【バンドリ】白鷺千聖「癒されたい」
※キャラ崩壊してます
――ファーストフード店――
奥沢美咲「どうしたんですか、藪から棒に」
白鷺千聖「たまにそういう気分になるのよ」
美咲「へぇ……珍しいですね。白鷺先輩がそんなこと言うなんて」
市ヶ谷有咲(……私としてはこの3人でテーブル囲ってる方が珍しいけどな……)
有咲(つかなんで白鷺先輩がいるんだよ……。奥沢さん、「寄り道しない?」なんて誘ってきた時になんも言ってなかったじゃん……)
美咲(……とか思ってそうだなぁ市ヶ谷さん)
美咲(すいません、白鷺先輩に誘われたなんて言ったら市ヶ谷さん来てくれなさそうだったから黙ってました。先輩とマンツーマンじゃちょっと怖かったんです)
美咲(かといってこころやはぐみを誘ったらどうなるかなんて想像もしたくなかったから、常識人なあなたを頼りました。ごめんなさい、恨むなら破天荒なこころとはぐみを恨んでください)
千聖「美咲ちゃん、有咲ちゃん、どうかしたの? なんだかお互いをチラチラ見合ってるけど」
有咲「い、いえ、なんでも……」
美咲「あー、気にしないでください」
美咲「それより、珍しいつながりで言えば白鷺先輩からあたしたちにお誘いをかけるのも珍しいですね。何かあったんですか」
千聖「……たまにはね、私も吐き出したくなることがあるのよ」
千聖「ハッキリ愚痴を言わせてもらうと芸能活動シンドイです……なんてね」
有咲「それ別のアイドルの歌じゃないですか……」
千聖「今日はそういう気分なの」
美咲「どうしてそれにあたしと市ヶ谷さんを呼んだんです?」
有咲(私は知らないうちに巻き込まれてただけだけどな)
千聖「花音」
美咲「はい?」
千聖「花音に癒されたいからよ」
有咲「はぁ……?」
美咲「それ、あたしたちと何か関係あります?」
千聖「あるわよ」
千聖「まず第一に、花音と私は親友と呼んでも足りないくらいの仲なのは周知の事実よね?」
有咲(初耳だけど……)
美咲(白鷺先輩と花音さんが仲いいのは認めますけど、あたしと花音さんの方がもっと仲いいですからね)
千聖「親友以上である私に見せてくれる花音も十分に癒される。だけどね、同じバンドの子、それと普段はあまり関りのない子に花音がどんな表情を見せるのか」
千聖「普段は見れない色んな花音。私はそれを知りたいの。それに癒されたいの」
美咲(あー、分かります分かります)
有咲(……それってここにいるの私じゃなくてもよくね?)
千聖「そして今日はここで花音がバイトをする日。あとは言わなくても分かるわよね?」
美咲「ええ、分かりました」
有咲(いや分からねーよ。白鷺先輩もおかしいけど奥沢さんも大概だよ。絶対めんどくさくなるやつじゃんこれ)
有咲(ああ……もう帰りてー……)
松原花音「お、お待たせしました、ポテトをお持ちしました」
千聖「ありがとう、花音」
美咲「こんにちは、花音さん」
花音「うん、こんにちは。えへへ、最近よく来てくれるね、千聖ちゃんと美咲ちゃん」
有咲(ああ居心地悪ぃ……仲の良い友達同士の中についうっかり紛れ込んだこの空気……)
有咲(香澄とかおたえならどうするだろうなー……多分まったくその場の空気なんか気にしねーだろうなー……)
花音「一緒に有咲ちゃんがいるのって、なんだか珍しいね」
有咲「ど、どうも……」
千聖「たまには、ね。色んな人と交流がしてみたいじゃない?」
有咲(どの口が言うんだよ。アンタ、松原先輩の色んな顔が見たいだけだろうが)
丸山彩「花音ちゃんごめーん! こっち手伝って貰っていいー!?」
花音「あ、はーいっ、今行きまーす! ごめんね、ちょっと今日忙しくて……」
千聖「いいのよ、花音。私たちのことは気にしないで」
美咲「頑張って下さいね」
花音「うん、ありがとね。それじゃあ、ゆっくりしていってね」ニコ
千聖「…………」
美咲「…………」
有咲「…………」
千聖「はぁ……あのふわふわした空気……癒される」
美咲「分かります」
千聖「なのに彩ちゃんときたら……もうちょっと1人で頑張れないのかしら?」
美咲「ですね。あのピンクの人はその辺の空気をもう少し読むべきですね」
千聖「まったくその通りね」
有咲(無茶苦茶だろそれ。なんで今日の白鷺先輩と奥沢さんはこんなにバグってんの?)
千聖「有咲ちゃんはどう?」
有咲「は、はい!? ど、どうって……何がですか?」
美咲「花音さんに癒されない?」
有咲「え、えーと……ちょっと、よく分からないかな……」
千聖「そう……なら語り甲斐があるわね」
美咲「ですね」
有咲(なんだよ語り甲斐って……どうして奥沢さんもそれに何の疑問も持たずに頷いてるんだよ……)
千聖「私ね、花音と旅行に行きたい」
美咲「へぇ、どちらまで?」
有咲(唐突すぎるだろ。なんで今日に限ってツッコミ放棄してんだよ奥沢さんは)
千聖「ロシアの星空を見に行きたいわね……極寒の中、身を寄せ合って歌でも歌いたいわ」
千聖「見上げてごらん 夜の星を……なんて」
有咲(……アイドルだけあってこんな時でも普通に歌上手いのがなんか癪だ)
千聖「でもね、やっぱりロシアは遠いわ。だから手近の北海道に行きたい」
千聖「飛行機でパッと行くのはちょっと違うから、電車で行くの。新幹線に乗って……そうね、青森まで」
千聖「東京を出て、車窓からの風景にどんどん緑が増えていく」
千聖「季節は6月がいいかしら? あまり暑すぎない日を選んで、雨が降ったら降ったでそれもいいわ。風流というものでしょう」
千聖「これからの旅に心が昂って、普段よりもはしゃいでいる花音を見ながら、新幹線は新青森駅に到着する」
千聖「そうしたら、タクシーでフェリーターミナルへ向かうの」
千聖「運転手さんに『デートですか?』なんて聞かれて顔を赤くする花音にちょっとイジワルしてるうちに、青森フェリーターミナルへ着いて……そこで気付くのよ」
千聖「うっかり時間を間違えていて、もう出港間もないって。だから2人で慌てて船に乗り込んで……」
――――――――――――
―― フェリー ――
花音「はぁ、はぁ……間に合った……。ちょっと危なかったね」
千聖「ええ……まさか出港と着港の時間を見間違えてたなんて……ごめんなさい、花音」
花音「え?」
千聖「私のせいでこんなに急がせることになって……もっとフェリーターミナルでゆっくりしたかったでしょう?」
花音「ううん、大丈夫だよ。むしろ私の方こそごめんね? 旅行の計画とか、ほとんど千聖ちゃんに任せっきりにしちゃって……」
千聖「ああ、そんなことは気にしないでいいのよ。私がやりたくてやってることだもの。それにほら、花音だって私と一緒にどこへ行きたいかって考えてくれたじゃない」
千聖「あなたとそういうことを話すのも楽しかったし、1人で旅程を練っているのも楽しかったわ」
千聖「花音は一緒にどこどこへ行きたいって話したりするの、楽しくなかったかしら?」
花音「ううん。すごく楽しかったよ」
花音「喫茶店とかで一緒に旅行雑誌を見てお話しするの、すごくワクワクしたよ」
千聖「私もそれと同じ気持ちよ。だから気にしないで」
花音「……うん、分かった。千聖ちゃんも、その、時間を間違えちゃったのとか気にしないでね?」
花音「きっとこういう失敗も旅行の醍醐味……っていうのかな? そういうのになると思うから」
千聖「ええ。ありがとう、花音。やっぱりあなたは優しいわね」
花音「う、ううん、そんなことないよ。でも、千聖ちゃんにそう言ってもらえるのはちょっと嬉しいな……えへへ」
千聖「ふふ……」
花音「あ、もう船が動き出すみたいだね。席に行こっか」
千聖「そうね。えーと、オーシャンビューシートは船首の方だから……こっちね」
――――――――――――
千聖「そんな風にね、ちょっとしたハプニングなんかもありながら、函館までフェリーで渡るの」
千聖「席はビューシート。船首の方にあって、席の前に備えられた窓から景色がよく見える」
千聖「でもね、港を出て30分もするともう海しか見えなくなるのよ、ああいう席って」
千聖「ほとんど何も変わらない景色。ただ波をかき分けて、ゆったりと、まるで動いてないみたいに船は進む」
千聖「中天を過ぎた昼下がりの陽射しが窓から差し込んできて、私たちの足元を柔く照らすの」
千聖「6月。無理を言って平日に旅程を組んだから、ビューシートに人は少ない」
千聖「静かな船室。次第に2人のささめきもなくなって、ただ穏やかな時間が流れるのを感じる」
千聖「言葉というものは人のコミュニケーションに欠かせないものだけど、果たして私と花音の間ではそれにどれほどの重要度があるのかしら」
千聖「そんなことを考えていると、隣に座る花音から小さな寝息が聞こえるの」
千聖「朝からはしゃいでいたし、きっと前日の夜もなかなか寝付けなかったんでしょうね」
千聖「それに胸がくすぐられるの感じながら、私もゆっくりと瞼を閉じる」
千聖「ある人が見ればそれはもったいないことなのかもしれない。けど、私にとってその時間はなにものにも代え難いわ」
千聖「そっと左手を花音の手に重ねて、その存在を、温もりを感じてまどろむ」
千聖「夢見心地、世俗との交差点。その間をたゆたうように船を漕ぐ」
千聖「そんな旅行を花音としたいの」
有咲(どこからツッコめばいいんだよ)
美咲「いいですね、それ」
有咲(ああもう、奥沢さんは奥沢さんでやっぱどっかおかしいし)
千聖「でしょ?」
美咲「とても癒されます」
千聖「有咲ちゃんはどう思う?」
有咲「え、えーと、まぁ……そうやってのんびりと過ごすのは癒される……んじゃないですかね、多分?」
千聖「そう……まだまだ花音の魅力を伝えきれていないみたいね。しょうがないわね、話を続けましょう」
有咲(言葉の割には嬉しそうな顔してないか……絶対松原先輩のことまだまだ話したいだけだよこの人……)
美咲「それで、フェリーで函館に着いたらどうするんですか?」
有咲(奥沢さんも先を促すなよ。もうお腹いっぱいだって私)
千聖「そうね……4時間弱の航路を終えたら、またタクシーで函館駅前に行って、まずは予約していたホテルにチェックインね」
千聖「東京を発ってから約10時間。部屋に荷物を置いて、少しゆっくりするの」
千聖「時刻は19時前。日没に合わせてホテルを出て、タクシーで函館山まで行こうかしら」
千聖「バスやロープウェイは混むし、そんな人が多い乗り物を使おうものなら私がフラ〇デーされてしまうもの。でも……ふふ、それも悪くないかもね」
有咲(おいおいアイドルだろアンタ。プロ意識の固まりだった白鷺先輩はどっか出かけてんのかよ。さっきからバグりすぎだろ)
有咲(ていうか同性の友達と旅行してるだけでフ〇イデーなんてされねーだろ普通)
有咲(その辺にツッコミ入れたいけど入れられる空気じゃねーし……奥沢さんは奥沢さんで真面目な顔して話聞いてるし……)
千聖「話が逸れたわね。それで、函館山の夜景を見に行くの」
千聖「山道は狭いから、時おり対向車線のバスやタクシーに道を譲って、私と花音を乗せた車はゆっくりと山頂へ進む」
千聖「徐々に目線が高くなっていく景色。茂った木々の隙間から見える華やかな灯り」
千聖「その中腹の時点でも十分に綺麗なのよね、ここの夜景って」
千聖「だから期待が煽られる。山頂からはどんな素晴らしい景色が見えるんだろうって」
千聖「私はそんなワクワクして楽しそうな花音を見ているだけで心が洗われるわ」
千聖「そして、函館山の頂上にタクシーは着くの」
千聖「車から降りてまず最初に目に付くのは人の多さ」
千聖「こんなに人が多い場所ではぐれてしまったら大変よね? だから……」
――――――――――――
――函館山 展望台――
花音「す、すごいいっぱい人がいるね」
千聖「ええ。やっぱり世界有数の夜景だけあるわね」
花音「うん……」
千聖「……花音? ソワソワしてるけど、どうかしたの?」
花音「あ、ううん、なんでも……なくはないんだけど……」
千聖「何かあるなら話してくれていいのよ。私たちの間に遠慮なんていらないわ」
花音「う、うん。それじゃあ、あの……はぐれちゃうと大変だから、ね?」
千聖「ええ」
花音「手、繋ぎたいなって、ちょっと思うんだ……」
千聖「……ふふ、花音とならいつだってそれくらいするわよ」
花音「ほんと? えへへ、ありがと。それじゃあ――」
千聖「でもそれだけだとはぐれてしまうかもしれないわ」
花音「え?」
千聖「それに、やっぱり標高が高いと少し冷えるわ。だから……この際だし、私と腕を組んでおきましょう」
千聖「そうすれば温かいし、はぐれる心配もなくなるわよね?」
花音「千聖ちゃん……」
千聖「花音は私と腕を組むの、お嫌かしら?」
花音「ううん、そんなことないよ」
千聖「ふふ、よかった。それじゃあ、はい」
花音「うんっ」ギュッ
花音「……えへへ、あったかいね」
千聖「ええ。これなら人混みの中に紛れても安心ね」
花音「そうだね。じゃあ、行こっか」
千聖「そうね。良い位置で景色が見られればいいんだけど……」
――――――――――――
千聖「そうして身を寄せ合った私と花音は、夜景が見えるところまで行くの」
千聖「最前列の手すりにはやっぱり人がいっぱいいて……でも、少し後ろの方からの景色もとても素晴らしいものだわ」
千聖「夜の帳が降りた街。そこかしこで煌めく灯り。その輝き1つ1つの袂に人の生活が根付いているんでしょう」
千聖「楽しくて笑っている人、悲しくて泣いている人、虚しくてぼうっとしている人」
千聖「顔も知らない誰かの生活を勝手に空想して、星座の線みたいに街の灯を結ぶ」
千聖「そうしている間に、ちょうど私たちの目の前の手すりにいた人たちが退いた」
千聖「自然と前へ足を動かす私と花音」
千聖「展望台の最前列、何も視界を遮るものがなくなった夜景」
千聖「思わず感嘆のため息が出る私と、「わぁっ」と目を輝かせる花音」
千聖「何かを話そうかと思った。何かを話したいと思った」
千聖「でも、同時に何も話したくないとも思った」
千聖「花音の声が聴きたい。だけど言葉を交わせば、この幻想的な空気がありふれた生活感に染められてしまうかもしれない」
千聖「少し迷って、結局私は何も喋らないの」
千聖「ただ、眼前の星空と街灯りを見つめ、右腕に花音の存在を感じている」
千聖「その温もり以上のものを求めるだなんてきっと罰当たりなくらい欲張りなことなんだろう」
千聖「そんなことを思って」
千聖「……はぁ、花音と旅行に行きたい。花音に癒されたい」
有咲(長々喋って結局それかよ)
美咲(分かるなー、あたしも花音さんの肩を抱きながら夜景見たいなー。でもあたしは花音さんの耳元で優しく愛を囁きたいなー)
有咲(奥沢さん、すげー真面目な顔してるけど絶対にロクなこと考えてねーだろうな)
千聖「どう、有咲ちゃん? これで分かってもらえたかしら?」
有咲「あー、えーっと……なんていうか……」
有咲(『そう言えばそんな話でしたね』なんて言ったらやっぱ怒るよな……でもただ妄想を聞かされてるだけにしか思えなかったっていうか……)
千聖「いまいちピンと来ていないみたいね……どこかに不備があったかしら」
美咲「ないと思いますよ、あたしは」
有咲(不備があんのはアンタら2人の頭だよっ、って言いてぇなー。怖いから言わないけど)
美咲「あ、もしかしてあれじゃないですか? 市ヶ谷さんって花音さんとはあんまり親交がないから……」
千聖「ああ、花音との日常から話をして普段のあの子の素晴らしさを1から教えないとダメってことかしらね。ふふ、しょうがないわね」
有咲「い、いえ、流石にそこまでして頂く訳にはいきませんので……」
有咲(どんだけ時間かかるんだよそれ。絶対今日1日で終わらないだろ)
千聖「そんな遠慮なんてしなくていいのに」
美咲「んー、じゃああれだ。花音さんじゃなくて、市ヶ谷さんの大切な人に置き換えて考えてみれば少しは分かるんじゃないかな?」
有咲「はぁ……?」
千聖「そうね。それは正確に花音の魅力とは言えないかもしれないけれど、今日のところは私の気持ちを分かってくれるだけでも十分だわ」
有咲(『今日のところは』ってなんだよ。まだ次があるみたいな言い方は止めろよな……)
美咲「それじゃあ大切な人を思い浮かべてみましょうか、市ヶ谷さん」
有咲「え、マジでやるの……?」
美咲「はい、マジです」
千聖「もちろんよ、有咲ちゃん」
有咲「えぇ……」
美咲「市ヶ谷さんの大切な人って誰だろ。やっぱりポピパの……」
千聖「……香澄ちゃん、かしらね?」
有咲「は、はぁ!? どうして香澄がここで出てくるんですか!?」
有咲「べべ、別にアイツは特別に大切な人とかそういうんじゃないし……」
有咲(それに香澄と2人っきりで旅行とか……まずアイツ、絶対に楽しみにしすぎて前日眠れなくて遅刻するだろ)
有咲(北海道まで行くんだから新幹線とフェリーの乗り継ぎに支障が出ちまうじゃねーか。ったく、そしたら前日に私の家に泊めるしかねーよな。まったくしょうがねー奴だよな、ほんと)
有咲(そんで夜遅くまで「旅行楽しみだねー! 行くとこ決まってるけど、私ここも行きたいなー。あ、でもでもこっちの観光も捨てがたいかも。ねぇねぇ有咲! 有咲はどっちがいいと思う?」なんてキラキラした目で聞いてきてお前早く寝ないと明日絶対起きれねーぞ何のために私の家に泊まってんのか分かってるのかよなんて言おうものなら「え? そっちの方が楽しいからじゃないの?」とかキョトンとした顔するんだろうなまったく本当に香澄はしょうがねーな)
有咲(で翌朝には案の定寝坊して慌ただしく準備してでもしっかりばあちゃんの朝ご飯は食べて出発してもう鬱陶しいくらいにテンション高くベタベタ引っ付いてくるんだろうな香澄は。……まぁ私もそういう時くらいはちょっとテンションも上がってるかもしれないな可能性としては。それと白鷺先輩の話だと松原先輩はフェリーで疲れて寝てたみたいだったけどどうせ香澄はずっと元気なままだろうなぁ。「見て見て、すごいよ、ずーっと海が続いてるよ!」いや見りゃ分かるってなんでそんなテンション高いんだよなんて返そうもんなら「だって有咲と一緒だし~えへへへ~」とか言うんだろうな。なんなんだよ私と一緒だからってふざけんなよまったくもう本当に仕方ないやつだなちくしょう)
有咲(香澄のことだから大人しく座席に座ってるなんてことはないだろうしきっと「甲板とかに出れないのかな? ねぇねぇ有咲、ちょっと探検しに行かない?」なんてことも言うだろうな。お前気持ちは分かるけどちょっと落ち着け。私はたまには香澄と一緒にのんびりしてたいんだよ。こうやって2人きりになるのって最近すごく少ないし私だってたまにはそういう気持ちになるんだよ察しろよ――なんて言っても察してくれないだろうな、って思いそうだけど、実際アイツはそういうところって結構鋭いんだよな。この前のテストとライブのいざこざは1000%私が悪かったし出会ってすぐの頃はおたえにばっか会いに行っててそりゃちょっと面白くはなかったけどでもなんだかんだで人の気持ちをちゃんと分かってやれる優しいやつなんだよな香澄って。だから人の悩みにはどんどん首突っ込んでくるのに自分のことになったら勝手に抱え込んで落ち込むし……いやまぁその辺りのことは私も人のことは言えないんだけど今はそういうのじゃなくて香澄のことだよ。とにかく考えなしに突っ走るようなやつに見えて実際そうだけどでもポピパで一番付き合いが長くて深いと言っても過言じゃない私からすれば香澄の人を思いやれる優しいところとかそういう良いところは眩しすぎて見えないくらいに分かってるからそれはそれでいいんだけどさ)
有咲(しっかし函館山か……確かにネットとかで見たことある夜景もすげー綺麗だったし実際に見たらものすごく綺麗なんだろうな。きっと香澄も目を輝かせるだろうよ。「上にも下にも、キラキラがいっぱいだよ有咲!」なんてな。でも私から言わせればお前の方がずっとキラキラしてるよやめろよそうやって無邪気で輝いた笑顔を見せるのは他のやつに見せたら色々勘違いさせちゃうかもだから私の前だけでしろよな、なんて思わず口から勝手に言葉が出ていきそうになるよまったくどういうつもりなんだろうな香澄のやつは。ああそうだ函館といえば五稜郭もあるな。夜景を見終わってホテルに戻ったらずっとはしゃいでた疲れが一気に出てすぐに寝そうだなアイツ。「ありさぁ……明日もたくさん遊ぼうね……えへへ、五稜郭って星みたいだしね……楽しみぃ……」なんて半分閉じかけた目で言ってきてさ、ああもう眠いなら早く寝ろっての。お前を起こす私の身にもなれっての。今日の朝はギリギリ踏みとどまったけどな、香澄の幸せそうな寝顔とかずっと見てたくなるし起こしたくなくなるんだよ。まったく出来ることなら起こさずにずっと眺めてたいっていう私の気も知らないでいいもんだよなお前は。……まぁそういうところがまたいいんだけどさ香澄は。なーんも考えてなさそうな寝顔を見てさ、なんか幸せだなって思って、でももしかしたらスペースのライブん時みたく色んなものを抱え込んでんのかもしれないんだよな。その全てを分かってあげたいなんて傲慢ちきな願いが叶うとは思わないけどでもその半分でも、4分の1でも、10分の1だっていいから私にも打ち明けて欲しいだなんて思って私もきっと眠るんだろうな。明日もいい日になりますように、なんて香澄が隣にいればそんなの当たり前のようにくるのに、殊勝に祈ったりなんかして……)
千聖「……有咲ちゃん?」
有咲「…………」
美咲「おーい、市ヶ谷さーん」
有咲「……はっ!?」
千聖「ずいぶん熱心に想像していたみたいね」
美咲「呼びかけても全然返事しなかったね。そんなに戸山さんとの旅行を考えるの楽しかったの?」
有咲「だっ、べ、別にそういうんじゃないから……! いや、そりゃ香澄との旅行なら楽しそうだなとは思ったけど、本当にそういうんじゃねーから!」
千聖「ふーん……」
美咲「へぇー……」
有咲(……なんか2人の視線が痛い。いやいやいや、私そんなにおかしなこと考えてなかったよな……あれくらい親友なら普通のことだよな……)
千聖「……なんていうか、有咲ちゃんってちょっとこう、イジワル――じゃなくて、構いたくなる性格してるわよね」
有咲「えっ」
有咲(今、明らかに『イジワル』って言ってたよな?)
千聖「ねぇ、有咲ちゃん。有咲ちゃんは香澄ちゃんとどんな旅行をしたいって考えていたの?」
有咲「え、いや、それは……」
千聖「私だけ話をして有咲ちゃんは話さないって不公平よね? 私にも教えてくれないかしら、香澄ちゃんとの旅行のプラン」
有咲「え、ええと……」
千聖「話せないの? 話せないようなほど過激なことを考えていたの? その内容が気になるわね。後学のためにも教えてもらえないかしら?」
有咲(……圧が強い!)
有咲(すごくいい笑顔なのになんか怖い!)
有咲(それにこの顔知ってる、沙綾が私をからかおうとしてる時の笑顔を何倍か凶悪にしたやつだよこれ!)
美咲「白鷺先輩、そこまでですよ」
有咲「お、奥沢さん……」
千聖「あら、私と有咲ちゃんの間に割って入って……どういうつもりかしら?」
美咲「どういうつもりもなにも、市ヶ谷さんは喋りたくないみたいですし……そんなに無理に聞き出すことでもないでしょう?」
千聖「へぇ……これが噂に聞く『彼氏面』ってやつかしら?」
有咲「か、彼氏面?」
美咲「なんですか、それ?」
千聖「ふふ、よく耳にするわよ。なんだか特定の女の子にはずいぶんと優しく、まるで彼氏みたいに接するみたいじゃない、美咲ちゃんって」
有咲「あー……」
美咲「え、『あー……』ってなにさ、市ヶ谷さん」
有咲「いや……端から見てるとりみによくそういう態度で接してるなって思って」
美咲「えぇ……そんなつもりないよ、あたし……」
千聖「つまり天然の女たらし、というやつね」
美咲「そ、その言い方はよくないですよ!」
千聖「でも今のあなたの行動はまさにそれそのものだと思うわよ? 可愛く怯える女の子を背中にかくまうだなんて」
有咲(……あれ? 今のセリフちょっとおかしくね? 普通は『怯える可愛い女の子』って言い方じゃね? いや、私は自分を可愛い女の子だなんて思ってないけどさ)
美咲「いやいやいや、こういう子って放っておけないじゃないですか。それだけですよ、あたしの行動は」
有咲「……奥沢さん、その行動は嬉しいけど多分そういうところだと思う」
美咲「うん? なにが?」
有咲「まったくの無自覚かよ……」
千聖「根っからのジゴロなのね、美咲ちゃんたら」
美咲「だ、だからそういう言い方は止めてくださいってば!」
花音「あ、あの……」
千聖「あら、どうしたの花音」ニコ
美咲「お疲れ様です、花音さん」ニコ
有咲「…………」
有咲(睨み合う、なんて表現するのは大げさだけど、それに近いような状況だった白鷺先輩と奥沢さん)
有咲(松原先輩が来た途端、2人ともすげー優しい笑顔になってやがる……)
花音「彩ちゃんがうっかり忘れてたみたいで……注文抜けで遅くなってごめんね? 千聖ちゃんのアイスコーヒー持ってきたよ」
千聖「謝る必要なんてないわよ、花音。むしろ、話をしていて喉が渇いたところだったからちょうど良かったわ」
花音「そ、そう? なら良かった。あと、これが美咲ちゃんの分のポテトとウーロン茶、それと有咲ちゃんの分の三角パイと紅茶だよ。こっちも遅くなっちゃってごめんね」
美咲「いえいえ、忙しい中わざわざ持ってきてくれてありがとうございます、花音さん」
有咲「ええと……どうも……」
花音「お話の邪魔しちゃってごめんね? それじゃあ、まだやらなきゃいけないことがあるから……」
美咲「ええ。バイト、頑張って下さいね」
千聖「忙しいなら遠慮なく彩ちゃんに仕事を振っていいのよ」
花音「う、うん、ありがと……なのかな? では、ごゆっくりどうぞ」ペコリ
千聖「…………」
美咲「…………」
有咲「…………」
千聖「はぁ……やっぱり花音は癒し系ね」
美咲「ですね。全面的に同意します」
有咲(……まぁ、私も今回は松原先輩のおかげで助かった……のかな)
千聖「ふふ、今日は花音に癒されるのが目的だったし、有咲ちゃんをからかう――じゃなくて、有咲ちゃんとたくさんお話するのはまた後日かしらね」
有咲「え」
美咲「だからさせませんって。あたしの目の届く範囲じゃやらせませんからね。白鷺先輩のいるところじゃ市ヶ谷さんを1人にしませんから」
有咲「え」
千聖「あら、じゃあ学校では人目を忍んで会おうかしらね。その方が楽しそうだし」
美咲「出来るならやってみてくださいよ。絶対にあたしが守ってみせますから」
有咲「…………」
有咲「え、なんだよこの流れ!?」
それから後、有咲にちょっかいをかけようとする千聖さんとそれを守ろうとするみーくんという変な三角関係が出来上がって、有咲の胃痛がストレスでマッハになるのはまた別の話。
おわれ
なんていうか、色々とすいませんでした。
別件ですが、
『かのちゃん先輩がドラムスティックをしょっちゅうへし折るのは「方向音痴なので……一緒に楽器屋まで買いに行ってくれませんか?」というデートに誘うための口実』
『その帰りにまだまだ一緒にいたいからわざと道に迷おうとして先導するも最短ルートで駅に着いて「ふぇぇ」ってなるかのちゃん先輩』
という妄想を誰かが形にしてくれないかなーと思う今日この頃です。
HTML化依頼だしてきます。
あやちさ
みさかのん
ありたえ
の3人の妄想話だと思った
最後は俺の理想だけど
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526986340/
Entry ⇒ 2018.06.09 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】 あこ「紗夜さんにぎゃふんと言わせる!」 【安価】
~カフェ~
白金燐子「い、いきなりどうしたの……?」
宇田川あこ「もう怒ったよ! 紗夜さんに復讐してやるんだから!」
燐子「ふ、復讐……!?」
燐子(ど、どうしよう……。喧嘩なんてどうやって止めれば……)
あこ「今日だって!!」
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________________
~ネットカフェ~
氷川紗夜「すみません付き合わせてしまって……」
あこ「むしろいいくらいです! 紗夜さんもついに深淵なる闇の……え、えっと、一員になりましたね!!」
紗夜「い、いえ別にハマったわけでは……」
あこ「いやーネトゲ仲間が増えるのはうれしいです!!」
紗夜「……聞いていないようね」
あこ「で! 今日はなんのクエストやるんですか?」
紗夜「はい、このマークがついているところは全部やりたいと思ってます」
あこ「…………えっ? ん? ぜ、全部ですか?」
紗夜「当然です。マークがついていては気になって仕方ないじゃないですか」
あこ「い、いやー、あの…………」
紗夜「さあ、行きますよ」
あこ(ひええええええええええ!!!!)
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あこ「さすがのあこもあんな地道な作業はきつかったよ……」ゲンナリ
燐子「た、大変だったね……」
燐子(よっかた……。喧嘩じゃなくて……)
あこ「だからささやかな仕返しをしても許されるはず!」
あこ「クックック……。堕天せし女神の……、…えーっと、こう、受けるがいい!」
↓1 なにをする? ※エログロ、道徳的に受け入れがたい安価はずらします
あこ「クックック……。完璧なる策……」
作戦1【ポテトを横取りする】
燐子「あこちゃん!? それは命知らずにもほどがあるよ!?」
あこ「いや……、真の堕天使は退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!」
あこ「いこう!!」
~ファミレス~
湊友希那「今日の練習もお疲れ様」
今井リサ「みんないい感じだったよねー! んー! このパフェおいしー! 紗夜も一口食べる?」
紗夜「いえ、結構です」ソワソワ
リサ(ポテト待ち遠しいのが……)
燐子(全身から伝わってきます……)
「お待たせしました。山盛りポテトでございます」
紗夜「!!!!」
リサ「紗夜ー、お待ちかねのポテトだよー」
紗夜「ま、待ち望んでなんていません! 大勢でつまむならポテトがベストだと判断したまでです!」
燐子「あこちゃん……。ほんとにやるの?」ヒソヒソ
あこ(心を鬼にするんだ宇田川あこ!!!)
紗夜「まったく……もぐもぐ。今井さんは……もぐ、とんだ勘違いです」ニッコニッコ
あこ「ぐうう!!!」
友希那「あこ? どうしたの?」
あこ(あんな笑顔の紗夜さんからポテトをとるなんて……。あこには……)
リサ「さーよ! 一つもらうね!」
紗夜「あっ……。い、いえいいでしょう」
あこ(!! このタイミングなら!!)
あこ「あっ! あこも今日はポテトの気分だからもらっちゃいますね!」
あこ(これでほとんどのポテトを自分のお皿にもってけば…………!?)ゾクッ
――刹那、今までの人生の中で感じたことのない『恐怖』に襲われた。暗いところが怖い、幽霊が怖い、そういった類ではないもっと直接的で暴力的な『恐怖』
そう、『殺気』を向けられたことを本能が感じ取ってしまったのだ
ガシッ!
紗夜「はしたないですよ? 宇田川さん?」ニッコリ
あこ「すみません一つで大丈夫です」
~翌日~
あこ「ポテトこわいポテトこわい……」ガクガク
燐子「あこちゃん……。大丈夫?」
リサ「二人ともこんなとこでなにしてんの?」
燐子「あっ、今井さん……。実は…………」
リサ「あはは! なるほどねー。ちょっと面白そうじゃん!」
リサ「よし! ここはお姉さんがいい作戦を考えてあげよう!」
あこ「はっ!? あこは今までなにを!?」
燐子「よかった……。あこちゃん戻ってきた……」
↓1 なにをする? ※エログロ、道徳的に(ry
あこ「橙色の悪魔の……あー…、だ、出汁……」
作戦2【にんじんジュースを飲ませる】
リサ「これなら仕返しにもなるし健康にもいいね!」
燐子(好き嫌いをなくそうとするお母さんみたい……)
あこ「なるほど……。紗夜さんの弱点を突く策……」
あこ「これは勝った!!」
~スタジオ~
友希那「一度休憩にしましょうか」
リサ「じゃあ……。はい! 今日の差し入れだよー」
紗夜「これは……」
リサ「ん? 野菜ジュースだよ。みんなに作ってきたから!」
あこ(ふふっ、まさかリサ姉がこっち側とは紗夜さんも想像できないでしょ!)
あこ(あこは優雅にニンジンジュースを飲んで紗夜さんの苦しむ姿を見ていようじゃないか)ゴクッ
燐子「今井さんがせっかく作ってくれましたし……。いただきます……」ゴクッ
友希那「やはり体は資本……。健康第一というわけね……」ゴクッ
紗夜「なるほど。さすがは今井さんです」ゴクッ
リサ「あ!」
リサ「みんなが嫌いな野菜克服できるようにそれぞれの苦手なもので作ったから!」
あこ「ごばぁ!!!」←ピーマンジュース
燐子「ぶふぅ!!」←セロリジュース
友希那「がっは!!」←ゴーヤジュース
紗夜「ぶばぁ!!」←ニンジンジュース
リサ「あ、あれっ!? みんなどうしたの!?」
あこ(た、助、けて……。お、お姉ちゃん……)ビクッビクッ
燐子(セロリとはセリ科の植物でヨーロッパが原産改良品種が栽培されている1–2年草。 別名をオランダミツバといい、清正人参(きよまさにんじん)、セルリー、セレリィ、塘蒿ともよばれる。パセリを意味するギリシャ語のセリノンからイタリア語のセルラロの複数形であるセルラリとなり、フランス語のセルリが生まれて転訛し、英語名でセロリになったといわれる。コーネル、トールユタなどの品種がある。中国で改良されたキンサイ(芹菜、英: Chinese celery)は、広東セロリ(カントンセロリ)やスープセロリとも呼ばれる。葉、茎、根、実、ほぼ全ての部分を食用にでき、独特の強い香りがある。セロリアック、セルリアックなどの名称で呼ばれる根菜は同種の…………)※.wikipedia調べ
友希那(きょうのゆうはんはなにかしら)ボケー
紗夜(あれは……、三途の川ですね……)ウツラウツラ
リサ「お、おーい……。み、みんなー?」
あこ(リサ姉のお節介力を…甘く見て……い…た……)ガクッ
~さらに翌日~
あこ「ひどい目にあった」
燐子「あの日の夜セロリの大群が押し寄せてくる夢を見たよ……」
あこ「自分のことに精一杯すぎて紗夜さん苦しんでるとこ見るとかそんなレベルじゃなかったね……」
燐子「あこちゃん……。そろそろやめたほうが……」
あこ「……ラスト!! ラストにしよう!!」
あこ「勝利の女神は最後に微笑むのだ!!!」
↓1 なにをする? ※エログロ、道徳的に(ry
あこ「妹パワー!!」
作戦3【紗夜姉と呼んでみる】
あこ「紗夜さんはひなちんに弱いからね。つまりあこの妹パワーをもってすれば完璧だよ!」
燐子「ど、どうだろう……」
燐子(でも意外と効果的……かも)
あこ「いざいかん!」
~スタジオ~
あこ「お待たせしましたー!」
燐子「お待たせしました……」
紗夜「二人とも遅いですよ」
友希那「あこ、また補習を受けてたのね。燐子も毎回待つ必要はないのよ」
リサ「まあまあ、よくあることじゃん!」
紗夜「よくあっては駄目です。普段しっかり勉強していればこんなことにはならないんですから」
紗夜「だいたい宇田川さんは…………」クドクド
あこ「ご、ごめんなさい……。…………紗夜姉」
あこ(こわいよ……。これ余計怒られるんじゃ……)
紗夜「……今なんと?」
あこ「えっ、あの、ごめんなさいって……」
紗夜「いえ、そのあとです」
あこ「……紗夜姉?」
紗夜「…………」
紗夜「ま、まあ今回は大目に見てあげましょう」
あこ「今後気を付けます……。ごめんなさい……紗夜さん」
紗夜「えっ……」
あこ(あれ? これ結構効いてるんじゃない……?)
燐子(紗夜さんちょろすぎです……)
友希那「いつからあこと紗夜はそんな関係に?」ヒソヒソ
リサ「まあ、面白そうだからこのまま見てよっか♪」ヒソヒソ
その後の練習も……
あこ「やっぱり紗夜姉のギターはカッコイイです! こうギュイーンって感じで!」
紗夜「た、大したことではありません。……それよりも宇田川さん喉乾いてないですか? よかったら飲み物を買ってこようと思ってたんですが」
あこ「あっ! じゃあオレンジジュースを!」
あこ「痛っ! 指切っちゃた……」
紗夜「大丈夫ですか!? この絆創膏を使ってください!」
あこ「あ、ありがとうございます」
あこ(紗夜さんがいつもより優しい……)
リサ(やっぱなんだかんだ紗夜ってお姉ちゃんなんだなぁ)
燐子(あこちゃんに接する態度が完全に妹へのそれです……)
友希那「じゃあ今日の練習はここまでにしましょう。各自、自分のパートを復習しておくこと」
燐子「はい……、わかりました」
リサ「んー! お疲れーみんなー」
あこ「お疲れさまです!」
紗夜「宇田川さん。このあと時間があれば勉強を教えましょうか?」
あこ「ほんとですか!? ぜひお願いします!」
そしてあこはこの言葉をすぐに後悔することとなる――
紗夜「さて、では……」
あこ「今日補習になっちゃったの数学なんで……、ここ教えてください!」
紗夜「いえ、せっかくですから苦手なところは全部やってしまいましょう」
あこ「え゛っ……!?」
紗夜「まずは数学、つぎに英語、……そうですねあと古文もやりましょうか」
あこ「あ、あの……」
紗夜「私の使っていた参考書です」ドッサリ
紗夜「さあ、始めましょう!」
このあと勉強会は夜まで続き嬉々とした表情であこに勉強を叩き込む紗夜の姿があったそうな。
あこ「ぎゃふん!!!!!」
おわり
【バンドリ】 ひまり 「モカにぎゃふんと言わせる!」 【安価】
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こちらも見て頂ければ喜びます。
【バンドリ】 紗夜「ネトゲにハマってしまった……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523732485/
今回も面白かった
張り切っちゃう紗夜さん可愛い
あこが紗夜のこと間違えてお姉ちゃんって呼んじゃうところから始まるロゼリア疑似姉妹百合SS考えてたのに思っくそネタ被ったあばば
そんなことよりぎゃふんシリーズ全部好き
乙
めっちゃ乙
また何か書いてくれ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525156781/
Entry ⇒ 2018.05.08 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】氷川紗夜「花咲川でバンドを組む」
――CiRCLE カフェテリア――
氷川紗夜「はぁ……」
湊友希那「あら、紗夜?」
紗夜「湊さん……こんにちは」
友希那「ええ、こんにちは。どうしたの? まだスタジオ練習まで1時間くらいあるわよ?」
紗夜「そういう湊さんこそ、随分と早くないでしょうか」
友希那「私は少しやることがあったのよ」
紗夜「……そうですか」
友希那「何か悩みごとかしら?」
紗夜「そう見えますか?」
友希那「ええ。こんな天気のいい日にため息を吐いていたら誰だってそう思うわ」
紗夜「…………」
友希那「対面の席、座るわね」
紗夜「やることがあるのではないんですか?」
友希那「別に、いつでも片付けられる用事よ。それよりも今は紗夜のことが気になるもの」
友希那「話を聞くくらいなら、私だっていつでも出来るわよ」
紗夜「そう、ですね……1人で悩んでいても仕方のないことですし、少し話に付き合ってください」
友希那「ええ」
紗夜「……湊さん、今の私のギターはどう聞こえますか?」
友希那「紗夜のギター?」
紗夜「はい」
友希那「そうね……いつも通り正確で頼もしい音、ね」
紗夜「……やはりそうですか」
友希那「……それが紗夜の悩み?」
紗夜「はい。自分の音に誇りを持つと誓ってから、色々と考えてギターを弾いてはいるのですが……最近はどう弾いても何も変わり映えがしない、という印象が拭えないんです」
紗夜「もちろんあの秋の頃のように悩みすぎて自分を見失うということはありませんが、今よりも上を目指すためには何かが足りないような気がしてしまって……」
紗夜「引っ込み思案な白金さんも、自分自身を変えようと色々な部活に体験入部していました。そして、それをきっかけに自分からピアノのコンクールに出場すると決意をしています」
紗夜「……それに比べて私は新しいことにも挑戦せず、ただ足踏みをしているだけなのではないか、と。だからいつまでも何も変わらないのではないか……そんな風に考えてしまうんです」
友希那「なるほどね……」
紗夜「悩みだしたらキリがないことは分かってはいるんです。ただ私はこういう性分ですから、一度考えてしまうとそれが気になってしまって……」
紗夜「今日も早くここへ来たのは、そういった考えを整理しようと思ってのことなんですが……考えれば考えるほど深みに嵌まってしまっている状況、といったところなんです」
友希那「……分かったわ。それじゃあ、こうしてみるのはどうかしら」
紗夜「え?」
友希那「一度、ロゼリア以外の人とバンドを組んで演奏をしてみましょう」
紗夜「他のバンドと、ですか?」
友希那「ええ。あなたは実感がないのかもしれないけど、私は紗夜のギターは少しずつ良い方へ変わってきていると思うわ」
友希那「それでも紗夜自身が何も変わり映えしないように感じるのなら、いっそ周りの環境を変えてみればいいのよ」
友希那「ロゼリアにはロゼリアの音楽がある。当然、他のバンドにも他のバンドの音楽がある」
友希那「その中に少し身を置いて演奏をしてみれば、きっとその紗夜の悩みも良い方向に改善できると思うわ」
紗夜「……そうでしょうか」
友希那「私はそう思うわ。幸い直近で大きなライブも控えていない。今はロゼリアだけに集中をしていなくても大丈夫なんだし、これも良い機会じゃないかしら」
友希那「あなたの学校にもガルパに参加したバンドのメンバーが沢山いるでしょう? 彼女たちはみんないい子だし、快く協力をしてくれると思うわよ」
紗夜「…………」
紗夜「そうですね。いつまでも考えてばかりいるだけでは何も変わりませんし……それがいいかもしれませんね」
友希那「ええ。いつもとは違う環境でギターを弾くのはきっといい刺激にもなるわ」
紗夜「ありがとうございます、湊さん。早速明日から知った顔に声をかけてみます」
友希那「これくらい仲間のためなら当然の行動よ。紗夜のギターにどんな変化が起こるのか楽しみにしてるわね」
紗夜「はい、期待を裏切らないように精進します」
――――――――――
―――――――
――――
……
――翌朝 花咲川女子学園――
紗夜(湊さんからアドバイスは貰ったものの……誰に声をかけようかしら)
紗夜(風紀委員の仕事として、校門で登校してくる生徒たちの服装チェックを行いながら、脳裏に知り合いの顔を思い浮かべてみる)
紗夜(暦は4月。春休みも終わり、私は3年生になっていた)
紗夜(入ってきたばかりの新入生には顔見知りはいない)
紗夜(1つ年下の2年生にはポッピンパーティーの5人。それとハローハッピーワールドの弦巻さん、奥沢さん、北沢さん、パステルパレットの若宮さん)
紗夜(私と同い年では、松原さん、丸山さん、白鷺さん……白金さんは今回の趣旨からは外れるわね)
紗夜(この中のギター以外の人間に話を持ちかけるのだけれど……普段、あまり接点のない人ばかりだ)
紗夜(どうしたものかしら……)
北沢はぐみ「おはよーございまーす!」
松原花音「おはようございます」
紗夜「はい。おはようございます、北沢さん、松原さん。……北沢さん、元気な挨拶は結構ですが、制服はどうしたんですか?」
はぐみ「バッグの中に入ってるよ~!」
紗夜「……質問が悪かったわね。どうしてあなたはジャージで登校しているのかしら?」
はぐみ「1時間目が体育だし、どうせ着替えるなら家から着ていった方が早いかな~って思ったんだ!」
紗夜「気持ちは分かりますが、登下校の際は制服を着用するようにと校則で決まっています。……これは何度か言いましたよね」
はぐみ「うっ……確かに言われたよーな気が……」
紗夜「はぁ……」
紗夜(悪気のなさそうな反応にため息を吐きながら思う。どうにも彼女が少し苦手だ)
紗夜(……いや、苦手というのは語弊があるわね)
紗夜(北沢さんの、良くも悪くも純真で人懐っこいあどけなさが……幼いころの日菜と少し重なって見えてしまう)
紗夜(そうなるとどうにも強く注意が出来なくなってしまうのだ)
紗夜(日菜に対して未だに何かの負い目を感じている、という訳ではないと思う。ただ思い出はいつでも美しく見えるものだ)
紗夜(北沢さんの笑顔を見ると、小さなころの妹の屈託のない笑顔が脳裏をかすめる。すると私のものさしは幾分か甘い方向に狂ってしまうようだった)
紗夜(本来ならば再三の指摘に応じないとなると生徒指導室に呼び出すことになるのだが、私は何度か同じことをしている彼女を見逃してしまっている)
紗夜(与えられた職務に対して責任を全うしていないことに後ろめたさを感じるが、それでも私は『次から気を付けるように』という言葉を出してしまうのだ)
紗夜(しかしいい加減にこんな贔屓じみたことをするのはやめなくてはいけないだろう)
はぐみ「ごめんなさい、紗夜先輩……」
紗夜「…………」
紗夜(しゅんと落ち込んだような表情を見て、「次から気を付けるように」と喉元まで出かかった言葉をどうにか飲み込む)
紗夜「生徒指ど……いえ……」
紗夜(しかし用意しておいた「生徒指導室へ来るように」という言葉も、『そこまでするのは可哀想か』という身勝手な情状酌量によって止まってしまった)
紗夜(中途半端なところで区切ってしまった言葉の続きをどうするべきか悩む)
紗夜「……お昼休みに話があります。昼食を食べ終わったら、中庭まで来てくれませんか? 出来れば松原さんも一緒に」
はぐみ「はーい……」
花音「えっ、わ、私も……!?」
紗夜(そして最終的に出された言葉は、贔屓どころかただの私用にすぎないものだった)
……………………
――昼休み 中庭――
紗夜「……いい天気ね」
紗夜(私は中庭にあるベンチに座り、誰に聞かせるでもなく独り呟く)
紗夜(自分の勝手な都合で北沢さんと松原さんを呼び出しておいて遅刻する訳にはいかなかった。だから私はお昼休みになってすぐに中庭までやってきた)
紗夜(ここで昼食を済ませてしまえば彼女たちを待たせるようなこともないだろう。その目論見通り、中庭にはまだ2人の姿は見えなかった)
紗夜(大きな桜の木と、その周りで友人同士とお弁当を広げる生徒たちを眺めつつ、私も自分の膝の上に自作のお弁当を広げる)
紗夜(羽沢珈琲店でのお菓子教室以降、たまに自分でも簡単な料理を作ってみたりしている。腕の方はまだまだ未熟であるが、自身で食べる分には問題ないくらいのものは作れるようになった)
紗夜「いただきます」
紗夜(小さく声に出してお弁当を食べ始める)
紗夜(時おり吹き抜ける風が桜の花びらを舞わせる。今年も気付けば春になっていて、いつの間にか桜も半分ほどは舞い落ちてしまっていた。もう今年の桜は散る一方だろう)
紗夜(ただ、私は今くらいの桜がそれなりに好きだった。ありふれたノスタルジーに浸れる寂しげな雰囲気が妙に心地いい)
紗夜(花は桜木、人は武士……とはよく言ったものだ)
花音「あ、さ、紗夜ちゃーんっ」
紗夜(お弁当を食べ終わってぼんやり桜を眺めていると、右手側から松原さんの声が聞こえた。そちらへ顔を向けると、彼女がこちらへ走ってくる姿が見える)
花音「ご、ごめんなさい、遅くなっちゃって……」
紗夜「いいえ、いいんですよ。私が早く来すぎただけですから」
花音「う、うん……」
紗夜(私の返事に頷くものの、何故か松原さんは直立不動になっていた)
紗夜「……どうしてそんなに畏まっているんですか?」
花音「え、えっと……私、なにか気付かないうちに校則違反でもしてたのかなって……」
紗夜「ああ……なるほど……」
紗夜(どうやら松原さんは、私から呼び出されたのは何かをしでかしてしまったからだと思っているようだった)
紗夜「すみません、松原さん。言葉足らずでした」
花音「え?」
紗夜「あなたと北沢さんをこちらに呼んだのは風紀委員としてではありません。その、非常に申し訳ないのですが、個人的なお願いがあってのことだったんです」
花音「そ、そうだったんだ……よかったぁ……」
紗夜(松原さんはそう言って大きく息を吐き出した。その反応を見るに、私の配慮が足りなかったせいでいらぬ気苦労を負わせてしまっていたようだ)
紗夜「本当にごめんなさい。本来ならお願いする立場の私があなたたちの元へ出向くのが道理だったんですが……あの場でもっと説明するべきでした」
花音「あ、ううん、全然大丈夫だよっ」
花音「それで、私とはぐみちゃんにどんな用事があったの?」
紗夜「それはですね――」
はぐみ「こんにちは~っ! 紗夜先輩、かのちゃん先輩!」
紗夜(言いかけた言葉が大きな声に遮られる。声のした方へ視線を動かすと、元気いっぱいな笑顔で駆け寄ってくる北沢さんの姿が見えた)
花音「こんにちは、はぐみちゃん」
紗夜「こんにちは」
はぐみ「お待たせしちゃってごめんね。ちょっと迷子になってる新入生の子がいたから、職員室まで案内してあげてたんだ」
紗夜「いえ、いいんですよ。私の都合でここに来てもらったんですから。それよりも、下級生に親切にするのは素晴らしいことだと思いますよ」
はぐみ「えへへ、困ってる人がいたら助けろってとーちゃんにもよく言われてるからね! 当然の行いだよ!」
はぐみ「それに道案内ならかのちゃん先輩で慣れてるしね!」
花音「うぅ……いつもごめんね、はぐみちゃん」
はぐみ「んーん、全然ダイジョーブだよ! それで、紗夜先輩の用事って? あっ、もしかして……ジャージで登校してたから、罰として中庭の草むしりをやれとか!?」
紗夜「いいえ、違いますよ。ジャージの件は今後気を付けてくれれば結構です」
紗夜「今日ここに来てもらったのは、私の個人的なお願いがあるんです」
はぐみ「個人的なお願い?」
紗夜「ええ。2人とも、もし今後予定が空いているようなら……しばらく私とバンドを組んでくれませんか?」
花音「バンドって……」
はぐみ「はぐみたちがいつもやってる、あのバンド?」
紗夜「はい、そのバンドです。あ、もちろんあなたたちのバンドを抜けて、とかそういった話じゃありませんよ。私もロゼリアを脱退する訳ではありませんから」
花音「そ、そうだよね、よかった……。でも、どうして?」
紗夜「……恥ずかしい話なのですが、最近、自分のギターに何かが足りないと悩むことが多くなっていまして……」
紗夜「それを湊さんに相談したら、ロゼリア以外の人たちと1度演奏をしてみればいいとアドバイスを貰ったんです」
紗夜「ですから、これは完全に私の身勝手なお願いです。都合が悪いようなら断ってもらって平気な――」
はぐみ「はぐみはいーよ!」
紗夜(言い切る前に、北沢さんから元気な声が発せられる。それに少し呆気に取られてしまった)
紗夜「……お願いしている立場で言うのもなんですが……そんなにあっさり了承してしまっていいんですか?」
はぐみ「え? どうして?」
紗夜「どうしてって……北沢さんにも松原さんにも個人的な事情や、ハローハッピーワールドの活動があるでしょう?」
はぐみ「それならヘーキだよ! はぐみ、ソフトボールも今はそんなに忙しくないし!」
紗夜「だとしても、バンドの方は……」
はぐみ「はぐみたちは世界を笑顔にするバンドだもん! 紗夜先輩が困って笑顔じゃないなら、紗夜先輩を助けて笑顔にするのもハロハピの活動だよ!」
紗夜「北沢さん……」
花音「そうだね、はぐみちゃん。私も大丈夫だよ、紗夜ちゃん」
紗夜「松原さんも……」
紗夜「……すみませ――いや、ありがとうございます、2人とも」
紗夜(2人の厚意に感謝の気持ちと少しの申し訳なさが胸中に沸き起こる。本当に、この1年で私は素晴らしい人間関係に恵まれたのだと思う)
紗夜「短い間ですが、よろしくお願いします」
はぐみ「うん! よろしくね!」
花音「よろしくお願いします」
……………………
紗夜(お昼休みに北沢さんと松原さんにバンドの件を快諾してもらい、それから残りのメンバーをどうするかという話になった)
紗夜(残りはボーカルとキーボード。ちょうどハローハッピーワールドのメンバーがギターの瀬田さん以外全員花咲川に通っているので、そこに私が入るのはどうか、という案もあった)
紗夜(しかし、「せっかくならいつもとほとんど違うメンバーで演奏をしてみたい」という北沢さんの要望があり、私もそれに頷いた)
紗夜(それから「かーくんとかに一緒にやらないか聞いてみるね!」という北沢さんの厚意に申し訳ないが甘える形になった)
紗夜(誘ったメンバーとは、放課後に、昼休みの時と同じく中庭で顔合わせをすることになっていた)
紗夜(そしてそれが今である)
戸山香澄「紗夜先輩っ、よろしくお願いしますね!」
若宮イヴ「よろしくお願いしますっ!」
紗夜「戸山さん、若宮さん、私のわがままに付き合ってくれてありがとうございます」
香澄「いえいえ! ガルパの時もみんなで演奏してすっごく楽しかったですし、むしろはぐに誘ってもらえて嬉しいですよ~!」
イヴ「義を見てせざるは勇なきなり、です! 困っている人を助けるのはブシドーの心得ですから、どうぞお気になさらないでください!」
紗夜「そう言ってもらえると助かります。2人とも、よろしくお願いしますね」
紗夜「北沢さんもありがとうございます。私だけではこんなにスムーズにメンバーを集められませんでした」
はぐみ「どういたしまして! えへへ、きっとこの5人なら楽しいね!」
花音「そうだね、はぐみちゃん」
紗夜「…………」
紗夜(メンバーを集めてもらったことはとてもありがたいことだ)
紗夜(それにこんなわがままにも笑顔を付き合ってくれる良い人ばかりなのも感謝してもし足りないくらいだ)
紗夜(それはもちろん分かっている。ただ……)
香澄「こうやってポピパ以外の人と演奏するの久しぶりだなぁ。えへへ~、なんだかすっごくドキドキする!」
イヴ「私もです! こうしてまた一歩、ブシドーを極められますね!」
はぐみ「どんな曲やろっか? はぐみはしゃらら~ってしてシューン! ってする感じの曲とかがいいな!」
紗夜(……先行きに若干の不安じみたものを感じるのはどうしてだろうか……)
香澄「んー、しゃらら~ってしてシューン! とする感じの曲か~、どんなのがあるかなぁ~。紗夜先輩はどういう曲がやりたいっていうの、ありますか?」
紗夜「私は……そうですね……」
香澄「あっ、ちなみに私はありますっ! やってみたいな~って思ってた曲があるんですよねっ! でもそれはポピパでっていうのとはちょっと違うかなって思ってたんで、それがやってみたいです!」
紗夜「そ、そうですか。であれば、私はそれでも――」
はぐみ「あー、かーくんずるい! はぐみもやってみたいなって曲あるよ~!」
イヴ「私はみなさんにおまかせです!」
花音「わ、私も、おまかせで……」
紗夜「……では、戸山さんか北沢さんのどちらかの希望の曲にしましょうか」
香澄「ぃよーし、それじゃあはぐ! 正々堂々、じゃんけんで決めよう!」
はぐみ「負けないよー、かーくん!」
紗夜(そう言って、2人は真面目な顔をして向き合う。ロゼリアであればじゃんけんで演奏をする曲を決めるなど見られない光景だ)
紗夜(仮定の話だけど、実際にそんなことで曲を決めるとしたらどんな時だろうか。……精々、ライブの最後のアンコールで演奏する曲を決める時とか、そのくらいだろう)
香澄「やったーっ、勝ったぁ~!」
はぐみ「うぅ~……負けちゃった……」
紗夜(そんなどうでもいいことを考えていると勝負がついたようだ)
香澄「えへへ、それじゃあ曲は私のやりたいやつでお願いします!」
紗夜「はい、分かりました。……北沢さん、残念でしたね」
はぐみ「うーん、残念だけど負けちゃったものはしょうがないもんね。よーし、それじゃあかーくんの曲で頑張るぞ~!」
紗夜(しょぼんと落ち込んだ様子から一転して、北沢さんはすぐに笑顔になって右こぶしを空へ突き上げる)
紗夜(その変わり身の早さ……というか、後腐れのしないさっぱりとした明るさに思わず笑みが零れた)
香澄「うん、一緒に頑張ろーっ!」
イヴ「カチドキですね! えい、えい、おーっ!」
花音「が、頑張ろうね、紗夜ちゃん」
紗夜「……ええ、そうですね」
紗夜(松原さんの言葉に頷く。改めて顔ぶれを見ると、所属もバラバラのちぐはぐなバンドだ。どんな音楽が生まれるのか想像も出来ない)
紗夜(でも、心の中に明るい感情が生じているような気がしていた)
――――――――――
―――――――
――――
……
――氷川家 紗夜の部屋――
紗夜(臨時のバンドを組むことになってから1週間が過ぎた)
紗夜(私に付き合ってくれるみなさんには自身の予定を最優先してもらって、その合間に演奏する曲を練習して欲しいと言ってある)
紗夜(当然私もロゼリアでの練習が最優先であり、戸山さんの希望する曲を練習するのは主に1日の終わり、床につく前のこの時間だった)
紗夜(フレットに手を滑らせ、弦を押さえる。そしてピックでそれをはじく)
紗夜(普段ロゼリアでは演奏をしないような調子の曲だった)
紗夜(エレキギターに繋いだヘッドフォンアンプからは私の音が聞こえる。いつも通りの音だ)
紗夜(でも、その音がいつもと少し違って聞こえるような気がしないでもなかった)
紗夜(それは普段演奏しない曲調のものだからか、それとも春の夜の温い空気が私を感傷的にさせているからか)
紗夜(新鮮さと懐かしさ、そんな矛盾している感情の波音が胸中で穏やかにさざめき合う。言葉にすると理解が追い付かないが、そんな気分だった)
紗夜「……? メッセージが来てるわね」
紗夜(視界の隅でスマートフォンのランプが点滅しているのに気付く。ヘッドフォンを外してディスプレイを覗き込むと、戸山さんからのメッセージだった)
香澄『夜遅くにすいません! 紗夜先輩、ちょっとこの曲のフレーズで気になる場所があって、どういう感じで弾けばいいかアドバイスをくれませんか??』
紗夜「…………」
紗夜(きっとこれは何でもないメッセージだろう。分からないところがあるから教えてほしい、というありきたりなやり取りだ)
紗夜(それがやけに新鮮に感じられる)
紗夜(ロゼリアではギターは私1人だ。だから全体的な音楽の方向性でメンバーにアドバイスをすることはあっても、ギターだけに限ったアドバイスをすることはなかった)
紗夜「……あの頃はどんな気持ちだったかしら」
紗夜(ポッピンパーティーに誘われて、ガールズバンドパーティーに参加したことを思い出す)
紗夜(その時も戸山さんにギターの指導を行ったが、あの時の私は『技術が全てだ』と言っていた記憶があった)
紗夜(それは確かに間違いじゃなく、今までも1番確かな、誰の耳にでも分かる『演奏技術』に重きを置いてギターを奏でてきた)
紗夜(……であれば、これは遠回りじゃないか)
紗夜(迷っても、変わり映えしないと感じても、ひたむきに練習を重ねること。それが氷川紗夜のギターだった)
紗夜(人にアドバイスをしている暇などなくて、足を引っ張るメンバーは切り捨てて、ただ高みを目指す。それが私の理想)
紗夜(……の、はずだった)
紗夜『こんばんは。ええ、大丈夫ですよ。どのフレーズかしら?』
紗夜(戸山さんに返信をしてから、自嘲に似たため息が口から漏れる)
紗夜(こんな音楽も悪くはないんじゃないか……と)
紗夜(そう思う私を昔の私が見たらどんな反応をするのだろうか。きっと『そんな甘えた考えで音楽をやるだなんて、ふざけないで』と言うだろう)
紗夜(その自分の姿が易々と想像できて、それが少しおかしかった)
――――――――――
―――――――
――――
……
――CiRCLE スタジオ内――
紗夜(戸山さんにアドバイスを送った夜が明けた今日、臨時バンドの初の音合わせとなっていた)
紗夜(放課後に校門で待ち合わせて、5人揃ってCiRCLEを目指して歩いた)
紗夜(当然と言えば当然のことだった。しかし私はそれに対して、またもどこか新鮮さを感じていた)
紗夜(……ただ、あまりにも元気すぎる年下3人組に少し呆れはしたけれど)
香澄「ふんふんふーん♪ いつも有咲の蔵で練習してるから、こうやってスタジオに入るのってなんか新鮮だなーっ」
紗夜「戸山さんたちはあまりスタジオには来ないんですか?」
香澄「はい! 有咲の家に蔵があって、いつもそこでポピパは練習してるんですよっ」
紗夜「へぇ……」
はぐみ「はぐみたちもスタジオにあんまり来ないかなぁ~。こころんのお家で練習することが多いと思う」
花音「そうだね。私のドラムセットもこころちゃんのお家に置かせてもらってるし」
紗夜「……確かに弦巻さんのお宅であれば大抵のものは揃いそうね」
イヴ「パスパレもあまり、ですね。事務所にそういった設備がありますから」
紗夜「みなさん、恵まれた環境にいるんですね」
紗夜(改めて思い起こしてみると、確かにスタジオでよく顔を合わせるのはアフターグロウのメンバーだった。毎度毎度スタジオを借りる必要がないのであれば、金銭的にもずいぶんと助かるだろう)
紗夜(そういえば昔に日菜が言っていたわね。音楽関係の出費はパステルパレットの経費で落とせると)
紗夜(……あの時も私は日菜に対してキツく当たってしまっていたな、などという思い出も一緒に蘇り、少しだけ胸の内に苦いものが広がる)
はぐみ「あれ? 紗夜先輩、ちょっと辛そうな顔してない? どこか調子とか悪い?」
紗夜「いいえ、なんでもありませんよ」
紗夜(自分としてはそういう気持ちを顔に出したつもりはなかった。しかし北沢さんにそれを見透かされたように、心配の言葉を投げられたことに少し驚く)
紗夜(彼女はいつも明るくまっすぐで……失礼な話だが、感情の機微に関しては疎そうだと勝手な印象を抱いてしまっていた)
はぐみ「そう? ならよかった!」
紗夜「……心配してくれてありがとうございます。優しいのですね、北沢さんは」
はぐみ「えへへ、はぐみ、ソフトボールでもキャプテンだからね! みんなに優しくするのは当然のことだよ!」
紗夜(謙遜するでもなく照れるでもなく、褒められたことが誇らしいというように北沢さんは胸を張る)
紗夜(その微笑ましい反応を見てフッと笑みが漏れる。それと一緒に胸中の苦みも出ていってしまったようだ)
紗夜「それでもありがとうございます」
はぐみ「うんっ、どういたしまして!」
紗夜「では、準備をして早速始めていきましょうか。まずは1度、通しで合わせてみましょう」
……………………
紗夜(普段は違うバンドで演奏しているメンバーだからある程度のちぐはぐな部分はどうしても出てくるだろう)
紗夜(ただ、ベースの北沢さんとドラムの松原さんは同じハローハッピーワールドのメンバーだ。リズム隊が慣れた人同士ならばそんなに崩れた音楽にはならないはずだ)
紗夜(……なんて思っていた私は甘かったのかもしれない)
香澄「イェーイ!」
イヴ「ブシドー!」
はぐみ「あははは!」
花音「ふえぇ……」
紗夜「…………」
紗夜(テンションが上がった戸山さんのギターが走る。とにかく走る。歌声も走る)
紗夜(若宮さんはそういう走る音に慣れているのか、戸山さんに合わせて実に楽しそうに鍵盤を叩いている)
紗夜(北沢さんも同じく、笑いながら戸山さんに追いつけ追い越せと言わんばかりに弦を弾いている)
紗夜(その中で松原さんだけが迷走しているリズムを留めようとしていたが、結局3人に引きずられている)
紗夜(そしてそんな先走り続ける4人に私も合わせるしかなく、演奏はどんどん駆け足になっていくのだった)
香澄「ふぅ~! やっぱりポピパ以外の人と演奏すると新鮮だなぁ~!」
イヴ「はい! 私もなんだかとても楽しかったです!」
はぐみ「だねだね! いつものもいいけど、こういうのもすっごく楽しいね!」
紗夜(最後のフレーズを弾き終わると、戸山さんは大きく息を吐き出して満足そうに声を上げ、それに若宮さんと北沢さんが同調していた)
紗夜「…………」
紗夜(仲良くじゃれ合う3人を眺めつつ、私は今の感情をどう表現するべきかを考えていた)
花音「あ、あの、紗夜ちゃん……?」
紗夜「……どうかしましたか、松原さん」
花音「えっと、気持ちは分かるけど……あんまり香澄ちゃんを怒るのは……その……」
紗夜「大丈夫です、松原さん。いま頭の中を整理していますが、怒るとかそういう気持ちはないですから」
花音「そ、そう?」
紗夜「はい。……それにしても、松原さんはすごいですね」
花音「え?」
紗夜「力強く芯のある音をずっと出していました。3人のリズムに引きずられても大元のリズムは崩れそうにありませんでしたし……とても頼りになるドラムです」
花音「あ、うん……」
花音「でも、ハロハピだとリズムがあっちこっちに行っちゃうのはよくあるから……そういうのに慣れちゃっただけかもしれないけど……」
紗夜「そうだとしても頼りになることは間違いありませんから。あなたを誘って本当に良かったと思っていますよ」
花音「そ、そうかな? えへへ……ありがと、紗夜ちゃん」
紗夜「はい」
紗夜(ふにゃりとはにかむ松原さんを見ながら、自分の中にあった感情が大体整理できた気がする)
紗夜(……ちぐはぐで、元のリズムなんかを無視した、おおよそロゼリアではしないような演奏。それを私は少し楽しいと感じていた)
紗夜(もちろん正確なリズムを刻まなくては、という気持ちも胸中にはあった)
紗夜(しかし北沢さんと戸山さんと若宮さんがとても楽しそうな表情で演奏しているのを見ると、そんな音楽もいいか、と肩の力が抜けるのだ)
紗夜(力の抜き加減がどうこうと今まで考えていたけれど、それを考えること自体が少し違っていたのかもしれなかった)
紗夜(『余裕』)
紗夜(自分の目指す音以外を許容して、ありのままに音楽を奏でること。走る音の中にいればそれに合わせ、きっちり決める音の中にいれば自分の目指す音を奏でる)
紗夜(私に1番足りなかったものは、ギターを弾くことを楽しみ、色々な音楽を受け入れられる『余裕』だったのかもしれない)
香澄「紗夜さんはどうでしたか、今の演奏?」
紗夜「……そうね。このメンバーらしい演奏だったと思います」
紗夜(戸山さんから声をかけられて、私は思考の海から意識を現実に戻す)
香澄「えへへ、やっぱりそう思います?」
紗夜「はい。……ただ、戸山さん。気持ちは分かりますが走り過ぎです」
香澄「うっ……」
紗夜「北沢さんと若宮さんもです。戸山さんに釣られすぎですね」
イヴ「楽しくってつい……」
はぐみ「ごめんなさーい……」
紗夜「謝る必要はありませんよ。それがみなさんの持ち味なんですから。ただ、少しだけ松原さんのドラムを意識して弾いてみてください」
花音「ふぇ!? わ、私の音を……!?」
紗夜「はい。松原さんのドラムは力強いですからね。迷子になりそうなリズムも少しは抑えられるはずです」
香澄「あ、確かに! 花音先輩のドラムってすっごくいい音しますよね!」
イヴ「はい! まるでお城の石垣のようにどっしりとしています!」
花音「そ、そうかな……」
はぐみ「そりゃあそうだよ! だってしょっちゅうドラムのスティック折るくらいだもん!」
はぐみ「意外と力持ちだよね、かのちゃん先輩!」
花音「それ……褒められてるのかな……」
紗夜「ふふ……」
紗夜(和気あいあいと話をする4人を眺めながら、口元には自然と笑みが浮かんだ)
香澄「それじゃあ紗夜先輩のアドバイス通り、次は花音先輩のドラムを意識してみますね!」
紗夜「ええ。ただ、あまり意識しすぎなくても平気ですよ。いざ走ったとなれば、私と松原さんがそれに合わせますから。北沢さんと若宮さんも同じくです」
香澄「はい! ありがとうございますっ!」
はぐみ「よーし、それじゃもう1回合わせてみようよ!」
イヴ「そうですね! サヨさんのアドバイスを生かしましょう!」
花音「その、役に立てるか分からないけど……頑張るね」
紗夜「はい。頑張りましょう」
――――――――――
―――――――
――――
……
――CiRCLE カフェテリア――
紗夜(北沢さんたちとの初めての音合わせを行った次の日、今度はロゼリアでのスタジオ練習があった)
紗夜(いつも通りに早めにCiRCLEまでやってくると、春の陽気を浴びながらカフェの一席でコーヒーを飲んでいる湊さんを見つけた。私はそれに声をかける)
紗夜「こんにちは、湊さん」
友希那「ええ。こんにちは、紗夜」
紗夜「対面の席、よろしいですか?」
友希那「どうぞ」
紗夜「失礼します」
友希那「……どう? いつもと違うバンドの中で演奏した感想は?」
紗夜「湊さんの言った通り、とてもいい刺激を受けていますよ」
友希那「ふふ、やっぱりね。最近はとてもいい顔をしているもの」
紗夜「そう見えますか?」
友希那「ええ。明るい表情になっているわ」
紗夜「……ありがとうございます、湊さん」
友希那「お礼を言われることなんてしていないわ。私はただきっかけを提案しただけだもの」
紗夜「そのきっかけがとても重要だったんです。なので、お礼は言わせてください」
友希那「そう? それなら素直に受け取っておくわね。どういたしまして」
紗夜「はい」
友希那「ところで、紗夜」
紗夜「なんでしょうか?」
友希那「花咲川で組んだバンドなんだけど……これからのこととかって何か考えてる?」
紗夜「これからのことですか? いいえ、特には……」
紗夜「もちろん1度あのメンバーでステージに立ってみたいという気持ちはありますけど、みなさんの都合もありますからね。そう何曲も練習に付き合ってもらう訳にはいきませんし」
友希那「そう。ならよかった」
紗夜「……はい? 何がよかったんですか?」
友希那「ふふふ……紗夜ならそう言うと思って、私の方でも色々と準備を進めていたのよ」
紗夜「準備ですか? 一体何の?」
友希那「対戦的な意味での対バンよ」
紗夜「……はい?」
友希那「紗夜が花咲川でバンドメンバーを集めたように、私も羽丘の生徒でバンドメンバーを集めたのよ」
紗夜「えっ……」
友希那「紗夜の率いる花咲川バンド対私の率いる羽丘バンドね。大丈夫、もうまりなさんに話は通してCiRCLEも押さえてあるわ」
紗夜「……随分と準備がいいんですね」
友希那「あなたならきっとすぐにバンドメンバーを集めて、その子たちとステージに立ってみたいと言うと思っていたからよ」
友希那「日付は来週の月曜日か、もしくはあなたたちの都合のいい日。お互いに1曲ずつ演奏をして、お客さんの受けが良かった方がもう1曲を演奏する……というルールで行いましょうか」
紗夜(そこまで言うと、湊さんはとても挑発的な目で私を見つめる)
友希那「私からの挑戦、受けてくれるかしら?」
紗夜「……そこまでお膳立てされて逃げる訳にはいきません。受けて立ちます。日付の方はみなさんに確認をとってからになりますが」
友希那「紗夜ならそう言うと思っていたわ。それじゃあ、楽しみにしているわね」
紗夜(湊さんはそう言って小さく微笑む。つい勢いで決めてしまったけれど、みなさんはなんと言うだろうか)
紗夜(……恐らく、乗り気で付き合ってくれるだろう)
紗夜(相手は湊さんがボーカルで、羽丘のバンドならば日菜がギターかもしれない)
紗夜(とても強大な相手だ。でも、その相手に真っ向から音楽でぶつかるんだと思うと……私の胸中には楽しみだという感情が沸き起こるのだった)
――――――――――
―――――――
――――
……
――花咲川女子学園 中庭――
紗夜「……という訳で、湊さんの率いる羽丘の混合バンドと対バンをすることになったんですが、みなさんは――」
香澄「わっかりましたー!」
はぐみ「了解だよ!」
紗夜(湊さんから対バンの話を持ち掛けられた翌日。中庭に集まってもらった花咲川バンドのメンバーにそのことを話すと、予想通りの返事が戸山さんと北沢さんから返ってきた)
イヴ「対バン……つまりユキナさんたちとの一騎打ち、ですね! ブシドーを志すものとして、逃げる訳にはいきません!」
紗夜「では、若宮さんも問題ありませんか?」
イヴ「はい! 腕が鳴りますね!」
紗夜「ありがとうございます。松原さんは……」
花音「う、うん。私も大丈夫だよ、紗夜ちゃん」
紗夜「ありがとうございます。それで、湊さんからの提案ですとちょうど1週間後の月曜日という話になっているんですが、みなさんの予定はどうでしょうか?」
香澄「えーっと……はい! その日ならOKですよ!」
はぐみ「はぐみもへーきだよ!」
イヴ「私もその日であれば、パスパレの活動も部活もないので大丈夫です!」
花音「私も平気だよ」
紗夜「分かりました。では、湊さんには来週の月曜日で、と話をしておきます」
紗夜「それから……負けるつもりは一切ありませんし、演奏する曲をもう1つ増やさないといけないのですが……この1週間で今の曲と新しくもう1曲を仕上げられますか?」
香澄「はい!」
はぐみ「うん!」
イヴ「任せてください!」
花音「が、頑張りますっ」
紗夜「頼もしい返事ですね。ありがとうございます」
紗夜(少し無茶なお願いだったとは思うけれど、それでも私に付き合ってくれる4人は力強く返事をくれる)
紗夜(それを見ると、私ももっと精進しなければとやる気が湧いてくるのが実感できた)
イヴ「もう1つの新しい曲はどうしましょうか?」
紗夜「それは北沢さんがやりたいと言っていた曲でどうでしょうか」
はぐみ「え、いーの?」
紗夜「はい。若宮さんと松原さんはおまかせでと言っていましたし、私もそれと同じ気持ちですから」
花音「そうだね。私もはぐみちゃんがやりたいって言ってた曲でいいと思うな」
イヴ「はい! 私も異論はありません!」
香澄「私はもうやりたい曲やってるもんねっ。それにはぐにちょっと申し訳ないな~って思ってたし、それがいいな!」
紗夜「……という訳で、北沢さんの曲で決まりですね」
はぐみ「わーい! ありがと、紗夜先輩っ!」
紗夜「きゃっ……」
紗夜(北沢さんは自分のやりたい曲を選んで貰えたのが嬉しかったのか、飛ぶような勢いで私に抱きついてくる。それを少し戸惑いながら受け止める)
紗夜「……いきなり抱きついてくると危ないですよ、北沢さん」
はぐみ「えへへ、だって嬉しかったんだもん!」
紗夜「まったく、仕方ないわね……」
紗夜(言いつつ、自然と右手が彼女の頭に伸びて、そのショートカットの髪を撫でていた。思っていたよりずっとふわふわしている髪質が手に心地いい)
紗夜「……あっ、ごめんなさい」
紗夜(実に無意識にその行動をとっていた。我に返って北沢さんの髪から手をどけるのに少しの時間がかかってしまう)
はぐみ「え? なにが?」
紗夜「いえ、急に髪を撫でたりなんかしたので……」
はぐみ「んん……?」
紗夜(北沢さんはますます何に対して謝られているのか分からなくなったのか、思案顔で首をひねっていた)
紗夜(その様子を見て、髪の毛を撫でるのは馴れ馴れしくて失礼だという思考が自意識過剰だったなと思う)
紗夜「……いえ、何でもありません。気にしないでください」
はぐみ「うん、分かったよ!」
紗夜(北沢さんは元気よく返事をして私から身を離した。細かいことを気にしないというか、本当に純真無垢というか、それがやっぱり美しき思い出の中にいる小さな日菜に被るというか……)
紗夜(そういう姿を見せられてしまうとどうにも彼女を構いたくなるような衝動が自分の中に芽生えてしまうのだった)
花音「ふふ……」
紗夜(そしてそんな自分の心境を見透かしているかのように、松原さんがやけに温かな視線を送ってきているのが目に入る)
紗夜「……どうかしましたか、松原さん」
花音「ううん、なんでもないよ」
紗夜「…………」
紗夜(明らかに『微笑ましいなぁ』と思っている顔で、松原さんは首を横に振る。私はそれに少し気恥しい気持ちになり、わざとらしく咳ばらいをした)
紗夜「……それでは、ライブの日時も、演奏する曲も決まりました。期間は短いですが、頑張りましょう」
香澄「はい!」
はぐみ「うん!」
イヴ「これがいわゆる修羅場、というものですね! 頑張ります!」
花音「イヴちゃん、それはちょっと違うと思うな……」
紗夜(各々の反応を見て私は思う)
紗夜(ここまで協力してくれるみなさんのためにも、機会をくれた湊さんのためにも、あと1週間はより一層練習に励もう、と)
紗夜(それからふと気付く。ついこの間まで悶々と抱えていた悩みも、いつの間にかどこかへ消えてなくなっていた)
紗夜(今はただ、目の前のメンバーとギターを奏でるということにとても集中出来ている。それがなんだか不思議だった)
――――――――――
―――――――
――――
……
紗夜(それから瞬く間に時間は過ぎていった)
紗夜(この1週間の多くは、スタジオで、あるいは北沢さんと松原さんに案内された弦巻さんのお宅で練習を重ねた)
紗夜(その度に、ちぐはぐだった音がどんどん1つに合わさっていくような感触を得られた)
紗夜(それがとても楽しい)
紗夜(ギターを弾くことが純粋に楽しい。ロゼリア以外のメンバーとも音を合わせられることが楽しい)
紗夜(初めてギターを手にした時も多分こんな気持ちだったと思う)
紗夜(遥か遠い記憶という訳ではないけれど、それでも心地の良い懐かしさに胸がくすぐられる)
紗夜(今なら素直に自分のことが見れる。そして気付く。私は変われていたんだな、と)
紗夜(小さな出来事の積み重ねだから気が付かなかった。でも1年前の自分と今の自分はほとんど別人に見えるし、きっと半年前の、もっと言えばひと月前の自分と比べてもまた違って見えるだろう)
紗夜(そう思うと、何か目の前が拓けたような気がした。今よりももっと高みへいけるような気がした)
紗夜(それはきっと私は前へ進めているんだ、という自覚が持てたからだろう)
……………………
――CiRCLE 楽屋――
紗夜「本日はよろしくお願いします、湊さん」
友希那「ええ。お互いに精一杯のもの出しましょう」
紗夜(ライブ当日。楽屋で湊さんと顔を合わせ、握手を交わす)
紗夜(同じバンドとしては何度もここへやってきたけれど、こうして別のバンドとして楽屋に入るのは初めて会った時以来だった)
紗夜「……それにしても、日菜がいないのは意外ですね」
紗夜(湊さんが率いる羽丘バンドの面子を見る。ベースに今井さんは想像していた通りだった。それからドラムには大和さん、ギターは瀬田さんと美竹さんの2人がいた)
友希那「今回の件はいわゆるサプライズというものだから。日菜を誘うと紗夜に話が漏れそうだったし、敢えて候補にしなかったのよ」
紗夜「……確かにそうですね。あの子ならすぐに私に口を滑らせるでしょう」
友希那「他にも理由はあるんだけどね。私も今回はキーボードを弾く訳だし」
紗夜「えっ?」
友希那「そんなに驚くようなことかしら。ロゼリアで作曲をしてるのは私でしょう?」
紗夜「それはそうですが……」
友希那「キーボードやギターだって、燐子や紗夜ほどではないけれど弾けるわ。それに、たまには私もリサと同じように楽器を演奏したいのよ」
今井リサ「さーよっ。今日はよろしくね~」
紗夜(何故かしたり顔で頷く湊さんにどう言葉を返すべきかを考えていると、今井さんがやってきた。私はそれに挨拶を返す)
紗夜「はい。よろしくお願いします、今井さん」
リサ「友希那がキーボードって、驚いた?」
紗夜「ええ、少し」
リサ「あはは、やっぱそうだよね。アタシも驚いたな~」
紗夜(今井さんは晴れやかな笑顔を浮かべる。やけに上機嫌だった)
紗夜(そのまま湊さん、今井さんと言葉を交わしつつ、楽屋の中を見回す)
紗夜(みなさんはそれぞれ、普段同じバンドを組んでいる人と話をしているようだった)
紗夜(その中で、同じバンドメンバーがこの場にいない戸山さんは美竹さんに抱き着いたりしてじゃれついている)
紗夜(美竹さんはそれを困ったように笑いながら受け止めていた)
友希那「……そろそろリハーサルの時間ね」
紗夜「そうですね。では、私たち花咲川が先攻ということで、先にやらせて貰います」
友希那「ええ。主役は遅れて登場するものだから、悔いのないようにやるといいわ」
紗夜「湊さんたちが登場する前に決着がついていなければいいですけどね」
友希那「あら、紗夜も言うわね」
紗夜「負ける気は一切ありませんから」
友希那「ふふ、私もよ」
紗夜(普段は協力し合う仲だけれど、今日は向かい合って競う相手だ。挑発的な言葉には同じような言葉を返して、それを聞いた湊さんは楽しそうな顔をする)
紗夜(……私も同じような顔をしているだろうことを自覚しながら、私は花咲川のみなさんに声をかけるのだった)
……………………
――ライブステージ 舞台袖――
紗夜(リハーサルも滞りなく終わった)
紗夜(間もなく開演の時刻で、先攻の私たちは舞台袖で輪になっている)
香澄「うー、すっごくドキドキしてきた!」
はぐみ「うん! えへへ、今日も楽しいライブにしようね!」
イヴ「はい!」
紗夜(相変わらず元気一杯な3人を横目に、私は松原さんに声をかける)
紗夜「松原さん、緊張はしていませんか?」
花音「う、うん、大丈夫だよ。私がこのバンドの柱、だもんね。しっかり頑張るよ」
紗夜「ええ。ですが、いざという時は私もフォローできますので……そんなに気負わないでください。このバンドで1番大切なのは、きっと楽しむことですから」
花音「うん。ありがとう、紗夜ちゃん」
紗夜「はい」
香澄「紗夜先輩っ! ステージに出る前に掛け声やりましょう!」
紗夜「掛け声、ですか?」
香澄「ポピパだといつもやってますし、その方が気合入りますよ!」
紗夜「……そうですね。では、音頭は戸山さんがとって下さい」
香澄「はーいっ! じゃ、みんな真ん中に手を合わせて~」
紗夜(戸山さんはそう言って右手を輪の中心に差し出す。私はそれに自分の手を重ねる)
紗夜(続いて北沢さん、若宮さん、松原さんの順で手を重ねていった)
香澄「……掛け声、どうしよ。ポピパじゃないからいつものじゃ違うしなぁ……」
イヴ「えい、えい、おー……ではダメですか? よくヒマリさんがやっていますよ?」
香澄「んーよし! じゃあそれでいこう!」
紗夜(戸山さんは1つ咳ばらいをして、大きく声を出す)
香澄「みんなっ! 今日は一緒に楽しもーっ! せーの、」
『えい、えい、おー!』
紗夜(私と松原さんは遠慮気味に、戸山さんと北沢さんと若宮さんは思いっきり)
紗夜(そんな5人の声が合わさる。ライブ前の独特の緊張感と高翌揚感が煽られた。ロゼリアではやらないけれど、たまにはこういうのもいいかもしれない)
イヴ「あ、もう時間ですね! そろそろ参りましょうか!」
紗夜(若宮さんの声に全員が頷く。遂に開演だ)
紗夜(私たちは舞台袖からステージへ足を進める)
紗夜(そこからの光景はいつもと変わらない。見慣れた、とも言えるものが広がる)
紗夜(ギターとアンプを繋ぎ、軽く音を鳴らす。いつもの私の音だ)
紗夜(それからステージ上へ視線を移す。全員楽器の調整が終ったようで、互いに顔を見合わせて頷いた)
紗夜(観客席に向き直る。ほぼ満員のそこに宇田川さんと白金さんの顔を見つけた。目が合って、宇田川さんに大きく手を振られる)
紗夜(私はそれに小さく手を振り返した)
香澄「みなさーん、こんにちはー!」
紗夜(戸山さんの声が会場に響く)
紗夜(演奏前のMCは全て戸山さんに任せてあった。『あなたがボーカルなのだから、好きなように喋ってほしい』と伝えてある。私はただそれに耳を傾ける)
香澄「今日はギターの紗夜先輩に誘われた、花女の特別編成のバンドです! いつもとは違うメンバーだからちょっと新鮮な気持ちです! あ、有咲ぁ~! みんなぁ~!」
紗夜(戸山さんは観客席の中に市ヶ谷さんを始めとしたポッピンパーティーの姿を見つけ、大きく手を振った)
紗夜(よく見るとガルパに参加したバンドのメンバー全員が会場にいるようだった。北沢さんと若宮さんも同じバンドのメンバーに対して手を振ったり、言葉を投げている)
香澄「えへへ、ここからポピパのみんなの顔が見えるとなんだか不思議だなぁ。……でも、こうやって歌うのもちょっといいかも。出会ってからずっと一緒にステージに立ってたもんね」
紗夜(戸山さんは1度言葉を切り、それから少し間を開けて再び口を開く)
香澄「……昔、星空を見て、星の鼓動を聞いて、キラキラしてドキドキしてるものを探してました」
香澄「春は出会いと始まりの季節です。ちょうど1年前の春、ポピパのみんなに出会って、バンドを始めて、たくさんの素敵な友達が出来て、私はそれを見つけることが出来ました」
香澄「きっとみなさんにもそういう出会いや、キラキラしててドキドキしてて、とっても楽しくて素敵な出来事がいっぱい待ってると思います!」
香澄「今日、このメンバーで演奏するのはそんな始まりの歌です! 聞いてください、『流星群』!」
紗夜(戸山さんは言い終えると、一度俯いて息を吸う。それから顔を上げて、歌を紡ぎだした)
「空を彩る星に乗って あたしは未来へ」
「願い事をたくさん詰めた 鞄を握りしめ」
「流星が降る夜に ドキドキして歩いた」
「あたしはヒトリボッチだけど怖くなかった」
「暗闇を照らすように 光が一筋浮かぶ」
「ココから未来まで 道が出来たみたい」
「足音が響いている 思わず走り出した」
「空を彩る星に乗って あたしは未来へ」
「願い事をたくさん詰めた 鞄を握りしめ」
「ずっとずっと夢みてた キラキラのステージへ」
「振り返らずに走ってゆこう たとえ遠くたって」
「悲しみが降る夜は 鼻歌を歌ってた」
「だれにも聴こえないあたしだけのメロディー」
「流れる星のように だれよりも輝いて」
「あなたの足元を照らせたらいいな」
「涙が落ちる音を 合図に走り出そう」
「空を彩る星に乗って どこまでも行けるかな」
「寂しくないと強がる手をあたしに握らせて」
「空を彩る星に乗って 輝く未来へ」
「願い事とあなたの手を 強く握りしめ」
「唇から零れ出すコトバを並べたら」
「高鳴る胸のリズムでほら歌声に変わるの」
「願い事はもう唱えた? あたしと未来へ」
……………………
――CiRCLE カフェテリア――
紗夜(ライブは大盛況で終わった)
紗夜(湊さん率いる後攻の羽丘バンドの演奏も素晴らしいものだった。結局どちらが勝った負けたということはなくなり、最後は2つのバンド全員で『クインティプル☆すまいる』を演奏することになった)
紗夜(北沢さんの希望していた曲を演奏できないのが少し残念ではあったけれど、全員がとても楽しそうで、私も楽しかった)
紗夜(だから、それで良かったのかもしれない)
友希那「いい勝負だったわ」
紗夜「ええ」
紗夜(ライブの片付けも済んだあと、私はカフェテリアの一席で湊さんと言葉を交わす。湊さんの顔には充実感のようなものがあるように見えた)
友希那「どう、紗夜? 悩みはなくなったかしら」
紗夜「はい。音楽を楽しむことを思い出せました。それと、余裕を持つことを知りました。……今考えてみると、悩んでいたのが馬鹿みたいに思えますね」
紗夜(少しの自嘲を含んだ笑みが浮かぶ。それを見て湊さんは微笑んだ)
友希那「なら良かった。私も今日は楽しかったわ」
紗夜「ええ、私も。……それにしても、キーボード、お上手なんですね」
友希那「ふふ、ありがとう。紗夜のギターも素晴らしかったわよ」
紗夜「ありがとうございます。どういう風の吹き回しだったんですか?」
友希那「楽屋でも言った通りよ。こういう機会でしか楽器を持ってステージに立つことはないもの」
友希那「リサと同じような立場で、目線で、あの子の隣に並んで立ちたかった。それだけよ」
友希那「それに、今回の曲は美竹さんが選んだものだけど……たまたまキーボードの目立つ曲だった」
友希那「特にCメロなんかは私とリサの音が目立つし、演奏していて新しい発見があったような気がするわ」
紗夜「……そうですか」
紗夜(穏やかな表情をする湊さんを見て思う。彼女も私と同じように変わっているのだ、と)
紗夜(人は変わる。変わらないと思っていても、変わっている)
紗夜(1年前の私と湊さんであれば今のような言葉を交わすことなど絶対になかっただろう)
紗夜(それが良い傾向なのか、はたまた悪い傾向なのか)
紗夜(正しいのか、正しくないのか)
紗夜(そんなことを考えても、それが分かるのはどうせ未来だ。なら今は自分が思うように走ればいい)
紗夜(戸山さんが歌った歌を思い出す。彼女の明るい声にも教えられたことが多くあったように思える)
香澄「紗夜せんぱーい! あ、友希那先輩もここにいたんですね!」
友希那「お疲れ様、戸山さん。ライブ、とても良かったわよ。素晴らしい歌だったわ」
香澄「えへへ、ありがとうございますっ! 友希那先輩、楽器も弾けるんですね!」
友希那「ええ。紗夜や燐子ほどではないけれど、ギターとキーボードはそれなりにね」
香澄「へーっ、友希那先輩ってやっぱりすごいなぁ~! 私も負けてられないっ!」
紗夜「戸山さん、何か用事があったのでは?」
香澄「あ、そうだった。紗夜先輩、友希那先輩、このあと時間ってありますか?」
香澄「実はですね、せっかくだし、一緒にステージに立ったみんなで打ち上げをしようって話になってるんですよ!」
香澄「どうですか? 他のみんなは大丈夫だって言ってますよ!」
紗夜「ええ、分かりました。私も参加します。湊さんはどうですか?」
友希那「私も大丈夫よ」
香澄「ホントですか!? わーいっ! それじゃあみんなにも伝えてきますね!」
友希那「……戸山さんはいつでも元気ね」
紗夜(元気よくCiRCLEの中へと走っていく背中を見送りながら、湊さんは呟く。私もそれに頷いた)
紗夜「戸山さんと、さらに北沢さんと若宮さんがこちらのバンドにはいましたからね。みなさんはとても騒がしくて、とても元気で、とてもいい人たちです。……松原さんと私は、彼女たちが元気すぎて困ることが少しありましたけど」
友希那「ふふ、そうみたいね。でも……あなたも楽しそうな顔をしているわよ。いい経験だったんじゃない?」
紗夜(言われて、自分の顔に笑みが浮かんでいることに気付く)
紗夜「……ええ。とても素敵な、楽しい経験でしたね」
紗夜(しみじみとそう思う。彼女たちが手伝ってくれたからこそ、私はこうして笑うことが出来るのだ)
――――――――――
―――――――
――――
……
――花咲川女子学園 校門――
紗夜(ライブの翌日、火曜日の朝。私はいつものように、登校してくる生徒の服装チェックを校門で行う)
紗夜(行いながら、昨日カフェテリアで思ったことを考える)
紗夜(人は変わる。変わらないと思えたことでも変わっている。それをなんと言葉にするべきなのか)
「おはよー、紗夜ちゃん」
紗夜「おはようございます」
紗夜(登校してきたクラスメイトに挨拶を返しながら、それは『成長』と呼べるものではないだろうか、と思い至った)
紗夜(変わらない、成長しないと思っていた私の音。だけど、それは私の思っている以上に変わっていて、成長していた)
紗夜(……そうであれば嬉しいし、そうでなくてもそれはそれでいい)
紗夜(多分、私が余裕を持つことが出来たからこういう風に考えられるようになったのだろう)
紗夜(そう結論付けたところで、北沢さんと若宮さんが並んで登校してくる姿が見えた)
はぐみ「おはようございまーす!」
イヴ「おはようございますっ!」
紗夜「はい。おはようございます、北沢さん、若宮さん」
紗夜「北沢さん、今日はちゃんと制服で登校してきていますね。言ったことを守ってもらえて嬉しいです」
はぐみ「もう失敗はしないよ、紗夜先輩!」
紗夜「そうですか、それはよかった」
はぐみ「えっへん!」
紗夜「ふふ……」
イヴ「んー……」
紗夜「……若宮さん? どうかしましたか?」
イヴ「やっぱりサヨさんは、ヒナさんがいつも仰ってる通りの方ですね!」
紗夜「日菜が?」
イヴ「はい! とっても優しくて、面倒見がよくて、なんでも出来るおねーちゃんだってよく仰ってます!」
紗夜「あの子はまたそんなことを……。私はそんな出来た人間ではありませんよ、若宮さん」
イヴ「いえいえ! 私、一緒にバンドを組んで思いました! サヨさんはとても優しい方だなって!」
イヴ「みんなにアドバイスを与えてくれて、カノンさんと共に私たちの支えになってくれていました!」
イヴ「紗夜さんには義があって、仁があって、礼があって、誠もあって……とても立派なサムライのように見えます!」
紗夜「そ、そうですか。ありがとうございます」
紗夜(……多分、若宮さんなりの誉め言葉なんだろう。そう思ってその言葉を受け取る)
はぐみ「あ、イヴちん。1時間目体育だし早く行って着替えなきゃだよ」
イヴ「そうですね、遅刻になってはいけませんね。それではサヨさん、失礼します」
はぐみ「またね、紗夜先輩!」
紗夜「ええ。外はともかく、廊下は走らないで下さいね」
紗夜(その言葉に北沢さんと若宮さんは元気よく返事をして、昇降口へと小走りに向かっていった)
紗夜(2人の後ろ姿が見えなくなってから、私はなんとはなしに中庭の木に目を移す)
紗夜(桜は既に全て散ってしまっていた。木々には緑色の葉桜が茂っている)
紗夜(……去年の私はその景色の移り変わりに何を思っていただろうか)
紗夜(少し考えて、それらに目をやる余裕もなかったか、と苦笑した)
紗夜「……未来は続く 明日の先へ」
紗夜(北沢さんが望んだ曲の1フレーズを口ずさむ)
紗夜(今年はどんな出来事が起こるだろうか。どんな人たちと巡り合えて、どんなことを経験できるだろうか)
紗夜(楽しいこともたくさんあるだろうし、逆に嫌なことだって起こるだろう。でも振り返ればそれらも良い思い出になるのかもしれなかった)
紗夜(今は私を待ち受ける全てのことが少し楽しみに思える。これもきっと成長と言えるのだろう)
紗夜(そう思ったところで、緑の匂いをした、柔らかくて温い風がふわりと頬を撫でていく)
紗夜「……春、ね」
紗夜(それがいつになく心地よく感じられて、私は目を細めるのだった)
おわり
さよつぐ さよはぐ ←響きが似てる
そんな思いつきでした。ごめんなさい。
流星群はミリマスのジュリア(CV:愛美)のものです。
流星群もクインティプル☆すまいるもダウンロード販売なら1曲250円というお手頃価格ですぐに手に入りますので興味があれば是非どうぞ。
HTML化依頼出してきます。
じゃんけんでやる曲決めるバンドなんてあるわけないな(白目)
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Entry ⇒ 2018.04.23 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】あこ「りんりん。昨日オ〇ニーした?」燐子「うん。いっぱいしたよ」
あこ「ね。りんりん?」
燐子「どうかしたの? あこちゃん」
あこ「昨日オ〇ニーした?」
燐子「うん。いっぱいしたよ」
友希那「ぶーーっ!!!」
燐子「ゆ、友希那さん?」
友希那「ごほっ……ごほっごほっ」
あこ「友希那さん、いきなり噴き出してどうしたんですか!?」
友希那「あっ、いえ、あ、あなた達が……」
燐子「え? わたし達……?」
あこ「あことりんりんがどうかしました?」
友希那「え? あっ……いや、その……」
友希那(え? 一体何が起きたの? え? けん玉で? え?)
友希那(……)
友希那(ダメ。落ち着きなさい。そう落ち着くのよ。湊友希那)
友希那(ふぅ……。落ち着いたわ)
友希那(ええ、きっと私の聞き間違い。そうに決まっているわ)
友希那(たぶん『お箸ー』と言ったのを聞き間違えたんでしょうね。響きもとても似ているわ。それにもう少ししたら夜ごはんの時間だし)
友希那「いえ、ちょっと勘違いがあったみたい。お騒がせしたわね」
燐子「そ、そうなんですか」
あこ「そうだったんですね」
ガラララッ
リサ「お待たせー」
紗夜「飲み物、皆の分買ってきましたよ」
紗夜「気にしないでください。公正にじゃんけんで勝負しましたし」
リサ「そうそう。今度はアタシ達が勝つから覚悟していてよねー」
友希那「ふふっ。楽しみにしているわ」
あこ「りんりん。さっきの話なんだけど、昨日は道具か何か使った?」
燐子「うん。けん玉を使ったよ」
友希那「ぶーーーっ」
紗夜「み、湊さん!?」
リサ「友希那どうしたの!?」
友希那「い、いや、大丈夫よ」
友希那(き、きっとお箸を使ってけん玉遊びしたのね。さすが燐子。それでこそロゼリアよ)
燐子「顔が真っ赤……です。もしかして風邪を?」
友希那「ち、違うの。気にしないで」
リサ「うーん、確かに顔は赤いけど熱はないみたいだし」
友希那「本当に大丈夫よ。だからおでこから手を放してくれないかしら」
リサ「あっ、うん」
紗夜「そういえば、先程けん玉がどうこう聞こえたのだけれど、白金さんは、けん玉で遊んだりしているのですか?」
あこ「そうなんです。りんりんは、けん玉でオ〇ニーしているんですよ」
紗夜「まったくライブも近いというのに、そんな時間があるなら練習を………………へ?」
リサ「えっ//」
友希那「……」
リサ「燐子、そ、そうなの?」
燐子「はい。その……子供っぽいかもしれないけれど……最近ハマっていて」
リサ「そ、そうなんだ。全然子供っぽくないと思うけど。それにしても、けん玉かー。へー//」
紗夜「なっ……。けん……。え?」
友希那(紗夜がお魚みたいに口をパクパクしているわ。可愛いわね)
リサ「ち、違う。ちょっと暑いかなーって」
紗夜「そ、そうです。水でも飲んで落ち着きましょう」
あこ「そうなんですね。じゃあ、あこ。ちょっとトイレ行ってきます」
燐子「わたしも」
リサ「い、行ってらっしゃーい」
ガラララッ
友希那「行ったわね。ねえ、二人とも。私の気持ちがわかったかしら?」
リサ「な、なるほど。さっきの顔が赤い件は……ね」
紗夜「まったく、休憩時間にする話じゃないわ」
友希那「……どう思う?」
リサ「え?」
紗夜「けん玉。そんな大きいものが入るのかしら?って話かしら?」
友希那「違う。あの二人、オナ……その……えーと……あの行為を勘違いしているんじゃないかしら?」
リサ「あっ」
友希那「リサは気づいたようね」
リサ(オ〇ニーって単語を言えずに恥ずかしがってる友希那かわいー)
リサ「まぁ、でも何をおかずにしたとか、なにを使ったとかは会話しないよねー」
紗夜「え?」
リサ「え?」
友希那「コホン」
リサ「ど、どうぞ//」
友希那「あの二人はその単語を平気で言い過ぎだし、あまりにも羞恥がなさすぎる。きっと他の行為と勘違いしている。私はそう思うわ」
リサ「そ、そういうことかー」
友希那「あなた……さっきの『あっ』で気づいていた訳ではなかったのね」
リサ「アハハハハ……」
リサ(恥ずかしがっている友希那かわいーぐらいしか考えてなかったなー)
紗夜「そうね」
リサ「へ?」
友希那「もし、二人が喫茶店でさっきの会話をしていたらどうなると思う?」
リサ「え、えーとそれは……」
友希那「そう。きっと問題になるわ。だからあなたが正しく導いてあげる必要があると思うの」
リサ「いやいやいやいや。アタシが説明しろってこと!? 無理だって」
紗夜「これは仕方のない事です。正直私と湊さんは口下手で説明下手だわ」
リサ「口下手!? いやいやいやいや。今回の話で一番喋ってるの友希那だよね!?」
友希那「大丈夫あなたならやれるわ! 私はロゼリアの為に頑張っているリサを尊敬しているわ」
紗夜「そうです。これはロゼリアの為よ」
リサ「いやいや。ロゼリアの問題ならみんなで解決しようよ!」
ガラララッ
あこ「ただいまです!」
燐子「戻りました……」
友希那「頑張ってリサ! リサのそういう所私好きよ」ボソボソ
紗夜「さすが今井さん。尊敬します」ボソボソ
リサ「うぅ……。これは貸しだからね」
リサ「えーと、二人ともちょっといいかな?」
あこ・燐子「?」
リサ「という事。わかってくれた?」
燐子「あ、あぅ……//」シュー
紗夜「白金さん大丈夫!? 頭から煙が出ているわ!」
友希那「まったく……。燐子、一体ナニと勘違いしていたの?」
燐子「そ、その……あこちゃんから『一人遊び』だと聞いていたので……。てっきり家で一人でやる遊びかなって……」
友希那(ある意味『一人遊び』よね)
リサ「ま、まぁ、良かったじゃん。これからは気を付けてよね」
燐子「は、はい」
リサ「で、あこはどういう勘違いしていたの?」
あこ「え? あこは知っていましたよ」
リサ「え!?」
友希那・紗夜(なんですってーーー!?)
友希那「あっ、いや……その……ね、ねえ? リサ?」
リサ「へっ!? あっ、その……紗夜はどう思う?」
紗夜「ど、どうと言われましても……えーと……」
あこ「ねえ、りんりん。あこはりんりんは仲間だと思っていたのに、違うの?」
燐子「ふぇっ//」
あこ「りんりんは詳しいと思ってたのに……。りんりんは全然した事なかったの?」ウルウル
燐子「あぅ……いや……その……」
あこ「うぅ……あこりんりんの事を信じて色々話をしたのに……。正直に話をしたのに……」
燐子「じ、じつは……ちょっとだけ……本当にちょっとだけならしたこと……名称を知らなかっただけで」
あこ「やったー。りんりんは仲間だね」
燐子「……あ、あはははは」
リサ(燐子がレイプ目で泣いてる……)
友希那(こういうのを羞恥プレイというのかしら……)
紗夜(こんな感じで日菜に攻められるシチュもありね)
あこ「ところで、皆さんは経験あるんですか?」
友希那「さあ、休憩時間は終わり! ライブも近いし練習を始めるわよ」
リサ「よし! 頑張ろう!」
紗夜「まったく、なんて無駄な時間を!」
あこ「あっ……」
燐子「……あ、あはははは」
あこ「え? あこは知っていましたよ」
↓↓↓↓↓↓↓↓
あこ「え? あこは知ってたよ」
あこ(あーーーもうーーーーーーー!!)
あこ(オ〇ニーって言った時の友希那さんの恥じらう顔最高だったなー)
あこ(でもリサ姉と紗夜さんが恥じらうなんて、ちょっと予想外だったかも)
あこ(紗夜さんとかあまり詳しくなさそうだし)
あこ(でもでもでもでも)
あこ(りんりんが一番ーーーーーっ!)
あこ(最後のあのりんりんの表情!!)
あこ(あーーーーーもうっ!!!)
あこ(りんりん最高っ!!!!)
あこ(またあんな表情見てみたいなー)
あこ(うーん。でも今度は何を言って恥じらわせようかな……)
巴「ただいまー」
あこ「あっ、おねーちゃん。ねえねえ、いまちょっといい?」
巴「ん? どうしたあこ?」
あこ「うん、おねーちゃん------って知ってる?」
巴「------へっ?」
あこ(とりあえず今はおねーちゃんで楽しもうっと♪)
終わり
燐子(……)
燐子(…………)
燐子(………………)
燐子(あっーーーーーーーー//)
燐子(もうっ! あこちゃってば、皆の前で『りんりん。昨日オ〇ニーした?』って言うんだから! もう卑怯だよ!)
燐子(途中で死にかけて! 途中でいきそうだったんだから!)
燐子(………………)
燐子(でも……調子に乗ってるあこちゃん……。かっこよかったなー)
燐子(恥ずかしそうにオ〇ニーを説明する今井さんも可愛かったけど)
燐子(やっぱり、あこちゃんがわたしを辱める時が一番楽しかったかな……)
燐子(えへへ//)
燐子(今度はどんな展開に持って行って、あこちゃんを調子に乗らせて、辱められようかな……)
燐子(ふふっ。楽しみ//)
本当の本当に終わり
読んでくれてありがとうございました!
また機会があればよろしくお願いします!
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Entry ⇒ 2018.04.18 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】紗夜さんはめんどくさい
※キャラ崩壊してます
――朝 恋人のアパートの前――
氷川紗夜「…………」ピンポーン
紗夜「…………」
紗夜「…………」
紗夜「…………」ピンポーンピンポーンピンポーン
――ガチャ
紗夜「おはようございます」
紗夜「はい? どうしてここにいるか、ですか?」
紗夜「恋人の家に赴いて、一緒に学校へ行く。何かおかしいことでもありますか?」
紗夜「時間? 今は……朝の6時半ですね。それが何か?」
紗夜「早すぎる……そうでしょうか。そんなことはないと思います」
紗夜「ところで、あなたはまだ準備も何も済んでいないようですね。ええ、その寝ぐせのついた頭と寝間着姿を見れば分かります」
紗夜「上がりますね」
紗夜「なぜって……早く準備をしないと遅刻しますよ」
紗夜「ただでさえ、あなたは1人暮らしだからと怠けている姿が目立つのです」
紗夜「ですから私がこうしてわざわざあなたの家にまでやってきて、準備を手伝おうとしているんです」
紗夜「感謝こそされど、非難をされる謂れはありません」
紗夜「分かって頂けましたか?」
紗夜「……はい。それではお邪魔します」
紗夜「部屋の中は……ちゃんと綺麗にしているようですね」
紗夜「ええ、ちゃんと私が言った通りにしているようで安心しました」
紗夜「さぁ、早く着替えて、顔を洗ってきてください。その間に私は朝ご飯の支度をしておきますから」
紗夜「……何をそんなキョトンとしているんですか?」
紗夜「恋人のために手料理を振舞うのは当然のことではないでしょうか」
紗夜「大丈夫です。食材はきちんと持参してきましたから。台所だってもう勝手は知っています」
紗夜「遅刻しますよ。早く準備をしてきてください」
紗夜「まったく……仕方のない人ですね」
……………………
――通学路――
紗夜「もうすっかり春になりましたね」
紗夜「花粉症は大丈夫ですか? 最近、何だか鼻をすすっていることが多い気がしますけど」
紗夜「……少し鼻の奥が痒いくらいだから平気……そうですか」
紗夜「きちんとティッシュは持っていますか?」
紗夜「持ってる……と胸を張る割には、ポケットティッシュが1つしかないじゃないですか」
紗夜「これを持っていてください。昨日買ってきましたから、6個入りのポケットティッシュです」
紗夜「それから使ったティッシュをポイ捨てするようなことはないと思いますが、あなたは使用済みのものをそのままバッグなんかに入れそうですからね」
紗夜「ゴミはこのビニール袋にちゃんと入れて、家に帰ったらその袋をしっかり処分してください」
紗夜「それとマスクはしなくても平気なんですか?」
紗夜「……そこまで酷くないから平気……そうですか」
紗夜「しかし症状がいつ悪化するとも知れませんし、もう流行りは過ぎたとはいえインフルエンザにかかる人も未だにいます」
紗夜「マスクも用意してきているので、ちゃんと付けてください」
紗夜「息苦しくなるからマスクは嫌い?」
紗夜「駄目です。そういう目先のことばかりを見ていると、本当に風邪を引いたり花粉症が酷くなってより苦しくなるんですから」
紗夜「はい、付けてください。……よろしい」
紗夜「あなたは本当に世話が焼けますね。ふふ……」
紗夜「……? どうして笑ったのか、ですか?」
紗夜「別に他意はありませんよ。ただ、本当に手がかかる人だなと思っただけです」
紗夜「あ、いえ、謝ってほしいとかそういうことではありませんから、頭を下げないでください」
紗夜「ええ、気にしないでください。私が好きでやってることですから」
紗夜「……そうですね。頂けるのであれば、謝罪よりも感謝の言葉の方が嬉しいですね」
紗夜「はい、どういたしまして」
紗夜「っと、もう別れ道ですね。春眠暁を覚えず、とは言いますが、きちんと眠らずに授業を受けてくださいね」
紗夜「……いつも返事だけは立派なんだから……。ちゃんと勉学に励んでください。学生の本分は勉強なんですから」
紗夜「ほら、ネクタイが曲がっていますよ。まったく、きちんと結んでいれば歩いているだけでズレることなんてないでしょうに」
紗夜「……? 何を、って……あなたの曲がったネクタイを直そうとしているんですが」
紗夜「何を恥ずかしがっているんですか? これくらい、恋人なら当然でしょう」
紗夜「それに真正面の私からの方がすぐに直せます。ほら、じっとしていてください」
紗夜「……ここをこうして……こう、と……」
紗夜「……よし、直りました。服装の乱れは風紀の乱れですからね。人間、きちんとした装いをしていれば自ずと正しい行いをするようになるものです」
紗夜「はい、今日も1日頑張りましょう」
紗夜「それでは、また」
……………………
――放課後 校門――
紗夜「…………」
紗夜「…………」キョロキョロ
紗夜「……まだ来ない、か」
紗夜「…………」
紗夜「……遅いわね。何かあったのかしら……」
紗夜「…………」ソワソワ
紗夜「あっ……!」
紗夜「……ゴホン。こんにちは」
紗夜「はい? どうしてここにいるか、ですか?」
紗夜「朝も言ったでしょう。恋人の学校に赴いて、一緒に帰る。何かおかしいことでもありますか?」
紗夜「ええ、そうでしょう」
紗夜「……わざわざこちらに来なくても、言ってくれれば花女まで迎えに行く……ですか」
紗夜「申し出はありがたいことですが、それは結構です。朝も言いましたけどこれは私が好きでやっていることですから」
紗夜「それと、単純に女子生徒の多い場所へあなたを招きたくありません」
紗夜「……分かって頂けましたか?」
紗夜「分かって頂けたのなら結構です。さぁ、一緒に帰りましょう」
紗夜「どうでしたか、今日は。きちんと真面目に授業を受けましたか?」
紗夜「…………」
紗夜「まぁ、その緩んだネクタイを見ればなんとなく予想はつきますから、取り繕わなくて平気です」
紗夜「まったく、あなたは私が付いていないと駄目ですね」
紗夜「……え? 私が嬉しそうにしている?」
紗夜「それは気のせいでしょう。ええ、気のせいですとも」
紗夜「それより、明日はお休みですが……あなたの予定はもう決まっていますか?」
紗夜「……まだ、ですね。分かりました」
紗夜「ではあなたの家に泊めてください」
紗夜「誰をって、今の流れで私以外に該当者がいますか?」
紗夜「いませんよね?」
紗夜「……本当にいませんよね……?」
紗夜「コホン。分かったのなら、私をあなたの家に泊めてください」
紗夜「何故って……最近、朝のあなたは目の下に薄くクマが出来ていることが多いですからね」
紗夜「きっと夜遅くまでテレビを見たりスマートフォンをいじっているのでしょう」
紗夜「睡眠不足が脳に与える悪影響は大きなものです。ましてや成長期の私たちにとっては健やかな身体の成長も阻害しますから」
紗夜「……はい、そういうことです。お休み前だからと夜更かしをしないように、この土日でしっかり生活習慣を正させてもらいます」
紗夜「私は特に予定がないので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
紗夜「ええ、観念してください」
紗夜「……素直でよろしい。それでは1度自宅に帰って準備をしてからまたあなたの家に伺いますので、大人しく待っていてくださいね」
紗夜「……ふふ」
……………………
――恋人の部屋――
紗夜「お邪魔します」
紗夜「荷物は居間に置かせてもらいますね」
紗夜「……はい? どうしてギターまで持ってきているのか、ですか?」
紗夜「ギターには可能な限り毎日触れていないと感覚が狂うんです」
紗夜「私の音は完璧な演奏技術の上に出来あがるものですからね。それに日々の精進を怠っては高みから遠ざかってしまうばかりなので」
紗夜「あ、でも安心してください。流石にあなたの部屋でアンプに繋いで音を出すということはしませんよ。近隣の方に迷惑になりますからね。ちゃんとヘッドホンアンプを使います」
紗夜「さて……荷物は置かせていただきましたので、早速ですが……」
紗夜「……? 何を身構えているんですか?」
紗夜「無理難題を吹っかけられると思った……と。あなたは私をなんだと思ってるんですか」
紗夜「っ、か、可愛い女の子とか、そういうセリフを言うのはやめてください」フイ
紗夜「まったく……か、可愛いだなんて、私には似合わない言葉です。そういう類の表現は日菜に使ってください。姉の私が言うのもなんですけど、あの子の方がよっぽど可愛いですから」
紗夜「……いえ、別に、にやけてません。何を邪推しているんですか」
紗夜「私がそっぽを向いた理由? それは……あ、あなたの部屋がきちんと掃除されているのか隅々まで確認しているんです」
紗夜「あなたのことですから、見える部分だけ適当に整理して、見えないところに色んなものを突っ込んでいるんじゃないかと思ったんです」
紗夜「……どうやら図星みたいですね」
紗夜「誤魔化すつもりが怪我の功名ですね……」
紗夜「いえなんでもありません。何も言っていません」
紗夜「さぁ、そうと分かればやることは決まりました。部屋の掃除をしましょう」
紗夜「駄目です。見えないところに物を放り込むだけではまたすぐに部屋が散らかりますからね」
紗夜「……そこまでやりたくないのなら、私があなたの私室まで徹底的に掃除を行いましょうか? 安心してください、あなたが怠けている間に机の引き出しからクローゼットの奥まで徹底的に洗い出して、必要なものと不要なものを割り出してあげますから」
紗夜「……それだけは絶対に勘弁して欲しい……なるほど。そこまで拒否されると逆に興味が出てきますね」
紗夜「急に自分の部屋を中心に掃除がしたくなってきた? そうですか、それはよかった」
紗夜「ええ、最初からそう言えばいいんです。それでは、あなたは私室と居間の掃除をしてください。私は台所とお風呂場の水回りを掃除しますので」
紗夜「まったく、あなたは本当に手のかかる仕方のない人ですね。ふふっ」
……………………
――夜――
紗夜「お風呂、頂きました」
紗夜「はい? ああいえ、流石に家主を差し置いて最初にお風呂を頂く訳にはいきませんから」
紗夜「……ですが、私が後に入る方があなたに気を遣わせてしまったのかもしれませんね。配慮が足りずにすみません」
紗夜「いつも通りに使ったから全然気にしてない、ですか? そうですか、そう言ってくれると助かります。ありがとうございます」
紗夜「さて……晩ご飯も食べて、宿題も終わらせて、もう9時半ですね」
紗夜「あと30分もしたら電気を消しますので」
紗夜「……早すぎる? そんなことはありません。所説ありますが、夜10時から午前2時までの睡眠はとても大切なものです」
紗夜「ですから、やり残したことややりたいことがあるならすぐに済ませてください」
紗夜「私は少しギターを弾きますので、どうぞお構いなく」
紗夜「それでは失礼して……まずはチューニングから……」
紗夜「…………」
紗夜「……よし」
紗夜「…………」ジャカジャカ
紗夜「…………」ジャン、ジャジャン
紗夜「……?」
紗夜「どうかしましたか? 私の方をじっと見て」
紗夜「アンプに繋いでないエレキギターの音が面白い……そうですか?」
紗夜「……まぁ、確かにどこか可愛い音だと言われればそうと思えなくもありませんが」
紗夜「…………」
紗夜「気になるのでしたら、こっちへ来てください」
紗夜「ヘッドホンではなくイヤホンに差し替えます。そうすれば半分ずつ片耳で聞けるでしょう」
紗夜「いいえ、練習の邪魔だとは思いませんから大丈夫です。誰かに音を聞いてもらうのもいい練習になりますから」
紗夜「あ、ですが両隣だとギターのヘッドと私の腕があなたの邪魔になるので、背中の方に回ってくれますか」
紗夜「ええ、背中合わせで座ってくれると助かります」
紗夜「……はい、それではイヤホンを片方どうぞ」
紗夜「付けましたね? それでは、しばらく練習にお付き合いください」
紗夜「…………」
紗夜「…………」ジャーンジャーンジャーン、ジャジャーン
紗夜「はい? どうかしましたか?」
紗夜「あなたの好きな曲のイントロに似ている……はて、なんのことでしょうか」
紗夜「もう完全にその曲になっている? そうですか。それは不思議ですね」
紗夜「ギターを弾く方に集中しているので、ちょっと今はあなたの言いたいことがよく分かりません」
紗夜「……私から言えることは、誰かがこの曲の歌を歌ってくれたらきっといい練習になるな、ということだけです」
紗夜「練習に付き合ってくれている誰かが歌ってくれたらな、と」
紗夜「そうですね。私のために誰かが歌ってくれたならいいな、と思います」
紗夜「ふふ、ありがとうございます」
紗夜「おかげで……とても心地よくギターを弾けますよ」
―――――
紗夜「……ふぅ」
紗夜「ありがとうございました。練習に付き合って頂いて」
紗夜「はい? いつの間にあなたの好きな曲を覚えたのか、ですか?」
紗夜「何のことか分かりませんね。私はただ、前にあなたの部屋で目についたCDを自分でも聞いてみたというだけですから」
紗夜「ええ、それ以上もそれ以下もありません」
紗夜「……分かって頂けたなら結構です」
紗夜「…………」
紗夜「1つ……聞いてもいいでしょうか」
紗夜「先ほどの私のギターは、あなたにはどんな風に聞こえましたか?」
紗夜「ああいえ、専門的なアドバイスが欲しい訳ではないので思ったことをただ話して頂ければ大丈夫です」
紗夜「はい、お願いします」
紗夜「…………」
紗夜「……そうですか。あなたはそう思ってくれたんですね」
紗夜「ええ、とても参考になりました」
紗夜「私のギターがあなたにそう響くのなら、それだけで私は自分の音に自信を……誇りを持つことができますから」
紗夜「ありがとうございます」
紗夜「……っと、もう10時になりますね。そろそろ寝る支度をしましょう」
紗夜「いえ、それとこれとは話が別です。ギターの感想を頂いたこととあなたの生活習慣を正すことは関係ありませんので、素直に観念してください」
紗夜「もっと私と話がしたい? それなら大丈夫です。安心してください」
紗夜「明日の朝もちゃんと早くに起こしてあげますから、たくさん話が出来ますよ」
紗夜「ええ。明日も当然付きっきりです。週末の予定、特に決まってないんですよね? でしたら問題はないはずです」
紗夜「明日も、明後日も、私がきっちり付き添って怠惰な生活を正してあげますから」
紗夜「本当に、だらしのないあなたには私が付いていないと駄目なんですから……ふふ♪」
――――――――――
―――――――
――――
……
――氷川家 紗夜の部屋――
紗夜「…………」
氷川日菜「どう? 『厳しくも優しいおねーちゃんが付きっきりな週末の話』は?」
紗夜「……どうもこうも、いきなりこんなものを読まされた私にどういう反応をしろと言うのよ、あなたは……」
日菜「え? 感動した、とか、是非セリフを吹き込みたい、とか? パスパレの収録スタジオはいつでもウェルカムだって千聖ちゃんが言ってたよ?」
紗夜「絶対にやらないわよ」
日菜「そっか~、この話は気に入らなかったか~」
紗夜(どの辺りに私がその話を気に入ると判断できる材料があったのかしら……)
日菜「じゃあ次の話! これはどう?」
紗夜「……まだあるの?」
日菜「いっぱいあるよ! 次は……『優しくて甘々なおねーちゃんがとろけるほど甘やかしてくれる話』だね! はいこれ!」
紗夜「読まないわよ」
日菜「えーっ、どうして~!?」
紗夜「さっきの話からしてロクな内容じゃないでしょうし、読みたくないわよ」
日菜「もう、おねーちゃんは恥ずかしがりなんだから」
紗夜「恥ずかしがりとかそういう話じゃないでしょうに……」
紗夜「というかいつまで続ける気なの、あなたは。私はギターの練習がしたいんだけど」
日菜「……そっか。おねーちゃんはあたしとお話するの、ヤなんだ……ギター弾いてる方がいいんだ……」
紗夜「別に嫌じゃないわよ。内容が悪いだけで他の普通の話だったらちゃんとするから」
日菜「ううん、いーよ、おねーちゃんのことはちゃんと分かってるから。それじゃあ最後にあたしのおすすめの話だけでも聞いてくれる?」
紗夜「……まぁ、聞くだけなら」
日菜「じゃあ話すね? 『一昔前の、あの頃のおねーちゃんにキツい言葉を投げかけられる話』」
紗夜「待ちなさい」
日菜「どうしたの?」
紗夜「……私が悪かったから、光を消した目でこっちを見るのはやめて」
日菜「おねーちゃんが何を言ってるのかあたしよく分かんない」
紗夜「分かったから、あなたの気が済むまで付き合うから……」
日菜「ホント!? えへへ、やっぱりおねーちゃんは優しいね!」
紗夜「はぁ……」
紗夜(日菜はどこで覚えてきたのか、最近は私に構って欲しい時にこういう搦め手を使うようになった)
紗夜(こうなったこの子には満足するまで付き合ってあげるのが1番楽だと私も最近学んだ)
紗夜(しかも先日、1週間の演技力特別レッスンとやらをパステルパレットで行ってからは『自在に瞳から光を消せるようになった!』なんてはしゃいでいるものだから性質が悪い)
紗夜(ただでさえ厄介な甘えん坊状態の日菜にさらに厄介な演技力を与えたのはどこのどなたなのかしら。本当にはた迷惑なことをしてくれたものだ)
日菜「じゃあじゃあ、次はこの話! 『おねーちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』 はい、読んで読んで!」
紗夜(日菜は打って変わった輝く笑顔で私に新しい話を差し出してくる。それを受け取りながら思う。あとどれくらい先ほどのような話を読むことになるんだろうか、と)
紗夜「……はぁ……」
紗夜(それを考えると気が重く、私はもう1度ため息を吐いて小さく呟くのだった)
紗夜「ああもう、めんどくさい」
おわり
紗夜さんが好きな方、すみませんでした。
演技力レッスンのくだりは「パスパレのデートシミュレーション」の話のことです。
めんどくさいレベルで世話焼きする紗夜さんが好きです。めんどくさいレベルで紗夜さんに絡む日菜ちゃんも好きです。
つまり何が言いたいかというとめんどくさかわいい氷川姉妹が僕は大好きだということです本当にすみませんでした。
HTML化依頼だしてきます。
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Entry ⇒ 2018.04.12 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】湊友希那「燐子のコミュニケーション能力を向上させる」
※キャラ崩壊してます
湊友希那「燐子のコミュニケーション能力を向上させたいと思うの」
白金燐子「え……」
今井リサ「どしたの急に?」
友希那「いえ、燐子を見ていると少し不安になるのよ」
友希那「裁縫も得意で本好きで色々な知識を持っていて、ゲームが好きだから機械関係にも強いでしょうけど……流石にもう少し社交的になるべきだと思うのよ」
友希那「興味があることには一生懸命で、人との関りがおざなりになる。今はそれでもいいでしょうけどきっと近い将来苦労することになるわ」
氷川紗夜(湊さんも大概な気がしますけど……私にも返ってきそうだから黙っていましょう)
宇田川あこ「でもりんりん、ゲームの中だとすごい饒舌ですよ?」
友希那「まずそこよ」
友希那「普段は静かだけど得意なゲームの話になるとものすごく早口でまくしたてる」
友希那「そういう人をオタクって言うと最近知ったわ。趣味の範囲ならそれでもいいんだけど、行き過ぎると他人に迷惑をかけるとも知ったわ」
リサ(また変なテレビ番組に影響されたのかな……最近夜遅くまで部屋の明かり点いてるし)
友希那「キレる若者の問題行動、なんて大仰なことを言うつもりもないし、燐子に限ってそんなことをやるとは思わない」
友希那「だけど、このままだと恋人が出来た時だってきっと苦労するわよ」
燐子「こっ、恋人……ですか……!?」
燐子「わた、わたしは……まだそういうのは……」
友希那「いいえ、あなたももう高校2年生」
友希那「そういう浮ついた話の1つや2つ、あったっておかしくない年頃よ」
紗夜「ですが湊さん。恋人とはお互いのことをよく知り合って、好意を寄せるからこその関係のはずです」
紗夜「それならば白金さんのそういった部分も含めて相手の方は熟知しているのでは?」
友希那「ええ、確かにそうね。でもそれは恋人になる前の燐子よ」
あこ「恋人になったらなにか変わるんですか?」
友希那「変わるわ。この前テレビで見たんだけど、恋人との距離感が分からなくて、相手に四六時中べたべたと甘える人もいるらしいの」
リサ「それに何か問題でもあるの?」
友希那「あるわ」
友希那「たとえ話をしましょう。例えば、燐子が恋人との距離感が分からない場合のデートの待ち合わせ」
――駅前 待ち合わせ場所――
燐子「うう……やっぱりお休みの日だから……人が多い……」
燐子「あの人……もう来てるよね……」
燐子「場所は駅前広場の……時計の前……」
燐子「……!」タッタッタ...
燐子「あ、あの……! おはよう……ございます……!」
燐子「お、遅れてごめんなさい……どうしても人混みが怖くて……その……」
燐子「……気にしてない……ですか……? もう……慣れた……?」
燐子「……ごめんなさい……いつも遅れてしまって……」
燐子「でも……あなたがいないと……こ、こんなに人の多い場所で待てなくて……」
燐子「ごめんなさい……」
燐子「……許してくれるんですか……?」
燐子「ありがとう……ございます……」
燐子「えへへ……やっぱり優しいですね……あなたは……」
燐子「……はい、そうです……今日は……近くのネットカフェに……」
燐子「カップルシートっていうのが……新設されて……」
燐子「すごいんですよ……ディスプレイも大きくて……席もすごくしっかりしてて……」
燐子「だからそこで……1日ゆっくりしてみたいなって……」
燐子「はい……! 2人で……楽しみましょう……!」
燐子「それじゃあ……場所はあっちです……」ピト
燐子「……? どうかしましたか……?」
燐子「……えっ……あなたの腕にくっつく理由……ですか……?」
燐子「…………」
燐子「……ダメ……でしたか……?」
燐子「そう……ですよね……ごめんなさい……」
燐子「わたしなんかが抱き着いてたら……迷惑……ですよね……」
燐子「でも……人混みのなか……あなたと離れて歩くと不安で……」
燐子「不安で……」ジワァ
燐子「な、泣いてないです……違います……」
燐子「……えっ……? いいんですか……?」
燐子「くっついて歩いて……?」
燐子「全然迷惑じゃない……むしろ嬉しい……?」
燐子「……やっぱり……あなたは優しいですね……」
燐子「はい……ありがとうございます……」
燐子「……えへへ……」ギュー
燐子「喜んでくれるなら……思いっきり抱き着いちゃいます……」
燐子「ふふふ……♪」
……………………
燐子「ここ……ですね……」
燐子「わたしが……会員証を持っているので……はい……」
燐子「でも……その……店員さんと話すのが……ちょっと怖いので……」
燐子「まだ……くっついててもいいですか……?」
燐子「……あ、ありがとうございます……!」
燐子「はい……わたし……がんばります……!」
燐子「あっ、あの……!」
燐子「か、カップルシートを……お願いしたいんですが……!」
燐子「はい……ゲーミングPCと大型ディスプレイのある……」
燐子「……はい……利用は……1デイパックで……」
燐子「は、はい……37番の……ブースですね……ありがとうございます……」
燐子「……で、出来ました……!」
燐子「わたし……頑張れました……!」
燐子「……あなたに褒められると……えへへ……頑張った甲斐がありました……」
燐子「それじゃあ……ブースに行きましょう……」
燐子「……え? は、離れないと……ダメですか……?」
燐子「…………」
燐子「…………」ジワァ
燐子「……はい……? やっぱりこのままで……大丈夫……ですか……?」
燐子「あ……ありがとうございます……」
燐子「ここまで……ずっとくっついていたので……」
燐子「今離れると……すごく寂しいなって……ごめんなさい……」
燐子「ダメな人間で……ごめんなさい……」
燐子「……気にしてない……ですか……?」
燐子「……わたしなんかに……そうやって言ってくれるのは……あなただけです……」
燐子「はい……行きましょう……♪」
――――――――――
―――――――
――――
……
友希那「……ということになるわ」
燐子「なにか……問題が……?」
友希那「大いにあるわ」
友希那「まず第一に、この場合だと毎度毎度、恋人を待たせていることになるわ」
友希那「それは相手の厚意に甘えすぎよ」
リサ「……そうかなぁ?」
友希那「そうよ。恋人という関係は持ちつ持たれつの平等な関係だと燐子が貸してくれた本に書いてあったわ」
紗夜「まぁ……一理あるかしら……」
友希那「それにこんなに場所を選ばずにくっついていたら、重たい女の子だと思われるわ」
リサ(あれ……心当たりが……)
リサ(一緒にどこか行く度にスキンシップしてるけど……もしかしてアタシ、友希那に重たいって思われてる……?)
あこ「でもでも、好きな人とくっついていられるなら、相手の人も嬉しいんじゃないですか?」
燐子「そ、その前に……わたしはそんなに……人前で誰かにくっつかないよ……あこちゃん……」
友希那「いいえ、あこ。物事には限度があるのよ。流石に出会った瞬間からずっとくっつかれたら重たい女の子だと思われるでしょう」
あこ「でもおねーちゃんがこのまえ言ってましたよ? 『男って奴は胸が大きい女の子にはすぐ優しくなる、ただしひまりは例外だ』……って」
燐子「む、胸……!?」
友希那「…………」
紗夜「…………」
リサ「そーいうもんなのかなぁ」
あこ「おねーちゃんが言ってたから多分そうなんだと思う!」
友希那「……紗夜。今、私の方を見なかったかしら?」
紗夜「……気のせいでは? そういう湊さんこそ、私の方を見ませんでしたか?」
友希那「……気のせいよ」
あこ「なので、りんりんは胸がおっきいから男の人も喜ぶのでセーフだと思います!」
燐子「あ、あこちゃん……声が……」
友希那「…………」
紗夜「…………」
リサ(……気にしてるのかな、2人とも)
友希那「……今はそういう例外的で統計的にも意味がないことを前提に話を進めてもしょうがないわ」
紗夜「湊さんと同意見です。あ、すみません店員さん。フライドポテトを3つお願いします」
リサ(……うん、絶対気にしてるね……)
友希那「気を取り直して次のたとえ話ね。2人で行ったネットカフェでやるのはあの時のゲームよ」
――NFO はじまりの村――
RinRin(以下R)「えへへ、こうして一緒にゲームやるのって夢だったんです(*'▽')」
R「ネットカフェであなたと身を寄せ合って大きなディスプレイで冒険をするなんてとても素晴らしい体験だと思います(*^^)v」
R「わたしはやっぱりこういう趣味ですから理解をしてくれる人ってあんまりいなくて、あ、でもあこちゃんはもちろんロゼリアのみんなはこういうことも楽しんでやってくれるんだよ(`・ω・´)」
R「でもやっぱり恋人の前でこういうのをやると引かれちゃうっていうのがわたしたちの世界では常識だから、あなたにわたしの趣味を打ち明ける時ってすごくドキドキしてたんです(*´ω`)」
R「それでもあなたは「楽しそうだね」っていってくれたからやっぱりこの人じゃなきゃダメなんだなってわたしも思ったりなんてしちゃって(*'▽')」
R「あ、ごめんなさい今のは聞かなかったことにしてください恥ずかしいですから(*ノノ)」
R「それでNFOをやるのは初めてでしたよね? 大丈夫です(=゚ω゚)ノ 普段はリードしてもらってばかりですから今回はわたしがあなたをリードしますね(*^^)」
R「まず最初に職業なんですけどどれがやりたいですか? どれでもいいですよ好きなものを選んでください」
R「どんな職業にもわたしが合わせますから気にしないで好きなやつを選んでくださいね」
R「でもわたしとしてはナイトとしてあなたに守ってもらうっていうのも捨てがたいんですけどね(*´▽`*)」
R「ただこっちではわたしの方があなたを引っ張る存在ですから逆にわたしがアタッカーやタンカーになってあなたにはバッファとして後ろから魔法で支援してもらうっていうのもいいですよね( ・`д・)」
R「ふふ、どちらにしても協力プレイですからねなんというか2人の共同作業って感じがして楽しいですねヽ“(*´ω`)ノ”」
R「職業は決まりましたか?」
R「よく分からないからわたしに任せる、ですか?Σ(・ω・ノ)ノ」
R「分かりましたじゃあこの職業にしましょう('ω')ノ」
R「大丈夫です最初ですからねやることが簡単な職業にしましたから」
R「それにあなたならきっとそう言うだろうなって思ってこの職業のやれることとパーティー内における役割と便利なショートカットキーの一覧をちゃんと用意してきましたから」
R「あ、大丈夫ですよそれだけじゃないので安心してください(‘ω’*)」
R「ちゃんと期間限定の4つ星装備もしっかり用意してますからこれを装備すれば終盤くらいまで苦戦することはありませんよv(≧∇≦)v」
R「この装備も集めるのがなかなか大変でしたレアドロ狙って完徹したのなんて久しぶりですあこちゃんが途中で落ちちゃったのでそこからは1人でずっと頑張ってましたo(`・ω´・+o) 」
R「……ソワソワ((( ´ω`っ )3)))」
R「+(0゚・∀・) + ワクテカ +……」
R「えへへ、褒めてくれてありがとうございます頑張った甲斐がありました( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ」
R「あ、それからもし万が一にでもHP0で(。-_-。)てなっても大丈夫なように自動復活のアイテムですとりあえず30個用意したので持っててくださいね(゚∇^*) 」
R「まぁあなたに危害を及ぼすような不届き者はわたしが瞬コロしますからその心配もないんですけどね(/・ω・)/」
R「生まれてきたことを後悔させてあげますけどね(6-ω-)6」
R「死にたいやつからかかってくるんだ(*^○^*)」
R「ごめんなさいやってみたかっただけです(/ω\)」
R「それじゃあサクサク行きましょうか……2人っきりで(*ノωノ)」
――――――――――
―――――――
――――
……
友希那「……ということになるわ」
燐子「え……」
リサ「あんまり問題があるように見えないけど……」
友希那「いいえ、大いにあるわ」
友希那「最初に言ったでしょう。オタクと呼ばれる人たちは得意なことを早口でまくしたてると」
友希那「まさにそれそのものじゃない。初心者に与えていい情報量を超えているわ」
あこ「そーですか?」
友希那「少なくとも私はいきなりそんなこと言われても混乱するわ」
紗夜「……日本語が打てない湊さんレベルの人が果たしてどれほどいるんでしょうね……」
友希那「なにか言ったかしら?」
紗夜「いえ、なにも」
燐子「待ち合わせも……その……デート内容もですけど……」
燐子「流石にわたしでも……そんな風にはならないと思います……」
友希那「そういう油断が後の悲劇を招くのよ」
燐子「は、はぁ……」
友希那「燐子みたいな性格の子は優しくされるとすぐに落ちる。このまえ読んだ本にもそう書いてあったわ」
友希那「そういう人種をチョロインというらしいわね」
紗夜(最近は湊さんもそういった人種に含まれているような気がしますけど……話がややこしくなるから黙っていましょう)
友希那「ダメよ、燐子。いくら相手が好きだからってなんでもかんでも与えてばっかりじゃ」
友希那「そういうことをしてしまうから世の中にヒモと呼ばれる男性が生まれるのよ」
友希那「それにこういったものは自分の力で何かを成し遂げるから楽しいのでしょう?」
友希那「過ぎたるはなお及ばざるが如し、という言葉もある。何事もやり過ぎはよくないわ」
燐子(わたし……なんで想像の中のことで……注意されてるんだろう……)
リサ(あれ……なんかそれもアタシに心当たりが……)
あこ「うーん、確かにあこもゲームでなんでも貰ってばっかりだとつまんないな~」
あこ「やっぱりカッコいい装備とか強ーい敵は、一緒に協力して集めたり倒した方が楽しいもんね!」
友希那「そういうことよ。あこが今、とてもいいことを言ったわ」
友希那「恋人にしても、友達にしても、持ちつ持たれつの塩梅がとても大事よ。ねぇリサ?」
リサ「あっ、う、うん、そうだね」
リサ(……なんでアタシに話振ったんだろ……もしかして重たくてウザイって思ってるからなのかな……遠回しに指摘されてるのかな……)
あこ「わーい、友希那さんに褒められた~!」
燐子「……良かったね、あこちゃん……」
友希那「さて、それじゃあ次のシチュエーションね」
燐子「え……まだやるんですか……?」
友希那「当たり前じゃない」
紗夜「……白金さん、諦めた方がいいですよ。こうなった湊さんは頑固ですし」
燐子「……そうですね……」
友希那「次のたとえ話は……そうね。初めて燐子の家で恋人とデートした場合」
あこ「あ、紗夜さーん。あこにもポテトくださいっ」
紗夜「仕方ないわね……1皿だけよ」
あこ「ありがとうございます、紗夜さん!」
燐子「氷川さん……残り2皿……全部食べるんですか……?」
紗夜「……今日は偶然そういう気分なので」
リサ「重たいのかな……アタシ……」
友希那「あなたたち、話を聞く気あるの?」
あこ「ありますよ!」
燐子「……はい……」
紗夜「気になさらず、気が済むまで話していてください」
リサ「でも……いや……どうなんだろ……」
友希那「……まぁいいわ。とにかく、家でのデートよ」
――白金家 玄関――
燐子「えへへ……初めてのおうちデート……」
燐子「1週間かけて部屋の掃除もやったし……褒めてくれるかな……」
燐子「もうすぐ約束の時間……まだかな……」
燐子「……まだかな……」
燐子「…………」
燐子「約束の時間……1分過ぎた……」
燐子「だ、大丈夫かな……事故に遭ったり……してないかな……」
燐子「…………」
燐子「……5分過ぎた……」
燐子「ど、どうしよう……もしかして……」
燐子「もしかして……わたし……何かしちゃったのかな……?」
燐子「気付かないうちにあの人を怒らせて……」
燐子「わたし……き、嫌われ……」
――ピンポーン
燐子「!」タッタッタ...
――ガチャ
燐子「こ、こんにちはっ……!」
燐子「よ、よかった……来て……くれたんですね……」
燐子「あ……違うんです……その……あなたがちょっと遅かったので……」
燐子「も、もしかしたら……事故に遭ってたり……」
燐子「わたしが何か……気に障ることをして……き、嫌われちゃったのかな……って……」ジワァ
燐子「あ……ご、ごめんなさい……泣いてないです……平気です……」
燐子「信じてましたから……あなたのこと……」
燐子「え……? あんまり早くなると失礼かと思って……遅く来てくれたんですか……?」
燐子「そうだったんですね……ありがとうございます……気を遣ってくれて……」
燐子「でも……ごめんなさい……」
燐子「『なにが?』……ですか……? その……わたし……いつもあなたのことを……」
燐子「待ち合わせ場所で……待たせてしまっているので……」
燐子「いつも……こんな不安を与えてしまっているんだなって……」
燐子「本当に……申し訳なくて……」
燐子「ご、ごめんなさい……! 改善しますから……頑張りますから……き、嫌いにならないでください……!」
燐子「あなたがいないと……わたし……わたし……」ジワァ
燐子「……あ……頭を撫でて……くれるんですか……」
燐子「……はい……こうしていると……撫でてもらっていると……とっても落ち着きます……」
燐子「わたしを待つのは楽しいから……気にしないで……ですか……?」
燐子「そう言ってもらえると……はい……」
燐子「ありがとうございます……」
燐子「でも……あなたに甘えてばかりじゃ……いけないですよね……」
燐子「わたし……が、頑張ります……!」
燐子「あ……玄関で立ち話なんて……」
燐子「ごめんなさい……わたしの部屋に案内しますね……」
……………………
燐子「ここが……わたしの部屋です……」
燐子「はい……ピアノ……置いてあるんです……」
燐子「ついこのあいだ調律してもらったので……今はすごくいい音が鳴るんですよ……」
燐子「あ……調律といえば……このまえ……あなたに貸した本が……」
燐子「……はい、それです……映画化するみたいですね……」
燐子「今度……観に行きますか……?」
燐子「いえ……映画館であれば暗いですから……」
燐子「ずっとくっついてても……大丈夫かなって……」
燐子「それなら……どこでも出来る……?」
燐子「……確かにそうでしたね……」
燐子「映画は止めておきましょうか……はい……」
燐子「どうぞ……好きな場所に座って下さい……」
燐子「……といっても……人を招くことがないので……」
燐子「ベッドか……デスクチェアか……ピアノの椅子しか……ないんですけどね……」
燐子「個人的には……ベッドが……」
燐子「や、やましい意味じゃないですよ……?」
燐子「そこなら……並んで座って……肩を寄せ合えるかなって……」
燐子「……座ってくれるんですね……」
燐子「ありがとうございます……じゃあ隣に失礼して……えへへ……」ピト
燐子「……なんだか不思議な気持ちです……」
燐子「いつも1人だと……殺風景な部屋なのに……」
燐子「ほとんど白と黒の……褪せた部屋なのに……」
燐子「あなたと……こうして身を寄せ合っているだけで……」
燐子「とても……素晴らしい部屋に見えます……」
燐子「あなたがいるだけで……こんなにも世界は変わるんですね……」
燐子「触れ合っているだけで……こんなにも心が安らぐんですね……」
燐子「今日は色んな楽しいことをしようって……部屋も……1週間かけて綺麗にしました……」
燐子「あ……褒めてくれるんですね……ありがとうございます……」
燐子「それで……あなたを飽きさせないようにしなきゃ……って……思ってたんですけど……」
燐子「こうしていると……こうしているだけで……」
燐子「わたし……とても満たされた気持ちになってしまって……」
燐子「ごめんなさい……招いたのはわたしなのに……」
燐子「あなたの傍を離れたくないって……思ってしまうんです……」
燐子「ごめんなさい……不出来な人間で……ごめんなさい……」
燐子「でも……きっとあなたなら……笑って許してくれるだろうなって……」
燐子「そんな風に思ってしまうんです……ごめんなさい……」
燐子「あなたの優しさに付け込む……狡い人間で……ごめんなさい……」
燐子「わたしは……昔から……人付き合いが苦手で……」
燐子「だから……好きな人との適切な……距離感というものが分からなくって……」
燐子「いつも……迷惑ばかりかけて……ごめんなさい……」
燐子「でも……優しいあなたの近くを……離れたくなくて……」
燐子「温かくて……とても安らいで……幸せなんです……」
燐子「ごめんなさい……自分勝手な人間で……ごめんなさい……」
燐子「……あっ……」ギュ
燐子「肩を……抱いて……」
燐子「駄目です……そんなことをされたら……わたしは……」
燐子「わたしは……もっと駄目な人間になってしまいます……」
燐子「あなたがいないと……生きられなくなってしまいます……」
燐子「……そんな……優しい言葉をかけないで下さい……」
燐子「心臓が……キュッて……胸が苦しくて……」
燐子「嬉しくて……泣いてしまいますから……」
燐子「…………」
燐子「……はい……ずっと……一緒です……」
燐子「あなたに……愛想を尽かされないように頑張ります……」
燐子「だから……その……」
燐子「なにかあっても……見捨てないで……ください……ね……?」
……………………
燐子「あ……もうこんな時間……」
燐子「楽しい時間は……過ぎるのが早いですね……」
燐子「……もう……帰ってしまうんですか……?」
燐子「あ……ご、ごめんなさい……あなたにも予定がありますよね……」
燐子「ごめんなさい……」
燐子「…………」ジワァ
燐子「……え……? まだ平気……ですか……?」
燐子「いざとなったら……タクシー使ってでも帰るから平気……?」
燐子「い、いえ……流石に終電がなくなってしまっては……」
燐子「そんなの悪いですから……」
燐子「だから……泊っていってください……」
燐子「……え……? 着替えとか……持ってきてない……ですか……?」
燐子「大丈夫です……こんなこともあろうかと……」
燐子「1週間前から……用意してました……」
燐子「あなたがいつでも泊まれるように……って……着替えや歯ブラシや……その他諸々……」
燐子「サイズ……ですか……? それも抜かりありません……」
燐子「ロゼリアの衣装も……わたしが作ってますから……」
燐子「あなたの背格好を見れば……概ねのサイズは分かりますから……」
燐子「両親にも……ちゃんと言い含めてありますから……」
燐子「りょ、料理も勉強したんですよ……?」
燐子「肉じゃがとか……お味噌汁って……みんな好きだと聞いたので……」
燐子「はい……白金家は……いつでもあなたを受け入れます……」
燐子「……? 外堀……ですか……?」
燐子「ちょっと言ってる意味が……分かりませんね……」
燐子「お城ではありませんから……内堀も外堀もありませんよ……?」
燐子「あなたとわたしの間に……溝なんてありませんよね……?」
燐子「それに……明日は2人とも……お休みですよね……?」
燐子「だから問題ありませんよね……?」
燐子「ね……?」
燐子「……えへへ……あなたならそう言ってくれると思ってました……」
燐子「明日の朝まで……ずっと……ずーっと……一緒ですね……♪」
――――――――――
―――――――
――――
……
友希那「……ということになるわ」
燐子「…………」
紗夜「ポテトがなくなったわ」
あこ「紗夜さん食べるの早くないですか?」
リサ「……やっぱりアタシに言ってるんじゃ……」
友希那「あなたたち、私の話を聞いてた?」
紗夜「聞いていました」
あこ「聞いてましたよ~」
燐子「聞きたく……なかったです……」
リサ「アタシの話なのかな……」
友希那「そう。ならいいのよ」
友希那「それで、話を聞いてどう思った?」
紗夜「恋人の部屋で一緒に過ごすのは普通のことではないんですか?」
友希那「いいえ、燐子のケースだと普通ではないわ」
燐子(どうして……想像の中なのに……わたしが実際にやった体で話してるんだろ……)
友希那「まず第一に、重い。というかそれ以外の言葉が出てこないわ」
友希那「両親というワードで確実に外堀を埋めてくる、肉じゃがに味噌汁という『結婚』の2文字を意識させる料理を練習していると公言する、見ただけで服のサイズが分かったから自分の家に恋人の着替えを無断で用意しておく、あなたなしじゃ生きられないと言ってしまう」
友希那「どう見ても重すぎるでしょう」
リサ「…………」
リサ(それ……アタシにも当てはまるよね……やっぱり……友希那は――)
友希那「リサみたいな幼馴染なら気遣い上手で済む話だけど、恋人がそれをやっていたら末恐ろしいわ」
リサ「ゆ、友希那……」
友希那「……? どうしたの、リサ。そんな泣きそうな顔をして」
リサ「う、ううん、なんでもない」
リサ(よ、よかった……アタシに遠回しに言ってたんじゃなかったんだね……)
リサ(友希那の着替えやその他諸々とかがアタシの部屋にあるのも毎日お弁当作ってあげてるのもどこかに出かけるたびに腕組んだり抱き着いたりしてるのも部屋の灯り見て何時に寝てるか毎日チェックして健康管理してるのも友希那のお気に入りのアクセサリーとかこっそり同じもの買って持ってるのも、気遣いの範囲だよね)
リサ(幼馴染として当然の行動だよね)
リサ「よかったぁ……」
友希那「おかしなリサね」
燐子「あの……流石に……人見知りするわたしでも……友希那さんのたとえ話みたいには絶対にならないと思うんですが……」
友希那「どうしてそう言い切れるのかしら」
燐子「え……?」
友希那「これは可能性の話よ」
友希那「統計として燐子のような女の子がそうなりやすい、とテレビで言っていたわ」
友希那「……私は心配なの、あなたのことが」
燐子「友希那さん……」
友希那「ロゼリアのみんなは大事な仲間よ。もしも将来、誰かが不幸になるかもしれないのなら……その可能性を少しでも低くしたい」
友希那「そう思っているの」
リサ「友希那……」
紗夜「湊さん……」
あこ「友希那さん……」
友希那「少し口うるさくなってしまったけど、あなたを思ってのことなの。それは分かってほしい」
燐子「……はい……」
燐子「確かに……わたしも……いつまでもロゼリアのみんなに頼ってちゃ……駄目ですよね……」
燐子「わ、わたし……ちょっとだけ……頑張ってみます……!」
友希那「ありがとう、燐子。あなたならそう言ってくれると信じていたわ」
友希那「だから……もう話は付けてあるの」
紗夜「話、ですか?」
友希那「ええ。話、よ」
あこ「なんですか、話って?」
友希那「明日になれば分かるわ。まぁ……簡単に言えば度胸をつけるための訓練みたいなものね」
燐子「わ、分かりました……」
燐子「どんなことをやるのか分かりませんけど……頑張ります……!」
友希那「さすが燐子ね。何事にも全力で頂点を目指す姿勢……」
友希那「それでこそロゼリアの一員よ」
友希那「それじゃあ、今日はもう時間も時間だし解散にしましょう」
友希那「明日は……パステルパレットの事務所に集合ね」
燐子「わ、分かりました……!」
……………………
燐子(……なんて……どうして友希那さんの言葉を……何1つ疑わずにいたのでしょうか……)
燐子(昨日の自分を……はたきたい気持ちです……)
燐子(翌日……パステルパレットの事務所に着くと……すぐに白鷺さんに捕まりました……)
燐子(『今回は燐子ちゃんね』と言って……何だか慣れたような動きで……わたしはレッスンルームに連行されました……)
燐子(そこで……台本を渡されました……)
燐子(表紙には『白金燐子が重たくてなかなか離れてくれないCD』と……銘打ってありました……)
燐子(困惑するわたしに追い打ちをかけるように……白鷺さんのレッスンが始まりました……)
燐子(……怖かったです……)
燐子(ものすごく……怖かったです……)
燐子(1度泣いてしまいました……)
燐子(その時だけ白鷺さんは……とても優しかったです……)
燐子(飴と鞭……です……)
燐子(人を飼いならす人だ……と……素直に思いました……)
燐子(そんなレッスンを……3時間ほど行ってから……今度はスタジオに連行されました……)
燐子(テレビで見たことがある……声優さんがアテレコするようなスタジオでした……)
燐子(そこで昨日の……友希那さんのたとえ話を……倍くらいに増やした恥ずかしいセリフの数々を……収録させられました……)
燐子(白鷺さんは……9割は厳しく1割はとても優しい……指導をしてくれました……)
燐子(きっとこういう人が……『イジメられたい』という願望を持つ特殊性癖な人間を生み出すんだなって……思いました……)
燐子(そして……そんな収録が終わった翌日……)
……………………
友希那「どうかしら、燐子。あれだけのことをやれば度胸もついたんじゃないかしら?」
燐子「……そうですね」
あこ「大丈夫、りんりん? なんだか目から光が消えかかってるよ?」
燐子「……大丈夫だよ、あこちゃん」
リサ「パスパレの事務所に着いたらいきなり燐子が連れ去られたけど……何やってたの?」
燐子「……友希那さんに聞いてください」
友希那「ああ、ちょっとCDの収録をしたのよ」
紗夜「CD……ですか?」
友希那「ええ」
あこ「でもあこたち、昨日はパスパレの事務所で楽器の演奏してませんでしたよね?」
友希那「ああ、今回のCDは少し毛色が違うのよ」
リサ「毛色が違うって、ハロハピみたいな曲を録ったとか?」
友希那「いいえ。そういう方向性の違いではないわ。そもそも昨日録ったのは曲じゃないの」
リサ「え、どいうこと?」
友希那「話せば長くなるんだけど……最近、戸山さんと美竹さんがものすごく上から目線で自慢してくるのよ」
友希那「『沙綾と結婚したくなるCD』と『羽沢つぐみがお世話してくれるディスク』というものを」
紗夜「…………」
リサ「……なにそれ? 紗夜、知ってる?」
紗夜「いいえ。そういったものに興味はありませんので」
リサ「そうだよねぇ……」
あこ「あー……おねーちゃんがそういうの持ってたかも」
友希那「それに対抗するためのものを燐子には収録してもらったわ」
燐子「…………」
友希那「あ、勘違いしないで、燐子」
友希那「もちろん『燐子のためを思って』という部分が1番よ」
友希那「ただ……あの2人があまりにもしつこく自慢してくるから、少し鼻を明かしたくなったのよ」
友希那「ああいった演技を行えば度胸がつくだろうという思惑もあったし、こうすれば一石二鳥じゃない」
友希那「ビジュアルで言えばきっとロゼリアで1番華があるのは燐子だし……ね」
友希那「ロゼリアがあらゆる意味で頂点を目指すためにも、あなたのためにも、これは避けて通ることが出来ない試練だったの」
燐子「……そう、ですか」
燐子「……ありがとうございます、友希那さん」
燐子「……確かに度胸はつきました」
燐子(……おかげで、今なら容易く友希那さんに復讐が出来そうです)
燐子(……心がちっとも痛まないだろうな、っていう予感がします)
燐子(……むしろ……友希那さんがわたしと同じ目に遭うと思うと)
燐子(……心底怯えたように、涙目で白鷺さんのレッスンを味わうと思うと)
燐子(……とても気持ちが昂ります)
燐子(……楽しみにしていてくださいね、友希那さん)
燐子(……私も、楽しみにしていますので)
友希那「……? なにか急に寒気が……」
燐子「……きっと気のせい、ですよ。ふふ……」
後日、リサ姉の書いた『友希那がペットになって甘えてくるCD』の台本を手渡された友希那さんがレッスンの鬼となった千聖さんに泣かされてしまうのはまた別の話。
おわり
ごめんなさい。本当にすいませんでした。
『人付き合い苦手のコミュ障なりんりんに恋人が出来たら面倒くさい可愛さに溢れそうだなぁ、でも闇堕ちしたりんりんに静かに責められるというのもいいものなんじゃないかなぁふへへ』という妄想と仲良しロゼリアを見たいという気持ちがせめぎ合った結果でした本当にごめんなさい許してください。
冒頭書き忘れてましたが
戸山香澄「沙綾とデートしてる気分になれるCD」
羽沢つぐみがお世話してくれるディスク
奥沢美咲と温泉旅行へ行く話
と同じ世界の話でしたすいませんでした。
HTML化依頼出してきます。
りんりんは重たい可愛い
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520313913/
Entry ⇒ 2018.03.09 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】氷川日菜「あまざらしなおねーちゃん」
――ザァァ...
氷川紗夜「……ひどい雨ね」
紗夜(暦は立春を過ぎたころの午後4時。そんな時間だとは思えないほど外は暗かった)
紗夜(朝の天気予報でも言われていたが、お昼頃から降り出した雨は次第に強さを増していった)
紗夜「はぁ……まさかこんな日に傘を忘れるなんて……」
紗夜(……これは日菜のせいね)
紗夜(寝坊した、とかなんとかでバタバタしてるのを見ているうちについうっかり、玄関に傘を置き忘れてきてしまった)
紗夜(そのせいで私は帰るに帰れず、放課後の教室に1人取り残されることになってしまったのだった)
紗夜「…………」
紗夜(教室の窓を雨粒がバタバタ叩いている。それがなんだか私を『間抜けなやつめ』と嘲笑っているかのように感じられて、机の上に目を落とす)
紗夜(そこに置かれたスマートフォンには日菜からのメッセージが表示されていた)
氷川日菜『おねーちゃん! あたしが迎えに行くから一緒に帰ろーよっ!』
紗夜(手持無沙汰な私はそのトーク履歴を読み返す)
日菜『おねーちゃん、今日傘持たないで出てったでしょ?』
紗夜『……そうね。あなたが喧しくバタバタしていたせいかもしれないわね』
日菜『おねーちゃんが忘れ物するなんてめずらしーね! だからこんなに雨が強いのかなぁ?』
紗夜『話を聞きなさい、日菜』
日菜『あ、そうだ! いいこと思いついた!』
紗夜『だから話を聞きなさい』
紗夜「まったく……どういう意味よ、私が忘れ物したから雨が強くなるなんて」
紗夜(先ほどまでのやり取りを見ながらため息を吐く)
紗夜(毒づきながら呆れつつも自分の口元が緩んでいるのが分かる)
紗夜(こんな風にあの子と笑えるようになったのも……ロゼリアやつぐみさんのおかげなのかもしれないわね)
紗夜(良いか悪いか、で考えれば、これもいい傾向でしょう)
紗夜(日菜とこうしていられるのも悪くない。最近はそう思うようになった)
スマートフォン<ピピ
紗夜(机の上のスマートフォンから着信音が鳴る。確認すると日菜からのメッセージだった)
日菜『おねーちゃん、もうすぐ着くよ! 昇降口で待っててね!』
紗夜『はいはい。走って転ばないように気をつけなさい』
紗夜(それに返信すると、私は鞄を手にして昇降口へと向かった)
紗夜「……ますます酷くなってるわね、雨。雷も段々近づいてきているみたいだし……本当になんでこんな日に限って傘を忘れるのかしら」
紗夜「……なんだか秋のころを思い出すわね」
紗夜(……そういえば、あの日もこんな雨だった)
紗夜(七夕以降、日菜とは少しは向き合えるようになって、私たちの関係もいい方へ向かっていた)
紗夜(だけど、あの子のギターを聞いて……私の音はなんてつまらないものなんだろうかと、また劣等感を抱いてしまった)
紗夜(散々悩んで、ロゼリアのみなさんにも迷惑をかけた)
紗夜(あの日も……あまざらしな私の元へ日菜が傘を持ってきてくれた)
紗夜(そうやって常に歩み寄ってくれた日菜を蔑ろにしていたことを思うと、自分が少し情けなくなる)
紗夜(でも、あの時の経験も決して無駄じゃなかった。もしまた日菜とすれ違うようなことがあっても、星に願う短冊を探し回ったこと、秋時雨に傘をさしたこと……この思い出があればきっとすぐに和解できる)
紗夜(……1年前の私からすれば、まさかこんなことを思うことになるとは夢にも思わないでしょうね)
紗夜(これも良いこと……なのかしらね)
日菜「おねーちゃーんっ! お待たせーっ!」
紗夜(感傷に浸る思考を切り裂いて、日菜の大きな声が耳に届く)
紗夜(視線を校門の方へ送ると、傘をさした日菜が大きく手を振ってこちらに小走りで向かってきていた)
紗夜「日菜、あまり走ると転ぶわよ」
日菜「へーきへーき!」
紗夜「…………」
紗夜(確かに日菜の運動神経なら転ばないでしょうけど……走ったおかげで泥水が跳ねて付着したその靴下を、あなたは事前に泥を落とそうともしないで洗濯機に放り込むでしょう)
紗夜(そうすると他の服にも土が付いて大変なのよ……)
紗夜「まったく……しょうがないわね」
紗夜(小さく呟いて、日菜の方へ足を踏み出したその時だった)
――ドンッ!
紗夜(一瞬の白い閃光が視界を奪い、全身を震わせるような轟音が響いた。次に感じたのは地響き)
紗夜「きゃっ――」
紗夜(学園の近くに雷が落ちたのだ、と分かるより早く、世界が揺れる。傾く。足元には小さな階段があった。踏み外したのだ)
――ゴン
日菜「お、おねーちゃん!?」
紗夜(次に感じたのは、右の側頭部あたりに大きな衝撃。鈍い音が頭の中で反芻する)
日菜「だ、大丈夫!? おねーちゃん!?」
紗夜(その場にへたりこみ、ぶつけた箇所を手で押さえながら顔を上げると、さしていた傘など放り出して駆け寄ってくる日菜の姿があった)
紗夜(それと同時にじんじんと頭全体に痛みが広がっていく)
紗夜「大丈夫……よ。少し驚いただけだから……」ヨロ
紗夜「あ、れ……」
紗夜(立ち上がろうと足に力を籠める。しかし思うように体が動いてくれない)
日菜「……ちゃ……!? お……――」
紗夜(日菜の声がかすむ。触れられるくらいに近いのに声が聞こえない)
紗夜(泣きそうなその姿もどこか薄いフィルターを通した別の世界のものに見える)
紗夜(じんじんとした頭の痛みもどこか遠くへ行ってしまったような気がした)
紗夜(そう思っているうちに、私の意識は闇に飲まれた)
――――――――――
―――――――
――――
……
日菜(目の前でおねーちゃんがバランスを崩して転んで、階段の手すりに頭を打った)
日菜(そしてその場にうずくまったまま意識をなくした時はこの世の終わりがやってきたのかと思った)
日菜(すぐに救急車を呼んで、お医者さんに見てもらったら、軽い脳震盪だと言われた)
日菜(じきに目も覚ますでしょう、と言われた時にはずっと入りっぱなしだった全身の力がやっと抜けてくれた、とかそんな風なことを思った)
日菜(今は病室に眠るおねーちゃんとあたしが2人)
日菜(救急車を待つ間、おかーさんには状況の説明をして病院に来てもらっていたけど、診療室でお医者さんと、大事をとって何日かの入院をするだとかそんな話をしていた)
日菜「よかったぁ……」
日菜(ベッドの上で眠るおねーちゃんの顔を見つつ、心からの呟きが漏れる)
日菜(もしもおねーちゃんが二度と目を覚まさなかったら、なんて考えたくもないことばっかりが頭の中をぐるぐる回っていた)
日菜(その不安からもようやく解放された)
日菜「本当によかったよ……おねーちゃん……」
日菜(不安で不安で堪らなくて涙が出そうだった。またあたしのせいでおねーちゃんが苦しむのかもしれない。考えるだけで気持ちが沈んだ)
日菜(その心配がなくなって、今度は安心で涙が出そうだった)
日菜(でも、そんなあたしを見たら、きっと優しいおねーちゃんは負い目を感じちゃうかもしれない)
日菜(だから、あたしはしっかり明るい顔をしてなきゃ。おねーちゃんが起きたら『ドジだなぁ』の一言でも言ってやるんだ)
紗夜「……ん、んん……」
日菜「!」
日菜(おねーちゃんの口から小さな声が漏れる。飛びついて揺り起こしたい衝動があった)
日菜(でもお医者さんから頭も体も動かさないように、と言われているから、それは我慢する)
日菜「おねーちゃん、おねーちゃん……」
日菜(小さな声で呼びかけることしか出来ないのがもどかしい。お願い、おねーちゃん……早く起きて)
紗夜「…………」
日菜「おねーちゃん……?」
紗夜「……日菜?」
日菜(うっすらと目を開いたおねーちゃんがあたしの声に反応する)
日菜(それだけのことが嬉しくて堪らなかった。嬉しすぎて、涙がどんどん出てくる)
日菜「うぅ……おねーちゃん……っ、もうほんとに……ドジなんだから……」
紗夜「…………」
日菜「……? ぐすっ、どうしたの、おねーちゃん?」
紗夜「ここは……」
日菜「病院だよ。覚えてない? おねーちゃん、頭を打って意識なくなっちゃって……」
紗夜「頭を打って……覚えがないわね」
日菜(おねーちゃんの言葉にお医者さんの説明を思い出す)
日菜(しばらくは前後の記憶が抜け落ちることもあるだろうけど、それはこういう時にはよくあること……らしい)
日菜(大きな外傷もなく、頭蓋骨にも異常はまったく見られなかったから、それは自然に治るだろう……とのことだった)
紗夜「どうしてあなたがそんなに泣いてるのよ」
日菜「だって、だって……あたしのせいでまた……おねーちゃんが苦しんだらって思うと……」
紗夜「……っ」
日菜「……おねーちゃん?」
日菜(おねーちゃんの顔が少し歪む。もしかしてまだどこか痛いのかな?)
日菜「大丈夫? まだ頭、痛い?」
紗夜「余計なお世話よ」
日菜「え……?」
紗夜「あなたのせいで私が苦しむなんて言った覚えはないわ。勝手なことを思わないでちょうだい」
日菜「……おねーちゃん……?」
日菜(違和感がある。いつものおねーちゃんと、今のおねーちゃん)
日菜(何かが違うような気がした)
日菜(でも、この雰囲気のおねーちゃんはどこかで見たことがある)
日菜(まるで周りの人全部が敵みたいな目で、誰にも頼ろうとしない刺々しい雰囲気)
日菜(――まるで、まるで……)
紗夜「……それにしても寒いわね。4月なのにどうしてこんなに冷えるのかしら」
日菜「お、おねぇ、ちゃん……?」
紗夜「……どうしたの」
日菜(おねーちゃんは疎ましそうな目であたしを見てくる。……嘘だ、信じたくない。あたしの想像が間違っていてほしい)
日菜「い、今は……2月、だよ……? ほ、ほら、年末だって一緒にパスパレの特番見たでしょ? あたしのギター、褒めてくれたよね?」
紗夜「何をバカなことを言っているの? 今は4月の上旬でしょう。それに……パスパレ? 聞いた事もないし……そもそも、いつの間にかまたあなたは私と同じことを始めたのね」
日菜「……っ!」
日菜(だけどその願いはあっさりと破られてしまった)
日菜(パスパレのことも知らずに、今が4月だと言い張るおねーちゃん。つまり、これは……)
日菜「わ、忘れちゃったの!? 七夕のことも、喧嘩したことも!?」
紗夜「いつの話なの、それは。私は去年の七夕も日菜とは過ごしてないし……喧嘩なんて、そんなこともした記憶はないわ」
日菜「そ、そんな……」
日菜(……全部、忘れてしまった――なくしてしまったんだ)
日菜(4月以降の記憶を、ロゼリアに出会ってからのことを……全部)
日菜(これも……あたしのせい……?)
日菜(あたしが寝坊してバタバタしていたせいで傘を忘れた、とおねーちゃんは言った)
日菜(それなら一緒に帰ろうと提案したのもあたし)
日菜(昇降口で待ってて、って言ったのも……あたしだ……)
日菜(――そうだ、全部あたしのせいなんだ……)
――――――――――――
日菜(お医者さんとおかーさんからことの状況を説明されたおねーちゃんの困惑は大きなものだったと思う)
日菜(最初は『何の冗談かしら』と真面目に取り合わなかったけど、スマートフォンの日付やカレンダー、最近のニュースを見せられて、おねーちゃんは混乱していた)
日菜(自分がほぼ1年間やってきたことの記憶がない)
日菜(そんな馬鹿な、と思っても、スマートフォンにはロゼリアのみんなの連絡先、それにロゼリアで演奏していた曲も入っていた)
日菜(でも、おねーちゃんはそれを忘れちゃったんだ)
日菜(それでどうしていいのか分からなくなっちゃったんだと思う)
紗夜「……1人に、してください……」
日菜(今にも消え入りそうな声と、真っ白な顔をしていた。あたしたちはそれに従うことしか出来なかった)
医者「恐らく、エピソード記憶障害……でしょう」
日菜(診療室でお医者さんから言われたのはそんな言葉だった)
日菜(エピソード記憶障害。名前の通り、自身が体験、経験したエピソードをまるまる忘れてしまう記憶喪失……らしかった)
日菜(おねーちゃんの場合は4月上旬からの自分の記憶をすべてなくしてしまっているみたいだ)
医者「通常、軽い脳震盪ですからそこまで長引くことでもなく、次第になくした記憶も取り戻すでしょうが……」
日菜(言い辛そうに喋っているお医者さんを見て、あたしは泣き出しそうだった)
日菜(この1年の出来事は、きっとおねーちゃんにとって大きすぎるものだったんだ)
日菜(今までのあたしとの問題も解消して、色んな友達に恵まれて、人生を変えるような出来事がいっぱいあったんだ)
日菜(でも、それは小さな積み重ねだからこそのものなんだ)
日菜(いきなり『あなたはロゼリアというバンドで活動していて、みんなと良好な関係を築いているんですよ』なんて言われたって心が受け付けられる訳がない)
日菜(だからきっと、おねーちゃんが元に戻るのは大変なことなんだ)
日菜(それが分かるから、あたしは泣き出しそうなんだ)
日菜(ああ、またあたしはおねーちゃんを傷付けたんだ。そしてまた、きっとたくさん傷付けるんだ)
日菜(それがきっと現実……なんだと思う)
日菜(でも、口にしなかったら、もしかしたら違うかもしれない)
日菜(これはただの現実逃避なのかもしれない)
日菜(でも、そう思わないと、口を閉ざさないと、あたしの心も今にも潰れてしまいそうだった)
日菜「おねーちゃんも……あの時、こんな気持ちだったのかな」
日菜(診療室の窓を叩く雨粒を見て呟く)
日菜(心が潰れた土砂降りの日に縋るものはそれほど多くない)
日菜(おねーちゃんとの距離が縮まった日を、わだかまりが解けた日を思い出す。……そういえばいつかもこんな雨だった)
日菜(そんな秋時雨に傘をさした記憶も、今のおねーちゃんの中には欠片も存在していないんだ)
――――――――――――
4月11日――(斜線で訂正されている)――2月7日
目を覚ますと悪夢のような現実が私を待ち受けていた。
心の中が整理できない。
何かにこの気持ちをぶつけないと頭がおかしくなりそうだ。
私の記憶では、確かに昨日は4月だった。ライブハウスでライブを行って、それに大きな不満しか抱けなかった。それが確かな記憶だ。
ところが気付いたら病院のベッドに寝ていて、今は2月だと言われた。最初は笑えない冗談だと思った。心配そうな表情で私を見つめる日菜に対し苛立ちさえ感じた。
しかしどうやら本当に今は2月で、私の記憶から1年近く経っているようだった。
字にすればそれだけのことだが、頭の中は混乱したままだ。
ロゼリア、パステルパレット――前者は私が、後者は日菜が所属するバンドだと言われた。
分からない。知らない。そんなバンドなんて聞いたことがない。
私はそのロゼリアというバンドでギターを担当して、充実した日々を送っていた……らしい。そんな自分にも苛立ちを覚える。
私の知らないところで私の知らない私がまるで甘い考えで音楽をやっている。それが許せない。私の目指すものはそんなものだったのか、結局、誰かに認めてもらいたいだけの承認欲求で音楽に携わっていたのか。
ふざけないで。
違う、私は違う。そんな考えでいるんじゃない、ちがう。ちがう、ちがうちがう
言葉が出てこない。あまりにふざけた現実に……いえ、これは果たして現実なのかしら。
寝て起きればもしかしたら変わるかもしれない。
これは夢。そう、寝て起きれば、明日は4月12日で、私はいつも通りの時間に起きていつも通りに学校へ行くだろう。
明日は風紀委員の朝の当番だったはずだ。もう寝よう。
――――――――――
―――――――
――――
……
――氷川家 リビング――
日菜「しばらくパステルパレットの活動も、学校もお休みする」
日菜(おねーちゃんの記憶がなくなった翌日。あたしは両親にそう言った)
日菜(おとーさんは『……そうか。分かった』とだけ頷いて、しばらく学校を休む旨を学校に電話してくれた)
日菜(おかーさんは『あなたのせいじゃないんだから、あまり抱え込まないでね……』と悲しそうな顔であたしに言ってくれた)
日菜「ううん、そういうんじゃないよ、おかーさん。あたしがおねーちゃんの傍にいたいからお休みするんだ」
日菜(そのあたしの言葉を聞いて、おかーさんは悲しそうな顔のまま目を伏せるだけだった)
日菜(……分かってる。あたしがこんなことを言ったって、負い目を感じてやっているって思われるのは)
日菜(それでもこれはあたしがやらなくちゃいけないことだから、せめて明るく振舞わなきゃ)
日菜「病院の面会時間って10時からだよね?」
氷川母「ええ……そうよ」
日菜「分かった。そしたら今日は1日中おねーちゃんと遊んでくるねっ!」
日菜(それだけ言うと、あたしは足早に自室へと戻った。これ以上、おとーさんとおかーさんの悲しそうな顔を見ていると泣いちゃいそうだったから)
日菜(部屋に戻ると、あたしはスマートフォンを手に取って、パステルパレットの連絡先を呼び出す)
日菜(誰に話すか少し迷ってから、千聖ちゃんの名前をタップした)
日菜(スマートフォンを耳に当て、コール音が3つほど続いたところで電話が繋がる)
白鷺千聖『……もしもし? どうしたの、日菜ちゃん』
日菜「あ、ごめんね、千聖ちゃん。こんな朝早くに」
千聖『いいえ、大丈夫よ』
日菜「うん、それでね……えーっと、あのね……」
千聖『珍しいわね、日菜ちゃんがそんなに言い淀むなんて』
日菜「あ、あはは……ちょっとね」
日菜(きっと、パスパレのみんなにも……あたしのせいで迷惑をかけることになるんだよね)
日菜(でも……あたしが言わなきゃいけないことだから)
日菜「……ごめん、千聖ちゃん。あたし、しばらくパステルパレットをお休みする」
千聖『……え?』
日菜「…………」
千聖『……なにかあったのかしら?』
日菜「うん、その……家庭の事情? ってやつかな?」
千聖『一応聞くけど、冗談とかじゃないわよね?』
日菜「……冗談で済ませられればよかったのにね……」
日菜(ぱん、と)
日菜(現実に顔をはたかれた様な気持ちになった)
日菜(思わず口から漏れた言葉のせいで、実感してしまった)
日菜(これは冗談でも夢でもなんでもなくて、本当におねーちゃんは……みんなとの大事な思い出をなくしちゃったんだ)
千聖『……そう、分かったわ』
日菜「……ごめん、ごめんね、千聖ちゃん」
千聖『謝る必要なんてないわよ。……話せるようだったら、詳しく話を聞かせてもらえないかしら?』
日菜「…………」
日菜「ごめん、話すにはもう少しかかりそう……なんだ」
千聖『そう……』
日菜「一応、あたしから事務所の方に連絡はするんだけど……」
千聖『大丈夫、みんなには私から言っておくわ』
日菜「うん、ごめんね」
千聖『ふふ、今日の日菜ちゃんは謝ってばかりね』
日菜「……ごめん」
日菜(いつになく優しい千聖ちゃんに胸が詰まる)
日菜(あたしは本当にいい仲間に恵まれているんだ。そして、あたしはそれをおねーちゃんから奪ってしまったんだ)
千聖『……日菜ちゃん、1つ約束してくれるかしら?』
日菜「うん……なにを?」
千聖『いつでもいいから、事情を話せるようになったら、きちんと私たちに説明してくれる?』
日菜「……うん、する」
千聖『それならいいのよ。……何があったかは分からないけど、1人で抱え込まないでね?』
日菜「……ありがと、千聖ちゃん」
日菜(それから一言二言会話を交わして通話を切った)
日菜(……やっぱり千聖ちゃんに電話をして正解だった。落ち着きなくザワザワしている胸の内も、千聖ちゃんと話しているうちに少しは落ち着いたような気がする)
日菜「千聖ちゃんは……頼りになるなぁ……」
日菜(あたしもおねーちゃんにとってそういう存在でいたいな……)
日菜(そう思いながら、今度は事務所の電話番号を呼び出した)
……………………
日菜(おねーちゃんが入院する大きな総合病院までは、家から歩いて20分くらいのところにあった)
日菜(あたしは事務所に休養申請の電話をしたあと、準備をしてから家を出発する)
日菜(昨日の豪雨はもう通り過ぎていて、今日は東北地方がその雨に襲われる)
日菜(そんなニュースを見たことを思い出す)
日菜(それに対して『あたしみたいな思いをする人がいませんように』と小さく願ったのも思い出した)
日菜(そうして歩いている内に、あたしは病院にたどり着いた)
日菜(おねーちゃんの入院している部屋は402号室だった)
日菜(受付で名前と要件を伝えてその部屋を目指す)
日菜「おねーちゃん、日菜だよ」
日菜(氷川紗夜、というネームプレートが掲げられた個室の扉をノックする)
日菜(……もしも今、ノックもしないで勝手に部屋に入ったら……おねーちゃんはどんな反応をするんだろーな)
日菜(きっと……邪険にされるんだろうな)
紗夜『……開いてるわよ』
日菜(扉越しのくぐもった声が聞こえた。それを確認してから扉を開けて病室へ足を踏み入れる)
日菜「おはよっ、おねーちゃん」
紗夜「……ええ」
日菜(頑張って明るく聞こえるようにおねーちゃんに挨拶をする)
日菜(おねーちゃんはベッドに入って上半身を起こした状態で、ずっと窓の外を見ていた)
日菜「今日はいい天気だね。昨日雨が降ったからかなぁ、空もこんなに青くてキレイだよ」
紗夜「…………」
日菜「あ、そうだ。途中でおいしそーな果物買ってきたんだ~! ほらほら、このリンゴ、すっごく赤くておいしそうだよ!」
紗夜「…………」
日菜「……あんまお腹減ってないか。そうだよね、朝ご飯食べたばっかだもんね」
紗夜「……ええ」
日菜(おねーちゃんは窓の外を見たまま相づちをあたしに返す)
日菜(こっちの方は1回も見てくれない。それが寂しかった)
日菜「あ、そ、そーだ! おねーちゃん、入院中はヒマでしょ! 実はね、おねーちゃんのギター持ってきたんだ!」
紗夜「…………」
日菜「ほらほら、エレキならヘッドホンアンプでも使えるでしょ! あたしのアンプも持ってきたよ、貸してあげるからさ!」
紗夜「…………」
日菜「ヒマな時は弾きなよ、ギター! 何日も触ってないと感覚狂っちゃうでしょ?」
紗夜「…………」
日菜「あ、もしかして勝手に部屋に入ったこと怒ってる……? ごめんね、でもおねーちゃん喜んでくれるかなって思って……」
紗夜「……て」
日菜「そ、それにさ、リサちーも言ってたよ! おねーちゃんはいつでも正確な音だしてくれるから助かるって! やっぱり腕がなまっちゃうとロゼリアで――」
紗夜「やめてっ!!」
日菜「っ……!」
紗夜「……やめて……お願いだから」
日菜「ご、ごめんね……おねーちゃん」
紗夜「…………」
日菜「…………」
日菜(それからしばらく、お互いに無言になる)
日菜(時計の針の進む音、窓の外で小鳥がさえずる声、廊下からたまに聞こえる足音や話し声だけが病室に響く)
日菜(おねーちゃんはずっと窓の外を見ていた。あたしはそんなおねーちゃんをずっと見つめていた)
紗夜「……現実、なのね」
日菜「え……?」
紗夜「……寝て、起きれば、きっと昨日のことなんかは夢で……私はいつもの時間に起きていつも通りに学校へ行って、風紀委員の仕事をして、放課後は弓道部の活動をして、家に帰ってからはギターを弾いて……そんな4月12日が過ぎるんだと……思っていたわ……」
日菜「おねーちゃん……」
紗夜「でも、目が覚めても私は病院にいて、あなたがお見舞いに来て、知らない人の名前を口にする。……これが現実なのね」
日菜「……ごめん」
日菜(昔からそうだった)
日菜(あたしはきっと、人の気持ちが分からない人間なんだろう)
日菜(だからおねーちゃんを今まで傷付けてきて、今もまた同じように、おねーちゃんの気持ちが分からなくて傷付けてしまう)
日菜(あの秋のころから、そういうところは直そうと思っていた)
日菜(でも、全然だめだった)
日菜(……あたしはおねーちゃんの頼りになれないのかな)
日菜(おねーちゃんを助けてあげられないのかな……)
紗夜「……怖いのよ」
日菜「怖い……?」
紗夜「あなたは……一体誰を見ているの?」
日菜「あたしは……あたしはおねーちゃんをずっと見てるよ?」
紗夜「それは本当に私なの?」
日菜「おねーちゃんは……おねーちゃんだよ」
紗夜「…………」
日菜(違う、きっとおねーちゃんが欲しいのはこんな言葉じゃないんだ)
日菜(でも正解が分からない。どんな言葉をかければおねーちゃんが喜んでくれるか、楽になれるか分からない)
日菜(それが……悔しい)
紗夜「……1人にしてちょうだい」
日菜「うん……ごめんね、おねーちゃん」
日菜(大人しくあたしは立ち上がる)
日菜(ただあたしは無力なんだと思わされただけだった)
日菜「一応、ギターは置いていくからね? ヘッドホンアンプも。えへへ、実はちょっと重くて持ってくるの大変だったんだ」
日菜(それでも暗く落ち込んだ言葉なんかおねーちゃんは望んでないはずだ。だからせめて明るい言葉だけでも残していかなきゃ)
紗夜「…………」
日菜「それじゃあ……また来るからね、おねーちゃん」
紗夜「…………」
日菜(おねーちゃんからの返事はなかった)
日菜(1度もあたしの方は見ずに、ただ窓の外を眺めていた)
日菜(……今はしょうがない。それでもいいんだ。いつか絶対、またいつもの笑顔でこっちに振り返ってくれる日が来るはずなんだ)
日菜(そう思ってあたしは病院を後にした)
――――――――――――
2月8日
目が覚めても結局私は病院の中にいた。
そして嫌になるくらい現実を突きつけられた。
これは冗談でも何でもなく、本当に私は4月から約1年間のタイムスリップをしてしまったのだと。
タイムスリップ。まさしくそうだ。
目が覚めたら何もかも分からない世界に放り出された。古いSF映画にでもありそうな主人公の境遇だ。気付かぬうちに私は冷凍睡眠をしていて、未来の文明へ放り出される。
そして、この世界の私は私ではない誰かなんだ。氷川紗夜であって氷川紗夜ではない誰かだ。
今日、お見舞いに来た日菜に対してまたきつく当たってしまった。
だけど記憶の中の日菜と病室であった日菜は別人に見えた。
あの子は昔から人の気持ちを考えるのが下手で、自分の好きなように動いていた。それが許される天才だった。それ故に私はあの子に劣等感を感じた。
しかし今日出会った日菜は私の印象とはまるで違う。
私を気遣い、なんとか元気づけようとしていた。自分の興味本位で動くのではなく、私を思って言葉を選んでいた。そんな姿は今まで見たことがなかった。
……あれは本当に日菜だったのだろうか。似通った誰かが日菜の真似をしていたのではないだろうか。
そんな考えさえ頭の中を巡る。
そもそも私は一体誰なんだろうか。日菜は一体誰を見ているのだろうか。
まとまらない考えを書きなぐる日記の横でスマートフォンが震える。
ディスプレイにはまったく知らない名前が並ぶ。
「湊友希那」「今井リサ」「宇田川あこ」
学校でもそんな名前を見たことはない。この人たちは誰だ。そして私のなかに誰を見ているのだろうか。
「白金燐子」
確か同じクラスの生徒だ。しかし会話をしたことはない。いつも物静かに本を読んでいるという印象しかない。
分からない。分からない。わからない
私は誰なんだろうか。
日菜も、この人たちも、私の中に誰を見ているのだろうか。
――――――――――
―――――――
――――
……
――病院への道――
日菜(リサちーから電話がかかってきたのは2月9日のお昼のことだった)
今井リサ『あ、もしもし、ヒナ? 今大丈夫?』
日菜「うん、大丈夫だよ、リサちー」
リサ『ごめんね、学校休んでるとこ……風邪?』
日菜「あー、うん、まぁ……」
リサ『珍しいね、ヒナがそんな言い淀むなんて』
日菜「あはは、千聖ちゃんにも同じこと言われた」
日菜(空元気で笑ってみた。きっとリサちーはこんなのすぐに見抜いちゃうんだろうな)
リサ『……本当に大丈夫? 悩みとかあるなら聞くよ? 話すだけでも楽になることってあるからさ』
日菜(……やっぱり、思った通りだよ)
日菜(リサちーくらい周りに気配りが出来れば……おねーちゃんに面会謝絶なんてされなかったのかな)
日菜(門前払いなんてされないで、今日もおねーちゃんに会えたのかな)
日菜(……そうだよね)
日菜(あたしも人の気持ちがしっかり分かれば、おねーちゃんを救ってあげられたんだろうな)
日菜(リサちーの優しさは嬉しいけど……心に刺さるよ)
日菜「大丈夫……かどうかで聞かれると大丈夫じゃないけど……へーきだよ」
リサ『絶対へーきじゃないでしょそれ!』
日菜「へーきへーき。リサちーの用事って、多分おねーちゃんのことだよね?」
リサ『そうだけど……今はヒナの方が心配だよ』
日菜「ん、ありがと。そう言ってもらえるだけであたしは嬉しいよ。それにね、あたしがちょっと『るんっ♪』てしてないのはおねーちゃんが関係してるからさ」
リサ『……また喧嘩した、とか、そういうのじゃないよね』
日菜「うん、まぁ……」
日菜(……リサちーにどこまで話していいんだろ)
日菜(きっとリサちーに話せば、ロゼリアのみんなもおねーちゃんの状況を知るだろうな)
日菜(そしたら、みんな何か出来ることはないかって言ってくれると思う)
日菜(でも、おねーちゃんは怖いって言ってた)
日菜(それはきっと『自分の知らない自分を知る人が怖い』っていう意味なんじゃないかと思う)
日菜(今のおねーちゃんは、ロゼリアを知らないおねーちゃん)
日菜(もしロゼリアの人たちと会ったら……ショックが大きくて、大変なことにならないかな……)
日菜「…………」
日菜(……でも、きっとあたし1人じゃおねーちゃんには拒絶されるだけだ)
日菜(悲しいけど、それは分かってるんだ。今のおねーちゃんは、あたしのことが嫌いだって)
日菜(それなのにリサちーたちを頼れないのは……あたしが下らない意地を張ってるから)
日菜(もし誰かにこのことを話したら、現実になってしまうんだ)
日菜(おねーちゃんはあたしのせいで記憶をなくして、苦しんでいる)
日菜(あたしが……あたしが大好きなおねーちゃんを傷付けたんだ)
日菜(でも、こんな変な意地を張ってたらおねーちゃんはもっと遠くへ行っちゃう)
日菜(それだけは絶対に嫌だ)
日菜(なら……リサちーにちゃんと話さなきゃ……)
日菜「……実は、おねーちゃん……記憶喪失になっちゃったんだ」
リサ『え……記憶喪失……?』
日菜「そう。去年の4月から先のこと……ぜーんぶ、なくしちゃったんだ」
リサ『…………』
日菜「冗談でもなんでもなく……ホントのことなんだ」
リサ『……ごめん、ヒナ』
日菜「どうしてリサちーが謝るの?」
リサ『辛いこと、言わせちゃったから……ごめん』
日菜(ああ、今のできっと、全部分かっちゃったんだね。あたしの悩みとか、そういうの)
日菜(やっぱり……ズルいなぁ、リサちー……)
日菜(あたしがリサちーくらいに気遣いが出来れば……きっとおねーちゃんの気持ちも簡単に汲めるんだろうな)
日菜(それで、望んでることも叶えてあげられて、きっとすぐに笑顔にさせられるんだ)
日菜(それが出来ないのが……悔しいな)
日菜「へーき、へーきだよ、リサちー。ありがとね、気遣ってくれて」
リサ『……ううん。でも、そっか……だから連絡がつかなかったんだ……』
日菜「うん……正直、おねーちゃんかなりパニクっちゃって……一応ね、今は入院してて、脳に異常はないみたいだから明日退院するんだけど……」
日菜「……えへへ、今日お見舞いに行ったら『誰にも会いたくなーい』って面会謝絶されちゃった」
リサ『笑いごとじゃないでしょ。……無理、しないでよ』
リサ『アタシだってさ、もし友希那が同じようなことになって、面会謝絶なんてされたら……辛いよ。ヒナが紗夜にそうされて悲しくないワケないでしょ』
日菜「……うん。ホントのこと言うと、辛いや。やっぱりあたし、おねーちゃんに……ずっと嫌われて、たんだなって……」
リサ『違うよ。それは違う。今はさ、余裕がないだけだよ。絶対そうだって』
日菜「……そうかな」
リサ『そうだよ。ヒナより紗夜の全部を分かってるなんて言わない。でも、ロゼリアでの紗夜のことならヒナよりも分かってるもん』
リサ『出会った頃なんかはもう見てて怖いくらいに尖ってたけどさ、ロゼリアを結成してからは周りを見る余裕も出来て、ヒナとも向き合おうと努力してたよ。ホントに嫌いな人にそんな労力、割かないよ、紗夜は』
日菜「……そっか。ありがと、リサちー」
リサ『ううん。……アタシたちに何か出来ることってあるかな?』
日菜「気持ちは嬉しいけど……ごめん。今はおねーちゃん、誰かに会うの怖いみたいだから……」
リサ『そっか……分かった。もし何か力になれることがあったら何でも言ってよ』
日菜「うん。ありがとね」
リサ『お礼なんか言わないでいいって。このこと、ロゼリアのメンバーに話しても大丈夫?』
日菜「……そうだね。あんまり広めることじゃないけど、リサちーたちは知ってないといけないと思うから」
リサ『ん、分かった。……辛いことなのに話してくれてありがとね、ヒナ』
日菜「ううん。あたしの方も、話聞いてくれてありがと」
リサ『しばらくは紗夜に付きっきり?』
日菜「そうだね。パスパレの方もお休みして、そうするつもりだよ」
リサ『オッケー。ヒナの分までちゃんとノートとっとくから、学校のことは気にしないでね』
日菜「……ありがと、リサちー」
リサ『だからお礼はいいってば。話くらいなら聞けるからさ、1人で塞ぎこまないでね?』
日菜「うん、ホントにどうしようもなくなったら、電話するかも」
リサ『ん、了解。っと、もう昼休み終わっちゃうや。それじゃあ、またね』
日菜「うん、またね、リサちー」
日菜「……リサちーってすごいなぁ」
日菜(電話を切ってから呟く)
日菜(認めたくないことをやんわりと否定してくれた)
日菜(話してるだけで少し気持ちが楽になる、包容力……って言うんだろうな)
日菜(千聖ちゃんやリサちーみたいな気遣いはあたしには出来ないのかもしれない)
日菜(でも、何もしない訳にはいかないんだ)
日菜(あたしはあたしに出来ることをしっかりやらなきゃ……)
日菜(面会謝絶なんかに気を落としてる場合じゃないよ)
――――――――――――
2月9日
分からない。
人の目が怖い。誰を見ているの? 私は誰?
自分を否定されている。誰もかれもが見ているのは私の知らない氷川紗夜だ。
今の私を見ている人間は誰もいない。どこにもいない。
怖かった。
誰にも会いたくなかった。きっと今日も日菜は病院に来ていただろう。でも会いたくない。会えば会うだけ私は私に否定される。嫌だ。人が嫌い、世界が嫌い、言葉が嫌い、過去も未来も怖い。
息苦しい。それはきっとここが生きる場所ではないから。私にとってここは未開の世界だ。
……医者の話では明日、私は退院するらしい。
もう逃げ場もない。ここなら誰にも会わないで済んだ。でも明日からはそうもいかない。
きっと日菜は私のことを気にかける。私に対してなのか、私じゃない私に対してなのかは知らない。でも心が軋むのは今の私だ。
もういっそ全部忘れて眠らせてほしい。
耐え難い悪夢みたいだ。もう忘れてしまいたい。
そんなことを思ったって忘れられない。
分からない。
どうすればいいの?
――――――――――
―――――――
――――
……
――病院――
日菜(翌日、退院するおねーちゃんを迎えに行く前に、スマートフォンにメッセージが届いた)
日菜(それはおねーちゃんからのもので、ただ一言『つばの広いハットが欲しい』というだけのものだった)
日菜(それに対して色々な言葉を返したかった。『どんな色が良い?』『形は?』『どれくらいの大きさ?』『どうして欲しくなったの?』)
日菜(だけど、きっとおねーちゃんがそれを望んでいないことは分かった)
日菜(だからあたしは、何回も文章を打っては消して、最終的に『うん、分かったよ。病院まで迎えに行くから、その時に持ってくね』とだけ返信した)
日菜(それが正解だったのかは分からなかった。でも、きっとあれこれと尋ねるよりは間違っていないと思った)
日菜「おねーちゃん、きっとこの色なら似合うと思ったよ」
紗夜「……そう」
日菜(病院までたどり着いて、おねーちゃんに淡いブラウンのつば広帽子を手渡すと、おねーちゃんはそれだけ呟いてそそくさと目深に帽子を被るだけだった)
日菜「めずらしーね。おねーちゃんが帽子を欲しがるなんて」
紗夜「そういう……気分だったのよ」
日菜「……そっか」
日菜(おねーちゃんはそう言って帽子をさらに深く被り直した。それ以上踏み込んで来ないで、と言われたような気がした)
日菜「それじゃ、行こっか。……転ばないように気を付けてね」
紗夜「……ええ」
日菜(おねーちゃんは病室で一度もギターを弾いていないみたいだった)
日菜(あたしが持ってきたままの状態で放置されていたギターはあたしが背負っている)
日菜(その影に隠れるようにして、まるで忍び足のような足取りでおねーちゃんは歩いていた)
日菜「おねーちゃん、それ、歩きづらくない?」
紗夜「気にしないで」
日菜「……うん、分かった」
日菜(……人が怖いみたいだし……誰かに会わないで家に着ければいいけど……)
日菜(でも今日は土曜日だし、しかもお昼前の時間だ……誰かに会うかもしれない)
日菜(出来ればロゼリアの誰かなら事情を知ってるしなんとなるんだけど――)
羽沢つぐみ「あれ? 日菜先輩に……紗夜さん?」
日菜(――そう考えていたあたしの考えはあっさりと打ち砕かれた)
日菜「あー……こんにちは、つぐちゃん」
日菜(よりにもよって……おねーちゃんと仲が良いつぐちゃんと会うなんて……)
つぐみ「はい、こんにちは。後ろにいるのは……紗夜さんですよね?」
紗夜「……っ」
日菜(あたしの後ろに隠れたおねーちゃんが小さく息を飲むのが聞こえた)
日菜(ちらりと後ろを見ると、自分の体を抱きしめるように組んだ腕が震えていた)
つぐみ「珍しいですね、紗夜さんが帽子被ってるのって」
紗夜「…………」
つぐみ「……紗夜さん?」
日菜(どうしよう、どうしたらいいんだろう)
日菜(おねーちゃんは固まっちゃって動けなくなってるみたいだし……)
日菜(ここは……逃げるしかない、よね……)
日菜(つぐちゃんには悪いけど、あとで訳を話せば分かってくれる……よね)
日菜「……つぐちゃん、ごめんね!」
つぐみ「えっ……!?」
日菜(あたしはつぐちゃんに一言謝って、おねーちゃんの手を取って走り出した)
日菜(しばらくしてから後ろを振り返ると、あたしに手を引かれるまま走るおねーちゃんと、かなり後方にポカンとした表情のつぐちゃんがいた)
日菜(それだけ確認すると、あたしは前を向きなおして交差点を曲がるまで走り続けた)
日菜「……はぁー……」
日菜(交差点を曲がってつぐちゃんの姿が見えなくなると、足を止めて大きく息を吐き出した)
日菜(おねーちゃんも同じく立ち止まり、肩で息をしていた)
日菜「ごめんね、おねーちゃん……急に走り出して」
紗夜「いえ……」
日菜「あー、誰にも会わないといいなーって思ったけど……まさかつぐちゃんと会うなんてなぁ……」
紗夜「…………」
日菜「……まぁしょうがないか」
日菜(呟きながらおねーちゃんの様子をうかがう)
日菜(おねーちゃんはもう体の震えもなくなっていて、乱れた呼吸とズレた帽子の位置を整えているみたいだった)
日菜(多分、気持ちの方はもう大丈夫だと思う)
日菜「じゃ、行こっか」
紗夜「……ええ」
日菜(小さく頷いたおねーちゃんを先導して、あたしは再び歩き始めた)
……………………
日菜(つぐちゃんに遭遇して以降は誰にも会うことなくあたしたちは家にたどり着いた)
日菜(おねーちゃんはリビングでおかーさんと一言二言話すと、あたしから渋々といったようにギターを受け取って、自分の部屋に向かっていった)
日菜(おかーさんはそれを悲しそうな目で見送って、あたしはそれに『大丈夫だよ、おねーちゃんはあたしが絶対に元のおねーちゃんにするから』と根拠もなく言い張るしか出来なかった)
日菜(それからあたしも自分の部屋に足を運び、先ほどの行動をつぐちゃんに説明するために電話をかける)
日菜(5つ目のコール音の途中で電話は繋がった)
つぐみ『はい、羽沢です。日菜先輩ですか?』
日菜「うん、そーだよ。さっきはごめんね、つぐちゃん」
つぐみ『い、いえいえ、ちょっとびっくりしちゃっただけですから』
つぐみ『……紗夜さん……何かあったんですか?』
日菜「うん、実はね……簡単に言うと、記憶喪失になっちゃったんだ」
つぐみ『え……?』
日菜(もうリサちーには話したことだからか、おねーちゃんの異変を実際に見られたからか、つぐちゃんの雰囲気がそうさせるのか)
日菜(分からないけど、あたしは特に深く考えるまでもなくおねーちゃんの状況を口にしていた)
つぐみ『そう……だったんだですね……。ごめんなさい、そんなところに出くわしちゃって……』
日菜「んーん、つぐちゃんが悪い訳じゃないよ。強いて言うなら、あたしの運が悪かったのかなーって感じ?」
日菜(つぐちゃんは全然悪くないのに……なんで謝るんだろ。変なの)
日菜(なんだかおかしくて……久しぶりに笑いそうだ)
日菜(つぐちゃんの雰囲気にあてられたのかな。ちょっとだけ、気持ちが軽くなった気がする)
日菜(……やっぱりおねーちゃんが仲良くしてるだけあるなぁ……)
日菜(なんとなくだけど、つぐちゃんに優しくなるのは分かるような気がする)
つぐみ『あの、私にもなにか協力できることって……ありますか?』
日菜「…………」
日菜(つぐちゃんに協力できること、か……)
日菜(おねーちゃんが理由もなく下の名前で呼ぶつぐちゃんなら……なにか変わるかもしれない……のかな)
日菜「……うん、助けが欲しくなったらお願いするね」
日菜(そう思って、あたしは前向きな答えをつぐちゃんに返していた)
つぐみ『はい、いつでも頼りにしてくださいね』
日菜「とりあえず今は……見てもらったから分かると思うんだけど、おねーちゃん、誰かに会うのが怖いみたいなんだ」
つぐみ『……ですね。帽子被ってるの、珍しいなって思ったんですけど……あれって人の目を避けるために被ってるみたいですね』
日菜「うん……。おねーちゃん、普段からマナーとかに結構うるさいんだけどね……今は家の中でも帽子、脱がないから……」
日菜「あたしもなんとかしてあげたいって思うんだけど……今のおねーちゃんにあたしは……ちょっと良くない存在だからさ」
つぐみ『え?』
日菜「……今でこそおねーちゃんもあたしに笑いかけてくれてるけどね……昔は……ね」
つぐみ『そんなこと……ないと思います』
日菜「……違わないよ」
つぐみ『違いますよ』
日菜「…………」
日菜(つぐちゃんから思いがけないほど強く否定されて、あたしは口を噤む)
つぐみ『紗夜さん、言ってました。日菜先輩はなんでも上手に出来て、自分と日菜先輩を比べて落ち込んでしまうって。でもそれは空回っているだけだって、私に諭してくれました』
つぐみ『紗夜さんは全部に一生懸命っていうか、真摯なんだと思います。だから、日菜先輩のことが嫌いとか、そういうんじゃないんだと……思います』
つぐみ『日菜先輩とも真正面から向き合おうとしているから、その途中だから、きっと上手く日菜先輩に接することが出来なくて……少し悩んでいるだけなんだと思います』
日菜「つぐちゃん……」
つぐみ『あっ、ご、ごめんなさい! こんな偉そうに話しちゃって……日菜先輩と紗夜さんの事情もよく知らないのに……』
日菜「……ううん、ありがと。なんかちょっと元気出た」
つぐみ『そ、そうですか? それなら……よかったです』
日菜(つぐちゃんは嬉しそうにそう言ってくれる)
日菜(誰かのためにここまで一生懸命になれるから……おねーちゃんも魅かれるのかなぁ)
日菜「うーん、つぐちゃんもやっぱりズルいなぁ」
つぐみ『えっ、ズルい……ですか?』
日菜「うん、ズルい。おねーちゃんと2人っきりでお買い物に行くし、それもつぐちゃんならしょーがないかーって気持ちにもなるし」
つぐみ『ええっ?』
日菜「あははっ」
日菜(よく分からない、って感じに困惑するつぐちゃんの声を聞いていたら、とうとうあたしは声を出して笑ってしまった)
日菜(こうして笑ったのはいつぶりだったっけ)
日菜(おねーちゃんが記憶をなくしてからずっと落ち込んでたけど……ちょっとだけ元気が出たような気がする)
日菜「でもそこまでつぐちゃんがおねーちゃんにラブだって知らなかったなぁー」
つぐみ『ラ、ラブ……!? そ、そういうのじゃないですよ、日菜先輩!』
日菜「あはは、冗談だよ~」
つぐみ『もう……何だか日菜先輩って、モカちゃんと似てるところありますよね』
日菜「そうだね、モカちゃんは『るん♪』ってするしあたしもモカってするからね~。つぐちゃんもつぐってばかりじゃなくて『るん♪』ってしてもいーよ?」
つぐみ『うう……ついにアフターグロウ以外の人からもつぐってるって言葉が……』
日菜「……つぐちゃんって面白いね。彩ちゃんを可愛くしたみたいな感じがするよ」
つぐみ『ア、アイドルの方より可愛いなんて、そんなことないですよ。それに、それは彩さんに失礼なんじゃ……』
日菜「へーきへーき! 彩ちゃんてすっごく面白いんだよ。何度やっても同じところでダンスの振り付け間違えるしっ」
つぐみ『えぇ……』
日菜「……ホント、ありがとね、つぐちゃん」
つぐみ『え、あ、はい。どういたしまして……?』
日菜「何かあったら、頼りにさせてもらうね」
つぐみ『……はい。いつでも頼りにして下さいね』
日菜「うん、ありがと。長々とごめんね」
つぐみ『いえいえ、そんな。紗夜さんにも、その、お大事にって……』
日菜「うん。言えるタイミングがあれば、つぐちゃんからって伝えてみるよ。もしかしたら何か思い出すかもしれないし」
つぐみ『はい、ありがとうございます』
日菜「んーん、こちらこそだよ。それじゃ、またね」
つぐみ『はい、失礼します』
日菜「……おねーちゃんも仲良しになる訳だなぁ……」
日菜(礼儀正しい言葉のあと、少し間を置いてから切れた通話)
日菜(控えめで、一生懸命で、他人のことを思いやれるつぐちゃん)
日菜(おねーちゃんが仲良しになるのも無理ないよ……)
日菜(あたしももっともっと頑張って、おねーちゃんの助けになれるようにしなくちゃ)
――――――――――――
2月10日
ついに退院となり、私は安寧の場所から追放された。
怖かった。人の目が怖い。
それらから逃れるために、日菜に帽子を持ってきてくれないかと頼んだ。何か詮索をされたりするかと思ったが、日菜はあっさりと「分かった」とだけ言って、帽子を用意してくれた。
それに対してまた私は分からなくなる。
病院からの家路、最も恐れていた事態が起こった。私の知らない私を知る人との遭遇だ。
私はただ身が竦んでどうすることも出来なかった。今すぐにその場から走って逃げだしたい、でも体に力が入らない。
そんな私の手を取って走り出したのが日菜だった。出くわした人物に対して一言謝ると、一目散に走ってその場をあとにした。
それに少し助けられたが、より私は分からなくなってしまう。
本当にあなたは日菜なの?
周りに対する気遣いが出来て、その場その場で人のことを考えた行動をとれる。そんな日菜は知らない。私の中の日菜と目の前にいた日菜のギャップが大きすぎて混乱する。
また、日菜は「まさかつぐちゃんと出会うとは」といったようなことを呟いていた。
つぐちゃん。呼び方から考えるに、私のスマートフォンにも連絡先が入っている「羽沢つぐみ」という人物だろう。
何故その人物と出くわすのがまずかったのか。彼女は私にとって何か大きな意味を持つ人物だったのだろうか。
メッセージアプリには彼女とのトーク履歴もある。だがそれは怖くて見れない。見ればきっと私はまた私に否定されるのだ。
同じ理由でギターも見たくなかった。ロゼリアでもいつも使っていたというエレキギターは、まさに私じゃない私の権化といってもよかった。
日菜に連れられて家に着くと、まずは私はそのギターを見えない場所に……押し入れに入れた。その際、買ってから数えるほどしか弾いていない、少し埃かぶったアコースティックギターを見つけた。
なんとはなしにそれを手にして、コードを押さえて弾いてみる。しばらく放置されていたからだろう、狂った調律はまるででたらめな不協和音を奏でた。
私はそれにひどく安心した。
ああ、このギターは私と同じなんだ。
いつかの私に忘れられ、調律もおかしくなり、狂った音を奏でる。そうだ、まさに今の私にふさわしいギターだ。
何もかも分からない世界で唯一の理解者……いや、知った顔に出会えた。そんな気持ちだ。
チューニングをしてから、1曲、確か2か月前くらいに発売された、たまに聞くアーティストの曲を奏でる。
在りし日の幻影を ハンガーにぶら下げて 多情な少年は出がけに人影を見る
去りゆくものに外套を着せて 見送る先は風ばかり
かじかむ指先でドアを開けて 未練を置き去りにして街に出る
繁華街で馴染みの顔と 音のしない笑い声 喧騒が静寂
楽しいと喜びが反比例しだして 意識の四隅に沈殿する
小さな後悔ばかりを うんざりする程看取り続けて
一人の部屋に帰る頃 どうでもいい落日が
こんな情緒をかき混ぜるから 見えざるものが見えてくる
幽霊 夕暮れ 留守電 がらんどうの部屋
曲の半分以上は朗読のポエトリーソングだ。
表題曲ではなかったが、きっと今の私にふさわしい。
――――――――――
―――――――
――――
……
日菜(おねーちゃんが退院してから5日が経った)
日菜(あたしは疎まれているとしても、何度もおねーちゃんの部屋に行って、色んなお話をした)
日菜(でも、おねーちゃんの記憶は一向に戻る気配がしなかった)
日菜(それどころかどんどん口数が減って、塞ぎ込んでいってるみたいだった)
日菜(みんなでご飯を食べてる時もおねーちゃんは自分から言葉を発しない)
日菜(何か聞かれれば『はい』か『いいえ』だけで答える。それだけだった)
日菜(そしてご飯の時とか以外では、ずっと部屋に籠りっぱなしだ)
日菜(たまにおねーちゃんの部屋からアコースティックギターの音色が聞こえてくる)
日菜(でもそれはなんだか悲しい音に聞こえて、あたしの胸はきゅっと締め付けられる)
日菜(このままじゃ駄目だ)
日菜(だけどどうすればいいんだ。どうしたらいいんだ)
日菜(焦るだけで何もいい考えが浮かばなかった)
日菜(それでもあたしまで落ち込んでたらおねーちゃんだって良くならないはずだ)
日菜(せめて、いつも通りに明るく接しなくちゃいけない)
日菜(……今日はおねーちゃんが退院してから初めての検査の日だ)
日菜(それで何かが変わるような発見があれば……)
――病院――
医者「記憶の回復について、なんですが……」
日菜(おかーさんと一緒におねーちゃんを病院に連れてきて、無事に検査が終わった)
日菜(その検査のあと、あたしとおかーさんはお医者さんに呼び止められた)
日菜(おねーちゃんの記憶のことだろう。だけど今のおねーちゃんを1人にする訳にはいかなかった)
日菜(おかーさんは『日菜が聞いた方がいい』と、おねーちゃんを連れて先に病院を後にしていた)
日菜(そしてお医者さんから開口一番に言われた言葉はやっぱり記憶に関してのことだった)
医者「本日の検査でも脳に異常はなく、少し腫れていた患部ももう元通りに治っています。ですので、本来であれば記憶はすぐに戻るでしょう」
日菜「……はい」
医者「……どの人も記憶が戻るのは喜ばしいことで、自ら率先して記憶を取り戻そうとします。自分の過去に関連するものに触れて、なくした記憶を想起しようとします」
医者「ですが……紗夜さんは自身の過去に触れることを、過去の自分に向き合うことを極端に怖がってしまっています」
医者「このままだと、恐らく記憶は戻らないでしょう」
日菜「…………」
医者「こうなってしまうと、もう私の分野外です。なので心療内科での診察をお勧めします」
医者「こちら、私からの招待状ですので……どうしようもない状況なら、ここへかかってみてください」
日菜「……わかりました。ありがとうございます」
日菜(お医者さんから紹介状を受け取る)
日菜(受け取ったけど、こんなものがあってどうなるんだ)
日菜(言ってしまえば、匙を投げられたんだ)
日菜(何かが変わるかもしれない、なんていう期待はあっけなく踏みにじられたんだ)
日菜(そうなんだ。結局全部おねーちゃん次第なんだ)
日菜(あたしに出来ることなんて本当にちっぽけで、おねーちゃんの助けにもなれず頼りにもされない)
日菜(小さなころからよく天才だとかなんだとか言われていた)
日菜(でも……それがなんだって言うんだ)
日菜(こんな時におねーちゃんの力になれない。それどころか苦しめてる)
日菜(あたしは無力で小さな人間だ)
日菜(それが……悔しかった)
日菜(悔しくてしょうがなかった)
日菜(俯いて1人病院を後にする)
日菜(だいぶ西へ傾いた太陽があたしの目の前に影を作る。それがなんだか癪に障った)
日菜(地団駄を踏むみたいに、その影を力任せに踏みつけた)
日菜(ダン、っていう音が響いた。それだけだった)
日菜(大きく打ち付けた足が少し痛くて、余計に虚しくなった)
日菜「……っ」
日菜(気付くと視界が滲んでいた。俯いてそれが零れ落ちないように堪える)
日菜(だけど駄目だった。足元のアスファルトにポツポツと黒い染みが出来る)
日菜(……あたしが泣いてどうするんだ。こんなことでどうするんだ)
日菜(今、1番辛いのはおねーちゃんなんだ。せめて明るく接しようって決めたんだから)
日菜(止まれ。泣いてる暇なんてどこにもないんだから)
日菜(……そう思うほど、あたしは無力なんだと痛感させられる)
日菜(空元気を見せることしか、泣くことしか、あたしにはできないんだ)
日菜(もう嫌だ)
日菜(どうすればいい、どうすればいいの。どうすればおねーちゃんは笑ってくれるの)
日菜(考えても考えても考えても、答えなんて出てこなかった)
日菜(気付くともらった紹介状が握りしめられた拳の中でくしゃくしゃになっていた)
日菜(……でも、だからなんだっていうんだ。こんなのでおねーちゃんが救えるもんか)
つぐみ「……日菜先輩?」
日菜(もう全部、何もかも投げ捨ててしまいたい)
日菜(自暴自棄な気持ちが膨れ上がり始めた時、つぐちゃんの声が聞こえた)
日菜(あたしは1度だけ袖で目元を拭って顔を上げた)
つぐみ「……どうかしたんですか?」
日菜「ど、どうもしないよ。つぐちゃん、学校帰り? あたしはちょっと西日が眩しくってさ、あはは」
つぐみ「嘘……ですよね」
日菜「……嘘じゃないよ」
つぐみ「嘘です」
日菜「……嘘じゃないよっ!!」
日菜(思わず張り上げてしまった声につぐちゃんが怯むのが見えた)
日菜(ああ駄目だ。駄目だよ。関係ないつぐちゃんに八つ当たりなんかしてどうするんだ)
日菜(そう思っても、口火を切った気持ちは次々と溢れ出てくる)
日菜「嘘じゃないんだよ、全部っ!!」
日菜「あたしはおねーちゃんに嫌われてて、だから助けてあげられなくって、1番おねーちゃんを傷付けたのはあたしで、どうしたらいいか分かんなくてっ、でもあたしが助けなきゃいけないんだっ!!」
つぐみ「日菜先輩……」
日菜「どうしたらいいのか分かんないよ、あたしは、もうどうしたらいいのっ、どうしたらおねーちゃんは元に戻るのっ!?」
日菜「どうしたらっ……どうしたら……おねーちゃんは笑ってくれるの……?」
日菜(みっともない。情けない)
日菜(気持ちを吐き出した自分に抱いた気持ちはそれだけだった)
日菜(いたたまれなく頭を垂れる。足元のアスファルトには黒い斑点がポツポツと付いているのが見えた)
日菜(それはあたしの無力さの何よりの証拠だ。そう思うとまた涙が滲んできた)
日菜(もう……いい)
日菜(もういっそ、涙なんて全部零れて、枯れちゃえばいいんだ)
日菜(隣り合わせの絶望に、背中合わせの自暴自棄に、身を投げちゃえばいいんだ)
日菜(そう思ったあたしの体がふわりと温かいものに包まれる)
日菜(……ほとんど身長の変わらないつぐちゃんに抱きしめられているんだ、と理解するのに少しかかった)
日菜「……つぐちゃん?」
つぐみ「ごめんなさい。どうしたらいいか分からなくて……泣いている蘭ちゃんに、巴ちゃんがこうしてたなって思って」
日菜「…………」
つぐみ「その、私なんかが口を出していい問題じゃないかもしれません。でも、駄目です、日菜先輩。1人で全部抱え込んじゃ……駄目です」
つぐみ「日菜先輩、言ってたじゃないですか。何かあったら頼りにするって。今がまさにそうする時……だと私は思います」
日菜「…………」
日菜(つぐちゃんの制服からは微かにコーヒーの匂いがした。それに混じってシャンプーのほのかな香りも漂ってくる)
日菜(その香りが、なんだかあたしを落ち着かせてくれたような気がした)
つぐみ「私も、その、頑張り過ぎちゃって倒れたりとかってしますから……日菜先輩の気持ちもちょっとだけ、分かると思います」
つぐみ「もっと頑張らなくちゃ、みんなに置いていかれないようにしなくちゃ、って焦っちゃうんですよね」
日菜「……うん」
つぐみ「それは考えすぎだって、紗夜さんに言われたことがあります。私は、確かにその通りだなって思いました」
つぐみ「アフターグロウのみんなに置いていかれるかもって……よく考えたら、誰かが遅れそうなら、きっとみんな立ち止まって待っててくれますから」
日菜「……うん」
つぐみ「それと一緒だと思うんです。日菜先輩は1人じゃないです」
つぐみ「イヴちゃんとか、パスパレのみんながいるじゃないですか。リサ先輩だって、ロゼリアの方たちだっているじゃないですか」
つぐみ「もちろん私だって……力不足ですけど、いますから」
日菜「……うん」
つぐみ「だから、1人で塞ぎこむのは駄目……だと思います」
つぐみ「きっと紗夜さんも――記憶をなくした紗夜さんも、いつもの紗夜さんも、日菜先輩が悩んで苦しむことなんて望んでないですよ」
日菜「……そっか」
つぐみ「きっとそうですよ」
日菜「……ありがと、つぐちゃん」
日菜「……もうへーきだよ」
つぐみ「あっ……、ご、ごめんなさいっ」
日菜(つぐちゃんはそう言ってから少し赤い顔をして体を離した)
日菜「あーホント……ズルいなぁーつぐちゃんは……」
つぐみ「えっ?」
日菜「ホントにあたしの1個下? 実は2歳くらいサバ読んでない?」
つぐみ「よ、読んでないですよ!」
日菜(つぐちゃんは焦ったように否定する。……やっぱりこういうところは1つ年下の女の子なんだな)
日菜(あたしもつぐちゃんみたいな優しさが欲しい。だけど、これはきっとあたしじゃどうやったって手に入れられないものなんだろう)
日菜(でも、何かが分かった気がする)
日菜(……きっと、おねーちゃんもこんな気持ちだったんだ)
日菜(どんなに頑張ったって、逆立ちしたって手に入らない)
日菜(つぐちゃんのあったかい優しさは生まれついてのものなんだ。それと同じものは絶対に手に入らない)
日菜(……そうだ、おねーちゃんもきっとそういう気持ちだったんだ)
日菜(あたしは大体のことは何でも出来る)
日菜(双子のおねーちゃんはずっとそれと比較されてきた)
日菜(どんなに頑張ったって、どんなに願ったって、おねーちゃんはあたしにはなれない)
日菜(常に先をいくあたしを見て、新しいことに挑戦して、それでも後追いのあたしが追い抜かしちゃう)
日菜(だからおねーちゃんは苦しんでいたんだ)
日菜(負けたくないけど、負けちゃって、どうしたらいいか分からなくて、それでも向き合わなくちゃいけないって、苦悩を重ねてたんだ)
日菜(そうだ……あの秋の時点で、あたしはおねーちゃんの悩みを根っこのところから理解していなかったんだ)
日菜(ただ、昔みたいに仲良しに戻れるって……浮かれてただけなんだ)
日菜(……ごめんね……本当にごめんね……おねーちゃん)
日菜(今度は……あたしの番なんだ)
日菜(どんなに辛くたって、おねーちゃんと向き合うんだ)
日菜(おねーちゃんがあたしにそうしてくれたみたいに)
日菜(辛くて苦しくて、どうしていいか分からなくなっても向き合おうとしてくれていた、とっても強いおねーちゃんみたいに)
日菜「……ホントにありがとね、つぐちゃん。あたし、こんなことでへこたれてる暇なんてなかったよ」
つぐみ「……いえ、日菜先輩の力になれたならよかったです」
日菜「それと……もう1つ、お願い聞いてくれないかな?」
つぐみ「はい、私に出来ることでしたら」
日菜「おねーちゃんに……会ってみてくれないかな?」
――――――――――――
2月15日
今日は病院での検査があった。
結果は異状なし。何も変わらず、私は私のままでいるようだった。
……相変わらず外を出歩くのは怖い。異常がないのなんて分かりきっているのだから、わざわざ病院に行く必要があったのだろうか。
ただ、心配そうな顔をする母と……日菜がそれで安心するというのなら、私はそれに従うしかない。
日菜といえば医者から話があるというので1人病院に残っていた。帰って来てから私の部屋に来たが、少しその目が赤かった。日菜でも泣くことがあるのね、と思ったが、いつも通り……いや、今日に限ってはいつも以上に明るく馴れ馴れしかったあの子のことだから、目に砂が入ったとかそういう理由かもしれなかった。
私は病院の検査が終わると、今日も1人部屋にこもる。そして決まって西日の射しこむ時間に曲を奏でた。
西日とアコースティックギターだけが今の私の理解者……友人だった。
ここ数日は、5日前に弾いたアーティストの曲ばかりを聞き、弾いている。
昔は暗い歌ばかり歌うアーティストだと思っていた。いや、今もそう思う。ただそれが今の私には妙に心地いい。
だが雨がテーマになっている曲は聞きたくなかった。雨音を聞くと、頭の中がうずき、胸の中がよく分からない感情で満たされて張り裂けそうになるからだ。
私は今日もギターを奏でる。
さよなら さよなら 思い出なんて消えてしまえ
どうせ明日が続くなら 思い出なんていらないよ
この足を重くするだけの感傷なら どぶ川に蹴り捨てた
ギターに没頭している時だけ、私はどこか救われた気持ちになっていた。
ただそれでも無性に泣きたくなる。歌詞に心を合わせているわけでもない。
なんでだろうか。分からない。
――――――――――
―――――――
――――
……
――氷川家 紗夜の部屋の前――
日菜「ごめんね、急で」
つぐみ「いえ、大丈夫です。私も紗夜さんの力になりたいですから」
日菜(日曜日のお昼前、あたしはつぐちゃんを家に招いていた)
日菜(3日前の病院からの帰り道でのお願いに、つぐちゃんは2つ返事で頷いてくれたからだ)
日菜(早速つぐちゃんの厚意に甘えちゃったけど、それでもつぐちゃんは頼られたことが嬉しいかったのか笑顔で家までやって来てくれた)
日菜「……一応、もう1回念を押しておくけど……」
つぐみ「……大丈夫ですよ。この前も言いましたけど、紗夜さんは本当は優しい人だって知ってますから」
日菜「ん……ありがと」
日菜(おねーちゃんのために力を貸してくれるのは嬉しかった。でも、それでつぐちゃんまで傷付いちゃうのは誰も望んでいないと思った)
日菜(だから、病院からの帰り道に、つぐちゃんにはこう言っていた)
日菜(「今のおねーちゃんは人が怖いみたいで、もしかしたらつぐちゃんに酷い言葉を投げたりするかもしれないよ。それでも……来てくれる?」と)
日菜(でもそれを聞いてもつぐちゃんは『紗夜さんは優しい人だって知ってますから』と笑顔で言うだけだった)
日菜(それが頼もしい反面、絶対に敵いっこない優しさにちょっとだけ自分が情けなくなった)
日菜(でもそんなの、おねーちゃんのためと思えばどうでもいいものだった)
つぐみ「紗夜さんはお部屋ですか?」
日菜「うん。……最近は、ご飯の時とか以外はずっと、ね」
つぐみ「そう……なんですね」
日菜(自分のことみたいに人の痛みを分かってあげられるつぐちゃん)
日菜(だからこそ、もしかしたらおねーちゃんは変わるかもしれない)
日菜(この前、つぐちゃんが言った言葉がずっと胸の中にあった)
日菜(『紗夜さんも――記憶をなくした紗夜さんも、いつもの紗夜さんも』)
日菜(あたしはどんなおねーちゃんもおねーちゃんだと思って接していた)
日菜(……もしかすると、この考えがおねーちゃんを傷付けていたのかもしれない)
日菜(おねーちゃんが『怖い』って言ったこと、『あなたは誰を見ているの?』って聞かれたこと)
日菜(それがつぐちゃんの言葉で1つに繋がって、おねーちゃんの抱える不安をはっきりさせてくれたような気がする)
日菜(だけど、相変わらずあたしは人の気持ちを考えるのが下手だ)
日菜(分かりかけた答えも掴みかけたヒントも、もしかしたらあたしのせいで全部台無しになっちゃうかもしれない)
日菜(だから、きっかけをくれたつぐちゃんを信じて、託してみたくなった)
日菜「それじゃあ、ちょっとおねーちゃんに声かけてくるね」
――コンコン
日菜「おねーちゃん、日菜だよ」
紗夜『……開いてるわよ』
日菜「うん、入るね」
日菜(一声かけてから部屋の中に入る)
日菜(おねーちゃんの部屋はカーテンが閉められていて、まだお昼前なのに薄暗かった)
日菜(おねーちゃんはベッドに腰かけて、アコースティックギターを膝に抱えて、イヤホンで何かの音楽を聞いていたみたいだった)
日菜「ごめんね、ギター弾いてる時に」
紗夜「……いえ」
日菜(よく見るとベッドの上にまっさらな楽譜とシャープペンシル、それとあたしがあげたつば広帽子があった)
日菜(もしかしたら歌を楽譜に起こしていたのかもしれない。だけどおねーちゃんはほとんど喋らないからそれが正しいのかは分からなかった)
日菜「今日はどう? どこか痛いとかない?」
紗夜「……別に」
日菜「ん、そっか。よかった」
日菜(いつも通りの返事だ。顔色もいつもと変わらない、記憶をなくしてからのおねーちゃんだった)
日菜(この状態を『いつも通り』なんて言えちゃうのが……やっぱ辛いな)
日菜(でも、今はそんなことを考えてる場合じゃないんだ)
日菜「……おねーちゃん、実はね」
日菜(口の中が渇いてて声が出しづらい)
日菜(もしかしたら、これはおねーちゃんに悪影響を及ぼすことかもしれない。取り返しのつかないことになったらどうしよう)
日菜(今さらそんな弱気なことが頭の中に浮かんでくる)
日菜(でもここで何もしなかったらずっとこのままかもしれない)
日菜(それだけは絶対に嫌だ)
日菜「今日は、会ってほしい人がいるんだ」
紗夜「……っ」
日菜「つぐちゃん……羽沢つぐみちゃんって言うんだ。すっごく優しくて、あったかくて、面白い子なんだ」
日菜(つぐちゃんから貰った大事なヒント。それを考えて、慎重に言葉を選んだ)
日菜(……今のおねーちゃんは違うんだ、色んな人と交流して、自分を認めてくれたおねーちゃんではないんだ。それをあたしが認めなくちゃいけないんだ)
紗夜「…………」フルフル
日菜(おねーちゃんは言葉が出ないのか、血の気が引いて青白くなった顔を横に振るだけだった)
日菜(その姿を見ると今すぐにでもつぐちゃんと会うのは中止にして、おねーちゃんを安心させてあげたくなる)
日菜(……でも、それはただの問題の先延ばしなんだ)
日菜「……もう、呼んであるんだ。入ってもらうね」
紗夜「……だ、……て」
日菜(小さくかすれた声がおねーちゃんの口から漏れる。きっと拒絶の言葉だ)
日菜(それは分かるけど、でも、ごめんなさい)
日菜(あたしは人の気持ちが分からない子だから、ごめんなさい。おねーちゃんがきっと苦しむだろうなってことだって平気でしてしまえるんだ)
日菜「入っていーよ、つぐちゃん」
つぐみ「……失礼しますね」
日菜(遠慮気味につぐちゃんが部屋に入ってくる。その姿を見るより早く、おねーちゃんは傍に置いてあったつば広帽子を慌てて被って、顔を俯かせていた)
つぐみ「初めまして、ですよね」
紗夜「……っ」ビク
つぐみ「私は、羽沢つぐみって言います。羽丘女子学園の1年生で、生徒会の役員もやってるんですよ」
紗夜「…………」
つぐみ「ピアノとキーボードもやってて、アフターグロウっていうバンドを幼馴染と組んでます」
紗夜「…………」
つぐみ「……ギター、好きなんですか?」
紗夜「…………」
日菜(おねーちゃんは答えない。どうすればいいのか分からない、というみたいに、つば広帽子が少し左右に揺れていた)
つぐみ「あ、その、急でびっくりしちゃいましたよね。ごめんなさい」
つぐみ「日菜先輩から聞いたんです。その、とっても素敵なお姉ちゃんがいるから、是非会ってほしいって」
紗夜「…………」
つぐみ「名前、聞かせてもらえませんか?」
紗夜「…………」
つぐみ「…………」
紗夜「……紗夜」
つぐみ「紗夜さん、っていうんですね」
紗夜「…………」
日菜(おねーちゃんからの答えはなかった。でも、一言だけでも返事をしてくれた)
日菜(それだけでも前に進めたんだ)
……………………
つぐみ「紗夜さん、ほとんど無反応でしたね……」
日菜「んーん。一言だけでも大きな1歩だと思うよ」
日菜(おねーちゃんの部屋での短い時間を過ごしたあと、あたしの部屋につぐちゃんを招いた)
日菜(結局おねーちゃんが返事をしたのは名前を名乗った時だけで、あとはつぐちゃんに話しかけられてもずっと黙ったままだった)
つぐみ「そうですかね……」
日菜「そーだよ。だって今のおねーちゃん、きっと誰かに会っても何も喋らないって方が普通だもん」
つぐみ「……それはそれで……悲しいですね……」
日菜「……うん。でも、つぐちゃんには喋れたから、きっといい方に向かうと思うんだ」
日菜(これは希望的な観測なのかもしれなかった)
日菜(おねーちゃんが進めた1歩は本当に小さな1歩で、虫の歩みのようなものだったのかもしれない)
日菜(でも、それはあたしが1週間以上かけても動かせなかった1歩だ)
つぐみ「日菜先輩……また紗夜さんに会いに来ても平気ですか?」
日菜「……いーの?」
つぐみ「はい。今の紗夜さんを……あの姿を見たら、放っておけないですから」
日菜「そっか、ありがと。つぐちゃんはホントに優しいね」
つぐみ「そんなことないですよ」
日菜「そんなことあるよ」
つぐみ「そうですかね?」
日菜「そうだよ。ふふっ」
日菜(変な押し問答をしてるうちに笑ってしまった。つぐちゃんも遠慮気味に笑っていた)
日菜(肩にずっと入っていた力が抜けた気がした)
つぐみ「それにしても、紗夜さんってアコースティックギターも弾くんですね」
日菜「うん、昔に、ギター始めたばっかりの頃に買ってた」
日菜「……それを今手元に置いてるのは、エレキギターを見るとロゼリアのことを考えちゃうからみたいなんだけどね」
日菜「ギターどうしたのって聞いたら押し入れにしまってあるって言ってたし」
つぐみ「そうなんですね……。今も自分の音、探してるのかな……」
日菜「つぐちゃん、おねーちゃんが自分の音を探してるって知ってるの?」
つぐみ「あ、はい。ウチでお菓子教室開いた時にそんな話をしました」
日菜「ふーん、そうなんだ」
日菜(そっか……つぐちゃんが羨ましいな)
日菜(きっと付き合いも浅いのに、そんな信念のことまで話せるくらいに心を許してるんだ)
日菜(もしつぐちゃんみたいになれたら、おねーちゃんもあたしのことを好きになってくれるかな)
日菜(……なんて、何をおかしなことを考えてるんだろ)
日菜(みんな、同じなんだ。みんな同じで、違うんだ)
日菜(あたしがあたしにしかなれないみたいに、おねーちゃんはおねーちゃんにしかなれなくて、つぐちゃんはつぐちゃんにしかなれないんだ)
日菜(きっと世界中のみんなが同じで、違うんだ)
日菜(彩ちゃんが面白いって思うのと、みんながあたしのことを天才だとかよく分からない人だなんていうのもきっとそのせいだと思う)
日菜(あたしにとっての大発見だけど……もしかしたらこれって、当たり前のことなのかなぁ)
日菜(でも……何かが分かったような気がするし、いいや)
日菜(これからは今まで以上におねーちゃんのことを理解して、助けてあげられそうな気がする)
日菜(だから、それだけでいいや)
――――――――――――
2月18日
心境の変化というものはあらゆるものに対する印象を変えるのだと思った。
いつか聞いた音楽もその時の気持ちによって受け取り方が変わるものだ。
いずれにしても立ち去らなければならない 彼女は傷つきすぎた
開かないカーテン 割れたカップ 流し台の腐乱したキャベツ
あのアーティストの、自虐家の少女を歌った曲だ。前に聞いた時はただ切ないという印象を抱いたが、今日、歌を聞きながら楽譜に起こしていると、なんて優しい歌なんだろうかという印象を抱いた。
いつものように日菜が部屋にやってきたのは、その作業中だった。
ただ、その日は少し様子が違った。日菜は私に会わせたい人がいると言ったのだ。
その言葉に私は戦慄した。
嫌だ。
またきっと私は否定される。
ただただそれが怖かった。
……だが、私が危惧した恐怖はやってこなかった。
日菜が部屋に招き入れたのは羽沢つぐみという少女だった。
彼女は私に対して、「初めまして」と言った。
最初は解せなかった。何を言っているんだ。あなたは私の知らない私を知っているんだろう。初めましてなんかじゃないはずだ。
…………
少し考えてから、それが『私』に言われた言葉なんだと気付いた。気付いてから、不思議な気持ちになった。
やっと私は誰かに見つけられたんだ、という安心
もしかしたら裏切られるかもしれない、という不安
彼女も私ではない私に会いたくて初めましてなんて言ったのかもしれない。結局のところ私はやっぱり必要とされていないのかもしれない。でも私を私と認めてくれたことが嬉しい。
正反対のものが胸の中でない交ぜになった。羽沢つぐみに対してどういう反応をしたらいいのか分からなかった。
そうして黙り込む私に対し、羽沢つぐみは何度も声をかけてくれた。
しかし結局私は自分の名前を名乗ることしか出来なかった。
それでも彼女はめげなかった。その姿が眩しかった。
どうして私に対して、こんな面倒な事情を抱えた人間に対して、そこまで親身になれるのだろうか。考えても考えても分からなかった。
ただ、ほんの少しだけ、暗がりに光が射したような気がした。
それは風前の灯火のように頼りなく、どちらが前かも分からない暗闇を晴らすには弱すぎる光だ。それでも、それだけあれば少しは足を動かしてみようかと思えなくはない。
……私はどうしたいのだろうか。
楽譜に書き起こした歌詞を見て思う。
あの人が愛した 父さんが愛した
この海になれたら 抱きしめてくれるかな
今でもずっと愛してる
明日の私はこれにどういった気持ちを抱くのだろうか。
――――――――――
―――――――
――――
……
日菜(おねーちゃんの元につぐちゃんを招くようになってから1週間が経った)
日菜(最初こそおねーちゃんはつぐちゃんに何も反応しなかったけど、2回、3回と顔を合わせるうちに、あたしと同じように言葉を交わせるようになっていた)
日菜(その変化はとっても小さなものだったかもしれない)
日菜(それでも、焦る必要なんてないんだ)
日菜(つぐちゃんが言ってたように、おねーちゃんに合わせて、時には立ち止まって、時には手を引いて、ゆっくり進めればいいんだ)
日菜(……きっと、あたし1人だけでいたら、どうしていいか分からなくて破れかぶれの自暴自棄な気持ちになってただろうな)
日菜(だけど今は隣につぐちゃんがいてくれた)
日菜(他にも事情を知っているロゼリアのみんなもいる。理由も話さなかった自分を信じてくれたパステルパレットのみんなもいる)
日菜(そう思うだけで、あたしはへこたれずに頑張れる)
日菜(だからきっとおねーちゃんも同じなんだ)
日菜(おねーちゃんにもあたしと同じように頼れる人がたくさんいるんだ)
日菜(少しだけでも、自分に、なくした過去と未来に、世界に向き合うきっかけがあれば、きっとすぐにおねーちゃんの記憶だって回復するんだ)
日菜(確かな根拠なんてない。でもそれを信じられる)
日菜(あたしもおねーちゃんも1人じゃない。そう思うだけで)
日菜(あたしは今日もおねーちゃんの部屋に足を運ぶ)
日菜(今日はつぐちゃんが来れないからおねーちゃんと2人っきりだ)
日菜(……前までは、重苦しい気持ちで部屋のドアをノックしていたと思う)
日菜(でも今はちょっと違った。楽しむ余裕があった)
日菜(今日はどんなことを話そうかな)
日菜(そう考えながら、あたしはおねーちゃんの部屋をノックする)
――――――――――――
2月25日
どうすればいいのか、ではなく、どうしたいのか。
それをこの1週間ずっと考えていた。
相変わらず日菜は毎日私に会いに来た。
羽沢さんも4回ほど、日菜と共にやってきた。
それが何のためだったのか、少し考える。
私のため。それはどちらの私のためなんだろうか。
ずっと考えていた。ずっと考えていたけれど、分からなかった。
最後にはどっちでもいいような気がしてきた。
つまるところ、日菜はずっと私のために行動していたのだ。
羽沢さんも同じだろう。そう思うようになったのは3日前だった。
私はどうしたいのだろうか。
いつまでも部屋に籠ってギターを抱えているわけにもいかない。
もう学校に行かなくなって20日近く経っていた。日菜もきっと学校を休んで私に付きっきりなんだろう。パステルパレットというバンドの活動も休んでいることだろう。
そう思うと自分の小ささを強く痛感させられた。
日菜はこんなにも、私のことを考えてくれていたのだ。
自分の事情をすべて差し置いて、私を優先していたのだ。
私はそんな日菜に対して一方的な劣等感を抱き、拒絶していた。常に手を差し伸べてくれていたあの子を見放していたのだった。
それに気付くと足元が崩れて深い闇の中に落ちていくような感覚がした。なんて自分勝手で矮小な考えで私は生きてきたんだろうか、と。
けど、そこへだってきっと日菜はやってきて、私の手を引いて、無理矢理にでも光の指す方へ連れ出そうとするだろう。
あの子はいつだってそうしていたんだから。
……だから、全部が自分次第なんだ、と思った。
私はどうしたいのか。
これ以上日菜に面倒をかける訳にはいかない。
羽沢さんだってそうだ。本来、彼女はきっと私の交友関係の1人、というだけのはずだ。いつまでも彼女の優しさに甘える訳にはいかない。
どうしたいのか。……いや、答えにはとっくに行きついていたはずだ。
向き合うんだ。自分の知らない自分と、それを知る人たちと。
怖いけれど、向き合うんだ。勇気がないなら、またギターを奏でればいい。
近付けば遠くなるカシオピア 今は笑えよ スターライト
いつか全てが上手くいくなら 涙は通り過ぎる駅だ
珍しく前向きな歌だ。安っぽい歌だと言う人もいるだろう。
それでも、そんな歌が私の背中を押してくれる。私が望む未来へと。
――――――――――
―――――――
――――
……
――紗夜の部屋――
日菜「え……いいの?」
紗夜「……聞きたくないのなら、別に……」
日菜「ううん、そんなことないよ! 聞きたい! 絶対聞く!」
紗夜「…………」
日菜「えへへ、おねーちゃんからそう言ってくれるのって珍しーね! 楽しみだなぁ、おねーちゃんのギター!」
日菜(いつも通りにおねーちゃんの部屋にやってくると、『私のギターを聞いてくれないか』とおねーちゃんに言われた)
日菜(色々と考えなきゃいけないことがあった。どうしておねーちゃんがそう言ったのか、なにか伝えたいことがあるんじゃないか、と)
日菜(でもそんな考えもすぐに消えてなくなった)
日菜(……おねーちゃんがあたしの方に歩み寄ってくれた)
日菜(それだけで天にも昇るくらい嬉しかった)
日菜「……えへへへ」
日菜(口元が自然と緩み顔がにやける)
日菜(でも仕方ない。おねーちゃんが声をかけてくれた。ギターを聞かせてくれるって言った)
日菜(それが嬉しくて嬉しくてしょうがないんだから)
紗夜「…………」
日菜(おねーちゃんはあの帽子を被ってるから表情は分からなかった)
日菜(隠れた顔が困ったように笑っていてくれたらなぁ)
日菜(ああ、それとおねーちゃんが気に入ってる帽子はあたしが用意してあげたんだよって誰かに自慢したいなぁ)
日菜(すっごく久しぶりだなぁ、なんだか『るんっ♪』ってするの!)
日菜「おねーちゃん、どんな曲弾くの?」
紗夜「……最近よく聞く曲よ」
日菜「あたしも知ってる曲かな?」
紗夜「……いいえ、知らないと思うわ」
日菜「そっか! 楽しみだなぁ~!」
日菜(これでロゼリアの曲を弾いてくれればな、なんて思わなくもなかった)
日菜(でもおねーちゃんがあたしを見てくれただけでもうすごい嬉しい。そんなちっちゃなことなんてどーでもいいや!)
紗夜「じゃあ……弾くわよ」
日菜「うんっ!」
日菜(あたしは頷いて、ベッドに腰かけるおねーちゃんの正面に椅子を持ってくる)
日菜(そしてそこにお行儀よく腰かけた)
日菜(どんな曲を弾いてくれるんだろうなぁ~、楽しみだなぁ~っ)
日菜(……こんな気持ちになったのはいつ振りか分からないくらいだった)
紗夜「…………」
日菜(おねーちゃんは深呼吸をしてから、ギターの弦を弾きだす)
紗夜「……幾時代かがありまして 悲しいことが起こりました」
日菜(そして静かな声で歌詞を紡ぎだす。あたしはそれにただ集中した)
日菜(この曲は何度か聞いたことがあった。いつかのおねーちゃんがたまに聞いていたり、口ずさんでいた歌だった)
強がる理由がなくなって 不幸ぶる理由もなくなって
本音の言葉で向かい合う そんな時が来たって気がするよ
涙流る 時も流る その速度より早く走り抜け
街は変わる 人も変わる 昨日報われなかった願いも 捨てないでよ
日菜(曲の終わりに向かうにつれて、おねーちゃんの歌声はだんだんと力強いものになっていった)
日菜(その歌詞の一字一句、ギターの1ストロークだって聞き逃すもんか)
日菜(あたしはそう思っておねーちゃんの歌声とギターに聞き入る)
過去から未来 繋ぐ実線 ミクロからマクロ帰結して
流転に物思う暇なく 有史以前と同じ風が吹く
時代の愛の価値移ろい 未来永久に過ぎ去る理
時代の愛の価値移ろい 離したくないと抱いたの何?
日菜(……そっか)
日菜(おねーちゃんの伝えたいことが分かった。そんな気がして、あたしは嬉しくなった)
痛みも全部無くなって 喜怒哀楽も全部無くなって
「平穏だ」なんて閉じこもる そんな毎日なんてくそくらえ
涙流る 時は流る そんな世界じゃ僕ら一瞬だ
急げ 急げ 急げ 急げ
紗夜「昨日笑われた君の本気も 捨てないでよ 君の番だよ」
日菜(おねーちゃんは最後まで歌い切り、大きくギターをかき鳴らす。その音が消えると、あたしは大きく拍手した)
日菜「やっぱりおねーちゃんってギター上手だね!」
紗夜「……ええ」
日菜(おねーちゃんは迷うぞぶりを見せてから、帽子を脱いだ。そしてあたしをまっすぐに見つめてくれた)
紗夜「日菜、その……」
日菜「……んーん。大丈夫だよ、おねーちゃん」
紗夜「…………」
日菜「あたしはおねーちゃんが元気になってくれるならそれで満足だし、前に進もうって思ってくれたなら、それだけでもういいよ」
紗夜「……ごめんなさい」
日菜「いいんだよ。向き合うって……決めたんでしょ? なら、いいんだよ」
紗夜「ごめんなさい、日菜……」
日菜「いいってば」
日菜(俯いたおねーちゃんはきっと涙をこぼしているだろう。その涙の意味も、謝罪の理由も、もうあたしは知ってるんだから)
日菜「あたしはへーきだよ。なにがあったって、あたしはおねーちゃんのこと、ずーっと大好きなんだから」
紗夜「日菜……っ」
日菜(俯いたまま肩を震わせるおねーちゃんをそっと抱きしめた。その体は思っていた以上に小さかった)
日菜(……こんなに小さな体で今までずっと戦ってたんだ)
日菜「辛かったよね。それでも頑張ってたんだよね」
日菜「……あたしの方こそ、今までホントにごめんね。おねーちゃんのこと、ずっと、ずっと傷付けてたんだよね」
紗夜「…………」フルフル
日菜(おねーちゃんは何も言わず、小さく首を横に振った)
日菜(それだけでもう十分だった。今でのあたしの全部が報われたんだ。そう思えた)
日菜「そしたらさ、もう少しだけ……一緒にがんばろーね、おねーちゃん。あたしに出来ることがあればなんでもするからさ」
紗夜「……ええ」
日菜(おねーちゃんは小さく頷いた)
日菜(もうおねーちゃんは大丈夫だろう。あたしの手助けなんかなくったってすぐに記憶を取り戻すだろう)
日菜(それでもあたしは、まだまだ、ずっと、おねーちゃんを助けられる存在でいたいんだ)
日菜(どんな小さなことだっていい。おねーちゃんを助けてあげられることを探そう)
日菜(そう思って、あたしは涙が止まるまでおねーちゃんを抱きしめ続けた)
――――――――――――
2月27日
今日、日菜にギターの弾き語りを聞かせた。
それには大きな意味があって、もしかしたら日菜はそれを汲んではくれないかもしれないという危惧があった。
しかし、心のどこかでは日菜を信じていた。きっと今の日菜ならば、私の気持ちを分かってくれるだろうという信頼があった。
おかしなものだ。そして、なんとも現金なものだ。
あれほど拒絶していた日菜を信頼して、こんな時だけ、自分の気持ちを分かってもらいたいだなんて。
しかし日菜はどうであったか。私の弾き語りを聞いて、それだけで、言いたいことも私の葛藤も全部分かってくれた。
まったく、本当にあなたは何でも出来るのね。そう思いもしたが、決して嫌な気持ちではなかった。むしろ、呆れたような、困ったような感情もあるが、それは嬉しいものだった。
ただ、日菜の胸で泣いてしまったことは今思い出すと恥ずかしかった。
その行動は姉としての威厳が微塵もない。素直に身を委ねたことを思い出す度に顔が熱くなる。
……それは今は置いておこう。
私は私自身に向き合うと決めた。だから失った記憶もさっさと取り戻してしまいたいし、遅れた分の勉強だって早くしなければいけない。
……さて、どうすれば記憶が戻るのだろうか。
やはり、私が私でなかった期間――いや、この表現はもうやめにしよう――私が大切にしていたという思い出にきちんと触れなければいけない。
恐怖心が完全に拭えたかというと未だにそんなことはなかった。だが頑なに目を逸らし続けるほどのものでは、もうない。
今の私となくした私の共通点はなんだろう。少し考えてから、やはりギターなのかしら、と思い至る。
そうだ、ギターだ。ギターを弾いて、歌を歌おう。
だがそれだけでは駄目だ。日菜がそうだったように、きっと2月の私は、色んな人に触れて考え方もずっと変わっているはずだ。誰かに触れなければいけない。
そうして考えているうちに行きついたのがロゼリアだった。
名前は知っている、だが顔は知らない彼女たちの前で演奏してみれば、触れてみれば、何かが変わるかもしれない。
よし、と自分自身に気合を入れる。まず手始めに何をすればいいか。そうだ、弾く曲を考えよう。そう思ったところで、ふと、スマートフォンが目についた。
そういえば、私が演奏したという曲がこの中には入っていた。記憶をなくしてから最初に触れて以降ずっと避けていたが、この曲たちにも向き合わなければいけないだろう。
プレイリストを開いて『ロゼリア』に分類されている曲目を見る。
カバー曲とオリジナル曲がいくつも並んでいて、そのうちの1つに目がとまった。
……Determination Symphony。
意訳すれば「決意の調べ」といったところか。
誰がどういう気持ちで誰に宛てて作った曲なのか、どういう意味を持つ曲なのかは知らない。いや、この場合は思い出せない、か。
だが今の私にはふさわしい曲名だと思った。
決意の調べ。
そうだ。私は向き合うんだ。日菜とも、忘れた過去とも、忘れてしまった人たちとも。そう決意したんだ。
ただこの曲はまだ弾けないし聞くこともしない。これは「ロゼリアの氷川紗夜」が聞いて、弾くべき曲だ。「記憶をなくした氷川紗夜」には少しもったいない代物に思えた。
何を演奏するのがいいだろうか。この曲がいいだろうか。あの曲がいいだろうか。
怖気づく気持ちもまだもちろんあるが、同時に少しの楽しさも感じられた。
それはきっと私は1人ではないと知ったからだろう。
――――――――――
―――――――
――――
……
――氷川家――
日菜「ふんふんふーん♪」
日菜(おねーちゃんの弾き語りを聞いた翌日、いつものようにあたしはおねーちゃんの部屋に足を運ぶ)
つぐみ「日菜先輩、今日はなんだかご機嫌ですね」
日菜(今日はつぐちゃんも一緒だった。それに笑顔で答える)
日菜「えへへ、昨日ね、おねーちゃんがギターを聞かせてくれたんだ」
日菜「おねーちゃんって普段はね、あたしにギター弾いてるところ見られるの嫌がるんだ。でも昨日は自分から『聞いてくれないかしら』って言ってくれてね、『るらるんっ♪』って感じだったんだ~!」
つぐみ「へぇ~、よかったですね、日菜先輩」
日菜「うん!」
日菜(頷きながらおねーちゃんの部屋の扉の前まで来て、少し悩む)
日菜(……今ノックをしないで部屋に入ったら、おねーちゃんはどんな反応をするんだろうか)
日菜(怒るかな? 呆れるかな? 仕方ないわね、って言って笑ってくれるかな?)
つぐみ「……入らないんですか?」
日菜「あ、ううん。ノックしないで入ったらおねーちゃんどんな反応するかな~って思ってさ」
つぐみ「そ、それは怒るんじゃないですか、紗夜さん……」
日菜「今のおねーちゃんになら怒られるのもいいかなぁ」
つぐみ「えぇ……?」
日菜「よし決めた! ノックしない! おねーちゃーん、日菜だよーっ!」
――ガチャ
紗夜「……ノックはきちんとしなさい」
日菜(ノックをせずに開いた扉)
日菜(あたしを出迎えたおねーちゃんは、いつものようにベッドに腰かけてギターを膝に乗せていた)
日菜(カーテンが開いた窓からは少し西に傾き始めた陽光が差し込んできてて、それが呆れたような顔をしてるおねーちゃんの足元と机の上に置かれたつば広帽子を照らしていた)
日菜「あれ、驚かなかった?」
紗夜「……あれだけ部屋の前で騒いでいれば分かるわよ」
日菜「そっかぁ~。おねーちゃんは何でもお見通しなんだねっ」
紗夜「はぁ……」
日菜(おねーちゃんは呆れたように小さくため息を吐いた。その反応が見れたのがすごく嬉しかった)
つぐみ「お、お邪魔します」
日菜(あたしの後に続いて、つぐちゃんも部屋に入ってくる)
日菜(おねーちゃんは窓の方へ顔を動かしかける。でも途中で思い直したように動きを止めて、ちょっと間を置いてからゆっくりつぐちゃんの方へと顔を向けた)
紗夜「……こんにちは、羽沢さん」
つぐみ「紗夜さん……」
日菜(そのおねーちゃんの姿につぐちゃんはびっくりしていたみたいだった)
日菜(あたしはそれを見て胸を張っていた)
日菜(向き合うと決断して、その通りにつぐちゃんから逃げなかったおねーちゃんの姿がすごく誇らしかった)
紗夜「今まで……顔も見せずにいて、ごめんなさい」
つぐみ「あ、いえ、そんな」
紗夜「いえ、謝らせてください」
紗夜「ずっと失礼なことをしていて、本当にごめんなさい。そして……ありがとうございます」
紗夜「あなたが私を見つけてくれたから……向き合おうと思えるようになりました」
つぐみ「……私は何もしてませんよ。紗夜さんが頑張ったからだと思います、それは」
紗夜「そんなことはありません。あなたに『初めまして』と言われて、やっと私は……歩けるようになりましたから。感謝してもしきれません」
つぐみ「そ、そうですか? そう言ってくれるなら……紗夜さんの力になれたならよかったです」
日菜(つぐちゃんはそう言ってはにかんだ。おねーちゃんはそんなつぐちゃんに穏やかな表情を向けている)
日菜(その姿を見て思う)
日菜(……つぐちゃんを頼りにして本当によかった)
日菜(あたし1人じゃおねーちゃんが向き合うようになるまでもっとたくさんの時間と苦労が必要だったと思うから)
日菜「そういえばおねーちゃん、向き合うってどんなことするのか決まった?」
紗夜「……ええ、決めたわ。私は……ロゼリアの前でギターを弾こうと思う」
日菜「なるほど、そうやって向き合うんだね!」
日菜(力強い言葉にとても嬉しい気持ちになった)
日菜(これと決めたらそれにまっすぐに、ひたむきになる。それはあたしが憧れるおねーちゃんの姿そのものだった)
日菜(きっともうおねーちゃんは大丈夫だ。おねーちゃんは世界で1番強くてカッコいい人だから、絶対にそれは上手くいくんだ)
日菜(それでもちょっとくらいなら……あたしが手助けをしてもいいよね?)
日菜「そしたらあたし、ライブハウス押さえるよ! あ、それからリサちーたちにも声かけなくちゃね!」
紗夜「……そうね。お願いできるかしら、日菜」
日菜(おねーちゃんは遠慮がちに頷いてくれた)
日菜(それを見て、聞いて、あたしはきっと自分が世界一の幸せ者なんだと思った)
日菜(そうやっておねーちゃんに頼られることをどれだけ望んでたか)
日菜(どれだけの時間、悩んで待ち焦がれていたか)
日菜(……でも、そんなことはもうどうだっていいや)
日菜「うんっ! 任せてね、おねーちゃんっ!」
日菜(世界で一番大好きなおねーちゃんの力になれる、頼りにされる)
日菜(それだけであたしは幸せなんだっ!)
――――――――――――
2月28日
今日は羽沢さんと向き合うことが出来た。
正直に言えば怖かった。帽子も被らず、彼女の顔を見るのがまだ怖かった。
帽子を被るべきか未練がましく悩んでいると、扉越しに日菜が大きな声を出しているのが聞こえた。
その能天気な声を聞いていると、無駄に難しく考えていた自分がバカみたいに思えた。
……よく考えれば、隣には絶対に日菜がいてくれるのだ。
あの子には絶対に言わないが、そう思うだけで私は今までよりずっと強くなれた気がした。
だから、羽沢さんともしっかり向き合うことが出来た。そして、今までの非礼を詫びて、お礼を言うことが出来た。
しかし、なんだろうか。羽沢さんと話をしていると前にもこんなことがあったような気がしてくる。
これが忘れた記憶のせいなのか、彼女の持つ雰囲気が私にそう思わせるのかは分からない。
ただ、悪い気はしなかった。……今はそれだけでいいと思う。
また、日菜と羽沢さんにもロゼリアの前で演奏する、ということを話した。
それを聞いた日菜は意気揚々とライブハウスを押さえてロゼリアのメンバーを誘うと言ってくれた。その言葉に素直に甘えてしまった。
まったく、私はあの子に頼ってばかりだ。記憶が戻ったらもっとしっかりしないといけない。いつまでも日菜に世話をかけさせていては駄目だ。
ライブの――いや、ライブというべきものなのか分からないが、とりあえずは便宜上、ライブの開催は来週の水曜日に決まった。
演奏するのは1曲だけだから、別に期間が短いとは思わない。その曲も、最初は難しいかと思ったが羽沢さんの協力を得られて、なんとか出来そうだ。
しかし……それにしても羽沢さんには頭が上がらない。
私を見つけてくれただけでも感謝のしようがないくらいのことなのに、今日から1週間、また私のわがままに付き合わせることになってしまった。
それでも彼女は笑顔で「紗夜さんの力になれるならなによりです」と言うものだから参ってしまう。
どうすれば羽沢さんに報いることが出来るだろうか。これも記憶が戻ったら最優先で考えなければいけない。
……ともあれ、先のことは先のことだ。
今は目先にある明確な目標をクリアするのが優先事項だ。
ただ、これで本当に記憶が戻るのかは分からない。
不安は多い。だが進むべきだ。
今はまだ、将来も未来も視界不良の道半ばなんだ。
目の前にあるのは記憶をなくした氷川紗夜の分岐点。行くか戻るかの分岐点だ。先は暗く見えないが、進まなければいけない。
もし上手くいかなかったら。考えるだけで気分が重くなる。吐きそうだ。
それでも、日菜と笑い合えたこの日々も、失くした日の痛みも、私は肯定する。
どこかに忘れ物をしたから、それを探しに行くんだ。
先がどうなるかは分からないが、私の旅は決して孤独なんかじゃなかった。
もしかしたら私を待ち受けるのは、美しき思い出ではなく悲しき思い出なのかもしれない。
でも大丈夫だ。どうなったって、きっと隣には日菜がいてくれる。
だから私なりに頑張ってみよう。
結果がどうなろうと、この日記を書くのは今日で最後にしよう。
ここが私の終わりで始まりだ。
――――――――――
―――――――
――――
……
紗夜(……日菜と羽沢さんに、ロゼリアのメンバーの前でギターを弾くと決意表明してから1週間が経った)
紗夜(私はライブで弾く曲を楽譜に起こして、それの練習をずっとしていた)
紗夜(日菜はそんな私の元へいつものようにやって来ては、応援しているつもりなのか邪魔をしているつもりなのか判断に迷うくらい、私にまとわりついてきた)
紗夜(羽沢さんは短い時間しか居れない日もあるが、ほぼ毎日私の部屋に来て、キーボードの練習を重ねた)
紗夜(そんな日々を振り返ると、自分の中に穏やかな感情が沸き起こるのを感じる)
紗夜(……そもそも自分は何故ギターを始めたのか)
紗夜(その理由は、なんでも上手に出来る妹と比較されるのが嫌で、ただ日菜に勝ちたいがためだとか、そんな風なものだった)
紗夜(だから私は今までギターの練習をしていても穏やかな気持ちになることなんてなかった)
紗夜(それに、そういう気持ちは高みを目指すためには不要なものだと思っていた)
紗夜(それが今や、日菜の前でも素直にギターが弾ける)
紗夜(羽沢さんが演奏ミスをしても、それに対して優しくアドバイスをして歩調を合わせられた)
紗夜(前までの自分だったらどうだっただろうか)
紗夜(きっと日菜にギターを弾いている姿は絶対に見せないし、何度もフレーズを間違えるメンバーは「邪魔だ」と切って捨てていただろう)
紗夜(心境の変化、というものを前にも考えた)
紗夜(少し前までの自分と今の自分の心境。考えてみると、あまりにもかけ離れすぎではないだろうか)
紗夜(……でも、それも悪い気はしなかった)
……………………
――CiRCLE ライブステージ舞台袖――
紗夜「ふぅ……」
紗夜(ライブ当日の時間は瞬く間に過ぎていた)
紗夜(私は日菜に導かれてやってきたライブハウス――CiRCLEのステージに繋がる舞台袖にいる)
紗夜(リハーサルも滞りなく終わり、あとはここで羽沢さんと開演時間を待つだけだった)
紗夜「…………」
紗夜(自分が立つステージを脳内に思い浮かべる)
紗夜(今日は観客が5人だけ。日菜と、名前は知っているが顔は知らない、ロゼリアというバンドの4人)
紗夜(彼女たちの前でギターを弾く。その結果がどうなるのか。ロゼリアの人たちは自分をどういう目で見るのか)
紗夜(正直に言ってしまえば恐怖心は大きい。手と足が震えているのを自覚できる)
紗夜(ステージで自分を守ってくれるのは、もう愛着さえ湧いてきたつば広帽子とギターだけだ)
つぐみ「紗夜さん、緊張してますか?」
紗夜(……いや、違うか)
紗夜「……いいえ、大丈夫です」
紗夜(私は首を振って、隣にいる緊張した面持ちの羽沢さんに答える)
つぐみ「不安は……ないですか?」
紗夜「そちらは、少しだけ」
つぐみ「えっと、じゃあ、力になれるか分かりませんけど」
紗夜(そう前置きをして、羽沢さんは遠慮がちに私の手を握る)
つぐみ「少しでも、紗夜さんの不安がなくなりますように……」
紗夜「……ありがとうございます、羽沢さん」
紗夜(羽沢さんの手も少し震えていた。恐らくそれは緊張からだろう)
紗夜(ロゼリアは頂点を目指すためのバンドだと聞いた。そのメンバーの前で、普段は共に演奏をしない相手と楽器を奏でるんだ)
紗夜(羽沢さんの緊張だって小さなものではないだろう)
紗夜(……それなのに私のために祈ってくれるんですね、羽沢さんは)
紗夜(彼女は強い。私なんて足元にも及ばないくらいだ)
紗夜(そんな強い人が隣にいてくれるんだ。共にステージに立ってくれるんだ)
紗夜(これほど勇気を貰えることはない)
紗夜「私は大丈夫です。わがままに付き合ってくれたあなたのためにも、日菜のためにも、私は絶対にやり遂げて見せます」
つぐみ「……はい。一緒に頑張りましょうね」
紗夜「ええ」
紗夜(羽沢さんと頷きあう)
紗夜(大丈夫、大丈夫だ。きっと私はしっかり頑張れる)
紗夜(その場で大きく息を吸って吐いた。気付けば開演の時間だった)
紗夜「……よし」
紗夜(私は気合を入れなおして、ステージへ足を踏み出した)
紗夜(極力、まだ観客席を見ないようにして、ゆっくりとステージの中央まで歩く)
紗夜(そこにはギタースタンドに自分のアコースティックギター、その近くに椅子とマイクスタンドが2つ)
紗夜(その一歩後方の右隣には羽沢さんのキーボードと、同じくマイクスタンド1つがあった)
紗夜(私は一度だけ帽子を深く被り直し、ギターを手に取り、椅子に腰かける)
紗夜(マイクをサウンドホールと顔の前に微調整した。それから少しだけ間を置いて、顔を上げる)
紗夜(観客席からは逆光になるようにステージライトをセットしてもらった。あちらからでは帽子の影で私の顔は見えていないだろう)
紗夜(広々としたオールスタンディングの観客席が眼前に広がる。この辺りでは有数の規模だ)
紗夜(このライブハウスを押さえるのにどれだけ日菜は苦労したのだろうか。頭にはそんな考えが浮かぶ)
紗夜(今日は観客も入れられない、自分のためだけのステージだ。きっと相当な労力が必要だったはずだ)
紗夜(でも……日菜はそんな素振りを全く見せなかった)
紗夜(私からの感謝の言葉を受け取ると、それだけで十分だと言わんばかりの輝く笑顔を見せた)
紗夜(……ありがとう、日菜)
紗夜(心の中でもう一度、日菜に感謝する)
紗夜(がらんどうの観客席に目をやる。ステージとそことを分ける最前列の柵の前に5人が立っていた)
紗夜(私は左からその人物を確認する)
紗夜(一番左にいるのは、確か同じクラスの白金燐子だ。喋っているところをまったく見たことがなかった)
紗夜(彼女の隣にはかなり背丈の小さな女の子がいた。中学生だろうか、自分とは少し歳が離れているように見えた)
紗夜(並びの真ん中にいる人物は腕を組み、まるで自分を試すかのような視線を送ってきていた。力強い目だ)
紗夜(その隣には今風な身なりをした女性が心配そうな面持ちでいた。ギャル、というのだろうか、そんな格好と心配そうな表情に少しギャップがあった)
紗夜(そして右端には日菜がいた。日菜は自分と目が合ったのが分かったのか、明るい表情で1つ頷いて見せた)
紗夜(「おねーちゃんなら大丈夫だよ!」と背中を押された気がした)
紗夜(5人に視線を巡らせたあと、会場の全体を見回す)
紗夜(このライブハウスで演奏したことはなかった。初めて立つはずのステージだ)
紗夜(しかし、見覚えがあるような気がして、何か頭の片隅に引っかかるものがあった)
紗夜(それのせいか、不満と焦燥、驚愕、決意、そして安穏など、まぜこぜになったいくつもの感情が胸中に渦巻いている)
紗夜(……怖い)
紗夜(得体のしれないそれらに恐怖心を煽られる。小さく手が震える)
紗夜(でも……日菜が背を押してくれた)
紗夜(右隣へ視線を巡らせる。一歩下がったその位置にいる羽沢さんと目が合う)
紗夜(彼女も日菜と同じように力強く頷いてくれた)
紗夜(それにも背を押された)
紗夜「……歌います」
紗夜(口から漏れた小さな呟きをマイクが拾って会場全体に響かせる)
紗夜(もっと言うことがあった。いろいろな言葉を考えて、いろいろな感情を吐き出すつもりだった)
紗夜(しかし、それだけしか出せなかった)
紗夜(コードを押さえる。手の震えはもう止まっていた)
紗夜(ピックを握った手で、大きく最初の音をかき鳴らした。羽沢さんのキーボードも途中からそれに交わってくる)
紗夜(……大丈夫、ちゃんと弾ける。歌える)
紗夜(私はそう思い、目を瞑って歌詞を紡ぎだす)
辛くて苦しくて まったく涙が出てくるぜ
遮断機の点滅が警報みたいだ、人生の
くさって白けて投げ出した いつかの努力も情熱も
必要な時には簡単に戻ってくれはしないもんだ
紗夜(歌う。ギターを弾く。脳裏には様々な言葉が巡る)
紗夜(現実。幻想。苛立ち。許容。受け入れなけばいけない。恐怖。自分。立ち向かわなければいけない)
回り道、遠回り でも前に進めりゃまだよくて
振り出しに何度戻って 歩き出すのも億劫になって
商店街の街灯も 消える頃の帰り道
影が消えたら何故かホッとして 今日も真夜中に行方不明
紗夜(氷川紗夜。ギター。ロゼリア。氷川日菜。羽沢つぐみ。姉妹。比較。劣等。認めなければいけない)
死ぬ気で頑張れ 死なない為に
言い過ぎだって言うな 最早現実は過酷だ
なりそこなった自分と 理想の成れの果てで
実現したこの自分を捨てる事なかれ
紗夜(認めたくない。焦燥。雑音。決意)
君自身が勝ち取ったその幸福や喜びを
誰かにとやかく言われる筋合いなんてまるでなくて
この先を 「救うのは」
傷を負った 「君だからこその」
フィロソフィー フィロソフィー フィロソフィー
紗夜(言葉が浮かぶ)
紗夜(その関連性が分からない。意味があるのか分からない。それらはどんどん胸の内に積み重なっていく)
紗夜(暗闇。挫折。約束。七夕。審査。否定。結託。共感)
都市の距離感解せなくて 電車は隅の方で立ってた
核心に踏み込まれたくないからいつも敬語で話した
心覗かれたくないから主義主張も鳴りを潜めた
中身無いのを恥じて ほどこした浅学、理論武装
紗夜(音。正確な音。負け。負けたくない。勝てない)
自分を守って 軟弱なその盾が
戦うのに十分な強さに変わる日まで
謙虚も慎ましさ 無暗に過剰なら卑屈だ
いつか屈辱を晴らすなら 今日、侮辱された弱さで
紗夜(盾。ギター。弱い。否定。願い。雨。小鳥。肯定。雨。中身。音。承認)
うまくいかない人生の為にしつらえた陽光は
消えてしまいたい己が影の輪郭を明瞭に
悲しいかな 「生きてたんだ」
そんな風な 「僕だからこその」
フィロソフィー フィロソフィー フィロソフィー
紗夜(とめどなく言葉が積み重なる)
紗夜(それに意味があるのかまだ分からない。何も分からない)
紗夜(薄ぼけた抽象画のように心がその言葉たちに塗りつぶされる。暗闇に落ちていく)
紗夜(何も思い出せない。焦りが募る。どうしたらいい)
紗夜(私は、何を信じたらいい?)
正しいも正しくないも考え出すとキリがないから
せめて望んだ方に歩けるだけには強がって
「紗夜」
声が聞こえた、ような気がした。俯かせていた顔を起こす。ロゼリアの顔ぶれが自分を見つめていた。
「紗夜さん」「氷川さん」「紗夜」
名前を呼ばれた気がした。凛々しい声で、無邪気な声で、小さな声で、明るい声で、共に頂点を目指そうと手を引かれた気がした。
願って破れて 問と解、肯定と否定
塞ぎがちなこの人生 承認してよ弁証法
「紗夜さんの全てのことに真摯に向き合うところ、すごく素晴らしいと思います」
誰かに自分を肯定されたような記憶があった。私は私でいいのだと教えられたような気がした。
悲しみを知っている 痛みはもっと知っている
「必ずあなたのもとへ向かうから、もう少し待っていて」
「うんっ……うんっ……! 約束だよ、おねーちゃん!」
雨の音が聞こえた。約束をした。打ちのめされた。手を差し伸べられた。決意をした。自分の音を探すと。誇りを持つと。もう1度約束をした。いつかあなたの隣でそれを奏でると。
それらにしか導けない 解が君という存在で
私は何を信じればいいのか。
分かった気がした。
―――にバンドを組まないかと声をかけられたこと、―――――のオーディションをしたこと、今までに体験したことがない一体感を味わったこと、なし崩しに―――んがバンドに入ったこと、日菜に劣等感を抱いていたこと、キーボード担当を探して――さんのオーディションをしたこと、このステージでロゼリアの初ライブをやったこと、――川さんに怒鳴ってしまったこと、バンドがばらばらになりかけたこと、―井さんがそれを食い止めるために奔走していたこと、コンテストに不合格だったことロゼリア全員でやけ食いをしたこと湊さんが父の曲を歌う資格があるのか悩んだことそれに共感したこと今井さんがいなければロゼリアがまともに練習すら出来ないと知ったこと日菜と星に願う短冊を探し回ったこと秋時雨に傘をさしたことつぐみさんに力の抜き加減が大事だと教えられたこと宇田川さんと白金さんのやっているというゲームを手伝う羽目になったこと。
それを積み重ねた自分自身を信じればいいんだ。
それだけで、よかったんだ。
そもそも僕らが生きてく動機なんて存在しなくて
立ち上がるのに十分な 明日への期待、それ以外は
僕は僕の 「問いを解いて」
君は君の、 「君だからこその」
フィロソフィー フィロソフィー フィロソフィー
紗夜(最後の1ストローク。震える弦を掌でミュートした。音が消える)
紗夜(熱に浮かされたような気分だった。寝起きのおぼろげな意識のように頭がぼーっとする)
紗夜(そのまま俯いて目を瞑った。そして脳裏に思い浮かべる)
紗夜(きっと、日菜は輝いた表情をしているでしょう)
紗夜(つぐみさんは練習でよく間違えていた歌いながら演奏するフレーズをちゃんと弾けて安心しているかもしれない)
紗夜(白金さんは落ち着かずにソワソワしていそうだ)
紗夜(宇田川さんはもしかしたらこんな自分のギターにまた「かっこいい」なんて思ってくれているかもしれない)
紗夜(湊さんはどうだろうか、きっとまだ試すような顔をしていそうだ)
紗夜(今井さんは心配のし過ぎで泣きそうな顔をしているかもしれない)
紗夜(……ああ、そうか。これで)
紗夜(……私は、やっと私は……氷川紗夜を信じることが出来たんだ)
紗夜(私は震える右手を、被ったつば広帽子に伸ばす)
紗夜(今までありがとう。弱い私を守ってくれてありがとう。もう、私は大丈夫)
紗夜(帽子をゆっくりと脱ぐ。そして顔を上げる。きっと眼前の風景は、私が思い描いた通りのものだろう)
紗夜(そう思って、私は瞼を開いた)
※ ※ ※
……どうやら無事に私の記憶は戻ったようだ。それはとても喜ばしいことだと思う。しかし、思うところがあるので、もう書かないと決めた日記をあと1ページだけ。
…………。感情が処理できない。
まず最初に、私は今、日記になんていうことを書いていたんだと枕に顔を埋めたい気分である。
読み返してみると、本当にひどい。ひどすぎる。
悩みすぎだ。馬鹿なのではないかとその時の自分に言いたい。
それに日菜に抱きしめられて涙を流すなんて……。1度ならまだいい。だが秋にも私は同じようなことをしているではないか。なんとも恥ずかしい。
その上、つぐみさんにも多大なる迷惑をかけてしまっている。彼女に対する償いの方法が思いつかない。とりあえずこれから週に3日は必ず羽沢珈琲店に通おう。それで少しはつぐみさんにも報いることが出来ると思う。それ以上の良案は今は出てこなかった。
それと、記憶に関してだが、学園の昇降口で日菜を待っていたことは覚えている。そこから次の記憶が病院のベッドだ。日菜にひどいことを言った。そのあとの記憶は全て残っている。
理不尽ではないだろうか。
記憶をなくしていた期間のことは、なくした記憶が戻ったら交換条件で消えるべきではないだろうか。記憶喪失の私と今の私は分けて考えられるものではないだろうか。それくらいは大目にみてくれないのだろうか。おかげで忘れたいことがたくさん増えた。穴があったら入りたい、とはまさに今の心境だろう。もういっそ開き直ってしまったほうがいいのかもしれない。
…………
そうだ、プラス思考だ。
これもいい機会だ。もしまた同じような目に――いや、人生で2度も記憶などなくさないとは思うが――あった時に、この日記の存在を思い出して恥を重ねないように自分を戒めよう。
自分の正直な気持ちを書こう。
日菜は私に――(斜線で消されている)――私にとってまさに陽――(斜線で消されている)
つぐみさんとまたセッションをするのもいいかもしれない。
日菜は――(黒く塗りつぶされている)
日菜は大切な妹だと思った。
……いざ書こうと思ってもなかなか上手くいかないものだ。結局こんなことしか書けなかった。好きなことを好きって言うのはこんなに難しかったかしら。
まぁいい。
恐らく、またこんな目に遭ってもどうせ日菜のことだから、私に付きっきりで看病をするでしょう。それに甘えてしまうのは非常に癪ではあるけれど、その存在が私にとって大きな助けになっていることは確かだ。
『絶対に味方でいてくれる人が氷川紗夜の隣にいつもいます』
この1文だけでいい。色々と切羽詰まった状態の私でもきっと察してくれるだろう、きっと。
ともあれ、これで本当の本当に日記は終わりだ。
これは戒めだから、私が日常的に目に触れるような場所へ隠しておこう。
どこがいいだろうか。私のことだから……何かがあったらきっとすぐにギターに触れるでしょう。しばらく持ち運ぶ予定のないアコースティックギターのケースにでもしまっておこう。
これにて私の――氷川紗夜の日記は終わりだ。また私が氷川紗夜でなくなる時があれば、この日記を見つけて、大切な妹への感謝を思い出せますように。
了
――――――――――――
――芸能事務所――
日菜「っていうおねーちゃんの日記を見つけたんだ~っ!」
千聖「……はぁー……」
丸山彩「…………」
大和麻弥「…………」
若宮イヴ「…………」
千聖(約1か月ぶりに事務所に顔を出した日菜ちゃんの言葉を聞いて、私は大きなため息を吐き出した)
千聖(他のみんなはなんて言ったらいいのか分からない、というような表情で固まっていた)
彩「……えーと、じゃあお姉さんの紗夜ちゃんが記憶喪失になってて……?」
日菜「うん、ずっと看病してたんだー。いやー、みんなごめんね。おねーちゃんももう記憶戻ったから、今日から復帰だよっ」
彩「あ……うん……」
千聖(あっけらかんとした物言いに彩ちゃんは困ったように頷くのみだった)
千聖(それも無理がないと思う)
千聖(……日菜ちゃんのお休みしていた理由の説明は非常に簡素だった)
日菜『おねーちゃんが転んでここ1年の記憶なくしちゃってたんだ。もう大丈夫になったからお休みおわりって感じ! あ、ねぇねぇ、それよりこれ見てよ!』
千聖(以上、である)
千聖(それだけ言って、嬉しそうにお姉さんの日記とやらをスマートフォンに納めた写真をみんなに見せている)
千聖(これは他人が見ていいものなのだろうか。そもそも嬉々として見せるものなのか)
千聖(そんな思いが日菜ちゃん以外のみんなにあったと思う)
千聖(よく言えば常識にとらわれない、悪く言うと空気が読めない行動だと思うけれど……)
千聖「……まぁ、日菜ちゃんらしいわね」
麻弥「そ、そうですね。いつも通りの日菜さんって感じ……ですかね」
千聖(……そう、言ってしまえばいつも通りの日菜ちゃんだ)
千聖(でも、ひと月前の電話越しの日菜ちゃんは、すごく弱っていたように思える)
千聖(簡単な一言だけだったけど、無人島にまで写真を持っていくほど溺愛しているお姉さんの記憶がなくなった)
千聖(きっとそれは日菜ちゃんにとって大きなショックがあったからだろう)
千聖(でも……それをおくびにも見せずに、まったくいつも通りの姿で日菜ちゃんは事務所にやってきた)
千聖(強い……というのか、なんというか……)
千聖(普通の人であればもっと引きずりそうなんだけど……あの子の中ではもう『過ぎたこと』で済まされているのかしら)
千聖(……それは強さといっていいのかどうなのか……)
日菜「ここなんてほら、見て見て!『日菜ならば、私の気持ちを分かってくれるだろうという信頼があった』だって! えへへ、おねーちゃんにこんな風に思われてて『るんっ♪』てしちゃうな~!」
イヴ「ヒナさんはサヨさんととっても仲良しなんですね!」
日菜「うん! 今回のことでもーっと仲良くなったよ!」
彩「……いいのかな、これ……。あとで日菜ちゃん、絶対に怒られるよね……」
千聖(日菜ちゃんはなおも嬉しそうに日記の文面を晒して、その上音読までして見せていた)
千聖「麻弥ちゃんは見ないでいいの?」
麻弥「やっぱり、ああいう日記とかって本人がいない前で勝手に読んじゃいけないと思いますから……ジブンは遠慮しておきます」
千聖「……そうね。その通りね」
千聖(日菜ちゃんみたいな女の子を妹に持つのって、どういう心境なのかしらね)
千聖(…………)
千聖(……苦労しそうだ、ということ以外なにも思いつかないわ)
千聖(あまり話をしたことはないけど……あの真面目そうなお姉さんも、きっと奔放で唯一無二の日菜ちゃんにいつも振り回されてるのかしらね)
千聖「はいはい日菜ちゃん、そこまでよ」
千聖(それに同情に近い念を抱いたから、という訳ではない。だけどそろそろ止めないとずっと話が脱線したままだろう)
千聖「日菜ちゃんがお休みしてる間にパスパレで決まったお仕事もあるの。そのお話をしましょう」
日菜「うん、分かったよ。どんなことが決まったの?」
千聖「まず、新曲を録ることになっているわ。……日菜ちゃんのことだからこっちはあんまり心配してないけど、ギターの方は……」
日菜「大丈夫だよ! おねーちゃんのギター見て、あたしももっと『るんっ♪』てする音が出せそう!」
千聖「そう。それならいいんだけど。それと、その新曲の発売に合わせてリリースイベントをやることになっているわ」
日菜「リリースイベント? ってなに?」
彩「CDとかブロマイドを渡して、お客さん1人ひとりにちょこっとお話しするイベントだよ」
日菜「へぇーそうなんだ。つまり……色んな人と話をしたりするって感じなのかな?」
千聖「大体はそんなイメージかしらね」
日菜「なるほどね! じゃあ、みんな同じで違うってことがもっとよく分かるかもしれないなぁ~」
イヴ「みんな同じで違う……ですか?」
日菜「そうだよ、イヴちゃん! なんかね、そういうこと考えると楽しいなって思うようになったんだ」
イヴ「……どういうことでしょうか?」
麻弥「イヴさん、こんな時には便利な言葉があるんですよ」
イヴ「便利な言葉、ですか?」
麻弥「はい。こういう時は『つまり……そういうことさ』。これで全部解決ですよ!」
千聖「麻弥ちゃん……薫から悪い影響を受けているみたいね……」
日菜「これでもっともっとおねーちゃんのことが分かるようになるかな~」
彩「日菜ちゃん、最終的には全部そこに落ち着きそうだね……」
千聖「……それも日菜ちゃんらしいんじゃないかしら」
彩「うーん……確かにそうかも……」
千聖(でも、どこか少し雰囲気が変わったような気がする。それも悪い方ではなくて良い方に)
千聖(色んな意味で目が離せない子だけど……少し頼もしくなったというか、周りが見えるようになったというか)
千聖(私は日菜ちゃんにそんな印象を抱くのだった)
……………………
――CiRCLE スタジオ――
――ジャーン......
リサ(力強い歌声が、ベースの重低音に、ドラムのリズムに、キーボードのメロディに、ギターのリフに彩られる)
リサ(1つの音が変わるだけでこんなにも印象が変わるんだ、とベースを弾きながらアタシは思う)
リサ(きっとみんなも同じことを感じてるだろうな)
リサ(紗夜が記憶喪失になっている間、ロゼリアの練習では打ち込みのギター音を使用していた)
リサ(楽譜通りに正確な音を出し続けるそれは紗夜の音にちょっとだけ似ていたが、まったく別のものだった)
リサ(みんなが滞りなく曲を演奏しても、どこか違和感があった)
リサ(言葉にするのは難しいけど、一体感がなかった)
リサ(どうにも『ただフレーズを合わせているだけ』という印象が拭えなかった)
リサ(でも、紗夜が復帰してから初めての練習でのこの感じはなんだろう)
リサ(目の前でアコースティックギターを弾いていた姿を見たから、きっと記憶をなくしている間もギターに触れていたんだと思う)
リサ(今日も紗夜のギターは、まるで機械のように正確でいて、打ち込みとはまるで違う音を奏でていた)
リサ(その音がどこかちぐはぐだったロゼリアの演奏を1つに繋ぎとめた。そんな印象だ)
リサ(……この感じは前にも覚えがあったな)
リサ(確か……あれは初めてロゼリアとしてライブをやった時だ)
リサ(みんなの音にどんどん引っ張られて、練習以上の音を奏で、一体感を感じられる。それにすごく似てる)
リサ(そう考えているうちに、曲の最後のフレーズを弾く。伸ばした音たちが切られる。それから1拍ほど間があった)
宇田川あこ「……やっぱり紗夜さんがいると全然違いますね!」
白金燐子「はい……氷川さんがいてくれると……なんだか安心して演奏できます……」
リサ「そうだね。打ち込みのあの、ちぐはぐ感? そういうのが綺麗さっぱりなくなった感じだね」
湊友希那「ええ、そうね。でも、紗夜……」
紗夜「分かっています。……最後の間奏からサビに入る箇所ですね。少しもたつきました」
友希那「……いえ、それもあるといえばあるんだけど」
紗夜「大丈夫です。このひと月の空白はすぐに取り戻して見せます」
友希那「…………」
リサ「あー、えーっと、紗夜。気持ちはすごく分かるんだけど、友希那が言いたいのはそういうことじゃないんじゃないかな」
リサ(『違う、そうじゃない』と言いたげな思案顔になる友希那に代わってアタシが声を出す)
紗夜「はい? ……ああ、なるほど」
リサ(あ、分かってくれたかな?)
紗夜「私は他にもなにかミスをしていましたか。すいません、それすらも気付かないほど鈍ってしまっているようです」
リサ「あー違う違う! 友希那が言いたいのは、病み上がりなんだから無理はしないでねってことだよ!」
リサ(ホントに真面目っていうか自分に厳しすぎるっていうか……)
リサ(でもそれが紗夜らしくて……なんか安心する)
リサ(……最初にヒナから『記憶喪失』という言葉を聞いた時は、何かの冗談かと思った)
リサ(でも電話越しのヒナからは今まで聞いたことがない悲痛な響きの呟きが漏れて、それが本当のことなんだって悟った)
リサ(それをロゼリアのメンバーに伝えた時、みんなの驚きは大きかった)
リサ(あこはお見舞いに行くべきだと言い、燐子も心配だから様子を見に行った方がいいと主張していた)
リサ(アタシ自身もヒナからは止められていたけど、それでも紗夜に会えば何か変わるかもしれないという気持ちがあった)
リサ(でも友希那だけは違った)
友希那『もし紗夜が本当に記憶をなくしているのなら、それは紗夜と日菜の問題よ。私たちが勝手な気持ちで関わるべきではないわ』
リサ(……その言葉はもしかしたら冷たいものに思われたかもしれない)
リサ(普段は友希那を尊敬してるあこも、その時はかなり食い下がっていた)
リサ(でも、最終的には黙るしかなかった)
友希那『秋に紗夜が迷いを抱いていた時と同じよ。歯痒いけれど、私たちに出来ることは、日菜から助けを求められる時まではない』
友希那『……それに、紗夜の記憶が戻ってから『紗夜のために奔走してロゼリアの練習が疎かになっていました』なんてことになったら……あの子は気に病むわ』
リサ(紗夜とヒナと自分たちのことを考えた最善が『見守ること』。その友希那の言葉は正しかった、と思う)
リサ(ヒナから紗夜の記憶を取り戻すためのライブを見に来てくれないか、と言われ、CiRCLEのライブステージ……初めてロゼリアがライブをしたステージに立った紗夜を見た時は、すごく驚いた)
リサ(普段から非常に礼儀正しく、委員として学園の風紀の取り締まりにも口うるさいっていう紗夜が、目深に被った帽子で自分の顔を隠し、アタシたちに目をくれることもほとんどなくステージに現れたからだ)
リサ(『人が怖いみたい』ってヒナに言われた言葉を、もしかしたらアタシは軽く受け取り過ぎていたのかもしれなかった)
リサ(もし友希那が制止してくれずに紗夜のお見舞いになんて行っていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない)
リサ(そう考えると冷や汗が滲む思いだった)
リサ(ステージで演奏する紗夜の顔は帽子の影で見えなかった)
リサ(でも、何かに苦しんでいるような表情をしているような気がした)
リサ(それが正しかったのか、ギターを弾く紗夜はどんどん俯いていってるように見えた)
リサ(それを見かねた。何とかできないかと思って、声をかけようとした)
リサ(でもそれはもしかしたら逆効果かもしれない)
リサ(そうやって悩んでいる時に、友希那が小さな声で紗夜の名前を呼んだ)
リサ(隣にいるアタシですらギリギリ聞き取れるか、というくらいの小さな響きだった)
リサ(でも、紗夜はハッとしたみたいに顔を上げた。それを見てアタシももう我慢できなかった)
リサ(「紗夜」と名前を呼んだ。ステージの上で、きっと何かと戦っている紗夜に声援を送った)
リサ(大丈夫、アタシたちもここにいるから)
リサ(そう伝わるように)
リサ(あこと燐子もそうしていただろう)
リサ(その自分たちの声のおかげだ、なんて思わない)
リサ(でも、曲を演奏し終わったあと、紗夜は帽子をとってアタシたちを見つめてくれた)
リサ(そして何か一言呟いたような気がする)
リサ(その言葉がなんなのかは分からなかった)
紗夜「病み上がりもなにも……体には特に異常はなかったのだから、その心配は無用よ」
紗夜「……でも、ありがとうございます」
リサ(不愛想にも聞こえるような言葉の後に、小さくお礼を言う姿を見て、少し紗夜は変わったなと思う)
リサ(前より少しだけ丁寧語で喋ることが減って、素直な気持ちを言葉にするようになった……ような気がした)
友希那「リサの言う通りよ。本人の気付かないところで疲労は溜まっていたりするんだから。少しだけ休憩にしましょうか」
紗夜「……そうですね」
あこ「そういえば紗夜さん、アコースティックギターはロゼリアで弾かないんですか?」
紗夜「あれは……ロゼリアでは弾かないわよ」
あこ「えーそうなんですか? この前の弾き語り、すっごくカッコよかったのになぁ……」
紗夜「あくまで弾き語りは私個人のものだから。それに、私が歌っていたら湊さんのやることがなくなってしまうわ」
友希那「あら、それならツインボーカルにしてみればいいんじゃない? 他のバンドはそういう曲もやっているわよ」
紗夜「いえ、そうだとしても、アコースティックの弾き語りになるとドラムとベースもやることがなくなってしまいます」
紗夜「ロゼリアは湊さんの歌声で、それぞれがそれぞれの楽器を奏でるからこそロゼリアなんだから」
リサ(……そっか。きっと前よりも、友希那を、アタシたちを、ロゼリアを大事にしてくれてるんだ)
リサ(そう思うと……なんだか嬉しいなぁ)
あこ「そっかぁ~。残念だなぁ」
燐子「でも……きっとロゼリアでの演奏じゃなければ……弾いてくれるってことだよ、あこちゃん……」
紗夜「いえ、白金さん、そういう意味で言った訳では……」
リサ「んー、じゃあアフターグロウに声かけてみよっか。つぐみに言えば手伝ってくれるんじゃない?」
紗夜「…………」
紗夜「まぁ……つぐみさんとであれば」
あこ「ほんとですか!? わー、それじゃあまた見れるかもしれないんですね、紗夜さんの弾き語りっ」
燐子「でも……そんなに簡単に……手伝ってくれるんでしょうか……」
友希那「代わりに燐子があちらで演奏する、というなら大丈夫じゃないかしら」
燐子「えっ……!?」
友希那「燐子の演奏も素晴らしいものだわ。きっと技術的には問題ないでしょう」
燐子「え、あの……でも……」
友希那「そろそろあなたも人見知りを克服する時ではないかしら?」
燐子「……絶対……無理、です……」
リサ「あはは、ゲームの中だとあんなに饒舌なのにね」
燐子「あ、あれは……わたしが喋っているわけでは……ないので……」
紗夜「……『あらゆる思想は、損なわれた感情から生まれる』だったかしらね」
リサ(ふと、穏やかな顔をしている紗夜が何かを呟いたような気がした)
リサ「何か言った? 紗夜?」
紗夜「いいえ、何も」
リサ(尋ねられても、紗夜はそう言って少し呆れたような笑顔を浮かべるだけだった)
……………………
――羽沢珈琲店――
紗夜「日課、ね……」
紗夜(久しぶりのロゼリアの練習が終わったあと、夕焼けに照らされる道を歩いて、私は羽沢珈琲店に来ていた)
紗夜(店内に入って2人掛けのテーブルに案内され、そこに腰を下ろすと独りごちる)
紗夜(あの日記の最後に書いていたように、今は週3日でこの喫茶店に足を運んでいた。もうつぐみさん以外のスタッフにも顔を覚えられているような気さえしている)
紗夜「……あまり気にしていなかったけど、病院の近くなのね、ここ」
紗夜(改めて考えてみると、ここから歩いて15分ほどのところに自分が入院していた病院があった)
紗夜(ある交差点を曲がれば氷川家の方へ、曲がらずにまっすぐ歩けば病院にたどり着けるたはずだ)
つぐみ「あ、こんにちは、紗夜さん。また来てくれたんですね」
紗夜「ええ、こんにちは」
紗夜(頭の中の地図を辿っていると、エプロンを付けたつぐみさんがメニューを持ってきてくれた)
紗夜(地図を頭の中から追い出して私は挨拶を返す)
つぐみ「最近よく来てくれますね」
紗夜「ここの珈琲、美味しいですから」
つぐみ「ありがとうございます。えへへ……そう言ってもらえると嬉しいですね」
つぐみ「注文はどうされますか?」
紗夜「珈琲とケーキのセットを」
つぐみ「はい、いつも通りですね。少々お待ちください」
紗夜(軽くお辞儀をしてから、つぐみさんはパタパタと厨房へ入っていった)
紗夜(……お菓子教室の件も、ついこの間の忘れたい記憶喪失の件も、つぐみさんには大いに助けられてばかりだ)
紗夜(どうすればあの天使のように優しい人に報いることが出来るだろうか)
紗夜(金銭や物で報いる、というのは抵抗がある)
紗夜(それはかえってつぐみさんを恐縮させてしまうだけだろうし、自分としてもそんなもので恩を返すというのは俗物的で意にそぐわない)
紗夜(しかしこうして足しげく羽沢珈琲店に通うのも、オブラートに包んでいるだけで根底は同じではないのかという気持ちがない訳じゃない)
紗夜(何か案があればいいのだけど……)
紗夜(もちろん、つぐみさんが私のように何かの壁にぶつかって落ち込むようなことがあれば、それを全身全霊で助けよう)
紗夜(だけど、そんな辛い思いをつぐみさんにしてほしくない。出来ればあの子は祝福された幸せで明るい人生を今後も歩んでいってほしい)
紗夜(となると……私のこの報いたいという気持ちは報われない方がいいのかもしれないわね)
紗夜(その方がつぐみさんは幸せな人生を歩めるということだもの)
紗夜(でも、案外現金な部分が私の中にはあるというのも今回の件で自覚した)
紗夜(つぐみさんが幸せならそれでいいけど、それでも何かをしないと気が済まない)
紗夜(自分勝手な気持ちだろうとは理解しているが、これだけはどうにも消せそうにない)
紗夜「負い目、なのかしら」
紗夜(店内の喧騒に消えた小さな呟きを、少し考えてから首を振って否定した)
紗夜(負い目ならば、助けられたから助けなければいけない、という義務のような感情になるはずだ)
紗夜(しかし自分が考えているのは、助けられたから助けてあげたい、という積極的な気持ちだ)
紗夜(だからきっとこれはそういう後ろ暗いものではなく、明るく前向きな感情であるはずだった)
紗夜「…………」
紗夜(きっとこのつじつま合わせは理論武装とか屁理屈とか表現されるものね)
紗夜(でも、誰かにそう思われても当のつぐみさんが嫌な思いをしないなら、それでいいか)
紗夜(……以前に比べて簡単に開き直れるようになった気がするわね)
紗夜(これも日菜の影響なのかしら)
日菜「あーっ、やっぱりおねーちゃんここにいた!」
紗夜(入り口の扉に付けられたベルが鳴り止むより早く、日菜の声が耳に届く)
紗夜(そちらへ視線を巡らせると、日菜がこちらへ向かって歩み寄って来ていた)
紗夜「日菜、店内ではあまり大きな声を出さないで」
日菜「おねーちゃんてば最近ホントによく来てるね、ここっ」
紗夜(諫言を聞いているのかいないのか、日菜はサッと私の対面の席に腰を下ろす)
紗夜「人の話を聞きなさい」
日菜「おねーちゃん今日は何頼んだの? またケーキセット?」
紗夜「だから話を聞きなさい」
紗夜(まったく、と内心思うが、これが日菜らしさなんだろう)
紗夜(その強引さというか、唯我独尊的な部分に支えられて助けられたのも事実ね)
紗夜(だから毒づきながらも、自分の顔に困ったような、呆れたような笑みが浮かんでいるんだろう)
日菜「……えへへ」
紗夜「……? なにかおかしいことでもあったの?」
日菜「んーん。やっぱり、おねーちゃんはおねーちゃんで、だから大好きなんだなーって」
紗夜「そう」
つぐみ「お待たせしました――あ、日菜先輩。こんにちは」
日菜「こんにちはーつぐちゃん!」
つぐみ「メニュー持ってきますね。紗夜さんは、はい、こちらケーキセットです」
紗夜「ありがとう、つぐみさん」
日菜「メニューは大丈夫だよ! あたしもおねーちゃんと同じのちょうだい!」
つぐみ「あ、はい。かしこまりました」
紗夜(つぐみさんは私の前に珈琲とイチゴのショートケーキを置き、それから日菜の注文を聞いて厨房へ再び向かっていった)
紗夜(ふわりと漂う珈琲の香りがやけに優しく感じられて、私は目を細める)
日菜「あ、そーだおねーちゃん、聞いて聞いて!」
紗夜「はいはい。他の人に迷惑になるから声は抑えなさい」
日菜「うん分かった!」
紗夜(心なしか声が小さくなったような気がするが、まだ大きくはないだろうか)
紗夜(少し心配だったが、それに突っ込んでも暖簾に腕押しだろう)
紗夜(私は諦めて珈琲を口にする)
日菜「あのね、今度パスパレで『お渡し会』っていうのやることになったんだ!」
日菜「おねーちゃん、お渡し会って知ってる? ファンの人たちに直接CD渡したりお話するんだって~!」
紗夜「アイドルらしいこともやるのね」
日菜「アイドルバンドだもん、それくらいはやるよ~」
紗夜「……アイドルって無人島でサバイバルをして、最後に山頂でCDの告知をするような人たちを指す言葉だったかしら」
日菜「あれは彩ちゃんの持ち味だから!」
紗夜「……そう」
紗夜(丸山さん……不憫ね……)
日菜「それで、お渡し会! おねーちゃんも遠慮なく来ていいからね! なんなら事務所に言って券を用意してもらうから!」
紗夜「行かないわよ」
日菜「ええ、なんで!?」
紗夜「家にいれば会えるのになんでわざわざそんなところまで行く必要がないでしょう」
日菜「でも、みんなにおねーちゃんとあたしの仲良しアピール出来るよ?」
紗夜「それはあなたのファンに悪いから絶対にやめなさい」
日菜「そうかなぁ……。彩ちゃんがあたしの名前でネット検索すると『お姉さんと仲良しで微笑ましい』ってよく書かれてるって言ってたよ?」
紗夜「そうだとしても、わざわざ日菜のために来てくれた人が、目の前で私の相手しかしないあなたを見たら悲しむでしょう」
日菜「んー、そっかぁ……」
紗夜(しゅん、と日菜は落ち込む。その姿を見たから、という訳ではないが、私は1つため息を吐いてから言葉を投げる)
紗夜「またあなたが出てるテレビやライブなら一緒に見てあげるから」
日菜「ほんとっ!? 絶対だよ! 約束だよ、おねーちゃん!」
紗夜「はいはい……」
つぐみ「お待たせしました。ケーキセットもう1つ、お持ちしました」
紗夜(日菜に呆れたような声で相づちを返していると、つぐみさんがケーキセットを持ってきた)
つぐみ「なにか楽しそうにお話してましたね」
紗夜「日菜が1人で騒いでいただけよ」
日菜「えー!? そんなことないよ~!」
つぐみ「……ふふ」
紗夜「……どうしかたの、つぐみさん? もしかして変なところに珈琲でもついていたかしら」
つぐみ「あ、ごめんなさい、そういうことじゃなくて……、その……やっぱり紗夜さんと日菜先輩って、双子なんだなぁって」
日菜「……? おねーちゃんとあたしはずっと双子だよ?」
つぐみ「えーっと、なんていうんですかね。お2人とも……性格が正反対に見えて似てるところが多いなって思いました」
紗夜「つぐみさん、それは誉め言葉なのかしら。日菜と似ている、と外見以外で言われると少し中傷されているように聞こえるわ」
日菜「えー!? それどーいう意味!?」
紗夜「そのままの意味よ」
日菜「もー! おねーちゃんひどいっ!」
つぐみ「ふふ……」
紗夜(日菜と私の内面が似ている……か)
紗夜(今まで、そう言われたことも考えたこともなかった。きっと私が無意識に日菜と比べられるすべての要素に耳を塞いでいたからだろう)
紗夜(だけど、改めて考えてみると……確かに似ているところがあるのかもしれない)
紗夜(それもそうだ。日菜と私は血を分けた双子なんだから)
紗夜(昔であれば、このことをムキになって否定していたかもしれない)
紗夜(でも今は……それはそれでいいと思えるようになった)
紗夜(氷川日菜は氷川日菜で、氷川紗夜は氷川紗夜)
紗夜(言ってしまえばそれだけの簡単な話だ。簡単なことを難しく考えるのはもうやめた)
紗夜(今この場に、楽しそうな日菜がいて、つぐみさんがいて、自分がいる)
紗夜(……それだけだ)
紗夜(羽沢珈琲店の窓から沈みかけた西日の赤い陽光が差し込んできていた)
紗夜(あの光の前ではみんな同じだろう。等しく誰もかれもが赤く照らされる)
紗夜(つぐみさんの穏やかな笑顔も、怒ったような、楽しそうな日菜の横顔も、きっとすました表情でいるだろう私の顔も)
紗夜(だからそれでいい)
紗夜(1つが2つあって、笑い合えたら1つで)
紗夜(それだけでいいと思った)
……後日、日菜経由で例の日記がロゼリアに知れ渡って一悶着あったり、紗夜がつぐみとまたセッションがしたくなって燐子がアフターグロウに更迭されたりするが、それはまた別のお話。
おわり
長々と申し訳ありませんでした。
特に氷川姉妹が好きな方とamazarashiファンの方、すいませんでした。
地の分こみこみで書いたものが読み辛かったので、それは別の場所に投稿してこちらは台本形式に直したものです。読みやすくなったかというとそんなことはない気がします。
紗夜さんの弾き語りはフィロソフィーのMVを参考にしました。
アプリにamazarashiのカバー曲が追加されてほしいです。
言いたいことはこれで全部です。
HTML化依頼出してきます。
原曲知らないけど追加されるといいね
大事件だけど静かな感じで物語が流れていって雰囲気よかった
初期紗夜が今の紗夜をみたらどう思うかってのが良かったです
乙です
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519861227/
Entry ⇒ 2018.03.05 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】弦巻こころ「愛してるゲームをやるわよ!」
弦巻こころ「愛してるゲームって面白そうね!」
北沢はぐみ「でしょ! なんか楽しそうだなーって思ったんだ!」
瀬田薫「なるほど……どんな形であれ気持ちを伝えるのは素敵なことだね」
松原花音「でもちょっと恥ずかしい……かな」
こころ「どうしてかしら。好きという気持ちを伝えるのになにも恥ずかしいことなんてないわ」
花音「こころちゃんは……そうかもしれないけど……」
薫「ふふ、シェイクスピアもこう言っている。物事に良いも悪いもない、考え方によって良くも悪くもなる……と。つまり、そういうことさ」
はぐみ「よく分からないけどそういうことだね!」
花音「えぇ……」
こころ「それじゃあ今日のハロハピ会議はこれをやってみましょう! 聞くまでもないと思うけれど、みんなは誰に言われたいかしら?」
薫「美咲」
はぐみ「みーくん!」
花音「……美咲ちゃん」
こころ「みんなならそう言うと思っていたわ! あたしも美咲がいいわ!」
薫「みんなの心は一つ、ということだね。ああ、儚い……」
こころ「それじゃあ美咲が来たら早速やってみましょう!」
奥沢美咲「遅れてごめん」
はぐみ「あ、みーくん来たね!」
こころ「ちょうど良かったわ美咲! あたしたちに愛してるって言ってちょうだい!」
美咲「はい? いきなりどうしたの」
花音「実は……」
美咲「……あー、またそういう思いつきで……」
薫「ふふ、また演技指導が必要かな、美咲」
美咲「い、いえ、あれはもう勘弁してください。はぐみの誤解を解くのも大変だったし、船のことも出来れば忘れたいんで……」
花音「……忘れたいんだ……私に愛の告白したこと……そうなんだ……」
はぐみ「みーくん、薫くんに演技教えてもらったことあるの?」
薫「ああ、ちょっとね」
花音「…………」
こころ「話は伝わったかしら? それじゃあ美咲、早速『愛してる』って言ってみて!」
美咲「いや、そもそもなんであたしなの。そういうのなら薫さんの方が様になるでしょ」
こころ「……? そんなの美咲に言ってもらいたいからに決まってるじゃない!」
美咲「えっ」
こころ「あたしたちみーんな、美咲のことが大好きだもの!」
美咲「いや……そういうこと言われると恥ずかしいんだけど……」
こころ「花音も同じことを言っていたわね。でも恥ずかしがる必要なんてあるかしら?」
こころ「好きな人に好きって伝える、それはとても素敵なことだと思うわ!」
美咲「…………」
美咲(あー……これもうどう言っても止まらないやつだな……)
はぐみ「そーだよ! みーくんみーくん、ほら早くー!」
美咲「ああもう、分かったから、抱き着かないでって……!」
薫「ふふ、美咲ならそう言ってくれると信じていたよ」
花音「…………」
はぐみ「あ、そういえばそうだね。どうしよ、じゃんけんする?」
薫「それがいい。シェイクスピアもこう言っている、簡潔こそが英知の神髄であると。つまり……そういうことさ」
花音「分かりました」
こころ「決まりね! それじゃあ、じゃーんけーん、ぽん!」チョキ
薫<パー
はぐみ<パー
花音<パー
はぐみ「わっ、こころんの1人勝ちだね!」
花音「……まけちゃった」
こころ「それじゃあ最初はあたしからね! 美咲、お願いするわね!」
美咲「はいはい……」
薫「では、待っている間に私たちは次の順番を決めておこうか」
はぐみ「そうだね!」
美咲「……で、その愛してるゲーム? ってなにやるの?」
こころ「相手の目を見て『愛してる』って言い続けて、言われた方は『もう1回』って言い続けて、先に照れた方が負けってはぐみが言っていたわ!」
美咲「えぇ、なにそれ……」
美咲(1回目であたしが照れそうだし、そもそもこころが照れることなんてあるの……)
美咲(でも楽しそうなこころ相手にテキトーな対応するのもアレだし……真面目にやるしかないか……)
美咲「はいはい……それじゃあえーと……」
美咲(こころの目を見ながら……どういう風に言えばいいんだろ……普通に言えばいいのかなぁ……)
美咲「こころ……あ、愛してるよ」
こころ「……!」
美咲「……こころ?」
こころ「…………」
美咲「どうしたの? もしかしてあたし、何かやり方間違った?」
こころ「……なんだかとっても不思議な気持ちだわ」
美咲「え?」
こころ「とっても心地よくて胸の中がふわふわするのに、でもそれと一緒にそわそわするわ……素敵な体験ね!」
美咲「ええ?」
こころ「もう1回言ってみて!」
美咲「あ、愛してるよ」
こころ「もう1回!」
美咲「愛してるよ」
こころ「もっと! もっと!」
美咲(やっぱり思った通りだよ……こころが先に照れることなんてないよね……)
美咲(あたしもなんだか抵抗なくなってきたし……決着つくのかな、これ)
美咲「わっ、なんですか薫さん、いきなり耳元で」
薫「ふふ、困り顔をしていたからね。子猫ちゃんが困っているんだ。助け舟を出さなくては……ね」
美咲「はぁ」
薫「このままでは埒が明かない……だから、こうするのはどうだろう……」ヒソヒソ
美咲「……え、それをあたしがやるんですか」
薫「ああ。大丈夫、君なら出来るよ」
美咲「…………」
美咲(まぁ……確かにこのままだと終わらないし、やってみるだけやってみるか……)
美咲「こころ、ちょっといい?」
こころ「どうしたの、美咲?」
美咲「うん、ちょっと立って。そんで、壁を背にしてくれる?」
こころ「いいわよ。……はい!」
美咲「ん、ありがと。それじゃ……」ドン
こころ「え?」
美咲「……愛してるよ、こころ」
こころ「あ……」
はぐみ「おお! あれは壁ドン!」
花音「しかも……すごくカッコイイ声……ずるい」
薫「儚い……」
美咲「……こころ?」
こころ「…………」
美咲(え、俯いたまま黙ってるこころなんて初めて見た……)
こころ「……あたしの負けみたいね、美咲」
美咲「あ、そ、そう?」
こころ「ええ。こんな気持ち……初めてよ」
美咲(うわー、上目遣いでしおらしいこころって超レアだよ。なに、これってそんなに威力あるの?)
こころ「あたしも美咲のこと……大好きよ」
美咲「あ、ありがと」
こころ「えへへ」
美咲(しかもはにかみ笑いしてるし。ものすごく珍しい表情だ……)
美咲「あ、はい。次ははぐみかぁ」
はぐみ「わーい! みーくん、いざ尋常に勝負ー!」
美咲「はいはい、分かったから……」
美咲(しっかし、はぐみも絶対照れたりしないよなぁ……これも終わるのかな……)
はぐみ「じゃあみーくんと向き合って……はい! はぐみはいつでもオッケーだよ!」
美咲「はーい。それじゃあ……愛してるよ、はぐみ」
はぐみ「ありがと! はぐみもみーくんのこと大好きだよ!」
美咲「いやいや、そうじゃないでしょ」
はぐみ「あ、そっか。もう1回言って!」
美咲「愛してるよ」
はぐみ「もう1回!」
美咲「愛してるよ」
はぐみ「もう1回!」
美咲「……愛してるよ」
美咲(……やっぱりこれ絶対勝負付かないよね。あたしもはぐみに愛してるっていうのはなんか妹に言ってるみたいでそんなに抵抗ないし……)
はぐみ「えへへ、みーくんに愛してるって言わると嬉しいな~!」
はぐみ「あ、そうだ。ねぇねぇみーくん」
美咲「ん、どうしたの?」
はぐみ「みーくんのお膝の上に座ってもいい?」
美咲「えっ」
美咲「…………」
美咲「まー……いいよ。ほら、おいで」
はぐみ「ホント!? わーい、ありがと! よいしょ……っと!」
美咲(ついオーケーしちゃったけど、これってもう愛してるゲームじゃなくないかな……。私からだとはぐみの頭しか見えないし)
はぐみ「みーくんがすっごく近いね!」
美咲「そうだねー近いねー」
はぐみ「えへへ~、優しいね、みーくんは」
はぐみ「……ミッシェルには話したことあるけどね、はぐみ、あんまり女の子扱いとかされない方だから……こういう風に甘えさせてくれると嬉しいな」
美咲(そのミッシェルはあたしなんだけどね……。そういえば確かにハロハピ結成してすぐの頃、はぐみとそんなこと話したっけ)
はぐみ「髪も短いし、可愛いものもあんまり似合わないし、ソフトボールでもキャプテンやってるから、父ちゃんも兄ちゃんもはぐみを息子や弟って感じてるみたいだし……」
はぐみ「……やっぱりみーくんもはぐみのこと、そう感じる?」
美咲「そんなことないよ。むしろ、はぐみはすごく可愛い女の子だと思うよ」
はぐみ「そうかな……?」
美咲「そうだよ。あたしなんかよりよっぽど女の子してるって」
美咲「可愛くなりたい、女の子らしくなりたいって思ってるんでしょ? そうやって自分のことをしっかり見れて、魅力的になりたいっていうのはすごく素敵な女の子だとあたしは思うな」
はぐみ「みーくん……」
美咲「それに元気いっぱいなはぐみは見てるこっちも元気になれるし、そういうところも可愛いよ」
はぐみ「みーくんにそう言ってもらえると……はぐみも嬉しいな!」
美咲「はいはい。甘えん坊だね、はぐみは」ナデナデ
はぐみ「みーくんが甘やかしてくれるからね! だからはぐみは素直に甘えるよー!」
美咲「はぁ……しょうがないなぁ……」ナデナデ
はぐみ「……みーくんみーくん」
美咲「ん? どうしたの?」
はぐみ「あのねあのね、はぐみ、みーくんのことホントーに大好きだよっ! えへへ!」
美咲「うっ……」
美咲(こっちに振り返ったはぐみから太陽みたいに輝いた笑顔とまっすぐな言葉が……それはちょっと卑怯じゃないかなぁ)
はぐみ「あれ? みーくん、どうかした?」
美咲(しかも無自覚でやってるのが恐ろしい……)
美咲「いや、ちょっと照れくさかったからさ……」
はぐみ「そっか~。……あれ? じゃあもしかしてはぐみの勝ち?」
美咲「あー……そういえばこれそういうゲームだったっけ……。そうだね、はぐみの勝ちだね」
はぐみ「わーい! やったぁー!」
美咲「わっ、ちょ、あたしの膝の上で暴れないでって!」
はぐみ「あ、ごめんねみーくん。よいしょっと」
薫「ふふ、美咲もはぐみの純真さには敵わなかったみたいだね」
花音「私も美咲ちゃんに膝抱っこされたい……」
こころ「とても素晴らしい勝負だったわ!」
はぐみ「えっへん、こころんの仇は取ったよ!」
こころ&はぐみ「いぇーい!」
美咲(平常運転に戻ってはぐみとハイタッチしてるこころはともかく、さっきからなんか花音さんが不穏なこと呟いてるような気がする……)
美咲「今度は薫さんが相手かぁ……」
美咲(これってあたしが言われる側になるのかな……まぁどっちにしろ薫さんに勝てる気しないんだけどさ……)
薫「さぁ、美咲。私にその思いの丈をぶつけてごらん」
美咲「あっ、あたしが言う側なんですね……」
美咲「それじゃあ、えーっと……愛してます、薫さん」
薫「ふむ……もう1回」
美咲「愛してます」
薫「もう1回……」
美咲「愛してます……」
薫「…………」
美咲(薫さん、何か思案顔で黙っちゃったけどどうすればいいんだろ……)
薫「なるほど。やはりもう一度、演技指導が必要だね」
美咲「えっ」
薫「ふふ、豪華客船のこと、花音から聞いたよ。彼女を取り戻すために愛の告白をした……と」
美咲(……ああ、こころとはぐみは怪盗が薫さんだと思ってないからか、その口ぶりは)
薫「こうして、今ここで美咲に演技を教えることが出来る。それはそれで儚いことさ……」
美咲「はぁ……」
薫「さて、まずは……美咲はセリフに心を込める、というのをどういう風に考えているかい?」
美咲「え、えーっと……本当にそう思っています、って伝わるように……ですかね」
薫「なるほど、それも間違ってはいない。だけど一番大切なのは、その役……つまりその人の気持ちになりきることだ」
薫「豪華客船の件も、例えば……そうだね、愛する恋人が見知らぬ誰かにさらわれたとしよう。そして、その最愛の人を助けるには、君が心からの告白をしなければいけない」
薫「ほら、そう考えてみれば自然と気持ちが入るだろう?」
美咲「……まぁ、言わんとすることは分かりますけど」
薫「演じるというのはそういうことさ。自分ではない人物……つまりキャラクターを自分の中に持って、そのキャラクターならこうすると自分の解釈を表現する……それだけさ」
薫「さて……それじゃあ、美咲。今、君の中に瀬田薫という一人の人間を愛するキャラクターを持ってみよう」
薫「イメージはなんでもいいさ。私に黄色い声援をくれる子猫ちゃんたちでもいいし、千聖のように素直じゃない好意を向けてくれるイメージだっていい」
薫「大事なのは『瀬田薫が好き』というキャラクターを持つことだからね」
美咲「…………」
美咲(ええっと、なんだかすごくまともな演技指導を受けてる気がするけど……薫さんのことが好きな人か……)
美咲(りみが薫さんのこと好きそうだったし……りみだったら……)
薫「なんだい、美咲」
美咲「その、か、薫さんのこと……ずっと好きでしたっ」
薫「ありがとう……私も君みたいな子猫ちゃんに好意を持たれて嬉しいよ」
薫「……ふふ。先ほどの愛してるよりも、しっかり気持ちの入ったいいセリフだよ、美咲。これでまた花音がさらわれても安心だね」
美咲「…………」
美咲(待って、勢いに流されてやったけどこれかなり恥ずかしいんだけど……)
美咲(これをなんでもなくこなせるって……薫さんってすごいな……)
薫「美咲? どうかしたかい?」
美咲「いえ……薫さんはすごいなって」
薫「そうかい?」
美咲「はい。しっかりと自分の中に芯があって……その、なんていうんでしょうね……」
薫「言葉を選ぶ必要なんてないさ。美咲が伝えたい言葉を口にすればいい」
美咲「じゃあ……正直、いつも何言ってるのか分かんないってことばっかりですし、人の話をまったく聞いてないことが多いですけど、薫さんは薫さんの美学があって、それがブレないから……すごいなって思いました」
薫「ああ……そうか」
美咲「それにすごく美人というか綺麗な人ですし、色んな女の子が追いかけるのも分かるような気がしますよ」
薫「ふふ……ありがとう、美咲。やっぱり君はそのままがいい」
美咲「はい?」
薫「飾らない美咲が一番素敵ということさ。拙くても、奥沢美咲という少女から瀬田薫に向かってまっすぐ出された言葉……それがこんなにも私の胸を打つんだ」
薫「ああ……儚い……」
美咲「は、はぁ」
薫「ふっ……この勝負は私の負けだね。だけど楽しいひと時だったよ」
美咲(よく分かんないけど勝った……)
こころ「いい勝負だったわね!」
はぐみ「接戦だったと思うよ!」
美咲(接戦と勝負とかの前にゲームの趣旨ともうかけ離れてるような気がするんだけどね……まぁいっか)
花音「…………」
美咲「最後は花音さんか……」
美咲(まぁ……花音さんなら多分すぐに折れてくれそうだし……)
花音「美咲ちゃん」
美咲「はい、なんですか花音さん」
花音「こころちゃん、はぐみちゃん、薫さんとイチャイチャして……楽しかった?」
美咲「い、イチャイチャ?」
花音「イチャイチャだよね、どう見ても」
花音「それを目の前でずっと見せつけられた私の気持ちが……分かりますか?」
美咲「え、えぇ?」
美咲(一番苦労しないと思ってた花音さんだけど……なんか雲行きが怪しいような……)
花音「分かんないよね、それが美咲ちゃんの良いところでもあって悪いところでもあるんだもんね」
美咲「あの、花音さん?」
花音「そうだよね。私への愛の告白は美咲ちゃんの中では今すぐにでも消し去りたいものだもんね」
美咲「えっと、あれはその、単純に恥ずかしかったっていうか……」
花音「大丈夫だよ、美咲ちゃんの言いたいことは分かってるから」
美咲「…………」
美咲(絶対分かってないと思うけど、流石に今それを口に出すと大変なことになりそうだから黙ってよう……)
花音「美咲ちゃんはどっちかというと、愛してるって言われたい側なんだよね?」
花音「知ってるよ。こんなだけど、私の方がお姉さんだもん。しっかり美咲ちゃんのこと分かってるよ」
美咲(違いますよー花音さん……愛してるって言う側言われる側とかじゃなくて、とりあえずすぐに照れてくれた方が助かるって気持ちなんですよ……)
美咲(年上なんだけどこういう時の空回りしてる花音さんって可愛いと思ってます、って今言ったらどうなるんだろ……すぐ照れてくれないかなぁ)
花音「それじゃあ、美咲ちゃん」
美咲「あ、はい」
花音「私の目を見て」
美咲「はい」
花音「…………」
美咲「…………」
花音「……うぅ」
美咲(見つめ合ってるだけでもちょっと恥ずかしそうな花音さん。よかった、やっぱり花音さんは癒しだった……)
美咲「花音さん、大丈夫ですか?」
花音「だ、大丈夫っ」
花音「その……言うからね?」
美咲「はい」
美咲(……あーいけない。花音さんならやっぱり楽勝だと思ってたけどいけない。その初々しい雰囲気は見てるだけで照れそう)
花音「あ、ああ、愛して……ます……っ」
美咲「…………」
美咲(うわーもう花音さん顔真っ赤だしなんだろうこれ、青春ドラマの告白シーンをうっかり友達と見ててちょっとむず痒くなるとかそういう空気)
美咲(これ……花音さんにもう1回て言うんだよね……)
美咲「……もう1回」
花音「ふぇ!? あ、そ、そっか、そうだよね。えと、わ、私は……美咲ちゃんのことを……愛して……ます……」
美咲(もう消え入りそうなほど尻すぼみで言葉が小さくなっていってるし、これあたしの勝ちなんじゃないかな……)
美咲「もう1回」
花音「ま、また!? え、えと、あ、愛してます……」
美咲「……もう1回」
花音「あ、あの……その……愛してます……」
美咲(……なんだろう、今の花音さんを見てるとこう……意地悪して何度も言わせてみたくなる衝動が……)
美咲(でももうあたしの顔見れなくて俯いてるし、流石にこれ以上は可哀想か……)
美咲「花音さん」
花音「あ、な、なに、美咲ちゃん……」
美咲「あたしの負けです」
花音「ほ、本当!?」
美咲「はい。やっぱり花音さんには敵いませんよ。とっても可愛らしかったです」
花音「え、えへへ……良かった」
美咲(明らかに年上にかける言葉じゃないと思うけど花音さんが嬉しそうだし……まぁいいや)
―――――――――――――
美咲「で、どうして急に愛してるゲームなんてやろうって言いだしたの?」
こころ「んー? それは……なんでだったかしら?」
花音「こ、こころちゃん……忘れちゃったの? 美咲ちゃんがいつも裏方で頑張ってくれてるから……」
薫「それに報いたかった、という話だったろう」
こころ「そうだわ、それよ!」
美咲「え? あたしに報いる?」
こころ「そうよ! 美咲はいつもハロハピのために色んなことをしてくれるわ! でもステージには立たないじゃない?」
美咲「あー……まぁ……」
美咲(こころたちが分かってないだけで立ってるんだけどね、ミッシェルとして)
はぐみ「そーそー! だから、みーくんにも光が当たるようにってね!」
こころ「そうなのよ! いつもあたしたちのために頑張ってくれる美咲に恩返ししようって話だったのよね!」
美咲「いや……その気持ちはすごく嬉しいけど……この愛してるゲームがどう恩返しになるの?」
薫「簡単な話さ。ステージには立たないけれど、美咲は大事なハロー、ハッピーワールドのメンバー……」
薫「なら、美咲の存在がみんなにも知れ渡るように、CDのオマケで美咲をアピールするものを付けるのはどうだろう、という話になったのさ」
美咲「オマケ……アピールって……嫌な予感しかしないけど……まさか……!?」
こころ「だから、美咲の声をオマケとしてCDに付けようと思っていたの!」
美咲「や、やっぱり……! ということはもしかして今のって……」
花音「うん……ごめんね、美咲ちゃん。録音してあるんだ」
美咲「……マジですか?」
はぐみ「マジだよ、みーくん!」
……………………
――ちょっと前
こころ「今度のCD、何か美咲の存在をアピールするものを付けたいわね」
花音「え、いきなりどうしたの、こころちゃん」
こころ「考えてみたのよ。いつも美咲はあたしたちのために色んなところで頑張ってくれているわ。なのにライブを見に来てくれた人は美咲の存在を知らないじゃない?」
こころ「それってすごく残念なことだと思うの。だから、美咲のことをみんなに知ってもらえるように何かオマケを付けたいって思ったのよ!」
薫「それは素晴らしい提案だね、こころ」
はぐみ「はぐみもとってもいいと思う!」
花音「……そ、そうだね」
こころ「でも、こういう時ってどういうものを付ければいいのかしら?」
薫「私たちの日頃のやり取りがいいんじゃないかい? ステージに立つ私たちの素顔も知れて、美咲のことも知ってもらえる。これ以上のことはないだろう」
こころ「それは素敵ね! じゃあ早速、今日のハロハピ会議を録音しましょう!」
黒服「こころ様、こちらを」つマイク&レコーダー
こころ「ありがとう、黒服の人!」
薫「マイクが見えると美咲が緊張するかもしれないね。これは見えづらいところに隠しておこうか」
こころ「そうね、そうしましょう!」
はぐみ「うわー、なんだかすっごくワクワクしてきた!」
花音「で、でも……普通にいつもの話をしてるだけだと……オマケとして成り立つのかな……」
こころ「んー、それもそうね。じゃあ今日はみんなで何かゲームをやりましょう!」
はぐみ「あ、じゃあじゃあ、愛してるゲームやってみたいな!」
こころ「愛してるゲーム?」
はぐみ「うん! かーくんとあーちゃんがやってたんだけどね、お互い向き合って、片方が『愛してる』って言って、もう片っぽが『もう1回』って言うんだって! それで照れた方が負けっていうゲームなんだ!」
こころ「なるほど!」
――冒頭に続く
……………………
はぐみ「――っていう感じだったんだ!」
美咲「ええ……えええ……!?」
美咲(ホントだ……よく見るとカーテンの陰にマイクが隠してあるし……!)
花音「だ、黙っててごめんね、美咲ちゃん」
美咲「あー……いえ、いいんですよ、花音さん……」
美咲(正直かなり納得いかないけど……100%善意の行動だし私を思ってのことだから強く反発できない……)
こころ「美咲は楽しくなかったかしら? 愛してるゲーム」
美咲「いや……楽しいかどうかで言われたら……楽しかったけどさ……」
薫「ふふ、ならそれでいいじゃないか。シェイクスピアもこう言っている。この世は舞台、人はみな役者だと。つまり……そういうことさ」
美咲「そりゃみんなは録られてるって知ってるからいいでしょうけど……」
美咲(……まぁでも、こういうのって今に始まったことじゃないし……そこまで目くじら立てることもないか……)
美咲「ホント、あたしもみんなに対して甘くなったよね……」
こころ「それじゃあ美咲! 次は新曲について考えましょう! さっきのゲームのおかげで素敵なアイデアがたーっくさん生まれそうだわ!」
美咲「……はいはい、付き合いますよ」
美咲(こんな関係も悪くないって思っちゃってるしね、あたしも……)
その後「どうしても嫌ならこっちでも……」とかのちゃん先輩から『奥沢美咲と温泉旅行にいく話』という台本を渡された美咲が「これだけはホントに勘弁してください」と頭を下げるのはまた別の話
おわり
なんか申し訳ありませんでした。
本日発売の「ゴーカ!ごーかい!?ファントムシーフ!」がイベント楽曲になっているストーリーといえば美咲ちゃんの愛の告白だと勝手に思っている故の行動だったんですごめんなさい。
HTML化依頼出してきます。
何を言っているか(略)
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518539932/
Entry ⇒ 2018.02.16 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】奥沢美咲と温泉旅行に行く話
奥沢美咲「ふぅ、やっと着いたね、ホテル」
美咲「うぅ……それにしてもさっむいねー……」
美咲「至るところが雪で真っ白だし、この寒さだし、なんだかスキー場に来たんだなーって実感するよね」
美咲「ちょっとテンション上がってきた」
美咲「……え? そんなにスノボ好きだったのかって?」
美咲「あーいや……話すと長くなるんだけどね……前にはぐみたちと来た時はまともに滑れなかったっていうかなんていうか……」
美咲「あーうん、そう、そんな感じ。察してくれてありがと。……ハロハピのみんなもそれくらい察しがいいと助かるんだけどね……はぁ……」
美咲「っと、ごめんごめん。せっかくの泊りがけの温泉旅行なのにため息なんてついてたらもったいないよね」
美咲「とりあえずチェックインして荷物預けちゃおうか」
美咲「……あ、荷物持ってくれるの? うん、ありがと」
美咲「しっかし……大きいなぁこのホテル」
美咲「弦巻財閥関係のとこだからこころがかなり安く紹介してくれたけど……正規料金、見た?」
美咲「……あー、見てないなら見ない方がいいよ、うん。小市民にとっては落ち着かなくなる金額だから。あたしも確認したのちょっと後悔してるし」
美咲「このホテルでもこころは『そんなに小さなところでいいのかしら?』って言ってたのが末恐ろしいよ、ホント……」
……………………
美咲「あ、すいませーん。あの、予約をしていた奥沢美咲と申しますが……」
美咲「ああはい、そうです。こころさんの紹介で……はい」
美咲「……ええ、そうですね。一度部屋に荷物を置いたらスキー場に……はい」
美咲「はーい、どうも……って、あれ?」
美咲「あの、鍵、一つ足りないんじゃ? ……いえ、こころさんにはシングルルームを2部屋と――」
美咲「……え゛っ!?」
美咲「えぇー……」
美咲「あー……そっか……そうきたか……」
美咲「……ちなみに他の部屋とかっていうのは……ああ、満室……」
美咲「ああいえ、大……丈夫です、ええ、慣れてるんで……はは……はぁ」
美咲「…………」
美咲「……ごめん、おまたせ」
美咲「…………」
美咲「……その、もう一つごめん」
美咲「あのさ、あたし、こころの伝手でシングル2部屋取ったって言ってたじゃん?」
美咲「その、本当に申し訳ないんだけど……こころがね? 多分、きっと、恐らく、100%善意の親切心でね?」
美咲「このホテルで一番高い、ワンベッドルームスイートをあたしたちに用意してくれました……」
美咲「……はい、お察しの通りです。他は満室、この部屋に泊まるしかありません……」
美咲「あ、お金に関しては前金で払った額のままだってさ。そもそもこころ、『美咲の頼みならお金なんていらないわよ?』とか言ってたし」
美咲「…………」
美咲「……まぁ、うん、そうだよね。問題はそこじゃないよね」
美咲「うん……名前の通りの部屋です……」
美咲「とーっても広くて豪華なお部屋にとーっても大きなベッドが……1つしか……ない部屋……ですね……」
美咲「…………」
美咲「ひ、ひとまず忘れようか、それは」
美咲「と、とにかく部屋に荷物置いてさ、早く滑りに行こう! うん、それがいい、体動かして余計なことは忘れよう!」
美咲「問題の先延ばしとか言わないでって! ほ、ほら、早くエレベーター乗って部屋に行こ!」
……………………
美咲「いやー、流石、一流ホテルに接したスキー場だけあったね」
美咲「雪もサラサラ、コースも豊富でリフトも貸し道具も見たことないくらい綺麗だったね」
美咲「この前の時はほぼ着ぐるみ状態だったから、雪山の風がすっごく気持ちよかったなぁ」
美咲「うん? どしたのそんな変な歩き方して」
美咲「……普段あんまり動いてないから体の節々が痛い?」
美咲「あはは、お年寄りみたいなこと言ってるねー」
美咲「んー? あたしはぜーんぜん。伊達にあのカッコでいつも動いてないって」
美咲「あ、でもそれなら温泉も気持ちよく入れていいんじゃない? ここ、けっこう有名な温泉だし」
美咲「それに部屋にも貸し切りの露天風呂が……付いて……て、驚いた、ね……」
美咲「…………」
美咲「そうだった……あの部屋に戻るんだった……」
美咲「あーもう、滑ってる時は楽しくて忘れてたのに……」
美咲「……そんなに落ち込むな、って……いやいや、だって見たでしょあの部屋」
美咲「そもそも最上階に2つしか部屋がないのがおかしいと思ったんだよ」
美咲「部屋の間取りもめちゃくちゃ広くて、貸し切りの源泉かけ流し露天風呂まで付いてるって……全然落ち着かないよ」
美咲「っていうかなにより納得が行かないのはなんでそんな広大な部屋にベッドが一つしかないのかってこと!」
美咲「ソファーとか椅子とか絶対3、4人は座れるように用意されてるじゃん! あの部屋考えた人はどういうつもりなのか問いただしたいよ、まったく……!」
美咲「…………」
美咲「……うん、まぁそうだよね。あのバカみたいに大きいベッド、2人で寝るためのものだよね」
美咲「そういう……部屋だよね……」
美咲「…………」
美咲「っ、そ、そうだ! 部屋に戻る前にご飯食べちゃおうか!」
美咲「だ、だから問題の先延ばしとか言わないで……!」
美咲「エレベーターで最上階まで行ってまた戻ってくるの面倒でしょ、ほ、ほら、だから先に食べてこ!」
……………………
美咲「ふぅ……」チャポン
美咲「あー……あったまる……」
美咲「夕食、豪勢で美味しかったなぁ」
美咲「この貸し切り露天風呂も眺めすごいなぁ、スキー場どころか辺りの山々が一望できるよ」
美咲「伊達に40階建てじゃないなぁ」
美咲「先に入ったあいつも『眺めがすごい、全然落ち着かない』って言ってたけど、確かにその気持ちは分かるなぁ」
美咲「…………」
美咲「……うん、ホントに落ち着かない」
美咲「実は夢なんじゃないかって思うよ……なんで一介の学生がこんなすごいとこに泊まるんだろ……」
美咲「はぁぁー……」
美咲「……確かに貸し切り露天風呂って、あたしもテレビとかで見て1回入ってみたかったよ」
美咲「でもさ、普通部屋に付いてる貸し切りって小さいでしょ……」
美咲「なんでこのお風呂、10人くらい入れそう大きさなの……」
美咲「温泉が気持ちいいのは確かだけどこんなところに1人でって落ち着くわけないじゃん……」
美咲「『一緒に入りたい』って言われたけど断んなきゃ良かったかな……」
美咲「……いやそれはない。ないなー。同じベッドに入るのも……あれだし……ねぇ……」
美咲「…………」
美咲「あー、あー……もうなんていうか……」
美咲「……あとちょっとしたら、同じベッドで寝るんだよね……」
美咲「…………」
美咲「あーやばいやばいやばい、落ち着けあたしの心臓……今からこんなドキドキしててどーすんのさ」
美咲「しょーがないことだから、いわば不慮の事故だから、ノーカウント、セーフの理論だって」
美咲「……まぁ……いずれはそーいうことするような関係……だけどさ……」
美咲「……~~っ!」
美咲「変なこと考えなきゃよかった……! 熱い、顔が熱い……!」
美咲「のぼせる前にもう上がろう、うん、そうしよう」
美咲「…………」
美咲「汗かいたし、もう1回、体、洗っておこうかな……」
美咲「いや変な意味じゃない、変な意味じゃないから……汗臭かったらあいつが嫌な思いするだろうから、そういうマナー的な意味だから……」
……………………
美咲「お風呂あがったよー……って、ソファー動かして何してんの?」
美咲「……ソファー2つくっつけて簡易ベッドにする……なるほど、その手があったか」
美咲「でもそのソファー、ものすごく重そうだけど平気? スキーやって体が痛いって言ってなかったっけ?」
美咲「痛いもんは痛いけどあたしに嫌な思いさせたくないから頑張る……ね……」
美咲「あーそうかー、あなたもそうきたか……」
美咲「……そういう行いは心臓に悪いので遠慮してもらいたかったなぁ……それを見せられたらもうあたしの覚悟も固くなるよ……」
美咲「いやいや、なんでもないよ。こっちの話、ははは……」
美咲「あーオホン。その、なんだろ」
美咲「…………」
美咲「頑張ってもらってるところで悪いんだけどさ……あたしは、へーきだよ」
美咲「何がって、それは……あれだよ」
美咲「……その、そこのベッドで、あなたと一緒に寝るの」
美咲「…………」
美咲「……いや、何か言ってってば。赤くなって無言になられるのが一番さ……ほら……ね?」
美咲「うん、分かってくれて嬉しいよ、あたしは」
美咲「で……なんだろ。ほら……」
美咲「こんな一生に一度泊まれるかどうかっていうホテルでさ、あなたをソファーに寝かせるのってやっぱ心苦しいし?」
美咲「ほ、ほらほら、このベッドすごいよ。腰かけるだけで包み込んでくれるような柔らかさが分かるくらいだよ。だからここで寝ないともったいないって」
美咲「…………」
美咲「……うん、大丈夫だよ。あたしは」
美咲「だってほら、あたしたちも……恋人同士……でしょ?」
美咲「あなたとこうするのだってさ……そりゃ照れるけど……嫌だとは全然思わないって」
美咲「……え? 理性が持つか分からない?」
美咲「いやいやいや、それはどうなの、今この場面で言うのは」
美咲「……えぇ? あたしが悪いの今の……」
美咲「不意打ちでそういうこと言われるのは卑怯? ……いや、あたしからしたらそっちの方が卑怯に見えるってばそれは……」
美咲「あーなんでもないなんでもない」
美咲「……ほら、明日も早いんだしさ……」
美咲「その……寝よ?」
……………………
美咲「…………」
美咲(……分かってたけど、やっぱり寝れない)
美咲「…………」
美咲「……ねぇ」
美咲「あ、ごめん寝てた? ……ああ、目が冴えて全然寝れない、ね……」
美咲「うん、あたしもだよ……」
美咲「…………」
美咲「なんか、なんていうか、不思議な感じがするよね」
美咲「その、さ。今、同じベッドで並んで寝てる……んだよね」
美咲「大きなベッドだからそんなに距離は近くないけど……ホント、変な感じ」
美咲「落ち着かないんだけど、でも居心地が悪いかっていうとそんなことないし……」
美咲「……あなたも同じなの?」
美咲「ふふ、そっか。あたしと一緒、だね」
美咲「はー、こんなことになったのもこころの余計な親切心のおかげだね」
美咲「……じゃあこころに感謝しないといけないって? なんで?」
美咲「……あー、まぁ……ね」
美咲「確かにそうかもね。あたしたち、恋人同士の距離っていまいち分かってないもんね」
美咲「もっと近付きたいけど、どの辺まで踏み込んでいいんだろ、どれくらいくっついていいんだろ……ってあたしもたまに考えるし」
美咲「……あれ、あたし今、なんかかなり恥ずかしいこと言わなかった?」
美咲「そんなことはない? あたしの気持ちが聞けて嬉しい?」
美咲「あー……そうですか」
美咲「…………」
美咲「あなたもそういうのって悩む時、ある?」
美咲「……あるんだ。意外」
美咲「でも、そっか。あたしと一緒か……」
美咲「……えへへ」
美咲「あー、なんでもないよ、なんでもない」
美咲「……うん、気持ちがお揃いなのが嬉しかったとかそういう感じの方向」
美咲「……あ、今照れたでしょ」
美咲「あはは、分かるってば。その辺もお揃いというか、似た者同士だし」
美咲「…………」
美咲「ねぇ」
美咲「あー、その、なんていうんだろ」
美咲「多分、同じ気持ちでいると思うだろうからさ……その、たまにはあたしの方からもさ、あなたに踏み込んでいきたいなって気持ちもある訳でさ……」
美咲「えーっと、まぁ……あれだよ」
美咲「……もっと傍に行っても……いい……?」
美咲「……え、いつでもウェルカムだけどその言い方は卑怯? そ、そう?」
美咲「キュンキュンして死にそう……いや、あたしもそういうのまっすぐ言われると今のあなたと同じような思いするんだけど」
美咲「まぁ……ここはお互い様ってところで手を打とうか、うん」
美咲「……ふふ。何話してるんだろう、あたしたち。へんなの」
美咲「ん……それじゃあちょっと近くに……お邪魔します」ゴソゴソ
美咲「自分で言ってやっといてなんだけど……うん、心臓が大変なことになるなぁ」
美咲「……だよね、あなたも同じだよね」
美咲「手を繋いだり腕を組んだりとかより、距離は遠いのにね。なんでこんなドキドキするんだろ」
美咲「……うん、不思議だね」
美咲「でも……悪くはない……っていうか、むしろなんか嬉しい、かも」
美咲「多分、今までよりもあなたに近づけたような気がする……からかな」
美咲「……これ以上キュンとさせられるのは心臓に悪いからやめて欲しい?」
美咲「……んーそっかー」
美咲「じゃあ、背中と背中をくっつけて寝ないかって提案があったんだけど、それは封印した方がいいかもね」
美咲「流石に正面向いてあなたとくっつくのはまだ心の準備が出来ないけど、それくらいなら近づけるかなぁって思ったんだけどなぁ」
美咲「……それとこれとは話が別?」
美咲「……ふふ、はいはい。そんな必死になって前言撤回しようとしなくても分かってるって」
美咲「そしたら、あっちに体の向き変えてもらえる? ……ん、ありがと」
美咲「じゃあ……失礼しまーす……」ピト
美咲「わー……なんかヤバいね、これ」
美咲「あなたの心臓の音、背中越しに伝わってくるよ。すっごくドキドキしてるね」
美咲「……うん、まぁあたしもなんだけど……ね」
美咲「でも不思議と安らぐなぁ……」
美咲「今なら普段絶対口にしないこともサラッと言えちゃいそうだよ」
美咲「前のあたしだったら誰かとこういうことするなんて考えもしなかったし、したいとも思ってなかったけどさ」
美咲「好きな人があたしのことを理解してくれて、その人にあたしからも素直に踏み込めて、もっと仲良くなれる」
美咲「なんかそういうの、いいなーって」
美咲「……あたしの柄じゃないけどね、今はほら、半分夢の中みたいなもんだからさ」
美咲「だから、今ならこういうの、あなたに伝えてもバチは当たらないかなって思うんだ」
美咲「……なに? 今すぐあたしを抱きしめたい衝動に駆られた?」
美咲「あー……それはほら、きっとあなたもあたしも寝れなくなるやつだからさ」
美咲「…………」
美咲「そうだね……お互い眠ってからなら……寝返りうったり、布団とか抱きしめちゃう寝相っていうのもあるよね」
美咲「ふふ……そうそう、不可抗力ってやつ」
美咲「だからさ、今はこのまま……眠りたいな」
美咲「あなたにこうしてくっついていられて……明日も楽しい思い出が作れるって思うと……とっても安らいだ気持ちになるんだ」
美咲「……うん、そう」
美咲「だから今日は……このまま……」
美咲「うん……明日もたくさん……遊ぼうね……」
美咲「それじゃあ……おやすみなさい……」
……………………
美咲「……ん、んん……」
美咲「……あさ……」
美咲「……はっ」
美咲「…………」
美咲「あーそっか……一緒に寝てたんだった……」
美咲「…………」
美咲「なんか昨日、すごく恥ずかしいことばっか言ってたあたしも悪いとは思う」
美咲「うん、でもさ」
美咲「まさか眠ってる間にがっつり抱きしめられてるとは思わなかったなぁ……」
美咲「……いや、あたしもあたしでいつの間にかあなたの方に寝返り打ってたんだけどさ……」
美咲「……まだ完全に寝てるよね」
美咲「まー……しょうがないか……」
美咲「起きるにはまだ早い時間だし、気持ちよさそーに寝てるところを起こすのも可哀想だし」
美咲「……あたしもまだ、こうしてたいし」
美咲「んー……ふふ」スリスリ
美咲「起きてる時だとやっぱ恥ずかしいしね……こういう時に甘えるくらいはセーフセーフ……」
美咲「……ん、あたしと同じシャンプーの匂い……ああそりゃそうか、同じお風呂に入ったんだし」
美咲「でもなんかいいなぁ、こういうの。幸せーって感じがするよ……」
美咲「……あたしも二度寝しよ」
美咲「…………」
美咲「眠ってる間の寝相に関しては不可抗力、だったね」
美咲「だから、あたしから眠ってるあなたにギュッと抱き着くのも……これは不可抗力」
美咲「ぎゅ~っと……えへへ」
美咲「今日も一緒に、いっぱい楽しいことをしよう」
美咲「これはその英気を養うためだから……」
美咲「だからもう1度……」
美咲「……おやすみなさい」
――――――――――
―――――――
――――
……
美咲「…………」
松原花音「…………」
美咲「……え、いや……え?」
花音「どうかな……『奥沢美咲と温泉旅行に行く話』の台本」
美咲「どうかなって、いや……これは……」
花音「美咲ちゃんがどうしても愛してるゲームを録音したのが嫌っていうなら、こっちでも……」
花音「というより、私としてはむしろこっちをやってもらいたいんだけど……」
美咲「…………」
花音「……ダメ、かな」
美咲「いや……花音さん……」
美咲「これだけはホントに勘弁してください……」
しかし後日こころに台本の存在を知られてしまい「次のCDのオマケはこれね!」と美咲が強引に収録させられるのはまた別の話
おわり
重ね重ね申し訳ありませんでした。
「ゴーカ!ごーかい!?ファントムシーフ!」には表題曲含め3曲も入ってるのでちょっとくらい欲張ってSS2つ上げてもハロハピファンの人は許してくれるだろうという安直な考えからの行動でしたごめんなさい。
HTML化依頼出してきます。
これはいいものだ…
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518561547/
Entry ⇒ 2018.02.14 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】やんでれ有咲
※百合です。かすありです。
市ヶ谷有咲「おーい、香澄ぃー」
牛込りみ「あ、有咲ちゃん。おはよう」
山吹沙綾「おはよー有咲」
有咲「ああ、おはよう」キョロキョロ
有咲「……あれ、香澄は?」
りみ「うん、風邪ひいちゃったみたいで今日はお休みなんだ」
有咲「え、香澄が風邪って……」
沙綾「なんとかは風邪ひかないって言いたいのかなぁ、有咲は?」
有咲「べ、別にバカとは言ってねーし!」
沙綾「私もそこまで言ってないけどなー」
有咲「うっ……」
花園たえ「私も風邪ってひいたことないなぁ」
有咲「うわっ、いたのかおたえ!?」
たえ「? 私のクラスは1-Bだしいるよ?」
有咲「それはそうなんだけどそうじゃなくてだな……」
りみ「いきなり後ろから話しかけられるとちょっとびっくりしちゃうよね」
たえ「あ、そっか。ごめんね、有咲」
有咲「ああいやいいんだけどさ……」
有咲「それより、香澄が風邪ってどうしたんだ?」
りみ「うん、昨日雪が降ったよね?」
有咲「降ってたな。寒いの嫌いだから蔵から一歩も出なかったけど」
沙綾「それで、その雪を見ながら庭で大福のアイスを3つ食べたら体冷やして風邪ひいちゃったんだって」
有咲「……やっぱバカだろあいつ」
有咲「ホントに似た者同士だなおたえと香澄は……」
たえ「同じギター担当だもんね」
有咲「そういう意味じゃねーよ!」
りみ「でもそんなに重い風邪じゃないみたいだよ。熱も微熱くらいってメッセージが来てたし……」
沙綾「お見舞い行こうかって聞いても『うつしたら悪いしすぐ良くなるからへーきだよっ!』って返ってきたしね」
たえ「でも今日は家に香澄1人だからヒマーっ、とも言ってたね」
有咲「…………」
りみ「有咲ちゃん?」
有咲「……んで」
たえ「?」
有咲「なんで他のみんなにはメッセージがあって私にはねーんだよ……」
りみ「あ、それは……むぐっ」
沙綾「りみりん、しー」
有咲「なに? 私だけ悪い意味で特別って言いたいのか? なんで? 私だけ違うクラスだから?」
たえ「香澄ってああ見えて結構寂しがり屋だよね。ウサギにもそういう子いるよ。あんまり弱ったところを見せないけど、信頼してる人には素直に甘えてきたりって」
たえ「私にもそういうところを見せてくれるから、すっごく可愛いよね(ウサギって)」
りみ「お、おたえちゃん、それを今言うのは……」
りみ(た、大変……香澄ちゃんがおたえちゃんにギター教えてもらってた時の有咲ちゃんになってる……)
沙綾「私が言えたことじゃないけど、香澄もちょっと抱え込む癖があるからなぁ。きっと本当は誰かにお見舞いに来てほしいって思ってるよね」
沙綾「でもやっぱり大人数で言っちゃうと迷惑だろうし、やっぱりここはポピパから誰か1人が代ひょ――」
有咲「私が行くから」
沙綾「そう? それじゃあ有咲に任せようかな」
たえ「お見舞い頑張ってね、有咲」
りみ「え、えーっと……うつされないように気を付けてね?」
有咲「うつされるようなことしないから大丈夫」
りみ「そ、そう……」
有咲「それじゃ、私は準備しなきゃいけないから戻るな」
沙綾「うん、香澄のことよろしくね」
たえ「またね、有咲」
有咲「ああ」
りみ「…………」
沙綾「…………」
りみ「あれだと香澄ちゃんから有咲ちゃんにだけメッセージが行ってないって思われちゃうんじゃ……」
沙綾「うん、平気平気。香澄もホントはお見舞いに来てほしいだろうし、有咲も素直じゃないけどホントはお見舞い行きたいだろうからさ、こうすればすんなり話が進むかなって思ったんだ」
たえ「有咲はなんであんなに怒ってる風だったんだろ? ウチのウサギと遊びたかったのかな?」
沙綾「……まぁおたえの言葉でああなるのは予想外だったけど」
りみ「そ、そうだね……大丈夫かな……香澄ちゃんと有咲ちゃん……」
――――――――――
―――――――
――――
……
戸山香澄「あっちゃんは当然学校、お母さんも町内会の集まりで留守……」
香澄「あー、さーやにはああ言ったけど退屈だなー」
香澄「熱ももうほとんど下がっちゃったし……今からでも学校行っちゃおっかなー……」
香澄「あーでもそれでみんなにうつしちゃったら悪いし……」
香澄「さみしいなー、誰かお見舞いにでも来てくれないかなー」
香澄「…………」
香澄「みんな学校なんだし来る訳ないよね……はぁー……」
――ピンポーン
香澄「あれ、呼び鈴……宅配便かな?」
香澄「お母さんもいないし……やっぱりここは私が出なくちゃだよね!」
香澄「それで、ちょっとくらい軒先でお話してもセーフだよね、セーフ!」
香澄「マスクしてっと……」
――ピンポンピンポンピンポーン
香澄「はいはーい今行きまーす!」
――タッタッタ、ガチャ
香澄「宅急便ですかー! それとも新聞の勧誘ですかー!」
有咲「……よう」
香澄「えっ、有咲!? なんで!?」
有咲「私がいちゃわりーのかよ」
香澄「ううん、全然そんなことないよ! でも今、11時だよ? 学校は?」
有咲「サボった」
香澄「サボっちゃったの? 大丈夫? 有咲もどこか調子悪いの?」
香澄「有咲……」
有咲「ていうかお前なんかすげー元気そうじゃねーかよ! もしかして仮病か!?」
香澄「うぅ、有咲ぁ~っ!!」
有咲「うわっ!? なんでいきなり抱き着いてくんだよ!? 嬉しいけど心の準備ってもんがな……!」
香澄「ありがとーっ! さーやからは心配するメッセージが来てたんだけど、みんなにあんまり心配かけたくなかったからちょっと強がっちゃったの後悔してたんだー!」
有咲「沙綾からメッセージって……お前から私以外のみんなに送ったんじゃねーの?」
香澄「ううん! さっきね、さーやから『風邪って聞いたけど大丈夫? みんなでお見舞い行こうかって話出てるけど』ってメッセージが来たんだっ!」
香澄「でも『風邪うつすのも悪いし、すぐ治るからへーきだよっ』って返したんだけど……こういう時ってヒマだしさみしーなーって思ってたら有咲が来てくれて嬉しい!」
有咲「そ、そっか……そうだったんだな……」
香澄「それにみんなに送って有咲にだけ送らないってことは絶対ないよ~! 私、有咲のことだーい好きだもんっ!」
有咲「ばっ、そ、そういうのは2人っきりの時に言えよ!」
香澄「えへへ~有咲~」
有咲「あーもう、こんなとこにずっといたらまた体冷やして熱が上がるぞ!? ほら、さっさとお前の部屋まで案内しろよな!」
香澄「うんっ! それじゃあ上がって上がって~!」
……………………
香澄「はい、それじゃあテキトーなとこに座ってね」
有咲「はいよ。あ、そうだ。これお土産」
香澄「お土産?」
有咲「2Lのスポーツドリンクと、風邪用の栄養剤だろ、それにこういう時にも食べやすいものをって思ってゼリーにプリンにヨーグルト各3個ずつ、それから薬用のど飴……お前のことだから苦いのはダメだと思ってフルーツ系のやつにしといたからな」
香澄「うわー、すっごい沢山買ってきたね!」
有咲「悪かったな。その、なんだ……お見舞いとかあんましたことねーからさ、どんなものをどれくらい買ってきゃいいか分かんなかったんだよ」
香澄「ううん、すっごい嬉しいよ! ありがとっ、有咲っ!」
有咲「まぁお前が喜んでくれたなら……私も嬉しいけどさ」
香澄「えへへ~有咲有咲っ」
有咲「なんだよ」
香澄「私、このプリンが食べたいな~!」
有咲「……食えばいいだろ」
香澄「あーでもなー、風邪ひいてて体が重くてだるいな~。あー食べたいのにな~。チラっ」
有咲「…………」
香澄「こういう時ってやっぱり近くにいる人にー、食べるの手伝って貰いたいな~。チラチラっ」
有咲「あーもう分かったよ! 食べさせてやるからそうやって可愛くおねだりしてくんな!」
香澄「わーいやったー!」
香澄「と言いつつも何だか嬉しそうな有咲だった……」
有咲「うるせー! 実況すんな! 食べさせねーぞ!」
香澄「あーごめんごめん有咲ぁ~」
有咲「まったく……この焼きプリンでいいか?」
香澄「うん、それでお願いっ」
有咲「はいよ。それじゃほら……あーん」
香澄「あーん♪ ……うん、おいしー!」
有咲「そりゃよかったな」
香澄「何だかいつもよりおいしーなー。有咲があーんってしてくれたからかな~?」
有咲「それで味が変わる訳ねーだろ」
香澄「えぇ? 変わるよ~」
有咲「変わるか」
香澄「じゃあ試してみる? はい、プリン貸して~」
有咲「え?」
香澄「はい、有咲もあーんして」
有咲「…………」
香澄「あーん?」
有咲(やめろそうやって首傾げながら言うのは理性もたねーよミイラ取りがミイラだよ完全に香澄の中の風邪のウィルスが私の中に入ってくるけどそれはつまり香澄菌ってことだから私の抗体は無抵抗で受け入れるってことだし明日風邪ひくよ絶対これ罠だよなんで分かんねーんだよそれが)
香澄「あーん……」
有咲(あ、もう無理だ。香澄がちょっと寂しそうな顔してるわ。無理無理、抗えないって)
有咲「……あーん」
香澄「あーん♪ ……どう?」
有咲「……今までで食べたプリンの中で一番うまいかもな」
香澄「でしょ~!」
有咲「っつか、なんかお前元気だな……ホントに風邪ひいてんのか?」
香澄「朝はちょっと熱があったよ?」
有咲「今は?」
香澄「んー、喉がちょっとイガイガするけどだいたいいつも通りって感じ!」
有咲「ホントかよ……」
香澄「ホントだよ~。あ、じゃあこっちも試してみよっか」
有咲「はぁ? どうやっ――」コツン
香澄「んー、ほら、私のおでこ、そんな熱くないでしょ?」
有咲「……っ!!」
有咲「っ、っ……ま、まぁそうだな、むしろ私の方が体温高いっていうまであるかもな」
香澄「ねっ! だからさーすっごくヒマだったんだ~。本当に有咲が来てくれて良かった!」
有咲「そ、そっか……それならいいんだけどさ」
香澄「でも喉が調子悪いとあの時のこと、ちょっと思い出しちゃうな~」
有咲「あの時って……SPACEのオーディションの時か?」
香澄「そうそう! いや~大変だったね、あの時は」
有咲「まぁ……まさか香澄があそこまで追い込まれるっていうか……悩んでるなんて思わなかったな」
香澄「私もあんなにスランプに陥るなんて思わなかったよ~えへへ」
有咲「軽いなっ!?」
香澄「もう昔の話だもん、いつまでも引きずってられないっ!」
有咲「……お前ってホント……なんつーか強いよな」
香澄「え~そうかなぁ?」
有咲「私から見たらすげー強いわ……」
有咲(そんなところも好きだけど)
香澄「その強さはきっとみんながくれたんだよ! あの公園で、一緒に前へススメ歌ってくれたの、すっごく嬉しかったし!」
香澄「それに有咲も言ってくれたもんね! 私はいっつも周りを見ないで強引だけど、その強引さのおかげで頑張ってみようかなって思えたって!」
有咲「……まぁな。元気がない香澄なんて見てられなくてどうにかして助けてあげたくなるしそういう香澄も好きっちゃ好きだけどやっぱり私はいっつもみたいに強引に周りを巻き込んで突き進んでいく香澄が一番好きだしな」
有咲「……やべ、口に出てた」
香澄「ありがとー有咲っ!」
有咲「うわっ、だからいきなり抱き着いてくんなって!」
香澄「もー、またまたぁ、嬉しいくせに~」
有咲「そ、そりゃ嬉しいけど……」
香澄「えへへ~、素直な有咲も大好きーっ!」
有咲「は、はぁ!? 私はいつでも素直だって! その……好き、だし……香澄のこと」
香澄「ふふふー! 素直な有咲にはちゃーんとお礼をしなくちゃね!」
有咲「……お礼?」
香澄「そう、お礼!」
有咲「お礼ってなに……をっ!?」ドサッ
有咲(え? ベッドに押し倒された……!?)
香澄「えっへっへ~」
有咲「ちょ、待て香澄、目がなんか怖いぞ……?」
香澄「有咲は強引なのが好きなんだよね?」
有咲「そ、それは言葉の綾だろ!? 意味が違うだろ!?」
香澄「またまたぁ~。いいからいいから……」
有咲「いや良くねーって! 確実に良くねーってこれ! ちょっ、待っ……ちょま、ちょまま……あっ――」
――――――――――
―――――――
――――
……
香澄「おっはよー!」
りみ「あ、おはよう香澄ちゃん」
たえ「おはよう、香澄」
沙綾「おはよう。もう風邪は治ったの?」
香澄「うんっ! 有咲がお見舞いに来てくれてね、そのおかげですぐ元気になったんだ!」
沙綾「そっかそっか。ならよかった」
香澄「まさか午前中に来るとは思わなかったけどね!」
りみ「え、午前中って……」
香澄「そーだ、有咲にもちゃーんとお礼を言ってこないと! ちょっと有咲のクラスにいってくるねっ!」
たえ「行ってらっしゃい」
沙綾「……昨日、あのあとすぐにお見舞い行ったんだね、有咲」
りみ「みたいだね……」
沙綾「香澄のことになると本当に行動力ハンパないね、有咲って」
たえ「それだけ香澄のことが好きなんだよ。美しい友情だ」
りみ「友情……なのかな……アレ……」
沙綾「うーん……」
たえ「あ、香澄帰ってきた」
りみ「どうしたの、香澄ちゃん。元気がないけど……」
香澄「うん……有咲、今日風邪でお休みだって」
沙綾「え、そうなの?」
香澄「クラスにいなくてメッセージ送ったら風邪ひいたって……」
たえ「香澄の風邪、うつっちゃったのかな」
香澄「やっぱりそうなのかな……うう、ごめんね有咲ぁ……」
りみ(昨日風邪がうつるようなことはやらないって有咲ちゃん言ってたけど……まさか……)
たえ「りみもちょっと顔赤くなってない?」
りみ「えっ!?」
沙綾「大丈夫? 熱とかない?」
りみ「だ、大丈夫だよ、おたえちゃん、沙綾ちゃん……」
香澄「よーし、こうなったら今度は私が有咲のお見舞いをする番だねっ!」
たえ「授業サボって行くの?」
香澄「ううん、私は有咲みたいに成績優秀じゃないから放課後!」
沙綾「ま、普通そうだよね」
りみ「香澄ちゃん、有咲ちゃんにお大事にって伝えておいてね」
香澄「オッケー! 待っててね、有咲ー!!」
有咲「うう……めっちゃ寒気するし頭が痛ぇ……」
有咲「やっぱり香澄菌には……勝てなかったよ……ゴホッ、ゴホッ」
おわり
「(風邪を)やん(だ香澄に)でれ(でれな)有咲」だからタイトル詐欺ではないというのが自分の見解ですすみませんでした。
百合に対する理解をもっと深めたいのでどなたかバンドリ百合SSを書いて頂けないでしょうか。
具体的には『どっちの方が花音と仲良しか小学生みたいに張り合う千聖さんと美咲ちゃん、だけど肝心のかのちゃん先輩の前ではすかした態度を取る二人』とか『リサ姉に友達付き合いについての相談をしに行ったら具体例に友希那さんとのエピソードばかりを語られて「そっか友達付き合いってそういうものなんだ」と英才教育される有咲』とか読みたいですよろしくお願いします。
HTML化依頼出してきます。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517949525/
Entry ⇒ 2018.02.08 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】湊友希那「リサに豆をぶつけたい衝動に駆られる」
※キャラ崩壊、山なし落ちなし意味なしです
今井リサ「ふぅ、今日のスタジオ練も終わりだね~」
氷川紗夜「ええ。なかなか有意義な練習が出来ました」
宇田川あこ「うぅ……今日はハードな練習だったね……」
白金燐子「あこちゃん……大丈夫……?」
あこ「NFOを手伝って貰ったし気合入れすぎたのかも……腕が痛いよーりんりん……」
燐子「じゃあ今日はNFOをやらないで……ゆっくり休んだ方がいいかもね……」
あこ「うーでもでも、節分限定のアイテム貰えるし……みんなのおかげで取れたリンダのサイスで戦いたいよぉ……」
燐子「うん……気持ちは分かるけど……」
湊友希那「……節分」
リサ「んー? どしたの友希那ー?」
友希那「そう言えば今日は節分ね」
リサ「そだねー。それがどうかした?」
友希那「…………」
友希那「……よし、ロゼリアで豆まきをやりましょう」
リサ「……はい?」
紗夜「湊さん? いきなりどうしたんですか」
友希那「今日は節分じゃない」
紗夜「いや、それはそうですけど……」
友希那「無病息災を願って厄払いをする。これは今年もロゼリアが頂点を目指すのに必要なことだわ」
友希那「いつもは触れないものに触れて自身の世界を広げる。これは作詞や作曲の幅を増やすことにも繋がるわ」
友希那「現にゲーム音楽というものは私がいつも触れる音楽とは違った趣があって、興味深かった。新しい扉を開く、といえば大仰かもしれないけど、そんな気持ちだったわ」
友希那「だから節分で豆まきをするということにも有意義なものを見出せると思うの」
紗夜「……湊さんの言いたいことは分かりました。確かに私も普段聞かない音楽を聞いたことはいい刺激になったと思います」
紗夜「ですが、急にやると言われてもどこでやるんですか」
あこ「あ、今NFOを一緒にやるって話してませんでした!?」
燐子「ちょっと……違うみたいだよ、あこちゃん……」
友希那「ええ。燐子の言う通りゲームの話じゃないのよ、あこ」
あこ「そっかぁー、残念……」
リサ「……なんだったらウチでやる?」
友希那「そうね。リサがいいのであれば」
リサ「別にウチなら全然オッケーだよ☆ 友希那がしたいって言うならいつでもウェルカムウェルカムだよ」
友希那「そう言ってくれると助かるわ」
リサ「友希那が豆まきしたいんだってさ。それで、やる場所がないならウチでやらない? って話になったんだよー」
燐子「ま、豆まき……ですか」
あこ「おお! すごい楽しそー!」
紗夜「ですが、流石に豆をまくとなると迷惑になるんじゃないかしら。もちろんちゃんと後始末はしますけど……」
リサ「へーきへーき! せっかく友希那が提案してくれたんだし、それを無下には出来ないよ~☆」
紗夜「……今井さんがそう言うのであれば……」
燐子「じゃ、じゃあ……このまま今井さんの家に向かいますか……?」
友希那「そうね、そうしましょうか。それと途中でコンビニに寄って豆と鬼のお面も買っていく必要があるわね」
リサ「うわー、なかなか本気だね~友希那」
友希那「ロゼリアは何事にも全力よ」
あこ「じゃあまずコンビニだね!」
リサ「あ、ならアタシがバイトしてるコンビニで買ってく? そこならちょっとは融通効くし」
友希那「そうね、そうしましょうか」
あこ「よーし、それじゃあ行きましょー!」
燐子「あこちゃん……さっきまであんなに疲れてたのに元気いっぱいだね……」
リサ「あはは、楽しいことになると別のスイッチが入るのかもね」
あこ「みんなー! 早く早く~!」
リサ「はーい。じゃ、行こっか~」
――――――――――――
リサ「じゃ、ここでやろっか」
友希那「ええ。そうしましょう」
あこ「よーし、カッコイイ呪文唱えちゃうぞ~!」
紗夜「……豆まきなんてやるのはいつぶりかしら」
燐子「氷川さんは……あまり家ではこういうことを……しないんですか……?」
紗夜「いえ……節分の習わし自体は行います。ですが、毎年日菜が全部豆を食べてしまって、気付くとなくなっているんですよ」
リサ「あー、確かにヒナは豆まきをする意味が分かんないって食べちゃいそうだね」
紗夜「というより、節分は豆を食べるだけの行事だと思ってる節があるわね、あの子は……」
友希那「さて……じゃあ鬼の役なんだけど……」
燐子「…………」フイ
友希那「そんなに露骨に目をそらさなくても、流石にいきなり燐子にやってもらおうだなんて考えてないわ」
紗夜「ですが、鬼の役は誰だってやりたくないのでは?」
リサ「あ、誰も鬼役やらないんだったら、アタシがやるよ!」
紗夜「いいんですか? 場所まで提供してもらって鬼までやってもらうだなんて……」
リサ「友希那の頼みだしね~、それくらい全然いいって!」
友希那「……そうね。じゃあ悪いけど、リサにお願いしようかしら」
リサ「ん、オッケー☆」
リサ「えーっと……鬼のお面は……これだね。いやー、去年の売れ残りの一番ゴージャスなやつ貰えてよかったね」
友希那「……計画通り」
友希那「いいえ。何でもないわ」
リサ「そう? ……んしょっと……あー、髪結んだままだと付けづらいなーコレ。まーこんなもんか。よっし、それじゃあばっちこーい!」
あこ「ふふふ……冥府より来たりし鬼よ……この聖堕天使あこの闇の力で、えーと……ズババババーっとした豆を喰らうがいい! えいっ!」
リサ「よっ、ほっ、と……あはは、あこはいつも通りだね~。そんな豆じゃ当たらないよ~」
あこ「むむむ……我の闇の魔法を避けるとは……鬼の力、侮り難し!」
紗夜「……豆まきってもっと違うかけ声があるんじゃないかしら」
燐子「あこちゃんは……あこちゃんですから……」
紗夜「白金さんは投げないんですか?」
燐子「わたしは……お豆あたると……痛そうだなって思って……投げられないんです……」
紗夜「……まぁ確かに、意外と硬いものね」
リサ「あははは! 当たらないよ~!」
あこ「う~、だってリサ姉動きが速いんだもーん!」
友希那「どきなさい、あこ」
あこ「え? 友希那さん?」
友希那「……喰らいなさい、リサ……」
リサ「お、次は友希那~? そう簡単には当たらな――」
友希那「……はぁ!」ブンッ!
燐子「えっ」
紗夜「えっ」
あこ「えっ」
リサ「え、ちょっ……痛っ!?」
燐子(……全力……)
紗夜(思いっきり振りかぶって全力で投げたわね……)
あこ「あ、はい」
リサ「ちょ、ちょっと友希那!?」
友希那「リサ。先に謝らせてもらうわ」
リサ「な、何を……!?」
友希那「豆まきをしたいと言ったのは口実よ」
友希那「優しいあなたのことだもの、きっと豆まきを提案して最もらしいことを言えば鬼役まで引き受けてくれると信じていたわ」
燐子(『最もらしいこと』……って……言っちゃっていいのかな……)
紗夜(湊さんに共感した私は間違っていたのかしら……)
リサ「ほ、褒められてるし信じてくれてるのは嬉しいけど……それとこれとに何の関係があるの!?」
友希那「簡単な話よ」
友希那「今日、目が覚めた時から何かすごくモヤモヤした気持ちだったの。それで……リサに豆を――というか、何かをぶつけたいという衝動に駆られていたわ」
リサ「な、なにそれっ!?」
友希那「私も不思議に思ったわ……でも、何故か予感があるの」
友希那「再来週のバレンタインデー前後で、リサの交友関係の誰かしらのせいで恥ずかしい思いをしそうだっていう予感が!」
リサ「え、ほ、ホントにワケ分かんないよそれ!」
友希那「私にも分からない……でもこうしているととても晴れやかな気分になる。それは確かよ」
燐子(八つ当たり……)
紗夜(完全に八つ当たりですね……)
友希那「悪いわねっ、リサっ……」ブンッ、ブンッ
リサ「悪いと思うなら投げるのやめてよ友希那!?」
友希那「それは出来ない相談よ」
あこ「あこ……どうすれば……」
燐子「あこちゃん……そこにいると危ないから……こっちに……」
紗夜「ええ。今井さんと湊さんは二人の世界に入ってしまったようだから、巻き込まれると危険よ」
あこ「う、うん」
友希那「ごめんなさい、ごめんなさい、リサ……」
リサ「笑ってる! 謝ってるのになんでそんな晴れやかな笑顔なの!?」
友希那「何か新しい扉を開いたような気がするわ。今すぐにでも頂点に狂い咲けそうな気持ちよ」
燐子「それは……開いちゃいけない扉だと……思います……」
あこ「新しい扉ってなんですか?」
紗夜「……宇田川さんは生涯知らなくていいことよ」
友希那「ふふふふ……」ブンッ、ブンッ
リサ(うっ……よく分からないけどこのままだとやられっぱなしのままだ……)
リサ(……でも、もうすぐ友希那が持つ豆もなくなるし……そこで隙を付けば……)
友希那「……あら? もう豆がなくなったわね。一旦補充しないと――」
リサ「あっ、子猫」
友希那「どこかしら」
リサ(今だ)
リサ(友希那が周りをキョロキョロうかがってる隙に、この鬼のお面を……被せる……っ)
友希那「……え? きゃっ!?」
リサ「…………」
友希那「…………」
友希那「……ちょっと待って。争いは良くないことよ」
リサ「ダイジョブダイジョブ。これは争いじゃなくてさ、幼馴染のじゃれ合い? みたいなもんだからさ☆」
友希那「待って、笑顔で豆を袋ごと持つのはやめて。た、食べ物を粗末にしてはいけないって子供のころから言われてるでしょう?」
リサ「ヘーキヘーキ。これさ、やっぱ外でまくからさ、ちゃーんと殻付きの落花生じゃん?」
友希那「そ、そうだけど……紗夜、燐子、あこ! あなたたちからも何か――」
あこ「節分のおまめっておいしいよね! ついいっぱい食べちゃうんだ~」
紗夜「これは関東で本来使う炒った大豆ではないんですけどね」
あこ「でもでも、お家に帰ったらいつものおまめがあると思うし、これはこれでおいしーですよ!」
燐子「そうだね……でも冬の落花生はカロリーが高いから……あんまり食べ過ぎちゃ駄目だよ、あこちゃん……」
紗夜「ちなみに落花生は東北や北陸、北海道などの寒い地域では一般的に豆まきの豆として使われているようね」
あこ「へーそうなんですね~!」
友希那(私たちそっちのけで豆を食べてる……!?)
友希那「うっ……」
友希那(視線を戻すと嗜虐的な笑顔を浮かべたリサが……)
リサ「やっぱー、幼馴染として? そういうの、アタシも一緒に経験したいな~☆」
友希那「ま、待って、話を……話せば分かるわ!」
リサ「うん、そーだね。えーいっ!」
友希那「ちょ、待っ――痛っ! 痛いわ、リサ!」
リサ「あはは☆ もっと激しくいくよ~……!」
友希那(今まで見たことがないくらいにいい笑顔で豆を投じてくるリサ)
友希那(……私が発端で悪いのは確かだから……あんまり強くでれない……!)
友希那「ほ、ホントに痛いって……きゃっ!?」
リサ「っ、あ、あはは……友希那の声……やっぱいいね……」
友希那(あ、まずいこれリサに変なスイッチ入ったわ……)
リサ「あはははは!」
あこ「やっぱり友希那さんとリサ姉って仲良しだね、りんりん!」
燐子「……うん、そうだね(遠い目)」
紗夜「あまり見てはいけませんよ、宇田川さん」
友希那「待って落ち着いて! 本当に私が悪かったわ! だからお願い……!」
リサ「はぁ、はぁ……友希那の声……もっと聞かせて……?」
友希那(あ、これはもうダメな感じね……)
そんな友希那さんとリサ姉の豆まきは落花生がなくなるまで続きましたとさ
おわれ
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Entry ⇒ 2018.02.07 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】パスパレの初夢
大和麻弥「うーん、新年初ライブは大成功でしたね!」
若宮イヴ「はい! お客さん全員がとっても楽しそうな顔をしていました!」
氷川日菜「ねー! あたしもきゅるるるん♪ って感じですっごく楽しかったー! 帰ったらお姉ちゃんに褒めてもらおーっと!」
白鷺千聖「ふふ、みんな大はしゃぎね」
丸山彩「今年最初のライブだったもんね。やっぱり大盛況で終われたし、今年もいい一年になりそう!」
千聖「でも彩ちゃん、相変わらず音を外してる部分があったわよね」
彩「うっ……やっぱりバレてた……?」
彩「何度も練習してたんだけど、あの部分だけはどうしても外しちゃうんだよね……」
麻弥「いえ、彩さん、そんなに落ち込むことはないですよ! ああいう、生ライブだからこその失敗っていうのはなかなかいい味を出すことだってあるんですから!」
日菜「確かにそうかもねっ。MCでそれに突っ込まれるとワタワタする彩ちゃん、ネットでファンに大好評だし!」
彩「そ、その評価のされ方はちょっとヤだな……」
麻弥「ま、まぁまぁ、それはそれとしても、やっぱりライブの空気ならそれもいい演出の一つですよ!」
千聖「確かにそれは彩ちゃんの持ち味の一つかもね」
イヴ「他の人にはないアヤさんだけの強みですね!」
彩「……これ、褒められてるのかな……?」
麻弥「ほ、褒めてますよ! やっぱり彩さんはああじゃないとって方たちも一定数いますし!」
彩「うーん、それならいい……のかな……?」
彩「……フォローしてくれてありがとね、麻弥ちゃん。私も麻弥ちゃんがドラムでリズムを作ってくれると、すごく歌いやすいよっ」
千聖「そうね。同じリズム隊として、ライブに慣れている麻弥ちゃんがいてくれると心強いわ」
日菜「あたしもお姉ちゃんにしょっちゅうギターが走り過ぎって言われるけど、麻弥ちゃんの音を聞いてるとしっかり合わせられるな~」
イヴ「確かにその通りです! マヤさんは私たちパスパレのダイコクバシラですね!」
麻弥「み、みなさん……そう言ってもらえると嬉しいですね……フヘヘ」
麻弥「おっとと、フヘヘは禁止でしたね、千聖さん」
千聖「……いえ、私、改めて考えてみたの」
麻弥「はい? 何のですか?」
千聖「その麻弥ちゃんの笑い方も、麻弥ちゃんの大事な個性の一つなんじゃないかって」
麻弥「え、そうですかね……?」
千聖「ええ。だから禁止にするって言ったのは辞めにするわ。むしろパスパレのみんなで使っていくべきだと思うわ」
麻弥「……えっ!?」
彩「フヘヘ……次は音程外さないように、しっかり練習するね、みんなっ!」
千聖「フヘヘ……練習するのは大事だけど彩ちゃんはそのままでいいと思うわ」
イヴ「次のライブも頑張りましょうね、みなさん! フヘヘヘヘ!」
麻弥「え、ちょ……」
彩「フヘヘ」
千聖「フヘヘ」
日菜「フヘヘ」
イヴ「ブシドー! フヘヘ」
四人「フヘヘヘヘヘヘヘ」
麻弥「」
――――――――――
―――――――
――――
……
麻弥「……あれ……ユメ……?」
麻弥「…………」
麻弥「思いつく限りで最悪の初夢だ……また悪夢として見そうな絵面だった……」
麻弥(今年は本当に笑い方を直そう……『フヘヘ』はアイドルがやっちゃいけない……)
日菜「お姉ちゃーん! 一緒にパスパレが出てる年末特番見よー!」
氷川紗夜「……日菜、私の部屋に入る時はノックをしなさいと言っているでしょう」
日菜「あ、ごめんなさい」
紗夜「まぁいいわよ。いつもの事だし、可愛いあなたのすることだもの」
日菜「うん、ありがと、お姉ちゃん!」
紗夜「それで、一緒にテレビを見るんだっけ?」
日菜「そうそう! 彩ちゃんが体を張ったバラエティーがあるんだ! それ、一緒に見よっ!」
紗夜「はいはい。見る場所は……」
日菜「お姉ちゃんの部屋!」
紗夜「……だと思ったわ、まったく。今飲み物を用意してくるから、ちょっと待ってなさい」
日菜「はーいっ。えへへ、優しいお姉ちゃんだーい好き!」
紗夜「別に優しくはないわよ。可愛い日菜のためだもの、当然のことだわ」
日菜「えへへへへ~」
……………………
日菜「おおー、やっぱり彩ちゃん、体張ってる時が一番輝いてるな~」
紗夜「……あなたたち、アイドルバンドよね……? なんで超大盛かつ丼の早食いなんてやってるのよ……」
TV<マルヤマ......カツノウミヘケッシノダイブ......!
日菜「事務所の方針だって~」
紗夜「アイドル事務所よね、あなたが所属してるの……これが今の流行りなのかしら……」
TV<ウ......モウムリィ......
TV<アヤチャン......ムリッテイウノハウソツキノコトバナノヨ?
TV<シラサギノコトバガマルヤマヲカリタテル......! マルヤマ......カツノウミヘニドメノダイブ......!
日菜「千聖ちゃんもお仕事には厳しいなー」
紗夜「これそういう問題の話なの……?」
日菜「大丈夫大丈夫、割といつものことだから!」
紗夜「そう……芸能界って怖いところね」
紗夜「それより日菜、寒くはないかしら?」
日菜「んー? 大丈夫だよっ、お姉ちゃんにぴったりくっついてるから!」
紗夜「そう。それならいいわ。寒くなったらいつでも言いなさい。私の膝はあなたのために空けてあるから」
日菜「ほんとー!? じゃあお姉ちゃんの膝の上に座るー!」
紗夜「わ……っと。まったく、日菜はいつも甘えん坊ね」
日菜「えへへー、だってお姉ちゃんが甘やかしてくれるんだもんっ!」
紗夜「ふふ、仕方のない子ね」
日菜「お姉ちゃん、だーい好きっ!」
紗夜「私もよ、日菜」
――――――――――
―――――――
――――
……
日菜「んん……あれ……お姉ちゃん……?」
紗夜「こたつで寝てると風邪ひくわよ。それにあなた、テレビもつけっぱなしのまま寝て……まったく」
日菜「んー、おねえーちゃーん……」
紗夜「ちょっ、日菜……?」
日菜「えへへー……お姉ちゃんの膝枕……気持ちいーなー……」
紗夜「寝ぼけてる……まったく、しょうがないわね」
紗夜「……今日だけよ」ナデナデ
日菜「おねえちゃん……だーいすきぃー……えへへ……」
イヴ「…………」
イヴ「……来ましたね、ミスターダークブシドー……」
ミスターダークブシドー(以下MDB)「ふっ、まさか貴様が果たし状の差出人とはな……おとめ座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
イヴ「そのようなザレゴトを言えるのも今のうちだけです!」
イヴ「アナタとの奇怪なウンメイ……今日、ここで断ち切ります!」
MDB「いいだろう……刮目させてもらおう、貴様のブシドー!」
イヴ「志半ばで、無念に散ったアヤさんのセツジョク……ここで晴らさせてもらいます!」
MDB「痴れた事を! 所詮あの小娘は我がダークブシドーの試し切りでしかない!」
イヴ「減らず口をっ!」
――キィン
MDB「ふふふ……いきなりカタナを抜くとはな……私も我慢弱く落ち着きのない男だ……それでこそ我がライバル……!」
イヴ「アナタは……アナタは何故戦うのですか!?」
MDB「私は純粋に戦いを望む!」
MDB「貴様のブシドーとの戦いをっ!!」
MDB「そしてブシドーを超える、それこそが私の生きる証だ!!」
イヴ「そんなものの為に……!!」
イヴ「っ、クッ……」
MDB「貴様の圧倒的なブシドー、私はそれに心を奪われた……」
MDB「この気持ち、まさしく愛だ!」
イヴ「愛……!?」
MDB「だが愛を超越すれば、それはニクシミとなる……いきすぎた課金が生活を逼迫するように!!」
イヴ「それが分かっていながらナゼ!?」
MDB「課金に意味を問うか! ナンセンスだな!」
イヴ「アナタは歪んでいます!」
MDB「そうさせたのは限定☆4だ!」
MDB「排出率1.5%という確率だ!!」
MDB「だから私は貴様を倒す……パスパレファンのユーザーなどどうでもいい、己の意思で!」
イヴ「アナタだってユーザーの一人でしょうに!」
MDB「ならばこれはユーザーの声だ!!」
イヴ「違います! アナタは自分のエゴを押し通しているだけです!」
イヴ「その歪み……私が断ち切ります!!」
MDB「よく言った、ブシドー!!」
イヴ「ハァァァァ!!」
MDB「チェェストォォォ!!」
――ガギィン......
イヴ「…………」
MDB「…………」
イヴ「……私の勝ちです、ミスターダークブシドー」
MDB「くっ……なんとブザマな……!」
イヴ「アナタのニクシミに囚われたカタナでは、私を斬ることはできません」
イヴ「私のブシドーには、散って逝ったアヤさんの魂が……私の帰りを待つ仲間の気持ちがあるんです」
イヴ「アナタ一人のダークブシドーでは……私に届きません」
MDB「私は……この程度だというのか……!」
MDB「くっ……情けは無用……斬るがいい」
イヴ「いいえ、斬りません」
MDB「私をブジョクするか! 生き恥を晒すは耐えきれぬ!」
イヴ「…………」
MDB「ならば……ブシドーとは、死ぬことと見つけたりっ……!」
イヴ「させません!」キィン
MDB「なっ……!?」
イヴ「……セップクもさせません」
イヴ「アナタが死ぬことなど……天国のアヤさんは望んでいません」
イヴ「きっと……生きて、世のため人のためにその命を使ってほしい」
イヴ「そう思っているハズです」
MDB「っ……」
イヴ「もし生きる意味が必要なら、私がいつでもお相手します」ニコ
イヴ「だから、その命……残された人たちのために使ってください」
MDB「……あえて言う、覚えておくがいい!」
イヴ「はい。いつでも、挑戦をお待ちしてます」
イヴ「ふぅ……これにて一件落着、ですね!」
――――――――――
―――――――
――――
……
イヴ「…………」パチ
イヴ「……うーん、なんだかとてもいい夢を見たような気がします!」
イヴ「ニホンでは元旦の初夢に縁起がいいものを見れるといいことが起こるって言いますし、去年よりも素敵な一年になりそうですね!」
イヴ「よーし、今年はもっともっとニホン文化を学んで、色んな人と仲良くなれるように頑張りましょう!」
イヴ「ブシドー!」
彩「あー、あー……ううん、やっぱり上手く音程が取れないな……」
彩「これでダンスもしながらやらなくちゃいけないんだもんね……もっと練習しなきゃ」
彩「……~♪」
――ガチャ
千聖「……あら?」
彩「~♪ ……うん? あれ、千聖ちゃん」
千聖「どうしたの、彩ちゃん。今日はパスパレの活動はお休みじゃなかった?」
彩「あ、うん、そうなんだけど……ちょっとね、この前のライブで失敗しちゃったところがあったから、自主練しに来たんだ」
千聖「そうだったの……」
彩「千聖ちゃんはどうしたの?」
千聖「私も彩ちゃんと同じ理由よ。他のお仕事があったんだけど、それが延期になったから少し体を動かしていこうと思って」
彩「そうだったんだ。じゃあ一緒にレッスンしようよ!」
千聖「そうね。折角だし、そうしましょうか」
彩「それじゃあ千聖ちゃん、ちょっと私の歌とダンス、見てもらっていい?」
千聖「ええ、良いわよ」
彩「それじゃあ……」
……………………
千聖「うーん、最初の出だしはほとんど完璧だったんだけど……二番の変調するところから、ちょっとずつ体がブレているわね」
千聖「それに引きずられて音程も少し外していたわ」
彩「あーやっぱり……どうしてもそこが苦手なんだよね……」
千聖「でも一番はしっかり出来ているんだし、ひょっとして技術的な問題じゃなくて体力的な問題なんじゃないかしら」
彩「うん……確かにだんだん息が上がっちゃって……余裕がなくなってきたところで変調するからそこでぎこちなくなるんだよね……」
千聖「なら体力トレーニングをするのが先かしらね」
彩「それは分かってるんだけど……一人だとあんまり身が入らなくって」
彩「みんなとのレッスンの時はやっぱり全体の動きを合わせなきゃだからそういう時間もなくて……」
千聖「そうね……でも今日は私と二人の自主練なんだし、ちょっと頑張りましょうか」
彩「うん……ごめんね、私のレッスンに千聖ちゃんを付き合わせちゃって」
千聖「ああ、それなら大丈夫よ。ついでに私のレッスンにもなることをすればいいんだし」
彩「え?」
千聖「やっぱり歌を歌うのには肺活量が大事よね?」
彩「あ、うん、そうだね」
千聖「で、私、今度の映画でキスシーンがあるのよ」
彩「うん……うん!?」
彩「え、いや、それは……」
千聖「さぁ、彩ちゃん」
彩「ま、待って待って! 私、ずっとダンスとかしてて汗臭いし、せめて歯を磨かせて!!」
千聖「大丈夫よ。大丈夫……」
彩「大丈夫じゃない目をしてるよ千聖ちゃん!? 待って、私の両肩に手を置かないで!?」
千聖「いつもしてるじゃない」
彩「そっ、そうだけどさ……流石にこんなところで――んむ!?」
千聖「ん――」
彩(あああレッスンルームで千聖ちゃんとキスしてる……!)
彩(いけない事なのに頭がクラクラして抗えない……!!)
千聖「――ん」
彩「ぷはっ、ち、千聖ちゃん、強引すぎるよ」
千聖「ごめんなさい、彩ちゃんが可愛くてつい……」
彩「もう……千聖ちゃんなんて知らないっ」
千聖「ああ、拗ねないで、彩ちゃん。今度は優しくするから……ね?」
彩「……それなら……許してあげる」
千聖「それじゃあ彩ちゃん……」
彩「うん……ん――」
――――――――――
―――――――
――――
……
千聖「…………」ムク
千聖「…………」
千聖「……新年早々、なんて夢を見るのかしら……」
千聖「欲求不満なのかしらね、私って……」
彩「うーん……千聖ちゃーん……」
千聖「……ああ……そう言えば昨日は彩ちゃんが泊まりに来てたわね」
彩「流石に……それは私に入らないよ……マズイって……」
千聖「……くす、どんな夢を見てるのかしら」
彩「アイドルがピッチリの全身ピンクタイツは……絵的にも……版権的にも危ない……よ……」
千聖「彩ちゃんの夢にも私が出てきているのかしらね。そうだと嬉しいわ」
千聖「……私も二度寝しよう」
千聖(私はもう一度ベッドに横になって、少しうなされてる彩ちゃんを抱き枕にして、目をつぶる)
千聖「今年もよろしくね……彩ちゃん……」
彩「タイトルは……やまあやちゃん……? それもう完全に……宣戦布告だよ……」
おわり
夢なんて支離滅裂だしちょっとくらいトンデモ展開でもいいだろう
今日は「ゆら・ゆら Ring-Dong-Dance」の発売日だしパスパレファンの人も怒らないだろう
そんな安易な考えで書きましたすいませんでした。
僕はパスパレで彩ちゃんが一番好きです。
HTML化依頼出してきます。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516168574/
Entry ⇒ 2018.01.18 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】戸山香澄「沙綾とデートしてる気分になれるCD」
※キャラ崩壊してます
香澄「そうそう! 私たちでさ、色んな場面の台本作って、沙綾に収録してもらおうよ!」
たえ「うん、それいい。香澄ってやっぱり天才だと思う」
香澄「やだなぁ、そんなに褒めないでよ~えへへ」
有咲「待て待て待て。そう簡単に台本って言うけどなぁ、お前、実際にそういうの書いたことあんのかよ?」
香澄「ないっ!」
有咲「自信もって言う事じゃねーだろ!」
香澄「例えば何もやることがない休日にさ、『あー暇だなぁー、誰かから電話でも来ないかなー』って考えてたら、スマホが鳴るの。電話の着信音ね」
香澄「それでね、誰からだろって画面を見たら『?さーや?』ってディスプレイに表示されてるの」
有咲「…………」
香澄「……ね?」
有咲「……香澄、実はお前頭いいだろ」
有咲「その後の展開が次から次へと脳内に浮かんできやがる」
香澄「え~そんなぁ、有咲ほどじゃないよ~えへへへ」
たえ「一緒に花園ランド建設したい」
有咲「つまり浮かんできたこれらを文章に起こせば……」
香澄「そう、台本になるっ!」
有咲「天才かよ」
たえ「天才だね」
りみ「天才だよ」
香澄「もーそんなに褒められたら照れちゃうよ~えへへへへ」
たえ「じゃあ、今日の蔵練(蔵で練習の略)はそういう方向で」
有咲「全員で一回書いてみてから合せてみるってことで」
りみ「頑張りますっ」
香澄「よーし、それじゃあ今日も元気にやってこーっ!」
四人「ポピパっ、ピポパっ、ポピパパピポパー!」
――1時間後――
香澄「みんな、出来たーっ?」
たえ「私は出来たよ」
りみ「私もっ」
有咲「準備オッケー」
香澄「よーっし、そしたらまず私の考えたデートから見せるねっ!」
香澄「舞台は……ショッピングモールっ! 沙綾と一緒にお買い物~!」
山吹沙綾「あ、おーい!」
沙綾「ごめんね、ちょっと遅れちゃって。ちょっと純がぐずっちゃっててさ……」
沙綾「え、そんなに待ってないって? ……そっか、じゃあ君もさっき来たばっかりなんだ」
沙綾「そっか、私とのデートはそんなに楽しみじゃないから、ちょっと遅れて来てもいいかって気持ちなんだね……」
沙綾「…………」
沙綾「……ぷっ、ごめんウソウソ! そんなに慌てないでって!」
沙綾「そんなこと言ったら遅れた私だって楽しみにしてなかったってことになっちゃうって」
沙綾「え? ホントは楽しみすぎて30分前からずっとここで待ってた?」
沙綾「……あ、あはは、そうなんだ。……そう言われちゃうと私も嬉しいんだけど……ちょっと照れるな……」
沙綾「……うん、ありがと。待たせちゃってごめんね? さ、行こっかっ」
――――――――――
有咲「あー、いいなぁこれ」
りみ「ちょっとお姉ちゃんっぽい沙綾ちゃんにからかわれるのっていいよね……」
たえ「その後にストレートなことを言われて照れてるのもまた好印象。ポイント高いよ」
――――――――――
沙綾「ごめんね、デートなのに私の買い出しに付き合ってもらうみたいな感じになっちゃって」
沙綾「……いや、私とならどこで何してても楽しいって言ってくれるのは嬉しいんだけど……ちょっと人が多いとこだと反応に困るかな」
沙綾「うわっ、と……やっぱり休みの日だと人が多いね~。また人にぶつかりそうになっちゃったよ」
沙綾「うん? どうしたの、何か言いたげだけど」
沙綾「……ははーん」
沙綾「あーそうだねー、人が多いからね、はぐれたら大変だねー」
沙綾「……うん、うん。それで?」
沙綾「……察してほしい? うーん、何をかなぁ? 別にはぐれても電話すればすぐに合流できるよ?」
沙綾「……ふふ、そうだね。頻繁に電話してたら確かにバッテリー減っちゃうね」
沙綾「うん、それじゃあはぐれないように、その対策として……」
沙綾「手、つなごっか♪」
沙綾「……どうして君がお礼を言うの?」
沙綾「なんとなくって……ふふ、変なの」
沙綾「え、私の買い出し? ああ、それは最後でいいよ」
沙綾「荷物なんて持っちゃったら、手を繋げなくて君とはぐれちゃうかもしれないしね?」
沙綾「そうだよー、君から言い出したことなんだから。はぐれないようにちゃーんと、しっかり手を握っててね」
沙綾「……私が綺麗で柔らかい手をしてるって?」
沙綾「ふーん、君は私の手を握ってそういうこと考えてるんだ~」
沙綾「あはは、ごめんごめん、からかっただけだよ」
沙綾「……ありがとね。私ってお店の手伝いしたりドラム叩いたりしてるからさ、あんまり女の子らしい手、してないなってたまに思う時あるんだよね」
沙綾「だからそういうとこ褒められるとちょっと嬉しいかなー、なんて」
沙綾「……いや、だからさ、あんまり人が多いところで私の手が大好きって言われても……反応に困るってば……もう」
――――――――――
たえ「沙綾の手、すごく綺麗で私は大好き」
りみ「握るとなんだか安心する素敵な手だよ、沙綾ちゃん!」
有咲「なんで沙綾と手を繋いでるとあんなに安らぐんだろうな」
――――――――――
沙綾「うーん、それは良くないなー」
沙綾「……色々種類があるからよく分からない? よーし、それなら今日は私が君をコーディートしてあげよう」
沙綾「私好みのいい感じに仕立て上げてあげるね?」
沙綾「ほらほら、そんな遠慮しないで大丈夫だよ」
沙綾「お店もいっぱいあるし、この際だから色んな格好に挑戦してみよう」
沙綾「じゃ、最初はあのお店からね」
………………
沙綾「いやー、色んなコーデ試したねぇ~」
沙綾「え? 貴重な体験だったけどちょっと疲れた?」
沙綾「あはは、ダメだぞーあのくらいで疲れてちゃ。なんだったら今度、ドラム教えようか? 叩いてると体力つくよ?」
沙綾「……うん、君の言う通り、手取り足取り教えてあげるよ?」
沙綾「ふふ、自分から言い出したのに赤くなってる。何を想像したのかなぁ?」
沙綾「あははは、やっぱり面白いよね、君って」
沙綾「……そうだね。そろそろ私の買い出し、済まそっか。期待してるよ、荷物持ち♪」
………………
沙綾「わざわざごめんね、ウチまで荷物持ってもらっちゃって……」
沙綾「え? これくらい余裕、いい運動になったって?」
沙綾「ふふ、そっか。ありがと」
沙綾「折角だし、ちょっと上がってお茶でも――ってああ、また純と紗南が喧嘩してる……」
沙綾「今日は遠慮しとくって? ……うん、ホントにごめんね。いつも私の都合ばっかりに振り回させちゃって……」
沙綾「ううん、気にしてないって言ってくれるのはありがたいんだけどね、やっぱり悪いなって」
沙綾「……え? 次の休み? 次は……来週の木曜かなぁ、バンド練習も店番もない日は」
沙綾「うん? チケット? 野球観戦……ああ!」
沙綾「……覚えてたんだね、私が好きなチーム」
沙綾「そんな、沙綾のことなら何でも覚えてるって……恥ずかしいなら言わなきゃいいのに」
沙綾「顔が赤いのは夕日のせいだって? ……ふふ、そうかもしれないね」
沙綾「ありがと。じゃあ……来週の木曜、楽しみにしてるね」
沙綾「……うん、またねっ!」
――――――――――
―――――――
――――
……
りみ「いい……」
有咲「いいな……」
たえ「私も一日中沙綾の荷物持ちしたい」
香澄「ね! ホントそれだよ!」
有咲「沙綾の姉属性がいかんなく発揮されていた」
りみ「やっぱり沙綾ちゃんはお姉ちゃん属性だよねっ」
香澄「お、そういうりみりんも私と同じ路線?」
りみ「う、うん……多分……。香澄ちゃんの後だとちょっと自信ないけど……」
たえ「大丈夫、りみ」
りみ「おたえちゃん……?」
たえ「足りないものがあればみんなで補う。いいものがあればみんなで褒めあう。それがポピパだから」
有咲「まぁ……おたえの言う通りだな」
香澄「そうだよりみりん!」
りみ「みんな……ありがとうっ……」
りみ「それじゃあ私の台本、見せるね……!」
沙綾「あ、おはよー。ありがとね、店番手伝いに来てくれて」
沙綾「うん、そうなんだ。たまにはお父さんとお母さんにも羽を休めてもらいたいからさ、一日まるまる休んでもらって、日帰りだけど温泉旅行にね」
沙綾「まぁ……純と紗南もいるからもしかしたら余計に疲れるかもしれないけど」
沙綾「ふふ、昨日の夜、すごく楽しそうに準備してたなー二人とも」
沙綾「今日の朝もね、いつもよりずっと早い時間に起きなきゃいけないのに、私が起こす前にしっかり起きてきてさ」
沙綾「いっつもそれくらいすんなり起きて来てほしいなーってちょっと思っちゃった」
沙綾「うん? どうしたの、私の顔をじっと見て。何かゴミでも付いてる?」
沙綾「……すごく優しい顔をしてた?」
沙綾「そうかな……私はいつも通りなつもりだったけど……」
沙綾「綺麗で見惚れてた、って……そ、それはちょっと言い過ぎじゃないかな……あはは」
沙綾「さ、そんなこと言ってないで、そろそろ準備済ましちゃおっか」
沙綾「今日はそこまで忙しくならないとは思うし、何回か手伝って貰ったことはあるから、勝手は分かるよね?」
沙綾「……そんな不安そうな顔しないでも平気だよ。私も出来る範囲でサポートするからさ」
沙綾「流石にパン焼いたりもするからずっとって訳にはいかないけどね」
沙綾「出来るだけ迷惑かけないよう頑張る? 大丈夫だよ、来てもらえただけ十分助かってるからさ」
沙綾「今日は二人だけだけど、頑張ろうね!」
――――――――――
香澄「沙綾と二人っきりでお店番!」
有咲「そういうのもあるのか……!」
たえ「素晴らしい」
――――――――――
沙綾「いらっしゃいませー!」
沙綾「あ、お隣の理髪店の……どうも、おはようございます」
沙綾「あはは、そうなんですよ、たまには温泉にでも行ってゆっくり休んできてって……ええ」
沙綾「大丈夫ですよ、一人じゃないですから」
沙綾「ああいや、純と紗南も温泉に一緒に行ってるので……はい、ヘルプを頼んであるんですよ。カウンターにいる……」
沙綾「え? え、ええまぁ……そうですね。恋人……ですね」
沙綾「も、もう、からかわないで下さいって。パンはいつものでいいですかっ?」
沙綾「はい、それじゃあこれとこれと……はい、どうぞ。カウンターでお会計お願いします」
沙綾「ん?」
沙綾「ちょ、ちょっとおじさん、『沙綾ちゃんみたいな気立てのいいべっぴんさん、逃がすんじゃないぞ』じゃないですよ、何言ってるんですか!」
沙綾「ああもう、君も君で真顔で頷いてないで! 会計済ませて!」
沙綾「ほらっ、もう買い物が終わったなら早く行ってくださいってば!」
沙綾「はいはい、またのご利用お待ちしておりますっ!」
沙綾「ご、ごめんね、隣の理髪店の店主さんなんだけど……いい人なんだよ?」
沙綾「ただちょっとお喋り好きというか、人をからかうのが好きっていうか……」
沙綾「だから君もそんなに真面目に話を受けなくていいからね?」
沙綾「……はい、恥ずかしいセリフ言うの禁止」
沙綾「今、絶対なにか照れくさくなること言おうとしてたよね?」
沙綾「何で分かったって……そりゃ、君の事だもん、見てれば分かるよ」
沙綾「……え? 今のセリフも恥ずかしい?」
沙綾「…………」
沙綾「ほ、ほら、そんなこと言ってないで、またお客さん来るよ!」
――――――――――
たえ「普段はお姉ちゃんしてる沙綾より年上の人」
有咲「その存在により沙綾もまた年頃の女の子なんだということを際立たせる」
香澄「これが……りみりんのやり方……!」
――――――――――
沙綾「やっぱりこの時間になるとお客さん多いなぁ……」
沙綾「ごめん、お客さん多いんだけど、ちょっとこっち一人で任せてても平気? そろそろパンが焼き上がるからそっちの面倒見なくちゃいけないんだ」
沙綾「……バッチリ任せろって? ふふ……うん、ありがと。じゃあちょっとお願いね」
沙綾「……さってと、パンの様子は……うん、いい具合に焼き上がって来てる」
沙綾「ここの見極めが大事なんだよね……まだお父さんほど慣れてないから目を離せない……」
沙綾「……あっちは大丈夫、かな」
沙綾「…………」
沙綾「バッチリ任せろ、か。あはは、カッコつけてたなぁ」
沙綾「……うん、きっと大丈夫だよね。今までだって私を裏切るようなこと、したことないもんね」
沙綾「だから私はこっちに専念できるよ」
沙綾「朝のおじさんの言葉じゃないけど、将来こんな生活を送るっていうのも……悪くないかもね」
沙綾「なんて。……ふふ」
……………………
沙綾「おつかれー! 今日は本当にありがとね、手伝ってくれて!」
沙綾「……いやいや、大したことだって。朝から晩まで付き合って貰っちゃって……本当に助かったよ」
沙綾「何か私にして欲しいこととかある? 限度はあるけど、今なら大抵のことは引き受けるよ」
沙綾「……え? 私の焼いたパンが食べたいって……それだけでいいの?」
沙綾「……私のパンは『それだけ』で済ませられるものじゃない?」
沙綾「…………」
沙綾「……あ、うん。私の焼くパンについてそんなに熱く語られるとは思わなかったかな」
沙綾「引いてないってば。ちょっと驚きはしたけど、そこまで好きって言ってくれるのは嬉しい……かな」
沙綾「よーし、それじゃあちょっと待っててね。腕によりをかけて作っちゃうからっ」
沙綾「本当、甘いもの好きだよね」
沙綾「いやいや、馬鹿にしてないって。そういうところ、可愛いと思うよ」
沙綾「えー? 私の方が可愛いって? 特にエプロン姿にポニーテールがいい?」
沙綾「あはは、ありがと。君にそうやって褒めてもらえると嬉しいよ」
沙綾「んー? からかってないって、本心だってば」
沙綾「……恥ずかしくなるなら言わなきゃいいのに。おかしいんだ」
沙綾「……今日は本当にありがとうね。君がいてくれて、本当に助かったよ」
沙綾「また、さ。こういう時があったら……頼りにしてもいい?」
沙綾「……いつでもオッケー?」
沙綾「うん、そう言ってくれると嬉しいなっ」
沙綾「それじゃ、もうちょっとゆっくりしててね。あ・な・た♪」
沙綾「……なんてねっ!」
――――――――――
―――――――
――――
……
たえ「Hey、S〇ri。沙綾と結婚する方法は?」
有咲「オーケーグ〇グル。山吹ベーカリー 永久就職 方法」
りみ「え、えぇ!? どうしたの!?」
香澄「りみりん、止めないであげてっ。あれは必然なの……仕方のないことなの」
香澄「沙綾と一日二人っきりでお店番、それはもう結婚しているのと同じっ!」
香澄「自信がないなんて言っておきながらこんな爆弾を放り込んでくるなんて……りみりん、恐ろしい娘ッ!」
たえ「『ありません』って返ってくる。これ壊れてる」
有咲「はぁ? アルバイトじゃなくて私は人生まるごと終身雇用が望みなんだけど? 天下の検索機能様も使えねーな」
たえ「大変素晴らしいお手並みでした」
有咲「りみはもっと自信持っていいと思うぞ」
香澄「その通りだよ、りみりん!」
りみ「みんな……ありがとう……」
たえ「それじゃあ次は私の番」
有咲「おたえか……どんな台本が来るのかまるで分からん」
香澄「楽しみだなー♪」
りみ「おたえちゃん、お願いします」
たえ「うん。それじゃあ話すね」
沙綾「あはは、相変わらず君の家はウサギ多いねー」
沙綾「来るたびに懐かれてきてるし、私の顔、覚えてくれてるのかなぁ?」
沙綾「よしよし、いい子だね~。……うん? どうかした?」
沙綾「……あー、さてはヤキモチ妬いてるなー?」
沙綾「あはは、愛いやつめ~、なでなでしてあげよう」
沙綾「……君、顔はそっぽ向けてるのに全然嫌がらないんだね」
沙綾「沙綾が撫でたいなら仕方ないって? んー、それじゃあ嫌なのに我慢してるんだね……そっか、気を遣わせちゃってごめんね……」
沙綾「…………」
沙綾「……っ」
沙綾「くっ……あは、あははは! 珍しいくらい慌てて弁解してたねっ」
沙綾「うん、冗談」
沙綾「……ごめんってそんなに拗ねないでって」
沙綾「え? なに? 褒めてくれないと機嫌直んない?」
沙綾「はいはい、ウサギより君の方がずっと可愛いよ」
沙綾「あ、これは微妙だった? ごめんごめん」
――――――――――
りみ「沙綾ちゃんに手玉に取られてるよぉ」
有咲「この掌で踊らされてる感、たまんねーな」
香澄「沙綾の掌の上だったら何でもダンスっちゃうよ!」
――――――――――
沙綾「お邪魔しま……って、まーたなんか君の部屋散らかってない?」
沙綾「この前一緒に掃除したばっかりなのに……あーもう、飲みかけのものは飲まないんだったらすぐ捨てるっ」
沙綾「はいはい、ベッド周りに置きっぱなしの本も本棚に戻してー」
沙綾「またすぐ読むから? そんな遠い距離じゃないんだから、面倒くさがらずにちゃんと戻しなさい」
沙綾「……ウサギのエサもまた新しい種類の買ったでしょ、これ。もうっ、可愛いのは分かるけどちゃんと与え切ってから買わないと古いのが悪くなるよ?」
沙綾「ああもう、紙くずがゴミ箱からこぼれてる。投げ入れようとして入らなかったのをそのままにしないっ」
沙綾「……ふぅ。うん、とりあえずはこんなもんでいいかな……っと」
沙綾「いつも悪いねって、悪いと思うならちゃんと部屋の掃除をしなさい」
沙綾「沙綾がいるとつい甘えちゃう? ああそうですか、私が悪いんだね」
沙綾「うーん……私がいると君の為にならないんじゃ、ちょっと距離を置いた方が――」
沙綾「わっ、びっくりした。どうしたのいきなり……五体投地する勢いで頭下げて」
沙綾「今度から部屋はちゃんと片付けて散らかさないからそれだけは勘弁?」
沙綾「私も離れたくないけどなぁ、君をダメにするのも心苦しいからなー」
沙綾「……くすっ、冗談だよ」
沙綾「距離は置かないから、今日からちゃーんと部屋の掃除はしっかりすること」
沙綾「ね?」
沙綾「……うん、良い返事だっ。偉いぞー、ご褒美になでなでしてあげよう」
沙綾「……今度も全く嫌がらないんだね。なんだか今日の君は一段と甘えん坊さんだねぇ」
沙綾「え? たまにはそういう気分になるって?」
沙綾「うーん、これたまにかなぁ、割とよくあるような気がするけど……」
沙綾「…………」
沙綾「言いたくないなら言わなくても大丈夫だよ? でも、もし何か胸の中につっかえてるものがあるならさ、吐き出しちゃいなよ」
沙綾「……カッコ悪いからやだ?」
沙綾「ふふ、平気だよ。私はずっと、君の味方だから」
沙綾「カッコ悪いなんて思わないよ。むしろ、信頼してくれてるんだなって嬉しくなる」
沙綾「……うん、いいよ。しばらく撫でててあげるから」
沙綾「…………」
沙綾「…………」
沙綾「……ん?」
沙綾「……うん、うん……」
沙綾「…………」
沙綾「うん。……そっか」
沙綾「バイトで失敗しちゃって、お客さんと社員さんにすごい怒られちゃったんだね」
沙綾「だから今日は、会った時からちょっと元気なかったんだ」
沙綾「私だって店番してる時に失敗することもあるし、お客さんに怒られることもあったよ」
沙綾「嫌だよね、そういうこと」
沙綾「『なんでそんなに怒られなくちゃいけないんだ』って思うこともあるよね」
沙綾「……うん、ずっとそう思ってたけどちゃんと謝って、しっかり後始末できたんだ」
沙綾「偉いね、ちゃんと頑張れたね」
沙綾「……ふふ」
沙綾「あ、ううん、ごめんね。いつもこうやってストレートには甘えてこないからさ」
沙綾「素直な君、可愛いなぁって」
沙綾「……もう大丈夫? うん、分かった」
沙綾「お見苦しいところをお見せしました? あはは、いいっていいって」
沙綾「さっきも言ったけどさ……弱ってるところを見せてくれるのはさ、信頼の表れって感じがして嬉しいからさ」
沙綾「あっ、でもだからって部屋の掃除をちゃんとしないのはダメだからねっ」
沙綾「ちゃーんとやることやる人しか私は甘やかしません。抗議は一切認めません。分かった?」
沙綾「……はい、よろしい」
沙綾「え? 次の機会には君が私を甘やかすって?」
沙綾「うーん、あんまり君が甘やかしてくれるとこ想像できないけどなぁ……」
沙綾「あはは、ごめんごめん。それじゃあ、次の機会に期待してるよっ」
――――――――――
―――――――
――――
……
香澄「…………」
りみ「…………」
有咲「…………」
たえ「あれ、どうしたの三人とも。おーい」
香澄「……はっ!? ごめん、沙綾にひたすら甘やかされる世界からなかなか帰ってこれなかったっ!」
たえ「ああ、分かる。よくあるよね、そういう時って」
香澄「危なかったよぉ、膝枕+頭なでなでは強敵だったよぉ……」
りみ「……ぎゅってしながらなでなでしてほしいなぁ」
有咲「……えへへ」
香澄「ホントだ! 二人ともいい笑顔すっごくポヤポヤしてる!」
たえ「こういう時は……えいっ、全力腕つねり」
有咲「痛っ!?」
たえ「おはよう、有咲」
有咲「あ、あれ、沙綾は……はっ、アレ夢か!?」
香澄「りみりーん、朝だよーっ! えい、イヴちゃん直伝ハグ攻撃っ!」
りみ「はわっ……あれ、沙綾ちゃんどこ……」
たえ「幸せな夢の中だよ、りみ」
りみ「あっ……そっかぁ。台本の読み合せ中だったね」
たえ「気のせいだと思う」
香澄「気のせいだよ有咲っ!」
りみ「か、香澄ちゃん、そろそろ離して欲しいな……」
有咲「いやぜってー気のせいじゃねーだろ!?」
香澄「まぁまぁ。それより次、有咲の番だよっ」
たえ「トリだね。楽しみ」
有咲「え、あー、あー……そうだな」
りみ「どうしたの、有咲ちゃん?」
たえ「有咲も自信がない系? 勇気がないなら私があげようか?」
香澄「ハピネスっ! ハピィーマージカルーっ♪」
有咲「それ違うバンドの歌だろっ!」
有咲「私は自信がないっていうかだな……ちょっと被ったなってとこがあってだな……」
香澄「大丈夫大丈夫っ! 人の数だけそれぞれの愛があるんだよ、有咲っ!」
りみ「そうだよ有咲ちゃん。きっと有咲ちゃんにしか表現できない沙綾ちゃんの素晴らしさがあるよっ」
たえ「こーえにー出せーばどこでーもでーきーるー♪」
有咲「おたえはいつまで歌ってんだよ!? ああもう、とにかく私の台本読むぞっ!!」
沙綾「はい、いらっしゃいませ~」
沙綾「お店の手伝いとかはたまにしてもらってるけど、私の部屋に君が来るのってちょっと久しぶりだね」
沙綾「今お茶淹れてくるから、適当に座って待っててよ」
沙綾「うん? よく片付いてるって?」
沙綾「いやぁ、それは君の部屋が散らかってるだけなんじゃないかなぁ?」
沙綾「最近は真面目に片付けてる? ホントかなぁ……」
沙綾「はいはい。それじゃあちょっと待っててね」
――――――――――
香澄「ほうほう、こちらは沙綾の部屋でのデートですな」
たえ「沙綾の本拠地に攻め入るなんて大胆。すごい」
りみ「沙綾ちゃんのお部屋って安心する匂いがするよね」
――――――――――
沙綾「はい、粗茶ですが……なーんて」
沙綾「どうしたの、キョロキョロして。挙動不審だね」
沙綾「何でもない? ふーん、それならいいけど」
沙綾「それにしても、こうやって二人でゆっくりするのも久しぶりな気がするなぁ」
沙綾「最近はお店の手伝いも忙しかったし、ライブもあったからさ」
沙綾「気が付いたら一か月経ってた! みたいな感じで」
沙綾「……君は寂しかったかな? 最近私となかなか会えなくて」
沙綾「……そっか、良かった。私と一緒だね」
沙綾「うん。私も。私もね、ちょっと……寂しかったかな」
沙綾「やることが次から次へと出てきて、ちょっとへこたれそうな時とかは特にね……」
沙綾「ああごめんごめん! 久しぶりにこうやってゆっくり出来るのに辛気臭い話しちゃったね!」
沙綾「……別に私は無理なんてしてないって。まぁそりゃ、大変は大変だったけど、終わってみればそんなでもなかったかなって」
沙綾「それは無理をして倒れる人が言うセリフ? いやいや、大丈夫大丈夫、私はまだそんな歳じゃないって」
沙綾「いやまぁ、確かにバンドのみんなにもお父さんお母さんにもそんな風なこと言われたけどさ」
沙綾「そうやって心配してくれるだけで私は嬉しいよ」
沙綾「……それだけじゃ満足できないって? 私に頼りにされたい?」
沙綾「あはは、私はもう十分、君のことを頼りにしてるよ」
沙綾「これ以上? これ以上って言われてもなぁ……例えばどんな風に?」
沙綾「肩もみ? ああうん、確かに肩がちょっと重いかなって気がしないこともないけど……」
沙綾「あ、本当にやる気だったんだ」
沙綾「あー……それじゃあうん、ちょっとお願いしようかな?」
沙綾「ん? 普段はそうだね、どちらかというとお父さんに肩たたきとかしてあげる側だね」
沙綾「いつもお疲れ様……か。うん、ありがと」
沙綾「あ、あはは、あんまり慣れてないから変な声出ちゃった」
沙綾「ん、んー……首の付け根辺り押されるの、ちょっと気持ちいいかも……」
沙綾「へー……人間は頭が重いからここがコリやすいんだ」
沙綾「っ、あ、あっ……そのポイントちょっと弱いかも」
沙綾「んん……次は肩の付け根?」
沙綾「ふぁ……ああ、そこイイ……」
沙綾「ああぁ……すごい気持ちいい……」
沙綾「痛くないかって? ううん、全然平気だよ……」
沙綾「君の手、優しく私を触ってくれるから……すごく心地いいかも」
沙綾「あっ、すご、肩甲骨の辺り……」
沙綾「んぅ、ああ、そこグリグリされるのイイ……すごいよっ……」
――――――――――
香澄「…………」
りみ「わぁ……」ドキドキ
たえ「……ふぅ」
――――――――――
沙綾「んー! あはは、なんかすっごく肩が軽いや」
沙綾「……うん。自分が思ってるよりも疲れてたみたいだね、私」
沙綾「その、ごめんね。本当はちょっと強がってたかも」
沙綾「このくらいみんなやってるんだ、疲れてるけど疲れたなんて絶対に言わないぞっ……みたいな?」
沙綾「うん、そうだね、君の言う通りだよ。倒れてからじゃ遅いもんね。そんなこと私が一番、身を持って経験してるのに」
沙綾「……ふふ」
沙綾「ううん、どうもしないよ。ただ、私って幸せ者だなーって」
沙綾「バンドのみんなにも、家族にも心配してもらえて、君にもこんなに大事にしてもらえて」
沙綾「そう思ったら自然と笑えてきちゃったんだ」
沙綾「だからみんなに、もっともっと尽くしたいなーなんて」
沙綾「はいはい、分かってますって。山吹沙綾、頑張りすぎないよう頑張りますっ。……なーんて」
沙綾「……ねぇ、ちょっとだけワガママ、聞いてくれる?」
沙綾「何でも聞くって……いいのかなーそんな安請負しちゃって」
沙綾「んー、じゃあ……手始めにハロハピのミッシェルをポピパに引き抜いて来てもらおうかな?」
沙綾「……あはは、ごめんごめん。そんな無理難題は言わないよ」
沙綾「だからさ……うーん、普段言い慣れてないから恥ずかしいな……」
沙綾「うん、分かった。じゃあストレートに言うね?」
沙綾「今日から明日の夜まで、私にずっと付きっきりで甘やかして欲しいな……」
沙綾「…………」
沙綾「……だめ?」
沙綾「…………」
沙綾「……うん。ありがと」
沙綾「え、顔が赤いって? それは夕日のせいでーす。というか、そういう君の顔も赤いよ」
沙綾「はいはい、夕日のせいね、夕日のせい」
沙綾「ん、荷物取りに一回家に戻るんだね、了解。その間にお客さん用のお布団とか用意しとくね」
沙綾「……でも、寂しいから早く戻って来てほしいかな」
沙綾「え? あ、聞こえてた? あ、あはは……気にしないで焦らずにね?」
……………………
沙綾「……おーい」
沙綾「…………」
沙綾「反応がない。寝たかな?」
沙綾「……正面切ってなかなか言えないから、こんな形になっちゃうけど……いつもありがとうね」
沙綾「君がいてくれて本当に良かった」
沙綾「いつも私のことを助けてくれてありがとう」
沙綾「……大好きだよ」
沙綾「わっ」
沙綾「……寝返り打っただけかな? 起きてたら絶対何かしら反応するもんね」
沙綾「それにしても、くす……可愛い寝顔」
沙綾「えい、写真とっちゃえ。ぱしゃり」
沙綾「ふふ、暗いけどばっちり撮れた」
沙綾「折角だから……2ショットも撮ろっかな?」
沙綾「ちょっとお布団にお邪魔しまーす……いい子だから起きないでねー……」
沙綾「……潜入完了っ」
沙綾「それじゃあ寝顔と私とを……ぱしゃり」
沙綾「うん、上手に撮れたね」
沙綾「……2ショット撮るつもりだけだったけど、なんだか君にくっ付いてると安心する……」
沙綾「このまま……くっついたまま寝ちゃおっかな……」
沙綾「うん……そうしちゃお」
沙綾「……明日も甘えちゃうけど、許してね?」
沙綾「それじゃあ……おやすみなさい……」
沙綾「君も私も……いい夢が見れますように……」
沙綾「……すー……」
――――――――――
―――――――
――――
……
香澄「…………」
りみ「…………」
たえ「…………」
有咲「いや何か言ってくれよ。無反応でいられるとなんか恥ずかしいんだけど」
りみ「……ドキドキしました」
たえ「……沙綾のベッドになりたい。ペットでも可」
有咲「えぇ?」
香澄「すっごい感動したっ! いつも頑張り過ぎちゃう沙綾とお互いがお互いを支えあう仲……すごくいい!!」
りみ「ドキドキしちゃった……。お互いの体に触れ合うのを簡単に許せるのって、すごい大人っぽい……!」
たえ「私は沙綾を支え、癒す、ただそれだけの存在になれればいいんだって今気付いた」
有咲「いや、確かに私も自信作を送り出したつもりだけどさ……そんなに褒めんなよ……照れるだろ」
有咲「タイトル変わってね?」
たえ「本質は合ってるから大丈夫」
りみ「確かにおたえちゃんの言う通りかも……」
香澄「そしたらまず収録するためのスタジオ抑えなきゃ!」
たえ「あ、じゃあ私、麻弥さんに事情話してパスパレのスタジオ貸してもらえないか聞いてみる」
香澄「お願い、おたえっ」
有咲「じゃあ私は台本をデジタル化して印刷するぞ」
りみ「有咲ちゃん、私も手伝うね。あとちょっと思ったんだけどね、時系列を付けてそれぞれの話に関連性を持たせると深みが増さないかな?」
香澄「りみりんあったまいい! それいい案だよっ!」
有咲「了解、じゃあその方向で少しいじるぞ」
香澄「有咲大先生の手腕に任せますっ!」
香澄「じゃあ、私は沙綾にCD化が決まったよって連絡しとくね!」
――――――――――
沙綾「ふぅ……今日はお客さん多かったなぁ」
沙綾「ん? 香澄からメッセージが届いてる……なになに」
香澄『さーやさーや! 今度ね、さーやのCD出すことに決まったよ!』
沙綾「CD? うーん、新曲作ったってことかな……それで私が歌うのかな」ピロリン
沙綾「あ、また香澄からメッセージ」
香澄『おたえがパスパレのスタジオおさえてくれたっ! そこで収録だね! あと千聖先輩が演技指導してくれるって!』
沙綾「え、なんでパスパレ……それに演技指導って……」
香澄『さーやはいつなら時間ある??』
沙綾「えーと……よく分からないけど次の休みは……」
沙綾『話がよく見えないけど、新曲作ったんだよね? 私は今度の木曜日ならへーきだよ』
香澄『うんっ! 期待しててねっ! 木曜ね、了解っ!!』
沙綾『はーい、期待してるよー』
沙綾「新曲かぁ、どんな曲なんだろ。叩きながら歌うのかなー私。楽しみだなぁ」
沙綾(……なんて能天気なことを考えていた自分を叩きたい)
沙綾(件の木曜日、私に手渡されたのは楽譜ではなく台本)
沙綾(表紙には『沙綾と結婚したくなるCD』)
沙綾(困惑する私に追い打ちをかけるように、白鷺先輩が私をパスパレのレッスンルームに連行)
沙綾(ここまでポピパのみんなから一切の説明はなかった)
沙綾(そして演技指導する白鷺先輩がすごく怖い。鬼教官だった)
沙綾(みっちりと二時間レッスンをして、次に連行されたのはスタジオ)
沙綾(楽器などが置いておるスタジオではなく、よく声優さんが収録するようなスタジオ)
沙綾(ここまで誰からも事の次第の説明はなかった)
沙綾(ものすごく鋭い眼光で私を見つめる演技指導の鬼になった白鷺先輩がただただ怖かった)
沙綾(……そして気が付いた時には、収録は終わっていた)
沙綾(なんだか歯の浮くようなセリフの数々を感情を込めて喋らされた気がするけど、その時私の胸にあったのは白鷺先輩から解放されるという喜びだけだった)
沙綾(そしてそれから二日後……)
……………………
りみ「ここまで長かったね……!」
たえ「みんなの努力の結晶だ……」
有咲「まぁ……たまにはこういうのもいいかな……」
沙綾「…………」
香澄「でも……こうして手に取ってみると……アレだよね……」
たえ「やっぱり香澄も?」
有咲「そういうおたえもか……」
りみ「よかった……私だけじゃなかったんだね……」
香澄「うん……」
香澄りみ有咲たえ「売るのがもったいない! 沙綾(ちゃん)を独占したいっ!」
たえ「これは仕方のないこと」
りみ「自然の摂理だよね……」
有咲「まったくだよ」
沙綾「…………」
沙綾(どうやらポピパの心は一つみたい)
沙綾(……なんという美しい友情なんだろう)
りみ「でも、私たちで独占するのは全世界の沙綾ちゃんファンを裏切ることになっちゃうよね……」
有咲「そうなんだよな……」
香澄「うん……だから、私は断腸の思いでこれを販売するっ!」
香澄「これが私たちの使命だもんねっ!」
沙綾(その私『たち』に私は入ってるんだろうか。きっと入ってるだろうけど出来れば除外してほしい)
沙綾(盛り上がる四人を少し遠巻きに眺めつつ、私は呟くのだった)
沙綾「……なつにCHiSPAでまた一緒にバンドやらせて下さいって頼も」
ところが夏希も『沙綾と結婚したくなるCD』を買っていて沙綾が途方にくれるのはまた別の話
おわり
なんかすいませんでした。
言い遺したことは二つだけです。
恋人役は男だと言っていないということと、ジブンは沙綾ちゃんを甘やかしたい1派の一人ということです。
ではHTML化依頼出してきます。
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515040337/
Entry ⇒ 2018.01.10 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【Fucking Pary】有咲「かす..みぃ..ぁ...///」クチュクチュッ♪
第1章
ファキパのヒミツ♪
香澄「おっはよう有咲ぁー♪」ガバッ
有咲「ちょっ!朝からひっつくなーー!!///」グイグイ
沙綾「相変わらずラブラブだね~、お二人さん♪」フフ
有咲「う、うるせぇ!!///」プイッ
香澄「あ!今もしかしてデレた?ねぇ、デレたの?ねぇねぇ!」
有咲「うぜぇ...///(ったく、香澄のやつ...いい加減にしろよな、まじで)」プルプル
香澄「えへへへ~♪」スリスリ
有咲「うぅっ...///(犬かよこいつぅ..ん、てかなんかすげぇいい匂いすんだけど..)」ボーッ
香澄「?...有咲ー?おーい、有咲ってば~!!」
有咲「うわぁ?!んだよぉ!!」ビクッ
沙綾「大丈夫、有咲?ぼーっとしてたよ」
有咲「へへ平気だって!そ、そう!香澄にいちいち反応するのに疲れちゃってさ~」アセアセ
香澄「えぇーー!?ひどいよ有咲ぁ!」
有咲「(あっ...)」シュン..
沙綾「ええ?!香澄ってば...!もう、顔近いって///」アセアセ
香澄「だって~沙綾ってさ、すっごく美味しそうな匂いするんだもん♪」クンクン
りみ「ああぁ..ダメだよ香澄ちゃん!ちゃんとひとりに絞らなきゃ!浮気はめっ!」アワワ
有咲「..いや、りみりんものらなくていいからな」
「ちっ..私の香澄をよくも...沙綾、ぜってぇ許さねぇ」
有咲「...おい、おたえも何やってんだよ」ハァ
たえ「有咲の心の中を表現したよ」キョトン
有咲「あぁー、面倒クセェ..」ガクッ
香澄「......」
1 香澄ヤンデレ有咲虐め ルート
2 有咲嫉妬狂い蔵(くら)監禁 ルート
昼休み
香澄「お昼だぁ~!有咲呼んでこよう~っと!」ルンルン♪
たえ「それじゃ私たちは教室で待ってよっか」
沙綾「香澄は本当に有咲がすきだよね」アハハ
廊下 有咲の教室前
香澄「(ふっふっふ~、朝は有咲にちょっぴりヤキモチやかせちゃったからね!)」
\や、ダメですよ~、あはは/
香澄「(この声は有咲!!驚かせちゃおっかな)」ソロリソロリ
有咲「ほんとに、ダメですって~」ハハハ
クラスメイト1「市ヶ谷さん髪きれーい!いつまでも触ってたーい♡」
クラスメイト2「ねぇねぇ、バンド始めたんだって?頭も良くて、美人で、モテモテじゃな~い?」ツンツン
香澄「(!?)」サッ
有咲「そそ、そんなこと~」ウフフ
有咲「ぁ///...ぇと、来週の土日に」ビクッ
クラスメイト2「イイね~、ウチらも応援しに行くよ!」
有咲「え、えへ..//」
香澄「...っ!」ギリ..
はは、有咲ってば猫かぶりすぎだよ!...ってそっか、同じクラスの子たちはまだ有咲の本性を知らないんだな~
有咲「あ、ありがとう、ございます..」モジモジ
クラスメイト1「あ!そうだそうだ、サインもらっちゃおうかな!」
クラスメイト2「ずるーい!私も私も~」
有咲「ええ!?サイン...ちょっと、それは..」
「あっりさぁー!!おーまたせぇ~♪」
クラスメイト1 2「あ!もしかして、戸山香澄ちゃん!?」ガタッ
有咲「お、おお...(香澄やっと来たか..)」ホッ
香澄「お邪魔しまーす♪いや~、有咲がなかなか来ないから迎えに来たよ!」ニコ
クラスメイト1 2「(か、かわいい///)」キュン
有咲「別に、先に食べてれば良いじゃね..んん、良いじゃないですか~、おほほ」
有咲「うあっ!?手引っ張るなって!!」アタフタ
クラスメイト2「市ヶ谷さん、また後でね!」
有咲「え、あ..ご、ごきげんよう~」オホホ
クラスメイト1「(ポピパの子たちってほんと仲良いよね~)」ホンワカ
ー
ーー
ーーー
ーーーー
香澄「てな感じで、有咲ったらまーた猫被っちゃってさ~!」
有咲「うるせぇ~!!香澄には関係ないだろ!」
沙綾「まぁまぁ、有咲もそろそろ本性出しても良いんじゃない」クス
有咲「あれも私だ!」フン
香澄「...」ジーッ
りみ「...?香澄ちゃん、どうしたの?」
香澄「へ!?な、なになに?」ハッ
たえ「有咲のこと、じっと見てた」
有咲「はぁ!?なんだよ気持ち悪ぃな~///」
有咲「なっ..!?うそ、どこだよ..んぅ?」ペタペタ
香澄「て言うのは冗談でーす!」
沙綾「あちゃー、また騙されたね有咲~」ケラケラ
有咲「くっそ...///香澄てめぇ!」ガバッ
香澄「わぁー!!逃げろ~♪」
たえ「バカップル、良いね」
りみ「あはは、本当にカップルなんじゃないかって思うよね」
\ドタバタ!!/\待てええええ/
沙綾「こらぁー!まだ食事中だよ二人とも!」
香澄「ふふふーんふーん♪」
りみ「香澄ちゃん、ご機嫌だね」フフ
香澄「やっとバンドができるからね!バンドバンド、やりたいやりたーい♪」ニコッ
たえ「同感」ウンウン
沙綾「授業中ずっと寝てたけど、大丈夫かなこれは~」アハハ...
\それじゃまた明日ね~/
有咲「う、うん...また明日、あは」
沙綾「有咲、おつかれ~!」オーイ!
香澄「......」
花女 校門付近
有咲「おう、待たせてごめんな~..ん?何だよ香澄」
香澄「...えっ?あ、もーう遅いよ有咲ぁ~」ダキッ
有咲「ちょっ..//だからくっつき過ぎだっつうの!」グイグイ
たえ「とても仲良し、二人で一人だね」クス
りみ「ええ!!それじゃキーボードかギターがいなくなっちゃうよ~」アセアセ
香澄「... ねぇ、有咲さ」
有咲「あん?どした?」
香澄「いやぁ~大したことないんだけど♪」
「さっきの子って、クラスのともだち?」
香澄「そっかそっか♪有咲もだんだん心を開いてきてるんだね~、嬉しいよぉ」ウンウン
沙綾「猫かぶってない有咲も可愛いし、良いことなんじゃない」ハハ
有咲「ぜってぇバカにしてるだろ!...まぁ、バンドの応援もしてくれてるし?悪くないっつうか..な」フフ
たえ「みんな仲良く、有咲もモテモテ、ポピパの人気もうなぎのぼり」ヨシ!
有咲「ヨシ!...じゃねえよ!」クワッ!!
香澄「...イヤだな))」ボソ..
りみ「あの、香澄ちゃん?」
香澄「ん?どうしたのりみりん」ニカッ
りみ「!?えっと..な、何でもないよ」
りみ「(何だか一瞬、香澄ちゃんの顔が暗かったけど..気のせいかな)」ウーン?
たえ「...うん、有咲良い感じだったね」
有咲「ふふーん、当然!」ドヤッ
沙綾「香澄は勢いは良いんだけど、少し走り気味だったよ~」
香澄「ごめん!今日はちょっとテンション上がっちゃって~」アハハ
有咲「今日は じゃなくて、いつも だろー」クク
香澄「あぁー!!今のは余計だよ有咲ぁ!」ブーブー
りみ「2時間演奏しっぱなしで、めっちゃ疲れたぁ」フゥ..
沙綾「りみもおつかれ!!今日はここら辺でお開きにしようか」
たえ「うん、それじゃまた明日がんばろう」
有咲「みんなお疲れ~、んじゃ門まで送っていくよ」ヨイショ
......
沙綾「しっかし有咲も変わったよね~!」
有咲「え、どこがだよ?」
たえ「こうやって、外まで見送りに来てくれるようになったし」
りみ「うん、前は蔵の中でバイバイだったもんね」クス
有咲「そ、そうだったか?///まぁ、こうやって皆と夕日を眺めると、今日も頑張ったって..気持ち良いというか」モジモジ
香澄「うんうん!それでさ、明日も楽しみだな~って、ワクワクしちゃうよね♪」ルンルン
有咲「さすがにそれは早すぎだろ」ハァ
香澄「えー?沙綾もそう思うよね?ね?」
沙綾「あ、ははー...さすがに明日の放課後のことを考えるのは早すぎかな」
香澄「そんなー!!おーたえ~」ダキッ
たえ「よしよし、私も明日の放課後が楽しみだよ」ナデナデ
有咲「どうせバイトで、バンド演奏が観れるからだろ」
香澄「ああ!おたえの裏切り者~」プク~
たえ「バレちゃったね、ふふふ」
...なんて、昨日はいつも通りの
アホ香澄だったのに
...急に、どうしてたんだよ
______現在 市ヶ谷家 蔵(くら)
地下に繋がる扉付近
「おーい有咲ぁ~♪こーこ、開けてよ~!」
< ガンッ!! ガキッ!!ドンドンッ!
なんで...こんなことすんだよ!
「有咲有咲有咲ぁ~!!はやく開けてよ開けてよ壊しちゃうよ~!」ドンドンッ!!ガツンッ
有咲「ひっ..!?やや、やめろよ香澄ぃ!マジでシャレになら
<<<バコンッ!!!
有咲「うわっ..うっ!...がはっ!」ドッ!!ガンッ!!
ゴロゴロ..
「おぉ~、やっと開けられた!..てあれ、有咲?階段から転げ落ちて大丈夫?」スタスタ
有咲「てめ..ぜ..てぇ許さ..ゴホゴホッ!!」
「あっはは~、有咲こーわい~♪でも安心して!私だけは有咲の味方だから、さ!」ダキッ♡
...急に、どうしたんだよ
...ギュウゥゥ♡
有咲「や..はな、離せよ香澄..離せってば!」ガクガク
香澄「どうして~?やっと二人きりで、こうして抱き合えるのにさ!」ニコニコ
有咲「..っ!私は..い、今の香澄には..ちち、近づきたく、ねぇ!」ゲシッ!!
香澄「おわっ?!」ドテンッ
有咲「はぁ..はぁ...」ズリズリ..
<ガシッ!!
有咲「んなっ!?」
香澄「えへへ~、有咲の足きれい~♡ねっ、ちょっとだけ舐めちゃうね♪」アーン
有咲「はっ、ふふざけんな!てめぇタダじゃお..っぉ"ぁ!?」ゴフッ!!
香澄「ギャーギャーうるさいよ有咲~、今良いところなんだから」
有咲「う..ううっ..ぇっ...」..ポロポロ
香澄「あちゃー、泣いちゃった..?ゴメンね~有咲」
でもさ、止められないんだよ
有咲を私のものにしたらさ、うん
そしてらきっと、キラキラドキドキしちゃう!
って思うな、絶対!♪
花女近く 朝の通学路
有咲「うん..ん?って..それはおかしいだろぉ!」カッ
クラスメイト3「あはは!有咲ちゃんノリ良いね~」
クラスメイト2「でもまさか、あの市ヶ谷さんがこんなにフランクな子だったなんてね」アハハ
有咲「はぁ?私はソーセージじゃねぇぞ...?意味分からん」ポリポリ
クラスメイト1「ぷっ?!ちょ、ちょっと市ヶ谷さん...それフランクフルトでしょう?」プルプル
クラスメイト2「フランクだよ!遠慮なくて親しみやすい意味で言ったんだけど..くくっ」プルプル
有咲「な..!?う...////」ウツムキ..
クラスメイト3「もう市ヶ谷さんカワイイ!」ダキッ
有咲「う、うるせー!///そんなの分かってるっつうの!!ってか抱きつくな~!」
\ワイワイ/\キャッキャッ!!/
りみ「有咲ちゃんのこと待ち伏せして、一緒に登校して仲良くなりたい!なんて..」アハハ
たえ「良いクラスメイトを持って良かったね、有咲」フゥ
沙綾「これでちょっとは、ガミガミ言われなくなるかもよ~?香澄♪」ポンッ
香澄「......」ボーッ
沙綾「か、香澄..?ちょっと、寝ぼけてるの~?」
香澄「へ?!何か言った..?」ビクッ
りみ「香澄ちゃん、昨日から顔色があまり良くないけど...」
香澄「あっははー、うん...はしゃぎすぎちゃったからかも♪」
たえ「昨日のバンド活動終わりに、今日のバンドを楽しみにする精神...勢いはあって良いけど」
沙綾「もーう、あんまり無理しちゃダメだよ!私たちのリーダーさん!」ポンポン
香澄「う、うん!ありがと沙綾!」
香澄「!?」ピクッ
有咲「ちょ、くすぐった..い、ひひ!はは!やめろってー!!」ウヒヒ
沙綾「おーやるねぇ!有咲ワキ弱いからね」クス
クラスメイト2「ずるーい!!私も私も♪
______「ちょっと!やめなよ!!!!!!」
りみ「きゃっ!」ビクゥッ
たえ「わっ?!」ビクッ
沙綾「...え、香澄、急に大きな声出して..どうしたの?」アセアセ
香澄「え?...ぁ!」
クラスメイト2 3「」ビクビク
有咲「はーはー..お、おい香澄..急にどうしたってんだよ」
香澄「ご、ごめん!有咲が苦しそうだったから、つい」アタフタ
クラスメイト2 3「ごめんなさい!市ヶ谷さん」ペコリ
クラスメイト1「っと、学校に着いた..それじゃまた後でね、市ヶ谷さん」
クラスメイト2「朝練頑張ってね、はは」
クラスメイト3「ファ、ファイト~!」フリフリ
香澄「...」
有咲「...おい、香澄!てめぇ」
香澄「!」ドキッ
有咲「二人とも怖がってたじゃねーか、なんであんなことすんだよ!」ハァ
りみ「あ、有咲ちゃん..香澄ちゃんも悪気があって言ったわけじゃ..」
香澄「そ、そう!..えへへ、ちょっとやりすぎなんじゃないかな~って..あぁほら!有咲って、ああいうの苦手でしょ?!」アセアセ
有咲「...はぁ、うぜぇ」
香澄「ぇ..」
沙綾「こら有咲~、口の利き方」
有咲「余計なお世話だよ、ったく...私だって他の子たちとふざけ合えるっつうの」
「ジャマすんなよな、ほんと」
香澄「じゃ、じゃま...?」
有咲「なんだよ、間違ったことは言ってねーだろ?」
りみ「えっと、そうなんだろうけど?そうじゃなくて..」アゥゥ
香澄「...なにさ!有咲のバカ、分からず屋!」ダッ!
たえ「..あっ、香澄!待って!!」
___タッタッタッタ!!!....
邪魔..?なんでそんな風に言うの?
私は、有咲のためを思って言っただけなのに!
..あれ?と言うか、さっきのは一体なんだったんだろう
他の子達が有咲をくすぐって、有咲が楽しそうに笑ってて...
私、その時すっごく苦しかった
胸が、こう..急に重苦しくなって、呼吸がしにくくなっていく感じ
結局ガマンできずに、ついあんなことを
...有咲のクラスメイトの子たち、怖がってたな..
りみ「...有咲ちゃん、来ないね」
たえ「香澄も4時限目のチャイムが鳴った途端に、どこかへ行っちゃった」モグモグ
沙綾「はぁ、あの二人は..いっつも喧嘩ばかりするんだから」
りみ「でも、いつもとは違う雰囲気で..何だか、本当にこのまま二人が仲直りしないような..うぅ」ウルウル
沙綾「ちょ、ちょっと..りみが泣くことないでしょうに」ヨシヨシ
りみ「だ、だってぇ...せっかくスペースでライブを成功させて、絆が深まったのに」ウッウッ
たえ「...大丈夫、私に良い考えがあるよ」ゴクンッ
沙綾「良い考え?って..今はボケてる場合じゃないからね、おたえ」ジーッ
たえ「分かってる、今日の放課後にさ..」ゴニョゴニョ
りみ 沙綾「うん、うん...え!?」
たえ「これなら、きっと二人も元通り」ニヤ
カッとなって、朝はあんなこと言っちまったけど..
か、香澄が悪いんだぞっ!
せっかくクラスメイトと仲良くなれる
チャンスだったのに邪魔するから...ん、でも
有咲「(あそこまで言う必要もなかったかもな...~っ!..んああっ!)」ジタバタ
花女 有咲の教室
ガヤガヤ ワイワイ
クラスメイト1「そろそろお昼食べようか!」
クラスメイト2「やーっと終わった..」
有咲「(..つーか、話しかけにくいじゃんかぁぁ!ぁぁ、きっと___
クラスメイト1『あんなに怖いグループだとは思わなかった!市ヶ谷さんもきっとコワい人よ!』
クラスメイト2『うっわ!猫かぶりの市ヶ谷さんだ、シッシッ!』
______なんて、もう修復不可能な事態に..)」カタカタ..
「い~ちが~やさん!よかったら一緒に食べない?」
クラスメイト3「ほら、朝はあまり喋れなかったからさ?」ニシシ
クラスメイト1 2「こっちこっち~!席くっつけよ!」
有咲「い、いいのか?ぁ、あと..朝のことはご、ごごめん!!」アセアセ
クラスメイト2「あはは、市ヶ谷さんかみすぎだよ~」
クラスメイト1「全然気にしてないから、変な気使わないで」ニコッ
有咲「うぅ、良かった..」ホッ
クラスメイト3「それより、ほんと仲間思いだよね~!特に、戸山香澄ちゃん!」
有咲「え、えぇ?あいつが?」
クラスメイト1「ポピパのリーダーなんでしょう?イイね~、意外と親分チックな部分が見れたというか」
クラスメイト2「レアな顔を見れたよね~♪ちょっと怖かったけど」アハハ
有咲「違うって!そんなんじゃねぇよ...ったく、あのバカ香澄、私はぜってぇ謝らな..いたぁっ?!」 デコピンッ!!
クラスメイト3「大事なお友達に、バカとか言っちゃダメだよ有咲ちゃん」
有咲「いつつ、だって..急にあんなこと、おかしいだろ」スリスリ
クラスメイト2「戸山さんはきっと、有咲ちゃんのためを思って言ったんだよ」
クラスメイト1「いつもそばにいるしね、気にかかったんでしょ」フフ
別にあいつからやって来てるだけだし..
『有咲!見てみて、ここまで演奏できるように鳴ったよ!!じゃじゃ~ん♪..ね?』ニコッ
『わあ~!!有咲すごーい..今のどうやって弾いたの?見せて見せて、お願い!』
来てる..だけ...
『はい!今日は卵焼き、なんと私が作ったんだ~!へへ..こうかんしよっ♪』ニヒヒ
『ぐすっ..スペースでのライブ、成功して良かった..有咲が居てくれたからだよ..ありがとう』
...っ
クラスメイト3「あれ?有咲ちゃん弁当の具材多くない?」モグモグ
有咲「え?あ、あぁ..バンド活動で体力、使うしね(いつも、お弁当交換してるしな..)」モグッ..
...
全部、食べられるかな..
スペース ライブハウス内
有咲「(...ここで、良いんだよな?)」キョロキョロ
おたえから帰り際に、ライブのチケットもらって
ひとりで来てほしいなんて言われたけど..
一体何のつもりだよ?
..まぁ、気晴らしには良いかもしれないけど
「相変わらず大繁盛ね~♪..あら?あなたはもしかして、ポッピンパーティのキーボードさん?」
有咲「げっ..ご、ごきげんよう~..おほほ(弦巻こころ!?よりによって、こんなときに..つーか楽器名で覚えてんのかよ!)」
こころ「間違いないみたいね!..それで、今日は一人なの?珍しい」
有咲「た、たまにはひとりで感性を育むのも必要かなと..」アハハ
こころ「それはすばらしいことね!わたしも、今日は楽しいこと探しを中断して、ここで感性を磨こうと思って来たの!」フンス
有咲「へ、へぇ..そうなんですね~、そちらこそ一人で珍しい」
こころ「うーん..本当のことを言うとね、ハロハピで今日のライブに乱入した後、素敵な演奏を聴かせてあげようと思ったんだけど...」
こころ「みんな都合が合わないみたいで、結局パーになってしまったの、残念だわ」
有咲「(乱入って..やべぇな...一緒にいたら何しでかすか分かんないぞ)」タラーッ
こころ「あ!始まるみたいよ、周りのお客さんもドキドキワクワクしているわね♪」フフ
\今日はスペース復活記念ライブ、楽しみぃ~♪/
\ねっ!まさかオープンするなんて..夢みたい/
こころ「うんうん!わたしも周りのハッピーをもらって、もっと楽しくなっちゃうわね♪」ルンルン
有咲「(ドキドキ、ワクワク、楽しく..)」ボーッ
...
『すごい!すごいすごーい!!ねぇ、やろう!バンド!』
「は、はぁ?おまえ何言ってんだよ..」
『こんなにキラキラしてて、ワクワクできそうなこと他にないよ!』
「意味わかんねぇ!ひとりで勝手にやってろ、ほら..ギター返せよ!」
『えぇえ!!そんなぁ、もうちょっと、もうちょっとだけ触らして~!』
...
有咲「...(思えば、ここから始まったんだよな)」
こうやってバンドができるのもあいつが
誘ってくれたからだし...
何より、この前のスペースでのライブ..
あんなに楽しかったのは久しぶりだった。
ドキドキして、ワクワクして、もっと..
もっと、たくさんの人たちに演奏を観てほしい
聴かせたい..そう強く思えた。
有咲「(今までひとりぼっちな私を、ここまで引っ張ってくれたのも...香澄のおかげ)」グッ..
有咲「...なのに、あんな"邪魔"とか言っちまって..」
\キャーキャー/\カッコいい~♪/
~♪
こころ「...?ちょっと、何だか顔が暗いけど大丈夫?」ツンツン
有咲「..え、あ..」
こころ「そんな顔してたら幸せが逃げちゃうわ!ほら、一緒に跳ねましょう♪みんなも盛り上がってるわよ」ピョンピョン
有咲「は、はい..ん?あれって..」ピョンッ
たえ「!...♪」フリフリ
有咲「おたえ?!...そっか、スタッフもサプライズで演奏してたのか」
<ジャジャーーンッ!!
\ワァァアアアアア!/
たえ「ありがとうございましたぁ~!」エヘヘ
\おぉ~!!ポピパでしょーう?♪/
有咲「!!」ササッ
たえ「そう!昔からひとりで演奏してたけど、行き詰まった時期があって..でもね、そんな時」チラッ
有咲「..?!」ドキッ
たえ「メンバーの子たちが誘ってくれたの!..正直、技術はまだまだだけど..」
\アハハハ/\容赦な~い/
たえ「..ふふ、だけど、みんな一生懸命で..それに、どんどん上手くなって合わせるのが面白くて」
「一緒に演奏するのがとても楽しい!最近はそればっかりなんです!」
有咲「おたえ...」
たえ「だから、有咲!!」オーイ
有咲「え!?ちょっ...」ビクッ
\あ!有咲ちゃんじゃん!/\珍しい~、なかなか会えないからラッキー♪/
たえ「これからも、みんなで仲良く!いっぱい音楽奏でようね~!!」
\イイね~!!またポピパでライブやってよ~/
\スペース存続祝いに、今度開催よろしくー!/
有咲「ぁ..う...///」スッ...
たえ「はい!有咲からお許しのゴーサインが出ましたぁ~」パチパチ
\イエェェエイ!/\あ!前へススメ!あれ生で聴きたいなー♪/
有咲「はぁ...ふふ」
こころ「あら?やっと笑ったわね!」ヒョコッ
有咲「わっ!..お、おかげさまで?はは..」
こころ「楽しくない、何だかモヤモヤする..そんな時は、あなたなりの楽しいことをい~っぱいやる!」
こころ「それが一番の治療法よ!応援しているわ!」エッヘン!
有咲「はは、どうも..ありがとうございます(そっか..うん、分かった)」ダッ!
こころ「えあぁ?ちょっとちょっと、まだライブは続くわよ~?」
有咲「用事を思い出したので、失礼します!」タッタッタッ..
こころ「ふぅん?何だかあっちらこっちら、忙しそうな子ね~」ポケ~
※ここからグロ、バイオレンス注意※
...私が楽しいと思うこと、うん
演奏したい、音を奏でたい!!
あいつと..あの子と、一緒に
音を合わせたい!
市ヶ谷家 蔵(くら)付近
有咲「はぁ..はぁ...!はやくキーボードを..って!!」
香澄「..ぁ、有咲..」
有咲「香澄..来てたのか?」
有咲「...とりあえず中入れよ、外じゃなんだし」ガラガラ
香澄「ありがと..有咲、優しいね」
有咲「な、別に普通だろ?!//」
香澄「ううん..優しいよ、朝だって有咲に迷惑かけちゃったし..なのにこうやって、また話してくれるしさ」
有咲「それは..ん、私も悪かったよ」ゴニョゴニョ..
香澄「...え?」
有咲「だ、だーかーらぁ..私も悪かったって言ってんの!!一回で聞きとれよ、ふん!///」
香澄「有咲...」
有咲「だけどな、ここまで気にかけているというか、気にかけ過ぎというか..お節介な所は勘弁だが」
香澄「あぅ...」グサッ!
有咲「でも、まぁ..そういう香澄らしさに、私は、周りも引っ張られてきたわけだし..」
有咲「..あぁー!!もうとにかく、朝のことは気にすんな!ただし、もう同じことやんなよ!」プイ
香澄「有咲ぁ..ぐすっ...良かった、良かったよぉ~」ギュッ!
香澄「ううっ..もう有咲とお話も、演奏もできなくなっちゃうんじゃないかって..ずっと、不安でいっぱいだったんだよ~」
有咲「...バカだな、いつもならすぐに切り替えるくせに..ふふ」ギュッ..
香澄「あ、有咲..?///」ピクッ
有咲「...ポピパは5人でこそ、だろ?私だって、演奏できなくなるのはイヤだし..か、かか、香澄とも///」
香澄「~っ///...」ニコッ
私もだよ、有咲
これからも、2人で一緒にがんばろうね
有咲「///...ん、2人..?」
______カチャッ
有咲「!?...お、おい香澄?何だよこれ、手錠が腕についてんだけど」
やっと、2人きりになれた。
______ガチャンッ カチカチッ!!
有咲「ちょ..どうして蔵のトビラ閉めてんだよ!」
有咲「んん?..って、待て待て!..じゃあ、この手錠は何なんだよ?!必要ねぇだろ?」ガチャガチャ...
「えぇ..だって有咲、きっと暴れるもん..だからつけたんだ~」
いつもの能天気な調子で言ってのける香澄、
しかし、その瞳には光がなく顔の表情もおぼろげ
有咲にはそれがたまらなく不気味に感じ、
何より発言の前後関係がメチャクチャな香澄の様子に、ただただ、たじろぐ他なかった。
有咲「何言ってんだよ香澄..ふ、ふざけるのもたいがいに...!?」ビクッ
おい、嘘だろ..
右手に持ってるそれ..
香澄「ぁあ..これ?..んふ、んふふふふ♪」
ランダムスター..
どうしてそんなズタズタに、しかもあれ、
赤い液体がこびりついてねぇか?
______...あり、さちゃん..逃げ.. ...
有咲「あ..ぁぁ..りり、み..?」ガタガタ..
顔中が血だらけで倒れている、りみらしき人物を
確認した有咲は、何も言葉が出ず。
非日常的で現実に起きているとは到底思えない、
この悲惨な事態に圧倒されるばかりであった。
香澄「なるべく一瞬で仕留めようと、思い切り叩いたんだけどな..はぁ、これじゃギターをボロボロにした甲斐がないよぉ~」
そう言って、蔵の奥で見るも無残な姿になったりみらしき人物と、手に持ったボロボロのギターを交互にいちべつし、長いため息をつく香澄。
すると、わずかに意識があるりみが
有咲の声の方向に顔をみやり、精一杯の言葉で
___...有咲ちゃ..そこに、いるの?..はぁはぁ..だ、め..香澄ちゃんから..逃..
言葉の途中で、口から血を吐き出し動かなくなる
りみらしき人物。
有咲が駆け寄り、何度も名前を呼ぶが反応はなく、
そこで初めて命が途絶えたことを認識した有咲。
有咲「やっ..ぃゃ..あああああああぁぁぁああ!!!」
香澄「...」ジーッ..
有咲「香澄てめええ!!どうしてこんなひどいことすんだよぉ!!」
香澄「どうしてって..私と有咲の関係を壊そうとしたから、その報いだよ」
りみ「」
香澄「..朝のことに続いて、これ以上有咲と距離が離れるのが嫌で、話したいってお願いしたのに...ずっと隠そうとするんだもん、さすがに私も怒っちゃうよ♪」
有咲「...だから、持ってたギターでぶん殴ったってわけかよ...?香澄、おまえおかしいぞ、狂ってる」ガクガク
香澄「ゴメンね、有咲から貰った大切なギターなのに..あとでい~っぱいお詫びするから許してね!」ギュッ
暗がりの中で、修復不可能なギターを抱きしめる香澄。
その光景は、まるで血濡れの悪魔を抱擁しているように有咲には感じられた。
香澄「それと..おたえと沙綾もグルになってるみたいだしね、後でゆっくり事情を聞きに行かなくちゃ!」
有咲「(...こいつ、マジでヤバい..本当に、これがあの香澄なのかよ?)」ゾクッ..
香澄「さてと、じっとしててくれるかな有咲、今度は足にもつけたいからさ」ジャラ...
有咲「くっ...」チラッ
りみ「」
香澄「有咲ぁ~、だから動いちゃダメって言ってるのにぃ..どうして離れるの~?」ズン..ズン
有咲「(今のこいつとやり合うのはダメだ、何も持ってない状態じゃ危険すぎる)」
有咲「(..確か地下には内線電話があったはず、めったに使わないけど...まだ電波が繋がっているなら、ばあちゃんに助けを求められる!!)」
香澄「いいないいなー!有咲と2人きり!でも、朝はクラスの子たちにいっぱい抱きしめられてたよね...まずは、その服から剥ぎ取らないと♪」ルンッ♪
有咲「!?」ゾクッ
有咲「(何だよあの笑い方、それに目がグリグリして気持ちわりぃ..!!!)」ヒィッ?!
有咲「あ、あいにくだったな..私は、そう簡単には捕まらない..ぜ!!」ダッ!
香澄「え!?あ..!まさか」
まで、しにものぐるいで走り出す有咲。
香澄「待って待って!待ってよ有咲!」ドタドタ
有咲には手錠をしていること、蔵のトビラをしめていることで逃げられない、と...
完全に安心しきっていた香澄が戸惑いの表情を見せ、後を追う。
有咲「はっ..はぁっ..!!ぃよし!」ダンッ!バタンッ!!
ギリギリで地下室に逃げ込んだ有咲。
しかし、鍵が少し離れたテーブルの上にあることに気がつき、完璧には閉められず...
有咲「(しまった..!!向こうに鍵が..でも、ここを離れたら)」ギュウウゥ
「有咲有咲有咲ぁ~!!はやく開けてよ開けてよ壊しちゃうよ~!」ドンドンッ!!ガツンッ
何度も地下室への扉に打撃を与え続ける香澄、
ついに扉を破壊され、追い詰められた有咲は..._______
有咲「う..ううっ..ぇっ...」..ポロポロ
香澄「あちゃー、泣いちゃった..?ゴメンね有咲~..でもさ、止められないんだよ!有咲を私のものにしたらさ、うん♪そしてらきっと、キラキラドキドキしちゃう!って思うな、絶対!」ハァハァ
香澄「ぁあ!!そうだそうだ、はやく服を脱がせないと!!あのクラスメイトたちに抱きつかれて、菌がついてるだろうからね♪」ヨイショ
有咲「ゃ、やっ..やだ、やだやだやめてぇ!」ガクブル
香澄「あはは、やだやだぁー!!って..有咲ったらもしかして恥ずかしいのぉ~?平気だよっ!私たちしかいないもん!」グイグイ
反抗すれば、また殴られる..今度は、
ギターを使って暴力を振るわれるかもしれない
そんな恐怖心を胸に、有咲はささやかな抵抗の
産声をあげるも、狂気の沙汰にある香澄には届かず
ついに、上半身の身ぐるみを剥がされ
やや汗ばんだ白いやわ肌をあらわにし...
香澄「...すっごいキレイ~、やっぱり引きこもってるからなのかな?雪みたいに白くていいなー!」
香澄「..ん、少し汗かいちゃってて、ペタペタするね!気持ちぃ~♡」サワサワ
有咲「んっ..うぅっ..助け..てっ..」グス
香澄「」ゾクゾク♡
有咲「しる..し..?それっt..ごほ"ぉっ!!?」
香澄「まずは、クラスメイトの子たちとイチャイチャしてたお仕置きを兼ねて、だよっ♡」アハハ
有咲「は"っ..ぁっ..?..」ヒュー..ヒュゥゥ..
香澄「まだ息してるね、良かった!次は、私のことを邪魔者扱いしたイケない有咲の心..うん!心臓らへんかな!じゃぁぁんっ♪」ドゴォッ!!!!
有咲「..っ..か""はっ..ぉえ"...!!」ガックンガックン...
香澄「すごぉい!!いいリズムだよ、有咲♪こんな時でも、私と演奏したい気持ちでいっぱいなんだね~」
香澄「今度は、ん~..あっ♪いつも私に口ごたえすること、言葉づかいが悪いところ、かな♡」エヘヘ
有咲「...っ!!!..ぁぇ..!ぁ..ぅ...!!」ピクピク
____________バキィッ! ..ピチャ..ポタ...ポタ
香澄「はぁ..はぁ..できたぁ!できたできたできた~♡んふふ♪」ピョンピョン
「星型のマークの完成!キラキラしてるね有咲♡私ね、大好きな有咲に、大好きな星型のマーク..殴ってできたアザのカタマリだけどさ、へへ...こんな欲張りづくし」
香澄「私ってもしかしたら、とっても幸せ者!?ねぇ、有咲もそう思うでしょ?ねっねっ?」ユサユサ
有咲「」
香澄「有咲?有咲ったらぁ~、無視しないでよぉー!」
『な、なんてことを...有咲ぁぁぁぁ!!!』
香澄「ん?だr..!?___________
______ ______
________________________________
文京区の質屋を営む「流星堂」にて
女子高生の遺体が発見された事件、家主が...
こころ「ぶっそうな世の中ね~?!気分が下がっちゃうわ!」
花音「聞いた話だと、遺体は顔が潰されて..蔵の地下にいた女の子も、重症の意識不明って」プルプル
___...もう一方の女の子の腹部には、何度も殴られ、無数のアザでできた星型のマークが...
美咲「まーた頭のおかしいやつがいたもんだねぇ..それで犯人は捕まったの?」
はぐみ「それが途中で逃げられちゃったんだって!」キャー
美咲「え、うそ?それやばくない...?」
薫「安心したまえ、この私が命をかけて守ってみせるよ、子猫ちゃん」
美咲「一発でやられますよね、薫さん細いし...」
___ピコン...ピコン...
有咲「....ん、..あ..」
「あ!有咲、起きたんだ♪よかったぁ~」
有咲「ぇ..かす、み..ここ...?」
「病院だよ?有咲ったら、急に気を失って..みんなすっごい心配してたんだから!」
有咲「わりぃ..ん、何かすげぇイヤな夢見て、っつぅ..!?」ピクッ
香澄「あー無理しないで!まだ体は万全じゃないんだから」ヨシヨシ
有咲「んぉ..ぉ..腹が、すげぇ窮屈なんだけど..包帯がグルグル巻き、に....」ペラッ
有咲「...?おもしろい巻き方だな、星型みた、い..」
有咲「.......!?」
香澄「...」ニコッ...
有咲嫉妬狂い 蔵監禁 ルート
純愛(じゅんあい)と
エロマンティックなストーリー、感動間違いなし
乞うご期待♡
掲載元:http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1492697374/
Entry ⇒ 2018.01.09 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)
【バンドリ】香澄・友希那・蘭「ガルパで誰が一番のお嫁さんになるか?」
※キャラ崩壊してます
戸山香澄「そんなの決まってますよ!」
湊友希那「迷うはずもないわ」
美竹蘭「まったく同感だね」
香澄「沙綾でしょ!」友希那「リサよね」蘭「つぐみだね」
三人「……は?」
彩(本日は無事大成功に終わったガールズバンドパーティーの打ち上げという事で、参加した5バンド25人で、こころちゃんのお家でのお疲れ様パーティーを開催中です)
彩(私を含め、主催者&スポンサーのこころちゃんを除くボーカル組四人が集められた席ですが、先ほどから香澄ちゃんが口数少ない友希那ちゃんと蘭ちゃんを明るい会話に引っ張ってくれていました)
彩(……悪気はなかったんです)
彩(ただ、香澄ちゃんばっかりに喋ってもらうのも悪いな、って思っただけだったんです)
彩(『ガールズバンドパーティに参加した人の中で、誰が一番いいお嫁さんになるか』なんて話題を振ったのは)
彩(三人とも無言のまま見つめあってます。むしろ睨みあっているような気もします)
彩(先ほどまでの和やかムードもなんのその、ものすごく気まずいです。さらにまずいことに隣のテーブルには沙綾ちゃん、リサちゃん、つぐみちゃんの三人が座ってます)
彩(私はどうすればいいんでしょうか)
友希那「……そうかしら」
香澄「そうですよ! じゃなきゃ、ねぇ……沙綾がお嫁さん第一候補から外れる訳ないもん」
蘭「……そうかな」
香澄「んん? 二人とも『そんな訳ないでしょ』って顔してるね?」
香澄「分かった、それじゃあ今からどれだけ沙綾がお嫁さんにふさわしいってことを説明するよ!」
友希那「いえ、戸山さん。その前にあなたもリサの嫁スキルの高さを知らないわよね? 先に私から、幼馴染として、リサのその辺のことをじっくりと説明してあげるわ」
蘭「湊さん、そういうあなたもつぐみの何が素晴らしいかっていうのをまったく知りませんよね? まずはアフターグロウを代表してあたしが滾々(こんこん)と説明しますから」
香澄「いや私から」
友希那「いえ、私が」
蘭「あたしから」
三人「…………」
彩(一触即発です。隣のテーブルの三人はなんとも言えない微妙な表情をしてますが、飛び火してこないよう静観を決め込むようです。私も逃げたいな……逃げていいかな……)
友希那「ええ、そうしましょう」
蘭「上等じゃん」
香澄「じゃあ行きますよ……最初はグー!」パー
蘭「ふっ……」パー
友希那「……は?」グー
彩(最初はグー、の言葉と裏腹、清々しいほどまっすぐにパーを出す香澄ちゃんと蘭ちゃん。正直にグーを出して一人負けする友希那ちゃん。何が起こったかいまいち把握できずに呆然としてます)
リサ「……ポカンとする友希那かわいい」
彩(その様子を横目で見ていたリサちゃんがポツリと呟きました)
彩(なんだったら私と席交換する? ここなら友希那ちゃんすっごく近くだよ?)
蘭「勝負の世界は騙される方が悪いんですよ、湊さん」
香澄「ごめんなさい友希那先輩、こればっかりは私も譲れないんです」
友希那「くっ……」
蘭「じゃあ香澄と一騎討ちだね」
香澄「負けないよ、蘭ちゃん!」
蘭「こっちだって……それじゃあ、じゃんけん――」
香澄「――ぽん!」
彩(今度は前置きもなくじゃんけんをして、勝ったのはチョキを出した香澄ちゃんでした)
香澄「やったー! 私の勝ちぃー!」
蘭「……正々堂々やって負けたからね。いいよ、先手は譲るよ」
香澄「ふふーん、それじゃあ沙綾の話からだねー」
彩(蘭ちゃんの正々堂々という言葉が引っかかったのか、友希那ちゃんが何か言いたげな顔をしてます)
彩(でも何も抗議しないみたいなのは香澄ちゃんの話の腰を折らないためなんでしょうか)
蘭「そうだね、もうアピールタイムは残ってないね」
香澄「えぇーもう? まだ沙綾の良いところ5%も話してないよ~?」
彩(いつからアピールタイムなんてものが導入されてたんでしょうか。そして香澄ちゃん、それのあと20倍も喋ることがあるの……?)
山吹沙綾「…………」
彩(あと隣のテーブルの沙綾ちゃんがすごく困った笑顔を浮かべているのに気付いてあげて。おねがい)
香澄「うーんまぁ仕方ないか~。それじゃあ次は……」
蘭「あたしの――」
友希那「私がリサのいいところを話すわ」
蘭「えっ、あたしの――」
蘭「…………」
友希那「あら、短くないかしら? まだ序章をちょっと話しただけなんだけど」
彩(饒舌&早口で喋る友希那ちゃんを初めて見ました。そしてものずごく何か言いたげな蘭ちゃんがちょっと怖いです)
今井リサ「友希那……そういう風に思ってくれてたんだ……嬉しい」
彩(そして感動した面持ちのリサちゃん。本当に席変わるよ? 遠慮しないでいつでも言ってね?)
蘭「湊さん、やってくれますね」
友希那「勝負の世界だもの。出し抜かれる方が悪いわ」
蘭「宣戦布告ですかいいですよいつでもやりますよ」
友希那「奇襲を先にしかけたのはあなた達でしょう」
蘭「……まぁいいです。それじゃああたしの番」
彩(思うところがあるのか素直に引き下がる蘭ちゃん。やっぱり根はいい子なんだろうな)
友希那「話が長いわね。もう少し要点をまとめて話すべきだわ」
蘭「はぁ? これでもかなり絞ってますから。時間が足りなすぎるせいだし」
彩(友希那ちゃんに対してはすごい喧嘩腰の蘭ちゃん。二人の仲が悪いのは音楽性の違いのせいだけなのかな……ていうかアフターグロウを倒してからって何をさせる気なんだろ……)
羽沢つぐみ「……うぅ」
彩(そして隣のテーブルのつぐみちゃんは蘭ちゃんのアピールが恥ずかしかったのか、顔を赤くして俯いてます)
彩(かわいい)
沙綾(かわいい)
リサ(かわいい)
友希那「いえ、あなた達は先に、リサこそが嫁にふさわしいということを理解しましょうか」
蘭「何言ってるんですか。まだほんの少ししか話してないですけど、つぐみが一番だってことを早く理解してくださいよ」
三人「…………」
彩(三人とも少しは折れるかと思ったけど事態は平行線のままです。そろそろ本当に誰か助けてください。いつこっちに矛先が向かうのかと思うと胃が痛いです)
香澄「分かった、それじゃあ助っ人を呼んで意見を聞こうと思います! やっぱり多角的な意見を知らないと沙綾の素晴らしさって伝わりきらないもんねっ」
友希那「一理あるわね。リサは幼馴染でなんでも知り尽くしているわ。でもロゼリアになってから知り合った人ならまた違う視点でリサを語れるでしょう」
蘭「そうだね。あたしが感じるつぐみとみんなが感じるつぐみ、その違いにも興味があるし、いい案だと思うよ」
香澄「じゃあ早速……おーい有咲ぁ――!!」
市ヶ谷有咲「ちょっ、なんだよ香澄! 引っ張んなって!」
彩(というより無理矢理引っ張ってきました)
香澄「いいからいいから~!」
有咲(げっ、他のバンドのボーカルが集まってる席かよ……うわー、丸山先輩はともかく、湊先輩と美竹さんとか雰囲気怖くて苦手なんだよなぁ……)
香澄「はい、じゃあ私の助っ人の有咲です! それじゃあ有咲、言ってあげて!」
有咲「はぁ!? いきなり連れて来られて言ってあげても何もねーだろ!?」
香澄「ああごめんごめん説明してなかった。今ね、誰がお嫁さんにふさわしいかっていう話をみんなでしてたんだー。それでなかなかね、友希那先輩も蘭ちゃんも沙綾が一番って分かってくれないからさ、有咲の口からも説明してあげてっ!」
香澄「だって有咲、沙綾のこと大好きだから。一番いいこと言ってくれるっ! って思ったんだ」
有咲「だっ、大好きとかそういうこと言うのやめろって! なんか誤解されるだろ!」
彩(……『沙綾ちゃんが大好き』の部分を微妙に否定してない気がするのは私だけなのかな……)
友希那「市ヶ谷さん、後が押しているわ。さぁ、あなたの意見を聞かせて頂戴」
蘭「だね。こっちも早くつぐみを語りたくてうずうずしてるんだ。早く」
有咲「うっ……」
有咲(やっぱりこの二人怖ぇ~……。さっさと話して席に戻ろ……)
香澄「さ、有咲。早く早くぅ~!」
蘭「なるほどね……」
彩(デレデレだったけど有咲ちゃんてツンデレじゃなかったっけ……)
有咲「ほら、もうこれでいいだろ? 私は席に戻るぞ?」
香澄「うんっ、ありがと有咲! やっぱり有咲に頼んで良かったよ! 有咲大好き!」
有咲「そっ、そういうことを人前で言うんじゃね――! 恥ずかしいだろっ!!」
香澄「またまたー、照れちゃってぇ~」
有咲「うるせぇ! もう戻るからな!」
彩(有咲ちゃんはそう言うと自分の席に戻っていきました。……香澄ちゃんにはツンツンなんだね。ちょっと安心した)
沙綾「…………」
彩(隣の沙綾ちゃんは有咲ちゃんがお話ししている時はずっと耳を塞いでいたみたいで、今は澄まし顔でいます。強かな部分ってこういうところなのかな)
友希那「頷ける部分もなくはなかったわ」
蘭「少しだけだけどね」
香澄「もう、二人とも素直じゃないな~」
友希那「さて、それじゃあ次は私の番ね。……燐子でいいかしら」
彩(友希那ちゃんはそう呟くと、会場の隅の方であこちゃん、巴ちゃんとお話をしていた燐子ちゃんのところへ向かいました)
友希那「大丈夫よ、燐子。あなたなら出来るわ」
白金燐子「で、でも……わたし……人前で話すのは……!」
友希那「大丈夫、大丈夫よ。リサの良いところを話すのではないわ。あなたの思うことをそのまま出せばいいのよ」
燐子「は、はい……」
彩(連れてきた、というよりなんだか強引に誘拐してきたみたいです)
燐子「えと……あの……」
燐子(だ、代表……私がロゼリアを代表してなんて……無理……!!)
友希那「大丈夫よ。あなたは強いわ。何も身構える必要なんてないの。ただ、リサに対して普段感じていることを口にしてくれれば、それだけでいいのよ。急ぐ必要なんてないわ。ゆっくりでいいから」
燐子(友希那さん……わたしを信用してくれて……)
蘭「ふーん……」
彩(十分喋ってると思うけど前の四人がアレだったせいですごく口数少なく感じる……)
友希那「ありがとう、燐子。それでこそロゼリアよ」
燐子「は、はい……頑張りました……今井さんの良さがちゃんと伝わってるか……ちょっと不安ですけど……」
友希那「あなたにしか出来ない素晴らしいアピールだったわ。もっと自信を持っていいのよ」
燐子「は、はい……ありがとうございます……! そ、それじゃあわたしは……あこちゃんのところに戻りますね……」
彩(燐子ちゃんは小さく頭を下げると、元の席へと戻っていきました。……いいなぁ、燐子ちゃんの物静かな美少女って雰囲気……かわいいなぁ……)
リサ「燐子……頑張ってしっかり喋れたね……よかった……」
彩(そして燐子ちゃんが話している間ずっとハラハラしてたリサちゃんはそう呟いて、温かな眼差しで燐子ちゃんを見送ります。……本当にお母さんみたいだね)
香澄「うん、ちょーっとだけですけどね」
蘭「多少は」
友希那「まぁ、認めたくない気持ちは分かるわよ。仕方のない子たちね」
蘭「勝手に言っててください。それじゃあ次はあたしだけど……誰に頼もうかな」
氷川紗夜「話は聞かせてもらいました」
蘭「うわっ!?」
彩(助っ人を探すために会場を見回していた蘭ちゃんは、いつの間にか背後に立っていた紗夜ちゃんから声をかけられびっくりした声を出しました)
蘭「なんですか、氷川さん。今井さんのアピールタイムならもう終わりましたよ」
紗夜「いいえ。私がここに来たのはつぐみさんのためよ」
蘭「つぐみのため……?」
紗夜「ええ。話は聞かせてもらったと言ったじゃないですか。今井さんの次はつぐみさんの番……そういう認識でしたがなにか間違いでも?」
友希那「裏切るつもりなの、紗夜?」
紗夜「裏切るもなにもありません。確かに今井さんは素晴らしい女性だと思いますが、私はそれ以上につぐみさんこそがお嫁に相応しいと思っているだけです」
紗夜「なので、美竹さんの許可が出るのならば、私がつぐみさんのことを話そうと、そう思ってここへ来たんです」
蘭「へぇ……ロゼリアにも物分かりのいい人はちゃんといるんですね。いいですよ、アフターグロウはみんな幼馴染だし、外部からのつぐみの見え方ってのを教えて貰います」
紗夜「これで美竹さんの許可は出ましたね」
友希那「……分かったわ。紗夜、あなたの考えを聞かせて頂戴」
香澄「おー……なんだか大人なやり取りだ……」
彩(……そうかな?)
友希那「なるほどね……」
彩(私の聞き間違いであってほしいけど、一回『旦那様』のところを『私』って言いかけてたような……)
蘭「へぇ、氷川さんも結構やるじゃん」
紗夜「このくらい、当然です」
彩(ふふんと決め顔をする紗夜ちゃん。……うん、みんな気にしてないみたいだし、やっぱり私の聞き間違いだよね……?)
つぐみ「ぅぅ……紗夜さんまで……」
彩(隣のテーブルのつぐみちゃんは両手で顔を覆って俯いてます。耳まで真っ赤です)
彩(かわいい)
沙綾(かわいい)
紗夜(かわいい)
リサ(かわいい)
蘭「ありがとうございました、氷川さん」
紗夜「いえ、当然のことをしたまでです。それと、私の事は紗夜でいいわよ」
蘭「はい、紗夜さん。今度ぜひ、羽沢珈琲店で話をしましょう」
紗夜「ええ。楽しみにしています。では、あんまり離れると日菜がうるさいので、私はここで」
つぐみ(何を話すか知らないけどお願いだから私がいない時にやってね……?)
沙綾(大変だなぁ羽沢さんも……)
リサ(紗夜ってあんな饒舌に喋ることあるんだ)
紗夜(これで美竹さんは攻略……あと三人ね……)
友希那「そうね。これだけ話せばあなた達も理解してくれたでしょう」
蘭「だね。もう何も疑う余地はないと思いますけど、一番お嫁さんに相応しいのは――」
香澄「沙綾」友希那「リサ」蘭「つぐみ」
三人「…………」
彩(やっぱり話はどこまでも平行線みたいです。三人とも『この分からず屋め』という顔でお互いを見ています)
彩(正直、そろそろこっちに矛先が向いてくる気がすごいするので、本当に逃げたいです)
彩(お願い、主催者挨拶とかでどこかに行っちゃったこころちゃん、早く帰ってきて……!)
友希那「そうね。残念だけどそうみたいね」
香澄「仕方ないですね。こればっかりは譲れないですから」
蘭「じゃあ、」
友希那「次は外部の人に、」
香澄「話を聞いてみましょうか!」
彩「ひっ……」
彩(三人とも同時に、失言してからずっと黙ってた私の方へ視線を巡らせてきました。同時にこっちに顔を向けられるとすごく怖いからやめてね……?)
香澄「彩先輩、六人の話を聞いてみてどうです!?」
友希那「丸山さん、あなたなら賢明な判断が出来ると信じているわ」
蘭「彩さん、遠慮とかしないでいいんで、忌憚なく言ってください」
彩「あ、あー、えっとぉ……そうだね……」
彩(ああ、やっぱり一番損な役が回ってきた……どう答えても遺恨を残すこの役回りが……!)
白鷺千聖「…………」ニッコリ
松原花音「ど、どうしたの、千聖ちゃん?」
千聖「なんでもないわ、花音」
彩(会場を見回して目があった千聖ちゃんにはニッコリ微笑まれました。あの笑顔知ってる、私をからかう時の笑顔だ……)
大和麻弥「やっぱりこのメーカーは音作りに対する意識が違いますよね!」
花園たえ「うん。私もそう思う。やっぱり麻弥さんは違いの分かる人だね」
彩(麻弥ちゃんはたえちゃんと楽しそうに音楽談義してるし……)
氷川日菜「お姉ちゃんお姉ちゃん! ほらほらこれすっごく美味しいよ! るんってくる味してるよ! 食べさせてあげるねっ、ほら、あーんってして、あーんって!」
紗夜「日菜、それが人参料理だと分かってやってるわよね、あなた」
彩(日菜ちゃんは平常運転だし……)
若宮イヴ「んー、いっつも思ってましたけど、リミさんって小さくてとても可愛らしいです!」
牛込りみ「イ、イヴちゃん、そんなにぎゅっとされると苦しいよ……」
彩(イヴちゃんはりみちゃん抱っこしてるし……私もりみちゃん抱っこしたい)
香澄「ささ、遠慮せずに言っちゃってくださいよ、一番お嫁さんにしたいのは同じ学校の後輩だって!」
蘭「香澄、そうやって人に強制するのはよくないよ。常識に沿った答えをくれればいいんですからね、彩さん」
彩「あ、あはは、えっと、えーっと……」
弦巻こころ「たっだいまー! あら? みんなして彩の周りに集まってどうしたの?」
彩(来た、こころちゃん帰って来た! これで助かる!!)
彩「おかえりなさい、こころちゃん。実はね、誰がガルパの中で一番いいお嫁さんになるかって話してて……」
香澄「そうなんだよーこころん! こころんは誰だと思う? やっぱり沙綾?」
友希那「戸山さん、そうやって名前をねじ込むのはよくないわ。正当に評価すればリサに決まっているんだから」
蘭「湊さんもですよ。普通に考えれば羽沢珈琲店にいる天使に決まってますから」
こころ「んー? 誰が一番とか決める必要なんてあるのかしら」
こころ「みんながみんな、それぞれの良さを持っているわ。それぞれ違う考えをしているし、得意なことや苦手なことも違うわ!」
こころ「言葉で『誰が一番か』なんて決めるより、みんなでみんなの良いところを探す方がずっと素敵じゃない!」
香澄「た、確かに……沙綾の良いところをもっと探したい!」
友希那「一理あるわね。私もこうして話をして、リサのいいところをもっと知れたわ」
蘭「うん……つぐみのいいところをもっとみんなに知ってもらうっていうのも大事だね」
彩(流石こころちゃん、このままいい話だなーって方向に持っていけそう! 圧倒的カリスマに感服だよ! BGMに笑顔のオーケストラが聞こえてきそうだよ!)
彩「うんうん! そうだよね!」
香澄「さっすがこころん、良いこと言うねー!」
友希那「そうね。たまにはみんなで笑顔でって……そういうのもいいわね」
蘭「ありがとう、こころ。なんだか大事なことを思い出せた気がするよ」
彩(良かった、このまま何事もなく終われる――)
こころ「でも誰か一人を選びなさいって言うのなら花音ね!」
三人「……は?」
彩(――と思ったのになんでえぇぇ……!!)
この後こころちゃんと千聖さんにめちゃくちゃ花音ちゃん先輩自慢された。
おわり
なにこれ
お目汚しすみませんでした。
ドントリーブミーリサって気持ちです。
ではHTML化依頼出してきます。
乙
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513703933/
Entry ⇒ 2017.12.22 | Category ⇒ バンドリ | Comments (0)