間を凍結したあずにゃん。
天使になったあずにゃん。
はたしてあずにゃんは本当に天使にならなきゃいけなかったんだろうか。あずにゃんはわたしたちのことどう思ってたんだろうか。あずにゃんは今怒ってるんだろうか、それとも悲しんでいるんだろうか。
わたしにはわからない。
わからないのだ。
この曲はわたしたち4人が残されていくあずにゃんのためにつくったということになるはずだった。
それはこんな歌詞だ。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:58:14.96 ID:skFt6CMPo
ねえ、思い出のカケラに
名前をつけて保存するなら
”宝物”がぴったりだね
そう、心の容量が
いっぱいになるくらいに
過ごしたよね、ときめき色の毎日
なじんだ制服と上履き
ホワイトボードの落書き
明日の入り口に
置いてかなくちゃいけないのかな
でもね、会えたよ! すてきな君に
卒業は終わりじゃない
これからも仲間だから
大好きって言うなら
大大好きって返すよ
忘れ物もうないよね
ずっと、永遠に一緒だよ
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:58:43.15 ID:skFt6CMPo
天使は普通ランダマイズされてる。
けれど、この時間、この場所で、この曲を鳴らすと、なぜかいつでもあずにゃんは降ってくる。
たぶんそれはこれがあずにゃんのための音楽だからなんじゃないだろうかってわたしは思っている。
ある天使は行きつけだった喫茶店のコーヒーの香りとドア・ベルの震動に引かれ、おばあちゃんは愛する我が子の家庭から響く夕食のざわめきを叩き、潮風の匂いのなか暮らした天使は波の音に寄り、野球が好きだった天使はグラウンドの歓声に導かれる。
そしてあずにゃんはわたしたちの歌に降ってくるのだ。
でもそういうふうに考えるのってやっぱり人間的すぎるかな。
ねえ、どうなんだろ、あずにゃん?
目の前に降ってきた天使にわたしは言った。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:59:26.17 ID:skFt6CMPo
7
今日のあずにゃんはけっこう原型をたもっていた。
下にいた何人かの天使にがうまくクッションの役割になったようだった。足が一本折れて、腰のあたりで下半身が右に少しゆがんでるってだけ。
つぶれた天使たちから白い血が間欠泉のように吹き出ていた。
あずにゃんはすっかり天使色だった。
彼らは音楽が消えたいまでもわたしの周りを取り囲んでいて、その数は7まで増えている。
わたしはあずにゃんの手を握って言った。
「逃げよう!」
天使たちが背後から追いかけてきた。
危険がないって知ってても、下半身を引きずった天使が白光液を垂れ流しながらずるずるとついてくる姿はかなり恐ろしい。
天使たちはかなり遅いけど、わたしもあずにゃんをひっぱり強化傘をさし重いギターを背負っているからそんなにはやくは走れない。わたしの背中で、天使的に軽いあずにゃんがアスファルトの上を跳ねまわっている。
服は白だらけだった。こうなることはわかっているからそんなには気に入ってはない長袖のシャツをいつも着てくるのだ。衣服についた天使の液はわりと落ちるというのが天使のもっとも天使的なとこだと憂は言う。少なくともお母さんが洗濯するんじゃなくてよかった。
握ったあずにゃんの手が液でぬれていて冷たく、いやな感じ。
振り向くと天使たちはだいぶ遠くまで離れている。追跡行を通して身体のバランスはさらに崩壊していた。
こん、こん、こおん。
どこかでノックの音がしていた。
立ち止まって息を整える。
「わぁっ」
安心しているところ、すぐ後ろに天使が再び落ちてきた。
うつ伏せにアスファルトにぶつかる。
打ち所が悪かったのか首が180度後ろを向いている。そしてその落ちくぼんだ黒い目が、なんだかわたしのほうを恨めしそうに見つめているように思えるのだ。
あずにゃんの手をつい強く握りしめたのだけど、すぐに思い出してぱっと離した。
手のひらには白い血がべったり。
そんなときは、ホットケーキみたいに柔らかい月までも、なんとも気味が悪く感じられるのだった。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 22:59:57.61 ID:skFt6CMPo
こんなふうに天使と手つないで歩いてるところを誰かに見られたりでもしていたらけっこうやばい。
最悪、あずにゃんのことをごにょごにょしたいんだって思われるかもしれない。
実際のところわたしは男の子じゃないし、そんなことにはならないだろうけど、なかには法的に微妙なところがあるなって考える人もいて、でもたいていは死体損壊が適用される。
あるいは倫理観が天使に対しては働かないのかも。これはちょっと逆説的。
まあだけどそうじゃなくても、発見されればわたしは頭がちょっとおかしいんだということになるし、「あのあのあの平沢さんちの子、あの子天使と友だちなのよ、やあねえ」っていうことにもなる。朱に交わればなんとか。家訓一、不良の子とはつきあってはいけません、みたいな。お母さんだってけっこう怒ると思うな。自分はおばあちゃんの天使がどうこう言ってたくせに(まあ物事には場合と限度があるってことだよね。ちゃんとわかってる。ちぇっ)
あずにゃんにこうやって会っていることをみんなにも言っていない(憂は感づいてるみたいだけど)天使に近づきすぎると、その人もまた天使になってしまう。そんなことさえ、まことしやかに囁かれている。
ゾンビに噛まれたらゾンビになっちゃうみたいに。
あるいはわたしはもう天使になりかけているのかもしれない。
とにかく、わたしはあずにゃんを人目のつかない裏路地へと引っ張っていく。
左右の家の高い塀が囲む小さな道。大きな暗渠の中をかがんで歩く。空き家の庭を通り抜けて、ラーメン屋のにおい。虫の声。田んぼのあぜ道を過ぎると、大きな工場が。三本足の大きいタンクからたくさんの四角いパイプがぐにぐにと絡み合って鉄塔に変化して空に向けてのびている。白い煙。流れる細い川のへりをたどれば、橋のふもとの錆びた鉄階段を上がって、なにもかも思い出すことができるだろう。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:00:31.05 ID:skFt6CMPo
わたしたちは校庭に立っている。
あらゆる施設は天使以後厳重な戸締まり体制を敷いている。
もちろん桜が丘女子高等学校だってその例にもれない。
だけど女子高生なら夜の学校に忍び込む方法の1つや2ついつでも頭に入れて置いているものだ。
今いちばんホットな侵入経路は西バレー部ルートだと言われている。
これはその名の通りバレー部の子たちが開拓した方法で、バレー部は部室として体育館の第二倉庫の一部を使うということになっているんだけど、第二倉庫は部室としての場所と体育用具がおいてあるところに分かれていて、さらに用具置き場の奥にはほとんど使われないマットなどが積んである小さなスペースがある。
その上のところにちょうど人ひとりが入れるくらいの大きさの窓があり、外から見るとそれはちょうど室外機の上の部分にあたるということになっている。
そこが侵入点となる。
先にあずにゃんを窓の中に押し込み(これが一苦労だった)マットの上に飛びおりると、埃が舞った。
部室にはってあるバレー選手のポスターの裏側には体育館の鍵がかけてある。
校内に夜警はいない。
室内だと傘をさす必要がなく両手が空いたので、わたしはあずにゃんを抱くようにして、軽音部の部室まで連れて行く。
部室の前で床におろすと、あずにゃんはおずおずとあたりを歩き回った後、部室のドアをノックした。
こん、こん、こぉぉん。
はたして天使はなにかを懐かしがったりするだろうか。
そんなことをふとわたしは思う。
あずにゃんはドアに手をかけて押した。
だけど開かない。
バリケードが後ろにはそびえている。
あずにゃんはドアを一生懸命押している。
わたしは笑った。
天使の知らない秘密を言う。
「あずにゃん、これ、引くドアだよ」
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:01:07.84 ID:skFt6CMPo
月明かりが廊下まであふれ出した。
部室内は青白く発光。
白い肌したあずにゃんがぼうっと浮き上がって幽霊みたい。
バリケードには今日部室から出たときに開けた隙間がある。
そこからわたしたちは内部に侵入した。
西の窓がつくる四角形の光の上にわたしは座った。白い光はひんやりと冷たかった。
「……わたしね、町を出るんだよ」
慣れ親しんだにおいに、ふとした言葉が混じってしまう。
首の後ろに手を回す。
「って知ってるか。あずにゃんはだから天使になったんだもんね」
「∝♪>>>0�▽∝」
天使の言葉ってなんだか笑ってるみたいだと思う。
くすくす笑い。
「あずにゃん、なんで笑ってんの?」
無視。
ドラムをたたくと音がするということを発見する。
どおんどおんどおおん。
「ねえ、あずにゃん、大学ってどんなところなんだと思う?」
どんどんどおん。じゃーん。
「ムギちゃんはね、海外に行くんだって、アメリカだよ。すごいよねえ」
ちゃっちゃっどんどん。
「さびしいけどさあ、こういうことって普通なんだよね。つまりさ、我慢しなきゃいけないっていうか結局いやだと思っててもそうなっちゃうっていう……」
ぱあぁぁん。ぱあぁぁん。
「ねえ、だから、あずにゃんは天使になったの?」
どん。
「あずにゃんは悲しいから天使だってそう思ってたんだけどでもわかんないなわたし」
ため息。
「あずにゃんがね、わたしのこと吸血鬼みたいに噛んだりしてねわたしのことも天使にしてくれればいいなあってときどき思うんだよ……それならよくわかるもんね、あずにゃんは怒っててそれでずっとわたしたちと一緒にいれるから。
だけどあずにゃんとこうやって毎日会うとそれがわかんなくなって、だってあずにゃんはなにもしないから、こうやって毎日わたしといて、でもそれはもうすぐおしまいで……そういうのってあずにゃんはどういうふうに感じるの?」
「∝♪>>>0�▽∝」
「時間が止まってるからずっとわたしたちといるっていう気持ちがする?
それともわたしたちのこと思い出してるって感じ?
わたしあずにゃんのことわかんないなあ……あずにゃんはわたしのこと何でもお見通しだったのにわたしあずにゃんのことがよくわかんないや。
あずにゃんがもしわたしでわたしが天使ならあずにゃんはわたしのことわかった?
わたしが何を考えてるとか何で悲しいとか何で嬉しいとか、そういうこと。
そういうこと全部。
わたしはあずにゃんのことわかんないよ」
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:01:42.38 ID:skFt6CMPo
喋る声にひかれてあずにゃんがわたしのところまでやってきた。
手を開く。
そこには、鳥の羽、なにやらビーズのようなものに、ガラス片。
そしてピック。
それは修学旅行のお土産にわたしがあずにゃんのために買ってきたものだった。
あずにゃんはいつでもそれを差しだそうとする。まるで思い出を今もまだわたしと分かち合おうとするみたいに。
ピック以外のものを手にとって、ポケットにしまった。
それからあずにゃんの手を拳の形に握らせた。
「それはもらえないよ。だって、わたしが、あずにゃんにあげたんだもん……」
手のひらを上に滑らせて、手首をぎゅっとつかんだ。
ひっぱる。
「▽#!」
あずにゃんがわたしの上に降ってきた。
くにゅってつぶれた。
やわらかい。
人間だったあずにゃんのこと思い出した。
「あずにゃんは、どうするの、これから。ずっと降ってる?」
喋るとあずにゃんが声をつかまえようとして、わたしに抱きつくみたいになった。
いつもの反対だって思う。
あずにゃんからのところも。
すごく冷たいところも。
「わたしあずにゃんのこと心配だよ。悪い人に変なことされないかとか」
もしかしたらわたしがその悪い人なのかもしれないとちょっと思って、笑った。
「あずにゃんのこと誘拐しちゃいたいけど、都会のアパートって、動物禁止だもんね」
にゃあ、って言うみたいに天使の言葉を言う。
あずにゃんの声はやっぱり、なんだか笑っているみたいに聞こえるのだった。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:02:10.03 ID:skFt6CMPo
8
家につく頃には夜も1時半だった。
わたしが天使に会いに行ってることを知らないはずの両親は就寝前完璧な戸締まりを履行するけど、憂がいつも鍵を開けておいてくれる。憂は朝は一番早いのに夜はたいてい遅くまで起きていて、部屋でTVゲームをしていたりする。
服を洗濯かごの中に入れてシャワーを浴びた。天使の羽が排水溝のごみ止めに重なってくるくる回っていた。その間を天使の血が流れてく。なんかちょっと映画の「サイコ」みたい。この場合黒い血じゃなくて白なんだけど。
洗面所で髪を拭いているとき、三面鏡に映った自分の背中が目に入った。
肩胛骨のあたりがなんだか盛り上がっているように見える。触ると固くて、でっぱっているような感じがする。
天使の羽が生えてきている。
わたしは天使になりかけているんだ。
これって気のせいだろうか。
こんなものがついていると、わたしはまだ経験がないけど、好きな人の前で裸になったりするときに困るんじゃないかって思う。
あくびが出た。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:03:32.39 ID:skFt6CMPo
その夜夢を見た。
いつも見る夢。
わたしは沈んでいる。
黒い泥のなかに。
青い空、きれぎれに乱反射する光がまぶしい。
水面のよう。
泥はすでにわたしの膝の下まで達している。
まるでチョコレート・アイスクリームの海に沈んでいるみたいで、冷たい。
このままじゃお気に入りの白いスカートが汚れちゃうなあ。
そんなことを最初は考えていた。
それにしてもいったいわたしはどうして沈んでいってるんだろう。
身体を動かそうとしてその答えはすぐにわかった。
重いのだ。
膝の上、スカートが。
スカートのポケット。
その中のいっぱいのがらくた。
わたしは両手を突っ込んで、つかめるだけの物をつかんで投げ捨てた。
貝殻。プラスチックの櫛。ビー玉。おはじき。ペットボトルキャップ。
泥の海に浮かんだ。
そして繰り返す。
もう一回。もう一回。
腰が冷たい。
泥が。
ポケットの中に泥が入って、つかんだ半分が泥。
投げ捨てる。投げ捨てる。投げ……。
いつの間にか泥が胸のあたりまでやってきている。
もう投げられないから、ポケットの中からがらくたをかきだすようにする。
泥と一緒に。
赤、黄、紫、青、緑、ピンク、そして黒、黒。
泥の上でがらくたたちが光っていた。
どうしてこんなにたくさんあるんだろうか。
こんなにはポケットの中に入りきらないはずなのに。
なのに。
なのに、まだ出てくる。まだ。
もう首まで泥に浸かっていた。
なのに、まだ出てくる。
いくらかきだしてもかきだしても。
おはじきやパチンコ玉、鳥の羽、ビーズ。
泥がせり上がる。
口内に少し入りこんで苦い。
泣き出してしまいそうだった。
わたしは重いんだ。
わたしは重い。
重いーー。
ふいに天使が降りてきた。
翼をはためかせてゆっくりと降りてくる。
誰のようでもない中性的な顔に微笑が浮かんでいる。
まとった布が白く光ってた。
しみひとつない完璧な白。
わたしは天使に言う。
お願い事をする。
翼をください!翼をください翼をくだ……。
喉の奥に泥が入り込んで、声が出ない。
わたしは重い、だから落ちていく。
天使が見えなくなってしまう。
もう泥は目のすぐ真下に。
そしてわたしは沈む。
潜水人症、脳の信
号が途切れ途
切れにな
って、
黒
わっと叫んだ。
目が覚めた。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:04:00.40 ID:skFt6CMPo
9
ある朝、部室に行くと、天井に大きな穴があいていた。
正確に言うと、天窓に。
ガラスの破片が部室の真ん中あたりに散らばっている。おいてあった楽器にぶつからなくてよかったとすぐに思った。
そのほかは、ほとんどかわりがなかった。バリケードも帰りに見たときのままの姿で保存されていた。
どうやら落下物は行き帰り同じところを通っていったらしい。
完全犯罪、でもないか。
わたしは言った。
「きっとすごいでぶっちょの天使が落ちてきたんだね」
「貴乃花だな貴乃花」
たぶん澪ちゃんは昔の力士を貴乃花しか知らないのだ。貴乃花はまだ生きているのに。
今日部室に来ているのはわたしと澪ちゃんのふたりだけだった。三年生はもう受験を終えてあとは卒業を待つというだけだから、学校に来ていない人もたくさんいる。
それでもわたしたちはなんとなく習慣というか習慣への愛着というかで、部室に集まっていたのだ。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:04:34.53 ID:skFt6CMPo
だけどここ三日ほどはムギちゃんもりっちゃんも現れなかった。
ムギちゃんのほうは海外に移る準備とかでいろいろ忙しいらしい。いくつかの事情から卒業式を待たずして向こうへ行くのだそうだ。
そのへんはここのところ、ムギちゃんといつも夜、電話しているから知っている。
わたしは寝る前の時間、布団の中で誰かに携帯で電話かけるのが好きだった。
一年生の頃はずっと澪ちゃんと話してて、それからあずにゃんとが多くなったけど、あずにゃんが天使になっちゃってからはまた澪ちゃんに戻り、ムギちゃんが海外に行くっていう話が持ち上がったあとは、毎日ムギちゃんと電話していた。
電話だと、ムギちゃんはけっこう笑えることを言う。たぶん、例の冗談を言ったあとの、あ、やっちゃったのかもっていう表情が見えないからだろう。
一度なんかはあんまり笑ったので、ふだん怒ることのない憂がわざわざうるさいと文句を言いに来たほどだった。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:05:04.99 ID:skFt6CMPo
「ムギちゃんの住むとこってどんな感じなの?」
「えとねー、ケンタッキー州の南のほうにあって、大きいんだけどあんまり車の通らないハイウェイのそばにあるんだけどね……自然のたくさんあるところで、サッカーの試合ができるくらい広い芝生の庭があって、道路の向こう側には森があるし、わたしは見たことないんだけど、なんでもその森にたくさん鹿がいるらしくて、あ、でも野ウサギが庭で遊んでるのを見たことはあるわ。赤い屋根の三階立ての大きな家でね、玄関のところに、なんていうんだっけ?あの悪魔みたいな、ほら、ゴーストバスターズって見たことある? そう、その、あの敵になるやつ、あの銅像がふたつあって子供の頃は怖かったなあ夜とか。家の中には叔父さんと叔母さんが二人で住んでるんだけど、叔父さんはね、弁護士してて、うちの会社のアメリカ支部の顧問弁護士なんだけど、だからやっぱりお金持ちで、ガレージにはスポーツ・カーが二台あって、赤と黄色、壁には狩猟用のライフルが並んでて、本物の銃だよ。でっかいワインセラーもあってね、子供の頃、お父さんに秘密で飲ませてもらったことあったな。で、大学がスクール・バスに乗って15分くらいかな、の町にあるんだけど、週末にはダンスパーティがあるんだって、あ、それにね、家の後ろにでっかい湖があってー、そうしたいならボートにも乗れるのよ」
「わぁ、それって映画みたいじゃん」
「うそ、映画で見ただけだもん」
「なんだよー」
「ごめんごめん。本当は叔父さんのところには行ったことないの」
「でもお金持ちなの?」
「うん、顧問弁護士してるっていうのはほんとだし、あながちさっきのうそにならなかったりして」
「ひゃー……わたしも一度くらいムギちゃん家行っとけばよかったなあ」
「わたしの家は別にふつー、まあすくなくとも見た目はって意味だけど。日本は土地が狭いから……」
「でもさわちゃん家庭訪問のときびっくりしてたよ」
「そうなの?」
「うん」
「じゃあきっと家庭訪問用に新しく家建てたのね」
「あはは」
「今度来る?」
「ほんとに? 一ヶ月に前に予約いるんじゃないの?」
「あれうそなんだよね」
「えー……なんでさ!」
「だってわたし友だち家に呼んだことなかったから……お母様とかたぶんいい顔しないし」
「ムギちゃんのおかーさんって怖いの?」
「ちょーこわい」
「でもいいんだ?」
「うん、だってどうせ家出ちゃうもんね」
「悪いやつだ」
「えへへ。でももうあんまり日がないなあ」
「あ、そっかぁ。そうだよね……」
「うん……ならべくはやく来られるようにするね!」
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:05:38.29 ID:skFt6CMPo
それで、なんとかムギちゃんが都合をつけてくれた結果、今日の午後訪問する予定になっていたのだ。
聞いたら、澪ちゃんも行きたいと声を弾ませて言うのだった。
「りっちゃんはなんで来てないのかな? せっかくなのに」
「さあなあ、いろいろとあるんじゃないか。あいつは意外とナイーブなやつなんだよ」
「澪ちゃんは意外と繊細じゃないよね」
「ちっちゃいよりは、大きいほうがいいっていうだろ」
澪ちゃんは自信ありげにちょっと胸を反らした。バストが強調されて見える。
「おっきいもんねえ」
「ば、ばかっ。胸の話じゃないぞ!」
「貴乃花だね貴乃花」
照れ隠しつもりなのか、自然に澪ちゃんはベースの入ったケースに手をかけていて、それでふと気がついたみたいに言った。
「久しぶりに演奏する?」
部室で演奏すると天使が寄ってきてしょうがないので、わたしたちは天使以後みんなで音を合わせるということがなかった。
部室の扉についていた鍵は、まえにりっちゃんとあずにゃんが諍いを起こしてあずにゃんがりっちゃんを部室の中にいれないよう努力していたとき、りっちゃんが外から鍵をさして扉を開けようとするのに対してあずにゃんが内側のつまみを回して応戦し、がちゃがちゃやっていたら壊れてしまった。
だからわたしたちは対策としてバリケードを築くことにしたんだけど、そのあとすぐムギちゃんのことがあり、りっちゃんも来ないので、結局はほとんど役に立っていなかった。
同意のつもりで、わたしもギターをケースから出す。
「あれ澪ちゃん……」
「なんだコードをまた忘れたのか」
「ギターってどうやって持つんだっけ」
げんこつ。
「いや、じょーだんじょーだん」
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:06:18.67 ID:skFt6CMPo
ふたりで曲を決めて何度かあわせてみる。
ギターとベースの音だけだと何となくさみしい気がしてしまう。
そういうバンドで有名なバンドもあるんだぞと澪ちゃんはいくつか名前を挙げたが、当の本人も退屈そうだった。
結局30分位するとふたりとも床に直接座り込み、楽器の音を鳴らすとも鳴らさないともいえない感じで、お喋りに高じている。
「澪ちゃんは卒業してもここに残るんだよね?」
「うん、地元の大学に行こうかなって」
「りっちゃんのこと?」
「うん、まあね。あいついま大変だろ。父親なくしてさ母親もあんな感じで、へーきなふりしてるけどなんだかんだで繊細なやつだからさ」
「澪ちゃんとちがって」
そうだな、って澪ちゃんは笑う。
「べつにわたしになにかできることがあるとも思えないけど、結局は昔からのあれだから」
「あれってなに?」
「あれはあれだよ」
澪ちゃんは横を向いた。
たぶん、澪ちゃんはりっちゃんのことが好きだからそうするんだろうなってわたしは思う。
それはつまり澪ちゃんは男の子じゃなく女の子が好きってことだ。ということをわたしは澪ちゃんから直接聞いた訳じゃないんだけど、ムギちゃんがこっそり教えてくれた。
5人の間に秘密はない。
澪ちゃんが中学生の頃体育倉庫でクラスの女の子といちゃいちゃした話とか、りっちゃんが大人ぶってアルコールに手を出そうと試みて飲んでみたのが調理用のお酒だったとか、あずにゃんが通販でエロ本を買ってるとか、りっちゃんが他校の男の子とこっそり遊びに行ってちすごい大失態かました話とか、ムギちゃんは靴にちょっと身長を高くするやつを入れてるだとか、たいていのことはわかっている。
誰かがひとりが秘密を知ればそれはもう5人の秘密なのだ。わたしたちはみんな口が軽く、さらには自分の秘密さえ隠し通せないほど(下手すれば自分のを話すときが一番)口が軽い。
みんながみんな信用に値しないという点で、わたしたちは信頼しあっている。
でも澪ちゃんのことについてはそれをりっちゃんに話さないってくらいの分別もあった。
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:06:56.90 ID:skFt6CMPo
「あのさ、これって秘密にして欲しいんだけどな……」
「うん」
今日ムギちゃんに電話で言う。絶対。
おとついの、柳のゆれる、坂道で、わたし幽霊、見たどうしよう、っていうしょうもない話じゃなかったならだけど。
「律のことなんだけど」
「りっちゃんのこと?」
「うん。律さあ、本気なんじゃないかなって思うんだよね」
「免許取ったら車欲しいから、ネットで制服とか売って稼ごうって話が?」
「あいつそんなこと言ってたのか?」
「澪ちゃんとムギちゃんのをもらって、あとでこっそり4つセットにして売ればけっこういいとこまでいくんじゃないかって話してたよ」
「ばかだな」
「だね。わたしもそう思う」
「ちがうよ、そうじゃなくてさ。あの例の天使の宗教」
「りっちゃんのお母さんの?」
「そう。それにさ、けっこう律も入れ込んでるんじゃないかって」
「ほんとに?」
「あいつ毎週日曜きっかり教会行ってるだろ?」
「それはお母さんを心配してついてってるからじゃん」
「でもあいつ最近けっこう聖書とか天使関連の書籍とか真剣に読んでることあるんだよな。天使と一緒にいるところを見たっていうクラスメイトもいるし。それからまえにわたしたちは天使についての考え方を改めなきゃいけないのかもなって言ってたぞ」
「うーん」
「きっとあいつ洗脳されちゃったんだよ。この前だってな、わたしの家のポストにパンフレットが200枚くらい入れてあったんだぞ。ゴムで束にして。これってあれだろ、勧誘だよ勧誘、友だちを売ってるんだよ、高値で売りさばいてるんだよ」
なにしろ人の制服を売るようなやつだからな、と澪ちゃんは言った。
「それか澪ちゃんのことが嫌いになったかだけど……」
「そ、それはないだろ」
「知らないよ……」
澪ちゃんはちょっと不安そうな顔を一瞬したけど、すぐに気を取り直して、
「と、とにかくだな、あいつは信仰に目覚めたんだよ。だから今日も来てないんだろ?」
「軽音部より大事な場所ができちゃったってわけだ」
澪ちゃんはぴしっと指をわたしに向けた。
「そのとおりだ」
「でもさ、りっちゃんはあんなに天使を嫌ってたじゃん」
「まあな。でも、宗教にはつきものの話なんだよな。神を信じていなかった人が改宗すると熱心で優秀な信徒になるんだよ」
「ミイラ取りがミイラになっちゃったわけだね」
この場合は天使取りが天使になっただなと澪ちゃんは嬉しそうに何度もうなづいて見せた。
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:08:24.60 ID:skFt6CMPo
10
ムギちゃんの家にはお昼ちょっとすぎについた。
一生に一度くらいはお金持ちのお昼ご飯を堪能させてもらっても罰は当たらないだろうとわたしたちは何度も言いあったけども、最終的には駅前のサイゼリアでお昼を食べることにした。
結局のところ再分配は法と行政によるものであり個人に期待されるものではないというのが澪ちゃんの見解だった。もしも個人が再分配を執行したならばたちまち社会は無秩序状態におちいり原始世界へと逆行することになるだろうという悲観的な人間観を、あまり人のいない平日のファミレスで分かち合うことにわたしたちは成功していた。
しかしある面では、なにもせずに約束の時間を待つにはわたしたちは腹ぺこすぎでもあったのだ。
そういうわけで澪ちゃんはイカ墨のパスタを頼み(毎月買ってるあるファッション誌に美容と健康にいいと書いてあったのだと言った。でもダブルだった)、わたしはパエリアとパンケーキを頼んで、最後に季節限定のパフェをふたりで半分にして食べた。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:08:54.87 ID:skFt6CMPo
ムギちゃんの家は桜が丘から5駅ほどした町の、駅から歩いて14分くらいしたところにあった。
静かな住宅街で、建っている家はどれもまだそれなりに新しく見えたけど、いくつかの道がくねくねと無理なカーブを描いているのがなんとなく古めかしくもある。道のりにはせまい公園がいくつかあり、木々に囲まれた小規模の神社があって、校庭が半分に芝生に覆われた私立中学校のそばでは、コンクリート舗装の川が穏やかに流れていた。
町は封を切ったばかりのおもちゃにみたいにきちんとしててなんとなく手つかずの感じがした。ケータイの液晶のフィルムをまだはがしてないっていうみたいな。
あんまり天使の染みを見ないせいかもしれない。ここには天国がまだやってきていないんだろうか。それとも毎日誰かがきれいに掃除してるとか。
住所をあらかじめ教えてもらっていたから家の場所はグーグルマップですぐにわかった。たしかにムギちゃんが言ったように外観からはよくあるお家のようにしか見えなかったので、わたしはちょっとがっかりした。
全体的にモノトーンの感じで、家の壁は灰色、切妻形の屋根は黒色で天使の白がぽつりぽつりと落ちている。たぶん二階建て。家自体はけっこう大きいけど庭がほとんどないからその分を足したらわたしの家とおんなじかちょっと大きいくらい。門はよくある折りたたみ式で、インターフォンで話をしたあと自動で開いた。車2台分の大きさのガレージが右側にあっていまはシャッターが降りている。
やっぱりお金持ちっぽくない。じゃあどんなのを想像してたんだって聞かれれば、記憶たどってすぐ思いつくのは、シンデレラ城。
玄関口に貼ってあるシールを見つけて、セコムが入ってるんだね個人の家にセコムが入ってるんだよってわたしは澪ちゃんに言ったけど、よく見るとそれはセコムではなくてなにか別の警備会社のものだった。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:09:39.89 ID:skFt6CMPo
玄関あがったらすぐ、執事みたいな人が出てくるのかとてっきりわたしは思っていたけど、ここでもやっぱり予想は外れて、応接間に通してくれたのはムギちゃんのお母さんだった。
空豆みたいな形のつるつるした机に、黒っぽい革張りのソファーが向かい合ってひとつずつ。座ると腰が思ったより沈んだので澪ちゃんのほうを向いてえへへと笑った。澪ちゃんもしょうがないなあって感じで口元をちょっとゆるめて見せた。
机の上にはオレンジジュースと真っ赤なイチゴのショートケーキがふたつずつ並んでいる。わたしはまた澪ちゃんに目配せせずにはいられない。
これって漫画みたいだよねって。
「こちら、どうぞ食べてくださいね」
ムギちゃんのお母さんはムギちゃんにそんなに似てない。けど、そう思うのはムギちゃんのお母さんが外国人だからなんだろう。おそらく。
白い肌に、青い目。ムギちゃんとおんなじ色の金髪。
まだ30代前半のようにも見える。
いったいどこの国の人なんだろうか。
「いつもお話は伺っています。紬がとってもお世話になってるみたいで」
と、ムギちゃんのお母さんは流暢な日本語で言った。
澪ちゃんはなぜかとっても緊張して、いえいえお世話になってるのはむしろこっちのほうで紬さんはほんとにいい子でして手もかからないし成績も優秀ですよなどと言うので、いったいいつからこの子はムギちゃんの先生になったんだろうとわたしは考えている。
「……だよね、唯」
ぼーっとしてたら、急に澪ちゃんが同意を求めてきたからわたしは言う。
「うん、ムギちゃんがいるおかげで部活中もお茶できるしね」
「ばかっ」
澪ちゃんはわたしをこづいた。
それを見てムギちゃんのお母さんは笑った。
笑うと、目の周りや口元にはっきりとした皺が寄る。それでムギちゃんのお母さんもやっぱり、お母さんであるなりの年をとってるのだということがわかる。
元の表情に戻ったあとで、まったくおんなじ場所に皺が薄く残っているのが見えて、だからそれは何度も笑うことで刻まれた皺みたいだってわたしは思う。
この女の人がものすごく怖いだなんて話、本当なんだろうか。
あ、ってことは,ムギちゃんも切れるとちょーこわいのかも。ありうる。絶対に怒らせないようにしないと。
紬を呼んできますねと言って、ムギちゃんのお母さんは部屋をあとにした。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:10:23.94 ID:skFt6CMPo
「やっぱこうじゃないと」
ケーキの側面のフィルムをぺりぺりはがしながらわたしが言うと、
「立派だよね」
と抽象的なことを澪ちゃんは言った。
フィルムに付いた生クリームをフォークですくおうとしたら澪ちゃんがあわてて、意地汚いことはやめろよなとわたしをぶった。
笑い声がした。
ムギちゃんが立っていた。
ムギちゃん家で見るムギちゃんはいつものムギちゃんよりなんだかよくわからないけどかわいらしく見えた。ゆるくカールした長い金髪を首の後ろのところでひとまとめにして、服はだぼっとした白いワンピース。
足は裸足で、化粧もなし。
指を背中でくんでいる。
扉にもたれかかって、曲げた片足を気まずそうにぶらぶら揺らしてた。
わたしたちのほうを見ては、ちょっとにっこりする。
ばったり出会った男の子の服を借りて下町を楽しむお姫様って感じでも、もちろんドレスをまとって民衆の前に立つ王女様って感じでもなかった。
強いて言うならアメリカっぽい。っていうのはムギちゃんがアメリカに行くからそう思うだけだけど。
どのみちムギちゃんの家はシンデレラ城じゃないのだ。
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:11:01.55 ID:skFt6CMPo
「ひさしぶり」
「うん」
「ふつうの家だったでしょ?」
まあね、とわたし。
いやいや、と澪ちゃん。
「わたしの部屋上だから、あがって」
螺旋階段をのぼる、長い廊下を歩いて、自動ドアじゃないけどってムギちゃんが言った。
「わームギちゃんの部屋!」
目の前のベッドにわたしは飛び込んだ。ぐぐって沈んで、潜水。
ふかふかしてた。
ぎぃってスプリングが悲鳴を上げる。
ムギちゃんが笑った。
「わたしの部屋なにもなにもないんだけどね」
たしかにそうだった。
部屋は不思議なくらい殺風景で、その理由が段ボールになって隅っこのほうに積んである。
「ムギの部屋っていいにおいがするな」
「そう?」
「うん」
「お菓子のにおいがするよね」
「それはイメージじゃないかしら?」
「お菓子の? ムギちゃんはお菓子のイメージなの?」
「ちがった?」
「わかんない……」
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:11:44.14 ID:skFt6CMPo
澪ちゃんはいつの間にか見つけた漫画雑誌を読んでいた。女の子同士が恋したり恋をされたりするやつ。
ムギちゃんがたまに部室に持ってきて読んでるからわたしも読んだことある。
「ああいうのってどこで売ってるの?」
「わたしはインターネットで買ってるから」
「ふうん……」
「あ、でも昔はね、年下の女の子が買いにいってくれたのよね。あれ、どこで買ってたんだろう?」
「それってパシリ? ムギちゃんって悪者だ」
「ふふふ、そうかも」
「ねえ、ムギちゃんってさあ、女の子が好きなわけ?」
「どうなのかしら。そういうことってあんまり真剣に考えてこなかったな。わたし中高女子校だったし」
「もう大学生なんだから考えなきゃだよ!」
「じゃあ、どっちも好き! 男の人も女の人も」
「それってずるくない?」
「ずるいかしら?」
「ほんとはずるくはないけど、いまはずるい」
「わかんないなあ。経験があんまりないから……」
「経験積まないとやばいよ。アメリカなのにさ!」
澪ちゃんが急に口を挟んできた。
「アメリカは関係なくないか」
「あるよー。アメリカでは恋愛がすっごい盛んなんだよ。映画とかでもいつも恋愛があるもん」
「日本だってそうだよ。漫画とか」
「漫画はフィクションじゃん」
「ばか」
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:12:27.90 ID:skFt6CMPo
澪ちゃんはまた漫画を読みだしている。
「服見てもいい?」
「うん。もうつめちゃったのもあるけど」
衣装棚を開けるとたしかにところどころすきまが空いてたけど、それでも冬物のコートなんかがずらりと並べてある。数の点では全然わたしなんかじゃ勝負にならない。おそらく値段も。なかにはドレスみたいな服もあった。
高校の制服が4つも並んでてわたしは驚く。そういえば前にムギちゃんは制服の替えをたくさん持ってるって言ってた気がする。最初2着で、あと年度ごとに1着新しいのを買ってるって。1着しか持ってない人だって多いのに。
「ねえムギちゃん、制服はあっちに持ってかないの?」
「ああ、そこにあるのはまだ着るかなって思って……でも持って行かないかな。じゃまになっちゃうし」
「そっかー……あ、そうだ!これちょうだい、制服があるとムギちゃんのこと思い出せるからね、記念に」
「うんっ。どうせもう誰も着ないし、全部持ってちゃってもいいわ」
「ほんとに? やったーじゃあ4着みんなもらうね! ねえねえ4着セットだよ澪ちゃん、大もうけだよ澪ちゃん」
「ばかっ」
澪ちゃんが言って、げんこつ。
ひりひりする。
「……ムギちゃんハウスが建てられるとこだったのにぃ」
わたしはまた叩かれた。
「人の制服を売ろうとするんじゃない」
「えへへ……」
わたしたちがなんで笑ってるのかわからなくてムギちゃんはちょっとさみしそうな顔をしていた。
これからまたちょっとした用事(あいさつに行くんだって。あいさつ?)があるらしいのでわたしたちはおいとますることにした。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:13:37.25 ID:skFt6CMPo
家を出ると3時半くらいだった。
電車に乗っている間、澪ちゃんはもしもいまこの瞬間にゾンビがでたらどうすべきかってことについてなにやら検討してたけど、ふと、せっかくだから隣町へ行こうって提案してきた。春に着る服が欲しいのだと言った。わたしがやることがあるから帰るとこたえると、ふうんとつぶやいたきりそのことについては何も言わず、列車が脱線したとき安全なのは後部車両でいいのかなあとか、みんなで協力して荷物を並べてバリケードを作るんだとか、そんなハンドバックなんかは邪魔になるだけだからすぐに捨ててしまうんだぞといったことを再び延々と述べるのだった。
わたしは同世代の子に比べてもブランド品とかにはほとんど興味がないけど、このバッグはわざわざ都心まで行って買った限定品だった。
電車は桜が丘まで流れていく。
危機もなく。
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:14:13.67 ID:skFt6CMPo
11
教会の中は思っていたのとだいぶ違ったから少し残念な気持ちがした。
外側はまさしく映画で出てくるような、とがった屋根のついている格好をしていたのに、一度エントランスをくぐった後に現れたのは単なる事務的空間だった。
空間は白っぽく、無機質で、蛍光灯の光が冷たい。ワックスのかかったリノリウムの床に反射して水面のように見えた。左手側奥まったところに階段が見えて、入り口に水平に引かれた鎖の下では『関係者以外立入禁止』のプラスチック板がぶらぶら揺れている。右手にはカウンターというか受付のようなところがあって台の上には何種類かのパンフレットが整頓されて並べてあるけど人はいない。
『《聖・天使教会》なぜ天使は再び舞い降りたか』『てんしがみんなのおねがいごとをかなえてくれる!』なんていうなことがパンフレットには書いてあり、そのひとつを適当にとってポケットに入れる。
なんだか病院みたいだった。
正面の廊下の先にある大扉まで歩いていく。誰かになにか注意でもされるかと思ったけど何も言われなかったし、ここまで来て帰るのもそれはそれでとかなんとか自分に言い訳して、扉を少し開けてみる。
そしてそこには、教会があった。
昔ながらの、懐かしい、映画的教会。
最初に目に入るのは、十字架に張り付けにされたキリスト像で、そのすぐ真下には祭壇があり、そこからこちらに向かって赤いカーペットがまっすぐのびていて、左右に長椅子が列を作って並んでいる。黒ずんだ木の椅子で、横長のクッションが上に敷いてあった。この時刻、人はまばらで、祈りを捧げる人がいたかと思えば、単に休息していたり、本(聖書だろうか?)を読むとか、ある人は居眠りなんかしていて、そのすべてをステンドグラスから横ばいに射し込む光がまるで祝福するかのように染めている。
厳めしい教会風の建物に入ったらそこは現代的な受付だったというのもなんだか肩透かしな感じがするけど、あの殺風景な事務空間から急にちゃんとした教会へとつながるのはそれ以上に変な感じがする。衣装ダンスの向こうはおとぎ話の国でした、とか。あるいは、マーガレットを開いたら、いきなり数Ⅱの問題たちが現れて、そのあとにまた「君に届け」がはじまるみたいな。
だけどこういうのって行きはまあいいけど、帰りはやっぱり冷めちゃうんじゃないのか
な。せっかくの神様との面会も帰りに処方箋持って薬局に寄るんじゃだいなしだ。それともそうでもないのかもしれないな。もしかしたらディズニーランド帰りの電車あたりにヒントは転がっているのかも。
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:14:41.61 ID:skFt6CMPo
わたしは最後列の左側、通路沿いのところに腰を下ろした。
同じ席の少し離れたところに座っているおばあちゃんにわたしは声をかけた。
「あのー、あの、りっちゃん、あ、高校生って知らないですか、女の子の。こういう黄色いカチューシャつけてるんですけど、こー、いう」
「いやあ、知らないねえ。高校生なのかい?」
「はい!」
「高校生なのにこんなところに来るなんて大変だねえ」
そうなんですりっちゃんはとっても大変なんですよという言葉は飲み込んだ。
でもおばあちゃんはりっちゃんのことをいろいろ詳しく聞いてくれ、なんとか思いだそうと懸命につとめてくれた。こうやってお祈りをしているような人は心が豊かなのである。やっぱり神様っていうのは力があるんだ。
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:15:14.14 ID:skFt6CMPo
それでもうりっちゃんのことは諦めて、おとなしく黙ってることに決めてじっとしていると、なにか囁き声のようなものが聞こえてくる。耳を澄ますと、それは音楽だった。ピアノとボーカルだけの曲で、ピアノの音は柔らかくゆっくりと流れ、それでいてどこか厳かでもあり、なにやらの英語のようなそうじゃない知らない言葉、こういうのはなんだかいかにも映画で見たみたいな感じでちょっとわくわくしてしまう。するとやがて祭壇のところに、白っぽい服を着た男の人が現れるから、これはもういよいよだと嬉しくなる。
「みなさん、こんにちは」
こんにちは、とみんなが声を合わせて言葉を返す。
「本日はようこそおいでくださいました。さっそくですが、実は今日、新しく我々の仲間に加わる方がいます。彼女もまたわたしたちと同じ苦しみに遭われ、そして神の恵みによって救われようとする者の一人です。どうか我が主のように、慈悲の心を以てして彼女の手をとり、仲間に迎えてあげようではありませんか」
一瞬、それがわたしのことなんじゃないかと思ってびっくりしたけど、前の方で30代ぐらいの女の人が立ち上がるからそうじゃないんだって安心する。女の人は壇上にあがって話しはじめた。
「えーみなさん、こんにちは。わたしは今、39歳で、離婚歴があり、ひとりの娘がいます。娘は高校生です。夫とは別居していて、今は実家の方で母のお世話になっています。夫は結婚した当初はとてもよい人でしたが、だんだんとすれ違いが生まれていき、しかしそれはふつうの夫婦生活ならば十分考えられる程度のすれ違いでもありました。決定的なのは子供が生まれたことです。そこからだったんです、そのときから彼は急に素っ気なくなり、家に帰らないことも増えました。生まれたばかりの子供がそこにいるにも関わらずです。彼は子供が好きではなかったんです。わたしは娘のことをとても愛していますが、彼女は望まれて生まれた子供ではありませんでした。生まれた子供が女の子だったことも夫を失望させたのだと思います。彼はどちらかと言えば男の子を欲しがっていましたから。時が経っても夫の態度は変わらないどころかますます冷たく、家に帰ってくる頻度も減り、やがて自然な成り行きでわたしたちは別居することになって、最終的には離婚するに至りました。アルコール依存になりはじめたのは、ちょうどその離婚した頃のことでした。最初は段々と心離れていく夫への寂しさから酒に手を出すようになり、ひとりで子を育てる気苦労がそれに拍車をかけました。それでもそのときのわたしはせめて自分の身の回りのことはきちんとし、娘も学校へ行かせ、よい母親であったかはわかりませんが、少なくとよい母親であろうとしていました。このアルコールという悪魔の手に本当に捕まったのは娘が中学を卒業し、そこにちょうど離婚も重なった――もちろんそのときにはすでにそれは形式上のものにすぎませんでしたが――そのあたりでした。娘も大きくなり自分のことは自分でできるようになり、また反抗期らしきものを迎え、今までふたりでがんばってきたのが、なんだかひとりになったようで、なにか張りつめていた糸のようなものがぷつりと切れてしまったな心持ちがし、わたしはお酒に溺れるようになりました。もちろんわたしが他の誰かよりもそれほど悲惨な目にあったとは思っていません。だからこれはひとえにわたしの心の弱さが引き起こした問題です。今こうして喋っている間にもアルコールへの要求は収まらず、ふとすると手がふるえてしまっているのではないかと不安になります。幸いなことに、母の力添えもあって、娘は今のところ元気な子に育っています。わたしは娘のためにもはやくこの依存に打ち勝ちたいと心から願っています。聞いてくださいありがとうございました」
女の人が頭を下げると、ぱちぱちぱちぱちぱち拍手の音がして、ありがとうありがとうとみんなが声をかけている。
そうだったのだ、これはお酒を常習的に飲み過ぎて依存症になってしまった人たちが集まりなにやら順番に自分のことを告白しつつ神さまの力を借りてアルコールを断とうとする会合なのだった。わたしは知っている。映画にはよく出てくるやつなのだ。
りっちゃんのお母さんはアル中だったんだ!
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:15:51.87 ID:skFt6CMPo
いつの間にか女の人の告白は終わっており、別の人が壇上に立っていた。このままだとわたしも高校生にてアルコール中毒にされてしまうというか、法的な問題が持ち上がってきてあんまり気持ちのいいことにはなりそうにもない。
隙を見て席を立ち扉を開けて逃げ出して、再び病院的空間の方に戻ると、受付のところには女の人が座っている。大学生風の感じで、退屈そうな表情をしていて、スマートフォンをなにやらいじっていた。
「あの、りっちゃんのお母さんが、アル中で、あ……」
「なに?」
「あ、いや……あのー、ここって《聖・天使教会》あってます?」
女の人は顔を上げわたしのほうを一瞥し、それからカウンターの上のクリアファイルに綴じられた用紙をじっと見つめて言った。
「んー、今は、アルコール依存症患者のための……あー……キリスト……相互補助会……みたいだけど」
「あのっ、わたし、《聖・天使教会》に来たつもりだったんですけど、ここじゃないんですか?」
「《聖・天使教会》は火曜日と水曜日と日曜日だったと思うけど。あれ、土曜日もやってるときあったっけなあ」
それから先ほどの用紙に再び目を通して、
「あ、違った火曜じゃなくて、月曜だ。月水日ときどき土曜日」
「へ、どういうことです?」
「あれ、もしかして、はじめての人かな? 向こうから出てくるからてっきり……」
「はい、そうなんです」
「あのね、この教会はあれなんだよね、貸してるらしんだよね。あーだから、いろんな団体とか宗派とかが借りて時間とか曜日とか分けて使ってるって事だけど、つまり、もう今時は土地なんかもあんまりないっていうし。お金もかかるもんね」
「はあ」
「ちなみに、今、どっかに体験入教とかしてみようとか思ってるわけ? わたしの個人的お勧めはさ《天使光来会》かな、神父さんがみんなかっこいいんだよね。《西日本東キリスト教団》も見たとこレベル高くていい感じだよ。《天使を許さない会》なんかもBBQとかして楽しいって友だちが言ってたな……」
「あ、あのー、あ、大丈夫です。友達を探しに来ただけなので」
「あれ、そうなんだ」
「でもよかった、りっちゃんのお母さんはアル中じゃなかったんですね」
「なに?」
「あ、いや、ありがとうございます」
「がんばってね」
ありがとうございますと反射的に頭を下げたあとで、はたして何をがんばればいいんだろうかと考えてみたものの、結局はまあいいやと思うことにした。
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:16:25.36 ID:skFt6CMPo
12
帰り道、りっちゃんを見つけた。
河川敷、堤防の川につづくコンクリートの階段の上。下から3段目。
白い傘が揺れてた。
傘の上では、2つの点と1つの曲線が幾何的な笑顔を浮かべている。バリケードをつくるため部室をひっかき回してたときたまたま見つけた極太の油性ペンを使って、ムギちゃんとわたしでいたずら描きをしたのだった。
意外なことにあずにゃんもいた。
今日のあずにゃんは調子悪。下半身は液体だった。両足から腰にかけては芯が入ってないみたいにぐでんとして、広域接地。上半身はまあまあ。ほ乳類的基準値を満たす。一番の問題は首で、頭蓋は自由運動を勝ち得た喜びにあっちへこっちへ跳ね回る。けん玉の真っ赤な玉みたいな感じ。天使の皮は丈夫なのだ。
あずにゃんは、りっちゃんよりさらに川岸にいて、せせらぎに引かれうろうろしてるのかと思えば、急に立ち止まって泥を掘りはじめたり、天使の言葉を呟いてみたり。すこしでも水面に触れると驚いてそこから離れようとする。ちょっと猫みたい。
なんたってあずにゃんは天使である以前に猫だったんだもん。
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:16:54.38 ID:skFt6CMPo
「ねー、りっちゃんっ! あずにゃんのこといじめてたのー?」
わたしは階段を小走りに下りて、りっちゃんの隣でひざを曲げた。
りっちゃんは肩をすくめた。
「まさか」
「だけど、骨とか折れてるし、首も……わわ、あずにゃーんだめだよー、そんな急に動いたら首が落っこちゃうよー」
それから、川岸のほうに寄っていって口笛を吹くと、あずにゃんがのろのろとこっちに歩いてきた。
わたしはあずにゃんの手を引いて、あたかも流した鈍液がとどまりきれずこぼれだしたかのように階段の終わり、いびつに広がったコンクリートに、腰を下ろした。
あずにゃんの頭を優しくなで、りっちゃんを見上げて
「あずにゃん、大丈夫? ね、りっちゃんはひどいよねー」
と、言った。
りっちゃんはなにか言い返そうとしたけど結局はめんどくさくなったみたいに言った。
「ああ、そうだそうだ。結局はみんなわたしが悪いんだよ、天使が降りはじめたのも、ムギが海外に行っちゃうのもさ、父さんが死んだのも、梓が天使になったのも、みんなみんなわたしのせいだよ」
「ていうかさー、りっちゃんがあずにゃんとふたりでいるのなんか意外」
「梓に会ってるのがおまえだけだと思ってたか?」
「そんなことないって、あずにゃんはみんなのものだもんね。つまり神さま、っていうか天使はわけへだてなく人々を愛してくれるって意味だけど……」
わたしが猫にするみたいにあずにゃんの頭をなでているのを見て、りっちゃんは微笑み、
「唯って梓を扱うのがうまいんだな」
階段飛んで、わたしの横に座った。
「ずっと前からか」
夕暮れどき。
りっちゃんの影がわたしの隣までのびていた。小さな夜の中、あずにゃんは、よりかかってわたしの膝の上に頭を乗っけている。
川は光を失い、陰影が跳ねた。電波塔。対岸の木立はいつ誰が迷い込んでいいように悪巧みの計画を練りはじめる。
ちゃぽん。
水しぶき。
2月の終わりの冷たい風。
太陽が遠い。
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:17:25.69 ID:skFt6CMPo
「あ、そういえばね、制服」
「制服?」
「ムギちゃんが制服くれるって言ってたよ」
「ああ、制服か」
「こんなのでいいならいくらでもあげるから、生活のたしにしてねって」
「清貧だ」
「貧じゃないけどね」
「『富んでいる者が天国にはいるのは難しい』」
「りっちゃんさ」
「なに?」
「免許取れた?」
「仮免な、わたしけっこううまいんだぜ」
「へー」
「でも、教官がさ厳しいのよ。俺はちゃらちゃらした女子高生が大嫌いだと最初に言うわけ、きっとあれ昔生徒に手を出して痛い目見たんだな」
「あはは」
「だけどすぐ取れるよ」
「たまには学校来たら?」
「ムギはきてないんだろ」
「まあね」
「唯とか澪とかはまだ会えるしさあ。それよりはやく免許とればさ、唯がまだここにいるうちに三人でどっかいけるかもしれないじゃん」
「あぁ、そっか」
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:18:19.07 ID:skFt6CMPo
「唯はさどっか行きたいとことかあんの?」
「えっとねー……」
空を見上げると、切れ目ない大きな雲が東から広がっていき、ゆっくりと夕焼けを制圧しようとしている。白。天使の国はどんな色にも染まったりしないのだ。
わたしは呟いている。
「……天国、とか」
「ばーか、そんなとこ車なんかなくたって簡単にいけるだろ」
りっちゃんがわたしをこづいた。
「じゃあ海がいいな、海!」
「海か」
「まえに澪ちゃんがひとりで冬の海行ったでしょー。あのときからいいなあって思ってたんだよね、みんなで行きたいって」
そう、ほんとはさ、みんなで、5人で行くつもりだったんぜってりっちゃんが小さな声で呟いた。
だけどそれを打ち消すみたいにすぐ、
「なあ、梓も行くか?」
って聞いた。
あずにゃんは顔を上げてりっちゃんのほうを向いたけど何も言わない。わたしの膝の上にどんどん進出していまやお腹が乗っかっていた。寝ころんだお父さんの垂直にのばした足の上で子供が、ひこーき!ってやるみたいな感じ。
「ってむりだよなー」
「トランクにさ、ガムテープでぐるぐる巻きにして、つめてけば?」
「それ誘拐」
ちがうよねーってわたしはあずにゃんの耳元で言う。あずにゃんはばた足してた。
「変なやつ」
「だれが?」
「ふたりとも」
「えー」
「梓は、唯のせいだな」
「なにがさ?」
「梓が天使になっちまったの。梓は唯に一番なついてたんだから、梓がひとりになって寂しいのは唯のせいだ」
「えー、それならりっちゃんもじゃんー、責任転嫁だー」
「責任なんかわたしにはないんだって」
なんたって唯のせいだからな、とりっちゃんはくすくす笑いながら繰り返す。
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:19:21.71 ID:skFt6CMPo
「てかさありっちゃん免許とる前提だけどとれるのほんとに?」
「うまいっていっただろ。神童だよ神童。教習所始まって以来の大天才」
「へー」
「それにドラマーだからな。ペダルを踏みながら手を動かすのは得意なんだ」
「走りすぎ、信号無視で横から、どかん」
ちぇって舌打ち。
りっちゃんは石を投げた。平行に水面を切って三回跳ねた。
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:19:49.77 ID:skFt6CMPo
「りっちゃんの運転じゃほんとうに天国にしかいけないかもなあ」
「なんだとーこいつーいま殺してやるー」
りっちゃんが後ろからわたしの首をロックして締める。
「いたいたいいたいごめんごめん」
ばたばたと暴れ回るわたしの上からあずにゃんはことんって落ちて、コンクリートを土の上まで3回転がった。気に入ったのか知らないけど、そこで仰向けに横たわって動かなくなってしまう。
そんなあずにゃんのことをりっちゃんはおもしろそうに眺めている。
「澪ちゃんが言ってたんだけどさあ、りっちゃんって天使のこと好きになったの? あずにゃんのことも」
少しはにかんでりっちゃんはいった。
「許すことにしたんだよ」
「許す?」
「うん。あのさ、天使がセックスしてるとこ見たことある?」
「は?……え、それって、あのえっちなやつ?」
「うん」
「あるわけないじゃん!」
「わたしはあるよ。いつもの集会の帰りだよ、たしか日曜日だっけ。よく晴れた日だったんだけどさ、空気が妙に澄んでて、その日は集まったみんなが、なんつーのかな、自分が体験した奇跡、みたいなのを話す日で、わたし、ものすごくうんざりしててさあ」
それからちょっと笑って、
「あんまりうんざりしたもんだからあと少しでわたしの奇跡は降ってきた天使にぶつかって父親が死んだことですって言いそうになったくらいだよ」
わたしはそれには答えずに言う。
「奇跡ってさ、たとえばどんな奇跡なの?」
「くだらないことだよ。そうだなあ……たとえば、なくなったマヨネーズを逆さにしてしばらく置いておいたら七日後には復活してみたいな類のさ」
「あはは、それはたしかにくだらないね」
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:21:03.07 ID:skFt6CMPo
「で、その帰りだよ、天使を見たのは」
「してるとこ?」
「うん。ほら、あの、エロビデオ屋あるだろ、駅のとこのさ」
「そこってエロビデオ屋じゃないよ」
「みんな男の子とか、そこで借りてるよ。年齢確認とかないから」
「でも、ふつうの映画もあるもん。しかも50円で借りれるし、ビデオテープだけど……」
「唯って意外と進んでんだな」
「ばか、勝手にそう思ってればいいじゃん」
「ま、とにかくそこの裏手でさ、近道なんだけど、通って帰ったら見たんだよな、天使がこう、ふたりで絡み合っちゃってさあ……」
「それってさ、りっちゃんの勘違いじゃないの? たまたまそういう格好になってたのかも、ちょうど上から落ちてきたとか」
「それはないよ」
「なんでわかるのさ、じっくり見てたんだ?」
「なわけないって」
それからりっちゃんは顔を上げて、天国をじっと見てから言った。
「唯はさ、いつも天使の肩を持つよな」
「そんなことはないよ」
「じゃあなんで天使がセックスしないなんて思うんだよ」
「だって天使はそんなことしないよ、できないと思うし。なんたって天使だし……」
「唯は天使贔屓だ」
「そんなことない」
「梓が天使になったから?」
「あずにゃんは関係ないじゃん」
そのあずにゃんは相変わらず土の上でごろごろと転がっている。
「そんなこと言えばりっちゃんは天使が嫌いだからそう言うんだし」
「そう、わたしは天使が嫌いなんだよ」
「で、それ見て、どうしたの?」
「どうもしないけど、たださ」
「ただ?」
「……わかんないな、なんかそれ見たら笑っちゃって。なんだろうな……要するに天使なんかさ、全然大したことないんだよな。ほんとさ気にするのもばかばかしいくらいでさあ」
「どういうこと?」
「つまりさ、わたしたち、もう、大人になるんだぜ」
「なにそれ、イミワカンナイ」
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:21:32.49 ID:skFt6CMPo
りっちゃんは立ち上がってそう言ったのだが、恥ずかしくなったのか、すぐに座り込んでしまう。
「どーせまたお得意のそれっぽいこと言おうとするやつでしょ」
「なんか唯が冷たい」
「知らないし」
それからはわたしたち黙ってしまう。
りっちゃんは流れる川をにらんでいた。わたしはあずにゃんを眺めている。
少しあとで、わたしは言った。
「なれるの?」
「なに?」
「大人にさあ……」
「なれるよ」
「ほんとになれる?」
「なれない」
「イミワカンナイ」
あははとりっちゃんは笑って、でも許すよって言った。
「天使のことは。もういいんだ、ほんとに」
「そっか」
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:22:03.63 ID:skFt6CMPo
そのときあずにゃんがりっちゃんのところまでやってきた。
匍匐前進で、ゆっくり。
そして、手のひらをぱっと開いたのだ。
そこには、この河原で拾ったのだろうか、様々な石があった。
とってもきれいな石たち。
わたしはそこにピックがないことになぜだか少し安心していて、でも思った、これはきっとあずにゃんとりっちゃんの和解なんだ、って。
そういうのってたぶん人間的なんだけど、それでいいと思えたのだ。
りっちゃんが言った。
「だからわたしな」
「うん」
「梓に石をぶつけることにした」
59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:22:32.15 ID:skFt6CMPo
ちょうどいいところに石が突如出現したのだという具合にりっちゃんはあずにゃんの手のひらから石ころを取り上げた。
「ゆ、許しはどこいったのさ?」
「許すけどただでは許せないだろ」
「あずにゃんがかわいそうだよ!」
「だって痛みを感じないんだろ」
「い、痛みを感じてはいるけどそれを表現する方法がないのかも」
言ってからこれは頭のよさそうな意見だぞって思った。
「痛んでも痛まなくても一緒ならなんのために痛むんだ?」
「えーと、うーん……精神を強くする? えと、天使、天使だから、神様になるための修行だよ!」
「だったら聖書で神様だってこう述べてるんだぜ」
りっちゃんは立ち上がって言った。
「『あなたがたのうちで罪のないものが、まず彼女に石を投げなさい』」
りっちゃんに罪はないのかっ、とわたしが言うと、りっちゃんは笑って
「ないよ」
って言った。あまりにも自信ありげに笑うのでわたしはそれ以上何も言えなくなってしまうのだ。
60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:23:03.81 ID:skFt6CMPo
河原にあずにゃんが立っていた。
それと対峙するみたいに10メートルくらい離れて、りっちゃんがいる。
西の空の低いところに、雲の切れ目にあわせて、微妙に色を変えながら紫色の横縞が何本も走っている。ミックスのソフトクリーム、紫いも味、期間限定、落として溶けた、みたいな。
りっちゃんはあずにゃんに小石を投げた。
小石はあずにゃんの右のほっぺたにぶつかった。
ばしっ、という音がした。
わっ痛そうってわたしは目をつぶっちゃったくらいだけど、あずにゃんはあんまり気にしてないふうに見えた。ぶつかったせいで首が左の後ろ側に倒れ、沈む夕日を下から眺めてるみたいになった。
あずにゃんは(協会の人は奇跡って言うかもしれない、りっちゃんならあずにゃんの罪の意識がそうさせたって言うのかも)まだそこにいて、少しも動かないまま立ち止まっていた。
なんか言わなきゃってわたしは思ったけどどうやって言っていいかわからなかったから、しかたなく言った。
「ねえ、りっちゃんのとこってキリスト教なんだよね?」
「聖書を読むんだからそうなんだろうな」
りっちゃんはもう次の石ーー今度は黒光りするとがった薄いやつーーをつかんで、まるで歴戦の英雄が自分の剣をながめてうっとりするって感じで、裏返したりして光の反射を楽しんでいる。
「りっちゃん!」
「なに?」
「えと、えーとねえ……き、キリスト教徒っていうのは楽しい?」
りっちゃんはちょっと吹き出しそうになって、それから表情を崩して、
「別に楽しくはないって。でもけっこうばかな話とかもあるよ」
わたしはチャンスだって思って話を続けた。
「いま聞かせてよ」
「だめ。もうはじめちゃったんだから」
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:23:56.85 ID:skFt6CMPo
それからはもうりっちゃんはなにをいっても返事をしてくれなくなってしまった。
一投一投、時間をかけて淡々と石を投げ続けている。
あずにゃんのほうもなぜだかそこから動かないのだ。
わたしはもうこの愚かな儀式をくいとめるのを諦めてしまった。
ふたりに背を向けて、対岸を眺めていた。
石をぶつけたいならぶつければいいし、ぶつけられたいならぶつけられればいいのだ。悪いことすればいずれ天罰は下るんだし。
ばしっ、ぽこん、ばしっ、ぽこん、ばしっ、ぽこん。
柔らかいあずにゃんの肌に小石がぶつかり、土の上で跳ねる音。
我慢できずにときどき振り返ると、やはりりっちゃんはまだ石を投げ続けている。深い夕暮れの色に染まりながら、石を投げては拾い、投げ、拾い、投げるのだ。
あずにゃんは無表情で、りっちゃんはなんだか怒っているみたいに見えた。でもいつも天使のことになると見せるむすっとする怒り方じゃなくて、それはお父さんとお母さんが喧嘩するときの怒り方ともちがっていて、なんていうかうまく言えないけど野球のピッチャー(投げるの連想だ)がホームランを打たれて帽子を深くかぶる、みたいな感じ。
りっちゃんは、一度だけ短い言葉をつぶやいた。
単音節の言葉を二つ。
なにかを言ったのはそれだけだった。
いつの間にかわたしも、聞こえてくる音にあわせて、黒々と染まった川に向かって小石を投げている。
ばしっ、ぽこん、ぱちゃん、ばしっ、ぽこん、ぱちゃん、ばしっ、ぽこん、ぱちゃん……。
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:24:43.41 ID:skFt6CMPo
いつしか水の跳ねる音だけしか聞こえなくなったとき、振り向くともう西の空も真っ暗になっていた。ただ天国だけが妙に白っぽく浮かんでいるのだ。
二人の罪深い少女の影がぼんやりと遠くに見える気がした。
りっちゃんはあずにゃんのほうに歩いていって、両方の肩をぐっとつかんで、言う。
「許すよ」
あずにゃんはもちろん何も言わない。
「どっちかと言えば許すのはあずにゃんだと思うけど」
わたしは言って、すぐに言い過ぎたかなって思って、そりゃりっちゃんの気持ちも分かるけどさあ……ってつけたす。
「だって梓が何を許したりするんだ?」
「そりゃあ、もちろん、天使になっちゃったこととか……」
「唯は天使贔屓だから、そういうこと思うんだ」
「だから別に天使贔屓とか、じゃない、もん……」
りっちゃんは続けて、笑って冗談っぽく、
「それに梓が天使になったのは唯のせいだしな」
「なんでなのさ?」
「それは少しでも信心があれば自明だ」
りっちゃんだって信心なんてないくせに。
わたしが言うと、じゃあ知性だな唯には知性がないんだとかなんとか。
「あーあ唯のせいでこんな姿になって梓も大変だな」
「……そぉ#で∝♪ね」
そうですね?
あれ、あずにゃんさっき人間の言葉喋ったような。
だけどりっちゃんは、気にするふうもなくあずにゃんの手を引いて、先に歩いていってしまう。あずにゃんも自然な感じで引かれていって、ちょっとまんざらでもないみたい。前世もその前の前世だって、わたしたちベストフレンドでしたよねって感じ。
わたしはあずにゃんのことかばってやったというのに、毎日あずにゃんに会いに行ってあげたっていうのに。なんで石なんかぶつけるりっちゃんとは喋って、わたしとは喋んないのさ?
あずにゃんってやなやつ。わたしも石とかちょーいっぱいぶつけてやればよかった。
つぶやいてから、りっちゃんたちを小走りに追いかける。
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:25:16.62 ID:skFt6CMPo
13
ムギちゃんのお別れ会は午後から開かれた。
りっちゃんと澪ちゃんは先に行って折り紙の花綱とかきらきらのモールとか百均で買った5色の丸いクッションを並べたりして空っぽの部室に飾り付けをしている。わたしは朝からあずにゃんを探して公園でひとりギターを弾いたりしてたけど、なかなか見つからなくてほとんど諦めかけたとき、陸橋下で恐れを知らないレクサスにひかれそうなあずにゃんの腕をすんでのところで引っぱった。
部室に行くともうムギちゃんがいた。
輪っか飾りの山の中に埋もれていた。
「わたしね、輪っか飾りをつくるのが夢だったみたい」
ムギちゃんは言ってから、あずにゃんを見つけてちょっと笑う。
輪っか飾りはいまや部室の壁を半周できるくらい長い。
「ムギのやつさずっとこればっかつくってるんだぜ。手伝わずに」
「だってわたし送り出してもらうほうだもん」
「むだに長くしやがってー、飾れねーじゃん!」
りっちゃんが輪っか飾りを丸くまとめて投げた。ムギちゃんはカラフルな折り紙の海に沈んだ。銀紙が輝く。
ムギちゃんがちょっと暴れる感じをやるので、すぐそばの紫色の炭酸ジュース入りの紙コップを澪ちゃんは遠ざけた。
近くには紙コップと紙皿の白塔、プラスチックフォーク。ファンタのグレープ(半分減ってる)とペプシ・コーラの1・5リットルペットボトル、バリヤース(残り3分の2)、午後の紅茶のミルクティー。
でもティーポットはなし。お菓子はあり。
ずっと余りっぱなしのミルククッキー缶、ポテトチップス(コンソメ)、各個包装の四角いチョコレート、澪ちゃんお気に入りのパンクッキー。白いビニールの袋にはりっちゃんの買ってきた駄菓子が、シガレット、練り飴,チューイングガム、あめ玉。
そしてなんといってもその中央でどうどうとピンク色に輝く大きな苺のホールケーキ。残念ながらこれはムギちゃんの持参だったけど。
天井にあいた穴の上にはブルーシートが。ばさばさばさって青空のはためく音がする。
わたしたちは円をつくって座っていた。
[のりしろ]澪ちゃん、りっちゃん、わたし、ムギちゃん、澪ちゃん[のりしろ]みたいな感じ。ムギちゃんの輪っか飾りにいくつか混じってるメビウスの帯。
あずにゃんはわたしのひざの上でいまはおとなしい。文字通り身体を半分に折り畳んで、ぺたん。
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:25:46.86 ID:skFt6CMPo
りっちゃんが言う。
「乾杯のまえにムギから、一言どうぞ」
「えー……」
「ほら、なんでもいいから」
「えーと……えっとねぇ……じゃあ」
あずにゃんが言った。
「#▽√∀∀」
「ま、そういうことで……」
乾杯した。
舌の上がちょっぴり痛かった。わたしは炭酸が苦手だった。
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:26:37.55 ID:skFt6CMPo
「でもいいよなー、アメリカ」
「ばか、旅行に行くんじゃないんだぞ」
「でもさあ、スケールでかいもんなーアメリカは。天使もいないし、な?」
「あーだめだよ、またりっちゃん、あずにゃんにでこぴんとかするー! 大丈夫か、梓、よしよし」
「ピザとかもすげーでっかいじゃん、あーいうのいいよなー!」
「あ、それちょっとわかるかも」
「まず土地が広いもんな、広大」
「車も大きいな」
「人も大きいぜ」
「野球はメジャーだしね」
「映画もすごいよね、制作費とか!」
「野球見るの?ムギ」
「見ないよ」
「意味ないじゃん!」
「でもこれからは見るようになるかも!」
「ムギもアメリカナイズされちゃうね」
「髪の毛金髪にしちゃったりなー」
「もう金髪じゃないか」
「映画もすごくない?」
「ねえ、ムギって英語喋れるんだっけ?」
「あんまり!」
「どうすんの?」
「アイ・ドント・スピーク・イン・グリッシュ、って言う」
「あずにゃん、あずにゃん。アメリカの映画はね、すごいんだよー。制作費が何百億とかあるからね。国家予算だよね、国家予算だよあずにゃん。国家予算かな? あずにゃんが日本の映画だとすると、アメリカは澪ちゃんだよ」
「♯♪」
「何の話だ」
「あ、そうだ、澪ちゃんはさ、日本風のホラーとアメリカ風どっちが怖いのさ?」
「そりゃあ、日本だよ。アメリカのホラーはがさつなんだよな、あれってただ単に驚かしてるだけだからな。そういうの一度理解しちゃうと恐怖を感じたりできなくなるんだよ、悲しいことに」
「ふふ、アメリカはりっちゃんなのかしら」
「なんでなんだ、なんでアメリカが律なのよ……ひぃあっ」
「じゃじゃーん」
「そんなお面どこにあったのさ?」
「バリケードつくるとき見つけたから隠しておいた」
「そういえば、さわちゃんは? わたしさわちゃんに会いたいわ!」
「仕事してしるんじゃないかな、流石に。卒業間近で忙しいんだろうね、帰り職員室に行ってみる?」
「聖職者だからだよさわちゃんは聖職者だから」
「『あなたがたの教師はキリスト一人だけである』」
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:27:07.71 ID:skFt6CMPo
「あ、もういっこ思い出した! 澪ちゃんにお願いがあったの」
「え、なんだ」
「あのね」
「うん」
「最後にわたしのこと叩いてほしいの!」
「え、ああ……えー……」
「お願い!」
「澪ちゃん、叩いてあげなよ!」
「そうだーそうだー」
「わ、わかったよ……」
「力加減はいらないわ!思い切り来て」
「えいやっ」
「あっ、いったぁ……あーいた……いたい」
「ムギちゃんかわいそう」
「いつもわたし叩くときより全然強かったな」
「叩くっていうより殴るだね」
「だってムギが……わ、わたしが悪いのか」
「さいてーだー」「さいてー」
「なんかごめんな、ムギ……」
「ごめん、ちょっと今は話しかけないで。頭ががんがんするから」
「あ、うん……」
「さいてーだー」「さいてー」
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:27:35.57 ID:skFt6CMPo
そんな感じで宴もたけなわになりはじめた頃、立ち上がって、りっちゃんが言った。
「ごほん……今日はわたしたちムギのためにとっておきの音楽を準備してきました」
「ムギちゃんのためだけにつくった特別な曲です」
「では聞いてください、天使にふれたよ」
「使い回し反対!」
そのあと何度か冗談を飛ばしあってついにはムギちゃんもキーボードを前にした。
結局のところこの曲はあずにゃんのための曲だし、あずにゃんはいまここにいるんだからあずにゃんに向かって演奏するのが一番いいんだろう。
音楽が鳴った。
まず澪ちゃんが歌い出す。つぎにりっちゃんが。
この曲は、ひとりずつが順繰りにボーカルを担当するって構成になっている。
「ねー思い出ーのカケラに名前をつーけて保存するなら宝物がぴったりだね」
「そー心のーよーりょーがいっぱいになーるくらいに過ごたね ときめき色の毎日」
「なじんだせーふくとうわーばきー ホワイトボードのらくーがき」
「あしーたの入り口に置いてかなくちゃいけなーいのかなー」
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:28:07.39 ID:skFt6CMPo
こん。こん。こぉぉん。
どこから侵入したのだろう、音楽につられて天使たちがやってきた。
扉の向こうで押し合いへし合い、ドアノブをがちゃがちゃと回している。
バリケードがあるから押しても開かないのだ。引くドアだし。
低い角度から差し込んだやわらかい光の中を、ほこりがぷかぷかと漂っている。
もう夕暮れだった。
そんなふうにぼーっとしてると自分の歌う番を飛ばしそうになってしまう。
「でーもね、会えーたよ すてーきなてんーしに 卒業は終わりじゃない これからも仲間だから……」
こんこんこんこんこんこんこん。
扉の向こう側にはどうやらけっこうな数の天使がいるようだった。
建物のなかでこんなにたくさんの天使を見たのははじめてだった。誰かが玄関を開けっ放しにしたままだったのかもしれない。もしかしたらわたしたちのライブを見に来てくれたとか。あずにゃんが天国でいっぱいチケット配って。
なんたって最後のライブなんだもんね。
急に胸が締め付けられるような感じ。
そっか、おしまいなんだ。
69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:28:47.11 ID:skFt6CMPo
そう思ったときふたつのことが同時に起きた。
二番の自分のパートを歌っていたムギちゃんの声が突然とまり、それからわっと泣き出した。
だけどわたしはそれを見つけなかった。別のものに気を取られていたのだ。
それはあずにゃんだった。
あずにゃんはいま扉の前、バリケードの上に這いのぼって、ムギちゃんが泣き出すのとほとんど同時に扉に手をかけて、そして押した。
ぎぃって音がした。
天使の羽が見えた。
りっちゃんはひたいに手をやって、ため息。
だいじょうぶかってムギちゃんに駆け寄った澪ちゃんがムギちゃんの肩を抱いて、それからふりむいてぽかんと口を開いた。
「あ」
ぐるん。
バリケードの一番上に積まれた椅子が滑り落ちるのと一緒に、あずにゃんが落下した。
なにかやわらかいものがつぶれる音。
わたしはあずにゃんをつかまえて引きずり戻す。
あたりどころが悪かったのだろうか、扉から一直線に白い血がのびる。
まるで天使たちを誘導するビーコン・サインみたいに。
食器棚のへりの先には青白い指。
ずるずると天使たちが這う音。
ムギちゃんはまだ泣いている。
澪ちゃんが叫んだ。
「わぁあああああ」
天使たちはバリケードを乗り越えてこようとする。一番高いところに指がかかったと思うとすぐにすべって落ちる。それが繰り返されるうちに、てっぺんに積まれたものがどんどん手前に崩れて降ってくる。
りっちゃんが言う。
「な、なあ、どうするんだよ」
そして思い出が決壊した。
バリケードの中央が崩れ落ちる。そこから天使が這いだしてくる。机が跳ねた。着ぐるみが踏みつぶされる。食器棚が倒れる。陶器の破片が飛び散る。天使たちはかまわずなだれ込む。白い血が吹き出す。ギターのコードが抜けた。音、きゅいいいいいん。
なにもかもが揺れて見えた。
震えてるんだ、わたし。
そんなつもりなかったのに。
みんなもどうしていいかわからなくてただ右往左往するばかり。
わたしたちはパニクっている。
地上の天使たちがほとんど無害に近いことも、何度も天使たちに囲まれたことがあることも、天使たちがわたしたちのこと食べたりしないことも、忘れちゃってる。押し殺してた不安や恐怖が一気にあふれ出てきて、いままでちゃんとわかってたつもりのことまでわからなくなってしまう。
バリケードが壊れちゃって天使が降ってくる!助けて!
70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:29:58.88 ID:skFt6CMPo
澪ちゃんは耳をふさいで座り込んでいた。
りっちゃんは壁に背中をくっつけたまま目を閉じていた。
ムギちゃんはまだ泣いている。
わたしも、わっと叫びそうになるのを、ぐっと飲み込んだ。
そして、あずにゃんは手を開く。そこにはたったひとつだけわたしがあげたピックが。
その手をわたしは強く握った。
冷たい。
死んだ手。
あずにゃんが言った。
「∝♪>>0�▽∝」
ふいに震動がとまった。
あずにゃんの手の冷たさが、握った手のひらの中で刺さるピックの異物感が、沸騰したわたしの脳みそに落ちて黒い焦げをつくる瞬間、頭の中のその部分だけが正しい信号を発する。いまも煮え立つ深海の暗闇の中で得体の知れない生物に怯えているのに、自分のほんのちっぽけな一部分だけが幽体離脱するみたいに空に浮かんでいる。
その場所で、流れ込む天使たちの様子をわたしは眺めている。侵攻する天使たちに踏みにじられていく思い出たちを。
りっちゃんがいつも座っていた椅子。通学鞄の置き場になってた青いソファーから飛びしてあたりを舞う綿。けどソファー右端の背中の穴だけはわたしがあけたやつ。新入生勧誘に使ったにわとりの着ぐるみ。あずにゃん専用のピンクのマグカップが割れた。さわちゃんが作った服たちが、着たことあるのも結局着ないで終わってしまったものも、みんな白い血で染まる。
握った手を通して接続されたあずにゃんの凍結された記憶をわたしの熱狂が溶かす、わたしは昨日までのこと全部思い出す。
だけどいったいずっと昔に死んでしまった過去からどんな教訓が得られるんだろう?
天使たちはもうそこまで迫っていた。
71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:30:43.75 ID:skFt6CMPo
わたしはまだ逆巻いてる。
スポットライトがステージの上のわたしたちを照らす、蒸し暑い夏の夜の喧噪遠い音楽、りっちゃんがくだらない冗談を言って澪ちゃんが怒ってムギちゃんが笑う、あずにゃんが言う「わたし、もう一度唯先輩のギターを聞きたいです!」、わたしが言う「あんまりうまくないですね!」、中学校の卒業式に泣かなかったのはなんでだったろう、もっと過去、若い母親と父親の姿、憂が泣いているわたしは割れた首の取れた人形をつかんでいる、さらに幼い憂は笑ってる、わたしは小さい、四つん這いになって後ろ向きに高速で進む、声がした、黒い影、誰かが言う「まるで天使みたい」、だけどわたしは大声で泣きはらし、暗い暗い穴の中に吸い込まれ、そして再び死んで天使になるーーそのとき、天啓が降ってきた。
落ちた天使に誰かが頭をぶつけたっていう新しい意味じゃなくて、アイデアがひらめいた!っていう昔からの。
それはこういうこと。
あずにゃんにとってこのピックってそんなに大切なものじゃない。
あずにゃんは本当にそのピックを返したかっただけなのかもしれない。あずにゃんはわたしが修学旅行のおみやげにピックなんか買ってきたことをほんとに怒っていてこんな物いらないですよって感じにわたしに押し返してきたのかも。
人間だったときは口に出せなかったけど。
その気持ちは分かる。あずにゃんも優しいのだ。わたしみたいに。
わたしは笑った。
「そっか、そうなんだよ!」
急にわたしが笑い出したから、周りのみんなは驚いた。
ぽかんとしてわたしのほうを見てる。
笑い声が澪ちゃんを自分だけの世界から引きずりだす。ムギちゃんはいつの間にか泣きやんで頭の上にはてなマークを浮かべてる。りっちゃんと顔見合わせて首を傾げた。
72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:31:42.53 ID:skFt6CMPo
え、待って、待ってよ、じゃあもしかしたら、あずにゃんが天使になったのもわたしたちとはぜんぜん関係ない理由からなのかもしれない。好きな人が別の学校にいてふられたとか、単に気まぐれとか。
わたしたちが思ってるほどあずにゃんはわたしたちのこと気にしてない。ありうる。天使たちは思ってるより人類に興味がない。これもありうる。大学はちょーハッピーは場所かもしんない。かもね。ムギちゃんはどこにいてもわりと楽しそう。まあね。澪ちゃんは単にホラー映画が好きなだけ。うん。りっちゃんはお父さんが死んでもぜんぜん気にしてない。これはおそらくない。お父さんとお母さんはあんな喧嘩しょっちゅうしてる。ふたりがわたしたち姉妹のこと全然わかってないみたいにわたしたちだってふたりのことなんか知らないのだ。
そうだよ、天使たちはすっごいいやなやつで人間たちがあわてふためく様子を見て天上でげらげら笑ってる。ゆえにあずにゃんは単に嫌みっぽくてやなやつだ。たしかに。
だけどなんで気がつかなかったの?
ゾンビ映画のせいに決まってる。もちろん。
天使は人を裁かない。
ううん、それはちゃんとわかってたつもりだし、わかってる。あずにゃんが天使になったのがわたしのせいだと思ってるからあずにゃんに毎日会いに行ったわけじゃない。あずにゃんは大事な後輩で、死者が降りはじめるそのずっと前から天使だった。
ってことは、わたしはあずにゃんをどう思ってるってことなんだろう?
73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:32:19.91 ID:skFt6CMPo
ま、いいや。とりあえずこのピックはもらっておこう。どうせあずにゃんだってわたしがあずにゃんのこれをもらったりしないときにちょっとなんかそれっぽいことを言ったりするのを聞いてはにやにやしてるんだろうし。それが天使風のやり方で、あずにゃんはずっと天使だったんだから。
わたしは言った。
「いろいろ言いたいことはあるけど、一番いいたいのはこの状況ってすごい笑えるよ、ってこと」
あの偉大な映画たちの登場人物たちは必ずと言っていいほど、だめだってわかってるのに一番やっちゃいけないことをする。昔からなんども似たような失敗を繰り返してるのに懲りずにまたおんなじことをする。わたしたち、いままさにその瞬間にいる。無知と恐怖、澪ちゃん的迷妄にとらわれていて、ものすごいばかなことをする。
それってすっごくあほだし、笑える。
「わ、わ、笑えるわけないだろ……ばかぁっ」
と、震えながら澪ちゃん。
「突然笑い出した唯が?」
りっちゃんはにやにやしながら言う。
「ねえねえ、おもしろいことってなに?なに?」
ムギちゃんはそれがわからないことがもどかしそう。
74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:33:07.29 ID:skFt6CMPo
天使たちはもうわたしたちのすぐそば触れるとこまでやってきてていっせいに手を開く。
がらくた。
そして、あずにゃんは飛び上がった。
りっちゃんがとっさに宙に浮いたあずにゃんの腕をつかむ。あわててムギちゃんもそうする。澪ちゃんはムギちゃんにくっついてる。
わたしも遅れてあずにゃんに向かってジャンプする。のばした左手が天使に触れーー触れらんないーーそして重力が消えた。
あずにゃんたちはビニールの青空を突き抜けた。切れ間から夕暮れ色した光線が降り注ぐ。
わたしを照らす。
死者を照らす。
あずにゃんたちがどんどん遠ざかっていく。
天使たちが、天使たちのがらくたが、遠ざかっていく。
わたしは浮かんでる。
空に向かってぐんぐんのびている。
わたしは飛んでいた。
背中に羽が生えていた。
小さな羽。
天使の羽。
落ちるって思う。
ぐって背中に力を込めて、飛び上がる。あずにゃんたちのところまで宙をジャンプした。
あずにゃんの肩をつかんだ。
冷たいのがなんだか懐かしくて安心した。
あずにゃんは4人の人間の重さをまったく意に介さず軽々と翼を羽ばたかせている。
りっちゃんが言った。
「天使になるなんてやっぱりお前は、ばかだよ」
知性だ、知性の欠如だって嬉しそうに笑う。
下を見た。
ミニチュアみたいな町が見えた。
高校、河川敷、スーパーマーケット(駐車場あんなに大きいんだ!)、中学校、わたしの家、和ちゃんの家、あずにゃんの家、りっちゃんの家、澪ちゃんの家、もうじきムギちゃんの家も見えるだろう。芝生のサッカーグラウンド、レンタルビデオ店、工場の煙、カラフルな車の川、街灯。町いっぱいの、黒っぽいアスファルト、白い天使の血。そのすべてが古めかしい夕光のなかに溶け込んで、影になった。
そして景色はだんだんと名前を失っている。
上昇気流が、わたしたちをどこか遠い場所へと運んでいく。
澪ちゃんがわたしの足をぎゅっと握ってて爪が食い込んだ場所が、痛い。
わたしはまだ痛覚を信頼している。
それが嬉しい。
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:33:49.09 ID:skFt6CMPo
「ずいぶん遠いとこまで来ちゃったねー」
「戻れるかな?」
「戻れないっ!」
「ねえー海見える?」
「見えないな」
「あれって湖かしら?」
「わかんない……」
「澪だったらわかるんじゃね」
「澪ちゃん! どうなの?」
「みえないきこえない」
「目開けてよ!」
「こわ、こわい」
「へーきだよ!」
「もうおしまいなんだよ!わたしたちは!」
「大丈夫だよ!みんなちゃんと下降してるから!」
「ほんとに?」
「信じてよ!」
「唯は信用できない」
「重力を! ね?」
「……うん」
澪ちゃんは目を開けた。
ねえあれ湖わかんないよえーつかえなーおっこちちゃえよーじゃあみずうみじゃなかったらなんなのかな川?川はない川じゃないだろじゃあ海?海でもないなあやっぱ湖じゃん?えーなになんかほかに水あった?沼泉貯水池……あ、水たまりだよ!ばかだなあえーだれのことさ。えーとね、じゃあ、ムギ。え、あ、うんごめんね、謝るなよアメリカじゃ謝ったら負けなんだぜなんたって英語には謝る表現がないくらいだからな……じゃあsorryはどんな意味なんだ……。
76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:34:15.63 ID:skFt6CMPo
雲の切れ間から夕日が無数の光線になって、差し込んでいた。
天国の階段。
たしかそう言うんだっけ。
ケーキにナイフを立てるみたいに、オレンジ色に染まった遠い空が白色の光で切りわけられている。
そして、見た。
天使たちが飛んでいた。
最初はまるで点々と、夕焼け色のキャンパスに落ちた白い絵の具のように。それから高度が上がるにつれてもっとたくさんの白い綿毛が空を覆いはじめた。
まるでそれは群れをつくる鳥たちの集団飛行みたいだった。
夕日を反射して赤く染まり、天国の階段をどこまでものぼっていく。白い大きな翼をはためかせ直線を描いてはやいスピードで、天国のなか、翼が雲を切り裂いて、高く、見えなくなってしまう。
この高度からだとそれがよくわかる。
だけど地を這うわたしは知らなかったのだ。
町に降ってきた天使たちはいつか天国にもどらなければならず、だから降る天使と同じだけの天使が空に帰るんだってこと。
わたしは天使が”飛ぶ”ってこと、知らなかったんだ!
「ねぇ、わたしね、わたしさ、わたし、ねえ、知らなかったなあ……こんなにもたくさんの天使がね、空さぁ……飛んでるなんて、一度も考えたこともなかったんだよ」
「唯ってばかだから」
「なんで、何で、りっちゃんはわかってたのさ?」
「あたりまえだろー、だって落ちるためには飛ぶしかないんだから!」
あるいは飛ぶために。
わたしは笑った。
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:34:42.27 ID:skFt6CMPo
「なんかこういうのって冒険みたいだよね」
「わたし門限までに帰らないとお母様に怒られちゃう!」
「電話しとけよなー」
「圏外だもん、ここ!」
「わ、わ、わ、地面が、地面が近づいてる。わたしたち落ちる!落ちちゃうよ!」
「大丈夫だよ!澪ちゃん!天使だっていつも着地成功してるじゃん!」
「あれ痛そう……」
「ばーか、痛みなんか感じないうちに死んじゃうよ」
「死なないからな、わたしは死なないから、律だけが死ねばいい……」
でも、わたしたち急降下してはない。あずにゃんは翼をひろげたまま。ゆっくり落ちていく。
78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:35:10.52 ID:skFt6CMPo
りっちゃんが笑いながら言った。
「だけど、ホラー博士の澪ちゃんが言うには、わたしたちのうち生き残ることができるのはひとりだけだぜ」
たしかにそうだ。
わたしは今でさえ超危機的状況にあって。
あずにゃんは天使になっちゃってて、わたしもそうなりかけてる、ムギちゃんは海外に行っちゃうし、りっちゃんは両親を失いかけて、澪ちゃんはえーと……特にないからいまのとこオッズ一番。
そしてその澪ちゃんが、またはっとするようなことを言った。
「じゃあさ、誰が一番生き残れるか勝負だな」
わたしは驚いた。
そうだ、勝負なんだ!
わたしたちは仲間なんかじゃなくて、仲間だけど敵同士で、生き残れるのはひとりだけなんだ。
これは大発見だぞって思ったんだけど、よく考えたら澪ちゃんはいまのとこ一番有利なんだからそれを言うのはあたりまえで、だからわたしは負けたくないって思った。
79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:35:53.95 ID:skFt6CMPo
「わたしとあずにゃんはもうふたりとも負けそうだから、タッグを組むよ」
ってわたしが言うと、ムギちゃんは
「それはだめよ」
って言った。
「なんで?」
ムギちゃんが答えた。
「だってそしたら結局わたしがひとりあまっちゃうじゃん」
ものすごく悲しそうな顔だった。
あわててりっちゃんが、
「わたしは澪なんかじゃなくてムギと組むからな」
って言ったけど、やっぱりムギちゃんはあのいつもの申し訳なさそうな表情で黙っていた。それでなんかもうすごく気まずい感じになっちゃったあとに、ムギちゃんが嬉しそうな顔で、
「じょーだんに決まってるじゃん。ばぁか」
って言ったから、わっ裏をかかれちゃったって、みんなはげらげら笑ってしまった。
あんまり笑ってしまったので、一番下にいた澪ちゃんは落っこちそうになっていて、とりあえず一番生き残りそうな澪ちゃんをやっつけようってみんなでちょっかいをかけてたら、澪ちゃんが怒ったふりをした。みんなはまた笑った。
80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:36:39.09 ID:skFt6CMPo
というわけで、今のところ、わたしたちは誰もかけずに5人そろっていて、まだ生きている。
そしてもちろん、そのなかで生き残るのはひとりだけで、そうなるのは他の誰かじゃなくてきっとわたしに決まってて、どんな卑怯な手を使ってもそうなってやるんだって思ったし、そしてその他のみんなもーーあずにゃんも含めてーーそれぞれにそう思っていた。
あずにゃんとわたしたちは風に流されて知らない場所まで飛んでいく。もうだいぶ遠くまでやってきてしまっている。知らない町の知らないアスファルトの上。
帰り道もわからない。
視線は低くなり、地面がぐいっと近づき、そして白昼夢的にやわらかい接地!――天使が今、再び地上に舞い降りる。
ポケットいっぱいの祝福。
てのひら零れ落ちる天啓。
物語がこれからはじまるんだ。
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/17(日) 23:37:47.75 ID:skFt6CMPo
おわりです!
ありがとうございます!
ありがとうございます!
82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 00:20:45.68 ID:JTRp7ZL3o
乙乙
雰囲気好き
雰囲気好き
83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/18(月) 09:25:01.21 ID:FPy8A4hho
感想らしい感想がでてこないけど、引きこまれました
世界観がすごい(小並感)
世界観がすごい(小並感)
84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/19(火) 02:16:25.09 ID:9ipNNVYN0
うむ、すごいとしか言えない
おつ
おつ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460900582/
Entry ⇒ 2016.05.26 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
梓「唯先輩がしゃべると地震速報ラジオが誤作動する」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 18:43:00.30 ID:RUPCunVQ0
梓「先日、我が校に新型の緊急地震速報ラジオが配備されましたね」
律「そうだな」
梓「その地震速報ラジオが、なぜか唯先輩の声に反応して誤作動する事が判明しました」
唯「ふえ~~ん!」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
紬「どうしてこんなことに・・・」
律「そうだな」
梓「その地震速報ラジオが、なぜか唯先輩の声に反応して誤作動する事が判明しました」
唯「ふえ~~ん!」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
紬「どうしてこんなことに・・・」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 18:46:56.44 ID:RUPCunVQ0
律「CDとかの、特定の音階に反応して誤作動するってのは聞いたことあるけどさ」
紬「まさか唯ちゃんの声に反応するなんてね」
唯「うぅ~。しゃべるたびに地震速報が鳴るよぉ」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
澪「ああっ、まただ!」
梓「もうずっと唯先輩が黙ってれば良いんじゃないですかね?」
唯「そんなぁ。ひどいよ~あずにゃ~ん」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
梓「ああ・・・」
紬「まさか唯ちゃんの声に反応するなんてね」
唯「うぅ~。しゃべるたびに地震速報が鳴るよぉ」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
澪「ああっ、まただ!」
梓「もうずっと唯先輩が黙ってれば良いんじゃないですかね?」
唯「そんなぁ。ひどいよ~あずにゃ~ん」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
梓「ああ・・・」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 18:53:10.24 ID:RUPCunVQ0
律「マスクとか着けても無駄かな?」
紬「あ、私マスク持ってるわ。はい唯ちゃん」ぽふっ
唯「「お~。これなら声がくぐもって聞こえるから・・・」」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
唯「「ふえーん!マスクしてもラジオが反応しちゃうよ~!」」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
梓「困りましたね、これは」
紬「あ、私マスク持ってるわ。はい唯ちゃん」ぽふっ
唯「「お~。これなら声がくぐもって聞こえるから・・・」」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
唯「「ふえーん!マスクしてもラジオが反応しちゃうよ~!」」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
梓「困りましたね、これは」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 18:58:41.03 ID:RUPCunVQ0
律「んー。とりあえず、唯にはしばらく黙っててもらうとして」
唯「うん・・・」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
律「あ、無理だわこりゃ。絶対しゃべっちゃうわ」
澪「唯が意識して黙り続けられるわけがなかったな」
梓「唯先輩が意図的にしゃべらないようにするなんて無理ですよ」
唯「もー!あずにゃんまで私を子供扱いしてっ!」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
紬「・・・本当にどうしましょう?」
唯「うん・・・」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
律「あ、無理だわこりゃ。絶対しゃべっちゃうわ」
澪「唯が意識して黙り続けられるわけがなかったな」
梓「唯先輩が意図的にしゃべらないようにするなんて無理ですよ」
唯「もー!あずにゃんまで私を子供扱いしてっ!」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
紬「・・・本当にどうしましょう?」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 19:06:14.27 ID:RUPCunVQ0
律「あははっ、でも面白いよなー。唯がしゃべるたびに地震速報鳴るの!」ケラケラ
澪「コラ律っ!」ごちんっ!
律「痛゛ッーー!!」
澪「地震速報で遊ぶなんて不謹慎だぞっ!」
律「やべえ。澪が不謹慎厨だ」
梓「リアルの知り合いにいるとは」
唯「私からすると全然遊びじゃないよー」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
澪「コラ律っ!」ごちんっ!
律「痛゛ッーー!!」
澪「地震速報で遊ぶなんて不謹慎だぞっ!」
律「やべえ。澪が不謹慎厨だ」
梓「リアルの知り合いにいるとは」
唯「私からすると全然遊びじゃないよー」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 19:09:38.89 ID:RUPCunVQ0
澪「唯も地震速報ラジオを誤作動させるなんて不謹慎だ!」
唯「不謹慎って言われましても・・・」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
澪「被災された方々が苦しんでいるんだ!私たちだけふざけてていいわけないだろっ!」
梓「思いのほか重症ですね、澪先輩」
律「あー。どうすっかなー面倒くせえ」
澪「そうだ!みんなで募金活動でもしないか?」
唯「不謹慎って言われましても・・・」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
澪「被災された方々が苦しんでいるんだ!私たちだけふざけてていいわけないだろっ!」
梓「思いのほか重症ですね、澪先輩」
律「あー。どうすっかなー面倒くせえ」
澪「そうだ!みんなで募金活動でもしないか?」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/30(土) 19:21:42.21 ID:RUPCunVQ0
紬「ああ、募金なら私もうしたわよ。これ位の額」サッ
梓「すごっ!」
澪「不謹慎不謹慎はしゃいですみませんでした。高校生の募金レベルでどうにかできる問題じゃありませんでした」
律「急にしおらしくなったな・・・」
澪「私程度の人間が騒いだところで、ムギの財力には勝てないからな。私なんかが震災に貢献しようと考えてたのがバカみたいだ」
紬「そんなことないわよ澪ちゃん」
梓「立場を失った不謹慎厨ってこんな風になるんですね」
唯「自分自身が謹慎しちゃうんだね」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
誤作動するラジオは後日ムギちゃんが全て買いかえましたとさ
お金のパワーってすごい!
おしまい!
梓「すごっ!」
澪「不謹慎不謹慎はしゃいですみませんでした。高校生の募金レベルでどうにかできる問題じゃありませんでした」
律「急にしおらしくなったな・・・」
澪「私程度の人間が騒いだところで、ムギの財力には勝てないからな。私なんかが震災に貢献しようと考えてたのがバカみたいだ」
紬「そんなことないわよ澪ちゃん」
梓「立場を失った不謹慎厨ってこんな風になるんですね」
唯「自分自身が謹慎しちゃうんだね」
ラジオ『ピロンピロン♪緊急地震速報、緊急地震速報、ピロンピロン♪』
誤作動するラジオは後日ムギちゃんが全て買いかえましたとさ
お金のパワーってすごい!
おしまい!
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462009380/
Entry ⇒ 2016.05.02 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
唯「もしもあずにゃんが同級生だったら!」
1: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:21:25.79 ID:myCZaNjZ0
唯「どうなってたと思う?」
律「どうなってたって…」
紬「…どうなってたんだろう?」
唯「気にならない?気になるよねぇ」ルンルン
律「…まぁ、ちょっとは」
澪「とりあえず、ティータイムは存在しなかったかもしれないな」
唯「え〜っ、それはダメだよ!」
律「確かに、入部したときの梓はティータイムを目の敵にしてたもんな…」
紬「放課後ティータイムの根幹を揺るがす存在になっていたかもしれないわね…」
唯「うーん、それは困るなぁ〜」
律「そもそも梓が同級生なら、唯がけいおん部に入らなくてもギターと人数は足りてたってことになるから」
律「唯が辞めるって言いにきたときに無理に引き止めなかったかもしれないな〜」
唯「がーん!ひどいよりっちゃん!」
律「どうなってたって…」
紬「…どうなってたんだろう?」
唯「気にならない?気になるよねぇ」ルンルン
律「…まぁ、ちょっとは」
澪「とりあえず、ティータイムは存在しなかったかもしれないな」
唯「え〜っ、それはダメだよ!」
律「確かに、入部したときの梓はティータイムを目の敵にしてたもんな…」
紬「放課後ティータイムの根幹を揺るがす存在になっていたかもしれないわね…」
唯「うーん、それは困るなぁ〜」
律「そもそも梓が同級生なら、唯がけいおん部に入らなくてもギターと人数は足りてたってことになるから」
律「唯が辞めるって言いにきたときに無理に引き止めなかったかもしれないな〜」
唯「がーん!ひどいよりっちゃん!」
2: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:24:35.90 ID:myCZaNjZ0
澪「でも、梓は新歓ライブでの私たちの演奏を聴いて、入部を決めたわけだから…」
澪「同級生だったらここにに来るきっかけもなくて、ジャズ研に行ってたかも」
紬「それだとやっぱりけいおん部は3人だったってことになるね」
律「じゃあ結局うちに唯は必要だったってわけか」
唯「ふふーん、やっぱりけいおん部はわたしがいないと始まらないんだね!」
律「はーいはい」
唯「あしらわれた…」
律「でー?」
唯「ほぇ?」
律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」
唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」
紬「おもしろーいこと?」
唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」
澪「同級生だったらここにに来るきっかけもなくて、ジャズ研に行ってたかも」
紬「それだとやっぱりけいおん部は3人だったってことになるね」
律「じゃあ結局うちに唯は必要だったってわけか」
唯「ふふーん、やっぱりけいおん部はわたしがいないと始まらないんだね!」
律「はーいはい」
唯「あしらわれた…」
律「でー?」
唯「ほぇ?」
律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」
唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」
紬「おもしろーいこと?」
唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」
3: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:26:44.91 ID:myCZaNjZ0
~~~
梓「こんにちは〜」ガチャッ
唯「待ってたよあずにゃーん!」トタトタ
梓「わっ!どうしたんですか唯先輩…」
唯「敬語禁止!先輩禁止!」ビシッ
梓「…は?」
唯「あずにゃんは今日からわたしたちの同級生なんだよ!」
梓「は、はぁ…」
梓「…って、なんなんですかそれ!」
唯「だから敬語禁止だってば〜」
唯「あずにゃんにはね、今日から1週間、わたしたちの同級生として振舞って欲しいんだ〜」
唯「もちろんわたしたちもあずにゃんが同級生だと思って接するから!」
梓「こんにちは〜」ガチャッ
唯「待ってたよあずにゃーん!」トタトタ
梓「わっ!どうしたんですか唯先輩…」
唯「敬語禁止!先輩禁止!」ビシッ
梓「…は?」
唯「あずにゃんは今日からわたしたちの同級生なんだよ!」
梓「は、はぁ…」
梓「…って、なんなんですかそれ!」
唯「だから敬語禁止だってば〜」
唯「あずにゃんにはね、今日から1週間、わたしたちの同級生として振舞って欲しいんだ〜」
唯「もちろんわたしたちもあずにゃんが同級生だと思って接するから!」
4: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:29:59.28 ID:myCZaNjZ0
梓「い、いきなりそんなこと言われても…」
律「まぁまぁ、おもしろそうだしさ、ちょっとやってみようぜ」
澪「まったく…唯の思いつきにはいつも振り回されっぱなしだな」
紬「ふふ、唯ちゃんらしい発想でいいじゃない」
梓(先輩方も乗り気だ…)
梓(でもいきなりなんで…)
梓(はっ!!ま、まさか…!)
唯「どうしたの?あずにゃん」
梓(もしかして…先輩方…!)
梓(留年が決まっちゃったんじゃ!?)ガビーン
律「まぁまぁ、おもしろそうだしさ、ちょっとやってみようぜ」
澪「まったく…唯の思いつきにはいつも振り回されっぱなしだな」
紬「ふふ、唯ちゃんらしい発想でいいじゃない」
梓(先輩方も乗り気だ…)
梓(でもいきなりなんで…)
梓(はっ!!ま、まさか…!)
唯「どうしたの?あずにゃん」
梓(もしかして…先輩方…!)
梓(留年が決まっちゃったんじゃ!?)ガビーン
5: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:32:16.38 ID:myCZaNjZ0
梓(それで、今のうちから私と同級生という状況に慣れておこうとしてこんなことを…)
梓(どうして?もしかして、1年生の頃から音楽室を占領してお茶してたのが、今になって問題になったの?)
唯「あずにゃーん?」ヒラヒラ
梓「へっ?あっはい!」
唯「どうしたの、ボーッとしちゃって」
梓「い、いえ…」
梓(うう…単刀直入には聞き辛いし…)
梓(こうなったら、とりあえず唯先輩の言うとおりにして、様子を探ろう)
梓「…わかりました。じゃあこれから1週間、みなさんの同級生になります」
唯「ほんと!?やった〜!」ダキッ
梓「うわっぷ!唯先輩!いきなり抱きつかないでください!」
唯「敬語禁止!先輩禁止!」
梓(どうして?もしかして、1年生の頃から音楽室を占領してお茶してたのが、今になって問題になったの?)
唯「あずにゃーん?」ヒラヒラ
梓「へっ?あっはい!」
唯「どうしたの、ボーッとしちゃって」
梓「い、いえ…」
梓(うう…単刀直入には聞き辛いし…)
梓(こうなったら、とりあえず唯先輩の言うとおりにして、様子を探ろう)
梓「…わかりました。じゃあこれから1週間、みなさんの同級生になります」
唯「ほんと!?やった〜!」ダキッ
梓「うわっぷ!唯先輩!いきなり抱きつかないでください!」
唯「敬語禁止!先輩禁止!」
6: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:34:55.93 ID:myCZaNjZ0
~~~
唯「まず呼び方からだよ!」
唯「当然だけど、なになに先輩は禁止ね。さん付けもよそよそしいから禁止」
唯「あとはなんでも、あずにゃんの好きなように呼んでくれていいよぉ」
梓「ええ…?」
唯「まずわたしから!」
梓「うーん…」
唯「ふふふ〜、なんでも好きなように呼んでごら〜ん?」ワクワク
梓「えと…」モジモジ
唯「ほらほら〜うつむいてないでさぁ〜」ワクワク
梓「…」モジモジ
梓「じゃ、じゃあ…」モジモジ
梓「ゆ…唯…」
唯(くはぁ…っ!か、かわええ…!)ズキューン!
唯(澪ちゃんに初めて『唯』って呼ばれたときのことを思い出すよ…!)
紬「恥じらいながら名前を呼ぶ梓ちゃん…実にいいわぁ」ウットリ
唯「まず呼び方からだよ!」
唯「当然だけど、なになに先輩は禁止ね。さん付けもよそよそしいから禁止」
唯「あとはなんでも、あずにゃんの好きなように呼んでくれていいよぉ」
梓「ええ…?」
唯「まずわたしから!」
梓「うーん…」
唯「ふふふ〜、なんでも好きなように呼んでごら〜ん?」ワクワク
梓「えと…」モジモジ
唯「ほらほら〜うつむいてないでさぁ〜」ワクワク
梓「…」モジモジ
梓「じゃ、じゃあ…」モジモジ
梓「ゆ…唯…」
唯(くはぁ…っ!か、かわええ…!)ズキューン!
唯(澪ちゃんに初めて『唯』って呼ばれたときのことを思い出すよ…!)
紬「恥じらいながら名前を呼ぶ梓ちゃん…実にいいわぁ」ウットリ
7: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:38:23.56 ID:myCZaNjZ0
唯「次、澪ちゃん!」
澪「ええっ?私か?」
梓「えと…どうしよう…」
梓「…やっぱり…澪、かな」
澪「…なんか、照れくさいな///」
唯「ん〜、さっきから普通だね」
梓「ほ、他に呼び方ないでしょ!」
澪(あ、今敬語じゃなかった)
紬「私は?私は?」
梓「じゃあ…紬…じゃ、なんだか普通だし…」
梓「それなら…ムギちゃん、とか」
紬「まぁ…」
唯「あー!ムギちゃんだけズルいよ『ちゃん』付けされて!いいないいなー」パタパタ
紬「梓ちゃんありがとう!私、すごく嬉しいわ!」キラキラ
梓「あはは…」
澪「ええっ?私か?」
梓「えと…どうしよう…」
梓「…やっぱり…澪、かな」
澪「…なんか、照れくさいな///」
唯「ん〜、さっきから普通だね」
梓「ほ、他に呼び方ないでしょ!」
澪(あ、今敬語じゃなかった)
紬「私は?私は?」
梓「じゃあ…紬…じゃ、なんだか普通だし…」
梓「それなら…ムギちゃん、とか」
紬「まぁ…」
唯「あー!ムギちゃんだけズルいよ『ちゃん』付けされて!いいないいなー」パタパタ
紬「梓ちゃんありがとう!私、すごく嬉しいわ!」キラキラ
梓「あはは…」
9: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:41:14.28 ID:myCZaNjZ0
律「じゃあ最後あたしなー!」
律「梓ちゅわんは部長であるあたしのことをなぁんて呼んでくれるのかしらー?」
梓「むっ…」
梓「そうだなぁ〜…じゃあ」
梓「…バカ律」ボソッ
律「」
唯澪「ぷっ!」
紬「あらあら」
律「なななな…」
律「中野〜!」ギューッ
梓「あはは、ごめんなさい!冗談です!」
唯「あーっあずにゃんダメダメ!今のは『ごめん、冗談だよ』って言わないと!」
梓「あ…ごめん、その…唯」
唯(うはぁっ上目遣いでの『唯』…やっぱりかわええ…!)キュンッ
律「梓ちゅわんは部長であるあたしのことをなぁんて呼んでくれるのかしらー?」
梓「むっ…」
梓「そうだなぁ〜…じゃあ」
梓「…バカ律」ボソッ
律「」
唯澪「ぷっ!」
紬「あらあら」
律「なななな…」
律「中野〜!」ギューッ
梓「あはは、ごめんなさい!冗談です!」
唯「あーっあずにゃんダメダメ!今のは『ごめん、冗談だよ』って言わないと!」
梓「あ…ごめん、その…唯」
唯(うはぁっ上目遣いでの『唯』…やっぱりかわええ…!)キュンッ
10: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:44:44.99 ID:myCZaNjZ0
澪「じゃあ私は澪、唯は唯、ムギはムギちゃん、律はバカ律ってことか」
律「うぉい!」
梓「いやいや、ちゃんと…律って呼ぶよ、律」
律「…なんかあたしにはあまり違和感なくタメ口使ってるな」
梓「いや、もちろん違和感は、その、あるけどさ…、なんだか他の先輩たちと比べたら、タメ口に抵抗がないんだよね」
澪「まぁ律や唯より梓の方が先輩らしいしな」
律「なにぃ〜?」
唯「がーん!わたしまで!?」
梓「いやっ、別に低く見てるとかそういうわけじゃなくてっ」アタフタ
梓「律せん…、おほん、律はこう、あっけらかんとしてる分、親しみやすい雰囲気があるというか…」
梓「も、もちろん先輩としても部長としても尊敬してるよ!」
梓「けど、まぁ…そういうこと、うん」
律「ほ、ほぉん?まぁそう言われたら悪い気はしないな…」
律「うぉい!」
梓「いやいや、ちゃんと…律って呼ぶよ、律」
律「…なんかあたしにはあまり違和感なくタメ口使ってるな」
梓「いや、もちろん違和感は、その、あるけどさ…、なんだか他の先輩たちと比べたら、タメ口に抵抗がないんだよね」
澪「まぁ律や唯より梓の方が先輩らしいしな」
律「なにぃ〜?」
唯「がーん!わたしまで!?」
梓「いやっ、別に低く見てるとかそういうわけじゃなくてっ」アタフタ
梓「律せん…、おほん、律はこう、あっけらかんとしてる分、親しみやすい雰囲気があるというか…」
梓「も、もちろん先輩としても部長としても尊敬してるよ!」
梓「けど、まぁ…そういうこと、うん」
律「ほ、ほぉん?まぁそう言われたら悪い気はしないな…」
11: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:47:12.35 ID:myCZaNjZ0
唯「わたしはどう?あずにゃん」
梓「唯も…、そう、だな~…あっ、う、憂相手だと思って接すればそこまで違和感はないかな…?」
唯「ほむほむ、憂相手と思ってねぇ…なるほどぉ」
紬「私はどうかなぁ、梓ちゃん?」
梓「ムギちゃんは…どうだろう、難しいけど…」
梓「でも、頑張るよ」
梓「頑張るって表現が正しいのかはわからないけど…」
律「じゃあ澪はどうなんだー?」
梓「それは、えと…」
梓「唯も…、そう、だな~…あっ、う、憂相手だと思って接すればそこまで違和感はないかな…?」
唯「ほむほむ、憂相手と思ってねぇ…なるほどぉ」
紬「私はどうかなぁ、梓ちゃん?」
梓「ムギちゃんは…どうだろう、難しいけど…」
梓「でも、頑張るよ」
梓「頑張るって表現が正しいのかはわからないけど…」
律「じゃあ澪はどうなんだー?」
梓「それは、えと…」
12: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:50:29.13 ID:myCZaNjZ0
ガチャッ
さわ子「ちょりーっす」
律「お、さわちゃん」
さわ子「ムギちゃーん、私にも紅茶入れてもらえるかしら」
紬「はいただいま〜」
さわ子「で、あなたたち。顔突き合わせて一体なんの相談してたのよ」
唯「ふっふっふ、あずにゃんと同級生になろうっていう話し合いだよ!」
さわ子「…なにそれ、あなたたちまさか留年するつもりなの?」
梓「…」ピクッ
唯「違うよぉ、私たちとあずにゃんが1週間、同級生として過ごしてみたら楽しいんじゃないかな〜って」
律「っていう唯の思いつきだよ」
さわ子「ふ〜んなるほど?まぁいいんじゃない?」
さわ子「ちょりーっす」
律「お、さわちゃん」
さわ子「ムギちゃーん、私にも紅茶入れてもらえるかしら」
紬「はいただいま〜」
さわ子「で、あなたたち。顔突き合わせて一体なんの相談してたのよ」
唯「ふっふっふ、あずにゃんと同級生になろうっていう話し合いだよ!」
さわ子「…なにそれ、あなたたちまさか留年するつもりなの?」
梓「…」ピクッ
唯「違うよぉ、私たちとあずにゃんが1週間、同級生として過ごしてみたら楽しいんじゃないかな〜って」
律「っていう唯の思いつきだよ」
さわ子「ふ〜んなるほど?まぁいいんじゃない?」
13: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:54:37.16 ID:myCZaNjZ0
さわ子「社会に出てみれば多少の歳の差なんて気にならないけど、学生時代って、たった1歳の差がとても大きなものに感じるでしょ?」
さわ子「あえてそれを崩してみるのはおもしろいんじゃないかしら」
唯「さすがさわちゃん!話がわかるね〜!」
律「あ、そーだ。さわちゃんも参加してみる?」
唯「お~、それもおもしろそうだねぇ」
さわ子「結っ構です」
唯「え〜、おもしろそうなのにぃ」
さわ子「あのねぇ、忘れてるかもしれないけど私は教師なの」
さわ子「生徒たちに対して最低限の威厳は示さないと…」
澪「でもよく考えたら、唯と律はもう先生のこと『さわちゃん』って呼んでるような…」
さわ子「」
梓「それどころか今もすでにタメ口使ってますよね…」
さわ子「」
さわ子「あえてそれを崩してみるのはおもしろいんじゃないかしら」
唯「さすがさわちゃん!話がわかるね〜!」
律「あ、そーだ。さわちゃんも参加してみる?」
唯「お~、それもおもしろそうだねぇ」
さわ子「結っ構です」
唯「え〜、おもしろそうなのにぃ」
さわ子「あのねぇ、忘れてるかもしれないけど私は教師なの」
さわ子「生徒たちに対して最低限の威厳は示さないと…」
澪「でもよく考えたら、唯と律はもう先生のこと『さわちゃん』って呼んでるような…」
さわ子「」
梓「それどころか今もすでにタメ口使ってますよね…」
さわ子「」
14: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 04:57:09.67 ID:myCZaNjZ0
律「あ、ほんとだ」
唯「そういえばそうだね〜」
律「修学旅行でもあたしらに散々愚痴った挙句、違和感なく同じ部屋で寝てたしな〜」
唯「さわちゃんとわたしたちの間にはすでに壁なんてないね!」
さわ子(私の教師としての威厳はいずこへ…)
紬「あ、あの、先生?紅茶入りました…」
さわ子「…ありがとう」
グイッゴクッゴクッゴクッ!
さわ子「っぷはぁ…ムギちゃん、おかわり!」バッ
紬「は、はい」
梓「ヤケ紅茶だ…」
唯「そういえばそうだね〜」
律「修学旅行でもあたしらに散々愚痴った挙句、違和感なく同じ部屋で寝てたしな〜」
唯「さわちゃんとわたしたちの間にはすでに壁なんてないね!」
さわ子(私の教師としての威厳はいずこへ…)
紬「あ、あの、先生?紅茶入りました…」
さわ子「…ありがとう」
グイッゴクッゴクッゴクッ!
さわ子「っぷはぁ…ムギちゃん、おかわり!」バッ
紬「は、はい」
梓「ヤケ紅茶だ…」
19: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 12:50:21.65 ID:myCZaNjZ0
唯「結局さわちゃん、お茶とケーキだけ食べてさっさと帰っちゃったね」
律「今さらあたしらに対して威厳がどうとか気にしなくてもいいのにな〜」
梓「…」
梓(いきなり先輩たちと同級生だなんて…違和感ありまくりだよ)
梓(でもさっきの先生とのやり取りを聞いてたら、留年が決まったってわけじゃないのかな…)
梓(でも、留年が理由じゃないとしたら、なんでこんなこと…)
梓(そもそも『同級生』ってどういうこと?私が3年生になるってこと?それとも先輩たちが2年生になるの?)
梓(ああ…わかんなくなってきた)
律「よし、じゃあとりあえず練習すっか」
澪「珍しいな、律から練習って言葉が出るなんて」
律「ん〜、まぁ同級生の梓ちゃんが早く練習したいんじゃないかって思ってさ〜」
梓「…」
律「…梓?」
律「今さらあたしらに対して威厳がどうとか気にしなくてもいいのにな〜」
梓「…」
梓(いきなり先輩たちと同級生だなんて…違和感ありまくりだよ)
梓(でもさっきの先生とのやり取りを聞いてたら、留年が決まったってわけじゃないのかな…)
梓(でも、留年が理由じゃないとしたら、なんでこんなこと…)
梓(そもそも『同級生』ってどういうこと?私が3年生になるってこと?それとも先輩たちが2年生になるの?)
梓(ああ…わかんなくなってきた)
律「よし、じゃあとりあえず練習すっか」
澪「珍しいな、律から練習って言葉が出るなんて」
律「ん〜、まぁ同級生の梓ちゃんが早く練習したいんじゃないかって思ってさ〜」
梓「…」
律「…梓?」
20: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 12:51:47.44 ID:myCZaNjZ0
梓「えっ?あっごめんなさい!」
唯「ぶっぶー!ダメだよあずにゃん、ごめん『なさい』は敬語だよ!」ビシッ
梓「あ…そうだった」
澪「厳しいな…」
律「で、どーしたんだよ梓、ボーッとしちゃってさ。梓の大好きな練習するぞ?」
梓「う、うんわかった、今準備しま」
紬「はいっアウト!」ビシッ
梓「ひっ!」
律「反応はやっ!」
唯「ぶっぶー!ダメだよあずにゃん、ごめん『なさい』は敬語だよ!」ビシッ
梓「あ…そうだった」
澪「厳しいな…」
律「で、どーしたんだよ梓、ボーッとしちゃってさ。梓の大好きな練習するぞ?」
梓「う、うんわかった、今準備しま」
紬「はいっアウト!」ビシッ
梓「ひっ!」
律「反応はやっ!」
21: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 12:53:29.95 ID:myCZaNjZ0
紬「梓ちゃん、今『準備します』って言おうとしたでしょ」
梓「う、うん…すみませ」
唯「『すみません』も敬語だよっあずにゃん!」ビシッ
梓「わっ!」
唯「そういうときは『ごめん』だけでいいんだよぉ」
梓「うん…ご、ごめん」
唯「も〜あずにゃんったらぁ、最初からこんなことじゃ先が思いやられますなぁ」
梓(なんか…部室に来てまだお茶飲んだだけなのに、ものすごく疲れたよ…)
澪「まぁ始めたばかりだし、梓も戸惑うかもしれないけど、気楽にやればいいからさ」
梓「はい…」
紬唯律「『はい』も敬語っ!」ビシッ
梓「ひええ!」ビクッ
梓「う、うん…すみませ」
唯「『すみません』も敬語だよっあずにゃん!」ビシッ
梓「わっ!」
唯「そういうときは『ごめん』だけでいいんだよぉ」
梓「うん…ご、ごめん」
唯「も〜あずにゃんったらぁ、最初からこんなことじゃ先が思いやられますなぁ」
梓(なんか…部室に来てまだお茶飲んだだけなのに、ものすごく疲れたよ…)
澪「まぁ始めたばかりだし、梓も戸惑うかもしれないけど、気楽にやればいいからさ」
梓「はい…」
紬唯律「『はい』も敬語っ!」ビシッ
梓「ひええ!」ビクッ
22: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 12:54:41.51 ID:myCZaNjZ0
【夜・平沢家居間】
唯「むふふ〜ん♪」
憂「ご機嫌だね、お姉ちゃん」
唯「あっ、憂〜」
憂「なにかいいことでもあったの?」
唯「今けいおん部でおもしろいことやっててね〜」
憂「おもしろいこと?」
唯「うんっ!あずにゃんとわたしたちは今週、同級生なんだよ!」
憂「同級生…?」
唯「そう!少しの間、あずにゃんにはわたしたちとタメ口で話してもらって、あずにゃんの好きな呼び方で呼んでもらうんだ〜」
憂「へぇ〜、楽しそうだね!」
唯「でしょ〜?」ニヘラ
唯「むふふ〜ん♪」
憂「ご機嫌だね、お姉ちゃん」
唯「あっ、憂〜」
憂「なにかいいことでもあったの?」
唯「今けいおん部でおもしろいことやっててね〜」
憂「おもしろいこと?」
唯「うんっ!あずにゃんとわたしたちは今週、同級生なんだよ!」
憂「同級生…?」
唯「そう!少しの間、あずにゃんにはわたしたちとタメ口で話してもらって、あずにゃんの好きな呼び方で呼んでもらうんだ〜」
憂「へぇ〜、楽しそうだね!」
唯「でしょ〜?」ニヘラ
23: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 12:55:55.66 ID:myCZaNjZ0
唯「でも今日はまだあずにゃん慣れてないみたいで、しょっちゅう敬語が出たり、先輩って呼んじゃってね」
唯「敬語も先輩も禁止したのになぁ」
憂「それは仕方ないよ、梓ちゃん真面目だもん」
憂「きっと、お姉ちゃんや先輩たちといきなりタメ口で話すのは、抵抗があるんじゃないかなぁ」
唯「う〜ん、気にしなくてもいいのにぃ」
憂「まぁまぁ。それだけお姉ちゃんや軽音部のみなさんのことを尊敬してるってことだと思うよ?」
唯「…そう、なのかなぁ」テヘヘ
憂「うん、きっとそうだよ」
憂「そろそろごはんできるから、手を洗ってきて」
唯「はぁ〜い」
唯「敬語も先輩も禁止したのになぁ」
憂「それは仕方ないよ、梓ちゃん真面目だもん」
憂「きっと、お姉ちゃんや先輩たちといきなりタメ口で話すのは、抵抗があるんじゃないかなぁ」
唯「う〜ん、気にしなくてもいいのにぃ」
憂「まぁまぁ。それだけお姉ちゃんや軽音部のみなさんのことを尊敬してるってことだと思うよ?」
唯「…そう、なのかなぁ」テヘヘ
憂「うん、きっとそうだよ」
憂「そろそろごはんできるから、手を洗ってきて」
唯「はぁ〜い」
24: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 12:59:36.64 ID:myCZaNjZ0
【翌朝・2年1組教室】
憂「梓ちゃん、おはよう」
梓「おはよう憂」
憂「お姉ちゃんから聞いたよ、今軽音部でやってること」
梓「ああ、聞いたんだ…」
憂「楽しそうだよね〜♪」
梓「ははは…」
憂「…元気ないね」
梓「きっとまた唯先輩の思いつきなんだろうね」
憂「そうみたいだね」
梓「うーん…」
梓「いざタメ口とか、下の名前で呼び捨てって考えると、どうしても抵抗があってさ…逆に気を遣っちゃうんだよね」
憂「梓ちゃん、真面目だもんね」
梓「はは、そんなことないけど…」
憂「梓ちゃん、おはよう」
梓「おはよう憂」
憂「お姉ちゃんから聞いたよ、今軽音部でやってること」
梓「ああ、聞いたんだ…」
憂「楽しそうだよね〜♪」
梓「ははは…」
憂「…元気ないね」
梓「きっとまた唯先輩の思いつきなんだろうね」
憂「そうみたいだね」
梓「うーん…」
梓「いざタメ口とか、下の名前で呼び捨てって考えると、どうしても抵抗があってさ…逆に気を遣っちゃうんだよね」
憂「梓ちゃん、真面目だもんね」
梓「はは、そんなことないけど…」
25: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 13:02:01.30 ID:myCZaNjZ0
梓「…はぁ」
憂「なんだか大変そうだね…」
梓「…」
憂「でもさ、きっとお姉ちゃんたちにもなにか考えがあって、こういうことしてるんじゃないかな〜って思うんだ」
梓「考え…?」
憂「うん。だから、騙されたと思って、それに乗ってみたらどうかなぁ」
梓(…考え、か)
〜〜〜〜〜〜〜〜
デフォルメ唯『あずにゃんと同級生!おもしろそうじゃない!?』
デフォルメ律澪紬『おもしろそ〜!』
一同『あははは〜』
〜〜〜〜〜〜〜〜
梓「ほんとに、あるのかな…」
梓(単なる思いつきな気が…)
憂「なんだか大変そうだね…」
梓「…」
憂「でもさ、きっとお姉ちゃんたちにもなにか考えがあって、こういうことしてるんじゃないかな〜って思うんだ」
梓「考え…?」
憂「うん。だから、騙されたと思って、それに乗ってみたらどうかなぁ」
梓(…考え、か)
〜〜〜〜〜〜〜〜
デフォルメ唯『あずにゃんと同級生!おもしろそうじゃない!?』
デフォルメ律澪紬『おもしろそ〜!』
一同『あははは〜』
〜〜〜〜〜〜〜〜
梓「ほんとに、あるのかな…」
梓(単なる思いつきな気が…)
26: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 13:03:22.00 ID:myCZaNjZ0
憂「ふふ、まぁただの思いつきかもしれないけど…でも、こんな機会今しかないよ?」
梓「そうだけど…」
憂「とりあえず、私や純ちゃんに接すると思って。気軽に楽しんでみればいいんじゃない?」
梓「…まぁ、頑張ってみるよ」
憂「うんっ!」
梓「あ…そうだ、憂」
憂「なぁに?」
梓「唯先輩ってさ、もしかして…」
梓(留年が決まったとか…)
梓「…」
憂「どうしたの、梓ちゃん?」
梓「…ううん、なんでもないや」
憂「?」
梓「そうだけど…」
憂「とりあえず、私や純ちゃんに接すると思って。気軽に楽しんでみればいいんじゃない?」
梓「…まぁ、頑張ってみるよ」
憂「うんっ!」
梓「あ…そうだ、憂」
憂「なぁに?」
梓「唯先輩ってさ、もしかして…」
梓(留年が決まったとか…)
梓「…」
憂「どうしたの、梓ちゃん?」
梓「…ううん、なんでもないや」
憂「?」
33: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:25:24.39 ID:myCZaNjZ0
【部室】
梓「こんにちは」ガチャッ
澪「お、梓か。お疲れ」
梓「澪先輩…、お疲れ様です」
澪「おいおい、先輩はよしてくれよ。今週は同級生だろ?」
梓「あ…そうだったね」
梓「えっと…他のみんなは?」
澪「みんなは日直とか掃除当番とか用事があってさ、ちょっと遅れてくるよ」
梓「そうなんだ…」
梓「…」
澪「…」フッ
澪「どう梓?1週間、同級生ってことでやっていけそう?」
梓「えっ?ああ…、えっと」
梓「いきなり先輩方と同級生って言われても…」
梓「ちょっとまだ、慣れない、かな…」
澪「ふふっ、まぁそうだろうな」
梓「こんにちは」ガチャッ
澪「お、梓か。お疲れ」
梓「澪先輩…、お疲れ様です」
澪「おいおい、先輩はよしてくれよ。今週は同級生だろ?」
梓「あ…そうだったね」
梓「えっと…他のみんなは?」
澪「みんなは日直とか掃除当番とか用事があってさ、ちょっと遅れてくるよ」
梓「そうなんだ…」
梓「…」
澪「…」フッ
澪「どう梓?1週間、同級生ってことでやっていけそう?」
梓「えっ?ああ…、えっと」
梓「いきなり先輩方と同級生って言われても…」
梓「ちょっとまだ、慣れない、かな…」
澪「ふふっ、まぁそうだろうな」
35: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:29:40.12 ID:myCZaNjZ0
梓「…」
梓「…前にも一度、こんなことあったよね」
澪「?」
梓「私が軽音部に入ったばかりの頃」
梓「最初はここののんびりした雰囲気になかなか慣れなくて…私、いっそ部活を辞めて、外バンに入ろうかとか悩んでて」
梓「そんなときに、浮かれてた他のみんなと違って澪せんぱ…、じゃなくて、澪だけは気にかけて、今みたいに声かけてくれたよね」
澪「…そうだったっけ」
梓「うん。だから私、澪…先輩には、その、一番タメ口が使いづらい、です…」
梓「もちろん他の先輩方も尊敬してますけど、入部したばかりの私の不安を唯一わかってくれた人ですし」
梓「先輩らしさという意味で、一番頼りにしてる先輩ですから…」
澪「…なんか、改まってそう言われると照れるな」
梓「ごめんなさい…」
梓「…前にも一度、こんなことあったよね」
澪「?」
梓「私が軽音部に入ったばかりの頃」
梓「最初はここののんびりした雰囲気になかなか慣れなくて…私、いっそ部活を辞めて、外バンに入ろうかとか悩んでて」
梓「そんなときに、浮かれてた他のみんなと違って澪せんぱ…、じゃなくて、澪だけは気にかけて、今みたいに声かけてくれたよね」
澪「…そうだったっけ」
梓「うん。だから私、澪…先輩には、その、一番タメ口が使いづらい、です…」
梓「もちろん他の先輩方も尊敬してますけど、入部したばかりの私の不安を唯一わかってくれた人ですし」
梓「先輩らしさという意味で、一番頼りにしてる先輩ですから…」
澪「…なんか、改まってそう言われると照れるな」
梓「ごめんなさい…」
36: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:31:32.56 ID:myCZaNjZ0
澪「…まぁ確かに梓の立場としては、急に私たちにタメ口なんて難しいかもしれないけどさ」
澪「今回のことを、いい機会だって考えてみないか?」
梓「いい機会?」
澪「私たち、今までずーっと先輩と後輩の立場として付き合ってきただろ?」
梓「はい」
澪「だからさ、お互いをその視点からしか見てこられなかったんじゃないかって感じるんだ」
梓「…?」
澪「つまり、私たちは先輩の視点からしか梓を見たことがないし、梓も後輩の視点からしか私たちを見たことがないってこと」
梓「ああ…なるほど」
澪「今回のことを、いい機会だって考えてみないか?」
梓「いい機会?」
澪「私たち、今までずーっと先輩と後輩の立場として付き合ってきただろ?」
梓「はい」
澪「だからさ、お互いをその視点からしか見てこられなかったんじゃないかって感じるんだ」
梓「…?」
澪「つまり、私たちは先輩の視点からしか梓を見たことがないし、梓も後輩の視点からしか私たちを見たことがないってこと」
梓「ああ…なるほど」
37: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:33:05.57 ID:myCZaNjZ0
澪「だからさ、お互いに同級生っていう風に視点を変えてみれば、普段は見えなかったものも見つかるんじゃないかって思うんだよ」
梓「そういうものなのかな…」
澪「現に私は、改めて梓に頼りにしてるなんて言われて嬉しかったしさ」
梓「…///」
澪「それも、こういう機会があったからこそ聞けたわけだろ?」
梓「…そう、かも」
澪「だから梓、もうちょっとこの状況を楽しんでみてもいいんじゃないか?」
澪「私たちが好きでやってるんだから、タメ口は失礼だとか気にしなくていいしさ。色々おもしろいものが見つかるかもしれないぞ」
梓(普段見えなかったもの、か…)
梓「…わかった。澪、私やってみるよ」
澪「ふふっ、それでこそ梓だよ」
梓「そういうものなのかな…」
澪「現に私は、改めて梓に頼りにしてるなんて言われて嬉しかったしさ」
梓「…///」
澪「それも、こういう機会があったからこそ聞けたわけだろ?」
梓「…そう、かも」
澪「だから梓、もうちょっとこの状況を楽しんでみてもいいんじゃないか?」
澪「私たちが好きでやってるんだから、タメ口は失礼だとか気にしなくていいしさ。色々おもしろいものが見つかるかもしれないぞ」
梓(普段見えなかったもの、か…)
梓「…わかった。澪、私やってみるよ」
澪「ふふっ、それでこそ梓だよ」
38: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:35:12.53 ID:myCZaNjZ0
ガチャッ
律「わりー澪、待たせて…って、梓も来てたのか」
唯「あずにゃーん♪昨日ぶり〜」トタトタ
梓「二人とも、遅いよ!」
唯「なんとっ!」ビクッ
律「梓がナチュラルなタメ口を…」
梓「何言ってるの?私たち、同級生なんでしょ?」
梓「ほら、ムギちゃんが来てないからまだお茶はできないよ。それまで練習しよ?」
澪「…ふふっ」
澪「そうだぞ、梓の言うとおり、たまには先に練習を…?」
唯「…!」プルプル
律「わりー澪、待たせて…って、梓も来てたのか」
唯「あずにゃーん♪昨日ぶり〜」トタトタ
梓「二人とも、遅いよ!」
唯「なんとっ!」ビクッ
律「梓がナチュラルなタメ口を…」
梓「何言ってるの?私たち、同級生なんでしょ?」
梓「ほら、ムギちゃんが来てないからまだお茶はできないよ。それまで練習しよ?」
澪「…ふふっ」
澪「そうだぞ、梓の言うとおり、たまには先に練習を…?」
唯「…!」プルプル
39: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:36:00.57 ID:myCZaNjZ0
澪「唯…?」
梓「…どうしたの?」
唯「…あずにゃーん!」ダキッ
梓「うわっちょっと…、唯、いきなり抱きつくのはやめてってば!」
唯(恥ずかしがらずに普通に唯って呼んでくれたよ…!)
唯「ふふ〜、ありがとね、あずにゃん♪」スリスリ
梓「まったく、もう…」
澪「同級生になってもこの関係は変わらず、か」
律「…で、なんでムギは扉の陰からこっそりうっとりしてるんだ」
紬「先輩後輩の関係を取り払った唯ちゃんと梓ちゃんのやり取り…新しいわ…」ウットリ
唯「あっムギちゃん!」
唯「ムギちゃんも来たことだし、先にお茶してもいいよね〜」
梓「ダメだよ、今日は絶対先に練習するんだから!」
唯「え〜、あずにゃんのケチケチ」
梓「なんと言われようとこれだけは譲れないもんね!」
梓「…どうしたの?」
唯「…あずにゃーん!」ダキッ
梓「うわっちょっと…、唯、いきなり抱きつくのはやめてってば!」
唯(恥ずかしがらずに普通に唯って呼んでくれたよ…!)
唯「ふふ〜、ありがとね、あずにゃん♪」スリスリ
梓「まったく、もう…」
澪「同級生になってもこの関係は変わらず、か」
律「…で、なんでムギは扉の陰からこっそりうっとりしてるんだ」
紬「先輩後輩の関係を取り払った唯ちゃんと梓ちゃんのやり取り…新しいわ…」ウットリ
唯「あっムギちゃん!」
唯「ムギちゃんも来たことだし、先にお茶してもいいよね〜」
梓「ダメだよ、今日は絶対先に練習するんだから!」
唯「え〜、あずにゃんのケチケチ」
梓「なんと言われようとこれだけは譲れないもんね!」
40: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:37:06.82 ID:myCZaNjZ0
~~~
唯「結局先に練習することになりました」
律「先輩の立場を使えなくなった唯が梓に勝てるわけないもんな」
唯「無念…」ガックリ
唯「あずにゃ〜ん、練習のあとはゼッタイお茶の時間にしようねぇ、ゼッタイだよぉ?」シクシク
梓「はいはい、きちんと練習頑張ったらね?」ナデナデ
唯「うん…頑張る」グスッ
澪「なんだか同級生っていうより…」
律「梓が先輩で、唯が後輩みたいになってるな…」
紬「それはそれでいいわねぇ♪」
律「ムギはさっきから何を言ってるんだ…?」
梓「それじゃ!気合入れていくよ!」
唯律澪紬「おー!」
唯「結局先に練習することになりました」
律「先輩の立場を使えなくなった唯が梓に勝てるわけないもんな」
唯「無念…」ガックリ
唯「あずにゃ〜ん、練習のあとはゼッタイお茶の時間にしようねぇ、ゼッタイだよぉ?」シクシク
梓「はいはい、きちんと練習頑張ったらね?」ナデナデ
唯「うん…頑張る」グスッ
澪「なんだか同級生っていうより…」
律「梓が先輩で、唯が後輩みたいになってるな…」
紬「それはそれでいいわねぇ♪」
律「ムギはさっきから何を言ってるんだ…?」
梓「それじゃ!気合入れていくよ!」
唯律澪紬「おー!」
41: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:40:37.77 ID:myCZaNjZ0
♪〜〜〜演奏中〜〜〜♪
ジャカジャーン♪
律「…なんというか」
紬「すごく、一体感のある演奏だったね」
澪「唯と梓のギターの絡みも、いつもよりずっと滑らかだったよ」
唯「えへへ、そうかなぁ」
梓「私もすっごく良かったと思う、けどなんでだろう…」
澪「推測だけど…」
澪「梓のことだから、いつもは演奏中も先輩を立てないとって、無意識のうちに控えめに弾いてたのかもしれないな」
紬「今の演奏では同級生として弾けたから、いつもよりもっと自由に演奏できたっていうことかしら」
梓「うーん…今まで特に気にしたことはなかったけど…そうなのかな」
42: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:42:26.32 ID:myCZaNjZ0
律「まぁ唯がリードギターで梓がリズムギター担当してるのも、元はといえば梓が唯を立ててくれたおかげだしな」
唯「そ、そんなことないよぉ!?ちゃんとわたしにだって実力あるもん!」
梓「そ、そうだよ!唯はすっごく才能あるよ!」
唯「あずにゃん…」
澪「同級生でもきちんと唯を立ててるな…」
梓「だから唯、もっとまじめに練習すれば、きっともっと上手になるよ」
唯「そ、そうかなぁ…よ~し!練習や~るぞ~!」フンスッ
梓「うんうん、その意気だよ!」
律「そしてうまいこと唯を手なずけてるな…」
唯「そ、そんなことないよぉ!?ちゃんとわたしにだって実力あるもん!」
梓「そ、そうだよ!唯はすっごく才能あるよ!」
唯「あずにゃん…」
澪「同級生でもきちんと唯を立ててるな…」
梓「だから唯、もっとまじめに練習すれば、きっともっと上手になるよ」
唯「そ、そうかなぁ…よ~し!練習や~るぞ~!」フンスッ
梓「うんうん、その意気だよ!」
律「そしてうまいこと唯を手なずけてるな…」
43: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:44:04.14 ID:myCZaNjZ0
~~~
澪「今日はなかなか実のある練習ができたな」
律「確かに、久々に練習したー!って日だったな〜」
梓「毎日こうだったらいいんだけどね…」
唯「えんしゅうおあおのケーヒおあうえうらねぇ〜」モグモグ
律「飲み込んでから喋ろうな、唯」
澪「今なんて言ったんだ…」
梓「練習の後のケーキも…?続きがわからないけど…」
唯「ごくん…、惜しいあずにゃん!練習の後のケーキも格別だねぇ、って言ったんだよ!」
澪「梓よくわかったな…」
律「さすが恋女房」
梓「ば、ばかっ!そんなんじゃないもん!」
澪「梓、遠慮なくバカ律って呼んでいいんだぞ」
律「うぉーい!」
梓「…バカ律」
律「お前も容赦ねぇな!」
澪「今日はなかなか実のある練習ができたな」
律「確かに、久々に練習したー!って日だったな〜」
梓「毎日こうだったらいいんだけどね…」
唯「えんしゅうおあおのケーヒおあうえうらねぇ〜」モグモグ
律「飲み込んでから喋ろうな、唯」
澪「今なんて言ったんだ…」
梓「練習の後のケーキも…?続きがわからないけど…」
唯「ごくん…、惜しいあずにゃん!練習の後のケーキも格別だねぇ、って言ったんだよ!」
澪「梓よくわかったな…」
律「さすが恋女房」
梓「ば、ばかっ!そんなんじゃないもん!」
澪「梓、遠慮なくバカ律って呼んでいいんだぞ」
律「うぉーい!」
梓「…バカ律」
律「お前も容赦ねぇな!」
44: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:44:49.83 ID:myCZaNjZ0
紬「ふふふ、この感じ…新鮮でいいわね〜」ニコニコ
唯「ほんとだねぇ、いつもより賑やかな気がするよぉ」ニコニコ
梓「あ…唯、ほっぺにケーキ付いてるよ?」
唯「え?ほんと?あずにゃん拭いて〜」
梓「自分で拭きなよ…子どもじゃないんだから」
唯「え〜いいじゃん、練習頑張ったんだからさぁ」
梓「意味わからないし…もう、仕方ないなぁ」フキフキ
唯「んぐんぐ…ありがと〜あずにゃん」
澪「やっぱり…」
律「梓先輩と、後輩の唯だな…」
紬「いい光景だわぁ…」ニコニコ
唯「ほんとだねぇ、いつもより賑やかな気がするよぉ」ニコニコ
梓「あ…唯、ほっぺにケーキ付いてるよ?」
唯「え?ほんと?あずにゃん拭いて〜」
梓「自分で拭きなよ…子どもじゃないんだから」
唯「え〜いいじゃん、練習頑張ったんだからさぁ」
梓「意味わからないし…もう、仕方ないなぁ」フキフキ
唯「んぐんぐ…ありがと〜あずにゃん」
澪「やっぱり…」
律「梓先輩と、後輩の唯だな…」
紬「いい光景だわぁ…」ニコニコ
45: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:46:03.26 ID:myCZaNjZ0
【帰り道】
唯「じゃあまた明日ね〜」
澪「うん、また明日」
律「じゃあな恋女房、帰り道もきちんと唯の面倒見てやれよ〜」
梓「もうっ、だから違うってば!」
律「あれー?誰も梓ちゃんが恋女房だなんて言ってないぞー?」
梓「ううう…バカ律ー!」
律「へへっ、じゃなー、気をつけて帰れよ〜」
紬「今日は新鮮な光景ばかりだわぁ」ニコニコ
唯「じゃあまた明日ね〜」
澪「うん、また明日」
律「じゃあな恋女房、帰り道もきちんと唯の面倒見てやれよ〜」
梓「もうっ、だから違うってば!」
律「あれー?誰も梓ちゃんが恋女房だなんて言ってないぞー?」
梓「ううう…バカ律ー!」
律「へへっ、じゃなー、気をつけて帰れよ〜」
紬「今日は新鮮な光景ばかりだわぁ」ニコニコ
46: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:47:05.65 ID:myCZaNjZ0
テクテク…
唯「うふふ〜、今日は楽しかったねぇ♪」
紬「ほんとに。昨日から眼福シーンの連続で目が疲れちゃったわ…」
梓「眼福…?」
唯「がんぷく?」
梓「そんなシーンあったかな…」
紬「うん♪それはもうたくさんね♪」
梓(相変わらずムギ先輩の感覚はわからない…)
唯「ねぇムギちゃ〜ん、がんぷくってどういう意味〜?」
唯「目に優しいって意味よ〜」
唯「目に優しいのに目が疲れちゃうの?変なの〜」
唯「うふふ〜、今日は楽しかったねぇ♪」
紬「ほんとに。昨日から眼福シーンの連続で目が疲れちゃったわ…」
梓「眼福…?」
唯「がんぷく?」
梓「そんなシーンあったかな…」
紬「うん♪それはもうたくさんね♪」
梓(相変わらずムギ先輩の感覚はわからない…)
唯「ねぇムギちゃ〜ん、がんぷくってどういう意味〜?」
唯「目に優しいって意味よ〜」
唯「目に優しいのに目が疲れちゃうの?変なの〜」
47: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:48:35.71 ID:myCZaNjZ0
ピリリリリ…ピリリリリ…
唯「ほ」
唯「誰からだろう…」ゴソゴソ
唯「あ、憂からだ〜」
唯「もしもし憂〜?うん、今ねぇ、あずにゃんとムギちゃんと帰ってるとこ〜。どーしたの?」
唯「ふむふむ…、え〜っ、それは大変だぁ!」
梓「えっ?」
紬「何かあったのかしら…」
唯「うん…うん、わかったよ、じゃあね憂、また後でね」
ピッ
紬「唯ちゃん…、何かあったの?」
唯「うん、それがね…、緊急事態なんだ」
梓「緊急事態?」
唯「うん。実はうちの今日の晩ごはんはお刺身だったんだけどね」
唯「おしょうゆ切らしてたんだって…」
梓「なるほど、それは大変…って、はい?」
唯「ほ」
唯「誰からだろう…」ゴソゴソ
唯「あ、憂からだ〜」
唯「もしもし憂〜?うん、今ねぇ、あずにゃんとムギちゃんと帰ってるとこ〜。どーしたの?」
唯「ふむふむ…、え〜っ、それは大変だぁ!」
梓「えっ?」
紬「何かあったのかしら…」
唯「うん…うん、わかったよ、じゃあね憂、また後でね」
ピッ
紬「唯ちゃん…、何かあったの?」
唯「うん、それがね…、緊急事態なんだ」
梓「緊急事態?」
唯「うん。実はうちの今日の晩ごはんはお刺身だったんだけどね」
唯「おしょうゆ切らしてたんだって…」
梓「なるほど、それは大変…って、はい?」
48: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:49:54.66 ID:myCZaNjZ0
紬「そ、それは緊急事態ね…」
梓「いやいや、唯もムギちゃんも大げさだよ…」
唯「全然大げさじゃないよ!?お刺身におしょうゆがないんだよ!?緊急事態だよ!」
梓「いや、しょうゆがなければポン酢でいいんじゃ…」
唯「ちがぁう!ポン酢なんかじゃ代わりにならないよ!?酸っぱいじゃん!」
梓「はぁ…」
唯「ということで、わたし大至急スーパーに寄っておしょうゆ買って帰らなきゃいけないから!じゃあねあずにゃん、ムギちゃん!」
梓「う、うん、また明日…」
紬「じゃあね、唯ちゃん」
唯「おしょうゆ、おしょうゆ、おしょうゆ〜♪」トタトタ
唯「ポン酢じゃダメだよしょうゆだよ〜♪ソースも違うよしょうゆだよ〜♪」トタトタ
梓「行っちゃった…」
紬「…帰ろっか、梓ちゃん」
梓「はい…じゃなかった、うん」
梓「いやいや、唯もムギちゃんも大げさだよ…」
唯「全然大げさじゃないよ!?お刺身におしょうゆがないんだよ!?緊急事態だよ!」
梓「いや、しょうゆがなければポン酢でいいんじゃ…」
唯「ちがぁう!ポン酢なんかじゃ代わりにならないよ!?酸っぱいじゃん!」
梓「はぁ…」
唯「ということで、わたし大至急スーパーに寄っておしょうゆ買って帰らなきゃいけないから!じゃあねあずにゃん、ムギちゃん!」
梓「う、うん、また明日…」
紬「じゃあね、唯ちゃん」
唯「おしょうゆ、おしょうゆ、おしょうゆ〜♪」トタトタ
唯「ポン酢じゃダメだよしょうゆだよ〜♪ソースも違うよしょうゆだよ〜♪」トタトタ
梓「行っちゃった…」
紬「…帰ろっか、梓ちゃん」
梓「はい…じゃなかった、うん」
49: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:52:14.02 ID:myCZaNjZ0
テクテク…
紬「梓ちゃん、昨日と今日とで随分と雰囲気が変わったよね。何かあったの?」
梓「う、うん…正直、今日まで気が進まなかったんだけど、憂や澪が背中を押してくれてね」
梓「こういう状況を楽しんでみてもいいんじゃないかなって思ったんだ」
紬「ふふっ、そうなんだ」
紬「梓ちゃんのその素直に人の言葉を聞き入れられるところ、素敵だと思うな」
梓「え…うーん…」
梓「それって、本当にいいところなのかな…」
紬「どうして?」
梓「それって、言い換えれば人の言葉に流されやすいってことじゃ…」
梓「部活でだって、いつも練習しようって言いながら、結局はみんなとお茶しちゃってるし…」
紬「梓ちゃん、昨日と今日とで随分と雰囲気が変わったよね。何かあったの?」
梓「う、うん…正直、今日まで気が進まなかったんだけど、憂や澪が背中を押してくれてね」
梓「こういう状況を楽しんでみてもいいんじゃないかなって思ったんだ」
紬「ふふっ、そうなんだ」
紬「梓ちゃんのその素直に人の言葉を聞き入れられるところ、素敵だと思うな」
梓「え…うーん…」
梓「それって、本当にいいところなのかな…」
紬「どうして?」
梓「それって、言い換えれば人の言葉に流されやすいってことじゃ…」
梓「部活でだって、いつも練習しようって言いながら、結局はみんなとお茶しちゃってるし…」
50: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:57:57.12 ID:myCZaNjZ0
紬「でも梓ちゃん、本当に必要なところでは自分を曲げてないよ?」
紬「去年、唯ちゃんが学園祭の直前に風邪引いちゃったときのこと、覚えてる?」
梓「はい」
紬「あのときだって梓ちゃん、リードギターの練習もしながら、誰よりも5人でするライブにこだわったじゃない」
紬「素直に人の言うことを受け入れながら、大事なときには自分の意見を通そうとしてる」
紬「そうやってきちんとメリハリをつけてるからこそ、それぞれがいい部分として目立つんだと思うな」
紬「謙虚なのもいいけど、自分にもっと自信を持ってもいいと思う」
梓「…あ、ありがとうございます」
紬「ふふっ、素直でよろしい」ニッコリ
紬「だけど、敬語はダメよ」
梓「あ、そうだったね…ごめん」
紬「去年、唯ちゃんが学園祭の直前に風邪引いちゃったときのこと、覚えてる?」
梓「はい」
紬「あのときだって梓ちゃん、リードギターの練習もしながら、誰よりも5人でするライブにこだわったじゃない」
紬「素直に人の言うことを受け入れながら、大事なときには自分の意見を通そうとしてる」
紬「そうやってきちんとメリハリをつけてるからこそ、それぞれがいい部分として目立つんだと思うな」
紬「謙虚なのもいいけど、自分にもっと自信を持ってもいいと思う」
梓「…あ、ありがとうございます」
紬「ふふっ、素直でよろしい」ニッコリ
紬「だけど、敬語はダメよ」
梓「あ、そうだったね…ごめん」
51: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 16:59:13.65 ID:myCZaNjZ0
紬「そういえば、梓ちゃん」
梓「なに、ムギちゃん?」
紬「昨日から気になってたんだけどね」
紬「どうして私だけ、『ムギちゃん』なの?」
梓「え?」
紬「唯ちゃんは唯、りっちゃんは律、澪ちゃんは澪でしょ?私だけ『ちゃん』が付いてるのは、どうしてなの?」
梓「あ…ごめん」
紬「いや、それが嫌とかいうんじゃなくてね?むしろ嬉しいんだけど」
紬「でも、私だけ呼び方が違うのはなんでかなって気になっちゃって」
梓「なに、ムギちゃん?」
紬「昨日から気になってたんだけどね」
紬「どうして私だけ、『ムギちゃん』なの?」
梓「え?」
紬「唯ちゃんは唯、りっちゃんは律、澪ちゃんは澪でしょ?私だけ『ちゃん』が付いてるのは、どうしてなの?」
梓「あ…ごめん」
紬「いや、それが嫌とかいうんじゃなくてね?むしろ嬉しいんだけど」
紬「でも、私だけ呼び方が違うのはなんでかなって気になっちゃって」
52: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 17:00:11.64 ID:myCZaNjZ0
梓「うーん…特に深い意味はないんだけどね」
梓「ムギちゃんは、おっとりしてて、美人で、気配り上手で、いつも優しい人だなぁって思ってたんだけど」
紬「まぁ…照れちゃうわ」
梓「でもね。好奇心旺盛で、なんていうのかな…、いい意味でズレてるところが、子どもっぽいっていうか、可愛い人だなって思っててね」
紬「子どもっぽい…?」
梓「えっ?ああっごめん!別に悪い意味で言ったわけじゃなくて…!」アタフタ
紬「嬉しい!」
梓「へっ?」
紬「私、今まで大人っぽいとか落ち着いてるとか言われたことはあるんだけど、子どもっぽいって言われたのは初めて!」
梓「そ、そうなんだ…」
紬「ありがとう梓ちゃん、私を子どもっぽいって言ってくれた人は梓ちゃんが初めてよ」
梓「はぁ…」
梓「ムギちゃんは、おっとりしてて、美人で、気配り上手で、いつも優しい人だなぁって思ってたんだけど」
紬「まぁ…照れちゃうわ」
梓「でもね。好奇心旺盛で、なんていうのかな…、いい意味でズレてるところが、子どもっぽいっていうか、可愛い人だなって思っててね」
紬「子どもっぽい…?」
梓「えっ?ああっごめん!別に悪い意味で言ったわけじゃなくて…!」アタフタ
紬「嬉しい!」
梓「へっ?」
紬「私、今まで大人っぽいとか落ち着いてるとか言われたことはあるんだけど、子どもっぽいって言われたのは初めて!」
梓「そ、そうなんだ…」
紬「ありがとう梓ちゃん、私を子どもっぽいって言ってくれた人は梓ちゃんが初めてよ」
梓「はぁ…」
53: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/10(金) 17:01:22.67 ID:myCZaNjZ0
紬「あ…もう駅まで着いちゃったね。じゃあまた明日。梓ちゃん」
梓「うん。気をつけてね、ムギちゃん」
テクテク…
紬「梓ちゃん!」
梓「…?」クルッ
紬「今日はありがとう!また明日ねー!」ブンブン
梓「…」クスッ
梓「こちらこそー!また明日ー!」ブンブン
テクテク…
梓(子どもっぽいって言われただけで、あんなに喜ぶなんて…)
梓(やっぱりムギ先輩の感覚はわからないや)クスッ
梓「うん。気をつけてね、ムギちゃん」
テクテク…
紬「梓ちゃん!」
梓「…?」クルッ
紬「今日はありがとう!また明日ねー!」ブンブン
梓「…」クスッ
梓「こちらこそー!また明日ー!」ブンブン
テクテク…
梓(子どもっぽいって言われただけで、あんなに喜ぶなんて…)
梓(やっぱりムギ先輩の感覚はわからないや)クスッ
57: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:35:41.65 ID:xycLiYTE0
諸事情で遅くなりました。再開します。
58: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:36:15.78 ID:xycLiYTE0
【3日後・学校の廊下】
テクテク…
梓(今日が先輩たちと同級生でいる最後の日か…)
梓(なんだかんだ、昨日まで楽しかったなぁ)
梓(先輩たちと、これまでよりもっと仲良くなれた気がする)
梓(唯先輩の思いつきの賜物ってところが、ちょっぴり悔しいけど)
梓(でも…、結局深い考えがあったわけじゃなさそうなんだよね)
梓(留年したときの予行演習ってこともなさそうだし…)
梓(憂はなにか考えがあるんじゃないかって言ってたけど、やっぱり単なる思いつきだったのかな)
テクテク…
梓(今日が先輩たちと同級生でいる最後の日か…)
梓(なんだかんだ、昨日まで楽しかったなぁ)
梓(先輩たちと、これまでよりもっと仲良くなれた気がする)
梓(唯先輩の思いつきの賜物ってところが、ちょっぴり悔しいけど)
梓(でも…、結局深い考えがあったわけじゃなさそうなんだよね)
梓(留年したときの予行演習ってこともなさそうだし…)
梓(憂はなにか考えがあるんじゃないかって言ってたけど、やっぱり単なる思いつきだったのかな)
59: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:37:52.60 ID:xycLiYTE0
「だーれだ?」パッ
梓「律」
律「即答かよっ!」
梓「当たり前じゃん」
律「ぐぬぬ…手強いやつめ」
梓「もう…、子どもじゃないんだから」
律「まだまだ学生だし。未成年だし。子どもだし!」
梓「大人になろうよ…」
梓「まったく…もうちょっと部長らしくしてよね。大事な書類はしょっちゅう出し忘れるし、なかなか練習しないで私や澪に怒られるし…」
律「だって〜」
梓「だってじゃありません」
律「…」
梓「律」
律「即答かよっ!」
梓「当たり前じゃん」
律「ぐぬぬ…手強いやつめ」
梓「もう…、子どもじゃないんだから」
律「まだまだ学生だし。未成年だし。子どもだし!」
梓「大人になろうよ…」
梓「まったく…もうちょっと部長らしくしてよね。大事な書類はしょっちゅう出し忘れるし、なかなか練習しないで私や澪に怒られるし…」
律「だって〜」
梓「だってじゃありません」
律「…」
60: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:38:47.94 ID:xycLiYTE0
律「…梓ってさ、やっぱなんとなく澪に雰囲気似てるよな〜」
梓「え?」
律「しっかりしてて生真面目な性格とか、澪ほどじゃないけど恥ずかしがり屋なとことか」
律「サイズの方は遠く及ばないけどな」マジマジ
梓「なっ…、律には言われたくないよ!」バッ
律「あれれ〜?あたしは身長のことを言っただけだぞー?」
梓「今回も胸見てたじゃん!」
律「それは梓くん自身が胸のことを気にしているからそう感じてしまったのではないのかね~?」
梓「ば…、バカ律〜!」
律「へへ、からかい甲斐があるとことかも、やっぱり似てるよな」
梓「え?」
律「しっかりしてて生真面目な性格とか、澪ほどじゃないけど恥ずかしがり屋なとことか」
律「サイズの方は遠く及ばないけどな」マジマジ
梓「なっ…、律には言われたくないよ!」バッ
律「あれれ〜?あたしは身長のことを言っただけだぞー?」
梓「今回も胸見てたじゃん!」
律「それは梓くん自身が胸のことを気にしているからそう感じてしまったのではないのかね~?」
梓「ば…、バカ律〜!」
律「へへ、からかい甲斐があるとことかも、やっぱり似てるよな」
61: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:40:47.11 ID:xycLiYTE0
梓「はぁ…部室に行く前に疲れちゃったよ」
律「ふむ…まぁ時間稼ぎは成功したし、そろそろ部室に行くか」
梓「時間稼ぎ?」
律「ふっふっふ、今頃ムギが部室でティータイムの準備を完了させているはず」
梓「なっ!?」
律「ここ数日、先に練習してからティータイムの流れだったからな〜。ここらで悪しき風習は断ち切らねばならんのだ」
梓「いやいやいや」
梓「のんびりティータイム過ごして、練習の時間が短くなっちゃうことの方がよっぽど悪しき風習だよ!」
律「ほ〜う?のんびりティータイムを過ごすのが悪しき風習とな?」
梓「もちろん!」
律「じゃあ梓は来年、その悪しき風習をなくしちゃうのか?」
梓「へっ?」
梓「そ、それは…」
律「どーなんだ〜?」ニヤニヤ
律「ふむ…まぁ時間稼ぎは成功したし、そろそろ部室に行くか」
梓「時間稼ぎ?」
律「ふっふっふ、今頃ムギが部室でティータイムの準備を完了させているはず」
梓「なっ!?」
律「ここ数日、先に練習してからティータイムの流れだったからな〜。ここらで悪しき風習は断ち切らねばならんのだ」
梓「いやいやいや」
梓「のんびりティータイム過ごして、練習の時間が短くなっちゃうことの方がよっぽど悪しき風習だよ!」
律「ほ〜う?のんびりティータイムを過ごすのが悪しき風習とな?」
梓「もちろん!」
律「じゃあ梓は来年、その悪しき風習をなくしちゃうのか?」
梓「へっ?」
梓「そ、それは…」
律「どーなんだ〜?」ニヤニヤ
62: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:41:32.44 ID:xycLiYTE0
梓「えっと、その…」
梓「…」
梓「わ、わからないよ…」
律「わからない…って?」
梓「来年は…、美味しい紅茶を淹れてくれてたムギちゃんも」
梓「ティータイムを盛り上げてくれてた律も、和ませてくれてた唯も」
梓「キリのいいところで練習を宣言してくれてた澪も、みんないなくなっちゃう」
梓「もし、新しく部員が入っても、きっと今みたいにティータイムは続けられないよ」
梓「でも…ティータイムをなくしちゃったら、放課後ティータイムもなくなっちゃう気がして…」
梓「だから、どうすればいいのか…」
律「ふぅ〜む、なるほどねぇ…」
梓「…」
梓「わ、わからないよ…」
律「わからない…って?」
梓「来年は…、美味しい紅茶を淹れてくれてたムギちゃんも」
梓「ティータイムを盛り上げてくれてた律も、和ませてくれてた唯も」
梓「キリのいいところで練習を宣言してくれてた澪も、みんないなくなっちゃう」
梓「もし、新しく部員が入っても、きっと今みたいにティータイムは続けられないよ」
梓「でも…ティータイムをなくしちゃったら、放課後ティータイムもなくなっちゃう気がして…」
梓「だから、どうすればいいのか…」
律「ふぅ〜む、なるほどねぇ…」
63: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:42:16.89 ID:xycLiYTE0
律「ま、いいんじゃねーの?ティータイムが続けられないって言うんならそれでも」
梓「え…?でも、ティータイムがないと放課後ティータイムは…」
律「おいおい、勘違いすんなって」
律「別に来年ティータイムがなくなったからって、放課後ティータイムがあったって事実まで消えるわけじゃないだろ?」
梓「それは、そうだけど…」
律「部活ってさ、結局そのときにいる部員の為にあるもんだと思うんだよな」
律「さわちゃんがいた頃の軽音部なんてヘヴィメタだぜ?今その頃の雰囲気がかけらでも残ってるか?」
梓「それは…残ってない、けど…」
律「だろ〜?だからさ、あたしらが卒業した後も、あたしらの為にって理由でティータイムを残すってのは間違ってるよ」
律「来年も、ティータイムが必要だと思ったら残す。いーや必要ない、と思ったらスパッと無くす!」
律「ま、梓や他の部員のしたいようにすればいいと思うぞ」
梓「…うん」
梓「え…?でも、ティータイムがないと放課後ティータイムは…」
律「おいおい、勘違いすんなって」
律「別に来年ティータイムがなくなったからって、放課後ティータイムがあったって事実まで消えるわけじゃないだろ?」
梓「それは、そうだけど…」
律「部活ってさ、結局そのときにいる部員の為にあるもんだと思うんだよな」
律「さわちゃんがいた頃の軽音部なんてヘヴィメタだぜ?今その頃の雰囲気がかけらでも残ってるか?」
梓「それは…残ってない、けど…」
律「だろ〜?だからさ、あたしらが卒業した後も、あたしらの為にって理由でティータイムを残すってのは間違ってるよ」
律「来年も、ティータイムが必要だと思ったら残す。いーや必要ない、と思ったらスパッと無くす!」
律「ま、梓や他の部員のしたいようにすればいいと思うぞ」
梓「…うん」
64: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:42:56.22 ID:xycLiYTE0
梓「律…先輩ってやっぱり、なんだかんだで、部長らしいですね」
律「おいおいどうしたんだよ〜、急に。気持ち悪いな」
律「って、今日まで同級生だろ?まだ敬語に戻すには早いぞ」
梓「えへへ…ごめんごめん」
律「じゃ、部室行くか」
梓「うん!」
テクテクテク
律「おいおいどうしたんだよ〜、急に。気持ち悪いな」
律「って、今日まで同級生だろ?まだ敬語に戻すには早いぞ」
梓「えへへ…ごめんごめん」
律「じゃ、部室行くか」
梓「うん!」
テクテクテク
65: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:46:49.18 ID:xycLiYTE0
梓「でも、唯には感謝しないと」
律「なんで?」
梓「唯の思いつきのおかげで、見えなかったことも見えたし、いつもは言えなかったことも言えたしさ」
律「はは、そっか」
梓「最初はもしかしてみんなの留年が決まって、その為の予行演習してるんじゃないかって思ったんだけど…」
律「おい」
梓「あはは、ごめんね」
律「ったくー、そこまで出来悪くないっつーの」
梓「まぁ…、唯自身はただの遊びのつもりだったんだろうけどさ」
律「…そんなことないぞ、梓」
梓「え?」
律「あ…いや」
梓「どういうこと?」
律「うーん…」
律「あたしが言っちゃってもいいのかな…」
梓「なんなの?なにかあるなら教えてよ」
律「…ま、いっか。実はな…」
律「なんで?」
梓「唯の思いつきのおかげで、見えなかったことも見えたし、いつもは言えなかったことも言えたしさ」
律「はは、そっか」
梓「最初はもしかしてみんなの留年が決まって、その為の予行演習してるんじゃないかって思ったんだけど…」
律「おい」
梓「あはは、ごめんね」
律「ったくー、そこまで出来悪くないっつーの」
梓「まぁ…、唯自身はただの遊びのつもりだったんだろうけどさ」
律「…そんなことないぞ、梓」
梓「え?」
律「あ…いや」
梓「どういうこと?」
律「うーん…」
律「あたしが言っちゃってもいいのかな…」
梓「なんなの?なにかあるなら教えてよ」
律「…ま、いっか。実はな…」
66: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:48:20.75 ID:xycLiYTE0
【回想・初日】
律「でー?」
唯「ほぇ?」
律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」
唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」
紬「おもしろーいこと?」
唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」
律「…はい?」
澪「またくだらないことを…」
唯「むっ」
唯「くだらなくなんかないよっ」
澪「えっ?」
紬「ど、どうしたの?唯ちゃん」
唯「あっ…ご、ごめんね、つい」
律「でー?」
唯「ほぇ?」
律「いきなりどーしたんだよ、梓が同級生だったら?なんて」
唯「ふふふ〜、それがわたくしおもしろーいこと思いついちゃいまして〜」
紬「おもしろーいこと?」
唯「この1週間、あずにゃんには同級生になってもらおうと思います!」
律「…はい?」
澪「またくだらないことを…」
唯「むっ」
唯「くだらなくなんかないよっ」
澪「えっ?」
紬「ど、どうしたの?唯ちゃん」
唯「あっ…ご、ごめんね、つい」
67: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:50:41.96 ID:xycLiYTE0
唯「…えっとね」
唯「あずにゃんさ、けいおん部ではずっと同級生がいないままやってきたでしょ?」
唯「後輩はトンちゃんがいるけどさ」
トンちゃん「…」スーイスイ
唯「来年、新入部員が入ってくれるかはわからないけど…いや!きっと入る!…とは思うけど」
唯「でも、来年後輩はできても、同級生の部員はいないままかもしれないでしょ?」
律「まぁ…もしかしたらなぁ」
唯「わたしは1年生のときから、りっちゃんや澪ちゃん、ムギちゃんに囲まれて過ごしてきたから、あずにゃんの気持ちはわからないけど…」
唯「やっぱり、同級生同士でワイワイする部活も経験してほしいんだ」
唯「けいおん部にあずにゃんの同級生がいないのは、先輩のわたしたちが不甲斐なかったからだと思うし…」
唯「だから少しの間だけでも、あずにゃんに同級生のいる部活を体験させてあげたいんだよ!」
律「唯…」
紬「わたしは…すごく素敵な思いつきだと思うわ、唯ちゃん」
唯「えへへ、そうかな」
澪「…まぁ、先輩後輩の垣根をなくして付き合ってみるのも、おもしろいかもしれないな」
律「よーし、そうと決まれば!早速今日の部活から実行しようぜ!」
唯紬澪「おー!」
【回想終了】
唯「あずにゃんさ、けいおん部ではずっと同級生がいないままやってきたでしょ?」
唯「後輩はトンちゃんがいるけどさ」
トンちゃん「…」スーイスイ
唯「来年、新入部員が入ってくれるかはわからないけど…いや!きっと入る!…とは思うけど」
唯「でも、来年後輩はできても、同級生の部員はいないままかもしれないでしょ?」
律「まぁ…もしかしたらなぁ」
唯「わたしは1年生のときから、りっちゃんや澪ちゃん、ムギちゃんに囲まれて過ごしてきたから、あずにゃんの気持ちはわからないけど…」
唯「やっぱり、同級生同士でワイワイする部活も経験してほしいんだ」
唯「けいおん部にあずにゃんの同級生がいないのは、先輩のわたしたちが不甲斐なかったからだと思うし…」
唯「だから少しの間だけでも、あずにゃんに同級生のいる部活を体験させてあげたいんだよ!」
律「唯…」
紬「わたしは…すごく素敵な思いつきだと思うわ、唯ちゃん」
唯「えへへ、そうかな」
澪「…まぁ、先輩後輩の垣根をなくして付き合ってみるのも、おもしろいかもしれないな」
律「よーし、そうと決まれば!早速今日の部活から実行しようぜ!」
唯紬澪「おー!」
【回想終了】
68: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:51:33.91 ID:xycLiYTE0
律「…ってことがあったんだよ」
梓「…唯、先輩が…」
律「唯って天然で、のんびりしてて、色々すっとぼけてるけどさ」
律「あれでいて、すっごく梓のこと考えてると思うぞ」
律「まぁ、大事にし過ぎっていうか、溺愛してるっていうか…行き過ぎだろってとこもあるけどな」
梓「…」ジワ
律「…?どうした梓、もしかして泣いてんのか?」
梓「な、泣いてなんかないもん」ゴシゴシ
梓「ただ、ちょっと、ウルっときただけで…」
律「涙もろいなぁ、梓ちゃんは」ポンポン
梓「からかわないでよ…」
律「へへ」
律「あーあ、時間稼ぎのつもりが、だいぶ時間使っちゃったな」
律「ほら梓、みんな待ってるぞ」
梓「…うん」コクリ
梓「…唯、先輩が…」
律「唯って天然で、のんびりしてて、色々すっとぼけてるけどさ」
律「あれでいて、すっごく梓のこと考えてると思うぞ」
律「まぁ、大事にし過ぎっていうか、溺愛してるっていうか…行き過ぎだろってとこもあるけどな」
梓「…」ジワ
律「…?どうした梓、もしかして泣いてんのか?」
梓「な、泣いてなんかないもん」ゴシゴシ
梓「ただ、ちょっと、ウルっときただけで…」
律「涙もろいなぁ、梓ちゃんは」ポンポン
梓「からかわないでよ…」
律「へへ」
律「あーあ、時間稼ぎのつもりが、だいぶ時間使っちゃったな」
律「ほら梓、みんな待ってるぞ」
梓「…うん」コクリ
69: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:54:37.71 ID:xycLiYTE0
テクテク…
梓(澪先輩は、恥ずかしがり屋だけど、やっぱり頼りになる人で)
梓(ムギ先輩は、温かくて、子どもっぽくて、不思議な人で)
梓(律先輩は、おおざっぱに見えて、実は細かなことまでよく考えてくれてる人で)
梓(唯先輩は…)
ガチャッ
律「おっす〜、遅れました〜!」
澪「遅いぞ、律」
律「いんや〜、ちょっと梓と話し込んじゃってさ〜」
唯「も〜りっちゃん、わたしとっくにケーキ選んでたのにぃ。これじゃなまごろしだよぉ」
律「わりーって。ムギー、残ってるケーキはー?」
紬「こちらになりま〜す♪」
律「どれどれ?お〜っどれもんまそーですなぁ」
梓(澪先輩は、恥ずかしがり屋だけど、やっぱり頼りになる人で)
梓(ムギ先輩は、温かくて、子どもっぽくて、不思議な人で)
梓(律先輩は、おおざっぱに見えて、実は細かなことまでよく考えてくれてる人で)
梓(唯先輩は…)
ガチャッ
律「おっす〜、遅れました〜!」
澪「遅いぞ、律」
律「いんや〜、ちょっと梓と話し込んじゃってさ〜」
唯「も〜りっちゃん、わたしとっくにケーキ選んでたのにぃ。これじゃなまごろしだよぉ」
律「わりーって。ムギー、残ってるケーキはー?」
紬「こちらになりま〜す♪」
律「どれどれ?お〜っどれもんまそーですなぁ」
70: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:55:18.96 ID:xycLiYTE0
唯「…?あれ、あずにゃん?どうしてずっと入り口で立ち止まってるの?」
梓「あ、いや…」
唯「早くおいでよぉ」トタトタ
唯「も〜、まさか一人で歩けないの〜?仕方ないなぁ、わたしが手握ってあげるから〜」ギュッ
唯「おいで?」
梓「…唯先輩」
唯「んん?ダメだよあずにゃん、今日はまだ先輩禁止…」
ダキッ
唯「」
梓「…」
唯「…あ、あずにゃん!?」
澪「あ、梓の方から唯に抱きついた…?」
紬「まぁ…!」ウットリ
律「…」ニッ
梓「あ、いや…」
唯「早くおいでよぉ」トタトタ
唯「も〜、まさか一人で歩けないの〜?仕方ないなぁ、わたしが手握ってあげるから〜」ギュッ
唯「おいで?」
梓「…唯先輩」
唯「んん?ダメだよあずにゃん、今日はまだ先輩禁止…」
ダキッ
唯「」
梓「…」
唯「…あ、あずにゃん!?」
澪「あ、梓の方から唯に抱きついた…?」
紬「まぁ…!」ウットリ
律「…」ニッ
71: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:57:37.58 ID:xycLiYTE0
唯「な、なになに?いきなりどうしたの?」アタフタ
梓「…唯先輩、ありがとうございます」
唯「え?え?」オロオロ
梓「私、みなさんの後輩になれて、本当に良かったです」
澪「梓…」
紬「うふふ」
唯「…あずにゃん…」
唯「ふふっ…よしよし」ナデナデ
唯「わたしたちも、あずにゃんみたいな後輩がいてくれて、本当に幸せだよ」
梓「…!」
紬「今週一番の眼福シーンです…」ウットリ
律「ムギは相変わらず何を言ってんだ…」
梓「…唯先輩、ありがとうございます」
唯「え?え?」オロオロ
梓「私、みなさんの後輩になれて、本当に良かったです」
澪「梓…」
紬「うふふ」
唯「…あずにゃん…」
唯「ふふっ…よしよし」ナデナデ
唯「わたしたちも、あずにゃんみたいな後輩がいてくれて、本当に幸せだよ」
梓「…!」
紬「今週一番の眼福シーンです…」ウットリ
律「ムギは相変わらず何を言ってんだ…」
72: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 06:58:17.64 ID:xycLiYTE0
律「…それにしても」
律「なーんか結局、予定より早く先輩後輩の関係に戻っちゃったな」
澪「そうだな」
唯「あずにゃん、もういいの?同級生同士じゃなくて」
梓「…はい。私、今こうやってみなさんの後輩でいられることが、一番幸せなんだってわかりましたから」
唯「あずにゃん…」
梓「えへへ…」
律「なーんか結局、予定より早く先輩後輩の関係に戻っちゃったな」
澪「そうだな」
唯「あずにゃん、もういいの?同級生同士じゃなくて」
梓「…はい。私、今こうやってみなさんの後輩でいられることが、一番幸せなんだってわかりましたから」
唯「あずにゃん…」
梓「えへへ…」
73: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 07:02:27.18 ID:xycLiYTE0
律「…で、そこのおしどり夫婦。いつまでくっついてんだ?」
梓「えっ?はっ!つい!」バッ
唯「え〜っあずにゃ〜ん、もっと抱きついてくれてていいのに〜」
梓「い、いやですよ!」
唯「ほらほら~、そんなこと言わないで。もう一度わたしの胸に飛び込んでおいで?さぁ!」
梓「だからしませんって!今のはちょっとした弾みだったんですから!」
唯「もうっ!恥ずかしがり屋さんだなぁあずにゃんは~」
梓「唯先輩はもっと恥じらいを持ってください!」
律「梓さん!」ガタッ
梓「へっ?」
律「あたしというものがありながら…!ちょっとした弾みでよその女に抱きつくなんて!」
梓「はいっ!?」
梓「えっ?はっ!つい!」バッ
唯「え〜っあずにゃ〜ん、もっと抱きついてくれてていいのに〜」
梓「い、いやですよ!」
唯「ほらほら~、そんなこと言わないで。もう一度わたしの胸に飛び込んでおいで?さぁ!」
梓「だからしませんって!今のはちょっとした弾みだったんですから!」
唯「もうっ!恥ずかしがり屋さんだなぁあずにゃんは~」
梓「唯先輩はもっと恥じらいを持ってください!」
律「梓さん!」ガタッ
梓「へっ?」
律「あたしというものがありながら…!ちょっとした弾みでよその女に抱きつくなんて!」
梓「はいっ!?」
74: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 07:05:27.83 ID:xycLiYTE0
唯「あ、あなた!?誰よこの女ギツネは!?」ビシッ
律「こっちのセリフよこの泥棒ネコ!」
唯「なんだってぇ!?」
梓「なんなんですかこの流れ!」
唯「あずにゃんさん!わたしとあの女ギツネ、どっちを取るの!?」
律「もちろんこのあたしに決まってるわよね!?」
梓「どこの昼ドラですか〜!」
澪「騒がしい…けど、やっぱりこの関係が一番落ち着くな」フッ
紬「そうねぇ」ニコニコ
梓「澪先輩もムギ先輩も笑ってないでやめさせてくださいよ!」
律「梓さんっ!」ズイッ
唯「あずにゃんさんっ!」ズイッ
梓「だ、誰か助けて〜!」
END
律「こっちのセリフよこの泥棒ネコ!」
唯「なんだってぇ!?」
梓「なんなんですかこの流れ!」
唯「あずにゃんさん!わたしとあの女ギツネ、どっちを取るの!?」
律「もちろんこのあたしに決まってるわよね!?」
梓「どこの昼ドラですか〜!」
澪「騒がしい…けど、やっぱりこの関係が一番落ち着くな」フッ
紬「そうねぇ」ニコニコ
梓「澪先輩もムギ先輩も笑ってないでやめさせてくださいよ!」
律「梓さんっ!」ズイッ
唯「あずにゃんさんっ!」ズイッ
梓「だ、誰か助けて〜!」
END
75: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 07:16:38.15 ID:xycLiYTE0
これでおしまいです。先輩後輩の関係をなくしてみて、改めてそれぞれの先輩の良さに気づいたという梓の話です。もしも5人が同級生だったら、という思いつきを唯の思いつきとして書いてみました。
80: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 09:18:32.69 ID:xycLiYTE0
【後日】
唯「もしもあずにゃんが先輩だったら!」
唯「どうなってたと思う?」
律「またかよ」
唯「違うよぉ、 今度は先輩なんだって」
律「んー、とりあえずこんな感じか」
〜〜〜
ぶちょう梓『はっはっはー!』
〜〜〜
紬「なんだか違うような…」
律「ダメ?」
唯「もしもあずにゃんが先輩だったら!」
唯「どうなってたと思う?」
律「またかよ」
唯「違うよぉ、 今度は先輩なんだって」
律「んー、とりあえずこんな感じか」
〜〜〜
ぶちょう梓『はっはっはー!』
〜〜〜
紬「なんだか違うような…」
律「ダメ?」
81: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 09:18:59.66 ID:xycLiYTE0
澪「でも先輩が梓一人じゃ部活として成立してないんじゃ…」
唯「うぅん、そんな細かいことはいいからさ〜」
紬「まぁ来年は、まさにそういう状況になるわけだしね」
律「そこにあたしらが入るのか…」
澪「…」
〜〜〜
ヒュ~ドロドロドロ…
梓『寂しいよぉ…新入生入ってよぉ…』
ガチャッ
澪『すみませ〜ん、入部希望なんですけど…』
梓『!』ギラッ
澪『ひぃっ!」ビクッ
梓『確保ー!』ダダダッ
〜〜〜
澪「ひゃああああ!」
唯「澪ちゃん?」
澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ…」
律「またおかしな想像始めたな」
唯「うぅん、そんな細かいことはいいからさ〜」
紬「まぁ来年は、まさにそういう状況になるわけだしね」
律「そこにあたしらが入るのか…」
澪「…」
〜〜〜
ヒュ~ドロドロドロ…
梓『寂しいよぉ…新入生入ってよぉ…』
ガチャッ
澪『すみませ〜ん、入部希望なんですけど…』
梓『!』ギラッ
澪『ひぃっ!」ビクッ
梓『確保ー!』ダダダッ
〜〜〜
澪「ひゃああああ!」
唯「澪ちゃん?」
澪「ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ…」
律「またおかしな想像始めたな」
82: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 09:19:27.26 ID:xycLiYTE0
紬「でも梓ちゃんが先輩だと、部室にティーセットを持ち込んだら…」
〜〜〜
紬『お茶ですよぉ♪』
唯律澪『わーい!』
梓『…』ブルブル
唯『…あずにゃん先輩?』
梓『…こんなんじゃダメだよ〜!』ガオーッ!
澪『キレた!』
梓『きみたち、やる気が感じられないよ!』ビシィッ
梓『ティーセットは撤去!これからはビシバシ練習するからね!』
〜〜〜
紬『お茶ですよぉ♪』
唯律澪『わーい!』
梓『…』ブルブル
唯『…あずにゃん先輩?』
梓『…こんなんじゃダメだよ〜!』ガオーッ!
澪『キレた!』
梓『きみたち、やる気が感じられないよ!』ビシィッ
梓『ティーセットは撤去!これからはビシバシ練習するからね!』
83: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 09:20:02.28 ID:xycLiYTE0
ギュッ
梓『!?』
唯『よしよし、あずにゃん先輩…』
梓『ふにゃぁ…』
梓『…って先輩を抱きしめない!あとあずにゃんって呼ばないの〜!』ガオーッ!
唯『ごめんなさ〜い!』
〜〜〜
唯律澪紬「…」
梓「こんにちは〜…ってあれ?どうしたんですかみなさん?」
唯「…あずにゃん」
梓「は、はい!」
唯「…やっぱり、あずにゃんは後輩のまんまでいいよ!それが一番だよ!」
律澪紬「うんうん」コクコク
梓「…は、はぁ」
END
梓『!?』
唯『よしよし、あずにゃん先輩…』
梓『ふにゃぁ…』
梓『…って先輩を抱きしめない!あとあずにゃんって呼ばないの〜!』ガオーッ!
唯『ごめんなさ〜い!』
〜〜〜
唯律澪紬「…」
梓「こんにちは〜…ってあれ?どうしたんですかみなさん?」
唯「…あずにゃん」
梓「は、はい!」
唯「…やっぱり、あずにゃんは後輩のまんまでいいよ!それが一番だよ!」
律澪紬「うんうん」コクコク
梓「…は、はぁ」
END
84: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/11(土) 09:21:12.39 ID:xycLiYTE0
これで本当におしまいです。お付き合い頂いてありがとうございました。
86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 09:26:46.40 ID:N5lmgwkjO
乙!
87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/11(土) 11:08:31.78 ID:RDyJHg/hO
ええ話やった
91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/14(火) 17:20:18.62 ID:dhK9Ar+IO
おつー!
涙腺に来たぜ...
涙腺に来たぜ...
92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/29(水) 23:11:32.76 ID:GIQIIMBU0
乙
懐かしすぎて泣いた
懐かしすぎて泣いた
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428607285/
Entry ⇒ 2016.03.15 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
唯「あずにゃんドキドキ大作戦だよ!」
1: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:44:44.47 ID:bZyxClti0
【月曜日】
梓「よーし…」
純「どうしたの梓?」
憂「気合い十分だね」
梓「今日こそきちんと練習しようと思ってね」
梓「最近、部活の雰囲気がたるんでるんだよ」
純「軽音部としてはそれが通常運転じゃないの?」
梓「うっ…」
梓(言い返せない…)
梓「さ、最近特にそうなの!」
梓「だから、今週だけでもティータイムをなくして、みっちり練習するんだよ」
純「ふーん…ほんとになくせるのかなぁ?」
純「憂のお姉ちゃんとか律さんとか手強そうだけどなぁ」
梓「や、やるったらやるもん!」
梓「うんしょっと…」
梓「じゃあ部室行くね」
純「まぁやるからにはがんばりなよ梓~」
憂「ファイトだよ、梓ちゃん」
梓「よーし…」
純「どうしたの梓?」
憂「気合い十分だね」
梓「今日こそきちんと練習しようと思ってね」
梓「最近、部活の雰囲気がたるんでるんだよ」
純「軽音部としてはそれが通常運転じゃないの?」
梓「うっ…」
梓(言い返せない…)
梓「さ、最近特にそうなの!」
梓「だから、今週だけでもティータイムをなくして、みっちり練習するんだよ」
純「ふーん…ほんとになくせるのかなぁ?」
純「憂のお姉ちゃんとか律さんとか手強そうだけどなぁ」
梓「や、やるったらやるもん!」
梓「うんしょっと…」
梓「じゃあ部室行くね」
純「まぁやるからにはがんばりなよ梓~」
憂「ファイトだよ、梓ちゃん」
2: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:47:08.82 ID:bZyxClti0
2期11話の「暑い!」の後あたりをイメージした話です。
3: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:48:30.27 ID:bZyxClti0
梓(部室にクーラーが付いてから、まともに練習しない日が続いてる)テクテク
梓(このまま夏休みに入っちゃったら、もしかしたら唯先輩は難しいリフやコードは全部忘れちゃうかもしれない…)テクテク
梓(こんなことじゃダメだよ!私たちは軽音部なんだから!)ブンブンッ!
梓(先輩たち、わたしが行く前に練習してくれてればいいんだけど…)テクテク
梓(そんなわけないか…きっと先にティータイム始めちゃってるよね)テクテク
梓(練習の音は…やっぱり聞こえない)テクテク
梓(今日からがんばらないと!)フンスッ
梓(このまま夏休みに入っちゃったら、もしかしたら唯先輩は難しいリフやコードは全部忘れちゃうかもしれない…)テクテク
梓(こんなことじゃダメだよ!私たちは軽音部なんだから!)ブンブンッ!
梓(先輩たち、わたしが行く前に練習してくれてればいいんだけど…)テクテク
梓(そんなわけないか…きっと先にティータイム始めちゃってるよね)テクテク
梓(練習の音は…やっぱり聞こえない)テクテク
梓(今日からがんばらないと!)フンスッ
4: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:49:24.64 ID:bZyxClti0
梓「こんにちは!」ガチャッ
唯「…」
律「…」
澪「…」
紬「…」
梓「…?」
梓(なに…?この張り詰めた空気)
梓「あの~…?」
律「唯…本当のことを言ってくれ」
唯「…!」ピクッ
律「お前…タイムリープしてるだろ」
唯「…っ」
律「唯、どうなんだ…?」
唯「…わたしは…」
律澪紬「…」
梓「え…」
梓「…えっ?」
唯「…」
律「…」
澪「…」
紬「…」
梓「…?」
梓(なに…?この張り詰めた空気)
梓「あの~…?」
律「唯…本当のことを言ってくれ」
唯「…!」ピクッ
律「お前…タイムリープしてるだろ」
唯「…っ」
律「唯、どうなんだ…?」
唯「…わたしは…」
律澪紬「…」
梓「え…」
梓「…えっ?」
5: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:50:47.03 ID:bZyxClti0
紬「思えば一年生の時からおかしかったのよね」
澪「テストの結果がまったくダメだったと思ったら、一夜漬けの勉強だけで追試を満点でパスしたり」
澪「完全に覚えてたはずのリフを次の日には忘れてたり」
律「最初は唯だからって理由で納得してたんだ。でも、それにしても不自然なことが多すぎた」
紬「それで思ったのよ。もしかして、唯ちゃんはタイムリープしているんじゃないかって」
律「どうなんだ、唯」
律「お前はいったい…どこから来たんだ?」
梓(…どうしよう、いきなり過ぎてついていけない)
澪「テストの結果がまったくダメだったと思ったら、一夜漬けの勉強だけで追試を満点でパスしたり」
澪「完全に覚えてたはずのリフを次の日には忘れてたり」
律「最初は唯だからって理由で納得してたんだ。でも、それにしても不自然なことが多すぎた」
紬「それで思ったのよ。もしかして、唯ちゃんはタイムリープしているんじゃないかって」
律「どうなんだ、唯」
律「お前はいったい…どこから来たんだ?」
梓(…どうしよう、いきなり過ぎてついていけない)
6: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:52:18.42 ID:bZyxClti0
梓「せ、先輩方…」
唯「バレちゃったら…しょうがないね」
澪「唯…」
紬「唯ちゃん…」
唯「わたしと…そして憂は、未来人なんだよ」
梓(はっ!?)
紬「ええっ?」
律「憂ちゃんもなのか?」
唯「うん…わたしたちは、ある任務の為に、この時代にやって来たんだ」
紬「ある任務って…」
唯「それは…」
唯「あずにゃんを守ることだよ!」ビシッ
梓「ひっ」ビクッ
唯「バレちゃったら…しょうがないね」
澪「唯…」
紬「唯ちゃん…」
唯「わたしと…そして憂は、未来人なんだよ」
梓(はっ!?)
紬「ええっ?」
律「憂ちゃんもなのか?」
唯「うん…わたしたちは、ある任務の為に、この時代にやって来たんだ」
紬「ある任務って…」
唯「それは…」
唯「あずにゃんを守ることだよ!」ビシッ
梓「ひっ」ビクッ
7: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:53:31.30 ID:bZyxClti0
律「あ、梓を!?」
澪「梓、いたのか!?」クルッ
梓「は、はぁ…」
紬「どこから聞いてたの!?」
梓「えっと…タイムリープの辺りから…」
律「唯、どうして梓を守ることが任務なんだ?」
唯「…遠くない未来、人類対ロボットの戦争が起こるんだ」
紬「人類対ロボットの!?」
律「戦争だって!?」
梓(こんな話、どこかで聞いたことあるような…)
唯「そしてあずにゃんは、人類側の軍隊を率いる、リーダーとなる人物なんだよ…!」
律「なんだってー!」
紬「そ、そんな、梓ちゃんが…」
梓(やっぱり聞いたことあるような…)
澪「梓、いたのか!?」クルッ
梓「は、はぁ…」
紬「どこから聞いてたの!?」
梓「えっと…タイムリープの辺りから…」
律「唯、どうして梓を守ることが任務なんだ?」
唯「…遠くない未来、人類対ロボットの戦争が起こるんだ」
紬「人類対ロボットの!?」
律「戦争だって!?」
梓(こんな話、どこかで聞いたことあるような…)
唯「そしてあずにゃんは、人類側の軍隊を率いる、リーダーとなる人物なんだよ…!」
律「なんだってー!」
紬「そ、そんな、梓ちゃんが…」
梓(やっぱり聞いたことあるような…)
8: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:54:40.69 ID:bZyxClti0
唯「ロボットたちは、重要人物であるあずにゃんを抹殺しようと計画したんだ…」
唯「でも未来のあずにゃんはしっかり守られてるの…。だから過去に飛んで、この時代のあずにゃんを消してしまおうと考えた」
唯「わたしと憂はそれを防ぐ為に、この時代に送り込まれたんだよ」
唯「わたしは部活中のあずにゃんを、憂は授業中のあずにゃんを守る為にね」
律「まさか…梓がそんなに重要な人物だったなんて…」
梓「…」
唯「わたしがいつもあずにゃんに抱きついていたのも、あずにゃんの盾になる為だったんだよ」
唯「でもわたしの力不足で、何度も何度もあずにゃんの護衛に失敗したんだ」
紬「そうだったのね…」
唯「その度にわたしはタイムリープして、過去をやり直し、あずにゃんを守ってきたんだよ」
梓「…」
唯「でも未来のあずにゃんはしっかり守られてるの…。だから過去に飛んで、この時代のあずにゃんを消してしまおうと考えた」
唯「わたしと憂はそれを防ぐ為に、この時代に送り込まれたんだよ」
唯「わたしは部活中のあずにゃんを、憂は授業中のあずにゃんを守る為にね」
律「まさか…梓がそんなに重要な人物だったなんて…」
梓「…」
唯「わたしがいつもあずにゃんに抱きついていたのも、あずにゃんの盾になる為だったんだよ」
唯「でもわたしの力不足で、何度も何度もあずにゃんの護衛に失敗したんだ」
紬「そうだったのね…」
唯「その度にわたしはタイムリープして、過去をやり直し、あずにゃんを守ってきたんだよ」
梓「…」
9: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 04:59:43.78 ID:bZyxClti0
唯「でもね、わたしがタイムリープできる回数は、あと一回だけなの」
律「なっ…そうなのか!?」
唯「うん…そしてその一回は、わたしたちが未来に戻るために残してある一回なんだ」
唯「だからね、ここで完全に敵を撃退しなきゃいけないんだよ」
律「完全に…」ゴクッ
紬「撃退…」ゴクッ
澪「……」紅茶ゴクッ
梓(なんだこれ…)
律「なっ…そうなのか!?」
唯「うん…そしてその一回は、わたしたちが未来に戻るために残してある一回なんだ」
唯「だからね、ここで完全に敵を撃退しなきゃいけないんだよ」
律「完全に…」ゴクッ
紬「撃退…」ゴクッ
澪「……」紅茶ゴクッ
梓(なんだこれ…)
10: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:00:28.04 ID:bZyxClti0
梓「えっと…みなさん」
唯「はっ!」ガタッ
梓「え?」
唯「あずにゃん!あぶなーい!」ダッ
梓「ええっ!?」
律「梓ー!」ガタッ
紬「梓ちゃん!」ガタッ
唯「伏せてっ!」ダキッ
梓「わっ!」
ギュウウゥ…
一同「…」
シーン…
唯「はっ!」ガタッ
梓「え?」
唯「あずにゃん!あぶなーい!」ダッ
梓「ええっ!?」
律「梓ー!」ガタッ
紬「梓ちゃん!」ガタッ
唯「伏せてっ!」ダキッ
梓「わっ!」
ギュウウゥ…
一同「…」
シーン…
11: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:01:12.26 ID:bZyxClti0
唯「ふぅ…」ムクッ
唯「危機は…去ったよ」
紬「やった…!」
律「良かったー!」
唯「あずにゃんは助かったよー!」
律「人類の未来は救われたぞー!」
律「ムギっ!祝杯の準備だ!」
紬「ただいま!」
梓「…」
ワイワイキャイキャイ…
梓「だからみなさん」ムクッ
梓「なにやってるんですか?」
唯「危機は…去ったよ」
紬「やった…!」
律「良かったー!」
唯「あずにゃんは助かったよー!」
律「人類の未来は救われたぞー!」
律「ムギっ!祝杯の準備だ!」
紬「ただいま!」
梓「…」
ワイワイキャイキャイ…
梓「だからみなさん」ムクッ
梓「なにやってるんですか?」
12: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:02:59.52 ID:bZyxClti0
~~~
紬「はい、梓ちゃん」コトッ
梓「ありがとうございます」
唯「ねぇねぇ、ドキドキした?あずにゃん」ルンルン
梓「全然です」
唯「えぇ〜」
紬「頑張ったのにねぇ」
梓「頑張るところが違います」
律「澪も途中から全然喋んなかっただろー、真面目にやれよな〜」
澪「そもそも真面目のベクトルが違うだろ」
梓「そうですよ、まず練習の方を真面目にやってください」
紬「はい、梓ちゃん」コトッ
梓「ありがとうございます」
唯「ねぇねぇ、ドキドキした?あずにゃん」ルンルン
梓「全然です」
唯「えぇ〜」
紬「頑張ったのにねぇ」
梓「頑張るところが違います」
律「澪も途中から全然喋んなかっただろー、真面目にやれよな〜」
澪「そもそも真面目のベクトルが違うだろ」
梓「そうですよ、まず練習の方を真面目にやってください」
13: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:04:13.62 ID:bZyxClti0
唯「まぁまぁ、練習の合間の息抜きだよぉ」
梓「合間も何も、最初から息抜いてるじゃないですか」
律「わかってないなぁ梓、今の時代を生き抜いてくには、適度な息抜きが必要なんだぞ?」
梓「まったく上手くないですね」
律「バッサリだぁ!」バタッ
紬「えっと…?」
唯「りっちゃ〜ん、今のどういう意味〜?」
律「聞くな唯っ!自分で言ったギャグの説明ほど虚しいことはないんだっ!」
澪「『生き抜く』と『息抜き』を掛けたんだよ。上手くないけど」
律「そこっ!わざわざ説明しないでいただきたい!あと一言余計だ!」
唯「おぉ〜、なるほどぉ」キラキラ
紬「りっちゃん、凄いわぁ」キラキラ
律「むぐぐ…悪意がないとわかっている分心がえぐられる…」
梓「合間も何も、最初から息抜いてるじゃないですか」
律「わかってないなぁ梓、今の時代を生き抜いてくには、適度な息抜きが必要なんだぞ?」
梓「まったく上手くないですね」
律「バッサリだぁ!」バタッ
紬「えっと…?」
唯「りっちゃ〜ん、今のどういう意味〜?」
律「聞くな唯っ!自分で言ったギャグの説明ほど虚しいことはないんだっ!」
澪「『生き抜く』と『息抜き』を掛けたんだよ。上手くないけど」
律「そこっ!わざわざ説明しないでいただきたい!あと一言余計だ!」
唯「おぉ〜、なるほどぉ」キラキラ
紬「りっちゃん、凄いわぁ」キラキラ
律「むぐぐ…悪意がないとわかっている分心がえぐられる…」
14: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:05:11.64 ID:bZyxClti0
梓「そもそもなんだったんですか、あのお芝居…」
唯「気になる〜?ふっふっふ、あれはね〜」
唯「ズバリ!あずにゃんドキドキ大作戦だよ!」
梓「…はぁ」
梓(なんのこっちゃ…)
唯「はぁあ〜、でも今回は失敗だったなぁ」
唯「どうやったらあずにゃんをドキドキさせられるんだろう」
律「今回はちょっと唯のセリフが長すぎたよな」
紬「全体的に間延びしちゃったわよね」
唯「えぇ〜、頑張って喋ったのにぃ」
唯「気になる〜?ふっふっふ、あれはね〜」
唯「ズバリ!あずにゃんドキドキ大作戦だよ!」
梓「…はぁ」
梓(なんのこっちゃ…)
唯「はぁあ〜、でも今回は失敗だったなぁ」
唯「どうやったらあずにゃんをドキドキさせられるんだろう」
律「今回はちょっと唯のセリフが長すぎたよな」
紬「全体的に間延びしちゃったわよね」
唯「えぇ〜、頑張って喋ったのにぃ」
15: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:06:29.95 ID:bZyxClti0
梓「そもそもあの話、どこから持ってきたんですか?」
唯「あ~あれはね、昨日の夜やってた映画を見て思いついたんだよ!」
梓「やっぱり…」
律「次はもう少しシンプルに行くか」
唯「シンプル~?」
紬「う~ん…じゃあもっとわかりやすい話にしてみようか」
澪「お前ら」
澪「梓が目の前にいるのに、話し合いの内容が筒抜けじゃ意味ないだろ」
一同「…」
唯律紬「はっ!」
梓「コントですか…」
梓(もしかしてまだお芝居続いてるのかな…)
唯「あ~あれはね、昨日の夜やってた映画を見て思いついたんだよ!」
梓「やっぱり…」
律「次はもう少しシンプルに行くか」
唯「シンプル~?」
紬「う~ん…じゃあもっとわかりやすい話にしてみようか」
澪「お前ら」
澪「梓が目の前にいるのに、話し合いの内容が筒抜けじゃ意味ないだろ」
一同「…」
唯律紬「はっ!」
梓「コントですか…」
梓(もしかしてまだお芝居続いてるのかな…)
16: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 05:07:26.73 ID:bZyxClti0
紬「梓ちゃん、今の話し合いの内容は忘れて?」
梓「忘れてって言われても…」
律「そうだ唯、こんなときこそタイムリープでやり直しだ!」
唯「任せてりっちゃん!」
唯「ふむむむむ…!」
梓「なにやってんですか」
澪「馬鹿なことやってないで…ほら、練習始めるぞ」
唯「うぅ〜、過去に飛べない〜…」
律「頑張れ唯隊員!」
梓「唯先輩も律先輩も、早く準備してください」
唯「はぁ〜い」
律「ちぇっ、わぁったよ〜」
梓「忘れてって言われても…」
律「そうだ唯、こんなときこそタイムリープでやり直しだ!」
唯「任せてりっちゃん!」
唯「ふむむむむ…!」
梓「なにやってんですか」
澪「馬鹿なことやってないで…ほら、練習始めるぞ」
唯「うぅ〜、過去に飛べない〜…」
律「頑張れ唯隊員!」
梓「唯先輩も律先輩も、早く準備してください」
唯「はぁ〜い」
律「ちぇっ、わぁったよ〜」
21: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 09:57:20.27 ID:bZyxClti0
【火曜日】
梓(今日は日直で遅くなっちゃった)テクテク
梓(昨日は練習はできたけど、結局ティータイムの後だったんだよね…)テクテク
梓(まさか昨日の今日で、変なお芝居は挟んでこないだろうし)テクテク
梓(今日こそ、最初からしっかり練習するぞ!)フンスッ
梓(…というか)テクテク
梓(部室が近づいてきたのに、相変わらず練習の音が聞こえてこない…)テクテク
梓(また先にお茶してるんだろうな…)ハァ…
ガチャッ
梓(今日は日直で遅くなっちゃった)テクテク
梓(昨日は練習はできたけど、結局ティータイムの後だったんだよね…)テクテク
梓(まさか昨日の今日で、変なお芝居は挟んでこないだろうし)テクテク
梓(今日こそ、最初からしっかり練習するぞ!)フンスッ
梓(…というか)テクテク
梓(部室が近づいてきたのに、相変わらず練習の音が聞こえてこない…)テクテク
梓(また先にお茶してるんだろうな…)ハァ…
ガチャッ
22: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 09:58:14.64 ID:bZyxClti0
梓「すみません、日直で、遅く…なっちゃって…」
梓「…」ジトー
唯律澪紬「…」ジー
梓「…どうしたんですか?」
梓「みんなでトンちゃんの水槽を覗き込んで…」
律「あっ梓ちゃん!やっと来たのね」
澪「梓…落ち着いて聞いてくれ」
梓「え…なんですか、まさかトンちゃんに何か…!」
律「実はな、さっきトンちゃんが…」
梓「トンちゃんが!?」
律「喋ったんだ」
梓「喋っ…た…」
梓「…」
梓「はい?」
トンちゃん「…」スーイスイ
梓「…」ジトー
唯律澪紬「…」ジー
梓「…どうしたんですか?」
梓「みんなでトンちゃんの水槽を覗き込んで…」
律「あっ梓ちゃん!やっと来たのね」
澪「梓…落ち着いて聞いてくれ」
梓「え…なんですか、まさかトンちゃんに何か…!」
律「実はな、さっきトンちゃんが…」
梓「トンちゃんが!?」
律「喋ったんだ」
梓「喋っ…た…」
梓「…」
梓「はい?」
トンちゃん「…」スーイスイ
23: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 09:59:13.68 ID:bZyxClti0
梓「すみません、意味がわからないです」
律「だからぁ、トンちゃんが喋ったんだって」
律「あたいトンちゃん!いつもかわいがってくれてありがとう!ってさ」
梓「はぁ…もういいですから」
梓「馬鹿なこと言ってないで、今日こそ真面目に練習…」
「馬鹿なことって失礼だね!あたいほんとに喋れるようになったんだよ!」
梓「」
梓「ええ!?」
梓「ど、どこから…」キョロキョロ
律「お〜!また喋った!」
梓(まさか、誰かがトンちゃんのふりして声出してるんじゃ…)ジトー…
律「だからぁ、トンちゃんが喋ったんだって」
律「あたいトンちゃん!いつもかわいがってくれてありがとう!ってさ」
梓「はぁ…もういいですから」
梓「馬鹿なこと言ってないで、今日こそ真面目に練習…」
「馬鹿なことって失礼だね!あたいほんとに喋れるようになったんだよ!」
梓「」
梓「ええ!?」
梓「ど、どこから…」キョロキョロ
律「お〜!また喋った!」
梓(まさか、誰かがトンちゃんのふりして声出してるんじゃ…)ジトー…
24: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:00:09.56 ID:bZyxClti0
紬「トンちゃん!梓ちゃんも来たわよ!」
律「ちょっと挨拶してやれよ!」
「梓ちゃんこんにちは!いつも一番あたいの世話してくれてるよね!ありがとう!」
梓「…」
梓「だ、誰も口を動かしてなかった…」
梓(机の陰とかに、だれか…隠れてない)
梓(まさか…こんなおかしなこと、起こるわけないよ…)
梓(も、もしかして…!)
律「ちょっと挨拶してやれよ!」
「梓ちゃんこんにちは!いつも一番あたいの世話してくれてるよね!ありがとう!」
梓「…」
梓「だ、誰も口を動かしてなかった…」
梓(机の陰とかに、だれか…隠れてない)
梓(まさか…こんなおかしなこと、起こるわけないよ…)
梓(も、もしかして…!)
25: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:01:40.78 ID:bZyxClti0
梓「だ、誰か私のほっぺをつねってください!」
律「え?いいけど…」
ギュー!
梓「いはいいはい!いはいれす!」
律「あ、悪い…つねりすぎた?」パッ
梓「いえ…大丈夫です…」ヒリヒリ
澪「どうしたんだ梓?」
梓(この痛さ…)ヒリヒリ
梓「夢じゃない…」ヒリヒリ
梓(でも…さっきから何か違和感が…)
梓(なんだろう…)
律「え?いいけど…」
ギュー!
梓「いはいいはい!いはいれす!」
律「あ、悪い…つねりすぎた?」パッ
梓「いえ…大丈夫です…」ヒリヒリ
澪「どうしたんだ梓?」
梓(この痛さ…)ヒリヒリ
梓「夢じゃない…」ヒリヒリ
梓(でも…さっきから何か違和感が…)
梓(なんだろう…)
26: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:02:21.10 ID:bZyxClti0
紬「トンちゃん、どうして喋れるようになったの?」
「いつもみんながかわいがってくれてるお礼が言いたいと思ってたら、いきなり喋れるようになったんだよ!」
律「へ〜、こんなこともあるんだなぁ」
澪「この話を元に新しい詩が浮かびそうだな…」
梓(…そうだ)
梓「あの…唯先輩?」
唯「ふぇ?なぁにあずにゃん?」
梓「さっきから、一言も喋ってないですよね?」
唯「え?そ、そうかな?」ビクッ
「いつもみんながかわいがってくれてるお礼が言いたいと思ってたら、いきなり喋れるようになったんだよ!」
律「へ〜、こんなこともあるんだなぁ」
澪「この話を元に新しい詩が浮かびそうだな…」
梓(…そうだ)
梓「あの…唯先輩?」
唯「ふぇ?なぁにあずにゃん?」
梓「さっきから、一言も喋ってないですよね?」
唯「え?そ、そうかな?」ビクッ
27: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:03:28.53 ID:bZyxClti0
梓「おかしいですね、唯先輩がいちばんトンちゃんをかわいがってるのに」
梓「いつもの唯先輩なら真っ先に大騒ぎして、私に抱きついてきそうなものですけど…」
唯「いやぁ〜、いきなりのことだったから、ちょっとビックリしちゃってさぁ〜…」オドオド
梓「そういえば唯先輩、昨日より少ーし髪が伸びてませんか?」
唯「え〜?き、気のせいじゃない、かなぁ?」アタフタ
梓「あれ…いつの間にかトンちゃん静かになっちゃいましたね」チラッ
唯「あ、あれぇ〜、おかしいねぇ、急に恥ずかしくなっちゃったのかなぁ」ドギマギ
梓「もういいですから、唯先輩」
梓「いや…、憂」
梓「いつもの唯先輩なら真っ先に大騒ぎして、私に抱きついてきそうなものですけど…」
唯「いやぁ〜、いきなりのことだったから、ちょっとビックリしちゃってさぁ〜…」オドオド
梓「そういえば唯先輩、昨日より少ーし髪が伸びてませんか?」
唯「え〜?き、気のせいじゃない、かなぁ?」アタフタ
梓「あれ…いつの間にかトンちゃん静かになっちゃいましたね」チラッ
唯「あ、あれぇ〜、おかしいねぇ、急に恥ずかしくなっちゃったのかなぁ」ドギマギ
梓「もういいですから、唯先輩」
梓「いや…、憂」
28: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:05:15.31 ID:bZyxClti0
~~~
憂「ごめんね、梓ちゃん」ペコリ
憂「お姉ちゃんに協力してって言われたら、断れなくて…」
梓「憂は唯先輩に甘すぎるよ」
紬「はい、憂ちゃんも紅茶どうぞ」コトッ
憂「ありがとうございます、紬さん」
梓「だいたい腹話術なんてどこで習ったの?」
梓「まさか、このお芝居のためにわざわざ…」
憂「あはは、まさか〜」
憂「一昨年、私がまだ中学生のときに、お姉ちゃんがうちで軽音部の皆さんや和さんとクリスマスパーティーを開いたことがあってね」
憂「そのとき、パーティーの余興で一人一芸を披露するってお姉ちゃんに聞いて、練習したんだ」
梓「…つまり独学ってこと?」
憂「うん」
梓(やっぱり憂って天才肌だな…)
憂「ごめんね、梓ちゃん」ペコリ
憂「お姉ちゃんに協力してって言われたら、断れなくて…」
梓「憂は唯先輩に甘すぎるよ」
紬「はい、憂ちゃんも紅茶どうぞ」コトッ
憂「ありがとうございます、紬さん」
梓「だいたい腹話術なんてどこで習ったの?」
梓「まさか、このお芝居のためにわざわざ…」
憂「あはは、まさか〜」
憂「一昨年、私がまだ中学生のときに、お姉ちゃんがうちで軽音部の皆さんや和さんとクリスマスパーティーを開いたことがあってね」
憂「そのとき、パーティーの余興で一人一芸を披露するってお姉ちゃんに聞いて、練習したんだ」
梓「…つまり独学ってこと?」
憂「うん」
梓(やっぱり憂って天才肌だな…)
29: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:06:24.08 ID:bZyxClti0
梓「…それはともかく、先輩方」ジロリ
梓「よくまぁこんなお芝居を思いつきましたね」
唯「えへへぇ、照れるなぁ」
梓「褒めてませんよ…」
律「昨日、次はシンプルって言ってたのを梓に聞かれたから、裏をかいて凝った内容にしたんだけどな〜」
紬「あと一歩だったのにねぇ」
唯「ぶー、でもわたし、ずっと倉庫の中でつまんなかったよ〜」
澪「しょうがないだろ、憂ちゃんが梓の前で唯のふりしてたんだから」
紬「でも、あそこで唯ちゃんが倉庫の中から飛び出してきたら、唯ちゃんが二人いる!って梓ちゃんをドキドキさせられたかもねぇ」
唯「あ〜、それおもしろそう!」
律「なるほど、ドッペルゲンガーか…じゃあ次はホラー路線で」
澪「ぜったいやめて」
ワイワイキャイキャイ…
梓「よくまぁこんなお芝居を思いつきましたね」
唯「えへへぇ、照れるなぁ」
梓「褒めてませんよ…」
律「昨日、次はシンプルって言ってたのを梓に聞かれたから、裏をかいて凝った内容にしたんだけどな〜」
紬「あと一歩だったのにねぇ」
唯「ぶー、でもわたし、ずっと倉庫の中でつまんなかったよ〜」
澪「しょうがないだろ、憂ちゃんが梓の前で唯のふりしてたんだから」
紬「でも、あそこで唯ちゃんが倉庫の中から飛び出してきたら、唯ちゃんが二人いる!って梓ちゃんをドキドキさせられたかもねぇ」
唯「あ〜、それおもしろそう!」
律「なるほど、ドッペルゲンガーか…じゃあ次はホラー路線で」
澪「ぜったいやめて」
ワイワイキャイキャイ…
30: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:07:33.19 ID:bZyxClti0
梓(また私の前で話し合い始めて…内容が筒抜けだよ…)
梓(昨日今日のお芝居の目的って、私をドキドキさせることのはずだよね?)
憂「お姉ちゃんも皆さんも楽しそうだねぇ♪」
梓「そうだね…」
梓(ほんとに楽しそう)
梓(目的を忘れて、盛り上がってるよ…)
梓「皆さん、目的を忘れてませんか?」ガタッ
唯「ほぇ?目的って?」
梓「私をドキドキさせる為に作戦を立ててるんじゃないんですか?」
律「そうだけど」
梓「じゃあ、私の目の前で話し合いしてちゃダメじゃないですか」
唯律澪紬「…」
唯律澪紬「はっ!」
梓「だからコントですか…」
梓(昨日今日のお芝居の目的って、私をドキドキさせることのはずだよね?)
憂「お姉ちゃんも皆さんも楽しそうだねぇ♪」
梓「そうだね…」
梓(ほんとに楽しそう)
梓(目的を忘れて、盛り上がってるよ…)
梓「皆さん、目的を忘れてませんか?」ガタッ
唯「ほぇ?目的って?」
梓「私をドキドキさせる為に作戦を立ててるんじゃないんですか?」
律「そうだけど」
梓「じゃあ、私の目の前で話し合いしてちゃダメじゃないですか」
唯律澪紬「…」
唯律澪紬「はっ!」
梓「だからコントですか…」
31: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:10:17.88 ID:bZyxClti0
梓「こんなことじゃまだまだ私をドキドキさせられませんよ」
憂「ねぇ梓ちゃん」
梓「なに?憂」
憂「言いにくいんだけど…梓ちゃんも目的を忘れてないかな」
梓「え?」
憂「梓ちゃんの目的って…、皆さんにドキドキさせられるってことじゃなくて」
憂「軽音部でしっかり練習することじゃなかったの?」
梓「…」
梓「はっ!」
憂「ねぇ梓ちゃん」
梓「なに?憂」
憂「言いにくいんだけど…梓ちゃんも目的を忘れてないかな」
梓「え?」
憂「梓ちゃんの目的って…、皆さんにドキドキさせられるってことじゃなくて」
憂「軽音部でしっかり練習することじゃなかったの?」
梓「…」
梓「はっ!」
32: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:16:56.06 ID:bZyxClti0
【水曜日】
梓「憂…先輩たち、今日も何か企んでるのかな?」
憂「やだなぁ梓ちゃん、さすがのお姉ちゃんたちも、昨日の今日で何もしてこないよ」
憂「…た、多分…だけど」
梓「そっか…」
梓(すでに2日続いてるからなぁ…)
梓「じゃ、行ってくるね」
憂「また明日ね〜」
純「バイバーイ梓ー」
梓(まさか憂まで絡めてくるとは…)テクテク
梓(二度あることは三度ある…今日はいったいどんなお芝居を挟んでくるんだろ)テクテク
梓(今日こそはちゃんと始めから練習するんだから!)テクテク
梓(…案の定練習の音は聞こえないな)テクテク
梓「憂…先輩たち、今日も何か企んでるのかな?」
憂「やだなぁ梓ちゃん、さすがのお姉ちゃんたちも、昨日の今日で何もしてこないよ」
憂「…た、多分…だけど」
梓「そっか…」
梓(すでに2日続いてるからなぁ…)
梓「じゃ、行ってくるね」
憂「また明日ね〜」
純「バイバーイ梓ー」
梓(まさか憂まで絡めてくるとは…)テクテク
梓(二度あることは三度ある…今日はいったいどんなお芝居を挟んでくるんだろ)テクテク
梓(今日こそはちゃんと始めから練習するんだから!)テクテク
梓(…案の定練習の音は聞こえないな)テクテク
33: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:18:32.88 ID:bZyxClti0
梓「こんにちは〜」ガチャッ
唯「犯人はっ…!」バッ
唯「きみだよ!あずにゃんっ!」ビシッ
梓「…」
唯「…」フンスッ
一同「…」
梓「…なんの話ですか」
律「しらばっくれても無駄だァ、梓!」
紬「証拠は全て上がってるのよ」
澪「この部室も完全に包囲されている、もう逃げ場はないんだ」
梓「はぁ」
唯律紬澪「…」ジー
梓「あの…もういいですか」
唯「犯人はっ…!」バッ
唯「きみだよ!あずにゃんっ!」ビシッ
梓「…」
唯「…」フンスッ
一同「…」
梓「…なんの話ですか」
律「しらばっくれても無駄だァ、梓!」
紬「証拠は全て上がってるのよ」
澪「この部室も完全に包囲されている、もう逃げ場はないんだ」
梓「はぁ」
唯律紬澪「…」ジー
梓「あの…もういいですか」
34: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:19:39.66 ID:bZyxClti0
~~~
唯「またあずにゃんをドキドキさせられなかったよ…」ショボン
紬「なにがいけなかったんだろう…」
律「今度はシンプル過ぎたのかもな〜」
澪「いや…そういう問題じゃないだろ」
梓「そうですよ」
唯「じゃあなにがいけなかったの、あずにゃん?」
梓「なにが、というより…」
梓「ちゃんと、練習しましょう?」
律「練習って、演技のか?」
梓「じゃなくて!」
澪「演奏の練習のことだろ…」
梓「そうです!」
唯「またあずにゃんをドキドキさせられなかったよ…」ショボン
紬「なにがいけなかったんだろう…」
律「今度はシンプル過ぎたのかもな〜」
澪「いや…そういう問題じゃないだろ」
梓「そうですよ」
唯「じゃあなにがいけなかったの、あずにゃん?」
梓「なにが、というより…」
梓「ちゃんと、練習しましょう?」
律「練習って、演技のか?」
梓「じゃなくて!」
澪「演奏の練習のことだろ…」
梓「そうです!」
35: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:20:38.56 ID:bZyxClti0
唯「でもあずにゃんをドキドキさせてからじゃないと、練習も何もないよ」
梓「いったいここは何部なんですか…」
律「何部ってそりゃ…」
唯「けいおん部だけど…」
梓「ですよね?軽音部なら軽音部らしく活動しましょうよ」
律「わかってないなぁ梓は」
梓「何がですか?」
唯「あずにゃんが言ってるのって、『軽音部』のことでしょ?」
唯「わたしたちは『軽音部』じゃなくて、『けいおん部』なんだよ!」
律「なんだぞ!」
梓「…すみません、ちょっと意味が…」
澪「ああ…なるほど」
紬「わかるわぁ」ニコニコ
梓(わかるの!?)
梓「いったいここは何部なんですか…」
律「何部ってそりゃ…」
唯「けいおん部だけど…」
梓「ですよね?軽音部なら軽音部らしく活動しましょうよ」
律「わかってないなぁ梓は」
梓「何がですか?」
唯「あずにゃんが言ってるのって、『軽音部』のことでしょ?」
唯「わたしたちは『軽音部』じゃなくて、『けいおん部』なんだよ!」
律「なんだぞ!」
梓「…すみません、ちょっと意味が…」
澪「ああ…なるほど」
紬「わかるわぁ」ニコニコ
梓(わかるの!?)
36: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:23:19.63 ID:bZyxClti0
梓「何が違うんですか…?」
律「ふっ、この違いがわからないとは…梓もまだまだだなぁ」
梓「むっ…」
唯「だからね、わたしたち『けいおん部』は、ただ5人で演奏するだけじゃなくて、お菓子食べて、お茶して、お話して。そういうのぜーんぶが活動なんだよ!」
梓「えっと…?」
唯「そこが『軽音部』とは違うんだよ!」
梓「はぁ…」
唯「ってことでムギちゃん、今日のおやつは〜?」
紬「今日は唯ちゃんの大好きなマドレーヌよ〜♪」
唯「やったー!ムギちゃん大好き〜!」
律「現金な奴だなぁ唯は」
律「ふっ、この違いがわからないとは…梓もまだまだだなぁ」
梓「むっ…」
唯「だからね、わたしたち『けいおん部』は、ただ5人で演奏するだけじゃなくて、お菓子食べて、お茶して、お話して。そういうのぜーんぶが活動なんだよ!」
梓「えっと…?」
唯「そこが『軽音部』とは違うんだよ!」
梓「はぁ…」
唯「ってことでムギちゃん、今日のおやつは〜?」
紬「今日は唯ちゃんの大好きなマドレーヌよ〜♪」
唯「やったー!ムギちゃん大好き〜!」
律「現金な奴だなぁ唯は」
37: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 10:24:41.42 ID:bZyxClti0
澪「言っとくけど、これ食べたらちゃんと練習するんだからな」
唯「わかってるよぉ。ムギちゃん早く早く〜♪」
律「待て唯、まず梓をドキドキさせてから練習するんじゃなかったのか?」
唯「はっ!そうだったよ!」
澪「お前らなぁ…」
ワイワイキャイキャイ…
梓「…」
唯「わかってるよぉ。ムギちゃん早く早く〜♪」
律「待て唯、まず梓をドキドキさせてから練習するんじゃなかったのか?」
唯「はっ!そうだったよ!」
澪「お前らなぁ…」
ワイワイキャイキャイ…
梓「…」
42: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:28:57.76 ID:bZyxClti0
【木曜日】
梓(はぁ…昨日はなんか上手く丸め込まれちゃった気がするなぁ)
梓(先輩たちの雰囲気に飲まれてなんとなく納得しちゃったけど)
梓(冷静に考えたら、それって私たちが普通の軽音部よりダラけてるってことだよね…)
梓(ダメダメ!自分をしっかり持て、梓!)ブンブンッ!
梓(よ〜し、今日こそは先輩たちに惑わされずに…)
梓「練習するぞ!」
純「わっなに!?」
憂「梓ちゃん…どうしたの?」
梓「あ…ごめん、なんでもない…」
梓(はぁ…昨日はなんか上手く丸め込まれちゃった気がするなぁ)
梓(先輩たちの雰囲気に飲まれてなんとなく納得しちゃったけど)
梓(冷静に考えたら、それって私たちが普通の軽音部よりダラけてるってことだよね…)
梓(ダメダメ!自分をしっかり持て、梓!)ブンブンッ!
梓(よ〜し、今日こそは先輩たちに惑わされずに…)
梓「練習するぞ!」
純「わっなに!?」
憂「梓ちゃん…どうしたの?」
梓「あ…ごめん、なんでもない…」
43: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:29:46.21 ID:bZyxClti0
梓「じゃあ練習行ってくるよ」
憂「いってらっしゃい」
純「お茶飲んでばっかじゃダメだよ〜梓」
梓「なっ…ちゃんと練習もするもん!」
梓(うう…『練習してる』って言い返せなかったのが悔しい…)テクテク
梓(でも、今日こそは…!)テクテク
梓(絶対に練習するんだから!」フンスッ
梓「…///」
梓(最近、心の声が漏れやすくなってる気がする…)テクテク
梓「気をつけよう…」
唯「なにを?」ヒョコッ
梓「うわぁっ!唯先輩!?」ビクッ
憂「いってらっしゃい」
純「お茶飲んでばっかじゃダメだよ〜梓」
梓「なっ…ちゃんと練習もするもん!」
梓(うう…『練習してる』って言い返せなかったのが悔しい…)テクテク
梓(でも、今日こそは…!)テクテク
梓(絶対に練習するんだから!」フンスッ
梓「…///」
梓(最近、心の声が漏れやすくなってる気がする…)テクテク
梓「気をつけよう…」
唯「なにを?」ヒョコッ
梓「うわぁっ!唯先輩!?」ビクッ
44: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:31:38.71 ID:bZyxClti0
梓「いつの間に隣に…というか、まだ部室に行ってなかったんですか?」
唯「ちょっと職員室に用事があったんだ〜」
梓「そうですか…」
梓「今日もまた、おかしなお芝居挟んでくるつもりですか?」
唯「う〜ん、今日はおやすみかなぁ。わたしも遅れちゃったし、まだ作戦立てられてないもん」
梓「…ということはまだ続けるつもりなんですね」
唯「当たり前だよぉ」
梓(それを私の目の前で宣言してる時点でダメな気が…)
梓「練習はいつするつもりなんですか…」
唯「ん~、まぁあずにゃんをドキドキさせるまでは、できないかもねぇ」
梓(ダメだ…頭が痛いよ…)
唯「ちょっと職員室に用事があったんだ〜」
梓「そうですか…」
梓「今日もまた、おかしなお芝居挟んでくるつもりですか?」
唯「う〜ん、今日はおやすみかなぁ。わたしも遅れちゃったし、まだ作戦立てられてないもん」
梓「…ということはまだ続けるつもりなんですね」
唯「当たり前だよぉ」
梓(それを私の目の前で宣言してる時点でダメな気が…)
梓「練習はいつするつもりなんですか…」
唯「ん~、まぁあずにゃんをドキドキさせるまでは、できないかもねぇ」
梓(ダメだ…頭が痛いよ…)
45: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:35:36.15 ID:bZyxClti0
唯「ところで、なにを気をつけるの?あずにゃん」
梓「えっ?」
唯「さっき『気をつけよう』って言ってたじゃん」
梓「ああ…いや別に…」
唯「ふっふっふ〜、何を考えていたのか当ててあげよう」
梓「え?」
唯「ズバリ、心の声を漏らさないように気をつけようと思っていたね!?」
梓「ええ!?」ドキッ
唯「ふふ~ん、当たったみたいだね~」
梓「どうして、それを…」
唯「わたし、エスパーなんだよ」
梓「…なんですか、やっぱりお芝居続いてるんですか?」
梓「えっ?」
唯「さっき『気をつけよう』って言ってたじゃん」
梓「ああ…いや別に…」
唯「ふっふっふ〜、何を考えていたのか当ててあげよう」
梓「え?」
唯「ズバリ、心の声を漏らさないように気をつけようと思っていたね!?」
梓「ええ!?」ドキッ
唯「ふふ~ん、当たったみたいだね~」
梓「どうして、それを…」
唯「わたし、エスパーなんだよ」
梓「…なんですか、やっぱりお芝居続いてるんですか?」
46: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:36:40.31 ID:bZyxClti0
唯「えへへ〜、今ドキッとしたんじゃない?あずにゃん」
梓「してません!」
梓「それで、どうしてわかったんですか。まさか本気でエスパーって言い出すんじゃ…」
唯「エスパーじゃなくたって、後ろからあずにゃんの様子を見てたらわかるよぉ」
梓「なっ…ずっと見てたんですか?」
唯「うん。あずにゃんって後ろ姿だけでも何を考えてるのかわかるんだよねぇ」
唯「だから見てておもしろくってさぁ」
梓「そんなにわかりやすいんですかね…私って」
唯「まぁわたしとあずにゃんの仲だからね〜」
梓「なんですかそれ…」
唯「ふふ〜、照れなくてもいいんだよぉあずにゃん!」ダキッ
梓「わっ!いきなり抱きつかないでください!」
唯「この抱き心地…やっぱり抱きしめるのはあずにゃんに限りますなぁ」ギュウゥ
梓「もー!」
梓「してません!」
梓「それで、どうしてわかったんですか。まさか本気でエスパーって言い出すんじゃ…」
唯「エスパーじゃなくたって、後ろからあずにゃんの様子を見てたらわかるよぉ」
梓「なっ…ずっと見てたんですか?」
唯「うん。あずにゃんって後ろ姿だけでも何を考えてるのかわかるんだよねぇ」
唯「だから見てておもしろくってさぁ」
梓「そんなにわかりやすいんですかね…私って」
唯「まぁわたしとあずにゃんの仲だからね〜」
梓「なんですかそれ…」
唯「ふふ〜、照れなくてもいいんだよぉあずにゃん!」ダキッ
梓「わっ!いきなり抱きつかないでください!」
唯「この抱き心地…やっぱり抱きしめるのはあずにゃんに限りますなぁ」ギュウゥ
梓「もー!」
47: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:38:05.53 ID:bZyxClti0
ガチャッ
梓「こんにちは」
唯「よっす!」
律「お、来た来た」
澪「…なんで唯は梓に絡みついたまま部室に入ってきてるんだ」
唯「あずにゃん分補給中なのであります!」
梓「もうっ!いい加減離れてください!」ズイッ
唯「ああん!接続が中断されちゃったぁ…」
紬「あらあら」
律「毎日大変だな~梓も」
梓「いい迷惑です」
唯「えぇ〜、あずにゃんしどい…」
梓「先輩はもうちょっと大人になってください」
唯「ぶー、けちけち」
梓「こんにちは」
唯「よっす!」
律「お、来た来た」
澪「…なんで唯は梓に絡みついたまま部室に入ってきてるんだ」
唯「あずにゃん分補給中なのであります!」
梓「もうっ!いい加減離れてください!」ズイッ
唯「ああん!接続が中断されちゃったぁ…」
紬「あらあら」
律「毎日大変だな~梓も」
梓「いい迷惑です」
唯「えぇ〜、あずにゃんしどい…」
梓「先輩はもうちょっと大人になってください」
唯「ぶー、けちけち」
48: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:38:49.47 ID:bZyxClti0
梓(…というか、予想はついてたけど)
梓(やっぱり今日も練習始めてないんだよね…)フッ…
紬「どうしたの?梓ちゃん」
梓「いえ、なんでも…」
澪「また練習せずにお茶飲んでるな、っていう苦笑だろ今のは」
梓「えっ?」
律「お〜?図星か梓?」
梓「そ、そんなこと…!」
梓「うう…」
梓(やっぱり今日も練習始めてないんだよね…)フッ…
紬「どうしたの?梓ちゃん」
梓「いえ、なんでも…」
澪「また練習せずにお茶飲んでるな、っていう苦笑だろ今のは」
梓「えっ?」
律「お〜?図星か梓?」
梓「そ、そんなこと…!」
梓「うう…」
49: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:39:43.09 ID:bZyxClti0
紬「ねぇ唯ちゃん、マロングラッセとチョコケーキならどっちがいい?」
紬「さわ子先生はまだ来てないから、どちらか選んで?」
梓(あれ、唯先輩と先生の分だけ…?)
唯「どれどれ?うわぁ〜、どっちも美味しそう!」
唯「どうしようかなぁ〜」
梓(どうしよう…『私の分は?』なんて聞きづらいし…)
律「…」チラッ
律「梓ー、お前の分はもう席に置いてあるぞ」チョイチョイ
梓「えっ?」
梓(私の席に…?)チラッ
梓「あっ…気づかなかった…」
紬「さわ子先生はまだ来てないから、どちらか選んで?」
梓(あれ、唯先輩と先生の分だけ…?)
唯「どれどれ?うわぁ〜、どっちも美味しそう!」
唯「どうしようかなぁ〜」
梓(どうしよう…『私の分は?』なんて聞きづらいし…)
律「…」チラッ
律「梓ー、お前の分はもう席に置いてあるぞ」チョイチョイ
梓「えっ?」
梓(私の席に…?)チラッ
梓「あっ…気づかなかった…」
50: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:40:46.35 ID:bZyxClti0
律「『私の分はないのかしらー?』って、顔に書いてあったぞ〜?」
梓「なっ…そ、そんなこと思ってないです!」
律「へぇ〜?」ニヤニヤ
梓「う…」
梓「それで、これって…」
紬「あら、梓ちゃんはバナナシフォンケーキがいいんじゃないかなって思って、先にとっておいたんだけど…違ってた?」
梓「いえ、そんなことないです!」
梓(私の好きなバナナのケーキ…)
梓(とっておいてくれたんだ…)
梓(唯先輩といい、澪先輩といい…)
梓(律先輩も、ムギ先輩も…)
梓「なっ…そ、そんなこと思ってないです!」
律「へぇ〜?」ニヤニヤ
梓「う…」
梓「それで、これって…」
紬「あら、梓ちゃんはバナナシフォンケーキがいいんじゃないかなって思って、先にとっておいたんだけど…違ってた?」
梓「いえ、そんなことないです!」
梓(私の好きなバナナのケーキ…)
梓(とっておいてくれたんだ…)
梓(唯先輩といい、澪先輩といい…)
梓(律先輩も、ムギ先輩も…)
51: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:41:41.20 ID:bZyxClti0
唯「…ん?あずにゃん?」
梓「みなさんエスパーですか…」ボソッ
唯「…ふふっ」
唯「エスパーなんかじゃないよ〜」
唯「みんなあずにゃんがかわいくてかわいくて仕方ないから、あずにゃんのことがよーくわかるんだよ」
紬「梓ちゃんは、けいおん部でただ一人の後輩だからね」
律「唯なんて1日梓に会えないと禁断症状が出るもんな〜」
唯「うんっ!常にあずにゃん分を求めております!」
澪「よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるな…」
紬「うふふ、いいことじゃない」ニコニコ
梓「…///」
梓「みなさんエスパーですか…」ボソッ
唯「…ふふっ」
唯「エスパーなんかじゃないよ〜」
唯「みんなあずにゃんがかわいくてかわいくて仕方ないから、あずにゃんのことがよーくわかるんだよ」
紬「梓ちゃんは、けいおん部でただ一人の後輩だからね」
律「唯なんて1日梓に会えないと禁断症状が出るもんな〜」
唯「うんっ!常にあずにゃん分を求めております!」
澪「よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるな…」
紬「うふふ、いいことじゃない」ニコニコ
梓「…///」
52: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:44:21.21 ID:bZyxClti0
澪「梓、どうしたんだ?早く座りなよ」
梓「あ…、はい」
ギシッ…
紬「はい、梓ちゃん、ミルクティーよ」
梓「ありがとうございます」
さくっ…はむっ
梓「…おいしい」モグモグ
梓「…」モグモグ
梓「…どうひてみなはん」モグモグ…ゴクン
梓「嬉しそうにこっちを見てるんですか」
律「別にー?」
澪「ただ、なんとなく…」
唯「わたしは、幸せそうにケーキを食べてるあずにゃんもかわいいなぁって思ってさ〜」
紬「見ててこっちまで幸せな気分になるのよねぇ」
梓「な…みなさんなに言ってるんですかっ」
梓「早くケーキ食べて、練習しますよ!」
梓「あ…、はい」
ギシッ…
紬「はい、梓ちゃん、ミルクティーよ」
梓「ありがとうございます」
さくっ…はむっ
梓「…おいしい」モグモグ
梓「…」モグモグ
梓「…どうひてみなはん」モグモグ…ゴクン
梓「嬉しそうにこっちを見てるんですか」
律「別にー?」
澪「ただ、なんとなく…」
唯「わたしは、幸せそうにケーキを食べてるあずにゃんもかわいいなぁって思ってさ〜」
紬「見ててこっちまで幸せな気分になるのよねぇ」
梓「な…みなさんなに言ってるんですかっ」
梓「早くケーキ食べて、練習しますよ!」
53: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:45:47.08 ID:bZyxClti0
唯「えー、もうちょっとのんびりしようよぉ」
律「人生には余裕が大切だぞ?」
唯「そのとーり!」
梓「余裕しかない人生もどうかと思いますよ…」
梓(…ん?何か大事なことを忘れてるような…)
唯「はいっ!あずにゃんあーん♪」
梓「えっ?あ…」
唯「ほれほれ、はようはよう」
梓「あ…あーん…」
はむっ
紬「ふふふ♪」
梓「うー…」モグモグ
梓「…やっぱりおいひい」モグモグ
律「人生には余裕が大切だぞ?」
唯「そのとーり!」
梓「余裕しかない人生もどうかと思いますよ…」
梓(…ん?何か大事なことを忘れてるような…)
唯「はいっ!あずにゃんあーん♪」
梓「えっ?あ…」
唯「ほれほれ、はようはよう」
梓「あ…あーん…」
はむっ
紬「ふふふ♪」
梓「うー…」モグモグ
梓「…やっぱりおいひい」モグモグ
54: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:48:42.39 ID:bZyxClti0
【金曜日】
梓(昨日は結局大した練習はできなかったなぁ…)
梓(というか、私も最初から練習するって目標、すっかり忘れてたし…)
梓(ここ何日か、先輩たちのペースに巻き込まれてる…マズい!)ブンブンッ
梓(今日こそは気合いを入れて!)
梓「きちんと…!」
純「はっ?」
梓「…」
憂「きちんと…?」
梓「…や、なんでもないよ」
梓(危ない…また心の声が漏れてた…)
梓(とにかく、きちんと真面目に!最初っから練習しないと!)フンスッ
梓「じゃあね!部室に行ってくる!」
トタトタ…
純「う、うん、いってらっしゃい」
憂「梓ちゃん、今日は一段と気合い入ってるね」
梓(昨日は結局大した練習はできなかったなぁ…)
梓(というか、私も最初から練習するって目標、すっかり忘れてたし…)
梓(ここ何日か、先輩たちのペースに巻き込まれてる…マズい!)ブンブンッ
梓(今日こそは気合いを入れて!)
梓「きちんと…!」
純「はっ?」
梓「…」
憂「きちんと…?」
梓「…や、なんでもないよ」
梓(危ない…また心の声が漏れてた…)
梓(とにかく、きちんと真面目に!最初っから練習しないと!)フンスッ
梓「じゃあね!部室に行ってくる!」
トタトタ…
純「う、うん、いってらっしゃい」
憂「梓ちゃん、今日は一段と気合い入ってるね」
55: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:49:58.34 ID:bZyxClti0
梓(するったらするんだから!)テクテクテク!
…して、気まぐれかも…
梓(…ん?)テク…
梓(何か聞こえる…)
…の確率ー割りー出すー…
梓(これって…わたしの恋はホッチキスだよね)
梓(部室から聞こえてくる…)テク…テク…
ガチャッ…ソロー
…して、気まぐれかも…
梓(…ん?)テク…
梓(何か聞こえる…)
…の確率ー割りー出すー…
梓(これって…わたしの恋はホッチキスだよね)
梓(部室から聞こえてくる…)テク…テク…
ガチャッ…ソロー
56: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:53:19.42 ID:bZyxClti0
唯「キラキラ光る♪願い〜ごとも♪グチャグチャへたる♪悩み〜ごとも〜♪」
唯「そーだホッチ〜キスで〜♪綴じちゃお〜お〜♪」
梓「…」
梓(…私、先輩たちの演奏したこの曲に惹かれて、入部を決めたんだっけ)
唯「もう針がな〜んだか〜♪通らな〜い〜♪」
唯「ララまた明日〜♪」
梓(そういえば、先輩たちが4人で演奏してるのを見るのって久しぶりかも)
梓(…先輩たち4人の演奏するこの曲が、私を二度も軽音部に招き入れてくれたんだよね)
梓(やっぱり…、こんなにも心を打つ演奏ができるなんて)
梓(この人たちの演奏は、凄いよ)
唯「そーだホッチ〜キスで〜♪綴じちゃお〜お〜♪」
梓「…」
梓(…私、先輩たちの演奏したこの曲に惹かれて、入部を決めたんだっけ)
唯「もう針がな〜んだか〜♪通らな〜い〜♪」
唯「ララまた明日〜♪」
梓(そういえば、先輩たちが4人で演奏してるのを見るのって久しぶりかも)
梓(…先輩たち4人の演奏するこの曲が、私を二度も軽音部に招き入れてくれたんだよね)
梓(やっぱり…、こんなにも心を打つ演奏ができるなんて)
梓(この人たちの演奏は、凄いよ)
57: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:54:41.46 ID:bZyxClti0
〜〜〜
唯「ふう…」
澪「あれ…?どうしたんだ梓、そんなところで」
梓「あ…ごめんなさい」
梓「せっかく演奏してるときに中に入ったら、邪魔になるかなって」
律「ほほう、つまりそこであたしらの演奏に聞き惚れてたってわけだな?」
梓「なっ…それは、ちが…わない、ですけど」
梓「というか、どうしてみなさん、お茶する前に演奏してたんですか?お芝居は?」
唯「うーん、まぁお芝居にも飽きちゃったしね〜」
唯「たまにはお茶する前に演奏してもいいかな〜って」
梓「はは…そうですか」
唯「ふう…」
澪「あれ…?どうしたんだ梓、そんなところで」
梓「あ…ごめんなさい」
梓「せっかく演奏してるときに中に入ったら、邪魔になるかなって」
律「ほほう、つまりそこであたしらの演奏に聞き惚れてたってわけだな?」
梓「なっ…それは、ちが…わない、ですけど」
梓「というか、どうしてみなさん、お茶する前に演奏してたんですか?お芝居は?」
唯「うーん、まぁお芝居にも飽きちゃったしね〜」
唯「たまにはお茶する前に演奏してもいいかな〜って」
梓「はは…そうですか」
58: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 17:56:02.17 ID:bZyxClti0
梓「…でも」
梓「先輩方の演奏を聴いて、なんだか入ったばかりの頃のことを思い出しました」
紬「入ったばかりの頃?」
梓「はい。先輩方4人だけでの演奏って、久しぶりに聴きましたから…」
律「そーいや、梓が入部してからは4人で演奏すること、殆どなかったもんな」
梓「新歓ライブのときのことや、軽音部に戻ってきたときのこと思い出して…ちょっとだけ」
唯「ドキドキした!?」
梓「えっ?」
律「今『ドキドキしました』って言おうとしてただろ!」
梓「そんなっ別にそんなドキドキなんて!」
唯「え…?してないの…?わたしたちの演奏でドキドキ…」ワナワナ
梓「あっいや…」
梓「し、してないと言えば…嘘になりますけど…」
律「したのか!?」
唯「したんだね!?」パァッ
梓「は…はい」
梓「先輩方の演奏を聴いて、なんだか入ったばかりの頃のことを思い出しました」
紬「入ったばかりの頃?」
梓「はい。先輩方4人だけでの演奏って、久しぶりに聴きましたから…」
律「そーいや、梓が入部してからは4人で演奏すること、殆どなかったもんな」
梓「新歓ライブのときのことや、軽音部に戻ってきたときのこと思い出して…ちょっとだけ」
唯「ドキドキした!?」
梓「えっ?」
律「今『ドキドキしました』って言おうとしてただろ!」
梓「そんなっ別にそんなドキドキなんて!」
唯「え…?してないの…?わたしたちの演奏でドキドキ…」ワナワナ
梓「あっいや…」
梓「し、してないと言えば…嘘になりますけど…」
律「したのか!?」
唯「したんだね!?」パァッ
梓「は…はい」
59: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 18:00:48.85 ID:bZyxClti0
唯「やったー!作戦大成功!」
梓「え?」
律「いえーい!」
唯「りっちゃん!ハイタッチ!」
パチン!
梓「え…あの…」
唯「いや〜、澪ちゃんの言う通りにして正解だったよぉ」
澪「言っただろ?梓をドキドキさせるには、やっぱり演奏しかないって」
紬「ふふふ、あれこれ言いながら澪ちゃんもノリノリだったのねぇ」
梓「…」ジトー
梓(私のさっきの小さな感動はいったい…)
梓(…あ、そうだ。こうなったら)
梓「え?」
律「いえーい!」
唯「りっちゃん!ハイタッチ!」
パチン!
梓「え…あの…」
唯「いや〜、澪ちゃんの言う通りにして正解だったよぉ」
澪「言っただろ?梓をドキドキさせるには、やっぱり演奏しかないって」
紬「ふふふ、あれこれ言いながら澪ちゃんもノリノリだったのねぇ」
梓「…」ジトー
梓(私のさっきの小さな感動はいったい…)
梓(…あ、そうだ。こうなったら)
60: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 18:03:00.93 ID:bZyxClti0
律「はぁ〜、梓をドキドキさせるって目的は達成できたし、お茶にすっか」
唯「わーい!ムギちゃ〜んおやつおやつ〜」
梓「あれ?みなさん、なに言ってるんですか?」
唯「ん?どしたのあずにゃん?」
梓「やだなぁ、忘れちゃったんですか?先輩方、言ってたじゃないですか」
梓「私をドキドキさせてから練習するって」
唯「そうだっけ?」
梓「はい♪」
梓「私をドキドキさせられたんですから、これで思う存分練習できますよね?」ニッコリ
唯律「」
紬「そういえば…りっちゃんや唯ちゃん、一昨日そんなこと言ってたよね」
澪「…ははっ、それなら仕方ないな」
唯「わーい!ムギちゃ〜んおやつおやつ〜」
梓「あれ?みなさん、なに言ってるんですか?」
唯「ん?どしたのあずにゃん?」
梓「やだなぁ、忘れちゃったんですか?先輩方、言ってたじゃないですか」
梓「私をドキドキさせてから練習するって」
唯「そうだっけ?」
梓「はい♪」
梓「私をドキドキさせられたんですから、これで思う存分練習できますよね?」ニッコリ
唯律「」
紬「そういえば…りっちゃんや唯ちゃん、一昨日そんなこと言ってたよね」
澪「…ははっ、それなら仕方ないな」
61: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 18:05:02.74 ID:bZyxClti0
唯「で、でもぉ…さっきまで真面目に演奏してたし…」
律「そうそう!息抜きも必要だぞ〜梓〜…」
梓「な に 言 っ て る ん で す か ?」ニコ
唯律「」
梓「はい、唯先輩、ギター持って?」
律「ほら、律先輩も。スティック持たないとドラム叩けませんよ?」
唯「りっちゃん…あずにゃんなんか怖いよ…」コソコソ
律「あ、あの〜、梓さん。もしかして怒ってらっしゃる…?」オズオズ
梓「え?そんなことないですよ?むしろワクワクしてます」ニコニコ
梓「これでやっと『 み っ ち り 』練習に取り組めるんですから」ニッコリ
唯律「ひえぇ…」ブルブル
澪「なんか…私たちも覚悟しといた方が良さそうだな」
紬「来週はケーキ持ってくるの、やめとこうかしら…」
梓「さ!みなさん、今日からしっかり練習しましょうね!」
END
律「そうそう!息抜きも必要だぞ〜梓〜…」
梓「な に 言 っ て る ん で す か ?」ニコ
唯律「」
梓「はい、唯先輩、ギター持って?」
律「ほら、律先輩も。スティック持たないとドラム叩けませんよ?」
唯「りっちゃん…あずにゃんなんか怖いよ…」コソコソ
律「あ、あの〜、梓さん。もしかして怒ってらっしゃる…?」オズオズ
梓「え?そんなことないですよ?むしろワクワクしてます」ニコニコ
梓「これでやっと『 み っ ち り 』練習に取り組めるんですから」ニッコリ
唯律「ひえぇ…」ブルブル
澪「なんか…私たちも覚悟しといた方が良さそうだな」
紬「来週はケーキ持ってくるの、やめとこうかしら…」
梓「さ!みなさん、今日からしっかり練習しましょうね!」
END
62: ◆IsRmgF9RZo 2015/04/08(水) 18:15:06.53 ID:bZyxClti0
これでおしまいです。先輩にうまいことやり込められ、紆余曲折を経ながらなんとか練習しようとする梓視点の話でした。
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 18:32:36.53 ID:kKR+oIxSO
乙
ほのぼのした
ほのぼのした
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 18:53:55.63 ID:3PoITTx4O
乙です!
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/08(水) 19:29:08.04 ID:OGXvepDpO
乙!
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/09(木) 11:39:32.57 ID:p36dWBNNo
乙
めっちゃ良かった
めっちゃ良かった
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428435884/
Entry ⇒ 2016.03.08 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
律「エンジョイ干物姉生活!」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:32:41.21 ID:nkXW+pB70
律「干物姉! りっちゃん」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449229890/
澪「干物姉の律……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449405886/
これらの続編です
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449229890/
澪「干物姉の律……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449405886/
これらの続編です
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:35:25.01 ID:nkXW+pB70
幼なじみの澪は美人で評判だ。
優しいし、頭も良い。さらにはスポーツも万能であらゆる才能に恵まれている。
まさに非の打ち所がない完璧な女子高生……
律「──と、みんな思っているらしい……」
澪「おい」
律「えっ?」
澪「変なナレーションを入れるのは止めなさい」
律「ちぇーせっかく良いところだったのにな~」
澪「『らしい』とか意味深なこと言わないように」
律「秋山澪……実は学校が終わって家に帰ると、それはもうみんなには打ち明けられないようなとんでもない生活を……!!」
澪「そんな生活してないから。ってか、打ち明けられないような生活してるのはお前だろ」
優しいし、頭も良い。さらにはスポーツも万能であらゆる才能に恵まれている。
まさに非の打ち所がない完璧な女子高生……
律「──と、みんな思っているらしい……」
澪「おい」
律「えっ?」
澪「変なナレーションを入れるのは止めなさい」
律「ちぇーせっかく良いところだったのにな~」
澪「『らしい』とか意味深なこと言わないように」
律「秋山澪……実は学校が終わって家に帰ると、それはもうみんなには打ち明けられないようなとんでもない生活を……!!」
澪「そんな生活してないから。ってか、打ち明けられないような生活してるのはお前だろ」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:36:54.14 ID:nkXW+pB70
律「うっ……別にいいじゃん! 外で迷惑かけてるわけじゃないしっ!」
澪「いや、聡が苦労してるだろうなって」
律「聡はまあ……あれだ、私の弟だし」
澪「(一人っ子でよかった)」
律「それにずっと一緒に暮らしてるからお互い何かと気兼ねしないからな!」
澪「(姉の権力で支配してるとしか思えない……しかも)室内なのにフードかぶってるし……おまけにちび律だし」
律「ちび律言うな! これかぶってるとなんか落ち着くんだよなー」
澪「落ち着く、ねえ」
律「澪も着てみるか? あったかいぞ~」
澪「いや、私は」
律「他に何着もあるんだ~ほらっ!」バッ
澪「(うわあ……ケース一杯だ……)」
澪「いや、聡が苦労してるだろうなって」
律「聡はまあ……あれだ、私の弟だし」
澪「(一人っ子でよかった)」
律「それにずっと一緒に暮らしてるからお互い何かと気兼ねしないからな!」
澪「(姉の権力で支配してるとしか思えない……しかも)室内なのにフードかぶってるし……おまけにちび律だし」
律「ちび律言うな! これかぶってるとなんか落ち着くんだよなー」
澪「落ち着く、ねえ」
律「澪も着てみるか? あったかいぞ~」
澪「いや、私は」
律「他に何着もあるんだ~ほらっ!」バッ
澪「(うわあ……ケース一杯だ……)」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:37:57.10 ID:nkXW+pB70
律「ふっふ~♪」
澪「軽音部のみんなにはこーんなグータラ生活してるってこと話さないのか?」
律「うーん……」
澪「そこ悩むとこなのか……」
律「悩むに決まってるだろ! こ、このこと澪に話すのもかなり迷ったんだからな!」
澪「(……このお気楽ぶりは部活のティータイム時とさほど変わらないような)」
律「まあ? なにがなんでも隠し通す必要はない」
澪「じゃあ」
律「でも、わざわざ話す必要もないよな! よし、現状維持だ!」フンス
澪「結局このままか……」
律「澪にもこの生活の良さを教えてあげないとな」
澪「なぜそうなる」
澪「軽音部のみんなにはこーんなグータラ生活してるってこと話さないのか?」
律「うーん……」
澪「そこ悩むとこなのか……」
律「悩むに決まってるだろ! こ、このこと澪に話すのもかなり迷ったんだからな!」
澪「(……このお気楽ぶりは部活のティータイム時とさほど変わらないような)」
律「まあ? なにがなんでも隠し通す必要はない」
澪「じゃあ」
律「でも、わざわざ話す必要もないよな! よし、現状維持だ!」フンス
澪「結局このままか……」
律「澪にもこの生活の良さを教えてあげないとな」
澪「なぜそうなる」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:39:42.17 ID:nkXW+pB70
律「よぉし、じゃあさっそくゲームしようぜ! シューティングゲームできたっけ?」
澪「ゾ、ゾンビとか人が死ぬのは無理……怖いから」
律「じゃあ、『ぷにょぷにょ』は?」
澪「あ、それなら」
律「オッケー。 ……なんか話してたら喉かわいたな、コーラでいい?」
澪「うん、ありがとう……ってなんで2本?」
律「1本は私がラッパ飲みする用だ」
澪「1.5Lを一人で!?」
律「もちろん! だからもう1本澪の分持ってきただろ?」
澪「いや、1本も飲めないし」
律「そうか? ポテイト食べてたらいけるけどな~」スッ
澪「!!」
澪「ゾ、ゾンビとか人が死ぬのは無理……怖いから」
律「じゃあ、『ぷにょぷにょ』は?」
澪「あ、それなら」
律「オッケー。 ……なんか話してたら喉かわいたな、コーラでいい?」
澪「うん、ありがとう……ってなんで2本?」
律「1本は私がラッパ飲みする用だ」
澪「1.5Lを一人で!?」
律「もちろん! だからもう1本澪の分持ってきただろ?」
澪「いや、1本も飲めないし」
律「そうか? ポテイト食べてたらいけるけどな~」スッ
澪「!!」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:41:43.35 ID:nkXW+pB70
律「んじゃあ始めるか!」バリバリ
澪「──ちょっと待った」
律「え、なんだよ急にまじめな声出して……」
澪「……まさか、ゲームをしながらポテイトを?」
律「う、うん……いつもそうしてるし」
澪「コントローラーがベタベタするじゃないか!」
律「澪が使うコントローラーじゃないから問題ないだろ?」
澪「い~や、例え私が使わない物だとしてもこれを見過ごすわけにはいかないっ!」
律「え、え~……」
ガチャ
聡「ただいまー」
澪「あ、おじゃましてます」
聡「ああ、澪さん。こんにちは」
澪「──ちょっと待った」
律「え、なんだよ急にまじめな声出して……」
澪「……まさか、ゲームをしながらポテイトを?」
律「う、うん……いつもそうしてるし」
澪「コントローラーがベタベタするじゃないか!」
律「澪が使うコントローラーじゃないから問題ないだろ?」
澪「い~や、例え私が使わない物だとしてもこれを見過ごすわけにはいかないっ!」
律「え、え~……」
ガチャ
聡「ただいまー」
澪「あ、おじゃましてます」
聡「ああ、澪さん。こんにちは」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:43:06.77 ID:nkXW+pB70
律「聡~! 別にポテイト食べながらでもゲームしていいよな~!? マイコントローラーなんだからっ!」
聡「え、え~……」
澪「ダメだよな、聡?」
聡「まあ、一般的には良しとされないのは確かだよね」
澪「ほらみろ」
律「なーっ! この裏切り者めー!」バッ
聡「わっ、飛びかかってくるなって!」
~
澪「また負けた……」
律「ふっふっふっ、まだまだ修業が足りないなあ」
澪「これがグータラゲーマーか……」
聡「え、え~……」
澪「ダメだよな、聡?」
聡「まあ、一般的には良しとされないのは確かだよね」
澪「ほらみろ」
律「なーっ! この裏切り者めー!」バッ
聡「わっ、飛びかかってくるなって!」
~
澪「また負けた……」
律「ふっふっふっ、まだまだ修業が足りないなあ」
澪「これがグータラゲーマーか……」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:44:32.16 ID:nkXW+pB70
律「ってか、そろそろポテイト食べていい? ゲーム止めてもいいからさ」
澪「わかった」
律「澪もポテイト食べてくれていいから」
澪「(ポ、ポテイト……コーラに加えポテイトチップも……!)」
律「?」
澪「やっぱムリムリ! ただでさえコーラ飲んでるのにポテイトも食べたら」
律「今さら何言ってんだよ、ほとんど毎日部室でお菓子食べてるじゃんかよ~」
聡「(ほとんど毎日!? 何部だよ……)」
澪「だからこそだよっ! これ以上お菓子食べたら体重が……あっ」
律「ん? ……あぁ」
聡「はっ!?(これ以上同じ空間にいたらまずいっ!)俺、部屋に戻るよ! どうぞごゆっくり~!」
澪「わかった」
律「澪もポテイト食べてくれていいから」
澪「(ポ、ポテイト……コーラに加えポテイトチップも……!)」
律「?」
澪「やっぱムリムリ! ただでさえコーラ飲んでるのにポテイトも食べたら」
律「今さら何言ってんだよ、ほとんど毎日部室でお菓子食べてるじゃんかよ~」
聡「(ほとんど毎日!? 何部だよ……)」
澪「だからこそだよっ! これ以上お菓子食べたら体重が……あっ」
律「ん? ……あぁ」
聡「はっ!?(これ以上同じ空間にいたらまずいっ!)俺、部屋に戻るよ! どうぞごゆっくり~!」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:46:24.05 ID:nkXW+pB70
澪「と、とにかくやめとくっ!」
律「(まさかそこまで気にしていたとは……)」
~
澪「あ、こんな時間か。そろそろ帰るよ」
律「んーわかった」
澪「おばさんたちにもよろしくいっといて」
律「はいよ。 ……あー……えっと……」
澪「?」
律「ど、どうだった? その……この姿の私と一緒に過ごしてみて」
澪「そうだなあ……良い反面教師だったよ」
律「むーっ! ま、澪にはわからないか。この領域(レベル)の生活は……」
澪「いや、誇らしげに言わなくていいから。まあ、適当な所は相変わらずだけど……」
律「(まさかそこまで気にしていたとは……)」
~
澪「あ、こんな時間か。そろそろ帰るよ」
律「んーわかった」
澪「おばさんたちにもよろしくいっといて」
律「はいよ。 ……あー……えっと……」
澪「?」
律「ど、どうだった? その……この姿の私と一緒に過ごしてみて」
澪「そうだなあ……良い反面教師だったよ」
律「むーっ! ま、澪にはわからないか。この領域(レベル)の生活は……」
澪「いや、誇らしげに言わなくていいから。まあ、適当な所は相変わらずだけど……」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:49:22.12 ID:nkXW+pB70
律「……だけど?」
澪「……や、やっぱり何でもない! おじゃましました!」
律「またな~」
バタン
澪「(適当な所は相変わらずだけど……かわいい)」
『みお~!』
『コーラでいい?』
『ちび律言うな!』
澪「ふふ……まあ、ちび律だとさすがに叩けないな」
おわり
澪「……や、やっぱり何でもない! おじゃましました!」
律「またな~」
バタン
澪「(適当な所は相変わらずだけど……かわいい)」
『みお~!』
『コーラでいい?』
『ちび律言うな!』
澪「ふふ……まあ、ちび律だとさすがに叩けないな」
おわり
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/29(金) 22:53:34.96 ID:nkXW+pB70
前回はHTLM化の前に新規スレとして建てたので申し訳ないです
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 06:46:38.82 ID:bEnOedsSO
乙
一瞬で干物生活に堕ちる唯がありありと
一瞬で干物生活に堕ちる唯がありありと
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 01:36:55.76 ID:hVUFQshk0
このシリーズの掛け合い好きだな
乙です
乙です
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454074360/
Entry ⇒ 2016.02.20 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
梓「目薬さし系女子にムラムラっ! です」
1: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:03:03.40 ID:BRXOdj5L0
けいおん! SSですよ。
それではレッツゴーです。
それではレッツゴーです。
2: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:04:03.97 ID:BRXOdj5L0
ども、中野梓こと百合にゃんです。
今日も部活!
相変わらずみんなでティータイムです。
練習はしたいですが、こういう時間もやっぱり好きなのです。
今日も部活!
相変わらずみんなでティータイムです。
練習はしたいですが、こういう時間もやっぱり好きなのです。
3: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:04:57.83 ID:BRXOdj5L0
律「でさー、もう後が無いし、一か八かで強振したんだよ」
律先輩が、ケーキを食べながら楽しくお喋りしてます。
唇の端にちょっとだけ生クリームがついていて、百合にゃんの唇で綺麗にしてあげたいモンだなァ♪
唯「うんうん」
唯先輩は、ラスクをカリカリと。
そのカリカリ、下さい。
律先輩が、ケーキを食べながら楽しくお喋りしてます。
唇の端にちょっとだけ生クリームがついていて、百合にゃんの唇で綺麗にしてあげたいモンだなァ♪
唯「うんうん」
唯先輩は、ラスクをカリカリと。
そのカリカリ、下さい。
4: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:05:40.12 ID:BRXOdj5L0
律「そうしたら見事に逆転サヨナラホームラン!
いやぁ、あれはシビれたねぇ~!」
唯「おおっ!」
紬「おおぉ~!」
ムギ先輩は、お菓子や紅茶に手をつけるのも忘れて、律先輩のお話に聞き入っています。
『あーん』してあげましょうか? いやさせて下さい。
澪「なんでも良いけど、これ食べ終えたら練習しような」
紅茶を口に含みつつ、澪先輩が言いました。
澪先輩の、わずかに濡れた唇……
百合にゃんのものです。
いやぁ、あれはシビれたねぇ~!」
唯「おおっ!」
紬「おおぉ~!」
ムギ先輩は、お菓子や紅茶に手をつけるのも忘れて、律先輩のお話に聞き入っています。
『あーん』してあげましょうか? いやさせて下さい。
澪「なんでも良いけど、これ食べ終えたら練習しような」
紅茶を口に含みつつ、澪先輩が言いました。
澪先輩の、わずかに濡れた唇……
百合にゃんのものです。
5: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:06:49.92 ID:BRXOdj5L0
律「え~っ! もうちょっとだけ良いじゃんっ!」
唯「そうだよぉ。もうちょっとのんびりしようよ」
澪「駄目だっ! 今日は部室に来てからお茶してるだけじゃないかっ!」
梓「そうですよ。練習はちゃんとしないと」
律「ちぇ~っ。しゃーないなぁ」
唯「そうだよぉ。もうちょっとのんびりしようよ」
澪「駄目だっ! 今日は部室に来てからお茶してるだけじゃないかっ!」
梓「そうですよ。練習はちゃんとしないと」
律「ちぇ~っ。しゃーないなぁ」
6: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:08:03.69 ID:BRXOdj5L0
唯「こうなったら、超ゆっくりとお茶しよう!」
律「なるほど! そうしたらもっと、ゆっくり出来るな!」
紬「おぉ~っ♪」
澪「なに言ってんだ馬鹿律っ!」
グニー!
律「いひゃいいひゃい!」
梓「もうっ。律先輩が変な事を言うからですよ」
澪先輩ッ! 百合にゃんのほっぺもつねって下さいッッッ!!!
律「なるほど! そうしたらもっと、ゆっくり出来るな!」
紬「おぉ~っ♪」
澪「なに言ってんだ馬鹿律っ!」
グニー!
律「いひゃいいひゃい!」
梓「もうっ。律先輩が変な事を言うからですよ」
澪先輩ッ! 百合にゃんのほっぺもつねって下さいッッッ!!!
7: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:08:31.56 ID:BRXOdj5L0
それにしても、先輩方が仲良くじゃれあう姿はたまらんもんがありますですのぅ。
ムラッ。
梓「ちょっとトイレ行ってきます」
ムラッ。
梓「ちょっとトイレ行ってきます」
8: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:09:10.75 ID:BRXOdj5L0
─────────────────────
梓「ふう……」ツヤツヤ☆
私が部室に戻ると……
澪「んっ」
梓「!!!!!」
丁度、澪先輩が目薬をさす瞬間でした!
梓「ふう……」ツヤツヤ☆
私が部室に戻ると……
澪「んっ」
梓「!!!!!」
丁度、澪先輩が目薬をさす瞬間でした!
9: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:09:51.24 ID:BRXOdj5L0
梓(ぬわーーーーーーーーーっっっ!!!!!)
梓(美少女が目薬をさすッ!!!!!!!!)
梓(その姿……)
梓(なんと素晴らしいのかッ!)
梓(なんと美しいのかッッッ!!!)
ムラムラッ!
梓「すみません、ちょっとトイレに行ってきます」
律「えっ、また?」
梓(美少女が目薬をさすッ!!!!!!!!)
梓(その姿……)
梓(なんと素晴らしいのかッ!)
梓(なんと美しいのかッッッ!!!)
ムラムラッ!
梓「すみません、ちょっとトイレに行ってきます」
律「えっ、また?」
10: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:10:26.02 ID:BRXOdj5L0
─────────────────────
とても素晴らしいものを見せて頂いてから数日。
それからも、澪先輩はまめに目薬をさしています。
しかし気になるのは、その頻度が日々多くなっている事。
別にそれは、百合にゃんとしては眼☆福なので良いのですが……
とても素晴らしいものを見せて頂いてから数日。
それからも、澪先輩はまめに目薬をさしています。
しかし気になるのは、その頻度が日々多くなっている事。
別にそれは、百合にゃんとしては眼☆福なので良いのですが……
11: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:11:05.58 ID:BRXOdj5L0
─────────────────────
澪「う~ん……」
澪先輩が、手鏡を見ながらうめき声を上げたのは、とある日の部活の時間でした。
律「どうしたんだ? 澪」
澪「なんだか、目が痛いんだ」
唯「目?」
澪「う~ん……」
澪先輩が、手鏡を見ながらうめき声を上げたのは、とある日の部活の時間でした。
律「どうしたんだ? 澪」
澪「なんだか、目が痛いんだ」
唯「目?」
12: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:11:46.24 ID:BRXOdj5L0
紬「そういえば澪ちゃん、ちょっと目が赤いね?」
澪「そうなんだよ。
どうも最近目の調子が悪いし、充血するんだ……」
梓「でも、澪先輩はまめに目薬さしてましたよね?」
澪「うん」
澪「そうなんだよ。
どうも最近目の調子が悪いし、充血するんだ……」
梓「でも、澪先輩はまめに目薬さしてましたよね?」
澪「うん」
13: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:12:51.50 ID:BRXOdj5L0
律「目薬って、充血を取る効果もなかったっけ?」
梓「ありますね。
充血を取る能力が高いのを、ウリにしてる商品も見た事があります」
澪「あー、そういえば私が使ってる目薬のパッケージにも、充血にも効果があるとか書いてあった気がする」
唯「それなのに、目の調子が悪いっておかしいね」
澪「そうなんだよ。
なんでかなぁ?」
梓「…………」
梓「ありますね。
充血を取る能力が高いのを、ウリにしてる商品も見た事があります」
澪「あー、そういえば私が使ってる目薬のパッケージにも、充血にも効果があるとか書いてあった気がする」
唯「それなのに、目の調子が悪いっておかしいね」
澪「そうなんだよ。
なんでかなぁ?」
梓「…………」
14: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:13:45.40 ID:BRXOdj5L0
─────────────────────
なんて事があった日の夜。
百合にゃんは、お家の机の前に座って、パソコン(通称・百合コン)と向かい合っていました。
あれから、二・三の会話で澪先輩の目のお話は終わったんですが……
どうしても気になり続けていた私は、ちょっとこの件を百合コンで調べてみようと思ったのです。
なんて事があった日の夜。
百合にゃんは、お家の机の前に座って、パソコン(通称・百合コン)と向かい合っていました。
あれから、二・三の会話で澪先輩の目のお話は終わったんですが……
どうしても気になり続けていた私は、ちょっとこの件を百合コンで調べてみようと思ったのです。
15: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:15:01.42 ID:BRXOdj5L0
梓「目 ……だけの検索だと、幅が広すぎますね」
澪『どうも最近目の調子が悪いし、充血するんだ……』
梓「……目、充血、と……」カタカタッ、タ-ン!
こうして調べていく内に、百合にゃんはふと思いました。
澪『どうも最近目の調子が悪いし、充血するんだ……』
梓「……目、充血、と……」カタカタッ、タ-ン!
こうして調べていく内に、百合にゃんはふと思いました。
16: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:16:59.07 ID:BRXOdj5L0
こうして調べていく内に、百合にゃんはふと思いました。
梓(まあ、充血だって色々と原因はあるはずだよね。
例えば、寝不足や……)
──目薬。
百合ベイターのアズサ・レイこと、百合にゃんの頭にその二文字が閃きました。
梓(よく考えたら、澪先輩の目の調子が悪くなったのって、目薬をさし始めてからじゃ?)
そんな風に思った私は、こっちの線で検索を始めました。
すると……
梓(まあ、充血だって色々と原因はあるはずだよね。
例えば、寝不足や……)
──目薬。
百合ベイターのアズサ・レイこと、百合にゃんの頭にその二文字が閃きました。
梓(よく考えたら、澪先輩の目の調子が悪くなったのって、目薬をさし始めてからじゃ?)
そんな風に思った私は、こっちの線で検索を始めました。
すると……
17: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:18:15.12 ID:BRXOdj5L0
梓「……やっぱり」
血管収縮剤。
かなりの数の市販目薬に入っているそれが、充血──ひいては目の不調を呼んでいた……『かもしれない』ようです。
血管収縮剤。
かなりの数の市販目薬に入っているそれが、充血──ひいては目の不調を呼んでいた……『かもしれない』ようです。
18: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:21:28.54 ID:BRXOdj5L0
梓「ふむ」
この『血管収縮剤』 というのは、その名の通り血管を収縮させるものみたいですね。
梓(目の充血というのは、血管が拡張して出来るもの、か。
知らなかったなぁ)
つまり、太くなった血管を細くさせて充血を治すのが、
目薬に入っている『血管収縮剤』の役割という事ですね。
しかしこれ、永久効果ではなくて、時間が経てば元に戻ってしまうみたいです。
なので、一時的に血管を収縮させて充血が治っても、時間が経てば真逆になっちゃうと。
この『血管収縮剤』 というのは、その名の通り血管を収縮させるものみたいですね。
梓(目の充血というのは、血管が拡張して出来るもの、か。
知らなかったなぁ)
つまり、太くなった血管を細くさせて充血を治すのが、
目薬に入っている『血管収縮剤』の役割という事ですね。
しかしこれ、永久効果ではなくて、時間が経てば元に戻ってしまうみたいです。
なので、一時的に血管を収縮させて充血が治っても、時間が経てば真逆になっちゃうと。
19: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:23:30.50 ID:BRXOdj5L0
梓(しかも、小さくなる→大きくなるってのは反動があるんじゃないですかね?
つまり、最後にはもっと酷い充血になる気がするんですが)
その上、太くなった血管は、太くなればなるほど元に戻りにくくなって、
最悪、常に充血した状態になってしまう可能性もあるんじゃないでしょうか?
梓(考えすぎなら良いんですけど……)
つまり、最後にはもっと酷い充血になる気がするんですが)
その上、太くなった血管は、太くなればなるほど元に戻りにくくなって、
最悪、常に充血した状態になってしまう可能性もあるんじゃないでしょうか?
梓(考えすぎなら良いんですけど……)
20: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:25:46.72 ID:BRXOdj5L0
さらにさらに、目の調子が悪いと、目薬をさす頻度も上がりますよね。
澪先輩のように。
目をよくする為に目薬があるんですから、当然です
そして、目薬をさせばさすほど、血管は無理矢理な収縮・膨張を繰り返し、気付かない内にどんどん太くなり……
結果、常時真っ赤っかな充血・アイになってしまう。
──かもしれない。
澪先輩のように。
目をよくする為に目薬があるんですから、当然です
そして、目薬をさせばさすほど、血管は無理矢理な収縮・膨張を繰り返し、気付かない内にどんどん太くなり……
結果、常時真っ赤っかな充血・アイになってしまう。
──かもしれない。
21: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:28:17.57 ID:BRXOdj5L0
梓(怖! 血管収縮剤、怖っ!)
ただの想定ではありますが、これはいけません。
ごくたまに使う程度なら、影響は少ないのかもしれません。わかりませんが。
でも、それでもやっぱり怖いものです。
ただの想定ではありますが、これはいけません。
ごくたまに使う程度なら、影響は少ないのかもしれません。わかりませんが。
でも、それでもやっぱり怖いものです。
22: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:29:31.90 ID:BRXOdj5L0
ただし、どうしても、すぐに充血を治さないといけない事情がある人も居るでしょう。
そういう人は、緊急時の最後の砦として極々たまーに使用するのはアリ……なのかもしれません。
でも、例えばこれから撮影を迎える芸能人さんや、モデルさんとかではない限り、
無理に使うものでもないでしょう。
ならば、基本的にはやめておくのが無難かと思うのですが……
なにかしらの懸念があるなら尚更。
そういう人は、緊急時の最後の砦として極々たまーに使用するのはアリ……なのかもしれません。
でも、例えばこれから撮影を迎える芸能人さんや、モデルさんとかではない限り、
無理に使うものでもないでしょう。
ならば、基本的にはやめておくのが無難かと思うのですが……
なにかしらの懸念があるなら尚更。
23: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:32:00.63 ID:BRXOdj5L0
そういえば、もう一つ気になる事が。
市販目薬の大半(血管収縮剤と同じで、すべてではないみたいです)には、
防腐剤が入っているのでこれ自体が目によくない。
つまり、なるべくなら目薬を入れる事自体を勧めないといった、説もあるらしいです。
梓(……う~ん。調べれば調べるほど情報が出てきますね)
それにしても、私たちのような素人は、普通、まさか目薬が充血・目の不調の原因だなんて考えないでしょう。
百合にゃんだって、百合ベイターでなければきっと思い付かなかったと思います。
さすがだね♪ 百合にゃん♪
市販目薬の大半(血管収縮剤と同じで、すべてではないみたいです)には、
防腐剤が入っているのでこれ自体が目によくない。
つまり、なるべくなら目薬を入れる事自体を勧めないといった、説もあるらしいです。
梓(……う~ん。調べれば調べるほど情報が出てきますね)
それにしても、私たちのような素人は、普通、まさか目薬が充血・目の不調の原因だなんて考えないでしょう。
百合にゃんだって、百合ベイターでなければきっと思い付かなかったと思います。
さすがだね♪ 百合にゃん♪
24: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:32:52.20 ID:BRXOdj5L0
いや、別に目薬が原因と決め付けたり、言ったりはしませんが。
今までに述べたのは、あくまで『可能性』の話です。
だからこそ、これらの事がハッキリするまでは、下手に手を出さない方が良いはずです。
梓(……もうこんな時間ですか。
朝イチで、澪先輩に『その目薬の使用はいったん中止して下さい、
事情は部活で話します』とでもメールしておきましょう)
今までに述べたのは、あくまで『可能性』の話です。
だからこそ、これらの事がハッキリするまでは、下手に手を出さない方が良いはずです。
梓(……もうこんな時間ですか。
朝イチで、澪先輩に『その目薬の使用はいったん中止して下さい、
事情は部活で話します』とでもメールしておきましょう)
25: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:33:35.61 ID:BRXOdj5L0
─────────────────────
次の日の軽音部。
梓「──と、いう訳なんです」
私は、昨夜に調べた事を先輩方にお話ししました。
次の日の軽音部。
梓「──と、いう訳なんです」
私は、昨夜に調べた事を先輩方にお話ししました。
26: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:34:11.73 ID:BRXOdj5L0
律「それは……怖いなぁ」
唯「ひえぇ……!」
澪「…………」
紬「大変っ! 澪ちゃんが真っ白になってるわ!」
カシャッ!
澪先輩の可愛い姿を、百合にゃんの脳内カメラ(通称・百合カメ)に保存完了しました!
唯「ひえぇ……!」
澪「…………」
紬「大変っ! 澪ちゃんが真っ白になってるわ!」
カシャッ!
澪先輩の可愛い姿を、百合にゃんの脳内カメラ(通称・百合カメ)に保存完了しました!
27: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:35:06.75 ID:BRXOdj5L0
梓「あ、けど、『絶対こうだ!』と断言するわけじゃないですよ。
あくまで、調べた結果にこういう情報が見付かって、
澪先輩の症状と一致するから、気にした方が良いかも……という事です」
というか、素人にはそれしか言えません。
澪「うん、それはわかってるよ。
ありがとう」
律「まあでも、確かにこれは無視しない方が良いかもな」
紬「そうね」
唯「疑わしきは罰せずだね!」
かーーーーーーーっ! ドヤ顔でズレた引用をする唯先輩マジ萌え!
梓「いや、それ使いどころ間違ってますから」
♪萌え萌え~キュンっ♪
あくまで、調べた結果にこういう情報が見付かって、
澪先輩の症状と一致するから、気にした方が良いかも……という事です」
というか、素人にはそれしか言えません。
澪「うん、それはわかってるよ。
ありがとう」
律「まあでも、確かにこれは無視しない方が良いかもな」
紬「そうね」
唯「疑わしきは罰せずだね!」
かーーーーーーーっ! ドヤ顔でズレた引用をする唯先輩マジ萌え!
梓「いや、それ使いどころ間違ってますから」
♪萌え萌え~キュンっ♪
28: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:41:23.42 ID:BRXOdj5L0
澪「なんにしても、ちょっと病院に行ってみるよ。
その時に、目薬の事も聞いてみる」
梓「それが一番ですね。
澪先輩の目の充血は、他が原因の場合だってもちろん考えられるでしょうし」
紬「もし今使ってる目薬がよくないものだったとしても、病院でも目薬出してもらえるものね」
律「ついでに、市販のでオススメのがあるかどうかも聞いてみりゃ良いしな」
その時に、目薬の事も聞いてみる」
梓「それが一番ですね。
澪先輩の目の充血は、他が原因の場合だってもちろん考えられるでしょうし」
紬「もし今使ってる目薬がよくないものだったとしても、病院でも目薬出してもらえるものね」
律「ついでに、市販のでオススメのがあるかどうかも聞いてみりゃ良いしな」
29: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:43:54.71 ID:BRXOdj5L0
やっぱり、調子が悪い時に病院に行くのは大事ですよね。
受診・診断と、気になる事があれば質問と。
判断と、なにかしらを結論づける為の意見を求めるのは、
やはりお医者さんに直接聞く、の一択でしょう。
たとえば『血管収縮剤』に関しても、
それが体質に合ってむしろ必要って人も居る可能性がある……かもしれませんし。
この辺りは素人が決めつけず、やっぱりプロに聞くべきです。
受診・診断と、気になる事があれば質問と。
判断と、なにかしらを結論づける為の意見を求めるのは、
やはりお医者さんに直接聞く、の一択でしょう。
たとえば『血管収縮剤』に関しても、
それが体質に合ってむしろ必要って人も居る可能性がある……かもしれませんし。
この辺りは素人が決めつけず、やっぱりプロに聞くべきです。
30: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:45:44.35 ID:BRXOdj5L0
律「澪、その目薬持って行くの忘れんなよ~」
澪「ああ」
裏に成分が書いてありますからね。
ちゃんとした腕を持ったプロなら、それを見て適切なお話をしてくれると思います。
万が一変なお医者さんに当たってしまったとしても、セカンドオピニオンがありますし。
梓「まあ、箱とか説明書が残っていればベストなんですが……」
入っている成分だけでなく、さらに詳しい事が書いてあるからです。
澪「ああ」
裏に成分が書いてありますからね。
ちゃんとした腕を持ったプロなら、それを見て適切なお話をしてくれると思います。
万が一変なお医者さんに当たってしまったとしても、セカンドオピニオンがありますし。
梓「まあ、箱とか説明書が残っていればベストなんですが……」
入っている成分だけでなく、さらに詳しい事が書いてあるからです。
31: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:47:58.42 ID:BRXOdj5L0
澪「あはは……捨てちゃった」
梓「まあ、そりゃそうですよね」
澪「でも、今後はこういった時の為に残しておく事にするよ」
紬「うん、私もそうしよっと」
唯「私もっ!
……でも、家はそういうの、憂が取っててくれてるかも」
梓「ふふっ、憂ならありえますね」
梓「まあ、そりゃそうですよね」
澪「でも、今後はこういった時の為に残しておく事にするよ」
紬「うん、私もそうしよっと」
唯「私もっ!
……でも、家はそういうの、憂が取っててくれてるかも」
梓「ふふっ、憂ならありえますね」
32: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:48:36.40 ID:BRXOdj5L0
──今回の件で、やっぱり体を労わるのは大切だと思い知らされました。
当たり前ですが、いくら若くても、不調になる時はなるのですから。
取り返しがつかない事態になる事だって、ありえます。
当たり前ですが、いくら若くても、不調になる時はなるのですから。
取り返しがつかない事態になる事だって、ありえます。
33: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:49:56.69 ID:BRXOdj5L0
そして、素人判断は危険なのでそれは駄目ですが、
あれこれと調べて知識を得るのも大事でしょう。
その上で、自己責任で構わないところは自己責任で自己判断し、
少しでも疑問に思ったり不安なところがあるならお医者さんに行くべきですね。
あれこれと怖がりすぎるのは困りものですが、無知・無関心すぎるのもまたよくないという事なのでしょう。
いやはや、今回の件は百合にゃんも勉強させて頂きました。
あれこれと調べて知識を得るのも大事でしょう。
その上で、自己責任で構わないところは自己責任で自己判断し、
少しでも疑問に思ったり不安なところがあるならお医者さんに行くべきですね。
あれこれと怖がりすぎるのは困りものですが、無知・無関心すぎるのもまたよくないという事なのでしょう。
いやはや、今回の件は百合にゃんも勉強させて頂きました。
34: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:51:05.43 ID:BRXOdj5L0
律「──ところでさ、ファッション誌持ってきたんだ~。
みんなで見ようぜっ!」
唯「おおっ! 良いねぇ!」
紬「どれどれ♪」
澪「おいおい、練習するのを忘れちゃいかんぞ」ドレドレ?
梓「そうですよ」ドレドレ?
律「とか言いながら、二人も興味しんしんじゃねーか」
澪「う、うるさいな」
梓「これ読んだら練習するんですっ!」
って、この表紙の女の子は……
みんなで見ようぜっ!」
唯「おおっ! 良いねぇ!」
紬「どれどれ♪」
澪「おいおい、練習するのを忘れちゃいかんぞ」ドレドレ?
梓「そうですよ」ドレドレ?
律「とか言いながら、二人も興味しんしんじゃねーか」
澪「う、うるさいな」
梓「これ読んだら練習するんですっ!」
って、この表紙の女の子は……
35: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:52:00.99 ID:BRXOdj5L0
澪「あ、今月号の表紙はきららちゃんか」
天ノ川きらら。今を時めくモデルさんの一人です。JCです。JCなんです。
唯「むはーっ、やっぱり可愛いねぇ」
梓「そうですね」
まったく同意です。これで、この間まで小学生だったとか反則ですよ! 反則っ!
ランドセル背負ってたとか! きらランドセルとかッッッ!!!!!
そうだ! 今度、先輩方がランドセル背負ってるコラ画像でも作りましょう!
天ノ川きらら。今を時めくモデルさんの一人です。JCです。JCなんです。
唯「むはーっ、やっぱり可愛いねぇ」
梓「そうですね」
まったく同意です。これで、この間まで小学生だったとか反則ですよ! 反則っ!
ランドセル背負ってたとか! きらランドセルとかッッッ!!!!!
そうだ! 今度、先輩方がランドセル背負ってるコラ画像でも作りましょう!
36: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:53:06.68 ID:BRXOdj5L0
律「ほーっ、この服良いなぁ」
澪「この子だから着こなせてる感じもするけど、こういうのを見るとやっぱり着てみたくなるよな」
紬「わかるわかる~♪」
唯「あ、結構お手頃な値段だね」
律「このブランドならピルコに入ってるな。
今度見に行ってみるか?」
澪「おっ、良いな」
紬「うんっ!」
唯「行こう行こぉうっ!」
澪「この子だから着こなせてる感じもするけど、こういうのを見るとやっぱり着てみたくなるよな」
紬「わかるわかる~♪」
唯「あ、結構お手頃な値段だね」
律「このブランドならピルコに入ってるな。
今度見に行ってみるか?」
澪「おっ、良いな」
紬「うんっ!」
唯「行こう行こぉうっ!」
37: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:53:43.34 ID:BRXOdj5L0
……うーむ。
可愛らしいきららちゃん。
梓「…………」ムラッ!
そんなきららちゃんを見ながら、楽しそうにお喋りする先輩方。
梓「…………」ムララッ!
ふむ。
梓「私、ちょっとトイレ行ってきます」
おしまい。
可愛らしいきららちゃん。
梓「…………」ムラッ!
そんなきららちゃんを見ながら、楽しそうにお喋りする先輩方。
梓「…………」ムララッ!
ふむ。
梓「私、ちょっとトイレ行ってきます」
おしまい。
38: ◆DtyewqsIqtbm 2016/01/06(水) 22:54:25.79 ID:BRXOdj5L0
以上です~。
※このSSは、決して効果や効能とかを言っている訳ではないです。
その辺りは、自分で調べて、自己責任で自己判断&お医者さんにお任せしましょう。
やっぱり目、というか体は大切ですね。
歳も性別も関係ないです。みんなでご自愛しましょうです~。
それでは。
※このSSは、決して効果や効能とかを言っている訳ではないです。
その辺りは、自分で調べて、自己責任で自己判断&お医者さんにお任せしましょう。
やっぱり目、というか体は大切ですね。
歳も性別も関係ないです。みんなでご自愛しましょうです~。
それでは。
39: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/07(木) 02:02:18.53 ID:iSl0+1UoO
乙
40: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/07(木) 04:09:38.60 ID:YSeK1H+go
乙!
42: 以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/07(木) 10:13:39.22 ID:wO0/ZLJ90
おつ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1452085383/
Entry ⇒ 2016.01.26 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
和「有能の人」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:38:56.74 ID:oZ4eoK2H0
生徒会室!
…
……
………
…………
……………
………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
…
……
………
…………
……………
………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:39:31.63 ID:oZ4eoK2H0
ガラッ
唯「和ちゃんおぃーす」
律「おぃーす」
和「あらふたりとも。いらっしゃい」
律「珍しく注意される前に講堂使用届を出しに来……って おいなんだそれ」
和「なにかしら?」
唯「…………和ちゃん、それだよ」
和「それって、なんのこと?」
律「………いやだからその机の上にずらっと並んでる……」
和「これのことかしら?」ヒョイ
唯「うんそれ」
和「これがなにか?」
律「いや、生徒会室の机の上にそんなもんがずらっと置いてあるのはおかしいだろ」
唯「和ちゃんおぃーす」
律「おぃーす」
和「あらふたりとも。いらっしゃい」
律「珍しく注意される前に講堂使用届を出しに来……って おいなんだそれ」
和「なにかしら?」
唯「…………和ちゃん、それだよ」
和「それって、なんのこと?」
律「………いやだからその机の上にずらっと並んでる……」
和「これのことかしら?」ヒョイ
唯「うんそれ」
和「これがなにか?」
律「いや、生徒会室の机の上にそんなもんがずらっと置いてあるのはおかしいだろ」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:39:57.81 ID:oZ4eoK2H0
和「どこがおかしいのかしら。全然わからないわ」
唯「あはは…和ちゃん、もしかして新しいギャグ?」
和「ギャグじゃないわよ、唯。大真面目。だってこれはれっきとした商品だもの」
律「しょ、しょうひんって………」
唯「和ちゃん、それ売り物なの……????」
和「ええ、そうよ」
律「売れるわけないだろ……正気か?」
和「正気に決まっているわ。需要と供給がマッチさえすれば、理論上売れないものなんてこの世にないのよ」
律「どうやったらマッチするんだ…一体そんなの誰が買うんだよ?」
唯「わたしなら買わないな」
和「必要としている人は買ってくれるのよ」
律「だから誰が必要としてるんだよ!」
唯「あはは…和ちゃん、もしかして新しいギャグ?」
和「ギャグじゃないわよ、唯。大真面目。だってこれはれっきとした商品だもの」
律「しょ、しょうひんって………」
唯「和ちゃん、それ売り物なの……????」
和「ええ、そうよ」
律「売れるわけないだろ……正気か?」
和「正気に決まっているわ。需要と供給がマッチさえすれば、理論上売れないものなんてこの世にないのよ」
律「どうやったらマッチするんだ…一体そんなの誰が買うんだよ?」
唯「わたしなら買わないな」
和「必要としている人は買ってくれるのよ」
律「だから誰が必要としてるんだよ!」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:41:05.46 ID:oZ4eoK2H0
唯「ねぇ和ちゃん。そんなのそのへんに転がってるよ。別にお金出して買わなくてもいいじゃん」
和「唯。これをよくみてごらんなさい」
唯「?」ジ--ッ
和「とってもおもしろい形をしてるでしょう?こんなものはなかなか手に入らないわ」
和「唯。これをよくみてごらんなさい」
唯「?」ジ--ッ
和「とってもおもしろい形をしてるでしょう?こんなものはなかなか手に入らないわ」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:43:05.63 ID:oZ4eoK2H0
唯「う~ん……」
和「よーく見てごらん、おもちみたいな形だと思わない?」
唯「たしかに言われてみれば………おもち……に見えなくも…」
和「おいしそうでしょ?」
唯「おもち…おいしそう…」ウーン
律「いやいやおもちじゃないし。食べられないし」
和「よーく見てごらん、おもちみたいな形だと思わない?」
唯「たしかに言われてみれば………おもち……に見えなくも…」
和「おいしそうでしょ?」
唯「おもち…おいしそう…」ウーン
律「いやいやおもちじゃないし。食べられないし」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:43:39.53 ID:oZ4eoK2H0
唯「はっ」
律「簡単に騙されるなよ…」
和「律は成績もイマイチで頭が良いとは決して言えないけど、こういうときはやけに冷静ね」
律「前半が余計だ」
唯「和ちゃん、わたしをだまそうとしたの!?もしそうなら許さないよ!」プンスカ
和「落ち着いて、唯。騙そうなんて思ってないわ。商品PRよ。これの素晴らしさをちょっとでも唯に伝えたかっただけ」
唯「なぁんだ」ナットク
律「だからそんなもん商品じゃねーし。買う奴なんているわけねーって言ってるだろ」
和「まぁ、そう言わないでもう少し話を聞いて。普段なら誰もが要らないと思うものでも時と場合によっては必要性が生まれることってあるでしょ」
唯「よくわかんないけど和ちゃんが言うと説得力あるね」
和「ちなみにこの前の期末試験も学年一位でした」
唯「すごいね!和ちゃん!」
律「聞いてねえよ、話をそらすな」
唯「りっちゃん隊員は何位でしたか!?」
律「言いたくねえよ。話を進めろ」
律「簡単に騙されるなよ…」
和「律は成績もイマイチで頭が良いとは決して言えないけど、こういうときはやけに冷静ね」
律「前半が余計だ」
唯「和ちゃん、わたしをだまそうとしたの!?もしそうなら許さないよ!」プンスカ
和「落ち着いて、唯。騙そうなんて思ってないわ。商品PRよ。これの素晴らしさをちょっとでも唯に伝えたかっただけ」
唯「なぁんだ」ナットク
律「だからそんなもん商品じゃねーし。買う奴なんているわけねーって言ってるだろ」
和「まぁ、そう言わないでもう少し話を聞いて。普段なら誰もが要らないと思うものでも時と場合によっては必要性が生まれることってあるでしょ」
唯「よくわかんないけど和ちゃんが言うと説得力あるね」
和「ちなみにこの前の期末試験も学年一位でした」
唯「すごいね!和ちゃん!」
律「聞いてねえよ、話をそらすな」
唯「りっちゃん隊員は何位でしたか!?」
律「言いたくねえよ。話を進めろ」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:44:10.71 ID:oZ4eoK2H0
和「話を戻すわね。普段なら誰もが要らないと思うものでも 時と場合によっては必要性が生まれるの」※大事なことなので2回言いました。
唯「例えば?」
和「今はお昼前です。お腹が空きました。でもお弁当を忘れちゃいました」
唯「購買に行くよ!」
和「購買は潰れてしまったのでパンは買えません」
律「勝手に潰すな」
和「生徒会の権限で潰しました」
律「とんでもねーな…恐怖政治かよ…」
唯「さわちゃんに助けてもらう!」
和「さわ子先生が助けてくれると思う?いつも軽音部にお茶とお菓子をねだる人が、逆に食べ物を恵んでくれると思う?」
唯「おもわない」
和「でしょ」
律(さわちゃんゴメン…フォローできなかった…)
唯「例えば?」
和「今はお昼前です。お腹が空きました。でもお弁当を忘れちゃいました」
唯「購買に行くよ!」
和「購買は潰れてしまったのでパンは買えません」
律「勝手に潰すな」
和「生徒会の権限で潰しました」
律「とんでもねーな…恐怖政治かよ…」
唯「さわちゃんに助けてもらう!」
和「さわ子先生が助けてくれると思う?いつも軽音部にお茶とお菓子をねだる人が、逆に食べ物を恵んでくれると思う?」
唯「おもわない」
和「でしょ」
律(さわちゃんゴメン…フォローできなかった…)
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:45:34.90 ID:oZ4eoK2H0
唯「憂に助けてもらう!」
和「憂はダメ。反則だから」
唯「ちぇー」
律(反則なんだ…)
唯「グーペコだよぉ…」
和「どうしよう、お腹が減って仕方がないわ…
そうそんなときにこれを取り出すのよ」スッ
律「……まさかそれを食べるなんて言わないだろうな?」
唯「さすがにそれはたべられないよー」
和「そんなこと言うわけないじゃない、とにかく最後まで聞いて」
唯「うんうん」
和「確かにこれは食べられないわ。
でもねほら、唯。これをジッと見てごらん…………
……………
……………
あら?おもちにみえてきたわね…なんておいしいそうなおもちなのかしら…食べられないけどとってもおいしそう…おいしそうなおもちね…おいしそうね…おいしそうでおいしそうでたまらないわ…ジュルリ…するとどうしたことでしょう。見てるだけでお腹がいっぱいですすごい!」
唯「…………………………和ちゃん」
律「完全にいんちきじゃねーか」
和「憂はダメ。反則だから」
唯「ちぇー」
律(反則なんだ…)
唯「グーペコだよぉ…」
和「どうしよう、お腹が減って仕方がないわ…
そうそんなときにこれを取り出すのよ」スッ
律「……まさかそれを食べるなんて言わないだろうな?」
唯「さすがにそれはたべられないよー」
和「そんなこと言うわけないじゃない、とにかく最後まで聞いて」
唯「うんうん」
和「確かにこれは食べられないわ。
でもねほら、唯。これをジッと見てごらん…………
……………
……………
あら?おもちにみえてきたわね…なんておいしいそうなおもちなのかしら…食べられないけどとってもおいしそう…おいしそうなおもちね…おいしそうね…おいしそうでおいしそうでたまらないわ…ジュルリ…するとどうしたことでしょう。見てるだけでお腹がいっぱいですすごい!」
唯「…………………………和ちゃん」
律「完全にいんちきじゃねーか」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:46:33.01 ID:oZ4eoK2H0
律「そもそも誰かにお弁当わけてもらえばいいんだよ」
和「期末試験の学年順位は言えないくらい低いくせに、そういうことはやけに気がつくのね」
律「やかましい」
和「だいたい友達、いないでしょ」
律「いるわ友達。いっぱいいるわ」
唯「わたしもお弁当わすれたら姫子ちゃんにわけてもらおー」
和「そりゃ唯や律には友達いるのはわかるけど、
澪にはいないでしょ」
律「それはそうだな」ウンウン
唯「それは否定できないね」ウンウン
和「期末試験の学年順位は言えないくらい低いくせに、そういうことはやけに気がつくのね」
律「やかましい」
和「だいたい友達、いないでしょ」
律「いるわ友達。いっぱいいるわ」
唯「わたしもお弁当わすれたら姫子ちゃんにわけてもらおー」
和「そりゃ唯や律には友達いるのはわかるけど、
澪にはいないでしょ」
律「それはそうだな」ウンウン
唯「それは否定できないね」ウンウン
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:47:13.13 ID:oZ4eoK2H0
ガラッ
澪「誰だ?誰かがわたしの悪口を言ってる声が聞こえた」
律(地獄耳め…)
澪「講堂使用届を出しに行くって言ってちっとも戻ってこないから何してるかと思ったら…
わたしの悪口を言っていたな!!!!!!!!!」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:47:41.26 ID:oZ4eoK2H0
唯「いってないよ」
和「そうよ、言ってないわよ」
律「い、言ってねーよ…」
澪「なんだ、気のせいか…………」
律(…ほっ)
和「ええ、悪口なんて言っていないわ。
ただ
澪は友達がいない、
って言ってただけ。
そう、律がね」
唯「そう、りっちゃんがね」
和「そうよ、言ってないわよ」
律「い、言ってねーよ…」
澪「なんだ、気のせいか…………」
律(…ほっ)
和「ええ、悪口なんて言っていないわ。
ただ
澪は友達がいない、
って言ってただけ。
そう、律がね」
唯「そう、りっちゃんがね」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:48:17.34 ID:oZ4eoK2H0
澪「ハハ…なんだそんなことか、
そんなのただの真実じゃないか」
律「だ、だよな~…ただの真実だよな~…HAHAHA」
澪「そうそう、ただの真実だよ…
なにがただの真実だ!!!!!!!!!!!!!」ガ ツ ん !
律「*`~+=”ケ0DFK”¥=”エKSP%”&!!」
唯「口はわざわいの元だね」
和「そうね」
律「お前らが災いの元だ!」
そんなのただの真実じゃないか」
律「だ、だよな~…ただの真実だよな~…HAHAHA」
澪「そうそう、ただの真実だよ…
なにがただの真実だ!!!!!!!!!!!!!」ガ ツ ん !
律「*`~+=”ケ0DFK”¥=”エKSP%”&!!」
唯「口はわざわいの元だね」
和「そうね」
律「お前らが災いの元だ!」
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:48:45.44 ID:oZ4eoK2H0
澪「おい、届けを出したら早く部室に戻って練習するぞ」
律「出たな練習お化け」
唯「でたねぇ~けいおんぶおなじみの」
和「ああ、これがあの有名な…」
澪「何か言ったか?」ギロリ
律「何も」
和「お化けって言ってたわよ」
唯「そう、りっちゃんがね」
律「おい!余計なことを言うな!」
澪「お、お化け……」ブルブル
和「ああゴメン。ヒーター切れてたわ」ポチっとな
澪「あ、元気になってきた」ケロリ
和「カイロもあるわよ」
澪「ありがとう。助かるよ」ホカホカ
唯「からだを冷えるのは万病のもとだからねぇ~」メモメモ
律「何の会話だよ」
律「出たな練習お化け」
唯「でたねぇ~けいおんぶおなじみの」
和「ああ、これがあの有名な…」
澪「何か言ったか?」ギロリ
律「何も」
和「お化けって言ってたわよ」
唯「そう、りっちゃんがね」
律「おい!余計なことを言うな!」
澪「お、お化け……」ブルブル
和「ああゴメン。ヒーター切れてたわ」ポチっとな
澪「あ、元気になってきた」ケロリ
和「カイロもあるわよ」
澪「ありがとう。助かるよ」ホカホカ
唯「からだを冷えるのは万病のもとだからねぇ~」メモメモ
律「何の会話だよ」
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:49:14.20 ID:oZ4eoK2H0
澪「茶番はこのあたりにしておいて…用は済んだんだろ。早く戻るぞ」
律「ああ…わかったわかった」
和「まいどありがとう。商品は三人分でいいのよね」
律「買うなんて一言も言ってないんだが?」
澪「ん?なにそれ??」
唯「和ちゃんがね、あれを売ってるんだよ」
澪「へ、へぇ~…っていうかそもそも生徒が学校で勝手にものを売っていいのか?」
和「大丈夫よ。ちゃんと申請書を出して販売を許可されているんだから」
律「そんなのあったんだ。それ、どこに出すんだ?」
和「生徒会よ」
唯「書いたのは?」
和「私」
澪「許可したのは?」
和「私」
律「独裁者か……」
律「ああ…わかったわかった」
和「まいどありがとう。商品は三人分でいいのよね」
律「買うなんて一言も言ってないんだが?」
澪「ん?なにそれ??」
唯「和ちゃんがね、あれを売ってるんだよ」
澪「へ、へぇ~…っていうかそもそも生徒が学校で勝手にものを売っていいのか?」
和「大丈夫よ。ちゃんと申請書を出して販売を許可されているんだから」
律「そんなのあったんだ。それ、どこに出すんだ?」
和「生徒会よ」
唯「書いたのは?」
和「私」
澪「許可したのは?」
和「私」
律「独裁者か……」
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:50:09.86 ID:oZ4eoK2H0
和「失礼ね。セルフプロデュース、と言ってほしいわ」
唯「ものは言いようだなぁ」
澪「だいたいそんなもの誰が買うんだ?」
唯(澪ちゃん、りっちゃんとおんなじようなこときくね)
和「なかなか売れないけど、売れたら利益が大きいのよ」
律「そんな馬鹿な」
和「だってこれ全部タダで仕入れたんだもの。売れたら全部まるまる利益よ」
澪「なるほどなあ…その辺に落ちてるのを拾ってくればいいんだもんな。
さすが和。考えたな」
唯「これがビジネス!」
律「いやいや、売れなきゃ利益も何もあったもんじゃないから」
唯「ものは言いようだなぁ」
澪「だいたいそんなもの誰が買うんだ?」
唯(澪ちゃん、りっちゃんとおんなじようなこときくね)
和「なかなか売れないけど、売れたら利益が大きいのよ」
律「そんな馬鹿な」
和「だってこれ全部タダで仕入れたんだもの。売れたら全部まるまる利益よ」
澪「なるほどなあ…その辺に落ちてるのを拾ってくればいいんだもんな。
さすが和。考えたな」
唯「これがビジネス!」
律「いやいや、売れなきゃ利益も何もあったもんじゃないから」
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:50:42.84 ID:oZ4eoK2H0
和「まぁ、せっかくだから見ていって」
澪「そんなものなんか見ても…まぁ和が言うなら…」
和「どうかしら。これなんか形がひよこみたいで可愛いと思わない?」
澪「…うーん そう言われるとかわいい……かな?」
和「しかも市販の人形やぬいぐるみと違って 世界に一つだけのひよこよ」
澪「世界に…ひとつだけ…」
和「そう。世界でひとつだけの…澪だけの特別なひよこね」
澪「…わ わたしだけの特別なひよこ……」
和「最初はなかなか澪にはなつかないの。でもね。毎日可愛がっているうちに少しづつ慣れてくるわよ。そのうち澪の足音がするだけで駆け寄ってくるようになるわ」
澪「…ひよこ…ひよこ」
和「ひよこだから成長も早いわよ。きっと立派な鳥さんになるんでしょうね…」
澪「ひよこ……わたしの……ひよこ……」フラ~
律「おい澪しっかりしろ」ユサユサ
澪「はっ」
律「油断も隙もあったもんじゃない…」
澪「そんなものなんか見ても…まぁ和が言うなら…」
和「どうかしら。これなんか形がひよこみたいで可愛いと思わない?」
澪「…うーん そう言われるとかわいい……かな?」
和「しかも市販の人形やぬいぐるみと違って 世界に一つだけのひよこよ」
澪「世界に…ひとつだけ…」
和「そう。世界でひとつだけの…澪だけの特別なひよこね」
澪「…わ わたしだけの特別なひよこ……」
和「最初はなかなか澪にはなつかないの。でもね。毎日可愛がっているうちに少しづつ慣れてくるわよ。そのうち澪の足音がするだけで駆け寄ってくるようになるわ」
澪「…ひよこ…ひよこ」
和「ひよこだから成長も早いわよ。きっと立派な鳥さんになるんでしょうね…」
澪「ひよこ……わたしの……ひよこ……」フラ~
律「おい澪しっかりしろ」ユサユサ
澪「はっ」
律「油断も隙もあったもんじゃない…」
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:51:10.34 ID:oZ4eoK2H0
コンコン
和「どうぞ。空いてるわ」
紬「おじゃましまーす」ガラッ
和「入る前にノックしてくれて嬉しいわ」
紬「?」キョトン
律「まぁたしかにいきなり開けたけどさ…」
唯「わたしと和ちゃんの仲にノックはいらないよ!」フンス!
澪「律のせいだ。律がわたしの悪口を言ってたからついうっかりノックを忘れて…」
律「なんでもわたしのせいにすんじゃねー」
和「どうぞ。空いてるわ」
紬「おじゃましまーす」ガラッ
和「入る前にノックしてくれて嬉しいわ」
紬「?」キョトン
律「まぁたしかにいきなり開けたけどさ…」
唯「わたしと和ちゃんの仲にノックはいらないよ!」フンス!
澪「律のせいだ。律がわたしの悪口を言ってたからついうっかりノックを忘れて…」
律「なんでもわたしのせいにすんじゃねー」
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:51:38.28 ID:oZ4eoK2H0
紬「みんな全然戻ってこないんだもの…お茶が冷めちゃうよ?」
律「悪い悪い…じゃ、和。これで…」
和「待って。
書道の授業のときに文鎮を忘れたらどうする?」
律「忘れない。教室に置いていってるから」
唯「りっちゃん、教科書も全部学校に置いていってるもんね」
律「だって重いじゃん、疲れるし。全部置いていったらラクチンだし」
紬「なるほど~かしこいね、りっちゃん」
律「へへっまぁな!」
唯「でも予習復習はどうするの?」
律「いざとなったら澪に借りれば大丈夫だ!」ブイ
澪「ブイじゃないし。もう律には見せてやらない」
律「そ、そんなぁ~見捨てないでくれよぉみぃおぉ~~…」
和「ね、そんなときにこれがあれば…」
律「役に立つわけねーだろ」
律「悪い悪い…じゃ、和。これで…」
和「待って。
書道の授業のときに文鎮を忘れたらどうする?」
律「忘れない。教室に置いていってるから」
唯「りっちゃん、教科書も全部学校に置いていってるもんね」
律「だって重いじゃん、疲れるし。全部置いていったらラクチンだし」
紬「なるほど~かしこいね、りっちゃん」
律「へへっまぁな!」
唯「でも予習復習はどうするの?」
律「いざとなったら澪に借りれば大丈夫だ!」ブイ
澪「ブイじゃないし。もう律には見せてやらない」
律「そ、そんなぁ~見捨てないでくれよぉみぃおぉ~~…」
和「ね、そんなときにこれがあれば…」
律「役に立つわけねーだろ」
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:52:06.79 ID:oZ4eoK2H0
ビュウウゥゥゥゥゥ~ ガタガタ
和「…今日は風が強いわ。窓際の席の唯はプリントが飛ばされないように…」
唯「窓を閉めるよ」
和「澪。次に律がふざけたときにこれを使って攻撃するといいわ」
律「ころす気か」
律「だから言ってるだろ。だれも欲しがらないってば」
紬「あっ!これとってもまんまるね~きれ~い♪」
和「!」
唯律澪「「「!!!」」」
和「さすがにムギは見る目があるわね。それは5000円もする高級品なのよ」
律「な…………………そんなものがごせんえん………?」
澪「それはさすがにボリすぎだろ!」
和「ちなみに澪のひよこは3000円。唯のおもちは2500円」
唯「そんなお金あるなら本物のおもち買うよ…」
和「おもちは食べればなくなるわ。
でもこれは食べられないからなくならないおもちなのよ」
唯「すごい!」
律「すごくない!」
和「…今日は風が強いわ。窓際の席の唯はプリントが飛ばされないように…」
唯「窓を閉めるよ」
和「澪。次に律がふざけたときにこれを使って攻撃するといいわ」
律「ころす気か」
律「だから言ってるだろ。だれも欲しがらないってば」
紬「あっ!これとってもまんまるね~きれ~い♪」
和「!」
唯律澪「「「!!!」」」
和「さすがにムギは見る目があるわね。それは5000円もする高級品なのよ」
律「な…………………そんなものがごせんえん………?」
澪「それはさすがにボリすぎだろ!」
和「ちなみに澪のひよこは3000円。唯のおもちは2500円」
唯「そんなお金あるなら本物のおもち買うよ…」
和「おもちは食べればなくなるわ。
でもこれは食べられないからなくならないおもちなのよ」
唯「すごい!」
律「すごくない!」
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:53:00.86 ID:oZ4eoK2H0
和「みんな見る目があってすごいわ。どれも高級品ばかり」
唯「そうかなぁ??いやぁ~それほどでも~」テレテレ
澪「ま、まぁわたしは古美術や骨董品にも興味あるし。博物館巡りも好きだし…普通の人よりはそういうものに詳しい、かもな!」ハハハ
紬「う~ん、5000円くらいなら買ってもいいかしら?」
律「お、おい…みんな騙されるなよ…」
和「律はどう?無理に買わせたりなんかしないから、試しに一つ選ぶだけ選んでみない?」
律「そ、そうか…選ぶだけなら…じゃあこれ、かな」
和「これかしら」ヒョイ
律「ああ、ヒラペッたいからフリスピーみたいに飛ばせそうかな~って」
和「1個30円ね」
律「」
唯「そうかなぁ??いやぁ~それほどでも~」テレテレ
澪「ま、まぁわたしは古美術や骨董品にも興味あるし。博物館巡りも好きだし…普通の人よりはそういうものに詳しい、かもな!」ハハハ
紬「う~ん、5000円くらいなら買ってもいいかしら?」
律「お、おい…みんな騙されるなよ…」
和「律はどう?無理に買わせたりなんかしないから、試しに一つ選ぶだけ選んでみない?」
律「そ、そうか…選ぶだけなら…じゃあこれ、かな」
和「これかしら」ヒョイ
律「ああ、ヒラペッたいからフリスピーみたいに飛ばせそうかな~って」
和「1個30円ね」
律「」
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:53:31.26 ID:oZ4eoK2H0
唯「うぷぷ~りっちゃん30円www」
澪「幼馴染としてわたしっは恥ずかしいよ…それでも軽音部の部長か?」
紬「うわぁ~駄菓子とおんなじくらいね!りっちゃんすごい!お金を使わない達人ね!」
律(くっ……なんだこの敗北感は)
和「ちなみに投げて遊ぶのに使うならまとめ買いがおすすめよ。今なら100個セットで定価3000円のところなんと半額の1500円」ドン
唯「おぉぉ~~!!おトクだ!おトクだよ!りっちゃん!」
律(確かにおトク…でも…)
澪「でもわたしや唯よりもまだ安いな」ププ
律(クッソ……澪の奴、すっかり調子に乗りやがって………)
和「さらに200個セットなら定価6000円のところを2000円」ドン
紬「すご~い!」キラキラ
律(まだだ…まだ足りない!ふたりに勝つためには!)
澪「幼馴染としてわたしっは恥ずかしいよ…それでも軽音部の部長か?」
紬「うわぁ~駄菓子とおんなじくらいね!りっちゃんすごい!お金を使わない達人ね!」
律(くっ……なんだこの敗北感は)
和「ちなみに投げて遊ぶのに使うならまとめ買いがおすすめよ。今なら100個セットで定価3000円のところなんと半額の1500円」ドン
唯「おぉぉ~~!!おトクだ!おトクだよ!りっちゃん!」
律(確かにおトク…でも…)
澪「でもわたしや唯よりもまだ安いな」ププ
律(クッソ……澪の奴、すっかり調子に乗りやがって………)
和「さらに200個セットなら定価6000円のところを2000円」ドン
紬「すご~い!」キラキラ
律(まだだ…まだ足りない!ふたりに勝つためには!)
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:54:10.88 ID:oZ4eoK2H0
和「300個セットなら2500円」
律(それなら唯と同等!)
和「500個セットなら2800円」
律(あと少し!)
和「…だけど」
律(?)
唯「だけど?」
和「普段から律にはお世話になってるから特別に…1000個セットで3000円にしてあげる」ドドン!!
唯澪紬「「「ええぇぇ~~!!!」」」
紬「す、すごいわ………」
唯「あわわわわ………」
澪「の のどか…9割引じゃないか。いくらなんでもそれじゃ商売にならないぞ…」
和「いいのよ、あたしとあなたたちとの仲じゃない。
それに私は生徒会長の立場から、部長の律が普段どれだけ頑張っているかよく知ってるつもりよ。
だからもうこの際商売なんて二の次。今なら持ち運び用大袋も出血大サービスするわ」
澪「のどか…」ウル
紬「のどかちゃん…」ジワ
唯「のどかぢゃぁぁぁん…」ボロボロ
和「コラコラ、大げさよ。もう、みんな泣かないで」
律(それなら唯と同等!)
和「500個セットなら2800円」
律(あと少し!)
和「…だけど」
律(?)
唯「だけど?」
和「普段から律にはお世話になってるから特別に…1000個セットで3000円にしてあげる」ドドン!!
唯澪紬「「「ええぇぇ~~!!!」」」
紬「す、すごいわ………」
唯「あわわわわ………」
澪「の のどか…9割引じゃないか。いくらなんでもそれじゃ商売にならないぞ…」
和「いいのよ、あたしとあなたたちとの仲じゃない。
それに私は生徒会長の立場から、部長の律が普段どれだけ頑張っているかよく知ってるつもりよ。
だからもうこの際商売なんて二の次。今なら持ち運び用大袋も出血大サービスするわ」
澪「のどか…」ウル
紬「のどかちゃん…」ジワ
唯「のどかぢゃぁぁぁん…」ボロボロ
和「コラコラ、大げさよ。もう、みんな泣かないで」
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:54:59.67 ID:oZ4eoK2H0
律(きゅ きゅうわりびき…
め、めちゃくちゃトクだ…1000個もあったら毎日学校帰りにフリスピーの代わりに空き地で投げまくってもそうそうなくなったりしないぞ、何日でも遊べるじゃねーか…聡にも自慢しまくりだ…
それに3000円なら澪とおなじ値段…。ムギには負けるが一応部長としての対面も保つことができるな)
律「…よォし!」
律「買った!1000個3000円で買ったぁ!!」
和「お買い上げありがとう」ニッコリ
め、めちゃくちゃトクだ…1000個もあったら毎日学校帰りにフリスピーの代わりに空き地で投げまくってもそうそうなくなったりしないぞ、何日でも遊べるじゃねーか…聡にも自慢しまくりだ…
それに3000円なら澪とおなじ値段…。ムギには負けるが一応部長としての対面も保つことができるな)
律「…よォし!」
律「買った!1000個3000円で買ったぁ!!」
和「お買い上げありがとう」ニッコリ
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:55:43.28 ID:oZ4eoK2H0
和「今日はみんなありがとう。また来てね」
唯「じゃーねー和ちゃん、またあしたー」ブンブン
テクテク
…♪
…♪
…♪ シャランラ~
…ハァハァ ズリズリ
唯「今日はいい買い物したねっ」
澪「ああ!ひよこが育つのがたのしみだ……!」
紬「わたし、帰ったら斉藤に自慢するわ~♪」
律「わ、わたしもこれでこれから毎日フリスピー遊びしまくりだぜ…!」ハァハァ ズリズリ
憂「あれ?みなさん、どうしたんですか?」バッタリ
唯「ういー!見てよこれ!おいしそうなおもちでしょ!」
澪「憂ちゃん!見てくれよ!可愛いひよこだろ!」
紬「見て見て~まんまるなの~」
律「ハァハァ…わたしのもすごいぜ…」ズリズリ
唯「じゃーねー和ちゃん、またあしたー」ブンブン
テクテク
…♪
…♪
…♪ シャランラ~
…ハァハァ ズリズリ
唯「今日はいい買い物したねっ」
澪「ああ!ひよこが育つのがたのしみだ……!」
紬「わたし、帰ったら斉藤に自慢するわ~♪」
律「わ、わたしもこれでこれから毎日フリスピー遊びしまくりだぜ…!」ハァハァ ズリズリ
憂「あれ?みなさん、どうしたんですか?」バッタリ
唯「ういー!見てよこれ!おいしそうなおもちでしょ!」
澪「憂ちゃん!見てくれよ!可愛いひよこだろ!」
紬「見て見て~まんまるなの~」
律「ハァハァ…わたしのもすごいぜ…」ズリズリ
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:56:34.65 ID:oZ4eoK2H0
憂「へ、へぇ~…でもみなさん、それ……
ただの石ですよね………」
ただの石ですよね………」
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:57:11.24 ID:oZ4eoK2H0
唯「…」
律「…」
澪「…」
紬「…?」
唯「し、
しってるし!あったりまえじゃん!」
律「…」
澪「…」
紬「…?」
唯「し、
しってるし!あったりまえじゃん!」
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:57:39.10 ID:oZ4eoK2H0
憂「おねえちゃん、それほんと?」
唯「………………………え、あ、うん。そうだよ?あれ?もしかしてなに?ういはわたしがだまされてこんなもの買わされたんじゃないか?ってそうおもってるわけ??そんなわけないじゃ~ん。わたし、そこまでバカじゃないよぉ~~。そんなことわかってて買ったんだよ?だってそれだけの価値があるものなんだから、ね?よく見て。これおもちみたいでしょ?でもたべられないからなくならないんだよ?なくならないおもちだよ!すごいでしょ?ねぇ…すごい…よね?…ね?ね?た、たべられないけどさ…な、なくなら…ないし…ね?すごい…ねえこれ本当にすごいの??もしかしてただの石???」
唯「………………………え、あ、うん。そうだよ?あれ?もしかしてなに?ういはわたしがだまされてこんなもの買わされたんじゃないか?ってそうおもってるわけ??そんなわけないじゃ~ん。わたし、そこまでバカじゃないよぉ~~。そんなことわかってて買ったんだよ?だってそれだけの価値があるものなんだから、ね?よく見て。これおもちみたいでしょ?でもたべられないからなくならないんだよ?なくならないおもちだよ!すごいでしょ?ねぇ…すごい…よね?…ね?ね?た、たべられないけどさ…な、なくなら…ないし…ね?すごい…ねえこれ本当にすごいの??もしかしてただの石???」
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:58:08.49 ID:oZ4eoK2H0
憂「お、おねえちゃん…買った、ってそれ…まさかその石、お金出して買ったんだ…」
唯「…た、たいしたことないよ……たったの2500円だったし。い、いい買い物だったよ………」
憂「声……震えてるけど」
澪「…」
紬「…澪ちゃん?どうしたの?」
澪「…これさ
よく見たら全然ひよこに似てないよな」
唯「やめてよそんなこと言うの!
そんなこと言われたらわたしもこれおもちじゃなくてむしろうんこに見えてきちゃいそうじゃん!」
紬「わたしは気に入ってるけどなぁ…」
律「……わたしはとにかく重い…」ハァハァ ズリズリ
唯「ね、ねぇうい!これって返品とかできるのかな?!?!!??」アセアセ
澪「ク、クーリングオフできるはずだっ」アセアセ
憂「さ、さぁどうだろう…消費者センターに問い合わせみないと…」
唯「…た、たいしたことないよ……たったの2500円だったし。い、いい買い物だったよ………」
憂「声……震えてるけど」
澪「…」
紬「…澪ちゃん?どうしたの?」
澪「…これさ
よく見たら全然ひよこに似てないよな」
唯「やめてよそんなこと言うの!
そんなこと言われたらわたしもこれおもちじゃなくてむしろうんこに見えてきちゃいそうじゃん!」
紬「わたしは気に入ってるけどなぁ…」
律「……わたしはとにかく重い…」ハァハァ ズリズリ
唯「ね、ねぇうい!これって返品とかできるのかな?!?!!??」アセアセ
澪「ク、クーリングオフできるはずだっ」アセアセ
憂「さ、さぁどうだろう…消費者センターに問い合わせみないと…」
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:58:38.38 ID:oZ4eoK2H0
律「…」
澪「…オイ律!お前も何か言えよ!」
律「…」
澪「……律?」
紬「…りっちゃん?」
律「…」
唯「あれ?りっちゃん…」
律「」ブチ
律「ダーーーー!!!てかこれ持って3階まで上がるとかムリ!重い!ムリ!」
澪「お、おい!律!!」
律「もう捨てる!いらねぇ!」ドシャー
紬「えー、3000円で買ったばかりなのに~」
唯「ちょ、ちょっと待って!ここでキレたら負けを認めたことになるよ!」
澪「…オイ律!お前も何か言えよ!」
律「…」
澪「……律?」
紬「…りっちゃん?」
律「…」
唯「あれ?りっちゃん…」
律「」ブチ
律「ダーーーー!!!てかこれ持って3階まで上がるとかムリ!重い!ムリ!」
澪「お、おい!律!!」
律「もう捨てる!いらねぇ!」ドシャー
紬「えー、3000円で買ったばかりなのに~」
唯「ちょ、ちょっと待って!ここでキレたら負けを認めたことになるよ!」
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:59:23.87 ID:oZ4eoK2H0
律「何が負けだ!もうどうだっていい!わたしはとにかく重いのが嫌だ!」ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
澪「やめろ!手当たり次第に校内で石を投げ散らかすのはやめろ!」
澪「やめろ!手当たり次第に校内で石を投げ散らかすのはやめろ!」
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 22:59:51.30 ID:oZ4eoK2H0
律「うるせぇばかやろぉ!こうなりゃヤケだよ!コンチキチョウメ!」ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
唯「わわわ…あ、あぶないよぉ~」
唯「わわわ…あ、あぶないよぉ~」
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:00:17.88 ID:oZ4eoK2H0
律「このやろこのやろコンチキショウメ!」ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
憂「律さん!やめてください!」
憂「律さん!やめてください!」
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:01:07.53 ID:oZ4eoK2H0
律「バカヤロコノヤロバカヤロコノヤロ」ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
紬「りっちゃんたのしそうわたしにもやらせて~☆」ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
紬「りっちゃんたのしそうわたしにもやらせて~☆」ポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイポイ
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:01:50.60 ID:oZ4eoK2H0
ポイ
ヒュ~
ゴチン
パタリ
…ドクドク
『きゃぁあぁぁあぁあああぁぁぁあぁぁあぁああぁあ!!!!!』
『誰かっ誰か来てぇっ!人が血を流して倒れてるわぁぁ!!!!』
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:02:25.72 ID:oZ4eoK2H0
律「」ピタ
紬「」ピタ
唯「」ピタ
澪「」ピタ
憂「…」
憂「…あのぅ」
憂「もしかして誰かに当たったんじゃ…」
紬「」ピタ
唯「」ピタ
澪「」ピタ
憂「…」
憂「…あのぅ」
憂「もしかして誰かに当たったんじゃ…」
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:02:53.51 ID:oZ4eoK2H0
唯「…」
律「…」
紬「…」
澪「…」
澪「マ、マズイぞ…今から謝りに…」
律「…」
紬「…」
澪「…」
澪「マ、マズイぞ…今から謝りに…」
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:03:39.86 ID:oZ4eoK2H0
律「」ダッ
澪「うぉい!逃げるな律!」
澪「うぉい!逃げるな律!」
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:04:12.04 ID:oZ4eoK2H0
唯「」ダッ
澪「唯も!コラ!逃げるなぁ!」
澪「唯も!コラ!逃げるなぁ!」
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:04:56.40 ID:oZ4eoK2H0
紬「」ダッ
澪「ムギまでぇ!??!!」
澪「ムギまでぇ!??!!」
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:05:41.57 ID:oZ4eoK2H0
憂「」ダッ
澪「う、ういちゃん!??」
澪「う、ういちゃん!??」
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:06:36.25 ID:oZ4eoK2H0
澪「…」
澪「待って!わたしを置いてかないでくれぇ~~~!!!!」ダッ
オイテカナイデクレェ~~~
イテカナイデクレェ~~~
テカナイデクレェ~~~
カナイデクレェ~~~
ナイデクレェ~~~
イデクレェ~~~
デクレェ~~~
クレェ~~~
レェ~~~
ェ~~~
~~~
~~
~
部室!
梓「…ん?何か聞こえたような…」
澪「待って!わたしを置いてかないでくれぇ~~~!!!!」ダッ
オイテカナイデクレェ~~~
イテカナイデクレェ~~~
テカナイデクレェ~~~
カナイデクレェ~~~
ナイデクレェ~~~
イデクレェ~~~
デクレェ~~~
クレェ~~~
レェ~~~
ェ~~~
~~~
~~
~
部室!
梓「…ん?何か聞こえたような…」
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:07:20.04 ID:oZ4eoK2H0
梓「気のせいかな」
梓「先輩たち遅いなぁ…
一人で練習はじめようかなぁ…」
… ジャラーン
コンコン
梓「はぁーい」
「クロネコビンデース」つ荷物
梓「ありがとうございます…サインは…あ、ここでいいですか?」カキカキ
「アリガトウゴザイマシター」ペコリ
梓「えへへ…やっと届いた」
梓「ふふ…幸運が舞い込むラッキーストーン、これを身につけて練習すればギターの腕前がさらに上達すること間違いなし!」
梓「しかも今なら税込15800円がなんと3300円!」
梓「もう買うっきゃないよね」
梓「まさか生徒会のHPでこんなお得なものを売ってるなんて…」
梓「これだから通販はやめられないなぁ~~!!」
梓「はやく先輩たち帰ってこないかな…自慢しちゃおうかな~~」ワクワク
完
梓「先輩たち遅いなぁ…
一人で練習はじめようかなぁ…」
… ジャラーン
コンコン
梓「はぁーい」
「クロネコビンデース」つ荷物
梓「ありがとうございます…サインは…あ、ここでいいですか?」カキカキ
「アリガトウゴザイマシター」ペコリ
梓「えへへ…やっと届いた」
梓「ふふ…幸運が舞い込むラッキーストーン、これを身につけて練習すればギターの腕前がさらに上達すること間違いなし!」
梓「しかも今なら税込15800円がなんと3300円!」
梓「もう買うっきゃないよね」
梓「まさか生徒会のHPでこんなお得なものを売ってるなんて…」
梓「これだから通販はやめられないなぁ~~!!」
梓「はやく先輩たち帰ってこないかな…自慢しちゃおうかな~~」ワクワク
完
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/07(土) 23:07:57.93 ID:oZ4eoK2H0
次の日!
さわ子「古典の授業は自習になりました」
純「ラッキー☆」
完
さわ子「古典の授業は自習になりました」
純「ラッキー☆」
完
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/08(日) 20:01:12.72 ID:2VJKBPXfo
石の価値と面子をすり替えるところは好き
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425735536/
Entry ⇒ 2016.01.06 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
梓「透き間」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:21:11.15 ID:uTXYAyQ7o
2015.梓誕SSです。
先に言っておくと、このSSは今年の紬誕に書いたものを少し書き直した内容です。
つまり紬梓です。
先に言っておくと、このSSは今年の紬誕に書いたものを少し書き直した内容です。
つまり紬梓です。
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:22:26.51 ID:uTXYAyQ7o
人の居ない放課後の、すでに外は日が沈みかけて薄暗くなった廊下の向こうを、
まるでその風景に自然に溶け込んでしまうようにムギ先輩が歩いて行くのが見えた。
私はその後姿を遠くに発見すると、なんだか見てはいけないようなものを見てしまった気がして、
次には自分が今何をしようとしていたのか思い出せなくなっていた。
気付くとムギ先輩の姿は見えなくなっていた。
今日は期末試験のために軽音部がお休みで、私はちょうど、
トンちゃんに餌をやりに部室へ行こうとしているところだった。
…………。
まるでその風景に自然に溶け込んでしまうようにムギ先輩が歩いて行くのが見えた。
私はその後姿を遠くに発見すると、なんだか見てはいけないようなものを見てしまった気がして、
次には自分が今何をしようとしていたのか思い出せなくなっていた。
気付くとムギ先輩の姿は見えなくなっていた。
今日は期末試験のために軽音部がお休みで、私はちょうど、
トンちゃんに餌をやりに部室へ行こうとしているところだった。
…………。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:25:31.07 ID:uTXYAyQ7o
私は、他の生徒がよくそうするように、午前の試験が終わった後に人の少ない教室で1人で明日の試験の勉強をする。
だいたい5時か6時くらいまで、途中で適当に外をぶらついたり飲み物を買いに行ったりして休憩しながら続けるのだけれど、
時間が経つにつれて教室に残って勉強している生徒は少しずつ減ってゆき、
冬の肌寒い空気が覆いかぶさるように外に充満する頃には、
教室の暖房が鳴らす機械的な音と、たまにどこかから反響して沸き立つ生徒の笑い声や、
廊下を歩いている先生や生徒の足音のほかには何も聞こえないような、冷たい静寂が学校全体に沈殿する。
だいたい5時か6時くらいまで、途中で適当に外をぶらついたり飲み物を買いに行ったりして休憩しながら続けるのだけれど、
時間が経つにつれて教室に残って勉強している生徒は少しずつ減ってゆき、
冬の肌寒い空気が覆いかぶさるように外に充満する頃には、
教室の暖房が鳴らす機械的な音と、たまにどこかから反響して沸き立つ生徒の笑い声や、
廊下を歩いている先生や生徒の足音のほかには何も聞こえないような、冷たい静寂が学校全体に沈殿する。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:30:56.98 ID:uTXYAyQ7o
私は、そんな時間に、誰もいない教室で明かりをつけたまま独りで勉強をするのが好きだった。
あるいは、そうした時間を独り占めしている全能感を、
学校の寂しげな風景と一体になっているような私自身に重ねて見るのに
夢中になっていたのかもしれない。
ふと顔を上げて辺りを見渡したときに奇妙に心地良い孤独を感じたりして、変な話だけれど、
私はそういう瞬間に果てしない自由を手に入れたような気がするのだ。
あるいは、そうした時間を独り占めしている全能感を、
学校の寂しげな風景と一体になっているような私自身に重ねて見るのに
夢中になっていたのかもしれない。
ふと顔を上げて辺りを見渡したときに奇妙に心地良い孤独を感じたりして、変な話だけれど、
私はそういう瞬間に果てしない自由を手に入れたような気がするのだ。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:36:10.27 ID:uTXYAyQ7o
そしてまた、教室にやりかけの勉強の跡を残したまま、
暗くなって遠くがよく見えないような廊下を歩いていく自分の足音を聞きながら、
鍵がまだ締まらないうちに部室へ行き、
誰もいない、明かりも点いていない部屋で、
水槽にエサを撒きながら、スッポンモドキとの対話を楽しんだりした。
そして今日も私はそういう手筈で部室へ向かう階段を上っていて、つまり私だけの時間を楽しみにしながら、
てっきり軽音部の先輩はみんな早々に帰ったものだと思って油断していたところへ、
思いがけずムギ先輩の姿を見てしまったのだった。
暗くなって遠くがよく見えないような廊下を歩いていく自分の足音を聞きながら、
鍵がまだ締まらないうちに部室へ行き、
誰もいない、明かりも点いていない部屋で、
水槽にエサを撒きながら、スッポンモドキとの対話を楽しんだりした。
そして今日も私はそういう手筈で部室へ向かう階段を上っていて、つまり私だけの時間を楽しみにしながら、
てっきり軽音部の先輩はみんな早々に帰ったものだと思って油断していたところへ、
思いがけずムギ先輩の姿を見てしまったのだった。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:40:14.37 ID:uTXYAyQ7o
先輩の明るい髪の毛の色は、薄暗い学校の中でも目立って見えたけれども、
かと言って異質とか浮いているとかそういう感じは無く、先輩はとても自然にそこに居た。
唯先輩や律先輩の気配はしない。
ムギ先輩はもしかして私と同じように1人で教室に残っていたのだろうか?
それはほんの一瞬の出来事だったけれど、
先輩のそんな鈍いような気さえする眩しさは、
まるで閃いたように私の印象に影を作り、
そして、それが過ぎ去ってしまった後にはどうしても思い出せなくなってしまうような
切ない感動に、私はしばらく茫然としていた。
…………。
かと言って異質とか浮いているとかそういう感じは無く、先輩はとても自然にそこに居た。
唯先輩や律先輩の気配はしない。
ムギ先輩はもしかして私と同じように1人で教室に残っていたのだろうか?
それはほんの一瞬の出来事だったけれど、
先輩のそんな鈍いような気さえする眩しさは、
まるで閃いたように私の印象に影を作り、
そして、それが過ぎ去ってしまった後にはどうしても思い出せなくなってしまうような
切ない感動に、私はしばらく茫然としていた。
…………。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:42:46.09 ID:uTXYAyQ7o
…………。
トンちゃんに餌をやりながら、私は私がさっき先輩に感じた不思議な印象を独りごちていた。
そうしてすぐに、用務員さんが鍵を閉めに来る前に帰ろうとして、
明かりも点けないままでいた部室をちらっと振り返ると、
ちょうど外から当たる明かりの具合で、机の上に何か反射して光るものがあるのを見つけた。
トンちゃんに餌をやりながら、私は私がさっき先輩に感じた不思議な印象を独りごちていた。
そうしてすぐに、用務員さんが鍵を閉めに来る前に帰ろうとして、
明かりも点けないままでいた部室をちらっと振り返ると、
ちょうど外から当たる明かりの具合で、机の上に何か反射して光るものがあるのを見つけた。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:47:37.77 ID:uTXYAyQ7o
それは1冊のノートだった。
私は良くない事だと知りながら、躊躇いがちにノートをめくって中を見た。
五線譜と、途切れ途切れに繋がっている音符記号、そして私には理解できないような
抽象的なメモが至るところに書かれていた。
とても乱雑なようで、けれどもそこかしこに流れるように配置された記号や文字は
あたかも秘密の法則に基づいて並べられているような、ある種の絵画めいた印象を私に与えた。
私は良くない事だと知りながら、躊躇いがちにノートをめくって中を見た。
五線譜と、途切れ途切れに繋がっている音符記号、そして私には理解できないような
抽象的なメモが至るところに書かれていた。
とても乱雑なようで、けれどもそこかしこに流れるように配置された記号や文字は
あたかも秘密の法則に基づいて並べられているような、ある種の絵画めいた印象を私に与えた。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 16:54:54.08 ID:uTXYAyQ7o
私はどうにかして音階を読み取ろうとしたけれど、
それらは奇妙な場所から始まっては中途半端な所で唐突に終わったり、
まるででたらめなコードで繋がっていたりした。
そしてそういう時は大抵、終わり際に謎めいたメモが残されているのだった。
それらは奇妙な場所から始まっては中途半端な所で唐突に終わったり、
まるででたらめなコードで繋がっていたりした。
そしてそういう時は大抵、終わり際に謎めいたメモが残されているのだった。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:03:41.26 ID:uTXYAyQ7o
私は自分でも不思議なくらい熱心に読み耽った。
書かれている事の意味は分からないけれど、
その楽曲とも呼べないような記号の連なりの中に、
何かどうしても知らなければならない私宛てのメッセージがあるような気がして、
そんな風に夢中になって見つめていると本当に読み解けるような気持ちがした。
書かれている事の意味は分からないけれど、
その楽曲とも呼べないような記号の連なりの中に、
何かどうしても知らなければならない私宛てのメッセージがあるような気がして、
そんな風に夢中になって見つめていると本当に読み解けるような気持ちがした。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:08:58.69 ID:uTXYAyQ7o
そうやってあまりに真剣になっていたものだから、
用務員さんが鍵を閉めに階段を上ってくる音が聞こえると
びくりと体を強張らせてしまうくらい驚いて、
わざとらしく物音を立てて帰る支度をした。
その拍子に、手に持っていたノートは無造作に机の上に投げっぱなしにしてしまった。
…………。
用務員さんが鍵を閉めに階段を上ってくる音が聞こえると
びくりと体を強張らせてしまうくらい驚いて、
わざとらしく物音を立てて帰る支度をした。
その拍子に、手に持っていたノートは無造作に机の上に投げっぱなしにしてしまった。
…………。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:14:30.21 ID:uTXYAyQ7o
…………。
帰りがけ、玄関にムギ先輩が居た。
「先輩」
私は先輩の後姿を見ると、何か考えるよりも先に、呟くようにそう言った。
「あら、梓ちゃん」
先輩はいつものようににっこりと笑って私の方を振り返った。
その純粋に嬉しそうな笑顔を見ると、私は、先まで私が色々と考えていた、
ともすれば私の知らない先輩の素性なんぞを勝手に想像していたことを恥じて、
そのせいで自分から声をかけたにもかかわらずふいと視線を落として黙り込んでしまった。
ムギ先輩はそんな私の気詰まりな思いなど関係なしに、私の無粋な顔を覗き込んで言った。
「これから帰るの?」
帰りがけ、玄関にムギ先輩が居た。
「先輩」
私は先輩の後姿を見ると、何か考えるよりも先に、呟くようにそう言った。
「あら、梓ちゃん」
先輩はいつものようににっこりと笑って私の方を振り返った。
その純粋に嬉しそうな笑顔を見ると、私は、先まで私が色々と考えていた、
ともすれば私の知らない先輩の素性なんぞを勝手に想像していたことを恥じて、
そのせいで自分から声をかけたにもかかわらずふいと視線を落として黙り込んでしまった。
ムギ先輩はそんな私の気詰まりな思いなど関係なしに、私の無粋な顔を覗き込んで言った。
「これから帰るの?」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:20:10.23 ID:uTXYAyQ7o
「はい」
かろうじて返事をして、それによって私は抑えきれずにいたある疑問を口にするきっかけを得た。
「部室に置いてあったノート、ムギ先輩のですか?」
先輩はちょっと驚いたような素振りを見せたあと、子どものように照れて、
「えへへ、見られちゃった」
「す、すみません。本当は見るつもり無かったんですけど……」
私は懸命に弁解して、やっぱり言うべきじゃなかったかな、と後悔すると同時に、
今まであまり考えた事の無いような、先輩に対するある種の興味がふつふつと沸いて来るのを感じた。
かろうじて返事をして、それによって私は抑えきれずにいたある疑問を口にするきっかけを得た。
「部室に置いてあったノート、ムギ先輩のですか?」
先輩はちょっと驚いたような素振りを見せたあと、子どものように照れて、
「えへへ、見られちゃった」
「す、すみません。本当は見るつもり無かったんですけど……」
私は懸命に弁解して、やっぱり言うべきじゃなかったかな、と後悔すると同時に、
今まであまり考えた事の無いような、先輩に対するある種の興味がふつふつと沸いて来るのを感じた。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:34:43.38 ID:uTXYAyQ7o
「先輩は作曲するとき、いつもあんな風に書いているんですか?」
「最初はああやって下書きをするの。思いついたままに、ね」
そう言って、本当に恥ずかしそうに顔を手で覆った。
私は、先まで私の中にあった先輩の謎めいた正体の思案などすっかり忘れて、
こうした子供っぽい仕草と絶えず周囲を和ませる雰囲気を受けて、
どうにか私の知っているムギ先輩を想像の中に取り戻した。
「最初はああやって下書きをするの。思いついたままに、ね」
そう言って、本当に恥ずかしそうに顔を手で覆った。
私は、先まで私の中にあった先輩の謎めいた正体の思案などすっかり忘れて、
こうした子供っぽい仕草と絶えず周囲を和ませる雰囲気を受けて、
どうにか私の知っているムギ先輩を想像の中に取り戻した。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:41:53.84 ID:uTXYAyQ7o
そして、この時にして思えば不吉めいた心象を無理にでも拭い去りたいかのように、
あるいはノートを盗み見てしまった事への罪滅ぼしの意味も込めて、思わず、
「私も作曲してみたいです。ムギ先輩が良ければ、教えてほしいなって……」
そう言うと、先輩は一瞬ぽかんとしてから、急に目をキラキラと輝かせて、
とても嬉しそうに私の手を取って「うん!」と答えた。
あるいはノートを盗み見てしまった事への罪滅ぼしの意味も込めて、思わず、
「私も作曲してみたいです。ムギ先輩が良ければ、教えてほしいなって……」
そう言うと、先輩は一瞬ぽかんとしてから、急に目をキラキラと輝かせて、
とても嬉しそうに私の手を取って「うん!」と答えた。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:46:04.40 ID:uTXYAyQ7o
……自分でも不思議に思うけれど、私はそれまで作曲をしたいと思ったことはほとんど無かったのに、
つい口に出して言った後では、まるで以前からずっと先輩に作曲を教わりたいと考えていたような気がするのだ。
そしてこれも私の下らない夢、あるいは願望のようなものだけれど、
私は、私がそう言い出すのを先輩が期待していたのではないかと思えてならないのだった。
つい口に出して言った後では、まるで以前からずっと先輩に作曲を教わりたいと考えていたような気がするのだ。
そしてこれも私の下らない夢、あるいは願望のようなものだけれど、
私は、私がそう言い出すのを先輩が期待していたのではないかと思えてならないのだった。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:51:03.32 ID:uTXYAyQ7o
「あ、でもテストが終わってからね」
先輩はなんだかとても楽しそうで、その喜びを隠しようもないといった様子を見ていると、
私は今まで感じたことの無い幸福を予感する。
それはきっと、言葉にするなら"愛おしさ"のようなもので、
彼女、そう、彼女を構成する透明な膜は、彼女の外で起こるあらゆる不幸のサインを
無害なものに翻訳してしまう柔らかな表皮なのだ。
それは同時に、彼女と彼女以外のすべてを隔ててしまう厚い壁となり、
私はその愛おしさの向こう側に、決して到達できない彼女自身が存在するのを信じてしまう。
私は彼女を知りたいと思った。
どんなに近づきたいと願っても、それが決して叶わないものだと分かっていながら……。
…………。
先輩はなんだかとても楽しそうで、その喜びを隠しようもないといった様子を見ていると、
私は今まで感じたことの無い幸福を予感する。
それはきっと、言葉にするなら"愛おしさ"のようなもので、
彼女、そう、彼女を構成する透明な膜は、彼女の外で起こるあらゆる不幸のサインを
無害なものに翻訳してしまう柔らかな表皮なのだ。
それは同時に、彼女と彼女以外のすべてを隔ててしまう厚い壁となり、
私はその愛おしさの向こう側に、決して到達できない彼女自身が存在するのを信じてしまう。
私は彼女を知りたいと思った。
どんなに近づきたいと願っても、それが決して叶わないものだと分かっていながら……。
…………。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 17:56:18.32 ID:uTXYAyQ7o
…………。
試験が終わって次の日、軽音部はまたいつものように放課後の時間を雑談したりおやつを食べたりして過ごした。
ムギ先輩はあれから私に何かを話しかける様子はない。
私から声をかけるべきなのかどうか迷っているうちに、
そうしたぎこちない態度を唯先輩に見透かされて、
「今日のあずにゃん、なんだかそわそわしてるね」
なんて言われてドキッとしたり、自分でも嫌になるくらい挙動不審を顕わにして、
ろくに練習もしないままその日は解散となった。
帰り道、ひどく疲れた思いでとぼとぼと歩いていると、ムギ先輩から着信が来て慌てて電話を取った。
『明日会える?』
私は勢いに任せて返事をした。
そうして電話越しに集合の約束を取り付けた後、
そういえば明日は土曜日だったっけ、と今更になって気付いたりした。
試験が終わって次の日、軽音部はまたいつものように放課後の時間を雑談したりおやつを食べたりして過ごした。
ムギ先輩はあれから私に何かを話しかける様子はない。
私から声をかけるべきなのかどうか迷っているうちに、
そうしたぎこちない態度を唯先輩に見透かされて、
「今日のあずにゃん、なんだかそわそわしてるね」
なんて言われてドキッとしたり、自分でも嫌になるくらい挙動不審を顕わにして、
ろくに練習もしないままその日は解散となった。
帰り道、ひどく疲れた思いでとぼとぼと歩いていると、ムギ先輩から着信が来て慌てて電話を取った。
『明日会える?』
私は勢いに任せて返事をした。
そうして電話越しに集合の約束を取り付けた後、
そういえば明日は土曜日だったっけ、と今更になって気付いたりした。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:12:20.92 ID:uTXYAyQ7o
翌日、午前、私は休日の校舎に来ていた。
長丁場だった試験が終わり、その間の遅れを取り戻すかのように熱心な生徒が部活動に励んでいる以外には、
ほとんど人気の無い静かな場所だった。
教室や廊下には誰も居ない。
外は厚い雲に覆われて、冬のシンと張り詰めた空気の、
少し暗がりになった校内を白い息を吐きながら歩いていると、
あの奇妙な孤独感を思い出して、再び私は自由を手にしたような気持ちになった。
これは私にとって1つの発見だった。
今までは試験期間でしか知らなかったあの特別な空間、特別な時間は、
ほんの些細な違いはあれど、こんな方法でも味わうことができるのだ。
長丁場だった試験が終わり、その間の遅れを取り戻すかのように熱心な生徒が部活動に励んでいる以外には、
ほとんど人気の無い静かな場所だった。
教室や廊下には誰も居ない。
外は厚い雲に覆われて、冬のシンと張り詰めた空気の、
少し暗がりになった校内を白い息を吐きながら歩いていると、
あの奇妙な孤独感を思い出して、再び私は自由を手にしたような気持ちになった。
これは私にとって1つの発見だった。
今までは試験期間でしか知らなかったあの特別な空間、特別な時間は、
ほんの些細な違いはあれど、こんな方法でも味わうことができるのだ。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:16:38.63 ID:uTXYAyQ7o
私は予定より少し早めに到着した。
先輩は先に部室に来ていた。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
「いいの、気にしないで」
部室はまだ肌寒かったけれど、徐々に暖房が効いてきて、
私はマフラーを椅子にかけて先輩の向かいに座った。
「寒いね」
と先輩は言った。けれど先輩はちっとも寒そうに見えなかった。
先輩は先に部室に来ていた。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
「いいの、気にしないで」
部室はまだ肌寒かったけれど、徐々に暖房が効いてきて、
私はマフラーを椅子にかけて先輩の向かいに座った。
「寒いね」
と先輩は言った。けれど先輩はちっとも寒そうに見えなかった。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:24:15.41 ID:uTXYAyQ7o
「ちょっと待ってて、今紅茶淹れるから」
そう言うなり、私が遠慮する隙も無く立ち上がって、鼻歌交じりにティーカップを準備し出した。
机の上には例のノートが広げられていた。
相変わらず何が書いてあるのか読めないけれど、
やっぱりこれはムギ先輩のものだったと確信すると、
私はなぜだかとても安心した。
「この前はね、テスト勉強の息抜きにここで落書きしてたんだけど、
あんまり空想に耽っていたからつい置き忘れちゃって」
「先輩はよく部室で作曲しているんですか?」
「う~ん……たまに」
私は差し出された紅茶を遠慮がちに飲みながら、先輩の話を聞いていた。
そう言うなり、私が遠慮する隙も無く立ち上がって、鼻歌交じりにティーカップを準備し出した。
机の上には例のノートが広げられていた。
相変わらず何が書いてあるのか読めないけれど、
やっぱりこれはムギ先輩のものだったと確信すると、
私はなぜだかとても安心した。
「この前はね、テスト勉強の息抜きにここで落書きしてたんだけど、
あんまり空想に耽っていたからつい置き忘れちゃって」
「先輩はよく部室で作曲しているんですか?」
「う~ん……たまに」
私は差し出された紅茶を遠慮がちに飲みながら、先輩の話を聞いていた。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:26:31.04 ID:uTXYAyQ7o
「家に閉じこもって曲を考えるより、こんな風に誰かがいつも居た場所で、
けど今は誰もいないような場所を独り占めしながらのんびり考える方が、
なんだかとても良いものが書けるような気がするの。梓ちゃんはそう思わない?」
「私……私はあまり曲とか詩とか考えた事ないので……」
さりげなくそう答えながら、先輩が、偶然にも私と同じような事を感じていたという事実を、はっきりと、
まるで私の考えていることを見透かしでもしているかのように言うものだから、
私は自分の中に可笑しいほどな狼狽と喜びが生まれるのを、表面に出さないよう隠すのに必死だった。
けど今は誰もいないような場所を独り占めしながらのんびり考える方が、
なんだかとても良いものが書けるような気がするの。梓ちゃんはそう思わない?」
「私……私はあまり曲とか詩とか考えた事ないので……」
さりげなくそう答えながら、先輩が、偶然にも私と同じような事を感じていたという事実を、はっきりと、
まるで私の考えていることを見透かしでもしているかのように言うものだから、
私は自分の中に可笑しいほどな狼狽と喜びが生まれるのを、表面に出さないよう隠すのに必死だった。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:32:04.70 ID:uTXYAyQ7o
それから先輩は、私に色々なことを教えてくれた。
音楽的な知識はもちろん、発想のヒントや、
私みたいに理屈だけで物を考えてしまう人間にはとても思いつかないような、
感覚的な視点を語ってくれた。
そして私は私らしくなく、いちいち先輩の言う事の新しい発見に目を輝かせたりした。
スローなテンポで、けれど控えめというほどでもなく語り続ける先輩は
いつも軽音部でしているように自然で、
時々、身振り手振りで一生懸命伝えようとしているのを見ると、
その子どものような純真さに私まで夢中になってしまうのだった。
音楽的な知識はもちろん、発想のヒントや、
私みたいに理屈だけで物を考えてしまう人間にはとても思いつかないような、
感覚的な視点を語ってくれた。
そして私は私らしくなく、いちいち先輩の言う事の新しい発見に目を輝かせたりした。
スローなテンポで、けれど控えめというほどでもなく語り続ける先輩は
いつも軽音部でしているように自然で、
時々、身振り手振りで一生懸命伝えようとしているのを見ると、
その子どものような純真さに私まで夢中になってしまうのだった。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:35:40.72 ID:uTXYAyQ7o
先輩は自分のノートに書いてある楽譜やメモについても解説してくれた。
けれど、その曲の構成やイメージ、メモの意味などを話す時、
先輩の言葉はまるで宇宙の真理を紐解いているかの如く抽象的になり、
私はそのたびに首を微妙にかしげながら、詩の朗読を聴くような気持ちで耳を傾けた。
そうしていると、少しずつ先輩の言っている事の意味が分かるような気がした。
お昼を過ぎて、一緒に用意してきたお弁当を食べながら、私たちは2人だけの時間を楽しんだ。
…………。
けれど、その曲の構成やイメージ、メモの意味などを話す時、
先輩の言葉はまるで宇宙の真理を紐解いているかの如く抽象的になり、
私はそのたびに首を微妙にかしげながら、詩の朗読を聴くような気持ちで耳を傾けた。
そうしていると、少しずつ先輩の言っている事の意味が分かるような気がした。
お昼を過ぎて、一緒に用意してきたお弁当を食べながら、私たちは2人だけの時間を楽しんだ。
…………。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:37:36.13 ID:uTXYAyQ7o
…………。
午後もそれなりの時間になって、もう日が沈みかけるような頃、
他愛のない雑談に花を咲かせたり、先輩の淹れてくれる甘い紅茶を飲んだり、
ギターとキーボードで演奏を合わせてみたり、そんな閉じた世界を思う存分満喫した後に、
先輩が一息ついて「そろそろ帰りましょうか」と言った。
私はもっと話したい事がいっぱいあるような気がして、
けれどもそれが一体何なのか分からないまま、
「そうですね」とだけ答えた。
午後もそれなりの時間になって、もう日が沈みかけるような頃、
他愛のない雑談に花を咲かせたり、先輩の淹れてくれる甘い紅茶を飲んだり、
ギターとキーボードで演奏を合わせてみたり、そんな閉じた世界を思う存分満喫した後に、
先輩が一息ついて「そろそろ帰りましょうか」と言った。
私はもっと話したい事がいっぱいあるような気がして、
けれどもそれが一体何なのか分からないまま、
「そうですね」とだけ答えた。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:42:48.35 ID:uTXYAyQ7o
荷物と上着を取って、暖房と明かりを消し、部室から出て先輩が鍵を掛けると、
急に辺りが静かになった。
学校にはもう、私たち以外には誰も居ないような気がした。
「今日は楽しかったね」
校舎は少しずつ夕闇に沈んで行き、私たちの周囲が暗さを増していく一方で、
隣に一緒に歩く先輩の吐く白い息と、火照って紅潮しているその横顔は
ますます輝きだして私の目に映った。
急に辺りが静かになった。
学校にはもう、私たち以外には誰も居ないような気がした。
「今日は楽しかったね」
校舎は少しずつ夕闇に沈んで行き、私たちの周囲が暗さを増していく一方で、
隣に一緒に歩く先輩の吐く白い息と、火照って紅潮しているその横顔は
ますます輝きだして私の目に映った。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:47:41.41 ID:uTXYAyQ7o
私は、私がそうやって横目に先輩を見ているのを、いつ先輩に気付かれてしまわないかドキドキしながら、
それとは逆に気付いて欲しいような視線を逸らさずにはいられなかった。
そして、ふわふわと浮いてしまいそうな足取りで、私は、私が今日先輩について知った事、
または先輩が知ることのできたかもしれない私の事などを振り返っていると、
部室に2人きりでいた時にはあんなにもお互いを知り得たような気がした私の心も、
それらがすべて幻だったのではないかと思えてしまうほど
何もかも曖昧な記憶になってしまっている事にようやく気がついたのだった。
それとは逆に気付いて欲しいような視線を逸らさずにはいられなかった。
そして、ふわふわと浮いてしまいそうな足取りで、私は、私が今日先輩について知った事、
または先輩が知ることのできたかもしれない私の事などを振り返っていると、
部室に2人きりでいた時にはあんなにもお互いを知り得たような気がした私の心も、
それらがすべて幻だったのではないかと思えてしまうほど
何もかも曖昧な記憶になってしまっている事にようやく気がついたのだった。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:51:06.74 ID:uTXYAyQ7o
私はゆっくりと歩みを止めた。
何かに脅かされているような奇妙な実感がにわかに私を支配した。
私は今、ひとつの幸せな夢から覚めようとしているのだ。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 18:56:43.75 ID:uTXYAyQ7o
「梓ちゃん?」
先輩が振り返った。
先輩は私を夢の出口に連れて行こうとしている。
私はただぼんやりとそこに突っ立ったまま、先輩の心配そうな顔を見ていた……。
先輩が振り返った。
先輩は私を夢の出口に連れて行こうとしている。
私はただぼんやりとそこに突っ立ったまま、先輩の心配そうな顔を見ていた……。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:01:37.13 ID:uTXYAyQ7o
もう足元もはっきりと見えなくなってしまうくらい暗くなった廊下で、
先輩は次第にその背景に溶け込んでどこかへ行ってしまいそうだった。
私はつっかえるように、言葉にならない声を出して、
何を言いたいのかも分からないまま、
そしてそんな不明瞭な感情をごまかすように、
近くの教室に逃げるように入って行った。
先輩が心配そうに教室を覗き込んで、
私は、まるで駄々をこねる子どもみたいに先輩に背を向けて突っ立っていた。
先輩は次第にその背景に溶け込んでどこかへ行ってしまいそうだった。
私はつっかえるように、言葉にならない声を出して、
何を言いたいのかも分からないまま、
そしてそんな不明瞭な感情をごまかすように、
近くの教室に逃げるように入って行った。
先輩が心配そうに教室を覗き込んで、
私は、まるで駄々をこねる子どもみたいに先輩に背を向けて突っ立っていた。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:04:41.84 ID:uTXYAyQ7o
「梓ちゃん」と優しい声が聞こえた。
それはいつも聞きなれた先輩の声だったけれど、
私は、そうやって語りかけてくる言葉の抑揚、反響して震える空気、
その僅かな違いの裏側に、彼女の存在を感じた。
それはいつも聞きなれた先輩の声だったけれど、
私は、そうやって語りかけてくる言葉の抑揚、反響して震える空気、
その僅かな違いの裏側に、彼女の存在を感じた。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:09:16.50 ID:uTXYAyQ7o
振り返ると、先輩はなんだか寂しそうに、
けれども相変わらず優しげな瞳で、私を見ていた。
私は無言のまま、じっと彼女を見つめた。
暗闇の教室の中でも、彼女の姿ははっきりと私の目に映った。
語りかけるように神秘的な瞳、
つやつやして細やかな肌、
愛おしく可愛らしい口元……。
私は彼女を形作るものすべてを暗記してしまうくらい、じっと目に力を入れて魅入っていた。
そのせいで、彼女がほとんど私を抱きしめられるほど近づいて来ているのにしばらく気がつかなかった。
けれども相変わらず優しげな瞳で、私を見ていた。
私は無言のまま、じっと彼女を見つめた。
暗闇の教室の中でも、彼女の姿ははっきりと私の目に映った。
語りかけるように神秘的な瞳、
つやつやして細やかな肌、
愛おしく可愛らしい口元……。
私は彼女を形作るものすべてを暗記してしまうくらい、じっと目に力を入れて魅入っていた。
そのせいで、彼女がほとんど私を抱きしめられるほど近づいて来ているのにしばらく気がつかなかった。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:15:14.40 ID:uTXYAyQ7o
「こんなに暗くなっちゃったね」
彼女は耳元で囁くように言った。
私は彼女に夢中だった。
貪るようにその存在を感じた。
それはもしかしたら、私の知らない先輩の、
あの透明な膜を剥がして顕わになった本当の姿なのかもしれない。
そう思うと、私の心は得体の知れない歓喜に震え、
そして同時に、恐ろしいほどな戦慄に全身に力が入らなくなるのだった。
彼女は耳元で囁くように言った。
私は彼女に夢中だった。
貪るようにその存在を感じた。
それはもしかしたら、私の知らない先輩の、
あの透明な膜を剥がして顕わになった本当の姿なのかもしれない。
そう思うと、私の心は得体の知れない歓喜に震え、
そして同時に、恐ろしいほどな戦慄に全身に力が入らなくなるのだった。
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:19:24.05 ID:uTXYAyQ7o
「行きましょう」
そう言って先輩は私の手を取った。
まるで私のぎこちないダンスをリードするみたいに、
ゆっくりと、私の身体ごと引っ張っていった。
私は放心して、ただ先輩の導くままに歩いて行った……。
…………。
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:24:00.39 ID:uTXYAyQ7o
…………。
帰り道、私たちは手を握ったまま、無言で歩き続けた。
「雪」
と先輩が突然呟いた。
空には切ないほどな細雪が舞っていた。
そして先輩はなんだかとても嬉しそうに、さして特別でもないような
どんよりした冬の分厚い雲を見上げているのだった。
帰り道、私たちは手を握ったまま、無言で歩き続けた。
「雪」
と先輩が突然呟いた。
空には切ないほどな細雪が舞っていた。
そして先輩はなんだかとても嬉しそうに、さして特別でもないような
どんよりした冬の分厚い雲を見上げているのだった。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:27:55.87 ID:uTXYAyQ7o
先輩の掌の温もりが、私には熱すぎるくらい伝わってくる。
次第に、今日、先輩と過ごした時間をなんだかとても遠い昔のことのように思い返しつつある、
そのせいで今こうして手を繋いでいる事の意味を見失いがちな私を、
そうすることで2人だけの秘密の関係をそのまま少しでも引き留めておくことが出来でもするかのように、
穏やかな沈黙が押さえつけていた。
次第に、今日、先輩と過ごした時間をなんだかとても遠い昔のことのように思い返しつつある、
そのせいで今こうして手を繋いでいる事の意味を見失いがちな私を、
そうすることで2人だけの秘密の関係をそのまま少しでも引き留めておくことが出来でもするかのように、
穏やかな沈黙が押さえつけていた。
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:33:14.76 ID:uTXYAyQ7o
私は、私が望みさえすれば、"彼女"といつでも会えるのだと思った。
けれどそれは私にとって常に何かもの悲しい、
儚い記憶とひとまとまりになって私の心を苦しめる。
決して満たされることのない、けれどもそれを追い求めずにはいられないもの……。
私の横に並んでいる、その憧れの人は、
どこか遠くの方へぼうっと視線をやりながら、
私の小さな歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いている。
そして、そのまま2人の帰り道が別れてしまうまで、
とうとう一度も私の方を見ようとしなかった。
私がその事に気付いたのは別れてしばらく経った後だった。……
けれどそれは私にとって常に何かもの悲しい、
儚い記憶とひとまとまりになって私の心を苦しめる。
決して満たされることのない、けれどもそれを追い求めずにはいられないもの……。
私の横に並んでいる、その憧れの人は、
どこか遠くの方へぼうっと視線をやりながら、
私の小さな歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いている。
そして、そのまま2人の帰り道が別れてしまうまで、
とうとう一度も私の方を見ようとしなかった。
私がその事に気付いたのは別れてしばらく経った後だった。……
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/11(水) 19:34:50.51 ID:uTXYAyQ7o
おわりです
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447226470/
Entry ⇒ 2015.12.13 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
律「干物姉! りっちゃん」
1: けいおんSS 2015/12/04(金) 20:51:30.47 ID:GlkmMkVO0
律「はあ~……だるい~……」ゴロゴロ
聡「また干物姉姿に……今日部活ないの?」
律「んぇ? テスト期間だから休みだよ」
聡「勉強とかしなくていいの?」
律「まあなんとか……なるといいな」
聡「(結局してないのかよ……)よし、じゃあ一緒に買い物行こう」
律「外は寒いからなあ……」チラッ
聡「一人で袋持つの難しいからついて来てよ」
聡「また干物姉姿に……今日部活ないの?」
律「んぇ? テスト期間だから休みだよ」
聡「勉強とかしなくていいの?」
律「まあなんとか……なるといいな」
聡「(結局してないのかよ……)よし、じゃあ一緒に買い物行こう」
律「外は寒いからなあ……」チラッ
聡「一人で袋持つの難しいからついて来てよ」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:52:37.40 ID:GlkmMkVO0
律「ほ、ほら……雪降るかもしれないし」
聡「降らない。朝の天気予報で今日一日晴れだっていってた」
律「う~ん……じゃあ何か出前を……」
聡「わざわざ出前なんかとってたら置いてってくれた食費無くなるだろ。予算は限られてるのに……」
律「ったく、ずるいよなー。二人だけで旅行いくなんてさ。私も行きたかった!」
聡「それはもう言わない約束だろ」
聡「降らない。朝の天気予報で今日一日晴れだっていってた」
律「う~ん……じゃあ何か出前を……」
聡「わざわざ出前なんかとってたら置いてってくれた食費無くなるだろ。予算は限られてるのに……」
律「ったく、ずるいよなー。二人だけで旅行いくなんてさ。私も行きたかった!」
聡「それはもう言わない約束だろ」
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:53:30.06 ID:GlkmMkVO0
律「聡は行きたくなかったのかよー」
聡「そ、そりゃ行きたかったけど(3日間グータラ放題の姉ちゃんと二人きりってのもハードだし)」
律「だろ~? ま、その代わりどれだけゴロゴロしてても怒られないから、これはこれで気楽だけどな~」
聡「あ、母さんから姉ちゃんに伝言。"お姉ちゃんらしくキチンとめんどう見てあげなさい"ってさ」
律「お姉ちゃんらしくって……なんだよそれ」
聡「それをこれから見せてくれるんだろ? 姉ちゃんらしさってのをさ」
聡「そ、そりゃ行きたかったけど(3日間グータラ放題の姉ちゃんと二人きりってのもハードだし)」
律「だろ~? ま、その代わりどれだけゴロゴロしてても怒られないから、これはこれで気楽だけどな~」
聡「あ、母さんから姉ちゃんに伝言。"お姉ちゃんらしくキチンとめんどう見てあげなさい"ってさ」
律「お姉ちゃんらしくって……なんだよそれ」
聡「それをこれから見せてくれるんだろ? 姉ちゃんらしさってのをさ」
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:54:08.83 ID:GlkmMkVO0
律「なんか普段は全然お姉ちゃんしてないって言われた気がした……」
聡「(今のところ何一つ見せてもらってないとは言わない方がいいのか)」
律「お姉ちゃんらしさか……よぉし! じゃあ、なおさら晩ご飯は出前取ろう!」
聡「なんでそうなるんだよ!」
律「ほら、ここはお姉ちゃんらしく豪快においしい物をかわいい弟に振る舞おうかなと。そうだな……寿司とか!」
聡「だから出前取ったらすぐにお金無くなるってば! それにお姉ちゃんらしくって言うけど、このお金は父さんと母さんからもらったものであって姉ちゃんのおごりとかじゃないから!」
聡「(今のところ何一つ見せてもらってないとは言わない方がいいのか)」
律「お姉ちゃんらしさか……よぉし! じゃあ、なおさら晩ご飯は出前取ろう!」
聡「なんでそうなるんだよ!」
律「ほら、ここはお姉ちゃんらしく豪快においしい物をかわいい弟に振る舞おうかなと。そうだな……寿司とか!」
聡「だから出前取ったらすぐにお金無くなるってば! それにお姉ちゃんらしくって言うけど、このお金は父さんと母さんからもらったものであって姉ちゃんのおごりとかじゃないから!」
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:55:00.58 ID:GlkmMkVO0
律「ぶー……」
聡「まったく……ほら、陽が沈むと余計に寒くなるから早く済ませよう」
律「へいへい、わかったよ~……」
りっつーん!
聡「……そのフードってあったかいの?」
律「お、着てみるか?」
聡「いや、やめとく」
律「あったかいぞ~」
聡「まったく……ほら、陽が沈むと余計に寒くなるから早く済ませよう」
律「へいへい、わかったよ~……」
りっつーん!
聡「……そのフードってあったかいの?」
律「お、着てみるか?」
聡「いや、やめとく」
律「あったかいぞ~」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:55:32.63 ID:GlkmMkVO0
◇
律「うー……さび~!」
聡「うー……地球は温暖化してるんじゃなかったのか……?」
律「冬は寒いのが当たり前だろ~」
聡「……さっきまで寒いから外出るのイヤだってダダこねてたのはどこの誰だよ」
律「ん~よく聞こえなかったなあ?」
聡「どぅわっ! つめてっ!」
律「へへーんだ」
聡「やめろってば!」
律「うー……さび~!」
聡「うー……地球は温暖化してるんじゃなかったのか……?」
律「冬は寒いのが当たり前だろ~」
聡「……さっきまで寒いから外出るのイヤだってダダこねてたのはどこの誰だよ」
律「ん~よく聞こえなかったなあ?」
聡「どぅわっ! つめてっ!」
律「へへーんだ」
聡「やめろってば!」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:56:04.89 ID:GlkmMkVO0
律「姉に向かって生意気な態度をとるから天罰が下ったのじゃ」
聡「(なおさら姉の威厳を感じない……!)」
律「はっはっは、まいったか!」
聡「(正論を言ったのに未だねじ伏せられる……)」
聡「(なおさら姉の威厳を感じない……!)」
律「はっはっは、まいったか!」
聡「(正論を言ったのに未だねじ伏せられる……)」
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:56:46.61 ID:GlkmMkVO0
スーパー
律「あ~店内はあったかいな~……」
聡「(はやく身長抜かしてこれ以上いじられないようにしないと……)」
律「あれ、聡も牛乳飲むのか?」
聡「え? まあ、朝と夜に飲んでるし」
律「じゃあもう一個追加だな」
聡「……姉ちゃんも飲むの?」
律「なんだよ、悪いのか?」
律「あ~店内はあったかいな~……」
聡「(はやく身長抜かしてこれ以上いじられないようにしないと……)」
律「あれ、聡も牛乳飲むのか?」
聡「え? まあ、朝と夜に飲んでるし」
律「じゃあもう一個追加だな」
聡「……姉ちゃんも飲むの?」
律「なんだよ、悪いのか?」
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:57:21.14 ID:GlkmMkVO0
聡「いや、別にいいけど……」
律「私だってまだ成長するんだよ!」
聡「……どのへんが?」
律「ぐっ、このヤロー!」ベシッ
聡「いてっ!(?? なんでいきなり叩かれないといけないんだー!?)」
律「私だってまだ成長するんだよ!」
聡「……どのへんが?」
律「ぐっ、このヤロー!」ベシッ
聡「いてっ!(?? なんでいきなり叩かれないといけないんだー!?)」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:57:58.21 ID:GlkmMkVO0
田井中家
律聡「いただきます!」
聡「(相変わらず料理の手際は良いんだよなあ……)」
律「あ、お茶なくなった。取ってきて~……」
聡「うん(弟使いは荒いけども)」
~
律「はあ~食った食った……」
聡「(そして相変わらずのグータラモードか……)」
律聡「いただきます!」
聡「(相変わらず料理の手際は良いんだよなあ……)」
律「あ、お茶なくなった。取ってきて~……」
聡「うん(弟使いは荒いけども)」
~
律「はあ~食った食った……」
聡「(そして相変わらずのグータラモードか……)」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:58:39.80 ID:GlkmMkVO0
律「あー……横になったらなんか眠い……」
聡「そんなとこで寝たら風邪ひくよ」
律「私ならだいじょうぶ……」
聡「風呂洗ってくるから。寝るなら風呂入ってからにしないと」
律「う~ん……」
聡「ちょっと待ってて……って、聞いてる?」
聡「そんなとこで寝たら風邪ひくよ」
律「私ならだいじょうぶ……」
聡「風呂洗ってくるから。寝るなら風呂入ってからにしないと」
律「う~ん……」
聡「ちょっと待ってて……って、聞いてる?」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 20:59:38.86 ID:GlkmMkVO0
律「...zzz」
聡「寝つき良すぎる……」
律「あー……もう……食べられなぃ……」
聡「でもまあ、このグータラぶりはある意味"姉ちゃんらしさ"なのかもしれないな」
律「zzz...」
聡「寝つき良すぎる……」
律「あー……もう……食べられなぃ……」
聡「でもまあ、このグータラぶりはある意味"姉ちゃんらしさ"なのかもしれないな」
律「zzz...」
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 21:00:17.19 ID:GlkmMkVO0
その日深夜
「どぅわーっ! ぜんぜんテスト勉強してない!」
聡「(うるさいな……って、姉ちゃんこんな時間に起きたのか)」
「やばいやばいやばい……!」
聡「(そしてこんな夜中にそんなうるさい声出すなよ……)」
「私はどうすればいいんだーっ!」
聡「(壁ドンする気力も起きない……)
「どぅわーっ! ぜんぜんテスト勉強してない!」
聡「(うるさいな……って、姉ちゃんこんな時間に起きたのか)」
「やばいやばいやばい……!」
聡「(そしてこんな夜中にそんなうるさい声出すなよ……)」
「私はどうすればいいんだーっ!」
聡「(壁ドンする気力も起きない……)
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 21:01:08.24 ID:GlkmMkVO0
「あ、澪のやつに電話して……ってさすがにもう寝てるか……」
聡「(そりゃそうだ……澪さんも大変な友達を持ったもんだよ……)」
「ぬわーっ! 誰か私を助けて~っ!」
聡「(本っ当に姉ちゃんはとんだ干物姉だ……)」
おわり
聡「(そりゃそうだ……澪さんも大変な友達を持ったもんだよ……)」
「ぬわーっ! 誰か私を助けて~っ!」
聡「(本っ当に姉ちゃんはとんだ干物姉だ……)」
おわり
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 22:25:28.47 ID:I8sazwLp0
憂ちゃんが干物妹だったらお姉ちゃんリアルで干からびるんじゃないかなって思うんだけど
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 23:29:43.54 ID:I1JbWIbro
乙
澪ちゃんは巨乳で極度の恥ずかしがりやの海老名ちゃんかな
澪ちゃんは巨乳で極度の恥ずかしがりやの海老名ちゃんかな
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/04(金) 23:30:58.01 ID:V0szwPF6o
乙
りっちゃんみたいな姉ちゃん欲しい
りっちゃんみたいな姉ちゃん欲しい
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449229890/
Entry ⇒ 2015.12.09 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
梓「唯先輩って私のこと好きなのかな…」
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 20:57:52.66
梓「いつもくっついてくるし色々話しかけてくるし…」
紬「きっとそうよ!」
梓「ム、ムギ先輩!いつからいたんですか?」
紬「最初からいたわよ?
それで梓ちゃんは唯ちゃんのことどう思ってるの?」
梓「わ、私は別に…何とも」
紬「そう…でも自分に正直にならないと損しちゃうわよ?」
梓「な、何言ってるんですかもう…」
紬「きっとそうよ!」
梓「ム、ムギ先輩!いつからいたんですか?」
紬「最初からいたわよ?
それで梓ちゃんは唯ちゃんのことどう思ってるの?」
梓「わ、私は別に…何とも」
紬「そう…でも自分に正直にならないと損しちゃうわよ?」
梓「な、何言ってるんですかもう…」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:01:52.99
梓(唯先輩を好きになるなんて…そんなのあるわけ…)
ガチャ
律「おーす!今日のお菓子はなあにかなー?」
澪「いきなりお菓子か」
唯「おいっすあずにゃ~ん♪会いたかったよ~ん♪」スリスリ
梓「き、昨日だって会ったじゃないですか…」
唯「いいじゃ~ん!あずにゃんかわいいんだからぁ」
梓「は、離してください!」
唯「やーん♪あずにゃんの照れ屋さーん!」
梓(な、なんで私こんなにドキドキしてるんだろ…?)
ガチャ
律「おーす!今日のお菓子はなあにかなー?」
澪「いきなりお菓子か」
唯「おいっすあずにゃ~ん♪会いたかったよ~ん♪」スリスリ
梓「き、昨日だって会ったじゃないですか…」
唯「いいじゃ~ん!あずにゃんかわいいんだからぁ」
梓「は、離してください!」
唯「やーん♪あずにゃんの照れ屋さーん!」
梓(な、なんで私こんなにドキドキしてるんだろ…?)
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:03:50.36
律「しっかしお前ら仲いいよなー」
澪「唯が一方的にくっついてるだけのような気もするけどな…」
紬「まるで恋人同士みたい♪」
唯「そうです私たちは愛し合ってるんです!ねーあずにゃん?」
梓「あ、あ、愛…?」
澪「唯が一方的にくっついてるだけのような気もするけどな…」
紬「まるで恋人同士みたい♪」
唯「そうです私たちは愛し合ってるんです!ねーあずにゃん?」
梓「あ、あ、愛…?」
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:07:28.19
澪「どうした梓?」
梓「そ、そんな…
何バカなこと言ってるんですか私たち女同士じゃないですかだいたい先輩はいつもいつも」
律「何真っ赤になってんだー?」ニヤニヤ
梓「真っ赤になんてなってません!!」
唯「んー真っ赤なあずにゃんもかわいい~」
梓「も、もう練習始めますよ!」
紬(梓ちゃんたらかわいいわあ…)
梓「そ、そんな…
何バカなこと言ってるんですか私たち女同士じゃないですかだいたい先輩はいつもいつも」
律「何真っ赤になってんだー?」ニヤニヤ
梓「真っ赤になんてなってません!!」
唯「んー真っ赤なあずにゃんもかわいい~」
梓「も、もう練習始めますよ!」
紬(梓ちゃんたらかわいいわあ…)
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:12:14.15
―――――
梓(だいたいムギ先輩が変なこというから…私は唯先輩のことなんてなんとも…)
唯「ねえねえあずにゃんってばあ」
梓「は、はい!?」
唯「Cの押さえ方分かんなくなっちゃったから教えてー」
梓「またですか…いい加減覚えてくださいよ?人差し指がこうで、中指が…」
唯「ありがとあずにゃ~ん!あ、おててかわいい~」
梓「は、早く練習再開してください!」(唯先輩の手…あったかいなあ…)
梓(だいたいムギ先輩が変なこというから…私は唯先輩のことなんてなんとも…)
唯「ねえねえあずにゃんってばあ」
梓「は、はい!?」
唯「Cの押さえ方分かんなくなっちゃったから教えてー」
梓「またですか…いい加減覚えてくださいよ?人差し指がこうで、中指が…」
唯「ありがとあずにゃ~ん!あ、おててかわいい~」
梓「は、早く練習再開してください!」(唯先輩の手…あったかいなあ…)
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:15:50.13
澪「よーし、今日はここまでにするか」
律「あー腹減った!駅前でなんか食べていこうぜ?」
梓「あ、今日は親に買い物頼まれてるんで…」
律「そっかーじゃあ4人で…」
唯「ごめんりっちゃん、私も憂に牛乳頼まれてるんだあ」
律「なんだよ付き合い悪いなあ、いいよ澪に盛り上げてもらうから」
澪「何さす気だ!」
紬「唯ちゃん梓ちゃん、せっかくだし一緒に買い物行ったら?」
梓「え!?」
唯「そうだね!あずにゃんとお買いもの~!」
梓「は、はぁ…」
律「あー腹減った!駅前でなんか食べていこうぜ?」
梓「あ、今日は親に買い物頼まれてるんで…」
律「そっかーじゃあ4人で…」
唯「ごめんりっちゃん、私も憂に牛乳頼まれてるんだあ」
律「なんだよ付き合い悪いなあ、いいよ澪に盛り上げてもらうから」
澪「何さす気だ!」
紬「唯ちゃん梓ちゃん、せっかくだし一緒に買い物行ったら?」
梓「え!?」
唯「そうだね!あずにゃんとお買いもの~!」
梓「は、はぁ…」
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:21:31.67
唯「…すっかり暗くなっちゃったねえ」
梓(はあ…なんで私こんなに先輩のこと意識してるんだろ?)
唯「あずにゃん?」
梓(そうだ、ムギ先輩が変なことばっかり言うからだ!そうに決まってる!)
唯「あーずにゃん?」
梓「に゙ゃ!?」
唯「どしたの?ボーッとしちゃって」
梓「な、なななんでもないです!急に顔近づけないでください!」
唯「えへへ、ごめーん」
梓(もう…なんでこんな気持ちになるの…?)
梓(はあ…なんで私こんなに先輩のこと意識してるんだろ?)
唯「あずにゃん?」
梓(そうだ、ムギ先輩が変なことばっかり言うからだ!そうに決まってる!)
唯「あーずにゃん?」
梓「に゙ゃ!?」
唯「どしたの?ボーッとしちゃって」
梓「な、なななんでもないです!急に顔近づけないでください!」
唯「えへへ、ごめーん」
梓(もう…なんでこんな気持ちになるの…?)
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:26:37.89
唯「えーと牛乳牛乳…あ、いちご牛乳買っちゃおうかなあ」
梓「余計なもの買うと憂に怒られちゃいますよ?」
唯「ちぇー…あずにゃんは何買うの?」
梓「醤油を…」
唯「醤油…なんか喉渇いちゃったあ…ジュース買わない?」
梓「私余分なお金持ってないですよ?」
唯「いいよー二人で半分こしよ!」
梓「ふ、二人で?」
梓「余計なもの買うと憂に怒られちゃいますよ?」
唯「ちぇー…あずにゃんは何買うの?」
梓「醤油を…」
唯「醤油…なんか喉渇いちゃったあ…ジュース買わない?」
梓「私余分なお金持ってないですよ?」
唯「いいよー二人で半分こしよ!」
梓「ふ、二人で?」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:32:06.08
唯「ゴクゴク…ぷはー!ごぞうろっぷに染み渡るう!はいあずにゃん!」
梓「わ、私はいいです!喉渇いてないです!」
唯「えー?今日あずにゃんお茶もあんまり飲んでなかったじゃん!遠慮しないでどうぞ!」
梓「そ、そんな…」
梓(か、間接キス…
いやでも女の子同士なら普通だよねむしろ自然に飲まなきゃ不自然だし
私は特に先輩のこと意識なんてまったく全然してないわけだしうんそうだそうなんだ!)
梓「い、いただきます!グビッ」
梓「わ、私はいいです!喉渇いてないです!」
唯「えー?今日あずにゃんお茶もあんまり飲んでなかったじゃん!遠慮しないでどうぞ!」
梓「そ、そんな…」
梓(か、間接キス…
いやでも女の子同士なら普通だよねむしろ自然に飲まなきゃ不自然だし
私は特に先輩のこと意識なんてまったく全然してないわけだしうんそうだそうなんだ!)
梓「い、いただきます!グビッ」
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:37:07.28
梓「ぷはぁ…全部飲んじゃった…」
唯「ええー!よっぽど喉渇いてたんだねえ?顔真っ赤になるほど飲むなんて」
梓「そ、そうです喉渇いてたんだです…」(間接キス…間接キス…キス…キス…)
唯「あれあずにゃん、口の周りにジュースついてるよ?ぺろ」
梓「え?」
唯「あまーい♪」
梓「ふにゅ…」ドサ
唯「あ、あずにゃん?どしたの?あずにゃーん!」
唯「ええー!よっぽど喉渇いてたんだねえ?顔真っ赤になるほど飲むなんて」
梓「そ、そうです喉渇いてたんだです…」(間接キス…間接キス…キス…キス…)
唯「あれあずにゃん、口の周りにジュースついてるよ?ぺろ」
梓「え?」
唯「あまーい♪」
梓「ふにゅ…」ドサ
唯「あ、あずにゃん?どしたの?あずにゃーん!」
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:41:43.55
律「で、それからどうしたんだよ?」
唯「あれからお家の人が迎えにくるまでずっと目を覚まさなくって…大丈夫だったかなあ」
澪「しかしなんで梓は倒れたんだ?」
律「ジュース飲みすぎたからじゃないか?まったく面白いヤツだな梓は」
紬「唯ちゃんたら大胆ねえ♪」
唯「ほえ?なにが?」
唯「あれからお家の人が迎えにくるまでずっと目を覚まさなくって…大丈夫だったかなあ」
澪「しかしなんで梓は倒れたんだ?」
律「ジュース飲みすぎたからじゃないか?まったく面白いヤツだな梓は」
紬「唯ちゃんたら大胆ねえ♪」
唯「ほえ?なにが?」
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:49:04.55
梓「昨日は散々だったなあ…私ったらどうしちゃったんだろ」
憂「梓ちゃーん」
梓「憂?な、なに?」
憂「昨日お姉ちゃんから聞いたんだけど、倒れちゃったんだって?大丈夫?」
梓「う、うん!ちょっと風邪気味だったから」
憂「そっか!じゃあお姉ちゃんとなにかあったわけじゃないんだよね?」
梓「え?あ、うんまあ…」
憂「ならいいんだ、それじゃまたね」
梓(憂には昨日のこと絶対言えないな…)
憂「梓ちゃーん」
梓「憂?な、なに?」
憂「昨日お姉ちゃんから聞いたんだけど、倒れちゃったんだって?大丈夫?」
梓「う、うん!ちょっと風邪気味だったから」
憂「そっか!じゃあお姉ちゃんとなにかあったわけじゃないんだよね?」
梓「え?あ、うんまあ…」
憂「ならいいんだ、それじゃまたね」
梓(憂には昨日のこと絶対言えないな…)
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:54:14.01
放課後
梓「こんにちわ…」
唯「あずにゃん!昨日大丈夫だった?」
梓「…は、はい、大丈夫、でした」
律「顔真っ赤だぞ?ホントに大丈夫か?」
澪「具合悪いなら無理するなよ?」
梓「ほ、ホントに、大丈夫です」
紬「ほら唯ちゃん、さっきの」
唯「ああそうだ、あずにゃん、昨日のおわびがしたいんだけど…」
梓「は、はい?」
唯「私と付き合ってくれないかな?」
梓「!!」
梓「こんにちわ…」
唯「あずにゃん!昨日大丈夫だった?」
梓「…は、はい、大丈夫、でした」
律「顔真っ赤だぞ?ホントに大丈夫か?」
澪「具合悪いなら無理するなよ?」
梓「ほ、ホントに、大丈夫です」
紬「ほら唯ちゃん、さっきの」
唯「ああそうだ、あずにゃん、昨日のおわびがしたいんだけど…」
梓「は、はい?」
唯「私と付き合ってくれないかな?」
梓「!!」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 21:59:28.08
梓「な、な…なにいって…私たち女同士だし、それに付き合うってことはその」
唯「…映画見に!」
梓「え…映画?」
唯「ムギちゃんがね?ペアの映画券くれたんだー二人で見に行こう?」
梓「あ、なんだ…映画か…」
紬「何を勘違いしたのかしら?」ニヤニヤ
梓「な、なんでもないです!」
唯「…映画見に!」
梓「え…映画?」
唯「ムギちゃんがね?ペアの映画券くれたんだー二人で見に行こう?」
梓「あ、なんだ…映画か…」
紬「何を勘違いしたのかしら?」ニヤニヤ
梓「な、なんでもないです!」
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:04:54.05
唯「じゃあ今度の日曜日ね?ホントは皆で行きたかったけど…」
律「あたしは用事あるから行けないし、澪もまた変なとこで歌詞書きたいんだってさ」
澪「変なとこって言うな!」
紬「私もその日は都合悪くて…ごめんなさいね?」
梓「そのわりに残念そうに見えませんが…」
唯「楽しみだねーあずにゃん?」
梓「は、はい…」
律「あたしは用事あるから行けないし、澪もまた変なとこで歌詞書きたいんだってさ」
澪「変なとこって言うな!」
紬「私もその日は都合悪くて…ごめんなさいね?」
梓「そのわりに残念そうに見えませんが…」
唯「楽しみだねーあずにゃん?」
梓「は、はい…」
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:11:33.93
日曜日
梓「はぁ…待ち合わせ時間まで30分もあるや…なんでこんな緊張してるんだろ…
朝着てくる服も1時間悩んじゃったし…」
―――――――
40分後
梓「遅い…」
―――――――
50分後
プルルルル
唯『もしもしあずにゃん?ごめーん寝坊しちゃったー急いで行くね!プツン』
梓「あの人は…来たら文句言ってやらなきゃ!」
梓「はぁ…待ち合わせ時間まで30分もあるや…なんでこんな緊張してるんだろ…
朝着てくる服も1時間悩んじゃったし…」
―――――――
40分後
梓「遅い…」
―――――――
50分後
プルルルル
唯『もしもしあずにゃん?ごめーん寝坊しちゃったー急いで行くね!プツン』
梓「あの人は…来たら文句言ってやらなきゃ!」
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:17:06.56
唯「おーいあずにゃーん!」
梓「先輩?今何時だと思って…っ!」
唯「いやあ…昨日ギー太いじってたらつい夜更かししちゃってえ…あずにゃん?」
梓(か、かわいい…唯先輩って、こんなにかわいかったっけ?)
唯「あずにゃーん、怒ってるの?」
梓「ま、まあ今回は特別に許してあげます!早くしないと映画始まっちゃいます!」
唯「うん!」
梓(唯先輩…卑怯です…)
梓「先輩?今何時だと思って…っ!」
唯「いやあ…昨日ギー太いじってたらつい夜更かししちゃってえ…あずにゃん?」
梓(か、かわいい…唯先輩って、こんなにかわいかったっけ?)
唯「あずにゃーん、怒ってるの?」
梓「ま、まあ今回は特別に許してあげます!早くしないと映画始まっちゃいます!」
唯「うん!」
梓(唯先輩…卑怯です…)
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:22:38.08
唯「あーおもしろかった!」
梓「私ドラマ版見たことなくてよく分かりませんでした…先輩見てたんですか?」
唯「見てないけどなんかおもしろかった!ぶい!」
梓「幸せな性格ですね…」
唯「さあなんか食べようか!ハンバーガーハンバーガー!」
梓「分かりましたよ!…でもこれって完璧に…」
梓(デート…だよね)
梓「私ドラマ版見たことなくてよく分かりませんでした…先輩見てたんですか?」
唯「見てないけどなんかおもしろかった!ぶい!」
梓「幸せな性格ですね…」
唯「さあなんか食べようか!ハンバーガーハンバーガー!」
梓「分かりましたよ!…でもこれって完璧に…」
梓(デート…だよね)
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:27:50.40
――――――
唯「ふ~今日は楽しかったねえ!」
梓「予想外の出費でした…クレープ食べたり服買ったりたこ焼き食べたり」
唯「まあまあまあまあまあまあ、楽しかったんだからいいじゃん!はいこれ」
梓「…ストラップ?」
唯「こないだのおわびに!おそろいだよ!」
梓「あ、ありがとうございます…」
梓(…私…やっぱり唯先輩のこと…)
唯「ふ~今日は楽しかったねえ!」
梓「予想外の出費でした…クレープ食べたり服買ったりたこ焼き食べたり」
唯「まあまあまあまあまあまあ、楽しかったんだからいいじゃん!はいこれ」
梓「…ストラップ?」
唯「こないだのおわびに!おそろいだよ!」
梓「あ、ありがとうございます…」
梓(…私…やっぱり唯先輩のこと…)
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:30:32.95
梓(やっぱり聞いてみよう…唯先輩は私のことどう思ってるか…)
梓「あ、あの唯先輩!」
唯「なあに?」
梓「先輩は…」
憂「お姉ちゃーん!」
梓「っ…」
唯「あ、憂!どしたの?」
梓「あ、あの唯先輩!」
唯「なあに?」
梓「先輩は…」
憂「お姉ちゃーん!」
梓「っ…」
唯「あ、憂!どしたの?」
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:38:34.59
憂「純ちゃんと出掛けてた帰りなの!…梓ちゃんこんにちわ!」
梓「う…うん、こんにちわ」
唯「あり?何か買ったの?」
憂「うん!これ!」
梓「それって…」
唯「ストラップ?私たちのと色違いだねえ」
憂「おそろいにしようと思ったんだけど…被っちゃったんだね…」
梓「……」
梓「う…うん、こんにちわ」
唯「あり?何か買ったの?」
憂「うん!これ!」
梓「それって…」
唯「ストラップ?私たちのと色違いだねえ」
憂「おそろいにしようと思ったんだけど…被っちゃったんだね…」
梓「……」
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:43:30.92
唯「どーしよっか…あ、そういえばあずにゃん、さっき何か言おうとしてなかった?」
梓「あ…もういいんです…ええと、私…先に帰ります!今日はありがとうございました!」
唯「あずにゃん?もう帰っちゃうの?」
憂「じゃあね梓ちゃん!また明日!」
唯「あずにゃん…?」
梓「あ…もういいんです…ええと、私…先に帰ります!今日はありがとうございました!」
唯「あずにゃん?もう帰っちゃうの?」
憂「じゃあね梓ちゃん!また明日!」
唯「あずにゃん…?」
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:49:11.21
憂「お姉ちゃん、今日は楽しかったの?」
唯「うん…」
憂「今度私たちも二人で映画見に行こうか?」
唯「うん…」
憂「今日はご飯何にする?お姉ちゃんの好きなものでいいよ?」
唯「…ごめん憂、私あずにゃんにストラップ渡してくる!あとご飯はカレーね!」
憂「…お姉ちゃんのばか」
唯「うん…」
憂「今度私たちも二人で映画見に行こうか?」
唯「うん…」
憂「今日はご飯何にする?お姉ちゃんの好きなものでいいよ?」
唯「…ごめん憂、私あずにゃんにストラップ渡してくる!あとご飯はカレーね!」
憂「…お姉ちゃんのばか」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:55:06.30
梓(私…なに舞い上がってたんだろ…バカみたい…)
唯「あーずにゃーん!」
梓「先輩…どうしたんですか?」
唯「これ!渡すの忘れてたよ!」
梓「…憂の付ければいいじゃないですか」
唯「だーめ!あずにゃんとおそろいって決めたんだから、これは二人で付けるの!」
梓「…先輩は」
唯「ふえ?」
梓「先輩は、私のこと、どう思ってるんですか?」
唯「あーずにゃーん!」
梓「先輩…どうしたんですか?」
唯「これ!渡すの忘れてたよ!」
梓「…憂の付ければいいじゃないですか」
唯「だーめ!あずにゃんとおそろいって決めたんだから、これは二人で付けるの!」
梓「…先輩は」
唯「ふえ?」
梓「先輩は、私のこと、どう思ってるんですか?」
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 22:58:36.95
唯「どうって…もちろん大好きだよ?」
梓「分かりました…また明日」
唯「うん!またね!」
梓(大好きか…私…どうすればいいんだろ…)
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 23:04:58.44
月曜日
梓(はぁ…結局昨日は一睡もできなかったなあ…)
紬「それで昨日はどうだったの?」
梓「きゃああ!?だから急に出てこないでください!」
紬「いいからいいから♪
唯ちゃんとは上手くいった?」
梓「まあ…楽しかったですけど…なんていうか…」
紬「梓ちゃん?しっかり言いたいことは言わないと後悔しちゃうわよ?」
梓「わかって…ますけど…」
梓(はぁ…結局昨日は一睡もできなかったなあ…)
紬「それで昨日はどうだったの?」
梓「きゃああ!?だから急に出てこないでください!」
紬「いいからいいから♪
唯ちゃんとは上手くいった?」
梓「まあ…楽しかったですけど…なんていうか…」
紬「梓ちゃん?しっかり言いたいことは言わないと後悔しちゃうわよ?」
梓「わかって…ますけど…」
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 23:38:43.24
ガチャ
律「今日のお菓子はなにかしら唯さん!」
唯「今日はシュークリームの予感がするわ律さん!」
澪「おまえらいい加減にしろよ…」
梓「唯先輩…」
紬「…澪ちゃんりっちゃん、私たち3人で職員室に呼ばれてたわよ?」
澪「え?そんな話聞いてないぞ?」
律「なんで唯と梓は呼ばれないんだよーぶーぶー」
紬「いいからいいから♪…梓ちゃん、頑張ってね?」
梓「え、あ、はい…」
律「今日のお菓子はなにかしら唯さん!」
唯「今日はシュークリームの予感がするわ律さん!」
澪「おまえらいい加減にしろよ…」
梓「唯先輩…」
紬「…澪ちゃんりっちゃん、私たち3人で職員室に呼ばれてたわよ?」
澪「え?そんな話聞いてないぞ?」
律「なんで唯と梓は呼ばれないんだよーぶーぶー」
紬「いいからいいから♪…梓ちゃん、頑張ってね?」
梓「え、あ、はい…」
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 23:47:49.44
唯「…また二人っきりになっちゃったねえ」
梓「あ、はい…」
梓(言わなきゃ…唯先輩にホントの気持ち…自分に正直にならなきゃ…)
唯「あ、そうだ!ストラップのことだけど」
梓「え…」
唯「じゃーん!憂のとあずにゃんの、両方つけたんだ!」
梓「プッ…それ、すごい持ちにくくありません?」
唯「うぅ…確かに…」
梓(やっぱり唯先輩は、いつでも唯先輩なんだな…そこがいいところなんだ)
梓「…あの、先輩に伝えたいことがあるんです」
唯「ん?なあに?」
梓「私、唯先輩のこと…大好きです」
梓「あ、はい…」
梓(言わなきゃ…唯先輩にホントの気持ち…自分に正直にならなきゃ…)
唯「あ、そうだ!ストラップのことだけど」
梓「え…」
唯「じゃーん!憂のとあずにゃんの、両方つけたんだ!」
梓「プッ…それ、すごい持ちにくくありません?」
唯「うぅ…確かに…」
梓(やっぱり唯先輩は、いつでも唯先輩なんだな…そこがいいところなんだ)
梓「…あの、先輩に伝えたいことがあるんです」
唯「ん?なあに?」
梓「私、唯先輩のこと…大好きです」
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 23:50:07.80
唯「ごめんね。私には俺君がいるから・・・」
俺「ごめんな。梓」
------Happy End
俺「ごめんな。梓」
------Happy End
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/02(木) 23:53:14.18
梓(い、言っちゃった…)
唯「ありがと!私もあずにゃんのこと大好きだよ?」
梓「え?いや、そういうことじゃなくて…私が言ってる大好きっていうのはもっと…」
唯「大好きは大好きでしょ?」
梓「あー、ええと、ずっと一緒にいたいっていうか…もっと深い意味っていうか…その…」
唯「あずにゃん…そんなに私のことを…ありがとお!」ギュッ
梓「うぅ…」
唯「ありがと!私もあずにゃんのこと大好きだよ?」
梓「え?いや、そういうことじゃなくて…私が言ってる大好きっていうのはもっと…」
唯「大好きは大好きでしょ?」
梓「あー、ええと、ずっと一緒にいたいっていうか…もっと深い意味っていうか…その…」
唯「あずにゃん…そんなに私のことを…ありがとお!」ギュッ
梓「うぅ…」
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:01:01.07
梓(このままで…いいの…?ダメに決まってる!だったら…)
唯「あずにゃーん、かわゆいよう~」
梓「先輩!」
チュッ
唯「ん…!」
梓(キス…するしか…!)
唯「へ?あ、あずにゃん?な、な…?」
梓「これが私の気持ちです…本気なんです!」
唯「あずにゃーん、かわゆいよう~」
梓「先輩!」
チュッ
唯「ん…!」
梓(キス…するしか…!)
唯「へ?あ、あずにゃん?な、な…?」
梓「これが私の気持ちです…本気なんです!」
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:07:30.21
唯「あずにゃん…」
梓「私、先輩と一緒にいると、すごく楽しいんです!ずっと一緒にいたいんです!
だけど…その笑顔を他の人に向けられるのは、やっぱり耐えられなくて…だから、だから…」
唯「わかったよ、あずにゃん」
梓「え…」
唯「私、今まであずにゃんの気持ちに気づいてなかったよ…でもやっとわかった…」
梓「先輩…」
梓「私、先輩と一緒にいると、すごく楽しいんです!ずっと一緒にいたいんです!
だけど…その笑顔を他の人に向けられるのは、やっぱり耐えられなくて…だから、だから…」
唯「わかったよ、あずにゃん」
梓「え…」
唯「私、今まであずにゃんの気持ちに気づいてなかったよ…でもやっとわかった…」
梓「先輩…」
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:16:23.96
唯「みんななにしてんのー?」ガチャ
律「ゆ、唯!これはだな澪が」
澪「わ、私はただ歌詞の参考に」
紬「唯ちゃん構わないで続きを」
憂「……」
さわ子「若いっていいわねー」
唯「憂にさわちゃんまで!」
梓「な、なんで皆いるんですかあ…」
律「ゆ、唯!これはだな澪が」
澪「わ、私はただ歌詞の参考に」
紬「唯ちゃん構わないで続きを」
憂「……」
さわ子「若いっていいわねー」
唯「憂にさわちゃんまで!」
梓「な、なんで皆いるんですかあ…」
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:20:44.93
梓(せっかくいいところだったのに…台無し…)
律「しかし、キスまでするとは…」
澪「けっこう…いいかも」
律「は?」
紬「そ、それで唯ちゃん、なんて言おうとしてたの?」
憂「お姉ちゃん…まさか…」
唯「うん、皆にも聞いてもらいたいんだけどね?」
梓(唯先輩…?)
律「しかし、キスまでするとは…」
澪「けっこう…いいかも」
律「は?」
紬「そ、それで唯ちゃん、なんて言おうとしてたの?」
憂「お姉ちゃん…まさか…」
唯「うん、皆にも聞いてもらいたいんだけどね?」
梓(唯先輩…?)
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:27:04.84
唯「あずにゃんは、私に求めてたんだよね…もっと構ってほしいって!」
梓「え?ま、まあ…」
唯「だから私、あずにゃんと今までよりさらに仲良くします!
だから皆とはちょっとだけ距離が空いちゃうかも…」
律「…それは、ええと」
紬「お付き合いするってこと?」
唯「うーん、お付き合いっていうか…二人で一緒にお菓子食べたり遊びに行ったり…」
澪「それって付き合うっていうのか?」
梓(先輩…やっぱりわかってない…)
梓「え?ま、まあ…」
唯「だから私、あずにゃんと今までよりさらに仲良くします!
だから皆とはちょっとだけ距離が空いちゃうかも…」
律「…それは、ええと」
紬「お付き合いするってこと?」
唯「うーん、お付き合いっていうか…二人で一緒にお菓子食べたり遊びに行ったり…」
澪「それって付き合うっていうのか?」
梓(先輩…やっぱりわかってない…)
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:33:08.04
さわ子「でも唯ちゃん、あんたたちはキスまでしちゃったのよ?それがどういうことか分かる?」
唯「えへへ~仲良しの証拠だよね~」
さわ子「ダメだわこの子…」
紬「でも唯ちゃん…」
梓「もういいんですムギ先輩、私、本当の気持ち伝えられたし」
紬「梓ちゃん…」
唯「えへへ~仲良しの証拠だよね~」
さわ子「ダメだわこの子…」
紬「でも唯ちゃん…」
梓「もういいんですムギ先輩、私、本当の気持ち伝えられたし」
紬「梓ちゃん…」
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:45:53.31
梓「それに私、多少意味は違うけど唯先輩にわかってもらえたし、それでいいんです」
紬「まあ、梓ちゃんがいいなら…」
梓「それにあきらめたわけじゃないですし!」
憂「なにを?」
梓「う、憂…」
紬「まあ、梓ちゃんがいいなら…」
梓「それにあきらめたわけじゃないですし!」
憂「なにを?」
梓「う、憂…」
179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/03(金) 00:54:45.97
憂「梓ちゃんてお姉ちゃんのこと…そんな風に思ってたんだ…」
梓「あ、ええと…」
憂「私より先にキスするなんて…負けないから」
梓「え?ど、どういうこと?」
紬「あらあらまあまあ♪」
唯「あずにゃーん!皆でケーキ食べ行こう!私がおごってあげるから!」
梓「あ…はい!」
梓(まあいいか…唯先輩と一緒にいられるなら)
END
梓「あ、ええと…」
憂「私より先にキスするなんて…負けないから」
梓「え?ど、どういうこと?」
紬「あらあらまあまあ♪」
唯「あずにゃーん!皆でケーキ食べ行こう!私がおごってあげるから!」
梓「あ…はい!」
梓(まあいいか…唯先輩と一緒にいられるなら)
END
Entry ⇒ 2015.12.01 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
唯「わたしがオバさんになっても」
1: けいおんSS 2015/11/26(木) 20:57:05.47 ID:jnRZeB6L0
階段の先を見上げると、暗闇に雨粒が光って見えた。
地下鉄構内を出て地上に上がる。パラパラと降っている弱い雨。
同じ電車から降りた人たちは、次々と傘を開いて駅を出て行った。
あちゃー。朝、家を出るときは降ってなかったのにな。
天気予報はいつもロクに見ていない。
毎朝テレビをつけてるはずなのに、こういうことばっかり。
見ているようで肝心なことを見ていない。いつまで経っても成長しない。
ま、こんなこともあろうかといつも折畳み傘を入れっぱなしにしてるんですけどね!
してるよ成長、これぞ大人の証。
いぇい。勝利のぶい。
…
……あれ。
………ない。
しまった。
思い出した、昨日バックの整理をしたっけ。
地下鉄構内を出て地上に上がる。パラパラと降っている弱い雨。
同じ電車から降りた人たちは、次々と傘を開いて駅を出て行った。
あちゃー。朝、家を出るときは降ってなかったのにな。
天気予報はいつもロクに見ていない。
毎朝テレビをつけてるはずなのに、こういうことばっかり。
見ているようで肝心なことを見ていない。いつまで経っても成長しない。
ま、こんなこともあろうかといつも折畳み傘を入れっぱなしにしてるんですけどね!
してるよ成長、これぞ大人の証。
いぇい。勝利のぶい。
…
……あれ。
………ない。
しまった。
思い出した、昨日バックの整理をしたっけ。
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 20:59:39.92 ID:jnRZeB6L0
ああそーいや今日はイヤに肩が軽い気がしたんだ、と途方に暮れて夜空を見上げると、
イエローの水玉模様が現れた。
「傘、持っていかなかったろ」
「お、気が利くね~。りっちゃん隊員」
わたしは、ニッ、と笑顔を向ける。
「まぁな。唯隊員のことだからゼッタイ傘忘れてるって思ってな」
りっちゃんも、二ッ、と笑顔で応えた。
わたし、このりっちゃんの笑顔、好きなんだよね。
持つべきものは折畳み傘より頼りになるともだち。
いぇい。勝利のぶい。
イエローの水玉模様が現れた。
「傘、持っていかなかったろ」
「お、気が利くね~。りっちゃん隊員」
わたしは、ニッ、と笑顔を向ける。
「まぁな。唯隊員のことだからゼッタイ傘忘れてるって思ってな」
りっちゃんも、二ッ、と笑顔で応えた。
わたし、このりっちゃんの笑顔、好きなんだよね。
持つべきものは折畳み傘より頼りになるともだち。
いぇい。勝利のぶい。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:02:57.21 ID:jnRZeB6L0
「今日の戦果は?」
「上々なら雨の夜にひとりで帰ってくるわけないじゃん」
合コンのあった日、りっちゃんは必ずその日の首尾を聞いてくる。
わたしが苦い顔をしたときほど、好奇心満々で嬉しそうな口調のりっちゃんに、つっけんどんな返事をする。
ちいさな雨粒が傘に当たってぱらぱらと音を鳴らしていた。
「そりゃそうだ」
「まったく見る目ないよねー、こんな美女をほっとくなんて」
「美女、ねぇ…美女以前にねぇ…」とりっちゃんが渋い声を出す。
「何が言いたいのさ?」わたしは尖った声で答える。
「いつも言ってるだろ? いくら誘われたからって、三十路過ぎが二十代前半に混じって合コンはキツイ、って」
傘の下からりっちゃんのいじわるな笑顔が覗いた。
楽しそうな声だ。わたしがモテない話をするといっつもこんな調子。りっちゃんのクセに!
りっちゃんめがけてくるっと傘を回すと、水滴が四方に散らばった。
りっちゃんは傘を倒して飛沫を防ぐ。ちぇ。
別にそんなモテないわけじゃないし。彼氏だってちゃんといたことあるし…ここ三年はご無沙汰だけど。
大体りっちゃんも人のこと言えないじゃん! たまには浮いた話のひとつでも聞かせてみなよっ!
「上々なら雨の夜にひとりで帰ってくるわけないじゃん」
合コンのあった日、りっちゃんは必ずその日の首尾を聞いてくる。
わたしが苦い顔をしたときほど、好奇心満々で嬉しそうな口調のりっちゃんに、つっけんどんな返事をする。
ちいさな雨粒が傘に当たってぱらぱらと音を鳴らしていた。
「そりゃそうだ」
「まったく見る目ないよねー、こんな美女をほっとくなんて」
「美女、ねぇ…美女以前にねぇ…」とりっちゃんが渋い声を出す。
「何が言いたいのさ?」わたしは尖った声で答える。
「いつも言ってるだろ? いくら誘われたからって、三十路過ぎが二十代前半に混じって合コンはキツイ、って」
傘の下からりっちゃんのいじわるな笑顔が覗いた。
楽しそうな声だ。わたしがモテない話をするといっつもこんな調子。りっちゃんのクセに!
りっちゃんめがけてくるっと傘を回すと、水滴が四方に散らばった。
りっちゃんは傘を倒して飛沫を防ぐ。ちぇ。
別にそんなモテないわけじゃないし。彼氏だってちゃんといたことあるし…ここ三年はご無沙汰だけど。
大体りっちゃんも人のこと言えないじゃん! たまには浮いた話のひとつでも聞かせてみなよっ!
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:04:32.32 ID:jnRZeB6L0
「アラフォーのりっちゃんに言われたくないよっ」
「お前もあとちょっとで四捨五入すりゃ40だろが」
「ふふん。今夜は“24”って言ったら、だぁれひとり疑う様子すらありませんでした!」
りっちゃんは呆れたように大きくため息をついた。
「…10はサバ読みすぎ。つか、バレてたからダメだったんじゃねーの?」
「どーだろ? ま、いーんだよ。いい男を後輩ちゃんに譲ってあげるのも先輩の役目じゃん」
「はいはい」
合コン後はいっつもこうやって反省会。けれどその反省が次回に生きた試しはございません。
ま、いーけどね。くるくると傘を回しながら歩く。
水が飛ぶからやめろって、と言うりっちゃんを無視して、傘を回しながら歩いた。
「お前もあとちょっとで四捨五入すりゃ40だろが」
「ふふん。今夜は“24”って言ったら、だぁれひとり疑う様子すらありませんでした!」
りっちゃんは呆れたように大きくため息をついた。
「…10はサバ読みすぎ。つか、バレてたからダメだったんじゃねーの?」
「どーだろ? ま、いーんだよ。いい男を後輩ちゃんに譲ってあげるのも先輩の役目じゃん」
「はいはい」
合コン後はいっつもこうやって反省会。けれどその反省が次回に生きた試しはございません。
ま、いーけどね。くるくると傘を回しながら歩く。
水が飛ぶからやめろって、と言うりっちゃんを無視して、傘を回しながら歩いた。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:07:44.79 ID:jnRZeB6L0
玄関先から灯りが漏れている。
駅から家まで、歩いて五分。走れば三分。傘がなくてもなんとかならなくもない距離だけど、秋の夜寒を雨に打たれて風邪でも引いたら元も子もない。ありがとね、りっちゃん。
わたしとりっちゃん。
大学卒業後、地元で就職したのはけいおん部の中でわたし達二人だけ。
りっちゃんは毎日のようにウチに遊びにやってくる。
ウチの憂やりっちゃんとこの聡君が結婚してからは特に。
先に帰った方が料理作って待っていて、二人揃ったらお酒飲んでお風呂入ってそのまま寝て起きて出勤。
その繰り返し。
気分は学生時代そのまんま。独り身の女二人、気楽でいいね。
閉じた傘をふるふると振って雨粒を飛ばし、閉じずにそのままドア横に立てかける。
「今日は豆乳鍋だぞ。今夜はちょっと寒いし」
同じようにりっちゃんもふるふると傘を振って雨粒を飛ばし、ドア横に立てかけた。
「ありがと。悪いね、いつも」
「いーえ。こちらこそ。今日は早番だったからな」
りっちゃんが仰々しく頭を下げてみせる。
その拍子にわたしの赤色の傘がツーっと倒れて、りっちゃんの黄色の傘に寄りかかっていった。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:09:03.22 ID:jnRZeB6L0
扉を開けば発泡酒がずらっと並ぶ冷蔵庫。
「そういえばさぁ、澪ちゃん帰ってきてるって?」
たまにはちゃんとしたビールを飲みたいなぁと思いながら、発泡酒を手に取る。
酔ってしまえばなんだって一緒だもん。でもメーカーにはこだわるけど。
「あー、そうだっけ」
「もうすぐなんでしょ。澪ちゃん、二人目」
「あー、そうだっけ」
ぷしゅっと小気味よい音がキッチンに響いた。
テレビは、日本人テニスプレーヤーのなんとか大会決勝進出にはしゃいでいる町の人たちの様子を映していた。
この人、確かまだ二十歳そこそこだよね。立派だなぁまだ若いのに。わたしには関係ないけど。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:10:10.90 ID:jnRZeB6L0
「久しぶりに会えないか、って連絡きたんだけど」
「へー、そうなの」
りっちゃんはソファーに寝っ転がったままテレビに見入っている。
切り替わった画面に映る女子アナ。美人だけど、最近ではみんな似たような顔ばかりに見えて、誰が誰だかよくわからない。
りっちゃんがチャンネルを変えた。
「お。ムギんとこの会社。また株あがってる」
「ふぅん。景気いいんだ」
数字ばかりずらずら並んでいる画面を見ても何一つ面白いと思えない。
今後どれだけ歳を重ねても、こういうことに興味を持つ自分は想像できないなー。
りっちゃんは案外そうでもないらしく、たまーに日経とか読んでる。
一度教えてもらおうとしたことがあったけど、全く意味がわからず余計イヤになった。
とりあえずムギちゃんの会社の株価がやたらと大きな数字だったことだけは憶えてる。
結婚式豪華だったもんなぁ。政治家とか芸能人とか、人間国宝まで来てたし。
「へー、そうなの」
りっちゃんはソファーに寝っ転がったままテレビに見入っている。
切り替わった画面に映る女子アナ。美人だけど、最近ではみんな似たような顔ばかりに見えて、誰が誰だかよくわからない。
りっちゃんがチャンネルを変えた。
「お。ムギんとこの会社。また株あがってる」
「ふぅん。景気いいんだ」
数字ばかりずらずら並んでいる画面を見ても何一つ面白いと思えない。
今後どれだけ歳を重ねても、こういうことに興味を持つ自分は想像できないなー。
りっちゃんは案外そうでもないらしく、たまーに日経とか読んでる。
一度教えてもらおうとしたことがあったけど、全く意味がわからず余計イヤになった。
とりあえずムギちゃんの会社の株価がやたらと大きな数字だったことだけは憶えてる。
結婚式豪華だったもんなぁ。政治家とか芸能人とか、人間国宝まで来てたし。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:11:44.10 ID:jnRZeB6L0
ムギちゃんの結婚式。
あまりに大きく広すぎな会場、わたし達はその隅っこに四人固まって座った。
宮殿のような会場にはじめはテンション上がりまくりだったとわたしとりっちゃんも、知り合いがわたし達以外には誰もいなくて、あとは琴吹家関係のアッパークラスの人たちばかりだと気付いてからはずっと大人しくしてた。
澪ちゃんとあずにゃんは初めから緊張でガチガチで、澪ちゃんは自分の格好が場違いじゃないか何度も何度もわたしに尋ねてきた(わたしに聞かれてもわかるわけないじゃん)。とにかく小さくちょこんと座ってご馳走を食べた。
真ん中の一番きらびやかな席に座るムギちゃんは、あまりに遠かった。
新郎新婦の席に近づこうにもいろんな人が入れ替わり立ち替わり挨拶に来てたせいでなかなか近づけない。笑顔を貼り付けていろんな人に頭を下げ、手を振るムギちゃんはムギちゃんじゃなくて「名門琴吹家のお嬢様」だった。
ムギちゃんの家庭環境からすれば、結婚はプライベートな出来事じゃなくて仕事の一環みたいなものだったのかもしれない。隣の新郎さんが優しそうな人だったのは救いだった。
あまりに大きく広すぎな会場、わたし達はその隅っこに四人固まって座った。
宮殿のような会場にはじめはテンション上がりまくりだったとわたしとりっちゃんも、知り合いがわたし達以外には誰もいなくて、あとは琴吹家関係のアッパークラスの人たちばかりだと気付いてからはずっと大人しくしてた。
澪ちゃんとあずにゃんは初めから緊張でガチガチで、澪ちゃんは自分の格好が場違いじゃないか何度も何度もわたしに尋ねてきた(わたしに聞かれてもわかるわけないじゃん)。とにかく小さくちょこんと座ってご馳走を食べた。
真ん中の一番きらびやかな席に座るムギちゃんは、あまりに遠かった。
新郎新婦の席に近づこうにもいろんな人が入れ替わり立ち替わり挨拶に来てたせいでなかなか近づけない。笑顔を貼り付けていろんな人に頭を下げ、手を振るムギちゃんはムギちゃんじゃなくて「名門琴吹家のお嬢様」だった。
ムギちゃんの家庭環境からすれば、結婚はプライベートな出来事じゃなくて仕事の一環みたいなものだったのかもしれない。隣の新郎さんが優しそうな人だったのは救いだった。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:13:15.57 ID:jnRZeB6L0
結局ムギちゃんに声をかけられず、式が終わって四人、帰りに白木屋で飲んだ。
披露宴の料理はおいしかったけど、名前も知らない横文字のご馳走より、チェーンの居酒屋のホッケの方がわたしは好きだ。
それはきっとムギちゃんだって同じはずだ。
骨についた身を残さず余さず丁寧に箸でより分け口に運び、満面の笑みで頬張ってはハイボールのグラスを傾けた彼女のことを思い出していた。
みんなも同じことを考えてたんだと思う。
友達が、ずっとそばにいると思ってた友達が、実は全然別の世界の人だったって知らされて、
お祝いしなきゃいけないのになんだか寂しさの方がずっとずっと強くて、
四人で終電まで飲んだ。
『来てくれてありがとう。声かけられなくてごめんね。』
次の朝届いたムギちゃんからのメール。
今度また飲もうね、って返事をして以来、ムギちゃんとお酒を飲む機会はない。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:15:38.08 ID:jnRZeB6L0
作り物の笑い声が耳に入ってふと我に帰る。
いつの間にか番組が変わってた。バラエティになってる。
喉の渇きを感じて発泡酒に口をつけた。
お風呂上りの乾いた身体に、アルコールが染み込んでいく。
発泡酒はひと口目がいちばんおいしい。一日の最後のしあわせ。
株価がどうのこうのはわかんないけど、消費税が上がってビールが買いづらくなるのだけは実に困る。
ムギちゃんにお願いしたら、なんとかしてくれるだろうか消費税。
いや、ほんとになんとかなりそうだから怖い琴吹家。
「それでさ。りっちゃん、時間とれない?」
「なにが?」
「澪ちゃん」
「あー、そうだなぁ。考えとく」
テレビを消して、りっちゃんが立ち上がった。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:17:29.79 ID:jnRZeB6L0
「帰るわ」
「珍しいね。泊まってけばいいのに」
「いや、今日はやめとく。あんまり帰らないとうるさいからさ。親も、聡も」
「車で送るよ。雨降ってるし」
雨の音は聞こえない。
降っているかもしれないし、やんでいるかもしれない。
口に出して言ったことはないけれど、
りっちゃんが帰ると言ったときは引き留めるのはやめようと決めていた。
「ビール。飲んでるだろ」
「平気だよ。ひと口しか飲んでないもん」
「ハハ…だとしてもダメだよ。化粧落としちゃったろ? 人前に出られる顔じゃねーつーの」
「大丈夫だよ。眉毛だけ描けばなんとかなるよ!」
「そういう問題じゃねーって。自分の年齢わかってんのか?」
りっちゃんは軽く笑いながら部屋着のパーカーを脱いで丁寧にたたむと、コートを羽織ってバッグを手に取った。
「珍しいね。泊まってけばいいのに」
「いや、今日はやめとく。あんまり帰らないとうるさいからさ。親も、聡も」
「車で送るよ。雨降ってるし」
雨の音は聞こえない。
降っているかもしれないし、やんでいるかもしれない。
口に出して言ったことはないけれど、
りっちゃんが帰ると言ったときは引き留めるのはやめようと決めていた。
「ビール。飲んでるだろ」
「平気だよ。ひと口しか飲んでないもん」
「ハハ…だとしてもダメだよ。化粧落としちゃったろ? 人前に出られる顔じゃねーつーの」
「大丈夫だよ。眉毛だけ描けばなんとかなるよ!」
「そういう問題じゃねーって。自分の年齢わかってんのか?」
りっちゃんは軽く笑いながら部屋着のパーカーを脱いで丁寧にたたむと、コートを羽織ってバッグを手に取った。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:18:12.45 ID:jnRZeB6L0
「次、いつ来る?」
「明日はちょっと遅いかも」
玄関のドアを開けると、まだ雨がかすかに降っている。
どうせ毎日ウチに来るってわかってても、次はいつなのか必ず聞く。
「わたし、明日早番なんだよね。なんか作って待ってるよ」
「悪いな。また連絡する。それじゃ」
「筑前煮でいいかな」
「おっけー」
りっちゃんは左手の親指と人指し指で丸を作ってみせると、傘を広げて歩いて行く。
暗闇に姿が見えなくなるまで見送り、わたしは扉を閉めて鍵をかけた。
「明日はちょっと遅いかも」
玄関のドアを開けると、まだ雨がかすかに降っている。
どうせ毎日ウチに来るってわかってても、次はいつなのか必ず聞く。
「わたし、明日早番なんだよね。なんか作って待ってるよ」
「悪いな。また連絡する。それじゃ」
「筑前煮でいいかな」
「おっけー」
りっちゃんは左手の親指と人指し指で丸を作ってみせると、傘を広げて歩いて行く。
暗闇に姿が見えなくなるまで見送り、わたしは扉を閉めて鍵をかけた。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:20:17.74 ID:jnRZeB6L0
一人きりになると、時計の針の音がやけにうるさく聞こえるのはなんでなんだろう。
半分以上残った発泡酒を一気に飲み干すと、洗面所に足を向けた。
さっと軽く眉だけ描いて、じっと鏡の中を見つめる。
ほのかに赤らんだ顔をしたわたしがそこにいる。
ほら。いけるじゃん。
今日だって24歳でまかり通ったし、こないだ河原町で声かけてきたお兄さんには女子大生に間違われたし、街を歩けば未だにちょこちょこナンパもされる。
今日も仕事でポカミスやらかして、“平沢お前、新人みたいなミスするなよ”って上司に…
いろんな意味で実年齢よりはゼッタイ若いはずのわたし。
わかいわかい!
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:21:15.95 ID:jnRZeB6L0
…
若さにこだわってる時点で若くないか。
…あ、小じわ発見。
げ、枝毛も見つけちゃった。
わわ、こんなとこにシミ出来てる…
毛穴が……うん。何も見なかったことにしよう。見なかった。なーんにも見なかった。
あんまり鏡に顔を近づけると、見たくないものばかり見つけちゃう。あーイヤだ。
お肌も人生も曲がり角。
平沢唯、独身、非処女、34歳(あともうちょいで35歳)。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:23:16.40 ID:jnRZeB6L0
★★
天井をぐるんぐるんとプロペラが回っている。
随分大きな窓から燦々と太陽が降り注ぐ、秋の午後。
昔よりちょっとだけ髪の短くなった澪ちゃんが、
「今日はちょっとあったかいな」と言いながらストールを外した。
「どのくらいだっけ」
「八ヶ月」
「あれ? あずにゃんの結婚式以来会ってなくなかった?」
「ああ、お腹のことかと思った。会うのは梓の結婚式以来だな」
澪ちゃんは笑いながら目を細めたけど、目尻に皺なんて全然ない。
陽に照らされてきらきらしてる黒髪は相変わらず綺麗で、
ゆったりしたグレーのマタニティワンピースがとてもよく似合ってる。
天井をぐるんぐるんとプロペラが回っている。
随分大きな窓から燦々と太陽が降り注ぐ、秋の午後。
昔よりちょっとだけ髪の短くなった澪ちゃんが、
「今日はちょっとあったかいな」と言いながらストールを外した。
「どのくらいだっけ」
「八ヶ月」
「あれ? あずにゃんの結婚式以来会ってなくなかった?」
「ああ、お腹のことかと思った。会うのは梓の結婚式以来だな」
澪ちゃんは笑いながら目を細めたけど、目尻に皺なんて全然ない。
陽に照らされてきらきらしてる黒髪は相変わらず綺麗で、
ゆったりしたグレーのマタニティワンピースがとてもよく似合ってる。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:24:07.98 ID:jnRZeB6L0
「唯は梓とは連絡とってるのか?」
「んーときどき。会ってはいないけど。ライブやらなんやらで全国を飛び回って忙しいみたい」
たんぽぽコーヒーを飲みながら、澪ちゃんは遠い目をして窓の外を眺めた。
「そっかぁ。すごいよなぁ、梓」
「放課後ティータイムの中から一人だけでもプロに出たんだからね」
ばんばんテレビに出たり、CDが売れたり、というわけではないと言っても、音楽で生計を立ててることに間違いないもんね。
わたしも一緒に注文してみたけど、別においしくもなければ不味くもないなぁ、たんぽぽコーヒー。
「んーときどき。会ってはいないけど。ライブやらなんやらで全国を飛び回って忙しいみたい」
たんぽぽコーヒーを飲みながら、澪ちゃんは遠い目をして窓の外を眺めた。
「そっかぁ。すごいよなぁ、梓」
「放課後ティータイムの中から一人だけでもプロに出たんだからね」
ばんばんテレビに出たり、CDが売れたり、というわけではないと言っても、音楽で生計を立ててることに間違いないもんね。
わたしも一緒に注文してみたけど、別においしくもなければ不味くもないなぁ、たんぽぽコーヒー。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:26:37.95 ID:jnRZeB6L0
大学を卒業して一旦は一般企業に就職したあずにゃんが、本格的に音楽の道を目指して会社を辞めたのは働き始めて三年目のことだった。
あずにゃんは東京で働いてたから、その頃はもう全然会ってなかったけど、どんなに仕事が忙しくっても毎日ギター触ってたんだって。すごいね。わたし、卒業してからはろくにギー太、弾いてあげてない。
組んだバンドは放課後ティータイムと同じ五人編成。結婚相手は同じバンドのギタリスト。ギタリスト同士のカップルかぁ。
もし放課後ティータイムでプロ目指してたら、わたしがあずにゃんと結婚してたかもねー。なんちゃって。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:28:48.74 ID:jnRZeB6L0
「そっちの方は順調なの?」
「そっち?」
「お腹」
「ああ、最近よく蹴るんだよ。元気そのもの」
「そっか。今度もこっちで産むんだ」
「うん。最初と同じところの方が安心できるだろ。憂ちゃんもいるし。
上の子の面倒を親が見てくれるし、旦那といるよりもよっぽど助かるよ」
そう言って笑う澪ちゃんは、なんだか全然知らない人に見えた。
ゆっくりとお腹をさする。そういえば澪ちゃんとこの上の子の名前なんだっけ?
えーっと確か女の子で…ああ、スケート選手みたいな名前だっけ。好きなんだけどなぁ子供。でも顔も思い出せない。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:29:30.20 ID:jnRZeB6L0
憂は、国立大学の看護学科に進学した。
大学が離れ離れなのは寂しかったけど、憂が自分で考えて選んだ将来の夢を応援したかった。
そして大学卒業した後、希望を叶えて桜ヶ丘の病院の看護婦さんになり、数年してそこのお医者さんと結婚した。
ご近所さんだけど、家は別々。そりゃ結婚すればね。子供は一人。
そうそう。最近じゃ、憂と間違われることもなくなったなー。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:32:10.17 ID:jnRZeB6L0
「しあわせそうだね」
思わず口に出た言葉が、嫌味っぽかったんじゃないかと気付いたけどもう遅い。
「まぁ…それなりに」
澪ちゃんはあまり気にしてないみたいだった。と思う。たぶん。
「ところで唯。律のことなんだけど」
「なに」
澪ちゃんから笑顔が消えて声のトーンが下がる。
その瞬間、言われることになんとなく想像がついて、白けた気分で窓の外に視線を泳がせた。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:33:26.04 ID:jnRZeB6L0
「アイツ、あんまり家にも帰ってないんだろ。友達の家に入り浸りだって律ん家のオバさんから聞いてさ。唯のことだと思って。迷惑かけてゴメンな」
「なんで澪ちゃんが謝るのさ」
等間隔に植えられたイチョウの木は黄色と緑のグラデーションがかった色合いを見せている。
一昨日、昨日、今日、明日。
一日一日の変化は小さくて、何も変わっていないように思えるのに、
いつの間にか葉色はすべて黄色に変わり、
もうしばらくすれば落葉して歩道を全て黄色に埋め尽くす。
「え、あ…まぁ。ともかくあんまり甘やかさないで、言うときは言わないとダメだぞ」
「言うって何を」
「なんで澪ちゃんが謝るのさ」
等間隔に植えられたイチョウの木は黄色と緑のグラデーションがかった色合いを見せている。
一昨日、昨日、今日、明日。
一日一日の変化は小さくて、何も変わっていないように思えるのに、
いつの間にか葉色はすべて黄色に変わり、
もうしばらくすれば落葉して歩道を全て黄色に埋め尽くす。
「え、あ…まぁ。ともかくあんまり甘やかさないで、言うときは言わないとダメだぞ」
「言うって何を」
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:34:05.80 ID:jnRZeB6L0
窓の外から視線を戻して澪ちゃんを見た。
わざと素っ気ない口調で喋ったセリフの効果があったのか、ちょっと気圧されたのか、ひるんでつまらせながらも澪ちゃんは続けた。
「いや…帰る家があるんだからちゃんと帰れ、って。いつまでも学生じゃないんだから。いい大人だろ。アイツも」
「大人のすることにケチつけるのは大人のやることなの?
わたしはそうは思わないなぁ」
今度は明らかに不愉快な顔になって黙り込む澪ちゃん。
顔に出やすい性格も、怒ったら黙る性格も変わってないね。
わざと素っ気ない口調で喋ったセリフの効果があったのか、ちょっと気圧されたのか、ひるんでつまらせながらも澪ちゃんは続けた。
「いや…帰る家があるんだからちゃんと帰れ、って。いつまでも学生じゃないんだから。いい大人だろ。アイツも」
「大人のすることにケチつけるのは大人のやることなの?
わたしはそうは思わないなぁ」
今度は明らかに不愉快な顔になって黙り込む澪ちゃん。
顔に出やすい性格も、怒ったら黙る性格も変わってないね。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:35:59.69 ID:jnRZeB6L0
とは言っても久しぶりに大事な友達と会ったのに、イヤ~な感じになるのは耐えられない。
胎教?にもよくないだろうしね。
「わたしも親がドイツに行っちゃったし、憂も結婚したし、ずっと一人で退屈なんだよ。
ほら、ウチの方が駅に近くてりっちゃんも便利だって言うし。別に迷惑でもなんでもないよ」
「唯が良くても律にはよくないだろ」
「そうやって勝手にりっちゃんのこと決めつけるの、どうなのかなぁ」
ダメだ、我慢できない。
「…田井中のオバさんも聡も心配してる」
りっちゃん。来なくて正解だったね。
「聡くんが結婚してお嫁さんもいて子供もできて、りっちゃん実家に居づらいんでしょ」
「それじゃ、まるでオバさんや聡が律を追い出してるみたいじゃないか!」
胎教?にもよくないだろうしね。
「わたしも親がドイツに行っちゃったし、憂も結婚したし、ずっと一人で退屈なんだよ。
ほら、ウチの方が駅に近くてりっちゃんも便利だって言うし。別に迷惑でもなんでもないよ」
「唯が良くても律にはよくないだろ」
「そうやって勝手にりっちゃんのこと決めつけるの、どうなのかなぁ」
ダメだ、我慢できない。
「…田井中のオバさんも聡も心配してる」
りっちゃん。来なくて正解だったね。
「聡くんが結婚してお嫁さんもいて子供もできて、りっちゃん実家に居づらいんでしょ」
「それじゃ、まるでオバさんや聡が律を追い出してるみたいじゃないか!」
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:38:43.04 ID:jnRZeB6L0
前の席の女の子たちが、ぎょっとしてこっちを振り向いた。
わたしはヘラヘラと愛想笑いを浮かべて頭を下げてみせる。
「澪ちゃん、落ち着いて。別にそんなこと言ってるわけじゃなくて。
さっきも言ったけどもうりっちゃんだっていい大人じゃん。やりたいようにさせといたらいいんじゃないかな」
「そんなこと…お前ら自分の年齢考えたことあるのか?
これからの人生どうするつもりだよ。結婚は? 出産は?
先のこともロクに考えずにその日暮らしでブラブラしていい年になっても家族や友達に心配かけて…一人で生きてるつもりなのか?!」
別に間違ったことを言われてるとは思わない。
世間の人はみんなそう言う。
「大体律は就職を決めるときだって……」
「え、なに? りっちゃん就活は割と頑張ってたじゃん。内定もいくつか取れてたし」
「そうじゃない。最終的に地元に帰る、って決めた理由が……まぁいいよ、この話は」
あ、そ。
いや、こうしてはっきり口に出して言ってくれるだけ澪ちゃんは正直だからマシだ。
ほとんどの人はこういう“世間の常識”とぴったり寄り添った考えをしているくせに、
それをちっとも口には出さず、わたし達に理解のあるフリをしながら遠巻きにどこか哀れんだ視線を投げかけてくる。
わたしはヘラヘラと愛想笑いを浮かべて頭を下げてみせる。
「澪ちゃん、落ち着いて。別にそんなこと言ってるわけじゃなくて。
さっきも言ったけどもうりっちゃんだっていい大人じゃん。やりたいようにさせといたらいいんじゃないかな」
「そんなこと…お前ら自分の年齢考えたことあるのか?
これからの人生どうするつもりだよ。結婚は? 出産は?
先のこともロクに考えずにその日暮らしでブラブラしていい年になっても家族や友達に心配かけて…一人で生きてるつもりなのか?!」
別に間違ったことを言われてるとは思わない。
世間の人はみんなそう言う。
「大体律は就職を決めるときだって……」
「え、なに? りっちゃん就活は割と頑張ってたじゃん。内定もいくつか取れてたし」
「そうじゃない。最終的に地元に帰る、って決めた理由が……まぁいいよ、この話は」
あ、そ。
いや、こうしてはっきり口に出して言ってくれるだけ澪ちゃんは正直だからマシだ。
ほとんどの人はこういう“世間の常識”とぴったり寄り添った考えをしているくせに、
それをちっとも口には出さず、わたし達に理解のあるフリをしながら遠巻きにどこか哀れんだ視線を投げかけてくる。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:39:41.40 ID:jnRZeB6L0
「わたしはさ、律のことも唯のことも心配なんだ」
澪ちゃんの声がすっごく遠く遠くから聞こえる。
昔はすぐ隣からベースの音が聴こえてたのに。
「憂ちゃんもさ。すっごく心配してたぞ。唯が将来のことどう考えてるのかわかんない、って」
憂…そんなこと澪ちゃんに相談してたの。
直接わたしに言えばいいのに。そんなことも言えなくなってのかな。わたし達。
結婚して、子供ができて、別々に生活するようになったら家族じゃなくなっちゃうのかな。
憂。わたしは…それなりに楽しくやってるよ。
仕事もまぁ、失敗もするけどそこそこうまくやれてるし。
不安がない、って言ったら嘘になるけど、欲を言えばきりがないし。
憂や澪ちゃんや…他のみんなみたいに立派じゃないかもしれないけど。
澪ちゃんの声がすっごく遠く遠くから聞こえる。
昔はすぐ隣からベースの音が聴こえてたのに。
「憂ちゃんもさ。すっごく心配してたぞ。唯が将来のことどう考えてるのかわかんない、って」
憂…そんなこと澪ちゃんに相談してたの。
直接わたしに言えばいいのに。そんなことも言えなくなってのかな。わたし達。
結婚して、子供ができて、別々に生活するようになったら家族じゃなくなっちゃうのかな。
憂。わたしは…それなりに楽しくやってるよ。
仕事もまぁ、失敗もするけどそこそこうまくやれてるし。
不安がない、って言ったら嘘になるけど、欲を言えばきりがないし。
憂や澪ちゃんや…他のみんなみたいに立派じゃないかもしれないけど。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:41:13.53 ID:jnRZeB6L0
「実はな、今日は唯に大事な話があったんだ」
よく見ると澪ちゃんの目頭が潤んで赤い。
これまでの会話のどこにそんな気持ちになるポイントがあったのかわたしには想像もつかない。
本気で心配してる? そう思うと心の中がどんどん冷え冷えとしていく。
フジツボに怯えて泣いていた、あの可愛い女子高生は今目の前にはいない。
「唯、結婚しないか」
あら? わたし、プロポーズされちゃった。
困っちゃうな。
あーなんか寒いや。
片手をあげ、店員さんを呼び止めると、ホットコーヒーをブラックで注文した。
よく見ると澪ちゃんの目頭が潤んで赤い。
これまでの会話のどこにそんな気持ちになるポイントがあったのかわたしには想像もつかない。
本気で心配してる? そう思うと心の中がどんどん冷え冷えとしていく。
フジツボに怯えて泣いていた、あの可愛い女子高生は今目の前にはいない。
「唯、結婚しないか」
あら? わたし、プロポーズされちゃった。
困っちゃうな。
あーなんか寒いや。
片手をあげ、店員さんを呼び止めると、ホットコーヒーをブラックで注文した。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:56:23.52 ID:jnRZeB6L0
★★
幼馴染に会えなくてさぞ残念がっているだろうと、同じ名前の日本酒を手土産に帰って来たわたしを、エプロン(憂の使ってたやつ)姿のりっちゃんが出迎えてくれた。
「なんだよその気遣い」
「いらないの?」
「飲みます。ありがとうございます」
「素直でよろしい」
両手を合わせてお辞儀をするりっちゃんに、
胸(高校生のときよりおっぱいは随分大きくなった)を張りながらお酒を差し出す。
さも厳かに、といった調子でりっちゃんが受け取り、口角をあげてニッと笑う。
ニッ。
わたしも笑う。
りっちゃんの表情は高校時代から更新されてない。単にずっと一緒にいるから変わってない気がするだけなのか、それともりっちゃん自身が成長してないからか。両方かな、たぶん。
幼馴染に会えなくてさぞ残念がっているだろうと、同じ名前の日本酒を手土産に帰って来たわたしを、エプロン(憂の使ってたやつ)姿のりっちゃんが出迎えてくれた。
「なんだよその気遣い」
「いらないの?」
「飲みます。ありがとうございます」
「素直でよろしい」
両手を合わせてお辞儀をするりっちゃんに、
胸(高校生のときよりおっぱいは随分大きくなった)を張りながらお酒を差し出す。
さも厳かに、といった調子でりっちゃんが受け取り、口角をあげてニッと笑う。
ニッ。
わたしも笑う。
りっちゃんの表情は高校時代から更新されてない。単にずっと一緒にいるから変わってない気がするだけなのか、それともりっちゃん自身が成長してないからか。両方かな、たぶん。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:58:48.43 ID:jnRZeB6L0
今日は水炊きだぞ、と言いながらりっちゃんが鍋を運んでくる。
おおっ、これならお酒も進むね。さいこう!
昔に比べお肉が減りお野菜が増えた鍋をつつきながら、りっちゃんが仕事の愚痴をこぼす。
百貨店の外商さんともなると、いろいろ大変らしいです。
愚痴、と言ってもりっちゃんだから、上手にユーモアを交えつつ面白おかしく喋るので、聞いてるこっちもあんまりストレスがたまらない。
でも要所要所を聞いていると、りっちゃんの会社はどうやらあんまり安泰ではなさそう。ま、りっちゃんなら会社潰れて転職してどこいっても、それが何の仕事でもそれなりにそつなくこなしそうだけどね。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 21:59:33.70 ID:jnRZeB6L0
「それでさぁ、埒があかないから言ってやったんだよ。文句があるなら日本語で言え、って」
「通訳の人もいたんでしょ?」
「いるけどさ…都合が悪いことは訳さないんだよ」
最近は外国の会社との取引担当にさせられたらしく、いろいろ苦労してるみたい。
言葉が違うとコミュニケーションをとるのは大変だろうな。
同じ日本語喋っててもお互い理解し合うのが難しいのに。
いや、相手のことだけじゃなくて自分のことを自分で理解するのだって難しい。
わたしはどこまでわたし自身のことをわかっているんだろう。
「通訳の人もいたんでしょ?」
「いるけどさ…都合が悪いことは訳さないんだよ」
最近は外国の会社との取引担当にさせられたらしく、いろいろ苦労してるみたい。
言葉が違うとコミュニケーションをとるのは大変だろうな。
同じ日本語喋っててもお互い理解し合うのが難しいのに。
いや、相手のことだけじゃなくて自分のことを自分で理解するのだって難しい。
わたしはどこまでわたし自身のことをわかっているんだろう。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:00:47.80 ID:jnRZeB6L0
「りっちゃん」
「どした?」
りっちゃんはちっとも澪ちゃんのことを聞いてこない。
まるでわたしと澪ちゃんが今日会っていたことがなかったみたいに。
「なんで避けるの?」
「…」
黙っちゃうんだ。こういうとこわかりやすいなぁ。
面倒ごとが嫌いな割に、ごまかすのは下手だよね。
「いや、唯が何も言わないから」
わたしもわたしで、言いたいことがあるならはっきり言えばいいと考えながらも、
りっちゃんに聞かれなかったら言う気もなかった。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:01:23.48 ID:jnRZeB6L0
りっちゃんは黙ったまま両手を合わせてごちそうさますると、
ヒョイと鍋を持ち上げて台所に運んで行った。
この調子だとまた帰るとか言い出しそうだな。
「りっちゃん、洗い物しとくよ。先にお風呂入ってきちゃって」
「いいよ。今日はかえ…」
「明日休みだよね。わたしもなの。DVD借りてきたんだけど夜通し見ようよ」
「夜更かしは肌が荒れるぞ」
そう言いながらりっちゃんは鍋の残りをシンクの三角コーナーにざっと流した。
ヒョイと鍋を持ち上げて台所に運んで行った。
この調子だとまた帰るとか言い出しそうだな。
「りっちゃん、洗い物しとくよ。先にお風呂入ってきちゃって」
「いいよ。今日はかえ…」
「明日休みだよね。わたしもなの。DVD借りてきたんだけど夜通し見ようよ」
「夜更かしは肌が荒れるぞ」
そう言いながらりっちゃんは鍋の残りをシンクの三角コーナーにざっと流した。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:02:10.26 ID:jnRZeB6L0
「バックトゥーザフューチャーだよ」
「観たことあるよ、それ」
「わたしも、面白いよね」
「1と2はな」
スポンジに洗剤をつけて鍋を洗うりっちゃん。
「りっちゃんはさぁ」
「んー」
きゅっきゅっと音を立てながら鍋をこする。
「過去に戻りたい、って思ったことある?」
「なくはないかなぁ…」
鍋をひっくり返して裏も丁寧に。
「いつ? いつに戻りたい?」
「そうだなぁ…」
りっちゃんは鍋をこする手を休め、うーんとうなりだした。
「観たことあるよ、それ」
「わたしも、面白いよね」
「1と2はな」
スポンジに洗剤をつけて鍋を洗うりっちゃん。
「りっちゃんはさぁ」
「んー」
きゅっきゅっと音を立てながら鍋をこする。
「過去に戻りたい、って思ったことある?」
「なくはないかなぁ…」
鍋をひっくり返して裏も丁寧に。
「いつ? いつに戻りたい?」
「そうだなぁ…」
りっちゃんは鍋をこする手を休め、うーんとうなりだした。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:02:43.00 ID:jnRZeB6L0
わたしならいつだろう。
やっぱり高校時代? それとも大学?
確かに楽しかったけど、じゃあ今がそんなに嫌かと聞かれたらそれほどでもないとも思う。
…案外今が一番楽しいときなのかもしれない。
「まーでも、別にいいかな。過去に戻らなくても。でも・・・」
「でも?」
「未来に行くのは怖い」
りっちゃんはそれだけ言うと、水を出して泡だらけの鍋を洗い流し始めた。
やっぱり高校時代? それとも大学?
確かに楽しかったけど、じゃあ今がそんなに嫌かと聞かれたらそれほどでもないとも思う。
…案外今が一番楽しいときなのかもしれない。
「まーでも、別にいいかな。過去に戻らなくても。でも・・・」
「でも?」
「未来に行くのは怖い」
りっちゃんはそれだけ言うと、水を出して泡だらけの鍋を洗い流し始めた。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:03:31.11 ID:jnRZeB6L0
「りっちゃんってさ。将来のこと考えてるの?」
しまったバカなことを聞いたと思った。
りっちゃんがいちばん聞かれたくない言葉だって知ってるから。
それはわたしだってそう。
わたし達の間でそれは禁句のはずだった。
仕事のこととか。
家庭のこととか。
結婚とか出産とか。年金とか保険とか親の介護とか。うんぬん。
女が一人で生きていくには、まだまだ世の中メンドクサイことがいっぱいです。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:04:14.44 ID:jnRZeB6L0
時々自分たちを卑下したように冗談めかして話すことはあっても、本当に真剣に先のことなんて考えようとしなかった、考えるのが怖かった。
澪ちゃんもムギちゃんもあずにゃんも憂も、
みんなちゃんと家庭を持ったり、夢を叶えたりして“立派な”大人になっていくのを見て、
不安にならないわけないじゃん。
それでもそんな不安なんて微塵もないように振舞って、
わたし達だけはなんとなくダラダラ昔のよしみでこうしてつるんで、
ずっと昔から変わらない二人の振りをし続けていたかった。
澪ちゃんもムギちゃんもあずにゃんも憂も、
みんなちゃんと家庭を持ったり、夢を叶えたりして“立派な”大人になっていくのを見て、
不安にならないわけないじゃん。
それでもそんな不安なんて微塵もないように振舞って、
わたし達だけはなんとなくダラダラ昔のよしみでこうしてつるんで、
ずっと昔から変わらない二人の振りをし続けていたかった。
36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:04:54.53 ID:jnRZeB6L0
「結婚してみようかと思って」
ジャージャーとうるさい水音のせいで聞こえないのか、りっちゃんはちっとも答えない。
「澪ちゃんがいい人紹介してくれるんだってさ」
りっちゃんはやけに丁寧に鍋を洗う。
あの頃みたいに五人一緒じゃないけれど、りっちゃんがいれば毎日楽しい。
でも周りはわたし達がこのまま二人でい続けることを果たして許してくれるのかな。
わたしにはその確信もないし、逆らってまで今の生活を続ける自信もない。
りっちゃんは? どう思う?
37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:05:51.27 ID:jnRZeB6L0
水音が止まった。
「唯がいいならさ」
布巾を手に取り、鍋の外側を拭いていく。
「してみれば、結婚」
「りっちゃん」
「なに」
「だいっキライ」
38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:07:56.13 ID:jnRZeB6L0
いつまでもこっちを見ようとしないりっちゃんにひと言投げつけて、わたしはそのまま家を飛び出した。
追いかけてきてほしかったのかもしれないし、わたしが出てったらりっちゃんは勝手に帰るわけにいかないだろうという計算もあった。
夜の街を当てもなく歩き続けて、橋の真ん中で立ち止まった。
見下ろした川の流れは暗くてよく見えないけれど、さらさらと流れる音は聞こえた。
見知った街なのに、今自分がどこにいるのかわからなくって、
果たしてこのまま家に帰れるのか不安がよぎる。
いつまでも同じところにいられないのか、
同じところにいるつもりが知らない間に別のところにきてしまったのか、
今が一体そのどちらなのかわからない。
心も身体もなにもかも、迷子だ。
暗闇に目が慣れて、川の流れが見え始めた。
さらさらと水が流れていく。
いい年こいた女が、ひとりぼっちで真夜中に橋の真ん中から川を見下ろしているのはわかる。
ずっと続くものなんてないんだ、という随分昔に経験した当たり前のことを思い出しながら、足元の石ころを拾い上げ、夜の川に放り投げた。
39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:09:05.00 ID:jnRZeB6L0
しばらくボケーっと川の流れを見ているうちにいつの間にか隣にりっちゃんが立っていて、ぎゅっとわたしの左手を握り、そのまま引っ張り家まで連れて帰ってくれた。
りっちゃんは笑いもせず、泣きもせず、怒っているのかもしれないけれど何も言わず、ただ手を握って家まで一緒に帰った。
りっちゃんの手。思ったより冷たいね。
手をつなぐのはいつ以来だろう。思い出せない。
迷子のわたしを家まで送り届けると、りっちゃんはそのまま出て行った。
別れる前にもう一度言ってやった。
「だいっキライ」
40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:09:42.53 ID:jnRZeB6L0
りっちゃんは背中を向けたまま何も言わずに出て行った。
ああ、次いつ来るか、聞くの忘れちゃった。
次は、
あるんだろうか。
見上げた夜空に星が二つ、瞬いていた。
41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:13:38.74 ID:jnRZeB6L0
★★
-2ヶ月後-
それから。
2ヶ月の間、りっちゃんは一度もウチに来なかった。
高校、大学、就職。地元に帰ったわたし達だけは、離れることなくふたりずっと一緒だった。
かれこれ20年近くもずっと一緒だった。
昔は幼馴染のりっちゃんと澪ちゃんの二人の付き合いの長さに引け目を感じることがあったけど、今となってはもうそんなこと気にすることも少なくなった。
りっちゃんと出会って以来、2ヶ月も顔も見ない声も聞かないなんて初めてだ。
会わない間にわたしは一つ歳をとり、四捨五入すればめでたく四十路、これからアラサーじゃなくてアラフォーに突入しちゃったわけだけれど、その記念すべき日にも連絡はなく。めでたくもないから別にいーんけどさっ。ふん。
ヘンな別れ方をして、意地を張ってるつもりじゃなかったけど、こっちからは電話もメールもしなかった。
りっちゃんからも連絡はない。
-2ヶ月後-
それから。
2ヶ月の間、りっちゃんは一度もウチに来なかった。
高校、大学、就職。地元に帰ったわたし達だけは、離れることなくふたりずっと一緒だった。
かれこれ20年近くもずっと一緒だった。
昔は幼馴染のりっちゃんと澪ちゃんの二人の付き合いの長さに引け目を感じることがあったけど、今となってはもうそんなこと気にすることも少なくなった。
りっちゃんと出会って以来、2ヶ月も顔も見ない声も聞かないなんて初めてだ。
会わない間にわたしは一つ歳をとり、四捨五入すればめでたく四十路、これからアラサーじゃなくてアラフォーに突入しちゃったわけだけれど、その記念すべき日にも連絡はなく。めでたくもないから別にいーんけどさっ。ふん。
ヘンな別れ方をして、意地を張ってるつもりじゃなかったけど、こっちからは電話もメールもしなかった。
りっちゃんからも連絡はない。
42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:15:12.90 ID:jnRZeB6L0
お見合い、なんてちゃんとした形式でやるのは初めてだったけど、相手はそんな悪くない…というかわたしの年齢とか学歴とか職歴とか考えたら申し分ない人だった。
憂の旦那さんの学生時代の同級生だって。要はお医者様。やったね玉の輿。
イケメンじゃないけど顔は悪くないし、話もそれなりに上手いし、音楽もケッコー詳しくて好きだっていうバンドの趣味も悪くないし、3回くらいデートしてみたら思ったより楽しくて、割りと盛り上がった。
43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:16:03.50 ID:jnRZeB6L0
「ねぇ澪ちゃん。澪ちゃんはさ。結婚してよかった、って思う?」
はじめのお見合いの後、澪ちゃんに聞いてみた。
澪ちゃんの旦那さんはえーっと確か会社の先輩さんだ。
就職で初めての一人暮らし。初めての東京。
そこで澪ちゃんの心の支えになってあげられたのがその人だった…のかな?
学生時代の澪ちゃんしか知らないと、男の人と付き合ってる姿が想像しづらい。
44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:17:04.80 ID:jnRZeB6L0
澪ちゃんは少し間を置いて答えた。
「よかったよ。そうに決まってるじゃないか。…今のわたしにとって一番大事なのは、家族だよ。そんなの…当たり前のことだよ。そんなこと聞くなよ」
まるで自分に言い聞かせるみたいに、強い口調だった。
家族…か。
じゃあ澪ちゃんは結婚してよかったってことだね。
「よかったよ。そうに決まってるじゃないか。…今のわたしにとって一番大事なのは、家族だよ。そんなの…当たり前のことだよ。そんなこと聞くなよ」
まるで自分に言い聞かせるみたいに、強い口調だった。
家族…か。
じゃあ澪ちゃんは結婚してよかったってことだね。
45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:18:31.47 ID:jnRZeB6L0
なんていうか。
結婚なんてさギャンブルみたいなものじゃない?
大好きでどうしても一緒にいたい、離れたくない、ずっと一緒にいたい、って人とならともかくさ、
まわりのみんながそうしろって言うから、とか、
みんな結婚するのが当たり前だから、とか、
結婚して子供産むのが女の幸せ、とか、
普通は結婚するもんでしょ、とか、
そろそろいい歳だから、とか、
別にいいんだけどさー、そういうもんなんだろうし。
先々のことを考えたらその方が得策だっていうことはわからないでもない。
でもさー、だからってよくわからない人と一緒に暮らせる? 大して好きでもない人と。
暮らし始めてから後悔したって遅いかもしんないじゃん。
ちゅーことは結局のところ、してみないとそれが成功だったか失敗だったかわからないんじゃない?
それってギャンブルと一緒だよね。
幸福なんてそういうものなのかなー。
んー、わかんない。
46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:19:09.29 ID:jnRZeB6L0
してもしなくても幸福になれるのかなれないのかわかんないなら、
してみるのも一興ってやつですか!
いっちょ人生、賭けてみますか!
悪くないかもね。結婚も。
そう思うようになってきた金曜の夜。
次の日に四度目のデートを控えた夜。
してみるのも一興ってやつですか!
いっちょ人生、賭けてみますか!
悪くないかもね。結婚も。
そう思うようになってきた金曜の夜。
次の日に四度目のデートを控えた夜。
47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:20:57.89 ID:jnRZeB6L0
明日は神戸だよ。三宮だよ。中華街だよ。メリケン波止場だよ。クルーズだよ。
そして100万ドルの夜景を堪能しつつ、ホテルでディナーだよ。シャンパンあけちゃうよ~。
しかもお泊まりだよ。
神戸なんてめっちゃひさしぶり。
そーいや昔付き合ってた人とルミナリエ見に行ったなぁ…人だらけで疲れた記憶しかない。
いやいや、悪い記憶を思い出してどーすんの。
阪急なんて滅多に乗らないし、乗り継ぎを確認しとないと約束の時間に間に合わないどころか、行き着くことすらできないイヤ~な予感がする。
知らないうちに兵庫の奥の山の方に行っちゃってたりとか。行きたいの海のほうなのにっ。梅田駅が大きすぎるのがよくないんだよっ!
とにかく明日は大事な日。しょーねんばなのです。
だから寝坊したら一巻の終わり。付き合い酒も断って、帰りの電車ではスマホで調べた路線を何度も見直し、今日は早く寝ようかと帰宅すると、玄関から明かりが漏れていた。
48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:25:32.18 ID:jnRZeB6L0
ドアの前で立ち止まる。
あれ…鍵がなかなか見つからない…どこ入れたっけ……あ、あった。よし鍵穴に通して、っと。
鍵を持つ手が震える。
え、わたし、どーしたのさ。よし…ふんすっ
49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:29:08.67 ID:jnRZeB6L0
「おかえり」
「…ただいま」
リビングに入る。ソファーに腰掛けたりっちゃんが自然にわたしを出迎えた。
右手でペットボトルの蓋を閉め、テーブルに置くとわたしをじっと見つめる。
わたしは思わず目を逸らして台所の冷蔵庫に向かった。
「冷蔵庫の中の発泡酒、飲んでくれてよかったのに」
「いや、いい」
そんなこと気にする柄でもないくせに。
合鍵、返しに来たのかな。
「いいワインもあるんだよー、こないだ貰っちゃって……」
「それもいい」
どうしてもりっちゃんに目線が合わせられない。背中を向けながら声をかける。
うわ。なにかおかしい。相手はりっちゃんだよ? なんで?
50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:29:52.36 ID:jnRZeB6L0
2ヶ月ぶりだからなのかなんなのか、りっちゃんは珍しく自分からなにも話そうとしない。
わたしもなぜだか何をしゃべっていいものかわからないし、もちろん明日のことは言うつもりもなかった。
こんなときアルコールの力を借りれたらよかったのだろうけれど、わたしは明日を控えていたし、
どうもりっちゃんも一切飲む気がないらしい。
黙ったままソファーでふたり、だらんと腰を落ち着ける。
TVの消えたリビングは静寂に包まれていたけれど、いつもなら耳障りな時計の針の音は気にならず、
ばくばくと脈を打つ自分の心音ばかりがやかましかった。
51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:31:21.45 ID:jnRZeB6L0
「これ、お土産」
静寂を破ったのはりっちゃんだった。
そう言ってテーブルに置いたのは銀色の袋。
獅峰特急龍…? 袋に貼られたシールに読み方不明の漢字が並ぶ。なにこれ。
「上海のお土産。って言ってもこれくれた人は香港で買ったらしいけど」
は? 上海? 香港? なにそれ。
「中国茶だって。飲んでみようぜ」
わたしと会わなかった2ヶ月の間、りっちゃん、中国行ってたの? 旅行? 出張?
頭が混乱しているわたしを放ったまま、りっちゃんは手際よくお茶の準備を進めた。
52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:33:42.41 ID:jnRZeB6L0
なんとか龍とかいう覚えらんないややこしい名前のお茶は、はっきり言っておいしくはなかった。
高校時代、毎日お茶を飲んでいたせいで、わたし達はかなりお茶にはウルサイ。
「うすいね」
「味も香りもな」
ムギちゃんならきっともっと上手に淹れたんだろうな。
おいしいお茶ならもっと会話、弾んだかもな。
いまさらどうしようもないな。
いや、りっちゃんのヘタクソなお茶の淹れ方が悪いんじゃなくてね…
ふたたび訪れる静寂が心苦しい。
とにかくなにか喋らないと…
「あ、そうだりっちゃん、ごはん食べた? 簡単なものでいいなら今から作るけど」
「いや、いいよ。お腹減ってない。それより唯、明日ヒマか? 温泉でも行かね?」
53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:35:09.81 ID:jnRZeB6L0
一瞬、息が止まった。
りっちゃんにそう言われた途端、
中華街もメリケン波止場もクルーズも、調べた路線図も待ち合わせ場所も、お泊まりもしょーねんばも、100万ドルの夜景すら
あとかたもなく脳内から消え去って、
きれいさっぱりなくなった。
54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:35:47.39 ID:jnRZeB6L0
★★
ひらひらと宙を舞う雪が、手のひらに触れた。
「閉めろよ、窓。寒いよ」
「あ、ごめん」
ひらひらと宙を舞う雪が、手のひらに触れた。
「閉めろよ、窓。寒いよ」
「あ、ごめん」
55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:36:50.55 ID:jnRZeB6L0
降る雪を見ているうちに、高校時代作った冬の歌を思い出して、ついボケっとしてしまった。
ガラガラと窓を閉めてから、改めて部屋の中を眺める。
8畳のスペースに二つの並んだ布団と、ブラウン管のTV。ブラウン管…ブラウン管…?! ひさしぶりに見た。
宿泊費もさることながら、温泉地だというのにこうも簡単に宿泊できちゃうあたり、中身もある程度想定がつくというか。
せっかくの気ままな独身女二人旅、こういうときこそ普段溜め込んだ小金をパァーッ!と使うときじゃないのかって…まぁ思いつきの突発旅行なんだからしょーがないよね。
なんだか文句ばっかつけてるようだけど、全然いい宿だし。温泉もサイコーだったし。
56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:37:58.33 ID:jnRZeB6L0
「値段の割には悪くない部屋だな」
りっちゃんもやっぱそう思うよね。
「うん。温泉も気持ちよかったしね」
「だな。三十路半ばの疲れた肉体にはもってこいだな。腰が軽くなった気がする」
「オバちゃんくさいです。りっちゃん隊員」
でも同感です。わたしは足のむくみが取れた気がします、りっちゃん隊員。
「うっせ。お前もオバちゃんだろ。唯隊員」
その通りです。温泉に入って若返るなら永遠に入っていたいです、りっちゃん隊員。
りっちゃんもやっぱそう思うよね。
「うん。温泉も気持ちよかったしね」
「だな。三十路半ばの疲れた肉体にはもってこいだな。腰が軽くなった気がする」
「オバちゃんくさいです。りっちゃん隊員」
でも同感です。わたしは足のむくみが取れた気がします、りっちゃん隊員。
「うっせ。お前もオバちゃんだろ。唯隊員」
その通りです。温泉に入って若返るなら永遠に入っていたいです、りっちゃん隊員。
57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:38:49.91 ID:jnRZeB6L0
窓の外の暗闇には白い雪がひらひらと舞い続けている。
それを肴にしようと、駅前で買った地酒の一升瓶を開けた。
茶櫃の中から湯呑み茶碗を二つ取り出し、均等に注ぎ分ける。とぶとぷ。
かんぱーい。
磁器と磁器が触れ合い、カチンと無機質な音を立てた。
「おいし」
「だな」
「雪見酒だね」
「だな」
醸造アルコールが五臓六腑にしみる。
わたしにはシャンパンよりもこういうチープなお酒が合ってるよ。
58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:39:55.51 ID:jnRZeB6L0
他に宿泊客はいるのかいないのか。
昼過ぎから降り始めた雪が、音をすべて飲み込んでしまったよう。観光地とは思えない静けさだった。
窓の外には…100万ドルの夜景どころか雪しか見えない。
中華街の豪華な食事の代わりに、お昼はコンビニで肉まんを買って食べた。
旅行に来てまで肉まんかよ、ってりっちゃんは言ったけど、昨日まで気分は中華だったんだからこうでもしなけりゃわたしの胃袋は納得してくれない。
「明日、どこ行く?」
「竹生島…とか?」
「何があるの?」
「弁天さんがいるって…芸能の神様だからギター上手くなるかもな。
あと、なんか瓦みたいなの投げたりできるらしいぞ」
クルーズの代わりに、フェリーに揺られて竹生島、か。
それもいっか。
そうそうりっちゃん、“瓦”じゃなくて“かわらけ”だよ。相変わらずおバカだね。
昼過ぎから降り始めた雪が、音をすべて飲み込んでしまったよう。観光地とは思えない静けさだった。
窓の外には…100万ドルの夜景どころか雪しか見えない。
中華街の豪華な食事の代わりに、お昼はコンビニで肉まんを買って食べた。
旅行に来てまで肉まんかよ、ってりっちゃんは言ったけど、昨日まで気分は中華だったんだからこうでもしなけりゃわたしの胃袋は納得してくれない。
「明日、どこ行く?」
「竹生島…とか?」
「何があるの?」
「弁天さんがいるって…芸能の神様だからギター上手くなるかもな。
あと、なんか瓦みたいなの投げたりできるらしいぞ」
クルーズの代わりに、フェリーに揺られて竹生島、か。
それもいっか。
そうそうりっちゃん、“瓦”じゃなくて“かわらけ”だよ。相変わらずおバカだね。
59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:40:53.47 ID:jnRZeB6L0
お酒がもう残りわずかまで減ってきた。
りっちゃんはこういうとき、自分から何も言わない。
自分で旅行に誘ったくせに、何も言わない。
言いたいことがあるくせに、思わせぶりな態度をとって相手に口火を切らせようとする。
今日はちっともわたしの目を見てこない。
今だってずっと窓の外ばっか見てる。
わたしに声をかけさせるつもりだ。
何が雪見酒だ。
そんな趣深いことなんて普段してないくせに。
雪なんて肴になりゃしないよっ。
お酒の肴にするならスルメイカの方がずっとおいしいよっ。
お酒を全部飲み終えたら、そのまま眠って起きたら明日は竹生島。お船に揺られてゆらゆらと。
弁天さんを拝んで、かわらけ投げて、またお船に揺られて…それでおしまい。
一体何がしたいのさ。
60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:41:34.17 ID:jnRZeB6L0
「一体何がしたいのさっ」
あ、思わず口に出てた。
それまでわたしから目を逸らしてりっちゃんがビクッとしてこっちを向いた。
これじゃりっちゃんの思う壺だと思いながらもスイッチが入ってしまうと止められない。
湯呑みをテーブルに叩きつけながらわたしはもう一度叫んだ。
61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:43:08.10 ID:jnRZeB6L0
「一体何がしたいのさっ」
「落ち着けよ。目が据わってるぞ」
これが落ち着いていられるかっ、
…と言ったつもりが舌がもつれて意味不明な言葉になった。
りっちゃんはわたしからまだお酒の残った湯呑みを取り上げると、
新しい湯呑みにウーロン茶を注いでわたしの右手に持たせてまたそっぽを向いた。
わたしは右手をそのまま振り上げて、りっちゃんに向けてウーロン茶をぶっかけた。
りっちゃんは、うわっ、と小さな声をあげてこっちを見た。
「やっとこっち見たね」
「…」
「何かわたしに言うことあるでしょ」
あーあ。聞いちゃった。
向こうから話させようと思ってたのに、やっぱダメだった。
「…わたし、人生の岐路をあやまったよ」
「は?」
「…今日は人生のしょーねんばだったのに」
「どういうことだよ」
まーた澪ちゃんに怒られる。憂はどう思うかな。
怒るかな、泣くかな。呆れて何も言わないかもね。
62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:43:38.86 ID:jnRZeB6L0
「もういいや。寝よ。明日も早いでしょ」
「待てよ」
「もう待ったよ。もうじゅーーーぶん待ったよ」
「ごめん。言い出せなくて。言わなきゃと思ってたんだけど」
「何。早く言って」
「わたし…
中国に行くことにした」
え?
「待てよ」
「もう待ったよ。もうじゅーーーぶん待ったよ」
「ごめん。言い出せなくて。言わなきゃと思ってたんだけど」
「何。早く言って」
「わたし…
中国に行くことにした」
え?
63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:47:18.62 ID:jnRZeB6L0
「ごめん、意味がよくわからないんだけど」
「ああすまん。つまり…転勤、つーかなんつーか。前から声はかけられてたんだけど、いい機会かと思ってな。上海に行くことになった」
「いつ」
「来年の春」
「帰ってくるのは?」
「わかんね。2、3年で帰るはずが、ずっと向こうにいる人もいるし」
りっちゃんはわたしから目を逸らさなかった。
それなのに今度はわたしが目を逸らしてしまった。
酒瓶から湯呑みに、残りをすべて注いで一気にあおる。
64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:50:41.19 ID:jnRZeB6L0
「この2ヶ月いろいろ考えた」
わたし達のまわりはみんな大人になっていったろ。
学生時代みたいに同じ服を着て、同じ場所に通って、毎日はしゃいで遊んだ友達も、
今はそれぞれみんな“立派な”大人になった。
変わらない気分なのはもう、わたし達ふたりだけじゃん。
こうしてわたし達ふたりでつるんでバカやって、
昔のまま何にも変わらないつもりでいたし、それが楽しかったし、実際そうだったと思う。
ずっとこのままででいたかったけど、一生そういうわけにもいかないんじゃねーかって…
りっちゃんは湯呑みをぎゅっと握ったまま、訥々と語った。
「唯が結婚する、って聞いてさ。
わたしも変わらないと、って思ったんだ」
「海外赴任、ってことは栄転じゃん。すごいねりっちゃん」
「ハハ…ところがそーでもねーんだな。
ウチの会社、今や中国よりも東南アジアの方に力を入れ始めてるからな。
出世コースってわけじゃないんだな、これが」
65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:53:29.01 ID:jnRZeB6L0
どうだろう。
りっちゃんはさ。きっと自分で思ってるよりゼッタイ優秀なんだと思うよ。
元気だし、場を盛り上げてまわりを楽しくするの得意だし、人の気持ちがわかってやさしいし、誰かのために一生懸命になれるし。
りっちゃんの明るさが、きっとみんなを幸せにしてる。そうに決まってる。
りっちゃんの頑張りはちゃんと評価されてるんだと、わたしは思う。そうじゃなきゃおかしい。
ま、頭は悪いけどさ。おバカだけどさ。いい年こいて“瓦”と“かわらけ”間違えてるけどさ。
66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:54:27.55 ID:jnRZeB6L0
でも…話を整理すると、これはサヨナラのための旅行ってことになるんだろうか。
高校時代から続いたわたし達の関係が、もうすぐ終わりを迎えようとしているんだろうか。
「今までみたいに毎日顔合わせることはできなくなるけどさ。
一生の別れ、ってわけじゃねーし。どこにいてもわたしはわたし、唯は唯だろ?」
そう言ってりっちゃんは笑って見せた。
笑顔がうそっぱちだってすぐにわかった。
だって、ニッ、っていうわたしの好きなやつじゃないもん。
それなのにわたしも、うその笑顔で応えてしまった。ニッ、ってなってないやつ。
67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:55:32.36 ID:jnRZeB6L0
少しづつさ。歯車はズレていくんだよ。
何にも変わってないつもりでも、生活が変われば人は少しづつ変わっていくんだよ。
そうして長い時間が経ってから気付くんだ。
ああ、昔とは違うんだ、って。
いいとか悪いとかじゃない。
仕方のないことだってわかってる。
昔に戻りたいってわけでもない。ただ…
たださみしかった。
なんか急にいろんなことを思い出してきちゃって、さみしくなった。
68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:56:32.75 ID:jnRZeB6L0
「りっちゃんは、
結婚とか考えてないの?」
「結婚かー…中国でいい人見つけられたらな」
「そーいやりっちゃんって浮いた話ないよね」
「まーな。だってわたし、彼氏とかいたことねーし」
「え? ウソ? マジで?」
「マジだよ。だから唯にそんな話一度もしたことなかっただろ?」
そうだ。
そういえばそうだ。言われて初めて気がついた。
いっつもわたしの恋バナばっか積極的に聞いてくるくせに、りっちゃんの恋バナをちゃんと聞いたことがなかった。
恥ずかしがってごまかしちゃうか、モテないモテないってその繰り返しばかり。
69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:57:13.28 ID:jnRZeB6L0
「…好きな人とか、いないの」
「好きな人かー」
「案外、ずーっと想ってる人がいたりして」
わたしの冗談には耳を貸さず、
りっちゃんは湯呑みに残ったお酒をクッとあおり、横を向いて大きく息を吐いた。
綺麗な横顔だった。
ほんのり桃色に色づいた頬から、視線が離せなかった。
…モテないわけない。
りっちゃんに、男の子が寄ってこないわけない。
いくらで付き合うチャンスはあったはず。
それなのに…
70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:57:41.70 ID:jnRZeB6L0
「好きなタイプは?」
「なに? なにこれ? 中学生みたいなこと聞くなよ」
「いいから答えて」
そうだなぁ…と目を閉じて腕を組んで考える。
「えーっと…な。わたしの好みのタイプは………っとその前にトイレに…」
「逃げないで。早く言ってよ」
71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:58:26.66 ID:jnRZeB6L0
どうせウケ狙いで有名人の名前とか言い出す気だろう、
そんなこと言ったら、お尻に敷いてるサブトンで思いっきりはたいてやろうと右手で端を掴もうとした瞬間、りっちゃんが大きく目を開いて言った。
72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:58:56.67 ID:jnRZeB6L0
「唯」
「え?」
73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 22:59:33.97 ID:jnRZeB6L0
「だから唯だってば」
冗談にしてもそう出られるとは思っていなくて、掴んだサブトンの端から右手が離れた。
はたくタイミング、なくしちゃった。
74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:00:07.38 ID:jnRZeB6L0
「話は合うし、一緒にバカやってくれるし、わたしのことわかってくれるし、楽しいし」
指を折りながらりっちゃんは喋り続けた。
顔が赤いのはアルコールのせいか、照れているからなのか。
いや、照れ屋のりっちゃんのことだ。冗談でもめちゃくちゃ照れ臭いに決まってる。
早くツッコんであげたほうがいいかな。
でもわたしは、黙ったままりっちゃんの言葉の続きを待った。
75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:01:10.66 ID:jnRZeB6L0
「もし…もしも、の話だけど、わたしか唯のどっちかが男だったら、とっくに唯にプロポーズしてたかもな。
あ、これ昔似たよーなことムギに言われたっけ?」
「…かんけーないよ」
「ん?」
「男とか女とか」
「…え?」
「今のほんと?」
76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:01:57.09 ID:jnRZeB6L0
「…あ、ごめん。つまんないこと言って。
わり。わたし、トイレ」
そう言って立ち上がったりっちゃんの浴衣の裾をグッと捕まえた。
酔ってるせいもあってか、つんのめったりっちゃんがドスン、と倒れて布団の上に転がった。
「いってー…おいコラ、なにすんだよ」
「ねぇ、答えて。さっきの本気?」
「怒ってんのか? 悪かったよ、変なこと言って」
わたしは立ち上がろうとするりっちゃんがの上にまたがると、両手で肩を掴み上半身を押さえつけた。
「お、重い…それに足、浴衣めくれてる。パンツ・・・丸見え」
りっちゃんは抵抗しようとするけれど、両肩を押さえつけられて立ち上がることができない。
77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:02:36.79 ID:jnRZeB6L0
「さっきの」
「・・・」
「うそなの?」
「・・・」
「ほんとなの?」
「・・・」
「答えて」
「・・・」
78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:03:45.36 ID:jnRZeB6L0
りっちゃんは黙ったままなかなか答えてくれなかった。
だけど目を逸らそうともしなかった。だからわたしは待った。
待つのは慣れてるつもりだから。
神戸にはいかなかったけど、むしろこっちの方がしょーねんばだった。
79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:04:26.12 ID:jnRZeB6L0
5分? 3分? 1分?
いや、30秒かもしれないし、10秒…いや5秒くらいだったかも。
80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:05:05.61 ID:jnRZeB6L0
時間の感覚がわかんなくって、それは永遠みたいに長く感じた。
その間心臓はドクンドクン鳴りっぱなしで落ち着かない。
81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:05:36.65 ID:jnRZeB6L0
大きく息を吸って、吐いてを繰り返す。
狭い部屋の中に、わたしの呼吸音だけが響く。
今いる場所が高い山の上みたいに酸素の薄いところに思えた。
82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:06:24.57 ID:jnRZeB6L0
りっちゃんが息する音が聞こえない。
だけどもふたり、見つめ合ったまま。
りっちゃんのしっかり開かれた瞼の内側から、薄く透明感のある瞳がわたしを射抜いていた。
83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:06:55.58 ID:jnRZeB6L0
「ほんとうだ」
84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:07:33.62 ID:jnRZeB6L0
そしてたった一言。
その一言で今までわたしの内側にまとわりついていたものが全て洗い流されていくのがわかった。
85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:08:25.05 ID:jnRZeB6L0
「いいよ」
「いいよ、…ってなにが?」
「わたしでよければ」
「それって…えっと…」
86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:09:18.91 ID:jnRZeB6L0
「結婚しようよ」
87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:10:37.69 ID:jnRZeB6L0
見つめあったまま時間が止まる。
りっちゃんが小さく頷くのが見えた。
けれどわたしが覚えてるのはここまで。
なぜならそのあと、飲み過ぎが祟ったのか、マウントポジションのままりっちゃんの顔に盛大にゲロをぶちまけて、倒れちゃったから。
布団やら浴衣やらなんやらは全部りっちゃんがひとりで片付けてくれたらしく、次の日は朝食も取らず早々に荷物をまとめると、冷たい視線を投げかけてくる仲居さんにペコペコ頭を下げながら、二人で宿をあとにした。後日請求されたクリーニング代は想像以上だったけど、こういうときのために小金を貯めてきてよかったな、と二人、頷き合った。
88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:14:47.68 ID:jnRZeB6L0
★★
「別れたって本当か」
二児の母になったばかりとは思えない鋭い目つきがわたしを睨んでいる。
「まぁその、ね。ちゃんと先方には断っておいたから。
ごめんね。いろいろ骨を折ってもらってたのに。うまくいかなくて」
「相性、っていうものがあるからうまくいかなったこと自体は仕方ないよ。
でもな、その理由だよ」
昔に比べてスレンダーに見えるのは、大きく膨らんだお腹が元どおりになったせいなのか。
一緒に歩いてるとちらちら男の子たちの視線が鬱陶しいのは昔から変わらない。
今も向こうの席の男子高校生たちがこっちを見てはひそひそ何かを話してる。
とても30半ばの子持ち人妻には見えないんだろうなー、澪ちゃん。
「別れたって本当か」
二児の母になったばかりとは思えない鋭い目つきがわたしを睨んでいる。
「まぁその、ね。ちゃんと先方には断っておいたから。
ごめんね。いろいろ骨を折ってもらってたのに。うまくいかなくて」
「相性、っていうものがあるからうまくいかなったこと自体は仕方ないよ。
でもな、その理由だよ」
昔に比べてスレンダーに見えるのは、大きく膨らんだお腹が元どおりになったせいなのか。
一緒に歩いてるとちらちら男の子たちの視線が鬱陶しいのは昔から変わらない。
今も向こうの席の男子高校生たちがこっちを見てはひそひそ何かを話してる。
とても30半ばの子持ち人妻には見えないんだろうなー、澪ちゃん。
89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:15:49.68 ID:jnRZeB6L0
「おい、聞いてるのか」
「ああ、ごめん聞いてるよ」
「この先…どうするつもりなんだよ」
「だから言ったじゃん」
90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:17:15.39 ID:jnRZeB6L0
仕事をやめて中国に行く。
りっちゃんと一緒に。
もう一度繰り返すと、澪ちゃんは理解不能だといった感で大げさに頭を抱えてため息をついた。
「だーいじょぶだってばぁ」
「何が大丈夫なんだよ…言葉は? 中国語しゃべれるのか? 仕事は? どうやってお金稼ぐつもりだ? 律だってずっと向こうにいるわけじゃないだろ。日本に戻ってくるときはどうするんだ? ご両親にはなんて言ったんだ? 憂ちゃん心配してたぞ。それに…」
ふんふんと鼻を鳴らして話を聞く。
前まではあんなにムカついた物言いにもちっとも腹が立たなかった。
91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:17:58.98 ID:jnRZeB6L0
「はぁ…疲れた」
明日東京に帰る、って言ってたよね。そんなに疲れて大丈夫? 帰れる?
言いたいことを言うだけ言い切ったからか、澪ちゃんはもう一度大きくため息をついて、ミルクティーを一気に飲み干した。
「それだけ喋ったら喉乾いたでしょ? なにか頼む?」
「お前な…いや、もういいや」
「呆れた?」
「限界を通り越した」
「そっかぁ」
えへへ、と笑いながらVサインを作ると、澪ちゃんは今日はじめての笑顔を見せてくれた。
92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:18:48.12 ID:jnRZeB6L0
「唯さ。聞きたいことがあるんだけど」
「なーに。パフェおごってくれたら答えてあげる」
「いや…おごらなくても答えてくれよ」
「内容によるねー。内容によってはデラックスパフェ」
「自分の年齢考えろよ。吹き出物できるぞ。自重しろ」
「いてっ」
澪ちゃんがかるくわたしの頭にチョップした。
93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:19:20.15 ID:jnRZeB6L0
「…あのさ」
澪ちゃんの表情から笑顔が消えた。
「唯、律のこと、好きなのか?」
94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:20:20.77 ID:jnRZeB6L0
その言葉の意味するところはきっと、普通の友達同士の“好き”じゃない、っていうのは澪ちゃんの顔を見ていればすぐにわかった。
「んー…よくわかんない」
「ごまかすなよ」
「ごまかしてないよ。本当によくわかんないんだ」
95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:23:27.33 ID:jnRZeB6L0
人を好きになる、という気持ちがわたしにはよくわからない。
りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん。和ちゃん、憂、さわちゃん。お父さんにお母さん。
もちろんみんな大好き。けいおんもギー太も大好き。
大切だと思える人はたくさんいる。大切だと思えることもたくさんある。大好きなものはいっぱいある。
でもたぶんそれとは違う“好き”があるみたい。わかるんだけどわからない。
96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:24:10.14 ID:jnRZeB6L0
何人かの男の子とも付き合ったこともある。
手をつないで、キスをして、抱きしめあって、セックスをして。
一緒にいて楽しくて、安心できて、ああこれが“好き”ってことかな、って感じたことはある。
でも気がつくといつもダメになってる。わたしから別れを切り出しことは一度だってない。
いつの間にかあんまり会わなくなって、そーいや最近会ってないや、とか思い出した頃、相手から“他に好きな人ができた”とか言われる。特になんとも思わない。そういうもんか、って思うだけ。
97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:24:49.39 ID:jnRZeB6L0
学生時代は他に楽しいこともたくさんあったし、働きだしてからはりっちゃんと遊んでばっかりだったし、彼氏がいたらいたで楽しいけど、いなくてさみしいと思ったことなんて一度もない。
誰かに会いたくて、そばにいて欲しくて、耐えられなくなったことなんてない。
その人のことばっかり考えて、頭の内側に貼り付いて離れなくって、ぐるぐるぐるぐる回り続けて、心臓がきゅ~って苦しくてたまんない…なんて今まで経験したこともなかった。
だからわたしはひとりで生きていける。
ひとり、っていうか彼氏とかいなくても、って意味ね。そう思ってた。でもね…
誰かに会いたくて、そばにいて欲しくて、耐えられなくなったことなんてない。
その人のことばっかり考えて、頭の内側に貼り付いて離れなくって、ぐるぐるぐるぐる回り続けて、心臓がきゅ~って苦しくてたまんない…なんて今まで経験したこともなかった。
だからわたしはひとりで生きていける。
ひとり、っていうか彼氏とかいなくても、って意味ね。そう思ってた。でもね…
98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:25:36.02 ID:jnRZeB6L0
「“好き”とかよくわかんないけど……2ヶ月の間りっちゃんに会わなくてさ。
退屈はしてたけどそれでもなんとかならなくないじゃーん、って思ってたんだ。
でも、久しぶりに顔見たらなんか自分でびっくりするくらい心臓ばくばくしちゃうし、
いきなり旅行行こうって言い出してそれで中国行っちゃうって聞かされて…
あ、
もしかしたらこれからりっちゃんにずっと会えなくなるのかなーって、
そう思ったら…、
これムリ、って。
ダメだーって。
楽しかったこととか急に思い出しちゃったりして、うん。
別れ別れになったらもう、
そういうのこれからなくなるんだー、
全部過去になるんだーとか、
思っちゃって。
…ごめんうまく言えない」
99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:26:30.13 ID:jnRZeB6L0
りっちゃんと一緒にいるとたのしいし、安心する。
でもそれは澪ちゃんやムギちゃん、あずにゃんとだって一緒だったし、りっちゃんだけが特別ってわけじゃない、って思ってた。
思ってたのに。
100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:27:09.98 ID:jnRZeB6L0
「はい。ハンカチ」
「…え」
あれ、わたし。泣いてる?
101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:28:02.36 ID:jnRZeB6L0
「それが“好き”ってことだよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ。そうに決まってるじゃないか」
「そっかぁ。そうなのかぁ」
わたし、りっちゃんのこと、“好き”だったんだ。
そっか。そうだったんだ。
そばにいるから気がつかなかっただけだったんだ。
きっとずっと。もうずっとずっと前からわたし、りっちゃんのことが“好き”だったんだ。
102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:29:02.61 ID:jnRZeB6L0
「こないだ言わなかったことだけど」
「なに?」
「律が就職先を地元に決めた理由」
「うん」
「唯の近くに居たかったからだと思うんだ」
アイツ、何にも言わないからホントのことはわかんないけど、
あくまでわたしの憶測だけど。
律、バカだから。そういうことで大事なこと決めちゃうとこあるから。
そう断りながら澪ちゃんは言った。
まさか、ね。
それじゃまるで、りっちゃんがわたしのことめちゃめちゃ“好き”みたいじゃん。
…そうだよ。わたしはずっと、わかってたよ。
澪ちゃんは瞳を閉じてそう呟いた。
103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:30:02.12 ID:jnRZeB6L0
「ねぇ唯。誰にも言わない、って約束してくれる?」
「なに? いいよ。澪ちゃんが言うなって言うなら誰にも言わない」
「わたしもさ。好きだったんだ、律のこと」
「なんとなく、そんな気がしてたよ」
「そっか。バレてたか」
104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:30:50.19 ID:jnRZeB6L0
傾き始めた午後の太陽が眩しかった。
落葉を終えて裸になった街路樹が高く、雲ひとつない青空に向かって伸びていた。
「ごめん。わたし嫉妬してた。
二人のことが羨ましかったんだ。いい歳して、恥ずかしいよな。
でもこれだけは信じてほしい。
唯にも律にもしあわせになってほしい、って
そう思ってるのは本当だって」
「わかってるよ。そんなこと」
「ごめん」
「はい。ハンカチ」
「…え」
「澪ちゃん。泣いてる」
105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:34:24.12 ID:jnRZeB6L0
なーにしてんだか。
いい年こいてオバさんふたり公共の場で泣いちゃって。
やだもう化粧、落ちちゃう。
窓から差し込む光が澪ちゃんの黒髪を照らした。
昔、たわいもないことに怖がってはよく涙を流した女の子がいた。
彼女は大きくなったけど、今も変わらず泣き虫だった。
彼女はとてもやさしい女の子だった。
それはきっと、昔も今もこれからもずっと変わらない。
「律のこと、よろしくな」
そう言った少女の綺麗な黒髪を、わたしはそっとやさしく撫でた。
106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:36:26.00 ID:jnRZeB6L0
★★
-2ヶ月後-
ピンク色に染まった枝が風に揺れている。
枝から離れた数枚の花びらが、りっちゃんの髪に背中に降りかかった。
その一つをつまみあげ、りっちゃんに見せる。
「りっちゃん。この花の花言葉、知ってる?」
「…知ってる」
「言っとくけどこれ、桜じゃないよ?」
「わかってるよ」
りっちゃんは少し恥ずかしそうに顔を背けた。
-2ヶ月後-
ピンク色に染まった枝が風に揺れている。
枝から離れた数枚の花びらが、りっちゃんの髪に背中に降りかかった。
その一つをつまみあげ、りっちゃんに見せる。
「りっちゃん。この花の花言葉、知ってる?」
「…知ってる」
「言っとくけどこれ、桜じゃないよ?」
「わかってるよ」
りっちゃんは少し恥ずかしそうに顔を背けた。
107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:39:31.30 ID:jnRZeB6L0
遠く、山の向こうが霞んで見える。
春霞、なんていいもんじゃなくてあれは黄砂なんだと、昔澪ちゃんが教えてくれた。
ずれ落ちかけたマスクを鼻にかけながら、稜線を眺める。
あの砂の故郷へ行くんだなぁ、と思うと不思議な気持ちだ。
砂…砂かぁ。
砂といえば。
大学のとき、思い立って鳥取砂丘へ旅行したことを思い出した。
旅番組だったかなんだったかでラクダ見てたんだっけ?
それでラクダに乗りたくなって、レンタカー借りて泊まりに行ったんだ。
108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:41:38.61 ID:jnRZeB6L0
目的のラクダを堪能したあと、ながらかな丘上になっているところまで登るとその先に海が見えた。
広がる大海原に興奮したわたしは、大きな砂の坂のてっぺんから海めがけて思いっきり駆け下りた。
坂道は結構急で、駆け出した両足はとまんなくなって、少しでも躊躇すれば足を取られて転んでしまいそうだったから、勢いそのままに走り抜けた。
砂丘に入るとき借りた黒い長靴が、踏み出すたびにがっぽがっぽと珍妙な音を立てる。
一歩一歩足に絡みつく砂を振り払い、前だけを向いて全身で風を切って走る。
目の前には空と海。そのまま空まで飛べそうだった。
無事に坂を下り終えると、そこはもう波打際。
静かに打ち寄せる波。その向こうに水平線が青の濃淡をくっきり分けていた。
水平線の向こうには行ったことのない国があって、そこにはいろんな人がいて、わたし達と同じようにいろんな気持ちを抱えて生きているんだ。
でもそれはずっとずっと遠く、想像もできない世界に思えた。そのときは。
109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:42:10.09 ID:jnRZeB6L0
「なぁ唯。おいってば」
りっちゃんに声をかけられてふと我に帰る。
ガラガラとキャリーバッグを引きずる音はいつの間にか止んでいて、立ち止まったりっちゃんがわたしの方をじっと見ていた。
110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:42:44.06 ID:jnRZeB6L0
「なーにりっちゃん」
「ひとつお願いがあるんだけど」
「どしたの? 改まっちゃって」
「出発の日だし…ケジメっつーかなんつーか…」
もごもごと口ごもったりっちゃんが頭をかきながら言う。
「中国語の勉強も職探しも炊事も掃除も洗濯もがんばるよ! 中国茶の淹れ方も上手になってみせるよ!
こう見えてやればできるタイプだから! 任せといて!」
「いや…そうじゃなくて」
「あれ? ちがうの? じゃあ…なに?」
「えっと、だな…」
強く風が吹いた。
枝が大きく揺れて、花びらが舞う。
111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:43:36.87 ID:jnRZeB6L0
「これからもずっと一緒にいてほしい」
112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:45:14.28 ID:jnRZeB6L0
…
……
………
鳥取旅行の話の続き。
坂を降りた後の話。
波打際のわたしが丘の上にいるみんなに手を振ろうと振り向くと、
りっちゃんが坂を転がっていた。
わたしに続いて砂の坂を駆け下りたはずのりっちゃんが、ごろごろごろごろ転がってる。
砂に足を取られたんだ。
風を切るどころじゃない。
まるでマンガみたいにごろごろと前のめりに転びながら坂を下り続けるりっちゃんを見て、
そのあまりのカッコ悪さにこらえきれず、わたしはお腹を抱えて倒れこんだ。
りっちゃんは、全身を隈なく砂まみれ。
つけてたカチューシャもどっか飛んでって、前髪も化粧もめちゃくちゃで、
これぞまさしく砂だるま、になりながら下まで転び終えると、
『長靴がサイズに合わなかったんだよ!』
って真っ赤な顔して叫んでた。
丘を見上げると、三人もお腹を抱えながら倒れてた。
113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:46:07.09 ID:jnRZeB6L0
『あのときの律先輩を思い出せば、
この先どんなに辛いことがあっても笑顔で乗り切れられそうです!』
ってあずにゃんは今まで見たことのないくらいさわやかな顔でそう宣言してた。
いや、実に同感。
今はもう、わたし達は別々の道を歩んでいるけれど、
楽しかった思い出があれば、それできっとみんな元気にやっていける。そう思う。
114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:46:50.84 ID:jnRZeB6L0
「…おい、唯。お前何笑ってんだよ」
「え? あ、ごめん。なんか言った? 聞いてなかったや」
「……は? マジか? マジで言ってんのか??」
「うん、マジ。ごめんぼーっとしてた。もぅいっかい言って」
「……ヤダ。もう二度と言わない」
「えぇー言ってよぉぉ~」
呆れ返った表情のりっちゃんはわたしに背を向けて歩き出す。
「ほら、行くぞ! 電車に遅れる!」
「あっ、りっちゃん待ってー!」
ガラガラと音を立てながらキャリーバッグを引いて追いかけると、
りっちゃんの右手の袖を捕まえてわたしは言った。
115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/26(木) 23:49:48.94 ID:jnRZeB6L0
「我也一様!」
「・・・聞こえてたんじゃねーか」
もう一度振り返ったりっちゃんは真っ赤な顔をしてた。
でもそれはきっと、わたしもおんなじ。
目と目が合うと、わたしの左手をぎゅっと握って、ニッ、と笑った。
わたしもそれを見て、ニッ、と笑った。
桃の花びらが、わたし達を春色に染めていた。
おしまい。
116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/27(金) 00:09:37.58 ID:/Las9rCRO
乙です。
久しぶりに素晴らしい唯律が見れてとても良かったです。
久しぶりに素晴らしい唯律が見れてとても良かったです。
120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/27(金) 12:04:53.41 ID:thNQXqdko
よかった
121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/28(土) 17:23:26.95 ID:ZCsULyq0O
おつ。けいおんひさびさに読んだ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448539025/
Entry ⇒ 2015.11.29 | Category ⇒ けいおん! | Comments (0)
死神「二次元に転生できる能力だ」
1: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 16:54:32.28 ID:huFngvXi0
―――――――――――――――――――――――――――
男(ああ!アスナたん!可愛いよ、結婚しよう)シコシコ
男(……うっ!!)ドピュッ
男(ふぅ……)
男(……キリト[ピーーー])
男(わかってる、二次元のキャラと結婚なんて出来ない。キリトに嫉妬してもしょうが無いんだ)
男「……寝るか」
死神「その夢、叶えたくないか?」
男「……う、うわああぁああああ」
死神「驚くことはない――お前の夢を叶えるために来た――」
男(ああ!アスナたん!可愛いよ、結婚しよう)シコシコ
男(……うっ!!)ドピュッ
男(ふぅ……)
男(……キリト[ピーーー])
男(わかってる、二次元のキャラと結婚なんて出来ない。キリトに嫉妬してもしょうが無いんだ)
男「……寝るか」
死神「その夢、叶えたくないか?」
男「……う、うわああぁああああ」
死神「驚くことはない――お前の夢を叶えるために来た――」
3: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 16:57:39.62 ID:huFngvXio
男「う、うわああああああああ」
死神「いつまで驚いてんだ」
男「……な、何しに来たんだよ!」
死神「お前は二次元のキャラクターに恋してるらしいな」
男「……ああ、そうだよ」
死神「二次元に行きたくないか?」
男「行けるもんなら行きたいよ、でもさ、そんなの……絶対不可能なんだよ」
死神「だから、それを叶えてやると言ってるんだ」
男「……!?」
死神「お前には二次元に転生できる能力を授ける」
死神「いつまで驚いてんだ」
男「……な、何しに来たんだよ!」
死神「お前は二次元のキャラクターに恋してるらしいな」
男「……ああ、そうだよ」
死神「二次元に行きたくないか?」
男「行けるもんなら行きたいよ、でもさ、そんなの……絶対不可能なんだよ」
死神「だから、それを叶えてやると言ってるんだ」
男「……!?」
死神「お前には二次元に転生できる能力を授ける」
4: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:01:06.98 ID:huFngvXio
男「う、嘘だろ……そんな都合のいい話あるわけねえよ」
死神「もちろん契約には対価が必要だ」
男「……等価交換ってことかよ」
死神「そうだ」
死神「俺が支払うのは……お前の魂だ……」
男「……俺は死ぬってことか」
死神「この世に存在するお前の魂は他の世界へと転送される」
男「この体の魂は無くなるってことか」
死神「無くなりはしない、この世界から消えるだけだ」
死神「もちろん契約には対価が必要だ」
男「……等価交換ってことかよ」
死神「そうだ」
死神「俺が支払うのは……お前の魂だ……」
男「……俺は死ぬってことか」
死神「この世に存在するお前の魂は他の世界へと転送される」
男「この体の魂は無くなるってことか」
死神「無くなりはしない、この世界から消えるだけだ」
5: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:06:22.98 ID:huFngvXio
死神「お前はこの世界から消え、新しい、お前の好きな世界へと旅立てる」
男「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何をやってもダメ、何をやっても失敗する
得意なことなんて一つもない
生まれつき、才能なんてなかった
気がつけばヒキニート
持ってるものもなければ、失うものもない
いつだって俺は――――その他大勢だった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男「……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何をやってもダメ、何をやっても失敗する
得意なことなんて一つもない
生まれつき、才能なんてなかった
気がつけばヒキニート
持ってるものもなければ、失うものもない
いつだって俺は――――その他大勢だった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
6: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:08:20.94 ID:huFngvXio
男「なあ」
死神「俺のことは死神と呼べ」
男「聞きたいんだが……好きな世界ってことは、物語の世界にも入れるんだよな」
死神「そうだ」
男「……主人公なのか?」
死神「お前が望めばな」
男「どの世界かは自由に決められるのか?」
死神「それも、お前が望めば」
男「……いいよ、契約しよう、死神」
死神「俺のことは死神と呼べ」
男「聞きたいんだが……好きな世界ってことは、物語の世界にも入れるんだよな」
死神「そうだ」
男「……主人公なのか?」
死神「お前が望めばな」
男「どの世界かは自由に決められるのか?」
死神「それも、お前が望めば」
男「……いいよ、契約しよう、死神」
7: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:18:45.78 ID:huFngvXio
死神「本当にいいんだな?」
男「ああ、構わない」
死神「では、契約成立だ。すぐにでも転生させよう」
男「……待て、聞きたいことが山ほどある」
死神「そうか、聞け」
男「そもそも、なんでお前は俺のところに来た」
死神「死神だからなぁ、察せよ」
男「……契約なんて嘘で俺は死ぬんじゃないのか?」
死神「まあ、信じるか信じないかはお前次第だろうよ」
男「……」
男(……どうせ、生きてても仕方がない命だ……アスナに会えるなら……)
男「…わかったよ、聞きたいことは以上だ」
死神「そうかい。じゃあ、転送するぜ?」
男「ああ、構わない」
死神「では、契約成立だ。すぐにでも転生させよう」
男「……待て、聞きたいことが山ほどある」
死神「そうか、聞け」
男「そもそも、なんでお前は俺のところに来た」
死神「死神だからなぁ、察せよ」
男「……契約なんて嘘で俺は死ぬんじゃないのか?」
死神「まあ、信じるか信じないかはお前次第だろうよ」
男「……」
男(……どうせ、生きてても仕方がない命だ……アスナに会えるなら……)
男「…わかったよ、聞きたいことは以上だ」
死神「そうかい。じゃあ、転送するぜ?」
8: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:24:57.43 ID:huFngvXio
男「転送ってどうするんだよ」
死神「……簡単に言えばお前を[ピーーー]」
男「その、如何にも死神チックなやつでか?」
死神「そうだ、これを振り下ろす時、行きたい世界を願え」
―――――――――――――――――――――――――――
男「…準備は出来た」
死神「……行きたい世界を願え」
男(SAO……アスナ……)
死神「じゃあな、楽しめよ―――違う世界を――――」
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
死神「……簡単に言えばお前を[ピーーー]」
男「その、如何にも死神チックなやつでか?」
死神「そうだ、これを振り下ろす時、行きたい世界を願え」
―――――――――――――――――――――――――――
男「…準備は出来た」
死神「……行きたい世界を願え」
男(SAO……アスナ……)
死神「じゃあな、楽しめよ―――違う世界を――――」
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
9: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:29:14.97 ID:huFngvXio
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~
~~~
~
男「……ここは……」
クライン「お!起こしちまったか」
男「……ク、クライン?」
クライン「どうしたんだ?そんなビビって、寝ぼけてんのか?」
男「……俺はどうしてここに……」
クライン「今からボス攻略に行くってお前が言ったんじゃねえか」
男「…ああ、そうだったな」
男(……今、第何層なんだろう……)
~~~~~~~~~~
~~~
~
男「……ここは……」
クライン「お!起こしちまったか」
男「……ク、クライン?」
クライン「どうしたんだ?そんなビビって、寝ぼけてんのか?」
男「……俺はどうしてここに……」
クライン「今からボス攻略に行くってお前が言ったんじゃねえか」
男「…ああ、そうだったな」
男(……今、第何層なんだろう……)
10: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:32:35.50 ID:huFngvXio
クライン「早く行こうぜ!キリト!」
男「お、おう!!」
男(俺が……キリト!!!)
男(本当に転送されてる!!!)
―――――――――――――――――――――――――――
――――ダンジョン ボス入り口
クライン「遅くなってすまん、キリトが眠いって言うからよぉ」
エギル「そうか、まあいい、キリトは主戦力だからな」
男「ボスはみんなで協力しないと倒せないよ」
アスナ「さあ、揃ったところで、攻略を始めましょう!」
男(……ア……アスナ!)
男「お、おう!!」
男(俺が……キリト!!!)
男(本当に転送されてる!!!)
―――――――――――――――――――――――――――
――――ダンジョン ボス入り口
クライン「遅くなってすまん、キリトが眠いって言うからよぉ」
エギル「そうか、まあいい、キリトは主戦力だからな」
男「ボスはみんなで協力しないと倒せないよ」
アスナ「さあ、揃ったところで、攻略を始めましょう!」
男(……ア……アスナ!)
11: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:36:11.37 ID:huFngvXio
男「……ア!アスナ!!!」
アスナ「……ど、どうしたの?キリトくん……?」
男「俺、会えて嬉しいよ!」
アスナ「い、今はそれどころじゃないでしょ?」
男「そ、そうだね」
アスナ「攻略が終わったら、ゆっくりお話しようね!」
男「お、おう!」
エギル「ゲートが開くぞ!」
12: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:40:38.31 ID:huFngvXio
ピコン
ボスキャラ HP 1500000
クライン「こりゃまたえらくHPが多いな」
アスナ「来るわよ!」
俺「……ソードスキル!しねえええええ!!」
アスナ「正面から行ったらダメ!!」
男「…え?」
ブン!!
男「うわああああぁぁぁぁぁ」瀕死
ボスキャラ HP 1500000
クライン「こりゃまたえらくHPが多いな」
アスナ「来るわよ!」
俺「……ソードスキル!しねえええええ!!」
アスナ「正面から行ったらダメ!!」
男「…え?」
ブン!!
男「うわああああぁぁぁぁぁ」瀕死
13: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:42:28.47 ID:huFngvXio
クライン「キリトォ!!」
エギル「なんであいつ、正面から向かっていったんだ?」
アスナ「いつものキリトくんならあんなことしないのに……」
男「クッ……」
アスナ「これ、ポーション!」
男「あ、ありがとう」
アスナ「ダメよ、勝手に攻撃したら!」
男「す、すまない……」
クライン「俺が気を引く間に攻撃しろ!キリト!」
男「ああ、分かった」
14: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:45:14.83 ID:huFngvXio
―――――――――――――――――――――――――――
クライン「キリト!今だ!!」
男「おし!ソードスキル!!!」
ズシャ!
男「やったか!」
アスナ「キリトくん!危ない!!」
ドスン!
男「うわあぁぁああああ!」瀕死
クライン「……なんで攻撃した後気ぃ抜いてんだよ……!」
エギル「今日のアイツ、どうしたんだ……」
15: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:48:01.54 ID:huFngvXio
―――――――――――――――――――――――――――
男「……また失敗した……」
男(このままじゃHPが……0になる……)
男(HPが0になったら……死ぬんだよな?)
男「……嫌だ……せっかくこの世界に来たのに……死にたくない!」
クライン「……キリト?」
男「嫌だ!嫌だ!俺は死にたくないんだぁあああ」
クライン「おい!どうしちまったんだよ!?」
男「そうだ、逃げないと……!」
男「嫌だぁあああああ」ダッシュ
クライン「おい!キリト!!」
アスナ「キリトくん!!」
男「……また失敗した……」
男(このままじゃHPが……0になる……)
男(HPが0になったら……死ぬんだよな?)
男「……嫌だ……せっかくこの世界に来たのに……死にたくない!」
クライン「……キリト?」
男「嫌だ!嫌だ!俺は死にたくないんだぁあああ」
クライン「おい!どうしちまったんだよ!?」
男「そうだ、逃げないと……!」
男「嫌だぁあああああ」ダッシュ
クライン「おい!キリト!!」
アスナ「キリトくん!!」
16: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 17:55:03.57 ID:huFngvXio
男「おい!ここから出してくれ!!!」バンバン
クライン「おい、どうしたんだよ!戦闘中は出れねえに決まってんだろうが!」
男「うわぁぁ、どうすればいいんだぁ」
エギル「クライン!そっちに攻撃行くぞ!」
クライン「キリト、しっかりしろ、このままじゃ攻撃食らっちまう」
男「……もうだめだ」
エギル「おい!攻撃翌来たぞ!!」
クライン「くそったれぇ!!」
トォ゙ン!!
クライン「うわぁぁぁぁ!!!」瀕死
17: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:01:40.74 ID:huFngvXio
クライン「……・くっそぉ……」フラフラ
男「……お、俺をかばって……」
エギル「またそっち攻撃行くぞ!!」
クライン「は……早く、回復ポーションを……」
男「ど、どうしよう……」
アスナ「キリトくん!危ない!!」
ドォォォンン!!
アスナ「きゃァァァァああああ!」瀕死
18: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:04:08.30 ID:huFngvXio
男「ア、アスナ!!!」
エギル「くそ!キリトのやつ、マジでどうしちまったんだ!」
男「アスナ!アスナ……!」
男「……俺の……俺のアスナを……!」
男「しねええええええ!!ソードスキル!!!」
エギル「おい!そのHPで突っ込んでどうすんだ!」
男「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドォォォォ゛ン!
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
19: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:08:03.05 ID:huFngvXio
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
男「……」
男「……俺は、どうなったんだ」
死神「よお」
男「……死神か」
死神「どうだったよ、SAOの世界は」
男「……何も出来なかった……」
死神「お前、ここ、どこだと思う?」
男「……?」
男(……船の上か……)
死神「そうだ。次のお前が望む世界に既に移動している」
男「!?」
―――――――――――――――――――――――――――
男「……」
男「……俺は、どうなったんだ」
死神「よお」
男「……死神か」
死神「どうだったよ、SAOの世界は」
男「……何も出来なかった……」
死神「お前、ここ、どこだと思う?」
男「……?」
男(……船の上か……)
死神「そうだ。次のお前が望む世界に既に移動している」
男「!?」
21: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:15:12.94 ID:huFngvXio
男「俺は……SAOの世界で死んだってことか?」
死神「そうだ。それはもう情けない敗北っぷりだったぜ?」
男「……俺のせいでアスナが……クラインが……」
死神「お前にキリトは荷が重かったようだな?」
男「……やっとアスナに会えたのに……」
男「……待てよ、俺、死んだのに何でまだ続いてるんだよ?」
死神「誰が転生は一度って言ったよ」
男「!?」
死神「転生は何度だって続く……お前がしぬ限りなぁ?」
男「……あんな目に……何度も遭うってことかよ!」
死神「いや?そうとも限らねえよ?……お前が主人公として成功すれば、永遠にその世界で楽しく過ごせるってことよ」
男「……主人公たらなければならないってことか」
死神「そういうことだ、ははっ」
23: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:21:11.72 ID:huFngvXio
死神「さーて、次の世界はどこでしょう?」
男「……船の上、そして俺の趣味、もう決まってるよな……艦これだろ?」
死神「大正解!」
死神「じゃあ……――――――次の世界を楽しめよ?―――――」
―――――――――――――――――――――――――――
――――鎮守府
榛名「提督!出撃の時間です!」
男「……」
榛名「……提督……?」
男「……はっ!」
榛名「どうしたんですか?ボーっとして」
男(……ここは……見たところ鎮守府だろうな……)
男「いや、何でもないんだ」
榛名「そうですかっ!では、今日の概略を……」
24: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:28:30.37 ID:huFngvXio
―――――――――――――――――――――――――――
―――――海上
霧島「敵艦!発見しました!」
男「そ、そうか……え、えと……ど、どうすればいいんだ……」
霧島「提督!指示を!」
男「えと、えっと……」
男(ゲームと全然違うんだが……なにこれ、本物に合わせてあるの!?)
男「と、とりあえず金剛と比叡は敵艦に砲撃開始!」
金剛「了解ネー!」
金剛「バーニングラーヴ!!!!」
ドゴーン!ドゴーン!!
25: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:31:36.10 ID:huFngvXio
霧島「敵艦に命中!順調です!」
男「……やった……やったぞ!!」
男(これなら、俺も主人公になれるかもしれない!!)
男「続いて榛名も攻撃に加われ!」
榛名「榛名!砲撃します!!」
ドゴーン!
霧島「命中!敵艦に順調にダメージを与えています!」
男「よっしゃ!」
金剛「私もいくネー!バーニングラァァァブ!!!」
ドゴーン!
26: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:35:37.93 ID:huFngvXio
霧島「敵艦に命中……いや、待ってください!」
男「どうした?」
霧島「敵艦が複数に隊を別れてこちらに向かってきます!」
男「作戦変更ってことか……こちらも別れてそれぞれ迎え撃つ!」
―――――――――――――――――――――――――――
榛名「それぞれに別れました!」
男「よし、攻撃だ!」
霧島「提督!大変です!」
男「……?」
霧島「分かれていた敵艦隊が戦艦金剛に向かって移動を始めました!」
男「な……なんだと……」
29: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:46:38.42 ID:huFngvXio
男「罠に掛かったってことか……!」
男「急いで比叡を金剛の元に!援護射撃だ!」
霧島「こ、このまでは……間に合いません!」
男「そ、そんなぁ……」
金剛「バーニングラーブ!!」
ドゴーン
金剛「ダメネ、敵の数が多すぎるネ……」
敵艦「総員……攻撃ィ!!」ドドドドーン
金剛「キャアアア!!!!」中破
男「金剛……!」
30: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 18:51:47.62 ID:huFngvXio
男「お、俺が作戦を読めていたら……」
霧島「今はそんなこといってる場合じゃありません!」
男「……ひ、比叡はまだ到着しないのか!」
霧島「……間に合いません……」
榛名「私が行きます!」
男「……榛名……」
榛名「榛名だったらこの距離なら間に合います!」
男「……でも……」
榛名「榛名は大丈夫です!!」
男「……分かった。行ってくれ……頼んだ」
榛名「榛名!出撃します!!」
32: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:02:32.55 ID:huFngvXio
金剛「……まだ戦えるネ……バァァニングゥラーーーブ!!」ドドーン
金剛(きっと提督は考えがあってこの配置にしてるネ!私は提督を信じてるネ!!)
男「榛名……間に合ってくれ……!」
敵艦隊「これで終わりだ!総員、攻撃!!!」ドドドーン!!
金剛「キャァァァァ!!!!」轟沈
霧島「……こ、金剛……轟沈しました……」
男「……間に合わなかった……だと……」
33: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:05:43.34 ID:huFngvXio
金剛『提督、どうか武運長久を…私、ヴァルハラから観ているネ……』
男「こ……金剛ぉぉぉぉ!!」
霧島「提督!榛名が到着しました!」
榛名「……金剛お姉さま……」
男「……このままじゃ……榛名が集中砲火される……」
榛名「榛名!砲撃します!!」
霧島「……次の指示を!」
男「……」
霧島「……提督!!」
男「……」
34: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:07:56.39 ID:huFngvXio
男「……死神……聞いてるか?」
霧島「……提督……?」
男「……転生は終わらないんだよな?」
霧島「……提督……なにを……」
霧島「行けません!提督!!!」
男「……ふっ!」
―――――――グサッ
―――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
―――――――
――
36: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:11:54.59 ID:huFngvXio
――
―――――――
―――――――――――――――
男「……」
男「……あんまり痛くないんだな、自[ピーーー]るのって」
死神「おい?自分からゲームオーバーになりに行ったのかよ?」
男「……榛名は始めた時からずっと旗艦だったんだ」
男「轟沈する姿だけは……見たくなかった」
死神「だからって…大胆なことするなぁ?」
男「……金剛……すまん……」
―――――――
―――――――――――――――
男「……」
男「……あんまり痛くないんだな、自[ピーーー]るのって」
死神「おい?自分からゲームオーバーになりに行ったのかよ?」
男「……榛名は始めた時からずっと旗艦だったんだ」
男「轟沈する姿だけは……見たくなかった」
死神「だからって…大胆なことするなぁ?」
男「……金剛……すまん……」
37: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:14:39.85 ID:huFngvXio
死神「まあ、どこでゲームオーバーになるかなんて主人公の自由よ」
男「……で、次はどの世界なんだよ」
死神「ヒントは……そうだな、国民的人気RPGってところだな」
男「……FFかドラクエか?」
死神「さあ、どっちだろうね?」
死神「じゃあな、もう会わねえといいな」
―――――――――――――――――――――――――――
38: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:16:57.62 ID:huFngvXio
―――――――――――――――――――――――――――
―――始まりの街
男「……ドラクエだったか」
男「装備は……初期のままだな」
男「金も無いし、とりあえずスライムでも狩って資金集めからだな」
―――草原
男「お!スライム発見……背後からだな」
男「……」ソーット
男「テヤー!!」
スライム「」シュン
男「よ、避けた……?」
39: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:18:44.50 ID:huFngvXio
男 の攻撃は外れてしまった
スライムの攻撃 ザクシュッ
男「うわぁぁぁぁ!!!!」 HP0
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
男「……」
男「おい」
男「まだプレイ時間5分くらいだったろ」
死神「……」
40: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:22:21.49 ID:huFngvXio
死神「スライムに負けるやつ、初めて見たぜ」
男「俺も初めてだよ!」
死神「ドラクエの勇者は基礎体力が一般人とは違ったってことかねぇ?」
男「……あいつは勇者になるべくして勇者になったってことかよ」
男「くそっ!才能の塊め……」
死神「んで、最速で新しい世界に来たわけだが?」
男「早すぎて新しい世界願う時間も無かったっての……」
死神「それでは、ヒントだな……カードゲームだ」
男「……俺はカードは遊戯王しかやらない」
死神「大正解!」
死神「じゃあな、せいぜい城之内くらいには勝ってこいよ?」クックック
―――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――
―――――――
41: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:35:10.62 ID:huFngvXio
―
――――
――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
―――デュエルシップ VS獏良戦
獏良「どうした!ドローしねぇのか?」
男「……はっ!」
男(……獏良戦か……)
獏良「俺のウィジャ盤の効果は次のターンで完成、俺の勝利が決まりってことだ!」ハハッ
男「……」
男(……原作ならばこのターンにオシリスの天空竜を召喚、逆転勝利だ
――――
――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
―――デュエルシップ VS獏良戦
獏良「どうした!ドローしねぇのか?」
男「……はっ!」
男(……獏良戦か……)
獏良「俺のウィジャ盤の効果は次のターンで完成、俺の勝利が決まりってことだ!」ハハッ
男「……」
男(……原作ならばこのターンにオシリスの天空竜を召喚、逆転勝利だ
42: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:37:42.89 ID:huFngvXio
男(……デッキの並び順はもう決まってるはず!!)
男(これなら……俺でも主人公に!!)
男「俺のターン!ドロー!!」
グレムリン
男「……なんだと!」
男「どういうことだ!山札は決まってるはず……」
獏良「おい?どうした!頭でもおかしくなっちまったか?」
男「……」
男「……俺は……ターンエンドだ」
43: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:40:27.60 ID:huFngvXio
獏良「へっ!この瞬間、ウィジャ盤の効果発動!効果により、俺の勝利が決定だ」
男「……」
獏良「負けた奴には罰ゲームを喰らってもらうぜ?」
男「やめろ……やめっ うわあああああああ」
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
男「……もう無理だ」
死神「どうした」
男「……やっぱ、俺なんてダメなんだ」
44: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:43:21.28 ID:huFngvXio
男「……戻りたい……」
死神「……あ?」
男「……俺、戻りてえよ!もうこんなの嫌だァ!もう嫌なんだぁあ!」
死神「……お前の魂はもう現実には存在しない。無理だ」
男「もう返してくれよぉ、こんなの夢なんだろ?だって有り得ねえだろ」
死神「一度成立した契約は破棄できん」
男「そ……そんな……」
男「……うわあああああああああああ」
死神「……」
死神「……じゃあな」
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
46: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:53:44.49 ID:huFngvXio
―――――――――――――――――――――――――――
―――部室前
男「……ここどこだ」
男「……学校の校舎……ってことは!」
男「学園モノ!?」
男「バトル物じゃないってことは、そう簡単には死なないだろ……」
?「あれ?先輩、そんなところでどうしたんですか?」
男「……あ、あずにゃん?」
梓「どうしたんですか?ボーっと突っ立って……」
―――部室前
男「……ここどこだ」
男「……学校の校舎……ってことは!」
男「学園モノ!?」
男「バトル物じゃないってことは、そう簡単には死なないだろ……」
?「あれ?先輩、そんなところでどうしたんですか?」
男「……あ、あずにゃん?」
梓「どうしたんですか?ボーっと突っ立って……」
47: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 19:57:27.41 ID:huFngvXio
男「いや、なんでもないよ」
梓「そうですか?じゃあ部室に入りましょう」
男「そ、そうだね」
律「おーっす!梓に唯!」
男「……唯?」
律「……どうしたんだよ、元気ねえなぁ」
男「俺、もしかして唯になってる?」
律「なに変なこと言ってんだよ……早くしないと唯のぶんまで食べちゃうぞー!」
男「……ちょっとまって、俺、トイレ行ってくる」ダダッ
律「分かった……って……俺?」
48: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 20:01:41.08 ID:huFngvXio
――――トイレ
男(……俺……女の子になってる……)
男(む……胸も……アレ?全然エロい気分にならない)
男(心も女の子ってことなのか?)
男先生「……うわ!なんだね君は!」
男「……え?」
男先生「ここは男子トイレだぞ!」
男「あっ、す、すみません……」
男(マジで女の子なんだ……)
50: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 20:07:12.71 ID:huFngvXio
――部室
男(唯)「お、遅くなったー!」
澪「唯、大丈夫か?」
男(唯)「え?な、なにが?」
澪「今日の唯、なんか調子悪そうだぞ?」
男(唯)「そ、そんなことないよ?」
律「それより早く食べようぜ~!」
紬「唯ちゃんの分もお茶淹れるね」
男(唯)「あ、ありがとう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
律「それでさー!澪が何もない道路でもコケてさぁ!」
澪「そ!それは言わない約束だろ?」
律「もうホントに……って……唯?」
男(唯)「……」
男(唯)「お、遅くなったー!」
澪「唯、大丈夫か?」
男(唯)「え?な、なにが?」
澪「今日の唯、なんか調子悪そうだぞ?」
男(唯)「そ、そんなことないよ?」
律「それより早く食べようぜ~!」
紬「唯ちゃんの分もお茶淹れるね」
男(唯)「あ、ありがとう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
律「それでさー!澪が何もない道路でもコケてさぁ!」
澪「そ!それは言わない約束だろ?」
律「もうホントに……って……唯?」
男(唯)「……」
51: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 20:11:31.25 ID:huFngvXio
律「唯!」
男(唯)「な、、、なに???」
澪「……どうしたんだよ、さっきから一言も喋ってないよな?」
男(唯)「え?い、いいいっやあああ」
男(唯) (き……緊張して喋れないィィィ……!)
梓「体調悪いようだったら帰って寝たほうがいいんじゃないですか?」
律「そうだな……顔も赤いみたいだし……熱は……」
男(唯) (り、りっちゃんの手が……俺のおでこに……)
律「うわ!すげえ熱いぞ!」
澪「やっぱり風邪なんじゃないか?」
52: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 20:14:16.93 ID:huFngvXio
男(唯)「き、今日はカエルヨー」
律「1人で大丈夫か?」
男(唯)「ダ、ダイジョウブダイジョウブ……じゃあね!!」
澪「暖かくして寝るんだぞー!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男(唯)「はぁ~~~死ぬかと思った……」
男(唯) (リアルの女の子と話すとか何年ぶりだよ……)
男(唯) (しかも何でみんなあんなに可愛いんだよ……)
―――――――――――――――――――――――――――
56: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 20:38:39.29 ID:huFngvXio
――唯宅
男(唯) (なんとか道は分かった……ただいまって入るんだよな?)
ガチャ
男(唯) 「た、ただいまー」
憂「あ、お姉ちゃん!お帰り!……大丈夫?」
男(唯)「な、なにが?」
憂「何が、って、律先輩からメール来たんだよ、お姉ちゃんが体調悪いからって」
男(唯)「も、もう大丈夫だよ」
憂「ダーメーでーす!ちゃんと温めて治さないと!」
男(唯)「わ、わかったよ……部屋戻ってるね」
憂「う、うん……」
憂(いつもなら疲れた~って抱きついてくるのに……)
男(唯) (なんとか道は分かった……ただいまって入るんだよな?)
ガチャ
男(唯) 「た、ただいまー」
憂「あ、お姉ちゃん!お帰り!……大丈夫?」
男(唯)「な、なにが?」
憂「何が、って、律先輩からメール来たんだよ、お姉ちゃんが体調悪いからって」
男(唯)「も、もう大丈夫だよ」
憂「ダーメーでーす!ちゃんと温めて治さないと!」
男(唯)「わ、わかったよ……部屋戻ってるね」
憂「う、うん……」
憂(いつもなら疲れた~って抱きついてくるのに……)
57: ◆JgI7zsPgmmwD 2015/02/15(日) 20:45:03.31 ID:huFngvXio
男(唯) (さて部屋は……ここか……)
男(唯) (女の子の部屋に入るなんて初めてだな)
ガチャ
男(唯)「おじゃましまーす」
男(唯)「う……なんでこんなに明るいの……。いい匂いするし」
男(唯)「しばらくはゲーム……いや、そんなんないな」
男(唯)「ぱ、パソコンもないのか!?……普段どんな生活してんだよ……」
死神「よお、暇か?」
男(唯)「う、うわああ」
死神「おい……俺だよ……」
男(唯)「な、なんだ、死神か……って、俺まだ死んでないよな?」
死神「死んでねえよ、風邪すら引いてねえだろ」
58: