朝倉「あなたを殺してry」 キョン「やめろっ!」
キョン「違う! 冗談でもそんなことを言えば奴らが……っ!」
朝倉「冗談だと思う?」
朝倉「死ぬのっていや? 殺されたくない? わたしには有機生命体の死の概念がよく理解出来ないけど」
キョン「朝倉、今ならまだ間に合う! 撤回してくれ!」
朝倉「無駄なの」
朝倉「ねえ、あきらめてよ。結果はどうせ同じことになるんだしさあ」
キョン「もうだめだ……奴らが……くる……っ!」
ガラガラッ!
谷口「WAWAWA忘れ物~って、うお!」
谷口「キョン、お前こんなところで何してんだ?」
キョン「谷口!」
朝倉「どうしてあなたがこの空間に割り込めるの!?」
谷口「状況がよくわからねーが、要するに情報統合思念体急進派が暴走したってことでいいのか?」
キョン「いや、俺にはわからん」
谷口「朝倉……がっかりだぜ。お前は俺様美的ランキングAAランクプラスだったのによお」
谷口「キョンに危害を加えるってんなら……」
谷口「今のお前は……『チンカス』に格下げだ」
シュワシュワシュワ!
朝倉「痛っ! 痛い! 何よこの赤い球は!」
赤い球「んっふ」ホワワーン
古泉「あなたのために、参上しました」
キョン「古泉!」
朝倉「あなたまで……っ!」
古泉「『キョンくん原理』という言葉をご存知ですか?」
朝倉「知らないわよ!」
古泉「『キョンくん観測す、故にホモあり』」
古泉「要するにこの世界のホモは、キョンくんが観測することによって初めてその存在が確立される、というワケです」
キョン「お前にキョンくん言われたくないぜ。気色悪い」
古泉「んっふ。これは手厳しい」
古泉「おっと、どうやら『同志』がまた一人」
朝倉「まだいるの!?」
ブウウウウウウウウウウウン
ガッシャアアアアアアアアン
朝倉「タ、タクシー!?」
「ふふ、学校の中を突っ走るなんて初めての経験ですよ」
新川「ですが、キョンくんのことを想うと出来てしまう……これが恋というものですな」
朝倉「誰!?」
新川「以後お見知りおきを」ニコッ
古泉「新川さんは僕の同志です。色々な意味でね」
朝倉「なんだっていいわよ! それよりどうやっ」
ジワジワジワ
朝倉「熱っ! 熱い! 何よこの熱気は!」
「いやあ、キョンくんのピンチだって聞いて、いても勃ってもいられなくてね」
大森「ほら、ストーブ持ってきたよ」
朝倉「もっと誰よこのオッサン!?」
大森「大森電器っていうしがない店の店長だよ。詳しくは『涼宮ハルヒの溜息』、あるいは『サムデイ イン ザ レイン』を見てくれれば分かると思うなあ」
古泉「大森さんは、SOS団自主製作映画のスポンサーになってくれる予定の方です」
朝倉「予定って何よ!?」
朝倉「なによ、この感覚……これは……恐怖!?」
谷口「おいでなすったぜ、アイツが……!」
古泉「んっふ。真打登場といったところでしょうか」
新川「彼こそが救世主……!」
大森「誰も彼には敵わない……!」
カツン……カツン……
国木田「やあ、キョン。どうやら大変みたいだね」
キョン「国木田!」
朝倉「国木田……くん……!?」
国木田「どうして、と聞かれても困るなあ」
国木田「僕らは『ホモ』だからね」
国木田「『キョンくん原理』により、キョンがいるところには必ず現れる」
国木田「それが僕たち……『キョンくんを愛し隊』さ」
谷口「へへ」
古泉「んっふ」
新川「ふふ」
大森「えへへ」
キョン「」
朝倉「気色悪い……」
朝倉「たかが人間が私に勝てると思う?」
朝倉「さっきは遅れをとったけど、あなたたちを消させてもらうわ!」
朝倉「パーソナルネーム古泉一樹を敵性と判定。当該対象の有機情報連結を解除するわ」
古泉「おや僕ですか。困ったものです」
朝倉「許可が下りたわ! 消えなさい」
古泉「では奥の手を出すしかないみたいですね……」ボロン
キョン「」
朝倉「汚いもの見せないでよっ!」
古泉「んっふ」
古泉「僕のイチモツには大量の情報が詰まっています。そしてそれは今も増え続けている……!」
古泉「その速さは宇宙の膨張速度に匹敵すると言われています」
古泉「情報統合思念体でさえ、その速度には追い付けないでしょうね」
朝倉「そんな……! 一体なんの情報が……!」
古泉「それはひとえに『愛』と呼ばれるものですよ。んっふ」ウインク
キョン「こっちを見るな。気色悪い」
朝倉「ちっ! こうなったら強硬手段で行くしかないわねっ!」バッ
キョン「朝倉のやつ、ナイフで……! 逃げろ、谷口!」
谷口「それには及ばねえよ」
朝倉「なっ!?」
谷口「俺は忘れ物を取りに行くとき、空間にドアを創ることができるのさ」
谷口「ん? 忘れ物はなんだって?」
谷口「おいおい。お前以外に誰がいるんだよ、なあキョン?」
キョン「うるせえ! 誰も聞いてねえ!」
朝倉「猫型ロボットみたいなことして……!」
朝倉「もう許さないわっ!」
キョン「朝倉のやつ、槍のようなものを出しやがった……!」
キョン「大森さんっ! 危ない!」
ギュオッ!!!!
朝倉「は?」
大森「いやあ、持ってきておいて良かったよ」
朝倉「エアガンで全部撃ち落とした……?」
大森「これは商店街の山土さんが作った特注のエアガンさ」
大森「SOS団の映画撮影用に作っておいたんだけど、ちょっと威力が強すぎるかなあ」
キョン「そんな危険なものを作らないでください!」
朝倉「どいつもこいつもふざけたやつ……!」
朝倉「もう怒ったわ……っ!」
キョン「朝倉の腕が光に包まれ、触手のように延びていく……!」
朝倉「死になさい」
ギュオッ!
キョン「新川さんっ!」
新川「なあに、心配ご無用。私は執事ですゆえ」
新川「『料理』も仕事のうち……っ!」
スパスパスパッ!
キョン「朝倉の延びた腕が切り刻まれていく!」
新川「お待たせしました」
新川「宇宙人のセコンド・ピアット ~初めての唇はキョンくんの味~ でございます」
朝倉「……」
朝倉「人間ごときが、情報統合思念体に逆らうなんて……っ!」
国木田「情報統合思念体がなんだっていうんだい?」
国木田「僕らは『ホモ』なんだよ」ドン!
朝倉「こんなのふざけてるわよ……」グス
国木田「朝倉さん、キミだって本当はこんなことしたくないんだろう?」
朝倉「は?」
国木田「朝倉さんの本当の気持ちはわかるよ。だってキョンを殺すなんて考えただけでもおぞましいもの」
国木田「キミは情報統合思念体急進派に操られているだけなのさ」
朝倉「国木田くん、あなた何を言って……」
国木田「朝倉さん、キミを解放する……!」
古泉「お任せあれ」ボロン
新川「承知」ボロン
国木田「谷口っ! 大森さん!」
谷口「おうよっ!」ボロン
大森「ようし!」ボロン
キョン「」
朝倉「」
朝倉「ものすごい情報量……これは……!」
古泉「ワームホールですよ」
キョン「ワームホール!?」
新川「我々の力が集まればこの程度はたやすい」
谷口「ワームホールは空間に風穴を開ける……!」
大森「そしてワームホールが辿り着く先は……!」
朝倉「はっ! あれは情報統合思念体!」
国木田「さて、と」ボロン
朝倉「ま、まさか!」
国木田「そのまさかさ!」
国木田「僕のイチモツは『特別』でねっ! 情報生命体をも貫く!」
情報統合思念体「!!!!!?????」
国木田「キョンに手出しはさせないぞ!」
朝倉「く、くるってる……」
国木田「うおおおおおおおおおお」パンパン
古泉「流石ですね」
新川「美しい」
谷口「いくつものオチを奪ってきたイチモツは一味違うぜ!」
大森「これはSOS団の映画に出すべきだよ」
国木田「いくぞ! 情報統合思念体! キョンに手を出したことを後悔するんだね!」
国木田「ああああああああああああああっっっっ!」
キョン「……ど、どうなったんだ……?」
古泉「無事、イッたみたいです」
朝倉「……そんなまさか」
キョン「朝倉?」
朝倉「情報統合思念体と連絡が取れない……!」
朝倉「まさか本当に彼は情報生命体を犯したというの……!」
国木田「普通なら無理だろうさ」
国木田「でも僕は普通じゃない」
国木田「愛する者がいるからね」チラッ
キョン「ひっ……」
古泉「人間は間違える生き物です。そしてそれは宇宙人も同じ」
新川「我々はあなたを許します」
谷口「朝倉、お前も本当の自分の気持ちに気づいているんじゃないのか?」
大森「素直になりなよ、朝倉さん……!」
朝倉「……」
朝倉「うん……」
朝倉「私、本当はキョンくんのことが好きっ!」
キョン「えっ」
朝倉「初めて会ったときから好きだったの! キョンくん、付き合って!」
国木田「図に乗るなよメス豚があっ!!!!」ドゴォッ!!
朝倉「ぐはぁ!」
古泉「困ったものです」
新川「『キョンくんを愛し隊』は、いついかなる時も紳士でなければなりません」
大森「たかが女がキョンくんと付き合えると思ったのかい?」
朝倉「どうすれば……」
国木田「朝倉さんには足りないものがある」
朝倉「それは……いったい……」
国木田「決まってるだろう」
国木田「これさ」ボロン
キョン「」
古泉「『キョンくん観測す、故にホモあり』ですよ」ボロン
新川「紳士は時に野獣にもなるのです」ボロン
大森「キミが欲しいものはこれ、だろう?」ボロン
朝倉「みんな……」
朝倉「ありがとう、わたしが間違っていたわ」
朝倉「残った最後の力を振り絞って……!」
キョン「やめろ朝倉! 早まっちゃいけない!」
朝倉「ありがとう、キョンくん」
朝倉「でも言うじゃない?」
朝倉「『やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい』って、ね」
キョン「やめろおおおおっ!!!!!」
朝倉「これが……イチモツ……!」ビンビン
谷口「SSSランクプラス、だな。やるじゃねえか朝倉」
古泉「んっふ。これは強力なライバル出現ですね」
新川「上品かつ雄々しい。また禍々しくもある……!」
大森「ようこそ、こちら側へ」
朝倉「みんな……私、頑張る!」ビンビン
朝倉「みんなに認められるように……! 一生懸命……!」ビンビン
ドゴオオオオオオ
長門「一つ一つのプログラムが甘い」
長門「天井部分の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。だからわたしに気づかれる。侵入を許す」
朝倉「」ビンビン
長門「……」
長門「ユニーク」
長門「わかった」
朝倉「ちょっと待って……!」
国木田「ダメだよ朝倉さん」
朝倉「どうして? このままじゃ、あの女にキョンくんが……」
国木田「キョンは誰にも邪魔されず 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」
国木田「それに無理やり襲ったりしたら、キョンがかわいそうだろう?」
朝倉「そうね、ありがとう! 国木田くん、いえリーダー!」
国木田「朝倉さん、僕はリーダーじゃないよ」
朝倉「えっ、じゃあ一体だれが」
国木田「リーダーは、『キョンくんを愛し隊』の創始者……」
国木田「そして彼女もまた『特別』――!」
岡部「ハアハア」シコシコ
岡部「くそ、俺のクラスのキョンくん……たまらん」シコシコ
岡部「教師としてずっと我慢してたが……もうだめだ!」シコシコ
岡部「俺の物にしてやる……そして犯してやる……! めちゃくちゃに……!?」スパッ
岡部「あああああああああああっ!? 俺のイチモツがっ!」ブシャアアアア
「キョンくんはねーみんなのものなんだよ」
「だからそういうことしちゃダメなんだよ」
岡部「誰だお前は!!!」
「はさみ! 明日の図工で使うの!」チョキチョキチョキ
岡部「あああああああああああっ!!!!!」
「えへへ」
キョン妹「『キョンくんを愛し隊』のリーダーとして、これからもがんばらないとねっ!」ビンビン
完
どうしてかな。
よろしければ過去作もご覧ください。
古泉「涼宮さんの耳元でアイラブユーとでも囁くんです」 キョン「こうか?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1506154044/
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1506351688/
Entry ⇒ 2017.10.06 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
キョン「ガンダムファイトレディィィィィィィィィ?!」ハルヒ「ゴォォォォ!」
キョン「おう、お疲れさん。さて俺達も帰るか...]
キョン(この時、時既に遅しとはその場にいたハルヒ以外の誰も気づかなかった。まさかあんなことになるとは...]
キョン「行ってくる!」
キョン(朝、普段通りの登校。だが異変が起きたのは朝のホームルームだった。)
岡部「えー、涼宮がネオジャパン代表ととして第13回ガンダムファイトに出場する事となった。
暫く欠席するので皆でお祝いの言葉を考えとくように。以上。」
キョン「....(どういう事だ?まさかハルヒがガンダムファイトをしたいと願ったから...というか何で朝倉もいるんだ...]
鶴屋さん「 流派東方不敗は!
ハルヒ「王者の風よ!」
鶴屋さん「全身!」
ハルヒ「系烈!」
鶴屋さんハルヒ「裂天破侠乱見よ東方は赤く燃えている!!!!!!」
キョン「ハルヒこんなに実力あったのかよ..とりあえず今回はハルヒのシナリオ通りに進ませてやるか。」
古泉「これは彼女にとって想定の範囲内ですから。因みに僕はレインミカムラ役らしいですよ。」
キョン「で、長門はシュバルツと...]
兄キョウジ(IN長門との決別シーン)
長門「….]
ハルヒ「姐さあアアアアアアアアアあん!(セキハテンキョーケン)
谷口&国木田「デビルガンダムの性能は伊達じゃない..]
ハルヒ「ザコは引っこんでなさいっての!「(ゴットフィンガーバチーン)
谷口&国木田「そんな馬鹿なアアアアアアアアアアアアアアア」
藤原[……」
橘「私が出る幕は…]
佐々木「まあまあ、気にしない、気にしない♪」
鶴屋さん「さあ、ガンダムザガンダムをかけた最終決戦をするにょろ!掛かってきな、ハルにゃん!」
コンピ研部長「僕は勝つんだ……そうさ……!何時だって……!!」
コンピ研部員マスターデスアーミー× 6 コンピ研部長INグランドマスターガンダム
ハルヒ「あーもう邪魔ね、コイツ等!..]
鶴屋さん「ハルにゃん、ギリギリまで頑張って、ギリギリまで頑張って、どうにもならなかったらその時だよ!」
ハルヒ「オーケー、ちゃっちゃっとやっちゃいましょう!」
推奨BGM PROUD ラインバレルhttps://www.youtube.com/watch?v=lPjfO0vLM68
ハルヒ&鶴屋さん「究極石破天驚拳えええええええええええん!」
コンピ研部長「オ・ノーレ!!(グランドマスターガンダム撃破」
ハルヒ[邪魔ものはいなくなったわ..決着をつけましょう!鶴ちゃん...いいえ、師匠!」
鶴屋さん「望む所だよ!ガンダムファイトレディィィィ?]
ハルヒ「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
ハルヒ「ゴットフィンガーアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
鶴屋さん「甘いよっ!酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ!爆発!」
ハルヒ「やるわね....けどこれで決める!究極!石波!てんきょうけえええええええええん!
」
鶴屋さん「今こそはるにゃんは...本物ののキングオブハート.....]
ハルヒ「ししょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
キョン(翌日、朝もとどおりになっていた。ハルヒも昨日の事を忘れてるらしい。全く..はた迷惑なヤツだ。」
ハルヒ「おっはよー!キョン、アンタ今度のガンダムマラソン付き合いなさいよ!」
キョン「おう、やってやるぜ!」
みくる「今回私の出番はああ!?」
終わり
今日は学校なのでそろそろ寝ます
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501256695/
Entry ⇒ 2017.09.21 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
古泉「お話しませんか?」 キョン「なんだ改まって」
古泉「涼宮さんは朝比奈さんと一緒に衣装探しのために帰宅」
キョン「うん」
古泉「長門さんもそれを見るなりさっさとご帰宅されました」
キョン「そうだな」
古泉「お互い、腹を割った話をするには最適な環境ではありませんか?」
※注意・糞スレ※
古泉「んふ、あなたも恐れ多いことを仰りますね。僕だって夢にもそんなことを思ってはいません。しかし、彼女らがいればできない話が多いのも事実…」
キョン「まあ、ハルヒはそうかも知れんが…、朝比奈さんや長門はそうでもないんじゃないのか? それともあれか、お前らの組織の間でまた何か…」
古泉「いえ、そういうわけではありません。ただ…」
キョン「ただ?」
古泉「あなたの恋愛観などを彼女らの前で語るのは憚られるのではないか、と思いましてね」
キョン「ぶっ……、お前、そんな話をするために俺を呼び止めたのか?」
古泉「まあ、そんな話にも及ぶかもしれないということですよ。あくまで可能性の話です」
古泉「なに、僕もあなたがご友人の方となさっている『高校生らしい会話』というものに興味がありましてね。たまにはこんなのも悪くないかと思ったまでなんですが」
キョン「……やれやれ、仕方ないな」
古泉「と、いうことは…」
キョン「付き合ってやるよ、お前の話にな」
キョン「お前も大げさなやつだな」
古泉「いえ、誇張ではなく、本当に。…さて、何から話しましょうか?」
キョン「お前が振った話だろう、お前が話題を出せ」
古泉「んふ、それもそうですね。じゃあ、ここでの狂言回しは僕が務めるとしましょう」
「そうですね……。あなたの好きな食べ物はなんですか?」
キョン「…は? おい、古泉、そんなのがお前のしたかった話なのか?」
古泉「まあ、準備運動みたいなものだと思ってください。いきなりコアな話だと、あなたも話しづらいかと思いまして」
古泉「んふ、典型的高校生といった感じですね。カレーは例の『みちる』さんとの食事の際ですか?」
キョン「いや、それとは別に。あいつがどうしてもって言うもんだから食いに行ったんだが」
古泉「」
「それは…、想定外でしたね」
古泉「あなたと長門さんですよ。そんなに親密だったとは思いませんでした」
キョン「親密って言っても、たまに図書館に言ったりする程度だぞ?」
古泉「彼女の性格を考えればそれでも十分親密ですよ。なんで教えてくれなかったんですか」
キョン「お前に逐一報告する類のことでもないだろう。それに、機関が全部把握しているんじゃないのか?」
古泉「とんでもない。有事の際以外、あなた方のプライバシーは完全に守られていますよ。まあ、長門さんの場合、有事の際もプライバシーを保っていらっしゃいますが」
キョン「有事の際以外、ね。まあ、これに関してはとやかく言うのはやめておくか」
古泉「そうしてくれると助かります。…しかし、弱りましたね」
キョン「こんどはなんだ?」
古泉「あなたがたの親密さの衝撃のせいで、僕の好きな食べ物がトコロテンだという話は流されてしまいました」
キョン「今ほど長門との交友関係に感謝した瞬間はないぜ」
キョン「やれやれ、お手柔らかに頼むぜ」
古泉「ずばり、どこまで進んでるんですか?」
キョン「は? なにが」
古泉「あなたと長門さんが、に決まってるじゃないですか。さあ! A! B! C! はたまたDですか?」
キョン「おい、DってなんだDって」
古泉「心得ていますよ。ただ、あなたが『こちら側』なのかどうかは確かめておかないといけませんからね」
キョン「ふっ、『こちら側』……か。ちなみにそのこちら側というのは」
古泉「もちろん、青函トンネルの開通工事に携わっていないのが『こちら側』です」
キョン「生憎だが、俺は開通工事どころか、トンネルの存在を認識するのは映像を通してのみだ」
ガタッ
古泉「……僕はいたく感動しました」スッ
キョン「俺もだよ、古泉」スッ
ガシッ
キョン「なにがだよ」
古泉「あなたレベルになると、キスは挨拶程度にしか思っていないレベルのアレなのかと思っていましたが」
キョン「なにそれこわい」
古泉「だって、閉鎖空間から帰ってこられた際、流れるようなキスで脱出していたではありませんか」
古泉「ええ、長門さんのマンションで上映会をしてましたから」
キョン「」
古泉「有事の際ですので。あ、ちなみに朝比奈さんは興奮のあまり鼻血を出しておられましたよ」
キョン「待て、朝比奈さんまでいたのか?」
古泉「ええ。なぜか喜緑さんと、長門さんが急きょ再構成した朝倉さんまでいらっしゃいましたね」
キョン「」
古泉「ちょ、やめてください! いいじゃないですか、別に減るものではありませんし」
キョン「古泉」
古泉「なんでしょう?」
キョン「お前が、トイレから出れなくなったとしてだ」
古泉「はい」
キョン「お前が勇気の人差し指をすれば扉が開く。お前は勇気をもってクリアした。その映像がお茶の間に放送されていたとしよう」
古泉「なるほど」
キョン「お前はどうする?」
古泉「怒りますね」
キョン「だろ? そういうことだ」
キョン「……」
古泉「……」
キョン「いや、だって俺、ほら、ポニテ萌えだしなあ~」タハー
古泉「タハーじゃないですよ! なんなんですかそれ!」
古泉「まさに神をも恐れぬ発言というやつですね…」
キョン「トイレットペーパーだけに、か?」
古泉「違いますよ」
キョン「そうか」
キョン「いやまあ、勇気の人差し指はたとえが悪かったな、うん」
古泉「失礼ながら最悪の例えですね」
キョン「そうだな…、うん。トイレにスクラビングバブルをスタンプする感じに近いかもしれん」
古泉「トイレで例えるの一旦やめません?」
キョン「イメージしやすい閉鎖空間っていうとそれくらいしかなくてな」
古泉「閉鎖空間の中で森さんにキスぐらいでいいじゃないですか」
キョン「ちょ、ばっか、お前……、それはボーナスステージじゃないか」
古泉「」
キョン「なんでそうなる」
古泉「だって、森さんポニーテールじゃないじゃないですか」
キョン「はあ……。おい、古泉」
古泉「なんでしょう?」
キョン「森さんはいくつだ?」
古泉「たしか…、20代前半後期だと伺ったことがあります」
キョン「だろうな。そんな妙齢の女性と、一介の高校生たる俺たちがあのよどんだ空間でキッスをするわけだ」
古泉「ええ」
キョン「なにか倒錯した背徳感を感じずにいられるか?」
古泉「感じずにはいられませんね」
古泉「ええ。ちょっとしたスペクタクルですね」
キョン「お前の例えで行くなら、そうだな、多丸(兄)さんとのヴェーゼが近いかもしれん」
古泉「なぜ多丸(兄)さんなんです? もっとなじみの深い新川さんとかでいいじゃないですか」
キョン「いや…、なんというかだな」
「正直、ダンディーなおじさまとのヴェーゼは興奮を覚えないこともない」
古泉「」
古泉(彼は……、人間を超えようとしている………)
古泉「え、ええ。すみません。ちょっと考え事を」
キョン「全く…、お前が狂言回しを務めるといいながら、話しているのはもっぱら俺ばっかりじゃないか」
古泉「おっしゃる通りです。なにぶん、この手の会話は不慣れなものでして…」
古泉(新川さんとのキスに興奮を覚える男性、という類の会話に自信のある方がいらっしゃいましたら、是非ともお目にかかりたいものですが)
キョン「そういうお前はどうなんだよ」
キョン「ハルヒとのキスや森さんとのヴェーゼに対し、なにも思わないわけではあるまい」
古泉「あの、」
キョン「なんだ」
古泉「先ほどから気になっていたんですが、どうしてちょいちょいフランス語が入り混じるんです?」
キョン「今日の朝食がフランスパンでな」
古泉「すみません、僕って今馬鹿にされてます?」
キョン「冗談だ。ただ…」
古泉「ただ?」
キョン「ヴェーゼって言った方が興奮しないか?」
古泉「あなたの興奮にかける意気込みが僕には全く分かりません」
古泉「(涼宮さんと森さんとで区別するのもやめてほしいのですが…)そうですね、たしかに何も感じないというと嘘になりますが」
キョン「ほう、どう感じるのか聞こうじゃないか」
古泉「正直、森さんはキツいです」
キョン「は?」
古泉「いやいやいや! 僕たちと10歳近く離れてるんですよ!?」
キョン「いや、たしかにそうだけどな。いけるだろ、森さんなら」
キョン「普段の森さんか。もちろん話してくれるんだろうな?」
古泉「ええ、ええ。いくらでも話してあげますとも! 森さんってものすごい愛煙家かつ酒豪でして、一日に3箱吸って、平気でビール10本開けるんですよ」
キョン「うん。で?」
古泉「いや、で? って…。イメージが変わるでしょう!?」
キョン「うむ、たしかに変わらないと言うと嘘になるが、むしろ付加価値のような気がするんだが」
古泉「マジで!?」ガタッ
古泉「し、失礼、取り乱しました。じゃあ、森さんの部屋に生理用品が散らばってるって聞いても、まだ付加価値だとおっしゃりますか!?」
キョン「まあ話の流れ的にそうだろうな。むしろ必要条件と言っても過言ではない」
古泉「本気で言ってます!?」
キョン「本気も本気だ。それよりなんだ、さっきから大声で」
古泉「い、いえ…。あまりにもなんというかその、僕の価値観と食い違っていらっしゃるものですから」
キョン「多様性ってやつだな」
古泉「え、ええ…。そうなんでしょうか」
古泉「一方の涼宮さん、ですか?」
キョン「ああ。立場上言いづらいのはわかるが、俺も腹を割ったんだから話してほしいものなんだが」
古泉「ええ、心得ていますよ。……そうですね、正直に言って」
キョン「ほう」
古泉「顔中嘗め回したいです」
キョン「」
古泉「なんなんですかその反応。せっかく僕が腹を割ったというのに」
キョン「腹を掻っ捌いたら大量の寄生虫が出てきた気分だぜ」
古泉「そんなこと言わないでくださいよ」
キョン「いやでも、まあ、うん。いいとしよう。そう思う理由があるんだろ?」
古泉「話しません」
キョン「は? なんで?」
古泉「あなたがひどいこと言うからですよ。僕はあなたが謝ってくれるまで話しません」プイ
キョン「あー! 悪かったって! 勘弁な、この通り!」ペコペコ
古泉「今回だけですよ?」
キョン「ああ、わかってるさ」
キョン「お、おう」
古泉「整った顔、尊大な態度、そしてその生意気さを体現するかのような自己主張の激しい肢体…。マーベラスだと思いませんか?」
キョン「た、確かに容姿は整っているな、うん」
古泉「そんな女性がいるとですね、顔中嘗め回したくなるのも致し方ないかと」
キョン「そこで論理の飛躍があるような気がする」
キョン「間違いなくそうだろうよ」
古泉「しかし、意外ですね」
キョン「何がだ?」
古泉「朝比奈さんのような女性に鼻の下を伸ばしていらっしゃるところから推測するに、あなたはもっと低年齢な女性が好みなのだと思っていました」
キョン「いや、低年齢もいけるぞ? 俺の妹の友人のミヨキチとかいい感じだ」
古泉「」
古泉(僕が対峙してるのってクリーチャーとかでしたっけ)
古泉(語り始めた…)
キョン「そのとき、当然風呂にも入っていったわけなんだが」
古泉「ええ」
キョン「うちの妹がふざけてミヨキチが着替え終わる前に下着以外の服をもって逃げてな」
古泉「はあ」
キョン「その姿たるや……、おっと古泉、すまん」
古泉「なんでしょう?」
キョン「エベレストだ」
古泉「」
古泉(僕は…、とんでもないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない……)
キョン「なんだ?」
古泉「あなたの意見は理解しました。それで、その、失礼ですが、妹さんを相手に劣情を催されることはないのですか?」
キョン「は? 何言ってんだお前?」
古泉「や、やはりそうですか。すみま―――」
キョン「兄妹がいれば興奮するのは当たり前だろ?」
古泉「」
古泉(こういうときって児童相談所と警察どっちに連絡すればいいんだろう)
古泉「そ、そうでしょうか?」
キョン「ああ、なんだか寂しくなってくる」
古泉「それは失礼いたしました」
キョン「さて、次はお前のターンだ」
古泉「はい?」
キョン「お題は…、そうだな、自家発電の燃料でいいだろう」
古泉「な、なるほど…。それはまた、答えに窮するお題ですね」
キョン「それくらいいいだろ。なんたって、高校生らしい話だからな」
古泉「え、ええ。なかなかにエキセントリックな話題だと思いますよ」
キョン「さあ、話せ」
古泉「そ、そうですね…。最近のお気に入りは、あれですね」
キョン「あれ?」
古泉「涼宮さんのご自宅の映像です」
キョン「おい、プライバシーはどこに行った」
キョン「丸裸、ね。あまりいい例えには聞こえんが?」
古泉「僕も、この現状には賛同しかねますね」
キョン「でもおかずにしちゃってるんだよな」
古泉「おかずにしちゃってますね」
古泉「考えてもみてください。僕たちは思春期です。これは、紙くずからアメーバまで、あらゆるものを燃料にできるということではありませんか? まあ、石油があればそれに越したことはないのですが」
キョン「とりあえず、思春期は性犯罪の免罪符ではないということだけ言っておこう」
古泉(あなたがそれを言いますか)
古泉「ええ、心得ておきましょう」
古泉「ああ…、これといって特徴のない普通の映像ですよ」
キョン「なんだ、そうなのか」
古泉「ただ、お風呂に入ってたり着替えをしたり、時たま布団の中でもぞもぞしていらっしゃるのが映ってるぐらいで」
キョン「それのどこが普通なんだ」
古泉「そういわれると思いましたが、考えてもみてくださいよ」
キョン「考えてみてやろう」
古泉「いいですか、僕はつまり、涼宮さんのそういう姿を見て、そういうことをしているわけです」
キョン「ふむ、お前の話だとそうなるな」
古泉「これがもし普通の、例えばそうですね、単なるホームビデオのような映像を見て僕が日本の電力供給の一部を担っていたとしたら、あなたはどうおもいますか?」
キョン「……」
ポワンポワンポワンポワン
~~~~~~~~~
ハルヒ『おかーさん! おかーさん!』
古泉「んっふ、僕がお母さんになりましょうか?」シコシコ
ハルヒ母『どうしたの、ハルヒ?』
ハルヒ『お腹すいた! ご飯はまだなの?』
古泉「んっふ、ご飯よりもっといいものを口にさせてあげましょうか?」シコシコ
ハルヒ『お母さん、このおさかな美味しいわね! おかわり!』
古泉「お、おかわりですか……。いけますよ。まずはい、一回目……ふんもっふ!!」ピュッ!
「セカンドレイド!!」ピュピュッ!
~~~~~~~~~
ポワンポワンポワンポワン
キョン「……俺が間違っていたよ、古泉」
古泉「でしょう?」
キョン「ああ。逆に変態度が増すぜ…」
「しかしなあ、そんな映像を撮影するなんてなあ。褒められたもんじゃないよなー」チラッ
古泉「……映像をご所望ですか?」
キョン「朝比奈さんか森さん、はたまた鶴屋さんのはないのか?」
古泉「これはこれは」
「……って、あるわけないでしょう!」
古泉「ありませんよ。我々の目的はあくまでも涼宮さんを監視して有事の際に備えることですから」
キョン「ハルヒのかあ……。うーん、再生数稼ぎぐらいにはなるか。そうだな。うん。くれ」
古泉「ちょちょちょちょ」
古泉「ダメですよ。あなた流出させるつもりでしょう」
キョン「ダメなのか。YouTuberになりたかったんだが…」
古泉「ダメです。ご自分のお力で面白い動画を撮ってください」
キョン「くそっ、それができないからお前に頼んでるんじゃないか」
古泉「世界崩壊とか以前にあなた捕まりますよ?」
キョン「今なら少年法ですむだろ」
古泉「ダメです。あなたがそんなしょっぱい理由でしょっ引かれたら涼宮さんがどう思われるか…。ああ、考えただけでも恐ろしい」ブルッ
キョン「ああ、まあな」
古泉「理由を伺っても?」
キョン「そうだな……。少し長くなるがいいか?」
古泉「どうぞ」
キョン「まず朝比奈さんはあれだな、いまさら言うのもあれだが、胸だな。うん。まあ、胸だけではなく、これまた言うまでもないが、顔も素晴らしいよな。あれほどのロリフェイスにあり得ないほどのロケットおっぱい…。いや、あれはロケットなんてもんじゃないな。ロケットは平和利用のためのものを指すからな。あれはミサイルだ。軍事利用に最適だ。もはや兵器と言っても過言ではない。今はやりのテポドンとでも言うべきか。しかし、朝比奈さんの真骨頂は、乳でも顔でもないと思うのは俺だけだろうか? 夏休みのバイトで汗に濡れて着ぐるみから出てきた朝比奈さんを覚えているか? あの姿はまさしく女神だと思ったね。そう、朝比奈さんは汗をかいてこそ輝くのさ。そう思わんか? つまりだな、こういうことだ。もともとの朝比奈さんをベジータ、乳を悟空としよう。そこに汗が加わるとどうなる? そう、ベジットだ。俺たちは最強のサイヤ人を相手にしてたんだよ。しかし、どういうわけか朝比奈さんは夏場にメイド服を着ていても汗はかかないみたいだ。くそっ! どういうトリックを使ってやがるのか知らんが、それが真実なんだよ、古泉。だから、何としてでもこのカエルの着ぐるみの中に彼女を入れるべきだと俺は断固主張するね。そしてそのあと、汗が最もしみ込んだ場所…。そう、脇だ。つまるところ、おっぱいを左手に臨みながら、脇にむしゃぶりつくのさ。こりゃたまらんと思うね。枕草子風に言うと、『みくるは乳。星のほくろはさらなり、脇もなほ、汗粒の多く流れちがひたる。また、ただ一粒二粒など、ほのかにうち流れてかほるもをかし。母乳など降るもをかし。』といった具合か。朝比奈さんについて語るところはこのくらいにしとこう。なんせ学園のマドンナだからな、朝比奈さんは。つぎは鶴屋さんだな。鶴屋さんのいいところは何だと思う? 八重歯? それももちろん捨てがたいな。おでこ? いいじゃないか、最高だ。しかしな、鶴屋さんの良さは、それだけじゃないと思うんだよ俺は。もちろん、彼女の容姿が抜群で、他の追随を許さないのは俺も異論がない。国木田が彼女のために進学先を北高に変えたのもうなづける話だと思う。しかし、しかしだな。そんなものだけでは説明できない魅力…。つまり、ダークマターが彼女には存在するんだよ。目に見えないダークマターをどうやって観測したかって? そりゃお前、あれさ。どういう要素でこのユムシがK2に、あるいはエベレストに、はたまたキリマンジャロになるのかを羅列し、対照実験を繰り返せば解はある程度導かれるさ。いいか、一度しか言わないからよく聞け、彼女の真の魅力、それは…、金なんだよ。金がどうしたって顔してるな。確かに、青函トンネルを開通させるのには、金なんてかからん。自治体と国からの支援だけで上等だ。世の中はそういう風にして動いているんだからな。しかし、考えてもみろ。それらに余りある付加価値をつけられるのは一体何だ? 才色兼備のお嬢様に俺のホモサピエンスをSuper Driverできるとしたらどうなる? もう、一生止マレ!なんて思わないような冒険ができると思わんか? でしょでしょ? 札束で叩かれてユムシがマムシになるような経験をしてこそ、非常にユカイなことが起こるのさ。つまりだな、俺の言いたかったことを要約すると、『鶴屋家お嬢の金の声、諸行無常の響きあり。異常膨張のマラの色、キョンの赤玉の理をあらはす。あばれるモノも久しからず、ただ真夏の夜の淫夢のごとし。挿れられしものもつひには果てぬ、ひとへに金の前の国木田に同じ』ということだな。まあ、長々と話しちまったが、つまるところ何が言いたいかっつうと、俺は汗まみれのロリ巨乳朝比奈さんの脇に顔をうずめながらプロレスごっこをしたいし、海老ぞりになった鶴屋さんに札束や金塊で頭を殴られて死んじまう人生もいいかなって思っちまってるっつーこった」
こいずみ「」
古泉(このままでは、いけない)
古泉「へ、変な気分と言いますと…?」
キョン「ここを発電所にしちまってもいいってことだ」
「幸い、ここにはカエルの着ぐるみもあるし、なんならメイド服もあるしな…」
古泉「い、いけません! それは……」
キョン「古泉」
古泉「は、はい?」
キョン「ちょっと、着ぐるみ着るだけだから。な? 今日は帰ってくれ」
古泉「え、ええ。わかりました」
その後僕は幾度にもわたって彼がこちらの世界に帰ってくるよう説得を続けましたが、彼からはくぐもった声以外の返事が返ってくることはありませんでした。
仕方なく、僕は部室に鍵をかけ、そのまま家路へとつきました。
その夜に見た涼宮さんの秘蔵ビデオは、これまでになく最高なものでした。
僕は自らのスタッフを180℃に熱した油の中に入れながら、無事その日の発電ノルマをこなしたと記憶しています。
その後、涼宮さんの生理に伴う閉鎖空間に関する論文を少し書き進めたのち、ほどなくして眠りにつきました。
そして次の日、嫌な胸騒ぎを感じながら朝一で部室に足を運ぶと、しかめっ面をした涼宮さんと鉢合わせました。なんだか嫌な予感がするの、と彼女は語っていました。
彼女が合鍵を使って部室の部屋を開けたとき、そこにはもう人間は一人もいませんでした―――そう、生きた人間は、一人も。
カエルの着ぐるみの股ぐら部分を真っ赤と真っ白の歌合戦カラーに染めた犯人であろうと推測されるソレは、恍惚の表情を浮かべてパイプ椅子に腰かけていました。
その姿はさながら、敦盛を踊り切った直後の信長公のようにも、映ったのです。少なくとも、僕の目には、ね。
完
東海道新幹線トンネル多杉
見計らって書き込もうと思うと連投規制かかるし、半分心おられながら投下しました。
皆さんも、色々とほどほどにしておきましょう。それでは。
掲載元:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495353392/
Entry ⇒ 2017.09.17 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (1)
キョン「扉の内と外」
古泉「これはまた面白そうな話題ではありますが、一つだけ言わせてください」
キョン「なんだ古泉、居たのか」
古泉「えぇ、先程からずっと。僭越ながら申しますと、僕は貴方以外からその様な扱いを受けた事が無いのですが」
キョン「そうか?」
古泉「教室では女性方から黄色い歓声を浴びますし、街に出れば声を掛けられて大変なのです」
キョン「俺には婦女子の黄色い歓声ではなく、腐女子のドス黒い嬌声に聴こえるがな」
古泉「それは流石に捻くれ過ぎでしょう」
古泉「団活をスムーズに、なんて貴方らしくない発言ですね」
キョン「勿論ハルヒの為なんかじゃない。最近、ここに来てお前を見るだけでストレスがドンドン溜まっていってな…」
古泉「それは…何と言うか、僕のせいなのですか?」
キョン「あぁ、最近ではハルヒの蛮行も孫を見守るジジイの様な穏やかな気持ちで流すことが出来ている。にも関わらず、だ。ここの活動がある日に限って気分が悪くなったり前髪がスルスルと…」
古泉「そうでしたか…。それは気が付かず申し訳ありませんでした」
キョン「だから俺の頭皮事情の為にも絶対にこの謎を解き明かす!」
古泉「では今日は貴方が探偵役をなさるんですね」
古泉「確かに、誰かに自分の推理を聴かせるのはこれ以上ない快感ですね」
キョン「ついでに溜まったストレスの発散にもなれば一石二鳥だ」
古泉「流石です」
キョン「じゃあ早速始めよう」
古泉「何時もと逆と言うのはなんだか新鮮ですね。では僕は貴方の話を聞く事に徹しましょう」
キョン「あぁ、頼む。まず最初に、お前のその敬語だ」
古泉「成る程、確かに柔らかい物腰になる反面、男らしさと言うものには欠けますね」
キョン「特にお前の場合はだな、顔も柔和な部類だ。女装でもいけそうなくらいに」
古泉「お褒めに授かり光栄です」
古泉「ツッコんでくれないんですね…」
キョン「今日は何時もと逆なんだ。お前は普段スルーする事があるだろ」
古泉「突っ込んで欲しければそれなりのボケをしろ、と言う事ですか」
キョン「そもそも漫談をしているつもりはない。続けるぞ」
キョン「だが、どうにもそれだけではない気がするんだ」
古泉「と言いますと?」
古泉「あの人気漫画の主人公ですか」
キョン「彼は敬語が多いし、大概ニコニコしているが、ちゃんとヒロインが設定されており、ホモ臭さは余り無い」
古泉「まぁ一部で曲解される事はあるそうですが、概ねその通りですね」
古泉「ですが、それなら僕の場合、その一部の曲解にあたる部分が貴方だったと言えませんか?」
キョン「仮にそうだとしても、こちらの曲解とあちらの曲解では大きな違いがある」
古泉「違い…ですか」
キョン「彼をそう言う目で見るのはそういう嗜好のある人達だ。多少無理な解釈でも『こうあって欲しい』と言う欲求から見過ごす事もある」
古泉「成る程、ですがそれは…」
キョン「ただの自意識過剰、ってか?」
古泉「えぇ、まぁ。僕の立場からではそう言わざるを得ませんね」
キョン「そこは争っても仕方がないか。なら次だ」
古泉「水掛け論は趣味じゃありませんしね」
キョン「一番俺が恐怖を感じる瞬間は、お前が顔を近づけて来た時だ」
古泉「ふむ…しかし秘密話をする時には仕方ないのでは?」
キョン「そもそもだ、どうして男同士でこそこそ話さにゃならんのだ」
キョン「なら態々本人の居る前でなくとも、場所を変えてだとか色々あるだろ」
古泉「団活中に抜け出せと仰るのですか?」
キョン「活動の後とか、ハルヒが来る前とかでもいい」
古泉「団活後は貴方のプライベートに極力影響しない様に、という配慮のつもりだったのですが…」
古泉「んっふ、それに貴方が涼宮さんより先にいらしている時でも、いつ涼宮さんが入って来られるか解らない以上、声は抑えるしかありませんね」
キョン「夜中のオカズまで把握されてる身にプライベートも糞もあったもんじゃねぇ」
古泉「おや、意外ですね。いつからご存知だったのですか?」
キョン「…ちょっと待て。今のは冗談のつもりだったんだが」
キョン「笑えねぇよ!」
古泉「まぁその話は置いておきましょう。僕の男色疑惑を晴らさねば、脱毛の量も日に日に増えていっているのですから」
キョン「帰ったら家中ひっくり返してやる…」
古泉「それで、距離感の話ですが」
キョン「超能力者だろ、パーソナルエリアの外から声をかけても何とかなる様に出来ないのか」
古泉「無茶を仰いますね。ご存知の通り、僕の力はあの場所でしか使えないんです」
古泉「それに貴方は見たでしょう?僕の力がどういったものかを」
キョン「あぁ、それについちゃ嫌という程見せられた。と言うかお前、時々、必要に駆られてじゃなく、見せたくて見せてるだろ」
古泉「かと言って道行く人に見せびらかす訳にも行きませんしね」
キョン「当たり前だ馬鹿。俺以外には見せたらダメだろ」
古泉「そうですか?僕の正体を知っている、朝比奈さんや長門さんなら問題ない気もしますけど」
キョン「機関に指詰められても知らねぇぞ」
古泉「おやおや、残念ですがそこまで野蛮な行為をする様な組織ではありませんよ」
キョン「俺のオカズまで把握してるのにか?」
古泉「それについてはノーコメントで」
キョン「ちっ。帰ったら本当に徹底的に探してやるからな」
古泉「お手柔らかにお願いします」
古泉「成る程、メールですか。しかし団活中にメールとなると、それこそ恋人の存在を疑われるのでは?」
キョン「少なくともお前だとは思わねぇだろ。つまりホモ臭さはなくなる訳だ」
古泉「まぁ、貴方がそうしろと仰るのなら検討しましょう。こちらとしても貴方とは仲良くやっていきたいものですし」
キョン「だぁあ!そう言う背筋がゾクゾクするような台詞も止めろ!」
古泉「中々難しいものですね」
キョン「と言うかハルヒの奴、遅いな…そろそろ来てもおかしくねぇだろうに」
古泉「ではこの件はまたの機会に、と言う事で」
キョン「解った解った」
キョン「何だったんだあいつ…何時も以上に嵐のようだったな」
古泉「団長不在では仕方ありませんね、我々も帰りましょう」
キョン「あいつ、何故か顔が真っ赤だったぞ」
古泉「熱でもあったんですかね?」
キョン「にしては全力で走り去ったがな」
古泉「まぁ、涼宮さんを蝕めるとしたら恋の病くらいですよ」
キョン「…ギャグにしても出来が悪いな」
古泉「至って真面目に述べたつもりだったんですが…」
キョン「尚更悪いわ」
古泉「これは手厳しい」
翌日、「大規模な情報操作が行われた」という長門の下、俺以外の男女が逆転したというトンデモな事態の収拾に奔走したのはまた別のお話。
みくる「鶴屋さんとお話ししてたらちょっと遅れちゃった…涼宮さん、まだ来てないといいけど」
キョン『最近お前を見るだけで…ドンドン溜まっていってな…』
みくる「な、何だか聞いてはいけない言葉が聴こえてきたような…」
みくる「き、聞き間違えかも知れないし、もう少しだけ様子を窺ってみようかな…」
古泉『そうでしたか…それは気が付かず申し訳ありませんでした』
キョン『だから俺の…為にも…』
古泉『では今日は貴方が…なさるんですね』
古泉『確かに、誰かに自分の…を聴かせるのはこれ以上ない快感ですね』
キョン『ついでに溜まったストレスの発散にもなれば一石二鳥だ』
古泉『流石です』
キョン『じゃあ早速始めよう』
古泉『何時もと逆と言うのはなんだか新鮮ですね。では僕は貴方の…を…事に徹しましょう』
みくる「はわわわ…。これって、やっぱりキョン君と古泉君が…って事…?」
キョン『あぁ、頼む。まず最初に、お前のその…だ』
古泉『成る程、確かに柔らかい…反面、男らしさと言うものには欠けますね』
キョン『特にお前の場合はだな、顔も柔和な部類だ。女装でもイケそうなくらいに』
古泉『お褒めに授かり光栄です』
古泉『ツッコんでくれないんですね…』
みくる「や、やっぱり今日はキョン君が攻めなんだ…!さっきから話すばかりで焦らされてる古泉君…」
キョン『今日は何時もと逆なんだ。お前は普段…する事があるだろ』
古泉『突っ込んで欲しければそれなりの…をしろ、と言う事ですか』
キョン『そもそも…しているつもりはない。続けるぞ』
みくる「このままここで聴いていて良いのかな…も、もしほ、本番が始まったりでもしたら…やっぱり無理ですぅ~‼︎」ビューン
谷口「キョンの奴、ちゃんと涼宮のお守りしてっかなぁーっと」
キョン『…そう言う目で見るのはそういう嗜好…だ。多少無理…でも『…欲しい』と言う欲求…もある』
キョン『…俺は『古泉がホモで…ればいい』と思いながら…お前…を感じているんだ』
谷口「…嘘だろ?聞き間違いか?いや、でも確かに彼奴らただの男友達にしちゃ距離が近い時あるよな…」
古泉『えぇ、まぁ。僕のタチ…ではそう…ざるを得ませんね』
谷口「タチっつったか今⁉︎」
キョン『そこは争っても仕方がないか。なら…』
谷口「なら何だよ!キョンがネコになるのか⁉︎」
谷口「かけるってナニをかけるつもりだよ⁉︎」
キョン『一番俺が…感じる瞬間は、お前が顔を近づけて来た時だ』
谷口「いよいよヤバい雰囲気になってきたぞ…このままおっ始める気か⁉︎」
古泉『ふむ…しかし…する…には…ないのでは?』
キョン『そもそもだ、どうして男同士…こそこそ…にゃならんのだ』
古泉『まさか涼宮さんの前で…堂々とする訳にもいかないでしょう』
谷口「うえぇ…マジで気分が悪くなってきたぜ…」
キョン『なら態々…居る前でなくとも、場所を変えてだとか色々あるだろ』
古泉『団活中に抜け出せと仰るのですか?』
谷口「こいつどんだけ盛ってんだよ…古泉の方がホモっぽいと思っていたが、聴く限りじゃキョンが大分ガッついてんじゃねぇか…」
古泉『んっふ、…貴方が涼宮さんより先にいらしている時でも、いつ涼宮さんが入って来られるか解らない以上、声は抑えるしかありませんね』
谷口「声は抑えるって…そもそもそんなリスキーな時にヤルなよ!つーか涼宮以外には隠す気ねぇのかよ⁉︎」
キョン『夜中のオカズまで把握されて…も糞もあったもんじゃねぇ』
谷口「も、もう無理だ…キョンに用事があった様な気がしたけどもうそれどころじゃねぇ…帰ろう…」
ハルヒ「今日はちょっと遅れちゃったわ…全く、岡部の奴!いっつも私のやる事に意見して…」
ハルヒ「…っと、早くキョンに会いたくて走ってきたから…髪とか乱れてないかしら?」
キョン『笑えねぇよ⁉︎』
古泉『まぁその話は置いておきましょう』
ハルヒ「?何か何時になく盛り上がってるわね…」
古泉『僕の男色…を晴らさねば、…の量も日に日に増えていっているのですから』
キョン『帰ったら…ひっくり返してやる…』
ハルヒ「嘘…古泉君、やっぱり男色家だったんだ…って言うかキョンもキョンで『帰ったらひっくり返してやる』って…」
キョン『…外から…かけても何とかなる様に出来ないのか』
ハルヒ「もう、これはアレよね…アレの話をしているって事よね…」
古泉『無茶を仰いますね。ご存知の通り、僕の…はあの場所…しか…ないんです』
古泉『それに貴方は見たでしょう?僕の…がどういったものかを』
キョン『あぁ、それについちゃ嫌という程見せられた。と言うかお前、時々、…見せたくて見せてるだろ』
古泉『んっふ、バレてましたか。あれだけ大きな…を持っているのを誇らしく思わない訳では無いですからね。偶には自慢したくもなりますよ』
ハルヒ「自慢したくなる程って…そ、そんなに大きいのかしら…」
キョン『当たり前だ馬鹿。俺以外には見せたらダメだろ』
ハルヒ「道行く人にって!露出狂じゃない!キョンも『俺以外には見せるな』って何言ってるのよ⁉︎」
古泉『そうですか?僕の…を知っている、朝比奈さんや長門さんなら問題ない気もしますけど』
キョン『気管に…詰められても知らねぇぞ』
古泉『おやおや、残念ですがそこまで野蛮な行為…はありませんよ』
ハルヒ「気管に…って有希達に何させてるの⁉︎」
キョン『俺のオカズまで把握してるのにか?』
古泉『それについてはノーコメントで』
キョン『ちっ。帰ったら本当に徹底的に…してやるからな』
古泉『お手柔らかにお願いします』
キョン『兎に角だ、ハルヒの奴にバレない様に話すだけならメールとかでも良いだろ!態々怪しまれる様な接近をしてまで団活中に話をするなよ?』
古泉『成る程、メールですか。しかし団活中にメールとなると、それこそ恋人の存在を疑われるのでは?』
キョン『少なくともお前だとは思わねぇだろ。つまりホモ臭さはなくなる訳だ』
ハルヒ「恋人?キョンと古泉君が?…まぁここまでの話を聴かされて、寧ろそうじゃない方が問題ね…」
古泉『まぁ、貴方がそうしろと仰るのなら検討しましょう。こちらとしても貴方とは仲良くやっていきたいものですし』
キョン『だぁあ!そう言う…ゾクゾクするような…も止めろ!』
古泉『中々難しいものですね』
キョン『と言うかハルヒの奴、遅いな…そろそろ来てもおかしくねぇだろうに』
ハルヒ「⁉︎な、なんでこのタイミングなのよ⁉︎どんな顔して出てけばいいのよ!」
古泉『ではこの件はまたの機会に、と言う事で』
ハルヒ「くっ…でも無断で帰るのもおかしいし…」
キョン『解った解った』
ハルヒ「お、お待たせ!でも私、今日はちょっと用事思い出したから今日はもう帰るわね!あ、アンタ達も、ちゃんと自分の家に帰るのよ!じゃ!」
ハルヒはアホの子の方が可愛い
次はTS改変編だな
乙
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1498317407/
Entry ⇒ 2017.08.26 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」 キョン「やめろ!古泉!」
だが――
キョン「ぐぉっ!?」
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
凄い力で払いのけられた。
クソッ! ただ前屈みで動いてるだけなのに、どこでそんな力入れてるんだこいつ?
朝比奈「ふ……うぐ、ひぐ、古泉くぅん……」グス
朝比奈さんは泣いている。
無理もない。かれこれ古泉は三十分近くこの状態なのだ。
俺だって本当はとっくに泣き出したかった。
なぁ古泉よ、おまえどうしちまったんだよ?
お前の役割は解説役であって、そんな楽しそうにオセロ盤を転がす役じゃないだろ?
いつものイラつくニヤケ顔を見せてくれよ……なぁ
古泉「…………」
キョン「お前が何か困ってるってんなら俺は全力で手助けしてやる」
キョン「朝比奈さんや長門だってきっと同じ気持ちさ。だから話を――」
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
畜生っ!!!
こいつは腹の底がまったくわからん野郎だが部室で延々とこんなことする奴じゃ断じて無い!
なぜかって? 決まってるだろ?
ハルヒがこいつのこんな姿見たらどう思う?
頼れる副団長様がキ●ガイみたいにオセロ盤を転がしているんだぜ? 俺なら発狂するね。
そうすりゃ世界はたちまち崩壊の危機だ。それを防ぐのがお前の主な仕事なんだろ?
幸い今は掃除当番が長引いて部室にはまだ来てないが……
キョン「ん……ハルヒ? そうか! ハルヒか!?」
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
くそったれ! まともな答えが返ってくるわけもないか!
どうする……? 何か、何でもいいんだ。せめてヒントだけでも教えてくれ。
朝比奈「古泉くん……もうやめてください……私、なんでもしますからぁ」グス
残念ながら今の朝比奈さんは俺と同じ、ただ狼狽えるだけの一般人に等しい。
未来の朝比奈さん(大)が現れる気配もない以上、頼れることはないだろう。
古泉の行動からあることに気づいたからだ。
よく見りゃこいつのやってることはさっきから三パターンだ。
1.オセロ盤を転がす
2.オセロ盤を持ち上げ横歩きする
3.オセロ盤を前に差し出す
この三つをローテーションで繰り返している。
ここまでされりゃ谷口でも気づくだろうな。
気づいてみれば簡単なことだった。
まったく、最初からカーポートマ●ゼンのタイヤを使ってくれれば5分もしないうちに気づけただろうによ。
だがよ、古泉、わかってるぜ?
オセロ盤を使ってることに意味があり、そこにお前のメッセージがあるんだな?
古泉「ロクロクロクロクロクサーニ♪」
オセロ盤……オセロ……白黒……パンダ……動物園……
なんでもいい。そこにきっとこいつを元に戻すヒントが隠されてるはずなんだ。
キョン「長門! オセロについて教えてくれ!」
長門「……オセロの語源は元々シェクスピアの戯曲から来ており――」
なるほど、俺は長門からオセロについての歴史、ルール、大会など様々なことを学んだ。
念のため長門の指導の下、朝比奈さんとも一戦を交えた。
意外なことに朝比奈さんは古泉よりは遥かに強く俺との対戦は白熱したものとなった。
キョン「ええ、でも楽しかったですよ。また機会があればぜひ」
朝比奈「はい、喜んで♪ 長門さんもありがとうございました」
長門「礼はいい……私は求められたことをしただけ」
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
さてと、古泉よ。大体わかってきたぜ。お前の言いたいことがな。
つまり大切なのはオセロじゃない。この部室に関係することだったんだ。
この部室内で今もっとも頼りになるのは誰だ?
そう、俺が頼りっぱなしで申し訳なく思ってるSOS団員筆頭、長門有希以外居やしない。
お前はずっと長門に事情を聞けって言いたかったんだな?
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
ったく、いちいち回りくどいんだよお前は。
この事件が解決したら、そこんところ改善を要求するぜ。
長門「…………」
キョン「お前は古泉がこうなっちまった経緯を知ってるのか?」
長門「知っている」
やっぱりな。ここに辿り着くまで長かったぜ。
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
古泉の顔にも疲労が浮かんでいた。無理も無い。あの動きをすでに50分だ。
朝比奈「ど、どうしてすぐに言ってくれなかったんですかぁ?」
長門はゆっくりと朝比奈さんの方を向き、
長門「私の役目は観察だから」
と告げた。
その表情が悲しそうに見えたのは決して俺の勘違いではないだろう。
古泉「ロクロクロクロクロクサーニ♪」
長門「…………」
キョン「だが、聞いた以上はこれからはSOS団の一員として古泉を戻すことに協力してくれ」
長門「…………了解した」
少し間を空けた長門だがその語気はこころなしか強いものがあった。
よし、待ってろよ古泉! すぐに元通りのいけ好かない顔のイケメンに戻してやるぜ!
やっぱりハルヒか……。あのCMを見たんだな?
長門「そう。そのメロディが脳内に残り不快を感じた涼宮ハルヒは閉鎖空間を発生させた」
長門「古泉一樹に変調が現れたのもちょうどその頃」
だが俺の見る限り2週間前には古泉におかしな所は見受けられなかったぞ?
朝比奈「私も古泉くんはいつもどおりに見えました」
長門「その頃から彼の頭には独特のメロディが24時間休むことなく流れていた」
キョン「それは、つまり……」
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
長門「そう。カーポートマルゼ●のCMメロディ」
長門「そう」
朝比奈「そんな……!」
長門「……彼の精神は常人より極めて強靭だった」
長門「通常なら一日と持たないはずが彼は一週間は普段と変わらぬ暮らしを過ごしてみせた」
だが言われてみれば確かにその予兆はあった。
突然大量の精神安定剤を飲んだかと思えば泣き出したり、
窓から飛び降りようとして『死なせてください』と叫んだことも一度や二度じゃない。
クソッ……! 古泉……お前はあの頃からずっとカー●ートマルゼンと戦ってきたのか……!
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
キョン「何で一人で抱え込むんだよ……この馬鹿野郎……!」
長門「そしてそのメロディ閉鎖空間に閉じ込め、その場に居た古泉一樹を汚染した」
古泉「ロクロクロクロクロクサーニ♪」
キョン「どうにか……戻す方法はないのか?」
その言葉に……長門は首を横に振った。
朝比奈「そ、そんな……!?」
長門「……涼宮ハルヒがあのCMを忘れればある程度は対処可能」
長門「しかし、あのCMは流れ続け、涼宮ハルヒはその度に閉鎖空間を発生させる」
長門「相手は全国的な大企業……打つ手はない……」
長門は微かに震えている。
朝比奈さんは床に座り込んで涙を隠そうともしない。
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
俺は――
朝比奈「! ほ、本当ですか、キョンくん!?」
キョン「ええ、条件はたったの二つです」
キョン「ハルヒにあのCMを忘れさせること。そしてあのCMを流さなくすること」
キョン「これだけで古泉は救われるんです」
長門「……その方法が私の中にはない」
キョン「簡単だ、電凸するんだよ」
キョン「それは電信柱のおっさんの言い方です。電凸というのは……」
長門「ある特定の団体、組織等に電話などを用いて抗議、見解を一方的に述べる行為」
長門「つまりはクレーム」
キョン「そうだ」
キョン「長門と朝比奈さんは例の企業に電話でもスパムメールでも何でもいい」
キョン「クレームを入れまくってあのCMを自粛させてほしいんだ」
朝比奈「ふぇぇぇぇ……でも私にクレームなんて出来るでしょうかぁ?」
キョン「鶴屋さんやその周囲の力を借りてください。長門は遺憾なくその能力を発揮しろ」
長門「…………わかった」
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
作戦が決まるや否や俺たちの行動は早かった。
長門は例の高速詠唱を始め●ーポートマルゼンにクレームを入れ、
朝比奈さんは鶴屋さんに頼みカーポー●マルゼンの株を買い占めてもらった。
俺? 俺はもちろんハルヒの所に向かったさ。
部室に向かっていたあいつを抱きしめ、ジョン・スミスが俺であることを明かし、
好きだと告白して、キスをした。
これであのCMのことを覚えてたらもう本当に打つ手なし、お手上げだった。
なにせ俺は翌日を向かえ、部室であの昨日奇怪な動きをしてた野郎とオセロを興じているからだ。
キョン「どうだ? 調子は」
古泉「すこぶる快調ですよ」
古泉「あの音が鳴らないだけでこんなに世界が澄み渡って見えるなんて久しく忘れていました」
古泉「なにせこのごろは寝ている間はもちろん起きているときもあの三人組の幻影を見ていましたからね」
キョン「それが限界をきたして昨日のアレだったわけだ」
古泉「いや、お恥ずかしい」
そうかい、だが俺だけが活躍したわけじゃないぜ?
長門、朝比奈さん、おっともちろん鶴屋さんにも感謝しておけよ。
古泉「もちろんですよ」
古泉「もしこの先機関とその四人の方が対立するようなことがあれば僕は迷わず機関を捨てます」
古泉「それでもまだ足りないくらいですがね」
おいおい、過激だな
朝比奈「あのままだったら私、本当にどうしようかと……」グス
古泉「ああ、どうか泣かないでください」
古泉「僕もまたこうして朝比奈さんのお茶を味わえて嬉しいですよ」
キョン「別にお茶はいつも飲んでただろ」
古泉「いいえ、すでに何を口にしてもゴムの味しかしなくなっていましたので」
…………地獄だったんだな、本当に
朝比奈「あ、でも……」
キョン「どうしました?」
朝比奈「ううん……あんな大事にしなくても」
朝比奈「長門さんの力で涼宮さんにあのCMだけ頭に残らないようにすればよかったのかなって」
キョン「…………」
古泉「…………」
長門「そのとぉ~り♪」
キョン「!!?」
長門「ピアノ売ってちょ~だぁ~い♪」
~終わり~
お付き合いいただきありがとうございました!
イエローハットも仲間に入れてやってくれ
おつおつ
ぽぽぽp
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Entry ⇒ 2017.08.16 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
古泉「……彼女が欲しいんですよ」 キョン「……そうか」
キョン「……おう」
古泉「傷ついた仲間を見るのも一度や二度じゃありませんよ……」
キョン「……おう」
古泉「ふと、どうしようもなく不安になる日もあります……」
古泉「僕もいつ、ああなるかと思うね……」
キョン「……おう」
古泉「……だから彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
キョン「……」
古泉「あ……ひきましたか? ……すみません」
キョン「……いや、わかるさ」
キョン「俺だって健全な男子高校生だからな……」
キョン「したいよな……SEX」
古泉「……はい」
古泉「……ですから彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「……」
キョン「SOS団の中なら……やっぱり朝比奈さん、か……?」
古泉「朝比奈さんですか…………」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
古泉「でも、もし付き合って、僕が閉鎖空間で死ぬ思いをしながら帰ってくるとします……」
キョン「……おう」
古泉「絶対泣いてくれるじゃないですか……」
キョン「いいじゃないか……」
古泉「いや、毎回泣くんです……」
キョン「……」
古泉「そうすると僕は疲れきった体で彼女を宥めなきゃいけない……」
古泉「泣いてくれるのは嬉しいですけど……お互い絶対しんどくなりますよ」
キョン「……おう」
古泉「……同情が欲しいのではなく、彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「長門さん……」
キョン「あいつなら……それほど泣くことはないんじゃないか?」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
古泉「ただ長門さんと付き合ったとして、何を話せばいいんですか……?」
キョン「本の話とか……」
古泉「いや、そうじゃないんです……」
古泉「貴方ならある程度長門さんとコミュニケーションがとれるのかもしれない……」
古泉「でも僕と長門さんの会話って今までずっと僕からの一方的な質問しかないんですよ……」
キョン「……」
古泉「こっちが泣きたくなりますよ」
キョン「……おう」
古泉「……楽しくおしゃべりできる彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
古泉「魅力的な方だと思ってますけどね……」
古泉「僕が飽きられて終わり……それだけです」
キョン「いや……」
古泉「僕は謎の転校生という属性のおかげでここにいますからね……」
古泉「それがなければただの限定的な超能力者です……」
キョン「……あいつは、不思議とか求めてるし……正体を明かせばあるいは」
古泉「言いませんよ……」
古泉「それに……」
キョン「……それに?」
古泉「付き合う人には属性じゃなくて……僕を見て欲しい」
キョン「……おう」
古泉「……僕自身を見てくれる彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「ええ……仮定の話でもこれですから」
キョン「……」
古泉「……」
キョン「……森さん」
古泉「え……」
キョン「そうだよ……森さん、森園生さん……」
古泉「森さん……」
キョン「年上かもしれんが……美人だし」
キョン「なにより……お前の事情も知ってくれてるし」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
キョン「……おう」
古泉「仕事仲間としてね……」
キョン「……おう」
古泉「もうその時点で無理って言うか……」
キョン「……」
古泉「やりにくくて仕方ありませんよ……年上で職場一緒の彼女とか……」
キョン「……」
古泉「絶対疲れますよ……少なくとも僕は」
キョン「……おう」
古泉「……癒しをくれる彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「鶴屋さん……」
キョン「ああ見えて気配りもできるし……スペック高いし……」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
キョン「……おう」
古泉「善意で出資してくれてる家の娘を喰う男ってどう思います……?」
キョン「……両想いなら」
古泉「それでも僕なら得たいの知れない超能力者団体に娘を預けるのは嫌ですね……」
古泉「資金欲しさに人質に取られるかもしれないし……」
キョン「取るのか……?」
古泉「いえ……でも絶対そういうしがらみは付きまとうんですよ」
キョン「……おう」
古泉「……自然に付き合える彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「……誰かいませんかね?」
キョン「……禁じ手だが」
キョン「俺の……妹……」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
キョン「一応……」
古泉「……」
古泉「……僕は少女性愛者じゃないんですよ」
キョン「いや……数年待てば」
古泉「すみません……待てません」
キョン「……おう」
古泉「……いますぐにでも彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
キョン「……うん、それ無理」
古泉「……」
古泉「……ふふ」
古泉「もしかして……それが言いたかっただけ……とか?」
キョン「……」
キョン「……くくっ」
古泉「ふふ……」
キョン「……」
古泉「どうしても腹の探り合いみたいになってしないますから……」
キョン「そうすると……喜緑さんや九曜も無しだな……」
古泉「ええ……無しの方向で」
キョン「……おう」
古泉「……警戒しなくていい彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「佐々木さん……」
キョン「あいつもお前と同じで長ったらしい講釈垂れるの好きだし……」
キョン「お前もいつだったか……気が合いそうって」
古泉「……いや、無理ですね」
キョン「……」
古泉「そういうのは僕……ちょっと」
キョン「……」
キョン「……NTRって何だ?
古泉「え……それはどちらの意味で?」
キョン「……?」
古泉「だから……彼女にも……意中の相手が……ほら?」
古泉「……とにかく佐々木さんもちょっと……」
キョン「正直……今回は納得できんが」
キョン「……おう」
古泉「……誰にも気兼ねしなくていい彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「……え?」
古泉「橘……橘京子……?」
キョン「……おう」
古泉「橘京子……橘さんか……」
キョン「橘京子なら……どうだ……」
キョン「あっちは多分……いや絶対、お前に気がある……」
キョン「敵対してたとか……この際置いといて……」
古泉「橘さん……!」
キョン「そう……橘京子……!」
古泉「橘さんなら……! あ……いや、無理ですね」
キョン「……」
古泉「はい……」
古泉「彼女とは前に組織間で敵対していました……」
キョン「だから……それはこの際……」
古泉「それで……あの一件以来彼女たちの組織は地下に潜って」
古泉「その時に僕……彼女に何かと便宜を図ったつもりです……」
古泉「急に所属する組織がそんなことになって不安だと思ったので……」
キョン「ますますいいじゃないか……あいつも恩義を感じて……」
古泉「そんな相手が急に付き合って欲しいとか言ってきたら断れますか……?」
キョン「……」
古泉「半分強姦ですよ……」
キョン「……おう」
古泉「……対等な関係の彼女が欲しいんですよ」
キョン「……おう」
古泉「誰でしたっけ……?」
キョン「ほら……あの犬の……」
古泉「あー……あの犬の……」
古泉「……犬の顔しか思い出せません」
キョン「……うん」
古泉「……無理ですね」
キョン「……」
キョン「……!」
古泉「やはり僕は……このままのようですね」
キョン「あ……諦めるなよ……」
キョン「長門も何か言ってやれって……」
長門「………………」
古泉「いえ……お二人に聞いて頂いただけで随分楽になりました……」
古泉「……ありがとうございます」
キョン「古泉……」
古泉「かもしれません……」
古泉「さぁ……オセロでもしましょう……」
キョン「古泉……」
古泉「ふふ……」
キョン「……でも……彼女、欲しいな」
古泉「……ええ」
古泉「やぁどうも、涼宮さん」
キョン「おい! いい加減ドアを静かに開け閉めすることを覚えろ! ドアが死ぬぞ!」
ハルヒ「うっさいわねー!そんな柔なドア、SOS団の拠点にふさわしくないわ」
キョン「どんな理屈だよ」
古泉「ふふ、涼宮さんらしいじゃないですか」
古泉「さ、角は頂きますよ」パチッ
キョン「オセロは角とった奴が勝つゲームじゃないがな」パチ
古泉「おや? 置く場所が……」
キョン「……」
古泉「……」
長門「……」
ハルヒ(え……? 何この空気……?)
古泉「いや……無理ですね」
キョン「……おう」
~終わり~
お付き合いいただきありがとうございました!
最近ハルヒスレ多くてウレシイ
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Entry ⇒ 2017.06.23 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (1)
キョン「佐々木から余裕を奪ってみる」
キョン「……」
佐々木「どうしたんだいキョン。柄にもなく物憂げな顔をして」
キョン「柄にもなくは余計だ。俺にだって考え込むことぐらいあるさ」
佐々木「ほう、当然その考えごとの中に高校受験に対する焦りや不安も含まれているんだろうね」
キョン「残念ながら、そんなことまで考えるのは俺の小さな脳みそじゃキャパシティーオーバーだ」
佐々木「くつくつ、だとすれば。キョン、君は一体何について思案していたのかな?」
キョン「…………お前」
佐々木「……僕かい?」
キョン「佐々木よ、俺は考えたんだ」
佐々木「うん」
キョン「お前と日常的に会話をするようになって長いもんだ。よく、とまではいかないが、多少はお前のことを知れたはずだ」
佐々木「そうだね。ただ、君に見せている僕の一面が本当に僕の全てだという保証はどこにもないけどね」
キョン「それだよ」
佐々木「それ? それとは何を指す代名詞のことだい?」
キョン「佐々木、お前はいつも余裕を持っている」
佐々木「余裕?」
キョン「ああ。常に笑みを絶やさず、落ち着いて心にゆとりをもっているかのような態度だ」
佐々木「ああ、まぁ自分でも感情の起伏は穏やかなほうであると自覚しているよ」
佐々木「滅多なことでは怒ったり、大泣きしたり、落ち込んだりはしないだろうね」
佐々木「あ、笑いの沸点は低いだろうからよく大笑いはするけどね。くつくつ」
佐々木「しかし、それが余裕であるかは僕には判断がつかない」
キョン「安心しろ。間違いなくお前は余裕を持っているよ」
佐々木「ともあれ、キョンは僕の余裕をかましている態度が癪に障ったわけだ」
キョン「断じて違う。何も悪感情を抱いたわけじゃない」
キョン「ただ、なんというか……その余裕を崩してみたくはなった」
佐々木「……へえ。そう思う動機は君のどういった感情に由来しているんだい? 非常に興味があるね」
キョン「別に。まあ強いて言うなら自分よか頭のいい奴が慌てふためく姿をたまにゃ拝んでみたいと思っただけさ」
佐々木「くつくつ。やはりいい性格をしているよ。君は」
佐々木「とはいっても、僕自身今のスタンスを崩すつもりはないよ」
佐々木「大げさなリアクションをしたり、あらゆる感情を表に出すなんてことは僕らしくないからね」
キョン「案ずるな。崩してくださいと言ってるわけじゃない。崩してみたいと言ったんだ、俺は」
佐々木「……つまり、『お前の貼り付けた笑顔の仮面を取るのは俺だ』と、そう言いたいわけかい?」
キョン「その通り。お前は何も意識することなく普段通りにしてくれればいい」
キョン「俺は隙のないお前の隙を見つけて何かしらのアクションを起こしていく」
佐々木「くつくつ。そんなことを言われて意識するなという方が難しいが……」
佐々木「まぁ、君の気の済むまでやるといい。自分で言うのもなんだけど、僕は手強いと思うよ」
キョン「知っているさ。その手強いお前だからこそ倒しがいがあるってもんだ」
佐々木「……ひょっとして、キョン。君はアレなのかもね」
キョン「アレ?」
佐々木「マルキ・ド・サド……所謂サディズムの持ち主なんじゃ……」
キョン「違う……はずだ」
佐々木「くつくつ。確証はないんだね」
キョン「……佐々木」
佐々木「うん? なんだいキョン」
キョン「猫だまし!」パァン!
佐々木「…………」
キョン「……」
佐々木「どうしたんだい。ハトが豆鉄砲にうたれたみたいな顔をして」
キョン「……お前にさせるつもりだったのさ」
佐々木「それは驚愕だ」
キョン「してるようには見えねえよ」
キョン「……佐々木」
佐々木「どうしたんだい、キョン」
キョン「なんか変な虫」ポイッ
佐々木「おっと」キャッチ
キョン「……」
佐々木「危ない危ない。落としてしまうところだった。うん? これは玩具だね」
キョン「虫とか平気なタイプ?」
佐々木「一寸の虫にも五分の魂。命ある万物の価値は平等さ」
キョン「……なんか、すまん」
佐々木「くつくつ……いいよ」
キョン「……佐々木」
佐々木「なにかな、キョン」
キョン「…………」ジッ
佐々木「…………?」
キョン「…………」ジィー
佐々木「…………キョン?」
キョン「…………ダメか」ハァ
佐々木「いまのは……?」
キョン「ガン飛ばし。ビビっちゃくれないかと……」
佐々木「あぁ……てっきり僕の顔にゴミがついていると思ってしまったよ」
キョン「自分の顔の迫力の無さを確認しとくべきだったぜ」
キョン「……」スタスタ
佐々木「でね。この世界五分前仮説の本質というのは―――」スタスタ
キョン「わっ!!!」
佐々木「……」
キョン「……」
佐々木「因果律自体を論理的必然から導くことはできないということにあるんだ」
キョン「……ノーリアクション?」
佐々木「そんな子供だましではね。それよりもちゃんと僕の話を聞いててくれたかい?」
キョン「聞いてたさ。しかしやはり古典的は方法では無理か……」
佐々木「……やれやれ」
佐々木「先は長そうだね。好きにすればいいとは言ったが、早く飽きてくれることを願わざるを得ないな」
キョン「ううむ。となれば……そうだ」
佐々木「何か名案でも閃いたかい? かの発明王トーマス・アルバ・エジソンは自身の閃きを―――」
キョン「佐々木、次の日曜日は空いてるか?」
佐々木「―――…………え?」
キョン「だから、次の日曜日は空いているかと聞いているんだ」
佐々木「……何故そんなことを聞くんだい? 君も知っての通り、日曜日は塾が……あ」
キョン「次の日曜日は塾はない。俺はその一日を利用しお前から余裕を奪う算段だ」
キョン「そして、このチャレンジは日曜日に終了する。成否は問わずな。これ以上は双方の勉学(主に佐々木)に影響が出るからな」
佐々木「……なるほど。実に合理的といえるね。なるほど……うん」
キョン「しかし、俺たち学生にとって日曜日は貴重な休日だ。ましてや塾のない日曜日なんてな」
キョン「もちろん無理にとは言わないし、お前が体と頭を休めるための日とするなら俺は―――」
佐々木「まったく、仕方がないね。僕の余裕が一日やそこらじゃ奪えないとは思うけど……」
佐々木「君にとってチャンスの機会が多い方がいいだろう。僕に固執しているよりも、早々に勉学の方に集中してもらいたいからね」
佐々木「よって、日曜日を君に捧げることも」
佐々木「…………やぶさかではないと言えるだろう」
キョン「よーし。じゃあ決まりだ、次の日曜日は駅前で待ち合わせるとしよう。追って時間も伝える」
佐々木「ああ、了解した」
キョン「んじゃあな。また明日ー」
佐々木「ああ……また明日」
佐々木「…………日曜日、か」
キョン「……佐々木」
佐々木「…………」ボー
キョン「見ろ。俺の指が……切断さ……佐々木」
佐々木「……ん? あぁ、すまない。少しボーっとしてしまっていたよ」
キョン「おいおい。もはや俺のすることなど眼中にないってか」
佐々木「そんなことはないよ。君が何をしてくれるのか常々期待しているよ」
キョン「そうか。まぁ次の日曜日は期待しておけよ。とびきりのリアクションを用意しておけ」
佐々木「あぁ……日曜日……」
キョン「ところでお前も何か考え事か?」
佐々木「いや……考え事というわけではないけど……キョン」
キョン「なんだ?」
佐々木「たとえ話……というよりは個人的な好き嫌いな話になるんだが……」
佐々木「化粧や衣装選びに時間をかける女性について君はどう思う? ああ個人的な意見だよ、君の」
キョン「どう思う、か……正直、どうもおもわん。好きも嫌いも、する人間の自由だろ」
佐々木「はりきり過ぎや時間の無駄だとは感じたりはしないかい?」
キョン「そりゃ限度はあるだろうが、まぁマナーとしての身だしなみってこともあるし」
キョン「一概に衣装や装飾品をバカにすることはないと思うぞ」
佐々木「……そうかい。へぇ」
佐々木「…………ふむ」
佐々木「キョン」
キョン「どうした佐々木」
佐々木「風の噂で君がポニーテールに異常な執着を示すと聞いたんだが……」
キョン「……国木田あたりか。あの野郎、変な脚色しやがって」
佐々木「事実ではないのかい?」
キョン「……いや、事実ではあるが『異常な』は余計だ。単にポニーテール萌、ゴホン!」
佐々木「ポニーテールも? も、ってなんだい?」
キョン「なんでもない。ただ髪型の一つとしてポニーテールが好きってだけだ」
佐々木「へぇ……」
佐々木「…………」サラッ
佐々木「……つかぬことを聞くけど」
キョン「うん? なんだ?」
佐々木「君の中でポニーテールに次ぐ、魅力的な髪型というのはあったりするのかい?」
キョン「そうだな……それは考えたことがなかった」
キョン「そもそも俺がポニーテールを好んでいるのは初恋だった人がポニーテールだったからなんて安直な理由だしな」
佐々木「キョンの初恋? くつくつ、それは非常に興味があるね」
キョン「ガキにありがちな大人びた人を好きになるあれだよ。俺の場合は従妹の姉ちゃんだっただけだ」
佐々木「人間は自分の顔に似た人間に好意を持ちやすいからね。妥当と言えば妥当さ」
キョン「そう考えると、従妹の姉ちゃんのポニーテールは確かに印象的だったが」
キョン「普段は特に何もしていなかったことを鑑みると、ギャップに感銘を受けただけだったのかもしれん」
キョン「だからまぁ、強いて言うなら普通だな。普通が一番」
佐々木「ふーん……普通、か。なるほど」
佐々木「キョン、聞いてもいいかな」
キョン「別に構わんが……随分と質問の多い日だな」
佐々木「僕からの問いが多いのは今日に始まったことではないだろう?」
キョン「あー……それも、そうか? まぁいいか。聞きたいことってのは?」
佐々木「あぁ、それなんだけど…………」
キョン「…………佐々木?」
佐々木「…………いや、やっぱり止しておこう。これは適切ではなかったみたいだ」
キョン「おいおい。気になるじゃねえか」
佐々木「すまない。しかし君にする質問ではないことに直前で気が付いたよ」
キョン「なんだそりゃ。逆に直前まで気づかないなんてお前らしくもない。まさか何かしらの要因で余裕が失われつつあるのか?」
佐々木「かもね。その場合要因はキョンではなくまた別のなにかになるのだけれど……それはそれでいいのかな?」
キョン「いいやダメだね。日曜日まではお前はその余裕綽々の態度を崩さないよう心がけてくれ」
佐々木「くつくつ。余裕を崩せといったり崩すなと言ったり……我儘だね」
キョン「俺はやると決めたらやる男なんでな」
佐々木「是非とも御母堂の前で受験に集中する旨を宣言してもらいたいね」
キョン「そんなことは口が裂けても舌を引っこ抜かれても言えん」
佐々木「くつくつ、舌を引っこ抜かれたらそもそも喋れなくなるじゃないか」
キョン「それぐらい、ありえないことってことさ」
佐々木「ありえないと言えば…………」
キョン「言えば?」
佐々木「……いや、これも適切ではないね」
キョン「……実はお前俺をからかってるだろ!」
佐々木「……くつくつ。かもね」
佐々木「お疲れさま」
キョン「お疲れ。今日も実に有意義な睡眠との格闘時間だった」
佐々木「くつくつ。塾での学習時間をそんな風に例えるのは君ぐらいだよ」
キョン「いーや、全国を探せば同志が少なくとも3人は見つかるね」
佐々木「その3人なら集まっても文殊の知恵は出なそうだ」
キョン「さて、そんなことより……俺の本番は明日だ」
佐々木「塾を『そんなこと』扱いするのはいただけない。君も知っての通り学生の本分は勉強だよ」
キョン「分かってるさ。しかし明日は暦という人の生み出した歴史が与えし休日だ」
キョン「その日ぐらい受験や勉強から解放された気分を味わってもいいだろう」
佐々木「……まぁ、そうなんだろうけど」
佐々木「君が行うのは僕から余裕を奪う行為だろう?」
キョン「もちろんだ。ここ数日考え込んだ渾身のネタを披露してやるぜ」
佐々木「くれぐれもハラスメントに引っかからない程度のものにしておくれよ」
キョン「…………明日までに再考しておこう」
佐々木「くつくつ。怖い怖い……何を考えていたのやら」
キョン「楽しみだろう?」
佐々木「……ああ、楽しみだ」ニコッ
佐々木「同時に、少し不安もあるけどね」
キョン「安心しろ。生命に関わることはしないからよ」
佐々木「当然だよ」
佐々木「……ああ、でもやっぱり楽しみだ」
キョン「よう」
佐々木「やあ」
キョン「待ち合わせの時間……覚えているか?」
佐々木「君こそ。今が何時だと思ってるんだい?」
キョン・佐々木「「集合時間の30分前」」
キョン「……」
佐々木「……くっくっ」
キョン「あっはっは! 二人してなんでこんな早く集合してるんだよ?」
佐々木「くつくつ。どうやら性分が似ているらしい。にしても30分前は早すぎないかい?」
キョン「お前が言えたことかよ」
佐々木「違いないね」
キョン「だがこれは幸運と捉えるべきだ。使える時間が30分伸びたわけだしな」
佐々木「やれやれ……イタズラに真剣になるのは男の子の性というわけかな?」
キョン「イタズラじゃなく、大真面目に真剣になってんだよ。とりあえず、喫茶店で今日の予定を話しておくか」
佐々木「まだ何も聞かされてないからね。どこへ行くのかぐらいは早く知っておきたかったけど」
キョン「ん、ああそうか。どこいくか分からないと服とか靴が決めづらいよな。悪かった」
佐々木「えっ?」
キョン「違うのか?」
佐々木「いや、そうだけど……よく気がついたね」
キョン「まあな。お前の今日の服、塾とかで見たことないやつだったからよ」
佐々木「……気づくんだね」
キョン「当たり前だって。さ、行こうぜ」
佐々木「……うん」
佐々木「遊園地…………と言ったのかい?」
キョン「ああ」
佐々木「…………他意はないのかな?」
キョン「他意? なんのことだ?」
佐々木「なんでもないなら、いいんだ。うん」
キョン「遊園地といやぁリアクションの宝庫。あらゆる刺激があるだろうからな」
佐々木「確かにね。少し安直な気もするけど」
キョン「問題はないか?」
佐々木「うん、ないよ。一刻も早く遊園地に行きたいぐらいさ。行くのは小学生以来かもしれないね」
キョン「俺も久々だな。純粋に楽しんじまうかもな」
佐々木「……それで構わないんだけどね」
キョン「ん? 何か言ったか?」
佐々木「……早く行こうって言ったのさ。今日という日は有限だ。また明日からは勉強漬けの日々に逆戻りだよ」
佐々木「ならば今日この日を有意義に使うべきだ。今となっては30分前に集合したことがものすごい僥倖に思えるよ」
キョン「お前の言う通りだ。んじゃさっさと行くとしよう」スッ
佐々木「キョン、支払いは―――」
キョン「あ、言い忘れてたが、今日は払いは全て俺が出す。もちろん遊園地代もな」
佐々木「キョン。それは受け入れられない。何よりも申し訳なさが先行して今日一日を楽しめなくなってしまう」
キョン「……時間は有限」
佐々木「?」
キョン「今日本来なら塾のないお前は家で後ゴロゴロするなり勉強するなり、自分の時間を使えただろう」
佐々木「その時間を君が買い取るというのかい? それは傲慢だよ」
キョン「そう思われても仕方がないと思う。けど、お前が俺の信じてくれるならこの言葉を信じてほしい」
キョン「今日俺に付き合ってくれた礼として受け取って欲しい。俺の純粋な気持ちさ」
佐々木「…………キョン、しかし」
キョン「さっ、時間は有限だ。とりあえず目的地に向かおうぜ」
佐々木「……ありがとう」
佐々木「……思えば」
キョン「ん?」
佐々木「君とこうしてバスに乗るというシチュエーションは、今までになかったね」
キョン「あぁ。お前がバスに乗らなくていいように俺がせっせと自転車を漕いでるんだからな」
佐々木「それに関しては頭が上がらないね。これからもよろしく頼みたいものだ」
キョン「お安い御用さ」
佐々木「それはどうも」ペコリ
キョン「……」
佐々木「……」
キョン「……」
佐々木「……」
キョン「……お、トンネル。トンネルと言えば昔息を止め―――」
佐々木「ああ、トンネル効果だね。確かにあれは興味深いものだ」
キョン「……なんだそりゃ、詳しく聞かせてくれよ」
佐々木「くつくつ。いいとも、量子力学的ミクロの世界の話なんだけどね―――」
キョン「ほう―――」
佐々木「―――というわけで……おっと、つい話し込んでしまったね」
キョン「いや、ちょうどいい小話だったぜ。遊園地につくまでにまた一つ賢くなれたぜ」
佐々木「キョン。知識と言うのは覚えることよりも忘れないことの方が大切なんだよ?」
キョン「気をつける。さて」
キョン「ついたな」
佐々木「ついたね」
キョン「懐かしい雰囲気だ。遊園地ってのはこんなモンだったか?」
佐々木「幼少の頃の記憶は時が経つにつれて信ぴょう性が失われていくからね」
佐々木「今、中学生の僕たちが感じる遊園地とは、感性の齟齬が発生しているかもしれないね」
キョン「子どもの心を忘れちまった憐れな中坊、か」
佐々木「くつくつ。傍から見れば僕たちだって十分子ど……」
佐々木「傍から見れば…………」
キョン「どうした? 佐々木?」
佐々木「……いや、なんでもない。さあ行こうかキョン。僕の余裕とやらを消失させてくれるのだろう?」
キョン「ああ覚悟はできたか佐々木。その柔和な笑みを取っ払ってやるよ」
佐々木「くつくつ。期待しておくよ」
キョン「うお……地方の遊園地と言えどさすがは日曜日。親子連れやらで賑わってやがる。生意気な」
佐々木「いいことじゃないか。寂れた遊園地があるよりかは遊園地としての役目を果たしている方がいいだろう」
キョン「セオリー通りに行くならばまずは空いているところから攻めるべきか……」
佐々木「うん? そのセオリーに則るのだとすると、随分と変動的な計画だね」
キョン「え……あぁ、いや。まぁ、そういうことだな」
佐々木「……?」
キョン「とりあえずだ。遊園地に来て立ちぼうけを食らったままなんて愚の骨頂だ」
キョン「来たからにはなにかしらアトラクションを楽しむべきだ」
佐々木「……キョン。やはり君の言ってることはどこか本来の趣旨と関係ないような―――!」
キョン「いいから、ついてこい」ギュ
佐々木「え……あ……っと、うん」
キョン「……」スタスタ
佐々木「……」スタスタ
キョン「まずは……っと」
佐々木「……キョン」
キョン「ん……なんだ?」
佐々木「これが君の作戦という訳かい? くつくつ、甘いね。この程度で動じる―――」
キョン「あん? なんのことだ?」
佐々木「……なんでもないよ」
キョン「お、ここは空いてそうだな」
佐々木「ここは……」
キョン「お化け屋敷……入る前から子供だまし感溢れる作りが感じられるが……」
佐々木「ほう、一番手にお化け屋敷とは……てっきり僕は最終兵器に持ってくると思っていたよ」
キョン「こういうのは意表を突いた方が面白いだろ? 遊園地にきて真っ先に行くところがお化け屋敷とは誰も思うまい」
佐々木「オカルトマニアでもなければね。くつくつ」
キョン「さて……佐々木、怖けりゃ叫んだって構わないんだぜ? キャラに似合わないとかは気にせずによ」
佐々木「お言葉だがキョン。僕は心霊や魂と言った存在をまるで信じていない」
佐々木「代表を上げれば人魂なんてプラズマであると言われているし、幽霊なんて近い将来すべて科学的に否定される存在さ」
キョン「だが佐々木。ここはお化け屋敷だ。確かに本物の幽霊なんぞは出てこないかもしれん」
キョン「しかしその分手の込んだ仕掛けや、気合の入ったスタッフが俺たちを全力で驚かせに―――」フッ
キョン「うおっっ!!?!?」ビクッッ!
佐々木「くつくつ。どうやらそのようだね。今の君は手の込んでいないただのそよ風にすら過剰反応してしまうみたいだ」
佐々木「うん。確かに、僕と比べて今の君は余裕を持てているとは言い難いね」
キョン「ええい小癪な劇団員どもめ。佐々木、この際だから言う。俺は結構ビビりなんだよ」
佐々木「へえ、少し意外だね。君も僕と同じオカルト全否定の人間だと思ってたけど」
キョン「頭ではそう思ってるさ。しかしまぁ、どうやら俺の思考回路は体に間違った情報を伝達してるらしい」
キョン「お前にゃ伝わってるはずだぜ。限界ギリギリの俺の精神が手汗へと変わっちまってることがな」
佐々木「……うん。確かに」
キョン「だがなぁ佐々木。今ここで俺はお前の手を離しちまうと精神に異常をきたす恐れがあるやもしれん。だから―――」
佐々木「ああ、離したりはしないよ……なぜなら」
佐々木「ちょうど僕もこれがどちらの脈動かを確かめたかったところだしね」
キョン「うひゃぁあお!!」ビクッ!!
佐々木「……くつくつ」
キョン「……月並みのことしか言えんが、死ぬかと思った」ゲッソリ
佐々木「くつくつ。とても子供だましだとバカにしていた人の発言だとは思えないな。顔が憂鬱としているよ」
キョン「自分でも驚いてるよ。まさかここまでとはな……」
佐々木「どうする? 君もこの様子だし、少し休んでから移動しようか?」
キョン「悪い、そうしよう。何か飲み物でも買ってくる」
佐々木「何を言ってるんだい、むしろそれは僕がやるべき―――」
キョン「いいからいいから、座ってろ座ってろ」フラッ
佐々木「…………」ポスン
佐々木「…………手汗か」
佐々木「……どちらのモノか分かりはしないよ」クスッ
佐々木「にしても……多いことだね」
佐々木「家族連れに……カップ―――」ピトッ!
キョン「……」
佐々木「……」
キョン「……冷たくないか?」
佐々木「冷たいよ、いい気持ちだ」
キョン「反射反応の一つでも取ってくれりゃ手応えでもあるってのによ」
佐々木「お生憎様。君がわざわざフラフラの体で歩いて行った時点でここまでの展開はお見通しさ」
キョン「あー……ガキの浅知恵レベル、か」
佐々木「遊園地に来てよかったね。童心にかえったと言い訳ができるじゃないか」
キョン「高いところは苦手じゃない」ガタガタ
佐々木「気が合うね。僕も苦手じゃないよ」ギギギ
キョン「普段、人間力的に低空飛行をしている俺にとって見下ろすという感覚を強く感じれられるから、高いところは苦手じゃない」
佐々木「そんな考え方だったのかい?」
キョン「あとは純粋に高いところに対する恐怖心っつぅもんが特になかったからか」
佐々木「なるほど……つまりキョンは」
佐々木「このジェットコースターにおいて先ほどのお化け屋敷のような醜態を晒すことはないと言い切るわけだ」
キョン「醜態……まぁさっきのは確かに醜態か。それは置いておいてだ。俺の話は最後まで聞いてもらおう」
佐々木「続きがあるのかい?」
キョン「高いところは苦手じゃない。これは胸を張って言える事実だ」
キョン「でもな」
佐々木「うん」
キョン「俺は非常に酔いやすい」
佐々木「とんでもないミスマッチングだね。だがもう逃げられない―――」
キョン「あ、あ、あ……」
佐々木「ご愁傷さまキョン。願わくば……終着の際には凄惨な姿になりませんように」
キョン「ああぁああぁぁぁぁあああああああああぁあああああああぁああ!!!」グォーン!!
佐々木「~~~~っ! 楽しいね、キョン!」
キョン「ぁああぁぁああぁああああああああああああああああ!!!!!!」
キョン「ハァ……ハァ……ウッ」
佐々木「遊園地でこうも満身創痍は人はそうは見ない気がするね。エチケット袋は……」
キョン「……ジェットコースターなら……佐々木も苦手だろうと思って。大丈夫だ、必要ない」
佐々木「なるほど。自ら苦手なモノに突っ込んでいくスタイルか。いいね、悪くない」
キョン「どうだった?」
佐々木「とても楽しかったよ。先に言った通り高いところは好きだし、特に酔うこともしない」
佐々木「年甲斐もなく、いや年相応と言うべきか。声を上げて楽しんだよ」
キョン「…………一切聞こえなかった」
佐々木「あー……まぁ、仕方がないことだね」
キョン「しかしまぁ……楽しんでいるならいいか」
佐々木「うん? 本末転倒の間違いじゃないか? 僕に楽しまれてしまっては余裕を奪ったとは言い難い」
キョン「えっ? あ、ああ……そりゃ遊園地だし楽しむことも大事っていう意味だ。退屈するなんてもってのほかだからな」
佐々木「それは……一理あるね」
キョン「……フゥー」
佐々木「……」ゴソゴソ
キョン「……うわっ!?」ピトッ
佐々木「くつくつ。リアクションの見本市みたいな人間だね、君は。さっきは僕がこうなると思ってやったのかい」
キョン「……そうだよ。淡ーい期待を抱いてやった結果がお前のノーリアクションさ」ゴクッ
佐々木「それは申し訳ないことをしたね。ただまぁ、そう簡単に余裕が崩れても面白くないだろう?」
キョン「まぁな。ここは遊園地、飽きるほどにエンターテインメントが存在するさ」
佐々木「ゴーカートか。体験するのは初めてだよ」
キョン「俺は久しぶりだな。悪いが佐々木、これは競争だ。普段お前に勝てないぶんここで勝たせて―――」
佐々木「ではお先に失礼するよ。レディファーストだ」ブォン!
キョン「あっ! 汚い! 話の途中だろうが!」ブオッ!
佐々木「六曜では今日は先勝、何事も早い方がいいんだよ」
キョン「くそ……見かけによらず中々荒い運転をする暴走車両め……」
佐々木「運転にはその人の本性が出ると聞くが……ふむ。僕自身も知らない深層心理の現れかな、これは」
キョン「げえっ! まずい、コースアウトしちまった……すいませーん……」
佐々木「……君の人生は、多難を極めそうだね。くつくつ」
キョン「争い合うのはよくない。ここは協力すべきだと思うんだよ」キコキコ
佐々木「それでこのアヒルボートか。正式にはスワンボートといって遊園地では主に足漕ぎ式が取り扱われているようだ」キコキコ
キョン「目的もなく漕ぎ続ける様がまるで俺の人生を現しているようだぜ」
佐々木「受験という当面の目標ならあるじゃないか」
キョン「言うな言うな。見たくない現実から目を背くべく必死に足を動かしてんだからよ」
佐々木「そうなのかい? だったら現実を直視し、真面目に授業や塾の講義を受けている僕は一休みさせてもらおうかな」コロン
キョン「おい」
佐々木「まぁいいじゃないか。君にしては日課のようなものだろう?」
キョン「そりゃそうだが……こんな奇天烈な乗り物でも運転手は変わらず俺なわけか。溜息も漏れるぜ」ハァ
佐々木「くつくつ。乗客だって変わらないんだからいいじゃないか」
佐々木「君が行きたい方へ、僕を連れて行ってくれればいい」
キョン「どこまでいっても湖だっての!」
キョン「……」ゴウン
佐々木「……」ゴウン
キョン「……」
佐々木「……なるほど。これは今までで最も効果的な手段かもしれない。現に僕は今動揺を隠せないでいる」
キョン「とてもそうは見えんが。佐々木、俺もお前と同じ意見だ」
佐々木「中学3年生ともあろう者が……2人してメリーゴーランドなるものに興じるというのは……」
キョン「滑稽だな」
佐々木「自覚があるだけマシだよ。なければ君の頭の中を解剖したい衝動に駆られるところだった」
キョン「……ぶっちゃけ俺の方がはずかしめを受けている気がする」
佐々木「……くつくつ。確かに。君にかぼちゃの馬車は似合わないね」
キョン「いいんだよ。俺はシンデレラを守護する小人で」
佐々木「シンデレラに小人は登場しないよ」
キョン「ふぅー……」
佐々木「えい」ピトッ
キョン「どわっ!? って、またそれかよ」
佐々木「君も飽きないリアクションをしてくれるね」
キョン「ったく……結構楽しめるもんだな」
佐々木「ああ。まだ自分の精神が普通の中学生レベルであるようで安心したよ」
キョン「まだまだ、余裕たっぷりって感じだな」
佐々木「それは……」
佐々木「……いいや。ただ単に余裕よりかは楽しむ感情が先行しているだけだよ」
キョン「……そうか」
佐々木「そうさ」
キョン「……」
佐々木「……キョ―――」
キョン「さて、そろそろ夕暮れ時だな。次で最後ってところか」
佐々木「……まだ、乗りたいものでもあるのかい?」
キョン「遊園地に来たら乗らなきゃいけないものが、まだ残ってるだろ?」
佐々木「……そうだね。お互い、高いところは苦手じゃないみたいだし」
キョン「あれなら、揺れも少なそうだしな」
佐々木「じゃ行こうか……観覧車」
キョン「ああ」
佐々木「……細かいことを言うようだけど、観覧車は想像よりか揺れるよ」
キョン「よし。あっちのゴーカートでリベンジマッチと―――」
佐々木「行くよキョン。日が沈んでしまう前に乗ろう」
キョン「おぉ……」
佐々木「どうだい? 揺れの方は」
キョン「確かに……想像していたよりは揺れるが……問題ないレベルだ」
佐々木「よかった。この壮大な景色を拝めないなんてことになれば、それはとても惜しいことだからね」
キョン「あぁ、遠くの遠くまで見えるな。あっちが俺らの中学か?」
佐々木「そうだね。僕らの街の方へ日が沈んでいく…………」
佐々木「……綺麗だね」
キョン「……あぁ」
佐々木「…………ここで『夕日なんかより、お前の方が綺麗だぜ』ぐらい言えれば、僕から余裕を奪うことができるかもしれないよ?」
キョン「……はっ、バカ言え。例えお前であろうと大自然の雄大さには敵わねえよ」
佐々木「そうかい? それは残念だ」
キョン「……」
佐々木「……」
キョン「佐々―――」
佐々木「キョン」
佐々木「今日はありがとう」
キョン「…………やっぱ感づいてやがったか」
佐々木「当然さ。君の行動と発言との辻褄が合わなすぎるからね」
佐々木「途中からは完全に目的は形骸化していたように思えるよ」
キョン「初めから気づいていたのか?」
佐々木「うーん。まぁ、そうかな」
キョン「……敵いっこねぇな、お前には」
佐々木「……どうして」
佐々木「君は今日一日僕を楽しませてくれようとしてくれたんだい?」
佐々木「僕から余裕を奪うだなんて詭弁まで使って」
キョン「あー……詭弁じゃないぞ? 実際、お前が慌てふためく姿は一度は見てみたいモンだと思ったし」
キョン「誰かの陰謀論でもなけりゃお前とこうして普通に遊園地を楽しむ機会なんざないと思ってな」
佐々木「他ならぬ君の陰謀によって、僕は今日一日を非常に楽しく過ごせたという訳だ」
キョン「まぁ……理由なんて単純なもんだ。というか初めに伝えただろう?」
佐々木「初め……?」
キョン「礼として受け取って欲しいっつったろ。あん時は今日一日の礼としてって言ったけどよ」
キョン「まぁ、なんだ……こと勉強においてお前ほど世話になり、頼りにしてる存在なんていないからよ」
佐々木「…………」
キョン「捻くれ者の俺がお前にどう違和感なくこのシチュエーションを導き出せるか悩んだ結果が」
佐々木「僕から余裕を奪うという建前……か」
キョン「限りなく本音に近いけどな」
佐々木「……くつくつ。ああ、そういうことだったのか―――」
キョン「しかし、それも看破されサプライズとは言い難いものになっちまったけどよ」
佐々木「くつくつ。僕が気づかなければネタばらしなど行うつもりもなかったくせに」
キョン「当たり前だ。そんなこっぱずかしいことできるかよ」
佐々木「あぁ、君にしては随分頑張って計画した方だと思うよ」
キョン「まーた余裕かましてくれちゃってよ……」
佐々木「キョン、もう日が完全に沈んでしまうよ」
キョン「みたいだな……あぁ、んじゃそうだ。ラストチャンスだ、言っておくよ佐々木」
キョン「こっぱずかしいから、日が沈んだら忘れるなり、なかったことにするなりしてくれ」
佐々木「うん? 何を―――」
キョン「その服装も髪も、めちゃくちゃ似合ってるよ。佐々木」
佐々木「………………」
キョン「……」
佐々木「……キョン、済まないが、今君と目を合わせられそうにない僕の顔は、一体どうなってるのか教えてはくれないか?」
キョン「ああ……残念だが佐々木。俺も西日に目をやられたみたいで目が開かないんだ、悪いな」
佐々木「……」
キョン「……」
佐々木「……くつくつ。これは……最後の最後に『盗まれて』しまったかもしれないね」
キョン「ちと遅くなっちまったかもな」
佐々木「ああ。親に憤慨されなければいいんだけどね」
キョン「まっ、たまにゃいいだろう。こんな……休養日があってもよ。ふぁ……」
佐々木「お疲れのようだね、キョン」
キョン「あぁ……やっぱり苦手なことはするもんじゃねえな」
佐々木「よく遊園地をチョイスしたものだよ。お化けもコースターも怖いというのに」
キョン「そっちもだが……苦手なことっつうのは……いや、なんでもない」
佐々木「ん?」
キョン「なんでもない。悪いが佐々木少し眠る。どうせ終点まで乗ってるんだ……構わないだろ」
佐々木「ああ、ゆっくり休むといい。僕が起こしてあげるよ」
キョン「ああ、頼む……ぜ」
佐々木「……糸の切れた人形とはよく言ったものだね。まさに文字通りだ」
佐々木「(しかし、君がねぇ……くつくつ。確かに、似合わないね)」
佐々木「……今日はありがとう、キョン」
キョン「Zzz……」
佐々木「……ねぇキョン。わたしはね―――」
佐々木「できるなら、ずっと君の親友でありたいと心から思うよ」
キョン「……んにぁ」
佐々木「……お休み。愛すべき、唯一の僕の親友」
キョン「…………」
古泉「というエピソードを会誌作成の際の、恋愛小説に書けばよかったんじゃないですか?」
キョン「……こんなパラレルワールドを俺は知らん」
古泉「分裂したあなたがいるかもしれません。αでもβでもない、Ω世界線のあなたがね」
キョン「んなわけねえだろうよ、あいつも言ってたんだぜ」
キョン「恋愛感情なんて一種の精神病だ、なんっつってな」
良い佐々キョンだった
素晴らしいSSだったよ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494246949/
Entry ⇒ 2017.06.16 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (1)
古泉「朝比奈さんの淹れてくれるお茶はやはり格別ですね」 朝比奈「それ綾鷹です」
朝比奈「綾鷹です」
古泉「……え?」
朝比奈「……」
古泉「えっと……」
古泉「それはつまり……僕が今飲んでいるのが――」
朝比奈「綾鷹」
古泉「あー、綾鷹ですか、これ」
朝比奈「はい」
古泉「そうですか、いや参りましたね。恥ずかしいな、ははは」
古泉「なるほどー、すごいですね、最近の製品って、本当に」
朝比奈「……」
古泉「朝比奈さんの淹れてくれるお茶に迫るほどの味ですよ、これは」ズズ・・・
古泉「ん? いや、でもよく味わってみるとやはり違いますね」
古泉「昨日飲んだ朝比奈さんのお茶に比べるとやはり一歩劣りますね」
朝比奈「1ヶ月前から綾鷹でした」
古泉「え?」
朝比奈「1ヶ月前からずっと綾鷹を温めただけのお茶を出してました」
朝比奈「……」
古泉「……」
朝比奈「……皆さん、遅いですねぇ」
古泉「え……あぁ……そうですね」
古泉「……あの」
朝比奈「はい?」
朝比奈「あ、おかわりですか?」
古泉「いえ、そうではなくて……」
古泉「なぜ……綾鷹を?」
古泉「……そんなことはありませんよ」
朝比奈「そうなんですか? よかったぁ」
朝比奈「もし綾鷹嫌いだったら、私1ヶ月も古泉君に嫌な思いさせてたのかなって」
古泉「……」
古泉「僕……何か気に障ることをしてしまいましたか?」
朝比奈「え?」
古泉「かといって完全な友好関係という訳でもありません」
古泉「たしかに僕も初めのうちは貴女自身ともそういう関係になるのだろうと思っていました」
朝比奈「……」
古泉「でも今は違います」
古泉「少なくともこの場では、組織など関係なく、同じSOS団員として接してきたつもりですが」
朝比奈「古泉くん……」
朝比奈「ありがとう……うん、私も、同じ気持ちですよ」
古泉「でしたら……何で僕のお茶は綾鷹なんですか?」
朝比奈「?」
古泉「僕が『朝比奈さんのお茶は格別ですね』とか言うのを見て心の中で笑ってたんですか?」
朝比奈「そんな……私そんなつもりは」
朝比奈「あ、やっぱり綾鷹嫌いでしたか? それなら今度から伊右衛門に――」
古泉「いえ、そうではないんですよ。というかそれでも既製品なんですか?」
古泉「問題は、どうして僕に淹れてくれるお茶が既製品なのかという――」
朝比奈「あ、皆さんのも綾鷹でしたよ」
古泉「」
朝比奈「古泉くんだけ違うお茶なんてそんなことしませんよぉ」
朝比奈「皆さんの飲んでたお茶も1ヶ月前から綾鷹でした」
古泉「……」
朝比奈「私、1ヶ月前に新しい茶葉探しにお買い物に出たんですよ」
古泉「え……あ、はい」
朝比奈「知ってましたか? 100人中27人が急須で淹れたお茶と間違えたらしいですよ」
古泉「……」
朝比奈「私それ見たらなんか気になっちゃって」
古泉「……何をでしょうか」
朝比奈「SOS団でやったら誰が気付くのかなって……」
古泉「……」
朝比奈「うふふ、結果は『長門さん以外誰も気付かない』でしたけどね♪」
朝比奈「え?」
古泉「すみませんでした」
朝比奈「どうして謝るんですか?」
古泉「怒ってらっしゃるんでしょう?」
古泉「普段貴女のお茶を賛辞しておきながら『違いもわからないのか』と」
古泉「本当にすみませんでした……」
朝比奈「私はただ思っただけです」
古泉「……?」
朝比奈「こんなに皆喜んでくれるなら今度から綾鷹でもいいかなって」
古泉「……」
朝比奈「涼宮さんなんて『これ美味しいわね、腕をあげたわよ! みくるちゃん』って」
朝比奈「あの顔、嬉しかったなぁ……」
古泉「……」
朝比奈「ふぇ?」
古泉「この1ヶ月ずっと黙っていたのに今、僕に話したのは……」
古泉「気付いて……欲しかったんじゃないですか?」
朝比奈「古泉くん……?」
古泉「でも、僕だけに話した理由は別にあるんじゃないですか?」
古泉「自分の淹れたお茶ではないと言いたかった……」
古泉「けれど涼宮さんや、何より彼には言わずとも気付いて欲しいと言う貴女の気持ちが……!」
朝比奈「私……」
古泉「今日……皆さんが来たら、これとは違うお茶を淹れてくれませんか?」
古泉「貴女が僕たちに飲ませたい……貴女の本当の気持ちが篭ったお茶を」
朝比奈「私は――――」
長門「……」
キョン「へーへー、悪かったよ。長門も悪かったな」
長門「……いい」
ハルヒ「何よその態度の違いは……みくるちゃん、お茶!」
朝比奈「あ……ひ、ひゃい!」
キョン「あ、すみません朝比奈さん。俺にもいいですか?」
朝比奈「あ、はい、もちろんです。長門さんもどうですか?」
長門「頂く」
ハルヒ「ありがと。あーっ、もうキョンは馬鹿だし5月だって言うのに暑いしで……」ズズ
ハルヒ「あら、このお茶いつもと違う?」
古泉「――!」ピク!
キョン「お、本当だ。言われてみればなんか違うな」
朝比奈「あ……わ、わかりました!?」
朝比奈「実は苦味を抑えた淹れ方で暑い日にいいかなって……えへへ」
キョン「ああ……飲みやすくて体に染み渡りますよ。最高です」
古泉「……昨日までのとそんなに違うんですか?」
キョン「なんだお前わからんのか。このお茶を飲む価値も無い奴め」
古泉(朝比奈さん……ふふ、わかりましたか?)
古泉(やはり僕らに必要なのは貴女の淹れてくれたお茶なんですよ)
古泉「いやぁ、僕も精進が足りませんね。もう一杯飲んでみようかな」
キョン「ふんっ。朝比奈さんの真心をしっかり舌で味わえよ」
朝比奈「あ……は、はい!」
古泉「僕にも、お代わりお願いしてもいいですか?」
朝比奈「はい、もちろんですよ、古泉くん! えへへ!」
長門「……」ズズ
長門「綾鷹 にごりほのか」
長門「低温で丁寧に急須で淹れたときと同じように苦味を抑え、旨みを引き出した一品」
長門「綾鷹ならではのにごりの製法で緑茶本来の飲みごたえを楽しめる」
~終わり~
お付き合いいただきありがとうございました!
だが静岡県民として言いたい
正直ペットの茶は不味い
ほんとの気持ちがにごりほのかってみくるさん・・・
なんてダイレクトな綾鷹のステマスレなんだ……
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495276731/
Entry ⇒ 2017.06.16 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
ハルヒ「古泉くんの子どもだったらあんな放蕩息子に育ってないわよ」
小坂幸(こさかさき)――主人公。七重の幼馴染の少女。
常に七重のことを気にかけている。サキと呼ばれる。
涼宮七重(ななえ)――ハルヒとキョンの娘。明るく素直で、温かい性格。
ナナと呼ばれる。
サキ「はぁっ、はぁ」
走っても、走っても出口が無い。
音の無い、灰色の空に覆われた世界。いつもの町並みなのに誰一人いない。
サキ「誰か、誰か助けて……」
足を緩めて周りを見渡しても返事はない。
胸の中の恐怖がどんどん膨らんでいく。何かが来る予感。
いや、その何かが現れることをハッキリとわたしは感知している。
背後。気配に射すくめられたように足を止めて、恐る恐る振り返り……
サキ「きゃあああああっ!!」
天井。窓から朝日が差し込んでいる。あ。夢か。良かった。
じゃない、晴れて高校生活がスタートするというのに何という夢を見たんだ。
幸先が悪すぎる。いや、今日だからこそ不安でこんな夢を見たんだ、としておこう……。
大きく息を吸い込むと弾みをつけてベッドから降りた。
七重「サキーー。おーはよっ」
全くわたしと同じ、真新しい制服に身を包んで、
七重が高々と腕を振りながらこちらに駆け寄ってくる。
相変わらず朝からテンションが高くて頼もしい。
サキ「おはよー」
わたしも表にこそ出さないけど、緊張と期待に胸が膨らんでいる。
東中の入学式の朝以来だな、こういうのは。
あの日もいつものように光陽園駅前で待ち合わせて、
お互いのセーラー服姿に何だか照れながら登校したんだっけ。
中学と高校じゃ違いはたくさんあるに違いないけど、こうして同じでいてくれる。
おかげで今朝がたの後味の悪さも随分とやわらいできた。
上り坂のあちこちを腕一杯に抱えあげた白くてほんのり桃色な花びらで彩るソメイヨシノ。
目覚めに力いっぱいの伸びをする太陽に照らされ、
お米の一粒一粒のように淡く浮かぶ街並が、水平線の輝く海まで続いてる。
そしてこの4月の陽気そのまま、と言ったら失礼だけど、
そんな七重と坂の上をゆらゆらと目指しながら、
高校生活に思い描くことをとりとめなくお喋りしてる。憂鬱になれと言う方が無理だ。
七重「どうしたの、サキ」
瞬間にテンションをわたしに合わせてくれてる。
別に隠すほどのことでもなく、ありのままを話すと、
七重「うんうん、やっぱそれだよね? ああー、いいなあ!」
と音階を何段かすっとばして昇降するような羨望の声を上げた。
サキ「今の話のどこがいいの?」
七重はいたく思うところがあるらしく、ほとばしるように返してきた。
七重「だって、普通は入学式の前日って、自分も家族も緊張感を漂わせるものでしょ?
それがまったく無かったんだよ? お父さんもお母さんも、わたしも!
下手したらわたしが北高生になるってことが忘れられてるんじゃないかってくらい。
さすがにそれはないけど、ただ淡々とさ……いつも通りの朝だったんだよ?」
半分ほどはそんな自分自身に、怒りと悲嘆をぶちまけるように七重は訴えると、
悔しそうに前に向き直って言葉を切った。
七重は前者に憧れていて、それが果たせなかったらしい。
ムスッと唇を突き出して、幾分ひび割れたアスファルトを見つめながら歩を進めている。
確かに、あのおじさんとおばさんなら何にせよ「普通」の反応はしないだろうし、七重も
気の毒ながら本人は普通のつもりで、ナチュラルに凄い感覚を持ってるところがあるから。
ふと、道端の草地にちらちらと薄青い花を咲かせているオオイヌノフグリが目に入った。
春だな…
七重がふたたび口を開いた。
七重「だいたいお父さんとお母さんが出会った場所なのに。だから……」
そこまで言って、突然我に返ったようにわたしを見た。
七重「ごめん。嫌な夢だったんだよね」
言われて思い出すくらい、夢のことはもう気にならなくなっていた。
思わず笑みをこぼすわたしに今度は七重が怒る。
いつものわたし達そのままだ。
さすがに今度は、七重と離ればなれの組になるんじゃないかと覚悟していたのだが、
さいわいわたし達二人はまた同じクラスだった。
わたしと七重は幼稚園からずっと同じクラスだ、と初めて聞く人は驚くのだけど、さらに
「席もほぼ前後左右で隣になってるよね」、と七不思議ネタ的に語る者がいたりするから、
驚きを通り越して何かウラ事情があるのではないかと勘繰られたり、
この世ならぬものに触れたような顔をされたりする。
当のわたし達はというと、不思議ではあるがただこの幸運に感謝している次第である。
体育館での入学式が終了すると(七重は既に校歌の歌詞をばっちり覚えていたらしい)、
お互いまだ見知らぬクラスメイトの皆と、一年五組の教室に入り、それぞれの席につく。
同じ中学出身どうしがちらほらお喋りしているほかは、
微妙に大人しい空気が教室内に漂っていた。
わたしの後ろの席の七重が声をかけてきたとき、教室の前の方の引き戸を開けて、
落ち着いた雰囲気の中年の男性が入ってきた。
が、教壇では打って変ってクラス中に響き渡る大きな声で挨拶され、
遅れ気味に皆が挨拶を返す。
その、岡部という担任となる先生は、ごく手短に自分が体育教師であること、
なんでも言い合えるクラスにしていきたい、ということを話され、
それから多少詳しく、顧問をしているハンドボール部について、
競技の魅力と部員不足なので入部希望者を大いに募っていることを力を込めて説明された。
この説明にもう少し耳を傾けていればどうだったかな、と思うことがあるが、
まあ……わたしはそうはしなかったわけである。
そして、一人一人が順番に立って自己紹介していく段になった。
前の席の子がよろしくお願いしますと話し終え、拍手で一区切りつく。
わたしは席を立った。仕方ない。
サキ「東中学から来ました小坂幸です。よろしくお願いします。
光陽園駅近くにお立ち寄りの際には、
ぜひ薬や生活用品はうちのお店で買って下さい」
まあこうとでも話すほかないか。生暖かい反応に包まれながら席に着く。
とりあえずお茶をにごせたかな。
次は七重だ。目で促すと、笑顔でゆるりと立ち上がったのでわたしは前に向き直った。
七重「同じく東中学出身の涼宮七重です」
ここまでは良かった。が、
七重「春休みにインターネットで色んなページを見ていたら、
家のパソコンが壊れて両親に物凄く怒られました。みんなも気をつけてください」
………………。
は、初めて聞くね。それは。
わたしは頬と耳が熱くなるのを感じた。
七重がツッコミを待たず席に着いて、椅子を戻す音が後ろから聞こえる。
きっと立った時のようににこにこしたままに違いない。
数人の男子が抑えきれず笑い声を漏らしている。
ちゃ、違う~~!! 七重はそんな子やないんやーーっ!
とわななくわたしの表情など、七重は想像だにしていないに違いない。
その後の学校生活の様子で、そんな子ではないと皆も分かってきたにせよ、
こういう子なことはしっかり印象づけてしまった七重である。
ともあれ、慌ただしい4月が過ぎ、ゴールデンウィークも明けた。
高校生活も暇は無いながら、良く言えば落ち着いた、悪く言えば単調に巡るある日。
七重「ねぇ、サキは何か部活入るの?」
サキ「うーん、どうかなあ」
そういえば、中学の時からわたしは部活動というものに入部したことがない。
七重も、いわゆる帰宅部というやつだ。
入らない理由なんて聞かれるのが不思議なのだが、あえて答えるなら二つある。
まず特に好きなことがない。
もうひとつは、家事が結構あるから。
学校の帰り道にスーパーに寄って、晩ご飯の買い物をしていく。
家に帰ってからも洗濯物の取り入れや掃除、夕食の準備等あるので、
部活なんて面倒くさくて出来たものではない。
まあ最初の理由の方が大半かな。
七重はというと、一緒に涼宮家の晩ご飯の買い物をしたり、
時々わたしの家に泊まりに来る日は二人で献立を考えたりしている。
振り返ってみれば、物心ついた時から七重のお母さんに連れられて買い物したり、
一緒に料理したりの延長で、自然と今のようになっていた。
七重は色々特技があるし、家事にそこまで時間を取られることもない。
だから何か部活動に入ればと勧めたことがあるが、
「こうしている方が楽しい」と言われればそれ以上わたしから言うこともない。
たまに断り切れなかった各クラブの代役を引き受けたりして、
その度に大いに貢献しているが、本人に継続して特定の部活動をする気が無いのである。
七重「サキ足が速いのに。クラス対抗リレーだっていつもアンカーで走るじゃない」
サキ「でも走るのが好きってわけじゃないから」
わたしが唯一七重と互角程度なのは走ることかもしれない。
小さいころから野山を一緒に駆け回って培った心肺機能の賜物だ。
自分から名乗り出るわけではないのに、
体育大会のリレーでは主に七重からアンカーになるのを薦められる。
任せられると責任を感じていつも以上に頑張ってしまう面はある。
それはともかく結局、七重はまたもったいないことに、
わたしと同じく部活に入らず、こうして一緒に下校しているのだ。
坂道続きなのが難点だが、それほど苦にもならないし。
それに、坂の途中から近くにある母のお墓にも足を運びやすいのだ。
今日はわたしの誕生日。そして、母の命日でもある。
七重を伴って霊園を訪れると、いつものように墓石がきれいに磨かれ、
水をかけた跡があった。既に父が供えた花もある。
今日は父が掃除をしていてくれたので、わたしは水をかけ、そして手を合わせる。
七重も黙って手を合わせていた。
ここは山の懐に抱かれるように静かで、今は若葉が淡く目に眩しい。
また坂の途中へ戻り、下りていると、
七重「ね、今度の金曜、家に泊まりに来ない?」
サキ「うーーん、いいね。そうさせてもらうか」
ゴールデンウィークは七重の誘いも断って、
ひと月で随分進んだ各科目の復習と宿題にほぼ費やしていたからな。
ここでいったん羽を伸ばすのもいいな、と思って答えたら、
七重「今ずいぶん考えたね」
わたしがその考えた内容を話すと、本当に驚いた顔をしている。
七重「え、宿題……すぐ終わらなかった?」
サキ「一言でいうと、あなたとわたしじゃ頭の出来が違うの。
中学の時は同じ成績だったから気づかなかったかもしれないけど、
ナナはわたしより相当頭がきれる、って思ってたよ」
父から聞いたことがある。
同じ大学でも、父にはとても難しくて何度も考えて分かるような問題を、
一度講義を聞いた、あるいは一度教科書を読んだだけで解いてしまう人がいたという。
そんな人が中にはいるものなのだ。
今わたしの目の前にいるそんな人は、
自分とわたしの頭脳に差異があることをまだ信じられないらしい。
七重「そんな……うーん」
このまま一緒にされては、のちのち厄介なことになりかねない。
サキ「そんなもん。すぐにとは言わないから分かれ」
ついでに、やっと問題が解けて思いっきり伸びをする時の充実感、達成感は分かるまい、
と負け惜しみも言っておきたい。
べーだ。まあ、それはそうと、
サキ「高校入って以来ばたばたしてたから、七重ん家でやっと一息つけそう」
今からほーっと息をつきながら自分の肩をたたいてるわたしに、
七重「えー、休むなんて言わずに、たっくさん話すんだからね!」
サキ「いつもナナのほうが先に寝るくせに」
七重「そ、そんなことないよ」
でも七重の言うとおり、久し振りのお泊りで色々話せそうだ。
そういえば夏物まだ全然見てないな。
サキ「うん。また明日」
スーパーでの買い物を一緒に済ませ、七重の家の前で別れた。
そして昼下がりと夕刻の間の、往来もまばらな住宅街を歩いている時、
ふつと湧くように海馬から呼び戻された事態に思わずひとり言が口をついてでた。
サキ「しまった」
昨日の夜炊いたごはんがお釜に入れっぱなしだ。
晩ご飯のあと、さっさと今日の分の弁当に詰めて、
弁当箱は冷蔵庫に突っ込んだのに、残りのごはんの方は入れた記憶がない。
お父さんは今日、薬剤師会の集まりに行くとか言ってたし。
最近の暖かさだと、昼にはすえてしまっているに違いない。
サキ「やれやれ……」
一つ年を取った初日からこれか。
自分のふがいなさにうんざりしながら、止まっていた足をのろのろと動かすと、
サキ「――――!」
ほとんど歩くこともなく、ふたたびわたしは立ち尽くした。
追加のうっかりを思い出したためではない。
またあの感覚だ。
ここ最近、あるときは近く、またあるときは遠く、この気配を感じていた。
あの悪夢に似た気配。
灰色の空に包まれた世界。
その世界との境界を、今、目の前の道いっぱいに感じる。
どうしよう。回り道して帰るか。
いや、どうせ気のせいだ。
両手に買い物袋と通学かばんをさげて、いちいち気のせいのために遠回りしていられるか。
それに、気のせいだって証明できる、いい機会じゃないか。
半ばヤケ気味な勢いで、わたしはその見えない壁に向かって歩いていき、
そして入ってしまった。
突然夜になってしまったのか、と一瞬だけ思い、すぐに違うと分かった。
星がない。月も雲もない。新月の晩だって星は出てるはずなのに、
ただ漆黒の闇だけが天に広がっている。
なにより、今歩いてきた道の電灯はぼんやりついているものの、
どの家にも明かりが灯っていない。
それにもかかわらず、空の下にぼうっと浮かび上がるように無人の町並みが続いている。
そう、人がいない。車も通らない。風もなく、何も音がしない。
夢ではない。あまりに五感が明瞭だ。
しかし、すぐにそう思いたくなることになった。
数軒先の家の門からフラフラと、白い服の女が出てきて、
道の真ん中でゆっくりとこちらを向いた。
垂らした長い髪が顔を覆っている。
刷り込みなのか本能なのか、一目で分かる。ヤバい。佇まいが余りにもそれだった。
縮み上がるような恐怖を感じる。なぜこんな郊外で都市伝説なんだ。
あと、奇妙なビデオを見た覚えはないぞ。
間違えてたら悪いけど、と振り返って走り出そうとしたら、目の前にいた。
瞬間移動はナシでしょ!
これはパターンに入っている。もう一回振り返ったら必ずまた目の前にいるはずだ。
足には多少自信あるけど、買い物袋を振り回しながら超短距離シャトルランはしたくない。
わたしが後じさりする。
女がわたしの歩幅より大きく、一歩間合いを詰める。
わたしがまた後じさりする。
女が、乗っていたマンホールの蓋ごと勢いよく跳ね飛ばされ、
五十メートルは先の家の屋根まで放物線を描いて衝突し、
地面まで転げ落ちていくのが見えた。
茫然としているわたしに、
「おいおい、どういうことだよ」
その少年は呆れたような声で私に呼びかけてきた。
「俺が相手をする時は閉鎖空間に機関の人間は来ないはずだろ」
ダボッとした安っぽいTシャツに七分丈のジーンズをはいた少年が立っていた。
乱暴な口のきき方とは裏腹に、田舎で道に迷った人へ問うた返答を気長に待つような、
くりっとした黒目がちな大きな瞳に温かさを感じる。
静けさと反比例するように胸騒ぎを起こす場所。
そう、もう異空間と呼んでいいと思う。
そこでホラーそのものみたいな女を目の当たりにしているというのに、
彼は関係なく日常の中にいるような平然とした顔をしていた。
しかし少年はわたしに対して何かに気づいたように一瞬、眼差しをさらにきらめかせる。
「あれ、お前……。いや、もしかして覚醒したばかりで迷いこんじまったのか?」
意味こそ判然としないが飾り気のない口調の発する言葉にわたしを心配する響きがある。
その瞳がまるで輝く一番星のように、この世界にたった一つの家路への道しるべに思えた。
改めてよく見るとわたしよりも背が低く、声変わりもしていないから、
小学六年かせいぜい中学一年くらいだろう。
あどけない顔立ちのどこかになぜか七重を思わせる。
そう思い掛けた時、ずっと向こうまで吹っ飛んだはずのさっきの女が、
逆方向の、つまり少年の後ろのほうからぴた、ぴた、と近づいてくるのが見えた。
明らかに今度は少年を怨念を持った目で睨めつけながら、ゆっくりと。
サキ「危な」
わたしが口を開くあいだに、女の姿が瞬間的に少年の間近まで移動し、
まさに仕留めようと見下ろしたとき、
女は突如天から降ってきた巨大なこぶしに、地響きを立てて潰された。
わたしは轟音と震動に硬直したが、
少年は自分の後ろ、そしてわたしの後ろのことのどちらも全く気に留めない様子だった。
わたしの背後にまたいつの間にか現れた、
物凄く大きな何かの全体像がこの子の視界には入っているはずなのに。
少年の背後のそれは、半透明だけれど、確かに巨大な腕だった。
地面に突き立ったモニュメントのような柱がクレーンのように、
ゆっくり引き上げられていくのをたどって空を見上げると、
それは青白くほのかに光る体の巨人の肩から延びていたから。
何十メートルにもそびえ立つ巨体に漆黒の空が透けて見える。
わたしは何度めか分からないが、改めて絶句した。
夢でわたしが振り返ったときに見たモノが、今目の前にあるから。
恐怖と共に、何故かこの巨人と対峙しなければならないという、ありえない義務感もある。
上を向いたまま瞬きも忘れていたわたしに淡々とした少年の声が聞こえた。
「大丈夫。敵じゃない」
え、潰されたはずの女は?
確かに地面と巨人のこぶしの間に挟まれる瞬間を目撃したが。
道路の陥没したような窪みには女の影も形もない。
凝視しても、どう見ても眉間に皺をよせて気を失っている、痩せた若い男性だ。
見た感じかすり傷もない。
「ネットの動画から感染したのか」
うなされている男性の額に指先を当てぽつりと呟きながら、
男性の腕を自分の肩に回して持ち上げる少年。
サキ「……一体今のは何だったの。君は誰?」
「ここで説明するより、あとで柊という人が来るから、その人から聞いて」
さっさと行こうとしている。
サキ「ちょっと待って。あなた、名前は?」
「俺は……」
と言いかけて、少年は、
「いや、知らない方がいいだろう。君はまだ選んでないようだから」
サキ「だから、何の話なの?」
と言うそばから、空が一気に明るくなった。
黒い空の天頂はすでに、ふわあっと円形に拡がっていく明るい光に替わっていて、
あの青白い巨人も、繋がっていたパズルがピースに分かれるように、
うっすらと消えていくところだった。
気がつくと、ついさっきの、いつもの夕方に戻っていた。
近くを通る電車の通過音がここまで届く。
閑静なところなのに、ずいぶん様々な音が聞こえてくるものだ。
幾分傾いた日の光さえ、あちこちに色彩を与えているのだと気づかされる。
道路に目を戻すと、男性を背負った少年の姿はなかった。
古泉はかがみん家に婿入りしたようであります。
SOS団がこなた達のいる秋葉へ旅行した。
過去にそんなことがあったのです。
これま…いえ、今日はここまで。
習慣とは怖いものというべきか、半ば自分でも呆れるのだが、
あんな目に遭ったにもかかわらず(ほぼ突っ立っていただけだけど)、
買い物袋の中身を冷蔵庫に入れなければと足を動かしたときから、
心は宙に浮いたままわたしは日常生活のルーティンに戻っていた。
お店のシャッターが下りている。
父の書いた貼り紙に小さな安堵の溜息をつき、勝手口に回って帰宅した。
蛇口を捻って手を洗い、水をコップ一杯飲み干し、さっさと食材を保存する場所へ分ける。
お釜のフタを開けると案の定だった。
鼻を近づけ匂いをかいで、勿体ないが中身をビニール袋に詰めて、生ごみ袋に入れる。
お釜と、ついでに弁当箱を洗う。
ざるにカップでお米をすくって研ぎ、外側だけ拭いておいたお釜に入れて水を量る。
夕飯の時刻に炊飯器をセットすると、かばんを持って2階に上がる。
何だったの、あれ。
柊という人が会いに来る、わたしに。いつ? それまで悶々と過ごせというのか。
誰に相談したものか。着替えながら、七重の顔が思い浮かぶ。
どう切り出したらいいか分からない。後で考えることにして、宿題に取りかかった。
元々毎日の食事のおりに逐一近況報告しないたちだけど、
それでもテレビのニュースについてだけ会話するより今夜は救われた。
洗い物をしながらあの少年の顔を思い出す。やっぱり、あの子は七重に似てる。
お風呂の残り湯で洗濯機を回し、また机に向かう。
残りの宿題と復習。予習は学校で、間に合う分だけすることにしている。
階下からの脱水完了メロディに脱衣所に戻り、簡単に浴槽を掃除する。
洗濯物を種々のハンガーに掛けてまとめ、再び階段を上がる。
つっかけを履いてベランダに出ると柔らかな夜風が心地いい。
近所の家々の明かりと街灯が視線を上らせるほどまばらになっていき、
やがて山の中腹を巻くように繋がる道路の街灯や、
時おり通る乗用車のヘッドライトが樹木の覆いから微かに漏れる他に光が見えなくなる。
東西の終点が見えない稜線。それは夜空よりもよほど黒々としている。
わずかに身震いを覚え、いつも以上に手早く洗濯物を干した。
部屋に戻ると、先ほど行き詰まった数学の問題に気分一新取り組む。
お店がやっていけるものかどうか分からないけど、
父の背中を見てきたし、大きなくくりでは同じ仕事につきたい。
今日予習もせずに当てられて、さっぱり答えられなかった教科書の英文。
ノートと文法書をにらめっこしてようやく理解し、ほっとする。
何度か朗読しながらペンを走らせる。こいつは後でもっと可愛がってやろう。
つい深夜になり、区切りをつけることにする。
明日の時間割分一式と今日どうしても解らなかった問題をかばんとバッグに詰め込む。
七重に教えてもらって分からなかったら先生に聞こう。
充実感と同時にどこか娯楽の足りなさを感じながら、着るものを揃える。
写真の中の母に就寝の挨拶をしてから消灯する。
布団に身を横たえながら、今日の残りごはんは冷蔵庫内に移したことを思い出す。
暗い天井を眺めながら、やはり七重に相談しようと思い、まぶたを閉じた。
休み時間にも級友の「お肉は燃やして食べるもの」という迷言に、
皆で罰当たりだと爆笑しながら一昨日のごはんのことを思い出したりしていた。
そして帰り道、わたしは思い切って尋ねた。
サキ「ナナは弟っていないよね?」
七重「ううん、どうして?」
サキ「昨日、ナナに少し似てる男の子に会ったから」
突然七重は驚いたような悲しいような複雑な表情でわたしを見つめた。
サキ「どうしたの」
七重「……お兄ちゃんかもしれない……」
言ってしまってから、言ってよかったことなのか迷ってる。
民法上年下の兄が発生することってあるのかな、という疑問はあるけどここはとりあえず、
サキ「そう」
とだけ答える。七重が思い出したように、
七重「わたしの家でサキに会いたいって人がいるの、ちょうどサキが家に来る日に。
わたしのお父さんとお母さんの高校の時からの友達で」
サキ「柊って人?」
七重「えっ? なんで知ってるの?」
サキ「男の子がそう言ってたから……。
でもまさかナナの家でだとは思わなかったな」
七重「そう……じゃ、やっぱりその子って家のお兄ちゃんだ、きっと」
サキ「じゃあ、ナナん家で聞かせてね」
七重「うん」
サキ「じゃあ、また後でね」
いったん七重と別れた。
お店にいる父に声をかけ、帰宅。
着替えてから家じゅうの掃除。父の夕食のおかずを少し作っておく。
その旨を伝え、お泊り一式を携えて出かける。
チャイムを鳴らすと、間もなく七重の返事がインターホンから聞こえた。
門扉を開け、もう何度通ったか覚えていないアプローチに歩を進める。
限られたスペースに七重とおばさんが丹精込めて育てている季節の花に心が安らぐ。
少し尻尾を振って鼻先を寄せてくるジョンのふっかりしたあご周りを撫ぜながら挨拶して、
巣に入っているツバメの親を眺めながら玄関ドアの前で待っていると、
七重が出迎えてくれた。
わたしを玄関の中に入れてくれると、静かにドアを閉め、
七重「いらっしゃい。柊さん来てるよ」
サキ「うん。おじゃまします」
七重に続いて靴を脱ぎながら、家の中に挨拶する。
サキ「おばさん、こんにちは」
ハルヒ「ああ、サキ、上がって。お茶用意してるわよ」
リビングの方から明朗活発な顔と声だけ見せると、
ポニーテールを翻しておばさんはさっさと引っこんでしまった。
これがお泊りのときの、いつものおばさんの歓迎の仕方。
よくわたしが見た事のない(七重も見たことがないらしい)、
凄いご馳走(多国籍の料理らしい)を何時間もかけてこしらえて振る舞ってくれる。
一発でこんな美味しい料理を作れるくらいなんだし、
前に料理研究家としてテレビに出てみないかって、
近所の人を通じて誘いがあったのに、おばさんは断ってる。
他にも世界の政治情勢にやたら詳しくてニュースにツッコミを入れたり、
疎い方面なんてあるのかってほどの雑学家だし、
あと大学レベルの数学や物理の問題を暇つぶしにパズル感覚で解いたりしてるらしい。
犬のジョンの世話から炊事や洗濯、お掃除をこなして、
地域の困ったことをご近所から相談されたら解決しにいって、
ながらのこれだから、最強の専業主婦であることは間違いないけど、何だか勿体ない。
でもおばさんは今のままが性に合ってるって言うし、七重も賛成とも反対とも言わない。
七重のお父さんやわたしの父と同じ年頃の男性で、
知的で切れ長な目と落ち着いた柔和な表情とは対照的に、
引き締まった体つきをしているのが、グレーのジャケット姿からもうかがえた。
年齢に合わない敏捷さで男性は立ち上がると、
古泉「初めまして、柊一樹と言います。一くんから小坂さんのことをうかがっています」
サキ「あ、はじめまして」
つられて頭を下げながら応えたものの、何だか色々と疑問が先立ってしまう。
戸惑っているわたしを見て、七重が台所の流しで洗い物をしていたおばさんを呼んだ。
エプロンをしたままのおばさんに、
七重「お兄ちゃんのこと…」
と促すと、
ハルヒ「そうだサキ、黙っててごめんね。どうも、息子の一(はじめ)と会ったみたいで」
言うほどに悪びれない様子のおばさんだけど、もしかして。
サキ「あ、大丈夫です。わたし、お二人のことおじさんには黙ってますから」
おばさんと柊と名乗った男性は揃ってきょとんとした顔でわたしを見て、
それから顔を見合わせ、そして爆笑した。
ハルヒ「やだ、サキ」
と言って、まだ笑っている。わたしの横の七重まで、両手で口を押さえ顔を震わせている。
ハルヒ「古泉くんの子どもだったらあんな放蕩息子に育ってないわよ。
あ、古泉って古泉くんの旧姓ね。
あと、一は幼く見えたでしょうけど、七重の二つ年上の兄だから」
はは、勘違いで良かった。でもどう見ても中一くらいにしか見えなかったけど。
古泉「そういえば僕も男の子が欲しかったですね。家は娘ばかりですから。
いや、一くんは僕や朝比奈さんや、泉さんにとっても息子みたいなものです」
何か違う話が始まったみたいだ。
ハルヒ「そちらでどんな決め事があるのか分からないけど、
一をもっと世の中に役立つように向けてくれないかしら。
今の状態って人としておかしいものだと思わない?」
古泉「ええ、涼宮さんの言うとおりだと、僕も思います。
しかし『機関』としてはですね、そう融通が利かなくて申し訳ありません。
今度のヤマを越えたらまた状況が変わるかもしれませんので、どうかそれまでは」
ハルヒ「いや、古泉くんを責めてるんじゃないのよ。
そもそもあいつが自分自身で気づいて考えないといけないことだから。
ブシンだか何だか知らないけど、幾ら有希がついてるからって、
社会と関わりを絶って電波の相手だけしてるなんて絶対に良くない。
やっぱりね、あの時高校を出たまま職を持つなり大学行くなりして、
普通に人の中で揉まれて成長していくべきだったの。
それが許されないってのなら、
せめて一が持ってる力を人のために生かすのが筋じゃない?
そこで余計なことをしたとか反応が返ってきたり、
失敗して初めて学ぶものでしょう? あの子、とにかく今のままじゃ駄目だわ」
俄然とまくし立てるおばさんに、
七重「お母さん」
と七重が冷たく口を挟んだ。おばさんは我に返ったように、
ハルヒ「はい。今日はあんたのために古泉くんは来てくれたんだったわ」
口を閉じて目をくりっとして軽く頭をさげながら、両手をぱっと顔の前に広げるおばさん。
古泉「一くんによると、小坂さん。君は空が真っ暗で無人で、
でも風景だけは一緒だという空間に迷い込んでしまったそうだね」
サキ「はい」
しかし言われてみれば、なぜわたしは異質な空間だとすぐに分かったのだろう。
空が急に暗くなって、周りの人が消えたのだと捉えてもおかしくない状況だったのに。
いや、それは自分から「侵入した」という自覚があったからだ。
古泉「そこでホラー映画に出てくるような女に出くわし、
襲われてるところに一くんが現れて、君を助けてくれた」
サキ「…」
ちょっと考える。
あの切迫した状況に一……七重のお兄さんだから、さんか、がいつの間にかいて、
あの能天気な態度に救われたと言えばそうだけど、
マンホールの蓋が勝手に跳ね上がったのかもしれないし、あの女を潰したのは……
古泉「それとも見た覚えのある恐ろしい巨人がその女を倒した?」
それは。
サキ「見たことがあるなんて、一さんには」
古泉「混乱させてすまない。かまをかけるつもりは無かったんだが。
ただ僕も能力に目覚めてばかりの時は、
《神人》を実際に目にする前からどういうものか知っていた、
という変な状態だったから君もそうかと思ってね」
サキ「…しんじん?」
ふとこんな話に七重がついてこれるのかと思って隣を見ると、かなり必死な顔で
七重「ごめん! サキが夢で見たって聞いてたのに。
わたし、柊さんみたいな能力を持ってないから神人ってどういうものか、
よく知らなくて」
何故かあたふたと謝られた。
七重は話の内容は理解できてて、でもあの青い怪物については見たことはないらしい。
おばさんも、柊さんとは旧知の仲らしいけど、一さんについての話のやりとりからすると、
柊さんと全く同じ立場ではないらしい。
いや、わたしに起こったことを柊さんが説明できるということは、
むしろわたしと柊さんが同じ立場なのだ。
古泉「君が見たはずの、青白い怪物のことだ。
だがこちらは害を及ぼす存在じゃない、今ではね。
敵はむしろ助けられた男性の脳に寄生していた情報生命体のほうだ。」
古泉「そうとはかぎらない。巨大なカマドウマの形をしたときだってある。
実体をもたず情報そのものとしてインターネットの中に潜み、
あるきっかけで任意のウェブサイト上に起動データがアップされると、
それを見た人の脳組織に直接、情報として感染するんだ。
人の脳に取り憑いて意識を奪い、異空間を作り出して被害者をそこへ転移させる。
その上で、宿主となった人の畏怖の対象に、本人を変異させてしまう。
具現化した情報生命体を倒せば、被害者は無事に解放される」
なんだかわけの分からない説明だが、少なくとも最後の部分だけは、
わたしがあの場所で見たことと一致している。
あの男性はペシャンコのはずなのに、傷一つついていなかった。
サキ「異空間って、あの空が全部真っ黒な場所のことですか」
古泉「君が迷い込んだのは、情報生命体が作りだした異空間を、
一くんが自身の閉鎖空間に変換したものだ」
サキ「……閉鎖空間っていうと隔離されて、閉じ込められて出られないっていう、
あれのことですか」
古泉「そう考えてくれて構わない。
詳しい話は君が知りたい範囲で追い追いするとしても、ただもう一つ」
柊さんは軽く人差し指を上げながら続ける。
古泉「わざわざ空間を変換してもらうのは、こちらの優位性を保つためだ。
彼の生み出した閉鎖空間の中でなら、
僕のような『機関』の能力者たちが情報生命体と戦う能力を存分に発揮できるから」
さっき、おばさんとの会話の中にも出てきた『機関』という組織の名称らしい言葉。
古泉「そうだね、君や僕のような能力者が閉鎖空間でなら敵と対等にわたりあえる、
と言った方がよかったか。
君は正確には偶然に閉鎖空間に迷い込んでしまったんじゃない。
閉鎖空間へ侵入することも能力の一つだと、……分かるよね、君なら」
見透かされている。
情報生命体や『機関』についてはともかく、
実のところわたしは閉鎖空間と神人という言葉を聞いたとき既に、
その言葉の意味するところを理解していた。
知らないうちにインストールされていたソフトが不意に起動したみたいに。
そんな自分の状態の異常さを認めたくなくて、わざと知らないふりをしたり、
一般的なイメージで確認するようなポーズをとってきた。
わたしが聞く前からわかっていたこと。
閉鎖空間は一さんの生み出した、彼の精神世界を反映させた空間。
大体が半径は数キロメートルの無人でモノクロの世界であるほかは、
現実の街並と何ら変わらない。
そして、そこに現れる神人をわたしは倒さなければならない。
なぜなら神人は閉鎖空間内の街を破壊し続け、
それに比例するように閉鎖空間は拡大し続ける。
そして、閉鎖空間が地球上全てを覆う規模になったら最後。
……言葉通りの意味でこの世界は終わるから。
そして、わたしには神人を倒す力がある。ただし閉鎖空間でしかその力を発揮できない。
そして、同じ力を持った人が他にもいることを知っている。
その認識が合っているかどうか確認するために。
また、そのことを知っているか柊さんを試すために。
わたしの卑劣な猜疑心を柊さんは見抜いたうえで、
それには触れず、ただ誠意をもって問いに答えてくれたのだ。
それに、全てではないがウラの取れる言葉があった、神人は「今では」敵ではない、と。
古泉「『機関』には君や僕のような能力者が集まって、
一くんと連携しながら情報生命体から人々を守るために戦ってるんだ。
本来与えられた力を応用する形ではあるけどね。
今日僕はは『機関』の者として君にお願いしにきた。
我々の一員になって、君の力を『機関』に貸してほしいと」
それまでじっと、柊さんとわたしの言葉に耳を傾けていたおばさんが片手を挙げた。
ハルヒ「古泉くん、ひとつだけ言わせて」
柊さんが黙って頷く。
ハルヒ「サキ、あなたは要するに選ばなきゃいけないの。
でも逆に、選ぶってことができるのよ。
ここから先は選択によってはずっと命がけの日々を送ることになる。
反対に今聞いたことで、
それに脅かされず今まで通り普通に日常を生きていくことだってできる。
どちらが偉いとかじゃないわ、全てあなたの意志次第で決められることなのよ」
おばさんは「普通に~」の辺りで強い目で柊さんに確認をとるような視線を合わせながら、ずっと昔からそうだったみたいに、
わたしや七重に辛抱強く説いて聞かせる時のはっきりと、抑えた口調で言った。
すぐに柊さんがおばさんの言葉を引き取る。
古泉「君は涼宮さんにとって大事な――人だし、君のお母さんのことも、側聞してる。
君が関わりたくないのなら、以降僕の方から持ちかけたりはしないよ」
話しながらおばさんと目を合わせ頷き合う柊さん。
古泉「でも、閉鎖空間や神人の気配や、
その他この件に関することで悩んだり困ったりするようなことがあれば、
いつでも力になる。同じ感覚を持った者だから理解できることもあると思うから。
あくまで君が、君の人生を歩む上での話でね。
僕は自分が今していることに誇りを持っているけど、
涼宮さんが言う通り、どちらの生き方に優劣があるわけじゃないんだ。
僕個人は、君が心から願うほうを選ぶことにこそ意味があると思う」
そしてジャケットの懐から手帳を取り出し、手早く書き込むとそのページをちぎって、
わたしに手渡した。
古泉「僕の番号だ。いつでも、どんな答えでも、掛けても掛けなくても構わない。
それじゃ、涼宮さん、僕はこの辺で」
ハルヒ「え、ちょっと。もうすぐ一品出来上がるから、その味見してからにしたら?」
古泉「それは惜しいですね。でも、今日は」
短いながらもしっかりした口調の返答に、おばさんも引き留めるのをあきらめた。
古泉「本当なら水入らずのところをお邪魔したくなかったんだけど……」
柊さんは、今日初めて何か言葉が見つからないみたいで、少し間が空いた。
それが何故なのか分からず、わたしも何か言った方がいいのかなと思い始めたとき、
後ろからぱたっと、わたしの頭におばさんの手が置かれた。
ハルヒ「大丈夫。この子はこう見えて高い順応性を持ってるから」
軽く頭を撫でられて、おばさんの方を向くと、
一点の疑いもなく信じている目で笑みを浮かべ、わたしを見守っていた。
はて、わたしはそうだったかな。
隣の七重と同じく、わたしも今きょとんとした顔をしているに違いない。
だが、柊さんは楽しそうな笑顔になっていたので、まあいいのだろう。
柊さんを門扉から見えなくなるまで見送ると、
(何だかんだでおばさんに押し付けられたお土産を掲げながらにこやかに歩いていった)、
七重とわたしは、おばさんにがっしと肩を捕まえられて両側から引き寄せられた。
ハルヒ「さあ、おしゃべりで遅れた分、巻き返すわよ!
二人とも今日は手伝ってちょうだい!」
料理は多めに作ってあって、タッパに詰めて小坂家へ持ち帰るよう指示するのも、
いつものおばさんのやり方だった。
七重「ねえ、サキって――」
もうぬるくなったココアをすすると、七重は宙を見つめ、
自身の頭の中で膨らんだ風船をこの部屋に浮かべるように言葉を発した。
七重「――どうするの?」
クッションを両足で挟んで床にお尻をつけたまま、
カップに視線を注ぎながらことりとローテーブルに載せ、膝を抱える。
サキ「……柊さんのこと?」
尋ねた割にどこか、答えを聞きたくないと言ってるような目が待っている。
七重「うん」
賑やかな晩餐の後、七重と久し振りにまったりと流れていた時が一時停止する。
やや不快だ。七重に対してではなく、この状況に。
わたしは女の子に、というより七重に飢えていた。
ここは、自室よりずっとくつろげるシェルターのような場所だった。
反対側からカップを置き、再びベッドに腰かけた勢いのまま上半身を倒した。
サキ「……どうかなあ。忙しいし……」
名残惜しさにぼやく。心は65パーセントくらい決まっていたから。
七重「うん、だよね。やっぱりさ」
胸越しに覗く安堵の表情が痛ましくて、わたしは天井へ目を逸らした。
サキ「でも、人を冒す或る病気があってそれはわたし達にしか治せない」
返ってくる沈黙に耐え切れず上体を起こして、七重と向かい合う。
サキ「だから……」
七重は無理に笑顔を作ってみせた。
七重「サキならそう言うんじゃないかって思ってた」
その夜は、いつもより遅くまで語らった。とりとめのない話からお互いの将来のことまで。
正直なところ、わからないことの方が多い。
敵がどういう経緯でわたし達と戦うことになったのか。
戦う必然性は……。
疑問はきりがないが、結局、助けが必要な人がいて、自分に助けられる力があるのなら、
と最後に述語がつかない漠然とした感覚で、わたしは答えを出した。
教えてもらった番号に電話をかけ、わたしは伝えた。戦いに参加したいと。
あの悪夢のように何かに追われてでなく、訓練メニューの一環としてだ。
毎日、晩ご飯の後のジョギングと称して夜八時ごろ家を抜け出し、
駅前公園の辺りですでに開いている閉鎖空間に飛び込む。
これは敵が中にいるわけではなく、柊さんが一さんに頼んで、
毎日定刻に、訓練のために開いてもらっているのだ。
閉鎖空間を開く、という言い方はなんだかおかしいけど。
父には人気のない、暗い道は避けろと言われているが、
正にそんなところをダッシュしているのである。
そう、閉鎖空間に侵入するなりジョギングは、長距離ダッシュに切り替わる。
聞いたことがない。
公園内を一周すると、訓練には絶好のコースが待っている。そう、北高への坂道だ。
登り坂を駆け上がり(駈け上がれない)、校門がゴール。
ここまで来て息が乱れない柊さんがありえない。
校庭のトラックを一周歩いて後、
陸上部の部室の壁を柊さんが吹き飛ばし(毎日来るたびに直っているけど申し訳ない)、
中の器具を拝借して筋力トレーニング。
もうここまででキツくて吐きそうになる。と言うか最初は吐いた。
筋トレでいい具合に負荷がかかったところで、
柊さんが作ってくれた足場を頼りに、校舎の横の壁をよじ登る。
屋上まで、途中落ちた所からやり直し。
屋上のふちを落ちないように一周走り、飛び降りて一とおりのメニュー終了となる。
古泉「暫定として組んでみたけど、バランス悪くないかな」
とりあえず父が心配しないくらいの時間に帰れるようにしたい。
最初のころは筋トレの途中で終了になっていたが、
だんだん壁登りの行ける高さが伸びてきた。
勉強のことなら、帰宅してから晩ご飯の間のわずかな時間と、
ジョギングから帰ったらお風呂に入ったあとすぐ寝て、
それまでの生活より何時間か早く起きてやればなんとかなった。
問題は機関の能力者として、根本的というか決定的なところにあって、
つまりわたしは自身の紅玉化も、赤い光球を手のひらから出すこともできないのだった。
当初の訓練メニューには、神人狩りが入っていた。
一さんに制御された上で暴れまわる神人を、紅玉化して倒すのが最終目標だったが、
まずは基本の飛行技術から学ぶところで、
サキ「どうやるんですか?」
柊さんは全く予想していない質問を受けたようだった。
古泉「どうって……わからない?」
要は感覚の問題だった。あるものはある、ないものはないのだった。
そして、閉鎖空間に侵入できるのに肝心の攻撃能力が使えない、
やり方が分からない者など前代未聞らしかった。
柊さんは興味深そうに、
古泉「さすがに君みたいな例は初めてだな」
いや、それは相当ショックです。
古泉「では、できるようになると信じて、それまでは体力をつけることから始めるか」
というわけで今のメニューに変更されたのだった。
それにしても、紅玉化すれば体力なんて関係ないんじゃ、
と疑問に思い質問したことがあるが、
古泉「いや。紅玉の状態は自身が武器になるだけじゃなく、
敵の攻撃から身を守る鎧にもなるんだが、
その強さは精神力に左右されるんだ。そして、体力と精神力は比例するから」
体力をつける以外に精神力を強くする方法はないでしょうか。
柊さんはちょっと考えて、
古泉「まあ強制はしないけど、本を読むことかな。
目的のためって言うより、学生なんだし読書で損はないと思うよ」
そう言われれば、世の中には難しい本がたくさんあるなあ、
と思い始めた頃から、あまり本は読んでいない。
避けていたジャンルの読書に取り組めば、精神力も強くなるものなのだろうか。
わたしが一人で下校していると不意に声を掛けられた。
例によって中学一年の時の姿のままの、七重のお兄さんである。
一「よう」
こうして並んで歩いていると、周りからは姉弟に見えるだろう。
サキ「この間は助けてくれてありがとうございました。」
自分でも丁寧語で話しているのがおかしく感じる。
一「いや。危ない目に遭わせたのはこちらの不手際さ。
でも次からは自分の身は自分で守れよ」
分かってます。そのために毎日訓練してますから。それより、わたしに何か用ですか。
一「別に。あれからどうしてるかなと思ってさ」
サキ「おかげさまで元気です。でも一さん、高校出たままぶらぶらしてんでしょ。
もっと有意義に時間を使ったらどうですか」
一「君が下校する所を一緒に歩くなんて、今の俺にとっちゃ有意義な時間さ。
学生時代ってのが何より懐かしいし、
女学生が傾きかけた陽の中を今日の学業を終えていそいそと家路につくのを見てると、
なんかそう……ノスタルジックというか、
もう俺には縁のない光景だなって感慨深くなるもの。
あ、一応、君の高校のOBだから」
そんな小中学生にしか見えない顔をにこにこさせながら、
おっさんくさいことを言われてもなあ……。
サキ「じゃあ、わたしのクラスの担任、岡部先生って言うんですけど、
どの部活の顧問か知ってますか」
一さんは諦め気味の笑顔で前を向きながら鼻で深めの溜息をついて、
一「サキも変わらんなあ。……職員室で、俺の親父の二コ下の卒業者名簿を見てみろ、
山田って名前で載ってるから」
話がこんがらがってきた。わたしの混乱を察したように話を継ぐ。
一「ちょっと用事があって、過去に遡った。
その時北高生として潜り込んで、そのまま今まで来たのさ。
あ、言っとくけど学業面でチートは使ってないぞ。頭の方は七重と違って親父似だが、
正々堂々ギリギリ卒業したからな」
なにかBTFな事情があったらしい。いや、「そのまま今まで来た」って……?
前方から歩いてくる、美しいストレートロングの女性を見ている。
女性も微笑みを浮かべてこちらを見ているから、
一「朝倉さん、お久しぶりです」
知り合いなのだと、
朝倉「こんにちは、一くん。それから小坂幸さん」
思ったら、
一「サキ、すまん。また巻き込んじまった。離れるなよ」
サバイバルナイフが飛んできた。
サバイバルナイフが私の目の前で空中に静止している。
女性の手元できらめいた刃物が一瞬でアップするみたいに目前にあったから、
「飛んできた」と後から思ったけど、
そう表現するには余りにも直線的で、回転もせずただ前にスライドするような軌跡だった。
周りの違和感に見回すと、向こうでのんびり自転車をこいでたおっちゃんが、
アクロバティックなサイクリストもびっくりの静止を保っている。
動く物が無いから、二人の会話のほか、周りに音が無い。ああ、また異次元。
淡々と一さんが女性に話しかける。
前触れもなくわたしの目の前のナイフが、
刃先からサラサラと砂のようなきらめく粒子に分解され消えていく。
かと思ったら同時に女性の手元で砂からナイフが構成されていく。
女性はナイフを手にしてしげしげと眺めながら、
朝倉「今度の戦いで、あなたとわたしがペアで北米一帯を任されたのは知ってるでしょう?
なのにあなたからは何の挨拶もないし、久し振りにわたしから会いにきたわけ」
一「それは失礼しました」
ぺこりと頭を下げる一さんに、
朝倉「ああ、それはいいの。本当のところは確かめたいところがあったから」
一「と言いますと」
女性は腕を伸ばしてナイフをわたしに向けた。心臓がどきんと鳴る。
朝倉「素晴らしいわ。さすが長門さん由来の技術ね。完璧に再構成されてる」
またわたしをダーツの的にするのかと思ったら、
片目をつぶって刃に歪みが無いか確かめていたようだ。
朝倉「実を言うと、情報統合思念体では、
あなたが前の時みたいに敵性存在に対して手加減するんじゃないか、
という懸念があるの」
手品のように大ぶりなナイフを両手の間にすとんとしまうと、
改めて一さんの方を向いて女性は話し出した。
朝倉「わたしはそうは思わないんだけどね。
偶然小坂さんが情報生命体に遭遇してしまった時の、あなたの対処から判断すると」
チラリとわたしを見てにっこりすると顔を戻し、
朝倉「それに一緒に戦うんだから今のあなたの力を見たかったし」
朝倉「数種のシールド展開や回避、再生しかあなた繰り返さないし判断しようがないもの。
それに、長門さんみたいに、ただ守るだけが防衛じゃない。
攻撃は最大の防御と言うでしょう?
今は、あなたの攻性情報の使用傾向を把握できる、理想的な条件下にあるわ」
保育士が、園児に描いた絵の披露をうながすような表情で、女性は、
朝倉「いまのあなたの全力を見せてみて」
女性の言葉に、一さんは一呼吸、間を置いて答えた。
一「わかりました。全力ですね」
一さんの全力って、今ここであの女性と戦うってこと――?
おっちゃんが、再びキコキコと自転車をこぎ出した。
普段耳にしているはずの、周りの風景の音がやけに大きく聞こえて戻ってくる。
ビデオの一時停止状態から再生ボタンを押したように、ふたたび動き出す世界で、
女性は一瞬あっけに取られたような表情をしたが、すぐにクスッと笑った。
朝倉「わたしから学んだことも忘れてはいないようね。いいわ、次は戦場で」
再び女性がこちらに近づいてきた。歩の進め方は優雅で自信に満ちている。
それでいて小気味いいリズムの足取りで、もしただ見掛けただけだったら、
自分もあんな風に歩いてみたいな、と真似てみてすぐ挫折するような、
とにかく溌剌とした華やぎを感じさせるものだった。
よく見たら、大人びた雰囲気だけどわたしと同じくらいの年頃だ。
流行でもない、普段着で揃えてるはずなのに着こなし、と言うんだろうか。
アクセサリと言えば小さな腕時計くらいだが、
気取らない細めの茶色の革の、小さい時計盤も金メッキのごくありふれたものだ。
全てわたし達の年代なら全然違和感のない、
清潔とはいえむしろ目立たないファッションのはずなのに、
とても洗練されて見えるのはなぜなんだろう。
何より、十人中十人が目を引かれるような美人だ。
人の輪の中にいても、パッと華が立ち目を覚まさせるような、
生きものとしての生命力と、若さを誇る美が調和している。
って見とれてる場合じゃ。でも一さんは何もしない。
振り返る女性に、また淡々と、
一「朝倉さんと俺が組むってどうやって決まったんですか」
え、お世話になったらしい人に背を向けたまま物を尋ねるって失礼なんじゃない?
ひやりとしたわたしだが、女性は気を悪くした風でもなく、
朝倉「決定したのは統合思念体だけど、進言したのは長門さんよ」
それを聞いて、一さんはなぜか微笑んだ。相反するように声色は変えず、
一「朝倉さん」
前を向いたまま、不敵な笑みを浮かべて、
一「全力で行きますよ。
あなたが殺されでもしたら、俺が有希さんに会わせる顔がありませんから」
女性はきょとんとしたが、やがてふっと笑い、わたしに向かって、
朝倉「あなたも、健闘を祈るわ。小坂さん」
女性が遠く見えなくなると、一さんは天を仰いでから大きく溜息をついた。
一「あー、怖かった」
いや、こっちのセリフなんですけど。
一「すまん。俺は全く予定外だったけど。
あの人はこうして君と一緒にいる所をわざわざ狙ってたみたいだ」
すまなそうに頭をかいて笑いながら、歩き出す。
サキ「朝倉さん……って、どんな人なんですか」
わたしもついていきながら、尋ねた。
一「前に世話になったことがあったんだ。
なのにさっき言われたとおり、ご無沙汰してたんだよ。
長門有希さんと同じ、情報統合思念体のインターフェース、朝倉涼子さん。
『機関』から聞いてなかった?」
サキ「いえ。お二人とも知りません。
今度の戦いとか、前の時とか、何があるのか、あったのかも」
一「それは柊さんから聞くといい。一言で表すなら、相当やっかいなことだよ。
気になることは全部聞いて、それから決めるといい」
気になることは全部というか、何の話だか全然分からなかった。
一「まあ君もボチボチ頑張れよ。じゃあ、また。
あ、岡部先生はアタリだぞ。ハンドボールだけじゃなく人間も熱い先生だから」
そう言って、すぐ先の袋小路にひょい、と入っていった。
覗いてみると、もういない。
その日の訓練がひと段落つくと、わたしはさっそく、柊さんに今日あったことを話した。
朝倉さんたちのことやその他もろもろのことを聞かせてほしいと伝えると、
古泉「かなり長い話になるから、今度の日曜は空いてるかい?」
日曜の午後、柊さんと待ち合わせたのは光陽園駅近くの図書館分館前だった。
古泉「待たせてすまない。急用があったもので」
サキ「いいえ。おつかれさまです」
この会話は通行人の目があるからで、待ち合わせ時間の前に閉鎖空間が開いたからだった。
古泉「いや、今さっきのは僕らが関わったわけじゃないんだ。
一くんと直接会って話す機会がなかなかなくて、
そちらの方を優先させてしまった。悪かったね。
早速行こう。君に会わせたい人がいる」
『機関』の仲間だろうか。
それにしても図書館は、わざわざ長い話をする場所ではないような。
説明に必要な本でもあるからなのかな。
柊さんに続き自動ドアから入ると、右手にすぐ貸出返却受付カウンターがある。
姿勢の良い人影に目を引かれると、
さらりとしたショートカットの女性の司書さんがいた。
その人はこちらにゆっくりと顔を向けた。シンプルな白いブラウスがとてもよく似合った、
知的な感じのするきれいな方だ。
長門「………………」
公共施設の運営が何でも民間委託の今時、珍しい昔ながらの物静かな司書さんのようだ。
でも不思議と、沈黙をもって迎えられても嫌な感じがしない。きっと、いい人なのだろう。
こちらをじっと見る目にもほのかに温かい雰囲気を感じる。
また今度本を借りに来ようかな、と思いつつ素通りするものだと思っていると、
古泉「長門さん、この子が小坂幸です」
と紹介された。
そう言えば、一さんがお名前を口にしていた方。慌ててお辞儀をする。
サキ「初めまして、小坂です。よろしくお願いします」
顔を上げると、長門さんが静かに椅子から立ち上がるところだった。
長門「朝倉涼子があなたに迷惑を掛けた」
僅かに頭を下げながらおっしゃった。そうか。朝倉さんの知り合いの方だったんだ。
サキ「あ、いいんです。一さんが守ってくれたみたいですから」
長門「そう」
古泉「ちょっと奥の部屋をお借りします」
長門「そう」
淡々とした会話だけ交わすと柊さんは歩き出した。
わたしはもう一度お辞儀をしてから、ついていく。
カウンターから、正面玄関から入ったとおりまっすぐ歩いて突き当たりを右に曲がる。
すると書架と壁に囲まれた小さなスペースがあって、
その隅の方に、今わたし達から見て向かいにドアがあった。
ちょうどわたしがドアを見つけたとき、そのドアが開いて一人の女性が中から出てきた。
長い髪を後ろで大ざっぱに留めている。小柄ながら自信に満ちた足取り。
垢抜けた雰囲気に羨望の眼差しを向けてしまう。
柊さんとその女性がほとんど同時に足を止めた。
古泉「奇遇ですね、泉さん」
こなた「おや、古泉くん! 今かがみに会ってたところだよ」
古泉「取材ですか」
こなた「ううん、今日はぶらっと遊びに来ただけ」
柊さんを旧姓で呼ぶということは、かなり前からの知り合いらしい。
こなた「あ、サキじゃん。どうして古泉くんと一緒なの?」
サキ「こんにちは、泉さん」
小さな図書館の片隅で、泉さんに会うとは。
七重の家で幾度か会ったことがある。時々訪れているそうだ。
おばさんとおじさんが高校の時、
部活のみんなで東京へ行ったときに知り合ってからの友人。
自分の趣味を表情豊かに熱く語ってる姿が印象的だった。
泉さんはわたしと二つ共通点がある。
誕生月が同じこと。
それから、幼い頃にお母さんを亡くされ、母親の記憶がほとんどないという点である。
学校のクラスの子が二つめの話題に触れたとき空気が微妙になるね、
その度に記憶が無いから凄く悲しいわけじゃない、と改めて説明しないといけないよね、
と何気なく話されていたのを覚えてる。
柊さんは戸惑った表情をしながら、
古泉「彼女が今度新しく入ったんですよ」
女性はテンションをすこしこちらに歩み寄るように、柊さんの顔を見て、
それから再びわたしを見つめた。好奇心を湛えた明るい瞳を持った人だ。
古泉「泉さんとは僕の女房が、それに僕も高校の時からの友人なんだ」
サキ「そうだったんですか」
こなた「どうも、よろしく。時間ができたらまた取材させてね」
悪戯っぽくウインクしながら、泉さんは名刺を差し出した。
両手で受け取った名刺を見ると、名前と住所と電話番号しか書かれていない。
そう言えば七重の家ではマンガやゲームの会話しかしてなかったから、
何してる人とか知らなかったな。
古泉「泉さんは、主にアニメーション作品の舞台になった地域と、
そこに住んでいる人との関わりを焦点にした記事を書く、ルポライターなんだよ」
へぇ。ここ、アニメの舞台になってたんだ。
泉さんは照れるように、
こなた「そんな大げさなもんじゃないって。チンピラな物書きだよ」
でも言われてみれば人懐っこさのなかにも、見抜くような鋭さも感じる。
古泉「泉さんの独自の感性と普通見過ごしがちな事柄をすくい取る視点は、
一読者として貴重ですよ。
凝り固まった頭がほぐれて、日常の中にもある面白さを垣間見るような気がします」
そういう説明をされると、どんなものか読みたくなるなあ。
こなた「え、あの子戻ってきてたの? でもまたすぐ行かなきゃいけないんでしょ?」
古泉「まだ他の場所が開いてませんから大丈夫。
それに泉さんが来たと知ったら地球の裏側からでも飛んでくるでしょうから。
電話すれば?」
泉さんは懐かしむような顔をして、
こなた「そうしようかな。ふむ、一には聞きたいことがあるし」
意地悪におどけた目でわたしをチラッと見たが、しかしふと顔を曇らせた。
こなた「でも一がこの地域に来てたってことは……」
柊さんは声を落として、
古泉「ええ。長門さんや喜緑さんがいるにも関わらず、です。そろそろ近い。
泉さんも大丈夫だとは思いますが、こちらでは一応用心して下さい」
こなた「わかった。古泉くん達もね。じゃあね」
と図書館の入り口に向かって歩きかけて、泉さんは足を止めた。
古泉「泉さん?」
呼びかけに振り返った泉さんはさっきとは打って変わった深い瞳をしていて、
でも違いはそれだけで柔和な表情はそのままだったけど、
こなた「古泉くん。……あの子、わたし達にとっては子どもみたいなもので、
普通に役目に頑張ってるように見せてるけど、
ホントはわたし達より大人な面あるから……わかってあげてね」
柊さんには泉さんの言いたいことが伝わったようで、
古泉「はい。本当に泉さんには……。
森さんと常々話していますが、あなたの存在にどれだけ彼が救われているかと」
こなた「わたしだけじゃなく、古泉くんも、でしょ」
古泉「……」
大人が沈黙して、マジな目で見つめ合っているのは、あまり穏やかな光景とは言えない。
古泉「すみませんが、それは難しいんです」
こなた「……そうだね。……ごめん、この話はこれまで! じゃあね、また」
笑顔で手を振って歩いていった泉さんは、
閲覧テーブルで本を読んでいた人にも声をかけて、
二言三言フランクな感じで会話し、手を振りながら離れて、
今度はカウンターのところで長門さんにちゃきちゃき話しかけていた。
柊さんは、何か言い負かされたような流れの割にそんな泉さんを称賛し羨望するような、
僅かな笑みを束の間見せていたが、
古泉「さあ、行こう」
と泉さんが出てきたドアにわたしをうながした。
当時のわたしは、今の話の内容は、一さんも悩んでることがあるんだろうな、
ぐらいにしか思っていなかった。
それはそれで合っていたのだが、それが七重のお母さんが、
とりわけ世界の時事ニュースを見て、
なぜあんなに憤っているのかということを全然分からずにいたように、
それ以上は考えもしなかった。
続いて中に入ったわたしが、呆けたように周りを見回していると、
柊さんは後ろで静かにドアを閉め解説を始めてくれたのだった。
古泉「市立図書館とは別に、ここでは長門さんが構築した蔵書の閲覧を許してくれている。
ほら、正面に大きい扉があるだろう。
気が向いたら、長門さんに頼んであちらを案内してもらうといい。
長門さんが文化的、歴史的、科学的価値があると判断した、
古今東西の書物が収められている。書物以外の資料もあるけど」
この奥にあるという資料、そしてそれらを収集した長門さんとはどういう人物なのか、
と気になりながらもわたしは広間の全景に目を奪われていた。
確かに足元はコツコツとした平たい床石の感触があるが、
足元の遥か下(?)の方まで奥行きのある星空が広がり、まるで全てがプラネタリウムだ。
いや、いま柊さんとわたしが立つ平面上に、
放射状の位置に並び立っている幾つかのドアやその中央にあるソファを除けば、
宇宙そのものだと言っていいくらい。
館内の隅っこのほうのはずなのに、どこにこんなスペースが、というレベルではなかった。
大小様々な、色も様々な無数の星々や銀河が散りばめられ、
足元の斜め下、遥か遠くの方を横切る彗星や、
音もなく頭上を遠ざかっていくたくさんの岩塊群が見える。
まるで身体が宇宙空間に漂っているような感覚に襲われる。
ドアにしても、中央に対し同一円周上から向かうように配置されているというだけで、
壁にはめ込まれているわけではない。
今入ってきた場所から正面の、向こうのドアだけは観音開きで一番大きいが、
他は普通の、よく見る大きさだ。
そもそも、壁自体が無く、例えばドアの後ろ側にだって歩いて回りこめそうな気がする。
絶対零度と真空の支配する情緒のかけらもない空間のはずなのに、
この広間の冬の星々を瞬かすような静謐に満たされた空気はどうだろう。
そう、寒くはないのに鼻腔を清々しく通り抜けるのは冬の大気の匂い。
それはものの輪郭を冴え冴えと峻別する数学的に美しい横顔を見せながら、
呼吸を重ねるほどに肺胞の隅々まで浄化し、
精神を重力から解放するような快さで包んでくれる。
そして冬は、春を待つ季節でもあるように、
人智の及ばぬ未踏域への畏怖のなかに不思議と憧れと懐かしさ、静かな温もりを感じる。
きっと、これが長門さんなんだ。
不意に理由もなく直感したとき、柊さんが、
古泉「実は今このカギを使ったんだ、泉さんも、僕も」
と手の平に載せた鈍く光る小さな丸っこいカギを見せた。
古泉「ここは中央ホールで、長門さんの故郷を模したデザインになっている」
散開したドアに囲まれるように中央には、一脚のソファが置かれていた。
そこまでゆっくりと歩く柊さんについていく。
古泉「座る?」
わたしは首を振った。
サキ「いえ。それより、泉さんも柊さんもこの図書館の関係者の方なんですか」
確かに「準備室」と書かれた古く変色したプレートがドアの上にはかかっていた。
そうそう簡単に部外者が入れる場所ではないのだろう。
古泉「いや。こんな奥の方にあっても、
人目につかないように長門さんにちょっと手助けしてもらってるけどね。
このカギも長門さんからもらったものだ。それからこの空間も長門さんが構築した」
空間。
サキ「教えてください。
朝倉涼子さんや長門有希さんがインターフェースとか、どういう意味なんですか。
七重のお兄さんはその人たちの仲間なんですか」
あの黒い空間に迷い込んだあたりから、わたしは、
いや、わたし達は一さんと非常に関わりがあることだけは分かっていた。
なぜ分かるのかは知らないが。
でも朝倉さんがやったような、
周りの景色が一時停止してしまうようなことは本当にサッパリ分からない。
古泉「……何から話せばいいものか。まず答えよう。
朝倉さんや長門さんはこの地球で生まれた人間じゃない」
つまり、あの直感通り……。いや、まさか。
目を見開いたわたしの反応を見ながらも、柊さんは話を続けた。
古泉「銀河系、いや宇宙全体に渡って広がる知性そのものの意識の集合体があるとしよう。
人類が地球上に誕生する遥か前から、
悠久の時を専ら思索と、インテリジェンス――つまり有意な情報を探索・分析し、
それによって更に思索を深めていく営みに費やす」
すみません、日本語でお願いします。
柊さんは片手の手のひらを天井の方へ軽くかかげながら、
路線バスが次に停留所に来る時刻を知らせるみたいに、
古泉「宇宙には今言ったような、情報統合思念体という存在があるんだ。
朝倉さんや長門さんはそこから人類とコンタクトするために派遣された、
有機アンドロイドなんだよ。
我々『機関』では彼らをTFEI端末と呼称しているが、簡単に言えば宇宙人」
……………。
信じられるかどうかと言うより、あんな現象を見せられては、
そう納得した方が早い気がする……。
とりあえず、では、
サキ「一さんも朝倉さんと同じ力を使えるみたいですが、宇宙人なんですか」
答えを聞きたくないなあと思いながらわたしは尋ねた。
古泉「いや七重ちゃんの兄で人間だよ。
ただ彼は、二つの特殊な能力を生まれながらに持っていた」
古泉「一つは僕らの知っているとおり、閉鎖空間と神人を生み出す能力。
そしてもう一つは、どう表現したらいいのか迷うけど、
現実に合わせて自分を変えられる能力、とでも言ったらいいかな」
サキ「それって……誰でも多かれ少なかれ、そうしてるんじゃ」
柊さんは頷いて、
古泉「現実を受け入れる、ということだね。
彼の場合、状況を判断して、自分がどうすることが必要か判断したぶんだけ、
それができるようになるんだ。それも、無限のキャパシティをもって」
サキ「つまり、自分のやりたいことは何でもできる……」
古泉「いや、あくまで、彼自身が、本人の意志次第で、
制限なしの可変の対象であるという意味に限定される」
サキ「どっちも同じで問題ないじゃないですか」
柊さんは苦笑しながら言った。
古泉「大ありだよ。現実を根本から覆したり、新たに創造したりするのではないから。
一くんにはそこまでの力はない。
それに、生まれながらと言ったけど、
最初彼は、閉鎖空間を生み出し、神人を暴れさせることしかできなかった。
というより、子どものころある日、自身の生み出した閉鎖空間に迷い込んで、
神人に踏みつぶされそうになっていたんだ。
駆けつけた僕ら、機関の能力者が彼を助けたけどね」
懐かしそうな目で言う。
サキ「一さんが閉鎖空間に迷い込んだんですか?」
古泉「そう。思えばこの時すでにもう一つの能力の片鱗を見せていたのかもしれない。
しかし、それ以降何度も閉鎖空間を発生させては、
神人の破壊行動に巻き込まれて、必死に逃げ回っていたんだ。
無意識の暴走に自分自身が危険にさらされて、
彼にとって悪夢のような日々だったに違いない。
なぜこんなことになるのか、本当に理解するまではね。
それはずっと後で、閉鎖空間の空も、今と違って灰色だった」
古泉「ある日、彼は僕に神人の狩り方を教えてほしい、と言ってきたんだ。
今の君みたいだね。
僕は、まず紅玉化について、
これは選ばれた者にしか使えないのだと説明したんだが、
僕の目の前で彼は紅玉化してみせたんだ」
聞きながらふと思う。わたしみたいな例は初めてじゃなかったっけ。
古泉「彼の能力が発現した瞬間だったんだね。
意志の力で、機関の者しか扱えないはずの能力を獲得したんだ。
それまで逃げ回るだけだったのが、自分から向かっていこうと決めたからだと思う。
彼は機関の一員になって、僕より強い能力者になったんだ」
現実に合わせて自分を変えるって、そういうことか。
……わたしの参考にはならないな。地道にやるしかないか。
柊さんはもう、なんだか嬉しそうな顔で問わず語りに入っていた。
古泉「一くんはやはり涼宮さんと彼の子どもだよ。本当の意味で頭がよくて、
年の差なんて関係なく、友達になりたくなるようないい奴だ。
あ、話がそれたね。……そのうち、自分の精神をコントロールすることで、
閉鎖空間の発生や神人をも一くんは操れるようになった。
考えてみれば、自分の心に振り回されなければ、
閉鎖空間も神人も発生しないんだけど、一度は通る道だったんだろうね。
能動的に閉鎖空間の開閉ができるようになってから、空が黒くなった」
一さんの成長を喜ぶのは分かるけど、その発生源の子どもを命がけで助けながらだから、
なんだか人のいい話だなあと思う。
あ、そういえば、さっき閉鎖空間が開いて、一さんが来てたって言ってたような。
サキ「さっきの閉鎖空間って、一さんが情報生命体と戦ってたんですか」
古泉「さっきのは、一くんが戦っていたけど、相手は情報生命体じゃなかったんだ。
確かに一くんも情報生命体と戦うこともあるけど、
それは広範囲にわたって感染者が出たときとか、限定されてる。
さっきの閉鎖空間は、
天蓋領域のTFEIが涼宮ハルヒの半径300メートル以内に接近したために開かれ、
一くんがTFEIと交戦した」
どうしてここでおばさんの名前が出てくるんだ? 天蓋領域?
古泉「この宇宙の外にある情報意識体で、
情報統合思念体と同じく多くのインターフェイスを擁する。
彼らが涼宮さんに近づいたのは彼女をかどわかすためだ」
サキ「何ですって!?」
声を荒らげるわたしに柊さんは落ち着いた口調で続ける。
古泉「安心してくれ。ここは我々にとっても彼らにとっても、
最重要地点と言っていい場所であり、
長門さん達、統合思念体のTFEIの中でも精鋭で固められている。
何せ天蓋領域のターゲットである、
七重ちゃんの両親と長門さんが全て揃っている地域だから」
サキ「おじさんまで!?
それに長門さんも、どうしてそいつらに狙われなきゃいけないんですか?」
こちらが詰め寄っても、柊さんは注意深そうな表情をさらに、
慎重に考えるよう促すようにして言う。まどろっこしく感じる。
古泉「狙う理由については話の中で説明するよ。
だが先ほどの接近は、彼らも誘拐が成功できると踏んでやったとは思えない。
裏で進行している大きなことを隠すために、
一時的に長門さん達TFEIの注意を、
インターネット上から逸らすのが目的だったのかもしれない」
サキ「長門さん達も情報生命体の被害者が出ないように協力してくれてるんですか?」
知ることのできる限りの情報を全て聞いておきたい。
古泉「そのとおり。感染元になった起動データの削除や、
ネット上のどこかに巧妙に隠され仕込まれた情報生命体の探索を、日夜行っている。
情報生命体、と言ったけど、起源は情報統合思念体と同じなんだ。
感染元を断つのは、専門家に集中してやってもらったほうがいいから。
パソコンの操作はTFEIの中でも長門さんが一番上手いんだけど、
彼女はここの司書の仕事があるから。
実際の作業は他のTFEIがほとんど行って、
長門さんや喜緑さんに報告する形らしい」
サキ「喜緑さん?」
初めて耳にする名前だ。
古泉「彼女もこの近辺に住んでるから、いずれ紹介できると思う」
サキ「分かりました。今隠したとか仕込んだって言いましたよね。
もしかしてそれをやったのは……」
古泉「分かってきたね。そう、天蓋領域だ。
この宇宙で滅亡したはずの情報生命体を、兵器として送り込んできている」
兵器……戦争……。
古泉「数か月以内に情報生命体の爆発的感染が引き起こされる兆候がある。
それに乗じて彼らはきっとTFEIをつぎこんで、
七重ちゃんの両親や長門さんを奪いにくる。
それに対抗して統合思念体と機関の連合が、天蓋領域と情報生命体を迎え撃つ」
わたしは呆然としながら聞き、考えていた。なんでそこまで……?
古泉「……大丈夫かい?」
柊さんがソファに座るよう促したが、
わたしは力無く首を振り、頭に湧き起こる疑問をそのまま口にしていた。
サキ「……どうしてそこまでしておじさんやおばさん、長門さんを狙ってくるんですか」
古泉「延ばし延ばしで悪いけど、それについては一くんのことを話す中で説明しよう。
構わないだろうか」
サキ「……はい」
柊さんは束の間考えて、
古泉「一くんが閉鎖空間と神人を自在にコントロールできるようになったことは話したね。
そこまで戻るけど、このとき一くんは中学一年で、普通の子として生活していた。
周りの人や七重ちゃんとお母さんに隠した秘密をのぞけば。
お父さんは以前から知ってたんだ」
サキ「七重もおばさんも知ってるみたいでしたが」
古泉「もう、一くんが過去へ行くときが迫っていたから、旅立つまえに打ち明けたんだ。
二人ともよく受け止めてくれた。
彼自身も直前まで、時間をさかのぼることを知らされていなかったんだが」
そうだ、一さんもおじさんやおばさんが北高生だったころに、
もぐりこんだようなこと言ってたな。
確かに言われたとおり卒業アルバムには、山田というめがねを掛けて、
ぼんやりした子が載っていた。氏名より先に顔を見つけたくらい一目で分かったが、
コンピュータ研所属というのが意外だ。成績は良くないと自分で言ってたし。
サキ「一さんが過去に戻った理由ってなんですか。
お父さんとお母さんが結婚するように仕向けなきゃいけないとか?」
柊さんは朗らかに笑った。わたしにすわ隠し子発覚かと勘繰られたときのように。
古泉「冗談が言えるようでよかった。いや、そちらの方はもう大丈夫だった。
そうだな、朝比奈さんなら既定事項だったから、と答えるだろうし。
でも、一くんは長門さんを守るためだったと言うだろう」
次から次へと、新しい人やことを知らされる日だ。
サキ「朝比奈さん?」
古泉「朝比奈みくる。一くんを過去へ送る助けをしてくれた人だ。
ずっと未来から来た人で、僕と同じ高校の部活の先輩で仲間だ。
そうだ、長門さんのことを君にしっかり紹介してなかったね。
まったくあの人は……。いや、すまない。内輪のことでね。
……長門さんも涼宮さんが作った部活、いや、団の、同級生の仲間なんだ。
もともとの部室の主でもあったんだけど」
……なんだかにぎやかな部活だったんでしょうね。
古泉「そう。だがそれだけじゃなかった。
君は涼宮さんの家で、一くんが中学一年くらいにしか見えないと言ってたね。
あのときは話をそらしたけど、まさに君の言うとおりだ。
一くんは中学一年から、肉体的に年を取らなくなった」
サキ「それって余りにも人間離れして……」
柊さんはじっとわたしを見た。不謹慎なことを言ってしまった。
でもその表情にはわたしを責めるというよりは、
真剣さの中にどこか一点悲しみの色が浮かんでいるようだった。
古泉「七重ちゃんのお兄さんで、涼宮さん達の子ども。そして君の……、
これだけ言えれば、人間だと言えないかな。
過去に行ってするべきことを知ったとき、
一くんは自分の意志で、長門さんからTFEIの能力を伝授してもらった。
不老は、その特性の一つだ。
朝比奈さんからは時間跳躍の仕方を習った。
その意志をもって一度その瞬間を見れば、能力として使えるようになるんだ。
いずれも完璧に、それどころか無限の容量を持ち、申請を通すこともなく、
はるかに強力に自在に、使いこなせる。
そして、環境情報を操作して自分の記録と、七重ちゃんや両親、
そして僕らのような限られた人々を残して、周囲の人の自分に関する記憶を消し、
過去へ行った。僕らが北高の三年になったとき、新入生の一人としてやってきた」
古泉「天蓋領域のインターフェイス達からね。ずいぶん遠回りしたけど、
やっと彼らが狙う理由に言及できそうだ。
長門さんはこのとき涼宮ハルヒ――、
一くんのお母さんを観測する役目についていた」
一さんの親ともなると過去にまでさかのぼって、観測の対象になってしまうのだろうか。
古泉「最初、天蓋領域側のインターフェイスは、
周防九曜という単体しか存在しなかったが、
ある日、長門さんが蓄積してきた観測データを彼女ごと強奪しようと、
集団で攻めよせてきたんだ。
彼らもまた、情報統合思念体に追随して涼宮ハルヒの観測データを欲していたから。
天蓋領域側が、統合思念体のTFEIについて研究しつくしていたのに対し、
統合思念体側は、天蓋領域について未知の部分が多く、不利に思われた。
彼らは朝倉さんの、情報制御による空間封鎖さえやすやすと突破できるから、
閉じ込めることもできない。
統合思念体は長門さんを奪われる前に隠そうとしていたらしい」
サキ「隠すというと……」
古泉「簡単に言うと長門さんをこの世から消して、
統合思念体の元へ戻させるということだ。
そのときそれを止めさせて、
代わりに襲来した天蓋領域のTFEI達から長門さんを守ったのが一くんだった」
サキ「彼らを一人で全て倒したんですか?」
古泉「違う。彼はそのとき一体も傷つけず、倒さなかった」
サキ「ええ?」
古泉「一くんはまず天蓋領域のTFEI達を閉鎖空間に閉じ込めると、
閉鎖空間内の時間の流れを、通常空間から切り離し、後は専ら防戦に努めたようだ」
意味が分からない。
サキ「それじゃあ、勝てないじゃないですか」
古泉「そう。負けず、勝たずの戦法と言える。相手の攻撃をひたすら防いで待つ」
待つって、何を。
古泉「相手の戦闘の意志がなくなるのを。そうなれば閉鎖空間を消して解放する」
帰しちゃうんですか!?
古泉「持久戦に持ち込むことで被害者が出ない限りは、
今でも基本的に一くんはそうしてるらしい」
サキ「多数のTFEI相手にたった一人で、よくそんな戦法が通じましたね」
わたしは朝倉さんしか知らないけど、
もし戦うとなったら人間は。恐らく閉鎖空間の中での機関の能力者でさえ。
しかも、その統合思念体のTFEIが苦戦を強いられる相手となると。
古泉「確かに。
でも一くんは無限の処理能力をもって、どんな攻撃を受けても一瞬で再生できるし、
彼の能力の特性を考えれば、手のうちを見せたぶんだけ相手が不利になる一方だ。
それにしたって、彼が閉鎖空間から帰ってきて、
初めてそんなことをしていたのだと分かった。
当時の僕らはただ中に入らぬよう言われ外で五分ほど待っていたんだ。
でも出てきた彼を見た長門さんによると、彼は一千年近く閉鎖空間にいたという」
サキ「1000年!?」
………………。言葉が見つからない。
古泉「長門さんのためだからと言って天蓋領域のTFEI達を殺したりしたら、
長門さんもいい気はしないだろうと言ってたが」
サキ「しかし千年って。どれだけ長い時間なのか分からないですけど、
そんな経験してよく気が狂いませんね」
古泉「長門さんの支えが大きいんだろうね。まず彼女も似たような経験をしているから。
それに、一くんは人間の立場から宇宙人の感覚に近づいていってるのに対して、
長門さんはその逆を歩んできた人だから、理解しあえるところがあるんだろう」
サキ「ところで、そのとき天蓋領域があきらめたことで、
それで終わ……らなかったんですよね」
古泉「ああ、現在の状況は見てのとおりだ。
しかし、そのとき以来、一くんは自分がいた未来に時間跳躍を使って帰らず、
そのまま過去の時間の流れから現在まで来ているんだ。
今の一くんにこの宇宙でかなう者はいない。
彼の存在自体で天蓋領域が攻め込んでくるのを抑止している面があるから、
機関では俗説にならい武神と呼んだりする」
ん? 過去の時間の流れからそのまま帰らずに来たのなら、
子どものときの自分に会っちゃいけないとか、色々問題があるんじゃ……。
古泉「そのときから今までの経緯については、
かなり入り組んだ説明になるけどいいかい?」
あ、やっぱりいいです。
古泉「ともかく今、ふたたび天蓋領域は狙ってきている」
サキ「長門さんをまた、さらおうとしているんですね」
自分から聞きたいと言ったものの、こんなに長い話になるとは思わなかった。
古泉「長門さんだけじゃない。今回は、情報生命体とあちらのTFEIによる、
人類への侵攻を伴って、ある程度観測情報の集積が見られた本体の回収も目的だ」
本体って。
古泉「七重ちゃんのお父さんとお母さん」
サキ「そういうことか!!」
冗談じゃない。両親がいなくなったら、七重はどうなる?
高校は何とか卒業できたとしても、頭がいいのに大学もあきらめて就職して、
兄貴はあの通り放蕩してるし、おじいさんとおばあさんの世話を一人でして、
そのうちどうでもいいような男に捕まったりしたら……
サキ「絶対に許せない!」
古泉「君が血相を変えるなんて珍しいね。いや、十分そうするに値する状況だが」
いや、柊さん笑ってる場合ですか。
古泉「ああ、悪かった。……さて、僕から話すことは以上だ。聞きたいことはある?」
サキ「今回も一さん一人で片づけてしまえないんですか」
古泉「できない。前回は長門さんを集中的に狙ってきたけど、かれらも賢い。
世界中に情報生命体やTFEIを送りこんで、人類を攻撃しようとしている。
そうなるとこちらの防衛力も分散せざるを得ない」
サキ「だから、そいつらも全部、閉鎖空間に閉じ込めてしまえばいいでしょう」
古泉「もちろん一くんはそうするさ。
でも君は、閉鎖空間が世界中に拡がってしまえば、どうなるか分かってるだろう」
あ、閉鎖空間が世界と入れ換わってしまって、終わるんだった。
古泉「向こうもその事情を把握してる。その弱点をついて点を面につなげるように、
世界全土にわたって侵攻してくるだろう。こちらの手を封じるために。
でも、それに屈して、人々が危険にさらされるのを見過ごすわけにはいかない。
七重ちゃんの両親と長門さんを守り抜きながら、
いかに早く相手をせん滅し、閉鎖空間を消していくか。今回はその点も重要なんだ」
どういう思考回路してるんですか」
古泉「そう、謎だね。チキンレースを仕掛けてるのか分からないけど、
いずれにせよそういう戦略を取ってくるのは確かだ。
第一、涼宮さんの観測データを奪うのが目的で、
人類侵略はその手段に過ぎないんだ」
なんならわたしがさらわれて、おじさんやおばさんのことを連中に説明したっていい。
彼らがうんざりするほど聞かせてやる。
古泉「娘を持つ父親としてそれは賛成できないな。
それにしても、そもそも長門さんのデータを彼らは解読できるんだろうか。
……さて、君はどうする。
今ならまだ、全てを知らなかったときのようにとはいかないが、
草の根……つまり涼宮さんや七重ちゃんのそばにいて、
危険があればそれを我々に連絡する役につくこともできる。それだって重要な……」
サキ「何言ってるんですか。
やらなければいけないと分かってるなら、やるしかないでしょう。
戦わせてください」
柊さんはそれまでになく驚いた目でわたしを見たが、気を取り直したように、
古泉「……君がそのつもりなら、長門さんも君に何かと力を貸してくれるはずだよ。
情報統合思念体から機関に、標的の護衛に少しでも多くのTFEIを配備するため、
また、観測条件を整えるために、人類を保全してほしいという依頼が来ているから」
サキ「あきれた! わざわざ頼まれなくても、全部わたし達に切実なことばかりなのに」
古泉「お偉方の融通が利かないのは、どこも共通の事情らしくてね。
長門さんはもともと面倒見のいい人だけど、
建前があった方がやりやすいに違いないから。
統合思念体にとっては、観測の継続こそが切実な問題なんだろう。
長門さん達TFEI端末には、貴重な情報を教示してもらったり、
『機関』としてもお世話になっているから、
そういう浮世離れした感覚もあるのだと、尊重していかなくてはね」
長門さんも静かな表情をしていたけど、板ばさみで苦しいこともあるのかもしれないな。
古泉「聞き疲れしたろうし、君の考えを整理するためにも今夜はゆっくり……」
サキ「お気遣いありがとうございます! 大丈夫です! 失礼します!」
再び先ほどのドアから図書館内に戻ったわたしは、短く礼をするなり早足で歩きだした。
今のわたしには、閉鎖空間に侵入できる以外に、何も力がない。
訓練をもっと早く、多くこなせるようになって、
能力を使えるようになって、それから使いこなせるようにならなければ。
カウンターでレファレンスの相談に応じている長門さんにおじぎをすると、
わたしは自動ドアをくぐって駆け出した。
化学の教師が黒板に中間考査の範囲を書いていくと、
クラスのあちこちから溜息をもらす声があがった。
後日、教室の後ろの掲示板に、全ての教科の範囲がまとめて貼り出されるはずだけど、
今まで知らされた分だけで十分苦しい。
サキ「ふぃ~~。テスト範囲広いね」
と後ろの席の七重を振り返ると、何か考え込んだ表情をしている。
そう言えば朝会った時から何か元気がなかったが、
話しかけてるのに気付かないとはよほどのことだ。
七重はいつもは能天気なくらい開放的で、いい意味であまりものを考えてない。
周りが愚痴を漏らそうが、マイペースにボケて、
言った方までくだらないことに悩んでたような軽い気分に感化してしまう、
普段はそういうタチの悪い奴だ。
本人はいたってマジメなつもりでいるからますますタチが悪い。
成績優秀でおばさんに似て美人で、運動神経も抜群なのに、
肝心の性格がこんな隙だらけだから、同性異性問わずもてる。
にも関わらず、わたしが知る限り七重は誰とも付き合ったことはない。
それはともかく……、
わたしはもう一度呼びかけた。
サキ「七重、どうしたの」
七重はハッとしたように、
七重「え、何でもないよ」
サキ「嘘」
とわたしは言いながら、日番がもうほとんど消しかけている黒板を指さす。
七重「あ、わわ」
と慌ててシャーペンを走らせるも、時すでに遅し。
サキ「ほれ」
わたしがノートを見せると、
七重「ありがと」
なんと、ほとんど板書もノートに取ってない。
サキ「…………」
七重「きのう、お父さんに怒られちゃった」
そう言いながらまた書き出す。
サキ「どうして?」
七重「サキのこと」
わたしのことで、おじさんが七重を怒る?
七重「どうして止めないんだって。
……お母さんが話したの、サキを柊さんに会わせたこと黙ってるべきじゃないって」
旧友を娘の幼馴染に紹介するのがそんな禁忌事項になってたのか。
うーん、ああ、そうか。『機関』のことでだな。
七重「お母さんは、サキが自分で選んだ以上、とやかく言うべきじゃないっていうの。
お父さんはとにかく信じられない、て怒って柊さんに電話かけようとするし……。
柊さんのせいじゃないのに」
そこまで言うと、唇をくちばしのように尖らせる。
しかし何だろう、この違和感は。
この家では、他の家の子のために、本気で親子喧嘩、夫婦喧嘩を始めるらしい。
わたしは感謝してるけど、他の人から見たらかなり奇異な光景が映るだろう。
おじさんとおばさんのことだから、取っ組み合いになったのかもしれない。
同居しているおじいさんとおばあさんもびっくりしただろう。
その光景を思い浮かべると、思わずクスッと笑ってしまった。
七重「……」
今度はわたしがジトッとした目でにらまれる番だった。
ごめんごめん、なんか、ありがとね。かばってくれたみたいで。
七重「わたしだって。
……とにかく、お父さん、サキとも直接話したいって、言ってたからね」
サキ「ああ、うん、わかった」
七重はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、残りを書き写しにかかった。
一さんのことがあるのに、
わたしの心配までしてくれてる七重の前で笑ってしまって悪かったと思う。
でも、まさかその日のうちにおじさんと話すことになる、とまでは考えが及ばなかった。
涼宮家はうちのお得意様である。
今日は七重が帰りに父の薬局に寄ってくれている。
買い物が済み、和やかに談笑していると表にお客さんの来る気配があって、
ガラスの引き戸を開けて入ってきたのは、
サキ「あ、おじさん……」
おじさんは地元の酒造会社のルートセールスをしている。
近くの酒屋に用があるとき、よく家のお店に立ち寄って父と立ち話をしていて、
時たまわたしや七重も鉢合わせするという、
よく分からない顔ぶれの集会に発展してしまうことがある。
しかし、よりによって、というか。
わたしと七重にとって居合わせるのは随分久しぶりであったのだが。
キョン「おう、いたのか」
引き戸を閉めるおじさん。七重はむすっと黙っている。
父のあずかり知らぬところで気まずい空気が漂った。
おじさんはいつものように栄養ドリンクを一本買うと、その場で飲み干した。
そしてわたし達のことはおくびにも出さずに父と世間話を一くさりすると、
入ってきた時みたいにさっさと出ていった。
しかし、おじさんは元々さっぱり物事にこだわらないというか、
おばさんと違って感情は間接的な言葉で表現するというか、
心の奥はいつも温かいのに淡々としているような人だけど、
今しがたのわたしと七重に対する態度は明らかにいつもと違う。
父は気づいてないみたいだけど。こういうことは早いほうがいい。
七重やおばさんと、おじさんの冷戦状態を長引かせる必要はどこにもないし。
七重と夕飯の買い物のためにお店を後にすると、
少し歩いたところでやっぱりおじさんは待っていた。
キョン「サキ。少し話せるか」
サキ「うん、いいよ」
と答えて、七重に、
サキ「ナナ。また明日ね」
七重はわたしを案ずるような眼差しを向け、それから、
七重「……ん。わかった」
と先に帰っていった。
話を済ませてから一緒に買い物するには、長すぎる「少し」になるに違いないから。
二人で並んで歩き出し、おじさんが話を切り出すのを待っていると、
キョン「店に入ったとき、なんで佐々木が北高の制服を着てるんだと、一瞬錯覚したぜ」
サキ「あれ、そういえば見るの初めてだっけ」
最近、祖母にも、母とますます似てきたと言われる。
父は、ものを考えるときなどのしぐさがそっくりで驚くことがあると言う。
そういうことがあるのだろうか。
キョン「ああ。似合ってるぞ」
サキ「ありがと。外で会うのなんて久しぶりだものね」
キョン「そうだな。お前も十六か」
サキ「あ、そういえばそうだった」
おじさんはぐいっと首をこちらに向けて大げさににらみながら笑った。
キョン「おいおい」
その日に色々とあったせいでずっと後ろのほうに隠れてしまっていたな。
わざわざ自分の誕生日が祝われるのに積極的でないけど、
そういう習慣も考えものかもしれない。
話を少し戻す。
サキ「でも外見はお母さんに似てても、性格は全然違うんでしょ?」
キョン「全然、てことはない。
ものをよく見て、なおかつ動じないところなんかよく似てる」
おばさんに似たようなことを言われたような。
キョン「……だがな」
そう呟いて、おじさんは口をつぐんだ。
自販機で買った缶飲料を渡されて、
わたしはおじさんと光陽園駅前公園の中のベンチに腰かけた。
二人とも黙ってとりあえずプルタブを起こし、飲み物を啜る。
おじさんは一息つくと、
キョン「暖かくなったな。日も長くなった」
サキ「それ、鶴屋さんとこでお花見した時も言ってた」
キョン「ほら、あの頃は花冷えで、日が傾くとまだ肌寒かったろ」
サキ「まあ、そうだね」
会話が途切れる。
キョン「お前、親父の後を継ぐのか」
サキ「そのつもりだよ」
キョン「勉強難しいだろ」
サキ「なんとかやってる。ナナにも教えてもらったりしてるし」
キョン「そうか」
再び会話が途切れる。
おもむろに、おじさんは口を開いた。
キョン「とりあえず一は殴っといた」
サキ「ちょっおじさん!? 誰が能力者になるかなんて、一さんには分からないんだよ?」
キョン「ああ。だがあいつのふざけた力にお前を巻き込んだのは確かだからな」
サキ「でもそれじゃ『機関』の人の数だけ息子を殴らないといけなくなるよ」
キョン「それはない」
おじさんはきっぱりと言い放った。
サキ「それおかしくない?」
キョン「おかしくないとも! 俺はお前が可愛いからだ!」
サキ「ねえ、お母さんが生きてたら、このことを知ったらどう言うかな」
おじさんが前に、わたしの母のことを、
中学のときからの親友だと言ったことを思い出して、わたしはたずねた。
キョン「……まず殴られるのは俺だろうな。
それからどんなことを言ってでも、お前を止めるだろうよ」
サキ「…飄々として、物事をいつも客観的に捉える人だって言ってたじゃない」
キョン「お前に関してだけは別だ。
早くお前に会いたいと、十月も待てないようなことを言ってた」
サキ「……」
キョン「地球を侵略するエイリアンに向かってお前が戦いにいくなんてことは、
お前の親父には話さない方がいい。
だが佐々木なら、話を理解した上でお前にはそうすることを絶対に許さない。
俺は、知ってる側の人間として、お前を止める義務がある」
わたしはおじさんを見ていたけど、おじさんは話しながらずっと前を向いたままだった。
話し終わると、缶コーヒーの残りを一気に飲み干し手に持ったまま黙っていた。
サキ「お母さんやおじさんが、その理由で止めるのなら、
おじさんもお母さんも分かってくれると思う」
おじさんは怪訝な顔を向けた。
サキ「わたしが戦うのは、おじさんが言ったその理由と全く同じだから。
わたしがおじさんやおばさんや七重が大好きだから。
こんなことに脅かされずにいてほしいから。
だから、絶対に、やめるわけにはいかないの!」
キョン「お前がそう思ってくれるのは嬉しい。
だがな、大事に思ってくれるならなおさら止めてくれ。
七重の父として、佐々木が認めてくれた親友としても言わせてもらうぞ。
何もお前がやらなくてもいい。お前の頭の良さを生かした人生の選択をだな」
サキ「柊さん――古泉さんはすごく頭の良い人だけど、能力者としても――」
キョン「甘ったれるな! 奴は特別だ。お前なんかとは年季も覚悟も違う」
……確かに偉大な先駆者である柊さんとわたしを、同列に語るのはおこがましい。
しかし、柊さんとの共通項は決して能力者、という一点だけではないと、
即座に言葉にできない何かがある。功績とはまた違うところで。
柊さんと同じ役目を負うことの誇らしさ。それは――。
閃きを探るわたしの表情を逡巡と捉えたのか、おじさんは頭を下げ、
キョン「――頼む。この通りだ。お前には、お前にまで志半ばで死なれたくないんだよ。
佐々木の分までお前は、幸せになる義務がある」
幸せ。
キョン「ああ、そうだ」
ああ。
そうだった。
ベンチを立ち上がり、見上げる空は五月晴れだった。
秋晴れは男の諦めに似て、粋だと思う。
わたしはこの空に女の執念、そしてどこまでもオプティミズムな朗らかさを感じる。
それがきっとわたしの名前に託された希望だから。
昔、父から聞かされた言葉を思い出す。
サキ「ねえ、おじさん。わたしの名前、なんで『幸』っていうか話したっけ」
サキ「お母さんがそうつけてほしいって。由来は幾つかあって。
シャレみたいだけど5月生まれだろうからとか。
神道でいう幸魂(さきみたま)から思いやりのある愛情深い人に育ってほしいとか」
キョン「ああ、お前はそういう人間になってるよ」
サキ「ありがとう。……でもね、一番の理由はシンプルに、
『幸せになってほしい』からだって」
キョン「……ああ。だから」
サキ「わたしを産むとき、
もしもの時はわたしを優先してほしいって言ったのもお母さんなの」
キョン「サキ。だからな」
わたしは振り向く。母が心から願ったことを、おじさんに伝えなくてはならない。
考えられる限り慎重に、言葉を紡ぐ。
サキ「……確かに、この世界にとってはわたしがやらなくていいことなのかもしれない。
でもね、わたしが将来就きたいと思ってる仕事だって、そうなんだよ。
病に脅かされる人が少しでも安心して暮らせるようにわたしの力を生かしたい」
キョン「それとこれとは」
サキ「同じだよ。進路だって、目の前で起きてることだって毎日毎回、選択の連続だもの。
力を尽くして手の届かないんだったらともかく何か理由をつけて目をそらせるの?」
キョン「……」
サキ「わたしのお母さんが託した希望は、幸せは、そんな消極的なものじゃない」
少しのあいだ、表情が固まっていたおじさんは、やがて無理に笑顔を作ろうとしながら、
キョン「一を殴っておいて正解だった…」
おじさんが泣くところを初めて見た。
肩を抱いて寄り添いながら、おじさんがわたしの母を失ったことの大きさを思っていた。
やがて少し落ち着きを取り戻すと、お前は本当に似ている、佐々木は独立独歩の奴だった、
こちらが助けたくても頑なに医学の力以外頼らないと断りやがった、とおじさんは語った。
キョン「さて、時間を取らせたな」
しばらくの後、わたし達はベンチから立ち上がった。
おじさんが辺りを見回す。
サキ「何か忘れ物?」
キョン「……この場所ならあるいはと思ったんだが」
おじさんは静かに笑いながら首を振って、歩き出しながら、
キョン「いや、別にいいんだ。お前、買い物行くところだったんだろ。送ってくか?」
サキ「おじさんこそ、まだ廻る途中だったんでしょ」
キョン「いや、次まで大分間があったから構わない」
有難いけど、その気遣いを家族にまわしてほしいものだ。
サキ「ありがとう。でも、いいよ。おばさんと七重と仲直りしてね」
おじさんは決まりが悪そうに頭を掻いて、
キョン「ああ、わかった」
いつものとぼけた調子で返事した。
駅前でおじさんと別れ、スーパーまで向かいながら、
わたしは今の、今までのわたし達のことを考えていた。
おじさんと母は、中学の時からの親友らしい。
異性間に友情は成立するか、という問いに答えは色々あるけど、
一つ言えるのは成立すると互いの結婚式の友人席の光景が、
かなり賑やかな顔触れになるということだ。
もっとも、おばさんもおじさんと一緒に父の結婚式に参列したとも言えるし、
母の場合も然り。まあ、そういう余計な説明は不要なのである。
友情にそもそもアカウンタビリティは存在しないのだから。
父と母は本当は二人で薬局を営むはずだった。
二人は大学で知り合い、一緒にお店を開こうと約束していた。
おじさんが言うには、父と母は大人しいところがよく似ていたようだ。
ただ、どちらかと言うと母のおしゃべりを聞いて、
父が考えたところを返すような関係が印象に残っていた、と。
父は遠い地方の出身だったが、両親があまりこだわりの無い人で、
二人は薬剤師の資格を取ると、揃って関西の企業に就職した。
当初は母の実家近くに部屋を借りて通勤していたが、
開業計画のことを知っていた祖母に勧められ、ちゃっかり二人ともに同居していた。
男のプライドは、と言う人がいるかもしれないが、
父は感情と論理のバランスが取れていて、母との計画の実現のために、
誰にとっても必要のない部分には本当にあっさり、執着しなかったのだと思う。
決して目立たず地味だけど芯が強く、ゆっくりとだが着実に目標へ近づいていく父と、
大人しいところは似ているけど、
めくるめく発想の量とスピードを誇るアイデアマンでもあった母は、
社内での部門は違えど、互いにアドバイスを交換しあい、
それぞれ目覚ましい研究成果を上げていたらしい。
今でも家には、勤めていた会社の人や、大学時代の友人が訪ねてくるけど、
なぜ研究者のままでいなかったのかとよく首を捻っている。
わたしが思うのは父は、祖母や母、そしてわたし達家族の側にいたかった、
母が祖母の側にいられるようにしたかったのではないだろうか。
もちろんそれが理由のすべてとは言わないが、
父は寂しがり屋ではないけど、人が幸せそうな顔をしているのを見るのが好きだから。
とにかくそんな父のおかげでわたしはここにいられる。
二人で貯めた資金がある程度になったころ、
父が店主の調剤薬局兼わたしと父が今二階に住んでいる店舗の話が、
おばさんと鶴屋さんから入ってきた。
鶴屋さんは地元の名家の当主で、
おばさんとは高校時代からの部活でのつきあいが続いている間柄だ。
なんでもその薬局の店主の方が高齢で、近々田舎に帰って隠居するとのこと。
そのためになるべく早く売れればいいなあ、と話していたのをおばさんが聞きつけ、
鶴屋さんにあれこれ相談し、うまく話を整えた上で持ってきてくれたのだ。
地域のことには隅々まで目の届く二人のお墨付きとなれば願ってもない話だったが、
ちょうどその頃母の妊娠が分かったばかりで、父は当初乗り気ではなかった。
しかし、千載一遇のチャンスを逃すべきでないという母の強い希望に折れて、決断した。
そしてわたしが生まれ、母は亡くなった。
母の死後、既に購入していた薬局の店舗兼住居を、
父はどうするべきか考えあぐねていたらしい。
それまでは母の実家、つまりわたしの祖母の元で暮らしていたし、
生まれたばかりのわたしのことを考えると、
わざわざ今の仕事を辞めて薬局を開業するなど、正直あきらめていたらしい。
しかし、そんな父に発破をかけたのがおばさんだった。
前からちょくちょく母の実家まで遊びにきていたおばさんとおじさんだたったが、
空いたままの店舗兼住居を売りに出すつもりだと話した父に、
わたしの祖母の前で、おばさんはこう言ったらしい。
ハルヒ「あんた佐々木さんとの夢をそんなに簡単にあきらめるつもりだったの!?
いい? 二人で決めた通りにやりなさい!
子どもなんてね、親が一生懸命まっすぐ生きてる背中を見てたらそう育つもんよ。
あんたが今まで佐々木さんと一緒にあたためてきた、
描いた夢まで失くしたら、佐々木さんはどうなっちゃうのよ!」
母がもしその場にいたら、わたしはちゃんと死んでますから現実的に考えて下さい、
と言うような気がしてならないが。
ともあれ、慌てる祖母に、この娘の面倒はあたしが見る!
……とまでおばさんは言い、
その流れの先に今の、わたし達がある。
古泉「小坂、何をボーッとしているんだ。気を抜くんじゃない!」
柊さんの怒鳴り声でわたしは我に返った。
眼前にバスケットボールくらいの大きさの赤い光球が停止している。
日課となった閉鎖空間内での訓練。
ほんのわずかの間だが集中を欠いてしまった。
古泉「疲れが出ているようだが、体調管理は基本だぞ」
おじさんと柊さんとの間で何かしら話し合いがあったのかなかったのか分からないが、
このところ柊さんの鬼教官ぶりに拍車がかかっていた。
それはむしろ望むところだし、人知れず生命の危険がある役目を負う以上、
テスト期間中だから訓練はお休み、になどなるはずがない。
土台無理な条件だから、無理はしている。
しなければ、今まで平々凡々と生きてきた人間が戦うことなどできはしない。
とはいえ疲労は肉体に蓄積するもので、
ともすると立ったまま一瞬眠ってしまうこともあった。
戦いの最中で起こったことならと考えると叱咤されるのは当然のことである。
今は柊さんが様々な角度から放つ、火の玉を受け止める訓練をしていた。
受け止めるといっても直接手で触れるわけではない。
念の力で自分の手のひら近くに止めるのだ。
わたしはどうにか、これくらいはできるようになっていた。
自分から紅玉化や光球を出すことはできなくても、
味方が出した火球を受け取ることができれば、またパスしたり、
そのまま敵へ攻撃したりできる。
もちろん、受け損ねればやけどではすまない。
そして、実戦で使うときはもっと大きい火球を、
ハンドボールの試合の連係プレーのように、めまぐるしく交差させているらしい。
フェイントで来たパスに自分が命中しては笑い話にもならないのだ。
入学式の日の岡部先生の話をよく聞いてれば、と頭をかすめるときがあるが、
幽霊部員になるのがオチだと思うことにしている。
サキ「すみません、大丈夫です。いつもどおりです」
古泉「いつもどおりだと感じる日こそ、気を引き締めるべきだ。
そのいつもどおりが、一瞬で崩れる境に立っているんだと、
この場所では忘れないように」
柊さんにしてはやけに強調してるなと感じたが、実戦は最初の遭遇以来経験していない。
きっとそれだけの危険があるということなのだ。
サキ「はい。お願いします!」
中間考査をどうにかこうにか乗り切ったばかりのある日のこと。
校門から出てしばらく歩いていた七重とわたしに前から歩いてきた女性が声をかけてきた。
森「こんにちは七重ちゃん、はじめまして小坂さん」
なんかいつかとシチュエーションが似てるな。
戸惑いながら軽く会釈していると、
隣から七重のやや改まった口調ながら親しみのこもった声が聞こえた。
七重「あ、おひさしぶりです」
サキ(どなた?)
と目配せすると、
七重「森園生さん。『機関』の、柊さんの仲間の人だよ」
サキ「はじめまして。小坂幸です」
こちらも改めてお辞儀をする。
森「突然ごめんなさいね」
言葉とは逆に上品でぽかぽかと温かな笑顔に心がふわっと包まれる。
ちょうどそのとき、通りがかった黒塗りのタクシーを森さんが手を上げて止めた。
森「ちょっといいかしら」
助手席に座った七重が、運転手の男性にお元気ですか、とにこにこ話している。やがて、
七重「森さん、今日はどうなさったんですか」
と後部座席に顔を向けてきた。
森「小坂さんとお話したくて。どう、七重ちゃん、高校は楽しい?」
七重「はい、おかげさまで。森さんは忙しいんでしょう?」
森「いつもどおりかな。こちらもおかげさまで、相変わらず元気でやってるわ」
七重「よかったです」
七重は微笑むと、顔を戻した。
光陽園駅前まで来ると、七重は、
七重「あ、ここでいいです」
タクシーが停止し、七重は前後を確認して降りた。
七重「多丸さん、ありがとう。お二人とも、また遊びにきてくださいね。
サキ、じゃあ、また明日」
サキ「うん、じゃあ」
タクシーが緩やかに発進し、手を振る七重が遠ざかる。
七重にしても、いったい涼宮家にはどれくらいのお客さんが来てるのだろう。
最近はわたしもつられて人の縁が次々に繋がっている気がする。
広がる友達の輪、という言葉が勝手に頭に浮かんでいると、
森「ほんとうに忙しいところをありがとう。すこしだけ時間をいただくわね」
隣の森さんが柔和ながら凛とした微笑みを浮かべていた。
ああ、いいなあ。スマイルだけでこんなに心の凝りがほぐされる。
穏やかな言葉の響きだけで頭の後ろが心地よくぼうっとしびれてしまう。
サキ「いえ、こちらこそ。時間を割いてもらってありがとうございます」
森「古泉があなたが疲れてるみたいだ、って心配してたわ。
めまぐるしいほど、色々なことが立て続けに起こったものね。
――頑張りすぎないように、自分の時間も大切にしてね」
まだ戦力にもなっていないわたしを心配してくれる。
柊さんと森さんに、何か申し訳なく、ありがたい気持ちになった。
市内の中心部にある北口駅の、ロータリーでわたし達は降りた。
電車に乗るのかな、と思うと、目の前の喫茶店に案内され、
森さんに続いてわたしも自動ドアに迎え入れられる。
店内は落ち着いた、少しレトロな雰囲気だ。静かにクラシック音楽が流れている。
席につき、注文をすますと、
森「これ、あなたに長門さんから」
大事にしてね、と手渡されたのは、あの鈍く光る不思議なカギだった。
他にも、このカギを持って、自分の行きたい場所を念じれば、
その最寄りのドアに通じる機能があるの」
なんだか夢が広がるなあ、と思うあたり、やっぱり疲れてるのだろうか。でも。
サキ「わたしの部屋のドア、カギがついてないんですけど」
森「カギの形をしてはいるけど、囚われることはないわ。必要なとき、使えば分かるから。
ただし、よほどのことがない限り使わないでほしいの。
というのは、このカギは使うたびに、長門さんに労力を割いてもらっているの。
長門さんは遠慮なく自由に使ってくれとおっしゃっているし、
わたしから強制することではないわ。
ただ、長門さんからの友情の証しであるということは忘れないでね」
サキ「友情……」
森「『機関』ではわたしと古泉しか持っていない。いえ、わたしは例外にあたるほうね。
長門さんのごく親しい人々しか持っていないもの」
確かわたしは長門さんとはあの日が初対面だったと思うんだけど……。
森さんはそれまでの凛として思慮深い微笑みをほころばせた。
森「ほんとうはあなたが古泉から説明を受けたあと、カウンターへ戻ってきた時に、
ご自身から渡したかったそうなのだけど、あなた、一目散に駆けていったものね」
サキ「え? 森さんも図書館にいらしたんですか?」
森「はい。ごめんなさいね。あの日あの場所で、
古泉があなたに話をすることは聞いていたから、
早くあなたに会いたくて、カウンター近くのテーブル席に腰かけてたの」
すると柊さんは入館時に、森さんの前を素通りしたわけか。
森さんは面白そうに、
森「そう。古泉にも知らせず来てたのだけど、
あの子何食わぬ顔で長門さんにあなたを紹介して、行ってしまったでしょう。
わたしがそういうことをする人間だって分かってるのね」
本当に楽しそうに笑った。
森さんも茶目っ気があって親しみやすそうな方だと思ったけど、
森さんがいると分かってて直行する柊さんも柊さんだ。
同じ組織の仲間ととしてだけではない、何だか面白い関係だなと思う。
森「ともあれこうして改めて挨拶したいと思っていたの。
遅れたけど、これからよろしくね」
サキ「はい。こちらこそ、わざわざありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
ちょっと真似たくて笑みを浮かべると、やはりとても敵わない笑顔が待っていた。
照れ隠しに小さく笑うと、森さんも笑う。
渇いた心が久しぶりに満たされるようだった。
注文した紅茶が運ばれてくると、
森さんはうやうやしい笑顔をウェイトレスさんに見せながら受け取った。
喜緑「どうぞごゆっくり」
背中までの長さの、ウエーブかかった髪の、美しいウェイトレスさん。
わたしと同じ年頃のはずなのに、
とても自然な所作でわたしの前に紅茶が置かれるのに見とれる。
と、森さんは居住まいを正して、
森「お世話になっています。新人の小坂です。
この方は喜緑江美里さん。
朝倉さんや長門さんと同じ、情報統合思念体のインターフェースの方よ」
あわてて頭を下げる。
サキ「はじめまして。よろしくお願いします」
トレイを運んできたときの微笑のまま、喜緑さんは軽く頭を下げ、
喜緑「はじめまして。あなたのことは長門からうかがっています。
こちらこそどうぞよろしくお願いします。
色々とお聞きになって、ご友人のことで心配がおありでしょうが、安心して下さい。
その時が来たら、七重さんのご両親を長門さんが、
そしてわたしが長門さんを守ります」
その時。
そうだ、閉鎖空間の外では天蓋領域のインターフェースが一斉におばさんやおじさん、
そして長門さんを攫いに襲ってくるのだ。
長門さんと喜緑さんが幾ら戦闘の術に長けているといっても、
相手の数はきっと多すぎるほどなんじゃないか。
そんなわたしの恐れを見透かしたかのように喜緑さんは優しく微笑んで、
喜緑「ご心配なく。策はあります。
一さんが作ってくれた時間を我々は無駄にしていたのではありませんから。
彼らが元々、我々インターフェースとのコンタクト用に造られたのであれば、
今まで収集した彼らに関するデータを基に、
彼らに対抗できるインターフェースを造り出すまでです」
ってそんな極秘事項っぽいこと口に出していいんですか。
喜緑さんはにっこりと、
喜緑「ええ、このカフェはお客様がゆったりと寛いでいただけるよう、
風通しがいいものですから」
もちろん筒抜けってことか。慌てて周りのテーブルをわたしは見回す。
森「幾らなんでもそんなに近くに座って、聞き耳を立ててるのではないわ。
情報統合思念体や天蓋領域の情報戦ともなると、
これくらいの情報は相手だって既につかんでるし、
喜緑さんはわたし達のために話してくれただけよ」
宇宙からだって、この喫茶店での会話を聞いたりすることができるのだろうか。
それにしても、
サキ「そんなにお互いのことを知り尽くしてるなら、いっそ和解できたら一番いいのに」
思ったことをそのまま口に出したわたしに、
静かな微笑みを絶やさず、喜緑さんが答えてくれた。
喜緑「おっしゃる通りです。ただ、外があるから内がある、そしてその逆も。
そういうものなのかもしれません」
わたしよりずっと賢い人が、不躾な口を利いたわたしに誠実に、
率直に答えてくれたように感じた。
シンプルすぎてよく分からないが、喜緑さんの言葉の意味をもう一度考えた。
なんだか神妙な気持ちになる。
喜緑「では、どうぞごゆっくり」
喜緑さんがカウンターに戻ってから、
何だか『機関』の部下としてやらかしてしまったのではないかと、
わたしは森さんに切り出した。
サキ「すみません……。森さんの前で、喜緑さんに分かったようなこと言ってしまって」
しかし、森さんが気にもせず、返してきてくれた言葉がまた意外だった。
森「いいえ、むしろわたしもこの状況に感謝している所もあるくらいよ」
サキ「感謝?」
森「ええ。わたし達は他国の人間をただ敵対する相手としか認識しかねない時があるわ。
領土や貿易、宗教の違い……人間同士、争いを起こす火種は数えきれないほどある。
飢えや貧困、弾圧、支配……真っ先に改善すべき問題が山ほどあるのに、
そういう状況を逆に新たに作り出しながらね。
そんな我々が一致団結するときというのは、
人類共通の敵が現れる時くらいじゃないのかしら。
不思議なことに今、『機関』の能力者は世界中の各国に均等にいるの。
そうすると、領土の広い国にはとても人員が足りないから、
いざ情報生命体が現れたという時には、
近隣の国や区域の人が応援に駆けつけることだってある。
それは侵略や交戦のあった歴史がそう古くない国同士であってもよ。
感情的なしこりは残ったままだけれど、お互いに失うことのできない仲間だから。
そして、日本なら鶴屋家のような財閥のように、
世界各域の経済を陰で動かしている方々に状況を説明して、
とりあえず軍需にお金を回さないようにとか、
僅かずつだけれど加減を変える方向づけをしてもらってる」
なんだかよく分からないが、世界中にわたし達と同じように戦っている仲間がいるらしい。
しかし、鶴屋家が『機関』と関わっていたとは。
当主の鶴屋さんのことは子どものころからよく知ってるけど、
いつもカラカラとよく笑っているイメージしかない。
だけど、こういう大事に関与していると言われればそれも信じてしまえそうな大きな人だ。
森さんはティーカップを持ち上げると、片手を包み込むように添えて静かに紅茶を啜った。
ふと、雰囲気が変わったのに気づく。
今までは微笑みは絶やさないのに隙の無い様子だったのが、
物憂げでどこか無防備な眼差しをしている。
そしてカップを持ったまま、ふと窓の外に目をやった。
中学生らしい少女達が談笑しながら通り過ぎていく。
カップとソーサーが触れ合う小さな音を立てると、
カップの中を見つめながら森さんは再び口を開いた。
森「最初のころは全て分からなかったの。
なぜ閉鎖空間と神人が現れるのか、なぜわたし達が戦うことによってしか、
世界を守れないのか。ずっと謎のままだった」
ゆっくりと顔を上げてわたしに話しかける。
森「わたしが古泉と会ったったばかりの頃、あなたと同じ年くらいの子がいたの。
年だけじゃなく、あなたはあの子と似ているところがある。
性格や容姿といったことじゃなくて、戦いに向かう姿勢がね。
そのせいか、古泉はあなたを彼女に重ねて見ているところがあるわ」
そう言えば、いつだったか、驚いた目でわたしを見ていたような。
ええっと、それってつまり、柊さんはわたしのことを……。
またもやあらぬ方向へ想像を走らせるわたしを見て、森さんは愉快そうに笑った。
森「言い方が悪かったわね。安心して、恋愛の意味ではないから。
あれでかなりの子煩悩で愛妻家なのよ。
そうだ、図書館で泉こなたさんに会ったでしょう」
サキ「はい。柊さんの奥さんの、高校のときからの友人だそうですね」
森「それも親友ね。あと、彼女は異世界の人なの。
泉さんから見たらわたし達が異世界人とも言えるけど」
サキ「ものすごくセレブな人だったんですか?」
森「そうじゃなくて、SFアニメやファンタジー小説などに出てくる意味での、
異次元世界の人なの」
サキ「……はあ」
森「あ、深く考えないで、そういうものだと思っておいて。
泉さんも古泉も、長門さんのカギを使って、
あちらとこちらの世界を行き来してるの。
悪い見本を言うようでなんだけど、古泉はしょっちゅうよ」
すると、あのプラネタリウムホールは中継地点の役目を果たしていたんだな。
森さんは笑顔から、思い出す表情に戻って話を続けた。
森「その子の話に戻るわね。……確かに当時、古泉は彼女を好きだった。
彼女はとても優秀で、しかもその人柄で、
ややもすると殻にこもりがちな古泉の能力を見事に引き出したわ。
二人はチームを組んで、周りが舌を巻くような連携を見せていた。
……でもある日。
その日はいつものように、神人を倒して過ぎる、
そしてわたしたちなりの日常に戻るはずだった。それが……。
……ペアの相手だった古泉が来るまで、
わたしは彼女が独りで狩りにいくのを止めていなかった。
わたしは絶対にそのことを忘れないわ」
悲しみを決意で振り切るように静かに最後の言葉を放つと、光る瞳をまた窓に向けている。
わたしも黙っていた。
しばらくして、目を戻すと森さんは続けた。
森「今ならわたし達が神人と戦ってきたことも、
閉鎖空間で失った仲間の命も無意味ではなかったと言える。
それで彼らが帰ってくるわけではないけど。
そうして命がけの修練を重ねてきたからこそ、
我々は閉鎖空間の中でなら敵性存在とも互角に戦える」
そう言えばさっき……エイリアンが攻めてくるからこそ人類が団結すると……。
森「逆説的な言い方だけれど……。そう考えると全てに意味がある。
涼宮ハルヒさんが統合思念体のインターフェースである長門さんや、
未来人の朝比奈さん、そして古泉を集めたお陰で、
この三つの勢力が連携を取るきっかけになったわ。
それに涼宮さんが彼と結婚したからこそ一くんが生まれたのだし」
とてもそんな見方をしたことはなかった。
森「でも、それは結果を振り返ったときに、そうとも見えるだけだから。
あなたは決して無理はしないで」
それから腕時計を見て、ちょっと驚いたように微笑みながら、森さんは言った。
森「あら、いけない。つい長くなってしまったわね。送るわ」
伝票を取る森さんに合わせるように、わたしも席を立つ。
森さんが支払いを持って下さった。喜緑さんに改めて挨拶し、
わたし達が喫茶店から出てくると、なんとさっきのタクシーが待っていてくれた。
森「この辺りでいいかしら」
買い物のことを話してないのに、降ろしてくれた場所は、スーパーにほど近い場所だった。
森「ではまた、さようなら。あなたと話せて楽しかった」
サキ「わたしの方こそカギのこと、他にも色々……ありがとうございました。
頑張りますのでよろしくお願いします」
森「こちらこそ。でも根詰めないでね」
ドアを閉め、静かに発車したタクシーが離れていく。角を曲がって見えなくなると、
わたしは小さくおじぎして歩き出した。足取りが少し軽くなったようだ。
しかしながらその歩みは、先ほど森さんが話してくれた事柄のなかで、
ある重い面があることに考えが及ぶにつれて鈍くなった。
柊さんはわたしの年齢のころ、すでに閉鎖空間で<神人>と戦っていた。
それは、どう考えても一さんの生み出したもののはずがない。
森さんは涼宮ハルヒ、つまりおばさんが柊さんたちを集めたのだと言った。
つまり……。
おじさん、おばさんはどこまで知っているのだろうか。
柊さんはおばさんにどこまで話したのだろうか。
お互い、全てを分かり合った上での、今があるのだろうか。
だからこそ、森さんはごく自然に過去にあったことを伝えてくれたのではないか。
わたしには知る由もないし、こちらから立ち入ることではないと思う。
いずれにせよおじさんもおばさんも柊さんも、今は何のわだかまりもなく、
互いに忌憚のない会話を楽しんでいるようだった。
そんな大人になりたい、と心から思う。
七重が一さんについて、わたしに多くを語ろうとしないことも、
それがきっと軽々しくは話せないことだからではないか。
いつか、きっと。
そのいつかを迎えるためには、目前の危機をまず乗り越えなければならないのだろうけど。
サキ「根詰めないで、か……」
しかし、無理をしなければならない状況が、向こうからやってくることもある。
思えば、その日の慌ただしさは学校の帰り道から始まっていた。
七重とわたしが光陽園駅前でしゃべっていると、おばさんの呼ぶ声がした。
こちらに向かってくる姿はいつもどおり颯爽としているが、すこし奇妙な点がある。
その手に重さをものともせずにぶらさげている、
食材を詰め込んだ買い物袋からはごぼうが突き出している。
あれではどう見ても涼宮家の通常時の冷蔵庫内適正量をオーバーしてしまうはず。
昨日、わたし達が調達したばかりだから。
おばさんはやりくり上手だけど、
セールにつられて買い込んで食材を無駄にしてしまうようなことはしないのだ。
サキ「おばさん、こんにちは」
ハルヒ「二人ともおかえり。七重、あたし川井さんとこにご飯作りにいくから、
あんた晩ご飯作っといてくれる?」
七重「あ、そうなん、わかった」
川井さん?
ハルヒ「そ。あそこ、おばあちゃんが頑張って一人暮らししてるでしょう?
息子さん夫婦も呼びたいと思ってるんだけど、
ここを離れたくないみたいで。でも掃除が行き届かないとこがあるじゃない?
見るに見かねた息子さんが三日前ホコリ被ってる戸棚拭いてくれたらしいのよね、 食器まで全部出して。
それが、戻した皿の配置が気に入らなかったみたいで、
息子さんが帰ったあと、一人で全部直したらしいのよ。
それがたたったのか、次の日起きたら腰を抜かしちゃって。
で、動けるようになるまで近所で交替で炊事とか掃除とかの世話してるの。
じゃあ、頼むわね」
合点がいったものの、
いそいそと歩いていくおばさんのすらっとした背中を見送ってると、ふいに思い当たった。
サキ「あ、ジョン」
七重「そうだ、ジョン……」
わたし達は顔を見合わせた。
普段はおばさんが夕刻にしているジョンの散歩をさせなければいけない。しかし。
犬という生きものがひたすら人間に従順だと考えるのは大きな間違いで、
実際はげんきんに人を見る。
七重が子犬の頃に拾ってきたこの雑種の大型犬は、
決して噛みはしないが何せ力が強く、しかも何を求めてか、すぐに走りたがる癖がある。
それが普段エサをやっているおばさんや、
休日にシャンプーしてるおじさんには恩を感じてか、外に出ても言う事を聞くのに、
七重やわたしは完全に同類の仲間と思われてるらしく、
二人がかりでやっと散歩が散走にならずにすむくらいだ。
とりあえず涼宮家の上がりかまちにカバンだけ置かせてもらったわたしだが、
そこで七重が、
七重「ごめん、ちょっと待ってて」
二階へ上がっていったので、七重の祖父母に声を掛け、脱衣所を借りることにした。
ジャージに(今日は運良く体育があった)着替える必要がある。
なにせ、やつと来たら……。
庭で狂喜しているジョンに、前足であちこちどつかれながら、鎖をリードにつなぎ換える。
待ち切れないと訴えるように盛んに息荒く舌を出す顔に掛かっている首輪の、
金具の付けかえが終わるや否や、持ち手のいないリードをつけたまま犬は駆け出し、
門扉の前で、発走準備完了をしきりにアピールする。
相変わらずの欲求に一直線な姿勢に感心していると、閉鎖空間が開く気配がした。
ここから東に数十キロ離れた、関西圏の中心都市の辺りだ。
と、カチャッと玄関ドアが静かに、狭く開いて、七重が出てきた。
玄関へ元気よく出発の挨拶をしてドアを閉め、鍵をかける。
その肩にはお手製の手提げが掛かっていた。
七重「お待たせ」
ちょっとはトレーニングの成果をと考え、わたしがリードの輪の中に手首を通した。
七重は脇で綱を握る。
サキ「行こっか」
門扉を開くと、ジョンは足を踏ん張って、わたし達を前へ引っ張った。やっぱり力が強い。
なんとか散歩を維持しながら、図書館分館前まで来ると、
七重はペロッと小さく舌を出し、手提げをかけた肩をこちらに上げてみせ、
七重「長門さんに、だいぶ前から借りてたの」
と図書館の中へ入っていった。ジョンはおすわりくらいは言うことを聞く。
長門さんから借りていたのは、あの宇宙の広間の奥にある部屋の、長門蔵書の一冊だろう。
あやつ、カギをだいぶ前から持ってたことを隠してたな、出てきたらとっちめてやらねば。
あんな素敵な場所があることを黙っていたなんて。
そう考えているとふと、舌を出しハッハと息をしているジョンと目が合った。
走るなよ、絶対に走るなよ……。
わたしの目を見て何を勘違いしたのか、
リードとわたしの片腕がたちまちビンっと直線に伸びる。
サキ「のわあっ」
それから、猪突猛進と化したジョンに駅前公園に向かって引っ張っていかれ、
三十分ほど公園内を恣意的に駆け回るはめになった。
なんとか言う事を聞かせて(というよりはジョンの気が済んだらしい)、
トイレ袋を片手にやっと涼宮家に戻ってくると、
七重が家の前にいた。図書館から出てくるとわたしとジョンが忽然と姿を消していて、
周りにも見当たらないのでしょうがなく帰ってくるのを門前で待っていたらしい。
一人にされたおかげで目に遭ったと言おうと思ったが、どこか様子がおかしい。
サキ「どうしたの?」
七重は逡巡していたが、わたしがジョンを再びつないでいる間に、
お皿に水を汲んできて言った。
七重「さっき、柊さんが…」
あのプラネタリウム広間で、急いでドアから出てきた柊さんを見かけたらしい。
かなり緊迫した様子ですぐに次のドアを開けて出て行ったので、
ろくに話をすることもできなかった、と。
突然、柊さんと森さんの言葉が頭の中をかすめた。
いつも通りだと思う時こそ……。
さっきの閉鎖空間はまだ消えていない。
そういえば、いつもならもっと早く気配が消えるはずなのに。
今さらながら胸騒ぎがし始めた。
柊さんは、異世界の人と知り合い、そちらで結婚し家族と居住している。
長門さんのあのカギを使って、柊さんも泉さんも、
あちらとこちらの世界を行き来できるのだ。
きっと、閉鎖空間の中で何かがあって、連絡を受けた柊さんは、
向こうの世界から緊急に駆け付けたんだ。
サキ「七重、さっきって、どれくらい前?」
七重「あの部屋に入ってすぐだから、4時半ごろ」
今5時10分回ったくらいだ。
ドアを開けたら念じた目的地のすぐ近くに出られるはずだから、
柊さんが恐らく応援のために閉鎖空間に入っていってから三十分はたっていることになる。
それにもかかわらず、まだ戦いは終わってないということだ。
サキ「わたし、行ってくる」
走り出そうとすると、七重に腕をつかまれた。
七重「サキ、待って。柊さんがサキを呼ばなかったってことは、
それぐらい危険なんだってことじゃない?
『機関』の他の人だって助けにいってるよ、きっと」
七重の言いたいことは分かる。
客観的に見て、わたしのように力の使えない者は足手まといになるだけかもしれない。
でも、ケガをした人を脱出させる手助けくらいはできるかもしれない。
……って、あれ、何か忘れてないか。
サキ「ナナ!!」
七重「はい!?」
サキ「今すぐあんたの兄貴に電話して!」
七重「え……あっ。そうか!」
七重が慌ててポケットから携帯を取り出す。
そうだ、武神って呼ばれるくらいの涼宮一ならすぐ助けられるはずだ。
ていうか、なんで最初から助けに来てないんだ?
七重「あ、お兄ちゃん? ……うん、柊さんがね、……え?」
意外そうな顔をしている七重。あいづちも忘れている。わたしはもどかしくなって、
サキ「ごめん」
と七重から携帯を奪い取った。
サキ「もしもし、一さん?」
一『サキか。どうした?』
サキ「どうもこうもない。今、閉鎖空間の中で『機関』の人が戦ってるの知ってるでしょ、 苦戦してるんでしょ?」
一『ああ。知ってる』
イライラするぐらい落ち着いた声が返ってくる。
サキ「なら話が早いわ。今すぐ敵を倒して、『機関』の人を助けて!」
一『わかった。サキが頼むのならそうするよ。……でもいいのか』
サキ「え?」
一『『機関』の人は、人々をあの敵から守るために命がけで戦ってる。
そこへ俺みたいなチート野郎が頼まれもしないのにほいさっと現れて、
敵を倒しちまっていいのか? 彼らの今までは、培ってきたものは何になるんだ』
サキ「……」
わたしの答えを待っていた一さんが静かに言葉を継いだ。
一『森さんや柊さんからは連絡が来てない。でもサキが助けろって言うなら俺は行く』
サキ「た……」
わたしは電話を切った。言えなかった。助けを頼むのが恥ずかしいからじゃない。
……ふざけんな、ちくしょう。
命より大事なものが、何があるってんだ。
握りしめた携帯を七重に返す。
七重「サキ……」
サキ「ナナ、お願い。柊さん達に何かあったら、わたし自分が許せない」
再び図書館分館へ向けて、わたしは走り出した。
冗談じゃない。死ななくてもいいはずの人が死ぬなんて、絶対に許せない。
サキ「長門さん、走ってすみません! カギありがとうございます!」
謝りながらカウンターの前を駆け抜ける。
突き当たりを右に曲がって、ポケットからカギを取り出しながらドアを目指す。
柊さんはこのドアを開けるとき、鍵穴にカギを差し込んでなかったと思うが、
念のためわたしはそうした。
中に駆け込むと、そこはプラネタリウムホールだった。
安堵するが、次の疑問が湧く。
このホール内に幾つかあるドアのうちどれが柊さんが行った場所へつながるのか。
わたしは見回した。あの場で七重に聞けばよかった。
いや、このカギはドアをくぐる時、念じた場所につながると森さんが言っていたから、
多分どれでもいいのだ。
すぐに止まっていた足を動かし、右斜め前のドアに向かって、再び駆け出す。
近づくと、今度は鍵穴がない。
(柊さんの行った場所へ、今開いている閉鎖空間の近くのドアへ)
右手にカギを握りしめ、左手でノブを回してドア引き、外へ飛び出す。
目の前の小便器で用を足していた、サラリーマンらしい男性がギョッと振り返った。
わたしも振り返るとトイレの個室からわたしは出てきたのだ。
閉鎖空間の気配はかなり近いが、もう少し走らないといけない。
トイレから飛び出すと、薄暗くて狭い階段の踊り場に出た。どうやら雑居ビルの中らしい。
迷わず階段を駆け下る。三階ならエレベーターよりこっちの方が早い。
ビルから明るい外へ出ると突然、騒音に包まれた。
ビジネス街の中だ。やはり、七重の家の庭で感じたとおりの地点だ。
すぐに左へ、歩道を走り出す。
ほとんど知らない所でも、地図など無くても、その場所が、境界線がどこかは分かる。
あった。
今車が行き交う、横断歩道の真ん中に、ある。
信号が変わり、駆け出して行きたかったが、横断者の足並みに合わせて歩きながら、
呼吸を整える。
その間、どんな状況があっても、すぐ反応できるように心の準備をして、入った。
騒音から切り離され、わたしは一人横断歩道に立っていた。
この広い道路の中で見回しても、情報生命体達の姿も、
機関の能力者達の姿も辺りにはない。
しかし、ビルや道路のあちこちに隕石がぶつかった跡のような穴が空き、
コンクリートの砕けた破片がそこら中に散らばっている。
足元も見ずに駆けだすのは危ない。
漆黒の空を見上げても、紅玉となった能力者は飛び交っていない。
戦闘は終わったのか。違う。
わたしは紅玉化等の能力等が使えないので、実戦に加わったことはない。
しかし、柊さんから一通りのことは教えてもらっている。
閉鎖空間内での戦闘は、敵を攻撃する者、
倒した情報生命体に寄生されていた人を避難させる者など、
幾つかの役割と段階に分かれて行っているが、
基本的に敵を全滅させれば、閉鎖空間は消滅させられるのだ。
いったいどこで戦闘は行われているのか。
とりあえず慎重に、周りを警戒し見渡しながら歩き始めると、
足下からくぐもった爆発音がした。
地下だ。歩道に、地下へ降りる階段があったはずだ。
階段を前にして、なんとなく戦闘が長引いた理由が分かってきた気がした。
この都市の地下街はまるで迷路のようになっている。
ここが戦場なら相手によっては相当厄介だ。
そろりと降りると、意外にも照明がついていた。
中には壊されたものもあるが視界を得るには十分な明るさだ。
この世界は発電所も止まっているはずなのに、なぜか電気系統は大丈夫らしい。
突然、人の怒号と物がぶつかり合うような音が聞こえた。
一刻を争う状況かもしれないとはやる胸のうちを抑える。
ただでさえ許可もなく行動中なのだ。
不要な混乱を招くことだけは少なくとも自分の認識のあたう限り避けなければならない。
曲がり角ごとに肝試しのような心持ちで通路を小走りに行きながら、
この閉鎖空間内で得られた知見を整理し今回の敵のスペックを推察する。
まず地下街に収まりきらないような巨体ではない。また、空を飛ぶことはない。
恐らく飛び道具は使わず、接近戦が得意なほうだ。
地上のあちこちの穴はみんな同じ形をしていたから、
全て機関の能力者の火球が当たった跡だろう。
それは敵が避けた数でもあり、素早い動きをするはずだ。
それでも、幹線道路のような見晴らしのよい場所では遠隔攻撃をできるほうが有利で、
敵は地下へ逃げ込み、戦場が移った。
そして、何より柊さんが応援に来なければならないほど、手ごわい相手だと言える。
たとえば――――野犬のような。
音が聞こえたと見当をつけた辺りの角で、獣の荒い息遣いが聞こえ、
そろそろと先を警戒しながら顔だけを出すと、
目の前で男性が野犬に押し倒され、今にも食いつかれそうになっていた。
野犬といっても、動物園で見たことのあるライオンくらいの大きさだ。
サキ「――うおおっ」
落ちていたガレキのブロックを火事場の馬鹿力で持ち上げ、野犬の脳天に叩きつけた。
嫌な手ごたえと共に痛恨の悲鳴を上げて、野犬が奥の方へ跳ねて転がる。
起き上がって唸る犬から目を離さずとっさに姿勢を低く、遊びを残し小さくして向き合う。
歯茎から恐ろしげな牙をむき出して、近づいてくる野犬。
溜めをつけて飛びかかってきたところに、火球がさく裂した。
わたしの後ろから、倒れていた男性が放ったのだ。
息絶えた野犬が霧のようになって消滅していくと、
そこにはスーツ姿の女性が意識を失って倒れていた。
多丸圭一「ありがとう。おかげで助かった」
サキ「大丈夫ですか?」
上半身だけ起こしていた、白髪まじりの男性のそばに膝をつくと、
多丸圭「君のほうこそ。何が起きたか信じられないかもしれないが……」
なんとタクシーの運転をしていた人だ。被害者と間違えられたらしい。
サキ「新しく入った小坂と言います。
長い時間、タクシーで送ってくれてありがとうございました」
男性は思い出したように、
多丸圭「そうだ、君か。しかし、まだ訓練中と聞いていたが」
サキ「ごめんなさい。役に立ちたくて、勝手に来たんです」
多丸圭「ふむ? これは驚いた」
目を見開く男性に、向こうから声が飛んできた。
多丸裕「兄さん!」
この人の弟さんらしい、壮年の男性だった。
わたし達は地下街の、噴水のある広場を目指して歩いている。
閉鎖空間では携帯も無線も使えないので、時間を決めて集合する段取りになっている。
多丸裕「君が来てくれなかったら、兄の命はなかった。小坂さん、本当にありがとう」
女性をおんぶしながら、多丸裕さんが温かな笑顔を向けてくれた。
わたしは足をケガした多丸圭一さんに肩を貸しながら歩いている。
わたしは会釈して、
サキ「……敵はあとどれぐらいいるんでしょうか」
あまり話したくない。情報の把握だけに努めていたかった。
多丸圭「そう多くはないはずだ。
詳しくは他の奴に聞いてみないと分からないが、相当倒したから」
多丸裕「今回は企業の会議中にでも感染したのか、被害者の数は多くて。
しかも一か所の閉鎖空間に敵が次から次へと現れた。
データが削除されない限り、感染者は増える一方だからね」
サキ「そのデータは…」
多丸圭「もう削除されたんじゃないだろうか。
TFEIの方の仕事なんだが、最近は相手の防護がキツいらしいけどね」
二人とも苦戦されたはずなのに、こんな話を明るい調子で話している。
多丸裕「それにしても能力が使えないのに閉鎖空間に飛び込んでくるなんて、
君は無茶というか無鉄砲というか」
多丸圭「そうだ。しかも初陣にして大活躍とは……。
君は強くなるよ。何、能力なんてある日突然使えるようになるもんだ」
通路に陽気な笑い声がこだまする。
幾ら二人能力者がいるといっても、もっと警戒したほうがいいんじゃ……。
多丸兄弟のお二人が、わたしに感謝してくれていて、規則を破ったわたしをかばうために、
陽気にふるまってくれるのは素直に嬉しかった。
でもわたしは噛み締めたままの口を開くことができなかった。
手のひらに突き刺さりそうなほど粗い断面のブロック。
それを全力で振り下ろした瞬間の、腕から肩に、そして背筋に伝わった殺生の感覚。
幼い頃、興味本位に昆虫をなぶり殺した思い出したくない感触。
むしろ逃避から、柊さんにぶたれたいくらいだった。
古泉「小坂! 何しに来たんだ!」
噴水のところで、柊さんと数人の能力者、そして助けられた被害者の人達が集まっていた。
怒鳴る柊さんに、
多丸圭「怒らないでやってくれ、古泉。この子は俺の命の恩人なんだ」
けげんな顔をする柊さんに、経緯を多丸兄弟が説明してくれた。
古泉「――それはそれ、これはこれです。小坂、早く帰りなさい」
サキ「はい、帰ります。ケガした人を送らせて下さい」
厳しい目で柊さんはわたしを見たが、
古泉「本来、今の君にできることは何もない。それは分かってるな。
ケガ人の救護も、被害者を無事元の場所へ送り届けることも、
我々が決めた手順がある。
しかし、その女性は君が助けた。だから責任をもって君が送りなさい。
君の処分は追って伝える。
圭一さんは、僕が送ります。いいですか」
圭一さんは笑みをこらえるような顔で目を上に向けながら、
多丸圭「ああ、頼むよ、古泉」
裕さんから替わって女性を背負わせてもらうと、
多丸裕「気にするなよ。君のことを心配してるんだ。
古泉にはあとで僕らがよく言っとくから」
とウィンクとともに小声で言われた。
言葉そのものより気持ちが嬉しくて、やっとこわばっていた口元がゆるむのを感じた。
しかし、女性を背負って地上への階段を上るのはきつかった。
隣で圭一さんは、柊さんに肩を貸してもらいながら、
多丸圭「ところで古泉、敵の数のほうは分かってるのか?」
古泉「いえ、僕も後から来たので伝聞でしか知らないのですが、
皆の情報を照らし合わせても、地下へ逃げ込んだ正確な数は分からないが、
残党は恐らく若干であろうという……」
階段を上りきると、
古泉「……ことだったんですがね」
道路は野犬の群れに埋め尽くされていた。
じりじりと円をせばめるように方々から低い唸り声が近づいてくる。
多丸圭「地下へ逃げ込むか」
古泉「いえ。素早くは動けませんし、背を向けると追ってくる。
今まで助けた人々も危険にさらすことになります」
多丸圭「そうだな。しかし、俺がおとりになる。
そのすきに地下に駆け込んで危険を知らせろ」
そのとき、地下から駆け上がってきた人物がいた。
「サキーーーーッ!」
最上段の踏み面にかけた足のばねのおつりに一瞬、
身体を浮くように揺らめかせたその人物はわたしと目が合うなり、
片足に体重をかけたままピボットターンとクラウチングスタートを同時にやってのけた。
この状況下、わたしの後方での一連の動きは首だけ振り返り見届けるしかなかったのだが、
その突発性は間近に迫る獣の群れの攻撃のきっかけになってもおかしくなかったはずだ。
あるいは、この人物のあまりに煌々たるオーラに気圧されでもしたのだろうか。
駆け寄るなりわたしを心配しながら、今度は代わりに女性を背負おうかとあたふたしだす。
当人は真剣そのものなのに場違いに駘蕩な空気をどうしても醸し出してしまい、
柊さんも圭一さんも何とも言えない表情で見守っている。
わたしはしょうがなく小声でぶっきらぼうに応えるよりほかない。
サキ「ナナ、どうして来たの? ていうかどうやって来たの?」
七重「分かんない。気づいたら来てたの。サキ、大丈夫?」
サキ「いや。悪いけど、絶体絶命よ」
七重「えぇっ!? やっぱりお兄ちゃん呼ぼうか?」
サキ「あいつには死んでも頼らん。あとここ電波届かないわよ」
七重「えぇっ!?」
七重がこんな場所にいるのがおかしいのか、こんな場所があるのが七重に許されないのか。
状況の緊迫性は変わらないままなのに心情だけがフラットにさせられてしまう。
しかしさすが、圭一さんと柊さんは切り替えも早く平然とした様子に戻っていた。
古泉「七重ちゃん、小坂。道は僕がひらくから、二人とも早くここから脱出するんだ。
小坂、その女性と圭一さんは任せたぞ」
サキ「え?」
柊さんに異変を感じた。
古泉「この場所からは必ず無事に帰すから」
柊さんの右手が青白い光に包まれている。
わたしはそれを見て何かとてもヤな予感がした。
言うなれば死亡フラグ。弟子達を守るために師匠が命と引き換えの大技を放ち、
しかもさらに悪い場合犬死にに終わってしまって、
結局残された弟子が悲しみと怒りで真の力に目覚め、敵を撃破するシチュエーション。
冗談じゃない。そんなドラマツルギーのために死なれてたまるか。
わたしは口走っていた。
サキ「待って下さい! わたしに考えがあります」
無いんだけど、女性をそろりと背から降ろし、壁にもたれかけさせる。
意外そうな表情で振り返る柊さんに、確信の表情だけ見せ、
次いで敵を見回すと一瞬で腹が決まった。
隣で身を寄せている七重に尋ねる。
サキ「ナナ、わたしを信じる?」
七重「うん」
目を交わし合うと、手を取って敵陣に向かって一緒に駆け出した。
走り出すと自分の狙いが次第に明瞭になってきた。
古泉「何をするんだ、やめろ!!」
サキ「柊さん、こいつらを引きつけて時間を稼ぎますから、
早く圭一さんとその人を! 応援呼んでください!」
もう振り返れない。
これは、賭け。
柊さんは、ヤツらの目的は長門さんと七重のお父さんとお母さんをさらうことだと言った。
でも、七重が標的だとは言わなかった。
七重は重要じゃないからか? 違う、逆だ。
きっと、ヤツらにとって七重はまだ観測の対象だから。
大事な観察対象を傷付けることは出来ない。
だから、七重が側にいればヤツらもむやみに攻撃できない。
それを逆手にとってこちらから仕掛けて相手をかき回す、ということだ。
そしてその賭けは――
見事に裏目に出た。
繰り出される太い前足の爪をやっとの思いで避ける。
七重の運動神経がいいのが唯一の救いだった。
じりじりと、わたしと七重を囲む敵ににらみ返すことしかできない。
今にして思えば情報生命体は、天蓋領域にとってただの兵器、言うなれば道具に過ぎない。
配置された通りにしか動かないコマが、
こんな複雑な相関関係を踏まえているはずがない。
だけどその時のわたしはただ必死で、やらかしたという思いしかなかった。
何てことだ、よりによって七重を巻き込んで自爆するとは。
でも、後ろにいる七重はわたしが打開してくれると信じてる。
ていうかここまでしてるのに何か出ろ、力。反則だぞ。
古泉「持ちこたえろ、今行く!」
右側から柊さんの怒号と爆発音、赤い光に照らされる敵。
確認はできないけど、ヤツらの包囲をかいくぐってくるつもりだ。
――そんなの、振り出し。
また柊さんが。
窓の外を見る森さん。
サキ「いい加減に――――!!」
何か出た。
七重「サキ!?」
純白の光。
地面が揺れる。
違う、わたしが揺れてる。
全てを真っ白に包む光がわたしから周りの世界へ拡がっていくのを感じる。
音が無い。
いや、七重の呼ぶ声が……遠ざかっていく。
それが、最後の記憶だった。
一「フォークいるか?」
無機質な感じの天井がある。
静かにだけど手早く、ナシかリンゴをむく音。あ、ナシは季節じゃないし、リンゴだな。
寝たまま、頭だけ声のした方へ動かすと、どうやらここは病院の個室のようだ。
ロビーチェアのように座面の硬そうなイスに腰かけ何でもないといった様子で、
一さんが小さなナイフでむいている。
その向かいに、テーブルを挟んで二人掛けのイスに七重が横になっているのが見える。
薄手の膝掛けのような毛布をかけられて、小さな寝息を立てている。
サキ「ナナは……」
一「見ての通り無事。ケガしてた『機関』の人も無事。君を含めて全員無事」
と答えて、
一「だから、俺との話が済んだら真先に親父さんに電話するんだな」
無事だと分かった後はぼんやりと聞きながら、上半身を起こし自分の手を見る。
ジョンのリードを握ったその日に、野犬の頭にガレキを叩きつけた。
情報生命体達の中には、最初に見たあの女のように、人の姿をしたものもあるのだろう。
それをわたしはきっと殺す。本物でなくとも何者かの命を奪う。
気がつくと一さんがそばに立っていた。
皿にリンゴを切り分けたのをよそい、ここまで来てくれたらしい。
一「娘が突然道端で倒れて病院に担ぎ込まれたことになってるから」
リンゴを乗せた皿をわたしに持たせて、薄い肌がけの、
わたしの脚の上あたりにぽんと何かを置くと、近くの棚の戸を開けた。
何だ、これ。
手に取ってみると、コードも無ければ番号を押すボタンもない、ただの受話器だった。
見つけてきたフォーク渡し、ベッドのすぐ傍にあった背もたれの無いイスに腰かけ、
無言でリンゴをすすめてくる。
サキ「ありがとう」
ひときれ口に運んでかじっていると、
一「ところで」
一さんが真顔で尋ねてきた。
一「何をした?」
どきりとする言葉だった。
サキ「何をしたって……」
一「俺の閉鎖空間が打ち消された。それも君によって。
あと、君を中心にして内側から広がった通常空間と、
閉鎖空間の間に挟まれた情報生命体はすべて消えて、
それから機関の人のケガが全員、全て治ってた」
そうだったのか。
サキ「皆無事でよかった」
一「うん。だがどうしてこうも都合の良いことが起きる? まるで……」
と言いかけて、ひそめた眉を戻し、
一「願ったり叶ったりなんだが、君はどうしてそんなことができたんだ?」
そんなことと言われてもなあ……。
白い光が見えたことしか覚えてないんだけど。
一「柊さんはそんなの見た、とは言ってないぞ。君の周りから閉鎖空間が消えた、
というよりは通常空間が拡がっていったようなことを言ってたし、俺もそう感じた」
わたしの錯覚?
いや、確かに目が眩むようなまっ白い光がわたしから放射状に広がるのが見えた。
サキ「そう。……でもわたしにもよく分からない」
一さんは小さく息をついて、
一「まあ、そんなとこだろうと思ってたけど」
わたしに目を戻し、
一「これから先、君から半径300メートル以内で発生する閉鎖空間については、
無視してくれ」
は?
一「あれだけの規模の情報爆発の中心にいた人物なら、
連中の興味を引くのに十分だったみたいだ。あとは今までどおりで」
サキ「あ、ああ……何か余計な面倒増やしてしまったみたいで……」
一さんは真顔になって、
一「何言ってる。君はあの場にいた人全員の命の恩人なんだぜ。
俺の方は一人二人増えたって変わりゃしないさ」
そう言われると幾分心が軽くなるけど。
サキ「……最強も色々大変ね」
一「あのね、何聞かされたか知らないけど……まあいいけど。一つ言わせてもらえれば、
強さなんて相対的で、価値観によってころころ変わるもんだよ」
パラパラを踊るみたいに腕を伸ばしたり曲げたりしながら話す。
サキ「そうね。わたしにとっての最強はおばさんかしら」
そこでちょっと焦ったように、
一「え、えーと、君のお母さんも凄い人なんだぜ」
ことさらいかにもという感じで言う。
サキ「あんた家のお母さんの回し者なの?」
一「い、いや、……」
目が泳いでるぞ。
彼は自分が落ち着けるまで待ってから、改めて話し出した。
一「俺は小さい頃だったから覚えてないけど、
君のお母さんに抱っこされてる写真があるんだ。
すごく可愛がってくれたみたいで。
――君を産む前から危険があることは分かってた……」
サキ「それで?」
一「えっとつまり、君を抱っこしたかっただろうなって」
七重の静かな寝息だけが流れる。
一「あ、そのさ」
サキ「はい、ここまで! お互いさまってことで」
一「え?」
それだけじゃなく、あんな写真やこんな写真もあるけど。
サキ「だからおあいこ、お互いさまでしょう?」
一「うん……」
サキ「それにありがと。お母さんもあんたを抱っこできたから」
一「……こちらこそだね」
七重「う~ん……」
七重に掛けられた毛布がもぞもぞと動いた。
七重の声でわたし達は二人とも七重の方を見たが、まだ眠ってるようだ。
どちらからともなく微笑みが広がるのを感じた。
七重には笑っていてほしい。だから、わたしも笑顔でいよう。
わたしは一さんに幾分小さな声で、
サキ「みんな、色々ありますな。起きたらお礼言わなきゃ」
一さんも少し声のトーンを落とし、
一「七重は昨日からつきっきりで君のそばにいたから、
疲れてベッドにもたれたまんま寝ちまってたのさ。
柊さんからもしょっちゅう着信入るし」
しかめっつらをこちらに向けてみせる。
心配をかけてしまった。けど。
一「そ。目を覚ましたってことは伝えとくから」
サキ「許しませんって」
一「は?」
サキ「そう伝えて。無責任です、二度とあんなことしないでくださいって」
ぼたもちの転がってきた棚に自分のことを上げるような物言いをするわたしに、
一さんは訳の分からなそうな顔をしながらも了解してくれた。
一「……分かった。何だか分からんが、伝えとくよ。そろそろ行くかな」
静かに椅子から立ち上がり、引き戸の方へ向かおうとする一さんに、
サキ「ありがとう、色々と。……ねえ」
ふと思ったことをたずねる。
サキ「お母さん、今のわたしのことどう見てるのかしら」
一「笑ってるとも」
サキ「え?」
いやに確信に満ちた目で微笑んでいる。
一「そのナイフは皿に置いといてくれ。じゃ、お大事に」
静かにドアを引いて出ていってしまった。そして静かにドアが閉められる。
ナイフってこれのこと? ていうか受話器だけど、どう使うの?
試しに耳に当てると、呼び出し音が鳴って2コール目の途中で父が出た。
その日の新聞には、オフィスワーカーがビジネス街のど真ん中で集団で意識を失っていた、
という小さな記事が載っていたが、『機関』のキの字も書かれてはいなかった。
報道された内容でさえ発症者の記憶が定かでないので集団ヒステリーの原因も不明、
で片づけてしまうには奇怪すぎるはずだが、やはりそこが『機関』の為せる業なのだろう。
決戦の日は確定しないが、刻一刻と近づいてきていることは確かだった。
それと言うのも、あれだけ頻発していた閉鎖空間の発生が最近極端に減ったのである。
つまり情報生命体による被害も、天蓋領域のインターフェースによる直接の侵攻も、
鳴りを潜めているということだ。
嵐の前の静けさとは言ったものだが、来たるべき日に備えるチャンスでもある。
機関の上層部では、情報統合思念体のインターフェースと緊密に連携をはかるため、
彼らとの会合を重ねているらしい。
また、一つの閉鎖空間につきかけられる時間は幾らかなど、
戦術上の計算をするためのプログラムをアップデートしたりと、
とにかくてんやわんやの状況らしかった。
らしい、というのは柊さんから電話で聞いた断片的な話に過ぎないからである。
一方わたしは言うと、いつものように閉鎖空間内での訓練を一人黙々と行っていた。
そんなある日、長門さんから新たな援軍となる者を紹介したいとの連絡を受けて、
森さんと柊さん、そしてなぜかわたしも、
長門さんが勤めている光陽園駅近くの図書館分館に集まった。
あの宇宙そのもののホールにわたし達が入ると、
中央に置かれたソファの前で長門さんと、その人が待っていた。
挨拶しに近づいて行こうとすると、柊さんの足が止まっている。
長門さんのそばで、星空を見上げていた少女の横顔に、柊さんは釘づけになっていた。
古泉「君は……!」
ふいと顔を戻したその人は、
「久し振り。一樹」
柊さんが驚愕の表情のまま、言葉を失い、立ち尽くしている。
「森さんもお世話になったこと、お礼を言えませんでした。またお会いできて嬉しいです」
ゆっくりと頭を下げ、そして起こすと、
その少女は静かな笑みを湛えて懐かしそうな表情を森さんに向けている。
森さんは静かな瞳で少女に応えるのみだった。
わたしは森さんに尋ねることにした。
サキ「お知り合いの方なんですか?」
森さんは少女に目を向けたまま、簡潔に説明してくれた。
森「わたし達の同志よ。……かつて閉鎖空間で命を落とした」
サキ「!?」
……亡くなった人が?
古泉「長門さん、新たな援軍とは、まさか……」
柊さんはまだ混乱した様子で、長門さんに疑問をぶつけた。
長門「一が生み出す限定空間内の力場を最大限に生かせるのはあなた達」
古泉「……」
長門「ゼロからそのような属性情報を付与したインターフェースを造り出すことは、
統合思念体には、不可能だった」
重い沈黙が流れた。やがて、
古泉「……それで彼女に本来宿っていた情報生命素子を用いて、
新たなインターフェースとして彼女を生み出したのですか」
長門「…………そう」
柊さんは抑制しきれない怒気をふくんだ声を震わせた。
古泉「確かに無駄のない策だ。TFEIと、機関の者としての能力をあわせ持つ個体ならば、
戦局に応じてどちら側の援護にもまわれる。でも長門さん、あなたは」
柊さんは言葉を切ったところで、もう一度、冷静になろうと努力したみたいだった。
古泉「――あなたのことはいかなる状況においても役目のために、
理性的であり続ける人だと僕は尊敬しています。
でもそれは統合思念体からあなたが生来授かった、精神の強さによる支えが大きい。
もともと人間として生まれた者がTFEIとして、不老の時間を永久的に過ごすことが、
本人の精神にどのような影響を及ぼすか、考えたのですか?」
長門「該当個体が統合思念体に直接申請することで、
体組織の永久的完全復元を停止し人間としてのエイジングに移行できる」
古泉「統合思念体がその程度の認識で実行したとは信じがたい。
それでは本人の居場所はどうなります。
第一、僕の疑問に対する根本的な解決にはなっていません」
長門「……まず、あなたのわたしに対する認識に、実像との齟齬が見受けられる」
柊さんが言葉を呑む。
長門「わたしは統合思念体から高い知能を付与されて造り出された。
しかし――精神的な強さ、を備えていたわけではなく、
常に理性的であったとは言えない」
それはわたしが常に理性的であるならば起こらなかったこと。
わたしの内部に蓄積されたエラーデータへの対処を誤った。
削除、圧縮等わたし単体が実行してもエラーの集積は膨大になった。
それは、感情。
特に人に関わる心の動き。当時はその性質が全く把握できず、翻弄された。
精神の強さがあったとは言えない」
古泉「それは普通の人間らしくなる過程の上であったことでしょう。
げんに今のあなたは社会人としての生活とインターフェースとしての役割を両立、
自らを周囲と共存させ――」
そこまで言って柊さんは、何かに気づいたように目を見開いた。
長門「そう。人との関わりを絶たず、人の中で生き、心の動きを否定せず、
人との調和に理性を生かす。
わたしが観測する、自律進化の決して完成しない過程。
感情があるからこそ、人間は弱くもなるが、
時間にさえ打ち克つ力を持つことができる。
愛、信頼、責任、勇気、やさしさ、尊敬、誇り、自負……、
全て人に関わる葛藤を乗り越えてこそ。だから強い」
古泉「……ですから長門さんはそうでも、
人間がTFEIに変容した場合を論じたことにはなりません」
長門「同じこと。わたしは一を知っている」
古泉「同じ道を通るのなら、武神がこの世の脅威となる事態もまた、いつか発生すると?」
長門「可能性はある。だが、一は一人ではない。
わたしが異常動作を引き起こした時も、そうであったように」
古泉「なるほど。それはそれとして、
一くんの例を敷衍して彼女のTFEI化を論じるのには……」
森「古泉。……わたしの方から長門さんに頼んだの」
柊さんは完全に虚を衝かれたようだった。
それまで黙って長門さんと柊さんのやりとりを聞いていた少女が、
確固とした口調で語りはじめた。
「それに、本人の意志に関係なく一方的に、
長門さんがあたし達を甦らせたとでも思ってるの?」
長門さんは最初からずっと同じ表情のままで、黙っている。
「あなたがあたし達を心配してくれたようなことは、承知の上よ」
堂々と胸を張り、そこへ開いた手を当てながら、
「あたしが今ここにいることが世界のタブーだってのなら、
用が済んだらあちらに戻ってやるわ」
その手で自分の真下をぴんと指さす。
このプラネタリウムホールの場合、上も下もないのだが、
自らの天上でなく地底の方を迷いなく指す姿勢にわたしは引きつけられた。
古泉「そういう意味じゃない! 『機関』を挙げて君を守るとも!」
あくまで真面目に論じる柊さんとは対照的に、
「そりゃどうも。とにかくね。みんな、この世界を守るためなら構わないと思ってる。
あたし達はそう望んで『機関』に集ったんじゃないの?」
古泉「みんな、ということは……」
「全員、イエスを選択したというわけ」
柊さんはうつむいてしまった。
やがて、
古泉「長門さん、申し訳ない。……ありがとう……」
その声はかすれて声に色がなく、溢れる思いを絞り出すように震えていた。
長門さんは、わずかに頷いて微笑んだように見えた。
長門「そう」
顔を上げた柊さんは一変して、いつもの状況を分析するような口調に戻っていた。
古泉「君が帰ってきたからには、また僕はバックアップに回らなければならないな。
どうせ、性懲りもなく最前線に向かうんだろう?」
「あら、あたしは長門さんを守る方の役に回ったわよ。
一樹がエースなんだからその必要はないでしょう。あたし見てたわよ、死んだあとも。
そうだ、危うくまた言い忘れる所だったわ。森さん、一樹。毎年来ていてくれたわね。
そのこともありがとう。一樹、あなた、いい人つかまえたじゃない」
悪戯っぽく微笑む少女に森さんと柊さんは呆気にとられているばかりだった。
突然少女は満面の笑みに大きく息を吸い込むと、
私に駆け寄ってきて握手して一気に顔を寄せた。
「はじめまして! サキさんね、なんだか知らないことばっかり話してごめんね。
それにしてもあなたとあたしって似てるわぁ。
性格は違うけど、向こう見ずな戦い方なんか特にね。気が合いそうだし、よろしくね!」
なぜ初対面なのにわたしのことを知ってるのか分からないけど、
サキ「は、はい。よろしくお願いします……」
少女の自信に満ちこれからワクワクすることに向かっていくんだ、
と言わんばかりの表情を見て、わたしは思い出していた。
そうだ、この子は七重のお母さんに似ている。
そのカンは当たりで、先輩は面倒見が良く、わたしの訓練にその日からつきあってくれた。
球体化した先輩の動きを真似するだけでずいぶんと勉強になる。
何よりも、あの柊さんとパートナーを組み、
しかも前衛を務めた人に教えてもらえるのはまたとない幸運だった。
というのも、わたしも実戦では一番槍の役に当たることになっていたから。
しかし、それは実力によるものではなく、
ビジネス街での一件以来やっと使えるようになった能力の特殊性を買われてのことだった。
と言うわけで、特殊性その一。
わたしも球体化できるようになったのだが、紅玉ではなく白玉である。
はっきり言って、紅玉が群れて飛びまわる中の白一点は目立つ。
わたしばかりが情報生命体達の攻撃の的にされる。
逆に言えば、うまく動けば相手の注意を引きつけかく乱する役割を果たすことができる。
特殊性その二。
機関の能力者の主な攻撃方法は、紅玉して体当たりすることで、
敵に物理的にダメージを与える。
しかし、白玉化したわたしに攻撃してきた情報生命体達は触れるそばから消滅してしまう。
おかげで無謀に突っ込んでいってもケガをせずに済むし、
確実に敵の出鼻をくじくことができる。
それでも、大丈夫とは分かっていても敵陣の中を単独で飛び回るのは怖い。
そう先輩に伝えたら、笑って、
「あんた本当に面白い能力が使えるのね!
まるでアクションゲームの無敵アイテム取ったときみたいじゃない!」
と言い、わたしが止める間もなく白玉化したわたしに、興味津々な目で触ってきた。
……特殊性その三。
機関の能力者が触れても、消えることはない、ということが分かった。
それどころか、
「……これはケガした人の、傷を治す力があるわね。あたしは今は自分で修復できるけど。 ほんっとに面白いわね、これ」
とのことらしい。なんというご都合主義な力だろうか。
ともかく最前衛という、実力に見合わないポジションをいただいたわたしだが、
奇しくもそのお手本と言うべき人に、いかに動くべきか、
みっちり叩き込まれる機会を得ることができたのだった。
六月某日、日本では未明に、それは全世界、同時多発的に発生し、進行した。
起きるべくしてそれは起き、また起こさせてから止める以外に術がない。
数多のウェブサイト上に、統合思念体のインターフェースの防衛網をかいくぐって、
天蓋領域のTFEIが起動データをアップした。
このデータの存在するサイトの特定と、データの破棄が実行されない限り、
事態に歯止めがかかることはない。
しかし、当然容易に検索の網に引っ掛かるような痕跡は残されておらず、
作業に当たった統合思念体のインターフェースですら、それは容易ではなかったようだ。
閲覧した人間の脳へ、あらかじめネット上に仕込まれ一斉に起動した情報生命体が感染し、
犠牲者を異空間へ飛ばしてしまう。
一さんがそれを捕捉し、その空間を閉鎖空間に変換し、わたし達に明瞭に感知させる。
そうなれば、閉鎖空間内の敵を機関の能力者が撃破し、
意識を失った人々がそれぞれパソコンの前で、
「あれ、寝てたのか」と目覚めるように無事に帰してあげてその件はとりあえず解決だ。
もちろん、感染源となったウェブページ上のデータは破棄し、
多少周囲の人間を含めた記憶の方も操作済みの上でのことである。
この地球上の爆発的感染を前に、当初はどうしても後手に回らなければならず、
抜本的な解決策は即時には編み出されなかった。
長門さんなら、もしかしたらそれが出来たのかもしれない。
『機関』としても、彼女にはできればその任に当たってほしかったが、
長門さんは七重の両親の護衛に集中する、の一点張りだった。
情報統合思念体も、そして当のおじさんとおばさんですらも、
その意志は覆せなかったというから頑固な方である。
ともあれ、それはTFEI側の役目であり、お任せするより他ない。
そして、わたし達の戦場は閉鎖空間の中だった。
森「何と言うかこれは……。さながら地獄絵図ね」
数多くの人間の、それぞれの畏怖の対象が具現化したもの。
それらが閉鎖空間内を所狭しとと湧いて出ているものだから、
そう表現するのが妥当かもしれない。
しかし、確かに単体では恐いイメージを抱かせるが、
こうして勢揃いとなるとかえって滑稽な感じすらする。
森「眺めてる場合じゃないわね。さあ、行きましょう」
今回の戦いは、今までと比べても特殊なものらしかった。
世界中に散りばめられた、とでも言うべきか、
数えきれないほどの閉鎖空間の中で機関の能力者が、
情報生命体と戦うのまでは同じなのだが、
敵をすべて倒し閉鎖空間が消えるとき、
被害者はそれぞれ情報生命体によって最初に拘束された異空間へ、
わざわざまたワープさせられる。
すると、空間の主が倒された異空間は崩壊して、
被害者は自動的に、無事元の場所に戻されるらしい。
らしい、としか言えないのは閉鎖空間が消えてわたしも通常空間に出てくると、
被害者の姿が無くなっているので、人々がどこへ行ってしまったのか、
わたしには分からないからだ。一さんのやることだから、間違いはないだろうけど。
それでは、今まではどうしていたのか。
敵を倒したあと意識を失っている人々を、
閉鎖空間内で感染した場所と同じ位置まで、機関の能力者達が運んでいたのだ。
そして、閉鎖空間が消えるときに、被害者だけ、感染した時刻にまで戻されていたらしい。
わざわざ元の場所まで運ぶ手間がはぶけるし、
いつも異空間にワープさせて戻してあげればいいと思うのだが、
それをすると、例のビジネス街の一件のように、翌日の新聞の記事になってしまうらしい。
今回は全てが片づいたら地球規模で世の中の人々の記憶改変を行う、
という条件つきの非常手段なのだそうだ。
自分が聞かされた説明を受け売り的にしているわたしだが、正直ちんぷんかんぷんである。
要は、今回は時間との戦いでもあり敵を倒しすぐ次の閉鎖空間へと向かう、
というショートカットのための手段らしい。
非常時につき閉鎖空間内は、通常空間の時間の流れから切り離されているが、
次の閉鎖空間へ向かうわずかなロスの間に、感染者の数が膨れあがってしまう。
今回は全力で相手を倒しにいく、と言った一さんに限らず、
皆が最初から死力を尽くしていた。
やがて感染元となった起動データや情報生命体が、
TFEI作業班によって全て特定、削除されると、
ようやく凄まじいまでの感染者増加の勢いが止まった。
(思えば一さんもよく戦いながら、こんなに速くしかも正確に相手を捕捉していたものだ)
閉鎖空間が減少していくのを感じるにつれ、皆の希望が確信に変わっていった。
さらにあの先輩がこちらに加勢しに来てくれた。
いち早く、七重の両親と長門さん、喜緑さんの無事の知らせを持って。
そして、受け持つべき近辺の最後の閉鎖空間で、わたし達は敵を全滅させた。
「よし、やったわ!」
あとは他地域の応援に回ればと思った。
でも、わたし達はすぐに異変に気づいた。
古泉「これは……まるで涼宮さんの――」
森「閉鎖空間が拡大し続けている……?」
新たな発生こそ無いが残っていた閉鎖空間が、
消えるどころかぐんぐんその面積を広げていく感覚がある。
サキ「どうして……敵は全て倒したから一さんが解くはずじゃ……?」
不意にぞくりとする。最近備わった能力でなく、本能的に感じ取る畏怖だ。
それは明確な敵意と共に背中から圧するように感じ取ることができた。
「サキ、うしろ!!」
先輩が叫ぶより早くわたしは背後も確認せずに反射的に白い光球になって、
前方の宙に飛び逃れていた。
地響きとほぼ同時に反転すると、わたしのいた場所に巨大な拳が振り下ろされている。
神人。
この空間の中の被造物を破壊し続け、閉鎖空間を拡大させる巨大な怪物。
それもおびただしい数が見渡す限りタケノコのように、
ぬうっと立ち上がってくるのが見える。
一さんに会ったときに見たのとは別物かというほど暴れまわっている。
だがこれが本来の姿なのだという、奇妙な既視感を覚えながら目を離せないでいると、
森「被害者の確保、ただちに上昇! 捕まらないで!」
森さんの鋭い声に、皆は我に返り、役目に戻ったようだった。
各々、被害者の人達を抱え飛び立つも、
既に一体の長い腕の射程に巻き込まれそうな仲間がいた。
間に合わない――
そう思った時、その神人は全体が赤く発光し、消滅した。
無事にこちらへ上がってくる仲間の後方からもう一つ紅玉がついてくる。
上空で円陣を組むと、後ろから来たのは一さんだった。
一「すまん」
眉をひそめながら続ける。
一「閉鎖空間と神人がコントロールできなくなっちまった」
柊さんとわたしの反応がほぼ同時だった。
サキ「なっ……!?」
古泉「ああ、なるほど」
足下で無人の街をぶっ壊し続ける轟音の中、一さんのトンデモ告白にも驚いたが、
わたし達は柊さんの合点がいった様子にもっと驚いた。
森「古泉、どういうことなの」
古泉「いえ、今思い当たったことで仮説に過ぎませんが」
森「話してみて」
森さんが短く早い言葉ながらも、落ち着いた口調で促す。
古泉「はい。考えてみれば、一くんが閉鎖空間で敵を倒す、
それも全力を使って、という状況は、ここ最近はなかったのではないでしょうか。
そもそもこの空間は一くんの負の感情で構成されているものです。
そこに、長年抑制してきた闘争心をこの空間内で解放したことで、
何らかの共鳴を引き起こし、
一くん自身にすら歯止めがきかない状態になっているのではないかと」
わたしは凍りつくようだった。
一「言われてみれば確かにそんな気もするな」
実に納得した様子で腕を組みながら頷いている。
「……この空間内だけで数百体はいる。あんた、どんだけ溜めてたの。
他の閉鎖空間内もこれじゃ、応援は望めないな」
この人はこの人で足元を見回しながら、冷静に敵の数を見定めている。
一「まことに面目ない」
わたしは黙っているとおかしくなりそうで叫び出していた。
サキ「面目ない、じゃないわよ!
こんなのどうしろっての、倒せるんなら自分で片付けなさいよ!」
最低だ。
自身の余りの無力さへの苛立ちを一さんにぶつけている。
そのいつもの穏やかな表情の底に確かに苦悩を抱えていて、それでも、
普通なら情緒も意欲も何もかも意味を失ってしまいそうなほどの永い時間を、
母親譲りの双眸にあかるい輝きを宿して歩んできた人に。
いや、もっと醜い。
わたしはひどく怯えていたのだ。
閉鎖空間と神人が在る以上、世界が終わる可能性は厳然として存在する。
たとえ、それを今まで制御できた一さんだって人間だから失敗はありうるのだ。
『機関』の人間なら常にその覚悟をもってここに立っていなければならなかった。
けれど、わたしは。
それだけは出来なかった。
正直、自分に万一のことはあるかもと、その分は腹を括っていたけれど。
七重が、あの笑顔が、消えてしまう、無くなってしまう。
わたしの帰る場所。それだけは。
そんな甘えた考えで「そんなことなどありえない」と現実を見据えることを放棄していた。
ああ。
こんなことなら、やり直せるならせめて七重とちゃんと――――
柊さんの、自分の手持ちの酸素が尽きそうな状況でも、
ただ冷静に目の前の人達の生存の可能性だけを追求する宇宙飛行士のような声が聞こえる。
古泉「いや、一くんがこれ以上戦闘を続行するのはまずい。
この推論でいくと、彼が戦えば戦うほど閉鎖空間の拡大に拍車がかかることになる」
チラッとわたしに目をやって、あくまで客観的に分析するように、
古泉「それに、一くんを責めちゃいけない。
一くんの力を過信して、この事態を予想できなかった我々のミスだ」
返す言葉もない。
「どこかに被害者を降ろす安全地帯は……なさそうね。残念、リベンジのチャンスなのに」
先輩、元気はつらつは頼もしいんですけど、そういう問題じゃ……。
今まで黙っていた森さんが、絞り出すように、
森「仮に被害者を避難させられたとしても、
神人がこの数では……悔しいけど策が無いわ。万事休すね……」
周りの人達に重い空気が立ち込めようとした時、あっけらかんとした声が響いた。
「策ならありますよ」
森「え?」
「ほら、全てのことに意味があるって言ったの、森さんじゃないですか」
言いながらわたしに流し目をくれる。
森さんが、そして柊さんが何かに気づいたようにわたしを見た。
一「そうか!」
突然、一さんが正面からわたしの両肩をつかんだ。
一「サキ! 今すぐ七重をここに呼んでくれ!」
サキ「今すぐ……ここへ……?」
一「そうだ、早くしないと間に合わなくなる」
自分の未熟さなどに考えが及ぶ前に、
わたしは、決壊した。
サキ「や…」
小さな自分の声が聞こえていた。
そして一さんの頬を平手打ちしていた。
サキ「いい加減にして!!」
と叫んでいたと思う。
サキ「あんた、七重の兄貴でしょう!?
どこのバカが、実の妹をこんな戦場に呼び出すって言うのよ……ッ!」
言い終わる前に目の前が霞み出す。
おじさんだって、おばさんだって」
後は、自分の嗚咽が聞こえるばかりだった。人前で泣くのは子供の時以来だ。
涙の粒が、すうっと下に、神人達の暴れる中にこぼれ落ちていく。
静かに、今殴った相手とは思えないほど心のこもった声が返ってくる。
一「……すまん。サキの言う通りだ。俺は親不孝で、情けねえ兄貴だ」
違う。
サキ「……」
わたしは嘘つきだ。
一「サキにも。こんなに七重を心配してくれて」
サキ「……たしだって」
一「……?」
サキ「わたしだって七重に会いたいよ!! 今すぐ会いたいッ!!」
一「サキ……」
サキ「会って、ナナに、ちゃんと……」
一「……ありがとう。そんなに七重を思ってくれて。
……どうか頼む。君と七重の力が必要なんだ」
顔を上げると、目の前で不自然なくらい思いっきり頭を下げている。
サキ「……約束して」
わたしの言葉に一さんは顔を上げて、
一「何を」
わたしを見上げながら尋ねる。
サキ「この戦いが終わったら、ずっと七重の側にいるって。七重がお嫁にいくまでよ。
今まで寂しい思いをさせた分ずっとおじさんとおばさんと七重のそばにいてあげて」
一「……わかった」
ハッキリそう聞きとれた。
サキ「……どうすんの」
一「……?」
サキ「どうやってナナをここに呼ぶのよ」
一「……これを。俺の携帯を使ってくれ」
七重『――お兄ちゃん?』
サキ「わたし」
七重『えっ? サキ、無事なの? お兄ちゃんは?』
サキ「一さんもわたしも無事よ。……ごめん。……ナナ、お願い。あんたの助けがいるの」
七重『うん、わかった。どうやってそ』
七重「こへ行けば――」
パッとわたしの目の前に現れ、自由落下を始めそうな七重を、
すかさず一さんが後ろから抱きとめ、支えた。
一「今のは俺じゃない」
携帯を返すと、聞いてないのに説明する一さんには答えずに、七重を見る。
下がとんでもないことになってるのに、一切目もくれず、
ただわたしを心配そうな目で見てる。
七重「サキ。わたし、何ができる?」
サキ「……この世界を。
終わろうとしてる世界をあなたとわたしで止めなきゃいけないみたい」
話しながら、わたしは何を言ってるのだろうと思う。
なんてことだ。いきなり幼馴染の親友に世界を押し付けて背負わせるのか。
それなのに、七重は戸惑いも見せずにわたしに尋ねた。
七重「……どうやるの?」
サキ「たぶん、この前みたいに、……でしょ?」
七重に答えながら、七重を抱えている一さんに目を移して尋ねる。
一さんが頷くのを確認していると突然七重に、また両肩を前からつかまれた。
七重「ダメだよ! それじゃサキがまた倒れちゃうでしょう!? ヘタしたら……」
どうしたってやるしかないけど、それには七重が同意しないことには……。
サキ「ねえ、そこんとこはどうなの」
一「さあ、俺にも全く予想がつかん。死ぬかもな」
おいおい、そこは嘘でも大丈夫と言おうよ。
七重は身をよじって、中学生が明日の天気でも考えるような兄の表情を見て、
七重「……そう。わかった」
え、納得したの?
七重「お兄ちゃんがああ言うなら大丈夫」
強い自信のある目をもって、今度は逆にわたしを励まそうとしている。
言葉だけ捉えればわたしの命の保障を示す内容でないのは明らかなのだが、
七重がそう言うなら兄妹の絆に賭けてみる他ない。
確かあの時は七重とは背中合わせだったけど、向かい合っての体勢でもいいはずよね……。
根拠もなくそんなことを考える間もなく、
一「放すぞ」
七重をしっかり抱き止めると、こんな時なのに変に意識して胸が高鳴った。
七重も多分、恥ずかしがってる場合じゃないとか自分に言い聞かせてるようだった。
平静を保とうとゆっくり繰り返す呼気がほのかに首筋にかかる。
一「早くしろよ、10分切ったぜ」
あんたが言うな! しかしツッコミを入れてる場合ではない。
もの凄い勢いでこの黒い空間が地球上を覆おうとしているのを感じる。
世界が終わってしまったら。
まずやっぱりこれだけは七重に言っておきたかった。
サキ「七重、あのね……、ありがとう。
わたし、お母さんがいなくて、兄弟もいなかったし、あんたがいなかったら、
きっと凄く寂しく過ごしてたと思う。あのね……」
10分以内で話せることじゃない。
いつ会ったのか覚えてないくらいずっと昔から知っていて、
二人ですこしずつ行ける場所を広げていって、
一緒に笑って、一緒に怒られて、(つまらないことでケンカもして、でもすぐ仲直りして)
一緒に泣いた。
思い出すのはとても感動的なことじゃなくて、
何気ない、ありふれたカッコ悪いことばかりで――
サキ「大好きよ、七重……」
思い切り抱き締める。こんなに温かい。
七重「サキ、わたしも。サキが大好き」
耳元の、ずっとずっと何度も聞いた声。
絶対嫌だ。失うのは。終わるなんて、無くなるなんて絶対に嫌だ。
たとえ世界が新しく生まれ変わってそこに七重がいて、
会えたとしても、今までのわたし達で無くなるなんて絶対に、否だ。
そう、今までのわたし達はお父さん、おばさんとおじさんがいて。
七重にとっては一がいた。
……ああ、そうか、こいつ言わなかったな。
わたしにとってこいつはいなかっただけで、こいつにとってはずっと、わたしはいたんだ。
謝らなきゃ……ありがとうって言わなきゃ……
そう思いかけたとき、そのこいつが最高にあほなことを言った。
一「今だっ。キスしろ!」
ふ‥
サキ「ふざけるなああっ!!」
叫ぶと同時に白い光の奔流がわたしからあふれ出し、それどころではなくなった。
世界を揺るがす無音の震動。止まらない。
でも今回は気づいた。
これはわたしの力じゃない。
わたしの胸の中が一番の中心で、そこから発せられてるけど感じる。
これは七重の願いなのだと。
七重の思い。ここで大切な人々を脅かすものを無に帰し、ここで傷ついた人を治癒する。
切なる願いがわたしに伝わってくる。
ああ、七重は小さい時からこんな祈りを背負っていたのか、
わたしにも、きっと誰にも見せず胸の奥で。
兄の無事、戦う人達の無事、滅ぼす相手への、そして何もできない自分への罪悪感。
それが折り重なって。心の奥底に押し込めて。
この眩いほどの白い光が、わたし以外の誰にも、七重自身にも見えないのは、
七重も気づかない、隠された純粋さだから。
七重の光に満たされながら、わたしは理解した。わたしだから見える。
全てのことに意味があるのなら、その中の一つのわたしの意味。
わたしだからできる。七重の思いを世界に広げよう。
七重がすべての悩みや迷いを越えて、一人胸の中でだけ貫いてきた思いだから。
だが、広げようとする白い光を圧迫し、押さえ込もうとする黒い闇を感じる。
今回は前のようにすんなりとはいかないらしい。
サキ「七重」
抱き合ったまま、顔を見ず言葉に込めて伝える。
サキ「全て渡して。わたしは大丈夫」
一瞬、間があって、わたしの背中に回した腕に力が入った。
突然、段違いに大きい揺れが来る。追い越すほどのうねる波動が―――
まずい、わたし自身が翻弄されそうだ。
一「負けるな、押し返せ!」
……あんたにだけは――――
サキ「ううおおおおおおおおおおおおっ!!」
視界が360度真っ白になりながら、わたしは自分に誓っていた。
この戦いが終わったら、このバカ兄貴をもう二、三発ぶん殴ると。
結局、七重が心配したような大事に至る事もなく、
わたしはただ三日ほど眠り込んでしまったらしい。
しかし、二度も突発性居眠り病に、しかも立て続けにかかってしまっては、
父の心配も深刻さを増すだろうという、
一の勝手な配慮によって、わたしは体内時計を一時的に早巻きにされ、
目が覚めた時は自宅の布団の上だった。
机の上の、七重の字の書き置きによって、わたしはそのことを知った。
三日分余計に歳をとったことになるが、
寝ていればどうせ同じことだからやはり感謝すべきなのだろう。
携帯で確認すると、あの戦いから数時間も経っていなかった。
いつも通り起床する時間も近くなっていたし、
わたしは家事と、学校に行く準備を始めたのだった。
それから、何事もない日々が続いた。
わたしは気づけば能力者としての力を全て失ってしまっていて、
もう閉鎖空間を感知することができなくなっていた。
そして、『機関』の方から知らされることもなく、わたしと七重はただ平穏の中にいた。
学校生活での変化はと言えば、他クラスではあるが、
あの先輩が同級生として転入してきたことである。
情報統合思念体のインターフェースとしての一面を持つ彼女は、
七重の観測役の任務だけ長門さんから引き継いだのだそうだ。
だけどわたしが思うに観測する役目というのは、
もっと引き気味なスタンスの人がやるものだと思う。
転入早々、自己紹介からしてクラスを湧かせたらしい彼女は、
今や次の学期は委員長、はたまた生徒会長と目されると風の噂に聞く。
そうそう、新しい部活を作ったから入らないかと誘ってくれて、
そう言えば何の部にも所属していなかったわたしと七重は、
彼女の人柄に引かれて、何の部活か確かめもせずに用紙に名前を書いてしまった。
部はいきなり作れないから正しくは同好会というのだろうか。
彼女自身、やりたい案が膨大にあるようで、
幾つかにまとめるからその時また意見を聞かせてほしい、とのこと。
今までとは違う方向に、つまり学校生活の方が賑やかになってきた。
でも、もう閉鎖空間に出入りすることはないが、
わたし達を脅かすあの存在が全て消えてしまったわけではなく、
『機関』の戦いは続いている。
なのにあれ以来、一度連絡をとった柊さんや森さんに会うこともなくなってしまった。
ある日、坂道を下りてきたところで柊さんが、笑顔を浮かべて待っていた。
片手を軽く挙げて、
古泉「やあ」
七重「あ、わたし先に帰ってようか」
すると柊さんが、
古泉「今日は主に二人の友達として、話したくて来たんだ。
天気も良くなったし、歩きながら話さない?」
なんだか今日の柊さんはとてもリラックスしていた。
にこやかにストレッチしながら歩き、周りの景色を見て、
古泉「う~~ん、ここは緑が多くて、いつ来てもいいなあ」
わざわざ話にきたはずなのに何やってるんだろう、
とわたしと七重も拍子抜けした感じでついていく。
柊さんは足に任せて、線路わきの県道から土手を登り、川沿いの遊歩道へ入る。
ずっと南のほうまで、桜並木が川の両側の道に続いている。
昨夜に止んだ雨ですこし地面が湿り気が残っているが、
よほど大きな水たまり以外は残っていない。
雲のかたまりから抜けた日が射すと、まるで子どもの何の屈託もない笑顔のように、
あたり一面がまぶしい。
木陰の乾いたベンチの上を軽く手で払うと、柊さんはわたし達に座るよううながした。
七重をまんなかに腰かけると、柊さんが顔を向けて、
古泉「小坂さん。あれから何か、困ってることはないか?」
サキ「大丈夫です。普通の日常に戻ったというか」
古泉「よかった。それが何よりだ。
これからも『機関』の一員として、七重ちゃんのことを頼むよ」
サキ「はい……。あの、わたしと会っててもいいんですか。その……忙しいのに」
古泉「何言ってる。森さんや僕、それに多丸さんたちは、
『機関』での関係を外れたところじゃ、
これからも君とは年の離れた友人としていたいんだが、駄目かい?」
サキ「いえ、こちらこそ皆さんのことが好きですから是非お願いしたいんです、ただ……」
口を濁したわたしに、
古泉「そうそう、君にはまだ紹介してなかったけど、
新川さんという、『機関』を引退した男性がいてね。
今回のことを報告がてら君のことを話したら、とても会いたがってたよ」
サキ「そうですか……」
あれ? 新川さんって、確か。
古泉「そう。鶴屋家の執事の」
ああ、やっぱり。当主の鶴屋さんはおじさんおばさんと高校時代からの友達らしい。
涼宮家の家族旅行にわたしもご一緒する時があるけど、行き先はあちこちなれど、
宿はたいてい鶴屋さんが気前よく招いてくれた別荘だ。
そしてそんな時、決まって温厚そうな年配の男性のお世話になっていた、まさにその方だ。
もっと一番深く覚えてることがある。
この辺りには鶴屋家私有の山があるけど、子どものころ七重と勝手に遊びに入って、
道に迷っていたわたし達を、何故か探して見つけてくれたのも新川さんだ。
もうとっくに日も暮れてるのに、家まで送って帰ってくれて、
それぞれの親に叱られてるのをかばってくれた。
七重もきっとよく覚えてると思う。
森さんも柊さんも、新川さんも多丸さん兄弟も、みんな温かい目をしている。
あんな戦場をくぐり抜けてきた人ばかりだというのに、
それだけに染まらない優しく強い目をしている。
思い切ってわたしは口を開いた。
サキ「柊さんや森さんはこれからも戦いつづけるんですよね。
……なんだか、わたしだけ抜け出したみたいで」
柊さんはわたしが話し終わるまで、静かに聞いていたが、
あのいつもの説明するときの、整然とした口調で話してくれた。
古泉「いや、僕らは今は天職だと思ってるし、
もともと、これからも体が動くかぎりは続けていくつもりなんだよ。
そして、皆君に感謝してる。
それに君が力を失ったということは、その役目を果たしたんだと誇っていいことだ。
我々にしてみれば、君がずっと力を持ち続けていることの方が心配なんだ。
それは君がずっと危険の中へ飛び込んでいかなきゃならないってことだけじゃない。
あの力を持った者が現れるということは、
また涼宮一が神人を抑えきれない事態が起きる恐れがあることを、
意味するのかもしれないから」
サキ「そんなものなんでしょうか」
古泉「森さんの言うとおり、
全てのことには意味があるんだと思わされるところがあったからね。
もっとも、今回は幸運に恵まれただけかもしれないけど、
いずれにせよ、君が自分を責めることはないよ」
柊さんたちのほうが大変なのに。
サキ「そう言っていただけると……。ところで、一は今も戦ってるんですか」
わたしには今閉鎖空間が発生しているか感じ取ることはできない。
古泉「戦いを続けてる。でも、以前に比べたら、我々に任せるようになったほうだよ」
やっぱり、あいつは時々、いや多分かなり家を留守にしてたのか。
わたしが行った時は取り繕ったように戻ってたんだな。
七重「でも、お兄ちゃん、前よりよく笑ったり話したりしてくれるようになったんだよ。
おじいちゃんやおばあちゃんは、よく遊びにくる男の子だと思ってるけど、
おじいちゃんの畑仕事を手伝ったり、
おばあちゃんに世界中の旅したところの話をしたり。
お父さんやお母さんとも、次はなるべくこの日にちに帰ってくるから、
家族で何かしようとか……」
サキ「わたしは七重がいいなら。本来わたしが口出ししていいことでもないし。
あいつなりに使命を帯びてやってるんだって、分かってる。
……あんたの兄貴は大した男よ」
七重が胸一杯、嬉しそうな顔を輝かせる。
七重がこうしている限り、わたしが誓いを果たすことはないだろう。
もう少し、この健気な妹に寂しい思いをさせないでくれればね。
古泉「しかし、今回のてん末を涼宮さんに報告したら怒られてしまってね」
頭をかきながら話す柊さん。
サキ「え、怒られた? 七重のお母さんに? 七重まで巻き込んだから?」
七重「ううん、そうじゃないの」
柊さんは川の方を見ながら答えた。
古泉「一くんのことでね。実は、涼宮さんからは前々から言われてたことなんだがね、
一くんの力を、もっと人間同士のことに使うべきだと。
何といっても一くんのお母さんだから」
確かに、宇宙から襲来する敵と戦うこと以外に、一が何かしてると聞いた覚えがない。
考えてみれば、スーパーマンのような、人助けにだって生かせそうな力を一は持っている。
サキ「でも、いつ現れるか分からない敵と戦いながらそうするのって、
大変なんじゃないですか」
柊さんは意外そうな目でわたしを見て言った。
古泉「……確かに。それだけじゃなく、色々な理由で、統合思念体や『機関』からは、
今までは一くんに天蓋領域からの地球の防衛に専念するように求めてきて、
そして一くんはそれに応えてきてたんだ。
涼宮さんもしぶしぶながら了承する形でね」
サキ「じゃあ、今回のことでおばさん、それ見たことかだったんじゃないですか」
柊さんは痛いところを突かれたような笑顔を見せながら、
古泉「正にそのとおり。涼宮さんだけじゃなく、長門さんからもついに意見が出てきてね。
我々もとうとう、一くんの意志に委ねることになってしまった。
どうなることやら、とにかく森さん達の長年の苦労も水の泡だよ」
その割にどこか嬉しそうに見えるけど。
役割についての話で思い出したが前から気になってたことがある。
サキ「あの……突然ですけど柊さんって普段何してるんですか」
古泉「そう言えば今まで、話したことなかったな」
七重「ええ、二人とも……」
皆でおかしくて笑ってしまった。
確かに。何度もお会いしてるのにそれどころじゃなかったから。
古泉「大学で文化人類学を教えてる。
それから、妻の家が神社なんだが、そこで神主の仕事も少々ね。
まあ、ほとんど研究のための出張ってことで家を空けて、
家族からは半ば呆れられてるけど。
……妻も娘達も理解してくれてるのは本当に有難いことだ」
柊さんに教わる学生は幸運だ。
それにしても、そんないい奥さんや娘さんたちを悲しませないでくださいね。
柊さんは苦笑して、
古泉「一くんから聞いたよ。ありがとう、めったなことでは無理はしないさ。
でも、奥さんって呼び方は正確じゃないかもしれないな。
小さいけれど町に弁護士事務所を開いて、
彼女も家事と仕事で毎日忙しくしてるからね。
娘達が曲がらずに育ってくれたのは、彼女のお陰だよ」
あのカギを使ってこっそりあちらの世界に戻ったりしているのかもしれない。
そうだ、カギで思い出した。
サキ「これ」
わたしはポケットからカギを取り出した。
サキ「長門さんにお返ししようとしたんですが、
『いい』とか『わたしからのお礼』とかおっしゃって首を振るばかりで」
古泉「持ってればいいじゃないか。
君の判断で使えばいいし、別にあの場所は利用してくれて構わないよ」
サキ「でも、落としたりしたら困るし」
古泉「君はそんなにおっちょこちょいには見えないけどね。
そうそう、今度家に遊びに来てくれ。娘達は君達と同い年だし、
きっと気が合うと思うよ」
七重「わたしもそう思う。時々しか会わないけど、
双子ちゃんなのに全然性格が違ってて、でも二人ともすごくいい子だよ」
それは会ってみたいな。今度、うかがう時にわたしからお電話します。
じゃあ、そろそろ失礼します……
挨拶して見送り、わたし達も歩き出すと、七重が言った。
七重「ねえ、このまま北口まで歩いていかない?」
サキ「うーん、夕飯の買い物あるしなあ……」
七重「たまに北口で買ってもいいじゃない、帰りはバスで」
サキ「でもやっぱり歩くにはちょっと遠いよ……」
七重「じゃあ走ろうっ」
と駆け出す七重。
サキ「ええっ。なんでそうなるの!?」
わたしも走ってついていく。
まあでも、こんなことで騒げる日が戻ってきたことが素直に嬉しい。
北口駅辺りを二人でぶらっとするなんて随分久しぶりだ。
そう言えば、もうすぐ七夕。七重の誕生日だ。
あの「転入生」の子を誘って七重に内緒でプレゼントを探す、その下見にしようかな。
七重「サキ、何ニヤニヤしてるの?」
サキ「ううん、何でもないよ」
昨日降った雨の水たまりには、雲間から顔を出した太陽がキラキラ光っていた。
このSSは「幸せな瞬間を詰め込みたい」と思いながら書いていました。
もしそんなひとときをお届けできたなら幸いです。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494741419/
Entry ⇒ 2017.06.11 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
ハルヒ「あたし達はずっと一緒なんだからね」
初めてのスレ立てなのでなにかあればご指摘ください。
では短いですがお付き合いいただけると嬉しいです。
「有希っ。ちょっと、おいてかないでよ」
SOS団の団活の帰り、私たちは帰り道を一緒にすることが多くなった。
涼宮ハルヒと朝比奈みくるが先頭を歩き、その後ろに私が。さらに後ろに彼と古泉一樹が並んで歩く。
基本この形は変わらない。ただ、涼宮ハルヒが朝比奈みくるをかまいすぎて、結果として全体の歩みが止まることがある。
こういう時、私は集団から離れすぎないよう、速度を調整して歩くようにしていた。
とはいえ、歩みが鈍化、あるいは停止させている彼女たちと比べて常とそう変わらない歩幅で歩いていれば
自然と集団から離れ、先を歩くことになるのは道理だ。
先に言ったように注意はしているけれど自然私が先を歩く形になる。
すると決まって、涼宮ハルヒが「おいてかないで」と少し困った風に笑いながら私に言うのだ。
私はその度に、自身にエラーが蓄積することを実感していた。
状況からみて涼宮ハルヒが私に対し、そう言葉をかけるのは当然と言えるし、なにも不思議に思う所はない。
私自身、彼女の主張に正当性を認めている。つまり異論などはない。ただ――
本来先行くものとは涼宮ハルヒや朝比奈みくる、彼や古泉一樹であって私ではない。
意識は存在し続ける。大元である情報統合思念体に文字通り統合され、永遠に近い時を揺蕩うことになるだろう。
それはきっと変わらない未来予想図。異時間同位体との同期を解除した私にとって確実な未来を知るすべはないが
涼宮ハルヒの監視が終われば私の任は解かれることになる。
監視の終わりとは彼女の死と同義。
病気や事故、それとも天寿を全うできるのか、顛末はわからない。
しかし確実に言えることがある。いずれ涼宮ハルヒは確実に死ぬ生命体であり、私は違うという事。
「……置いて行かれるのは私」
「? 有希、何かいった?」
「別に」
「そう? あっ、今度の休みの予定なんだけど、キョンの家が使えなくなったのよね。だから有希の家が空いてたらなーと思ったんだけど、大丈夫?」
「平気」
「さっすが有希! ちょっとキョン? あんたも有希を見習って、常日頃から自宅を明け渡す用意くらいしときなさいよね」
「お前は地上げ屋かっ。おい長門、あんまりコイツを甘やかすんじゃないぞ、そのうち本当に家を奪われかねん」
「あんたこそあたしのお母さんか! 有希、こんな奴の話に耳を傾ける必要はないわ!」
「あ、あの~二人とも落ち着いて下さぁい」
「喧嘩するほど仲が良い、とは言いますがここは公道ですからね。そういうのはまたの機会に、ということで」
いつもの光景、平和な何事もない日々。ふと、この日常が永遠に続くかのように錯覚してしまう。
それは「ずっと続いてほしい」という、私の願望がそうせるのだろうか。
以前、涼宮ハルヒが夏休みを延々とループさせたことがあった。当時の彼女と似た心理状態にあるのかもしれない。
朝比奈みくるが三学年に進級し私を含めた4人は二学年となった。高校生活でSOS団が全員揃っていられるのも今年で最後。
――以降、胸の内に巣食う不安(エラー)がぬぐえない。
論理的に考えれば決定的な別れはまだ先であり、朝比奈みくるも高校を卒業してすぐ、未来へ帰還するわけではないだろう。
だが、と思う。彼女たちSOS団との触れ合いの中で私は人の心を理解し過ぎた。
置いていかれることに恐怖を感じる。涼宮ハルヒの言葉が記憶領域に焼き付いて消去できない。
「『おいてかないで』……」
「当たり前でしょ」
はっ、と思考に埋没していた私の意識が現実に引き戻される。
気づかない間にうつむいていた顔を上げると涼宮ハルヒが虚を突かれた顔で立っていた。
他の三人は少し離れた先でこちらを伺っている。
先ほどとは違い、最後尾は私。
まるで今後の行く末を示唆するかのような逆転した位置関係に、息が詰まった。
「……大丈夫」
「本当に?」
「本当」
咄嗟にしぼりだした言葉で取り繕うと、彼女は少々訝しんだものの苦笑して引き下がった。
――声に出していた。浮かび上がったのは驚愕、次いで焦りに類する感情。
これもエラーが蓄積した故の誤作動だろうか。
私らしくない行為だったと思う。今は引き下がってくれた彼女も同じような出来事が続けば
いずれ不審に思って改めて問いただしてくるだろう。そうなったとき、しかし私は真実を話すことができない。
結果涼宮ハルヒのストレスが一定ラインを超え、閉鎖空間ないし、なんらかの能力の発露が
周囲に影響を与える可能性がある。
ならばこのエラーを不要なものとして消去するのが最も合理的な選択。
今の私はこのエラーと向き合いたいと考えている。だから、出来れば機械的に処理したくはなかった。
「有希」
再び、彼女が私の名前を呼んだ。
また何か、私は不審な態度をとってしまったのだろうか。
彼女の顔色をうかがうも、そこにあったのは静かな微笑み。
「おいてかないから、はい」
そういって私に手を差し出してきた。
「……」
「ほらっ」
動かない私を見かねたのか、やや強引に手をつないでくる涼宮ハルヒ。
暖かいと思った。物理的な意味だけでなく、彼女が私を気にかけて手をつないでくれる事、そのものが。
私と彼女の時間は今この瞬間確かに重なり合っていて、同じ時間を生きている事を実感する。
ただ、これもいつかは失われてしまうのだろう。どれだけ今が輝いていてもいつか彼女も私を置いて先にいく。
けれど、この瞬間は紛れもなくかけがえのないもので――結局、堂々巡りに陥る思考回路。
それが少しだけ、憂鬱だった。
「なに考えてるのか知らないけど」
そう言って私の瞳をのぞき込む涼宮ハルヒ。
その顔は常になく真剣で、私は思わず息をのんだ。
「……」
「だから置き去りになんかしない。 皆もそう、あたし達はずっと一緒なんだからね、有希!」
彼曰く、大輪の花を咲かすような100Wの笑みを湛えて涼宮ハルヒは言い切った。
「……そう」
彼女の考えている内容と私の悩みには小さくない齟齬がある。それでも、嬉しかった。
何かが解決したわけではない。未だ私は彼女たちに置いて行かれることに恐怖を覚えるし
今後確実に来るであろうその日を忌避する気持ちが消失したわけでもない。
ただ、いつかくる別離に怯えて今を楽しめないのでは本末転倒というもの。
彼女のおかげでそう思えた。
彼女に手を引かれて、皆の下に駆けていく。
三人に視線を向けると、ちゃんと私達を待ってくれていた。
いつか、時の果てで私という存在が消え去るときも同じように待っていてくれるだろうか。
いや、他でもない。彼女が、涼宮ハルヒが言ったのだ。
私を置き去りになんかしない、ずっと一緒だと。 なら、それを信じよう。
――もし今の私の心情を朝倉涼子が知れば「ヒューマノイド・インターフェースがバカげてる」と一笑に付すだろう。
実際、涼宮ハルヒの言葉が私の望む形で実現する可能性はゼロに近い。
けれどそれを信じる事こそが今の私がエラーに対して導き出せる、唯一の答えだった――。
本当に短いお話で申し訳ない……次があればもう少し長いお話に挑戦したいと思います。
それではありがとうございました。
最近ハルヒSS増えてて嬉しい
乙
久々にいいものを見た
口調に多少の違和感はあったが面白かったよ
長ハル好きだよ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494849904/
Entry ⇒ 2017.05.26 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」 キョン「やめろ!古泉!」
だが――
キョン「ぐぉっ!?」
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
凄い力で払いのけられた。
クソッ! ただ前屈みで動いてるだけなのに、どこでそんな力入れてるんだこいつ?
朝比奈「ふ……うぐ、ひぐ、古泉くぅん……」グス
朝比奈さんは泣いている。
無理もない。かれこれ古泉は三十分近くこの状態なのだ。
俺だって本当はとっくに泣き出したかった。
なぁ古泉よ、おまえどうしちまったんだよ?
お前の役割は解説役であって、そんな楽しそうにオセロ盤を転がす役じゃないだろ?
いつものイラつくニヤケ顔を見せてくれよ……なぁ
古泉「…………」
キョン「お前が何か困ってるってんなら俺は全力で手助けしてやる」
キョン「朝比奈さんや長門だってきっと同じ気持ちさ。だから話を――」
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
畜生っ!!!
こいつは腹の底がまったくわからん野郎だが部室で延々とこんなことする奴じゃ断じて無い!
なぜかって? 決まってるだろ?
ハルヒがこいつのこんな姿見たらどう思う?
頼れる副団長様がキ●ガイみたいにオセロ盤を転がしているんだぜ? 俺なら発狂するね。
そうすりゃ世界はたちまち崩壊の危機だ。それを防ぐのがお前の主な仕事なんだろ?
幸い今は掃除当番が長引いて部室にはまだ来てないが……
キョン「ん……ハルヒ? そうか! ハルヒか!?」
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
くそったれ! まともな答えが返ってくるわけもないか!
どうする……? 何か、何でもいいんだ。せめてヒントだけでも教えてくれ。
朝比奈「古泉くん……もうやめてください……私、なんでもしますからぁ」グス
残念ながら今の朝比奈さんは俺と同じ、ただ狼狽えるだけの一般人に等しい。
未来の朝比奈さん(大)が現れる気配もない以上、頼れることはないだろう。
古泉の行動からあることに気づいたからだ。
よく見りゃこいつのやってることはさっきから三パターンだ。
1.オセロ盤を転がす
2.オセロ盤を持ち上げ横歩きする
3.オセロ盤を前に差し出す
この三つをローテーションで繰り返している。
ここまでされりゃ谷口でも気づくだろうな。
気づいてみれば簡単なことだった。
まったく、最初からカーポートマ●ゼンのタイヤを使ってくれれば5分もしないうちに気づけただろうによ。
だがよ、古泉、わかってるぜ?
オセロ盤を使ってることに意味があり、そこにお前のメッセージがあるんだな?
古泉「ロクロクロクロクロクサーニ♪」
オセロ盤……オセロ……白黒……パンダ……動物園……
なんでもいい。そこにきっとこいつを元に戻すヒントが隠されてるはずなんだ。
キョン「長門! オセロについて教えてくれ!」
長門「……オセロの語源は元々シェクスピアの戯曲から来ており――」
なるほど、俺は長門からオセロについての歴史、ルール、大会など様々なことを学んだ。
念のため長門の指導の下、朝比奈さんとも一戦を交えた。
意外なことに朝比奈さんは古泉よりは遥かに強く俺との対戦は白熱したものとなった。
キョン「ええ、でも楽しかったですよ。また機会があればぜひ」
朝比奈「はい、喜んで♪ 長門さんもありがとうございました」
長門「礼はいい……私は求められたことをしただけ」
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
さてと、古泉よ。大体わかってきたぜ。お前の言いたいことがな。
つまり大切なのはオセロじゃない。この部室に関係することだったんだ。
この部室内で今もっとも頼りになるのは誰だ?
そう、俺が頼りっぱなしで申し訳なく思ってるSOS団員筆頭、長門有希以外居やしない。
お前はずっと長門に事情を聞けって言いたかったんだな?
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
ったく、いちいち回りくどいんだよお前は。
この事件が解決したら、そこんところ改善を要求するぜ。
長門「…………」
キョン「お前は古泉がこうなっちまった経緯を知ってるのか?」
長門「知っている」
やっぱりな。ここに辿り着くまで長かったぜ。
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
古泉の顔にも疲労が浮かんでいた。無理も無い。あの動きをすでに50分だ。
朝比奈「ど、どうしてすぐに言ってくれなかったんですかぁ?」
長門はゆっくりと朝比奈さんの方を向き、
長門「私の役目は観察だから」
と告げた。
その表情が悲しそうに見えたのは決して俺の勘違いではないだろう。
古泉「ロクロクロクロクロクサーニ♪」
長門「…………」
キョン「だが、聞いた以上はこれからはSOS団の一員として古泉を戻すことに協力してくれ」
長門「…………了解した」
少し間を空けた長門だがその語気はこころなしか強いものがあった。
よし、待ってろよ古泉! すぐに元通りのいけ好かない顔のイケメンに戻してやるぜ!
やっぱりハルヒか……。あのCMを見たんだな?
長門「そう。そのメロディが脳内に残り不快を感じた涼宮ハルヒは閉鎖空間を発生させた」
長門「古泉一樹に変調が現れたのもちょうどその頃」
だが俺の見る限り2週間前には古泉におかしな所は見受けられなかったぞ?
朝比奈「私も古泉くんはいつもどおりに見えました」
長門「その頃から彼の頭には独特のメロディが24時間休むことなく流れていた」
キョン「それは、つまり……」
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
長門「そう。カーポートマルゼ●のCMメロディ」
長門「そう」
朝比奈「そんな……!」
長門「……彼の精神は常人より極めて強靭だった」
長門「通常なら一日と持たないはずが彼は一週間は普段と変わらぬ暮らしを過ごしてみせた」
だが言われてみれば確かにその予兆はあった。
突然大量の精神安定剤を飲んだかと思えば泣き出したり、
窓から飛び降りようとして『死なせてください』と叫んだことも一度や二度じゃない。
クソッ……! 古泉……お前はあの頃からずっとカー●ートマルゼンと戦ってきたのか……!
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
キョン「何で一人で抱え込むんだよ……この馬鹿野郎……!」
長門「そしてそのメロディ閉鎖空間に閉じ込め、その場に居た古泉一樹を汚染した」
古泉「ロクロクロクロクロクサーニ♪」
キョン「どうにか……戻す方法はないのか?」
その言葉に……長門は首を横に振った。
朝比奈「そ、そんな……!?」
長門「……涼宮ハルヒがあのCMを忘れればある程度は対処可能」
長門「しかし、あのCMは流れ続け、涼宮ハルヒはその度に閉鎖空間を発生させる」
長門「相手は全国的な大企業……打つ手はない……」
長門は微かに震えている。
朝比奈さんは床に座り込んで涙を隠そうともしない。
古泉「タイーヤマルゼンッタイヤマルゼン♪」
俺は――
朝比奈「! ほ、本当ですか、キョンくん!?」
キョン「ええ、条件はたったの二つです」
キョン「ハルヒにあのCMを忘れさせること。そしてあのCMを流さなくすること」
キョン「これだけで古泉は救われるんです」
長門「……その方法が私の中にはない」
キョン「簡単だ、電凸するんだよ」
キョン「それは電信柱のおっさんの言い方です。電凸というのは……」
長門「ある特定の団体、組織等に電話などを用いて抗議、見解を一方的に述べる行為」
長門「つまりはクレーム」
キョン「そうだ」
キョン「長門と朝比奈さんは例の企業に電話でもスパムメールでも何でもいい」
キョン「クレームを入れまくってあのCMを自粛させてほしいんだ」
朝比奈「ふぇぇぇぇ……でも私にクレームなんて出来るでしょうかぁ?」
キョン「鶴屋さんやその周囲の力を借りてください。長門は遺憾なくその能力を発揮しろ」
長門「…………わかった」
古泉「ホイールマルゼンッホイルマルゼン♪」
作戦が決まるや否や俺たちの行動は早かった。
長門は例の高速詠唱を始め●ーポートマルゼンにクレームを入れ、
朝比奈さんは鶴屋さんに頼みカーポー●マルゼンの株を買い占めてもらった。
俺? 俺はもちろんハルヒの所に向かったさ。
部室に向かっていたあいつを抱きしめ、ジョン・スミスが俺であることを明かし、
好きだと告白して、キスをした。
これであのCMのことを覚えてたらもう本当に打つ手なし、お手上げだった。
なにせ俺は翌日を向かえ、部室であの昨日奇怪な動きをしてた野郎とオセロを興じているからだ。
キョン「どうだ? 調子は」
古泉「すこぶる快調ですよ」
古泉「あの音が鳴らないだけでこんなに世界が澄み渡って見えるなんて久しく忘れていました」
古泉「なにせこのごろは寝ている間はもちろん起きているときもあの三人組の幻影を見ていましたからね」
キョン「それが限界をきたして昨日のアレだったわけだ」
古泉「いや、お恥ずかしい」
そうかい、だが俺だけが活躍したわけじゃないぜ?
長門、朝比奈さん、おっともちろん鶴屋さんにも感謝しておけよ。
古泉「もちろんですよ」
古泉「もしこの先機関とその四人の方が対立するようなことがあれば僕は迷わず機関を捨てます」
古泉「それでもまだ足りないくらいですがね」
おいおい、過激だな
朝比奈「あのままだったら私、本当にどうしようかと……」グス
古泉「ああ、どうか泣かないでください」
古泉「僕もまたこうして朝比奈さんのお茶を味わえて嬉しいですよ」
キョン「別にお茶はいつも飲んでただろ」
古泉「いいえ、すでに何を口にしてもゴムの味しかしなくなっていましたので」
…………地獄だったんだな、本当に
朝比奈「あ、でも……」
キョン「どうしました?」
朝比奈「ううん……あんな大事にしなくても」
朝比奈「長門さんの力で涼宮さんにあのCMだけ頭に残らないようにすればよかったのかなって」
キョン「…………」
古泉「…………」
長門「そのとぉ~り♪」
キョン「!!?」
長門「ピアノ売ってちょ~だぁ~い♪」
~終わり~
お付き合いいただきありがとうございました!
イエローハットも仲間に入れてやってくれ
おつおつ
ぽぽぽp
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Entry ⇒ 2017.05.19 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
ハルヒ「あんた、昨日みくるちゃんとなにしてたの?」 キョン「な、何のことかな?」
キョン「そりゃ2人だけの時もあるだろ。何のやましいこともない」
ハルヒ「しかもわざわざ有希を部屋から追い出したっていうじゃない!」
キョン「追い出したのは俺じゃない、朝比奈さんだ」
ハルヒ「どっちでもいいわ。それで、2人で何してたのよ?」
キョン「何って、他愛もない話をしてだけだ」
ハルヒ「ふーん、話ねぇ。2人きりじゃないと出来ない話っていったい何かしら」
キョン「それは..(まさか時空移動の話と言うわけにもいくまい)」
ハルヒ「答えられないような話をしてたのね」
キョン「ちょっと待て、なんでわざわざお前に報告しなきゃいけないんだ」
ハルヒ「当然でしょ!団員のことは全部把握してるのが団長の役目よ」
ハルヒ「私があると言ったらあるの!」
キョン「相変わらずめちゃくちゃだ」
ガチャ
みくる「こんにちはぁ」
キョン「(あぁなんてタイミングで)」
ハルヒ「みくるちゃん、いいところに来たわ!」
みくる「..へっ!?」
みくる「へっ..いや..そのぉ..」
キョン「別にたいしたことはしていないぞ。朝比奈さんも覚えてませんよね?」
みくる「えっ..あ、はい..」
ハルヒ「ふーん、覚えてないの」
キョン「おまえだって、誰と何を話したかなんていちいち覚えてないだろう」
ハルヒ「私は覚えてるわ。つまらない話ほどね!」
キョン「(嫌な奴だ)」
ハルヒ「思い出話?」
キョン「そうでしたそうでした、たしかそんな話を」
ハルヒ「じゃあなんで有希を追い出したわけ?」
キョン「えっ?...それはその..なんででしたっけ?」
みくる「えっ..っと、長門さんはそういう話はあまりお好きじゃないかなと思って..」
キョン「そうそう、興味の無い話を延々と聞かされるのは辛いからなぁ。長門には図書室で本でも読んでろって言ったんだよ」
ガチャ
長門「...」
ハルヒ「有希、ちょうどよかったわ!」
キョン「(お前もなんてタイミングでくるんだ)」
ハルヒ「あんた、昨日この2人に部室追い出されたんでしょ?」
長門「..そう」
長門「..読んでいない」
キョン「なっ!」
ハルヒ「どういうこと?キョンに言われて図書館に行ったんじゃないの?」
長門「..言われていない」
みくる「へきょっ!」
ハルヒ「...どういうこと?」
長門「..言われていない」
キョン「(宇宙人に空気読めってのが間違いだったぜ)」
ハルヒ「あんたたち、やっぱり何か隠してるわね」
キョン「何も隠しちゃいない。朝比奈さんと映画の思い出話をしてただけだ。長門はその..ちょっとした誤解があるだけだ」
ハルヒ「..もういいわ、みくるちゃん!」
みくる「へっ!?」
ハルヒ「お茶いれてちょうだい」
みくる「は、はい..」
キョン「(やれやれ..)」
ガチャ
古泉「どうも、皆さんお揃いですね」
キョン「お前はいつも無駄に爽やかに登場する奴だ」
古泉「おや、どうされたのです?顔色がよろしくないようですが」
キョン「なんでもない。ただの精神的疲労だ」
古泉「それはいけませんね、ストレスは体によくありませんよ」
みくる「お茶です、どうぞ」
古泉「ありがとうございます、朝比奈さん」
キョン「さっきはすみませんでした朝比奈さん」
みくる「いえ、大丈夫ですから」
キョン「まさかとは思うが..もしかしてあれが?」
古泉「ええ、閉鎖空間です」
キョン「耳元で囁くな。顔が近いんだよ」
古泉「涼宮さんに聞かれると、色々ややこしいですので」
キョン「やれやれ、また変なものを作り出しちまったのか、ハルヒは」
古泉「それも、ここ最近で1番大きなものです」
キョン「それはつまりハルヒのご機嫌がここ最近で1番悪いってことか」
古泉「その通りです」
キョン「にこやかに言うこっちゃねえ」
キョン「朝比奈さんのせいじゃありませんよ。ハルヒが勝手に不機嫌になってるだけです」
古泉「そうですねぇ。強いて言うなら、いちばんの原因はあなたでしょう」
キョン「なんでそうなる」
古泉「涼宮さんは、あなたを本当に信頼しているのです。ですから、あなただけにはいつだって期待を裏切らないで欲しいと思っているのです」
キョン「俺は聖人君子じゃない」
古泉「涼宮さんにとってあなたは、聖人君子以上の存在なのです」
古泉「ええ、もちろんその通りです」
キョン「お前バカにしてるだろ」
古泉「バカになんてしていませんよ。ただ、疑問を持っています。なぜ涼宮さんがあなたにここまで絶大な信頼を寄せるのか、とね」
キョン「そんなもん俺が知りたい」
古泉「あなたは何故かご存知だと、僕は思っているのですがね」
キョン「どういうことだ?」
古泉「まぁこの話はまたいつか。今は閉鎖空間が先です」
古泉「以前あなたと一緒に行った時の軽く10倍はあるでしょうか」
キョン「10ば..なにがらそんなに気に食わないんだハルヒは」
古泉「さて、涼宮さんの心の奥底までは流石に僕にもわかりません。ですが、相当のことがあったのでしょうね」
キョン「相当のことねぇ」
古泉「ではそろそろ行って来ます。仲間たちがもう頑張っているようなので」
キョン「ああ、わかった」
古泉「ではすみませんが、バイトがあるので先に失礼させていただきます」
ハルヒ「あれ古泉くん、もう帰っちゃうの?」
古泉「ええ、ではまた明日」
キョン「いったいお前は、どこでそんなパイプを探してくるんだ」
ハルヒ「探さなくても勝手に集まってくるのよ。私の人望が成せる技ね..みくるちゃん、お茶おかわり!」
みくる「あ、ハイハイ」
キョン「(とても人望がある人間がやることとは思えん)」
みくる「ありがとうございますぅ」
キョン「(それは俺も同感だ)」
ハルヒ「いっそのこと、ここで喫茶店でもやろうかしら。みくるちゃんが淹れるお茶一杯1500円は取れるわね」
キョン「そんなの誰が払うんだよ(1000円までなら出せる!)」
ハルヒ「どう、みくるちゃん?やってみない?」
みくる「えぇ..でも..ただのお茶ですし..」
ハルヒ「みくるちゃんが淹れたら、ただのお茶が特別なお茶になるのよ!いいかげん自分の価値を自覚しなさい」
キョン「(これまた同感だ)」
みくる「自分の価値..ですか?」
ハルヒ「決まり!SOS団カフェ、開店するわよ!」
キョン「本気かよ!」
キョン「文化祭でもないのに、勝手に店なんて開いていいとは思えんが」
ハルヒ「大丈夫。バレなきゃいいのよ!」
キョン「相変わらず言ってることが矛盾してる気がするのだが」
ハルヒ「なに、なんか問題ある?」
キョン「バレないように店を開いても、客なんか来ないだろ」
ハルヒ「客にだけバラせばいいじゃない」
キョン「いやもういい、このままじゃ無理問答になりそうだ」
ハルヒ「ねぇ有希、有希はどう思う?」
長門「...いい」
ハルヒ「よし決まりね。早速準備に取り掛かるわよ」
キョン「準備って」
ハルヒ「キョン、買い出しにいくから付き合いなさい」
キョン「まさか、また坂道を無駄に往復させるつも」
ハルヒ「早くいくわよ!」
みくる「あ、はい..お気をつけて」
キョン「ホントにいいんですか?ハルヒがまた勝手に話を進めてますけど」
みくる「涼宮さんの機嫌がよくなるなら..いいと思います」
キョン「(まったくどこまで健気なんだこの人は)長門、さっきは悪かったな」
長門「...別にいい」
キョン「あと、さっきみたいな時はなるべく話を合わせてくれたら助かるんだが」
長門「...努力する」
キョン「頼むぜ」
長門「..いってらっしゃい」
キョン「あ、ああ」
古泉「どうも」
キョン「あれ、どうしたんだ」
古泉「それが、閉鎖空間が突然壊れてしまったのです」
キョン「それはつまり..」
古泉「ええ、涼宮さんの精神状態が急激に改善したためだと思われます」
キョン「そんなことがあるのか」
古泉「僕も初めてのことです。僕がいない間にいったい何があったのです」
キョン「喫茶店がオープンした」
古泉「喫茶店、ですか?」
ハルヒ「ちょっとキョン!早くきなさーい!」
キョン「というわけだ」
古泉「いつもの涼宮さんのようですね。まぁ何はともあれ、よかったです」
キョン「しばらくは大丈夫だと思うぞ。暇ならハルヒにバイトを紹介してもらえばいい」
古泉「それは..できれば遠慮願いたいものです」
キョン「俺も同感だよ」
掲載元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1487775323/
Entry ⇒ 2017.04.27 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
ハルヒ「え?あんたクリスマス予定あるの?」
ハルヒ「ふ、ふーん、まぁいいけどね」
キョン「すまんな」
ハルヒ「だれかとどっか遊びに行くの?」
キョン「まぁそんなとこだ」
ハルヒ「あっそ。ま、それなら仕方ないわね!でもSOS団の行事を蹴ってまで行くんだから、ちゃんと楽しんできなさいよ!」
キョン「ああ、わかってる。ありがとよ」
ハルヒ「はい、じゃあこの話おわり!みくるちゃん!古泉くん!パーティーの段取り決めるわよっ」
古泉「はい」prrrr prrrr prrrr prrrrr prrrrr
みくる「でしゅ」
ハルヒ「ジングルベール!ジングルベール!だはははは~!」
鶴屋「おーハルにゃん盛り上がってるねぇ~!」
ハルヒ「あったり前じゃない!クリスマスよ!?クリスマス!
クリスマスはみんなで楽しくわいわい騒ぐのが一番の楽しみ方なんだから!」
鶴屋「あはは~そうだね~」
ハルヒ「そうよ! あ、ちょっと有希!本ばっか読んでないで料理も食べなさいよ!」
ハルヒ「古泉くん!キョンがいないんだから今日は古泉くんが一発ゲイ係りだからね!」
ハルヒ「ちょっと誰よ谷口なんて誘ったの!まぁいいわ!今日だけは大目に見てあげるからありがたく思いなさい!」
みくる「涼宮さん寂しそうですぅ・・・」
古泉「そうですねぇ」
ハルヒ「ん!?なーにみくるちゃん・・・あ、そうだ!そろそろみくるサンタに登場に登場してもらおっかなぁ~」
みくる「ふ、ふぇぇぇ~」
鶴屋「あはははは!」
ハルヒ「あー楽しかった!今年のクリスマスパーティーも大成功ね!」
古泉「盛り上がりましたねぇ」
鶴屋「たのしかった~!」
みくる「わ、わたしはもうお嫁にいけないですぅ~」
谷口「おれ」
ハルヒ「なーに言ってるのよ!バニーガールより布の面積は多かったでしょ?」
みくる「そ、そうですけど~・・・でもそうじゃないですぅ~><」
鶴屋「あはははは!」
谷口「wa」
鶴屋「でもホント楽しかった~!これでキョンくんも来れたらよかったんだけどね~」
みくる「あ」
ハルヒ「あ、ああキョンね!すっかり存在忘れてたわ!そうそうまったくアイツったら予定あるなんて言って!
それでみくるちゃんのキワっキワのサンタコスを見逃しちゃうなんてね!ほんとバカなんだからアイツ!あはははあは!」
鶴屋「まったくだ!おしいことしたよね~!」
古泉「・・・」
みくる「・・・ふぇ」
ハルヒ「そんなの悪いわよ。あいつはあいつで楽しんでるんだろうし、そっとしといてあげましょ!」
ハルヒ「ま、どうせ大した用事じゃないんだろうけど!」
鶴屋「ええ~・・・残念」
谷口「ひょっとしてかのj」
みくる「オラァ!」ファッ
ハルヒ「!? みくるちゃん今なんか言った!?」
みくる「くしゃみでしゅ」
ハルヒ「なんだ・・・ってあれ、そーいえば谷口は?」
古泉「彼ならさっき突然の腹痛に襲われて還りましたよ」
ハルヒ「そうなの。どうせ食べすぎでお腹こわしたんでしょうね、まったく」
みくる「あははは」
鶴屋「うん!みくるはアタシが責任もって守ってあげるから大丈夫っさ~」
みくる「お願いしましゅ」
ハルヒ「それは心強いわね!あ、古泉くんは有希送ってあげてね。」
古泉「はい」
鶴屋「ハルにゃんは帰り道ひとりだよね?だいじょーぶ?」
ハルヒ「だいじょーぶだいじょーぶ!もし暴漢なんて出たらキンタマ蹴り上げて屈んだところを踵落としで沈めてくれるわ!」
みくる「そ、そんなところ蹴っちゃだめですよぅ///」
鶴屋「あはは!まぁハルにゃんなら心配ないか」
ハルヒ「それじゃあ解散かいさーん!みんなお疲れ!ばいばーい!」
みくる「おつかれさまでしゅ」
古泉「お疲れ様でした」
鶴屋「じゃあねー!」
国木田「ボクも帰ろっと」
ハルヒ「あ~今日は盛り上がったなぁ~」
ハルヒ「鶴ちゃんの話は面白いし、みくるちゃんは可愛かったし・・・まぁ古泉くんの一発ゲイはすべってたけどw」
ハルヒ「はぁ~ふふふ・・・あ、息白い」
ハルヒ「はぁぁぁ~はぁ~、超音波加湿器・・・なんちて」
ハルヒ「うーん、このネタじゃ古泉くん以下ね」
ハルヒ「みんなの前で披露しなくてよかったわ!」
ハルヒ「あはは」
ハルヒ「・・・」
ハルヒ「キョ~ンキョンキョンキョン~」
ハルヒ「なーんであんたは来ーてないの~」
ハルヒ「そーれはね~あーたーしーがー許可しーたからー」
ハルヒ「作詞作曲、涼宮ハルヒ」
ハルヒ「・・・完全にイタい子ね」
ハルヒ「ひとりごとはやめよう」
ハルヒ「・・・やっぱアレよね、アレ」
ハルヒ「完っ全に油断してたわ・・・全然そんな素振りみせてなかったじゃない」
ハルヒ「放課後も休日も団活でいっしょだったのに、いつの間に作ったのよ、そんなの」
ハルヒ「まったく・・・」
ハルヒ「・・・あーぁ」
ハルヒ「出し抜かれないように気をつけてたのになー」
ハルヒ「どこで失敗したかなー」
ハルヒ「こうなるって知ってたら、あたしだってもっと急いだのに」
ハルヒ「クリスマスパーティーと称してキョンを呼び出して・・・」
ハルヒ「みんなに頼んで二人だけにしてもらって・・・」
ハルヒ「ま、今更そんな計画立てても意味無いけどね!」
ハルヒ「あはははは~」
ハルヒ「・・・」
ハルヒ「も~Good bye-bye first love~」
ハルヒ「・・・はあ」
ハルヒ「あ、雪だ」
ハルヒ「今年はホワイトクリスマスね!」
ハルヒ「わーい!」
ハルヒ「・・・」
ハルヒ「・・・泣いちゃおっかな」
ハルヒ「そうだ、雪が目に当たったら泣こうそうしよう」
ハルヒ「その目に光るのは雪か涙か~ってね」
ハルヒ「よっ!ほっ!・・・うーん、なかなか当たんないわね」
ハルヒ「ほっ、とっ、やっ」シュババッ
キョン「・・・なーにやってんだお前は」
ハルヒ「!?」
キョン「ばっ・・・声がでかい! 時間を考えろ時間を!」
ハルヒ「・・・ごめん」
キョン「ん、なんだやけに素直だな」
ハルヒ「だって・・・ってそれはいいのよ!」
キョン「声」
ハルヒ「っ・・・(小声)あ、あんた、なんでこんなとこいんのよ」
キョン「え?あー、さっき古泉からメール着てさ」
キョン「今から来ても間に合うって言うから走ってきたんだが・・・その様子じゃガゼだったみたいだな、あいつめ」
ハルヒ「そ、そうなんだ」
キョン「ああ」
ハルヒ「・・・それで?」
キョン「ん?それで?」
ハルヒ「楽しかった?今日・・・ちゃんと楽しんできなさいって言っといたでしょ」
キョン「ん、ああ、楽しかったぞ」
キョン「お前が休ませてくれたおかげだ。サンキューな」
ハルヒ「そっか・・・それはなによりね」
キョン「それは見たかったな」
ハルヒ「すっごく可愛かったんだから!それにね、古泉くんがとっておきのゲイを披露してすべり散らかしてたわ!」
キョン「それも別の意味で見たかった」
ハルヒ「ホントよ! まったく、なにやってたのよあんた・・・損してるんだから・・・みんなでクリスマスパーティーで・・・ホント楽しかったんだから」
キョン「ハルヒ・・・?」
ハルヒ「それなのに、あんた・・・あんたがいればもっと楽しかったのに・・・なんで来ないのよ、ばかね、ホント・・・ほんとバカ」
キョン「・・・お前、泣いてるのか?」
ハルヒ「あ・・・」
キョン「大丈夫か?」
ハルヒ「ち、違うから! これはさっき雪を目に落とすゲームしてて・・・見てたでしょあんた。さっき」グシグシ
キョン「・・・そういえばヘンな動きしてたな。さっき」
ハルヒ「それよ」
キョン「それか」
ハルヒ「それよ」
キョン「・・・」
ハルヒ「・・・どんな人?」
キョン「ん?」
ハルヒ「別に答えたくないならムリに聞かないわよ・・・」
キョン「誰のことだ?」
ハルヒ「今日。してきたんでしょ、デート・・・いつの間に彼女なんて作ったのよ、あんた」
キョン「あ?・・・あーあー」
ハルヒ「?」
キョン「あー・・・そっかそっか、今日会ってきた奴か・・・気になるのか、ハルヒ?」
ハルヒ「・・・まあね。でもホント話したくないなら別にいいから」
キョン「いやいや大丈夫だぞ。今日会ってきたのは・・・そうだな、うーん」
キョン「まぁ一言で言うと天真爛漫ってのを絵に描いたようなやつかな」
キョン「ああ、お前みたいなやつだ、ハルヒ」
ハルヒ「あたしみたいな?」
キョン「ああ。みたいって言うか、お前にそっくりだな」
ハルヒ「そっか・・・」
キョン「・・・また雪か?」
ハルヒ「っ!」グシグシ
キョン「どうしたんだ」
ハルヒ「別に・・・あはは」
キョン「・・・」
ハルヒ「・・・ただ、ちょっとね。もうちょっと頑張れば、なんとかなったんだなーって思うと、余計に悔しくなることってない?」
キョン「んーよくわからんな」
ハルヒ「そうよね」
キョン「ん。まーそうだな。結構好きだ」
ハルヒ「・・・っ、じゃ、じゃあさ」
キョン「うん?」
ハルヒ「もしもの話ね?」
キョン「もしもの話か」
ハルヒ「うん。もしもさ・・・もしあたしが、その子より先に、その・・・キョンに告白とかしちゃってたら・・・あ、あんたどうしてた?」
キョン「ハルヒ・・・?」
ハルヒ「だ、だって気になるじゃない!その子あたしに似てるのよね!あたし似の女の子がタイプなのよね!も、もしアンタがずっとそーいう目で団長のこと見てたんだとしたら、これは由々しき問題だわ!」
キョン「ええ・・・んーまぁそうだな・・・もしもの話なんだよな?」
ハルヒ「もしもよ」
キョン「そしたら、ハルヒと付き合ってたかな」
ハルヒ「・・・」
キョン「っていうか同時に告白されてもハルヒを選んでた」
ハルヒ「え・・・?」
キョン「この際だから言うけど、実は俺、ハルヒこと好きだったんだよな」
ハルヒ「・・・うそ」
キョン「ホントだ。笑ってくれていいぞ。ま、普段のお前の態度から可能性無いのはわかってたから、早々に諦めてたんだけどな」
ハルヒ「ああ・・・」
キョン「・・・雪、強くなってきたな」
ハルヒ「っ・・・そうね・・・もう、顔ぐちゃぐちゃよ」
キョン「ほれ、俺折りたたみ傘あるから。一緒に帰ろうぜ」
ハルヒ「・・・ありがと。でも、ダメよ」
キョン「え?」
ハルヒ「アタシがあんたの彼女だったら、他の女と合い合い傘なんて許さないわ」
ハルヒ「あたしはコートのフードがあるから。大丈夫だから。あんた先帰ってて」
キョン「方向同じだろ?」
ハルヒ「いいから、先に帰って・・・お願い」
キョン「・・・わかったよハルヒ」
ハルヒ「・・・ごめんね」
キョン「ああ。・・・今日はありがとな! お前が許可してくれたおかげで、ホント楽しい一日になったよ」
ハルヒ「うん・・・っ」
キョン「妹もきれいなツリーが見れたって、すげーよろこんでたから。全部、お前のおかげだよ、ハルヒ」
ハルヒ「うん・・・っ」
ハルヒ「は?」
キョン「それじゃあな、ハルヒ!お疲れ!また明日!」
ハルヒ「いやいやいやいやちょっと待て」
キョン「雪本降りになってきたなーハルヒも気をつけて帰れよ!お疲れ!」
ハルヒ「待ちなさいったらっ! は?妹!?彼女は!?クリスマスデートは!?」
キョン「俺はそんなこと一言も言って無いだろ? 今日は妹に隣町のデカいツリーが見たいってせがまれたから連れてったやっただけだぞ」
ハルヒ「・・・っ!! あ、あんた、知ってたわね!? 途中から気付いて、ワザとやってたわね!?」
キョン「んー?スマンなんのことかよくわからんな。それじゃあなハルヒ、お疲れ!」
ハルヒ「お疲れお疲れうるさいわよっ! この・・・このバカキョン! あ、あたしがさっきまでどんな気持ちで・・・っ! この、この・・・バカ~!!」
・・・
・・
・
古泉「・・・それで、そのアザですか」
キョン「ああ。こっぴどくやられた・・・ちょっとからかいすぎたな」
古泉「それはそうですよ・・・まったく、可哀想に」
キョン「反省してるよ」
古泉「ならいいですが・・・まぁなんにせよ、お二人がこれでお付き合いする運びとなったのは、機関としても喜ばしいことですよ」
古泉「ひとりの友達としても心から祝福します。おめでとうございます」
キョン「ああ、ありがとう・・・っと、言いたいところなんだがな」
古泉「え?」
キョン「実はその後、流れでハルヒに告ったんだが、フラれちまったんだ」
古泉「・・・は?」
キョン「シリアス雰囲気でごまかせると思ったんだが・・・相当ご立腹みたいでな。怒って帰っちまった」
古泉「はぁ、まったくあなたって人は・・・」
キョン「今日も教室で謝ったんだが、口きいてくれなくてな」
古泉「・・・まぁ彼女の気持ちを考えたら妥当な反応でしょう」
キョン「まぁな。はぁ・・・これからご機嫌取りに精を出して、もう一回告白するしかないか」
古泉「頼みますよ・・・世界の平和はあなたにかかってるんですからね」
キョン「わかってるって」
ドア「バターン」
キョン「おい、俺もいるぞ」
ハルヒ「・・・」プイッ
キョン「Oh・・・」
古泉「クスッ」
みくる「ふぇぇ~、険悪な雰囲気ですぅ~」
ハルヒ「今日は昨日やったクリスマスパーティーの反省会よ!ま、参加して無い人には関係ない話だけどね!」
キョン「なぁハルヒ、悪かったって。そろそろ機嫌直してくれよ」
ハルヒ「うっさい!ってかみんなの前でその話すんなっ」
古泉「おやおや、二人きりの内密なお話ですか?」
みくる「い、意味深ですぅ~」
ハルヒ「そ、そんなんじゃないわよっ!ただこのバカが・・・バカなことやらかしたから怒ってるだけ!」
みくる「け、喧嘩はダメですよぅ・・・」
キョン「なぁハルヒー」
ハルヒ「ふん!!」
古泉(機嫌直せ、か・・・)クスッ
古泉(そのわりには、機能の夜からずーっと、閉鎖空間は出て無いんですけどね)
長門「・・・桜が咲いてる」
長門「・・・ゆにーく」ペラッ
~完~
掲載元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1482602065/
Entry ⇒ 2017.04.17 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
ハルヒ「あんた、今日が何の日か忘れてない?」 キョン「ああん?誰かの誕生日だっけ?」
キョン「冗談だよ。年に一度、アホどもが調子に乗る日だろ」
ハルヒ「あんたは興味なさそうね」
キョン「義理チョコをいくらもらったところで、何とも言えない虚しさがこみ上げてくるだけだしな。まぁ谷口なら諸手をあげるだろうがな」
ハルヒ「本命をもらったことないなんて、可哀想な奴ね」
キョン「ほっとけ!」
ハルヒ「そういえば、みくるちゃんも男子共に義理チョコを配るって言ってたけど、あんたはいらないのね」
キョン「それはまた別の話だ、で、どこで配るって?!」
ハルヒ「ふんっ!そんなの知らないわよ」
キョン「まぁ朝比奈さんのことだから、律儀に部室まで渡しにきてくれるにちがいない。いつまでも待っていますよ!」
ハルヒ「永遠に待ってなさい!」
キョン「おまえはどうなんだ?」
ハルヒ「なによ?」
キョン「おまえも誰かに渡したりしないのか」
ハルヒ「なんで私が見ず知らずの男子にあげなきゃいけないわけ?寝言は寝て言いなさい」
キョン「じゃあ古泉とか、俺にでもくれようとは思わんのか」
ハルヒ「あんた要らないんじゃなかったの」
キョン「まぁでも、くれるものを断る理由もない」
ハルヒ「欲しいなら素直に欲しいって言いなさいよ」
キョン「へいへい。あー義理チョコでもいいから誰かくれないもんかねー!」
ハルヒ「..仕方な」
ガチャ
みくる「あ、キョンくんここにいたんですね」
みくる「義理チョコですけど、手作りしてみました、良かったらどうぞ」
キョン「いえ!朝比奈さんが作ったものなら義理だろうとなんだろうと国宝級に匹敵します!」
みくる「もうキョンくんったら大袈裟です」
キョン「(まず神棚にでも祀って3日ほど拝んでから頂くことにしよう)」
ハルヒ「ちょっとキョン!」
キョン「なんだよ?」
ハルヒ「...なんでもないわよ」
キョン「なんなんだ」
ハルヒ「なっ!..」
キョン「なんのことです?」
みくる「涼宮さんも一緒にチョコレートを作ったんです。SOS団の皆さんに配るって」
キョン「なんだそうだったのか。なら早く俺にもくれよ」
ハルヒ「あんた、義理チョコなんていらないんでしょ?」
キョン「いやでも、せっかく作ってあるんなら貰っとくよ」
ハルヒ「いや、いい。あんたにはあげない!..はい、みくるちゃんこれあげる」
みくる「あ、ありがとうございます..」
みくる「へっ..でも..」
バタン
キョン「やれやれ..相変わらず団長様は気まぐれだな」
みくる「キョン君..私がこんなこと言える立場ではないですけど、あのぉ..もう少し涼宮さんの気持ちを考えてあげてください」
キョン「あいつの気持ち..ですか?」
みくる「涼宮さん、すごく楽しそうにチョコレートを作っていました。なんていうか、その..」
古泉「やぁ、こんにちは」
キョン「おう..なんだその荷物は」
古泉「あぁ、ちょっとカバンに入りきらなかったものですから」
キョン「もしかしてそれ全部」
古泉「えぇ、チョコレートです」
キョン「そんな爽やかに認められると怒る気にもなれん」
キョン「なぁ古泉、しばらくおまえのバイトが忙しくなるかもしれんぞ」
古泉「と、言いますと?」
キョン「例によって、ハルヒのご機嫌が急降下だ」
古泉「それは、困りましたねぇ。あなたはもっと大人かと思いましたが」
古泉「どうして素直に涼宮さんと向き合わないのです」
キョン「わかったようなことを言うな」
古泉「おおよそ、せっかくの涼宮さんの好意をそげにされたのでしょう」
キョン「逆だ。せっかくの行為をありがたーく受け取ろうとした俺の気持ちをそげにされたんだよ」
キョン「また世界の終わりの話か」
古泉「冗談ではなく、本当に終わってしまいますからね。あなたはそれでも構わないのかもしれませんが」
キョン「俺だって困る。にしても世界の命運が俺にかかってるとは、どんなB級映画よりもひどい」
古泉「あなたには主演をやる貫禄があると思いますよ」
キョン「うるせぇ!」
キョン「追いかけるったって」
みくる「わ、私もそう思います..」
キョン「朝比奈さん..」
みくる「涼宮さん、キョン君を待っていると思います。これまでも..そしてきっとこれからも..」
キョン「これからもって..それは未来の話ですか」
みくる「あっ..禁則事項です」
キョン「やれやれ..」
キョン「分かりました。朝比奈さんが言うなら、そうしますよ」
みくる「ありがとう」
古泉「健闘を祈りますよ」
キョン「ああ、なんせ世界の命運がかかってるからな。やれるだけのことはやるさ」
ガチャ
キョン「おお長門、ちょっと今から...いやお前はすべてお見通しか」
長門「...」
長門「...そう」
キョン「やれやれ..相変わらずだな。ところでハルヒを見なかったか」
長門「..職員室の前」
キョン「ありがとよ」
---
キョン「おいハルヒ!」
ハルヒ「なにしてんのよあんた」
キョン「あー、なんていうかその..今日の活動はどうするんだよ、SOS団は休みか」
ハルヒ「はぁ?今日もう帰るって言ったわよね」
キョン「せっかくみんな集まってるのに、お前がいないと何も話が進まんだろう」
ハルヒ「じゃあもう今日は解散でいいわよ。みんなにも言っといてちょうだい」
ハルヒ「さっきって、なんのこと?」
キョン「だからそのあれだ、お前の作った義理チョコ貰ってやってもいいぞ」
ハルヒ「なんで上から目線なワケ?」
キョン「いやスマン...俺はお前の手作りチョコレートが欲しい」
ハルヒ「ま、まぁそこまで言うならくれてやるわよ」
キョン「..ありがとよ」
ハルヒ「ちょっと失敗しちゃってその..味は保証できないけどね」
キョン「幸いなことに、俺の舌は鈍感だ」
ハルヒ「なら大丈夫ね。ちゃんと食べ切りなさいよ!残したら許さないから!」
キョン「へいへい...」
これで終わりでいいかな
みくる「きっと大丈夫だと思います」
古泉「そういえば涼宮さんから頂いたチョコレート、手作りされたそうですね。早速ですがいただいてみましょう」
みくる「そうですね」
古泉「..これはまぁなんと言いますか、なんとも涼宮さんらしいお味です」
みくる「そういえば涼宮さん、砂糖と塩の分量を間違えていました」
古泉「涼宮さんにしては珍しいですね。そんな間違いをするなんて、まるで...」
みくる「どうしたんです?」
古泉「涼宮さんはなってみたかったのかもしれません...」
みくる「何にです?」
古泉「少女漫画の主人公に」
古泉「..冗談を言ったつもりはないのですが」
みくる「もちろん分かってます」
古泉「涼宮さんは、きっと他の誰より今日という日を待ち遠しく思っていたのでしょう。聖なる日に思いを込めた手作りチョコレートを大切な人に渡す。そんな少女漫画のような展開を彼女は望んでいるのです」
みくる「じゃあ分量を間違えたのもわざとってことですか?」
古泉「おそらく、漫画の主人公にありがちな失敗を実際にやってみたかったのでしょう。現実にはなかなかそんな間違いは起きませんからね」
みくる「はぁ..」
みくる「キョン君はその相手に選ばれたんですね」
古泉「涼宮さんにとって、あの方以上の適役はいませんから。..残念ながらね」
ハルヒ「みんなー揃ってるー!?」
古泉「おや、確か今日はお帰りになったのでは」
ハルヒ「それがね、キョンがどうしてもっていうから急遽戻ってきたってわけ」
古泉「それはそれは、仲のよろしいことで何よりです」
キョン「おまえは黙ってろ」
ハルヒ「じゃあ早速だけど、今日は何について議論しようかしら」
キョン「決めてないのか」
ハルヒ「いつも議題を考えるのも大変なのよ、なんかいいアイデアない?」
キョン「いっそのことみんなで寝るとかどうだ」
ハルヒ「なによそれ。まるで>>1の今の気持ちみたいじゃない」
キョン「>>1ってなんだよ」
ハルヒ「なんでもないわよ」
ハルヒ「古泉くん、いいこと言うわぁ。今日はそれに決まり!」
みくる「ではお茶でも入れましょうか」
ハルヒ「チョコにお茶ってのもねぇ..みくるちゃん紅茶とかない?」
みくる「紅茶ですかぁ、じゃあ買ってきます」
ハルヒ「いや、キョン!あんたが行きなさい!」
キョン「自販機のやつでいいか」
ハルヒ「いやティーパックを買ってきなさい!」
キョン「やれやれ..これでこそいつものハルヒってもんだ」
はい終わり
乙
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Entry ⇒ 2017.03.22 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)
ハルヒ「大好きな彼に愛してもらえる方法?」長門「読んで…」
長門「この本で、カップルになれた人は…100人中99人」
ハルヒ「ふ、ふーん…まぁ?暇だし読んであげてもいいわよ」
長門「……ん。」
長門「……」パタン
ハルヒ「じゃあ、私は帰るわ!最後の人は電気と鍵お願いね!じゃ!」ダダダダ
キョン「なんだあいつ…?」
小泉「さぁ?」
みくる「なんでしょうか?」
長門「……」
ハルヒ「えーと…なになに?」ぺらぺら
ハルヒ「『消しゴムに名前を書いて使いきる』…ありきたりね『手紙を書く』…そんなまわりくどいこといやね『告白する』…ってできたらこんなのよまないわよ…」
ハルヒ「んー…いいのがないわねぇ…」ペラペラ
ハルヒ「ん?あ、これいいわね面白そう!」
『好きな相手の名前を書き続ける』
キョン「…」ガラガラ
ハルヒ「ブツブツ」カキカキ
キョン「?なに熱心に書いてるんだハルヒ」
ハルヒ「キョン…おはよ…」ふぁー
ハルヒ「って!キョン!?」
キョン「なにそんなに驚いてるんだよ」
ハルヒ「あ…えっと…」
キョン「そのノートになに書いてるんだ?」
ハルヒ「み、見せないわよ!秘密よ!」
キョン「?わかったよ」カタン
ハルヒ「授業中もうしろむかないように!わかったわね!」
キョン「へいへい…」
ハルヒ「よろしい」
ハルヒ(今でだいたい900…まだまだね…)
ハルヒ(…キョン…キョン…キョン…キョン)カキカキ
キョン(すげー集中だな…)
キョン「…」
ハルヒ(キョン…キョン…キョン…キョン)カキカキ
キョン「なぁ、ハルヒ」
ハルヒ「!?見るなって言っただろうがぁ!」バシン
キョン「ぐけぇ!」
ハルヒ「うるさいわね…で?」
キョン「?」
ハルヒ「何か用があったから呼んだんでしょが!」
キョン「あ、あぁ…今日二人とも休みなんだよ。だから、一緒に「いいわよ!」…最後まで言わせろよ」
ハルヒ「で?どこで食べんの?」
キョン「ここでいいんじゃないか?」
ハルヒ「いや、部室で食べましょう」
キョン「お前が決めんのかよ」
ハルヒ「よし、じゃあさっそく食べましょう!」
ハルヒ(早く続きを書かなきゃだし)
キョン「おう」パカ
ハルヒ「あら、あんた冷凍食品?」
キョン「あぁ、今日も忙しいらしいからな」
ハルヒ「…ねぇ」
キョン「なんだよ」
ハルヒ「あんた自分の好物しか入れてないでしょう?」
キョン「…まぁな」
ハルヒ「たく、明日から私があんたの健康を考えた弁当を作ってきてあげるから感謝しなさい!」
キョン「はぁ?いいよ別に」
キョン「なら、しゃーなしだな」
ハルヒ「まぁ、あんたの好物も一つか二つくらいは入れといてあげるわよ」
キョン「…ありがとうよ…」
ハルヒ「!?」
ハルヒ(キョンがデレた…キョンが私にデレデレになった…)
ハルヒ「えへへ…♪」デレデレ
キョン「?」
ハルヒ「あ。じゃあ、戻るわよ」
キョン「おう」
ハルヒ「ねぇ、一ついいかしら?」
キョン「なんだよあらたまって」
ハルヒ「有紀やみくるちゃんのこと…どう思う?」
キョン「どういう意味だ?」
ハルヒ「好きか嫌いかの話よ」
キョン「そんなの好きにきまってるじゃねぇか」
ハルヒ「…」ピタ
キョン「ハルヒ?」
キョン「は?」
ハルヒ「だから!」ネクタイツカミ
キョン「うお!」
ハルヒ「私は…?私も二人と同じなの?」ギリッ
キョン「だから意味が…」
ハルヒ(一緒じゃいや…私は、私だけは特別になりたい)
ハルヒ「私は好きなの?」
キョン「お、おう」
ハルヒ「…なら、いいわよ」パッ
キョン「ゲホゴホ!」
キョン(なんつう馬鹿力だよ…)
ハルヒ「ほら、じゃあ戻るわよ」
キョン「分かったよ…」
ハルヒ「…」カキカキ
キョン「」カキカキ
ハルヒ(もっと…もっと書かなきゃ)カキカキカキカキカキカキ
キョン(そこまで書き込む内容なのか?)
ハルヒ(今で1580…)カキカキカキカキカキカキカキカキ
ハルヒ(…キョンの背中)
ハルヒ(抱きつきたい、スリスリしたい、舐めたい、さわりたい、撫でたい、マークをつけたい)
ハルヒ(私の物にしたい)ジロー
キョン「!?」ブルッ
キョン「さてと…」ガタッ
ハルヒ「どこいくのよ」カキカキカキカキ
キョン「部室だよお前は、いかんのか?」
ハルヒ「一緒に行くから待ってて」カキカキカキカキカキカキ
キョン「あいよ」
キョン(必死こいてなにかいてんのやら…)スッ
ナデナデ
ハルヒ「ほにゃあぁ!!!?」ビクッ
キョン「お前は、猫か」
ハルヒ「い、いきなりレディの頭をさわるとか馬鹿じゃないの!」
ハルヒ「撫でるなら撫でるって言いなさいよね…」
キョン「じゃあ撫でていいか?」
ハルヒ「す、好きにすれば…?」
キョン「あいよ」ナデナデ
ハルヒ「ん…♪」
キョン「…そろそろ行くか」スクッ
ハルヒ「はぁ!?」ガタッ
キョン「うお!どうした!?」
ハルヒ「あれだけ!?あれだけなの!?」
キョン「え?うん」
ハルヒ「……」ハァ
長門「……」ペラペラ
ハルヒ「キョン!」
キョン「なんだ」
ハルヒ「私とババ抜きしましょう!」
キョン「俺は今古泉と……」
古泉「どうぞ!ババ抜きしてくださいよ!そろそろチェスもあきてきたんですよね!」
キョン「そうなのか?」
古泉「はい!」
ハルヒ「じゃあできるわね」
キョン「あいよ」
ハルヒ「負けた方は罰ゲームね」
キョン「げ…」
ハルヒ「さぁ!勝負よ!」
ハルヒ「ふふん♪」
キョン「くそぉ…それで罰ゲームはなんだよ」
ハルヒ「ん?あぁ、手挙げなさい」
キョン「?」スッ
ハルヒ(私の指と絡めて)スッ
キョン「お、おい…」
ハルヒ「…なによ」
キョン「何で指絡めてきたんだ?」
ハルヒ「だから罰ゲームって言ったでしょ…」
キョン「……///」
ハルヒ(キョンの指…綺麗ね…あぁもう…何もかもが愛しい)
ハルヒ「あ?」ギロ
キョン「なんでもございません」
ハルヒ「てか、向かい合ったままは手を繋ぐのはきついわね」
キョン「じゃあ、はなせ」
ハルヒ「いやよ……そうだ! 」
キョン「なんだよ…ってこっちに尻をみせんなよ」
ハルヒ「うんしょっ!」ポスッ
キョン「うわ!何してんだよ!」
ハルヒ「膝に座ってんのよ」
キョン「そりゃぁ見ればわかる!」
キョン「まぁ…」
キョン(離せばいい話なんだがな)
ハルヒ「これで二時間はいられるわね」フンフン
キョン「下校時間過ぎるわ!」
古泉「僕達が居るのにも関わらずイチャイチャするとは流石ですね」フフ
みくる「ひゃあー、ラブラブですぅ…」
長門「バカップル…」
キョン「見てないで助けろよ」
キョン「そんなわけで下校時間だ…そろそろ出るぞ」
ハルヒ「ん、そうね」スクッ
キョン「あの三人とっくに帰って行ったし…」
ハルヒ「じゃあ、二人で帰るわよ」
キョン「そのつもりだ」
ハルヒ「ほら、鞄早く持って!」スタスタ
キョン「鍵も閉めるぞー」
ハルヒ「任せたわ」
キョン「任された」
キョン「なんだよ」
ハルヒ「私さ…恋愛感情ってのは精神病って言ったでしょ?」
キョン「あぁ、言ったな」
ハルヒ「もしかしたらさ…私も、精神病にかかってるかもしれないのよ」
キョン「……え?」
ハルヒ「……やっぱりなんでもない」
ハルヒ(もっと……もっと……)
ハルヒ「ねぇ、キョンは精神病にかかってる?」
キョン「…まぁ、かかってるかもな」
ハルヒ「フフ…何よそれ」
キョン「そうかじゃあまた学校でな」
ハルヒ「うん!じゃあまた…………」
ハルヒ(キョンには好きな人がいる。それが私だったら死ぬほど嬉しい!でも、他の女だったら…?)
ハルヒ(もっと……もっと……もっと……もっと書かなきゃ)
好きな人の名前を1万回書くと…その人は…自分の物…私だけの物…あと、3420で…キョンは私キョン私キョン私キョンキョン私キョン私キョン…
キョン「!?」ゾクッ
キョン「何なんだ今の寒気は…」
妹「キョン君風邪ー?」
キョン「そうなのかねー…」
キョン「…」ボー
キョン(ハルヒの奴遅いな)
ハルヒ「…」ガラガラ
キョン「…お」
ハルヒ「おはよう…キョン」ニコッ
キョン「!お、おう」
ハルヒ「おはよう」
キョン「?」
ハルヒ「おはようって言ってるんだから『おはよう!ハルヒ今日もかわいいな結婚してくれ!』でしょうが!」
キョン「…はっ?」
キョン「え?おう?」
ハルヒ「…」ギュッ
キョン「あのハルヒさん?離してくれないか?」
キョン「うお…」ドタン
ハルヒ「なにしてんのよ」クスッ
キョン「いや、お前がいきなり離すからだろ」
ハルヒ「離せって言ったのはあんたじゃない」
キョン「そうだけどよぉ…」
ハルヒ「ほら、早く立ちなさい」スッ
キョン「おう」ガシッ
ハルヒ(まず手から…)ニヤッ
キョン「?」
キョン「…」ウツラウツラ
ハルヒ(にしても…効果ないわね…やっぱり嘘だったのかしら?)
ハルヒ(でも…なんかこの頃って言うか『あれ』をやりはじめてからか…)
女教師「こらっ!キョン君!」バシッ
キョン「はひっ!?」
ハルヒ「!?」イラッ
ハルヒ「ちょっと!!なにキョンに…」ガタッ
女教師「!?」
ざわっ
キョン「…ハルヒ?」
ハルヒ「…あっ…えっと…キョン!なに寝てんのよ!団員としてあるまじき行為だわ!あんたは立ってなさい!」
女教師「そ、そうね…さすが涼宮さんだわ」ビクビク
女教師(こ、怖かった…)ビクビク
ハルヒ(こんな風に、異性がキョンに接触及び会話などした時私は、何故かイライラしてしまう。
でも、さっきのはちょっと殺す気もあったかもしれないくらい怒ってしまった)
キョン「くぅ…恨むぞハルヒ…」
ハルヒ「ふん…当然よ」
ハルヒ(やっぱりあの、女教師殺そうかしら)
キョン「おい、ハルヒ」
ハルヒ「なによ…あぁ、弁当ね」ニコッ
キョン「お、おう…まさか」
ハルヒ「ちゃんと持ってきたわよ!ほら、ありがたく食べなさい!」
キョン「おお…!てか、どこで食べるんだ?」
ハルヒ「部室よ!ってな訳で急ぐわよ!」
キョン「うわ!ひっぱるな!」
キョン「じゃあ、いただきます」パカ
ハルヒ「ふふん♪」パカ
キョン「おお!上手そうだ!」
ハルヒ「でしょ!でしょ!さぁ、じゃんじゃん食べなさい!」
キョン「おう!」
キョン「まず、ハンバーグからうん!うめぇ!」
ハルヒ「…そう…嬉しいわ」ニコッ
食べ終わり…
キョン「ふぅ…うまかった…」
ハルヒ「お粗末さま」
キョン「おう!」
ハルヒ「また、作って来てあげるからね!だから「あ。明日はいいや」…え?」
キョン「実は朝比奈さんが明日作ってきてくれるって言ってくれたんだよ」
ハルヒ「だめよ」
ハルヒ「絶対ダメよ!」ガタン
キョン「お、おい?ハルヒ?」
ハルヒ「なに?私のじゃだめ?満足できない?そんなにみくるちゃんのお弁当が食べたいの?そうなの?ねぇ、私だけでいいじゃない!なんで他の女のことばかり話すの!?今あんたの目の前に居るのは涼宮ハルヒなのよ?なのにあんたは他の女ばかり!ふざけるな…ふざけるな…ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!あんたは私の物なのよ!他の女に渡すわけないじゃない!そんな、泥棒野郎は私が殺してあげるわ!キョンは雑用係で私の物で私のキョンなのよね?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ…」
ハルヒ「キョン私のこと…好きよね?ねぇ!?」
キョン「あ…ハル…ヒ…?」
キョン「朝比奈さ…んに迷惑だからやめとくよ…」
ハルヒ「あらそう?なら、問題ないわね」ニコッ
ハルヒ「でも、それよりキョン」ガシッ
キョン「ッ!?」ビク
ハルヒ「私のこと当然好きよね?」
キョン「お、おう!」
ハルヒ「……有紀やみくるちゃんと同じくらいなの?」
キョン「なんでそんなこと…」
ハルヒ「答えろ」ギリギリ
キョン「いっ!同じくらい好き「不合格」だ。」
キョン「え?不合格?」
ハルヒ「きなさい」ズルズル
キョン「えっ!ちょっ!どこに!」
ハルヒ「楽しいとこよ」フフ
キョン「うおっ!」ドサッ
ハルヒ「先生はいないみたいねちょうどいいわ」ギシッ
キョン「なにをする気だ…って体が…」
ハルヒ「ちょうど良く効いてきたみたいね」
キョン「べ…弁当のなかに…」
ハルヒ「キョンにしては名推理だわ…そのとおりよ」クスッ
キョン「な、なんで…こんな」
ハルヒ「しいて言うなら…愛のためかしら」スルッ
キョン「ふ、服を脱がそうとするな…」
ハルヒ「肩だけでしょ」
キョン「いっ、いったい…」
ハルヒ「こうよ」ガリッ
キョン「ッッ!!?」ビクッ
ハルヒ「次は首よ…」ガリッ
キョン「ぐあっ…!」
ハルヒ「腕」ガリッ
キョン「いっッ!」
ハルヒ「耳」ガリッ
キョン「いぁッ!」
ハルヒ「ん…これぐらいにしてあげるわ」ペロッ
キョン「こ、こんどは舐めかよ…なんなんだよ…いったい」
ハルヒ「私はね…一緒が嫌なの…」ペロッヌチャ
キョン「ひぃあ…!」
ハルヒ「私は有紀やみくるちゃん以上に好きじゃないと満足しないのよ」
ハルヒ「キョン私を愛しなさい」
ハルヒ「私もあんたのこと愛するから愛しなさい…そして、言うこと聞かないと…」ガリッ
キョン「うあっ!」
ハルヒ「また、体中にマークつけまくるからね♪」ニコッ
キョン「わ、わかったよ…」
キョン(言うこと聞かないとやばそうだ…し)
ハルヒ「よろしい♪」チュッ
キョン「んん…!!」
キョン(何回すんだよ…まったく…)
ハルヒ「~♪」
キョン「……」
谷口「(なぁ、キョンの野郎歯形だらけだけどどうしたんだ?)」
国木田「(さぁ?昼休みが終わって教室に戻ってきたらあぁ、なってたよ?)」
キョン(周りの視線が痛い…)
ハルヒ「キョン」
キョン「なんだよ」
ハルヒ「暇だわ」
キョン「だからなんだよ」
ハルヒ「かまってよ」
キョン「今授業中だから嫌だ」
ハルヒ「…………まだ足りないみたいね」
キョン「!?」ビクッ
ハルヒ「何食ったんだ?って晩飯?それとも朝飯?」
キョン「…晩飯だ」
ハルヒ「ごはんよ」
キョン「いや、おかずは?」
ハルヒ「あぁ、おかずね…」
ハルヒ「あんたよ」
キョン「………………………………んっ?」
ハルヒ「ひどいわね…ふざけてないわよ至って冷静よ」
キョン「いや、だってお前俺がおかずって」
ハルヒ「以外と進むわよ?その日私初めてご飯3杯もおかわりしたんだから!」
キョン「そ、それはよかったな…」
キョン(いや、そりゃあご飯だけなら俺だって余裕で4杯いけるわ)
ハルヒ「で?これで、おわりじゃないわよね?」
キョン「!も、もちろんだ!」
ハルヒ「は?みくるちゃんがなに?」ギロ
キョン「じゃなくて長門が」
ハルヒ「へー、有紀の話ねー…ふーん」
キョン「って思ったら古泉が」
ハルヒ「………あんた後で、罰ゲームね」
キョン「…」(古泉もかよ!?)
ハルヒ「んっ…」チュッ
キョン「んん…!」
ハルヒ「あんたの口って温かいのね…癖になるわ」クチュクチュ
キョン「や、やめろ…」
ハルヒ「じゃあ、頭なでなさい、耳をさわりなさい、手を握りなさい、ながいながいキスを何回も私が満足するまでやりなさい」
キョン「………」ナデナデ
ハルヒ「ふにゃー…」
キョン「………」サワサワ
ハルヒ「ひゃぁ♪くすぐったいわよ♪」
キョン(なんかかわいい…)
キョン「!!」
キョン(あ、あぶねぇ!おもわずこいつのペースに巻き込まれそうだった…)
ハルヒ「だれよ…邪魔すんのは…」
キョン「ん?ハルヒお前は何を持ってるんだ」
ハルヒ「邪魔者を倒すためのカッター」
キョン「うおおおおおおおおおおおおおおお!」ダダダダダダダダ
たぶん今の俺は、チーターを超えるほどの速さをもっている!
みくる「キョンくん…「逃げてください!朝比奈さん!」ふぇ!?」
バタン!
キョン「あ、朝比奈さんはやく!はやく逃げて!ドア叩かないで!」
ハルヒ「キョンどいてそいつ殺せない」ギラッ
キョン「ひぃぃぃぃ!?ハルヒやめろ!朝比奈さんはたまたま!たまたまここに来たんだよ!ね?そうですよね朝比奈さ~ん?」
みくる「ふぇ?え?まぁ、そうですけど…」
キョン「な!?」
ハルヒ「殺す」
キョン「聞く耳なっしんぐ!?」
キョン「……」
結局の朝比奈さんには、なんとか帰ってもらい危機回避したわけだが……次は、長門と古泉だな。いま、この状態でケータイでもさわったりしたらハルヒに絶対に取り上げられるから直接言うしかないわけだが……。
ハルヒ「んん……ねぇ、今あんた古泉くんと有紀の事考えていたでしょ?」ギュッ
キョン「く、首をしめるな…かんがえてねぇよ……」
ハルヒ「あっそ、ならよかったわ!」ニコッ
キョン(うっ!かわいいって思ってしまうのはおかしいよな………まったく)
ハルヒ「ん…」シュン
キョン「そ、そんな悲しそうな顔すんなよ」ナデナデ
ハルヒ「えへへ♪キョン!」ギュッ
ハルヒ「キョンキョンキョンキョンキョンの匂いキョンキョンキョン大好きキョンキョンキョンキョンキョンすきすきキョンキョン愛してるキョンキョンキョンキョン私のキョン私だけのキョン優しいキョンかっこいいよキョン」スリスリスリスリスリスリ
キョン「ひぃ…」ゾクッ
ハルヒ「あの『本』のお陰で私はキョンを手に入れた…ねぇ?キョンは私のこと好きよね?ね?ねえ?」ギリギリ
キョン「あ、あの『本』って………」
ハルヒ「有紀に貸してもらったの!そしてね?そしてね?キョンの名前を一万回書いたの!でも、たりないの…だって………」
ハルヒ「キョンの目に『私だけ』が写ってないもの!ほら、今も!ほら!ほら!今有紀のことを………」
キョン「」
キョン「」
ハルヒ「あ♪眠ってるのね!」ガシッ
ハルヒ「眠ってるならしょうがないわよねぇ♪私の家にでも…」ズルズル
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル(…なんだ?足が痛い)ズルズルズルズルズル(俺はどこに?誰に?)ズルズル(ハルヒ?なんでお前はそんな、新しいオモチャをもらった子供のような笑顔なんだ?)ズル
ハルヒ「やっとついた♪」ガチャガチャ
ギィィ
バタン
起きたのそれから二時間後くらいだった。
ハルヒ「なに?」
キョン「………」
キョン「……」
キョン「ん?ハルヒ?」
ハルヒ「うん♪」ニコッ
キョン「ここは?部室?」
ハルヒ「私の家の私の部屋よ」
キョン「………は?」
俺はベットに寝かせられただけで漫画みたいに縄で縛られたりされてはいないのだが…ハルヒに抱きつかれているのである。
キョン「と、とりあえず帰る」
ハルヒ「だめよ」
ハルヒ「もう、9時よ!危ないわよ!」
キョン「今まさに危ないんだが」
ハルヒ「とりあえずここにいなさいそれとも?お風呂にする?ごはんにする?私にする?」
キョン「ご飯で」
ハルヒ「………あっそ」
キョン「あ。あと、睡眠薬とかしびれ薬とかいれんなよ!いれたら…」
ハルヒ「い、いれたら何よ…」
キョン「き「いやああああああああああああ!」よし」
ハルヒ「嫌いやだ嫌いいやだ嫌いにならないで…キョンキョン!」ギュッ
キョン「嫌いにならないから帰らしてくれ」
ハルヒ「……いや!でも嫌いならないで…お願い!お願いします!今日だけ!今日1日だけでいいからぁ!」ポロポロ
キョン「わ、わかったから泣くなよ」ナデナデ
ハルヒ「うぐぅ……グスッ」ポロポロ
キョン(俺はこいつの涙には弱いことが今わかったよ……くそっ!)
ハルヒ「うぇ…ふぇ…グスッグスッ」ポロポロ
キョン「ハルヒ好きぞー?」
ハルヒ「ぐしゅ…本当に好き?グスッ」ポロポロ
キョン「お、おう!」
ハルヒ「…グスッ…愛してる?」
キョン「お、おお!愛してるぞ…だから泣き止め」ナデナデ
ハルヒ「えへへ♪」
キョン(俺はどうすれば…)
ハルヒ「本当に!?」
キョン「ああ、本当にうまい」
ハルヒ「んふふ…♪」
キョン「……てか、両親は?」
ハルヒ「さぁ?どっか行ったんじゃない?」
キョン「ど、どっかって……」
ハルヒ「私キョン以外の人間には興味ないから」
キョン「………そうか…」
キョン(ま、まさか…旅行だよな…ハハッ、いくらハルヒだからって両親を消すなんて…)
ハルヒ「……♪」じィー
キョン「ん?お前から入るのか?」
ハルヒ「は?何言ってるのよあんたもよ」
キョン「ぶほぉ!!?」
ハルヒ「ちょっと汚いわね!もったないから私がたべて「拾うから大丈夫だ」…そう」
キョン「てか、絶対にダメだ!絶対に一緒に入らん!」
ハルヒ「入るの!絶対に一緒に入るの!団長命令よ!」
キョン「ぐぐ……」
ハルヒ「ぐぐ……んー」
キョン「何気にキスをしようとするな」ガシッ
ハルヒ「ちっ…!」
キョン「却下だ」
ハルヒ「水着」
キョン「もっとダメだ!どこの、エロゲーだ…ハァ」
ハルヒ「むぅぅ…!」
キョン「なんだ?言ってみろ」
ハルヒ「水着と目隠し!」
キョン「一緒に入らないと言う選択肢は無いみたいだな…」
ハルヒ「じゃあ、代わりに一緒に寝てくれる?」
キョン「……………………………………まぁ、いいだろう」
ハルヒ「やったー!キョンウルトラスーパープラチナ大好き!じゃあ、行ってくるわ!」トテトテ
キョン「……」ハァ
プルプル ガチャ
キョン「もしもし?俺だ。キョンだ」
長門『……涼宮ハルヒになにか変化が?』
キョン「さすが長門だ。じゃあ、どうすればいい?」
長門『彼女の優しい抱き締めて耳元でアイラブユーとささやけばイチコロ』
キョン「イチコロにしたい訳じゃないから却下だ。なにか他の手は無いのか?」
長門『彼女の願望をできるだけ叶えてそれが唯一の方法』
キョン「……了解した。いつもすまんな長門」
長門『いい……気にしないで…じゃあ』
キョン「おう…おやすみ長門」
長門『おやすみ』
ブツ!ツーツー
キョン「はぁ…耳元でアイラブユー…ね…」
キョン「服を着てからあがってこいこの野郎」
ハルヒ「しょうがないわねぇ」ペタペタ
それから、普通に俺は風呂に入った。これといってハルヒがいきなり入ってきたとかそんなトラブル的ラノベ的展開には一切ならなかった。
いや、なってほしくない!
そして、トランプやら桃鉄やらやっていたら気づけば深夜の1時だった。子供はとっくに寝た時間だった。
キョン「ハルヒそろそろ…」
ハルヒ「……う…ん…」ウツラウツラ
キョン「ほら、行くぞ」
ハルヒ「わかった…わよ」フラフラ
キョン「あぶねぇな…ほら、手」スッ
ハルヒ「ん…ありがとう…」ギュッ
キョン「腕に絡まれとは言っていないんだが…」
ハルヒ「んん…」
キョン「ほら、ちゃんと歩けよ…」
ハルヒ「えへへ…」
キョン「ほら、着いたぞ」
ハルヒ「んん…」
キョン「ほら、ベットまで歩けよ」
ハルヒ「んー…」
キョン「ほら、ねろ…ってうわぁ!」ドサッ
ハルヒ「……ん」ドサッ
キョン「…何をする」
ハルヒ「一緒に寝てくれるって言ったじゃない」
キョン「…そういえばそうだったな」
ハルヒ「キョン温かいわね…」ギュッ
キョン「嬉しいそうだな」
ハルヒ「やっとキョンが手に入ったんだもん嬉しいに決まってるでしょ」
キョン「俺は物じゃないぞ」
ハルヒ「私の物よ」
キョン「……そうかい」
ハルヒ「……うん♪」
ハルヒ「なに…?」
キョン「……いや、なんでもないよ」
ハルヒ「?気になるわね」
キョン(ハルヒのこの独占欲は愛からくるものとわかると何て言うか……俺は…キュンってきてしまう。いや、俺は元からハルヒのことが)
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「なに……よ?」ウツラウツラ
キョン「…その、あの…アイラブユー///」カァァ
ハルヒは驚いた顔したあと、すぐにいつもの眠そうな顔に戻った。夢だと思っているんだろうか?それなら、好都合だ。
キョン「……ハルヒお前はその本の真似事なんかしなくてもいいじゃないか」
ハルヒ「なんでよ…」
ちょっとムスッってしたな…
キョン「俺はお前を愛してるからな」
ハルヒ「……」
キョン「だからさ…いつも通りのハルヒに戻ってくれよ」
ハルヒ「…」クー
キョン「寝ちまったか…まぁ、俺も眠いし…」
キョン「おやすみハルヒ」
ハルヒ「……」
朝
キョン「んん…今何時だ?」
ハルヒ「6時よバカキョン」
キョン「うわぁ!?」ガバッ
ハルヒ「昨日の晩のことまで忘れるなんてあんたの頭もとうとうやばいわね」
キョン「え……ハルヒお前…」
<ハルヒーゴハンヨー!
ハルヒ「はーい!ほら、先に行っとくからね!」
キョン「えっ…」
<キタワヨー
<アラ?キョンクンハ?
<スグクルッテー
キョン「…あれ?ハルヒの親もいる」
キョン「と、とりあえず長門に電話だ!」
プルプル ガチャ
長門『…なに?』
長門『…それは、きっと気持ちに整理がついたからだと思う。』
キョン「…どういうことだ?」
長門『涼宮ハルヒは、貴方を独占したいと思う強い気持ちとそんなことをしたら迷惑といううしろめたさに押しつぶされその『本』がトリガーになり気持ちが爆発してヤンデレになった。』
長門『だが、あなたから『アイラブユー』という言葉が彼女の気持ちの整理をつけさせた。私は、焦らなくてもいいとまだ、安心できると気持ちが落ち着いた。』
キョン「つまり元に戻ったんだな?また、戻ることはないよな?」
長門『その可能性は十分ある。』
キョン「…」
長門『でも、ならない方法がある』
キョン「なんだ?」
長門『貴方が大好きな彼女を愛してあげて…きっとそれで二度と戻らない。』
キョン「……善処する」
長門『じゃあ…頑張って』ブツ ツーツー
キョン「……」
ハルヒ母「あら、あらおはよう♪」
ハルヒ「ん…キョン隣座りなさい」
キョン「おお!うまそう…」
ハルヒ「当たり前でしょ!なんせ私が作ったんだから!」フフン
キョン「いただきます…あぁ、返す言葉もないな本当にうまい」モグモク
ハルヒ「あ、あぅ…///」
ハルヒ母(我が娘ながらかわいい…)
キョン「あぁ、てか昨日のことを全然思い出せないんだが教えてくれないか?」
ハルヒ「ん?まぁ、時間もあるし良いわよ」
ハルヒ「昨日は部活に私達二人しかいなかったのよ。それから、いろんなことで遊んで…で。気づいたから外は大雨なのよ風も凄かったんだから!」
ハルヒ母「それで、キョンくん家の家族は迎えにこれそうになくてキョンくんだけ学校に残すわけにはいけないからキョンくん家の了承を得てここにつれてきたのよぉーハルヒ必死だったわぁ」
ハルヒ「ちょっとお母さん!ま、まぁそいうわよ……か、勘違いしないでよ!?あんたは私の団員で私はやさしいから学校に残すのは可哀想だから仕方なく!泊まらしてやったんだから感謝しなさいよね!///」ハァハァ
キョン「お、おう(いつものハルヒだな…)」ハハッ
ハルヒ母「ツンデレ乙w」
ハルヒ「お母さん!」ムキー
ハルヒ母「あぁ、私がやっておくからいいわよキョンくん~」ニコッ
キョン「あ。ありがとうございます!」
ハルヒ「なにがありがとうございますよあんたらしくないわね」フンッ
キョン「俺は元から礼儀正しいぞ」フンッ
キョン「てか、ハルヒそろそろ着替えてこいよ時間なくなるぞ?」
ハルヒ「釈然としないけど着替えてくるわ!」ドタドタ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
キョン「じゃあ、行くぞハルヒ」
ハルヒ「ちょっと待ちなさいよ!じゃあ、行ってきまーす! 」
ハルヒ母「はーいいってらしゃぁーい♪」
ハルヒ「いきなりなによキモいわね」
キョン「ん…いや、言いたかっただけさ」
ハルヒ「ふぅーん…」
キョン「そう言えば今日の弁当どうしよ…」
ハルヒ「あ…えっと…」
キョン「はぁ…しゃあない購買部でパンでも」
ハルヒ「キョン!」
ハルヒ「あんたが弁当ないと思ってね!私があまりのヤツで作ってきたの!だから…だから…」
ハルヒ「私の弁当食べなさい!」
キョン「ありがとうなハルヒ愛してるよ」ヒョイッ
ハルヒ「えっ…///」ボンッ
ハルヒ「えっ…!ちょっとやめ!///」カァァ
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「えっ…」
ハルヒ「…なによ?///」モジモジ
キョン「俺なお前のことが─────。」
おわり
また、ハルヒssは書くと思うのでよかったら見ていってください!では…
もしかしたらエピローグ書くかも?
古泉「ここです。」パチン
キョン「甘いな古泉」パチン
古泉「おっと…流石ですね。」
キョン「それほどでも」
古泉「いえいえ、僕が言ったのはゲームの方ではなく……あなたの精神に流石ですっと言ったのです」
キョン「ハルヒの変化についてか…」
古泉「えぇ。」
古泉「それは違います」パチン
キョン「…なにがだ」パチン
古泉「貴方だけなんですよ…彼女がもっとも心を開いているのは」
古泉「涼宮さんを止められるのは貴方しかいない…僕はそれくらい貴方を頼っているんです。」パチン
キョン「……あのさ」パチン
古泉「はい」パチン
キョン「俺もお前のこと…一応!信頼してるからな」パチン
古泉「えっ…はい…ありがとうございます」パチン
キョン「……」
古泉「……」
キョン「……なんか喋れよ」
古泉「……すいません」
長門「……なに?」
キョン「これアドバイス料だ」ヒョイ
長門「こ、これは…期間限定のお菓子…とてもありがとう」
キョン「いや、あの時はお前しか頼りが居なかったからな…本当に助かった」
長門「……私の使命は涼宮ハルヒの観測…でも、貴方を守るのもある。だから、いつでも頼ってくれていい」
キョン「あぁ、でも、たまには俺にも頼ってくれよ?」
長門「……善処する。」
キョン「なんだ突っつくな」
ハルヒ「今日わ、わかってるでしょうね?」
キョン「なんだ誕生日か?」
ハルヒ「ち、違うわよ!バカッ!」
ハルヒ「その……わ、わかってるんでしょ?」
キョン「あぁ」
ハルヒ「~!///」ボコボコ
キョン「や、やめろっておい…今授業中!」
クラス(((う、うぜぇ~!!)))
ハルヒ「あんたが私をからかうのがいけないのよ!」フンッ
キョン「まったく可愛いげのねぇ…」
ハルヒ「…えっ」ピタッ
キョン「あ!あぁ!ごめんごめん!冗談!冗談だよ!」
ハルヒ「……本当?」ウルウル
ハルヒ「…可愛い?…グスッ」ギュッ
キョン「あぁ…可愛いよ」ナデナデ
ハルヒ「も、もう…不安になるようなこと言わないでよ…捨てられると思ったじゃない…グスッ」
キョン「大丈夫だって」ナデナデ
ハルヒ「何を根拠に…グスッ」
キョン「そりゃ…」
キョン「大好きだぞハルヒ」チュッ
本当におわり
キョン「俺はお前の彼氏だからだよ 」
キョン「大好きだぞハルヒ」チュッ
本当にごめんなさい。
乙
気になってしゃあない
掲載元:http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1465575384/l50
Entry ⇒ 2017.03.08 | Category ⇒ 涼宮ハルヒの憂鬱 | Comments (0)