淡「今日はサキの家にお泊りかぁ…よし!」
淡「サキが一人暮らしを始めた…ということで今日の夜、サキにお泊りに来ないかと誘われたんだけど…」
淡「これはチャンスだよ! 淡ちゃん一世一代の大チャンスだよ!」
淡「夏休みの最後の方に告白してサキと付き合ってはや3か月。同じ大学だしいろいろ遊びに行ったりはしてるものの…エッチなイベントは一つも起きてない! …ちなみにキスすらしてない!」
淡「おかしいよ! 私はすっごいサキとエッチしたいのに!」
淡「サキの服を脱がせて、『淡ちゃん、恥ずかしいよ…///』って涙目で見つめてほしいのにっ!」
淡「『サキのここ、もう準備満タンだよ…』ってサキをせめたいのに! …準備万端だっけ?」
淡「…」
淡「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ! とにかく、今日は絶対にサキとエッチする!」
淡「というわけで、しっかりと下準備をしていこう! まずは、爪を切る!」パチンパチン
淡「これは、女の子とエッチするときのエチケットだよね、エチケット! 爪を切らないで女の子とエッチするなんてダメダメだよ、エッチをする資格がないよ、エチケットがないし女の子とエッチをするためのエッチチケットもないよ!」
淡「よし、これで爪切りは完了…! 次は歯磨きだよね! 歯は念入りに磨いて、歯間ブラシも使って、最後に口臭を無くすうがい薬をつかって…」シャコシャコガラガラ
淡「よし、これで口臭は…おっと危ない! 最後に飲むブレ〇ケアを飲んで…はぁー、よし、ミント味の息!」
淡「次にお風呂だけど…お風呂には手鏡を持っていくよ! 理由は分かるよね、私ももう大学生、いくら毛が薄いとは言ってもムダ毛がないとは限らないからね、しっかりとお手入れしないと!」
淡「お風呂に入ったら、髪の毛もしっかりお手入れして、手鏡で自分の身体をしっかりと見てムダ毛がないかを確認! そして、最後に身体を念入りにゴシゴシゴシゴシ! よし、ゼウス並みに完璧!」
淡「そして、髪の毛を乾かして…ほんの少し、お化粧! サキは『お化粧してなくても淡ちゃんは可愛いよ』って言ってくれたけど、さらに可愛くなるためにお化粧するんだからサキも喜ぶよね!」
淡「最後に、お気に入りの下着と可愛い洋服を着て…」
淡「よし、これで私の準備は完了!」
淡「…」
淡「む…まずい、トイレしたくなってきた…で、でも、トイレしちゃったらさ、サキがそ、そういうのをしてくれるとき『なんだかおしっこのにおいが…』とか思われちゃうかもしれない!」
淡「ま、まずいまずい! どうしよう…よし、トイレをした後にもう一回身体だけ洗おう! そうすれば何の問題もないはずだよ! よし、それじゃあトイレをして身体を洗って…」ジャーゴシゴシバシャバシャ
淡「よし、オッケー! 今度こそ完璧!」
淡「そして後は、あらかじめ準備してた荷物をもってサキの家に出発進行!!」
淡「レッツゴー!」
◆
淡「ごくり…ここがサキのマンション。えっと、○○〇号室を呼び出して…」
ぴろん
淡「あ、サキ? 来たよー!」
咲『あ、淡ちゃんいらっしゃい。今開けるね』
淡「おぉ、自動ドアが開いた…! サキ、それじゃすぐに行くね!」
咲『うん、慌てて怪我しないようにしてね』
淡「はーい!」
淡「お邪魔しまーす!」
咲「改めていらっしゃい淡ちゃん」
淡「サキー! 会いたかったよ!」ダキッ
咲「わわっ、もう、急に抱き着いたら危ないよ淡ちゃん」
淡「えへへ、サキの匂い」クンクン
咲「ちょ、ちょっと淡ちゃん、恥ずかしいって!」
淡「むぅ、恋人同士だから恥ずかしがらなくていいのに…」
咲「とにかく、いつまでも玄関に居ないでリビングに行こ? もうちょっとで晩御飯の準備終わるから」
淡「はーい」トテトテ
咲「今日は寒いからビーフシチューを作ってみたんだ。ちょっと自信作だよ」
淡「ビーフシチュー!? う、嬉しい!」
咲「えへへ、ちょっと待っててね。あ、テレビつけてていいよ、リモコンはそこにあるから」
淡「んー、私もサキの手伝いする!」
咲「ううん、淡ちゃんはお客さんなんだからのんびりしてて? それに、本当にすぐに終わっちゃうから」
淡「そう…? それなら…」(サキは意外と頑固だから、引くときはすぐに引いた方がいいんだよね)
咲「うん、えへへ、楽しみにしててね」ニコッ
淡「…! う、うん!」(あぁぁ、可愛い、可愛すぎるよサキ! どうして、どうしてそんなに可愛いの!? お嫁さんにしたい! お仕事終わってサキが待つお家に帰りたい!)
淡「それじゃ、テレビつけようかな…ぽちっと」
テレビ「~~~~~~~」
咲「ふんふーん♪」
淡(ふふ、咲はお料理に集中してるみたいだね…チャンスだよ! 今のうちに、咲の部屋を観察する!)
淡(ふむ…基本的に物は少ないね。壁際に少し大きめの本棚、サキは本が好きだからね。それとテレビと机と少し小さめのタンス……そして、ベッド!)
淡(あぁ、今日はあのベッドで咲とランデブー…鼻血ブーしないように気を付けないと)
淡(…うへへ、サキとベッドでぎしぎし……ま、まずいまずい、本当に鼻血ブーしそうだからやめとこう!)
淡(えぇっと、お風呂とトイレは玄関からリビングに来るまでの廊下にあったよね)
淡(まぁ、お風呂とトイレはしっかりと済ませてきたから使うことはないと思うけど…)
淡(後は…)
咲「淡ちゃんお待たせ、ビーフシチュー完成したよ」
淡「わ、わー! ビーフシチューにサラダに…それにバゲットとご飯!」
咲「うん、バゲットとご飯どっちもあった方が美味しく食べれるかなって思って」
淡「すごい、すごいよサキ! 早速食べてみてもいい?」
咲「うん、食べてみて」ニコッ
淡「わーい、いただきまーす!」パクッ
淡「わ、わぁ…とっても美味しい、とっても美味しいよ、サキ!」
咲「そ、そう…? 良かった、たくさん食べてね」
淡「うん、これならいくらでも食べられるよ!」パクパク
淡「ふぅー、もうお腹ぱんぱんぽんぽこぽんだよ」
咲「お粗末様でした」ニコッ
淡「こんなに美味しいご飯が食べられるなら毎日でもサキに作って欲しいなぁ…」
咲「そ、それって…///」
淡「ん、どうしたの、サキー?」
咲「な、なんでもないっ!」
淡(どうしたんだろ、赤くなっちゃって)
淡(まぁまぁ、それはとりあえず置いといて……私の今日の勝負はこれから! 恋人はエッチをすることでより仲良しになれるってテルーとトキのラブラブカップルが言ってたし私も頑張らないと!)
淡(今は9時で、食器も洗い終わってまったりタイム。…そして、今はサキと隣通しに座ってお茶を飲みながらテレビを見ている)
淡(そして、エッチするための私の計画では…まず、キスが重要! サキとうまくキスをできれば、後は流れで何とかなる…はず!)
淡(よ、よし…遠回しにさりげなく…)
淡「さ、サキー…さ、寒くない?」
咲「私は大丈夫だよ。淡ちゃん寒いんなら暖房付ける?」
淡「い、いや、ほ、ほらっ! その、あの…もっとくっつけば暖かくなるんじゃないかなーって…」(え、私、すっごくさりげなくできてない? さすが大学100年生!?)
咲「そ、そうかな…? そ、それじゃあ…もうちょっとくっつく?」
淡(まああああああああぁぁぁっ!? サキー、顔を赤らめてこっちを見たらまずいよー! 私の理性が宇宙旅行しちゃうよー!)
淡「うっ、うひん、しょ、そうだねぇ」ニッコニコヒキツリエガオ
淡(大丈夫、落ち着け落ち着け…飛び立つな私の理性!)
咲「あ、淡ちゃん」ピトッ
淡(さ、サキキキキ、サキのか、か、かたた、肩と、わたたたたっ、私の方がぴとって、ぴとって!)
咲「えへへ、くっつくとちょっと暑いね…///」
淡「あ、あわわわわわわわわわわわわわっ!? わ、私、あ、暑くなってきちゃったから離れるねっ」シュバッ
咲「えっ…」
淡「あ、あははー、さ、サキは体温高いなー」
咲「むぅ…」プンスコ
淡(わ、私から逃げてどうすんの! ど、どうしよ、どうしよ、サキが不機嫌だよ…)
淡(落ち着け落ち着け……そうだ! 暑くなった、っていうのを利用しよう! さすが淡ちゃん!)
淡(ふふっ…私のスーパーグラヴィトンボディでサキをエッチな気持ちにさせてやる!)
淡(ふふん、これでサキは私のおっぱいにクギヅケだよ!)ドヤ
咲「…」チラッ
淡(あ、サキが自分のおっぱいを見た)
咲「はぁ…」
淡(あ、あれ…じ、地雷ふんじゃったかな?)アワアワ
咲「…」
淡(どうしよどうしよっ)アワアワ
咲「…あ、そうだ、淡ちゃんはもうお風呂入ってきたかな?」
淡(ほっ…良かったー、あんまり気にしてないみたいだね)
淡「うん、はいった…」ハッ‼‼
咲「ん?」
淡(ちょ、ちょっと待って…! 確か、恋人同士はお互いがお風呂に入り終わった後になんとなくそういう雰囲気になってエッチをする…みたいなのを見たことがある…!)
咲「よかった、私お風呂沸かしちゃったから…それでね、実は、私の家のお風呂かなり広いんだけど…///」モジモジ
淡「へぇー、それは楽しみだよ!」
咲「…」
咲「もう、淡ちゃん先に入っちゃって!」プンプン
淡「えっ、う、うん」(あ、あれ? な、なんだかやっぱりサキ、カンカンじゃない? 麻雀してる時よりもカンカンしてるよ!?)
◆
淡(お風呂に来たけど…今私は、二つの意味でもんもんとしちゃってるよ…)
淡(まず、お風呂に入る前になぜか咲がぷりぷり怒ってたこと…まぁ、怒った姿も可愛いんだけどねっ!)
淡(それともう一つ…私の心を揺さぶるものがお風呂場の壁にかかっているんだよ。そう、それは、身体を洗う時のざらざらしたタオル!)
淡(サキは…毎日これを使って身体を洗っている…つまり、さ、サキ成分がこ、このタオルにっ!)ゴクリンコ
淡(…)
淡(だ、ダメだッ…!)
淡(そ、そうだよっ! これから本物の咲を堪能できるんだからこんなしょぼいことしなくてもいいんだよっ! そうだよ、淡ちゃんはそんなしょぼいことしないっ!)ドヤァァ
淡(ふふん、あらかじめ家でしっかり綺麗にしてきたからさっさと上がって、湯上り淡ちゃんの色気でサキをめろめろにしてやるんだから!)
◆
淡「サキー、お風呂あがったよー」
咲「あっ、うん! それじゃ、私もさっと入っちゃうから湯冷めしないように先にお布団入っててね」
淡「え、あっ、さ、サキ!?」
咲「ん、どうしたの?」
淡「え、あ…な、なんでもない!」
咲「そう? それじゃ入っちゃうね」トテトテ
淡「…」(サキ、全然めろめろになっていなかった…それどころか全く動揺してなかった…)
淡「うぅー、もういいもんっ! サキのベッドの匂い嗅いじゃうもん!」クンクン
淡「う、うぁぁ…さ、サキの匂いが…///」
淡「まずいまずい、理性を保たないとっ!」
淡「とにかく、この後のシミュレーションを…」
淡「まず、サキが上がってきたらそのまま二人で一緒のベッドに入って…そ、その後は…」
◆
咲「淡ちゃーん、あがったよ」
淡(おっと、危ない危ない。ついつい、サキとベッドに入った後のパターンを考えすぎちゃったよ)
淡「サキー、おかえr…」ボーゼン
咲「ん、どうしたの、淡ちゃん?」
淡「か、可愛い…」
咲「か、可愛いって、そんな…///」
淡「えっ、あっ、そ、そのっ!」アワアワ
咲「え、えへへ、淡ちゃんに可愛いって言われちゃったね」
咲「あっ、私もベッド入っちゃうね」ニコッ
淡「う、うちゃおぐ…わ、わうい、う、うんっ!」(か、可愛すぎる…私はもうサキにめろめろだよ! 元々めろめろだったけど改めてめろめろめろめろだよ!)
咲「豆電球にするね…?」カチッ
淡「…!」(ちょっ、こ、この雰囲気、も、もう、もう、確定コースじゃん! よ、よし、よし…今日こそやるよっ!)
咲「お邪魔しまーす…」モゾモゾ
淡「あ、あわわわわわっ…」(さ、サキの、サキの温もりが…!)
咲「ねぇ、淡ちゃん? どうして壁の方向いてるの?」
淡「い、いや…」(ゆ、勇気を出せ、私っ!)
淡「さ、サキ!」クルン(咲の方を向く)
咲「わっ、あ…え、えへへ、顔、近いね…///」
淡「あ、あわっ…あわわっ…!!」アワアワ
咲「淡ちゃん?」
淡「あ、え、えっと……なんだか修学旅行みたいだね!」モゾッ(仰向けになる)
咲「むぅ…もうっ! 淡ちゃんっ!」ガバッ
淡「え、さ、サキっ!?」(お、押し倒されちゃった!?)
咲「私に告白してくれる前は、優しくてカッコよくてぐいぐい私にアプローチしてくれたのに、恋人になった瞬間ヘタレになっちゃって!」
咲「付き合って、遊園地に行った時も私が観覧車の頂点で淡ちゃんの横に座って、淡ちゃんの方を向いて少し目を閉じたのに、淡ちゃん『あ、あそこの山おっきいねー!』とか言ってヘタレるし」
咲「映画に行った時だって、せっかく私が淡ちゃんの方のひじ掛けの所に腕乗せてたのに、全然手を重ねてきてくれないし!」
咲「そして、挙句の果てには、淡ちゃんがわざとらしく終電逃して、一緒のホテルに入ったのに、結局何もしてこないし!」
淡「う、うぅ…ご、ごめんなさい…」
咲「まぁ、そんな淡ちゃんも可愛いし、大好きだけど…でも、もう決めたよ!」
淡「さ、サキ…?」
咲「淡ちゃんっ!」チュッ
淡「んむっ!?」(さ、サキにちゅ、ちゅーされちゃった!?)カァァ///
咲「ぷはっ…!」
淡「さ、サキー…///」
咲「ふふっ…エッチの時は、私が主導権ね?」ニコッ
淡「わ、分かったよ、サキー…///」
カン!!
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518691360/
Entry ⇒ 2018.03.21 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
淡「私が本物だよ!」
淡「ね、亦野先輩」
淡「何言ってるの?亦野先輩ならちゃんと私が本物だって分かるもんね」
誠子「分からない」
誠子「というかなんで淡が二人いるんだ?」
淡「えー」
淡「えー」
誠子「えー、じゃなくてだな……」
淡「作者の手癖のせいみたいな?」
誠子「何言ってるんだ……」
誠子「というか両方とも淡だと区別出来ないな」
誠子「とりあえずこっちが貧でそっちが巨な」
貧「いやいやいや」
巨「それだと私要素無いでしょ!」
誠子「じゃあ淡(貧)と淡(巨)」
淡(貧)「しょうがないですねぇ」
淡(巨)「認めてあげますよ」
誠子「偉そうだなおい」
淡(巨)「待って!最近出てるのは私の方なんですけと?」
誠子「確かに最近は胸が大きくなってた」
淡(巨)「でしょー?私が本物で間違いないよね!」
淡(貧)「いやいや阿知賀と日和はどう考えても私でしょ!」
淡(巨)「じゃあ本編のは自分じゃないって認めるんだ?」
淡(巨)「まあ外伝出すならシノハユと怜にも出ないとねえ」
誠子「その2つに出てきたら色々駄目だろ」
淡(巨)「大丈夫!もし出てきたらただのテコ入れだから!」
誠子「自信満々で言うことじゃないだろ……」
淡(巨)「え?」
淡(貧)「わざわざ外伝に出るくらいなら"淡-AWAI-"を始めるよ!」
誠子「お前が決めることじゃないだろ」
淡(巨)「確かに!怜なんてやってないで私の外伝をやるべきだよね」
誠子「おい怒られるぞ!」
淡(貧)「あの漫画酷いしそれがいいよね」
誠子「お前もか!」
淡(貧)「凶星とかなんなの?私以外のキャラが星を使うな!」
淡(巨)「分かる、だからアンケートにいつもやめるように書いてる」
淡(巨)「星ネタをやめるまで私は諦めない」
淡(貧)「私も私も」
誠子「お前達がどうなっても私は知らないからな」
淡(貧)「深く考えちゃダメ」
淡(巨)「本編とは無関係なんだからなんでもいいでしょ」
誠子「雑だ……」
誠子「ん?それならもうローテーションで良いよな」
淡(貧)「そっちの方が雑!」
淡(巨)「偽物に譲る気無いから!」
淡(貧)「ほっぺムニムニしても良いから」
淡(巨)「なっ!私なら胸もムニムニして良いですよ」
淡(貧)「ちょっ」
淡(巨)「ふふん」
淡(貧)「ふん、亦野先輩がそんな垂れたのムニムニするわけないじゃん」
淡(巨)「垂れてないし!」
淡(巨)「自分が胸無いからって僻み過ぎ」
淡(貧)「分かんないかなー、亦野先輩にはたかみーがいるんだよ?」
淡(巨)「えっ、二人ってそういう……」
淡(貧)「偽物は知らないよねー」
淡(貧)「ちなみに菫先輩とテルーも出来てるから」
淡(巨)「えーーー!!」
誠子「どこから突っ込めばいいんだ……」
淡(貧)「ん?」
淡(巨)「私1人余るじゃん」
淡(貧)「あ……」
淡(貧)「ハブじゃん!私だけ余るじゃん!」
淡(巨)「亦野先輩酷い!」
淡(貧)「捨てないで!」
淡(巨)「1人にしないで!」
淡(貧)「うえーん」
誠子「なんだこれ……」
誠子「やっと来ましたね」
淡(貧)「テルー!」
淡(巨)「いつの間に呼んだの?」
照「淡がふたrプリン!」
淡(貧)「ちょっ!」
淡(巨)「私達よりプリンなの!?」
照「分かった」
誠子「この二人ってどっちが本物なんですか?」
照「ちょっと待って」
照「……」ギロッ
淡(貧)(巨)「ひっ……」
照「……」
照「ノーコメント」
誠子「え?」
照「答えたからプリンは貰って行く」
淡(貧)「今のって答えてないんじゃ……」
淡(巨)「駄目!偽物がのさばる!」
淡(貧)「偽物のくせに何言ってるの」
淡(巨)「偽物はそっちでしょ!」
淡(貧)「そっち!」
誠子「ほら、こうやって決まらないんだからもう良いだろ」
淡(貧)「他にもアテがあるもん」
誠子「えっ?」
真佑子(もうあんな醜態を晒したりしない)
淡(貧)「多~治~比さ~ん」
淡(巨)「遊びましょ」
真佑子「へ?お、大星ぃ!?」
真佑子「嫌ぁあああぁああーーーーーーーーー!!!」
誠子「なんか凄い顔して逃げてったぞ」
淡(貧)「あれれー?」
淡(巨)「そして部室まで来たわけだけども」
淡(貧)「部活する?」
誠子「そうだな、麻雀でどっちが本物か決めろよ」
淡(巨)「良いね」
淡(貧)「絶対に負けないから!」
照「やっぱり淡は
淡(貧)「待って!」
淡(巨)「テルーが中で何か言ってる」
照「うん、さっき淡が二人いた」
菫「は?」
照「どっちが本物か聞かれたんだけど」
菫「説明してくれないんだな」
照「私より胸が大きい淡は偽物」
菫「ん?」
淡(貧)「それじゃ私が」
淡(巨)「偽物になっちゃうでしょ!」
淡(巨)「え?」
淡(貧)「何?テルーの胸の小ささ知らないの?」
淡(巨)「それは知ってるけど、これよりは大きいでしょ」ツンツン
淡(貧)「ちょっと!やめてよ」
菫「本当に二人いる……」
照「……」
淡(貧)(これで私が本物)
照「淡、私の目は誤魔化せない」
照「淡の胸は私のより0.8cm大きい」
淡(巨)「それってほとんど同じじゃん」
淡(貧)「嘘!私もっと大きいよ!」
淡(貧)「あっ」
照「この部に大星淡なんて人はいない」
淡(巨)「ガーン」
淡(貧)「そんなあー」
淡(貧)「冗談だよね?私ここの子だよね?」
照「……」プイッ
淡(巨)「ああっ」
淡(貧)「ううぅ……」
淡(巨)「そうだ、お菓子!」
淡(貧)「亦野先輩、お菓子買って来て!」
誠子「自分で行けよ」
淡(巨)「良くない!」
淡(貧)「そうだよ!」
淡(巨)「それよりもお菓子、早く!」
照「大丈夫」
淡(貧)「え?」
照「麻雀部とはもう他人だけど亦野が面倒を見てくれる」
誠子「ええっ!?」
照「見るよね?」ギロッ
誠子「……」
ガチャ
淡(貧)(巨)「おかえり~」
誠子「ただいま、じゃなくてなんでいつも私の部屋にいるんだよ」
淡(貧)「いつもじゃないよ、交代で学校行ってるし」
誠子「そうじゃなくて自分の部屋にいろよ」
淡(巨)「えー、せっかく合鍵作ったのにー」
誠子「やっぱり合鍵か……あれ?お前胸大きくなってないか?」
淡(巨)「あー、それはねー」
淡「お邪魔しまーす」ガチャ
淡(貧)「学校お疲れ-」
誠子「えっ、増えてる!?」
淡(貧)「私達の中間の(胸のサイズが)」
淡(巨)「淡(中)だよ」
淡(中)「これからは3人ですけど、これからもよろしくお願いします」
誠子「なん……だと……」
カン
あわあわは多いほど幸せ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520862301/
Entry ⇒ 2018.03.15 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
健夜「りんご!一緒に食べられるね!」京太郎「ヒェッ・・・」
今日は短いですがまったりいきます
全部できていないので気合入れるために作成しながら投下します
宜しくお願いします
咲のSS 今回のアラサーシリーズ
はやりん「私の少年」京太郎「ヒェッ・・・」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1502970132/
理沙「アルノ!」 京太郎「ヒェッ・・・」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503080936/
晴絵「なぜ笑うんだい?」京太郎「ヒェッ・・・」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503128052/
チュン チュン チュン
京太郎「んー……朝、か?」ゴシゴシ
健夜「あ、起きた?京太郎くん」
京太郎「は……あ、はい」ムクッ
健夜「お腹すいてない?モーニングでも頼む?」スッ
京太郎(あっ、イイ匂い……)ムクムク
健夜「京太郎くん?」
京太郎「朝御飯も良いですが……」ガッ
健夜「へっ?」
京太郎「その前に憧さんを頂きたいな!」チュ
健夜「昨日あんなにシたのに――んぅ!」
京太郎「ほらっ、もっと吸わせて」ムチュー
健夜「んふぅ……ぅん///」チュムチュム
京太郎「カワイイよ、憧さん」ニチュニチュ
健夜「やっ、そっちは///」
京太郎(おっ、濡れてる……)バキバキ
健夜「////」ニギッ
京太郎「あわっ……」
健夜「こんなおっきくしちゃって」ペロッ
健夜「イケナイ子////」チロチロチュッ
京太郎「ん……///」
この女性、福与憧さんとは出会い系サイトで知り合った
日々漫然と過ごしていた俺は出会いを求めていた
ある日、中学時代の先輩から出会い系を紹介してもらい
登録してみたところ20代前半の麻雀好きの女性がいた
麻雀の接点があるから慣れる為に絡んだところ話が合い
IHで東京に行く機会があり実際に会ってみたが
好きな漫画やテレビ、それと麻雀の話で盛り上がり
カラオケで間違って抱きしめてしまったらキスをされ
俺の理性も崩壊し、熱い夜を過ごしたのであった
シャアアアアア
京太郎「憧さーん、モーニング届きましたよー」
健夜「~~~~♪」
京太郎(シャワー浴びてて聞こえないか)ジー
京太郎(でもラブホのシャワーって新鮮だな)
京太郎(外からシャワー丸見え……ソソるぜ!)ジュルリ
京太郎「と、イカンイカン、もう流石に勃たねぇわ」
京太郎「ゴムも自販機のまでも使い切ったしな」
京太郎「大人しくテレビでも見るか」ポチッ
恒子『いえーい!良い子のみんな見てるかなー?』
恒子『プロ麻雀士のギコチナイ体操はっじまるよ~!』
健夜『テヘペロ』グギ
恒子『ぎっくり腰で休養になったはやりんの代打』
恒子『37歳の小鍛治健夜!アラフォーのすこやんだー!』
健夜『アラサーだよ!まだ27歳だよ!!』
京太郎「……え、小鍛冶健夜……プロ!?」
健夜「バレちゃった、かぁ……」
京太郎「!!?」ビクッ
健夜「ごめんね、名前も年齢もごまかしてたの……」
京太郎「…………」
健夜「軽蔑、したよね処女でアラサーなんて……」
京太郎「いや……その……」
健夜「でも、お互いの気持ちが通じ合っていれば――」
京太郎「俺、実は長野県に住んでいて……」
健夜「りんご!一緒に食べられるね!」
京太郎「ヒェッ・・・」
健夜「スキーできるね!温泉入れるね!」
健夜「はくさい!わさび!くるみ!ぶなしめじ!」
健夜「レタス!セロリ!アスパラガス!加工用トマト!」
健夜「薬用人参!えのき茸!カーネーション!」
健夜「トルコギキョウ!アルストロメリア!」
健夜「信濃川・連続アーチ橋・浮橋の長さ日本一だね!」
京太郎「ごめんなさい!無理です!!」ダッダッダ
健夜「あ……」
健夜「……」グスッ
数ヶ月後
京太郎「…………」ボー
和「須賀君、最近ボーっとしてますね」
咲「何かあったのかな・・・?」
優希「どーせ、えっちぃことでも考えてるんだじぇ」
久「いえいえ、これは事件の匂いがするわね」
まこ「アンタは勉強せんでいいんか受験生」
コン コン コン
まこ「ほれ客じゃ、暇なアンタがおもてなしせい」
久「えー、人使いが荒い新部長ねぇー」ムクリ
和「元部長がそれを言える資格がありますか?」
久「酷っ!」
優希「のどちゃん、地味に言葉キツいじぇ」
京太郎「…………」ボー
咲「京ちゃん、大丈夫?」
「ここに須賀京太郎って男子部員いますよね?」
京太郎「え……?」
久「えっと……あれ?福与アナ?なんで?」
和「取材か何かですかね?」ヒソヒソ
優希「優勝インタビューは済んでる筈だじぇ」
まこ「アポは何もなかったぞ」
咲「今、京ちゃんのこと言ってなかった?」
恒子「……」
まこ「どうも、部長の染谷です」ペコリ
まこ「うちの須賀に何か御用でしょうか?」
恒子「ああ、そいつが須賀ね……」キッ
まこ(京太郎!お前、何かやらかしたんか!?)チラッ
京太郎「え?あの、俺に何か――」
バシィッ!
京太郎「っ……!?」ヒリヒリ
久「ちょ、ちょっと!いきなり何するんですか!!」
和「スナップの効いた良いビンタが入りましたね」
優希「え、えぇ……?冷静に分析してる場合か?」
咲「京ちゃん!大丈夫!?」
京太郎「いっ……たっ……」
まこ「ウチのもんに何さらしとんじゃゴラァ!!」
恒子「……それはこっちの台詞よ」
恒子「私はすこやんの……いえ」
恒子「小鍛治健夜プロの親友、この意味分かる?」
京太郎「!?」ハッ
恒子「……」
京太郎「お、俺……その……」
ドゴァッ!!
京太郎「ゲフゥ!ッハ!」
和「まさかの後ろ回し蹴り、虚をつかれましたね」
優希「おいおいおい!死ぬじょ、京太郎が!!」
咲「何やってんるんですか貴女!」
まこ「なんじゃぁお前!!」
久「福与アナ、警察呼びますよ?」
恒子「オメェらウルトラマンにでも守られてんのか?お?」
咲久まこ「ヒェッ・・・」
京太郎「すみません……でした、でも――」
ベドシィッ!
和「川掌!腕・腰・脚の動作が見事です!!」
優希「のどちゃん、少し黙れ、な!」ポンポン
恒子「直接は聞いていないわ、いえ聞けなかった」
恒子「あんなに悲しそうな顔をしてたしね」
恒子「キモいくらいハイテンションからあんなに……」
恒子「でもスマホを盗み見して分かったわ」
恒子「男に、それもこんなガキにヤり捨てられた!」
恒子「乳臭いくせに乳が無くモテ要素も皆無」
恒子「甘い声を掛けたら直ぐに釣れるくらいチョロい」
恒子「さぞ都合の良い女だったんでしょ?」
京太郎「そ、そんなことは――」
恒子「黙れ小僧!お前にすこやんの痛みが癒せるのか?」
恒子「彼氏も男友達すらいなく、年齢=喪女がすこやんだ!」
恒子「リア充にもなれず、セフレにもなりきれぬ」
恒子「哀れでモテない、寝間着はジャージで糞ダセェ」
恒子「結婚したいと宣うが努力が全く見られない」
恒子「私の……私の、最高の友達なの!!」
久「あのー、本当に親友なんですか?」
咲「めちゃくちゃディスってますよね?」ヒソヒソ
まこ「じゃのう……」
和「最高にネタ的に面白い親友と言いたいのでは?」
優希「のどちゃん、何か嫌な事でもあったのか?」
京太郎「だって……」ボタボタ
京太郎「だって!俺なんかじゃ釣り合いません!」
恒子「なん……だと……?」
京太郎「あんな素敵な人……俺なんかじゃ……」
恒子「素敵?いやいやくだらんジョークは止めなよ」
京太郎「本当は好きで好きでしょうがないんです!」
京太郎「一日だって忘れたこともありません!!」
恒子「うそ……だろ……?すこやんだよ!あのすこやん!」
京太郎「でも、あの人はプロでそれもトップクラス」
京太郎「そんな人の隣に、ただの学生の俺がいたって……」
京太郎「きっと将来、邪魔になってしまう……」
「そんな風に想ってくれていたんだね……」ガチャ
健夜「…………」
恒子「すっ、すこやん!え?なんでいるの!?」
健夜「ごめん、こーこちゃんの様子が変だったから」
健夜「こっそり、向こうから後を付けて来たの……」
京太郎 「健夜さん……俺……」
健夜「てっきり遊ばれちゃっただけかと思ったの……」
健夜「でも京太郎君、私は貴方の事を愛しています」
健夜「その気持ちだけでは……いけない?」
京太郎 「だって!俺なんかより……」
京太郎 「もっと良い人からアプローチがある筈!」
恒子「そんなのあるわけねーじゃんww」
まこ「アンタは少し空気読みんしゃい」ベシッ
健夜「そっか、私の肩書から色んな事を想像して」
健夜「自分から身を引いちゃったんだね……」
京太郎 「……」
健夜「確かに若過ぎる君と結ばれて……」
健夜「結婚生活や育児で麻雀に費やす時間が減る」
健夜「その結果、雀力が大きく衰えるかもしれない」
京太郎 「だから、トッププロの貴女にそんな――」
健夜「でも……それが何?」
健夜「逆に貴方は、私の肩書を知らずに抱いてくれた」
健夜「1人の女性として愛してくれた」
健夜「私は……それがとても嬉しかった……」
京太郎 「健夜さん……」
健夜「私の事を想い続けていてくれたから」
健夜「私も決心がつきました……」
京太郎 「……」
健夜「結婚してください、御願いします」ペコリ
健夜「例え、プロとして弱くなったとしても」
健夜「それは私が決めた道で後悔なんてありません」
健夜「貴方の隣にいさせてください」
京太郎「――――!!?」
京太郎「…………」
健夜「…………」
京太郎「……ありがとうございます」ギュ
全員「!!?」
京太郎「俺は覚悟がありませんでした」
京太郎「でも、貴女の勇気が後押ししてくれた」
京太郎「かなわないなぁ、健夜さんには」クスッ
健夜「えへへ……」ポロポロ
京太郎「仮に健夜さんが無一文になったとしても」
京太郎「絶対に俺が食わせます!養います!」
京太郎「どんな仕事だってやりますし」
京太郎「仕事が無かったらりんご農家にでもなって」
京太郎「一面の畑を作って毎日プレゼントします!」
京太郎「俺のりんごを食べてください!!」
健夜「京太郎君……////」
咲「京ちゃん、りんごは木に生るんだよ?」
京太郎「え?あっ!ああ、そうか!」
優希「やれやれ、これから大丈夫か?馬鹿犬」
和「馬鹿猿は木から落ち続けると言いますしね」
久「それより須賀君の歳で結婚は法律が……」
恒子「うっそぉ!すこやんなんかに先越された!!」
まこ「ご愁傷様じゃの」
京太郎「ああっ、えーと!」
京太郎「すみません健夜さん!もう一回御願いします」
京太郎「もう一回!ちゃんとプロポーズを――」
健夜「いいよ、やり直さなくても♪」
京太郎「へ?」
健夜「りんご!一緒に食べられるね!」ニコッ
カン
くぅ~疲、ご視聴ありがとうございました
たぶん、もうシリーズものはやらないよ
ではまたどっかで、バイナラ
すこやんが一番まともな純愛だった
まさかのいい話だった
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503208809/
Entry ⇒ 2018.01.24 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
【咲】和「puppy love」【京太郎】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492519590/
上記のifみたいな物です。
和編と言っていいものやら
それでも、私はあの日の出会いを運命だと信じたいです。
「タコスを補充してくるからのどちゃんは先に行ってくれ。」
と、私を置いて食堂に向かってしまったので、麻雀部を探すことにしました。
ですが、中々麻雀部は見つけることができませんでした。
探している最中に私に声をかけてくる男子生徒しかいませんでした。
「麻雀部に入ろうと思っているので」と言っても諦めません。
「まぁまぁ、話しだけでも」と食い下がってきます。
その目は私ではなく、身体を見ている目でした。
正直な所、中学時代からそういった目で見られることは少なくありません。
ですが、慣れることでもないので人が来ないような場所、所謂旧校舎付近に逃げることにしたのです。
其処で、王子様と出会ったのです。
私に声を掛けてきてくれたのは、陽の光を浴びキラキラと輝く黄金色をした髪の毛を持ち、
身長が程よい高さの何処か幼さをもった男子生徒でした。
「麻雀部の部室を探してるんだろ?案内するから付いてきてくれ。」
そう言うと手を差し出しニッコリと素敵な笑顔を浮かべていたのです。
これで恋に落ちない女性はヒトではありませんね。えぇ。
かく言う私も、一目惚れなど幻想だと思っていました。
する筈がないと思っていましたが。
誰かが恋は理屈ではないと仰ってましたが、その通りでした。
「そう言えば自己紹介がマダだったな、俺は須賀京太郎。1-Aだ。宜しくなッ!」
彼は、元気に自己紹介をしてくれました。
名前は須賀京太郎というのですね。素晴らしい名前だ。と噛み締めていました。
「私は、原村和と言います。1-Bに在籍しています。」
「知ってる。男子の中じゃ有名だしな。可愛いって。」
「そうですか。一応お礼を言うべきなのでしょうか?」
「別に良いって。」
「和は麻雀部に入部するのか?」
「何故それを?」
「悪気があったわけじゃなかったんだけど、男子に言い寄られてる時に『麻雀部』って聞こえたからさ。」
「そうなのですか。えぇ、麻雀部に入部しようと思っています。」
なんということはない会話をする時間が流れます。
こんなにも時間は速く流れるものなのでしょうか?
楽しい時間はあっという間に過ぎるといいますが、まさにこの事を指すのでしょう。
会話の途中、偶に胸に視線が行くこともありますが。
それでも、あれほど苦手で慣れなかった視線でしたが、彼からの視線は苦になりませんでした。
麻雀部という標識はありますが、本当に麻雀部はここにあるのでしょうか?
「部長!入部希望者でっす!」
「良くやったわ!須賀くん!ご褒美にお姉さんが抱擁してあげるわ。」
「結構です。其れをダシに使われたくないんで。」
「何よぅ。素直じゃないわね~。」
中に居たのは前日、入学式で議会長挨拶を行った3年生の先輩。
須賀君は、この先輩と仲が宜しいみたいです。
入部してまだ数日しか経っていないと聞きましたが。
須賀君だからこそなせる業なのか、眼の前にいる先輩が親しみやすいのでしょうか。
「改めて歓迎するわ。盛大にね。」
「何もないですけどね。」
「そこ、煩い。私の顔は覚えているかしら?清澄高校の生徒議会長と麻雀部の部長をしている竹井久よ。これからよろしくね♪」
「はい。此方こそ宜しくお願いします。1-Bの原村和です。友人がもう1人入部すると思うので揃ってお願いします。」
「本当に?いや~昨年のミドル覇者が入部してくれるだけじゃなくてもう1人入ってくれるなんて凄いわね~」
私と部長のやり取りを須賀君は黙って見ています。
何故か嬉しそうにしていたので、自分もそんな彼を見て思わず笑みが零れてしまいました。
その日は、後からやってきたゆーきとで宅を囲みました。
須賀君は麻雀をやったことがないらしいので、部長が教えながら打っていました。
距離が近すぎるような気がしないでもありません。
羨ましいです。
その日の活動は終わり。
帰路の途中、ゆーきが前触れもなく話題を振ってきました。
「のどちゃんは、京太郎のどこに惚れんたんだじぇ?」
「なっ、何を言ってるんですか!?ゆーき!そんな事は……」
「いやいや、短くない付き合いだからな、何となく今日の様子が可笑しいなぁと思ったんだけど、まさか本当だったとは……」
「カマをかけましたね、ゆーき。」
「いやぁ、京太郎のこと見てるというか、意識してるなぁって思ってたけど。まさか、本当だったとは。」
ケラケラと笑うゆーき。私としては堪ったものではないです、はい。
というか、何故そう思ったのでしょうか?
「なんで分かったのか?って言う顔してるじぇ。のどちゃん。」
顔に出ていたでしょうか?出ていないと思うのですが……
「嫁じゃないです。」
「そこじゃないじょ。まぁ、私にもできるサポートがあったらしてくじぇ。友達だからなッ!」
と、意気込んでるゆーきを尻目に歩を進めます。
転校が多かったので誰かと付き合ったことも、好きになったこともない私です。
恋愛初心者の私ではどうアピールすれば良いのか、アプローチの仕方もわかりません。
ゆーきがサポートしてくれるとは言いますが、あの、ちょっと、アレですし。
不安です。
須賀君の周りには誰かしらがいました。
部活中では、まこさんや部長が、麻雀の教養をしていました。
私も教えたいという感情が湧き出てきます。
その時に色々な所が触れても可笑しくはないと思います。
故意ではなく事故なので、何も問題はありません。
えぇ、ありませんとも。
ですがその日は、ゆーきが良いアシストをしてくれました。
タコスを学食まで買ってきて欲しいと須賀君に頼んだのです。
ここが好機だと思い、一緒に買いに行くことを提案しました。
結果は良好でした。ゆーきは笑顔だったかもしれません。
須賀君の視線が胸に行ってるのが分かります。
須賀君からの視線は嫌いではありませんが、やはり、私自身を見て貰いたいのです。
「須賀君、女の子は思っているよりも視線に敏感です。気をつけてください。」
「あー。悪い、和。こう、思わずというか、何というか。これからは気をつける。」
「いえ、次から気をつけて頂ければ。」
冷たかったでしょうか?それとも、強く当たりすぎたでしょうか?
「そういえば、和も優希も麻雀やったことあるんだな。」
「そうですね。ゆーきと出会えたのも麻雀のお陰です。」
「そうなのか?」
「はい。中学二年生の時に此方に引っ越して来まして、その時に仲良くなったのがゆーきと先輩が一人います。」
ゆーきと煌先輩と出会えたことは私の誇りでもあります。
私に話しかけてくれたゆーき。奈良にいた頃の親友の小さかった頃を思い出します。
煌先輩は、諦めない、折れない心を持っていました。尊敬する先輩です。
「へぇー、そうなのか。」
「はい。」
「それにしても、和って麻雀強いよな。家に雀卓あったりするのか」
「えぇ。ありますよ。」
といっても、あまり高いものではありませんが。
「マジか!?やっぱり、必要なのか?家でも勉強するには。」
「そういう訳でもありませんよ。今ではアプリで配信されていたりしますし。」
「そうなのか!和はどれをやってるんだ?」
「それは……」
須賀君との何気ない日常会話でも、楽しく思えるのです。
こんな幸せな時間がもっともっと長く続けばなと思うのは、悪いことなのでしょうか?
あの幸せな時間を過ごせた日から数日。
宮永さんという、幼馴染―――休み時間近くにいた―――の女子生徒を須賀君が麻雀部に連れてきました。
三連続±0には驚かされましたが、麻雀が好きじゃない発言等、好きに成れそうにありません。
あと、休み時間毎に須賀君の近くに居すぎです。
「まだ、雨が止みそうにないですねぇ。」
外はまだ、雨模様です。部長やゆーきは置き傘が無いかを探し出てしまいました。
部活は此処までのようです。
「そうだなぁ。和は傘、あるのか?」
「いえ。持ってきてません。」
「そうなのか。」
持ってきていたら、相合傘が出来たかもしれません。
何故、今日に限って持ってこなかったのでしょうか。
原村和一生の不覚です。
「なら、一緒に入ってくか?和を濡らして返すわけには行かないしな。」
私の聞き間違いでしょうか。そのような事を提案されるとは思ってもいませんでした。
この絶好の機会を逃すわけにはいきません。
「そういうことでしたら、お願いしても宜しいでしょうか?」
「任されました。」
生憎の空模様ですが、私としてはこれ以上に喜ばしいことはありません。
大好きな彼―――須賀京太郎君―――と、一緒に帰れるのですから。
それも、一つ同じ傘の下で。
ですが、最近気づいた事があります。
「須賀君。」
「ん、どうかしたか、和? 肩とか濡れちゃったか? 」
「いえ、濡れていません。」
えぇ、濡れていませんとも。貴男が注意して濡らさないようにしているのですから。
「それではなく、須賀くんは……」
「部長が好きなのでしょうですか?」
彼は、よく部長―――竹井久先輩―――を目で追いかけています。
好き……なのでしょうか?
「は?」
須賀君が驚きの表情をしています。それすら愛しく思えてしまいます。
「いや、どうなんだろうな。好きなのかな?」
得も言われぬ答えが帰ってきました。
「どうなのでしょう?須賀君は良く部長のことを見ているので。てっきりそうなのかと。」
うーん。と首をひねっている須賀君。
「いやーいやいや。ないない。部長に恋愛感情は無いと思う。うん。」
「そういうことにしておきましょう。」
「しておきましょうって……」
勘弁してくれよという須賀君。
無自覚なのでしょうか?
「それでは、今日連れてきた宮永さんは?」
「咲?無いって。只の幼馴染だしな。目は離せない存在だけどな。」
その答えに胸が引き裂かれそうになります。
宮永さんは目が離せないのですか。
「そう……なのですか。」
自分でも驚くほどに冷たい声が出てしまいました。
「あぁ、何やらしてもダメダメでさ。目を離すと迷子になってたりするからなぁ。」
あぁ、なるほど。保護者みたいな感じでしょうか。
「そうなんですか。宮永さんも可愛らしい所があるのですね。」
そう言うと、彼は面倒を見る方は堪ったものじゃない、と零しています。
「ねぇ、須賀君。知ってますか?」
「何を?」
「私って、結構負けず嫌いなんですよ。」
「へー、だとは思ってたけど。」
「だから、負けたくないんですよね。」
「おー。頑張ってくれ、できることは手伝うし応援してるから。」
「はいっ!ありがとうございます。」
えぇ。負けられませんとも。
恋も麻雀も。
幼馴染の宮永さんにも。
無意識に目で追いかけている部長にも。
決して負けません。
「須賀君。私からも目を離さないでくださいね?」
カンッ!
和ちゃんがノンケで乙女しているといいなと思う
共感は求めないけど
ノンケのどっちはホント可愛いと思う
さすが嫁が夢なだけある
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Entry ⇒ 2018.01.14 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
恭子「充電?」咲「はい」
寝坊をして家を出たところで雨に降られ、
途中購入したビニール傘は強風に煽られて見るも無残な姿となり、
トラックに水溜りの水を掛けられびしょ濡れの姿で校舎へと駆け込んだ。
着替えもなくせめてタオルを買おうと売店へ行くと、肝心の財布がない。
そういえばさっきコンビニで置いてきたような気もする。
しかもそういう時に限って今日の講義は昼を挟んで夕方までみっちりある上、バイトも入っていた。
そこで財布を置き忘れた店への連絡と、
仕方なく友人から融資を受けるために鞄から携帯を取り出そうとしたもののどこを探しても 見つからない。
そういえば自宅で充電器に繋ぎっぱなしだったのではないか?
すべてを思い出して、咲は頭を抱えてしまったのだった。
一人暮らしのアパートの鍵を開けた。
1Kのさして広くもない部屋に入ると
暗闇の中、テーブルの上で携帯の着信を告げる緑色のライトがチカチカと明滅している。
電気を付け、雨水の滴り落ちるコンビニのレジ袋を構わずその横に置くと
すっかり冷たくなった手で充電コードを外して履歴を確認した。
メールが3件、着信が1件。
メールはゼミの友人と高校からの友人から1件ずつ。
残りの1件と着信は恭子からだ。
咲は2件を差し置いて、最新メールを表示させた。
恭子『帰りまでに雨が止まなかったら、迎えに行こか?』
ちょうどバイトが終わる頃を見計らった着信。
咲は思わず再び頭を抱えた。
練習と銘打って実家の車でドライブをすることだそうで、
「今度咲も乗せてやるわ」なんて言っていたのではなかったか。
咲(せっかくのお誘いを袖にしちゃった……)
後悔は疲労を増長させる。
咲は精魂尽き果てたようにテーブルに突っ伏した。
着信からはすでに1時間ほど経過している。
恭子はもう寝ているだろうか?
遠慮と引け目が渦巻いてもやもやしなが らも、
ただ声が聞きたくて通知のない留守番電話の履歴に無意味に恭子の名前を探してしまう。
が、見当たらない。
咲(とりあえず、今日は謝罪メールだけ入れておこう)
咲はしばらく携帯と睨めっこして、諦めたように息を吐いた。
着信だ。相手は恭子。
咲は一も二もなく通話ボタンを押した。
咲「はい」
恭子『咲か。今、大丈夫かいな』
落ち着いた恭子の声が咲の鼓膜を揺るがす。
囁くような声は深夜という時間を慮ってのことだろう。
それが今の咲の心にはやけに響いて、少しだけ目頭が熱くなった。
恭子『咲?』
訝しむ声にはっ として、携帯を握りしめる手に力を込める。
咲「ごめんなさい。じつは今日家に携帯を忘れてしまって。今帰ってきたところなんです」
恭子『まったく、そんなことだろうと思ったわ』
そう言ってため息を吐いた恭子の呆れ顔が今にも目に浮かびそうだ。
咲「いえ、ちょっと食欲がなくて。プリンを買ってきたので今から食べようかと」
さっきまで所持金0円だったので食いっぱぐれました、なんて本当のことを言おうものなら
延々と続く小言の嵐に見舞われてしまいそうだったので、事実は胸に留めておいた。
食欲が落ちているのは本当だから、まるっきり嘘ではないだろう。
そう自分 を納得させて、最近やたら咲の事情を看破してくる恭子の目を逸らさせるべく矢継ぎ早に続ける。
咲「せっかく恭子さんのドライビングテクニックを体験できるいい機会だったのに、無下にしちゃってすみません」
恭子『別にいつだって乗せてやるで。それより咲、体調崩してるん?』
咲「……いえ、どうしてですか?」
ぎくりと竦む。
恭子『声に覇気がない。あんたに食欲がないのはしょっちゅうやけど、まさか風邪でもひいてるんじゃないやろうな』
咲「疲れているだけです。時期的に仕方ないですね」
恭子『疲れていても三食きちんとした食生活を送るよう心掛けろといつも言ってるやろ』
今日も長くなりそうだ。
小言モードスイッチが入ったところで
咲はビニール袋をガサゴソ漁ってプリンを取り出した。
恭子『咲、ちゃんと聞いてるん?』
右手だけでは蓋は開かない。
携帯を肩と耳で押さえ、左手でプリンを固定して右に力を入れる。すると。
咲「あ」
恭子『咲?』
咲「い……いえ、なんでも」
恭子『……』
咲「……」
恭子『……落としたんか?』
咲「……はい」
あえなくお気に入りのカーペットを汚していた。
その時の無力感たるや。
咲「私、何か悪いことしたのかな ……」
あまりにも不運が続きすぎて悲しくなってきた。
恭子『……泣いてるんか』
咲「泣いてません」
きっぱり即答すると、逡巡する気配の後にぎしりと何かが軋むような音がした。
恭子『今から行くわ』
咲「え?」
予想しなかった言葉に目が点になる。
電話の向こうから衣擦れの音が聞こえたところで、咲は慌てて声を上げた。
咲「え、あの……恭子さん?」
恭子『30分かからへん。玄関は私が行くまで施錠しておくんやで』
反論の隙を与える間もなく、通話は一方的に切られた。
***
覗き穴からダークブラウンのコートが見える。
先日二人で買い物に行ったときに、恭子に似合 うと咲が選んだものだ。
恭子『着いたで』
再び繋がった携帯から、先程よりもさらに潜められた声が漏れる。
咲「……」
恭子『咲』
咲「……」
恭子『いつまで拗ねてるねん。はよ開けや。寒いわ』
咲「……」
まさかわざわざ家まで来てくれた恋人を凍えさせるわけにはいかない。
鍵を開けると、「遅い」という文句とともに恭子が部屋に滑り込んできた。
咲「まだ降ってますか」
恭子「日中よりはマシになったが、降ってるな」
恭子は玄関から動かなかった。
咲「どうやって来たんですか?終電は終わってるし、近くにパーキングはないでしょう」
恭子「タクシーに決まってるやろ」
受け取ったコンビニの袋からコーヒーとプリンを取り出して冷蔵庫にしまう。
僅かに触れた恭子の指先は、シャワーを浴びた咲とは反対に冷えていた。
恭子「タクシー、そのまま下に待たせてあるねん」
咲「え」
もう帰っちゃうんですか?
そんな思いが口から出かけて慌てて噤む。
しかし言葉よりも何よりも、その表情がすべてを雄弁に語っていた。
恭子「なんてな。嘘やで」
雨に濡れた手が咲の腕を引く。
咲「……ひどいです」
優しい声に視界が滲んだ。
傘は折れて服は濡れるし、財布も携帯もない。
仲の良い友人とはつまらぬ口喧嘩。
授業では珍しく課題を忘れて教授に怒られ、
バイトでは細かいミスを重ねて店長に怒られた。
しかも恋人と会えるチャンスをも無にするところだったのだ。
ひとつひとつは些細な出来事でも、こう積み重なれば弱音を吐きたくもなる。
冷たくて温かい腕の中、抱き締められる力が増すのに応えて
咲も精一杯その体にしがみついた。
***
恭子「……咲」
咲「恭子さん、おはようございます。いいタイミングでしたね」
香ばしい匂いが漂うキッチン。
咲がフライパンと菜箸を片手に振り返ると、
爽やかな朝日を浴びた恭子が微妙そうな表情で突っ立っていた。
昨晩眠るのが遅かったとはいえ、
珍しく咲がベッドを抜け出すのにも気付かないくらい熟睡していたところを見ると
自分以上に恭子が疲れていたのだと申し訳なく思う。
一方咲はといえば、恭子が癒してくれたおかげで気分爽快。
久々に大変晴れやかな朝を迎えることができたのだった。
お互い大学にバイトに忙しく、およそ2週間ぶりの逢瀬だった。
咲「晴れてよかったですね。今日は2限からですよね?」
恭子「ん。咲は?」
咲「私は今日休講なんで、ゆっくりしてます。夕方からゼミの飲み 会がありますけど」
それに昨日忘れた課題を片付けなければならないので、夕方までは家に篭るつもりだ。
咲は朝食を作りながらすでに今日の予定を大まかに立てていたので、
次の恭子のセリフには耳を疑った。
恭子「そうか、じゃあ私もそれまでここにいるで」
咲「何言ってるんですか。恭子さんは大事な授業がみっちり入ってるでしょう。単位落としますよ」
恭子「嫌や」
咲「嫌って……」
恭子「帰らへん」
後ろから肩に頭を乗せられ、思いきりのし掛かられた。
咲「!? ちょっ、危ないし重いです……!」
慌ててコンロの火を消して菜箸を置くと、見計らったように拘束に力が入る。
咲「もう、恭子さ……んっ」
肩越しに振り向けば恋人の瞳がすぐそばにあって、
見惚れている間に唇に噛み付かれた。
昨夜散々弄ばれて腫れた唇が再び熱を持つ。
咲(流される)
顔を背け、距離を取ろうと足掻く咲をよそに
体の向きを変えられ、啄ばむだけだったものが徐々に深まっていく。
ついに苦しさのあまり胸を叩くと、恭子はやっと離れて2人の間を糸が引いた。
必死に酸素を取り込もうと喘ぐ咲の顎を、恭子の指がついと持ち上げる。
咲「まって」
恭子「待たへん」
まるでベッドの上で睦み合っている時のような、
余裕のない表情と耐えるような恭子の声に咲の背筋が震える。
そして、再び唇が重なる。
咲は諦めたように肩の力を抜き、恭子の口付けに応えていった。
***
ごく一般的な日本の朝食を平らげ、食後のデザートに二人でプリンをつつく。
恭子「咲が合鍵を寄越さへんからやろ」
脈絡のない言葉に咲がぱちぱち瞬く。
話口調からすると、恭子の中では前件と連動した台詞なのだろう。
いつの話かはわからないが。
咲「私の家の合鍵、欲しいんですか?」
恭子「当た り前や」
これには少しだけ驚いた。
今まで恭子がそんな素振りを見せたことがなかったからだ。
少なくとも咲の前では。
咲「恭子さんって『結婚前に同棲とは何事や』とか『でき婚なんて認めへん』ってタイプじゃないんですか」
恭子「やることやっといて、今さら何を言ってるんやあんたは」
心底呆れたという表情で言われ、それもそうかと頷く。
咲「はあ……」
恭子「あんたが寝てる間に、鞄から持ち出してキーコピーをしようかと思うくらいには思い悩んだわ」
咲「恭子さん……それは犯罪です」
さすがに若干引き気味に言うと、メゲルわ…と呻 く。
咲は残ったプリンを完食してしまうと、おもむろに鞄を漁って、それを差し出した。
咲「これ、あげます」
恭子「……ええんか?」
驚いたように目を見張る恭子の掌に鍵を落とす。
咲「次はもっと早く呼びますね。充電が切れる前に。というか、その前に恭子さんが来てください」
恭子「充電?」
咲「はい。恭子さんと、私の」
恭子「……ああ。せやな」
目に見えて嬉しそうな表情をした恭子が、顔を近づけてくるものだから。
授業の開始時間が迫っていることを伝えるべきか、咲は少しだけ迷った。
カン!
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514808968/
Entry ⇒ 2018.01.02 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
久「清澄高校の端緒」【咲】
『全国大会で優勝できたきっかけですか?』
『はい。失礼ですが、無名だった清澄高校が、優勝まで辿り着いたきっかけがあれば是非とも教えて頂けないかと。』
『それは、簡単ですよ。ある1人の部員が入部してからです。
そこから、清澄高校麻雀部は始まったと言っても過言ではありません。』
『それは、―――』
今でも、鮮明に思い出せる。昨日のことのように。
それは、晴れた春の出来事だった。
我が清澄高校には新たに320名が入学した。
その中から、麻雀部に興味を、関心を持ってくれる人は何人いるのだろうか?
議会長権限でどうにか廃部は免れているが、今年入部希望者がいなければ、廃部となってしまう。
そうなれば、夢でもある全国制覇にも手が届かない。
「はぁ。弱気になっちゃ駄目ね。まだ、入部希望者が0っていう訳でもないのに。」
そう言って、自分に活を入れる。
でも、心の何処かでは諦めている自分がいる。
去年はやっとの思いで、実家が「Roof-top」という雀荘を営んでいる“染谷まこ”を入部させられることができたのだ。
今年はいないのかもしれないという暗雲に包まれる。
長野で麻雀をやるならば強豪校―――名門風越女子か龍門渕―――に向かうだろう。
今日で、4日も経ったというのに、戸が叩かれる気配がない。
部員が少ない上に、生徒議会で忙しく十分な勧誘もできていないので、
叩かれる事自体が稀有なのだが。
それでも、期待というもの人はしてしまうものだ。
権限で強制的に入部させても、意味がない。
それでは、2年前と同じ轍を踏むことになる。
それだけは、避けたい。
何よりも、目標であり、夢でもある全国制覇を成し遂げるためには、経験者のほうが望ましい。
と、物思いに耽っていた時だった。
何か視線を感じる。
入部希望者か見学者かしら?と思い、振り返ってみる。
そこには、金髪の少々あどけなくも、体付きはしっかりとした、青年が佇んでいた。
「部活動見学者かしら、それとも入部希望者? 」
只の希望的観測でしかないが。
この際、男子生徒だからといって拒否をしてはいけない。
仲の良い女子生徒を連れてきてくれるかもしれないという思いにフタをする。
「いや、違うんです。迷子を探していて。」
現実というものは非情で
世知辛いものである。
表情が変わっていないか不安になる。
残念そうな表情を見せるわけにはいかない。
あからさまに目の前でがっかりされると辛いのだ。
私にも経験があるので、そんな思いをさせたくはない。
さて、どうしようかと頭を悩ませていると、向こうから質問が飛んできた。
「此処は一体何をするんでしょうか。」
先程、迷子を探していると言っていたからか、よく確認もせずに入ってきたのだろう。
意外とおっちょこちょいというか、可愛らしい所があるものだ。
「麻雀よ。知ってるかしら?」
現代の大人気競技となった麻雀。今や知らない人はいないとでも言えるモノ。
「耳にしたことはある程度ですね。細かいルールは知りません。」
男子麻雀の黄金期から結構な時が経った今では、男子が麻雀から離れていても可笑しくはない。
実際に、男性雀士の数は年々減少傾向にある。
「そう。なら、教えて上げるわ。其処の卓の椅子に座って。」
あわよくば、このまま麻雀に興味を持ち、入部してくれたらという思いを秘めつつ話を進める。
正確には久視点のようなものになります。
「麻雀は、四人制で行うの。その中で一番得点が高い人の勝利。
使うものは雀牌と言われる萬子、索子、筒子、字牌の四種類、百三十六枚を使用するの。そして、役を作って和了る。ここ迄は良いかしら?」
そういえば、麻雀の説明って初めてじゃないかしら、
中学時代は、他の子がやっていたし、高校に進学してからは言わずもがな。
「はい。」
物覚えはいい方なのかしら?
「ふふっ、続けるわね。萬子、索子、筒子は数牌と呼ばれ各種に一~九まで区別されているの。
字牌はそれぞれ東、西、南、北の四風牌、白、發、中の三元牌に分けられるのよ。
これらを様々に組み合わせていく競技よ。分かったかしら?」
私って、教師に向いているのかもしれない。
そう思うほどに良く出来ている。我が事ながら自分の才能が恐ろしいわね。
「はい。あの、その役って何種類あるんですか?」
「良い質問ね。一般的に採用されているのは三十八種類よ。ローカル役を含めると大凡九十近くね。」
役の数を教えると、驚いた表情を見せてくれる。
慣れてる此方からすれば、何てことはないが、初心者でもある彼からすれば驚天動地なのも頷ける。
「そんなにあるんですか!?」
実際に大会で採用されているのは、一般に普及してる38種類。
国際大会ともなると、話はまた別となるが。
「といっても一般的な三十八個だけで十分よ。本当なら、体験させてあげられたらいいんだけど……」
本当に、惜しい。
まこが居てくれたら、彼にも実際に触れさせてあげれるのに。
麻雀の楽しさを教えてあげられる絶好の機会を逃してしまうなんて。
「ごめんなさいね。本当なら二年生の娘がもう一人居るんだけど、今日は家庭の事情で来れなくて。
せめて三麻だけでも体験させてあげられたら良かったのに。」
幸運の女神は前髪しかない。それを掴み損ねた者に次はない。
「なら、明日はその先輩は居るんですか?」
「え?」
逃したと思っていた幸運の女神は私にもう一度微笑んでくれるらしい。
「ですから、明日はその、三麻?でしたっけ。それは出来るんですか?」
思い掛けず彼を抱きしめてしまいたい感情に駆られるも、それを押さえ込む。
「えぇ!明日なら出来るわ!私が、どんな事をしてでも、らt,連れてくるわ!」
「今なんか、不穏な言葉が聞こえた気が……」
「気のせいよ。気のせい。」
どんな事をしてでも明日は、まこを連れてこなくてはならない。
「俺、一年生の須賀京太郎って言います。」
彼が、自己紹介をしてくる。
もしや、私自己紹介してない?
「へ?……そうね、自己紹介がまだだったわね。
麻雀部部長で生徒議会長を務めてる三年の竹井久よ。
よろしくね、須賀くん。」
思いがけず興奮して、失敗したわ。という囁きは聞こえていないだろうか?
聞かれていたら、結構恥ずかしい。
「それでは、また明日来ます。」
「えぇ、待ってるわね。明日こそ須賀くんに麻雀の楽しさをお姉さんが教えてあげるわね。」
ウィンクをしながら彼―――須賀くん―――を見送る。
明日は大きな仕事ができた。
思わず笑みが零れそうになるのを抑える。
事がうまく運べば、部員が増えることになる。
まぁ、女子じゃないのがネックだけど。それには目を瞑りましょう。
我儘を言える立場ですらないのだから。
「あぁ、まこ。丁度良かったわ。今日は部室に顔を出しなさい。」
「いきなり、何を言うとるんじゃ?」
探していた相手は、見つかった。まこを、部室に来るようにしなければいけない。
「何って、言ったままよ? 今日は、部室に顔を出しなさい。」
「なんでじゃ。まさか、入部希望者でも来たとか言うんじゃなかろうな?」
「惜しいわね、見学者よ。その子は麻雀をやったことのない、初心者なのよ。
昨日来てくれたんだけど、流石に打たせることはできなかったわけ。
それで、今日も来るみたいだから。三麻でも、ってね。」
昨日起きたことを説明する。
「ほんまか?」
疑い深いわね。
「本当よ。だから、本日は部活にくるように。分かったわね?」
「あぁ、了解じゃ。これで、おんしの夢じゃった女子団体での全国制覇に近づいたのぅ。
楽しみが増えたのぅ。なぁ、部長。」
「そうかもしれないわね。それじゃ、放課後に会いましょう。じゃーね。」
嘘は言っていないわね、嘘は。
「おう。放課後な。」
まぁ、誰も女子生徒だなんて言ってないんだけどね。
さてと、まこは今日は来る。
あとは、須賀くんの為に簡単な役一覧表を完成させないとね。
「どんな奴なんじゃ、その女子は?」
「んーー。そうね、見ての楽しみね。きっと、驚くわ。」
「そうか?驚くほどか。」
「えぇ。」
驚くでしょう、女子だと思ったら来るのは、男子生徒なんだから。
というか、本当に須賀くんは今日来るのかしら。
昨日のあれはリップサービス所謂、お世辞だったのかしら。
あ、ヤバイ。舞い上がってたのかしら私って。
ドアがノックされ、昨日の声が聞こえる。
「失礼します。」
そこには、昨日の彼―――須賀京太郎―――がいた。
笑みが零れそうになる。来てくれるかどうかで不安になってた私がなんだか阿呆みたいだ。
「待ってたわ、須賀くん。こっちが昨日言っていた二年生の染谷まこよ。」
「おい、部長。わしは、一年生の初心者と三麻やるっちゅうから来たんじゃが、男子生徒とは聞いとらんぞ。」
「だって、言ってないもの。昨日来た一年生と三麻を今日やるから、と言っただけよ。」
「はぁ、お主は。わしの名前は、染谷まこじゃ。よろしくの。」
「は、はい。一年生の須賀京太郎です。よろしくお願いします。」
「自己紹介も終わったみたいだし、早速三麻を打ちましょう。」
まこがぶつくさ言いつつ、手伝ってくれる。
なんだかんだ、手を貸してくれるまこは、出来た可愛い後輩だ。
「あの、俺にも何か手伝えることはありますか?」
そんな折、須賀くんが手伝いを申し出てくれる。
とは言っても、手積みではないので準備なんてすぐに終わる。
「いいから、須賀くんは座って待ってて。」
「京太郎は、待ってんしゃい。準備は先輩たちに任せときぃ。」
まこと、ハモる。
中々のコンビネーションじゃない?と目で訴えるも、まこはこちらを見向きもしない。
ぐぬぬ。なんて可愛げのない後輩なのかしら。
競技中に食事は許されていないが、飲み物を飲むことまでは却下されていない。
長丁場となる麻雀では集中力を維持するために。
また、脱水症状を防ぐという理由で飲料の持ち込みは許可されている。
「それじゃ、三麻のルールを説明するわ。三麻の場合昨日教えた萬子の二~八が除外されるわ。また、北牌については今回、共通役牌として使用するわ。
それで、須賀くんにはこれを渡しておくわ。」
そして、ここで登場するのは、竹井久が手作り、『初心者でも理解る、麻雀役一覧』
創作期間1日を費やして創った大作よ。
「これは、なんですか?」
「役の一覧よ。例も載ってるわ。これを参考に打ってみてちょうだい。」
「なに、今回はゆっくり慌てず打ってみるとえぇ。時間はたっぷりとあるけぇ。」
三麻 が 始 ま る 。
須賀くんは、初めての麻雀ということもあってか視線を私お手製の役一覧と手牌を行ったり来たりしたり、長考したりする。
仕方がないのかもしれない。
他にも部員がいたら、実際に須賀くんの前で打つことができるのに。
彼はろくにルールを教えれていない。
心配である。彼はちゃんと楽しめているだろうか。
ある程度のルールは把握してくれただろうか、と不安が積もる。
小さい子をみる母親というのはこういう気持ちなのだろうかと思っていると、此方をニヤニヤと見てるまこと視線が合う。
―――何かしら?
―――いや、何も。
―――何も無いっていうことではないでしょ。ニヤニヤして。
―――ほんに、気にすることじゃないんじゃ。
アイコンタクトで会話をしていると、不意に須賀くんが声を上げる。
「あ。」
何かしらの役が出来たのかしら。
「どうかしたの、須賀くん。」
「何か役でもできたんか?」
「はい、出来ました。」
何ができたのかしら。ちょっと、興味がある。
そして、須賀くんは先程渡した、役一覧の一つを指す。
「えーっと、この、国士無双って奴ですね。」
指したのは一番上のモノだった。
まさか、初麻雀で役満それも、国士無双を和了るなんて。
「嘘。凄いじゃない、須賀くん!」
「初めての三麻で、というか、初麻雀で国士とはのぅ。」
私は須賀くんを褒め、まこは国士で和了ったことに驚いている。
そんな彼は、喜びを噛みしめるように小さくガッツポーズをしていた。
そして彼の口元には、小さな微笑が浮かんでいた。
切りが良い所で、休憩を入れる。
先程の国士で味を占めたのか、役満ばかりを狙う須賀くん。
うーん。仕方がないとは言え、そればかり狙っていては、分かり易い。
狙い撃ちとまでは行かないものの、中々和了ることができない時間が続いた須賀くん。
嫌気が差さなければ良いのだけど。
けれども、やはり。
須賀くんには悪いとは思うが、この部室で麻雀を囲えるのは嬉しい。
「やっぱり、三麻とはいえ、麻雀を打てるって良いわね。」
「そうじゃのう。家とは違い、学校で部活として打つのでは何とも言えない嬉しさっちゅうもんがあるのぅ。」
まこも、同じようだった。
私にとって、長い長い時間が過ぎて、漸く私はちゃんと麻雀を打てている。
雀荘で顔馴染みになった面子でも、知り合いのプロとでもない。
清澄高校の麻雀部として部室で打てるという喜ばしさが湧き出てくる。
「あの、この麻雀部って何か目標とかあるんですか?」
須賀くんが此方に質問を投げかけてきた。
「えぇ勿論。目標は、団体での全国制覇よ!
と言っても、五人制だから只の夢なんだけどね。」
そう、団体戦の必要最低限の人数は、5人となっている。
個人戦で、応募申し込みをしても意味は無いのだ。
私は、竹井久は、『清澄高校麻雀部』として、全国制覇を夢見ているのだから。
「まぁ、言うのは勝手じゃけぇ。減るもんでもないしのぅ。」
まこが、言うように言うだけならタダである。
勿論、言うだけで終わらせるきは毛頭無いのも自膣なのだが。
私とまこは、顔を合わせて笑い合う。
そうだ。まだ、何も終わっていない。
なにしろ、まだ何も始まってはいないのだから。
そう、意気込んでいると、須賀くんから衝撃の言葉が聞こえた。
「俺。この麻雀部に入部します。今日しか、まだ麻雀は打ってないですけど、楽しかったですし。」
あまりの展開に言葉が出てこない。
人はあまりにも驚くと言葉は出ないし、呼吸を忘れるようだ。
思考が再開される。
これは、本当に現実なのだろうか?
最近の生徒議会の多忙さ故に見える幻聴・幻覚の類ではないのだろうか?
そう思えるほどに、眼の前にいる彼の発言は予想を上回っていた。
私にとっては、棚から牡丹餅だ。
この後、如何に麻雀の楽しさを教え、素晴らしさを刷り込み、
麻雀部に所属した場合のメリットを示すかを考えていたというのに。
世の中はそんなに甘くはない。
本当のことなのかという不安に押しつぶされそうになる。
「そんな簡単に決めてしまってええんか?まだ、体験入部期間はある。
色々と周って見てから決めたほうがええんじゃないか?」
まこは、まこで、彼を労っている。
彼女の気持ちも分からなくはない。
まこは条件付きでこの麻雀部にいる。
このまま他に1年生が入部してこなければ、彼はこの部に1人になってしまう可能性がある。
今でこそ2人でも麻雀部として存在できているのも、廃部になっていないのも
私の、生徒議会長という肩書を十二分に活用してこその現状なのだ。
久々にこんなに楽しいって思えたんです。
それに竹井先輩の夢である全国制覇を手伝いたいんです。」
そう、楽しそうに笑って言う彼に私たちは何も言えなかった。
「だから、これから、よろしくお願いします!竹井先輩、いや、部長!染谷先輩!」
何が同じ轍を踏むか、だ。
私は彼を、須賀京太郎を、策略を以て入部させようとしていた。
そんな事を思考させていた自分自身が恥ずかしい。
それでは、意味がないじゃないか。何れ、あの時のように幽霊部員になってしまう。
麻雀を楽しむことが大事じゃないか。楽しむという気持ちが大事なのに。
彼は、何かを忘れていた私にソレを思い出させてくれた。
「ううん。此方こそ宜しくね、須賀くん。入部したからには厳しくいくわよ。」
「わしにとっては、初めての後輩じゃ。頼もしくはないかもしれんが、宜しくのぅ京太郎。」
私達はその日握手を交わし、活動を終えた。
『全国大会で優勝できたきっかけですか?』
『はい。失礼ですが、無名だった清澄高校が、優勝まで辿り着いたきっかけがあれば是非とも教えて頂けないかと。』
『それは、簡単ですよ。ある1人の部員が入部してからです。
そこから、清澄高校麻雀部は始まったと言っても過言ではありません。』
『それは、大将を務めた宮永咲さんでしょうか?
それとも、副将を務め昨年のインターミドル覇者の原村和さんでしょうか?』
『いいえ、違います。
私達の、私の、清澄高校の麻雀部は、1人の男子生徒が部室に迷い込んだ所から始まりました。』
そう、それは桜が舞う季節のこと。
あの出会いから私の青春という幕が上がったのだ。
そして、私が知らず知らずのうちに彼―――須賀京太郎―――に、恋に落ちていた瞬間でもある。
カンッ
知らず知らずのうちに京太郎を目で追ってしまうヒッサとか
キャップとか、全国のおもちの雀士にデレッとする京太郎に不機嫌になる部長とか
合同合宿の際にパソコンを持ってくるように頼んだものの、
膝を壊した事を知って甲斐甲斐しく世話を焼こうとするおさげの似合う年上の女性とか
冗長になるので割愛しましたが。
だから、京久もっと増えろ。
そのヒトとは、とある麻雀部員で清澄高校の転機となった人物。
「だぁぁー。また、負けちまった。」
その人物は唯一の男子麻雀部員こと、須賀京太郎である。
1年生同士で打っていたが、決着はついたようだ。
「疲れたじぇー。京太郎、悪いがタコスを買ってきてくれー。」
「こら!ゆーき、駄目ですよ。今日初めて会った、須賀君にそのようなこと頼んでは。」
「そんな硬いこと言いっこなしだじぇ、のどちゃん。」
「ふふっ。二人共仲が良いのねぇ。流石同じ中学出身なだけあるわね。」
実際問題、この二人―――原村和と片岡優希―――は、仲が良い。
思いつき振り回す優希と振り回されつつも意外と面倒見が良い和。
非常に相性が良い二人だ。
「いえ、そんなことは。」
「私とのどちゃんはベストフレンドだじぇ。」
「それじゃぁ、俺はタコスでも買ってきますね。学食のメニューにありましたし、ずっと気になってたんですよねー。」
そして、気になってる子も思いの外気が利くというか、面倒見が良い。
理由を聞いたら、
「幼馴染の面倒見てたら、こういうことができるようになっちゃいまして。」
と言っていた。
いいなぁ、その幼馴染。私も面倒見てほしいなぁ。
グヘヘ。そしたら、あーんな事やこーんな事も。
「おおぅ。京太郎は話がわかるじぇ。頼んだぞ。」
「ゆーき!もう。申し訳ありません須賀君。」
「良いって、良いって。飲み物買う序だし。和は何か飲むか?」
「いえ、そんな。私は結構です。」
「私は、オレンジジュースが良いじぇ。」
「優希もああ、言ってるし。な。」
「……それでは、お茶をお願いしても良いですか。」
―――ほら、部長どうして欲しいんですか?教えて下さいよ。
―――よく出来ました。ご褒美をあげますよ。
―――部長、いや、久さん。俺、もう……我慢……出来ないッ
「任せろって。部長はどうします。」
ハッ。ヤバイ、妄想で話の半分も聞いてなかった。
落ち着くのよ、私。クールになりなさい。
恐らく、飲み物の話題。そして、何か欲しいものはあるか。
「私?私は、須賀くんにお任せするわ。」
正解の選択肢はこれね。
「一番難しいじゃないですか、ヤダー。」
「須賀くんのセンスが物を言うわねぇ。」
あ、ヤバイ。こんな軽口の応酬が、すっごい楽しいし、嬉しい。
こういうタイプじゃないって思ってたんだけどなぁ、私って。
「私も手伝います。任せっきりなのも嫌なので。」
「サンキュー、和。助かるよ。それじゃぁ、行ってきます。」
「行ってきますね。」
「タコス待ってるじぇー。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
やるわね、和。
さり気なく手伝うことで高感度を上げ、同時に、二人っきりになれる。
ぬかったわね、私が行けばよかった。
「フフッ。お疲れ様。調子は中々よさそうね。」
「うおっ。流石は部長。よく見てるのは、京太郎のことだけじゃないんだな。」
え?何と言ったのかしら、優希は?
え?もしかしてだけど、気づかれてる?
すごい、恥ずかしいんだけど。
「どいうことかしら?」
「いやーそのまんまの意味だじょ。部長は京太郎の方よく見てるし。
対局中も視線を京太郎と行ったり来たりしてるし。」
嘘。私ってそんなに須賀くんのこと見てるのかしら。
バレない程度に抑えてると思ってたんだけど。
「いーって。気にすることないし。それより、部長は京太郎のこと好きなのか?」
意外と直球で来るわね。
「……そうね。きっと好きよ。1人の男性として。そいう優希はどうなの?」
「私?うーん、嫌いではないじぇ。
すごい美味いタコスを作れるようになったら考えてやらんでもないじょ。」
そんな人日本にいるのかしら?
「優希を唸らせる程のタコスを作れる人なんているのかしらね?」
「きっといるじょ。本場のメキシコとかになら。
そんなことより、部長は、京太郎の何処を好きになったんだ?」
須賀くんの何処を好きになったのか、かぁ。
「そうねー。私にも分からないわね。気付いたら須賀くんのことを目で追ってたわね。
これが、一目惚れなのかもしれないわね。」
柄でもないのは自分が良く分かってるし。
「部長って思ってたより乙女なんだな。のどちゃんも大変だじぇ。」
「それは、どういう意味かしら?そして、どうして和の名前がでるのかしら?」
「気にすることないじぇー。」
ちょっと気になるんだけど。
え?和もなのかしら? 嘘でしょう。
「買ってきました。」
「只今、戻りました。」
「お帰りだじぇ。さぁ、京太郎!私に、一刻も早くタコスを渡すんだッ!」
「はいはい。分かりましたよー。」
「ちゃんと、お礼を言うんですよ、ゆーき。」
うーん、そんな感じには見えないわねぇ。
「部長には、此方を購入してきました。」
「……水とは、まぁまぁね。」
「何でも良いって言ったじゃないですかー、ヤダー。」
和がどうなんて関係ないわね。
今は部活を楽しんで須賀くんと一緒にいれる時間を満喫しましょう。
カンッ
外で体育をしてるのは1年生かしら。元気ねー。
あの金髪の頭は須賀くんね。やっぱり格好いいわね。
此方に気づかないかしら。2階だし、無理かしら。
あっ、此方見た。手でも振ってみようかしら?
手を振ると、須賀くんもちょっと照れたように手を振り返してくれる。
やっぱり、可愛い所もあるなー。
「……ッ!……イッ!?」
もう、五月蝿いわね。もう少し静かにしてもらえないかしら?
「……けいッ!竹井ッ!?聞こえているか!」
「ハッ、ハイッ。」
「きちんと授業に集中するように。」
「はい、分かりました。」
怒られちゃった。
それにしても、須賀くんは楽しそうだなー
もいっこカンッ
なんかグダってごめんよ~
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493125494/
Entry ⇒ 2017.12.30 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
【咲-Saki-】栞「パンケーキ大作戦!」琉音「あ?」咲「ええと…」
短いです。
栞「るねさんるねさん」チョンチョン
琉音「あ?なんだよ」
栞「二人でお出かけって初めてですね?」
琉音「そうだな」
栞「これってデーt」
琉音「だからちげーっつってんだろ!パンケーキの材料買いにデートも何もあるかっつうの」
栞「ですよねー」
栞「でも、どうしてまた突然パンケーキの作り方を教えて欲しいなんて?」
栞「あれですか?女子力ですか!目覚めちゃったカンジですか」キラキラ
琉音「話になんねぇ…」ゲッソリ
琉音「まあ、アレだよアレ」
栞「アレと言われましても」
琉音「後輩の糖分バカに対して、なんつうか、立つ瀬がねえだろ?これくらいはやんねえと」フイッ
栞「……」ビックリ
琉音「ンだよ!その宇宙人でも見てるみてえな目はよ!」ギュムッ
栞「あいひゃぁ!いひゃい、いひゃいでふ、ほっへはふねらないへくらはい」アウアウ
琉音「あぁ!?はっきり話せや!」
栞「うぅ……るねさんがほっぺた抓るからじゃないですかぁ…」イタイ
琉音「で!付き合うのか付き合わねえのか、どっちだよ」
栞「付き合う!?」
琉音「今度はグーで行くぞ?」スッ
栞「じょ、じょーだんですよぉ」アセアセ
栞「もちろんお付き合いしますよ」
琉音「そうか」
栞「はいっ!」フンス
琉音「……」
琉音「さ、サンキューな」ボソ
栞「え?何か言いましたか?」
琉音「な、なんでもねえよ!」
琉音「ほら行くぞしおりィ!」スタスタ
栞「あ、待ってくださいよぉ~!」パタパタ
――――――
―――――――――
――――――――――――
「お買い上げありがとうございました~♪」
琉音「意外と少ねぇんだな、材料」
栞「腕が大事なんですよ、腕が!」
琉音「……」
琉音「ま、宮永なら多少失敗してても喜んで食うか」
栞「始めから失敗した時のこと考えないでくださいよ~」
栞「確かに宮永さんなら食べてくれそうですけど」
琉音「だろ?」
琉音「お前、この後も時間大丈夫なのか?」
栞「もちですよ!」
琉音「ならアタシの部屋で……」ピタ
栞「……るねさん?どうかしましたか、時でも止まりましたか?」
栞「ふふふ、それじゃあ私の好きに」
琉音「殴るぞ?」
栞「ひえぇ…」
琉音「しおり、あれ見てみろ」クイ
栞「??」チラ
少女「……」グスン
少女「……」フラフラ
栞「女の子ですか?」
栞「確かになにやら気になる様子ではありますけど、それがどうか……」
栞「ってあれ、るねさん?」
琉音『……』ヤイヤイ
少女『っ、っ……』
栞「いつの間に声掛けに行ってたの!?」
栞「……もお、しょうがないですねぇ」
栞(ていうか、絵面が完全にヤンキーに絡まれる女の子だよアレは)タタッ
――――――
――――――
琉音「あぁ?だから、一人でなに彷徨いてんだっつってんだよ」
少女「あ、えと……その…」ビクビク
琉音「シャキッとしろ!」キッ
少女「ひっ…」
少女「……うぅ…」グスン
栞「ちょっとちょっと、るねさんってば!なに恐喝してるんですか」
琉音「恐喝なんかしてねえよ」
栞「いや、傍から見たら完全に年下を虐める高校生でしたってば」
栞「ごめんね~?このお姉ちゃんが怖かったよね」ニコ
琉音「……ちっ」
少女「……」ゴシゴシ
少女「いいえ、平気です…」フリ
栞「私は栞。こっちの怖いお姉ちゃんはるねさんっていうんだけど」
琉音「その怖いお姉ちゃんって呼び方やめろ」
少女「栞さんと、る、琉音……さん…」チラ
琉音「あぁ。琉音だよ、渡辺琉音」
栞「あなたは小学生……かな?一人でフラフラ歩いてたから、少し心配しちゃって声を掛けたんだ」
琉音(……うん?なんかこのガキ、見覚えがあるようなねえような)
少女「わ、私、中学生です……中学、2年生、です」
琉音「あ?中坊?」ジロ
少女「ぅ……」ビク
栞「るねさん、睨みつけるのやめて上げてくださいよ」
琉音「この目付きは生まれつきだよ、悪かったな!」
栞「中学生かぁ、ごめんね?見た目若かったから間違えちゃった」
少女「い、いえっ…」
少女「……あの」
栞「うん?」
少女「その制服、白糸台高校の……ですよね」
栞「そうそう!もしかして、志望校だったりする??」
少女「いえ……。私、長野県に住んでいるので…」
栞「……へっ?」
琉音「長野だぁ?もしかしてお前、観光客かなんかか?」
少女「……」フリフリ
琉音「ならなんだよ?」
少女「……お姉ちゃんに、会いに来たんです」
栞「お姉ちゃん??」
少女「でも、お姉ちゃんは会ってくれなくて……顔も、見られなくて…」ギュウ
少女「やっぱり、私、嫌われてるんだなって…」グス
琉音「……なあ、まさかとは思うが東京まで一人で来たのか?」
栞「え?そんなぁ、流石にそんなこと」
少女「……」コクリ
栞「えぇ~!?」
琉音「姉貴に会いに行ったが会って貰えなくて、この辺をトボトボ歩いてたってわけかよ」
栞「ど、どうしましょう?警察?警察ですかね?」
少女「……」ピク
琉音「……」ジッ
琉音「……」
琉音「いや、連れてく。寮に」
栞「ですよねぇ。流石におまわりさんに任せた方が」
栞「えぇ!?!?」
琉音「あ?文句あんのか?」
栞「い、いや、文句もなにも……」
琉音「なぁ、お前は姉貴に会いてえんだろ?」
少女「はい……」
少女「でもお姉ちゃんは私のこと…」
琉音「妹が一人で来てるっつーのに会いもしねえなんて、気に入らねえわ」
琉音「なぁ?しおり」
栞「ま、まあ、可哀想だなぁとは思いますけど……」
琉音「なら決まりだろ」
琉音「こいつは一人で挑戦して、負けてんだ」
琉音「次に勝たせてやるのは、ここで会ったアタシらの役目なんじゃねえのか?」
栞「……」
栞「……お姉ちゃんのこと、好き?」
少女「す、好き!」
琉音「ふん」クス
少女「……ぁ、その…」
栞「はぁ……」
栞「まさか、るねさんとのデートの帰り道で女の子を拾っちゃうなんて…」
栞「……」
栞「それはそれで、アリですね?」チラ
琉音「意味深できめえよ!」ゲシッ
栞「あいたぁ~!暴力反対!この子が将来るねさんに似ちゃったらどうするんですか!」ダキ
少女(ぅわわっ……お、お胸が…)
琉音「うっせえ!おら、早く帰るぞ」
栞「もぉ……」
栞「さてと。じゃあ、着いてきてくれる?お姉ちゃんに会いに行く、作戦会議しに行こっか」
少女「は、はい……あの、本当に良いんですか……?」
栞「うんっ。一緒に頑張ろ?」
少女「……はいっ!ありがとうございます」ペッコリン
栞(け、結構可愛いかも……このまま私の妹にしちゃいたい…)
琉音「ああ、そうだ。名前、聞いてなかったな」
栞「そういえばそうでしたね!」
少女「名前……」
少女「…や…が、さき…」
琉音「あん?」
咲「私は宮永、咲……です」
咲「お姉ちゃんの名前は、宮永照……白糸台高校に、通っています」
栞「……」
琉音「……」
栞 琉音「「えぇ!?(あぁ!?)」」
―――
――――――
―――――――――
~白糸台高校、寮・琉音部屋~
琉音「状況を整理すると、なんだ?」
琉音「宮永だと紛らわしいから咲って呼ぶが、咲が会いに来た姉貴っつうのは…」
栞「宮永さん……宮永照さんで、いいのかな…?」
咲「えっと、はい……そうです」コク
琉音「……しおり、ちょっと来い」クイ
栞「あ、はい」スク
琉音「……あいつ、妹がいたのか?」
栞「知りませんよ…少なくとも、私は聞いたこと」
栞「……」
栞「あの、もしかしてなんですけど」
琉音「あん?」
栞「宮永さん、たまに言ってるじゃないですか」
栞「スコアは低くても強い子はいるとか、カンと嶺上開花は怖い……とか」
琉音「……プラマイゼロがどうたら、とかか?」
栞「ですです。まるで、身近な人の事を語ってるみたいに」
琉音「まさか、あんなちんちくりんが?」
琉音「いや、でも咲本人が姉貴は宮永だって言ってんだもんな…」
栞「……とりあえず、試してみませんか?」
琉音「試すだぁ?」
栞「咲ちゃんの事を疑うわけじゃないですけど、宮永さんの言っていたことが本当なら実際に麻雀を打てば分かりそうじゃないですか」
琉音「まあ、宮永が言うような特殊な麻雀を打つならそうだろうが…」
栞「正直、半分は興味本位もあるんです。あの宮永さんが気にしてる子の麻雀を、一雀士として見てみたいっていう」
琉音「……そうだな」
琉音「おい、咲」
咲「は、はいっ」
琉音「麻雀打てるか?」
咲「!!」ピク
咲「……打て、ます、けど…」
咲「私、麻雀はあんまり好きじゃなくて…」
琉音「そうか。なら一局だけでいい、打たないか?」
栞「嫌なら、無理にとは言わないからね?」
咲「……」
咲「琉音さんと、栞さんが言うなら……」
咲「打ちます、麻雀」ズズ
琉音「っ……」ゾワ
栞(うひゃぁ……これは宮永さんの妹だ…)
琉音「よし。負かされても泣くなよ?」
咲「……負けても、いいんですね」
琉音「……あん?」
咲「ぁ、いえっ、なんでもありません」フリフリ
栞(負けてもいいんですね…?)
栞(……スコア、低い、強い、プラマイゼロ…)
琉音「んじゃまあ、打とうか」
栞(もしかして…)
咲「……よろしくお願いします…」ペコリ
―――
――――――
―――――――――
琉音(おいおい、マジか?)
栞(こ、これが、宮永さんが気にしていた人の麻雀…!)
咲「……カン」スッ
琉音(確定だな。こいつが、宮永が言っている特殊な麻雀の打ち手)
栞(宮永さんの妹……宮永、咲)
咲「ツモ。嶺上開花、1200,2300」
栞「対局、終了……スコアは」チラ
栞(プラマイゼロ……!!)
咲「……」ハッ
咲「……また、またやっちゃった…」
咲「ダメだって分かってるのに、またこんな…」
咲「プラマイゼロ…私が打つと、いつもこう…」
琉音「あっはっはっはっはっ!!」
咲「っ…」ビクッ
栞「る、琉音さん?どうしたんですか」
琉音「どうしたって、これが笑わずにいられるか?」
琉音「あからさまな点数調整に、プラマイゼロ。トドメに嶺上開花と来たもんだ」
咲「ごめんなさ……」
琉音「すげーじゃねえか、咲」
咲「……え…?」
琉音「あんな芸当、簡単にできる事じゃ無いはずだろ?」
琉音「つか、人間業じゃねえ。参った、流石は宮永の妹ってとこだな」クク
咲「……怒らない、んですか…?」
琉音「あ?なんでだよ?」
咲「だって、私、わざと点数を揃えるなんてマネを…」
琉音「だから、それをすげえって褒めてんだろ?」
咲「……」チラリ
栞「あ、私?そりゃ、驚きはしたけど…」
栞「……普通なら、年下にこんな事されて凹む所なんだろうけどさ…」タハハ
栞「咲ちゃんの今の麻雀には、私達への思いやりを感じたんだ」
栞「だからね?なんだか、嬉しかったよ」ニコ
琉音「思いやり?」
栞「思い出してくださいよ、宮永さんと麻雀打った時のこと」
栞「あの時の宮永さんの麻雀は、なんていうか、目の前の獲物を食い尽くす!みたいな感じありませんでした?」
琉音「あったな。良い意味で、凶悪な麻雀だったわ」
栞「でも咲ちゃんの麻雀はなんていうか、私達の事まで考えて楽しませてくれようとしてるって言いますか…」
咲「!」
琉音「なるほどな、言いたい事は分かった」
栞「ねえ咲ちゃん」
咲「……はい…」
栞「咲ちゃん達姉妹の過去の事を知らない私には無責任な事言えないけど、今の宮永さんを知ってる私から言えることはあるよ」
咲「それは…?」
栞「宮永さんはね、咲ちゃんの麻雀を……ううん、咲ちゃんを嫌ってなんかない」
琉音「まあそうだろうな。少なくとも、嫌いな相手の事を話す時の顔はしてなかった」
咲「でも、お姉ちゃんは私に会ってくれなくて……」
琉音「分かんねえけど、宮永は咲に対して罪悪感を抱いてんじゃねえのか?」
咲「ざい、あくかん……」
琉音「分かりやすく言うとな。咲と会っても何を話したら良いのか分かんねえから、逃げてんじゃねえの?」
栞「咲ちゃんなら、宮永さんが咲ちゃんに対して会い辛いその理由が分かるんじゃないかな」
咲「……」
琉音「ま、それは姉貴に会った時話し合え」
琉音「そこまでは、アタシらが連れて行ってやる」
栞「るねさん、カッコいい……相変わらず目付きは怖いですけど」
琉音「っるせえよ!」
咲「栞さん、琉音さん……」
栞「……」
栞「あー!!!!」
咲「ひうっ」ビク
琉音「うおっ!ンだよしおりィ!咲がビビってんじゃねえか!」
栞「私、良い事思いついちゃいました!!」
琉音「…良い事だぁ?」
栞「パンケーキですよ!」
琉音「パンケーキ?」
咲「パンケーキ……」ピク
琉音「なに反応してんだよ、咲」
咲「あ、い、いえ、なんでも…」
栞「ふふふっ、咲ちゃんはパンケーキって作れる?」
咲「いいえ、作ったこともないです…」
栞「調度いい!」
琉音「おい、日本語を喋れよ。全然意図が伝わってこねーぞ」
栞「るねさん、今日の本当の目的覚えてます?」
琉音「あ?咲を宮永に会わせるための……」
琉音「いや、違うか?あぁ、パンケーキの作り方だったな、そういえば」
栞「そーですそーです!」
栞「なので作りましょう!3人で、パンケーキ!」
咲「パンケーキ……!」キラキラ
琉音「咲、お前ももしかして甘党か?」
咲「ぁ、ち、違います!/////」
栞「宇野沢栞発案。題して、パンケーキ大作戦です!」
―――
――――――
―――――――――
~失敗を繰り返してして作ること数時間~
琉音「で、出来たか……?」ゼェゼェ
栞「ふむ、ふむ……」
栞「大丈夫です、完璧です!」
栞「完成しました、パンケーキ!」
咲「や、やった…!」
琉音「っしゃ!やったな、咲!」
咲「はいっ、琉音さん…!」
栞「むふふ、るねさんってば子供みたいにはしゃいでますね~」
琉音「んだよ、悪いかよ!」
栞「いいえいいえ~」クスクス
栞「さて。これで準備は全て整いました」
栞「あとは、明日の部活で宮永さんにそのパンケーキを渡すのみです」
琉音「それは良いけどよ、それが咲と宮永のいざこざを解決する方法に繋がんのか?」
栞「るねさん、ちょっと耳を貸してください」
琉音「なんだよ」スッ
栞「…で……を…ば……と思うんです」ヒソヒソ
咲「……??」
琉音「いやお前、んなことでか?」
栞「弘世さんによれば、麻雀部にだってお菓子に釣られて入ったみたいですし」
栞「それに普段の宮永さんを見ていれば、なんとなく上手く行きそうな感じしません?」
琉音「……まあな」
栞「それじゃあ、けってーい!」
琉音(ま、なるようになるか)
栞「じゃ、私はそろそろ帰りますね!」
琉音「あぁ、もうこんな時間かよ」
咲「ぁ、えっと……」
栞「ふふ、咲ちゃーーん!!」ダキッ
咲「わっ」ムギュ
栞「……不安かな?」
咲「……」
咲「不安、でした…」
咲「でも、琉音さんや栞さんが私を見つけてくれた今は…」
咲「その、全然不安じゃありません」ニコ
栞「……」ムギュッ
咲「わっぷ…」
琉音「おいしおり、窒息死させるつもりかよ」
栞「……このままお家に連れて帰りたい…」
琉音「ばか野郎」ゴツン
栞「痛い!!」
咲「る、琉音さんっ。あんまり、栞さんを虐めないでくださいっ」
琉音「あぁ!?」
咲「ひっ…」ビクッ
栞「るねさん!咲ちゃんを虐めないでください!」プンスカ
琉音「ちっ、ンだよ二人してよぉ……!」
琉音「……でも、咲。初めてアタシに物言えたじゃねーか」
咲「あ、今のは……」
琉音「その調子で、明日も姉貴に言いたい事全部言えよ」
咲「!」
咲「……はいっ」
栞「では、パンケーキは家で保存して明日私が持って行きますね」
琉音「あぁ、頼むわ」
咲「また、明日……っ」フリフリ
栞「うん!また明日ね!」フリフリ
ガチャ……バタン。
琉音「やっと騒がしい奴が帰ったな」ハァ
咲「……」チラ
琉音「あ?なんだよ」
咲「あ、えっと……私はこれから、どうしたら良いのかなって」
琉音「ここに連れて来てんだから、そんなの分かりきったことだろ」
咲「る、琉音さんと二人でですか…!」
琉音「安心しろよ。しおりと違って、アタシに年下を襲う趣味なんてねえから」
咲「そんな心配はしてません!!」バッ
琉音「うおっ」
咲「ぁ……」
咲「…そんな心配は、してないです」フリフリ
咲「琉音さん、確かにちょっと怖いですけど……」
咲「お姉ちゃんみたいに、優しい目、してますから…」
琉音「なっ……」
咲「栞さんと話してる時も、ずっと優しい目してました」ニコ
琉音「ば、ばばば、ばっか野郎お前!!」
琉音「咲こら!いっちょまえな事抜かしてんなよ!」バッ
咲「ひゃあっ!」
咲「あはははっ!くすぐったい!くすぐったいですよ、琉音さんっ!」ジタバタ
琉音「るせえ!アタシの方がこそばゆかったっつーの!」
咲「あはっ、はははっ!ひうっ!」
ガチャ
栞「すみません!スマホ忘れちゃ……」
琉音「……あん?」馬乗りになってる
咲「はぁ……はぁ…」息遣い荒い
栞「あわわわわわわ、る、るる、るねさん!?」
琉音「ばっ、ちげぇーよ!!待て、勘違いすんなしおりィ!!」
栞「勘違いってなんですか!?状況証拠はバッチリじゃないですか!」
琉音「だからそれが勘違いだって言ってんだよ!」
キャーキャー、ヤイヤイ
咲「……ふふっ」クスクス
咲(お姉ちゃんは、こんなに良い人達と麻雀を打ってるんだ)
咲(良かったぁ…)
―――
――――――
―――――――――
~次の日・白糸台高校~
琉音「ちっす」
栞「こんにちは~」
照「こんにちは。早いですね」
栞「宮永さんこそ、一番乗りだね」
琉音「んだよ、宮永一人か?」
照「菫と監督はどこかへ二人で行きました」
栞「そうなんだ」
琉音(逆に都合が良いな)
照「……」チラ
照「……あの、宇野沢さん」
栞「うん??」
照「その、手に持っている紙袋は」キラキラ
栞「あ、気が付いた?」フフ
栞「ほら、るねさん!」
琉音「あ!?どうしてアタシなんだよ!」
栞「良いから良いからっ」
琉音「……ちっ」クシクシ
照「……?」
琉音「これ、"アタシら"で昨日作ったんだよ、パンケーキ」スッ
照「パンケーキ……!」
琉音「まあ、なんだ」
琉音「これからもよろしくっつー意味も込めて、宮永にな」フイッ
照「ありがとうございます。食べてもいいですか」
琉音「もう食う準備万端かよ!はえーよ!」
栞「まあまあ。どうぞ、るねさんの事は気にしないで食べてあげて?」
照「いただきます…」ジュルリ
照「……あむ」
栞「どうかな?」
琉音「ふ、ふつーにパンケーキだろ」チラ
照「……」ゴクン
照「……美味しい。とても美味しいです、宇野沢さん、渡辺さん」
栞「良かった!」
琉音「そ、そうかよ」ホッ
照「はい。ぜひ、また作ってきて欲しいです。
本心から」
栞「!」
琉音「宮永、その言葉に嘘はねーな?」
照「……?はい、勿論」コク
琉音「だってよ、咲!」
栞「入ってきていいよ~」
照「……は?」
ガラララララ
照「う、嘘……」ガタッ
照「どうして、どうして、ここに…」
咲「お姉、ちゃん」
琉音「言ったろ?パンケーキは、アタシらで作ったって」
照「っ…!」キッ
栞「ひうっ」ビク
琉音「あ?なんか文句あんのかよ?」
琉音「妹が覚悟決めて来てんだ。姉貴のお前が逃げててどうするよ」
照「……私から掛ける言葉なんか…」
咲「お姉ちゃん!!!」
咲「お姉ちゃんに言いたい事、伝えたいこと、私にはある!」
咲「いっぱい、いっぱいあるもん!!」
照「っ」ピク
琉音(はん。いい目するじゃねーか、咲)クス
栞(頑張って、咲ちゃん)グッ
照「咲……」
咲「私、私ね……!」
―――
――――――
―――――――――
~エピローグ~
咲「ぐすっ……」
琉音「泣いてんじゃねえよ咲」ワシャワシャ
栞「言ったでしょう?宮永さんは、咲ちゃんを嫌ってなんか無かった」ナデナデ
栞「良かったね、お姉ちゃんとの仲を取り戻せて」ニコ
咲「……」ゴシゴシ
咲「はいっ…!本当に、本当に……良かったです…!」
琉音「にしても、宮永の泣き顔まで見れるたぁ意外だったな」
栞「るねさんったら。宮永さんだって普通の女の子なんですよ」
琉音「普通かァ?」
栞「……ま、麻雀が異常なだけで、普通なんです!」
琉音「へいへい」
琉音「んで、咲はこれからどーすんだ?帰るのか?」
咲「えと……とりあえず、お母さんが迎えに来てくれるって…」
咲「それで、今日はお母さんとお姉ちゃんと3人で、過ごしますっ」
琉音「そうか」
栞「あーん!るねさん、私も咲ちゃんみたいな妹が欲しいです!」
琉音「宮永から奪い取ってみたらどうだ?麻雀で」
栞「む、無茶言わないでくださいよぉ~!」
咲「……」
咲「あ、あの!」
琉音「あ?」
栞「うん?」
咲「琉音さん、栞さん。この度は、本当にありがとうございましたっ!」ペッコリン
咲「私、あのままお姉ちゃんに会えずに帰っていたら……」
咲「きっと、この先は道に迷ったままだったと思います」
咲「本当に、ありがとうございました」ペッコリン
栞「ううん。私達がした事なんて、少し背中を押しただけ」
琉音「あぁ。勘違いすんなよ」
琉音「咲の強さは本物だ。ちんちくりんだがな、認めてやる」
咲「琉音さん、栞さん……」
咲「ごめんなさい。私、今はお礼できる物なんか何も持っていないので…」
咲「いつか必ず。私、お姉ちゃんに……白糸台高校に、麻雀で勝ってみせます」
栞「!」
『プラマイゼロ…私が打つと、いつもこう…』
栞「……」フフ
琉音「はっ。言うじゃねえか」
琉音「宮永が来た白糸台は、この先必ず全国を連覇するだろうな」
栞「その時には宮永さん、インターハイの代名詞!とか言われてそうですね」
琉音「あぁ。天狗になったアイツなんて見たくねえからな」
琉音「咲。お前が宮永に勝つところを、アタシらに見せてくれ」
琉音「それをもって、今回のお礼だ」
咲「はい。必ず!」
栞「るねさんるねさん、私達白糸台の敗北を願ってるみたいじゃないです?これ」
琉音「ちげーな」
琉音「咲の勝利だよ、アタシらが求めてんのはな」
栞「カッコいい…」
照「咲。お母さん迎えに来たって」
咲「あ、お姉ちゃん!うんっ、すぐ行くっ」
咲「それじゃあ、琉音さん、栞さん…また」
琉音「またな、咲」
栞「またね、咲ちゃん!今度来た時は、私のこと栞お姉ちゃんって呼んでね!」
照「……」ゴゴ
栞「ひっ、じょ、冗談だよ~」ビク
咲「ふふっ」クスクス
咲(ありがとう。本当に、ありがとう)
咲(私の、たった1日の大切なお姉ちゃん達)
カン
ではっ。読んでくださった方、ありがとうございました(ペッコリン)
いい話だった、乙。
掲載元:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511668481/
Entry ⇒ 2017.11.30 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
爽「あけてやるって」咲「遠慮します」
爽「あ、起きた?咲」
咲「身体…だるい…」
爽「ははっ。そりゃ昨日あんだけヤってばな」
咲「そういうこと大っぴらに言わないでください//」
爽「何今更恥ずかしがってんだよ」
爽「恋人同士なら当たり前の行為だろ?」なでっ
咲「んっ…」
咲(情事の最中はただ乱暴なだけだけど)
咲(その後は人が変わったように優しくなるんだよね…爽さん)
爽「…」ぴたっ
咲「爽さん?」
爽「…」くりくりっ
咲「っ!?」びくんっ
爽「…」くりくり
咲「ちょ、耳いじくらないでくださ…っ」
爽「咲は耳が弱点、と」くりくり
咲「ひぁっ!」びくん
爽「……」じっ
咲(うっ…そんな真剣な目で見つめられると弱いよ…//)
爽「……咲」
咲「な、何ですか?」
爽 「ピアス開ける気ない?」
咲「……はぁ?」
爽「ほら、ここに安全ピンもあるし」
咲「せめてピアッサー使ってください!」
咲(あ…いつもの飄々とした表情に戻ってる)
咲(何だか嫌な予感……)
咲「さ、爽さん…?」じりっ
爽「何で後じさるんだよ」すっ
咲「だ、だって爽さんが近づいてくるから…」じりっ
爽「咲が後ろに下がるからだろ」すっ
爽「!!咲危な…」
咲「……っ!!」どしんっ
咲「い、いたぁ…」じわっ
爽「咲はほんとドジっ子だなー。なにベッドから落ちてんの」
咲「誰のせいだと…つうっ」
爽「私のせいでもあるけど、咲が勝手に落ちたんだろ」
咲「うっ…それはそうですけど」
咲「へ?」
爽「こうして素っ裸の咲を上から見下ろすのはかなり気分良いわ」
咲「なっ…//」
咲(そうだ、今一糸纏わぬ状態なんだったー!)あわわ
咲「あの、爽さん…シーツ貸してください」
爽「嫌だね」にやにや
咲「…いじわる」
爽「はいはい、お姫様」
爽「よいしょっと」ひょいっ
咲「わわっ」
爽「あんま暴れないでよ~落っことしちゃうから」
咲「…っ」ぎゅっ
爽「なに、咲。誘ってんの?」
咲「違います。落とされたくないからです」
爽「ちぇっ」どさっ
咲「…まだ続いてたんですか。その話題」
爽「うん。じゃあ開けるから」
咲「痛いから嫌です」
爽「大丈夫。痛いのは最初だけだから」
咲「そういう卑猥な言い方しないでください」
咲「だいたい何でいきなりピアスなんですか?」
爽「開けたくなったから」
咲「理由になってません!」
咲「何様ですか」
爽「まあ安心しなって。事後処理はちゃんとしてやるからさ」
咲「爽さんが事後処理とか言うと何かいやらしいです」
爽「それは咲がそういうことばっか考えてるからだろ?」
咲「なっ…//」
爽「おーおー。耳まで赤くなっちゃってかわいー」
咲「か、からかわないでくださいっ//」
爽「ん?それはだな…」
爽「咲の身体に、私のこの手で傷を残したくなったんだ」
咲「」
爽「さーきー?何固まってんだ?」つんつん
咲「……爽さんって、天性サディストだったんですね」
爽「咲がMだからちょうどいいじゃん。相性バッチリってか」
爽「Sの私とMの咲。惹かれ合うのは必然だったんだなー」
爽「ふふん。そんなの分かってるって。咲は私みたく麻雀の強い人がタイプなんだろ?」
咲「確かに爽さんの麻雀にも惹かれましたけど。私は爽さん自身がす…」
爽「す、の後は?」
咲「うっ…す、 き…です//」
爽「私も好きだよ、咲」
咲「……知ってます//」
咲「……ずるいです、爽さん」
爽「ん?」
咲「そんなこと言われたら私が断れないの知ってて…」
爽「……駄目?」
咲「はぁ…分かりました。やるなら早くしてください」
爽「いいのか?」
咲「……痛くしたら怒りますからね」
咲「……っ」びくっ
爽「力抜いて、緊張しないで」つぷ …
咲「いっ、痛っ…」びくん!
咲(耳が焼け付くように痛いっ…)
爽「今、針が差し込んでるの分かる?」
咲「は、い…」
爽「我慢できなかったら私の背中に爪立てていいから」
咲「…う」ぎゅうっ
咲「い、た…ぁ…」
爽「そんな色っぽい声だすなよ」
咲「そ、んなこと言ったって…んっ…」
爽「やっぱ咲はMだな。じゃあ今度は抜くよ」
咲「はい…ぅ…っ」
爽「よし。抜いたぞ」
咲「はぁ…っ、 何か、まだ異物感が残ってます…」
爽「慣れるまでは皆そうだよ」
咲「んっ!」びくん
爽「…」ぺろぺろ
咲「やっ…耳朶舐めないで…」
爽「消毒してやってんだろ?」ぺろぺろ
爽「……よし。これでOK、と」ぺろっ
咲「はぁ…//」
咲「き、今日はもう無理ですっ//」
爽「冗談だよ。…半分だけな」
咲「え?」
爽「何でも。それより、これ」かちっ
咲「…?今、耳に何かしました?」
爽「ピアスはめたんだよ。私とお揃いのな」くいっ
咲「あ、今爽さんがしてるのと同じですか?」
爽「そ。失くすなよ?」
爽「…咲みたいだと思ったから」
咲「えっ?」
爽「咲の赤色がかった瞳を思い出したから。このピアス見たら」
咲「……」
爽「気づいたら買ってた」
咲「……」
咲(今日いきなり思いついたというわけじゃなくって)
咲(もともと私のために買ってくれてた…ってこと?)
咲「…っ//」ぼっ
爽「何赤くなってんだ?」
咲「な、何でもないですっ!それより…」
咲「ありがとうございます、爽さん。すごく嬉しいです」にこっ
爽「…っ//」どきっ
爽「……咲が悪いんだからな」
咲「へ?」
爽「咲がそんな無防備に笑うから」
咲「だから何の話ですか?」
爽「うるさい。さ、もう1ラウンドやるぞ!」がばっ
咲「ええっ?今日はもう無理だってええええー!!」
――――――――
――――
――
爽「大丈夫か?」
咲「誰のせいだと…」
爽「まあまあ。今日はずっと傍で看病してやるからさ」
咲「当たり前です。…私、もうひと眠りしますから…」ふわあ…
爽「うん。お休み咲」
咲「はい…あ、ピアス、ほんとにありがと、ございました…」にこ
爽「……どういたしまして」
爽「…だからその笑顔がやばいんだっての//」
爽「分かってんのかね?このお姫様は…」はあ
カン
まだこういう組み合わせを書いてくれる作者がいることが本当にありがたい
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511581714/
Entry ⇒ 2017.11.29 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
京太郎「清澄高校麻雀部黎明」【咲】
あんなに夢中になったのは初めてだった。
縦横無尽にフィールドを走り回り、ドリブルやパスのチームワーク狙いを定めて放つシュート。ゴールネットを揺らす快感は最高だったし、勝利をチームメイトの皆で噛みしめるのは悪くなかった。
だがそれも、中学時代最後の全中長野予選決勝で幕を閉じた。
決勝途中で右膝前十字靭帯を損傷し、俺のハンドボールいや、スポーツの道は途絶えた。
頂いてた推薦も白紙になり、目が離せない存在―――ポンコツのため―――である、
幼馴染“宮永咲”と共に受験勉強を経て、清澄高校に入学したのは記憶に新しい。
文芸部への見学が一人では不安だからという理由で、咲に着いていったにも関わらず、終いには、見学しているのは俺だけであったり。
今度こそはと意気込むも、迷子になったお姫様を捜索したりをしていると、運動部関係から勧誘される。それを激しい運動はもう出来ないという理由で撥ね付けてきた。
運動部に入る気はないし、文化部にも興味が湧かない。
「折角だから、文化系の部活も見て回ってみようよ。」
と誘ってくれたものの逸れてしまった幼馴染を探しつつ、三年間の高校生活は帰宅部かなと思っていた。。
気弱のくせに、迷子時には気が強いのか勝手に部屋に入っていく幼馴染のため、一部屋ずつ探す。
その空き教室のひとつに、窓の外を椅子に腰掛け、眺める一人の女学生。入学式で議会長挨拶をしたその人がいた。
思わずその姿に、見惚れてしまった。こんなにも美しい風景がこの世にあるのかと思うほどに美しかった。
「部活動見学者かしら、それとも入部希望者? 」
鈴を転がすような声で、茶目っ気.のある笑顔で聞いてきた。
「いや、違うんです。迷子を探していて。」
そう答えると、顔に憂愁の影が差し、残念そうに
「そうなの。」と答えた。
思わず、
「此処は一体何をするんでしょうか。」
と、質問してしまった。
「麻雀よ。知ってるかしら?」
「耳にしたことはある程度ですね。細かいルールは知りません。」
「そう。なら、教えて上げるわ。其処の卓の椅子に座って。」
あれよこれよという間に、麻雀教室が始まってしまった。
そして、役を作って和了る。ここ迄は良いかしら?」
「はい。」
「ふふっ、続けるわね。萬子、索子、筒子は数牌と呼ばれ各種に一~九まで区別されているの。
字牌はそれぞれ東、西、南、北の四風牌、白、發、中の三元牌に分けられるのよ。
これらを様々に組み合わせていく競技よ。分かったかしら?」
「はい。あの、その役って何種類あるんですか?」
「良い質問ね。一般的に採用されているのは三十八種類よ。ローカル役を含めると大凡九十近くね。」
「そんなにあるんですか!?」
「といっても一般的な三十八個だけで十分よ。本当なら、体験させてあげられたらいいんだけど……」
彼女はとても残念そうに呟いていた。
「ごめんなさいね。本当なら二年生の娘がもう一人居るんだけど、今日は家庭の事情で来れなくて。せめて三麻だけでも体験させてあげられたら良かったのに。」
ただ、何となくだった。気の迷いだったのかもしれない。
「なら、明日はその先輩は居るんですか?」
気がつけばそんな事を口走っていた。
「え?」
彼女の驚いたような顔に思わず笑いそうになる。
「ですから、明日はその、三麻?でしたっけ。それは出来るんですか?」
「えぇ!明日なら出来るわ!私が、どんな事をしてでも、らt,連れてくるわ!」
「今なんか、不穏な言葉が聞こえた気が……」
「気のせいよ。気のせい。」
先程とは打って変わって楽しそうに笑う彼女がそこに居た。
そういえば、自己紹介がまだだったなと、思い返す。
「俺、一年生の須賀京太郎って言います。」
「へ?……そうね、自己紹介がまだだったわね。
麻雀部部長で生徒議会長を務めてる三年の竹井久よ。よろしくね、須賀くん。」
思いがけず興奮して、失敗したわ。という囁きは聞こえないフリをしておこう。
触られたくないだろうし、うん。
「それでは、また明日来ます。」
「えぇ、待ってるわね。明日こそ須賀くんに麻雀の楽しさをお姉さんが教えてあげるわね。」
ウィンクをしてくる竹井先輩に別れを告げ、旧校舎を後にする。
その後、幼馴染は無事に東校舎の三階で見つけ出した。
泣き付かれ、怒られたが。
世の中は理不尽である。
「今日こそは、キチンと文芸部を見学してくるからねッ。京ちゃんが居なくても大丈夫だって証明してあげるんだから。」
と、意気込む幼馴染を尻目に教室を後にする。
本当に大丈夫なのかと一抹の不安を感じながら、麻雀部の部屋へ足を踏み入れる。
「失礼します。」
扉を開け、中に入るとそこには竹井先輩と昨日言っていた二年生の先輩が居た。
「待ってたわ、須賀くん。こっちが昨日言っていた二年生の染谷まこよ。」
「おい、部長。わしは、一年生の初心者と三麻やるっちゅうから来たんじゃが、男子生徒とは聞いとらんぞ。」
「だって、言ってないもの。昨日来た一年生と三麻を今日やるから、と言っただけよ。」
「はぁ、お主は。わしの名前は、染谷まこじゃ。よろしくの。」
「は、はい。一年生の須賀京太郎です。よろしくお願いします。」
「自己紹介も終わったみたいだし、早速三麻を打ちましょう。」
竹井先輩がパンパンと手を叩き喜ばしそうに準備に取り掛かろうとする。
溜息をつき、よう確認せんかったわしの不手際じゃのぅ。
と愚痴を零しながら準備する染谷先輩。
仲が悪いのだろうか?
「あの、俺にも何か手伝えることはありますか?」
何もしないというのは居た堪れないので手伝えることはないかと聞くも、
「いいから、須賀くんは座って待ってて。」
「京太郎は、待ってんしゃい。準備は先輩たちに任せときぃ。」
訂正、仲は良いようだ。同時に言われた、此方を見るでもなく。
「それじゃ、三麻のルールを説明するわ。三麻の場合昨日教えた萬子の二~八が除外されるわ。
また、北牌については今回、共通役牌として使用するわ。
それで、須賀くんにはこれを渡しておくわ。」
「これは、なんですか?」
「役の一覧よ。例も載ってるわ。これを参考に打ってみてちょうだい。」
「なに、今回はゆっくり慌てず打ってみるとえぇ。時間はたっぷりとあるけぇ。」
「あ。」
「どうかしたの、須賀くん。」
「何か役でもできたんか?」
「はい、出来ました。」
先程渡された、役一覧の一つを指す
「えーっと、この、国士無双って奴ですね。」
「嘘。凄いじゃない、須賀くん!」
「初めての三麻で、というか、初麻雀で国士とはのぅ。」
その時、ハンドボールで初めてゴールを決めた時にも勝るとも劣らない衝撃が走った。
ただのビギナーズラックかもしれない、それとも、先輩たちが手を抜いてくれたのかもしれない。
それでも、この、雷に打たれたような感覚はきっと間違いじゃなく本物だと思う。
キリが良くなったので、休憩を取ることになった。
先程の役満はやはり、ただのまぐれだったようで、一回も和了ることは叶わなかった。
「やっぱり、三麻とはいえ、麻雀を打てるって良いわね。」
竹井先輩が嬉しそうに喋る。それに賛同するかのように染谷先輩も、
「そうじゃのう。家とは違い、学校で部活として打つのでは何とも言えない嬉しさっちゅうもんがあるのぅ。」
二人はそこで同時に微笑み合っていた。
「あの、この麻雀部って何か目標とかあるんですか?」
好奇心が働いたので、聞いてしまっていた。
「えぇ勿論。目標は、団体での全国制覇よ!
と言っても、五人制だから只の夢なんだけどね。」
「まぁ、言うのは勝手じゃけぇ。減るもんでもないしのぅ。」
何故だろうか、そう言う二人の顔は悲壮に包まれてはいなかった。
だからだろうか、その全国制覇という夢を叶えたいと思ったのは。
それとも、入部希望者じゃないと言ったときの寂しそうな顔を見てしまったからだろうか。
この人を支えたいと思ってしまったのは。きっと可笑しなことではないのだろう。
そう思った時には、勝手に話していた。
「俺。この麻雀部に入部します。今日しか、まだ麻雀は打ってないですけど、楽しかったですし。」
そう、俺は笑顔で言っていた。
この発言を受けた二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「本当に?本当に、入部してくれるの?」
片方は不安ながらも、
「そんな簡単に決めてしまってええんか?まだ、体験入部期間はある。
色々と周ってから決めたほうがええんじゃないか?」
片方は此方を案じるように。
「いいんです。決めたんです。俺は、麻雀部に入部します。
久々にこんなに楽しいって思えたんです。それに竹井先輩の夢である全国制覇を手伝いたいんです。」
ハンドボールが出来なくなってからは、何もやる気が出なくなっていた。
そんな俺に気を使ってか部活動見学に誘ってくれた幼馴染。
大体一年近く、何事にも突き動かすものを感じなかったが、麻雀にふれて、忘れかけていた何かに火が点いた気がした。
「だから、これから、よろしくお願いします!竹井先輩、いや、部長!染谷先輩!」
「ううん。此方こそ宜しくね、須賀くん。入部したからには厳しくいくわよ。」
「わしにとっては、初めての後輩じゃ。頼もしくはないかもしれんが、宜しくのぅ京太郎。」
三人共笑いながら、握手をしてその日の活動は終わったのである。
こうして、清澄高校麻雀部は部員が三人になったのだった。
麻雀部に入部してから数日。
麻雀部に新しく一年生二人が入部した。
片方は、一年生の間で有名―――並外れたプロポーズで―――となっている、原村和。
もう片方は、本当に高校生か?と、疑問を持たずにはいられないほどの低身長の片岡優希。
二人は同じ中学校出身で、麻雀経験者とのことだ。
そして、和と優希が入部したことによって、三麻からの脱出である。
その日は、染谷先輩は家庭の雀荘の手伝いがあるらしく、部室には寄らないらしい。
一年生三人と部長を加え、俺にとって、初めての四人で打つ麻雀だった。
結果は見るも無残な結果となったが。
優希は東場で、何かこう、凄かった。あと、タコス、タコスと煩かった。
和は何かこう全体的に凄かった。色々と。ありがとうございます!と言いたい。
「疲れたじぇー。京太郎、悪いがタコスを買ってきてくれー。」
「こら!ゆーき、駄目ですよ。今日初めて会った、須賀君にそのようなこと頼んでは。」
「そんな硬いこと言いっこなしだじぇ、のどちゃん。」
「ふふっ。二人共仲が良いのねぇ。流石同じ中学出身なだけあるわね。」
「いえ、そんなことは。」
「私とのどちゃんはベストフレンドだじぇ。」
話が一段落ついた様だし、飲み物の序にタコスでも買ってくるとしよう。
「それじゃぁ、俺はタコスでも買ってきますね。学食のメニューにありましたし。
ずっと気になってたんですよねー。」
「おおぅ。京太郎は話がわかるじぇ。頼んだぞ。」
「ゆーき!もう。申し訳ありません須賀君。」
「良いって、良いって。飲み物買う序だし。和は何か飲むか?」
「いえ、そんな。私は結構です。」
「私は、オレンジジュースが良いじぇ。」
「優希もああ、言ってるし。な。」
「……それでは、お茶をお願いしても良いですか。」
「任せろって。部長はどうします。」
「私?私は、須賀くんにお任せするわ。」
「一番難しいじゃないですか、ヤダー。」
「須賀くんのセンスが物を言うわねぇ。」
絶対に、揶揄ってる。短い付き合いだがそんな気がする。
「私も手伝います。任せっきりなのも嫌なので。」
和が助けてくれるようだ。
「サンキュー、和。助かるよ。それじゃぁ、行ってきます。」
「行ってきますね。」
「タコス待ってるじぇー。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
俺は、和と共に、部室をあとにする。
思わず、その胸に目が行ってしまう。悪いなぁと思いつつも思わず目で追ってしまう。
そんな事をしていると、和が切り出した。
「須賀君、女の子は思っているよりも視線に敏感です。気をつけてください。」
バレていたみたいだ。
「あー。悪い、和。こう、思わずというか、何というか。これからは気をつける。」
「いえ、次から気をつけて頂ければ。」
そうして、会話が終わり、俺と和との間には静けさが流れる。
思わず気まずくなってしまったので、何か会話の種が無いものかと詮索する。
「そういえば、和も優希も麻雀やったことあるんだな。」
「そうですね。ゆーきと出会えたのも麻雀のお陰です。」
「そうなのか?」
「はい。中学二年生の時に此方に引っ越して来まして、その時に仲良くなったのがゆーきと先輩が一人います。」
「へぇー、そうなのか。」
「はい。」
「それにしても、和って麻雀強いよな。家に雀卓あったりするのか」
「えぇ。ありますよ。」
「マジか!?やっぱり、必要なのか?家でも勉強するには。」
「そういう訳でもありませんよ。今ではアプリで配信されていたりしますし。」
「そうなのか!和はどれをやってるんだ?」
「それは……」
何でもないような会話をしているうちに、食堂に到着し、頼まれたタコスと飲み物を購入し部室へと戻る。
今日のレディースランチも美味しそうだった。
今度からは部活に行く前に食べてから行こうと、決心するのであった。
ここでの決意があんな事になるとはその時の俺は思いもしなかったのだ。
部長には、水を購入した。
評価は「まぁまぁね」だった。
「カモつれてきたぞーっ」
後ろで、麻雀キライと言っているがこの際無視だ。
今日、部長は議会での仕事、染谷先輩は実家の雀荘。
和と優希との三麻も悪くはないが、打つなら四人で打ちたいし、あと、勝ちたいし。
そんな、軽い気持ちで咲を麻雀部に連れてきたのだが、カモどころじゃない大物だったのだが。
咲が正式に、麻雀部に入部してから、数日。
俺は、部長話がしたいので、部活が終わったら、二人っきりになれませんか?という手紙を渡した。
その日の部活が終わり、和と優希はタコスが待ってるじぇと騒ぐ優希に和が振り回される形で帰宅。
染谷先輩も察してくれたのか「それじゃ、また明日のぅ」と言って帰宅。
咲は一緒に帰ろうと誘ってくれたものの、残って勉強したいからというと、渋々ながらも了承し帰路についた。
最初に口を切ったのは、部長だった。
「それで、須賀くんからの話たいことがるのよね?」
「はい。」
「何かしら?もしかして、告白?
駄目よッ!?私は三年生で須賀くんはまだ一年生!?寂しい思いなんてさせたくないわ、私は!?」
「違いますって。」
「そうなの~?連れないわねぇ、須賀くんも。それとも恋の相談かしら?
相手は本命の和?それとも対抗で咲?大穴で優希というのもあるわね。」
「違いますって。部長だって、分かってる筈です!
俺が何を言いたいのかは!!」
部長はきっと分かった上で、とぼけている。
その解りづらい優しさは今になるととても苦しい。
「部長、俺は、」
早速切り出そうとしたら、部長に遮られる。
「良いのよ、須賀くん。そして、ごめんなさい。
貴方にとって、辛いことを言わせようとしている私は、駄目な先輩ね。」
そういう部長の顔はとても苦しげに歪ませていた。
俺は、あぁ、この人もこんな表情ができるのかと思っていた。
深呼吸をしてから、部長は、いや、竹井先輩は口を開いた。
「須賀くん。君には裏方に回って欲しいの。
咲が入部してくれたお陰で、全国大会への切符が漸く手に入られた。
私はこの最後のチャンスを物にしたい。無駄にしたくない。
麻雀の初心者である須賀くんへの指導はどうしても疎かに、優先順位が低くなってしまう。
それでも、麻雀部にいてくれるなら、あの日言ってくれた事がまだ心変わりしていないなら、雑用をしてくれないかしら。
嫌なら、麻雀部を辞めてくれたって、構わない。皆には、私から説明するわ。」
「……辞めると言ったら、竹井先輩は咲たちになんて説明するんですか。」
「須賀くんには、退部してもらったわ。私の夢は皆にも言ったように、全国制覇。
須賀くんへ割く時間は減ってしまう。麻雀部にいるのに麻雀しない時間が増える前に退部させた、とでも説明するわ。」
先輩は拳を握り締めながら話してくれた。
先輩も辛いのに、俺は何を言わせてしまったのだろう。
「先輩が悪者みたいじゃないですか。」
「良いのよ。これくらい何とも無いわ。」
「そうですか。」
「えぇ、そうよ。」
「……なら、大丈夫です。先輩が悪者になる必要なんてないんです。明日、俺から皆に言います。
皆が麻雀に集中できるように、この麻雀部が全国で優勝できるように、裏の仕事、所謂マネージャーをこなすって。」
俺は、笑顔で言い切る。そうだ、俺は、初めて三麻をした時に言ったんだ。
先輩の全国制覇の夢を手伝うと。なら、俺は、俺にできる事をする。
たったそれだけのことだ。
「ありがとう、そして、ごめんなさい。須賀くんには辛い思いをこれからさせることになるわ。」
先輩は苦しそうな表情で声をかけてくれる。
そんな必要はないのだ。これは必要なコトなのだから。
「大丈夫ですよ。これでも身体は鍛えてるんで。」
俺は親指を挙げ、笑いながら言う。
それに釣られたのか、
「そうね、なら、これから期待してるわよ。須賀くん。」
部長も漸く笑顔を見せてくれた。
「任せてください、部長!」
咲は、一緒に打とうと誘ってくれるし、和や優希も代わると言ってくれる。
だが、毎回俺は、
「全国に行って優勝するには、女子が沢山打った方が良いって。それに、ネト麻だってあるしな」
と言って、提案を一蹴する。
ここから清澄高校麻雀部はきっと始まったのだろう。
カンッ
だがそのカン成立せず
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Entry ⇒ 2017.11.27 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
咲「かぁ~ごめ、かぁ~ごめ……」
穏乃「よっ、しゃああああ!!!優勝だああああ!!!」
淡「そんなに喜んじゃって個人戦だってあるんだからね!高鴨穏乃!」
ネリー「はぁ、サトハに叱られるよ……」
咲「」
咲「……」トボトボ
咲「あっ!」
照「……」
咲「おっ、お姉ちゃん……、私
パシッ
咲「えっ……」
照「私に弱い家族はいない。大事な後輩を迎えに行かないといけないから、どいて」
咲「……」
咲「ごめんなさ
テルー!
咲「!?」
淡「ご、ごめん……かてなか……っ」
照「お疲れ様、その悔しさは個人戦で晴らせばいい」ナデナデ
咲「」
咲「……」トボトボ
あっ!あれラスだったらしいやん!
声デカいわ、まあ因果応報や、舐プなんてしとるから……
咲「……」
あんなのが大将とか……
清澄の連中も可哀相だよなぁ!御愁傷様って感じ!
咲「」
咲「……」
ガチャ
咲「ご、ごめんなさい……みなさ
ゆみ「久……」
久「ごめんね、ゆみ……貴女たちの分まで、頑張ろうと思ったんだけれど……」
ゆみ「いや、久は良くやったさ。最高の中堅戦だった……だから来年からの四年間、私にくれないか?」
久「ゆみ……」
エイ「……」カキカキ
まこ「おぉ、慰めに来てくれたんか?」
エイ「!」コクコク
まこ「……エイスリンが応援してくれたから頑張れたんじゃ、結果は出なかったが感謝しとるわ」
エイ「!」
エイ「……」カキカキ
エイ「!」バッ
まこ「!」
まこ「……そうじゃな、お礼もせんといけんわな。表彰式が終わったら時間、くれんかの?」
エイ「!」コクコク
咲「」
咲「……」
京太郎「優希、あんまり落ち込むなよ」
優希「京太郎ぉ……終わっちゃったじぇ……」
京太郎「あぁ」
優希「こ、これが部長とっ……一緒に打てる最後の……っ」
京太郎「あぁ……っ」
咲「」
咲「……」
優希「次は駄犬の番だじぇ」
京太郎「あぁ」
優希「なんだ?緊張してるのか?」
京太郎「あ、当たり前だろ!お前たち女子だって負けることもあるのに、俺なんか直ぐ……」
優希「大丈夫だじょ」ギュ
優希「やれるだけのことはやってきたの知ってる、その私の目に狂いはないじぇ!」
京太郎「優希……」
優希「お前は負けないじぇ……京太郎!」
京太郎「名前……あぁ、勿論だ!」
咲「」
咲「……」
ノドカー!
和「穏乃……」
穏乃「和……私、会いに来たよっ……」
和「はい……」
穏乃「でもっ、わたし、清澄の邪魔っ、しちゃ……
ギュ
和「分かってます、分かってますから……」ギュ
穏乃「和ぁ……」ギュー
咲「」
咲「……」トボトボ
ネリー「す、すみませんでした……」
アレクサンドラ「……あれは仕方ないわね、貴女は十分よくやってくれたわ。団体戦で全国3位、これならスポンサーにも智葉にも怒られずに済むわね」
ネリー「ほ、ほんと!?」
アレクサンドラ「あら、調子いいわね?でも今日くらいは許してあげる」
咲「」
咲「……」トボトボ
咲「なにやってんだろ、私……けっきょく私はなにも手に……」
プルルルル、プルルル
咲「お父さん?そうだ、私にはお父さんが……っ
界『そのなんだ、惜しかったな?』
界『だがまぁ、お前には個人戦が……あぁ、すまない……』
界『実は俺も、こっちに来ててな……その母さんと照と……』
界『あぁ、すまない!お前のことは二人にも必ず!』
プー、プー、プー
咲「」
咲「かぁ~ごめ、かぉ~ごめ……かぁ~ごの……」
トントン、ガラっ
健夜「咲ちゃーん?調子はどうかな?」
咲「なぁ~かのとぉ~りぃ~わ~……」
健夜「また歌ってたんだね……咲ちゃんは歌が上手……」
咲「えへへ~ありがと!さきね~うたすき!」
健夜「うんうん、今日は中庭で聞かせて?ほら、これに乗って行こうね!」ナデナデ
咲「あ、くるまいすだ!さき、くるまいすもすき!」
健夜「じゃあ乗せてあげるね?よいしょ……っと」
咲「うんっ!あ、こかじぷろ!」
健夜「ずいぶん軽くなったなぁ……ん?なぁに?」
咲「きょ~はおね~ちゃんたちも、くるかな~?」
健夜「!」
咲「……こかじぷろ?」
健夜「どうしてっ……貴女だけが……っ」ギュー
咲「……」
咲「いたいのいたいの、とんでけ~」
健夜「えっ」
咲「これでだいじょ~ぶ!だからもうなかないで!」
健夜「~~っ!」
プルルルル、プルルル
咲「!?」ビク
健夜「ご、ごめんね……ちょっとお電話でてくるからね……」
咲「あ……まって……」
ガシャン
健夜「うん、やっぱり二人の子として引き取ろう?」
健夜「ありがと、こーこちゃん……」
健夜「今から咲ちゃんに話してみるね、うん、それじゃ」
ザワ、ザワ、ザワ
健夜「?」
健夜「あの……騒がしいみたいですけれど、なにかあったんですか?」
健夜「えっ、出火……」
健夜「394号室って咲ちゃんの……」ペタン
おしまい
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Entry ⇒ 2017.11.23 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
揺杏「世界樹の迷宮?」
まだ誰の身体も包んだことが無い魔導衣が肌に触れ、柔らかな布地が心地よい感覚を与えてくれる。
さらに深緑色の三角帽を頭に乗せる。つんとてっぺんが尖っているのは、これまた新品の証だ。使い込んだ古い品だとこうはいかない。
そのまま身体を姿見に向ける。頭の先から足元までじっくりとチェックし、くるりと一回転。
……よし。これでどこからどう見ても立派な錬金術師(アルケミスト)だ。
爽の奴には散々からかわれたけれど、私だってこれでも女なんだ。
迷宮に挑むならちゃんとした(欲を言うならかわいさも重視した)服装で挑みたい。今日が迷宮デビューとなれば尚更だ。
私こと岩館揺杏や友人の獅子原爽が住むこの国、ホッカイドーは地理的に有名すぎる特徴を備えている。それが国の中心部に天高くそびえ立つ巨木、通称『世界樹の迷宮』だ。
いつからあったのか、どうしてこんな大きな樹が生まれたのか、最果てには何があるのか。そんな情報は誰も知らない、謎に包まれた迷宮。
複雑に入り組み、独特の環境や生態系を有するこの巨木はまさに迷宮と呼ぶに相応しいダンジョンとなっている。
危険に満ち溢れていたりもするのだけれど、その一方で迷宮内では貴重な素材や嗜好品などが手に入るという利点もあったりする。
故に、ホッカイドーはこの世界樹の迷宮を礎に据えた政策を進めたんだとか。
冒険者に対する減税や免税をはじめとした法整備は、瞬く間にホッカイドーの街並みを冒険者街のそれへと変えたらしい。
……まぁ、私の生まれるずっと前にそんなことがあったらしくって。
今ではホッカイドーは世界有数の冒険者街。でもって、私も今日、晴れてそんな冒険者の仲間入りってわけだ。
――冒険者になろうと思った理由? あー。うん。そうだな……。
爽との待ち合わせにはまだ時間があるし、少し思い返してみるのもいいかもしれないな。
……ちょうど十年前。切っ掛けとしてはあの辺から話すのが良さそうだ。
◆ ◆ ◆
北国ホッカイドーをぐるりと囲むような城壁。
普段は誰もいない寂しい場所だが、今はここに三人の少女がいた。
一人は私。この頃はまだ身長も低くて、とっても純粋で可愛かった岩館揺杏(今とはえらい違いだな、って? うるせーバカ)。
一人は私の幼馴染。ひとつ年上の綺麗な金髪が光る先輩、桧森誓子。
そして、もう一人が、
「ゆーあんー! ちーかー! ここまで上ってきてみろよー!」
と、私たちが見上げる先、城壁の上で腰に手を当てて笑う獅子原爽。
背中に太陽を背負って私たちを見下ろす様はちょっとカッコよく感じる。でもお前、それ以上に「眩しいんだよクソボケ」って気持ちのが強いからな。あんまり調子に乗るなよ。
私が内心で毒吐く傍ら、チカセン(桧森先輩のことだ。親しみを込めて私はこう呼ぶことにしている)は「危ないから降りてこようよー」と呼びかける。
……もちろん、そんな説得に応じるような爽ではない。
むしろますます増長して、
「へいへい、チカびびってんのかー? これくらいぜーんぜん余裕だよ」
なんて言い出す始末だ。あぁ、ほら。逆立ちとか始めたよ。
――なんて思っていたけれど。
ごう、と一陣の風が吹いて、私の余裕面も固まった。
この時期、春のホッカイドーは周囲を囲む海から強い海陸風が吹く。突風が私とチカセンの横を通り過ぎ、城壁へ向かい、
「へ?」
間抜けた声と共に、ゆらりと爽の身体が傾く。足が、城壁から、離れる。
「爽ーっ!!」
思わず叫ぶ。だけれど、そんな声だけで爽を救うことができるわけもなく。
爽が城壁の向こう側へと落ちていく姿が、まるでコマ送りのように感じられた。
……沈黙。風の吹く音だけが私たちを包んだ。何も言えなかった。
なんだそれ。おい。爽、まさかお前。
自然と、ある一文字が脳裏をよぎる。
「……し」
チカセンが、軽く開いた口から漏らすように、か細い声で言う。
「しんじゃったの…? 爽……」
「……」
黙り込む私を見て、チカセンも目を伏せてしまった。
再び重苦しい沈黙に包まれる。
爽。お前、本当に死んじまったのかよ。なぁ、おい。さわ――
「ゆあんー! ちーかー!」
――うん。爽の声だ。
がばと顔を上げた私たちの目に、あの赤髪がこちらに手を振って走ってくる姿が映る。
そのまま私たちの方へ飛び込んできて、
「めっちゃびびったー!」
なんて、悪びれもせずに言った。
「お前なぁ。……おーまーえーなー!」
心配かけやがって。お前ほんとなんなんだチクショウ。
そんな怒りと、ほんのちょっとの安堵を込めて爽のこめかみにゲンコツを当ててぐりぐりと攻撃を始める私。
「いだいいだいいだいいだい! ゆ、ゆあんっ! ストップ! マジでそれ痛いっ!」
「うるせーバカ! もうしばらくこのままお仕置きだからな!」
「ギニヤー!」
なんて騒ぐ私たちを見守りながら、そっと目に浮かんだ涙を拭くチカセン。
そりゃそうだ。私だって実際のところ、ホッとした気持ちでいっぱいだもん。
そして、そんな私たち三人に歩み寄ってきて、
「えっと。ちょっといいかな?」
なんて話しかけてきた五人組。
たぶん。彼女たちと出会ったのが、私たちが冒険者になるきっかけのひとつになったんだと思う。
先ほどの女性たちは冒険者だったらしく、「情報が集まる場所は無いか」と聞いてこられたから、こうしてチカの親父さんが営む酒場に連れてきた。
それから更に話を聞いてみると、なんと爽が落ちてきたのを助けてくれたのが彼女たちだったんだとか。
爽、お前そういうことは一番最初に言うべきじゃない?
「えー? だって雰囲気で分かると思ったし」
お前なぁ。
「お待たせしました。鴨肉のローストです」
そこに給仕服を着たチカセンが盆に料理を乗せてやってくる。こうやって時々店の手伝いをしているらしい。
女性は「お、きたきたっ」と嬉しそうにテーブルに皿を置くスペースを作った。
チカセンは慣れた手つきでそこに皿を音も立てずに置いた。
「ごゆっくりどうぞ! あ、それと爽」
ぺこりと頭を下げたチカセンだったが、次の瞬間には爽にびしりと指を突きつけていた。
「爽、いい加減ツケを払ってよね。今まで何度ただで飲み食いしてるの」
実際チカセンの言う通りで、爽はことあるごとに桧森亭に無一文でやって来て、食事をしたりしているのだった。
けれども爽は悪びれもせずに、
「いーじゃんいーじゃん。親父さんが『金なんかいいよ』って言うんだからさ」
なんてへらりと笑う。
そう悪態をつき、チカセンは厨房へと踵を返す。
そんな背中に、爽が声を投げかけた。
「チカー。フライドポテトとオレンジジュースなー」
おい、爽。
「あ、なに。揺杏も? ごめーん、チカ! オレンジジュース2つな!」
そーいうことじゃなくってさぁ。ほんっとお前さぁ……。
「本当にびっくりしたよ。いきなり空から子供が降ってくるんだもん」
皿の上の鴨肉を器用にナイフとフォークで切り分けながら、女性が口を開く。
間抜けな話だけれど、ここでやっとちゃんとお礼を言っていなかったことに気づいた。
慌てて頭を下げる。
「本当にあざっし……ありがとうございました。ほら、爽もお礼っ」
「助かったっ! ありがとうな、おねーさん!!」
「軽いなオイッ!」
爽に思わず突っ込みを入れる私。
それがおかしかったのか、目の前の女性は頬杖をつきながらくすくすと笑った。
と、女性は脇のバーカウンターに座る仲間に話しかけた。
くるり、と椅子を回転させてこちらに身体を向けたのは槍を手にしたジャージの女性だ。
「ふぇ? ふぁふぃ?」
「……シズ」
「んんー? ふぉふぃはの、アコ?」
「あー……うぅん、なんでもない」
その口はチカの親父さん自慢の料理でいっぱいになっていた。
頬まで膨らませて羊の香草焼きを美味しそうに咀嚼するシズに、女性(たぶんアコと呼ばれた)は呆れて肩を竦めた。
「あのねーちゃん、すげーんだ! なんか口笛をぴーって吹いたら鳥がばさばさって飛んできてさ! それで落ちてくる私を受け止めたんだよ!」
と、興奮しながら語る爽。
「ビーストキングって職を見るのは初めてだった? シズ……あ、本名は穏乃ね。あの子は動物たちと心を通わせて従えることが出来るの」
「へぇーっ! 揺杏っ、冒険者ってやっぱりすごいな!」
爽の興奮は最高潮だ。
こいつ、やたら冒険者に憧れてるからな。生で冒険者と話せてすっげー嬉しいんだと思う。
……私? ないない。少なくとも、この時はまだ「冒険者になりたい」なんて思ってはいなかったと思う。
この頃は冒険者になりたいなんて思ってたのは爽だけだったはずだ。
「せっかくだし、自己紹介がてら他のメンバーも紹介したげよっか」
なんて提案をする。
おいおい、そんなこと言ったら……
「マジで!?」
ほら、爽が目を輝かせて喰いついたぞ。
「将来の夢は冒険者になって世界樹の迷宮を踏破することだ!」なんて言い出す爽だもん。そりゃ喰いつくに決まってる。
期待の視線を受けながら、アコは向こうのテーブルで話し合う三人組を手で招いた。
初めに分厚い鎧を身に着けた女性を指し、
「この人が宥。パラディンでパーティの守りの要ね」
「よろしくね~」
がしゃがしゃと鎧を鳴らしながら、ぺこりと宥がお辞儀をする。
……うん。すごく、なんというか。暑苦しい。
「その鎧、暑くないんすか?」
と私が訊くと、宥はきょとんと、いかにも「何を言ってるんだろうこの子は」とでも言わんがばかりの不思議そうな顔で
「ちょうどいいくらいだよ…? あったか~い……」
と答え、満足げにほうっと息を吐いた。
オーケー、つまり変態さんってわけだな!
「松実玄、職業はドラゴンロードですのだ!」
と、スリットが深く入った軽衣を身にまとった女性が胸を張る。
しかし、ドラゴンロード? 初めて聞く職だ。
「一体どんな職なんすか?」
「ふっふっふ。聞いて驚け、なんとっ。ドラゴンを呼び出して自在に操ることが出来るのです!」
「ドラゴンを!? すっげー!!」
爽が拳を握り締めて声を上げる。
けれども今度ばかりは私も爽と同意見だった。
ドラゴンを操る? モンスターとして最強レベルのあのドラゴンを? あまりにも強すぎないか、それは。
「見せてっ! 見せてよドラゴンっ!」
と、爽がお願いを始める。
玄は少し困った顔をしたが、やがてにっこり笑い、
「分かりました! お見せいたしましょう、松実家の秘儀を!」
どんと胸を叩いて、何やら呪文の詠唱を始めた。
……おいおい。まさかここで呼び出す気か、この人は。
「あはは。ま、大丈夫よ」
なんて軽く言うアコ。いや、大丈夫なわけないだろ。ドラゴンだぞドラゴン。
「少なくとも人に危害を加えたり物を壊したりすることはないわ。間違いなく、ね」
とアコが言う間にも玄は詠唱を続ける。やがて延々と続いた呪文は、
「我が喚問に応えんっ!」
という一節で締められた。
途端に玄の目の前の空間がぐにゃりと歪み始める。
爽の期待の視線が向けられる中、歪んだ空間が裂けていき――
ぽとり。
黒い色の小さな何かが、空間の裂け目からテーブルに落っこちた。
「……え?」
「ご紹介しましょう! 私の従えるドラゴンのドラちゃんです!」
そう言って、玄は落っこちた黒い何かを指でつまみ、私たちの目の前にぶらりと吊るすようにして見せた。
……ドラゴン、っていうか、これは……
「……ただのトカゲじゃん」
さっきまでのテンションはどこへやら、爽はげんなりした表情を見せる。
「でも飛ばないし火も吐かないんでしょ? トカゲみたいなもんじゃん」
「う……」
痛いところを突かれた、と玄の顔がゆがむ。
っていうか爽、お前散々頼んでおいてその手のひら返しはちょっと引くわ。えげつねえな、お前。
「だってあれだけ期待させておいてさー……」
まぁ気持ちは分かるけど。
「ま、玄のレベルがまだ低いからね。レベルが上がればだんだんこの子もドラゴンっぽくなってくの」
「精進しますのだ……」
可哀想な玄はすっかり意気消沈し、手のひらに乗せたドラちゃんを指で撫でてやりながら向こうのテーブルへと戻って行った。
「そして、この子が灼。一応アルケミストなんだけれど……」
「アルケミスト? 揺杏と同じじゃんか!」
と、爽がびしばしと背中を叩いてくる。いたい、いたいから。
「へぇ、揺杏ちゃんもアルケミストなんだ」と呟いてから、アコは言葉を続けた。
「一応アルケミストなんだけれど、どっちかというと副職のボーリンガー……地質調査者として働いてもらってることが多いわね」
「副職?」
「ボーリンガー?」
私と爽が二人で尋ねる。
その質問に、灼が先ほどまで飲んでいたグラスを置いて答えた。
「副職っていうのはそのままの意味……二つの職を兼業してる。ここにはない風習みたいだけど、私たちの故郷のナラでは普通のことだった」
「へぇー。なんかお得」
「それと、ボーリンガーっていうのは……迷宮の地質を調べる職って感じかな…。戦闘はしないけど……」
あまり人と話し慣れていないのか、ぽつぽつと言葉を途切れさせながらも説明する灼。
なーるほど、要は調査専門の職ってわけだ。
「執政院から?」
「そ。まだここの迷宮はあんまり調査が進んでないらしいじゃない? だから是非とも、って」
彼女らにとって外国であるナガノから依頼が来るとは。アコたちは冒険者として相当のレベルなんだろう。
これだけ親しみやすくっても、熟練の冒険者なんだ。自分の中の認識を変えなければならない。
そして、アコは最後に自分を指さした。
「で、このギルド『アチガGirls』を率いるのがこの私、メディックの新子憧よ」
メディック。傷や病を治癒することに特化した職だ。
なるほど、言われて見れば確かに、彼女が持つカバンの隙間から何かの薬剤や注射器などがちらりと見えていた。迷宮では何より生き残ることが大切。どんな状況にも対応出来るよう、様々な種類の医薬品を持ち歩く必要があるんだろう。
憧は先ほどのパラディン、宥がパーティの要だと言っていたけれど、実際は憧の方がよっぽど大切な役割を担ってるんじゃないかな。たぶん。
「ま、これも何かの縁。依頼を終えればナラに帰っちゃうけれど、それまでの間はよろしく頼むわね」
そう言って右手を差し出してくる憧。
私はその手を取って、「よろしくっす」とだけ答えて握手を交わした。
◆ ◆ ◆
世界樹の迷宮は危険に満ち溢れている。
大人たちは口を揃えてそう言うし、実際のところその通りなのだろうと分かってもいる。しかしながら、
「ゆーあーんー! こっちこっちー!」
青々とした草木。どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声。頭上から差し込む暖かな木漏れ日。
こんなに気持ちの良い環境が本当に危険なのだろうかと、ここに来る度に思ってしまう。
「ゆーあーんー! 無視すんなーっ!」
「無視なんてしてねーよ!」
背の高い木の上から呼びかける爽に返事をする。
爽はえいっ、と枝から飛び降り、根本の柔らかな土の上に着地した。
「どうだ。新記録だぞ、新記録」
「だいぶ高いとこまで登れたなー。すげーじゃん」
「だろー? もっと褒めてもいいんだぞ!」
「はいはい、すごいすごい」
へへ、と爽は嬉しそうに笑った。
そう言って爽が差し出してきたのは真っ赤な果実。
目を刺すような鮮やかな色とつやつやした表面は、中にぎっしりと果汁が詰まっているであろうことを示していた。
周りを見てみれば、他の木にも同じような果実が実っているのが見える。
「揺杏にやるよ、これ」
「……お前なー」
見え見えだ。こいつの考えていることは。
「私を毒見役にするつもりだろ、コラ」
「……ばれたかっ」
「ばれたか、じゃねーよ! 毒だったりしたらどうすんだ!」
「分かった分かった! んじゃ二人で同時に食べよう! それなら文句無いだろ、な?」
「大アリだよバカ!」
最悪二人とも死んじゃうからな? 迷宮で適当な果物食って死亡とかおばかすぎる死因だからな?
爽お前もうちょっと慎重さを
「いっせーのーでっ!」
お前さぁぁぁぁっ!!
私が制止する間も無く、爽は赤い実に白い歯を突き立てた。
そのまま小気味良い音を鳴らし、果肉を咀嚼する。
「……うまいっ!」
口の端から果汁をこぼしながら、大きな声でそう言った。
……はぁ。とにかく、毒じゃなくて良かったよ。
本来なら迷宮には執政院に認可されたギルドしか入れず、入口は衛兵によって警備されている。
だけれど私たちに言わせれば彼らの警備はザルもいいところで、ちょっと工夫をすれば簡単に忍び込むことが出来るのだ。
「冒険者志望なら当然だろ! これはヨシューだよ、ヨシュー!」と爽は無邪気に笑って言う。
はじめの頃はびくびくしながら度胸試しのように探索をしていたが、やがて『一階はそこまで危険じゃない』ということに気づき、こうやって遊び場として使っている。
モンスターが現れることもあったが、大抵は単独で行動していて子供の手でも十分に倒せるレベル。
更に言えば、モンスターたちが落とす素材や迷宮でときどき採集できるものは商店で売ることで良い小遣い稼ぎにもなるのだ。
そんなわけで、今の私たちのもっぱらのブームはこうして迷宮で遊ぶことだった。
「チカは?」
「いつもんとこ」
「あー。チカも好きだよなー」
木々が開けて出来た広場のような花畑。チカセンのお気に入りの場所だ。
迷宮に忍び込む度に、ここで小さな花を摘んで花かんむりを作っている。
なんでも、近所に住む幼馴染が花が好きらしく、作った花かんむりをプレゼントしているのだとか。
「へいへいプレゼントとかー。チカ、お前その幼馴染のこと好きなのかー?」
なんて冗談めかして爽がチカセンをからかったことがあったけれど、その時の反応が
「は!? へ、あ、や、いややややいやっ!! そんなのあるわけないじゃないっ!!」
だったあたり、かなり怪しい。今度それとなく聞いてみようか。
木々の間の抜け道から抜け出し、肩に付いた葉を払う。
「チカー、戻ったぞー」
爽の声に、チカセンがこちらへと振り向く――そして、周囲を囲んでいた大人たちも。
距離が離れていて顔がよく見えないが、その人数は五人。
「……揺杏。どう見る」
「どう見るって……色々パターンがあるよな」
「例えば?」
「一つ目。あいつらは衛兵で私たちを連れ戻しに来た」
ありそう。いかにもありそうだ。だが、
「衛兵の装備じゃないよな、あれは。執政院の鎧じゃねーし」
その通り。オーダーメイドの鎧や革鎧、ローブなど、あの集団が身に着けているのは様々だ。
つまり、冒険者。
「二つ目。偶然チカと出会った冒険者で、さっきまでチカと雑談に花を咲かせてた」
うん、これはいい。平和だ。これだったらいいなとしみじみ思う。
「三つ目は?」
目を冒険者集団に向けたまま、爽が訊いてくる。
三つ目は、あれだ。つまり……。
「三つ目。チカを襲おうとしている冒険者って可能性」
だけれど、ホッカイドーに住む人間ならみんな知っていることだ。迷宮の中は無法地帯で、時には冒険者に殺される冒険者も存在することを。
ニュースで流れてくるような事件は大抵第二層や第三層といった奥地で、こんな浅い層なら大丈夫だと思っていたけれど……甘かったか。
「爽。どうする」
爽に顔を寄せて相談する。
普段はふざけている爽だが、いざって時は頼れるヤツだってことを私はよく知っている。
爽は目を細め、私に囁くように言った。
「合図をしたら、二人でチカに向かって全力でダッシュ。周りの冒険者は無視。爽の手を掴んで……これで脱出とかどうだ?」
爽がポケットから取り出したのは半透明の糸巻き。
『アリアドネの糸』と呼ばれるそれは、使用することでダンジョンから脱出し地上の街へと転移する働きを持つ。冒険者必須のアイテムだ。
どうして爽がそんなものを持っているのかと言えば、
「拾った!」
ただ単に、この迷宮内で拾っただけらしい。
おおかた荷物がいっぱいになった冒険者が捨てていったのだろう。
「オッケー。……いち、にぃ、のっ」
「さ」が聞こえたところで足を踏み出す。
一歩、二歩、三歩。歩みを重ねるごとに加速する。
そのまま傍目もふらずに、チカセンへと向かって一直線。
冒険者たちが何かを言っているようだが、それも無視。
とにかく、チカセンを助けるんだ。
手を伸ばす。チカセンへ。あと五メートル、四メートル、三メートル――
――掴んだっ!
「爽! 逃げっぞ!」
振り向いて爽に呼びかける。
爽はすかさずアリアドネの糸を掲げ、街へ転移し
「え? なに?」
……しなかった。
見れば、さっきまでのマジメな顔はどこへやら。
爽は緩んだ顔で冒険者の一人と会話していた。
「……は?」
思わず、そんな気の抜けた声が漏れる。
手を握ったチカセンも「揺杏、何やってるの……」とドン引きだ。
なんだよ。アンタのためだったってのにさぁ。
バカにしたように爽が言う。
うるせー、こっちだって必死だったんだよ。
それになんだよ、よく見ろって。この冒険者たちが一体なんだって……
「や。久しぶり」
「……」
私の目の前に立ち、顔を覗き込んでくるのは見知った顔だった。
先日初めて会い、一緒にチカセンの家で食事をした人物。
「憧さん……でしたよね」
「うん。まさかこんなとこで会うなんてねー」
ナラから来た冒険者ギルド。憧をはじめとする『アチガGirls』の面々だった。
「へー。それでこうやって迷宮で遊んでたと」
「そうなんだよねー。……あ、このこと他の大人には黙っててよ! 頼むっ!」
爽がぱん、と両手を合わせて憧に頼んだ。
「迷宮に忍び込んでいた」なんて大人たちにバレたらどうなることか。想像したくもない。
そんなわけで、私も爽に倣って頭を下げる。
「お願いしますっ!」
隣で青い顔をしていたチカセンも続いた。親父さんに怒られるのが相当怖いのだろう。
一度私と爽も叱られた経験があるが、その時の親父さんときたら「怒髪天を衝く」なんて言葉を地でいく勢いで、もう二度とこの人を怒らせないと心に誓ったものだ。
並んで頭を下げる私たちを眺め、憧がいたずらっぽく言う。
「えー? どうしようかなー?」
チカセンは必死に憧に頼み込む。何でもするって言葉に「何が何でも父親にばれたくない」って気持ちが表れている。
つーかチカセン、ナチュラルに私と爽まで「何でもする」に巻き込んでるけども、私はそこまで言うかって感じだからな? 勝手にそんなこと言うなよ。そんなセリフ言ったら、
「え? 何でもするって?」
ほら見ろ! 憧が悪い顔し始めたぞ!
「えー。じゃあ……これから毎晩、拠点にしてる宿の私の部屋に来てもらうー、なんてのもいいの?」
うわ。やばいって、これは。
冒険者には同性愛者がそれなりにいるとは聞いてたけども、まさか憧もそうだったなんて。
爽の目にも「うわぁこの人」なんて色が浮かぶ。そしてチカセンは、
「? 部屋にお邪魔するだけでいいんですか?」
あっ、この人なんにも知らねえ!
きょとんとした顔を見せるチカセンに、憧はくすくすと笑いながら顔を寄せた。
顎に指先を当て、視線を自分へと上げさせる。
「…? あ、あの……顔がちょっと、近いんですけど……」
「いいんだよ? これくらいじゃないと教えてあげられないから……お・と・な・の・こ・と」
憧の声に色っぽさが混じると共に、段々と二人の顔が近づく。
おいおい、やばいってやばいって。子供だぞ? 子供相手にそんなんするか? あっ、だめだって、あっ、だめっ、あーっ!
「はい、そこまで」
ぱんぱん、と手を叩いて制止したのは灼だ。
二人をぐい、と手で押しやり、腕を組んで憧に向き直って口を開く。
「憧。子供をあんまりからかっちゃダメ……」
「あはは。反応がおもしろくってつい」
「ついじゃなくって……ほら、シズが」
「シズ?」
灼が指を差す先には、その目を潤ませながら震える穏乃の姿。
「憧……あんなちびっこの方が好きなんだ……」
「いや、ちがっ! あれは冗談で!」
「私が一番好きって言ってたのに……嘘だったんだな」
「嘘じゃないって! ていうかあんなちんちくりんに欲情とかしないし!」
おい、さりげなくちんちくりんって言われたぞ。
「しょ、証拠?」
「うん! …ほら、目つむるから……」
「…あー……」
どうしよう、とでも言わんばかりの目をこちらに向ける憧。
知らねーよ。勝手にしろよ。傍から見ればただのノロケだよチクショウ。
そんな私の念が伝わったのかは知らないが、やがて意を決したように「よし」と小さく言い、憧は、
「あっ」
「やったっ!」
穏乃の唇に自分の唇を重ね合わせた。
爽が目を輝かせ、チカセンが口に手を当てる。
本当にやりやがったよ、この人。何考えてんだ。冒険者ってみんなこんなんなの?
「……シズ。これでいい?」
「あ……う、うん……」
口を離され、蕩けた顔の穏乃は上の空のまま答えた。憧はそんな穏乃を見て優しく微笑む。
もうやだこの冒険者たち。
呆れながら、灼が目線をバカップルから私たちに戻して言う。
「私たちは特に、あなた達のことを誰かに密告したりとかする気は無いから。安心してほし……」
その言葉に、爽が「マジで!?」と目を見開いた。そしてガッツポーズを決め、
「ありがとな、灼ねーちゃん!」
礼を言った。私とチカセンも似たような感謝の言葉を告げる。
一方の灼は、
「灼ねーちゃん……」
ぼそりと呟き、照れ臭そうに少しだけ眼を伏せた。ねーちゃん呼びが気恥ずかしかったんだろうか。
すっかり気を楽にした爽は、頬を軽く赤らめる灼に話を振る。
「ねーちゃんたちは今日はなんでここに? やっぱりアレか、魔物退治とか?」
「ばーか、爽。前に言ってたじゃんか、『地質調査の技術を買われて頼まれた依頼で来た』って」
「ちしつ……?」
「なにそれそんなのあったっけ初耳ー」なんて言いたげな顔の爽は放っておいて、私は灼に確認した。
「今日はそれで迷宮に来たんすよね」
「うん。まずは一層のデータをまとめに……この一階から十五階……つまり、第三層までの地図と地質の調査が私たちが受けた依頼」
「地図……ってことは隅々まで歩き回らなきゃってことっすか」
チカセンの問いに、灼はこくりと頷いた。
うわ、大変そう。そんな依頼、私だったら絶対受けないけどな。
灼も依頼の大変さは痛感しているらしく、軽く溜息を吐いた。
抜け道。先ほど私と爽がここに来るまでに使っていたような、木々に埋もれた隠れ道のことだ。
ぱっと見ただけでは見つけることも難しく、私たちもここで遊び始めたばかりの頃はそんな道が存在することすら気づかなかった。
今では「抜け道探そうぜー!」なんて言う爽の主導で散々調べ回ったおかげで、1階については大体の抜け道を見つけることができているが。
初めて来た人間には見つけるのは難しいだろうし、時間も相当かかってしまうだろう。この1階ですら、一通り回ろうとすると1日2日じゃ足りないくらい広い。
「せめてこのあたりの地理に詳しいガイドがいれば楽なんだけど……」
灼が小さな声でぼやく。
そっか、冒険者もやっぱり大変なんだ。自由気ままというイメージが強かったけれども、そんな一面もあるんだ……ちょっと認識を改めなきゃな。
よし、爽。もう時間も遅いし帰るか。
「はいはいはいっ!」
興奮を抑えきれない様子で、爽が勢いよく手を上げた。
うん。分かってたよ。将来の夢は冒険者だもんな。この機会をスルーするわけないよな。
「私たちがそのガイドをするってどう!?」
「……は?」
ぽかんと灼の口が開く。
呆気にとられた灼に、さらに爽は言葉を続けた。
「ほら、私たちここでめっちゃ遊んでるから抜け道とかそーいうのには詳しいし! たぶんガイドも出来ると思うんだよね」
「……うーん」
いや、うーんじゃなくってさ。
ここは大人として止めておくべきなんじゃない? ほら、「子供にそんな危険なことをさせるわけにはいかない」とかさ。
けれどそんな思いも空しく、
「いいんじゃないかな、灼ちゃん」
と、灼の背後から声。
玄が微笑んで言う。
「ガイドが欲しいって言ってたのは灼ちゃんじゃない。爽ちゃんたちがいれば調査もスムーズに進むんじゃないのかな?」
「確かにそうだけど……でも、子供に危険なことをさせるわけにはいかな……」
「危険な目に遭わないように私たちが護ってあげればいいと思うんだ。まだ低層だし、少なくともこの辺りならこの子たちを護りながらでも大丈夫そうだよ」
「……」
口元に手を当てて、灼が沈思黙考する。
おい。おいおい。まさか。
「……うん。爽ちゃん、良ければガイドお願いしたい……」
「まっかせとけ!」
そう元気よく言って爽が胸を張る。マジか。チクショウ。
となれば当然次は、
「良かったな、揺杏! ガイド頑張ろうな!」
なんて肩を組みながら言ってくるわけで。
「私はやんねーよ、そんな面倒なこと」と答えられればよかったのだけれど、爽にそんなこと言われたら。
「……仕方ねーなー」
こう返すしかない。
私の返答に爽は満足そうににこりと笑い、そしてこれから始まる冒険を想像し始めたのだった。
この頃の私は、冒険者になんて微塵も興味は無くて。将来のことなんてまったく想像できない、ただの子供。
だけれど、そんな私が唯一興味を持っていた相手が爽だったんだ。
だからこそ、爽といつも一緒に遊んで。爽の傍でたくさんの時間を過ごして。
――率直に言えば。私は、この頃には既に爽のことが好きになっていた。
◆ ◆ ◆
それから、私たちとギルド『アチガGirls』の迷宮探索の日々が始まった。
ガイド役として、モンスターの危険性がそこまで無い、三階までの調査を一緒に行う。そんな契約(ほとんど口約束みたいなモンだけど)を取り交わした。
チカセンはというと「お店の手伝いがあるから」と断ってしまった。私も本当なら断りたかったんだけどな、くそう。
迷宮にスムーズに入れるよう、一時的にギルドメンバーとして加えてもらったりもした。
今までは避けていた衛兵たちの横を堂々と通り過ぎるのは気持ち良かったな。あのぽかんと口を開けた衛兵の間抜け面ったら!
『アチガGirls』との探検は驚くほどに順調だった。
穏乃と玄が獣とトカゲ(「だからドラゴンですのだ!」と玄がムキになるのを何度見たことか)を従えながら先頭を歩き、危険の察知。
その後ろを憧や灼、子供組の非戦闘要員が歩き、大きな盾を手にした宥が周囲を警戒しながら殿を務める。
安定した行軍で、モンスターと相対しても危なげない対処を見せていた。例えば、こんな具合に。
「…! 魔物がこっちに向かってるみたい! 数は4、左手の草むらから!」
すかさず警戒態勢をとったアチガGirlsの面々。戦えない子供組は大盾を構える宥の陰に隠れた。
「大丈夫だよ。私がちゃーんと護ってあげるからね」
おっとりとした口調だが、その言葉には芯が通っている。
こうやって宥が安心させてくれるからこそ、私も爽も魔物の襲来に恐怖せずに済んだのだろう。
やがて、がさりがさりと木々の間から草を揺らし、魔物のむれがその姿を現す。
まずはだいたい膝までの高さの体長を持つ紫色の鼠が。森ネズミと呼ばれる魔物が二体、こいつらは私たちが遊び場にしているようなところでも現れるような、いわゆる雑魚だ。
次に、紅色の身体とするどい爪を有した魔物、ひっかきモグラ。こいつも見たことはあるが、明らかにネズミよりも強そうだし、私たちの場合はこいつを見かけたら逃げるようにしている。
そして最後に、
「うわー……これは、また……」
穏乃が気の抜けた声を出す。
草むらをぐしゃり、ぐしゃりと押し潰しながら現れたのは、鎧のようにごつごつした碧青色の甲殻で身体を覆った魔物。
こちらを威嚇するようにじゃきん、じゃきんと口元のハサミを開閉し、今にもこちらに襲い掛かって来そうだ。
爽がそんな他人事のような感想を述べる。まぁ実際戦うのは私たちじゃないから他人事なんだけどさぁ。
そんな私たちが見守る中で、穏乃が身の丈ほどもある槍をくるりと一回転させてから魔物の群れへと飛びかかった。
「うおぉぁーっ!」
森ネズミが牙を剥いて飛びかかってくるのを避けながら、獣のような掛け声とともに槍を突く。
空気を割く音を伴って突かれた槍は寸分違わずひっかきモグラの胸を貫いていた。
ひっかきモグラの身体から力が抜け落ちる。
その一方で、森ネズミはといえば、
「ドラちゃんっ。お願いしますのだ!」
玄が肩に乗せたドラゴンに魔力を送る。
ドラゴンロード・玄に従事する小さな竜王は、玄の肩から飛び降りて森ネズミたちの目の前に降り立った。
ぐるる、とかきゅるる、みたいな鳴き声を喉からしぼり出し、次の瞬間、
「ファイヤーっ!」
玄の合図と同時にドラゴンの口から炎が噴き出した。
森ネズミたちは炎に包まれ、崩れ落ち、やがて元の姿も分からないほどに炭化してしまった。
爽が拳を握り締めて叫ぶ。
確かにすごい。本来ならこんな低階層ではなく、もっと上の階層を探索するような実力者なのだろう。
この実力があったからこそ、私たちのような子供を護りながら迷宮に潜るなんて選択肢を選ぶこともできたんだ。
「さ、残り一体っ!」
槍をひっかきモグラから引き抜き、穏乃は続けてはさみカブトへ飛びかかる。
重力とともに、槍を上から勢いよく振り下ろし、
「うわぁっ!?」
鈍い音がし、渾身の一撃が弾かれた。
一瞬体勢を崩した穏乃だったが、空中で落下しながら立て直して着地。
そんな穏乃に憧が声をかける。
「何やってんのよ、シズ! そんな固そうなやつに物理攻撃が通じるはずないじゃない!」
「あはは……ごめん、憧」
苛立ちを隠せないようだった彼だが、すぐに新たな標的を見つけたようだった。
甲殻の隙間で光る赤い瞳がこちらを向いた。つまり、私と目が合った。
「え……こっち?」
顔から血の気が引く。
あんな大きなはさみで噛まれたらどうなる。腕のように生えた鋭い鎌で刺されたりしたら。
……ムリ! ムリムリムリ、あんなの死ぬって絶対!
そんな私の恐怖を察してか否か、はさみカブトはその巨体からは想像もつかないスピードでこちらへと真っ直ぐに向かってくる。
「わはははっ! やべーっ!」
能天気に爽が笑う。
やべーじゃねーよ、やべーじゃ! 何が笑えるんだよバカ! お前なぁ!
「父さん母さん先立つなんとかを許してくれーっ」なんて私が懺悔する間にも、はさみカブトは猛スピードで向かってくる。まるで弾丸だ。
碧青色の弾丸が、いよいよ私を捉え――
――がちん。
私の身体を衝撃が襲う代わりに、そんな金属音が響いた。
思わず目をつむってしまっていた私の視界に映ったのは、宥の金属鎧だった。
「…ね? 大丈夫って言ったでしょ?」
パラディンの防御は堅いと聞いていたが、これほどとは。
宥はそのまま盾を振るい、はさみカブトを弾き飛ばす。
「灼ちゃん、今だよ!」
出来た時間の間に、灼が術式の準備を終えていた。
アルケミスト秘伝の試薬を調合、さらに魔力を加え、
「電撃の術式…!」
生まれた電撃が、光の速度ではさみカブトへと襲い掛かった。
はさみカブトはその目をぱちぱちとまたたかせながらのたうち回る。堅固な甲殻が電撃を受け、じゅうじゅうと泡立ち始める。
しばらく暴れ回ったはさみカブトだったが、やがて身体の各部から黒煙を上げながら地面に崩れ落ちた。
「……戦闘終了」
他に魔物がいないことを確認し、灼が静かに宣言した。
時折ムチャな行動をする穏乃が憧に叱られることがありはしたけれど、大抵は危なげなく、危機に陥ることもなく探索をすることができた。
爽なんかはそんな熟練の冒険者の彼女たちに興奮しっぱなし。
「揺杏! 今日はすごかったな!」
だの、
「あの時のシズの槍さばきったら! っくーっ、かっけー!」
なんて毎日毎日、ヒーローを見る少年のようなきらきらした目で話していた。
正直、私はそこまで冒険者に憧れたりすることはなかったけれど。
だけど、こうやって爽と二人で話ができること。爽のすぐそばで、この笑顔を見られることは満更でもなくって。
「明日も頑張ろうな、揺杏っ」
「……ん。そうだな」
そう言って爽と二人で歩いた夕焼け空の帰り道は、今でもはっきりと記憶に残っている。
◆ ◆ ◆
迷宮内では、時に他のギルドの冒険者と出会うこともある。
例えば、アチガGirlsと行動を共にするようになって数週間ほどした頃、こんな出来事があった。
「おーい……おーい!」
迷宮探索を一休みし、ひらけた草むらで休息をとっていた私たちに声をかけ、歩み寄ってくる冒険者がいた。
短い赤髪で軽装備の女性と、腰にレイピアを携えた紫色の髪の女性。さらに後方には別の冒険者の姿もあるようだった。
「ワハハ。だから言ったろ、ゆみちん。こっちから冒険者の匂いがするって」
赤髪の方が、もう一方の女性に笑いながら話しかける。
ゆみちんと呼ばれた女性は「驚いたな」と呟き、丁寧な言葉遣いで私たちに尋ねた。
「すまない。私は『ツルガ』の加治木ゆみという者なのだが……。もし余っていればアリアドネの糸を譲ってもらえないだろうか?」
事情を聞くと、仲間の一人が毒を持つモンスターにやられてしまい、街に戻らねばならないのだとか。
見れば、向こうで座り込んだ黒髪の冒険者が金髪の女性に介抱されているのが伺える。
耳を澄ましてみると立ち上がろうとしながら「私なりに精いっぱい……」とか言ってるような気がする。
いや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ。寝てろよ。
呆れたように憧が言う。
「あぁ……持参してはいたんだが。先ほどの毒吹きアゲハとの戦闘の合間に、この蒲原がな……」
と苦い顔で、ゆみは笑顔を保ったままのもう一人、蒲原に視線を向けた。
蒲原は「ワハハ」と前置きし、
「いやー。なんかモンスターとバトってる間にリスが寄ってきてさ」
り、リス?
「かわいいなーって思って眺めてたら、そのリスがすごいスピードで飛びかかってきてなー? 目にもとまらぬスピードで糸を盗んでっちゃったんだ」
「……というわけだ」
顔をしかめて眉間に指を当てるゆみと、能天気に笑う蒲原。対称的な二人。
こんな真反対な二人が同じギルドに? 仲違いしたりしないのだろうかと心配になる。
「あぁ、うちのギルドのメンバーがみんな蒲原みたいなやつだとは思わないでくれ。こいつは特別だ」
そりゃそうだよなぁ。
こんな人ばっかりだったら一時間で全滅できそうだ。
「特別? おいおいゆみちーん、そんなこと言われると照れるぞー。モモが嫉妬しちゃうなー」
「そういう意味じゃないからな」
ぺち、とゆみが軽くツッコミを入れる。
そんな彼女らを見る限り、私の印象とは違って良い関係を築けているようだった。
「とにかく、アリアドネの糸だったわね。こっちにもちょうど余りがあるし、譲ってもいいわよ」
「すまない、助かるよ」
ゆみが礼を言い、憧から糸巻きを受け取る。さらに、
「ただいただくだけでは悪い。よければ代わりにこちらのバックパックから何か持って行ってはくれないか」
その提案を呑んだ憧がギルド『ツルガ』の荷物を検討し始めた。
ほどなくしてその場に二ギルドの面々が集合し、ああでもないこうでもないと相談をし始める。
……このような交渉に子供が出る幕は無い。
そんなわけで手持無沙汰な私と爽は何をするでもなく、柔らかな草の上に座ってぼけーっと様子を眺めていた。
「君らも冒険者なのかー?」
「わっ!?」
「どわわっ!」
そんな私たちの後ろから、唐突に蒲原が話しかけてくる。
突然のことに驚いて、私と爽は文字通りひっくり返ってしまった。
「あー、ごめんごめん。驚かせちゃったなー……ワハハ」
「あ、いえ……あの、蒲原さん……でしたっけ?」
「あぁ。蒲原智美。智美って呼んでくれていいぞー」
快活にそう言い、智美はまた口を大きく開けて笑う。
この人いくらなんでも笑いすぎじゃないか。笑い上戸にも程があるだろう。
「ども、よろしくっす」
「ワハハ、さわやんとゆあゆあかー。よろしくな、二人ともー」
勝手にあだ名つけられた。しかもネーミングセンスの欠片もない。
さわやんは百歩譲ってありだとしても、ゆあゆあって。発音しづらすぎない?
「で、二人も冒険者なのかー? ずいぶん若く見えるけど」
「いや、冒険者っつーか……」
「見習いみたいなもんだよな!」
口を濁す私に代わって爽が答え、私の背中をばしばしと叩く。
いや、お前と違って私は冒険者になりたいとか思ってないからね。やめてねそういうの。
智美はうんうんと頷いて、
「なるほどなー。それじゃ未来の冒険者、私の後輩ってわけだー」
と、一人で感傷に浸っている。
こんな抜けた先輩はあんまり頼りたくないなぁ、なんて思うのは私だけだろうか。
そしてすぐに智美は目を見開いて言った。
「よっし! それじゃかわいい後輩のために、私がいろいろ教えてやろうじゃないか!」
ふんふんと鼻息を荒くし、智美が「さぁ、何か聞きたいことはないかー!?」と詰め寄ってくる。
…正直、ちょっと怖い。
だってあれだぞ。こんな笑顔を貼りつけたままぐいぐい近寄ってくるんだぞ。怖いだろ。私は怖い。
だけれど爽はそうじゃないみたいで、
「はいはいっ。智美先輩、質問!」
なんて乗っかっちゃう。まぁそりゃ、現役の冒険者に質問できるって良い機会だとは思うけどさ。
智美は満足そうに「うむ」と頷いた。
「智美は向こうの話し合いに参加しなくていいわけ?」
痛烈。
お前、それ聞いちゃうか? 絶対そこ地雷だろ? あえて触れないでいたのにさぁ。
智美もあまり触れられたくなかったらしく、笑い声のトーンが少しだけ落ちる。
「ワーハハ……ああいう話、私は苦手でなー」
「あー、分かるかも。いかにも苦手そうな顔してるしな!」
「お。さわやん、言うなー」
「はっはっは。だろー?」
爽が智美を倣って笑いだす。
トーンがどんどん上がっていく爽と、それとは逆にトーンが下がっていく智美。
……さすがの私でも、あんまりよろしくない空気だと感じることくらいできる。
話題を変えなきゃ、と私は智美に新たな質問を振った。
「あ、あのっ。質問なんすけど」
「んー? 言ってみー」
ほら、さっきと比べて笑顔に元気がない……ような気がするし。
「他のギルドのこと、あんまり知らねーんすけど……ここら辺で有名なギルドとかあったりするんすか?」
いいぞ、私。気が利いてるぞ私。これで智美も気を取り直すだろう。
「他のギルドかー。そうだなー……やっぱり有名なのは『シライトダイ』じゃないかー?」
「『シライトダイ』?」
よし、爽も喰いついた。これでひとまず危機は去っただろ。
「数々の迷宮を踏破してきた冒険者のチャンピオン、宮永照がリーダーのギルドだなー。あそこが一番有名だと思うぞー」
「『シライトダイ』かー。ちょー会ってみてー!」
「ま、今は遠征中でナガノの迷宮を攻略中らしいけどなー」
「なーんだ、残念」
爽が肩をがっくりと落とす。
そんな有名人、会おうと思って会えるもんじゃないと思うけどな。
「今この迷宮を探索中のギルドなら……『リンカイ』とかすごいよなー。今は四層を攻略中らしいぞー」
「四層!? すっげー!」
多くの冒険者が二層まで、中堅冒険者でも三層でつまずいてしまうと言われる中、四層まで探索が進んでいるとなればかなりの実力者に違いない。
憧たちでも「依頼の調査が三層までで良かったわ」なんて言っていたし、『リンカイ』はそれ以上の冒険者ギルドなのだろう。
「ただ、まー……なんというか」
「なんというか?」
「うん……ちょっとこわいんだよなー。『リンカイ』の人たちって」
そう言う智美の顔が曇る。
「カタギじゃないって……」
「写真見るかー? 執政院がくれた本なんだけど」
と、智美は肩から掛けていた鞄を開いて中をごそごそと物色し始める。
「お、これかー?」「違うなー」なんてぶつぶつとぼやいた末に、しわくちゃになった小冊子が姿を現した。
どれだけくしゃくしゃにされてたんだ、というツッコミは胸の奥にしまっておく。
「確かこの辺のページに……お、あったあった。この人だなー」
智美が指さしたページには、一人の女性の姿。
藍色の着物を着て、写真を見る私たちを射抜くような眼差しを送る女性。
『ニンキョー』という職で登録されていた彼女は、確かに一般人ではあり得ないようなオーラを放っていた。
「これは……確かに……」
「殺気がすごいな。こえー」
「ワハハ。だろー? 実際あんまり他の冒険者ギルドとも交流してないみたいでなー」
「ふーん。そういうギルドもあるんだな」
爽が腕を組んで呟く。
「そういうこと。ま、私たちみたいに友好的なギルドだけじゃないってことは知っておいた方が良いと思うぞー」
そう言って話を締め、智美はゆっくりと立ち上がった。
向こうでも憧たちとゆみが交渉を終えたらしく、
「それでは、その『小さな花』で良いんだな?」
「うん。他のと違って紫色なんて珍しいしね。ふつうのは赤でしょ?」
「あぁ。ひとつ上、二階で見つけたんだ。色違いが群生している場所があってね」
なんて会話をしている。
智美はそんな彼女らの様子を見ながら、尻を叩いて付いた土を払った。
ワハハ、と笑って智美が去ろうとする。
そんな彼女の背中に、爽が「最後にひとついいっすか?」と呼びかけた。
「どしたーさわやん?」
「冒険者が良い人たちだけじゃないってのはよく分かったけど……だったらさ。智美はちょっと迂闊だったんじゃねー?」
爽の目が鋭く光る。
「アチガGirlsのみんなが良い人ばっかりだったから良かったけどさ。これがもし悪いやつらだったら今頃大変だったんじゃねーの?」
うわ、いやらしっ。そういうこと聞く?
爽はいたずらっぽく笑って「そこんとこどうなの?」と智美の答えを促す。
そんなん聞かれたら何も答えられないだろ……と、思っていたのだけれど。
「あー。なんだ、そんなことかー」
予想に反して、智美は変わらない笑顔で振り返った。
「もしそうだったとしたら……」
――ぞくり。
その瞬間、背筋に寒気が走る。
それは爽も同じだったらしく、私と同様に反射的に後ろを振り向いた。
いつから立っていたのか。
黒衣を身にまとい、両手にナイフを持った女性がそこにいた。
全身から冷や汗が湧き出る。ずっと警戒していたというのか。気配ひとつ感じさせることなく。
「紹介が遅れちゃってごめんなー。ナイトシーカーのモモだ」
「モモっす。驚かせちゃってごめんなさいっす」
ぺこり、と黒衣の女性は頭を下げる。そして顔を上げ――また、その姿をくらませてしまった。
「こういう保険があったからってことだなー」
「……」
唖然とする爽。
自分じゃ分からないけども、たぶん私も同じような間抜け面を晒してたと思う。
智美はそんな私たちに、また「ワハハ」と笑って、
「んじゃ、もう行くから。元気でなー、二人ともー!」
そう言い残して、智美はゆみたちと共にアリアドネの糸で街へと戻って行ったのだった。
◆ ◆ ◆
そんな肝の冷える経験もしながらも、私と爽の冒険者体験はあっという間に過ぎていき。
そしてとうとう、ガイドとしての役割が終わる日がやって来る。
「それじゃ、晴れて三階まで探索を終えたこと……そして爽ちゃんと揺杏ちゃんの卒業を祝ってー……」
「かんぱーい!!」と、桧森亭に冒険者たちの元気の良い声が響く。
続いてグラスがかちん、と小気味良い音を立ててぶつかり合った。
「……っぷはーっ! この一杯のために生きてるって感じーっ!」
「憧、おやじくさ……」
「なにー? そういう灼は子供っぽすぎるのよ! お酒飲めないなんて!」
「口に合わな……苦いし美味しくないし……」
「カマトトぶりやがってー! おら、無理やり飲ませてやるーっ」
「や、やめ…!」
酔っぱらった憧が灼に絡む。
今まで何度もアチガGirlsの打ち上げに付き合ってきたが、その度に起こっていることだ。日常茶飯事。
でもって、それを抑えるのは、
「やめなって、憧。飲めない人に無理やり飲ませちゃだめだろ?」
「だって……うぅぅ、シズー。だって灼がぁぁ……」
いつも穏乃の役目だ。
酔いが回って泣き始める憧を胸に抱いて、穏乃がよしよしと背中を撫でて落ち着ける。
……うん。もう何度見せられたんだろうな、このノロケ。
はいはい御馳走様でしたと内心毒を吐きながら、私はオレンジジュースを流し込む。
うるせーばか。文句はあのバカップルに言え。
ふて腐れながらグラスを傾ける私に、相変わらず暑苦しい鎧を着こんだ宥が歩み寄る。
「今日までお疲れ様、二人とも。大変だったでしょう…?」
「そりゃあも」
「全然大変じゃなかった! むしろめっちゃ楽しかったよ!」
「そりゃあもう」と肯定しようとした私の言葉を遮って爽が答える。
お前はそうかもしれないけど私にとっちゃハードすぎたよ! 勝手に統括するんじゃねーよばか!
だけれど宥は爽の言葉だけを汲んで(チクショウ)、ほっとしたような表情を見せた。
「……良かったぁ。「冒険者がいやになった」なんて言われたらどうしようかと思ってたから……」
「そんなことあるわけないじゃん! 毎日楽しかったし……良いモンだと思うよ、冒険者! な、揺杏っ?」
「……そうだな」
こんな状況でそんな風に訊かれたらYESって答えるしかできないだろーが。
宥がすっげー心配そうに見つめてきてたし。そりゃ正直な感想は言えねーよ。
それくらいの心配りはさすがに私でも出来るからな?
そんな私の建前の言葉が混じっていたけれど、宥は私たちの反応が余程嬉しかったらしく、
「う……うぅっ……」
マジかよ。泣き始めたよこの人。
姉のそんな様子を目ざとく見つけた玄が、慌てて向こうのテーブルから走ってくる。
いじめてねーよ、勝手に一人で泣き始めたんだよ。
腰に手を当てて頬を膨らませる玄に、宥が首を振って言う。
「うぅん……違うの、玄ちゃん……。嬉しくって……ふたりが、冒険者って良いねって言ってくれたのが……」
「お姉ちゃん……」
目に浮かんだ涙を指で拭き、宥が話を続ける。
「……私たちが生まれたナラではね…? 冒険者は「学の無い、野蛮な人がなる職業だ」って思われてるの……」
よく聞く話だ。未だに、冒険者にそのような偏見を持っている地域は多いらしい。
実際は迷宮で生き残るためには力だけでなく、知識や知恵が要求されるため、バカにはこなせる職ではないのだけれど。
「本当は私たちも冒険者じゃなくて家の宿屋を継がなきゃだったんだけれど……」
「憧ちゃんたちに誘われて冒険者になったのです!」
ふんす、と玄が鼻を鳴らす。
「だけど、やっぱりいろんな人から反対されて……「何を考えてるんだ」とか、「バカな真似はよせ」とか……」
「「脳みそ詰まってるのか」とか「ノータリンしかなれない底辺職」とかも言われましたのだ」
「ひっでー話だな……」
爽がいつになく神妙な面持ちで二人の話に聞き入る。
「そんな風に言われながら、結局みんなの言うことを無視してナラを出てきちゃったの……だけど」
一旦言葉を区切り、宥がその目を私と爽に向けた。
「身内じゃない人からそう言ってもらえたのは初めてだったもんね、お姉ちゃんっ」
「うん。…あっ……」
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「どうしよう……なんだか、また嬉しくって……目がうるうるしてきちゃって……」
「……うん。良かったね、お姉ちゃん」
「うぅぅぅ……くろちゃーん……!」
嗚咽を漏らしながら、宥が玄に抱き付いてまた泣き出す。
……この人たち泣いてばっかだな。どれだけ涙もろいんだ。
「いい話だなー……揺杏……」
お前もかい。
ずびびっと鼻をすする爽に、私はポケットティッシュをくれてやった。
散々アルコールを喉に流し込んだ憧は穏乃の膝に頭を乗せて眠っているし、その穏乃もこくりこくりと舟を漕いでいる。
泣きに泣いた宥も今では落ち着き、玄と談笑中。
私と爽は灼のテーブルで、香草を練り込んだソーセージをつまみながら他愛もない雑談をしていた。
――賑やかな、楽しい夜。
ロクでもない、だけどもなんだかんだで満更でもなかった、そんな冒険を締めくくるには相応しい、そんな時間だった。
そんな時間に、彼女に出会ったのだった。
桧森亭の入り口で、鈴がからんと音を鳴らした。
「いらっしゃいませーっ」
音を聞き、チカセンが厨房から姿を現す。
来店したのは二人の冒険者だった。
「ヒュー。ここがサトハが目を付けていた店でスカ」
一人は浅黒い肌の女。
腰に吊り下げた小銃は、彼女がガンナーであることを示している。
そしてもう一人が、
「あぁ。……二人座れるテーブルは空いているか?」
鋭い眼光。藍の着物。懐からのぞく短刀。
先日智美に教えてもらった人物。『リンカイ』を率いるニンキョーの女、辻垣内だった。
辻垣内の眼力に物怖じすることもなく、笑顔のままチカセンは二人を先導する。
すっげーな。さすが飲み屋の娘、こういう相手は慣れっこなのか。
チカセンはそのままテーブルの間を進んで、そのまま私たちの方へ……って、ちょっと待て。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
まさかの隣かよ。こえーんだよこの人たち。
恨めし気な私の視線をやんわりと無視しながら、「御注文が決まりましたらお呼びください」とお決まりのフレーズを口にし、厨房へと去って行った。
「なかなか良い雰囲気でスネ。これならネリーたちも気に入ると思いまスヨ」
「あぁ、それなら良いんだが。ほら、メニューだ」
そう言って冊子状のメニューを渡す辻垣内に、ガンナーの女は「チチッ」と人差し指を突きつけて左右に揺らして言う。
「ノー、ノー。こういうのはメニューを見て選ぶよりも上手い注文の仕方があるものデス」
「…? どういうことだ、ダヴァン」
そして唐突に椅子をぐるりと90度ターンさせ、
「ハイ!」
何の脈絡もなく、私たちの方へ話を振ってきた。
呆然とする私と爽。灼もこれには面食らったようで、どう対応していいか分からずに目をまたたかせている。
ダヴァンはそんな私たちにお構いなしに、灼に話しかけ始めた。
「ハジメマシテ! 私、『リンカイ』のMegan Davinといいマス! あなたたちをココの常連さんと見込んで聞きたいことがあるのでスガ、このお店、メイブツ料理はズバリ何でスカ?
HAHA、私たちココに来るのは初めてでシテ。実はこっちのサトハが……ンッンー。オホン。…『来週で『リンカイ』を結成して一周年か。せっかくだ、結成記念に会合など開いてみるのはどうだろうか』なんて相談してきましテネ。
こんな怖い顔してるのに優しいですヨネ。HAHAHA! あ、今の似てまシタ? サトハのモノマネでスヨ! で、エエット……どこまで話しましたッケ? アァ、料理の話でシタ!」
……と、こんな具合。
おいおい、いくら異国人は陽気っつってもこれは陽気すぎるんじゃねえの。
話しかけられている灼も話についていけていない。時折「あの」とか「えっと」と話に入ろうとしているようだったが、完全にダヴァンの機関銃のような口撃に呑まれている。
ただでさえ物静かな灼だ。こんなトーキングマシンに太刀打ち出来るわけがない。
「おい、ダヴァン。それくらいにしておかないか」
諌められたダヴァンは一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐに口に手を当て、
「オウッ! もしかして私、またやっちゃいましタカ?」
「あぁ。一人で話に夢中になりすぎだ」
「それはそれは……ソーリー、ジャパニーズコケシスタイル=サン。こうやって一人で話し続けてしまウノ、私の悪癖デス……」
しゅんと消沈してしまった。
辻垣内はそんなダヴァンの肩に手をかけ、灼に詫びを入れる。
「うちのが済まないな」
「あ……いい。別に気にしてな……」
「そう言ってもらえると助かるよ。こいつも気の良いやつではあるんだ。……ところで」
「ところで」と区切ったところで、辻垣内の目がぎらりと鋭さを帯びた。
「見たところ冒険者のようだが……そっちの、その二人」
刀の切っ先のような視線が私と爽へと向けられる。
ぞくりと悪寒が背筋を走る。そこにはさっきダヴァンと話していたときのような柔らかさはどこにもない。
「まさか子供連れで迷宮を闊歩しているなどということはないだろうな」
「……」
言外に含まれた、痛烈な非難。
灼も辻垣内が何を言いたいのかは分かっているのだろう。表情が微かに歪む。
「『低階層だけだから大丈夫』? 冒険者とは思えない甘い考えだな」
辻垣内の刺すような視線の矛先が、今度は灼へと向かう。
「はさみカブトの鉄鋏で身体を両断された冒険者や毒吹きアゲハの毒鱗粉で街に帰ることも出来ずに血を吐いて樹海の養分と化したやつらがどれだけいると思っている。……低階層だろうが、人は簡単に死ねるんだ」
その言葉は灼に向けられているようでもあり、子供なのに迷宮を出入りする私たちに向けられているようでもあって。
「そんな子供をいたずらに危険に晒すなど。冒険者失格だよ、お前たちのギルドは」
最後にそう強く言い切られ。
私たちはただ、押し黙ることしか出来なかった。
重苦しい沈黙が二つのテーブルを包む。
「……はぁ」
沈黙を破ったのは、辻垣内の静かな溜息だった。
がたりと席を立ち、てきぱきと身支度を始める。
「チョット、サトハ?」
「興が削がれた。帰る」
「帰るって……エエー。まだ注文もしてませンヨ」
他のテーブルの接客をしていたチカセンが(ええー)みたいな顔をしている。そりゃそうだ、注文もせずに帰るって。
「……ちょっと外の風に当たってくる……」
灼も、その後を追うように外へ。
あれだけ言われたらそりゃな。直接言われたわけじゃねーのに、私だってへこんでるもん。割と。
だけど、私ですらダメージ喰らってるっていうのに爽ときたら、
「なんだよ、アイツ! むっかつくなー!」
なんて減らず口を叩くくらいの余裕はあるらしい。
お前ほんとメンタル強いよなー。いや、ただのバカって可能性もあるか。
「む。なんだ揺杏、その目は」
べっつにー。
「アー……スミマセン。サトハが変な事言ってしマイ……」
私たちに、おずおずとダヴァンが謝ってくる。
いや、謝られるべきは私たちじゃないんだけどな。
そんな私の気持ちを代弁するように爽が言う。
「いーっていーって。そういうのは灼ねーちゃんに言ってあげた方がいいよ。それに、サトハ?の言うことも間違ってないと思うし」
だからこそ余計へこむっていうか……っつーか爽、お前も同じように思ってたんだな。
『迷宮たーのしー!』なんて感想くらいしか頭にないと思ってたぞ。
「……だからなんだよ、その目は」
べっっっつにー。
「……どうやら、思っていたよりはオコサマじゃないようでスネ」
目を丸くしていたダヴァンだったが、すぐににやりと笑って言う。
「ジッサイ、アナタたちみたいなオコサマを抱えて迷宮探索なんて正気の沙汰とは思えまセン。アー……アラタ、ですか? 彼女の前では言いませんでしタガ、そこについては私も同意見デス」
「まーなー。でもそうした方が依頼が捗るからって言うからさ」
「イライ? 何かクエスト絡みだったんでスカ?」
「実はさ、地質調査? みたいなことをしてて……」
と爽が説明しようとするが、まぁ案の定まともに灼たちの仕事は理解していなくって。結局殆ど私が説明することになってしまった。
ひとしきり経緯を聞いたダヴァンは、腕を組んで「ナルホド」と口にして唸った。
「な? 灼たちの考えも分かるだろ?」
「……OK。確かに、一概に彼女たちが間違っていると言い切ることもできないようデス」
「それにさ」
「?」
そこで一旦言葉を区切り、爽が私に目を向ける。
そして、にっと口角を上げ、
「私たち自身、すっげー楽しかったから。それでいいと思うんだよね」
「な、揺杏!」と締めた。
本当は私個人としては楽しくないこととか危なすぎんだよクソッタレとか思ったこともあったけれど、それは空気を読んで黙っておく。
「……それ。ゼヒ、アラタにも言ってあげてくだサイ。きっと喜びまスヨ」
「ほんとか!? よっし、行ってくるわ!」
勢い良く爽は席を立ちあがり、灼を探しに外へと出て行った。
……ったく。ほんとにあいつは……。
意気揚々と駆けていく爽の背中を、私は頬杖をつきながら見送った。
「あの子、とても良いボウケンシャになると思いまスヨ」
「そっすか? あれで結構抜けてるとこもあるんすけどね」
「そうなんでスカ?」
「うん。ちっちゃい時からずっとそんなんっす」
「うん? なんすか」
「惚れてまスネ?」
思わず吹き出す。
なんだ。なんだこの異国人。いきなり何言いだすんだ。
私の反応が嬉しかったのか、ダヴァンは鬼の首を取ったようにはしゃぎだした。
「やっぱりそうでしタカ! イヤ、いいでスネ! 若き日の恋ってヤツハ!」
「そーいうんじゃなくって!」
「どこまで進んでるんでスカ? A? B? まさかCマデ!? ヒューッ!」
だめだ、こいつまったく人の話聞いてねえぞ。
一人で盛り上がって「いつから付き合い始めたんでスカ?」だの「エーッまだ付き合ってナイ!?」だの「ヒニンは大切でスヨ!」だの。やかましいわ。
結局、そこからはずっとこのオモシロ異国人の相手をすることになり。
散々恋のテクニックだのを教わる羽目になったのだった。
――こうして、アチガGirlsとの冒険の日々は幕を下ろす。
最終日がこんなんで良かったのかって感じは割と強い。
◆ ◆ ◆
木々はカラフルに色づいて、山に彩りを与える。
燃えるような赤や太陽みたいな鮮やかな黄色。
こんな自然に囲まれていると、私もその一部になったかのように感じられるから。だから大好き。
まぁ、別に秋じゃなくっても、いつだって山は大好きなんだけどね。
そんなとりとめもないことを考えながら、私は足元のアルマジロっぽい動物――ボールアニマルと呼ばれる魔物だ――を撫でてやっていた。
お腹を撫でられ、ボールアニマルは「きゅー」と気持ちの良さそうな声で鳴く。
「シズー。シーズー!」
私の名前を呼ぶ憧の声に、ぴくりと身体が反応する。
ボールアニマルにもその声が聞こえたらしく、驚いて身体を丸め込んでしまった。
「わわっ。ごめんな、驚かせちゃって」
軽く謝罪の言葉を投げかけて、私は彼(彼女かな?)を解放してあげた。
しばらく丸まったままのボールアニマルだったけれど、すぐに身体をもとに戻して茂みの中へと逃げ去って行った。
それからすぐに、草むらをかき分けて憧が息を上げながら姿を現した。
「どしたの、憧。珍しいじゃん、憧が迷宮にくるなんて」
「アンタくらいよ、好き好んでこんな何にもないヨシノの迷宮に潜ってるのは……って、そうじゃなくって!」
おおっ、ノリツッコミ。
憧、意外とこういうの好きだよね。
「そういうのいいからっ。それより忘れたの!? 今日何があるか!」
「きょう?」
… … …
「……なんだっけ?」
「うぉいっ」
うぅ。だって仕方ないじゃん。忘れちゃったんだもん。
そんな私に、憧はこれ見よがしに溜息を吐いてみせた。むぅ。
「今日はハルエがフクオカに行っちゃう日でしょーが!」
「……あ」
あぁぁぁぁぁっ!!
間の抜けた私の声が、紅葉で色づいた自然の迷宮、ヨシノに木霊した。
◇ ◇ ◇
憧に手を引かれて学校についたときには、もう赤土先生(憧はハルエって呼んでるけど)は出発する寸前のようだった。
みんなに見送られながら、馬車に乗り込もうとする長身の女性が目に映る。
彼女こそ『アチガのレジェンド・赤土晴絵』。
かつては世界各地の迷宮を巡り歩いたという、元凄腕の冒険者だ。
赤土先生はすぐに私に気づき、大きく手を振ってきた。
「シズ! 良かった、アンタに会えずに行っちゃうのは寂しいなって思ってたとこなんだよ!」
「あはは……ごめんなさい」
「聞いてよハルエ! シズったらすっかり忘れてて、ついさっきまで迷宮に行ってたのよ!」
「迷宮に…?」
目を丸くする赤土先生。そして、
「……ぷ。ふっ、は、あははっ!」
すぐに吹き出して笑い始めた。
むー。確かに私が悪いけれども、そんなに笑うことはないんじゃないかな。
私がじとっと視線を送るのに気づいたのか、赤土先生は目に浮かんだ涙を指で拭きながら言う。
「はは……ご、ごめんな。いかにもシズらしいと思って……変わらないなぁ、ほんとにお前は」
ぽん、と赤土先生は私の頭に手を乗せた。
そして集まったみんなを見渡し、
「よし。これで全員そろったかな。……『アチガこども冒険者クラブ』は」
と、静かに言った。
引退していたレジェンドは、今日この日、冒険者として復帰するんだ。
迷宮探索のための知識や、日々生活するための常識。
時にはヨシノの迷宮に足を運んで実地演習をすることもあった。…実地演習といえども、実際はほとんどピクニックみたいなものだったけれど。
「危険なモンスターがいないことが分かってるからこんなことが出来るんだぞー。ほんとは迷宮はもっと危険なもんだからな」
と、口酸っぱくして赤土先生が注意していたのはよく覚えている。
……っと。ちょっと話が脱線しちゃったかな。
とにかく、そんな活動をしていたのが『アチガこども冒険者クラブ』だ。
「赤土先生……本当に行っちゃうのですか?」
目を潤ませながら、そう訊くのは私たちの一つ年上の玄さん。
「玄さん、引き止めちゃ悪いですよ。……あちらに行ってもお元気で。ご活躍をお祈りします」
そんな大人っぽいことを言う、桃色の髪をした女の子が和だ。
「あぁ、ありがとうな。ま、さくさくっとフクオカの迷宮も突破してきてやるさ」
そう言って赤土先生はにっと笑う。
その堂々とした様子に、他のこどもたちがどっと沸いた。
「ハルちゃんかっこいーっ!」とか「かっけぇーっ!」とか、「ハルちゃんがんばれぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!」とか、そんな声援が送られる。
声援がひとしきり止んだところで、赤土先生はその口を開いた。
「あー……なんていうかな……正直に言えば。あの事件があってから私、冒険者がイヤになっちゃっててさ」
照れ臭そうに、ぽりぽりと頭を掻きながら言葉を続ける。
「それで冒険者を引退して、こうやってみんなと『こども冒険者クラブ』にいたわけだけど」
そこで、赤土先生はいったん言葉を区切った。
次に何を言うんだろう。どきどきしながら、私たちは赤土先生の次の言葉を待つ。
だから、
「シズ!」
なんて、急に名前を呼ばれて本当に驚いた。
思わず身体をびくんと震わせながら「ひゃいっ!」と間の抜けた返事をしてしまう。
「は……はいっ」
「そこで偶然ケガした森ネズミを見つけたんだよな。他の冒険者だったら無視するかとどめを刺すかってところでシズ、アンタこう言ったよね」
「……へへ。懐かしいですね」
「『先生っ。この子、手当してあげたいんですけど…』って。……その優しい心。大切にしていきなよ」
私は静かにうなずいた。
それに満足したのか、続いて赤土先生は憧に視線を移す。
「憧」
憧もまっすぐに、赤土先生に視線を返した。
「冷めたようなスタンスだけども、実際のところさ。アンタほどみんなのことを想ってる子はいないと思うんだ」
「まーねー」
「これからもみんなを支えていってやってほしい。……頼むぞ」
「ん、おっけ。オトナな憧さんに任せてよ。これでもメディックの卵だからね」
――さらに、赤土先生は他のみんなにも一言ずつ、言葉を投げかけていく。
「は、はいっ! 分かりましたのだ!」
その声は、だんだんと震えだして。
「和。近いうちに転校するって話は聞いた。…けれど、ここのみんなはずっとお前の…友達だ。それだけは忘れないでくれよ」
「そんなの……もちろんですっ。赤土さんのことだって、忘れませんから……!」
気づけば、赤土先生の目から。大粒の涙がこぼれ始めていて。
言葉をとぎれとぎれにさせながら、私たちに話し続けて。
いつしか、私たちにもそれがうつっちゃって。
最後の子に話しかけるときにはもう、
「桜子……うぅぅぅ…さくらこぉぉぉ……!」
「ハルちゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
なんて、言葉になってないようなコミュニケーションになってしまったりもしていた。
そして、最後に。
私たちみんなに、赤土先生は、
「……楽しかった! みんなと一緒にいられて! ……そして、ありがとう! 私に冒険者の素敵さを思い出させてくれて!!」
そう言って、涙でぐしゅぐしゅになった満面の笑顔を見せてくれた。
◇ ◇ ◇
「行っちゃったね……赤土先生」
ぽつりと玄さんが呟いた。
しゅんとした玄さんを励ますように、憧は軽く玄の肩を叩いて言う。
「なーにしょぼくれてんのよ、玄。めでたいことじゃない、あのアチガのレジェンドが復活したのよ?」
「……そう、だね。うん、おめでたいことですのだ! 今日はお赤飯にしようっ!」
「お赤飯って……」
和が呆れたように玄さんを見る。
お赤飯っていまどきおじーちゃんおばーちゃん世代の人くらいしか炊かないからね。ちょっと古いです、玄さん。
「……あ。そういえば」
ぽん、と手を叩いて和が口を開いた。
「結局最後まで聞けなかったのですけれど……赤土さん、どうして冒険者を引退していたんでしょうか」
その言葉に、私や憧、玄さんの表情が固まる。
あー……そっか。最近転校してきた和は知らないんだ。
「……えっとね。和」
言いづらそうにしながらも、憧が説明を始めた。
「はい。ちょうど今日も穏乃が遊びに行っていたところですね」
「あそこ、今では全然危険じゃなくなったんだけど。昔はすんごい凶暴な魔物が住んでてさ」
「その魔物を退治しに迷宮に挑んだのが、当時ノリにノッていた赤土先生だったのです!」
玄さんが横から口を挟む。
「だけれど……赤土先生はその魔物を倒すことが出来なかったのです」
「息も絶え絶えに、アリアドネの糸で命からがら逃げ帰ってきて……それが当時の大人たちには気に入らなかったらしいの」
「…? 気に入らなかった…?」
こくり、と憧が頷いた。
「うん。みんなハルエにすっごく期待していただけに……その期待が裏切られたって。それで一気に反動が返ってきたらしいのよ」
赤土先生はあまり話したがらなかったけれど、大人たちの手のひら返しはかなりひどかったらしい。
ナラの大人たちの多くが冒険者を嫌っているのも、その事件があったからという面が大きいらしい。
「そんなの……滅茶苦茶じゃないですか! 赤土さんは何も悪くないのに……みんなが勝手に期待して持ち上げただけなのに!」
と、和が語気を荒げる。
そんなの私たちだって同じ気持ちだ。みんなのために戦った赤土さんがあまりに不憫すぎる。
押し黙ってしまった私たちを見て、和は「ごめんなさい」とだけ小さな声で言った。
せめて、ナラのみんなが昔みたいに、冒険者が悪いものじゃないと分かってくれれば。
「……そうだ」
声が漏れる。
それを聞いて、他のみんなが私に目を向けた。
「…? なに、シズ?」
「そうだよ、簡単なことじゃん。……私たちが冒険者になってさ! みんなに冒険者の良さを思い出してもらえばいいんだよ!」
「え……は、はあっ!?」
そうだよ、私たちが冒険者になって活躍すればいいんじゃないか。
昔、赤土さんが世界中で大活躍して、ナラのみんなに希望を与えたみたいに。
「そんな……簡単に言うけど、そんなの……」
憧が言い淀む。だけれど、そんな不安の言葉をかき消すように、玄さんが顔を輝かせて言う。
「それっ! すっごくすてきだよ! 私たちがナラを変えるってことだよね?」
「はい!」
「そっかぁ、その手があったかぁ…! 名案だと思うよ! ね、和ちゃん!」
話を振られた和も、呆れたように肩を竦めるけれども、
「……可能性はどうあれ、良い提案ではないでしょうか。もともと冒険者になるつもりでみんなここに通っていたわけですし……」
「それじゃ、和も!」
「残念ながら、近いうちに転校してしまうので穏乃たちの同じギルドに入ることはできないでしょうけれど。……それでも、冒険者として活躍して、何らかの働きかけはできるとは思いますよ」
そう言って優しく微笑んだ。
そんな私たちの様子を見て、憧も
「……しょーがないなー。ま、ダメもとでもやってみるにこしたことはないか」
と言ってくれた。
「私のお友達の灼ちゃんも誘ってみますのだ! 赤土先生の大ファンだったらしいから!」
先ほどまでのお通夜ムードはどこへやら、俄然色めき出す雰囲気。
なんだか、いろんなことが一気に動き出したような気がして。
これから待ち受けてるだろう色んなことに、胸が高鳴り出す。
……ようっし!
「アチガこども冒険者クラブ、ここに始動だな!」
握り拳を突き上げて、私は高らかに叫んだ。
みなぎってきたっ! 今ならなんでもできるっ!
うおーっ、燃えてきたぁーっ!!
「って、シズ。まさかアンタ、ギルドの名前も『アチガこども麻雀クラブ』にするつもり?」
「そうだけど?」
きょとんとする私に、憧は「アンタねぇ」と苦笑い。
あれ? なんかおかしいこと言ったかな?
「冒険者になれるのは18になってからでしょ。そんな歳になって『こども』なんて名乗りたくないわよ」
あ、そっか。
確かにいい歳して自称・こどもはキツいかも。
「……うーん」
なんかしっくり来ないような。
それは玄さんも同じらしく、なんとも言い難い表情を見せている。
「Girlって女の子って意味ですよね……」って和がぼそっと呟いたような気がするけども、憧には聞こえなかったのかな……。
「いいじゃん、他に案も無いでしょ? はいっ、『アチガGirls』に決定っ!」
「えぇー……」
「あ、あとギルドリーダーは私ね」
「えぇーっ!? なんでだよぉ、憧!」
「さっきハルエに言われたばっかりだからねー。みんなを支えていってやってくれって」
「でもさー!」
やいのやいのと言い合いはしばらく続いて。
結局、ギルドの名前(予定だけど)もギルドリーダーも憧の言う通りに決まった。
「憧に言いくるめられちゃったよ」ってもやもやした気持ちもあったけれど、それよりずっと大きかったのは、期待に胸を躍らせるわくわく感。
からりと晴れた秋空は、冒険者として歩み出そうと決意した、そんな私たちを祝福するようだった。
◆ ◆ ◆
「ん……」
ぱちりと目が覚める。
どうやらさっきまで夢を見ていたみたいだ。
視界には見慣れた天井。ここ、ホッカイドーで私たちが拠点にした安宿の天井だ。
「……んんーっ……」
ゆっくりと、ベッドの中で伸びをした。
窓の外はまだ暗い。二度寝するのもいいかもしれないな、なんてぼんやりした頭で考える。
と、そこで私の隣でもぞもぞと動き出すものが。
「ん……シズ…?」
「あ。ごめん、憧。起こしちゃった?」
同じベッドで寝ていた憧が、目をこすりながら私の方へと顔を向けた。
「あー……うん。起きちゃったかも……」
「まだ太陽も昇ってないし、もう一眠りしても良さそうだよ」
「んー。……あー、そっかー……」
あはは。やっぱり寝ぼけてるかな。
いつもはしっかりしてる憧だけども、寝起きと酔ったときだけはこんな風にだるだるになっちゃうんだよね。
私はくすりと笑いながら、憧に布団をかけ直してやった。
「んー…? なーに、シズ……」
「夢を見たよ」
「ゆめ……?」
「うん。夢」
隣の、憧の鼓動を感じながら続ける。
「赤土さんがフクオカに行っちゃった時の夢。……ギルドを結成した時の夢」
「あー……うん……」
「……憧」
布団の中で、憧の手を優しく、ふんわりと包み込むように握る。
「これからもよろしくな」
「……」
「……憧?」
私への答えは、静かな寝息という形で返ってきた。
憧め、もう寝ちゃったのか。……むう。
もう一度、憧の手を握り直して、憧の体温を確かめて。
その暖かさを感じながら、頼れるけれどどこか抜けてるギルドリーダーさんと同じように、私は再び夢の世界へ落ちていった。
わくわくする冒険の日々から戻ってきた私たち(正確に言えば、わくわくしてたのは爽だけだ。私はそこまではしゃいではいなかった……と思う)を迎えたのは、今まで通りの日常。
爽とチカセンと三人でバカやって遊んで、ときどき『アチガGirls』と顔を合わせて話をしたりする日々。
『アチガGirls』の他にも顔見知りになった冒険者たちと話すようになったのは、ちょっとだけ今までと変わったところかな。
そんな日常を送っていたわけだけど……次の転機は、そんな日々の中で突然、爽の提案という形でひょっこりと顔を出した。
「迷宮行こう!」
「は?」
脊髄反射的なスピードで聞き返した。
何の脈絡もなくそんなこと提案してくるんだもん。そりゃ、ちょっとくらい乱暴な返事をしちゃっても仕方ないと思う。
「ほら、チカが風邪ひいちゃってんだろ?」
「あー。そうだな」
この時期は風邪がやたらと流行っていて、チカセンも大多数の例に漏れることなくド風邪をひいてしまったらしい。
爽? あぁ、こいつはバカだから。バカは風邪ひかないってな。
……私? 私はちげーよ、ちゃんと体調管理をした結果だから。
「それは理解できるけど。チカセンの家は迷宮じゃねーぞ」
お見舞い行くんだったらチカセンの家に行くべきだろ。迷宮行って何しようってんだ。
「ふふん。お見舞いの品を調達しようと思ってな!」
「お見舞いの品?」
「ほら。チカ、『小さな花』集めてただろ? だからそれを採取してこようかなって」
あぁ、なるほど。それで迷宮か。
だけど爽、チカセンが『小さな花』集めてるのは自分のためじゃなくって近所の幼馴染のためらしいぞ。
「ふーん。ま、んなことはどうでもいいだろ。きっと喜んでくれるって」
さいですか。
「ま、いいよ。そういうことならちゃちゃっと『小さな花』集めてこよっか。一階でさくっと集められるだろ」
「……ふっふっふ」
意味ありげに笑う爽。
おいおい、なんだよまだ何かあるのかよ。
「揺杏、なんか勘違いしてるな? 今から探しに行くのはただの『小さな花』じゃない……紫色の『小さな花』だ!」
「……は?」
「忘れちゃったのかー? 前に『ツルガ』の人たちに会ったときに見たじゃん、紫色のやつ」
あぁ、そういえばそんなこともあったな。アチガGirlsと迷宮探索してた時か。
アリアドネの糸と交換したんだったっけか。ゆみの話だと迷宮の二階で取れたとかなんとか。
……ん?
「あぁ!」
「私たち二人で?」
「そう! アチガのみんなは最近忙しそうだしな!」
……いや。いやいや、いや。
前に言われたばかりじゃん。迷宮は低層でも危険がいっぱいだって。
そんなとこに子供だけで乗り込むってだけでよろしくないのに、二階に行くって?
「反対。つーかアホか」
「だーいじょうぶだって、だいじょうぶ。憧や灼たちと一緒に探索したおかげで地図もばっちりだし。採取スポットも階段から近いとこにあるしさ」
「まぁ……それは……」
実際、階段からすこし歩くだけで紫色の『小さな花』が取れるという採取スポットに着くことはできる。
二階で見たモンスターも、アチガGirlsの戦いを見ていたおかげで対処法は知っている。
万が一危機的状況に陥ったとしても、アリアドネの糸で逃げれば済む話だろう。
「……」
「どうする? 揺杏、付いてくるか?」
そう言って爽が顔を覗き込んでくる。
……仕方ないな。
「っし、行くか」
「そう来なくっちゃな! 揺杏ならそう言ってくれると思ったぞ!」
「ばーか。お前一人で行かせたら危なすぎるからだよ」
暴走しがちな爽のブレーキ係。
そのつもりで、私は爽と同行することにした。
二人だけで挑む迷宮。その二階に。
◆ ◆ ◆
慣れ親しんだ一階の奥。木の根が編み込まれて出来た自然の階段を上り、私たちは迷宮の二階へと辿りついた。
柔らかな草を踏み分け、第一歩を踏み出す。
アチガGirlsのみんなと探索し尽したフロアではあるけれど、こうして二人だけで探索をするとなれば緊張感も高まる。
ごくり、と唾を呑み込んだ。
だけれど、それだけ私が緊張しているというのに、爽ときたら
「さー、ちゃちゃっと花集めようっ!」
なんて能天気っぷりをみせる。
はぁ。お前が羨ましくなってくるよ、まったく。
「いいか。寄り道は絶対ナシだかんな。採取が終わったらすぐに帰るから」
「ん、オッケーオッケー」
忠告するも、へらりと笑って返答された。
……大丈夫かなぁ。言い様のない不安を抱きながら、私は意気揚々と歩く爽の後についた。
っつーか爽、さっきから機嫌良すぎでしょ。シズから貰ったお古のジャベリンぶんぶん振り回して。
「……なぁ。まさかとは思うけど」
「うん? どした揺杏」
「その槍を試してみたくってここに来た、なんてことはないよな?」
「……へへへ。内緒っ」
お前なー。
呆れて溜息を吐く私には気も留めず、爽はずんずんと先へと進んでいった。
程なくして私たちは目当ての採取スポットにたどり着くことが出来た。
正方形の広場。そこに広がるのは、緑の草むらに映える鮮やかな紫の花々。
無事にここまでたどり着くことが出来、安堵の息が漏れ出る。
「ふう……なんとか着いたな」
「結局モンスターも出てこなかったしな。つっまんねーの」
「……爽、お前やっぱりそれが目的だったんじゃねーか」
「だって試してみてーじゃん! 新しい武器が手に入ったらさ!」
悪びれもせずそう言い、爽はえいっとジャベリンを軽く突いてみせる。
新しいオモチャもらったガキじゃねーんだからさ。……ま、冒険者らしいとも言えるけど。
「ほら。とにかくとっとと集めて帰るぞ」
「へいへい」
二人で花畑に座り込み、形の良い花を摘み始める。
鼻孔を甘い香りに刺激されながらも順調に花は集まり、持参してきたカゴはすぐに紫の花でいっぱいになった。
「こんだけありゃ充分だろ!」
そう言い、爽は「よっこいしょ」と腰を上げた。
ちょっと多すぎたような気もするが、まぁ多いに越したことはないだろう。
私もゆっくりと立ち上がり、「そろそろ帰るか」と爽に提案しようとして――
――轟音が響いた。
ずうん、とか、どおん、みたいな、何か大きなものが倒れるような音。
私も、爽も、思わず固まってしまった。
モンスター? だけれど、こんな大きな音を発するような……そんなモンスターはこの階層にはいなかったはずだ。
「あっちの方から聞こえてきたな」
と、爽は広場の端、木々が壁を作るように重なり合った場所を指さす。
確か、向こう側にはここと同じような広場があったはずだ。
十中八九、そこで何かがあったんだろう。
「よっし」
「いや。爽、ちょっと。ちょっと待った」
「なんだよ、揺杏」とむっとした顔の爽。
「何しようとしてんだよ」
「何って……向こうの様子を見てこようかなって」
それだけ言い、爽は木々の枝を押しのけて奥へ分け入ろうとする。
お前、爽、お前なぁ。今度という今度は止めさせてもらうからな。
「バカかお前。どう考えたって向こうはやっべーことになってんだろ。んなとこに首突っ込む奴があるか」
「見るだけ見るだけ。大丈夫だって」
「いーや、大丈夫じゃねー。っつーか憧も言ってただろ。冒険者ならむやみやたらに危険に身を突っ込むんじゃないって」
『命あっての物種』。私たちに冒険者としての心構えを教える際、憧はしばしばこの言葉を使った。
「冒険者なんて弱虫で臆病な方がいいくらいなのよ。とにかく慎重であること、これが大切なの。『命あっての物種』ってね」
だけれど、そのために命を失うことだけはあってはならない。こればっかりは取り返しがつくものではないのだ。
爽もそれは正論だと感じているらしく、困ったような顔で頭を掻いた。
「あー……うん。それは分かるんだけどさ……」
「だったら」
「だけどさ」と、爽が私を遮る。
その目は、いつになく真剣で。
「向こうにいるのがモンスターだったとしてさ。暴れ回ってるってことは、誰かが襲われてるってことだろ」
……あぁ。
そっか。そういうやつだったよな、お前は。
「心配しすぎかもしれねーけどさぁ。もしかしたら全滅寸前かもしれない。……そう考えるとさ」
いつもはバカやってばっかりだけど。
いざって時は、そうやって真っ先に誰かのために動ける。そんなやつだったな。
「あ、別に戦おうなんて思ってるわけじゃないぞ。もしそんな風に襲われてる人がいたら、糸で一緒に帰還しようってだけ。……だからさ、揺杏」
ずるいよな。
そんな風に言われたら。そんなマジな顔で言われたらさ。
「……仕方ねーな。ちょっと見てみるだけだからな」
断ることなんて出来るわけねーじゃん。
ずりーよ、ほんとにお前は。
小さな身体を木々の合間にくぐらせながら奥へ進むと、すぐに向こう側の広場が見えてきた。
「しーっ。……あれだ」
草の中に身体を隠した爽が、声を潜めながら広場の一角を指さす。
絨毯のように広がった緑の芝に、一本の巨木が倒れていた。恐らく、さっきの轟音はあれが倒れた音だったのだろう。
そして、無残な姿を晒す木のすぐそばには、雄々しい二本の角を備えた鹿がいた。
『狂える角鹿』と冒険者から呼ばれるそれは、確かにこの階に生息する魔物ではあるけれど、もう少し奥の方を生活圏としていたはずだ。
どうしてこんなところまで? というか、あの鹿があんな大木を倒したのか? そんなに強いモンスターじゃなかったはずだぞ?
だけど、そんなことよりもずっと気になることがあった。
そこにいたのはモンスターだけではなかったのだ。
「あれ……憧!?」
「しっ!」
驚いて声を上げてしまった私を、爽が咎める。
だけれど、運の良いことに狂鹿は私たちの方には気づかなかったようだ。
……まぁ、戦闘中だったってことが大きいのだろうけど。
憧の他にもアチガGirlsの面々が揃っており、狂鹿と戦闘を繰り広げていた。
少し離れたところに腹部から血を流す冒険者たちが倒れ込んでいるところを見るに、どうやら憧たちはその救援に駆けつけたということだろう。
――そして、驚いたことに。
以前この階を探索していたときは難なく倒していたはずなのに。今、目の前の憧たちはその鹿相手に苦戦を強いられているようだった。
私たちは息をひそめながら、馴染みのメンバーたちと狂鹿の戦闘を見守る。
狂鹿の体当たりを受け、宥の盾が弾き飛ばされる。
それでも衝撃を受け流しきることは出来なかったらしく、宥は膝をついてしまった。
追撃しようとした雄鹿を槍の刺突で牽制しながら、穏乃が宥に呼びかける。
「宥さんっ! 大丈夫ですか!?」
「う、うん……。だけど、ちょっと厳しいかな……」
鎧はところどころ砕けてしまっていて、その下に薄い肌着が見えてしまっていた。
弾き飛ばされた盾もへこみやヒビが入っており、狂鹿の攻撃の苛烈さが見受けられる。
よろよろと立ち上がろうとする宥に、玄が肩を貸した。
「あ……ごめんね、玄ちゃん」
「うぅん、気にしないで。……私も、もう戦力外だから」
悲しげな顔の玄。彼女の視線の先には、先ほどまで使役していた小さなドラゴンの姿があった。
散々踏み荒らされた草の上に寝たまま、目を閉じて眠ったように動かないドラゴン。
その命が既に失われてしまっていることは明白だった。
「おかしい……この鹿、こんなにも強くはなかったはず……」
後方で術式の起動準備をしながら、灼が呟いた。
すぐに錬金術により生み出された電撃が狂鹿に向かうが、狂鹿は大きくバックステップしてそれを躱す。着地点の草が真っ黒に焦げた。
炭化した草をぐしゃりと踏みしめた穏乃が、振り向きもせずに槍を振り回しながらそれに答える。
「それなんですけどっ! この鹿、怒ってるみたい!」
「はい! 子供をっ、殺されたみたいでっ! それで怒ってるみたいなんです!」
穏乃の言葉に、負傷した冒険者集団がびくりと身体を震わせる。
彼女らの手当をしていた憧がそれに気づき、リーダー格の女を問い詰めた。
「ちょっと! アンタたち一体何をしたの!?」
「な、何って……仔鹿の皮の納品依頼を受けて……」
「それで殺したってわけ!? 親鹿がブチ切れることくらい読めなかったの!?」
「分かってたさ! だけど私たちは王者『バンセイ』だぞ!? こんな低階層の鹿相手に負けるはずが……っぐ…!」
いきり立つ冒険者だったが、言葉の途中で傷口が開いたらしく、腹部を手で押さえながら苦悶に顔を歪めた。
呆れたように息を吐くと、憧は穏乃に呼びかけた。
「シズ! もういいわ、これ以上戦うと私たちまで危ない!」
「分かったっ!」
短く返事をし、穏乃は槍を収めて身を翻した。
負傷者たちを中心に集まり、憧はアリアドネの糸を掲げる。
怒り狂う鹿は集団に向かって全体重が乗った体当たりを仕掛けたが、それより早く冒険者たちは迷宮から姿を消してしまった。
ほっと一息。
アチガGirlsの劣勢には肝を冷やしたが、彼女たちが無事に戻ることが出来たのは良かった。
さて、これで心配することも無くなったし。あとはさっさと私たちも逃げ帰るだけだ。
「ほら、爽。さっさと帰ろうぜ」
私の呼びかけに、爽がこちらに顔を向けた。……何故か、ひきつった笑顔で。
「揺杏」
「なんだよ、その顔。いいから帰るぞ」
「悪いニュースと、もっと悪いニュースがあるんだけどさ。……どっちから聞きたい?」
はぁ? 何言ってんだこいつ、こんな時に。
「いや、そういうのいいから。早く」
そう言って急かすが、爽は糸を使おうともせず、ただ私の顔を見つめる。
…なんだよ。どうしても言いたいってか。
「んじゃ、悪いニュースから」
「オーケー。悪いニュースってのはだな……」
と、おもむろに爽が人差し指を上に向けた。
上? 上に何があるって……
「……リス?」
そして、その口に咥えているのは見慣れた糸巻き。アリアドネの糸だ。
さっと私の顔から血の気が引く。
「爽。お前、まさか……」
「憧たちの様子を見てる間にやられたみたいだ」
お前。それはマズいぞ、さすがに。
糸を取り返さねばと慌ててもう一度リスに視線を向けるが、リスはこちらの意図に気づいたらしく、素早く枝から枝へと飛び移って森の奥へと消え去って行った。
……つまり。
これで糸を使って安全に帰還することは出来なくなったってわけか。
「……よし、落ち着いていこう。だったらアイツに気づかれないようにこの場を離れればいいだけだ。大丈夫、一階まで戻れば……」
冒険者の真価が問われるのは危機に陥った時だと憧が言っていた。
危機的状況で、どれだけ冷静さを保てるか。それが迷宮での生き死にの分かれ目になると。
ゆっくりと、大きく深呼吸をする。しかし、
「揺杏。そこでもっと悪いニュースなんだけどさ」
爽がさらに続ける。
なんだよ、まだ何かあるってのかよ。
「さっきからアイツ、こっち見てるぞ」
「……は?」
ゆっくりと、爽と二人で顔を90度横に向けた。
広場には、溢れんばかりの怒りを滾らせた鹿。
「うん」
「気のせい……じゃ、ねーよな」
「気のせいではないだろーな」
「思いっきりこっちに顔向けてるしな」
「目も合ってるしな」
狂鹿が苛立った様子で顔を振る。
後ろ脚でがっ、がっとエンジンを吹かすみたいに草と土を蹴り上げる。
「揺杏」
「おう」
「覚悟、決めるしかないみてーだな」
「だな」
こくりと、二人で頷く。
「逃げろーーーーーッッッ!!」
私たちがすばやく立ち上がって全力でダッシュし始めたのと、狂鹿が勢いよく突っ込んできたのは、ほとんど同時だった。
◆ ◆ ◆
「……迷った」
とぼとぼと、独りで大自然の迷宮を歩きながら誰に言うでもなく呟いた。
独りで歩く迷宮がこんなにも心寂しいものだとは。爽の存在の大きさを改めて思い知る。
結局、あれからどうしたかといえば。
走っても走っても木々をなぎ倒しながら後を追いかけてくる鹿に対応するため、爽が「揺杏! 二手に分かれるぞ!」と提案してきて。
それを受け、T字路で左右に分かれて逃げて……それで、私の方が助かった、ということになる。
「爽、どうしてっかな……」
こっちに来なかったということは、あの鹿は爽の方へ行ったということなんだろう。
……無事だろうか。まぁ、あいつのことだし簡単にくたばるとは思えないが。
「結局、花もこんなんになっちゃったしなぁ」
鹿から逃げる際に、あれだけたくさん摘んだ花のカゴも落としてきてしまった。
その結果、残ったのはこれだけ――思わず手に掴んでしまった、数本の花だけだ。それも、強く握りしめすぎたせいでくしゃくしゃになっている。
そう吐き捨てて、足元に転がっていた小石を蹴り上げた。
小石は放物線を描き、脇の茂みへと突っ込んでいった。
がさがさ、がさっ。
「ひっ!?」
小石が突っ込んだ茂みが音を立てて揺れ出し、思わず情けない声が漏れる。
……いや、確かに情けないんだけども。でも仕方ないだろ。こちとら独りだぞ、独りっきり。
せめて明るく振る舞おうと思ってたけども、内心恐怖とかもろもろでいっぱいだよ。
「な……なんだよ、チクショウ。出て来いよっ」
震えだす足を押さえながら、茂みの中の何者かに声をかける。
爽か? あの鹿? それとも別のモンスター?
心臓が激しく拍動するのを感じながら、私は茂みを注視した。
そして、
「……は」
「ちゅう」という鳴き声とともに現れたのは森ネズミだった。
どうやらさっきの小石が運悪く当たったらしく、気が立っている様子だ。
森ネズミはこちらを敵と認識したのか、牙を剥いて襲い掛かってくる。
だけど、
「こっちだって爽とはぐれちまうわバケモンみてーな魔物に襲われるわ迷っちまうわでイライラしてんだよ!」
啖呵を切り、飛びかかってきた森ネズミを手にした魔導書で叩き落とした。
森ネズミは「ぢっ」と濁った鳴き声を発して、慌てて逃げて行った。
どうだ、チクショウ。アルケミストだって戦えるんだぞ。
「はーっ。……はぁ」
緊張が一気に抜けて、自然と崩れ落ちてしまう。
へたり。土の上で尻もちをついた。
「……もぉぉぉ」
そよ風が周囲の木々を揺らす。
普段なら心地よく感じるはずのそれも、今はただ気味が悪いだけで。
葉がこすれてざわざわと音を立てるのも私の恐怖を煽っていた。
「さわやぁ……」
顔を手で覆う。
こうでもしないと、目から溢れ出しそうな熱いものを抑えきれそうになかったから。
「どこ行ったんだよ、くそ……」
――結局のところ。
どんなに強い人間みたいに振る舞おうと、人はそう簡単に変わることは出来なくって。
私は未だに、あの頃の岩館揺杏から変われてないんだ。
◇ ◇ ◇
今でこそ爽と過ごすようになってそれなりの振る舞いをするようになったけれど。
彼女と出会う前の私ときたら、
「やぁい、弱虫ゆあんー」
「かえしてよ……おにんぎょうさん、かえしてよぅ…!」
「やだよばーか! へい、パース!」
「へいへいへーい!」
「うぅぅ……うぁぁ……」
「おっ、泣くぞ泣くぞ。弱虫ゆあんが泣くぞー!」
「うぐっ、ぐず……う、うわぁぁぁぁぁぁん!!」
「っしゃーっ! 泣いた泣いたーっ!」
「うああああぁぁん!! うわぁぁぁぁぁぁん!!」
そんな典型的ないじめられっこで。
こうやってよく近所の男の子に絡まれたりしていた、そんな弱虫な女の子だった。
弱気すぎて友達もろくに出来ず、唯一の話し相手と言えば親にプレゼントでもらったお人形だけ。
(私、きっとこれからも一生ずっとこうやっていじめられるんだ)
内心でそう独り言ちるのが習慣になっていた。
人の性格なんて一生変わらないものだ。
だからきっと、私も一生こんな情けない負け犬人生を送ることになるんだろうと。
だけれど、まぁ割とそういう時に訪れたりするもんなんだよな。
人生の転機ってやつはさ。
「おまえらーっ! なにやってんだーっ!!」
赤い髪が陽の光を浴びてきらきらと光る。
私よりもずっと小柄な女の子だったけれども、その背中はとっても大きくて頼れるような感じがして。
「げぇ、さわや!」
「よぉー。男のくせにこんな女の子ひとりいじめてんのかよ」
「う、うるせー! おとこおんな!」
「おとこおんなだー!? ジョートーだ、こっからは私がこの子のかわりに相手してやるよ!」
そこで赤髪の女の子、幼い爽は指をぱきぱきと鳴らしながらにぃと笑った。
「おまえらみてーな男がくさったようなやつにはタマとかいらねーだろ?」
「ひっ…!」
「ぜんぶつぶしてやるよ。おら、かかってこいや!」
「ひ……ひぃーっ!!」
爽の脅しにすっかり怯えきったいじめっ子たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
そんな彼らを鼻で笑うと、爽は私の方を向いた。
「だいじょうぶか? たてる?」
「あ……う、うん。だいじょうぶ……」
私がゆっくりと立ち上がると、爽はうんうんと頷いてから訊いた。
「おまえ、名前は?」
「なまえ…? あ、ゆ……ゆあん」
「あゆゆあん?」
「ゆ、ゆあんっ。ゆあんですっ」
「よし、ゆあんだな! 私はさわやだ!」
そんな自己紹介を済ませると、爽はいじめっ子が落としていった人形を私に手渡す。
慌てて私はその人形を受け取ると、ぎゅっと抱きしめた。
「う、うん……私の、たった一人のともだちだから……」
そう。この子以外に、私と話してくれる人なんていない。
私の友達はこの子だけなんだ。
「……たった一人のともだち?」
きょとんとする爽。
そりゃそうだ。人形が友達なんて、おかしなことを言うやつだとでも思っているのだろう。
そういうことだと思い、私は顔を曇らせた。
「あのなー。ゆあん」
だけれど。
爽は、そんなことを考えていたのではなくって。
「ともだちが一人だけって……だったら私はどうなるんだよ」
「……え?」
「さっきおたがいに自己紹介もしたじゃん。私だってともだちだろ?」
「あ、え……と……」
戸惑う私に、爽は
「な!」
太陽のように眩しい笑顔を向けてくれたのだった。
はじめて、生身の人間の友達が出来た日だった。
「いーんだよ! おもしれーんだから!」
「でも……あ、店長さん出てきたよ。……こっち見てるよ…?」
「よし、揺杏。……逃げるぞ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
「揺杏はさー。もっとはっきりしゃべった方が良いと思うんだよな」
「え……そ、そうかな……」
「ほら、そのしゃべり方! いかにも弱そうだもん!」
「えぇ…?」
「ちょっと私の真似してみろ! いいか? ……ファック!」
「ふぁ、ふぁっく…?」
「もっと力強く! ファック!」
「ふぁっく!」
「クソ野郎!」
「くそやろー!」
「いいぞ、その調子だ! 挨拶みてーに使える便利な言葉だからな、これは!
「はじめまして、揺杏ちゃん。よろしくね」
「あ……えと……」
「?」
「ふぁ……ファック、クソ野郎! 私が揺杏だ、しっかり覚えとけビチグソゲロ野郎!」
「……」
「……」
「爽? こんな無垢な子に一体何を教え込んだのかしら?」
「ごめん! ごめんってチカ! 笑顔で頸動脈ピンポイントに絞めるのやめて!」
「うん?」
「あん時さー。なんで助けてくれたの?」
「あん時?」
「ほら、私がいじめられてた時」
「あぁ。だってさ」
「だって?」
「いじめられて泣いてるようなヤツを見て見ぬフリするなんてクッソカッコわりーだろ」
「……は。そうだな、確かにそりゃカッコわりーわ」
――あれから。
私はずっと、太陽みたいなヒーローの姿を追いかけている。
あわよくば、私も爽と同じようなカッコいい人間になれればと思って。
弱虫ゆあんから変わりたくって。
◇ ◇ ◇
「……ふぅーっ」
ゆっくりと、深呼吸。
数分の休憩だったけれど、おかげでだいぶ落ち着いた気がする。
「っし。さっさと行くか」
いつまでもへこたれてるわけにもいかない。
ここは世界樹の迷宮、危険な迷宮なんだ。
今は一刻も爽と合流して迷宮から脱出しなければ。
あるいは私ひとりで迷宮から脱出して、誰かに助けを求めて爽を救出してもらうのもアリかもしれない。
「とにかく、まずは出口だな」
ならば同じように出口へ向かえば合流できる可能性も高いだろうし、合流できなかったとしてもそこで大人の助けを得られるだろう。
ぱん、と両手で頬を叩く。気合を入れろ、私。
「……よし」
改めて、歩き始める。一人ぼっちの迷宮を。
負けないぞ。頑張れ揺杏。がんば……
「……あ」
曲がり角を曲がった私の目の前に、それはあった。
木の根で編まれた階段。
……うん。二階に来るときに上ってきた階段だな。
ここを降りれば安全な一階。実質、これが出口みたいなもんだな。
……ふぅ。
「あれだけ気合入れてたのがバカみてーじゃん……」
なんていうか、こう……拍子抜けだよなぁ。
いや、見つかったのは文句ないんだけどさ。これであとは大人呼んで来ればいいだけだしな。
ま、とにかく。
「助かった…!」
つい先ほどまでの緊張感はどこへやら。
嬉しさが溢れ出さんばかりの軽やかさで、階段へと向かう。
そんな私の耳に。
「……ぁぁぁーっ!」
あまりにも聞き慣れた、あの少女の声が聞こえた。
階段へと向かっていた、その足が止まる。
「……」
隣だ。
すぐそこで繁った木々の壁の向こう側。
そっちから聞こえた。
「……まさか」
一部分だけ木々が薄くなっていたところ、抜け道から恐る恐る壁の向こう側の様子を覗き見る。
そこにいたのは、
「くそ、ったれ……」
先ほどまで走りっぱなしだったのだろう。
ぜぇぜぇと肩を上下させながら喘ぐ爽だった。
彼女の脚をそんな惨状にしてしまったのは、
「……おいおいおいおい」
爽のすぐそばに佇む、子を殺された怒れる親。
二本の角を威嚇するように振るう狂鹿に違いなかった。
――さて、ここで問題だ。
私は一体どうするべきなのか。
(……選択肢A。何も見なかったことにして、さっさと階段を下りる)
少なくとも、私は助かる。
急いで迷宮から脱出して大人たちを呼べば爽もなんとか助かるかもしれない。
それに、あの爽だぜ? そう簡単にくたばるようなタマかよ。きっと持ち堪えてくれるはずだ。
(選択肢B。あの場に乱入して爽を救出。ケガした爽を背負って二人で階段までダッシュする)
ちょっと口にしてみただけで無謀さが漂う。
当然そんなことをすればあの狂鹿に見つかってしまうわけで、そうなれば私も攻撃されるのは間違いない。
その攻撃をかいくぐって爽を救出? さらに背負って階段まで退避? しかも私は非力なアルケミストだぞ?
正直、選択肢と呼ぶことすらためらわれるほどの無謀な一手だ。
(実質一択じゃねーか。……げっろ)
それに思い出せ、憧だって言っていたはずだ。『命あっての物種』だ。
とにかく生き延びることを第一に考えること。それが冒険者の考え方だ。
ゆっくり、ゆっくりと、音を立てないように後退し始める。階段へと向かって。
(……人は、そう簡単には変われないんだよ)
『マジでスカ!? ユアン、まだ告白すらしてないんでスカ!?』
『そーっすよ、わりーかよ。ちっくしょ』
『ノーノー、悪いなんて言ってませンヨ!』
『……勇気がさ。出ないんすよね。私弱虫だから』
『……フフ』
『なんすか。何がおかしいんすか』
『イエ。……ユアン。ひとつ、良いことを教えてあげマス』
『良いこと?』
『Yes. 恋のアドバイスってやつデス』
『恋のアドバイス、って……くっさ、何それ』
『オゥ! ひどいデス!』
『…で? 一体なんなんすか、そのアドバイスって』
『OK. 耳をカッポジッテよーく聞いてくださイネ!』
『――人は変われるものなんでスヨ。恋をすれば特に、ネ?』
「クソ鹿ーッ!! テメー爽に何してんだコラァァァーッ!!!!」
気づけば。
爽を庇うようにして、私は狂鹿と対峙していた。
爽が困惑したように言う。
なんで? なんでだって?
「なんでもクソもあるか! 友達を見捨てて行くなんて……クッソカッコ悪いんだよ!!」
ダムが決壊したように、濁流のように言葉が溢れ出す。
「『命あっての物種』だ? 生き延びることを第一に? 上等だ! だったら私は『爽と二人で生き延びる』こと第一だ!」
ただ、胸に溜まった想いを吐き出し続ける。
「確かに私は弱虫だよ! どれだけ表面を取り繕っても、内面はいつまで経っても弱虫ゆあんのままだ!」
膝が笑っている。小さな決意を揺るがすように。……すっこんでろ! 臆病風はお呼びじゃねえ!
「だけどなぁ……だけどなぁ! ファッキンクソ鹿!!」
誰に向けてでもなく。自分を鼓舞するように。
「――『人は変われる』モンなんだよッッ!! でもって! 今こそ! ……変わるべきときなんだッッ!!」
言い切って、私は魔導書を開いた。
『氷の術式』であのクソ鹿の脚を狙え。凍らせて足止めしている間に爽を連れて逃げろ。
そうすればほら、ミッションコンプリートだ。なんだ、簡単じゃねーか。
ほら、もう術式が起動するぞ。喰らえクソ鹿。クソッタ
浮遊感。ふわりと身体が浮く。時間がゆっくりと流れる。
ゆっくり、ゆっくりと。永遠に続くかのような浮遊感だったけれど、やがて重力が私の身体を引っ張り始める。
加速。加速。加速。
激しく加速した末に、全身を襲う衝撃。
遅れて、お腹のあたりに鋭い痛みがやってくる。
そんな状況だってのに思考はいやに冷静で、「あぁ、体当たり喰らっちまったんだな」と分析していた。
爽が取り乱したように私の名前を呼んでいる。
うるせーなぁ。聞こえてるよ。
あぁ、それにしたって空が青い。
「は……は、ははっ」
何故だか笑いがこみ上げてくる。何がおかしいんだ、ちっくしょ。
……いや、おかしいか。結局犬死にだしな、こんなの。
のこのこ姿を現して、何もできずにくたばって。
おかしすぎて腹痛いわ。ははは。
のしり、のしりとクソ鹿が私の方へと歩み寄ってくる音が聞こえる。
大方、トドメを刺しにでも来たんだろう。
爽は爽で「揺杏っ逃げろっ! 来てる! 鹿が!」とかわーわー騒いでるし。んなこと言ってる暇があるならお前が逃げろよな。ばーか。
「……あー」
ま、なんだ。
ぐぐ、と腕に力を込めて、無理やり上半身を起こす。
腹のあたりからあったかいもんが流れ出してるような気がするけども、まぁ気のせいではないだろうな。
その言葉に、爽が「え……?」と間抜けた声を漏らす。
「いいか、爽。私が出てきた抜け道……その先に階段があったから。……早く、逃げろ」
「お前……バカ、何言ってんだよ…?」
「このクソ鹿も階段下りてまで追いかけては来ねーだろ。……ほら。早く行けって」
爽が返事をするのを遮るように、クソ鹿が「きぃぃぃ」みたいな甲高い鳴き声を放つ。
激しく威嚇してくるクソ鹿に、私はガンを飛ばしてやった。
そして大きく息を吸い込み、叫ぶように言った。
「おら、かかってきやがれ! せめて爽が逃げ切るまでの時間は稼いでやる! こいやコラァーーッ!!」
その啖呵を切っ掛けにするように、クソ鹿が駆け出した。私に向かってまっすぐに。
あぁ。
なんだろな。こんなクソみてーな結果になっちまったけど。
……不思議と、後悔は無いな。うん。
落ち着いた気持ちで、私は蹄の鳴らす音に耳を澄ませた。
「――その意気や良し」
狂鹿の進行ルートを妨げるように現れた人物に、思考がフリーズする。
そして、
「ユアン。よく頑張りましタネ」
と言って私の身体を抱き寄せる、黒い肌の女。
……助けが来たんだ。
その事実に、張りつめていた神経が一気に弛緩する。ゆっくりと意識が遠のき始める。
吟遊詩人らしき金髪の女性が澄んだ歌声を発し。
チャイナドレスを身に着けたモンクが敵の腹部に右の拳を叩き込む。
ブラックアウトしつつある私の視界には、そんな戦闘の様子がぼんやりと映る。
最後に目に入ったのは、辻垣内が振るう短刀による斬撃で全身から血を流し、その巨体を地につけた狂鹿の姿だった。
◆ ◆ ◆
「……! 揺杏! 揺杏! 起きたのね!?」
目覚めて早々、チカセンの大きな声。
うるせぇ、耳に響く。頭ががんがんするからやめてくれます?
「あ……ごめんね」
別にいーっすけど。
それよりここ、どこっすか。
「病院だよ。真屋医院……って分かるかな」
あー。あの街はずれの。
「そうそう。二人は迷宮から助け出されて、そのままここに運び込まれたってわけ」
なるほどね。うん。二人……。
「二人っ!」
靄がかった頭を無理やり叩き起こして、ベッドから飛び起きた。
飛び起きた瞬間に、全身に激しい痛みが走った。
なんだこれ、ちょー痛ぇ。
「わわっ! だめだよ、重症患者さんなんだから!」
「っつつ……って! そうじゃなくって! 爽は! 爽はどーなったんすか!?」
そう。二人運び込まれたというのなら、爽もいるはずなのだ。
アイツは無事だったのだろうか。
そんな私に答えたのは、
「そんな大声出すなって。無事だよ、無事」
「…!」
隣のベッドで寝ていた爽本人だった。
全身が包帯でぐるぐる巻きにされているが、その余裕面を見る限り大事は無かったようだった。
爽はにやりと笑って言う。
「んだよ、ハトが豆鉄砲喰らったような顔して。そんなに私が生きてるのが不思議か?」
「……は。ばーか、お前みてーなやつがくたばるわけねーだろ」
「うわ、なんだその言い方。少しは喜んでくれてもいいんじゃねーの?」
「喜ぶだぁ? お前が生きてたからって? 当たり前のことすぎて喜ぼうとしても喜べねーっつの」
「……それもそうだな!」
そう言って、爽と二人で笑った。チカセンも笑った。三人分の笑い声が病室に響き渡った。
私のシーツに、ぽたり、ぽたりと水滴が零れ落ちる。
なんだよ、もう。この病室、雨漏りでもしてんじゃねーのか。
シーツどころか顔まで、目まで濡れ始めてきたぞ。ちっくしょ。
本当に。本当に良かった。生きててくれて。
ギルド『リンカイ』が病室にやって来たのは、チカセンが帰ってからしばらくした後だった。
辻垣内と、例のあのオモシロ外人(「誰がオモシロ外人でスカ!」とか言われそうだ)の二人組。
見舞客用の椅子に、二人は腰を下ろした。
「あ……辻垣内さん、でしたっけ」
私が恐る恐る聞くと、辻垣内は静かに頷いた。
「どうやら二人とも大丈夫そうだな。安心した」
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
礼を言うが、辻垣内はそれには応えずに、私と爽の顔をじっと見つめた。
無言で顔をたっぷりと凝視され、爽が耐え切れなくなったように言う。
「なんだよ、もうっ」
「いやになったか?」
「……は?」
突拍子も無い質問。
え、なに。いやになったかって。何が?
あぁ、そういうことね。
その問いに、爽が間髪入れずに答えた。
「全然っ」
ま、お前はそうだろうな。
「ふむ……そっちの、お前。お前はどうなんだ」
辻垣内は、次に私に視線を移す。
今度ばかりは爽も私の答えを代返しない。
正真正銘、私の本当の気持ちを伝えられそうだ。
頭の中で言葉を吟味してから、私は辻垣内に言った。
「正直、今までは冒険者とかほんとにやってらんねーって感じでした。……でも、今は」
私の言葉を、辻垣内はただ黙って、真剣な面持ちで聞き続ける。
病室の窓から、ふわりと風が吹き込んだ。
心地の良い、柔らかな風が髪を持ち上げるのを感じる。
「今は、冒険者も悪くないかなって思っちゃってます。こんななのに、なーんか……不思議と、晴れやかな気持ちなんすよね」
混じり気のない、純粋な私の今の気持ちだ。
その答えを聞き、辻垣内は少しだけ微笑んだ。
「なかなか消えない炎だ」
「気に入った。いずれお前たちも冒険者になるのだろうが……その時は私に言うといい。何か助けになれることもあるだろう」
「今回のような無茶はもうしないことだな」とだけ付け足すと、辻垣内は着物を翻して病室を去って行った。
後に残されたのはダヴァン。なんだお前、前にも置いてかれてたよな。そういうポジションなのか。
「サトハ、本当にあなた達のことを気に入ったみたいでスヨ。『オトコギ』があるとかなんトカ……二人とも女の子なのにおかしいでスネ! HAHAHA!」
どうやらダヴァンはまだ帰るつもりはないらしい。
ならばちょうど良いと、私は彼女に訊いてみた。
「あの、ダヴァンさん」
「ハーイ? なんでスカ?」
「どうして助けに来てくれたんすか?」
「『ギを見てせざるはユウなきナリ』!ってヤツでスヨ!」
「いや、そういう意味じゃなくって。なんで私たちが危ないってのが分かったのかなって」
「Oh. そのことでスカ」
「偶然立ち寄ったとか?」と爽が訊くが、ダヴァンは首を横に振る。
「実はでスネ。以前同席した……『アチガGirls』でスカ? 彼女たちに会いましテネ」
「憧たちに?」
「Yes」と頷くダヴァン。
「迷宮内で助けたラシイ怪我人を抱えてパーティも半壊、そんな状態で迷宮に入ろうとしていたのデス。それもかなり慌てた様子でシタ」
『でもっ…! 爽と揺杏がっ!』
『帰還の間際に二人を見たような気がする、なんて……あり得ないわよ、そんなこと。見間違いだってば』
『見間違いならそれでもいい! でも……でも、もし二人が本当にあの場にいたら……!』
『……確かに、確認しに行くのは必要かもしれない。でもどうするの? 『バンセイ』の人たちを治癒院に運び込むのが先決でしょ?』
『でも……』
『戦力的にも無理よ。シズに玄、宥姉はもう戦えそうにもないわ。それに灼も魔力切れでもう術式は撃てないんでしょ』
『それは……』
『私なんて論外。メディック一人で戦うなんて無茶にも程があるわ。しかも相手はあのバケモノ鹿よ?』
『……それでも行く』
『あー、もーっ! だから待ちなさいってば!』
『離して!』
『ンー?』
『どうした、ダヴァン』
『あ、イエ。向こうに顔なじみがいるナァ、と思いまシテ』
『顔なじみ?』
『じゃあ憧は二人が……爽と揺杏がどうなってもいいって言うの!?』
『……いいわけないじゃない』
『だったら!』
『でも。不確実な情報に踊らされて、ギルドメンバーを危険に晒すなんて……そんなこと、『アチガGirls』のリーダーとして出来ないの』
『……憧』
『分かって、灼。確かに二人も大切だけど……私にとっては、灼たちも大切なの』
『……くっ…!』
『アー、ちょっと良いでスカー?』
『…! 『リンカイ』の……』
『先ほどの話、聞かせてもらったが……あの子供たちが中にいる、と?』
『……はい。『かもしれない』ってレベルの話ですけど』
『そうか。……ダヴァン』
『分かってマス。すぐにネリーたちを呼んできマス!』
ダヴァンの話を聞く限り、アチガGirlsのおかげで助かったって面も大きいようだ。
特に灼。物静かでちょっと冷たい印象もあったけれども、そんな熱い性格だったんだな。ちょっと驚きだ。
「お礼。アチガのみんなにも言わないとだな、揺杏」
そう言って爽がにっと笑った。
なんだか大人たちに助けられてばっかりだな、私たち。
「コドモはそういうもんでスヨ。今のうちにどんどん大人にメーワクをかけるべきデス」
「おっ、マジで? それじゃこれからもどんどん迷惑かけちゃおっかなーっ!」
「ヘイ、サワヤ! なんでもしていいってわけじゃないんですかラネ!」
HAHAHA!と大きな声で笑うダヴァン。
気持ちの良い、からっとした笑い声だったが、たっぷり三分は笑った末に、
「うるさい、そこ!!」
と、病室に走り込んできた小柄な看護士に叱られ、しゅんとしてしまうのだった。
「ん? なんすか?」
ちょいちょい、とダヴァンが耳を貸すようにとジェスチャーする。
なんだろうと怪訝に思いながら、私は彼女の言う通りに耳を差し出した。
ダヴァンは口を近づけ、ひそひそと言った。
「一皮剥けましタネ?」
このオモシロ外人、この前といいほんと洞察力すげーな。
にやにやと笑うダヴァンに、返事をする代わりに私もにっと笑って返してやった。
「やっぱりでしタカ! イヤ、顔を見てすぐピーンと来ましタヨ!」
「どんな勘の鋭さしてんすか。ま、言う通りなんすけど」
「……変われたでショウ?」
「はい。ちょっとだけっすけど……良いもんすね、なんか」
二人で顔を合わせながらくすくすと笑う。
それがどうにも気に入らないらしく、爽は
「おーい。なんだよ、二人して。内緒話とか性格悪いぞー」
と頬を膨らませる。
それだけ言い、ダヴァンはいそいそと帰り支度を始める。
おいおい、なんだよ。お前も帰っちゃうのかよ。
爽が引き止めるように言った。
「ダヴァンも帰っちゃうのか? さみしくなるんだけど」
「その心配はいりませンヨ! どうやらまた別の人たちが来たようですカラ」
「別の人たち?」
病室の戸を開けて出ていくダヴァン。
そして、そんな彼女と入れ替わるようにやってきたのは、
「…! 爽! 揺杏!」
「憧ー! シズに玄、宥ねーちゃんに灼ねーちゃんも……わぷっ」
爽の言葉は、駆け寄ってきた憧の抱擁で遮られた。
「はは……ゴメン」
見れば、穏乃も玄も、宥も灼も。程度の差はあれど、みんな目を潤ませていて。
それは憧も例外ではないらしく、涙声でさらに言う。
「ゴメンとかじゃなくって! いっつも言ってたじゃない、迷宮は危険なとこなんだって!」
「……うん。本当にゴメン」
「だから……。 ……うぅん、そんなことよりも」
そこで憧は爽から身体を離した。
私と爽の顔を見つめる。涙が溢れ出す瞳で。
くしゃくしゃになった顔を無理やり笑わせて、憧は言った。
「ありがとう。生きててくれて……」
◆ ◆ ◆
三角帽に魔導衣を身に着けた私は、最後の仕上げとばかりに、壁に掛けたロッドを手に取った。
オーダーメイドのこいつは、他の新米冒険者が持つロッドとは一味違う。
先端部分に『紫の小さな花』の装飾を施してあるのがこだわりポイントだ。
これでアルケミスト、岩館揺杏の出来上がりってな。
さて、なんだかんだでもう待ち合わせの時間が近い。
最後に鏡でもう一度服装をチェックして、私は外へ出た。
『アチガGirls』は、あれから3年ほどこの街に滞在していたが、やがて任務を完了し旅立ってしまった。
かつての恩師が挑んでいるという『フクオカ』の迷宮に挑戦する、と言い残して。
かなり厄介な迷宮らしく、未だにフクオカが攻略されたという話は聞いていない。
ここホッカイドーの迷宮を攻略してしまったら、次はフクオカへ向かってみるのも面白いかもしれない。
そのままギルドは解散し、異国から来ていたメンバーたちはみんな己の国に帰ってしまった。
何だかんだで仲良くなってしまったダヴァンとは、今でも手紙をやり取りしている。
『まだ告白してないんでスカ!? 一体何年待たせるつもりなんでスカ!』
なんてフレーズを手紙の中でもう何度見たことだろう。
うるせえほっとけ。
一方、辻垣内はと言えば、ここホッカイドーに根を下ろし、今では冒険者ギルド組合の長として冒険者たちを陰からバックアップする立場となっている。
私たちがギルド結成の届け出を出したときも、
「バランス良く冒険者は集めたか? いい加減なパーティだと後々苦労するぞ」
なんてお決まりのフレーズを喰らったものだ。
きょとんとする私たちに、照れ臭そうに「……新米にはこう言うのが決まりなんだ。あまり気にするな……」と言った、あの表情はかなり新鮮だった。
――そして。
「わっりぃ、爽。っつーかみんな張り切りすぎじゃね? まだ待ち合わせには時間があるだろ?」
肩を竦める。
まだまだ時間には余裕があるのに、すでにメンバーが全員揃っているとは。
「待ちきれなかったのよね。30分前には来てたわよ、私」
「私もちかちゃんと同じ時間に来ましたっ!」
チカセンと、その幼馴染の成香がそう言って胸を張る。
……しかし、まぁ。なんというか。
「すっげー装備っすね、チカセン」
「そうかな? おかあさんのお古なんだけど」
禍々しいオーラを放つ、黒色のボンテージ。そして鞭。
ダークハンターという職に関する前知識が無ければ、パッと見SMバーの女王様だ。
まさかチカセンがこんなんになっちゃうとはなぁ……月日の流れって怖い。
と提案するのは私たちのメンバーでメディックの真屋由暉子、通称ユキだ。
十年前のあの日に私と爽が運び込まれた『真屋医院』の一人娘。
あの日から彼女と交流するようになり、こうして友人となったのだった。
「そうだな、ユキ。そろそろ行くか!」
爽がそう言って歩き出す。
ユキはそんな爽にぴったりと、寄り添うように隣を歩く。
「……ユキ。ちょっと近くないか」
「そうですか? 岩館先輩の気のせいだと思いますが」
ちなみに、このユキという女。たぶん爽に惚れてるんだよな。
いや、この反応を見れば間違いないと思うんだけれど。
「大変ね、揺杏」
憐れむようにチカセンが優しく声をかけてきた。うるせーちくしょう。
成香も成香で「幼馴染は負けフラグって言葉知ってますか?」とか言い出しやがるし。黙ってろちくしょう。
×:黒色のボンテージ
○:黒色のボンデージ
細かいとこですが、一応訂正入れておきます……
「ギルド『ウスザン』。これが認可証な」
爽が手渡した書類に目を通し、衛兵は「通ってよし」とだけ言って道を開けた。
「わぁ……」
成香が感動して声を漏らす。
『世界樹』をこんな間近で見たのが初めてだったのだろう。
ユキも声には出さなかったものの、初めて見る世界樹のインパクトに目を見開いていた。
確かに、天を衝くほどの巨大な世界樹の雄大な様に感動する冒険者は多いと聞く。
もっとも、
「新鮮な反応だな!」
「そうねぇ」
昔から出入りしている私や爽、チカセンにとっては最早見飽きたものなのだけれど。
新米冒険者たちの初々しい様子を見ながら、私たちはくすくすと笑った。
爽が古びたジャベリンを掲げ、大きな声で言う。
「おう」
ロッドの底で軽く地面を叩いて、私は応えた。
「ばっちりだよ、爽!」
チカセンが鞭の先端を顔の前でびんっ、と張って言う。
もう完全に女王様だよね。こわい。
「え、えっと……たぶん、大丈夫ですっ」
おどおどとしながら、成香が応える。
その手には私とは少し形が違うロッド。『ミスティック』と呼ばれる方陣士が好んで使うものだ。
「薬の準備も完璧です」
と、鞄の中をあらため終えたユキが最後に言った。
全員の返答を受け、満足そうに爽が頷いた。
「『ウスザン』のデビュー戦だ! 元気に楽しく行くぞーっ!!」
夏の日差しを受ける世界樹は、今日も冒険者たちを見守り続ける。
(カン)
無駄に長くなっちゃいましたが……読んでいただいた人にはちょー感謝だよー!
気が向いたらここからの続きも見たいなぁ
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417700964/
Entry ⇒ 2017.11.01 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
怜「三段重ねのものを必ず落とす呪い?」巴「はい」
怜「何言うてんの、自分」
巴「にわかに信じがたい話であるのは承知しています。ですが事実なので」
怜「……初対面の病人へ向けたお見舞いのボケにしちゃ、かなりスベってるで?」
巴「いえ、違います」
怜「……霧島神境の巫女いうんはお笑いの修行もしとるんか? 悪いけど、大阪人に言わせりゃまだまだやな」
巴「そうではありません、園城寺怜さん」
怜「…………」
巴「貴女の人生に関わる、至って真面目な話です」
巴「……では、まず実際にお見せしましょうか」
ゴトッ
怜「なんや……、クーラーボックス?」
パカッ
巴「説明のために用意してきました。三段重ねアイスです」
怜「…………」
巴「お布団を汚さないように布巾を敷いて……。はい、持ってみてください」
怜「…………」スッ
ぼとっ
怜「あっ」
怜「……落ちたアイス食うのやめえや」
巴「ちゃんときれいな布の上に落ちましたから。ご心配なく」ペロペロ
怜「人と話してるときにモノ食うなっちゅーねん」
巴「あっ、食べたかったですか? 一応、入院されてる方にはよろしくないかと思いまして」コーンボリボリ
怜「あんたが食わんでええやろが。三段全部にコーンまで」
巴「ほへはっはは、ほっはひはいへふはは」モシャモシャ
怜「最後まで食うてから喋れや」
巴「おわかりいただけましたでしょうか」
怜「アイス落としただけやん」
巴「……ええ、今のはアイスを落としただけです。……でも」
怜「?」
巴「少なくとも、冗談や空想の話をしに来たのではないと……思っていただきたいのですが」
怜「…………」
巴「貴女が今入院しているのも、この呪いのせいなんですよ?」
怜「!」
巴「……事実として貴女は今。準決勝での対局の末に椅子から崩れ落ちてここにいます」
怜「……関係あらへんやん」
巴「霧島神境ではすべて把握していますので。隠そうとしなくてもいいですよ」
怜「…………」
巴「表向きは、元々体調が悪かったうえに集中しすぎての体力消耗……となっていますが」
怜「ちょっと立ちくらみしただけやって」
巴「あなたはあのとき……。一巡先の未来が視える力を、三段重ねしましたね?」
怜「!」ドキッ
巴「貴女には、未来が視える」
怜「……どっかのおーげさな実況解説聞いて真に受けてるんちゃう? 迷惑やわーそういうの」
巴「"一巡先を視る者"……。それは誇張でも煽り文句でもなく事実……」
怜「…………」
巴「そしてその力と引き換えに。貴女は生涯、三段重ねアイスを食べることができなくなってしまった」
怜「はいそこ。おかしいおかしい」
巴「?」
巴「……それこそが、貴女が手に入れた一巡先を視る力の代償です」
怜「…………」
巴「アイスクリームに限らず何であれ。貴女は三段重ねしたものを必ず落とす」
怜「…………」
巴「……そういう宿命を背負ってしまったんです」
怜「…………せやから、私が準決で椅子から落ちたと?」
巴「はい」
怜「…………マジで言うとんの?」
巴「はい」
怜「…………」
巴「今回の準決勝で。貴女にまとわりついていた呪いの霊圧が一段大きく膨れ上がるのを確認しました」
怜「…………霊圧て」
巴「今後はより顕著に、貴女の生活のいたるところで発症してくるようになるでしょう」
怜「…………発症て」
巴「……このままでは。貴女の人生が不幸になる可能性が非常に高い」
怜「!」
巴「他人を巻き込んだ大事故につながることも、十分に考えられます」
怜「…………」
怜「……お祓いて」
巴「それが、今日ここに伺った理由です」
怜「…………」
巴「いかがでしょうか?」
怜「…………そんな話を信じろ言うの」
巴「はい」
怜「…………」
巴「はい」
怜「…………あんたに何の得があんの」
巴「?」
怜「……放っといたらええやんか。なんでわざわざ私に話すねん」
巴「……貴女のためにと思って。それだけですけど」
怜「何か裏でもあるんちゃうかって思うやろ。どういう魂胆やっちゅう話や」
巴「…………ご安心ください。そんな心配するような裏や下心などありませんよ」
怜「…………」
巴「ただ、霧島神境の除念師として。近くにあった災いの種を見過ごしておけなかっただけです」
怜「…………」
巴「それほど時間は掛かりません。痛いようなこともありませんよ」
怜「…………」
巴「……ただし、ひとつ言うならば」
怜「?」
巴「三段重ねの呪いは消えますが……その代わり」
怜「…………」
巴「貴女は二度と、一巡先の未来を視ることはできなくなるでしょう」
怜「!」
巴「力とその代償とは表裏一体。根元は同じ不可分の存在なんです」
怜「…………」
怜「…………」
巴「できれば、大変な事故が起こる前に。なるべく早く決断していただければと」
怜「…………」
巴「……貴女自身のためにも」
怜「…………」
巴「私が思うところはそれだけです」
怜「…………考えさせてんか」
巴「ええ。私たちは別に急ぎませんから」
怜「…………」
巴「お気持ちが決まりましたら、いつでもご連絡ください。神境までご招待いたします」
怜「…………」
巴「では、失礼します」
セーラ「よっ、調子はどうや?」
怜「…………うん、大丈夫やで」
竜華「誰かお見舞い来てたん?」
怜「…………いや、誰も」
竜華「……そう。ならええけど」
怜「……うん」
セーラ「午後に退院できるらしいで! 明日の五決も出てええって!」
怜「…………そう」
セーラ「おう」
怜「…………うん。迷惑かけてごめんな」
竜華「……ええよそんなん。怜の体が一番大事」
怜「……ありがとう」
セーラ「ほな、なんかすること無いか? なんでもしたるで!」
怜「……そう?」
竜華「せやね。怜はゆっくり寝ててええから、遠慮せんで言うて」
怜「…………ほな、アイスクリーム」
竜華「アイス?」
セーラ「なんやそら」
竜華「いくらもう退院や言うてもそんな……」
怜「お願い。全部は食えへんから」
竜華「…………わかった」
…………
……
怜「うん、持たせて」スッ
竜華「? ……うん、はい」スッ
つるっ
ぼとっ
竜華「あー」
怜「…………」
確かに私は、昔から三段重ねアイスを全部食えたためしがない。
いっつも落とす。なぜか知らんが毎回落とす。
…………せやかて。
それが呪いだの代償だのなんて話、誰が信じるっちゅーねん。
怜「……三段重ねを、必ず落とす……」
怜「…………」
怜「治せば代わりに、一巡先が視えなくなる……」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………アホか」
――夢を、見ていた。
.
怜「うん、おめでと」
竜華「今年もよろしくね」
泉「おめでとうございます!」
浩子「みんなで過ごすお正月もええもんですね」
――これはいつの未来かな。来年の正月やろか。
いつまでもこんな感じで、みんなで幸せに居れたらええな……。
浩子「皆で栄養考えて作りましたんで」
泉「少しでも先輩の体のためになればと!」
怜「ありがと」
竜華「ほら、開けてみて!」
怜「うん」スッ
つるっ
怜「あっ」
ドバッ ドンガラガッシャン
ゴリッ
怜「あ……ごめん……」
浩子「なんか物凄い音しましたよ!?」
セーラ「泉! しっかりせえ!!」
泉「…………」ビクンビクン
浩子「先輩! 泉が息しとりません!!」
セーラ「なんやて!?」
浩子「泉! 泉ーー!!」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………アホらし。昼間おかしな話聞いたせいや」
怜「今日からこのファミレスでバイトします園城寺です、よろしくお願いします」
店長「うん、まずは皿洗いね」
怜「はい!」
スタッフ「こっちにお皿が運ばれてくるから、どんどん洗ってね!」
怜「わかりました! 1枚……2枚……3枚……」
ドンガラガッシャン パリーン
スタッフ「キャー! 園城寺さんが三段重ねのお皿割ったー!」
怜「あ……すみません……」
店長「もー何やってんのー」
怜「はい」
スタッフ「はいこれ! うちの名物、三段重ねのチーズハンバーグ定食だよ!」
怜「なんや集中力つきそうですね」
スタッフ「気をつけて運んでね!」
怜「はい!」
つるっ
ドンガラガッシャン
怜「あ…………」
怜「…………がんばります」
スタッフ「一枚ずつでいいからね!」
怜「……はい」
怜「…………慎重に……ひとつずつ棚に……」カチャッ
怜「って、こんなノロノロやってたら終わらへんて……」
怜「……働くって……つらいな……」
怜「…………みっつずつ」
カチャッ
ドンガラガッシャン パリーン
店長「…………」
怜「…………」
店長「……君、クビね」
怜「…………はい」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………なんやっちゅーねん」
竜華「ほら怜! 急いで!」
セーラ「早よせなもうバスが出るでー!」
怜「待って……私そんな……速く走られへん……」
タッタッタッタッ
セーラ「このバスに乗らんともう間に合わんで!」
竜華「私らの大事なセンター試験が……」
怜「ハァ……ハァ……ハァ……」
タッタッタッタッ
セーラ「くそっ……今日に限って怜が寝坊してまうなんて……!」
怜「うう…………」
タッタッタッタッ
泉「なんとか運転手に待っててもらいますんで!」
竜華「うん! お願い!」
セーラ「怜ー! 早よー!!」
怜「もう……あかん……」
タッタッタッタッ
怜「こうなったらこの階段……三段飛ばしで……」
竜華「……えっ」
ダダダッ
怜「たぁっ!!」
ぐきっ
怜「えっ」
ズシャッ
浩子「足が! 足首が変な方向に曲がってますよ!!」
セーラ「バスが出るでー!!」
竜華「怜! 怜ーー!!」
怜「私の……私の大学受験……」
竜華「そんな場合とちゃうやろもう! 足動かしたらあかん!!」
泉「先輩! 園城寺先輩ー!!」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「……三段落ちて……大学も落ちる……」
怜「…………何を言うとんねん」
司会「さあ、新郎怜さん、新婦竜華さんによるウェディングケーキ入刀です!」
怜「さあ……いくで、竜華」
竜華「……うん。私幸せや、怜」
スッ
竜華「大きなケーキ……」
怜「うん、凄いな」
竜華「…………あっ」
怜「ん?」
竜華「……このケーキ、三段重ねやな」
怜「えっ」
ドッガァン
セーラ「会場中クリーム飛び散ってべったべたやー!!」
怜「な……なんで……」
浩子「先輩! 泉の顔にケーキが直撃しました!」
セーラ「なんやて!?」
浩子「口と鼻ふさがって!! グッタリしとります!!」
セーラ「誰かー!! 早よ救急車ー!!」
ワー キャー ドタバタドタバタ
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「……なんでウェディングケーキが爆発やねん……」
実況「さあ、プロ麻雀段位戦もいよいよ大詰め! 今シーズンのラストゲームです!」
怜(……最終節を前に降格の危機……。厳しい展開や……)
怜(初めて味わったプロの壁……。でも、足踏みなんかしてられへん……!)
怜(竜華とセーラと一緒に……。もっと上を目指して……!)
怜(ここさえ、この半荘さえしのげば……)
怜(いくで……。トリプルや!)
クワッ
怜(…………よし! これや!)
タンッ
プロA「ロン」
怜「!」
プロA「親満直撃、12000です」
怜(そんな……未来が違った……?)
……
プロB「ロンです、8000」
怜「!! ……また……」
…………
……
プロC「ロン。園城寺さん、トビ終了ですね」
怜「……あ……」
実況「最終節決着ー! すべての対局が終了しました!」
実況「園城寺プロ、三段リーグわずか一期で陥落です! これはトッププロへの道が遠ざかってしまったー!」
怜「そ……んな……」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「私の人生て……一体……」
怜「新婚旅行やね、竜華」
竜華「うん、幸せやで怜」
空港職員「はい、並んでください」
竜華「あははっ、何回飛行機乗っても緊張してまうね、手荷物検査」
怜「ほんまやで。なんも怪しい物なんか持ってへんっちゅうねん――」
ゴトッ
怜「……えっ」
職員A「!」
職員B「これは!」
職員C「散弾銃!?」
竜華「キャー! 怜が散弾落としたーー!!」
怜「えっ」
警備員「このテロリストが! おとなしくしろ!!」
怜「ちゃうって! こんなん私のやないから!!」
警備員「確かに散弾が落ちたじゃないか! 君のバッグから!!」
怜「知りませんって! 私のやないです!!」
警備員「問答無用だ!! こっちへ来なさい!!」
竜華「怜……信じてたのに……」
怜「そんな! 竜華! りゅーーかーーー!!!」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………なんやもう……わからんわ……」
竜華「話って何?」
怜「うん……。ちょっと、行きたいとこあんねん」
竜華「?」
怜「…………一緒に、来てくれるかな」
竜華「ええけど……。まさか病院? ゲッソリした顔しとるけど大丈夫?」
怜「……いや、病院やないよ。心配せんで」
竜華「……そう」
巴「ようこそ神境へ」
怜「……うん」
初美「歓迎いたしますよー」
竜華「……あ、はい」
巴「決心はつきましたか」
怜「…………うん」
竜華「決心?」
怜「……うん。あのな、竜華……」
竜華「?」
怜「…………私、一巡先が視える力をなくしてもらおうと思う」
竜華「!」
怜「いろいろ考えたんやけど……」
竜華「…………」
怜「このままやとな、私なんや大変なことになんねんて」
竜華「大変……?」
怜「アホみたいやけど、竜華たちも危険に巻き込むかもしれんねん」
竜華「危険……て……?」
巴「…………」
怜「ううん、そんなんやないよ」
竜華「ちょっとあんた! うちの怜に何言うたんですか!?」
怜「違うて。その人に聞いた話も確かにあるけど……。これは私が自分で決めたこと」
竜華「怜……」
怜「もうあんなアホな夢うんざり……やなくて。竜華たちに迷惑はかけられへん」
怜「ううん、なんでもない」
竜華「まさか怜……今よりもっと未来が視えて……?」
怜「…………」
竜華「…………」
怜「迷惑はかけたない。それだけや」
竜華「…………」
怜「…………わかって、竜華」
竜華「…………そう」
怜「竜華……」
竜華「怜の一巡先が視える力……。正直言うて、私は凄く複雑やった」
怜「…………」
竜華「怜が麻雀強くなりたい、って頑張ってた姿は……ずっと見とったし」
竜華「この力でエースになって。『これで一緒に戦えるな』って笑った時の顔も……凄く嬉しそうやったの覚えてる」
竜華「怜の力があったおかげで……。私たち、全国大会準決勝なんて舞台までも来れた」
竜華「セーラも、すごく感謝してるって言うてくれとったんよ」
怜「…………」
竜華「……でも」
怜「…………」
竜華「いっつもフラフラしてたし。ずーっと膝枕が欠かせなかったしな」
怜(…………膝枕は8割以上ただの趣味やけど)
竜華「麻雀のために、そこまで無理してほしくないとも思うてた」
怜「…………」
竜華「……実際、準決勝も無理して倒れたんやし」
怜「…………ごめん」
竜華「そこまでしてる怜の姿見てるの……。ほんまは、凄く苦しかった」
怜「…………」
怜「…………」
竜華「……せやから、私に言えるのはこれだけ」
怜「…………」
竜華「怜が思う通りにしてほしい」
怜「…………ありがと」
竜華「…………」
怜「一巡先が視えなくなっても。私は麻雀やめたりせんから」
竜華「怜……」グスン
怜「高校卒業しても一緒に麻雀続けよう、って約束は……。破るつもりはあらへんよ」
竜華「でも……」
怜「今度こそ。そんな力なしでも、竜華やセーラくらい麻雀強うなったらええねんて」
竜華「そんな……」
怜「このまま麻雀続けていっても……。いい結果になるとは限らんかもしれん」
怜「……それでも。竜華と一緒に居りたいって気持ちだけは、世界中の誰にも負けへんつもりや」
竜華「…………」
怜「……そのためやったら……、私は頑張れる」
怜「どんなに負けても、ヘコまされても諦めへん。インカレでもプロでも、絶対食らいついていったるわ」
怜「そういう覚悟が、やっと今できたと思う」
竜華「怜……」
怜「ラーメン、つけ麺、私諦めん! ってな!」ニコッ
竜華(うわぁ)
巴(うわぁ)
三段重ねの呪い(うわぁ)
巴「!」
怜「……どした?」
巴「今の凍てつくような寒気……そんな……」
怜「?」
巴「……呪いの霊圧が……消えた……。まるで潮が引くかのように……」
竜華「??」
巴「これは……まさか……」
怜「???」
巴「三段オチが…………落ちなかった!?」
巴「……ちょっと先に、確かめたいことが」ガサゴソッ
怜「?」
巴「……はい、三段アイスです。持ってみてください」
竜華「?」
怜「……ええけど……?」
スッ
ピタッ
怜「…………あ…………」
巴「やっぱり……」
怜「アイスが……落ちひん……」
竜華「? 普通そうやろ?」
怜「持て……た……」
竜華「???」
巴「そんな……こんなことが……」
怜「持てた……! りゅーか……私、三段アイスが持てたぁー!!」
竜華「…………どういうことなん?」
巴「三段重ねの呪いが……引いてしまった……」
初美「知っているの、霞ちゃん!?」
霞「確か、櫻田山神社の神主様が……。あのような御業をお使いになると聞いたことがあります……」
初美「櫻田山神社?」
春「……宮城にあるお社」
霞「園城寺さんの放った言霊の力が……呪いの霊圧を退かせたんだわ……」
初美「……私たちも引きましたけどー……」
巴「でも、言霊だけで呪いを退かせるなんて……。相当に高度な御業では」
霞「……ええ、そうね」
小蒔「凄く徳の高い神主様なのでしょうね! すてきです!」キラキラ
春(…………それはどうだろう)黒糖ポリポリ
巴「いや……終わったといいますか……」
怜「?」
巴「もうすることがなくなったといいますか……」
怜「??」
巴「いいのかしら……こんなことで……」
怜「? ……ま、とりあえず。あんたもありがとな、色々と」
巴「……いえ。呪いが退いたのならなによりです」
結局よーわからんかったけど、終わりよければすべてよしや。
私たちの一番暑く熱かった夏は過ぎ、また二人で新しい道を歩き出す。
いつまでも一緒やで、竜華。
セーラ「夏休み終わってもーたなー」
竜華「そうやね」
セーラ「引退したなんて全っ然実感ないわ! 今日ちょっと打っていかん?」
怜「後輩たちに悪いで」
セーラ「ええやん、ちょっとくらい!」
竜華「……まあ、セーラは国麻もあるから」
セーラ「そうそう! ほないくでー!」
泉「先輩方と打つの、久しぶりですね」
怜「私、インハイ以来やわ」
竜華「……怜は病み上がりなんやから。私がさせへんかったんや」
セーラ「心配性やなー竜華は。楽しくやったらええねんてー!」
怜「…………うん」
竜華「……せやね」
怜(でも……もう一巡先は……)
―ピキッ―
怜「!」
セーラ「どしたん?」
竜華「怜の番やで?」
怜「…………なんでもない。リーチ」タンッ
泉「!」
セーラ「来たなー!」
怜「…………ツモ。立直一発ツモドラ2や」
竜華「!」
浩子「……さすがです」
怜「…………」
セーラ「?」
竜華「怜……? 今の……?」
怜「……ううん、偶然やろ」
竜華「?」
怜(…………まあええか)
数日後
怜「三段オチを言うと必ずスベる呪い……?」
巴「はい」
カン
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Entry ⇒ 2017.10.21 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
玄「咲ちゃん、みかん食べる?」
~よこどり~
咲「……」ペラ
玄「食べない??」
咲「……」
咲「……」ア-ン
玄「それは食べるってことだね。ていうか、食べさせてって事?」
玄「もー、ダメだよ咲ちゃん!ちゃんと自分で食べなきゃっ」
咲「……」ペラ
咲「……」ムゥ
玄「本読んでるから手を汚したくないってこと……?」
玄「なら本読むのを一旦ストップしない?」
咲「……」
咲「……」ウワメヅカイ
玄「うっ…そんな目で見られると困っちゃうよ」
玄(それに、た、食べさせるなんて恥ずかしいし……/////)
玄(でもでも、咲ちゃんがこんな事させてくれるのって珍しいかも…)
玄(……よしっ。やっぱり、ここはこのチャンスを)
玄「もう、仕方ないな咲ちゃんは。今回だk」
憧「なによ咲、みかんを前に口開けて」
憧「ほいっと」ポイッ
咲「あむ……」
咲「~~♪」モグモグ
憧「あははっ、ハムスターみたいで可愛い」
憧「……ん?」チラリ
玄「うぅぅぅぅ……!!」プク-ッ
憧「え、ちょ、玄?なんで怒ってんの?」
玄「別に!」プイッ
憧「えぇ……」
憧「咲、玄のやつどうしたのよ?」
咲「……さぁ…?」
玄(咲ちゃんのばか)
―――
~ぶかつ~
玄(うんうん、今日もドラがたくさん!)
玄(調子ばっちりなのです)フンス
咲「カン」
玄(えぇ!せっかく聴牌してたのに!)
咲「……ふふ」
玄「咲ちゃんのいじわる」
咲「え……」シュン
玄(ふぇ!?どうして咲ちゃんがしゅんとするの?)
玄「……あ、ツモ。3000.6000!」
玄(あれ、ツモ?)
穏乃「あー!咲、また玄さんのアシストしたろ!」
玄(アシスト??)チラリ
玄「あ、槓ドラが私の待ち牌だった……?」
憧「まさか玄、気付いてなかった?」
玄「いや、だって……」
咲「……ふんっ」プイッ
玄「あわあわ、気付かずいじわるなんて言ってごめんね!」アセアセ
咲「次の局から初手連カンしますから」ムス
玄「それだけはやめて!?」
いちゃいちゃ、こらこら
憧「あーあ、あれは長引きそうよ」
穏乃「仲良いよなー、あの2人」
憧「仲良いっていうか、それ以上よ」
穏乃「それ以上??」
憧「……なんでもないわ」
憧(シズってば、鈍感なんだから。……色んな意味で)
―――
―――
~持つものと持たざるもの~
玄「ふむふむ……」ジロジロ
和「な、なんですか玄さん」
玄「和ちゃん、いつ見ても完璧なおもちをお持ちなのです」ワキワキ
和「どこ見て言ってますか!変な手つきしないでくださいっ」
玄「まあまあ!減るものでもないし、ちょっとくらい!」グヘヘ
和「ダメですって!」
和(どうしてこの積極さを咲さんへ向けられないのでしょうか……)
玄「そんなおもちを持ってる和ちゃんが悪いのです」
玄「今ならまだ誰もいないし、ちょっとだけ…」
和「ちょ、玄さんダメですって」
扉「ガララララ」
憧「あはは、そうよね。ま、シズの事だからなんの気もなしに……って」
憧「……玄、なにしてんのよ…」ハァ
咲「……」
和(あぁ……)
玄「憧ちゃんに……さ、咲ちゃん!?」
咲「……楽しそうですね」
玄「ち、違うの!いや違くないんだけど、あの、その、ええと!」アワアワ
咲「別に、気にしてません。ええ気にしてませんよ」
咲「そんなに大きいのが好きなら、ずっと和ちゃんので遊んでればいいんです」ムス
和「私は嫌ですよ!?」
玄「ど、どうしよう憧ちゃん!」
憧「自業自得ね」
咲「和ちゃん、ちょっと来て」
和「は、はい……」テクテク
咲「……」ムニムニ
和「咲さん!?/////」
咲「……」フム
玄「がーん!咲ちゃんが私以外のおもちを……」
憧「いや、玄が言えたことじゃないわよ」
咲「……」
和「あ、あの…?」
咲「……」ペタペタ
和(今度は自分の胸を…)
咲「……」ジワ
咲「玄さんなんか嫌いっ!」プイッ
玄「許して咲ちゃん!私は小さいおもちも大好きだよ!」
憧「火に油注いでどうすんのよ…」
このあとめちゃくちゃ謝り倒した
~ふいうち~
玄(よし、今度こそ!)
玄「咲ちゃん、みかん食べる?」チラ
咲「……んぅ…」スヤスヤ
玄「……あれ、咲ちゃん?」
玄(いつの間に寝ちゃってたんだろう…)
玄「咲ちゃん、眠いならお布団敷いてあげるからそっちで」
咲「…くろ……さ……好き…」ス-ス-
玄「……」
玄「っ!?/////」ボッ
玄(い、いいいいい、今!今咲ちゃん、寝言で!寝言でででで/////)
咲「……」スヤスヤ
玄「……」ジ-ッ
玄(咲ちゃん、寝顔可愛いなぁ…)
玄「……」キョロキョロ
玄(周りには誰もいない…)ドキドキ
玄(咲ちゃんも起きなさそうだし、少しくらいなら…)
玄(い、いいよね?)ドキドキ
咲「……」ス-ス-
玄「……」スッ
玄「……」ピタ
玄(い、いやいやいや!何を考えてるのです松実玄!)
玄(いくらなんでも、こんな寝込みを襲うようなマネ)
咲「……」パチ
玄(そんなことはできな)
玄「んっ!?」
咲「……ふっ…ん……」チュッ
玄「あふっ…んんっ!」
咲「……ぷは」タラ
玄「さ、さささささ咲ちゃん!?/////」
咲「ふふっ、みかんの味です」ニコ
咲「今度はちゃんと起きてる時に、玄さんからしてくださいね」クス
玄「はわわわわわわわわわっ/////」カァァ
宥「ただいまぁ~。あ、咲ちゃんいらっしゃい~」ポワポワ
咲「おかえりなさい宥さん。お邪魔してます」
玄「/////」プシュ-
宥「わぁ……玄ちゃんなんだかあったかーい」ポカポカ
咲「ホントですね」クスクス
咲(玄さんにふいうち、効果は抜群っと)
カン!
依頼出してきますっ。読んでくださった方、ありがとうございました(ペッコリン)
よかった
可愛すぎた乙
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Entry ⇒ 2017.09.14 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
京太郎「活動日誌?」【咲】
まこ「そうじゃな。合同合宿も控えとるしのぅ。」
優希「うぅ。疲れたじょー。タコスを補給しなければ。」
和「帰りましょう、咲さん、ゆーき。」
咲「うん。京ちゃんも帰ろ?」
京太郎「んー。牌譜の整理とかしてから帰るから先帰ってて良いぞ。」
まこ「明日でも良いんじゃないか?」
京太郎「ちょっと気になった事もあるんで確認とかしたいなぁって思ってみたりしてて。」
久「仕方ないわねぇ。一区切りついたらキチンと帰るのよ?明日も活動はあるんだから。」
京太郎「了解です。」
*少年清掃中*
京太郎「なんだこれ?」
【清澄高校麻雀部活動日誌】
京太郎「日誌なんて在ったのか、知らなかったなぁ。」
京太郎「何が書いてあるんだろ」ペラッ
今日は、新入生の須賀京太郎くんが入部してくれた。
思っていたよりも、優しい子でよかったわ~。
高身長・金髪なんて最初は怖かったけど、此方の話はちゃんと聞くし、立ててくれるし。
いい子だわ~
○月●日 天候:晴れ(強風) 記入者:竹井久
今日の発見。須賀くんは見た目以上に鍛えていた。
須賀くんにぶつかって倒れそうになったら抱きとめられた。
やっばいわぁ、須賀くん。っばいわ~。
○月?日 天候:晴れ時々雨 記入者:竹井久
須賀くんは格好いいわ。本当に、マジで、真剣に。
だけれども、何とも言えない可愛さもある。
懐っこい大型犬的な。あぁ~、ヤッバイ。
久々に部室に顔を出したら、見知らぬ男がいた。
新しく入部したした1年生らしい。
初心者だから、宜しくしてやってくれと言われた。後輩じゃし面倒はキチンと見よう。
あと、久が書いてるのは活動日誌じゃなく、京太郎日誌じゃ。
○月□日 天候:曇り 記入者:竹井久
採用。
今日から、この日誌は、「須賀くん観察日誌」となります。
以後、必ずその日の須賀くん情報を載せるように。
ということで、まずは私から。
昼休み、食堂で、仲が良好そうな女子とお昼ごはんを食べていた。
誰だったのかしら、あの娘?
○月◎日 天候:曇(部長の頭が) 記入者:染谷まこ
阿呆じゃった。うちの部長は思ってたよりも阿呆じゃった。
昨日書いてあることもそうじゃが。
【今日の京太郎】
休み時間に移動教室の帰りだったのか、儂の姿を見かけて挨拶に来た。
何時の日か部長が書いてたように、犬っぽいというか何というか。
あと、笑顔が素敵だった。
ねぇ、私の頭が曇りってどういう意味?
ちょっと、まこ。どういう意味よ!
それと、「今日の京太郎」って駄洒落かしら?
今日は新しく入部した女子2人とで卓を囲んだ。
2人とも経験者で片方は去年のインターミドル覇者の原村和だった。
なんで、この高校に進学してきたのかしら?
もう片方は東場で異様に強い片岡優希。
とんでもない収穫になった。夢である全国制覇が現実に見えてきた、かも知れない。
【今日の須賀くん】
麻雀の教導をしていたが、マジメな顔も凛々しくて良かった。
ギャップって凄いわね。
何だかんだ書くまこも素直じゃないわね
○月$日 天候:晴れ 記入者:原村和
あの、これは何なんですか?
有無も言わさずに渡されましたが、何を書けばよいのか理解できません。
何故、活動だけではなく、須賀君の事も書かなければならないのでしょうか?
ただ、本日の対局も何故か納得ができるモノではありませんでした。
これからも、努力していきたいものです。
○月%日 天候:晴れだじぇ 記入者:片岡優希様
やっぱり、清澄に進学してよかったじぇ。
学食にタコスがあるし、上手いし。
何より、のどちゃんとも一緒にいられるからな
【今日の京太郎】
アイツは、教本を片手に唸っていたじょ。
まぁ、私は感覚で打つタイプだからな。教本なんて要らないじょ。
和はちゃんと須賀くんの事も書くように。
優希はもうちょっと集中力が維持できたらねぇ。
【今日の須賀くん】
体型が良いので、何かやっていたのかと聞くとハンドボールをやっていたらしい。
動画があったので見てみたが、カッコ良かった。
シュートを決めていた瞬間はとんでもなく跳んでいた。
なんかもう、凄い以外の言葉がでなかった。
○月@日 天候:曇 記入者:染谷まこ
確かに、昨日の京太郎の動画はカッコよかった。
それは、認める。だが部活はちゃんとやって欲しいんじゃが、部長。
京太郎の方見すぎじゃ。
【本日の京太郎】
分からないなりにも一生懸命麻雀に励んでいる姿は、好感じゃった。
よく質問をしてくるし、健気じゃな
○月β日 天候:曇 記入者:原村和
あの日見せられた動画で、何故ハンドボール部がない清澄高校に進学してきたのかを聞いてみました。
彼は膝を壊し、未練を引き摺りたくないからと言っていました。
何時もとは違う笑顔が頭から離れてくれません。
他の男性と違いさほど胸ばかり見ないので、これからはもう少し優しくしてみようと思います。
閑話休題、宮永さんとは仲良くできそうにありません。手加減をされても何も楽しくはありませんから。
□月⊿日 天候:晴れ 記入者:竹井久
咲も入部し、IH団体戦出場の機会を手に入れることができた。
これも、須賀くんのおかげね。
【今日の須賀くん】
最近、雑用を引き受けてくれるようになった。
一緒に打ちましょうと誘っても、今日は
「団体戦に向けて頑張ってるのに、流石に初心者の俺が混ざっても……」
と遠慮してくる。
なんとかしなければ。個人レッスンとか良いかもしれない。
□月γ日 天候:晴れ 記入者:染谷まこ
部長の個人レッスンなど不要じゃろ。
それよりも、数じゃ。
ということで、京太郎は儂がどうにかする。
京太郎は働きながら、麻雀が打てる。その上お金も入る。
儂も初心者の京太郎のお陰で色んな経験ができる。
Win-Winじゃな。
□月θ日 天候:雨 記入者:宮永咲
あの、これもう活動日誌じゃなくて京ちゃん日誌じゃ。
これから、よろしくお願いします。
この清澄高校の皆と麻雀を楽しめたらなと思います。
あと、京ちゃんはあぁ見えて頭がいいです。
中学の時も、地毛なのに金髪という理由で先生達から目を付けられていたので、
文句を言われないようにと、常に成績上位者に名を連ねてました。
私と一緒に。
いえ、染谷先輩の雀荘に須賀君は時期尚早だと思います。
まずは、河の読み方等を教えるなど初歩を叩き込む時期です。
須賀くんも言っていました。
「皆と一緒に打ちたいけどさぁ、やっぱり、基本って大事なんだよなぁ。」と。
ですので、私が、マンツーマンで教えます。そちらの方が効率的ですし。
□月ν日 天候:晴れ 記入者:竹井久
まこは、初心者の須賀くんと一緒に打つよりも他の高校やプロの牌譜とかを見た方が良いわ。
和は、エトペンを抱いてリラックスして打てるようになった。けれどまだ、ムラッ気があるから家で打ってるようになれるようになるべきね。
優希は南場まで集中力を保つとまでは言わないけども、なるべく切らさないようにドリル。
咲は、ネト麻でもある程度の実力を発揮できるようになる。
上には上がまだまだ居るわ。まずは、自分の事に専念しなさいな。
その間に、京太郎くんの好感度じゃなくて、
基礎能力は上げておくから。
いやいや、部長の手を煩わせる程でもなかろうて。
生徒議会長の仕事も熟し、麻雀部部長としても取り組む。
それだけでも大変なんじゃから、それくらいは後輩の私に任せぃ。
実際に打ちながら教えたほうが良いしな。家の雀荘でやる。
□月Σ日 天候:曇り 記入者:原村和
いえ。先輩2人の手を借りる程のことではありません。
同じ1年生である私が教えます。ネト麻ならチャットを通して出来ます。
実際に手に触れて教えることも可能です。
今後同じ時間を過ごす者として、仲は良好の方が好ましいですしね。
険悪な仲は駄目かもしれませんが、仲が良すぎても何ら問題はありませんよね?
□月Ω日 天候:晴れ 記入者:宮永咲
そういう意味なら、やっぱり私が一番だと思うんです。
一緒にネト麻が出来るし。皆は休日とか大変だと思います。
その点私は、京ちゃんの家も近いですし、受験勉強もテスト勉強も一緒にやっていたので
遅い時間まででも何ら不安がられる事はないので。
それに、京ちゃんのヤル気を維持させるのも、出させる為のツボも知ってますから。
あと、やっぱり適切な距離ってあると思うよ、和ちゃん。
話が進まないので、1日交代で、皆で教えましょう。
京太郎くん含め6人いる時は、4人が打って残りの人が教えましょう。
※京太郎くんが卓に着く場合もあるので注意。
※寧ろ京太郎くんを卓につかせることを推奨。
5人の場合、須賀くんを優先的に卓へ。
※渋った場合は三麻。
※理由としては、京太郎くんは初心者なので実際に打ったほうが良いとかなんか適当に。
3~4人は卓を囲みましょう。
万が一、億が一、2人っきりなら、マンツーマンね。
その日は自分の幸運と運命の神様に感謝しなさい。
順番としては年功序列。
1年生は入部届を出した和、優希、咲の順番ね。
私→まこ→和→優希→咲
順番の人が居なかった場合は次の人に移行。
Ex;まこの順でまこが来れなかった場合は和が。
翌日まこが、来たらまこが教える。
良いかしら?
賛成じゃ。―――まこ
良いと思います。―――和
オッケーだじょ―――優希
分かりました。―――咲
▲月?日 天候:雨 記入者:竹井久
部室のベッドで寝ていたら夢を見たわ。
私と京太郎くんが結婚して幸せな家庭を築いていたの。
これってお告げじゃないかしら?
▲月!日 天候:┐(´д`)┌ 記入者:染谷まこ
ただ、疲れてるだけじゃろ。
京太郎はRoof-topでの評判も中々良い。これからも安寧だと実際に言われてるしのぅ。
因みに儂の夢では、3人の子宝に恵まれていた。
あと部長は、現実じゃ京太郎くんなんて呼べとらんじゃろ。
この日誌の中だけじゃろ、みっともない。
現実的にみると、京太郎君の好みは私だと思います。
大きな胸は疎ましく思っていましたが、立派な武器となります。
京太郎君もついつい目で追ってしまうみたいですし。
最近は、京太郎君呼びにも、呼ばれ方にも慣れてきました。
初期から比べると大きな進歩です。
これからも精進して行きたいです。
夢といえば行商人と狼だったり、テロリストの同士だったり、勇者と魔王だったりしてます。
不思議な出来事でした。
まぁ、恋仲の割合が高いですが。
▲月∩日 天候:ヽ(`▽´)/ 記入者:片岡優希
京太郎のタコスの味が日に日に上達してくるじぇ。
くっ、侮れないじょ。
夢といえば、もっさりイケメンと鵜呑みするJKで同じチームを組んでたじぇ。
▲月√日 天候:(´;ω;`) 記入者:宮永咲
買い出しの帰り、迷子になったら京ちゃんが迎えに来てくれた。
世話が焼けると言いつつも手を繋いで学校にまで戻った。
迷子にならないように気をつけなくちゃ。
最近、そういった夢を見なくなったなぁ。
また、そんな夢を見れたら嬉しいなぁ。
#月%日 天候:晴れ 記入者:竹井久
無事に長野県予選を突破し、全国大会への切符を手に入れることができたわ。
とても、喜ばしく思うの。けど、全国区はきっと県予選の比じゃないわ。
兜の緒を締めて行きましょう。
ところで、皆はちゃんと準備は進んでるかしら?
功労者でもある、京太郎くんに感謝の意を込めたパーティーを開くのよ。
準備は怠ってないかしら?
ばっちりじゃ ―――まこ
空前絶後のタコスを用意するじょ ―――優希
可愛い服に下着と準備に抜かりはありません ―――和
日頃の感謝をこめます ―――咲
#月&日 天候:快晴 記入者:竹井久
いよいよ明日と迫った、パーティー。
楽しみねぇ。
グヘヘ。おっと、涎が。危ない危ない。
京太郎「」パタン
京太郎「え?明日何があるの?」
京太郎「怖いんだけどー!!」
カンッ
その日の勢いって大事。
清澄高校に入学してからある程度の段落がついた。
今日から日記をつけようと思う
取り敢えず、高校に進学が無事できてよかった。
部活に入部するか迷う。
○月○日 天候:晴れ
部活動に入部するかどうかといったな、あれは嘘だ!
ということで、麻雀部に入部した。
やっぱ、議会長は美人だった。近くで見るとより一層凄かった。
○月●日 天候:晴れ(強風)
部長と部室に行く途中でぶつかってしまった。
思わず抱き寄せてしまった。
柔らかいし、いい匂いするし、柔らかった。
これは、セクハラになってしまうんだろうか?
不安になってきた。何かしら言われたらどうしよう、不安だ。
今日も今日とて部長と二人っきりだ。
なんかじっと見られてた。
要求内容でも考えているんだろうか?
すんごい不安だ。
○月◇日 天候:曇
麻雀部は2人だけだと思った~?
ざんね~ん、3人でした。
2年生の染谷まこ先輩。
実家が雀荘を営んでいるらしい。其処で打たせて貰えたりするんだろうか。
ネト麻も悪くはないが、実際に手で触れてやってみたい。
これからも頑張るぞー!
○月□日 天候:曇り
咲に頼んでレディースランチを頼む。
やっぱ美味い。レディースランチも男子が頼めたら良いのに。
あと、タコスって何?って言ったら咲が教えてくれた。
メキシコ料理らしい。
フーン。
実験してる時って凄い、楽しいよね。
実験室からの帰りの途中染谷先輩を見かけた。
挨拶をしにいったら他の2年の先輩達と話していた。
あと2年生ってやっぱり大人っぽく見える。
○月#日 天候:雨 :
部員が2人増えた。やったー
部室に行こうとしていると、ウロウロしてる2人組がいた。
片方は、すごいおもちをおもちだった。
麻雀部の部室を探しているが、場所が分からないらしい。
案内をするので付いてきて欲しいといったら、ちんちくりんの方の片岡優希が、
「そんなこと言って人気がない場所に連れてくきかッ!?」とか言ってきた。
するか!惹かれるけど、確かに和の胸は気になるけど。
旧校舎に行くので、実際問題人気が少なくなる。
警戒されまくった。
なんてこったい。
○月$日 天候:晴れ
部員が5人になったので、部室で4人麻雀が打てるようになった。
部長がなんかしみじみとしていた。今までは三麻かRoof-topで打っていたので感慨深い。
和が、何回か首を傾げていた。大丈夫だろうか?
そういえば、和からは警戒され、部長からはどんな無理難題が来るかわからない。
入部を決めるのは早まったのかもしれない。
この麻雀部に初心者は俺1人しかいない。
教本を片手にうんうん唸っていると、優希が来た。
取り敢えず、これから優希に何か教えを請うことは金輪際ないだろう。
○月&日 天候:晴れ
今日は書く気になれない。
○月@日 天候:曇
今日は、普通に麻雀を打った。
咲に心配された。何か辛そうだけど大丈夫?って。
目聡いなぁ、幼馴染は。深くは聞いて来なかった。
勿体無い幼馴染がいてくれて、感謝しかない。
咲が麻雀を打てるらしいので、麻雀部へGo!!
……俺よりも、打てる……だと……ッ!!
何かしら、人には得意な事があるらしい。人間ってふっしぎー!
和との買い出しの途中に、どうして清澄に進学してきたのかと聞かれた。
その、答えに礼儀を欠いた質問でしたと謝られた。
気を遣わせてしまった。
また自分が嫌いになりそうだ。
□月⊿日 天候:晴れ
最近、卓を囲んでいないことに部長に勘付かれた。
すっと、雑用を熟していたのに。ぐぬぬ。
全国制覇の為の役割分担だと思っているから仕方がない。
□月γ日 天候:晴れ
染谷先輩に、儂らに気を遣うなとは言えんが、Roof-topで打たないかと誘われた。
なんて、良い先輩なんだ。
咲が新刊発売だというので本屋に部活帰りに寄った。
懐かしいな~。受験勉強の時には、結構お世話になったなぁ。
どの問題集を買うかであーでもないこーでもないって騒いでたなぁ。
咲を待ってる間に、麻雀の教本を手に取る。
どれが良いかで悩んでいると和に声を掛けられた。
皆と一緒に打ちたいけどさぁ、やっぱり、基本って大事なんだよなぁ。と零したら
これ私のお薦めです。と、ノートが渡された。
和のお手製だった。頑張らないとな!
新刊を買いに来たんだから、それ以外は諦めなさい、咲。
□月Λ日 天候:曇り
昨日渡された和のノートは分かりやすくて重畳する。
最後には「これからも一緒に頑張っていきましょうね。京太郎君。」と
和のメッセージも書いてあった。
やる気 が 2000 上がった。
最近、部室の空気が何とも言えない雰囲気になっている。
なんというか、こうピリピリしてる。
はっは~ん。部長の悪戯だな。
短い付き合いだが、されて来た悪戯は数知れず。
雰囲気が悪いのは付き合わされているからか。
納得。
?月?日 天候:曇り
なんか皆近い。
咲はいつも通りだから違和感が無いが。
パソコンでネト麻する時は肩が触れ合うし、
卓に付いて教えてくれる時は顔が横にあるし。
皆近いよー、超近いよー。
あと、いい匂いするよー。
無理して部長の企てに乗っからなくても良いのに……
というか、何時まで続くんだ?
俺が止めてって言うまで?
言ったら言ったらでアレだし、言わなかったら言わなかったらでアレだ。
究極の選択かな?
和の京太郎君呼ばわりがまだ慣れない。
あと、部員の俺を見る目が鋭い気がする。
気のせいかな?
気のせいだなッ!
俺そんなに、魅力的じゃないし。
というか、早く言い出せよっていう視線だな、アレは。
#月&日 天候:快晴
バーカ、俺のバーカ。
なんで居残ったんだ今日。
怖いよー、明日怖いよー。
何が起きるんだろう、
久々に明日が来なかったら良いのにって思う。
カンッ
他校編はあれだ、気が乗ったら書く
……かもしれない
今日から日誌をつけるぞー
終わり
■月#日 天候:晴 ゆみ
思い立ったが吉日で行動するな!
そして、せめて初日位キチンと書け!全く。
それはさておき、今日もネト麻の相手が分からなかった。
即戦力になれると思うんだがな。
■月$日 天候:晴 睦月
今日も部室でネト麻を行った。
ネト麻も悪くはないが、実際に触れてみたい。
あと、カードがダブって泣きそう(´;ω;`)
ルールが余り分かりません。
うぅ、ちゃんと覚えないと駄目だよね?
■月&日 天候:曇 智美
ワハハー。
終わる。
■月@日 天候:晴 ゆみ
はぁ。蒲原は何でこうなんだ。
それはさておき、今日ネト麻の対戦相手が校内にいるのは分かった。
コンピュータ室には1人の男子生徒しかおらず、彼は今此処に来たばかりだと言っていた。
帰ってしまったのだろうか?
妹尾に関してはやはり覚えていた方が良いが、余り慌てずに1歩ずつ進んでいこう。
慌てたところで何も良いことは起きないからな。
そういえば聞いたことがあります。
とある男子生徒の周りで怪現象が起きると。
七不思議の1つにありますね。
■月β日 天候:雨 佳織
私も聞いたことあるよ、それ。
私と同じ髪色の男の子だった気がします。
重い荷物持って貰った時も、何故か痛がってたなぁ。
ケガでもしてたら悪いことしちゃったかな?
■月γ日 天候:曇 智美
何にしろ楽しくやれればいいぞー。
妹尾や睦月の事もあったので、取り敢えず、金髪の男子がいたので君が欲しいと叫んでみた。
勿論、女子麻雀部に欲しい等と言っていると、
「お前、こんなに必要とされてるんだから、麻雀部に入ってみろって」
男子生徒が隣を見ながら言うと1人の女子生徒が其処にいた。
詳しい話は省くが影が薄いらしい。
条件がついたが入部してくれて何よりだ。全国に向けて頑張ろう。
蒲原ではないが、行動に移さなければできないこともあるな。
■月ε日 天候:晴 モモ
今日から入部した東横桃子ッス。
影が薄いんで何かと大変かもしれないっすけど、
そういう時は、京ちゃんさんに頼めば良いッス。
京ちゃんさんは私を何度でも何処に居ても見つけてくれるっすから。
あと、かおりん先輩は何も気を悪くする必要はないっす。
あれは、京ちゃんさんが全面的に悪いんで。
かおりん先輩の胸ばっかり見てたから自業自得っす。
普通に卓を囲んで麻雀を打つのも良いけど。
何か他に楽しく打てる案がある人は居ないかー?
良い案があったら来週からやるぞ~。
○月“日 天候:雨 ゆみ
だからお前は。はぁ。
その日の最下位が近くのクレープ屋で奢るというのはどうだろうか?
○月#日 天候:曇時々雨 睦月
プロ麻雀せんべいを、何卒。何卒。
○月$日 天候:久しぶりの晴れヽ(=´▽`=)ノ 佳織
智美ちゃんはもぅ。
私はまだ、ルールをきちんと覚えてないから何とも言えないよ。
○月%日 天候:晴 モモ
部長はいきなりっすね。
その日1位だった日が何にでも優先されるとか。
その週の合算で1位だったら京ちゃんさんと何かしらできるとか。
そんな感じのありきたりの奴で良いんじゃないっすかね?
○月δ日 天候:晴れ 智美
モモの案でいくぞー。
週毎で京太郎の優先権だぞー。
わはは~。
負けられない。
今回こそは京太郎とドライブに行くぞ~。
佳織を狙い撃ちさ~。ワハハー。
×月*日 天候:雨 ゆみ
狙い撃ちは良くない、と言いたいが。
妹尾は勝ちすぎだな。
私だって、普通に休日デートとかしてみたいんだ。
男女で。
1回でも勝ててしまえたらもう1回という欲が。
今回は我に策あり。
勝たせて頂きます。
×月+日 天候:晴 モモ
かおりん先輩は勝ちすぎっす。
なんで9回中7回も勝てるんっすか?
ワケガワカラナイッス。
ですが、今回はむっちゃん先輩と一緒に勝ちに行かせて貰うっす。
な、何か、ごめんね。
気づいたら勝ってて。
でも京太郎くんとは一緒に教本を買いに行ったり、その帰りに映画とか見たり。
服を見たり、ご飯を食べたり。遊園地に2人で行ってみたり。
京太郎くんのお家にお邪魔したり、カピバラに触らせてもらったりとか。
そ、そんな事しかしてないから。
変な事はしてないよ!
京太郎「何で知ってるんだよ。」
ゆみ「遊園地にも行ったらしいな、2人で。」
京太郎「だから何で知ってるんですか?」
佳織「うぅ。皆ごめんね。」
京太郎「なんで、佳織先輩が謝るんですか。
最近、調子がいいんですから。同じ初心者として俺も頑張らないと。」
佳織「そうかな? でも京太郎くんのおかげだよ。2人で楽しく勉強できるから。」
京太郎「そ、そうですか? お役に立ててるなら嬉しいです。」
全員(今回こそは絶対勝つ!!)
カンッ
1週目:モモ
2週目~5週目:かおりん
6週目:睦月
7~9週目:かおりん
結果はこんな感じ
断トツで勝つんじゃなくて100点差とか3000点差とか僅差
ビキナーズラックで捲りに捲る。
大体そんな感じ~
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493619124/
Entry ⇒ 2017.09.10 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)
怜「マクド軍の大大大勝利や!」
怜「来たで東京!」
竜華「久しぶりに来たなぁ」
怜「早速やけど、なんか食べへんか?」
竜華「せやな。うちもお腹空いたわ」
怜「何がええかなー」
竜華「軽くでええし、ハンバーガーでも食べよか?」
怜「ええな!東京にもマクド揚げたお芋さんはあるやろか?」
竜華「それは…どうやろなぁ」
竜華「バーガー屋さんならなんでもええやん。ほら、あそこのお店なんてどうや?」
怜「ん……?」
【東京バーガー】
怜「東京バーガー!そんなハンバーガー屋あるんか!」
竜華「せっかく東京来たんやし、入ってみいひん?」
怜「せやな!あの店に決まりや!!」
ウィーン
店員「いらっしゃいませ。ようこそ東京バーガーへ!」
怜「おおっ!なんか店員さんも大阪とは雰囲気ちゃうな!」
竜華「せやね!」
怜「なんていうか…シュッとしとるわ!」
竜華「シュッとしとるな!」
怜「何がオススメですか?」
店員「こちらの『東京バーガー』がオススメですよ」
怜「東京バーガー?」
竜華「そんなんがあるんやなぁ」
怜「じゃそれにしよか?」
竜華「うちはそれでええで」
怜「東京バーガー2つください!」
店員「かしこまりました」
店員「オーダー、東京2!」
竜華「せやなぁ!」ワクワク
店員「お待たせいたしました。東京バーガー2つです」スッ
怜「おおっ!これが…東京バーガー!」
竜華「お肉入っとるで!」
怜「ホンマやな!早速食べてみよか!」
竜華「うん!せーので食べよな?」
怜「ええで!」
怜・竜華「せーのっ!」はむっ
怜「……!」もぐっ
竜華「なんていうか…『はむっ』とした食感やな」もぐもぐ
怜「…うっ、うぐっ……!」がくっ
竜華「と、怜!?」ガタッ
竜華「どないしたんや!?どないしたんや怜っ!?」
怜「こ、このっ、ハンバーガー…!」
怜「肉がっ!肉がペラッペラなんやぁぁぁぁぁぁ!!!」
竜華「どっひゃあ!」ドンガラガッシャーン!
竜華「た、確かにそうやけどっ!」
怜「食感が『はむっ』としている上に!!肉がペラッペラやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
怜「これが!これが東京バーガーなんかぁぁぁぁッ!!?」
怜「肉が…お肉が……っっ!!!」
怜「ペラッペラやぁあああああああああっっ!!!!」ドンガラガッシャーン!
竜華「と、怜ぃーーーーっ!」
怜「 」ぱたり
怜「 」チーン
竜華「怜!そんな!目ぇ覚ましてや!!」ゆさゆさ
怜「 」ぽっくり
竜華「う、うわーーん!怜がっ!怜がぁっ!!」
竜華「東京バーガーのお肉がペラッペラすぎて死んでもうたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」うわーん
セーラ「どないしたんや竜華!?」
竜華「怜が…怜が……っ!」ぐすぐす
セーラ「怜!?まさか…怜になんかあった言うんか!?」ガタッ
竜華「せや…怜は、怜は…」
竜華「死んでしもたんやぁぁぁぁ!!」うわーん!
セーラ「なんやて!?」
セーラ「誰や!?誰が怜を殺ったんやぁあああ!!」
竜華「ううっ、怜は、怜は誰かに殺されたんとちゃう…」
セーラ「せやったら、いったいどないしたんや!?」
竜華「怜は…怜は……」
竜華「東京バーガーのお肉がペラッペラすぎて死んでしもたんやぁあああああ!!!!」
セーラ「どっひゃあ!」ドンガラガッシャーン!
竜華「東京のバーガーや!」
セーラ「オンドレ東京!よくも怜を……!!」ギリッ
セーラ「どんなハンバーガーや!?」
竜華「食感が『はむっ』としていて、お肉がペラッペラなんや!」
セーラ「なんやねんそのハンバーガー!」
竜華「あと店員さんがシュッとしとった」
セーラ「シュッとしとったんか!」
セーラ「泉ィ!泉はおるかー!?」
泉「お呼びですか先輩?」すっ
セーラ「せや!大変なことになった!」
泉「大変…?何が大変なんですか?」
セーラ「東京が大変なんやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
泉「どっひゃあ!」ドンガラガッシャーン!
セーラ「ハンバーガーや!!」
泉「ハンバーガー…?あの、パンにお肉をはさんだおいしいやつのことですか?」
セーラ「その肉が問題なんやぁああ!!」
セーラ「ええかよく聞け!今から『東京バーガー』いうもんを食いに行く!!」
泉「東京バーガー?」
セーラ「その東京バーガーいうんは、食感が『はむっ』としていて、肉がペラッペラらしい!」
泉「なんなんですかそのハンバーガー!」
泉「園城寺先輩!?まさか…園城寺先輩に何があったんですか!?」
セーラ「怜はっ!怜はなあ!!」
セーラ「東京バーガーの肉がペラッペラすぎて死んでもうたんやぁあああああ!!!」
泉「うわーーん!園城寺せんぱぁぁぁい!!」うわーん
竜華「うわーーん!怜ぃーーーー!!」うわーん
泉「はい先輩!!」
竜華「ううっ、待っててや怜!みんな行くで!」
【東京バーガー】
ウィーン
店員「いらっしゃいませ。ようこそ東京バーガーへ!」
セーラ「ホンマや!店員さんがシュッとしとるわ!」
泉「シュッとしてますね」
竜華「シュッとしとるやろ?」
店員「東京バーガー2つですね?かしこまりました」
セーラ「東京バーガーめぇ!今から食い尽くしてやるからなあ!!」メラメラ
泉「はいっ!」
竜華「二人とも、頼りにしてるで!」
店員「東京バーガー2つ、お待たせいたしました」
セーラ「来たか東京バーガー!!」
泉「これが!これが東京バーガー…!!」
泉「はいせんぱぁぁぁぁぁぁぁい!!!」はむっ
セーラ「おんどりゃああああああ!!」はむっ
セーラ・泉「!!!」
セーラ「食感が……!!」
泉「『はむっ』としてます!!」
セーラ「な…な……」
セーラ・泉「なんやこのハンバーガァァァァァ!!!」ドンガラガッシャーン!!
泉「ホンマですね!お肉ペラッペラしてますわ!!」ぺらーん
竜華「せやろ…そのペラッペラのお肉を食べた怜は…ううっ」ぐすっ
竜華「死んでしもたんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」うわーん
セーラ「怜ぃいいいいいいいい!!」うわーん
泉「園城寺せんぱーーーーい!!」うわーん
泉「ううっでも、仇討ちをしたところで、園城寺先輩は…」
竜華「怜…」
怜「 」ぽっくり
セーラ「せや!こんな困った時には!!」
竜華「そうや!うちらにはアイツがついとった!」
泉「はい!あの人ならきっとなんとかしてくれます!!」
三人「困った時のフナQ頼みや!!!」
竜華「フナQ!ドア開けてやフナQ!」
ドンドンドンドン!
セーラ「浩子ォ!オレや!!助けて欲しいんや!!」
ドンドンドンドン!
泉「舟久保先輩!大変なんです!!」
ガチャ
フナQ「……今回の死因は?」
セーラ「ハンバーガーや!!」
セーラ「今回のはとんでもないハンバーガーなんや!」
フナQ「…何バーガーですか」
セーラ「『東京バーガー』や!!」
フナQ「そらまたけったいなハンバーガーを召し上がって…」
セーラ「もうどうしようも無いハンバーガーやで!!」
セーラ「東京バーガーはなぁ!肉が…肉がぁ…!!」
セーラ「ペラッペラなんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ドンガラガッシャーン!
竜華「ううっ、そのせいで、怜は…怜はぁ…」
竜華「東京バーガーのお肉がペラッペラすぎて死んでしもたんやぁぁぁぁぁ!!」うわーん
泉「うわーん!園城寺先輩ぃぃぃぃ!」うわーん
フナQ「肉ペラッペラで死ぬて…」
セーラ「もうお前しか頼めるもんがおらんのや!」
泉「お願いします舟久保先輩!」
フナQ「なんとかと言われましても…」
フナQ「あー……」
フナQ「東京のペラッペラバーガーでお亡くなりになったんなら、大阪の肉厚バーガー食べさせたらええんちゃいますか?」
セーラ「それや!」
竜華「さすがはフナQや!!」
泉「なかなかできることじゃありませんよ!!」
フナ「はぁ…」
フナQ(これ、きっと前にもやったパターンや…)
セーラ「よっしゃ!大阪のバーガーを食べさせたらええんやな!!!」
セーラ「そんなら決まりや!!」
竜華「せやな!」
泉「はいっ!」
セーラ「怜連れて!!大阪戻るでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
セーラ「うおおおおおおおおおおおお!!!」ドンガラガッシャーン!
フナQ(出た…これや。大阪と東京の文化の違いの落差で死んで、そんで大阪に戻るパターンや…)
フナQ(何回目やねん。死にネタがかぶっとんねん…)
セーラ「大阪に向けて全速前進やぁああああああ!!!!」
竜華「怜!あとちょっとで大阪やで!!」
泉「もうすぐですよ園城寺先輩!」
怜「 」ぽっくり
セーラ「着いたで大阪ぁぁぁぁああああああ!!!!」
竜華「怜!着いたで!!」ゆさゆさ
怜「 」ぐらんぐらん
泉「先輩!見てください!!あそこに!!」
セーラ「おお!?」
【マクドバーガー】
セーラ「マクドバーガーやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ウィーン
店員「まいどおおきに!」
セーラ「これや!これこそが大阪のマクドバーガーや!!」
竜華「店員さんが!店員さんがシュッとしてへんで怜ぃ!」
泉「東京バーガーの店員さんは…シュッとしていましたからね」
セーラ「ああ!マクドバーガーの店員さんはシュッとしてへんとこがええんや!」
フナQ「はぁ。シュッとしとったですか…」
セーラ「シュッとしてへん店員さん!!なんでもええから……」
セーラ「ぶ厚い肉のハンバーガーあらへんか!?」
店員「そんでしたら、期間限定でメンチカツ乗せたバーガー売り出してます」
セーラ「メ、メ、メ…メンチカツ!?」ガタッ
セーラ「メンチカツ言うたら!!あのゲンコツのような肉のかたまりの…!!」
セーラ「あのメンチカツをハンバーガーにはさんだ言うんか!?」わなわな
セーラ「どっひゃあ!」ドンガラガッシャーン!
セーラ「それや!それでええ!それだけ肉厚なら怜もきっと満足や!!」
セーラ「そんで、そのハンバーガーの名前は…?」
店員「『大阪バーガー』いいますねん」
セーラ「大阪!?」
竜華「…バーガー!?」
泉「東京バーガーじゃなくて…大阪バーガー!!」
セーラ「そ、そ……」
三人「それに決まりやぁぁぁぁああああああ!!!」ドンガラガッシャーン!!!
セーラ「やっぱり大阪や!!大阪バーガーなんや!!!!」
泉「さすがはマクドバーガーさん!ええ商品出してますね!!」
店員「お待ちどうさま、大阪バーガーです」コトッ
セーラ「来たでぇぇぇ!!!大阪バーガァァァ!!!!」
竜華「怜、今食べさせるからな?」
怜「 」ぽっくり
竜華「えいっ」ぐいっ
怜「 」もごっ
怜「 」
怜「 」
怜「 」ぴくっ
竜華「怜…?」
怜「……!!」むくり
怜「うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」
竜華「怜ぃーーーーーーっ!!!」ぎゅっ
怜「食感は全然『はむっ』としてへんし!ペラッペラなわけない肉厚のメンチカツや!!」もぐもぐ
怜「このハンバーガーなんていうんや!?」
竜華「大阪バーガーや…大阪バーガーやで怜!」ポロポロ
怜「大阪バーガー!やっぱり大阪やな!」もぐもぐ
怜「竜華、みんな!心配かけたみたいやけど、私はほら!大阪バーガー食べてこの通りや!」めきめき!
竜華「ううん!怜が大阪バーガー食べてめきめき回復するのみたら、心配なんてどうでもええねん!」
セーラ「ホンマや!怜がめきめき回復しとる!!」
泉「はい!めきめきです!!」
怜「肉ペラッペラでもなく、食感が『はむっ』としてへん!!」
怜「マクド軍の大大大勝利や!」
竜華「ホンマやなぁ!」
怜「このハンバーガー、竜華が食べさせてくれたんやろ?」
竜華「せやで?」
怜「ホンマありがとうな、竜華…///」ぎゅっ
竜華「怜…///」ぎゅっ
泉「園城寺せんぱぁああああああああい!!!!」うわーん
フナQ「やれやれ。私も結局この人らには、毎回なんやかや付き合うてしまうわ…」にやにや
竜華「怜がいてくれるだけでうちは嬉しいんや!」
怜「みんないつもありがとうな!」
セーラ「よっしゃ!そんなら、みんなで大阪バーガー食いまくろか!!!」
泉「いいですね!みんなで食べましょう!」
竜華「怜ももっと大阪バーガー食べよか?」
怜「いや、私は大阪バーガーよりもマクド揚げたお芋さんの方がおいしいし食べたい思うけどな?」
全員「どっひゃあ!」ドンガラガッシャーン!!!
完!
(前々作)
怜「竜華、コンビニでおにぎり食べるで!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489973811/
(前作)
怜・竜華「巻きこみ、巻きこまれ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1498771293/
公式から「マクド軍」なるネタ振りがあったので、つい出来心で…
終わります
やっぱこのノリが好き
掲載元:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503869596/
Entry ⇒ 2017.09.05 | Category ⇒ 咲-Saki- | Comments (0)