恭介「>>3をひたすらストーキングしてこい」理樹「ええっ?」
恭介部屋
理樹「僕1人を呼び出すなんて珍しいね」
恭介「尾行はされてないな!?」
理樹「大丈夫だよ…」
理樹(昨日の夜、恭介はメールで『朝早くに1人で俺の部屋まで来い』と送ってきたのだ。そして今来てみたら恭介は物凄く汗っていた)
恭介「よし!じゃあ早速だが本題に入ろう。理樹、>>3をストーキングしてこい」
理樹「ええっ!?」
恭介「実はな…最近メンバーの様子がおかしいんだ。その原因を?」
理樹「いや、知らないけど…」
理樹(というかそんなに皆変だったかな…?)
恭介「だろ?だからメンバーで一番信用出来る理樹に>>3を尾行してその真相を暴いてほしい!大丈夫だ、お前なら誰もが油断する」
理樹(そう言って恭介は僕にマイク付きの片耳ヘッドホンを手渡した)
恭介「幸運を祈るぞ!」
理樹「ええぇ~……」
理樹(かくして僕は貴重な休日をまた恭介の策案で潰すのであった)
理樹「………」サササッ
理樹(女子寮に侵入してみたはいいけど今は皆出かけているのか人は少なかった)
来ヶ谷部屋前
コンコン
理樹(ちょっと悪いけどピンポンダッシュをして影から居るかどうか確かめよう)
ガチャ
来ヶ谷「……?」
バタン
理樹(よし、居たぞ!そうと決まれば>>5)
ガチャ
理樹「たのもー!」
ヒュッ
理樹(部屋に入った瞬間後ろから腕が現れて首に絡みついた)
来ヶ谷「動くな」
理樹「あ、あはは…」
理樹(あれから何十分経ったのだろう。僕は椅子に縛られて身動きが出来なかった)
恭介『理樹!どうした!』
理樹「なんだか目隠しをされて来ヶ谷さんに監禁されてる」ボソッ
来ヶ谷「さて理樹君」
理樹「な、なんでしょう…」
来ヶ谷「単刀直入に聞こう。なぜ私の部屋へ来た?」
理樹「それは恭…」
恭介『頼む言うな!』
理樹「や、やっぱりなんでもない」
来ヶ谷「ふむ。不法侵入をした不届きものが一丁前に口を噤むか」
理樹(来ヶ谷さんの部屋は良い匂いがした)
来ヶ谷「よろしい、ならば吐くまで>>7だ」
来ヶ谷「良いではないか!良いではないか!」
理樹(慣れた手付きで上着が脱がされた)
理樹「た、助けてー!」
コンコン
来ヶ谷「む?」
ガチャ
クド「おはようございます来ヶ谷さん!」
来ヶ谷「やあクドリャフカ君か」
クド「あのっ、早速ですが恭介さ…」
来ヶ谷「おっとそれは…な」
理樹(さらに扉が開く音)
クド「り、リキー!?」
来ヶ谷「なんの因果か理樹君がいるからその話題は無しだ」
理樹(いったい何を話そうとしていたんだ…?)
クド「そぉーですねっ。じゃあ今日はやめますか?」
来ヶ谷「いや、せっかくの休日だ理樹君を返そう」
理樹(そういうと目隠しを取って女子寮の前まで送り返された)
理樹「ご、ごめん…」
恭介『なぁに、相手が悪かっただけさ。次は>>10を尾行してくれ』
謙吾「ふんふふんふふ~ん♪」
理樹(謙吾の部屋を覗いて見ると木刀の手入れをしていた)
理樹「これからずっと尾行?」
恭介『ああそうだ』
理樹(このまま何も変化が無かったどうするんだろう…)
チョンチョン
理樹「うわっ!」
鈴「ん?」
理樹(服を突かれてびっくりして驚いき、振り向くと鈴がいた)
理樹「ど、どうしたの鈴…?」
鈴「お前が変な動きしてたからな」
理樹「声ぐらいかけてよっ」
鈴「それよりさっさと謙吾のところに行かないのか?」
理樹「どういう意味?」
鈴「来ヶ谷が謙吾の部屋か来ヶ谷の部屋で集合とか言ってたぞ」
理樹「はあ…?」
恭介『よし、何かありそうだな!着いていけ理樹!』
理樹「う、うん…」
鈴「来たぞ」
謙吾「おお、さあ入った入った……って何ィ!?」
理樹「……」
謙吾「な、なぜ理樹がいる…」
鈴「?」
真人「おっす…ってあれっ?理樹じゃねえか」
理樹「い、いやぁ…僕もよく分からないんだけど…」
謙吾「ま、真人!理樹はこの計画を知らんはずだよな!?」
真人「そのはずだがもういんじゃね?話しても」
謙吾「いや…でもなあ」
理樹「いったい皆何の話しをしてるのさ!?」
謙吾「うぐ…恭介にバレるぞ」
真人「鈴でさえ話さないと誓ったんだ、大丈夫だろ」
謙吾「う…む……」
コンマ偶数で打ち明ける
理樹「わ、分かってるよ」
恭介『ふっふっふ。どんな話が飛び出すか見ものだな』
理樹(どうしようかな…恭介が知らない方がいい話もあるかもしれないけど恭介とタッグを組んでみるのも面白いかもしれない)
1.ヘッドホンの電源を切る
2.そのままにしておく
(この選択で物語が大きく分岐します)
恭介『なっ』プチッ
謙吾「ん?何か言ったか?」
理樹「何でもないよ!」
理樹(恭介には悪いけどやはり皆の信頼を裏切ることは出来ない。ヘッドホンの電源を切った)
謙吾「おかしな奴だ。まあいい、それじゃ話すぞ…」
理樹(急に謙吾の声が小さくなる)
謙吾「これは少し前の話だ…」
グラウンド
鈴「あ」
来ヶ谷「どうした鈴君?」
鈴「そーいえばそろそろ恭介の誕生日だ」
来ヶ谷「そうか。それは祝ってやらなくてはな」
葉留佳「えっ、それマジ!?」
鈴「皆でやりたい」
葉留佳「ふふふっ…いいこと考えちゃった!」
来ヶ谷「おおかた君はサプライズパーティーでもやろうと言い出すんだろう?」
葉留佳「見透かされたー!?」
鈴「ああ、ひとつ言っとくが恭介にさぷらいずは通用しない」
来ヶ谷「なんだと?」
葉留佳「でもそれって恭介サンが自分の誕生日覚えてるからじゃないですカ?ふつー自分のぐらい覚えてるだろうし」
謙吾「いや、それ自体は覚えていない。俺たちが何かを準備していることに気付いて1人でに見つけてしまうんだ、冷蔵庫のケーキや部屋の飾り付けをな」
来ヶ谷「盗み聞きとは趣味が悪いな…まあともかく簡潔にまとめると恭介氏は我々の様子が変なことを察知し、そこから調査して見破るという訳だな?それなら一つ良い方法がある」
鈴「?」
真人「なんで俺たち女子寮に集められたんだ……」
謙吾「そう怖がるな、時期に分かる」
小毬「うわぁこれがゆいちゃんのお部屋なんだねぇ~」
クド「大人の風格が現れてますっ!」
パンパンッ
来ヶ谷「静かにしたまえ。今回君達を私の部屋に呼んだのは他でもない。恭介氏をギャフンと言わせるためだ」
葉留佳「いぇーい!」
真人「恭介をか?」
来ヶ谷「うむ。近々彼の誕生日だというのは知っていたかな?」
小毬「へぇー!おめでたいねえっ」
西園「なるほど…サプライズですか」
来ヶ谷「その通りだ。開催場所は後々決めるとしてその準備の間、恭介氏にはなんとしても気付かれてはいけない」
真人「サプライズパーティーか…それ一回失敗したんだよなぁ…」
来ヶ谷「そう聞いているよ。だから絶対気付かれない様にする必要がある」
クド「わふー!それはどの様にするんですか!?」
来ヶ谷「拒絶だ」
真人「はぁ?」
謙吾「反論はない」
来ヶ谷「探られる隙を与えてしまったのが前回の敗因だと私は思う。だから今回はこっちから拒絶して藁さえも掴ませない様にするのだ!」
葉留佳「さっすが姉御!本人の事なんか気にしてないっ!」
来ヶ谷「それは褒めているのか…」
西園「拒絶…とすると無視をするなどですか?」
来ヶ谷「いいや生ぬるい!例えば小毬君なら恭介氏に話しかけられたら不審者を見たような目付きをして逃げたりクドリャフカ君だと語尾に『ロリコンさん』と付けるなどだ」
真人「え、えげつねぇ…」
謙吾「お前はそれでも血の通った人間か!」
来ヶ谷「なんとでも呼ぶがいい。だがそうでもしないと見破られてしまうだろう?上げて下げるのではなく下げて上げるのだからそこまで良心は痛まないはずだ」
葉留佳「いや…充分罪悪感半端ないッスけど…」
鈴「よく分からんが悪いことじゃないなら従おう」
西園「所で何故この場に直枝さんは居ないのでしょう?」
来ヶ谷「理樹君は人が良すぎる」
西園「なるほど」
……………
………
…
謙吾「という訳だ」
理樹「うわぁ…」
理樹(もしこれを聞かせていたら恭介との逆襲が始まっていただろう)
鈴「もう電話繋がってるぞ」
理樹(そう言って鈴が携帯を差し出す)
理樹「は、早い………もしもし?」
来ヶ谷『事情は聞いたな?君は知り過ぎた。ここで協力するか消されるか…君が決めろ』
理樹「分かったよ…やればいいんでしょ?」
来ヶ谷『時に理樹君。君は恭介氏から何か我々の事について聞いていたか?』
理樹「うん…そりゃもう酷い顔をしてたよ…」
理樹(そんな調子でずっと過ごしていたなら無理はない)
来ヶ谷『はっはっは!それは滑け…上手くいってるようだな 』
理樹「そのせいで皆の事を探る様に言われちゃったよ」
来ヶ谷『ほほう、それは面白い!なら君にもミッションを与えよう。恭介氏の精神をボロボロにするのだ』
理樹(誕生日を迎えるまで恭介大丈夫かな…)
来ヶ谷『まずは>>27してこい』
理樹「この人でなし!」
恭介部屋
理樹「ごめん、途中で何かに当たって切れちゃったみたい」
恭介「一時はどうなるかと思ったぜ!それで謙吾はなんだって?」
理樹「いや…恭介に秘密で皆でご飯でも食べに行こうかって……」
恭介「ぐぉはっ!」
理樹(今にも吐血しそうだった)
恭介「そ、そこまで俺のことが嫌いなのか皆は…」
理樹「だ、大丈夫だよっ僕はあくまで恭介の味方だからさ!」
恭介「理樹……ぐすっ………おっといけねえ目から水が…」
理樹(ざ、罪悪感が…)
恭介「ふっ、謙吾や皆ともいつか仲を元通りにしてみせるさ。だからその間お前だけは俺の仲間でいてくれよなっ!」
理樹「うんっ!さあ僕らの絆ダンスを踊ろうよっ」
恭介「おお!いい提案だ理樹!いくぜ、一発芸用に練習してきた自己流タップダンス!」
理樹(今だ!見られない様に携帯のカメラで……)パシャッ
恭介「今日も食堂で1人飯はキツかったな…」
ピラッ…
恭介「ん?」
[恭介のタップダンス写真]
恭介「なにィ!?」
女生徒「見てよこれ…クールなイメージだったけど棗さんって案外ひょうきんだったのね」ヒソヒソ
女生徒2「あっ、あそこにいるわよっ」クスクス
恭介「あちこちにばら撒かれてやがる…そんな…っ!……まさか理樹まで…」
来ヶ谷部屋
来ヶ谷「ご苦労理樹君。彼の驚きっぷりはとても貴重だったぞ」
理樹「ねえ…これまだやるの?」
理樹(恭介がどん底に落ちて行くサマはとても見ていられない)
来ヶ谷「私だって好きでやってる訳じゃない…」
理樹「絶対嘘だよね!?」
来ヶ谷「だから準備も早急に進めているよ。場所は理樹君と真人少年の部屋だ」
理樹「僕の?恭介が来ちゃうんじゃ…」
来ヶ谷「いやいや、棗兄はもはや私達全員を味方とは思っていないだろう。そこにわざわざ足を踏み入れる程愚か者では無いさ」
理樹「た、確かに…」
理樹(そう考えたら僕も今頃恭介から恨まれているのだろうか…)
来ヶ谷「まあこれで野球の練習に行かなくてもお呼びがかからずパーティーの準備に勤しめた訳だ」
理樹「過去形?」
来ヶ谷「まだ少し残っているが明日の夜にでも始める事が出来るだろう」
理樹「よ、よかった…これで終わりだね……」
理樹(恭介イジメも今日で終わり。これで一安心かと思った。しかしこれで終わりでは無かったんだ…)
ゴンッ
クド「わふー!?い、痛いのです…」
謙吾「こら真人天井までぶつける奴があるかっ」
真人「わ、悪いな…」
小毬「ポテチよし、ワッフルよし、ケーキよし。うん、完璧っ」
西園「ピザを受け取ってきました」
来ヶ谷「ご苦労様。葉留佳君、頼んでいた物は?」
葉留佳「ははーこちらに」
鈴「うし……もう準備万端だな」
来ヶ谷「では理樹君、恭介氏を連れてきてくれ」
理樹「うんっ!」
恭介部屋前
コンコン
理樹「おーい恭介ー?」
理樹(返事がない)
理樹「……鍵がかかってる…」
男子生徒「ああ君、棗の知り合いかな?」
理樹「そうですけど…」
男子生徒「僕はルームメイトなんだけどかなり困ってさあ…」
理樹「どうしたんですか?」
男子生徒「昨日からずっと引きこもってて外に出てくれないんだ」
理樹「ええーーっっ!?」
男子生徒「おう棗!今日は遅かったなっ」
恭介「…俺の育て方が間違っていたのか……ブツブツ」
男子生徒「ど、どうしたんだコイツ…」
恭介「すまん…今日は1人にしてくれ……」
男子生徒「はあ?」
バタンッ
男子生徒「てな感じなんだ」
理樹「そうとう追い詰められてますね…」
男子生徒「ああ。何の用事か知らないけど棗をここから出してやってくれ!」
理樹(やっぱりやり過ぎてたんだ…ここは僕の責任。なんとかしてここから出さないと!)
>>34
恭介『ヒッ!』
理樹(怯えている…可哀想に)
理樹「ちょっと待ってて!」
理樹(急遽鈴の制服を借りて戻る)
理樹「はあ…はあ…お待たせ……」
恭介『…何をしてきたのか知らないがお前と話すことなんてない』
理樹「恭介……」
理樹(ドアを開けてこの姿を見せない事には女装してきた意味がない。ここは謙吾と真人に協力を頼もう)
真人「ふっ、このドアをぶち壊せばいいんだな?」
謙吾「このぐらい俺と真人が押せば簡単に破れるだろう」
理樹「ありがとう二人とも!」
謙吾「なぁに、これもパーティーのためだ」
真人「よっしゃ!行くぜ謙吾っ!!」
謙吾「うおおぉーっ!」
コンマ50以上で成功
真人「っ痛ってぇえええーっ!!」
謙吾「硬い…恭介の奴扉を強化してるぞ…!」
理樹「やっぱり恭介が一枚上手だった…」
真人「どうすんだよ理樹……というかなんでお前そんな格好してんだ」
理樹「格好は気にしないで…」
理樹(しかし困ったぞ…扉は頑丈で力押しはダメ。説得しようにも聞く耳を持たない他の手といえば……)
1.水攻め
2.肥料攻め
3.その他
>>40
真人「お?」
理樹「肥料攻めしかない!」
謙吾「肥料攻め、籠城した敵をあぶり出す際に使う策の一つだな」
理樹「いくら恭介といえど夜になれば自然と観念して出てくるはずさ!」
1時間後
真人「なあ理樹…もう夜飯時だがまったく来る素振りがねえな」
理樹「そうだね…来ヶ谷さん達もそろそろ痺れを切らす頃だよ」
ムシャムシャ
謙吾「ん?この音は……」
恭介『…モグモグ』
理樹「恭介がなにか食べてるよっ!」
真人「野郎買い置きしてやがったな!」
理樹「これじゃ今日のうちに自分から出ていってくれる事は期待出来なさそうだね…」
理樹(どうしようか)
1.水攻め
2.その他
真人「ん?」
理樹「水攻めだ!」
謙吾「水攻め、籠城した敵をあぶり出す際に使う策の一つだな」
理樹「いくら恭介といえどエラ呼吸は出来ないはずさ!」
真人「でもどうやって…」
理樹「鍵穴からホースで水を入れるんだよ。寮に取り付けてある非常用のなら訳ないはずさ」
真人「えげつねえ」
理樹「さあ来ヶ谷さん達が待ってるよ!善は急げだっ」
真人「どっちかと言うと悪じゃね?」
恭介「………」
恭介(それにしてもこれから俺はどうやって生きていけと言うんだ!リトルバスターズは俺が引っ張っているつもりだったがあいつらに嫌われただけでこうも変わるとはな…失ってから気付く大切さ……という奴だな。ああ、なんだかダルくなってきちまった、今日はもう寝ようか)
カチッ
恭介「………カチッ?」
理樹「~~!」
恭介「ったく…今度はいったいなん…だぁぁぁ!?」
ブッシュウ!
恭介(水、水、水!鍵穴から高圧の水が噴出してきた。その勢い雷鳴の如し)
恭介「あいつら俺を殺す気か!なんとかして穴を塞がねえと…っ」
ゴボゴボゴボ
恭介(板や接着剤、あらゆる物を試してみたが高圧ジェットの前には全てが無と化した)
恭介「ッチ!もう膝まで浸食してきやがった…かくなる上は!」
恭介(止むを得ず後ろの窓を開けた瞬間だった)
謙吾「恭介が出てきたぞー!」
真人「よっしゃあ!」
恭介「げぇ!」
恭介(そのまま俺は目隠しをされ、どこかへ連れていかれた)
「やれやれ色々あったが取り敢えずミッションコンプリートだな」
「本当に色々あり過ぎたよ!」
恭介「う…ここは……」
「鈴君、目隠しを取りたまえ」
「ん」
シュルッ
恭介「眩しっ」
パンッパンッ!
「「「ハッピーバースデー恭介(さん)!!」」」
恭介「………は?」
小毬「い、今までごめんなさいぃぃい~!」
西園「これまで冷たくあたっていたのはこういう事だったのです」
クド「西園さんは素ぽかったですけどね…」
来ヶ谷「ま、そういう訳だ。どうだったかな恭介氏?初めて欺かれた経験は」
恭介「ふっ…ふはは!なんだ…すっかり騙されちまったぜ…てっきり皆俺の事が嫌いになったのかと……」
理樹「そんな訳ないじゃないか。恭介はいつまでも僕らの大切な仲間だよ」
真人「その通りだ!」
鈴「……」コクン
恭介「まったく心臓に悪い仲間を持ったぜ俺は!」
謙吾「よぉし!それでは乾杯といこうじゃないかっ!!」
理樹(皆が一斉にコップを上に挙げる)
恭介「おっと、その前に一つ言わせてくれ」
理樹「?」
恭介「すぅ…………ギャフン!」
終わり
乙乙!
トイレに行くところを捕まえるのかな?と思ってしまった
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420636443/
Entry ⇒ 2017.11.24 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「えっ、もう10年経ったの!?」
直枝家
ガチャッ
理樹「ただいまー……」
鈴「おー、おかえり」
理樹「なんかご飯とかある?」
鈴「んーと、今から鯖焼く。あたしもまだ食べてないからお腹減ったんだ」
理樹「えっ、遅くなるから先食べてて良いってメールしたよね!?」
鈴「余計なお世話だ」
理樹「ふふっ…鈴も成長したね。昔は日直なのに黒板を消さず外で猫と遊ぶほど思いやりがなかったのに」
鈴「昔か……あっ」
理樹「……どうしたの?」
鈴「そういえばリトルバスターズ発売から今日はちょうど10年だ」
理樹「………えっ」
理樹「ええーーーー!!!」
鈴「そんなに言うことか?」
理樹「言うことだよ!凄くめでたいじゃないか!いや、忘れてたけど!」
鈴「だって去年は別にあんまり反応なかった」
理樹「9周年だもん!鈴は9周年で祝ってる会社とか見たことあるの!?」
鈴「なんだうっさいな……」
理樹「み、み、みんなに知らせないと!記念日が終わるまであと1時間しかないよ!」
ピーンポーン
鈴「なんだこんな時間に……ちょっと見てくる」
理樹「ま、まさかこのタイミングは……」
ガチャ
「「「十周年おめでとうーー!!」」」
恭介「ふっ……理樹が会社から帰ってくるまで全員でスタンバイしてたんだぜ?」
謙吾「まったく…こんな蒸し暑い夜だというのにいったい何時まで働くつもりだ」
真人「まあ俺は理樹のためなら何日でも待てるがな!」
来ヶ谷「1日以上待てば記念日は終わるがな」
葉留佳「やはーおっひさー!」
佳奈多「まったく…なんで私まで……ブツブツ」
佐々美「おーっほっほっほ!お久しぶりね棗鈴!いえ、今は苗字が変わっていたのかしら?」
西園「お久しぶりですお二人とも。あまり変わってませんね」
クド「わふー!ろんぐたいむのーしー!なのですー!!」
小毬「私は今日鈴ちゃんとご飯食べに行ったばかりだったけどね~」
理樹「み、みんなぁ!」
クド「そう!その十周年では色んなイベントがやっているのです!例えば私や佳奈多さんが出る『クドわふたー』の劇場アニメ化プロジェクトがあります!」
理樹「へえ~やっぱり何か色々やるんだね」
恭介「ああ。他にもツイッターでサイン色紙とか抽選でプレゼントするらしい」
鈴「よく分からんがお祭り騒ぎってことだな」
葉留佳「いや~それにしてもあれから10年!凄く早く感じますネ」
来ヶ谷「あまり年齢については言いたくないがエクスタシーの関係でクドリャフカ君が28歳、私達は29歳すると恭介氏は……」
恭介「う、うおおおおお!!それ以上そういう系の話をするんじゃねえ!!」
真人「にしても(21)になりたくね~とか言ってた日が懐かしいぜ。もう理樹と鈴なんか家庭持ってるもんな」
理樹「あはは……まあね」
クド「ちなみにクドわふたー本編では大人になった私と理樹の姿が見れたり見れなかったりです!」
謙吾「しかし、こうやって全員集まってみるとなんだかこう、野球をやってみたくならないか?」
理樹「ううん、だけどバットやボールがないからね……」
西園「今夜までにツイッターで#リトバス十周年と打って絵や歌などを呟くとリトバススタッフが選んだ50名にリトルバスターズ特製サインボールが贈られてくるらしいですよ」
理樹「今夜ってもうあと少しじゃん!なんにも用意出来ないよ!」
恭介「俺はもう呟いたぜ。絵や歌が苦手でもただ熱い想いを綴ることは出来る」
真人「じゃあ俺は10年ぶりの筋肉イェイイェーイをやるかな……」
クド「ちなみにクドわふたーはくらうどふぁんでぃんぐ?というもので劇場アニメ化を実現するための投資を募集しているのです!今なら豪華特典付きで絶対に損はしないとか!」
理樹「というかさっきからクドなんか宣伝しかしてなくない!?」
来ヶ谷「あと既にクラウドファンディングの目標金額は突破しているな。とはいえここでしか手に入れられないグッズがあるから金と興味のある人間はやってみるといいだろう」
理樹「今度はなんだ!?」
沙耶「全員集まってるのに私を除け者にしようったってそうは行かないわよ!」
小毬「だ、誰……?」
理樹「さ、沙耶!?タイムスリップで過去に言ったはずじゃ!?」
沙耶「十周年だったら飛んでくるわよ」
真人「意味不明過ぎんだろ……」
沙耶「それより理樹君!こっちじゃ10年ぶりね!ギューッ」
理樹「う、うわわ!」
鈴「な、なにィ!?理樹を離せ!誰だお前は!?」
沙耶「ふん。パートナーに抱きついて悪いかしら?」
鈴「パ、パートナー……!?」
理樹「あっ、いや、これは違うんだ鈴!!」
葉留佳「うわーなんか泥沼って感じっすネ……」
佳奈多「ふん。元からああいう男よ、あいつは…」
佐々美「ホント、手当たり次第に手をつけるなんて宮沢様の足元にも及びませんわ!」
来ヶ谷「君ら追加版で攻略キャラになっていなかったか?」
恭介「まあまあ!今日は全部忘れて語り合おうぜ!」
西園「それはいいのですがのんびり語り合っていると十周年過ぎますよ…?」
恭介「グッ……も、元はと言えば西園の話で暇が無かったから……」
クド「時間がないといえばクドわふたーの投資の期限は残り64日!皆さん急ぎましょう!」
理樹「な、なんかもう本当にカオスだ……」
謙吾「結局、みんな口実が欲しかっただけなのさ」
理樹「どういう意味?」
謙吾「大人になってから大勢で集まる機会は激減する。だが、一緒にいればまたあの学園の中で過ごした日々に戻れるんだ。みんなそれが楽しくてたまらないのさ。どこの誰だってそれは同じだ。だからたまの集まりくらい許してやれ」
理樹「謙吾……」
西園「でもその理屈だと十周年あんまり重要じゃないということですよね」
謙吾「そ、それはまた違うだろう!?」
来ヶ谷「とにかくこうやって無事集まれたのはひとえに理樹君と鈴君のお陰でもある。乾杯しようじゃないか」
鈴「オレンジジュースならあるぞ」
佳奈多「わ、私場違いじゃないかしら?」
葉留佳「大丈夫大丈夫!ちゃんとOVAでお姉ちゃんのパートもやったじゃん!」
クド「アニメといえばナツメブラザーズも復活してほしいです!」
鈴「あーあれは楽しかったな」
真人「あれ毎回不死鳥のごとく復活するな」
恭介「よっしゃ、じゃあコップは持ったか!?行くぞ!リトルバスターズに!」
「「「乾杯ー!!」」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恭介「そろそろ0時だ」
来ヶ谷「潮時だな」
葉留佳「えーまだ話足りなーい!」
真人「はぁ……もう学生気分は終わりかぁ…寂しいなぁ…」
小毬「えへへ、確かにね……でも、きっとまた会えるよ」
謙吾「その通りだ。何度でもまた集まって騒げばいい。あの頃と今の違いなんかほとんどない。ただ『毎日』が『たまに』になっただけだ」
沙耶「あと何度集まれるかしらね?」
理樹「何度でも集まろう。リトルバスターズは不滅だ!」
恭介「おっ、その通りだ理樹!!リトルバスターズ最高!」
理樹「ふふっ…リトルバスターズ最高!」
「「「リトルバスターズ最高!いやっほぉおぉーう!!」」」
理樹(あれから10年経ったが、僕らの友情は変わらない。きっと何十年経ってもそうなんだろうな。そう思った夜だった)
終わり(∵)
いやはや、十周年か。発売当時とかは全然作品知らなかったけどこの日を祝えて良かった!
じゃあいつかのリクエストは全部消化したからまたなんかネタ思いついたら建てるぜ(∵)
もう10年なのか…そうか10年か…
西園さん読み切ったらもう新しいのが出ていて驚いたぞ
十周年本当におめでとう
乙
リトルバスターズ最高!!
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501164369/
Entry ⇒ 2017.09.21 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「安価で行動しよう」
李儒(僕は自分の部屋の前のプレートをペンキを使って”井ノ原・直枝”の欄を”井ノ原・李”と上塗りした)
真人「おっ、なにやってんだ理樹?」
理樹(しばらくすると起きてきた真人がドアから出てきた)
李儒「見ての通り名前を直してるんだよ」
真人「……待て待て!もしかして出て行っちまうのか!?うぉおおおそんなぁぁあ!!」
理樹(真人がこの世の終わりを告げるような声で叫んだ)
李儒「えっ、どういうこと?」
真人「だ、だってその李って奴に描き直すってことは理樹はどっか行っちまうってことだろ!?」
李儒「はははっ!違うよ。ただ僕の名前を改名しただけだから!これからは李儒って呼んでね」
真人「な、なんだ……あせらせやがって!」
李儒(というか知らない人と急に同部屋になる事については別に良かったのか)
真人「そうだ理樹……じゃなくて李儒。俺はこれからグラウンドでランニングして来るけどお前はどうする?」
李儒「そうだなあ……」
李儒(とりあえず>>4でもするか)
真人「そうかい。じゃあお互い頑張ろうぜ!」
室内
~~♪
李儒「どこまで二人でいれるかな~♪」
李儒(この動きは見た目とは裏腹になかなかハードな運動とキレを必要とした。これを完全に覚えるまで3ヶ月はかかったくらいだ。しかし、いざマスターするとこれがまた非常に楽しい。歌自体もつい口ずさんでしまう程でなかなかやめられない)
李儒「ものまねすきるが未熟なの~♪」
李儒(そのため、さっきから鳴っていたらしいノックに気づく事が出来なかった)
ガチャッ
>>9「!?」
李儒(ドアから驚愕と呆れが混ざった顔の笹瀬川さんが現れた)
李儒「あっ、笹瀬川さん。どうしたの?」
佐々美「え、ええ…実は少し相談がありまして……少々時間をいただいてもいいかしら?」
李儒「相談?まあ僕でいいなら……」
佐々美「………とりあえずそのダンスをやめていただけるかしら?」
李儒「ええー」
・・・
李儒「で、どうしたの?」
佐々美「>>12」
李儒「あ、あの……」
佐々美「分かっていますわ!確かに宮沢様の事はずっと好きでしたの……でも、私にとってあの方は憧れの存在……確かに好意はありますが、それは愛してるって方の意味ではございませんの。でも、あなたは違いました。最初はなんでもない風を装っていても次第に気持ちが抑えきれないというほど、あなたを好きになってしまいましたわ。……愛しているという意味で」
佐々美「さ、さあ!私の思いはすっかり言ってしまいましたわ!あなたの気持ちをお聞かせ願いますわ!!」
李儒「……その、僕、今は直枝理樹じゃなくて李儒って名前に変えたんだ」
佐々美「なっ!?……ま、まあ…それはそれで良い名前かもしれませんわね……でも私の気持ちに変わりはありません。どうぞ、今度こそはっきり言って下さいまし!どんな答えでも甘んじて受けますわー!」
李儒「>>14」
李儒(その時、彼女の目からポロポロと涙がこぼれた。突然のことだったので僕はどうしたらいいのか分からずとにかく声をかける事しか出来なかった)
李儒「さ、笹瀬川さん!?えっと……」
佐々美「ふふ…申し訳ございません。少し取り乱してしまいましたわね……ただ、とても嬉しくってつい抑えきれませんでしたわ。そう……実るというのはこんなにも嬉しい事ですのね……」
李儒「………」
李儒(そうだ。笹瀬川さんは例え憧れだったとはいえ謙吾にアピールしてもなかなか振り向いてもらえていなかった。プライドの高い彼女が来る日も来る日も努力して、それでも無駄だった毎日を思うとその涙には頷ける。その健気な彼女は今、僕を目の前に満面の笑みを浮かべている。とても綺麗だった)
李儒「笹瀬川さん。僕、謙吾ほど強くないけど、きっと君を幸せにしてみせるよ」
佐々美「ええ……期待していますわ」
李儒(そして僕らはまるで最初からこうなる事が当然だというようにお互い歩み寄り、キスをした。その時、ドアからまた別の人が現れた)
>>16「>>17」
葉留佳「いやー!オメデトオメデトー!!」
佳奈多「ふふっ、二人とも末長くね」
佐々美「な、なんですのあなた達は!?」
李儒「は、葉留佳さん…それに二木さんまで」
佳奈多「実はさっき勝手に寮の名前のプレートを塗り直した輩がいると聞いて駆けつけてきたのよ」
葉留佳「あっしはそれに付いてきたんでやんす!」
佳奈多「風紀委員長として見過ごせないと思ってね……それで蓋ならぬドアを開けてみたらこんな所でお熱いのを見せられていたって訳」
李儒(しまった……塗ったはいいけど怒られるのは想定外だった)
佐々美「な、なお……じゃなく、李儒さん……」
佳奈多「……でも。今回は二人の愛に免じて許してあげましょう」
李儒「ほ、本当!?」
佐々美「やりましたわ!」
佳奈多「その代わり幸せにしなさいよ!」
李儒(こうして僕らのドラマは終わった。改名したり踊ったり付き合ったり……色んなことはあったけど、どうしても愛し合うことだけはやめられないんだ)
終わり(∵)
明日その2
理樹(幸い今は朝っぱらだ。とりあえずこれから夕日が登ってくる頃までにその”何か”に繋がる事をやっていこう)
ガチャ
真人「おっ、もう起きてたのか理樹。ただいまジョギングから帰ったぜ」
理樹「おはよう真人。朝ご飯どうする?」
真人「あーちくしょー!朝はもう走ったあとで食堂ので済ませちまってたぜ!すまねえ理樹!なんならもう一回カツ定食一緒に食べてもいいが……」
理樹「そこまで無理しなくていいよ……」
理樹(はて。一人で食べることになってしまった。そうだ、ここは朝ご飯を>>23と一緒に食べるついでに今回の事を相談してみようかな)
理樹「という訳なんだ」
沙耶「あ、あなたねぇ……!!」
理樹(その時、沙耶の拳がプルプルと震えた)
沙耶「緊急の件だからって呼び出されたかと思ったらなにそのくだらない理由は!?時風の新たな情報かと思ったじゃない!」
理樹「くだらなくないよ!いい沙耶?僕らが子供でいられる時間ってびっくりするほど早いのにその癖、それを自覚出来る人って信じられないくらい少ないんだ。だからその時が来るまでに青春を刻んでおきたいのは当然のことじゃないか!」
沙耶「はぁ……なんかもうどうでもよくなってきた……」
理樹「サンドウィッチあるよ。食べる?」
沙耶「食べる。……それで、あなたは具体的にどうしたい訳?ただ夕日を走ればいいって訳じゃないようだけど」
理樹「それを沙耶に考えてほしいんだ。なんかない?」
沙耶「そ、そうねぇ……普通、そういうのって野球とかでどこかのチームに負けた時に悔しさを忘れない為に走るとかが一般的じゃない?……ハムッ」
理樹「なるほど…誰かに負けたり、悔しさを感じればいいのか」
沙耶「モグ……まあそういう事ね……あっ、このツナ意外とイケる」
理樹「よーしじゃあ沙耶!今からなにか勝負しない?」
沙耶「いや安直すぎるわ!だいたい今からやっても夕方には早すぎるでしょうが!」
理樹「うーんそれもそうだな……あっ、それじゃあこうしない?今からお互い出来る限り>>25を集めて夕方になったらここに来てその数を競い合うっていうのは!」
理樹「信用ないなぁ……まあでもそれがあれば勝負は白熱するよね。よーしここはいっちょキツいの頼むよ!」
沙耶「ふふっ、それじゃあ『勝った方は負けた方に>>27出来る』でいきましょ。ルールは夕方まで、場所はそうね……あんまり広くてもキリがないから校内までって事でいい?」
理樹「うん」
沙耶「よーしそれじゃあミッションスタートよ!で、とりあえず1個目ゲット!」
理樹(そう言って沙耶さんはさっき僕がふくろごと渡したサンドウィッチについていた食パンの袋をとめる青いあれを僕に見せつけた)
理樹「あっ!ふ、不覚……」
・・・
恭介「あーあれか。あれならもう捨てたぞ」
理樹「ええーっっ!!」
恭介「どうした?欲しかったのか?」
理樹「ちょうどアレをいくら集められるかで勝負しててさ……でもどうして捨てたの?あんなに大事にしてたのに」
恭介「なんだその勝負は!?……いや大切なのは変わらないが正直言って物を作りまくったせいで残っているのが20個ほどしかなかったんだ。あれだけだとロープさえ満足に作れねえってんでもう処分したのさ。一応俺のロボットはまだここに飾ってあるけどな」
理樹(恭介はそう言って机の上のロボットを指した)
理樹「……恭介。提案なんだけどさ、あのロボットを分解すれば僕絶対勝てると思うんだよね。だからちょっとの間自爆させてくれない?勝負が終わったら返すから」
恭介「いや俺のゼロに何させる気だよ!?俺にメリットねえじゃん!」
理樹「ええ~~」
恭介「いくら理樹のお願いだったとしてもダメだ!」
理樹「分かったよ……その代わり、食パンの袋をとめる青いあれが大量にある場所とか知らない?」
恭介「うーん…そうだなぁ…あっ、そういえば>>35がちょうど大量に持ってるって言ってたな」
(※)恭介「なあ、このパンの袋を挟むアレを有効活用する方法を考えてくれ」理樹「えっ?」 参照
理樹「やあ小毬さん。ごめんね突然」
小毬「ううん。大丈~夫ですよ~!今日はどんなご用事?」
理樹「実はかくかくしかじかで……」
小毬「なるほど。分かりました!実はちょうどその食パンの袋をとめる青いあれ結構余ってたのです。よろしかったら理樹くんにあげるっ」
理樹「おお流石小毬さん!とても助かるよ」
小毬「今お部屋にあるから取りに行ってくるよ」
理樹「ありがとう!」
理樹(その時、小毬さんの後ろからチリンチリンと音を立てて走ってくる人が見えた。この学校ではその音をしながら来るのは猫と彼女しかいない)
鈴「小毬ちゃん!こんなところにいたか」
小毬「あっ、鈴ちゃん~おはよう!」
理樹「おはよう鈴」
鈴「おっ、理樹もいたか。とりあえず今はそれどころじゃない小毬ちゃん!昨日一緒に例の駅前のパンケーキ屋さんに行くって約束だ!」
小毬「あ、あ~~!ごめん鈴ちゃん!すっかり忘れてたよぉ……」
鈴「今から行けばまだ間に合う!さあ行こう!」
理樹「ち、ちょっと待って!小毬さんにはこれから部屋に取ってきてもらいたいものが!」
鈴「悪いがそんな暇はない」
理樹「そんな……」
小毬「ご、ごめんなさい理樹君!代わりに鍵を預けるから行って取ってきてくださいっ。多分引き出しにあるから~~……」
理樹(小毬さんのおそらく最高速度であろう喋り方で鍵を僕に預けるとそのまま鈴に引きずられるように走り去っていってしまった)
理樹(しかし誰かに愛の告白をさせるなんて罰ゲームは普通に洒落にならないんだよなぁ。ここは覚悟を決めて行くっきゃない!)
ガチャッ
理樹「ふぅ……とりあえず部屋には入れた」
理樹(小毬さんの言う通り引き出しに30個ほどあった。ペットボトルを切った入れ物に入れていたと言うことはきっと趣味で集めていたんだろう。これはなかなかの収穫だ。勝負が終わったら返しておこう)
理樹「さて、そろそろ笹瀬川さんでも来る前に出ますか……」
ガチャッ
佳奈多「じゃあそろそろパトロールは終わりに……ん?」
理樹(部屋から出た瞬間、ちょうど二木さん率いる風紀委員の本隊に出くわした)
理樹「あー……おはよう二木さん」
佳奈多「…………」
女子寮 取り調べ室
理樹(気が付けば僕は椅子にロープで縛られ、一人残った二木さんに尋問を受けていた。窓は無く、電気もドアの前のライトしかないせいで部屋はとても暗く、椅子の横にあるテーブルには何に使うか知りたくもないような拷問器具が並べられていた)
理樹「ち、違うんだ!この鍵は小毬さんから貰ったもので決して泥棒に入ろうとかは……!」
佳奈多「……仮にそれが全部本当だとしてなんで一人で行ったの?誰か他の女の子に取りに行かせればよかったじゃない」
理樹「そ、それは……その、頭が回らなくて……」
佳奈多「ふうん………」
理樹(二木さんはそう言って鞭のような物を手に取った。そして僕の前に立つと、とても使い慣れたような様子でその鞭の先を地面にしならせた。風を切る音がすごく怖い)
理樹「あ、あわわわ……」
佳奈多「……次の言葉は慎重に言いなさい」
理樹(どうすればいい!?このままでは沙耶との勝負どころではない!いったいなにを言えばいいんだ!?……そ、そうだ!)
理樹「>>39」
佳奈多「……は、ハァーー!?口を開いたと思ったらよくもそんな下品な台詞を……あっ、いや下品って言うのは妄想とかじゃなくて貴方側から見た想像であって私自身がそう考えた訳じゃなくて!と、というか別に特に意味あって二人になった訳じゃないから!呼ぼうと思えばいつでも3人4人私が手塩かけて育てたプロの拷問員がこっちに来れるから!待ってなさい!すぐ戻るから!」
理樹(そう言って全速力で二木さんは行ってしまった。僕はここぞとばかりに椅子ごと立ち上がり、同じドアからもう一度遭遇しないよう祈りながらひょこひょこ走った)
・・・
グラウンド
理樹「ま、真人~~っ!」
理樹(僕はいつものようにグラウンドでランニングを続けている真人に声をかけた)
真人「ん?……うぉっ!?な、なんだよその格好!」
理樹「ちょっと訳あってね……よければこれ解いてくれない?」
真人「お、おう!」
真人「なるほどなぁ。そりゃ災難だったな」
理樹「まったくだよ……」
沙耶「…………」
理樹(真人とその縛られていた椅子に座りながら話しているとグラウンドの向こうでスタスタと歩いている沙耶を見つけた。僕の方には気付いていないようだが、驚くべきはその手に持ってる袋で、どこから仕入れて来たのかもう僕と同じくらいの数の食パンの袋をとめる青いあれを持っていた)
理樹「嘘でしょ……」
理樹(正直小毬さんから借りた分で勝った気分だったがあれだけ持っていたらまだ勝てるかどうか不安になってきた。食堂の方向から出てきたということはきっと購買部から手に入れてきたんだろう。流石手が早い)
理樹「まずいな……このままじゃ負けるかもしれない」
真人「あっ、そういえば食パンの袋をとめる青いあれなら三枝が大量に持ってるんじゃねえか?」
理樹「えっ、葉留佳さんが?」
真人「おう。確か今日食パンを使ったお菓子をリトルバスターズの全員に配るとか言ってたし購買部から大量に買い込んでるかもしれねえ。その袋を頂戴すりゃ……」
理樹「完璧だ真人!」
・・・
理樹(家庭科室に行くと葉留佳さんがちょうどその料理らしき物を作った後だった)
葉留佳「食パンの袋をとめる青いあれ?そりゃちょうどゴミ袋にその袋ごと入れましたケド……」
理樹「そ、それ貰えるかな!?なんとしてでも欲しいんだ!」
葉留佳「……ほぉ、なんとしてでも……ですカ」
理樹(その時、葉留佳さんが一瞬ニヤリと笑った。嫌な予感がする)
葉留佳「ならそれを渡す代わりに交換条件として>>42」
葉留佳部屋
理樹(彼女の部屋で僕は酷い辱めを受けていた。具体的に言うと葉留佳さんの服を着せられていた)
理樹「こ、これで本当にくれるんだね!?」
葉留佳「フムフム……何度見てもこりゃ中々のものですな……」
理樹「そんなまじまじと見ないでよ恥ずかしい!携帯で写真撮るのも禁止だから!」
葉留佳「ふっふっふっ~!いや、前からもう一度見たいと思ってたんだけどまったく機会が来なくてさあー」
理樹「男が女の格好して喜ぶ人ってなかなか人間として終わってると思うんだけど」
葉留佳「グヘヘ上等ですヨ!」
理樹「上等じゃダメだよ!!」
理樹(そろそろ勘弁してもらおうとするとうしろのドアが開いた)
佳奈多「ねえ葉留佳、ちょっと直枝誘き出すために電話貸してくれない?」
理樹「~~~!?」
葉留佳「あっ、お姉ちゃん……!」
佳奈多「あら、そちらは……お友達?」
理樹(嘘だろこの人)
葉留佳「あ、え、えーとそんな感じ……」
佳奈多「そう。私は……まあ言わなくても分かると思うけど風紀委員長の二木佳奈多よ。よろしくね」
理樹「………」
理樹(黙って頭を下げた)
佳奈多「……えと、あなたの名前は?」
理樹「………!」
理樹(当たり前ではあるが流石に喋ったら正体が露見する。葉留佳さんにアイコンタクトで助けを求めた)
葉留佳「あ!お、お姉ちゃん!実はり……この子は物凄い人見知りで初めて会った人にはまともに口も開けられないの!」
佳奈多「そ、そうなの?ごめんなさい……」
理樹(少し強引だがなんとか切り抜けた。僕の本来の制服をこのまま残すのは避けたかったがこのままおさらばする事にしよう)
佳奈多「じゃあ早速だけど携帯貸してもらうわね」
葉留佳「あっ……!」
理樹(そう言って二木さんは机の上に置いてあった葉留佳さんの携帯を取り出して慣れた手つきでメールを打った。おそらく葉留佳さんに成りすまして僕をどこかへ呼び出す内容に違いない。その作戦には引っかからないで済むのはいいが問題なのは……)
ピロンッ
理樹(僕の携帯自体がそこにあると言う事だ)
佳奈多「ん?……なっ、なんでこんな所に直枝の制服が?……ま、まさか!?」
理樹(風紀委員特有の勘が働いたのか二木さんは少し考えてすぐに僕の方を振り向いた)
葉留佳「理樹君逃げて!」
理樹「クッ……」
佳奈多「待ちなさい直枝ぇぇぇえ!!!」
理樹(おそらく今、二木さんから生き延びたので人生の半分近くの運は使い果たしただろう。困った事に葉留佳さんから食パンの袋をとめる青いあれを貰い損ねたが、おそらくもう既に葉留佳さんは風紀委員によってマークされているだろう。もう一度会うのはおろかメールした時点でアウトのはずだ)
理樹「とほほ……食パンの袋をとめる青いあれでとんでもない事になったな……」
理樹(なんだかんだで時刻は14時を過ぎていた。昼ご飯を食べる暇がなかったのでとてもお腹が減った)
理樹「とりあえず食堂でパンでも食べるか……」
・・・
理樹(女装したままの格好なのでパンを買う時につい言葉を喋ったせいで購買部の人からはとても驚かれた。もうやだ)
理樹「とりあえず着替えに戻るとしよう……」
「……そこの君」
理樹「?」
恭介「突然だけど名前を聞いてもいいかな?」
理樹「!?」
理樹(すぐ後ろに恭介が立っていた。まったく気付かなかった。これはまずい。絶対に僕が女装してるなんて気付かれたくない!既に見破られてない事に割とショックを受けたけど!とにかくここは裏声を駆使して乗り切らなければ!!)
理樹「た、民安ともえと言います……」
恭介「ともえさん……素敵な名前ですね」
理樹(なんか恭介いつもと口調違うくない!?というか初対面の女性にいきなり名前呼びってどういう事なんだ……)
恭介「ともえさん。突然ですが>>48」
理樹「は?」
恭介「実は学校でのんびり出来る隠れスポットかあるんです。どうですか?そこで一杯食後のコーヒーでも」
理樹(ま、まさか今、恭介は僕をそういう目で見てるのか!?いや、待てこれは逆に好機!なんとか恭介を上手く騙して例の恭介の部屋にあるロボットの食パンの袋をとめる青いあれを手に入れたら今度こそ勝つはずだ!なに、こんな気持ち悪い事してくるんだからお互い様さ)
理樹「そ、それはいいですね……オホホ」
・・・
理樹(恭介に連れられ、中庭の奥の細道を抜けると静かで気持ちのいい場所に辿り着いた。そこにはテーブルとイスがご丁寧に用意されており、裏庭の来ヶ谷さんが作ったカフェテラスのようだった。というか僕にも連れてきてない癖にこんな初対面の女性を連れてくるなんて……どれだけ気に入ったんだよ恭介……)
恭介「ええと………」
理樹「…………」
恭介「はははっ、その……」
理樹「……………」
恭介・理樹「……………」
理樹(てんで素人だこの人!!)
理樹(なんだよさっきはカッコつけて連れてきた癖にいざ話すとなると急に恥ずかしがったりして!ああ、もう、なんか机の角っこ弄ってるし!こんな恭介見たくなかったよ!!)
理樹(仕方がない。上手く恭介の部屋に行ってロボットを貰うためにも僕がなにか切り出さなければ)
理樹「>>52」
恭介「えっ!?あっ、えっと……はひぃ!」
理樹(僕は恭介の手を握った。手汗が凄く、申し訳ないけど少し気持ち悪かった)
理樹「あの……棗さん」
恭介「なっ、なんだね……」
理樹「噂で聞いたんですけど、棗さんってあの食パンの袋をとめる青いあれを大量に持ってるとか」
恭介「食パンの袋をとめる青いあれ?いや、別に……ハッ!い、いやいや!ちょうど持っているよ!」
理樹「本当ですか!?ぼ……私、あれをずっと探していたんです!」
恭介「ハハッ!それなら喜んで譲ろうじゃないか!」
理樹「ありがとうございます!」
恭介「フッ、お安い御用さ」
・・・
理樹「ここが棗さんの部屋……」
恭介「あった。……ともえさん。少し目を瞑っていてくれないか?」
理樹「えっ、あ、はい」
理樹(僕が1分ほど目を瞑っている間、なにか変な音が聞こえた。例えるならロボットのように作り上げられた食パンの袋をとめる青いあれが凄いスピードで分解されていくような感じだ)
恭介「……さ、さあ……これを持って行ってくれ」
理樹(恭介の両手には赤や白に塗られた様々な色の食パンの袋をとめる青いあれがあった。比べあったあとでちゃんと組み直して恭介の部屋に置いておこう)
理樹「ありがとうございます!きっとこれで勝てます!」
恭介「なんだかよく分からないが力になれたようで嬉しいよ。さあ、これから出かけないか?ちょうど美味いカツ丼屋を知って……あれ?」
沙耶「ふふっ、ちゃんと持って来たかしら?」
理樹「沙耶!」
理樹(沙耶は恐らく食パンの袋をとめる青いあれが入っているであろう黒い袋を片手に貯水タンクの上に乗っていた)
沙耶「さあ勝負よ!」
理樹「なんでもいいけどそんな高いところに立ってたらパンツ丸見えだよ」
沙耶「み、見るなー!!」
沙耶「改めてルールを確認するわよ。持って来た食パンの袋をとめる青いあれが多い方が少ない方に告白させる……だったわよね」
理樹「グッド」
沙耶「じゃ、行くわよ。せーのっ!」
>>57(理樹)と>>58(沙耶)でコンマの大きい方が勝ち
理樹(負けた。女装し、恭介に合わせ、色んな犠牲を払ったと言うのに)
沙耶「さあ約束の告白をしてもらうわよ!……ってなにその格好!?」
理樹「今気付いたの!?」
沙耶「ま、まあいいわ。とにかく、罰ゲームは受けてもらうから」
理樹「分かったよ……」
・・・
理樹(沙耶さんは何故か僕の手を引っ張って校舎の方に向かっている)
理樹「ええと……別に告白するのはいいんだけど相手は誰?それと今どこに行ってるの?」
沙耶「そりゃあ、もちろん勝者である私に告白してもらうわ!そして今から体育館の校舎裏に行くの。定番でしょ?」
理樹「こ、こだわるなぁ……」
理樹(その時だった)
「「やっと見つけた(わよ)………」」
理樹「そ、その声は……」
佳奈多「この変態女装女たらし!!今度こそ捕まえて徹底的に痛めつけたあげるんだから!」
恭介「ともえさん!やっと見つけたぜ!今度こそ俺と一緒にーー!!」
理樹(2人がどう指し示したのか同時に僕の元へ走ってきた。地獄のような光景だ)
理樹「う、うわぁああああああああああああ!!!!」
理樹(僕は沙耶の手を振り解き、全力で走った。走るしかなかった)
佳奈多「待ちなさーい!」
恭介「あはは~!待て~!」
理樹「うおおおおーー!!」
沙耶「あらあら……何があったのか知らないけど良かったわね。ちゃんと夕陽に向かって走ってるじゃない」
理樹「うわーん!助けて沙耶ー!」
チャンチャン♪(∵)
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1504449069/
Entry ⇒ 2017.09.13 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「見ただけでパニックを起こすメール?」佳奈多「ええ……」
あーちゃん先輩「能美さーんお茶もう一杯ちょーだーい」
クド「分かりました。リキはどうですか?」
理樹「あ、じゃあよろしく……」
理樹(今、何故僕がクドと女子寮長との3人で茶室にいるかというと、全ては真人と恭介と謙吾から逃げるためだった。例の「お家の者達」の全員が実刑判決を受けるまでの数ヶ月、二木さんと葉留佳さんと僕の3人は念のため学校を休学していたのだが、その間あの3人は退屈が募っていたのか昨日僕らが学校へ舞い戻ってくると、そこから先ず僕はずっと彼らに振り回されていた)
理樹(1日3食付きっきりなのは当たり前、放課後から寝るまでずっと野球盤や人生ゲームをし、挙げ句の果てにはシャワーまで一緒に浴びることになった。寮に帰ってきたばかりで疲れが溜まっていたんだけど、この調子じゃあと一週間はなかなか離してくれそうになかった。そんな時クドがタイミング良く「女子寮長と一緒にお茶でもどうですか?」と茶室に呼んでくれたのだ。流石に今はハードな冒険よりものどかなお茶会を取りたい。そうして招待を口実にここへ避難した訳だった)
あーちゃん先輩「にゅふふ~そりゃ災難だったわね~。まあ直枝君とあんまり喋った事なかったけどこんなに可愛いかったら構いたくなる気持ちも分かるわ」
理樹「や、やめてくださいよ1つしか年変わらないじゃないですか…」
理樹(というかこの人とは結構それなり喋ってた気がするけど、あっちはそうでもないのかな?確かに言われてみればあんまり会ったことないような気もするけど…)
理樹「へぇサイトを」
あーちゃん先輩「流石にこの時季から新入部員が来るとは思ってないけど次の新学期には私はいないし、新入部員歓迎だって茶道部みたいなのはどうしても受け身な事しか出来ないからせめてこういうのでもだけでも作っておこうと思ったの」
理樹「せっかくのここも使われなかったら意味ないですしね」
クド「掲示板にサイトの”ゆーあーるえる”なんかを乗っけたりメールで知り合いの皆さんに宣伝してるのです。直枝さんにもあとで送ってもいいですか?」
理樹「うん。別に構わな……」
「『メール』といえば」
理樹「!?」
理樹(後ろからいきなり声がした)
クド「あっ、佳奈多さん!お久しぶりなのですー!」
あーちゃん先輩「おっ、もう荷ほどき終わったの~?」
佳奈多「はい。2人ともお久しぶりです」
理樹(二木さんが仁王立ちしてた。この間までずっと一緒に暮らしていたとはいえ、いきなり後ろに現れたらやっぱり心臓に悪い)
理樹「な、なんだ二木さんか……それでメールがどうしたって?」
佳奈多「…さっき風紀委員の子から聞いたばかりなんだけど最近妙な事件が起きてるらしいの」
理樹(二木さんから聞かされた事件は確かに”妙”としか言えないものだった)
理樹「見ただけでパニックを起こすメール?」
佳奈多「ええ……とある生徒がある時、携帯からメールが届き、画面を見た瞬間、パニック状態になって自室に駆け込んでそのまま引きこもることがあったの。その後、教師や保険の先生が心配して見に行ったんだけど本人はなにも話したがらずただ震えて続けていたらしいわ。パニックが治ったあとも携帯でなにを見たのか絶対教えたがらず、その話を思い出すのも嫌だと言うの」
佳奈多「それだけならまだ不可解な話で終わったんだけど、実はそれと全く症状を起こす人間がこの前から立て続けに何人も出てきたの。そしてそのパニックに陥る直前に確認出来ただけでも全員『誰かから届いたメールを見ていた』。そこで流石に何かおかしいと風紀委員が動き出したって訳」
クド「わ、私もそれは知っているのです!私のクラスでもそうなった人がいて……」
理樹「な、なんだか謎が謎を呼ぶ事件だな……」
佳奈多「本来、私はもう風紀委員ではないから無関係なんだけど、この状況を黙って見ていられる性分でもないしこれから彼らとは別に単独でそのメールを送った犯人を突き止めようと思うの」
あーちゃん先輩「フゥ~かなちゃんカッコイイー!」
佳奈多「茶化さないでください……じゃ、今からさっそく被害者の聞き込み行くわよ直枝」
理樹「ち、ちょっとなんでナチュラルに僕まで巻き込むの!?」
佳奈多「どうせここでお茶飲んでるくらいだし暇なんでしょ?それにその被害者は西園さんよ」
理樹「えっ………」
佳奈多「ここね」
理樹(二木さんがドアをノックしようと軽く叩いたら、その力だけでドアが開いてしまった。一瞬戸惑ったが、決心したように僕にアイコンタクトを送ってきた。中に入るつもりなんだろう)
佳奈多「西園さん?入るわよ……」
理樹(昼前だというのに部屋の中は真っ暗だった。扉から差し込む光を頼りに奥へ進むと、西園さんはそこにいた)
美魚「…………」
理樹(窓のカーテンは閉められたまま。ベッドにうつ伏せのまま身動き一つしていなかった。恐らく昨日からずっとこのままだったんだろう)
佳奈多「西園さん……?」
美魚「ハッ……!」
理樹「や、おはよう……」
美魚「………そう、寝てたんですね……お二人とも何の用ですか?」
佳奈多「……実は、昨日あなたが受け取ったメールについて聞きたいの」
理樹(その言葉を聞いて思い出したのか西園さんの顔はみるみるうちに赤くなっていった)
美魚「あっ……う、うぅ……!」
佳奈多「内容までは聞かないわ。せめて送り主とか……」
美魚「や、やめてください……お願いします…これ以上過去を掘り返すのは…!」
理樹(西園さんの目には涙が溜まっていた。とんでもなく恥ずかしいことを思い出したような顔だった)
佳奈多「あ、いや……」
美魚「こ、これはとても個人的な事なんです!多分、皆さんの言う事件には関係ないと思います。だからしばらく放っておいてくれませんか……っ」
理樹「二木さん……」
佳奈多「そうね…ごめんなさい」
理樹(これ以上、西園さんの部屋にいるのは悪い気がした。二木さんも同意見のようだ。しかし、あの西園さんがこれほどまでに動揺するのはいったい……)
理樹(作戦会議はサンドウィッチ片手に行う事となった)
理樹「とりあえずみんなには知らない人からのメールを受け取ったら連絡してもらえるように言っておいたよ」
佳奈多「あまり効果はないかもしれないけどね……ところで直枝、今回の事件をどう見る?」
理樹「ちょっと飛躍してるかもしれないけど西園さんの反応から見て犯人が被害者の弱みをメールで送っているとか?西園さん自身は事件には関係ないと思うって言ってたけど……」
佳奈多「それが奇妙なことに被害者のほぼ全員が同じことを言っていたらしいわ。でも既に十数人にもなる人数の弱みを握るなんて出来ると思う?」
理樹「そりゃそうだけど……あっ、その被害者達って何か共通点はないの?」
佳奈多「一応リストを見せてもらったんだけど実はその被害者、全員2-Dの人間よ」
理樹「なんだって!?」
理樹(2-Dは僕やクドのいるクラスだった。恭介と葉留佳さんを除けばリトルバスターズ全員が入っている)
佳奈多「クドリャフカには不安がらせないためにさっきは言わなかったんだけどね。さっき効果ないかもって言った意味分かった?」
理樹「た、確かに休みが多いなと思ったけど……」
佳奈多「私は西園さんの様子から見てただ苦しんでいるだけのようだし、なにか精神的に訴えかけるような画像かなにかを送りつけること自体が目的の愉快犯と睨んでるわ」
理樹「でも西園さんの言った”過去を掘り返す”ってセリフも気になるな」
佳奈多「とりあえずあなたのクラスに行って何か探しましょう」
理樹「何を?」
佳奈多「何かをよ!………うっ」
理樹(二木さんがなにか変な声を漏らしたかと思うと今齧り始めたばかりのサンドウィッチを差し出してきた)
理樹「えっ、なに?」
佳奈多「……これカットのトマト入ってる。あなたのタマゴのと交換して」
理樹「えー食べかけじゃん!」
佳奈多「こっちはベーコンも入ってるわよ」
理樹「別にいいけどさ……」
ガヤガヤ
佳奈多「流石私が仕込んだ部下ね……」
理樹(教室の中では既に風紀委員の腕章を通した人達が捜査していた。僕らが教室の前にいると、メガネをした男子生徒がこちらに向かってきた。確か二木さんが現役の頃よくその後ろについていた人だったな)
生徒「二木先輩…もう帰ってきていたんですね」
佳奈多「まあね。そっちはどう?なにか見つかった?」
生徒「!」
生徒「いえ、そういったことは元風紀委員長とはいえ申し上げられません」
佳奈多「相変わらずお堅いわね」
理樹「二木さんだけには言われたくないよなあ……」
佳奈多「何か言った?」
理樹「あっ、いえ何も!」
生徒「ではそろそろ捜査に戻ります。この事件は我々に任せていただきたい」
生徒2「委員長!また新たな被害者が現れました!」
生徒「なに!?誰だ!」
生徒2「それが……2-Aの三枝葉留佳という生徒で……」
生徒・佳奈多・理樹「「「!!」」」
生徒「2-Aだと!?」
佳奈多「葉留佳が!?」
葉留佳「ぐ、ぐぁぁあああ!!ひぃぃやぁぁあ!!」
佳奈多「は、葉留佳……」
理樹(葉留佳さんの部屋に行くとなんか枕に顔を埋めて足をバタバタさせていた。いったいなにが起きたんだ!?)
佳奈多「聞こえる!?私よ!」
葉留佳「うぅぅおぉおむほんめをこ!!」
佳奈多「……ダメね。もう少ししてから出直しましょう」
理樹「うん……」
…………………………………………………
廊下
佳奈多「2-Aである葉留佳がやられたって事はいよいよ被害者の共通点が2年生であることくらいしか無くなってきたわね」
理樹「葉留佳さんにも知らない人からのメールが来たら連絡を寄越すように言ってた。だのに被害を受けたということは……」
佳奈多「犯人は葉留佳の知り合いってことね……」
理樹「これからどうする?」
佳奈多「とりあえず2-Dの葉留佳の連絡先を知っている人間を辿っていくわ。あなた達リトルバスターズの人間は除外するにしても誰か知ってそうな人心当たりある?」
理樹「うーん……」
「よっ、やってるかい二人とも」
理樹「恭介!」
佳奈多「棗先輩?どうしたんですか」
恭介「ふっ、その様子じゃまだ犯人には辿り着いてないようだな……」
佳奈多「どういうことですか?」
理樹「えっ、まさか恭介…!」
恭介「ああ!見つけたぜ真犯人をな!」
理樹(とてもウキウキしながらそう言い放つ恭介。恭介はこういう時に冗談を言う人間ではない。それがもし本当なら呆気なく事件解決だけど……)
佳奈多「だ、誰なんですか!?」
恭介「まあ落ち着けって……まずはその犯人を見つけた経緯を話そう……あれはついさっきのことだった……ホワンホワンホワン」
理樹(自分で回想の効果音を言いながら恭介は語り始めた)
…………………………………………………………
………………………………
……
???「……………」
カチカチッ
恭介「……なんだ?あいつがメールなんて珍しいな」
恭介(”そいつ”はよく連絡するならメールより電話派だと言っていたからたまたま目についていたんだが、驚くべきはその後だった。そいつがメールを送り終えたのか携帯をポケットにしまったすぐに、俺の目の前にいた奴の携帯から着メロが鳴った。携帯の外面から誰が送ってきたのか分かる機種だったんで”そいつ”が送ってきたってのは分かった)
恭介(すぐ近くにいるなら尚更なんで直接話さないのか不思議に思ったぜ。内緒話がしたいなら教室の外でやればいいんだからな。ま、とにかくその受け取った哀れなクラスメイトは御察しの通り噂通り顔を真っ赤にさせて叫びながら教室を出て行ったのさ。んでその場の全員かクラスメイトの逃げた方を見ている中、”そいつ”は一瞬ニヤリと笑っていたよ)
……
………………………………
…………………………………………………………
恭介「これで犯人じゃないっていうなら俺にはもう分からんね」
理樹「凄いや恭介!お手柄じゃないか!」
恭介「いや、なに偶然さ」
理樹(そう言いつつ恭介は満更でもなさげだった)
佳奈多「それで犯人の名前は?」
恭介「ああ、聞いてびっくりするなよ?名前は………」
ピロンッ
理樹(その時、恭介の携帯からメールの着信音が鳴った)
理樹(そして携帯を取り出した時、僕はなにか嫌な予感がした)
理樹「…………待って恭介!そのメール開けちゃダメだ!」
恭介「ハッハッハッ!いや、心配するな理樹。これは…………なっ……」
理樹(恭介は最初こそ余裕綽々といった感じでメールを見ていたが、”それ”を読み進めるにつれてその顔はだんだん引きつっていった)
恭介「グッ……そ、そういう……事だったのか……!」
佳奈多「例のメールですね!?」
恭介「理樹……二木……この件はこれ以上追わないほうがいい……」
理樹「恭介!?」
恭介「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
理樹(恭介は悲鳴とも雄叫びとも言えるような大声をあげると僕らの前から一目散に抜け出していった。たった今、僕らは犯人を見つける一歩手前で真実を知る証人を消されたのだ)
理樹「ああ……そんな……嘘だろ……」
佳奈多「…………必ず犯人を探し出すわよ理樹」
理樹(二人でもう一度事件を整理することにした。ちなみにここはホワイトボードを借りる為だけに使っている)
理樹「ここ……なんだか前にも来たことがあるような……」
佳奈多「私はあーちゃん先輩に手伝いを頼まれてた時期があってここでよく作業してたけど、その時はあなたが来たことなんか無かったわね。まあ、それはそれとして事件のおさらいをするわよ」
佳奈多「まず2-Aの生徒達はほぼ同時期に宛先不明の人間からメールを受け取り、パニック状態に陥る。回復した後もその事件については話すことを拒み、メールの内容が漏れることを恐れているのか宛先の人間まで自ら隠して話そうとしない。その後別のクラスである2-Dの葉留佳が被害に遭い、さっきも棗先輩が言ったように三年生一人と彼自身もメールが届いてきた」
理樹「さっきも少し話したけど葉留佳さんには警戒するよう言っておきながらもメールを見てしまったことから犯人と知り合いであって油断した可能性が高いね」
佳奈多「………最初私はこう考えたの。棗先輩、2-Dの生徒達、そして葉留佳。彼らとの連絡先を全て持っているような特殊な交友関係を持っている人と言えば……」
理樹(二木さんが言いたい事は分かる。何故なら僕も恭介が襲われた時点で薄々そうなんじゃないかと思っていたからだ)
理樹「リトルバスターズの誰か……って言いたいんだよね?」
佳奈多「ええ……でも幸い棗先輩の話によれば犯人は三年って事だからそれはないわね」
理樹「ますます犯人のパイプが分からないな…だとしたら犯人は何故最初に二年生を狙ったんだろう?僕たちのような嗅ぎ回る人間に犯人を二年生と思わせるブラフ?」
佳奈多「だとしたらなんで結局自分のクラスでもやったの?まだもう一つ不自然なことがあるわ。棗先輩があの時、犯人からメールを受け取っていたとして、もし本当に犯人を知っていたのなら何故わざわざそのメールを開いたの?」
理樹「た、確かに………」
理樹(三年でありながら最初の犯行はまるで二年生がやったとしか思えないターゲット。しかし、さっきは自分のクラスでも行動を起こし、恭介もやられてしまった。でも恭介のやられ方にはどうも矛盾がついて回る)
理樹「………いや、そうか!分かったぞ!」
佳奈多「どうしたの!?」
理樹「どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだ!二木さん、犯人は少なくとも2人いるんだよ!」
佳奈多「………ああ、ついつい犯人を1人と決めつけてしまっていたわね……なるほど。それなら矛盾しないわ」
理樹「まだ推測の域を出ないけど多分犯人は2-Aで葉留佳さんを知る者と、恭介のクラスメイトの三年生」
佳奈多「そんな二人組、私ちょうど心当たりがあるわ」
理樹「奇遇だね。僕もだ」
ガラッ
理樹(その二人はさっきとほとんど変わらない体勢でのんびりお茶を啜っていた)
クド「あっ、リキ、佳奈多さん!お帰りなさーい!なのです!」
あーちゃん先輩「やっほーお帰り~~」
理樹「………」
佳奈多「………」
あーちゃん先輩「………にゅふふ……その様子だとどうやら犯人を見つけたようね」
佳奈多「ええ、多分」
クド「えっ、どういう事ですか?」
佳奈多「これまでのメール事件の犯人…それはあなた達ですね?」
理樹(ビシッと二人へ指を指す二木さん。かっこいい)
クド「わ、わふ~~!?どどどどどういう事ですか!?」
あーちゃん先輩「うふふっ!その通りよ!!」
クド「わ、わ、わふ~~!?」
佳奈多「……案外あっさり認めるんですね……」
あーちゃん先輩「こういう時、真犯人は素直に白状するのが世の常よ」
クド「あ、あの!も、もしかして犯人ってその、さっき言ってた噂のですか!?」
理樹「うん、そうだけど……」
あーちゃん先輩「ふふっ、確かに能美さんは何のことやらよねぇ~」
佳奈多「どういう意味ですか?」
あーちゃん先輩「ま、私達が送ったメールを見れば分かると思うわ。色々とね」
理樹「えっ、それは……」
あーちゃん先輩「大丈夫、大丈夫!多分直枝君は見ても平気だと思うから!かなちゃんは分かんないけどぉ~」
佳奈多「むっ!よく分かりませんが私だってそう簡単にパニックにはなりません。例えなっても絶対ことを公にする自信はありますから」
あーちゃん先輩「はいはい。それじゃ一緒に見ましょ!みんなに送ったメール。実はあるサイトを直接リンクした物なの」
理樹(そういうとあーちゃん先輩はどこから持ってきたのかパソコンを取り出してあるサイトを開いた)
カチッ
あーちゃん先輩「にゅふふ~」
理樹(それはどこからどう見てもただの茶道部のホームページだった)
……………………………………………………………………………
すちゃらか茶道部!
あなたは58人目のお客様です!(^^)
キリ番を踏んだ人は必ずBBSに報告してください!
踏み逃げ厳禁!!!
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生徒の方から来たイラストコーナー(工事中)
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。
……………………………………………………………………………
あーちゃん先輩「デザインはほとんど私がアドバイスしたのよ?まず!背景はどぎつい原色の青でしょー!今は音切ってるけど実はオルゴールで第九とか流れるの!それからもちろん右クリックは禁止!まあ特に意味はないんだけど……。そんでもってこの一番下にある『。』は実は裏口なのよ~。開いたところで工事中なんだけどねっ」
理樹「工事中……右クリック禁止?」
クド「わふー…私も実はその辺りは一緒に作っててよく分からなかったのです」
あーちゃん先輩「にゅふふ~分かる人には分かるのよね~かーなちゃん!」
佳奈多「あ……あわわ……」
理樹「ふ、二木さん!?」
理樹(二木さんが尋常じゃないほど動揺していた)
佳奈多「うぅっ……ふぅ……っふぅ……っ!」
理樹「ふ、二木さん!大丈夫!?」
理樹(顔がどんどん真っ赤になっていった。西園さんと同じ反応だ……しかし、このサイトのどこにそんな反応をしているんだ?)
あーちゃん先輩「極め付けに管理人のプロフィールの性別欄に”生物学上は女”って書いちゃった☆」
佳奈多「う、うわぁぁああー!!!ああぁぁあーー!!」
理樹「ふ、二木さんーー!?」
理樹(そして彼女はそそくさと茶道部を去っていった。多分自室に籠る気でいるんだろう……)
理樹「……いったいどういうことなんだ……」
あーちゃん先輩「説明してしんぜよー!実はこういう形式のホームページ、昔めちゃくちゃ流行ったのよね~」
クド「えっ、そうなんですか!?とっても斬新で新鮮だと思っていたのですが……」
あーちゃん先輩「まあ今はもうほとんど廃れてるから見ないのも無理ないわよね。でも、ネットに中学生の頃からお熱だった子は違ったわ。その若さから自分のホームページを作りたいって気持ちが前倒しになりすぎてさっきも言ったような小っ恥ずかしいサイトの『仕掛け』をたくさん作りまくったものよ」
理樹「なるほど。いわゆる黒歴史とか言う奴ですね」
あーちゃん先輩「ええ…もちろん流行っていた頃は全然自覚はないし、むしろ他の人のを見て憧れていた人もいるくらい」
理樹「でもそれが分かってて何故あえてこんなものを作ったんですか?」
あーちゃん先輩「ふふっ!最初はちゃんと作ろうとしたんだけどホームページつい閃いちゃってね!もし昔のこういうのを知ってる人が見たらきっとその頃を思い出して悶絶するだろうなーって!つまり黒歴史誘発機ね」
理樹(恐ろしい発想だった。幸運にも僕は中学の頃なんかはネットに疎く、恭介達と遊びまわっていてあまり触る機会もなかったが、一歩間違えると今回の被害者のみんなのようにその恥ずかしいと言われる過去にこんなところでぶち当たるところだったのか)
理樹「寮長……人が悪いにもほどがありますよ…」
あーちゃん先輩「そう?かくいう私も昔は憧れてたんだけどなあ~」
クド「わ、私は知らないうちに皆さんに地雷を撒き散らしてたんですね……」
あーちゃん先輩「いやー最初はほんの遊び本位だったんだけどまさかここまで煩わせてた人がいるとはねえ~途中から勝手に陰謀みたいな噂になってた時は思わず笑っちゃった!そういえば棗君にも送ったけど全然返事が返ってこないわね~」
理樹「……………」
理樹(かくして事件は解決した。風紀委員の人たちには僕が説明すると微妙な顔で納得された。学校側と相談した結果、一般生徒には何も言わずに噂の沈静化をゆっくり待つらしい。しかし、今回の事件で僕はなんとなく若いって怖いなと思った。何故ならこうしている間にも無自覚に黒歴史を作っているかもしれないからだ)
終わり(∵)
夜
女子寮
二木部屋前
コンコンッ
理樹「ふ、二木さーん!荷物整理の時そっちに僕の歯ブラシ紛れ込んでると思うんだけど!」
ベッド内
佳奈多「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ」
理樹「二木さーん!頼むから返事してよ~~~!!」
終わり
流れ弾が読者にも飛んでるじゃないか!
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1502803122/
Entry ⇒ 2017.08.21 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
謙吾「………」理樹「どうしたの謙吾?」
謙吾「ん?ああ、古式か。おはよう」
古式「お怪我は大丈夫でしたか?例の事故の……」
謙吾「ふっ…この通り腕も治った。まだ野球は続けるが理樹と鈴が居なかったら俺はここにいる事も出来なかっただろう」
古式「そんな悲しいこと言わないで下さいっ」
謙吾「悪い。流石にシャレにならんな……しかし今日はいつにも増して早い登校だな?俺はこれから朝練だが…」
古式「実は宮沢さんに頼みたいことがありまして…」
謙吾「俺か?」
古式「今週の日曜日…わ、私とデートしに行きませんかっ!」
謙吾「なにぃ!?」
謙吾「1人じゃ~辛いか~ら♪」
理樹「今日は謙吾、機嫌がいいね」
恭介「何かいい事があったんだろう。ちょっと聞きに行くか」
理樹(僕らは元気良くバットを振っている謙吾の元へ駆けつけた)
恭介「よっ、せいが出るな」
謙吾「ん?ああ、まあな」
理樹「どうしたの?いやに上機嫌だけど」
謙吾「ふっ…教えん」
恭介「なんだよそりゃ。俺達の仲じゃねーかっ」
真人「新しい必殺技が出来たとかか?」
理樹(隣で腕立て伏せしていた真人も加わる)
謙吾「そんなんじゃない」
葉留佳「ヘイガーイズ!何してるの?」
理樹「葉留佳さん」
理樹(葉留佳さんがいつの間にか後ろにいた)
葉留佳「ふーん、所でさぁ」
謙吾「興味なしか!いや持たれるのも困るが…」
理樹(構わず葉留佳さんが続ける)
葉留佳「今度どっか皆で遊びに行かないかって、さっき鈴ちゃん達と話してたんですヨ」
理樹「明日?」
葉留佳「イエース!男の子達はライトライトライト?」
恭介「特に予定はない」
真人「ライトだぜ」
理樹「うん、僕もないかな」
謙吾「悪いが俺はライト出来ない…」
葉留佳「ほえ?」
謙吾「貴様と一緒にするな。俺にだって遊ぶ約束をする者ぐらい居る」
理樹「へえ!興味本位だけどその人って誰?」
謙吾「当たっているが何故2人で行くと決め付ける……。ちなみに質問の答えは言えん、先ほどの教えられん事だからだ」
恭介「つまり謙吾の好きな奴って事か」
謙吾「なっ!!」
葉留佳「ヒュー!よっ色男!」
真人「熱いねー!この日差しも合わせりゃ熱中症になりそうだぜっ」
理樹(誰も女の子だなんて言ってないのにはやし立てる)
謙吾「くっ………」
理樹「図星だったの!?」
恭介「悪い、調子に乗り過ぎたな。お前が嫌ってんならここまでにしておこう…じゃあ謙吾を仲間はずれにしてる様で嫌だが明日の事についてさっそく相談しに奴らのところへ行こう」
理樹「う、うん…」
理樹(そう言って僕らは駆け出す。謙吾はバットを振る練習に戻った)
恭介「うーす」
小毬「あっ恭介さんに理樹君と真人君」
理樹(小毬さん達は西園さんが敷いたシートに仲良く座ってお茶を飲んでいた。休憩の時はいつもこんな感じらしい)
恭介「三枝から話は聞いた、明日出かけるんだってな」
来ヶ谷「ああ。今度また小毬君がホットケーキパーティなる物を企画したいと言うので野球の備品買い足しも兼ねて全員で行こうと考えたのさ」
理樹「それが…」
来ヶ谷「ん?」
恭介「謙吾がある事情があって行けねえんだ」
クド「わふー?何かあったんでしょうか?怪我は大丈夫そうに見えますけど……」
恭介「実は……」
恭介「という訳だ」
西園「誰にも言ってないのですか…」
来ヶ谷「ふむ…謙吾少年の色恋沙汰か」
恭介「ああ。だから明日は予定を変更して謙吾を尾行し、デートの相手を探ろう!題して作戦名オペレーションストーカー!」
理樹(清々しい作戦名と顔で言う)
理樹「さっきここまでにするとか言ってなかった!?」
真人「構うもんかよ。俺を止めたきゃダンプカー3台持ってこい!」
恭介「もちろん買い物も終わったあとに行こう。…どうだ、お前らも気になるだろっ?」
葉留佳「た、確かに…」
恭介「それになにも全てを暴こうって訳じゃねえ、ちょいと相手を後ろから伺うだけさ」
理樹「それでも充分悪いよ…」
理樹(結局反対出来ないまま流されてきてしまった……)
恭介「こちら恭介。鈴、謙吾はいるか?」
鈴『ん、ちょうど今変な方向向きながら出てった』
恭介「いいぞ!後から俺たちも合流するからその調子で尾行してくれっ」
鈴『分かった』
理樹「趣味悪いなぁ、もう」
恭介「そんじゃ行くか!校門で来ヶ谷達が待ってるらしい」
謙吾「~~~」
鈴「………」
ポンポン
鈴「なぁっ!?……なんだ理樹か」
理樹「皆来たよ」
恭介「首尾はどうだ」
鈴「完璧だ。だが謙吾一人ぼっちだな」
恭介「なに?そんなはずは……」
謙吾「~~~」
恭介「マジだ」
来ヶ谷「焦るな、まだ待ち合わせ場所に着いていないだけだろう。現地集合かもしれないし尾行を続けよう」
葉留佳「おーっ!!」
クド「おー!なのですっ」
理樹(この人たち尾行に向いてないんだよなぁ…)
葉留佳「もー夕方になっちゃった」
来ヶ谷「無駄足だったか…もしくは我々の存在に気付いて振り回しているか」
クド「わふー!?見つかっていましたかっ」
恭介「ありえん、俺たちの方を振り向いても居なかったし鏡やガラスには充分気をつけたはずだ……あせるな、まだ慌てるな時間じゃあない」
謙吾「~~~」
真人「とうとう学校に着いちまったじゃねえかよっっ!」
恭介「マジかよ…」
理樹部屋
恭介「こうなりゃ本人に直接聞くしかねえな」
理樹「うん」
恭介「しかし理樹は立派だよなぁ!なかなか出来る事じゃねえ」
理樹「えっ?……あっ」
理樹(また僕にやらせるつもりだ!)
理樹「いやぁ真人の方が凄いよ。千年に1人の逸材さ」
真人「んなに褒めるなよぉ~」
理樹(謙吾が来た)
謙吾「おっ、早いなお前達」
恭介「さあ真人、言ってくれ」
真人「はあ?なんで俺……ってさっきのはそのためかよ!」
鈴「やはりアホだな」
真人「んだとぉ!?」
恭介「今はやめとけ」
謙吾「どうした、誕生日ならまだまだ先だが…」
真人「あのだな…謙吾……」
理樹(何を言っていいのか分からない状態らしいのでアドバイスを入れる)
理樹「徐々に核心を突いていく様にするんだ真人っ」
真人「えーと……き、今日は良い天気だな!」
謙吾「ああ、星がよく見える」
恭介「おい真人話が遠回し過ぎるぞ」
真人「うっ……け、謙吾…」
謙吾「なんだ」
真人「お前好きな奴いるんじゃなかったのか?」
謙吾「なにぃ!?」
理樹(今度は一直線過ぎた!)
謙吾「人を勝手に付け回す物じゃないだろ!」
恭介「わ、悪い…」
理樹「それで昨日は1人で遊びまわってたけど約束の人はどうしたの?」
謙吾「1人だと?何を言っている」
鈴「透明人間とでも遊んでたのか」
謙吾「バカ言え、お前達も見てたんだろう?もはや隠す通りもない、俺は彼女と昨日デートに行ってたんだ」
恭介「二人でだと?見落としがあったとは到底思えん……そうだ名前を言ってくれ」
謙吾「ここぞとばかりになんでもかんでも聞くな……ああ分かったよ古式だ」
理樹「えっ?」
謙吾「聞こえなかったか?古式だ。まさか忘れてしまったのか」
恭介「………おいおい」
真人「笑えねえ」
謙吾「なんだその反応は!俺が彼女と一緒じゃ悪いのかっ」
理樹「…本気で言ってるの?」
謙吾「当たり前だ!」
鈴「……」
理樹(あの世界では古式さんを謙吾が救ったがあくまで現実ではない。なのに何故謙吾は今更そんな事を言い出すんだ……)
謙吾「まるで死んだかの様な言い方は彼女に失礼だろう!」
恭介「謙吾、彼女はもう死んだ。目を覚ませ…ここは夢の世界じゃないんだ」
謙吾「馬鹿な!!真人っ、まさかお前までそういうんじゃないだろうな!?」
真人「……」
謙吾「生きてると言ってくれ!」
真人「……もう古式は居ねえよ」
謙吾「……っ!!」
理樹「謙吾…」
謙吾「うう…うぁぁああぁぁあ!!」
理樹(両手を頭に抱えて涙を流した。その声で両隣の人達が部屋の前に来たが鈴が追い払った)
謙吾「………」
バタッ
理樹「謙吾!」
理樹(泣き喚くのをやめたかと思うと意識を失ったのかあやつり人形の糸が切れるが如くその場に倒れた)
恭介「今謙吾は情緒不安定な状態だ…部屋に運んで明日は休ませよう。なんなら俺も付き添う」
理樹「僕も行くよ」
真人「ああ……鈴、お前も明日学校休め」
鈴「ん」
チリン
理樹(鈴の音が響いた)
理樹部屋
真人「こいつは部屋に戻すか?」
恭介「いや…いざ目が覚めた時誰かがいた方がいい。お前のベッドを使わせてやれよ」
真人「ええぇ……」
恭介「代わりに理樹と真人で一つのベッドを使えばいい」
真人「それならいいぜっ」
理樹「いやいやいや!絶対入らないから…」
真人「分かった…俺は1人寂しく床に雑魚寝してればいいんだろ?ったくよぉ……」
理樹(ブツブツいいながら早速床に就いた)
理樹「ねえ恭介…謙吾はいったいどうしちゃったんだろ」
恭介「分からん…現実とあの世界をごちゃ混ぜにしてるのかもしれんな」
理樹「本当にそうだとしたらどうするのさ」
恭介「最悪病院に見せるしかない…」
理樹(恭介は苦虫を噛んだ様な顔でそう呟いた)
鈴「…それじゃ先帰るぞ、起きたら電話してくれ」
理樹「うん…お休み」
真人「ゔぅぅ……有酸素運動は筋肉の敵…」
理樹(起きたら真人が唸っていた。やはり枕を貸しているとはいえ床に雑魚寝はキツいらしい。しかしその後次は僕が寝ようと言っても聞かなかった)
理樹「真人ー?」
真人「んが……」
理樹(肩を揺らした)
真人「おう…おはよう理樹」
理樹「大丈夫?凄くうなされてたよ?やっぱり次があれば真人が寝なよ」
真人「い、いや寝心地良かったぜ!床の質感がクセになりそうだぜっ」
理樹「そんな強がらなくても…」
真人「………あっ」
理樹「どうしたの?」
真人「やべぇ、肝心の謙吾がベッドに居ねえぞ…」
理樹「ええっ!?」
理樹(どこへ行ったんだ…しかし自分の間抜けさにほとほと呆れる。何故皆に謙吾のことを言っておかなかったんだ、こうなることも充分あり得たはずだというのに!)
理樹「…あれは?」
来ヶ谷「……」
理樹(男子寮を出て庭の辺りを探していると来ヶ谷さんを見つけた。なにかを見ている様だけど謙吾が先決だ、さっ通ったかき聞きに行く)
理樹「おーい来ヶ谷さーん」
来ヶ谷「……ん?やあ少年か、丁度いい所に来たな」
理樹「ごめん、不躾で悪いんだけど謙吾知らない!?」
来ヶ谷「実にタイムリーな話題だな。丁度今そこで倒れているのがその当人では無いかな?」
謙吾「……」
理樹「け、謙吾!」
来ヶ谷「安心しろ、気絶させただけだ」
理樹「いったい何があったのさ!?」
来ヶ谷「そう興奮するな。するならお姉さんのナイスバディに留めておけ」
来ヶ谷「これは10分ほど前のことだった…」
…
謙吾「…こ…き……」
来ヶ谷「おや?謙吾少年か…散歩とは珍しい。少しからかってやろう」
ガサッ
来ヶ谷「グッドモーニングベトナム!」
謙吾「………」
来ヶ谷「おや驚かないんだな?『あひょー』やら『うひゃー』と言えば面白いというのに」
謙吾「お前……古式か?」
来ヶ谷「……いや…君はいったい何を言っている」
謙吾「会いたかったぞ…っ!俺は寂しかった、皆お前が死んだといって怖かったんだ!」
来ヶ谷「……まさか」
謙吾「もうお前は離さんぞ!」
来ヶ谷「……!」
…
……
来ヶ谷「そう言って襲ってきたので私そこで回し蹴りを食らわせた」
理樹「なるほど……」
理樹(普通、僕に聞くのはおかしいことだ。しかし流石来ヶ谷さんと言った所か僕が深く関わっていることを見抜いたらしい)
理樹「うん…これは……」
ブーブーブー
理樹(話かけた所で来ヶ谷さんの携帯が鳴った)
来ヶ谷「…真人少年からメールか」
理樹「そ、そうだっ…まず謙吾が無事見つかったと伝えておかなきゃ!」
来ヶ谷「真人少年もこの件に噛んでいるという事は棗兄妹も当然知っているのだろうね」
理樹「うん…訳は後で話すよ、謙吾を運ぼう」
来ヶ谷「いや、このメールで大体の状況は察した。なるほど恭介氏が書いたらしいな、簡単に説明してくれているよ」
理樹(今の間に読んだのかっ)
来ヶ谷「…まあ、確かに理樹君の言うとおりだ。保健室でいいな?」
理樹「うん」
保健室
恭介「……全員集まってくれたな」
クド「……起きたらまた誰かをあの人と勘違いするのでしょうか…」
西園「そうなれば危険ですね。今日は来ヶ谷さんだから良かったものの、小毬さんであったらどうなることか」
恭介「今はかなり精神に支障をきたしている。不安定な状態がどういった問題を起こすか図りかねる…謙吾の親父がこの事を知ったら最悪そういう病院に入れられるかもしれん」
鈴「そんなのダメだ!」
小毬「宮沢君…」
理樹「このまま放っておく訳ないよね?」
恭介「当たり前だ、しかしどうすれば正気に戻せる…」
理樹(恭介が珍しく僕らの前で弱音を吐く。それほど今の状況が異常で困難だということだ)
図書室
理樹「ごめん皆…今日休ませちゃって」
小毬「理樹君が謝ることじゃないよ。困った時はお互い様、皆のためなら例え火のなか水のなかだよ~」
葉留佳「そーですヨ!まったくなんで早く言ってくれなかっの?水臭いなぁ!」
理樹「…ありがとうっ」
葉留佳「古式さんって人が居ないという事を自覚させるんですよネ?」
恭介「ああ…だが中途半端に亡くなっていることを諭すだけならまた謙吾はショックで気を失うだけだ…そしてまた同じ事の繰り返し」
鈴「このままじゃ墓に行くまでずっとこの調子か……それならアホな謙吾の方が何倍もいいな」
理樹(墓……自覚……そうか!)
理樹「謙吾を救う方法が分かったよ皆!」
クド「わふー!本当ですかっ!?」
理樹「うん…ただこれは一か八かだからもしかしたら謙吾は本当に狂ってしまうかもしれない……」
恭介「とにかくその理樹の案を聞かせてくれ、それから皆でそれについて相談するんだ」
理樹「分かった。それじゃあ……」
謙吾部屋
謙吾「ここは…」
理樹「起きた?」
謙吾「自分でベッドに入った覚えはないんだが俺は昨日何を」
来ヶ谷「時には知らない方が良いこともある」
謙吾「……もしかして全員いるのか?」
葉留佳「寝起きのはるちんは謙吾君のために封印してましたけどネ」
恭介「熱は……下がってるな。よし、早く着替えろ、出かけるぞ」
謙吾「俺は風邪でも引いてたのか……所で行くってどこに?」
恭介「……とにかく着替えろ、ほらお前らも出るぞ」
葉留佳「はーい!」
謙吾「にしても恭介の車にこうしてリトルバスターズの全員が乗るのは久しぶりだな!」
クド「わふー…そうですね……」
理樹「うん…」
謙吾「おいおいどうしたお前ら暗い顔をして…これから出掛けるというのに。そういえばさっき行き場を聞いて居なかっ…」
真人「謙吾!こういう時は指相撲でもしようぜ?」
謙吾「ほほう、この俺に指相撲を挑むとは真人もボケたな…乗ったぁっ!」
真人「おっしやぁぁ!いっくぜぇぇ!!」
理樹(ナイス真人!)
恭介「さ、着いたぜ」
謙吾「ここが目的地か…?見た所遊ぶ所ではなさそうだが……」
西園「そうでしょう、ここは墓地ですから」
謙吾「…何だと?」
恭介「こっちだ」
謙吾「おい待て、誰の墓だ?もしかして理樹の両親か?」
恭介「行けば分かる。心配すんな」
理樹(ここからが正念場だ)
恭介「……見ろ謙吾」
謙吾「まさか俺の名前でも書いて…」
謙吾「嘘だ…」
恭介「嘘じゃない」
謙吾「お、俺は帰らせてもらう…」
恭介「車も無しにどうやって帰る!?ちゃんと目を見張れ!これは誰の墓だっ!!」
謙吾「ぐっ…嫌だ……なんでこんな…古式の…古式の墓が!!」
恭介「お前は墓参りを欠かさなかっただろ…何度もここへ来たはずだ、今更逃げるのはよせ」
謙吾「うっ……おぇっ」
理樹(謙吾は吐かなかった…いや、吐けなかった。当たり前だ、朝から何も食べていないんだから吐き出せるものと言えばヨダレか胃液ぐらいだ)
鈴「よしよし…大丈夫だ」
理樹(鈴が優しく介抱する)
謙吾「うう…古式……お前はもう死んでしまったのか…?」
謙吾「ひっぐ……うぁああ!」
理樹(自分を慕っていてくれ、死ぬ最後まで相談に乗っていた人物。その人を失った悲しみと責任はあまりに大きい)
恭介「しばらく墓の前で2人で泣かせておいておいてやる…皆あっちに行くぞ」
理樹「いいの?」
恭介「俺を信じろ」
理樹(しばらくして戻ってみると謙吾は膝を折っていた)
謙吾「……」
理樹(もう涙は流していなかった)
謙吾「戻ってきたか」
恭介「ああ。どうだ?」
謙吾「さっきは見苦しい所を見せたな…もう落ち着いた」
謙吾「そしてやっと思い出した、古式がこの世に居ない事を」
理樹(………)
謙吾「あの頃の俺はな…ただ自分を責めることしか出来なかった、あの時俺が彼女を説得出来ていたなら…屋上に俺もいたなら……なんども想像したさ」
恭介「飛び込んで救っても今度はお前が死んでたかもな」
謙吾「それでも一生この想いを抱くぐらいならその方がマシだっただろう」
謙吾「だが、俺がそうやって心を誤魔化していても愛するお前達まで傷付けていることに気付いた…なんて俺は馬鹿だったんだっ」
謙吾「……俺はこれから参る。お前達も一緒にやってくれるか?」
理樹「もちろんだよ!」
小毬「うんっ」
恭介「じゃあちょっと待ってろ、今和尚さんを呼んでいる」
謙吾「ありがとう」
和尚「~~観自在菩薩行深般若波羅蜜多時~~」
謙吾「………」
理樹(謙吾は克服した。これからは無事皆とやっていけるだろう…)
キラッ
真人「ん?おい理樹、今なんか光ったボールみたいなのが上に浮いてなかったか?」
理樹「えっ?ごめん見てなかったよ」
謙吾「蛍だったりしてな」
真人「この時期にかぁ?」
恭介「ようし!それじゃあ帰るかっ」
謙吾「ああ、俺たちの居場所に」
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理樹「西園さんと深夜の散歩」
理樹(昼休みが終わる直前、そんなことを机に座ってもんもんと考えていると僕の制服のポケットからメールが届いた音がした)
理樹(送り主を確認すると、珍しいことに西園さんから届いていた。彼女は電子機器に疎く、電話をかけるにも一苦労なはずだけど一体どういう風の吹き回しなんだろうか?いや、仮に携帯の操作をマスターしていたとしてこの時間帯なら直接言えばいいはずなんだけど)
理樹(そう思って西園さんの席に目を走らせると丁度あちらも僕を見ていたようで目線がバッチリあった。まだ授業まで5分ほどの猶予があったから直接話そうと席を立ち上がると西園さんは急に顔を変えて緊迫そうな表情で頭を横に振った。動くなということだろう)
理樹(もしかすると直接話すとマズい内容のメールかもしれない。そう思ってやっとメールを開いた。中身はこの一文のみだった)
『今日の22時頃、誰からも見つからずに海まで来てください』
理樹(海、とはおそらく以前”一悶着”あったあの海で間違いないだろう。確かに誰にも見られずという条件ならこれから西園さんと喋っている姿を見られるのは得策ではないかもしれない。しかし、まさか夜に抜け出すなんて誰も考えやしないだろうに何故西園さんは僕と直接話すことさえ渋るのだろう?恭介達がすぐ近くにいるならともかく生徒全員が僕らの行動を監視しているんじゃないんだから)
『偉そうになりますが、今は何も考えずに私の約束を守ってください。もし私の事を考えてくださるならこのことは誰にも漏らさないでほしいです』
理樹(西園さんはこれまであまり僕に強制するということはなかった。そんな西園さんがここまで言うというのはやはり何かが起きたんだろう。そしてこれも勘だけど、その『何か』とは僕の考えている違和感と繋がるような気がした)
・・・・・・・・・
理樹(放課後、約束の22時までどうしようか考えていると後ろから真人が話しかけてきた)
真人「よう理樹!今からどうするんだ?」
理樹「ああ、僕もどうしようか迷ってた所なん……」
理樹(そう言った瞬間、何故かグラウンドの光景が僕の頭を走り抜けた。その疑問が顔に出てたのか真人が不審な目で僕を見た)
真人「どうした理樹?」
理樹「あっ、いや。なんでもないよ。ただ、こうやって何をするか迷うのって久々な気がしてさ。普段何やって暇を潰してたっけ…」
真人「………ふっ、そりゃ仕方がない。だっていつも俺たちは筋肉ダンスをしてたからな。楽しすぎて時間も忘れるぜ!」
理樹「そ、そうだったけ?」
理樹(真人の答えもなんだかしっくりこないが別にかといって他に考えられる要素もない。納得は置いておいて今は夕飯までの暇つぶしを考えることにした)
恭介「…………」
謙吾「…………」
真人「なあ西園…俺のシャキシャキでヘルシーなキャベツまるごと全部とそのカツ一切れだけを交換しないか?」
鈴「アホな事すな!」
真人「ええ~~」
理樹「あははっ」
西園「ふふっ……」
理樹(今日はいつにも増して静かだが楽しい夕食だった。ちょっと前まではもう少しうるさかったような気もするけど)
恭介「あ、そうだ理樹」
恭介「……今日はまっすぐベッドで寝ろよ。明日は小テストらしいじゃないか」
西園「……」
理樹「えっ、小テスト!?そんなの聞いてないけど……」
謙吾「いや、明日は英語の小テストだ。睡眠時間が少ないと朝の頭の回転が落ちるからな。明日の朝は復習しながら朝ご飯を食べよう」
理樹「えっ…そうだったっけ……」
理樹(すっかり聞き逃していたようだ。……でも西園さんの約束があるし少しばかり夜更かしはすることになりそうだ。当の西園さんにちらっと目を向けたがツーンと味噌汁を飲むだけで僕の方に見向きもしなかった)
鈴「なにィ!?あたしも知らなかった!」
真人「へへっ、俺はちゃんと覚えてたぜ!」
鈴「お前はどうせ勉強しないから一緒だ」
真人「うっ……言い返せねえ……」
恭介「西園は知ってたよな?」
西園「………ええ」
理樹(心なしか少しうしろめたそうな声で返事をしていた。知っているということはそれでも重要なことなんだろう)
理樹「……真人~……」
理樹(返事はなかったので出発することにした。西園さんが何をするつもりかは知らないが、期待を裏切ることはなさそうだ)
理樹「じゃあお休み…」
パタンッ
真人「…………」
・・・・・・・・・
理樹(学校の外には不思議なことに警備員どころか人1人いる気配がしなかった。ちゃんと明かりはついているとはいえまるで学校の人間すべてがどこかへ消えてしまったような……)
理樹(校門は既に誰かが南京錠を開けていた。きっと西園さんが前もって僕のために開けてくれていたんだろう。とうとうなんの苦労もなく学校を抜け出すことに成功した)
・・・・・・・・・
理樹(海岸に着くと当たり前だけど波の音しかしなかった。いや、この静けさは普通じゃない。なんだか不思議な感覚だった。心のどこかでは異常に気付いているのにそれを僕は抵抗なく受け入れている。今僕は『夢』の中にいるようだった。時計を見るとまだ21時30分だった。しかし彼女の性格を考えて渚を歩いていくとやはり彼女は既に着いていたようだ。海の端のほうにぽつんと人の姿があった。うちの制服を着て砂浜から地平線を眺めている。夜に合うのは初めてだからか外で日傘を持っていない彼女は新鮮だった。僕が隣に立つと西園さんは顔を動かさず立ち上がった)
理樹「・・・相変わらず綺麗な海だね」
西園「ええ、本当に綺麗な海です」
理樹(いざ何か話そうとしても上手い言葉が思い浮かばず結局ありきたりな言葉で話しかけてしまった。しかし西園さんは一語一語を大切にするように言葉を返した)
西園「今日はこのようなわがままを言ってすいませんでした。でも、どうしても今のうちにここで直枝さんともう一度話したかったのです」
理樹(そして西園さんは「少し歩きましょう」と提案したので僕らは波を撫でるように砂浜を歩き出した)
理樹「に、西園さん!?」
西園「静かにしてください。せっかくの雰囲気が台無しです」
理樹「いや、その・・・」
理樹(そう言われてもやはりこういう恋人っぽいことは慣れない。まだ僕は西園さんから直接装いう言葉を聞いたわけじゃないし僕自身も臆病で恥ずかしがり屋なので言えた試しがない。キスまでしたというのに不思議な話だけど)
西園「いえ。やっぱりいいです。直枝さんぽくありませんから」
理樹(僕はどう返していいのか分からず、とりあえず絡まっている西園さんの指をいじった)
西園「・・・なんだか手つきがエッチです」
理樹「えぇ・・・」
理樹「西園さん。なんでここへ呼びだしたの?」
理樹(少しの沈黙のあと西園さんは答えた)
西園「・・・ここならやっと本当の内緒話が出来るからです。私は皆さんのなかで一番の恥ずかしがり屋なので」
理樹「内緒話?」
西園「直枝さん、実はもう今日一日しか残っていないのです」
理樹「えっ、な、何が?」
西園「あなたが私の直枝さんでいられる時間が・・・です」
理樹(聞くだけではまったく意味の分からない言葉。しかしその言葉はとても説得力があり、ふざけて言っているようには聞こえなかった。理由は分からないが本当に二人でいられる時間はないんだ)
理樹「それは・・・もうどうにもならないんだね?」
西園「ええ。他でもないあなたのためですから」
理樹「・・・・・・」
理樹(その台詞を聞いた瞬間、どっと感情があふれ出した。これ以上なく彼女が愛おしくなった。僕はその思いをやはり行動に移してしまった)
西園「!・・・・・・」
理樹「・・・・・・」
理樹(その唇の柔らかさといったら!口から伝わる彼女のぬくもりがこの時間を終わらせるのをためらわせた。僕はその体勢のまま彼女のサラサラした髪を優しく撫でた当たり前だが西園さんは僕より小さくてか弱いんだ)
西園「・・・っ」
理樹(目の前にある西園さんの大きな目から大粒の涙がこぼれた。何故彼女は泣いているんだろう?それを推理するため、素早くこれまでの僕と西園さんの思い出を振り返ろうとして気付いた。ここに来るまでの記憶が一切『無い』んだ)
理樹(そして僕はこの唇を離したらもう次にする機会はしばらく起きないであろうことを悟った。僕は悲しくなってありったけの愛情をそのキスに込めてから彼女を離した)
理樹(気付けば僕の顎が水で濡れていた。僕も泣いていたんだ)
西園「ある意味ではそうです。しかし何も残らないわけではありません」
理樹「ぼ、僕はこれからどうすればいいの?どうすればまた君に会える?」
西園「残念ながら私は明日からあなたにとって”普通”の西園美魚で、私もあなたをそう思うでしょう。でも、もし奇跡が起こったとして、そのうえでまだ私を忘れなければきっとまた逢えます」
理樹「・・・・・・」
西園「あなたはこれからもいくつもの素敵な恋をするでしょう。それでもまだこの夜を忘れなければ・・・」
理樹「忘れないよ。約束はできないけど、きっと」
西園「直枝さんですから期待はしてません。でも、待ってます」
理樹(それから僕は西園さんに一人で帰るように言われた。一緒に帰ることはできない理由は色々あるんだろうけど、そのうちの一つは僕も同じ思いだった。海を離れるまでに何度も振り向き、遂に見えなくなるところまで来ると泣きながら学校に走った)
葉留佳「うおおおお!放課後だーーーい!お腹減ったーーー!!」
クド「は、葉留佳さんチャイム鳴ってから何秒で来ました!?」
恭介「ようし、じゃあ七輪を買いに出よう!今日は秋刀魚バスターズだぜ!」
謙吾「恭介に至っては階が違うだろ!いつの間に現れたんだ!?」
理樹(夏が終わり秋が迫ってきた。例の事故のせいでみんな(特に恭介)はあまり夏らしいことが出来なかったとぶさくさ言っていたがいざ季節が変わったら待ってましたと別の楽しみ方を探す。こういうことだけは本当に感心する)
理樹「あー恭介」
恭介「ん?」
理樹「今日秋刀魚を焼いたりするってことは夜また僕の部屋に集まったりはしないってことだよね?」
恭介「まあそうだな・・・それがどうした?」
理樹「いや、なんでも・・・」
理樹(やっと約束を果たす時が来た。あそこから帰ってきて初めて西園さんを見てからずっと忘れてこなかった。きっと彼女も少しは僕を見直すだろう。昨日徹夜で考えて来た海へ連れ出す一文を小毬さんたちとのんきに話している彼女の携帯に送った)
ええな
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恭介「闇たこ焼きパーティーするか」理樹「な、なに?」
食堂
理樹(早朝、いつものようにみんなで食事を楽しんでいると隣の恭介がぽつりと呟いた)
理樹「……今なんか言わなかった?」
恭介「ああ」
理樹(そう返事すると恭介はわざわざ箸を置いて立ち上がり、皆にはっきり聞こえるように宣言した)
恭介「聞いてくれ!今日の夜は闇鍋ならぬ闇たこ焼きパーティーを開催する!!」
理樹(その声に全員箸を止めざるをえなかった)
謙吾「おっ、なんだその心が踊るフレーズは!?」
恭介「ふっ、闇鍋ってあるだろ?電気を消してみんなで鍋に持参した食材を打ち込むアレだ」
クド「わふー!私、ちょうどテブアのお爺さんから聞かされててずっと一度やってみたかったのです!」
恭介「おおっと焦るな能美。今回は鍋ではなくたこ焼きだ」
美魚「たこ焼き……なるほど。たこの代わりになる食材を全員で持ち込む訳ですね?」
恭介「その通りだ」
鈴「また変なことを思いついたな」
来ヶ谷「どうでもいいが闇たこ焼きパーティーって物凄く語呂悪くないか?」
葉留佳「うぉー!なんだかよく分からないけど楽しそー!!はるちんは賛成ですヨ!」
真人「ふっ、俺は食うイベントならなんでも参加するぜ」
小毬「えへへ~この間のホットケーキパーティーみたいだね~私も参加しまーすっ!」
理樹(結局、運がいいのか恭介が狙ったのか全員予定がなかったのでやることになった。食材は各々他のメンバーに中身がバレないように放課後調達することになった)
食堂
理樹(真人と食堂に向かうと既にみんなが集結していた。その中心ではテーブルにたこ焼き器と既に粉を混ぜた生地が置かれていた)
恭介「よっしゃあ!全員食材はもってきたかぁ!?」
「「「イェーーイ!!」」」
理樹(みんな白ビニール袋や中身を隠したタッパーなどを手に一堂に会した。なんだかんだで僕も夜までワクワクしていた。つくづく恭介は企画するのが上手い)
謙吾「そういえば恭介ひとつ疑問に思うことがあるんだが」
恭介「どうした?」
謙吾「たこ焼きを作る過程で普通に中身がバレたりはしないのか?」
恭介「まあそこは食材を入れて中身がわからなくなるほど生地が固まるまで全員が見なかったらいい」
真人「随分アバウトだな…まあいいけど」
恭介「あっ、ちなみに分かってるとは思うが食えない物を投入するのはナシな。もしやったら今回の後片付けは全部そいつ一人にやってもらう」
葉留佳「あ、あははー!やだなー!そんなの当たり前田のクラッカーっすよ!」
理樹(後ろへスナップを効かせて持っていた袋のうちの一つをゴミ箱に捨てる葉留佳さんを僕は見た)
鈴「さっさとやろう。お腹減った」
恭介「よーし!じゃあまずはたこ焼き器に油を塗るぜ!」
鈴「手際がいいな……」
恭介「ちなみに今回は闇鍋風なのでやめておくが天かすを入れるともっと風味がよくなるらしい」
理樹「へえ~…」
恭介「じゃあ小毬、悪いが電気を消してくれるか?」
小毬「了解しました~!」
謙吾「いよいよか……)
理樹(小毬さんが電気を消しにいっている間に恭介はたこ焼き器の周りにろうそくを立てて、マッチで火を灯した)
パチッ
「わふー!」
「うぉ!」
理樹(電気が消えた後はそのろうそくだけが光源だった。灯りは僕らの周りをうっすらと照らし、なんだか凄くそれっぽい雰囲気を作り上げた)
恭介「準備はいいかお前ら?闇たこ焼きパーティースタートだ!」
恭介「よーしじゃあまず理樹、謙吾、西園、能美、俺から入れていこう。それぞれ入れる数はバラバラでいいが1人最低でも一個は食えるようにな」
クド「はーいなのです!」
理樹「よーし……」
理樹(うっすらと手前のたこ焼きプレートが見える程度の明るさに調節してからそれぞれ具を投入していった)
ポトッ…ポトッ…
恭介「入れたな?あとは渡した竹串で生地が固まれば具の中身が分からない程度にたこ焼きを回していってくれ」
理樹(すると僕の右隣から西園さんの声がした)
美魚「恭介さん…あまりこういうのはやった事がなくて上手く作る自信がないのですが……」
恭介「いや、最初は多少不細工でもいいんだ。どんどん回していくにつれて形が良くなっていく。強いていうなら生地を穴から半周させて周りの生地を穴の方に寄せていくように作っていくのがコツだ」
謙吾「ふむ…そうやって半円から円球にしていくのか」
真人「やべえ…生地が焼ける匂いで余計に腹が減ってきた!」
恭介「ふっ、慌てるな真人君。たこ焼きは一個一個が小さいから出来上がるのは案外早い。こうやって話していっている間にも固まってきてるんじゃないか?」
クド「わふー!確かに生地が回せるようになってきました!」
理樹(生地を突いてみると既に手応えが感じられた。試しに串で端を押してみるとくるんと生地が回った)
理樹「うん。僕の方もそろそろ大丈夫みたい」
恭介「ようし、では灯りをつけてくれ鈴」
鈴「ん」
「「「おおー」」」
理樹(たこ焼き器には円球の生地が仲良く並んでいた。多少形が崩れているものもあるが、どれも綺麗なクリーム色でもう少し焼けば美味しそうな姿へ変わるに違いない)
恭介「よし、あとは俺が仕上げをやろう。みんな皿を用意してくれ」
葉留佳「よっしゃー!!」
真人「イェーイ!」
……………………………………………………
恭介「よーしそれではまず俺、理樹、謙吾、西園、能美の5人が作ったたこ焼きを食っていくぜー!!」
鈴「もー耐えられん!」
パクッ
恭介「あっ、待て鈴!」
鈴「あっ、あつっ!あひゅっ…ああー!んんー!」
理樹「!?」
小毬「り、鈴ちゃん!大丈夫!?」
恭介「お前そういえばたこ焼き食った事なかったか…出来立てのはいくら外がサクサクして冷めてても油断してたら中のトロッとした熱い生地にヤラれるぞ」
理樹「鈴は猫舌だから余計に地獄だね……」
真人「ふーっ、ふーっ、パクッ……ん……んめえぇぇえ!!」
理樹(と、鈴が口の中のたこ焼きと格闘しているところで真人は美味の雄叫びをあげていた)
謙吾「ふむ……明太子か。入れたのは誰だ?」
美魚「あっ、それは私です。実家から送られてきたものなのですが、食べ切れなかったのでせっかくと思い、入れてみました」
真人「うーん生地の甘さと明太子の辛さのハーモニーっていうのか~~~?味の調和っていうのか~~?例えるなら筋トレの後のプロテイン!バディスタとクレートのヒーローインタビュー!デニーロ主演のスコセッシ作品!………って感じだな!」
理樹「どういう意味!?」
来ヶ谷「うむ。噛みしめた後のプチプチとした食感が楽しめる賑やかなたこ焼きだ。生地の薄味で辛さが程よく中和されている」
葉留佳「おひょー!こりゃ何個でも食べられますヨ!」
美魚「ふふ……楽しんでいただければなによりです」
小毬「パクッ……ん……あ~これはイカさんだねぇ」
謙吾「ああ!一度やってみたかったんだ。タコの代わりにイカを入れるっていうのをな!どうだ!?」
真人「ん、ん~~……まぁ、美味いよな?」
理樹「あ、あはは……そうだね。普通に美味しいよ」
葉留佳「あ……うん。そうですね」
謙吾「な、なんだその微妙なリアクションは!?」
恭介「あのなぁ謙吾……」
来ヶ谷「あまりに食感が似過ぎて普通のタコ焼きと変わらん」
謙吾「そ、そんなぁ………」
理樹(来ヶ谷さんの無慈悲なツッコミに膝をつく謙吾。哀れだ……)
クド「み、宮沢さん!私はとても美味しいと思いましたよ!」
鈴「次行くか」
ビヨーン
鈴「な、なんだこれは!かじったらビヨーンってなる!」
理樹「あははっ。それは僕が入れたチーズだね」
来ヶ谷「ふふっ、口の中で生暖かいドロッとしたものが流れて糸を引いていくな」
理樹「だからチーズだよ!?来ヶ谷さんが言うとなんか色っぽくなるからやめて!」
ツプッ……
美魚「これは……とうもろこしですか?」
クド「はい!その通りなのです!」
小毬「なんだか優しい味ですねぇ~」
葉留佳「もしゃり。………おやおや!こりゃ豚肉ですナ!?」
恭介「その通りだ。案外合うだろ?」
真人「なんかここまで来るとお好み焼きみたいだな!美味いからいいけどさ!」
理樹(このように前半は楽しく過ぎていった。しかし
その数十分後、僕らは思い出した……リトルバスターズというメンバーの半分以上はアホばっかりだったこと………さらに言えば残りのメンバーがそのほとんどを占めることを………)
理樹(あれ、なんだろう…何もおかしい所がないはずなのにそこに小毬さんの名前が入っていることが凄く不自然に感じる)
パチッ
真人「よーし…」
トロォ……
葉留佳「そーれ!」
ポトポト……
小毬「これくらいかなぁ?」
ポチョッ
鈴「ふふふ……」
ボトッ
来ヶ谷「…………」
グチョォ……
恭介「さーて実食に移るぜ!」
理樹(なんだか色々と聞き捨てならない効果音が聞こえたりしたけどどのタコ焼きも見た目には異常は見当たらない)
美魚「ではいただきます」
パクッ
美魚「……これは、キムチですか?」
小毬「うんっ!タコ焼きにしたらどうなるか分からなかったけど美味しいねぇ~」
謙吾「ほう。焼くことで水分が飛ぶかと思ったが噛みしめたら繊維からジュワッと汁が出て良い食べ応えだな。なかなかだぞ神北!」
真人「イカで失敗した奴がなんか言ってるぜ」
謙吾「なんだと!?じゃあお前のタコ焼きはどうなんだ!」
真人「へっ、じゃあ食ってみな!その右のが俺のだぜ!」
謙吾「よーし!」
パクッ
謙吾「ん、んんーーー!?」
理樹「どれ………」
パクッ
ネチョォ
理樹「ぼほっ!?」
鈴「ど、どーした!?」
理樹「な、なんだこの……」
理樹(噛めば噛むほど伸びていく。さっき食べたチーズとはまた別種類の粘り気。あと臭い。こ、これは……)
恭介「な、納豆だコレ!」
葉留佳「はぁぁー!?」
クド「な、なにを考えてるんですか真人さん!?」
真人「えっ、そんなにダメか?健康にいいし味も食えないことはないだろ」
鈴「妥協で喰わせるようなもんを入れるなー!」
ゲシッ
理樹(鈴が思わぬ伏兵に怒りの飛び蹴りを炸裂させた)
真人「うっ!すいません……」
謙吾「く、くそ…気を取り直して次を食べよう……」
パクッ
謙吾「ん、んぉおおお!?」
理樹「どれ……」
パクッ
パチパチパチッ!
理樹「ボホォッ……!?」
鈴「ど、どーした!?」
理樹(その『具』が舌に付いた瞬間、文字通りの衝撃が走った。パチパチッと頭の中に音が響く。あと痛い。こ、これは……)
恭介「ぽ、ポップロックキャンディだコレ!」
美魚「なにを考えてるんですか葉留佳さん……」
葉留佳「あははー!だって面白いじゃん!食べた瞬間予想外の爆発!イヤーインパクトありますヨこれは……」
鈴「むしろインパクトしかないわー!」
小毬「う、うーん……たこ焼きでは甘いのにしないほうがいいかもね……」
謙吾「ぐふっ……き、き、気を取り直して次を食べよう……」
パクッ
謙吾「バ、バハァッ!!」
理樹「どれ……」
パクッ
モグ……
理樹「ん、んんん!?」
理樹(なんだこれ!?『具』……確かに『具』はある!でもなんだこれは……なんというかその……あ、味が無いッ!まるでゴムを食ってる感触だ!)
恭介「グッ……懐かしきこの感覚……モンプチだコレ!」
鈴「あーやっぱりダメか?」
謙吾「バカ!なにを食わせてるんだ!!」
理樹「とうとう普通の食べ物じゃなかったよ!!」
鈴「いやーいつもアインシュタインたちが美味しそうに食べてたからな。実験的に入れた」
理樹「僕たちを実験台にしないでよ!」
クド「こ、これ私達も食べるんですかぁ?」
理樹(と、涙目で僕を見るクド。無理もない)
真人「モグ……なんか薄味だが食えねえことはないな」
「「「……………」」」
真人「えっ。な、なんだよ……」
謙吾「き、き、き、気を取り直して次……というかラストを食うか……これは来ヶ谷のものだな?」
来ヶ谷「ああその通りだ。そして全員が食べる前に言っておくことがある」
「「「?」」」
来ヶ谷「少し趣向を変えて実は私が投入した10個の具のうちの9個は普通のタコだ。魚屋で新鮮な物を仕入れたから味は良いはずだ」
恭介「9個……ということは残る1つが当たりという訳だな?」
謙吾「なるほど。当たりくじタコ焼きという訳か」
真人「で、残る一つはなんだ?」
来ヶ谷「秘密だ。………だが、まあ、死にはしないよ……うん」
「「「!?」」」
理樹(この瞬間、僕らは当たりくじではなくロシアンルーレットであることを悟った)
来ヶ谷「女の子は安心したまえ。なんせ私が直々に君らの皿に盛ったからな」
理樹(男子が対象か!!)
真人「お、俺さっきからみんなの分貰っちゃったからもうお腹一杯だな~っと……」
来ヶ谷「おいおい男の子だろ?タコ焼き一つ食えないのか?」
真人「うっ……」
謙吾「く、来ヶ谷め!俺たちだからってなんでもいいと思ってるだろ!?鈴!西園!言ってやれ!!」
鈴「このタコ美味しいな!」
美魚「本当ですね。どこから仕入れたんでしょうか?」
恭介「か、懐柔されてやがる!!」
理樹(ニヤリと笑う来ヶ谷さん。なんだかとても爪楊枝が重く感じる)
来ヶ谷「ふふふ、私も鬼ではないさ。もし倒れることがあっても治るまでこの私がつきっきりでリンゴを剥いてやる。美少女から看病を受ける。こんな良いことはないだろ?」
理樹「そんな酷いマッチポンプ聞いたことないよ!!」
来ヶ谷「さあどうした?早く食べてみせろ」
葉留佳「そーだそーだ!」
クド「御愁傷様です……」
美魚「小毬さん。さっきのキムチのもう一つ貰っていいですか?」
小毬「どぞ~」
理樹・真人・謙吾・恭介「「「ゴ、ゴクリ………」」」
パクッ
………………………………………………
…………………………
…
恭介「お、美味しい……!」
真人「よ、よっしゃあ!生き残ったぜ!!」
謙吾「………美味い……ここまでタコが美味いと思ったのは生まれて初めてだ……!」
葉留佳「……ということは……」
恭介「まさか理樹が!?」
理樹「……………」
理樹(この歯ごたえ、この風味、この味は……)
理樹「いや、普通に美味しいタコだけど……」
「「「えっ!?」」」
来ヶ谷「はっはっはっ!そうだ。全部ちゃんと美味しいタコだよ」
真人「な、なにぃ!?」
謙吾「お、俺たちを騙したのか!?」
来ヶ谷「ふふっ、悪かったね。だけどスリル満点のタコ焼きは普通より美味しく感じただろう?」
理樹「ある意味ね……でも生きた心地がしなかったよ!」
恭介「フッ、こりゃ一本取られたな」
理樹(こうして闇タコ焼き大会は終わりを迎えた。いろんなハプニングは起きつつも結果的にはみんな満足しただろう。ただ今回のことで創作料理をさせてはいけない人が浮き彫りになった。僕も今のうちに料理の練習をしておこうと思う)
終わり(∵)
面白かった乙
地味にモンプチがどんな味なのか気になってきた
あと、更新されていたからと言ってこの時間に読むのは控えるべきだったかも
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Entry ⇒ 2017.07.19 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「………終点?」佳奈多「グゥ………」
理樹(僕の心地よい眠りは機械的なアナウンスで妨げられた)
理樹「………終点?」
理樹(その言葉の意味を理解するのに数秒とかからなかった。そして理解した瞬間、全身の血液が冷たくなるのを感じた。胃の底からすっと力が抜け、周囲の環境音が妙に大きくなったような気がした)
理樹「終点だって!」
理樹(もう一度その言葉を繰り返し、思わずシートから立ち上がった。乗った時はあれだけ混雑していた車内が今はすっかり静かだった)
「グゥ………」
理樹(そんな中、すぐ隣から間の抜けたイビキが聞こえた。そうだ、そういえば今日は2人で来ていた。だからこそ油断してしまったんだ)
佳奈多「……んん……」
理樹「…………どうすればいいんだ」
佳奈多「ほらっ、葉留佳が起きないうちに早く出るわよ……っ!」
理樹「分かってるよ……!」
理樹(二木さんに急かされ、静かに素早くドアを開けた。葉留佳さんのいつもの起床時間を考えるとここまで早くアパートを出るのは慎重すぎるが、二木さんの性格上諦める他ない)
理樹(アパートの外は鳥のさえずりが明確に聞こえるほど静かだった)
佳奈多「ああ、携帯を忘れちゃったわ」
理樹(鍵を閉め後で二木さんが眉をしかめながら言った)
理樹「いや、僕も部屋に置いてきたよ。どうせ今日はずっと電源を切っておかないといけないしね」
理樹(葉留佳さんからかかってきた時、わざわざ拒否するのも嫌だ。それに家に電話が置いてあるという事は「心配はいらない」というメッセージにもなる)
佳奈多「……ま、いいか。それじゃ行きましょ」
理樹「うん」
理樹(今日は二木さんがバレンタインデーに向けて葉留佳さんに渡すチョコを厳選する予定だ。なんでも今は女の子が男の子に渡すだけではないらしい。こういうイベントを利用して積極的に仲を縮めていこうという策略なんだろう。つくづくこういう所は鈴に対する恭介を思い出す)
理樹(時計は0:30分を指している。帰りの電車はない)
理樹「ハァーー………」
理樹(隣の二木を起こしたくない。出来ればこのまま二木さんを放って全力で逃げ出したい。しかし、この見知らぬ土地のどこへ逃げようというんだ)
佳奈多「……………」
理樹(座り直し、もう一度二木さんの方をちらりと振り返る。起きる気配ない。いったいどうしてこんなことになったんだろう。慣れない早朝に起き上がって出かけたから?久々の都会に2人してテンションが上がって関係ない所を見て回りまくったから?おそらく両方だろう。少なくとも終電ギリギリまでいなければ終点まで寝ていてもまだなんとかなったはずだ。ああ、無情)
理樹「二木さん」
佳奈多「……着いた?」
理樹(ゆっくりと目を開いた。まだ寝たりなさそうだ)
理樹「いや、その……」
理樹(どうオブラートに包もうか迷っていると後ろの方から見回りに来た車掌さんがストレートに言った)
「終点でございます。ご乗車お疲れさまでしたー」
佳奈多「なっ」
理樹(二木さんのクールな顔が一瞬で崩れた数少ない瞬間だった)
理樹(乗り越し精算を済ませて駅を出るまで二木さんは無言だった)
佳奈多「……………」
理樹「こ、これからどうしようか……」
佳奈多「ふっ……ふふっ…」
理樹「!?」
佳奈多「……最悪ね。本当に……最悪」
理樹(突然笑ったかと思うとこの世の終わりを彷彿させる顔に変化し、アスファルトの地面に三角座りした)
理樹「ちょっと、こんな所で!服が汚れるからやめなよっ」
佳奈多「どうすればいいの……帰りの電車はないし終点まで来たせいでタクシーを呼ぶ程のお金も残ってない……」
理樹(あまりの沈みように二木さんが絶望の海に溺れているような錯覚を覚えた。そんな時、ふと名案が思い浮かんだ)
理樹「あっ、そうだ!葉留佳さんに電話してタクシーで来てもらったらどうかな!?携帯は家にあるけど幸い公衆電話を使うほどのお金は残ってるし」
佳奈多「ダメよそんなこと!葉留佳に黙って出て行ったのに今更おめおめと助けを求められる訳ないじゃない!」
理樹(確かに、経緯からしてそんな事を言おうものなら一生笑いのネタにされるだろう。そうすると僕らは完全なる間抜けだ)
理樹「で、でもそうは言ったって他にどうするのさ?」
佳奈多「分かってるでしょう?方法は一つ…………歩いて帰るのよ」
理樹「ええー」
理樹(その言葉は1番聞きたくなったが、そう言うに違いないとも思っていた)
佳奈多「…………」
理樹(不幸中の幸いというか、2月というのにこの数日とても気温が穏やかで深夜だというのにあまり寒くなかった。まあ二木さん的には気温がどうであれこの選択に変わりはなかったんだろうけど)
理樹「………」
理樹(しかし、いざ歩いてみたけどこれはなかなか困るな。これまでのお出かけは周りがキラキラしていて僕らを飽きさせなかったけど今は民家が並んでいる道をひたすら歩き続けるだけだから、なんというか、その、沈黙が気まずい。二木さんは顔を見るなり平気そうだけど……)
佳奈多「………?」
理樹「あっ、いや……」
理樹(お互い黙っている時に目が合ったら更にきまりが悪い。慌てて適当な会話を繕うことにした)
1.本日はお日柄もよく
2.僕の分のチョコレートってある?
3.しりとりしよう
佳奈多「しない」
理樹「いきなり却下しないでよ……」
佳奈多「あなたとそんなことするくらいなら星を数えた方がまだマシだわ」
理樹「悪い話じゃないと思うんだけどな……」
佳奈多「良い話でもないわよ」
理樹「よ……よ……夜は長いし、きっと気も紛れるよ?」
佳奈多「さっきから嫌にしりとりに執着するわね」
理樹「ね?……ね……むくならない為にはしりとりが一番なのさ」
佳奈多「……ねえ……」
理樹「え?」
佳奈多「私の語尾で無理やりしりとりするのやめてくれないかしら。とてもムカつくんだけど」
理樹「………どうもごめんなさい」
佳奈多「チッ」
理樹(もうやめておこう)
理樹(二木さんが前を向きながら言った)
理樹「そうだよね。どんな話をする?」
佳奈多「これは前々から聞きたかったんだけど、どうしてあなたまで着いてきたの?」
理樹「えっ、だって二木さんが意見を聞きたいからって連れてきたんじゃないか」
佳奈多「そうじゃなくて、どうして今回の逃亡にあなたが着いてきたかって言いたいの」
理樹(今度はばっちり僕の目を見て言ってきた。顔からはどんな感情を抱いているか読み取れない)
理樹「えっ、それは……」
佳奈多「別に生活するだけなら葉留佳と2人きりでもよくないかしら?用心棒としては頼りないし、家事も特に得意という訳ではないじゃない」
理樹(さっきまで一定の距離を保っていた二木さんがここにきて距離を詰めてきた)
理樹「い、いやっ、なんというかその……話の流れで……」
佳奈多「どうせ変な下心があったんでしょう?」
理樹「い、いやいやいや!」
佳奈多「すけべ、変態、むっつり」
理樹「…………っ」
理樹(なにか言い返そうと口を開いたが、具体的な反論が出てこなかった)
理樹「…………………」
理樹(言われてみればあの時勢いで逃げてきたけど確かにどうして僕は2人と一緒にいる必要があるんだろう。そう考えるとなんだか本当に下心がある気がしてきた)
理樹「……………うぅ…」
理樹(それから急に自分がとても恥ずかしい存在に見えてきた。思わず二木さんを見ながら情けない声をこぼしてしまった。夜がセンチな気持ちにさせるのかジワリと目尻に水が溜まりもした)
佳奈多「…………いや嘘よ?これ冗談だから。冗談」
理樹「………っ?」
佳奈多「ふん、もしかして真に受けたの?まったく騙されやすいわね。いざという時は男の腕が必要だったりするし、もしあいつからがここを嗅ぎつけたら第三者の存在が重要になるもの」
理樹(一気に淡々と説明する二木さん)
理樹「え…え……ほんと?」
佳奈多「本当よ。いるだけで何かと都合がいいのよ。私がいる前であなたなんかが葉留佳に手を出す勇気はないだろうし」
理樹「ふ、ふふっ……確かにその心配はいらないね!」
理樹(今度はみるみるうちに自信が湧いて、心に希望が灯った。少し濡れた目を擦ると何故か一瞬ホッとした顔の二木さんが見えた)
佳奈多「少し……疲れたわ」
理樹(歩き続けてから1時間くらい経った頃、二木さんが足を軽く曲げて小さな声で言った。そしてその時、僕はようやく二木さんがパンプスを履いている事に気付いた)
理樹「あっ……ど、どうしよう……そうだ、靴交換する?」
理樹(幸い僕のスニーカーは女性が履いていても違和感がない)
佳奈多「あなた馬鹿?………とりあえず少しそこのベンチで10分ほど休ませてくれれば充分よ」
理樹(と言う訳でバス停のベンチで休憩する事にした)
………………………………
理樹「ええと……今はここだから……うわ、まだまだかかりそうだね。二木さんは眠たくない?」
佳奈多「風紀委員の頃は夕方から次の日の朝までほぼ眠らず張り込みを続けていた時もあった。これくらい平気だわ」
理樹「無粋な質問だったかな」
理樹(うちの風紀委員を警察と錯覚するのは多分ほとんどこの人のせいなんだろう)
佳奈多「あなたこそ大丈夫なの?私の後をずっと追わされていたけど」
理樹「まあ君ほどじゃないけど僕もやる時はやるよ」
佳奈多「…………」
佳奈多「それはどうかしら?」
理樹「えっ?」
佳奈多「疲れというのは徐々に来ない。来る時は一気に来るものよ。これでも食べて今のうちに備えなさい」
理樹(というと二木さんが肩にかけていたカバンの中から青色の缶を渡してきた)
理樹「これは?」
理樹(包装を剥がし、缶の蓋を開けると甘い匂いが鼻をくすぐった)
佳奈多「カフェインが入ったドイツのチョコよ。糖分を補い、意識を覚醒させるにはそれが一番ね。直枝にも食べやすいようにミルクチョコレートを選んでおいたから何回かに分けて食べなさい」
理樹「ありがとう!二木さんも食べなよ」
佳奈多「いや……私は自分のがあるわ」
理樹「そう?」
理樹(二木さんがタダでお菓子をくれるなんて珍しいこともあったものだ。とりあえず気が変わらないうちにチョコレートを一つ手に取った。なんだかチーズのような形だった)
理樹「じゃあいただきます」
佳奈多「うん」
理樹(口に放り込んだ瞬間、思わず顔がにやけた。長い間こういう物を食べていないせいだろうか、甘い刺激が口の中を駆け巡り唾液が溢れた。カフェインの苦味のお陰で後味もいい)
佳奈多「どう?」
理樹「うん。美味しいよ」
佳奈多「そ、なら良いわ。じゃあそろそろ歩きましょうか」
理樹「そうだね」
理樹(そうそっけなく言って立ち上がる二木さんの足は少し軽そうに見えた)
…………………………
…
理樹「だいたいあと何時間で着くんだろうね」
佳奈多「………ねえ、もうそれ3回目よ?重要なのは何時間経つかじゃなく、どれだけ歩くかよ。つべこべ言わないでさっさと歩く!」
理樹「い、いや~……ただ、そろそろ景色を眺めるのも飽きたなって……」
佳奈多「私にそれを言って何をさせたい訳?ポケットから車を出してくれるとでも思ってるのかしら」
理樹「ごめん……」
佳奈多「ふんっ」
理樹(朝から長時間の移動で流石の僕らにも疲労と苛立ちが募ってきていた。このままでは喧嘩とまではいかなくても凄く悪い雰囲気になるのは確実だ。というか二木さんの方はもうかなりそれに近い)
理樹(ここは僕から一つ、清涼剤となるものをこの空気に投入しなければ。さて……)
1.踊る
2.泣く
3.筋肉
理樹「うぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
佳奈多「なっ、なに!?」
理樹「今、僕の筋肉が真っ赤に燃えるっ!!!筋肉旋風を起こせと轟き叫ぶ!!筋肉イェイイェーイ!!筋肉イェイイェーイ!!」
理樹(僕はこう叫びながらやっと真人の筋肉イェイイェーイダンスの意味を理解した。これはただ真人が考案したものではない。自然とそうなってしまうのだ。例えば腕が痒ければ自然と掻いてしまうように、筋肉に感謝を示そう考えると自然とこの動きに行き着くのだ。僕はその域に達せた喜びを感じつつ、思う存分腕と足をくにゃくにゃさせた)
佳奈多「な、なに……っ!?」
理樹「筋肉イェイイェーイ!筋肉イェイイェーイ!ほらっ、二木さんも一緒に!」
佳奈多「は……はぁ!?何を言い出すの!」
理樹「ストレス解消にも最適だよ!?ほら!腰を振ってワンツーワンツー!」
佳奈多「……ふざけないで。近所迷惑よ」
理樹「うっ………」
理樹(まずい。二木さんの怒りが本気のトーンになってしまった。僕がやろうとしていることはもしかして逆効果なのか?いや、そんな訳がない。筋肉を……筋肉を信じるんだ。そうすれば二木さんもきっと!)
理樹「き、筋肉イェイイェエエエエエエエエ!!!!ゴホッ…イ、イェエエエエエエエエ!!!」
佳奈多「なっ、喉を潰すつもり!?というか近所迷惑だからやめなさい!」
理樹「いいや、君が堕ちるまで僕はやめない!!筋肉うぉおおおおおおおおお!!!!」
佳奈多「な、なにが直枝をここまで駆り立てるの!?」
理樹「何が元風紀委員長だ!君だって筋肉の観点から言えば1人の女の子じゃないか!真人抜きでも僕は筋肉旋風を起こしてみせるぞ!!」
理樹(その時、僕の体が黄金の光に包まれたような気がした)
佳奈多「ハッ!こ、この光は!?」
理樹「いける……いけるぞ!今だっ!!」
理樹(僕は筋肉がはち切れんばかりに腕と腰を振った。するとどうだろう。最初はそよ風程度だった僕の周りが次第に大きな風となったではないか。みるみるうちにそれは激しさを増し、とうとう”旋風”となった)
佳奈多「ば、馬鹿な……!本当にこれがあの直枝理樹なの!?」
理樹「二木さんに届け!僕の筋肉よ!!」
佳奈多「キ、キャアアアアアアア!!」
…………………………
……………
…
理樹(勝った。僕は二木さんの意思に打ち勝ったんだ。辛く厳しい戦いだったが、遂にやったのだ!)
理樹「ふふっ、筋肉イェイイェーイ!」
佳奈多「筋肉いぇ………はっ!?」
理樹「えっ?」
佳奈多「………あ……あ……」
理樹(しばらく筋肉に興じていた二木さんが急に声を出さなくなってしまった。そして次にその顔がみるみるうちに青くなってしまった)
理樹「ふ、二木さん大丈夫!?」
佳奈多「な、なんて事やらすのよ!」
バチンッ
理樹「痛い!」
佳奈多「ふんっ!全く、妙な事で時間を無駄にしてしまったわ……ああ、それにしてもなんで今まで私はあんなことを……」
理樹(二木さんは僕を全力でビンタしたかと思うと、なにやら独り言をブツブツと言ってヨロヨロと先に行ってしまった。やはり今の僕では完全な洗の……旋風を起こすのは難しいのだろうか?)
理樹「………」
理樹(とは言え、お互いに声を張り上げたお陰で雰囲気が良くなった。相変わらず二木さんは黙ったままだけど)
理樹「それにしても葉留佳さん今頃どうしてるんだろうね」
佳奈多「さあね。そりゃ心配はしてるだろうけど、あの子の事だしもう寝てるでしょう。葉留佳ほど楽観的な人間なんていないわ」
理樹「もし警察に捜索願を出してたらどうしよう?」
佳奈多「私が将来貴方と結婚するレベルであり得ないわ」
理樹「そいつは凄いレベルだね」
佳奈多「うっ……」
理樹「どうしたの?」
理樹(二木さんが急に頭を抑えだした)
佳奈多「………いや、今のちょっと想像したら頭が痛くて……ちょっとそこのベンチで休ませてくれない?」
理樹「ええ……」
理樹「なるほどよほど眠たかったんだね」
理樹(二木さんは駅前のベンチで横になったかと思うとすぐに瞳を閉じて何も言わなくなった。やはりいくら風紀委員であったとは言え体力の限界が近づいていたのだ)
理樹「所で今は……おっ、もうここか!あと2駅分って所だな」
佳奈多「すぅ………」
理樹「……………」
…………………………………………………
…………………………
…
佳奈多「……………ん」
理樹「二木さん、やっぱ軽いな」
理樹(もう今や車すら通らない時間となり、周りの音は僕の靴がアスファルトに擦れる音と二木さんの吐息だけとなった。このペースだとあと30分もあるけば僕らの家に着くだろう)
ザッ
理樹「ん?」
理樹(前の方から別の音がした)
「…………この時を待っていたぞ」
理樹「あ、あなた達は!」
理樹(それはあの時の結婚式で見た一番偉そうな爺さんだった。今まで二木さん達に訴えられてほとんどの人間は捕まったが、何故かこの人だけは捕まらなかったんだ。それが今、3人の体つきの良い男の人を前に立っていた)
男「へへ……」
理樹「そ、その人たちは誰だ!何が目的なんだ!」
佳奈多「んん……何?」
理樹(二木さんが僕の大声に目を開けた)
佳奈多「……ハッ!あ、あなたは!」
理樹(事態をすぐに理解すると僕の背からパッと降りて、前に出た)
「佳奈多よ。ようやく会えたな。今までこうして邪魔が入らん機会を待っていたよ」
佳奈多「なんですって?」
「例の騒ぎから逃げ伸びた後、私は貴様ら姉妹に復讐する日をずっと待っていた。ずっとお前達を遠くから監視していたのだ。こんな隠れ家がいつまでも見つからないとでも思ったのか!」
佳奈多「な、直枝!逃げるわよ!」
「おおっと!」
理樹(その爺さんがそう言うと後ろの方からどこからともなく別の3人が現れた。どれも屈強そうでとても強行突破は出来そうにない)
「この時のためにいくら時間と金を費やしたと思っている?さあ大人しく私の元に戻って来い佳奈多!またあの頃のように”お仕置き”してやるぞ!」
佳奈多「くっ……そいつらは金で雇ったって訳ね…」
「ククッその通りだ。そしてお前の後は葉留佳だ。お前達2人さえ消えてくれれば奴1人を攫うのがとても楽になる。だから今のうちに厄介な問題から片付けるという通りよ」
理樹(僕らの前後にはガラの悪そうな人達がナイフや酒ビンを持って囲んでいる。こんな夜中だからいくら叫んでも人が来る頃には僕らは連れ去られているだろう。そうなると全てが終わる。葉留佳さんもきっと真実に気付くまえに彼らに襲われるはずだ)
理樹「うう、ここまでか……!」
???「警察だ!」
「むうっ!?」
理樹「なっ……!?」
佳奈多「は、葉留佳!」
理樹(前の方から声がしたと思ったらそこには何を隠そう葉留佳さんその人がいた)
「ば、馬鹿な。何故ここにいる!?……い、いや。むしろ捕らえる手間が省けたというもの!捕まえろお前達!」
葉留佳「ふっふーん!私が何の策も考えずに姿を現したと思うてか!我は風紀委員から逃げるためにあらゆる作戦を使ってきたのだよ!カモン我が部下よ!」
真人「誰が部下だよ!」
謙吾「ここに」
来ヶ谷「まあ、たまにはいいじゃないか。可愛い子の頼みだ」
佳奈多「く、来ヶ谷さん!?」
理樹「真人!謙吾!みんな!」
「お、お前達はまさかあの学校にいた……!」
男B「構うものか!たかが、学生だ!やっちまえ!」
恭介「おおっと、そいつらを甘く見ない方がいいぜ?」
理樹「恭介!」
理樹(どうしたものだろう?何ヶ月も会ってなかったみんなが、一番いて欲しいタイミングで今ここに集結している!)
男C「うおおおーっ!」
理樹「あっ!」
理樹(その時、男の1人が鉄パイプを持って謙吾に殴りかかった)
謙吾「タァッ!」
ブンッ
男C「う、うぉおおお!?」
ドカッ
理樹(しかし謙吾は相手の走ってきた勢いを利用して敵の攻撃をいなし、見事に空中を一回転させて転ばせた)
謙吾「俺に物を振るうのは100年早い!次はどいつた!」
男A「うう……!」
理樹(謙吾の技を見た他の人間は怖気付いたのか、次々と戦意を喪失した表情を見せた)
「くっ……ここは一旦逃げるしか……!」
葉留佳「いや、もう無駄だよ。ちゃんと本物の警察もいるからね。おーい!こっちですよー!」
理樹(僕らの後ろ方にそう声をかけると、すぐに寝ライトを持って来ている警官がこちらにやってくる姿が見えた。ちょうど恭介達と警官と僕らに挟まれた形となった)
警官「もしや彼らがその言っていた人物達か!?」
「ぐ、ぐうっ!」
葉留佳「あはははっ!観念するですヨ!」
理樹(その後、お家の人間で僕らに敵意を持った最後の人間がパトカーに運ばれていったのをみんなで見届けた)
佳奈多「……ありがとうございました。本当に危ないところを助かりました」
恭介「俺は何もやっていない。礼なら三枝に言いな」
理樹「そうだよ!なんでこんな時間にみんながいたのさ!」
葉留佳「え?え、えーっとそれは……」
来ヶ谷「ふふっ、葉留佳君はな、いつまで経っても帰ってこない君達を心配して捜索願を出す勢いで警察署に駆け込んだ挙句、まだ心配なので夜中に私や恭介氏らを叩き起こして今の今まで家の周辺から捜索していた訳なのさ」
警官「本来ならこう言うのはすぐには行動出来ないんだがこの子に上目遣いで頭を下げられたら断るわけにもいかないさ」
理樹(そう言って警官の人は軽く笑った)
佳奈多「そんな事があったの……」
謙吾「それで2人は俺たちがここまでする程の理由で失踪したんだろうな?服はかなり気合が入っているようだが……」
理樹「そ、それが……」
葉留佳「そ、そんな事で!?」
来ヶ谷「はっはっはっ!それはそれは大変だったな!」
真人「おいおい……ここまでのタクシー代高かったんだぜ…」
恭介「まあ結果的にはそれじゃお釣りが来るほどの活躍が出来て良かったじゃないか。かっこよかったぜお前の登場シーン。なあ理樹?」
理樹「あっ、そ、そうだね!」
真人「えっ、本当か!?」
来ヶ谷「………さてそれじゃあそろそろ帰るとするか。もうすぐ夜が明ける」
佳奈多「そうですね。それにしてもこれで私たちが潜伏する理由も無くなりましたけどね」
恭介「まあ、その辺は後でゆっくり考えるとしよう。とにかく今はお前らの家に戻りな」
理樹「うん。そうだね」
真人「じゃーなー!」
葉留佳「バイバーイ!今日は本当ありがとうみんな!」
理樹(それから家に戻った後、いくらか会話をして僕らはもうすぐに寝てしまった。3人とも眠気が限界を超えていたのだ)
アパート
葉留佳「ふあぁ……おはよう」
佳奈多「あら、おはよう佳奈多。これ、チョコだけどいる?」
葉留佳「あっ、もしかしてそれってこの間選びに行ったっていうバレンタインデーチョコ!?キャホー!私もやっと貰ったー!」
佳奈多「ば、馬鹿。察しが良すぎるわよ。……ん?……私『も』?」
葉留佳「へっへっへー!実はあの日の話を理樹君から聞いたんだけどはるちんはピーンと来ましたヨ!理樹君にもさり気なく渡してたでしょ!?」
佳奈多「は、はあ!?別にそういうんじゃないし!バレンタインの日に渡した訳じゃないし!義理だし!」
理樹「ふあぁおはよう……ん…甘い匂いがするな」
葉留佳「おっ、良いタイミングですな理樹君!それでどうだった?佳奈多のチョコの味は?」
理樹「へっ、チョコ?」
佳奈多「は、葉留佳ーーー!!」
終わり
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490460172/
Entry ⇒ 2017.07.14 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「恭介が留年!?」
理樹(その話の発端は、謙吾の『これはあくまで人から聞いた話だが……』の一言だった)
謙吾「恭介が、その……留年した。という事だ」
理樹(それを聞いた瞬間、テーブルを囲んでダラダラしていた3人の目が一斉に謙吾の方へ向いた)
理樹「き、恭介が留年!?」
真人「ハハハッ!まさかそんな事ねえだろ!恭介の野郎、いつもテストの時期になったら俺らに何故かバンバン当たるテスト範囲教えてくれたじゃねえか」
鈴「確かに賢いかは知らないが馬鹿ではないな」
理樹(真人と鈴は面白くもない冗談だとばかりにすぐさま平静な顔に戻った。しかし、謙吾だけは依然と顔に冷や汗をかいていた)
謙吾「う、うむ……俺も風のウワサを聞いた程度なんだが……火のないところに煙は立たんとも言うしな」
理樹(謙吾は並大抵のことで顔を崩さない。その彼がこのふざけた話にここまで真剣になるということはその噂の出所に信憑性があるのだろう。その動揺が僕にも伝染したのか、若干ドキドキしてきた)
理樹「と、とにかくそろそろ恭介が来る頃じゃない?その時に確かめてみようよ!」
ガチャ
理樹(そういうと同時にドアが開いた)
恭介「…………………よぅ」
理樹・真人・謙吾・鈴「「「!!」」」
理樹(生気のない声で入ってくる恭介。彼の顔は死んでいた)
理樹(恭介は僕と鈴の間に腰掛けると、大きなため息を吐いた。その目は何も写ってなかった)
真人「…………」
理樹(真人が、謙吾に信じられないといった目線を送った。謙吾はただ辛そうな顔で目を伏せた。恭介がテーブルの前に座ってから気まずい沈黙が流れて数秒後、鈴がその空気に耐えかねて僕にウインクでサインを送った。それがどういう意味か分からない僕じゃない。言い出しっぺになどなるんじゃなかった)
理樹「あ、えっと……恭介……その……」
恭介「……噂、聞いたのか?」
理樹「えっ!」
理樹(前置きなく急に核心を突かれてギクリとした。もはや”知らないふり”は出来ない)
理樹「………う、うん……恭介、留年したって本当?」
恭介「…………………」
理樹(みんな固唾を飲んで恭介の次の言葉を待った。そしてみんな恭介が急に笑顔になって僕らをからかってくれるのを期待した。そうなれば少なくとも僕は甘んじて彼に笑われただろう。でも、恭介は表情をピクリとも動かさず、口元に蝋燭があっても消せないような声で言った)
恭介「………その通りだ………」
恭介「真人……」
理樹(その時、恭介は真人にニコリと微笑んだ。つられて僕らも笑いそうになったが、次の言葉で笑えなくなった)
恭介「今年も、よろしくな……」
真人「…………マジかよ」
謙吾「……何故だ恭介。何故よりによってお前が!」
理樹(謙吾が思わず声を荒げた。しかし、当の本人は相変わらずの口調でそれに答えた)
恭介「ああ、分かってるよ。これから訳を話そう」
恭介「……俺がこうなった理由をな」
理樹(恭介は静かに語り出した)
『3-Aの棗恭介君。至急職員室まで来るように』
恭介(そのアナウンスが流れた時、まさかこれが破滅へのカウントダウンだったとは砂の粒ほども思わなかった。もしかしたら卒業式の生徒代表に選ばれたんじゃないか、そんなことくらいしか考えていなかった)
男子生徒「おっ、呼ばれたな恭介!また何かやらかしたのか~?」
恭介「マジかよ勘弁してほしいぜ~!」
男子生徒・恭介「「はっはっはっ!」」
恭介(何もかもが順調だった。とうとう理樹と鈴の成長も見届け、ついに納得できる就職先も見つけ、そして……)
あーちゃん先輩「ねっ、棗君。その用事が終わったらでいいんだけどさ……後で裏庭のベンチに来てくれない?」
恭介「えっ、それは……!」
あーちゃん先輩「ふふっ、来てからのお楽しみよっ……なんちて」
恭介「………!」
恭介(………何もかもが順調だった。この学園に思い残すことなど他に何もなかった)
職員室
担任「……棗。非常に言いづらいんだが……お前の留年が決まった」
恭介「えっ?」
恭介(最近少し太り気味だった担任は、腹を撫で回しながら俺にそう宣告した)
担任「……………」
恭介(俺が笑いかけながら言っても担任はただ黙って腹を撫でた)
恭介「……………」
担任「……………」
恭介「……冗談ですよね?」
担任「………棗。申し訳ないがもう決定した事だ」
恭介(俺はそこでようやく血の気が引いた。この目は”マジ”だ!)
恭介「ば、馬鹿な!どうして!」
恭介(俺が理由を聞くと担任はようやく撫でるのをやめ、その手を出席簿へ伸ばした)
担任「成績の方は問題ない。むしろ一時は現代文で一位を取っていたしな。しかし棗、卒業するには賢さだけじゃいけないよなぁ?」
恭介「………出席数か!?」
担任「むしろなんでそこが疑問文になるのか分からない。そりゃ当たり前だろう。お前の出席数はトータルで三分の二程もない」
恭介(そう言って担任は俺の出席日がチェックされたページを見せた。上と下に丸が並ぶ中、俺の欄はどれもこれもバツばかりだった)
担任「これじゃあいくら模範的な生徒だったとしても卒業はさせる事が出来ないな」
恭介「い、いや待ってくれ!確かに休みがちだったがそれは例の事故で一ヶ月ほど入院していた分も入ってるんじゃないか!?」
恭介(ここが職員室だということも忘れてついつい担任にいつものタメ口で喋りかけてしまった)
担任「それも元はと言えばお前が勝手に2年の修学旅行に同行したせいだろう。まあ、そこは置いておくにしても、お前の就活と称した旅行が主な原因だな」
恭介「!」
担任「徒歩でここから東京まで行く事は大変結構だが、その間他のみんなはちゃんと学校に通っていたんだぞ?いくら大学に行かないからって勉強を怠る理由にはならんだろ棗?」
恭介(確かにそう言われてみればそうだった。いつもつい旅をしたがる性分のせいでその辺りを考えている暇がなかったのだ)
担任「俺は何度も忠告したつもりだよ。それを無視して野球をしたり就活していたのは誰なんだ」
恭介「ぐっ………」
恭介(そう言われるとぐうの音も出てこない。確かに何度か呼び出しを食らって説教されたことはあったが、まさかここまでとは思わなかった)
担任「もはや補習では補えないところまで来ている。校長相談したりもしたが、これはもう覆らないそうだ」
恭介(そう言って担任はデスクに置いてある読みかけの本を開いた)
担任「じゃ、用はこれで終わりだ。さっさと帰りな」
恭介(本来なら留年のショックでこのぶっきらぼうな態度の担任に逆ギレする所だが……)
恭介「………先生、本、逆さだぜ……」
担任「…………っ」
恭介(きっと見た目の割に優しすぎる先生のことだ。校長には何度も頭を下げてくれたんだろう。それがダメだってんで本当は俺に対して申し訳なさでいっぱいに違いない。先生にここまでさせて俺は情けないぜ……)
あーちゃん先輩「あっ、棗君!……って、どうしたのその顔?」
恭介(今やこいつの事情を知らない明るさが溶けるほど眩しい。そして、これから俺の言ったことでどんな表情の変化を見せるんだろうか)
恭介「……よう。実はさっき先生から言われたんだけどさ。俺、留年しちまったらしいんだ」
あーちゃん先輩「えっ……」
恭介(俺の言ったことがすぐに理解出来たようだ。明るかったその笑顔がみるみるうちに曇っていった)
あーちゃん先輩「そ、それは……もうどうにも出来ないの?」
恭介「分からん。まだ俺は諦めた訳じゃないが……」
あーちゃん先輩「絶対に何かの間違いよ!この学校の人気者のあなたがそんなこと……」
恭介「ああ……そうだと良いんだが……」
恭介(心のどこかでは間違いではないと分かっていた。そこに無理やり希望を持つのはとても辛いことだった)
恭介「とりあえずこれから校長に話を聞きにいくよ」
あーちゃん先輩「う、うん……」
……………………………
…
恭介「その後、俺は校長室へ行って、校長に留年を免れそうな方法を思いつくだけ提案してみたが、どれも担任が先に言ったことらしい。そして、どれも首を縦に降ることは出来ないそうだ」
謙吾「そんな……」
恭介「あまりに動揺した俺は部屋に帰るまでに会った知り合いに、聞かれていないにもかかわらずベラベラと留年したことを喋ったよ。噂はきっとそれから広まったんだろう」
鈴「恭介……」
恭介「………ふっ、むしろ俺はラッキーだぜ。またこれからお前達と一緒に一年過ごせるんだからな!」
理樹(そんな恭介の痛々しい笑顔に僕は叫ばずにいられなかった)
理樹「もうどうしようもないの!?僕は恭介を追ってここまできたんだ。その恭介がこっち向かって来ないでよ!教室に入ったらごく自然に『よお理樹!昨日の宿題もう終わったか?』なんて言ってくる恭介なんて嫌だよ!!」
恭介「あのなぁ……」
理樹(その時、ずっと下を向いていた恭介が僕の方を振り返って言った)
恭介「そんなの俺の方が嫌に決まってんだろ!なんで俺はまた年下のお前らと一緒のクラスで勉強する事になるんだよ!そりゃ俺だってお前たちといてえよ!でもこういう意味で考えてた訳じゃねえよ!なんでこんな理不尽なんだよチクショウ……ずっとずっと悔しいわ…俺の方が!ずっとずっとお前たちより気まずいわ!なのに今まで一緒にいた奴らが先に卒業するとか……そんなのねえよ……なんでだよ…………わけわかんねえよ!くそ………」
朝
食堂
理樹(今日はとても良い天気だった。だが、それだけに食堂での恭介の陰気なオーラは一層食堂内で際立っていた)
ヒソヒソ……
「ねえ、棗君が留年って本当?」
「ああ。あいつが直接言ったんだ。ま、今はそっとしてやろうぜ……」
「内定も決まってたんでしょう?かわいそうに……」
理樹(もはや恭介の噂は学校中に広まっていた。生徒のほとんどが彼を知っているだけに恭介の近くを通り過ぎる人間は恭介の顔を見て同情心を覚えた顔をしていった)
恭介「………………」
クド「き、恭介さ……」
来ヶ谷「……………」
理樹(暗い恭介の隣に座っていたクドが話しかけようとしたが、来ヶ谷さんが肩に手をやって静止した。今の恭介にはどんな声をかけても無駄だと分かっているんだろう)
鈴「恭介、ゼリーやる」
恭介「……ふっ、大丈夫だ」
真人「俺のカツいるか?真ん中のやつやるよ!」
恭介「ありがとな。でも、遠慮しておこう。今は食欲がないんだ…」
理樹(恭介はそう言うと好物のはずのホッケ定食を半分も食べずに席を立った。僕らは揃いも揃ってただ見ていることしか出来なかった)
理樹「あ…………」
葉留佳「………やっぱり、本当の話だったんですネ……」
美魚「あそこまで落ち込んだ恭介さんは初めて見ました」
小毬「恭介さん……」
謙吾「さて、どうしたものか……留年がもうどうにも出来ないというなら、せめて少しでも励ましてやれたらいいんだが」
真人「あそこから昨日の朝のような調子にするにゃ相当の事がないと無理だぜ」
理樹「ううん……」
恭介(昨日は晩飯を食うのを忘れていたので、やっとありつけたはずの食事だった。しかし、いざ飯を食うと味がしなかったばかりか、既に満腹な気分だった。胃が他の何かで既にいっぱいになっているような、そんな感覚だった。多分その何かというのは不安な気持ちだったんだろう。それ以前に、俺を見る他の視線が耐えられなかったというのもあるんだが……とにかくあいつらにはかっこ悪い所を見せてしまったな。こういう時こそ普段と変わらない姿を見せてこその俺だというのに)
「よう恭介!」
恭介「……よう」
恭介(”こいつ”は3年になってから知り合った友人だ。性格は良いし喋っていて楽しいんだが、よく約束時間を忘れたり根拠のないことをさも事実であるように言い切ったりするのが玉に瑕だ。この間も夜の学校には刀を持った長髪の女の幽霊が現れるだのなんだの適当なことを抜かしてきた所だった)
「話は聞いたぜ。大変だったな」
恭介「大変なのは現在進行形さ」
「ところでこれから時間あるか?俺からも少し話があるんだ」
恭介「構わないぜ。時間ならついこの間1年追加されたばかりだ」
恭介「それでなんだ話っていうのは?」
恭介(こいつはコーラを一口飲むとさっきまでのヘラヘラした態度とは一転して、真剣な顔で言った)
「単刀直入に言う。……俺と会社を立ち上げないか?」
恭介「…………はぁ?」
恭介(思わず間抜けな声が出た。会社だと?)
「将来を想像してみてくれ。まず今の内定は確実に取り消しになる。そしてお前は来年また就職活動に勤しむ訳だが、留年という傷が付いた履歴書を見て誰がお前を雇いたがる?そりゃ仕事にありつけない訳じゃないだろう。だが、そこがお前の本当に働きたい場所である可能性はとても低い。そうだろう?」
恭介「……確かにその通りかもしれないが……」
恭介(そいつは間髪入れずに続けた)
「それにこんな学校で去年と同じ勉強をしてなんの成長が出来る?成績は良かったんだ。ほとんど無駄な事じゃないか!それもこれまで後輩と思っていた奴らと同じ部屋で過ごすんだぞ!」
恭介(興奮してきたのか口調がどんどん激しくなってきた)
恭介「だ、だったらなんだよ!なにが言いたいんだっ!」
「最初に言っただろ。俺と一から会社を作るんだよ!中退という形にはなるが、そしたら卒業するもしないも一緒だ。俺に付いてこい。損はさせないぜ?」
恭介「は、話が急すぎる!」
「いや、俺はこれまで会社を立ち上げるために色々と勉強してきたつもりだ。だが、それにはお前の協力も必要なんだよ。お前のそのなんでもこなしてみせる対応力、学校中の注目を集めるカリスマ、どれを取っても並みのものじゃない」
恭介「持ち上げすぎだ。俺はそんな人間じゃねえよ!」
「いいか恭介。このまま学校に残っても待っているのは幻滅した後輩の眼差しだけだ。お前はこれから今の気まずい空気を一年耐えなきゃならないんだ。そこまでしてここに残りたいのか?」
恭介「それは………」
「まだ時間はある。会社の内容については詳しく表やグラフで説明したのをメールに添付しておくからそれを見ながらゆっくり考えてくれ」
恭介(そう言ってそいつは缶をゴミ箱に放り込むと去っていった。気付けば俺のコーヒーも中身が空だった)
恭介「ううむ……」
恭介(奴がまさか自分の会社を持とうとしていたなんて思いもよらなかった。しかしこの話は考えれば考えるほど俺にとって悪い話じゃないように思えてくる。確かにこれからの一年は俺にとって胃の痛いものになるかもしれない。だが、この話に乗って成功した時はどうなるのだろう。言わばこれは人生のターニングポイントかもしれない)
恭介「とりあえず奴の計画を見てみるか……」
恭介(携帯には既に図で解説された奴の会社を作る計画が乗ってあった。時たま不明瞭な所もあったが、全体的には耳当たりのいい話だった。こんな話なら別に俺じゃなくても良さそうだが、きっとあいつが俺を気に入っている部分があるんだろう)
恭介「悩むな……」
恭介(口ではそう言ってみたものの、今の俺の心はかなり片寄った方にあった)
コンコン
恭介「ん?」
恭介「理樹か。開いてるぞ」
ガチャッ
理樹「ええっと、その、調子はどうかなって……」
恭介「ああ。少し元気が戻ったよ」
理樹「本当?良かった……」
恭介(理樹は俺の顔を見て心から安堵した表情を見せた。確かに今の俺は絶望から一転、希望の光が見え始めた所にある。この話は悪くない。正直プライドが無けりゃ今すぐにでもYESと返事をしたくなってきた)
理樹「ところでさ、今日の夜は忙しくない?」
恭介「おう、大丈夫だぜっ」
理樹「良かった!それじゃ今日の19時に食堂に来てね!」
恭介「分かった」
恭介(俺がそう返事をすると理樹はニコニコしながら出て行った。何が始まるのか気になるところでもあったが、今はそれどころじゃないほどあいつの話に頭がいっぱいだった)
恭介(携帯にメールが届いた。例の女子寮長様からだった)
『今から屋上に来るように^ ^』
恭介「…………?」
屋上
恭介(どういう訳か屋上の扉が開いていた。もしかしてあいつは合鍵でも持っているんだろうか)
ガチャ
あーちゃん先輩「待っていたわよ棗君」
恭介(寮長はドアのすぐ隣で座っていた)
恭介「どうしたんだ。急にこんな所へ呼び出して」
あーちゃん先輩「話がしたかったのよ。昨日からずっと落ち込んでるって鈴ちゃんから聴いてたから」
恭介「今はいくらか落ち着いたよ」
あーちゃん先輩「まま、なんでもいいからこっちに座らっしゃないな」
恭介(素直に隣に並んだ)
理樹部屋
理樹(部屋に戻ると既にみんなが集合していた)
理樹「ただいま。恭介は大丈夫だって」
真人「うっし!そうと決まればさっそく準備に取り掛かろうぜ!」
理樹(そう。僕らはこれから鈴の案で恭介を励ますため、パーティーを開くことにしたのだ。これなら少しは気を紛らわせてくれるだろう)
理樹「それじゃ真人と謙吾と鈴は材料の調達。他のみんなはパーティーのためのデコレーションをやろう!」
来ヶ谷「ふふふっ。すっかりリーダーが板についたな」
理樹「はは…まだまだ恭介には敵わないよ。それじゃみんなくれぐれも恭介にバレないように!」
「「「おおーーっっ!!」」」
夕方
屋上
恭介「……それでなんで俺を呼び出したんだ?」
恭介(寮長は少し考えるようなそぶりを見せてから俺に言った)
あーちゃん先輩「そうね……ズバリ聞くけど棗君、学校辞めたりしない?」
恭介「………なに?」
あーちゃん先輩「私、留年するって聞いてからずっとそれが気にかかってるのよ。ほら、そういう人って一度そう決まったらもう何もかもどうでも良くなって正常な判断が出来ずに楽な方の選択肢を取る………つまり退学しちゃう……とかよく聞くもの」
恭介「なるほどな………俺を心配してくれてるのか」
あーちゃん先輩「当たり前よ。……クラスメイトだもの」
恭介(心なしか最後の部分はとっさに付け加えられたように聞こえた)
あーちゃん先輩「それでどうなの?別に『絶対学校に残って』って言うつもりじゃないのよ。ただ、これからの棗君の選択はとても大切なものだから、その、ちゃんと将来を考えた上で決めてもらいたくて………あはは、かなりお節介ね私……」
恭介(さて、どう答えたものか。俺は正直今のところ辞めようとはしているが、ここでそれをそのまま言うとなんと思われるか。もちろん俺なりに辞める理由はあるが、嘘をつく訳にもいかない)
恭介「……いや、そこまで考えてくれてるのは嬉しいぜ。ただ、辞めるかどうかは俺も考えていない訳じゃない。絶賛悩んでいる最中さ」
あーちゃん先輩「そう……」
恭介(少し寂しそうな顔をして答える寮長。いっそ本当のことを言って一緒に考えてもらうのはどうだろうか?)
プルルルル
恭介「ん……」
恭介(その時、携帯から電話が鳴った。”あいつ”からだ)
恭介「すまん」
あーちゃん先輩「あ、うん……」
ピッ
『あ、もしもし恭介!すまないが今から話せるか?ちょっとさっきの件で大事な話があってさ』
恭介「い、今からか?」
『そうだ!早速俺の部屋に来てくれ』
プツッ
恭介(なにやら重要なことらしい。電話越しでもその緊迫さは伝わった)
あーちゃん先輩「もう行く?」
恭介「そうだな……すまん。また後で話そう」
あーちゃん先輩「うん……」
恭介(このまま出て行くのは素っ気ないようで少し名残惜しかったが、俺がドアに手をかけた瞬間、寮長はまた声をかけて来た)
あーちゃん先輩「あっ、棗君!」
恭介「どうした?」
あーちゃん先輩「どんなことになっても棗君は棗君でいてね……それがあなたの強さでしょう?」
恭介「………………」
恭介(その時ばかりは不意打ちを食らったような感覚を覚えた。俺はなんと答えればいいのか分からなかった)
恭介「………ああ」
恭介(それから静かに扉を閉めて、俺は階段を降りた)
ガチャッ
「来たか」
恭介(さっきの電話での緊張感はどこへ行ったのか俺が部屋に来た途端、こいつはまたいつもの調子に戻っていた)
恭介「……おう。なんの話だ?」
恭介(部屋の机やベッドにには会社の計画書のようなものが散乱していた)
「この間言っていた話なんだがな。実は今決断してほしいんだ」
恭介(そういう奴の顔はいつの間にかまた真剣なものに変わっていた)
恭介「なんだと?」
「ここに誓約書がある。お前はサインするだけだ」
恭介(そう言ってそいつはテーブルに書類とペンを取り出して俺の前に置いた)
恭介「待て待て!いきなりどうした!」
「いきなりじゃない。考える時間はもう充分だろ?」
恭介「そんなの昨日今日の話じゃねえか!」
「……恭介。この間も言ったけどな、学校に留まってても何も始まらないぞ?所詮ここに留まってても就職先なんてブラックばかりだ。それなら俺と一発奮起した方が絶対良いに決まってる!この話のどこに悩む要素があるんだ?」
恭介「いや、しかし……」
「俺はお前の決断力も見込んでこの話をお前に聞かせたんだ。あんまりグズグズしているようだとこの話はなかった事にさせてもらうぜ」
恭介「…………!」
夜
食堂
理樹「………よし、完成!」
理樹(やっと最後のテープを貼り終えた頃には辺りはもう真っ暗だった)
葉留佳「よっしゃー!出来たー!!」
真人「こっちも準備は出来たぜ!」
小毬「あとは恭介さんを待つだけですねえ~」
理樹(みんなの手際良い協力のお陰で料理の方もすべて終わった。あとは小毬さんのいう通り主役の登場で完成だ)
美魚「……それにしても七面鳥はやり過ぎじゃないでしょうか?」
来ヶ谷「ふっ。恭介氏にはやり過ぎくらいが丁度いいのさ」
鈴「あと10分だな……」
理樹(みんな、固唾を飲んでその10分を待った)
恭介「分かってるよ……ちょっと待て……!」
恭介(確かにこいつの言う通りだ。俺には迷う意味がない。これはチャンスだ!俺がこれからより良い人生でいるための!………だがしかし、俺がここで辞めると言えばみんなはどう思う?鈴や理樹達は?兄貴分が中退するんだぞ!そんなかっこ悪い見本を見せられるのか?)
恭介(確かに傷は付くが、あれ程頑張ってきたのに今になって高校を卒業せずに終わるというのは俺の性格からして、どんなに将来成功してもいつか必ず後悔するだろう。それに失敗した時はもはや目も当てられない。それこそ人生どん底と言ったところだ)
恭介「……生死を彷徨っていた時でも俺は意思を崩さなかった。……しかし今回は訳が違う。あの時は明確なやるべき事があった。だから頑張ってこれた。でも今は行くべき道が分からない……俺はどっちへ行けばいいんだ?何が正解なんだ……」
「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
恭介(その時、寮長の……あいつの別れ際の一言をふと思い出した)
あーちゃん先輩『どんなことになっても棗君は棗君でいてね……それがあなたの強さでしょう?』
恭介「……そうか、俺は危うく自分らしくなくなる所だったぜ……」
「うん?」
恭介(何もかもどうでも良くなって正常な判断が出来ずに楽な方の選択肢を取る……か)
恭介「確かにこの状況であればお前と一緒にその会社を作って行くのは魅力的だ。しかし、もし普通に卒業出来ていた場合、俺はその話に乗ったか?」
「……何が言いたいんだよ」
恭介「もしその紙にサインすればこれまでの俺の生き方を否定する事になる。今まで、どんな困難な道があったとしてもそれが納得できるものなら喜んで進んだ。だが今回の騒ぎには流石の俺も動揺したし、お前からの甘い誘いで自分の道という奴がどっちにあるのか分からなかった……いや、見つけるのを忘れていたというべきだな。でも今ようやく分かったぜ。俺はお前の誘いに乗る事で逃げようとしていたんだ。たとえ背中を指さされようともこの学校に残る方が本当の俺の納得する選択だ!」
「な、なんでだよ!お前わざわざ苦労するつもりか!」
恭介「そりゃ苦労はするだろうな。でも、だからと言ってお前の話に本当に乗りたいかというと別の話だ。だから残る。この一年で色々考えて行く事にするよ。きっといつかいい考えが思いつくかもしれない」
「………そうかよ。いや、分かった。そこまで言うなら俺も引き下がろう。お前の決断力は俺も良く知ってるからな。……正直言うと俺もちょっと焦ってた節があった。お前を早く引き込みたくてうずうずしてたんだ」
恭介「悪いな」
「よせよ。その代わりもう「やっぱりなし!」は通用しないぜ?」
恭介「分かってるよ。……ところで今何時だろう?」
「今?ええと19時半だな」
恭介「な、なにィ!?」
「どうした恭介?」
夜
食堂
理樹(もうみんなの周りには諦めムードが漂っていた)
真人「………来ないってことはそういう気分じゃないって意味なんじゃないか?」
理樹「で、でもそれなら普通連絡くらい取るよ」
謙吾「お前の提案であえてこちらから電話はかけずにいるが、もしかしたら恭介はそれに甘えて俺たちと距離を置こうとしているのかもしれん」
鈴「あたしは帰るぞ!いくら落ち込んでるからって約束を無視するような奴は知らん!」
小毬「鈴ちゃん……!」
「待ってくれ!!」
理樹(その時、食堂の扉が大きく開かれ、聞き慣れた声が聞こえた)
恭介「悪い、遅くなった!」
「「「恭介(さん)!」」」
鈴「い、今までどこにいたんだ……」
恭介「ずっと考えていたんだ……この学校に残るか、それとも立ち去るか……」
理樹「………!」
恭介「でもやっと決心したよ。この棗恭介がお前らを置いて尻尾巻いて逃げる訳にはいかねえぜ!」
クド「恭介さん……!」
真人「よく言った!それでこそ俺たちの元リーダーだぜ!」
恭介「元って付けるのやめろ!その通りだが響きが情けねえよ!」
理樹「ふふっ……あはは!」
理樹(良かった。今の恭介はまさしく元の棗恭介だ)
小毬「さあ全員揃ったところで早速パーティーを始めましょー!」
恭介「なに、パーティーだと?うぉおおおお!なんだこの豪勢な飯は!?」
葉留佳「みんな恭介サンを励ますために用意したものですヨ!……と言ってもすでに元気ですけどネ!」
恭介「お、お前達……!!」
美魚「では恭介さん。音頭を取ってください」
恭介「ようし!それじゃあ早速始めていくぜ!!…………パーティースタートだっっ!!」
……………………………
……
恭介(あれから俺は最初こそ戸惑いを感じたがすぐに他の元後輩達との生活に慣れていった。みんな俺に気さくに話しかけてくれて居心地も悪くない。内定を取った会社だが、面接官の人が俺のことを余程気に入ってくれたのか、留年した旨を伝えると、今年は駄目になっても、また来年是非面接に来てほしいと言ってくれた)
恭介(気になる”あいつ”のその後だが、色んなアクシデントは起こっているがなんとか順調に業績を伸ばしていると聞いている。”あいつ”自身は好きだからそれは何よりだ。そして………)
公園
あーちゃん先輩「ちょっと!何をぼーっとしてるの?」
恭介「ん?ああ、少し考え事をな」
あーちゃん先輩「2人きりでいる時になかなかの度胸ね棗君?」
恭介「へいへい。以後気をつけます」
あーちゃん先輩「まったく。そんな調子じゃまた留年するわよ?」
恭介「そりゃやべえな。……それにしても感謝してるよお前には。あの時屋上で話してなかったらきっと俺は……」
あーちゃん先輩「さーてなんの話かしら?」
恭介「おいおい流すなよ!せっかく褒めようとしてるのに」
あーちゃん先輩「私は自分の考えを言っただけ。それを聞いて最後に選択したのはあなた。それで話はおしまい。ほら、そんなことよりご飯食べに行きましょ!にゅふふ……よーし、レッツラゴー!!」
恭介「ふっ、敵わねえな……」
恭介(もしも今後、もう一度どちらが正しいのか分からない問題に直面した時は『どちらが自分らしいか』で選ぶことになるだろう。そうすればたとえどんな結果に転ぼうとも後悔だけはせずに済むからな)
終わり(∵)
大学頑張れよ
時間はあるんだでこの一年でじっくり色々決めたらえぇ
乙乙
大学は出れるなら出といた方がええからな
中退して絶賛苦労中の俺が言うんだから間違いない
がんば
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491566778/
Entry ⇒ 2017.04.16 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「………終点?」佳奈多「グゥ………」
理樹(僕の心地よい眠りは機械的なアナウンスで妨げられた)
理樹「………終点?」
理樹(その言葉の意味を理解するのに数秒とかからなかった。そして理解した瞬間、全身の血液が冷たくなるのを感じた。胃の底からすっと力が抜け、周囲の環境音が妙に大きくなったような気がした)
理樹「終点だって!」
理樹(もう一度その言葉を繰り返し、思わずシートから立ち上がった。乗った時はあれだけ混雑していた車内が今はすっかり静かだった)
「グゥ………」
理樹(そんな中、すぐ隣から間の抜けたイビキが聞こえた。そうだ、そういえば今日は2人で来ていた。だからこそ油断してしまったんだ)
佳奈多「……んん……」
理樹「…………どうすればいいんだ」
佳奈多「ほらっ、葉留佳が起きないうちに早く出るわよ……っ!」
理樹「分かってるよ……!」
理樹(二木さんに急かされ、静かに素早くドアを開けた。葉留佳さんのいつもの起床時間を考えるとここまで早くアパートを出るのは慎重すぎるが、二木さんの性格上諦める他ない)
理樹(アパートの外は鳥のさえずりが明確に聞こえるほど静かだった)
佳奈多「ああ、携帯を忘れちゃったわ」
理樹(鍵を閉め後で二木さんが眉をしかめながら言った)
理樹「いや、僕も部屋に置いてきたよ。どうせ今日はずっと電源を切っておかないといけないしね」
理樹(葉留佳さんからかかってきた時、わざわざ拒否するのも嫌だ。それに家に電話が置いてあるという事は「心配はいらない」というメッセージにもなる)
佳奈多「……ま、いいか。それじゃ行きましょ」
理樹「うん」
理樹(今日は二木さんがバレンタインデーに向けて葉留佳さんに渡すチョコを厳選する予定だ。なんでも今は女の子が男の子に渡すだけではないらしい。こういうイベントを利用して積極的に仲を縮めていこうという策略なんだろう。つくづくこういう所は鈴に対する恭介を思い出す)
理樹(時計は0:30分を指している。帰りの電車はない)
理樹「ハァーー………」
理樹(隣の二木を起こしたくない。出来ればこのまま二木さんを放って全力で逃げ出したい。しかし、この見知らぬ土地のどこへ逃げようというんだ)
佳奈多「……………」
理樹(座り直し、もう一度二木さんの方をちらりと振り返る。起きる気配ない。いったいどうしてこんなことになったんだろう。慣れない早朝に起き上がって出かけたから?久々の都会に2人してテンションが上がって関係ない所を見て回りまくったから?おそらく両方だろう。少なくとも終電ギリギリまでいなければ終点まで寝ていてもまだなんとかなったはずだ。ああ、無情)
理樹「二木さん」
佳奈多「……着いた?」
理樹(ゆっくりと目を開いた。まだ寝たりなさそうだ)
理樹「いや、その……」
理樹(どうオブラートに包もうか迷っていると後ろの方から見回りに来た車掌さんがストレートに言った)
「終点でございます。ご乗車お疲れさまでしたー」
佳奈多「なっ」
理樹(二木さんのクールな顔が一瞬で崩れた数少ない瞬間だった)
理樹(乗り越し精算を済ませて駅を出るまで二木さんは無言だった)
佳奈多「……………」
理樹「こ、これからどうしようか……」
佳奈多「ふっ……ふふっ…」
理樹「!?」
佳奈多「……最悪ね。本当に……最悪」
理樹(突然笑ったかと思うとこの世の終わりを彷彿させる顔に変化し、アスファルトの地面に三角座りした)
理樹「ちょっと、こんな所で!服が汚れるからやめなよっ」
佳奈多「どうすればいいの……帰りの電車はないし終点まで来たせいでタクシーを呼ぶ程のお金も残ってない……」
理樹(あまりの沈みように二木さんが絶望の海に溺れているような錯覚を覚えた。そんな時、ふと名案が思い浮かんだ)
理樹「あっ、そうだ!葉留佳さんに電話してタクシーで来てもらったらどうかな!?携帯は家にあるけど幸い公衆電話を使うほどのお金は残ってるし」
佳奈多「ダメよそんなこと!葉留佳に黙って出て行ったのに今更おめおめと助けを求められる訳ないじゃない!」
理樹(確かに、経緯からしてそんな事を言おうものなら一生笑いのネタにされるだろう。そうすると僕らは完全なる間抜けだ)
理樹「で、でもそうは言ったって他にどうするのさ?」
佳奈多「分かってるでしょう?方法は一つ…………歩いて帰るのよ」
理樹「ええー」
理樹(その言葉は1番聞きたくなったが、そう言うに違いないとも思っていた)
佳奈多「…………」
理樹(不幸中の幸いというか、2月というのにこの数日とても気温が穏やかで深夜だというのにあまり寒くなかった。まあ二木さん的には気温がどうであれこの選択に変わりはなかったんだろうけど)
理樹「………」
理樹(しかし、いざ歩いてみたけどこれはなかなか困るな。これまでのお出かけは周りがキラキラしていて僕らを飽きさせなかったけど今は民家が並んでいる道をひたすら歩き続けるだけだから、なんというか、その、沈黙が気まずい。二木さんは顔を見るなり平気そうだけど……)
佳奈多「………?」
理樹「あっ、いや……」
理樹(お互い黙っている時に目が合ったら更にきまりが悪い。慌てて適当な会話を繕うことにした)
1.本日はお日柄もよく
2.僕の分のチョコレートってある?
3.しりとりしよう
佳奈多「しない」
理樹「いきなり却下しないでよ……」
佳奈多「あなたとそんなことするくらいなら星を数えた方がまだマシだわ」
理樹「悪い話じゃないと思うんだけどな……」
佳奈多「良い話でもないわよ」
理樹「よ……よ……夜は長いし、きっと気も紛れるよ?」
佳奈多「さっきから嫌にしりとりに執着するわね」
理樹「ね?……ね……むくならない為にはしりとりが一番なのさ」
佳奈多「……ねえ……」
理樹「え?」
佳奈多「私の語尾で無理やりしりとりするのやめてくれないかしら。とてもムカつくんだけど」
理樹「………どうもごめんなさい」
佳奈多「チッ」
理樹(もうやめておこう)
理樹(二木さんが前を向きながら言った)
理樹「そうだよね。どんな話をする?」
佳奈多「これは前々から聞きたかったんだけど、どうしてあなたまで着いてきたの?」
理樹「えっ、だって二木さんが意見を聞きたいからって連れてきたんじゃないか」
佳奈多「そうじゃなくて、どうして今回の逃亡にあなたが着いてきたかって言いたいの」
理樹(今度はばっちり僕の目を見て言ってきた。顔からはどんな感情を抱いているか読み取れない)
理樹「えっ、それは……」
佳奈多「別に生活するだけなら葉留佳と2人きりでもよくないかしら?用心棒としては頼りないし、家事も特に得意という訳ではないじゃない」
理樹(さっきまで一定の距離を保っていた二木さんがここにきて距離を詰めてきた)
理樹「い、いやっ、なんというかその……話の流れで……」
佳奈多「どうせ変な下心があったんでしょう?」
理樹「い、いやいやいや!」
佳奈多「すけべ、変態、むっつり」
理樹「…………っ」
理樹(なにか言い返そうと口を開いたが、具体的な反論が出てこなかった)
理樹「…………………」
理樹(言われてみればあの時勢いで逃げてきたけど確かにどうして僕は2人と一緒にいる必要があるんだろう。そう考えるとなんだか本当に下心がある気がしてきた)
理樹「……………うぅ…」
理樹(それから急に自分がとても恥ずかしい存在に見えてきた。思わず二木さんを見ながら情けない声をこぼしてしまった。夜がセンチな気持ちにさせるのかジワリと目尻に水が溜まりもした)
佳奈多「…………いや嘘よ?これ冗談だから。冗談」
理樹「………っ?」
佳奈多「ふん、もしかして真に受けたの?まったく騙されやすいわね。いざという時は男の腕が必要だったりするし、もしあいつからがここを嗅ぎつけたら第三者の存在が重要になるもの」
理樹(一気に淡々と説明する二木さん)
理樹「え…え……ほんと?」
佳奈多「本当よ。いるだけで何かと都合がいいのよ。私がいる前であなたなんかが葉留佳に手を出す勇気はないだろうし」
理樹「ふ、ふふっ……確かにその心配はいらないね!」
理樹(今度はみるみるうちに自信が湧いて、心に希望が灯った。少し濡れた目を擦ると何故か一瞬ホッとした顔の二木さんが見えた)
佳奈多「少し……疲れたわ」
理樹(歩き続けてから1時間くらい経った頃、二木さんが足を軽く曲げて小さな声で言った。そしてその時、僕はようやく二木さんがパンプスを履いている事に気付いた)
理樹「あっ……ど、どうしよう……そうだ、靴交換する?」
理樹(幸い僕のスニーカーは女性が履いていても違和感がない)
佳奈多「あなた馬鹿?………とりあえず少しそこのベンチで10分ほど休ませてくれれば充分よ」
理樹(と言う訳でバス停のベンチで休憩する事にした)
………………………………
理樹「ええと……今はここだから……うわ、まだまだかかりそうだね。二木さんは眠たくない?」
佳奈多「風紀委員の頃は夕方から次の日の朝までほぼ眠らず張り込みを続けていた時もあった。これくらい平気だわ」
理樹「無粋な質問だったかな」
理樹(うちの風紀委員を警察と錯覚するのは多分ほとんどこの人のせいなんだろう)
佳奈多「あなたこそ大丈夫なの?私の後をずっと追わされていたけど」
理樹「まあ君ほどじゃないけど僕もやる時はやるよ」
佳奈多「…………」
佳奈多「それはどうかしら?」
理樹「えっ?」
佳奈多「疲れというのは徐々に来ない。来る時は一気に来るものよ。これでも食べて今のうちに備えなさい」
理樹(というと二木さんが肩にかけていたカバンの中から青色の缶を渡してきた)
理樹「これは?」
理樹(包装を剥がし、缶の蓋を開けると甘い匂いが鼻をくすぐった)
佳奈多「カフェインが入ったドイツのチョコよ。糖分を補い、意識を覚醒させるにはそれが一番ね。直枝にも食べやすいようにミルクチョコレートを選んでおいたから何回かに分けて食べなさい」
理樹「ありがとう!二木さんも食べなよ」
佳奈多「いや……私は自分のがあるわ」
理樹「そう?」
理樹(二木さんがタダでお菓子をくれるなんて珍しいこともあったものだ。とりあえず気が変わらないうちにチョコレートを一つ手に取った。なんだかチーズのような形だった)
理樹「じゃあいただきます」
佳奈多「うん」
理樹(口に放り込んだ瞬間、思わず顔がにやけた。長い間こういう物を食べていないせいだろうか、甘い刺激が口の中を駆け巡り唾液が溢れた。カフェインの苦味のお陰で後味もいい)
佳奈多「どう?」
理樹「うん。美味しいよ」
佳奈多「そ、なら良いわ。じゃあそろそろ歩きましょうか」
理樹「そうだね」
理樹(そうそっけなく言って立ち上がる二木さんの足は少し軽そうに見えた)
…………………………
…
理樹「だいたいあと何時間で着くんだろうね」
佳奈多「………ねえ、もうそれ3回目よ?重要なのは何時間経つかじゃなく、どれだけ歩くかよ。つべこべ言わないでさっさと歩く!」
理樹「い、いや~……ただ、そろそろ景色を眺めるのも飽きたなって……」
佳奈多「私にそれを言って何をさせたい訳?ポケットから車を出してくれるとでも思ってるのかしら」
理樹「ごめん……」
佳奈多「ふんっ」
理樹(朝から長時間の移動で流石の僕らにも疲労と苛立ちが募ってきていた。このままでは喧嘩とまではいかなくても凄く悪い雰囲気になるのは確実だ。というか二木さんの方はもうかなりそれに近い)
理樹(ここは僕から一つ、清涼剤となるものをこの空気に投入しなければ。さて……)
1.踊る
2.泣く
3.筋肉
理樹「うぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
佳奈多「なっ、なに!?」
理樹「今、僕の筋肉が真っ赤に燃えるっ!!!筋肉旋風を起こせと轟き叫ぶ!!筋肉イェイイェーイ!!筋肉イェイイェーイ!!」
理樹(僕はこう叫びながらやっと真人の筋肉イェイイェーイダンスの意味を理解した。これはただ真人が考案したものではない。自然とそうなってしまうのだ。例えば腕が痒ければ自然と掻いてしまうように、筋肉に感謝を示そう考えると自然とこの動きに行き着くのだ。僕はその域に達せた喜びを感じつつ、思う存分腕と足をくにゃくにゃさせた)
佳奈多「な、なに……っ!?」
理樹「筋肉イェイイェーイ!筋肉イェイイェーイ!ほらっ、二木さんも一緒に!」
佳奈多「は……はぁ!?何を言い出すの!」
理樹「ストレス解消にも最適だよ!?ほら!腰を振ってワンツーワンツー!」
佳奈多「……ふざけないで。近所迷惑よ」
理樹「うっ………」
理樹(まずい。二木さんの怒りが本気のトーンになってしまった。僕がやろうとしていることはもしかして逆効果なのか?いや、そんな訳がない。筋肉を……筋肉を信じるんだ。そうすれば二木さんもきっと!)
理樹「き、筋肉イェイイェエエエエエエエエ!!!!ゴホッ…イ、イェエエエエエエエエ!!!」
佳奈多「なっ、喉を潰すつもり!?というか近所迷惑だからやめなさい!」
理樹「いいや、君が堕ちるまで僕はやめない!!筋肉うぉおおおおおおおおお!!!!」
佳奈多「な、なにが直枝をここまで駆り立てるの!?」
理樹「何が元風紀委員長だ!君だって筋肉の観点から言えば1人の女の子じゃないか!真人抜きでも僕は筋肉旋風を起こしてみせるぞ!!」
理樹(その時、僕の体が黄金の光に包まれたような気がした)
佳奈多「ハッ!こ、この光は!?」
理樹「いける……いけるぞ!今だっ!!」
理樹(僕は筋肉がはち切れんばかりに腕と腰を振った。するとどうだろう。最初はそよ風程度だった僕の周りが次第に大きな風となったではないか。みるみるうちにそれは激しさを増し、とうとう”旋風”となった)
佳奈多「ば、馬鹿な……!本当にこれがあの直枝理樹なの!?」
理樹「二木さんに届け!僕の筋肉よ!!」
佳奈多「キ、キャアアアアアアア!!」
…………………………
……………
…
理樹(勝った。僕は二木さんの意思に打ち勝ったんだ。辛く厳しい戦いだったが、遂にやったのだ!)
理樹「ふふっ、筋肉イェイイェーイ!」
佳奈多「筋肉いぇ………はっ!?」
理樹「えっ?」
佳奈多「………あ……あ……」
理樹(しばらく筋肉に興じていた二木さんが急に声を出さなくなってしまった。そして次にその顔がみるみるうちに青くなってしまった)
理樹「ふ、二木さん大丈夫!?」
佳奈多「な、なんて事やらすのよ!」
バチンッ
理樹「痛い!」
佳奈多「ふんっ!全く、妙な事で時間を無駄にしてしまったわ……ああ、それにしてもなんで今まで私はあんなことを……」
理樹(二木さんは僕を全力でビンタしたかと思うと、なにやら独り言をブツブツと言ってヨロヨロと先に行ってしまった。やはり今の僕では完全な洗の……旋風を起こすのは難しいのだろうか?)
理樹「………」
理樹(とは言え、お互いに声を張り上げたお陰で雰囲気が良くなった。相変わらず二木さんは黙ったままだけど)
理樹「それにしても葉留佳さん今頃どうしてるんだろうね」
佳奈多「さあね。そりゃ心配はしてるだろうけど、あの子の事だしもう寝てるでしょう。葉留佳ほど楽観的な人間なんていないわ」
理樹「もし警察に捜索願を出してたらどうしよう?」
佳奈多「私が将来貴方と結婚するレベルであり得ないわ」
理樹「そいつは凄いレベルだね」
佳奈多「うっ……」
理樹「どうしたの?」
理樹(二木さんが急に頭を抑えだした)
佳奈多「………いや、今のちょっと想像したら頭が痛くて……ちょっとそこのベンチで休ませてくれない?」
理樹「ええ……」
理樹「なるほどよほど眠たかったんだね」
理樹(二木さんは駅前のベンチで横になったかと思うとすぐに瞳を閉じて何も言わなくなった。やはりいくら風紀委員であったとは言え体力の限界が近づいていたのだ)
理樹「所で今は……おっ、もうここか!あと2駅分って所だな」
佳奈多「すぅ………」
理樹「……………」
…………………………………………………
…………………………
…
佳奈多「……………ん」
理樹「二木さん、やっぱ軽いな」
理樹(もう今や車すら通らない時間となり、周りの音は僕の靴がアスファルトに擦れる音と二木さんの吐息だけとなった。このペースだとあと30分もあるけば僕らの家に着くだろう)
ザッ
理樹「ん?」
理樹(前の方から別の音がした)
「…………この時を待っていたぞ」
理樹「あ、あなた達は!」
理樹(それはあの時の結婚式で見た一番偉そうな爺さんだった。今まで二木さん達に訴えられてほとんどの人間は捕まったが、何故かこの人だけは捕まらなかったんだ。それが今、3人の体つきの良い男の人を前に立っていた)
男「へへ……」
理樹「そ、その人たちは誰だ!何が目的なんだ!」
佳奈多「んん……何?」
理樹(二木さんが僕の大声に目を開けた)
佳奈多「……ハッ!あ、あなたは!」
理樹(事態をすぐに理解すると僕の背からパッと降りて、前に出た)
「佳奈多よ。ようやく会えたな。今までこうして邪魔が入らん機会を待っていたよ」
佳奈多「なんですって?」
「例の騒ぎから逃げ伸びた後、私は貴様ら姉妹に復讐する日をずっと待っていた。ずっとお前達を遠くから監視していたのだ。こんな隠れ家がいつまでも見つからないとでも思ったのか!」
佳奈多「な、直枝!逃げるわよ!」
「おおっと!」
理樹(その爺さんがそう言うと後ろの方からどこからともなく別の3人が現れた。どれも屈強そうでとても強行突破は出来そうにない)
「この時のためにいくら時間と金を費やしたと思っている?さあ大人しく私の元に戻って来い佳奈多!またあの頃のように”お仕置き”してやるぞ!」
佳奈多「くっ……そいつらは金で雇ったって訳ね…」
「ククッその通りだ。そしてお前の後は葉留佳だ。お前達2人さえ消えてくれれば奴1人を攫うのがとても楽になる。だから今のうちに厄介な問題から片付けるという通りよ」
理樹(僕らの前後にはガラの悪そうな人達がナイフや酒ビンを持って囲んでいる。こんな夜中だからいくら叫んでも人が来る頃には僕らは連れ去られているだろう。そうなると全てが終わる。葉留佳さんもきっと真実に気付くまえに彼らに襲われるはずだ)
理樹「うう、ここまでか……!」
???「警察だ!」
「むうっ!?」
理樹「なっ……!?」
佳奈多「は、葉留佳!」
理樹(前の方から声がしたと思ったらそこには何を隠そう葉留佳さんその人がいた)
「ば、馬鹿な。何故ここにいる!?……い、いや。むしろ捕らえる手間が省けたというもの!捕まえろお前達!」
葉留佳「ふっふーん!私が何の策も考えずに姿を現したと思うてか!我は風紀委員から逃げるためにあらゆる作戦を使ってきたのだよ!カモン我が部下よ!」
真人「誰が部下だよ!」
謙吾「ここに」
来ヶ谷「まあ、たまにはいいじゃないか。可愛い子の頼みだ」
佳奈多「く、来ヶ谷さん!?」
理樹「真人!謙吾!みんな!」
「お、お前達はまさかあの学校にいた……!」
男B「構うものか!たかが、学生だ!やっちまえ!」
恭介「おおっと、そいつらを甘く見ない方がいいぜ?」
理樹「恭介!」
理樹(どうしたものだろう?何ヶ月も会ってなかったみんなが、一番いて欲しいタイミングで今ここに集結している!)
男C「うおおおーっ!」
理樹「あっ!」
理樹(その時、男の1人が鉄パイプを持って謙吾に殴りかかった)
謙吾「タァッ!」
ブンッ
男C「う、うぉおおお!?」
ドカッ
理樹(しかし謙吾は相手の走ってきた勢いを利用して敵の攻撃をいなし、見事に空中を一回転させて転ばせた)
謙吾「俺に物を振るうのは100年早い!次はどいつた!」
男A「うう……!」
理樹(謙吾の技を見た他の人間は怖気付いたのか、次々と戦意を喪失した表情を見せた)
「くっ……ここは一旦逃げるしか……!」
葉留佳「いや、もう無駄だよ。ちゃんと本物の警察もいるからね。おーい!こっちですよー!」
理樹(僕らの後ろ方にそう声をかけると、すぐに寝ライトを持って来ている警官がこちらにやってくる姿が見えた。ちょうど恭介達と警官と僕らに挟まれた形となった)
警官「もしや彼らがその言っていた人物達か!?」
「ぐ、ぐうっ!」
葉留佳「あはははっ!観念するですヨ!」
理樹(その後、お家の人間で僕らに敵意を持った最後の人間がパトカーに運ばれていったのをみんなで見届けた)
佳奈多「……ありがとうございました。本当に危ないところを助かりました」
恭介「俺は何もやっていない。礼なら三枝に言いな」
理樹「そうだよ!なんでこんな時間にみんながいたのさ!」
葉留佳「え?え、えーっとそれは……」
来ヶ谷「ふふっ、葉留佳君はな、いつまで経っても帰ってこない君達を心配して捜索願を出す勢いで警察署に駆け込んだ挙句、まだ心配なので夜中に私や恭介氏らを叩き起こして今の今まで家の周辺から捜索していた訳なのさ」
警官「本来ならこう言うのはすぐには行動出来ないんだがこの子に上目遣いで頭を下げられたら断るわけにもいかないさ」
理樹(そう言って警官の人は軽く笑った)
佳奈多「そんな事があったの……」
謙吾「それで2人は俺たちがここまでする程の理由で失踪したんだろうな?服はかなり気合が入っているようだが……」
理樹「そ、それが……」
葉留佳「そ、そんな事で!?」
来ヶ谷「はっはっはっ!それはそれは大変だったな!」
真人「おいおい……ここまでのタクシー代高かったんだぜ…」
恭介「まあ結果的にはそれじゃお釣りが来るほどの活躍が出来て良かったじゃないか。かっこよかったぜお前の登場シーン。なあ理樹?」
理樹「あっ、そ、そうだね!」
真人「えっ、本当か!?」
来ヶ谷「………さてそれじゃあそろそろ帰るとするか。もうすぐ夜が明ける」
佳奈多「そうですね。それにしてもこれで私たちが潜伏する理由も無くなりましたけどね」
恭介「まあ、その辺は後でゆっくり考えるとしよう。とにかく今はお前らの家に戻りな」
理樹「うん。そうだね」
真人「じゃーなー!」
葉留佳「バイバーイ!今日は本当ありがとうみんな!」
理樹(それから家に戻った後、いくらか会話をして僕らはもうすぐに寝てしまった。3人とも眠気が限界を超えていたのだ)
アパート
葉留佳「ふあぁ……おはよう」
佳奈多「あら、おはよう佳奈多。これ、チョコだけどいる?」
葉留佳「あっ、もしかしてそれってこの間選びに行ったっていうバレンタインデーチョコ!?キャホー!私もやっと貰ったー!」
佳奈多「ば、馬鹿。察しが良すぎるわよ。……ん?……私『も』?」
葉留佳「へっへっへー!実はあの日の話を理樹君から聞いたんだけどはるちんはピーンと来ましたヨ!理樹君にもさり気なく渡してたでしょ!?」
佳奈多「は、はあ!?別にそういうんじゃないし!バレンタインの日に渡した訳じゃないし!義理だし!」
理樹「ふあぁおはよう……ん…甘い匂いがするな」
葉留佳「おっ、良いタイミングですな理樹君!それでどうだった?佳奈多のチョコの味は?」
理樹「へっ、チョコ?」
佳奈多「は、葉留佳ーーー!!」
終わり
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490460172/
Entry ⇒ 2017.04.08 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「夢」
理樹部屋
真人「おーい理樹……」
理樹「むにゃ…心配いらないよ……」
真人「そろそろ飯行かねえと学校始まっちまうぜ?」
理樹「うん……そういう振りだから……」
真人「なーに寝ぼけてんだ理樹!さっさと起きろ!」
理樹「………ハッ!」
理樹(僕は真人の大声でやっと覚醒した。時計は7時50分を指している。本来なら既に食堂に向かう時間だった)
理樹「う、うわっ!ヤバ!」
真人「俺が言うのもなんだが俺に起こされるなんて相当だぜ?」
理樹(そう言いながら真人は僕の方へ着替え一式をぽいぽいと放って行った)
………………………
食堂
ガヤガヤ
恭介「へえ、珍しいな。理樹が真人に起こされるなんて」
理樹(僕らが着いた時には既にいつものメンバーが食堂に全員揃っていた)
クド「リキ、夜更かしはダメですよー」
理樹「いやそこまで遅くに起きてた訳じゃないんだけどな……」
理樹(実際、昨日は別に特別な事もなかったし本当に心当たりがない。なにか変な夢は見ていたような気もするけどここに来るまでで完全に忘れてしまった。まあ夢なんてそんなものなんだけど)
葉留佳「いやー理樹君はラッキーすなぁー!私なんか寝坊しちゃったら起こしてくれる人もいないからそのまま遅刻確定ですヨ!」
理樹「はは…今回は真人に助けられたよ、ほんと」
真人「へへ、よせやい!」
恭介「さて今日の放課後の練習だが……」
理樹(恭介が含みを持たせてそう言うと、テーブルから立ち上がり小毬さんの方へ目配せをした。すると小毬さんの方も立ち上がった)
小毬「えー、コホン……今日はたこ焼きパーティーをしたいと思います!」
真人「えっ、マジで!?」
恭介「ああ。実は昨日、小毬の親がたこ焼き機を仕送りで送ってきたらしい。それでたまの息抜きにな」
西園「たこ焼きですか……久しぶりに食べます」
謙吾「よっしゃーーーっっ!!」
鈴「うるさいわ!」
理樹「…………あれっ?」
理樹(僕がふと漏らした声に来ヶ谷さんが声をかけた)
理樹「いや……たこ焼きパーティーって前にもやらなかったっけ?」
来ヶ谷「ふむ……少なくとも私は参加していないな。誰とやっていたんだ?」
理樹「いや、みんなでやったような……んー?」
理樹(なんとなく以前もまったく同じ状況で小毬さんがたこ焼きパーティーを開催したような気がした。しかしはっきりとは思い出せないし、そもそもその場には来ヶ谷さんたち皆もいたような……)
鈴「ふっ、理樹。それはデジャヴというんだぞ」
理樹(うんうん唸っていると横から鈴が得意げに話しかけてきた)
理樹「デジャヴねぇ…」
理樹(そう言われるとそんな気がしてきた。だいたい本当にやっていたらこうしてあやふやな記憶になる訳がない。あまり深く考えなくてもいいだろう。とりあえず今は早いところ朝ご飯を食べなくては)
理樹「…………」
理樹(とりあえずパーティーは放課後に食堂を貸してもらって開催することになった。材料についてはもう恭介と小毬さんが用意しているらしいので手ぶらで来いとの事だった)
教師「……じゃあ直枝、この問1を解いてみろ」
理樹「えっ!」
理樹(しまった。今日は日付けからして僕が最初に当たるのは分かっていたはずなのについ余計な考え事をしていた!)
教師「どうした?まさかぼうっとしてたんじゃないだろうな…」
理樹「あ、いやえっと……」
理樹(急いで教科書を見るが後の祭りだ。数学はパッと見ただけじゃ………)
理樹「!」
理樹「………あっ………さ、37?」
教師「おいおい当てずっぽうは…………なに!せ、正解だ!まさか暗算か!?」
理樹「いや……」
理樹(自分で何が起きたか分からなかった。ただ、暗算というよりも直感の方が近かった。教科書の問題をちらっと見ただけで公式などまったく考えずに37という数字だけが頭にふっと浮かんだようだった)
謙吾「いや、さっきのには驚いたな。実は考えていなかった振りをして先生を驚かせようとしたのか?」
理樹「いやそんな事はしないよ」
真人「ほー、俺が寝てる間にそんなことがあったのか。いいねえ、俺もそんな能力がありゃ授業が楽しいんだろうけどなっ」
理樹「どのみち真人は寝るでしょ……それにあれきりだったしなぁ…どうも頭で解いた感じじゃないんだよ」
謙吾「というと?」
理樹「例えるなら昨日も同じページを解いて、たまたまその答えを覚えていたって感じかな?実際、他の問題見ても最初のようにすぐ答えが分かった訳じゃないし」
謙吾「ふむ……」
「た、助けてー!」
理樹(突然、教室のドアから助けを求める声が聞こえた)
葉留佳「ヘルプミー!」
真人「げっ、三枝ぁ!?」
理樹(葉留佳さんが顔を青くさせてこちらに走ってきた)
真人「てめえ何しに来やがったっ!?」
葉留佳「ち、ちょっとだけ匿って!もうすぐそこまで来てるから!」
理樹(そう言うが早いか先程葉留佳さんが走って来た方向から今度は数人の足音が聞こえて来た)
佳奈多「葉留佳ー!?今度こそ逃がさないわよ!」
謙吾「なるほどな…」
理樹(どうやら葉留佳さんはいつもの様に二木さんと風紀員の人たちに追いかけられていたようだ。葉留佳さんは真人の背中に張り付くように隠れていた)
風紀員「確かこの教室に入りました!」
佳奈多「ふん…隠れようたってそうは行かないわよ……あっ、ちょうどいいところに三馬鹿がいたわ」
理樹(僕らを見つけるとそう言って近づいてくる二木さんと風紀員達)
謙吾「まさか三馬鹿とは俺たちの事か?」
真人「ふざけんな!俺たちまで同罪にする気かよ……っ!」
葉留佳「お願い!遠ざけて~!」
葉留佳「お、お代官サマー!」
佳奈多「さっきから何をブツブツ言ってるの?」
理樹「わっ!?」
葉留佳「ガクガク……」
理樹(いつの間にか目の前に二木さん達が立っていた。葉留佳さんはちょうど皆既日食のように真人で隠れている)
佳奈多「……ところでさっき葉留佳がこっちに来なかった?教室に入って来たはずなんだけど」
真人「へっ、来たもなにも……」
理樹(と言いながら真人が後ろに指差して葉留佳さんを引き渡そうとしたその時、葉留佳さんが小声で真人に呟いた)
葉留佳「……見逃してくれたらジュース奢りますヨ……っ」
真人「三枝なら向こうに行ったぜ」
理樹(切り替え早!っていうかジュースで釣られるの!?)
佳奈多「あっちね。ありがと」
理樹(真人が指差した方向へぞろぞろとまた走り出す二木さん達。完全に姿が見えなくなってから葉留佳さんがぴょこっと顔を出した)
葉留佳「ふぅーっ!間一髪って感じですネ…」
謙吾「お前も懲りないな……」
葉留佳「あっちこそよく飽きずに追っかけて来るもんですナ」
理樹(もはやこの追いかけっこを見ない週はないと言ってもいいだろう。まあ、今となっては姉妹喧嘩のような………)
理樹「………!?」
理樹(その時、僕は思わず机から立ち上がった)
葉留佳「ありゃ、どうしたの理樹くん?」
理樹「いや……いやいやいや!おかしいよ!」
理樹(そうだ、なんでさっきまで違和感がなかったんだろう。どうしてさっきまで気付かなかったんだ!?)
理樹「………な、なんでまだ二木さんが風紀委員をやってるの……?」
真人「えっ、そうなのか?」
葉留佳「う、うーん……そういえばずっと前に終わってたような…………終わってなかったような?」
謙吾「なにはともかく二木がああして腕に立派な腕章を付けているんだ。理樹の勘違いだろう」
理樹(てっきり驚いた顔をして同意してくれるものだと思っていた。しかしどの顔も確信を持ったものではない)
理樹「いやいやいや!絶対そんなことはないよ!だって葉留佳さんだって二木さんが辞める時に『これで追いかけられずに済む』とかなんとか言ってたじゃないかっ」
理樹(3人の記憶力のなさに少しびっくりした。真人や謙吾ならともかく、僕より喋る葉留佳さんまで忘れているとは。僕はあの時の会話まで覚えているというのに)
葉留佳「やはは……そう言われると弱いなー!………あれぇ?」
理樹(葉留佳さんは僕の言葉にもう一度記憶を辿ろうとする仕草を見せたが、突如予鈴のチャイムが鳴ったことで中断された)
葉留佳「おっ、もうこんな時間!話の途中だけど諸君、失礼~っ!」
真人「まったく、2度と俺を盾に使うなよー!?」
理樹(葉留佳さんは既に真人の叫びが聞こえるか聞こえないかってくらいまで走り去っていた。このスピードでは毎回彼女らが苦労する訳だ)
教師「じゃあ今日はここまで」
生徒「起立、礼」
理樹(ぞろぞろと教室から出ていく中、謙吾が声をかけて来た)
謙吾「さて、お前達はこれからどうするつもりなんだ?例の催しまで少し時間があるようだが・・・」
真人「グラウンドでキャッチボールでもするかい?」
理樹「そうだなあ・・・」
「少年よ」
理樹(後ろから僕の名前を呼ぶ声がした。それは僕がびっくりするのに十分な近さだった)
理樹「どわぁ!?・・・って来ヶ谷さんかっ」
来ヶ谷「心外な反応だな。普通、年頃の男の子はこんな美少女に声をかけられたらどもりながらなんでもない風を装って返事をするものだが」
理樹(来ヶ谷さんがいつの間にか僕の真後ろに立ってニヤニヤと笑いかけた。来ヶ谷さんは時折こうやって人が驚くさまを観察したがる癖がある)
理樹「・・・それは普通の美少女が普通に声をかけた場合だと思うんだけど」
来ヶ谷「ふっ、まあそれはともかく、少し君に用があるんだ。どうせパーティーまでは暇なんだろ?」
真人「やい待て来ヶ谷!理樹っちはこれから俺達とも大事な遊ぶ用があるんだよ!」
来ヶ谷「ふむ・・・そうなのか?」
理樹「まあそんな話をしてたところだね」
理樹(僕がそういうと来ヶ谷さんは少し間を置いてから真人たちに言った)
来ヶ谷「実を言うと私の用事というのもそこまで優先順位が高いものではない。が、個人的にさっさと済ませたいものでもある。だからこうしよう。もしこの少年を譲ってくれるならこれをやろう」
理樹(来ヶ谷さんは財布を取り出すとその中から小さな紙きれを二つ取り出した。ところで僕に決定権はないらしい)
来ヶ谷「食堂で交換できるパンの引換券だ。これで好きなものを買うといい」
真人「ば、バカ言え!そんなものに惑わされる俺達じゃないぜっ!」
謙吾「ああ、その通りだ」
来ヶ谷「いいのか?これがあれば君の好きなカツサンドも食べられるんだぞ」
謙吾「ふっ、言ってやれ真人。お前がただのカツサンドバカではないということをな」
理樹(謙吾がそう真人の方を振り向くと、本人は割と迷っていた)
真人「ぐっ・・・カ、カツ・・・」
謙吾「何ィ!?」
来ヶ谷「どうした。受け取るのか?」
謙吾「いいのか真人!お前の理樹への愛はそんなものか!?」
真人「い、いや・・もちろん理樹かカツかと言われれば理樹だが・・・うう、この数時間理樹と遊ぶのを我慢するだけでカツサンド・・いや、も、もう少しだけ待て!ううん・・・」
謙吾「真人!」
真人「う、うおおおお!やっぱりだめだ!やはり理樹と遊ぶ!悪いが来ヶ谷、交渉は・・・っていねえ!?」
廊下
理樹(僕は真人がうんうん唸っている間に彼女に手を引かれて既に教室を出ていた)
来ヶ谷「私は彼らの母親ではない。判断をいつまでも待ったりはせんよ」
理樹「・・・ちなみに今からどこに行くの?」
来ヶ谷「私の秘密基地・・と言ったら分かるね?」
理樹(来ヶ谷さんはいたずらっぽく微笑んだ)
理樹(いつか来ヶ谷さんに連れて来られたことがある彼女特性のカフェテラスに来た。裏庭の茂みに覆われているのでよい日差し避けになっている。この辺りは人も集まらないので静かでいい場所だ。来ヶ谷さんはテーブルを挟んで二つある木のイスのうちの一つに座り僕にも手で座るよう合図をした)
理樹「それで・・・話というのは?」
来ヶ谷「うむ。別に大したものじゃないんだが、少し対処に困ったものがあってね」
理樹(来ヶ谷さんはそう言いながら胸ポケットに手を伸ばし、中から薄い本を取り出した)
来ヶ谷「この本は部室に置いてあったものだからきっと我々の中の誰かのものだとは思うのだが・・・・・・内容が内容なのだよ」
理樹「というと?」
理樹(来ヶ谷さんはイスを僕の隣に近づけると何も言わず表紙を見せた)
理樹「こ、これは・・・!」
理樹(一言で言うと美人な女の子の水着姿だった。来ヶ谷さんはさらにページをめくって見せた。そこには同じ人物が巫女やメイド姿など、一部の趣向を持った人が喜びそうな写真が写ってあった。つまりはこの子の写真集なのだろう)
来ヶ谷「この、我々と同じような年齢の少女が魅力的な格好で映っている写真集はいったい誰の物なんだろう。こういうのは普通、君たち野郎どもが持ってしかるべき物だ。つまり4人の中に候補がいるとは思うのだが・・・あまり聞きまわっては本人の恥になると思ってね」
理樹「ああ、なるほど・・・」
理樹(つまり部室で発見したはいいものの、大声では言えないようなものなので僕からこっそり持ち主の元へ返してやってほしいということなのだろう)
来ヶ谷「君の物か?」
理樹「まさか!・・でも、誰の物かと聞かれると僕にも分からないな・・・まあ適当な時に皆に聞いておくよ。意地を張って答えないかもしれないけど」
来ヶ谷「ふっ、男というのは面倒くさい生き物だな」
理樹(と、来ヶ谷さんに手渡された瞬間、突然頭の中に”イメージ”のようなものが写った)
理樹「・・・西園さん?」
来ヶ谷「うん?」
理樹(そのイメージとは、この写真集を僕が西園さんに渡している図だった。まるでそれは思い出のようにあやふやな情景だったが、確かに西園さんが受け取った光景が頭の中にあった)
理樹「いや・・・」
理樹(しかし、急になんだろう。突然思い出したかのような感じだったが、何故西園さんが出てくるんだ?)
来ヶ谷「美魚君がどうかしたか?・・・まさかこれは美魚君のものだったかな」
理樹「わ、分からない・・・でも、なんだろう・・確信は持てないけどそんな気がする・・」
来ヶ谷「第六感か?」
理樹「いや・・・思い出のような・・そう、デジャブかな?そんなのに近い気がするんだ・・・ごめん。やっぱりそう考えるとどうでもいいことだね。普通に恭介たちに聞いておくよ」
来ヶ谷「いや、案外そういうセンスはバカに出来るものじゃない。一応美魚君にも聞いておこう。それからでも遅くはないだろう」
理樹(来ヶ谷さんは再びそれを元にしまうと話はそこでおしまいになった。そのあとは来ヶ谷さんとパーティーの時間になるまでコーヒーをすすりながら今まで聞いたことのないような面白い話を僕に語ってくれた)
食堂
理樹(来ヶ谷さんと一緒に食堂へ向かうと扉の前では既にソースのいい匂いがしていた。来ヶ谷さんを先に入れるため扉を開けるとその香りは更に広がった)
来ヶ谷「おっとみんなもうお待ちかねのようだな」
理樹(奥ではタコ焼きの元となる生地を混ざている鈴や恭介たちの姿が見えた。その中で小毬さんが僕らが来たことに気付き、こちらへ走ってきた)
小毬「理樹君、ゆいちゃん、たこ焼きパーティーにようこそー!」
来ヶ谷「だ、だからゆいちゃんはよしてくれ・・・」
理樹(いつもの来ヶ谷さんの数少ない弱点が入った。もしこれを他の人が言ったらどうなるんだろうか?)
小毬「ふふっ、二人ともベストタイミングだよっ。もう生地も出来上がってきた頃だからみんなで一緒に食べようね~」
理樹「なんだかおいしいところだけもらうようで悪いなあ」
小毬「たこ焼きはどこも美味しいよ~」
理樹「あ、いや、そういう意味ではなく・・・」
真人「おーい!なにしてんだ理樹!早く来いよっ!」
理樹(真人が待ちきれなさそうな顔で生地を混ぜている。僕が来ヶ谷さん側へ裏切ったことについては食欲が高ぶりすぎてもう忘れてしまったようだ)
来ヶ谷「じゃあ我らも参加しようか」
理樹(恭介は僕らがテーブルの方に着いたことを確認するとおもむろにおもちゃのマイクを取り出し、高らかに宣言した)
恭介「レディースエーンドジェントルメーン!みんなちゃんと腹は空かしてきたか!?今日はたこ焼きフィーバーだぜ!!」
みんな「「「いやっほーうっ!!たこ焼き最高---っっ!!」」」
恭介「エディバディセイ!」
みんな「「「たこ焼き最高ーーーっっっ!!!」」」
恭介「ラブ&ピース!」
みんな「たこ焼き最高ーーーーっっっっ!!!!」」」
恭介「では本日の主催者兼、最大の貢献者たる小毬から一言」
理樹(小毬さんが律儀に恭介からマイクを受け取ると恥ずかしそうにしながらスピーチした)
小毬「えー今日はみんなじゃんじゃん焼くのでじゃんじゃん食べちゃってくださーいっ!」
みんな「「「いえーいっ!」」」
理樹(心なしかさっきからみんなの声の中でも真人のが目立っていた)
小毬「じゃあ真人君お願いしますっ」
真人「任せろ!」
理樹(そこへ真人が小さく刻まれたタコを穴に一つづつ落としていった)
理樹「・・・・・・・」
理樹(思い込みから来ているだけだろうか?今の真人の正確にタコを入れていく動作がデジャブしている。いったい今日何度目の既視感なんだろう)
鈴『理樹、皿と割りばしだ』
理樹(後ろから鈴が声をかけて来た・・・と”思っていた”)
理樹「えっ、うん。ありがとう」
理樹(しかし、奇妙なことに振り返っても鈴はいなかった。反射的に辺りを見回したが鈴は食堂の中にはいなかった)
理樹「あ、あれ?」
謙吾「どうした?」
理樹「鈴がいないね」
謙吾「ああ、さっき恭介と手を洗いに行ったぞ」
理樹「あ、そっか・・」
理樹(とうとう幻聴まで聞いてしまうなんて今日はすこぶる調子が悪いらしい。帰ったらさっさとシャワーを浴びて寝たほうがよさそうだ)
来ヶ谷「理樹君」
理樹(今度はたぶん幻ではない来ヶ谷さんが声をかけて来た)
理樹「どうしたの?」
来ヶ谷「例の本の件だが、君の勘は当たっていたよ」
理樹「えっ、本当に!?」
来ヶ谷「あれはなんでも”同じ趣味の仲間”だそうだ。本を出したので記念として一冊譲ってもらっていたらしい」
理樹(自分から言い出したけど本当に西園さんのものだったとは。不思議なこともあるものだ)
来ヶ谷「女の勘はよく当たるというが、理樹君も可愛いからその恩恵にあずかったのかもな」
理樹「やめてよ・・・」
来ヶ谷「はっはっは」
理樹(相変わらず笑い飛ばす来ヶ谷さんをよく見ると既にたこ焼き用の皿と割りばしを持っていた)
理樹「あっ、そうだ僕もお皿を・・・」
理樹(といいかけると、後ろから声がかかった)
鈴「理樹、皿と割りばしだ」
理樹「!?」
理樹(驚いて振り向くと今度はちゃんと鈴がいた。今のは偶然なのか?さっきまで僕が空耳と思っていた鈴の言葉が一言一句違えることなくもう一度聞こえた。そうだ、今のはデジャブではない。『さっきまで絶対に覚えていた台詞』だ!)
鈴「どーした。早く受け取れ」
理樹(急になにか猛烈な違和感が僕を襲った。相違点が何なのかはっきりと分からないが、とにかくさっきまでの楽しい雰囲気から僕だけが遠ざけられたような感覚だ。絶対に”何か”おかしい!)
理樹「鈴・・今の台詞・・『理樹、皿と割りばしだ』って言葉、今初めて言ったよね!?」
鈴「は?なんの話なんだ」
理樹「さっきまで一度も皿と割りばしを勧めなかったよね?」
理樹(高鳴なる胸を押さえて鈴に質問した)
鈴「いや、別にしてないぞ。とりあえずはよ受け取れ」
理樹(しゃべり方次第で強烈な嫌味ともとれる言葉だったが本人がそういう悪意に疎くてよかった。とにかく僕は鈴が今言った言葉をあらかじめ知っていたことになる。いや、正確にはそう言われたと勘違いしていたということだけど。鈴はそのまま僕に皿と割りばしを押し付けると、今度はクド達の方へ歩いて行った)
謙吾『「おいこら!今タコだけつまみ食いしただろ!?」』
理樹「ハッ!?」
理樹(今のは・・・くそ、またデジャブか!?)
真人『「げっ!バレたか!?」』
理樹「あ・・・ああ・・・」
理樹(どうなっているんだ。謙吾のの言う事、真人のギクリとするその顔すべてに既視感がある。間違いなく今しか経験のしたことがない場面のはずなのに!まるで昔見たことを忘れて借りてきた映画をずっと見続けている気分だ。感覚で次に起きることが分かる!)
ゲシッ
鈴『「数が合わなくなるだろーが!」』
真人『「痛い!・・・あっ!」』
理樹(そうだ。そのまま鈴に飛び蹴りを食らって真人がタコの入ったボウルをこぼし・・・)
葉留佳『「ほいさ!」』
理樹(葉留佳さんがそれをキャッチするんだ。それからクドが拍手して褒める)
クド『「わふー!葉留佳さんナイスキャッチですー!」』
葉留佳『「エッヘン!」』
理樹「う・・あ・・・」
理樹(急に胸の心拍数が上がった。こんなに周りが騒がしいのに自分の心臓の音が分かる)
ガシャン
「「!」」
理樹「グッ・・・!」
理樹(もはや立っていられなかった。頭に血が上っていくのを感じる。それが関係したのかは分からないが三半規管までおかしくなったようだ。もはやどちらが天井でどちらが床なのか区別がつかなくなった。そんな僕にできるのはただ赤ん坊のようにうずくまることぐらいだった)
恭介「理樹!」
小毬「理樹君!?」
理樹(そんな僕にみんなが駆け寄ってきた。恭介が僕の上半身を揺り起こすように抱え上げた。とても頭がいたいので勘弁してほしかった)
恭介「どうした理樹!何故・・・」
理樹(恭介がなにかに気付いたのか一瞬の間をおいてからこう言った)
恭介「まさかお前・・・」
理樹(言葉の最後は聞き取れなかったがなにか重要そうなことなのは分かった。しかし久しぶりだな。ナルコレプシーが治ってから意識が遠のくのは・・・)
理樹(・・・・・・・・・・・・・・・・。)
理樹(・・・・・・・・・・。)
理樹(・・・。)
理樹(次に目を覚ました時は真っ黒な無意識の海から這い上がったような気分だった。目を開けると驚く光景が目に浮かんだ)
理樹「・・・・・!」
教師「ここはまあ覚えておくと便利だなー」
理樹(授業だった。担任が数学を教えている。周りの人間はいつものクラスのみんなだ。僕もいつの間にか席に大人しく座っている。これはどういうことだ)
理樹「あ・・っ・・」
理樹(驚いて辺りを見回したが、誰もこの光景に疑問を持ってないようだ。それどころかチョークが黒板に擦れる音しか聞こえないほど静かな授業だし、空は気持ちいくらいいい天気で、外は鳥まで鳴いている始末だ。いったい僕の寝ている間になにが起こったんだ!)
理樹「真人・・・真人・・!」
真人「むにゃ・・?」
理樹(僕は後ろで寝ている真人に事情を聴こうと揺さぶった)
教師「おい、どうした直枝」
理樹「っ!」
理樹(その時振り向いた僕の顔はとても驚きで強張っていたんだろう。担任は少し気後れしながら言った)
教師「な、なんだ・・・具合でも悪いのか?」
理樹(悪いと言えば悪い。急に倒れて起きたら授業を受けていたなんて真面目に考えていたら吐きそうになる。だけどその時の僕は何故かこの場を誤魔化す言葉を考えていた。何事も穏便に済ませようといういつもの癖が働いたのだろう。言い訳は不自然になる前にすらすらと出てきた)
理樹「ま、真人を起こそうと思ったんです・・・寝てるから・・・」
教師「なるほど。素晴らしい友情だ。ではその友情に免じて井ノ原はげんこつ一発で許しておこう」
ゴツン
理樹(鈍い音が教室に響いた)
真人「あだーーーっ!?」
皆「「「はははっ!」」」
理樹「!」
理樹(コントのようなリアクションに僕も釣られて笑うところだったが、みんなの爆笑にあの感覚がやってきてそんな気分じゃなくなってしまった)
理樹「・・・・またデジャブだ」
理樹(流石に人の手で僕を化かすには限界がある。でも”手”どころの力じゃないとしたら説明はいくらでも出来る。かつて恭介たちや笹瀬川さんがやったようにここも誰かが願った世界だということなら僕はまたまた巻き込まれた事になる)
キーンコーン
教師「おっと・・・じゃあ今日はここまで。礼」
理樹(時計を見ると針は正午を指していた。お昼ご飯の時間だ)
理樹(僕は自分でも情けないと思いつつも恭介のいる教室に向かっていた。逆にこういう場合は他にどうしろというのだ。すべてが不可解な状況の中で頼れる人間に頼る以外、優先すべきことなどあるのか?僕は誰かに向かって自尊心を保つためにそんなことを考えていた。小さなプライドでもそれさえ守っていれば強く生きていける。かつて恭介が言った言葉だ)
ガラッ
理樹(扉の前にたどり着くと、ちょうど向こう側の誰かが開けてくれた。そしてその誰かとは他でもない恭介本人だった)
理樹「恭介!」
恭介「理樹・・・」
理樹(あまり考えずに行動したおかげで本人に会ってから具体的にどうするかを考えていなかった。しかし恭介は僕がそういう状況にいることを察してか助け舟をだしてくれた)
恭介「そうだな。とりあえず飯食いに行くか?」
理樹「あっ、うん!」
裏庭
恭介「おっ、このチキンサンドかなりイケるな!こりゃ後でまた買いに行こう」
理樹「・・・・・・」
理樹(恭介は不自然なほどだんまりしている僕に対してあくまでも普通を装ってくれていた。恭介の性格からして僕が何を思っているのか凄く気にはなっているんだろうけど、こちらから切り出さない限り口を出さないようにしているんだろう。少なくとも僕がこれからそうしようと思っている今の状況においては)
理樹「恭介。今から変なことを言うかもしれない」
理樹(僕もこの異常現象を前にもったいぶる意味はない。もし笹瀬川さんの時のように他人に喋った時点でアウトだったとしても僕一人では解決できそうにない。勇気を出せ理樹)
恭介「どうした理樹?」
理樹「・・・もしかすると、僕らはまた誰かが創った世界にいるのかもしれない。いや、絶対にそうだ!確実にここは現実じゃない!」
理樹(気を付けるつもりだったが、やっぱり言葉の最後のほうはうわずってしまった。対する恭介は僕の目を見つめ、落ち着いた口調でぽつりと言った)
恭介「そうきたか・・・ああ、どうやらその通りらしいな」
理樹(正直に言うと恭介が気付いているとは思わなかった。確かに恭介はパニックとは程遠い人だったが、流石にこんな状況になっても今のように落ち着いたスタンスでいられるものとは思わなかった)
恭介「ああ、経験したよ。理樹はこのことについてどう思っている?」
理樹「ううん・・・今の感じじゃ見当もつかないな。恭介はどうなの?」
理樹(恭介の予想は基本的に外れたところを見たことがない。それは単なる直感なのか、それとも経験則からなるものなのか。ともあれ恭介が味方についているというのはとても心強い)
恭介「俺も全貌は見えてないな。ただ一つだけ分かることと言えば、これだけの人間がいてこの世界の変化に気付いているのは俺達だけだということだ。これは大きな推理材料になるだろう」
理樹「というと?」
恭介「少なくとも世界を創造したゲームマスターは俺たちに関係した人物だということさ」
理樹「僕と恭介・・・」
恭介「まあ探せば俺たちのように戸惑っている人間もいるかもしれないが、とりあえず世界が創られるのにはそれ相応の強力な動機がある。なにか意味があるのさ。その意味を本人からどうにか聞き出せればいいんだが・・・」
理樹(その時、恭介はやっと困ったような眼差しを僕に向けて来た)
理樹「まったくだね。マスターはこんな世界に僕らを閉じ込めてなにがしたいんだろう」
恭介「ま、いつかは狙いも分かるだろ。ところで理樹はこの世界に入ったであろう時期からここまででなにかおかしなことはあったか?現実ではありえないようなこととか」
理樹(これは一番話しておきたいことだった。もし、この間起きた『先回りしたデジャブ』の話を他の状況で話したら頭の中身を疑われるのがオチだ。でも、今ならこれほど恭介の興味を誘う話もないだろう。僕は最初に起きたたこ焼きパーティーの時から倒れるまでの話を出来る限り覚えていることだけを正確に伝えた)
・・・・・・・・・
・・・
理樹(恭介は僕が話し終わるまで頭の中でそのイメージを思い浮かべるためか目を閉じてじっくり聞き入った。時折不明瞭なところがあった時だけ質問をしてきたけど基本的に口を挟むことなく静かに僕の話を聞いていた)
恭介「なるほど。つまり、理樹が倒れかける頃にはもう全員の行動が読めた訳だ」
理樹「うん・・・これってまさか未来予知?なんて・・・」
理樹(ちょっとふざけて言ってみたつもりだったが、恭介はクスリとも笑わなかった」
恭介「じゃあ最後にもう一つだけ聴くが・・・」
理樹(恭介はそこまで行ってからやはり迷ったのか少し間を置いた。しかし、決心したように再び口を開いた)
恭介「・・・・・・理樹が覚えている限りで、”昨日”はいつだ?」
理樹(その時、背中が異常に冷たくなったような気がした)
理樹「えっ、昨日?」
恭介「ああ。この世界に来る前、一番新しい日付だ」
理樹(一瞬、何故そんな当たり前のことを聴いてくるんだろうという思いが頭をよぎったが、これも恭介なりに大切なことなんだろうと思ってすぐ答えようとした)
理樹「ええっと確か・・・・」
理樹「・・・あれっ・・・?」
恭介「・・・・・・」
理樹(しかし、そのことについて考えようとした瞬間、頭の中の検索エンジンが急にエラーをはじき出した。感覚的にはど忘れに近い。いや、その一日の日付だけならど忘れでいいんだ。しかし、『今がどの季節か』を記憶だけでは探せなかったとしたら?)
理樹(この瞬間の季節なら気温からしておそらく冬に近いんだろう。しかし、僕は、どういうことか今が『何月』かでさえ思い出せずにいるんだ!)
理樹「どういうことだ・・・」
理樹(僕が視線をあちらこちらへ泳がせていると恭介が僕の手首を強く掴んで言った)
恭介「簡単なことだぞ!?だいたいでいい!今月を言い当てるだけでもいいんだ!どうだ、思い出せないか!?」
理樹「あ・・・ああ・・・」
理樹(恭介はなにか僕の知らないことを知っている!それはきっとものすごく重要なことで、僕が今の質問に答えられないでいることにとても関係しているんだろうなということは分かる。なのに!どうしてもこんな簡単なことに答えられずにいるんだ!?)
理樹(だめだった。よく考えたら真夏のようでもあるし、そういえば肌寒い冬だったような気もする。自分の記憶に自信がなかった)
恭介「・・・理樹落ち着いて聞いてくれ・・・」
理樹(恭介は僕が安心するように、ゆっくり喋りだした)
恭介「理樹が倒れたあの日、あの時から俺は既におかしいと気付いていたんだ。だってたこ焼きパーティーはもう”何か月も前に”やったことなんだからな」
理樹(恭介の言葉の意味が分からなかった。たこ焼きパーティーはもうやっただって?)
恭介「分からないか?あれは既に過去の出来事なんだ。俺たちは今も過去を繰り返しているんだよ」
理樹「!!」
恭介「俺は朝起きて携帯を見ると日付がずっと前の物になっているのに気付いた。不思議に思ったのはそれだけじゃない。ちょっと前に処分した本が自分の机に当たり前のように置かれていたんだ。俺はその時、自分が過去にいるってことを直感した。だけどそんなことはあり得ない。あり得るとすればただ一つ。だれかがそんな世界を作っちまったって可能性だ」
恭介「俺はそこから慎重に動いた。得体のしれない世界だ、もしマスターなる人物が悪意を持って作った物なら下手に動けばどうなるか分かったものではない。無駄になるかもしれないとは思っていたが俺はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、つまりは何も気づいていない人形の振りをして慎重に調べることにした」
恭介「となると一番自然なのは俺も過去になりきること。その日の行動を繰り返すことだ。こいつは一度俺や謙吾たちで作った時と同じ要領なのでなんとか自然に出来た。あとは目立たないよう一人ずつ調べやすい奴からそれとなく調べていこうと考えた。最初はたこ焼きの下ごしらえの時に二人きりになった小毬、その次は手を洗いに行くときに鈴を。そうやってまずリトルバスターズのメンバーから俺と同じような考えの仲間がいないか探していたが・・・まあそこでお前がイレギュラーを起こしたわけだ」
理樹「ハァ・・・ハァ・・・!」
恭介「お前は普通ならあの日は特に異常もなくたこ焼きを他の奴と同様、美味しそうに食べていたはずだった・・・だったがお前は倒れた。そんなことあの日には起きていない。つまりお前もこの世界じゃやっと見つけた俺以外の異常な何かだった」
理樹(また心拍数が上がった。倒れるときの前兆だった)
恭介「そいつは一人で支えるあまり、一日と持たないほど早い段階でガタが来たんだ。記憶を消して、過去をやり直そうとしても”デジャブ”という形でどうしても断片的に思い出してしまう」
理樹「う、うう・・!!」
理樹(また頭が痛くなってきた。さっきと同じ、頭に大きなガラスの破片が突き刺さったような痛みだ。思わず両手で抱えてしまうが、そこには何もない。形のない痛みだけしかなかった)
恭介「さっき未来予知と言ったが、それは逆だ。過去を思い出してきていたんだ理樹。・・・・そろそろさっきの質問の答えを言おう。本当の昨日は2月29日。本当の今はだいたい3月1日になって数時間と経っていない頃だろう」
理樹「や、やめて・・・やめてよ恭介っ!!」
理樹(自分で何故その続きを言ってほしくないのか分からなかった。僕はなにに焦っているんだ!?)
恭介「動機もなんとなく分かる。つまり、今回のゲームマスターは・・・・」
理樹「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああーーーーっっ!!!!!」
理樹「おはようまさと」
真人「おお!いい天気だな」
理樹「とてもさわやかだ。やはり体を動かさないと健康状態がとても心配になる。しかし今はシャワーを浴びた直後のように晴れ晴れとしている!」
食堂
来ヶ谷「理樹君よ」
理樹「うん」
来ヶ谷「私が思うに何故、牡蠣はいまだに海を覆いつくさないのだろうか?牡蠣の繁殖スピードからして蛇口から牡蠣の幼体がぽろりと出てきてもありえないはずではないのだが」
理樹「ううん」
教室
理樹「あーちくしょう頭が痛い!寝てないからかな。ああ!でも目だけはいいんだ。眼鏡なんてかけようと思うだけでも腹が立つ。客観的な立場から見てもそりゃ当然のこと」
理樹「火を見る溶離明らか」
真人「お前大丈夫か?」
理樹「狂人の言葉をカタカナで表すのが主流になってるようだけど僕から言わせたら陳腐すぎると思う。しかし、今の僕はなんとなくおかしいのは分かるんだ。テスト勉強を深夜までやって、レム睡眠に陥りかけている感覚と同じかもしれない」
真人「なるほど」
理樹「僕は偏執狂ではあるかもしれないが、アンドロイドではない」
「「よく言った。それでこそ主人公だ!」」
ううん、違うな。迷惑かけてごめん
理樹「お早う真人」
真人「おお!いい天気だな!」
理樹「君のような人間と出会えて本当によかった。これから食堂で朝ごはんでも?」
真人「よっしゃ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・
食堂
理樹「鈴」鈴「うん」
理樹「自分が本当はどうしたいのか分からない。恭介が僕の隣にあればいいのか?いっとくけど同性愛者ではないよ」
鈴「私に聞くな。所詮私はお前だ。知ってるだろう」
そうだよね・・・
理樹「ああ本当は眠りたいんだ!でも周りの環境と心がそうはさせてくれない!知っているかい?人間の寿命は心臓の心拍数で決まるんだ。こうやって不健康に刻まれる鼓動が刻一刻と僕の人生を削る。ああ、「~かい?」って口調はあんまり好きじゃないだよな。紳士ぶってるようでさ。そういうのが似合うのは精神年齢が30は言ったような人間だけさ。あとは恭介も似合うな。聞いていて不快にならない」
理樹「国道2号線からの都会と田舎が入り混じった幻想的な雰囲気には思わず息を飲む。彼らは愛想こそいいものの人間として空っぽなんだ。中身というものがない。親切な対応も反射条件なんだね。確か西園さん辺りがこのことを何と言ったか・・・・まあそんなことは今のことに比べたらどうでも言い訳で。ようは今の状態は撒き餌なんだ。」
理樹「遠い夜をお気に入りの曲を聴きながら進むとアルコールも摂取したこともないのに酔った気持ちになる。きっと酒を飲むよりも気持ちいのいい気分だろう。生まれる前からあるようなノンスタルジー。さびた自動販売機がそうさせるんだ」
理樹「とにかくこうしてしゃべり続けないと不安な気持ちになる。僕の心のよりどころがあと半日もしないで崩れることになる。情けないかな?でも君がいないとやっぱり寂しいよ。僕をここまで巻き込んでおいてさ。」
理樹「教師になればいいのに」
理樹「うう・・・・なんで・・・もっと遊びたいのに・・・」
理樹「僕は直接見たことはないけどきっと僕を悪く言う人間は存在する。【リトルバスターズ】のなかに!確実にいる!」
理樹「新しい遊びなんて考えられるものか。曲と同じさ。公式もなけりゃセオリーもない。不可能だ」
理樹「もっと必要なんだ。それか脳の構造が知りたいね」
理樹「頭を絶望的に整理できない。原因は分かる。しかしチクショウ!続けるしかないのに!」
謙吾「どうした?」
理樹「誰が自我を持っていたっけな」
謙吾「二人だけさ。お前だけではそれが精いっぱいだ。なにをするにしても誰も味方ではない。とくにもう一人はお前のことを考えて敵になるつもりなのだから。身をゆだねたらどうだ?」
理樹「しかし、もうちょっとワガママしてもいいんじゃないかな?」
謙吾「ま、結局はお前の気の持ちようさ」
理樹「もう何度目の朝なんだろう。いや、本当は一度たりとも新しい朝は来ていない」
真人「理樹が望めば来るさ」
理樹「望むにはまだ早い・・・・ような気がする」
食堂
理樹「恭介は?」
鈴「来てないな」
理樹「・・・・・・・」
理樹「君は今どんな気持ちなんだろうか?幻滅している?でも勘違いしないでほしい。確かに君とは『あの時』永遠の別れだって覚悟出来た。でも覚悟だけだ。そのあと僕が毅然と出来るかとなるとまた別の話なんだよ」
理樹「寂しいよ・・・」
理樹「・・・・・・・・」
真人「・・・・・・・・」
食堂
理樹「もうすべてが気だるい。もうたくさんだ。いちいち馬鹿みたいに叫ぶ気力もない。ただ、やはり引っかかる。このままでは一生後悔するだろう。多分大人になってからでは二度と清算できないことがすぐ近くにある」
真人「本当はそれを行うためにこの世界を作ったのかもしれないな」
理樹「もうここの時間もない・・・どうせこんな世界を認知されたんだ。どの方向から見たって最初からちゃんと話す以外に道は残されていないのさ」
真人「でもこんな状態で大丈夫なのか?」
理樹「うん。心配いらないよ・・・そういう振りだから。本当はまともなんだ。耐えきれないふりをしようとしたってそんな事は許されない程強くなっちゃってたんだ。恭介のお陰でね」
真人「じゃ、次で最後だな」
理樹「うん」
食堂
理樹(いつもの食堂は一か所を除いて真っ暗だった。そしてその僕はもちろん食堂にいるんだけども当の光とはずっと遠く離れたところにあるテーブルに座っていた。光の正体は分からないが、とにかくそれは温かい光だった。そこには僕を除いたリトルバスターズのみんながいて、何かを楽しそうに話しあっているのであった。本当は僕も混ざりたかったし、一歩勇気を出して近づけばかならずあの中の誰かが、あるいはみんなが僕に気付いて、やはり混ぜてくれるだろう)
理樹(しかし僕はその中に入る気はなかった。何故ならそれは恭介と学校で過ごす最後の集まりだったからだ。この光景も僕の想像でしかない。本当の僕は適当な嘘をついて一人、自分のベッドの中で恭介との別れを覚悟しきれなかった生暖かい選択を抱えて眠り込んでしまったのだから)
理樹「それが今、恭介本人を夢の世界へ引きずり込んでしまっている」
恭介「そんなことはないさ。俺だってこういう機会は欲しかった。俺が一度だってここから出たいなんて言ったか?」
理樹「!」
理樹(目の前には恭介がいた。さっきの場所はもうすでに何もなかった。代わりにいつの間にか僕と恭介の間に小さなランプが灯っていた)
恭介「さ、言いたいこと全部吐いちまいな」
理樹「・・・うん」
理樹「やっぱり、今日が最後の夜なんて信じられないよ。もっと恭介と学校で遊んでいたかった」
恭介「おいおい、別に死ぬわけじゃないんだ。どうせ休みの日にはまた会えるじゃないか」
理樹「でもそれじゃあ”外の人間”になっちゃうじゃないか。僕はまだ恭介のようにみんなに提供できるような面白い遊びや催しなんか考えられないんだよ」
恭介「俺だってよく鈴や真人から突っ込みを入れられたりしたさ。必ず面白いものである必要はない」
理樹「でも・・・」
恭介「あのな理樹。俺になろうとしなくていいんだぜ?お前はいつだって俺の横にいて、俺の真似をしようとしていた。だが、お前はお前だ。お前なりのやり方でみんなとうまくやっていけばいい。お前には頼れる仲間がいる。リトルバスターズのみんながいるじゃないか!俺はたまたま一人で作戦を練るのが性に合っていただけだ」
理樹「僕のやりかた・・・」
恭介「確かに俺はもうすぐ学校を去る。だが、学校はそんなことじゃ何も変わらないし、お前も変わる必要はない。だから理樹、ダダはこねるな。俺の言う事が分かるな?」
理樹「うん・・・」
理樹(恭介にここまで言わせるなんてやはり僕はまだまだ子供だ。だけど、恭介はそれすらも飲み込んでいけと言っているのだろう。・・・ここまで長い時間がかかった。でももうやりたいことは終わった・・・つまりもう寝る時間なんだ。僕は寝なくてはいけない)
理樹「疲れが今になってやっと出て来たよ」
恭介「俺はむしろ肩の荷がやっと下りたって感じだな。実に10年分ってとこだ」
理樹「・・・フッ・・クク・・」
恭介「はははっ!」
理樹「あははははっ!」
恭介「はーはっはっは!」
理樹「・・・おやすみ恭介」
恭介「ああ。おやすみ理樹」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・
理樹部屋
理樹「ん・・・」
理樹(静かな朝だった。上から真人の吐息が聞こえる。思ったより早めに起きて来たようだ)
理樹(時計は6時30分丁度を指している)
真人「ふあぁぁぁ・・・・んぁ?おお、もう起きてたのか」
理樹「おはよう真人」
真人「・・・・ついにこの時が来たか・・・」
理樹(かなり前に聞いたこのあるようなセリフを言う真人。でもあの時とは正反対だな。恭介はこれからこの学校を出ていくのだから)
理樹「さ、遅れないように支度しようよ」
真人「・・・・おう!」
理樹(真人は僕の顔を見て納得したように大きくうなずいた)
理樹(これまでの経験から一つ学んだことがある。それは僕らがなにをしようと必ず朝は来るってことだ。僕らが考えるべき問題はその迎え方だけなんだと)
いい話だった
よかった
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486247367/
Entry ⇒ 2017.02.24 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「もう席替えの時期か」
教室
キーンコーン
ガラッ
理樹「ふぅ、ギリギリセーフ!」
真人「…………………」
謙吾「…………………」
来ヶ谷「…………………」
クド「…………………」
生徒「「「…………………」」」
理樹「……なにこれ?」
理樹(教室はとても静かだった。普通ならガヤガヤとうるさいみんなが、休んでいる人がいる訳でもないのに、今日は誰1人喋っていない。例えるならテストの最中に携帯のメロディが鳴った瞬間がずっと続いているような、そんな雰囲気だった)
理樹「ねえ真人。みんないったい…」
真人「シッ……今はダメだ…俺たちは集中してるんだ」
理樹「えぇ……」
理樹(確かにみんなピリピリしている。あのクドや来ヶ谷さんまでいつもと様子が違う。前の鈴はそもそもこの緊迫した状態に気付いていなさそうだし、西園さんは興味なさそうだった。僕と同じくこの非常に静かな圧迫感に戸惑っているのは小毬さんだけだった)
ガラッ
理樹(そして間もなく前の扉から先生が入ってきた。教卓に出席簿を置くと、なにやらティッシュ箱程の金属で出来た缶を掲げた。そしてやっと僕もみんなの様子の正体を理解出来た)
理樹「!」
ザワザワ……
先生「どうやらこの雰囲気だと、既にどこかしらから情報が漏れていたようだな……」
理樹(不敵に笑う先生の持つ”ソレ”は雪山の絵をバックに白い恋人という文字がプリントされていた。それも最初はホワイトチョコレートのお菓子が詰まった魅力的な箱だったんだろう。だが、恐らく今はその代わりに数字を書いた数十枚の紙が入っているに過ぎないはずだ)
理樹(しかし、その紙がこのHRの間だけ、とても重要な意味を持つのだ)
理樹「ああ、もう席替えの季節か」
「「うおおおおおおぉぉぉぉーーーーっっ!!」」
「遂にこの時が来たっ!今度こそ窓際を狙ってやるぜ!」
「計算によると先生の視線を一番かい潜りやすい目立たない位置は……ブツブツ」
「あの子と隣の席だったらいいなー」
真人「うう!ちっくしょー!!とうとう理樹とお別れなのかぁぁああ!!」
理樹「みんないつもたかが席替え程度で騒ぎすぎだよ……」
真人「理樹はいいのか!?お前だってもし次の席で中途半端な仲の奴しか近くにいなかったら嫌だろ!」
理樹「いや、だったらその人と仲良くなるだけだし……」
真人「俺はそういうのなんか難しくて無理だ!!」
理樹「威張っていうことじゃないよ!」
理樹(まあ、でもせっかく夏休みの間にリトルバスターズのメンバーが増えたんだから、そのうちの誰かと近かったら嬉しいかな。それに……)
鈴「おーい理樹っ!なんとかしてあたしの隣の席になるんだぞ!」
理樹「お、大声で言わないで……!」
理樹(それに鈴とはもっと近くで居たい、かな)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
謙吾「フッ………………」
謙吾(俺は、今までずっと理樹のため、鈴のためと我慢してきたが、もうこれからは変にクールを気取る必要はない。存分に自分の欲望のまま動かせてもらおう。つまり……)
クド「ドキドキ………」
クド(少し不安ですが、私はお母さんとあの時誓ったのです!どんな時でも絶対に諦めてはいけないと!そう……)
来ヶ谷「…………………」
来ヶ谷(どうやら私と同じ目的を持つ輩が何人かいるようだな。だが、この私が狙った物は他の者には渡さん。貴様らが下で私が上だ。そう、今回こそは例え誰であろうと容赦せん。何故なら……)
真人「よーし!こうなったら実力行使だぜ!何が何でもこの筋肉がありゃ不可能はない!今度もきっと……!」
鈴「小毬ちゃん。1つお願いがある」
小毬「えっ、なーに?」
鈴「もし理樹と隣の席を引いたらあたしと代わってくれないか?」
小毬「えへへ!もちろんだよ~!どっちかがそうなるといいねぇ」
鈴「ふっふっふっ……これで……」
鈴・真人・謙吾・来ヶ谷・クド(((理樹(君)の隣の席はこの俺(私)だ!!)))
謙吾「……………………」
謙吾(そう言って先生は、黒板に簡単な席の見取り図書いて、番号を右から順に割り振った。……ということは、今回のくじ引きは完全なランダムのアミダ形式ではなく、引いた数字がそのまま指定の席に採用されるということだ。一見、どちらにしても運任せに見えるが、実はこれならいくらでもやりようがある)
ㅤㅤㅤㅤㅤ教卓
1、6、11、16、21、26
2、7、12、17、22、27
3、8、13、18、23、28
4、9、14、19、24、29
5、10、15、20、25、30
先生「左から行くぞ~」
謙吾(先生が生徒に缶を差し出しながら回っていった)
来ヶ谷「…………………」
謙吾「…………………」
謙吾(もし、俺以外の人間で理樹の隣を狙っている奴がいるとすれば!恐らくこの中でもっとも不利なのは来ヶ谷だ。左から行くということは理樹よりも先にクジを引いてしまうからな)
先生「じゃあ次は来ヶ谷」
ピッ
来ヶ谷「…………ふん」
謙吾(……来ヶ谷は紙を引き、興味なさげに番号だけを見ると視線を本に戻してしまった。奴は席なんてどうでもいいのか?)
…………………………………
先生「次は直枝だな」
謙吾「!」
理樹「それっ」
ピッ
理樹「えーと……うわぁ、端っこだ…」
謙吾(理樹の引いた数字……それは5番だった)
謙吾(5番……となると隣の席は10番しかない。今のところ10番を引いた者は居なかったはず。ならまだチャンスはある!)
先生「次、井ノ原だ」
真人「う、うおぉぉーーっ!」
ピッ
真人「グッ………!」
謙吾(真人は……5番から一番程遠い26番だった)
真人「……い、嫌だ…離れたくない……」
謙吾「ん?」
真人「うぉおおおお!!俺は生きる!生きて理樹と添い遂げる!!」
グッ
シュバァァァッッ!!
謙吾「なっ……!」
謙吾(言葉の意味を理解しているのかは置いておくにしても真人の執念は凄まじかった。なんと引いた紙の表面を脅威的な指先の握力で抉り取り、ボールペンで書かれた数字を抹消してしまったのだ。こいつマジか)
真人「へっ……なあ先生!」
先生「おっ、なんだ井ノ原?」
真人「見てくれ…俺のクジ、なんか数字が消えてて分からねえんだよ」
先生「あっ……ほ、本当だな…何かインクが溶けているような…」
真人「分かんねえからさ………もっかい引いていいかな?」
謙吾「!!」
謙吾(ま、まさかこいつ……理樹と隣の席の番号を引くまでずっとイカサマし続けるつもりか………!?)
先生「しょうがない。ほれ」
真人「へっへっへ……」
謙吾(いいや、そうはさせん!)
謙吾「先生!!」
先生「ど、どうした宮沢!?急に大声出して……」
謙吾「……井ノ原君のクジは番号が書いてあったのはあったんですよね?」
真人「あぁ?なにが言いてえんだ……?」
謙吾「だったらみんなが引いた後、余った数字を井ノ原君のにしたらいいと思います!」
真人「ッッ!!」
先生「あっ、それもそうだな。じゃあそれでいいな井ノ原?」
真人「ぐっ……ぐぅぅぅ……!!」
謙吾(ハハハハハーー!!筋肉の性能を活かせぬまま死んで行け!)
小毬「ごめん鈴ちゃん…私も違ったよぉ~」
謙吾(よしよし、これなら行ける!)
先生「じゃあ次は宮沢……」
謙吾(許せ、先生)
トンッ
先生「うおっ!?」
ドッシャーン!
「なんだなんだ?」
「はははっ、先生がずっこけてら!」
謙吾(先生に素早く脚を引っ掛けた。そして思惑通り見事にバランスを崩してくれた。先生がコケたという事は持っている缶も吹っ飛ぶということ)
謙吾「先生!大丈夫ですか!?」
謙吾(俺のイカサマはその散らばった缶のクジを素早く確認し、理樹の隣(今回は10番)のクジを見つけ……)
クシャッ……
謙吾(折り目をつけて再び缶に戻す!)
先生「あ、ああ……すまん。ありがとう」
謙吾「いえ……それでは引いても?」
ピッ
先生「痛てて……はい次、田中~…」
謙吾「…………………」
謙吾「……………クックックッ」
謙吾(やったぞ。10番だ!これで俺の勝ちだ!!)
クド「わふーー!どうしましょう美魚さん。宮沢さんにリキの隣を……!」
美魚「あちらもなかなか小癪な手を使ってきましたね……でも安心してください。頼まれた限り、あなたを必ず直枝さんの隣にしてさしあげましょう」
クド「わ、わふー?今からそんなことが出来るんですか……?」
美魚「大丈夫。私の作戦に直枝さんの席は関係ありません」
先生「じゃあ次は能美だな」
クド「はいなのですっ!」
ピッ
美魚「どうですか?」
クド「30番なのです……」
美魚「了解しました。これなら簡単ですね…」
美魚「~~~~」
クド「~~~!?」
謙吾「……む?」
謙吾(西園と能美か……あの2人はなにをコソコソと話し合っているんだ?いや、なんだったとしても構わないか。俺はもうこの金のチケットを例えこのクラスの人間が全員襲いかかってきたとしても手放さない)
クド「……うぅっ……ヒック……!」
謙吾「?」
クド「グスン…なのです……!」
謙吾「な、なんだ?」
謙吾(能美が急に泣き出した……いったい何があった!?)
理樹「ど、どうしたのクド?」
クド「リ、リキィ……!」
クド「実は……あの…その……」
謙吾(まさか理樹と隣じゃなくて泣いているのか?うっ……そ、それなら物凄く罪悪感が……!)
コソコソ……
美魚「………………」
謙吾「…………ん?」
美魚「ふふふ………」
謙吾(するとポケットからおもむろにボールペンを取り出して理樹の紙に手を伸ばした。……ハッ!まさか!)
サササッ
謙吾「や、やられた!!」
謙吾(奴は……西園は、理樹の5番を”2”5番に書き換えた!)
美魚「……あっ、25番の斉藤さんですね。よろしければそれを5番という事にしてくれませんか?」
斉藤「えっ、別にいいけど……」
美魚「では新たな紙はこちらにあるので書き換えておいて下さい。お礼の100円です」
斉藤「えっ、マジ!?ヒャッホー!ラッキー!」
美魚「このことはくれぐれも……」
斉藤「うん!分かった!」
謙吾(しまった!自分達のクジでズルすることだけを考えすぎていた!まさか理樹の紙でイカサマをするとは!)
美魚「能美さん」
クド「……はいっ……」
謙吾(その後、止める暇もなく無事に全てを終わらせた西園が能美にアイサインを送った)
理樹「クド……」
クド「あはは……ごめんなさいですリキ。ただ目にホコリが入ってしまったようで……」
理樹「そ、そう?」
謙吾「クッ……」
謙吾(完全に上を行かれた。泣き落としで理樹を誘き寄せ、隣の席に映るだけでなく俺を完全に遠ざけるとは!まさに『泣きの西園』……!)
美魚「宮沢さン……背中が煤けてますよ……」
クド「美魚さん!本当にさんきゅーべりーまっち!なのですっ!」
美魚「いえいえ、ふふふ………」
来ヶ谷「………………」
来ヶ谷(さて。これで全員手は出し尽くしたようだな)
来ヶ谷「杉並女史」
杉並「あっ、えっと……なんでしょうか来ヶ谷さん?」
来ヶ谷(私の番号は6番だ。ということは少年を1番に仕立てあげればいいだけの話。その番号を引いた彼女に新しい紙を渡した)
来ヶ谷「君の番号は今から25番だ。いいな?」
杉並「えっ!?」
来ヶ谷(もう1つ用意した紙に『直枝 1番』と書き込むと、あとは少年が缶に入れるのを待つだけで準備は整った。他愛ない)
理樹「………あれっ!?」
クド「どうかしましたか直枝さん?」
理樹「なんか僕の番号がいつの間にか変わってたんだけど!さっきまでは5番だったのに今は25番だ!」
クド「それはきっと気のせいですよ」
理樹「いや絶対……!」
クド「気のせいです」
理樹「ええ……」
先生「もう全員名前書いたかー!?それじゃ缶の中に入れてくれ」
来ヶ谷(……………………)
「また一番前かよ~!」
「あっ、隣だよ!」
「えっ、ホントだ!やったー!」
謙吾「はぁ………」
真人「うぅ………」
理樹「おかしいな………ブツブツ」
来ヶ谷「…………………!」
シュバッ
来ヶ谷(次々に缶の中に紙を入れていかれる中で少年が入れた紙を素早く抜き取り、ポケットにしまった。これで席の入れ替えが行われたことは、数人を残して不審に思うことはないだろう)
来ヶ谷「ふっ………」
来ヶ谷(ふははははは!勝ったぞ!)
トボトボ……
鈴「うにゅ…………」
来ヶ谷「む?」
小毬「り、鈴ちゃん。元気だして……」
鈴「うん…………」
小毬「ほ、ほら!放課後ケーキ屋さんに寄ろうよ!」
鈴「うん…………」
小毬「ふぇぇ~~!鈴ちゃんお願いだから元に戻ってぇ~~!!」
鈴「うん…………」
理樹「り、鈴………」
来ヶ谷「…………………」
来ヶ谷(……………………)
来ヶ谷「少年。今すぐ窓を開けたまえ」
理樹「えっ、なんで?」
来ヶ谷「早く」
理樹「あっ、うん!」
ガラッ
先生「よーし、全員入れ終わったなー?それじゃ席に戻っ……」
来ヶ谷「先生」
先生「なんだ来ヶ谷?」
来ヶ谷「な、なんだアレはー!廊下から超巨大なタケノコがニョキニョキとー!」
先生「えっ!?」
来ヶ谷(先生が廊下を見た瞬間、反対方向に体勢を整え、缶を掴んで開いた窓に向かって全力で投げ飛ばした)
来ヶ谷「ふん!」
ビューン!
「「「!?」」」
先生「おいおい、別に何も生えてないじゃないか!珍しいな来ヶ谷が冗談を言うなんて………ってアレ?箱はどこに行った?」
「い、今さっき来ヶ谷が……!」
来ヶ谷(カミングアウトしようとした男子にチョークを弾き飛ばした)
「ゴフォッ!?」
バタンッ
先生「ど、どうした斎藤!?」
「く、来ヶ谷さんがっ………キャアッ!」
先生「田中もやられた!?」
来ヶ谷「……………………」
「「「うっ……………」」」
来ヶ谷(愚かな生徒のせいでチョークが2本も犠牲になった。しかし、これでもう歯向かう生徒はいなくなったようだ)
先生「そ、そうだな。さっきまでここにあったんだが……。とりあえずみんな紙の番号を覚えているか?もう直接黒板に書いていくしかないな」
謙吾「せ、先生ーー!番号忘れちゃいましたー!」
真人「俺も馬鹿だから忘れたぜ!!」
美魚「なっ………」
クド「わ、わふー!?」
謙吾「クジの引き直しを要求しまーす!」
ザワザワ……
「えーもう一回?」
「でも俺も忘れちゃったしなぁ……」
先生「ううん……もう今日のHRくらいしか時間がないしやり直しは難しいな……悪いが次の機会までこのままの席で授業を受けてくれないか?」
「「「ええーーーっ!!」」」
先生「し、しかしなぁ……」
来ヶ谷(生徒全員が先生を非難し、孤立状態となった。今なら……)
来ヶ谷「先生。それならもういっその事……ゴニョゴニョ」
先生「えっ!?うーん……いや、仕方がないか……」
来ヶ谷「……ニヤリ」
先生「しょうがない!それじゃあもう皆今回は自由に席を決めて良し!いいか?今回だけだぞ!」
「「「オオーーーーッッ!!」」」
真人「えっ、マジで!?やったぜ!!」
謙吾「よっしゃーーー!!」
美魚「………まあ、仕方がありませんね」
クド「私はどちらにしろ近くにいられるならそれで……」
理樹「鈴!好きに決めていいって!」
鈴「………うん!」
………………………………………
……………………
…
理樹(結局、思い通りみんなと近くになれたのは良かったんだけど……)
謙吾「おい真人。もう少し端に寄れないのか?杉並が窮屈に感じるんじゃないか?」
真人「横は壁なんだよ!ごめんなさいでしたー!!」
杉並「あはは……」
小毬「美魚ちゃん、ポッキー食べる~?」
美魚「いただきます」
来ヶ谷「ふっふっふっ……授業中、気を抜くなよクドリャフカ君……?」
クド「どっ、どーゆー意味ですか!?」
鈴「理樹。今日は一緒に食べよう」
理樹「う、うん……」
理樹(まともに授業を受けられる気がしないのは僕だけだろうか……)
(美魚)(小毬)(来ヶ谷)
(鈴)(理樹)(クド)
(真人)(杉並)(謙吾)
終わり
おつ
姉御は前の席から何を仕掛けるつもりなんだ
乙っした
乙
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473308956/
Entry ⇒ 2017.02.08 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「小毬さんと付き合ってる実感がない」
理樹部屋
理樹(日曜日の夜。僕はみんなに数週間近く悩んでいる事をとうとう打ち明けた)
恭介「なに、実感がないだって?」
理樹「うん……」
理樹(事故の後、記憶をおぼろげながらにも思い出した僕は、恭介達と行った二度目の修学旅行の後、小毬さんに想いを伝えた。小毬さんにも『あの時』の記憶があったかは知るところではないが、僕の告白を聴いて3日目に返事をもらい、めでたく付き合ったのだけど……)
真人「ま、まさかもう小毬と何か喧嘩でもあったのか!?」
理樹「い、いやそういう訳じゃないんだけど……」
謙吾「倦怠期という訳だな?ううむ、流石の俺もそういう問題は少し荷が重いな……」
理樹「だから違うってば!」
鈴「じゃあなんなんだ?」
理樹「ただ……小毬さんと付き合ったのは良いけど、付き合う前から何も変わってない気がするんだ」
理樹「……実は僕たち、まだ手すら繋いでないんだ」
理樹(数秒の沈黙の後、みんなが口をあんぐりと開けた)
「「「ええーーーっっ!!」」」
恭介「な、な、な、なんだと!?」
真人「お前ら……俺が言う事じゃねえが大丈夫なのか?」
謙吾「悪いが本当に付き合ってるんだろうな?もしかして理樹が勝手に付き合っていると思い込んでいただけとか……」
理樹「いや……まあ……」
理樹(予想通りの反応を示す恭介達。無理もない。付き合った当時、あれだけ盛大に祝われたというのに、あれからなんの進展もないなんて…)
鈴「どうしたんだ?手なら繋げばいいじゃないか」
理樹「それがどうもそんな雰囲気にならないんだよね……なんというか、小毬さんと二人でデートをしても、ご飯を食べても手を繋ぐとか、恋人っぽいムードにならないというか…」
恭介「由々しき事態だな……」
理樹(恭介が眉をひそめて言った。どうやらこの事態をかなり深刻に受け止めているようだ)
謙吾「……ああ……まったくだ……」
真人「やれやれだぜ」
理樹(謙吾と真人も汗を垂らして恭介の言葉に大きく頷いた)
恭介「理樹」
理樹「は、はい!」
恭介「悪かった!お前がそんな悩みを抱えていたにも関わらず気付けてやれなくて……!」
理樹「えっ、いや……」
謙吾「だが心配するな。その話を聞いたからには、俺たちがお前ら二人の関係を必ずアツアツにしてやる!」
真人「そう、まるで筋トレしてる時に激しく燃焼する全身の細胞のようにな!!」
理樹「例えが長ったらしい上に分かりにくい!」
理樹「……じゃなくて!別にそういう事をしてもらうつもりで言った訳じゃ……!」
恭介「大丈夫だ理樹、俺たちに任せろ」
理樹(ああ、こうなったらもう聞かない奴だ……まあ、どのみちこのままではどうにもならなかったとは思うけど……)
理樹「うん。付き合ってから僕らは何度か遊びに言ったし、二人だけの時間を増やしたんだけど……」
謙吾「だが、小毬は特に前と変わった所がないと」
理樹「……まるで友達のようなんだよ。確かに一緒にいて小毬さんはよく笑うし、僕も楽しいんだけど……それがデートかと言われるとただ学校で会話しているのと一緒というか、ただ場所が変わっているだけで本質は同じにしか思えないんだ」
鈴「楽しいならそれでいいんじゃないか?お前の言う恋人っぽさってなんなんだ」
理樹「ぼ、僕の……?」
恭介「いや、それは違うぞ鈴。理樹が現状に満足していないということは足りない物があるということだ。そりゃ理樹だって男なんだ。好きな女の子には他の男とは違う特別な”何か”を求めたくなるものなんだ」
鈴「なんだか間違ってない気がするが言い方がきしょいな」
恭介「き、きしょ……」
理樹(静かにダメージを受ける恭介)
謙吾「だがそういう事なら話は簡単だ。ようは理樹が神北に対して恋人っぽいアプローチをすればいいんだ」
恭介「ご、ごほん!とにかくそういう事なら俺たちは理樹の恋を全面的にバックアップしようじゃないか。作戦名はリトルラブラブハンター2(ツー)だ!」
理樹「2?」
恭介「厳密には違うがこの作戦を行うのは二度目だからな」
理樹(二度目……いつの間にやったんだろう)
恭介「まあとりあえず内容を聞け。まず謙吾、真人、俺の3人が明日誰かに恋人っぽいことをする。理樹はその中で一番良いムードになった方法を実践するだけでいい。そうすればきっと小毬との仲も思い切り縮まるはずだ」
理樹「う、ううん……なんだかとても嫌な予感がするんだけど……」
謙吾「理樹、お前の相棒は100戦無敗…負け知らずの男だ。信じろ」
理樹(今回ばかりは説得力がないなあ……)
恭介「とにかく今のうちに小毬をデートに誘っておけ。明日、早速実践出来るようにな!」
理樹(今日はそのまま解散となった。よくよく考えたら皆はどうやって付き合ってもない人と恋人っぽいムードを出すんだろう。そんなことを考えながら今日も夜は更けていく………)
……………………………。
………………。
……。
同じキャラは一度まで。被ったりしたら安価下でよろしく
真人>>5
謙吾>>6
恭介>>7
中庭
葉留佳「ふんふふーん……」
理樹(恭介達に連れられて中庭に行くと、遠くのベンチで鼻歌を歌いながら音楽を聴いている葉留佳さんがいた。どうやら最初のターゲットは彼女になるようだ)
恭介「では早速ミッションスタートだ。最初は誰が行く?」
真人「ふっ……任せな」
理樹(真人が名乗りを上げた)
恭介「やけに自信満々だな」
謙吾「一体何を考えているんだ……?」
………………………………………………
ベンチ
真人「よお三枝」
葉留佳「ふんふふ………おっ、真人君?やはー」
真人「ふっ、突然だが三枝、俺と踊りませんか?」
葉留佳「へっ?」
理樹(そう言って腰を低くし、手を差し伸べる真人。映画でも観て影響されたのだろうか)
恭介「おおー!これはポイントが高いな謙吾!」
謙吾「うむ。普段ガサツな真人が紳士な態度を見せるこのギャップ。アイツにしては上手いやり方だ」
理樹「ええ……」
葉留佳「えーと……踊るってダンス?」
真人「アーハン」
理樹(真人も調子に乗り始めて葉留佳さんの手を自分から握った)
葉留佳「にゃ!?」
恭介「い、行った!!」
理樹(そして真人は手の甲に唇を……)
ガサッ
理樹(付けかけた瞬間、何かが真人の後ろから飛んできた)
葉留佳「えっ?」
真人「ん?」
理樹(そしてそれは止まる気配も見せぬまま、真人を真横に蹴り飛ばした)
ドゴーッ!!
真人「グァァーッ!?」
理樹(勢いよく吹っ飛ぶ真人。そこには例のあの人が立っていた)
「私の葉留佳に何をした……?」
恭介「なんてこった……」
佳奈多「………………」
理樹(元風紀委員長、二木佳奈多。まさか彼女は葉留佳さんの叫び声で飛んできたのか!あの速度は人間が出せるそれなのか!?)
真人「うっ、や、やべえ……」
葉留佳「あっ、お、お姉ちゃん!違うよ!さっきのは多分真人君もおふざけで……」
佳奈多「葉留佳は黙ってて!」
葉留佳「はひぃっ!」
理樹(空気が凍るとはまさにこのことか。数メートル離れている僕たちでさえ二木さんのオーラに何も言えなくなった)
佳奈多「あなた今、葉留佳の手に口を近づけたわね?そのカツ臭い口を!」
真人「ま、待て!話せば分かる!」
理樹(ゆらりと近く二木さん。あの目は『こいつはメタメタにしてから学校の晒し首にしてやる』って感じの目だ!)
謙吾「ええい、行くしかあるまい!」
理樹(と、謙吾が立ち上がった)
理樹「け、謙吾!なにを!?」
謙吾「俺が二木を口説く!そしてそれが叶わないとしてもなんとかうやむやにして真人を逃す!」
理樹「そ、そんなの無茶だ!」
謙吾「やってみなくては分からん!うぉおおお!!」
謙吾「はい…………」
恭介「謙吾ーー!!」
理樹(謙吾はあのあと二木さんに近づき、『お前の味噌汁が飲みたい』と言った後……いや、思い出したくもない)
恭介「くそう、ただ理樹に見本を見せようとしただけなのに我らが部隊が壊滅状態じゃないか!」
理樹「むしろトラウマになりそうなんだけど……」
佳奈多「あなた達、これからどうなるか分かる?」
真人「くっ……殺すなら一思いにやれ!」
葉留佳「お姉ちゃん…そろそろ、そこら辺で……」
「わふー?皆さんなにをしているのですか?」
クド「の、除け者ですかー!?それに井ノ原さんと宮沢さんはどうして正座をしているですか!?」
理樹「ねえどうしよう恭介……このままだとあの2人は……」
恭介「仕方がねえ、色々用意したかったが、予定変更だ。俺が出る!」
理樹「えっ!?でもまた火に油を注ぐだけじゃ……」
恭介「いや、狙うのは奴さんじゃない、能美だ!あれなら確実に動揺を誘えるだろう!その隙に2人だけでも助ける!」
理樹(もはや作戦内容が変わってきている気がする)
恭介「能美!」
ザザッ
クド「き、恭介さん?」
佳奈多「棗先輩……?」
真人「き、恭介!お前まで……!」
理樹(場に緊張が走った。しかし恭介だけはまったく気にしていないのか、クドに歩み寄った。そして、彼女の両肩を掴んだ)
クド「わ、わふ!?どうしたんですかー!?」
恭介「能美…………」
恭介「俺の母になってくれ」
理樹(場の空気が凍った)
佳奈多「なっ……!?」
葉留佳「へ、変態だーー!!!」
クド「わ、わふ?私がお母さんに……ですか?」
恭介「ああ」
佳奈多「『ああ』じゃありません!」
理樹(二木さんが我慢出来ずに怒鳴った。当たり前だ。意図が分からなかったら僕でもドン引きしていただろう。しかし、これは恭介の策略だ。混乱を起こして2人を救うためにあえて思ってもみないことを言っているのだ)
恭介「なんだ文句でもあるのか?」
佳奈多「大アリです!!棗さんほどの人が、なんて事を言ってるんですか!?」
謙吾「真人…っ」
真人「ああ……」
理樹(こう言い争いしているうちにも真人と謙吾は意図に気づきその場を静かに離れていった)
恭介「なんだと!能美は俺の母になってくれるかもしれない女性だ、重度の妹依存のお前に言えたことか!」
佳奈多「そ、それは貴方も同じでしょうが!」
恭介「よし能美。こんなうるさい奴なんか放っておいて俺と何処か静かな場所で色々と今後のことで語り合おうじゃないか」
理樹(と、恭介がクドに歩み寄る)
クド「な、なんだか恭介さんがおかしくなってます!?」
理樹(クドが混乱しつつも恭介から逃げ出した)
恭介「おいおい、どこへ行くんだ能美」
理樹(それを追いかける恭介)
佳奈多「あっ、待ちなさいー!!」
理樹(クドに並々ならぬ危機を感じ、恭介を捕まえようとする二木さん。3人がお互い三角に走りあって回る構図となった)
葉留佳「な、なんだかいつの間にか凄いことになってますネ……」
理樹(流石の葉留佳さんも少し引いていた)
理樹「そ、そうだね……」
理樹(今の3人の様子を見ているとなんだかグルグル回ってバターになる虎を彷彿させた)
佳奈多「待ちなさいって言ってるでしょう!!」
クド「た、助けてくださーい!!」
恭介「アハハ!待て~っ」
ザッ
理樹(と、しばらくその光景を眺めていると後ろから足音が聞こえた。そして振り返ってみると……)
小毬「………な、なにこれ……?」
理樹(小毬さんが3人の様子を見て動揺していた)
葉留佳「あー……こりゃ物凄いタイミングで来ましたネ」
理樹(諦めた様子の葉留佳さん。真人と謙吾もいつの間にか逃げ果せたようだ。さて、僕も……)
理樹「ええと、これは、なんでもないよ小毬さん。それより今から少し話がしたいんだ。時間ある?」
小毬「そ、それはいいけど皆大丈夫なの……?」
理樹「大丈夫。さあ離れよう」
佳奈多「コラァァアーーッッ!!」
クド「わ、わふーー!!」
恭介「ママ~!」
……………………………………
…………………
…
屋上
小毬「それでお話ってなに?」
理樹「ああ、うん……」
理樹(小毬さんと恋人っぽい雰囲気になりたい。しかし、3人の色んな提案は僕には少し荷が重かった。さて、どうしたものか……)
理樹「ええとさ……来週の土曜日またどこかに行かない?」
小毬「うんっ、グッドアイデアだよ!ちょうど私もそう思ってた所なのです」
理樹「よし!それじゃ、どこにしようか」
理樹(僕はそう言いつつ、右手を少しづつ隣の小毬さんの左手に近付けていった。偶然を装うとはいえ、流石にそろそろ手を握るぐらいの事はしないとな)
小毬「うーん……映画はこの間見ちゃったしねえ…」
理樹「迷うなぁ……」
理樹(さりげなく身を寄せて、街を見下ろす小毬さんの死角からゆっくりと手を伸ばす。あともう少し……)
小毬「あっ、それじゃあ久々に食べ歩きデートはどうですかー?」
理樹(ここだ!)
理樹「ああ、それがいい!」
スッ
理樹(名案に身を乗り出す振りをして上半身を大きく小毬さんの方に向けた。そして小毬さんの手に自分の手を被せた時だった)
小毬「あっ……」
パシッ
理樹「っ!」
理樹(そこからは一瞬だった。僕が手のひらを小毬さんの方の手の甲に乗せ、指を絡めると、小毬さんの手は脱兎のごとく素早く逃げ出した。あわよくばそこから良い雰囲気に漕ぎつけようという僕の希望が一瞬で弾かれたのだ)
小毬「あっ……!」
理樹(小毬さんはそれを反射的にやってしまったようで、手を自分の方に引っ込めた後、すぐ血の気の引いた顔で僕の方を見た)
小毬「あ……ぅ……理樹君…ち、違うの、これは……っ」
理樹(バツの悪い顔で僕に弁解のようなものをする小毬さん。僕は今どんな顔をしているだろうか?少なくともただ手を退けられただけの男の顔ではないだろう)
小毬「これは……ほら!急に触れてビックリしただけだからっ!だから、ね?ごめんなさいっ!」
小毬「ほ、本当に……」
理樹(確かに僕自身を拒否されたようでショックな気分だったが、あそこまで謝られてはむしろ僕が事を大袈裟に扱いすぎていたようで申し訳なくなった。小毬さんがそう言うんならそう言う事なんだろう。どのみち、うな垂れながらスカートの裾を強く握る小毬さんに何かを言う気にはならなかった)
理樹「あはは……いや、全然気にしてないよっ。それより食べ歩きだったよね?それなら昼御飯時より少し早めに着くように集合しようよ。11時くらいでいいよね?」
理樹(取り繕うために作った言葉は自然とスラスラ頭から口に流れ出た。だが、表情までそれらしく変える余裕はなかった)
小毬「うん……そうだね……」
理樹部屋
謙吾「ほう…神北がそんな事を…」
理樹(夜、再び会議を開いた)
理樹「うん……」
真人「そうだなぁ、やっぱり他に何か理由でもあったんじゃねえのか?じゃなきゃそこまで慌てねえだろ」
鈴「そんな訳ない。きっと理樹が卑怯な手に出たからキモくて手を離したんだ」
理樹「それって理由の内に入るんじゃないかな……」
謙吾「しかし、神北は見る限りいつも慌てているような印象だ。案外お前の思い込みなんじゃないか?」
理樹「そう言われてみると分からなくなってきたな」
理樹(確かに、状況と台詞だけ思い出せばそこまで異常ではない。だいたい小毬さんと触れる事なんてこれまでにも何度かあったが、その時もこんな感じに取り乱していたかと言われるとそんなこともない。きっと本当に突然でびっくりしただけなんだろう。まるで猫が後ろから急に声をかけられたのと同じように)
ドタドタドタッ
バンッ
鈴「な、なんだ!?」
理樹(会議が終焉を見せたと同時にドアが勢いよく開いた)
恭介「はぁ……はぁ……!」
理樹(扉の向こうには制服に草や土をまとわりつけた恭介が息を切らせて立っていた)
真人「んだよ、恭介か!びっくりさせやがって!」
理樹「す、凄いことになってるね」
恭介「いや、少し追っ手から逃れてたんでな。会議も参加し損ねたようだ。悪いな」
謙吾「というと今までずっと二木と追いかけっこしていたのか……」
鈴「追いかけっこ?」
真人「ああ、鈴はどっか行ってて知らなかったんだな。実は今日の昼、恭介がクー公にさぁ……」
恭介「それ以上言うとお前を頭から土に埋める」
理樹(恭介の目は本気だった)
真人「うへへ……そんなに食えねえぜ……」
理樹(来週のデート……次こそは手をしっかりと繋いでやろう)
理樹「そうさ、僕らしいじゃないか…あせらずに一歩ずつだっ」
理樹(流石の小毬さんでも頼まれて断りはしないだろう。例えば人混みが多い時でもいい。2人きりになった時だったとしても少し勇気を出して小毬さんに聞けばいいんだ。ちょっとそこの物を取ってって風に『手を繋がない?』と聞けば)
理樹「手を繋がない……?」
理樹(軽いシミュレーションをしてから今日はもう寝ることにした。とにかく全ては来週だ)
理樹(こうして夜は更けていく……………)
……………………………………………………
…………………………………
……
街
小毬「ほあっ!見て理樹君!あんなに長いソフトクリームが売ってるよ!」
理樹「えっ、本当だ!?よし、せっかくだしこれも食べていこうか」
小毬「うんっ」
理樹(天気に恵まれ、絶好のデート日和となった今日。僕らは順調に街の屋台通りを闊歩していた)
理樹「すいません、これ二つください」
店員「はい、600円いただきます」
小毬「うわ~すっごく大きいね~」
理樹「いやはや」
理樹(小毬さんも周りの美味しそうな匂いを吟味するのに夢中で昨日のちょっとした出来事も既に頭の隅に追いやられているようだ)
小毬「んふふ……甘いねぇ」
理樹「ふふっ……」
理樹(やっぱり小毬さんにはこの笑顔が一番似合っている)
理樹「おおい、3人とも!」
鈴「ん?おお、2人もこっちに来てたのか」
真人「り、理樹か…それに小毬…よ、よお……」
謙吾「き、奇遇だな……」
理樹「げっ!?」
小毬「う、うえぇ?ふ、2人とも大丈夫なの…?」
理樹(後ろからだと見えなかったが、男2人は両手に曲芸師顔負けの詰め込み方で缶詰を持っていた。よく見るとそれは鈴がいつも猫にやっている『モンペチ』という奴で、僕もセールの日には毎度買い物に付き合わされていたものだった)
謙吾「いや、まあ……俺の方は全く問題はない……っ」
鈴「だ、そうだ。真人の方はどうだ?」
真人「へっ!お、俺だってこんなの余裕のよっちゃんだぜ!」
理樹(ああ、なるほど。鈴は上手く2人の心理を利用した訳だ。どうやら2人がいかにモンペチを持てるかで張り合わせて、自分はその成果を丸ごと頂くという寸法だ)
鈴「いや、しかし本当は理樹にも手伝ってもらうつもりだったんだがな。せっかくのセールだしまだ予備に置いておきたかった」
理樹「いやいやいや!!」
理樹(一体どれだけ買うつもりなんだ……)
鈴「まーもう理樹は小毬ちゃんの物だからな。存分に使ってくれ」
理樹「人を奴隷か何かみたいに言うのはやめてよ!?」
小毬「……………」
理樹「…………ん?」
理樹(鈴がその言葉を言った瞬間、ふと横の小毬さんの瞳が揺れた気がした。しかし一瞬のことだったのでもしかしたら気のせいだったかもしれない。どちらにせよ今はなんともない)
真人「まったくだぜ鈴さんよ!俺だってこういう腰を痛めるだけの効率的じゃねえ筋トレはしたかねえんだよっ!」
鈴「帰りにジュース買ってあげる」
真人「ま、マジで!?うひょーーっっ!」
謙吾「だ、大の高校生が100円で釣られていいのか……?」
鈴「じゃあ2人ともまたな」
小毬「うん…また明日ねっ」
理樹(僕らが別れを告げると3人はそのまま駅の方向に歩いて行った)
理樹(後ろの小毬さんに声をかけたが返事がなかった。聞こえてなかったのかと思い、後ろを振り向くと、小毬さんはぼうっと鈴達が去った方向を黙って見ていた)
小毬「……………」
理樹「小毬さん?」
小毬「あっ!え、えと……ごめん、なんだっけ…」
理樹「いや、声をかけただけだよ。次はどうしようかなって…」
理樹(今日は小毬さんの調子が出ないのだろうか?やはりどこか上の空になる時があるようだ)
小毬「そ、そうだね……じゃあ次は作戦会議を兼ねて喫茶店でゆっくりしちゃいましょーっ!」
理樹「うん、そうしよう」
理樹(とはいえいつも通りの小毬さんだ。あまり気にしないのが吉だろう)
理樹「………」
小毬「………んふふ」
理樹(現在、小毬さんはお気に入りの喫茶店でお気に入りのパフェを食べている。どうも彼女は甘い物を食べている間はひと段落つくまで口を挟まず目の前の作業に集中するタチの人らしい。僕もデートを重ねる毎に緊張しなくなってきたし、せっかくなので作戦を考えがてら彼女を観察する事にした)
小毬「……………っ」
理樹(小毬さんは今、パフェの中枢までスプーンを進軍させていて、ちょうどコーンフレークの城壁を削りにいっている)
理樹(フレークとすぐ下のプリンを器用にスプーンに乗せると、満足気に口に運んだ。それをゆっくり目を閉じて咀嚼すると心地よさげに飲み込んだ。小毬さんはどの一口も『最初の一口』を食べているかのように大事にする人なので、こういう動作は何度見ても飽きない)
小毬「おいしっ」
小毬「…………?」
理樹(そうやって見ていると流石に視線に気付いたのかスプーンの手を止めて僕を見つめ返す小毬さん。何か言いたげだったが、今食べているぶんをよく味合わないまま飲み込もうかどうかで葛藤しているようだ)
理樹「ゆっくりでいいよ。ゆっくりで」
理樹(大人しく僕の言うことに従ってから水を一口飲むと小毬さんは言った)
小毬「理樹君の分も頼む……?」
理樹(自分の分を渡す気はさらさらないらしい。もっとも後から聞くと僕のパフェ代は出すつもりだったようだけど)
小毬「えっ?ううん、別にないよ~」
理樹「じゃあ今回は晩御飯もここで食べてく?」
小毬「あ……でも理樹くん、いつも鈴ちゃん達と一緒に食べてるんでしょ?悪いよ……」
理樹「気にしないでいいよ。メールで真人から伝えておいてもらうからさ。大丈夫、消灯までには帰るから」
小毬「う、うん……」
理樹(なんとか小毬さんから了承をもらった。これで僕の編み出したデート作戦はなんとか形になりそうだ。よし…恭介、真人、謙吾…みんなの犠牲をなんとか成功の糧に結びつけてみせるよ!ミッションスタートだ!)
カモ「グァッグァッ!」
小毬「ぐあっぐあーっ」
理樹「ふふっ…」
理樹(夕方頃。この時刻の公園は、子供らが去り、カップルが多めとなるスポットだった。今も僕ら以外に何組かそれぞれ楽しんでいるようだ。ここへ来たのはもちろんそれが目的で、こういう周りから恋愛ムードが流れているような場所なら手を繋ぐのも自然に出来るだろうという寸法である)
理樹「ね、小毬さん。ベンチに座ろうよ」
小毬「え?うんっ」
理樹(湖を背にすると、芝生に寝転がって音楽を聴きあっている人達や、僕らのように何かを話し込んでいるのもいた。どれもみんな幸せそうな顔だ)
小毬「うわぁ、みんなこれ付き合ってる人なのかな……」
理樹「かもね。現に僕らもカップルだし」
小毬「あ…うん。そうだった」
小毬「えっ、あっ、うん……」
理樹「うわ、見てっ。あの人なんか肩に手を回してるよ」
小毬「そ、そ、そうですねー……」
理樹「ああいうのってやっぱり憧れちゃうなー」
小毬「えっと……」
理樹(ここだ!)
理樹「小毬さん、もう付き合ってから結構経つしさ……手、繋いでみたいな」
小毬「!」
理樹「小毬さん?」
理樹(小毬さんは困ったような顔で僕の視線を右へ左へ交わしていたが、そういう仕草も相まってとても愛らしくみえた。もはや、返事を待てる余裕はなかった。先程出した勇気のせいか僕にそのまま手を繋ぐ積極性が出来てしまったのだ)
理樹「小毬さん……」
理樹(小毬さんの右手を僕の左手で、今度はしっかり指を絡めた)
小毬「ひっ……!」
理樹(しかし、またしてもその手が1秒と同じ位置に留まることはなかった)
小毬「い、嫌っ!」
パシッ
理樹「えっ!?」
小毬「私、出来ないよ!」
理樹(小毬さんはそう言うと僕の手を振り払って立ち上がり、そのまま僕から出来るだけ遠ざかるように走っていった)
理樹「こ、小毬さん!」
………………………………………
………………………
…
理樹(僕もすぐさま立ち上がって小毬さんの後を追いかけた。周りの人が見守る中、公園を出て住宅街の方まで追いかけるはめになった。流石に相手が相手なので見失うことなく最終的に追いつくことは出来たが、いったいどうしてしまったんだろうか)
理樹「こ、小毬さん!」
理樹(路地の真ん中で立ちすくむ小毬さん。その震える肩から逃げ出したのはおふざけでもなんでもない事が分かった)
小毬「ごめんなさい理樹くん……でも、私、そんなことされる資格なんてないよっ!」
理樹(小毬さんはそう叫ぶと、今まで堪えていたんであろう感情と共に涙をぽろぽろとコンクリートにこぼしていった)
理樹「なんでさ……」
小毬「り……んぐ……り、鈴ちゃんが……鈴ちゃんを裏切ってるから……!」
理樹「えっ……?」
小毬「理樹君から告白された時、とっても嬉しかった。だけど本当は凄く迷ってたの……ずっと前から理樹君の横にいた鈴ちゃんを差し置いて私がそこに立っていいのかって……でも結局……私、自分のこと考えちゃって……鈴ちゃんを裏切って私……自分の幸せだけ……」
理樹(そういうことだったのか。小毬さんが鈴の前になると様子がおかしかったのも、僕が彼女に触れようとしたら拒否したのも全部、小毬さんの優しすぎる心から来る罪悪感からだったのか)
小毬「だから……理樹君と手を繋ごうとか思ったり、出来なかったから……ううっ…!」
理樹(彼女は足が震え、今にも倒れそうだった。それでも小毬さんは自分を更に鞭打とうとしている。そんな姿を見て僕は半ば無意識に行動していた)
理樹「小毬さん!」
小毬「り、理樹君!?」
理樹(小毬さんを抱きしめた。彼女の身体にはまったく力がこもっていなかった。しかし、僕が抱擁するとそれを全力で拒否しようと体を動かしてきた)
小毬「い、いや……!理樹君!嫌だっ!!」
理樹(無駄な抵抗だった。いくらもがこうとしても今の力ない小毬さんでは数センチでさえ僕から離れることは出来そうにない。僕はそのまま右腕で胸元にある小毬さんの顔を自分の顔に無理やり近づけて、強引に唇を奪った)
小毬「ん……んっ!!……やめっ………ふぅっ……!!」
理樹(全くもって気持ちの良くないキスだった。だが、僕は情熱を込めた。小毬さんがいくら唇を離してもその度にもう一度迫った)
小毬「なんで……っ!んぁ……なんでこんな事するの!?」
理樹「……………」
理樹(問いかけには答えず、ただ小毬さんが大人しくなるまでずっと続けた。それまで小毬さんは何度も僕の背中を引っかいたり胸を殴ったりしてきたが、結局最後まで体勢が崩れることはなかった)
理樹「……………」
理樹(小毬さんを解放した。お互い、腕で拭うまで口元が涎まみれだった)
小毬「理樹君……どうして……」
理樹「どうして!?」
小毬「ひっ……」
理樹(僕はムカムカしていた。アドレナリンが頭を駆け巡り、誰にもぶつけた事がない程の興奮が全身に溢れた)
理樹「くそっ!そんな事だったのか!そんなことで僕等の間に壁があったのか!」
理樹「ちくしょう!一体僕がどれだけ心配した思ってるんだ!小毬さんはなんだってそこまで自分の幸せを考えられないんだよ!鈴のことなんか関係ないだろ……僕は小毬さんが好きなんだ…他の人のことなんか考えないでよ……」
小毬「理樹君……」
理樹「いや……僕の方こそ、勝手に暴走して、ごめん……」
小毬「……………」
理樹「………帰ろう」
小毬「………うん」
電車内
理樹「………………」
小毬「………………」
理樹(帰り道はお互い何も喋らなかった。学校へ戻った時には既に空は暗くなっていた。はたから見れば僕等はなんと冷え切ったカップルに見えただろう。だけど、行きよりも僕らの心はとてもすっきりしていた)
屋上
鈴「それでもうみんなノミだらけだったんだ!」
小毬「あははっ……」
鈴「そこであたしは………」
小毬「……ねえ、鈴ちゃん」
鈴「……ん、どうした?」
小毬「私……その……理樹君とぉ、私。幸せになってもいいのかなぁ……」
鈴「急にどうしたんだ?まーあたしはいいと思うぞ」
小毬「本当に?」
鈴「ああ。というか幸せになる他道はない。小毬ちゃんと理樹の両方に詳しいあたしが言うんだ。間違いない」
小毬「そっか……ふふっ…」
鈴「なんで笑うんだ!」
小毬「ううん。ありがとう鈴ちゃん!本当に…本当にありがとう」
鈴「ああ。小毬ちゃんが幸せになってくれるとこっちも幸せになるからな」
小毬「あっ、それ私の……」
鈴「あー。良さげな考えだから私もやる事にした」
小毬「あははっ!」
鈴「ふふっ…」
理樹(人というのは必ずどこかですれ違う。運が悪い時にはそのまま冷え切って二度と修復されないこともあるだろう。そういうことにならないための唯一の手段は、お互いがもう一度分かり合おうとする努力をすること。それ以外にないんじゃないだろうか)
クドとはるちんは開始時には既に好意持ってるからそれっぽい描写があるけど
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1481376894/
Entry ⇒ 2017.01.20 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
佐々美「な、棗鈴と仲良くしたいですって!?」取り巻き達「「「はい!」」」
佐々美部屋
佐々美「急に話があるからと聞いてみれば、いったい何を言ってらっしゃるの?棗鈴はこの私、笹瀬川佐々美のライバルにして宿敵!まさか貴方達、寝返ろうとでも思って!?」
渡辺「そ、そんなこと微塵も思っていませんわ!あくまでこの身はすべて佐々美様のために……!!」
川越「でも、私達はそういうのではなくただ友達としても接したいと思いましたの」
中村「……だから、いつもの様に闘うのではなく、たまには彼女と話し合い、理解を深めたいなと……3人で話し合いました」
佐々美「そ、そんなこと言ったって……!」
渡辺「お願いします佐々美様!どうか、一度だけ停戦協定の申し入れだけでも!もしかしたら棗鈴もそろそろ闘いに疲れているかもしれませんわ!」
佐々美「で、でも、そんな彼女を倒してこそのライバル……」
川越・中村「「佐々美様!!」」
佐々美「く、くぅ…………」
左から中村、川越、中村
理樹部屋
真人「……ん。もうこんなに暗くなったか」
恭介「秋は夜が早いからな。……よし理樹、悪いが鈴を送ってやってくれ」
鈴「あたしは別に一人でも大丈夫だ」
恭介「えっ、でも幽霊が出てきたらどうするんだ?」
鈴「うっ……それは……」
理樹「そこで普通に『痛いところを突かれた』って感じのリアクションになるのは鈴だけだよ……」
謙吾「まあ、とにかく校内とはいえ夜が危ないのには変わりない。大人しく彼氏に連れてってもらえ」
鈴「おーまーいーが……」
理樹「じゃあここからはもう大丈夫だよね?」
鈴「ああ。ありがとうな」
理樹「ふふっ、どういたしまし……」
「棗鈴!!」
鈴・理樹「「!?」」
鈴「そ、その声は……!」
佐々美「棗さん!今日という今日はあなたを徹底的に叩きのめ……」
渡辺「佐々美様!」
佐々美「ぐっ……い、いえ……き、今日はその……少しお話がありまして……」
鈴「ん?なんだか今日は様子が変だな……」
理樹「確かに。いつもなら問答無用で襲いかかって来そうなのにね」
佐々美「話を聴きなさーい!!」
佐々美「うっ……至極当たり前のことを注意されると結構傷つきますわね……じゃなくて!」
佐々美「と、とにかく!私が申し上げたいのは、あ、あ、あなたと……その……」
鈴「?」
中村「佐々美様……頑張ってください……っ!」
佐々美「だからええと………たまには…休戦というのも……どうかと提案させていただきますわ!」
鈴「………理樹、きゅーせんってなんだ?」
理樹「……バトルをするのは止めようって言ってるんだと思うよっ……」
鈴「なるほどな。なんだ、そんな事ならあたしは全然構わないぞ」
佐々美「!」
川越「佐々美様、やりましたね!」
佐々美「ほ、本当ですの……?」
鈴「うん。あたしも一度お前達とゆっくり話してみたかったんだ」
理樹「へえ、仲直りか。なんというか、お互いの成長を感じるなあ…」
佐々美「で、ではせっかくですし消灯の時間まで私の部屋にご招待しますわ!今後の方針について話し合いましょう!きっと今なら小毬さんもいますし」
鈴「小毬ちゃんと同じ部屋だったか!なら早く行くぞサムシングセサミ!」
佐々美「……………は?」
鈴「ん?」
渡辺「ああ……」
佐々美「今なんと?」
鈴「小毬ちゃんと同じ部屋だったか!」
佐々美「その後!何か最後に言ったでしょう!」
鈴「サムシングセサミ?」
中村「オーマイゴット…ですわ……」
佐々美「な、な、な………」
鈴「ななな?」
佐々美「なんですのそのアメリカンな単語はーーーっっ!!」
佐々美「また私の名前を間違えましたわね!?せっかく私がここまで歩み寄っているというのにあなたって人は!!」
理樹「さ、笹瀬川さん!落ち着いて!」
佐々美「これが落ち着いてなんかいられるもんですか!あなた達、やっておしまいっっ!!」
鈴「なんだ、結局闘うのか!?」
朝
食堂
佐々美「や、やってしまいましたわ……」
中村「佐々美様……元気を出してください」
渡辺「そうですわ!昨日はなかなか惜しかったですわ!」
川越「最初から全て順調に行くことはありません。あせらずゆっくり事を進めましょう」
佐々美「そうは言ってもまた顔を見たらお互い喧嘩してしまうかもしれませんわ……はあ、どうすれば……!」
川越「私に良い考えがあります。昨日、棗さんと一緒にいた直枝さんに知恵をお借りするというのはいかがでしょう?」
佐々美「ああ、あのいつも隣にいる……」
渡辺「グッドアイデアですわ!彼ならきっと棗さんと仲良くする方法を知っているかもしれません!」
佐々美「ふむ………」
食堂
佐々美「………………」
中村「ということで、あなたに意見をお聴きしたいのですが……」
理樹「き、急に連れてこられたかと思ったらそんなことを考えてたの」
川越「どうかお願いします直枝さん。いつも仲の良いあなたなら棗さんとのコミュニケーションの秘訣を知っていらっしゃるかと……」
理樹「ううん、秘訣っていうか……別にこれといって意識してることはないんだけどな……」
渡辺「そこをなんとか!」
理樹「そうだな……強いて言うなら鈴はよく猫にモンペチを食べさせているから今度一緒にあげてみるってのはどうかな?ちょうど最近ストックが切れたって言ってたから一緒に買いに行くのもいいかもね」
渡辺「エサ……そうですわ!棗さんにモンペチという名のエサをチラつかせて機嫌をよくさせたらきっとスムーズに仲良くなれますわ!」
川越「なるほど。猫の餌で棗さんを釣ると……」
理樹「いや、そういう意味で言ったわけじゃないよ!?」
佐々美「いいえ………それ、採用させていただきますわ」
理樹「えぇ……」
中庭
鈴「よーしお前ら、ちょっと待ってろ!今からモンペチ急いで買ってくるからな!」
「ナーオ!」
「ニャオーン」
佐々美「……よ、よし…川越、例の物は?」
川越「はい。なんとか調達してきました」
渡辺「後はこれを渡すのをきっかけに仲良くなるだけですわ!」
佐々美「しっ!こ、声が大きい!」
鈴「誰かいるのか?」
佐々美・取り巻き「「「!!」」」
鈴「……なんだ、またお前達か。残念だが今は構っている暇が……」
佐々美「お待ちなさい!き、今日は違いますわ!」
鈴「なんだと?」
鈴「そ、それはモンペチ!」
佐々美「わ、私は別に使う用途もありませんし、あなたがどうしても私達と友好を築きたいと申し入れるのであれば!……特別に差し上げないこともなくてよ!」
中村「ここまで威圧的に好意を寄せるなんて流石佐々美様ですわ……」
鈴「………………」
佐々美「……ど、どうかしまして?」
鈴「……最近、どうもロッカーのモンペチの減りが早いと思ったらまさかお前達が取っていったからなのか!?」
佐々美「は、はあ!?」
鈴「欲しいなら言えばやるというのに!泥棒はめっだ!!」
佐々美「だ、誰が泥棒なんか!!わざわざあなたの為に用意したというのになんという濡れ衣を!!」
佐々美「あなた達!!やっておしまいっっ!!」
渡辺「け、結局こうなるんですの!?」
……………………
…
女子寮
廊下
佐々美「……やはり棗さんと相容れるなんてどだい初めから無理な話ですわ!」
川越「佐々美様……」
渡辺「た、タイミングが悪かっただけですわ!次こそは……!」
佐々美「仮にまたやる気になったとしても策があって?」
中村「それは………」
佐々美「やはり棗鈴とは争い合う運命……お互い、拳でしか分かり合えぬ関係ですわ!」
『でさぁ…棗……がね…』
『あぁ……確かに……』
佐々美「棗……?ちょうどあちらの階段から棗さんについて誰か話しているようですわ。偵察に行きますわよ!」
渡辺「あっ、待ってくださいー!」
佐々美「さささっ」
渡辺・川越・中村「「「さささっ」」」
生徒A『うんうん…』
佐々美「さて、今は棗鈴の事ならなんでも知りたいですわ……何か彼女を陥れる糸口でも……」
生徒B『でもそろそろバレないかなぁ……いくら棗が鈍感でもそのうち気付くんじゃない?』
生徒A『大丈夫だって!自分が男子に人気あるって事さえ知らないような奴だし』
生徒B『それにしても最近ますますムカつくようになったよねぇ。今までやらなかった当番とか彼氏が出来てから急にやるようになって……良い女を演じたいのか知らないけど』
生徒A『夏……というか修学旅行が終わるまでは自己中だったのにね。聞けば事故ったバスには棗の兄貴も来てたらしいじゃん。案外それが原因じゃない?』
生徒B『ホント……今度はロッカーの中身全部取っ払っちゃおうか?』
生徒A『アハハッ!それは流石に気付かれるって!』
渡辺「なっ……!!」
川越「ロッカーの中身……バレる……?」
鈴『……最近、どうもロッカーのモンペチの減りが早いと思ったらまさかお前達が取っていったからなのか!?』
佐々美「ハッ!」
中村「……佐々美様っ」
佐々美「……………ええ、分かっていますわ……」
生徒A「うーん……」
「何を話しているのかしら?」
生徒A・B「「!?」」
佐々美「……………」
生徒B「な、なんだ……!確かD組の……笹瀬沢さんよね?棗かと思ったわ……」
生徒A「………そうだ!そういえばあなたも棗を良く思ってなかったよね?」
佐々美「ええ……その通りですわ」
生徒A「ふふっ、だったら面白い話あるんだけど聞いてかない?」
佐々美「いえ、既に聞こえていましたわ」
生徒B「なら話は早い!あなたもちょっとやってみない?放課後、誰もいなくなったら棗のロッカー開けて適当な物を取っていっちゃうの。あいつバカだから鍵つけてないんだ」
佐々美「ふっ……ふふふっ…」
生徒A「あははっ!」
生徒B「ククッ……」
佐々美「おーっほっほっほ!」
佐々美「………話になりませんわね」
生徒A「えっ!?」
中村「本人に隠れて物を取る……そんな悪知恵を絞っている低次元な嫌がらせ。そういう面倒なことは弱者が強者にするみっともない足掻きに等しいですわ!」
川越「佐々美様はいつも正しい。やる事なす事全てが洗礼されていますわ。ですから、そのようなまどろっこしいやり方ではなく、倒す時は正々堂々、完膚なきまでに棗さんを倒す!これにつきますわ!あなた達など傘下に入る価値もありません」
佐々美「………そのような無駄な事をして棗鈴に変なハンデが付くと、彼女に負けた時の口実が出来てしまう。なのでハッキリ申しますわ」
佐々美「棗鈴に余計な真似をするんじゃありませんわ!!このすっとこどっこいッッ!!」
生徒A・B「「ひ、ひっ……」」
佐々美「……ハッキリ!」
渡辺「佐々美様、2人ならもうとっくに逃げていきましたわ」
佐々美「なんですって!?」
「……おっ、なんだお前ら。全員集合してるな」
佐々美「あっ、あなたは!」
鈴「そう言えばさっきうちのクラスの奴が走って行ったがなんだったんだ?まさかイジメたりしてないだろうな……」
渡辺「ふっふっーん!それは違いますわ棗さん!何を言おうと実はさっき佐々美様が棗さんの……ムグッ!?」
佐々美「こ、こら!やめなさい!そういう事はわざわざ言うことではありません!」
鈴「どういうことだ?」
中村「いえ、なんでもありません。棗さんはただロッカーの鍵を今度からはかけるよう注意するだけでいいですわ」
鈴「ロッカーの鍵……?よく分からんが分かった」
佐々美「さっ、もう行きますわよ!」
鈴「ああ、待ってくれ笹瀬川。言いたいことがある」
佐々美「えっ?」
鈴「さっきは泥棒呼ばわりして悪かった。ごめん」
佐々美「な、棗さん……」
川越「佐々美様……仲良くなるチャンスですわ……っ!」
佐々美「ご、ごくり……」
佐々美「………そ、その……私も……売り言葉に買い言葉で突っかかって……悪かったと思ってますわ…」
鈴「うん。じゃあこれで仲直りだな。お前達もそれでいいのか?ええと……」
渡辺「渡辺ですわ!」
中村「中村です」
川越「川越……」
鈴「渡辺に中村に川越だな。よし、覚えた!」
渡辺「ああ……遂にこんな日が来るなんて…!」
川越「夢見たいですわ……」
中村「良かったですわね、佐々美様」
佐々美「うっ……なんだか照れ臭いですわ……」
校内
廊下
中村「佐々美様、次の練習試合のメンバーですが……」
佐々美「ふむ……」
理樹「そこで真人がさ……」
鈴「ふーん……」
佐々美「あっ」
鈴「あっ」
理樹「げっ、笹瀬川さん!確かまだ鈴と……」
渡辺「ふふっ、それは違いますわ直枝さん」
理樹「えっ?」
鈴「おーおはよう」
佐々美「お……おはようございます。き、今日もいい天気ですわね」
理樹「あっ、仲良くなってる!?」
川越「ふふ……」
鈴「そーだな。今日昼は空いてるか?小毬ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べるんだがお前もどうだ」
佐々美「へっ!?」
理樹「おおっ、確かにこれは凄い……鈴が他の人をご飯に誘うなんて!」
佐々美「ぜ、ぜ、是非とも!あ…いえ!ごほん……もし予定が空いていたら行ってあげないこともありませんわ」
鈴「空いてるといいな!」
佐々美「え、ええ……」
理樹「ふぅ……やっとこれで少しは平穏になるかな…」
中村「私も同じ事を考えていましたわ」
鈴「じゃあまたな!さしすせそささみ」
理樹「あっ」
渡辺「あっ」
中村「あっ」
川越「あっ」
佐々美「………………」
鈴「ん?」
理樹「オーマイゴット……」
渡辺「ふ、振り出しに戻りますの?ここまで来て……」
佐々美「私の名前は……」
「さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・み!ですわーーーっっ!!!」
終わり(∵)
ささみかわいい
次回も良い作品を期待してるぜ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475847670/
Entry ⇒ 2017.01.06 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)
理樹「多分ルート間違えた」
____「Refrain」の終盤に、病室で理樹と鈴が2人だけで終わるエンディングが挿入されていますよね?もしかしたら、あそこでストーリーが終わる予定だったとか?
麻枝:世間では、俺があの寂しいエンドで終わらそうとしたのを、都乃河君が止めたってことになってるんです(笑)
都乃河:違いますよね。以前のインタビューで「麻枝さんの初期案ではもっとひどい結末だった」みたいな話をしたら、ユーザーさんが病室エンドと結びつけちゃったみたいで。そもそも本当の初期案はあんな生易しいものじゃなかった(笑)
麻枝:時期でいえば青春とかテーマを考える以前の、もっともっと初期の案だよね。しかもメインルートというよらサブルートの話で。誰か1人がみんなを皆殺しにして回るとか(笑)そういうひどいネタもあったというだけの話です。
誰か1人がみんなを皆殺しにして回るとか(笑)
理樹部屋
理樹(今日、僕はまた例の病の発作で倒れてしまった。たまたま近くに来ヶ谷さんが居てくれたのは良かったんだけど……)
恭介「理樹………理樹?」
理樹「……はっ!え、えっと……なに?」
真人「次、理樹の番だぜ」
理樹「え?あっ……」
理樹(真人が中心に置かれたトランプの山を指差した。そうだ、今は大富豪の真っ最中だったのだ)
謙吾「どうした理樹?来ヶ谷に看病してもらってきてからずっとぼうっとしてるじゃないか」
理樹「あっ、えっと……」
理樹(謙吾の言う通り僕は来ヶ谷さんと別れてからずっと放心状態になっていた。それは多分来ヶ谷さんの看病が原因だったのだろう。誰だって目覚めに美人が薄いシャツ姿でこちらを見ていたらドキッとするはずだ。それがスタイルもバツグンだというんだ。頭がパンクしてもおかしくない)
恭介「フッ…とうとう理樹もそういう時期になっちまったか」
理樹「そ、そういう時期って?」
恭介「恋さ。理樹、お前は来ヶ谷に恋をしているんだ」
理樹「えっ?」
『どうした理樹?来ヶ谷に看病してもらってきてからずっとぼうっとしてるじゃないか』
『あっ、えっと……』
来ヶ谷「…………………」
来ヶ谷(看病した後、少年が去った部屋を見ると、彼の携帯が床に落ちていた。せっかくなので届けようとここまで来たが……どうやら面白い話が聞けそうだな。少し傍聴してみようか)
『フッ…とうとう理樹もそういう時期になっちまったか』
『そ、そういう時期って?』
『恋さ。理樹、お前は来ヶ谷に恋をしているんだ』
『えっ?』
来ヶ谷「!」
来ヶ谷(恋……恋だと?あの少年が私に?……馬鹿な……いや、しかし……)
『なにィ!?り、理樹が来ヶ谷にときめきを感じているのか!!』
『ち、ちょっと待ってよ!』
『ってことはまさか理樹はあの来ヶ谷に惚れちまったってことなのかぁぁあ!?』
来ヶ谷「…………っ」
来ヶ谷(いやいや、いやいやいや……慌てるな来ヶ谷唯子。お前が取り乱すなどあり得ないことだ。これくらいのことで動じるんじゃない。……だけど、もしも理樹君が本当に私に好意を抱いているならば……わ、私は……)
『どうした理樹?来ヶ谷に看病してもらってきてからずっとぼうっとしてるじゃないか』
『あっ、えっと……』
来ヶ谷「…………………」
来ヶ谷(看病した後、少年が去った部屋を見ると、彼の携帯が床に落ちていた。せっかくなので届けようとここまで来たが……どうやら面白い話が聞けそうだな。少し傍聴してみようか)
『フッ…とうとう理樹もそういう時期になっちまったか』
『そ、そういう時期って?』
『恋さ。理樹、お前は来ヶ谷に恋をしているんだ』
『えっ?』
来ヶ谷「!」
来ヶ谷(恋……恋だと?あの少年が私に?……馬鹿な……いや、しかし……)
『なにィ!?り、理樹が来ヶ谷にときめきを感じているのか!!』
『ち、ちょっと待ってよ!』
『ってことはまさか理樹はあの来ヶ谷に惚れちまったってことなのかぁぁあ!?』
来ヶ谷「…………っ」
来ヶ谷(いやいや、いやいやいや……慌てるな来ヶ谷唯湖。お前が取り乱すなどあり得ないことだ。これくらいのことで動じるんじゃない。……だけど、もしも理樹君が本当に私に好意を抱いているならば……わ、私は……)
恭介「そうか理樹……俺は前々から思っていたんだ。理樹は恋をするべきだと!恋に苦しみ、恋に傷つくことで人は成長する……恋愛が理樹を大人の男にするんだよ!」
理樹(恭介達の暴走はなおも続いた)
謙吾「となると、これから俺たちは全力で理樹の恋を応援することになるな。ふっ、任せろ。こう見えても巷ではロマンティック大統領と呼ばれている」
真人「クッ……納得いかねえが理樹が幸せになることが俺の幸せだ。ここはおとなしく来ヶ谷にゆずってやるとするか……」
来ヶ谷(……も、もしも少年が告白するとしたらいつになるのだろうか?いや、こういう時は私から言った方がいいのか?理樹君はこういうのは苦手だろうからな。だが私からいくとしてなんと声をかければいい?やっぱりシチュエーションが大事だな。例えば放課後の空き教室で待たせたり……ううむ、悩みどころだ)
恭介「よぅし!そうとなると早速作戦を立てよう!作戦名はオペレーションラブラブ……」
理樹「だから待ってってば!」
恭介「……理樹、いい加減水臭いぞ。こういう時は黙って俺たちの協力を……」
理樹「そうじゃなくてさ……」
理樹「僕は別に来ヶ谷さんのこと好きって訳じゃないから」
恭介「えっ?」
謙吾「うん?」
真人「はっ?」
来ヶ谷「……………え」
来ヶ谷「あっ………え……?」
真人「は、ははは……なんだよ!やっぱり理樹にそんな気なんかねえんじゃねえか!」
来ヶ谷(…………………)
恭介「そ、そうだったのか……い、いや悪い。勝手に盛り上がっちまったな!」
謙吾「勘違いしてしまったようだ……そうか。理樹は来ヶ谷がそこまで好きだという訳でないのか…」
理樹「いや、嫌いって訳じゃないんだけどさ……僕なんかとは釣り合わなさそうっていうか……」
真人「まあまあ、いいじゃねえか!ほーら!早く続きやろうぜ!」
理樹「う、うん……」
来ヶ谷「………………………」
朝
チュンチュン……
理樹「ふぁああ……」
「…………」
理樹(いつもの朝の静けさ、いつもの鳥の鳴き声、いつものベッド。今日もいつも通り変化のない朝……のはずだった)
理樹「ん……?」
理樹(目を開けるとベッドの横からパラパラとなにか粉のような物が降ってきていた。よく目を凝らしてみるとそれは木の破片のようだった)
理樹「………………」
理樹(何故こんな部屋の真ん中から木屑が落ちてきたんだろう。気になったので起き上がって落ちてきた先の天井を見ようとすると、それより先に驚きの光景を目撃してしまった)
真人「……………」
理樹「……………っっ!?」
理樹(真人が天井に刺さっていたのだ。文字通り物凄いパワーで上の壁に直接ぶっささったかのようだった。頭が見えず、首から下が垂れて吊られている)
理樹「あ……あ……」
「うわぁぁあああああああああ!!」
理樹部屋前
警部「ゆっくり降ろせよー!」
警部A「はい!せぇのっと!」
ドスンッ
警察B「ええと……朝起きたらこうなっていたって事でいいんだね?」
理樹「はい……」
警察「そうか……それじゃまた後で詳しく聞くけどそれまで学校の中で待機しててくれるかな」
理樹「はい……」
理樹(……ここまで警察の人に何を聞かれて何を言ったかまったく覚えていない。ありえない所からありえない死に方をした友人を前に頭の中が真っ白になってしまったのだ)
恭介「……………理樹」
理樹「あっ、恭介……」
理樹(後ろから恭介が歩いてきた。沈んだ顔を見るに恭介も既に事情を把握しているんだろう)
恭介「理樹……突然こんなことになって驚いただろう……」
理樹「…………」
恭介「食堂に集まろう。みんな待ってる」
理樹「分かった………」
恭介「もう、改めて言う必要もなさそうだがあえて言わせてもらおう……真人が死んだ」
「「「…………………」」」
恭介「聞く所によると他殺……明らかに誰かが真人を死に追いやった形跡があるという」
理樹(この話も警察の人から聞いたことだ)
恭介「ここからは俺の推理だが……赤の他人が夜の学校に忍び込むことは難しい。つまりこの学校の中に真人を殺した犯人がいる」
理樹「なっ!!」
クド「わ、わふー!?そ、そ、それは……」
恭介「取り越し苦労ならそれでもいい。だけど、もしも本当にいるとするなら!俺はその犯人を確実に探し出す!!」
謙吾「俺も恭介に全力で協力するつもりだ」
理樹(謙吾も腹を決めたように言った。どうやら僕の元に来るのが遅れた理由はその事について話し合っていたからだったようだ)
鈴「真人………」
西園「充分注意しましょう。鍵はかけ忘れないようにしなくてはなりませんね」
小毬「う、うん……」
クド「わふー……非常にデンジャラスなのです……!」
葉留佳「だ、誰か事態が収まるまで泊まらせてくれない?」
来ヶ谷「…………葉留佳君は私の部屋に来るといい」
葉留佳「あ、ありがとうございやす姉御!」
理樹(このみんなの会話に少し違和感があった。何故みんな真人の死についてあまり触れようとしないのだろうか?現実から目を離しているようにも見えないし……あまり悲しんでいないみたいだ)
恭介「とにかく。今はお互いの安全が第一だ。なにか不審なことがあればすぐに俺に電話してくれ。いいな?」
謙吾「それと理樹、お前は俺の部屋に来い。あの部屋はしばらく使えないはずだ」
理樹「う、うん……」
理樹(色々あったがとにかく今日は学校に行けそうもない謙吾の部屋で休ませてもらおう……)
謙吾部屋
謙吾「理樹、いつまでもそうしている訳にもいかないだろう。これでも食え」
理樹「あ……ありがとう謙吾」
理樹(ベッドに倒れながら考え事をしているとあっという間に時間が過ぎていった。頭が興奮してなかなか気づかなかったが、いつの間にかもう夜になっていた。そして謙吾の差し出すおにぎりを見ると急に腹が減ってきた。ああ、真人。あんな生命力の塊のような君は本当にいなくなってしまったのか)
謙吾「理樹……実際俺もあいつが死んでひどく動揺している……恭介の話によるとまだ犯人はこの学校の中にいるかもしれない。今日だって何食わぬ顔をして生活していたかもな。……だが、お前が俺の隣にいる限り、必ず死なせはせん。そして必ずやこれをやった犯人を見つけ出してやる」
理樹「謙吾………」
謙吾「だから今は休め理樹……大丈夫だ」
理樹(本当は謙吾も悲しいんだろうけど彼は心と僕より強い人間だ。そんな謙吾と恭介が力を合わせればきっと犯人は見つかるだろう。そして、僕はその犯人にどんな感情を抱くだろうか?……そんなことを考えながら今日も夜は更けていく)
………………………………………………
……………………………
…
謙吾「~~~」
理樹「………………」
理樹(夜。話し声がして目が覚めた。外はまだ真っ暗だ。声が謙吾1人のものしか聞こえないということは携帯で誰かと話しているんだろう。こんな時間にいったい何を……?)
謙吾「……NPCの暴走だと?馬鹿な……確かに自我を持っている奴らの中で真人にあんなことをする奴はいないが……ああ……いや確かにその通りだが……」
理樹(真人のことについて何か話をしているらしい。だが専門用語ばかりで何を言っているのかいまいち掴みづらい)
謙吾「ああ。世界をやり直すにはまだ早い……原因を解明出来なければまた同じことが起こるかもしれん。やり直して真人に真相を聞こうも記憶がなければ今あるかもしれない証拠を消すことになるからな」
理樹「……………」
理樹(どうやら聞き続けたところで意味が分かることもなさそうだ。とりあえず今はとても眠い……何を考えるにしても明日になってからでないと……)
食堂
理樹「あっ、謙吾!」
謙吾「あ、ああ……理樹か……すまん、1人で先に出てしまったな」
理樹「まったく、もう心配させないでよ!真人の次に謙吾までいなくなってしまったら……!」
理樹(今日、朝起きると謙吾がいなくなっていた。部屋のどこにも見当たらなくて、また真人のように殺されていたらと思うといてもたってもいられずすぐさま恭介に電話した。そして既に謙吾は食堂にいると受けて走ってきたのだ)
恭介「……まあそう責めないでやってくれ。謙吾も悪気があった訳じゃないんだ」
理樹「そ、それならいいんだけど………うん?」
理樹(とりあえず落ち着こうと席に座ると、若干集まっている人が少ないことに気づいた)
理樹「あれ……小毬さんとクドは?」
鈴「…………………」
葉留佳「り、理樹君……」
謙吾「それが……とても言いにくいんだが……」
恭介「……殺された。昨日の夜、毒を盛られたようだ」
理樹「な……なんだって……?」
鈴「ううっ……小毬ちゃん……クド……!」
理樹(鈴がその言葉をきっかけに静かに泣いた。他のメンバーも項垂れている……誰も慰める元気すらないのだ)
恭介「まだ完全に決まった訳ではないが2人が倒れたのは恐らくハッピーターンに含まれた青酸カリが原因だ。可哀想に……ハッピーターンの粉と見分けが付きにくかったんだろう」
理樹(なんと残虐な犯人なのだろうか。敢えてあの2人が大好きなお菓子で暗殺するとは。しかし、ここで一つ疑問が浮かんだ)
理樹「で、でも犯人はどうやって2人に青酸カリを盛ったの?ハッピーターンに細工するタイミングなんてどこにあるのさ」
謙吾「あるんだ……充分すぎるほどにそのタイミングはあった……」
理樹「け、謙吾?」
謙吾「……その部屋のテーブルにはカップが『三つ』あったんだ!」
理樹「!!」
理樹(カップが三つ……これが意味することは2つ。一つは犯人はクドに招かれるほど仲がいいということ。そしてその人物は小毬さんとクドの共通の知り合い……つまり犯人は……)
恭介「犯人はこの中にいるかもしれない」
鈴「!?」
葉留佳「えっ……!」
謙吾「……………」
来ヶ谷「うむ………」
美魚「………っ」
理樹「………………ゴクリ」
謙吾部屋
謙吾「落ち込むな……とは言えないが、こういう時こそ気をしっかり持たねばならない」
理樹(解散してまた謙吾の部屋に戻った。たとえ今日も授業があったとして、それを受けている余裕なんてない)
理樹「謙吾……陳腐なことを言うようだけどこれは夢か何かじゃないのかな?」
謙吾「………悪夢だ……それ以外の何者でもない」
理樹「それが醒めるなら何を捧げてもいい……うう、くそ……」
理樹(現実離れしている癖に五感はとても正常だった。ハッキリとした意識があった)
謙吾「………俺はこれから剣を振る。1人でも大丈夫か?」
理樹「うん……行ってらっしゃい。気をつけてね」
謙吾「ああ……気をつけて……」
理樹(とりあえず腹に何か入れなければならない。いつまでも絶望していられない。頭を活性化させて現実と向かい合わなくては)
佳奈多「………直枝ね」
理樹「えっ!」
理樹(後ろから急に声をかけられた。二木さんだ)
理樹「ふ、二木さんも今から食事?」
佳奈多「ええ……一緒に食べる…?」
理樹「……そうだね」
理樹(二木さんも見るからに元気をなくしていた。無理もない。2人の姿を直接目の当たりにしたんだから)
佳奈多「私が帰ってきた時、まだカップのココアが暖かかったのを覚えているわ。もう遅い時間だったから2人は寝てしまったのかと思ってたんだけどね……」
理樹「なんで犯人は2人を狙ったんだろう」
佳奈多「さあね。ロクでもないことは確かだわ。あの2人が誰かに怨みを買う理由なんてあるはずないじゃない」
理樹「……二木さんは犯人を……」
理樹(僕がこう言いかけた時、二木さんはサンドウィッチを静かに置いてこう言った)
佳奈多「捜すわ。徹底的に捜し出して理由を問い詰める」
理樹「そうだよね……」
佳奈多「風紀委員長として、2人の友人として、なんとしてでもこのままでは終わらせない。そしてそれはあなたも同じ気持ちのはずよ」
理樹「………そうだね」
理樹(真人の死も、もしかしたらこの事件と関わりがあるかもしれない。だとしたら犯人は三人の仇だ)
佳奈多「あの時の女子寮で事件が起きたということは犯人は恐らく女性ね。この時点でかなりの数を絞り込めているわ。……お手上げになったら生徒全員を拷問してでも見つけだす!必ず……必ず……必ず……!」
理樹(二木さんの覚悟は相当なものだった)
謙吾部屋
謙吾「そろそろ寝るか…」
理樹「うん……」
謙吾「明日の朝、恭介の部屋で鈴と俺たちの4人で話し合うことになった」
理樹「分かった……」
理樹(何をするつもりかは知らないけど、もし真人がまだ生きていたらそのメンバーに入っていたんだろう)
理樹(本当なら寝る間も惜しんで今すぐ犯人のことについて2人で語り合いたいところだが、そんなの出来るわけがなかった。……恭介の言う通りなら身内を疑えと言うものだからだ。二木さんが言った犯人の大前提を考えれば容疑者は数人に絞り込まれるのだ。そんな単純なことでさえ今は考えたくなかった。そして、そんな時こそ人は深い眠気に襲われるのだ。まるでそこから逃げ出すように)
理樹「おやすみなさい」
謙吾「ああ、おやすみ……」
昼
恭介部屋
理樹(日曜日。いつもなら何をして過ごそうかと嬉しい悩みを抱える日だが、今回の悩みは最悪だった。それはテーブルを囲うように座る他の三人も同じ気持ちであることはその顔から伺える)
理樹「話ってなに恭介?なんで僕らを集めたの?」
恭介「それはお前らが犯人ではないと分かるからだ。その上で集めた理由はな……犯人の目星がついたんだ」
鈴「な、なにぃ!?」
恭介「あくまで推測だがな……」
理樹「そ、それは誰?」
理樹(気は進まないが聴くしかない。だってあの恭介の事だ。余程の確信がない限り滅多なことは言わないんだぞ)
謙吾「……………」
恭介「小毬とクドが気を許し、夜の女子寮にいてもおかしくない。この条件に当てはまるのは……三枝、西園、来ヶ谷の3人だ」
鈴「なっ……バ、バカ言うな!なんであいつらが!」
理樹(鈴の言う通りだ。たとえ3人にそれが可能であったとしてどうして2人を殺さなくちゃならないんだ)
恭介「動機か……動機は分からない。だが他に考えられるか?」
恭介「恐らく小毬達の事件の犯人はリトルバスターズの中にいる。俺も理樹も謙吾も女子寮なんて忍び込むなんて不可能だ。仮に入ったところで2人と茶を飲むなんて違和感しかない。となると女子メンバーしかいない。鈴はそんなことが出来る奴じゃない。それは俺が一番よく分かっている」
謙吾「…………本当にそうだとしてこれからどう動くつもりだ」
恭介「尋問する。本当ならこんなことしたくもない事だが、こればっかりは警察に任せられない……放っておいたらまた次の犯行が起きるかもしれない」
理樹「つ、次の犯行?」
理樹「か、考えすぎだ!」
恭介「だったらいいんだ……犯人も俺の疑っている3人のうちの誰かでなく、全く知らない赤の他人ならどれだけいいことか……!」
恭介「だけどこんなの疑うなって言う方がおかしい!よく連続殺人が起きる小説では登場人物は皆、第三の犯行が起こるまで自分達のすぐそこで異常な事態が起きていることに気付いていない。だが、そんなの不自然だと思っていたんだ……1回目で驚き、2回目に更に恐れ、3回目でやっと規則性に気付く。普通なら少し考えれば2回目で気づけるはずだ。そう謎の殺人が周りでポンポン起こってたまるか!」
理樹「つ……つまり真人の死と2人の事件は偶然じゃないと……」
恭介「ああ……どうやったかはまだ分からないが同一人物であることは確実だ」
理樹(僕もその事については少なからず考えていたが、確かによくよく考えてみればその方が十分確率は高いだろう)
恭介「尋問は今日の夜に決行する。3人に考える余地を与えたくないので俺が直接行うとしても他の2人は誰かが引き止めなくてはならない」
謙吾「今日の夜というと、恭介が女子寮の部屋に行くのか?」
恭介「ああ。二木に犯人追求の為だと頼んだらあっさり許可してくれたよ。それも3人分な」
理樹「3人……てことは僕らも!?」
恭介「ああ。最初に向かう奴は俺が、もう1人は謙吾、更にもう片方は理樹と鈴が足止めをしておいてほしい」
謙吾「確かにもしその中に犯人がいたとしてもそれなら殺される心配はないかもしれないが……」
恭介「言っておくが俺はマジだぜ。大丈夫、あくまでまだ推測なんだ。全員違う可能性だってある」
鈴「みんなは疑いたくない……だからこそ早く犯人じゃないと証明したい!」
恭介「ああ、分かっているとも……だから次の犯行が起こる前に行動を起こそう」
理樹(その時の恭介は優しい目をしていた。だが、具体的な尋問がどんなものなのかは聴けなかった)
女子寮廊下
理樹(廊下は静かだった。誰1人横切らない。まあ、それはそれで誰にも驚かれずに済むという事だが……人気がないというのもそれはそれで不気味だった)
鈴「なあ理樹……」
理樹「どうしたの?」
理樹(横で歩く鈴が顔をまっすぐ向けたまま話しかけてきた)
鈴「恭介は私達に3人を部屋に縛りつけろと言ったが、具体的にどうすればいいんだ?」
理樹「そう深く考えなくていいよ。ただその人が他のところに行こうとするのを止めるだけでいいんだから」
鈴「たとえば?」
理樹「そうだな……楽しい話や、愉快なことをして気を引くとかかな。それなら強引じゃないし怪しまれないでしょ?」
鈴「そうか……じゃあ理樹」
理樹「ん?」
鈴「来ヶ谷の場合はどんな話がいいんだ?」
理樹「……ううん……それが問題だね」
理樹(僕らは2人で不安になりつつも来ヶ谷さんの部屋のドアにノックをした)
理樹・鈴「「!」」
理樹(アポはとってあるので当たり前だがドアの向こうには確かに来ヶ谷さんがいた)
理樹「……行こう鈴」
鈴「…………っ」
理樹(返事の代わりに頭の鈴がチリンと鳴った)
ガチャ
来ヶ谷「や……ようこそ我が家へ」
理樹「……お、お邪魔します……」
鈴「邪魔するぞ……」
葉留佳「き、恭介さん……なんですカ?話って……」
恭介「なに、緊張することはない。ただ三枝が大丈夫か様子を見に来ただけだ」
葉留佳「……はるちんは大丈夫っスよ……大丈夫っス……」
恭介「どうした、なにを震えている?」
葉留佳「いや、何でもない……ですヨ」
ガタッ
恭介「………様子がおかしいぞ。おい、なんだ。どこへ行く?」
葉留佳「……お茶を用意してきます……いえ、恭介さんは座ってて下さい……やはは……」
西園部屋前
コンコンッ
謙吾「…………」
コンコンッ
謙吾「おーい、西園。いないのか?」
謙吾「………おかしいな。連絡はしたはずなんだが……」
『……んん……』
謙吾「なんだいるのか?入るぞ」
ガチャリ
佳奈多部屋
佳奈多「すぅ……すぅ……」
パチッ………
パチッパチッ…………
理樹「う、うん……」
理樹(たとえ事件がなかったとしても来ヶ谷さんを前にすると緊張する。何から何まで考えが見通されているようで、少しでも隙を見せると僕が心の中で秘めているものを一個ずつファイルに分けて読まれている気持ちになるのだ)
鈴「く、くるがや……あのだな……」
来ヶ谷「おっと、話し合いをする前にクッキーはいかがかな?ちょうどこの間、親が送ってくれたんだ。外国の珍しい物だからな。誰かと分かち合いたい所だったんだ」
理樹(そう言って来ヶ谷さんは机の引き出しからお菓子が入った缶を取り出した)
来ヶ谷「さ、どうぞ」
鈴「あ、ありがとう……」
理樹「じゃあ僕も一つもらうね…」
理樹(今日の来ヶ谷さんはとても機嫌が良さそうだった)
理樹「ああ、それは……その……」
鈴「………」
理樹(いざという時に限って頭が上手く回転してくれない。横の鈴に助けを求めようと思ったが、鈴もだんまりを決め込んでいる)
来ヶ谷「……どうした」
理樹「いや、その!ほら……犯人を探そうかと思って、来ヶ谷さんに……意見を聞きたいんだ」
鈴「!?」
理樹(鈴が驚いた表情で僕を見る。しかし、この案は咄嗟に出て来たにしては悪くないと思う。むしろこれくらいしかわざわざ出向いて話し合う話題もないだろう。それに来ヶ谷さんならちゃんと真剣に僕らと向き合ってくれるはずだ)
来ヶ谷「ふむ……いや、なるほどな。そういうことか。なら少し私の持論を展開しようじゃないか」
理樹(案の定、食いついた)
理樹「そ、それで?」
来ヶ谷「そうだな。次に消去法で可能性が低い者を容疑から消していこうか。まず二木君。彼女は第一発見者だ」
来ヶ谷「だが彼女は明らかに違う。夜間のパトロールで寮母さんや他の出歩いていた生徒からのアリバイがある」
来ヶ谷「よって排除だ」
……………………………………………………………………
佳奈多部屋
パチパチ………
佳奈多「……う、ううん……?」
佳奈多(明日の一斉検挙に向けて準備を終えて早めに寝ておこうと思ったが、なにやら異様な臭いが鼻を刺激した。この臭い……とても身に覚えがある……確かとても危険な……)
パチパチパチッ!
佳奈多「…………ハッ!」
佳奈多(それを理解してからベッドから飛び起きるのに時間はかからなかった)
佳奈多「も、燃えている!ああ!そんな!」
佳奈多(よく見ると既に辺り一面が炎に包まれている。なぜここまで気づけなかったのだろうか?いや……まさか!)
佳奈多「ま、まさか……ここまで読んで私の元に訪れたの!?」
佳奈多(だが、確かにあの人から渡された糖分を補うためのアメを舐めてから急に眠たくなった。それは全て私を手遅れにさせるためだったのだろうか?もうベランダの方は火が強すぎて近寄れそうにない。ならば……!)
ガチャガチャ!!
佳奈多「!?」
佳奈多(バカな。ドアが開かない。外側から細工をされているのかどうしても外に出れない)
佳奈多「ああ、まさか……!!」
佳奈多(だとすると2人を殺したのは………私もあの人の標的だったというのか)
佳奈多(燃え盛る炎の中、私は犯人が分かっても混乱した。何故あの人がみんなを殺す必要があったのか!しかしこの答えは出る時間はなさそうだった。部屋に充満する煙が私の思考力をだんだん奪っていくのだ……ああ、何故あなたは……何故……)
佳奈多「…………………………」
バタッ
来ヶ谷「だから葉留佳君も排除しよう」
……………………………………………………………………
恭介(三枝はふらふらと電気ポットの方に歩いて行き、そして何かを思い出したかのように今度はすぐ横の食器棚に視線を落とした)
葉留佳「そうだったそうだった……カップカップ……」
ガラッ
クィンッ
ドスッ
葉留佳「………………」
恭介(妙な音がした。三枝が食器棚の扉を開けた後に何か針金が勢いよく伸びた音と、何かが何かに突き刺さる音が聞こえた)
恭介「おい三枝、今のはなんだ?」
三枝「………………」
恭介「おい、三枝……っ」
バタンッ
三枝「あ……あ……」
恭介「なっ!?」
恭介(三枝が仰向けに倒れた。受け身を全く取らずに俺の前へ。そしてその理由は胸に突き刺さった金属の棒のせいだろう)
恭介「さ、三枝ーーっっ!!」
来ヶ谷「とりあえず彼女も排除して構わんだろう」
………………………………………………………………………
美魚「んん…………!」
謙吾「………!!」
謙吾(驚きを言葉に発するより早く俺はハメられたのだと悟った)
謙吾「くそっ………」
謙吾(西園はベッドに括り付けられ、その頭の横には目覚まし時計の代わりにダイナマイトが添えてあった。そのダイナマイトにはご丁寧にデジタル式のタイマーが設置されており、そのカウントダウンは減り方からして残り3秒に迫っていた。何より最悪なのは、タイマーから伸びるワイヤーを目で伝っていくと俺が捻ったドアノブにたどり着くということだ。引き金を引いたのは俺だった)
謙吾「すまない西園。恭介達を信じるしかない」
西園「…………………」
謙吾(西園は静かに頷いた。それから後の表情は不自然なほど眩ゆい光に掻き消されて見えなかった)
理樹「ん……」
理樹(たった今、地面が大きく揺れた気がした)
鈴「地震か?」
来ヶ谷「さあね……」
理樹(その時、なんとなく来ヶ谷さんの口角が上がった気がした)
来ヶ谷「とにかく、私の持論からすればみんな怪しくない訳だ。鈴君はそもそも毒を用意出来るようには見えないしね」
理樹「つ、つまりリトルバスターズから犯人はいないってことだよね!」
鈴「一安心だ」
来ヶ谷「む?何を言っている。1人いるじゃないか」
理樹「えっ?」
理樹「な……なに言ってるの……?」
鈴「く、くるがや?」
来ヶ谷「はっはっはっ……察しが悪いフリか?やれやれだな」
理樹(そう言って来ヶ谷さんはゆっくりと椅子から立ち上がり、スカートに手を伸ばした)
来ヶ谷「こんな事もあろうかと『菓子』を用意しておいてよかったよ」
理樹(そしてその手はナイフを掴んで出てきた)
理樹「くっ、来ヶ谷さ……うっ!?」
理樹(その時、突然足が痺れた。血流が止まっていたからではない。一歩も自分の意思で動かせなくなってしまった)
鈴「……ッ!」
理樹(隣の鈴も同じ風に足を痙攣させている。先程のクッキーに仕掛けがあったのか!)
理樹「くそう!なんで来ヶ谷さんが!」
来ヶ谷「すまないな理樹君……鈴君を始末するのに邪魔があっては困るんでね」
鈴「まさかくるがやが……みんなを……?」
理樹(来ヶ谷さんは鈴に答える代わりにニヤリと笑いかけてみせた)
理樹「ど、動機は!?」
来ヶ谷「動機?ああ、そうだな……確かに君らには分からないな。よし、せっかくだし話してやろう」
理樹「グッ……」
理樹(そうこうしている間に痺れは全身へ達していた。バランスを崩してベッドからずるずると滑るも受け身を取る姿勢さえ出来ず、そのまま地面へ激突するしかなかった。来ヶ谷さんは気にしていないのかそのまま話を続けた)
来ヶ谷「あれは理樹君の部屋に……いや、正確には部屋の前に訪れた時のことだった」
来ヶ谷「君が看病された晩、部屋に忘れ物をしていたので渡してやろうとドアに手をかけると話が聞こえた」
『恋さ。理樹、お前は来ヶ谷に恋をしているんだ』
『えっ?』
理樹「…………!」
来ヶ谷「私は恥ずかしながらもときめきを感じたよ。ああ、そうか、理樹君と私が恋愛沙汰に陥るのかと」
来ヶ谷「正直、あそこまで動揺したのは初めてだ。一瞬で色んな考えが頭を巡った」
来ヶ谷「………だが、その後、君はなんと言った?」
理樹「そ、それは……」
理樹『僕は別に来ヶ谷さんのこと好きって訳じゃないから』
来ヶ谷「君は他の女の子の方がいいと言った。このままではせっかく芽生え始めた恋が栄養を与えられず枯れてしまう……だからそこで私は名案を思い浮かんだんだ」
来ヶ谷「だったら殺せばいいじゃないか!」
鈴「!」
来ヶ谷「そうさ!理樹君が振り向かないなら理樹君に私しか見れなくすればいい!他の娘をみんなみんな消してしまえばもう私と君しかいないんだ!」
理樹「狂ってる……」
来ヶ谷「安心したまえ、君にこんな姿を見られたところで記憶を消せば元通りだ。もちろん私以外の女性の記憶もないがね」
理樹「な、何を……!?」
理樹(記憶を消すだと?そんな芸当すら出来るのかこの人は!)
ダダダッ
来ヶ谷「む……?」
バンッ
理樹(突然後ろから扉を乱暴に開ける音が聞こえた)
恭介「理樹!鈴!大丈夫か!?」
鈴「恭介!ダメだ!」
来ヶ谷「ははははっ!」
恭介「し、しまっ……!」
理樹「や、やめろーーっっ!!」
ドスッ
理樹(止められなかった。来ヶ谷さんは持っているナイフを恭介に勢いよく投げ飛ばした。その刃先は無慈悲な程、正確で恭介の腹部に深く食い込んだ)
恭介「ガッ……ち、血迷ったか……!!」
来ヶ谷「慌てるな恭介氏。私が心から満たされたと感じたら”主導権”などすぐにくれてやる。だから今はそこで大人しくしておいてくれ。用が済んだら『やり直し』をかける」
恭介「ま、待て……!」
来ヶ谷「さて……」
理樹(そして来ヶ谷さんは後ろにあるタンスの引き出しを漁った。普通タンスは服を仕舞うはずなのに、来ヶ谷さんのそれは不気味な金属のぶつかる音を響かせた)
来ヶ谷「んー……」
来ヶ谷「……鈴君、プラスとマイナスならどちらがお好みかね?」
理樹(来ヶ谷さんは二本のドライバーを手にし、引き出しを閉めた)
理樹(鈴の手が細かく揺れるのは筋肉の痙攣か、はたまた不安の表れか。とにかくこのままでは最悪の結末が起こる。ええい、これがもしもゲームだとしたら!どこかで未来が決まる選択肢があったとすれば!僕はどこでルートを間違えたというのだろうか!)
来ヶ谷「君で最後だ」
恭介「ぐっ……もはやここまでか……!」
理樹「…………っっ!」
理樹(いいや、まだ終えない!)
理樹「来ヶ谷さん!」
来ヶ谷「…………なんだ?」
理樹(来ヶ谷さんはいい加減疲れたといった感じで僕に聞き返した。どういう訳か直感でもう来ヶ谷さんは今の僕に興味を失っていることが分かった。先の言う通り僕の記憶を消すということは、来ヶ谷さんは新しい僕に心を注ぐ訳で、つまり、過去のものである僕などその辺の石ころ程度にしか思っていない)
理樹(ということはもう来ヶ谷さんは僕のとの会話はこれ切りにしたいと思っていてもおかしくない。逆に考えれば僕が来ヶ谷さんの行動を変えられるチャンスは今しかないという事だ)
理樹(考えろ直枝理樹……この一言ですべてが決まる。来ヶ谷さんの心を100%動かせなければあのドライバーのどちらか、もしくは両方が鈴に襲いかかる。そして最後に息している者は1人しかいなくなるだろう。一言……これまでの来ヶ谷さんの言動から推理しろ!脳が擦り切れるまで回転させろ!!)
来ヶ谷「……………」
恭介「……………っ!」
鈴「理樹………っ!」
『なにィ!?り、理樹が来ヶ谷にときめきを感じているのか!!』
『私は恥ずかしながらもときめきを感じたよ。ああ、そうか、理樹君と私が恋愛沙汰に陥るのかと』
『そうさ!理樹君が振り向かないなら理樹君に私しか見れなくすればいい!他の娘をみんなみんな消してしまえばもう私と君しかいないんだ!』
理樹(……………これしかない!)
理樹「来ヶ谷さん……」
来ヶ谷「………」
理樹「好きだーーーーっっ!!!」
恭介「ハッ!」
鈴「!?」
来ヶ谷「…………えっ……」
理樹「…….ハァッ……ハァッ……」
来ヶ谷「………………」
来ヶ谷「……………グスッ…」
カランカランッ
理樹(来ヶ谷さんがドライバーを落として僕の元に駆け込んだ)
理樹「ち、ちょっ……!?」
来ヶ谷「…………………」
理樹(だが、来ヶ谷さんは僕を絞め殺そうとも目玉をえぐり出そうともせず、ただ両腕で抱擁した)
鈴「な、なにィ!?」
恭介「マジかよ………」
来ヶ谷「だけどせめて……もうこれっきり、みんなの前には現れない。だからもう少しだけこうさせてくれ……」
理樹「………………」
理樹(やはり来ヶ谷さんの抱える事情はよく分からないが、言わんとしていることは分かる。もう少ししたら来ヶ谷さんは永遠に僕の元を去るつもりなのだ)
恭介「いや……その心配はないぜ」
鈴「恭介!大丈夫なのか!?」
恭介「こんな痛みはもう慣れてる……それより来ヶ谷、お前が消える必要はない」
来ヶ谷「なんだと……?」
恭介「そう言う事ならいいんだ……きっとみんなもお前の行動を許してくれるはずだ。お前が我慢してどうする……この世界は全員が救われてやっと意味を持つんだ。確かにお前の願いは暴走するかもしれない……だったらその時は俺と謙吾と真人が止めてやるから……だから安心してやらかせ!」
来ヶ谷「恭介氏……」
理樹「………あ、あれ?」
理樹(気づくと部屋のあちこちに白い靄のようなものが浮いてきた。霧か?)
来ヶ谷「分かった……それじゃあやってくれ」
恭介「おう」
鈴「な、なんだ!?なにも見えない!」
理樹「えっ、なんだこれ!」
理樹(次第にそれは大きな雲となって部屋を包み、僕の視界がすべて白くなり、意識も並行して薄らいでいくような…………)
理樹(……………………………………………)
理樹(……………………………)
理樹(…………)
夕方
理樹部屋
理樹(今日、僕はまた例の病の発作で倒れてしまった。たまたま近くに来ヶ谷さんが居てくれたのは良かったんだけど……)
恭介「理樹………理樹?」
理樹「……はっ!え、えっと……なに?」
真人「次、理樹の番だぜ」
理樹「え?あっ……」
理樹(真人が中心に置かれたトランプの山を指差した。そうだ、今は大富豪の真っ最中だったのだ)
謙吾「どうした理樹?来ヶ谷に看病してもらってきてからずっとぼうっとしてるじゃないか」
理樹「あっ、えっと……」
理樹(謙吾の言う通り僕は来ヶ谷さんと別れてからずっと放心状態になっていた。それは多分来ヶ谷さんの看病が原因だったのだろう。誰だって目覚めに美人が薄いシャツ姿でこちらを見ていたらドキッとするはずだ。それがスタイルもバツグンだというんだ。頭がパンクしてもおかしくない)
恭介「フッ…とうとう理樹もそういう時期になっちまったか」
理樹「そ、そういう時期って?」
恭介「恋さ。理樹、お前は来ヶ谷に恋をしているんだ」
理樹「えっ?」
『どうした理樹?来ヶ谷に看病してもらってきてからずっとぼうっとしてるじゃないか』
『あっ、えっと……』
来ヶ谷「…………………」
来ヶ谷(看病した後、少年が去った部屋を見ると、彼の携帯が床に落ちていた。せっかくなので届けようとここまで来たが……どうやら面白い話が聞けそうだな。少し傍聴してみようか)
『フッ…とうとう理樹もそういう時期になっちまったか』
『そ、そういう時期って?』
『恋さ。理樹、お前は来ヶ谷に恋をしているんだ』
『えっ?』
来ヶ谷「!」
来ヶ谷(恋……恋だと?あの少年が私に?……馬鹿な……いや、しかし……)
『なにィ!?り、理樹が来ヶ谷にときめきを感じているのか!!』
『ち、ちょっと待ってよ!』
『ってことはまさか理樹はあの来ヶ谷に惚れちまったってことなのかぁぁあ!?』
来ヶ谷「…………っ」
来ヶ谷(いやいや、いやいやいや……慌てるな来ヶ谷唯湖。お前が取り乱すなどあり得ないことだ。これくらいのことで動じるんじゃない。……だけど、もしも理樹君が本当に私に好意を抱いているならば……わ、私は……)
恭介「そうか理樹……俺は前々から思っていたんだ。理樹は恋をするべきだと!恋に苦しみ、恋に傷つくことで人は成長する……恋愛が理樹を大人の男にするんだよ!」
理樹(恭介達の暴走はなおも続いた)
謙吾「となると、これから俺たちは全力で理樹の恋を応援することになるな。ふっ、任せろ。こう見えても巷ではロマンティック大統領と呼ばれている」
真人「クッ……納得いかねえが理樹が幸せになることが俺の幸せだ。ここはおとなしく来ヶ谷にゆずってやるとするか……」
来ヶ谷(……も、もしも少年が告白するとしたらいつになるのだろうか?いや、こういう時は私から言った方がいいのか?理樹君はこういうのは苦手だろうからな。だが私からいくとしてなんと声をかければいい?やっぱりシチュエーションが大事だな。例えば放課後の空き教室で待たせたり……ううむ、悩みどころだ)
恭介「よぅし!そうとなると早速作戦を立てよう!作戦名はオペレーションラブラブ……」
理樹「だから待ってってば!」
恭介「……理樹、いい加減水臭いぞ。こういう時は黙って俺たちの協力を……」
理樹「そうじゃなくてさ……」
理樹「もうちょっとこういうのは静かにやろうよっ……は、恥ずかしいよ……」
来ヶ谷「……………!」
来ヶ谷(絶対結婚しよう)
終わりんこ
リクエストを出していいのなら、葉留佳をメインヒロインでお願いします
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Entry ⇒ 2016.12.03 | Category ⇒ リトルバスターズ! | Comments (0)